(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(54)【発明の名称】地熱井の刺激及びシリカ系堆積物の除去
(51)【国際特許分類】
C02F 5/00 20230101AFI20230324BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20230324BHJP
C23F 14/02 20060101ALI20230324BHJP
C02F 5/08 20230101ALI20230324BHJP
C02F 5/10 20230101ALI20230324BHJP
【FI】
C02F5/00 610J
B08B3/08 Z
C23F14/02 A
C02F5/00 610F
C02F5/00 620C
C02F5/08
C02F5/10 610
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544160
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 US2021014280
(87)【国際公開番号】W WO2021150657
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521127723
【氏名又は名称】ソレニス・テクノロジーズ・ケイマン・エル・ピー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ローガン・ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ヒューソン
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ニディア・リンチ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ブルームル
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・スリープ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・エス・キャリー
【テーマコード(参考)】
3B201
4K062
【Fターム(参考)】
3B201AA12
3B201BB09
3B201BB92
4K062AA03
4K062BA08
4K062BA11
4K062BB12
4K062BB14
4K062FA04
(57)【要約】
鉱化水を含む流体が流れる導管において、スケールの蓄積を抑制し、又は蓄積されたスケールを除去する方法であって、導管内の流体を酸組成物及び苛性組成物で交互に処理することを含み、ここで処理は、導管内の流体の流れを止めることなく実施される、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱化水を含む流体が流れる導管において、スケールの蓄積を抑制し、又は蓄積されたスケールを除去する方法であって、前記導管内の流体を酸組成物及び苛性組成物で交互に処理することを含み、ここで処理は、前記導管内の流体の流れを止めることなく実施される、方法。
【請求項2】
前記酸組成物及び前記苛性組成物は、前記スケールを除去したい場所又は前記スケールの堆積を抑制したい場所の上流で前記導管に注入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蓄積されたスケールは、アルカリ金属アルミノシリケート又はアルカリ土類金属アルミノシリケート系スケールを含み、前記酸組成物及び前記苛性組成物は前記スケールと直接接触しないが、前記導管内を流れる流体によって希釈される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記流体は、最初に前記酸組成物で処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記流体は、最初に前記苛性組成物で処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
処理ステップの間に、前記導管内に前記酸組成物及び前記苛性組成物を連続的に供給することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
処理ステップの間に、前記導管内に前記酸組成物及び前記苛性組成物をバッチで追加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記苛性組成物は、アルカリ及びキレート剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記苛性組成物は、界面活性剤をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
地熱発電所を運転する方法であって、酸組成物及び苛性組成物を、前記発電所の生産井ライン内又は前記発電所の再注入ライン内に交互に注入することを含み、ここで注入するステップは、前記地熱発電所の運転を停止することなく実施される、方法。
【請求項11】
前記酸組成物及び前記苛性組成物を、スケールの蓄積が観察される場所に注入することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
蓄積されたスケールは、アルカリ金属アルミノシリケート又はアルカリ土類金属アルミノシリケート系スケールを含み、前記酸組成物及び前記苛性組成物は前記スケールと直接接触しないが、導管内を流れる流体によって希釈される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
処理ステップの間に、導管内に前記酸組成物及び前記苛性組成物を連続的に供給することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
処理ステップの間に、導管内に前記酸組成物及び前記苛性組成物をバッチで追加することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記苛性組成物は、アルカリ及びキレート剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記苛性組成物は、界面活性剤をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
生産井と、前記井から分離器に至る生産井ラインと、前記分離器からの蒸気を流す蒸気タービンと、再注入井と、前記分離器から前記再注入井への水の戻りラインとを含む地熱発電所であって、前記戻りライン、前記生産井ライン、又はその両方に配置された1つ又は複数の注入器をさらに含み、前記1つ又は複数の注入器は、酸組成物及び苛性組成物を、前記1つ又は複数の注入器に結合された1つの貯水池から又は複数の貯水池から前記戻りライン、前記生産井ライン、又はその両方に送るよう構成される、地熱発電所。
【請求項18】
前記1つ又は複数の注入器は、前記酸組成物及び前記苛性組成物を交互に送るように構成される、請求項17に記載の地熱発電所。
【請求項19】
前記苛性組成物は、アルカリ及びキレート剤を含む、請求項17に記載の地熱発電所。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年1月20日に出願された米国出願第16/747,604号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
地熱発電所の運転において、蒸気中の成分は、様々な種の過飽和及び堆積物の形成をもたらす循環及び/又は温度変化を受ける。例えば、生産井と再注入ラインは、プロセスにおいて沈殿物の形成が観察される領域であることが知られている。これらのラインにおける堆積物は、井ケーシングから数センチメートルから数メートルの範囲に及ぶことがある。堆積物は、発電所の効率を低下させる原因となり得る。一例として、シリカ系鉱物の蓄積は、再注入ラインに見られる典型的な堆積物である。この蓄積は再注入における流量を低下させ、最終的には生産井からの流量を絞ることが必要になり、結果として発電所からのエネルギー生産が減少することになる。最大効率を達成するためにシステムを堆積物なしに維持することは、地熱発電所の運営者にとって大きなコストである。
【0003】
別の課題は、井貯水池の生産性を長期にわたって最大化することである。蒸気の排出を刺激又は維持するための機械的及び化学的の両方の様々な技術が説明されてきた;これらには、水圧破砕(又はフラッキング)、マトリックス酸性化、及びキレート処理が含まれる。
【0004】
再注入ラインを清浄に維持し、及び/又は井貯水池を刺激するための従来の解決策は、井内に降ろされる掘削装置、ハンマーツール及び機械加工ビットの使用を含む機械的手段を含む。その他に、HF又は泥酸(mud acid)(HCl及びHF)を井にポンプで送ることが含まれる。この場合、井をラインから外す必要があり、HFの過酷度により非常に危険なプロセスである。また、フラッキングは、爆発物又は高圧水の使用を含む。これらは、地層(formation)が流体を受け入れる能力を刺激することができるが、井を使用停止にすることが必要である。
【0005】
Earhartら、米国特許第4713119号には、酸と塩基の交互洗浄によって化学処理装置の表面から特にアルカリ金属アルミナシリケートスケール堆積物を除去するためのプロセスが記載されている。しかしながら、Earhartのプロセスは、酸及び塩基洗浄とスケールの直接接触、及び洗浄の間のスケールからの排水を提供する。また依然として、処理中はプロセス機器を停止させる必要がある。貴重な生産時間と生産量を失うことなく、地熱発電所のような設備をスケールのない状態に維持するプロセスが、今後も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
鉱水を含む流体が流れる導管において、スケールの蓄積(build up)を抑制し、又は蓄積されたスケールを除去する方法は、導管内の流体を酸組成物及び苛性組成物(caustic composition)で交互に処理することを含み、ここで処理は、導管内の流体の流れを止めることなく実施される。一般に、この方法は、酸組成物及び苛性組成物を、スケールを除去したい場所又はスケールの堆積を抑制したい場所の上流で導管に注入することを含む。典型的には、蓄積されたスケールは、主に非晶質のシリカ系スケール、アルカリ金属アルミノシリケート系スケール、又はアルカリ土類金属アルミノシリケート系スケールを含み、酸組成物及び苛性組成物はスケールと直接接触しないが、導管内を流れる流体によって希釈される。様々な実施形態において、流体は、最初に酸組成物で処理され、他の実施形態において、流体は、最初に苛性組成物で処理される。酸組成物及び苛性組成物は、連続的に供給することができ、又はそれぞれの処理ステップの間にバッチで添加することができる。苛性組成物は、アルカリ及びキレート剤を含み、任意に界面活性剤をさらに含む。
【0008】
地熱発電所を運転する方法は、酸組成物及び苛性組成物を、スケールの蓄積が観察される場所、例えば発電所の生産井ライン又は発電所の再注入ラインに交互に注入することを含み、ここで注入するステップは、地熱発電所の運転を停止することなく実施される。
【0009】
蓄積されたスケールは、主に非晶質のシリカ系スケール、アルカリ金属アルミノシリケート又はアルカリ土類金属アルミノシリケート系スケールを含む。酸組成物及び苛性組成物は、スケールと直接接触しないが、導管内を流れる流体によって希釈される。
【0010】
このプロセスで使用するための地熱発電所の非限定的な例は、生産井と、この井から分離器に至る生産井ラインと、分離器からの蒸気を流す蒸気タービンと、再注入井と、分離器から再注入井への水の戻りラインとを含み、また、戻りライン、生産井ライン、又はその両方に配置された1つ又は複数の注入器をさらに含み、ここで1つ又は複数の注入器は、酸組成物及び苛性組成物を、1つ又は複数の注入器に結合された1つの貯水池から又は複数の貯水池から戻りライン、生産井ライン、又はその両方に送るように構成される。
【0011】
この技術の主要な差別化要因は、処理プロセスをオンラインで実施できること;すなわち、処理される井を使用停止にする必要がないことである。さらに、処理は、再注入されたプロセス水の連続的な流れに代替的に加えることができる;すなわち、洗浄溶液は、処理が効果的であるために堆積物と接触した状態にある必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示であり、本開示又はその応用及び用途を限定することを意図していない。さらに、先の背景又は以下の詳細な説明で提示されたいかなる理論にも拘束される意図はない。
【0014】
[酸組成物]
本明細書で使用される酸組成物は、流れる鉱水を有する導管に酸組成物を注入することによって流水のpHを7未満のpHに下げ、導管の内壁に形成されたアルミノシリケート系スケールを部分的に溶解させるのに適した状態を作り上げる、十分に低いpHを有する水溶液である。導管内の流水のpHの低下は、処理ステップ中に導管内に供給される酸組成物の量、及び流水が流れる速度と比較してそれが添加される速度によっても影響される。
【0015】
従って、酸処理は、pH7未満などの低いpHを有する環境を導管内に提供する。様々な実施形態において、pHは、酸処理によって、6未満、5未満、4未満、3未満、2未満、又は1未満となるように調整される。あるいは、酸処理の効果は、導管内の流水のpHを少なくとも1単位、少なくとも2単位、少なくとも3単位、少なくとも4単位、少なくとも5単位、又は少なくとも6単位下げるという点で観察することができる。
【0016】
処理に使用するのに適した酸は、限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、ギ酸、及びスルファミン酸を含む。様々な実施形態において、硫酸及び塩酸が使用される。酸の混合物も使用することができる。一実施形態において、先行技術の用途で利用されるより危険なフッ化水素酸は使用されない。酸の適切な濃度は、約0.1Mから約6Mの範囲である。
【0017】
[苛性組成物]
パイプ又は導管の苛性処理に使用するのに適した苛性組成物は、アルカリを含み、好ましくはキレート剤も含む。界面活性剤は、苛性組成物の任意成分である。苛性組成物は、単一のドラム製品として配合することができ、又は成分をシステムに同時に共投入することができる。
【0018】
本明細書で使用される苛性組成物は、流水を有する導管に苛性組成物を注入することによって流水のpHを7よりも高く上昇させ、導管の内壁に形成されたアルミノシリケート系スケールを部分的に溶解させるのに適した状態を作り出す、十分に高いpHを有する水溶液である。導管内の流水のpHが苛性処理によって上昇される程度は、処理ステップ中に導管内に供給される苛性組成物の量、及び鉱水が流れる速度と比較してそれが添加される速度によっても影響される。
【0019】
苛性処理は、7を超えるような高いpHを有する環境を導管内に提供する。様々な実施形態において、pHは、苛性処理によって、8よりも高く、9よりも高く、10よりも高く、11よりも高く、12よりも高く、又は13よりも高く調整される。あるいは、苛性処理の効果は、導管内の流水のpHを少なくとも1単位、少なくとも2単位、少なくとも3単位、少なくとも4単位、少なくとも5単位、又は少なくとも6単位上昇させるという点で観察することができる。
【0020】
アルカリの非限定的な例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸ナトリウムが含まれる。アルカリ金属水酸化物のような強塩基が好ましい。非限定的に、アルカリは、約0.1Mから約6Mの濃度を有する溶液として提供される。
【0021】
[キレート剤]
キレート剤は、優勢なカルシウム又はマグネシウムイオンを可溶化することによって、導管内のアルミノシリケートスケールの苛性処理を妨害するそれらの沈殿を防止する機能を果たす。苛性組成物のキレート剤成分は、Ca2+及びMg2+などの2価イオンと安定な錯体を形成し、それらを溶液から遠ざけておくことができる官能基を含む。広範囲の官能基が、このようにカルシウム及びマグネシウムをキレート化することができる。一般的に用いられるキレート剤には、複数のカルボキシル基を有するものや、複数のホスホン酸基を有するものなどが含まれる。苛性組成物の塩基性pHでは、カルボキシル基とホスホン酸基は塩の形で存在し(それぞれカルボキシレートとホスホネート)、対イオンはアルカリに存在するアルカリ金属に相当する。その対イオンは通常Na+又はK+である。
【0022】
キレート剤の非限定的な例には、以下の遊離酸並びにそれらのナトリウム塩及びカリウム塩が含まれる:1)グルコン酸及びクエン酸などの有機酸;2)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、及びN-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)などのアミノメチレンカルボン酸誘導体;グルタミン酸、N,N-二酢酸(GLDA)及びニトリロ三酢酸(NTA)などの他のポリカルボキシレート;アミノトリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMPA)、及びビス(ヘキサメチレントリアミン)ペンタ(メチレンホスホン酸)(BHTPMP)などのアミノメチレンホスホン酸誘導体。グルコン酸は、幾つかの実施形態において好ましい。
【0023】
様々な実施形態において、本明細書に記載の酸及び苛性処理に加えて、スケールが後続の酸及び苛性処理による除去を受けることができるようにするのに十分な期間、キレート剤を投与することによって、これらの処理の前にスケールを調整することができる。
【0024】
[界面活性剤]
好ましくは、界面活性剤成分は、アルカリ性環境において性能を維持する低発泡性界面活性剤である。苛性洗浄剤の界面活性剤成分は、利用する場合、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤、並びにそれらの混合物及び非イオン性界面活性剤とのブレンドから選択することができる。アルキルジフェニルオキシドジスルホネートは好適なアニオン性界面活性剤の一例であり、両性界面活性剤はアルキルエーテルヒドロキシプロピルスルテイン(sultaines)によって例示される。後者については、Nadolskyの米国特許第4,891,159号においてより完全に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。このようなブレンドにおける例示的な非イオン性界面活性剤には、直鎖又は分枝アルコールアルコキシレートが含まれる。
【0025】
苛性組成物のアルカリ、キレート剤、及び任意の界面活性剤ブレンドの重量範囲は、表に示すとおりである。
【0026】
重量% より好ましい、重量%
アルカリ 1.0-40.0 2.0-30.0
キレート剤 0.5-30.0 1.0-20.0
界面活性剤 0.0-20.0 0.5-10.0
【0027】
当業者に知られているスケール及び/又は腐食防止剤化合物などのその他の補助化学物質を、苛性組成物に添加することができる。
【0028】
[アルミノシリケートスケール]
典型的な地熱発電所からのスケールを分析すると、スケールは主要な量のシリカ(SiO2として)及びアルミナ(Al2O3として)を含み、シリカはアルミナよりも高いことが明らかになる。本発明は理論や作用モードによって限定されるものではないが、酸組成物による処理(「酸洗浄」)はスケールのアルミナ成分を溶かし出す傾向があり、導管を流れる流体中で検出されるアルミニウムの量を上昇させることが観察される。また、「苛性洗浄」はスケールのシリカ成分を溶かし出す傾向があるため、苛性処理ステップ中に流体中でより高いレベルのケイ素が観察される。このように、酸処理と苛性処理を交互に行うことで、地熱発電所の生産ラインや再注入ラインなどの様々な部分に形成されたスケールを溶解し除去する傾向がある。この現象は、さらに実施例で説明される。
【0029】
[地熱発電所]
一種の地熱発電所の一般的な概略図を
図1に示す。そこでは、生産井が鉱水-蒸気又は加熱された水と蒸気の組み合わせの形で-を供給し、それは生産ラインを通って分離器へと導かれる。分離器では減圧され、地下の加圧地層からの過熱水が蒸気になる。この蒸気は蒸気タービンに導かれ、一方、分離器から、及び下流の冷却タンク及び凝縮器から水が回収され、再注入ラインを通って再注入井に導かれる。再注入ラインの水には、地下の地層に由来する鉱物が含まれており、これが発電所内の導管の壁にスケールを蓄積させる原因となっている。生産ラインと再注入ラインで最もスケールが蓄積されることが観察されている。
【0030】
別の地熱発電所は、バイナリー地熱発電所と呼ばれる。ここでは、熱水が生産井で採取され、生産井ラインを通って熱交換器に送られ、そこで水の熱を使用して流体を気化させてタービンを回し、発電を行う。蒸気は凝縮器を通って熱交換器に戻り、冷却された水は再注入井ラインを含む再注入井によって地層に再び注入される。様々な実施形態において、地熱発電所は、本明細書に記載されるスケールを蓄積する傾向がある生産井ラインと再注入井ラインとを有する。それらのスケールは、本明細書に記載の方法を用いて除去又は軽減することができる。
【0031】
非限定的な一実施形態では、このように、生産井と、井から分離器に至る生産井ラインと、分離器からの蒸気を流す蒸気タービンと、再注入井と、分離器から再注入井への水の戻りラインとを有する地熱発電所が提供される。洗浄プロセスを行うために、発電所は、戻りライン、生産井ライン、又はその両方に配置された1つ又は複数の注入器を有する。これらの注入器は、酸組成物及び苛性組成物を、1つ又は複数の注入器に結合された1つの貯水池から又は複数の貯水池から戻りライン、生産井ライン、又はその両方に送るように構成される。1つ又は複数の注入器は、酸組成物及び苛性組成物を地熱発電所の導管内に交互に送るように構成される。
【0032】
苛性組成物及び酸組成物は、スケール堆積物の上流の地熱発電所の導管内に注入されるため、堆積物が酸及び苛性に交互に曝される。この2つの処理はともに、スケールのシリカ及びアルミナ含有物の両方を溶解させるように作用する。
【0033】
実験室での溶解試験は、特定の地熱発電所について、化学物質の必要な混合物及び上記の酸及び苛性洗浄とすすぎを往復する最も効果的なタイミングを決定するために実施することができる。非限定的な実施形態において、化学物質(すなわち、それぞれの酸及び苛性組成物)は、ランス(大きな羽軸)を介して、地熱再注入井の主流に、通常は冠頂弁の上にある井の頭部の上部を通して注入される。計算された化学物質の流れは、実験室での分析と経験によって決定された一連のパターンと間隔で注入される。処理変数には、洗浄サイクル中に導管内の流水が曝されるpH、酸処理と苛性処理の間の任意のすすぎサイクルのタイミング、個々の処理又は洗浄サイクルの長さ、及び実施されるサイクルの総数が含まれ、これらの全ては、最も効率的にスケールを除去(又はその形成を防止)するために最適化することができる。有利なことに、処理は完全な作業条件下、すなわち作業圧力及び温度下で実施される。これは、スケールの蓄積を制御するために、井の生産を停止したり、何らかの方法で処理を中断したりする必要がないことを意味する。
【0034】
要約すると、苛性は、以前は地熱のシリカ系堆積物を溶解しようとするために使用されてきたが、成功は様々であった。この方法は、プロセスの一部を強化するために、キレート剤及び界面活性剤を使用する。キレート剤及び界面活性剤は、堆積物中のカチオンが溶解速度や溶解したスケールの再堆積に与える悪影響を低減するために使用される。このプロセスはまた、苛性で溶けない堆積成分を攻撃して溶かし、苛性で溶けるシリカ系堆積物の空隙率と表面積を増加させる、酸ステップを使用する。最後に、洗浄プロセスは完全な作業条件下で;すなわち、作業圧力及び温度下で、生産停止や発電所の取り壊しなしに行われる。
【実施例】
【0035】
[実験室での試験]
ニュージーランドの地熱発電所からの堆積物試料を単離し、10メッシュの篩で篩分けした。篩を通過した画分が研究に利用された。堆積物試料の元素分析では、それらが66.6~68.3重量%のケイ素(SiO2として)及び10.8~11.2重量%のアルミニウム(Al2O3として)を含むことが示された。点火損失(1000℃)は6.8~11.3重量%であった。
【0036】
研究に使用した合成食塩水(synthetic brine)のレシピは以下の通りであった。
【0037】
アルカリ度、合計(CaCO3として) 40.9ppm
塩化物(Clとして) 2016.0ppm
硫酸塩(SO4として) 45.3ppm
カルシウム、合計(CaCO3として) 43.4ppm
ケイ素、可溶(SiO2として) 464.7ppm
ナトリウム、可溶(Naとして) 1285.0ppm
亜リン酸、合計(PO4として) 3.1ppm
pH 7.1
【0038】
比較例I:アルカリ苛性洗浄剤処理のみ
【0039】
この試験におけるアルカリ苛性洗浄剤は、以下の組成を有するものであった。
50重量%NaOH 50%
38重量%EDTA.Na4 24%
Dowfax C6L 1%
水 25%
【0040】
合成食塩水溶液において0.25重量%のNaOHに希釈した100mlのアルカリ苛性洗浄剤の溶液に、#10メッシュの篩い分けされたスケール1gを投入した。この溶液を90℃で6時間保持し、その間に分析用の一定分量を採取した。その後、溶液を濾過し、次いで単離された堆積物を100mlのDI水に投入し、90℃で5分間保持した。その後、溶液を濾過し、単離された試料を重量減少のために105℃で乾燥させた。
【0041】
アルカリ苛性洗浄剤を添加しない合成食塩水溶液を用いて、同じ方法でブランクを実施した。
【0042】
単離試料溶液のケイ素含有量は、Hach silicomolybdate Method 8185によって決定した。アルミニウム含有量は、Hach TNT 848バイアル,Method 10215 TNT Plusを利用して決定した。
【0043】
アルカリ苛性洗浄剤実験について、ケイ素含有量を分析したところ、1時間後に230ppm(SiO2として)であり、6時間後に302ppmまで徐々に増加することが判明した。ブランク溶液のケイ素含有量を分析したところ、6時間の保持期間の間、~50ppmであることが判明した。
【0044】
アルカリ苛性洗浄剤実験について、アルミニウム含有量を分析したところ、1時間後に0.4ppm(Alとして)であり、6時間後に1.1ppmまで増加することが判明した。ブランク溶液のアルミニウム含有量を分析したところ、6時間の保持期間の間、本質的にゼロであることが判明した。
【0045】
実験終了時、アルカリ苛性洗浄剤実験での単離したスケール試料の重量損失は、ブランクの1.7重量%に対して、1.9重量%であった。
【0046】
実施例I:交互の酸/アルカリ苛性洗浄剤の処理
【0047】
この試験におけるアルカリ苛性洗浄剤は、以下の組成を含むものであった。
50重量%NaOH 50.00%
38重量%EDTA.Na4 26.3%
水 25.00%
【0048】
合成食塩水溶液において0.25重量%のNaOHに希釈したアルカリ苛性洗浄剤で処理する前に、合成食塩水で希釈された1重量%の硫酸又は塩酸の何れかの溶液でスケールを処理した以外は、比較例1と同様に試験を実施した。処理の順序は以下の通りであった:
1)100mlの酸溶液で1時間、90℃で処理を行う。
2)溶液を濾過し、未溶解のスケール片を単離する。
3)沈殿物を100mlのDI水で5分間、90℃で処理を行う。
4)溶液を濾過し、未溶解のスケール片を単離する。
5)沈殿物をアルカリ苛性洗浄剤で1時間、90℃で処理を行う。
6)溶液を濾過し、未溶解のスケール片を単離する。
7)沈殿物を100mlのDI水で5分間、90℃で処理を行う。
8)溶液を濾過し、未溶解のスケール片を単離する。
9)ステップ1~8をさらに2回繰り返し、各処理の後にDI水すすぎを交換する以外は、同じ処理溶液を再使用する。
【0049】
酸及びアルカリ苛性洗浄剤を添加しない合成食塩水溶液を用いて、比較例Iと同じ方法でブランクも実施した。単離溶液試料において、比較例Iに記載したようなケイ素含有量が分析され、その結果を表1にまとめた。
【0050】
【0051】
この研究に基づいて、表1では、アルカリ苛性洗浄剤溶液のケイ素含有量は、第1サイクル後に~700ppmであり、第3サイクル後に~800ppmまで上昇したことを観察することができる。この結果は、硫酸(H2SO4)又は塩酸(HCl)の何れによる前処理でも本質的に同じであった。さらに、第1サイクル後でさえ、アルカリ苛性洗浄剤溶液中のケイ素含有量は、比較例Iのアルカリ苛性洗浄剤単独処理と比較して著しく増加した;例えば、それぞれ~700対~300ppmであったことに留意されたい。
【0052】
酸前処理ステップの利点はまた、単離したスケール試料の重量損失分析においても観察された。この試験において、測定された重量損失は、ブランク、硫酸前処理、及び塩酸前処理のそれぞれについて、2.6重量%、4.2重量%、及び4.5重量%であった。これは、ブランクに対して62%~73%の相対的な重量損失の増加に相当する。これらの溶解値は、比較例Iのアルカリ苛性洗浄剤単独処理で観察された1.9重量%(ブランクに対して12%)の重量損失よりも有意に大きい。
【0053】
実施例II:交互の酸/アルカリ苛性洗浄剤の処理
【0054】
実施例Iの硫酸前処理実験を、以下の変更を加えて繰り返す。
1)新鮮な硫酸及びアルカリ苛性洗浄剤溶液を各サイクルにおいて利用した。
2)硫酸溶液による処理を、90℃で15分に短縮した。
3)DI水処理による処理を、90℃で2分に短縮した。
4)アルカリ苛性洗浄剤溶液による処理を、90℃で15分に短縮した。
各サイクルにおいて新鮮な硫酸とアルカリ苛性洗浄剤溶液を使用することは、注入井の複数回の処理を経時的に行うより良いモデルであった。
【0055】
酸及びアルカリ苛性洗浄剤を添加しない合成食塩水溶液を利用して、比較例Iと同様の方法でブランクも実施した。単離溶液試料については、比較例Iに記載したようにケイ素及びアルミニウム含有量を分析し、その結果を表2に要約した。本実施例では、試料中のアルミニウム濃度をICP分析により測定した。
【0056】
【0057】
この研究に基づいて、アルカリ苛性洗浄剤による処理の前に酸で堆積物を前処理することの利点が、実施例IIで観察されたように得られたことが表2から分かる。また、酸処理は、特に第1サイクルの後に、堆積物のアルミニウム含有部分を溶解する上でより効果的であったことが分かる。
【0058】
アルカリ苛性洗浄剤溶液を再利用した実施例II(合計100ml@~750ppm)に対して、この実施例の後続のアルカリ苛性洗浄剤処理によってより大量のケイ素含有希釈液(3×100ml@各~700ppm)が得られることから、スケールの重量損失がより大きくなると仮定される。このことは、ブランクの重量損失が1.9重量%であったのに対し、処理後の試料の重量損失は6.2重量%と測定されたことからも裏付けられた。これは、ブランクに対して226%の重量損失の相対的増加に相当する。
【0059】
実施例III-プラントスケール
【0060】
以下は、オンライン井洗浄のプロセスの一般的なアプローチを説明する。
1.水とスケールの分析。各井は異なる水化学、温度を有し、従って固有のスケーリング要素を有する。ステップ1は、水とスケールを分析することである。
2.化学的性質と温度プロファイルが確立されると、井の連続流のpHレベルを達成するための投与速度を決定するための計算が行われる。目標pHはスケールの種類によって異なるが、典型的に、酸性条件では1.5~2.5、アルカリ性条件では11~12となる。
3.スケール試料は実験室でも試験され、スケールを溶解するために必要なキレート剤と溶解化学物質が決定される。ベンチ分析が行われる。キレート剤は、限定されるものではないが、以下を含むことができる:NTA、DPTA、EDTA、GDLA、及びそれらの組み合わせ。
4.典型的な例では、開始時の流量は64トン/時で、シリケートが問題であると判断されたため、キレート剤組成物GeoSol(登録商標)GS8124を30L/時で 15分間投与し、スケールの事前調整を行った。
5.その後、酸組成物GeoSol(登録商標)1001を0.5%で20分間添加し、対象となるシリケートを除去した。酸組成物の添加後、それは次のステップの前に200トンの食塩水でシステムから洗い流された。
6.キレート剤組成物GeoSol(登録商標)GS8124を再開し、15L/時で45分間投与した。これは、アルミニウムを含んだシリカスケールを移動させるためである。処理の第1サイクルの後、7.2barから5.2barへの背圧の低下と、64t/時から180t/時への流量の増加が観察された。
7.300分後、スケール上の疎水性表面要素を除去するために300トンの食塩水で井を洗い流し、翌日もこのプロセスを繰り返した。
8.処理完了後、流量は(64t/時の開始時の流量から)200t/時に増加し、背圧は7.2barから5.9barに低下していた。
【0061】
つまり、このプロセスは以下に依拠する:
1.スケールを溶解する物質と、(二次沈殿反応を防止するために)食塩水の化学的性質及び温度と関連する物質の事前決定。
2.キレート剤、分散剤、酸及びアルカリ相を使用する2段階プロセスであることが多いため、反応効率を妨げるスケールの疎水性二次生成物を洗い流すために、任意の中間ステップが必要となる場合がある。これらの相では、分散剤を食塩水流に注入してフラッシングを補助することができる。
【0062】
少なくとも1つの例示的な実施形態が前述の詳細な説明で提示されたが、膨大な数の変形例が存在することが理解されるべきである。また、1つの例示的な実施形態又は複数の例示的な実施形態は、例示に過ぎず、本開示の範囲、適用性、又は構成を何ら制限することを意図していないことも理解されたい。むしろ、前述の詳細な説明は、当業者に対して、本開示の例示的な実施形態を実施するための便利なロードマップを提供することになる。添付の特許請求の範囲に規定される本開示の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に記載される要素の機能及び配置において様々な変更がなされ得ることが理解される。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱化水を含む流体が流れる導管において、スケールの蓄積を抑制し、又は蓄積されたスケールを除去する方法であって、前記導管内の流体を酸組成物及び苛性組成物で交互に処理することを含み、ここで処理は、前記導管内の流体の流れを止めることなく実施される、方法。
【請求項2】
前記酸組成物及び前記苛性組成物は、前記スケールを除去したい場所又は前記スケールの堆積を抑制したい場所の上流で前記導管に注入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蓄積されたスケールは、アルカリ金属アルミノシリケート又はアルカリ土類金属アルミノシリケート系スケールを含み、前記酸組成物及び前記苛性組成物は前記スケールと直接接触しないが、前記導管内を流れる流体によって希釈される、請求項1
又は2の何れか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記苛性組成物は、アルカリ及びキレート剤を含む、請求項1
から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記苛性組成物は、界面活性剤をさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
生産井と、前記井から分離器に至る生産井ラインと、前記分離器からの蒸気を流す蒸気タービンと、再注入井と、前記分離器から前記再注入井への水の戻りラインとを含む地熱発電所であって、前記戻りライン、前記生産井ライン、又はその両方に配置された1つ又は複数の注入器をさらに含み、前記1つ又は複数の注入器は、酸組成物及び苛性組成物を、前記1つ又は複数の注入器に結合された1つの貯水池から又は複数の貯水池から前記戻りライン、前記生産井ライン、又はその両方に送るよう構成される、地熱発電所。
【国際調査報告】