(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】延伸ポリマー、延伸ポリマーを含む製品、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20230327BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
D01F6/04 A
B29C55/02
D01F6/04 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548461
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(85)【翻訳文提出日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 US2021017308
(87)【国際公開番号】W WO2021163081
(87)【国際公開日】2021-08-19
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518319115
【氏名又は名称】レッド バンク テクノロジーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マグノ,ジョン エヌ.
【テーマコード(参考)】
4F210
4L035
【Fターム(参考)】
4F210AA03
4F210AA06
4F210AG01
4F210AK04
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD36
4F210QG01
4L035AA04
4L035BB05
4L035BB15
4L035HH01
4L035HH02
4L035MA01
(57)【要約】
本明細書では、加熱休止期間が散在する一連の熱延伸工程からなる方法によって製造されるポリマー成分(例えば、繊維およびテープ)、並びにその製造方法が開示される。ポリマー成分は、超高分子量ポリエチレンなどのポリオレフィン材料を含み得る。ポリマー成分は、それ自体で、または他のポリマー材料と組み合わせて、布地または複合材料を形成するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーが加熱されているが、延伸されていない期間、または一定のもしくは低減された延伸張力が加えられる期間が散在する一連の2つ以上の延伸サイクルを含む工程によって熱延伸されたポリマー材料を含む、ポリマー成分。
【請求項2】
前記ポリマー材料は、ゲル紡糸法によって形成されている、請求項1に記載のポリマー成分。
【請求項3】
前記ポリマー成分は繊維である、請求項1に記載のポリマー成分。
【請求項4】
前記ポリマー成分はテープである、請求項1に記載のポリマー成分。
【請求項5】
前記ポリマー成分は、ポリオレフィンを含む、請求項1に記載のポリマー成分。
【請求項6】
前記ポリマー成分は、超高分子量ポリエチレンを含む、請求項1に記載のポリマー成分。
【請求項7】
前記ポリマー材料は、前記ポリマーが赤外線を照射される工程によって熱延伸されている、請求項1に記載のポリマー成分。
【請求項8】
前記赤外線は、発光ダイオードによって生成される、請求項7に記載のポリマー成分。
【請求項9】
ポリマーが加熱されているが、延伸されていない期間、または一定のもしくは低減された延伸張力が加えられる期間が散在する一連の2つ以上の延伸サイクルを含む工程によってポリマー材料が熱延伸される、ポリマー成分を製造するための方法。
【請求項10】
前記ポリマー材料は、ゲル紡糸法によって形成されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー成分は、超高分子量ポリエチレンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
請求項3に記載の繊維を含む、布地。
【請求項13】
請求項1に記載のポリマー成分を含む、複合材料。
【請求項14】
ポリマーマトリックスをさらに含む、請求項13に記載の複合材料。
【請求項15】
前記ポリマーマトリックスは、重合化されたエポキシ官能基を含む、請求項14に記載の複合材料。
【請求項16】
前記ポリマーマトリックスは、重合化されたウレタン官能基を含む、請求項14に記載の複合材料。
【請求項17】
第2のポリマー材料を含む繊維をさらに含む、請求項13に記載の複合材料。
【請求項18】
前記第2のポリマー材料を含む繊維は炭素繊維である、請求項17に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明者:John N. Magno
〔相互参照〕
本出願は、2020年2月10日に出願された米国特許出願第16/785,998号の優先出願日の35 U.S.C.§119(e)に基づく利益を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔背景〕
理論解析は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維が20Gpa以上の抗張力を有しているはずであることを示す。しかし、従来のゲル紡糸/熱延伸法によって製造された市販のUHMWPE繊維は、20年を超える靭性を改善するための大きな努力にもかかわらず、理論値の約5分の1までの抗張力しか達成していない。
【0003】
これまでの特許出願US2009/0202801およびUS2009/0202853は、ゲル紡糸/熱延伸UHMWPEの強度の限界を、屈折率が同じ流体中に繊維を浸漬し、偏光顕微鏡を用いて、照明下でそれを観察することによって可視化され得る、繊維中に今まで検出されなかった「欠陥」の存在に起因するとした。これらの特許出願は処理中に繊維に課される過剰な交差軸応力を回避することによって、これらの欠陥の数を減少させることができるため、UHMWPE繊維の靭性を増加させることができることを指摘している。しかしながら、非軸方向応力を排除することによって欠陥の数は減少するが、かなりの数の欠陥が残っており、引張応力下で繊維の破損が生じる部位であると思われる。
【0004】
したがって、当該技術分野において、UHMWPE繊維における欠陥の密度をさらに低減することによって、繊維の靭性をさらに改善することが強く求められている。
【0005】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、超高分子量ポリエチレンの半晶質の微細構造を示す。
【0006】
【0007】
〔発明の詳細な説明〕
ゲル紡糸/熱延伸UHMWPE繊維のさらなる分析は、特許出願US2009/0202801およびUS2009/0202853の改良された方法を用いて製造された繊維中に残存する欠陥が、通常の意味ではマイクロクラックではなく、代わりに結晶構造中の欠陥であり、おそらく三次元結晶性固体中に生じるような転位に類似していることを示しているようであった。さらに、類推を行うと、三次元固体における結晶成長の場合、結晶が成長する飽和溶液を過度に急速に冷却することによって、または結晶化される材料のブールを通って溶融ゾーンを過度に急速に移動させることによって、結晶の成長速度を加速することは、結晶欠陥の急増をもたらし得ることがよく知られている。これらの三次元の例では、徐々に適用されなければならない結晶成長の強制関数は温度変化である。
【0008】
ゲル紡糸/熱延伸UHMWPE繊維の場合、高度に秩序化された一次元繊維構造の作製における類似の強制関数は、熱延伸処理中に繊維に課される機械的応力であると推論された。熱延伸処理中に繊維にかかる機械的応力を過度に急速に増加させることは、三次元固体の場合において温度を過度に急速に変化させることと同様の効果を有し得るため、結晶繊維構造中の欠陥の数を急増させ得るということが、類推によって推論された。しかし、加えられた機械的応力に加えて、熱もまた、明らかに、熱延伸処理における潜在的な強制関数である。熱延伸処理中に加えられる機械的応力および加熱が欠陥密度に及ぼす影響を理解するために、一連の実験を行い、これらの強制関数が徐々に適用された場合に速度を変化させる効果を調べた。これらの実験から得られた1つの観察は、熱延伸処理の間、応力に対する伸長(歪み)の速度があるレベルの伸長まで比較的一定であったことであった。延伸処理のこの時点で、歪みに対する応力の比率の急速な増加が見られた。現在市販されている高い抗張力のUHMWPE繊維の製造において、熱延伸処理は、所望の伸長が達成されるまで、歪みに対する応力の比率が増加しながら続けられる。伸長が、歪みに対する応力の比率が急速に増加し始める点に達し、次いで、繊維が、延伸が生じた高温で一時的に保持されたときに、一定の低レベルの応力で延伸処理を一時中断した場合、その後、繊維の熱延伸は、比率の急速な増加が生じる前に得られたものと同様の歪みに対する応力の比率の値で再開することができることがさらに観察された。さらに熱延伸し、歪みに対して比較的一定の応力の比率で伸長した後、この比の急激な増加が再び生じた。次いで、再度、熱延伸処理は、繊維を延伸処理の高温および一定の低レベルの応力に維持しながら一時中断され得、その後、さらなる延伸サイクルが繰り返され得る。歪みに対する応力の相対的に低い比率での延伸と、歪みが増加しない休止期間とのサイクルによって、機械的応力の強制関数のかなり低い値を加えながらも、商業的な繊維を製造するために使用される、現行の従来型の高強度のUHMWPE繊維延伸法によって得られる繊維の伸長と同様またはより高い繊維の伸長を達成することができた。
【0009】
歪みに対する応力の比率の値を制限する上述のサイクル処理を用いて繊維を製造した場合、偏光顕微鏡を用いて得られた繊維に観察される欠陥の数が大幅に減少することが分かった。さらに、このようにして製造された繊維を試験したところ、大幅に増加した靭性を有していることが分かった。したがって、ゲル紡糸および熱延伸処理によって非常に強靭な材料を製造することができる新しい方法が発明された。
【0010】
現時点では上述のサイクル延伸処理中に観察される挙動の背後にある微視的プロセスを明確に解明することは不可能であるが、何が起こり得るかを仮定することは可能である。繊維が高温で応力下に置かれたときに起こり得る2つの異なる機構が存在し得ることを仮定することができる。第1の機構は、比較的低い応力値での伸長をもたらす。第2の機構は、より高い応力値での伸長をもたらす。さらに、低応力延伸処理の後、および高温での休止期間中に、さらに第3のよりゆっくりと発生する機構が繊維中で起こり得ることを仮定することができる。この第3の処理は、他の手段で必要とされ得るよりも低い応力値を加えることによって、材料をさらに伸長させることができる。
【0011】
UHMWPE1の構造は本質的に、微視的領域またはラメラ(例えば、102)を有し、ポリマー鎖がジグザグまたはスイッチバックパターンで折り返される半晶質であり得ることがよく知られている。複数の高分子が単一のラメラ(例えば、102)の形成に関与することができ、非常に長いUHMWPE分子のうちの単一の1つが複数のラメラに存在することができる。
図1(ウィキペディアの記事https://en.wikipedia.org/wiki/Crystallization_of_polymersから転載)に示されるように、ラメラ(例えば、102)は、非晶質UHMWPE(例えば、104)の領域によって、ランダムな分子配列で連結される。歪みに対する応力の低い比率での安易な伸長処理は半晶質ポリマーの非晶質領域(例えば、104)における分子鎖を真っ直ぐにすることを含み得る一方で、歪みに対する応力の比率の急速な増加を必要とする処理はラメラ(例えば、102)のジグザグ構造の解きほぐしであり、密に充填された分子部分間のかなり高いファンデルワールス力を克服しなければならないことが仮定できる。また、ラメラ(例えば、102)がほぐされると、これらの構造の様々な規則的な部分が互いに「引っかかる」ことがあり、従来から製造されているUHMWPE繊維で観察される欠陥を生じると仮定することもできる。
【0012】
上述のサイクル延伸処理において何が起こり得るかを説明するために、三次元固体における溶融処理および結晶化処理に再度類推させることができる。部分的に溶融された三次元結晶性固体では、結晶性固体と溶解物との間に界面表面が存在し得る。これらの表面では、2つのプロセスが起こっている。第1のプロセスにおいて、熱エネルギーは、結晶の表面上の分子に伝達され、分子が結晶を離れて溶解物になる。第2のプロセスでは、溶解物由来の分子が結晶表面によって捕捉され、結晶への取り込み時に熱エネルギーを放つ。溶融処理が結晶固体および溶解物中の材料の量が一定のままであるように一時中断される場合、その結果、2つのプロセスの速度は、互いに等しくなければならない。より多くの熱がシステムに供給されると、より多くの分子が結晶から溶解物に移動する。結晶と溶解物との間の平衡は、化学ポテンシャルの影響によっても支配される。熱平衡において、例えば、少量の希釈溶剤を導入することによって、溶解物相中の結晶性固体からの材料の化学ポテンシャルが減少する場合、より多くの分子が、平衡を維持しようとするために結晶性固体を離れなければならない。
【0013】
半晶質UHMWPEの場合、ラメラ相と非晶質相との間に同様の平衡を仮定することができる。熱延伸処理で導入される熱は、ラメラ相から非晶質相へのUHMWPE分子部分の移動を増加させるため、適度な応力値で延伸処理をより容易にする。最初に、延伸処理は、非晶質領域内の材料を第3の線形秩序化された相に変換することである。延伸処理が、歪みに対する応力の比率が急速に増加しそうな点に達したとき、繊維中の非晶質相材料の量は、ほとんど使い果たされている。したがって、三次元固体との類推によって、非晶質相の化学ポテンシャルは著しく減少する。これは、ラメラ相から非晶質相への分子部分の熱媒介性の遅い移動を引き起こす。この移動が行われると、歪みに対する応力の比率が比較的低い値の時に延伸処理を再開することができ、ラメラをほぐす際に生じる「スナッギング」問題が回避される。言い換えれば、上述のサイクル熱延伸処理において生じると仮定される第3の遅いプロセスは、ラメラの非晶質相への「溶融」である。
【0014】
超強力UHMWPE繊維の製造に上述のサイクル処理を導入することに関する潜在的な問題は、当該処理が延伸処理における多数の休止期間を伴うために時間を要するため、製造処理が遅くなることである。さらに、繊維はこれらの休止期間中、いくらかの張力下に保たれる必要があり、その結果、繊維が処理の一方の端部から他方の端部まで移動しなければならない距離は、かなり長くなり得る。これは、繊維を製造するために使用される装置の設置面積が非常に大きくなり得ることを意味する。
【0015】
サイクル繊維延伸処理の上記の仮定された微視的分析において、休止期間中に、ラメラの非晶質相への熱媒介「溶融」が起こっていることが示唆された。この遅い第3のプロセスを加速したい場合、および必要な装置のサイズを縮小したい場合は、これらの休止期間中に繊維に熱を加えるだけでよいことは明らかである。しかしながら、UHMWPE繊維が抗張力を完全に失うか、または別の形態の熱分解を受ける前に、UHMWPE繊維を十分に加熱することはできない。したがって、微視的レベルで「溶融」プロセスの速度を増加させるが、繊維を巨視的に損傷しない形態で、熱エネルギーを繊維に導入する必要があるようである。
【0016】
図2は、UHMWPE材料の典型的な試料の赤外スペクトル2を示す。2800~2900cm
-1(3.5μm波長付近)の波数202では、赤外エネルギーの吸収が広く強いことがわかる。例えば、赤外LED光源を使用することによって、その波長の赤外線を繊維に照射することは、低応力/歪み延伸の期間の間に必要とされる時間を短縮するため、繊維が延伸の期間の間に移動しなければならない距離を低減することが見出された。
【0017】
典型的な実施例では、180℃の鉱油中の約5%UHMWPEおよび他の添加剤の溶液を、加圧容器の底部から、開口部または紡糸口金を通して押し出してゲル繊維を得て、水浴中で冷却し、次いでキシレンで洗浄する。キシレンでの洗浄およびその後の乾燥により、エアロゲル繊維が得られ、次いで、当該繊維は交互に延伸および休止する張力をかけられるが、上述の非延伸ゾーンが、繊維が通過する空間内に形成されるように、配置され、電動化されたアイドラローラーと対になった一連のゴデットを通過する。抵抗ヒータまたは好ましくは赤外線放射LEDによって与えられる熱を有する加熱ゾーンは、ゴデット/アイドラローラー対の間に配置されて、延伸ゾーンおよび休止ゾーンにおいて繊維を加熱する。
【0018】
上述のサイクル熱延伸法は、UHMWPEだけでなく、エチレン機能単位を含む高分子量コポリマーおよび他の高分子量ポリオレフィンにも適用することができる。サイクル熱延伸法は、テープならびに繊維などの超高強度ポリマー成分を製造するために用いられてもよい。
【0019】
上述のサイクル延伸法によって製造された繊維は、織布、不織布マット、または繊維およびポリマーマトリックスを含む複合材料を製造するために使用されてもよい。複合材料のポリマーマトリックスは、熱硬化性材料または熱可塑性材料を含んでいてもよい。例えば、熱硬化性ポリマーマトリックスは、重合化されたエポキシ樹脂、重合化されたポリウレタン樹脂、またはエポキシ官能基およびポリウレタン官能基の両方を含む重合樹脂を含んでいてもよい。特に、ビスフェノールA官能基(例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA))および/またはポリアミン(例えば、トリエチレンテトラミン(TETA)もしくはN-(2-アミノエチル)-1,3-プロパンジアミン)などの硬化剤と反応させたビスフェノールEを含むエポキシ樹脂を、ポリマーマトリックスとして使用してもよい。ポリオールと反応させた4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)および/または1,4-トルエンジイソシアネート(TDI)官能基を含むポリウレタン樹脂マトリックスを使用してもよい。また、S.P.Linら(European Polymer Journal 43 (2007) 996-1008)によって記載されているようなポリウレタン変性エポキシ樹脂を使用してもよい。
【0020】
第2のタイプの繊維は、上述のサイクル延伸法によって製造された繊維を含む、織布、不織布マット、または複合材料に導入されてもよい。例えば、ポリプロピレン繊維は、延伸ポリエチレン繊維を含む、織布、不織布マット、または複合材料に導入してもよい。炭素繊維(例えば、酸化ポリアクリロニトリル(PAN)の熱分解によって製造された炭素繊維)も、織布、不織布マット、または延伸ポリエチレン繊維を含む複合材料に導入してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、超高分子量ポリエチレンの半晶質の微細構造を示す。
【
図2】
図2は、ポリエチレンの赤外吸収スペクトルを示す。
【国際調査報告】