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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】熱電気化学変換器
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/13 20230101AFI20230327BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20230327BHJP
【FI】
H10N10/13
H10N10/01
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549209
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(85)【翻訳文提出日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 US2021017745
(87)【国際公開番号】W WO2021216171
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】62/976,764
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522322723
【氏名又は名称】ジェイテック・エナジー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロニー・ジー・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】ディヴィッド・ケテマ・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・アシュフォード・ナイト
(72)【発明者】
【氏名】テドリック・ディー・キャンベル
(57)【要約】
熱電気化学変換器が提供される。変換器は、作動流体、結合される第1および第2の膜電極組立体(MEA)、第1および第2の熱伝達部材、ヒートシンク、および熱源を含む。各MEAが、第1の圧力で動作する第1の多孔質電極、第1の圧力より高い第2の圧力で動作する第2の多孔質電極、およびそれらの間に挟まれるイオン伝導性膜を含む。第1のMEAが作動流体を圧縮し、第2のMEAが作動流体を膨張させる。第1の熱伝達部材は、第1のMEAの低圧電極に結合されて、熱的にインターフェースする。第2の熱伝達部材は、第2のMEAの低圧電極に結合されて、熱的にインターフェースする。ヒートシンクが第1のMEAの低圧側に結合され、熱源が第2のMEAの低圧側に結合される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体と、
第1の膜電極組立体および前記第1の膜電極組立体に結合される第2の膜電極組立体であって、第1および第2の膜電極組立体の各々が、第1の圧力で動作する第1の多孔質電極、前記第1の圧力より高い第2の圧力で動作する第2の多孔質電極、およびそれらの間に挟まれるイオン伝導性膜を含み、前記第1の膜電極組立体が前記作動流体を圧縮するように働き、前記第2の膜電極組立体が前記作動流体を膨張させるように働く、第1の膜電極組立体および第2の膜電極組立体と、
前記第1の膜電極組立体の前記第1の多孔質電極に結合される第1の熱伝達部材であって、前記第1の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面からの熱伝達を容易にする、第1の熱伝達部材と、
前記第2の膜電極組立体の前記第1の多孔質電極に結合される第2の熱伝達部材であって、前記第2の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面への熱伝達を容易にする、第2の熱伝達部材と、
前記第1の膜電極組立体の前記低圧側に結合されるヒートシンクと、
前記第2の膜電極組立体の前記低圧側に結合される熱源と
を備える、熱電気化学変換器。
【請求項2】
熱機関として機能する前記変換器の第1の動作構成では、前記第1の膜電極組立体の動作温度が前記第2の膜電極組立体の動作温度より低く、前記第1の膜電極組立体の動作が、前記ヒートシンクへの前記第1の熱伝達部材による排熱で入力される電力によって駆動され、前記第2の膜電極組立体の動作が、電力を生成するために前記熱源から前記第2の熱伝達部材へ入力される熱によって駆動され、前記第2の膜電極組立体が、前記第1の膜電極組立体の前記動作を駆動し、正味の電力出力を提供するのに十分な量の電力を生成し、
ヒートポンプとして機能する前記変換器の第2の動作構成では、前記第1の膜電極組立体の前記動作温度が前記第2の膜電極組立体の前記動作温度より高く、前記第1の膜電極組立体の動作が、ヒートシンクへの前記第1の熱伝達部材による排熱で入力される電力によって駆動され、前記第2の膜電極組立体の動作が、電力を生成するために前記熱源から前記第2の熱伝達部材へ入力される熱によって駆動され、前記第1の膜電極組立体が、ヒートポンプについて要求される正味の電力入力とともに第2の膜電極組立体によって生成されるものより大きい量の電力を消費する、請求項1に記載の熱電気化学変換器。
【請求項3】
前記第1の膜電極組立体と第2の膜電極組立体とが互いに結合され、その結果、前記第1の膜電極組立体が前記第2の膜電極組立体に圧縮した作動流体を供給し、第2の膜電極組立体が前記第1の膜電極組立体に膨らんだ作動流体を供給する、請求項1に記載の熱電気化学変換器。
【請求項4】
前記圧縮した作動流体が前記第1の膜電極組立体の高圧電極から前記第2の膜電極組立体の高圧電極に供給され、前記膨らんだ作動流体が前記第2の膜電極組立体の低圧電極から前記第1の膜電極組立体の低圧電極に供給される、請求項3に記載の熱電気化学変換器。
【請求項5】
前記第1の多孔質電極および前記第2の多孔質電極に接続される外部電源をさらに備え、前記電極に印加されて、前記外部電源によって強制された電子流として作動流体流を駆動する電力が、第1および第2の膜電極組立体の各々の膜を通したイオン伝導性をもたらす、請求項1に記載の熱電気化学変換器。
【請求項6】
前記第1の膜電極組立体において、熱が前記低圧側で抽出され、印加されるポンピング電圧によって前記作動流体が前記第1の膜電極組立体を横切って高圧側に移動することにより圧縮熱が生成され、前記圧縮熱が前記第1の膜電極組立体の前記低圧側に向かう方向に伝導され、その結果、熱ガルバニック電圧が前記作動流体を前記第1の膜電極組立体に印加される前記電圧と同じ方向に動かす傾向があり、前記低圧側から前記高圧側への前記作動流体のポンピングを引き起こす、請求項1に記載の熱電気化学変換器。
【請求項7】
前記第2の膜電極組立体において、熱が前記低圧側に印加され、その結果、結果として得られる前記第2の膜電極組立体への熱流束が、高圧側から低圧側へ前記第2の膜電極組立体を通って膨らむ前記作動流体の方向と反対の方向であり、前記低圧側に印加される熱によって生成される熱電ポテンシャルが前記作動流体を前記低圧側に引っ張り、それによって、前記第2の膜電極組立体の出力電圧が増加する、請求項1に記載の熱電気化学変換器。
【請求項8】
イオン化可能作動流体と、
第1の多孔質電極、第2の多孔質電極、および前記第1の多孔質電極と第2の多孔質電極との間に挟まれる前記イオン化可能作動流体のイオンを伝導するように構成される少なくとも1つのイオン伝導性膜を含む少なくとも1つの膜電極組立体と、
第1の圧力で前記イオン化可能作動流体を含んで動作する第1のコンジットおよび前記第1の圧力より高い第2の圧力で前記イオン化可能作動流体を含む第2のコンジットであって、前記第1のコンジットが前記第1の多孔質電極に結合され前記少なくとも1つの膜電極組立体の低圧側に対応し、前記第2のコンジットが前記第2の多孔質電極に結合され前記少なくとも1つの膜電極組立体の高圧側に対応する、第1のコンジットおよび第2のコンジットと、
前記低圧側で前記少なくとも1つの膜電極組立体に結合される熱伝導体であって、前記低圧側で前記膜電極組立体のほぼ全面との間で熱を結合する熱伝導体とを備える、熱電気化学変換器。
【請求項9】
前記少なくとも1つの膜電極組立体に前記低圧側で結合されるヒートシンクをさらに備える、請求項8に記載の熱電気化学変換器。
【請求項10】
前記少なくとも1つの膜電極組立体に前記低圧側で結合される熱源をさらに備える、請求項8に記載の熱電気化学変換器。
【請求項11】
前記少なくとも1つの膜電極組立体を横切る熱流束で、前記作動流体のイオン伝導の方向と反対方向に、温度勾配が生成され、それによって、前記イオン伝導に関連する抵抗性電圧損失に対して反対の極性のものである、前記少なくとも1つの膜電極組立体にわたる熱ガルバニック電圧を生成する、請求項10に記載の熱電気化学変換器。
【請求項12】
熱を電気エネルギーへと変換する方法であって、
熱電気化学変換器を提供するステップであって、前記熱電気化学変換器が、
作動流体と、
第1の膜電極組立体および前記第1の膜電極組立体に結合される第2の膜電極組立体であって、第1および第2の膜電極組立体の各々が、第1の圧力で動作する第1の多孔質電極、前記第1の圧力より高い第2の圧力で動作する第2の多孔質電極、およびそれらの間に挟まれるイオン伝導性膜を含む、第1の膜電極組立体および第2の膜電極組立体と、
前記第1の膜電極組立体の前記第1の多孔質電極に結合される第1の熱伝達部材であって、前記第1の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面からの熱伝達を容易にする、第1の熱伝達部材と、
前記第2の膜電極組立体の前記第1の多孔質電極に結合される第2の熱伝達部材であって、前記第2の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面への熱伝達を容易にする、第2の熱伝達部材と、
前記第1の膜電極組立体の前記低圧側に結合されるヒートシンクと、
第2の膜電極組立体の低圧側に結合される熱源であって、前記ヒートシンクより高い温度である、熱源と
を備える、提供するステップと、
前記第1の膜電極組立体で前記作動流体を圧縮するステップと、
前記第2の膜電極組立体で前記作動流体を膨張させるステップと
を含み、
前記作動流体が前記第1の膜電極組立体で圧縮されることにより発生した圧縮熱が前記ヒートシンクへと移動され、前記圧縮熱の移動が、前記第1の熱伝達部材によって強化され、その結果、前記第1の膜電極組立体の高圧側に向かって増加する熱勾配が生成され、前記作動流体のポンピングのために前記第1の膜電極組立体に印加される電圧と同じ方向に前記作動流体を動かす熱ガルバニック電圧が生成され、その結果、前記第1の膜電極組立体で前記作動流体の圧縮を駆動するために低下した電圧が必要になり、
前記作動流体が高圧側から前記低圧側に膨らむと、前記第2の膜電極組立体において電力が生成され、前記熱源から前記第2の膜電極組立体の前記低圧側への熱の印加が前記第2の熱伝達部材によって強化され、その結果、前記第2の膜電極組立体を通って膨らむ前記作動流体の方向と反対の方向に熱流束が生成され、前記低圧側に印加された前記熱によって発生した熱電ポテンシャルが、前記作動流体を前記低圧側に引っ張り、それによって、前記第2の膜電極組立体の出力電圧が増加する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月14日に出願された、米国仮特許出願第62/976,764号の優先権を主張するものであり、その全開示が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、1対の電気化学セルを有する熱機関を利用する、熱エネルギーから電気エネルギーまたは電気エネルギーから熱エネルギーへの変換に関する。
【背景技術】
【0003】
熱エネルギーもしくは化学エネルギーから電気エネルギー、またはその逆の、電気エネルギーから熱エネルギーもしくは化学エネルギーへの変換は、様々な方法で達成することができる。たとえば、知られている電気化学セルまたは電池は、化学反応に依拠しており、ここでは、酸化されている反応物質のイオンおよび電子が、別個の経路を介して、還元されている反応物質に転送される。具体的には、電子は、配線を介し、電子が仕事を行う外部の負荷を通して電気的に転送され、イオンは、電解質分離器を通して伝導される。
【0004】
しかし、電池タイプの電気化学セルは、電池外被の範囲によって、そこに含むことができる利用可能な反応物質の量が制限されるため、制限された量のエネルギーだけを生成することができる。そのようなセルは、電極にわたって逆極性の電流/電圧を印加することによって再充電するように設計することができるが、そのような再充電は、別個の電源を必要とする。これらの従来型の電池タイプの電気化学セルの別の否定的側面は、再充電プロセス期間に、セルが典型的には使用できないことである。
【0005】
電池タイプの電気化学セルに関連する問題を克服しようとして、燃料電池が開発されている。従来型の燃料電池では、化学反応は、電気化学セルに連続的に供給され、取り除かれる。電池と同様の様式で、燃料電池は、一般的に電子および非イオン化化学種の通過を阻止する選択的電解質を通して、イオン化化学種を伝導することによって動作する。
【0006】
燃料電池の最も一般的なタイプは、電極のうちの1つを通して水素を、他方の電極を通して酸素を通過させる、水素-酸素燃料電池である。水素イオンは、水素と酸素との化学反応ポテンシャルの下で、電解質分離器を通してセルの酸素側に伝導される。電解質分離器のいずれかの側の多孔質電極は、化学反応に含まれる電子を、外部回路を介して外部の負荷に結合させるように使用される。電子と水素イオンが水素を再構築して反応を終了する一方で、セルの酸素側の酸素は、水の生成をもたらし、水はシステムから排出される。セルに水素および酸素を連続的に供給することによって、連続的な電流が維持される。
【0007】
機械的な熱機関がやはり設計されており、電力を生成するため使用されてきた。そのような機械的な熱機関は、熱力学サイクルで動作し、ここでは、作動流体を圧縮するためピストンまたはタービンを使用して、シャフト仕事が実施される。圧縮プロセスは低温で行われ、圧縮後に、作動流体は、より高い温度に上げられる。高温で、作動流体は、ピストンまたはタービンなどといった負荷に対して膨張することが可能であって、それによって、シャフト仕事が生成される。作動流体を採用するすべての機関の動作の基本原理は、高温で作動流体を膨張させることにより生成されるものより、低温で作動流体を圧縮するのにより少ない仕事が必要だということである。これは、作動流体を採用するすべての熱力学機関についての事例である。
【0008】
たとえば、蒸気機関はランキン熱力学サイクルで動作し、ここでは水が高圧にポンピングされ、次いで蒸気に加熱されて、ピストンまたはタービンを通して膨張されて、仕事を実施する。内燃機関はオットーサイクルで動作し、ここでは、低温の周囲の空気がピストンによって圧縮され、次いで、シリンダ内部の燃料燃焼を介して非常に高い温度に加熱される。サイクルを続けて、ピストンに対する加熱された空気の膨張によって、より低い温度の圧縮プロセス期間に消費されるものよりも多くの仕事を生み出す。
【0009】
スターリング機関は、高い効率を有し、熱源の選択においてより大きい自由度を提供する機関を実現しようとして、スターリングサイクルで動作するように開発されている。理想的なスターリング熱力学サイクルは、理想的なカルノーサイクルに対して等しい効率のものであって、カルノーサイクルは、高温での熱入力および低温での排熱で動作する機関の理論的な最大効率を規定する。しかし、すべての機械的な機関と同様に、スターリング機関は、その機械的な可動部品に関連する、信頼性の問題および効率の損失がある。
【0010】
機械的な熱機関に固有の問題を回避しようとして、熱電気化学熱機関として、アルカリ金属熱電気化学変換(AMTEC)セルが設計されている。AMTEC熱機関は、ナトリウムなどといったイオン化可能作動流体を高温で電気化学セルを通させることによって、電位および電流を生成するため、圧力を利用する。電極は、電流を外部の負荷に結合する。電気的な仕事は、電解質分離器にわたる圧力差が、融解したナトリウム原子を電解質を通させると、実行される。ナトリウムは、電解質に入るとイオン化され、それによって、電子を外部回路に放出する。電池および燃料電池タイプの電気化学セルで生じるプロセスとほとんど同じ方法で、電解質の他の側で、ナトリウムイオンが電子と再結合し、電解質を離れると同時にナトリウムを再構築する。低圧で高温である再構築されたナトリウムは、膨張した気体として、電気化学セルを離れる。気体は、次いで、冷却されて、液体状態に戻して凝縮される。結果としてもたらされる低温の液体は、次いで、再度加圧される。AMTEC機関の動作は、ランキン熱力学サイクルに近似する。
【0011】
多数の出版物が、AMTEC技術について入手可能である。たとえば、Qiuya Niらの、Conceptual design of AMTEC demonstrative system for 100 t/d garbage disposal power generating facility (Chinese Academy of Sciences, Inst. of Electrical Engineering、北京、中国)を参照されたい。別の代表的な出版物は、Intersociety Energy Conversion Engineering Conference and Exhibit (IECEC), 35th、ラスベガス、ネバダ州(7月24日~28日、2000年)、Collection of Technical Papers. Vol. 2 (A00-37701 10-44)である。また、American Institute of Aeronautics and Astronautics, 190, p.1295~1299. REPORT NUMBER(S)- AIAA Paper 2000~3032を参照されたい。
【0012】
AMTEC熱機関は、アルカリ金属作動流体の高度に腐食性の性質に起因して、信頼性の問題がある。AMTEC機関は、また、非常に制限された有用性を有する。具体的には、AMTEC機関は、イオン伝導性固体電解質は、高温でのみ実用的な伝導性レベルに達するため、非常に高温でのみ動作することができる。実際に、低温加圧プロセスでさえ、他のタイプの熱機関と比較して、比較的高温で生じなければならない。というのは、アルカリ金属作動流体は、サイクルを通して動くときのすべての時間でその溶融温度以上のままでなければならないためである。低温作動流体を加圧するために、機械式ポンプおよび電磁流体力学的ポンプでさえ使用されてきた。
【0013】
従来型の機械的熱電気化学熱機関の上で述べた欠点を克服しようとして、Johnson Thermo-Electrochemical Converter (JTEC)システム(2003年4月28日に出願された米国特許第7,160,639号に開示)が開発された。典型的なJTECシステムは、比較的低温で動作する第1の電気化学セルと、比較的高温で動作する第2の電気化学セルと、2つのセルを一緒に結合する熱交換器を含むコンジットシステムと、コンジットシステム内に含まれる作動流体としてイオン化可能ガス(水素または酸素など)の供給部とを含む熱機関である。各電気化学セルは、膜電極組立体(MEA)を含む。
【0014】
より具体的には、JTEC熱機関は、高温熱源に結合される第1のMEA(すなわち、高温MEA)と、低温ヒートシンクに結合される第2のMEA(すなわち、低温MEA)と、2つのMEAを接続する回収可能型熱交換器とを含む。各MEAは、作動流体のイオンを伝導することが可能な非多孔質膜と、電子を伝導することが可能な、非多孔質膜の反対側に位置決めされる多孔質電極とを含む。
【0015】
JTECの動作は、まさに任意の他の機関のようである。たとえば、圧縮器および燃焼チャンバを含むジェット機関を考える。圧縮器段は、空気を引き込み、空気を圧縮し、圧縮空気を燃焼チャンバに供給する。空気は、燃焼チャンバ中で加熱され、動力段を通して膨張する。動力段は、シャフト仕事を圧縮器段に戻して結合し、それによって、圧縮空気の連続的な供給を維持する。動力段によって発生される仕事と、圧縮器段によって消費される仕事との差異が、ジェット機関によって出力される正味の仕事である。しかし、JTECとジェット機関との間の主な差異は、ジェット機関のタービンが機械的であってブレイトン熱力学サイクルで動作する一方で、JTEC熱機関は、完全に固体機関であって、より効率的なカルノーと等価なエリクソン熱力学サイクルで動作するという点である。
【0016】
JTECの動作期間に、作動流体は、入口側で電極に電子を解放することによって各MEAを通過し、その結果、イオンが非多孔質膜を通って対向する電極へと伝導することができる。作動流体は、作動流体のイオンが膜を出るとき、作動流体のイオンに電子を再供給すると、対向する電極内で再構築される。
【0017】
低温MEAは、高温MEAより低い電圧で動作する。低温MEAが低電圧で作動流体(水素または酸素など)を圧縮し、高温MEAスタックが高電圧で作動流体を膨張させる。2つのMEA間の電圧の差異が、外部の負荷にわたって印加される。作動流体は、JTEC熱機関の内側を連続的に循環し、消費されることはない。2つのMEAと外部の負荷を通って流れる電流は同じである。
【0018】
具体的には、JTEC熱機関では、圧力差は、取り付けられる負荷と一緒に各MEAにわたって印加され、それによって、作動流体が高圧から低圧に進むと、電圧および電流が生成される。電子の流れは、陽子伝導性膜(PCM)である膜を陽子が通過するとき、陽子から電子が引き剥がされると、外部の負荷に向けられる。JTECシステムは、PCMにわたって印加される作動流体圧力の電気化学ポテンシャルを利用する。より具体的には、各MEAの高圧側および各MEAの低圧側で、作動流体が酸化され、陽子と電子との生成がもたらされる。高温端における圧力差によって、膜を通した陽子が、電極が外部の負荷を通して電子を伝導するのを引き起こさせる一方で、外部電圧が課されることによって、低温端で陽子に膜を通させる。各MEAの高圧側および各MEAの低圧側で、陽子は電子で還元され、作動流体を再形成する。
【0019】
MEAスタックを出る水素が酸素と出合い、それと反応して水を生成する従来型の燃料電池とは異なり、JTECシステム中には酸素または水がない。このプロセスは、逆に動作することもできる。具体的には、電圧および電流を印加して、作動流体を低圧から高圧にポンピングすることができる。逆プロセスは、水を電気分解するためにMEAを使用するものにむしろ似ており、水分子が分けられて陽子がPCMを通して伝導され、水の側に酸素を残す。水素は、このプロセスを介して、純粋水素貯蔵器に高圧で供給されることが多い。
【0020】
イオン化可能ガス(すなわち、作動流体)として水素を使用するJTEC機関では、PCMにわたる水素圧力差に起因する電位は、圧力比の自然対数に比例し、ネルンストの式を使用して計算することができる。
【0021】
【数1】
【0022】
上式で、VOCは、開回路電圧であり、Rは、一般気体定数であり、Tは、セル温度であり、Fは、ファラデー定数であり、Pは、高圧側の圧力であり、Pは低圧側の圧力であり、P/Pは圧力比である。たとえば、Fuel Cell Handbook、J.H. Hirschenhoferら、4th Edition、p.2~5 (1999)。
【0023】
電圧は、温度に関して線形であり、圧力比の対数関数である。この線形の関係は図1に図示されており、これは、いくつかの圧力比についての、水素ベースで生成された電圧対温度についてのネルンストの式のプロットである。たとえば、10,000の圧力比において、温度が高いときに電圧が高く、温度が低いときに電圧が低く、その結果、これらのパラメータ間に線形の関係があることを図1が図示する。
【0024】
JTEC中の作動流体は、低温セルのネルンストポテンシャルを克服するのに十分な電圧で電流を供給することによって、低温電気化学セル中で圧縮され、それによって、作動流体を膜の低圧側から高圧側へと駆動する。一方で、作動流体は、高温セルのネルンストポテンシャルの下で電流(電力)が取り出されると、高温電気化学セル中で膨張する。作動流体が膜の高圧側から低圧側に膨らむとき、電流の流れが発生される。作動流体を採用する任意の熱力学機関でのように、圧縮可能ガスの性質と一致して、JTECでは、低温圧縮で要求される仕事(電力)入力よりも、大量の仕事(電力)が高温膨張期間に取り出される。高温膨張期間に一定温度を維持するための機関へ入力される熱エネルギー対低温圧縮期間に一定温度を維持するため取り除かれる熱エネルギーの差は、高温膨張プロセスによって出力される電気エネルギー対低温圧縮プロセスによって消費されるものの差として実現される。
【0025】
ネルンストの式と一致して、高温セルは、低温セルよりも高い電圧を有することになる。電流(I)が両方のセルを通して同じであるため、電圧差は、高温セル中の作動流体の膨張を通して発生した電力が、低温セル中で発生したものより高いことを意味する。高温セルによる電力出力(VHT*I)は、低温セル中の圧縮プロセスを駆動する(VLT*I)とともに、外部の負荷に正味の電力出力((VHT*I)-(VLT*I))を供給するのに十分である。この電圧差がJTEC機関にとっての基礎を提供する。
【0026】
JTEC熱機関は、エリクソンサイクルを近似することができ、広範囲の熱源温度にわたって動作することができ、機械的な機関に関連する信頼性および非効率の問題をなくす、熱電気化学熱機関を実現するために、利用可能な高いバリアで低い伝導率の膜材料を使用する実用的な方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】米国特許第7,160,639号
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Qiuya Niら、Conceptual design of AMTEC demonstrative system for 100 t/d garbage disposal power generating facility (Chinese Academy of Sciences, Inst. of Electrical Engineering、北京、中国)
【非特許文献2】Intersociety Energy Conversion Engineering Conference and Exhibit (IECEC), 35th、ラスベガス、ネバダ州(7月24日~28日、2000年)、Collection of Technical Papers. Vol. 2 (A00-37701 10-44)
【非特許文献3】American Institute of Aeronautics and Astronautics, 190, p.1295~1299. REPORT NUMBER(S)- AIAA Paper 2000~3032
【非特許文献4】Fuel Cell Handbook、J.H. Hirschenhoferら、4th Edition、p.2~5 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかし、JTEC熱機関のいくつかの欠点が存在する。たとえば、JTEC熱機関の設計は、大きい膜/電極表面積の必要性および実用的な出力電圧レベルを達成するため直列に電気的に接続されるかなりの数のセルの必要性によって複雑となる。具体的には、開回路電圧が1.0ボルトより大きい場合がある従来型の燃料電池とは異なり、MEAにわたる水素圧力差からのネルンスト電圧は、たった約0.2ボルトの範囲にある。そのため、有用な出力電圧レベルを達成するため、多くのセルを直列に接続しなければならないことになる。
【0030】
さらに、効率的なエネルギー変換を達成するために、膜は、良好なイオン伝導性および高い拡散障壁特性を有さなければならない。というのは、膜にわたる圧力差の下での作動流体(水素ガスなど)の拡散によって、電力出力および効率の低下がもたらされるためである。しかし、DuPont Corp.によって製造されるNafionなど、良好なイオン伝導性を有する、知られている利用可能な膜材料は高分子であって、一般的に、非常に貧弱な分子拡散障壁特性を有する。逆に、高い分子拡散障壁特性を有する、知られている利用可能な膜材料は、一般的に比較的低いイオン伝導性を有し、その結果、これらの材料を使用すると、高いシステムインピーダンスおよび高い分極損失がもたらされることになる。
【0031】
したがって、利用可能な膜材料の低いイオン伝導性の負の影響によって、JTEC熱機関の電力出力を制限する問題がそのままとなる。具体的には、膜を通るイオン伝導の抵抗率は、出力電圧の低下、効率の低下、および電力密度の低下として反映される。効率を最大化させるための手段としてエリクソンサイクルを近似するために、一定温度の膨張および圧縮プロセスを厳密に近似することに焦点が合わされているJTEC熱機関の従来の実装形態では、特に低いグレードの低温熱源で動作するとき、MEA活性化エネルギーおよび膜イオン伝導性に関連する抵抗性損失が、デバイスレベルでの全体的性能を圧倒する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の熱機関は、これらの欠点を解決する。より具体的には、本発明の熱電気化学変換器は、各MEAにわたる温度勾配を選択的に実施して、活性化エネルギーのものおよび抵抗性損失電圧と反対の極性を有する局所的な熱ガルバニック電圧を発生し、それによって、出力電圧、効率、および電力密度へのそれらの影響を局所的に最小化する、または無効にするように働く。
【0033】
1つの態様では、本発明は、作動流体と、第1の膜電極組立体および第1の膜電極組立体に結合される第2の膜電極組立体であって、第1および第2の膜電極組立体の各々が、第1の圧力で動作する第1の多孔質電極、第1の圧力より高い第2の圧力で動作する第2の多孔質電極、およびそれらの間に挟まれるイオン伝導性膜を含み、第1の膜電極組立体が作動流体を圧縮するように働き第2の膜電極組立体が作動流体を膨張させるように働く、第1の膜電極組立体および第2の膜電極組立体と、第1の膜電極組立体の第1の多孔質電極に結合される第1の熱伝達部材であって、第1の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面からの熱伝達を容易にする、第1の熱伝達部材と、第2の膜電極組立体の第1の多孔質電極に結合される第2の熱伝達部材であって、第2の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面への熱伝達を容易にする、第2の熱伝達部材と、第1の膜電極組立体の低圧側に結合されるヒートシンクと、第2の膜電極組立体の低圧側に結合される熱源とを備える、熱電気化学変換器を対象としている。
【0034】
別の態様では、本発明は、イオン化可能作動流体と、第1の多孔質電極、第2の多孔質電極、および第1の多孔質電極と第2の多孔質電極との間に挟まれるイオン化可能作動流体のイオンを伝導するように構成される少なくとも1つのイオン伝導性膜を含む少なくとも1つの膜電極組立体と、第1の圧力でイオン化可能作動流体を含んで動作する第1のコンジットおよび第1の圧力より高い第2の圧力でイオン化可能作動流体を含む第2のコンジットであって、第1のコンジットが第1の多孔質電極に結合され少なくとも1つの膜電極組立体の低圧側に対応し、第2のコンジットが第2の多孔質電極に結合され少なくとも1つの膜電極組立体の高圧側に対応する、第1のコンジットおよび第2のコンジットと、低圧側で少なくとも1つの膜電極組立体に結合される熱伝導体であって、低圧側で膜電極組立体のほぼ全面との間で熱を結合する熱伝導体とを備える、熱電気化学変換器を対象としている。
【0035】
別の態様では、本発明は、熱を電気エネルギーへと変換する方法を対象としている。本方法は、作動流体と、第1の膜電極組立体および第1の膜電極組立体に結合される第2の膜電極組立体であって、第1および第2の膜電極組立体の各々が、第1の圧力で動作する第1の多孔質電極、第1の圧力より高い第2の圧力で動作する第2の多孔質電極、およびそれらの間に挟まれるイオン伝導性膜を含む、第1の膜電極組立体および第2の膜電極組立体と、第1の膜電極組立体の第1の多孔質電極に結合される第1の熱伝達部材であって、第1の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面からの熱伝達を容易にする、第1の熱伝達部材と、第2の膜電極組立体の第1の多孔質電極に結合される第2の熱伝達部材であって、第2の膜電極組立体の低圧側を構成する面と熱的にインターフェースして、その面への熱伝達を容易にする、第2の熱伝達部材と、第1の膜電極組立体の低圧側に結合されるヒートシンクと、第2の膜電極組立体の低圧側に結合される熱源であって、ヒートシンクに対して高い温度である、熱源とを備える熱電気化学変換器を設けるステップを含む。方法は、第1の膜電極組立体で作動流体を圧縮するステップおよび第2の膜電極組立体で作動流体を膨張させるステップをさらに含む。作動流体が第1の膜電極組立体で圧縮されるときに発生した圧縮熱がヒートシンクへと移動され、圧縮熱の移動は、第1の熱伝達部材によって強化され、その結果、第1の膜電極組立体の高圧側に向けて増加する熱勾配が生成され、作動流体のポンピングのために第1の膜電極組立体に印加される電圧と同じ方向に作動流体を動かす熱ガルバニック電圧が生成され、その結果、第1の膜電極組立体で作動流体の圧縮を駆動するために低下した電圧が必要になる。作動流体が高圧側から低圧側に膨らむと、第2の膜電極組立体において電力が発生され、熱源から第2の膜電極組立体の低圧側への熱の印加が第2の熱伝達部材によって強化され、その結果、第2の膜電極組立体を通って膨らむ作動流体の方向と反対の方向に熱流束が生成され、低圧側に印加された熱によって発生した熱電ポテンシャルが、作動流体を低圧側に引っ張り、それによって、第2の膜電極組立体の出力電圧が増加する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な記載は、添付図面と組み合わせて読むとより良好に理解されることになる。本発明を説明するために、現在好ましい実施形態が図に示される。しかし、本発明は、示される正確な配置構成および手段に限定されないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】様々な圧力比についての、作動流体として水素を使用するMEAによって生成される電圧対温度についての、ネルンストの式のグラフである。
図2】本発明の実施形態にしたがった熱電気化学変換器の図である。
図3図2の変換器が動作するエリクソン機関サイクルについての、理想的な温度エントロピー図である。
図4】本発明の実施形態にしたがった、複数の積み重ねた変換器を備える熱機関の図である。
図5】本発明の実施形態にしたがった、熱電気化学変換器の高温MEAの図である。
図6】異なる熱電気化学変換器構成にわたる温度差に関する電力密度の変化を反映する図である。
図7】本発明の実施形態にしたがった熱電気化学変換器の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
便宜のためだけに以下の記載である種の用語が使用されており、限定するものではない。「近位」、「遠位」、「上方」、「下方」、「底部」、および「上部」といった言葉は、参照がなされる図面中の方向を示す。「内向き」および「外向き」という言葉は、それぞれ、本発明にしたがった、デバイスおよびその指定される部分の幾何学的中心に向かう方向および幾何学的中心から離れる方向を指す。本明細書で具体的に記載されない限り、「a」、「an」、および「the」という用語は1つの要素に限定されず、その代わり、「少なくとも1つ」を意味すると読むべきである。用語としては、上で言及した言葉、その派生語、および同様の趣旨の言葉が挙げられる。
【0039】
「第1の」、「第2の」などといった用語は明快にするためにだけ提供されることも理解されよう。これらの用語によって識別される要素または構成要素、およびそれらの動作は、簡単に交換することができる。
【0040】
いくつかの図の全体にわたって、同様の数字が同様の要素を示す図面を詳細に参照すると、図1図7は、1つもしくは複数のMEAを含む熱機関の好ましい実施形態、またはその態様を示す。「電気化学セル」、「膜電極組立体」、「膜電極組立スタック」、「MEA」、「MEAスタック」、「MEAセル」および「スタック」という用語は、本明細書で交換可能に使用される。
【0041】
図7を参照すると、本発明の実施形態にしたがった熱電気化学変換器が示される。変換器は、少なくとも1つのMEA200を備える。MEA200は、1対の電極230、232の間に挟まれる膜220を備える。MEA200は、交番する電極230、232の複数の重なり合った層、および高密度に積み重ねた構成に配置される膜220を備えることができることが理解される。
【0042】
膜220は、好ましくは、約0.1μm~500μmの程度、より好ましくは、約1μmと500μmとの間の厚さを有する、イオン伝導性膜または陽子伝導性膜である。より具体的には、膜220は、好ましくは、陽子伝導性材料またはイオン伝導性材料から、より好ましくは、MEA200を通過する作動流体のイオンを伝導する材料から作られる。1つの実施形態では、膜220は、好ましくは、ポリベンゾイミダゾール、イットリウムドープジルコニウム酸バリウム、または酸化チタンを含む、より好ましくは、ポリベンゾイミダゾールまたはイットリウムドープジルコニウム酸バリウムを含む材料から形成される。しかし、広い温度範囲にわたって同様のイオン伝導性を呈する任意の材料、および好ましくは任意の高分子またはセラミック材料を使用して、膜220を形成することができることを当業者なら理解するであろう。
【0043】
電極230、232は、好ましくは各々が約25μmの厚さを有する。電極230、232は、好ましくは膜220と同じ材料を含む、または同じ材料から形成される。その結果、MEA200を形成するための共焼結または溶融期間に直面する極端な温度の下で、および、MEA200の動作期間に多くの最終用途で、さもなければ発生する高い熱応力がなくなる、または少なくとも低減する。しかし、電極230、232が、好ましくは多孔質構造である一方で、膜220は、好ましくは、非多孔質構造である。電極230、232、および膜220は、同様の熱膨張係数を有する異なる材料から形成することができ、その結果、MEA200の共焼結/溶融または使用期間に発生する熱応力は、ほとんどまたはまったくないことを理解されよう。
【0044】
一実施形態では、多孔質電極230、232は、作動流体の酸化および還元を増進するために、追加の材料をドープしまたは注入して、導電性の触媒材料を実現することができる。
【0045】
MEA200は、第1の多孔質電極230に結合される少なくとも1つの低圧コンジット237(図7で点線によって表される)、および第2の多孔質電極232に結合される少なくとも1つの高圧コンジット238(図7で実線によって表される)を含むコンジットシステムをさらに備える。イオン化可能ガス、好ましくは水素の供給部は、作動流体としてコンジットシステム内に収納される。膜220がそのガスのイオン/陽子について伝導性である材料から形成される限り、ほぼどんなガスでも作動流体(たとえば酸素)として利用できることが当業者には理解されよう。一実施形態では、作動流体は、100%酸素である。別の実施形態では、作動流体は、0.1%~99.9%水素、ならびに、不活性ガスである残余を含む。
【0046】
低圧コンジット237は、作動流体(たとえば、水素)の流れを矢印Aの方向に向ける一方で、高圧コンジット238は、作動流体の流れを矢印Bの方向(すなわち、低圧コンジット237の流れの反対方向)に向ける。低圧コンジット37および高圧コンジットシステム38が、それぞれ、低圧電極230および高圧電極232、ならびにMEA200の低圧側および高圧側を規定する。
【0047】
MEA200の高圧側は、0.5psi程度に低い圧力および3,000psi程度に高い圧力であってよい。好ましくは、MEA200の高圧側は、ほぼ300psiの圧力に維持される。MEA200の低圧側は、0.0001psi程度に低い圧力および0.3psi程度に高い圧力であってよい。好ましくは、MEA200の低圧側は、ほぼ0.03psiの圧力に維持される。好ましい高圧側対低圧側の圧力比は、10,000:1である(図1参照)。
【0048】
MEA200は、低圧側(すなわち、低圧電極230および低圧コンジット237に対応する側)でMEA200に結合される少なくとも1つの熱伝達部材240をさらに含む。熱伝達部材240は、MEA200の低圧側のほぼ全面にわたる効率的な熱界面を実現し、たとえばヒートシンク(図示せず)へまたは熱源(図示せず)から、MEAの低圧側のほぼ全面との間で熱を効率的に結合する。
【0049】
第1の端子233は低圧電極230に、第2の端子231は高圧電極232にそれぞれ接続される。
【0050】
一実施形態では、MEA200は、熱機関として動作して、電力を発生させるように、作動流体を高圧から低圧に膨らませることができる。電気負荷を第1の端子233および第2の端子231に接続することによって、電力をMEA200から取り出すことができる。電力は、高圧コンジット238と低圧コンジット237との間の圧力差によって作動流体がMEA200を通されると生成される。圧力下で、作動流体は、端子231に接続される高圧電極232で酸化され、それによって、高圧電極232に電子を解放し、作動流体のイオンを矢印33によって示されるようにイオン伝導性膜220に入れさせる。外部の負荷に接続される高圧電極232を用いて、電子は負荷を通して低圧電極230に流れる。ここで、低圧電極230で膜220を出たイオンが還元されて作動流体を再構築し、作動流体は、(たとえば熱源から)作動流体への膨張熱の供給が容易になるように、熱伝達部材240に結合される。圧力が作動流体をMEA200を通して流させると、変換器が外部の負荷に電力を供給する。
【0051】
別の実施形態では、MEA200は、作動流体を低圧から高圧にポンピングして、圧縮プロセスをなすよう動作するように構成される。電力は、圧縮プロセスによって消費される。電源は、第1の端子233と第2の端子231にわたって印加される。電圧は、その動作温度および圧力差でMEA200によって生成されるネルンストポテンシャルを克服することにより電流を流させるのに十分なポテンシャルで印加される。印加される電力が、低圧電極230と膜220の界面で作動流体から電子を引き剥がす。結果として得られるイオンは、矢印39によって示される方向にイオン伝導性膜220を通して伝導される。イオンが膜220を出るときに高圧電極232と膜220の界面で作動流体を再構築するように、電源が高圧電極232に電子を供給する。印加される電圧下のこの電流が、事実上、作動流体を低圧から高圧へとポンピングするのに必要なポンピング電力を提供する。圧縮熱のたとえばヒートシンク(図示せず)への移動は、MEA200の低圧側に結合される熱伝達部材240によって容易にされる。
【0052】
図2を参照すると、本発明の別の実施形態にしたがった熱電気化学変換器が示される。変換器は、ここでより完全に記載されるように、2つ以上のイオン伝導性膜電極組立体にわたって生成される、ネルンスト電圧と熱ガルバニック電圧との組合せで動作する。図3は、図2の変換器のエリクソン機関サイクルについての、理想的な温度エントロピー図を示す。電気的な接続は、図2には示されない。
【0053】
図2を参照すると、変換器は、第1のMEA10、第2のMEA28、第1のMEA10および第2のMEA28を接続する熱交換器26、第1のMEA10と第2のMEA28との間の連続ループ中を流れる作動流体、第1のコンジット18、ならびに第2のコンジット20を含み、そのすべてがモノリシック共焼結セラミック構造の中に収容される。図2の第1のMEA10および第2のMEA28は図7のMEA200と同じであり、したがって、MEA200の様々な構成要素の上の説明は、ここでは繰り返さない。というのは、説明は、図2のMEA10、28に等しく適用可能なためである。
【0054】
簡単に言えば、第1のMEA10は、作動流体のイオンを伝導可能であり、第1の多孔質電極12と第2の多孔質電極16との間に挟まれる膜14を含む。第1のMEA10は、ヒートシンク5に結合され、低圧から高圧へと作動流体をポンピングする(すなわち、作動流体を圧縮する)ように機能し、圧縮プロセスによって電力が消費され、圧縮熱が排除される(熱の移動は、図2中の矢印Qによって表される)。第2のMEA28は、作動流体のイオンを伝導可能であり、第1の多孔質電極30と第2の多孔質電極22との間に挟まれる膜24を含む。第2のMEA28は、熱源7に結合され(熱供給は、図2中の矢印Qによって表される)、高圧から低圧へと作動流体を膨らませるように機能する。第2のMEA28を通した作動流体の膨張が電力を生成する。
【0055】
熱交換器26は、好ましくは、熱を第2のMEA28に流れる作動流体に結合することによって、第2のMEA28を離れる作動流体から熱を回収する、回収可能型逆流熱交換器である。そのような回収可能型熱交換器を、高温および低温電気化学セル(すなわち、MEAスタック)に結合される熱源およびヒートシンクと組み合わせて設けることによって、ほぼ定温の膨張および圧縮プロセス用の十分な熱伝導が可能になり、それによって、機関が熱力学エリクソンサイクルを近似することが可能になる。
【0056】
第1のコンジット18が第1の圧力で動作し、第2のコンジット20が、第1の圧力より高い第2の圧力で動作する。したがって、第1のコンジット18は、本明細書では「低圧コンジット18」と呼ばれ、第2のコンジット20は、本明細書では「高圧コンジット」と呼ばれる。低圧コンジット18は、第1のMEA10の第1の電極12および第2のMEA28の第1の電極30をそれぞれ結合して、第1の電極12、30間の作動流体の流れを可能にする。そのため、第1の電極12、30は低圧電極であり、第1の電極12、30に対応するMEA10、28の側がそれぞれのMEA10、28の低圧側であって、第1の電極12、30に対応する変換器の側が変換器の低圧側である。高圧コンジット20は、第1のMEAスタック10の第2の電極16および第2のMEAスタック28の第2の電極22をそれぞれ結合して、第2の電極16、22間の作動流体の流れを可能にする。そのため、第2の電極16、22は高圧電極であり、第2の電極16、22に対応するMEA10、28の側がそれぞれのMEA10、28の高圧側であって、第2の電極16、22に対応する変換器の側が変換器の高圧側である。
【0057】
各MEA10、28の高圧側は、0.5psi程度に低い圧力および3,000psi程度に高い圧力であってよい。好ましくは、各MEA10、28の高圧側は、ほぼ300psiの圧力に維持される。各MEA10、28の低圧側は、0.0001psi程度に低い圧力および0.3psi程度に高い圧力であってよい。好ましくは、各MEA10、28の低圧側は、ほぼ0.03psiの圧力に維持される。各MEA10、28の好ましい高圧側対低圧側の圧力比は、10,000:1である(図1参照)。
【0058】
第1のMEA10および第2のMEA28は、好ましくは、各々が、熱伝導体または熱放散器としても知られている、少なくとも1つの熱伝達部材を含む。1つの実施形態では、第1のMEA10および第2のMEA28の低圧電極12、30が熱伝達部材を含む。1つの実施形態では、低圧電極12、30自体が、熱伝達部材として機能するように構成される。別の実施形態では、低圧電極12、30の各々が、別個の熱伝達部材に結合される。
【0059】
図2の実施形態では、第1のMEA10の低圧電極12がヒートシンク5に対して熱伝達部材として機能するように構成され、第2のMEA28の低圧電極30が熱源7に対して熱伝達部材として機能するように構成され、したがって、熱伝達部材として別個の構成要素は示されない、または指定されない。したがって、電極としての機能に加えて、第1のMEA10の低圧電極12は、第1のMEA10から関連するヒートシンク5への熱の伝達を容易にし、第2のMEA28の低圧電極30は、関連する熱源7から第2のMEA28への熱の伝達を容易にする。
【0060】
変換器が熱機関として動作する1つの実施形態では、第2のMEA28が結合される熱源7は、好ましくは、第1のMEA10が結合されるヒートシンク5の温度に対して高い温度である。そのため、第1のMEA10が低温圧縮セルおよび変換器の低温側を構成する一方で、第2のMEA28が、高温膨張セルおよび変換器の高温側を構成し、低温セル10より高いネルンスト電圧を有する。低温セル10の動作は、ヒートシンク5への第1の熱伝達部材による排熱で入力される電力によって駆動される。高温セル28の動作は、熱源7から第2の熱伝達部材へ入力される熱によって駆動され電力を発生する。結果として、第2のMEA28は、第1のMEA10の動作を駆動し、正味の電力出力を提供するのに十分な量の電力を発生する。
【0061】
変換器がヒートポンプ用途として機能する別の実施形態では、第2のMEA28が結合される熱源7は、好ましくは、第1のMEA10が結合されるヒートシンク5の温度に対して低い温度である。作動流体は、膨張熱が低温熱源7から取り出されると、第2のMEA28の中で膨らむ。第2のMEA28の動作は、電力を生成するために、熱源7から第2の熱伝達部材へ入力される熱によって駆動される。作動流体は、圧縮熱が高温で排除されると、第1のMEA10の中で高温で圧縮される。第1のMEA10の動作は、ヒートシンク5への第1の熱伝達部材による排熱で入力される電力によって駆動される。第1のMEA10は、ヒートポンプについて要求される正味の電力入力とともに第2のMEA28によって生成されるものより大きい量の電力を消費する。
【0062】
本明細書の議論は、変換器が熱機関として動作する動作構成に焦点を当てる。
【0063】
図2の変換器が動作するエリクソン機関サイクルについての、理想的な温度エントロピー図が図3に示される。熱力学状態1から4は、図2および図3中にラベル付けされるそれぞれの点で同一である。
【0064】
図2図3を参照して、変換器は以下のように動作し、作動流体は水素である。しかし、酸素などといった別のイオン化可能ガスを代わりに作動流体として使用できることを理解されよう。低温低圧状態1で開始して、電気エネルギーWINが低温MEA10に供給され、水素を、低温低圧状態1から低温高圧状態2へとポンピングする。より具体的には、水素が低温MEA10の中で圧縮され、それによって、水素を膜14の低圧側から高圧側へと駆動する。低温MEA10では、水素が低圧側から高圧側に膜14を横切って移行するときに生成される圧縮熱と、一方同時に、熱Qが膜14の低圧側からヒートシンク5へと移動されることのために、水素(陽子)の温度が有限量だけ上昇する。ヒートシンク5への熱の移動は、熱伝達部材を備える、または熱伝達部材に結合される低圧電極12によって強化される。結果として、低温MEA10の高圧側に向かって増加する温度勾配が維持される。
【0065】
低温高圧状態2から、水素は、回収可能型逆流熱交換器26を通過し、そこでほぼ一定の圧力下で加熱されて、状態3の温度に達する。より具体的には、状態3は、高温高圧状態である。水素の温度を低圧高温状態2から高温高圧3に上昇させるのに必要な熱は、熱交換器26を通して反対方向に流れる水素から伝導される。高温高圧状態3において、水素が高温高圧MEA28を横切って高圧高温状態3から高温低圧状態4に膨らむとき、電力WOUTが生成される。高温MEA28において、水素(陽子)の温度は、熱伝達部材を含むまたは熱伝達部材に結合される低圧電極30によって容易にされるが、熱Qが熱源7から膜24の低圧側に供給されると有限量だけ増加し、膜24を横切って高圧側から低圧側に水素(陽子)が移行するとき生成される膨張熱に起因してさもなくば起こることになる温度の低下を克服する。結果として、高温MEA28の低圧側に向かって増加する温度勾配が維持される。高温低圧状態4から、水素が回収可能型逆流熱交換器26を通過し、そこでその温度は、高温低圧状態4から流れる水素が低温低圧状態1の温度に達するまで、低温高圧状態2から高温高圧状態3に逆流する水素に対して熱伝達することによって下げられる。水素は、上で記載したように、低温低圧状態1から低温高圧状態2に戻して低温MEA10によってポンピングされ、サイクルが続くと以下同様である。
【0066】
図4は、本発明の別の実施形態にしたがった変換器組立体を示しており、それぞれのMEA10、28との間で熱を伝達するため、それぞれヒートシンク放散器および熱源放散器として機能する熱伝導電極としての、低圧電極12、30の特定の好ましい構造を詳述する。
【0067】
図4に示される実施形態では、熱機関は、スタック構成に配置される2つの同一な変換器100を含むが、2つより多い変換器100を組立体中に含むことができることを理解されよう。変換器100は、互いに同一であって、図2および図3に関して上で記載した変換器と同一である。したがって、各変換器100の構成の詳細な説明は必要ない。簡単に言えば、各変換器100は、ヒートシンク115に結合される第1の低温MEA110(熱の移動は、矢印Qによって表される)、熱源117に結合される第2の高温MEA128(熱の供給は矢印Qによって表される)、低温MEA110と高温MEA128とを接続する熱交換器126を含む。各低温MEA110は、第1の電極112と第2の電極116との間に挟まれるイオン伝導性膜114を含む。各高温MEA128は、第1の電極130と第2の電極122との間に挟まれるイオン伝導性膜124を含む。
【0068】
各変換器100は、第1の圧力で動作する第1のコンジット118および第1の圧力より高い第2の圧力で動作する第2のコンジット120をさらに含む。各変換器100の低圧コンジット118は、低温MEA110の第1の電極112を高温MEA128の第1の電極130と結合し、それによって、2つの低圧電極112、130間の作動流体の流れが可能になる。低圧電極112、130が、それぞれのMEA110、128の低圧側を構成し、それぞれ、ヒートシンク115および熱源117に結合される。各変換器100の高圧コンジット120は、低温MEA110の第2の電極116を高温MEA128の第2の電極122と結合し、それによって、高温電極116、122間の作動流体の流れが可能になる。高温電極116、122が、それぞれのMEA110、128の高圧側を構成する。
【0069】
第1および第2の変換器100は、各変換器100の低圧電極112、130が背中合わせ構成で配置されるように積み重ねられ、熱源117によって高温MEAセル128の背中合わせの低圧電極130に熱が供給され、ヒートシンク115によって低温MEAセル110の背中合わせの低圧電極112から熱が取り除かれる。そのため、低温MEA110が低温MEAスタックを構成し、高温MEA128が高温MEAスタックを構成する。
【0070】
別の実施形態(図示せず)では、第1および第2の変換器100の低温MEA110および高温MEA128が、別個の低圧電極112、130を含む必要はない。その代わり、第1および第2の変換器100の低温MEA110が互いの上に積み重ねることができ、その結果、隣接するMEA110が共通の低圧電極112を共有し、第1および第2の変換器100の高温MEA128が互いの上に積み重ねることができ、その結果、隣接するMEA128が共通の低圧電極130を共有する。同様に、変換器100は、別個の低圧コンジット118および高圧コンジット120を有する必要がないが、代わりに、共通のコンジット118、120を共有することができる。
【0071】
第1の熱伝達部材140、より具体的には、第1の熱伝導体140が、低温MEAスタック140の隣接する低圧電極112に結合されて、隣接する低圧電極112間に配置される。第1の熱伝導体140が低温MEAスタック140を関連するヒートシンク115へと結合する。第2の熱伝達部材142、より具体的には、第2の熱伝導体142が、高温MEAスタック160の隣接する低圧電極130に結合されて、隣接する低圧電極130間に配置される。第2の熱伝導体142が高温MEAスタック160を関連する熱源117へと結合する。図4では、熱伝導体140、142が低圧電極112、130とは別個の構成要素として示される一方で、熱伝導体140、142は、代わりに、低圧電極112、130の一体型構成要素であってよいことが理解されよう。
【0072】
第1の熱伝導体140は、低温MEA110の低圧側(すなわち、低圧電極112に対応する側)の全面にわたる効率的な熱界面を実現し、低温MEA110からヒートシンク115への熱伝達を容易にする。第2の熱伝導体142は、高温MEA128の低圧側(すなわち、低圧電極130に対応する側)の全面にわたる効率的な熱界面を実現し、熱源117から高温MEA128への熱伝達を容易にする。
【0073】
各変換器100の動作は、図2図3および状態1から4に関して上で記載したのと同じ方法で進む。
【0074】
第1および第2の熱伝導体140、142は、好ましくは多孔質材料から作られるが、向上させた熱伝達効果を実現するために非多孔質セクションを含むことができる。第1および第2の熱伝導体140、142は、向上させた熱伝達効果を実現する異なる材料で形成されるセクションを含むこともできる。第1および第2の熱放散器140、142は、熱的に伝導性である実質的にいかなる材料からでも形成することができる。そのような熱的に伝導性の材料の例としては、限定しないが、金属、ダイアモンド、グラファイト、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、およびそれらの任意の等価物が挙げられる。第1および第2の熱放散器140、142は、同じ材料もしくは材料の混合物、または、異なる材料もしくは材料の混合物から形成することができる。
【0075】
図5を参照して、本発明の実施形態にしたがった変換器の高温MEA170が示される。図5の高温MEA170では、熱入力は、全体的な変換器性能を向上させるため、直流電圧を生成する方法で実施される。MEA170は、イオン伝導性膜172を含み、より具体的には、第1の多孔質電極174と第2の多孔質電極176との間に挟まれる厚さT172の陽子伝導性膜172を含む。第1の電極174が熱源(図示せず)に結合され、その結果、第1の電極174は加熱電極である。第1の電極174が第1の圧力で動作し、第2の電極176が、第1の圧力より高い第2の圧力で動作する。1つの実施形態では、低圧電極174は、高い熱伝導率を有する材料を含み、したがって、熱放散器として働き、または、そのような熱的に伝導性の材料を含む構成要素に結合される。水素質量流178が高圧電極176に入り、酸化される。結果として得られる電子は、外部回路(図示せず)を通り、第1の電極端子180、第2の電極端子182を介して伝導される一方で、結果として得られる陽子184は、陽子伝導性膜172を通して伝導される。プロトン流に起因する内部抵抗性加熱186は、図5中のQとして示される。MEA170にわたる圧力差の下で、高温側176からMEA170へと伝導される熱は、膨張熱136、QEXPとして膜172を通して膨らむ水素によって消費される。陽子および電子は、回路が完了すると、低圧電極174で水素に戻って還元される。
【0076】
MEA170にわたって生成される電圧は、高圧Pと定圧Pとの間の差に起因するネルンスト電圧の結果である。そのため、エリクソンサイクルを厳密に近似するように、定温圧縮および膨張プロセスを維持することが望ましい。理想的には、低温側176の熱出力150、QOUTはゼロである。というのは、入る水素に関連するもの以外に、MEAの入力側にヒートシンクがないためである。MEA170内の電圧損失は、膜の抵抗値、水素活性化エネルギー、複数のMEAを背中合わせに結合するコンジット内の水素流圧力低下に起因する電圧損失、膜を通した水素透過などに関連する。
【0077】
本発明では、熱伝達部材によって熱の供給または移動が容易にされるために、各MEAを横切る熱流束で生成される温度勾配は、陽子の伝導のものと反対の方向であり、陽子の伝導に関連する抵抗性電圧損失に対して反対極性のものである、各MEAにわたる熱ガルバニック電圧(たとえば、ゼーベック電圧)を生成する。そのため、温度勾配および熱ガルバニック電圧は、活性化エネルギー損失および抵抗性電圧損失などといった損失を、局所的に最小化する、または完全に無効にする。たとえば、図5を参照すると、熱がMEA170の一方の側、すなわち、熱伝達部材に結合されるまたは熱伝達部材を含む低圧側174に供給されるために、MEA170を横切る熱流束で生成される温度勾配は、陽子の伝導のものと反対の方向であり、陽子の伝導に関連する抵抗性電圧損失に対して反対極性のものである、MEA170にわたる熱ガルバニック電圧(たとえば、ゼーベック電圧)を生成する。そのため、温度勾配および熱ガルバニック電圧は、活性化エネルギー損失および抵抗性電圧損失などといった損失を、局所的に最小化する、または完全に無効にする。
【0078】
図6は、本発明にしたがって、高温MEAセルと低温MEAセルとの両方を含み熱放散器の場所の効果を示す、完全な熱電気化学変換器のモデル化分析の結果を描く。代表的な変換器は、150℃熱源および50℃ヒートシンクで動作する。図6のグラフについて分析された変換器の膜は、陽子伝導性膜材料として、リン酸ベースのポリベンゾイミダゾールを備えていた。膜は、50℃で0.056S/cm、150℃で0.355S/cmのイオン伝導率を有していた。本モデルは、背中合わせ構成で配置される2つのMEAの理論的ネルンスト開回路電圧の70%を負荷に対する出力電圧として割り当て、残りの30%が内部損失によって消費される。この状況下で、抵抗値、水素流、活性化エネルギーなどに関連する損失が開回路電圧の30%内に収まり、したがってカルノー出力効率の70%を達成することができるように、最大可能な出力電流は、あるレベルに制限される。モデルは、70%のカルノー出力効率制限下の出力電力密度を予測する。
【0079】
熱流束がイオン流束の反対方向である線64によって表される構成は、熱流束がイオン流束の同じ方向である線62の構成と比較して、改善された電力密度を有する。図6は、電力密度が膜にわたるほんの数度の温度差で著しく変化することを反映する。温度勾配がないとき、電力出力は9mW/cmであって、両方のモデルは同じ電力レベルであることに留意されたい。しかし、温度勾配が両方のMEAの膜にわたって拡大すると、2つの構成は、性能が分かれる。線62は、熱流束が各MEAを通る水素または陽子の流束の方向と同じ方向である場合についての出力電力密度を示す。他方で、線64は、本発明でのように、陽子または水素の流束の方向と反対となる方向に熱流束を生成する方法で、各MEAから熱が入力されて取り出される場合を示す。
【0080】
熱流束がそれぞれ作動流体の流れと反対方向かまたは同じ方向かに依存して、MEAにわたって発生する熱ガルバニック電圧の加算特性または減算特性のために、電力出力の変化が生じる。本発明を表す線64によって表される構成では、低温MEAにおいて、熱が低圧側で取り出され、低圧側は比較的低温に維持される。印加されるポンピング電圧によってMEAを横切って高圧側に作動流体(たとえば、水素)が動くと圧縮熱が生成される。結果として得られる圧縮熱は、反対方向に、低圧側に戻して伝導される。最終結果では、熱ガルバニック電圧は、ポンピングを引き起こすためにセルに印加される電圧と同じ方向に作動流体を動かす傾向がある。結果として得られる2つの電圧の組合せが、MEAの温度および圧力比によって規定されるネルンストポテンシャルを克服し、このことによって、所望のポンピングを達成するのにより低い入力電圧が必要なことがもたらされる。
【0081】
一方で、線64によって表される構成では、セルのネルンストポテンシャルに加えて、熱ガルバニック電圧が高温MEAで生成され、このことによって、ネルンストポテンシャル単独で実現されるよりも高い出力電圧がもたらされる。高温MEAにおいて、熱が低圧側に入力され、その結果、結果として得られるMEAへの熱流束は、高圧側から低圧側にMEAを通して膨らむ作動流体の反対方向である。圧力がMEAを通る作動流体に力を加え、電子を外部回路(負荷および低温MEA)へと引き剥がし、陽子が膜を通して伝導される。低圧側に印加される熱によって生成される熱電ポテンシャルは、同じ効果を有する。熱電ポテンシャルは、作動流体を低圧側に引っ張る。この電圧は、ネルンスト電圧に付加的である。本組合せが、より高い全体的な高温MEA出力電圧をもたらす。
【0082】
低温MEAおよび高温MEAにおけるこれら2つの効果の組合せは、すなわち低温MEA圧縮を駆動するのに必要なより低い電圧と高温MEAによって生成されるより高い出力電圧であるが、内部損失、特に膜のインピーダンスに関連するものを克服するのにより大量のシステムレベル電圧が利用可能になることになる。
【0083】
本発明とは対照的に、熱流束が陽子(水素)流束と同じ方向であるときの変換器の動作によって、より低い全体的なシステム電圧出力がもたらされる。というのは、この状況下では、熱ガルバニック電圧は、ネルンスト電圧に付加的であるというよりむしろ、ネルンスト電圧に反して動作するためである。図6中の線62の低下する電圧は、そのような構成の説明である。図6中の線62によって表される構成では、熱は、低圧側ではなくむしろ高圧側から、低温MEAから取り出される。この状況下で、MEAの低温側は、作動流体が圧縮される側である。結果として得られる熱電ポテンシャルは、作動流体を高圧側にポンピングするために印加される電圧とは反対に、高温低圧側に作動流体を動かす傾向がある。こうして、印加される電圧は、印加される温度勾配によって作られる熱電ポテンシャルと、低温MEA圧縮プロセスを実施する際のネルンスト電圧との両方を克服するのに十分高くなければならない。同様に、高温MEAの高圧側に熱を供給することによって、高圧側からの作動流体の膨張と反対に、作動流体を高圧側に動かす傾向がある熱電ポテンシャルが作られる。最終結果は、MEAの出力電圧を低下させることである。
【0084】
上で記載した実施形態に、その広い発明の概念から逸脱することなく、変更を行うことができることは、当業者には理解されよう。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されないが、添付の請求項によって規定されるような本発明の精神および範囲内の修正形態をカバーすることが意図されることが理解される。
【符号の説明】
【0085】
1 低温低圧状態
2 低温高圧状態
3 高温高圧状態
4 高温低圧状態
5 ヒートシンク
7 熱源、低温熱源
10 第1のMEA、第1のMEAスタック、低温MEA
12 第1の多孔質電極、低圧電極
14 膜
16 第2の多孔質電極
18 第1のコンジット、低圧コンジット
20 第2のコンジット、高圧コンジット
22 第2の多孔質電極
24 膜
26 熱交換器、回収可能型逆流熱交換器
28 第2のMEA、第2のMEAスタック、高温高圧MEA、高温MEA
30 第1の多孔質電極、低圧電極
33 矢印
37 低圧コンジット
38 高圧コンジットシステム
100 変換器
110 第1の低温MEA
112 第1の電極、低圧電極
114 イオン伝導性膜
115 ヒートシンク
116 第2の電極、高温電極
117 熱源
118 第1のコンジット、低圧コンジット
120 第2のコンジット、高圧コンジット
122 第2の電極、高温電極
124 イオン伝導性膜
126 熱交換器
128 第2の高温MEA
130 第1の電極、低圧電極
136 膨張熱
140 第1の熱伝達部材、第1の熱伝導体、低温MEAスタック、第1の熱放散器
142 第2の熱伝達部材、第2の熱伝導体、第2の熱放散器
150 熱出力
160 高温MEAスタック
170 高温MEA
172 イオン伝導性膜、陽子伝導性膜
174 第1の多孔質電極、第1の電極、低圧電極
176 第2の多孔質電極、第2の電極、高圧電極、低温側
178 水素質量流
180 第1の電極端子
182 第2の電極端子
184 陽子
186 内部抵抗性加熱
200 MEA
220 膜、イオン伝導性膜
230 第1の多孔質電極、低圧電極
231 第2の端子
232 第2の多孔質電極、高圧電極
233 第1の端子
237 低圧コンジット
238 高圧コンジット
240 熱伝達部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】