(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(54)【発明の名称】モジュール式反応器のシステムおよび装置、その製造方法、ならびに反応を行う方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545093
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(85)【翻訳文提出日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 GB2021050164
(87)【国際公開番号】W WO2021148818
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522293973
【氏名又は名称】バイオロジック テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【氏名又は名称】藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ローリングス,ニック
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB20
4B029DC07
(57)【要約】
本発明の態様は、外部ハウジングと、外部ハウジング内に含まれる複数の構成要素とを有するモジュール式反応器装置であって、構成要素は、反応チャンバと、反応チャンバに接続された流体経路と、装置内における流体の流れを制御するように配置されたバルブと、を含み、外部ハウジングは、装置の外部から内部への接続部を提供する複数の接続ポートを有し、接続ポートは、流体入力部および流体出力部と、電気的入力部と、空気圧入力部とを含み、電気的入力部または空気圧入力部のいずれかは、バルブの制御を提供するようにバルブに接続され、流体入力部または流体出力部のいずれかは、反応チャンバまたは流体経路に接続される、モジュール式反応器装置を提供する。他の態様は、モジュール式反応器装置を受け取り制御するための基地局、およびモジュール式反応器装置を製造しモジュール式反応器装置を用いて反応を行うための方法を提供する。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部ハウジングと、前記外部ハウジング内に含まれる複数の構成要素とを有するモジュール式反応器装置であって、前記構成要素は、
反応チャンバと、
前記反応チャンバに接続された流体経路と、
前記装置内における流体の流れを制御するように配置されたバルブと、
を含み、
前記外部ハウジングは、前記装置の外部から内部への接続部を提供する複数の接続ポートを有し、前記接続ポートは、
流体入力部および流体出力部と、
電気的入力部と、
空気圧入力部と
を含み、
前記電気的入力部または前記空気圧入力部のいずれかは、前記バルブの制御を提供するように前記バルブに接続され、
前記流体入力部または前記流体出力部のいずれかは、前記反応チャンバまたは前記流体経路に接続される、
モジュール式反応器装置。
【請求項2】
前記複数の構成要素は、貯蔵コンパートメントと、前記貯蔵コンパートメントおよび前記反応チャンバを接続する流体経路とをさらに含む、請求項1に係るモジュール式反応器装置。
【請求項3】
前記構成要素のうちの少なくとも1つは、化学反応または生物学的反応のための試薬を含む、請求項1または2に記載のモジュール式反応器装置。
【請求項4】
前記複数の接続ポートはまた、光学的入力部または光学的出力部および/または熱的入力部を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のモジュール式反応器装置。
【請求項5】
前記構成要素は、前記1つの反応チャンバへ/からのおよび/または前記流体経路に沿った流体の流れを制御するように配置された複数のバルブを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のモジュール式反応器装置。
【請求項6】
前記構成要素は、センサを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のモジュール式反応器装置。
【請求項7】
前記複数の接続ポートは、前記センサからの情報が前記装置の外部に通信されることを可能とするように前記センサに接続されたセンサ出力部を含む、請求項6に記載のモジュール式反応器装置。
【請求項8】
前記外部ハウジング内に含まれる前記構成要素の配置は、前記モジュール式反応器装置の各々で異なり、前記接続ポートの配置は、前記モジュール式反応器装置の各々で同一である、請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも2つのモジュール式反応器装置を含むキット。
【請求項9】
前記モジュール式反応器装置の各々の前記外部ハウジングは、サイズおよび形状が同一である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
少なくとも1つのモジュール式反応器装置と係合するように配置され、
前記モジュール式反応器装置を受けるように配置されたドッキング部分と、
前記装置が前記ドッキング部分に受けられたときに前記反応器装置における所定の構成の接続ポートへの接続を可能とする所定の構成で配置された複数のコネクタと
を有する基地局であって、前記コネクタは、
流体出力部および流体供給部と、
電気コネクタと、
空気圧コネクタと、
流体、電力または電気信号および空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数の供給を制御することで、前記反応器装置に前記反応装置内で化学反応または生物学的反応を行わせるように配置されたプロセッサと
を含む、基地局。
【請求項11】
前記コネクタは、熱コネクタをさらに含み、前記プロセッサは、前記反応器装置への熱媒または冷媒の供給を制御するように配置される、請求項10に記載の基地局。
【請求項12】
前記コネクタは、光学コネクタをさらに含み、前記プロセッサは、前記反応器装置への光出力または光信号の供給を制御し、かつ/または前記反応器装置から光信号を受け取るように配置される、請求項10または11に記載の基地局。
【請求項13】
前記プロセッサは、前記反応器装置に前記反応器装置における構成要素を通して小さい体積の流体を繰り返し処理させるように、電力もしくは電気信号、または空気圧もしくは空気圧信号を前記反応器装置に供給することにより、前記反応器装置により行われる前記反応を制御するように配置される、請求項10から12のいずれか一項に記載の基地局。
【請求項14】
前記プロセッサは、前記モジュール式反応器装置から受信された信号に基づいて前記反応を制御するように配置される、請求項10から13のいずれか一項に記載の基地局。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのモジュール式反応器装置と、請求項10から14のいずれか一項に記載の基地局とを含むキット。
【請求項16】
化学製品または生物学的製品を生産するための反応を行うためのモジュール式反応器装置を製造する方法であって、前記方法は、
前記反応の実行に必要な少なくとも1つの試薬を決定するステップと、
前記モジュール式反応器装置に含めるための構成要素を限定された範囲の所定の構成要素から選択し、前記反応が行われることを可能とするために前記モジュール式反応器装置内における前記選択された構成要素の配置を決定するステップと、
流体、電力または電気信号、および空気圧または空気圧信号が前記モジュール式反応器装置に供給され得る、固定位置における複数のポートを有する外部ハウジングを有するモジュール式反応器装置を付加製造プロセスにより生産するステップと
を含み、
前記選択された構成要素は、前記決定された配置において前記外部ハウジング内に配置され、互いにかつ/または前記ポートのうちの1つまたは複数に接続され、
前記少なくとも1つの試薬は、前記選択された構成要素のうちの少なくとも1つに格納される、方法。
【請求項17】
前記選択された構成要素は、
バルブと、
反応器チャンバと、
流体経路と
を含み、
さらに、前記決定された配置は、
前記複数のポートのうちの少なくとも1つを前記反応器チャンバに接続する前記流体経路と、
前記バルブに接続されている、電力または電気信号を供給するためのポート、または空気圧または空気圧信号を供給するためのポートと
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記外部ハウジングは、熱媒または冷媒および光出力または光信号がモジュール式反応器装置に供給され得るポートをさらに含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
化学製品または生物学的製品を生産するための反応を行うためのモジュール式反応器装置を製造する方法であって、前記反応は少なくとも1つの試薬を必要とし、前記方法は、
前記モジュール式反応器装置の製造のためのコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、
製造のための前記受け取られたコンピュータ符号化命令を用いるプロセッサにより制御される付加製造プロセスを用いてモジュール式反応器装置を生産するステップと
を含み、前記モジュール式反応器装置は、
流体、電力または電気信号および空気圧または空気圧信号が前記モジュール式反応器装置に供給され得る、固定位置における複数のポートを有する外部ハウジング
を有し、
前記選択された構成要素は、前記決定された配置において前記外部ハウジング内に配置され、互いにかつ/または前記ポートのうちの1つまたは複数に接続され、
前記少なくとも1つの試薬は、前記選択された構成要素のうちの少なくとも1つに格納される、方法。
【請求項20】
化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、前記方法は、
前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、
流体、前記反応装置における所定の構成の接続ポートへの接続を可能とするように固定の配置で配置された複数のコネクタを通して電力または電気信号および空気圧または空気圧信号を前記反応装置に供給するように配置された基地局に、前記受け取られた反応器装置を接続するステップと、
前記基地局におけるプロセッサにおいて前記コンピュータ符号化命令を実行し、それにより、流体、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を前記反応器装置に供給し、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップを行うように前記反応器を制御することを、前記基地局に行わせるステップと
を含む、方法。
【請求項21】
化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、前記方法は、
前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップであって、前記モジュール式反応器装置は、前記反応器装置における試薬または反応の特性を監視するように配置された少なくとも1つのセンサを含み、化学製品または生物学的製品を生産するための複数の代替的な反応経路の実行を可能とするように設計される、ステップと、
前記モジュール式反応器装置におけるプロセッサにおいて前記コンピュータ符号化命令を実行し、それにより、前記モジュール式反応器装置に前記モジュール式反応器装置における流体の流れ、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を制御させ、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップを前記モジュール式反応器装置に行わせるステップと、
前記センサから信号を受け取り、前記受け取られた信号に基づいて、辿るべき前記代替的な反応経路のうちの1つを選択するステップと、
前記モジュール式反応器装置に前記選択された反応経路を辿らせるように前記モジュール式反応器装置を適宜制御するステップと
を含む、方法。
【請求項22】
化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、前記方法は、
前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、
前記モジュール式反応器装置におけるプロセッサにおいて前記コンピュータ符号化命令を実行し、それにより、前記モジュール式反応器装置に前記モジュール式反応器装置における流体の流れ、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を制御させ、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップを前記モジュール式反応器装置に行わせるステップと
を含み、
前記コンピュータ符号化命令は、前記プロセッサに、規則的周期で複数の操作を行うように前記モジュール式反応器装置を制御させるように配置され、前記複数の操作は各々、前記モジュール式反応器装置内における所定の数の流体を前記反応器の異なる部分において同時に処理させる、方法。
【請求項23】
化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、前記方法は、
前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置の製造のためのコンピュータ符号化命令、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、
製造のための前記受け取られたコンピュータ符号化命令を用いるプロセッサにより制御される付加製造プロセスを用いてモジュール式反応器装置を生産するステップと、
流体、前記反応装置における所定の構成の接続ポートへの接続を可能とするように固定の配置で配置された複数のコネクタを通して電力または電気信号および空気圧または空気圧信号を前記反応装置に供給するように配置された基地局に、前記製造された反応器装置を接続するステップと、
前記基地局におけるプロセッサにおいて制御のための前記コンピュータ符号化命令を実行し、それにより、流体、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を前記反応器装置に供給し、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップを行うように前記反応器を制御することを、前記基地局に行わせるステップと
を含む、方法。
【請求項24】
前記モジュール式反応器装置は、請求項1から9のいずれか一項に記載のモジュール式反応器装置である、請求項16から23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、モジュール式反応器のシステムおよび装置、そのような装置およびシステムの関連する製造方法、ならびにそのような装置を用いて反応を行う方法に関する。これは特に、限定するものではないが、様々な選択可能な構成要素が収容され、特にモジュール式反応器が特定の化学的または生物学的プロセスまたはその一部を行うように設計されることを選択可能な構成要素が可能とする、同様または同一の外部ハウジングを有するモジュール式反応器装置に関連する。特定の実施形態において、モジュール式反応器装置は、付加製造プロセスにより製造される。
【背景技術】
【0002】
バイオ製造(「バイオ生産」としても知られる)とは、医薬品、食品およびエネルギーを含む広範な分野における生物学ベースの製品(「バイオ製品」)の製造を説明するための広義の用語である。商品コスト、生産量等についての基礎要件は、分野ごとに大幅に異なり、したがって、付随する課題に対する多数のアプローチおよびソリューションが存在する。
【0003】
商業的な要件(例えばコストおよび生産目標)に加えて、バイオ製造の対象となるバイオ製品の開発に用いられる設計プロセスにより、バイオ製造への大きな影響が生じる。設計段階でなされる技術的決定は、バイオ製品の製造能力に大幅に影響する場合があり、その製造に利用可能なバイオ製造ソリューションの範囲を制約する場合がある。
【0004】
さらに、バイオ製品の、その所望の機能を実行する能力は、その製品の製造に用いられるバイオ製造ハードウェアおよびプロセス制御に大きく依存する場合がある。したがって、バイオ製造プロセスが十分な精度および/または量でバイオ製品を生産可能であること、またバイオ製品に不所望な特性を生じさせないことを確実にするために、バイオ製品の設計と並行してバイオ製造プロセスを開発することが重要であり得る。
【0005】
したがって、典型的なバイオ製造プロセスは、専門の人員および技能および知識を必要とする専門業務である。また、バイオ製造に対する既存のアプローチの数は限られている。これら2つの制約は共に、バイオ製品の開発および利用可能性に対する大きな制限をもたらし得る。
【0006】
大量に製造されるバイオ製品は、通常、専門の人員および機器を有する大規模なバイオ製造施設で製造される。しかしながら、これは、専門の大規模施設、ならびに各プロセスステップにしばしば必要とされる機器および専門人員への大きな資本投資を必要とする。これはまた、そのような生産に従事可能な企業を、優れた熟練の人員が使用可能な企業に限定する傾向がある。
【0007】
バイオ製造プロセスの開発に対する労力および支出は、大量製造が行われる場合に、最終的なスケールメリットが完成した商品のコスト低減をもたらすため、妥当なものとなり得る。
【0008】
したがって、大量バイオ製造プロセスは、大量に生産される単一製品に好適であり得るが、例えば小規模で開始しその後に大規模化する場合に、プロセス開発のリードタイムが長くなることに加えて、全バッチが製造された後にのみ行われ得る必要な品質保証(QA)作業に起因するバッチ製造のための付随するリードタイムが生じる場合がある。
【0009】
生物学ベースのアプローチが医薬品、食品およびエネルギーなどの分野でますます用いられるようになることに伴い、バイオ製品をこれらの分野内の特殊なアプリケーション(例えば個別化医療)向けに適応させカスタマイズすることに対する傾向が高まっている。特殊なバイオ製品は、通常、少量から中程度の生産量で製造される。
【0010】
しかしながら、少ない生産量のバイオ製品が必要とされる、かつ/または広範な代替的バイオ製品の生産が望まれる場合、利用可能なソリューションは少なく、そのため、バイオ製造は、高度に訓練された作業者による手作業で行われることが多く、その結果、生産のコストおよびスループット/速度に影響が及ぶ。手作業での処理はまた、製品品質のばらつきのリスクを増大させ得る。
【0011】
加えて、大部分が手作業のバイオ製造ソリューションの実装は、適切な専門の機器および人員を有する中央箇所にバイオ製造施設の位置を限定することになる。特殊なバイオ製品(個別化医療など)のエンドユーザ/顧客は、中央のバイオ製造現場から離れた地理的に多様な位置にいる傾向があるため、これは問題となる。
【0012】
よって、i)必要箇所の近くで、かつii)少量でのバイオ製造の実行が不可能なことにより、エンドユーザが手頃な価格で特殊なバイオ製品を利用する可能性が限定される。このシナリオは、今後5~10年において複数の分野にわたって開発される特殊なバイオ製品の量が増大することに伴い、より一般的になることが予期される。この結果、バイオ製造の現行の最新技術の限界に起因して、満たされていない需要を満足させる特殊なバイオ製品が存在するが、エンドユーザまで届かないシナリオが生じる。
【0013】
少量でのバイオ製造の利用可能性のそのような限界は、医薬品、食品およびエネルギーにおける喫緊の需要を解消するための生物学の応用に対する大きな障壁となっている。
【0014】
一般的なラボオートメーションを用いて作業者による定型操作を補助すること(例えばロボットピペットが並列に液体を移送すること)は可能であるが、そのようなラボオートメーションプロセスは、大部分が既存の手動操作の自動化に基づいており、そのため、全体的な製造プロセスにおける独立した段階にのみ直接影響を及ぼし得る。加えて、そのようなラボオートメーションは、依然として熟練の作業者が処理のために機器を準備することを必要とし、前述の理由から少量の製造に特に適するものではない。
【0015】
現在の、特殊なバイオ製品の少量のバイオ製造を自動化することができないことは、以下の根本的な問題のうちの1つまたは複数から生じる。
・容易に適応させることができない汎用的な「あらゆる場合に適合する」ソリューション。
・規格化の不足。同じ課題に対する多数の異なるソリューションが存在するが、あるとしても限られた相互運用性または接続性を有する複数の製造者によるものである。
・生物学的プロセスから収集されるデータと、プロセスを実行するハードウェア/自動化との間の限定されたフィードバック。
・現在のバイオ製造自動化ソリューションは、スケールメリットに依拠する作製方法(例えば射出成形)に基づくものであり、特定用途向けの少量のバイオ製造ソリューションの創出に資するものではない。
・大量作製方法は、複雑なジオメトリに対する能力が限定されており、微小規模および巨視的規模のジオメトリについて別個のプロセスを必要とする。
・製造プロセスは、依頼および維持するべき大きい資本投資を要し、これにより、既存の製造インフラストラクチャを用いて製造することを余儀なくされる新たな製品に伴うリスク回避のR&D方針が生じる。この状況は、全く革新的な開発の実用化を可能とするのではなく、何世代もの製品における反復的な改善につながり得る。
・スケールメリットへの依存。大きな資本支出は、既存の作製方法の固定化につながり、新たなバイオ製造自動化ソリューションの革新の妨げとなる。
・特殊なバイオ製品の生産需要は、一貫性がなく変化しやすいため、その結果、オンデマンド/ジャストインタイムのバイオ製造の必要性が生じる。
・特殊なバイオ製品のエンドユーザは、しばしば地理的に多様であり、その結果、最終的なバイオ製品の一貫性を確保するために、確立された制御のもとで様々な地域においてバイオ製造を実行する必要性が生じる。
・バイオ処理機器の無菌状態の維持、および原料汚染の防止。
・生物学における革新が、ますますソフトウェアおよびデータにより推進されるようになっている。しかしながら、データの使用がより普及することに伴い、大量のバイオ製造データを収集する能力と、データにより提供される洞察を実行しバイオ製造プロトコルを更新する能力との間の乖離が大きくなっている。この主な理由は、現在のバイオ製造ソリューションの柔軟性のなさ、および射出成形などの固定された柔軟性のない作製方法への依存である。
【0016】
本発明の態様は、モジュール式反応器のシステムおよび装置、および/またはそのような装置を製造する方法、および/またはそのような装置を用いて反応を行う方法を提供することにより、上記の課題のうちの1つまたは複数に対処しようとするものである。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、理想的には少ない生産量での、かつ好ましくは使用箇所/必要箇所のより近くでの、広範な大幅に異なった特殊なバイオ製品のオンデマンドのバイオ製造を可能とする、バイオ製造に対する新たなアプローチを提供することにある。
【0018】
本発明のさらなる目的は、広範な大幅に異なった特殊なバイオ製品の迅速な研究、開発および設計を可能とする方法およびシステムを提供することにある。
【0019】
本発明のさらなる目的は、規格化された、小型の、使用が容易なハードウェアに対する特定用途向けのバイオ製造ソリューションを提供し、特に、標準的なハードウェアに対する、複数の、大幅に異なった、時間のかかる複雑なバイオ製造プロトコルの実装を可能とすることにある。
【0020】
本発明の態様は、その最も広い意味において、装置の外部と内部との間の接続のための接続ポートの規格化された配置を有するハウジング内に含まれる一揃いの内部構成要素を有するモジュール式反応器装置と共に、そのような装置への接続およびその制御のための基地局を提供する。
【0021】
本発明の第1の態様は、外部ハウジングと、外部ハウジング内に含まれる複数の構成要素とを有するモジュール式反応器装置であって、構成要素は、反応チャンバと、反応チャンバに接続された流体経路と、装置内における流体の流れを制御するように配置されたバルブと、を含み、外部ハウジングは、装置の外部から内部への接続部を提供する複数の接続ポートを有し、接続ポートは、流体入力部および流体出力部と、電気的入力部と、空気圧入力部とを含み、電気的入力部または空気圧入力部のいずれかは、バルブの制御を提供するようにバルブに接続され、流体入力部または流体出力部のいずれかは、反応チャンバまたは流体経路に接続される、モジュール式反応器装置を提供する。
【0022】
多数の実施形態において、装置は、複数の構成要素を含み、それにより自蔵式の反応器を提供する。
【0023】
多数の実施形態において、装置は、複数の接続ポートを含み、それにより、装置との広範な接続および/または装置内の構成要素の制御が可能となる。
【0024】
複数の構成要素は、貯蔵コンパートメントと、貯蔵コンパートメントおよび反応チャンバを接続する流体経路とをさらに含んでよい。貯蔵コンパートメントは、装置により行われる反応または複数の反応において用いられる試薬を格納してよい。貯蔵コンパートメントから反応チャンバへの試薬の流れは、1つまたは複数のバルブにより制御されてよい。
【0025】
多数の実施形態において、構成要素(貯蔵コンパートメントまたは反応チャンバなど)のうちの少なくとも1つは、化学反応または生物学的反応のための試薬を含む。よって、モジュール式反応器装置は、所望の反応を行うのに必要な試薬に関して自蔵式であり得る。これは、反応器装置が反応を行うためのそのような試薬の外部供給が不要であり得ることを意味し、それにより、反応器装置を動作させる基地局または標準計器とのインターフェースを簡略化することが可能となる。反応器装置の自蔵式の性質はまた、それが非専門的環境においてかつ/または非専門的作業者により使用可能であり、試薬の供給または貯蔵を考慮する必要なくオンデマンド方式で使用可能であることを意味する。
【0026】
複数の接続ポートは、光学的入力部または光学的出力部を含んでもよい。装置は、装置の他の構成要素にまたはそれから光(または他の電磁波)を発するまたは受ける光学構成要素を含んでよい。光学構成要素は、例えば、感光反応の実行を可能とし、または、反応の経過または特定の構成要素の状態を調べるおよび/または監視するために用いられてよい。
【0027】
複数の接続ポートは、熱的入力部または熱的出力部を含んでもよい。装置は、装置の他の構成要素または部分を冷却または加熱するように配置された熱要素を含んでよい。熱要素の例としては、電気ヒータまたはヒートパイプがある。
【0028】
構成要素は、反応チャンバへ/からのおよび/または流体経路に沿った流体の流れを制御するように配置された複数のバルブを含むことが好ましい。
【0029】
いくつかの実施形態において、バルブは、可動要素の位置により流体経路が閉塞するまたは閉塞がなくなるように流体経路において移動するように配置された可動要素を有していてよい。可動要素は、少なくとも閉塞位置において流体経路の形状に合致するように弾力性の先端部を有してよい。
【0030】
バルブは、バルブ本体を有してよく、その一部は実質的に管状構造を有し、それにより内部流路を形成する。バルブ本体は、流体が管状のバルブ本体を通して1つの孔から別の孔へと流れることを可能とするために内部流路と流体連通する少なくとも2つの孔を有していてよい。孔のうちの一方は、バルブ本体の端部に形成されてよく、孔のうちの一方は、バルブ本体の側壁に形成されてよい。バルブは、側壁に形成された孔の位置がバルブ本体の端部に対して移動可能であるように配置されてよい。これにより、可動孔を先端部に対して異なる位置の間で移動させることを可能とすることができる。これにより、例えば、流体経路と流体連通する第1の位置と、いずれの流体経路とも流体連通しない第2の位置との間、および/または異なる経路と連通する位置の間で孔を移動させることを可能とすることができる。これにより、バルブが、繋ぐべき接続部を開く、閉じるおよび/または選択することにより流体経路間の接続を制御することを可能とすることができる。
【0031】
バルブは、装置における流体経路のガス抜きを可能とするために用いられてよく、それにより、流体が経路に沿って移動することが可能となる。これは、経路内の空気を置換しなければ経路に沿った流体の流れが不可能であり、流体経路をガス抜きする(そして後に空気で再充填する)ことを可能とするための機構を設けることが装置の動作にとって重要であり得る微小規模の場合に特に重要である場合がある。
【0032】
装置には複数の流体経路があってよく、1つまたは複数のバルブが、経路間の流体連通を制御し、流体経路のうちの1つまたは複数に沿って装置内の構成要素間で流体のルート設定を行うように配置される。
【0033】
流体経路の一部は、メッシュが流体経路と流体連通する複数の入力/出力ポートおよび流体経路間の複数の交差部を有するように、メッシュ要素に配置されてよい。交差部は、バルブにより制御されてよく、交差部を制御するバルブの集約的制御により、選択された入力/出力ポートへのマトリックス要素の流体経路を通るルートの選択を可能とすることができる。よって、メッシュ要素およびバルブは、複数の構成要素間の制御可能なルート設定ソリューションを提供することができる。
【0034】
適切な制御により、特定のメッシュ要素における複数の経路を同時に使用することができる。コントローラが、メッシュ要素におけるどの他の経路が既に使用中であるかつ/または流体を含んでいるかに基づいて、特定の入力ポートと特定の出力ポートとの間の経路を選択するように配置されてよい。
【0035】
メッシュ要素内の流体経路は、例えば処理における次の段階のために別の構成要素が利用可能になることを待機している1つの構成要素からの流体の一時的な貯蔵のために、装置内における流体のための貯蔵場所を提供してもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、メッシュ要素における流体経路は、実質的に二次元アレイにおいて、例えばダイヤモンド格子構成において配置される。複数のメッシュ要素が、積層方式で配置されてよい。バルブは、1つのバルブが層のうちの複数における流体の流れを制御し、かつ/または層の間での流体の流れを可能とする/制御することができるように配置されてよい。
【0037】
構成要素は、センサを含んでよい。例えば反応の経過、装置内における流体の移動、装置内における1つまたは複数の構成要素の温度等を監視するために、種々のセンサがモジュール式反応器装置に設けられてよい。
【0038】
複数の接続ポートは、センサからの情報が装置の外部に通信されることを可能とするようにセンサに接続されたセンサ出力部を含んでよい。これにより、装置におけるセンサからの情報を外部コントローラに通信することが可能となり、その結果、例えば、反応の経過を監視することができ、かつ/または反応の制御をフィードバックループにおいて調節することができる。
【0039】
本態様に係るモジュール式反応装置は、特定のバイオ製造プロトコル要件に最適化され得る特定用途向けハードウェアを提供することができる。特に、特定の生物学的製品または化学製品を生産するために単一の反応または反応の組み合わせを行う、または試料に対して特定の種類の解析を行うように、個々の反応装置を設計および製造することができる。
【0040】
したがって、モジュール式反応装置は、バイオ製造に対する小型でコンパクトかつ自動化されたハードウェアソリューションの可能性を提供する。
【0041】
モジュール式反応装置の小型化により、反応装置をより利便性高く分配し、使用箇所/必要箇所のより近くで使用することを可能とすることができる。
【0042】
接続点の規格化および装置の外部ハウジングにおけるそれらの構成により、個々のモジュール式反応装置の内部機能に関わらず、全てのモジュール式反応装置とインターフェース接続しそれらに対する供給および/または制御を行うために単一の規格化された基地局または計器を使用することを可能とすることができる。
【0043】
本態様に係るモジュール式反応装置は、付加製造プロセス(「3Dプリント」)により製造されてよい。これにより、完全に封止されたモジュール式反応装置を生産することを可能とすることができ、それにより、バイオ製品または試薬が装置から漏出するリスクおよび/または装置の内部作業空間の汚染を最小化することができる。
【0044】
本態様のモジュール式反応器装置は、上述の好適および任意選択的な特徴の一部もしくは全ての任意の組み合わせを含んでよく、または全く含まなくてもよい。
【0045】
本発明の第2の態様は、外部ハウジング内に含まれる構成要素の配置は、モジュール式反応器装置の各々で異なり、接続ポートの配置は、モジュール式反応器装置の各々で同一である、上述の第1の態様に係る、その態様の任意選択的および好適な特徴の一部または全てを含むまたは全く含まない少なくとも2つのモジュール式反応器装置を含むキットを提供する。
【0046】
モジュール式反応器装置の各々の外部ハウジングは、サイズおよび形状が同一であってよい。これにより、外部ハウジングの物理的配置が同一であり、そのためインターフェースが反応器装置の全てを収容可能であるために単一の構成を有していればよいので、モジュール式反応器装置を規格化されたインターフェースと共に用いることが可能となる。
【0047】
代替的にまたは追加的に、複数のモジュール式反応器装置の接続ポートへの接続のためのコネクタ構成を有し、それ自体の複数の接続ポートへの適切な連通を提供する追加的な外部シェルが設けられてよい。よって、外部シェルは、やはり規格化された単一の構成において、個々のモジュール反応器装置が外部シェルに接続しつつ、規格化されたインターフェースへの規格化された接続構成を提供し得る。
【0048】
モジュール式反応器装置の各々の外部ハウジングは、複数のモジュール式反応器装置が、例えば線形(一次元)または行列(二次元または三次元)構成で互いに接続されることを可能とするように構成されてもよい。このように接続されたモジュール式反応器装置は、流体、信号等を、これらが外部装置を通過する必要なく、互いに交換することが可能であってよい。
【0049】
互いに接続された複数のモジュール式反応器装置の配置は、例えば様々な流体体積の処理を可能とする、または装置の組み合わせが行うように意図された全体的プロセスに含まれ得る様々な規格化されたサブプロセスを提供するために、より高い処理柔軟性を提供することができる。複数の装置の接続はまた、装置の機能の冗長性を可能とし、それにより、より高い信頼性を可能とし得る。
【0050】
いくつかの実施形態において、モジュール式反応器装置は、1つまたは2つの寸法のみにおいてサイズおよび形状が同一である。そのようなモジュール式反応器装置は依然として、同一の寸法に起因して、規格化されたインターフェースと共に使用され得るが、外部ハウジングの寸法が少なくとも1つの寸法において異なり得るので、例えば所望の反応を行うためにモジュール式反応器装置内により多くの構成要素を含めることが望ましい場合、モジュール式反応器装置の構築におけるより高い柔軟性が得られる。
【0051】
本発明の第3の態様は、少なくとも1つのモジュール式反応器装置と係合するように配置され、モジュール式反応器装置を受けるように配置されたドッキング部分と、装置がドッキング部分に受けられたときに反応器装置における所定の構成の接続ポートへの接続を可能とする所定の構成で配置された複数のコネクタとを有する基地局であって、コネクタは、流体出力部および流体供給部と、電気コネクタと、空気圧コネクタと、流体、電力または電気信号および空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数の供給を制御することで、反応器装置に反応装置内で化学反応または生物学的反応を行わせるように配置されたプロセッサとを含む、基地局を提供する。
【0052】
所定のコネクタ構成を有することにより、基地局は、対応する規格化された構成を有するモジュール式反応器装置と相互作用しそれを制御することができる。これは、単一の基地局が、必要な製品または反応に応じて、複数のカートリッジを収容し動作させることができることを意味する。
【0053】
基地局は、1つよりも多くのモジュール式反応器装置を収容可能であってよく、反応生成物が装置間で受け渡され得るように、1つの装置に関連する接続ポートと別の装置に関連する接続ポートとの間の任意選択的な接続を提供してよい。
【0054】
コネクタは、熱コネクタをさらに含んでよく、その場合、プロセッサは、反応器装置への熱媒または冷媒の供給を制御するように配置されてよい。これにより、反応器装置内の構成要素の温度を制御すること、および熱を反応部位に供給する(または反応部位から取り去る)こと、ならびに、任意選択的に、特定の構成要素の温度を所望の範囲内に留まるように制御することを可能とすることができる。
【0055】
コネクタは、光学コネクタをさらに含んでよく、その場合、プロセッサは、反応器装置への光出力または光信号の供給を制御し、かつ/または反応器装置から光信号を受け取るように配置されてよい。光信号は、任意の波長の電磁信号を含む。光信号は、モジュール式反応器装置内で導波路により所望の位置へと伝導されてよい。光信号は、例えば反応の実行を可能とするまたは助けるために、または検知の目的で、装置の特定の部分に放射を供給するために用いられ得る。検知に用いられる場合、光信号は、特定の構成要素または特定の構成要素の内容物を照射するために供給されてよく、その照射の結果(例えば反射、吸収、透過または蛍光)を検知するために光学センサが用いられてよい。
【0056】
プロセッサは、反応器装置に反応器装置における構成要素を通して小さい体積の流体を繰り返し処理させるように、電力もしくは電気信号、または空気圧もしくは空気圧信号を反応器装置に供給することにより、反応器装置により行われる反応を制御するように配置される。
【0057】
基地局が小さい体積の流体を繰り返し処理することにより、モジュール式反応器装置にわたっての流体の移動の精密な制御を可能とすることができる。流体は、集積回路におけるパケットと類似して、所定の単位量またはその倍数で移動されてよい。
【0058】
代替的にまたは追加的に、プロセッサは、反応器装置または反応器装置内の構成要素に複数の操作を規則的周期で行わせるように配置されてよく、複数の操作は各々、モジュール式反応器装置内の所定量の流体を反応器の異なる部分で同時に処理させる。この動作方法は、モジュール式反応器装置内における操作のタイミングを制御するための、集積回路における「クロック周期」に類似のものであり得る。これにより、種々の動作を互いに同期することを可能とし、流体の移動などの操作を、必要に応じて順次または並列に行われるように精密にスケジューリングすることを可能とすることができる。
【0059】
プロセッサは、モジュール式反応器装置から受信された信号に基づいて反応を制御するように配置されてよい。これにより、反応の制御を検知される反応の経過に応じて適合させること、または反応の実行中になされるべき反応プロトコルに関する意思決定を可能とすることができる。
【0060】
本態様の基地局は、上述の好適および任意選択的な特徴の一部もしくは全ての任意の組み合わせを含んでよく、または全く含まなくてもよい。
【0061】
本発明のさらなる態様は、上述の第1の態様に係る、その態様の任意選択的および好適な特徴の一部または全てを含むまたは全く含まない少なくとも1つのモジュール式反応器装置と、上述の第3の態様に係る、その態様の任意選択的および好適な特徴の一部または全てを含むまたは全く含まない基地局とを含むキットを提供する。
【0062】
本発明のさらなる態様は、化学製品または生物学的製品を生産するための反応を行うためのモジュール式反応器装置を製造する方法であって、方法は、反応の実行に必要な少なくとも1つの試薬を決定するステップと、モジュール式反応器装置に含めるための構成要素を限定された範囲の所定の構成要素から選択し、反応が行われることを可能とするためにモジュール式反応器装置内における前記選択された構成要素の配置を決定するステップと、流体、電力または電気信号、および空気圧または空気圧信号がモジュール式反応器装置に供給され得る、固定位置における複数のポートを有する外部ハウジングを有するモジュール式反応器装置を付加製造プロセスにより生産するステップとを含み、前記選択された構成要素は、決定された配置において外部ハウジング内に配置され、互いにかつ/またはポートのうちの1つまたは複数に接続され、前記少なくとも1つの試薬は、選択された構成要素のうちの少なくとも1つに格納される、方法を提供する。
【0063】
限定された範囲の所定の構成要素を提供することにより、これらの構成要素を規格化し、中央集約的な試験および認証に基づかせることができる。
【0064】
ポートの固定位置により、外部ハウジングにおける規格化された配置のポートを製造することが可能となり、それにより、本態様の方法に従って製造される全てのモジュール式反応器装置は、必ずではないが上述の第3の態様に係る基地局などの単一の規格化された基地局と共に用いることができる。
【0065】
中央集約的に所定の構成要素設計を更新することにより、モジュール式反応器装置の設計を迅速に更新および修正することもでき、このとき、修正は、後に製造される装置に自動的に適用される。
【0066】
選択された構成要素は、バルブと、反応器チャンバと、流体経路とを含んでよく、その場合、決定された配置は、前記複数のポートのうちの少なくとも1つを反応器チャンバに接続する前記流体経路と、前記バルブに接続されている、電力または電気信号を供給するためのポート、または空気圧または空気圧信号を供給するためのポートとを含んでよい。
【0067】
外部ハウジングは、熱媒もしくは冷媒および/または光出力もしくは光信号がモジュール式反応器装置に供給され得るポートをさらに含んでよい。
【0068】
本発明のさらなる態様は、化学製品または生物学的製品を生産するための反応を行うためのモジュール式反応器装置を製造する方法であって、反応は少なくとも1つの試薬を必要とし、方法は、モジュール式反応器装置の製造のためのコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、製造のための受け取られたコンピュータ符号化命令を用いるプロセッサにより制御される付加製造プロセスを用いてモジュール式反応器装置を生産するステップとを含み、モジュール式反応器装置は、流体、電力または電気信号および空気圧または空気圧信号がモジュール式反応器装置に供給され得る、固定位置における複数のポートを有する外部ハウジングを有し、前記選択された構成要素は、決定された配置において外部ハウジング内に配置され、互いにかつ/またはポートのうちの1つまたは複数に接続され、前記少なくとも1つの試薬は、選択された構成要素のうちの少なくとも1つに格納される。
【0069】
本態様の方法において、モジュール式反応器装置は、製造現場から遠隔で格納される命令を用いて製造することができる。これにより、ある範囲の異なる場所におけるモジュール式反応器装置の規格化された製造を可能とすることができる。
【0070】
本発明のさらなる態様は、化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、方法は、前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、流体、反応装置における所定の構成の接続ポートへの接続を可能とするように固定の配置で配置された複数のコネクタを通して電力または電気信号および空気圧または空気圧信号を反応装置に供給するように配置された基地局に、受け取られた反応器装置を接続するステップと、前記基地局におけるプロセッサにおいてコンピュータ符号化命令を実行し、それにより、流体、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を反応器装置に供給し、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップを行うように反応器を制御することを、基地局に行わせるステップとを含む、方法を提供する。
【0071】
本発明のさらなる態様は、化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、方法は、前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップであって、モジュール式反応器装置は、反応器装置における試薬または反応の特性を監視するように配置された少なくとも1つのセンサを含み、化学製品または生物学的製品を生産するための複数の代替的な反応経路の実行を可能とするように設計される、ステップと、前記モジュール式反応器装置におけるプロセッサにおいてコンピュータ符号化命令を実行し、それにより、モジュール式反応器装置にモジュール式反応器装置における流体の流れ、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を制御させ、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップをモジュール式反応器装置に行わせるステップと、前記センサから信号を受け取り、受け取られた信号に基づいて、辿るべき代替的な反応経路のうちの1つを選択するステップと、モジュール式反応器装置に選択された反応経路を辿らせるようにモジュール式反応器装置を適宜制御するステップとを含む、方法を提供する。
【0072】
本態様の方法により、モジュール式反応器装置が、受け取られた制御信号に応じて実装され得る複数の代替的な反応経路またはプロトコルステップを有することが可能となる。これらの経路またはプロトコルステップのどれを辿るかは、モジュール式装置内のセンサから受信される1つまたは複数の信号に基づくものであり得、これは、例えば装置内における反応の経過、装置内における特定の製品の量または質を示す信号であってよい。
【0073】
本発明のさらなる態様は、化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、方法は、前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、前記モジュール式反応器装置におけるプロセッサにおいてコンピュータ符号化命令を実行し、それにより、モジュール式反応器装置にモジュール式反応器装置における流体の流れ、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を制御させ、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップをモジュール式反応器装置に行わせるステップとを含み、コンピュータ符号化命令は、プロセッサに、規則的周期で複数の操作を行うようにモジュール式反応器装置を制御させるように配置され、複数の操作は各々、モジュール式反応器装置内における所定の数の流体を反応器の異なる部分において同時に処理させる、方法を提供する。
【0074】
本態様の方法は、モジュール式反応器装置内における操作のタイミングを制御するための、集積回路における「クロック周期」に類似のものであり得る規則的周期を利用する。これにより、種々の動作を互いに同期することを可能とし、流体の移動などの操作を、必要に応じて順次または並列に行われるように精密にスケジューリングすることを可能とすることができる。
【0075】
「クロック周期」を用いることにより、モジュール式反応器装置にわたっての流体の移動の精密な制御を可能とすることができる。流体は、集積回路におけるパケットと類似して、所定の単位量またはその倍数で移動されてよい。
【0076】
本発明のさらなる態様は、化学製品または生物学的製品を製造する方法であって、方法は、前記化学製品または生物学的製品を生産するように特別に設計されたモジュール式反応器装置の製造のためのコンピュータ符号化命令、および前記反応器装置の動作を制御するように配置されたコンピュータ符号化命令を受け取るステップと、製造のための受け取られたコンピュータ符号化命令を用いるプロセッサにより制御される付加製造プロセスを用いてモジュール式反応器装置を生産するステップと、流体、反応装置における所定の構成の接続ポートへの接続を可能とするように固定の配置で配置された複数のコネクタを通して電力または電気信号および空気圧または空気圧信号を反応装置に供給するように配置された基地局に、製造された反応器装置を接続するステップと、前記基地局におけるプロセッサにおいて制御のためのコンピュータ符号化命令を実行し、それにより、流体、電力または電気信号、および/または空気圧または空気圧信号のうちの1つまたは複数を反応器装置に供給し、それにより前記化学製品または生物学的製品を生産するためのステップを行うように反応器を制御することを、基地局に行わせるステップとを含む、方法を提供する。
【0077】
上記の態様のいずれかの方法において、モジュール式反応器装置は、上述の第1の態様に係る、その態様の任意選択的および好適な特徴の一部または全てを含むまたは全く含まないモジュール式反応器装置であってよいが、そうでなくてもよい。
【0078】
上記の態様のモジュール式反応装置、キット、基地局および方法は、単独または組み合わせのいずれかで、バイオ製造および/または化学反応および生物学的反応の実行における大幅な潜在的改善を実現する。
【0079】
特に、それらは、物理的に小型のソリューションにおける最小限のリソースを用いて高複雑度のバイオ製造プロトコルの実行を可能とし得る。モジュール式反応装置は、最も効率的な実行ルートに基づいて高度に最適化することができる。
【0080】
一般的に言うと、本発明の態様は、場合により、物理的に小型の計器装備および全体的なバイオ製造プロトコル実行時間の低減などの現在の最新技術に対する大幅な利点を提供する。
【0081】
モジュール式反応装置内における機能の統合およびその機能の制御から、多数の利点が生じ得る。
【0082】
付加製造技法により実現される3D設計自由度により、従来の作製方法では不可能な、計装領域(流体工学、電子工学等)の密接な統合が可能となる。これにより、モジュール式反応装置を個々の試験の化学的性質に合わせてカスタマイズすることが可能となり、また、特に必要箇所/使用箇所での適用に関連して、システムの全体的な物理的サイズが低減する。
【0083】
異なる機能の密接な統合はまた、新たなシステム構成およびモジュール式反応装置へのより大きい機能の分割を可能とする場合があり、それにより、「計器」と「消耗品」との間の従来の診断システムの境界が曖昧になり得る。
【0084】
三次元でのモジュール式装置の機能の作製により、既存のラボベースの計装の大幅な小型化および別個の計器/ワークフローの統合を可能とすることができる。例えば、新たな3D構成は、従来の2D製造技術による制約のない、統合された一体的な3Dカートリッジ/計器/システムをもたらす。
【0085】
本発明の態様により実現される全体的な小型化から、多数の利点が生じ得る。これは、複雑なバイオ製造プロトコルを高度に専門的な場所の外部において専門性の低い作業者によるアクセスを可能とする点において特に有利であり得る。
【0086】
より小さい潜在的体積(例えば100ml以下の反応チャンバ)により、より高度なプロセス制御を提供し、それにより、より高品質な出力を提供することができる。
【0087】
モジュール式反応装置は、その特定の用途および必要な入力/出力材料がより少量であることに起因して、より小さい物理的体積で作製することができる。これにより、1つの3Dプリントバッチにおける複数のユニットの作製が可能となり、その結果、より低い単位コストを得ることができる。
【0088】
より大量の製品が必要な場合、複数の(場合により同一の)より小さい装置を並列に動作させることができる。
【0089】
上記の態様の顕著な利点の多くは、モジュール式反応装置、基地局およびこれらを製造および動作させる方法における規格化の実現によるものである。
【0090】
例えば、本発明の共通のデジタルの態様は、大量生産プロセスの低単位コストをエンドユーザに対する個別のカスタマイズの柔軟性と組み合わせることによりマスカスタマイゼーションを実現することができる。マスカスタマイゼーションはまた、各適用領域におけるユーザごとに異なる適用の需要に適合するように既存の設計を再構成することを可能とする。
【0091】
例えば、構成要素または構成要素の組み合わせのライブラリを維持することができ、それにより、各々の新たなモジュール式反応器設計が0から開始する必要がなく、既知の機能を有する実績ある「基本構成単位」を用いることができる。これにより、システム要素の最適化および成熟を可能とすることができ、各々の新たな変形例に必要とされる再設計の度合いが低減する。
【0092】
共通の構成要素/モジュール/ソリューションのそのようなライブラリはまた、より小規模なバイオ製品開発者にとっての自動化の障壁を低減することができ、バイオ製造を利用する複数の分野の全体的な成功が促進される。
【0093】
上記の態様により提供される規格化は、専有のバイオ製造ソリューションの比較的複雑性のない創出を可能とし、特殊なバイオ製品の開発者が、時間および資本の点で高コストな特注のバイオ製造設備または潜在的に最適ではない複数の市販のバイオ製造ソリューションのいずれも必要としないことを意味し得る。
【0094】
モジュール式反応装置の構成可能性から、さらなる利点が生じ得る。
【0095】
例えば、「モジュール」のライブラリおよび特定用途向け設計を容易に創出するためのデジタル編集の使用を伴う標準的なモジュール式反応装置構成により、各バイオ製造領域についての特定用途向けソリューションの創出が可能である。
【0096】
これは、新たなシステム設計を創出するのに必要とされる開発労力の低減につながり得る。
【0097】
これはまた、複数領域(流体工学、電子工学、光学等)の計装を創出するために必要とされる技能レベルを低減することができる。特に多数の異なるタイプの専門技術がこれらの装置の設計作製、構築および試験に必要とされることから、マイクロ流体工学および他のハイブリッド半導体/生物学的技術の採用に対する主な障壁の1つは、これらの装置の工学設計の複雑さである。
【0098】
本発明の態様はまた、バイオ製造の性能における改善を提供し得る。
【0099】
上記の態様のモジュール式反応装置およびキットを用いるシステム性能は、高いものであり得る。これは、統合および小型化されたカートリッジが、それらの小さい物理的サイズおよび構成要素の物理的な近接に起因して、操作をより高速で行うためである。
【0100】
本発明の態様は、複雑なプロセス(例えばバイオ生産)に必要なインフラストラクチャを最小化し、より熟練度の低いユーザにとってより容易な自動化を可能とすることができる。
【0101】
上記の態様に係るモジュール式反応器装置およびキットは、特にセンサが上記の態様の付加製造プロセスの一部として一体的に製造され得る場合、比較的低い追加的コストで複数のセンサを組み込むことができる。これにより、装置における反応のさらに密なプロセス監視を可能とすることができる。
【0102】
装置の製造に付加製造の原理を用いることにより、例えば加熱要素を反応チャンバと、または光学センサを流体格納要素と、といった、装置内の構成要素の非常に密接な統合を可能とすることができ、それにより性能および効率が向上する。
【0103】
3Dプリントにより実現されるモジュール式反応器装置設計は、カートリッジ内の完全に閉じた環境を確実にすることができ、それにより、バイオ製造環境の無菌状態を維持し、汚染を防止する。
【0104】
上記の態様に係るモジュール式反応器装置およびキットは、反応プロトコルの実行中における複数のプロセス内測定を集約することができる。これらは、原料(例えば患者由来の試料)の品質に関わらず、最終的なバイオ製品の品質が所定の品質範囲内であることを確実にするために、適応的プロセス制御アルゴリズムを用い得る。
【0105】
本発明の態様はまた、バイオ製品開発における改善を提供し得る。
【0106】
本発明の態様に係るモジュール式反応装置は、バイオ製品R&Dとバイオ製品のバイオ製造との間のシームレスな移行を可能とし得る共通の計装を提供する。
【0107】
特殊なバイオ製品の設計および作製は、規格化されたプラットフォームを用いて、場合によっては異なる地域にわたる複数のパートナにより並列に開発および作業され得る。
【0108】
本発明の態様はまた、バイオ製造プロセスにおける改善を提供し得る。
【0109】
より大量にプロトタイプおよび生産設計の両方を作製するための共通プラットフォームにより、R&Dから生産へのより円滑な移行が可能となり、複雑性およびコストが低減する。
【0110】
本発明の態様は、より高品質なバイオ製造プロセスおよび場合によってはコストの低減を可能とするために、バイオ製品設計が開発の初期にバイオ製造要件および機能を考慮することを可能とすることができる。
【0111】
上記の態様の方法およびアプローチを用いることにより、1つのフレキシブルな作製プラットフォームが特定製品向けの器具および設定に置き換わるので、バイオ製造設備に対する資本支出を大幅に低減することができる。
【0112】
バイオ製造場所における規格化された計器または基地局の使用により、全体的なサプライチェーンが低減し得、それにより製造物流の複雑性および貯蔵される原料の量が低減する。
【0113】
反応装置および基地局の規格化により、異なる生産量ごとに製造プロセスを再設計および再修正する必要なく、バイオ製造プロトコルのスケールアップ/スケールアウトを可能とすることができる。
【0114】
モジュール式反応装置および基地局の統合により提供される「フレキシブルかつ標準的な」アプローチにより、単一箇所で広範なバイオ製品を量に依存しないオンデマンドの自動化された方式で製造することが可能となり、それにより、コストオーバーヘッド(例えば各バッチの製造前に異なるバイオ製造プロトコルに対して再訓練する必要)が低減する。
【0115】
モジュール式反応装置、キットおよび基地局における物理的にコンパクトな自動化されたソリューションの提供により、バイオ製造が大きく高価なクリーンルームに限定されないようにすることが可能となり得る。これにより、必要箇所/使用箇所により近い多種多様な場所でバイオ製造を行うことを可能とすることができる。
【0116】
上記のように、潜在的な小型化から生じる利点が存在するが、本発明の実施形態に係る装置の共に接続される能力(および、装置およびそれらが結合する基地局の規格化が行われる場合の、これが実現され得る容易さ)は、複数の計器を並列に使用する能力を提供することができる。これは、特殊なバイオ製品ごとに異なる生産需要に適合する柔軟性を提供し、中央集約的な製造および専門的な使用箇所の環境および/または作業者を必要としないことの利点を維持しつつ、反応プロセスをスケールアップさせることを可能とすることができる。
【0117】
例えば、上記の態様に係るモジュール式反応器装置および基地局ならびにそれらの組み合わせは、集積回路と同様の動作およびシミュレーション技法/特徴の適用により、複雑なバイオ製造プロトコルの並列な実行を可能とすることができる。これはまた、生産量の柔軟性を実現することができ、それにより、対象となる用途にちょうど必要な量の治療/製品を作ることが可能である。
【0118】
各バイオ製造サブプロセスについてより小さい物理的流体体積を用いることにより、より小さい液体体積の監視によるより高度なプロセス管理を可能とすることができる。
【0119】
用いられる製造方法、および規格化された構成要素および接続点を有する規格化された反応装置の使用の結果として、反応装置のオンデマンド生産が可能となる。これは、スケールメリットを実現するためのバイオ製品の大量生産の必要性を低減し、ユーザ需要に適合するようにジャストインタイム方式でオンデマンドで作製を行う能力を提供する。これは、スケールメリットを実現するためにバイオ製品を大量に作製し、次いで使用前に貯蔵する必要がある現在の最新技術とは大幅に異なる。
【0120】
反応装置、基地局および動作方法間での規格化により、広範な地理的領域にわたる範囲の場所における化学製品またはバイオ製品の再現可能で一貫した製造を可能とすることができる。
【0121】
本発明の態様は、バイオ製品のより高速な開発および製造を可能とすることができ、それにより、それらをエンドユーザにより迅速に届けることが可能となり、これは医薬品などの分野に特に有益であり、その場合、本発明は、新たな治療を医院および患者の手により速く運ぶことを可能とする。
【0122】
本発明の態様に係るモジュール式反応装置の物理的にコンパクトな自動化された性質により、バイオ製造プロセスをエンドユーザのより近くに配置することを可能とすることができ、それにより、生体材料に対する取扱いリスクを低減し、製造リードタイムを低減し、コストを低減しつつ、汚染リスクを排除し、バイオ製造プロセスの再現可能性を増大させる。
【0123】
本発明の態様はまた、基礎となる3D作製技法が向上することに伴い、継続的な改善を行うことを可能とすることができる。これにより、新たな世代のシステムの各々に対する大幅な改善が可能となり、システム性能がさらに向上する。
【0124】
3Dプリントによる解決策における将来の改善により、カートリッジ機能の物理的サイズの低減が可能となる。これは、所与のカートリッジ設計についての現行のコスト低減/性能向上のための2つのオプションを提供する。すなわち、性能を維持しつつシステムサイズを低減すること、またはさらなる性能(例えば単一のパッケージにおける複数のバイオ製造プロセス)を追加しつつシステムサイズを維持することである。
【0125】
モジュール式反応装置を構成する特定用途向けハードウェアは、装置の使用からフィードバックされるプロセスデータに基づいて時間の経過と共に修正することができる。この修正は、特定の装置の設計を最適化するための人工知能(AI)および機械学習(ML)の技法の使用を含んでよい。
【0126】
ここで、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【
図1】本発明の実施形態を構成する種々の構成要素間の階層的関係の模式図である。
【
図2】本発明の種々の態様に寄与する利点および実現要因の概略である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るカートリッジのモジュール式構成の種々の構成要素の図示である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係るカートリッジの主要な物理的特徴のうちのいくつかを示す模式図である。
【
図4B】本発明の一実施形態に係るカートリッジの主要な物理的特徴のうちのいくつかを示す模式図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係るカートリッジの図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係るカートリッジの図である。
【
図7】異なるコアおよびキャッシュモジュールがどのようにアドレス指定され得るかを示す、
図5Aおよび
図5Bのカートリッジの平面図および側面図である。
【
図8】試薬貯蔵装置がどのように
図5Aおよび
図5Bのカートリッジに配置されるかを示す図である。
【
図9】流体バスがどのように
図5Aおよび
図5Bのカートリッジに配置されるかを示す図である。
【
図13】
図5Aおよび
図5Bのカートリッジにおいて用いられる種々のバルブの構成を示す図である。
【
図14】複数のバルブがどのようにマルチプレクサタイプの配置で組み合わされ得るかを示す模式図である。
【
図15】複数のバルブがどのように蠕動ポンプとして動作し得るかを示す図である。
【
図18】
図5Aおよび
図5Bのカートリッジにおける熱要素についての代替的構成を示す図である。
【
図21】
図5Aおよび
図5Bのカートリッジにおけるコア/キャッシュ回路の一例を示す図である。
【
図23】
図5Aおよび
図5BのカートリッジにおけるPCR反応部位ゲートの一例を示す図である。
【
図24】
図5Aおよび
図5Bのカートリッジにおける主カートリッジバスゲートの一例を示す図である。
【
図25】
図5Aおよび
図5BのカートリッジにおけるPCR実験モジュールの一例を示す図である。
【
図26】モジュールおよびゲートがどのように本発明の一実施形態に係るカートリッジに組み立てられるかを示す図である。
【
図27】本発明の一実施形態に係る標準計器または基地局を示す図である。
【
図28】本発明の一実施形態に係る標準計器の一実施形態の制御構成の模式図である。
【
図29】
図27の標準計器のカートリッジモジュールを示す図である。
【
図30】
図29のカートリッジモジュールのキー溝機能を示す図である。
【
図31】
図29のカートリッジモジュールの電子的および熱的インターフェース部分の配置を示す図である。
【
図32】
図29のカートリッジモジュールの空気圧インターフェースの装着の配置を示す図である。
【
図33】
図32の空気圧インターフェースをより詳細に示す図である。
【
図34】液体パケットサイズを決定するためのアプローチを示す図である。
【
図35A】本発明の一実施形態において用いられる液体パケットおよび割り当てられる識別子を示す図である。
【
図35B】本発明の一実施形態において用いられる液体パケットおよび割り当てられる識別子を示す図である。
【
図36】クロック周期長さを決定するためのアプローチを示す図である。
【
図37A】規格化された操作をスケジューリングするためのアプローチを示す図である。
【
図37B】規格化された操作をスケジューリングするためのアプローチを示す図である。
【
図38A】本発明の一実施形態に係る動作方法についてのスケジュールにおける規格化された操作を用いる一例を示す図である。
【
図38B】本発明の一実施形態に係る動作方法についてのスケジュールにおける規格化された操作を用いる一例を示す図である。
【
図38C】本発明の一実施形態に係る動作方法についてのスケジュールにおける規格化された操作を用いる一例を示す図である。
【
図38D】本発明の一実施形態に係る動作方法についてのスケジュールにおける規格化された操作を用いる一例を示す図である。
【
図39A】本発明の一実施形態に係る実験の実行についてのプロトコル実行のタイミング図である。
【
図39B】本発明の一実施形態に係る実験の実行についてのプロトコル実行のタイミング図である。
【
図40】カートリッジ設計のワークフローステップの概略である。
【
図41】カートリッジ設計および開発のワークフローステップの概略である。
【
図42】カートリッジ作製のプロセスステップの概略である。
【
図43】カートリッジの使用中におけるプロセスステップの概略である。
【
図44】カートリッジにおいて反応を行う場合のプロトコル実行ステップの概略である。
【
図45】
図44に示すワークフローの各実験におけるサブステップの図示である。
【
図46】ハードウェア使用後のワークフローの概略である。
【
図47】流体経路のメッシュ配置の一例を示す図である。
【
図48】流体経路の三次元メッシュ配置の一例を示す図である。
【
図49】本発明の実施形態において用いられ得るタイプのバルブの動作部を示す図である。
【
図50】流体の流れを許容および制御するように配置された
図49に示すタイプの2つのバルブの配置を示す図である。
【
図51】本発明の一実施形態に係る2つのカートリッジの横並び配置を示す図である。
【
図52】標準インターフェース構成要素を有するカバーがどのように本発明の一実施形態に係るカートリッジの周囲に設けられ得るかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0128】
本発明の実施形態は、付加製造(3Dプリントとしても知られる)の利点を利用しており、したがって、デジタル領域および物理領域の両方において複数の要素およびモジュールを有する。
【0129】
以下の実施形態においてより詳細に説明される要素およびモジュールは、
図1に示され「スタック」と称される抽象階層としての構成に配置されるものとみなされ得る。この構成は、集積回路(IC)分野において取られるアプローチに基づくものであり、各層の相互の適合性を確保しながらも各側面の修正および開発を別個に行うことを可能とするために「スタック」の各側面の分離を可能とする。
【0130】
包括的なハードウェア構成(
図1における実線)が、性能および信頼性を向上させるために再使用され得る「モジュール」および構成要素のライブラリと共に規定され、モジュール間のインターフェースもハードウェア構成において規定されている。
【0131】
このアプローチは、より下位の詳細が「ブラックボックス化」され、「スタック」全体にわたる関連を考慮する必要なく、ハードウェアの各側面に対して設計、開発および最適化の取組みを行うことが可能となるため、設計の複雑さが低減する。
【0132】
スタックのデジタルの側面(
図1における破線)は、ハードウェアを越えて広がり、最上位の設計ツール(バイオ製造プロトコルおよび設計/シミュレーションツール)からハードウェアを制御する埋め込みコード(動作方法)までのバイオ製造プロトコルの実行に関連する様々な層を含む。
【0133】
デジタル編集ツールが、スタック全体において用いられ、3Dプリントのような本質的にデジタルの技法の使用に起因して、新たな特定用途向けバイオ製造ソリューションの開発に付随する設計の労力およびリスクを低減させる全体アプローチを可能とする。
【0134】
このアプローチの利点は、本発明が、3Dプリントによって可能となる設計自由度を利用して、各バイオ製造プロトコルに対して複数のソリューションを創出し得ることを意味するが、各特定用途向けバイオ製造ソリューションは、依然として規格化されたハードウェア上で機能し、標準的なソフトウェア制御プロトコルを実行し得る。
【0135】
抽象化法は、設計作業(例えば機能回路設計)を物理的実装およびカートリッジ作製などの「バックエンド」プロセスから分離することも可能としさらに可能とする。
【0136】
当該構成に対する抽象化アプローチはさらに、各改善が実装されるたびに根本的な再設計を必要とすることなく、技術「スタック」の様々な側面への継続的な改善が行われることを可能とする。したがって、発明の構成は、複数のより小さな改善を並行して行うことを可能とすることで、より大きな累積の性能改善を提供するという利点を有する。
【0137】
技術構成の各層の下には、本発明の実施形態を可能とするように互いに依拠する多数の実現要因および利点が存在する。スタックの各層における実現要因および利点の概略が、
図2に提供されている。
【0138】
記載されている利点の一部は、設計の自由度、機能を組み込む能力、ハイパーパーソナライゼーションおよび少量製造への適合性を含む、3Dプリント/付加製造の技法の特性から生じるものである。
【0139】
3D設計自由度により、新たなシステム構成への機能の小型化および統合が可能となり、その結果、使用箇所/必要箇所のより近くで用いるための物理的により小型なバイオ製造ソリューションが得られる。
【0140】
デジタル作製はまた、「複雑性がない」特性を有し、それにより、3Dプリントプロセスによる広範な様々なハードウェアオプションの創出が可能となる。この特性により、実質的にゼロのコストで、バイオ製造プロトコルにより必要とされる数の特徴/機能をハードウェア設計に追加することが可能となる。これは、追加的な特徴/機能の追加によりコスト、部品数および製造複雑性が増大する計装に対する従来の作製アプローチとは対照的である。
【0141】
ポリマー材料と同時にかつ近接して導電性材料をプリントする能力により、同じ作製プロセスにおいて同時に複数領域のソリューション(例えば、以下でより詳細に説明する熱ヒータおよび流体反応槽の構成要素)を作製することが可能となる。これにより、製造プロセス中に装置の機能を組み込むことが可能となる。
【0142】
ハイパーパーソナライゼーションまたは「マスカスタマイゼーション」は、デジタル作製により実現され、依然としてハードウェア上の標準インターフェースに収まり得る多数の異なるバイオ製造技術ソリューションを創出することを可能とする。これにより、以下で実施形態に関してさらに説明される「標準的かつフレキシブルな」アプローチが可能となる。
【0143】
デジタル作製はまた、ある設計の単一のユニットを作製することも、または同じ設計のより大きなバッチを作製することも可能であるという点で、「量に無関係」である。また、単一の作製過程で多数の異なる設計を作製することで、生産効率を最大化し、生産能力を最大限活用することが可能である。
【0144】
規格化された基地局またはデスクトップ計器の使用は、特定用途向けカートリッジの動作のためのインターフェースを提供する。計器は、バイオ製品およびバイオ製造プロトコルに関わらず1つの「汎用的な」計器を実現するために、規格化されたカートリッジインターフェースを有する物理的に小型の自動化されたデスクトップマウント型装置であり得る。
【0145】
この規格化により、1つの装置が、全てのカートリッジと共に動作可能な標準インターフェースを介して、多様なバイオ製造カートリッジを動作させることが可能となる。
【0146】
特に、デスクトップ計器は、ランダムアクセス方式で並列に動作する別個のカートリッジによりいくつかのバイオ製造プロトコルを同時に実行することができる。この「プラグアンドプレイ」タイプのアプローチにより、熟練度の低いユーザが最小限の介入で自動化された計器においてバイオ製造プロトコルを効果的に実行することが可能となり、それにより、実質上、ユーザが特定のカートリッジを差し込み、そのカートリッジの処理を開始し、カートリッジにより実行中の処理が完了したときに返却することのみが必要となる。
【0147】
計器は、実行中のバイオ製造プロトコルの経過の概略を提供することに加えて、(無線または固定の接続部を介して)クラウドベースのデータベースへと伝送され得るバイオ製造プロセス分析データを収集するための、内蔵グラフィカルユーザインターフェース(GUI)を有する。
【0148】
計器および個々のカートリッジの両方の「標準的かつフレキシブルな」特性により、1つの計器を多様なバイオ製造プロトコルに用いることが効果的に可能となる。各バイオ製造プロトコルについてのハードウェアカスタマイズは、依然として規格化された計器インターフェースを有するカートリッジ内で対処される。
【0149】
本発明の実施形態は、大幅に小型化および統合された機能を物理的に小型のパッケージに収容することが共通の課題である集積回路(IC)産業からの原理を利用する。よって、本発明の実施形態は、複雑プログラムを最小限のインフラストラクチャで実行するように設計されるバス、コア、キャッシュなどの特徴を有するマイクロシステム構成を含む。
【0150】
本発明の実施形態は、1つまたは複数のバイオ製造プロトコルをカートリッジ内で行うことを可能とするための反応器機能を有するモジュール式カートリッジを提供する。特に、3Dプリントにより利用可能な自由度を用い、IC産業におけるものと同様の構成を採用することで、統合および小型化が可能となり、より多くのハードウェア/インフラストラクチャにつながり、それにより、物理的により小さいパッケージにおいて所与の一回でより多くの動作が行われることが可能となる。
【0151】
カートリッジ構成に対するモジュール式アプローチにより、特定用途向けバイオ製造プロトコルを創出するために必要に応じて「モジュール」を追加/編集することが可能となる。
【0152】
さらに、モジュールは、専有モジュールのライブラリからソフトウェアにより選択され得る。一般的なバイオ製造ステップのための標準モジュールは、カートリッジ設計の労力を低減させる。専有のバイオ製造ステップを保護および実現するために、新たなモジュールを創出することができる。
【0153】
カートリッジは、外部において、それらが設計される特定用途に関わらず、ポートおよびコネクタなどのインターフェース構成要素の同一の配置を有するデスクトップ装置に対する標準インターフェースを有するが、カートリッジ内部は特定の製造プロトコルに合わせてカスタマイズされる。
【0154】
モジュール式アプローチは、設計開発の労力を低減しつつ、信頼性を最大化することができる。
【0155】
カートリッジ構成はまた、マイクロ流体工学またはミリ流体工学(milifluidic)のアプローチのいずれかを利用して、流体体積を低減しプロセス制御を改善することを可能とするために、スケーラブルであるように設計される。
【0156】
既知の性能を有する特徴付けられた「基準」設計を各々が有する様々なバイオ製造アプリケーションについて、広範なカートリッジの設計または「エンジン」を創出することができる。既知のカートリッジ性能基準から開始することの利点は、信頼性の向上、開発リスクの低減、および設計開発の労力の低減を含む。
【0157】
3Dプリントの「複雑性がない」側面のさらなる利用は、一部の機能がプロトコル実行中に用いられない可能性がある場合であっても複数のシナリオにバイオ製造プロトコル内で対応することができるカートリッジ内の冗長機能の追加である。これは、より高い複雑性/機能性が通常より大きなコストを生じさせるため、大量の操作が逐次的に行われる従来のバイオ技術消耗品およびマイクロ流体力学とは対照的である。
【0158】
冗長機能は、バイオ製造プロトコルの実行のための柔軟性を可能とし、処理される際の生体材料の挙動に反応する能力を実現する。
【0159】
例えば、特定のバイオ製造プロトコルは、4つの可能な実行ルートを有する場合があり、そのうちの1つのみが、所望の製品を生産するために完全に実行されることになる。しかしながら、プロトコルが開始したときにどれが実行されることになるかは不明であり得る。本発明の実施形態では、1つのカートリッジ設計が4つの代替的なプロトコル実行ルート全てに対応する。カートリッジ機能の25%のみが用いられる場合があるが、どの25%であるかは不明であるため、全ての可能なオプションに対応する。この任意選択的な機能については、以下でより詳細に説明する。
【0160】
従来、バイオ製造は、大量の体積(例えば1L、5L、50L等)で行われる。しかしながら、ほとんどのバイオ製造プロセスは、高度なプロセス制御を必要とするため、したがって大量の流体体積をより小さい液体体積に分割することが望ましい。例えば、1Lの体積は、必要とされるステップに応じて、2x500mL、4x250mL、または5x200mLの体積に分割され得る。
【0161】
より小さい液体体積により、バイオ製造サブプロセス(およびサブサブプロセス)に対するより高度な制御が可能となり、サブプロセス実行に対するより高度なプロセス制御につながり、結果として最終的なバイオ製品のより高度な品質が得られる。
【0162】
特定の実施形態において、高複雑度のカートリッジと低減した液体体積との組み合わせにより、より多くの操作を並列に行うことが可能となる。例えば、複数のより短い経路により、別個の試薬を並列に搬送することができ、これはより長い流体経路で一度に1つずつ移送することとは対照的である。
【0163】
高複雑度のカートリッジおよび低減した液体体積により、多数のサブプロセスおよびサブサブプロセスに分割されたバイオ製造プロトコルが可能となる。これは、スケジューリングおよびリソースの使用に対するより高度な制御を可能とし、現在の最新技術と比較して根本的に異なる方式でバイオ製造プロトコルを行うことを可能とする。
【0164】
例えば、大きなステップおよび/または操作を、各々が可能な限り短時間で行われるより大量のより小さい操作を伴うサブステップおよびサブサブステップに分割することができる。これにより、特定の操作の並列処理を可能とすることができ、上述の3Dプリントの「複雑性がない」利点を利用することができる。
【0165】
並列操作は、プロセスクロック、リソーススケジューリング、およびコアスレッディングなどの技法が開発されている集積回路分野においても一般的である。バイオ製造分野において同様の技法を応用することで、高複雑度のカートリッジを用いて並列の複雑なバイオ製造プロトコルの実行の最適化を可能とすることができる。
【0166】
同様に、IC分野からのシミュレーションなどの技法が、本発明の実施形態のバイオ製造装置およびプロセスに関して適用可能である。これらにより、高複雑度のシステムをより扱いやすいサブタスクに分割することを可能とすることにより、物理的作製の前に処理量、全体的な複雑性、コスト等に関する設計の解析を行うことが可能となり得る。これは、サブシステムの機能的マクロモデル化を伴う構成システムシミュレーションおよび流体的、電子的、熱的等の要素の集中定数節点モデル化(lumped-parameter nodal modelling)を伴う回路構成要素シミュレーションの両方を含む。
【0167】
よって、本発明の実施形態は、システムレベルの性能解析の方法論を含み、システム構成に対する全体的な適用の実行から個々の構成要素の動作に至るまでの動的挙動を特徴付けるために、複数の分野からの現象論的法則を組み込む。
【0168】
カートリッジにおいてプロトコルを行うための命令は、適応可能なように必要に応じて自動的に修正され得る複数の方法で実行され得る。適応可能なプロトコル実行は、カートリッジにおける種々のセンサから得られるフィードバック、およびこれらのセンサが作成するプロセス内解析データにより実現される。基地局に配置されるコンピュータコントローラは、このプロセス内データに対して働くことが可能であり、全体的なプロトコル実行を適合するように適応させる。これにより、例えば、品質にばらつきのある原料への対応が可能となる。
【0169】
そのような方法は、最終的には1つの実行シナリオが生じ、全体的なカートリッジ機能のうちの少量のみの使用が必要となる場合であっても、複数のバイオ製造プロトコル実行シナリオのための冗長機能に対応する能力を有するカートリッジを用いることを含んでよい。様々なプロトコル実行オプションに対応するこの内在能力は、全体的なプロセス制御のための高度な柔軟性を提供する。また、これにより、初期のプロトコルステップについて複数のプロトコル実行ルートを並列に実行し、次いでその後に後のバイオ製造プロトコルステップについて単一の最適な実行ルートを実行することが可能となる。
【0170】
したがって、技術プラットフォームは、品質にばらつきのある開始原料(例えば患者から得られる生体原料)に対応することが可能である。いくつかのプロトコル実行ルートを初期のプロトコルステップにおいて探索することができ、その後、最適なルートが選択される。
【0171】
この機能により実現される利点もまた、好適または最適な実行シナリオを決定するための機械学習および人工知能などの追加的な技法およびアプローチの使用に適用可能である。個々のカートリッジの動作からのデータは、そのような技法の継続的な改善に用いられるために中央位置にフィードバックされてもよい。
【0172】
実際、動作データの収集のために各カートリッジに多数のセンサを実装するオプションが存在する。センサは、カートリッジの設計段階で特定され、そのバイオ製造プロトコルに必要な特定のパラメータに特化させることができる。各プロトコルの各ステップに特有な大量のメタデータの収集は、AI/MLのより長期間の使用および訓練セットの作成に有益である。
【0173】
カートリッジハードウェアの固有の柔軟性は、いくつかのカートリッジを共に単一の計器または基地局に接続する能力を提供する。これは、例えば、複雑なバイオ製造プロトコルの実行のために(すなわち2つのカートリッジが実効的に「スーパーカートリッジ」として機能する)、または同時にまたは制御された方式で要求され得る同じバイオ製造プロトコルの2つのバッチの同時実行のために(例えば、バッチ1が生産される前でなく生産された後X時間でバッチ2が利用可能となるべきである)、行われる場合がある。
【0174】
複数のカートリッジを共に同じ計器にネットワーク接続する能力は、高度な柔軟性を提供し、単一の計器に例えば5倍の数の別個のバイオ製造プロトコル(各々異なるカートリッジ)を動作させる、または5倍の数の接続および同期されるカートリッジにより1倍の数の非常に複雑なバイオ製造プロトコルを動作させる能力を可能とする。
【0175】
多数の並列なまたは接続されたカートリッジの上記の例は、単に例示のために提供されており、限定としてみなされるべきではないことは理解されよう。当業者であれば、任意の数のカートリッジが、基地局または計器の設計によってのみ限定されて、原則として並列にまたは組み合わせで実行され得ることを本説明から理解するであろう。
【0176】
同様に、上記の説明は、単一の計器または基地局上で動作する複数のカートリッジに注目したものであるが、ネットワーク接続を行うこの能力は、カートリッジ間の基準に限定されず、計器間のレベルにも当てはまり、複数の計器が共にネットワーク接続される可能性がある。例えば、高度に複雑なバイオ製造プロトコルは、各サブプロセスがそれ自体複雑な15のサブプロセスを必要とし得る。これは、各々が5つのカートリッジに対応可能な3つの計器を共にネットワーク接続することにより実現される場合があり、それにより、所望の15のサブプロセスを並列に同時実行することが可能となる。
【0177】
特定の実施形態において、デジタルネットワーク機能が、分散化された大規模実験の実行を実現するために、複数の地理的に多様なカートリッジおよび/または計器が仮想ネットワークで接続されることを可能とするために用いられてよい。この配置は、実験スペースが極めて大きくなる可能性があり、一箇所で多数の実験を並列に行うことが難しい場合のバイオ製品R&Dに特に有用であり得る。
【0178】
バイオ製造プロトコルおよび設計/シミュレーション
【0179】
3Dプリントは、基本的にはデジタルの技法であり、そのため、3Dプリントなどの基礎的なデジタル技法によりバイオ製造ハードウェアを作製することで、バイオ製造プロセスデータとハードウェア使用との間の直接的な連携が可能となる。これにより、実際のバイオ製造データに基づくバイオ製造ハードウェアの最適化が可能となり、現在の柔軟でないバイオ製造ソリューションに伴う課題を克服することができる。
【0180】
バイオ製造プロセスデータとバイオ製造ハードウェアとの間の連携は、本節で説明される本発明の種々の要素を統合し、特定用途向けのバイオ製造ハードウェアの創出を可能とするためのデジタル編集ツールの使用により実現される。
【0181】
デジタル編集ツールの使用は、デジタル方式で特定のバイオ製造プロトコル各々について様々なバイオ製造ハードウェアオプションを設計およびシミュレーションする能力などの大きな利点をもたらし得る。このアプローチにより、新たな特定用途向けバイオ製造ソリューションの開発に付随する設計の労力およびリスクを低減することができる。
【0182】
本発明の実施形態において提供されるデジタルツールは、既存の製造「モジュール」からの高度なバイオ製造プロトコルの創出を通して非専門家(すなわち深いバイオ製造の知識を有しない者)をガイドするバイオ製造プロセスエディタソフトウェアプログラム、および、このプロセスエディタの出力を計器において用いられ得る物理的カートリッジ設計に変換するハードウェア設計エディタを含む。
【0183】
特定用途向けバイオ製造カートリッジの設計、開発および作製が済むと、カートリッジの使用により生成されるデータがデジタルツールに逆流することで、バイオ製造プロトコルについての最適化機会の特定が可能となる。そしてこれにより、バイオ製造プロセスデータとバイオ製造ハードウェアとの間のデジタル連携を利用して、基礎的なカートリッジ設計を更新することが可能となる。
【0184】
デジタルツールは、中央プラットフォームに保持され、それにより、複数の外部パーティが特定用途向けバイオ製造ソリューションを内製の製品/ソリューションを開発するよりも迅速、高速かつ安価に構築することが可能となる。
【0185】
複数の外部パートナを有することで、プラットフォームがバイオ製造分野にわたる学習および開発を蓄積することが可能となる。これにより、開発時間、労力およびコストを低減し、プラットフォームがあることで、プラットフォームがない場合よりも、パートナがより効果的に発展することが可能となることにより、大きな利点を提供することができる。これにより、共通の課題に対して試験済みのモジュールおよびソリューションを用いることで、技術的リスクを低減することもできる。
【0186】
PCRカートリッジの実施形態
【0187】
ここで、本発明の一実施形態に係るモジュール式反応器または「カートリッジ」の一実施形態について説明する。これは、
図1に示す階層の文脈における「ハードウェア-カートリッジ」の一実施形態である。
【0188】
本実施形態のカートリッジは、PCRを行うように配置され、本文書において前述した実現要因のうちの複数を具現する。
【0189】
3Dプリントの利点(「複雑性がない」等)により、個々のカートリッジ内における3Dプリントされた機能(例えば流体工学、電子工学等)の高度な小型化および統合が可能となる。小型化および統合の利点を最大化するために、統合および小型化が通常の課題である他の技術分野、特に集積回路産業から適合された特定の技法が提供される。
【0190】
カートリッジ設計は、従来の集積回路(IC)構成において用いられるトポロジーに基づく。本実施形態のカートリッジにおける実装に適合されたIC構成の主要な特徴は、以下を含む。
・ICにわたってデータの「パケット」を並列に搬送することを可能とするリング型バス。
・各々が(計算)タスクの実行を行うための装置の特定の領域である複数のコア。
・複数のキャッシュ。各コアは、前の計算タスクが行われている間にコアに搬送されたパケットと共に用いる前にコアの近くにデータのパケットを格納する1つまたは複数のキャッシュを有する。使用直前にコアの近傍にパケットを保持することにより、計算タスクの実行が加速し、全体的なシステムレイテンシが低減する。
・クロック周期。ICは、全てのICリソースの最適な使用を確実にすることの助けとなる、システムクロックにより全てが同期される計算タスクを行うコアと並列に、複数のパケットの搬送および格納の操作を実行する。
【0191】
本実施形態の高複雑度PCRカートリッジは、単に、本発明の実施形態を形成する多数の可能なカートリッジの一例として提供されていることが理解されよう。特定の実施形態に係るカートリッジは、そのモジュール式構成、標準的なカートリッジフレームワーク、および標準的なカートリッジパケットおよびアドレス指定形式を含むいくつかの一般的特徴を有する一般的構成に準拠する。
【0192】
カートリッジのモジュール式構成は、
図3に示す装置、回路、ゲートおよびモジュールなどの階層における種々なレベルを規定することにより、多数のカートリッジの異型を可能とする。
【0193】
ハードウェアレベルおよびインターフェースの規定により、ハードウェアおよびソフトウェアが相互に動作することがより容易になる。この規格化は、カートリッジ、計器およびプロトコル間での共通化を実現しつつ、特定用途向けモジュールの組み込みを可能とする。
【0194】
カートリッジのモジュール式構成はまた、後方互換性を実現し、それにより、新たな特定用途向けカートリッジを開発する時間、労力およびコストを低減するための、様々なカートリッジ要素(例えば装置、回路、ゲートおよびモジュール)の再利用が可能となる。
【0195】
標準的なカートリッジフレームワークは、特定の用途、特定のバイオ製品R&D実験、特定のバイオ製造プロトコル、複数の流体体積および/または特定の化学合成反応(例えば低分子医薬品におけるAPI製造)のための無限に構成可能な範囲のカートリッジを実現することが可能な単一のフレームワークである。
【0196】
カートリッジは全て、計器(ポート、接続部等)に対する標準インターフェース、同じ計器における他のカートリッジとネットワーク接続する能力を含む規格化された特徴を提供し、カートリッジにおける様々なレベルのハードウェアをサポートすることができる。
【0197】
標準カートリッジフレームワークの主要な物理的特徴が、全て外部ハウジング15内に含まれる、複数の流体経路または「バス」12および複数の体積14を含むカートリッジ10を示す
図4Aおよび
図4Bに示されている。外部ハウジング15は、流体の入力/出力のためのポート16a、および計器または基地局への電気的、熱的、気体的、および/または光学的な接続のためのコネクタ16bを含む複数のインターフェース点16を有する。
図4Bは、インターフェース点16をより明確に見ることができるように、
図4Aの逆向きの図を示す。
図4Aおよび
図4Bの例においては、インターフェース点16の各々に接続された内部構成要素を特定のカートリッジ10が必ずしも有しないことがわかる。以下の詳細な説明から、
図4に示すカートリッジは、構成要素の構造および配置を示すために大幅に簡略化された実施形態であることは理解されよう。
【0198】
カートリッジ10は、
図4に示すように水平面(X-Y)における固定の底面を有し、かつ同様に固定の鉛直寸法を有していてもよく、または拡大縮小可能であってもよい。固定の底面により、計器または基地局とのモジュール式の係合が容易になる。カートリッジの鉛直寸法が拡大縮小可能である場合、インターフェース点16は全て、基地局における対応するインターフェース点と係合するように常に存在するように、最小の鉛直高さ以内で、および/またはカートリッジ10の下面に配置される。
【0199】
よって、カートリッジ10は、物理的なサイズおよび構成(特にインターフェース点16)に関して標準フレームワークを有するが、その内部構成について実効的に無限の可能性を有し、内部構成要素の各構成は、特定の適用領域にカスタマイズされる。
【0200】
カートリッジの適用例は、合成生物学を含むバイオ製品の設計、構築、試験サイクル、PCRおよびフローサイトメトリなどの広範な技法による実験に対する実験計画法(DoE)アプローチの設計、(例えば所望の性質を有する細胞変異体についての)細胞特性解析および細胞スクリーニング実験、バイオ製造プロトコル開発、バイオ製品/療法製造、製造プロトコルステップ、上流処理(すなわち細胞培養)、下流処理、製造品質保証(QA)プロセスなどのバイオ製品のR&D実験および調査を含む。
【0201】
カートリッジ構成の変形例は、適用領域に対してカスタマイズされてもよく、バイオ処理パラメータおよび所望の最終バイオ製品は、アプリケーションごとに異なり得る。例としては、医薬品製造、細胞療法、遺伝子療法、ワクチン、従来のバイオ治療(例えば抗体ベースの医薬品、インシュリン、バイオシミラー等)、バイオ燃料、特殊なバイオ製品、高価な芳香剤、特殊食品、化学合成反応、低分子医薬品のためのAPI製造、ジェネリック等が挙げられる。
【0202】
上述の標準カートリッジ構成の具体的な実施形態は、高複雑度PCRカートリッジである。本実施形態に係る高複雑度PCRカートリッジの全体的な設計を、
図5Aおよび
図5Bに示す。以下でより詳細に説明する本実施形態は、本ケースではバイオ製品R&Dのシナリオにおいて論じる広く普及している生命科学技法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく。
【0203】
PCRは、一般的な技法であり、何らかの新たな複雑なバイオ製造技法を導入する必要性を排除するため、高複雑度のカートリッジを例示するための伝達手段として用いられる。しかしながら、本実施形態は、高複雑度カートリッジが具現され得る単なる一例であることは理解されよう。
【0204】
高複雑度のカートリッジは、主要なモジュールが特定され詳細な構成要素が明確性のために除かれている
図6に示すカートリッジの物理的設計において具現される。これは、個々の「モジュール」(コア22およびキャッシュ24の組み合わせなど)がカートリッジ10全体における並列処理能力を構築するためにどのように用いられ得るかを示す。
【0205】
(
図7に示すように)以下の形式を用いることによりカートリッジ内の18のコア/キャッシュモジュールのうちのいずれか1つを識別することを可能とする物理アドレス指定方針が提供される。
[水平位置]、[鉛直位置」、[番号]
【0206】
例えば、各コア/キャッシュモジュールは、コア/キャッシュ:[左]、[中]、[1]またはコア/キャッシュ:[右]、[下]、[3]などのリファレンスを有する。
【0207】
高複雑度PCRカートリッジは、3Dプリントにより実現され、流体的、気体的、電子的、熱的、光学的、および生物学のドメイン領域における機能を有する「装置」と称される複数のコア構築ブロックを備える。
【0208】
各装置は通常、領域特化の機能を実行し、これらの装置は、独立して用いられ得るが、より一般的には以下でより詳細に説明するように組み合わせで用いられる。抽象化階層における装置の位置は、
図1に示されている。
【0209】
3Dプリントはデジタル技法であるため、装置設計をデジタルで編集することが可能であり、それにより、様々な流体体積および/またはプロトコルステップに適合するようにパラメトリック/スケーラブルな装置設計を創出することが可能となり、装置の新たな異型を迅速に再構成し形成する能力が提供される。中長期的に新たな装置および既存の装置の異型を創出することにより、装置ライブラリの拡張が可能となり、全体的なカートリッジの開発時間、労力およびコストが低減する。
【0210】
流体装置
【0211】
流体装置は、カートリッジ内の液体体積の貯蔵、搬送、改変(例えばいくつかの液体の混合)および加工を可能とする。
【0212】
試薬貯蔵装置
【0213】
高複雑度PCRカートリッジは、カートリッジに格納された3種類の液体、すなわち試料、バッファおよびヌクレアーゼフリー水を有する。
【0214】
試薬貯蔵装置は、所与の液体体積を保持するように、カートリッジ本体内の体積を提供する。それにより、カートリッジ作製プロセスの前またはその間における液体体積の挿入も可能となり得る。
図8は、試薬貯蔵装置14がどのように本実施形態のカートリッジに配置されるかを示す(他の構成要素は明確性のために大幅に取り除かれている)。
【0215】
試薬貯蔵装置は、液体をカートリッジ内の他の場所へ搬送することを可能とするための関連する流体バスへの接続部を提供し、また、液体をカートリッジにわたって搬送するための原動力を提供するための作動源への接続部も提供する。
【0216】
試薬貯蔵装置は、試薬体積が液体で充填されることに伴い、置換された気体の排出を可能とするためのフィルタ通気孔機能(以下でより詳細に説明する)を提供し得る。
【0217】
試薬貯蔵体積は、カートリッジ本体内の材料空隙(付加製造プロセス中に充填/形成されない体積)で構成され、追加的な機能(例えばフィルタ通気孔)が空隙または周囲の材料に作製される。
【0218】
複数の構成が可能であり、ジオメトリおよび物理的形状は、液体体積およびその特定の性質(例えば粘度)に適合するように変更することができる。試薬貯蔵部の形状は、カートリッジ内のスペース制約に適合するように調整することができ、結果として不規則形状の使用が生じる。これは、スペースが貴重である場合に有用で有り得、全体的なカートリッジ体積をコンパクト化することを可能とするために用いられ得る。
【0219】
貯蔵体積は、1つの大きな試薬体積から、ジオメトリにより実現されるいくつかのより小さな部分的体積にまで及び得る。
【0220】
試薬貯蔵装置は、3Dプリントされたカートリッジ内に封止された体積に液体を格納することを可能とし、その結果、漏出経路が最小限になるまたはなくなり、これは漏出リスクの低減および汚染リスクの低減につながる。
【0221】
3Dパラメトリックフィルタ装置
【0222】
液体試薬体積は、置換された気体を逃がすための通気経路を必要とする場合が多い。ガスが逃げると同時により大きな分子が放出されることを防止する必要があり、より大きな分子を捕捉するために通気孔にフィルタが必要となる。
【0223】
試薬貯蔵装置14は、好適な細孔サイズ(例えば20μm)で構成される機構を有する。3D作製により、特定のカートリッジ設計ごとに対象となるより大きな分子に適合するように細孔サイズを調整することが可能となる。細孔サイズは、フィルタ面にわたって一様である必要はなく、種々の手段により適合するように調整されてよい(例えば、実際の細孔サイズの調整、限定されるものではないがマトリックスタイプの構造などの細孔を形成する幾何学的構造の調整)。
【0224】
フィルタは、剛性材料、可撓性材料、または、2つの材料を異なる比率で同時に3Dプリントすることにより実現されるカスタムの準可撓性材料混合物から作製されてよい。
【0225】
流体バス
【0226】
流体バスは、カートリッジの内部において液体体積を搬送するための手段を提供し、IC内のバスと同様に動作する。
【0227】
よって、流体バスは、カートリッジの様々な領域(またはサブ領域)に液体を搬送するための手段を提供し、特に、1つの流体経路においてカートリッジの全ての主要な領域間の流体接続を提供する。
図9は、流体バス12がどのように本実施形態のカートリッジに配置されるかを示す(他の構成要素は明確性のために大幅に取り除かれている)。
【0228】
流体バスは、カートリッジの多数の領域(およびサブ領域)への流体接続点を収容することが可能であり、バス体積が液体で充填されることに伴い、置換された気体の排出を可能とするための通気孔機能を有していてよい。
【0229】
試薬貯蔵部と同様に、バスは、カートリッジ本体内の材料空隙で構成される。
【0230】
バスの複数の構成が可能であり、サイズ、ジオメトリおよび物理的形状は、液体体積およびその特定の性質(例えば液体粘度)に適合するように変更することができる。バスのジオメトリおよび物理的断面も、搬送される液体に適合するように変更され得る。
【0231】
バスのルート設定およびパッケージングは、カートリッジ内のスペース制約に適合するように調整することができ、結果として不規則形状の使用が生じ、単一または複数のバスが共にまたは順次用いられ得る。
【0232】
バスは、鉛直の向きまたは水平の向き(または実際には2つの混合であり、結果として3Dプロファイルが生じる)で具現されてよく、カートリッジにおける液体処理量を向上するために他のバスと並列に用いられてよい。主バスと並列に配置されたサブバスを用いることもできる。
図10は、PCRカートリッジ10内の複数のサブバス12aの位置を示す。
【0233】
バスはカートリッジ本体内に含まれるため、別個の流体管の必要性が排除され、それにより組み立て時間および複雑化が低減する。さらに、バスの設計は、搬送される特定の液体に適合するように最適化することができる。
【0234】
さらに、バスは、カートリッジ10(これは保全性の高い容器である)の本体内に含まれるため、安全性リスクを最小限にするように高い作動圧力に耐えることが可能であり得る。さらに、カートリッジ10の本体内にバスを一体に製造することで、特に各接続部が漏出リスクを生じさせる管の配置と比較して、漏出経路が大幅に低減または排除され、加えて汚染リスクも低減または排除される。
【0235】
流体メッシュバス
【0236】
流体バスの発展例において、複数の流体経路の配置が
図47に示すようなメッシュ構成で設けられてよい。メッシュバス80は、複数の流体経路82により相互接続される複数の入力/出力ポート81を有する。流体経路は、複数の流体交差部83において交差する。
【0237】
流体経路82の交差する性質に起因して、メッシュバス80を通して入力/出力ポート81から別の入力/出力ポートに至るまでに多数の流体経路が存在する。これらの経路の一部は交差部83で交差するが、一部は互いに分離している。
【0238】
流体が交差部83を通過するか否か、かつ/またはその交差部83に結合された流体経路82のうちのいずれの間を通るかのいずれか一方または両方を制御するために、バルブ(不図示)が交差部83の一部または全てに配置される。このように、バルブの協調動作により、メッシュバス80を通る流れの精密な制御を実現することができる。
【0239】
したがって、入力/出力ポート81を介してメッシュバス80に結合される、流体を使用する構成要素間における複数の接続オプションを実現することが可能である。また、各流れについて異なる経路82が用いられる場合、メッシュバス80を通る複数の異なる液体の流れを同時に有することが可能である。
【0240】
いくつかの構成において、交差部83で交わる流体経路82は、ある液体の流れを別の流れよりも優先させ、交差部83(または経路82)を通る第1の液体の流れを停止して第2の液体を通過させるように制御されてよい。
【0241】
メッシュバス80を通る種々のルートはまた、メッシュバス80の他の部分における「トラフィック」条件に応じて流体を1つの入力/出力ポート81から別のポートに搬送するための様々なオプションをコンピュータスケジューラが計画することも可能とする。特に、搬送に利用可能なオプションは、単一の物理的経路に限定されず、「直線経路」における1つまたは複数の流体経路82が既に別の液体により使用されている場合、代替的なルート設定(「直線経路」のルート設定よりも長いものであり得る)が選定され得る。
【0242】
各流体経路82(または連続する流体経路82の組み合わせ)はまた、例えばそれがさらなる構成要素またはより恒久的な格納場所に渡される前に一時的に格納される必要がある場合、液体パケット(以下でさらに論じるように個別の液体体積が用いられる場合)が格納または「一時保管」される場所を提供することができる。これにより、目的地間における液体の搬送時間の低減に関してより高い柔軟性を可能とすることができる。例えば、完全な単一の経路が完全に利用可能でない場合、個別の液体パケットは、「一時保管」操作をステップ間に有する2つの操作で場所Aから場所Bに移動され得る。
【0243】
図47におけるメッシュバス80は、流体経路82が単一の水平面内で延びるように「二次元構成」で示されているが、各メッシュバス80の平面に直交する方向において2つ以上の層で複数のメッシュバスを積層することも可能である。そのような構成において、交差部分83の一部または全てを通る流れを制御するバルブを、1つよりも多くのメッシュバス80において交差部分を制御するように構成することも可能である。代替的にまたは追加的に、バルブのうちの1つ以上は、異なる積層のメッシュバス80間で流体の流れが可能であるように、それぞれの交差部分83における流体の流れを制御することが可能である。
【0244】
メッシュバス80は、例えば三次元メッシュバス80が流体リザーバ14と共に配置されている
図48に示すような三次元構成で配置されてもよい。
【0245】
流体ミキサ装置
【0246】
多くのバイオ製造プロトコルは、2種類以上の試薬(乾燥物または液体)の混合を必要とし、したがって、高複雑度PCRカートリッジの実施形態の一部を成すものではないが、流体ミキサ装置についてここで説明する。
【0247】
流体ミキサ装置は、少なくとも2種類の異なる流体(液体または気体)の混合を促進する、カートリッジの本体を通る曲がりくねった2Dおよび/または3Dの経路を提供する。
【0248】
上述の他の流体構成要素と同様に、流体ミキサは、カートリッジ本体の材料の欠乏により形成される機構で構成される。流体ミキサ装置は、流体がミキサに供給されるときに通り、混合の結果物が送達される先である他の流体装置(試薬貯蔵部、バス等)に接続される。アクチュエータが、ミキサの2Dおよび/または3Dの曲がりくねった経路を通して流体を押し流す。
【0249】
複数の構成が可能であり、2Dおよび/または3Dの曲がりくねった経路のジオメトリ、物理的形状および長さは、流体体積、混合の要件、および特定の性質(例えば液体粘度)に適合するように変更することができ、曲がりくねった経路の長さも同様に変更することができる。
【0250】
カートリッジ内の2Dおよび/または3Dの曲がりくねった経路のパッケージングは、カートリッジ内のスペース制約に適合するように設計することができ、結果として不規則形状の使用が生じる。特に、ミキサ装置は、必要とされる任意の3Dプロファイルで具現され得る。
【0251】
複数の流体混合装置が単一のカートリッジ内で用いられ得、その各々が、混合されるべき流体の特定の要件および/またはプロトコル実行の特定の段階で要求される特定の特性に適合するように「調整」され得る。
【0252】
コア装置
【0253】
高複雑度PCRカートリッジ10において、コア装置22は、PCR反応が行われる反応槽として働く。コア装置22は、以下でより詳細に説明するキャッシュ装置24と連携して動作する。
【0254】
コア装置22は、PCR反応が行われ得るカートリッジ本体11内の体積を提供する。異なる反応のために設計されるカートリッジは、対象となる特定の反応のために適合または構成されるコア装置も有することになることは理解されよう。
図11は、コア装置22がどのように本実施形態のカートリッジに配置されるかを示す(他の構成要素は明確性のために大幅に取り除かれている)。
【0255】
コア装置22は、予め格納された液体がコアに挿入されることを可能とするための1つまたは複数のキャッシュ装置への流体接続部、および、キャッシュを用いることなくコア体積への液体の直接挿入を可能とするためのバスへの流体接続部を有する。これはまた、コア装置の体積が液体で充填されることに伴い、置換された気体の排出を可能とするための通気孔を有していてもよい。説明した他の流体構成要素と同様に、コア装置22は、カートリッジ本体における材料空隙として形成される。広範な構成が可能であり、サイズ、ジオメトリおよび/または物理的形状は、反応液体体積およびその特定の性質(例えば液体粘度)に適合するように選定することができ、好適な反応動態を提供するように構成または設計することもできる。
【0256】
コア装置22の形状および構成は、カートリッジ内のスペース制約に適合するように設計することもでき、結果として不規則形状の使用が生じる。特定のコア装置についての構成オプションは、単一の大きなコア装置に加えて、利用可能な空間およびジオメトリにより実現されるいくつかのより小さなサブ体積を含む。
【0257】
コア装置22は、熱ヒータなどの1つまたは複数の関連する装置の組み込みを可能するための十分な表面積を提供するように配置されてよく、これにより、コア装置における反応の性能が可能となるまたは向上する。
【0258】
各カートリッジにおけるコア装置のサイズ、形状および構成の柔軟性に起因して、各反応部位は、カートリッジにおける他の反応槽とは無関係に、その部位で生じる特定の反応に適合するように最適化することができる。これは、例えば標準的なラボラトリーオートメーションにおける96ウェルプレートの使用と比較しても遜色がない。
【0259】
さらに、コア装置22において行われる反応は、カートリッジ内に含まれる封止された体積内で生じ、その結果、漏出経路が低減しまたはなくなり、汚染リスクも低減する。
【0260】
キャッシュ装置
【0261】
PCRカートリッジにおいて、キャッシュ装置24は、材料がコア装置22において反応に用いられる前にコア装置22に近接または隣接して格納されることを可能とする。これにより、前処理ステップを行う(例えばコアへの移送の前に所与の温度まで到達させる)ことが可能となり、液体「パケット」を高複雑度PCRカートリッジにわたって搬送するための全体的な輸送時間を低減することにより、全体的なプロトコル実行時間も低減する。
【0262】
キャッシュ装置24は、流体体積を格納し、PCR反応を行うためにコア装置に移送する前にそれらの流体体積に対して事前反応処理を行うためのカートリッジ本体内の体積を提供する。
図12は、キャッシュ装置24がどのように本実施形態のカートリッジに配置されるかを示す(他の構成要素は明確性のために大幅に取り除かれている)。
【0263】
キャッシュ装置24は、予め格納された液体がコアに挿入されることを可能とするための1つまたは複数のコア装置22への流体接続部、および、液体「パケット」をキャッシュ装置24に移送することを可能とするためのバスへの流体接続部を有する。これはまた、キャッシュ装置の体積が液体で充填されることに伴い、置換された気体の排出を可能とするための通気孔を有していてもよい。
【0264】
キャッシュ装置24は、熱ヒータなどの1つまたは複数の関連する装置の組み込みを可能するための十分な表面積を提供するように配置されてよく、これにより、コア装置22への移送の前の、例えば事前加熱反応構成要素による、キャッシュ装置24における前処理ステップの性能が可能となるまたは向上する。
【0265】
コア装置およびキャッシュ装置の組み合わせ動作について、以下でより詳細に説明する。
【0266】
説明した他の流体構成要素と同様に、キャッシュ装置24は、カートリッジ本体10における材料空隙として形成される。広範な構成が可能であり、サイズ、ジオメトリおよび/または物理的形状は、反応液体体積およびその特定の性質(例えば液体粘度)に適合するように選定することができ、キャッシュ装置24において要求される任意の前処理ステップに適合するように構成または設計することもできる。
【0267】
各カートリッジにおけるキャッシュ装置24のサイズ、形状および構成の柔軟性に起因して、各反応部位は、カートリッジにおける他の反応槽とは無関係に、その部位で生じる特定の反応に適合するように最適化することができる。これは、例えば標準的なラボラトリーオートメーションにおける96ウェルプレートの使用と比較しても遜色がない。ジオメトリおよび利用可能なスペースに適合するように、単一の大きなキャッシュからいくつかのより小さな体積のいずれかとしてキャッシュ装置を実装することも可能である。例えば複数の材料が必要な場合、かつ/または前処理操作が主反応の前に必要な場合、より大きなキャッシュへの供給のために配置されるサブキャッシュを有する配置が設けられてもよい。
【0268】
さらに、キャッシュ装置24において行われる任意の前処理操作は、カートリッジ内に含まれる封止された体積内で生じ、その結果、漏出経路が低減しまたはなくなり、汚染リスクも低減する。
【0269】
空気圧バルブ
【0270】
カートリッジ10にわたる液体の移動は、バス12およびコア22/キャッシュ24および/または必要に応じて他の構成要素の間の接続部を開くおよび/または閉じるバルブ26により統御される。バルブは、カートリッジと計器内のマニフォールドとの間の接続部を通して基地局により空気圧式で作動される。カートリッジ10の種々の部分で用いられるバルブ26の様々な配置が
図13に示されており、周囲の構成要素は明確性のために取り除かれている。
【0271】
バルブ26は、トランジスタを通る電流の流れが制御信号により制御される電子回路内のトランジスタと同様のものと考えることができる。
【0272】
バルブは、バルブダイアフラムの開閉により流体経路を通る液体の流れを制御するように動作する。制御経路は、バルブ26からカートリッジ10の外面まで形成され、インターフェース点16を介してバルブ26を基地局または計器に接続することを可能とする。
【0273】
説明した他の流体構成要素と同様に、バルブ26は、カートリッジ本体10における材料空隙として形成される。バルブの動作を可能とするために、1つまたは複数のエラストマー製ダイアフラムが空隙に形成される。
【0274】
エラストマー製ダイアフラムは、「非作動」位置を有し、作動されるまでその位置に留まるように構成される。ダイアフラムは、計器または基地局から提供されそれにより制御される、典型的には圧縮空気の空気圧入力(圧力)により作動され、これによりダイアフラムが1つ(または複数)の「作動」位置に移動する。空気圧の除去により、ダイアフラムが「非作動」位置に戻ることが可能となる。特定の配置において、摩擦または他のヒステリシス効果により、圧力が印加されていないときであっても、または圧力の印加が止まった後の短時間にわたり、ダイアフラムが作動位置に留まることが可能となってよい。そのような状況において、ダイアフラムは、逆向きの力(負圧または反対方向の圧力)の印加により「非作動」位置に戻されてよい。
【0275】
バルブ26は、二通りに構成され得る。バルブを通る液体の流れが通常時には阻止されるが、空気圧信号により、空気圧信号が印加されている間液体がバルブを通して流れることが可能となるように、「常時閉」(NC)のバルブが配置される。バルブを通る液体の流れが通常時には可能であり、空気圧信号により、空気圧信号が印加されている間液体がバルブを通して流れることが防止されるように、「常時開」(NO)のバルブが配置される。
【0276】
図13に示すように、バルブにより制御される流体チャネルの数は、所望のアプリケーションに適合するように調整され得る。NCおよびNOの機能の両方の組み合わせが、1つよりも多くの液体経路の流れを制御し得る単一のバルブ本体に組み込まれてよい。
【0277】
NCまたはNOバルブのいずれについても、複数の構成が可能である。バルブおよびダイアフラムのサイズ、ジオメトリおよび物理的形状は、反応液体体積およびその特定の性質(例えば液体粘度)に適合するように変更することができる。
【0278】
バルブおよびダイアフラムは、必要とされるまたは要求される任意の三次元プロファイルにおいて配置され得る。例えば、各バルブは、近傍のバルブとは無関係に、その部位で必要とされる特定の液体、流量、および生体材料に適合するように最適化され得る。構成およびプロファイルは、周囲の構成要素に基づいて選択されてもよい。バルブの形状およびパッケージングは、カートリッジ内のスペース制約に適合するように調整することができ、必要に応じて、結果として不規則形状の使用が生じる(不図示)。これは、典型的にはリソグラフィの作製方法に起因して平坦な二次元構造に限定される現在の最新技術のマイクロ流体バルブとは異なる。
【0279】
ダイアフラムのプロファイル、厚さおよび表面積は、所望の機能および用いられるエラストマー材料に応じて選定されてよい。これらのパラメータに対する変更は、必要な指示空気圧およびバルブの応答に影響を及ぼすことになる。プロファイルに対する変更は、二重動作(1つの経路を閉じつつ別の経路を開く)などの所望の挙動を生じさせるために用いられてよい。
【0280】
バルブは、カートリッジにおける他の構成要素にわたる流体の制御または移動および移送を可能とするので、本発明の実施形態のカートリッジ10の重要な構成要素である。
【0281】
空気圧で動作するバルブにより、成熟した空気圧技法を用いることにより計器とのカートリッジインターフェースが簡略化する。バルブの設計は、3Dプリントで比較的単純にすることもできる。しかしながら、空気圧バルブに代えてまたは加えて、電子的に作動される構成要素を有するバルブが用いられることもあり得ることは理解されよう。
【0282】
空気圧で駆動されるバルブにより、全ての液体がカートリッジに留まることが可能となり、それにより、カートリッジ内におけるバイオ製品に対する汚染のリスクが低減し、計器の汚染のリスクが低減し、計器の作業者のリスクが低減する。
【0283】
【0284】
左側の図面は、主バスバルブ26aの実施形態を示す。これらは、コア/キャッシュの各「ブロック」への試料または試薬の流れを制御する。これらのバルブ26aは、(コネクタ28を介して)各々の個々の空気圧制御部を有する1つの本体に装着される3つのNCダイアフラムを有する。これらにより、例えば一度に液体一種類ずつ、または3種類までの液体を並列に、各液体の流れが必要に応じて生じることが可能となる。
【0285】
中央の図面は、キャッシュ制御バルブ26bの実施形態を示す。これらは、各キャッシュへの試料または試薬のいずれかの供給を制御する。これらのバルブ26bは、(コネクタ28を介して)各々が別個の空気圧制御部を有する単一の本体に装着される2つのNCダイアフラムを有する。これらにより、キャッシュへの単一の入力または並列に2つの入力が可能となる。
【0286】
右側の図面は、コア/キャッシュモジュールバルブ26cの実施形態を示す。これは、2つの異なるキャッシュからのコアへの液体の流れを制御する。このバルブ26cは、各々が別個の空気圧制御部を有する単一の本体に装着される2つのNCダイアフラムを有する。これらにより、一方または両方のキャッシュの内容物がコア体積に入ることが可能となり、各々の独立制御により、キャッシュ1およびキャッシュ2の液体体積の異なる体積が必要なプロトコルに応じてコアに入ることが可能となる。
【0287】
複数のバルブを共に組み合わせることにより、さらなる機能が設けられてよい。これの3つの例が、マルチプレクサ、蠕動ポンプおよびミキサである。
【0288】
各々が場合によっては異なる数の入力および出力を有する並列な複数のバルブを1つの全体的なコンピュータコントローラの下で単一体として組み合わせることにより、比較的少数の被制御バルブで多数の出力を実現する「マルチプレクサ」を形成することができる。
【0289】
この種の配置の一例の模式図が、バルブの実質的に二次元の配置について
図14に示されている。ここでは、3つのバルブが8つの出力を制御するために用いられる。三次元の設計自由度により、
図14に示す二次元設計とは大幅に異なる新たなマルチプレクサ設計が可能となることに留意されたい。
【0290】
順次作動される3つ(またはそれよりも多く)のバルブの線形的な組み合わせにより、ポンプ機能を形成することが可能となる。予め設定された順序でバルブを作動することにより、蠕動ポンプにより作動される液体と類似の方式でバルブを通して液体を押し流すことが可能となる。
【0291】
図15は、この原理の動作を示す。3D設計自由度により、例示されている2D設計とは大幅に異なる新たなポンプ設計が可能となることに改めて留意されたい。
【0292】
図14に示すバルブ配置の作動順序の調整により、1つまたは複数の出力への通過の前に入力を共に組み合わせることが可能なことに伴い、混合機能を生じさせることも可能となる。
【0293】
バッドバルブ
【0294】
本発明のカートリッジにおいて用いられ得るさらなるタイプのバルブとして、機械式の「バッド」バルブがある。例示的なバッドバルブ90の動作部は、
図49に示されており、密な流体封止を形成するために変形して挿入先の流体経路または入力/出力ポートの形状に適合し得るエラストマー先端部92を有するポリマーシャフト91で構成される。
【0295】
バッドバルブ90は、予め決定された配置においてバルブを通して流体連通を可能とすることにより、流体の流れを制御する、または広範な可能性から流体経路を選択するためのgo/no-goバルブとして用いられ得る。特定の配置において、それらは、液体が流体経路に入ることを可能とするために、かつ/または流体経路における液体に原動力を供給するために、流体経路における空気/気体の通気を提供するように、空気の流れを流体経路の内部または外部に導くために用いられてよい。
【0296】
バッドバルブ90は、少なくともシャフト91の先端部において中空状の管状構造を有することにより、経路および/または通気孔の代替的な選択を可能とするように構成される。先端部92は、シャフト91の中空状の内部に接続する開口部93を有する。中空状の内部は、シャフトの長さの約半分にわたって延びていてよく、1つまたは複数の側面開口部94と連通していてよい。
【0297】
go/no-goバルブとして用いられる場合、バッドバルブは、上記でさらに説明されているメッシュバス80と共に組み込まれ、そのバスにおける流体経路82の交差部83に配置されてよい。バッドバルブは、それらのシャフトがメッシュバス80の平面に垂直に延び、各交差部に配置されることで、それらが開いた(交差部から除去された)場合に交差部を通る流体の流れが可能となるように配置されてよい。
【0298】
複数のバッドバルブの同時制御により、メッシュを通して所定の流体経路を形成することが可能となる。メッシュバス80を通る種々のルートは、ユーザまたは反応プロトコルにより規定されるトラフィック条件および/または搬送ルールに適合するようにコントローラにより選択され得る。制御は、ルール(例えば、特定の第1の化学試薬は、第2の化学試薬がある表面に接触した直後にその表面に接触してはならないというもの。これはメッシュバスを通してのルート設定を通知または計画するために用いられ得る)による制約を受けてもよい。
【0299】
一対のバッドバルブ90が、例えば
図50に示すように、液体の流れを制御し(バルブ90a)、また選択的に通気することが可能な装置を形成し、かつ/または同じ経路への動力源を提供する(バルブ90b)ために組み合わせで用いられてよい。
【0300】
これにより、各装置が液体の流れを制御し、液体経路の始点(動力バス95に接続された水平バルブ90b)、中間点または終点(通気バス96に接続された水平バルブ90b)のいずれかとなることが可能となる。
【0301】
バッドバルブ90は、バルブの先端部91と反対側の端部に取り付けられ、一体化された親ねじを有するサーボ(不図示)により駆動される。サーボは、カートリッジに直接装着されてもよく、または一体に製造されてもよい。あるいは、サーボは、基地局に装着されたサーボをカートリッジに装着されたバッドバルブに接続する結合機構を用いて、基地局に配置されてよい。
【0302】
電子装置
【0303】
カートリッジ10内の電子的機能は、複数のパラメータを測定および/または制御するために種々の検知要素をカートリッジの様々な領域に組み込むことを可能とする。
【0304】
電子装置の作製方法は、3Dプリントに限定されず、外部表面におけるインクジェットプリントも含む。
【0305】
この特定の実施形態では、サーミスタについて説明するが、これは、多数の電子センサがどのように本発明に組み込まれ得るかの1つの例示にすぎない。以下の説明は、全ての電子センサに当てはまるものと考えることができる。
【0306】
同様に、統合型電子センサの利点の多くが、センサタイプに関わらず当てはまる。
【0307】
各場所(例えば本実施形態におけるコアまたはPCR反応部位)において各電子センサ設計をデジタルで設計および編集することが可能であるため、例えば感度およびダイナミックレンジに関して、特定の部位において必要とされる測定に対して各センサをカスタマイズするとともに、各センサを個別に較正することが可能である。
【0308】
センサはカートリッジの製造中に各カートリッジの一部として製造され、別個の構成要素として製造または供給される必要がないため、多数のセンサを作製することができ(「複雑性がない」)、カートリッジの使用毎に必ず使用されるわけではない場合であっても、多くの場所に追加することができる。これにより、現在の配置よりも大幅に高い柔軟性が得られる。特に、より多数のセンサにより、より高度な測定が可能となり、結果としてバイオ製造プロトコル実行に対するより高度な制御が得られ、その結果、より高品質なバイオ製品が得られる。
【0309】
従来の個別の電子センサでは不可能な方式で電子センサをカートリッジに密接に統合することができるので、より高精度な測定を得ることができる。
【0310】
全ての電子センサは、必要となる任意の3Dプロファイルにおいて具現されてよく、プロファイルは、個々のカートリッジおよび他の構成要素の要件に関して選定され、またはそれらに適合されてよい。
【0311】
サーミスタ
【0312】
PCRに用いられるカートリッジ10は、反応液体の温度を測定し、ローカルコントローラが熱ヒータへの入力を調整する(以下でさらに説明する)ことを可能とすることで、各PCR反応部位の閉ループ制御をもたらすためのサーミスタ30を各コア24(PCR反応部位)に有する。
図16は、本発明の一実施形態のPCRカートリッジ10におけるサーミスタ30の一例を示す。
【0313】
サーミスタは、それが接続されている特定のコア/PCR反応部位に関して計器または基地局に電気信号を提供する。この信号は、コントローラにより温度値に変換され得る。
【0314】
サーミスタ30は、対応するコア装置(PCR反応部位)22に非常に近接して作製され得る。サーミスタは、カートリッジ製造プロセスの一部として、所定の経路において作製された導電性インクから形成され、経路の入力および出力は、カートリッジの外面においてインターフェース16に接続され、それにより基地局における熱コントローラに接続される。導電性インク経路の寸法は、必要となる温度測定の所望のレベルに適合するように構成される。
【0315】
熱コントローラは、サーミスタ30の導電性インク経路の一方側に既知の電流を送る。導電性インク経路に沿った電流は、コア22(PCR反応部位)における液体の熱的挙動により釣り合うように調整される。熱コントローラは、サーミスタの導電性インク経路の他端部における電流の値を読み取り、それにより、コア22(PCR反応部位)における液体の温度の定量化された値を提供する。
【0316】
サーミスタは、コアのサイズまたは位置、所望の熱感度、および測定対象の温度範囲のうちの1つまたは複数に適合するように構成されてよい。
【0317】
特定の実施形態において、複数のサーミスタが互いに直列または並列に(または直列および並列配置の組み合わせで)設けられてよい。
【0318】
サーミスタは、任意の構成の経路長、蛇行プロファイル(間隔および「巻き」の数)、経路幅(経路長に沿って固定されてもよく、または経路長に沿った点において適宜調整されてもよい)を取ってよい。
【0319】
追加的/代替的な電子的機能
【0320】
上述のサーミスタに加えて、他の電子装置がカートリッジ10において作製され得る。これらは、以下のうちの1つまたは複数を含んでよい。
・pHセンサ、導電率センサ、圧力センサおよび/または流量センサなどの他のセンサ
・通信機能(例えばRFID/NFCアンテナ)または(例えばカートリッジ内の液体の流れを検知するための)静電容量センサなどの受動的電子的機能
・プリント電池またはプリント太陽電池機能(例えば、「3D Printing for the Rapid Prototyping of Structural Electronics」、Macdonaldら、2014年、および「3D Inkjet Printing of Electronics Using UV Conversion」、Salehら、2017年を参照)などの能動的電子的機能
【0321】
熱装置
【0322】
反応前および反応中に生体材料が受ける熱的条件に対する制御は、バイオ製造ハードウェアの重要な側面である。例えば、熱サイクルは、本実施形態のPCRカートリッジにおいて実行されるPCR技法の重大な側面である。
【0323】
ここで、熱装置の2つの例について説明するが、これらは必要に応じて個別にまたは任意の組み合わせで用いられてよい。しかしながら、以下の利点は、組み込まれる熱装置のタイプとは無関係に当てはまる。
【0324】
各場所(例えば本実施形態におけるコアまたはPCR反応部位)において各熱装置をデジタルで設計および編集することが可能であるため、例えば加熱速度、熱送達の合計量等に関して、特定の各部位の加熱要件に対して各ヒータセンサをカスタマイズすることが可能である。
【0325】
熱装置はカートリッジの製造中に各カートリッジの一部として製造され、別個の構成要素として製造または供給される必要がないため、多数の熱装置を作製することができ(「複雑性がない」)、カートリッジの使用毎に必ず使用されるわけではない場合であっても、多くの場所に追加することができる。これにより、現在の配置よりも大幅に高い柔軟性が得られる。特に、より多数の熱装置により、特定の液体体積に対するより高度な熱制御が可能となり、結果としてバイオ製造プロトコル実行に対するより高度な制御が得られ、その結果、より高品質なバイオ製品が得られる。
【0326】
従来の個別の電子センサでは不可能な方式で熱装置をカートリッジに密接に統合することができるので、より高精度な測定を得ることができる。
【0327】
全ての熱装置は、必要となる任意の3Dプロファイルにおいて具現されてよく、プロファイルは、個々のカートリッジおよび他の構成要素の要件に関して選定され、またはそれらに適合されてよい。
【0328】
熱ヒータ
【0329】
本実施形態のPCRカートリッジ10は、反応液体の温度を制御するための熱ヒータ32を各コア22(PCR反応部位)に有する。熱ヒータは、サーミスタ電子センサ(上述)からの閉ループフィードバックを用いて、ローカルコントローラにより駆動される。
図17は、本発明の一実施形態のPCRカートリッジ10における熱ヒータ32の一例を示す。
図18は、カートリッジ内の様々な構成要素を加熱するように配置される熱ヒータ32についての代替的構成を示す。
【0330】
熱ヒータ32は、入力された電気エネルギーを熱エネルギーに転換するように働き、この熱エネルギーは、コア22に移送される(または他の目標部位、例えば、反応を行うためにコアに供給される前に内容物を予熱するためにキャッシュに移送されてもよい)。
【0331】
熱ヒータ32は、対応するコア22(PCR反応部位)に非常に近接して作製され得る。熱ヒータ32は、カートリッジ製造プロセスの一部として、所定の経路において作製された導電性インクから形成され、経路の入力および出力は、カートリッジの外面においてインターフェース16に接続され、それにより基地局における熱コントローラに接続される。導電性インク経路の寸法は、必要となる温度入力の所望のレベルに適合するように構成される。
【0332】
熱コントローラが既知の電流を熱ヒータの導電性インク経路に送ることにより、また経路の抵抗が特定の点で変動する(または経路が、例えば
図17に示す蛇行構成により、特定の領域に集中する)ように経路を設計することにより、熱ヒータの長さの全部または一部に沿って温度の増大を生じさせることができる。
【0333】
よって、コア22が熱ヒータ32の高抵抗なまたは集中した部分と近接していることに起因して、コア内の液体を加熱することができる。熱ヒータを、他の構成要素を加熱する、例えばキャッシュに格納された試薬、またはバスを通過する流体を予熱するために用いることもできることは理解されよう。
【0334】
熱ヒータは、コアのサイズまたは位置、所望の熱範囲、または必要となる加熱速度のうちの1つまたは複数に適合するように構成されてよい。
【0335】
特定の実施形態において、複数の熱ヒータが互いに直列または並列に(または直列および並列配置の組み合わせで)設けられてよい。
【0336】
熱ヒータは、任意の構成の経路長、蛇行プロファイル(間隔および「巻き」の数)、経路幅(経路長に沿って固定されてもよく、または経路長に沿った点において適宜調整されてもよい)を取ってよい。
【0337】
3Dヒートパイプ
【0338】
カートリッジ外の熱エネルギー源またはシンク(例えば基地局または計器)からカートリッジ10内の1つまたは複数の所望の場所へと熱を効果的に搬送することも可能である。これは、所望の場合を除き、他のカートリッジ機能から隔離された密閉および密封されたヒートパイプを提供するように、外被の内側に作製された蒸気空洞構造を有する3Dプリントされたヒートパイプにより実現される。ヒートパイプは、カートリッジの外面においてインターフェース16に接続する。
【0339】
ヒートパイプ構造は、パラメトリック方式で設計され得、それにより、カートリッジ内の特定の場所の必要性に適合するようにヒートパイプを迅速に構成することが可能となり、よって、単一のカートリッジ本体内において複数のヒートパイプをカスタマイズすることが可能となる。
【0340】
3Dヒートパイプは、必要に応じてカートリッジの内部体積へとまたはそこから熱を搬送することを可能とするために、ほぼ制約のないジオメトリにおいてカートリッジ本体の内部に作製され得る。
【0341】
3Dヒートパイプは、カートリッジ内の構成要素から熱を取り除くことを可能とするので、(例えば行われている反応が大きな発熱を伴うことに起因して)冷却が必要とされる適用例において特に有利である。例えば、ヒートパイプは、それらを通して循環する冷却流体と共に動作し得る。冷却および加熱のための機能が提供される場合、基地局が高温流体および低温流体の両方の供給源を提供するように構成され得るように、基地局における別個のインターフェースが用いられてよい。
【0342】
光学装置
【0343】
光学的機能は、反応の解析(例えばPCRにおける蛍光量の測定)のため、また生体材料の非接触検知が望ましい他の検知法のために、生命科学の応用において広く用いられる。
【0344】
本実施形態において、光学的機能は、PCR反応を測定する目的でPCRカートリッジに含まれる。
【0345】
PCRカートリッジは、様々な波長の電磁エネルギーを発生させるためのLED、および様々な波長の電磁エネルギーを検出するためのフォトダイオードを含む。3Dプリント技法によってこれらのLEDおよびフォトダイオードを作製することは現在不可能であり、そのため、これらは、製造ステップ中にカートリッジに挿入される市販の構成要素となる。挿入後、3Dプリントプロセスにより、これらの構成要素をカートリッジの本体全体に封止し、かつ/または、それらを電気接続部などのカートリッジ構造の他の要素に接続することができる。
【0346】
3D設計自由度により、所望の機能に適合するように光学装置をほぼ無限の数の位置および向きに配置することが可能となる。さらに、3Dジオメトリを用いて光学装置を配置することの結果として、(例えば高精度加工などの従来の作製方法と比較して)幾何公差スタック(geometric tolerance stacks)に対する高度な制御が得られ、その結果、高精度な光学測定システムが得られる。
【0347】
3Dプリント技法が向上し発展することに伴い、将来のカートリッジの実施形態は、3Dプリントおよび/またはインクジェットプリントされたLEDおよび/または3Dプリントおよび/またはインクジェットプリントされたフォトダイオードを含む3Dプリントおよび/またはインクジェットプリントされた光学的機能を含むであろうことが想定される。これが利用可能である場合、これらの構成要素は、光導波路に関して以下で記載する利点を伴い、カートリッジと一体に製造され得る。
【0348】
光導波路
【0349】
光導波路は、(例えばPCR反応の)光学的測定値を得ることを目的として、カートリッジ内の様々な物理的位置に/から電磁エネルギーを伝送するために、カートリッジの本体内に設計および製造されてよい。
【0350】
光導波路(「コア」)は、カートリッジの本体内においてポリマー材料から作製される。コアの周囲には、光の屈折率が異なる材料、このケースではエラストマー材料(「クラッド」)があり、クラッドは、その長さに沿ってコアを完全に取り囲む。それにより、カートリッジの内部体積内に光ファイバ構成を効果的に設計および製造することが可能である。
【0351】
導波路の一端部は、電磁エネルギー源(例えばLED)または電磁エネルギー検出器(例えばフォトダイオード)のいずれかに結合される。導波路の反対側の端部は、光学的解析の対象となる液体を含むコアの内部体積内に配置される。
【0352】
導波路のコアの先端部は、電磁エネルギーを適宜集束または分散させるための光学レンズとして成形される。
【0353】
それにより、導波路は、その長さに沿ってカートリッジ内の場所間で電磁波を移送することができる。例えば、PCRの実施形態において、導波路は、コア内の液体をカートリッジ外部の光源により照明することでその内部の蛍光物質を励起することができるように、カートリッジ10の外面におけるインターフェース16からコア22まで延びていてよい。さらなる導波路が、観察された蛍光を、光学センサに接続するカートリッジ10の外部における別のインターフェース16に再び伝送する。
【0354】
光導波路は、様々なコアの直径、長さおよび経路で作製されてよい。例えば、限定ではないが、より大きいコア直径を有する単一の光導波路、並列に配置されたより小さい直径の一組の光導波路、または、様々な光波長に適合するコア直径の変動する構成を有することが可能である。
【0355】
光導波路は、例えばカートリッジ内の他の構成要素の構成および設計に応じて、必要とされる任意の3Dプロファイルで具現されてよく、必要に応じてカートリッジ本体内に効果的に組み込むことができる。導波路のネットワークおよびサブネットワークを設計および製造することもできる。
【0356】
光導波路をカートリッジ本体に一体化することにより、光導波路と解析対象の材料との間のより密接な光学的結合が可能となり、別個の装置を用いる場合と比較してより高い感度が実現する。さらに、一体化されている性質により、光学構成要素を反応体積に対して封止することにより生じる複雑性または複雑化、または反応体積からの漏出の可能性が回避される。
【0357】
各コア(PCR反応部位)において光導波路をデジタルで編集する能力により、各部位において行われる特定の反応(例えば蛍光波長)に適合するように光導波路をカスタマイズすることが可能となる。
【0358】
導波路はカートリッジの製造中に各カートリッジの一部として製造され、別個の構成要素として製造または供給される必要がないため、多数の光学装置を作製することができ(「複雑性がない」)、カートリッジの使用毎に必ず使用されるわけではない場合であっても、多くの場所に追加することができる。これにより、現在の配置よりも大幅に高い柔軟性が得られる。
【0359】
マルチマテリアル3Dプリントは、光導波路のコアがプリントされるのと同時にクラッド材料を作製することを可能とし、それにより、多数の光導波路をそれらの間のクロストークを最小限にして密接に統合することが可能となる。
【0360】
別個に供給される個別の導波路では不可能な方式で導波路をカートリッジに密接に統合することができるので、より高い感度を得ることができる。
【0361】
導波路は、必要となる任意の3Dプロファイルにおいて具現されてよく、プロファイルは、個々のカートリッジおよび他の構成要素の要件に関して選定され、またはそれらに適合されてよい。
【0362】
他の光学装置
【0363】
コアおよびクラッドを有する光導波路を作製する能力により、カートリッジ内の追加的な光学装置の作製が可能となり、これらは、ビームスプリッタおよび回折格子を含むがそれらに限定されない。
【0364】
光学フィルタ
【0365】
マルチマテリアル3Dプリントは、異なる材料を同時にプリントし、これらの材料を混合して複合的な「デジタル材料」を形成することを可能とする。透明ポリマー(すなわち、光導波路におけるコア材料として提案されるもの)を複数の異なる有色材料と共に混合することで、特定の電磁波長を通すことができるように、必要に応じて改変され得るカスタム光学フィルタの作製が可能となる。
【0366】
光学フィルタは、異なる光波長の蛍光物質の定量化を可能とするための、PCR反応の光学的解析に固有なものである。PCRカートリッジは、LEDおよびフォトダイオードの組ごとに異なる対象となる波長の伝送を可能とするために、各LEDおよびフォトダイオードにおいてその場作製される3Dプリント光学フィルタを組み入れる。
【0367】
生物学的装置および構成要素
【0368】
乾燥PCR試薬
【0369】
マルチマテリアル3Dプリントは、PCRカートリッジにおける乾燥PCR試薬の作製など、生体材料をカートリッジにプリントする可能性を実現する。各コアにおいてPCR反応を生じさせることを可能とするために必要な生物学的試薬は、液体試薬および液体試料と組み合わされる場合、事前にプリントされ得るので、使用時にカートリッジに供給される必要がない。
【0370】
PCR試薬は、冷凍乾燥され、液体と接触すると溶解する小さなタブレット状のキャリア構造体内に含まれる。乾燥PCR剤は、カートリッジ作製の前に3Dプリンタの1つの原料箇所に装入される。キャリア材料は、カートリッジ作製の前に3Dプリンタの別の1つの原料箇所に装入される。
【0371】
カートリッジ作製中、PCR試薬およびキャリア材料を含むタブレット状の装置は、カートリッジ作製プロセスと同時に3Dプリンタにより各コア(PCR反応部位)内でその場作製される。PCR試薬は、カートリッジが使用されるまでコアに留まる。
【0372】
使用時には、液体試薬および/または液体が、コア(PCR反応部位)に導入され、そこでタブレット状構造体を溶解させることで、PCR試薬を放出し、PCR反応を開始する。
【0373】
乾燥PCR試薬は、PCR反応パラメータに適合するようにほぼ無限の範囲の構成において作製されてよい。これらの構成は、限定ではないが、場合によっては試薬からカートリッジ構造の一部を形成する、カートリッジ自体の構造内における、例えばカートリッジ構造の任意の表面(例えば反応槽の壁)における個別の「装置」およびプリント物を含む。
【0374】
複数の試薬部位が1つのカートリッジ内に存在する場合、カートリッジ内の各コア(PCR反応部位)において保持される特定の反応およびプロトコルステップに対して乾燥試薬を構成することもできる。
【0375】
キャリア材料のジオメトリ、形状および内部構造は、所望の反応に適合するようにカスタマイズされてもよい(例えば、タブレット状装置の内部形態を液体の特性に適合するように調整することができる)。乾燥試薬およびキャリア材料は、2Dプロファイルに限定されず、所望の任意の3Dジオメトリにおいて作製されてよい。
【0376】
乾燥試薬およびキャリア材料の量および密度は、必要に応じて変更することもできる。
【0377】
カートリッジ本体内で試薬をその場作製することで、乾燥試薬およびコアの設計を補完的にすることができるので、より高度な反応性能が概して可能となる。
【0378】
乾燥試薬をその場作製することで、組み付けの複雑化および誤った試薬が間違った場所に組み付けられるリスクが排除される。
【0379】
各コア(またはカートリッジレイアウト内の他の場所)において試薬をデジタルで編集する能力により、各部位で行われる特定の反応に適合するようにカスタマイズすることが可能となる。
【0380】
基準試験試薬
【0381】
カートリッジは、作製プロセス中に一連の試験を受けてよい。しかしながら、カートリッジの試験中に実際の特定用途向け試薬を試験することは、実際のカートリッジの使用中におけるそれらの使用の妨げとなるので、不可能である。したがって、作製後試験中に使用できる専用の試験試薬を作製することが有用であり、基準材料の試験の成功は、意図された用途(例えばPCR)のための実際の乾燥試薬の正常な作製を示唆する。
【0382】
追加的な生体材料
【0383】
他の有機材料および生体材料が、カートリッジ作製プロセス中にカートリッジにおいてその場作製されてもよい。これらの有機材料および生体材料は、以下のリストに示す試薬などの支持材料に加えて、生体原料(例えば細胞)を含んでよいが、それに限定されない。
・3Dプリントプロセス中にカートリッジ内に作製されるプリント湿性試薬
・3Dプリントプロセス中にカートリッジ内に作製されるプリント乾燥試薬
・3Dプリントプロセス中にカートリッジ内に作製されるプリント湿性生体材料(例えば原核細胞または真核細胞)
・3Dプリントプロセス中にカートリッジ内に作製されるプリント乾燥生体材料(例えば原核細胞または真核細胞)
・接着/成長促進剤(化学的刺激および他の刺激)
・抗体、酵素、ホルモン、DNAオリゴヌクレオチド
・生体高分子および足場(例えばラミニン、PGLA)
・細胞(例えば骨芽細胞)
・既存の細胞
・組み換え生物
・ウイルス(例えばバクテリオファージ)
・有機化合物(例えばグルコース、尿素)
・ブロッキング剤(例えばウシ血清アルブミン)
・試薬(例えばブタノール)
・培地(例えば細胞成長培地)
【0384】
プリントされた生物学的試薬貯蔵部
【0385】
3Dプリントはカートリッジのオンデマンド作製を可能とするが、カートリッジの即時使用が不可能である、または貯蔵または事前製造が望ましいシナリオが生じる場合がある。
【0386】
これらのシナリオにおいて、カートリッジにおいて作製される生体材料は、劣化を防止するための追加的な二次保護層を必要とし得る。この二次構造は、機械的に変形可能な構造または熱的に変形可能な構造により(しかしそれらに限定されず)設けられてよい。
【0387】
機械的に変形可能な構造は、製造中にプリントされた生物学的試薬が含まれる二次構造を提供する。この二次構造は、液体試薬がこの構造と接触したときに、液体試薬からの圧力が、所定の弱点において二次構造を変形させ、プリントされた生物学的試薬を放出させるように機械的な力を及ぼすことに伴い、変形され得る。
【0388】
機械的構造の設計は、プリントされた生物学的試薬、液体試薬体積、および必要な作動力に適合するようにカスタマイズされ得る。熱的に変形可能な構造は、局所的温度が上昇したときに二次構造が所定の弱点において制御された方式で変形するように、熱感受性材料から作製される代替的な二次構造を提供する。よって、温度上昇の結果、二次層が除去され、必要に応じて、プリントされた生物学的試薬が露出する。本実施形態は、プリントされた生物学的試薬との液体の接触が望ましくない場合に特に有利である。
【0389】
熱的に変形可能な構造の設計は、プリントされた生物学的試薬および規定された熱エネルギー量に適合するようにカスタマイズされ得る。
【0390】
使用に必要となるまで生物学的試薬を保護するために、他の形態の徐放性が用いられてよいことは理解されよう。
【0391】
回路レベルの設計および実装
【0392】
カートリッジ内の装置(例えば上述のもの)は、カートリッジの動作における特定のタスクを行うように配置された2つ以上の協働する装置から構成される「回路」に組み込まれてよい。
【0393】
回路により、領域特化特性のカスタマイズが可能となる。例えば、バス回路(以下でより詳細に説明)は、特定の液体試薬についての流量、粘度等に適合するようにカスタマイズされてよく、光回路(以下でより詳細に説明)は、特定の励起/発光波長にカスタマイズされてよい。
【0394】
そのような「回路」の形成により、様々な流体体積および/またはプロトコルステップに適合するためのスケーラブル設計、および新たなバージョンを迅速に再構成し創出する能力を実現するために、回路設計をデジタルで編集することも可能となる。
【0395】
バス回路
【0396】
バス回路が、例えば
図19に示すように、3方向空気圧バルブ26dを有するバス12の組み込みにより形成される。この回路は、バスから液体を迅速に挿入および除去することを可能とし、カートリッジの1つの部分から別の部分へと液体材料を搬送する効率的な手段、および液体材料が1つの箇所から別の箇所に送られるときに進む特定のアドレス指定可能な搬送経路を提供する。
【0397】
複数のバスおよび空気圧バルブが必要に応じて回路内で組み合わされてよく、また前述したように、構成要素の向きは、カートリッジの他の構成要素の周辺の実装に適合するように選定され得る。
【0398】
バス回路は、カートリッジの様々な部分から別の部分に液体パケットを効率的に移動させる基本的能力を提供する。構成要素の動作を細分することにより、複数のバスおよびバルブを並列に動作させることができ、それにより、短時間に大量の液体を移送することが可能となり、全体的なシステムレイテンシが低減する。バス回路により、プロトコルおよびシステムクロック周期に応じて、単一のパケットの液体または複数のパケットを搬送することが可能となる。
【0399】
バス回路は、液体パケットのためのアドレス指定可能なルートを提供することができ、それにより、必要に応じて任意の所与の箇所から任意の他の所与の箇所へと液体を移送することが可能となる。バス回路は、必要に応じてサブバスおよびサブサブバスを形成することが可能なスケーラブルなユニットであり、それにより、非常に高複雑度のカートリッジにおいて大量の液体パケットを搬送する効率的な方式を提供する。
【0400】
サブバス回路の一例を
図20に示す。この構成のサブバス回路は、いくつかのサブバス12およびいくつかの2方向空気圧バルブ26eを含む。サブバスは、上述のようにバス回路により供給され、液体パケットをカートリッジにわたって搬送するときのさらなる制御層を提供する。
【0401】
コア/キャッシュ回路
【0402】
コア/キャッシュ回路が、例えば
図21に示すように、キャッシュ24およびコア/キャッシュバルブ26fを有するコア22の組み込みにより形成される。この回路は、使用時の前に液体材料を保持および前処理し、プロトコルのサブタスク(PCR反応)を実行することが可能な統合されたPCR反応部位を提供する。
【0403】
1つまたは複数の、例えば
図22に示すように2つのキャッシュ24が、単一のコア22と共に用いられてよい。例えば任意の試薬が任意の前処理ステップの前に改変/貯蔵を必要とする場合、サブキャッシュが含まれてもよい。前述したように、構成要素の向きは、カートリッジの他の構成要素の周辺の実装に適合するように選定され得る。
【0404】
より小さい流体体積の使用、および使用前にこれらを保持する能力により、全体的なシステム効率が向上する。例えば、コアの体積が30mlである場合、3x10mlの体積を他の液体パケットと並列に3つの別個の移動で移送することができる。これは、単一の30mlパケットを移送するよりも高速に実現することができる。
【0405】
コア/キャッシュ回路は、使用前におけるプロトコル実行の地点への液体パケットの搬送における全体的なシステムレイテンシを低減し、材料の搬送をプロトコル実行ステップと同時に並列化することにより、複雑なプロトコルを実行するための全体的な継続時間を低減する(例えば、必要とされる前に大量の試薬をコアに運ぶことができ、それにより、移送時間に起因してプロセス時間が低減する)。
【0406】
コア/キャッシュ回路は、各々に対してカスタマイズされたソリューションにより様々なプロトコルステップに対応する能力、および、様々なプロトコル実行ステップにおいて必要とされる様々な液体体積および多数の試薬/前処理に適用可能なスケーラブルなユニットを提供する。
【0407】
熱コントローラ回路
【0408】
熱コントローラ回路は、領域特化コントローラの一例である。光学コントローラ回路などの他の領域特化コントローラが同様のラインに沿って設けられてもよく、ここではさらに説明はしない。
【0409】
熱コントローラ回路は、サーミスタ、熱ヒータ、電子工学の標準的なカートリッジインターフェース、ならびに、熱ヒータの性質に応じて、熱入力、および、任意選択的に、カートリッジにおけるローカルマイクロコントローラを組み込む。
【0410】
熱コントローラは、特定の反応部位における特定領域機能の閉ループ制御を提供する。
【0411】
異なる数の電子センサおよびヒータを有する複数の構成が可能である。電子センサ、熱ヒータおよびローカルマイクロコントローラは、物理的制約が許容するように、非常に近接して取り付けられてもよく、または互いに離隔していてもよい。
【0412】
熱コントローラ回路は、カートリッジ内の特定の部位の温度などのプロトコル実行の非常に特定的な側面に対する高精度な制御を可能とする。ハードウェアおよび制御ソフトウェア/アルゴリズムは、必要に応じて各反応部位に対してカスタマイズされ得る。
【0413】
反応部位の挙動の局所的制御により、全体的なシステムレイテンシの低減を実現することができ、制御アプローチは、様々な数のセンサおよびヒータ、または様々なサイズのセンサおよびヒータを有する様々なコア/キャッシュサイズに適合するようにスケーラブルである。
【0414】
光回路
【0415】
光回路の一例を
図22に示す。光回路は、LED 34、励起光学フィルタ38a、1つまたは複数の光導波路40、放射光学フィルタ38bおよびフォトダイオード36を組み込む。
【0416】
光回路は、各PCR反応部位に適合するようにカスタマイズされ得るPCR反応のための全体的な光学ソリューションを提供し、各PCR反応部位に対してカスタマイズされたプロトコル特化の光学ソリューションを実現する。光回路はまた、PCR反応部位に対する光学ソリューションと、必要に応じて組み込まれるより少数または多数の光学構成要素を有する様々なコア/キャッシュサイズに適合することが可能なスケーラブルな光学アプローチとの密接な統合により、高い光感度を提供する。
【0417】
限定ではないが、単一の光ファイバに結合された単一のLEDまたは複数の光学フィルタを有するブロードバンドLEDおよびそれに結合された複数の導波路を含む、必要に応じて各光学構成要素の数が異なる複数の構成が可能である。
【0418】
ゲートレベルの設計および実装
【0419】
2つ以上の回路を統合することで、バイオ製造またはバイオ製品R&Dプロトコルの1つのサブタスクに特化したハードウェアの組み合わせである「ゲート」を形成することができる。
【0420】
そのような「ゲート」の形成により、様々な流体体積および/またはプロトコルステップに適合するためのスケーラブル設計、および新たなバージョンを迅速に再構成し創出する能力を実現するために、ゲート設計をデジタルで編集することも可能となる。
【0421】
PCR反応部位ゲート
【0422】
PCR反応部位ゲートは、上述のコア/キャッシュ回路、上述の熱コントローラ回路、および上述の光回路を組み込む。PCR反応部位ゲートの例示的構成を
図23に示す。
【0423】
PCR反応部位ゲートは、PCR反応を行うのに必要とされる流体的機能、熱的機能および光学的機能を組み込む。
【0424】
PCR反応部位ゲートの厳密な構成は、特に必要となる流体体積に応じて異なり得る。例えば、比較的小さい体積のコア/キャッシュは、単一のサーミスタおよび単一の熱ヒータを有する単一の熱コントローラ、ならびに単一の光回路と統合することができる。より大きい体積のコア/キャッシュは、各々が複数のサーミスタおよび複数の熱ヒータを有する複数の熱コントローラ、ならびに複数箇所での光学的解析を可能とする複数の光回路と統合され得る。
【0425】
PCR反応部位ゲートは、各PCR反応部位に対してカスタマイズされたプロトコル特化のハードウェアソリューションを実現する。その反応部位で生じる特定のPCR反応に各々最適化された熱的および光学的な側面の密接な統合により、高精度のPCR反応を実現することができる。この統合はまた、様々なPCR反応流体体積および様々なPCRプロトコルに適合することが可能であるスケーラブルなハードウェアアプローチを提供する。
【0426】
主カートリッジバスゲート
【0427】
主カートリッジバスゲートは、上述のバス回路、および試薬貯蔵装置を組み込む。例示的な主カートリッジバスゲートを
図24に示す。主カートリッジバスゲートは、PCRカートリッジの様々な領域への液体の移動に対する統合および最適化されたソリューションを提供するために、流体の貯蔵および搬送の機能を組み込む。
【0428】
主カートリッジバスゲートの実施形態において、複数の構成が可能である。これらは、全体的な液体体積、必要な液体パケットのサイズ、液体材料の処理量、およびカートリッジの全体的な複雑さの相違を吸収するために用いられてよい。これらの様々な実施形態において、異なる数の各構成回路が必要に応じて設けられ、組み込まれてよい。
【0429】
主カートリッジバスゲートは、各プロトコルの液体の処理の必要性および結果として得られるカートリッジ設計に対してカスタマイズされたプロトコル特化のハードウェアソリューションを実現し、一方で様々な流体体積およびプロトコルに適合するようにスケーラブルである。
【0430】
他のゲート
【0431】
上述のゲートに加えて、上述の装置および回路(および他のもの)から、ゲートのさらなる設計が可能である。限定ではないが、これらは以下を含む。
・細胞株貯蔵ゲート
・細胞株調製ゲート(例えば冷凍細胞株の解凍)
・試薬(例えば細胞培地)の精密な環境制御を提供する試薬貯蔵ゲート
・細胞培養ゲート(例えば生物反応器)
・気体貯蔵ゲート(例えば細胞培養のための酸素)
・(例えば濾過および/またはクロマトグラフィのステップを行うための)下流処理ゲート
・品質管理操作ゲート(例えばフローサイトメトリ)
・バイオ製品完成ゲート(例えば生成物濃縮)
・廃棄物貯蔵・管理ゲート
【0432】
モジュールレベルの設計および実装
【0433】
複数のゲートを追加的な回路および装置と任意選択的に組み合わせて、「モジュール」を形成することができる。モジュールは、バイオ製造またはバイオ製品R&Dプロトコルの主要なタスクまたはステップに特化したハードウェアを提供する。
【0434】
様々な流体体積および/またはプロトコルステップに適合するためのスケーラブル設計、および新たなバージョンを迅速に再構成し創出する能力を実現するために、各モジュール設計をデジタルで編集することも可能となる。
【0435】
PCR実験モジュール
【0436】
本発明の一実施形態に係る1つの例示的なモジュールがPCR実験モジュールであり、その例を
図25に示し、これはサブバス回路を有する3つのPCR反応部位ゲートを組み込む。
【0437】
このモジュールは、いくつかのPCR反応を並列または直列のいずれかで実行するための統合および最適化されたソリューションを提供するために、PCR反応部位および流体搬送機能を組み込む。
構成
・必要とされる全体的なPCR反応、プロトコル実行、液体体積、およびカートリッジの全体的な複雑性によりもたらされる複数の構成が可能である。
・これらの2つの例を可能性の範囲の両端とする、必要に応じて組み込まれる各ゲート/回路の数が異なる複数の構成が可能である。
○単一のPCR反応部位ゲートおよび単一のサブバス回路
○複数のPCR反応部位ゲートおよび複数のサブバスゲート
利点
・行われる各PCR実験の必要性に対してカスタマイズされたプロトコル特化のハードウェアソリューションが実現する。
様々なPCR実験および全体的なプロトコルに適合することが可能であるスケーラブルなハードウェアアプローチ
【0438】
他のモジュール
【0439】
3つのPCR反応部位ゲートを有する上述のPCRモジュールは、前述の高複雑度PCRカートリッジの実施形態に特化される。特定のバイオ製造操作のための統合されたモジュールを創出するために、ゲートの他の組み合わせが可能である。別のモジュールの一例は、以下を組み込むものである。
・細胞培養ゲート(例えば生物反応器)
・品質管理操作ゲート(例えばフローサイトメトリ)
・PCRゲート
・(例えば濾過および/またはクロマトグラフィのステップを行うための)下流処理ゲート
・サブバス回路
【0440】
これらのゲートを組み込むことで、適宜、考えられる各モジュールのカスタマイズ/最適化に必要とされる特定のバイオ製造操作に最適化された自蔵式のバイオ製造モジュールが提供され得る。
【0441】
システムレベルの設計および実装
【0442】
階層の最上位として、システムは、バイオ製造プロトコルおよび/またはバイオ製品R&D実験のための特定用途向けハードウェアソリューションを創出するために、いくつかののモジュールを統合する。一般的に言うと、必要とされるだけの数のモジュールが統合されることで、バイオ製品R&D実験および/またはバイオ製造プロトコルの実行に必要とされる最上位のソリューションが提供される。
【0443】
システムの一実施形態は、全てが標準カートリッジ構成に統合された上述の構成要素から形成される高複雑度PCRカートリッジを提供する。具体的には、高複雑度PCRカートリッジは、(各サブバス回路に統合された)主カートリッジバスゲートを有する6つのPCR実験モジュールを組み込む。
図26は、本実施形態に係る高複雑度PCRカートリッジを示す。
【0444】
本発明のさらなる実施形態において、例えば2つまたは4つのPCR実験モジュールを含む、より複雑度の低いPCRカートリッジが提供されてもよい。
【0445】
また、(高複雑度PCRカートリッジの実施形態における同一のモジュールに対して)複数の異なるモジュールを有する代替的な高複雑度のカートリッジを形成することも可能である。これらのカートリッジは、より多様な機能を必要とするアプリケーションのためのものであり得、例えば、細胞療法および遺伝子療法などの、バイオ製造プロトコルにおける上流処理および下流処理のうちの1つまたは複数、または上流処理および下流処理のステップの混在した組み合わせをカバーする。
【0446】
同様に、カートリッジにおいてさらなるモジュールを有することも可能である。これは、x-y平面における標準カートリッジ構成の底面が維持されるように鉛直(z軸)方向においてさらなるモジュールを積層することにより実現されてよく、計器へのインターフェースを規格化することができる。
【0447】
マルチカートリッジ構成
【0448】
追加的または代替的な実施形態において、カートリッジは、いくつかのより小さいカートリッジが1つのより大きいカートリッジアセンブリとして組み合わされ、互いに流体的(電気的、電子的および/または気体的)に連通して配置され得るように、共に組み合わさるように構成されてよい。これらは、個々のカートリッジとして基地局に提示される。
【0449】
このアプローチは、単一のパッケージ内でより高いバイオ処理の柔軟性を提供するという利点を有し、様々な液体体積を処理し(例えば、1つの小さなカートリッジが~10μLを処理することができ、別のものが1~5mLを処理することができる)、全体的な生物学的プロトコル内の様々な生物学的サブプロセスのためのハードウェアを処理する能力を提供する。
【0450】
このアプローチはまた、使用中の信頼性を向上させ得る。例えば、カートリッジの一部分における故障が必ずしもアセンブリ全体を使用不能にはしない場合がある。これはまた、作製プロセス中におけるより高度な品質管理(QC)を実現し得る(より大きくより複雑なカートリッジと比較して、より小さいカートリッジでは作製の不具合がより容易に検出され得る)。
【0451】
マルチカートリッジ配置において、各カートリッジアセンブリは、複数のより小さいカートリッジで構成され、その各々が、それらの間の流体的な連通(加えて、必要に応じて、電気的、電子的および/または気体的な連通)を実現するための手段を提供する標準的な外部構成を有する。この連通を実現する流体バスは、コアのいずれかにおいて用いられ得る追加的な試薬貯蔵のための体積を提供してもよい。
【0452】
例えば、2つのカートリッジ10a、10bがそれらの内面に沿って共に接続された2連式のカートリッジアセンブリ100が、
図51に示すように形成されてよい。
図51に示す配置において、それらのカートリッジは、異なる構成および異なる機能を有し、第1のカートリッジ10aは、主要なバイオ処理機能を提供し、第2のカートリッジ10bは、第1のカートリッジにおいて行われる反応のためのより大きな流体リザーバを提供し、それにより、第1のカートリッジにおける機能スペースが消費されない。追加的な貯蔵部などの機能を提供するそのような「標準的な」カートリッジを、複数の異なる処理目的のカートリッジと組み合わせることができ、それにより製造が簡略化し得ることは理解されよう。代替的にまたは追加的に、並列処理を提供するために、アセンブリ内の複数のカートリッジが同じ機能を有してもよく、または、以下の節でさらに詳細に説明するように、1つのカートリッジからの出力が別のカートリッジの入力に供給され得るように、異なるプロセスを行うように配置されたカートリッジが「連結」されてもよい。
【0453】
図51は2カートリッジのアセンブリの一例を示すが、より大きなアセンブリが所望の機能に応じて形成され得ることは理解されよう。これらのアセンブリは、線形配列、または二次元もしくは三次元配列のカートリッジであり得る。
【0454】
機能カバー
【0455】
上述の実施形態のカートリッジは、基地局(以下でさらに詳細に説明)との適合性のために共通の外部構成を有する。
【0456】
機能的な相互作用をさらに向上させるために、前の節で説明したようなカートリッジ、および特にカートリッジアセンブリが、共通のカバーまたは外部シェルに含まれてよい。これにより、カートリッジの向上した美観を提供するとともに、場合によってカートリッジおよび基地局を組み合わせ、それらの間のインターフェースを簡略化することができる。
【0457】
図52は、外部シェル110内に含まれるカートリッジ10の一例を示す。
【0458】
外部シェル110は、USBまたは類似の規定されたインターフェース111を介した基地局との共通の電気的インターフェースを提供する。外部シェル110は、市販の構成要素(USBポートなど)を組み込むことを可能としてよく、それにより、プリントされた本体内にそのような構成要素を組み込む(または形成する)必要なく、カートリッジ10自体を3Dプリントすることができる。これは、カートリッジ10と遠隔のネットワークされた場所との間におけるデータの移送を可能とし得る通信構成要素(4G/5G接続性のためのSIMカード、またはRFIDタグなど)を含んでよい。
【0459】
外部シェル110は、プロセス制御のための追加的な電子機器、および、カートリッジ自体に組み込むことが難しいさらなる機能を含んでもよい。これは、カートリッジ10内における液体の移動の画像を撮影することで、カートリッジ10における液体の処理のための閉ループ制御の手段を提供するための光学カメラなどの機構を含んでよい。
【0460】
外部シェル110は、自給式のカートリッジ/カートリッジアセンブリを実現するために、電池などの電源を含んでもよい。
【0461】
標準計器/基地局-概略
【0462】
標準計器または基地局は、上述のカートリッジとのインターフェースを提供する。
【0463】
標準計器は、本発明の実施形態に係るカートリッジにおいて具現される機能の主要な実現要因であり、カートリッジにおけるプロトコルの実行を制御し、それによりカートリッジによって実現される動作方法を制御する。
【0464】
本発明の実施形態に係るカートリッジに関して上述した機能により、バイオ製品R&Dおよびバイオ製造を含む複数の生命科学アプリケーションのための特定用途向けカートリッジの創出が可能となる。
【0465】
しかしながら、カートリッジは高度に統合されるが、例えば電力、プロセス制御、ユーザインターフェース等を提供する、カートリッジを動作させるための一般的機能は依然として必要である。この一般的機能は、標準計器により提供される。
【0466】
標準計器は、それに接続され得る複数のカートリッジにおけるプロトコルの実行を可能とするために、この一般的機能を標準的な形態で提供する。(ハードウェアおよび処理の両方のための)共通のカートリッジインターフェースを用いることにより、各用途に特化したハードウェアがカートリッジに収容されながら、任意のカートリッジを標準計器において使用することが可能となる。これにより、製造または処理が行われる各部位において単一の標準計器を設けることが可能となり、特定の製造または処理のためのカートリッジは、必要性が生じたときに(実質上「オンデマンド」で)提供される。
【0467】
各カートリッジのプロトコル実行は、各特定用途向けカートリッジに固有のソフトウェアプログラムを用いることにより、標準計器において制御される。ソフトウェアは、標準フレームワーク内の様々なプロトコル実行プログラムを作成するために、共通のプログラム構造の使用に基づいて構築される。各カートリッジを動作させるために計器により必要とされる柔軟性は、ソフトウェアにおいて対応される。
【0468】
標準的なカートリッジインターフェース、および標準的なプログラム構造および指令を用いたカスタマイズソフトウェアの使用により、標準計器が実質上、多数の様々なバイオ製品およびバイオ製造プロトコルを機能させることが可能な汎用計器となることが可能となる。
【0469】
カートリッジの中央での製造、および/または、標準計器が各カートリッジの動作を制御することを可能とするように分配される特定の命令セットのカスタマイズにより、標準計器を改変することなく、カートリッジにより行われるプロセスを改変することが可能となる。
【0470】
フォーマットおよび機能
【0471】
標準計器50の一実施形態が、開構成および閉構成において
図27に示されている。標準計器50は、モジュール式のフレキシブルな構成を有する、物理的に小さく、自動化された、デスクトップマウント型の装置である。
【0472】
標準計器50は、カートリッジに対する規格化された電子的および気体的な接続のために規格化されたパターンのコネクタを提供する規格化されたカートリッジインターフェース60を有する。このインターフェースにより、標準計器に多種多様なバイオ製造カートリッジを動作させ、特定のバイオ製品および各カートリッジにおいて実行されるバイオ製造プロトコルに関わらず、単一の汎用計器を効果的に提供することが可能となる。
【0473】
標準計器50は、計器内の様々な「ポート」または「ステーション」において並列に動作する別個のカートリッジによりいくつかのバイオ製造プロトコルを同時に実行することができる。
図27に示す標準計器50は、2つのそのようなステーションを有するが、より多くのステーションを有する、または単一のステーションのみを有する変形例が提供され得ることは理解されよう。
【0474】
標準計器50とカートリッジ設計手段との間の統合により、カートリッジが標準計器に挿入され、カートリッジに対する適切なソフトウェアがロードされ開始され得る「プラグアンドプレイ」または「ウォークアウェイ」機能を提供することが可能となり、それにより、熟練度の低いユーザが自動化された計器への最小限の介入で複雑なバイオ製造プロトコルを効果的に実行することができる。
【0475】
標準計器50は、カートリッジにより行われるバイオ製造プロトコルの経過の概略を提供するための内蔵グラフィカルユーザインターフェース(GUI)52を有する。
【0476】
実験およびバイオ製造プロトコルの複雑性に依存して、異なる構成におけるいくつかカートリッジおよび/または標準計器をネットワーク接続することが可能である。これは、例えば、単一の標準計器において複数のカートリッジを接続すること、それらを物理的に接続することによりいくつかの標準計器をネットワーク接続すること、および/または、企業レベルのIoT型ネットワークを介して仮想的にいくつかの標準計器をネットワーク接続することを含み得る。
【0477】
カートリッジの特定用途向けの性質および標準計器の標準的かつフレキシブルな機能により、1つの計器を多様なバイオ製造プロトコルに用いることが効果的に可能となる。各バイオ製造プロトコルについてのハードウェアカスタマイズは、規格化された計器インターフェースを介して標準計器と接続するカートリッジ内で対処される。
【0478】
制御構成
【0479】
標準計器50は、主計器コンピュータと分散されたカートリッジモジュールとの間の分散I/Oのために設計されたCANBUSタイプのネットワークを介して複数のカートリッジを同時に制御することができる。この制御構成を
図28に示し、以下でより詳細に説明する。
【0480】
標準計器コンピュータ70は、計器ソフトウェアおよび/または組み込みファームウェアにより標準計器を動作させるために必要な全ての制御プログラムを実行する。これは、クラウドデータベースとの通信などのより広域なネットワーク(不図示)への接続のためのデータおよび通信機能も提供する。
【0481】
標準計器コンピュータ70は、各カートリッジ10についてのモジュール制御部72に接続し、計器において実行される全てのバイオ製造プロトコルの全体的な制御を提供する。これは、
図29における破線により示されるように、ダウンロードされた実験プログラムおよびデータを必要に応じて各カートリッジモジュール制御部72に分配し、計器全体にわたる電力の分配を管理する。これはまた、オンボードのプロセス解析プロセッサを有する。
【0482】
各カートリッジ10についてのカートリッジ制御モジュールPCB 72には、カートリッジにおける実験プロトコル実行のための動作命令の方法を実行し、計器上でのデータ解析または計器外でのプロセス制御のために測定データを実行されたプロトコルから標準計器コンピュータ70に伝送し戻すファームウェアが提供される。
【0483】
標準計器コンピュータは、1つの計器から別の計器への、およびカートリッジ構成の世代間でのバイオ製造プロトコルの移植性を実現するように設計される計器ソフトウェアを動作させる。このソフトウェアは、異なるユーザごとに変動する特権レベルを有してよい。
【0484】
実験プロトコル制御の実行は、局所的制御により計器上で行われ得る。データは、計器外でのデータ解析および意思決定のためにクラウドに通信されてよい。制御決定の重要度および/または規制要求事項に応じて、これらのアプローチの混合が用いられてよい。
【0485】
データ機能
【0486】
標準計器は、計器上でのデータ操作と、計器外でのデータ操作のための通信ネットワーク(有線または無線)の使用との両方のための手段を有し、適宜これらを組み合わせることができる。利用可能な機能は、データを収集および集約すること、データを受け取ること、データを格納すること、データの伝送、およびデータのマイニング/解析を含む。
【0487】
この機能は、計器におけるソフトウェア制御プロセスの実行が、プロセス実行自体において用いられ、かつ/またはクラウドベースのソフトウェアアプリケーション層/データベースなどの外部ローカルに伝送され得るバイオ製造プロセス解析データを収集することも可能であることを意味する。
【0488】
標準計器は、人工知能(AI)および機械学習(ML)のアプローチを利用して、バイオ製造プロトコルの実行および制御を最適化することが可能となる。これらのAIおよびML機能は、標準計器機能を用いて実行され、または、クラウドにおいて行われ、次いで通信ネットワークを介して標準計器に再び通信され得る。
【0489】
ネットワーク接続性を提供することにより、標準計器製造業者が、監視、保守、更新、アップグレードおよび修理のために標準計器と遠隔で通信することができる。
【0490】
モジュール式構成
【0491】
標準計器により用いられるモジュール式のフレキシブルな構成は、ほぼ無限の数の可能な構成を実現する。例えば、一実施形態において、標準計器は、家庭または臨床現場の設定におけるバイオ製品(例えば生物学ベースの医薬品)の製造などの低処理量シナリオのための、単一のカートリッジを動作させることが可能な単一のモジュールを有する非常に小さくコンパクトな計器である。
【0492】
代替的実施形態において、単一の標準計器は、オンデマンドで複数のバイオ製造操作(例えば生物学ベースの医薬品の製造)を同時に実行する必要性がある病院薬局などの高処理量シナリオのために、より大きい設置面積を有する1つの計器に複数のモジュールを収容し得る。
【0493】
同様に、収容され得るモジュールの数に関わらず、全ての標準計器に異なるカートリッジ構成が収容され得る。
【0494】
よって、標準計器は、必要に応じて各バイオ製造プロトコルおよび使用シナリオの複雑性に適合するようにハードウェアソリューションを創出する能力を提供する。
【0495】
複数のユーザが、場合によって、標準計器および/またはバイオ製造プロトコルの実行から得られるデータとやり取りし得る。これに対応するために、各ユーザには、関連情報のみがアクセスされること、および/または特定のユーザのみが実験を開始または停止できることを確実にするために計器ソフトウェアにロードされる、異なるユーザプロファイルが提供されてよい。
【0496】
標準計器-詳細な説明
【0497】
本文書の本節は、上述の高複雑度PCRカートリッジなどのカートリッジ10において以下でより詳細に説明する動作方法を実行するための標準計器50の一実施形態を説明する。本実施形態の標準計器50の全般的構成を
図27に示す。
【0498】
標準計器50は、他の要素が固定される基部54、特にエンクロージャ本体56、モジュール/カートリッジ(
図27では不図示。構成によっては、モジュール/カートリッジが基部に代えてまたは加えてエンクロージャ本体に固定されてもよいことは理解されよう)、および電池/電力モジュールを有する。基部54は、計器全体に共通するいくつかの構成要素(電力モジュールなど)、およびカートリッジ(カートリッジインターフェース60など)を収容するためのスロットの数に応じて繰り返されるいくつかの構成要素を収容するように設計される。
図27に示す配置において、基部54は、様々な数のモジュールを横並びに収容するように幅方向に延びていてよい。
【0499】
エンクロージャ本体56は、カートリッジを保護し、標準計器の内部温度を維持する助けとするために、標準計器50の内部様相を外部環境から隔離および保護するためのハウジングを提供する。エンクロージャ本体56は、清掃しやすくし、破片等の蓄積を防止するために、丸みの付いた鋭利でない縁端部を有するようにプラスチック材料または類似のものから構築される。
【0500】
エンクロージャ本体56(および以下でさらに説明する蓋58)の厳密な設計は、使用環境に適するように適合され得る。例えば、堅牢化されたバージョンが外部のまたは厳しい環境における用途で生産されてよく、視覚的に魅力的な設計が家庭内用途で生産され得る。
【0501】
基部54と同様に、エンクロージャ本体56は、様々な数のモジュールを収容するために複数の構成で製造され得るフレキシブルな設計であるように設計される。
【0502】
エンクロージャ本体56は、周囲光を排除し、カートリッジを動作させていないモジュールにおける浮遊粒子の蓄積を防止することにより、標準計器の内部を外部環境から隔離するように働く、本体に装着される蓋58を有する。
【0503】
蓋58の寸法は、より高さのあるカートリッジに対応するように変動し得る。蓋58は、計器に装着された別のカートリッジと不要に干渉することなく1つのカートリッジにアクセスするために蓋を開くことが可能なように、独立しているが連動する複数の蓋として設けられてよい。
【0504】
情報を表示するための画面(これはユーザ入力も受け取るためにタッチスクリーンであってよい)を含むユーザインターフェース52が、標準計器50とのユーザ対話を可能するために設けられる。画面は、ユーザへの命令、情報、データまたはメッセージのうちの一部または全てを表示してよい。ユーザ対話は、データの入力、設定の調整、メッセージの確認のうちの一部または全てを含んでよい。
【0505】
電池/電力モジュール(不図示)は、標準計器50に電力を提供する。電力モジュールは、計器に搭載された電池に加えてまたは代えて外部電源への接続を提供してよい。電池を設けることにより、標準計器が限られた時間にわたって外部電源への接続なしで動作することが可能となる。電池は、標準計器が次に外部電源に接続されたときに再充電されてよい。
【0506】
カートリッジおよび/またはユーザIDリーダ53は、外部ソースから機械可読データを取り込む手段を提供する。例えば、これは、カートリッジおよび/またはユーザ識別バッジまたはフォブ(fobs)からバーコードまたは他の識別情報(例えばRFIDタグ)を読み取ってよい。
【0507】
カートリッジインターフェース/モジュール
【0508】
カートリッジインターフェースまたはモジュール60は、カートリッジが標準計器の制御下でプロトコルを実行するためのインターフェースを提供する、標準計器50内の自蔵式ユニットである。上記で論じたように、標準計器50の任意の特定の実施形態において用いられる同一のカートリッジモジュール60の数は変動し得る。本実施形態は、2つのカートリッジモジュールを有する。
図29は、本実施形態のカートリッジモジュール60のうちの1つを示し、標準計器の他の部分は明確性のために取り除かれている。
【0509】
カートリッジモジュール60は、カートリッジモジュールの全ての構成要素を保持するための装着フレームを提供するシャーシ62を含む。シャーシ62は、基部構成要素54への機械的接続を提供し、全てのカートリッジ設計のための標準的なXY底面を画定するが、Z方向において収容され得るカートリッジのサイズを限定しない。
【0510】
シャーシ62は、不所望なカートリッジの装填および接続を防止するために、
図30に示すような「キー溝」機構を提供する。シャーシ装着構成要素におけるオス機構は、カートリッジにおけるメス形状と接続し、それにより、不適合な機構を有するカートリッジが装填されることを防止する。
【0511】
シャーシ62の裏面における鉛直実装PCB 64は、標準計器とカートリッジ10との間の電子的かつ熱的なインターフェースを提供する。
図31は、電子的・熱的インターフェースPCB 64の例示的配置、およびカートリッジ10とのインターフェースとなるそのPCBからのコネクタ65のうちの1つを示す分解組立図を示す。
【0512】
PCBは、固定の物理的寸法を有する規格化された設計である。PCBには、装着されたカートリッジにおける電子的経路とのインターフェースとなる、スプリングで装着されたコンタクトを有する、複数の配置の市販の「ポゴピン」65が装着される。
【0513】
個々のカートリッジは、必ずしもPCB 64におけるコネクタ65の全てと係合しない。余分なコネクタ65の提供は、多数の電子コンタクトを許容し、様々なカートリッジ設計および要件に対応するための柔軟性を提供する。
【0514】
PCB 64は、コネクタ65を通して、カートリッジにおける電子的機能に電力を供給するために、標準計器から装着されたカートリッジ10に電力を提供する。これはまた、上記でより詳細に論じたカートリッジにおける熱的機能(例えば抵抗熱ヒータ)に電力を供給する目的で、標準計器からカートリッジに電力を提供する。
【0515】
電力を提供することに加えて、PCB 64におけるコネクタ65は、標準計器と装着されたカートリッジとの間における電子的制御信号の双方向の交換のための経路を提供することができる。
【0516】
空気圧インターフェース66が、シャーシ62において水平に装着され、カートリッジ10を標準計器50に配置および固定するための機械的インターフェースを提供する。このインターフェース66の規格化されたXY寸法は、カートリッジのXY底面を画定する。
図32は、シャーシ62におけるインターフェース66の装着の例示的配置、およびインターフェース自体の分解組立図を示す。
図33は、インターフェース66に装着される種々の空気圧構成要素の分解組立図と共に、インターフェース66を単独で示す。
【0517】
空気圧インターフェース66は、特定のカートリッジが接続部または構成要素の全てを必要としないまたはその全てと相互作用しない場合であっても、様々なカートリッジ設計および要件に対応するための柔軟性を提供する多数の空気圧接続部および構成要素を収容する。
【0518】
空気圧インターフェース66に設けられる典型的な空気圧構成要素を
図33に示し、以下で個別に説明する。本図に示すこれらの構成要素の配置は、単に多数の可能性のうちの1つであることは理解されよう。
【0519】
主マニフォールド67は、特定の箇所における装着されたカートリッジの下面へのインターフェースを提供する。各接続箇所は、カートリッジ内の空気圧バルブに対応する。マニフォールド67は、空気リザーバ68から特定のマニフォールド/カートリッジインターフェースへの圧縮空気の流れのための多数の経路を含む。
【0520】
空気リザーバ68は、装着されたカートリッジ内に含まれるバルブの作動のためのエネルギー源を提供する圧縮空気が予め充填されたリザーバである。装着されたカートリッジにおけるバルブへの圧縮空気の流れは、空気圧インターフェース66内の空気圧バルブ69により制御される。
【0521】
長時間にわたって複数のカートリッジの持続的な操作を可能とするために、複数の空気リザーバ68が収容され得る。空気圧インターフェースは、空気リザーバ68と、リザーバを再充填するためのポンプとの間の接続部、または再充填のための外部空気源への接続を提供してよい。代替的にまたは追加的に、空気リザーバ68は、必要に応じて互いに交換可能であり得るように、空気圧インターフェース66に取外し可能なように接続されてよい。
【0522】
複数の空気圧バルブ69は、空気圧インターフェースにおける流体(例えば圧縮空気)の流れを制御する。これらのバルブは、カートリッジモジュール制御PCB 72により制御され、装着されたカートリッジに固有の実験プロトコルに応じて作動される。バルブは、各バルブの電子的制御を可能とするために、リボンケーブルを介してカートリッジモジュール制御PCB 72に電子的に接続される。
【0523】
液体ポンプ61は、カートリッジ内における液体移動操作を可能とするために、装着されたカートリッジ内の液体リザーバに作動源を提供する。ポンプ61は、装着されたカートリッジ内の液体の移動を同期するために、対応する空気圧バルブ69と連動して作動される。
【0524】
ポンプ61は、カートリッジモジュール制御PCB 72に接続されてそれにより制御され、装着されたカートリッジに固有の実験プロトコルに応じて作動される。
【0525】
上述のようにまた図面に示すように空気圧インターフェース66および電気的インターフェースPCB 64を装着することは、電気的/電子的機能を空気圧機能から分離することに関して有利であり得るが、これらのインターフェースは、モジュール式カートリッジ設計を可能とするように異なる標準計器にわたって規格化された配置のコネクタが設けられる限りにおいて、異なる組み合わせまたは向きで組み合わされかつ/または配置され得ることは理解されよう。
【0526】
カートリッジモジュール制御PCB 72は、装着されたカートリッジにおいて実験プロトコルを実行するための、カートリッジインターフェース60における全ての機能(電子的、熱的、気体的、ポンプ)の制御を提供する。上述のように、制御PCB 72は、空気圧バルブ69、ポンプ61、および電子的インターフェースPCB 64に電子的に接続される。
【0527】
図28に示すように、制御PCB 72は、標準計器における全てのカートリッジモジュールの全体的な制御を提供する標準計器コンピュータ70にも接続される。
【0528】
装着された各カートリッジを制御するための特定のソフトウェアプログラムは、標準計器コンピュータ70からカートリッジモジュール制御PCB 72にダウンロードされる。
【0529】
ネットワークおよび接続
【0530】
カートリッジ10および標準計器50は、所望のアプリケーションに応じて複数の異なる方式でネットワーク接続され得る。
【0531】
このネットワークは、各カートリッジがLANにおけるノードのように働くローカルエリアネットワーク(LAN)タイプの配置において、1つの計器に装着された複数のカートリッジを物理的に接続することによる計器内ネットワーク接続を含んでよい。これにより、以下でより詳細に説明するリソース監視およびリソース割り当ての技法を可能とし、それらが単一体であるかのように複数のカートリッジ間で流体を移動させることを可能とすることができる。これにより、特定のバイオ製造プロトコルが複数のカートリッジにわたって実装されることを可能とすることができる。
【0532】
このネットワーク接続は、代替的にまたは追加的に、各標準計器がWANにおけるノードであり、各カートリッジがWANにおけるサブノードであるワイドエリアネットワーク(WAN)タイプの配置において、複数の標準計器を共に物理的に接続することによる計器間ネットワーク接続を含み得る。これにより、以下でより詳細に説明するリソース監視およびリソース割り当ての技法を可能とし、それらが単一体であるかのように複数のカートリッジ(異なる標準計器におけるものを含む)間で流体を移動させることを可能とすることができる。これにより、特定のバイオ製造プロトコルが複数のカートリッジにわたって実装されることを可能とすることができる。
【0533】
このネットワーク接続は、代替的にまたは追加的に、データおよび実験実行を共有するために(例えば無線プロトコルにより)複数の標準計器を非物理的に接続することによる仮想ネットワークの形成を含み得る。中央コントローラおよび/またはデータベースが、ネットワークに接続されてよい。この仮想ネットワークにより、複数の実験の効率的な実行を可能とすることができる。リソース監視により、実験の複雑度および様々なリソースの可用性に応じて、ネットワークが実験を別個の計器または計器の組み合わせまたはさらに個々のカートリッジに割り当てることを可能とすることができる。
【0534】
動作方法
【0535】
(上記で詳細に説明したPCRカートリッジにおいて具現される)本発明の実施形態に係るカートリッジにより提供される統合および小型化されたハードウェアの利点は、そのハードウェアにおけるプロトコル実行に対する新たなアプローチの採用により最大化される。
【0536】
以下の実施形態において説明される動作方法は、カートリッジ内における低減した液体体積の使用を利用し、液体体積内における小バッチのバイオ製品の並列処理を可能とする。
【0537】
複数の小さい体積の並列処理は、IC/SoCがクロック周期と並列に移動されるデータの「パケット」と共に動作する方式と同様である。したがって、PCRカートリッジの制御の実施形態において用いられる動作方法は、SoCがどのように以下の主要な特徴を用いて制御されるかを規定するシステムオンチップ(SoC)において用いられる命令セットアーキテクチャ(ISA)と同様のものと考えることができる。
・液体「パケット」
・クロック
・カートリッジアドレス指定方式
・「定型」操作
・サブルーチン(標準的および特定用途向けの両方)
・プロトコル実行方式
【0538】
上記の主要な特徴の各々の利点は、互いに依拠し、複雑なプロトコル(例えばPCRプロトコル)を実行する能力を完成させるさらなる機能を実現する。特定用途向けの側面を創出する能力を有する標準的な主要な特徴を用いることで、標準的フレームワーク内で動作しながらも、特定用途向けプロトコルのための全体的な開発の労力が低減する。
【0539】
主要な動作方法の特徴の概略
【0540】
本発明の一実施形態に係るPCRカートリッジの全体的な動作を説明する前に、主要な動作方法の特徴を以下で説明する。
【0541】
液体「パケット」
【0542】
本発明の実施形態に係るカートリッジは、カートリッジにわたって小さい液体体積を同時に搬送することを可能とし、これらは、ICシステムにわたって搬送されるデータの「パケット」と同様である。PCRの実施形態において、各パケットは、サンプル、バッファまたはヌクレアーゼフリー水のいずれかの小さい体積の液体である。
【0543】
各液体には、カートリッジ内で搬送される最小の液体体積に基づく基本体積が割り当てられ、これは、カートリッジ内の液体「パケット」についての基本単位となる。各々の基本体積の値は、カートリッジごとに構成することができ、液体粘度およびカートリッジユニット間(例えば主バスからサブバス、サブバスからコア等)における可能な移送時間などの考慮事項により決定および/または制約されてよい。
【0544】
各パケットの体積は、同一でなくてもよく、基本単位の倍数としての大きい体積(例えば、必要に応じて2倍または3倍の体積)を搬送することが可能である。
【0545】
パケットの使用は、以下で説明する方式で各パケットを識別することも可能とし、簡略な識別方式を提供する。この方式は、カートリッジの様々な構成に適用することができ、カートリッジにわたっての材料の移動を記述するための規格化された方式を提供する。
【0546】
各試薬/液体について所与のサイズの所定の液体パケットを用いることにより、標準的な液体体積(またはその倍数)をカートリッジにわたって搬送することが可能となる。標準的な液体体積の使用はまた、カートリッジ内での様々な操作の同期、および操作を同期する規格化された方法を実現し、それによりいくつかの操作の並列化が可能となる。
【0547】
液体パケットのサイズ/体積の決定が
図34に示されており、強調された行は最小の液体体積として特定されている。
【0548】
各液体についての液体パケットのサイズが決定されると、プロトコル実行のために必要な全ての液体パケットを特定することができる。上記の実施形態において説明した高複雑度PCRカートリッジにおいて、このリストを
図35Aおよび35Bに示す。
【0549】
クロック
【0550】
カートリッジは、実験実行タスクと並列に、複数のパケット搬送操作を実行する。クロック信号は、カートリッジにおいて行われるプロトコルの正確な時間的操作のためのタイミング基準を提供する、並列操作の基盤である。
【0551】
クロックは、経過時間を計時するのではなく、プロトコルステップの基準として用いられるため、クロックは、「時間」にはあまり重点を置かず、操作およびそれらの操作の同期により重点を置く。したがって、クロック周期に用いられる実際の時間単位は、カートリッジ間で異なる場合がある。具体的な時間値は、最小の液体体積を1つのゲート/モジュールから次のゲート/モジュールへと移動させ、それにより別の液体パケットを追従させるのに必要な移送時間により指定される。
【0552】
例えばシステムクロック、カートリッジクロックおよび/またはモジュールクロックといった複数のクロックが設けられ得る。これらのクロックは、互いと同期されてもよく(「同期」)、または互いに独立して動作してもよい(「非同期」)。非同期動作において、システムクロックは、全体的なスケジューリングのための一次クロックのままである。
【0553】
複数のクロックにより、動作が全体的なプロトコル実行と同期していることを確実にしながらも、各実験内における局所的変動に対応することが可能となる。
【0554】
中央クロックを用いることには複数の利点がある。これは、物理的なタイミング制約が満足されることを確実にし、全ての遷移が完了してシステムが定常状態に達したときにのみ次のサイクルを開始することを可能とする。これはまた、全てのゲートおよび配線に内在する遅延も考慮する。さらに、これは、次に何が起こるかを決定する時間基盤を提供することにより、グローバルなシステムイベントについての論理的な順序付けメカニズムとして機能する。クロックの遷移ごとに、システムの状態を変化させる操作が生じる。
【0555】
クロックを用いることにより、操作、サブ操作およびサブサブ操作の効率的なスケジューリングが可能となり、より長いプロトコルに非常に有益なスケジューリング効率につながる。これは、例えば数週間にわたって継続し得る細胞療法および遺伝子療法の製造プロトコルに特に関連する。クロックはまた、サブプロセス同期に対するより高度な制御を実現し、全体的なプロトコル継続時間の低減に寄与する。
【0556】
クロックはまた、カートリッジ内のリソース使用を最適化し、ハードウェア使用効率を増大させることにより、より少ないハードウェアで高複雑度のプロトコルを実行することが可能となる。複数のクロックの使用により、適応的なプロセス制御方法をカートリッジ内で実装することが可能となる。これは、本質的に動的な生物学的プロセス(例えば細胞成長)に有益であり、各々がそれ自体のクロック周期を有しながらもグローバルなシステムクロックの制御下にある複数のサブプロセスがカートリッジ内で行われることが可能となる。
【0557】
標準的なプロトコル実行ユニット(すなわちクロック周期)を用いることにより、本質的に動的な生物学的プロセスにおけるリソース消費の予測および残りのリソースの最適な使用の計画が可能となる。例えば、これは、細胞成長シナリオにおける細胞培地の使用およびバッチ供給サイクルを最適化することができる。
【0558】
上述の実施形態の高複雑度PCRカートリッジにおいて具現されるクロックは、液体パケットの移動を指定し、様々な実験の実行を同期するために用いられる。適切なクロック周期(7秒)の決定が
図36に示されており、これは最小パケットを移動させるのにかかる時間に基づき、進むべき距離、流量、流体経路直径、流体の粘度等に応じて変化する。
【0559】
高複雑度PCRカートリッジについて決定されるクロック周期は、以下のように例示することができる。
・最小の液体体積(単一のパケット)は0.695mL(上記参照)である。
・液体パケットを試料リザーバから主バスに移送するのに必要な7秒=1クロック周期(すなわちクロック周期1)
・次いで第1の液体パケットを主バスからモジュールサブバスに移動させるのに必要な7秒(すなわちクロック周期2)
・第2の操作と並列に、第2の液体パケットが試料リザーバから主バスに移送される(すなわちクロック周期2で)。
【0560】
上記で決定されたクロック周期は、カートリッジにおいて実行されるサブルーチンにおいて行われる「定型操作」(以下でより詳細に説明)のスケジューリングを制御するために用いられる。クロックは、並列な複数の「定型操作」を同期することで、全体的なサブルーチン継続時間を低減し、ハードウェア利用度(例えば液体を同じコアのキャッシュ1およびキャッシュ2に並列に移送する能力)を最大化する。
図37Aおよび37Bは、これらの定型操作がどのように並列に同期され得るかを示す。
【0561】
カートリッジアドレス指定方式
【0562】
カートリッジは、アドレス方式を用いてカートリッジ内の各位置を識別する。アドレス指定方式により、異なる計器における異なるカートリッジにおけるモジュール内の装置/回路/ゲート(上記の説明を参照)の識別が可能となる。アドレス指定方式により、各液体パケットについて各々の開始位置および目的地位置を識別することが可能となる。アドレス指定位置はさらに、どのバルブを開閉する必要があるか、どの作動源が必要か等といった、液体パケットの1つの位置から別の位置への搬送において作動を必要とする機能を識別する。
【0563】
各アドレスは、単一の参照番号(例えば「位置122」)を有するルックアップテーブルに格納することができ、それにより、複雑性を隠しつつ、カートリッジ内の各機能を識別するための簡便な簡略表現が可能となる。簡略な形式でのアドレス識別により、プロトコルの記述の容易化および「定型操作」の実装が可能となる。
【0564】
この方式は、カートリッジの様々な構成に適用することができ、任意のカートリッジ内の位置を記述するための規格化された方式を提供する。
【0565】
上述の高複雑度PCRカートリッジの物理的設計に基づくアドレス指定方式の一例は、以下の通りである。[位置ID]=[ネットワークref]、[計器ref]、[カートリッジref]、[水平ref]、[鉛直ref]、[コアref ID]、[ドメインref]、[IDref]
【0566】
上述の実施形態の高複雑度PCRカートリッジにおいて用いられるアドレス指定方式は、様々なコア、ならびに各コアおよび各コアに対する装置/回路/ゲート/モジュールの位置に基づく。
【0567】
定型操作
【0568】
カートリッジにおけるプロトコル実行は、各クロック周期における1つの位置から別の位置への液体パケットの搬送などのプロトコルの過程にわたって複数回の実行を必要とする場合が多い、有限の数の順序付けられた操作から構成される。
【0569】
定型操作は、前述の液体パケットおよびカートリッジアドレスの使用に依拠する。定型操作の背後にある原理は、特定の操作がカートリッジ内の特定のモジュールにより行われ、これらが任意のプロトコル作成作業の前に予め識別され得ることである。例えば、PCRカートリッジにおける熱ヒータモジュールは、PCR熱サイクルを行う。
【0570】
それにより、これらの共通操作のルックアップテーブルを作成し、簡略な方式を用いて各々の可能な操作を識別することができる。例えば、各クロック周期において液体パケットを1つの位置から別の位置へと搬送する共通操作には、目的地アドレスが後続するリファレンス[液体移送]が与えられてよい。この方式は、カートリッジの様々な構成に適用することができ、任意のカートリッジ内の典型的なプロトコル操作の動作を記述するための規格化された方式を提供する。
【0571】
各定型操作は、ソース、目的地または期間などの、典型的操作の実行中に必要とされる特定の動作および挙動を指定する、それに関連付けられる特定の変数またはパラメータを有してよい。
【0572】
定型操作のための簡略表現は、プログラム言語と同様のものと考えることができ、共通操作を用いることにより、ルーチン、サブルーチン等の規格化および作成が可能となる。
【0573】
サブルーチンにおける既存の定型操作およびいくつかの定型操作の組み合わせの使用により、高複雑度のプロトコルを最小限の労力および高い信頼性で作成することが可能となる。これにより、操作の詳細を主プロトコル実行プログラムから分離することも可能となり、それにより、最小限の労力で、かつプロトコル全体の全体的な実行に影響を与えることなく、特定の操作の実行における挙動に対する変更を生じさせることができる。
【0574】
図39AおよびBは、高複雑度PCRカートリッジ内で実行されるプロトコルにおいて用いられるサブルーチンにおける定型操作の使用の一例を示し、各定型操作の順序はカートリッジクロックにより決定される。
【0575】
[液体移送]の定型操作を実行するためのソフトウェアコードは、必要な開始アドレスおよび目的地アドレスに加えて必要な液体パケットを識別する。
【0576】
サブルーチンは、上述の機能に依拠し、定型操作のシーケンスを成文化および同期する。サブルーチンは、動作方法の階層における別の層を提供し、それにより、プロトコル全体に波及し得るプロトコルの特定の側面に対する改変が可能となり、エラーのリスクが低減し、開発の労力が最小化する。
【0577】
カートリッジは、2種類のサブルーチン、すなわち、使用前におけるカートリッジの試験およびプライミングなどの、特定の機能に関わらず各カートリッジに必要な共通手順を成文化する標準的サブルーチンと、PCRカートリッジの実施形態に非常に特有なPCR実験間でのコアの洗浄などの、各カートリッジ設計に固有の行われるべき特定の操作であり、各カートリッジ設計間で異なり得る特定用途向けサブルーチンとを有する。
【0578】
上記の実施形態において説明したハードウェアは、カートリッジが計器に装填されたときかつプロトコル実行前に行われる必要がある複数の標準的操作(例えばカートリッジ組み込み試験、カートリッジプライミング等)を有する。これらの操作は、カートリッジ設計または実行されるプロトコルに関わらず行われる。
【0579】
標準的サブルーチンは、標準的操作を記述するための簡便な方式を実証し、新たなカートリッジ設計が作成されるたびにこれらのプロセスを再作成する必要性を回避する。
【0580】
例示的なカートリッジ標準的サブルーチンは、以下を含むがそれらに限定されない。
・[カートリッジBIT]カートリッジが最初に計器に装填されたときに正確な機能を確認するために、主要なカートリッジハードウェアを試験する。
・[カートリッジプライム]カートリッジ流体経路から空気を除去し、主バスを適切な液体でプライミングする。
・[カートリッジ閉鎖]全ての液体を適切な貯蔵領域に移動させ、計器からの除去および処分の前にカートリッジを減圧する。
【0581】
典型的なカートリッジ操作のための標準的サブルーチンに加えて、各々の異なるカートリッジ設計に必要とされる特定用途向け操作を記述するためにサブルーチンを用いることができる。標準的サブルーチンに対し、各特定用途向けにカスタムサブルーチンが作成され、これらのカスタムサブルーチンの作成は、カートリッジ設計の基礎および設計労力の重点を成す。
【0582】
上述の実施形態の高複雑度PCRカートリッジは、単一のPCR実験を形成するいくつかのカスタムサブルーチンを具現する。
・[サブルーチン-実験前流体移送]全ての液体を適切なコア/キャッシュに移送する。
・[サブルーチン-PCRプロトコル]PCR反応における熱的操作および光学的操作を実行する。
・[サブルーチン-実験後データ伝送]実験データをクラウドデータベースに伝送する。
・[サブルーチン-実験後コア洗浄]さらなるPCR反応を行うために使用されるコア/キャッシュに液体を移送する。
【0583】
サブルーチンおよび定型操作を用いることにより、各操作の背後で必要とされる詳細事項がルックアップテーブルに隠された状態で、高複雑度のプロトコルを簡潔に記述することが可能となる。
【0584】
最上位プロトコルを記述することにより、標準計器コンピュータコントローラは、クロックを用いて様々な操作を並列にかつ可能な限り効率的にスケジューリングすることで、フレキシブルにカートリッジの操作を実行することが可能である。
【0585】
例えば、上述の実施形態の高複雑度PCRカートリッジにおいて実行されるプロトコルは、各々が異なる実験パラメータ(例えば温度)および異なる継続時間を有する複数のPCR実験を含む。プロトコル実行は、これらの複数の実験が、可能な限り少ないリソースを用いながら複数の実験を並列に実現する最適な方式で実行されることを確実にする。
【0586】
特定のフォーマットにおけるプロトコル実行は、カートリッジにおいて実行可能なフォーマットに後に変換され得る、より上位のレベルにおける多数の他の外部ソフトウェアソースデータベース(例えばMicrosoft Station Bおよび他のラボソフトウェアプラットフォーム)からの入力およびプロトコルを受け付ける能力を実現する。
【0587】
さらに、プログラム構造の包括的なフォーマットは、遺伝子および生物学的部分の記述を規格化する既存のおよび将来の規格(例えばSBOL規格)および既存の生物学的部分のデータベース(例えばiGEM Registry of Standard Biological Parts)に対応するために、必要に応じて修正および更新することができる。
【0588】
ネットワーク接続されたカートリッジおよび/または計器の場合において、標準的なプロトコル実行により、同じプロトコルまたはプロトコルの一部をネットワーク上の複数の位置に押し出すことが可能となる。例えば、これにより、非常に高複雑度のプロトコルの複数の反復および/または部分を1つまたは複数のネットワーク上の異なる位置に受け渡すことを可能とするために、同一のプロトコルをネットワークに押し出すことを可能とすることができ、それにより、物理的位置に関わらず大量の実験の大幅な並列化が可能となる。
【0589】
プロトコル実行は、通常、カートリッジ設計間で異なる。プロトコル実行は、特定のカートリッジ設計の使用ごとに異なる場合もある。プロトコル実行は(ソフトウェアを介して)計器により制御されるので、必要に応じて編集および更新することができる。さらに、プロトコルは、問題を解決するために更新することができ、かつ/または、各カートリッジ設計について実験データが得られることに伴いさらに最適化することができる。
【0590】
しかしながら、プロトコル実行はまた、必ずしもカートリッジ設計に固有のものとは限らず、プロトコルは(ソフトウェアを介して)必要に応じて他のカートリッジ設計に移送され得る。このように、カートリッジ設計およびそれらにおいて実行されるプロトコルは相互に交換可能であり、それにより、固定のカートリッジ設計が、さらなる最適化を可能とするために必要に応じて更新される単一のプロトコル、または既存のカートリッジ設計を新たな異なる方式で利用する全く新たなプロトコルを実行することが可能となる。同様に、固定のプロトコルが、単独で完全なプロトコルとして、またはより大きいより高複雑のプロトコルの一部としてのいずれかで、さらなる最適化を可能とするために必要に応じて更新されるカートリッジ設計、および/または全く新たなカートリッジ設計において実行されてよい。
【0591】
上述の実施形態の高複雑度PCRカートリッジにおけるプロトコル全体の確立は、各PCR実験についてタイミング図および実行論理を特定することで開始する。各実験は、カスタムサブルーチンおよび結果として得られる定型操作を含む。
【0592】
次いで、各PCR実験について特定のパラメータ(例えば様々な温度、PCR反応サイクル数等)およびタイミング継続時間を特定する必要がある。次いで、最上位プロトコル実行計画が、全体的なプロトコル継続時間を低減し、ハードウェアリソースを最小化するために、PCR実験の直列および/または並列な実行を特定する。
【0593】
これにより、各PCR実験の特定のサブルーチンが実行されるべき特定のクロック周期を特定するプロトコル実行タイミング図の構築が可能となる。このプロトコル実行タイミング図は次いで、
図39AおよびBに示すように、各PCR実験に加えて必要とされる追加的な標準的サブルーチンを特定するプロトコル実行論理図を作成するために用いられる。
【0594】
プロトコル実行論理は次いで、高複雑度PCRカートリッジにおけるプロトコルの実行のための特定のプログラムを作成するために用いられる。
【0595】
追加的な動作方法機能
【0596】
本節は、上述の高複雑度PCRカートリッジにおいて具現化されないが、他のカートリッジ設計およびプロトコルにおいて利用され得る可能な動作方法機能について説明する。
【0597】
フレキシブルなプロトコル実行
【0598】
標準計器コンピュータコントローラは、プロトコル実行中におけるカートリッジ内での材料のフレキシブルなルート設定を可能とする。カートリッジアドレス位置がマッピングされ、コンピュータコントローラは、操作を実行するための複数の可能なオプションを特定し、それに応じて最も適切な操作実行ルートを選択することが可能である。例えば、サブルーチン内の[液体移送]の操作において、1つのアドレスから別のアドレスへの液体の移動は、いくつかのルートおよび様々な組み合わせのバルブの開放により可能であってよい。
【0599】
したがって、標準計器コンピュータコントローラは、実行の数クロック周期前に各液体パケットについての複数の可能なルートを評価し、利用可能なルート上での液体パケットの衝突の可能性を調べるように配置される。
【0600】
液体パケットの使用およびカートリッジアドレス方式により実現されるこのフレキシブルなプロトコル実行方式はまた、コンピュータコントローラがプロトコル実行中に得られる測定結果および測定値に応答し、下流操作をスケジューリング/実行することを可能とし、それにより、ある程度の適応的制御を提供する。
【0601】
このアプローチの一部として、コンピュータコントローラは、プロトコルにおける今後の操作を解析し、今後の時点において予期されるカートリッジ作業負荷に対して最適な操作実行ルートを選択することもできる。
【0602】
フレキシブルなプロトコル実行の概念は、液体パケットの移送に当てはまるのみでなく、例えば、反応の実行中に反応材料を1つのコアから別のコアに移送することが望ましい場合がある。この機能は、複数の別個の体積の細胞が並列に培養されている場合に非常に望ましい。拡大する細胞集団に対応するために、より小さいコアからの液体体積/細胞集団(例えば25mlの体積)がより大きいコア体積(例えば75ml)に移送され得る。これにより、さらなる細胞培養操作を開始するためにより小さい体積のコアを空けたまま残すことができ、適正なタスクを適正なコア体積に合致させることにより、全体的なプロトコル実行が最適化される。このアプローチは、SoC/ICアプリケーションにおいて用いられる「コアスレッディング」技法と同様である。
【0603】
優先度ベースのサービス提供
【0604】
カートリッジ内のプロトコルの既定の動作方法は、可能な限り多数の操作を並列に動作させることである。しかしながら、大量の材料/液体の迅速な移送が必要となり、これに他の操作と並列に行われた場合極めて多くのクロック周期がかかる場合など、プロトコル実行中の予期しないシナリオに応答して特定のプロトコルステップが迅速に行われる必要があるシナリオが生じる場合がある。
【0605】
フレキシブルなプロトコル実行により、各プロトコル操作がピークのプロトコル実行に必要とされる最も適切な帯域幅を有することを確実にするために必要な場合に、優先度ベースのサービス提供の使用が可能となる。
【0606】
冗長機能
【0607】
上記で論じたように、カートリッジは、プロトコルの通常実行においては使用されることが予期されないが、高度に複雑なプロトコルの実行中における予期しない問題のために必要とされる場合にある程度の柔軟性を提供する冗長な機構(例えば余分な数のコアゲート)を含んでよい。
【0608】
カートリッジ内の冗長機能はまた、品質にばらつきのある開始材料(例えば、細胞療法および遺伝子療法の場合における患者から採取された原料)を有する高複雑度のバイオ製造プロセスに非常に有益である。計器コンピュータコントローラにより実行され得る複数の処理ルートがカートリッジ内に存在し得るが、これは、原料がカートリッジに入りプロトコルが開始するまで決定することができない。計器コンピュータコントローラは次いで、進行中のプロセスからのデータに基づいて、所与のプロセスにおいてどの処理ルートを採用するべきかを決定し得る。
【0609】
カートリッジの設計および使用の方法論
【0610】
本節は、本発明の実施形態に係るバイオ製造プロトコルおよび設計/シミュレーションツールについて説明する。この設計の方法論は、包括的な側面であり、上述のハードウェアの利点の実現を可能とする。
【0611】
本文書のこの小節で説明する方法論は、上記で詳細に説明した高複雑度PCRカートリッジなどの本発明の実施形態に係るカートリッジを設計するために用いられるプロセスについて説明し、カスタムSoCの設計において用いられる方法論と同様のものと考えることができる。カートリッジ設計ワークフローの概略を
図40に示す。
【0612】
デジタルマスタファイル
【0613】
デジタルマスタファイルは、特定のカートリッジに必要とされる電子文書である。これは、以下を含むカートリッジの全ての側面を記録する。
・本来の設計意図および関連する文書およびデータ(例えばプロトコルタイミング図)
・作製関連の文書およびデータ(例えばCADデータおよび3Dプリンタ設定)
・試験および品質管理の試験データ(例えば全ての3Dプリント後試験に必要なデータ)
・カートリッジの使用および履歴データ(例えばカートリッジシリアル番号、ユーザID、順序番号等)
【0614】
カートリッジの設計および開発ワークフロー
【0615】
設計および開発ワークフローは、カートリッジ設計における最初のステップであり、
図40に示す方法論を用いる。このステップを構成するサブステップを
図41に示す。カートリッジ設計のステップの全ての出力は、そのカートリッジ設計についてのデジタルマスタファイルに格納される。
【0616】
1.1 規定
【0617】
このステップは、最上位のカートリッジ要件を特定するために、全体的なバイオ製品R&D実験および可能な実行ルートを規定することを伴う。
【0618】
a)プロセスの最上位の目的および主要な所望の結果の特定
R&Dアプリケーションを実行中の高複雑度PCRカートリッジの実施形態については、以下に記載の方法論に従う前に、最小限の作業が必要とされる可能性が高い。しかしながら、バイオ製造アプリケーションは、このカートリッジ設計プロセスを開始する前に以下の側面が識別されることを必要とする可能性が高い。
・全体的なバイオ製造プロセスの特定、
・プロセス内で必要とされる品質保証(QA)チェック、
・製造されるバイオ製品の重要品質特性(CCQA)、
・クオリティ・バイ・デザイン(QbD)の方法論、
・バイオ製造プロセスについての重要工程パラメータ(CPP)。
【0619】
この段階における主要なステップは、主要な調査/生産の目的の特定、制約の特定、基準/制御の特定、主要なプロセスパラメータおよび変数の特定、所望の結果の特定である。
【0620】
b)実験アプローチの規定
このステップの目的は、可能な実験アプローチ、必要とされる結果として得られる特定の実験またはプロセス、およびそれらのパラメータを特定することである。
【0621】
この段階における主要なステップは、全体的な実験アプローチの特定、特定の実験の特定、各実験についての主要なパラメータの値の特定、実験材料の特定、実験継続時間の概要、最大および最小の継続時間の実験の特定である。
【0622】
c)実験詳細の規定
このステップの目的は、全体的な実験ステップ、必要な液体パケット、およびクロック周期推定値を特定するために、カートリッジにおいて行われる各実験の具体的詳細を特定することである。
【0623】
液体パケットの規定は、後半のステップにおける以下のもの、すなわち、可能な並列操作の度合い、カートリッジクロック周期、全体的なプロトコル複雑度に対する影響、全体的なカートリッジの結果的な複雑度のうちの一部または全てを決定するので、カートリッジ設計にとって重要である。
【0624】
任意選択的に、この段階において、それらに含まれる特定の液体および生体材料についての特定の貯蔵、処理および移送の要件を特定することも有用であり得る。
【0625】
この段階における主要なステップは、実験液体の特定、液体パケットおよびクロック周期パラメータの決定、実験前および実験後のステップおよび関連する詳細事項の決定、特定の実験ステップの決定、実験タイミング概要の決定、液体パケットの特定およびIDの割り当てである。
【0626】
まず、プロセスは、実験ごとに必要とされる全ての液体を確定し、必要な反応槽(コアおよびキャッシュ)の総数および各々において必要な体積を決定する。
【0627】
次に、プロセスは、液体パケットサイズ(プロトコルにおいて用いられる最小の液体サイズ)を決定し、それにより、実験において用いられる各液体のパケットサイズの倍数を決定する。これにより、実験継続時間と合致するようにクロック周期単位を決定することが可能となる。目安として、この単位は、最小のパケットサイズを主バスからサブバスに移送するのにかかる時間である可能性が高い。
【0628】
次に、実験前および実験後のステップの概要が決定され、関連するサブルーチンを確立するためにそれらについての特定のステップおよびタイミング/クロック周期が決定される。
【0629】
次に、特定の実験ステップが特定され、最大および最小の実験継続時間の概要が作成される。次いで、各サブ実験についての特定のステップおよびタイミング/クロック周期が決定される。
【0630】
次いで、全ての実験タイミングの視覚的図示である全体的な実験タイミング概要が生成され得る。
【0631】
最後に、用いられる液体パケットが特定され、IDが割り当てられる。
【0632】
d)プロトコル実行オプション
このステップの目的は、前に特定された複数の実験を実行するための利用可能なオプション/ルートを特定することである。
【0633】
このステップは、最小限の実行オプションが存在し得るR&D実験(例えば高複雑度PCRカートリッジにおいて行われるPCR反応など)には適用可能性が比較的低い場合がある。しかしながら、これは、投入される材料に応じて複数のプロトコル実行オプションが存在し得る(例えば開始原料が患者ごとに異なる)バイオ製造プロトコル実行には非常に適用可能である可能性が高い。
【0634】
このステップは、物理的カートリッジ設計の実装の前に、実験実行の順序を規定し、所望のプロトコル実行挙動を特定する(すなわち、所望の挙動を物理的な構成設計から分離する)。
【0635】
プロトコルごとに要件が異なり、結果としてドライバが異なる場合がある(例えば、1つのプロトコルが可能な限り短い全体的な継続時間で実行する必要があり得る一方で、他のプロトコルは最小限のリソースを用いて優先順位を決定し得る)。
【0636】
このステップは、前のステップからの情報に基づく実験プロトコル実行オプション、決定ポイント、および結果として得られる実験ルートの特定、追加的なサブルーチンなどの複数のプロトコル実行ルートを実現するために必要とされる追加的機能の特定、および必要とされる追加的な液体パケットの特定を伴う。
【0637】
e)最上位カートリッジ要件の特定
このステップは、所望の実験を実行するために必要なカートリッジ機能を特定するために、関連するカートリッジ構成を規定する。これは、「何の」機能がカートリッジに搭載されるべきかの特定であり、カートリッジ要件を規定する最初のステップである。これは、以下でさらに説明する、それが「どのように」実行されるかではない。
【0638】
このステップは、実験実行ルートおよび関連する液体体積情報の評価、必要とされる総液体体積の特定、最上位カートリッジ要件の特定、適切な標準的カートリッジ構成の選択、最上位カートリッジ構成の作成を伴う。
【0639】
f)規定の評価
このステップは、a)において特定された本来の実験目的と、後続のステップの結果的な出力との間の整合を確実にするために、行われる全ての作業を評価する。
【0640】
1.2 カートリッジ構成の開発
【0641】
この作業の目的は、前段において規定された実験を実行するために必要とされるカートリッジの全体的な構成を規定することである。
【0642】
a)装置/回路/ゲート/モジュールの選択
このステップの目的は、ステップ1.1 e)において特定された最上位カートリッジ要件をカートリッジ設計が実現することを可能とする関連する装置/回路/ゲート/モジュールを関連ライブラリから特定および選択することである。
【0643】
このステップは、選択されたカートリッジ構成に適用可能な関連する利用可能な装置/回路/ゲート/モジュールの評価および特定、利用可能でない/存在しない場合に必要とされる新たな装置/回路/ゲート/モジュールの特定、必要とされる適用可能なカートリッジ構成、カートリッジエンジン、および装置/回路/ゲート/モジュールの特定を伴う。
【0644】
b)詳細なカートリッジ構成
この作業の目的は、詳細なカートリッジ構成および物理的なカートリッジレイアウトの概略を規定することである。このステップは、以下の前のステップ、すなわち、プロトコル実行ルート、液体特性、装置/回路/ゲート/モジュール選択(上記のステップ1.2a))からの出力を集約する。
【0645】
このステップは、特定のカートリッジ概略の作成およびカートリッジアドレス位置の作成を伴う。この段階の出力は、カートリッジ構成/エンジン概略、機能試験のための別個の流体回路および空気圧回路の特定、およびカートリッジアドレスリストである。
【0646】
c)動作方法の決定
このステップの目的は、カートリッジ構成(ステップ1.2b)がどのようにプロトコル実行ルート(ステップ1.1d)を実行するかを規定するカートリッジ動作方法を規定することである。
【0647】
動作方法は、プロトコルが「どのように」カートリッジ上で実行されるべきか(すなわちステップおよび開くバルブ)を記述する。特に、動作方法は、実行されるべき関連する定型操作および定型操作が実行される具体的順序を規定する。このステップはまた、カートリッジおよび標準計器におけるプロトコルおよび様々な操作の並列化を実装するために必要とされる全体的なプロトコル制御プログラムを特定する。
【0648】
このステップは、必要な全てのサブルーチンのリストおよびタイミング図の作成、全てのサブルーチンについてのプログラムの作成、定型操作リファレンス(テーブル)によるサブルーチンの更新、全体的な継続時間を最小化するための以前に特定されたプロトコル実行計画の評価および実験の再順序付け、およびプロトコル全体の完全なタイミング図の作成を伴う。
【0649】
d)カートリッジ構成開発作業の評価
このステップは、段階1において特定された全体的な規定作業および前の評価(ステップ1f)からの結果との整合を確実にするために、全てのカートリッジ構成開発作業を評価することを伴う。
【0650】
1.3 カートリッジ構成のモデル化および解析
【0651】
このステップは、必要に応じて実験/バイオ製造プロトコルを実行することが可能であることを確実にするために、前のステップにおいて開発されたカートリッジ構成に対してモデル化および解析作業を行うことを伴う。
【0652】
a)カートリッジ物理のモデル化
このステップの目的は、カートリッジ構成の全体的な物理的性能を理解することである。カートリッジ構成は装置/回路/ゲート/モジュールから構成されるので、全体的なカートリッジ構成の物理的挙動を理解するために、これらの要素の各々の物理的挙動を別個に次いで種々の組み合わせでモデル化することが必要である。
【0653】
全体的なカートリッジ構成がより下位のモジュール性能に強く依拠していることに起因して、モジュール性能、およびそれに加えて1つのカートリッジ設計に統合された複数のモジュールの結果的な累積効果の数値モデル化および解析を行う必要がある。例えば、空気圧チェックバルブの静的および動的な性能は、試薬の流量を決定し、それにより全体的なシステム性能を決定するために非常に重要である。
【0654】
この段階におけるこのモデル化は、物理的設計ではなくカートリッジ概略およびモジュールデータシートに基づく。重点は、広範な計算シミュレーションではなく、数値解析に置かれている(すなわち物理優先の原理に基づく)。
【0655】
モジュール解析を全体的なカートリッジ構成から分離する能力は、階層および抽象化アプローチを利用する本発明の構成の別の利点である。モジュール解析は、静的性能(湿性および乾性)、動的性能(湿性および乾性)動作範囲を含む。
【0656】
このステップは、高温での複数のモジュールの同時操作などのプロトコル内の対象となる特定の物理的シナリオの特定、関連するプロトコルシナリオに対する個々のモジュールの物理的挙動の解析、例えば高温での個々のモジュール性能の特徴付け、および全てのモジュールが組み込まれたときのカートリッジ全体に存在する発生挙動の解析、例えば高温で動作する複数のモジュールの特徴付けを伴う。
【0657】
これにより、物理解析基準およびカートリッジ構成が必要に応じて評価および更新されることが可能となる。
【0658】
b)プロトコル実行のモデル化
このステップの目的は、以前のステップにおいて特定された動作方法を実行するためのカートリッジ構成の能力を理解することである。モデル化は、最適なカートリッジ構成を確実にするために、材料処理量、トラフィック解析、プロトコル実行時間、リソース利用度、クロック周期等といった側面を考慮する。
【0659】
特に、プロトコル実行のモデル化は、カートリッジ構成のスケーリング、速度/処理量、物理的サイズ、タイミング、周波数応答、エネルギー消費、プロトコルスケジューリング、カートリッジ動作範囲を含む。
【0660】
このステップは、再利用可能なサブルーチンおよび既知の性能を有する定型操作のライブラリの利点に依拠する。
【0661】
このステップにおいて、特に、高度な並列化に伴って生じる高トラフィックシナリオなどの対象となる特定のプロトコル実行シナリオの特定、例えば主バス液体移送の需要に対する能力といった対象となる個々のモジュールのプロトコル実行挙動の解析、並列に動作される複数のバスの結果的な挙動などの特定されたシナリオについてのカートリッジ全体に存在するプロトコル実行発生挙動の解析、特に全ての可能なシナリオの両極端(例えば処理される最大限の材料および処理される最小限の材料)において行われる解析を伴う、特定された各プロトコル実行シナリオの実行、プロトコル実行解析基準の作成および必要に応じたカートリッジ構成の評価および更新を行うために、ステップ1.2cにおいて特定される動作方法が評価される。
【0662】
c)モデル化および解析評価
このステップの目的は、全体的な規定作業評価(ステップ1f)およびそれに加えてカートリッジ構成開発作業評価(ステップ2d)との整合を確実にするためにカートリッジ構成解析作業を評価し、カートリッジ構成をサインオフすることである。
【0663】
1.4 カートリッジの物理的設計およびシミュレーション
【0664】
このステップの目的は、前のステップにおいて作成されたカートリッジ構成を、作製可能な物理的カートリッジ設計に転換することである。
【0665】
a)物理的詳細の設計
このステップは、カートリッジ構成概略、動作方法、ステップ1.3aからのモジュールおよび構成の物理解析、およびステップ1.3bにおける構成プロトコル実行解析に基づくカートリッジの物理的レイアウト設計の作成を伴う。これはまた、カートリッジのマイクロアーキテクチャおよび個々の要素の詳細設計を伴う。
【0666】
b)物理的カートリッジ設計の物理シミュレーション
このステップの目的は、ステップ1.3aにおいて作成された物理解析基準の評価、カートリッジの物理的設計シミュレーションの作成、およびステップ1.3aにおいて作成された物理解析基準に対するシミュレーションデータの比較により、ステップ1.3aにおいて開発された物理モデル化基準に対してカートリッジの物理的設計の性能を検証するための物理シミュレーションを行うことである。
【0667】
c)物理的カートリッジ設計のプロトコル実行シミュレーション
このステップの目的は、ステップ1.3bにおいて開発されたプロトコル実行モデル化基準に対してカートリッジの物理的設計の性能を検証し、所望のプロトコル実行スケジュールがカートリッジの物理的設計内で実行可能であり、全てのカートリッジリソースが適切に利用されることを確実にするためのプロトコル実行シミュレーションを行うことである。
【0668】
特に、目的は、カートリッジリソースが同時に2つの別個のステップに必要とされる場合に生じる「デッドロック」、または累積的なタイミング/スケジューリングエラーが問題を生じさせる「競合」状態などの、システムがプロトコル実行を破綻および妨害させ得るシナリオを特定することである。
【0669】
このステップは、ステップ1.3bにおいて作成されたプロトコル実行解析基準の評価、プロトコル実行シミュレーションの作成、およびステップ1.3bにおいて作成されたプロトコル実行解析基準に対するシミュレーションデータの比較を伴う。
【0670】
d)カートリッジ設計の更新および最適化
このステップは、行われたシミュレーション作業において特定された任意の更新および改善を反映するためにカートリッジの物理的設計を更新し、その結果として最適化されたカートリッジの物理的設計を得ることを伴う。特に、各段階における生体材料の状態に適合するように特定の流体軌跡直径/表面特性を調整すること、および使用されている3Dプリントプラットフォームに適合するように物理的設計ジオメトリを「調整」するために3Dプリント特化のソフトウェアを用いることなど、プロトコル実行の個々のステップに適合するように物理的カートリッジ設計の詳細な最適化が行われてよい。
【0671】
e)シミュレーション評価
このステップは、全体的な規定評価(ステップ1.1f)、カートリッジ構成開発作業評価(ステップ1.2d)、およびカートリッジ構成解析評価(ステップ1.3c)との整合を確実にするために、前の評価の知見を用いてカートリッジの物理的設計およびシミュレーション結果を評価することを伴う。
【0672】
1.5 カートリッジ設計評価
【0673】
この評価の目的は、規定ステップにおいて特定された実験/バイオ製造プロトコルの本来の目的を満足させることを確実にするために、全てのカートリッジ構成およびカートリッジ物理的設計の作業を辿ることである。
【0674】
このステップは、カートリッジ設計方法論における各作業の出力のフォーマル検証評価を伴い、その結果、物理的カートリッジ設計の設計がサインオフされ、物理的設計がロックダウンされ「凍結」される。
【0675】
1.6 カートリッジ設計の検証
【0676】
このステップは、前の評価においてサインオフされたカートリッジ設計の作製および試験を伴う。
【0677】
a)初品カートリッジ作製
まず、初品カートリッジ(物理的カートリッジプロトタイプ)が作製され、ステップ1.4において行われたシミュレーション作業に基づく「工学」試験プロトコルおよびステップ1.1において行われたプロトコル実行作業に基づく「生物学」試験プロトコルが作成される。
【0678】
b)工学試験-フェーズ1
このステップの目的は、作業1.4において行われた物理およびプロトコル実行シミュレーションに対する作製されたカートリッジの性能の初期評価である。
【0679】
これは、設計仕様と比較したモジュール性能の工学ベースの試験を伴う。これは、カートリッジの物理的挙動(例えば流体流動特性、熱的挙動等)およびプロトコル実行挙動(例えば材料移送サイクル時間実験)を含み得る。
【0680】
これはまた、設計仕様と比較したカートリッジ全体の性能の工学ベースの試験を伴う。これは、改めて、物理的挙動(例えばカートリッジ全体にわたっての全体的な流体流動特性、近傍のモジュールの熱的挙動、および累積的な熱的性能)およびプロトコル実行挙動(例えば各クロック周期において要求される全体的なステップを実行する能力)を含み得る。完了すると、モジュールおよびカートリッジの性能が設計仕様と比較して評価され、カートリッジの物理的設計が必要に応じて更新される。
【0681】
c)工学試験-フェーズ2
このステップは、ステップ1.6bにおける知見に従ってカートリッジ設計に対して行われた任意の更新のさらなる試験を行うことを伴う。よって、「工学」試験プロトコルが繰り返され、モジュールおよびカートリッジの性能が設計仕様と比較して評価され、カートリッジの物理的設計が更新される。このプロセスは、物理的カートリッジ設計を最適化するために必要に応じて繰り返され得る。
【0682】
d)生物学試験-フェーズ1
このステップの目的は、実際のプロトコル材料を用いた、ステップ1.2cにおいて特定された動作方法と比較した作製されたカートリッジの性能の初期評価である。
【0683】
これは、各プロトコルステップおよびプロトコル全体の生物学ベースの試験を伴う。完了すると、結果が評価され、プロトコルおよびカートリッジの物理的設計が必要に応じて更新される。
【0684】
e)生物学試験-フェーズ2
このステップは、ステップ1.6dにおける知見に従ってカートリッジ設計および/またはプロトコルに対して行われた任意の更新のさらなる試験を行うことを伴う。よって、「生物学」試験プロトコルが繰り返され、結果が評価され、プロトコルおよびカートリッジの物理的設計が必要に応じて更新される。このプロセスは、プロトコル実行を最適化するために必要に応じて繰り返され得る。
【0685】
f)フォーマルなカートリッジ検証評価
このステップは、カートリッジの十分な性能を確実にするために全ての工学および生物学検証試験を評価することを伴う。最終的に、全ての文書およびカートリッジの物理的設計のフォーマルサインオフが行われ、カートリッジ設計およびデジタルマスタファイルは、オンデマンド作製のためのカートリッジ設計のデータベースにおいて「設計中」状態から「利用可能」状態に移行され得る。
【0686】
ハードウェア使用前-ユーザステップ
【0687】
カートリッジ設計に続いて、作製プロセスを開始し、物理的カートリッジがローカルの作製設備から出荷されることを可能とするために、ユーザが関連するカートリッジを選択し注文することが必要である。これは、
図40に示す全体的な方法論におけるステップ2である。
【0688】
特定のものが設計されると、ユーザがカートリッジを注文し、カートリッジ作製プロセスを始動することが必要である。
【0689】
特定の機能または反応(例えばPCR)が必要であることをユーザが決定すると、ユーザは、利用可能なカートリッジ設計のオンラインカタログにアクセスし、利用可能な最も適切なカートリッジを選択する。オンラインシステムを介して注文が出される。
【0690】
カートリッジの注文が出されると、オンラインシステムは、作製および使用中にカートリッジを識別および追跡するために用いられる注文番号を生成し、次いで、カートリッジ注文がユーザの付近のカートリッジ作製設備に電子的に送信される。カートリッジ作製設備は、理想的には、現地の需要に適合するようカートリッジの迅速なオンデマンド作製を実現するために、各都市、主要な地域および国に配置される。カートリッジ作製設備は、医師の手術、病院、介護施設等のような臨床現場に設けられてもよい。
【0691】
カートリッジ作製プロセス
【0692】
選択されたカートリッジは、ユーザの付近の作製設備においてオンデマンドで作製される。作製プロセスは、同一の3Dプリントプロセスを用いて複数のカートリッジ設計を作製する3Dプリンタの能力に起因して、全ての現在および将来のカートリッジ設計に共通である。
【0693】
図42に示すように、カートリッジ作製プロセスには複数のステップが存在する。
【0694】
3.1 作製前作業
【0695】
このステップは、実際のカートリッジ作製の開始前に必要な全ての作業を含む。
【0696】
a)カートリッジ注文受け取り
オンラインカタログを介してユーザにより出された電子注文は、電子的方法(例えばeメール)を介して送信され、現地の作製設備で受け取られ、次いでそこで注文確認がユーザに送信される。
【0697】
b)デジタルマスタファイルのダウンロード
注文は、必要な特定のカートリッジ設計(例えば高複雑度PCRカートリッジ)を特定し、関連するデジタルマスタファイルがクラウドデータベースからダウンロードされる。
【0698】
c)カートリッジIDの割り当て
関連するデジタルマスタファイルがダウンロードされると、カートリッジ作製プロセスを通しての追跡および追跡可能性を実現するために、カートリッジ注文および関連するデジタルマスタファイルにカートリッジIDリファレンス(例えばシリアル番号またはバーコード)が割り当てられる。
【0699】
3.2 カートリッジ作製プロセス
【0700】
このステップは、市販の3Dプリンタによる選択されたカートリッジの実際の作製を伴う。作製プロセスからの関連情報が、QCおよび監査証跡を目的としてその特定のカートリッジのデジタルマスタファイルに追加されてよい。
【0701】
a)デジタルマスタファイルのプリンタへの送信
追跡番号が注文に割り当てられると、デジタルマスタファイル(作製プロセスデータを含む)は、電子的方法(例えば電子ファイル転送)により3Dプリンタに送信される。
【0702】
b)カートリッジの作製
次いで、3Dプリンタは、選択されたカートリッジをバッチ方式で適切な数作製する。バッチサイズは、その特定の時点における作製の需要に適合し、すなわち、カートリッジは、1つのカートリッジのバッチ(すなわち注文された単一のカートリッジ)または複数の異なるカートリッジのバッチで作製され得る。後者のシナリオは、3Dプリントの柔軟性を利用して、異なるアプリケーションのための非常に異なるカートリッジを同じバッチにおいて量に依存しない方式で作製する。
【0703】
この段階において、カートリッジIDリファレンスは、カートリッジ本体に物理的にマーキングされる。
【0704】
c)作製プロセス測定
カートリッジの作製中、3Dプリントプロセスの関連パラメータが品質管理の目的で測定および記録される。これは、カートリッジ構築時間、3Dプリントプロセス設定、3Dビルドエンベロープにおけるカートリッジの位置、原料バッチ番号等を含んでよい。
【0705】
d)作製プロセス測定データの評価
カートリッジ作製に続いて、主要パラメータが所定の範囲内に収まることを確実にするために、収集されたプロセス測定データが評価される。
【0706】
e)カートリッジの次段階への解放
問題がなければ、次いでプリントされたカートリッジは「合格」とされ、作製プロセスの次のステップに進む。
【0707】
f)データ更新
「合格」に続いて、3Dプリント作製プロセスデータおよび収集されたプロセス測定データが、追跡可能性の目的でデジタルマスタファイルに追加される。
【0708】
3.3 作製後検査および品質管理(QC)
【0709】
カートリッジ作製に続いて、カートリッジが正常に作製されているかを確認する必要がある。カートリッジ体積内の高度に統合された機能は、侵襲的な非破壊の検査技法を用いることを必要とする。
【0710】
a)検査の準備
3Dプリント作製プロセスは、カートリッジの内部経路およびジオメトリに残留物および他の液体を残す場合がある。検査の前に余分な材料を除去するために、内部経路を水(または類似の液体)で流すことが必要である。
【0711】
b)非接触測定
カートリッジの内部体積内の内部機構および経路は、カートリッジを破壊しなければ検査のためにアクセスすることができない。したがって、非接触の方法(例えばCTスキャン、X線法等)を用いて物理的カートリッジをスキャンし、物理的カートリッジのデジタルモデルを作成する必要がある。
【0712】
c)結果をデジタルマスタファイルと比較
このように作成された物理的カートリッジのデジタルモデルは次いで、元のデジタルマスタファイルとの物理的カートリッジの仮想的な比較を可能とするために、関連するソフトウェア(例えばCADソフトウェア)に取り込まれる。
【0713】
d)検査プロセスデータの評価
次いで、作製されたカートリッジの主要パラメータが所定の範囲内であることを確実にするために、物理的カートリッジからのデジタル検査データがデジタルマスタファイルと比較して評価される。
【0714】
e)カートリッジの次段階への解放
問題がなければ、次いでプリントされたカートリッジは「合格」とされ、作製プロセスの次のステップに進む。
【0715】
f)データ更新
「合格」に続いて、品質管理試験の結果および収集されたプロセス測定データが、追跡可能性の目的でデジタルマスタファイルに追加される。
【0716】
g)カートリッジセキュリティキー
物理的カートリッジの作製および検査に続いて、元々注文を出したユーザのみが関連するカートリッジ作製履歴にアクセスできることを確実にするために、セキュリティキーが作成される。セキュリティキーは、電子的手段(例えばeメール)によりユーザに送信される。
【0717】
3.4 カートリッジ機能試験
【0718】
物理的カートリッジの正常な作製が確定すると、正常な動作を確実にするために、作製された機能の各々を試験する必要がある。試験は、領域ごとに行われる。
【0719】
a)流体機能試験
この試験の目的は、物理的カートリッジ内の流体機能が正常に機能することを確実にすることである。これを実現するために、物理的カートリッジが計量され、各流体回路について以下のステップが行われる。
・既知の液体体積がカートリッジに装填され、カートリッジが計量される。
・既知の液体体積が、カートリッジの使用中の液体搬送操作をシミュレートするように各流体回路内の全ての液体体積を通して移送される。
・液体移送ルーチンの特定の性能態様が測定される(例えば移送時間、液体流量等)。
・既知の液体体積がカートリッジから除去され、カートリッジが計量される。
【0720】
a)空気圧機能試験
この試験の目的は、物理的カートリッジ内の空気圧機能が正常に機能することを確実にすることである。これを実現するために、物理的カートリッジが圧縮空気供給部に接続され、各空気圧回路について以下のステップが行われる。
・各空気圧バルブおよび作動経路の空気体積を測定する。正常な作製を確実にする。
・各バルブを複数回操作(開閉操作)する。バルブ機構が正常に作製されていることを確実にする。
・バルブ圧力完全性試験。各バルブが長時間にわたって動作できることを確実にする。
・バルブ動作シーケンス試験。いくつかのバルブが同時に機能できることを確実にするために、バルブを組み合わせで動作させる。
【0721】
c)電子的機能試験
この試験の目的は、物理的カートリッジ内の電子的機能が正常に機能することを確実にすることである。これを実現するために、物理的カートリッジが、例えば標準計器マウントのピンを複製することにより、試験接続点に接続され、各電子回路について以下のステップが行われる。
・各電気回路の連続性試験。電気回路全体の作製の成功を確実にする。
・所定の電圧および電流を各電子的要素に通す掃引試験。各電子的要素が所望の性能範囲で動作できることを確実にする。
・電子的動作シーケンス試験。十分な同時性能を確実にするために、全てのカートリッジの電子的機能(すなわちいくつかの電子回路)が組み合わせで動作される。
【0722】
D)熱的機能試験
この試験の目的は、物理的カートリッジ内の熱的機能が正常に機能することを確実にすることである。これを実現するために、物理的カートリッジが、例えば標準計器マウントのコネクタを複製して、試験接続点に接続され、各熱回路について以下のステップが行われる。
・各熱回路の連続性試験。熱回路全体の作製の成功を確実にする。
・温度サイクル試験。ある範囲の所定の温度を生成するように、各熱装置/回路/ゲートが動作される。各熱要素が所望の性能範囲で動作できることを確実にする。
・熱的動作シーケンス試験。十分な同時性能を確実にするために、全てのカートリッジの熱的機能(すなわちいくつかの熱回路)が組み合わせで動作される。
【0723】
e)光学的機能試験
この試験の目的は、物理的カートリッジ内の光学的機能が正常に機能することを確実にすることである。これを実現するために、物理的カートリッジが光学試験リグに接続され、各光回路について以下のステップが行われる。
・正常な動作を確実にするために、LEDを周期動作させる。
・正常な動作を確実にするために、フォトダイオード(PD)を周期動作させる。
・光導波路伝送試験。複数の強度におけるある範囲の既知の波長が光導波路を通過させられ、結果が測定される。
・光学的動作試験。各光回路をプロトコル実行に従って動作させる(すなわち、LED、導波路およびPDの全てが試験される)。
・光学的動作シーケンス試験。十分な同時性能を確実にするために、全てのカートリッジの光学的機能(すなわちいくつかの光回路)が組み合わせで動作される。
【0724】
f)生物学的試薬機能試験
この試験の目的は、物理的カートリッジにおける生物学的試薬の正常な作製を確実にすることである。この試験は、上記の実施形態において説明した特定用途向け試薬と同時にカートリッジ内で作製される基準生物学的試薬を利用する。基準生物学的試薬の十分な性能は、特定用途向け生物学的試薬の正常な作製を示唆する。具体的な試験は、カートリッジに依存するが、以下の共通シーケンスに従う。
・基準試薬を再水化するために、基準生物学的試薬を含む試験コア/キャッシュに液体を移送する。
・基準試薬の再水化を測定し、性能は、特定用途向け乾燥試薬の性能を示唆する。
【0725】
g)~i)最終ステップ
機能試験の結果が、所定のレベルと比較され、カートリッジの合格/不合格が決定される。試験の結果に問題がなければ、次いでカートリッジは「合格」とされ、作製プロセスの次のステップに進む。機能試験データおよび合格/不合格の結果は、デジタルマスタファイルに添付される。
【0726】
3.5 カートリッジ最終試験
【0727】
各領域の機能の性能が確定されると、このとき、カートリッジに対してシステム試験(すなわち同時に動作するいくつかの領域の機能)を行うことが必要となり、これはカートリッジが設計されている特定の用途におけるカートリッジの使用を示す。
【0728】
a)システム試験の準備
前の試験からの材料が、カートリッジの内部経路およびジオメトリに残留物および他の液体を残す場合がある。システム試験の前に余分な材料を除去するために、内部経路を水(または類似の不活性液体)で流すことが必要である。
【0729】
b)試験材料の装填
システム試験は特定用途のものであるので、システム試験の前に、カートリッジの動作に固有の試験材料(例えば、PCRカートリッジの場合は試料、バッファおよびヌクレアーゼフリー水)がカートリッジに装填される。
【0730】
c)システム試験の実行
反応/生産サイクルにおける関連機能(例えば流体的、熱的、光学的)が正常に機能することを確実にするために、一連の特定用途試験がカートリッジに対して行われる。この試験は、各カートリッジ設計についての特定用途のものであり、例えば、バイオ製造関連のカートリッジ設計についての細胞培養サイクルを含み得る。
【0731】
d)~f)最終ステップ
機能試験の結果が、所定のレベルと比較され、カートリッジの合格/不合格が決定される。試験の結果に問題がなければ、次いでプリントされたカートリッジは「合格」とされ、作製プロセスの次のステップに進む。機能試験データおよび合格/不合格の結果は、デジタルマスタファイルに添付される。
【0732】
3.6 カートリッジの仕上げ
【0733】
システム試験に続いて、カートリッジをユーザ所在地への出荷のために準備する必要がある。
【0734】
a)試験材料の除去
前の試験からの材料が、カートリッジの内部経路およびジオメトリに残留物および他の液体を残す場合がある。仕上げステップの前に余分な材料を除去するために、内部経路を水(または類似の不活性液体)で流すことが必要である。
【0735】
b)材料の装填
最終的なカートリッジの使用に必要な試薬(例えば、上記の実施形態で説明したようなPCRカートリッジの場合はバッファ、ヌクレアーゼフリー水)がカートリッジに装填される。
【0736】
c)パッキング
カートリッジは、パッケージング材料に配置され、ユーザへの出荷の準備が整う。カートリッジ注文番号およびカートリッジIDリファレンスが、パッケージング材料の外部に印刷される。
【0737】
3.7 最終QCチェック
【0738】
カートリッジは、ユーザへの出荷の前の最終的な品質管理(QC)ステップとして、全ての作製および試験データの最終評価を受ける。
【0739】
a)デジタルマスタファイルの評価
ユーザにカートリッジを解放する前に、測定および試験データが十分であることを確実にするために、全ての検査および試験からの結果が評価される。
【0740】
b)セキュリティチェック
ユーザが正しいカートリッジ作製履歴にアクセスできることを確実にするために、前にユーザに送信された(上記のステップ3.2g)カートリッジセキュリティキーが、カートリッジIDリファレンス(すなわちシリアル番号またはバーコード)と突き合わせてチェックされる。
【0741】
c)注文チェック
カートリッジIDリファレンス(すなわちシリアル番号またはバーコード)は、ユーザがカートリッジの元の注文を出したときに作成されたカートリッジ注文番号と突き合わせてチェックされる。
【0742】
d)カートリッジの解放
上記のステップが確認されると、カートリッジは次いで、ユーザへの出荷のために解放される。
【0743】
3.8 カートリッジの出荷
【0744】
作製に続いて、カートリッジは次いで、従来の搬送オプション(投函、宅配等)によりユーザ所在地に出荷される。ユーザには、電子的に出荷が通知される。
【0745】
ハードウェア使用
【0746】
ユーザがカートリッジを受け取ると、プロトコル実行を可能とするためにカートリッジを計器に装填するためのワークフローが必要となる。本発明の一実施形態に係るハードウェア使用ワークフローにおけるステップを
図43に示す。
【0747】
4.1 初期ユーザ作業
【0748】
最初に、ユーザが計器を電源に接続し、電源ボタンを押して計器を始動させる。
【0749】
4.2 計器作業
【0750】
計器は、使用の準備をするために[計器始動]サブルーチンを自動的に実行する。次いで、計器は、[計器BIT]サブルーチンを自動的に実行する。この自動ルーチンは、正常な機能を確実にするために、i)各モジュール、ii)エンクロージャ機能(例えばファン)を含む計器機能に対する基本的試験を行う。自動サブルーチンが完了すると、計器は、i)使用の準備ができていること、およびii)ユーザが計器画面上のメッセージを介してログインする必要があることを確認する。
【0751】
4.3 ユーザ識別
【0752】
各ユーザは、ユーザプロファイルを有し、計器およびカートリッジを使用する認可を確実にするために計器にログインする必要がある。ログインのために、ユーザは、計器カメラでユーザIDをスキャンする。(近接タグなどの他の認可/識別方法が用いられてもよい)
【0753】
4.4 計器認可
【0754】
計器は、ユーザが自身のIDを計器カメラでスキャンすることを待って、[ユーザID読取り]サブルーチンを実行する。ユーザIDが読み取られると、計器は次いで、i)認可済みユーザのデータベースに対してユーザIDをチェックし、ii)ユーザプロファイルおよび適用可能なアクセスレベルを特定するために、[ユーザサインイン]サブルーチンを実行する。次いで、計器は、ユーザが認可されていることを確認し、計器画面上のメッセージを介してカートリッジをスキャンすることをユーザに促す。
【0755】
4.5 カートリッジ識別-ユーザ
【0756】
ユーザは、カートリッジIDリファレンス(例えばシリアル番号またはバーコード)を計器カメラでスキャンし、または実装される他の識別アプローチ(例えばRFIDタグ)を用いる。
【0757】
4.6 カートリッジ識別-計器
【0758】
計器は、計器カメラがカートリッジバーコードを読み取ることを可能とするために、[カートリッジ読取り]サブルーチンを自動的に実行する。カートリッジバーコードが読み取られると、計器は、カートリッジIDをクラウドデータベースに送信し、確認を待機する[カートリッジIDの確認]サブルーチンを自動的に実行する。
【0759】
計器は、クラウドデータベースからカートリッジIDに関する確認コマンドを受け取り、次いで、カートリッジ固有のプロトコルをダウンロードするために[カートリッジプロトコルのダウンロード]サブルーチンを自動的に実行する。これが完了すると、計器は、計器画面上のメッセージを介してカートリッジが計器に装填される準備ができていることを確認する。
【0760】
4.7 カートリッジ装填-ユーザ
【0761】
カートリッジを装填するための計器による確認に続いて、ユーザは、必要な任意の試料をカートリッジに装填する。次いで、ユーザは、カートリッジを計器に装填する。
【0762】
4.8 カートリッジ装填-計器
【0763】
ステップ4.6に続いて、計器は、ユーザがカートリッジを装填するのを待って、バックグラウンドで[カートリッジ装填/取出し]サブルーチンを自動的に実行する。ユーザがカートリッジを装填すると、サブルーチンは、計器におけるカートリッジ位置センサの出力をチェックする。カートリッジが正しく装填されている場合、計器は、計器画面を介して「正しく装填済み」のメッセージをユーザに示す。
【0764】
4.9 カートリッジ試験-カートリッジ
【0765】
カートリッジが計器に装填されると、計器は、[カートリッジBIT]サブルーチンを自動的に実行する。これは、バルブ、LED、PD、電子的機能等を含む動作を確実にするために、カートリッジ内の全てのアドレスに対して基本的な機能試験を行う。
【0766】
計器は、計器画面上のメッセージを介してカートリッジBITの成功の結果をユーザに確認する。カートリッジがBitITに失敗した場合、これもまた、カートリッジを取り外すことをユーザに促すようにユーザに通信される。
【0767】
カートリッジBITに続いて、計器は次いで、プロトコル実行の準備として、自動的に空気を除去してカートリッジ内の全ての主要なバスをプライミングするために、[カートリッジプライム]サブルーチンを自動的に実行する。
【0768】
4.10 カートリッジ試験-計器
【0769】
カートリッジがプライミングされると、計器は、クラウドデータベースでカートリッジBITの結果を確認し、次に進むための確認を待機する[カートリッジ準備]サブルーチンを自動的に実行する。次に進むための確認がクラウドデータベースから受信されると、計器は、カートリッジにおいて実験プロトコルを実行する準備ができ、計器画面上の「プロトコル実行準備完了」のメッセージを介してユーザに通知する。
【0770】
4.11 確認-ユーザ
【0771】
計器が「プロトコル実行準備完了」のメッセージを表示すると、ユーザは、計器のタッチスクリーンを介してこれを確認する。
【0772】
4.12 確認-計器
【0773】
ユーザがプロトコル実行を確認すると、計器は、[カートリッジ操作実行]サブルーチンを自動的に実行する。
【0774】
カートリッジプロトコル実行
【0775】
カートリッジが計器に装填されると、実験プロトコルが実行され得る。
【0776】
上述の高複雑度PCRカートリッジについての例示的プロトコルについての
図44に示すカートリッジプロトコル実行ワークフローに対する複数のステップが存在する。以下の表1は、計器コンピュータにより制御されカートリッジにおいて実行されるソフトウェアプログラムの実行について説明する。特定の実験の実行は、その表の後に説明する。
【0777】
プロトコル実行ソフトウェアプログラム
【0778】
ソフトウェアプログラムは、「標準的」および「カスタム」と称されるいくつかのサブルーチン(動作方法の説明を参照)を含む。標準的なサブルーチンは、カートリッジごとに必要な主要ステップを具現する。カスタムサブルーチンは、特定用途のものであり、各カートリッジ設計の間で大幅に異なる(例えばこの場合は、PCR実験が高複雑度PCRカートリッジにおいて行われる)。
【0779】
【0780】
【0781】
カートリッジが[カートリッジシャットダウン]サブルーチンを完了したことを標準計器に信号で伝達すると、計器は、[カートリッジプロトコル完了]サブルーチンを実行する。このサブルーチンは、実験データをクラウドデータベースに伝送する。
【0782】
サブルーチンはまた、使用済みカートリッジIDリファレンスが以後に重複することを防止するために、特定のカートリッジIDリファレンスについての[カートリッジ使用済み]ステータスをクラウドデータベースに送信する。計器は次いで、カートリッジプロトコルの実行が成功したことを計器画面上のメッセージを介してユーザに示し、カートリッジが取り外され得る。計器は次いで、カートリッジが計器から正しく取り外されることを待って[カートリッジ装填/取出し]サブルーチンを実行する。
【0783】
カートリッジプロトコル実行-実験
【0784】
上述の実施形態に係る高複雑度PCRカートリッジの使用の例において、カートリッジにより実行されるプロトコルは、25の別個のPCR実験を含む。本節は、各PCR実験を実行するために用いられるステップの順序の概略を提供する。
図45は、各実験におけるステップの概要を示す。それらのステップの各々の下の動作方法の詳細の説明(すなわちサブルーチン等)は、本文書の他の箇所に記載されている。
【0785】
【0786】
【0787】
ハードウェア使用後作業
【0788】
カートリッジは、プロトコルの実行に成功すると、計器がシャットダウンされまたは別のカートリッジを受け取ることができるように、計器から取り外される必要がある。
【0789】
ハードウェア使用後ワークフローにおけるステップを
図46に示す。
【0790】
6.1 カートリッジ取外し
【0791】
カートリッジプロトコルの実行が成功したことを計器が示すと、ユーザは、メッセージを確認し、次いでカートリッジを計器から取り外して処分する。
【0792】
6.2 動作後試験
【0793】
計器は、カートリッジプロトコルの完了に続いて、[カートリッジ装填/取出し]サブルーチンを自動的に実行する。計器は、ユーザがカートリッジを取り外したことをセンサを介して検知し、これは[カートリッジ装填/取出し]サブルーチンを停止する。
【0794】
カートリッジの取外しの成功に続いて、計器は次いで、次のカートリッジのための準備ができていることを確実にするべく、各モジュールにおける機能およびエンクロージャ機能(例えばファン)を試験するために、(計器始動ルーチンに従って)[計器BIT]サブルーチンを自動的に実行する。次いで、計器BITの完了の成功により、計器が計器画面上に「次のカートリッジの準備完了」のメッセージを表示することが可能となる。
【0795】
6.3-6.4 次のステップ
【0796】
ユーザは、別のカートリッジを装填するか、または計器の電源を切ってよい。別のカートリッジの装填の結果として、ユーザはステップ4.3に戻り、前述のステップに従う。ユーザが計器の電源ボタンを押すことにより計器の電源を切ることを選択した場合、計器は、電源オフの前にモジュールおよびエンクロージャの両方における全ての計器機能をシャットダウン/減圧するための[計器電源停止]サブルーチンを自動的に実行する。
【0797】
設計の更新
【0798】
プロトコルの実行およびクラウドデータベースにPCR実験データを伝送し戻すことに続いて、プロトコルおよびカートリッジの両方の最適化のための領域を特定する機会が生じる。
【0799】
プロトコルの完了に続いて、ユーザは、全てのPCR実験データを評価し、これを高複雑度PCRカートリッジ設計と突き合わせて評価する。評価の目的は、最適化することが可能なカートリッジおよび動作方法の領域を特定することである。最適化は、全体的な実験を推し進める(例えば実験のさらなる繰り返しを行う)ための特定のプロトコルの改善、将来に特定のカートリッジを利用することを望み得る他のユーザのためのカートリッジ設計および動作方法の全般的改善のうちの1つまたは複数を含んでよい。
【0800】
上記では本発明の実施形態を説明したが、本発明が、好適な実施形態についての本説明に開示されている特定の構成および方法に限定されるべきではないことは、当業者には理解されよう。本発明が幅広い適用例を有し、実施形態が、添付の特許請求の範囲において規定されるいかなる発明概念からも逸脱することなく広範な変形形態を取り得ることは、当業者には認識されよう。
【符号の説明】
【0801】
10 カートリッジ
14 試薬貯蔵装置
16 インターフェース点
16b コネクタ
52 ユーザインターフェース/タッチスクリーン
53 カートリッジおよびユーザIDリーダ
61 ポンプ
67 マニフォールド
68 空気リザーバ
69 空気圧バルブ
70 標準計器コンピュータ
72 カートリッジモジュール制御PCB
【国際調査報告】