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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】エレクトロスピニング用組成物
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/00 20060101AFI20230327BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20230327BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230327BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20230327BHJP
【FI】
D01F9/00 Z
A61K8/73
A61K8/65
A61K8/86
A61Q19/00
D04H1/728
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548877
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 IB2021051188
(87)【国際公開番号】W WO2021161248
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】102020000002827
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522319767
【氏名又は名称】バケル エス.アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】BAKEL S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Viale del Ledra, 56, 33100 Udine, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリス ラファエラ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレディーニ ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトゥアーニ シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】ロソ マルティーナ
【テーマコード(参考)】
4C083
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4C083AD041
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD261
4C083AD281
4C083AD301
4C083AD302
4C083AD331
4C083AD371
4C083AD431
4C083CC02
4C083DD12
4C083FF01
4L035AA04
4L035BB02
4L035DD13
4L035FF05
4L035HH01
4L035JJ11
4L047AA29
4L047AB08
4L047CC03
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】本発明は、エレクトロスピニングされる組成物に関するものである。
【解決手段】
本組成物は、エレクトロスピニングされる第1の化合物及びエレクトロスピニング補助剤を含み、その機能は、第1の化合物のエレクトロスピニングを容易にし、特に、正常な繊維を得るためのエレクトロスピニング方法を確立するものである。組成物を作製する方法も開示されており、これは、エレクトロスピニングされる第1の化合物をエレクトロスピニング補助剤と混合する工程を提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニングされる組成物であり、
エレクトロスピニングされる第1の化合物及びエレクトロスピニング補助剤を含み、
エレクトロスピニングされる前記第1の化合物は、エレクトロスピニングのための生体適合性ポリマーであり、第1の多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びそれらの誘導体からなる群から選択され、
前記エレクトロスピニング補助剤は、前記第1の多糖類とは化学的に異なる第2の多糖類から選択されるものであり、ポリ(オキシエチレン)を有してもよいことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記第1の多糖類が、ヒアルロン酸、デンプン、アミロース、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ペクチン及び寒天から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エレクトロスピニング補助剤が、プルラン及び、アルギン酸とポリ(オキシエチレン)との混合物から選択されることを特徴とする、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
エレクトロスピニングされる前記第1の化合物と前記エレクトロスピニング補助剤との比が、4:1~1:7であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
有効成分を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
作製される繊維を安定化させる安定剤を含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記安定剤が架橋性ポリマーであることを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記エレクトロスピニング補助剤がプルランであり、前記安定剤がアルギン酸であることを特徴とする請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
エレクトロスピニングされる前記第1の化合物としてヒアルロン酸を含み、前記エレクトロスピニング補助剤としてアルギン酸:PEOが1:1の混合物を含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記エレクトロスピニング補助剤:ヒアルロン酸の重量比が1:3であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
エレクトロスピニングされる前記第1の化合物としてヒアルロン酸を含み、
前記エレクトロスピニング補助剤としてプルランを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
前記エレクトロスピニング補助剤:ヒアルロン酸の重量比が1:2であることを特徴とする、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
エレクトロスピニングされる第1の化合物をエレクトロスピニング補助剤と混合するステップを含み、
エレクトロスピニングされる前記第1の化合物は、エレクトロスピニングのための生体適合性ポリマーであり、第1の多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びそれらの誘導体からなる群から選択され、
前記エレクトロスピニング補助剤は、前記第1の多糖類とは化学的に異なる第2の多糖類からなる群から選択されるものであり、ポリ(オキシエチレン)を有してもよい、
ことを特徴とするエレクトロスピニングされる組成物を作製する方法。
【請求項14】
エレクトロスピニングされる生体適合性ポリマーであり、
第1の多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースHPMC及びそれらの誘導体からなる群から選ばれるエレクトロスピニングされる組成物のためのエレクトロスピニング補助剤としてのプルランの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニングするための組成物、すなわち、エレクトロスピニングによってナノファイバーを製造することを可能にする組成物に関するものである。より具体的には、この組成物は、エレクトロスピニングするためのポリマー、好適には生体適合性ポリマーに基づくタイプである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスピニング(電界紡糸)プロセスは公知である。それによれば、電界を加えられ、エレクトロスピニングされるポリマー化合物をベースとする組成物から出発して、ナノファイバー、すなわち、ナノメートルオーダーの直径を有する連続繊維を得ることができる。エレクトロスピニングされる化合物の種類に応じて、得られたナノファイバーは、医療、軍事防衛、環境、バイオテクノロジー、エネルギー、化粧品分野など、あらゆる分野で応用することができる。
【0003】
環境保護の観点から、エレクトロスピニングはエコロジカルな溶媒、特に水中で行われる傾向にある。しかし、純水中での高分子のエレクトロスピニングは、その表面張力と得られる化合物の粘性のため、簡単ではない。
【0004】
問題を克服するために、例えば、アンモニウム水溶液、したがって高pHの溶液、あるいは40℃のジメチルホルムアミドDMFが存在する水中でのエレクトロスピニングによって、水の表面張力と粘性を下げる試みがなされてきた。また、ヘキサフルオロイソプロパノールHFIPやエタノールでも実験が行われている。しかし、この方法では、エコロジカルな側面が損なわれてしまう。
【0005】
いくつかの代替案が提案されている。例えば、US2006/264130には、多糖類(ポリサッカライド)と有効成分とを含む組成物をエレクトロスピニングすることにより、ナノメートルファイバーを製造する方法が記載されている。この組成物は、水に可溶又は分散可能であれば、任意の多糖類又は多糖類の混合物から構成することができる。また、当文献では、多糖類のエレクトロスピニングを助けるためにエタノールを添加することも記載されている。
【0006】
EP2079860は、2つのポリマー溶液をエレクトロスピニングしてマイクロチューブ又はナノチューブを製造する方法を開示しており、その際、ポリマーは生体適合性であり得る。第1のポリマー溶液はマイクロチューブを形成する役割を果たし、第2のポリマー溶液はマイクロチューブの内表面にコーティングを形成する役割を果たす。各エレクトロスピニング溶液は、エレクトロスピニングされる1つのポリマーからなる。
【0007】
CN107675359は、プルランとアルギン酸ナトリウムの複合繊維をエレクトロスピニングで作製する方法を記載している。アルギン酸(アルジネート)は、エレクトロスピニングされるプルランの溶液の粘性を調節するために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US2006/264130
【特許文献2】EP2079860
【特許文献3】CN107675359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの溶液でも、溶媒である水の表面張力や、得られた溶液の粘性については、この分野のニーズを十分に満たしているとは言えない。
したがって、従来技術の欠点の少なくとも1つを克服することができるエレクトロスピニングされる組成物を完成させる必要性がある。
【0010】
本発明の一つの目的は、特に、純水又は環境に影響を与えない水溶液でエレクトロスピニングを行うことができるエレクトロスピニング用組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、連続したナノファイバー、又は、いずれにせよ、ほぼ一定の直径を持ち、欠陥のない繊維を製造することができる、エレクトロスピニングするための組成物を提供することである。
【0012】
本出願人は、現状の欠点を克服し、これら及び他の目的及び利点を得るために、本発明を考案し、試験し、具現化したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、独立請求項において規定され、特徴付けられる。従属請求項は、本発明の他の特徴又は主発明思想に対する変形を記載する。
上記の目的に従って、本出願は、従来技術の限界を克服し、そこに存在する欠陥を除去する、エレクトロスピニングされる組成物を記載するものである。
【0014】
いくつかの実施形態に従って、組成物(混合物)は、エレクトロスピニングされる第1の化合物と、スピニング補助(促進)剤(スピニングプロモーター)とを含む。スピニング(紡糸)補助剤は、正常な(レギュラーな)繊維を得るために、第1の化合物の紡糸を容易にし、特にエレクトロスピニング法(電界紡糸法)を確立させる機能を有する。
【0015】
エレクトロスピニングされる第1の化合物は、エレクトロスピニングされるのに適した生体適合性ポリマーであり、第1の多糖類(ポリサッカライド)、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースHPMC及びそれらの誘導体からなる群から選択される。第1の多糖類は、多糖類(ポリサッカライド)から選択されること、すなわち、いかなる多糖類であってもよいことに留意されたい。
好適には、組成物の第1の多糖類は、ヒアルロン酸HA、デンプン、アミロース、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ペクチン、及び寒天から選択される。
【0016】
スピニング補助剤は、キャリアポリマー(担体ポリマー)であり、フィラーを含まないこともあり得、第1の多糖類とは化学的に異なる第2の多糖類(ポリサッカライド)からなる群から選択され、ポリ(オキシエチレン)PEOの存在もあり得る。好適には、キャリアポリマーは、また、フィラーを含まないこともあり得、生体適合性である。第1の多糖類と同様に、第2の多糖類は多糖類(ポリサッカライド)から選択されるものであり、つまり、第1の多糖類と化学的に異なる限り、いかなる多糖類であってもよい。「第1の多糖類と化学的に異なる」という表現は、第1の多糖類と第2の多糖類が異なる化学構造を有する2つの分子であることを意味する。
【0017】
好適には、組成物の第2の多糖類は、アルギン酸及びプルランから選択される。
好適には、エレクトロスピニング補助剤(電界紡糸補助剤)は、プルラン及び、アルギン酸とポリ(オキシエチレン)との混合物から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、この組成物はまた、有効成分(活性成分)を含む。この有効成分は、例えば、ペプチド、アミノ酸、抗酸化剤、及びビタミンから選択することができる。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、エレクトロスピニングの結果により得られた(紡糸された)繊維の安定性を向上させるのに適した安定剤も含む。好適には、安定剤は、架橋性ポリマーである。
【0020】
上記のような組成物の利点は、例えばヒアルロン酸の局所濃度が、従来の製剤で得られる濃度よりもはるかに高い化粧品(美容用製品)を作り得ることにある。公知の組成物では、ヒアルロン酸、多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースHPMC及び低分子量のそれらの誘導体であっても、製品の粘度が上昇しすぎるため、高濃度に達することは事実上不可能であり、5~10重量%を超えることは不可能であった。本発明の組成物により、50重量%までの濃度のヒアルロン酸を皮膚に適用することができる化粧品を得ることも可能となる。
【0021】
一態様によれば、エレクトロスピニングされる第1の化合物とスピニング補助剤とが混合される、エレクトロスピニングされる組成物を準備(調製)する方法も提供される。
エレクトロスピニングされる第1の化合物は、エレクトロスピニングされるのに適した生体適合性ポリマーであり、第1の多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースHPMC及びそれらの誘導体からなる群から選択することができる。好適には、本組成物の第1の多糖類は、ヒアルロン酸HA、デンプン、アミロース、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ペクチン、及び寒天から選択される。
【0022】
スピニング補助剤は、第1の多糖類とは化学的に異なる第2の多糖類からなる群から選択されるフィラーなしのキャリアポリマーであり、ポリ(オキシエチレン)PEOの存在もあり得る。また、好適には、フィラーを含まないキャリアポリマーは、生体適合性である。好適には、本組成物の第2の多糖類は、アルギン酸及びプルランから選択される。
【0023】
別の態様によれば、特に、エレクトロスピニングに適した生体適合性ポリマーであり、多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースHPMC及びそれらの誘導体からなる群から選択されるエレクトロスピニングする化合物に対し、スピニング補助剤としてプルランを使用することも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明のこれら及び他の態様、特徴及び利点は、添付図面を参照して非制限的な例として与えられるいくつかの実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
図1図1は、本発明の組成物を用いて製造された化粧品の適用と、プラセボ製品の適用とによる、皮膚の水分量(保湿)の変化を示すグラフである。
図2図2は、本発明の組成物を用いて製造された化粧品の適用と、プラセボ製品の適用とによる、皮膚の弾力性の変化を示すグラフである。
図3図3は、本発明の組成物を用いて製造された化粧品の適用と、プラセボ製品の適用とによる、皮膚のコラーゲンの密度の変化を示すグラフである。
図4図4は、未処理の皮膚におけるコラーゲンの存在の変化を示す図である。
図5図5は、本発明の組成物で作られた化粧品で処理された皮膚におけるコラーゲンの存在の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の可能な実施形態について詳細に説明する。各例は、本発明の説明のために提供されたものであり、その限定として理解されてはならない。例えば、ある実施形態の一部である限りにおいて示され又は説明された1つ以上の特性は、他の実施形態を作り出すために、他の実施形態上で、又は他の実施形態と関連して、変化させ又は採用することができる。本発明は、そのようなすべての変更及び変形を含むものと理解される。
【0026】
これらの実施形態を説明する前に、本明細書は、以下の説明で述べるような構成要素の構造及び配置の詳細に、その適用を限定するものではないことも明らかにしなければならない。本明細書は、他の実施形態を提供することができ、他の様々な方法で取得又は実行することができる。また、ここで使用される言い回しや用語は、説明のためだけのものであり、限定的なものと考えることはできないことを明らかにしなければならない。
【0027】
特に定義しない限り、ここ及び以下で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における通常の経験を有する者が、一般的に理解するのと同じ意味を有する。ここに記載されたものと類似又は同等の方法及び材料が、本発明の実施及び試験において使用できるとしても、その方法及び材料は、以下では一例として記載されたものである。矛盾が生じた場合は、その定義も含めて本願明細書が優先されるものとする。材料、方法及び実施例は、純粋に例示の目的を持ち、制限的に理解されるものではない。
【0028】
特に断りのない限り、すべての測定は25℃(室温)、大気圧で実施した。特に断りのない限り、すべての温度は摂氏で表示されている。
ここで示されたすべてのパーセント及び比は、特に断らない限り、全組成物の重量(w/w)を指すと理解される。
ここで報告されるすべてのパーセント間隔は、特に断りのない限り、全体の構成に関する和を100%とする規定で提供される。
ここで報告されるすべての間隔(区間)は、特に断りのない限り、2つの値の「間」(~)の間隔を記載するものを含め、両端を含むと理解されるものとする。
【0029】
また、本説明では、特に断りのない限り、記載された2つ以上の区間を重ね合わせたり、一体化させたりすることで派生する区間も含まれる。
また、本説明では、特に断りのない限り、異なる点で取られた2つ以上の値の組合せから導き出すことができる区間も含む。
水と記載されている場合は、特に指定がない限り、蒸留水を意味する。
【0030】
この組成物は、エレクトロスピニングされる第1の化合物を含んでいる。
エレクトロスピニングされる第1の化合物は、エレクトロスピニングするのに適した生体適合性ポリマーであり、多糖類、コラーゲン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースHPMC及びそれらの誘導体からなる群から選択される。
好適には、エレクトロスピニングされる第1の化合物は、エレクトロスピニングされる第1の多糖類であり、さらに好適には、ヒアルロン酸、デンプン、アミロース、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ペクチン及び寒天から選択される。
【0031】
エレクトロスピニングされる多糖類がヒアルロン酸の場合、それは鎖状型又は架橋型であり得、例えば100万ダルトン又はそれ以上のオーダーの高い質量を有することができ、又は代替的に低い質量、典型的には1万ダルトン又はそれ以下のオーダーを有することができる。また、鎖状(直鎖状)ヒアルロン酸と架橋ヒアルロン酸の混合物を提供して、得られる糸の剛性を調節し、さらに糸を支持体上に堆積させて得られるフィルムの三次元構造を調節することも可能である。
【0032】
第1の化合物は、好適には水溶液又は水性ベースの溶液に希釈され、低濃度、例えば0.5重量%~5重量%、より好適には0.6重量%~2.5重量%で使用される。
【0033】
エレクトロスピニングされる組成物は、また、フィラーを含まないキャリアポリマーであるスピニング補助剤を含み、有利には生体適合性である。それは、多糖類からなる群から選択され、ただし、エレクトロスピニングされる第1の多糖類とは化学的に異なり、ポリ(オキシエチレン)PEOと組み合わされることもあり得る。PEOは、水溶性で生体適合性があるので、補助剤として良い候補である。
【0034】
好適には、本プロモーター多糖類(補助剤用多糖類)は、アルギン酸、(PEOの存在下もあり得る)、プルランから選択され得る。さらに好適には、エレクトロスピニング補助剤(プロモーター)は、アルギン酸:PEO混合物及びプルランから選択される。
【0035】
アルギン酸(アルギネート)とPEOは、好適には水溶液又は水性ベースの溶液、2重量%~30重量%、より好適には4重量%~10重量%で構成される濃度で、別々に希釈される。アルギン酸:PEO混合物は、好適には5:1~1:5、より好適には2:1~1:2の比で製造される。最良のエレクトロスピニングの結果は、1:1に等しい割合で得られた。
【0036】
一方、プルランは、好適には3重量%~30重量%、より好適には10重量%~20重量%で構成される濃度で水溶液又は水性ベースの溶液に希釈される。エレクトロスピニングされる第1の化合物と補助剤は、(第1の化合物):補助剤の比が、好適には4:1~1:7、より好適には3:1~1:6で混合される。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、組成物はまた、例えばペプチド、アミノ酸、抗酸化剤及びビタミンから選択される有効成分を含む。これらの有効成分は、特に、医療及び/又は化粧品分野での用途に有用である。
【0038】
有効成分が存在する場合、エレクトロスピニングされる第1の化合物は、鎖状ヒアルロン酸と架橋ヒアルロン酸との混合物から構成することができる。架橋ヒアルロン酸は、得られるナノメートル繊維の剛性を高める効果があるが、得られる繊維を複数の層に連続的に堆積させることによって得られるフィルムの三次元構造の複雑さを高める効果もある。 特に、架橋ヒアルロン酸の存在は、フィルムに空洞を形成し、その空洞が有効成分の分子を収容することを可能にする。好適には、有効成分は、エレクトロスピニングの前に、紡糸される組成物(化合物)と補助剤との混合物中に導入される。
【0039】
また、いくつかの実施形態によれば、組成物は安定剤を含み、それは好適には架橋性ポリマーである。安定剤の一例は、アルギン酸ナトリウムであり、これは、補助剤としてのプルランに添加されなければならない。好適には、プルラン:アルギン酸の割合は、3:1.5~3:0.5で構成され、より好適には、3:1に等しい。
【0040】

本明細書による組成物の例に対して、エレクトロスピニング試験を実施した。組成物の例において、エレクトロスピニングされる第1の化合物は、以下の表に記載された化合物から選択される。
【0041】
これらの化合物は、Esperis S.p.A.、Milan、Evonik Degussa Italia、Cremona、及びIRALAB S.p.A.、Usmate Velate(MI)から供給されている。分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル透過クロマトグラフィー)により決定した。
【0042】
エレクトロスピニングは、日本企業のMecc社のNANON.01A装置で実施した。実験条件は、以下の各例で示される。
作製されたファイバー(繊維)は、走査型電子顕微鏡によって特性評価された。具体的には、スパッタコーターEMITECHK950x Turbo Evaporator、EBSciences、East Granby、CTを使用して金をコーティングし、Cambridge Stereoscan 440 SEM、Cambridge、UK走査型電子顕微鏡で観察した。
【0043】
エレクトロスピニングされる組成物(化合物)としてのヒアルロン酸と、スピニング補助剤としてのPEO:アルギネート混合物とを含む組成物のエレクトロスピニングの例。
スピニング補助剤は、5重量%のアルギン酸の水溶液と5重量%のPEOの水溶液とを1:1の比で混合したものである。そして、この補助剤に、平均分子量1.2MDaの鎖状ヒアルロン酸の水溶液を0.5重量%で混合した。
補助剤:(HA溶液)の比は5.6:1に等しい。この組成物は、以下の条件でエレクトロスピニングされた。相対湿度(RH)は24%~29%、温度22℃、電界20kV、ヘッドでの組成物の体積流量は0.7mL/hに等しく、紡糸ヘッドと繊維が堆積する支持体との間の距離は15cmに等しく、使用したニードル(針)は22Gタイプのニードルである。得られた繊維は正常で、欠陥の少ないものであった。
同じ補助剤を、13重量%のヒアルロン酸オリゴマー水溶液と、補助剤:(HA溶液)の比が1:3に等しい状態で混合した。この第2例の組成物を、上記の第1例と同じ操作条件でエレクトロスピニングしたところ、平均直径が250~350nmの、非常に正常な欠陥のない繊維が得られた。得られた繊維は、使用した支持体を完全に覆っていた。
【0044】
エレクトロスピニングされる化合物としてのヒアルロン酸とスピニング補助剤としてプルランとを含む組成物のエレクトロスピニングの例
使用したプルランは、株式会社Hayashibaraの食品グレードのものである。10重量%、15重量%、20重量%のプルラン水溶液を準備(調製)し、これらのプルラン水溶液(スピニング補助剤)をヒアルロン酸水溶液と混合して、エレクトロスピニングを行った。
【0045】
下の表は、エレクトロスピニングを行った組成物の例と、それに対するエレクトロスピニングの操作条件を示したものである。
【0046】
【0047】
例1では、欠陥のない、平均直径400~700nmの正常な繊維が得られた。しかし、試験中、堆積はほとんど観察されなかった。
【0048】
例2では、エレクトロスピニング溶液の粘度が高いため、得られた繊維は平均直径10μmと太い。
【0049】
例3では、得られた繊維は、50nm~2μmの平均直径を有する。この例では、繊維はアルミニウム上とPBSAのフィルム上の両方に堆積されたことが観察される。
【0050】
一方の例4と例7(プルラン:HAの比率が1:2に等しい)と、他方の例6と例8(プルラン:HAの比率が1:3に等しい)により、補助剤とヒアルロン酸の比の影響を検証することができた。
例4では、得られた溶液は、良好なエレクトロスピニングのための最適な特性を有しており、得られた繊維は800nmから1μmの範囲の平均直径を有している。酸性pHを有する例4の組成物について、pHを5.5まで増加させ(NaOH 1Mを加えることによって)、その結果、例7の溶液を得た。後者では、エレクトロスピニングにより、平均直径が500~700nmと、例4よりも小さい正常で均一な繊維が得られた。
【0051】
ヒアルロン酸の割合を増やすことで、例6(酸性pHの場合)では、平均値が1~3μmに等しい、均一な直径の繊維が得られたが、例8(pH5.5の場合)では、700nmから3μmの範囲の不均一な直径を有する繊維が得られた。
【0052】
例5では、プルランに安定剤としてアルギン酸を添加した。補助剤:HAの比が1:3で、表に記載の条件で、数ミクロンのオーダーの平均直径を持つ、太い繊維が得られた。
【0053】
皮膚の美容処理における組成物の効率の予備的なインビボ(in vivo)評価
本発明による組成物のエレクトロスピニングによって得られた繊維に基づく化粧品、及びプラセボを適用するよう求められた10人のボランティア(協力者)に対して、予備評価を実施した。
以下に示す結果は、本発明による組成物によって達成される技術的効果を示すものであるが、さらなる試験で確認されなければならないことを、ここに明らかにしたい。
【0054】
各ボランティアは、化粧品とプラセボの両方を、それぞれの腕、特に前腕の掌部に、1日1回の割合で、4週間にわたって適用した。
【0055】
化粧品とプラセボは、アルミニウム支持シート上に4x3cmの大きさのエレクトロスピニング繊維のシート状で(シートの形態で)供給された。どちらもベースは同じで、化粧品には化粧成分を添加した。
【0056】
使用した化粧品は、エレクトロスピニングされる第1の化合物としてヒアルロン酸HAと、エレクトロスピニング補助剤としてプルランを有する。ヒアルロン酸25gとプルラン12.5gを水30~50mLに溶解し、希釈により100mLとし、pHを確認し、pH5.5~6となるようにNaOH 1Mの溶液を適宜加えて補正してもよく、エレクトロスピン溶液を準備(調製)した。
【0057】
一方、プラセボ溶液は、ヒアルロン酸を含まず、プルランのみを含むものである。化粧品について述べたのと同様に、15gのプルランを30~50mLの水に溶解し、希釈して100mLとし、pHを確認し、pH5.5~6となるようにNaOH 1Mの溶液を適宜加えて補正してもよい。得られた溶液をエレクトロスピニングで紡糸した。
【0058】
処理の効果は、特に皮膚(肌)の水分量(保湿)、肌の弾力性、コラーゲン密度を評価するために、機器を用いた方法で測定された。測定は、処理開始前(T0)、処理1週間後(T7)、2週間後(T14)、4週間後(T28)に行われた。
【0059】
皮膚の水分量評価
皮膚の水分量は、Corneometer(登録商標)のDerma Unit SSC 3水分量プローブで測定された。このプローブは、キャパシタープレートとして機能する一連の金製のトラック(線)で構成されている。このプレートは、誘電体と呼ばれる電気絶縁体で電気的に絶縁されている。電源に接続すると、電子がプレート間を流れて電界を作る:コンデンサに蓄えられた電荷の量を容量と呼ぶ。ほとんどの材料は真空より大きな誘電率を持っているので、キャパシタープレートの間にどんな材料があっても、容量は増加する。皮膚に含まれる水分は、その含有量に比例して容量が変化するため、任意単位で皮膚の水分量を測定することができる。
【0060】
皮膚の弾力性の評価
皮膚の弾力性の測定は、Cortex 社の DermaLab Combo Skinlab 弾力性プローブを用いて行った。このプローブは、真空状態にするためのチャンバーを備えており、皮膚表面に吸引をかけることができる。吸引方法は、皮膚を上昇させるステップと、後退させるステップを含み、プローブチャンバー内の赤外線センサーで制御される。皮膚の弾力性に関係するパラメーターの1つとして、皮膚が最大に上昇した後、1.5mm後退するのに必要な時間をミリ秒単位で表した後退時間(Retraction Time)がある。若くて弾力性のある皮膚は上昇してもすぐに元の状態に戻るが、弾力性のない皮膚は後退時間が長くなる。したがって、後退時間が短くなることは、皮膚の弾力性が高まっていることを示している。
【0061】
コラーゲン密度の評価
DermaLab Combo Skinlab(Cortex)超音波プローブを用いて、皮膚の深層部の高解像度画像を取得した。この技術は、既知の周波数の音響インパルスを皮膚に送ったときの、皮膚の音響応答を測定することに基づいている。この音響インパルスは、皮膚のさまざまな構造に当たり、一部が反射される。反射された信号の一部は超音波トランスデューサによって検出され、皮膚の断面画像を生成するために処理される。反射された信号の強度はカラースケールで表示され、最も暗い部分は反応が低い部分(構造の密度が低い又は低下している部分)を表し、明るい部分は密度が高い部分を表している。この技術により、深さ3.4mmまでの皮膚の画像を0.06mmの分解能で再構成し、表皮、真皮、皮下層の構造を強調することができる。画像処理ソフトウェアにより、コラーゲンの密度に直接関連するエコー応答強度の値が表示される。使用される音響インパルスのエネルギーは非常に低く、皮膚や他の組織への悪影響はない。
【0062】
解析の実施
測定は、温度21±2℃、湿度約60%にコントロールされた環境下で行った。
化粧品とプラセボの使用方法は、処理する部位に対応する皮膚を湿らせ、アルミニウムの表面を上向きにして製品シートを貼り、製品を皮膚上で3分間作用させ、アルミニウム支持体を取り除き、必要に応じて、製品が完全に吸収されるのを最終的に待つこと、を規定する。
【0063】
結果
皮膚の水分量の観点からの処理の結果は、以下の表1及び図1のグラフに要約されている。皮膚の水分量の測定値は、任意のコルネオメトリック単位(コルネオメータ単位)で表され、試験中に記録された値の平均値として、初期値(T0)と試験の終わり、すなわち4週間(T28)に記録された値との差及びパーセント変動率として報告されている。
【0064】
【0065】
化粧品による処理では、28日後に皮膚の水分量が有意に増加することが確認された。一方、プラセボによる処理では、有意な変化は見られなかった。
【0066】
皮膚の弾力性に関する結果は、表2にまとめられ、図2のグラフに表されている。弾性データはミリ秒(msec)で表され、試験中に記録された値の平均値として、初期値(T0)と処理終了時、すなわち4週間後の値(T28)の差とパーセント変動率として報告されている。
【0067】
【0068】
いずれの処理でも、わずかではあるが、有意ではないものの、皮膚の弾力性の増加が見られた。化粧品で処理されたゾーンでは、プラセボで処理されたゾーンよりも大きな増加が見られたが、この増加は統計的な観点からは有意ではなかった。
【0069】
コラーゲン密度の結果は、表3及び図3のグラフにまとめられている。コラーゲン密度のデータは、試験中に記録された値の平均値として、初期値(T0)と処理終了時、すなわち4週間(T28)の値との差及びパーセント変動率として報告されている。
【0070】
【0071】
化粧品による処理では、コラーゲン密度の増加を確認することができたが、この増加は統計的に有意ではなかった。一方、プラセボによる処理では、コラーゲン密度の増加は認められなかった。
【0072】
また、コラーゲン密度に対する化粧品の効果を評価するための別の試験も行われた。
化粧品の適用形態は上記と同様であるが、処理は8週間にわたって行われた。
図4及び図5は、上記に示した使用機器により収集されたデータから処理された皮膚の断面画像である。白い部分は、コラーゲンの存在を示している。
図4は、処理開始時(T0、左側)と8週間の処理後(右側)の、皮膚の未処理ゾーンの断面を示している。それに対して、図5は、処理開始時(T0、左側)と8週間の処理後(右側)の皮膚の処理ゾーンを示している。
処理ゾーンでは、処理終了時に皮膚のコラーゲンが目に見えて増加するが、この増加は未処理部位では見られない。
【0073】
結論として、上記のテストは、プラセボと比較した化粧品の効果を予備的に評価するものである。モニターされた3つのパラメーターすべてにおいて、プラセボよりも化粧品で、より大きな改善傾向が見られた。
【0074】
実施された試験により、少なくともコラーゲン密度は改善される傾向が認められた。
この傾向は、特に、最後のコラーゲン密度テストにおいて、適用期間を2倍(4週間から8週間)にしたことで確認されている。コラーゲン密度の変化は、視覚的な検証のみからでも、さらに明白である。強調すべきは、皮膚のコラーゲン繊維の状態において観察された改善は、ヒアルロン酸のみを適用した化粧品の1日1回の適用で得られたものであり、現状の技術による化粧品よりも短い時間で得られたものである。
ちなみに、公知の製品では、皮膚のコラーゲン繊維の改善を得るには、より長い適用期間(少なくとも3ヶ月)と、より多くの毎日の適用回数を必要とする。
【0075】
上記の予備的研究から得られた結果を考慮すると、測定されたパラメーター、特に水分量とコラーゲン密度について、プラセボと比較して、化粧品で処理されたゾーンの興味深い改善傾向を観察することができる。
【0076】
特許請求の範囲によって定義される本発明の分野及び範囲から逸脱することなく、これまでに説明したような組成物に修正及び/又は部品の追加を行うことができることは明らかである。
【0077】
また、本発明をいくつかの具体例を参照して説明したが、当業者であれば、特許請求の範囲に規定されるような特性を有し、したがって、すべてがそれによって定義される権利範囲内に入る、エレクトロスピニングされるべき組成物の多くの他の等価形態を確実に達成できるであろうことは明白である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】