(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(54)【発明の名称】腫瘍微小環境細胞に対するキメラ抗原受容体(CAR)を有するパーソナライズされた細胞を提供する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230324BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230324BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230324BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230324BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230324BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20230324BHJP
【FI】
C12N5/10
A61P35/00
A61K35/17
A61K39/395 N
A61K39/00 H
C12N5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549339
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(85)【翻訳文提出日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2021050750
(87)【国際公開番号】W WO2021164959
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ボズィオ
(72)【発明者】
【氏名】オラフ トルステン ハルト
(72)【発明者】
【氏名】マリオ アッセンマッハー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA21
4B065CA24
4B065CA44
4C085AA04
4C085CC21
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB63
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞を提供するプロセスであって、腫瘍微小環境細胞および非腫瘍微小環境細胞を含む細胞サンプルを準備し、-細胞組織を蛍光部分と抗原認識部分とを含むコンジュゲートと接触させる工程、-細胞組織から非結合コンジュゲートを除去するとともに、コンジュゲートに結合した細胞を、第1のコンジュゲートの蛍光部分から放出される蛍光放射によって検出する工程、-コンジュゲートの蛍光部分から放出される蛍光を消失させる工程を、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備え、組み合わせることで腫瘍微小環境細胞と非腫瘍微小環境細胞とを区別することができる、少なくとも2つのコンジュゲートが特定されるまで繰り返し、特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として有する細胞を提供することを特徴とする、プロセスを対象とする。好ましくは、腫瘍微小環境細胞は、腫瘍間質細胞またはPaCa細胞に由来する腫瘍微小環境細胞である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞を提供するプロセスであって、腫瘍微小環境細胞および非腫瘍微小環境細胞を含む細胞サンプルを準備し、
-細胞組織を蛍光部分と抗原認識部分とを含むコンジュゲートと接触させる工程、
-前記細胞組織から非結合コンジュゲートを除去するとともに、前記コンジュゲートに結合した細胞を、第1のコンジュゲートの前記蛍光部分から放出される蛍光放射によって検出する工程、
-前記コンジュゲートの前記蛍光部分から放出される蛍光を消失させる工程
を、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備え、組み合わせることで腫瘍微小環境細胞と非腫瘍微小環境細胞とを区別することができる、少なくとも2つのコンジュゲートが特定されるまで繰り返し、
特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として有する細胞を提供する
ことを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞が、T細胞、NK細胞、または他の細胞との結合によって誘発されて前記他の細胞を破壊するように改変された細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記少なくとも2つの抗原認識部分がAND型、OR型またはNOT型として設けられることを特徴とする、請求項1または2記載のプロセス。
【請求項4】
前記少なくとも2つの抗原認識部分がADAPTER型として設けられることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項5】
キメラ抗原受容体(CAR)の抗原認識部分としてビオチンを含む細胞を準備し、前記特定された少なくとも2つの抗原認識部分と抗ビオチン部分とのコンジュゲートを準備し、前記コンジュゲートと前記細胞とをコンジュゲートすることによって、前記特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として前記細胞に設けることを特徴とする、請求項4記載のプロセス。
【請求項6】
第1のキメラ抗原受容体(CAR)の抗原認識部分としてビオチンをかつ第2のキメラ抗原受容体(CAR)の抗原認識部分として第2のエピトープを含む細胞を準備し、前記特定された少なくとも2つの抗原認識部分と抗ビオチン部分および第2の部分とのコンジュゲートを準備し、前記コンジュゲートと前記細胞とをコンジュゲートすることによって、前記特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として前記細胞に設けることを特徴とする、請求項4記載のプロセス。
【請求項7】
抗原認識部分を備える前記少なくとも2つのコンジュゲートが、前記腫瘍微小環境細胞の少なくとも20%および前記非腫瘍微小環境細胞の5%未満に少なくとも結合することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項8】
抗原認識部分を備える前記少なくとも2つのコンジュゲートが、前記細胞サンプルの非腫瘍微小環境細胞よりも少なくとも10倍多い腫瘍微小環境細胞に結合することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項9】
前記蛍光部分から放出される蛍光放射を、前記コンジュゲートを酵素的に分解することによって消失させることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項10】
前記腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞が、前記腫瘍微小環境細胞を伴う腫瘍細胞にさらに特異的であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項11】
前記キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞が、α-SMA、CD74、CXCL12およびPDGFRβからなる群から選択される腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項12】
前記キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞が、α-SMA、CD74、CXCL12およびPDGFRβからなる群から選択される腫瘍微小環境細胞および腫瘍間質細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的であることを特徴とする、請求項11記載のプロセス。
【請求項13】
前記キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞が、CD47、CD51、CD58、CD90、CD206およびCD239からなる群から選択される腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項14】
前記キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞が、CD47、CD51、CD58、CD90、CD206およびCD239からなる群から選択される腫瘍微小環境細胞およびPaCa細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的であることを特徴とする、請求項13記載のプロセス。
【請求項15】
腫瘍微小環境細胞、腫瘍細胞および非腫瘍微小環境細胞を含む細胞サンプルを準備し、
-細胞組織を蛍光部分と抗原認識部分とを含むコンジュゲートと接触させる工程、
-前記細胞組織から非結合コンジュゲートを除去するとともに、前記コンジュゲートに結合した細胞を、第1のコンジュゲートの前記蛍光部分から放出される蛍光放射によって検出する工程、
-前記コンジュゲートの前記蛍光部分から放出される蛍光を消失させる工程
を、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備え、組み合わせることで腫瘍微小環境細胞および腫瘍細胞を非腫瘍微小環境細胞に対して区別することができる、少なくとも2つのコンジュゲートが特定されるまで繰り返し、
特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として有する細胞を提供する
ことを特徴とする、請求項10記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍微小環境細胞(TME)の死滅/溶解に適切なキメラ抗原受容体(CAR)を有する細胞を提供するために、個体の健常細胞ではなく腫瘍微小環境細胞(TME)上に露出した抗原を選択する方法に関する。
【0002】
発明の背景
癌は、無秩序な細胞成長を伴う広範な疾患群である。癌では、細胞は制御不能に分裂および成長し、悪性腫瘍を形成し、身体の周辺部位に浸潤する。癌は、リンパ系または血流を介して身体のより遠い部位に広がることもある。
【0003】
固形腫瘍または癌の組織は通常、血管、免疫細胞、線維芽細胞、周皮細胞、シグナル伝達分子および細胞外基質(ECM)からなる腫瘍微小環境細胞(TME)によって包囲または被包される。TMEの定義は、“NCI Dictionary of Cancer Terms”, National Cancer Institute, 2011-02-02に開示されている。TMEに関する最近のレビューについては、Am J Cancer Res. 2019; 9(2): 228-241を参照されたい。
【0004】
CAR T細胞は、腫瘍を標的とする有望な免疫療法であるため、固形腫瘍の治療は、例えば物理的障壁として働くか、または免疫抑制性であり得るTMEの影響を受ける。これに対処する1つの考え得る方法は、CAR T細胞をもう一度使用することである。
【0005】
生じる問題は、腫瘍およびTMEが全ての患者で同じではなく、腫瘍およびTMEの両方について正しい患者特異的標的を選択し、これに応じてCAR T細胞(または同様のもの)を生成する必要があることである。CAR T細胞の選択および生成は、迅速な方法で、また大抵の場合、患者特異的に行われなければならない。
【0006】
実際には、表面分子が非標的細胞上でも発現される可能性があり、安全性の問題が生じるため、腫瘍細胞またはTMEの細胞に対する単一の標的では十分ではないことがある。さらに、表面分子は十分に選択的ではない可能性があり、すなわちTME細胞で発現され、生存細胞を再発させ、かつ/もしくは不完全なTME破壊を引き起こし、かつ/もしくは抗原の発現レベルを遮断する可能性があり、かつ/または単一の結合剤の親和性が効率的なT細胞活性化を可能にするには低すぎる可能性がある。
【0007】
個々の患者についての腫瘍マーカー発現のパーソナライズされた表現型検査を行うためには、CARおよびCAR T細胞の組合せを、患者および適応症によって決まる許容可能な期間内に開発する必要がある。臨床的には、最適な期間は数週間である。
【0008】
したがって、CAR細胞に基づく癌の任意の免疫療法の成功は、それぞれの腫瘍細胞に特異的な抗原の迅速かつ確実な選択にかかっている。
【0009】
かかるプロセスは、例えば欧州特許出願公開第3315511号明細書に開示されており、ここでは、CAR T細胞に患者の免疫学的状況、すなわち腫瘍細胞が提示する抗原に従う抗原結合領域(「TCBM」)を設けている。
【0010】
特有の細胞表面抗原群がTME細胞で発現されるが、非悪性細胞上では発現されないかまたはより低レベルにしか発現されないことが見出されている。これらの抗原(「マーカー」とも称される)を用い、マーカーに特異的に結合するリガンドを介してTME細胞の回避機構を特定および/または標識および/または破壊および/または無効化することができる。欧州特許出願公開第3315511号明細書には、療法に最も有望な抗原結合領域(「TCBM」)の特定については記載されていない。さらに、欧州特許出願公開第3315511号明細書は、腫瘍細胞のみを対象とし、TMEの免疫学的状況については記載されていない。
【0011】
TME細胞がCAR細胞に認識された後、TME細胞は、これにより破壊されるか、またはそのように特定されたCAR細胞によって癌細胞を保護する効率が少なくとも低下する。
【0012】
したがって、本発明の課題は、非腫瘍細胞を攻撃することなく癌細胞を死滅/溶解させる細胞を改変するために、健常組織では発現されないTME細胞に特異的な抗原を選択する方法を提供することであった。
【0013】
発明の概要
本発明の第1の課題は、腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞を提供するプロセスであって、腫瘍微小環境細胞および非腫瘍微小環境細胞を含む細胞サンプルを準備し、
-細胞組織を蛍光部分と抗原認識部分とを含むコンジュゲートと接触させる工程、
-細胞組織から非結合コンジュゲートを除去するとともに、コンジュゲートに結合した細胞を、第1のコンジュゲートの蛍光部分から放出される蛍光放射によって検出する工程、
-コンジュゲートの蛍光部分から放出される蛍光を消失させる工程
を、組み合わせて腫瘍微小環境細胞と非腫瘍微小環境細胞とを区別することができる、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える少なくとも2つのコンジュゲートが特定されるまで繰り返し、
特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として有する細胞を提供する
ことを特徴とする、プロセスである。
【0014】
好ましくは、本発明の方法は、蛍光部分と異なる抗原を認識する抗原認識部分とを含むコンジュゲートを用い、少なくとも続いて行われる2サイクルの工程について上述の工程を繰り返すことを含む。
【0015】
第1の実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞は、α-SMA、CD74、CXCL12およびPDGFRβからなる群から選択される腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的である。
【0016】
この実施形態の好ましい変形形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞は、α-SMA、CD74、CXCL12およびPDGFRβからなる群から選択される腫瘍微小環境細胞および腫瘍間質細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的である。
【0017】
第2の実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞は、CD47、CD51、CD58、CD90、CD206およびCD239からなる群から選択される腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的である。
【0018】
この実施形態の好ましい変形形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞は、CD47、CD51、CD58、CD90、CD206およびCD239からなる群から選択される腫瘍微小環境細胞およびPaCa(膵臓癌)細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的である。CD90とCD239との組合せは、PaCaの腫瘍微小環境細胞に特に特異的であることが見出された。
【0019】
第3の実施形態では、腫瘍微小環境細胞上に露出した1つ以上の標的抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞は、腫瘍微小環境細胞を伴う腫瘍細胞にさらに特異的である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】キメラ抗原受容体(CAR)の一般的なドメインを示す図である。
【
図2】キメラ抗原受容体の一般的な構成概念を示す図である。
【
図3】AND論理を備えるCAR-T細胞の機能を示す概略図である。
【
図4】NOT論理を備えるCAR-T細胞の機能を示す概略図である。
【
図5a】膵癌に対するウルトラハイコンテントイメージングのスクリーニングによる標的の特定を示す図である。
【
図5b】膵癌に対するウルトラハイコンテントイメージングのスクリーニングによる標的の特定を示す図である。
【
図5c】膵癌に対するウルトラハイコンテントイメージングのスクリーニングによる標的の特定を示す図である。
【0021】
定義
以下、「腫瘍微小環境細胞」、「TME細胞」および「標的細胞」という用語は、本発明の方法によって提供されるCAR細胞に認識される(後に攻撃される)細胞に対して同義的に用いられる。
【0022】
かかる腫瘍微小環境細胞(TME)は、固形腫瘍の周囲に成長するか、または固形腫瘍を内包し、血管、免疫細胞、線維芽細胞、周皮細胞、シグナル伝達分子および細胞外基質(ECM)からなり得る。科学的定義は、“NCI Dictionary of Cancer Terms”. National Cancer Institute. 2011-02-02に見ることができ、最近のレビューについては、Am J Cancer Res. 2019; 9(2): 228-241を参照されたい。
【0023】
したがって、「非腫瘍微小環境細胞」、「非TME細胞」および「非標的細胞」という用語は、本発明の方法によって提供されるCAR細胞に認識されない(後に攻撃されない)健常細胞に対して同義的に用いられる。
【0024】
「腫瘍細胞」という用語は、「腫瘍微小環境細胞」の一部ではなく、当然ながら健常な「非腫瘍微小環境細胞」ではない癌細胞を指す。
【0025】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、その細胞自体以外の起源に由来する新たな特異性を備える改変細胞を指す。
【0026】
「腫瘍」という用語は、医学では「新生物」として知られる。全ての腫瘍が癌性であるとは限らず、良性腫瘍は隣接組織に浸潤せず、全身に広がることはない。
【0027】
「癌」という用語は、無秩序な細胞成長を伴う広範な疾患群を指す。癌性細胞は、無制御に分裂および成長し、悪性腫瘍を形成し、身体の周辺部位に浸潤する。癌は、リンパ系または血流を介して身体のより遠い部位に広がることもある。
【0028】
抗体のようなリガンド、そのフラグメント、またはCARの抗原結合ドメインに関する「結合剤」または「特異的に結合する」または「に特異的な」という用語は、特定の抗原を認識し、これに結合するが、サンプル中の他の分子を実質的に認識または結合しない抗原結合ドメインを指す。或る種に由来する抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインは、別の種に由来するその抗原にも結合する場合がある。この異種間反応性は、その抗原結合ドメインが特異的であるという定義に反するものではない。或る抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインは、その抗原の異なる対立遺伝子型(対立遺伝子変異型、スプライス変異体、アイソフォーム等)にも結合する可能性がある。この交差反応性は、その抗原結合ドメインが特異的であるという定義に反するものではない。
【0029】
本明細書で使用される「改変細胞」および「遺伝子組み換え細胞」という用語は、区別なく用いられ得る。これらの用語は、細胞またはその子孫の遺伝子型または表現型を修飾する外来遺伝子または核酸配列を含み、かつ/または発現することを意味する。特に、これらの用語は、自然状態ではこれらの細胞において発現されないペプチドまたはタンパク質を安定的または一時的に発現するように、当該技術分野で既知の組み換え法によって操作された細胞、好ましくはT細胞を指す。例えば、T細胞はキメラ抗原受容体等の人工構築物を細胞表面に発現するように改変される。例えば、CARをコードする配列は、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを用いて細胞内に送達することができる。
【0030】
「標的」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合ドメイン、例えば抗体またはCARの抗原結合ドメインによって特異的に認識されるのが望ましい、細胞と関連する抗原またはエピトープを指す。抗体認識のための抗原またはエピトープは、細胞表面に結合していてよいが、分泌されても、細胞外膜の一部であっても、または細胞から脱落してもよい。
【0031】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体およびそれらのフラグメントを指し、当業者に既知の方法によって生成することができる。抗体は任意の種、例えばマウス、ラット、ヒツジ、ヒトのものであり得る。治療目的では、非ヒト抗原結合フラグメントが使用される場合、当該技術分野で既知の任意の方法によってヒト化することができる。抗体は修飾抗体(例えばオリゴマー、還元抗体、酸化抗体および標識抗体)であってもよい。
【0032】
「キラー細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、別の細胞、例えば癌細胞を死滅/破壊/溶解させることができる細胞を指す。T細胞、NK細胞、樹状細胞およびマクロファージがキラー細胞として最もよく使用され得る。
【0033】
「改変キラー細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、標的細胞を特異的に死滅させることが可能となるように遺伝子組み換えされたキラー細胞、例えばそれぞれの標的を発現する腫瘍細胞および/またはTME細胞を死滅させるように標的に対するCARで修飾された細胞を指す。
【0034】
発明の詳細な説明
本発明のプロセスは、細胞サンプルのTME細胞の少なくとも一部を破壊するために、好適なコンジュゲートのセットの迅速な特定およびその後の適切なCAR細胞の迅速な改変を可能にする。TME細胞、非TME細胞および非腫瘍細胞を含む細胞サンプルは、好ましくは同じ患者の同じ組織または器官に由来する。
【0035】
細胞サンプル中のTME細胞と非TME細胞とを区別するために、病理学者のような当業者は、細胞サンプルが腫瘍を含むかどうか、またそうである場合に細胞サンプルのどの部分であるかを、腫瘍学における既知の基準または常法に従って決定することができる。かかる基準は、例えばArbeitsgemeinschaft der Wissenschaftlichen Medizinischen Fachgesellschaften(AWMF)によって発表された指針であり、例えば細胞の形態、組織の構造、倍数性、バイオマーカー発現(Her2、p53、BRAC1、APC、EGFR等)を含み得る。
【0036】
TME細胞の一部のみが特定または攻撃される場合であっても腫瘍が破壊される可能性があるため、特定されたコンジュゲートが全てのTME細胞に結合する必要はない。好ましくは、本発明のプロセスは、TME細胞の少なくとも1%、より好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも30%に結合する、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える少なくとも2つのコンジュゲートが特定されるまで行われる。
【0037】
コンジュゲートは非TME細胞または非腫瘍細胞の0%に結合することが望まれるが、或る量の非腫瘍/非TME細胞(すなわち健常細胞)が標的とされることは療法に許容され得る。好ましくは、本発明のプロセスは、TME細胞に結合し、同じタイプの組織または器官の非TME細胞の最大でも10%、より好ましくは最大でも5%、最も好ましくは最大でも1%に結合する、異なる抗原を認識する抗原認識部分を少なくとも備える少なくとも2つのコンジュゲートが特定されるまで行われる。「同じタイプの組織または器官」という用語は、例えば膵臓、肝臓または間質を指す。
【0038】
本発明のプロセスは、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える2つのコンジュゲートの1つ以上のセット、およびその後の特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として有する1つ以上の異なる細胞の迅速な特定を可能にする。コンジュゲートの2つ以上のセットおよび2つ以上のCAR細胞を準備することで、TME細胞を破壊する可能性を高め、かつ/またはTME細胞が標的化を回避するために抗原を下方調節することを防ぐ。
【0039】
キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞は、T細胞、NK細胞、または他の細胞への結合によって誘発されて他の細胞を破壊する(溶解させる)ように改変された細胞からなる群から選択され得る。
【0040】
本発明のプロセスでは、認識パターンを特徴付け、TME細胞に特異的な結合剤および非TME細胞に特異的な結合剤を選択するために、細胞サンプルを続いて複数の結合剤と接触させてもよい。このように特定された結合剤は、後に規定するようにその後の療法に使用することができる。
【0041】
プロセスの変形形態では、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える少なくとも2つのコンジュゲートは、細胞サンプルのTME細胞の少なくとも20%および非TME細胞の5%未満に結合する。好ましくは、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える少なくとも2つのコンジュゲートは、細胞サンプルのTME細胞の少なくとも50%および非TME細胞の5%未満に結合する。より好ましくは、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える少なくとも2つのコンジュゲートは、細胞サンプルのTME細胞の少なくとも70%および非TME細胞の5%未満に結合する。
【0042】
別の変形形態では、少なくとも2つのコンジュゲートは、細胞サンプルの非TME細胞より少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍多いTME細胞を破壊する抗原認識部分を備える。
【0043】
本発明のプロセスは、TME細胞に結合するが、非TME細胞には結合しないかまたは実質的に結合しない、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備える少なくとも2つのコンジュゲートを特定することを含む。
【0044】
CARが少なくとも2つの抗原認識部分を備える場合、CARは異なる論理ゲートで実行されるように誘発され得る。論理ゲートは「AND」型、「NOT」型、「OR」型のCAR細胞として文献に記載されている。後により詳細に開示するように、本発明のプロセスでは、少なくとも2つの抗原認識部分はAND型、OR型またはNOT型として設けられ、かつ/または少なくとも2つの抗原認識部分は、ADAPTER型として設けられる。これら全ての変形形態における少なくとも2つの抗原認識部分は、キメラ抗原受容体(CAR)として設けられる。
【0045】
キメラ抗原受容体(CAR)
図1および
図2に概略的に示されているように、キメラ抗原受容体(CAR)は、抗原結合ドメインを含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含み得る。細胞外ドメインは、リンカーによって膜貫通ドメインに連結され得る。細胞外ドメインは、シグナルペプチドに連結されていてもよい。
【0046】
「シグナルペプチド」という用語は、細胞内のタンパク質の、例えば或る特定の細胞小器官(小胞体等)および/または細胞表面への輸送および局在化を指示するペプチド配列を指す。
【0047】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原に特異的に結合する(これにより抗原を含む細胞を標的とすることができる)、CARの領域を指す。本発明によって得られるCARは、1つ以上の抗原結合ドメインを含み得る。概して、CAR上の抗原結合ドメインは細胞外である。抗原結合ドメインは、抗体またはそのフラグメントを含み得る。抗原結合ドメインは、例えば完全長重鎖、Fabフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント、二価一本鎖抗体またはダイアボディを含み得る。アフィボディ、または天然の受容体に由来するリガンド結合ドメイン等の所与の抗原に特異的に結合する任意の分子を抗原結合ドメインとして使用することができる。多くの場合、抗原結合ドメインはscFvである。通常、scFvでは、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変部分がフレキシブルリンカーによって融合し、scFvを形成する。かかるリンカーは、例えば「(G4/S1)3-リンカー」であり得る。
【0048】
CARの膜貫通ドメインは、例えば4-1BB、CD8および/またはCD28の膜貫通ドメインの配列を含み得る。さらに、CD28、CD137またはCD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインの配列を含む活性化細胞内シグナル伝達ドメインが存在していてもよい。
【0049】
活性化細胞内シグナル伝達ドメインの代わりに、CARは、PD1またはCTLA4等の細胞内シグナル伝達ドメインの配列を有する阻害細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。
【0050】
この実施形態の好ましい変形形態では、キメラ抗原受容体(CAR)は、付加的な抗原結合ドメインまたは付加的なCARなしにCD20に特異的な抗原結合ドメインを含み、抗原結合ドメインが1つの膜貫通ドメインおよび1つ以上のシグナル伝達ドメインにコンジュゲートする。この変形形態は
図2Aに例として示されている。
【0051】
場合によっては、抗原結合ドメインが、CARが使用されるのと同じ種に由来することが有益である。例えば、CARをヒトにおいて治療的に使用することが意図される場合、CARの抗原結合ドメインがヒト抗体もしくはヒト化抗体またはそのフラグメントを含むことが有益であり得る。ヒト抗体もしくはヒト化抗体またはそのフラグメントは、当該技術分野で既知の様々な方法によって作製することができる。
【0052】
「スペーサー」または「ヒンジ」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にある親水性領域を指す。本発明によって特定されたCARは、細胞外スペーサードメインを含み得るが、かかるスペーサーを除外することも可能である。スペーサーは、抗体もしくはそのフラグメントのFcフラグメント、抗体もしくはそのフラグメントのヒンジ領域、抗体のCH2もしくはCH3領域、アクセサリータンパク質、人工スペーサー配列、またはこれらの組合せを含み得る。スペーサーの顕著な例は、CD8αヒンジである。
【0053】
CARの膜貫通ドメインは、かかるドメインの任意の所望の天然源または合成源に由来し得る。起源が天然である場合、ドメインは任意の膜結合または膜貫通タンパク質に由来し得る。
【0054】
本発明のCARの細胞質ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが発現される免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与する。「エフェクター機能」は、細胞の特殊な機能を意味し、例えばT細胞では、エフェクター機能は細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。細胞内シグナル伝達ドメインは、エフェクター機能シグナルを伝達し、本発明のCARを発現する細胞が特殊な機能を果たすよう指示するタンパク質の部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な所与のタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインの任意の完全なまたは切断された部分を含み得る。
【0055】
CARに使用される細胞内シグナル伝達ドメインの顕著な例は、抗原受容体連結後にシグナル伝達を開始するように協調して作用するT細胞受容体(TCR)および共同受容体の細胞質配列が挙げられる。
【0056】
少なくとも2つの抗原結合ドメインを有するCARについては、抗原結合ドメインが異なる機能を有していてもよい。本発明のプロセスは、「AND」型、「NOT」型、「OR」型のCAR細胞として提供され得る、腫瘍治療に適した新たなCAR細胞の開発時間を短縮する。
【0057】
本発明の一実施形態では、両方の抗原結合ドメインがそれぞれの抗原に結合する場合にのみCAR細胞が活性化され、すなわちシグナルドメインのシグナルが誘発される。かかるCAR細胞を以下、「AND-CAR」と称する。「AND-CAR」細胞の抗原結合ドメインは、例えば、健常細胞では発現されないかまたは多くとも一方しか発現されない、TME細胞上にある2つの抗原を特定することによって、本発明の方法で特定することができる。
図3(Transl Cancer Res 2016;5(S1):S61-S65に掲載)には、AND-CARが健常細胞(i)および(ii)によって不活性化されるが、TME細胞(iii)によって活性化される様子が示されている。
【0058】
本発明の別の実施形態では、一方の抗原結合ドメインがそれぞれの抗原に結合し、他方が結合しない場合にのみCAR細胞が活性化され、すなわちシグナルドメインのシグナルが誘発される。かかるCAR細胞を以下、「NOT-CAR」と称する。「NOT-CAR」細胞の抗原結合ドメインは、例えば、一方のみがTME細胞で発現される、健常細胞上にある2つの抗原を特定することによって本発明の方法で特定することができる。
図4(Transl Cancer Res 2016;5(S1):S61-S65に掲載)には、NOT-CARが健常細胞(i)によって不活性化されるがTME細胞(ii)によって活性化される様子が示されている。
【0059】
本発明のさらに別の実施形態では、2つの抗原結合ドメインの一方のみがそれぞれの抗原に結合する場合にCAR細胞が既に活性化され、すなわちシグナルドメインのシグナルが誘発される。かかるCAR細胞を以下、「OR-CAR」と称する。「OR-CAR」細胞の抗原結合ドメインは、例えば、TME細胞上にあるが健常細胞上にはない2つの抗原を特定することによって、本発明の方法で特定することができる。
【0060】
処理時間の更なる短縮は、いわゆる「ADAPTER CAR」技術を用いて達成することができる。「ADAPTER CAR」細胞は、シグナル伝達ドメインと、膜貫通ドメインと、リンカードメインとを含み、抗原認識特性を有しない。次いで、このリンカードメインに1つ以上の抗原認識部分をコンジュゲートする(リンカー+分子=アダプター)。したがって、本発明によるプロセスでは、キメラ抗原受容体(CAR)としての少なくとも2つの抗原認識部分は、ADAPTER型として設けられ得る。
【0061】
本発明の変形形態では、キメラ抗原受容体(CAR)の抗原認識部分としてビオチンを含む細胞を準備し、特定された少なくとも2つの抗原認識部分と抗ビオチン部分とのコンジュゲートを準備し、上記コンジュゲートと上記細胞とをコンジュゲートすることによって、特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として細胞に設ける。
【0062】
本発明の別の変形形態では、第1のキメラ抗原受容体(CAR)の抗原認識部分としてビオチンをかつ第2のキメラ抗原受容体(CAR)の抗原認識部分として第2のエピトープを含む細胞を準備し、特定された少なくとも2つの抗原認識部分と抗ビオチン部分および第2の部分とのコンジュゲートを準備し、上記コンジュゲートと上記細胞とをコンジュゲートすることによって、特定された少なくとも2つの抗原認識部分をキメラ抗原受容体(CAR)として細胞に設ける。
【0063】
好適なリンカーは、哺乳動物(ヒト)の体内には存在しないか、または哺乳動物(ヒト)の体内の天然抗体に対して低い親和性を有する分子である。例えば、抗原認識部分との所望のコンジュゲートにコンジュゲートする抗ビオチン抗体または抗チアミン抗体のような適切なアダプターによって特定される、ビオチン単位またはチアミン単位(化学修飾または非修飾)が好適である。
【0064】
「ADAPTER CAR」技術は、国際公開第2018078066号に開示されており、CAR細胞に結合したリンカーについて「リンカー/標識エピトープ」(LLE)という用語が用いられる。
【0065】
好ましくは、LLEは、CARを発現する細胞で治療されることが意図される被験体において免疫反応を引き起こさない。これは、リンカー部分を有しない内因性標識部分、すなわち被験体内の天然分子(自己抗原)よりも高い選好性でLLEが結合するように、天然エピトープ認識分子に由来するCARの細胞外LLE結合ドメインを用いることで達成することができる。
【0066】
例えば、CARの細胞外LLE結合ドメインは、上記天然分子よりも少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍高い親和性で上記LLEに結合する。
【0067】
「ADAPTER」CAR細胞の場合、リンカー単位を備えるCAR細胞およびアダプターを患者に並行して適用する。この実施形態の利点は、リンカーを有するCAR細胞を、特定された抗原認識部分とは独立して作製することができ、ゼロから開発する必要がないことである。アダプターのみを生成し試験する必要がある。このアプローチでは、従来の化学療法と同様に、療法の強度および動態を制御することもできる。
【0068】
検出プロセス
本発明の方法では、細胞に結合したコンジュゲートの蛍光部分から放出される蛍光を消失させる必要がある。この工程により、コンジュゲート(すなわち、抗原結合部分、すなわちTME細胞の抗原)の最良の組合せが決定されるまで複数の潜在的な結合剤またはコンジュゲートを調査することができる。「蛍光を消失させる」という用語は、細胞サンプルの蛍光放射を消光する任意の方法を指し、例えばコンジュゲートを酵素的に分解することで、結合したコンジュゲートを蛍光部分から除去することを含む。かかるコンジュゲートは、例えば欧州特許出願公開第3037821号明細書、欧州特許出願公開第16203689.1号明細書または欧州特許出願公開第16203607.3号明細書に開示されている。
【0069】
その変形形態では、親和性系を含むコンジュゲート、例えばビオチン/抗ビオチンを使用することができ、親和性系は遊離競合分子(ビオチン/抗ビオチン系のビオチン等)の添加によって抑止される。いずれの場合にも、コンジュゲートから蛍光部分を放出させ、続いて「放出された」蛍光部分を洗い流すことによって蛍光が消失する。
【0070】
「蛍光を消失させる」代替方法では、過酸化水素のような酸化剤を添加するか、または適切な波長の放射(UV放射等)を供給することによって、蛍光放射を発する能力がなくなる程度まで蛍光部分を化学的に破壊する。
【0071】
癌の治療への使用
本発明の方法によって得られる細胞集団は、好ましくはヒト癌、特にヒト膵臓癌またはヒト間質癌の治療方法において医薬組成物として使用することができる。
【0072】
医薬組成物は、好ましくは本発明の方法によって得られるCARを発現する改変細胞の集団を含む。本発明の変形形態では、医薬組成物は化学療法剤、放射線または免疫調節剤と組み合わせて癌の治療に使用される。
【0073】
医薬組成物によるTMEの認識は、CAR細胞による分子の分泌等の反応を引き起こすことができ、これにより更なる細胞が動員され、TMEが癌細胞を保護する効率が低下する。最終的に、癌細胞は、例えば適切なCAR細胞によって攻撃され得る。
【0074】
治療される癌のTME細胞は、造血癌、骨髄異形成症候群、膵癌、頭頸部癌、皮膚腫瘍、急性リンパ芽球性白血病(ALL)における微小残存病変(MRD)、急性骨髄性白血病(AML)、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、結腸癌、黒色腫、もしくは他の血液癌および固形腫瘍、またはこれらの任意の組合せを含み得る。別の実施形態では、癌は白血病(例えば慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)または慢性骨髄性白血病(CML))、リンパ腫(例えばマントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫またはホジキンリンパ腫)もしくは多発性骨髄腫等の血液癌、またはこれらの任意の組合せを含む。さらに、癌は口腔咽頭癌(舌、口腔、咽頭、頭頸部)、消化器系癌(食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、肝内胆管、胆嚢、膵臓)、呼吸器系癌(喉頭、肺および気管支)、骨関節癌、軟部組織癌、皮膚癌(黒色腫、基底および扁平上皮癌)を含む成人癌、小児腫瘍(神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫)、中枢神経系の腫瘍(脳神経芽細胞腫、星状細胞腫、膠芽腫、神経膠腫)、ならびに乳房、生殖器系(子宮頸部、子宮体部、卵巣、外陰部、膣、前立腺、精巣、陰茎、子宮内膜)、泌尿器系(膀胱、腎臓および腎盂、尿管)、眼および眼窩、内分泌系(甲状腺)、ならびに脳および他の神経系の癌、またはこれらの任意の組合せを含み得る。
【0075】
癌の治療は、標的分子として開示される少なくとも1つの抗原または開示される抗原の任意の組合せを用いる任意の方法を包含し得る。かかる方法は、例えば抗原に結合し、この抗原を発現する癌性細胞の生存能力に影響を与え、好ましくは癌性細胞を死滅させる作用物質による治療であり得る。例は、既に開示されている腫瘍溶解性ウイルス、BiTE(登録商標)、ADCCおよび免疫毒素である。
【0076】
治療のために被験体の免疫細胞、例えばT細胞を単離することができる。被験体は上記癌を患っていても、または健常被験体であってもよい。これらの細胞は、本発明の1つ以上のCARを発現するようにin vitroまたはin vivoで遺伝子操作される。これらの改変細胞は、in vitroまたはin vivoで活性化し、増殖させることができる。細胞療法では、これらの改変細胞を、これを必要とするレシピエントに注入することができる。これらの細胞は、医薬組成物(上記細胞+薬学的に許容可能な担体)であってもよい。注入された細胞は、レシピエントにおいて開示の抗原の1つ以上を発現する癌性細胞を死滅させる(または少なくともその成長を止める)ことができる。レシピエントは、細胞が得られたのと同じ被験体であっても(自己細胞療法)、または同じ種の別の被験体であってもよい(同種細胞療法)。
【0077】
実施例
以下の実施例は、本発明のより詳細な説明を意図するものであるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0078】
新鮮凍結膵癌標本をスライスし、アセトンで固定した。その後のスクリーニングをMACSima(商標)ウルトラハイコンテントイメージングプラットホーム(Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG)で90種の抗体の連続染色を用いて行い、そのうち9種を示す。核はDAPIで染色した。
【0079】
図5には、マーカーCD47、CD51、CD58、CD90、CD206およびCD239の組合せを用いて、TMEおよび腫瘍細胞を健常細胞に対して区別し得ることが示されている。特に、CD90とCD239との組合せは、双方が間質性の細胞で重複発現を示すが、他の細胞型では示さないことから、腫瘍微小環境細胞に特異的であった。これらのマーカーと腫瘍細胞に特異的なマーカーまたはマーカーの組合せとを組み合わせることで、TMEおよび任意に腫瘍を特異的に攻撃することができる。
【国際調査報告】