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▶ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズの特許一覧 ▶ ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システムの特許一覧 ▶ トラスティーズ・オブ・ダートマウス・カレッジの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2ワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/50 20060101AFI20230327BHJP
   C07K 14/165 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230327BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230327BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
C12N15/50 ZNA
C07K14/165
C12N7/01
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12P21/02 C
A61P31/14
A61P37/04
A61K31/7088
A61K39/215
A61K35/76
A61K9/16
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548435
(86)(22)【出願日】2021-02-11
(85)【翻訳文提出日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 US2021017709
(87)【国際公開番号】W WO2021163365
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】62/972,886
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508285606
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】500375198
【氏名又は名称】トラスティーズ・オブ・ダートマウス・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】グラハム, バーニー
(72)【発明者】
【氏名】コーベット, キズメキア
(72)【発明者】
【氏名】アビオナ, オルブコラ
(72)【発明者】
【氏名】ハッチンソン, ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】マクレラン, ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ラップ, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ニアンシュアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG32
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA31
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC35
4C076FF70
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC08
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
融合前コンフォメーションで安定化されたSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体、これらのタンパク質をコードする核酸分子およびベクター、ならびにそれらの使用および産生の方法が開示される。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体および/または核酸分子を使用して、対象においてSARS-CoV-2 Sに対する免疫応答、例えば対象におけるSARS-CoV-2感染を抑制する免疫応答を生成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原であって、
組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体であって、配列番号2の残基16~1208と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、前記Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させる配列番号2の986位および987位のプロリン置換を含むプロトマーを含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む、免疫原。
【請求項2】
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中の前記プロトマーが、配列番号2の残基16~1208と少なくとも98%同一のアミノ酸配列を含み、前記2つのアミノ酸置換を含む、請求項1に記載の免疫原。
【請求項3】
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中の前記プロトマーが、配列番号2の残基16~1208と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含み、前記2つのアミノ酸置換を含む、請求項2に記載の免疫原。
【請求項4】
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中の前記プロトマーが、配列番号2の残基16~1208として示される前記アミノ酸配列を含む、請求項1に記載の免疫原。
【請求項5】
前記1つまたは2つの(to)アミノ酸置換が、配列番号1として示される天然のSARS-CoV-2 S配列に対するK986PおよびV987P置換である、先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項6】
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の前記プロトマーがさらに、前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を前記融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超える追加のアミノ酸置換を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項7】
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中の前記プロトマーがさらに、N501Y、K417NおよびE484K置換のうちの1つまたは複数を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項8】
前記エクトドメイン中の前記プロトマーのC末端残基が、ペプチドリンカーによって三量体化ドメインに連結されているか、または前記三量体化ドメインに直接連結されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項9】
前記三量体化ドメインがT4フィブリチン三量体化ドメインである、請求項8に記載の免疫原。
【請求項10】
前記T4フィブリチン三量体化ドメインに連結された前記プロトマーが、配列番号2の残基16~1235と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、前記Sエクトドメイン三量体を前記融合前コンフォメーションで安定化させる前記アミノ酸置換を含む、請求項8または請求項9に記載の免疫原。
【請求項11】
前記T4フィブリチン三量体化ドメインに連結された前記プロトマーが、配列番号2の残基16~1235を含む、請求項9に記載の免疫原。
【請求項12】
前記SエクトドメインのS1/S2プロテアーゼ切断部位が、プロテアーゼ切断を阻害するように変異されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項13】
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体が可溶性である、先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項14】
前記エクトドメイン中の前記プロトマーのC末端残基が、ペプチドリンカーによって膜貫通ドメインに連結されているか、または前記膜貫通ドメインに直接連結されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項15】
前記膜貫通ドメインに連結された前記プロトマーが、配列番号3の残基16~1273と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、前記Sエクトドメイン三量体を前記融合前コンフォメーションで安定化させる前記アミノ酸置換を含む、請求項14に記載の免疫原。
【請求項16】
前記膜貫通ドメインに連結された前記プロトマーが、配列番号3の残基16~1273として示される前記アミノ酸配列を含む、請求項14に記載の免疫原。
【請求項17】
前記プロトマーのC末端残基が、ペプチドリンカーによってタンパク質ナノ粒子サブユニットに連結されているか、または前記タンパク質ナノ粒子サブユニットに直接連結されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載の免疫原。
【請求項18】
先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原を含むタンパク質ナノ粒子。
【請求項19】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の免疫原を含むウイルス様粒子。
【請求項20】
先行する請求項のいずれか1項に記載の組換えSARS-CoV-Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする単離された核酸分子。
【請求項21】
プロモーターに作動可能に連結された、請求項20に記載の核酸分子。
【請求項22】
請求項20または請求項21に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項23】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項22に記載のベクター。
【請求項24】
先行する請求項のいずれか1項に記載の免疫原、タンパク質ナノ粒子、ウイルス様粒子、核酸分子またはベクターと、薬学的に許容され得る担体とを含む、免疫原性組成物。
【請求項25】
融合前コンフォメーションで安定化された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を産生する方法であって、
請求項20から23までのいずれか1項に記載の核酸分子またはベクターを宿主細胞中で発現させて前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を産生するステップと、
前記組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を精製するステップと
を含む、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって産生された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体。
【請求項27】
対象においてSARS-CoV-2 Sエクトドメインに対する免疫応答を生成するための方法であって、有効量の請求項1から24までのいずれか1項に記載の免疫原、タンパク質ナノ粒子、ウイルス様粒子、核酸分子、ベクターまたは免疫原性組成物を前記対象に投与して前記免疫応答を生成するステップを含む、方法。
【請求項28】
前記免疫応答がSARS-CoV-2による感染を抑制する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記免疫応答を生成するステップが、前記対象における前記SARS-CoV-2の複製を阻害する、請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項30】
対象においてSARS-CoV-2 Sエクトドメインに対する免疫応答を誘導するための、請求項1から24までのいずれか1項に記載の免疫原、タンパク質ナノ粒子、ウイルス様粒子、核酸分子、ベクターまたは免疫原性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月11日に出願された米国仮出願第62/972,886号の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
分野
【0002】
本開示は、融合前コンフォメーション(prefusion conformation)で安定化された組換えSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質、および免疫原としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
コロナウイルスは、エンベロープ型の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。それらのウイルスは、既知のRNAウイルスの中で最大のゲノム(26~32kb)を有し、系統発生的に4つの属(α,β,γ,δ)に分けられ、ベータコロナウイルスはさらに4つの系統(A,B,C,D)に細分される。コロナウイルスは、広範な鳥類および哺乳動物種(ヒトを含む)に感染する。
【0004】
2019年に、中国の武漢市で発生したとみられるコロナウイルスのパンデミックの病原体として、新型コロナウイルス(世界保健機関によりSARS-CoV-2と命名)が特定された。コロナウイルスは、高い致死率、曖昧に定義された疫学、および予防的または治療的な手段が確立されていないことから、有効なワクチンおよび関連する治療薬が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本明細書で開示されるのは、Sタンパク質三量体を融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超えるアミノ酸置換を含むプロトマーを含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体である。
【0006】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2の残基16~1208と少なくとも95%(例えば、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列と、配列番号2の986位および987位のプロリン置換とを含むプロトマーを含み、プロリンは、Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させる。986位および987位のプロリンは、天然のSARS-CoV-2 Sエクトドメイン配列と比較したアミノ酸置換、例えばK986PおよびV987P置換である。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2の残基16~1208を含むプロトマーを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーはさらに、1つまたはそれを超える追加のアミノ酸置換または欠失、例えば、融合前コンフォメーションの組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を安定化させるアミノ酸置換、またはSエクトドメインのS1/S2プロテアーゼ切断部位でのプロテアーゼ切断を阻害または防止するためのアミノ酸置換を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーを、三量体化ドメイン(例えばT4フィブリチン三量体化ドメイン)に連結することができる。更なる実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーは、例えば膜貫通ドメインへの連結によって膜固定され得る。
【0009】
更なる実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、自己集合性タンパク質ナノ粒子、例えばフェリチンタンパク質ナノ粒子または合成タンパク質系ナノ粒子に含まれることができる。開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする核酸分子も提供され、同様に核酸分子を含むベクター、および開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を生成するための方法が提供される。
【0010】
対象への投与に適した組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む免疫原性組成物も提供され、単位剤形に含まれていてもよい。組成物はさらに、アジュバントを含むことができる。組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体はまた、免疫系への提示を容易にするために担体にコンジュゲートされていてもよい。対象に有効量の開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体、核酸分子またはベクターを投与することによって、対象において免疫応答を誘導する方法、ならびに対象においてSARS-CoV-2感染を抑制または予防する方法が開示される。
【0011】
本開示の上記および他の特徴ならびに利点は、添付の図面を参照して進められるいくつかの実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A-1Dは、K986PおよびV987Pアミノ酸置換による融合前コンフォメーションでのSARS-CoV-2 Sタンパク質の安定化を示す。(図1A)SARS-CoV-2 Sの一次構造の概略図。SS=シグナル配列、NTD=N末端ドメイン、RBD=受容体結合ドメイン、S1/S2=S1/S2プロテアーゼ切断部位、FP=融合ペプチド、HR1=ヘプタッドリピート1、CH=セントラルヘリックス、CD=コネクタドメイン、HR2=ヘプタッドリピート2、TM=膜貫通ドメイン、CT=細胞質尾部。矢印はプロテアーゼ切断部位を示す。(図1B)SARS-CoV-2 S-2Pタンパク質(配列番号2)のサイズ排除クロマトグラフィーの結果、単一の大きなピークが得られ、DNAプラスミドからの高レベルのタンパク質発現および均一なタンパク質集団が実証された。ピーク画分は、タンパク質サイズに基づいて予想どおりに溶出した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質の2Dクラス平均(図1C)および4.7オングストローム構造(図1D)は、融合前コンフォメーションのみを明らかにする。
【0013】
図2-1】図2A-2Dは、SARS-CoV-2 WTまたはS-2Pによる免疫後の複数のマウス系統における抗体応答を示す。BALB/cJ(図2A図2D)マウス、C57BL/6J(図2B)マウス、またはB6C3F1/J(図2C)マウスを、0週目および3週目に、PBS、0.01μg、0.1μgもしくは1μgのSigma Adjuvant System(SAS)をアジュバントとして添加したSARS-CoV-2 S WTまたはSARS-CoV-2 S-2Pで免疫し、プライムの2週後(白丸)およびブーストの2週後(黒丸)に血清を収集した。SARS-CoV-2 S-2Pを免疫したマウスからの血清を、ELISAによってSARS-CoV-2 S特異的IgGについて評価した(図2A-2C)。S WTおよびS-2Pを免疫したBALB/cJマウスの両方からのブースト後血清を、同型SARS-CoV-2シュードウイルス(図2D)に対する中和抗体について評価した。多重比較検定を伴う二元配置分散分析を使用して、各用量レベル内およびブースト後の用量間でプライム後およびブースト後の結合抗体応答を比較し(図2A-2C)、各用量のS WT対S-2Pによって惹起される中和抗体および中和活性に及ぼす用量の効果を比較した(図2D)。点線は検出のアッセイ限界を表す。灰色の破線=p値<0.05、灰色の線=p値<0.01、黒色の破線=p値<0.001、黒色の線=p値<0.0001。
図2-2】同上。
【0014】
図3図3A-3Bは、マウスをウイルス複製から保護するSARS-CoV-2 S WTおよびSARS-CoV-2 S-2Pの能力を示す。BALB/cJマウスを0週目および3週目に、PBS、0.01μg、0.1μgもしくは1μgのSAS-CoV-2S WTまたはSASをアジュバントとして添加したSARS-CoV-2 S-2Pで免疫した。ブーストの4週間後、マウスにマウス適合SARS-CoV-2をチャレンジした。チャレンジの2日後、ウイルス量がピーク時、肺(図3A)および鼻甲介(図3B)を、プラークアッセイによるウイルス量の評価のために採取した。各群を、多重比較検定を伴う一元配置分散分析によって比較した。点線は検出のアッセイ限界を表す。灰色の破線=p値<0.05、灰色の線=p値<0.01。注釈:0.01μgのS-2Pを免疫したマウスは、実験とは無関係の死亡のため、チャレンジしなかった(N/T)。
【0015】
図4-1】図4A-4Eは、N結合型グリカンおよびバイオコンジュゲーションタグ(SpyTag)を有するルマジンシンターゼ(LuS)およびフェリチンナノ粒子足場が、哺乳動物細胞において集合したナノ粒子を良好に発現することを示す。(図4A)SpyTagとSpyCatcherとのバイオコンジュゲーション対を介して分子を共有結合的に連結する手段としての、イソペプチド結合を介したバイオコンジュゲーションのための別個のCnaB2ドメインタグ(「SpyTag」)および残りのCnaB2ドメイン(「SpyCatcher」)を示す概略図。(図4B)ナノ粒子表面に抗原をコンジュゲートさせるための、哺乳動物細胞においてSpyTagを有する活性化ナノ粒子を生成するための発現コンストラクトの設計。上のパネルはDNAコンストラクトを示す。切断可能なシグナルペプチドの下流のナノ粒子配列のN末端にSpyTagを配置した。HisタグおよびStrepタグをLuSナノ粒子のC末端に配置した。タンパク質発現を容易にするために、N結合型グリコシル化部位をナノ粒子配列に操作した。下のパネルは、LuS-N71-SpyTagモノマーおよびフェリチン-N96-SpyTagモノマーならびに集合したナノ粒子の予想される構造を示す。グリカンおよびSpyTagの両方がナノ粒子表面にある。(図4C)サイズ排除クロマトグラムにより、ナノ粒子の正しいサイズが確認された。試料をPBS中でSuperdex 200 Increase 10/300 GLカラムにロードした。(図4D)PNGase Fの存在下または非存在下におけるLuS-N71-SpyTagおよびフェリチン-N96-SpyTagのSDS-PAGE。PNGase Fの位置はマークされている。フェリチンの複数のバンドは、タンパク質分解切断および不完全なグリコシル化に起因している可能性がある。(図4E)LuS-N71-SpyTagおよびフェリチン-N96-SpyTagのネガティブ染色EM画像(左パネル)および2Dクラス平均(右パネル)は、予想されるサイズを有する精製ナノ粒子の正しい集合を示す。
図4-2】同上。
図4-3】同上。
【0016】
図5-1】図5A-5Eは、LuS-SpyTagへのSARS-CoV-2 S三量体のコンジュゲーションにより、LuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子の表面にSARS-CoV-2スパイク三量体が提示されることを示す。(図5A)SpyCatcher結合SARS-CoV-2スパイク三量体へのSpyTag結合LuSのコンジュゲーションによるLuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子の作製を示す概略図。(図5B)PBS中でのSuperdex 200 Increase 10/300 GLカラムにおける、LuS-N71-SpyTag、SARS-CoV-2 スパイク-SpyCatcher、およびコンジュゲート生成物LuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクのSECプロファイル。(図5C)DTTの存在下での、LuS-N71-SpyTag(レーン1)、SARS-CoV-2スパイク-SpyCatcher(レーン2)、およびLuS-N71-SpyTagとSARS-CoV-2スパイク-SpyCatcherとのコンジュゲーション混合物(レーン3)のSDS-PAGE。コンジュゲーション混合物(レーン3)は、わずかに過剰のLuS-N71-SpyTagを有するコンジュゲートLuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子を示す。(図5D)代表的な顕微鏡写真(左パネル)および2Dクラス平均(右パネル)を示す、SEC精製後のLuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子のネガティブ染色EM。(図5E)RBD標的化抗体CR3022 IgGとの、LuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子の結合(溶液中での、チップに結合したIgGとナノ粒子との)についての表面プラズモン共鳴(SPR)応答曲線。ナノ粒子に結合したSARS CoV-2スパイクの濃度が200nM~1.56nMの範囲である一連のナノ粒子濃度を分析した。観察されたk値を提供した。
図5-2】同上。
【0017】
図6図6A-6Cは、LuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクの免疫原性を示す。(図6A)SARS-CoV-2スパイク免疫原に対する概略的な免疫手順。(図6B)抗SARS-CoV-2スパイクELISA力価の血清評価。免疫群を色分けしている。縦の点線は、免疫原用量群とプライム後の週とを隔てるものである。起点の血清希釈の変換(Starting reciprocal serum dilution)(100)を水平破線で示している。各動物からのELISA力価を個々のドットとして示している。三角形のドットがアッセイ最大値でのELISA力価を提供した。幾何平均を黒い横線で示した。5週目に高いELISA力価を示す0.08mgのLuS-N71-SpyTagで免疫した3匹の動物は、検出可能な中和を示したこの対照群の同じ3匹の動物であったことに留意されたい。(図6C)5週目の各動物からの中和力価を個々のドットとして示し、幾何平均を各群に提供された値と共に黒い横線で示している。免疫群を図6Bのように色分けしている。検出限界(力価=40)を水平の破線で示した。両側マン-ホイットニー検定によって決定されたP値。はP≦0.05を示す、**はP≦0.01を示す、***はP≦0.001を示す、****はP≦0.0001を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
配列表
添付の配列表に列挙されている核酸およびアミノ酸配列は、37C.F.R.1.822に定義されているように、ヌクレオチド塩基の標準的な略語、およびアミノ酸の三文字表記を使用して示されている。各核酸配列の1本鎖のみが示されているが、相補鎖は、提示された鎖に対する任意の参照によって含まれると理解される。配列表は、2021年2月11日に作成された「Sequence.txt」(約88kb)という名称のファイルの形態のASCIIテキストファイルとして提出され、これは参照により本明細書に組み込まれる。
詳細な説明
【0019】
本開示は、融合前コンフォメーションで安定化され、例えば、対象において中和免疫応答を惹起するのに有用なSARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(S)エクトドメイン三量体を提供する。
I.用語の概要
【0020】
特に明記しない限り、技術用語は従来の用法に従って使用される。分子生物学における一般的な用語の定義は、Jones&Bartlett Publishersによって出版されたBenjamin Lewin,Genes X,2009;およびMeyersら(編)、The Encyclopedia of Cell Biology and Molecular Medicine,published by Wiley-VCH in 16 volumes,2008;および他の同様の参考文献に見出すことができる。
【0021】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に示されない限り、単数および複数の両方を指す。例えば、「抗原」という用語は、単一または複数の抗原を含み、「少なくとも1つの抗原」という文言と等価であると考えることができる。本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」という用語は、「含む(includes)」を意味する。さらに、別段の指示がない限り、核酸またはポリペプチドについて与えられるあらゆる塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、およびすべての分子量または分子質量値は近似値であり、説明のために提供されることを理解されたい。本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の多くの方法および材料を使用することができるが、特定の適切な方法および材料が本明細書に記載される。矛盾する場合には、用語の説明を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。さまざまな実施形態の検討を容易にするために、以下の用語の説明が提供される。
【0022】
アジュバント:抗原性を増強するために使用される賦形剤(vehicle)。いくつかの実施形態では、アジュバントは、抗原が吸着された鉱物(ミョウバン、水酸化アルミニウムもしくはリン酸塩)の懸濁液;または、例えば、抗原溶液が鉱油中で乳化されている(フロイント不完全アジュバント)油中水型エマルジョン、時には抗原性をさらに増強する(抗原の分解を阻害し、かつ/またはマクロファージの流入を引き起こす)ために殺滅したマイコバクテリア(フロイント完全アジュバント)を含む、油中水型エマルジョンを含む。いくつかの実施形態では、開示された免疫原性組成物において使用されるアジュバントは、レシチンおよびカルボマーホモポリマー(例えばAdvanced BioAdjuvants,LLCから入手可能なADJUPLEX(商標)アジュバント、Wegmann,Clin Vaccine Immunol,22(9):1004-1012,2015も参照のこと)の組み合わせである。開示された免疫原性組成物において使用するための更なるアジュバントとしては、QS21精製植物抽出物、マトリックスM、AS01、MF59、およびALFQアジュバントが挙げられる。免疫賦活性オリゴヌクレオチド(CpGモチーフを含むものなど)もアジュバントとして使用することができる。アジュバントとしては、共刺激分子などの生物学的分子(「生物学的アジュバント」)が挙げられる。例示的なアジュバントとしては、IL-2、RANTES、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、G-CSF、LFA-3、CD72、B7-1、B7-2、OX-40L、4-1BBLおよびtoll様受容体(TLR)アゴニスト、例えばTLR-9アゴニストが挙げられる。アジュバントの更なる説明は、例えば、Singh(編)Vaccine Adjuvants and Delivery Systems.Wiley-Interscience,2007に見出すことができる。アジュバントは、開示された免疫原と組み合わせて使用することができる。
【0023】
投与:選択された経路による対象への、開示された免疫原などの薬剤の導入。投与は局所的または全身的であり得る。例えば、選択された経路が鼻腔内である場合、薬剤(例えば、融合前コンフォメーションで安定化された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む免疫原)は、組成物を対象の鼻道へと導入することによって投与される。例示的な投与経路としては、経口、注射(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、および静脈内)、舌下、直腸、経皮(例えば、局所)、鼻腔内、膣および吸入経路が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
アミノ酸置換:ポリペプチド中の1つのアミノ酸を異なるアミノ酸で置き換えること。
【0025】
抗体:SARS-CoV-2 Sタンパク質、その抗原断片、または抗原の二量体もしくは多量体などの分析物(抗原)に特異的に結合して認識する免疫グロブリン、抗原結合断片またはそれらの誘導体。「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体断片を含むがこれらに限定されないさまざまな抗体構造を包含する。抗体の非限定的な例としては、例えば、抗原に対する結合親和性を保持するインタクトな免疫グロブリンおよびそのバリアントおよび断片が挙げられる。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。抗体断片としては、抗体全体の修飾によって産生された抗原結合断片または組換えDNA法を用いてデノボ合成された抗原結合断片(例えば、Kontermann and Dubel(Ed),Antibody Engineering,Vols.1-2,2nd Ed.,Springer Press,2010を参照のこと)のいずれかが挙げられる。
【0026】
担体:抗原を連結させることができる免疫原性分子。担体に連結されると、抗原はより免疫原性を高め得る。担体は、抗原の免疫原性を増加させるため、かつ/または診断的、分析的、および/または治療的に有益な抗体を担体に対して惹起するために選択される。有用な担体としては、反応物質部分を結合させることができる1つまたはそれを超える官能基を含有する天然(例えば、細菌もしくはウイルス由来のタンパク質)、半合成または合成材料であり得るポリマー担体が挙げられる。
【0027】
保存的バリアント:「保存的」アミノ酸置換は、対象に投与した場合に免疫応答を誘導するタンパク質の能力など、タンパク質の機能に実質的に影響を及ぼさないかまたは低下させない置換である。保存的変異(conservative variation)という用語は、非置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸の使用も含む。さらに、コードされた配列中の単一のアミノ酸または少ない割合のアミノ酸(例えば5%未満、いくつかの実施形態では1%未満)を変更、付加または欠失させる欠失または付加は、変更が化学的に類似したアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす保存的変異である。
【0028】
以下の6つの群は、互いに保存的置換であると考えられるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0029】
非保存的置換は、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の活性または機能、例えば、対象に投与した場合に免疫応答を誘導する能力を低下させるものである。例えば、アミノ酸残基がタンパク質の機能に必須である場合、他の点では保存的置換であってもその活性を阻害し得る。したがって、保存的置換は、目的のタンパク質の基本的な機能を変更しない。
【0030】
対照:参照標準。いくつかの実施形態では、対照は、健康な患者から得られた陰性対照試料である。他の実施形態では、対照は、SARS-CoV-2感染症と診断された患者(例えばSARS-CoV-2)から得られた陽性対照試料である。さらに他の実施形態では、対照は、ヒストリカルコントロールまたは標準参照値または値の範囲(例えば、以前に試験された対照試料、例えば、既知の予後もしくは転帰を有するSARS-CoV-2に感染した患者の群、またはベースライン値もしくは正常値を表す試料の群)である。
【0031】
試験試料と対照との間の差は、増加することもあれば、または逆に減少することもある。この差は、定性的な差であっても、定量的な差であってもよく、例えば統計的な有意差であり得る。いくつかの例では、この差は、対照と比較して、少なくとも約5%、例えば少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約500%、または500%を超える増加または減少である。
【0032】
コロナウイルス:重度の呼吸器疾患を引き起こすことが知られている一本鎖プラス鎖RNAウイルスのファミリー。コロナウイルス科のヒトに感染することが現在知られているウイルスは、アルファコロナウイルスおよびベータコロナウイルス属に由来する。さらに、ガンマコロナウイルス属およびデルタコロナウイルス属は将来ヒトに感染し得ると考えられている。
【0033】
ベータコロナウイルスの非限定的な例としては、SARS-CoV-2、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、ヒトコロナウイルスHKU1(HKU1-CoV)、ヒトコロナウイルスOC43(OC43-CoV)、マウス肝炎ウイルス(MHV-CoV)、BatSARS様コロナウイルスWIV1(WIV1-CoV)、およびヒトコロナウイルスHKU9(HKU9-CoV)が挙げられる。アルファコロナウイルスの非限定的な例としては、ヒトコロナウイルス229E(229E-CoV)、ヒトコロナウイルスNL63(NL63-CoV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)および伝染性胃腸炎コロナウイルス(TGEV)が挙げられる。デルタコロナウイルスの非限定的な例は、ブタデルタコロナウイルス(SDCV)である。
【0034】
ウイルスゲノムは、キャップされ、ポリアデニル化され、ヌクレオカプシドタンパク質で覆われている。コロナウイルスビリオンは、スパイク(S)タンパク質と呼ばれるI型融合糖タンパク質を含有するウイルスエンベロープを含む。ほとんどのコロナウイルスは、ゲノムの5’部分に含まれるレプリカーゼ遺伝子およびゲノムの3’部分に含まれる構造遺伝子と共通のゲノム構成を有する。
【0035】
縮重バリアント:本開示の文脈において、「縮重バリアント」は、遺伝コードの結果として縮重する配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指す。20個の天然アミノ酸が存在し、その大部分は1つまたはそれを超えるコドンによって特定される。したがって、ペプチドをコードする縮重ヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列によってコードされるペプチドのアミノ酸配列が不変である限り、すべて含まれる。
【0036】
有効量:対象において免疫応答などの所望の応答を惹起するのに十分である免疫原などの薬剤の量。目的の抗原に対する防御免疫応答を得るためには、開示された免疫原の複数回投与、および/またはブースト免疫原がプライム免疫原とは異なり得るプライムブーストプロトコルにおける「プライム」としての開示された免疫原の投与が必要であり得ることが理解される。したがって、有効量の開示された免疫原は、対象においてプライム免疫応答を惹起するのに十分な免疫原の量であり得、その後、同じまたは異なる免疫原でブーストして防御免疫応答を惹起することができる。
【0037】
一例では、所望の応答は、SARS-CoV-2感染を抑制または低減または予防することである。本方法を有効にするために、SARS-CoV-2感染を完全に排除または低減または予防する必要はない。例えば、有効量の免疫原の投与は、適切な対照と比較して、SARS-CoV-2感染(例えば、細胞の感染によって、またはSARS-CoV-2に感染した対象の数もしくは割合によって測定した場合)を所望の量、例えば少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには少なくとも100%減少させる免疫応答を誘導することができる(検出可能なSARS-CoV-2感染の排除または予防)。
【0038】
エピトープ:抗原決定基。これらは、抗原性である分子上の特定の化学基またはペプチド配列であり、そのため特定の免疫応答を惹起し、例えば、エピトープは、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原の領域である。抗体は、特定の抗原性エピトープ、例えばSARS-CoV-2 Sエクトドメイン上のエピトープに結合することができる。エピトープは、連続したアミノ酸から形成される場合と、タンパク質の三次折り畳みによって並置された非連続のアミノ酸から形成される場合の両方がある。
【0039】
発現:核酸配列の転写または翻訳。例えば、遺伝子は、そのDNAがRNAまたはRNA断片に転写されると発現され、いくつかの例では、mRNAになるようにプロセシングされる。遺伝子はまた、そのmRNAがタンパク質またはタンパク質断片などのアミノ酸配列に翻訳されると発現され得る。特定の例では、異種遺伝子は、RNAに転写されると発現される。別の例では、異種遺伝子は、そのRNAがアミノ酸配列に翻訳されると発現される。「発現」という用語は、本明細書では転写または翻訳のいずれかを示すために使用される。発現の調節としては、転写、翻訳、RNA輸送およびプロセシング、mRNAなどの中間分子の分解、または産生された後の特定のタンパク質分子の活性化、不活性化、区画化もしくは分解による制御を挙げることができる。
【0040】
発現制御配列:機能的に連結されている異種核酸配列の発現を調節する核酸配列。発現制御配列は、発現制御配列が核酸配列の転写および必要に応じて翻訳を制御および調節する場合、核酸配列に機能的に連結されている。したがって、発現制御配列としては、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン(ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にするその遺伝子の正しいリーディングフレームの維持、および終止コドンを挙げることができる。「制御配列」という用語は、少なくとも、その存在が発現に影響を及ぼし得るコンポーネントを含むことを意図しており、その存在が有利である追加のコンポーネント、例えばリーダー配列および融合パートナー配列も含み得る。発現制御配列はプロモーターを含むことができる。
【0041】
プロモーターは、転写を指示するのに十分な最小配列である。プロモーター依存性遺伝子発現を細胞型特異的、組織特異的、または外部シグナルもしくは作用物質によって誘導可能にするのに十分なプロモーターエレメントも含まれる。そのようなエレメントは、遺伝子の5’または3’領域に配置され得る。構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターの両方が含まれる。例えば、細菌系でクローニングする場合、バクテリオファージラムダのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)などの誘導性プロモーターを使用することができる。一実施形態では、哺乳動物細胞系でクローニングする場合、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えばメタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えばレトロウイルス長鎖末端反復配列;アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を使用することができる。組換えDNAまたは合成技術によって産生されるプロモーターもまた、核酸配列の転写を提供するために使用することができる。
【0042】
発現ベクター:発現されるヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクター。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含む。発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給され得る。発現ベクターとしては、組換えポリヌクレオチドを組み込むコスミド、プラスミド(例えば、裸の、またはリポソームに含まれる)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの当該技術分野で公知のすべてのものが挙げられる。
【0043】
フェリチン:鉄を貯蔵し、制御された様式で鉄を放出するタンパク質。タンパク質は、ほとんどすべての生物によって産生される。フェリチンポリペプチドは24個のタンパク質サブユニットの球状タンパク質複合体に集合し、24個のサブユニットの各々は単一のフェリチンポリペプチドを含む。いくつかの例では、フェリチンは、その表面に抗原を提示するナノ粒子、例えば、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を形成するために使用される。
【0044】
異種:異なる遺伝源に由来するもの。発現される細胞以外の遺伝源に由来する細胞にとって異種の核酸分子。1つの具体的な非限定的な例では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインをコードする異種核酸分子は、哺乳動物細胞などの細胞内で発現される。細胞または生物に異種核酸分子を導入する方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、開示された免疫原をコードする核酸を含有するナノ粒子の注入、またはエレクトロポレーション、リポフェクション、粒子銃加速、および相同組換えを含む核酸による形質転換である。
【0045】
宿主細胞:ベクターを増殖させ、そのDNAを発現させることができる細胞。細胞は、原核生物または真核生物であり得る。この用語はまた、対象宿主細胞の任意の子孫を含む。複製中に生じる変異(mutation)が存在する可能性があるため、すべての子孫が親細胞と同一ではない可能性があることが理解される。しかしながら、そのような子孫は、「宿主細胞」という用語が使用される場合に含まれる。
【0046】
免疫応答:刺激に対するB細胞、T細胞、または単球などの免疫系の細胞の応答。一実施形態では、応答は特定の抗原に特異的である(「抗原特異的応答」)。一実施形態では、免疫応答は、CD4+応答またはCD8+応答などのT細胞応答である。別の実施形態では、応答はB細胞応答であり、特異的抗体の産生をもたらす。
【0047】
免疫原:動物において免疫応答を惹起することができる化合物、組成物または物質(例えば、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体)であって、動物に注射または吸収される組成物を含むもの。対象への免疫原の投与は、目的の病原体に対する防御免疫をもたらし得る。
【0048】
免疫原性組成物:対象に投与した場合、SARS-CoV-2に対する測定可能なCTL応答を誘導するか、またはSARS-CoV-2に対する測定可能なB細胞応答(例えば抗体の産生)を誘導する開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む組成物。それはさらに、プロトマーを発現するために使用することができる(したがって、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体に対する免疫応答を惹起するために使用することができる)開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする単離された核酸分子およびベクターを指す。インビボ使用のために、免疫原性組成物は、典型的には、薬学的に許容され得る担体中に組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体または組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする核酸分子を含み、アジュバントなどの他の作用物質も含み得る。
【0049】
疾患の抑制または処置:例えば、SARS-CoV-2感染症などの疾患のリスクがある対象における、疾患または状態の完全な発症の抑制。「処置」とは、疾患または病的状態が発症し始めた後にその徴候または状態を改善する治療的介入を指す。疾患または病的状態に関して「改善する」という用語は、処置の任意の観察可能な有益な効果を指す。疾患を抑制することは、ウイルス感染のリスクを予防または低減することなど、疾患のリスクを予防または低減することを含み得る。有益な効果は、例えば、感受性対象における疾患の臨床症状の発現の遅延、疾患の一部または全部の臨床症状の重症度の低下、疾患の進行の遅延、ウイルス量の減少、対象の全体的な健康もしくは幸福の改善、または特定の疾患に特異的な他のパラメータによって証明することができる。「予防的」処置は、病態を発症するリスクを低下させる目的で、疾患の徴候を示さないかまたは初期の徴候のみを示す対象に投与される処置である。
【0050】
単離:「単離された」生物学的成分は、他の生物学的成分、例えばその成分が天然に存在する他の生物学的成分、例えば他の染色体および染色体外のDNA、RNA、ならびにタンパク質から実質的に分離または精製されている。「単離された」タンパク質、ペプチド、核酸、およびウイルスとしては、標準的な精製方法によって精製されたものが挙げられる。単離されたは、絶対的な純度を必要とせず、少なくとも50%単離された、例えば少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、99%、またはさらには99.9%単離されたタンパク質、ペプチド、核酸、またはウイルス分子を含み得る。
【0051】
リンカーおよび連結:2つの分子を1つの隣接する分子に連結するために使用することができる二官能性分子。ペプチドリンカーの非限定的な例としては、グリシン-セリンペプチドリンカーが挙げられる。文脈上別段の指示がない限り、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを「連結する」、または2つのポリペプチドを「連結する」、または第2のポリペプチドへの「連結部」を有する第1のポリペプチドへの言及は、共有結合を指す(例えば、第1および第2のポリペプチドが連続したポリペプチド鎖を形成するようにペプチドリンカーを介して)。ペプチドリンカーが関与する場合、第1および第2のポリペプチドの共有結合は、ペプチドリンカーのN末端およびC末端に対するものであり得る。典型的には、そのような連結は、ペプチドリンカーによって第2のポリペプチドに連結された第1のポリペプチドをコードするDNAを遺伝子操作する(genetically manipulate)ために分子生物学技術を使用して達成される。
【0052】
天然のタンパク質、配列またはジスルフィド結合:例えば選択的変異によって修飾されていないポリペプチド、配列またはジスルフィド結合。例えば、抗原の抗原性を標的エピトープに集中させるため、または天然タンパク質には存在しないタンパク質にジスルフィド結合を導入するための選択的変異。天然タンパク質または天然配列は、野生型タンパク質または野生型配列とも呼ばれる。非天然ジスルフィド結合は、天然のタンパク質には存在しないジスルフィド結合、例えば、遺伝子操作(genetic engineering)によるタンパク質への1つまたはそれを超えるシステイン残基の導入に基づきタンパク質に形成されるジスルフィド結合である。
【0053】
核酸分子:RNA、cDNA、ゲノムDNA、ならびに上記の合成形態および混合ポリマーのセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含み得るヌクレオチドのポリマー形態。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾形態を指す。本明細書で使用される「核酸分子」という用語は、「核酸」および「ポリヌクレオチド」と同義である。核酸分子は、特に明記しない限り、通常、少なくとも10塩基長である。この用語は、一本鎖および二本鎖形態のDNAを含む。ポリヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチド結合および/または天然に存在しないヌクレオチド結合によって一緒に連結された天然に存在するヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドのいずれかまたは両方を含み得る。「cDNA」は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態でmRNAと相補的または同一であるDNAを指す。「コードする」とは、定義されたヌクレオチドの配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸の配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のためのテンプレートとして働く、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性、ならびにそれから生じる生物学的特性を指す。
【0054】
作動可能に連結:第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係にある場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結された核酸は連続しており、2つのタンパク質コード領域をつなぐ必要がある場合、同じリーディングフレーム内にある。
【0055】
薬学的に許容され得る担体:薬学的に許容され得る役に立つ担体は従来のものである。Remington’s Pharmaceutical Sciences,by E.W.Martin,Mack Publishing Co.,Easton,PA,19th Edition,1995には、開示された免疫原の医薬送達に適した組成物および製剤が記載されている。
【0056】
一般に、担体の性質は、採用される特定の投与様式に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどの薬学的および生理学的に許容され得る流体を賦形剤として含む注射用流体を含む。固体組成物(例えば、粉剤・散剤(powder)、丸剤、錠剤、またはカプセル剤の形態)の場合、従来の非毒性固体担体としては、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物(例えば免疫原性組成物)は、湿潤剤または乳化剤、防腐剤、およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートなどの少量の非毒性補助物質を含有することができる。特定の実施形態では、対象への投与に適した担体は、滅菌されていてもよく、かつ/または所望の免疫応答を誘導するのに適した組成物の1つまたはそれを超える測定された用量を含有する単位剤形に懸濁されていてもよく、そうでなければ含有されていてもよい。それはまた、処置目的で使用するための薬を伴うことができる。単位剤形は、例えば、滅菌内容物を含有する密封バイアルもしくは対象に注射するためのシリンジであってもよく、またはその後の可溶化および投与のために凍結乾燥されていてもよく、または固体製剤もしくは徐放製剤であってもよい。
【0057】
ポリペプチド:長さまたは翻訳後修飾(例えば、グリコシル化もしくはリン酸化)に関係のない、アミノ酸の任意の鎖。「ポリペプチド」は、天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーを含むアミノ酸ポリマー、ならびに1つまたはそれを超えるアミノ酸残基が非天然アミノ酸、例えば対応する天然アミノ酸の人工化学模倣物であるアミノ酸ポリマーに適用される。「残基」は、アミド結合またはアミド結合模倣物によってポリペプチドに組み込まれたアミノ酸またはアミノ酸模倣物を指す。ポリペプチドは、アミノ末端(N末端)およびカルボキシ末端(C末端)を有する。「ポリペプチド」は、ペプチドまたはタンパク質と交換可能に使用され、本明細書ではアミノ酸残基のポリマーを指すために使用される。
【0058】
プライム-ブーストワクチン接種:免疫応答を誘導するための、第1の免疫原性組成物(プライムワクチン)の投与と、それに続く第2の免疫原性組成物(ブーストワクチン)の対象への投与とを含む免疫療法。いくつかの例では、プライムワクチンおよび/またはブーストワクチンは、免疫応答が向けられる抗原を発現するベクター(例えばウイルスベクター、RNA、またはDNAベクター)を含む。ブーストワクチンは、プライムワクチンの投与から適切な時間間隔後に対象に投与され、そのような時間枠の例は本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、プライムワクチン、ブーストワクチン、またはその両方は、アジュバントをさらに含む。1つの非限定的な例では、プライムワクチンはDNAベースのワクチン(または遺伝子送達に基づく他のワクチン)であり、ブーストワクチンはタンパク質サブユニットまたはタンパク質ナノ粒子ベースのワクチンである。
【0059】
タンパク質ナノ粒子:マルチサブユニット、自己集合性、タンパク質ベースの多面体形状の構造。サブユニットはそれぞれ、タンパク質(例えば、グリコシル化ポリペプチド)と、必要に応じて、核酸、補欠分子族、有機および無機化合物の単一または複数の特徴(feature)とで構成される。いくつかの実施形態では、開示された三量体スパイクタンパク質のプロトマーをタンパク質ナノ粒子のサブユニットに融合またはコンジュゲートさせて、各タンパク質ナノ粒子上に三量体スパイクの複数のコピーを提供することができる。タンパク質ナノ粒子の非限定的な例としては、フェリチンナノ粒子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Zhang,Y.Int.J.Mol.Sci.,12:5406-5421,2011を参照のこと)、エンカプスリンナノ粒子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Sutterら、Nature Struct.and Mol.Biol.,15:939-947,2008を参照のこと)、硫黄オキシゲナーゼレダクターゼ(SOR)ナノ粒子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Urichら、Science,311:996-1000,2006を参照のこと)、ルマジンシンターゼナノ粒子(例えば、Zhangら、J.Mol.Biol.,306:1099-1114,2001)、およびピルビン酸デヒドロゲナーゼナノ粒子(例えば、参照により本明細書に組み込まれるIzardら、PNAS 96:1240-1245,1999を参照のこと)が挙げられる。フェリチン、エンカプスリン、SOR、ルマジンシンターゼ、およびピルビン酸デヒドロゲナーゼは、場合によってはそれぞれ24、60、24、60、および60個のタンパク質サブユニットからなる球状タンパク質複合体へと自己集合する単量体タンパク質である。追加のタンパク質ナノ粒子構造は、Heinzeら、J Phys Chem B.,120(26):5945-52,2016;Hsiaら、Nature,535(7610):136-9,2016;およびKingら、Nature,510(7503):103-8,2014に記載されており、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
組換え:組換え核酸分子は、天然に存在しない配列を有するもの、例えば、1つもしくはそれを超える核酸の置換、欠失もしくは挿入を含むもの、および/または他の方法で分離された2つの配列セグメントの人工的な組み合わせによって作製された配列を有するものである。この人工的な組み合わせは、化学合成によって、またはより一般的には、例えば遺伝子操作技術による核酸分子の単離されたセグメントの人工的な操作によって達成することができる。組換えウイルスは、組換え核酸分子を含むゲノムを含むウイルスである。組換えタンパク質は、天然に存在しない配列を有するものか、そうでなければ分離された2つの配列セグメントの人工的な組み合わせによって作製された配列を有するものである。いくつかの実施形態では、組換えタンパク質は、細菌もしくは真核細胞などの宿主細胞、または組換えウイルスのゲノムに導入された異種(例えば、組換え)核酸によってコードされる。
【0061】
SARS-CoV-2:武漢コロナウイルスとしても知られている2019-nCoV、または2019年新型コロナウイルスとしても知られているSARS-CoV-2は、重症急性呼吸器感染症の非常に致死的な原因として浮上したベータコロナウイルス属の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。ウイルスゲノムは、キャップされ、ポリアデニル化され、ヌクレオカプシドタンパク質で覆われている。SARS-CoV-2ビリオンは、大きなスパイク糖タンパク質を有するウイルスエンベロープを含む。SARS-CoV-2ゲノムは、ほとんどのコロナウイルスと同様に、ゲノムの5’-2/3に含まれるレプリカーゼ遺伝子およびゲノムの3’-1/3に含まれる構造遺伝子と共通のゲノム構成を有する。SARS-CoV-2ゲノムは、5’-スパイク(S)-エンベロープ(E)-膜(M)およびヌクレオカプシド(N)-3’の順序で構造タンパク質遺伝子のカノニカルセットをコードする。SARS-CoV-2感染症の症状としては、発熱および呼吸器疾患、例えば乾性咳および息切れが挙げられる。重度の感染症の症例は、重度の肺炎、多臓器不全に進行し、死に至る可能性がある。曝露から症状発現までの時間は約2~14日間である。
【0062】
ウイルス感染を検出するための標準的な方法を使用して、SARS-CoV-2感染を検出することができ、それには患者の症状および背景の評価ならびに逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)などの遺伝子検査が含まれるが、これらに限定されない。試験は、呼吸サンプルまたは血液サンプルなどの患者サンプルに対して行うことができる。
【0063】
SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質:サイズが約1270アミノ酸の前駆体タンパク質として最初に合成されたクラスI融合糖タンパク質。個々の前駆体Sポリペプチドはホモ三量体を形成し、ゴルジ体内でグリコシル化を受けだけでなく、シグナルペプチドを除去するためのプロセシングも受ける。Sポリペプチドは、約685/68位の間のプロテアーゼ切断部位によって分離されたS1およびS2タンパク質を含む。この部位での切断は、別々のS1およびS2ポリペプチド鎖を生成し、これらは、ホモ三量体内のS1/S2プロトマーとして会合したままである。S1サブユニットは、ウイルス膜の遠位にあり、その宿主受容体へのウイルス付着を媒介する受容体結合ドメイン(RBD)を含む。S2サブユニットは、融合タンパク質機構、例えば、融合ペプチド、2つのヘプタッドリピート配列(HR1およびHR2)ならびに融合糖タンパク質に典型的なセントラルヘリックス、膜貫通ドメイン、ならびに細胞質ゾル尾部ドメインを含む。
【0064】
開示されたSARS-CoV-2 Sタンパク質およびその断片で使用されるナンバリングは、SARS-CoV-2のSタンパク質に対するものであり、その配列は配列番号1として提供され、NCBI参照番号YP_009724390.1として寄託され、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0065】
SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質融合前コンフォメーション:分泌系において成熟SARS-CoV-2 Sタンパク質にプロセシングされた後、およびSARS-CoV-2 Sの融合後コンフォメーション(postfusion conformation)への移行をもたらす融合性イベントをトリガーする前に、SARS-CoV-2 Sタンパク質のエクトドメインによって採用される構造コンフォメーション。融合前コンフォメーションの例示的なSARS-CoV-2 Sタンパク質の三次元構造が本明細書に開示されている(実施例1を参照のこと)。
【0066】
「融合前コンフォメーションで安定化された」SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、対応する天然のSARS-CoV-2 S配列から形成されたSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体と比較して融合前コンフォメーションの保持率を増加させる天然のSARS-CoV-2 S配列と比較して1つまたはそれを超えるアミノ酸置換、欠失または挿入を含む。1つまたはそれを超えるアミノ酸の置換、欠失または挿入による融合前コンフォメーションの「安定化」は、例えば、エネルギー安定化(例えば、融合後の開いた立体配座に対して、融合前コンフォメーションのエネルギーを低下させること)および/または速度論的安定化(例えば、融合前コンフォメーションから融合後コンフォメーションへの移行速度を低下させること)であり得る。さらに、融合前コンフォメーションにおけるSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の安定化は、対応する天然のSARS-CoV-2 S配列と比較して変性に対する抵抗性の増加を含み得る。SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体が融合前コンフォメーションにあるかどうかを決定する方法としては、(限定されないが)ネガティブ染色電子顕微鏡法が挙げられる。
【0067】
配列同一性:アミノ酸配列間の類似性は、配列間の類似性に関して表され、別称として配列同一性とも呼ばれる。配列同一性は、同一性パーセントに関して頻繁に測定される。パーセンテージが高いほど、2つの配列はより類似している。ポリペプチドのホモログ、オルソログまたはバリアントは、標準的な方法を用いて整列させた場合、比較的高い程度度の配列同一性を有する。
【0068】
比較のための配列のアラインメント方法は、当該技術分野で周知である。さまざまなプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981;Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443,1970;Pearson&Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444,1988;Higgins&Sharp,Gene,73:237-44,1988;Higgins&Sharp,CABIOS 5:151-3,1989;Corpetら、Nuc.Acids Res.16:10881-90,1988;Huangら、Computer Appls.in the Biosciences 8,155-65,1992;およびPearsonら、Meth.Mol.Bio.24:307-31,1994に記載されている。Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-10,1990には、配列アラインメント方法および相同性計算の詳細な考察が提示されている。
【0069】
ポリペプチド(例えばSARS-CoV-2 Sエクトドメイン)のホモログおよびバリアントは、典型的には、目的のアミノ酸配列との全長アラインメントにわたってカウントされる少なくとも約75%、例えば少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有することを特徴とする。参照配列に対してさらにより大きな類似性を有するタンパク質は、この方法によって評価した場合、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性など、同一性パーセンテージの増加を示す。配列全体よりも少ない配列が配列同一性について比較されている場合、ホモログおよびバリアントは、典型的には、10~20アミノ酸の短いウィンドウにわたって少なくとも80%の配列同一性を有し、参照配列に対するそれらの類似性に応じて、少なくとも85%または少なくとも90%または95%の配列同一性を有し得る。そのような短いウィンドウにわたって配列同一性を決定するための方法は、インターネット上のNCBIウェブサイトで入手可能である。
【0070】
本明細書で使用される場合、「少なくとも90%の同一性」または同様の文言への言及は、特定の参照配列に対して「少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはさらには100%の同一性」を指す。
【0071】
シグナルペプチド:新たに合成された分泌タンパク質または膜タンパク質を膜に誘導し、膜を通過させる短いアミノ酸配列(例えば、約10~35アミノ酸長)(例えば、小胞体膜)。シグナルペプチドは、典型的には、ポリペプチドのN末端に配置され、シグナルペプチダーゼによって除去される。シグナルペプチド配列は、典型的には、3つの共通の構造的特徴:N末端極性塩基性領域(n領域)、疎水性コア、および親水性c領域を含む。
【0072】
一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン:単一の連続したポリペプチド鎖にSARS-CoV-2 SおよびSタンパク質を含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン。一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメインは三量体化してSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を形成することができる。単一のSARS-CoV-2 Sエクトドメインは、S/S切断部位でのプロテアーゼ切断を防止するための変異を含む。したがって、細胞内で産生されたとき、SARS-CoV-2 Sポリペプチドは、別々のSおよびSポリペプチド鎖に切断されない。
【0073】
可溶性タンパク質:室温で水性液体に溶解し、溶解したままであることができるタンパク質。タンパク質の溶解度は、水性液体中のタンパク質の濃度、液体の緩衝条件、液体中の他の溶質の濃度、例えば塩およびタンパク質の濃度、ならびに液体の熱に応じて変化し得る。いくつかの実施形態では、可溶性タンパク質は、室温でリン酸緩衝食塩水(pH7.4)に少なくとも0.5mg/mlの濃度まで溶解し、少なくとも48時間溶解したままであるタンパク質である。
【0074】
対象:生きている多細胞脊椎動物生物、ヒトおよび非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ブタ、ラクダ、コウモリ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ、およびげっ歯類などを含むカテゴリー。一例では、対象はヒトである。更なる例では、SARS-CoV-2感染の抑制を必要とする対象が選択される。例えば、対象は、感染しておらずSARS-CoV-2感染のリスクがあるか、または感染しており処置を必要としているかのいずれかである。
【0075】
T4フィブリチン三量体化ドメイン:「foldon」ドメインとも呼ばれ、T4フィブリチン三量体化ドメインは、天然に三量体構造を形成するアミノ酸配列を含む。いくつかの例では、T4フィブリチン三量体化ドメインは、開示された組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質エクトドメインのC末端に連結することができる。一例では、T4フィブリチン三量体化ドメインは、GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTF(配列番号6)として示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、プロテアーゼ切断部位(例えばトロンビン切断部位)を組換えSARS-CoV-2 SエクトドメインのC末端とT4フィブリチン三量体化ドメインとの間に含めて、例えば、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインの発現および精製後に、必要な場合、三量体化ドメインの除去を容易にすることができる。
【0076】
膜貫通ドメイン:脂質二重層、例えば細胞またはウイルスまたはウイルス様粒子の脂質二重層に挿入されるアミノ酸配列。膜貫通ドメインを使用して抗原を膜に固定することができる。いくつかの例では、膜貫通ドメインはSARS-CoV-2 S膜貫通ドメインである。
【0077】
ワクチン:対象において予防的または治療的免疫応答を誘導する医薬組成物。場合によっては、免疫応答は防御免疫応答である。典型的には、ワクチンは、病原体、例えばウイルス病原体の抗原、または病的状態と相関する細胞成分に対して抗原特異的な免疫応答を誘導する。ワクチンは、ポリヌクレオチド(例えば開示された抗原をコードする核酸)、ペプチドまたはポリペプチド(例えば開示された抗原)、ウイルス、細胞または1つもしくはそれを超える細胞成分を含み得る。非限定的な例では、ワクチンは、対照と比較して、SARS-CoV-2感染に関連する症状の重症度を低下させ、かつ/またはウイルス量を減少させる免疫応答を誘導する。別の非限定的な例では、ワクチンは、対照と比較してSARS-CoV-2感染を減少および/または予防する免疫応答を誘導する。
【0078】
ベクター:目的の抗原(複数可)のコード配列に操作的に連結され、コード配列を発現することができるプロモーター(複数可)を有するDNAまたはRNA分子を含有する実体。非限定的な例としては、裸のもしくはパッケージ化された(脂質および/またはタンパク質)DNA、裸のもしくはパッケージ化されたRNA、複製能を有し得ないウイルスもしくは細菌もしくは他の微生物のサブコンポーネント、または複製能を有し得るウイルスもしくは細菌もしくは他の微生物が挙げられる。ベクターは、コンストラクトと呼ばれることもある。組換えDNAベクターは、組換えDNAを有するベクターである。ベクターは、複製起点などの宿主細胞内での複製を可能にする核酸配列を含み得る。ベクターはまた、1つまたはそれを超える選択マーカー遺伝子および当該技術分野で公知の他の遺伝要素を含み得る。ウイルスベクターは、1つまたはそれを超えるウイルスに由来する少なくともいくつかの核酸配列を有する組換え核酸ベクターである。
【0079】
ウイルス様粒子(VLP):いくつかのウイルスのいずれかに由来する非複製ウイルスシェル。VLPは、一般に、1つもしくはそれを超えるウイルスタンパク質、例えば、以下のものに限定されないが、カプシド、コート、シェル、表面および/またはエンベロープタンパク質と呼ばれるタンパク質、またはこれらのタンパク質に由来する粒子形成ポリペプチドで構成される。VLPは、適切な発現系におけるタンパク質の組換え発現の際に自発的に形成することができる。ウイルスタンパク質の組換え発現後のVLPの存在は、電子顕微鏡法、生物物理学的特性評価などによる従来の技術を使用して検出することができる。さらに、VLPは、公知の技術、例えば密度勾配遠心分離によって単離され、特徴的な密度バンド形成によって同定され得る。例えば、Bakerら、(1991)Biophys.J.60:1445-1456;およびHagenseeら、(1994)J.Virol.68:4503-4505;Vincente,J Invertebr Pathol.,2011;Schneider-Ohrum and Ross,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,354:53073,2012)を参照のこと。
II.組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質
【0080】
本明細書では、SARS-CoV-2 Sタンパク質の融合前コンフォメーションから融合後コンフォメーションへの立体配座変化を抑制し、ひいてはSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超えるアミノ酸置換を含むプロトマーを含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体が開示される。組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、融合前コンフォメーションで安定化されていない対応するSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体と比較して優れた免疫応答を生じる。
【0081】
天然のSARS-CoV-2 Sタンパク質の例示的な配列(エクトドメインならびにTMおよびCTドメインを含む)は、配列番号1(参照により本明細書に組み込まれる、NCBI参照番号YP_009724390.1)として提供される。
【化1】
【0082】
SARS-CoV-2 Sタンパク質の残基について本明細書で使用されるアミノ酸ナンバリングは、配列番号1として提供されるSARS-CoV-2 S配列が参照される。配列番号1として提供されるSARS-CoV-2 Sタンパク質配列を参照すると、SARS-CoV-2 Sタンパク質のエクトドメインは、残基16~1208ほどを含む。残基1~15はシグナルペプチドであり、これは細胞プロセシング中に除去される。S1/S2切断部位は、685/686位に配置されている。HR1は、残基915~983ほどに配置されている。セントラルヘリックスは、残基988~1029ほどに配置されている。HR2は、1162~1194ほどに配置されている。S2エクトドメインのC末端は、残基1208ほどに配置されている。いくつかの実施形態では、融合前安定化SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーは、C末端残基(これは、例えば、三量体化ドメインまたは膜貫通ドメインに連結され得る)、例えば、HR2のC末端残基(例えば、1194位)、またはエクトドメインのC末端残基(例えば、1208位)、または1194~1208位の1つからのC末端残基を有することができる。Sタンパク質の位置ナンバリングはSARS-CoV-2株の間で異なり得るが、関連する構造ドメインおよび切断部位を決定するために配列を整列させることができる。免疫原としてのSエクトドメイン三量体の有用性を低下させることなく、開示された免疫原においてエクトドメインのN末端およびC末端上のいくつかの残基(例えば、最大10個)を除去または修飾できることが理解される。
【0083】
いくつかの実施形態では、免疫原は、Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させるHR1ドメインとセントラルヘリックスドメインとの境界またはその付近に1つまたはそれを超える(例えば、2つ、例えば2つの連続した)アミノ酸置換を含むプロトマーを含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含み、アミノ酸置換はグリシンおよび/またはプロリン置換である。いくつかのそのような実施形態では、Sエクトドメインを融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超える(例えば、2つ、例えば2つの連続した)アミノ酸置換は、HR1のC末端残基の15アミノ酸N末端位置と、セントラルヘリックスのN末端残基の5アミノ酸C末端位置との間に配置されている。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超える(例えば、2つ、例えば2つの連続した)アミノ酸置換は、三量体中のSエクトドメインプロトマーの残基975~995(981~992など)の間に配置されており、アミノ酸置換はグリシンおよび/またはプロリン置換である。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、三量体中のSエクトドメインプロトマーのD985位、K986位、および/またはV987位でのグリシンおよび/またはプロリン置換によって融合前コンフォメーションで安定化される。
【0084】
いくつかの実施形態では、免疫原は、Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させるHR1ドメインとセントラルヘリックスドメインとの境界またはその付近に1つまたはそれを超える(例えば、2つ、例えば2つの連続した)プロリン置換を含むプロトマーを含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む。いくつかのそのような実施形態では、Sエクトドメインを融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超える(例えば、2つ、例えば2つの連続した)プロリン置換は、HR1のC末端残基の15アミノ酸N末端位置と、セントラルヘリックスのN末端残基の5アミノ酸C末端位置との間に配置されている。
【0085】
いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を融合前コンフォメーションで安定化させる1つまたはそれを超える(例えば、2つ、例えば2つの連続した)プロリン置換は、三量体中のSエクトドメインプロトマーの残基975~995(981~992など)の間に配置されている。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、三量体中のSエクトドメインプロトマー中のK986PおよびV987P置換(「2P」)によって融合前コンフォメーションで安定化される。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、三量体中のSエクトドメインプロトマーのD985位、K986位、またはV987位での1つもしくは2つのプロリン置換によって融合前コンフォメーションで安定化される。
【0086】
いくつかの実施形態では、1つまたはそれを超えるプロリン置換(K986PおよびV987P置換など)によって融合前コンフォメーションで安定化された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーは、融合前コンフォメーションで安定化するための1つまたはそれを超える追加の修飾を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中のプロトマーのエクトドメインのC末端残基を三量体化ドメインに連結して、プロトマーの三量体化を促進し、プロトマーの膜近位側面を三量体構成(trimeric configuration)で安定化することができる。可溶性組換えタンパク質の安定な三量体を促進する外因性多量体化ドメインの非限定的な例としては、GCN4ロイシンジッパー(Harburyら、1993 Science 262:1401-1407)、肺サーファクタントタンパク質からの三量体化モチーフ(Hoppeら、1994 FEBS Lett 344:191-195)、コラーゲン(McAlindenら、2003 J Biol Chem 278:42200-42207)、およびファージT4フィブリチン(Miroshnikovら、1998 Protein Eng 11:329-414)が挙げられ、これらのいずれも、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインの三量体化を促進するために本明細書に記載の組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン(例えば、S2エクトドメインのC末端への連結によって)に連結することができる。
【0088】
いくつかの例では、S2エクトドメインのC末端残基は、T4フィブリチンドメインに連結され得る。具体的な例では、T4フィブリチンドメインは、アミノ酸配列GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTF(配列番号6)を含むことができ、これはβ-プロペラコンフォメーションを採用し、自律的に折り畳まれ三量体化することができる(Taoら、1997 Structure 5:789-798)。
【0089】
必要に応じて、異種三量体化は、ペプチドリンカー、例えばアミノ酸リンカーを介して組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインに接続される。使用され得るペプチドリンカーの非限定的な例としては、グリシン、セリン、およびグリシン-セリンリンカーが挙げられる。
【0090】
融合前コンフォメーションでの安定化のための二重プロリン置換を含み、T4フィブリチン三量体化ドメインに連結されたSARS-CoV-2 Sエクトドメインの例示的な配列が、配列番号2として提供される:
【化2】
【化3】
【0091】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2のエクトドメイン配列を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2の残基16~1208を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2のエクトドメイン配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一の配列を含むプロトマーを含み、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、本明細書に提供される1つまたはそれを超える修飾(例えばK986PおよびV987P置換)を有する融合前コンフォメーションで安定化されている。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2の残基16~1208と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一の配列を含むプロトマーを含み、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、本明細書に提供される1つまたは複数の修飾(例えばK986PおよびV987P置換)により融合前コンフォメーションで安定化されている。
【0092】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、T4フィブリチン三量体化ドメインなどの三量体化ドメインにそれぞれ連結された配列番号2のエクトドメイン配列を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2の残基16~1235を含む三量体化ドメインに連結されたプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号2の残基16~1235と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一の配列を含む三量体化ドメインに連結されたプロトマーを含み、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、本明細書に提供される1つまたは複数の修飾(例えばK986PおよびV987P置換)により融合前コンフォメーションで安定化されている。
【0093】
いくつかの実施形態では、例えば、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体が弱毒化ウイルスワクチンもしくはウイルス様粒子として、または組換え核酸(例えばmRNA)によって発現される実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は膜固定され得る。そのような実施形態では、三量体中のプロトマーは、典型的にはそれぞれ、膜貫通ドメイン、例えばSARS-CoV-2 Sタンパク質の膜貫通ドメイン(および必要に応じて細胞質ゾル尾部)へのC末端結合を含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーを膜貫通ドメインに連結するために、1つまたはそれを超えるペプチドリンカー(gly-serリンカー、例えば10アミノ酸グリシン-セリンペプチドリンカーなど)を使用することができる。膜貫通ドメインに連結されたプロトマーは、膜貫通ドメインに連結された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体が所望の特性(例えば、SARS-CoV-2 S融合前コンフォメーション)を保持する限り、本明細書に提供される任意の安定化させる変異(またはそれらの組み合わせ)を含み得る。
【0094】
融合前コンフォメーションでの安定化のための二重プロリン置換を含む(エクトドメインならびにTMおよびCTドメインを含む)SARS-CoV-2 Sタンパク質の例示的な配列が、配列番号3として提供される。
【化4】
【0095】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、それぞれ膜貫通ドメインおよび/または細胞質尾部に連結されている配列番号3のエクトドメイン配列を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号3の残基16~1273を含む膜貫通ドメインに連結されたプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号3の残基16~1273と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一の配列を含む膜貫通ドメインに連結されたプロトマーを含み、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、本明細書に提供される1つまたは複数の修飾(例えばK986PおよびV987P置換)により融合前コンフォメーションで安定化されている。
【0096】
いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、それぞれがS1タンパク質およびS2エクトドメインを含む単一ポリペプチド鎖を含む3つの単鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーから構成され得る。一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーは、S1/S2プロテアーゼ切断部位を変異させて切断ならびに別個のS1およびS2ポリペプチド鎖の形成を防止することによって生成することができる。いくつかの実施形態では、一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマー中のS1およびS2ポリペプチドは、ペプチドリンカーなどのリンカーによってつながれている。使用され得るペプチドリンカーの例としては、グリシン、セリン、およびグリシン-セリンリンカーが挙げられる。本明細書に開示される任意の安定化させる変異(またはそれらの組み合わせ)を、そのようなプロトマーで構成されるSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体が所望の特性(例えば、融合前コンフォメーション)を保持する限り、一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーに含めることができる。
【0097】
融合前コンフォメーションでの安定化のための二重プロリン置換を含み、T4フィブリチン三量体化ドメインに連結された一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメインの例示的な配列が、配列番号4として提供される。
【化5】
【0098】
いくつかの実施形態では、組換え一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、T4フィブリチン三量体化ドメインなどの三量体化ドメインに連結された配列番号4のエクトドメイン配列を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインに連結された組換え一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号4の残基16~1233を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインに連結された組換え一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号4の残基16~1233と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一の配列を含むプロトマーを含み、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、本明細書に提供される1つまたは複数の修飾(例えばK986PおよびV987P置換)により融合前コンフォメーションで安定化されている。
【0099】
融合前コンフォメーションでの安定化のための二重プロリン置換を含む(エクトドメインならびにTMおよびCTドメインを含む)一本鎖SARS-CoV-2 Sタンパク質の例示的な配列が、配列番号5として提供される。
【化6】
【化7】
【0100】
いくつかの実施形態では、組換え一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、それぞれ膜貫通ドメインおよび/または細胞質尾部に連結されている配列番号5のエクトドメイン配列を含むプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換え一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号5の残基16~1271を含む膜貫通ドメインに連結されたプロトマーを含む。いくつかの実施形態では、組換え一本鎖SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、配列番号5の残基16~1271と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一の配列を含む膜貫通ドメインに連結されたプロトマーを含み、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、本明細書に提供される1つまたは複数の修飾(例えばK986PおよびV987P置換)により融合前コンフォメーションで安定化されている。
【0101】
いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中のプロトマーは、プレフュージョン安定化のためのK986PおよびV987P置換を含み、N501Y、K417NおよびE484K置換のうちの1つまたは複数をさらに含む。例えば、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体中のプロトマーは、K986PおよびV987P置換を含み、N501Y置換、K417N置換、E484K置換、N501YおよびK417N置換、K417NおよびE484K置換、N501YおよびE484K置換、またはN501Y、K417NおよびE484K置換をさらに含む。
【0102】
組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体およびそのバリアントは、組換え技術を用いて産生することができるか、または化学的もしくは酵素的に合成することができる。
【0103】
組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の類似体およびバリアントは、本開示の方法およびシステムにおいて使用され得る。組換えDNA技術の使用により、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のバリアントは、基礎となるDNAを改変することによって調製され得る。バリアントをもたらす組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の構造におけるすべのそのような変異(variation)または改変は、本開示の範囲内に含まれる。そのようなバリアントとしては、1つまたはそれを超えるアミノ酸残基の挿入、置換または欠失、グリコシル化バリアント、非グリコシル化組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体、有機塩および無機塩、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の共有結合で修飾された誘導体、またはその前駆体が挙げられる。そのようなバリアントは、細胞表面受容体への結合など、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の機能的な生物学的活性の1つまたは複数を維持し得る。その組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、レシピエントにおけるタンパク質の半減期を増加させるために、かつ/または対象への送達のためにタンパク質をより安定にするために、例えばPEG化によって修飾することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、本開示内で有用な組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、20個の遺伝的にコードされたアミノ酸(またはD-アミノ酸)の1つまたはそれを超える天然に存在する側鎖を他の側鎖で、例えば、アルキル、低級アルキル、環状4員、5員、6員、7員までのアルキル、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、カルボキシおよびそれらの低級エステル誘導体などの基で、ならびに4員、5員、6員、7員までの複素環で置き換えることによって修飾される。例えば、プロリン残基の環サイズが5員環から4、6または7員環に変化するプロリン類似体を作製することができる。環式基は飽和または不飽和であり得、不飽和である場合、芳香族または非芳香族であり得る。複素環式基は、1つもしくはそれを超える窒素、酸素、および/または硫黄ヘテロ原子を含有し得る。
タンパク質ナノ粒子
【0105】
いくつかの実施形態では、表面に提示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含むタンパク質ナノ粒子(自己集合性タンパク質ナノ粒子など)が提供される。自己集合性タンパク質ナノ粒子の非限定的な例としては、フェリチンナノ粒子、エンカプスリンナノ粒子、硫黄オキシゲナーゼレダクターゼ(SOR)ナノ粒子、およびルマジンシンターゼナノ粒子が挙げられ、これらは、それぞれフェリチンタンパク質、エンカプスリンタンパク質、SORタンパク質、およびルマジンシンターゼを含む単量体サブユニットの集合体から構成されている。追加のタンパク質ナノ粒子構造は、Heinzeら、J Phys Chem B.,120(26):5945-52,2016;Hsiaら、Nature,535(7610):136-9,2016;およびKingら、Nature,510(7503):103-8,2014に記載されており、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0106】
いくつかの実施形態では、そのようなタンパク質ナノ粒子を構築するために、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする核酸を、タンパク質ナノ粒子のサブユニット(例えば、フェリチンタンパク質、エンカプスリンタンパク質、SORタンパク質、またはルマジンシンターゼタンパク質)をコードする核酸に融合し、適切な条件下で細胞内で発現させることができる。融合タンパク質は自己集合してナノ粒子となり、いずれも精製することができる。
【0107】
いくつかの実施形態では、そのようなタンパク質ナノ粒子を構築するために、精製されたSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を、精製された自己集合性タンパク質ナノ粒子のサブユニット(例えば、フェリチンタンパク質、エンカプスリンタンパク質、SORタンパク質、またはルマジンシンターゼタンパク質)に(例えば、バイオコンジュゲーションを介して)連結し、得られたナノ粒子/S三量体を精製することができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、例えば、Vottelerら、「Designed proteins induce the formation of nanocage-containing extracellular vesicles」,Nature 540,292-29,2016に記載されているように、ウイルスに似た方法で小胞内の細胞からそれ自体の放出を導く自己集合性タンパク質ナノケージに含まれる。このハイブリッド生体材料は、その膜を標的細胞と融合し、その内容物を送達することができ、それによって、ある細胞から別の細胞に積荷を移すことができる。
【0109】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをフェリチンサブユニットに連結して、フェリチンナノ粒子を構築することができる。フェリチンナノ粒子および免疫目的でのそれらの使用(例えば、インフルエンザ抗原に対する免疫のために)は、当該技術分野で開示されている(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Kanekiyoら、Nature,499:102-106,2013を参照のこと)。フェリチンは、すべての動物、細菌および植物に見出される球状タンパク質であり、これは主に水和鉄イオンおよびプロトンのミネラル化コアへの輸送およびミネラル化コアからの輸送を通して多核Fe(III)形成の速度および位置を制御するように作用する。球状形態のフェリチンナノ粒子は、約17~20kDaの分子量を有するポリペプチドである単量体サブユニットで構成されている。1つのそのような単量体フェリチンサブユニットのアミノ酸配列の例は、以下によって表される:
【化8】
【0110】
各単量体サブユニットは、4つの逆平行ヘリックスモチーフを含むヘリックスバンドルのトポロジーを有し、第5のより短いヘリックス(c末端ヘリックス)は、4ヘリックスバンドルの長軸に対してほぼ垂直にある。慣例によれば、ヘリックスは、N末端からそれぞれ「A、B、C、DおよびE」と標識される。N末端配列は、カプシドの3回軸に隣接して表面まで延びているが、Eヘリックスは4回軸で共にパッキングし、C末端はカプシドコアに延びている。このパッキングの結果、カプシド表面に2つの細孔が生じる。これらの細孔の一方または両方は、水和した鉄がカプシドの内外に拡散する点を表すと予想される。産生後、これらの単量体サブユニットタンパク質は自己集合して球状フェリチンタンパク質となる。したがって、球状形態のフェリチンは、24個の単量体サブユニットタンパク質を含み、432の対称性を有するカプシド様構造を有する。フェリチンナノ粒子を構築する方法は当業者に公知であり、本明細書にさらに記載される(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Zhang,Int.J.Mol.Sci.,12:5406-5421,2011を参照のこと)。
【0111】
具体的な例では、フェリチンポリペプチドは、大腸菌フェリチン、ヘリコバクター・ピロリ菌フェリチン、ヒト軽鎖フェリチン、ウシガエルフェリチン、またはそれらのハイブリッド、例えば大腸菌-ヒトハイブリッドフェリチン、大腸菌-ウシガエルハイブリッドフェリチン、またはヒト-ウシガエルハイブリッドフェリチンである。組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインを含むフェリチンナノ粒子の作製に使用するためのフェリチンポリペプチドの例示的なアミノ酸配列およびフェリチンポリペプチドをコードする核酸配列は、GENBANK(登録商標)、例えば受託番号ZP_03085328、ZP_06990637、EJB64322.1、AAA35832、NP_000137 AAA49532、AAA49525、AAA49524およびAAA49523に見出すことができ、これらは2015年4月10日に入手可能なように、その全体が参照により本明細書に具体的に組み込まれる。いくつかの実施形態では、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインは、配列番号8として示されるアミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも97%)同一のアミノ酸配列を含むフェリチンサブユニットに連結され得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをルマジンシンターゼサブユニットに連結して、ルマジンシンターゼナノ粒子を構築することができる。球状形態のルマジンシンターゼナノ粒子は、単量体サブユニットで構成されている。1つのそのようなルマジンシンターゼサブユニットの配列の例は、以下のように示されるアミノ酸配列として提供される。
【化9】
【0113】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーは、配列番号8として示されるアミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも97%)同一のアミノ酸配列を含むルマジンシンターゼサブユニットに連結され得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをエンカプスリンナノ粒子サブユニットに連結して、エンカプスリンナノ粒子を構築することができる。球状形態のエンカプスリンナノ粒子は、単量体サブユニットで構成されている。1つのそのようなエンカプスリンサブユニットの配列の例は、以下のように示されるアミノ酸配列として提供される。
【化10】
【0115】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロロマーは、配列番号9として示されるアミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも97%)同一のアミノ酸配列を含むエンカプスリンサブユニットに連結され得る。エンカプスリンタンパク質は、酵素をパッケージングするための最小区画として機能する大きなタンパク質集合体を形成するリノシン様タンパク質としても知られる細菌タンパク質の保存されたファミリーである。エンカプスリンアセンブリは、約30kDaの分子量を有するポリペプチドである単量体サブユニットで構成されている。産生後、単量体サブユニットは自己集合して、60個、または場合によっては180個の単量体サブユニットを含む球状のエンカプスリン集合体となる。エンカプスリンナノ粒子を構築する方法は当業者に公知であり、本明細書にさらに記載される(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Sutterら、Nature Struct.and Mol.Biol.,15:939-947,2008を参照のこと)。具体的な例では、細菌エンカプスリン、例えばエンカプスリンポリペプチドは、テルモトガ・マリティマ(Thermotoga maritime)またはピュロコッカス・フリオスス(Pyrococcus furiosus)またはロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)またはミキソコッカス・キサントス(Myxococcus xanthus)エンカプスリンである。
【0116】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーを硫黄オキシゲナーゼレダクターゼ(SOR)サブユニットに連結して、組換えSORナノ粒子を構築することができる。いくつかの実施形態では、SORサブユニットは、以下のように示されるアミノ酸配列を含むことができる。
【化11】
【0117】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロロマーは、配列番号10として示されるアミノ酸配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも97%)同一のアミノ酸配列を含むSORサブユニットに連結され得る。
【0118】
SORタンパク質は、微生物タンパク質(例えば、24個のサブユニットタンパク質集合体を形成する好熱好酸性古細菌アキディアヌス・アンビバレンス(Acidianus ambivalens)由来である。SORナノ粒子を構築する方法は当業者に公知である(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Urichら、Science,311:996-1000,2006を参照のこと)。SORナノ粒子の作製に使用するためのSORタンパク質のアミノ酸配列の例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Urichら、Science,311:996-1000,2006に示されている。
【0119】
産生目的のために、いくつかの実施形態では、ナノ粒子サブユニットに連結された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインは、細胞プロセシング中に切断されるN末端シグナルペプチドを含み得る。例えば、タンパク質ナノ粒子サブユニットに連結された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーは、そのN末端に、例えば、天然のコロナウイルスSシグナルペプチドを含むシグナルペプチドを含み得る。
【0120】
タンパク質ナノ粒子は、適切な細胞(例えば、HEK293Freestyle細胞)で発現させることができ、融合タンパク質は、ナノ粒子へと自己集合した細胞から分泌される。ナノ粒子は、公知の技術を使用して、例えば、いくつかの異なるクロマトグラフィー手順によって、例えば、Mono Q(陰イオン交換)の後にサイズ排除(SUPEROSE(登録商標)6)クロマトグラフィーを行うことによって精製することができる。
【0121】
いくつかの実施形態は、フェリチン、エンカプスリン、SORもしくはルマジンシンターゼタンパク質の単量体サブユニット、または単量体サブユニットの自己集合をタンパク質の球状形態に導くことができるその任意の部分を含む。任意の既知のフェリチン、エンカプスリン、SORもしくはルマジンシンターゼタンパク質の単量体サブユニットからのアミノ酸配列は、単量体サブユニットがその表面に組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインまたはその免疫原性断片を提示するナノ粒子へと自己集合することができる限り、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインまたはその免疫原性断片との融合タンパク質を産生するために使用することができる。
【0122】
融合タンパク質は、フェリチン、エンカプスリン、SORまたはルマジンシンターゼタンパク質の単量体サブユニットポリペプチドの全長配列を含む必要はない。単量体サブユニットポリペプチドの部分または領域は、その部分が単量体サブユニットの球状形態のタンパク質への自己集合を導くアミノ酸配列を含む限り、利用することができる。
III.ポリヌクレオチドおよび発現
【0123】
開示された組換えSエクトドメイン三量体の任意のプロトマーをコードするポリヌクレオチドも提供される。これらのポリヌクレオチドとしては、プロトマーをコードするDNA、cDNAおよびRNA配列、ならびにDNA、cDNAおよびRNA配列を含むベクター、例えば免疫に使用されるDNAまたはRNAベクターが挙げられる。配列が異なるが同じタンパク質配列をコードするか、または核酸配列を含むコンジュゲートもしくは融合タンパク質をコードする核酸などの、機能的に等価なさまざまな核酸を構築するための遺伝コード。
【0124】
SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードする例示的な核酸配列が、配列番号11として提供される。
【化12】
【化13】
【0125】
上記で提供される例示的なSARS-CoV-2 SプロトマーのDNA配列は、プレフュージョン安定化のために本明細書に開示されるアミノ酸の置換および欠失を導入するように修飾することができる。
【0126】
いくつかの実施形態では、核酸分子は、適切な細胞内で発現されると、対応する組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体へと自己集合することができる開示されるSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーにプロセシングされるプロトマーの前駆体をコードする。例えば、核酸分子は、細胞内の組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインのプロセシング中にタンパク質分解的に切断される細胞分泌系に入るためのN末端シグナル配列を含む組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインをコードし得る。
【0127】
いくつかの実施形態では、核酸分子は、適切な細胞内で発現されると、S1およびS2ポリペプチドを含む開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーにプロセシングされる前駆体SARS-CoV-2 Sポリペプチドをコードし、ここで、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーは、本明細書に記載の安定化させる修飾を含み、必要に応じて、T4フィブリチン三量体化ドメインなどの三量体化ドメインに連結され得る。
【0128】
例示的な核酸は、クローニング技術によって調製することができる。適切なクローニングおよび配列決定技術の例、ならびに多くのクローニング訓練を通して当業者を導くのに十分な指示(instruction)が知られている(例えば、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th ed,Cold Spring Harbor,New York,2012)およびAusubelら(In Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,through supplement 104,2013)を参照のこと)。
【0129】
核酸は、増幅法によって調製することもできる。増幅方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写に基づく増幅系(TAS)、自立配列複製系(3SR)が挙げられる。多種多様なクローニング方法、宿主細胞、およびインビトロ増幅方法が当業者に周知である。
【0130】
開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーをコードするポリヌクレオチドは、ベクター(例えば発現ベクター)に、自律複製プラスミドもしくはウイルスに、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれるか、または他の配列とは独立した別個の分子(例えばcDNA)として存在する組換えDNAを含むことができる。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはいずれかのヌクレオチドの修飾形態であり得る。この用語は、DNAの単一形態および二重形態を含む。
【0131】
開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーをコードするポリヌクレオチド配列は、発現制御配列に機能的に連結することができる。コード配列に機能的に連結された発現制御配列は、発現制御配列と適合する条件下でコード配列の発現が達成されるようにライゲーションされる。発現制御配列としては、以下のものに限定されないが、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にするその遺伝子の正しいリーディングフレームの維持、および終止コドンが挙げられる。
【0132】
開示された組換えSエクトドメインプロトマーをコードするDNA配列は、適切な宿主細胞へのDNA移入によってインビトロで発現させることができる。細胞は、原核生物または真核生物であり得る。この用語はまた、対象宿主細胞の任意の子孫を含む。複製中に生じる変異が存在する可能性があるため、すべての子孫が親細胞と同一ではない可能性があることが理解される。外来DNAが宿主内で連続的に維持されることを意味する安定な移入の方法は、当該技術分野で公知である。
【0133】
宿主としては、微生物、酵母、昆虫および哺乳動物生物を挙げることができる。真核生物またはウイルス配列を有するDNA配列を原核生物において発現させる方法は、当該技術分野において周知である。適切な宿主細胞の非限定的な例としては、細菌、古細菌、昆虫、真菌(例えば、酵母)、植物、および動物細胞(例えば、ヒトなどの哺乳動物細胞)が挙げられる。例示的な有益な細胞としては、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Saccharomyces cerevisiae、Salmonella typhimurium、SF9細胞、C129細胞、293細胞、Neurospora、および不死化哺乳動物骨髄性細胞株および不死化リンパ性細胞株が挙げられる。培養中の哺乳動物細胞の増殖のための技術は周知である(例えば、Helgason and Miller(Eds.),2012,Basic Cell Culture Protocols(Methods in Molecular Biology),4th Ed.,Humana Pressを参照のこと)。一般的に使用される哺乳動物宿主細胞株の例は、VEROおよびHeLa細胞、CHO細胞、ならびにWI38、BHKおよびCOS細胞株であるが、より高い発現、所望のグリコシル化パターン、または他の特徴を提供するように設計された細胞などの細胞株を使用してもよい。いくつかの実施形態では、宿主細胞としては、HEK293細胞またはその誘導体、例えばGnTI-/-細胞(ATCC(登録商標)番号CRL-3022)またはHEK-293F細胞が挙げられる。
【0134】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、従来の技術によって行うことができる。宿主が原核生物、例えば大腸菌であるが、これに限定されない場合、指数成長期後に採取され、続いて標準的な手順を用いてCaCl法によって処理された細胞から、DNA取込みが可能なコンピテント細胞を調製することができる。代替的に、MgClまたはRbClを使用することができる。形質転換は、所望される場合、宿主細胞のプロトプラストを形成した後に、またはエレクトロポレーションによって行うこともできる。
【0135】
宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈物としてのDNAのトランスフェクション法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームに包まれたプラスミドの挿入、またはウイルスベクターなどの従来の機械的手順を使用することができる。真核細胞はまた、開示された抗原をコードするポリヌクレオチド配列、および選択可能な表現型をコードする第2の外来DNA分子、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子と共形質転換され得る。別の方法は、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスなどの真核生物ウイルスベクターを使用して、真核生物細胞に一過性に感染または形質転換し、タンパク質を発現させることである(例えば、Viral Expression Vectors,Springer press,Muzyczka ed.,2011を参照のこと)。COS、CHO、HeLaおよび骨髄腫細胞株などの高等真核細胞を含む細胞中でタンパク質を産生するのに使用されるプラスミドおよびベクターなどの適切な発現系。
【0136】
1つの非限定的な例では、開示された免疫原は、pVRC8400ベクター(Barouchら、J.Virol.,79,8828-8834,2005に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる)を使用して発現される。
【0137】
開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーをコードする核酸に、その生物学的活性を低下させることなく修飾を行うことができる。標的分子のクローニング、発現、または融合タンパク質への組込みを容易にするために、いくつかの修飾を行うことができる。そのような修飾は当業者に周知であり、例えば、終止コドン、開始部位(an initiation, site)を提供するためにアミノ末端に付加されたメチオニン、好都合に位置する制限部位を作り出すためにいずれかの末端に配置された追加のアミノ酸、または精製ステップを補助するための追加のアミノ酸(例えばポリHis)が挙げられる。
【0138】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーは、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーが細胞から細胞培地に分泌される三量体へと自己集合することができる条件下で細胞内で発現され得る。そのような実施形態では、各組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーは、タンパク質を分泌系に入らせるリーダー配列(シグナルペプチド)を含み、シグナルペプチドは切断され、プロトマーは三量体を形成した後、細胞培地に分泌される。培地を遠心分離し、上清から組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を精製することができる。
IV.ウイルスベクター
【0139】
開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする核酸分子は、例えば、宿主細胞中での免疫原の発現のために、または本明細書に開示される対象の免疫のために、ウイルスベクターに含まれ得る。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、プライム-ブーストワクチン接種の一部として対象に投与される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、プライムブーストワクチンに使用するためのプライマーワクチンまたはブースターワクチンなどのワクチンに含まれる。
【0140】
いくつかの例では、ウイルスベクターは複製能を有し得る。例えば、ウイルスベクターは、宿主細胞中でのウイルス複製を阻害しないウイルスゲノム中の変異を有し得る。ウイルスベクターはまた、条件付きで複製能を有し得る。他の例では、ウイルスベクターは宿主細胞中で複製欠損性である。
【0141】
ポリオーマ、すなわちSV40(Madzakら、1992,J.Gen.Virol.,73:15331536),adenovirus(Berkner,1992,Cur.Top.Microbiol.Immunol.,158:39-6;Berlinerら、1988,Bio Techniques,6:616-629;Gorzigliaら、1992,J.Virol.,66:4407-4412;Quantinら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:2581-2584;Rosenfeldら、1992,Cell,68:143-155;Wilkinsonら、1992,Nucl.Acids Res.,20:2233-2239;Stratford-Perricaudetら、1990,Hum.Gene Ther.,1:241-256)、ワクシニアウイルス(Mackettら、1992,Biotechnology,24:495-499)、アデノ随伴ウイルス(Muzyczka,1992,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158:91-123;Onら、1990,Gene,89:279-282)、HSVおよびEBVを含むヘルペスウイルス(Margolskee,1992,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158:67-90;Johnsonら、1992、1992,J.Virol.,66:29522965;Finkら、1992,Hum.Gene Ther.3:11-19;Breakfieldら、1987,Mol.Neurobiol.,1:337-371;Fresseら、1990,Biochem.Pharmacol.,40:2189-2199))、シンドビスウイルス(H.Herweijerら、1995,Human Gene Therapy 6:1161-1167;米国特許第5,091,309号および同第5,2217,879号)、アルファウイルス(S.Schlesinger,1993,Trends Biotechnol.11:18-22;I.Frolovら、1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:11371-11377)、ならびにトリ(Brandyopadhyayら、1984,Mol.Cell Biol.,4:749-754;Petropouplosら、1992,J.Virol.,66:3391-3397)、マウス(Miller,1992,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158:1-24;Millerら、1985,Mol.Cell Biol.,5:431-437;Sorgeら、1984,Mol.Cell Biol.,4:1730-1737;Mannら、1985,J.Virol.,54:401-407)およびヒト起源(Pageら、1990,J.Virol.,64:5370-5276;Buchschalcherら、1992,J.Virol.,66:2731-2739)のレトロウイルスを含む、開示された抗原を発現するために使用することができるいくつかのウイルスベクターが構築されている。バキュロウイルス(Autographa californica multinuclear polyhedrosis virus;AcMNPV)ベクターも当該技術分野で知られており、商業的供給源(例えば、PharMingen社、カリフォルニア州サンディエゴ;Protein Sciences Corp.社、コネチカット州メリデン;Stratagene社、カリフォルニア州ラホヤ)から入手することができる。
【0142】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーを発現するアデノウイルスベクターを含むことができる。さまざまな起源、サブタイプ、またはサブタイプの混合物からのアデノウイルスを、アデノウイルスベクターのためのウイルスゲノムの供給源として使用することができる。非ヒトアデノウイルス(例えば、サル、チンパンジー、ゴリラ、トリ、イヌ、ヒツジ、またはウシアデノウイルス)を使用して、アデノウイルスベクターを生成することができる。例えば、シミアンアデノウイルスを、アデノウイルスベクターのウイルスゲノムの供給源として使用することができる。シミアンアデノウイルスは、血清型1、3、7、11、16、18、19、20、27、33、38、39、48、49、50、または任意の他のシミアンアデノウイルス血清型であり得る。シミアンアデノウイルスは、当該技術分野で公知の任意の適切な略語、例えばSV、SAdV、SAV、またはsAVを使用することによって参照することができる。いくつかの例では、シミアンアデノウイルスベクターは、血清型3、7、11、16、18、19、20、27、33、38、または39のシミアンアデノウイルスベクターである。一例では、チンパンジー血清型C Ad3ベクターが使用される(例えば、Peruzziら、Vaccine,27:1293-1300,2009を参照のこと)。ヒトアデノウイルスを、アデノウイルスベクターのウイルスゲノムの供給源として使用することができる。ヒトアデノウイルスは、さまざまなサブグループまたは血清型であり得る。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、血清型12、18、および31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35、および50)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5、および6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22、23、24、25、26、27、28、29、30、32、33、36~39、および42~48)、サブグループE(例えば、血清型4)、サブグループF(例えば、血清型40および41)、未分類血清型(例えば、血清型49および51)、または任意の他のアデノウイルス血清型であり得る。当業者は、複製能を有するおよび複製欠損性アデノウイルスベクター(単独および多重複製欠損性アデノウイルスベクターを含む)について熟知している。多重複製欠損性アデノウイルスベクターを含む複製欠損性アデノウイルスベクターの例は、米国特許第5,837,511号、同第5,851,806号;同第5,994,106号;同第6,127,175号;同第6,482,616号;および同第7,195,896号、ならびに国際出願第WO94/28152号、同第WO95/02697号、同第WO95/16772号、同第WO95/34671号、同第WO96/22378号、同第WO97/12986号、同第WO97/21826号、および同第WO03/022311号に開示されている。
V.ウイルス様粒子
【0143】
いくつかの実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含むウイルス様粒子(VLP)が提供される。典型的には、そのようなVLPは、C末端膜貫通ドメインによって膜固定された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含み、例えば、三量体中の組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインプロトマーはそれぞれ、SARS-CoV-2 Sタンパク質由来の膜貫通ドメインおよび細胞質ゾル尾部に連結され得る。VLPは、ウイルス複製に必要なウイルス成分を欠き、したがってウイルスの高度に弱毒化された複製能を有しない形態を表す。しかしながら、VLPは、感染性ウイルス粒子上に発現されるものと類似のポリペプチド(例えば、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体)を提示することができ、対象に投与した場合、SARS-CoV-2に対する免疫応答を惹起することができる。ウイルス様粒子およびそれらの産生方法は当業者に公知でよく熟知されており、いくつかのウイルス由来のウイルスタンパク質は、ヒトパピローマウイルス、HIV(Kangら、Biol.Chem.380:353-64(1999))、セムリキ森林ウイルス(Notkaら、Biol.Chem.380:341-52(1999))、ヒトポリオーマウイルス(Goldmannら、J.Virol.73:4465-9(1999))、ロタウイルス(Jiangら、Vaccine17:1005-13(1999))、パルボウイルス(Casal,Biotechnology and Applied Biochemistry,Vol29,Part2,pp141-150(1999))、イヌパルボウイルス(Hurtadoら、J.Virol.70:5422-9(1996))、E型肝炎ウイルス(Liら、J.Virol.71:7207-13(1997))、およびニューカッスル病ウイルスを含むVLPを形成することが知られている。そのようなVLPの形成は、任意の適切な技術によって検出することができる。培地中のVLPの検出のための当該技術分野で公知の適切な技術の例としては、例えば、電子顕微鏡法技術、動的光散乱(DLS)、選択的クロマトグラフィー分離(例えば、VLPのイオン交換、疎水性相互作用、および/またはサイズ排除クロマトグラフィー分離)ならびに密度勾配遠心分離が挙げられる。
VI.免疫原性組成物
【0144】
開示された免疫原(例えば、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体または開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする核酸分子)と、薬学的に許容され得る担体とを含む免疫原性組成物も提供される。そのような医薬組成物は、当業者に公知のさまざまな投与様式、例えば、筋肉内、皮内、皮下、静脈内、動脈内、関節内、腹腔内、鼻腔内、舌下、扁桃、中咽頭、または他の非経口および粘膜経路によって対象に投与することができる。投与可能な組成物を調製するための実際の方法は、当業者に公知であるかまたは明らかであり、Remingtons Pharmaceutical Sciences,19th Ed.,1995 Mack出版社(ペンシルバニア州イーストン)などの刊行物にさらに詳細に記載されている。
【0145】
したがって、本明細書に記載の免疫原は、許容され得る温度範囲内での貯蔵中の安定性の増加も促進しながら、生物学的活性を保持するのを助けるために薬学的に許容され得る担体と共に製剤化され得る。潜在的な担体としては、以下のものに限定されないが、生理学的平衡培地(physiologically balanced culture medium)、リン酸緩衝食塩水、水、エマルジョン(例えば、油/水または水/油エマルジョン)、さまざまなタイプの湿潤剤、凍結保護添加剤もしくは安定剤、例えばタンパク質、ペプチドもしくは加水分解物(例えば、アルブミン、ゼラチン)、糖(例えば、スクロース、ラクトース、ソルビトール)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸ナトリウム)、または他の保護剤が挙げられる。得られた水溶液は、そのまま使用するために包装されてもよく、または凍結乾燥されてもよい。凍結乾燥調製物は、単回投与または複数回投与のいずれかのために投与前に滅菌溶液と組み合わされる。
【0146】
製剤化された組成物、特に液体製剤は、以下のものに限定されないが、有効濃度(通常≦1%(w/v))のベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノール、メチルパラベン、および/またはプロピルパラベンを含む、貯蔵中の分解を防止または最小化するための静菌剤を含有し得る。一部の患者には、静菌剤は禁忌であり得る。したがって、凍結乾燥製剤は、そのような成分を含有するかまたは含有しないいずれかの溶液中で再構成され得る。
【0147】
本開示の免疫原性組成物は、薬学的に許容され得る賦形剤として、生理学的条件に近似させるために必要な物質、例えばpH調整剤および緩衝剤、張度調整剤、湿潤剤など、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレートおよびトリエタノールアミンオレエートを含有し得る。
【0148】
免疫原性組成物は、宿主の免疫応答を増強するためのアジュバントを必要に応じて含み得る。適切なアジュバントは、例えば、toll様受容体アゴニスト、ミョウバン、AlPO4、alhydrogel、リピドAおよびその誘導体またはバリアント、油エマルジョン、サポニン、中性リポソーム、ワクチンおよびサイトカインを含有するリポソーム、非イオン性ブロックコポリマーおよびケモカインである。ポリオキシエチレン(POE)およびポリキシルプロピレン(POP)を含有する非イオン性ブロックポリマー、例えば、POE-POP-POEブロックコポリマー、MPL(商標)(3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA;Corixa社、インディアナ州ハミルトン)およびIL-12(Genetics Institute社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)が、当該技術分野で周知の他の多くの適切なアジュバントの中でも、アジュバントとして使用され得る(Newmanら、1998,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems15:89-142)。これらのアジュバントは、非特異的な方法で免疫系を刺激し、したがって医薬品に対する免疫応答を増強するのに役立つという利点を有する。
【0149】
いくつかの例では、開示された免疫原を、他の因子(agent)に対する防御応答を誘導する他の医薬品(例えば、ワクチン)と組み合わせることが望ましい場合がある。例えば、本明細書中に記載されるような組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む組成物は、インフルエンザワクチンまたは水痘帯状疱疹ワクチンなどの、標的年齢群(例えば、約1~6月齢の乳児)のための予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP;cdc.gov/vaccines/acip/index.html)によって推奨される他のワクチンと同時投与または逐次投与され得る。したがって、本明細書に記載の組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む開示された免疫原は、例えば、B型肝炎(HepB)、ジフテリア、破傷風および百日咳(DTaP)、肺炎球菌(PCV)、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)、ポリオ、インフルエンザおよびロタウイルスに対するワクチンと同時投与または逐次投与され得る。
【0150】
いくつかの実施形態では、組成物は、滅菌組成物として提供することができる。医薬組成物は、典型的には、有効量の開示された免疫原を含有し、従来の技術によって調製することができる。典型的には、免疫原性組成物の各用量における免疫原の量は、重大な有害な副作用なしに免疫応答を誘導する量として選択される。いくつかの実施形態では、組成物は、対象において免疫応答を誘導するために使用するための単位剤形で提供することができる 単位剤形は、対象への投与のための適切な単一の予め選択された投与量、または2つもしくはそれよりも多い予め選択された単位投与量の適切なマークされたもしくは測定された倍数、および/または単位用量もしくはその倍数を投与するための計量機構を含む。他の実施形態では、組成物はさらにアジュバントを含む。
VII.免疫応答を誘導する方法
【0151】
開示された免疫原(例えば、組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体のプロトマーをコードする核酸分子(例えばRNA分子)もしくはベクター、または開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含むタンパク質ナノ粒子もしくはウイルス様粒子)を対象に投与して、対象においてSARS-CoV-2 Sタンパク質に対する免疫応答を誘導することができる。特定の例では、対象はヒトである。免疫応答は、防御免疫応答、例えば、その後のSARS-CoV-2による感染を抑制する応答であり得る。免疫応答の惹起はまた、SARS-CoV-2感染およびSARS-CoV-2感染に関連する疾患を処置または抑制するために使用することができる。
【0152】
対象は、例えばSARS-CoV-2への曝露または曝露の可能性のために、SARS-CoV-2感染を有するかまたは発症するリスクがある免疫のために選択することができる。開示された免疫原の投与後、対象を、SARS-CoV-2感染に関連する感染または症状について監視することができる。
【0153】
本開示の免疫原および方法による免疫を意図した典型的な対象としては、ヒト、ならびに非ヒト霊長類および他の動物が挙げられる。本開示の方法による免疫の対象を同定するために、許容されているスクリーニング方法を採用して、標的とされるもしくは疑われる疾患もしくは状態に関連する危険因子を決定するか、または対象における既存の疾患もしくは状態の状況を決定する。これらのスクリーニング方法としては、例えば、標的化とされるもしくは疑われる疾患もしくは状態に関連し得る環境的、家族的、職業的、および他のそのような危険因子を決定するための従来の精密検査、ならびにコロナウイルス感染を検出および/または特性付けるためのさまざまなELISAおよび他の免疫測定法などの診断方法が挙げられる。これらおよび他の日常的な方法は、臨床医が本開示の方法および医薬組成物を使用して免疫を必要とする患者を選択することを可能にする。
【0154】
開示された免疫原の投与は、予防目的または治療目的のためであり得る。予防的に提供される場合、免疫原は、任意の症状の前に、例えば感染の前に提供される。免疫原の予防的投与は、その後の感染の経過を予防または改善するのに役立つ。治療的に提供される場合、免疫原は、感染の症状の発現時または発現後、例えばSARS-CoV-2感染の症状の発症後またはSARS-CoV-2感染との診断後に提供される。したがって、免疫原は、感染および/または関連する疾患症状の予想される重症度、持続期間または程度を軽減すべく、SARS-CoV-2への予想される曝露の前に、SARS-CoV-2への曝露もしくは曝露の疑いの後に、または感染の実際の開始の後に提供することができる。
【0155】
本明細書に記載の免疫原、およびその免疫原性組成物は、対象、好ましくはヒトにおいてSARS-CoV-2 Sタンパク質に対する免疫応答を誘導または増強するのに有効な量で対象に提供される。開示された免疫原の実際の投与量は、対象の疾患適応症および特定の状況(例えば、対象の年齢、サイズ、適応度、症状の程度、感受性因子など)、投与時間および投与経路、併せて投与される他の薬物または治療薬、ならびに対象において所望の活性または生物学的応答を惹起するための組成物の特定の薬理学などの因子に従って変動する。投与レジメンは、最適な予防的または治療的応答を提供するように調整することができる。
【0156】
開示された免疫原の1つまたは複数を含む免疫原性組成物は、協調(またはプライム-ブースト)ワクチン接種プロトコルまたはコンビナトリアル製剤で使用することができる。特定の実施形態では、新規なコンビナトリアル免疫原性組成物および協調免疫プロトコルは、それぞれがSARS-CoV-2 Sタンパク質に対する免疫応答などの抗ウイルス免疫応答を惹起することを目的とした別個の免疫原または製剤を採用する。抗ウイルス免疫応答を惹起する別個の免疫原性組成物は、単一の免疫ステップで対象に投与される多価免疫原性組成物中で組み合わせることができ、またはそれらは、協調(またはプライム-ブースト)免疫プロトコルで別個に(一価免疫原性組成物中で)投与することができる。
【0157】
いくつかのブーストが存在し得、各ブーストは異なる開示された免疫原であり得る。いくつかの例では、ブーストは、別のブーストと同じ免疫原またはプライムであり得る。プライムおよびブーストは、単一用量または複数用量として投与することができ、例えば、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量またはそれを超える用量を数日、数週間または数ヶ月にわたって対象に投与することができる。複数のブースト、例えば1~5回(例えば、1、2、3、4または5回のブースト)、またはそれを超える回数のブーストを与えることもできる。異なる投与量を一連の連続免疫に使用することができる。例えば、一次免疫における比較的大きい用量、次いで比較的小さい用量でのブースト。
【0158】
いくつかの実施形態では、ブーストは、プライムの約2週間後、約3~8週間後、または約4週間後、またはプライムの数ヶ月後に投与することができる。いくつかの実施形態では、ブーストは、プライムの約5ヶ月後、約6ヶ月後、約7ヶ月後、約8ヶ月後、約10ヶ月後、約12ヶ月後、約18ヶ月後、約24ヶ月後、またはプライム後のある程度の時間に投与され得る。対象の「免疫記憶」を増強するために、定期的な追加のブーストを適切な時点で使用することもできる。選択されたワクチン接種パラメータ、例えば製剤、用量、レジメンなどの妥当性は、免疫プログラムの経過中に、対象からの血清のアリコートを採取し、抗体価をアッセイすることによって決定することができる。さらに、対象の臨床状態を、所望の効果、例えば感染の予防または疾患状況の改善(例えば、ウイルス量の減少)について監視することができる。ワクチン接種が最適以下であることを、そのような監視が示す場合、対象を追加用量の免疫原性組成物でブーストすることができ、ワクチン接種パラメータは、免疫応答を増強すると予想される様式で変更することができる。
【0159】
いくつかの実施形態では、プライムブースト法は、対象へのDNAプライマーおよびタンパク質ブーストワクチン接種プロトコルを含み得る。この方法は、核酸分子またはタンパク質の2回またはそれを超える投与を含み得る。
【0160】
タンパク質治療薬の場合、典型的には、各ヒト用量は、1~1000μgのタンパク質、例えば約1μg~約100μg、例えば約1μg~約50μg、例えば約1μg、約2μg、約5μg、約10μg、約15μg、約20μg、約25μg、約30μg、約40μg、または約50μgを含む。
【0161】
免疫原性組成物中で利用される量は、対象集団(例えば、乳児または高齢者)に基づいて選択される。特定の組成物の最適量は、対象における抗体価および他の応答の観察を含む標準的な研究によって確認することができる。免疫原性組成物中の有効量の開示された免疫原、例えば開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体、ウイルスベクターまたは核酸分子は、単一用量の投与によって免疫応答を惹起するのに無効であるが、例えばプライムブースト投与プロトコルでは複数回投与量の投与の際に有効な量を含み得ることが理解される。
【0162】
本開示の免疫原を投与すると、対象の免疫系は、典型的には、免疫原に含まれるSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体に特異的な抗体を産生することによって応答する。そのような応答は、免疫学的に有効な用量が対象に送達されたことを意味する。
【0163】
いくつかの実施形態では、対象の抗体応答は、有効な投与量/免疫プロトコルを評価するという観点で決定される。ほとんどの場合、対象から得られた血清または血漿中の抗体価を評価すれば十分である。ブースター接種を投与するかどうか、かつ/または個体に投与される治療剤の量を変更するかどうかに関する決定は、抗体価レベルに少なくとも部分的に基づくことができる。抗体価レベルは、例えば、免疫原に含まれる組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体を含む抗原に結合する血清中の抗体の濃度を測定する免疫結合アッセイに基づくことができる。
【0164】
本方法を有効にするために、SARS-CoV-2感染を完全に排除または低減または予防する必要はない。例えば、開示された免疫原の1つまたは複数を用いたSARS-CoV-2に対する免疫応答の惹起は、免疫原の非存在下でのSARS-CoV-2感染と比較して、所望の量、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには少なくとも100%SARS-CoV-2感染を低減または抑制する(検出可能な感染細胞の排除もしくは防止)ことができる。更なる例では、SARS-CoV-2複製は、開示された方法によって低減または阻害することができる。本方法を有効にするために、SARS-CoV-2複製を完全に排除する必要はない。例えば、開示された免疫原の1つまたは複数を用いて惹起される免疫応答は、免疫応答の非存在下でのSARS-CoV-2複製と比較して、所望の量、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには少なくとも100%SARS-CoV-2複製を低減する(検出可能なSARS-CoV-2複製の排除もしくは防止)ことができる。
【0165】
いくつかの実施形態では、開示された免疫原は、アジュバントの投与と同時に対象に投与される。他の実施形態では、開示された免疫原は、アジュバントの投与後、免疫応答を誘導するのに十分な期間内に対象に投与される。
【0166】
核酸の投与に対する1つのアプローチは、プラスミドDNA、例えば哺乳動物発現プラスミドによる直接免疫である。核酸コンストラクトによる免疫は当該技術分野で周知であり、例えば、米国特許第5,643,578号(所望の抗原をコードするDNAを導入して細胞媒介性または体液性応答を惹起することによって脊椎動物を免疫する方法を記載する)、ならびに米国特許第5,593,972号および米国特許第5,817,637号(抗原をコードする核酸配列を発現を可能にする調節配列に作動可能に連結することを記載する)に教示されている。米国特許第5,880,103号は、免疫原性ペプチドまたは他の抗原をコードする核酸を生物に送達するいくつかの方法を記載している。この方法は、核酸(または合成ペプチド自体)のリポソーム送達、およびコレステロールとQuil A(商標)(サポニン)とを混合すると自発的に形成される30~40nmのサイズの負に荷電したケージ様構造体である免疫刺激コンストラクト、すなわちISCOMS(商標)を含む。防御免疫は、ISCOMS(商標)を抗原の送達ビヒクルとして使用して、トキソプラズマ症およびエプスタイン・バーウイルス誘発腫瘍を含むさまざまな感染実験モデルで生成されている(Mowat and Donachie,Immunol.Today12:383,1991)。ISCOMS(商標)に封入された1μgもの低用量の抗原は、クラスI媒介性CTL応答をもたらすことが見出されている(Takahashiら、Nature344:873,1990)。
【0167】
いくつかの実施形態では、プラスミドDNAワクチンを使用して、対象において開示された免疫原を発現させる。例えば、開示された免疫原をコードする核酸分子を対象に投与して、免疫原に含まれるSARS-CoV-2 Sタンパク質に対する免疫応答を誘導することができる。いくつかの実施形態では、核酸分子は、pVRC8400ベクター(参照により本明細書に組み込まれる、Barouchら、J.Virol,79,8828-8834,2005に記載されている)などのDNA免疫のためのプラスミドベクターに含められ得る。
【0168】
免疫のために核酸を使用する別のアプローチでは、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインまたは組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、弱毒化ウイルス宿主またはベクターまたは細菌ベクターによって発現させることができる。組換えワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、サイトメガロウイルスまたは他のウイルスベクターを使用して、ペプチドまたはタンパク質を発現させ、それによってCTL応答を惹起することができる。例えば、免疫プロトコルに有用なワクシニアウイルスのベクターおよび方法は、米国特許第4,722,848号に記載されている。BCG(カルメット・ゲラン桿菌)は、ペプチドの発現のための別のベクターを提供する(Stover,Nature351:456-460,1991を参照のこと)。
【0169】
一実施形態では、開示された組換えSARS-CoV-2 SエクトドメインまたはSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体をコードする核酸が細胞に直接導入される。例えば、核酸は、標準的な方法によって金ミクロスフェア上にロードされ、Bio-Rad社のHELIOS(商標)Gene Gunなどのデバイスによって皮膚に導入され得る。核酸は、強力なプロモーターの制御下にあるプラスミドからなる「裸の」ものであり得る。典型的には、DNAは筋肉に注射されるが、他の部位に直接注射することもできる。注射のための投与量は、通常、約0.5μg/kg~約50mg/kgであり、典型的には、約0.005mg/kg~約5mg/kgである(例えば、米国特許第5,589,466号を参照のこと)である。
【0170】
例えば、核酸は、標準的な方法によって金ミクロスフェア上にロードされ、Bio-Rad社のHELIOS(商標)Gene Gunなどのデバイスによって皮膚に導入され得る。核酸は、強力なプロモーターの制御下にあるプラスミドからなる「裸の」ものであり得る。典型的には、DNAは筋肉に注射されるが、他の部位に直接注射することもできる。注射のための投与量は、通常、約0.5μg/kg~約50mg/kgであり、典型的には、約0.005mg/kg~約5mg/kgである(例えば、米国特許第5,589,466号を参照のこと)である。
【0171】
別の実施形態では、mRNAベースの免疫プロトコルを使用して、開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインをコードする核酸を細胞に直接送達することができる。いくつかの実施形態では、mRNAに基づく核酸ベースのワクチンは、前述のアプローチの強力な代替手段を提供し得る。mRNAワクチンは、宿主ゲノムへのDNA組込みに関する安全性の懸念を排除し、宿主細胞の細胞質で直接翻訳することができる。さらに、RNAの単純な無細胞インビトロ合成は、ウイルスベクターに関連する製造上の複雑さを回避する。開示された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメインをコードする核酸を送達するために使用することができるRNAベースのワクチン接種の2つの例示的な形態としては、従来の非増幅mRNA免疫(例えば、Petschら、「Protective efficacy of in vitro synthesized,specific mRNA vaccines against influenza A virus infection」,Nature biotechnology,30(12):1210-6,2012)を参照のこと)および自己増幅mRNA免疫(例えば、Geallら、「Nonviral delivery of self-amplifying RNA vaccines」,PNAS,109(36):14604-14609,2012;Maginiら、「Self-Amplifying mRNA Vaccines Expressing Multiple Conserved Influenza Antigens Confer Protection against Homologous and Heterosubtypic Viral Challenge」,PLoS One,11(8):e0161193,2016;およびBritoら、「Self-amplifying mRNA vaccines」,Adv Genet.,89:179-233,2015を参照のこと)が挙げられる。
【0172】
有効量の1つまたはそれを超える開示された免疫原の対象への投与は、対象において中和免疫応答を誘導する。中和活性を評価するために、対象の免疫後、血清を適切な時点で対象から回収し、凍結し、中和試験のために保存することができる。中和活性についてアッセイするための方法としては、プラーク減少中和(PRNT)アッセイ、マイクロ中和アッセイ、フローサイトメトリーベースのアッセイ、シングルサイクル感染アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、血清中和活性は、SARS-CoV(Martinら、Vaccine 26,6338,2008;Yangら、Nature、428,561,2004;Naldiniら、PNAS93,11382,1996;Yangら、PNAS102,797,2005)に使用されるものと同様のSARS-CoV-2シュードウイルスを使用してアッセイすることができる。
【実施例
【0173】
以下の実施例は、特定の実施形態の特定の特徴を説明するために提供されるが、特許請求の範囲は、例示された特徴に限定されるべきではない。
実施例1
融合前安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質
【0174】
本実施例は、融合前コンフォメーションで安定化された組換えSARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体の開発について記載している。
【0175】
SARS-CoV-2 Sタンパク質の配列を調査して、その構造に関する詳細を明らかにした。このことから、Sタンパク質をその融合前コンフォメーションで安定化させるためにアミノ酸置換を使用する可能性を評価した。SARS-CoV-2 Sタンパク質をその融合前コンフォメーションで安定化させるために特に有効である2つの変異:K986PおよびV987Pが同定された。K986PおよびV987Pの置換を有するSARS-CoV-2 Sを「S-2P」と呼ぶ。これらの2つのプロリン置換は、セントラルヘリックスとHR1との間のSARS-CoV-2 S2の上部(膜遠位部)に位置しており、融合前から融合後へのコンフォメーションの変化を防止する。図1Aは、SARS-CoV-2 Sドメインの概略図を示す。
【0176】
融合前SARS-CoV-2 Sタンパク質(K986PおよびV987Pを有する)を、C末端T4フィブリチン三量体化ドメインを有する可溶性タンパク質(TMおよびCTを含まない)として発現させた。シグナルペプチドおよびT4フィブリチン三量体化ドメインを含めて、K986PおよびV987P置換を有するSARS-CoV-2 S三量体のプロトマー配列を配列番号2として提供する。三量体化ドメインへのC末端で、発現されたタンパク質は、HRV3C切断部位、6xHisタグおよびTwin-Strep-tagを含む精製・検出タグを含んでいた。配列検証後、発現プラスミドをFreeStyle293細胞に一過性にトランスフェクトした。培養物を6日後に採取し、分泌されたタンパク質を、タンパク質のC末端上の親和性タグを使用してNi2+-NTAおよびStrepTactin樹脂上を通過させることによって上清から精製した。次いで、精製されたタンパク質をサイズ排除カラムに通して、それらのオリゴマーの状況(図1B)を評価し、三量体エクトドメインに対応する単分散画分を単離した。次いで、タンパク質発現レベルをSDS-PAGEによって評価した。
【0177】
SARS-CoV-2 Sタンパク質の融合前安定化は、対応する野生型タンパク質と比較してこれらの変異を組み合わせた場合の発現レベルの増加によって予備的に示される。
【0178】
二重プロリン変異体SARS-CoV-2 Sバリアントのコンフォメーションをネガティブ染色電子顕微鏡法(図1Cおよび図1D)によって評価した。二重プロリン変異を有するSバリアントは均一であり、予想される融合前形状の三量体を形成した。これらのエクトドメイン三量体の各々を単一のピークとして精製し、典型的な融合前コンフォメーションで三量体を形成した。対照的に、天然配列を有する対応するSタンパク質は、混合コンフォメーションの三量体を形成し、いくつかの三量体は典型的な融合前コンフォメーションであり、他の三量体は典型的な細長く伸びた融合後コンフォメーションであった。
実施例2
融合前安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質は、動物モデルにおいて中和免疫応答を惹起する
【0179】
本実施例は、免疫原として融合前安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質を使用した動物モデルにおけるSARS-CoV-2感染に対する中和免疫応答の惹起について記載している。
【0180】
可溶性の融合前安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質を実施例1に記載したように調製した。対照として、K986PおよびV987P置換のないSARS-CoV-2 Sを、C末端T4フィブリチン三量体化ドメインを有する可溶性タンパク質(TMおよびCTを含まない)として発現させた。操作された置換のないSARS-CoV 2S配列はSARS-CoV-2 S WTと呼ばれる。
【0181】
3つの異なるマウス系統、BALB/cJマウス、C57BL/6Jマウス、およびB6C3F1/Jマウスを、0週目および3週目に、PBS、0.01μg、0.1μgもしくは1μgのSigma Adjuvant System(SAS)をアジュバントとして添加した可溶性SARS-CoV-2 S WTまたは可溶性SARS-CoV-2 S-2Pで免疫し、血清をプライムの2週間後およびブーストの2週間後に回収した。SARS-CoV-2 S-2Pを免疫したマウスからの血清を、ELISAによってSARS-CoV-2 S特異的IgGについて評価した(図2A-2C)。S WTおよびS-2Pを免疫したBALB/cJマウスの両方からのブースト後血清を、同型SARS-CoV-2シュードウイルス(図2D)に対する中和抗体について評価した。結果は、可溶性SARS-CoV-2 S-2Pがプライム条件およびブースト条件の後に用量依存的にS特異的結合抗体を惹起し、1μgの可溶性SARS-CoV-2 S-2P免疫原が動物モデルにおいて強い中和抗体応答を惹起したことを示す。
【0182】
ウイルス複製からマウスを保護する可溶性SARS-CoV-2 S WTおよび可溶性SARS-CoV-2 S-2P免疫の能力を評価した。BALB/cJマウスを0週目および3週目に、PBS、0.01μg、0.1μgもしくは1μgの可溶性SARS-CoV-2S WTまたはSASをアジュバントとして添加した可溶性SARS-CoV-2 S-2Pで免疫した。ブーストの4週間後、マウスにマウス適合型SARS-CoV-2(Dinnonら、「a mouse adapted SARS-CoV-2 model for the evaluation of COVID-19 medical countermeasures」,BioRxiv.,2020.05.06.081497に記載されており、当該文献は参照により本明細書に組み込まれる)をチャレンジした。チャレンジの2日後、ウイルス量がピーク時、肺(図3A)および鼻甲介(図3B)を、プラークアッセイによるウイルス量の評価のために採取した。群を、多重比較検定を伴う一元配置分散分析によって比較した。結果は、0.1μgおよび1μgの条件が上気道および下気道におけるウイルス複製を排除したことを示す。0.01μgのS WTは保護せず、これはS WTの破過用量(breakthrough dose)であることを示唆した。0.01μgのS-2P免疫マウスは、実験とは無関係の死亡のため、チャレンジしなかった(N/T)。
実施例3
免疫原としての融合前安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質を含有するタンパク質ナノ粒子
【0183】
本実施例は、タンパク質ナノ粒子足場にコンジュゲートされた融合前安定化SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体および免疫原としてのその使用を例示している。
【0184】
LuS-およびフェリチンナノ粒子足場のグリカン修飾。抗原のナノ粒子提示のための信頼できるプラットフォームを構築するために、Aquifex aeolicusルマジンシンターゼ(LuS)およびHelicobacter pyloriフェリチンを、抗原をナノ粒子表面に提示するためのSpyTag:SpyCatcherシステム(Brune,K.Dら、Plug-and-Display:decoration of Virus-Like Particles via isopeptide bonds for modular immunization.Sci Rep 6,19234,2016)と呼ばれるイソペプチド結合コンジュゲーションシステムと共に、ナノ粒子足場として選択した。SpyTag:SpyCatcherシステムは、イソペプチド結合により非常に特異的で安定であり、ナノ粒子表面上の抗原のコンジュゲーションのために使用されている(図4A)(Zakeri,Bら「Peptide tag forming a rapid covalent bond to a protein,through engineering a bacterial adhesin」,Proc Natl Acad Sci U S A 109,E690-697,(2012);Brune,K.Dら、Plug-and-decoration of Virus-Like Particles via isopeptide bonds for modular immunization.Sci Rep 6,19234,(2016))。LuSおよびフェリチンは、臨床研究においてナノ粒子免疫原のための足場として機能してきた。フェリチンおよびLuSの両方のN末端はナノ粒子表面に露出しており、したがって、SpyTagまたはSpyCatcherの結合のために利用できる(図4B)。LuSのC末端もナノ粒子表面上で利用可能であり、精製タグの提示に使用することができる。SpyTagまたはSpyCatcherとLuSまたはフェリチンとの融合タンパク質を発現する哺乳動物発現コンストラクトを設計した。コンストラクトは、精製目的のためのHisタグおよびStrepタグの両方を、発現されたタンパク質を培地に分泌するためのシグナルペプチドと共に含んでいた(図4B)。
【0185】
初期コンストラクトでは、ナノ粒子-SpyTagまたはSpyCatcher融合タンパク質の可溶性タンパク質は低レベルであった。タンパク質の溶解度および発現を改善するために、グリカンをナノ粒子の表面に付加した。SpyTagおよびSpyCatcherおよび付加されたN結合型グリコシル化部位を有する一群のLuSおよびフェリチンコンストラクトを設計した(表1および2)。LuSコンストラクトの場合、71位のグリコシル化部位(PDB 1HQKナンバリング)を追加した。フェリチンコンストラクトの場合、2つの潜在的なグリコシル化部位(96および148)を試験した。N結合型グリコシル化部位の追加は、哺乳動物細胞培養上清中での可溶性ナノ粒子の発現を促進した。3つのコンストラクトは、良好に集合したナノ粒子、N71およびN末端にSpyTagを有するLuS(以下、LuS-N71-SpyTagと呼ぶ)、N96およびSpyTagを有するフェリチン、ならびにフェリチンS148(N146のグリカン)およびSpyTagの優れた収量をもたらした(表1)。2つのフェリチンコンストラクトのうち、N96およびSpyTagを有するフェリチンはより高い収量を有し、更なる研究のために選択した(フェリチン-N96-SpyTagと呼ばれる)。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)および電子顕微鏡法(EM)による分析は、LuS-N71-SpyTagが溶液中で均一なナノ粒子集団を形成することを示した(図4Cおよび4E)。フェリチン-N96-SpyTag試料は、主に無傷のナノ粒子から構成され、わずかに未集合の種も有していた(図4Cおよび4D)。ネガティブ染色電子顕微鏡法(EM)による画像は、両方のナノ粒子が予想されるサイズで良好に集合していることを示した(図4E)。二次元クラス平均は、ナノ粒子のより詳細な構造的特徴を明らかにし、これは2つのナノ粒子の以前に発表された構造と一致していた。これらのデータは、フェリチンおよびLuSナノ粒子がSpyTagおよびグリコシル化部位の付加と適合することを示した。これらの変更は耐容性が良好であり、堅牢なナノ粒子集合体を可能にした。LuS-およびフェリチンSpyTagナノ粒子のグリコシル化を検証するために、PNGase F消化を実施し、SDS-PAGEを使用してグリカン切断を評価した(図4D)。両方のナノ粒子は、PNGase Fの存在下でバンドシフトを示し、ナノ粒子上にN結合型グリカンが存在し、それはアミダーゼ消化により除去されたことがわかる。LuS-N71-SpyTagにおけるグリカン切断は明確であるが、フェリチン-N96-SpyTagではそれほど明らかではなく、これはおそらくフェリチン-N96-SpyTagの不完全なグリコシル化およびSDS-PAGE上のフェリチンの複数のバンドのためであると考えられる。フェリチンは、一部の研究ではSDS-PAGE上で単一のバンドを示すが、他の研究では複数のバンドを示すことが観察されており、これはおそらくC末端でのプロテアーゼ切断または不完全なグリコシル化のためである可能性がある。しかしながら、これらの異なるサイズのフェリチン分子は、SECおよびEMによって示されるように、予想される寸法を有するナノ粒子として正しく集合した(図4C、4E)。
表1.SpyTagを有するLuSおよびフェリチンナノ粒子
【表1-1】
【表1-2】
表2.タンパク質発現のためのコンストラクトのアミノ酸配列
【表2】
このアミノ酸配列は、一本鎖Fc精製タグを含む(参考文献38を参照のこと)。
【0186】
SpyTag:SpyCatcherを介したLuSナノ粒子へのSARS-CoV-2スパイク三量体のコンジュゲーションにより、スパイク三量体がナノ粒子表面に均一に提示される。C末端SpyCatcherと融合したSARS-CoV-2スパイク(配列番号14)を発現させ、精製し、精製LuS-N71-SpyTagナノ粒子にコンジュゲートさせた(図5A-5C)。このコンストラクトについて、融合前SARS-CoV-2 Sエクトドメイン三量体は、S1/S2切断部位を除去するためのGSAS置換、融合前安定化のためのK986PおよびV987P置換ならびにC末端T4ファージフィブリチン三量体化ドメインを含むプロトマーを含有していた。精製目的のために、タンパク質は一本鎖Fcタグ(この一本鎖Fcタグの説明については、Zhouら、Structure-Based Design with Tag-Based Purification and In-Process Biotinylation Enable Streamlined Development of SARS-CoV-2 Spike Molecular Probes.bioRxiv,2020.2006.2022.166033を参照のこと)を含んでいた。コンジュゲーション混合物をSECカラムにロードして、コンジュゲートしていないLuS-N71-SpyTagおよびSARS-CoV-2 SpyCatcherからコンジュゲートしたナノ粒子生成物LuS-N71-Spy結合型CoVスパイクを精製した(図5B)。SDS-PAGE分析により、コンジュゲートした生成物が予想される分子量を有することが明らかになり、コンジュゲーション後にコンジュゲートしていないスパイク-SpyCatcherは観察されなかった(図5C)。
【0187】
コンジュゲーション効率を推定するために、コンジュゲートしたナノ粒子生成物(図5C)のSDS-PAGEゲル画像上の各バンドの強度を、各成分の量(mass)の代用として測定した。各成分の分子量を考慮して、試料中の全タンパク質に対する各成分のモル比を算出した。このことから、全LuSナノ粒子サブユニットの91%がスパイク三量体にコンジュゲートしていると推定される。ネガティブ染色EMにより、LuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子が予想されるサイズを示すことが判明し、スパイク三量体がLuSナノ粒子表面に提示された(図5D)。SPR測定により、LuS-N71-Spy結合型SARS-CoV-2スパイクが受容体結合ドメイン(RBD)を標的とする抗体であるCR3022(ter Meulen,Jら、Human monoclonal antibody combination against SARS coronavirus:synergy and coverage of escape mutants.PLoS Med3,e237,2006;Yuan,M.ら、A highly conserved cryptic epitope in the receptor-binding domains of SARS-CoV-2 and SARS-CoV.Science,2020)に結合することが示され、LuS-SpyTag:SpyCatcherシステムを用いたスパイク三量体のナノ粒子の提示に成功したことがわかる(図5E)。
【0188】
Spy結合型ナノ粒子は、中和抗体を惹起するSARS-CoV-2スパイクの潜在性を高める。免疫原性を評価するために、0週目および3週目にマウスにLuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子または可溶性スパイク三量体(実施例1のように2P変異によって安定化されている)、またはモック(LuS-N71-SpyTag)ナノ粒子を注射した(図6A)。各免疫の2週間後に血清試料を回収した。最初の免疫後、0.08μgの最低免疫原用量で、スパイクナノ粒子免疫血清は5,116の抗SARS-CoV-2スパイクELISA幾何平均力価を示したが、10の三量体スパイク免疫血清のうち1つのみが測定可能な力価を示した(図6B)。2回目の免疫後、スパイクナノ粒子免疫血清の力価は実質的に約25倍増加した。より高用量のスパイクナノ粒子(0.4および2.0μg)による免疫は、2週目および5週目の両方で、力価をより漸増的に増加させた。対照的に、スパイク三量体の用量の増加はELISA力価をより実質的に上昇させ、2.0μgのスパイク三量体免疫血清中のマウスのうちの2匹が1,638,400の力価で検出のアッセイ上限に達した(図6B)。
【0189】
さらに、シュードウイルス中和アッセイにより、LuS-N71-Spy結合型CoV-2スパイクナノ粒子が強力な中和応答を惹起し、免疫用量がそれぞれ0.08、0.4および2μgの場合、幾何平均ID50力価が412、1820および1501であることが明らかになった(図6C)。比較すると、2つの用量の可溶性三量体スパイクは、0.4および2μgの条件で中和力価を惹起し、幾何平均ID50はそれぞれ49および315であり、0.08μgの用量では測定可能な中和はなかった。本質的に、0.08μgのスパイクナノ粒子は、2μgの三量体スパイクと統計的に区別できないものの、より高い中和応答を惹起した。これは、スパイク単独と比較してスパイクナノ粒子の重量基準で約25倍高い免疫原性を示し、実質的な「用量節約」効果を示唆するものであった。全体として、LuSナノ粒子表面上のSARS-CoV-2スパイクの提示は、その免疫原性を有意に改善し、三量体型と比較して強力な中和応答を惹起するために必要な免疫原用量はより低かった。
【0190】
記載された方法または組成物の正確な詳細は、記載された実施形態の趣旨から逸脱することなく変更または修正され得ることは明らかである。本発明者らは、以下の特許請求の範囲および精神の範囲内に含まれるすべてのそのような修正および変更を主張する。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6
【配列表】
2023513693000001.app
【国際調査報告】