(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(54)【発明の名称】抗ウイルス性組成物および使用の方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20230324BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230324BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230324BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20230324BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20230324BHJP
A61K 31/7052 20060101ALI20230324BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230324BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230324BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20230324BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230324BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230324BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230324BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K45/00
A61K45/06
A61K38/21
A61K31/675
A61K31/7052
A61K31/4706
A61P31/14
A61P11/04
A61P11/02
A61P11/00
A61P29/00
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548208
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 US2021016378
(87)【国際公開番号】W WO2021158635
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519060232
【氏名又は名称】エイアイ・セラピューティクス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】グネル、ムラート
(72)【発明者】
【氏名】ランドレット、ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ヤング、ピーター アール.
(72)【発明者】
【氏名】リッヒェンシュタイン、ヘンリ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084AA23
4C084AA24
4C084BA44
4C084DA21
4C084NA05
4C084ZA071
4C084ZA591
4C084ZB112
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC412
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC73
4C086CB06
4C086CB22
4C086DA38
4C086EA12
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA07
4C086ZA59
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、アピリモドなどのPDCfyve阻害剤、およびコロナウイルス感染症の治療もしくは予防のための関連する組成物と方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス感染の治療または予防の必要性のある対象におけるコロナウイルス感染の治療または予防の方法であって、アピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩を含む組成物を前記対象へ投与することを含む方法。
【請求項2】
追加のPIKfyve阻害剤、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニストおよびPD-1アンタゴニストから選択される少なくとも1つの追加の活性剤を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加のPIKfyve阻害剤は、APY0201、YM-201636、およびその薬学的に許容される塩から成る群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アピリモドは、遊離塩基もしくはジメシル酸塩の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩は、塩化物、リン酸塩、マレイン酸塩、L-酒石酸塩、フマル酸塩、DL乳酸塩、およびメシル酸塩から成る群より選択されるモノ塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記薬学的に許容される塩は、メシル酸塩、塩化物、および臭化物から成る群より選択されるジ塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象はヒトである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
抗ウイルス剤を前記対象へ投与することをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗ウイルス剤は、インターフェロン、レムデシビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキンおよびクロロキンから成る群より選択される1つ以上の薬剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗ウイルス剤は、インターフェロンである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記抗ウイルス剤は、レムデシビルである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記抗ウイルス剤は、アジスロマイシンである、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記抗ウイルス剤は、ヒドロキシクロロキンである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記抗ウイルス剤は、クロロキンである、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
抗炎症剤を投与することをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記抗炎症剤はトシリズマブおよびサリルマブから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記必要性のある対象は、喉の痛み、鼻の詰まりおよび/または分泌物、息切れ、呼吸困難、および発熱の1つ以上を含む呼吸器ウイルス感染症の症状を有する者である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記コロナウイルスはSARS-CoV-2である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記方法は、アピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩を、レムデシビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、トシリズマブおよびサリルマブから選択される1つ以上の追加の治療薬との併用で投与することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
アピリモドは、前記1つ以上の追加の治療薬と異なる剤形、または同じ剤形で投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
別々の容器にもしくは単一の容器に、単位用量のアピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩、および任意選択で単位用量のPD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、PD-1アンタゴニストおよび抗ウイルス剤のうちの1つ以上を含む医薬パックもしくはキット。
【請求項22】
前記抗ウイルス剤はインターフェロンである、請求項19の医薬パックもしくはキット。
【請求項23】
別々の容器にもしくは単一の容器に、単位用量のアピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩、および単位用量のレムデシビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、トシリズマブおよびサリルマブから選択される1つ以上の追加の治療薬を含む医薬パックもしくはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PIKfyve阻害剤を含む抗ウイルス性組成物およびコロナウイルス感染症の治療でのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのウイルスはエンドサイトーシスを介して細胞に侵入し、細胞への侵入と複製する手段としてエンドソームネットワークを利用する。例えば、細胞へのウイルス侵入は、ウイルス粒子を細胞表面に付着させ、それらをエンドソームに輸送し、ウイルスの膜とエンドソームの膜の間の融合を触媒するウイルスの糖タンパク質(GP)によって媒介され得る。Rab9 GTPアーゼは、HIV-1、フィロウイルス(エボラやマールブルグなど)、および麻疹ウイルスの複製に必要であることが示された。非特許文献1。Rab9発現のサイレンシングは、同じく後期エンドソームからトランスゴルジへの小胞輸送を促進するTIP47、p40、およびPIKfyveをコードする宿主遺伝子をサイレンシングした場合と同様に、劇的にHIV複製を阻害した。Rab9発現の低下はまた、エンベロープを有するエボラおよびマールブルグフィロウイルスの複製および麻疹ウイルスの複製を阻害したが、非エンベロープレオウイルスではしなかった。特許文献1(Hodgeら)では、RAB9A、RAB11A、およびこれらタンパク質のモジュレーターが、ウイルス複製、特にHIV複製を減少させるために潜在的に有用であるとして記載される。
【0003】
コロナウイルスは、呼吸器、肝臓、および神経の疾患を引き起こすエンベロープを有するRNAウイルスである(非特許文献2;非特許文献3)。重症急性呼吸器症候群(SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)の最近の発生は、高い病原性の可能性を明らかにした(非特許文献3)。コロナウイルスの高い有病率、広い分布、遺伝的多様性、組換え、および頻繁な異種間感染は新規病原性株の出現を与える(非特許文献3;非特許文献4)。実際に、肺炎と高い死亡率を生じる新規病原性コロナウイルス、SARS-CoV-2が中国で出現している(非特許文献5;非特許文献6)。この結果として生じる疾患はCOVID-19と名付けられた。承認された抗ウイルス薬および免疫調整薬を伴うSARSおよびMERSの治療の試みは、臨床試験において無効であると証明された(非特許文献7)。
【0004】
より最近では、in vitroまたはコロナウイルスSARS-CoV-2の患者の予備データにより、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシンおよびトシリズマブを使った治療が有望であると示唆されている(非特許文献8;Wang et al.,Cell Res 2020;非特許文献9)。コロナウイルス感染の治療と予防は、いまだ緊急のアンメットクリニカルニーズである。
【0005】
追加の研究は、エンド/リソソームコレステロールトランスポーターNiemann-Pick C1(NPC1)が、エボラとマールブルグウイルスの侵入に必要であるエンドサイトーシス後の細胞内受容体として機能することを示した。非特許文献10。Niemann-Pick C1(NPC1)およびそのホモ型融合および液胞タンパク質ソーティング(HOPS)複合体は、フィロウイルス侵入のための宿主因子としてゲノムワイドハプロイド遺伝的スクリーニングにおいて同定された。NPC1座位は39の独立した挿入を伴い、単一の最も強いヒットであった。HOPS複合体はその次に強いヒットであった。エンドソームの生合成に関与する産生物(PIKfyve)およびリソソームの生合成に関与する産生物(BLOC1S1、BLOC1S2)、ならびにエンドサイトーシス経路への内腔輸送物(luminal cargo)のターゲティングに関与する産生物(GNPTAB)の元となる追加の遺伝子も同定されたが、NPC1のみが機能評価で検証された。例えば、NPC1の機能は、ヒト線維芽細胞におけるエボラおよびマールブルグウイルスによる感染に必要であり、NPC1の欠損はHAP1およびCHO細胞でのウイルス感染に対する抵抗性を与え、NPC1ヌルマウスはエボラおよびマールブルグウイルスの感染および発症に抵抗性であった。特許文献2(Chandranら)は、特にNPC1およびHOPSを阻害する薬剤を用いて、フィロウイルス感染を治療する方法を記述している。
【0006】
酵母では、リソソームの膜へのファゴソームの膜の融合は、HOPs複合体およびホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸(PI(3,5)P2)を必要とする。(PI(3,5)P2)の合成は、ホスファチジルイノシトール-3リン酸5-キナーゼ(PIKfyve)によって媒介される。(PI(3,5)P2)などのホスホイノシチドは、膜輸送および細胞内シグナル伝達の重要な脂質調節因子である。阻害剤YM201636を用いて、Jefferiesらは、PIKfyveの阻害とPI(3,5)P2の細胞内産生の遮断が、細胞内膜輸送およびレトロウイルス出芽を妨害することを示した。非特許文献11。最近、PIKfyve阻害剤アピリモドがフィロウイルスの侵入を遮断することが報告されている(非特許文献12;非特許文献13)。
【0007】
自然免疫系の細胞(好中球、ナチュラルキラー細胞、マスト細胞、樹状細胞、単球、マクロファージなど)は、感染因子もしくは内在性の悪性腫瘍を認識し、炎症反応を起こす機能を有する。適応免疫系の細胞(B細胞、αβエフェクターT細胞およびγδエフェクターT細胞)は、自然免疫系によって作られる炎症環境へ応答して増殖し分化する。適応免疫系は病原体もしくは悪性腫瘍を直接的に破壊する機能を有し、同時に特定の病原体に対する長期的な防御を提供する免疫学的記憶を生成する。
【0008】
休止しているT細胞の活性化は適応免疫応答の基礎を形成する(非特許文献14)。活性化には、適切なクラスIもしくはクラスII主要組織適合複合体(MHC)の状況下、T細胞受容体(TCR)、CD4/CD8、CD28、OX40、および4-1BB共刺激受容体を含むT細胞上のいくつかの分子と、病原菌もしくは悪性腫瘍からの抗原性ペプチドを有する抗原提示細胞(APC)との相互作用、加えてCD80/86、OX40リガンドおよび4-1BBリガンドなどの共刺激分子が関与する。このT細胞-APC相互作用はT細胞内の転写変化に至り、プロT細胞増殖因子IL-2の分泌をもたらす。
【0009】
免疫チェックポイントは、適応免疫応答の程度を調節することで宿主組織への損傷を制限するために存在する。制御性T細胞(Treg)の亜集団はエフェクターT細胞の増殖と活性化を抑制するために存在する(非特許文献15)。さらに、活性化T細胞は、共刺激分子のライゲーションおよびシグナル伝達を制限するように機能し得るPD-1などの抑制性受容体を発現する。活性化T細胞表面上のPD-1は、APCもしくは疾患細胞上の、そのリガンドPD-L1もしくはPD-L2と相互作用し、TCR近位キナーゼ(proximal kinase)の脱リン酸化をもたらすことでTCR/CD28シグナル伝達を制限する(非特許文献16)。そのため、腫瘍微小環境内または慢性ウイルス感染中のPD-1/PD-L1結合は、T細胞アネルギー、消耗およびアポトーシス、免疫抑制性IL-10産生、およびTreg分化の増強を介してT細胞機能不全を誘導することにより、ならびに、樹状細胞および細胞障害性Tリンパ球機能の抑制を介することにより、適応免疫応答に障害をもたらす(非特許文献17)。
【0010】
PD-1/PD-L1結合に拮抗すると、進行癌患者において適応免疫応答の増強により腫瘍の負担が著しく軽くなる(非特許文献18)。同様に、慢性ウイルス感染中のPD-1/PD-L1結合の遮断は、慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒトT細胞リンパ球向性ウイルス、およびヒト免疫不全ウイルスの場合、消耗したT細胞の機能を回復させ、ウイルス量の減少をもたらす(非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;および非特許文献23)。腫瘍細胞およびウイルス感染細胞の両方の細胞の表面上での高いレベルのPD-L1発現が、直接的にT細胞機能を抑制し免疫逃避を促進することが示されている(非特許文献24;および非特許文献25)。これと一致して、PD-1を発現するT細胞の高い割合は、西アフリカでの最近のエボラ大流行の間の、より多いウイルス量、より高いレベルの炎症および生存率の低さと関連しており、このことは、高いPD-1/PD-L1発現が適応免疫反応を抑制し、それゆえにウイルスのクリアランスの不良につながるという仮説を支持していた(非特許文献26;および非特許文献27)。さらに、免疫チェックポイント遮断抗体は、HCV感染の肝細胞癌患者での腫瘍量およびウイルス量の両方を減少させることが実証されている(非特許文献28)。
【0011】
アピリモドはTLR誘導IL-12およびIL-23サイトカイン産生の阻害剤として最初に同定された免疫調節性低分子である。IL-12およびIL-23は樹状細胞およびマクロファージなどのAPCsによって自然免疫系で産生される。IL-12の分泌は、ヘルパーT細胞のIFNγ分泌性Tヘルパー1(Th1)細胞への分化を促進し、それによって適応免疫系の炎症および活性化を促進する(非特許文献29)。IL-23は、Th17応答を安定化することでT細胞の活性化を維持できる一方で、それはまた自然免疫応答を抑制しTh17応答とは独立した腫瘍形成を促進し得る(非特許文献30)。アピリモドは、クローン病、乾癬、および関節リウマチの炎症性および自己免疫の適応症について臨床で評価されており、IL-12/23産生CD11c+樹状細胞のクリアランスを潜在的に介して、このような疾患を特徴づける上昇したTヘルパー1(Th1)およびTh17応答を、強く抑制することを示している(非特許文献31;非特許文献32;非特許文献33;非特許文献34;および非特許文献35)。In vitroでは、アピリモドは、IL-12/23産生を強く抑制することに加え、IL-10、IL-6、IL-5、IL-4およびIFNγを含む、刺激されたヒトPBMCsによって産生される一連のサイトカインの産生を、ナノモルの有効性で阻害することが実証されている(非特許文献32)。
【0012】
本発明は、ウイルスに感染した対象の治療およびウイルス感染の危険性がある対象の予防のための、および特にコロナウイルスに感染しているもしくは感染の危険があるヒト対象のための、抗ウイルス組成物および方法の必要性に取り組む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0087008号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/103081号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Murray et al. 2005 J. Virology 79:11742-11751
【非特許文献2】Weiss et al,(2011)Adv Virus Res 81:85-164
【非特許文献3】Cui et al.,(2019)Nat Rev Microbiology 17:181-192
【非特許文献4】Wong et al.,(2015)Cell Host and Microbe 18(4):398-401
【非特許文献5】Zhu et al.,2020,N Engl J Med doi:10.1056/NEJMoa2001017
【非特許文献6】Huang et al.(2020);The Lancet,doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30183-5
【非特許文献7】Zumla et al.,(2016),Nat Rev Drug Discov.(2016)May;15(5):327-47.PMID:26868298
【非特許文献8】Gautret et al.,https://www.mediterranee-infection.com/wp-content/uploads/2020/03/Hydroxychloroquine_final_DOI_IJAA.pdf
【非特許文献9】Tocilizumab in COVID-19 Pneumonia NCT04317092,Phase 2 trial https://clinicaltrials.gov/
【非特許文献10】Carette et al.,(2011)Nature 477:340-343
【非特許文献11】Jefferies et al.EMBO rep.(2008)9:164-170
【非特許文献12】Nelson et al.,(2017)PLoS Negl Trop Dis 11(4):e0005540
【非特許文献13】Qiu et al.,(2018)Virology 513:17-28
【非特許文献14】Nathan(2013)Adv Physiol Education 37(4):273-283
【非特許文献15】Chaplin,(2010)J Allergy Clin Immunol Feb;125(2 Suppl 2):S3-23
【非特許文献16】Keir et al.(2008)Annual Review of Immunology 26:677-704
【非特許文献17】Chen et al.(2015)J Clin Invest.125(9):3384-91
【非特許文献18】Topalian et al.(2012)The New England Journal of Medicine 366:2443-2454
【非特許文献19】Barber et al.(2006)Nature 439:682-687
【非特許文献20】Day et al.(2006)Nature 443:350-354
【非特許文献21】Golden-Mason et al.(2007)Journal of Virology 81:9249-9258
【非特許文献22】Yao et al.(2007)Viral Immunology 20:276-287
【非特許文献23】Kozako et al.(2009)Leukemia 23(2):375-82
【非特許文献24】Akhmetzyanova et al.(2015)PLoS Pathog 11(10)
【非特許文献25】Azuma T et al.(2008)Blood 111(7):3635-3643
【非特許文献26】Ruibal et al.(2016)Nature 533(7601):100-104
【非特許文献27】Mohamadzadeh et al.(2007)Nat Rev Immunol;7(7):556-67
【非特許文献28】Sangro et al.(2013)J Hepatol 59(1):81-88
【非特許文献29】Teng et al.(2015)Nat Med. 21(7):719-29
【非特許文献30】Teng et al.(2010)Proc Natl Acad Sci 4;107(18):8328-33
【非特許文献31】Cai et al.(2013)Chem Biol. 20(7):912-21
【非特許文献32】Krausz et al.(2012)Arthritis Rheum;64(6):1750-5
【非特許文献33】Sands et al.(2010)Inflamm Bowel Dis;16(7):1209-18
【非特許文献34】Wada et al.(2012)PLoS One;7(4):e35069
【非特許文献35】Wada et al.(2007)Blood 109,1156-1164
【発明の概要】
【0015】
本発明は、コロナウイルス感染の治療もしくは予防の必要のある対象、好ましくはヒト対象におけるコロナウイルス感染の治療および/または予防のためのPIKfyve阻害剤の使用に関する組成物および方法を提供する。1つの態様において、本発明は、in vitroアッセイにおいて、二種のコロナウイルス、SARSおよびMERSの細胞毒性効果をアピリモドが阻害するという予期せぬ発見に基づいている。別の態様において、本発明はSARS-CoV-2に対するアピリモド単独の抗ウイルス活性、およびそのレムデシビルとの併用におけるその抗ウイルス活性に基づく。したがって、本開示は、PIKfyve阻害剤、好ましくはアピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩を、単独でまたは細胞性PD-L1、PD-L2、またはPD-1のアンタゴニスト、抗ウイルス剤、および抗炎症剤から選択される1つ以上の追加の治療薬との併用で用いる、コロナウイルス感染の治療および予防のための方法を提供する。
【0016】
実施形態において、本発明は、それを必要とする対象におけるコロナウイルス感染の治療もしくは予防のための方法を提供し、その方法は、治療有効量の少なくとも1つのPIKfyve阻害剤を含む組成物を、任意選択で細胞性PD-L1、PD-L2もしくはPD-1のアンタゴニストとの併用で、およびさらに任意選択で抗ウイルス剤との併用で、対象に投与することを含む。
【0017】
実施形態において、PIKfyve阻害剤は、アピリモド、APY0201、およびYM-201636から成る群より選択される。実施形態において、PIKfyve阻害剤はアピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩である。実施形態において、アピリモドは遊離塩基もしくはジメシル酸塩の形態である。実施形態において、薬学的に許容される塩は、塩化物、リン酸塩、マレイン酸塩、L-酒石酸塩、フマル酸塩、DL乳酸塩、およびメシル酸塩から成る群より選択されるモノ塩である。実施形態において、薬学的に許容される塩は、メシル酸塩、塩化物、および臭化物から成る群より選択されるジ塩である。アピリモドの追加の塩の形態を以下に記載する。
【0018】
実施形態において、対象に投与されるアピリモドの量は、予防的もしくは治療的有効量である。実施形態において、ヒトにおけるアピリモドの遊離塩基、またはその薬学的に許容される塩の有効量は、約70~1000mg/日、約70~500mg/日、約70~250mg/日、約70~200mg/日、約70~150mg/日、約70~100mg/日である。
【0019】
実施形態において、本明細書に記載されているようにアピリモドと併用治療で使用するための細胞性PD-L1、PD-L2またはPD-1のアンタゴニストは抗体である。実施形態において、その抗体は、テセントリク(商標)(アテゾリズマブ)、アベルマブ(MSB0010718C)、およびデュルバルマブ(MEDI4736)から成る群より選択される抗PD-L1抗体である。実施形態において、抗体は、オプジーボ(Opdivo)(登録商標)(ニボルマブ)およびキイトルーダ(Keytruda)(登録商標)(ペムブロリズマブ)から成る群から選択される抗PD-1抗体である。実施形態において、ヒト対象におけるアンタゴニスト抗体の予防的または治療的有効量は、約7~3500mg/日、約70~1700mg/日、約70~850mg/日、約70~400mg/日、約70~200mg/日、約70~150mg/日である。実施形態において、1日あたりの量は、以下でより完全に記載されるように、1週間または2週間サイクルにおいて、または3週間サイクルにおいて、または4週間サイクルにおいて、1日で投与される。
【0020】
実施形態において、本明細書で記載されるようにアピリモドとの併用治療で使用される細胞性PD-L1、PD-L2、もしくはPD-1のアンタゴニストは低分子である。実施形態において、ヒト対象においてその低分子アンタゴニストの予防的または治療的有効量は、約70~1000mg/日、約70~500mg/日、約70~250mg/日、約70~200mg/日、約70~150mg/日、約70~100mg/日である。
【0021】
方法が少なくとも1つの追加の抗ウイルス剤を投与することをさらに含む実施形態において、その少なくとも1つの追加の抗ウイルス剤は、抗体もしくは抗体の組み合わせを含んでもよく、これは好ましくはヒト抗体またはヒト化抗体であるが、キメラ(例えば、マウス-ヒトキメラ)抗体も許容可能である。実施形態において、少なくとも1つの追加の抗ウイルス剤は、組換えタンパク質または組換えタンパク質の組み合わせを含む。実施形態において、少なくとも1つの追加の抗ウイルス剤は、低分子干渉RNA(siRNA)もしくはsiRNA分子の組み合わせを含む。実施形態において、抗体、組換えタンパク質、siRNA、もしくは前述したもののうちの任意の組み合わせは、1つ以上のコロナウイルスタンパク質を標的とする。実施形態において、1つ以上のコロナウイルスタンパク質は、ポリメラーゼ、膜関連タンパク質、ポリメラーゼ複合体タンパク質、プロテアーゼ、ヘリカーゼ、エンベロープ、ヌクレオカプシド、スパイク糖タンパク質、ウイルス構造タンパク質、あるいはウイルス補助タンパク質から成る群より選択される。実施形態において、siRNAまたはsiRNAの組み合わせ、抗体または抗体の組み合わせ、タンパク質またはタンパク質の組み合わせは、1つ以上の宿主タンパク質を標的とする。実施形態において、1つ以上の宿主タンパク質は、インターフェロン、細胞表面受容体、プロテアーゼ、エンドソーム輸送もしくは酸性化に関与するタンパク質から成る群より選択される。実施形態において、抗体、組換えタンパク質、siRNAもしくは前述したもののうちの任意の組み合わせはこれらタンパク質すべてを標的とする。
【0022】
実施形態において、抗ウイルス剤は、インターフェロン、レムデシビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキンおよびクロロキンのうちの1つ以上から選択される。実施形態において、方法は、抗炎症剤との併用でアピリモドおよび抗ウイルス剤を投与することを含む。実施形態において、抗炎症剤は、トシリズマブおよびサリルマブから選択される。実施形態において、アピリモドは、抗ウイルス剤および抗炎症剤とは異なる剤形で投与される。
【0023】
実施形態において、必要性のある対象は、喉の痛み、鼻の詰まりおよび/または分泌物、息切れ、呼吸困難、および発熱の1つ以上を含む呼吸器ウイルス感染症の症状を有する者である。
【0024】
実施形態において、コロナウイルスはSARS-CoV-2である。実施形態において、コロナウイルスはSARS-CoV-2であり、方法は、レムデシビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、トシリズマブおよびサリルマブから選択される1つ以上の追加の治療薬を投与することを含む。実施形態において、アピリモドは、1つ以上の追加の治療薬と異なる剤形、または同じ剤形で投与される。
【0025】
本明細書で記載される方法において、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤は、任意の適切な経路によって投与され得る。実施形態において、投与は経口、静脈内、もしくは皮下経路を介する。実施形態において、投与は1日1回、1日2回、または継続した一定期間、例えば、1日または数日または1週間または数週間である。継続的な投与は、例を挙げると、例えば対象に埋め込まれた徐放性剤形を使用することによって、または例えば埋め込まれてもよいポンプ装置を使用する連続注入を介して、実施され得る。
【0026】
実施形態において、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤は、アピリモドもしくはその薬学的に許容される塩であり、アピリモドは70~1000mg/日の量で投与される。1つの実施形態において、投与は、対象において50~1000nMの範囲のアピリモドの血漿濃度を達成するために有効である。
【0027】
本発明はまた、別々の容器にもしくは単一の容器に、単位用量のアピリモド、任意選択で単位用量の細胞性PD-L1、PD-L2、もしくはPD-1のアンタゴニスト、およびさらに任意選択で少なくとも1つの追加の抗ウイルス剤を含む、医薬パックもしくはキットを提供する。実施形態において、医薬パックもしくはキットは、アピリモド遊離塩基、もしくはアピリモドの任意の薬学的に許容される塩、もしくはアピリモドの活性代謝物のラセミ的に純粋なエナンチオマー、およびそれらの組み合わせから選択されるアピリモド組成物である、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤を含む。実施形態において、医薬パックもしくはキットは、抗体またはその断片、ペプチド、ポリペプチドまたはその断片、低分子、および阻害性核酸から成る群より選択されるPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニストを含む。実施形態において、医薬パックもしくはキットは、PD-L1アンタゴニストを含む。1つの実施形態において、PD-L1アンタゴニストは抗体である。1つの実施形態において、PD-L1アンタゴニスト
はモノクローナル抗体である。
【0028】
実施形態において、医薬パックもしくはキットは、別々の容器にもしくは単一の容器に、単位用量のアピリモド、もしくはその薬学的に許容される塩、および単位用量のレムデシビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、トシリズマブおよびサリルマブから選択される1つ以上の追加の治療薬を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】アピリモドはin vitroでSARSおよびMERSウイルスに対して抗ウイルス活性を示す。独立した実験(SARS 3例、SARS 2例)からのニュートラルレッド細胞変性効果抗ウイルスアッセイにおけるアピリモドの平均EC
50。
【
図2A】アピリモドはSARS-CoV-2感染を阻害する。Vero-E6細胞はSARS-CoV-2、および3時間後に様々な用量のジメシル酸アピリモドで処理され、48時間後にウイルスの転写物コピー数が評価された。用量反応曲線を示す。2.2μMのEC50が算出された。
【
図2B】Vero細胞はウイルス攻撃なしに様々な用量のジメシル酸アピリモドで処理され細胞内毒性が測定された。20μMのCC50が算出された。
【
図2C】Vero細胞をSARS-CoV-2で感染させ、3時間後に様々な用量のレムデシビルで処理し、48時間後にウイルスの転写物コピー数を評価した。0.7μMのEC50が算出された。
【
図2D】Vero細胞はウイルス攻撃なしに様々な用量のレムデシビルで処理され、細胞内毒性が測定された。205μMのCC50が算出された。
【
図2E】0.5μMのレムデシビルは単剤として、および10、3、または1μMのジメシル酸アピリモドとの併用で、ウイルス添加3時間後に試験された。単回投与ジメシル酸アピリモド(10、3、または1μM)およびDMSOコントロールも評価された。阻害率が示される。単剤=薄い灰色;レムデシビルとの併用=濃い灰色。有意性は、一元配置分散分析、テューキーの多重比較検定で判定され、対レムデシビル(0.5μM)/対単剤アピリモド(
****P<0.0001、
***P<0.001、
**P<0.01、
*P<0.05)で表示される。
【
図2F】Eからのウイルス転写物の倍数的減少がプロットされる。単剤=薄い灰色;レムデシビルとの併用=濃い灰色。有意性は、テューキーの多重比較検定により対数変換したデータで判定され、対レムデシビル(0.5μM)/対単剤アピリモド(
****P<0.0001、
***P<0.001、
**P<0.01)で表示される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本発明は、コロナウイルス感染の治療もしくは予防するための必要のある対象で、好ましくはヒト対象で、コロナウイルス感染を治療または予防するためのPIKfyve阻害剤の使用に関連する組成物および方法を提供する。
【0031】
実施形態において、本発明はPIKfyve阻害剤の治療有効量を対象に投与することにより対象におけるコロナウイルス感染を治療するための方法を提供する。実施形態において、本発明は、PIKfyve阻害剤の治療有効量を含む医薬組成物を提供する。実施形態において、PIKfyve阻害剤は、アピリモド、APY0201、YM201636、およびそれらの薬学的に許容される塩から成る群から選択される。
【0032】
実施形態において、本発明は、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤の治療有効量、および細胞性PD-L1、PD-L2、もしくはPD-1のアンタゴニストの治療有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0033】
実施形態において、細胞性PD-L1、PD-L2、もしくはPD-1のアンタゴニストは、PD-L1のアンタゴニストである。Programmed death-ligand 1(PD-L1)、「タンパク質PD-L1」、「PD-L1」、「PDL1」、「PDCDL1」、「hPD-L1」、「hPD-L1」、「CD274」および「B7-H1」は、交換可能に使用され、変異体、アイソフォーム、ヒトPD-L1の種ホモログ、およびPD-L1と少なくとも1つの共通のエピトープを有するアナログを含む。Programmed death-ligand 1(PD-L1)は、特定の事象、例えば、妊娠、組織同種移植、自己免疫疾患および肝炎などの他の疾患状態の間、免疫系を抑制する役割を担う膜貫通型タンパク質である。完全なPD-L1の配列は、GENBANK(登録商標)アクセッション番号NP_054862で確認することができる。
【0034】
実施形態において、細胞性PD-L1、PD-L2、もしくはPD-1のアンタゴニストはPD-L2のアンタゴニストである。Programmed cell death 1 ligand 2(PD-L2、B7-DCとしても知られる)は、ヒトではPDCD1LG2遺伝子によってコードされるタンパク質である。完全なPD-L2の配列は、GENBANK(登録商標)アクセッション番号Q9BQ51.2で確認することができる。
【0035】
実施形態において、細胞性PD-L1、PD-L2、もしくはPD-1のアンタゴニストはPD-1のアンタゴニストである。「PD-1」はprogrammed death-1受容体を指す。用語「Programmed death 1」、「Programmed Cell Death 1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、「PD1」、「PDCD1」、「hPD-1」および「hPD-I」は交換可能に使用され、変異体、アイソフォーム、ヒトPD-1の種ホモログ、およびPD-1と少なくとも1つの共通のエピトープを有するアナログを含む。PD-1は、T細胞制御因子の分化拡張クラスター28(CD28)/細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)ファミリーのメンバーである。完全なPD-1の配列は、GENBANK(登録商標)アクセッション番号U64863で確認することができる。完全なCTLA-4の配列は、GENBANK(登録商標)アクセッション番号P16410.3で確認することができる。PD-1シグナル伝達は、PD-1およびその結合パートナーであるPD-L1によって提供されるT細胞活性化を調節する負の共刺激シグナルを指す。PD-1はT細胞、B細胞、ナチュラルキラーT細胞、活性化単球および樹状細胞(DCs)上に発現し得る。PD-1シグナル伝達は典型的に、細胞増殖よりも、IFN-γ、TNFおよびIL-2産生に大きな影響を伴うサイトカイン産生に、より主要な効果を有する。PD-1は二つのリガンド、PD-L1およびPD-L2に結合する。PD-L1:PD-1相互作用を遮断する阻害剤は、例えば、国際公開第2001/014557号、国際公開第2002/086083号、国際公開第2007/005874号、国際公開第2010/036959号、国際公開第2010/077634号および国際公開第2011/066389号から知られている。
【0036】
本明細書で使用される「アンタゴニスト」は、他のものの活性または結合を、例えば、アゴニストの1つ以上の結合部位に対して競合することによって妨害するが、活性応答は誘導しない、抗体もしくはその断片、ペプチド、ポリペプチドもしくはその断片、低分子、および阻害性核酸またはその断片を指し得る。
【0037】
「アンタゴニスト抗体」もしくは「遮断抗体」は、それが結合する抗原の生物学的活性を阻害または低下させるものである。いくつかの実施形態において、遮断抗体もしくはアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性を実質的にまたは完全に阻害する。本発明の抗PD-L1抗体および抗PD-L2抗体はその受容体PD-1との相互作用を、つまりはPD-1を介するシグナル伝達を遮断する。本発明の抗PD1抗体は、その受容体を遮断する。あるいは、「アゴニスト」もしくは活性化抗体は、それが結合する抗原によるシグナル伝達を増強または開始させるものである。いくつかの実施形態において、アゴニスト抗体は、天然のリガンドの存在がなくてもシグナル伝達を引き起こすか活性化する。
【0038】
実施形態において、アンタゴニスト(すなわちPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニスト)はPD-L1抗体である。例示的なPD-L1抗体は、例えば、Abcam、BD Biosciences、BioRad、Cell Signaling、EMD Millipore、Novus Biologicals、R&D Systemsなどを含む任意の適切な販売業者から購入した抗体を含んでもよい。例えば、Abcam製の例示的なPD-L1抗体は、以下を含むことができるが、以下に限定されない:ab205921(ウサギモノクローナル)、ab58810(ウサギポリクローナル)、ab209960(ウサギモノクローナル)、ab210931(マウスモノクローナル)、ab209959(ウサギモノクローナル)、ab209889(ウサギモノクローナル)、ab209961(ウサギモノクローナル)、ab180370(マウスモノクローナル)、ab109052(マウスモノクローナル)、またはab80391(マウスモノクローナル)。
【0039】
実施形態において、アンタゴニストは、テセントリク(登録商標)(アテゾリズマブ)、アベルマブ(MSB0010718C)、およびデュルバルマブ(MEDI4736)から成る群より選択されるPD-L1抗体である。
【0040】
実施形態において、アンタゴニストは、PD-L2抗体である。例示的なPD-L2抗体は、例えば、R&D Systems、EMD Millipore、Novus Biologicals、Cell Signalingなどを含む任意の適切な販売業者から購入した抗体を含んでもよい。例示的なPD-L2抗体は、以下に限定されないが、R&D Systems(品番MAB1224-100;マウスモノクローナまたは品番AF1224-SP;ヤギポリクローナルまたは品番BAF1224;ヤギポリクローナル)、Novus Biologicals(品番NBP1-76770;ウサギポリクローナル)、またはEMD Millipore(品番ABC327;ウサギポリクローナル)から購入した抗体を含むことができる。
【0041】
実施形態において、アンタゴニストは、PD-1抗体である。実施形態において、アンタゴニストは、オプジーボ(登録商標)(ニボルマブ)およびキイトルーダ(登録商標)(ペムブロリズマブ)から成る群より選択されるPD-1抗体である。
【0042】
実施形態において、アンタゴニストは、CTLA-4抗体、例えば、Yervoy(登録商標)(イピリムマブ)である。
「抗原」とは、免疫応答を引き起こす分子として定義される。この免疫応答は、抗体産生か、もしくは特異的免疫コンピテント細胞の活性化、もしくはその両方に関与し得る。例えば、実質的にすべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子は、抗原として機能し得る。さらに、抗原は、組換えもしくはゲノムDNAに由来し得る。したがって、当業者は、免疫応答を誘発するタンパク質をコードするヌクレオチド配列もしくは部分的ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、本明細書で使用される用語としての「抗原」をコードすることを理解するであろう。
【0043】
「低分子」とは、低分子量化合物(例えば、約1,000Da未満の分子量)を有する有機化合物、無機化合物、もしくは有機金属化合物を広く指すことができる。低分子は約1,000Da未満の分子量、または約9,000Da未満の分子量、約800Da未満の分子量、約700Da未満の分子量、約600Da未満の分子量、約500Da未満の分子量、約400Da未満の分子量、約300Da未満の分子量、約200Da未満の分子量、約100Da未満の分子量、約50Da未満の分子量を有してもよい。
【0044】
実施形態において、アンタゴニスト(すなわちPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニスト)は低分子である。1つの実施形態において、低分子はAUPM-170である(別名CA-170、Curis)。
【0045】
本明細書で使用する「阻害性核酸」とは、哺乳類細胞に投与されると標的遺伝子の発現の低下(例えば、10%、25%、50%、75%もしくは90~100%まで)をもたらす、二本鎖RNA、siRNA、shRNA、もしくはアンチセンスRNA、もしくはそれらの一部、もしくはそれらの模倣体を意味する。典型的には、核酸阻害剤は、少なくとも標的核酸分子の一部、もしくはそのオーソログを含むか、少なくとも標的核酸分子の相補鎖の一部を含む。例えば、阻害性核酸分子は、本明細書に詳しく記載されている核酸のいずれかまたはすべての少なくとも一部を含む。
【0046】
阻害性核酸、siRNAは二本鎖RNAを指し得る。最適には、siRNAは、長さが18、19、20、21、22、23または24ヌクレオチドであり、その3’末端に2塩基の突出部を有する。これらのdsRNAは個別の細胞または動物の全身に導入され得る;例えば、それらは血流を介して全身に導入され得る。このようなsiRNAはmRNAレベルもしくはプロモーター活性を下方制御するために使用される。
【0047】
実施形態において、ウイルス感染は、新規コロナウイルス(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器系ウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群ウイルス(MERS-CoV)、アルファコロナウイルス229E、アルファコロナウイルスNL63、ベータコロナウイルスOC43、およびベータコロナウイルスHKU1から成る群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。実施形態において、PIKfyve阻害剤はアピリモドである。アピリモドは、PIKfyveの選択的阻害剤である(非特許文献31)。IL-12/23産生を阻害するその性能に基づいて、アピリモドは、これらのサイトカインが増殖促進的役割を果たすと考えられる炎症性および自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ、敗血症、クローン病、多発性硬化症、乾癬、またはインスリン依存性糖尿病や癌などを治療するために有用であると示唆されている。本明細書に記載される方法に従って、本発明者らはアピリモドがSARSおよびMERSに対するものを含む、コロナウイルス抗ウイルス活性を有することを見出した。これは、アピリモドがフィロウイルス侵入(例えば、エボラやマールブルグウイルス)を阻害したことを実証した先行研究からは予期されていなかった。なぜなら、ウイルス侵入に必要な宿主因子は異なるウイルスファミリー間で異なり、単一ファミリー内でさえ異なることもあるためである。これは、コロナウイルスにおいて異なる株が異なる宿主プロテアーゼおよび受容体を利用することを示している(Totura et al,(2019)Expert Opin Drug Discov 14(4):397-412)。したがって、本明細書で記載された方法は、多様なコロナウイルス病原体に対して無効であることが証明されている、特定のウイルスタンパク質を標的とするワクチンおよびモノクローナル抗体などの従来のアプローチと比較して代替となる抗ウイルス療法を提供する。例えば、Totura et al,(2019)Expert Opin Drug Discov 14(4):397-412を参照されたい。
【0048】
本明細で使用される用語「アピリモド」とは、式1に示される構造を有するアピリモド遊離塩基を指す。
【0049】
【0050】
アピリモドの化学名は、2-[2-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-4-N’-(3-メチル-ベンジリデン)-ヒドラジノ]-6-(モルホリン-4-イル)-ピリミジン(IUPAC名:(E)-4-(6-(2-(3-メチルベンジリデン)ヒドラジニル)-2-(2-(ピリジン-2-イル)エトキシ)ピリミジン-4-イル)モルホリン)であり、CAS番号は541550-19-0である。
【0051】
アピリモドは、例えば、米国特許第7,923,557号明細書、および第7,863,270号明細書、および国際公開第2006/128129号に記載されている方法に従って調製することができる。
【0052】
実施形態において、アピリモドの薬学的に許容される塩形態は、本明細書に記載の方法と組成物において使用することができる。実施形態において、アピリモドはジメシル酸アピリモドであってもよい。
【0053】
実施形態において、アピリモドは、APY0201およびYM-201636から選択される少なくとも1つの追加のPIKfyve阻害剤と併用で投与されてもよい。
APY0201の化学名は、(E)-4-(5-(2-(3-メチルベンジリジン)ヒドラジニル)-2-(ピリジン-4-イル)ピラゾロール[1,5-a]ピリミジン-7-イル)モルホリンである。APY0201は、選択的PIKfyve阻害剤である(Hayakawa et al.(2014)Bioorg.Med.Chem.22:3021-29)。APY0201はPIKfyveキナーゼのATP結合部位と直接的に相互作用し、この相互作用がPI(3,5)P2合成の抑制をもたらし、これは続いてIL-12/23の産生を抑制する。
【0054】
YM201636の化学名は、6-アミノ-N-(3-(4-モルホリノピリド[3’,2’:4,5]フロ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)フェニル)ニコチンアミドである(CAS番号は371942-69-7である)。YM201636はPIKfyveの選択的阻害剤である(非特許文献11)。それは、NIH3T3細胞におけるエンドソーム輸送を可逆的に損ない、siRNAをともなうPIKfyveの枯渇により生じる効果を模倣する。YM201636はまた、細胞からの出芽によるレトロウイルスの排出を遮断する。これは明らかに、エンドソーム選別輸送複合体(ESCRT)機構を妨害することによるものである。脂肪細胞では、YM-201636はまた、基礎およびインスリン活性化2-デオキシグルコース取込みを阻害した(IC50=54nM)。
【0055】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」とは、例えば、酸および化合物の塩基性基、特に本明細書に記載のPIKfyve阻害剤から形成される塩である。例示的な塩としては、以下に限定されないが、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、過リン酸塩、イソニコチン酸塩、L-乳酸塩、D-乳酸塩、DL-乳酸塩、サリチル酸塩、酸クエン酸塩(acid citrate)、L-酒石酸塩、D-酒石酸塩、DL-酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酸性酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ベシル酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、およびパモ酸塩(例えば、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))塩を含むことができる。実施形態において、アピリモドの薬学的に許容される塩形態は、メタンスルホン酸塩形態であり、代替的にメシル酸塩とみなされる。
【0056】
「薬学的に許容される塩」という用語はまた、カルボン酸官能基などの酸性官能基を有する化合物、および薬学的に許容される無機または有機塩基から調製される塩を指す。
「薬学的に許容される塩」という用語はまた、アミノ官能基などの塩基性官能基を有する化合物、および薬学的に許容される無機または有機酸から調製される塩を指す。
【0057】
実施形態において、アピリモドの塩はジ塩を含み、このジ塩において、ブレンステッド酸が、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、メタンスルホン酸、リン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、ハロゲン化アルキルスルホン酸、ハロゲン化アリールスルホン酸、ハロゲン化アルキルスルホン酸、ハロゲン化酢酸、ピクリン酸、シュウ酸、クエン酸、ギ酸、アスコルビン酸、安息香酸、およびアピリモドの結晶性ジ塩を形成するのに十分な酸性度を有する他の塩から成る群より選択される。1つの実施形態において、アピリモドの塩形態は、ジメシル酸塩である。
【0058】
本明細書に記載されている化合物の塩は、Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,P.Hemrich Stalil(編),Camille G.Wermuth(編),ISBN:3-90639-026-8、2002年8月に記載されている方法などの従来の化学的方法によって、親化合物から合成され得る。一般的に、このような塩は、水または有機溶媒またはこの2つの混合物中で、親化合物を適切な酸と反応させることによって調製することができる。
【0059】
本明細に記載されている化合物の1つの塩形態は、当業者によく知られている方法によって、遊離塩基および任意でほかの塩形態へと変換することができる。例えば、遊離塩基は、アミン固定相を含むカラム(例えば、Strata-NH2カラム)に塩溶液を通すことにより形成することができる。あるいは、水中の塩の溶液は、塩を分解し遊離塩基を沈殿させるために、炭酸水素ナトリウムで処理することができる。次いで遊離塩基を、常法を用いて別の酸と組み合わせることができる。
【0060】
治療の方法
本発明は、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤の治療有効量を対象へ投与することによる、それを必要とする対象におけるコロナウイルス感染症の治療の方法を提供する。実施形態において、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤は、アピリモド、APY0201、YM-201636、およびそれらの薬学的に許容される塩から選択される。
【0061】
いくつかの実施形態において、PIKfyve阻害剤は、PD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニストと併用で投与される。
【0062】
本発明はさらに、ウイルス感染症の治療に有用な薬剤の調製のための、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤の、単独またはPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニストと併用での使用を提供する。
【0063】
用語「治療有効量」とは、本明細書に記載されているように、PIKfyve阻害剤と併用で、もしくはPIKfyve阻害剤を、単独またはPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニストとの併用で投与することを含む治療レジメンの一部として投与されたとき、ウイルス感染の治療、症状の改善、重症度の軽減、または期間の短縮、あるいは、例えば別の抗ウイルス治療などのほかの療法の治療効果の増強もしくは改善のために十分な量を指す。
【0064】
実施形態において、治療有効量は、以下の1つ以上を達成するために有効な量である:細胞性PIKfyve活性を阻害する、実質的に対象の細胞へのウイルス侵入を防ぐ、対象細胞への侵入を得るウイルス粒子の量を減らす、対象の細胞内でのウイルス複製を減らす、対象のウイルス感染に関連する1つ以上の症状を改善する、および、対象のウイルス感染に関する1つ以上の症状の重症度を軽減する。
【0065】
実施形態では、治療有効量は、ウイルス病原体に対する宿主防御を増強する量である。実施形態において、治療有効量は、ウイルス病原体に対する宿主防御を増強する免疫活性化環境を促進するための相乗的な量である。
【0066】
実施形態において、治療有効量は、対象におけるサイトカインストームの大きさを減少させるか、または発症を予防するのに十分な量である。
実施形態において、治療有効量は、ウイルス量を減少させるのに十分な量である。実施形態において、ウイルス量は、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、または75%以上減少する。実施形態において、ウイルス量は、少なくとも0.5log単位、少なくとも1log単位、少なくとも2log単位、少なくとも3log単位、少なくとも4log単位、少なくとも10log単位、少なくとも15log単位、もしくは少なくとも20log単位減少する。
【0067】
治療有効量は、約0.001mg/kg~約1000mg/kg、より好ましくは0.01mg/kg~約100mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg~約10mg/kgの範囲であり得る;または、範囲の下限が0.001mg/kgおよび900mg/kgの間のいずれかの量であり、範囲の上限が0.1mg/kgおよび1000mg/kgの間のいずれかの量である任意の範囲(例えば、0.005mg/kg~200mg/kg、0.5mg/kg~20mg/kg)であり得る。有効用量はまた、当業者によって認識されるように、治療される疾患、投与の経路、賦形剤の使用、およびほかの薬剤の使用などのほかの治療的処置との共用の可能性に依存して変化する。例えば、参照により本明細書に包含される米国特許第7,863,270号明細書を参照されたい。
【0068】
実施形態において、ヒトにおけるアピリモドの治療有効量は、約70~1000mg/日、約70~500mg/日、約70~250mg/日、約70~200mg/日、約70~150mg/日、約70~100mg/日である。
【0069】
実施形態において、PD-L1/L2もしくはPD-1アンタゴニストは抗体であり、その抗体は、約7~3500mg/日、約70~1700mg/日、約70~850mg/日、約7~400mg/日、約70~200mg/日、約70~150mg/日、を1週間に1回、または2週間に1回、または3週間に1回、または4週間に1回、少なくとも1週間、いくつかの実施形態において1~4週間、2~6週間、2~8週間、2~10週間、または2~12週間、2~16週間、またはそれ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、36、48週間、またはそれ以上)の用量レジメンで投与される。実施形態において、アンタゴニストは、2、4、12もしくは16週間、70~1000mg/日の用量レジメンで投与される。代替的に、もしくはその後、アンタゴニストは、4週間、8週間、12週間、16週間、またはそれ以上、7mg~3500mgを1日2回の用量レジメンで投与される。
【0070】
実施形態において、PD-L1/L2またはPD-1アンタゴニストは低分子であり、その低分子は、70~1000mg/日(例えば、70、75、80、85、90、95、100、125、125、150、175、200、225、250、275、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または1000mg/日)を少なくとも1週間、いくつかの実施形態において1~4週間、2~6週間、2~8週間、2~10週間、または2~12週間、2~16週間、またはそれ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、36、48週間、またはそれ以上)の用量レジメンで投与される。実施形態において、低分子アンタゴニストは、2、4、12もしくは16週間、70~1000mg/日の用量レジメンで投与される。代替的に、もしくはその後、低分子アンタゴニストは、4週間、8週間、12週間、16週間、またはそれ以上、35mg~500mgを1日2回の用量レジメンで投与される。
【0071】
いくつかの実施形態において、方法は、特定の投与スケジュールまたは治療レジメンに従って、PD-L1/L2もしくはPD-1アンタゴニストおよび任意選択の抗ウイルス剤と併用でPIKfyve阻害剤を投与することを含む。例えば、PIKfyve阻害剤は、1日1回もしくは1日2~5回で投与され得る。実施形態において、アピリモド、APY0201、またはYM-201636は、単独またはPD-L1/L2もしくはPD-1アンタゴニストおよび/または抗ウイルス剤との併用で、1日3回、1日2回、1日1回、3週間サイクルで14日間のオン(1日4回、1日3回もしくは1日2回、もしくは1日1回)そして7日間のオフ、3週間サイクルで5日間または7日間までのオン(1日4回、1日3回もしくは1日2回、もしくは1日1回)そして14~16日間のオフ、もしくは2日に1回、もしくは1週間に1回、もしくは2週間に1回、もしくは3週間に1回で、投与される。
【0072】
併用療法の場合、PIKfyve阻害剤およびPD-L1/L2もしくはPD-1アンタゴニストは、別々の剤形で、もしくは同じ剤形で投与され得る。阻害剤およびアンタゴニストが別々の剤形で投与される場合、それらは同時に、もしくは異なる時点で投与されてもよい。例えば、阻害剤および/もしくはアンタゴニストは1日3回、1日2回、1日1回、もしくは定義されたサイクルで、例えば、3週間サイクルで14日間のオン(1日4回、1日3回もしくは1日2回、もしくは1日1回)そして7日間のオフ、3週間サイクルで5日間または7日間までのオン(1日4回、1日3回もしくは1日2回、もしくは1日1回)そして14~16日間のオフ、もしくは2日に1回、もしくは1週間に1回、もしくは2週間に1回、もしくは3週間に1回などで、投与されてもよい。アンタゴニストが抗体である実施形態において、抗体は通常1日1回のみ、または通常1週間に1回、もしくは2週間に1回、もしくは3週間に1回、もしくは4週間に1回、単日で投与されることになる。
【0073】
本明細書に記載されている方法によれば、「必要性のある対象」とは、コロナウイルス感染症を有する対象であり、もしくは集団全体に対してコロナウイルス感染症を発症する高いリスクを有する対象である。その必要性のある対象は、ウイルス疾患の現在利用可能な療法に対して、「非応答性」もしくは「難治性」である対象であり得る。この文脈で、「非応答性」もしくは「難治性」とは、ウイルス感染に関連する1つ以上の症状を緩和するために臨床的に十分でない、対象の療法に対する応答を指す。本明細書に記載の方法の一態様において、その必要性のある対象は、標準療法に対して難治性のコロナウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患を有する対象である。
【0074】
「対象」は哺乳類を含む。哺乳類は、例えば、任意の哺乳類、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ラクダ、ヒツジもしくはブタであり得る。好ましくは、哺乳類はヒトである。用語「患者」はヒト対象を指す。
【0075】
本明細書で使用される「治療(treatment)」、「治療すること(treating)」または「治療する(treat)」とは、ウイルス性疾患に対抗する目的での患者の管理およびケアを表し、ウイルス性疾患の症状または合併症を軽減するための、PIKfyve阻害剤、好ましくはアピリモドの、単独またはPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニストとの併用での投与を含む。本明細書で使用される「予防(prevention)」、「予防すること(preventing)」、「予防する(prevent)」とは、ウイルス疾患の症状もしくは合併症の発症を低減もしくは排除することを表し、ウイルス性疾患の症状の発症、進行もしくは再発を低減するための、PIKfyve阻害剤、好ましくはアピリモド組成物の、単独またはPD-L1アンタゴニストおよび/またはPD-L2アンタゴニストおよび/またはPD-1アンタゴニストとの併用での投与を含む。
【0076】
本発明はまた、併用療法を含む方法を提供する。本明細書で使用される「併用療法(combination therapy)」もしくは「共治療(co-therapy)」は、レジメンにおける活性剤の共働による有益な効果を提供することを意図した特定の治療レジメンの一部として、PIKfyve阻害剤の治療有効量の、好ましくはアピリモドの、単独またはPD-L1、PD-L2、またはPD-1のアンタゴニストと併用での投与を含む。
【0077】
「併用療法」は、意図されないもしくは予測されない有益な効果を付随的にまたは任意にもたらす別々の単剤療法レジメンの一部として、2つ以上の治療化合物の投与を包含することを意図していない。
【0078】
したがって、本発明は、ウイルス性疾患の治療のための抗ウイルスレジメンにおいて、PIKfyve阻害剤、好ましくはアピリモドの、単独またはPD-L1、PD-L2、またはPD-1のアンタゴニストとの併用を含む併用療法を用いて、ウイルス性疾患もしくはウイルス感染(本明細書では用語「ウイルス性疾患」と「ウイルス感染」は交換可能に使用される)の対象を治療する方法を提供する。
【0079】
実施形態において、併用療法は、抗ウイルス剤との併用で投与されたPIKfyve阻害剤を含んでもよい。いくつかの実施形態において、抗ウイルス剤は、抗ウイルスワクチン、ヌクレオチドアナログ、サイトカイン(例えば、インターフェロン)、免疫グロブリン、およびそれらの組み合わせから選択される。実施形態において、抗ウイルス剤は、NPCI、VPSII、VPSI6、VPSI8、Vacuolar Protein Sorting 33 Homolog A(VPS33A)、Vacuolar Protein Sorting 39 Homolog(VPS39)、Vacuolar Protein Sorting 41 Homolog(VPS41)、BLOCISI、BLOCIS2、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸転移酵素アルファおよびベータサブユニット(GNPT-AB)、ホスホイノシチドキナーゼ、FYVEフィンガーコンテイニング(PIKFYVE)、ARGHGAP23、コートタンパク質複合体1(COP1)、コートタンパク質複合体II(COPII)、マンノース-6-リン酸受容体結合タンパク質1(TIP47)、インターロイキン12(IL-12またはP40)、Rab GTP結合タンパク質(例えば、Rab9)、クラスリン、活性化タンパク質1(AP1)、アダプタータンパク質3(AP3)、小胞可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(v-SNARE)、標的可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(t-SNARE)、ADP-リボシル化因子1(ARFs)、Ras GTPアーゼ、およびこれらの組み合わせの、1つ以上の阻害剤から選択される。
【0080】
本明細書に記載のPIKfyve阻害剤と併用される得る抗ウイルス剤のさらなる非限定的な例は、アセマンナン;アシクロビル;アシクロビルナトリウム;アデホビル;アロブジン;アルビルセプトスドトックス(Alvircept Sudotox);アマンタジン塩酸塩;アラノチン(Aranotin);アリルドン(Arildone);アテビルジンメシラート;アブリジン;クロロキン;シドホビル;シパンフィリン;シタラビン塩酸塩;デラビルジンメシル酸塩;デシクロビル;ジダノシン;ジソキサリル;エドキスジン(Edoxudine);エンビラデン;エンビロキシム;ファムシクロビル;ファモチン塩酸塩;フィアシタビン;フィアルリジン;ホサリラート;ホスカルネットナトリウム;ホスホネトナトリウム(Fosfonet Sodium);ガンシクロビル;ガンシクロビルナトリウム;イドクスウリジン;ケトキサール;ラミブジン;ロブカビル;メマンチン塩酸塩;メチサゾン;ネビラピン;ペンシクロビル;ピロダビル(Pirodavir);リバビリン;レムデシビル;リマンタジン塩酸塩;サキナビルメシル酸塩;ソマンタジン塩酸塩;ソリブジン;スタトロン;スタブジン(Stavudine);チロロン塩酸塩;トリフルリジン;バラシクロビル塩酸塩;ビダラビン;ビダラビンリン酸;ビダラビンナトリウムリン酸塩;ビロキシム;ザルシタビン;ジドブジンおよびジンビロキシムを含む。
【0081】
特定の実施形態において、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤は、1つ以上の抗ウイルス剤との組み合わせで、単一の剤形で提供される。実施形態において、PIKfyve阻害剤は、アピリモドである。
【0082】
実施形態において、少なくとも1つのPIKfyve阻害剤は、上記1つ以上の追加の薬剤とは別の剤形で提供される。例えば、異なる頻度もしくは異なる条件、もしくは異なる経路を介して、異なる治療薬の投与を必要とする治療レジメンでの併用療法という状況下では、別の剤形が望ましい。
【0083】
実施形態において、本明細書に記載されている少なくとも1つのPIKfyve阻害剤の投与は、経口投与に適した経口剤形を介して達成される。別の実施形態において、投与は、留置カテーテル、浸透圧ミニポンプなどのポンプ、または、例えば対象に埋め込まれた徐放性組成物によるものである。
【0084】
医薬組成物および製剤
本開示は、有効量の少なくとも1つのPIKfyve阻害剤および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物を提供し、ここで有効量は、本発明の方法に関連して上述した通りである。
【0085】
実施形態において、PIKfyve阻害剤は、アピリモド、APY0201、YM-201636およびそれらの薬学的に許容される塩から選択される。実施形態において、PIKfyve阻害剤は、アピリモドもしくはその薬学的に許容される塩である。
【0086】
用語「薬学的に許容される」とは、健全な医学的判断の範囲で、合理的な利益/リスク比にふさわしい、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、もしくはその他の問題または合併症を伴わずに、ヒトおよび動物の組織と接触させて利用するのに適している、それら化合物、物質、組成物、担体、および/または剤形をいう。
【0087】
「薬学的に許容される賦形剤」とは、一般的に安全で、非毒性であり、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではない医薬組成物を調製するのに有用な賦形剤を意味し、獣医学的使用ならびにヒト医薬での使用に許容される賦形剤を含む。薬学的に許容される賦形剤の例として、以下に限定されないが、滅菌液体、水、緩衝食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、油、界面活性剤、懸濁剤、炭水化物(例えば、グルコース、ラクトース、スクロースまたはデキストラン)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸またはグルタチオン)、キレート剤、低分子量タンパク質、もしくはそれらの適切な混合物を含む。
【0088】
医薬組成物は、バルクでまたは投与単位形態で提供され得る。投与の容易さおよび投与量の均一性のために、投与単位形態で医薬組成物を処方することは特に有利である。本明細書で使用される用語「投与単位形態」とは、治療される対象のための単一の投与量として適した物理的に個別の単位をいい、各単位は必要な医薬担体と関連して望まれる治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の投与単位形態の仕様は、活性化合物の固有の特性および達成されるべき特定の治療効果によって決定され、直接的に依存している。投与単位形態は、アンプル、バイアル、座薬、糖衣錠、錠剤、カプセル、IVバッグ、もしくはエアゾール吸入器上の単一のポンプであり得る。
【0089】
治療への適用において、用量は、選択された用量に影響する因子の中でも特に、薬剤、年齢、体重、被治療者の臨床状態、治療をおこなう臨床医もしくは開業医の経験および判断に依存して、変化する。通常、用量は治療有効量であるべきである。用量は、mg/kg/日の測定単位で提供され得る(用量は、患者のkgでの体重、m2での体表面積、および年での年齢で、調整され得る)。ウイルス感染症を治療する方法における組成物のための例示的な用量および投与レジメンは上記に記載されている。
【0090】
投与量は単位投与形態で提供され得る。例えば、単位投与形態は、1ナノグラム~2ミリグラム、または0.1ミリグラム~2グラム;または10ミリグラム~1グラム、または50ミリグラムから500ミリグラムまたは1マイクログラム~20ミリグラム;または1マイクログラム~10ミリグラム;または0.1ミリグラム~2ミリグラムを含み得る。
【0091】
医薬組成物は、任意の所望の経路(例えば、肺、吸入、鼻腔内、経口、頬、舌下、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸膜内、髄腔内、経皮、経粘膜、直腸等)による投与のための、任意の適切な形態(例えば、液体、エアロゾル、溶液、吸入剤、ミスト、スプレー;または固体、散剤、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、パッチ等)を取り得る。例えば、本発明の医薬組成物は、吸入または気腹(口か鼻のいずれかを通して)によるエアロゾル投与のための水溶液もしくは散剤の形態、経口投与のための錠剤もしくはカプセルの形態;直接注射または静脈内注入のための無菌輸液への添加による投与に適した滅菌水溶液または分散液の形態;もしくはローション、クリーム、フォーム剤、パッチ、懸濁剤、溶液、または経皮もしくは経粘膜投与用の座薬の形態であってもよい。
【0092】
医薬組成物は、以下に限定されないが、カプセル、錠剤、口腔形態、トローチ、ロゼンジ、およびエマルジョン、水性懸濁液、分散液または溶液の形態での経口溶液を含む経口的に許容される投与形態の形態であり得る。カプセルは、本発明の化合物と、薬学的に許容されるデンプン(例えば、トウモロコシ、ジャガイモまたはタピオカデンプン)、糖、人工甘味料、結晶性および微結晶性セルロース等の粉末セルロース、小麦粉、ゼラチン、ガム等の不活性充填剤および/または希釈剤との混合物を含んでもよい。経口使用の錠剤の場合、一般的に使用される担体には、乳糖およびトウモロコシデンプンが含まれる。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤も添加され得る。カプセル形態での経口投与の場合、有用な希釈剤には乳糖および乾燥トウモロコシデンプンが含まれる。水性懸濁液および/またはエマルジョンが経口で投与される場合、本発明の化合物は、油性相に懸濁または溶解させることができ、乳化剤および/または懸濁剤と組み合わされる。必要に応じて、特定の甘味料および/または香味料および/または着色剤が添加され得る。
【0093】
医薬組成物は、錠剤の形態であり得る。錠剤は、例えば、ラクトース、スクロース、ソルビトールまたはマンニトールなどの糖もしくは糖アルコール等の不活性希釈剤または担体と一緒に本発明の化合物の単位用量を含むことができる。錠剤はさらに、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、またはセルロースもしくはその誘導体、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびトウモロコシデンプン等のデンプンなど、非糖由来希釈剤を含み得る。錠剤はさらに、ポリビニルピロリドンなどの結合剤および造粒剤、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性架橋ポリマー)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸塩)、防腐剤(例えば、パラベン)、酸化防止剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸またはクエン酸緩衝剤)、およびクエン酸/重炭酸混合物などの発泡剤を含み得る。
【0094】
錠剤は、コーティングされた錠剤であり得る。コーティングは、保護フィルムコーティング(例えば、ワックスまたはニス)、もしくは、例えば遅延放出(摂取後の所定の遅延時間後の活性剤の放出)または消化管内の特定の場所での放出など、活性剤の放出を制御するために設計されたコーティングであり得る。後者は、例えば、ブランド名Eudragit(登録商標)で販売されているものなどの腸溶性フィルムコーティングを使って達成され得る。
【0095】
錠剤製剤は、従来の圧縮、湿式造粒または乾式造粒方法により製造することができ、以下に限定されないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸、アカシアゴム、キサンタンガム、クエン酸ナトリウム、ケイ酸複合体、炭酸カルシウム、グリシン、デキストリン、スクロース、ソルビトール、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、タルク、乾燥デンプンおよび粉末糖を含む、薬学的に許容される希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、表面修飾剤(界面活性剤を含む)、懸濁剤または安定化剤を利用する。好ましい表面修飾剤は、非イオン性および陰イオン性表面修飾剤を含む。表面修飾剤の代表的な例は、以下に限定されないが、ポリキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、およびトリエタノールアミンを含む。
【0096】
医薬組成物は、硬質または軟質ゼラチンカプセルの形態であり得る。この製剤に従って、本発明の化合物は、固体、半固体、または液体の形態であってもよい。
医薬組成物は、非経口投与に適した無菌水溶液または分散液の形態であり得る。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、病巣内および頭蓋内の注射または注入技術を含む。
【0097】
医薬組成物は、直接注射または静脈内注入のための滅菌注入流体への添加による投与に適した滅菌水溶液または分散液の形態であり得、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール)、それらの適切な混合物、または1つ以上の植物油を含有する溶媒または分散媒体を含む。遊離塩基または薬学的に許容される塩としての本発明の化合物の溶液もしくは懸濁液は、界面活性剤と適切に混合された水の中で調製され得る。適切な界面活性剤の例を以下に示す。分散液は、例えば、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよび油中での同一の混合物中で調製することもできる。
【0098】
本発明の方法で使用する医薬組成物はさらに、製剤中に存在する任意の担体もしくは希釈剤(ラクトースまたはマンニトール等)に加えて1つ以上の添加剤を含み得る。1つ以上の添加剤は、1つ以上の界面活性を含むかまたはそれにより構成され得る。界面活性剤は、通常、薬剤の浸透および吸収を促進するために細胞の脂質構造へ直接的に挿入することを可能にする脂肪酸などの1つ以上の長い脂肪族鎖を有する。界面活性剤の相対的な親水性および疎水性を特徴づけるために一般的に使用される経験的パラメータは、親水性-親油性バランス(「HLB」値)である。より低いHLB値を有する界面活性剤はより疎水性で、油中でのより高い溶解性を有するが、より高いHLB値を有する界面活性剤はより親水性で、水溶液中でのより高い溶解性を有する。したがって、親水性界面活性剤は、一般的に、約10より大きいHLB値を有する化合物であると考えられ、疎水性界面活性剤は、一般的に、約10より小さいHLB値を有するものである。しかしながら、多くの界面活性剤については、HLB値を測定するために選択される経験的方法に依存してHLB値が約8HLB単位ほども異なる場合があるため、これらHLB値は単なる目安に過ぎない。
【0099】
本発明の組成物で使用するための界面活性剤の中には、ポリエチレングリコール(PEG)-脂肪酸およびPEG-脂肪酸モノおよびジエステル、PEGグリセロールエステル、アルコール-油エステル交換生成物、ポリグリセリル脂肪酸、プロプレングリコール脂肪酸エステル、ステロールおよびステロール誘導体、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、糖およびその誘導体、ポリエチレングリコールアルキルフェノール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン(POE-POP)ブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、イオン性界面活性剤、脂溶性ビタミンとそれらの塩、水溶性ビタミンとそれらの両親媒性誘導体、アミノ酸とそれらの塩、および有機酸とそれらのエステルおよび無水物がある。
【0100】
本発明は、本発明の方法で使用するための医薬組成物を含むパッケージおよびキットを提供する。キットは、ボトル、バイアル、アンプル、ブリスターパック、およびシリンジから成る群より選択される1つ以上の容器を含み得る。キットはさらに、本発明の疾患、状態または障害の治療および/または予防における使用のための1つ以上の説明書、1つ以上のシリンジ、1つ以上のアプリケータ、または本発明の医薬組成物を再構成するのに適した無菌溶液を含むことができる。
【0101】
本明細書で使用されるすべてのパーセンテージおよび比率は、特に断りのない限り、重量によるものである。本発明のほかの特徴および利点は、異なる実施例から明らかである。以下の実施例は、本発明を実施する際に有用な異なる構成要素および方法論を示す。実施例は、請求された本発明を限定するものではない。本開示に基づき、当業者は本発明の実施のために有用なほかの構成要素および方法論を特定し使用することができる。
【0102】
実施例
実施例1
我々は、コロナウイルスに対するアピリモドの試験をするためにin vitro抗ウイルス活性評価(細胞毒性効果の低下)をおこなった。簡単に述べると、Vero細胞は2%FBSおよび50mg/mLのゲンタマイシンを含むMEM培地で、3回反復で、8ハーフログ連続希釈のジメシル酸アピリモド(52nM~164μM)で処理され、SARSもしくはMERSで感染させられた。ウイルスのみおよび培地のみのコントロールも含まれた。細胞は、細胞変性効果が顕微鏡で観察されるまで(3~5日)37℃+5%CO
2でインキュベートされた。細胞は次に0.011%のニューラルレッド染料で約2時間染色され、洗浄された後、等量のソレンセンクエン酸緩衝液/エタノールとともに30分間インキュベートされた。吸光度は540nmで分光光度計で読み取られ、細胞コントロールに対するパーセントに変換され、ウイルスのみコントールに対して正規化し、50%ウイルス阻害濃度(EC
50)を計算するために回帰分析が使用された。
図1では、独立した実験から平均のEC
50は、SARSでは3.7μM(n=3)およびMERSでは13.8μM(n=2)であったことを示す。
【0103】
これらの結果は、予想外にも、アピリモドがSARSやMERSなどのコロナウイルスに対する抗ウイルス活性を表すことを示した。このことは、以前に報告された、アピリモドがエボラやマールブルグなどのフィロウイルスのウイルス侵入を阻害するという性能からは予想されなかった。その理由は少なくとも、コロナウイルスにおいて異なる株が異なる宿主プロテアーゼおよび受容体を利用することが示されたように(Totura et al,(2019)Expert Opin Drug Discov 14(4):397-412)、ウイルス侵入に必要な宿主因子は、一般的に異なるウイルスファミリー間で異なり、単一ファミリー内ですら相違し得るためである。
【0104】
ウイルスタンパク質を標的とするワクチンおよびモノクローナル抗体のような従来のアプローチは、多様なコロナウイルス病原体に対して効果がなく、耐性変異が急速に発生するため(Totura et al,(2019)Expert Opin Drug Discov 14(4):397-412)、広範に作用する抗ウイルス剤の発見は、容易に特定できないし自明でもないが、社会にとって非常に価値のあるものとなる。実際、動物モデルで示されているように(Sui et al.(2014)J Virol.88(23):13769-80)、SARSウイルスは、耐性を与えるだけでなくウイルスの病原性を増強する複数エピトープにおける突然変異を許容し得る。加えて、ヌクレオシドアナログでウイルスのポリメラーゼおよび校正エキソヌクレアーゼを標的とすることは、耐性株の出現を選び出す可能性がある(Agostini et al.(2018)mBio 9(2)pii:e00221-18)。
【0105】
実施例2:アピリモドはSARS-CoV-2感染を阻害する。
ジメシル酸アピリモドの抗ウイルス活性は、Vero E6細胞でのSARS-CoV-2の臨床分離株に対して試験された。細胞は、ウイルス除去および様々な用量のアピリモドまたはレムデシビルの添加の前に、100TCID50の用量で3時間感染された。48時間後、RNAは細胞上清から抽出されウイルス転写物レベルは定量リアルタイムPCRで測定された。ウイルス阻害のパーセントは、DMSOコントロールとの比較に基づいて算出された。並行して、細胞の生存率は、ウイルスの非存在下で、セルカウンティングキット8アッセイを用いて評価された。アピリモドは、2.2μMのEC50(
図2A)でウイルス転写レベルを減少させ、これは20μMの細胞毒性濃度(CC50)の半分以下であり(
図2B)、選択性指数(CC50/EC50)9.1という結果になった。レムデシビルも並行で実行され、0.7μMのEC50(
図2C)および205μMのCC50(
図2D)を示した。1μM、3μM、または10μMのアピリモドと準最適濃度の0.5μMのレムデシビルとの組み合わせも評価された。アピリモドは、すべての試験した濃度で単剤レムデシビルもしくは単剤アピリモドより、レムデシビルとの組み合わせで有意に大きな阻害を示した(
図2E)。同じ実験からのDMSOコントロールに対するウイルス転写物の倍数的減少も測定された(
図2F)。レムデシビルとの併用では単剤に対して、ウイルス転写物では有意な用量依存減少が観察された(6~2,180分の1)。これらのデータを総合すると、アピリモドは単剤としてSARS-CoV-2の感染を阻害しレムデシビルとの併用で最大2,180分の1のウイルス転写物の減少というより高い有意な活性を示すことが実証された。
【国際調査報告】