(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(54)【発明の名称】2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)によって引き起こされる重症急性呼吸器感染症の治療のためのRNAi予防治療薬組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20230324BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230324BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230324BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20230324BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230324BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20230324BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230324BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230324BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230324BHJP
C07K 14/00 20060101ALN20230324BHJP
【FI】
A61K31/713
A61P31/14
A61K48/00
A61K9/127
A61K47/42
A61K47/28
A61K9/72
A61K9/16
C12N15/113 100Z
C07K14/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545047
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(85)【翻訳文提出日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 US2021014962
(87)【国際公開番号】W WO2021151096
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509127310
【氏名又は名称】サーナオミクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】タン, ダニー
(72)【発明者】
【氏名】チェン, シュエピン
(72)【発明者】
【氏名】ルー, パトリック ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】シモネンコ, ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンズ, デーヴィッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】シュ, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, デリン
(72)【発明者】
【氏名】ルー, アラン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA31
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB21
4C076CC35
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4C084AA13
4C084MA13
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4C086AA01
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4C086MA02
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4C086MA13
4C086MA24
4C086MA41
4C086MA56
4C086NA10
4C086NA13
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4C086ZC61
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA20
4H045EA29
4H045EA34
4H045FA20
(57)【要約】
コロナウイルス(2019-nCoV;COVID-19)感染症の予防と治療のための強力なsiRNA治療薬の開発のための組成物及び方法が提供される。組成物は、クリティカルなウイルス遺伝子を標的とするsiRNAカクテルと、薬学的に許容される高分子ナノ粒子担体及びリポソームナノ粒子担体を含む薬学的組成物を含む。気道への滴下注入、皮下注射、及びネブライザーエアロゾル化を含む、予防と治療のための投与方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
武漢海鮮市場の新型肺炎2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)の保存領域を標的とする少なくとも二種のsiRNA分子を含む薬学的組成物であって、薬学的に許容される担体を含み、前記担体が高分子ナノ粒子及び/又はリポソームナノ粒子担体を含む、組成物。
【請求項2】
siRNA分子が非構造(NS)RdRp、レプリカーゼ又はヘリカーゼウイルス遺伝子発現を阻害する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
siRNA配列がスパイクウイルス遺伝子発現を標的とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
siRNA配列がスパイク以外の2019-nCoV遺伝子の発現を標的とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
siRNA分子が、19~25塩基対の長さを有するオリゴヌクレオチドを含む、請求項1から4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
siRNAが、NS遺伝子のセンス鎖配列に対してデザインされている、請求項1から5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
siRNAが、2019-nCoVスパイク遺伝子の少なくとも一つのセンス鎖配列に対してデザインされている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
siRNAが、スパイク遺伝子以外の2019-nCoV遺伝子のセンス鎖配列に対してデザインされている、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
各siRNAのセンス鎖が、配列番号:1~101の配列を有するsiRNAから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
各siRNAのセンス鎖が、表Eの配列を有するsiRNAから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
二種のsiRNA分子が、
CoV3とCov18
CoV3とCoV14
CoV4とCoV14、並びに
AoV4とCoV18、
からなる群から選択され、ここで、CoV3は、配列GGAAGGAAGTTCTGTTGAA又はGGAAGGAAGTTCTGTTGAATTAAAAを有し、CoV4は、配列GCCATTAGTGCAAAGAATAを含み、CoV14は、配列GGCCGCAAATTGCACAATTを含み、CoV18は、配列CCACCAACAGAGCCTAAAA又はCCACCAACAGAGCCTAAAAAGGACAを有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
高分子ナノ粒子担体がヒスチジン-リジン共重合体(HKP)を含む、請求項1から11の何れか一項に記載の組成物。
【請求項13】
リポソームナノ粒子担体が、コレステロールを含む製剤中にスペルミン-脂質複合体(SLiC)を含む、請求項1から12の何れか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記HKP及び前記siRNA分子がナノ粒子に自己集合する、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記SLiC及び前記siRNAが、コレステロールを含む製剤中でナノ粒子に自己集合する、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
2019新型コロナウイルス感染症に感染した対象を治療する方法であって、前記対象に薬学的に有効な量の請求項1から15の何れか一項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項17】
前記組成物が気道滴下注入により投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が腹腔内投与によって投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が気道ネブライザーを介して投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
対象が、ヒト、マウス、フェレット、又はサルである、請求項16から19の何れか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、内容の全体が出典明示によりここに援用される2020年1月23日出願の米国仮出願第62/965063号について優先権を主張する。
【0002】
2019-nCoV感染症の治療のための新規治療薬が提供される。具体的には、武漢海鮮市場肺炎ウイルス(2019-nCoV)の遺伝子又は一本鎖ウイルスRNAを標的とするsiRNA分子が、化学修飾されたsiRNAオリゴヌクレオチドを含み、場合によってはサーファクタント溶液、D5W溶液、及びその他の気道表面に優しい溶液;ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)、又はスペルミン-リポソーム複合体(SLiC)、又は肺組織標的部分、例えばペプチド、ヌクレオチド、小分子及び抗体を含む更なる成分を含む薬学的製剤と共に、提供される。siRNA/ナノ粒子担体の製剤、プロセス開発法、及び特定の送達経路並びに治療レジメンを含む、siRNA分子及び薬学的組成物を作製し且つ使用する方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
[2019-nCoVウイルス疾患:生物学と病理学]
2019年12月31日に、世界保健機関(WHO)中国オフィスは、中国の湖北省武漢市で検出された病因不明(原因不明)の肺炎の症例の報告を受けた。WHOは、1月7日に中国当局によって新型コロナウイルス(2019-nCoV)が原因ウイルスとして特定されたと報告した(Lu H,Stratton CW,Tang YW.Outbreak of Pneumonia of Unknown Etiology in Wuhan China:the Mystery and the Miracle.J Med Virol.2020 Jan 16.)。武漢海鮮市場肺炎ウイルス(2019-nCoV)は、新型の一本鎖ポジティブセンスRNAベータコロナウイルスによって引き起こされる致死性の高い呼吸器疾患である。2019-nCoVの症状は、インフルエンザなどの他の様々な疾病に類似しており、必ずしも患者が2019-nCoVに感染していることを意味しない。症状には、発熱、咳、呼吸困難が含まれる。呼吸困難はありうる肺炎の徴候であり、直ちに医学的処置を必要とする。診断には、重症の肺炎、急性呼吸促迫症候群、敗血症性ショック、多臓器不全が含まれていた。武漢での2019-nCoV感染症は、重症度、症例致死率、感染力の点で全体的に見てSARS又はMERSよりも臨床的に軽度のようである。
【0004】
2019-nCoVの遺伝子コードの最新の研究では、その新型ウイルスは中国からの二種のコウモリのSARS様コロナウイルスサンプルに最も密接に関連していることが確認されており、SARSやMERSのように、コウモリがまた2019-nCoVの発生源であるかも知れないと初めに示唆されている(Ji W,Wang W,Zhao X,Zai J,Li X.Homologous recombination within the spike glycoprotein of the newly identified coronavirus 2019-nCoV may boost cross-species transmission from snake to human.J Med Virol.2020 Jan 22.)。CoVのゲノム及びサブゲノムは、少なくとも6つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含んでいる。ゲノム長の約2/3の第一ORF(ORF1a/b)は、nsp1を欠くガンマコロナウイルスを除いて、16個の非構造タンパク質(nsp1-16)をコードしている。ORF1aとORF1bの間には-1フレームシフトがあり、pp1aとpp1abの二種のポリペプチドが産生される。これらのポリペプチドは、ウイルスゲノムにコードされるキモトリプシン様プロテアーゼ(3CLpro)又はメインプロテアーゼ(Mpro)と一又は二のパパイン様プロテアーゼ(PLP)によって16個のnspにプロセシングされる(Ziebuhr J,Snijder EJ,Gorbalenya AE.Virus-encoded proteinases and proteolytic processing in the Nidovirales.J Gen Virol.2000;81(Pt4):853-879.)。3’末端近くのゲノムの3分の1にあるその他のORFは、少なくとも4個の主要な構造タンパク質であるスパイク(S)、メンブラン(M)、エンベロープ(E)、及びヌクレオカプシド(N)タンパク質をコードしている。
【0005】
2019-nCoVは、2020年1月7日に短時間で患者から単離され、ゲノムシークエンシングに供された。2019-nCoVは、SARS-CoVと遺伝子配列が少なくとも70%の類似性を持つ2B系統のβCoVであり、WHOによって2019-nCoVと命名された(Hui DS,I Azhar E,Madani TA, Ntoumi F,Kock R,Dar O,Ippolito G,Mchugh TD,Memish ZA,Drosten C,Zumla A,Petersen E.,“The continuing 2019-nCoV epidemic threat of novel coronaviruses to global health - The latest 2019 novel coronavirus outbreak in Wuhan,China”Int J Infect Dis.2020 Jan 14;91:264-266.)。配列解析により、2019-nCoVはコロナウイルスの典型的なゲノム構造を有しており、Bat-SARS様(SL)-ZC45、Bat-SL ZXC21、SARS-CoV及び2019-nCoVを含むベータコロナウイルスのクラスターに属していることが示された。CoVの系統樹に基づくと、2019-nCovはコウモリ-SL-CoV ZC45及びコウモリ-SL-CoV ZXC21とより密接に関連しており、SARS-CoVとの関連性はより離れている(Chen Y,Liu Q,Guo D.“Coronaviruses:genome structure,replication,and pathogenesis,”J Med Virol. 2020 Jan 22.)。
【0006】
[現在の予防と治療]
現在、コロナウイルスに対する特定の抗ウイルス療法はなく、主な治療法は対症療法である。リバビリンを含む組換えインターフェロン(IFN)は、コロナウイルス感染症に対して限られた効果しか持たない(Cinatl J,Morgenstern B,Bauer G,Chandra P,Rabenau H,Doerr HW.,“Treatment of SARS with human interferons,”Lancet.2003;362(9380):293-294.)。SARS及びMERSの流行後、CoVプロテアーゼ、ポリメラーゼ、MTase、及び侵入タンパク質に対して多くの抗CoV剤が開発されたが、これらの何れも臨床試験において有効性はまだ証明されていない(Dyall J,Gross R,Kindrachuk J,Johnson RF,Olinger GG Jr,Hensley LE,Frieman MB,Jahrling PB.,“Middle East Respiratory Syndrome and Severe Acute Respiratory Syndrome:Current Therapeutic Options and Potential Targets for Novel Therapies,“Drugs.2017 Dec;77(18):1935-1966;Chan JF,Chan KH,Kao RY,To KK,Zheng BJ,Li CP,Li PT,Dai J,Mok FK,Chen H,Hayden FG,YuenKY.,“Broad-spectrum antivirals for the emerging Middle East respiratory syndrome coronavirus,”J Infect.2013;67(6):606-616;Liu Q,Zhou YH,Ye F,Yang ZQ.,“Antivirals for Respiratory Viral Infections:Problems and Prospects,”Semin Respir Crit Care Med.2016;37(4):640-646)。
【0007】
これまで、回復期患者から得られた血漿と抗体を用いた治療法が主要な治療法として提案されている(Mair-Jenkins J,Saavedra-Campos M,Baillie JK,Cleary P,Khaw FM,Lim WS,Makki S,Rooney KD,Nguyen-Van-Tam JS,Beck CR;“Convalescent Plasma Study Group.The effectiveness of convalescent plasma and hyperimmune immunoglobulin for the treatment of severe acute respiratory infections of viral etiology:a systematic review and exploratory meta-analysis,”J Infect Dis.2015;211(1):80-90)。しかし、現時点では、2019-nCoV感染症に関して利用可能な臨床情報は非常に限られており、年齢幅、ウイルスの動物源、潜伏期間、流行曲線、ウイルス動態、感染経路、病因、剖検所見及び重症例における抗ウイルス薬に対する治療反応に関してデータが欠けている。武漢での発生は、グローバルな健康安全保障に対する人獣共通感染症の脅威が続いていることをはっきりと思い出させる。全ての地理的地域の経験から学び、より協調的で協力的なグローバルな取り組みを行うには、より大きくかつより的を絞った投資が必要とされる(Zumla A,Dar O,Kock R,Muturi M,Ntoumi F,Kaleebu P等,“Taking forward a’One Health’ approach for turning the tide against the Middle East respiratory syndrome coronavirus and other zoonotic pathogens with epidemic potential,”Int J Infect Dis.2016;47:5-9)。
【0008】
残念ながら、コロナウイルス感染症に対して利用できる承認されたワクチン又は抗ウイルス治療法はない。ウイルスの発生源、伝染方法、複製方法を含む2019-nCoVの生活環をよりよく理解することは、疾患の予防と治療の両方に必要である。効果的な治療法又はワクチンがないため、CoVの重症感染症に対処する最善の方法は、感染源を制御し、早期診断、報告、隔離、支持療法、及び伝染情報のタイムリーな公開を行って不必要なパニックを回避することである。同時に、画期的な薬剤の開発を迅速に促進することが極めて重要である。
【発明の概要】
【0009】
提供されるのは、武漢海鮮市場の新型肺炎2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)の保存領域を標的とする少なくとも二種のsiRNA分子を含む薬学的組成物であって、薬学的に許容される担体を含み、該担体が高分子ナノ粒子及び/又はリポソームナノ粒子担体を含む、組成物である。siRNA分子は、19~25塩基対の長さを有するオリゴヌクレオチドを含む。組成物は、非構造(NS)RdRp、レプリカーゼ若しくはヘリカーゼウイルス遺伝子発現、又はスパイクウイルス遺伝子発現、スパイク以外の2019-nCoV遺伝子を阻害するsiRNA分子を含みうる。siRNAは、NS遺伝子のセンス鎖配列及び/又は2019-nCoVスパイク遺伝子の少なくとも一つのセンス鎖配列に対してデザインされうる。siRNAは、スパイク遺伝子以外の2019-nCoV遺伝子のセンス鎖配列に対してデザインされうる。
【0010】
一実施態様では、各siRNAのセンス鎖は、配列番号:1~101の配列を有するsiRNAから選択される。更なる実施態様では、各siRNAのセンス鎖は、表Eの配列を有するsiRNAから選択される。特定セットの実施態様では、二種のsiRNA分子は、
CoV3とCov18
CoV3とCoV14
CoV4とCoV14、並びに
AoV4とCoV18、
からなる群から選択され、ここで、CoV3は、配列GGAAGGAAGTTCTGTTGAA又はGGAAGGAAGTTCTGTTGAATTAAAAを有し、CoV4は、配列GCCATTAGTGCAAAGAATAを含み、CoV14は、配列GGCCGCAAATTGCACAATTを含み、CoV18は、配列CCACCAACAGAGCCTAAAA又はCCACCAACAGAGCCTAAAAAGGACAを有する。
【0011】
組成物は、ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)などの高分子ナノ粒子担体を含んでもよく、及び/又はコレステロールを含む製剤中にスペルミン-脂質複合体(SLiC)のようなリポソームナノ粒子担体を含んでもよい。これらの組成物において、HKP及びsiRNA分子がナノ粒子に自己集合し、且つ/又はSLiC及びsiRNAが、コレステロールを含む製剤中でナノ粒子に自己集合する。
【0012】
また提供されるのは、2019新型コロナウイルス感染症に感染したヒト対象などの対象を、対象に薬学的に有効な量の上述の組成物を投与することによって治療する方法である。組成物は、気道滴下注入;腹腔内投与;及び/又は気道ネブライザーにより投与されうる。
【0013】
対象は、或いは、マウス、フェレット、又はサルでありうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ヒスチジン-リジン共重合体がインビボで局所及び皮下siRNA送達を促進することを示している。(a)自己集合HKP/siRNAナノ粒子(平均粒径150nm)を、水溶液に溶解させることができ、乾燥粉末に凍結乾燥させることができ、再溶解させてメチルセルロース又はRNAseフリー水と混合させることができる。HKP/siRNAナノ粒子のマウス気道への送達:上気道、気管支、肺胞。
【
図2】三通りの異なる投与計画によるsiRNAの経口気管送達後のHKP、DOTAP及びD5W間の肺内因性遺伝子の標的ノックダウンの比較。HKPは、20μgの用量で標的遺伝子の効率的なsiRNA媒介ノックダウンを示した。
【
図3】
図3は、HKP-siRNAナノ粒子製剤の腹腔内送達がウイルス曝露マウス(n=10)においてH1N1に対して予防効果を示したことを示している。40μg/2mlの濃度のHKP-siRNAの組み合わせ(比1:1のsiRNA103-siRNA105)を1、2、3、4及び5日目に腹腔内投与した(2.5mg/kg/日、紫色の矢印)。2×LD50 H1N1(A/Puerto Rico/8/1934)の鼻腔内投与によるウイルス曝露を、ウイルスのみ、リバビリン及びsiRNA処置群に対して2日目(赤の矢印)に実施した。陽性対照としてのリバビリンは、200ulを強制経口投与し、1~5日にわたって75mg/kg/日の投与量を与えた(オレンジの矢印)。HKP-siRNA製剤の予防効果は、リバビリンよりも明らかに良好であった。
【
図4】
図4は、PAA-siRNA製剤の腹腔内送達がウイルス曝露マウス(n=15)においてH1N1に対して治療効果を示したことを示している。1×LD50 H1N1(A/California/04/2009)の鼻腔内投与によるウイルス曝露を、ウイルスのみ、タミフル及びsiRNA処置群に対して1日目(赤の矢印)に実施した。H1N1曝露マウスを、2日目から6日目に(黒の矢印)、毎日腹腔内投与により、1mg/kg、5mg/kg及び10mg/kgの様々な投薬量のPAA-siRNAの組み合わせ(比1:1のsiRNA89-siRNA103)で処置した。同じ経路及び投与計画を採用して、25mg/kgのタミフルをまたH1N1感染マウスに毎日投与した。10mg/kg/日のPAA-siRNAの組み合わせの治療効果は、タミフル治療の25mg/kg/日の効果とほぼ同等の抗インフルエンザ活性をもたらした。
【
図5】
図5は、スペルミン-脂質複合体(SLiC)の構造を示す。
【
図6】
図6は、SLiC媒介siRNA送達後の標的遺伝子発現の例を示す。
【
図7】
図7は、ヒスチジン-リジン重合体が肺におけるsiRNA送達を媒介した後のIFN-α発現を示す。
図7AはIFN-α濃度の測定に使用した検量線(ローリー法)を示し、
図7Bは各試料におけるIFN-α濃度を如何に決定し、総タンパク質量に対して正規化したかを示している。
【
図8】
図8は、二種の細胞を使用して、SARS-CoV-2のSタンパク質を標的とするsiRNAをスクリーニングしたことを示している(パートI)。293T(上部)及びA549細胞(下部)を使用して、SCO31~38、Guangzhou1及びGuangzhou2などの14種のsiRNAを検出し、Sタンパク質遺伝子発現に対してより良好な阻害効果を持つsiRNAを見出した。陰性対照siRNAはSCO29及びSCO30であり、如何なる遺伝子の発現も阻害しない。
【
図9】
図9は、二種の細胞を使用して、SARS-CoV-2のSタンパク質を標的とするsiRNAをスクリーニングしたことを示している(パートII)。293T及びA549細胞を使用して、SCO39~69などの31種のsiRNAを検出し、Sタンパク質遺伝子発現に対してより良好な阻害効果を持つsiRNAを同定した。
【
図10】
図10は、二種の細胞を使用して、SARS-CoV-2のSタンパク質を標的とするsiRNAをスクリーニングしたことを示している(パートIII)。293T及びA549細胞株を使用して、guangzhou3~5、guangzhou12~20などの26種のsiRNAを検出し、Sタンパク質遺伝子発現に対して最も強力な阻害効果を持つsiRNAを同定した。
【
図11】
図11は、二種の細胞によって、SARS-CoV-2のORF1ABを標的とするsiRNAをスクリーニングしたことを示している(パートI)。293T(上部の左右)及びA549細胞株(下部)を使用して、SCO1、SCO2、SCO22、SCO23を含む4種のsiRNAを検出し、ORF1Ab遺伝子発現に対して強力な阻害効果を持つsiRNAを同定した。
【
図12】
図12は、二種の細胞によって、SARS-CoV-2のORF1ABを標的とするsiRNAをスクリーニングしたことを示している(パートII)。293T(上部の左右)及びA549細胞株(下部の左右)を使用して、SCO8~17、SCO20、SCO24、SCO25、SCO26、SCO28を含む15種のsiRNAを検出し、ORF1Ab遺伝子発現に対して強力な阻害効果を持つsiRNAを同定した。
【
図13】
図13は、二種の細胞を使用して、SARS-CoV-2のORF1ABを標的とするsiRNAをスクリーニングしたことを示している(パートIII)。293T(上部)及びA549(下部)細胞株を使用して、3種のsiRNA、SCo18、SCo19、SCo21を検出し、ORF1AB遺伝子発現に対して強力な阻害効果を持つsiRNAを同定した。
【
図14】
図14は、293T及びA549細胞における標的遺伝子の発現に対する幾つかのsiRNAの阻害効果とEC
50を示している。これらのsiRNAのEC
50は、一般に10pg/μL未満であった。
【
図15】
図15は、ウイルスの阻害について様々な濃度でsiRNAを個別に試験したことを示している。殆どのsiRNA(SCo1、SCo2、SCo34、SCo36)は、試験した最低濃度、つまり3.125nMで感染の完全な遮断を示した。
【
図16】
図16は、ポリペプチド核酸ナノ医薬品の調製及び特徴付けを示す。HKPを用いたsiRNAの自己集合による静電相互作用によるナノ粒子の形成。平均粒径は150~200nmで、ゼータ電位は30mVより大きい。
【
図17】
図17は、噴霧前後のsiRNAの濃度及び安定性分析を示す。siRNAがハンドヘルドネブライザーによって微粒化された後、噴霧された若しくはネブライザー内に残ったsiRNAの濃度に変化はほとんどなく、分子構造は安定したままである。
【
図18】
図18は、噴霧前後のHKPの比較を示す。ポリペプチドナノ送達ベクターがハンドヘルドネブライザーによって微粒化された後、HPLC(二種のモデル)によって分析され、分子構造が安定したままであることを示している。
【
図19-1】
図19(表1)は、様々なウイルスRNA(非構造タンパク質)を標的とする、siRNA配列、25量体平滑末端オリゴ及び21量体粘着末端オリゴを示す。
【
図20-1】
図20(表2)は、様々なウイルスRNA(スパイクタンパク質)を標的とする、siRNA配列、25量体平滑末端オリゴ及び21量体粘着末端オリゴを示す。
【
図21-1】
図21(表3)は、様々なウイルスタンパク質及び遺伝子を標的とする、最も強力なsiRNAオリゴ、25量体平滑末端オリゴ及び21量体粘着末端オリゴを示す。
【
図22】
図22A及び22Bは、ウイルスの阻害について様々な濃度で個々のsiRNAを試験したことを示す。
【
図23】
図23は、4種の最も強力なsiRNAの用量効果を示す。
【
図24】
図24は、ウイルスの阻害に関するCov#4とCov#18並びにそれらの混合物の比較を示す。
【
図25】
図25は、ウイルス上でのCov#3とCov#18並びにそれらの組み合わせの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染及び/又は複製を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)分子組成物が提供される。siRNAはSARS-CoV-2ウイルスの保存された遺伝子配列を標的とし、siRNAのセンス鎖はSARS-CoV-2ウイルスの遺伝子配列と正確に同じである。これらの保存された遺伝子配列には、SARS-CoV-2の侵入、複製、集合、放出に密接に関連する複数のタンパク質及び/又は酵素に関与する遺伝子が含まれる。SARS-Cov-2ウイルスがこれらのタンパク質及び/又は酵素を欠く場合、その生活環全体を完了することができない。好ましくは、siRNAは、SARS-CoV及びSARS-CoV-2の配列を同時に阻害するか、或いはMERS-CoV及びSARS-CoV-2の配列を同時に阻害することができる。製薬材料を送達担体として、例えばポリペプチド高分子担体を含む組成物がまた提供される。有利には、この担体は、ヒスチジンとリジンから構成されるポリペプチド重合体である。siRNAを送達担体と組み合わせてナノ粒子を形成することにより、SARS-CoV-2ウイルスがインビボ及びインビトロで宿主細胞に感染するのを効果的に阻害し、複製及び集合、並びに細胞からの放出を阻害する組成物が提供される。
【0016】
RNA干渉(RNAi)は、遺伝子制御の自然起源の非常に特異的な機序である。RNAiの機構は精巧で、非常に識別性がある。作用発現時に、低分子(19~25bp)二本鎖RNA配列(低分子干渉RNA、siRNAと呼ばれる)は、細胞質に局在するRNA干渉サイレンシング複合体(RISC)と結合する(Jinek M,Doudna JA.,“A three-dimensional view of the molecular machinery of RNA interference,”Nature.2009;457(7228):405-412.)。ついで、得られた複合体は、メッセンジャーRNA(mRNA)で相補配列を検索し、最終的にこれらの転写産物を分解(且つ/又は翻訳を減弱)させる。科学者は内因性RNAi機構を取り入れて、治療薬としてを含むsiRNAの幅広い使用を進めてきた。
【0017】
とりわけ、吸入された薬物に結合し、粘液クリアランス機構を介してそれらを除去しうる厚い弾力性のある粘液層、十分に分化した気道上皮細胞の頂端膜側での低い基底及び刺激速度のエンドサイトーシス、細胞外及び細胞内のRNaseの存在、並びに標的細胞におけるエンドソーム分解系の存在など、肺を外来粒子から保護する多くの生物学的障壁及び因子がある。気道送達と効果的な細胞侵入及び機能に関する困難を克服することで、siRNAの全身性抗2019-nCoV治療薬としての道が開かれるであろう。
【0018】
加えて、送達ビヒクルと投与方法は、例えば、上皮/内皮細胞での初期段階の感染/予防、及び全身投与による後期段階の疾患など、感染段階に適し、且つ必要な作用部位でのサイレンシングの最速の作用発現をもたらすように選択されなければならない。その中でも、吸入による局所/全身送達は、呼吸器系疾患を治療する最も効果的な方法であることが示されている。パンデミックの状況では、この送達アプローチにより、患者への直接投与が容易になる。
【0019】
[抗ウイルス剤戦略]
コロナウイルスはエンベロープウイルスであり、全てのRNAウイルスの中で最大のそのプラス鎖RNAゲノムは、16個もの非構造タンパク質(nsps)、4個の主要な構造タンパク質、及び最大8個のアクセサリータンパク質をコードしている。これらのタンパク質の多くは、ウイルスの生活環中に不可欠な、しばしば酵素的な機能を提供するため、抗ウイルス剤による治療のための魅力的な標的である。コロナウイルス侵入と、コロナウイルスプロテアーゼ若しくはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)活性などの必須酵素機能を標的とするための抗ウイルス剤戦略が主に提案されている。例えば、スパイク(S)タンパク質は、気道上皮の繊毛又は非繊毛細胞の何れかに対する優先的なウイルス親和性に関連するイベントである、異なるCoVのその特異的細胞受容体への結合を媒介する。Sタンパク質はまたウイルスエンベロープの脂質と宿主細胞の細胞膜又は細胞内小胞の膜との間の融合を媒介して、細胞質へのウイルスゲノムRNAの送達を促進する。
【0020】
ウイルス結合及び細胞侵入イベントは、Sタンパク質に対する抗体、ウイルス受容体に干渉する抗体又は小分子、又はSタンパク質の融合誘発ヘプタッドリピート領域に由来する合成ペプチドによって阻害されうる。ウイルスの侵入に続いて、コロナウイルスゲノム、つまりポジティブセンスのキャップされ、ポリアデニル化されたRNA鎖が直接翻訳され、コロナウイルスレプリカーゼ遺伝子にコードされたnspが合成される。コロナウイルスnspは、タンパク質分解酵素、すなわちコロナウイルスポリタンパク質を広範囲にプロセシングして最大16個のnsp(nsp1~16)を遊離するパパイン様及びキモトリプシン様プロテイナーゼを有する二個の大きなポリタンパク質として翻訳される。これらのタンパク質分解機能は、コロナウイルス複製に不可欠であると考えられ、その結果、コロナウイルスのポリタンパク質プロセシングを阻害する多くの候補薬が報告されている。同様に、nsp8とnsp12に存在するコロナウイルスのRdRp活性は、コロナウイルスの複製に不可欠であり、抗ウイルス剤治療のための魅力的な標的であると考えられている。これらの古典的な薬物標的に加えて、コロナウイルスは、更なる候補標的を表す一連のRNAプロセシング酵素をコードしている。これらには、nsp13のNTPase活性に関連するヘリカーゼ活性、nsp14のN7-メチルトランスフェラーゼ活性に関連する3’-5’-エキソヌクレアーゼ活性、nsp15のエンドヌクレアーゼ活性、及びnsp16の2’-O-メチルトランスフェラーゼ活性が含まれる。
【0021】
全てのプラス鎖RNAウイルスと同様に、コロナウイルスは、ウイルス生活環のこの重要なステップを、複製可能なウイルス及び宿主細胞因子が豊富であると同時に抗ウイルス宿主防御機構から保護された特殊化環境に区画化するために、小器官様構造でウイルスRNAを合成する。現在、コロナウイルスを含む多くのプラス鎖RNAウイルスのRNA合成のための細胞膜の関与、再構成、及び要件に関する知識が増えている。三種のコロナウイルスnsp、すなわち、nsp3、nsp4、及びnsp6が、ウイルスRNA合成のためのこれらの部位の形成に関与すると考えられている。特に、これらのタンパク質は、細胞内膜の動員を通じてコロナウイルス複製複合体を固定して、回旋状膜と粗面ERを含む外膜を介して相互連結された二重膜小胞(DVM)を含む、改変され、頻繁に対になった膜の網状小胞網(RVN)を形成すると考えられる複数の膜貫通ドメインを含む。
【0022】
ウイルスは、異なる戦略を使用してRNAi機構を回避できる。ウイルスの進化の過程で、変異が時々発生する。siRNAがRNAi機構を開始すると、ウイルスは標的配列の変異によってsiRNAを無効にする場合がある。従って、頻繁なウイルス変異とRNAiの高い特異性との間の矛盾を如何に解決するかが、siRNA分子デザインの重要な問題である。SARS-CoVウイルスは頻繁に変異し、最近、研究者はSARS-CoV-2ゲノムの変異がヒト細胞に感染する能力を高めたことを発見した。この変異は「D614G」と名付けられた。この変異は、ウイルスの表面に突き出ているSタンパク質に小さいながらも効果的な変化を引き起こし、ヒト細胞に感染する能力を高め、今日の世界で蔓延している優勢株になるのを助ける。ウイルス変異によって引き起こされうるRNAi機構の回避というこの問題に対処するために、ここに提示される組成物及び方法は、二つの戦略を採用する:(1)siRNA分子を、ウイルス複製と集合のために最も重要であるウイルスの保存された遺伝子配列に対してデザインし、実際の検証後に高度に保存された配列であるようにする戦略;並びに(2)二種以上のsiRNA分子を使用して、ウイルスの二種以上の重要な遺伝子の発現を同時に阻害する。
【0023】
[標的選択]
2019-nCoVは、ベータコロナウイルス属に属するエンベロープ型一本鎖ポジティブセンスRNAウイルスである。ゲノム長は約30kntである。ゲノムは、14個の予測されるオープンリーディングフレーム(ORF):ORF1a、ORF1b、スパイク(S)タンパク質、3、4a、4b、5、エンベロープ(E)タンパク質、メンブラン(M)タンパク質、及びヌクレオキャプシド(N)タンパク質を含み、ゲノムの5’の3分の2(ORF1a、ORF1b)は16個の非構造タンパク質(nsp1~16)をコードし、ゲノムの残りの3’の3分の1は4個の構造タンパク質(S、E、M及びNタンパク質)をコードする。
【0024】
2019-nCoVのスパイク(S)タンパク質は、150kDaを超える分子量を有する、1282個のアミノ酸の糖タンパク質であり、ウイルス病原性と宿主範囲の重要な決定基である。Sタンパク質の三量体は、2019-nCoVエンベロープにスパイクを形成し、これが受容体結合と膜融合に関与する。HIVエンベロープ(env)及びインフルエンザヘマグルチニン(HA)と同様に、2019-nCoVのSタンパク質はクラスIウイルス融合タンパク質であり、S2の立体構造変化を可能にし、ウイルス侵入と合胞体形成を開始させるためにS1ドメインとS2ドメインの間のプロテアーゼ切断を必要とする。ウイルス侵入とウイルスと宿主の膜融合に対するSタンパク質の重要性は、それを抗2019-nCoV siRNA開発のための優れた標的とする。
【0025】
細胞への侵入後、2019-nCoVの二種のポリタンパク質、pp1aとpp1abが発現し、ウイルス複製複合体を形成するタンパク質への同時翻訳タンパク質プロセシングを受ける。このプロセシング中、nsp-3、パパイン様プロテアーゼ(PLpro)及びnsp-5、3C様プロテイナーゼ(3CLpro)の活性が、ポリタンパク質からの16個の非構造タンパク質の生成に重要である。
【0026】
nsp-12によってコードされる2019-nCoV RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)は、ウイルス複製複合体の最も重要な構成成分である。この複合体は、ネステッドサブゲノムmRNAの転写とゲノムのプラス鎖RNAの複製の両方を担っている。両プロセスが細胞質で起こる。ウイルスmRNA転写では、マイナス鎖RNAが最初にゲノムRNAから生成され、ついで、ゲノムの5’末端に由来する共通の5’「リーダー」配列(67nt)を持つ、複製複合体によって3’共末端(coterminal)ネステッドサブゲノムmRNAのセットを転写する。新しく合成されたゲノムRNAは、マイナス鎖RNAをテンプレートとして産生される。ウイルスmRNA転写とゲノム複製に対するnsp-12の重要な役割は、この遺伝子が抗2019-nCoV siRNAのデザインの標的であることを意味する。
【0027】
上記の情報に基づいて、我々は、siRNAカクテルを介した治療アプローチの標的としてRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)、レプリカーゼ、ヘリカーゼ、スパイク(S)タンパク質、及び幾つかの他の構造遺伝子(M及びNタンパク質など)並びに非構造遺伝子(nsp-2、nsp-10及びnsp-15など)を選択した。本開示は、21又は25ヌクレオチド長の二本鎖配列を含むsiRNA分子を提供し、ここで、siRNA分子は、2019-nCoVの標的遺伝子の発現を阻害する。siRNA分子は平滑末端を有するか、又は二本鎖領域の両側に一又は複数のヌクレオチドの3’オーバーハングを有する。本発明のsiRNAカクテルは、2019-nCoVの遺伝子を標的とする2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の配列を含む。好ましくは、siRNAのカクテルは、ウイルスの異なるセグメントに対するものである-これにより、両方のセグメントが同時にsiRNA標的部位に変異を受けない限り(かなりありそうもない可能性)、ウイルスが少なくとも一種のsiRNAによって阻害されることが保証される。
【0028】
一連の25塩基対の平滑末端siRNAと19塩基対の粘着末端siRNAを、SARS-CoV-2の複製サイクルに重要である重要な遺伝子又は部分的遺伝子配列に干渉するようにデザインした。これらの重要な遺伝子には、限定されないが、S遺伝子、E遺伝子、M遺伝子、N遺伝子、及びRdRP遺伝子などが含まれる。SARS-CoV-2株の各遺伝子は、このリストに含めることができる。
【0029】
特に、ここに記載のsiRNA組成物は、Sタンパク質の発現を効果的に阻害することができるスパイク糖タンパク質遺伝子(S)を阻害するsiRNAを含む。Sタンパク質は、ウイルスの感染標的と感染能力を決定する宿主受容体(ACE2)と相互作用することによって宿主細胞に感染する。
【0030】
siRNA分子組成物は、Mpro(nsp5)、PLpro、3CLPro(3CL加水分解酵素)、RdRp(nsp12)、ヘリカーゼ(nsp13)及び他のタンパク質/酵素の発現を効果的に阻害することができるSARS-CoV-2のORF1AB遺伝子を阻害するsiRNAをまた含む。ORF1AB遺伝子は、ウイルスゲノムの5’末端に位置し、ポリタンパク質の切断に関与するプロテアーゼを含む、ウイルスRNA転写及び複製に関与する多機能タンパク質をコードする。
【0031】
siRNA分子組成物は、ORF3Aタンパク質の発現を効果的に阻害するsiRNAをまた含む。ORF3aによってコードされるタンパク質は、細胞アポトーシスを誘導する機能を有するアクセサリータンパク質であり、感染細胞内の環境変化を助け、ウイルスの複製を容易にする。ORF3aタンパク質は、感染細胞の膜に孔を開け、ウイルスが逃げ易くする。
【0032】
siRNA分子組成物は、エンベロープタンパク質遺伝子(E)を阻害するsiRNAをまた含み、これはEタンパク質の発現を効果的に阻害することができる。Eタンパク質は、ウイルスの形態形成と集合において重要な役割を果たし、宿主細胞膜での自己集合によって、イオン輸送を可能にする五量体タンパク質-脂質細孔を形成し、アポトーシスの誘導においてまた役割を果たす。
【0033】
siRNA分子組成物は、膜タンパク質遺伝子(M)を阻害するsiRNAをまた含み、これは、Mタンパク質の発現を効果的に阻害することができる。Mタンパク質は、ウイルスエンベロープの重要な構成要素であり、他のウイルスタンパク質との相互作用を通してウイルスの形態形成と集合において中心的な役割を果たす。
【0034】
siRNA分子組成物は、ヌクレオカプシドタンパク質遺伝子(N)を阻害するsiRNAをまた含み、これは、Nタンパク質の発現を効果的に阻害することができる。Nタンパク質は、ウイルス構築過程でウイルスゲノム及びMタンパク質との相互作用によって機能し、ウイルスゲノムの転写効率及びウイルス複製の向上に重要な役割を果たす。
【0035】
ここに記載のsiRNA組成物は、ORF10遺伝子を阻害するsiRNAを含み、これは、ORF10タンパク質の発現を効果的に阻害することができる。ORF10タンパク質は、SARS-CoV-2に特有の小さなアクセサリータンパク質であり、その機能はまだ十分には明らかにされていない。
【0036】
siRNA分子組成物は、3’末端非翻訳領域配列(3’-UTR)を阻害するsiRNAをまた含む。該分子はウイルスmRNAの3’-UTRに結合し、ウイルスmRNAを分解することができる。
【0037】
ここに記載のsiRNAは、典型的には、19塩基対又は25塩基対の長さの短い二本鎖RNA構造を有する。19塩基対siRNAは、各RNA鎖の3’末端に二つのデオキシチミジン(dTdT)突起の粘着末端を持つ二本鎖RNAである。25塩基対のsiRNAは、平滑末端を持つ二本鎖RNAである。
【0038】
ウイルス遺伝子の保存領域を標的とするsiRNAを予測するために、二つの方法を使用できる。一つの方法は、複数の株の全ての遺伝子を並べて、これらの遺伝子の重複領域を決定し、ついでこれらの特定の遺伝子ドメインを標的にして阻害するために関連する薬理活性を備えたsiRNAをデザインすることができるかどうかを判断することである。この方法は通常は、良好な結果を達成することができるが、一部のウイルス株に大きな変異がある場合、予測可能なsiRNAの数が著しく制限され、この方法によってデザインされたsiRNAは遺伝子サイレンシングの有効性が低下する場合がある。
【0039】
有利には、siRNAデザインは、siRNA配列とウイルス遺伝子中の標的遺伝子配列との一貫性を考慮に入れる。19塩基対のsiRNAは、インビボとインビトロの両方で関連遺伝子を効果的にサイレンシングすることが証明されている。siRNAには25塩基対のsiRNAもまた含まれているため、これらのsiRNAには幾つかの配列重複性がありうる。これらの重複配列を除去した後でも、標的遺伝子をなおも完全にサイレンシングすることができる。siRNA配列の全ての塩基と100%同一ではない可能性がある遺伝子ドメインを検出する方法が確立されたが、遺伝子ドメインは、siRNAと一致している少なくとも19の連続した塩基を有している必要がある。全25塩基対siRNAと同一ではない遺伝子を特定できることにより、siRNAの標的となりうるウイルス株の数が増える可能性がある。
【0040】
[複数のsiRNAを組み合わせることによる相乗効果]
全てのコロナウイルス遺伝子と、SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2などの全ての病原性コロナウイルスの配列に対してsiRNAの検索を拡大することにより、我々は、次の二タイプのsiRNA:a)有意な株特異性を示すsiRNA;b)特定のウイルス株の特定の遺伝子を標的とするsiRNAを決定することができる。(抗Sタンパク質など)幅広いウイルス株を阻害できるリスト中のsiRNA、(RdRP又はヘリカーゼなど)SARS-CoV-2の別の遺伝子に対する特異的なsiRNA、及びSARS-CoV-2の別の特定の遺伝子を標的とすることができる第三のsiRNAを組み合わせることにより、我々は、複数のウイルス株を阻害できる幅広い効果的なsiRNA組成物を産生できる。この組成物は、ウイルスの複数の標的を阻害することによってウイルス変異を阻害することができ、従ってウイルスが治療から逃避するのを防ぐ。
【0041】
ここに記載のsiRNA組成物は、一種、二種、又はそれ以上のsiRNAを含む。siRNAは、SARS-CoV-2の遺伝子配列と一致しうる。siRNAが宿主細胞に入ると、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合し、その後、RNAのガイド鎖がウイルスmRNAに結合する。RISCを担持するガイド鎖がウイルスmRNAに近づいた後、RISCのプロテアーゼがウイルスmRNAを分解し、それによってウイルス遺伝子発現を阻害する。ウイルスmRNAは、ウイルスのプラス鎖ゲノムRNAであってもよいし、或いはウイルスゲノムの次世代のプラス鎖RNAとして作用するウイルスゲノムRNAに基づいて複製されたものであってもよい。
【0042】
組成物が二種以上のsiRNAを含む場合、これらのsiRNAは、SARS-CoV-2の異なる遺伝子を有利に標的とする。つまり、それらはSARS-CoV-2の二種以上の遺伝子の発現を同時に阻害する。より有利には、これらの二種以上のsiRNAにおいて、一種のsiRNAが少なくとも一つの構造タンパク質遺伝子を標的とし、少なくとも一種が非構造タンパク質遺伝子を標的とする。このようにして、組成物は、少なくとも一種の構造タンパク質遺伝子と一種の非構造タンパク質遺伝子の発現を同時に阻害することができる。
【0043】
Sタンパク質遺伝子とORF1ABに位置するRdRp遺伝子の両方の発現を阻害することができるsiRNAの組み合わせが提供される。これらの二種のsiRNAを宿主細胞に導入した後、RdRp酵素の発現を阻害することができ、よってウイルスがそのRNAを複製するのを防止し;同時に、それらはSタンパク質の発現を阻害することもできるため、ウイルスを完全なウイルス粒子にパッケージングすることができず、新しい宿主細胞に感染する能力が失われる。
【0044】
ウイルス内のORF1abとNタンパク質を阻害できる2種のsiRNAの組み合わせが提供される。これらの標的の両方を同時にサイレンシングすると、ウイルスの複製が阻害されることが実証された。各siRNAをそれぞれ41pMで組み合わせた場合、80%を超えるウイルスの阻害が起こった。
【0045】
Eタンパク質遺伝子とORF1ABに位置するRdRp遺伝子の両方の発現を阻害することができるsiRNAの組み合わせが提供される。これらの二種のsiRNAを宿主細胞に導入した後、RdRp酵素の発現を阻害することができ、よってウイルスがそのRNAを複製するのを防止し;同時に、それらはEタンパク質の発現を阻害することもできるため、ウイルスを完全なウイルス粒子にパッケージングすることができず、ウイルスの形態形成と集合を完了することができず、よって細胞から遊離する能力が失われる。
【0046】
Sタンパク質遺伝子とORF1ABに位置するヘリカーゼ遺伝子の両方の発現を阻害することができるsiRNAの組み合わせが提供される。これらの二種のsiRNAを宿主細胞に導入した後、それらはヘリカーゼの発現を阻害し、ウイルス複製に必要な核酸二重鎖の融解を阻害し、ウイルス複製/転写複合体の形成を抑制し;同時に、それらはSタンパク質の発現を阻害することもできるため、ウイルスを完全なウイルス粒子にパッケージングすることができず、よって新しい宿主細胞に感染する能力が失われる。
【0047】
Eタンパク質遺伝子とORF1ABに位置するRdRp遺伝子の両方の発現を阻害することができるsiRNAの組み合わせが提供される。これらの二種のsiRNAを宿主細胞に導入した後、RdRp酵素の発現を阻害することができ、よってウイルスがそのRNAを複製するのを防止し;同時に、それらはEタンパク質の発現を阻害することもできるため、ウイルスを完全なウイルス粒子にパッケージングすることができず、よって細胞から遊離する能力が失われる。
【0048】
Sタンパク質遺伝子、Eタンパク質遺伝子、及びORF1ABに位置するRdRp遺伝子の発現を阻害できるsiRNAの組み合わせが提供される。これらの三種のsiRNAを宿主細胞に導入した後、RdRp酵素の発現を阻害することができ、よってウイルスがそのRNAを複製するのを防止し;同時に、それらはSタンパク質とEタンパク質の発現を阻害することもできるため、ウイルスを完全なウイルス粒子にパッケージングして細胞から遊離することができず、よって新しい宿主細胞に感染する能力が失われる。
【0049】
ウイルス内のORF1abとNタンパク質を阻害できる2種のsiRNAの組み合わせが提供される。これらの標的の両方を同時にサイレンシングすると、ウイルスの複製が阻害されることが実証された。各siRNAをそれぞれ41pMで組み合わせた場合、ウイルスの80%を超える阻害が起こった。
【0050】
二種以上のsiRNAを含む組成物は、個別に包装するか、又はパッケージに混合することができる。すなわち、二種以上のsiRNAは、既に混合された状態で提供されてもよく、投与前に混合されてもよく、或いは別々に投与されてもよい。
【0051】
[HKPベースの高分子ナノ粒子siRNA送達系]
siRNAを含む薬学的製剤は、有利には、主に球状又は楕円体である、特定粒径のナノ粒子製剤を含む。この製剤では、ポリペプチド/脂質カチオン高分子担体及びsiRNAは静電力を介して相互作用する。過剰な高分子担体分子の場合、siRNAの殆どがナノ粒子の内部に配置され、ナノ粒子の粒子全体が正電荷を帯びるようになる。ナノ粒子の粒径は50~300nmであり、好ましくは粒径は100~200nmである。ナノ粒子製剤の粒子の電位(ゼータ電位)は5~50mVであり、好ましくは電位は10~40mVであり、より好ましくは電位は30~45mVである。
【0052】
本開示はまた、siRNA分子と薬学的に許容される担体とを含む治療剤であるHKP-siRNAナノ粒子を提供する。ヒスチジン-リジン重合体(HKP)は、インビトロ及びインビボでのsiRNA送達に利用されている。HK重合体種のペア、H3K4bとH3K(+H)4bは、ヒスチジン、リジン又はアスパラギンの複数のリピートを含む四つの分岐を持つリジン骨格を有している。このHKP水溶液をsiRNAと質量で4:1、又は3:1、又は5:1のN/P比で混合すると、ナノ粒子(粒径100~200nmの平均粒径)が自己集合した(
図1)。最適な分岐状ヒスチジン-リジン重合体HKPを、Rainin Voyagerシンセサイザー(PTI,Tucson,AZ)で合成した。この研究において使用されたHKPの二種は、(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)の構造を持つH3K4bであり、H3K4bに対して、R=KHHHKHHHKHHHKHHHK;K=リジン及びH=ヒスチジンである。粒径とゼータ電位は、Brookhaven Particle Sizer 90 Plusで測定した。HKP-siRNA水溶液は半透明で、目立った凝集や沈殿物は見られず、4℃において少なくとも3か月間保存できた。我々はまたこのHKP-siRNA溶液を乾燥粉末に凍結乾燥するための方法を開発した。この乾燥粉末をPBS又はD5Wで溶解した後、治療薬をIV注入によって血流に投与するか、或いは表皮への局所投与に使用できる。薬物は、吸入投与によって呼吸器系の特定の病巣に送達することもまたできる。
【0053】
[SLiCベースの脂質ナノ粒子siRNA送達系]
我々はまた新規カチオン性脂質とコレステロールとを含む新規薬物送達担体を開発した(
図2)。カチオン性脂質はスペルミンヘッドとオレイルアルコールテールで構成され、新規で独特なsiRNA送達系(スペルミン-脂質コレステロール、SLiC)としてコレステロールと結合される。スペルミンのCAS登録番号は71-44-3である。SLiCが水溶液中でsiRNA二本鎖と混合されると、siRNA/SLiCナノ粒子が自己集合プロセスによって形成される。この新しい形態の脂質ナノ粒子は、容易に生分解される。
図5は、カチオンヘッドとしてスペルミンを、中間の二つの3級アミン基で様々な結合を介して結合されたオレイルアルコールテールを持つこの新しい脂質構造の幾つかの種を示している。我々は、インビトロでの標的遺伝子ノックダウンのためにこの担体をHela細胞及び293細胞でのsiRNAトランスフェクションに利用し、また我々は、それをsiRNAのインビボ送達についてマウスモデルでも試験した。
【0054】
[ウイルス標的遺伝子に対する薬物のサイレンシング効果とウイルスに対するその阻害効果]
標的遺伝子に対して有意な阻害効果を有し、ウイルスの感染と複製を効果的に遮断するsiRNAを特定するために、デュアルルシフェラーゼシュードタイプウイルスベースのレポーター系又は実際のSARS-CoV-2ウイルスを使用して、これら二つの目標を達成できる。適切なレポーター系は、psiCHECK系(Promega,Inc.Madison WI)である。
【0055】
[ネブライザーによる薬剤の吸入投与]
COVID-19は呼吸器系の感染症である。それは、気道及び肺の表皮細胞上のACE2受容体又はニューロピリン1受容体を介して細胞に侵入し、複製生活環を開始する。従って、気道を通しての投与は効果的な投与方法である。薬物は呼吸器系、特に下気道と肺に特定の吸入装置を介して送達され、ウイルス感染と複製の病巣に効果的に到達して、高効率のウイルス阻害を達成できる。新型コロナウイルス感染症の予防と治療のための一投与形態は、微粒化吸入投与である。具体的には、ハンドヘルド微粒化装置を使用して、ナノ粒子製剤を微粒化する。吸入された薬剤製剤の液滴は気道を通して噴霧され、下気道及び肺に薬剤を送達する。装置は、好ましくは超音波微粒化装置を使用し、より好ましくはマイクロネット超音波微粒化吸入装置を使用する。
【0056】
本発明は、特定の実施態様と併せて以下に更に詳細に説明されるが、本発明の範囲は次の実施態様には限定されない。その目的は、当業者が本発明の内容を理解し、それを実施できるようにすることであり、これは本発明の保護範囲を限定するものではない。本発明の着想に従ってなされた全ての同等の変更又は修正は、本発明の保護範囲に包含されるべきである。
【実施例】
【0057】
実施例1 2019-nCoVのウイルス構造及びタンパク質機能
2019-nCoVは、29903ntのゲノムを持つANエンベロープ一本鎖ポジティブセンスRNAウイルスである。2019-nCoVのゲノム構造は、2019-nCoVなどの他のコロナウイルスと類似しており、ゲノムの5’の3分の2がウイルスゲノム複製に必要な非構造タンパク質(NSP)をコードし、ゲノムの残りの3’の3分の1がビリオンを構成する構造遺伝子(スパイク、エンベロープ、メンブラン、及びヌクレオカプシドタンパク質)と、構造遺伝子領域内に散在した4個のアクセサリー遺伝子をコードする。ゲノムの5’末端にはリーダー配列(67nt)があり、これに非翻訳領域(UTR)が続く。RNAゲノムの3’末端には別のUTRがあり、可変長のポリ(A)配列が続く。転写調節配列(TRS 5’AACGAA 3’)は、リーダー配列の3’末端と、2019-nCoVのゲノム3’近位ドメインの遺伝子の上流の異なる位置に見出される。2019-nCoVゲノムは、ORF1a、ORF1b、S、3、4a、4b、5、E、M、及びNの少なくとも14個の予測されるオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、16個の予測される非構造タンパク質がORF1a/bによってコードされている。ウイルスの複製に必須ではない幾つかの特有の群特異的ORFが2019-nCoVによってコードされる。これらの群特異的ORFの機能は不明である;しかし、他のコロナウイルスとの類推により、それらは構造タンパク質又はインターフェロンアンタゴニスト遺伝子をコードしうる。オープンリーディングフレームORF2、-6、-7、及び-8aは、次の4種の限界構造遺伝子をコードすると予測されるサブゲノムmRNAから翻訳される:それぞれ、>150kDaのスパイク糖タンパク質(S);約23kDaのメンブラン糖タンパク質(M);低分子エンベロープタンパク質(E);及び約50kDaのヌクレオキャプシドタンパク質(N)。
【0058】
実施例2 2019-nCoVの重要な遺伝子を標的とするsiRNAのデザイン
我々は、25量体オリゴと21量体オリゴの両方を含む複数のsiRNA配列をデザインした。表1は、様々なウイルスRNA(非構造タンパク質)を標的とするsiRNA配列、25量体平滑末端オリゴ及び21量体粘着末端オリゴを示す。これらの配列の特徴には、限定されないが、保存的な遺伝子配列のターゲティング、合理的な熱力学的安定性、及び低毒性の副作用が含まれる。表2は、様々なウイルスRNA(スパイクタンパク質)を標的とするsiRNA配列、25量体平滑末端オリゴ及び21量体粘着末端オリゴを示し、太字で示されているsiRNAは最も強力なsiRNA阻害剤であり、下線が付されているsiRNAは二番目に優れたsiRNA阻害剤である。表3は、他の様々なウイルスタンパク質及び遺伝子を標的とする、最も強力なsiRNAオリゴ、25量体平滑末端オリゴ、及び21量体粘着末端オリゴを示す。
【0059】
実施例3 強力な抗2910-nCoV siRNAオリゴの細胞培養ベースのスクリーニング
ベロ細胞培養実験において2019-nCoV遺伝子をサイレンシングするための最も強力なsiRNAを同定するために、我々は、2019-nCoV遺伝子配列を担持するpsiCheckプラスミドを最初に使用した。次に、我々は実際の2019-nCoVに感染したベロ細胞を使用して、選択されたsiRNAをその抗2019-nCoV感染活性について試験した。
【0060】
A. ベロ細胞におけるsiRNA効力検査のサロゲートとしての2019-nCoVウイルス遺伝子断片のサブクローニング
標的とされた2019-nCoV遺伝子に対するsiRNA候補の分解効果を調査するために、我々は、デュアルルシフェラーゼレポーターベクターpsiCHECK-2を、パパイン様ウイルスタンパク質(nsp5)、コノラウイルスエンドペプチダーゼC30(nsp6)、RNA合成タンパク質(nsp10)、RNA依存性RNAポリメラーゼ(nsp12)、及び構造タンパク質S、E、M及びNの遺伝子断片と共に使用した。psiCHECK-2ベクターは、RNA干渉(RNAi)の初期最適化のための定量的で迅速なアプローチを提供するようにデザインされる。そのベクターは、レポーター遺伝子に融合された標的遺伝子の発現変化のモニタリングを可能にする。nsp5、nsp6、nsp10、nsp12及び構造タンパク質S、E、M及びNのDNA断片を、これらの遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRによって増幅し、ついでpsiCHECK-2ベクターの多重クローニング部位にクローニングした。このベクターでは、ウミシイタケルシフェラーゼが一次レポーター遺伝子として使用され、siRNA標的遺伝子はウミシイタケ翻訳停止コドンの下流に位置される。
【0061】
ベロ細胞を96ウェルプレートに播種し、12時間インキュベートした。レポータープラスミド(組換えベクター)psi-nsp5、psi-nsp6、psi-nsp10、psi-nsp12、psi-S、psi-E、psi-M及びpsi-N、並びにsiRNA候補を、FBSを含まないDMEM中のリポフェクタミン2000を使用してベロ細胞にコトランスフェクトした。ブランクのpsiベクターを陰性対照とする。トランスフェクションの6時間後、培地を、10%のFBSを補充したDMEMに交換した。トランスフェクションの18、24、36及び48時間後に、デュアルルシフェラーゼキットを使用して、各ウェルにおけるホタル発光とウミシイタケルシフェラーゼの活性を検出した。siRNA候補はルシフェラーゼ活性を劇的に低下させ、siRNAがインビトロで2019-nCoVの標的遺伝子の発現を大幅に阻害できたことを示している。
【0062】
B. 2019-nCoVによるベロ細胞の感染
nsp5、nsp6、nsp10、nsp12及び構造タンパク質S、E、M及びNの2019-nCoV mRNAがRNA干渉(RNAi)の特異的機構によって直接分解されるかどうかを調べるために、ベロ細胞を24ウェルプレートに播種し、細胞単層が80%の集密度に達したときに、FBSを含まないDMEM中のリポフェクタミン2000を使用して、選択した治療用の単一siRNA又はsiRNAの組み合わせ候補をトランスフェクトした。トランスフェクション効果の対照は、Cy3標識siRNAである。陰性対照としてPBSを使用した。2019-nCoVとは無関係の配列を持つsiRNAを、更なる陰性対照として使用した。トランスフェクションの24時間後、トランスフェクション試薬を含む培地を、2%のFBSを補充した新鮮培地に交換し、細胞に2019-nCoVを感染させた。感染の1時間後、接種溶液を、10%のFBSを補充したDMEMに置き換えた。感染の24時間後、細胞を、RNA単離及びcDNA末端の5’-迅速増幅(5’-RACE)のために収集した。並列実験において、感染後24、48、及び72時間で、ウイルス力価定量のために細胞上清を収集した。全ての実験は、バイオセーフティレベル2の条件下で実施した。
【0063】
ウイルスRNAを細胞上清から抽出し、順方向プライマーと逆方向プライマー、及び2019-nCoV分離株FRA/UAEスパイクタンパク質に特異的なTaqManプローブを用いて、ワンステップ定量的リアルタイムPCRを実施した。収集した細胞から全RNAを抽出し、nsp5、nsp6、nsp10、nsp12及び構造タンパク質S、E、M及びNのcDNA産物のために遺伝子特異的プライマーを用いて5’-RACEアッセイを実施した。保護効率の高い単一siRNA又はsiRNAの組み合わせをインビボ研究のために選択した。
【0064】
PBSを含まないDMEM培地(細胞培養培地)において、リポフェクタミン2000を使用して、これらのレポータープラスミド(異なるウイルス遺伝子断片を含む)とsiRNA(これらの遺伝子断片に対するもの)をベロE6細胞中にコトランスフェクトした。何れのウイルス遺伝子も標的としないsiRNAを陰性対照として使用した。トランスフェクションの6時間後、各ウェルにおいてウミシイタケルシフェラーゼとホタルルシフェラーゼがそれぞれの基質を触媒して蛍光を発する能力を、デュアルルシフェラーゼキットを用いて試験した。系の蛍光発現が減少する場合、それは、siRNAがルシフェラーゼの発現を阻害していることを示す。酵素が基質を触媒して蛍光を発する能力の低下は、siRNA候補薬物分子がSARS-CoV-2標的遺伝子の発現を効果的に阻害できることを意味する。この方法を使用して、我々は、複数の有効なsiRNAをスクリーニングした(
図3~5)。293T及びA549細胞では、両細胞において標的遺伝子に対して80%を超える阻害効果を有する8種のsiRNAを選択した(そのうち、これら二種の細胞において85%を超える阻害効果を有するsiRNAが三種類ある:すなわちG32、R03、及びR24)。特にA549細胞株では、標的遺伝子に対して90%を超える阻害効果を有するsiRNAが5種ある。我々は二種の細胞の阻害効率に対するこれらのsiRNAのEC50を更に測定した。その中で最も阻害効果の高いRec#3のEC
50は、それぞれ、A549で0.3pg/μL、293T細胞で5.8pg/μLであった。
【0065】
実施例4 インビトロ細胞実験によるSARS-CoV-2に対するsiRNAの阻害効果の検証
ベロE6細胞を一晩培養した後、異なる濃度のsiRNA(3.125nMから100nMまで)でトランスフェクトし、細胞を特定のMOI(感染効率)でSARS-CoV-2に感染させた。数日間培養した後、ウイルス感染率を細胞変性効果によって決定した。感染%は、(特異的抗体を使用して染色した、ウイルスNタンパク質を発現する)感染細胞の数を、Hoechst33342色素で染色された細胞核としてカウントされた細胞の全数で割って計算した。殆どのsiRNA(SCo1、SCo2、SCo34、SCo36)は、試験した最低濃度、つまり3.125nMで感染の完全な遮断を示した。
【0066】
実施例5 HKP/siRNAナノ粒子と肺への送達
ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)siRNAナノ粒子製剤は、HKPとsiRNAの水溶液を4:1の分子量(N/P)比で混合することにより調製できる。典型的なHKP/siRNA製剤は、平均粒径150nmのナノ粒子を提供する。自己集合したHKP/siRNAナノ粒子を水溶液に再懸濁し、凍結乾燥して乾燥粉末にし、ついでRNaseフリー水に再懸濁させた。HKP/siRNA(赤色標識)ナノ粒子をマウスの気道に経口気管投与した後、我々は、上部気道(気管支)と下部気道(肺胞)に蛍光siRNAを観察することができた。我々は、HKP、DOTAP、及びD5Wを含む三通りの異なる用量のsiRNAを経口気管送達した後、肺におけるシクロフィリンBのRNAiの有効性を比較した。HKPを介した送達は、20μgの用量で標的遺伝子の効率的なRNAiを示した(
図8)。
【0067】
実施例6 ナノ粒子製剤の調製と同定
ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)とsiRNA水溶液を、4:1の分子量比(N/P)で混合して、HKP/siRNAナノ粒子製剤を調製した(
図16A)。標準的なHKP/siRNAナノ粒子の平均粒径は概して150~200nmである。自己集合HKP/siRNAナノ粒子は、水溶液に懸濁されうる。乾燥粉末に凍結乾燥した後、リボヌクレアーゼを含まない水に再懸濁させることができる(
図16B)。Malvern粒径分析を使用して、製剤化されたナノ粒子製剤を分析して検出した。結果は、ナノ粒子の平均粒径が193.4nmであり(
図16C)、ゼータ電位が32.7mVである(
図16D)ことを示しており、これは、その結果が期待された要件を満たしていることを示している。
【0068】
実施例7 噴霧吸入投与試験
噴霧吸入による呼吸器/肺疾患の治療におけるHKPとsiRNAで構成されるナノ医薬製剤の開発可能性を試験するために、我々は、有効医薬成分(API:siRNA)、送達担体ポリペプチド(HKP)、及びナノ製剤(siRNAとHKPの両方)のエアロゾル化試験を更に実施した。更に、我々は、インビトロでのエアロゾル化の前後において、API、添加物、及び薬物製剤の物理的及び化学的特性と生物学的活性をまた分析した。
【0069】
クリーンベンチにおいて、我々は、事前にZhengyuan YS31Eアトマイザーを洗浄・消毒し、スプレーポート(ノズル含む)を50mLの滅菌遠心管に挿入し、遠心管をアイスボックスに挿入し、遠心管とアトマイザーを直角にし、それらを別々に45°に傾け;特定濃度のsiRNA、HKP又はSTP705水溶液を調製し、溶液の大部分を取ってアトマイザーに入れ、10~20分、噴霧を開始する(約6~8分、2mLを噴霧)。噴霧後、濃縮溶液(B溶液)を50mLの遠心管に回収し、アトマイザー内の残りの溶液はC溶液であり、アトマイザーなしの元の構成はA溶液である。その後、次のように進む:1)分光光度計を使用して、噴霧の前後での三種の溶液A、B、及びC中のタンパク質(HKP)及び/又は核酸(siRNA)の濃度を測定し、2)電気泳動によりsiRNAとSTP705の完全性を確認し、3)細胞をトランスフェクトすることにより、標的遺伝子に対するsiRNAの阻害効果を分析する。
【0070】
最初に、我々は、噴霧後のsiRNA溶液の安定性を試験した(
図17A)。その結果は、0.2mg/mLのsiRNAの噴霧後、分光光度計試験で濃度が(227.85ug/mLから218.69ug/mLに)約4%低下したことが示され、噴霧装置中の残りのsiRNA溶液の影響はなかったことを示している。更に、電気泳動の結果からもまた上記の結果が確認された(
図17B)。つまり、エアロゾル化後にsiRNA溶液の濃度が僅かに低下したことを除き、siRNAの断片は完全に保持されていた。
【0071】
HKPポリペプチド送達系に対する噴霧の影響を分析するために、本発明はYS31Eアトマイザーを使用して(約0.8mg/mLの濃度の)HKP溶液を噴霧する。我々は、上記のHKP溶液の三種の異なる溶液、すなわちA、B、及びCを収集した後、それらをHPLCで試験した。結果から、噴霧された溶液の濃度は低下したが、HKPは噴霧後も完全な構造を維持していたことが確認され、噴霧がHKPの構造に有意な影響を与えなかったことを示している(
図18)。
【0072】
実施例8 腹腔内送達のためのHKP/siRNA製剤
インフルエンザ感染に対するsiRNA阻害剤の予防及び治療効果の評価中に、我々は、異なる投薬量とレジメンを使用した腹腔内投与によるHKP/siRNA製剤を試験した。これらの治療結果の観察に基づいて、我々は、HKP/siRNA(二種のsiRNAがインフルエンザ遺伝子に特異的)の予防効果がリバビリンの効果を上回ったことを見出した(
図3)。同様に、HKP/siRNA(インフルエンザ遺伝子に特異的な二種のsiRNA)の治療効果は、タミフルの効果よりも大きい(
図4)。
【0073】
実施例9 SLiC/siRNAナノ粒子
[SLiCリポソーム調製]
新たに合成したSLiC分子を用いて、薄膜法や溶媒注入法などの一般的な方法でリポソームを調製しようと最初に試みたが、殆ど成功しなかった。Maurer等は、siRNA又はオリゴヌクレオチド溶液をリポソームの50%エタノール溶液(v/v)にボルテックスしながらゆっくりと添加し、その後、エタノールを透析によって除去するリポソーム調製法を報告している。これにより、粒径が小さく均一なナノ粒子が得られた。この方法では、リポソームの形成中にカチオン性脂質によってsiRNAが直接、包まれたが、殆どの他の方法では、siRNA又は核酸分子は、リポフェクタミン2000などの前もって形成されたリポソームにロード(又は封入)される。
【0074】
エタノールに溶解した脂質は、リポソームがあまり安定しておらず、凝集する傾向がある準安定状態にある。我々は、ついで、修正Maurer法を使用して、ロードされていない又は前もって形成されたリポソームを調製した。我々は、エタノールを12.5%(v/v)の最終濃度に希釈するだけで安定したリポソーム溶液を作製できることを見出した。リポソームは、エタノールに溶解した脂質(カチオン性SLiC/コレステロール、50:50モル%)を滅菌dd-H2Oに添加することによって調製した。迅速混合下、エタノール性脂質溶液をゆっくりと添加した。
【0075】
そのプロセスでは、小さくより均一なリポソームの形成が可能になるけれども、SLiCリポソームの調製を成功させるには、エタノールをゆっくりと添加し、迅速に混合する必要があった(
図5)。リポソーム製剤化の過程でsiRNAがロードされ、製造の最後にエタノール又は他の溶媒が除去される一般的な方法とは異なり、我々のSLiCリポソームは、エタノールが溶液中に残って、リポソームがなお準安定状態にあると考えられるように製剤化された。siRNA溶液にリポソーム溶液を混合/ロードすると、脂質のカチオン基がアニオン性siRNAと相互作用し、縮合してコアを形成する。SLiCリポソームの準安定状態は、siRNA又は核酸をより効果的に封入するリポソーム構造変換を支援若しくは促進した。siRNAの封入の結果として、SLiCリポソームはよりコンパクトで均一になる。
【0076】
[SLiCリポソームの物理化学的及び生物学的特徴]
リポソーム形成後、我々は、粒径、表面電位、形態研究、siRNA負荷効率及び生物学的活性などを含む、SLiCリポソームの物理化学的性質を特徴付ける一連のアッセイを開発した。SLiCリポソームの粒径とゼータ電位は、Nano ZS Zeta Sizer(Malvern Instruments,UK)を用いて測定した。それぞれの新規SLiCリポソームを、エタノール含有量が50%から25%に、並びに12.5%に変化したときに、粒径とゼータ電位について試験した。データは、異なるエタノール含有量の製剤から得た。SLiCリポソームは全て1mg/mlの濃度で調製し、siRNAをロードした(2:1w/w)。それぞれのSLiCリポソームは、例えばTM2(12.5)など、12.5%でエタノールに溶解したカチオン性SLiC及びコレステロールで構成された。
【0077】
SLiCリポソームの物理化学的境界を更に分析すると、エタノール濃度は粒径に正に比例した(エタノール濃度が低いほど、粒径が小さくなる)が、ゼータ電位には負に比例した(エタノール濃度が低いほど、ゼータ電位が同時に高くなる)ことが示唆された。表面電位が高いほど、粒子は溶液中でより安定になる。溶液中での安定性に加えて、後で示されるデータは、エタノール濃度が低いほど毒性がまたより低いことを更に示していた。従って、これらの要因に照らして、リポソーム製剤の調製に使用される前に、マスター作業原液にコレステロールとSLiCを懸濁する溶媒として、12.5%(v/v)のエタノール濃度を選択した。
【0078】
ベアSLiCリポソーム製剤とは対照的に、siRNAを2:1(w/w)でロードすると、リポソーム粒径は更に小さくなり、110から190nmの範囲の粒径と、更に低いPDI値になった。リポソーム構造の一般的な考察では、siRNAが静電力によってカチオン性脂質にロードされ又は相互作用し、リポソームがsiRNAを包み込んで球状粒子を形成し、表面張力を低下させると理解される。その結果、siRNAをロードした後にリポソーム粒径が更に小さくなった。siRNAで製剤化したリポソームはまた低い表面電荷を有しており、これはロードされたsiRNAからの中和効果によって説明できる。SLiCを媒介したsiRNA送達の阻害効果は、シクロフィリンBの発現について、抗シクロフィリンB siRNAで確認された。
【0079】
実施例10 マウスモデルでの気道送達
ヒト宿主細胞ジペプチジルペプチダーゼ4(hDPP4)及びACE2及びNRP1は、2019-nCoVの受容体であることが示されている。しかし、マウスはウイルスによって認識され結合される受容体を有していないため、2019-nCoVの適切な小動物モデルではない。この研究では、気道においてhDPP4を発現するアデノウイルス又はレンチウイルスベクターを形質導入することにより、マウスを2019-nCoV感染に対して感作させた。このマウスモデルを、インビボで2019-nCoV感染を阻害するsiRNAの効率を調査するために使用した。siRNAの組み合わせ候補を、HKP-SLiCナノ粒子系を用いたキャプシド形成によって送達した。我々は、全てのマウス研究を、バイオセーフティレベル3の条件下で実施した。
【0080】
全てのBALB/cマウスは18週齢であり、この研究の開始時に特定病原体除去状態として試験した。2019-nCoVに対する感受性を発現させるために、アデノウイルスベクター群の30匹のマウスとレンチウイルスベクター群の30匹のマウスに、hDPP4を発現するアデノウイルスベクターとレンチウイルスベクターをそれぞれ形質導入した。別の20匹のマウスには、対照として空のアデノウイルス又はレンチウイルスベクターを形質導入した。アデノウイルスベクター群では、hDDP4遺伝子をAd5にクローニングした。ついで、MLE15細胞にAd5-hDDP4を20のMOIで形質導入した。感染の48時間後に上清を回収した。マウスに、108pfuのAd5-hDDP4を鼻腔内形質導入した。レンチウイルスベクター群では、hDDP4遺伝子をプラスミドpWPXLdにクローニングした。ついで、pWPXLd-hDPP4を、パッケージングベクターpsPAX2及びエンベロープベクターpMD2.Gと共に、リン酸カルシウム法を使用してパッケージング細胞株HEK293Tにコトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、構築されたウイルスベクターを収集して精製し、CHO細胞に形質導入した。レンチウイルスを収集し、濃縮した。マウスに、108形質導入単位/ml(TU/ml)の力価でhDPP4を発現するレンチウイルスを鼻腔内形質導入した。
【0081】
hDPP4がマウスの気道において発現されていたことをウェスタンブロットで確認した後、アデノウイルス及びレンチウイルスベクター群を、各下位群に10匹のマウスを含む予防、治療、及び対照下位群に更に分割した。Ad5-hDDP4又はpsPAX2-hDDP4予防下位群の10匹のマウスに、接種の24時間前に、HKP-SLiCナノ粒子系でキャプシド形成されたsiRNAの組み合わせを鼻腔内接種した。24時間後、空のベクターが形質導入されたマウスを含む80匹全てのマウスに、105pfuの2019-nCoVを静脈内感染させた。感染後0、24、48、72、及び96時間で、予防、治療、及び対照下位群にsiRNA又はPBSを鼻腔内接種した。
【0082】
全てのマウスの体重を測定し、各下位群の生存率を毎日カウントした。ウイルス力価測定のために、感染後1、3、5、7、9、及び14日目に鼻洗浄液を収集した。各群から2匹の感染マウスを、感染後3日目及び5日目にそれぞれ屠殺した。病理学的及びウイルス学的研究のために、肺、気管、脾臓、肝臓、心臓、脳及び腎臓を含む組織を収集した。
【0083】
ウイルス力価を決定するために、組織試料をDMEMでホモジナイズし、遠心分離によって清澄化した。組織懸濁液と鼻洗浄液の両方を10倍に連続希釈した。希釈物を、96ウェルプレートで増殖させたベロ細胞単層に添加した。細胞変性効果(CPE)が感染後3日目に観察され、TCID50をReed-Muench法によって計算した。
【0084】
ウイルス遺伝子発現を阻害するsiRNA候補の効率を調査するために、組織から全RNAを抽出し、順方向、逆方向プライマー、及び2019-nCoVのnsp12の保存領域(RNA依存性RNAポリメラーゼ)に特異的なTaqManプローブを用いて、ワンステップ定量的リアルタイムPCRを実施した。
【0085】
実施例11 腹腔内siRNAナノ粒子溶液
[siRNAのインビボ投与]
インビボ実験を、6~8週齢の雌マウスを使用して行った。接種には、インフルエンザウイルスを5×104EID50/mLの用量で含む尿膜腔液を使用した。尿膜腔液中のウイルスの感染活性は、致死性の滴定によってインビボで決定した。ウイルスの力価は、Reed-Muench法(17a)を使用して計算した。感染動物と同じ条件で飼育された非感染マウスを陰性対照として使用した。軽いエーテル麻酔下でウイルスを動物に鼻腔内投与した。動物の各群には、15匹のマウスを含めた。上記のようにPAAと複合体を形成したsiRNA(1:1の比の抗インフルエンザsiRNA89及び103)を、1~10mg/kg体重の用量で動物に投与した。siRNAは腹腔内投与した(注射当たり200ul)。対照動物には、siRNAなしでPAAを投与した。
【0086】
接種後14日間、動物を観察した。対照群及び実験群の動物の死亡率を毎日登録した。各群の死亡率(M)は次のように計算した:M=N/Nt、ここで、N-感染後14日以内に死亡した動物の数;Nt-群内の動物の全数。保護指数(IP)は次のように計算した:IP=((Mc-Me)/Mc)×100%、ここで、Mc及びMe-対照群と実験群の死亡率にそれぞれ対応。14日以内の死亡日の中央値(MDD)は次のように計算した:MDD=(ΣND)/Nt、ここで、N-日数Dを生存した動物の数、Nt-群内の動物の全数。タミフル(リン酸オセルタミビル、Roche、スイス)を参照化合物として使用した。それは同じプロトコルによって25mg/kgの用量で投与した。
【0087】
腹腔内投与は、特にガス交換量が少ない重度インフルエンザ若しくはCovid19感染症の患者及び/又は機械的肺換気を受けている患者では、実行可能な代替手段になる場合がある。同じ長さのsiRNAは類似の特性(電荷、疎水性、分子量など)を示し、siRNAは迅速にデザイン及び製造できるため、ナノ粒子を介したsiRNA送達は、一般集団を保護するワクチンが開発中であるところ、既存の治療法に応答しない高い死亡率を持つ急速に出現するインフルエンザウイルス又はコロナウイルス株の治療における中間の治療戦略を形成する可能性があることはありうる。この原稿において実証されたsiRNAカクテルは、幅広い抗Covid19株をカバーする予防/治療薬として顕著な価値をもたらす可能性があり、この適用範囲は、将来出現する可能性のある未知のCovid19株にまで十分に及ぶ可能性がある。
一般集団を保護するワクチンが開発中であるところ、既存の治療法に応答しない高い死亡率を持つ急速に出現するインフルエンザウイルス株の治療。この原稿において実証されたsiRNAカクテルは、幅広い抗インフルエンザ株をカバーする予防/治療薬として顕著な価値をもたらす可能性があり、この適用範囲は、将来出現する可能性のある未知のインフルエンザ株にまで十分に及ぶ可能性がある。
【0088】
我々は、この研究において、IP投与を介した二種のsiRNAの組み合わせの高分子ナノ粒子媒介送達が、ウイルスに曝露された動物に強力な抗ウイルス効果をもたらす可能性があることを実証した。ヒスチジンリジン共重合体(HKP)ナノ粒子を介したsiRNA送達は、様々な動物モデルで複数の経路を通して十分に検証された。我々は、マウスとサルの両方のモデルへの皮下投与によるHKP-siRNAナノ粒子製剤の本格的な安全性研究を最近完了した(データは示さず)。HKP-siRNA103/105製剤をIP投与(10mg/kg/日)した場合、2xLD50用量のウイルスへの曝露からマウスを保護する上で、リバビリン(75mg/kg/日)で観察されたものよりも大きな予防及び治療効果が得られた。得られたデータは、siRNAを含むペプチドナノ粒子又はsiRNAを担持するポリカチオン性送達ビヒクルのIP注射が、マウスのインフルエンザ感染によって誘発される致死率を共に改善し、従ってこれらの障壁の幾つかを克服する能力があることを示している。両親媒性ポリ(アリルアミン)(PAA)形成高分子ミセル(PM)は、GI管を介したsiRNA送達について評価されており(33)、効率的なsiRNA送達とエンドソーム/リソソーム放出をもたらす。PAA及びsiRNAは、ナノサイズの粒径(150~300nm)及びカチオン表面電荷(+20から30mV)を持つ複合体に自己集合されうる。我々がPAA-siRNA89/103製剤(10mg/kg)をIP投与したとき、タミフル(25mg/kg)と同等の治療的抗ウイルス活性が観察された。これらの結果から、siRNAの組み合わせの高分子ナノ粒子送達が、インフルエンザウイルスの新たに出現した株に対する予防的/治療的応答を提供できることが明確に証明された。
【0089】
実施例12 非ヒト霊長類研究
現在、2019-nCoVに対する予防又は治療剤戦略に利用できる有効なワクチンも薬剤もない。最近、アカゲザルが、気管内接種を使用する2019-nCoVのモデルとして開発された。ヒトと同様に、感染したサルは疾患の臨床的徴候、ウイルス複製、及び組織学的病変を示し、アカゲザルが2019-nCoV感染に対するワクチン及び抗ウイルス剤戦略の評価のための良好なモデルであることを示している。2019-nCoV感染からの保護と治癒に対するsiRNAの効率を調査するために、我々は、アカゲザルで非ヒト霊長類研究を実施した。siRNAカクテル候補を、HKP-SLiCナノ粒子系でキャプシド形成し、気管内投与した。このサル研究は、バイオセーフティレベル3の条件下で実施した。
【0090】
全てのアカゲザルは、この研究の開始時に2~3歳であった。当初、全てのサルは2019-nCoVに対して検査で陰性であった。12匹のサルを三群に分けた-各群に4匹の動物を含む予防、保護、及び対照群である。ネブライザーを使用して、HKP-SLiCナノ粒子系にキャプシド形成されたsiRNAの組み合わせを、予防群の4匹のサルに気管内接種した。24時間後、12匹のサル全てに、1mL中の2019-nCoVの6.5×107TCID50を気管内接種した。ネブライザーを使用して、感染後0、24、48、72及び96時間で、予防及び保護群にsiRNAの組み合わせを連続的に接種した。対照群には、同じ時点でPBSを接種した。
【0091】
全てのサルを、症状と死亡率について毎日2回観察した。胸部X線を、感染の1日前と感染の3日及び5日後に実施した。口咽頭、鼻、及び総排泄腔スワブを、ウイルス力価測定のために、感染後1、3、5、7、9、14、21、及び28日目に収集した。感染後3日目に、各群から2匹の感染サルを屠殺した。病理学的及びウイルス学的研究のために、肺、気管、脾臓、肝臓、心臓、脳、腎臓、及び結腸組織を含む組織を収集した。
【0092】
組織及びスワブ試料におけるウイルス力価の定量は、実施例2に記載のように実施した。ウイルス遺伝子発現の阻害に対するsiRNA候補の効率を調査するために、組織から全RNAを抽出し、ワンステップ定量的リアルタイムPCRを実施した。
【0093】
ウイルスタンパク質発現の阻害に対するsiRNA候補の効率を調査するために、組織から全RNAを抽出し、実施例8に記載のようにワンステップ定量的リアルタイムPCRを実施した。
【0094】
実施例13 動物薬力学試験
SARS-CoV-2感染に対するsiRNAの有効性を研究するために、非ヒト霊長類実験(中国マカクザル)を使用することができる。研究は、バイオセーフティレベル3(BSL-3)の実験室で行われる。
【0095】
研究開始前、全てのマカクザルは2~3歳で、全てのマカクザルはSARS-CoV-2の検査で陰性であった。12匹のサルを無作為に3群、すなわち予防群、治療群、及び対照群(各群に4匹のサル)に分ける。予防群の4匹のサルに、ハンドヘルド噴霧スプレー装置を使用してポリペプチド又はリポソーム様ナノ担体によってカプセル化されたsiRNA組成物を、気道を通して接種する。24時間後、12匹のサル全てに6.5×107TCID50のSARS-CoV-2(1mL)を、気道を通して接種する。感染後0時間(h)、24h、48h、72h、及び96hの時点で、予防群及び保護群のサルに、噴霧スプレー装置を介してsiRNA組成物を投与し続ける。対照群には、対応する時点でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を接種する。
【0096】
我々は全てのサルを一日2回観察し、その症状と死亡率を記録する。我々は、感染の1日前と感染の3日後及び5日後にマカクザルに胸部X線検査を実施した。感染後1日(d)、3d、5d、7d、9d、14d、21d、及び28dの時点で、我々は、ウイルス力価測定のために口咽頭、鼻、及び総排泄腔のスワブを収集した。感染後に異なる時期に死亡したサルについて、肺、気管、脾臓、肝臓、心臓、脳、腎臓、及び結腸組織を含むその組織を病理学的及びウイルス学的研究のために収集した。
【0097】
ウイルス遺伝子の発現の阻害におけるsiRNA候補薬の有効性を研究するために、我々は気道におけるウイルス力価を定量した。同時に、我々は、細胞上清からウイルスRNAを抽出し、ワンステップ定量的リアルタイムPCRを実施するために、FRA/UAEスパイクタンパク質特異的な順方向及び逆方向プライマー、及びMERS-CoVから単離されたTaqManプローブを使用した。我々は、次に、収集した細胞から全RNAを抽出し、非構造タンパク質ORF1AB及び構造タンパク質S、E、M、及びNのcDNA産物に遺伝子特異的プライマーを使用して、5’-RACE試験を実施し、siRNAの作用機構を検証した。
【0098】
実施例14:生SARS-Cov2に対するsiRNAのデザインと試験
配列解析により、様々なCoV及びSARSウイルスに共通する、25個の部分的に重複するsiRNA分子を特定した。これらの25の配列を、ウイルス感染293T及びA549細胞に対してpsiCheck2プラスミド系で試験した(
図21、表3を参照)。結果を以下の表A~Cに示す:
【0099】
これらのデータは、表DのsiRNAの配列が最も強力な配列であることを示唆している。
【0100】
試験のために提供されたsiRNAのアイデンティティー、遺伝子上のその位置、及びそのGC含量を以下の表Eに示す:
【0101】
配列3、4、14、及び18は、生ウイルスを使用した一次スクリーニングで最良の活性を有していた。これらの試験から得られたデータを以下に示す。
【0102】
解析は、全細胞の感染%(左の列)、非サイレンシング対照に見られる平均感染率に基づく阻害%(右側の次の列)として、ついで次の複製並びに複製の平均についても同様に示されている。感染%は、(特異的抗体を使用して染色された、ウイルスNタンパク質を発現する)感染細胞の数を、Hoechst 33342色素で染色された細胞核としてカウントされた細胞の総数で割って計算される。50%の閾値を設定した(非サイレンシング対照のおよそ3標準偏差)。COV3又はCOV4で見られた>70%の阻害率は堅牢であり、開発の有望性を示している。
【0103】
次の試験ラウンドで試験したsiRNA(濃度曲線)を以下に示す;主なヒットを太字と下線で示す
【0104】
siRNAを、ウイルスの阻害について様々な濃度で個別に試験した。
図22A及び22Bに示すようにデータをプロットした。
核の喪失は、細胞内のsiRNAによる毒性を示していたため、これらのsiRNAは、更なる試験のための優先度を下げた。
【0105】
試験したsiRNAのうち、殆どが以前の評価と一貫したパフォーマンスを示した。全てのsiRNAに対して、siRNAの性能がsiRNA使用量との関係を示さないsiRNAとフラットであったため、EC50値を計算することはできなかった。感染の一般的な阻害に基づいてsiRNAをランク付けすると、COV6、COV9及びSC08が最も弱く、NS対照と比較して約50%の阻害効果を示した。COV5、COV13、COV19は次に最も強力で、対照感染レベルの>70%を遮断した。
【0106】
残りのsiRNAは、試験した最低濃度(3nM)で感染の完全な遮断を示した。これらは、COV3、COV4、COV14、COV15、COV17、COV18、COV21、COV23、COV24、SC01、SC02、SC034、SC036であった。
【0107】
一部のsiRNA処置では、ウェルから核が有意に失われた。これはおそらく、ウイルスが細胞を殺していたこと(細胞変性効果)、又はウイルス感染と組み合わされた場合にsiRNAが毒性であったことを示している。非特異的な対照siRNA処置では、細胞の喪失が見られたが、二セットの対照から少なくとも一つの複製セットが対照として使用できた。これがデータに与える影響は、処置の効力を過小評価することであろう。2以上の複製で細胞喪失を引き起こした処置は、プレートセット2siRNAの第二のグラフの等級付けによって示される。セット1のデータでは核の喪失が見られたが、3つの複製のうち少なくとも2つが未処置の対照核数の>50%を有していたため、データは精確であると予想される。感染しているが未処置の対照は、ウイルスを受け入れなかった細胞と比較して細胞数の40%の低下を示したが、これはウイルスが細胞増殖を阻害するためであると予想され、これは、このアッセイでは1細胞分裂であり、細胞数の変化を説明する。
【0108】
次の一連の実験において、4種の最も強力なsiRNAの用量効果を調べて、最も強力な配列を決定した。我々は、siRNA#3、4、14及び18を評価のために選択した。
【0109】
ウイルスに対する効力を決定するために用量応答アッセイにおいて各siRNAを評価した。データを
図23に示す。
実験結果から、Cov3及びCov4配列並びにCov18配列が、0.123nMを超える濃度でウイルスを100%阻害するように見える。
【0110】
Cov#3とCov#4はORF1abセグメントに対するものであり、Cov#18はNタンパク質に対するものであったので、我々は、異なるセグメントに対する2種のsiRNAを組み合わせることが有効性に影響するかどうかを決定するために、#3と#18の組み合わせ並びに#4と#18の組み合わせを比較することを決定した。
図24は、ウイルスの阻害に関するCov#4とCov#18の比較を示している。
Cov#4の濃度は0.041nMと0.005nMの間で変化させ、Cov#18はCov#4と組み合わせて2通りの濃度(0.041nM及び0.013nm)で試験した。
2種siRNAを0.041nMのCov#4及び0.041nMのCov#18で組み合わせた場合、最大阻害が観察された。これらの濃度での組み合わせの最大阻害は55%であった。
【0111】
図25に示すように、我々はまた同様の条件下でCov#3とCov#18の組み合わせを比較した。
Cov#3の濃度は0.041nMと0.005nMの間で変化させ、Cov#18は、Cov#3と組み合わせて2通りの濃度(0.041nM及び0.013nm)で試験した。
2種siRNAを0.041nMのCov#3及び0.041nMのCov#18で組み合わせた場合、最大阻害が観察された。これらの濃度での組み合わせの最大阻害は75%であった。この濃度でのCov3単独では、約48%の阻害しか得られなかった-これは、2種のsiRNAを組み合わせた場合のある程度の相加性を示唆している。
【0112】
Cov#3とCov#18を組み合わせることで、ウイルスが、siRNA配列によって特異的に標的とされるORF1abセグメントとNタンパク質セグメントの両方の領域で変異しない限り、ウイルスが治療圧力を逃れる能力を回避できるという利点が得られる。
CoV3:GGAAGGAAGTTCTGTTGAA
CoV18:CCACCAACAGAGCCTAAAA
CoV3とCoV18の25量体型をまた調製し、使用することができる:
CoV3 25量体:GGAAGGAAGTTCTGTTGAATTAAAA
CoV18 25量体:CCACCAACAGAGCCTAAAAAGGACA
2種siRNAは、両方が同じ細胞に同時に確実に送達されるように、ナノ粒子製剤を使用して送達できる。
【0113】
NRP1(ニューロピリン受容体)は、肺の内皮細胞へのSARS-COV2の取り込みを助けると仮定されている(Cantuti-Castelvetri等,Science 10.1126/science.abd2985(2020))。特定の配向のヒスチジン部分及びリジン部分からなるポリペプチドナノ粒子の選択された製剤が、NRP1受容体を介した結合を提供できることが以前に示されている。Leng及びMixson,J Gene Med;18:134-144(2016)。これにより、ペプチドナノ粒子を介したsiRNAの、SARS-Cov2を取り込む同じ細胞への送達が可能になる。siRNAは、ウイルスの生存に必要とされる遺伝子をサイレンシングするため、ウイルス力価を低下させる。
【0114】
CoV3とCov18;CoV3とCoV14;CoV4とCoV14;及びCoV4とCoV18の組み合わせなど、二種以上のsiRNAを含むポリペプチドナノ粒子の送達は、腹腔内投与、IV投与、又は肺への物質の直接吸入によって達成されうる。適切な所与の粒径のナノ粒子を、H2Kを単独で、又はH3Kと組み合わせて、上記のsiRNAの組み合わせと一緒に使用して調製することができる。H2K及びH3K4b(HKP)の様々な組み合わせの製剤は、例えば、3:1のHK:siRNA比を使用して調製されうる。以前の実験では、H2K単独でsiRNAと混合すると、粒径約124nmのナノ粒子を形成できることが示された。H2K:HKPの比が1:1を超えるナノ粒子もまたsiRNAで形成される。最適な粒径(<200nm)は、1:2及び1:5の比率で観察される。HKP単独では121nmのナノ粒子を形成する。
【0115】
加えて、ナノ粒子の形成を、(C末端にシステインを含む)H3K(+H)-Cなどの追加の線形ペプチドを使用するか、或いは分岐したHKP(HKP(+H))を使用して試験した。1:0.2のH2K:H3K(+H)-Cの比率では、161nmのナノ粒子が得られた。1:0.2の比のH2K:HKP(+H)では146nmのナノ粒子が得られ、HKP(+H)単独では129nmの粒子が得られ、HKP単独では121nmが得られた。これらの結果は、H2Kを単独で、又はこれらの他のペプチド配列と組み合わせて使用すると、様々な度合いのNRP1ターゲティングを示すナノ粒子が作製されることを示している。高度のH2Kを含むナノ粒子は、より少ない量のものよりもNRP1への改善された結合性を示す場合がある。
【配列表】
【国際調査報告】