IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウニベルシダ カルロス III デ マドリッドの特許一覧 ▶ セントロ デ インベスティガシオネス エネルゲティカス メディオ アムビエンタレス イ テクノロジカス オー.エー.,エム.ピー.の特許一覧 ▶ コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン ビオメディカ エン レッドの特許一覧 ▶ フンダシオン インスティチュート インベスティガシオン サニタリア ヒメネス ディアスの特許一覧 ▶ ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティーの特許一覧

特表2023-513397表皮水疱症の治療のための遺伝子編集
<>
  • 特表-表皮水疱症の治療のための遺伝子編集 図1
  • 特表-表皮水疱症の治療のための遺伝子編集 図2
  • 特表-表皮水疱症の治療のための遺伝子編集 図3
  • 特表-表皮水疱症の治療のための遺伝子編集 図4
  • 特表-表皮水疱症の治療のための遺伝子編集 図5
  • 特表-表皮水疱症の治療のための遺伝子編集 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】表皮水疱症の治療のための遺伝子編集
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230323BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230323BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230323BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20230323BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N5/071
A61P17/00
A61K35/36
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569295
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021051224
(87)【国際公開番号】W WO2021148483
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】20382027.9
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522289253
【氏名又は名称】ウニベルシダ カルロス III デ マドリッド
(71)【出願人】
【識別番号】522289264
【氏名又は名称】セントロ デ インベスティガシオネス エネルゲティカス メディオ アムビエンタレス イ テクノロジカス オー.エー.,エム.ピー.
(71)【出願人】
【識別番号】522289275
【氏名又は名称】コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン ビオメディカ エン レッド
(71)【出願人】
【識別番号】522289873
【氏名又は名称】フンダシオン インスティチュート インベスティガシオン サニタリア ヒメネス ディアス
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボナフォント アラゴ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ラルチェル ラグッシ フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ムリジャス アンゴイティ ロドルフォ
(72)【発明者】
【氏名】デル リオ ネチャエフスキー マルセラ
(72)【発明者】
【氏名】メンシア ロドリゲス アンヘレス
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ディエス マルタ
(72)【発明者】
【氏名】エスカメス トレダノ マリア ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ポルテウス マシュー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA89
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
本発明は、クラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)システムを使用する、表皮水疱症、特に劣性ジストロフィーサブタイプ(RDEB)の治療に関する。この技術は、CRISPR関連タンパク質(Cas9)に組み込まれたシングルガイドRNA(sgRNA)を設計して、特定の標的位置でDNA二本鎖切断を認識して誘導する可能性を提供する。DNA二本鎖切断は、表皮水疱症遺伝子修復のためのドナー配列の存在下で相同組換え(HR)によって修復される。表皮水疱症に関して、これは疾患を引き起こす変異(複数の場合もある)を修復することを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチノサイト又は皮膚線維芽細胞からなる群より選択される初代細胞において相同組換えを介してCOL7A1遺伝子の病因性変異を含む1つ以上の変異対立遺伝子を含む標的核酸の安定な遺伝子改変を誘導するin vitroでの方法であって、前記初代細胞に、(a)標的核酸に相補的なヌクレオチド配列と、CRISPR関連タンパク質(Cas)ポリペプチドと相互作用するヌクレオチド配列とを含む改変シングルガイドRNA(sgRNA)であって、該RNA成分が、2つの個々のRNA分子(crRNA及びtracrRNA)又は単一のRNA分子(sgRNA)であり得る、改変sgRNA;(b)別々に提供される前記改変sgRNA成分、又はcrRNA成分及びtracrRNA成分が、Casポリペプチドを補正される標的ゲノム配列に導く、Casポリペプチド、CasポリペプチドをコードするmRNA、及び/又はCasポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え発現ベクター;並びに(c)血清型6アデノ随伴ウイルスベクター(AAV-6)によって保持される、修復される前記変異部位を含むゲノム配列と相同なドナーテンプレートDNAを導入することを含み、
前記標的核酸の安定な遺伝子改変が、COL7A1遺伝子の病因性変異を含む1つ以上の変異対立遺伝子(標的核酸)の置換えに基づいて、変異対立遺伝子に対応する野生型対立遺伝子を含む前記補正ドナーテンプレートを保持するAAV-6ベクターを提供することによって起こり、
前記ドナーテンプレートが、前記標的化核酸の1つ以上のイントロン領域を含まない、方法。
【請求項2】
前記表皮水疱症病因性変異が劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)病因性変異であり、前記ドナーテンプレートがCas認識プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含む標的化核酸のイントロン領域を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記COL7A1遺伝子の病因性変異を含む1つ以上の変異対立遺伝子(標的核酸)が、COL7A1遺伝子のエクソン73、エクソン74、エクソン75、エクソン80又はエクソン105のいずれかに位置し、これらの変異が、前記COL7A1遺伝子の野生型エクソン73、野生型エクソン74、野生型エクソン75、野生型エクソン80又は野生型エクソン105を含む補正ドナーテンプレートを用いて修復される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記初代細胞が、哺乳動物から、好ましくはヒト被験体から、前記改変sgRNA、前記Casポリペプチド、及び前記相同ドナーテンプレートを保持するAAV-6ベクターを前記初代細胞に導入する前に単離される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記CasポリペプチドがCas9ポリペプチド若しくはその変異体、又はその断片である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記RNA成分及び/又は前記Casポリペプチドをエレクトロポレーションによって前記初代細胞に導入し、任意に前記相同ドナーテンプレートを保持するAAV-6ベクターを形質導入によって前記初代細胞に導入する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記RNA成分と前記Casポリペプチドとを共にインキュベートして、前記初代細胞に導入する前にリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体を形成し、任意に前記RNP複合体と前記相同ドナーAAV-6ベクターを前記初代細胞に順次導入する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
被験体、好ましくはヒト被験体から得られたケラチノサイト又は線維芽細胞から選択される初代細胞において相同組換えを介してCOL7A1遺伝子の病因性変異を含む1つ以上の変異対立遺伝子を含む標的核酸の安定な遺伝子改変を誘導する方法における、(a)標的核酸に相補的なヌクレオチド配列と、CRISPR関連タンパク質(Cas)ポリペプチドと相互作用するヌクレオチド配列とを含む改変シングルガイドRNA(sgRNA)であって、該RNA成分が、2つの個々のRNA分子(crRNA及びtracrRNA)又は単一のRNA分子(sgRNA)であり得る、改変sgRNA;(b)別々に提供された前記改変sgRNA成分、又はcrRNA成分及びtracrRNA成分が、Casポリペプチドを補正される前記標的ゲノム配列に導く、Casポリペプチド、CasポリペプチドをコードするmRNA、及び/又はCasポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え発現ベクター;(c)相同組換えを受けるために、前記標的核酸の2つの重複していない相同な部分を含む2つのヌクレオチド配列を含む組換えドナーテンプレートを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV6)又はAAV-1ベクターを含むキットのin vitroでの使用。
【請求項9】
表皮水疱症、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)の予防又は治療を必要とする被験体において、表皮水疱症、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)を予防又は治療する方法で使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により得られる若しくはそれにより取得可能な標的核酸の安定な遺伝子改変を含む初代細胞、又は前記初代細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物であって、前記集団が、前記標的核酸の安定な遺伝子改変を有する初代ケラチノサイトを少なくとも約30%含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により得られる若しくはそれにより取得可能な前記標的核酸の安定な遺伝子改変を含む前記初代細胞、又は前記初代細胞を含む細胞集団を用いることによって皮膚等価物を製造する方法であって、前記集団が、前記標的核酸の安定な遺伝子改変を有する初代ケラチノサイトを少なくとも約30%含む、方法。
【請求項11】
表皮水疱症、特に劣性ジストロフィーサブタイプ(RDEB)の治療に使用される、請求項10に従って取得可能な又はそれに従って得られる皮膚等価物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)システムを使用する、表皮水疱症、特に劣性ジストロフィーサブタイプ(RDEB)の治療に関する。この技術は、CRISPR関連タンパク質(Cas9)に組み込まれたシングルガイドRNA(sgRNA)を設計して、特定の標的位置でDNA二本鎖切断を認識して誘導する可能性を提供する。DNA二本鎖切断は、表皮水疱症遺伝子修復のためのドナー配列の存在下で相同組換え(HR)によって修復される。表皮水疱症に関して、これは疾患を引き起こす変異(複数の場合もある)を修復することを可能にする。
【背景技術】
【0002】
表皮水疱症は、強い皮膚脆弱性を特徴とする希少遺伝性疾患のグループである。劣性ジストロフィーサブタイプであるRDEBは、この疾患の最も重篤な表現型であり、皮膚及び粘液の水疱形成を引き起こし、偽合指症(pseudosyndactyly)及び転移性扁平上皮癌の発症のリスクが高い。コラーゲンVII(C7)を発現するCOL7A1遺伝子に沿った変異は、RDEBにおける精密医療療法の標的としてこの遺伝子が確立されているこれらの患者に高い割合で存在する。
【0003】
この数年間、ゲノム編集のためのツールとして、メガヌクレアーゼ、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及びCRISPR/Cas9等の、DNAにおいて二本鎖切断を行うことができる様々な部位特異的ヌクレアーゼが検討されてきた。ゲノム編集ベースのアプローチは、ヌクレアーゼ誘発二本鎖切断(double strand breaks (ds-breaks))によって引き起こされる細胞の自然なDNA修復機構を利用して、遺伝子配列にINDELを導入するか(NHEJ)、又はドナーテンプレートによって正確に補正する(HDR)。NHEJ修復経路はHRよりも頻度が高いが、最近のツール開発により、異なる細胞型におけるこのドナーベースの補正の効率が向上している。
【0004】
主に、ケラチノサイト及び線維芽細胞がEBの遺伝子治療補正のための細胞標的として強調されている。2013年、非特許文献1は、RDEB患者由来線維芽細胞において、TALEN及びオリゴヌクレオチドドナー(ODN)を用いて2%のHDR補正を実証した。その後、非特許文献2は、メガヌクレアーゼによるHDRベースの補正を開発し、4%のCOL7A1補正を達成した。また、非特許文献3は、HDR用のミニサークルベースのCRISPR/Cas9を用いて、患者由来のRDEBケラチノサイト細胞株において遺伝的及び機能的補正を示した。最近、非特許文献4は、エクソン2含有変異RDEB初代細胞の正確な補正を示し、インテグラーゼ欠損レンチウイルスガイド送達(integration-deficient lentivirus-guide delivery)を伴うRDEBケラチノサイト及び線維芽細胞において30%近くのインデル生成頻度を達成した。ドナーテンプレート送達後、これはケラチノサイト及び線維芽細胞において抗生物質選択なしで補正されたCOL7A1 mRNA発現のそれぞれ11%及び15.7%を達成した。他のタイプのEBにおいて、Benatyたちの研究グループは、LAMB3遺伝子のイントロン2に合わせたCas9/ガイドRNA(gRNA)を担持するアデノベクター、及び相同性アームに挟まれたプロモーターレス準完全LAMB3 cDNAを有するインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターを用いて、HRを使用して、接合部表皮水疱症(JEB)不死化ケラチノサイトにおけるLAMB3発現をin situで回復させた。
【0005】
この分野において、本発明者らは、エレクトロポレーションによって送達されるリボヌクレオタンパク質複合体としてCRISPR/Cas9システムを用いて、初代RDEBケラチノサイトにおいて高いインデル効率(95%近く)を最近達成した。一方、アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ドナーテンプレート送達のベクターとして主導権を握っており、IDLVよりも高い効率を提供し、HDR比を増加させるが、バイオセーフティを損なうことはない。したがって、AAVとCRISPR/Cas9の組合せは、初代ケラチノサイトにおけるHDRを利用するためのゲノム編集ツールとして、ひいてはRDEB初代細胞の遺伝子補正戦略として興味深い選択肢となり得る。
【0006】
効率的なNHEJベースのアプローチがエクソン80含有変異RDEB患者について最近本発明者らのグループによって試験されたにもかかわらず、HR補正は、設計されたドナーの長さ内の多数のエクソンをカバーすることができ、COL7A1における異なる変異エクソンを補正するための1つの治療システムを提供し、RDEB患者の大規模なコホートに利益をもたらすことを可能にする。
【0007】
皮膚の主な細胞型を超えて、同種異系骨髄移植(BMT)はEBの代替治療として、ここ数年間に考慮されてきた(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。実際、非特許文献8は今年、BMT後のRDEB患者において、レシピエントに許容可能な安全性を有する全身性MSCのその後の注入による利益を示した。これらの患者の一部は、原始的なアンカーフィブリル(AF)の増加及びC7免疫染色の増加を示した。RDEB治療におけるBMTの可能性から、本発明者らは、3人の健康なドナーからのCB単離CD34細胞及び初代MSCにおける同じCRISPR/Cas9システムによるHDRベースの遺伝子編集の原理の証明もこの研究に含め、遺伝子補正及び細胞療法のプラットフォームとしての本発明者らのアプローチの可能性を確認した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Osborn et al.
【非特許文献2】Izmyrian (2016)及び共同研究者ら
【非特許文献3】Hainzl et al.
【非特許文献4】Izmiryan et al.
【非特許文献5】Fujita 2010
【非特許文献6】Petrof et al, 2015
【非特許文献7】Kaneda et al 2015
【非特許文献8】CL Ebens et al. 2019
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明は、RDEB治療用の異なる関連細胞型の遺伝子補正のためのex vivoにおいて効率的なマーカーフリーHRベースの戦略の証拠である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】A)正確なCOL7A1補正のためのHDRベースの戦略のスキームを示す図である。RDEBの遺伝子編集戦略として、CRISPR/Cas9と組み合わせたAAV6送達ドナーテンプレート。病原性変異の近くにあるCRISPR/Cas9誘発性二本鎖切断は、HDR修復を引き起こすために使用される。B)COL7A1のイントロン79内のインデル生成のTIDE分析を示す図である。この解析により、初代RDEBケラチノサイトにおける非常に効率的なインデル生成(90%近く)が明らかになった。
図2】A)初代ケラチノサイトにおけるAAV血清型試験を示す図である。本発明者らは、AAVの8つの異なる血清型を評価し、AAV6が最も高い形質導入効率(39.7%)を示した。B)初代RDEBケラチノサイトにおけるHDRベースの補正ジェノタイピングを示す図である。この解析により、2つの異なるドナーテンプレート(対称アームと非対称アーム)を試験したところ、40%に近い正確な遺伝子補正効率が明らかになった。
図3】遺伝子補正RDEBポリクローナルケラチノサイト集団におけるコラーゲンVII発現を示す図である。RDEB初代ケラチノサイトをCRISPR/Cas9及びAAV6を含むドナーテンプレートで処理し、C7発現回復を、細胞抽出物からの免疫蛍光及びウェスタンブロットによって評定した。A)C7免疫蛍光分析。左上パネル:陽性対照、健康なドナーのケラチノサイト。右上パネル:ヌルC7発現を示す、未処理のRDEB P1ケラチノサイト。左下パネル:AAV6対称ドナー+RNP処理RDEBケラチノサイト。右下パネル:AAV6非対称ドナーテンプレート+RNP処理RDEBケラチノサイト。バー:50μm。B)未処理、健康な及び処理された患者RDEB細胞におけるC7回復のウェスタンブロット分析は、免疫蛍光画像と一致する良好なC7発現を示す。
図4】HDR補正RDEB移植片における表皮-真皮接着及びC7発現の回復を示す図である。バルク編集RDEBケラチノサイト集団、未処理RDEBケラチノサイト及び健康なケラチノサイトを含む皮膚等価物をヌードマウスに移植した。移植片の組織学的解析(H&E染色)(図4A図4D図4G)は、P1移植片における表皮剥離を示す。C7発現分析は、HDR補正(P1 HDR)及び健常ドナー(HD)ケラチノサイトにおけるBMZにおける連続的なC7沈着、並びに未処理RDEBケラチノサイト(P1)からの移植片におけるC7検出がないことを示す(図4B図4E図4H)。ヒトインボルクリン(h-Inv)評定は、示される全ての移植片における正常な表皮分化を示す(図4C図4F図4I)。
図5】A)AAV6を含むRNP+ドナーテンプレートを用いたP2 RDEB処理細胞のPCRジェノタイピングを示す図である。同様の比率の遺伝子補正が、2人のRDEB治療患者間で観察された。B)C7発現検出のための免疫蛍光を示す図である。P2はC7発現についてヌルであった。処理後、かなりの量の細胞においてC7発現が回復する。
図6】A)3人の健康なドナーからのCD34細胞におけるHDRベースの遺伝子編集を示す図である。B)3人の健康なドナーにおけるMSCにおけるHDRベースの遺伝子編集を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書において使用される場合、以下の用語は、特に断りのない限りそれらに帰する意味を有する。
【0012】
本明細書において使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」は、1つのメンバーを有する態様を含むだけでなく、2以上のメンバーを有する態様も含む。例えば、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明確に指示しない限り、複数の対象物を含む。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」に対する言及は、複数のかかる細胞を含み、「その作用物質(the agent)」への言及は、当業者に知られている1つ以上の作用物質への言及を含む、等々である。
【0013】
「遺伝子」という用語は、ポリヌクレオチド要素の組合せを指し、天然又は組換え様式のいずれかで作動可能に連結されると、何らかの生成物又は機能を提供する。「遺伝子」という用語は、広く解釈されるべきであり、遺伝子のmRNA、cDNA、cRNA及びゲノムDNA形態を包含することができる。
【0014】
「相同性指向修復」又は「HDR」という用語は、修復を導く相同テンプレートを使用して二本鎖DNA切断を正しく、かつ正確に修復する細胞内の機構を指す。HDRの根底にあるメカニズムは相同組換え(HR)である。
【0015】
「相同組換え」又は「HR」という用語は、DNAの2つの類似した分子間でヌクレオチド配列が交換される遺伝的プロセスを指す。相同組換え(HR)は、DNAの両鎖に生じる有害な切断(二本鎖切断又はオーバーハング配列を生成する他の切断として知られる)を正しく修復するために細胞によって使用される。
【0016】
「シングルガイドRNA」又は「sgRNA」という用語は、標的ゲノムDNAに対するCasヌクレアーゼを標的とするガイド配列及びCasヌクレアーゼと相互作用する足場配列(例えばtracrRNA)を含むDNA標的RNAを指す。
【0017】
「Casポリペプチド」又は「Casヌクレアーゼ」という用語は、crRNA分子内に含まれる20ヌクレオチドガイド配列によって特定される部位でDNAを切断して二本鎖切断で平滑末端を生成するクラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート関連ポリペプチド又はヌクレアーゼを指す。Casヌクレアーゼは、部位特異的DNA認識及び切断のためにcrRNA及びtracrRNAの両方を必要とする。crRNAは、部分相補性の領域を介してtracrRNAと会合し、Casヌクレアーゼを「プロトスペーサー」と呼ばれる標的DNA中のcrRNAと相同な領域に導く。
【0018】
「リボヌクレオタンパク質複合体」又は「RNP複合体」という用語は、sgRNA及びCasポリペプチドを含む複合体を指す。
【0019】
「アデノ随伴ウイルスベクター送達ドナーテンプレート」又は「ドナーテンプレート含有アデノ随伴ウイルスベクター」という用語は、標的細胞、例えば初代細胞における相同性指向性修復を介したCRISPRベースの遺伝子編集のための組換えドナーテンプレートを送達することができるアデノ随伴ウイルス粒子を指す。
【0020】
「組換えドナーテンプレート」という用語は、場合によっては、二本鎖切断から生じる、損傷DNA修復機構によって開始される、相同組換え鎖侵入時の核酸鎖、例えば、ドナー鎖であるDNA鎖を指す。ドナーポリヌクレオチドは、損傷したDNA領域の修復を指示するテンプレート材料として機能する。本発明において、本発明者らは、好ましくは、1つ以上のイントロン、特にガイドRNA標的配列を含むイントロンを欠くDNAドナー断片又は組換えドナーテンプレートを設計し構築する、具体的にはドナーテンプレートは、Cas認識プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含む標的化核酸のイントロン領域を含まない。このドナーDNA設計を用いることで、本発明者らは、望ましくないヌクレアーゼ活性に起因し得る遺伝子スプライシング又はコード配列の変更の可能性を回避する。COL7A1遺伝子のエクソン近くでのインデル生成は、遺伝子のオープンリーディングフレームにおける変化をもたらし、VII型コラーゲンのアミノ酸配列の変異を生じ、非機能的なタンパク質変異体を生じる可能性がある。さらに、イントロン配列の不在はPCRによって容易に検出され、これは組換え対立遺伝子のジェノタイピングを容易にする。好ましくは、組換えドナーテンプレートは、イントロン79を欠損しているエクソン79とエクソン80の融合体であり、ここでガイドRNAはその標的配列(sg2が切断する)を含む。更により好ましくは、組換えドナーテンプレートは、HDR修復イベント後のNHEJイベントを回避するためPAM配列を有さないようにイントロン79を欠損している、エクソン79とエクソン80の融合体である。
【0021】
2つ以上の核酸又はポリペプチドの文脈における「配列同一性」又は「パーセント同一性」という用語は、同じ(「同一」)であるか、又は第2の分子と最大限一致するように比較及び整列されたときに同一であるアミノ酸残基又はヌクレオチドの特定の割合を有する2つ以上の配列又は部分配列(「パーセント同一性」)を指し、配列比較アルゴリズム(例えば、BLASTアライメント、又は当業者に知られている他の任意のアルゴリズムによって)、又は代わりに目視検査によって測定される。
【0022】
「相同」という用語は、それらが天然又は人工的に、共通の祖先タンパク質又はアミノ酸配列から誘導される場合の2つ以上のアミノ酸配列を指す。同様に、ヌクレオチド配列は、それらが共通の祖先核酸から天然又は人工的に誘導される場合、相同である。
【0023】
「初代細胞」という用語は、多細胞生物から直接単離された細胞を指す。初代細胞は、典型的には、集団倍加をほとんど受けておらず、したがって、連続した(腫瘍又は人工的に不死化された)細胞株と比較して、それらが由来する組織の主要な機能的構成要素をより表している。場合によっては、初代細胞は単離され、その後すぐに使用される細胞である。他の場合では、初代細胞は無期限に分裂することができず、したがってin vitroで長期間培養することができない。
【0024】
「遺伝子改変初代細胞」又は「ゲノム編集初代細胞」という用語は、場合によっては異種核酸がその内因性ゲノムDNAに導入された初代細胞を指す。
【0025】
「医薬組成物」という用語は、生理学的に許容され、かつ薬理学的に許容され得る組成物を指す。幾つかの例では、組成物は、保存中の緩衝化及び貯蔵のための作用物質を含み、そして投与経路に応じて適切な送達のためのバッファー及び担体を含むことができる。
【0026】
「薬学的に許容され得る担体」という用語は、細胞、生物、又は被験体への作用物質(例えば、Casヌクレアーゼ、改変シングルガイドRNA、遺伝子改変初代細胞等)の投与を補助する物質を指す。「薬学的に許容され得る担体」は、組成物又は製剤に含めることができ、患者に著しく有害な毒物学的影響を引き起こさない担体又は賦形剤を指す。薬学的に許容され得る担体の非限定的な例としては、水、NaCl、生理食塩水、乳酸化リンゲル、通常のスクロース、通常のグルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、甘味料、香料及び着色剤等が挙げられる。当業者は、他の医薬担体が本発明において有用であることを認識するであろう。
【0027】
「投与する」又は「投与」という用語は、本明細書に開示される作用物質、組成物、剤形及び/又は組合せが、治療又は予防目的のために被験体に送達されるプロセスを指す。本明細書に開示される組成物、剤形及び/又は組合せは、被験体の臨床状態、投与部位及び投与方法、投与量、被験体の年齢、性別、体重、及び医師に知られている他の要因を考慮に入れた良好な医療行為に従って投与される。例えば、「投与する、投与すること」又は「投与」という用語は、臨床医又は他の臨床専門家によって本明細書に開示される作用物質、組成物、剤形及び/又は組合せを提供すること、与えること、投薬すること及び/又は処方することを含む。
【0028】
「治療する」という用語は、治療的利益及び/又は予防的利益を含むがこれらに限定されない有益な又は所望の結果を得るためのアプローチを指す。治療的利益とは、治療中の1つ以上の疾患、状態、又は症状の任意の治療的に関連する改善又はそれに対する効果を意味する。予防的利益の場合、組成物は、特定の疾患、状態、若しくは症状を発症するリスクのある被験体に、又は疾患の生理学的症状のうちの1つ以上を訴える被験体に、たとえ疾患、状態、若しくは症状がまだ顕在化していなくても投与され得る。
【0029】
「被験体」、「患者」、及び「個体」という用語は、ヒト又は動物を含むために本明細書で同じ意味で使用される。例えば、動物の被験体は、哺乳動物、霊長類(例えば、サル)、家畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、又はヤギ)、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ)、実験室の実験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、トリ)、獣医学的に重要な動物であってもよく、又は経済的に重要な動物であってもよい。
【0030】
特段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、この技術が属する技術分野における当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。例示的な方法、装置及び材料が本明細書に記載されているが、本明細書に明示的に記載されているものと類似又は等価な任意の方法及び材料を、本技術の実施又は試験において使用することができる。例えば、本明細書に記載の試薬は単なる例示であり、かかる等価物は当該技術分野において既知である。本技術の実施には、特に断らない限り、組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、及び組換えDNAの従来の技術を採用することができ、これらは当業者の技術の範囲内である。例えば、Sambrook and Russell eds. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition、Ausubel et al. eds. (2007) Current Protocols in Molecular Biologyのシリーズ、Methods in Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.)のシリーズ、MacPherson et al. (1991) PCR I: A Practical Approach (IRL Press at Oxford University Press)、MacPherson et al. (1995) PCR 2: A Practical Approach、Harlow and Lane eds. (1999) Antibodies, A Laboratory Manual、Freshney (2005) Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 5th edition、Miller and Calos eds. (1987) Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (Cold Spring Harbor Laboratory)、及びMakrides ed. (2003) Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells (Cold Spring Harbor Laboratory)を参照されたい。
【0031】
発明の詳細な説明
遺伝子改変幹細胞は、治療不可能な疾患に対する治療ソリューションの新しい分野を提供している。血液学において、CD34遺伝子補正細胞は、重度の血液障害の治療に大きな利益を示した。さらに、最新の遺伝子改変技術は臨床試験段階に達しており(CRISPR)、現代医学に革命を起こしている。また、MSC療法は、創傷治癒及び免疫障害治療の臨床段階で利益を示し、再生医療のための安全なアプローチを提供している。
【0032】
皮膚障害では、ケラチノサイト及び線維芽細胞がこれらの治療法の細胞供給源であり、臨床へと橋渡しする道を開くことを目的として非常に多くのアプローチが開発されている。表皮水疱症は、最も壊滅的な皮膚希少疾患の1つであり、C7発現が完全に存在しないRDEB-サブタイプは、最も重篤なサブタイプと考えられている。これらの患者における多数の変異がCOL7A1遺伝子内に記載されており、この遺伝子はRDEBを補正するための遺伝子治療戦略の主な標的となっている。最近、古典的な遺伝子治療アプローチとして、cDNA C7配列を発現するガンマレトロウイルスで処理された自家表皮幹を含む皮膚等価物を移植した患者におけるex vivo第I相臨床試験において利益が示された。患者は、創傷治癒の改善及びC7沈着及びアンカーフィブリル形成を示した。
【0033】
しかしながら、新たな遺伝子編集ツールは、より正確な遺伝子補正療法への道を開いている。実際、本発明者らは以前、RDEB患者細胞におけるE80補正のための非常に効率的な遺伝子編集ベースのアプローチを示した。この研究は、CRISPR/Cas9がRNPとして、トランスフェクトが難しいと考えられている細胞型の初代ケラチノサイトにおけるゲノム編集のための最も効率的なツールであることを明らかにした。本発明において、本発明者らは、可能な限り最高の形質導入効率を見つけるために、AAV血清型の大規模なコレクションを初めて試験し、エレクトロポレーション後、AAV6血清型が最高の性能を提供することを見出した。したがって、本発明者らは、エレクトロポレーションによって送達されるAAV6を含むドナーテンプレート+RNPが、ケラチノサイトにおけるゲノム編集のための効率的なツールであることを示した。
【0034】
異なる相同ドナー設計を試験したところ、本発明者らは、切断部位に対する相同性アームにおける対称性の等級とは無関係に、初代ケラチノサイトにおいて同様のHRベースの補正比を見出した。本発明者らの研究では、対称ドナーはE74からE84まで、非対称ドナーテンプレートはE77からE88までカバーしているため、各デザインはCOL7A1の10個の異なるエクソン内の変異を有する患者をカバーすることができた。さらに、本発明者らは、COL7A1の異なる遺伝子領域を含むAAVの大規模なコレクションを開発し、遺伝子に沿った任意の変異を補正することができた。これは、とりわけエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン24、エクソン27又はエクソン113のように、正確なHR媒介遺伝子補正によって補正され得るエクソン除去に適さない幾つかのエクソンが存在するため、以前に提案されたNHEJに対する重要な利点である。EB治療を超えて、このアプローチは、他の皮膚疾患からの変異、更にはノックイン遺伝子(レポーター、治療分子)を治療し、新たな機能特性を有する皮膚を作製するために、初代ケラチノサイトの任意のゲノム編集アプリケーションへと移行させることができる。
【0035】
これまでの研究では、EB治療に関連する様々な細胞型におけるHRベースの遺伝子補正が示されている。実際、これまでの研究は、TALEN及び選択カセットを含むAAVによって、患者由来のケラチノサイト細胞株においてHR補正を達成する実現可能性を実証してきた。処理したケラチノサイトに対する選択処理後、単離された34クローンのうち32クローンが遺伝的に補正された。しかしながら、RDEBケラチノサイト細胞株におけるHRによるC7回復の実現可能性を実証したものの、薬物選択及びクローン単離は、このタイプの治療法のクリニックへの橋渡しを非常に困難にしている。しかしながら、他のものは、RDEBケラチノサイトにおけるエクソン2を含む変異において、インテグラーゼ欠損レンチウイルスガイド送達によるRDEBケラチノサイトにおける30%に近いインデル生成頻度を実証しており、ドナーテンプレート送達と組み合わせて、ケラチノサイト及び線維芽細胞においてそれぞれ11%及び15%のRDEB細胞におけるCOL7A1補正転写産物を達成し、皮膚移植片では最大19%が、真皮-表皮分離のないAF形成を可能にするのに十分であった。
【0036】
【表1】
【0037】
本発明について、本発明者らは、初代ケラチノサイトにおいて40%近くの補正転写産物を達成することができる、以前のHRベースの遺伝子補正比を上回る、初代ケラチノサイトにおけるマーカーフリーの高効率アプローチを提供する。さらに、本発明者らは、ヌードマウスに移植した場合の皮膚-表皮接着の回復を伴う正常なヒト皮膚再生を生じさせることができる編集バルクケラチノサイト集団を作製した。ポリクローナル集団を使用すると、クリニックへの橋渡しが容易になり、時間と労力のかかる表皮クローンの単離を回避できる。
【0038】
DEB低形質マウスモデルにおける野生型(WT)線維芽細胞注入実験に基づく皮膚の機械的安定性には、35%の正常なC7レベルが必要であると考えられている(参照Georgiadis, C., Syed, F., Petrova, A., Abdul-Wahab, A., Lwin, S.M., Farzaneh, F., Chan, L., Ghani, S., Fleck, R.A., Glover, L., et al. (2016). Lentiviral Engineered Fibroblasts Expressing Codon-Optimized COL7A1 Restore Anchoring Fibrils in RDEB. J. Invest. Dermatol. 136, 284-292.)。
【0039】
したがって、他の方法とは対照的に、本明細書に提示される方法論は、EBを適切に治療又は予防するために必要な初代ケラチノサイトにおける補正された転写産物の割合を上回る。全体として、本発明者らの発明は、多くの異なる細胞型において遺伝子補正を達成することができるex vivoで有効なゲノム編集ツールの証拠を提供し、EB治癒を目的とした種々の細胞療法を開発するためのソースを提供する。この技術により、より広範なEB変異がカバーされ、EB患者の大規模なコホートの臨床的利益への道が開かれる。
【0040】
したがって、本発明の第1の態様において、本発明者らは、本明細書において、初代細胞、好ましくは初代ケラチノサイト、線維芽細胞又は皮膚幹細胞における相同組換えを介して、COL7A1遺伝子の病因性変異である、1つ以上の表皮水疱症、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)を含む標的核酸の安定な遺伝子改変を誘導する方法を提供する。この方法は、(a)標的核酸に相補的なヌクレオチド配列と、CRISPR関連タンパク質(Cas)ポリペプチドと相互作用するヌクレオチド配列とを含む改変シングルガイドRNA(sgRNA)であって、該RNA成分が、2つの個々のRNA分子(crRNA及びtracrRNA)又は単一のRNA分子(sgRNA)であり得る、改変sgRNA;(b)改変sgRNA成分、又はcrRNA成分及びtracrRNA成分を別々に提供して、Casポリペプチドを補正される標的ゲノム配列に導く、Casポリペプチド、CasポリペプチドをコードするmRNA、及び/又はCasポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え発現ベクター;並びに(c)標的核酸の2つの重複していない相同な部分を含む2つのヌクレオチド配列を含む組換えドナーテンプレートを含み、該ヌクレオチド配列が、相同組換えを受ける標的核酸に対応するヌクレオチド配列の5’末端及び3’末端に位置する、相同ドナー、好ましくは野生型、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV-6)又は血清型1(AAV-1)、を初代細胞に導入することを含み、
標的核酸の安定な遺伝子改変が、補正ドナーテンプレートを含む相同ドナーAAV-6又はAAV-1ベクターを導入することによって、COL7A1遺伝子(標的核酸)、好ましくはCOL7A1遺伝子のエクソン73、エクソン74、エクソン75、エクソン80又はエクソン105のいずれかにおける病因性変異、好ましくはヒト集団におけるヘテロ接合性の頻度の高い病因性変異の置換えを含む。
【0041】
上述の遺伝子改変戦略は、初代細胞において、好ましくは初代ケラチノサイトにおいて、好ましくは表皮水疱症を有するか又は罹患している被験体、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)に罹患している被験体を治療する目的で行われる。劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)は、COL7A1遺伝子(コラーゲンVII、C7)の変異によって引き起こされる遺伝性遺伝的水疱性皮膚障害であり、C7機能の欠如につながることに留意されたい。VII型コラーゲン(C7)は、大きなホモ三量体三重らせん状コラーゲン分子であり、NC2末端で反平行二量体形成を受け、続いて、BMZの基底膜緻密層を乳頭真皮に接続するアンカーフィブリルと呼ばれる付着構造への超分子集合が起こる。C7は、基底膜緻密層中のラミニン-332と結合する大きなNC1ドメインと、乳頭真皮の間質性コラーゲン線維を包み込むコラーゲン性ドメインとを含む。したがって、RDEBにおけるC7の欠如は、乳頭真皮と基底膜緻密層との間に水疱を生じる。ヒトVII型コラーゲン遺伝子であるCOL7A1は、合計118個の別々のエクソンからなる複合体構造を有する。しかしながら、遺伝子は比較的コンパクトであり、ほとんどのイントロンは比較的小さく、その結果、ヒトCOL7A1遺伝子全体のサイズはわずか-32kbであり、-8.9kbのメッセンジャーRNAをコードする。COL7A1は、ヒト第3染色体の短腕、領域3p21.1にマッピングされている。VII型コラーゲン遺伝子の構造及びタンパク質がコードされる一次配列はよく保存されており、例えば、マウス遺伝子はヌクレオチドレベルで84.7パーセントの相同性、タンパク質レベルで90.4パーセントの同一性を示す。
【0042】
VII型コラーゲンは、培養中の表皮ケラチノサイト及び真皮線維芽細胞の両方によって合成される。完全なpro-al(VII)ポリペプチドの合成時に、3つのポリペプチドは、それらのカルボキシ末端を介して三量体分子に会合し、そのコラーゲン状部分において折り畳まれて三重らせんが形成される。次いで、三重らせん分子は細胞外環境に分泌され、そこで2つのVII型コラーゲン分子が分子の両端に存在するアミノ末端ドメインを有する反平行二量体に整列する。この二量体集合体は、両VII型コラーゲン分子のカルボキシ末端部分のタンパク質分解的除去及び分子間ジスルフィド結合形成による安定化を伴う。続いて、これらの反平行二量体の多くは横方向に凝集してアンカーフィブリルを形成する。
【0043】
COL7Aの三重らせんドメイン(特にエクソン73、エクソン74、及びエクソン75)におけるグリシン置換変異は、優性ジストロフィー表皮水疱症(DDEB)において優勢である。p.Gly2034Arg及びp.Gly2043Argの変異は、最も一般的なDDEBの原因となる変異であり、米国最大のコホートで報告された優性変異の50%を占めている。グリシン置換、並びにこの領域外の他のアミノ酸置換及びスプライス接合変異もまた、優性DEBにおいて見出され得る。遺伝子全体にまたがる400超の劣性DEBをもたらす変異が、あらゆる形態のDEBについて記載されている。しかしながら、各変異が占めるのは、記載された変異総数の1%~2%以下である。RDEBではヌル変異が優勢であるが、グリシン置換及び他のアミノ酸置換が記載されている。より軽症の形態のRDEBは、しばしばスプライス接合変異又は他のミスセンス変異によって引き起こされる。
【0044】
したがって、更なる実施形態において、標的核酸の安定な遺伝子改変は、補正ドナーテンプレートを含む相同ドナーAAV-6又はAAV-1ベクターを導入することによってCOL7A1遺伝子の上述の病因性変異のいずれかを置き換えることを含む。既に述べたように、「組換えドナーテンプレート」又は「ドナーテンプレート」という用語は、場合によっては、二本鎖切断から生じる、損傷DNA修復機構によって開始される、相同組換え鎖侵入時の核酸鎖、例えば、ドナー鎖であるDNA鎖を指すことに留意されたい。ドナーポリヌクレオチドは、損傷したDNA領域の修復を指示するテンプレート材料として機能する。本発明においては、本発明者らは、好ましくは、1つ以上のイントロン、特にガイドRNA標的配列を含むイントロンを欠くDNAドナー断片又は組換えドナーテンプレートを設計し構築する、より具体的にはドナーテンプレートは、Cas認識プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含む標的化核酸のイントロン領域を含まない。このドナーDNA設計を用いることで、本発明者らは、望ましくないヌクレアーゼ活性に起因し得る遺伝子スプライシング又はコード配列の変更の可能性を回避する。COL7A1遺伝子のエクソンの近くでのインデル生成は、遺伝子のオープンリーディングフレームにおける変化をもたらし、VII型コラーゲンのアミノ酸配列の変異を生じ、非機能的なタンパク質変異体を生じる可能性がある。さらに、イントロン配列の不在はPCRによって容易に検出され、これは組換え対立遺伝子のジェノタイピングを容易にする。好ましくは、組換えドナーテンプレートは、イントロン79を欠損しているエクソン79とエクソン80の融合体であり、ここでガイドRNAはその標的配列(sg2が切断する)を含む。更により好ましくは、組換えドナーテンプレートは、HDR修復イベント後のNHEJイベントを回避するためPAM配列を有さないようにイントロン79を欠損している、エクソン79とエクソン80の融合体である。
【0045】
幾つかの実施形態において、初代細胞は、初代ケラチノサイト又は線維芽細胞、及びそれらの組合せからなる群より選択される。幾つかの実施形態において、初代細胞は、改変sgRNA、Casポリペプチド、及び相同ドナーAAVベクターを初代細胞に導入する前に哺乳動物から単離される。例えば、初代細胞は、ヒト被験体から採取することができる。幾つかの例では、初代細胞又はその子孫は、改変sgRNA、Casポリペプチド、及び相同ドナーAAVベクターを初代細胞に導入した後、哺乳動物に戻される。つまり、遺伝子改変初代細胞は自家移植を受ける。他の例では、遺伝子改変初代細胞は同種異系移植を受ける。例えば、安定した遺伝子改変を受けていない初代細胞をドナー被験体から単離し、次いで、その遺伝子改変初代細胞をドナー被験体とは異なるレシピエント被験体に移植する。
【0046】
初代細胞は、初代細胞の集団を含むことができる。場合によっては、初代細胞の集団は、初代細胞の不均一な集団を含む。他の場合には、初代細胞の集団は、初代細胞の均質な集団を含む。
【0047】
幾つかの例では、相同ドナーAAV-6ベクターは、AAV6に対して少なくとも約90%の配列同一性を有する。他の例において、相同ドナーは野生型AAV6であるか、又は野生型AAV6に対して少なくとも95%の配列同一性、例えば、野生型AAV6に対して95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するAAV6変異体である。幾つかの実施形態において、AAV-6ベクターの様々な成分のうちの1つ以上をコードするポリヌクレオチドは、誘導性プロモーター、抑制性プロモーター、又は構成的プロモーターに作動可能に連結される。さらに、構成要素に作動可能に連結された調節配列は、アクチベーター結合配列、エンハンサー、イントロン、ポリアデニル化認識配列、プロモーター、リプレッサー結合配列、ステムループ構造、翻訳開始配列、翻訳リーダー配列、転写終結配列、翻訳終結配列、プライマー結合部位等を含むことができる。一般的に使用されるプロモーターは、構成的哺乳動物プロモーターCMV、EFla、SV40、PGKl(マウス又はヒト)、Ubc、CAG、CaMKIla、及びベータ-Act、並びに当該技術分野で知られている他のもの(Khan, K. H. (2013) ''Gene Expression in Mammalian Cells and its Applications,'' Advanced Pharmaceutical Bulletin 3(2), 257-263)である。さらに、HI及びU6を含む哺乳動物RNAポリメラーゼIIIプロモーターも使用することができる。
【0048】
幾つかの実施形態において、組換え哺乳動物発現ベクターは、特定の細胞型における核酸の発現を優先的に指示することができる(例えば、組織特異的調節エレメントを使用してポリヌクレオチドを発現させる)。組織特異的調節エレメントは当該技術分野において知られており、限定するものではないが、アルブミンプロモーター、リンパ系特異的プロモーター、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター)、膵臓特異的プロモーター、乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター)、並びに特にT細胞受容体及び免疫グロブリンのプロモーターが挙げられる。発生的に調節されたプロモーター、例えば、マウスホックスプロモーター及びアルファ-フェトプロテインプロモーターも包含される。
【0049】
AAV-6又はAAV-1発現ベクターを宿主細胞に導入する方法は、当該技術分野において知られており、典型的には宿主細胞の種類に基づいて選択される。
【0050】
幾つかの実施形態において、標的核酸の安定な遺伝子改変は、初代細胞集団の約30%超、例えば、初代細胞集団の約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%において誘導される。他の実施形態において、標的核酸の安定な遺伝子改変は、初代細胞集団の約80%超、例えば、初代細胞集団の約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%において誘導される。更に他の実施形態において、標的核酸の安定な遺伝子改変は、初代細胞集団の約90%超、例えば、初代細胞集団の約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%において誘導される。
【0051】
幾つかの実施形態において、本発明の第1の態様の配列は、リボース基、リン酸基、核酸塩基、又はそれらの組合せにおける修飾等の改変ヌクレオチドを含み得る。幾つかの例では、リボース基における修飾は、リボース基の2’位における修飾を含む。場合によっては、リボース基の2’位における修飾は、2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-デオキシ、2’-O-(2-メトキシエチル)、及びそれらの組合せからなる群より選択される。他の例において、リン酸基における修飾は、ホスホロチオエート修飾を含む。他の実施形態において、改変ヌクレオチドは、2’-O-メチル(M)ヌクレオチド、2’-O-メチル3’-ホスホロチオエート(MS)ヌクレオチド、2’-O-メチル3’-チオPACE(MSP)ヌクレオチド、及びそれらの組合せからなる群より選択される。
【0052】
幾つかの実施形態において、Casポリペプチドは、Cas9ポリペプチド、その変異体、又はその断片である。或る特定の例において、Casポリペプチド変異体は、高忠実度又は増強された特異性のCas9ポリペプチド変異体を含む。或る特定の実施形態において、改変sgRNA及びCasポリペプチドは、同時に初代細胞に導入される。他の実施形態において、改変sgRNA及びCasポリペプチドは、順次、初代細胞に導入される。場合によっては、改変sgRNAが最初に導入され、その後にCasポリペプチドが導入される。他の場合では、Casポリペプチドが最初に導入され、次いで改変sgRNAが導入される。
【0053】
幾つかの実施形態において、改変sgRNA及びCasポリペプチドを共にインキュベートして、初代細胞に導入する前にリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体を形成することができる。例えば、改変sgRNA及びCasポリペプチドを容器内で共に混合してRNP複合体を形成し、次いでRNP複合体を初代細胞に導入することができる。他の実施形態において、本明細書に記載のCasポリペプチドは、CasポリペプチドをコードするmRNAであることができ、これは、Cas mRNAが「All RNA」CRISPRシステムとして改変sgRNAと共に初代細胞に導入される。或る特定の例では、改変sgRNA及びCas mRNAは、同時に初代細胞に導入される。他の例では、改変sgRNA及びCas mRNAは、順次、初代細胞に導入される。場合によっては、改変sgRNAが最初に導入され、その後にCas mRNAが導入される。他の場合には、Cas mRNAが最初に導入され、その後に改変sgRNAが導入される。
【0054】
幾つかの実施形態において、RNP複合体と相同ドナーAAV-6又はAAV-1ベクターとが、初代細胞に同時に導入される。他の実施形態において、RNP複合体及び相同ドナーAAV-6ベクターは、順次、初代細胞に導入される。幾つかの例では、RNP複合体は、相同ドナーAAVベクターの前に初代細胞に導入される。他の例では、相同ドナーAAVベクターは、RNP複合体の前に初代細胞に導入される。例えば、RNP複合体を、相同ドナーAAVベクターの約1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、90分、120分、150分、180分、210分若しくは240分、又はそれ以上前に初代細胞に導入することができ、逆もまた同じである。特定の実施形態において、RNP複合体は、相同ドナーAAV-6ベクターの約15分(例えば、約10分~約20分)前に初代細胞に導入される。
【0055】
幾つかの実施形態において、「All RNA」CRISPRシステム及び相同ドナーAAVベクターが、初代細胞に同時に導入される。他の実施形態において、「All RNA」CRISPRシステム及び相同ドナーAAV-6ベクターは、順次、初代細胞に導入される。幾つかの例では、「All RNA」CRISPRシステムは、相同ドナーAAV-6ベクターの前に初代細胞に導入される。他の例では、相同ドナーAAV-6ベクターは、「All RNA」CRISPRシステムの前に初代細胞に導入される。例えば、「All RNA」CRISPRシステムを、相同ドナーAAVベクターの約1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、90分、120分、150分、180分、210分若しくは240分、又はそれ以上前に初代細胞に導入することができ、逆もまた同じである。特定の実施形態において、「All RNA」CRISPRシステムは、相同ドナーAAVベクターの約15分(例えば、約10分~約20分)前に初代細胞に導入される。
【0056】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載の方法のいずれかが、マーカーを用いて標的核酸の安定な遺伝子改変を有する初代細胞を精製することも含み得る。場合によっては、精製工程によって単離された組成物は、標的核酸の安定な遺伝子改変を有する初代細胞を少なくとも約80%、例えば、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又はそれ以上の標的核酸の安定な遺伝子改変を有する初代細胞を含む。
【0057】
幾つかの実施形態において、改変sgRNA及びCasポリペプチドを初代細胞に導入する工程は、改変sgRNA及びCasポリペプチドを初代細胞にエレクトロポレーションすることを含む。幾つかの実施形態において、相同ドナーAAV-6又はAAV-1ベクターを初代細胞に導入する工程は、初代細胞を形質導入することを含む。
【0058】
他の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の方法のいずれかによって産生される遺伝子改変初代細胞である。幾つかの実施形態において、遺伝子改変初代細胞は、初代ケラチノサイト又は線維芽細胞、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0059】
更に他の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の遺伝子改変初代細胞のいずれかと、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物である。他の実施形態において、医薬組成物は、1種類の遺伝子改変初代細胞を含む。他の実施形態において、医薬組成物は、2つ以上の異なるタイプの遺伝子改変初代細胞、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の異なるタイプの遺伝子改変初代細胞を含む。
【0060】
更なる態様において、本明細書に提供されるのは、初代細胞、好ましくは被験体から得られた初代ケラチノサイト又は線維芽細胞における相同組換えを介して、COL7A1遺伝子の病因性変異である、1つ以上の表皮水疱症、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)を含む標的核酸の安定な遺伝子改変を誘導する方法における(a)標的核酸に相補的な第1のヌクレオチド配列と、CRISPR関連タンパク質(Cas)ポリペプチドと相互作用する第2のヌクレオチド配列とを含むシングルガイドRNA(sgRNA);(b)sgRNAがCasポリペプチドを標的核酸に導く、Casポリペプチド、CasポリペプチドをコードするmRNA、及び/又はCasポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え発現ベクター;(c)標的核酸の2つの重複していない相同な部分を含む2つのヌクレオチド配列を含む組換えドナーテンプレートを含み、該ヌクレオチド配列が、相同組換えを受ける標的核酸に対応するヌクレオチド配列の5’末端及び3’末端に位置する、相同ドナー、アデノ随伴ウイルス(AAV6)又はAAV-1ベクター;並びに任意に、取扱い説明書含むキットのin vitroでの使用である。
【0061】
幾つかの例では、キットは、被験体から初代細胞を採取又は単離するための試薬も含む。被験体は、哺乳動物被験体、例えば、ヒト被験体であり得る。
【0062】
なお更なる態様において、本明細書に提供されるのは、表皮水疱症、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)の予防又は治療を必要とする被験体において、表皮水疱症、好ましくは劣性ジストロフィー表皮水疱症(RDEB)を予防又は治療する方法であり、該方法は、該疾患を予防し、又は該疾患の1つ以上の症状を改善するために、本明細書に記載の遺伝子改変初代細胞のいずれか、又は本明細書に記載の医薬組成物のいずれかを被験体に投与することを含む。
【0063】
幾つかの実施形態において、投与する工程は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮内、皮下、髄腔内、骨内、又はそれらの組合せからなる群より選択される送達経路を含む。
【0064】
特定の実施形態において、本発明の遺伝子改変初代細胞又は医薬組成物は、疾患に関連する標的核酸の変異を補正するのに十分な量で被験体に投与される。幾つかの例では、変異は、標的核酸中の変異対立遺伝子を野生型対立遺伝子で置き換えることによって補正される。
【0065】
本発明の更なる実施形態において、本発明の遺伝子改変初代細胞又は医薬組成物は、in vitroで、好ましくは、皮膚等価物又は人工皮膚を製造する方法において使用される。本発明のなお更なる実施形態は、したがって、前述のin vitroでの使用に従って取得可能な又はそれに従って得られる皮膚等価物に関する。なお更なる実施形態は、前述のin vitroでの使用又は方法に従って取得可能な又はそれに従って得られるかかる皮膚等価物の、それを必要とする被験体における、表皮水疱症、特に劣性ジストロフィーサブタイプ(RDEB)の治療方法における使用に関する。
【0066】
本発明の他の目的及び利点は、次の詳細な説明の総括から当業者に明らかになり、これは以下の例示的な図面、及び添付の特許請求の範囲を参照して進行する。
【0067】
その結果、本出願人らは、RDEB変異を確実に修復するためのCRISPRシステムの使用を本明細書に示した。本出願人らは、変異部位の周囲の部位を標的とする。CRISPR/Cas9システムを用いたRDEB疾患変異のDNA修復は、新しく独創的な治療アプローチとなる。本発明は、病因性変異を不活性化又は修復するために操作されたヌクレアーゼを用いてDNAレベルで作用する可能性を提供する。
【0068】
以下の実施例は、本発明の単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0069】
材料及び方法
ケラチノサイトの細胞培養及びクローンの単離
患者のケラチノサイトは、元々COL7A1遺伝子に変異を有する3人のRDEB(RDEB-sev gen)患者の皮膚生検から得られた。皮膚生検は、インフォームドコンセントに基づき、連携病院の倫理委員会の承認を得た上で患者から取得した。
【0070】
初代ヒトRDEB及び健康なドナーケラチノサイトを培養した。3人の患者からのヒト初代RDEBケラチノサイトを、致死的に照射された3T3-J2細胞上に播種し、ウシ胎児血清(Hyclone、ユタ州ローガンのGE Healthcare)(10%)、ペニシリン-ストレプトマイシン(1%)、グルタミン(2%)、インスリン(5μg/ml;Sigma Aldrich)、アデニン(0.18mmol/l;Sigma Aldrich)、ヒドロコルチゾン(0.4μg/ml;Sigma Aldrich)、コレラ毒素(0.1nmol/l;Sigma Aldrich)、トリヨードチロニン(2nmol/l;Sigma Aldrich)、EGF(10ng/ml;Sigma Aldrich)及び10μMのY-27632 ROCK阻害剤(Sigma Aldrich)を含むDulbecco改変イーグル培地及びハムF12培地の3:1ミックス(スペイン国バルセロナのGIBCO-BRL)であるケラチノサイト増殖cFAD培地(KCa)で培養した。次いで、単離されたクローンを得るために、細胞をトリプシン処理し、プレート当たり2×10の致死的に照射された3T3フィーダー細胞を含む100mmプレートに低密度(10細胞/プレート)で播種した。次いで、細胞クローンをポリスチレンクローニングシリンダー(ミズーリ州セントルイスのSigma)を用いて回収し、更なる分析のために拡大した。
【0071】
AAV6を含むドナーテンプレートの生産
相同性アームを、野生型ゲノムDNAからのPCRにより増幅した。対称ドナーはエクソン79とエクソン80の融合体であり、イントロン79が欠落している(sg2が切断する)。したがって、左相同性アーム(LHA)はCOL7A1遺伝子のエクソン79の末端から5’まで1008bpであり、右相同性アーム(RHA)はこの遺伝子のエクソン80の開始から3’まで798bpである。非対称ドナーも同じ戦略に従うが、LHAは556bpであり、RHAは1461bpである。次いで、両アームを、ギブソンアセンブリ技術によりAAVバックボーンプラスミドを用いてアセンブルした。
【0072】
AAV6を含むドナーテンプレートの産生の場合、バックボーンベクタープラスミドを大腸菌(E.coli)で増殖させ、Endotoxin-Free Maxi Plasmid精製キット(Invitrogen、カタログ番号A33073)を用いて単離した。次いで、6mgのITR含有プラスミド及び22mgのpDGM6(AAV6キャップ、AAV2rep、及びアデノウイルスヘルパー遺伝子を保持する)と混合した1プレートあたり120μLの1mg/mLのPEI(分子量25K)(Polysciences)を用いて、5つの15cmディッシュの293細胞をトランスフェクトした(D. Russellから寄贈)。トランスフェクションの72時間後、製造業者のプロトコルに従ってタカラバイオ株式会社AAVpro精製キット(カタログ番号6666)を用いてベクターを精製した。ベクター力価を、ITR領域上のプローブを用いたddPCRにより評定した。
【0073】
CRISPR/Cas9送達及びAAV6形質導入
Sg2 gRNAは以前に記載されていた(Bonafont et al.)。このアプローチでは、crRNA:tracrRNA系の代わりに、sg2がシングルガイドRNAであり、化学修飾された(米国カリフォルニア州のSynthego)。6μgのCas9タンパク質と混合した1.6μgのsgRNAを、1×10個の初代ケラチノサイトに対する各反応においてエレクトロポレーションによって送達した(米国アイオワ州のIntegrated DNA Technologies)。RNPの送達に使用されたエレクトロポレーションプラットフォームは、4D-Nucleofector(商標)System(スイス国のLonza Bioscience)、エレクトロポレーションコードCM137であった。
【0074】
エレクトロポレーション後、細胞を、Opti-MEM(ThermoFisher Scientific)を用いて50μlの最終容量でAAV6(MOI 30K)を含むドナーと共に懸濁液中で1時間形質導入した。次いで、細胞をフィーダー層含有プレート上に播種した。
【0075】
MSC及びCD34細胞の場合、3.2μgのsgRNA及び6μgのCas9を使用した。MSCエレクトロポレーションに使用されたエレクトロポレーションコードはCM119であり、CD34細胞のトランスフェクションに使用されたコードはDZ100であった。形質導入のため、MSCをAAV6と共に懸濁液中で15分間インキュベートし、次いでそれらを培地上に播種した。CD34細胞の場合、AAV6をウェルに直接添加した。
【0076】
遺伝子標的化ケラチノサイトのジェノタイピング
処理の6日後、ケラチノサイト溶解物のイソプロパノール沈殿によりゲノムDNAを単離し(溶解緩衝液はTris pH8 100mM、EDTA 5mM、SDS 0.2%、NaCl 200mM、1mg/mlプロテイナーゼK(ドイツ国マンハイムのRoche Diagnostics)であった)、TEバッファーに再懸濁した。およそ50ngのゲノムDNAをPCR増幅に使用した。標的領域にまたがるPCR断片を、相同性アームの外側のプライマーS1 F/Rを用いて生成した。F:5’-CACCAGCATTCTCTCTTCC-3’;R:5’-GTTCTT GGG TAC TCACCA C-3’。PCRプログラムは次のとおりであった:1分間98℃、5サイクルの30秒間98℃、30秒間68℃、45秒間72℃、サイクル毎にアニーリング温度1℃の低下、続いて30サイクルの30秒間94℃、30秒間63℃、45秒間72℃、次いで72℃で10分間。PCR産物を1.5%アガロースゲル中で分析した。分子量マーカーはIX(Sigma-Aldrich)であった。シーケンシングのため、PCR産物をillustra(商標)ExoProStar(商標)(英国のGE Healthcare)で処理し、Big Dye Terminator V.1.1 Cycle Sequencingキット(マサチューセッツ州ウォルサムのThermo Fisher)を用いてシーケンシングし、3730 DNAアナライザー(カリフォルニア州カールスバッドのLife Technologies)で検査した。クロマトグラムを、Sequencher(ミシガン州アナーバーのGene Codes)を用いて分析した。Bio-Rad Image Lab Software 6.0をPCRバンド濃度測定に使用した。
【0077】
ウェスタンブロット分析
ケラチノサイトを、プロテイナーゼ阻害剤カクテル(Complete Mini、EDTAフリー;ドイツ国マンハイムのRoche Diagnostics)を含むタンパク質抽出バッファー(50mM Tris-HCl、pH7.5、100mM NaCl、1%Nonidet P-40、4mM EDTA)に溶解した。溶解物を氷上で30分間インキュベートし、15000×gで4℃にて30分間遠心分離した。上清を収集し、タンパク質濃度をBradfordアッセイ(カリフォルニア州ハーキュリーズのBioRad)を用いて測定した。各試料について、40μgの総タンパク質をNuPAGE(商標)Novex 3-8%トリスアセテートゲル電気泳動(カリフォルニア州カールスバッドのInvitrogen)で分離し、ニトロセルロース膜(カリフォルニア州カールスバッドのInvitrogen)に電気泳動転写した。VII型コラーゲン分析のため、ブロットを単一特異性ポリクローナル抗C7抗体(A. Nystrom博士からの寄贈;フライブルク大学)を用いて探した。ビンキュリンに対するGAPDHA抗体に対する抗体をローディングコントロールとして用いた。可視化は、HRP結合抗ウサギ抗体(マサチューセッツ州バーリントンのAmersham)及びWest Pico化学発光基質(イリノイ州ロックフォードのPierce)と共にインキュベートすることによって行った。
【0078】
免疫蛍光染色及び免疫組織化学染色
ケラチノサイト中のC7の免疫蛍光検出のために、ガラスカバースリップ上で増殖した細胞をメタノール/アセトン(1:1)中、-20℃で10分間固定した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で3回洗浄し、3%ウシ血清アルブミン(BSA)(ミズーリ州セントルイスのSigma Aldrich)を含むPBS中で30分間1回洗浄した後、細胞を1:5000希釈で単一特異性ポリクローナル抗C7抗体と共にインキュベートした。二次抗体(AlexaFluor488、カリフォルニア州カールスバッドのInvitrogen)を1/1000希釈で使用した。PBS中での最終洗浄工程の後、調製物を、核可視化のためにMowiol(ニュージャージー州サマービルのHoechst)マウント培地及びDAPI 20μg/ml(ミズーリ州セントルイスのSigma Aldrich)を用いてマウントした。パラフィン包埋、ホルマリン固定切片におけるC7の免疫ペルオキシダーゼ検出は、33.33に記載のプロテイナーゼK抗原賦活化を用いて行った。ヒトインボルクリン及びp63に対する免疫ペルオキシダーゼ染色は、抗原賦活化を伴わないパラフィン切片上でそれぞれウサギSY5モノクローナル抗体(Sigma)及び4A4モノクローナル抗体を用いて行った。ジアミノベンジジンを基質としたABCペルオキシダーゼキット(Vector)を現像試薬に用いた。
【0079】
電子顕微鏡検査
約0.4cm×0.3cmの標本を、pH7.4の0.1Mカコジル酸バッファー中の3%グルタルアルデヒド溶液中、室温で少なくとも2時間固定し、約1mmの断片に切断し、緩衝液で洗浄し、1%四酸化オスミウム中、4℃で1時間後固定し、水ですすぎ、段階的なエタノール溶液を通して脱水し、プロピレンオキシドに移し、エポキシ樹脂(glycidether100)に包埋した。半薄切片及び極薄切片を、ウルトラミクロトーム(Reichert Ultracut E)で切断した。超薄切片を酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で処理し、2k CCDカメラ(TVIPS)を備えた電子顕微鏡(JEM 1400)で調べた。
【0080】
皮膚等価物の生成、免疫不全マウスへの移植、及び移植片分析
動物実験は、国内及び欧州の法的規制に従って、本発明者らの施設動物ケア及び使用委員会によって承認された。
【0081】
遺伝子編集ケラチノサイトを、前述34のように調製したC7発現のためにヌルのRDEB線維芽細胞を含むフィブリン真皮等価物上に蒔いた。前述30のように、Elevage-Janvier(フランス)から購入した7週齢の雌性免疫不全マウス(nu/nu、NMRIバックグラウンド)の背中に、生物工学的に作製された皮膚等価物を移植した。移植は無菌条件下で行い、マウスはCIEMAT実験動物施設(スペイン登録番号28079-21A)で、実験期間中病原体のない条件下で飼育した。動物を個別に換気されたII型ケージに収容し、1時間に25回の空気交換を行い、10kGyガンマ線照射軟質木質ペレットを床敷材として使用した。全ての操作を無菌条件下で行い、全ての実験手順は欧州及びスペインの法律及び規制に従って行われた。マウスを移植後10週間で屠殺し、皮膚組織学、免疫組織化学分析及び電子顕微鏡研究のために移植片を採取した。
【0082】
HDRベースの補正ポリクローナルケラチノサイトを、前述34のように調製したC7発現のためのヌルのRDEB線維芽細胞を含むフィブリン真皮等価物上に蒔いた。前述30のように、Elevage-Janvier(フランス)から購入した7週齢の雌性免疫不全マウス(nu/nu、NMRIバックグラウンド)の背中に、生物工学的に作製された皮膚等価物を移植した。移植は無菌条件下で行い、マウスはCIEMAT実験動物施設(スペイン登録番号28079-21A)で、実験期間中病原体のない条件下で飼育した。動物を個別に換気されたII型ケージに収容し、1時間に25回の空気交換を行い、10kGyガンマ線照射軟質木質ペレットを床敷材として使用した。全ての操作を無菌条件下で行い、全ての実験手順は欧州及びスペインの法律及び規制に従って行われた。マウスを移植後の種々の時間点で屠殺し、皮膚組織学、免疫組織化学分析及び電子顕微鏡研究のために移植片を採取した。
【0083】
in vivo皮膚脆弱性試験
本発明者らの研究室で開発した吸引装置を設置し、直径3mmの領域に10±2kPaの陰圧を5分間作用させ、移植後12週間で免疫不全マウスにおいて再生したヒト皮膚移植片に水疱形成を誘導した。未編集の移植片を有する2匹のマウス、及びsg2+sg3 RNP処理ケラチノサイトからの2匹のマウスを使用した。吸引を、各移植片について2つの異なる部位に適用した。吸引を加える前に、水疱形成を促進するため、およそ2cm離れた移植片領域の上に白熱電球を2分間セットした35。その後、電球を実験の全期間にわたって点灯したままにした。吸引された領域を吸引の10分後に撮影し、組織学的分析のために切除した。
【0084】
本発明者らの研究室で開発した吸引装置を設置し、直径3mmの領域に10±2kPaの陰圧を作用させ、移植後10週間で免疫不全マウスにおいて再生したヒト皮膚移植片に水疱形成を誘導した。吸引を加える前に、水疱形成を促進するため、およそ2cm離れた移植片領域の上に白熱電球を2分間セットした35。その後、電球を実験の全期間にわたって点灯したままにした。吸引された領域を吸引の10分後に撮影し、組織学的分析のために切除した。
【0085】
結果
初代RDEB細胞に送達されるCRISPR/Cas9 RNP複合体は高効率のインデル生成を達成した
良好な効率及びバイオセーフティが示されたため、sgRNA改変ガイドのインデル生成能力を実証するために、本発明者らは以前の研究でNHEJベースのダブルガイド戦略で使用した「sg2」ガイドの切断効率を評価した(Bonafont et al. 2019)。この場合、RNP複合体のcrRNA:tracrRNA分子の代わりに、本発明者らは、化学改変sgRNA(カリフォルニア州のSynthego)を試験した。
【0086】
このガイドは、病原性エクソン80に非常に近いイントロン79を標的としている(図1A)。本発明者らは、HDR修復イベント後のNHEJイベントを回避するために、本発明者らのドナーテンプレートコンストラクトにおいてPAM配列を持たないようにイントロン79の配列を排除した。
【0087】
Sg2を、初代RDEBケラチノサイトにおけるRNP複合体として、CRISPR/Cas9システムを有するAmaxa 4DヌクレオフェクタープラットフォームのコードCM137条件下でエレクトロポレーションを行った。インデル生成の能力を、標的領域におけるNHEJイベントのTIDE分析によって評定し、初代ケラチノサイトにおける各技術的反復において82.6%及び90.8%を達成した(図1B)。
【0088】
初代細胞における初代ケラチノサイト形質導入及びHDRベースのRDEB補正のためのAAV血清型試験
AAVは、CD34細胞又はiPSCのように、異なる細胞型に対するHDRベースの遺伝子編集におけるドナーテンプレート送達のための非常に効率的で安全なベクターとして示されており、治療不可能な疾患に対する有望な治療上の利点を有する。
【0089】
そこで、初代ケラチノサイトにおけるAAV形質導入効率を評価するために、本発明者らは、GFPベースのコンストラクトをパッキングするAAV血清型の幅広いコレクション(AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9及びDJ;図2A)を評価し、最も性能の高いサブタイプを選択した。異なるAAVのGFP発現をフローサイトメトリーによって評価し、AAV6がケラニトサイト形質導入に到達する最も強力な血清型であることが明らかになった。したがって、本発明者らは血清型6を有するAAVベクターに本発明者らのコンストラクトをパッケージ化した。
【0090】
形質導入プロトコルの最適化後、本発明者らは、RNPとしてsg2 sgRNAを用いてRDEB初代ケラチノサイトをエレクトロポレーションし、次いで、AAV6担持ドナーテンプレートで形質導入した。本発明者らは、2つの異なるドナーデザイン、1つは対称、もう1つは非対称の相同性アームで試験した。対称ドナーはCOL7A1遺伝子のE74~E84をカバーし、非対称ドナーはE77~E88をカバーする。本発明者らは、PCR、TOPOクローニング、及びサンガーシーケンシングにより、発生した修復イベントを解析したところ、E80において、40%近くのHDR頻度、I79欠損及びc6527insC変異の補正が見つかり(図2B)、両ドナー間でHDR効率に差は認められなかった。
【0091】
RDEB初代ケラチノサイトにおけるHDRベースの補正後のde novo C7発現
COL7A1における高効率の遺伝子補正は、編集されたケラチノサイトバルク集団内の高い割合の細胞においてC7発現を回復させるはずである。したがって、本発明者らは、sg2 RNPをエレクトロポレーションし、AAV6を保持する2つの異なるドナーテンプレートで形質導入したRDEBケラチノサイトにおける免疫蛍光及びウェスタンブロットによりC7発現を解析した。免疫蛍光分析(図3)によって検出されたC7発現細胞の数は、PCR及びサンガーシークエンシング(図2)によって示される観察されたHDR頻度と一致した。したがって、細胞抽出物からのウェスタンブロット分析は、健康なドナー試料に類似した2種類のAAV6(対称及び非対称)を有する回復されたC7の高発現を更に実証した。これは、本発明者らがRDEB患者の細胞を治療するために両方のドナーを使用して、この遺伝子治療の処理を受けることができるRDEB患者の集団を増やすことができたことを示唆している。
【0092】
遺伝子補正RDEBケラチノサイトの長期生着試験
AAV6及びRNPの処理後にC7を発現する細胞の割合が高いことは、皮膚接着回復を達成するのに十分であるはずである。健康な皮膚再生可能性のグレードを評定するために、健康な、無処理の、遺伝子編集されたバルクケラチノサイト集団をC7ヌル線維芽細胞と組み合わせて、ヌードマウスに移植した皮膚等価物を生成するために使用した。H&E組織学的分析は、健康なケラチノサイト及び遺伝子編集ケラチノサイトからの移植片において正常な皮膚構造物が示され、未治療の患者1からの移植片において幾つかの水疱が観察された。免疫組織化学C7検出は、RDEB患者1由来の未処理ケラチノサイトからの再生組織においてC7発現を示さなかった(図4A)。一方、AAV6+RNP処理後のRDEBケラチノサイト(P1編集ケラチノサイト)からの移植片は、健康なドナーケラチノサイトから再生した移植片と同様に(図4C)、再生皮膚の基底膜におけるC7発現を明らかにした(図4B)。全ての組織試料は、正しい基底上ヒトインボルクリン発現を示し、正常な表皮ヒト分化を証明した(図4D図4E、及び図4F)。
【0093】
E79に変異を有するRDEB患者におけるHDRベースの補正
ドナーテンプレートは、COL7A1内のより大量のエクソンをカバーし、遺伝子の異なる点で実現可能な遺伝子補正を行う。したがって、エクソン80に変異を有する患者細胞(患者1)において関連する補正効率を示した後、本発明者らは、E79に変異を有するRDEB患者(患者2;P2)をホモ接合で補正するためにエクソン79-エクソン80融合戦略を試験した。本発明者らは、この形質導入についてAAV6を含む対称アームのみを試験した。ジェノタイピングは、先に治療されたP1と比較して、PCRによる同様のHDRベースの補正比を示した(図5)。また、本発明者らはRDEB P2の処理細胞の免疫蛍光によるC7発現回復を評定し、バルク編集集団における陽性C7細胞の有意な割合を示した。
【0094】
EBにおける骨髄移植のための細胞供給源としてのCD34及びMSC遺伝子編集細胞
最近、HSCTがEB治療の治療選択肢として検討されている。HSCTは症状を改善する利点を提供するが、幾つかの合併症がある。遺伝子補正細胞を含む同種異系HSCTは、この障壁を克服し、より安全な治療ソリューションを提供する可能性がある。CD34及びMSCは骨髄における主要な幹細胞型であり、このため、本発明者らは、RNP+AAV6戦略を用いて、3人の健康なドナーからの臍帯血単離CD34及びMSC細胞を標的とし、RDEB治療のための別の関連細胞型を標的とする本発明者らのアプローチの可能性を試験した。
【0095】
5日後、本発明者らは、PCRによりCD34遺伝子補正を解析したところ、本発明者らは、AAV6を含む同じドナーテンプレートでHK P1処理した細胞と同様の遺伝子補正比を見出した(図6)。CD34細胞について、本発明者らは、5Kと10Kの2つの異なるMOIを試験したところ、HDRベースの補正効率に差は認められなかった。さらに、異なる細胞ドナーを比較すると、HDRイベントの差は示されなかった。同様に、3人の健康なドナーからのMSCは、試験した全ての細胞ドナーにおいて、50%に近い正確な補正の割合を示した。各細胞ドナー間で編集効率に顕著な差は認められず、このゲノム編集アプローチの耐用性(sturdiness)を裏付けている。この研究は、骨髄幹細胞が提案された戦略による遺伝子補正治療に適しており、EB治療に様々な潜在的な利益をもたらす可能性があるという概念実証を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2023513397000001.app
【国際調査報告】