(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(54)【発明の名称】太陽光に対して安定化されたアクリル及びモダクリル繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/38 20060101AFI20230324BHJP
D01F 6/40 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
D01F6/38
D01F6/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547263
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(85)【翻訳文提出日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 TR2021050094
(87)【国際公開番号】W WO2021158196
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522308118
【氏名又は名称】アクサ アクリリク キミャ サナイ― アノニム シルケティ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】メルイエム セイマ、アイカン
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB15
4L035EE14
4L035EE20
4L035JJ05
4L035KK05
(57)【要約】
少なくとも85%のアクリロニトリル基を含むアクリル繊維、又は、少なくとも40%のアクリロニトリル基及び少なくとも40%の塩化ビニリデン基を含有するモダクリル繊維を含有し、屋外用布地に使用するために製造されるアクリル繊維若しくはモダクリル繊維であって、UV吸収材料、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)及びIR反射材料を含み、太陽光によって引き起こされる表面加熱及びUV光に対する耐性を増加させることを特徴とする、アクリル繊維若しくはモダクリル繊維。
の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外用布地に使用するために製造される、少なくとも85%のアクリロニトリル基を含むアクリル繊維、又は少なくとも40%のアクリロニトリル基及び少なくとも40%の塩化ビニリデン基を含有するモダクリル繊維であって、UV吸収材料、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)及びIR反射材料を含み、太陽光によって引き起こされるUV光及び表面加熱に対する耐性を増加させることを特徴とする、アクリル繊維若しくはモダクリル繊維。
【請求項2】
0.1~10%の割合でUV吸収材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項3】
HALSを0.1~10%の割合で含むことを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項4】
0.05~5%の割合でIR反射材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項5】
前記UV吸収材料が、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化モリブデン、リン酸ジルコニウム及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される単一の材料又は組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項6】
前記UV吸収材料が、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニルトリアジン、オキサニリジン及びヒンダードベンゾエートからなる群から選択される単一の材料又は組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項7】
前記ヒンダードアミン系光安定剤の分子構造が下記式1又は式2であることを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
式1
【化1】
式2
【化2】
式1及び2において、各R
1はアルキル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、シクロヒドロキシアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロヒドロキシアルケニル、ベンジル及びヒドロキシベンジルデンからなる群から選択され、各R
2、R
3、R
4及びR
5は水素、メチル、ヒドロキシメチル、アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、シクロヒドロキシアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロヒドロキシアルケニル、ベンジル及びヒドロキシベンジルデンからなる群から選択される。
【請求項8】
前記HALSの分子量が、500~1500g/mol又は2000~5000g/molであることを特徴とする、請求項1又は7に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項9】
前記IR反射材料が、ルチル二酸化チタン、トルマリン、ネフェリンシエナイト、硫酸バリウム、リトポン、硫化亜鉛、酸化アルミニウム及びカーボンナノチューブからなる群から選択される個々又は組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のアクリル繊維又はモダクリル繊維。
【請求項10】
a)少なくとも85%のアクリロニトリル及びビニルコモノマーを重合するか、又は少なくとも40%のアクリロニトリル、少なくとも40%の塩化ビニリデン及びビニルコモノマーを重合する工程、b)得られたポリマーを極性非プロトン性溶媒に溶解することによってドープ溶液を調製する工程、c)繊維径を画定するための孔を有する紡糸口金と呼ばれるプレート上にポンプを手段として使用することによってドープ混合物を移送する工程、d)プレートから受け取ったドープ混合物に、凝固槽中のフィラメント形態を与える工程、e)フィラメントを洗浄して余分な溶媒を除去する工程、f)洗浄したフィラメントを乾燥させることなく仕上げ槽に移送し、次いで乾燥させる工程、g)乾燥後に得られたフィラメントをクリンプする(crimping)及びアニールする(annealing)工程を含む、屋外用布地に使用されるアクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法であって;
太陽光によって引き起こされるUV光及び表面加熱に対する耐性を増加させるために、次の工程を含むことを特徴とする方法:
*それぞれ別個の容器中に調製された、HALS溶液、UV吸収溶液及びIR反射分散液を、製造方法 工程b)で記載のドープ溶液に添加する、
又は、
*工程b)で記載のドープ溶液に、調製したIR反射分散液を添加し、
*工程f)の前に、水中に別々にカプセル化して調製したHALSとUV吸収材料とを、仕上げ槽中に添加する。
【請求項11】
UV吸収材料を、0.1~10%の割合で含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
HALSを、0.1~10%の割合で含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
0.05~5%の割合でIR反射材料を含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記UV吸収材料が、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化モリブデン、リン酸ジルコニウム及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される単一の材料又は組合せであることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
前記UV吸収材料が、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニルトリアジン、オキサニリジン及びヒンダードベンゾエートからなる群から選択される単一の材料又は組合せであることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
溶液20%中の前記UV吸収材料のpH値が、4~9であることを特徴とする、請求項10又は請求項14~15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ヒンダードアミン系光安定剤の分子構造が下記式1又は式2であることを特徴とする請求項10に記載の製造方法:
式1
【化1】
式2
【化2】
各式において、各R
1はアルキル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、シクロヒドロキシアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロヒドロキシアルケニル、ベンジル及びヒドロキシベンジルデンからなる群から選択され、各R
2、R
3、R
4及びR
5は水素、メチル、ヒドロキシメチル、アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、シクロヒドロキシアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロヒドロキシアルケニル、ベンジル及びヒドロキシベンジルデンからなる群から選択される。
【請求項18】
前記HALSの10%水溶液のpH値が、4~9であることを特徴とする、請求項10又は17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記HALSの分子量が、500~1500g/mol又は2000~5000g/molであることを特徴とする、請求項10又は17に記載の製造方法。
【請求項20】
前記IR反射材料が、ルチル二酸化チタン、トルマリン、ネフェリンシエナイト、硫酸バリウム、リトポン、硫化亜鉛、酸化アルミニウム及びカーボンナノチューブからなる群から選択される単一の材料又は組合せであることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項21】
前記IR材料で得られる分散液のpH値が、5~8であることを特徴とする、請求項10又は20に記載の製造方法。
【請求項22】
工程a)において記載されるビニルコモノマーが、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、ビニルピリリドン、ビニルアルコール、アクリル酸、アクリルアミド、メチルアリルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、イタコン酸、メタクリル酸グリシジン、塩化ビニル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、安息香酸ビニル、酪酸ビニル又はブチルビニルエーテルであることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも85%のアクリロニトリル基を含有するアクリル繊維、又は少なくとも40%のアクリロニトリル基及び少なくとも40%の塩化ビニリデン基を含有するモダクリル繊維の、太陽光によって引き起こされるUV光及び表面加熱に対する耐性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルは、アクリル繊維、樹脂、プラスチックなどの各種有機物の合成に広く使用されているモノマーであり、活性ビニルとシアン基を含む反応性の高い化合物である。アクリロニトリルの広く使用されている分野は、アクリル及びモダクリル繊維の製造であり、アクリル繊維は、コ-モノマーを含有する。アクリロニトリル比が、85重量%以上の繊維はアクリルと呼ばれ、35~85重量%の繊維はモダクリルと呼ばれる。ウールとの類似性及びそれらの疎水性のために、アクリル繊維及びモダクリル繊維は、広範囲の織物に使用することができる。特に、屋外で使用される場合、色の変化及び強度の損失のような問題が経時的に経験される。その主な理由は、太陽光から受けたUV及び赤外線がポリマーの構造を破壊することである。従来技術において、HALS(ヒンダードアミン光安定剤)又はUV吸収剤は、アクリル及びモダクリル繊維において、それらを日光から保護するために使用される。
【0003】
アクリル繊維の光及び熱に対する分解機構は互いに異なり、アクリル繊維が日光に曝されたときに2種類の分解が観察される。アクリル繊維の光劣化メカニズムを
図1に、アクリル繊維の熱劣化メカニズムを
図2に示す。アクリル繊維の光に対する劣化メカニズムから、アクリル繊維をUV波長に曝露すると有害な一次ラジカルが生成する。HALS構造は、これらの一次ラジカルを無害にすることが知られている。熱に対する劣化の場合、HALS安定剤は、この劣化を防止することができない。UV吸収剤は太陽光から有害なUV波長を吸収し、ポリマーに対するその影響を低減する。しかしながら、それは、光又は熱によって劣化した繊維のさらなる劣化を防ぐことができない。このため、太陽光のすべての影響に対する保護は、UV吸収剤では提供ができない。
【0004】
本課題に関する文献にはいくつかの特許出願がある。これらのうちの1つは、米国特許第10214836B1号明細書に記載されており、UV光の存在下でのアクリル繊維の劣化を防止するためのHALS(ヒンダードアミン光安定剤)光安定剤の使用を記載している。アクリル繊維がこの出願に使用されるHALS安定剤の手段によって光線に対して分解するのを防止された場合、同じHALS安定剤は、熱に対して繊維が分解するのを防止することができなかった。
【0005】
JP4243478B2の発明では、トリアジン構造を有するUV吸収剤が、モダクリル繊維に使用されている。このUV吸収剤は、光又は熱によって劣化した繊維のさらなる劣化を防ぐことができず、太陽光のすべての影響に対する保護は、この発明において提供することができなかった。
【0006】
US7694827B2の発明は、熱に対する劣化を防止するためのアクリル繊維中の金属酸化物粒子の使用に関する。この熱保護は、高温ガスフィルタに使用されるアクリル繊維のために提供され、太陽光からの赤外線加熱に対する保護に関する情報はない。その結果、上記のようなマイナス・不具合により、当該技術分野においてイノベーションを行う必要が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第10214836B1号明細書
【特許文献2】日本特許第4243478B2号明細書
【特許文献1】米国特許第7694827B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の要件を満たし、すべての欠点を排除し、いくつかのさらなる利点をもたらす、太陽光に対して安定化されたアクリル及びモダクリル繊維に関する。
【0009】
本発明の主な目的は、少なくとも85%のアクリロニトリル基を含むアクリル繊維、及び少なくとも40%のアクリロニトリル基と少なくとも40%の塩化ビニリデン基とを含むモダクリル繊維の、太陽光によって引き起こされる、UV光及び表面加熱に対する耐性を高めることである。
【0010】
本発明の目的は、IR放射及び太陽光からのUV放射に対するアクリル繊維及びモダクリル繊維の耐性を高めることである。
【0011】
本発明の目的は、HALS、UV吸収剤及びIR反射材料を共に適用することによって、太陽光のすべての影響からアクリル繊維及びモダクリル繊維を保護することである。
【0012】
本発明の目的は、アクリル繊維及びモダクリル繊維から製造される屋外用布地において経時的に生じ得る色変化及び強度の損失を防止することである。
【0013】
本発明の別の目的は、アクリル繊維及びモダクリル繊維から作製される屋外用布地の寿命を延ばすことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は少なくとも85%のアクリロニトリル基を含有するアクリル繊維、又は少なくとも40%のアクリロニトリル基と少なくとも40%の塩化ビニリデン基を含有するモダクリル繊維であって、屋外用布地に使用するために製造され、UV吸収材料、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)及びIR反射材料を含み、太陽光によるUV光及び表面加熱に対する耐性を増大させることを特徴とする、アクリル繊維である。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、
a)少なくとも85%のアクリロニトリル及びビニルコモノマーを重合するか、又は少なくとも40%のアクリロニトリル、少なくとも40%の塩化ビニリデン及びビニルコモノマーを重合する工程、
b)得られたポリマーを極性非プロトン性溶媒に溶解することによってドープ溶液を調製する工程、
c)繊維径を画定するための孔を有する紡糸口金と呼ばれるプレート上にポンプの手段によってドープ混合物を移送する工程、
d)プレートから受け取ったドープ混合物にフィラメント形態を凝固槽中で与える工程、
e)フィラメントを洗浄して余分な溶媒を除去する工程、
f)洗浄したフィラメントを乾燥させることなく仕上げ槽に移送し、次いで乾燥させる工程、
g)乾燥後に得られたフィラメントをクリンプし、アニールする工程、を含む、屋外用布地で使用するためのアクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法;
*それぞれ別個の容器中で調製された、HALS溶液、UV吸収溶液、及び IR反射性分散液を、工程b)で記載のドープ溶液中に入れる、
又は
*工程b)で記載のドープ溶液に、調製したIR反射分散液を添加し、
*工程f)の前に、水中に別々にカプセル化して調製した、HALSとUV吸収材料とを仕上げ槽中に添加する。
【0016】
以下の詳細な説明により、本発明の構造的及び特徴的な特徴、並びに全ての長所がより明確に理解され、したがって、本発明は、この詳細な説明を参酌して判断されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図2は、アクリル繊維の熱劣化メカニズムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この詳細な説明では、太陽光に対して安定化されたアクリル及びモダクリル繊維について、本発明のより良い理解のためにのみ、制限的な効果なしに説明される。
【0019】
本発明は、屋外用布地に使用するために製造される、少なくとも85%のアクリロニトリル基を含有するアクリル繊維、又は少なくとも40%のアクリロニトリル基及び少なくとも40%の塩化ビニリデン基を含有するモダクリル繊維の、太陽光によって引き起こされる、UV光及び表面加熱に対する耐性の向上に関する。本発明の特徴は、HALS、UV吸収及びIR反射材料が共に適用されることである。
【0020】
本発明のアクリル及びモダクリル繊維の製造において、0. 1~10重量%、好ましくは0. 5重量%のHALS、0. 1~10重量%、好ましくは0. 5重量%のUV吸収材料、及び0.05~5重量%、好ましくは0.25重量%のIR反射材料が使用される。
【0021】
UV吸収材料は、太陽光から有害なUVを吸収することによって、ポリマーのUVへの曝露を低減する。本発明の好ましい実施形態では、無機及び有機化合物が、UV吸収材料として使用される。無機化合物としては、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化モリブデン、リン酸ジルコニウム、酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる単独又は組み合わせを用いることができる。有機化合物としては、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニルトリアジン、オキサニリジン及びヒンダードベンゾエートからなる群から選択される、個々又は組み合わせを使用することができる。UV吸収材料は、ドーピング中又は仕上げ工程においてポリマーに添加することができる。
【0022】
無機化合物からなるUV吸収材料は、水及び溶媒単独に不溶性である。懸濁/分散は、UV吸収材料を、溶媒及びポリマーと混合することによって得られる。使用されるUV吸収材料の平均粒径はドープ中に添加することができるように、300nm未満であるべきである。300nmを超える平均粒径を有するUV吸収材料が使用される場合、それらは、粒径を減少させるために粉砕プロセスに供される。
【0023】
有機化合物からなるUV吸収材料は、DMAc、DMF、DMSO、NMP、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブトロラクトン、ガンマバレロラクタン、MEK、アセトン及び粉末形態のTHFなどの極性非プロトンに溶解している場合、ドープに添加することによって使用することができる。これらの材料が水溶性又は分散性である場合、仕上げ中に繊維に適用することができる。
【0024】
溶媒に溶解したUV吸収剤の揮発性は、300℃で5%以下である。本発明の好ましい実施形態では、使用されるUV吸収材料のpH値(溶液20%)は4~9である。
【0025】
IR反射材料は、太陽光からの赤外線放射によって引き起こされる表面加熱によって引き起こされる熱劣化を防止する。本発明の好ましい実施形態において使用されるIR反射材料は、ルチル二酸化チタン、トルマリン、ネフェリンシエナイト、硫酸バリウム、リトポン、硫化亜鉛、酸化アルミニウム及びカーボンナノチューブからなる群から選択される個々又は組合せである。懸濁/分散は、IR反射材料を溶媒及びポリマーと混合することによって得られる。使用されるIR反射材料の平均粒径は、それがドープ中に添加され得るように、300nm未満であるべきである。300nmを超える平均粒径を有するIR反射材料が使用される場合、それらは、粒径を減少させるために粉砕プロセスに供される。IR材料で得られる分散液のpH値は、5~8であるべきである。
【0026】
HALS (ヒンダードアミン光安定剤)は、太陽光からの有害なUV放射によって形成される一次ラジカルがポリマー中に捕捉され、無害な化合物に変換されることを確実にする。
本発明の好ましい実施形態において使用されるHALSの構造は、式1又は式2に示される通りである。
式1:
【化1】
式2:
【化2】
【0027】
式中、各R1は、アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、シクロヒドロキシアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロヒドロキシアルケニル、ベンジル及びヒドロキシベンジルデンからなる群から選択される。
【0028】
各R2、R3、R4及びR5は、水素、メチル、ヒドロキシメチル、アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、シクロヒドロキシアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロヒドロキシアルケニル、ベンジル及びヒドロキシベンジルデンからなる群から選択される。
【0029】
粉末形態で又は水中に、カプセル化されたHALSを使用して、本発明によるアクリル又はモダクリル繊維を得ることができる。
溶液は、HALS溶媒に粉末形態で溶解することによって得ることができる。使用したHALSの20%溶液のpH値は、4~9である。粉末形態では、HALSの水への溶解度は1%未満である。本発明の好ましい実施形態では、DMAc、DMF、DMSO、NMP、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γブトロラクトン、γバレロラクタン、MEK、アセトン、THFなどの極性非プロトン性溶媒を溶媒として使用することができる。
【0030】
水中にカプセル化されたHALSは、仕上げによって繊維上に塗布される。カプセル化HALSの10%水溶液のpH値は4~9である。
【0031】
粉末形態及び水中の両方でカプセル化されたHALSの分子量は、500~1500g/mol又は2000~5000g/molであり得る。
【0032】
地球に到達する太陽光には、UV、可視光線、赤外線の3種類の電磁放射がある。UV放射は、最も低い波長及び最も高いエネルギーを有する放射である。すべての有機分子及びポリマーは、それらの構造中の共有結合のためにUV透過性を有する。
最も高い透過性を有するポリマーの波長は、その構造を最も破壊するエネルギーである。この放射線によって放出されるエネルギーは、炭素窒素単一共有結合、酸素酸素単一共有結合、炭素炭素単一共有結合、炭素水素単一共有結合、ポリマー鎖中の炭素塩素単一共有結合、及びラジカルの形成などの結合の切断を引き起こす。
ラジカルは非常に反応性の高い分子であるため、それらは、空気中の無傷の結合及び酸素と短時間で反応し、ポリマー鎖を分解させる。この劣化は光酸化と呼ばれる。この劣化は指数関数的な速度で増加するので、ポリマーの急速な色変化及び強度の損失があり、それらの寿命が減少する。太陽光から来る赤外線波長は、ポリマーを加熱することを可能にする。この加熱は、ポリマーの熱酸化を経時的に引き起こす。いくつかのポリマーでは熱酸化及び光酸化のメカニズムは同じであるが、これらの2つのメカニズムはアクリル繊維及びモダクリル繊維において異なる。
【0033】
ポリアクリロニトリルコポリマーから得られ、少なくとも85重量%のアクリロニトリルからなる繊維が最も高い透過性を有する波長は、300ナノメートルである。本発明において、UV吸収剤は繊維が最も敏感である波長を吸収し、それを無害にするために使用されるが、UV吸収剤単独では前記保護を提供するのに十分ではない。長時間日光にさらされた場合に発生する可能性のあるラジカルは無害にしなければならない。HALS分子は、ピペリジン基の手段によって形成されるラジカルと反応することによって光酸化を止める。UV吸収剤とHALS分子との組み合わせは光酸化に対する繊維に対する最高の保護を提供するが、この保護は熱酸化によって誘発される分解に影響を及ぼさない。IR反射材料は、太陽光から来る赤外線波長を反射することによって、繊維の表面上の加熱を防止する。UV吸収剤、HALS及びIR反射材料の組み合わせにより、アクリル繊維及びモダクリル繊維は、日光の存在下での光酸化及び熱酸化によって誘発される劣化に対して高度の有効性を有する。
【0034】
実施例1
太陽光に起因する、表面加熱及びUV光に対する耐性を高めたアクリル系繊維を得る方法;
*85%以上のアクリロニトリルと、ビニル共重合体を、重合し、得られた重合体を極性非プロトン性溶媒に溶解してドープ液を調製し、
*HALS溶液、UV吸収溶液、IR反射分散液を別容器に調製し、
*調製した溶液と分散液を、順序に関わらずドープ液に添加する。
*繊維径を規定する孔を有する紡糸口金と呼ばれるプレート(plates)に、ポンプの手段によってドープ混合物を移し、プレートから出るドープ混合物を凝固槽(水混合溶媒の混合物)中でフィラメント状にし、
*次いで、混合物を洗浄して前記フィラメント上の余分な溶剤を除去し、
*洗浄したフィラメントを乾燥させずに仕上げ槽に移し、次いで、それらを乾燥させ、
*乾燥後に得られたフィラメントをクリンプしてより良好な糸を得る、
*クリンプされた繊維をアニールし、最終生成物を得る。
本発明の好ましい実施形態において使用することができるコ-モノマーは、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、ビニルピリリドン、ビニルアルコール、アクリル酸、アクリルアミド、メチルアリルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、イタコン酸、メタクリル酸グリシジン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、安息香酸ビニル、酪酸ビニル又はブチルビニルエーテルである。
【0035】
太陽光に起因する、表面加熱及びUV光に対する耐性を高めたモダクリル繊維を得る方法;
* 40%以上のアクリロニトリル、40%以上の塩化ビニリデン、ビニルコモノマーを重合し、
*得られたポリマーを、極性非プロトン性溶媒に溶解してドープ溶液を調製し、
*HALS溶液、UV吸収溶液、IR反射分散液を、別容器に調製し、調製した溶液と分散液を、順番に関係なくドープ溶液に添加する。
*ドープ混合物を、ポンプの手段により、繊維径を規定する孔を有する紡糸口金と呼ばれるプレートに移し、プレートから出るドープ混合物を凝固槽(水混合溶媒の混合物)中でフィラメント状にし、
*次いで、混合物を洗浄して前記フィラメント上の余分な溶剤を除去し、
*洗浄したフィラメントを乾燥させずに仕上げ槽に移し、次いで、それらを乾燥させ、
*乾燥後に得られたフィラメントをクリンプして、より良好な糸を得る、
*クリンプされた繊維をアニールし、最終生成物を得る。
本発明の好ましい実施形態において使用できるビニルコ-モノマーは、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、ビニルピリリドン、ビニルアルコール、アクリル酸、アクリルアミド、メチルアリルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、イタコン酸、メタクリル酸グリシジン、塩化ビニル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、安息香酸ビニル、酪酸ビニル又はブチルビニルエーテルである。
【0036】
太陽光に起因する、表面加熱やUV光に対する耐性を高めたアクリル系繊維を得るために適用する他の方法;
* 85%以上のアクリロニトリルとビニルコモノマーを重合し、
*得られたポリマーを極性非プロトン性溶媒に溶解してドープ液を調製し、
*IR反射性分散液を別容器に調製し、ドープ液に添加する。
*ドープ混合物を、ポンプの手段により、繊維径を規定する孔を有する紡糸口金と呼ばれるプレートに移し、プレートから出るドープ混合物を凝固槽(水混合溶媒の混合物)中でフィラメント状にし、
*フィラメント上の余分な溶剤を除去するために洗浄し、
*HALSとUV吸収材を別々に水中でカプセル化して調製し、仕上げ槽に添加する。
*洗浄したフィラメントを乾燥させずに仕上げ槽に移し、乾燥させる。
*乾燥後に得られたフィラメントを捲縮(クリンプ)してより良い糸を得る。
*捲縮(クリンプ)した繊維をアニールして最終生成物を得る。
【0037】
太陽光に起因する、表面加熱及びUV光に対する抵抗が増大したモダクリル繊維を得るために適用される別の方法;
*40%以上のアクリロニトリル、40%以上の塩化ビニリデン、ビニルコモノマーを重合し、
*得られたポリマーを極性非プロトン性溶媒に溶解してドープ液を調製し、
*IR反射性分散液を別容器に調製し、ドープ液に添加する、
*ドープ混合物を、ポンプの手段により、繊維径を規定する孔を有する紡糸口金と呼ばれるプレートに移し、プレートから出るドープ混合物を凝固槽(水混合溶媒の混合物)中でフィラメント状にし、
*フィラメント上の余分な溶媒を除去するために洗浄し、
*別々に水中にカプセル化して調製したHALSとUV吸収材を、仕上げ槽に添加し、*洗浄したフィラメントを乾燥させずに仕上げ槽に移し、乾燥させ、
*乾燥後得られたフィラメントを捲縮(クリンプ)してより良好な糸を得る。
*捲縮(クリンプ化)繊維をアニールして最終生成物を得る。
【0038】
本発明の別の主題は、上述の製造方法によって得られるアクリル繊維又はモダクリル繊維である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、屋外用布地製品が、日よけ布、海洋布、屋外家具に使用される家具用布、日よけに使用される布、及び船の帆に使用される布である。
【国際調査報告】