IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テンザ、インク.の特許一覧

特表2023-513697粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬
<>
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図1
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図2
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図3
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図4
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図5
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図6
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図7
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図8
  • 特表-粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】粘膜出血を伴う疾患の検出、診断および治療のための生物学的治療薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/74 20060101AFI20230327BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20230327BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230327BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230327BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230327BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230327BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230327BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20230327BHJP
【FI】
C12N15/74 110Z
A61K35/744 ZNA
A61K35/74 A
A61P7/04
A61P13/00
A61P35/00
A61P31/00
A61P1/16
A61P1/00
A61K35/747
C12N15/113 Z
C12N1/21
C12Q1/02
C12Q1/6897 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548445
(86)(22)【出願日】2021-02-11
(85)【翻訳文提出日】2022-09-03
(86)【国際出願番号】 US2021017683
(87)【国際公開番号】W WO2021163345
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】62/975,186
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522315792
【氏名又は名称】テンザ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】デビナス、アニック
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QS40
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA30X
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC56
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA53
4C087ZA66
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB31
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 本明細書で提供されるのは、ヘム応答性プロモーター配列、プロバイオティクス細菌およびバイオ治療薬として使用され得るヘム応答性リプレッサーシステムに向けられた実施形態であり、かかるプロバイオティクス細菌およびバイオ治療薬は、粘膜環境における出血を検出する方法、粘膜環境におけるインビボの出血の診断、および粘膜環境におけるインビボの出血を処置する方法に記載される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列ID番号:104と少なくとも70%相同である核酸配列を含むヘム応答性プロモーター配列。
【請求項2】
配列ID番号:104と少なくとも70%相同である前記核酸配列が、乳酸菌の構成的プロモーターに融合される、請求項1記載のヘム応答性プロモーター配列。
【請求項3】
前記構成的プロモーターが、ldh、clpC、lacA、ermB、またはpgmである、請求項1または請求項2に記載のヘム応答性プロモーター配列。
【請求項4】
配列ID番号:102または配列ID番号:102と少なくとも70%相同な核酸配列で表される、請求項1記載のヘム応答性プロモーター配列。
【請求項5】
配列ID番号:105または配列ID番号:105と少なくとも70%相同な核酸配列で表される、請求項1記載のヘム応答性プロモーター配列。
【請求項6】
乳酸菌の構成的プロモーターに挿入される、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むヘム応答性プロモーター配列。
【請求項7】
前記構成的プロモーターが、ldh、clpC、lacA、ermB、またはpgmである、請求項6に記載のヘム応答性プロモーター配列。
【請求項8】
1つまたはそれ以上のhrtO結合部位が、配列ID番号:1~100のいずれか1つによって表されるタンパク質に結合可能である、請求項6または請求項7に記載のヘム応答性プロモーター配列。
【請求項9】
ヘム応答性リプレッサーシステムであって、
a)乳酸菌の第1の構成プロモーターおよび1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含む第1の核酸と、および
b)HrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結された第2の構成的プロモーターを含む第2の核酸であって、前記HrtRタンパク質がヘムおよび前記hrtOリプレッサー結合部位に結合可能である、第2の核酸と、を含み、
前記ヘムに結合している場合、前記HrtRタンパク質は前記hrtOリプレッサー結合部位に結合する能力がなく、ヘムに結合していない場合、前記HrtRタンパク質は前記hrtOリプレッサー結合部位に結合する能力がある、ヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項10】
前記HrtRタンパク質が、配列ID番号:1~100のいずれか1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項9に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項11】
前記ヘム応答性プロモーターが、乳酸菌株の構成的プロモーターを含む、請求項9または請求項10に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項12】
前記構成プロモーターが、slpA、ldh、clpC、lacA、ermB、またはpgmである、請求項9~11のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項13】
前記1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位が、前記構成的プロモーターに挿入される、請求項9~12のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項14】
前記hrtOリプレッサー結合部位が、配列ID番号:103と少なくとも70%相同である核酸配列に挿入される、請求項9~13のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項15】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:104と少なくとも70%相同である核酸配列を含む、請求項9~14のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項16】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:102と少なくとも70%相同である、請求項9~14のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項17】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:102と少なくとも95%相同である、請求項9~14のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項18】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:105と少なくとも70%相同である核酸配列を含む、請求項9~14のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項19】
ヘム応答性リプレッサーシステムであって、
a)配列ID番号:104に少なくとも90%相同であるアミノ酸配列と融合される第1の構成プロモーターを含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、および
b)配列ID番号:104の前記hrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結される第2の構成的プロモーターを含む第2の核酸と、を含み、
前記ヘムに結合している場合、前記HrtRタンパク質はhrtOリプレッサー結合部位に結合する能力がなく、前記ヘムに結合していない場合、前記HrtRタンパク質はhrtOリプレッサー結合部位に結合する能力がある、ヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項20】
前記HrtRタンパク質が、配列ID番号:1~100のいずれか1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項21】
第1の構成プロモーターと第2の構成が同じである、請求項19または20に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項22】
第1および第2の構成プロモーターが、slpA、ldh、clpC、lacA、ermB、またはpgmである、請求項19~21のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項23】
前記ヘム応答性プロモーターが標的遺伝子に作動可能に連結される、請求項19~22のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項24】
前記標的遺伝子がレポーター遺伝子である、請求項23に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項25】
前記レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質、発光タンパク質、生物発光タンパク質、酵素、またはエピトープタグをコード化する、請求項24に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項26】
前記標的遺伝子が治療用タンパク質の発現をコード化する、請求項23のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項27】
請求項9~26のいずれか1項に記載のヘ前記ム応答性リプレッサーシステムで遺伝子的に改変された細菌を含む、組換え細菌。
【請求項28】
前記細菌が乳酸菌である、請求項27に記載の組換え細菌。
【請求項29】
細菌がラクトバチルス属細菌またはラクトコッカス属細菌である、請求項17または28に記載の組換え細菌。
【請求項30】
請求項27~29のいずれか1項に記載の組換え細菌を含む、医薬組成物。
【請求項31】
対象の粘膜環境における出血を検出する方法であって、
a)ヘム感受性転写リプレッサーHrtRタンパク質に結合する1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、および前記HrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結した第2の核酸とで、遺伝的に改変した組換え細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程と、
b)前記対象のレポータータンパク質の存在を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項32】
対象の粘膜環境における胃出血障害を処方的に治療する方法であって、
a)ヘム感受性転写リプレッサーHrtRタンパク質に結合する、治療タンパク質に作動可能に連結される、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、および前記HrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結した第2の核酸と、で遺伝的に改変した組換え細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程と、および
b)前記粘膜環境に存在するヘムの量に応じた規模で、出血を示す対象の胃腸組織への治療用製品を製造する工程と、
を含む、方法。
【請求項33】
前記HrtRタンパク質が、配列ID番号:1~100のいずれか1つと少なくとも90%同一である配列を有する、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記hrtOリプレッサー結合部位が、ラクトバチルス・ラクティス由来のhrtOリプレッサー結合部位である、請求項31~33のいずれか1項に記載のヘム応答性リプレッサーシステム。
【請求項35】
前記ヘム応答性プロモーターが、乳酸菌株の構成的プロモーターをさらに含む、請求項31~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記構成的プロモーターが、slpA、ldh、clpC、lacA、ermB、またはpgmである、請求項31~35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:102に少なくとも70%相同である、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:102と少なくとも95%相同である、請求項31~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記ヘム応答性プロモーター配列が、配列ID番号:104と少なくとも70%相同である核酸配列を含む、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質、発光タンパク質、生物発光タンパク質、酵素、エピトープタグ、またはそれらの任意の組み合わせをコード化する、請求項31および33~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記レポーター遺伝子が治療用タンパク質をコード化する、請求項32~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記対象が出血性障害または疾患と診断されているか、またはその危険性がある、請求項31~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記出血性障害または疾患が、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、大腸炎、消化性潰瘍、胃炎、ポリープ、痔、肝硬変、感染症、および癌である、請求項32~41のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、細胞における遺伝子発現を調節する方法に関し、より詳細には、ヘムの存在下での遺伝子発現を調節する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消化管(GI)出血は、罹患率および死亡率の主要な原因である。消化管出血の基礎となる原因には、血管異形成、腫瘍、胃潰瘍、大腸炎、憩室疾患、食道静脈瘤、クローン病、過敏性腸症候群、痔核、および消化性潰瘍などがある。一般的には、便や血液の分析、胃洗浄、内視鏡、腸内視鏡、大腸内視鏡、軟性S状結腸鏡、および画像検査など、いくつかの検査を行い、消化管出血の原因を特定することが行われる。これらの検査は欠点があり、不便であり、医療費の上昇に寄与する。したがって、消化管(GI)出血を検出および診断するための迅速、効果的かつ便利なツールおよび方法に対する継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
態様において、本開示は、配列ID番号:104と少なくとも70%相同である核酸配列を含むヘム応答性プロモーターを提供し、これは、任意の構成的プロモーターに融合または導入され得る。
【0004】
別の態様において、本開示は、乳酸菌の第1の構成的プロモーターと1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位とを含む第1の核酸と、およびHrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結された第2の構成的プロモーターを含む第2の核酸と、を含み、HrtRタンパク質がヘムおよびhrtOリプレッサー結合部位に結合可能であり、ヘムに結合する場合、HrtRタンパク質がhrtOリプレッサー結合部位に結合できず、ヘムに結合しない場合、HrtRタンパク質がhrtOリプレッサー結合部位に結合可能である、ヘム応答性リプレッサーシステムを提供する。
【0005】
任意の実施形態において、HrtRタンパク質は、配列ID番号:1~100のいずれか1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し得る。
【0006】
さらに別の態様において、本開示は、配列ID番号:104に少なくとも90%相同であるアミノ酸配列に融合した第1の構成プロモーターを含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、および配列ID番号:104のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結した第2の構成プロモーターを含む第2の核酸と、を含み、ヘムに結合した場合、HrtRタンパク質はhrtOリプレッサー結合部位に結合できず、ヘムに結合しない場合、HrtRタンパク質はhrtOリプレッサー結合部位に結合可能である、ヘム応答性リプレッサーシステムを提供する。
【0007】
さらに別の態様において、本開示は、上記のヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝子組み換えされた細菌を含む、例えば乳酸菌などの組換え細菌を提供する。
【0008】
この組換え細菌は、例えば、対象に投与可能な医薬組成物に組み込んで、対象の粘膜環境における出血を検出する用途に使用することができる。
【0009】
したがって、別の態様において、本開示は、ヘム感受性転写リプレッサーHrtRタンパク質と結合する1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むヘム応答性プロモーターと、およびHrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結した第2の核酸とで遺伝子組み換えした組換え細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程と、対象にレポータータンパク質の存在を検出する工程と、を含む対象の粘膜環境における出血を検出する方法を提供する.
【0010】
また、組換え細菌は、対象に治療用タンパク質またはペプチドを送達するための医薬組成物に組み込んでも良い。したがって、さらに別の態様において、本開示は、対象の粘膜環境における胃出血障害を処方的に治療する方法であって、ヘム感受性転写リプレッサーHrtRタンパク質に結合する、治療タンパク質に作動可能に連結される、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、および前記HrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結した第2の核酸と、で遺伝的に改変した組換え細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程と、および前記粘膜環境に存在するヘムの量に応じた規模で、出血を示す対象の胃腸組織への治療用製品を製造する工程と、を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示の前記および他の特徴は、添付図を参照して進むいくつかの実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるだろう。
【0012】
図1図1は、ラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)由来のhrtOリプレッサー結合部位の、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFM由来のslpAプロモーターの転写開始部位(+1)の5'UTR領域内の位置と転写調節機能を示す模式図である。
図2図2は、配列ID番号:102、2つのhrtOリプレッサー結合部位で改変されたラクトバチルス・アシドフィルスNCFM由来のslpAプロモーターのヘム反応性バージョンの核酸配列を提供する。
図3図3は、ラクトバチルス・アシドフィルスNCFM由来のslpAプロモーターの5'UTRである、配列ID番号:103を提供する。
図4図4は、ラクトバチルス・アシドフィルスNCFM由来のslpAプロモーターの5'UTRをラクトバチルス・ラクチス由来の2つのhrtOリプレッサー結合部位で改変した配列ID番号:104を提供する。
図5図5は、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)BR11由来のヘム応答性プロモーターclpCの核酸配列を、ラクトバチルス・アシドフィルスNCFM由来のslpAプロモーターの5'UTRで改変した配列ID番号:105を提供する。
図6図6は、12時間にわたるヘム存在に対する遺伝子的に改変したラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GGのin vitro応答を描写する。
図7図7は、図6からのデータを細菌増殖に正規化したものを提供する。
図8図8は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GGによるヘム耐性を、ヘム濃度の範囲にわたって示す。
図9図9は、本明細書に記載のヘム応答性リプレッサーシステムで改変したラクトバチルス・ラムノサスをマウスに投与した後の複数のマウス大腸の画像を提供し、ここでヘム応答性プロモーターは、蛍光タンパク質の発現をコードするレポーター遺伝子に作動可能に連結される。マウスには、通常の飲料水(左)または出血を誘発する%DSS処理した飲料水(右)のいずれかを提供した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、消化管(GI)などの生体内(in vivo)粘膜環境におけるヘムに応答してレポータータンパク質を発現するようにプログラムされた組換え細菌を提供することによって、消化管(GI)出血の検出および診断という前述の課題に対する解決策を提示する。遺伝子の発現は、粘膜環境におけるヘム(血液)刺激の量に比例する。開示された細菌はまた、ヘムの存在下で、感知された出血の重症度に応じた用量で治療薬を送達するように設計され得る。
【0014】
定義
以下の用語および方法の説明は、本開示をより良く説明し、当業者が本開示を実施する際の指針とするために提供されるものである。
【0015】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」は「含む(including)」を意味し、単数形「a」または「an」または「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の参照を含む。例えば、「治療剤を含む」という言及は、そのような治療剤の1つまたはそれ以上を含む。用語「または」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、記載された代替要素の単一の要素または2つまたはそれ以上の要素の組合せを意味する。例えば、「AまたはB」という語句は、A、B、またはAおよびBの両方の組み合わせを指す。さらに、本明細書で論じた様々な要素、特徴および工程、並びに各そのような要素、特徴または工程に対する他の既知の等価物は、本明細書に記載された原理に従った方法を実行するために、当業者が混合および組み合わせが可能である。様々な要素、特徴、および工程のうち、いくつかは特定の実施例において具体的に含まれ、他のものは具体的に除外されることになる。
【0016】
特に示さない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における通常の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を本開示の実施または試験に用いることができるが、好適な方法および材料は以下に記載される。材料、方法、および例は、例示に過ぎず、限定することを意図していない。本明細書で引用した全ての文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【0017】
いくつかの例において、特定の実施形態を説明し主張するために使用される、成分の量、分子量などの特性、反応条件などを表す数値は、「約」または「およそ」という用語によっていくつかの例で修正されるものと理解されるだろう。例えば、「約」または「およそ」は、それが記述する値の±5%の変動を示すことができる。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に記載される数値パラメータは、特定の実施形態に対する所望の特性に応じて変化し得る近似値である。いくつかの例の広範な範囲を定める数値範囲およびパラメータが近似値であるにもかかわらず、具体例に定める数値は、実際上可能な限り正確に報告される。本明細書における数値の範囲の記載は、単に、範囲内に入る各個別の値を個別に参照するための略記法として機能することを意図する。
【0018】
本開示の様々な実施形態の検討を容易にするために、特定の用語の説明を以下に示す。
【0019】
投与:有効な経路で対象に組成物を提供または投与すること。例示的な適用経路には、経口、経腸、非経口および局所経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
抗生物質:細菌やその他の微生物の増殖を抑制し、既存のコロニーを破壊することによって、細菌感染症を治療することができる化学物質である。
【0021】
抗炎症剤:炎症や腫れを抑える活性剤。
【0022】
酸化防止剤:酸素や過酸化物によって促進される酸化や反応を抑制する活性剤。
【0023】
がん:細胞の異常な増殖を特徴とする状態。がんの例としては、扁平上皮がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、消化器がん、ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、大腸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、ウィルムス腫瘍などの腎癌、基底細胞癌、メラノーマ、前立腺癌、食道癌などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
接触:直接物理的に関連して配置すること。固体および液体の両方を含む。
【0025】
薬物または活性剤:所望の薬理学的または生理学的効果をもたらす化学物質または化合物であり、治療的有効性、予防的有効性、または美容的有効性を有する薬剤が含まれる。また、この用語は、本明細書で特に言及した活性剤の薬学的に許容される、薬理学的に活性な誘導体およびアナログを包含し、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、包接化合物、アナログなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。好適な活性剤としては、アルコール抑止剤、アミノ酸、アンモニア解毒剤、同化剤、蘇生剤、鎮痛剤、アンドロゲン剤、麻酔剤、食欲低下薬、食欲減退薬、拮抗剤、抗アレルギー剤、抗アメビック剤、抗貧血剤、抗狭心症薬、抗不安薬、抗関節炎薬、抗動脈硬化薬、抗菌薬、抗悪性腫瘍薬および抗癌剤補助増強剤、抗コリン剤、抗胆石形成剤、抗凝固剤、抗コクシジウム剤、抗痙攣薬、抗うつ剤、抗糖尿病剤、下痢止め、利尿剤、解毒剤、運動障害改善剤、制吐剤、抗てんかん剤、抗エストロゲン剤、抗線溶剤、抗真菌剤、抗緑内障剤、抗血友病剤、止血剤、抗ヒスタミン剤、抗高脂血症剤、抗リポプロテイン血症薬、抗高血圧薬、抗低血圧症薬、抗生物質や抗ウイルス剤などの抗感染症薬、ステロイドおよび非ステロイドの抗炎症剤、抗角化剤、抗マラリア剤、抗菌剤、抗偏頭痛剤、抗有糸分裂剤、抗真菌剤、吐き気止め、抗腫瘍剤、抗好中球減少薬、抗妄想剤、抗寄生虫剤、抗パーキンソン病薬、抗ニューモシスチックス剤、抗増殖剤、抗前立腺肥大薬、抗プロトゾア薬、鎮痒剤、抗乾癬剤、抗精神病薬、解熱剤、鎮痙剤、抗リウマチ剤、抗シストゾーム剤、抗脂漏剤、抗痙攣剤、抗血栓剤、抗結核剤、鎮咳剤、抗潰瘍剤、抗尿路結石薬、抗ウイルス剤、GERD治療薬、抗不安薬、食欲抑制剤、注意欠陥障害(ADD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)治療薬、静菌および殺菌剤、前立腺肥大症治療薬、血糖調整剤、骨吸収抑制剤、気管支拡張剤、炭酸脱水素酵素阻害剤、抗狭心症薬、抗不整脈薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、心臓抑制剤、心血管系薬剤、心臓保護剤、強心剤などの心臓血管系薬剤、中枢神経系薬剤、中枢神経系刺激剤、胆汁分泌促進剤、コリン作用性薬剤、コリン作動性アゴニスト、コリンエステラーゼ不活性化剤、コクシジウム抑制薬剤認知補助剤および認知増強剤、咳および風邪薬(充血除去剤を含む)、抑うつ剤、診断補助剤、利尿剤、ドーパミン作動性薬剤、外部寄生虫駆除剤、催吐剤、歯垢・石灰・虫歯の形成を阻害する酵素、酵素阻害剤、エストロゲン、線溶性薬剤、フッ素系抗齲蝕剤、フリーオキシジェンラジカルスカベンジャー、消化管運動促進剤、遺伝子材料、グルココルチコイド、性腺刺激原理、止血剤、生薬、ヒスタミンH2受容体拮抗剤、ホルモン、ホルモン溶解剤、催眠剤、コレステロール低下剤、血糖降下剤、低脂血症治療剤、血圧降下剤、免疫剤、免疫調整剤、免疫制御剤、免疫賦活剤、免疫抑制剤、インポテンス治療補助剤、阻害剤、角質溶解剤、ロイコトリエン阻害剤、肝障害治療剤、エチレンジアミン四酢酸、四ナトリウム塩などの金属キレーター、有糸分裂阻害剤、気分安定剤、粘液溶解剤、粘膜保護剤、筋弛緩剤、散瞳剤、麻薬拮抗剤、神経弛緩剤、神経筋遮断剤、神経保護剤、ニコチン、NMDA拮抗剤、ホルモン剤以外のステロール誘導体、ビタミン・必須アミノ酸・脂肪酸等の栄養剤、抗緑内障剤などの眼科用薬、オキシトシン剤、鎮痛剤、副交感神経溶解剤、ペプチド薬、プラスミノーゲン活性化剤、血小板活性化因子拮抗剤、血小板凝集阻害剤、脳卒中後および頭部外傷後治療剤、増強剤、黄体ホルモン、プロスタグランジン、前立腺増殖阻害剤、創傷洗浄剤としてのタンパク質分解酵素、プロチロトロピン剤、精神刺激剤、向精神薬、放射性薬剤、調節剤、弛緩剤、再分割剤、疥癬防止剤、硬化剤、鎮静剤、鎮静-催眠剤、選択的アデノシンA1拮抗薬、セロトニン拮抗薬、セロトニン阻害剤、セロトニン受容体拮抗薬、黄体ホルモン、エストロゲン、コルチコステロイド、アンドロゲンおよび同化剤を含むステロイド、禁煙剤、刺激剤、抑制剤、交感神経刺激剤、相乗剤、甲状腺ホルモン、甲状腺阻害剤、甲状腺刺激剤、精神安定剤、歯の脱感作剤、過酸化物、金属亜塩素酸塩、過ホウ酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ酸およびそれらの組み合わせなどの歯のホワイトニング剤、不安定狭心症治療剤、排尿促進剤、血管収縮剤、冠状動脈、末梢および脳などの血管拡張剤、脆弱化剤、創傷治癒剤、キサンチン酸化酵素阻害剤などが挙げられるが、それだけに限られるわけではない。
【0026】
有効量:ある状態を予防、治療、軽減および/または改善するなどの所望の反応を誘発するのに十分な活性剤(単独または1つまたは以上の他の活性剤と共に)の量である。活性剤の有効量は、単独でまたは他の活性剤と一緒に、対象の状態に関連する1つまたはそれ以上の徴候または症状の減少を測定する、または治療される状態に関連する1つまたはそれ以上の分子のレベルを測定するなど、多くの異なる方法で決定することができる。
【0027】
発現:DNAからタンパク質やペプチドが作られる過程。遺伝子がmRNAに転写され、そのmRNAがタンパク質やペプチドに翻訳される過程。
【0028】
遺伝子:プロモーターの活性により転写を受ける核酸配列。遺伝子は、特定のタンパク質やペプチドをコード化する場合がある。
【0029】
粘膜:体内の様々な空洞を縁取り、内臓の表面を覆っている膜。緩い結合組織の層の上に1層以上の上皮細胞が重なる。粘膜は、ほとんどが内胚葉由来で、目、耳、鼻の中、口の中、唇、膣、尿道口、肛門などの体の様々な開口部で皮膚と連続している。粘膜の中には、粘液という濃い保護液を分泌しているものもある。膜の機能は、病原体や汚れの侵入を阻止し、身体組織が脱水状態になるのを防ぐことである。
【0030】
粘膜投与:対象の口、鼻、膣、目、耳からの投与。
【0031】
操作可能に連結される:遺伝子がその正常な機能を発揮できるような方法で結合していることを表す。例えば、ある遺伝子がプロモーターの制御下で転写され、その転写が通常その遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する場合、その遺伝子はプロモーターと作動可能に連結する。
【0032】
経口投与:口を通しての活性剤の送達。
【0033】
pH調節剤または調整剤:製剤中の所望のpH制御を達成するために使用される分子または緩衝剤。例示的なpH調整剤には、酸(例えば、酢酸、アジピン酸、炭酸、クエン酸、フマル酸、リン酸、ソルビン酸、コハク酸、酒石酸、塩基性pH調整剤(例えば、酸化マグネシウム、三リン酸カリウム)およびその薬学的に許容できる塩類が含まれる。
【0034】
プロバイオティクス:適切な量を投与されると、宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物。一例として、乳酸菌が挙げられる。本明細書に開示される任意の実施形態または態様において使用され得る乳酸菌細胞の例には、Lactobacillales目内の細菌細胞、さらにLactobacillus属、Leuconostoc、Pediococcus、Lactococcus、Streptococcus、Carnobacterium、Enterococcus、Oenococcus、Tetragenococcus、Vagococcus、またはWeisellaの中の細菌細胞が含まれる。例えば、好適な細菌細胞としては、Lactobacillus acetotolerans,Lactobacillus acidifarinae,Lactobacillus acidipiscis,Lactobacillus acidophilus,Lactobacillus agilis,Lactobacillus algidus,Lactobacillus alimentarius,Lactobacillus alvei,Lactobacillus alvi,Lactobacillus amylolyticus,Lactobacillus amylophilus,Lactobacillus amylotrophicus,Lactobacillus amylovorus,Lactobacillus animalis,Lactobacillus animata,Lactobacillus antri,Lactobacillus apinorum,Lactobacillus apis,Lactobacillus apodemi,Lactobacillus aquaticus,Lactobacillus aviarius,Lactobacillus backii,Lactobacillus bifermentans,Lactobacillus bombi,Lactobacillus bombicola,Lactobacillus brantae,Lactobacillus brevis,Lactobacillus brevisimilis,Lactobacillus buchneri,Lactobacillus cacaonum,Lactobacillus camelliae,Lactobacillus capillatus, Lactobacillus casei,Lactobacillus paracasei,Lactobacillus zeae,Lactobacillus catenefornis,Lactobacillus ceti,Lactobacillus coleohominis,Lactobacillus colini,Lactobacillus collinoides,Lactobacillus composti,Lactobacillus concavus,Lactobacillus coryniformis,Lactobacillus crispatus,Lactobacillus crustorum,Lactobacillus curieae, Lactobacillus curvatus,Lactobacillus delbrueckii,Lactobacillus dextrinicus,Lactobacillus diolivorans,Lactobacillus equi,Lactobacillus equicursoris, Lactobacillus equigenerosi,Lactobacillus fabifermentans,Lactobacillus faecis,Lactobacillus faeni, Lactobacillus farciminis,Lactobacillus farraginis, Lactobacillus fermentum,Lactobacillus floricola,Lactobacillus florum,Lactobacillus formosensis, Lactobacillus fornicalis,Lactobacillus fructivorans,Lactobacillus frumenti,Lactobacillus fuchuensis, Lactobacillus furfuricola,Lactobacillus futsaii,Lactobacillus gallinarum,Lactobacillus gasseri,Lactobacillus gastricus,Lactobacillus ghanensis,Lactobacillus gigeriorum,Lactobacillus ginsenosidimutans,Lactobacillus gorillae,Lactobacillus graminis,Lactobacillus guizhouensis,Lactobacillus halophilus, Lactobacillus hammesii,Lactobacillus hamsteri,Lactobacillus harbinensis,Lactobacillus hayakitensis,Lactobacillus heilongjiangensis,Lactobacillus helsingborgensis,Lactobacillus helveticus,Lactobacillus herbarum,Lactobacillus heterohiochii,Lactobacillus hilgardii,Lactobacillus hokkaidonensis,Lactobacillus hominis,Lactobacillus homohiochii,Lactobacillus hordei,Lactobacillus iatae,Lactobacillus iners,Lactobacillus ingluviei,Lactobacillus insectis,Lactobacillus insicii, Lactobacillus intermedius,Lactobacillus intestinalis,Lactobacillus iwatensis, Lactobacillus ixorae,Lactobacillus japonicus,Lactobacillus jensenii,Lactobacillus johnsonii,Lactobacillus kalixensis,Lactobacillus kefiranofaciens,Lactobacillus kefiri,Lactobacillus kimbladii,Lactobacillus kimchicus, Lactobacillus kimchiensis,Lactobacillus kisonensis,Lactobacillus kitasatonis,Lactobacillus koreensis,Lactobacillus kullabergensis,Lactobacillus kunkeei,Lactobacillus larvae,Lactobacillus leichmannii,Lactobacillus letivazi,Lactobacillus lindneri,Lactobacillus malefermentans,Lactobacillus mali,Lactobacillus manihotivorans,Lactobacillus mellifer,Lactobacillus mellis,Lactobacillus melliventris,Lactobacillus micheneri,Lactobacillus mindensis,Lactobacillus mixtipabuli,Lactobacillus mobilis,Lactobacillus modestisalitolerans,Lactobacillus mucosae,Lactobacillus mudanjiangensis,Lactobacillus murinus,Lactobacillus nagelii,Lactobacillus namurensis,Lactobacillus nantensis,Lactobacillus nasuensis,Lactobacillus nenjiangensis, Lactobacillus nodensis, Lactobacillus odoratitofui, Lactobacillus oeni, Lactobacillus oligofermentans,Lactobacillus ori,Lactobacillus oryzae, Lactobacillus otakiensis,Lactobacillus ozensis,Lactobacillus panis,Lactobacillus pantheris,Lactobacillus parabrevis,Lactobacillus parabuchneri,Lactobacillus paracollinoides,Lactobacillus parafarraginis,Lactobacillus parakefiri,Lactobacillus paralimentarius,Lactobacillus paraplantarum,Lactobacillus pasteurii,Lactobacillus paucivorans,Lactobacillus pentosus,Lactobacillus perolens,Lactobacillus plajomi,Lactobacillus plantarum,Lactobacillus pobuzihii,Lactobacillus pontis,Lactobacillus porcinae,Lactobacillus psittaci,Lactobacillus rapi,Lactobacillus rennanquilfy,Lactobacillus rennini, Lactobacillus reuteri,Lactobacillus rhamnosus,Lactobacillus rodentium,Lactobacillus rogosae,Lactobacillus rossiae,Lactobacillus ruminis,Lactobacillus saerimneri,Lactobacillus sakei,Lactobacillus salivarius,Lactobacillus sanfranciscensis,Lactobacillus saniviri,Lactobacillus satsumensis,Lactobacillus secaliphilus,Lactobacillus selangorensis,Lactobacillus senioris, Lactobacillus senmaizukei,Lactobacillus sharpeae,Lactobacillus shenzhenensis,Lactobacillus sicerae,Lactobacillus silagei,Lactobacillus siliginis,Lactobacillus similis,Lactobacillus songhuajiangensis,Lactobacillus spicheri,Lactobacillus sucicola,Lactobacillus suebicus,Lactobacillus sunkii,Lactobacillus taiwanensis,Lactobacillus thailandensis,Lactobacillus tucceti,
Lactobacillus ultunensis,Lactobacillus uvarum,Lactobacillus vaccinostercus,Lactobacillus vaginalis,Lactobacillus vermiforme,Lactobacillus vespulae,Lactobacillus vini,Lactobacillus wasatchensis,Lactobacillus xiangfangensis,Lactobacillus yonginensis,またはLactobacillus zymaeの種のからの細菌細胞を含む。
【0035】
プロモーター:遺伝子の転写を開始させるDNA配列。プロモーターは、通常、遺伝子の5'側に存在し、開始コドンの近傍に位置する。プロモーターは、ヘムなどの誘導物質に応答して転写を制御するために、本明細書に開示されているように、1つまたはそれ以上の転写抑制タンパク質結合部位を含むように改変されることがある。
【0036】
組換え体:核酸配列および配列要素を実験的に組み換えることによって形成される核酸、タンパク質、またはペプチドを指す。組換え宿主は、組換え核酸を受け取る任意の宿主(例えば、細菌)であり、「組換えタンパク質」という用語は、そのような宿主によって産生されるタンパク質を意味する。
【0037】
リプレッサーまたは転写抑制タンパク質:遺伝子などの特定の核酸配列がプロモーターから発現するのを抑制することができる分子。事実上、この分子はプロモーターからの遺伝子の発現を「抑制」する。
【0038】
リプレッサーシステムは、転写リプレッサータンパク質結合部位で改変されたプロモーターとそれに対応する転写リプレッサータンパク質を含むDNAを含み、このプロモーターは存在すると、転写リプレッサー結合部位に結合する。転写抑制タンパク質への薬剤の結合は、抑制タンパク質に構造変化を引き起こし、その結果、転写抑制タンパク質結合部位への結合に影響を与え、それによって薬剤応答性リプレッサーシステムが形成される可能性がある。このようなリプレッサーシステムは、作動可能に連結された遺伝子の転写を阻害するために使用することができる。薬剤応答性プロモーターは、一般に、任意の構成的プロモーター配列を使用して製造され得るが、論理的には、実行可能な配列の構築は、簡単ではない。例えば、国際特許出願公開番号WO2018183685は、転写抑制タンパク質tetRのリプレッサー結合部位への結合が下流の転写を抑制するテトラサイクリン応答性プロモーターシステムを開示する。tetRのtetOリプレッサー結合部位への結合は、tetRおよびtetOの両方の構造に、互いとの関係だけでなく、プロモーター配列との関係にも高度に依存する、異なる結合機構を利用する。
【0039】
配列:アミノ酸またはヌクレオチドの直線状整列。各アミノ酸またはヌクレオチドは、それぞれペプチド結合またはホスホジエステル結合によって、隣接するアミノ酸またはヌクレオチドに化学結合を介して接続される。本開示の特定の実施形態について特定の核酸またはアミノ酸配列が開示されても良いことは理解されるが、引用された配列からの逸脱は許容され、例えば、本明細書に開示された特定の配列に対して少なくとも70%、80%、85%の相同性、少なくとも90%の相同性、少なくとも95%の相同性、少なくとも97%の相同性、少なくとも98%の相同性または少なくとも99%の相同性を有する配列が適切でありうる。
【0040】
対象:ヒトおよびヒト以外の哺乳類、鳥類(ニワトリ、七面鳥など)、魚類、爬虫類を含む多細胞脊椎動物の生体。例えば、ヒトおよびヒト以外の霊長類、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマなどの哺乳類が含まれる。
【0041】
表面または体表:人体上または体内開口部内に位置する表面。したがって、「体表面」には、一実施例として、皮膚、歯、粘膜組織、粘膜の裏打ちを有する体腔の内表面を含む。
【0042】
局所投与:皮膚や粘膜などの体表面に活性物質を送達。例えば、様々な皮膚疾患の予防や治療における局所的な薬物投与など。
【0043】
トランスフェクション:1つまたはそれ以上の核酸を含むベクターを、プラスミドなどを介して細菌に送達。
【0044】
潰瘍(かいよう):皮膚や粘膜が破れて、表面組織が失われ、上皮組織が崩壊・壊死したもの。粘膜潰瘍は、特に粘膜に発生する。
【0045】
ベクター(または発現ベクター):それに連結された別の核酸を輸送することができる核酸のこと。ベクターおよびプラスミドは一般的であり、Invitrogen Corp.(カリフォルニア州、カールスバッド)、Stratagene(カリフォルニア州、ラホヤ)、New England Biolabs,Inc.(マサチューセッツ州、ビバリー)、およびAdgene(マサチューセッツ州、ケンブリッジ)などの会社から商業的に入手することが可能である。本明細書に開示される任意の実施形態において、核酸を細菌細胞に送達するために、任意のベクターを使用することができる。
【0046】
例えば、ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントがライゲーションされることができる円形の二本鎖DNAループを指す。ベクターには、一本鎖、二本鎖、または部分的に二本鎖である核酸分子;1つまたはそれ以上の自由末端を含む核酸分子、自由末端のない(例えば、円形)核酸分子、DNA、RNA、またはその両方を含む核酸分子、および当該分野で知られる他の種類のポリヌクレオチドなどがあるが、それらに限定されるものではない。実施例として、限定するものではないが、ベクターは、BAC(細菌組換え染色体)、フォスミド、コスミド、プラスミド、スーサイドプラスミド、シャトルベクター、P1ベクター、エピソーム、またはYAC(酵母組換え染色体)または他の適切なベクターを含むがこれらに限定しないシングルコピーまたはマルチコピーベクターであり得る。
【0047】
別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、ウイルス由来のDNAまたはRNA配列が、ウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、複製不能レトロウイルス、アデノウイルス、複製不能アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)にパッケージするためにベクター内に存在する。また、ウイルスベクターには、宿主細胞へのトランスフェクションのためにウイルスによって運ばれるポリヌクレオチドも含まれる。ウイルスベクターには、追加のDNAセグメントがウイルスゲノム、バクテリオファージまたはウイルスゲノムにライゲーションされ得るもの、または他の任意の適切なベクターが含まれる。宿主細胞は、ベクターが複製可能な任意の細胞であり得る。
【0048】
ある種のベクターは、導入された宿主細胞内で自律的に複製することができる(例えば、複製起点を持つ細菌ベクターやエピソーマル哺乳類ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーム型哺乳類ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それが作動的に連結される遺伝子の発現を誘導することができる。このようなベクターを本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。組換えDNA技術において有用な一般的な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態である。本明細書において、「プラスミド」と「ベクター」は互換的に使用することができる。しかしながら、本明細書に開示される方法は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製不能レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)のような、他の形態の発現ベクターを利用しても良い。
【0049】
ヘム応答性プロモーター&リプレッサーシステム
本開示は、様々な局面および実施形態において、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変された構成的プロモーター(例えば、任意の機能的プロモーター)を含むヘム応答性プロモーターを提供する。リプレッサー結合タンパク質HrtRがリプレッサー結合部位であるhrtOに結合すると、作動可能に連結された下流遺伝子の転写が阻害される。HrtRがhrtOに結合していない場合は、転写が進行する。HrtRのhrtOへの結合は、ヘム結合に伴うHrtRの配置変化により制御される。ヘムがHrtRに結合すると、HrtRはhrtOに結合できないため、下流の転写が進行する。逆に、ヘムがHrtRに結合していない場合、HrtRはhrtOに結合することができ、下流の転写を阻害することができる。図1Aは、ヘムがない場合のHrtRとhrtOの結合を、図1Bは、ヘムがHrtRタンパク質に結合し、HrtRをhrtOから遊離させた状態を示す。ヘムがHrtRのhrtOへの結合に影響を与えるためには、HrtRが十分に存在し、その結合を促進する必要がある。
【0050】
hrtOの特定のヌクレオチド配列およびHrtRのアミノ酸配列は、細菌株ごとに異なり、したがって、それぞれの正確な配列は、ヘム応答性リプレッサーシステムが導入される予定の細菌株に基づいて選択され得る。いずれの実施形態においても、ヘム応答性リプレッサーシステムは、ヘムの共結合に応じてヘム応答性プロモーター中のhrtOリプレッサー結合部位に可逆的に結合するHrtRタンパク質の発現をコード化することが望ましい。
【0051】
したがって、本明細書で提供されるのは、ヘム応答性プロモーターと、ヘム応答性プロモーター中のhrtOに結合するHrtRタンパク質の発現をコー化ドする配列とを含むヘム応答性リプレッサーシステムである。特に、ヘム応答性リプレッサーシステムは、a)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変された構成的プロモーターを含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、b)第1の核酸中の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質の発現をコード化する第2の核酸とを含む。第2の核酸は、HrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結された任意の構成的プロモーターを含んでいても良い。本開示によれば、HrtRタンパク質の発現を駆動する構成的プロモーターは、HrtRがヘムに結合していない場合にhrtO転写リプレッサー結合部位への結合を有利にするために十分な量のHrtRを提供するために有効である。
【0052】
例えば、第2の核酸は、以下の表1に示す配列ID番号:1~100のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現を誘導しても良い。配列ID番号:1~56はラクトコッカス(Lactococcus)属細菌由来であり、ラクトコッカス属細菌のhrtOリプレッサー結合部位に高い親和性で結合するが、残りの配列ID番号:57~100も同様に結合できるよう十分な相同性を有する。さらに、配列ID番号:57~100で表されるHrtRタンパク質は、その内在性細菌株で使用するためのヘム応答性リプレッサー結合システムで利用することができる。例えば、配列ID番号:60は、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)由来のHrtRリプレッサー結合タンパク質を表す。バチルス・セレウスで使用するためのヘム応答性リプレッサー結合システムは、バチルス・セレウス由来の構成的プロモーターをバチルス・セレウス由来の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変してなるヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、および配列ID番号:60により表されるHrtRタンパク質をコード化する第2の核酸と、を含む場合がある。
【表1】
【0053】
第1および第2の核酸中の構成的プロモーターは、同一であっても異なっていても良く、核酸が利用される細菌株に基づいて選択されても良い。例えば、任意の実施形態において、細菌株は、乳酸菌であっても良い。乳酸菌からの適切な構成的プロモーターの例には、限定されないが、ラクトバチルス菌(Lactobacillus bacteria)からのslpA(例えば、アシドフィルスNCFM(acidophilus NCFM)またはラムノサス(rhamnosus))、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)BR11からのcplC、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カセイ(Lactobacillus casei)、およびラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)からのldh、ラクトバチルス・アギリス(Lactobacillus agilis)からのpgm、エンターコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)からのermBプロモーター、およびラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)からのlacAを含む。1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変された構成的プロモーターを含むヘム応答性プロモーターは、本明細書では一般的に「Pn(hrtO)」と表す。ここで「n」は構成的プロモーター、「(hrtO)」は1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変されたことを表す。例えば、配列ID番号:102は、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFMまたはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)のいずれかからのslpAプロモーターを含み、ラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)(配列ID番号:101)からの1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むよう改変されたヘム応答性プロモーターPslpA(hrtO)を表わす。同様に、PclpC(hrtO)は、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変された、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)BR11由来のclpCプロモーターを含むヘム応答性プロモーターを記載する。PlacA(hrtO)は、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)由来のhrtO改変されたlacAプロモーターを記載する。Pldh(hrtO)は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、またはラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)からのhrtO-改変ldhプロモーターを記載する。Ppgm(hrtO)は、ラクトバチルス・アジリス(Lactobacillus agilis)由来のhrtO改変pgmプロモーターを記載する。
【0054】
1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位は、例えば、乳酸菌(例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFMまたはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus))のslpAプロモーターに、HrtRがhrtOリプレッサー結合部位に結合した時に下流の転写を阻害するのに十分なプロモーター配列内の任意の位置に挿入され得る。当業者であれば、過度の実験なしに、ヘム応答性転写を可能にするhrtOリプレッサー結合部位の1つまたはそれ以上の位置を決定することができるだろう。
【0055】
例えば、配列ID番号:102を描写する図2に示すように、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位がラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFMのslpAプロモーターに挿入されても良い。図2において、ラクトバチルス・アシドフィルスNCFMのslpAプロモーターは、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)由来の2つのhrtOリプレッサー結合部位(hrtO-1およびhrtO-2)で改変される。ヘム応答性プロモーターの機能性を保持する配列ID番号:102の変形もまた使用され得る。例えば、任意の実施形態において、配列ID番号:102と少なくとも70%相同、少なくとも80%相同、少なくとも90%相同、少なくとも95%相同、または少なくとも98%相同である核酸配列が使用されても良い。
【0056】
したがって、多くの実施形態において、ヘム応答性リプレッサーシステムは、a)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変されたslpAプロモーターを含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、b)表1に示す配列ID番号:1~100のいずれか1つで表されるHrtRタンパク質の発現のためにコード化する第2の核酸と、を含んでも良い。
【0057】
hrtO改変UTRを用いたヘム応答性プロモーター
いくつかの構成的プロモーターは、プロモーターのヘム応答性成分としてのhrtOおよびHrtRの使用を任意の細菌に適合させるために利用され得る非翻訳領域(UTR)を含む。例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NFCMのslpAプロモーターは、図3に示され、配列ID番号:103によって表される5'190塩基対(bp)UTRを有する。ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)のような他のラクトバチルス菌もまた、本明細書に開示される様々な態様および実施形態に従って使用され得るUTRを有するslpAプロモーターを有する。1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位が、UTRの任意の位置に挿入されても良く、それは、次に、任意の細菌株の構成的プロモーターに融合されて、ヘム応答性プロモーターを生成する。例えば、任意の実施形態において、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位は、発現遺伝子転写物の翻訳に必要なリボソーム結合部位(RBS)で終わる構成的プロモーター転写開始部位(TSS、例えば、+1bpをちょうど通過する)またはその近くに挿入されても良い。例えば、図3は、ラクトバチルス・アシドフィルスNFCMからのslpAプロモーターのUTRである配列ID番号:103を描写する。図4は、TSSから5塩基対挿入されたhrtOリプレッサー結合部位を有する配列ID番号:103を描写する。追加のhrtO結合部位は、最初のhrtO結合部位の6bp下流に挿入される。配列ID番号:103は、2つのhrtOリプレッサー結合部位を有するUTRを表すが、UTRは、1、2、3、4、5、6、または6より多いなど、任意の数のhrtOリプレッサー結合部位を含むことができる。さらに、任意の実施形態において、UTRプロモーターの変種を使用し、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変しても良い。例えば、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位は、配列ID番号:103に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有するヌクレオチド配列に挿入されても良い。
【0058】
配列ID番号:103は、上述したように、2つのhrtOリプレッサー結合部位がラクトバチルス・アシドフィルスNCFMのslpAプロモーターのUTRに挿入された一実施例を示す。しかしながら、slpA UTRの使用は、slpAプロモーター内での使用に限定されない。有利には、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位をslpA UTRに挿入することにより、UTRを持たない任意の構成的プロモーターに融合させるか、またはUTRを有する構成的プロモーターのUTRを置換することができる核酸配列が作成されることが発見された。このように、hrtO改変UTRは、ヘム応答性プロモーターおよびリプレッサーシステムを生成するために、任意の細菌株で使用することができる。細菌株は、ラクトバチルス・アシドフィルスNFCM以外の乳酸菌であっても良いし、その他の細菌であっても良い。例えば、図4は、配列ID番号:105を示し、それによって、2つのhrtOリプレッサー結合部位で改変されたラクトバチルス・アシドフィルスNCFM由来のslpAプロモーターの5'UTRは、ラクトバチルス・ファーメンタムBR11のclpCプロモーターに融合される。
【0059】
適切な構成的プロモーターの他の例としては、ラクトバチルス・ラクティス由来のlacAプロモーター、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・カゼイ、またはラクトバチルス・ロイテリ由来のldhプロモーター、エンテロコッカス・フェカリス由来のermBプロモーター、またはラクトバチルス・アギリス由来のpgmプロモーターなどがあるが、これらだけに限られるわけではない。それぞれは、ラクトバチルス・アシドフィルスNCFM由来の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を有するslpA改変体のUTR領域と融合していても良い。
【0060】
さらに、UTRの使用は、slpAプロモーターのUTRにのみ限定されるものではない。任意の細菌のUTRを1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変し、構成的プロモーターに融合してヘム応答性プロモーターを生成することができる。
【0061】
したがって、さらに別の態様において、本開示は、a)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変された細菌プロモーターのUTRに融合した構成的プロモーターを含む第1の核酸配列と、b)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結される構成的プロモーターを含む第2の核酸配列とを含むヘム反応性リプレッサーシステムを提供する。任意の実施形態では、UTRは、slpAプロモーター領域からのUTRであって良い。任意の実施形態において、UTRは、ラクトバチルス・アシドフィルスNFCMからのslpAからの5'UTRであって良い。hrtO改変UTRが融合され得る適切な構成的プロモーターの例には、clpC、lacA、ldh、ermB、およびpgmが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0062】
ヘムセンシングバクテリア
上記の任意の実施形態または態様において、ヘム応答性プロモーターは、標的タンパク質またはペプチドをコードする標的遺伝子に作動可能に連結されても良い。このように、上述のヘム応答性リプレッサーシステムの任意の実施形態または態様は、標的遺伝子に作動可能に連結されたヘム応答性プロモーターを含むことによって、ヘムの存在に応答してタンパク質またはペプチドを選択的に発現するために利用され得る。多くの実施形態において、標的遺伝子は、レポーター遺伝子である。
【0063】
したがって、別の態様において、本開示は、a)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含み、レポーター遺伝子に作動可能に連結されたヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸配列と、およびb)ヘム応答性プロモーター中のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質をコード化する遺伝子に作動可能に連結された任意の構成プロモーター含む第2の核酸配列と、を含むヘム応答性リプレッサーシステムを提供する。本明細書において上述したヘム応答性プロモーターは、乳酸菌の構成的プロモーターなどの任意の構成的プロモーターを含む。そのようなプロモーターの例には、slpA、cplC、lacA、pgm、ermB、およびldhが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、構成的プロモーターは、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含む配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列に融合されて、レポーター遺伝子に作動可能に連結されるヘム応答性プロモーターを生成する。他の実施形態では、配列ID番号:105に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列が、レポーター遺伝子に作動可能に連結される。
【0064】
レポーター遺伝子は、発現するとレポーターペプチドまたはタンパク質を産生する任意の遺伝子であって良い。例えば、レポーター遺伝子は、蛍光測定によって検出可能な緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードしていても良い。本明細書で想定されるレポータータンパク質には、蛍光タンパク質、発光タンパク質、およびGusAまたはPepNのような酵素レポーターが含まれる。任意の態様において、本明細書に記載される方法は、検出可能な部位としてエピトープタグおよびレポーター遺伝子配列を利用することができる。エピトープタグの非限定的な例としては、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、およびチオレドキシン(Trx)タグが挙げられる。レポーター遺伝子の例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)β-ガラクトシダーゼ、ベータグルクロニダーゼ、マルトース結合タンパク質、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自動蛍光タンパク質を含むが、それに限定されない。
【0065】
本明細書および任意の実施形態に開示されるような核酸は、転写中に遺伝子の末端をマークするターミネーターを含んでいても良い。ターミネーター配列は、転写複合体からmRNAを放出するプロセスを誘発するシグナルを新たに合成されたmRNA中に提供することによって、転写の終結を仲介する。終止プロセスには、mRNAの二次構造と複合体の直接的な相互作用、および/または、動員された終止因子の間接的な活性が含まれる。転写複合体の放出により、RNAポリメラーゼおよび関連する転写装置が解放され、新たなmRNAの転写が開始される。ターミネーター配列には、当技術分野で既知のもの、および本明細書で同定および記載されるものが含まれる。Rho非依存性、ヘアピン形成ターミネーター配列は、乳酸菌において特に使用され、有効なターミネーターには、配列ID番号:106(ATAAAACGAAAGGCTCAGTCGAAAGACTGGCCTTTCGTTAT)で表される、rrnB T1ターミネーター配列があるが、これだけに限定されるものではない。
【0066】
上記のようなヘム応答性リプレッサーシステムは、ヘムの存在下でレポーター遺伝子の発現を誘導するために利用され得る。したがって、本明細書に記載されるような、レポーター遺伝子を含むヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝子改変された細菌は、ヘムの存在下で検出可能なレポータータンパク質を産生する、ヘムのインビボバイオセンサーとして機能し得る。したがって、別の態様において、本開示は、a)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含み、レポーター遺伝子に作動可能に連結されるヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、およびb)ヘム応答性プロモーター中のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質の発現をコード化する第2の核酸配列で遺伝子改変した組換え細菌の細胞を提供する。
【0067】
一態様において、ヘム応答性プロモーターは、組換え細菌細胞の任意の構成的プロモーターを含んで良く、表1の配列ID番号:1~100によって表されるHrtRリプレッサータンパク質のいずれか1つが結合し得る1またはそれ以上のhrtOリプレッサ結合部位を含んでいて良い。したがって、第2の核酸は、表1の配列ID番号:1~100で表されるHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化していても良い。
【0068】
別の態様では、構成的プロモーターは、上記のように、ラクトバチルス・ラクティスからのhrtOリプレッサー結合部位などの、乳酸菌からの1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含んでも良い。したがって、第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化していても良い。例えば、組換え細菌の構成プロモーターは、配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列と融合して良く、第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質をコード化する。
【0069】
多くの実施形態では、組換え細菌細胞はグラム陽性菌であり、グラム陽性菌の構成的プロモーターは、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含む配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列と融合され、レポーター遺伝子に作動可能に連結されるヘム反応性プロモーターを生成する。したがって、第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化していても良い。
【0070】
乳酸菌は、乳業における重要な産業微生物であり、一般に安全とみなされる(GRAS)プロバイオティクス生物としてのFDAステータスのために、インビボでの使用に大きく狙いを定める。したがって、任意の実施形態において、組換え細菌細胞は乳酸菌であっても良く、乳酸菌の構成的プロモーターは、1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含む配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列と融合され、レポーター遺伝子に作動可能に連結されるヘム応答性プロモーターを生成する。したがって、第2の核酸は、配列ID番号:1-100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコードしていても良い。
【0071】
他の実施形態では、組換え細菌はラクトバチルス・ファーメンタムBR11であり、配列ID番号:105に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列を有するプロモーターが、レポーター遺伝子に作動可能に連結される。したがって、第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化していても良い。
【0072】
レポーター遺伝子は、上述した態様および実施形態のいずれかにおいて、上述した任意のレポータータンパク質、例えば、蛍光タンパク質、発光タンパク質、生物発光タンパク質、酵素、エピトープタグなどをコード化していても良い。
【0073】
組換え細菌を用いた治療送達
別の態様において、本明細書に記載のヘム応答性リプレッサーシステムは、治療用タンパク質またはペプチドをコードする遺伝子(本明細書では「治療用遺伝子」)に作動可能に連結されたヘム応答性プロモーターを含んでいても良い。したがって、別の態様において、本開示は、a)1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変された構成的プロモーターを含む上流のヘム応答性プロモーターに作動可能に連結した治療遺伝子を含む第1の核酸と、およびb)ヘム応答性プロモーター中の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質の発現のためにコード化する第2の核酸と、を含むヘム応答性リプレッサーシステムを提供する。ヘムが結合すると、HrtRタンパク質はhrtOリプレッサー結合部位に結合できなくなるため、下流の治療用遺伝子の転写が開始され、治療用タンパク質またはペプチドが生成される。
【0074】
任意の細菌を、上記のようにヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝的に改変し、組換え細菌を生成することができる。一態様において、ヘム応答性プロモーターは、組換え細菌にネイティブな1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変され、治療遺伝子に作動可能に連結された、組換え細菌の任意の構成的プロモーターから構成されても良い。したがって、第2の核酸は、ネイティブなhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化していても良い。
【0075】
別の態様では、ヘム応答性プロモーターは、治療遺伝子に作動可能に連結される、上述のラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)からのhrtOリプレッサー結合部位などの乳酸菌の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位で改変された任意の構成的プロモーターからなることができる。したがって、第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化することができる。一実施例では、組換え細菌の構成的プロモーターは、配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列に融合されても良い。ヘム応答性リプレッサーシステムの第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質をコード化する。
【0076】
多くの実施形態では、組換え細菌細胞はグラム陽性菌であり、そのようなものとして、配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列と融合したグラム陽性菌の構成プロモーターを含む上流ヘム応答プロモーターに作動可能に連結した治療遺伝子を含む第1核酸からなるヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝的に改変される。したがって、ヘム応答性リプレッサーシステムの第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtR抑制タンパク質の発現をコード化しても良い。
【0077】
乳酸菌は、酪農産業における重要な産業微生物であり、一般に安全とみなされる(GRAS)プロバイオティクス生物としてのFDAの地位により、インビボでの使用に大きく狙いを定めている。したがって、任意の実施形態において、組換え細菌細胞は、配列ID番号:104に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列と融合した乳酸菌の構成プロモーターを含む上流ヘム応答性プロモーターに作動可能に連結した治療遺伝子を含む第1核酸を含むヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝的に改変した乳酸菌であり得る。したがって、ヘム応答性リプレッサーシステムの第2の核酸は、配列ID番号:1~100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtR抑制タンパク質の発現をコード化しても良い。
【0078】
他の実施形態では、組換え細菌はラクトバチルス・ファーメンタムBR11であり、配列ID番号:105に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の相同性を有する核酸配列を有するプロモーターが、レポーター遺伝子に作動可能に連結される。したがって、第2の核酸は、配列ID番号:1-100に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するHrtRリプレッサータンパク質の発現をコード化しても良い。
【0079】
適切な治療用タンパク質の例としては、プロバイオティクス機能に関連する内因性タンパク質(例えば、LGG p40、spaC、SOD)、抗体(感染性物質、または宿主細胞表面タンパク質および抗体Fcを標的とするIgG、IgE、IgA、IgM、scFvおよびカムロイド抗体を含む)、哺乳動物、ウイルスおよび細菌由来の抗菌ペプチド(例えば、コリスチン、ケーリン、ダーマセプチンのような)があるが、それだけにとどまらない。コリスチン、ケーリン、ダーマセプチン、LL-37、HBD-1/2/3、ナイシン、サカシン、リゾチーム)抗ウイルスペプチド(例えば、HCV-C5A、フゼオン)、サイトカイン(例えば、IL-10)、アレルゲン(例えば、花粉、ナットタンパク質)、虫タンパク質(例えば、鉤虫タンパク質)、トレフォイル因子、食物酵素、ムチン結合タンパク質(例えば、intJ、GroEL)、インバシン、アンチトキシンまたはワクチン標的として送達される感染性物質に由来する任意の抗原が挙げられる。
【0080】
任意に、そして任意の実施形態において、治療用ペプチドまたはタンパク質をコード化する遺伝子は、ペプチドリンカー(例えば、配列ID番号:107[GGGS]n,配列ID番号:108Gn,配列ID番号:109[EAAAK]n,または配列ID番号:110PAPAP(nはモチーフ反復の数))で、上記のレポーター遺伝子に結合されてもよい(例えば、レポータータンパク質をコード化する)、それによって、ヘムの存在下(例えば、GI出血)で、検出可能なレポータータンパク質またはペプチドを産生するが、出血を処置する治療薬も産生する融合タンパク質が得られる。
【0081】
遺伝子組換え乳酸菌
有利なことに、驚くべきことに、ヘムトランスポーター(例えば、ChuA)が存在しないにもかかわらず、本明細書に開示された核酸で遺伝子操作された乳酸菌は、ヘムに富んだ環境に応答してタンパク質またはペプチドを選択的に発現し得ることが発見された。a)ヘムは多くの細菌、特に細胞内ヘム濃度を制御する精巧なシステムを持たない細菌にとって毒性であることが知られており、b)ヘムは細胞膜を容易に拡散してヘム応答性プロモーターとの相互作用に利用できないため、ヘムに富む環境で乳酸菌が機能する能力は驚くべきことである。
【0082】
いかなる理論にも拘束されないが、乳酸プロモーター内(例えば、slpAプロモーターのUTR内)に1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を挿入することにより、乳酸菌がグラム陽性であるので、ヘム(および鉄)の存在下で本明細書に開示する乳酸菌を使用できるようになると考えられる。グラム陽性菌は、(2層よりむしろ)1層の膜と、鉄などの荷電種を許容できる酸性の細胞壁が存在することが特徴である。また、乳酸菌は、L.lactisのヘム排出複合体HrtABと29%から50%の相同性を持つABCトランスポータータンパク質を持ち、これらの細菌細胞型でのヘムの蓄積を防いでいる。したがって、今回作製した乳酸菌はヘムトランスポーターを持たないが、ABCトランスポータータンパク質の存在により、乳酸菌がヘム毒性に対してより強くなっている可能性がある。乳酸菌ではないが、使用され得る他のタイプのグラム陽性菌には、Lactovum、Xanthomonas、Erysipelotrichaceae、Bacillus、Clostridiales、Peptoniphilus、Peptostreptococcaceae、Ezakiella、Sneathia、Helococcus、Finegoldia、Anaerococcus、Leuconostoc、Pediococcus、Oenococcus、Bifidobacteria、Weisella、Tetragenoccus、Propionibacteria、Streptococcus、Sporolactobacillus、Carnobacteria、Vagococcus、Enterococcus、およびGlobicatellaがあるが、それだけに限られない。
【0083】
しかしながら、様々なヘム応答性プロモーターおよびリプレッサーシステムは、乳酸菌またはグラム陽性菌のみでの使用に限定されるものではない。ヘム応答性リプレッサーシステムは、グラム陰性菌を含む任意の細菌について上記の開示に基づいて開発され得るが、ChuA膜トランスポーターの共発現をコードする第3の核酸を含むだろう。
【0084】
発現ベクター
組換え乳酸菌は、発現ベクターを用いて、上記に開示されたヘム応答性リプレッサーシステムのいずれかを用いて遺伝的に改変され得る。したがって、別の態様において、本開示は、上で定義されたようなヘム応答性リプレッサーシステム、ヘム応答性プロモーターがレポーター遺伝子および治療遺伝子のうちの1つまたはそれ以上に作動可能に連結されている、発現ベクターを提供する。発現ベクターは、例えば、プラスミド、細菌組換え染色体、フォスミド、コスミド、シャトルベクター、P1ベクター、エピソーム、またはウイルスベクターなど、上述のいずれであっても良い。
【0085】
細菌の遺伝子組換え方法
本明細書上開示されるような任意のヘム応答性リプレッサーシステムは、そのような導入のための当業者に公知の任意の方法を用いて細菌細胞に導入され得る。そのような方法には、トランスフェクション、形質転換、トランスダクション、感染(例えば、ウイルス導入)、注入、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ヌクレオフェクション、ナノ粒子砲撃、形質転換、コンジュゲーション、ゲル、オイル、またはクリーム中の核酸の適用による、電気穿孔法による、脂質ベースのトランスフェクション試薬を用いた、または他の任意の適切なトランスフェクション法による、が含まれる。当業者であれば、容易に識別可能な文献ソースを用いて、このような方法を容易に理解し、適応させることができるだろう。
【0086】
本明細書で使用する場合、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション(例えば、LIPOFECTIN(登録商標)(Invitrogen Corp,カリフォルニア州、サンディエゴ)、LIPOFECTAMINE(登録商標)(Invitrogen)、FUGENE(登録商標)(Roche Applied Science、スイス、バーゼル)、JETPEI(登録商標)(Polyplus-transfection Inc、ニューヨーク、ニューヨーク)、EFFECTENE(登録商標)(Qiagen、カリフォルニア州、バレンシア)、DREAMFECT(登録商標)(OZ Biosciences、フランス)など、または電気穿孔(例えば、in vivo electroporation)などを含む、市販の試薬を使用する)。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd,ed.,Cold Spring harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)などの実験室マニュアルに記載される。
【0087】
細胞への核酸の非ウイルス性送達の方法および材料にはさらに、バイオリスティック、ビロゾーム、リポゾーム、イムノリポゾーム、ポリカチオンまたは脂質-核酸結合体、裸のDNA、組換えビリオン、およびDNAの薬剤増強取り込みが含まれる。リポフェクションは、米国特許第5,049,386号、第4,946,787号、および第4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬は市販される(例えば、TRANSFECTAM(登録商標)およびLIPOFECTIN(登録商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質および中性脂質としては、WO91/17424およびWO91/16024に開示される。
【0088】
組換え細菌は、当該技術分野における任意の既知の方法に従って、例えば、細菌の増殖に適した培地および環境条件下で、所望の時間増殖させることができる。例えば、細菌は、MRS、TGE、APT、BHI、TSBおよびTSBYEを含む複合培養培地中で、約7~約9のpHおよび約37℃の温度で増殖させることができる。当業者であれば、適切な条件について熟知しており、かつ/または特定の細菌株について増殖条件を最適化することができるだろう。
【0089】
したがって、別の態様において、本開示は、上記のようなヘム応答性リプレッサーシステムを含むベクターを提供すること、したがってベクターを細菌に接種して、組換え細菌を生成すること、および組換え細菌の増殖を促進するために有効な条件下で細菌を維持することを含む、細菌を遺伝子的に改変して組換え細菌を生成する方法を提供する。細菌は、上記のいずれであっても良く、例えば、グラム陽性細菌、より詳細には乳酸菌である。また、ChuAトランスポーターの発現が誘導されるのであれば、グラム陰性菌であっても良い。
【0090】
医薬品の製剤
本明細書で提供される、レポーター遺伝子または治療用遺伝子の1つまたはそれ以上に作動可能に連結したヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝的に改変された組換え細菌は、経口、局所、非経口、または経皮投与のための組成物に配合されても良い。これらの組成物は、錠剤、タブレット、カプセル、マイクロカプセル、粉末、サシェ、ドラジェ、ゲル、液体、懸濁液、溶液、食品、クリームまたは顆粒の形態であっても良く、充填剤、結合剤、潤滑剤、滑剤、界面活性剤、pH調整剤、香料、着色料、抗酸化剤、緩衝剤などの薬学的に許容できる1つまたはそれ以上の賦形剤などをさらに含んでいても良い。
【0091】
例示的なpH調整剤としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、フマル酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸カリウム、フマル酸カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよびリン酸ナトリウムの1つまたはそれ以上(ただし、これらに限定されない)が挙げられる。
【0092】
食品としては、乳製品、ヨーグルト、アイスクリーム、乳系飲料、乳系具材、プリン、ミルクセーキ、アイスティー、果汁・野菜汁、ダイエット飲料、ソーダ、スポーツ飲料、ゼリー状食品、栄養補給用粉末混合飲料、乳児・幼児食、カルシウム補給用オレンジジュース、ソース、スープなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0093】
出血の検出、診断および/または治療方法
本明細書に開示されるような組換え細菌は、対象の粘膜環境における出血を検出、診断、および/または治療するために使用される可能性がある。したがって、別の態様において、本開示は、対象の粘膜環境における出血を検出する方法を提供しするものであり、本明細書に記載されるようなヘム応答性リプレッサーシステムで遺伝的に改変された組換え細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程であって、前記ヘム応答性リプレッサーシステムは、a)レポーター遺伝子に作動可能に連結された1またはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むよう改変した構成的なプロモーターを含むヘム反応性の第1の核酸と、およびb)任意の構成的プロモーターを含み、第1の核酸のヘム応答性プロモーター中の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質をコード化する第2の核酸とを含む、前記投与する工程と、および対象におけるレポータータンパク質の存在を検出する工程と、を含む。レポーター遺伝子は、例えば、蛍光タンパク質、発光タンパク質、生物発光タンパク質、酵素、エピトープタグなど、上述した任意のレポータータンパク質であっても良いし、それらをコード化しても良い。レポーター遺伝子の発現、従ってレポータータンパク質の存在は、粘膜環境におけるヘム刺激量に比例する。
【0094】
レポータータンパク質の存在は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析、核酸検査、シングルプレックス診断検査、マルチプレックス診断検査、バイオマーカー測定および検出、画像解析およびそれらの任意の組み合わせなど、任意の既知の検査で検出および定量化することができる。レポータータンパク質レベルの解析は、インビボ、エックスビボ、またはインビトロで実施することができる。
【0095】
別の態様では、本開示は、a)治療用タンパク質をコードするレポーター遺伝子に作動可能に連結された1つまたは以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変された構成的プロモーターを含むヘム応答性プロモーターを含む第1の核酸と、b)任意の構成的プロモーターを含み、第1の核酸のヘム応答性プロモーター中のhrtOリプレッサー結合部位に結合するHrtRタンパク質をコードする第2の核酸と、で遺伝的に改変した組換え細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む対象の粘膜環境における出血を治療する方法を提供する。治療用遺伝子は、プロバイオティクス機能に関連する内因性タンパク質(例えば、LGG p40、spaC)、抗体(感染性物質を標的とするIgG、IgE、IgA、scFvおよびカムリッド抗体、または宿主細胞表面タンパク質および抗体Fcを含む)、哺乳動物、ウイルスおよび細菌由来の抗菌ペプチド(例えば、コリスチン、ケーリン、ダーマセプチン、LL-37、HBD-2)、抗ウイルスペプチド(例えば、HCV-C5A、フゼオン)、サイトカイン(例えば、IL-10)、アレルゲン(例えば、花粉、ナッツタンパク質)、虫タンパク質(例えば、鉤虫タンパク質)、トレハロース(例えば、鉤虫タンパク質)、トレフォイル因子、食物酵素、ムチン結合タンパク質(例えば、intJ、GroEL)、インバシン、抗毒素、またはワクチン標的として送達される感染体由来の任意の抗原が挙げられる。
【0096】
粘膜環境は、対象の胃腸管であっても良い。対象は、動物またはヒトの対象などの哺乳類であっても良い。対象は、炎症性腸疾患、大腸炎、消化性潰瘍、胃炎、ポリープ、痔、肝硬変、感染症、および癌などの出血性疾患または障害を持っているか、または発症の恐れがある可能性がある。
【0097】
組成物は、例えば、錠剤、タブレット、カプセル、マイクロカプセル、粉末、小袋、ドラジェ、ゲル、液体、懸濁液、溶液、クリームまたは顆粒として、対象に経口、局所、非経口または経皮的に投与され得る。
【0098】
本明細書で提供されるセンサーおよび方法は、粘膜出血の検出、並びにヒトなどの哺乳類対象における粘膜出血に関連する様々な状態の治療、管理または予防に適するいくつかの利点を提示するものである。特に、開示されたプロバイオティクスバイオセンサーは、関心のある任意の遺伝子の発現を駆動することができ、粘膜環境における血液刺激の量に比例して遺伝子発現を示す。これらの特性のため、本明細書で提供されるバイオセンサーは、任意の生物学的ペイロードと融合することができ、したがって、ライブバイオ診断薬およびバイオ治療薬を構成する。
【実施例1】
【0099】
実施例1:遺伝子組換えプロバイオティック細菌のヘムに対するインビトロ応答。ヘムに応答してレポーター遺伝子の発現を駆動するために、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GGの株を、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)由来の2つのhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変したラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFM由来のslpAプロモーターと蛍光レポーターmCherry遺伝子と作動可能に連結した第1の核酸と、HrtRタンパク質に作動可能に連結されたslpAプロモーターを含む第2の核酸と、を含むベクターで遺伝子改変した。0ppm~1250ppmのヘムを添加した培地で、改変されたラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GGを培養した。培養液の蛍光(その中のmCherryの濃度に比例する)を12時間にわたって分析した。その結果を図6に示すが、培地中のヘム濃度が高いほど、ヘム応答性プロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子の発現が強くなることが示された。図7において、データは、mCherryレベルに影響し得る細菌増殖の変動を考慮し、細菌増殖に対して正規化される。これらのデータは、開示された組換え細菌がヘムの存在に高度に応答すること、および組換え細菌の応答が、それらが曝露されるヘムの量に比例することを実証する。
【実施例2】
【0100】
実施例2:ヘム毒性に対する細菌の抵抗性。実施例1のラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GGの生育を経時的に測定した。その結果を図8に示すが、最も高いヘム濃度(1250ppm)以外では、ヘム非存在下での同一菌の増殖と同様であったことが分かる。
【実施例3】
【0101】
実施例3:インビボ試験。ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の株を、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)由来の1つまたはそれ以上のhrtOリプレッサー結合部位を含むように改変したslpAプロモーターフォームラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFMを含む第1の核酸と、ヘムに応答してレポーター遺伝子の発現を駆動するための蛍光レポーターmCherry遺伝子に作動可能に連結されたslpAプロモーターと、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)由来のHrtRリプレッサー結合タンパク。質をコードする遺伝子に作動可能に連結された第2の核酸と、を含むベクターを用いて遺伝的に改変した。ラクトバチルス・ラムノサスGGを培養液中で光学密度0.9まで増殖させ、10コロニー形成単位(CFU)を300μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の用量として調製し、マウスに経口ガベージで投与した。結果を図9に示す。マウスに通常の飲料水(非大腸炎/非出血対照群;左)または5%DSS処理した飲料水(大腸炎/誘発出血実験群;右)を5日間与えた。近位および遠位方向の識別に使用したゲンチアナバイオレットは、図8の画像で見ることができる蛍光シグナルも発する(したがって、画像化のための陽性対照シグナルも提供する)。臓器の近位(P)および遠位(D)配向が画像で識別される。有意に少ない出血が予想される対照群に対して、これらのマウスに投与された組換え乳酸菌の誘導を示すDSS処理大腸菌群に高い信号が明確に見られる。目視では、動物犠牲と結腸摘出の直前に、5%のDSS投与マウスでのみ直腸出血が観察され、出血が肉眼的に確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023513697000001.app
【国際調査報告】