(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞培養プロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20230327BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230327BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230327BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230327BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230327BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230327BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20230327BHJP
C07K 4/00 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
C12P21/08
C12N5/10
C12N5/071
C12N7/01
C07K16/00
C07K19/00
C07K2/00
C07K4/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549309
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2021053859
(87)【国際公開番号】W WO2021165302
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ブルンナー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ベックマン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ボルゴエン,エレナ・ヨアナ
(72)【発明者】
【氏名】シュティーフェル,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ウンゼルト,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
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4B065AA90X
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4H045AA10
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4H045BA11
4H045BA12
4H045BA41
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞培養、及び哺乳動物細胞における組換えタンパク質又は組換えウイルスの産生の分野に関する。本発明は特に、乳酸塩及び高濃度のシステインを与える新規フィード培地、並びに哺乳動物細胞を培養するための方法、又は異種タンパク質若しくは組換えウイルスなどの関心対象の産物を、該フィード培地を使用して産生するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;
c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L
-1×日
-1/mmol×L
-1×日
-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);
d)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び
e)場合により、関心対象の産物を単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて関心対象の産物を産生する方法。
【請求項2】
乳酸塩/システインのモル比が、約10:1から50:1、好ましくは約10:1から約30:1である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
a)乳酸塩が、3mmol/L/日以上、5mmol/L/日以上、7mmol/L/日以上、又は10mmol/L/日以上で添加され;
b)細胞培養培地中の乳酸塩が、0.5g/L以上、1g/L以上、2g/L以上、好ましくは2~4g/Lで維持され;
c)システインが、システイン又はその塩及び/若しくは水和物、シスチン又はその塩、あるいはシステインを含んでいるジペプチド又はトリペプチドとして提供され;並びに/あるいは
d)システインが、0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、又は0.4mM/日以上で添加される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
関心対象の産物が、異種タンパク質又は組換えウイルスである、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記核酸が、異種タンパク質をコードし、そして
(a)産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の産物の力価及び/又は細胞の比生産性と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、0.19mM/日以下のシステインが添加され;
(b)異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでの高マンノース構造は、マンノースを5個持つ構造であり;及び/又は
(c)異種タンパク質の集団中の酸性種の(合計に対する)相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、同濃度のシステインが添加されている、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
基礎培地及びフィード培地が、無血清であり、化学組成が規定されている、請求項1~5のいずれか一項の方法。
【請求項7】
異種タンパク質が、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質である、請求項1~6のいずれか一項の方法。
【請求項8】
a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;
c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フォード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L
-1×日
-1/mmol×L
-1×日
-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);及び
d)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて哺乳動物細胞を培養する方法。
【請求項9】
a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;
b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;
c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L
-1×日
-1/mmol×L
-1×日
-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);
d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び
e)場合により、異種タンパク質を単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質中の酸性種を減少させる方法であって、ここでの異種タンパク質の集団中の酸性種の相対量は、同じ方法によって生産された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、同濃度のシステインが添加されている、該方法。
【請求項10】
a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;
b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;
c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L
-1×日
-1/mmol×L
-1×日
-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);
d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び
e)場合により、異種タンパク質を単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質中の高マンノース構造を減少させる方法であって、ここでの異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでの高マンノース構造はマンノースを5個持つ構造である、該方法。
【請求項11】
a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;
b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;
c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L
-1×日
-1/mmol×L
-1×日
-1)で乳酸塩/システインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);
d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び
e)場合により、異種タンパク質を哺乳動物細胞から単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて異種タンパク質を産生する場合に、産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐ方法であって、ここでの、異種タンパク質の集団における産物の品質の特徴に対する負の作用は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、同濃度のシステインが添加されている、該方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項の方法によって産生された異種タンパク質。
【請求項13】
フィード培地には、0.225mM/日以上でシステインが添加される、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質中の酸性種及び/又は高マンノース構造を減少させるためのフィード培地中の乳酸塩の使用。
【請求項14】
フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質の産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐためのフィード培地における乳酸塩の使用であって、好ましくは、ここでの産物の品質の特徴に対する負の作用は、増加した高マンノース構造、増加した低分子量種、及び/又は増加した酸性種である、該使用。
【請求項15】
フェッドバッチプロセスにおいて異種タンパク質の力価及び/又は細胞の比生産性を増加させるためのフィード培地における乳酸塩及びシステインの使用。
【請求項16】
フェッドバッチプロセスが、哺乳動物細胞を培養する工程を含み、哺乳動物細胞がHEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞がCHO細胞又はCHO由来細胞である、請求項1~11のいずれか一項の方法、又は請求項13~15のいずれか一項の使用。
【請求項17】
約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)で乳酸塩及びシステインを含んでいる哺乳動物細胞フェッドバッチ培養用のフィード培地であって、好ましくはここでのフィード培地は、別々に添加するための1つ以上のフィード補助物質を含む、該フィード培地。
【請求項18】
(a)乳酸塩及び場合によりシステインを含んでいる哺乳動物細胞フェッドバッチ培養のための濃縮フィード培地、及び
(b)システインを含んでいる濃縮フィード培地とは隔絶された水性補助物質(ここでの、フィード培地及び補助物質は、細胞培養出発容量の5%未満、好ましくは3.5%未満の1日1回の添加で、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)及び0.225mM/日以上のシステインを与える)
を含んでいるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞培養、及び哺乳動物細胞における組換えタンパク質又は組換えウイルスの産生の分野に関する。本発明は特に、乳酸塩及び高濃度のシステインを与える新規フィード培地、並びに哺乳動物細胞を培養するための方法、又は異種タンパク質若しくは組換えウイルスなどの関心対象の産物を該フィード培地を使用して産生するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
バイオ医薬品工業における組換え治療用タンパク質の大半は、正確なタンパク質の折り畳み及び翻訳後修飾の能力に因り、哺乳動物細胞培養によって産生される。哺乳動物培養系内では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が、工業的生産プロセスにおいて最適な宿主である。それらの主な利点は、それらのヒトに似た翻訳後修飾パターンである。さらに、CHO細胞は、安全な宿主であることがすでに証明されており、新規な治療薬の製造のために承認される可能性が高い。高品質の産物を産生する高い生産性を有する安定なCHO細胞株の開発は、過去数年間の間に十分になされてきたが、細胞培養の成績のさらなる改善が絶えず必要とされる。しかしながら、HEK293、NS0及びBHK21などの他の哺乳動物細胞株も、タンパク質の発現又はウイルスの産生のためにバイオ医薬品工業において使用され得る。
【0003】
プロセス開発のための主な戦略は、培地の設計である。なぜなら、細胞は、その環境と常に相互作用しているからである。増殖、生産性、及び産物の品質は、使用される培地の選択及び組成に直接影響を受ける。栄養分に関する細胞の需要を満たし、かつ阻害性物質の蓄積を最小限とするための、細胞培養培地の最適化は、プロセスの成績に対して多くの影響を及ぼす。
【0004】
培地の組成が詳細に観察されなければならないだけでなく、培地の開発に関して、細胞の代謝のより深い理解が、等しく非常に重要である。CHO細胞及び他の哺乳動物細胞の代謝は、炭素源及び窒素源などの物質の非効率的な高い取り込みによって特徴付けられ、これらの物質は、高濃度の細胞障害性又は阻害性の副産物、例えば乳酸塩、アンモニア、及び様々な他の増殖阻害性代謝物に至る。細胞障害性又は阻害性の副産物は、フェッドバッチプロセスにおいて特に問題である。なぜなら、培地は交換されず、よって、細胞障害性副産物が、時間と共に蓄積するからである。
【0005】
哺乳動物細胞及び特にCHO細胞のそうした負の特徴を克服する目的で、pH、温度又はpCO2などのプロセスパラメーターに影響を及ぼす、数多くの戦略が開発され適用されてきた。さらに、複雑なフィーディング戦略及び細胞株の工学操作が、阻害性化合物の形成を減少させるために適用される。
【0006】
近年、改善された増殖、生産性、及び産物の品質に主に焦点を当てた、バイオ医薬品の生産のための哺乳動物細胞を用いたバイオプロセスが、十分に開発されている。高い細胞接種密度(SCD)の使用により、細胞の非生産的な増殖期は回避され、改善された空時収量がもたらされる。しかしながら、培地の設計を調整することによる、最適化された栄養分の細胞への供給の需要は、高い細胞接種密度を有する培養液についてさらにより顕著である。なぜなら、このような培養液は、生存率の低下、特にプロセスの終了時に向けての生存率の低下をもたらし得る、阻害性又は細胞障害性の可能性のある代謝物を蓄積する傾向がより高いからである。
【0007】
したがって、高密度な哺乳動物細胞培養液の増殖を支持し、同時に多量のタンパク質の産生を支持する、安定な培地のさらなる開発の要望は依然としてますます増大している。歴史的には、動物細胞の培養用の培地は、血漿、血清、又は組織抽出物を含み、これらは、これらの複合培地成分の高度な多様性及び成分が不明瞭であること及び生得のウイルス汚染のリスクを有することに因り、不安定かつ非常に変わりやすい培養プロセスをもたらした。それ以来、所定の化合物しか含有していない、化学組成の規定された無血清培地の使用が、増加し、今日のバイオ医薬品工業における標準である。
【0008】
細胞培養培地は大半が、エネルギー源、例えば炭水化物又はアミノ酸、脂質、ビタミン、微量元素、塩、増殖因子、ポリアミン、及び非栄養成分、例えば緩衝液、界面活性剤、又は消泡剤からなる。フェッドバッチ培養に使用される培地は、2つの亜群に分類することができる:プロセス培地(P培地)すなわち基礎培地及びフィード培地(F培地)。基礎培地は、初期の濃度で全ての必須成分を含有し、接種のために使用される。フィード培地は大部分が、プロセス中に高濃度の栄養分を提供する。したがって、細胞培養培地は、多くの異なる化合物の複合組成物であり、そして改善された増殖、生産性、又は産物の品質をもたらす化合物を同定することは難題である。近年の培地の開発における主な難題の1つは、異なる条件下で培養された異なる細胞株に適用可能な培地の実現である。培地は、使用される細胞株が、共通の発現ベクターを用いて共通の宿主から得られるという前提下で使用され、このことは、栄養分の供給に関してそれらの同じような要求を意味する。このアプローチは、時系列を短縮させ、培地の細胞株特異的な調整を回避することによって、迅速なプロセスの開発を可能とする。培地の設計はまた、製造の上流における所望の分子の重要な品質特性に対して大きな影響を及ぼし、これは、市場に出ている又は開発中である多種多様なバイオ医薬品を考えると、培地の開発のさらなる課題となる。培地の設計の複雑さに加えて、様々な培養技術は、培地組成の選択について様々な要求を暗示している。最適化されたフィーディング戦略又はプロセスの種類の選択では、例えば高い生細胞密度(VCD)を支持する灌流における、補充についての要求は異なる。したがって、細胞培養培地は、多くの異なる化合物の複雑な組成物であり、改善された増殖、生産性、又は産物の品質をもたらす化合物を同定することは課題である。
【0009】
システインは、哺乳動物細胞培養培地の定型的な成分である。それは必須アミノ酸であるとは考えられていないが、それにも関わらず、細胞培養及びタンパク質合成のための重要なアミノ酸であると考えられている。当技術分野において、不十分なシステインレベルは、タンパク質力価の低下をもたらすことが知られている。特に、フィード中の不十分なシステインレベルは、細胞内のシステインの枯渇をもたらす可能性がある。この枯渇は、抗酸化分子、例えばグルタチオン(GSH)及びタウリンなどに負の影響を及ぼし、複数の有害な細胞性作用を伴う酸化的ストレスをもたらす。システインは細胞培養培地の必須成分であることが知られているが、しかしながら、より高い濃度のシステインのフィーディングは、不適切なジスルフィド結合対形成及び細胞外環境における増加したタンパク質の凝集をもたらす可能性がある(Ali A. S., et al., Biotechnol. J., 2019, 14: 1800352)。
【0010】
乳酸塩は、他方で、細胞増殖及び生存率に対して有害な作用を及ぼす、所望ではない副産物として知られている。高いレベルの乳酸塩は、細胞培養プロセスに対して明らかに負の影響を及ぼすことが報告され、それ故、後期培養段階において乳酸塩の蓄積を減少させる及び/又は乳酸塩の消費を誘導することが試みられた(Li J., et al., Biotechnol Bioeng, 2012, 109(5): p 1173-1186)。したがって、先行技術に記載されているように、哺乳動物細胞培養液中の乳酸塩の蓄積又は乳酸塩の産生は、アスパラギンと酸性シスチンの組合せを含んでいる培地によって回避されたが(国際公開公報第2006/026408号、例えば実施例10、
図42)、特に乳酸塩は減少せず、むしろ、廃棄物と考えられ、よって、細胞培養液には添加もフィードもされなかった。Li et al.は、代替的なフィードバックによりpHを制御する戦略として乳酸塩を使用し、初めて、乳酸塩を消費する代謝状態下で、外因性の乳酸塩のフィーディングが、プロセスの利点をもたらし得、特に低下したアンモニウムレベル及びより低い二酸化炭素レベルをもたらし得る。アンモニアは、アミノ酸代謝の副産物であり、細胞増殖に対して負の影響を及ぼす。欧州特許第2135946A1号及びKishishita et al., J. Biosci Bioeng. (2015), 120 (1), 78-84のような他の当技術分野の最新技術の文書は、とりわけ乳酸塩を含んでいる培養培地を用いる細胞培養プロセスを開示しているが、これは回避されるべきであるか又は低濃度に維持されるべきである、所望ではない廃棄物であると思われることを明確に教義している(欧州特許第2135946A1号の段落[0046]及びKishishita et al., p. 81、左欄、第2段落、1~3行を参照)。
【0011】
Ritacco F.V. et al, Biotechnol. Prog., 2018, 34(6): 1407-1426は、CHO細胞培養培地の開発のいくつかのアプローチを概説している。それは、1408頁から1410頁にかけての段落において、グルコースの消費による生成物としての乳酸塩は、哺乳動物細胞培養液中の細胞の増殖を阻害し得ることを開示している。それぞれの分析は、指数関数的増殖期において、CHO細胞は主に、好気性解糖を介してエネルギーを生成し、酸素濃度に関係なく乳酸塩を産生し、一方、静止期の細胞は殆ど、酸化的リン酸化を行ない、乳酸塩を消費する。しかし、一般的にこの開示から、乳酸塩は回避されるべきであることを導くことができる。さらに、上昇したアスパラギン濃度は、乳酸塩及びアンモニウムを減少させるのに有用であり得るが(1412頁、左欄、第4段落、18~20行)、この文脈におけるシステインの役割は議論されていない。
【0012】
高収量の異種タンパク質及び組換えウイルスを含むバイオ医薬品を高い製品の品質で生産するために、フェッドバッチ培養液中で哺乳動物細胞を培養するためのさらに改善された方法の需要がますます増加している観点から、改善された細胞培養培地、及び該細胞培養培地を使用した方法の必要性が依然としてある。それ故、本発明の目的は、哺乳動物細胞における関心対象の産物の産生のための、改善されたフェッドバッチ法を提供することである。
【0013】
発明の要約
本発明は、細胞培養の成績及び/又は製品の品質に対する、乳酸塩及びシステインの驚くべき組合せ効果に関する。
【0014】
1つの態様では、(a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;(b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;(c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);(d)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び(e)場合により、関心対象の産物を単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて関心対象の産物を産生する方法が提供される。好ましくは、フィード培地は、1日1回、より好ましくは連続的に添加される。関心対象の産物は好ましくは、異種タンパク質又は組換えウイルスであり、並びに/あるいは基礎培地及びフィード培地は好ましくは、無血清であり、かつ化学組成が規定されている。特定の好ましい実施態様では、乳酸塩/システインのモル比は、約10:1から50:1、好ましくは約10:1から約30:1である。
【0015】
乳酸塩は、3mmol/L/日以上、5mmol/L/日以上、7mmol/L/日以上、又は10mmol/L/日以上で添加され得る。特定の実施態様では、細胞培養培地中の乳酸塩は、0.5g/L以上、1g/L以上、2g/L以上、好ましくは2から4g/Lで維持される。
【0016】
システインは、システイン又はその塩及び/若しくは水和物、シスチン又はその塩、あるいはシステインを含んでいるジペプチド又はトリペプチドとして提供され得る。提供される形状に関係なく、システインは、0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、又は0.4mM/日以上で添加され得る。
【0017】
特定の実施態様では、核酸は異種タンパク質をコードし、産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の産物の力価及び/又は細胞の比生産性と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下でシステインが添加されている。代替的には又はそれに加えて、核酸は異種タンパク質をコードし、異種タンパク質の集団における高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下でシステインが添加されている。好ましくは、高マンノース構造はマンノースを5個持つ構造である。代替的には又はそれに加えて、核酸は異種タンパク質をコードし、異種タンパク質の集団における酸性種の(合計に対する)相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。
【0018】
異種タンパク質は好ましくは、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質である。1つの実施態様では、抗体、二重特異的抗体又は三重特異的抗体は、IgG1抗体、IgG2a抗体、IgG2b抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体である。
【0019】
a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);及びd)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて哺乳動物細胞を培養する方法も提供される。
【0020】
別の態様では、a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、異種タンパク質を単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における酸性種を減少させる方法が提供され;ここで、異種タンパク質の集団における酸性種の相対量は、同じ方法によって産生される異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。
【0021】
さらに別の態様では、a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、異種タンパク質を単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における高マンノース構造を減少させる方法が提供され;ここでの異種タンパク質の集団における高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生される異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでの高マンノース構造はマンノースを5個持つ構造である。
【0022】
さらに別の態様では、(a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;(b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;(c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);(d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び(e)場合により、異種タンパク質を哺乳動物細胞から単離する工程
を含む、フェッドバッチプロセスにおいて異種タンパク質を産生する場合に、産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐ方法が提供され;ここで異種タンパク質の集団における産物の品質の特徴に対する負の作用は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地は、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。
【0023】
本発明に記載の方法に使用される哺乳動物細胞は、任意の哺乳動物細胞又は細胞株であり得、好ましくは哺乳動物細胞はHEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0024】
本発明に記載の方法のいずれかによって、好ましくは本明細書に記載のようなフェッドバッチプロセスにおいて産生される、異種タンパク質における酸性種を減少させる又は異種タンパク質における高マンノース構造を減少させる方法によって産生される異種タンパク質も提供される。異種タンパク質はまた、本明細書に記載のような異種タンパク質を産生する場合に、産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐ方法によって産生され得る。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における酸性種を減少させるための、フィード培地中の乳酸塩の使用に関し、ここでのフィード培地には、0.225mM/日以上でシステインが添加されている。
【0026】
フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における高マンノース構造を減少させるための、フィード培地中の乳酸塩の使用も提供され、ここでのフィード培地は、0.225mM/日以上でシステインを含む。好ましくは、高マンノース構造は、マンノースを5個持つ構造である。
【0027】
フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質の産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐための、フィード培地中の乳酸塩の使用も提供され、好ましくは、ここでの産物の品質の特徴に対する負の作用は、増加した高マンノース構造、増加した低分子量種、及び/又は増加した酸性種である。
【0028】
フェッドバッチプロセスにおける異種タンパク質の力価及び/又は細胞の特異的生産性を増加させるための、フィード培地中の乳酸塩及びシステインの使用も提供される。好ましくは、フェッドバッチプロセスは、哺乳動物細胞を培養する工程を含み、ここでの哺乳動物細胞は好ましくはHEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0029】
さらに別の態様では、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)で乳酸塩及びシステインを含んでいる、哺乳動物細胞のフェッドバッチ培養のためのフィード培地が提供される。好ましくは、フィード培地は、別々に添加するための1つ以上のフィード補助物質を含む。
【0030】
さらに別の態様では、(a)乳酸塩及び場合によりシステインを含んでいる、哺乳動物細胞のフェッドバッチ培養のための濃縮フィード培地、及び(b)システインを含んでいる濃縮フィード培地とは隔離された水性補助物質を含んでいる、キットが提供され、ここでのフィード培地及び補助物質は、細胞培養出発容量の5%未満、好ましくは3.5%未満の1日1回の添加で、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)及び0.225mM/日以上のシステインを与える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】3Lのバイオリアクター中で10×10
6個の細胞/mlの播種濃度を使用した、超高播種密度(uHSD)プロセスの生細胞密度(A)、生存率(D)、相対的IgG力価(C)、及び乳酸塩の濃度(D)。CHO細胞は、乳酸塩及び/又はシステインのボーラス添加の存在下又は非存在下における、定型的な超高播種密度を使用した13~14日間の培養液であった。(C)y軸上のIgG濃度は、最も高い測定値(100%)と比較した力価として与えられる。
【
図1B】3Lのバイオリアクター中で10×10
6個の細胞/mlの播種濃度を使用した、超高播種密度(uHSD)プロセスの生細胞密度(A)、生存率(D)、相対的IgG力価(C)、及び乳酸塩の濃度(D)。CHO細胞は、乳酸塩及び/又はシステインのボーラス添加の存在下又は非存在下における、定型的な超高播種密度を使用した13~14日間の培養液であった。(C)y軸上のIgG濃度は、最も高い測定値(100%)と比較した力価として与えられる。
【
図1C】3Lのバイオリアクター中で10×10
6個の細胞/mlの播種濃度を使用した、超高播種密度(uHSD)プロセスの生細胞密度(A)、生存率(D)、相対的IgG力価(C)、及び乳酸塩の濃度(D)。CHO細胞は、乳酸塩及び/又はシステインのボーラス添加の存在下又は非存在下における、定型的な超高播種密度を使用した13~14日間の培養液であった。(C)y軸上のIgG濃度は、最も高い測定値(100%)と比較した力価として与えられる。
【
図1D】3Lのバイオリアクター中で10×10
6個の細胞/mlの播種濃度を使用した、超高播種密度(uHSD)プロセスの生細胞密度(A)、生存率(D)、相対的IgG力価(C)、及び乳酸塩の濃度(D)。CHO細胞は、乳酸塩及び/又はシステインのボーラス添加の存在下又は非存在下における、定型的な超高播種密度を使用した13~14日間の培養液であった。(C)y軸上のIgG濃度は、最も高い測定値(100%)と比較した力価として与えられる。
【
図2A】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2B】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2C】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2D】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2E】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2F】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2G】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図2H】250mlのバイオリアクター中の定型的なプロセスの2つの細胞株の実験計画法の実験の生細胞密度、生存率、産物の力価、及び乳酸塩の濃度。(A、B、C及びD)細胞株Aの細胞培養液(CHO-K1;IgG1)を、0g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/l/日のシスチン(0Lac/0シスチン;対照)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0.84シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/1.67シスチン)と共に培養した。(A)生細胞密度(10×10
6個の細胞/ml)、(B)生存率[%]、(C)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]、及び(D)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。(E、F及びG)細胞株Bの細胞培養液(CHO-K1;IgG4)を、17.2g/Lでフィードされる0g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/l/日の2回目のシスチン(0Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び1.67ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/1.67シスチン)、17.2g/Lでフィードされる30g/L/日の乳酸ナトリウム及び0ml/L/日の2回目のシスチン(30Lac/0シスチン)、及び17.2g/Lでフィードされる15g/L/日の乳酸ナトリウム及び0.84ml/L/日の2回目のシスチン(15Lac/0.84シスチン)と共に培養した。(E)生細胞密度[10×10
6個の細胞/ml]、(F)生存率[%]、(G)最も高い測定値と比較したIgG力価[%]及び(H)乳酸塩の濃度[g/L]が提供される。
【
図3】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Aの収集物の生存率(R
2:0.95;Q
2:0.85)。y軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指し;x軸上の単位ml/L/日は、17.2g/Lのシスチンの添加を指す。
【
図4】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Aの産物の力価(R
2:0.98;Q
2:0.96)。x軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指し;y軸上の単位ml/L/日は、17.2g/Lのシスチンの添加を指す。最も高い産物の力価は、多量の乳酸塩及び多量のシスチンのフィーディングで得ることができた。正規化された力価の数値(%)は、実験計画法の最も高い(実験計画法で使用された細胞株の間で)数値に対して正規化される。
【
図5】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Aの酸性ピーク変異体(APG)(R
2:0.98;Q
2:0.97)。y軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指し;x軸上の単位ml/L/日は、17.2g/Lのシスチンの添加を指す。シスチンのフィーディングに因るAPGの増加は、追加の乳酸塩のフィーディングを通して強く減少し得る。
【
図6】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Bの収集物の生存率(R
2:0.95;Q
2:0.85)。y軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指し;x軸上の単位ml/L/日は、17.2g/Lのシスチンの添加を指す。
【
図7】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Bの産物の力価(R
2:0.98;Q
2:0.96)。x軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指し;y軸上の単位ml/L/日は、17.2g/Lのシスチンの添加を指す。最も高い産物の力価は、多量の乳酸塩及び多量のシスチンのフィーディングで得ることができた。正規化された力価の数値(%)は、実験計画法の最も高い(実験計画法で使用された細胞株の間で)数値に対して正規化される。
【
図8】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Bの酸性ピーク変異体(APG)(R
2:0.98;Q
2:0.97)。y軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指し;x軸上の単位ml/L/日は、17.2g/Lのシスチンの添加を指す。シスチンのフィーディングに因るAPGの増加は、追加の乳酸塩のフィーディングを通して強く減少し得る。
【
図9A】乳酸塩の関数としての、細胞株A(A)及び細胞株B(B)のマンノースを5個持つ構造(R
2:0.93;Q
2:0.77)。x軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指す。信頼区間(95%)は、点線として提示される。
【
図9B】乳酸塩の関数としての、細胞株A(A)及び細胞株B(B)のマンノースを5個持つ構造(R
2:0.93;Q
2:0.77)。x軸上の単位g/Lは、乳酸ナトリウムの添加を指す。信頼区間(95%)は、点線として提示される。
【
図10A】シスチン及び乳酸塩の関数としての、2つの細胞株の低分子量種(LMW)。(A及びB)(A)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(B)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Aの低分子量種(LMW)。(C及びD)(C)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(D)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Bの低分子量種(LMW)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。y軸上の正規化されたLMWの値(%)は、実験計画法の最も高い数値に対して正規化される。
【
図10B】シスチン及び乳酸塩の関数としての、2つの細胞株の低分子量種(LMW)。(A及びB)(A)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(B)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Aの低分子量種(LMW)。(C及びD)(C)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(D)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Bの低分子量種(LMW)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。y軸上の正規化されたLMWの値(%)は、実験計画法の最も高い数値に対して正規化される。
【
図10C】シスチン及び乳酸塩の関数としての、2つの細胞株の低分子量種(LMW)。(A及びB)(A)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(B)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Aの低分子量種(LMW)。(C及びD)(C)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(D)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Bの低分子量種(LMW)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。y軸上の正規化されたLMWの値(%)は、実験計画法の最も高い数値に対して正規化される。
【
図10D】シスチン及び乳酸塩の関数としての、2つの細胞株の低分子量種(LMW)。(A及びB)(A)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(B)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Aの低分子量種(LMW)。(C及びD)(C)17.2g/Lのシスチンの添加を指すx軸上にml/L/日として示されるシスチン、及び(D)乳酸ナトリウムの添加を指すx軸上にg/Lとして示される乳酸塩の関数としての、細胞株Bの低分子量種(LMW)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。y軸上の正規化されたLMWの値(%)は、実験計画法の最も高い数値に対して正規化される。
【
図11-1】細胞株Cの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。2ml/L/日での追加のフィード中の14.37g/Lのシスチン(w Cys)又は30ml/L/日でのフィード非含有培地と一緒の30g/Lの乳酸塩(w Lac)、又はその両方(w Cys/Lac)を細胞培養液に加えた。対照細胞には、フィード培地のみをフィードした(フィード1)。
【
図11-2】細胞株Cの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。2ml/L/日での追加のフィード中の14.37g/Lのシスチン(w Cys)又は30ml/L/日でのフィード非含有培地と一緒の30g/Lの乳酸塩(w Lac)、又はその両方(w Cys/Lac)を細胞培養液に加えた。対照細胞には、フィード培地のみをフィードした(フィード1)。
【
図12-1】
図11の図の説明文に記載のような処置の後における、細胞株Dの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。
【
図12-2】
図11の図の説明文に記載のような処置の後における、細胞株Dの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。
【
図13-1】
図11の図の説明文に記載のような処置の後における、細胞株Eの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。
【
図13-2】
図11の図の説明文に記載のような処置の後における、細胞株Eの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。
【
図14-1】
図11の図の説明文に記載のような処置の後における、細胞株Fの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。
【
図14-2】
図11の図の説明文に記載のような処置の後における、細胞株Fの生細胞密度(A)、生存率(B)、乳酸塩の濃度(C)、及び相対的なIgG力価(D)が示されている。
【
図15】超高播種密度プロセスの実験計画法の最適化における、乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Aの産物の力価(R2:0.84;Q2:0.77)。最も高い産物の力価は、多量の乳酸塩及び多量のシステインのフィーディングで得ることができた。正規化された力価の数値(%)は、実験計画法の最も高い(実験計画法で使用された細胞株の間で)数値に対して正規化される。
【
図16】超高播種密度プロセスの実験計画法の最適化における、乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Bの産物の力価(R2:0.84;Q2:0.77)。最も高い産物の力価は、多量の乳酸塩及び多量のシステインのフィーディングで得ることができた。正規化された力価の数値(%)は、実験計画法の最も高い(実験計画法で使用された細胞株の間で)数値に対して正規化される。
【
図17】乳酸塩のフィーディングの関数としての、細胞株Aの収集物の生存率(R2:0.94;Q2:0.89)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。
【
図18】乳酸塩のフィーディングの関数としての、細胞株Bの収集物の生存率(R2:0.94;Q2:0.89)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。
【
図19】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Aの酸性ピーク変異体(APG)(R2:0.99;Q2:0.97)。システインのフィーディングに因るAPGの増加は、追加の乳酸塩のフィーディングを通して強く減少し得る。
【
図20】乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数としての、細胞株Bの酸性ピーク変異体(APG)(R2:0.99;Q2:0.97)。システインのフィーディングに因るAPGの増加は、追加の乳酸塩のフィーディングを通して強く減少し得る。
【
図21】乳酸塩の関数としての、細胞株Aのマンノースを5個持つ構造(Man5)(R2:0.71;Q2:0.48)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。
【
図22】乳酸塩の関数としての、細胞株Bのマンノースを5個持つ構造(Man5)(R2:0.71;Q2:0.48)。信頼区間(95%)は、点線として提示される。
【0032】
発明の詳細な説明
「含んでいる」又は「含まれた」という一般的な実施態様は、より具体的な実施態様である「からなる」を包含する。さらに、単数形及び複数形は、限定された意味で使用されない。本明細書において使用する単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、単数形のみを示すと明記されていない限り、単数形と複数形の両方を示す。
【0033】
「細胞培養」又は「細胞培養液」という用語は、全ての規模で(例えばマイクロタイタープレートから大規模な工業的バイオリアクターまで、すなわちmL規模以下から10,000Lを超える規模まで)、全ての異なるプロセスモードで(例えばバッチ培養、フェッドバッチ培養、灌流培養、連続培養)、全てのプロセス制御モード(例えば非制御、完全自動化、及び例えばpH、温度、酸素含量の制御を伴う制御されたシステム)で、全種類の発酵システム(例えば使い捨てシステム、ステンレス鋼システム、ガラス製品システム)での、細胞の培養及び発酵のプロセスを含む。本発明によると、細胞培養は、哺乳動物細胞培養であり、かつフェッドバッチ培養である。好ましい実施態様では、細胞培養液は、1Lを超える、好ましくは2Lを超える、10Lを超える、1,000Lを超える、5000Lを超える、より好ましくは10,000Lを超える容量の細胞培養である。
【0034】
本明細書において使用する「フェッドバッチ」という用語は、細胞に、栄養分を含有しているフィード培地が連続的に又は周期的にフィードされる、細胞培養液に関する。フィーディングは、細胞培養開始直後の0日目に、又はより典型的には培養開始から1日後、2日後、又は3日後に開始され得る。フィーディングは、前以て決められた計画に従い得、例えば毎日、2日間毎に、3日間毎になどである。あるいは、培養液は、細胞増殖、栄養分、又は毒性の副産物についてモニタリングされ得、フィーディングは、それに応じて調整されてもよい。一般的には、以下のパラメーターが連日決定されることが多く、これらは、生細胞濃度、産物の濃度(力価)、及びいくつかの代謝物、例えばグルコース、pH、乳酸塩、モル浸透圧濃度(塩含量の尺度)、及びアンモニウム(増殖速度に負に影響を及ぼし、かつ生存バイオマスを減少させる増速阻害物質)を対象とする。バッチ培養(フィーディングを伴わない培養)と比較して、より高い産物の力価に、フェッドバッチモードでは到達することができる。典型的には、フェッドバッチ培養を、ある時点で停止させ、細胞及び/又は培地を収集し、関心対象の産物、例えば異種タンパク質又は組換えウイルスを単離及び/又は精製する。フェッドバッチプロセスは典型的には、約2~3週間、例えば約10~24日間、約12~21日間、約12~18日間、好ましくは約12~16日間維持される。特に、異種タンパク質の産生のためのフェッドバッチプロセスは典型的には、約2~3週間、例えば約10~24日間、約12~21日間、約12~18日間、好ましくは約12~16日間維持される。
【0035】
組換えウイルス産生のために、細胞に典型的には、所望の細胞密度で組換えウイルスを形質導入する。フィーディングは、細胞培養開始直後の0日目に、又はより典型的には培養開始から1日後、2日後、又は3日後に開始され得、ここでの細胞は、細胞接種時に、又は特定の期間の後、所望の細胞密度に到達した時(これは、フィーディンの開始された後、例えば培養開始後1~7日目、好ましくは培養開始後2~5日目、より好ましくは培養開始後3~5日目であり得る)に、所望の細胞密度で組換えウイルスが形質導入される。あるいは、細胞は、組換えウイルスをコードしている1つ以上の核酸分子を用いて安定にトランスフェクトされても、又は、細胞は、組換えウイルスをコードしている1つ以上の核酸分子を用いて一過性にトランスフェクトされても、又はその組合せであってもよい。哺乳動物細胞へのウイルスの形質導入と同様に、一過性のトランスフェクションでは細胞は、細胞接種時に、又は特定の期間の後、所望の細胞密度に到達した時(これは、フィーディンの開始された後、例えば培養開始後1~7日目、好ましくは培養開始後2~5日目、より好ましくは培養開始後3~5日目であり得る)に、所望の細胞密度で、組換えウイルスをコードしている1つ以上の核酸がトランスフェクトされ得る。
【0036】
定義によると、宿主細胞に導入されたの任意の核酸、配列、又は遺伝子は、導入された配列が、宿主細胞内の内因性の核酸、配列、又は遺伝子と同一であったとしても、宿主細胞に対する「異種核酸」、「異種配列」、「異種遺伝子」、「異種RNA」又は「導入遺伝子」又は「組換え遺伝子」と呼ばれる。よって、「異種」又は「組換え」タンパク質又はRNAは、異種の核酸、配列、又は遺伝子、好ましくはDNAから発現されるタンパク質又はRNAである。好ましい実施態様では、導入された核酸、配列、又は遺伝子は、問題の宿主細胞の内因性の核酸配列又は遺伝子とは同一ではない。
【0037】
本明細書において使用する「コードする」又は「をコードする」という用語は広義には、ポリマー巨大分子内の情報を使用して、第一の分子とは異なる第二の分子の産生を指令する、任意のプロセスを指す。第二の分子は、第一の分子の化学的性質とは異なる化学構造を有していてもよい。例えば、いくつかの態様では、「コードする」という用語は、半保存的DNA複製プロセスを説明し、ここでは二本鎖DNA分子の一方の鎖は、DNA依存性DNAポリメラーゼによる新規に合成された相補的姉妹鎖をコードするための、鋳型として使用される。他の態様では、DNA分子は、RNA分子(例えば、DNA依存性RNAポリメラーゼ酵素を使用する転写プロセスによって)をコードすることができる。また、RNA分子は、翻訳というプロセスにおけるように、ポリペプチドをコードすることができる。翻訳プロセスを説明するために使用される場合、「コードする」という用語はまた、アミノ酸をコードするトリプレットコドンにまで拡大される。いくつかの態様では、RNA分子は、例えば、RNA依存性DNAポリメラーゼを取り込む逆転写酵素プロセスによって、DNA分子をコードすることができる。別の態様では、DNA分子は、ポリペプチドをコードすることができ、ここではその場合に使用されるような「コードする」は、転写プロセスと翻訳プロセスの両方を取り込むと理解される。
【0038】
「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語は同義語として使用される。これらの用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語はまた、グリコシル化、糖化、アセチル化、リン酸化、酸化、アミド化、又はタンパク質プロセシングを含むがこれらに限定されない反応を通して翻訳後修飾されたタンパク質も含む。修飾及び変化、例えば、他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失又は挿入は、該分子がその生物学的な機能的活性を維持しつつ、ポリペプチドの構造内で行なわれ得る。例えば、特定のアミノ酸配列の置換は、ポリペプチド又はその基礎となる核酸コード配列内に行なわれ得、類似した又は修飾された特性を有するタンパク質を得ることができる。アミノ酸の修飾は、例えば、その基礎となる核酸配列に対して、部位特異的突然変異誘発又はポリメラーゼ連鎖反応により媒介される突然変異誘発を実施することによって調製されることができる。よって、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語はまた、例えば、免疫グロブリン成分(例えばFc成分)と増殖因子(例えばインターロイキン)からなる融合タンパク質、抗体又は任意の抗体に由来する分子フォーマット若しくは抗体断片も含む。
【0039】
本明細書において使用する「関心対象の産物」という用語は、哺乳動物細胞において産生される任意の産物、特に、異種タンパク質及び組換えウイルスを指す。
【0040】
本明細書において使用する「細胞培養培地」という用語は、好ましく緩衝化された培地中に最小限の必須栄養分及び成分、例えばビタミン、微量元素、塩、塊状の塩、アミノ酸、脂質、炭水化物を含んでいる、哺乳動物細胞を培養するための培地である。典型的には、哺乳動物細胞用の細胞培養培地は、ほぼ中性のpH、例えば約6.5~約7.5、好ましくは約6.8~約7.3、より好ましくは約7のpHを有する。このような細胞培養培地の非制限的な例としては、市販の培地、例えばHam F12(シグマ社、ダイゼンホーフェン、ドイツ)、RPMI-1640(シグマ社)、ダルベッコ改変イーグル培地(IMDM;シグマ社)、最少必須培地(MEM;シグマ社)、イスコフ改善ダルベッコ培地(IMDM;シグマ社)、CD-CHO(インビトロジェン社、カールズバッド、CA州)、CHO-S(インビトロジェン社)、無血清CHO培地(シグマ社)、及びタンパク質非含有CHO培地(シグマ社)など、並びに、様々な供給源からの専売特許を有する培地が挙げられる。細胞培養培地は、基礎細胞培養培地であってもよい。細胞培養培地はまた、フィード培地及び/又は添加物が添加された、基礎細胞培養培地であってもよい。細胞培養培地はまた、細胞が発酵槽又はバイオリアクター中で培養されるならば、発酵ブロスとも称され得る。
【0041】
本明細書において使用する「基礎培地」又は「基礎細胞培養培地」という用語は、以下に定義されているような哺乳動物細胞を培養するための細胞培養培地である。それは、その中で細胞が細胞培養操作開始時から培養される培地を指し、それは典型的には別の培地への添加物としては使用されないが、様々な成分が基礎培地に添加されてもよい。基礎培地は、場合によりさらなる添加物(又は補助物質)及び/又はフィード培地が培養(すなわち細胞培養培地を生じる細胞培養操作)中に添加され得る、基剤としての役目を果たす。基礎細胞培養培地は、細胞培養プロセス開始時から提供される。一般的には、基礎細胞培養培地は、栄養分、例えば炭素源、アミノ酸、ビタミン、塊状の塩(例えば塩化ナトリウム又は塩化カリウム)、様々な微量元素(例えば硫酸マンガン)、pH緩衝剤、脂質、及びグルコースを提供する。主要な塊状の塩は通常、基礎培地中にのみ提供され、細胞培養液中の最終モル浸透圧濃度は約280~350ミリオスモル/kgを超えるべきではなく、よって、細胞培養液は、妥当な浸透圧ストレスで成長及び増殖することができる。
【0042】
本明細書において使用する「フィード」又は「フィード培地」という用語は、哺乳動物細胞の培養液中のフィードとして使用される、栄養分の濃縮物/濃縮された栄養組成物に関する。したがって、それは、細胞培養液に添加される、濃縮物として提供される。それは、細胞培養液の希釈を最小限にするために「濃縮されたフィード培地」として提供され、典型的にはフィード培地は、容器中の培養出発容量(CSV、0日目の開始容量を意味する)に基づいて、10~50ml/L/日、好ましくは15~45ml/L/日、より好ましくは20~40ml/L/日、さらにより好ましくは30ml/L/日で提供される。これは、培養出発容量の約1~5%、好ましくは約1.5~4.5%、より好ましくは約2~4%、さらにより好ましくは約3%の1日1回の添加に相当する。高密度播種又は超高密度播種を使用した培養では、より高いフィーディング速度、例えば10~50ml/L/日、15~45ml/L/日、又は25~45ml/L/日が有益であり得る。これは、培養出発容量の約1~5%、約1.5~4.5%、又は約2.5~4.5%の1日1回の添加に相当する。フィーディング速度は、フィーディング期間中の平均フィーディング速度として理解されるべきである。フィード培地は典型的には、基礎細胞培養培地の全てではなくても大半の成分をより高い濃度で有する。一般的には、フィード培地は、細胞培養中に消費される栄養分、例えばアミノ酸及び炭水化物を置き換え、一方、塩及び緩衝液はあまり重要ではなく、これは一般的に基礎培地と共に与えられる。フィード培地は典型的には、フェッドバッチモードで、(基礎)細胞培養培地/発酵ブロスに添加される。基礎培地に(繰り返し又は連続的に)添加されたフィード培地により、細胞培養培地が得られる。フィードは、連続的な添加若しくはボーラス添加のような異なるモードで、又は灌流に関連した技術(ケモスタット又はハイブリッド灌流システム)を介して添加されてもよい。好ましくは、フィード培地は1日1回添加されるが、より頻繁に、例えば1日2回、又はより低い頻度で、例えば2日間毎に添加されてもよい。より好ましくはフィード培地は、連続的に添加される。栄養分の添加は一般的に、培養中(すなわち0日目以後)に行なわれる。基礎培地とは対照的に、フィード培地は典型的には、主要な塊状の塩(例えばNaCl、KCl、NaHCO3、MgSO4、Ca(NO3)2)などの「モル浸透圧濃度の高い活性な化合物」を除いて、基礎培地と類似している全成分を提供する、高度に濃縮された栄養分溶液(例えば6倍超)からなる。典型的には、減少した塊状の塩を伴なわない又は伴う、6倍又はそれ以上の基礎培地の濃縮液が、化合物の良好な溶解性、及び、細胞培養液中のモル浸透圧濃度を約270~550ミリオスモル/kg、好ましくは約280~450ミリオスモル/kg、より好ましくは約280~350ミリオスモル/kgで維持するのに十分に低いモル浸透圧濃度(例えば270~1500ミリオスモル/kg、好ましくは310~800ミリオスモル/kg)を維持する。フィード培地は、1つの完全なフィード培地として添加されても、又は、細胞培養液に別々に添加するための1つ以上のフィード補助物質を含んでいてもよい。1つ以上のフィード補助物質の使用が、例えば定期的なフィーディング、及びグルコースの添加のためにしばしば実施される要求に応じたフィーディングなどの、異なるフィーディング計画に因り必要とされる場合があり、それ故、典型的には少なくとも別々のフィードとして提供される。1つ以上のフィード補助物質の使用もまた、特定の化合物の低い溶解度、特定の化合物の異なるpHにおける溶解度、及び/又は、高濃度でのフィード培地中の化合物の相互作用に因り必要であり得る。フィード培地好ましくは、化学組成が規定されている(場合により組換えタンパク質、例えばインシュリン又はインシュリン様成長因子を含んでいる)。それは、細胞を含有しないか、培養液中の細胞と接触していないか、又は細胞由来の代謝廃棄物を含有していない。したがって、本明細書において使用する「フィード培地」という用語は、細胞培養液から得られた予め調整された培地又は細胞培養液中の培養培地、すなわち細胞の存在下における培養培地(本明細書では細胞培養培地とも称される)を除外する。
【0043】
本明細書において使用する「フィード補助物質」という用語は、使用前にフィード培地に添加され得るか、又は、フィード培地とは別に基礎培地及び/又は細胞培養培地に添加され得る、栄養分の濃縮物に関する。したがって、化合物は、フィード培地若しくはフィード補助物質と共に提供され得るか、又は化合物は、フィード培地及びフィード補助物質と共に提供され得る。例えば、システインは、フィード培地及びフィード補助物質と共に、2フィード戦略で添加されてもよい。フィード培地として、「フィード補助物質」は、細胞培養液の希釈を回避するために濃縮物として提供される。
【0044】
細胞培養培地(基礎培地及びフィード培地の両方)は好ましくは、無血清であり、かつ化学組成が規定されている。基礎培地及び/又はフィード培地はさらにタンパク質非含有であってもよい。本明細書において使用する「無血清培地」は、インビトロでの細胞培養のための細胞培養培地を指し、これは動物起源の血清を含有していない。これが好ましいのは、血清が、前記の動物に由来する混入物質、例えばウイルスを含有している可能性があり、血清は組成が十分に規定されておらず、バッチ毎に異なるためである。本発明に記載の基礎培地及びフィード培地は、無血清である。
【0045】
本明細書において使用する「化学組成の規定された培地」は、この中の全ての成分が既知である、インビトロでの細胞培養に適した細胞培養培地を指す。より具体的には、それは、動物の血清、又は植物、酵母、若しくは動物の加水分解物などのあらゆる補助物質を含まない。それ故、化学組成の規定された培地はまた無血清である。本発明に記載の基礎培地及びフィード培地は好ましくは、化学組成が規定されている。1つの実施態様では、基礎培地及び/又はフィード培地は、無血清であり、かつ化学組成が規定され、場合により組換え増殖因子、例えばインシュリン又はインシュリン様成長因子(IGF)を含む。本明細書において言及されているような基礎培地及び/又はフィード培地は、かつて細胞培養培地を準備するための細胞培養液中にあった、培養しようとする哺乳動物細胞によって産生されたタンパク質を除いた、さらに他のタンパク質を全く含まない。
【0046】
本明細書において使用する「タンパク質非含有培地」は、タンパク質を全く含んでいない(かつて細胞培養液中で培養しようとした細胞によって産生されたタンパク質を除いて)、インビトロでの細胞培養のための細胞培養培地を指し、ここでのタンパク質は、任意の長さのポリペプチドを指すが、単一のアミノ酸、ジペプチド、又はトリペプチドを除く。具体的には、増殖因子、例えばインシュリン及びインシュリン様増殖因子(IGF)は、培地中に存在しない。好ましくは、本発明に記載の基礎培地及びフィード培地は、化学組成が規定され、かつタンパク質非含有である。
【0047】
本明細書において使用する「生存率」という用語は、当技術分野において公知である方法、例えば自動顕微鏡細胞計数(イノバティスAG社、ビーレフェルト)に基づいたセデックス機器を用いたトリパンブルー排除法によって決定されるような、細胞培養液中の生細胞の比率%を指す。しかしながら、蛍光定量法(例えばヨウ化プロピジウムに基づく)、生細胞のエネルギー代謝を反映するために使用される熱量定量法又は酵素法、例えばLDH乳酸デヒドロゲナーゼ又は特定のテトラゾリウム塩、例えばアラマーブルー、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)又はTTC(塩化テトラゾリウム)を使用する方法などの、生存率の決定のための数多くの他の方法が存在する。
【0048】
本明細書において使用する「産生している」又は「多量に産生している」、「産生」、「産生及び/又は分泌」、「産生している」、「産生細胞」又は「高い収量で産生している」という用語は、核酸によってコードされている関心対象の産物、例えば、異種タンパク質又は組換えウイルスの産生に関する。「増加した産生及び/又は分泌」又は「高い収量での産生」は、関心対象の産物、例えば異種タンパク質又は組換えウイルスの発現に関し、異種タンパク質の脈絡において、細胞の比生産性の増加、増加した力価、細胞培養液の増加した全体的な生産性、又はその組合せを意味する。組換えウイルスの脈絡では、それは、細胞特異的及び/又は産生された全粒子の増加、細胞特異的及び/又は全感染性粒子の増加、あるいはその組合せを意味する。本明細書において使用する増加した力価は、同じ容量中の増加した濃度、すなわち、全収量の増加に関し、これは、異種タンパク質並びに組換えウイルスの為に使用され得る。
【0049】
本明細書において使用する「増強」、「増強した」、「増強した」、「増加」、又は「増加した」という用語は一般的には、対照細胞培養液と比較して少なくとも約10%の増加、例えば対照細胞培養液と比較して少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約100%、又は少なくとも約200%、又は少なくとも約300%の増加、又は10~300%の間の任意の整数の増加を意味する。本明細書において使用する「対照細胞培養液」又は「対照哺乳動物細胞培養液」は、本発明に記載の同じ方法を使用した、同じ産物を産生する同じ細胞(同じ細胞クローン)を使用した細胞培養液であり、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、0.19mM/日以下のシステインが添加されている。
【0050】
関心対象の産物を産生する方法
1つの態様では、本発明は、a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、関心対象の産物を単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて関心対象の産物を産生する方法に関する。好ましくは、関心対象の産物は、異種タンパク質又は組換えウイルス、より好ましくは異種タンパク質である。
【0051】
a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);及びd)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて哺乳動物細胞を培養する方法も提供する。場合により、関心対象の産物はさらに精製又は単離されてもよい。好ましくは、関心対象の産物は、異種タンパク質又は組換えウイルス、より好ましくは異種タンパク質である。
【0052】
本発明に記載の方法に使用されるフィード培地は、フェッドバッチプロセスのフィーディング期間中、1日1回、好ましくは連続的に添加される。1つの実施態様では、フィード培地は、0日目から5日目に開始して添加される。当業者は、これはまた、播種密度にも依存し得ることを理解しているだろう。通常の播種密度(0.7~1×106個の細胞/ml)では、フィーディングは典型的には、1~5日目、好ましくは2~3日目に開始される。フィーディングは典型的には、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも5日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも4日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも3日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも2日前まで、好ましくはプロセスの終了まで継続される。より好ましくはフィーディングは、2~3日目に開始され、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも2日前まで、より好ましくは細胞のフェッドバッチプロセスの終了まで継続される。高い播種密度(1超~4×106個の細胞/ml)のために、フィーディングは典型的には、0~4日目に、好ましくは0~2日目に開始される。フィーディングは典型的には、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも5日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも4日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも3日前まで継続され、プロセスの終了まで継続されてもよい。好ましくは、フィーディングは0~2日目に開始され、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも4日前又は3日前まで継続される。超高播種密度(4超~20×106個の細胞/ml)のために、フィーディングは典型的には、0~3日目に、好ましくは0~1日目に開始される。フィーディングは典型的には、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも5日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも4日前まで、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも3日前まで継続され、プロセスの終了まで継続されてもよい。好ましくは、フィーディングは、0日目に開始され、フェッドバッチプロセスの終了の少なくとも4日前又は3日前まで継続される。したがって、フィード培地の添加開始に応じて、該方法はさらに、工程bi)から工程b)(哺乳動物細胞を接種する工程)及びc)(フィード培地を添加する工程)を含み得、工程bi)は、基礎培地中で哺乳動物細胞を培養する工程を含む。乳酸塩又はシステインの添加を定義するための、本明細書において使用する「mmol×L-1×日-1」という単位はまた、mmol/L/日又はmM/日とも称され得る。それは、添加がボーラスの添加であるか、又は連続的な添加であるかに関係なく、1日あたりに与えられるmmol/Lを指す。本発明によると、細胞は好ましくは、工程(c)において、及び/又は乳酸塩が培養液に添加される時に乳酸塩を消費する代謝状態にある。
【0053】
本明細書において使用する「接種している」という用語は、哺乳動物細胞株などの、哺乳動物細胞の試料を収集する工程、及びそれらを増殖に必要とされる栄養分を含有する培地に入れる工程を指す。典型的には、哺乳動物細胞は、増殖又は産生のための基礎培地に入れられる。この工程は、播種とも称され得る。哺乳動物細胞は、異なる播種密度で基礎培地に接種してもよい。本明細書において言及されているような「播種する」又は「通常の播種」という用語は、約0.7~1×106個の細胞/mlから約1×106個の細胞/mlの標準的な播種密度を指し、「高播種」という用語は、1×106個の細胞/ml超から約4×106個の細胞/mlの播種密度を指し、「超高播種」という用語は、4×106個の細胞/ml超から約20×106個の細胞/ml又はさらにはそれより高い、好ましくは約6×106個の細胞/mlから約15×106個の細胞/ml、より好ましくは8×106個の細胞/mlから約12×106個の細胞/mlの播種密度を指す。
【0054】
乳酸塩/システインのモル比は、約10:1から50:1、好ましくは約10:1から約30:1、好ましくは約15:1から約30:1であり得る。
【0055】
1つの実施態様では、乳酸塩は、3mmol/L/日以上、3.8mmol/L/日以上、5mmol/L/日以上、好ましくは7mmol/L/日以上、7.8mmol/L/日以上、10mmol/L/日以上、又はさらには15mmol/L/日以上で添加される。
【0056】
細胞培養培地中の乳酸塩は、0.5g/L以上、1g/L以上、好ましくは2g/L以上、好ましくは2~4g/L、より好ましくは2~3g/Lに維持される。細胞培養培地中の濃度は、乳酸塩が毒性となる5g/L(約56mM)より低く維持されるべきである。しがって、細胞培養培地中の乳酸塩の濃度は、約1g/Lから約4.5g/L(約10~50mM)、約2g/Lから約4g/L(約20~45mM)、好ましくは約2g/Lから約3g/L(約20~35mM)で維持される。乳酸塩(分子量=89.07g/mol)は、その塩、エステル、及び/又は水和物、並びに/あるいは乳酸として、好ましくは塩、例えば乳酸ナトリウム(分子量=112.06g/mol)(ここでの1g/Lの乳酸塩は、約1.25g/Lの乳酸ナトリウムに等しい)として提供され得る。例示的な乳酸塩のエステルは、例えば、乳酸エチル又は乳酸ブチルである。乳酸もまた、本発明の脈絡において使用されてもよい。しかしながら、それは、フィード培地のpHに影響を及ぼす可能性があり、したがって、好ましくはそれを水酸化ナトリウムで滴定して、フィード培地の成分への添加前又はそれとの混合前に乳酸ナトリウムとする。乳酸塩の塩、エステル、及び/若しくは水和物、又は乳酸は、本明細書で提供される乳酸塩の濃度と等モル濃度で提供される。好ましい実施態様では、基礎培地は、培地成分として添加される乳酸塩を含有していない。しかしながら、乳酸塩は、培養中に代謝物として基礎培地中に生成され得る。乳酸塩は、乳酸ナトリウム又は乳酸として得られ、これを水酸化ナトリウムで滴定することにより、フィード培地への添加前に乳酸ナトリウムとする。本明細書において使用する「乳酸塩」という用語は、L-乳酸塩を指す。したがって、例えば乳酸ナトリウム及び乳酸は、L-乳酸ナトリウム及びL-乳酸を指す。
【0057】
システインは、システイン又はその塩及び/若しくは水和物、シスチン又はその塩、あるいはシステインを含んでいるジペプチド又はトリペプチドとして提供され得る。システインの塩及び/若しくは水和物、又はシスチン若しくはその塩、又はシステインを含んでいるジペプチド若しくはトリペプチドは、本明細書において提供されるシステインの濃度と等モル濃度で提供される。本明細書において使用する「システイン」及び「シスチン」という用語は、L-システイン及びL-シスチンを指す。本発明によると、システインは、0.225mM/日以上で添加され、ここでのシステインは、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じた細胞培養培地に添加される。好ましくは、システインは、0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、より好ましくは0.4mM/日以上、より好ましくは0.5mM/日以上で添加される。1つの実施態様では、システインは、0.225mM/日から約0.6mM/日、約0.25mM/日から約0.6mM/日、約0.3mM/日から約0.6mM/日、又は約0.4mM/日から約0.6mM/日で添加される。
【0058】
理論によって固めたくはないが、システインはタンパク質合成に、及びグルタチオン(
GSH)の生成のために使用される。グルタチオンは、活性酸素種(ROS)の除去によって、細胞内酸化還元平衡を維持する、重要な細胞内抗酸化物質として作用する。ROSは、化学的に反応性が高く、酸素代謝の副産物である。酸化ストレスの最中に、ROSレベルは上昇し、RNA及びタンパク質の損傷を増強し、並びに、アポトーシスを促進する。したがって、システインの添加は、酸化ストレスの低減を介して、酸化還元平衡を維持することができ、これにより、より高い生存率に至り得る。
【0059】
乳酸塩をより入手し易いことにより、グルコースの代わりにピルビン酸塩の代替の発生源として、好ましい乳酸塩の消費がもたらされ得る。乳酸塩は、細胞培養の初期段階で高度に産生され、細胞培養液中の、特に高密度又は超高密度の細胞培養液中の、乳酸塩の産生から乳酸塩の消費への代謝シフトは、およそ培養3日目である。およそ5日目から、乳酸塩は、特に高密度又は超高密度の細胞培養液中では、補充されることがなければ、制限され得る。多量の乳酸塩の消費は、より低い解糖系への投入量、したがってより低いTCAへの投入量がもたらされると考えられる。これは、活性酸素種の産生の低下と共に、全代謝に影響を及ぼす。乳酸塩とシステインの組合せは、有益であり得る。なぜなら、それらは部分的には同じエフェクターに標的化するからである。システインは、活性酸素種レベルの低減と共に、グルタチオンの抗酸化経路に影響を及ぼし、乳酸塩は代謝をダウンレギュレートし、したがってROSの産生をダウンレギュレートする。
【0060】
本発明に記載の方法は、インビトロで細胞を培養する方法であり、異種タンパク質又は組換えウイルスなどの関心対象の産物の高度な発現のために使用される、哺乳動物細胞株の使用を含む。したがって、1つの実施態様では、哺乳動物細胞は哺乳動物細胞株、好ましくは不死化細胞株である。哺乳動物細胞又は哺乳動物細胞株の好ましい例は、CHO細胞(例えばDG44及びK1)、NS0細胞、HEK293細胞(例えばHEK293細胞、HEK293F細胞、及びHEK293T細胞)及びBHK21細胞である。好ましくは、哺乳動物細胞又は哺乳動物細胞株は、懸濁液中での増殖に適応している。好ましい実施態様では、哺乳動物細胞又は哺乳動物細胞株は、CHO細胞である。特定の実施態様では、哺乳動物細胞は、HEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0061】
本明細書において使用する「哺乳動物細胞」という用語は、異種タンパク質又は組換えウイルスなどの関心対象の産物の産生に適した哺乳動物細胞株を指し、これは「宿主細胞」とも称され得る。哺乳動物細胞は好ましくは、形質転換された及び/又は不死化された細胞株である。それらは、細胞培養液中の、好ましくは無血清細胞培養液中の及び/又は好ましくは懸濁培養液としての連続継代に適応し、初代の形質転換されていない細胞、又は器官構造の一部である細胞を含まない。異種タンパク質の産生のために好ましい哺乳動物細胞は、げっ歯類細胞、例えばハムスター細胞、特にBHK21細胞、BHK TK-細胞、CHO細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞(CHO-DUKX細胞又はDuxB11細胞とも称される)、CHO-S細胞及びCHO-DG44細胞、又はこのような細胞株のいずれかの誘導体/子孫である。特に好ましいのは、CHO細胞、例えばCHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、及びBHK21細胞であり、さらにより好ましいのは、CHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞である。最も好ましいのは、CHO-DG44細胞である。哺乳動物細胞、特にCHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞のグルタミンシンターゼ(GS)欠損誘導体も包含される。これらの細胞は、異種タンパク質を安定に発現しているクローンのグルタミンシンターゼに基づいた選択(例えばメチオニンスルホキシミン(MSX)による選択)に特に適している。本発明の1つの実施態様では、哺乳動物細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、好ましくはCHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO DXB11細胞、CHO-S細胞、CHO GS欠損細胞、又はその誘導体である。
【0062】
組換えウイルスの産生のために好ましい哺乳動物細胞は、ハムスター又はヒトの細胞、特にBHK21細胞、BHK TK-細胞、CHO細胞(CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞(CHO-DUKX細胞又はDuxB11細胞、CHO-S細胞及びCHO-DG44細胞とも称される)、及びHEK293細胞、又はこのような細胞株のいずれかの誘導体/子孫である。より好ましくは、組換えウイルスの産生のための哺乳動物細胞は、ヒト細胞、好ましくは無血清懸濁培養に適合した、例えばHEK293細胞及びその誘導体(HEK293F細胞及びHEK293T細胞を含む)である。
【0063】
哺乳動物細胞はさらに、異種タンパク質、例えば治療用タンパク質、好ましくは分泌された組換え治療用タンパク質をコードしている、1つ以上の発現カセット(群)を含み得る。宿主細胞はまた、マウス細胞、例えばマウス骨髄腫細胞、例えばNS0細胞及びSp2/0細胞、又はこのような細胞株のいずれかの誘導体/子孫であり得る。本発明の意味に使用され得る哺乳動物細胞の非制限的な例は、表1にも要約されている。しかしながら、こうした細胞、他の哺乳動物細胞(ヒト、マウス、ラット、サル、及びげっ歯類の細胞株を含むがこれらに限定されない)の誘導体/子孫も、本発明に、特にバイオ医薬品タンパク質の生産のために使用され得る。
【0064】
【0065】
哺乳動物細胞は、無血清条件下で、及び場合により動物起源のタンパク質/ペプチドを全く含有していない培地中で確立され、適応され、完全に培養された場合に、最も好ましい。市販の培地、例えばHam F12(シグマ社、ダイゼンホーフェン、ドイツ)、RPMI-1640(シグマ社)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;シグマ社)、最少必須培地(MEM;シグマ社)、イスコフ改善ダルベッコ培地(IMDM;シグマ社)、CD-CHO(インビトロジェン社、カールズバッド、CA州)、CHO-S(インビトロジェン社)、無血清CHO培地(シグマ社)、及びタンパク質非含有CHO培地(シグマ社)が、例示的な適切な栄養分溶液である。培地のいずれにも、必要に応じて、様々な化合物が補充され得、その非制限的な例は、組換えホルモン及び/又は他の組換え増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、上皮増殖因子、インシュリン様増殖因子)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオシド(例えばアデノシン、チミジン)、グルタミン、グルコース、又は他の等価なエネルギー源、抗生物質、および微量元素である。任意の他の必要な補助物質も、当業者には公知であろう適切な濃度で含まれていてもよい。選択用遺伝子を発現している遺伝子的に改変された細胞の増殖及び選択のために、適切な選択物質が培養培地に添加される。
【0066】
本明細書において使用する「異種タンパク質」という用語は、哺乳動物細胞によって天然には発現されず、かつ組換え技術を使用して哺乳動物に導入される、任意のタンパク質を指す。好ましくは、組換え核酸は、哺乳動物細胞に、例えばトランスフェクション又は形質導入によって導入される。核酸は、ゲノムに安定に組み込まれても、又は一過性に発現させてもよい。好ましくは、異種タンパク質をコードしている核酸は、ゲノムに安定に組み込まれる。異種タンパク質の発現のために好ましい哺乳動物細胞株は、CHO細胞、例えばCHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞である。
【0067】
異種タンパク質は、任意の治療に関連したタンパク質であり得る。治療用タンパク質の例は、以下に限定されないが、抗体、融合タンパク質、サイトカイン、及び増殖因子である。本発明の方法に従って哺乳動物細胞において産生される異種タンパク質としては、抗体又は融合タンパク質、例えばFc-融合タンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。他の異種タンパク質は、例えば、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、受容体、及びその誘導体又は断片、並びに、アゴニスト若しくはアンタゴニストとしての役目を果たし得る及び/又は治療用途若しくは診断用途を有する、任意の他のポリペプチド及び骨格であり得る。
【0068】
好ましい異種タンパク質は、抗体又はその断片若しくは誘導体、又は融合タンパク質である。したがって、本発明に記載の方法は有利には、抗体、好ましくはモノクローナル抗体の作製のために使用され得る。典型的には、抗体は単一特異的であるが、抗体は多重特異的であってもよい。したがって、本発明に記載の方法は、単一特異的抗体、多重特異的抗体、又はその断片、好ましくは抗体(単一特異的)、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又はその断片、好ましくはその抗原結合断片の作製のために使用され得る。特記されない限り、「抗体」という用語は、単一特異的抗体を指す。本発明の範囲内の例示的な抗体としては、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD37抗体、抗CD40抗体、抗CD44抗体、抗CD44v6抗体、抗CD49d抗体、抗CD52抗体、抗EGFR1抗体(HER1)、抗EGFR2抗体(HER2)、抗GD3抗体、抗IGF抗体、抗VEGF抗体、抗TNFα抗体、抗IL2抗体、抗IL-5R抗体、又は抗IgE抗体が挙げられるがこれらに限定されず、好ましくは抗CD20抗体、抗CD33抗体、抗CD37抗体、抗CD40抗体、抗CD44抗体、抗CD52抗体、抗HER2/neu抗体(erbB2)、抗EGFR抗体、抗IGF抗体、抗VEGF抗体、抗TNFα抗体、抗IL2抗体、及び抗IgE抗体からなる群より選択される。
【0069】
本明細書において使用する「抗体」、「抗体群」、又は「免疫グロブリン(群)」という用語は、分化したBリンパ球(形質細胞)から、外来物質(=抗原)に対する宿主生物の反応として自然に形成される、グロブリンの中から選択されたタンパク質に関する。様々なクラスの免疫グロブリンが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、IgY、IgW。好ましくは、抗体はIgG抗体であり、より好ましくはIgG1抗体又はIgG4抗体である。免疫グロブリン及び抗体という用語は、本明細書で同義語として使用される。抗体としては、モノクローナル抗体、単一特異的抗体、及び多重特異的(例えば二重特異的又は三重特異的)抗体、一本鎖抗体、抗体の抗原結合断片(例えばFab断片又はF(ab')2断片)、ジスルフィド結合したFvなどが挙げられる。抗体は、任意の種であり得、これには、キメラ抗体及びヒト化抗体が含まれる。「キメラ」抗体は、抗体のドメイン又は領域が異なる種に由来する、分子である。例えば、重鎖及び軽鎖の可変領域は、ラット又はマウスの抗体に由来し得、定常領域はヒト抗体に由来し得る。「ヒト化」抗体では、最小の配列のみが、非ヒト種に由来する。しばしば、ヒト抗体のCDRアミノ酸残基のみが、非ヒト種、例えばマウス、ラット、ウサギ、又はラマのCDRアミノ酸残基で置換されている。時に、抗原結合特異性及び親和性に対して影響を及ぼす、いくつかの重要なフレームワークアミノ酸残基も、非ヒトアミノ酸残基によって置換されている。抗体は、化学合成を通して、組換え手段若しくはトランスジェニック手段を介して、細胞(例えばハイブリドーマ)培養を介して、又は他の手段によって作製されてもよい。
【0070】
典型的には、抗体は、重鎖と軽鎖によって各々が形成された2対のヘテロダイマーから構成される、四量体ポリペプチドである。ヘテロ二量体並びに四量体ポリペプチド構造の両方の安定化は、鎖間ジスルフィド橋を介して起こる。各鎖は、「免疫グロブリンドメイン」又は「免疫グロブリン領域」と呼ばれる構造ドメインから構成され、ここでの「ドメイン」又は「領域」という用語は、同義語として使用される。各ドメインは、約70~110個のアミノ酸を含有し、緻密な3次元構造を形成している。重鎖及び軽鎖の両方が、そのN末端に、抗原の認識及び抗原との結合に関与する、あまり保存されていない配列を有する、「可変ドメイン」又は「可変領域」を含有している。軽鎖の可変領域は、「VL」とも称され、重鎖の可変領域は「VH」とも称される。
【0071】
抗原結合断片としては、例えば「Fab断片」(抗原結合断片=Fab)が挙げられるがこれらに限定されない。Fab断片は、両鎖の可変領域からなり、これらは隣接する定常領域によって互いに結合している。これらは、慣用的な抗体から、例えばパパインを用いた、プロテアーゼによる消化によって形成され得るが、同じようにFab断片もまた、遺伝子工学操作によっても作製され得る。さらに抗体断片としては、F(ab')2断片が挙げられ、これらはペプシンを用いてのタンパク質分解的切断によって調製され得る。
【0072】
遺伝子工学操作法を使用して、重鎖(VH)の可変領域及び軽鎖の可変領域(VL)のみからなる、短縮された抗体断片を作製することが可能である。これらは、Fv断片(可変断片=可変部分の断片)と称される。これらのFv断片は、定常鎖のシステインによる2本の鎖の共有結合を欠いているので、Fv断片は安定化されていることが多い。短いペプチド断片、例えば10~30アミノ酸、好ましくは15アミノ酸によって、重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域を連結することが有利である。このようにして、ペプチドリンカーによって連結された、VHとVLからなる、1本のペプチド鎖が得られる。この種の抗体タンパク質は、一本鎖Fv(scFv)として知られている。scFv抗体タンパク質の例は、当業者には公知である。したがって、抗体断片及び抗原結合断片はさらに、Fv断片及び特にscFvを含む。
【0073】
近年、多量体誘導体としてscFvを調製するための様々な戦略が開発されている。これは、特に、改善された薬物動態特性及び体内分布特性を有する、並びに、増加した結合力を有する、組換え抗体をもたらすことを目的とする。scFvの多量体化を達成するために、scFvは、多量体化ドメインを有する融合タンパク質として調製された。多量体化ドメインは、例えば、IgGのCH3領域又はコイルドコイル構造(らせん構造)、例えばロイシンジッパードメインであり得る。しかしながら、scFvのVH/VL領域間の相互作用を多量体化(例えばディアボディーズ、トリボディーズ及びペンタボディーズ)のために使用する戦略も存在する。ディアボディによって、当業者は、二価ホモ二量体のscFv誘導体を意味する。scFv分子内のリンカーを5~10アミノ酸へと短縮化することにより、ホモ二量体が形成され、ここでは鎖間VH/VLの重ね合わせが起こる。ディアボディーズはさらに、ジスルフィド橋の取り込みによって安定化され得る。ディアボディ-抗体タンパク質の例は、先行技術から公知である。
【0074】
ミニボディによって、当業者は、二価でホモ二量体のscFv誘導体を意味する。それは、ヒンジ領域(例えばこれもIgG1に由来する)及びリンカー領域を介して、scFvに接続されている二量体化領域として、免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を含有している、融合タンパク質からなる。ミニボディ抗体タンパク質の例は、先行技術から公知である。
【0075】
トリボディによって、当業者は、三価のホモ三量体scFv誘導体を意味する。scFv誘導体(ここでのVH-VLはリンカー配列を伴わずに直接融合している)により、三量体が形成される。
【0076】
当業者はまた、二価、三価、又は四価の構造を有し、かつscFvに由来する、いわゆるミニ抗体をよく知っているだろう。多量体化は、二量体、三量体、又は四量体のコイルドコイル構造によって行なわれる。本発明の好ましい実施態様では、関心対象の遺伝子は、上記のそうした所望のポリペプチドのいずれか、好ましくはモノクローナル抗体、その誘導体、又はその断片をコードしている。
【0077】
抗体の重鎖のCH2ドメインとCH3ドメインから構成される免疫グロブリン断片は、それらの結晶化特性により(Fc=結晶化可能な断片)、「Fc断片」、「Fc領域」又は「Fc」と呼ばれる。これらは、例えばパパイン又はペプシンを用いたプロテアーゼによる消化によって従来の抗体から形成され得るが、遺伝子工学操作によって作製されてもよい。Fc断片のN末端部分は、どれだけ多くのヒンジ領域のアミノ酸が依然として存在しているかに応じて変化し得る。
【0078】
抗原結合断片とFc領域とを含んでいる抗体はまた、完全長抗体とも称され得る。完全長抗体は、単一特異的及び多重特異的な抗体、例えば二重特異的又は三重特異的な抗体であり得る。
【0079】
本発明に記載の好ましい治療用抗体は、多重特異的抗体、特に二重特異的又は三重特異的抗体である。二重特異的抗体は典型的には、1つの分子内に、標的細胞(例えば悪性B細胞)とエフェクター細胞(例えばT細胞、NK細胞、又はマクロファージ)に対する抗原結合特異性を組み合わせている。例示的な二重特異的抗体は、以下に限定されないが、ディアボディーズ、BiTE(二重特異性T細胞誘導抗体)フォーマット、及びDART(二重親和性再標的化)フォーマットである。ディアボディフォーマットは、2本の別々のポリペプチド鎖上の2つの抗原結合特異性を有する重鎖及び軽鎖の同族の可変ドメインを隔離し、ここで2本のポリペプチド鎖は、非共有結合している。DARTフォーマットは、ディアボディフォーマットに基づいているが、それはC末端ジスルフィド橋を通した、さらなる安定化を与える。三重特異的抗体は、3つの抗原結合特異性を組み合わせた、モノクローナル抗体である。それらは、2つの異なる抗体の抗原認識ドメインを1つの二重特異的な分子へと再構成する、二重特異的抗体技術で構築され得る。例えば、癌細胞上のCD38と、T細胞上のCD3及びCD28とに標的化する、三重特異的抗体が作製された。高い産物の品質を有する多重特異的抗体を作製することは特に難しい。
【0080】
別の好ましい治療用タンパク質は、融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質である。したがって、本発明は有利には、融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質の作製のために使用され得る。さらに、本発明に従ってタンパク質の産生を増加させる方法は有利には、融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質の産生のために使用され得る。
【0081】
融合タンパク質のエフェクター部分は、天然又は修飾された異種タンパク質の完全配列であっても配列の任意の一部であってもよい。免疫グロブリン定常ドメイン配列は、任意の免疫グロブリンサブタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、又はIgA2サブタイプ又はクラス、例えばIgG、IgA、IgE、IgD、又はIgMから得ることができる。優先的には、それらは、ヒト免疫グロブリンに、より好ましくはヒトIgGに、さらにより好ましくはヒトIgG1及びIgG2に由来する。Fc融合タンパク質の非制限的な例は、N結合グリコシル化部位を含んでいる、重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインに結合した、MCP1-Fc、ICAM-Fc、EPO-Fc、及びscFv断片などである。Fc融合タンパク質は、N結合グリコシル化部位を含んでいる重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインを、例えば他の免疫グロブリンドメイン、酵素的に活性なタンパク質部分又はエフェクタードメインを含んでいる別の発現構築物に導入することによる、遺伝子工学操作アプローチによって構築され得る。したがって、本発明に記載のFc融合タンパク質は、例えばN結合グリコシル化部位を含んでいる、重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインに連結された、一本鎖Fv断片も含む。
【0082】
さらなる態様では、関心対象の産物を産生する方法は、本発明の方法を使用して提供され、これはさらに、関心対象の産物を単離及び/又は精製する工程、並びに場合により関心対象の産物を薬学的に許容される製剤へと製剤化する工程を含む。1つの実施態様では、関心対象の産物は、異種タンパク質又は組換えウイルスである。具体的には、異種タンパク質を産生する方法は、本発明の方法を使用して提供され、これはさらに、異種タンパク質を単離及び/又は精製する工程、並びに場合により異種タンパク質を薬学的に許容される製剤へと製剤化する工程を含む。あるいは、組換えウイルスを産生する方法は、本発明の方法を使用して提供され、これはさらに、組換えウイルスを単離及び/又は精製する工程、並びに場合により組換えウイルスを、例えばワクチン接種又は遺伝子療法のための薬学的に許容される製剤へと製剤化する工程を含む。
【0083】
異種タンパク質は、治療用タンパク質であり得、特に抗体、抗体断片、抗体誘導体、又はFc融合タンパク質は好ましくは、分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収/単離される。治療用タンパク質を他の組換えタンパク質及び宿主細胞タンパク質から精製して、異種タンパク質の実質的に均一な調製物を得ることが必要である。第一工程として、細胞及び/又は粒子状細胞片を、培養培地から除去する。さらに、異種タンパク質は、混入している可溶性タンパク質、ポリペプチド、及び核酸から、例えばイムノアフィニティカラム又はイオン交換カラムでの分画、エタノール沈降、逆相HPLC、セファデックスクロマトグラフィー、及びシリカゲル又は陽イオン樹脂、例えばDEAEのクロマトグラフィーによって精製される。哺乳動物細胞によって発現される異種タンパク質の精製法は、当技術分野において公知である。
【0084】
好ましくは、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、多重特異的抗体、例えば二重特異的抗体若しくは三重特異的抗体、又は多重特異的なその抗原結合断片、又は融合タンパク質である。抗体又は多重特異的抗体(例えば二重特異的又は三重特異的抗体)は、IgG1抗体、IgG2a抗体、IgG2b抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体、好ましくはIgG1抗体又はIgG4抗体であり得る。
【0085】
別の実施態様では、関心対象の産物は、組換えウイルスである。本明細書において使用する「組換えウイルス」という用語は、特に遺伝子療法に適した、又は養子細胞移植用の細胞の修飾に適した、組換え技術を使用して産生された任意のウイルスを指す。組換えウイルスはまた、修飾されたタンパク質及び/又はウイルスに対して異種であるタンパク質も発現し得る。好ましい組換えウイルスとしては、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス、レオウイルス、ニューキャッスル病ウイルス、麻疹ウイルス、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルス、及び水疱性口内炎ウイルス(VSV)が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、組換えウイルスは、アデノ随伴ウイルス又は水疱性口内炎ウイルスである。アデノ随伴ウイルス又は水疱性口内炎ウイルスの産生に好ましい哺乳動物細胞は、HEK293細胞又はその誘導体である。組換えウイルスの産生のために、哺乳動物細胞は、組換えウイルスをコードしている核酸を含むように、安定に及び/又は一過性にトランスフェクトされ得るか、あるいは、哺乳動物細胞は、ウイルスを効率的に産生するように、組換えウイルスをコードしている核酸を含むように形質導入され得る。例えば、VSVは、無血清懸濁培養液中のHEK293細胞又はその誘導体などの哺乳動物細胞の形質導入によって産生され得る。したがって、1つの実施態様では、本発明は、a)組換えウイルスをコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)組換えウイルスの発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、関心対象の産物を単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて関心対象の産物を産生する方法に関する。
【0086】
組換えウイルスをコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程である工程(a)は、組換えウイルスをコードしている核酸を導入するための、細胞を形質導入又はトランスフェクトする工程を含み、ここでのトランスフェクションは、一過性トランスフェクションであっても、安定したトランスフェクションであっても、又はその組合せであってもよく、ここでのトランスフェクションは、プラスミドなどの複数の核酸分子の同時トランスフェクションを含み得る。組換えウイルスをコードしている核酸を含んでいる安定にトランスフェクトされた細胞では、組換えウイルスをコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞(異種タンパク質をコードしている安定にトランスフェクトされた哺乳動物細胞と同様に)が、基礎培地中に接種されることにより細胞培養液が得られ、一過性トランスフェクション又は形質導入が、基礎培地中に接種された哺乳動物細胞の接種により細胞培養液がもたらされた後、さらにはフィーディングが開始された後にさえ、行なわれ得る。哺乳動物細胞は、組換えウイルスをコードしている1つ以上の核酸分子を用いて一過性にトランスフェクトされ得るか、又は所望の細胞密度で組換えウイルスを用いて形質導入され得、フィーディングは、細胞培養を開始した直後である0日目又はそれ以後、典型的には培養を開始した1日後、2日後、又は3日後に開始され得、これは、哺乳動物細胞をトランスフェクト又は形質導入した前であっても後であってもよい。好ましい実施態様では、細胞は、組換えウイルスをコードしている1つ以上の核酸分子を用いて一過性にトランスフェクトされるか、又は、細胞接種時に若しくは一定の期間の後、所望の細胞密度に到達した時(これは、フィーディングが開始された後、例えば培養開始後1~7日目、好ましくは培養開始後2~5日目、より好ましくは培養開始後3~5日目であり得る)に、所望の細胞密度で組換えウイルスを用いて形質導入される。好ましくは、HEK293細胞又はその誘導体(例えばHEK293F細胞又はHEK293T細胞)は、接種後及び場合によりフィーディング後に、組換えウイルス(例えばVSV)を用いて形質導入して、組換えウイルス(例えばVSV)をコードしている核酸を含んでいるHEK293細胞又はその誘導体がもたらされる。無血清懸濁細胞培養液中の組換えウイルス、例えばVSVを産生するための方法は、例えば、Elahi S.M. et al., (Journal of Biotechnology (2019) 289:114-149からそれ自体、当技術分野において公知である。
【0087】
本発明に記載の方法の特定の他の実施態様では、核酸は異種タンパク質をコードし、産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の産物の力価及び/又は細胞の比生産性と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている。1つの実施態様では、産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又は100%を超えて増加している。1つの実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質である。
【0088】
さらなる別の又は追加的な実施態様では、核酸は異種タンパク質をコードし、異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている。1つの実施態様では、異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、又は少なくとも90%減少し得る。高マンノース構造は、マンノースを5個持つ構造、マンノースを6個持つ構造、マンノースを7個持つ構造、マンノースを8個持つ構造、及び/又はマンノースを9個持つ構造であり得る。好ましくは異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の減少した相対量は、異種タンパク質の集団中のマンノースを5個持つ構造の減少した相対量である。好ましい実施態様では、異種タンパク質は抗体である。より好ましくは、マンノースを5個持つ構造を有する抗体の集団の(合計に対する)相対量は、20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満である。本明細書において使用する「異種タンパク質の集団」という用語は、同じ核酸によってコードされる試料中の全ての異種タンパク質を指す。異種タンパク質の集団は、例えば、集団中の個々の異種タンパク質のグリコシル化又は翻訳後修飾又は分解に関して、異種であり得る。
【0089】
さらなる別の又は追加の実施態様では、核酸は異種タンパク質をコードし、異種タンパク質の集団中の酸性種の(合計に対する)相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。異種タンパク質の集団中の酸性種の相対量は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、又は少なくとも90%減少し得る。1つの実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群より選択される。好ましい実施態様では、異種タンパク質は抗体(単一特異的、二重特異的、又は三重特異的)又はその抗原結合断片である。
【0090】
本発明に記載の方法の別の実施態様では、核酸は組換えウイルスをコードし、ウイルス力価は、同じ方法によって産生されたウイルス力価と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている。1つの実施態様では、ウイルスの力価は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又は100%を超えて増加している。
【0091】
本発明に記載の方法の特定の実施態様では、基礎培地は、無血清かつ化学組成の規定された培地であり、フィード培地は、無血清かつ化学組成の規定された培地である。さらに、基礎培地及びフィード培地は、タンパク質非含有であってもよい。
【0092】
a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、異種タンパク質を単離する工程(ここでの異種タンパク質の集団中の酸性種の(合計に対する)相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、同濃度のシステインが添加されている)を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質中の酸性種を減少させる方法も提供される。1つの実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群より選択される。好ましくは、異種タンパク質は、抗体(ここでの抗体は、単一特異的又は多重特異的な抗体であり得る)又はその抗原結合断片である。
【0093】
異種タンパク質の集団中の酸性種の相対量は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、又は少なくとも90%減少し得る。好ましくは、集団中の異種タンパク質の50%未満が酸性種であり、より好ましくは集団中の異種タンパク質の40%未満、30%未満、20%未満、さらにより好ましくは10%未満が酸性種である。
【0094】
本明細書において使用する「酸性種」という用語は、異種タンパク質の、特に翻訳後修飾によって産生された組換えモノクローナル抗体の、酸性荷電変異体を指す。酸性種は典型的には、陽イオン又は陰イオン交換クロマトグラフィー、例えば(WCX)-10を使用して回収され、液体クロマトグラフィー-質量分析によって特徴付けられ得る。酸性荷電変異体としては、メチオニン酸化、アスパラギン脱アミノ化、システイン化、糖化、還元されたジスルフィド結合が挙げられるがこれらに限定されない。
【0095】
a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、異種タンパク質を単離する工程(ここでの異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている)を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質中の高マンノース構造を減少させる方法も提供される。好ましい実施態様では、高マンノース構造は、マンノースを5個持つ構造である。1つの実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群より選択される。好ましくは、異種タンパク質は、抗体(ここでの抗体は単一特異的抗体であっても、又は多重特異的抗体であってもよい)又はその抗原結合断片である。また、本明細書において、本発明に記載の方法によって、特に本発明に記載の異種タンパク質における高マンノース構造を減少させる方法によって、及び本発明に記載の異種タンパク質における酸性種を減少させる方法によって産生された異種タンパク質も提供される。
【0096】
本明細書において使用する「高マンノース構造」という用語は、末端に置換されていないマンノース糖を含有している、高マンノースN結合グリカンを指す。これらのグリカンは典型的には、キトビオース(GlcNAc2)コアに付着した5~9個のマンノース残基を含有し、よって、Man5GlcNAc2、Man6GlcNAc2、Man7GlcNAc2、Man8GlcNAc2、及びMan9GlcNAc2グリカンを含み、これはそれぞれ、マンノースを5個持つ構造(Man-5)、マンノースを6個持つ構造(Man-6)、マンノースを7個持つ構造(Man-7)、マンノースを8個持つ構造(Man-8)、及びマンノースを9個持つ構造(Man-9)とも称される。高マンノース構造は、異種タンパク質の短い半減期に関連し、マンノースを5個持つ構造は、高マンノース構造の代表であると考えられ、典型的には高マンノース構造に近づくと決定される。したがって、高マンノース構造は好ましくは、マンノースを5個持つ構造である。
【0097】
本明細書において使用する「関心対象の産物を単離する工程」という用語は、関心対象の産物を含んでいる細胞培養培地を、哺乳動物細胞から単離する工程、及び/又は関心対象の産物を、関心対象の産物を含んでいる細胞培養培地の収集後に細胞培養培地から精製する工程、及び/又は細胞を溶解する工程、及び哺乳動物細胞溶解液から関心対象の産物を精製する工程を含む。同様に、本明細書において使用する「異種タンパク質を単離する工程」又は「抗体を単離する工程」又は「組換えウイルスを単離する工程」という用語は、異種タンパク質及び/又は抗体又は組換えウイルスを含んでいる細胞培養培地を哺乳動物細胞から単離する工程、並びに/あるいは、異種タンパク質及び/又は抗体又は組換えウイルスを細胞培養培地から、異種タンパク質及び/又は抗体又は組換えウイルスを含んでいる細胞培養培地の収集後に精製する工程、並びに/あるいは、細胞を溶解する工程、並びに異種タンパク質及び/又は抗体又は組換えウイルスを哺乳動物細胞溶解液から精製する工程を含む。抗体又は組換えウイルスを含んでいる異種タンパク質を精製するための方法は、当技術分野において公知である。
【0098】
a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、異種タンパク質を含んでいる細胞培養培地を哺乳動物細胞から単離する工程(ここでの異種タンパク質の集団における産物の品質の特徴に対する負の作用は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、同濃度のシステインが添加されている)を含む、フェッドバッチプロセスにおいて異種タンパク質を産生する場合に、産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐ方法も提供される。1つの実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群より選択される。好ましくは、異種タンパク質は、抗体(単一特異的抗体、二重特異的抗体、又は三重特異的抗体を含む)又はその断片である。産物の品質の特徴に対する負の作用は、以下に限定されないが、多量の若しくは増加した高マンノース構造(好ましくは高度なマンノースを5個持つ構造)、多量の若しくは増加した低分子量種、及び/又は多量の若しくは増加した酸性種であり得る。
【0099】
プロセスの最適化は、多量に播種されたバイオプロセスにとって特に妥当である。より高い播種密度は、非生産的な指数関数的増殖期を最小限とし、比較的短く高度に生産的なプロセスをもたらす。CHO細胞は、フェッドバッチプロセスにおける異種タンパク質、例えば抗体又は融合タンパク質のバイオ医薬品の生産のために最も一般的に使用される。そうしたプロセスは、最初に非生産的又はより生産的ではない増殖期(ここでの細胞は、バイオリアクター内に蓄積する)、続いて、静止期(ここで大半の産物が生成される)からなる。増殖期の長さは、プロセスの期間及び体積生産性に直接影響を及ぼす。N-1シードトレインにおける灌流システムの使用により、この増殖期は、N-1バイオリアクターにシフトされる。灌流モードは、許容可能な生存率を伴う、1mLあたり100×106個の細胞までの高い細胞密度に到達するための、連続的な培地の交換による、連続的な廃棄代謝物の除去及び栄養分の添加を可能とする。N-1段階における灌流プロセスの適用を通して、それに続くN段階(すなわちフェッドバッチプロセス)において高い播種密度を達成することができ、その結果、直ちに高い生産性が得られる。超高播種密度(uHSD)フェッドバッチプロセスは、より短期間で同等な産物の品質を伴い同じ量の力価を生じることができ、これは製造能を向上させる。さらに、それらは、より少量の播種プロセスよりも、同じ長さの期間中に、より高い最終産物の力価を生じることができる。したがって、高い播種密度の培養液は、全体的な生産性を改善するのに有望であるが、培地の最適化に関して特に要求が厳しくかつ繊細でもある。超高播種密度プロセスを改善するために、本発明者らは、システイン及び/又は乳酸塩が、培養の成績に対して有益な効果を及ぼすことを発見した。驚くべきことには、これはまた、通常の播種密度を使用して細胞培養液を改善することも発見された。
【0100】
本発明によると、システインは、0.225mM/日以上で添加される。特に、高密度播種プロセス又は超高密度播種プロセスでは、0.3mM/日以上、0.4mM/日以上、又は0.5mM/日以上でシステインを添加することが有益であり得る。1つの実施態様では、システインは、約0.3mM/日から約0.6mM/日、又は約0.4mM/日から約0.6mM/日で添加される。本発明による増加又は減少は、方法又は培養液と比較して決定され得、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加される。高密度播種プロセス又は超高密度播種プロセスにおいて、システインが0.3mM/日以上で添加される場合、1つの実施態様では、増加又は減少は、フィード培地に、乳酸塩の非存在下において0.28mM/日以下のシステインが添加される方法又は培養液と比較して決定される。
【0101】
しかしながら、uHSDプロセスは、早期の生存率の低下によって特徴付けられることが多い。本発明の方法による乳酸塩及びシステインの添加は、これらの問題を克服する。したがって、1つの実施態様では、フェッドバッチプロセスは、uHSDフェッドバッチプロセスである。
【0102】
細胞培養液の成績を改善するための、フィード培地中の乳酸塩及びシステインの使用
1つの態様では、本発明は、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における酸性種を減少させるための、フィード培地中の乳酸塩の使用に関し、ここでのフィード培地はシステインを含む。好ましくは、フィード培地は、0.225mM/日以上のシステインを提供する。本発明の使用の1つの実施態様では、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群。好ましくは、異種タンパク質は、抗体(ここでの抗体は、単一特異的及び多重特異的であり得る)である。
【0103】
本発明はまた、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質におけるマンノースを5個持つ構造などの高マンノース構造を減少させるための、フィード培地中の乳酸塩の使用に関し、ここでのフィード培地はシステインを含む。好ましくは、フィード培地は、0.225mM/日以上のシステインを提供する。
【0104】
本発明はまた、異種タンパク質の産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐためのフィード培地における使用に関し、好ましくはここでの産物の品質の特徴に対する負の作用は、増加した高マンノース構造(例えばマンノースを5個持つ構造)、増加した低分子量種、及び/又は増加した酸性種である。1つの実施態様では、フィード培地は、0.225mM/日以上、例えば0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、又は0.4mM/日以上のシステインを提供する。
【0105】
本発明はまた、フェッドバッチプロセスにおける異種タンパク質の力価及び/又は細胞の比生産性を増加させるための、フィード培地中の乳酸塩及びシステインの使用に関する。フェッドバッチプロセス中の組換えウイルス産生を増加させるための、フィード培地中の乳酸塩及びシステインの使用も提供する。
【0106】
本発明の使用の1つの実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群より選択される。好ましくは、異種タンパク質は、抗体(ここでの抗体は単一特異的及び多重特異的であり得る)である。本発明に記載の使用によるフェッドバッチプロセスは、哺乳動物細胞を培養する工程を含み、ここでの哺乳動物細胞は、本明細書に記載のような任意の哺乳動物細胞であり得、好ましくは哺乳動物細胞は、HEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0107】
乳酸塩又は乳酸塩とシステインの使用は、本発明の方法による。したがって、乳酸塩及びシステインは、約8:1から50:1、約10:1から50:1、好ましくは約10:1から約30:1、より好ましくは約15:1から約30:1、さらにより好ましくは約15:1から約30:1の乳酸塩/システインのモル比で添加される予定である。1つの実施態様では、乳酸塩は、3mmol/L/日以上、3.8mmol/L/日以上、5mmol/L/日以上、好ましくは7mmol/L/日以上の乳酸塩、7.8mmol/L/日以上、10mmol/L/日以上、又はさらには15mmol/L/日以上で添加される。細胞培養培地中の乳酸塩は、0.5g/L以上、1g/L以上、好ましくは2g/L以上、好ましくは2~4g/L、より好ましくは約2~3g/Lで維持され得る。より具体的には、細胞培養培地中の乳酸塩の濃度は、約1g/Lから約4.5g/L(約10~50mM)、約2g/Lから約4g/L(約20~45mM)、好ましくは約2g/Lから約3g/L(約20~35mM)で維持される。乳酸塩(分子量=89.07g/mol)は、その塩及び/又は水和物、並びに/あるいは乳酸として、好ましくは乳酸ナトリウム(分子量=112.06g/mol)として提供され得、ここでの1g/Lの乳酸塩は、約1.25g/Lの乳酸ナトリウムに等しい。乳酸塩の塩及び/又は水和物あるいは乳酸は、本明細書で提供される乳酸塩の濃度と等モル濃度で提供される。好ましい実施態様では、基礎培地は、培地成分として添加された乳酸塩を含有していない。しかしながら、乳酸塩は、培養中に代謝物として基礎培地中に生成され得る。
【0108】
システインは、システイン又はその塩及び/若しくは水和物、シスチン又はその塩、あるいは、システインを含んでいるジペプチド又はトリペプチドとして提供され得る。システインの塩及び/若しくは水和物、又はシスチン若しくはその塩、又はシステインを含んでいるジペプチド若しくはトリペプチドは、本明細書で提供されるシステインの濃度と等モル濃度で提供される。本発明によると、システインは、0.225mM/日以上で添加される。システインは、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に添加される。好ましくは、システインは、0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、より好ましくは0.4mM/日以上、より好ましくは0.5mM/日以上で添加される。1つの実施態様では、システインは、約0.225mM/日から約0.6mM/日、約0.25mM/日から約0.6mM/日、約0.3mM/日から約0.6mM/日、又は約0.4mM/日から約0.6mM/日で添加される。
【0109】
本発明に記載の使用の特定の実施態様では、異種タンパク質の産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の産物の力価及び/又は細胞の比生産性と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている。1つの実施態様では、産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又は100%を超えて増加している。
【0110】
別の実施態様では、異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、又は少なくとも90%減少し得る。減少したとは、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較してを意味し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている。高マンノース構造は、マンノースを5個持つ構造、マンノースを6個持つ構造、マンノースを7個持つ構造、マンノースを8個持つ構造、及び/又はマンノースを9個持つ構造であり得る。好ましくは、異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の減少した相対量は、異種タンパク質の集団中のマンノースを5個持つ構造の減少した相対量である。好ましい実施態様では、異種タンパク質は抗体であり、マンノースを5個持つ構造を有する抗体の集団の(合計に対する)相対量は、20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、又はさらには2%未満である。
【0111】
さらなる別の又は追加の実施態様では、異種タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質からなる群より選択され得、異種タンパク質の集団中の酸性種の(合計に対する)相対量は、同じ方法によって産生された抗体の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。抗体の集団中の酸性種の相対量は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、又は少なくとも90%減少し得る。好ましくは、異種タンパク質は、抗体(ここでの抗体は単一特異的又は多重特異的であり得る)である。
【0112】
本発明に記載の使用の別の実施態様では、組換えウイルスが産生され、ウイルス力価は、同じ方法によって産生されたウイルス力価と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.225mM/日未満のシステインが添加されている。1つの実施態様では、ウイルス力価は、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又は100%を超えて増加している。
【0113】
本発明による使用はまた、本明細書に記載のような、高い播種密度及び超高播種密度(uHSD)のフェッドバッチプロセスに使用されてもよい。
【0114】
改善された細胞培養の成績のためのフィード培地
さらに別の態様では、本発明は、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)で乳酸塩及びシステインを含んでいる、哺乳動物細胞フェッドバッチ培養のためのフィード培地に関し、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される。好ましくは、フィード培地は、別々に添加するための1つ以上のフィード補助物質を含む。特に、システインは、2フィードの戦略で添加され得、例えば、システインを含んでいるフィード培地とシステインを含んでいる別々に添加されるフィード補助物質を添加する。乳酸塩は好ましくは、フィード培地と共に添加されるが、フィード補助物質中で別々に添加されてもよい。特定の実施態様では、フィード培地又はフィード補助物質は化学組成が規定されている(場合により、インシュリン又はインシュリン様増殖因子(IGF)などの組換えタンパク質を含んでいる)。さらに、本発明に記載のフィード培地又はフィード補助物質は、細胞を含有していない(すなわち、細胞を含んでいる細胞培養液ではない)、培養液(細胞培養液から得られた予め調整された培地)中の細胞と接触していない、及び/又は、細胞由来の代謝廃棄産物を含有していない。本発明に記載のフィード培地は、本明細書に記載の方法及び使用に使用され得、したがって、方法について明記かつ記載されている実施態様は同様にフィード培地にも適用される。
【0115】
フィード培地はまた、キットで提供されてもよい。したがって、本発明はまた、(a)乳酸塩及び場合によりシステインを含んでいる、哺乳動物細胞フェッドバッチ培養液のための濃縮フィード培地と、(b)システインを含んでいる濃縮フィード培地とは隔離された水性補助物質とを含んでいるキットに関し、ここでのフィード培地及び補助物質は、細胞培養出発容量の5%未満、好ましくは4%未満、より好ましくは3.5%未満の1日1回の添加で、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)及び0.225mM/日以上のシステインを与える。本発明に記載のキットによって提供されるフィード培地は、本明細書に記載の方法及び使用に使用され得、したがって、方法について明記かつ記載された実施態様は同様にキットにも適用される。
【0116】
特に、フィード培地及びキットは、哺乳動物細胞を培養する工程を含んでいるフェッドバッチプロセスに特に有用であり、ここでの哺乳動物細胞は、本明細書に記載のような任意の哺乳動物細胞であり得、好ましくは、哺乳動物細胞は、HEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0117】
フィード培地は、本発明の方法に従って、乳酸塩及びシステインを提供するように適応されている。したがって、フィード培地又はフィード培地を提供するキットは、約8:1から50:1、約10:1から50:1、好ましくは約10:1から約30:1、より好ましくは約15:1から約30:1、さらにより好ましくは約15:1から約25:1の乳酸塩/システインのモル比で乳酸塩及びシステインを提供するように適応される。1つの実施態様では、乳酸塩は、3mmol/L/日以上、3.8mmol/L/日以上、5mmol/L/日以上、好ましくは7mmol/L/日以上、7.8mmol/L/日以上、10mmol/L/日以上、又はさらには15mmol/L/日以上で提供される。乳酸塩(分子量=89.07g/mol)は、その塩、エステル、及び/又は水和物として、並びに/あるいは乳酸として、好ましくは塩、例えば乳酸ナトリウム(分子量=112.06g/mol)として提供され得、ここでの1g/Lの乳酸塩は、約1.25g/Lの乳酸ナトリウムに等しい。乳酸塩の塩及び/又は水和物あるいは乳酸は、本明細書に提供される乳酸塩の濃度と等モル濃度で提供される。
【0118】
システインは、システイン又はその塩及び/若しくは水和物、シスチン又はその塩、あるいは、システインを含んでいるジペプチド又はトリペプチドとして、本発明に記載のフィード培地又はキットで提供され得る。システインの塩及び/若しくは水和物、又はシスチン若しくはその塩、又はシステインを含んでいるジペプチド若しくはトリペプチドは、本明細書に提供されるシステインの濃度と等モル濃度で提供される。フィード培地又はキットは、基礎培地又は細胞培養培地に0.225mM/日以上でシステインを提供するように適応される。好ましくは、システインは、0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、より好ましくは0.4mM/日以上、より好ましくは0.5mM/日以上で添加される。1つの実施態様では、システインは、約0.225mM/日から約0.6mM/日、約0.25mM/日から約0.6mM/日、約0.3mM/日から約0.6mM/日、又は約0.4mM/日から約0.6mM/日で添加される。
【0119】
本発明に記載のフィード培地及びキットはまた、本明細書に記載のような、高い播種密度及び超高播種密度(uHSD)のフェッドバッチプロセスに使用され得る。
【0120】
上記の観点から、本発明は、以下の項目も包含することが理解されるだろう:
【0121】
項目1は、a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、関心対象の産物を単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて関心対象の産物を生成する方法を提供する。
【0122】
項目2は、項目1に記載の方法を提供し、ここでのフィード培地は、1日1回、好ましくは連続的に添加される。
【0123】
項目3は、項目1又は2に記載の方法を提供し、ここでの乳酸塩/システインのモル比は、約10:1から50:1、好ましくは約10:1から約30:1である。
【0124】
項目4は、項目1~3のいずれか一項に記載の方法を提供し、ここでの乳酸塩は、3mmol/L/日以上、5mmol/L/日以上、7mmol/L/日以上、又は10mmol/L/日以上で添加される。
【0125】
項目5は、項目4に記載の方法を提供し、ここでの細胞培養培地中の乳酸塩は、0.5g/L以上、1g/L、2g/L以上、好ましくは2~4g/Lで維持される。
【0126】
項目6は、項目1~5のいずれか一項に記載の方法を提供し、ここでのシステイン(a)は、システイン又はその塩及び/若しくは水和物、シスチン又はその塩、あるいは、システインを含んでいるジペプチド又はトリペプチドとして提供され、並びに/あるいは、(b)システインは、0.25mM/日以上、0.3mM/日以上、又は0.4mM/日以上で添加される。
【0127】
項目7は、項目1~6のいずれか一項記載の方法を提供し、ここでの関心対象の産物は、異種タンパク質又は組換えウイルスである。
【0128】
項目8は、項目1~7のいずれか一項記載の方法を提供し、ここでの核酸は、異種タンパク質をコードし、産物の力価及び/又は細胞の比生産性は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の産物の力価及び/又は細胞の比生産性と比較して増加し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加されている。
【0129】
項目9は、項目1~8のいずれか一項記載の方法を提供し、ここでの核酸は異種タンパク質をコードし、異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでの高マンノース構造は、マンノースを5個持つ構造である。
【0130】
項目10は、項目1~9のいずれか一項記載の方法を提供し、ここでの核酸は異種タンパク質をコードし、異種タンパク質の集団中の酸性種の(合計に対する)相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。
【0131】
項目11は、項目1~10のいずれか一項記載の方法を提供し、ここでの基礎培地及びフィード培地は、無血清かつ化学組成が規定されている。
【0132】
項目12は、項目1~11のいずれか一項の方法を提供し、ここでの異種タンパク質は抗体又はその抗原結合断片、二重特異的抗体、三重特異的抗体、又は融合タンパク質である。
【0133】
項目13は、項目12の方法を提供し、ここでの抗体、二重特異的抗体、又は三重特異的抗体は、IgG1抗体、IgG2a抗体、IgG2b抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体である。
【0134】
項目14は、a)関心対象の産物をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);及びd)関心対象の産物の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて哺乳動物細胞を培養する方法を提供する。
【0135】
項目15は、a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び、e)場合により、異種タンパク質を単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質における酸性種を減少させる方法を提供し;ここでの、異種タンパク質の集団中の酸性種の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において同濃度のシステインが添加されている。
【0136】
項目16は、a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及びe)場合により、異種タンパク質を単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて産生された異種タンパク質中の高マンノース構造を減少させる方法を提供し、ここでの異種タンパク質の集団中の高マンノース構造の相対量は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、0.19mM/日以下のシステインが添加され、好ましくはここでの高マンノース構造はマンノースを5個持つ構造である。
【0137】
項目17は、(a)異種タンパク質をコードしている核酸を含んでいる哺乳動物細胞を準備する工程;(b)哺乳動物細胞を基礎培地に接種して、細胞培養液を準備する工程;(c)1つ以上のフィード補助物質を添加する工程を含む、フィード培地を細胞培養液に添加する工程(ここで、フィード培地は、細胞培養培地を生じる基礎培地に、又は結果として生じる細胞培養培地に、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mmol×L-1×日-1/mmol×L-1×日-1)で乳酸塩及びシステインが添加され、ここでのシステインは、0.225mM/日以上で添加される);(d)異種タンパク質の発現を可能とする条件下、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程;及び(e)場合により、異種タンパク質を哺乳動物細胞から単離する工程を含む、フェッドバッチプロセスにおいて異種タンパク質を産生する場合に、産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐ方法を提供し、ここでの、異種タンパク質の集団における産物の品質の特徴に対する負の作用は、同じ方法によって産生された異種タンパク質の集団と比較して減少し、ここでのフィード培地には、乳酸塩の非存在下において、同濃度のシステインが添加されている。
【0138】
項目18は、項目1~17のいずれか一項の方法を提供し、ここでは哺乳動物細胞はHEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0139】
項目19は、項目15~17のいずれか一項の方法によって産生された異種タンパク質を提供する。
【0140】
項目20は、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における酸性種を減少させるための、フィード培地中の乳酸塩の使用を提供し、ここでのフィード培地には、0.225mM/日以上でシステインが添加されている。
【0141】
項目21は、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質における高マンノース構造を減少させるための、フィード培地中の乳酸塩の使用を提供し、ここでのフィード培地は、0.225mM/日以上でシステインを含み、好ましくはここでの高マンノース構造はマンノースを5個持つ構造である。
【0142】
項目22は、フェッドバッチプロセスにおいて産生される異種タンパク質の産物の品質の特徴に対するシステインの負の作用を防ぐための、フィード培地中の乳酸塩の使用を提供し、好ましくはここでの産物の品質の特徴に対する負の作用は、増加した高マンノース構造、減少した低分子量種、及び/又は増加した酸性種である。
【0143】
項目23は、フェッドバッチプロセスにおける異種タンパク質の力価及び/又は細胞の比生産性を増加させるための、フィード培地中の乳酸塩及びシステインの使用を提供する。
【0144】
項目24は、項目20~23のいずれか一項の使用を提供し、ここでのフェッドバッチプロセスは、哺乳動物細胞を培養する工程を含み、ここでの哺乳動物細胞は、HEK293細胞若しくはCHO細胞、又はHEK293細胞若しくはCHO細胞に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞又はCHO由来細胞である。
【0145】
項目25は、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)で乳酸塩及びシステインを含んでいる、哺乳動物細胞フェッドバッチ培養のためのフィード培地を提供する。
【0146】
項目26は、項目25のフィード培地を提供し、ここでのフィード培地は、別々に添加するための1つ以上のフィード補助物質を含む。
【0147】
項目27は、(a)乳酸塩及び場合によりシステインを含んでいる哺乳動物細胞フェッドバッチ培養のための濃縮フィード培地と(b)システインを含んでいる濃縮フィード培地とは隔離された水性補助物質とを含んでいるキットを提供し、ここでの、フィード培地及び補助物質は、細胞培養出発容量の5%未満、好ましくは3.5%未満の1日1回の添加で、約8:1から約50:1の乳酸塩/システインのモル比(mM/mM)及び0.225mM/日以上のシステインを提供する。
【0148】
実施例
実施例1:uHSD(超高播種密度)プロセス
モノクロ―ナルIgG1抗体(mAb)を産生しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(細胞株A;CHO-K1 GS)を、3Lのガラス製のバイオリアクターシステム中でフェッドバッチモードで培養した。シードトレイン培養液は、振盪フラスコ中で、N-1段階まで処理され、これは、2Lの使い捨てのバイオリアクターシステム中で灌流モードで処理された。細胞播種密度は、0.4g/LのシステインHCl H2O(2.3mMのシステイン;システインHCl H2Oの分子量=173.63g/mol)、0.028g/LのL-シスチン2HCl(0.36mMのシステイン;シスチンHClの分子量=157.62mM)を含み乳酸塩を全く含んでいない、専売特許の基礎培地中、出発容量2.2L中で、10×106個の細胞/mlに設定された。フェッドバッチ培養は、13~14日間実施された。フィード培地(1.21g/LのシステインHCl H2O;0.0069Mのシステインを含み、ラクトースを全く含まない)が、0日目からプロセスの終了まで連続的に添加され(0日目~9日目;45ml/L/日;9日目から14日目;25ml/L/日)、グルコースは需要時にプロセスに添加され、3g/L以上から5g/Lまでに維持された。乳酸ナトリウム及び追加のシステインHCl H2Oは、表2に示されているように、ボーラスの添加として添加された。乳酸塩の濃度が、標的濃度3g/Lである中で、2g/L未満に低下した場合、乳酸塩が、3日目から13日目まで、ボーラスの添加によって、バイオプロセスuHSD LAC及びuHSD LAC/CYSに添加された(ストック溶液238.5g/L;2.68mol/l)。プロセスuHSD LAC/CYS及びuHSD/CYSへのシステインのボーラスの添加は、7mlの容量で1日目から5日目まで実施された(ストック溶液のシステインHCl H2O:30g/L(20.69g/Lのシステイン;0.17mol/L)。培養試料は24時間毎に採取され、細胞計数及び細胞生存率の決定は、セデックス社のHiResアナライザー(ロシュ社、ドイツ)を使用して実施された。グルコース及び乳酸塩は、Konelab Prime60i(サーモサイエンティフィック社、米国)を使用して決定された。抗体の濃度は、プロテインAのHPLC法(サーモサイエンティフィック社、米国)を用いて決定された。
【0149】
【0150】
生細胞密度(VCD)、生存率、産物の濃度、及び乳酸塩の濃度に対する、ラクトース、システイン、又はラクトースとシステインの作用は、
図1A~Dに示されている。
【0151】
図1A及びBから読み取れるように、乳酸塩及びシステインを用いたフィーディング(uHSD LAC/CYS)並びにシステインのみを用いたフィーディング(uHSD CYS)は、追加の乳酸塩及びシステインのフィードを伴うことなくフィードされた細胞(uHSD)及び乳酸塩のみをフィードされた細胞(uHSD LAC)と比較して、約6日目から開始して、生存率及び生細胞密度を改善した。特に、培養終了に向けて、乳酸塩及びシステインをフィードされた細胞(uHSD LAC/CYS)の生存率は、システインのみをフィードされた細胞(uHSD CYS)よりもさらに高いようである。
【0152】
産生に関して、乳酸塩のフィーディング(uHSD LAC)は、培養中のIgG力価に対して正の作用を及ぼしたが、これは、培養終了時まで持続できなかったようである。追加のシステインフィードを得ている細胞培養液(uHSD CYS)中のIgG力価は、対照の細胞培養液(uHSD)と同等であった。驚くべきことには、乳酸塩及びシステインを含んでいる細胞培養液(uHSD LAC/CYS細胞)中のIgG力価は、乳酸塩又はシステインのみを含むボーラスフィードと比較して強く増加した。これは主に、10日目以後の増加した比生産性(pg/細胞/日)に起因した(データは示されていない)。
【0153】
図1Dに示されているように、およそ5日目から10日目の間に培養液中の乳酸塩が枯渇し、uHSD LAC/CYS培養液中において持続的に2g/L超であった。6日目及び9日目にuHSD CYS培養液中の乳酸塩の減少は、高い細胞濃度及び乳酸塩の高い比取り込み率に起因するようである。
【0154】
全体的に高密度のフィーディングでは、乳酸ナトリウム及びシステインのボーラス添加を伴うuHSDプロセスにより、改善された産物の力価及び細胞の生存率のプロファイルが得られた。
【0155】
実施例2:定型的なフェッドバッチプロセスにおける実験計画法の最適化試験
細胞培養液に対するシステイン及び/又は乳酸塩の効果をより詳細にさらに分析するために、本発明者らは、バイオリアクターを使用して、制御された条件下で、2つの異なる細胞株を用いて、定型的な播種密度を使用した、定型的なフェッドバッチプロセスを実施した。
【0156】
IgG1モノクローナル抗体(mAb)を産生している2つのCHO-K1 GS細胞株(細胞株A及びB)をそれぞれ、アンバー250バイオリアクターシステム中で培養した。実験は、実験計画法(DoE)試験の一部であった。シードトレイン培養液を、振盪フラスコ中で処理し、播種細胞密度は、0.7×106個の細胞/mlに設定された。フェッドバッチ培養は、14日間実施された。uHSDプロセスとは対照的に、乳酸塩及びシスチンの連続的な適用が、これらの実験に適用されることにより、バイオリアクター中の高濃度の反応性化合物システインを減少させ、定型的な適用されるフィードに乳酸塩を含ませた。
【0157】
フィード培地(1.1g/LのシステインHCl H2O;0.0063Mのシステイン)は、プロセス終了時まで(培養出発容量の)30ml/L/日で2日目から連続的に添加され、グルコースは需要時にプロセスに添加された。培養試料は、24時間毎に採取され、細胞計数及び細胞生存率の決定は、セデックスHiResアナライザー(ロシュ社、ドイツ)を使用して実施された。グルコース及び乳酸塩は、Konelab Prime60i(サーモサイエンティフィック社、米国)を使用して決定された。抗体の濃度は、プロテインAのHPLC法(サーモサイエンティフィック社、米国)を用いて決定された。荷電変異体は、紫外線検出器を含むHPLCシステムに接続されたPrpPacWCX-10分析用カラムを使用して分析された。サイズ変異体は、紫外線検出器を含むHPLCシステムに接続されたBEH200サイズ排除クロマトグラフィーカラムを用いて分析された。Nグリカンの決定は、LabChip GXII及びHT グリカン試薬キットを使用して実施された。
【0158】
様々な濃度のシステイン及び乳酸塩のフィーディングの相互作用を同定するために、実験計画法(DoE)試験が実施された。DoE試験は、複数の入力因子の変動を可能とし、様々な出力パラメーターに対するそれらの複合作用及び単独作用を決定する、データの収集及び分析のツールである。したがって、この種の試験は、プロセス中の複数の入力のレベルを同時に変化させることによって、プロセス中の複数の因子の相互作用を同定することができる。
【0159】
実験計画法の試験は、I-最適計画に基づき、これは0~1.67ml/L/日(すなわち、0、0.84、及び1.67ml/L/日、これは0.12及び0.24mM/日に相当する)のフィーディング範囲の因子のシスチン(17.2g/Lのシスチン(約143mMのシステインに相当する)を用いた2回目のフィードとしての)、及び0~30g/L(すなわち、0、15、又は30g/L、これは0、0.133及び0.267Mに相当し、0、4、及び8mM/日で1日1回添加)のストック溶液での乳酸ナトリウム(30ml/L/日で定型的なフィードに含まれる)を含んでいた。システインは、フィード培地(30ml/L/日で6.3mM;0.19mM/日の1日1回の添加に相当する)と共に添加されたので、0、0.84、及び1.64と称される試料中のシステインの1日あたりの総添加量は、それぞれ、0.19、0.31、及び0.43mM/日である。
【0160】
細胞株Aについての定型的プロセスにおける、生細胞密度、生存率、及び産物の力価、及び乳酸塩の濃度に対するシステイン及び/又は乳酸塩のフィードの効果は
図2A~Dに示され、細胞株Bについては
図2E~Hに示されている。どちらの細胞株についても、力価(
図2C及びG)並びに細胞生存率(
図B及びF)に対する有益な効果が、乳酸塩及びシスチンのフィードを用いて観察された。
【0161】
収集時における収集物の生存率及び産物の力価に対する、乳酸塩とシスチンの組合せのフィーディングの正の効果が、実験計画法の等高線プロットに提示されている(細胞株A:
図3及び4;細胞株B:
図6及び7)。より高い産物の力価が、細胞株Bを使用して達成され、
図4及び7における産物の力価は、実験において最も高い力価、すなわち細胞株Bに対して正規化[%]されたものとして提供される。細胞株Bについての様々な濃度の使用は、最も高い産物の力価が、多量の乳酸塩及び多量のシステインで得ることができたことを示した。類似の結果が細胞株Aについても示され、これも、多量の乳酸塩及び多量のシステインが、収集物の生存率及び産物の力価を増加させることを実証している。
【0162】
既知の抗酸化剤としてのシステインはまた、抗体の酸性荷電変異体を増加させることが知られている。それ故、酸性荷電変異体(酸性ピーク群(APG))、低分子量種(LMW)、及び高マンノース種などの産物の品質特性に対する、乳酸塩とシステインのフィーディングの組合せの効果が決定された。驚くべきことには、APG、LMW及び高マンノース構造に対する乳酸塩のフィーディングの正の効果が実証され、これは、
図5及び8(APG)、9(高マンノース)及び10(LMW)から読み取れる。
【0163】
図5及び8は、それぞれ乳酸塩及びシスチンのフィーディングの関数として、細胞株A及びBについてのAPGを示す。
図5及び8から分かるように、システインのフィーディングに起因するAPGの増加は、追加の乳酸塩のフィーディングを通して強く減少させることができる。さらに、
図9A及びBから読み取れるように、抗体のマンノースを5個持つ構造(Man5)は、細胞株A及び細胞株Bによって産生された2つの異なるIgG1抗体について、漸増する乳酸塩の濃度を用いて減少させることができる。最後に、
図10は、システイン(A及びC)及び乳酸塩(B及びD)の濃度の関数として、細胞株A及びBについて、実験計画法の最も高い数値(細胞株Bを用いて得られた)に対して正規化されたLMWを示す。
図10から分かるように、産生された抗体のLMWは、漸増する乳酸塩又はシスチンのフィーディングを用いて減少し、その結果、高濃度の乳酸塩及び高濃度のシステインの両方を用いて、LMWが減少したという相乗作用が得られた。
【0164】
実施例3:追加の細胞株を用いての結果の再現性
モノクローナル抗体(mAb)を産生している、CHO-DG44 GS細胞及びCHO-K1 GS細胞を含む、4つの追加のCHO細胞株を、アンバー15バイオリアクターシステム中で培養した。細胞株C及びFは各々、異なる特異性を有するIgG4モノクローナル抗体を産生し、細胞株D及びEは各々、異なる特異性を有するIgG1モノクローナル抗体を産生する。シードトレイン培養液は振盪フラスコ中で処理され、播種細胞密度は、0.7×106個の細胞/mlに設定された。フェッドバッチ培養は、14日間実施された。フィード培地は、2日目からプロセス終了まで連続的に添加され、グルコースは、実施例2に記載のように需要時にプロセスに添加された。さらに、プロセスは、表3に示されるような、システイン(1.1g/LのシステインHCL H2O;0.0063M)及び乳酸塩(267mM)を含んでいるフィード培地、又はシステインを含んでいるが乳酸塩を全く含んでいないフィード培地(30ml/L/日の培養出発容量を用いた定型的な連続的なフィードとして添加、フィード1)、及び/又は2回目のシステインフィード(フィード2)を使用した、変動するフィーディングを用いて実施された。乳酸塩は、乳酸ナトリウムとして、又は乳酸として得られ、乳酸はNaOHを用いて滴定されることにより、フィード培地に添加する前に乳酸ナトリウムとした。培養試料は、24時間毎に採取され、細胞計数及び細胞の生存率の決定は、セデックス社のHiResアナライザー(ロシュ社、ドイツ)を使用して実施された。グルコース、乳酸塩、及び抗体濃度は、Konelab Prime60i(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、米国)又はBiosen S-line(EKFディアグノスティクスGmbH社、英国)を使用して決定された。
【0165】
【0166】
4つの追加のCHO細胞株を用いての実験は、プロセスの成績に対する乳酸塩及びシスチンのフィーディングの組合せの正の効果を確認した。最も高い細胞の生存率及び産物の力価が、4つ全ての細胞株において、乳酸塩とシスチンのフィーディングの組合せを用いて得られた(
図11~14参照)。
【0167】
実施例4:uHSDプロセスの実験計画法の最適化
IgG1モノクローナル抗体(mAb)を産生している、2つのCHO-K1 GS細胞株A及びBを、アンバー250バイオリアクターシステム中で培養した。シードトレイン培養液は、振盪フラスコ中で、N-1段階まで処理され、これは、2Lの使い捨てのバイオリアクターシステム中で灌流モードで処理された。フェッドバッチ培養は14日間実施された。フィード培地(1.1g/LのシステインHCl H2O(0.0063Mのシステイン)及び0、15又は30g/Lの乳酸ナトリウム(0、0.133、又は0.267Mの乳酸塩)を、0日目からプロセス終了時まで連続的に添加した。播種細胞密度(SCD)は、5~10×106個の細胞/mlに設定された。グルコースは、需要時にプロセスに添加された。培養試料は24時間毎に採取され、細胞計数及び細胞の生存率の決定は、セデックス社のHiResアナライザー(ロシュ社、ドイツ)を使用して実施された。グルコース及び乳酸塩は、Konelab Prime60i(サーモサイエンティフィック社、米国)を使用して決定された。抗体の濃度は、プロテインAのHPLC法(サーモサイエンティフィック社、米国)を用いて決定された。
【0168】
実験計画法(DoE)試験は、0~4.8ml/L/日(すなわち、0、2.4、及び4.8ml/L/日、0、0.12及び0.24mM/日に相当する)のフィーディング範囲の因子のシスチン(5.98g/Lのシスチン(約49.83mMに相当する)を用いた2回目のフィードとしての)、及び0~30g/L(すなわち、0、15、又は30g/L;0、0.133及び0.267Mに相当し、45ml/L/日で5.98及び11.96mM/日、及び25ml/L/日で3.32及び6.64mM/日を1日1回添加)の乳酸ナトリウム(培養出発容量の0日目から9日目までは45ml/L/日で、9日目から14日目までは25ml/L/日で定型的なフィードに含まれる)を含む、I-最適計画に基づいた。システインも、フィード培地(45ml/L/日で6.3mMで;これは0.28mM/日で1日1回の添加に相当する、及び25ml/L/日で;これは0.16mM/日の1日1回の添加に相当する)と共に添加されたので、2回目のフィードで0、2.4及び4.8ml/L/日を添加する試料中のシステインの1日あたりの総添加量は、45ml/L/日の1日1回の添加で0.28、0.4及び0.52mM/日、及び25ml/L/日の1日1回の添加で0.16、0.28及び0.4mM/日である。
【0169】
【0170】
産物の力価に対する乳酸とシスチンの組合せのフィーディングの正の効果は、14日目の収集時に、細胞株Aについては
図15に細胞株Bについては
図16に、実験計画法の等高線プロットに提示されている。より高い産物の力価が、細胞株Bを使用して達成され、
図15及び16における産物の力価は、実験において最も高い力価、すなわち細胞株Bに対して正規化[%]されたものとして提供される。最も高い産物の力価は、試験された両方の細胞株について、多量の乳酸塩のフィーディング及び多量のシステインのフィーディングで得られた。
【0171】
収集物の生存率と乳酸塩のフィーディングの正の相関が、
図17及び18にさらに提示されている。R2の適合後及びQ2の予測性能の良さが、各モデルについて提示されている。収集時における、酸性電荷変異体及び高マンノースなどの、産物の品質特性に対する効果が、
図19から
図22に提示されている。両方の細胞株について、多量のシステインのフィーディングに起因する酸性電荷変異体(APG)の増加が、追加の乳酸塩のフィーディングによって強く減少したことが示されている。
【国際調査報告】