(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(54)【発明の名称】PILRA抗体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230327BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230327BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230327BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230327BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230327BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230327BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230327BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230327BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230327BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230327BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230327BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230327BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230327BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K19/00
C07K16/46
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549422
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 US2021018354
(87)【国際公開番号】W WO2021167964
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517041235
【氏名又は名称】アレクトル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】リャン スペンサー
(72)【発明者】
【氏名】ナレ サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】レオン リン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA15X
4B065AA26X
4B065AA41X
4B065AA50X
4B065AA72X
4B065AA87X
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4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体及びその抗原結合フラグメント、ならびに、かかる抗体またはその抗原結合フラグメントを含む組成物を提供する。特定の態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、リガンドへのPILRAの結合を遮断し、かつ/または細胞表面PILRAを低減させる。さらなる態様では、前記抗体または抗原結合フラグメントは、骨髄細胞機能不全に関連する疾患または状態を処置するために使用することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断し、かつ細胞表面PILRAを下方制御する、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
ヒトPILRA(配列番号1)の残基Arg126の、PILRAの1つまたは複数のリガンドへの結合を遮断する、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%遮断する、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
細胞表面PILRAを、37℃にて30分後、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%下方制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
ヒトPILRAに特異的に結合し、かつ
(a)それぞれ配列番号4~9;
(b)それぞれ配列番号10~15;
(c)それぞれ配列番号16~21;または
(d)それぞれ配列番号22~27
の重鎖可変領域(VH)相補性決定領域(CDR)1、VH CDR2、VH CDR3ならびに軽鎖可変領域(VL)CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む、
単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
ヒトPILRAへの参照抗体の結合を競合的に阻害する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記参照抗体が、
(a)それぞれ配列番号28及び29;
(b)それぞれ配列番号30及び31;
(c)それぞれ配列番号32及び33;または
(d)それぞれ配列番号34及び35
のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
(a)それぞれ配列番号28及び29;
(b)それぞれ配列番号30及び31;
(c)それぞれ配列番号32及び33;または
(d)それぞれ配列番号34及び35
のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗体と同じヒトPILRAエピトープに結合する、単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001からなる群から選択される抗体のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
前記CDRが、Kabat定義CDR、Chothia定義CDR、IMGT定義CDR、またはAbM定義CDRである、請求項8に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
配列番号28、30、32、または34のアミノ酸配列を含むVHを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
配列番号29、31、33、または35のアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
(e)それぞれ配列番号28及び29;
(f)それぞれ配列番号30及び31;
(g)それぞれ配列番号32及び33;または
(h)それぞれ配列番号34及び35
のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
請求項12に記載の抗体のヒト化型。
【請求項14】
ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が配列番号28、30、32、または34のアミノ酸配列を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項15】
ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記抗体が重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記軽鎖可変領域が配列番号29、31、33、または35のアミノ酸配列を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項16】
PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断し、かつ細胞表面PILRAを下方制御する、請求項5~15のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
ヒトPILRA(配列番号1)のリガンドのうちの1つまたは複数への前記ヒトPILRAの残基Arg126の結合を遮断する、請求項16に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項18】
ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%遮断する、請求項16または17に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項19】
細胞表面PILRAを、37℃にて30分後、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%下方制御する、請求項5~18のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項20】
前記下方制御が用量依存的である、請求項1~4及び16~19のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項21】
前記遮断が用量依存的である、請求項1~4及び16~20のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項22】
骨髄細胞を活性化する、請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項23】
骨髄細胞分化を促進する、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項24】
骨髄細胞によるMIP1b産生を増加させる、請求項1~23のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項25】
NPDC1へのPILRAの結合を遮断する、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項26】
骨髄細胞の活性化、骨髄細胞分化の促進、MIP1b産生の増加、及び/またはリガンド結合の遮断が用量依存的である、請求項22~25のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項27】
カニクイザルPILRAに結合する、請求項1~26のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項28】
ヒトPILRBに結合しない、請求項1~27のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項29】
配列番号1のアミノ酸20~197内のエピトープに結合する、請求項1~28のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項30】
抗体2175Bが、ヒトPILRAへの前記抗体またはその抗原結合フラグメントの結合を競合的に阻害しない、請求項1~29のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項31】
重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を含む、請求項1~30のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項32】
前記重鎖定常領域が、ヒトIgG
1、IgG
2、IgG
3、及びIgG
4アイソタイプからなる群から選択されるアイソタイプである、請求項31に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項33】
エフェクター機能を低下させるように操作されたFcドメインを含む、請求項32に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項34】
前記抗体または抗原結合フラグメントが重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を含み、前記重鎖定常領域がヒトIgG
1重鎖定常領域であり、かつ前記軽鎖定常領域がヒトIgGκ軽鎖定常領域である、請求項1~33のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項35】
モノクローナル抗体である、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項36】
マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、もしくはヒト抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1~35のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項37】
完全長抗体である、請求項1~36のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項38】
抗原結合フラグメントである、請求項1~36のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項39】
Fab、Fab’、F(ab’)
2、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv、V-NARドメイン、IgNar、イントラボディ、IgGΔCH2、ミニボディ、F(ab’)
3、テトラボディ、トリアボディ、ダイアボディ、シングルドメイン抗体、DVD-Ig、Fcab、mAb
2、(scFv)
2、またはscFv-Fcである、請求項38に記載の抗原結合フラグメント。
【請求項40】
検出可能な標識をさらに含む、請求項1~39のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項41】
請求項1~40のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域または重鎖をコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項42】
前記核酸分子が、配列番号28、30、32、または34のVHをコードする、請求項41に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項43】
請求項1~40のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域または軽鎖をコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項44】
前記核酸分子が、配列番号29、31、33、または35のVLをコードする、請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項45】
請求項1~35のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域または重鎖と、請求項1~40のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域または軽鎖とをコードする、核酸分子
を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項46】
請求項41~45のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、単離されたベクター。
【請求項47】
(a)請求項41~45のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、(b)請求項46に記載のベクター、または(c)請求項41もしくは42に記載のポリヌクレオチドを含む第1のベクター及び請求項43もしくは44に記載のポリヌクレオチドを含む第2のベクター
を含む、宿主細胞。
【請求項48】
組織培養物中の、大腸菌(E.coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、酵母、CHO、YB/20、NS0、PER-C6、HEK-293T、NIH-3T3、HeLa、BHK、Hep G2、SP2/0、R1.1、B-W、L-M、COS 1、COS 7、BSC1、BSC40、BMT10細胞、植物細胞、昆虫細胞、及びヒト細胞
からなる群から選択される、請求項47に記載の宿主細胞。
【請求項49】
ヒトPILRAに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを産生する方法であって、核酸分子が発現しかつ前記抗体またはその抗原結合フラグメントが産生されるように請求項47または48に記載の宿主細胞を培養することを含み、任意選択で、前記抗体またはその抗原結合フラグメントを培養物から単離することをさらに含む、前記方法。
【請求項50】
ヒトPILRAに特異的に結合し、かつ、請求項41~45のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドによってコードされるかまたは請求項49に記載の方法によって産生される、単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項51】
請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントならびに医薬的に許容可能な賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項52】
細胞表面PILRAを下方制御するための方法であって、細胞の表面上にPILRAを発現する細胞を、請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項53】
PILRAリガンドへのPILRAの結合を阻害するための方法であって、PILRAを、請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物と、前記PILRAリガンドの存在下で接触させることを含み、任意選択で、前記PILRA及び/または前記PILRAリガンドが細胞上に発現している、前記方法。
【請求項54】
前記PILRAリガンドがNPDC1であり、かつ/または前記PILRAリガンドがT細胞上に発現している、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
骨髄細胞活性化を増加させるための方法であって、前記骨髄細胞を、請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項56】
骨髄細胞分化を促進させるための方法であって、前記骨髄細胞を、請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項57】
骨髄細胞のMIP1b産生を増加させるための方法であって、前記骨髄細胞を、請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項58】
前記接触させることがインビトロである、請求項52~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記接触させることが対象内である、請求項52~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
患者のがんを処置する方法であって、前記患者に、治療有効量の請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項61】
前記がんが固形腫瘍であり、前記固形腫瘍中の骨髄細胞が腫瘍微小環境に浸潤している、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記がんが、膠芽腫、頭頸部癌、腎臓癌(任意選択で、前記腎臓癌が腎明細胞癌である)、膵臓癌、及び乳癌から選択される、請求項60または請求項61に記載の方法。
【請求項63】
阻害性免疫チェックポイント分子のアンタゴニストを投与することをさらに含み、任意選択で、前記免疫チェックポイント分子がPD-1またはPD-L1である、請求項60~62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記アンタゴニストがPD-1のアンタゴニストであり、前記PD-1のアンタゴニストが抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントであり、任意選択で、前記抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントが、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、MEDI-0680(AMP-514)、カムレリズマブ(SHR-1210)、チスレリズマブ(BGB-A317)、及びスパルタリズマブ(NPVPDR001、NVS240118、PDR001)からなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記アンタゴニストがPD-L1のアンタゴニストであり、前記PD-1のアンタゴニストが抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントであり、任意選択で、前記抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントが、アテゾリズマブ、デュルバルマブ(MEDI4736)、BMS-936559、MSB0010718C、及びrHigM12B7からなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
ヒトPILRAに特異的に結合する前記抗体またはその抗原結合フラグメント、及び前記阻害性免疫チェックポイント分子の前記アンタゴニストが、同時投与される、請求項63~65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
ヒトPILRAに特異的に結合する前記抗体またはその抗原結合フラグメント、及び前記阻害性免疫チェックポイント分子の前記アンタゴニストが、逐次投与される、請求項63~65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
患者において骨髄細胞が機能不全または欠損している疾患または状態を処置する方法であって、前記患者に、治療有効量の請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項69】
前記疾患または状態が神経変性疾患である、請求項68に記載の前記方法。
【請求項70】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病であり、任意選択で、前記患者がPILRAのG78変異体を保有する、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
患者の自然免疫系を活性化する方法であって、前記患者に、有効量の請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項72】
試料中のPILRAを検出するための方法であって、前記試料を、請求項1~40及び50のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項51に記載の医薬組成物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項73】
前記試料がヒト対象から得られ、任意選択で、前記試料ががん試料である、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記骨髄細胞活性化がFc受容体媒介性である、請求項55に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月18日に出願された米国仮出願第62/978,106号、及び2020年9月8日に出願された米国仮出願第63/075,440号の利益を主張し、その各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
EFS-WEBを介して電子提出された配列表についての言及
電子提出された配列表(名称:4503_009PC02_Seqlisting_ST25.txt;サイズ:52,063バイト;及び作製日:2021年2月12日)の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
1.分野
本開示は、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体、かかる抗体を含む組成物、ならびにヒトPILRAに特異的に結合する抗体を作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術の説明
ペア型免疫グロブリン様2型受容体アルファ(PILRA)は、単球、マクロファージ、ミクログリア(CNS内)、樹状細胞及び好中球などの骨髄系のさまざまな自然免疫細胞上で発現する細胞表面受容体である。PILRAは、細胞内ITIMドメイン及び細胞外IgVドメインを含有する阻害性受容体であり、そのリガンドは特定のシアル化O-グリコシル化タンパク質を含む。PILRAは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対する侵入受容体でもある。PILRA遺伝子に天然に存在する対立遺伝子は、コードされたPILRAタンパク質にミスセンス変異体(G78からR78)をもたらす。PILRAのR78変異体は、アルツハイマー病のリスク低下と関連している。この変異体は、PILRAのシアル酸結合ポケットへのアクセスを変更することにより、PILRAのリガンドのうちのいくつかへのPILRAの結合を減少させることも報告されている。この変異体は、ミクログリアにおける阻害性シグナル伝達を減少させ、HSV-1再発中のミクログリア感染を減少させることにより、アルツハイマー病から個体を保護することが提案されている。
【0005】
PILRAの発現及び機能を考慮して、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体を本明細書で提供する。かかる抗体は、リガンドへのPILRAの結合を遮断することによって及び/または細胞表面PILRAを下方制御することによって、PILRAの阻害性シグナル伝達を減少させ得る。かかる抗体を使用して、骨髄細胞を活性化し、がん及び神経変性疾患、例えばアルツハイマー病を含む、骨髄細胞活性化が望まれる疾患を処置し得る。これら及び他の組成物及び方法を本明細書で提供する。
【発明の概要】
【0006】
3.概要
ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体及びその抗原結合フラグメント、ならびにその使用方法を本明細書で提供する。
【0007】
本明細書で提供するいくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、細胞表面PILRAを下方制御する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、PILRAリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断し、かつPILRAは細胞表面PILRAを下方制御する。
【0008】
いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRA(配列番号1)の残基Arg126の、PILRAの1つまたは複数のリガンドへの結合を遮断する。
【0009】
いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%遮断する。
【0010】
いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、細胞表面PILRAを、37℃にて30分後、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%下方制御する。
【0011】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、それぞれ配列番号4~9;それぞれ配列番号10~15;それぞれ配列番号16~21;またはそれぞれ配列番号22~27の、重鎖可変領域(VH)相補性決定領域(CDR)1、VH CDR2、VH CDR3ならびに軽鎖可変領域(VL)CDR1、CDR2、及びCDR3の配列を含む。
【0012】
いくつかの態様では、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAへの参照抗体の結合を競合的に阻害し、参照抗体は、それぞれ配列番号28及び29;それぞれ配列番号30及び31;それぞれ配列番号32及び33;またはそれぞれ配列番号34及び35のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0013】
いくつかの態様では、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、それぞれ配列番号28及び29;それぞれ配列番号30及び31;それぞれ配列番号32及び33;またはそれぞれ配列番号34及び35のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗体と同じヒトPILRAエピトープに結合する。
【0014】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001からなる群から選択される抗体のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を含む。いくつかの態様では、CDRは、Kabat定義CDR、Chothia定義CDR、IMGT定義CDR、またはAbM定義CDRである。
【0015】
いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号28、30、32、または34のアミノ酸配列を含むVHを含む。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号29、31、33、または35のアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0016】
いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、それぞれ配列番号28及び29;それぞれ配列番号30及び31;それぞれ配列番号32及び33;またはそれぞれ配列番号34及び35のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、それぞれ配列番号28及び29;それぞれ配列番号30及び31;それぞれ配列番号32及び33;またはそれぞれ配列番号34及び35のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むヒト化型または抗体である。
【0017】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は、配列番号28、30、32、または34のアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、軽鎖可変領域は、配列番号29、31、33、または35のアミノ酸配列を含む。
【0019】
細胞表面PILRAを下方制御する本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントのいくつかの態様では、下方制御は、用量依存的である。
【0020】
PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断する本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントのいくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRA(配列番号1)の残基Arg126の、PILRAの1つまたは複数のリガンドへの結合を遮断する。
【0021】
PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断する本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントのいくつかの態様では、遮断は、用量依存的である。
【0022】
いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、骨髄細胞を活性化する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、骨髄細胞分化を促進する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、骨髄細胞によるMIP1b産生を増加させる。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、NPDC1へのPILRAの結合を遮断する。いくつかの態様では、骨髄細胞の活性化、骨髄細胞分化の促進、MIP1b産生の増加、及び/またはリガンド結合の遮断は、用量依存的である。
【0023】
いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、カニクイザルPILRAに結合する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRBに結合しない。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAの細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号1のアミノ酸20~197内のエピトープに結合する。
【0024】
いくつかの態様では、抗体2175Bは、ヒトPILRAへの抗体またはその抗原結合フラグメントの結合を、競合的に阻害しない。
【0025】
いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を含む。いくつかの態様では、重鎖定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4アイソタイプからなる群から選択されるアイソタイプである。いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、エフェクター機能を低下させるように操作されたFcドメインを含む。
【0026】
いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を含み、重鎖定常領域は、ヒトIgG1重鎖定常領域であり、かつ軽鎖定常領域は、ヒトIgGκ軽鎖定常領域である。
【0027】
いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体である。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、もしくはヒト抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0028】
いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、完全長抗体である。いくつかの態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、抗原結合フラグメントである。いくつかの態様では、抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv、V-NARドメイン、IgNar、イントラボディ、IgGΔCH2、ミニボディ、F(ab’)3、テトラボディ、トリアボディ、ダイアボディ、シングルドメイン抗体、DVD-Ig、Fcab、mAb2、(scFv)2、またはscFv-Fcである。
【0029】
いくつかの態様では、検出可能な標識をさらに含む、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0030】
本明細書で提供するいくつかの態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域または重鎖をコードする核酸分子を含む。いくつかの態様では、核酸分子は、配列番号28、30、32、または34のVHをコードする。
【0031】
いくつかの態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域または軽鎖をコードする核酸分子を含む。いくつかの態様では、核酸分子は、配列番号29、31、33、または35のVLをコードする。
【0032】
いくつかの態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域または重鎖と、抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域または軽鎖とをコードする、核酸分子含む。
【0033】
本明細書で提供するいくつかの態様では、単離されたベクターは、本明細書で提供するポリヌクレオチドを含む。
【0034】
本明細書で提供するいくつかの態様では、宿主細胞は、(a)本明細書で提供するポリヌクレオチド、(b)本明細書で提供するベクター、または(c)本明細書で提供する軽鎖可変領域または軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む第1のベクター及び本明細書で提供する重鎖可変領域または重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む第2のベクターを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、組織培養物中の、大腸菌(E.coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、酵母、CHO、YB/20、NS0、PER-C6、HEK-293T、NIH-3T3、HeLa、BHK、Hep G2、SP2/0、R1.1、B-W、L-M、COS 1、COS 7、BSC1、BSC40、BMT10細胞、植物細胞、昆虫細胞、及びヒト細胞からなる群から選択される。
【0035】
本明細書で提供するいくつかの態様では、ヒトPILRAに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを産生する方法は、核酸分子が発現しかつ抗体またはその抗原結合フラグメントが産生されるように、本明細書で提供する宿主細胞を培養することを含む。いくつかの態様では、本方法は、抗体またはその抗原結合フラグメントを培養物から単離することをさらに含む。
【0036】
本明細書で提供するいくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書で提供するポリヌクレオチドによってコードされるか、または本明細書で提供する方法によって産生される。
【0037】
本明細書で提供するいくつかの態様では、医薬組成物は、本明細書で提供する抗体または抗原結合フラグメント、及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む。
【0038】
本明細書で提供するいくつかの態様では、細胞表面PILRAを下方制御するための方法は、細胞の表面上にPILRAを発現する細胞を、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物と接触させることを含む。
【0039】
いくつかの態様では、PILRAリガンドへのPILRAの結合を阻害するための方法は、PILRAを、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物と、PILRAリガンドの存在下で接触させることを含み、任意選択で、PILRA及び/またはPILRAリガンドは、細胞上に発現している。いくつかの態様では、PILRAリガンドは、NPDC1である。いくつかの態様では、PILRAリガンドは、T細胞上に発現している。
【0040】
いくつかの態様では、骨髄細胞活性化を増加させるための方法は、骨髄細胞を、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物と接触させることを含む。いくつかの態様では、骨髄細胞活性化は、Fc受容体媒介性である。
【0041】
いくつかの態様では、骨髄細胞分化を促進させるための方法は、骨髄細胞を、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物と接触させることを含む。
【0042】
いくつかの態様では、MIP1bの骨髄細胞産生を増加させるための方法は、骨髄細胞を、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物と接触させることを含む。
【0043】
いくつかの態様では、接触させることは、インビトロである。いくつかの態様では、接触させることは、対象内である。
【0044】
いくつかの態様では、患者のがんを処置する方法は、患者に、治療有効量の本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物を投与することを含む。いくつかの態様では、がんは固形腫瘍であり、固形腫瘍中の骨髄細胞が腫瘍微小環境に浸潤している。いくつかの態様では、がんは、膠芽腫、頭頸部癌、腎臓癌(任意選択で、腎臓癌は腎明細胞癌である)、膵臓癌、及び乳癌から選択される。いくつかの態様では、本方法は、阻害性免疫チェックポイント分子のアンタゴニストを投与することをさらに含む。いくつかの態様では、免疫チェックポイント分子は、PD-1またはPD-L1である。いくつかの態様では、PD-1のアンタゴニストは、抗PD-1抗体またはその抗体フラグメントである。いくつかの態様では、抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、MEDI-0680(AMP-514)、カムレリズマブ(SHR-1210)、チスレリズマブ(BGB-A317)、及びスパルタリズマブ(NPVPDR001、NVS240118、PDR001)からなる群から選択される。いくつかの態様では、PD-L1のアンタゴニストは、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントである。いくつかの態様では、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、アテゾリズマブ、デュルバルマブ(MEDI4736)、BMS-936559、MSB0010718C、及びrHigM12B7からなる群から選択される。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント及び阻害性免疫チェックポイント分子のアンタゴニストは、同時投与される。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント及び阻害性免疫チェックポイント分子のアンタゴニストは、逐次投与される。
【0045】
いくつかの態様では、患者において骨髄細胞が機能不全であるかまたは欠損している疾患または状態を処置する方法は、患者に、治療有効量の本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物を投与することを含む。いくつかの態様では、疾患または状態は、神経変性疾患である。いくつかの態様では、神経変性疾患は、アルツハイマー病である。いくつかの態様では、患者は、PILRAのG78変異体を保有している。
【0046】
いくつかの態様では、患者の自然免疫系を活性化する方法は、患者に、有効量の本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物を投与することを含む。
【0047】
いくつかの態様では、試料中のPILRAを検出するための方法は、試料を、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書で提供する医薬組成物と接触させることを含む。いくつかの態様では、試料は、ヒト対象から得られる。いくつかの態様では、試料は、がん試料である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
4.図面の簡単な説明
【
図1】
図1Aは、PILRA FcまたはIgG1アイソタイプ対照への初代CD4+T細胞またはJurkat細胞の結合を示す。(実施例1を参照されたい。)
図1Bは、抗PILRA抗体が、CD4+T細胞へのPILRA Fcの結合を阻害することを示す。(実施例1を参照されたい。)
【
図2A】ビヒクル、mIgG1、またはPILRA Fc mIgG1で処理された骨髄由来抑制細胞(MDSC)上のCD14対CD86の発現を示す代表的なFACSプロットを示す。(実施例2を参照されたい。)
【
図2B】ビヒクル処理細胞と比較した、mIgG1アイソタイプ対照またはPILRA Fcで処理した後の、3人の異なるドナーからの活性化骨髄細胞のパーセンテージを示す。(実施例2を参照されたい。)
【
図3】MDSCによるMIP1bの産生に対するPILRA Fcの効果を示す。(実施例3を参照されたい。)
【
図4】マウスPILRAへのNPDC1 Fcの結合に対する抗マウスPILRA抗体の効果を示す。(実施例5を参照されたい。)
【
図5】ヒトT細胞へのPILRA Fcの結合に対する抗ヒトPILRA抗体の効果を示す。(実施例7を参照されたい。)
【
図6】細胞表面PILRAに対する抗ヒトPILRA抗体の効果を示す。(実施例8を参照されたい。)
【
図7】腫瘍(各列の左側にあるドット及び塗りつぶされていないボックス)及びそれに対する健常試料(各列の右側にあるドット及び塗りつぶされたボックス)のPILRA mRNA発現レベルを示す。
*は、p<0.01を示す。(実施例9を参照されたい。)
【
図8】同系MC38腫瘍モデルにおける抗PD-L1と組み合わせたPILRA Fcの効果を示す。(実施例10を参照されたい。)
【
図9】hPA-002、hPA-005、及びhPA-004が、PILRA発現細胞への競合的結合を示すのに対し、抗体2175Bはそうではないことを示す。(実施例12を参照されたい。)
【
図10A】U937親細胞、U937対照細胞、及びU937 PILRA OE細胞におけるPILRAの相対量を示すグラフを示す。(実施例13を参照されたい。)
【
図10B】IgG、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004で処理されたU937親細胞、U937対照細胞、及びU937 PILRA OE細胞におけるMCP-1産生を示す。(実施例13を参照されたい。)
【
図10C】IgG、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004で処理されたU937親細胞、U937対照細胞、及びU937 PILRA OE細胞におけるRANTES産生を示す。(実施例13を参照されたい。)
【
図11】U937 PILRA OE細胞におけるMCP-1産生に対するさまざまな濃度の抗PILRA抗体の効果を示す。(実施例14を参照されたい。)
【
図12】hPA-002、hPA-005、及びhPA-004が、初代ヒト単球のFc受容体活性化を増強することを示す。(実施例15を参照されたい。)
【
図13】ヒトPILRA(配列番号1)及びヒトPILRB(配列番号68)タンパク質配列のアライメントを提供する。
【
図14A】PILRB標識とは異なるアミノ酸を伴う、PILRA(N末端にMetが付加されたアミノ酸32~150)構造(Kuroki et al.PNAS 111:877-8882(2014);構造コード3WV0に基づく)を提供する。
【
図14B】PILRB標識とは異なるアミノ酸を伴う、PILRA(N末端にMetが付加されたアミノ酸32~150)構造(Kuroki et al.PNAS 111:877-8882(2014);構造コード3WV0に基づく)を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0049】
5.詳細な説明
PILRA、例えば、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体)及びその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。抗ヒトPILRA抗体及びその抗原結合フラグメントは、例えば、リガンドへのヒトPILRAの結合を遮断すること及び/または細胞表面ヒトPILRAを下方制御することができる。これらの活性を実証する例示的な抗ヒトPILRA抗体を本明細書で提供する。リガンドへのヒトPILRAの結合の遮断及び/または細胞表面ヒトPILRAの下方制御は、PILRAによる阻害性シグナル伝達を減少させ、骨髄細胞の活性化及び分化をもたらす。これらの活性は、抗腫瘍免疫を促進し、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病及び機能不全ミクログリアに関連する他の疾患のメカニズムに対抗し得る。
【0050】
かかる抗体及びその抗原結合フラグメントをコードする相補的DNA(cDNA)などの単離された核酸(ポリヌクレオチド)も提供する。かかる抗体及びその抗原結合フラグメントをコードする核酸(ポリヌクレオチド)を含むベクター(例えば、発現ベクター)及び細胞(例えば、宿主細胞)をさらに提供する。かかる抗体及びその抗原結合フラグメントを作製する方法も提供する。
【0051】
他の態様では、例えば、PILRA活性を調節するためにかかる抗体を使用するための方法を本明細書で提供する。PILRA活性は、例えば、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を変更することによって調節することができる。いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体を使用して、リガンドへのヒトPILRAの結合を遮断しかつ/または細胞表面ヒトPILRAを下方制御する。
【0052】
さらなる態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体を使用して、インビトロまたはインビボで、骨髄細胞、例えば、マクロファージ、単球、樹状細胞、好中球、及びミクログリアを活性化する。さらなる態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体を使用して、骨髄細胞が機能不全であるかまたは欠損している疾患、例えば、骨髄細胞活性化、骨髄細胞分化、または自然免疫系の活性化が望まれる疾患を処置する。いくつかの態様では、かかる疾患には、限定されないが、がん及び神経変性疾患、例えばアルツハイマー病が含まれる。特に、PILRAのリガンドのうちのいくつかへのPILRAの結合を減少させることが報告されているPILRAのR78変異体は、アルツハイマー病のリスクの低下と関連している。それゆえ、いくつかの態様では、PILRA機能を低下させる抗ヒトPILRA抗体(例えば、リガンドへのPILRAの結合を遮断すること及び/または細胞表面ヒトPILRAを下方制御することによる)は、アルツハイマー病の処置に有用であるだろう。関連する組成物(例えば、医薬組成物)、キット、及び方法も提供する。
【0053】
5.1 用語
本明細書で使用する場合、「PILRA」という用語は、天然PILRAポリペプチド及びPILRAポリペプチドのアイソフォームを含むがこれらに限定されない哺乳動物PILRAポリペプチドを指す。「PILRA」は、完全長、未プロセシングのPILRAポリペプチド、ならびに細胞内でのプロセシングから生じるPILRAポリペプチドの形態を包含する。本明細書で使用する場合、「ヒトPILRA」という用語は、配列番号1のアミノ酸配列;配列番号1の天然に存在する変異体、例えば、限定されないが、GまたはRのいずれかが配列番号1の78位に存在するその変異体;及び配列番号1のプロセシングされた形態、例えば、限定されないが、例えば、配列番号1のアミノ酸1~19のそのシグナルペプチドを欠く配列番号1を含むポリペプチドを指す。「PILRAポリヌクレオチド」、「PILRAヌクレオチド」、または「PILRA核酸」は、上記のものを含む、任意のPILRAをコードするポリヌクレオチドを指す。
【0054】
「抗体」という用語は、標的、例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、または前述の組み合わせ(例えば、糖タンパク質)を、免疫グロブリン分子の可変領域内の少なくとも1つの抗原認識部位を介して、認識し、これに特異的に結合する免疫グロブリン分子を意味する。本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及び抗体が所望の生物学的活性を示す限りにおいて任意の他の免疫グロブリン分子を包含する。抗体は、それぞれ、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと呼ばれる重鎖定常ドメインの同一性に基づいて、5つの主な免疫グロブリンクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、またはそれらのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)のいずれかであり得る。異なるクラスの免疫グロブリンは、異なる周知のサブユニット構造及び三次元構造を有する。抗体は、裸であるか、融合タンパク質の一部であるか、毒素、放射性同位元素などの他の分子にコンジュゲートしている場合がある。
【0055】
「抗体フラグメント」という用語は、抗体の一部分を指す。「抗原結合フラグメント」、「抗原結合ドメイン」、または「抗原結合領域」とは、抗原に結合する抗体の一部分を指す。抗原結合フラグメントは、抗体の抗原決定領域(例えば、相補性決定領域(CDR))を含有し得る。抗体の抗原結合フラグメントの例としては、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFvフラグメント、線状抗体、ならびに一本鎖抗体が挙げられる。抗体の抗原結合フラグメントは、任意の動物種、例えばげっ歯類(例えば、マウス、ラット、またはハムスター)及びヒトに由来することができるか、または人工的に産生することができる。
【0056】
「抗PILRA抗体」、「PILRA抗体」及び「PILRAに結合する抗体」という用語は、抗体が診断剤、治療剤及び/またはPILRA活性の調整剤として有用であるように、十分な親和性でPILRAと結合することができる抗体を指す。無関係の非PILRAタンパク質への抗PILRA抗体の結合の程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定した場合、PILRAへの抗体の結合の約10%未満であり得る。抗PILRA抗体は、PILRAのみに結合し、PILRBには結合しないか、または抗PILRA抗体は、PILRA及びPILRBに結合することができる。
【0057】
「モノクローナル」抗体またはその抗原結合フラグメントとは、単一の抗原決定基、すなわち、エピトープの高い特異的認識及び結合に関与する均質な抗体または抗原結合フラグメント集団を指す。これは、異なる抗原決定基に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体とは対照的である。「モノクローナル」抗体またはその抗原結合フラグメントという用語は、インタクト及び完全長のモノクローナル抗体ならびに抗体フラグメント(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(scFv)変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、及び抗原認識部位を含む任意の他の改変された免疫グロブリン分子を包含する。さらに、「モノクローナル」抗体またはその抗原結合フラグメントは、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え発現、及びトランスジェニック動物を含むがこれらに限定されない多くの方法で作製されるような抗体及びその抗原結合フラグメントを指す。
【0058】
本明細書で使用する場合、「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は交換可能に使用され、当技術分野で一般的である。可変領域は、典型的には、抗体の一部分、一般に、軽鎖または重鎖の一部分、典型的には、成熟重鎖のアミノ末端約110~120アミノ酸または110~125アミノ酸及び成熟軽鎖の約90~115アミノ酸を指し、これらは抗体間で配列が大幅に異なり、特定の抗体のその特定の抗原に対する結合及び特異性に用いられる。配列の可変性は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる領域に集中しているが、可変ドメイン内のより高度に保存された領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。いずれの特定のメカニズムまたは理論にも拘束されることを望まないが、軽鎖及び重鎖のCDRが抗体と抗原との相互作用及び特異性を主に担っていると考えられている。いくつかの態様では、可変領域は、ヒト可変領域である。いくつかの態様では、可変領域は、げっ歯類またはマウスのCDR及びヒトフレームワーク領域(FR)を含む。いくつかの態様では、可変領域は、霊長類(例えば、非ヒト霊長類)可変領域である。いくつかの態様では、可変領域は、げっ歯類またはマウスのCDR及び霊長類(例えば、非ヒト霊長類)フレームワーク領域(FR)を含む。
【0059】
「VL」及び「VLドメイン」という用語は、互換可能に使用され、抗体の軽鎖可変領域を指す。
【0060】
「VH」及び「VHドメイン」という用語は、互換可能に使用され、抗体の重鎖可変領域を指す。
【0061】
「Kabatナンバリング」という用語及び同様の用語は、当技術分野で認知されており、抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖及び軽鎖可変領域内のアミノ酸残基の番号付けシステムを指す。ある特定の態様では、CDRは、Kabatナンバリングシステムに従って決定することができる(例えば、Kabat EA&Wu TT(1971)Ann NY Acad Sci 190:382-391及びKabat EA et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH公開番号91-3242を参照されたい)。Kabatナンバリングシステムを使用すると、抗体重鎖分子内のCDRは、典型的には、アミノ酸31~35位(任意選択で、35位に続いて1つまたは2つの追加のアミノ酸を含み得る(Kabatナンバリングスキームでは35A及び35Bと呼ばれる))(CDR1)、アミノ酸50~65位(CDR2)、及びアミノ酸95~102位(CDR3)に存在する。Kabatナンバリングシステムを使用すると、抗体軽鎖分子内のCDRは、典型的には、アミノ酸24~34位(CDR1)、アミノ酸50~56位(CDR2)、及びアミノ酸89~97位(CDR3)に存在する。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体のCDRは、Kabatナンバリングスキームに従って決定されている。
【0062】
代わりに、Chothiaは、構造ループの位置を指す(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。Kabatナンバリング規則を使用して番号付けするChothia CDR-H1ループの末端は、ループの長さに応じてH32~H34で変動する(これは、KabatナンバリングスキームがH35AとH35Bに挿入を配置するためであり;35Aと35Bのいずれも存在しない場合、ループは32で終了し;35Aのみが存在する場合、ループは33で終了し;35Aと35Bの両方が存在する場合、ループは34で終了する)。AbM超可変領域は、KabatのCDRとChothiaの構造的ループとの折衷物であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用されている。
【0063】
本明細書で使用する場合、「定常領域」または「定常ドメイン」という用語は、互換可能であり、当技術分野で一般的な意味を有する。定常領域は、抗体部分、例えば、軽鎖及び/または重鎖のカルボキシル末端部分であり、この領域は、抗原への抗体の結合には直接関与しないが、さまざまなエフェクター機能、例えば、Fc受容体との相互作用を呈することができる。免疫グロブリン分子の定常領域は、一般に、免疫グロブリン可変ドメインに比べて、より保存されたアミノ酸配列を有する。ある特定の態様では、抗体または抗原結合フラグメントは、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)に十分な定常領域またはその部分を含む。
【0064】
本明細書で使用する場合、抗体に関して使用する場合の「重鎖」という用語は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、任意の別個の型、例えば、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)、及びミュー(μ)を指し得、これは、IgGのサブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含む、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMクラスの抗体を生じる。重鎖アミノ酸配列は、当技術分野で周知である。いくつかの態様では、重鎖は、ヒト重鎖である。
【0065】
本明細書で使用する場合、抗体に関して使用する場合の「軽鎖」という用語は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、任意の別個の型、例えば、カッパ(κ)またはラムダ(λ)を指し得る。軽鎖アミノ酸配列は、当技術分野で周知である。いくつかの態様では、軽鎖は、ヒト軽鎖である。
【0066】
「キメラ」抗体またはその抗原結合フラグメントという用語は、アミノ酸配列が2つ以上の種に由来する抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。典型的には、軽鎖及び重鎖の両方の可変領域は、所望の特異性、親和性、及び能力を備えた哺乳動物の一種(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)に由来する抗体またはその抗原結合フラグメントの可変領域に対応し、一方で、定常領域は、別種(通常はヒト)に由来する抗体またはその抗原結合フラグメントの配列と相同であり、その種における免疫応答の誘発が回避される。
【0067】
「ヒト化」抗体またはその抗原結合フラグメントという用語は、最小非ヒト(例えば、マウス)配列を含有する特定の免疫グロブリン鎖、キメラ免疫グロブリン、またはそのフラグメントである非ヒト(例えば、マウス)抗体または抗原結合フラグメントの形態を指す。典型的には、ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンであり、ヒト免疫グロブリン中の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)のCDR由来の残基で置き換えられている(「CDRグラフト」)(Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-327(1988);Verhoeyen et al.,Science 239:1534-1536(1988))。ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントを、Fvフレームワーク領域及び/または置き換えられた非ヒト残基内での追加の残基の置換によってさらに改変し、抗体またはその抗原結合フラグメントの特異性、親和性、及び/または能力を、精密化及び最適化することができる。一般に、ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントは、非ヒト免疫グロブリンに対応するCDR領域の少なくとも1つ、及び典型的には2つまたは3つの実質的にすべてを含むVH及びVLを含むのに対し、FR領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントは、典型的にはヒト免疫グロブリンのものである、免疫グロブリン定常領域またはドメイン(Fc)の少なくとも一部分も含むことができる。ヒト化抗体を生成するために使用する方法の例は、米国特許第5,225,539号;Roguska et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,91(3):969-973(1994)、及びRoguska et al.,Protein Eng.9(10):895-904(1996)に記載されている。いくつかの態様では、「ヒト化抗体」は、再表面形成された抗体である。
【0068】
「ヒト」抗体またはその抗原結合フラグメントという用語は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座に由来するアミノ酸配列を有する抗体またはその抗原結合フラグメントを意味し、かかる抗体または抗原結合フラグメントは、当技術分野で公知の任意の技術を使用して作製される。ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントのこの定義には、インタクトまたは完全長抗体及びそのフラグメントが含まれる。
【0069】
「結合親和性」とは、一般に、分子の単一結合部位(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメント)とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合的相互作用の合計の強度を指す。別途指定されない限り、本明細書で使用する場合、「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメント及び抗原)間の1:1相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(KD)によって表すことができる。親和性は、平衡解離定数(KD)、及び平衡会合定数(KA)を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の多くの方法で測定及び/または表現することができる。KDは、koff/konの商から計算されるのに対し、KAは、kon/koffの商から計算される。konは、例えば、抗原に対する抗体またはその抗原結合フラグメントの会合速度定数を指し、koffは、例えば、抗原からの抗体またはその抗原結合フラグメントの解離を指す。kon及びkoffは、BIAcore(登録商標)またはKinExAなどの当業者に公知の技術によって決定することができる。
【0070】
「遮断している」もしくは「遮断する」または「阻害性」であるもしくは「阻害する」抗体は、抗体が標的タンパク質に結合したときに、1つもしくは複数のリガンドへのその標的タンパク質の結合を(部分的にまたは完全に)減少もしくは阻害する、及び/または抗体が標的タンパク質に結合したときに標的タンパク質の1つもしくは複数の活性もしくは機能を(部分的にもしくは完全に)減少もしくは阻害する、抗体である。
【0071】
その標的タンパク質を「下方制御する」抗体は、細胞表面上での標的タンパク質の発現を低下させる。
【0072】
本明細書で使用する場合、「エピトープ」とは当技術分野における用語であり、抗体またはその抗原結合フラグメントが特異的に結合することができる抗原の局在化領域を指す。エピトープは、例えば、ポリペプチドの隣接アミノ酸(線形または隣接エピトープ)であり得るか、またはエピトープは、例えば、1つまたは複数のポリペプチドの2つ以上の非隣接領域(立体配座、非線形、不連続または非隣接エピトープ)が一緒になったものであり得る。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントが結合するエピトープは、例えば、NMR分光法、X線回折結晶学試験、ELISAアッセイ、質量分析と組み合わせた水素/重水素交換(例えば、液体クロマトグラフィーエレクトロスプレー質量分析)、アレイベースのオリゴペプチドスキャニングアッセイ、及び/または突然変異誘発マッピング(例えば、アラニンスキャニングまたは他の部位特異的変異誘発マッピング)によって決定することができる。X線結晶学の場合、結晶化は、当技術分野で公知の方法のいずれかを使用して達成され得る(例えば、Giege R et al.,(1994)Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 50(Pt 4):339-350;McPherson A(1990)Eur J Biochem 189:1-23;Chayen NE(1997)Structure 5:1269-1274;McPherson A(1976)J Biol Chem 251:6300-6303)。抗体またはその抗原結合フラグメント及びその抗原の結晶は、周知のX線回折技術を使用して研究でき、X-PLOR(Yale University,1992,Molecular Simulations,Inc.により配布;例えば、Meth Enzymol(1985)volumes 114&115,eds Wyckoff HW et al.,;U.S.2004/0014194を参照されたい)及びBUSTER(Bricogne G(1993)Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 49(Pt 1):37-60;Bricogne G(1997)Meth Enzymol 276A:361-423,ed Carter CW;Roversi P et al.,(2000)Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 56(Pt 10):1316-1323)などのコンピュータソフトウェアを使用して精密化することができる。突然変異誘発マッピング研究は、当業者に公知の任意の方法を使用して達成することができる。アラニンスキャニング突然変異誘発技術を含む突然変異誘発技術の説明については、例えば、Champe M et al.,(1995)J Biol Chem 270:1388-1394及びCunningham BC&Wells JA(1989)Science 244:1081-1085を参照されたい。
【0073】
参照PILRA抗体と「同じエピトープに結合する」PILRA抗体は、参照PILRA抗体と同じPILRAアミノ酸残基に接触する抗体を指す。参照PILRA抗体と同じエピトープに結合するPILRA抗体の能力は、ペプチドスキャニング突然変異誘発またはハイスループットアラニンスキャニング突然変異誘発を使用して確認される(Davidson and Doranz,2014 Immunology 143,13-20を参照されたい)。後者の方法論では、各個々のアミノ酸残基をアラニンに(またはアミノ酸残基がアラニンの場合は、セリンなどの別の残基に)突然変異させること及び抗PILRA抗体またはその抗原結合フラグメントへの結合について各変異体を試験することにより、PILRA、またはその一部分(例えば、細胞外ドメイン)の包括的な突然変異ライブラリを生成することができる。結合に必要とされ、それゆえエピトープ残基であるアミノ酸は、免疫反応性の喪失によって同定される。
【0074】
本明細書で使用する場合、「免疫特異的に結合する」、「免疫特異的に認識する」、「特異的に結合する」、及び「特異的に認識する」という用語は、抗体またはその抗原結合フラグメントの文脈における類似の用語である。これらの用語は、抗体またはその抗原結合フラグメントがその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合し、結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間に相補性を伴うことを示す。従って、ヒトPILRA(例えば、配列番号1)に「特異的に結合する」抗体は、他の種由来のPILRA(例えば、カニクイザルPILRA)及び/または他のヒト対立遺伝子から産生されるPILRAタンパク質にも結合し得るが、無関係の非PILRAタンパク質(例えば、ITIMドメインを含有する他の免疫調節タンパク質)への結合の程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定した場合、PILRAへの抗体の結合の約10%未満である。
【0075】
抗体は、それがエピトープへの参照抗体の結合をある程度遮断する程度までそのエピトープまたは重複エピトープに優先的に結合する場合、所与のエピトープへの参照抗体の結合を「競合的に阻害する」と言われる。競合的阻害は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、競合ELISAアッセイによって測定され得る。抗体は、所与のエピトープへの参照抗体の結合を、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、または少なくとも50%競合的に阻害すると言われ得る。
【0076】
「単離された」ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物は、天然には見られない形態のポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物である。単離されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物には、もはやそれらが天然に見られる形態ではない程度まで精製されたものが含まれる。いくつかの態様では、単離された抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物は、実質的に純粋である。本明細書で使用する場合、「実質的に純粋」とは、少なくとも50%純粋(すなわち、汚染物質を含まない)、少なくとも90%純粋、少なくとも95%純粋、少なくとも98%純粋、または少なくとも99%純粋な物質を指す。
【0077】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書で互換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。ポリマーは直鎖または分岐鎖であることができ、改変アミノ酸を含み得、非アミノ酸を介在させることができる。これらの用語は、自然に、または介入;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、もしくは標識成分とのコンジュゲーションなどのその他の操作もしくは改変によって改変されているアミノ酸ポリマーも包含する。この定義には、例えば、アミノ酸(例えば、非天然アミノ酸などを含む)の1つまたは複数の類似体を含有するポリペプチド、ならびに当技術分野で公知の他の改変も含まれる。本開示のポリペプチドは抗体に基づいているため、いくつかの態様では、ポリペプチドは、一本鎖または結合鎖として存在し得ることが理解される。
【0078】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、任意のタイプの細胞、例えば、初代細胞、培養物中の細胞、または細胞株からの細胞であり得る。いくつかの態様では、「宿主細胞」という用語は、核酸分子でトランスフェクトされた細胞、及びかかる細胞の子孫または潜在的な子孫を指す。かかる細胞の子孫は、例えば、後続世代で生じ得る突然変異もしくは環境の影響、または核酸分子の宿主細胞ゲノムへの組み込みにより、核酸分子でトランスフェクトされた親細胞と同一ではない可能性がある。
【0079】
「医薬製剤」という用語は、有効成分の生物学的活性を有効にするような形態であり、製剤を投与するであろう対象にとって許容不可能な毒性を有する追加の成分を含まない調製物を指す。製剤は、無菌であり得る。
【0080】
本明細書で使用する場合、「投与する」、「投与すること」、「投与」などの用語は、薬物、例えば、抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントを、所望の生物学的作用部位へと送達するために使用され得る方法を指す。本明細書に記載の作用物質及び方法とともに採用することができる投与技術は、例えば、Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,current edition,Pergamon;及びRemington’s,Pharmaceutical Sciences,current edition,Mack Publishing Co.,Easton,Paに見出される。
【0081】
本明細書で使用する場合、「対象」及び「患者」という用語は、互換可能に使用される。対象は、哺乳動物、例えば非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、マウス、サルまたは他の霊長類など)であり得る。いくつかの態様では、対象は、カニクイザルである。いくつかの態様では、対象は、ヒトである。
【0082】
「治療有効量」という用語は、対象における疾患または障害を処置するのに有効な薬物、例えば抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントの量を指す。がんの場合、治療有効量の薬物は、がん細胞の数を減少させる;腫瘍サイズもしくは腫瘍量を減少させる;末梢器官へのがん細胞の浸潤を阻害する(すなわち、ある程度減速させる、いくつかの態様では停止させる);腫瘍転移を阻害する(すなわち、ある程度減速させる、いくつかの態様では停止させる);腫瘍増殖をある程度阻害する;がんに関連する症状のうちの1つもしくは複数をある程度緩和する;及び/または無増悪生存期間(PFS)、無病生存期間(DFS)、もしくは全生存期間(OS)の増加、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、またはいくつかの場合では、安定疾患(SD)、進行性疾患(PD)の低減、腫瘍増殖停止時間(TTP)の減少、もしくはそれらの任意の組み合わせなどの好ましい応答をもたらすことができる。薬物が、既存のがん細胞の増殖を予防すること及び/または既存のがん細胞を殺傷することができる限り、その薬物は、細胞増殖抑制性及び/または細胞傷害性であり得る。
【0083】
「処置する」もしくは「処置」もしくは「処置すること」または「軽減する」もしくは「軽減すること」などの用語は、診断された病理学的状態または障害を治癒する、減速する、その症状を減らす、及び/または進行を止める治療手段を指す。ゆえに、処置を必要とする人々には、障害を有するとすでに診断されているか、またはその疑いがある人々が含まれる。いくつかの態様では、患者が、がん細胞の数の減少または完全な不在;腫瘍サイズの減少;例えば、軟部組織及び骨へのがんの拡散を含む、末梢器官へのがん細胞浸潤の阻害または不在;腫瘍転移の阻害または不在;腫瘍増殖の阻害または不在;特定のがんに関連する1つまたは複数の症状の緩和;罹患率及び死亡率の減少;生活の質の改善;腫瘍の、腫瘍形成性、腫瘍形成頻度、または腫瘍形成能力の低下;腫瘍内のがん幹細胞の数または頻度の減少;腫瘍形成性細胞の非腫瘍形成性状態への分化;無増悪生存期間(PFS)、無病生存期間(DFS)、もしくは全生存期間(OS)の増加、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、安定疾患(SD)、進行性疾患(PD)の低減、腫瘍増殖停止時間(TTP)の減少、またはそれらの任意の組み合わせのうちの1つまたは複数を示す場合、対象は、本明細書で提供する方法に従ってがんに関して首尾よく「処置される」。
【0084】
「がん」及び「がん性」という用語は、その細胞集団が無秩序な細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指すかまたは説明する。かかるがんは、固形腫瘍、例えば、固形腫瘍中の骨髄細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、好中球、ミクログリアまたは他の自然免疫細胞)が腫瘍微小環境に浸潤している固形腫瘍を含み得る。かかるがんの例としては、限定されないが、膠芽腫、頭頸部癌、腎臓癌(例えば、腎明細胞癌)、膵臓癌、及び乳癌が挙げられる。がんは、「PILRA陽性がん」であり得る。この用語は、PILRA mRNAまたはタンパク質を発現する細胞(例えば、がんに浸潤している骨髄細胞)を含むがんを指す。がんは、「増加したPILRA」mRNAまたはタンパク質を伴うがんであり得る。これは、同じ組織の健常バージョンよりも多くのPILRAを(例えば、がんに浸潤している骨髄細胞上に)有するがんを指す。
【0085】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈が明確に別途指示しない限り、複数の対象物を含む。
【0086】
本明細書中で態様が「含む」という文言で説明される場合は常に、「からなる」及び/または「から本質的になる」という用語で説明される他の類似の実施形態も提供される。本開示では、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含有する」、及び「有する」などは、「含む(include)」、「含む(including)」などを意味することができ;「~から本質的になる(consisting essentially of)」または「~から本質的になる(consists essentially of)」は、非制限的であり、記載するものよりも多くのものが存在することによって記載するものの基本的または新規な特徴が変化しない限り、記載するものよりも多くのものが存在することを許容するが、先行技術の態様は除外される。
【0087】
本明細書で使用する場合、具体的に述べられているか、または文脈から明らかでない限り、「または」という用語は包括的であると理解される。本明細書中の「A及び/またはB」などの語句で使用する「及び/または」という用語は、両「A及びB」、「AまたはB」、「A」及び「B」を含むと意図される。同様に、「A、B、及び/またはC」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、以下の態様の各々を包含すると意図される:A、B、及びC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)。
【0088】
本明細書で使用する場合、「約」及び「およそ」という用語は、数値または数値範囲を改変するために使用する場合、記載する値または範囲が意図する意味の範囲内で、値または範囲から10%上方及び10%下方への偏差が残っていることを示す。本明細書において「約」または「およそ」という文言を伴って態様が記載されている場合は常に、数値または範囲、さもなければ特定の数値または範囲に言及する類似の態様も提供されることが理解される。
【0089】
本明細書で提供する任意の組成物または方法は、本明細書で提供する他の組成物及び方法のいずれかの1つまたは複数と組み合わせることができる。
【0090】
5.2 抗体
一態様では、ヒト、マウス、またはカニクイザルPILRAなどのPILRAに特異的に結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体)及びその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。特定の態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体)及びその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。ヒト、カニクイザル、及びマウスのPILRAのアミノ酸配列は、当技術分野で公知であり、それぞれ、配列番号1~3により表すように本明細書にも提供する。
ヒトPILRA:
MGRPLLLPLLPLLLPPAFLQPSGSTGSGPSYLYGVTQPKHLSASMGGSVEIPFSFYYPWELATAPDVRISWRRGHFHRQSFYSTRPPSIHKDYVNRLFLNWTEGQKSGFLRISNLQKQDQSVYFCRVELDTRSSGRQQWQSIEGTKLSITQAVTTTTQRPSSMTTTWRLSSTTTTTGLRVTQGKRRSDSWHISLETAVGVAVAVTVLGIMILGLICLLRWRRRKGQQRTKATTPAREPFQNTEEPYENIRNEGQNTDPKLNPKDDGIVYASLALSSSTSPRAPPSHRPLKSPQNETLYSVLKA(配列番号1)
【0091】
いくつかの態様では、上記のヒトPILRA配列はそのシグナル配列を欠いていると企図される。例えば、ヒトPILRA配列は、配列番号1のアミノ酸20~303を含むことができる。上記のヒトPILRA配列(配列番号1)は、アルギニン(R)が78位に存在し、アルツハイマー病からの保護に関連する対立遺伝子によってコードされている、変異体配列を表す。いくつかの態様では、78位をグリシン(G)が占めている変異体PILRA配列が企図される。配列番号1に示すような、ヒトPILRAの他の特徴には、約アミノ酸20~197の細胞外ドメイン(ECD)、約アミノ酸32~150のIgVドメイン、ならびに約アミノ酸267~272及び296~301のITIMモチーフが含まれる。
カニクイザルPILRA:
MGRPLLLPLLLPLLPLLLPPAFLQPGGSAGSGPSGPYGVTQRKHLSAPMGGSVEIPFSFYHPWELAAAPNMKISWRRGNFHGEFFYRTRPAFIHEDYSNRLLLNWTEGQDRGLLRIWNLRKEDQSVYFCRVELDTRRSGRQRWQSIEGTKLTITQAVTTTTQRPSSMTTTRRPSSATTTAGLRVTQGKRHSDSWHLSLKTAVGVTVAVAVLGIMILGLICLLRWRRRKGQQRTKATTPAKEPFQNTEEPYENIRNEGQNTDPKPNPKDDGIVYASLALSSSTSPRVPPSHHPLKSPQNETLYSVLKV(配列番号2)
【0092】
いくつかの態様では、上記のカニクイザルPILRA配列はそのシグナル配列を欠いていると企図される。例えば、カニクイザルPILRA配列は、配列番号2のアミノ酸24~307を含むことができる。
マウスPILRA
MALLISLPGGTPAMAQILLLLSSACLHAGNSERSNRKNGFGVNQPESCSGVQGGSIDIPFSFYFPWKLAKDPQMSIAWRWKDFHGEFIYNSSLPFIHEHFKGRLILNWTQGQTSGVLRILNLKESDQTRYFGRVFLQTTEGIQFWQSIPGTQLNVTNATCTPTTLPSTTAATSAHTQNDITEVKSANIGGLDLQTTVGLATAAAVFLVGVLGLIVFLWWKRRRQGQKTKAEIPAREPLETSEKHESVGHEGQCMDPKENPKDNNIVYASISLSSPTSPGTAPNLPVHGNPQEETVYSIVKAK(配列番号3)
【0093】
いくつかの態様では、上記のマウスPILRA配列はそのシグナル配列を欠いていると企図される。例えば、マウスPILRA配列は、配列番号3のアミノ酸32~302を含み得る。
【0094】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRA(例えば、配列番号1もしくは配列番号1のアミノ酸20~303、または、RもしくはGが78位に存在する前述の配列のいずれか)に結合する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRA及びカニクイザルPILRA(例えば、配列番号2または配列番号2のアミノ酸24~307)に結合する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合するが、カニクイザルPILRA(例えば、配列番号2または配列番号2のアミノ酸24~307)には結合しない。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合するが、マウスPILRA(例えば、配列番号3または配列番号3のアミノ酸32~302)には結合しない。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRA(及び任意選択で、カニクイザルPILRA)及びヒトPILRB(例えば、配列番号68、下記に示す、または配列番号68のアミノ酸20~227)に結合する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRA(及び任意選択で、カニクイザルPILRA)に結合するが、ヒトPILRBには結合しない。
【0095】
ヒトPILRBの配列は、配列番号68として以下に提供する。
MGRPLLLPLLLLLQPPAFLQPGGSTGSGPSYLYGVTQPKHLSASMGGSVEIPFSFYYPWELAIVPNVRISWRRGHFHGQSFYSTRPPSIHKDYVNRLFLNWTEGQESGFLRISNLRKEDQSVYFCRVELDTRRSGRQQLQSIKGTKLTITQAVTTTTTWRPSSTTTIAGLRVTESKGHSESWHLSLDTAIRVALAVAVLKTVILGLLCLLLLWWRRRKGSRAPSSDF(配列番号68)
【0096】
いくつかの態様では、上記のヒトPILRB配列はそのシグナル配列を欠いていると企図される。例えば、ヒトPILRB配列は、配列番号68のアミノ酸20~227を含むことができる。ヒトPILRA及びヒトPILRBのアミノ酸配列のアラインメントを、
図13に提供する。PILRAの以下のアミノ酸は、PILRBのものとは異なる:P11(シグナル配列中)、L14(シグナル配列中)、S22(シグナル配列中)、T63、A64、D66、R78、K106、Q116、Q118、S133、W139、E143、S148、T156-M163、L169、T175、T176、Q182、G183、R185、R186、D188、I192、及びE195。
【0097】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAの細胞外ドメイン(配列番号1のアミノ酸20~197)に結合する。
【0098】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表1及び2に記載の抗体の6つのCDR(すなわち、表1に記載の抗体の3つのVH CDR及び表2に記載の同じ抗体の3つのVL CDR)を含む。
【0099】
(表1)VH CDRアミノ酸配列
1
1表1のVH CDRは、Kabatに従って決定する。
【0100】
(表2)VL CDRアミノ酸配列
2
2表2のVL CDRは、Kabatに従って決定する。
【0101】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表3に記載の抗体のVHを含む。
【0102】
【0103】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表4に記載の抗体のVLを含む。
【0104】
【0105】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表3及び4に記載の抗体のVH及びVL(すなわち、表3に記載の抗体のVH及び表4に記載の同じ抗体のVL)を含む。
【0106】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表5に記載の抗体のVHフレームワーク領域のうちの1つ、2つ、3つまたはすべてを含む。
【0107】
(表5)VH FRアミノ酸配列
3
3表5に記載されているVHフレームワーク領域は、CDRに関するKabatナンバリングシステムの境界に基づいて決定する。言い換えると、VH CDRはKabatによって決定され、フレームワーク領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の形式の可変領域中のCDRを囲むアミノ酸残基である。
【0108】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表6に記載の抗体のVLフレームワーク領域のうちの1つ、2つ、3つまたはすべてを含む。
【0109】
(表6)VL FRアミノ酸配列
4
4表6に記載されているVLフレームワーク領域は、CDRに関するKabatナンバリングシステムの境界に基づいて決定する。言い換えると、VL CDRはKabatによって決定され、フレームワーク領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の形式の可変領域中のCDRを囲むアミノ酸残基である。
【0110】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに結合し、表5及び6に記載の抗体の4つのVHフレームワーク領域及び4つのVLフレームワーク領域(すなわち、表5に記載の抗体の4つのVHフレームワーク領域及び表6に記載の同じ抗体の4つのVLフレームワーク領域)を含む。
【0111】
ある特定の態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、そのVLドメイン単独、もしくはそのVHドメイン単独により、またはその3つのVL CDR単独、もしくはその3つのVH CDR単独により記載され得る。例えば、Rader C et al.,(1998)PNAS 95:8910-8915(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたく、この文献には、それぞれ、ヒト軽鎖または重鎖ライブラリから得られる相補的軽鎖または重鎖を同定し、元の抗体の親和性と同程度またはそれ以上の親和性を有するヒト化抗体変異体をもたらすことによるマウス抗αvβ3抗体のヒト化が記載されている。Clackson T et al.,(1991)Nature 352:624-628(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)も参照されたく、この文献には、特定のVLドメイン(またはVHドメイン)を使用して特定の抗原に結合する抗体を産生し、相補的可変ドメインに関してライブラリをスクリーニングする方法が記載されている。このスクリーニングにより、特定のVHドメインに対する14個の新規パートナー及び特定のVLドメインに対する13個の新規パートナーが生成されたが、これらはELISAによって測定した場合、強力なバインダーであった。Kim SJ&Hong HJ,(2007)J Microbiol 45:572-577(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)も参照されたく、この文献には、特定のVHドメインを使用して特定の抗原に結合する抗体を産生し、相補的VLドメインに関してライブラリ(例えば、ヒトVLライブラリ)をスクリーニングする方法が記載されており;選択されたVLドメインは、次に、追加の相補的(例えば、ヒト)VHドメインの選択をガイドするために使用することができる。
【0112】
ある特定の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントのCDRを、免疫グロブリン構造ループの位置を指すChothiaナンバリングスキームに従って決定することができる(例えば、Chothia C&Lesk AM,(1987),J Mol Biol 196:901-917;Al-Lazikani B et al.,(1997)J Mol Biol 273:927-948;Chothia C et al.,(1992)J Mol Biol 227:799-817;Tramontano A et al.,(1990)J Mol Biol 215(1):175-82;及び米国特許第7,709,226号を参照されたい)。典型的には、Kabatナンバリング規則を使用する場合、Chothia CDR-H1ループは重鎖アミノ酸26~32、33、または34に存在し、Chothia CDR-H2ループは重鎖アミノ酸52~56に存在し、Chothia CDR-H3ループは重鎖アミノ酸95~102に存在し、一方でChothia CDR-L1ループは軽鎖アミノ酸24~34に存在し、Chothia CDR-L2ループは軽鎖アミノ酸50~56に存在し、Chothia CDR-L3ループは軽鎖アミノ酸89~97に存在する。Kabatナンバリング規則を使用して番号付けするChothia CDR-H1ループの末端は、ループの長さに応じてH32~H34で変動する(これは、KabatナンバリングスキームがH35AとH35Bに挿入を配置するためであり;35Aと35Bのいずれも存在しない場合、ループは32で終了し;35Aのみが存在する場合、ループは33で終了し;35Aと35Bの両方が存在する場合、ループは34で終了する)。
【0113】
ある特定の態様では、ヒトPILRAに特異的に結合しかつ表3及び4に記載の抗体のChothia VH及びVL CDRを含む、抗体及びその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、1つまたは複数のCDRを含み、その場合、Chothia及びKabat CDRは同じアミノ酸配列を有する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合しかつKabat CDR及びChothia CDRの組み合わせを含む、抗体及びその抗原結合フラグメントを、本明細書で提供する。
【0114】
特定の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントのCDRは、Lefranc M-P,(1999)The Immunologist 7:132-136及びLefranc M-P et al.,(1999)Nucleic Acids Res 27:209-212に記載されているIMGTナンバリングシステムに従って決定することができる。IMGTナンバリングスキームによれば、VH-CDR1は26~35位、VH-CDR2は51~57位、VH-CDR3は93~102位、VL-CDR1は27~32位、VL-CDR2は50~52位、及びVL-CDR3は89~97位に存在する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合し、かつ、例えばLefranc M-P(1999)上記及びLefranc M-P et al.,(1999)上記に記載されているような表3及び4に記載の抗体のIMGT VH及びVL CDRを含む、抗体及びその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。
【0115】
ある特定の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントのCDRは、MacCallum RM et al.,(1996)J Mol Biol 262:732-745に従って決定することができる。例えば、Martin A.“Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains,”in Antibody Engineering,Kontermann and Dubel,eds.,Chapter 31,pp.422-439,Springer-Verlag,Berlin(2001)も参照されたい。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合し、かつMacCallum RMらの方法により決定された表3及び4に記載の抗体のVH及びVL CDRを含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。
【0116】
ある特定の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントのCDRは、AbMナンバリングスキームに従って決定することができ、これは、Kabat CDRとChothia構造ループの折衷を表すAbM超可変領域を指し、これはOxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェア(Oxford Molecular Group,Inc.)によって使用される。いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合し、かつAbMナンバリングスキームによって決定される表3及び4に記載の抗体のVH及びVL CDRを含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。
【0117】
いくつかの態様では、重鎖及び軽鎖を含む抗体を本明細書で提供する。重鎖に関して、いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体の重鎖は、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)またはミュー(μ)重鎖であり得る。いくつかの態様では、記載の抗体の重鎖は、ヒトアルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)またはミュー(μ)重鎖を含み得る。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、重鎖を含み、ここで、VHドメインのアミノ酸配列は、表3に記載のアミノ酸配列を含み、重鎖の定常領域は、ヒトガンマ(γ)重鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、重鎖を含み、ここで、VHドメインのアミノ酸配列は、表3に記載のアミノ酸配列を含み、重鎖の定常領域は、IgG1重鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、重鎖を含み、ここで、VHドメインのアミノ酸配列は、表3に記載のアミノ酸配列を含み、重鎖の定常領域は、IgG2(例えば、IgG2aまたはIgG2b)重鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、重鎖を含み、ここで、VHドメインのアミノ酸配列は、表3に記載のアミノ酸配列を含み、重鎖の定常領域は、IgG4重鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、重鎖を含み、ここで、VHドメインのアミノ酸配列は、表3に記載の配列を含み、重鎖の定常領域は、本明細書に記載のまたは当技術分野で公知のヒト重鎖のアミノ酸を含む。ヒト定常領域配列の非限定的な例は、当技術分野で記載されており、例えば、米国特許第5,693,780号及びKabat EA et al.,(1991)上記を参照されたい。
【0118】
軽鎖に関して、いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体の軽鎖は、カッパ軽鎖である。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体の軽鎖は、ラムダ軽鎖である。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体の軽鎖は、ヒトカッパ軽鎖またはヒトラムダ軽鎖である。
【0119】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、軽鎖を含み、ここで、VLドメインのアミノ酸配列は、表4に記載の配列を含み、軽鎖の定常領域は、ヒトカッパ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、軽鎖を含み、ここで、VLドメインのアミノ酸配列は、表4に記載の配列を含み、軽鎖の定常領域は、ヒトラムダ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、軽鎖を含み、ここで、VLドメインのアミノ酸配列は、表4に記載の配列を含み、軽鎖の定常領域は、ヒトカッパまたはラムダ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。ヒト定常領域配列の非限定的な例は、当技術分野で記載されている。例えば、米国特許第5,693,780号及びKabat EA et al。,(1991)上記を参照されたい。
【0120】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体のいずれかのアミノ酸配列を含むVHドメイン及びVLドメインを含み、定常領域は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、もしくはIgY免疫グロブリン分子、またはヒトIgG、IgE、IgM、IgD、IgA、もしくはIgY免疫グロブリン分子の定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体のいずれかのアミノ酸配列を含むVHドメイン及びVLドメインを含み、定常領域は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、またはIgY免疫グロブリン分子、任意のクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、または任意のサブクラス(例えば、IgG2a及びIgG2b)の免疫グロブリン分子の定常領域のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、定常領域は、ヒトIgG、IgE、IgM、IgD、IgA、またはIgY免疫グロブリン分子、任意のクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、または任意のサブクラス(例えば、IgG2a及びIgG2b)の免疫グロブリン分子の定常領域のアミノ酸配列を含む。
【0121】
ヒト定常領域の非限定的な例は、当技術分野で記載されている。例えば、Kabat EA et al.,(1991)上記を参照されたい。
【0122】
例示的なFcドメイン
いくつかの態様では、抗PILRA抗体、特に、本明細書で提供するような抗ヒトPILRA抗体は、Fcドメインを含み得る。いくつかの態様では、Fcドメインは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及び/またはIgG4アイソタイプである。
【0123】
ある特定の態様では、Fcドメインは、IgG1アイソタイプを有する。いくつかの態様では、抗PILRA抗体は、マウスIgG1 Fcドメインを含有する。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体は、例えば、配列番号69に提供するような、ヒトIgG1 Fcドメイン(hIgG1)を含有する。
EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号69)
【0124】
いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体のヒトIgG1 Fcドメインは、活性化Fc受容体と結合する。ある特定の態様では、活性化Fc受容体は、FcγRI、FcγRIIa及びIIc、ならびにFcγRIIIa及びIIIbのうちの任意の1つまたは複数から選択される。
【0125】
いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体のヒトIgG1 Fcドメインは、FcγRIII(CD16)及び/またはC1qに結合しないか、または結合が減少している。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体のヒトIgG1 Fcドメインは、それぞれ、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び/または補体結合活性が低下しており、各々の場合において、抗PILRA抗体が結合する細胞、例えば、骨髄細胞の望ましくない殺傷を減少させ得る。上記の効果は、ある特定のアミノ酸改変、例えば、「NSLF」突然変異によって達成され得、この場合、ヒトIgG1 Fcドメインは、突然変異N325S及びL328F(IgG1 FcドメインのEUナンバリングによる)を含有し、例えば、配列番号70に示す通りである。別の態様では、ヒトIgG1 Fcドメインは、K322A(EUナンバリング)に対応する突然変異を含み、例えば、配列番号71に提供する通りである。
EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSSKAFPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号70)
EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCAVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号71)
【0126】
ヒトIgG1 Fcドメインに対する例示的な改変を、下の表7に記載する。
【0127】
(表7)ヒトIgG1 Fcドメインに対する例示的な改変
【0128】
本明細書で提供する抗PILRA抗体のある特定の態様では、Fcドメインは、IgG2アイソタイプを有する。いくつかの態様では、抗PILRA抗体は、マウスIgG2 Fcドメイン、例えば、マウスIgG2a(mIgG2a)を含有する。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体は、ヒトIgG2 Fcドメイン(hIgG2)を含有する。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体のヒトIgG2 Fcドメインは、活性化Fc受容体と結合する。ある特定の態様では、活性化Fc受容体は、FcγRI、FcγRIIa及びIIc、ならびにFcγRIIIa及びIIIbのうちの任意の1つまたは複数から選択される。
【0129】
本明細書で提供する抗PILRA抗体のある特定の態様では、Fcドメインは、IgG4アイソタイプを有する。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体は、ヒトIgG4 Fcドメイン(hIgG4)を含有し、例えば、配列番号72に提供する通りである。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体のヒトIgG4 Fc領域は、活性化Fc受容体と結合する。ある特定の態様では、活性化Fc受容体は、FcγRI、FcγRIIa及びIIc、ならびにFcγRIIIa及びIIIbのうちの任意の1つまたは複数から選択される。ある特定の態様では、ヒトIgG4 Fc領域は、S228P(EUナンバリングによる)に対応する突然変異を含み、例えば、配列番号73に提供する通りである。
ESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号72)
ESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号73)
【0130】
いくつかの態様では、本明細書に記載の定常領域突然変異または改変のいずれかを、2つの重鎖定常領域を有する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの一方または両方の重鎖定常領域に導入することができる。
【0131】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖及び軽鎖を含み、(i)重鎖は、表1に記載の抗体のVH CDR1、VH CDR2、及びVH CDR3アミノ酸配列(例えば、配列番号4~6、10~12、16~18、または22~24)を含むVHドメインを含み;(ii)軽鎖は、表2に記載の同じ抗体のVL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3アミノ酸配列(例えば、配列番号7~9、13~15、19~21、または25~27)を含むVLドメインを含み;(iii)重鎖は、ヒトIgG1重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列を含む定常重鎖ドメインをさらに含み;(iv)軽鎖は、ヒトカッパ軽鎖の定常ドメインのアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメインをさらに含む。
【0132】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖及び軽鎖を含み、(i)重鎖は、表3に記載の抗体のアミノ酸配列(例えば、配列番号28、30、32、または34)を含むVHドメインを含み;(ii)軽鎖は、表4に記載の同じ抗体のアミノ酸配列(例えば、配列番号29、31、33、または35)を含むVLドメインを含み;(iii)重鎖は、ヒトIgG1重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列を含む定常重鎖ドメインをさらに含み;(iv)軽鎖は、ヒトカッパ軽鎖の定常ドメインのアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメインをさらに含む。
【0133】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトフレームワーク領域であるか、またはヒトフレームワーク領域に由来するフレームワーク領域(例えば、VHドメイン及び/またはVLドメインのフレームワーク領域)を含む。ヒトフレームワーク領域の非限定的な例は、当技術分野で記載されており、例えば、Kabat EA et al.,(1991)上記を参照されたい)。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、霊長類(例えば、非ヒト霊長類)フレームワーク領域であるか、または霊長類(例えば、非ヒト霊長類)フレームワーク領域に由来するフレームワーク領域(例えば、VHドメイン及び/またはVLドメインのフレームワーク領域)を含む。
【0134】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、上記の表5に記載の抗体について本明細書に記載のアミノ酸配列(例えば、配列番号36~39、44~47、52~55、または60~63)を有する1つ、2つ、3つまたは4つのVHフレームワーク領域(FR)を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、上記の表6に記載の抗体について本明細書に記載のアミノ酸配列(例えば、配列番号40~43、48~51、56~59、または64~67)を有する1つ、2つ、3つまたは4つのVLフレームワーク領域(FR)を含む。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、上記の表5に記載の抗体について本明細書に記載のアミノ酸配列を有する1つ、2つ、3つまたは4つのVHフレームワーク領域、及び上記の表6に記載の抗体について本明細書に記載のアミノ酸配列を有する1つ、2つ、3つまたは4つのVLフレームワーク領域を含む(例えば、(i)配列番号36~39、44~47、52~55、または60~63及び(ii)配列番号40~43、48~51、56~59、または64~67)。
【0135】
抗体活性
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、細胞表面PILRAを下方制御する。PILRAを下方制御する抗ヒトPILRA抗体は、それがなければ細胞表面PILRAとそのリガンドとの会合から生じ得る阻害性シグナル伝達を低減させる効果を有し得る。
【0136】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下での細胞表面PILRAのレベルと比較して、細胞表面PILRA(例えば、293細胞上で異所的に発現されるヒトPILRA)を下方制御する。いくつかの態様では、細胞表面PILRAは、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下で37℃にて30分後の細胞表面PILRAのレベルと比較して、抗ヒトPILRA抗体の存在下で37℃にて30分後に、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%下方制御される。いくつかの態様では、細胞表面PILRAは、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下で37℃にて30分後の細胞表面PILRAのレベルと比較して、抗ヒトPILRA抗体の存在下で37℃にて30分後に、約10%~約50%下方制御される。いくつかの態様では、細胞表面PILRAは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下で37℃にて2時間後の細胞表面PILRAのレベルと比較して、抗ヒトPILRA抗体の存在下で37℃にて2時間後に、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%下方制御される。いくつかの態様では、細胞表面PILRAは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下で37℃にて2時間後の細胞表面PILRAのレベルと比較して、抗ヒトPILRA抗体の存在下で37℃にて2時間後に、約30%~約60%下方制御される。パーセント下方制御は、例えば、抗ヒトPILRA抗体の存在下もしくは不在下、または抗ヒトPILRA抗体もしくは対照抗体の存在下で、37℃に対して氷上で示された時点でのインキュベーション後に検出された細胞表面PILRAのレベルを正規化することによって計算することができる。
【0137】
下方制御は、例えば、実施例8に開示するアッセイを使用して測定することができる。下方制御は、例えば、ヒトPILRAを異所的に発現するシアリダーゼ処理293細胞を、抗ヒトPILRA抗体と、または抗体なしもしくは対照抗体と(例えば、37℃にて30分間)インキュベートし、細胞表面ヒトPILRAを検出することによって測定することができる。細胞表面ヒトPILRAは、例えば、FACSを使用して検出することができる。下方制御は、抗ヒトPILRA抗体の用量に依存し得る。
【0138】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を遮断する。PILRA-Fcに結合し、T細胞へのPILRA-Fcの結合を遮断する抗ヒトPILRA抗体は、T細胞上のPILRAリガンドへのPILRA-Fcの結合を、遮断していると推定される。この活性を有する抗体は、同様に、PILRAリガンドへの内因性PILRAの結合を遮断することにおいて機能し、それにより、内因性PILRAの阻害性シグナル伝達を抑制すると予想され得る。
【0139】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を少なくとも70%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、対照抗体の存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を少なくとも75%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を少なくとも80%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を少なくとも85%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を少なくとも90%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を少なくとも95%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を100%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、対照抗体またはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を、約70%~約95%、または約70%~約98%遮断する。いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、対照抗体またはフラグメントの存在下でのヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合と比較して、ヒトT細胞へのPILRA-Fcの結合を、約80%~約95%遮断する。
【0140】
結合の遮断は、例えば、実施例7に開示するアッセイを使用して測定することができる。結合の遮断は、例えば、抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントを、約5μg/mlのPILRA Fcと30分間4℃にてインキュベートし、次いでヒトT細胞を30分間4℃にて加え、細胞を洗浄し、結合したPILRA Fcを検出することによって測定することができる。結合したPILRA Fcは、例えば、フローサイトメトリーを使用して検出できる。結合の遮断は、抗ヒトPILRA抗体の用量に依存し得る。
【0141】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、1つまたは複数のPILRAリガンドへのPILRAの結合を遮断する。PILRAリガンドには、PTPXP、PTPXXP、PXTPXP、またはPXTPXXPモチーフを伴うタンパク質などのグリコシル化タンパク質が含まれる。例示的なリガンドには、COLEC12、NPDC1、CLEC4G、及びPIANP、ならびにHSV-1糖タンパク質Bが含まれる。PILRA(配列番号1)中のアミノ酸Arg126は、シアル酸相互作用に不可欠であることが周知であり(例えば、Rathore et al.,PLOS Genetics 14:e1007427(2018)を参照されたい)、PILRBの対応するアミノ酸(
図13を参照されたい)とは異なる、アミノ酸Arg78、Trp139、及びGlu143は、Arg126に近接して位置する(それぞれ、約9.17Å、約4.40Å、及び約12.40Å)(
図14A及びBを参照されたい)。
図14A及び14Bに提供する結晶構造中に存在するヒトPILRAとヒトPILRBとの間で分岐する追加のアミノ酸は、T63、A64、D66、K106、Q116、Q118、S133、及びS148である。
【0142】
いくつかの態様では、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断する抗ヒトPILRA抗体は、1つまたは複数のPILRAリガンドへのPILRA-Fcの結合を遮断する抗体の能力を試験することによって同定することができ、かかるリガンドは、可溶性形態で発現するか、または細胞表面上に発現する。いくつかの態様では、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を遮断する抗ヒトPILRA抗体は、1つまたは複数のPILRAリガンドへの細胞表面PILRAを発現する細胞の結合を遮断する抗体の能力を試験することによって同定することができ、かかるリガンドは、可溶性形態で発現するか、または細胞表面上に発現する。
【0143】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下での結合と比較して、1つまたは複数のPILRAリガンド(上記に提供するものを含むがこれに限定されない)へのPILRA-Fcの結合を遮断する。結合の遮断は、例えば、実施例5に開示するアッセイを使用して測定することができる。結合の遮断は、例えば、PILRAを発現する細胞を(例えば、約30分間約4℃にて)、約5μg/mlのリガンドとインキュベートし、再度(例えば、約30分間約4℃にて)インキュベートし、細胞を洗浄し、結合したリガンドを検出することによって測定することができる。結合したリガンドは、例えば、フローサイトメトリーを使用して検出できる。結合の遮断は、抗ヒトPILRA抗体の用量に依存し得る。
【0144】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、骨髄細胞(例えば、マクロファージ(例えば「M1」マクロファージ)、ミクログリア、樹状細胞、好中球、顆粒球、及び他の骨髄由来細胞、例えば骨髄由来抑制細胞(「MDSC」)を活性化する。骨髄細胞を活性化することにより、抗ヒトPILRA抗体は、自然免疫系を活性化することができ、例えば、これは抗腫瘍応答を促進し、ミクログリアの場合では、神経変性状態に対抗するCNSにおける環境を促進することができる。
【0145】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下での骨髄細胞の活性化と比較して、骨髄細胞(上記のものなど)を活性化する。実施例2または3に開示するアッセイを使用して、骨髄細胞(例えば、MDSC)の活性化を評価することができる。骨髄細胞(例えば、MDSC)の活性化は、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下での活性化と比較して、抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントの存在下で細胞によって産生されるMIP1bの量を検出することによって評価することができる。骨髄細胞(例えば、MDSC)の活性化は、抗ヒトPILRA抗体の用量に依存し得る。
【0146】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、骨髄細胞の分化を促進する(例えば、単球の、マクロファージ(例えば「M1」マクロファージ)もしくは樹状細胞への分化を促進する、または他の骨髄前駆細胞の、ミクログリア、樹状細胞、好中球、及び他の骨髄由来細胞、例えば骨髄由来抑制細胞(「MDSC」)への分化を促進する)。骨髄細胞の分化を促進することにより、抗ヒトPILRA抗体は、自然免疫系を活性化することができ、例えば、これは(例えば、腫瘍微小環境内のM1マクロファージを通して)抗腫瘍応答を促進することができ、ミクログリアの場合では、神経変性状態に対抗するCNSの環境を促進することができる。
【0147】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下での骨髄細胞の分化と比較して、(上記のものなどの)骨髄細胞の分化を促進する。実施例2に開示するアッセイを使用して、骨髄細胞(例えば、MDSC)の分化を評価することができる。骨髄細胞(例えば、MDSC)の分化は、例えば、抗体もしくはフラグメントの不在下または対照抗体もしくはフラグメントの存在下での分化と比較して、抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントの存在下でのCD14loCD86hi細胞の量を検出することにより評価することができる。骨髄細胞(例えば、MDSC)の分化は、抗ヒトPILRA抗体の用量に依存し得る。
【0148】
同じエピトープに結合/競争的に阻害する抗体
別の態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001)と同じヒトPILRAのエピトープに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。
【0149】
別の態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001)と重複するヒトPILRAのエピトープに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。重複するエピトープを有する抗体は、PILRAの同じアミノ酸残基のうちの少なくとも1つまたは複数に接触する。
【0150】
競合結合アッセイを使用して、2つの抗体が重複するエピトープに結合するかどうかを判定することができる。競合的結合は、試験される免疫グロブリンが、PILRA(例えば、ヒトPILRA)などの共通抗原への参照抗体の特異的結合を阻害するアッセイにおいて判定することができる。多くのタイプの競合結合アッセイが知られており、例えば、固相直接または間接放射免疫測定法(RIA)、固相直接または間接酵素免疫測定法(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahli C et al.,(1983)Methods Enzymol 9:242-253を参照されたい);固相直接ビオチン-アビジンEIA(Kirkland TN et al.,(1986)J Immunol 137:3614-9を参照されたい);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow E&Lane D,(1988)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Pressを参照されたい);I-125標識を使用した固相直接標識RIA(Morel GA et al.,(1988)Mol Immunol 25(1):7-15を参照されたい);固相直接ビオチン-アビジンEIA(Cheung RC et al.,(1990)Virology 176:546-52);及び直接標識RIA(Moldenhauer G et al.,(1990)Scand J Immunol 32:77-82)である。典型的には、かかるアッセイは、かかる抗原、非標識被験免疫グロブリン及び標識参照免疫グロブリンを保持する固体表面または細胞に結合させた精製抗原(例えば、ヒトPILRAなどのPILRA)の使用が含まれる。競合阻害は、被験免疫グロブリンの存在下で固体表面または細胞に結合した標識の量を決定することにより測定することができる。通常、被験免疫グロブリンは過剰に存在させる。通常、競合する抗体が過剰に存在する場合、共通抗原への参照抗体の特異的結合は、少なくとも50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%またはそれ以上阻害される。競合結合アッセイは、標識抗原または標識抗体のいずれかを使用して、多数の異なる形式で構成することができる。このアッセイの一般的なバージョンでは、抗原を96ウェルプレートに固定化する。次いで、抗原への標識抗体の結合を遮断する非標識抗体の能力を、放射能標識または酵素標識を使用して測定する。さらなる詳細については、例えば、Wagener C et al.,(1983)J Immunol 130:2308-2315;Wagener C et al.,(1984)J Immunol Methods 68:269-274;Kuroki M et al.,(1990)Cancer Res 50:4872-4879;Kuroki M et al.,(1992)Immunol Invest 21:523-538;Kuroki M et al.,(1992)Hybridoma 11:391-407 and Antibodies:A Laboratory Manual,Ed Harlow E&Lane D editors上記、pp.386-389を参照されたい。
【0151】
いくつかの態様では、例えば、Abdiche YN et al.,(2009)Analytical Biochem 386:172-180により記載されるような「タンデムアプローチ」により、表面プラズモン共鳴(BIAcore(登録商標))を使用して競合アッセイを実施し、これにより、PILRA抗原を、チップ、例えば、CM5センサーチップの表面上に固定化し、次いで抗PILRA抗体をチップ上に流す。抗体またはその抗原結合フラグメントが本明細書に記載の抗PILRA抗体の結合を競合的に阻害するかどうかを判定するために、まず抗PILRA抗体をチップ表面に流して飽和を達成し、次いで潜在的な競合抗体を加える。次いで、競合する抗体またはその抗原結合フラグメントの結合を、競合しない対照と比較して測定し、定量化することができる。
【0152】
いくつかの態様では、Fortebio Octet競合結合を使用して、PILRA抗体またはその抗原結合フラグメントが、PILRAへの別のPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントの結合を競合的に阻害することを判定する。
【0153】
別の態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001)がヒトPILRAに結合することを(例えば、用量依存的様式で)競合的に阻害する抗体を本明細書で提供し、これは、当業者に公知であるまたは本明細書に記載のアッセイ(例えば、ELISA競合アッセイ、または懸濁液アレイもしくは表面プラズモン共鳴アッセイ)を使用して確認される。「競合的に阻害する」抗体は、参照抗体への「結合に関して競合する」抗体とも呼ばれ得る。
【0154】
特定の態様では、ヒトPILRAへの抗体の結合を(例えば、用量依存的様式で)競合的に阻害する抗体または抗原結合フラグメントを本明細書で提供し、抗体は、配列番号28に記載のアミノ酸配列を有するVHドメイン、及び配列番号29に記載のアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0155】
特定の態様では、ヒトPILRAへの抗体の結合を(例えば、用量依存的様式で)競合的に阻害する抗体または抗原結合フラグメントを本明細書で提供し、抗体は、配列番号30に記載のアミノ酸配列を有するVHドメイン、及び配列番号31に記載のアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0156】
特定の態様では、ヒトPILRAへの抗体の結合を(例えば、用量依存的様式で)競合的に阻害する抗体または抗原結合フラグメントを本明細書で提供し、抗体は、配列番号32に記載のアミノ酸配列を有するVHドメイン、及び配列番号33に記載のアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0157】
特定の態様では、ヒトPILRAへの抗体の結合を(例えば、用量依存的様式で)競合的に阻害する抗体または抗原結合フラグメントを本明細書で提供し、抗体は、配列番号34に記載のアミノ酸配列を有するVHドメイン、及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0158】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに結合し、ヒトPILRAへの2175Bの結合を競合的に阻害しない抗体または抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。
【0159】
抗原結合フラグメント
いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体などの本明細書に記載の抗PILRA抗体の抗原結合フラグメントを提供する。例示的な抗原結合フラグメントには、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びscFvが含まれ、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはscFvは、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体の重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列を含む。Fab、Fab’、F(ab’)2、またはscFvは、以下のセクション5.3で論じられるものを含むがこれらに限定されない、当業者に公知の任意の技術によって産生することができる。いくつかの態様では、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはscFvなどの抗原結合フラグメントは、インビボでの抗体の半減期を延長する部分をさらに含む。この部分は、「半減期延長部分」とも呼ばれる。インビボでのFab、Fab’、F(ab’)2、またはscFvなどの抗原結合フラグメントの半減期を延長するための当業者に公知の任意の部分を使用することができる。例えば、半減期延長部分は、Fc領域、ポリマー、アルブミン、またはアルブミン結合タンパク質もしくは化合物を含むことができる。ポリマーには、天然または合成の、任意選択で置換された直鎖または分岐鎖ポリアルキレン、ポリアルケニレン、ポリオキシアルキレン、多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、メトキシポリエチレングリコール、ラクトース、アミロース、デキストラン、グリコーゲン、またはそれらの誘導体が含まれ得る。置換基には、1つまたは複数のヒドロキシ、メチル、またはメトキシ基が含まれ得る。いくつかの態様では、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはscFvなどの抗原結合フラグメントは、半減期延長部分を付着させるための1つまたは複数のC末端アミノ酸の付加により、改変することができる。いくつかの態様では、半減期延長部分は、ポリエチレングリコールまたはヒト血清アルブミンである。いくつかの態様では、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはscFvなどの抗原結合フラグメントを、Fc領域に融合させる。
【0160】
抗PILRA抗体(例えば抗ヒトPILRA抗体)またはその抗原結合フラグメントは、検出可能な標識または物質に融合またはコンジュゲート(例えば、共有結合または非共有結合で連結)させることができる。検出可能な標識または物質の例としては、酵素標識、例えばグルコースオキシダーゼ;放射性同位体、例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(121In)、及びテクネチウム(99Tc);発光標識、例えばルミノール;ならびに蛍光標識、例えば、フルオレセイン及びローダミン、ならびにビオチンが挙げられる。かかる標識抗体またはその抗原結合フラグメントを使用して、PILRA(例えば、ヒトPILRA)タンパク質を検出することができる。例えば、以下のセクション5.4及び5.5を参照されたい。
【0161】
5.3 抗体産生
ヒトPILRAに免疫特異的に結合する抗体及びその抗原結合フラグメントは、例えば、化学合成または組換え発現技術による、抗体及び抗原結合フラグメントの合成のための当技術分野で公知の任意の方法によって産生することができる。本明細書に記載の方法は、別途指定されない限り、分子生物学、微生物学、遺伝子解析、組換えDNA、有機化学、生化学、PCR、オリゴヌクレオチド合成及び改変、核酸ハイブリダイゼーション、ならびに当技術分野の関連分野における従来技術を採用する。これらの技術は、例えば、本明細書中で引用する参考文献に記載されており、それらの文献において十分に説明されている。例えば、Sambrook J et al.,(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Ausubel FM et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons(1987及び年報);Current Protocols in Immunology,John Wiley&Sons(1987及び年報);Eckstein(ed.)(1991)Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Birren B et al.,(eds.)(1999)Genome Analysis:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【0162】
ある特定の態様では、本明細書に記載の細胞または宿主細胞(例えば、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む細胞または宿主細胞)を培養することを含む、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する抗体または抗原結合フラグメントを作製する方法を本明細書で提供する。ある特定の態様では、本明細書に記載の細胞または宿主細胞(例えば、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む細胞または宿主細胞)を使用して抗体またはその抗原結合フラグメントを発現させる(例えば、組換え発現させる)ことを含む、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法を本明細書で提供する。いくつかの態様では、細胞は、単離された細胞である。いくつかの態様では、コードするポリヌクレオチドは、細胞に導入されている。いくつかの態様では、この方法は、細胞または宿主細胞から得られた抗体または抗原結合フラグメントを精製するステップをさらに含む。
【0163】
ポリクローナル抗体を産生するための方法は、当技術分野で公知である(例えば、Short Protocols in Molecular Biology,(2002)5th Ed.,Ausubel FM et al.,eds.,John Wiley and Sons,New Yorkの第11章を参照されたい)。
【0164】
モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、酵母ベースの提示技術、またはそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で公知の多種多様な技術を使用して調製することができる。例えば、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、当技術分野で公知であり、例えば、Harlow E&Lane D,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling GJ et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563 681(Elsevier,N.Y.,1981)に示されるか、またはKohler G&Milstein C(1975)Nature 256:495に記載されているものを含む、ハイブリドーマ技術を使用して産生することができる。本明細書に記載の抗体を選択及び生成するために採用することができる酵母ベースの提示方法の例としては、例えば、WO2009/036379A2;WO2010/105256;及びWO2012/009568に開示されているものが挙げられ、これらの各文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0165】
いくつかの態様では、モノクローナル抗体または抗原結合フラグメントは、クローン細胞(例えば、組換え抗体または抗原結合フラグメントを産生するハイブリドーマまたは宿主細胞)によって産生される抗体または抗原結合フラグメントであり、ここで、抗体または抗原結合フラグメントは、例えば、ELISAまたは当技術分野で公知のもしくは本明細書で提供する実施例の他の抗原結合アッセイによって決定されるように、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、キメラまたはヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントであり得る。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、FabフラグメントまたはF(ab’)2フラグメントであり得る。本明細書に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、Kohler G&Milstein C(1975)Nature 256:495に記載のハイブリドーマ法により作製することができるか、または例えば、本明細書に記載の技術を用いてファージライブラリから単離することができる。クローン細胞株ならびにそれにより発現するモノクローナル抗体及びその抗原結合フラグメントを調製するための他の方法は、当技術分野で周知である(例えば、上記のShort Protocols in Molecular Biology,(2002)5th Ed.,Ausubel FM et al.の第11章を参照されたい)。
【0166】
本明細書に記載の抗体の抗原結合フラグメントは、当業者に公知の任意の技術によって生成することができる。例えば、本明細書に記載のFab及びF(ab’)2フラグメントは、パパイン(Fabフラグメントを産生する)またはペプシン(F(ab’)2フラグメントを産生する)などの酵素を使用して、免疫グロブリン分子のタンパク質分解切断によって産生することができる。Fabフラグメントは、四量体抗体分子の2つの同一アームの一方に対応し、重鎖のVH及びCH1ドメインと対になった完全な軽鎖を含有する。F(ab’)2フラグメントは、ヒンジ領域内のジスルフィド結合によって連結された四量体抗体分子の2つの抗原結合アームを含有する。
【0167】
さらに、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントはまた、当技術分野で公知のさまざまなファージディスプレイ及び/または酵母ベースの提示方法を使用して生成することができる。ファージディスプレイ法では、タンパク質を、それらをコードするポリヌクレオチド配列を保有するファージ粒子の表面上に提示させる。特に、VH及びVLドメインをコードするDNA配列は、動物のcDNAライブラリ(例えば、罹患組織のヒトまたはマウスのcDNAライブラリ)から増幅させる。VH及びVLドメインをコードするDNAを、PCRによりscFvリンカーとともに組換え、ファージミドベクターにクローニングする。ベクターを大腸菌にエレクトロポレーションし、大腸菌にヘルパーファージを感染させる。これらの方法で使用するファージは、典型的には、fd及びM13を含む繊維状ファージであり、VH及びVLドメインを、通常、組換えにより、ファージ遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIのいずれかに融合させる。特定の抗原に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを発現するファージは、例えば、標識された抗原または固体表面もしくはビーズに結合または捕捉した抗原を使用して、抗原を用いて選択または同定することができる。本明細書に記載の抗体またはフラグメントを作製するために使用することができるファージディスプレイ法の例としては、Brinkman U et al.,(1995)J Immunol Methods 182:41-50;Ames RS et al.,(1995)J Immunol Methods 184:177-186;Kettleborough CA et al.,(1994)Eur J Immunol 24:952-958;Persic L et al.,(1997)Gene 187:9-18;Burton DR&Barbas CF(1994)Advan Immunol 57:191-280;PCT出願第PCT/GB91/001134号;国際公開第WO90/02809号、同第WO91/10737号、同第WO92/01047号、同第WO92/18619号、同第WO93/11236号、同第WO95/15982号、同第WO95/20401号、及び第WO97/13844号;ならびに米国特許第5,698,426号、同第5,223,409号、同第5,403,484号、同第5,580,717号、同第5,427,908号、同第5,750,753号、同第5,821,047号、同第5,571,698号、同第5,427,908号、同第5,516,637号、同第5,780,225号、同第5,658,727号、同第5,733,743号、及び同第5,969,108号に開示されている方法が挙げられる。
【0168】
ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントは、IgM、IgG、IgD、IgA及びIgEを含む免疫グロブリンの任意のクラス、ならびにIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む任意のアイソタイプから選択することができる。
【0169】
5.3.1 ポリヌクレオチド
ある特定の態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはそのドメイン(例えば、可変軽鎖領域及び/または可変重鎖領域)をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、及びベクター、例えば、宿主細胞(例えば、大腸菌及び哺乳動物細胞)における組換え発現のためのかかるポリヌクレオチドを含むベクターを本明細書で提供する。
【0170】
特定の態様では、ヒトPILRAに免疫特異的に結合し、本明細書に記載のアミノ酸配列を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、ならびに(例えば、用量依存的様式で)ヒトPILRAへの結合に関してかかる抗体もしくは抗原結合フラグメントと競合する、またはかかる抗体もしくは抗原結合フラグメントのものと同じエピトープに結合する抗体または抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。
【0171】
配列番号28~35からなる群から選択される配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドも本明細書で提供する。いくつかの態様では、ポリペプチドを含む抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPILRAに免疫特異的に結合する。
【0172】
(i)配列番号28をコードするヌクレオチド配列を含む第1のポリヌクレオチド及び(ii)配列番号29をコードするヌクレオチド配列を含む第2のポリヌクレオチドを含む、キット、ベクター、または宿主細胞も本明細書で提供する。(i)配列番号30をコードするヌクレオチド配列を含む第1のポリヌクレオチド及び(ii)配列番号31をコードするヌクレオチド配列を含む第2のポリヌクレオチドを含む、キット、ベクター、または宿主細胞も本明細書で提供する。(i)配列番号32をコードするヌクレオチド配列を含む第1のポリヌクレオチド及び(ii)配列番号33をコードするヌクレオチド配列を含む第2のポリヌクレオチドを含む、キット、ベクター、または宿主細胞も本明細書で提供する。(i)配列番号34をコードするヌクレオチド配列を含む第1のポリヌクレオチド及び(ii)配列番号35をコードするヌクレオチド配列を含む第2のポリヌクレオチドを含む、キット、ベクター、または宿主細胞も本明細書で提供する。かかる第1及び第2のポリヌクレオチドを含むキットでは、第1及び第2のポリヌクレオチドは、同じベクターにあり得るか、または異なるベクターにあり得る。かかる第1及び第2のポリヌクレオチドを含む宿主細胞では、第1及び第2のポリヌクレオチドは、同じベクターにあり得るか、または異なるベクターにあり得る。
【0173】
いくつかの態様では、3つのVHドメインCDR、例えば、本明細書に記載の抗体のいずれか1つのVH CDR1、VH CDR2、及びVH CDR3を含有するポリペプチド(例えば、表1を参照されたい)をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを本明細書で提供し、例えば、3つのVHドメインCDRは、VHの文脈にある。いくつかの態様では、3つのVLドメインCDR、例えば、本明細書に記載の抗体のいずれか1つのVL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を含有するポリペプチド(例えば、表2を参照されたい)をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを本明細書で提供し、例えば、3つのVLドメインCDRは、VLの文脈にある。いくつかの態様では、(i)3つのVHドメインCDR、例えば、本明細書に記載の抗体のいずれか1つのVH CDR1、VH CDR2、及びVH CDR3を含有するポリペプチド(例えば、表1を参照されたい)、例えば、3つのVHドメインCDRはVHの文脈にある、ならびに(ii)3つのVLドメインCDR、例えば、本明細書に記載の抗体のいずれか1つのVL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を含有するポリペプチド(例えば、表2を参照されたい)、例えば、3つのVLドメインCDRは、VLの文脈にある、を含む抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(またはポリヌクレオチドの組み合わせ)を本明細書で提供する。
【0174】
いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメントをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、または例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列(例えば、表1及び5を参照されたく、例えば、表中の名称によって特定される特定の抗体のVH CDR及びVH FR)を含む、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含有するVHドメインを含むそのフラグメントを本明細書で提供する。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメントをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、または例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列(例えば、表2及び6を参照されたく、例えば、表中の名称によって特定される特定の抗体のVL CDR及びVL FR)を含む、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含有するVLドメインを含むそのフラグメントを本明細書で提供する。
【0175】
いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、重鎖可変領域(例えば、配列番号28、30、32、または34のアミノ酸配列を含むVH)及び重鎖定常領域、例えば、ヒトガンマ(γ)重鎖定常領域をコードする核酸配列を含む。
【0176】
いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、軽鎖可変領域(例えば、配列番号29、31、33、または35のアミノ酸配列を含むVL)及び軽鎖定常領域、例えば、ヒトラムダまたはカッパ軽鎖定常領域をコードする核酸配列を含む。
【0177】
例えば、コドン/RNA最適化、異種シグナル配列を用いた置換、及びmRNA不安定化エレメントの排除により最適化される、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメインをコードするポリヌクレオチドも本明細書で提供する。コドン変化(例えば、遺伝子コードの縮重による同じアミノ酸をコードするコドン変化)の導入及び/またはmRNAの阻害性領域の排除による、組換え発現のために、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメントもしくはそのドメイン(例えば、重鎖、軽鎖、VHドメイン、またはVLドメイン)をコードする最適化された核酸の生成方法は、例えば、米国特許第5,965,726号;同第6,174,666号;同第6,291,664号;同第6,414,132号;及び同第6,794,498号に記載されている最適化方法を適合させることにより実施することができる。
【0178】
本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメインをコードするポリヌクレオチドは、当技術分野で周知の方法(例えば、PCR及び他の分子クローニング法)を使用して、好適な供給源(例えば、ハイブリドーマ)由来の核酸から生成することができる。例えば、既知の配列の3’及び5’末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用したPCR増幅は、目的の抗体を産生するハイブリドーマ細胞から得られたゲノムDNAを使用して実行することができる。かかるPCR増幅法を使用して、抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖及び/または重鎖をコードする配列を含む核酸を得ることができる。かかるPCR増幅法を使用して、抗体またはその抗原結合フラグメントの可変軽鎖領域及び/または可変重鎖領域をコードする配列を含む核酸を得ることができる。増幅させた核酸を、宿主細胞での発現及びさらなるクローニングのためにベクターにクローニングして、例えばキメラ及びヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントを生成することができる。
【0179】
本明細書で提供するポリヌクレオチドは、例えば、RNAの形態またはDNAの形態であり得る。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAが含まれ、DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖の場合、DNAは、コーディング鎖または非コーディング(アンチセンス)鎖であり得る。いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、cDNAまたは1つ以上(one more)の内因性イントロンを欠くDNAである。いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、天然に存在しないポリヌクレオチドである。いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、組換え的に産生される。いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、単離される。いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、実質的に純粋である。いくつかの態様では、ポリヌクレオチドは、天然成分から精製される。
【0180】
5.3.2 細胞及びベクター
ある特定の態様では、宿主細胞、好ましくは哺乳動物細胞内における組換え発現のための抗ヒトPILRA抗体及びその抗原結合フラグメントまたはそのドメインをコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含むベクター(例えば、発現ベクター)を本明細書で提供する。本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、ヒトまたはヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント)を組換え発現するためのかかるベクターを含む細胞、例えば宿主細胞も本明細書で提供する。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを産生するための方法を本明細書で提供し、本方法は、宿主細胞においてかかる抗体またはその抗原結合フラグメントを発現させることを含む。
【0181】
いくつかの態様では、ヒトPILRAに特異的に結合する、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメイン(例えば、本明細書に記載の重鎖または軽鎖)の組換え発現には、抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメインをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターの構築が含まれる。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメイン(例えば、重鎖または軽鎖可変ドメイン)をコードするポリヌクレオチドを取得したら、抗体またはその抗原結合フラグメントを産生するためのベクターを、当技術分野で周知の技術を使用して組換えDNA技術により産生することができる。ゆえに、抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメイン(例えば、軽鎖または重鎖)をコードするヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドを発現させることによるタンパク質の調製方法を本明細書に記載する。当業者に周知の方法を使用して、抗体またはその抗原結合フラグメントまたはそのドメイン(例えば、軽鎖または重鎖)をコードする配列ならびに適切な転写及び翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、及びインビボ遺伝子組換えが含まれる。また、プロモーターに作動可能に連結した、本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、重鎖もしくは軽鎖、重鎖もしくは軽鎖可変ドメイン、または重鎖もしくは軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む、複製可能なベクターも提供する。かかるベクターは、例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントの定常領域をコードするヌクレオチド配列を含み得(例えば、国際公開第WO86/05807号及び同第WO89/01036号;ならびに米国特許第5,122,464号を参照されたい)、抗体またはその抗原結合フラグメントの可変ドメインを、重鎖全体、軽鎖全体、または重鎖全体及び軽鎖全体の両方の発現のために、かかるベクターにクローニングすることができる。
【0182】
発現ベクターを、従来技術により細胞(例えば、宿主細胞)に移入することができ、次いで、得られた細胞を、従来技術によって培養して、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001の6つのCDR、VH、VL、VH及びVL、重鎖、軽鎖、または重鎖及び軽鎖を含む抗体またはその抗原結合フラグメント)またはそのドメイン(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のVH、VL、VH及びVL、重鎖、または軽鎖)を産生することができる。ゆえに、宿主細胞におけるかかる配列の発現のためのプロモーターに作動可能に連結した、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001の6つのCDR、VH、VL、VH及びVL、重鎖、軽鎖、または重鎖及び軽鎖を含む抗体またはその抗原結合フラグメント)またはそのドメイン(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のVH、VL、VH及びVL、重鎖、または軽鎖)をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を本明細書で提供する。いくつかの態様では、二本鎖抗体またはその抗原結合フラグメントの発現のために、以下に詳述するように、免疫グロブリン全体の発現のために、個別に、重鎖及び軽鎖の両方をコードするベクターを、宿主細胞で共発現させることができる。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書に記載の抗体の重鎖及び軽鎖(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001の重鎖及び軽鎖)の両方、またはそのドメイン(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のVH及びVL)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含有する。いくつかの態様では、宿主細胞は、2つの異なるベクター、すなわち、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖または重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含む第1のベクター、及び本明細書に記載の抗体(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001の6つのCDRを含む抗体)、またはそのドメインの軽鎖または軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含む第2のベクターを含有する。いくつかの態様では、第1の宿主細胞は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖または重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含む第1のベクターを含み、第2の宿主細胞は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001の6つのCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメント)の軽鎖または軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含む第2のベクターを含む。いくつかの態様では、第1の細胞が発現する重鎖/重鎖可変領域を、第2の細胞の軽鎖/軽鎖可変領域と会合させて、本明細書に記載のヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001の6つのCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメント)を形成する。いくつかの態様では、かかる第1の宿主細胞及びかかる第2の宿主細胞を含む宿主細胞集団を本明細書で提供する。
【0183】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖/軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含む第1のベクター、及び本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメント)の重鎖/重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含む第2のベクターを含むベクター集団を本明細書で提供する。あるいは、重鎖及び軽鎖ポリペプチドの両方をコードし、発現することができる単一のベクターを使用することができる。
【0184】
さまざまな宿主発現ベクター系を利用して、本明細書に記載の抗体及びその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメント)を発現させることができる(例えば、米国特許第5,807,715号を参照されたい)。かかる宿主発現系は、目的のコード配列を産生し、その後精製することができるビヒクルを表すが、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換または形質移入すると、in situで本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを発現することができる細胞も表す。これらには、限定されないが、抗体コード配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAもしくはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した微生物、例えば細菌(例えば大腸菌及びB.サブチリス(B.subtilis));抗体コード配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母(例えば、サッカロマイセス・ピキア(Saccharomyces Pichia));抗体コード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系;組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)で感染させるか、もしくは抗体コード配列を含有する組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換した植物細胞系(例えば、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)などの緑藻);または哺乳動物細胞のゲノム由来プロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)もしくは哺乳動物ウイルス由来プロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含有する組換え発現構築物を有する哺乳動物細胞系(例えば、COS(例えば、COS1またはCOS)、CHO、BHK、MDCK、HEK293、NS0、PER.C6、VERO、CRL7O3O、HsS78Bst、HeLa、及びNIH3T3、HEK-293T、HepG2、SP210、R1.1、B-W、L-M、BSC1、BSC40、YB/20及びBMT10細胞)が含まれる。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体及びその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメント)を発現するための細胞は、CHO細胞、例えば、CHO GS System(商標)(Lonza)由来のCHO細胞である。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体を発現するための細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒト細胞株である。いくつかの態様では、哺乳動物発現ベクターは、pOptiVEC(商標)またはpcDNA3.3である。いくつかの態様では、特に組換え抗体分子全体の発現のために、細菌細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)、または真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)を、組換え抗体分子の発現に使用する。例えば、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中初期遺伝子プロモーターエレメントなどのベクターと組み合わせたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞は、抗体の効果的な発現系である(Foecking MK&Hofstetter H(1986)Gene 45:101-105;及びCockett MI et al.,(1990)Biotechnology 8:662-667)。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、CHO細胞またはNS0細胞によって産生される。
【0185】
加えて、挿入した配列の発現を調節するか、または所望の特定の様式で遺伝子産物を修飾及びプロセシングする宿主細胞株を選択することができる。タンパク質産物のかかる修飾(例えば、グリコシル化)及びプロセシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能に寄与し得る。この目的のために、遺伝子産物の一次転写産物、グリコシル化、及びリン酸化の適切なプロセシングための細胞機構を保有する真核生物宿主細胞を使用することができる。かかる哺乳動物宿主細胞としては、限定されないが、CHO、VERO、BHK、Hela、MDCK、HEK293、NIH3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0(免疫グロブリン鎖を内因性に産生しないマウス骨髄腫細胞株)、CRL7O3O、COS(例えば、COS1またはCOS)、PER.C6、VERO、HsS78Bst、HEK-293T、HepG2、SP210、R1.1、B-W、L-M、BSC1、BSC40、YB/20、BMT10及びHsS78Bst細胞が含まれる。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、hPA-002、hPA-005、hPA-004、またはhPA-001のCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメント)は、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞で産生される。
【0186】
本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを組換え発現により産生したら、免疫グロブリン分子の精製のための当技術分野で公知の任意の方法、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、特にプロテインA後の特異的抗原に対する親和性、及びサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度、またはタンパク質精製のための他の標準的な技術により、精製することができる。さらに、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを、本明細書に記載またはそうでなければ当技術分野で公知の異種ポリペプチド配列に融合して、精製を容易にすることができる。
【0187】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントは、単離されるまたは精製される。一般に、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントとは異なる抗原特異性を有する他の抗体またはその抗原結合フラグメントを実質的に含まないものである。例えば、いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの調製物は、細胞物質及び/または化学前駆体を実質的に含まない。
【0188】
5.4 医薬組成物
本明細書に記載のような、抗PILRA抗体(例えば、抗ヒトPILRA抗体)またはその抗原結合フラグメントを含む組成物を本明細書で提供する。いくつかの態様では、所望の程度の純度を有する抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、生理学的に許容可能な担体、賦形剤または安定剤を含む製剤に存在する(Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990)Mack Publishing Co.,Easton,PA)。許容可能な担体、賦形剤、または安定化剤は、採用される投薬量及び濃度でレシピエントに対して非毒性である。非経口投与に好適な製剤には、製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び溶質を含み得る、水性及び非水性の等張性無菌注射液剤、ならびに、懸濁化剤、可溶化剤、粘稠化剤、安定剤及び防腐剤を含み得る、水性及び非水性の無菌懸濁剤が含まれる。
【0189】
いくつかの態様では、医薬組成物は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメント、及び医薬的に許容可能な担体を含む(例えば、Gennaro,Remington:The Science and Practice of Pharmacy with Facts and Comparisons:Drugfacts Plus,20th ed.(2003);Ansel et al.,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,7th ed.,Lippencott Williams and Wilkins(2004);Kibbe et al.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,3rd ed.,Pharmaceutical Press(2000)を参照されたい)。本明細書に記載の医薬組成物は、いくつかの態様では、医薬品として使用するためのものである。インビボ投与に使用される組成物は、無菌であり得る。これは、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
【0190】
本明細書に記載の医薬組成物は、インビボまたはインビトロで生物学的効果(複数可)を発揮するために使用することができる。例えば、本明細書に記載の医薬組成物を使用して、骨髄細胞を活性化し、骨髄細胞の分化を促進し、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数及び/もしくはかかるリガンドを発現する細胞(例えば、T細胞)へのPILRAの結合を阻害し、かつ/または細胞表面PILRAを下方制御することができる。
【0191】
本明細書に記載の医薬組成物を使用して、疾患または状態、例えば、骨髄細胞を活性化すること、骨髄細胞の分化を促進すること、PILRAのリガンドのうちの1つもしくは複数及び/もしくはかかるリガンドを発現する細胞(例えば、T細胞)へのPILRAの結合を阻害すること、ならびに/または細胞表面PILRAを下方制御することによって軽減され得る疾患または状態を処置することができる。本明細書に記載の医薬組成物を使用して、骨髄細胞が機能不全(例えば、低活性)であるかまたは欠損している疾患または状態、例えば、骨髄細胞の活性化または分化が望まれるか、または自然免疫系の活性化が望まれる疾患または状態を処置することができる。
【0192】
いくつかの態様では、本明細書で提供する医薬組成物を使用して、がんなどの疾患または状態を処置する。本明細書で提供する通りに処置することができるがんの例としては、固形腫瘍、例えば、固形腫瘍中の骨髄細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、好中球、ミクログリア(CNS内)または他の自然免疫細胞)が腫瘍微小環境に浸潤している固形腫瘍が挙げられる。本明細書で提供する医薬組成物によって処置することができるかかる癌の例としては、限定されないが、膠芽腫、頭頸部癌、腎臓癌(例えば、腎明細胞癌)、膵臓癌、及び乳癌が挙げられる。他のがんには、限定されないが、卵巣癌、肉腫、結腸直腸癌、肺癌、メラノーマ、膀胱癌、肝臓癌及び子宮癌が含まれる。いくつかの態様では、がんは、造血器がん、例えば、白血病、リンパ腫、または骨髄腫である。いくつかの態様では、がんは、初期段階のがんまたは後期段階のがんであり得る。いくつかの態様では、がんは、原発性腫瘍である。いくつかの態様では、がんは、上記がん種のいずれかに由来する、第2の部位での転移性腫瘍である。いくつかの態様では、がんは、PILRA陽性がんである。いくつかの態様では、がんは、PILRAが増加した(例えば、PILRA mRNAが増加した及び/またはPILRAタンパク質が増加した)がんである。
【0193】
いくつかの態様では、本明細書で提供する医薬組成物を使用して、神経変性疾患を処置する。いくつかの態様では、神経変性疾患は、機能不全(例えば、低活性)または欠損骨髄細胞、例えばミクログリアを特徴とする。いくつかの態様では、神経変性疾患は、免疫媒介性神経変性疾患である。いくつかの態様では、神経変性疾患は、アルツハイマー病、認知症、前頭側頭型認知症(FTD)、血管性認知症、軽度の認知障害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、タウオパチー病、多発性硬化症、免疫媒介性神経障害(例えば神経障害性疼痛)、那須ハコラ病、小児発症性白質脳症、軸索スフェロイド及び色素性グリアを伴う成人発症性白質脳症(ALSP)、及び辺縁系優位型加齢性TDP43脳症(LATE)から選択される。
【0194】
いくつかの態様では、本明細書で提供する医薬組成物を使用して、HSV-1感染を阻害する。いくつかの態様では、本明細書で提供する医薬組成物を使用して、HSV-1再発を阻害する。
【0195】
5.5 使用及び方法
さまざまな態様では、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を使用するインビトロ及びインビボでの方法を本明細書で提供する。一態様では、骨髄細胞を活性化する方法を提供し、本方法は、細胞を、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物に曝露することを含む。別の態様では、骨髄細胞の分化を促進する方法を提供し、本方法は、細胞を、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物に曝露することを含む。別の態様では、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数へのPILRAの結合を阻害する方法を提供し、本方法は、PILRAを、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物と、PILRAのリガンドのうちの1つまたは複数の存在下で接触させることを含む。例示的なリガンドには、グリコシル化タンパク質、例えば、PTPXP、PTPXXP、PXTPXP、またはPXTPXXPモチーフを伴うものが含まれる。例示的なリガンドには、例えば、COLEC12、NPDC1、CLEC4G、及びPIANP、ならびにHSV-1糖タンパク質Bが含まれる。ある特定の態様では、PILRA及び/またはそのリガンドのうちの1つまたは複数は、細胞上に発現している。別の態様では、細胞表面PILRAを下方制御する方法を提供し、本方法は、細胞の表面上にPILRAを発現する細胞を、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物に曝露することを含む。
【0196】
5.5.1 治療用途及び方法
いくつかの態様では、骨髄細胞活性化の増加を、それを必要とする対象(例えば、ヒト対象)において行うための方法を本明細書で提供し、本方法は、対象に、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を投与することを含む。いくつかの態様では、骨髄細胞分化の促進を、それを必要とする対象(例えば、ヒト対象)において行うための方法を本明細書で提供し、本方法は、対象に、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を投与することを含む。
【0197】
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象(例えば、ヒト対象)に投与して、対象におけるPILRAとそのリガンドのうちの1つまたは複数(例えば、NPDC1)との相互作用を阻害する方法を提供する。いくつかの態様では、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を、それを必要とする対象(例えば、ヒト対象)に投与して、対象における細胞表面PILRAを下方制御する方法を提供する。
【0198】
いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物は、上記効果のいずれか2つ以上を達成するために投与される。
【0199】
いくつかの態様では、骨髄細胞を活性化すること、骨髄細胞の分化を促進すること、PILRAのリガンドのうちの1つもしくは複数へのPILRAの結合を阻害すること、及び/または細胞表面PILRAを下方制御することによって軽減され得る疾患または状態を処置する方法を本明細書で提供する。かかる方法は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を、それを必要とする患者(例えば、ヒト患者)に投与することを含み得る。
【0200】
いくつかの態様では、骨髄細胞が機能不全(例えば、低活性)であるかまたは欠損している疾患または状態、例えば、骨髄細胞の活性化または分化が望まれるか、または自然免疫系の活性化が望まれる疾患または状態を処置する方法を本明細書で提供する。かかる方法は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を、それを必要とする患者(例えば、ヒト患者)に投与することを含み得る。骨髄細胞が機能不全である疾患または状態は、がんまたは神経変性疾患を含み得、これは本明細書でさらに説明する。
【0201】
いくつかの態様では、がんを処置する方法を本明細書で提供する。がんを処置する方法は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を、それを必要とする患者(例えば、ヒト患者)に投与することを含み得る。いくつかの態様では、がんを処置する方法を本明細書で提供し、がんは、固形腫瘍である。固形腫瘍には、固形腫瘍中の骨髄細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、好中球、ミクログリア(CNS内)または他の自然免疫細胞)が腫瘍微小環境に浸潤している固形腫瘍が含まれる。本明細書で提供する通りに処置することができるかかるがんの例としては、限定されないが、膠芽腫、頭頸部癌、腎臓癌(例えば、腎明細胞癌)、膵臓癌、及び乳癌が挙げられる。他のがんには、限定されないが、卵巣癌、肉腫、結腸直腸癌、肺癌、メラノーマ、膀胱癌、肝臓癌、及び子宮癌が含まれる。
【0202】
いくつかの態様では、本開示の方法によって処置されるがんには、限定するものではないが造血器がん、例えば、白血病、リンパ腫、または骨髄腫が含まれる。いくつかの態様では、本開示の方法によって処置されるがんは、初期段階のがんまたは後期段階のがんであり得る。いくつかの態様では、がんは、原発性腫瘍であり得る。いくつかの態様では、がんは、上記がん種のいずれかに由来する、第2の部位での転移性腫瘍であり得る。
【0203】
いくつかの態様では、本開示の方法によって処置されるがんは、PILRA陽性がんである。いくつかの態様では、本発明の方法によって処置されるがんは、PILRAが増加した(例えば、PILRA mRNAが増加した及び/またはPILRAタンパク質が増加した)がんである。
【0204】
いくつかの態様では、がんを処置する方法を提供し、本方法は、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物を投与することを含み、本方法は、阻害性免疫チェックポイント分子のアンタゴニストを投与することをさらに含む。いくつかの態様では、阻害性チェックポイント分子は、PD-1(プログラムされた細胞死タンパク質-1)またはそのリガンドPD-L1(プログラムされた死リガンド-1)である。いくつかの態様では、PD-1のアンタゴニストは、PD-1に対する抗体である。PD-1抗体には、例えば、OPDIVO(ニボルマブ)、KEYTRUDA(ペムブロリズマブ)、MEDI-0680(AMP-514;WO2012/145493)、カムレリズマブ(SHR-1210)、チスレリズマブ(BGB-A317)、またはスパルタリズマブ(NPVPDR001、NVS240118、PDR001)が含まれる。AMP-224と呼ばれる、IgG1のFc部分に結合したPD-L2(B7-DC)の細胞外ドメインから構成される組換えタンパク質も、PD-1受容体に拮抗するために使用できる。いくつかの態様では、PD-L1のアンタゴニストは、PD-L1に対する抗体である。PD-L1抗体には、例えば、TECENTRIQ(アテゾリズマブ)、デュルバルマブ(MEDI4736)、BMS-936559(W02007/005874)、MSB0010718C(WO2013/79174)、またはrHigM12B7が含まれる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその医薬組成物は、放射線療法及び/または化学療法剤と組み合わせて投与される。
【0205】
いくつかの態様では、HSV-1感染及び/またはHSV-1再発を阻害する方法を本明細書で提供する。HSV-1感染及び/または再発を阻害する方法は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を、それを必要とする患者(例えば、ヒト患者)に投与することを含むことができる。
【0206】
いくつかの態様では、神経変性疾患を処置する方法を本明細書で提供する。神経変性疾患を処置する方法は、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を、それを必要とする患者(例えば、ヒト患者)に投与することを含むことができる。いくつかの態様では、神経変性疾患は、機能不全(例えば、低活性)または欠損骨髄細胞、例えばミクログリアを特徴とする。ミクログリアは、脳内に特異的に存在し、マクロファージとして機能し、食作用の過程を通してデブリ及び死んだニューロンを取り除き、脳の健康を維持するための他の支援機能を提供する自然免疫細胞である。いくつかの態様では、患者は、神経変性疾患の症状を有し、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書に記載のその医薬組成物を投与して、神経変性疾患を処置する。いくつかの態様では、患者は、神経変性疾患を発症するリスクがあり、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメント、または医薬組成物を投与して、神経変性疾患のリスクを低下させる、発症を遅らせるか、または予防する。
【0207】
いくつかの態様では、神経変性疾患は、免疫媒介性神経変性疾患である。いくつかの態様では、神経変性疾患は、アルツハイマー病、認知症、前頭側頭型認知症(FTD)、血管性認知症、軽度の認知障害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、タウオパチー病、多発性硬化症(MS)、免疫媒介性神経障害(例えば神経障害性疼痛)、那須ハコラ病、小児発症性白質脳症、軸索スフェロイド及び色素性グリアを伴う成人発症性白質脳症(ALSP)、及び辺縁系優位型加齢性TDP43脳症(LATE)から選択される。
【0208】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も一般的な形態である。この疾患に治療法はなく、進行するにつれて悪化し、最終的には死に至る。ほとんどの場合、ADは、65歳を越えた人において診断される。しかしながら、低有病率の、早期発症型のアルツハイマー病は、はるかに若年において生じ得る。アルツハイマー病の一般的症状には、近時事象の想起困難などの行動症状;認知症状、混乱、易刺激性及び攻撃性、気分変動、言語障害、ならびに長期の記憶喪失が含まれる。疾患が進行するにつれて、身体機能が失われ、最終的に死に至る。アルツハイマー病は、完全に明らかになるまでに未知の可変時間量で発症し、何年も診断未確定で進行する場合がある。
【0209】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、アルツハイマー病を予防すること、リスクを低下させること、及び/または処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、アルツハイマー病を有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0210】
認知症
認知症は、これまでに障害のなかった人において、正常な加齢から予想され得るものを越える全体的認知能力の重度の損失として現れる非特異的症候群(すなわち、一連の徴候及び症状)である。認知症は、固有の全体的な脳損傷の結果として静的である場合もある。あるいは、認知症は進行性であり、身体の損傷または疾患のために長期的な衰退をもたらし得る。認知症は、高齢者集団においてより多く一般的に見られるが、65歳以前に発症することもある。認知症によって影響を受ける認知領域には、限定するものではないが、記憶、注意持続時間、言語、及び問題解決が含まれる。一般に、個体が認知症と診断されるまでには、少なくとも6ヶ月間、症状が存在する必要がある。
【0211】
認知症の例示的な形態には、限定するものではないが、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、意味性認知症及びレビー小体型認知症が含まれる。
【0212】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、認知症を予防すること、そのリスクを低下させること、及び/または認知症を処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、認知症を有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0213】
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症(FTD)は、脳の前頭葉の進行性の劣化から生じる病状である。この変性は、時間の経過とともに側頭葉に進む場合がある。罹患率では、FTDは、アルツハイマー病(AD)に次いで、初老年性認知症症例の20%を占める。FTDの臨床的特徴には、記憶障害、行動異常、人格変化、及び言語障害が含まれる(Cruts,M.&Van Broeckhoven,C.,Trends Genet.24:186-194(2008);Neary,D.,et al.,Neurology 51:1546-1554(1998);Ratnavalli,E.,Brayne,C.,Dawson,K.&Hodges,J.R.,Neurology 58:1615-1621(2002))。
【0214】
FTD症例のかなりの部分が常染色体優性の様式で遺伝するが、症状は、たとえ1つの家族であっても、行動障害を伴うFTDから、原発性進行性失語まで、大脳皮質基底核神経節変性症までの範囲にわたることがある。FTDは、ほとんどの神経変性疾患と同様に、罹患脳における特定のタンパク質凝集の病理学的存在によって特徴付けることができる。歴史的に、FTDに関する最初の記載は、神経原線維変化またはピック球における異常にリン酸化されたタウタンパク質の神経細胞内蓄積の存在を認めたものである。微小管関連タンパク質タウの因果的役割は、いくつかの家族において、タウタンパク質をコードする遺伝子の変異を特定することによって裏付けられた(Hutton,M.,et al.,Nature 393:702-705(1998)。しかしながら、FTD脳の大部分は、異常にリン酸化されたタウの蓄積を示さないが、ユビキチン(Ub)及びTAR DNA結合タンパク質(TDP43)に対して免疫反応性を呈する(Neumann,M.,et al.,Arch.Neurol.64:1388-1394(2007))。Ub封入体(FTD-U)を伴うこれらのFTD症例の大部分は、プログラニュリン遺伝子に突然変異を持つことが示された。
【0215】
いくつかの態様では、本開示の、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、FTDを予防すること、そのリスクを低下させること、及び/またはFTDを処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、FTDを有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0216】
パーキンソン病
パーキンソン病は、特発性または原発性パーキンソニズム、運動低下性硬直症候群(HRS)、または麻痺性アジタンと呼ばれることがあり、運動系の制御に影響を与える神経変性脳障害である。脳内のドーパミン産生細胞の進行性死がパーキンソン病の主要な症状をもたらす。ほとんどの場合、パーキンソン病は、50歳を越えた人において診断される。パーキンソン病は、ほとんどの人で特発性(原因不明)である。しかしながら、遺伝的要因もこの疾患に関与している。
【0217】
パーキンソン病の症状には、限定するものではないが、手、腕、足、顎及び顔の振戦、四肢及び胴の筋強剛、運動の遅さ(運動緩慢)、姿勢反射障害、歩行困難、神経精神障害、発語または行動の変化、うつ病、不安、疼痛、精神病、認知症、幻覚ならびに睡眠障害が含まれる。
【0218】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、パーキンソン病を予防すること、そのリスクを低下させること、及び/またはパーキンソン病を処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、パーキンソン病を有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0219】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
本明細書で使用する場合、筋萎縮性側索硬化症(ALS)または運動ニューロン疾患またはルーゲーリック病は、互換可能に使用され、急速な進行性衰弱、筋萎縮及び線維束性収縮、筋痙縮、発話困難(構音障害)、嚥下困難(嚥下障害)、ならびに呼吸困難(呼吸障害)を特徴とするさまざまな病因を有する衰弱性疾患を指す。
【0220】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、ALSを予防すること、そのリスクを低下させること、及び/またはALSを処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、筋萎縮性側索硬化症を有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0221】
ハンチントン病
ハンチントン病(HD)は、ハンチンチン遺伝子(HTT)の常染色体優性突然変異によって引き起こされる遺伝性神経変性疾患である。ハンチンチン遺伝子内のサイトカイン-アデニン-グアニン(CAG)のトリプレットリピートが拡大すると、当該遺伝子によってコードされたハンチンチンタンパク質(Htt)の突然変異体が産生される。この突然変異ハンチンチンタンパク質(mHtt)は、毒性であり、ニューロン死に寄与する。ハンチントン病の症状は、35~44歳の間に現れるのが最も一般的であるが、あらゆる年齢で発生し得る。
【0222】
ハンチントン病の症状には、限定するものではないが、運動制御障害、痙攣様不規則運動(舞踏運動)、異常な眼球運動、バランス障害、痙攣発作、咀嚼困難、嚥下困難、認知障害、発語変化、記憶障害、思考困難、不眠、疲労、認知症、人格変化、うつ病、不安、及び強迫的行動が含まれる。
【0223】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、ハンチントン病(HD)を予防すること、HDのリスクを低下させること、及び/またはHDを処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、ハンチントン病を有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0224】
タウオパチー病
タウオパチー病またはタウオパチーは、脳内における微小管関連タンパク質タウの凝集によって引き起こされる神経変性疾患の一種である。アルツハイマー病(AD)が最もよく知られたタウオパチー病であり、タウタンパク質がニューロン内で不溶性神経原線維変化(NFT)の形態で蓄積することを伴う。他のタウオパチー病及び障害には、進行性核上性麻痺、ボクサー認知症(慢性外傷性脳症)、17番染色体に関連する前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム、Lytico-Bodig病(グアムのパーキンソン-認知症複合)、神経原線維変化優性認知症、神経節膠腫及び神経節細胞腫、髄膜血管腫症、亜急性硬化性全脳炎、鉛脳症、結節性硬化症、ハレルフォルデン-スパッツ病、リポフスチン症、ピック病、皮質基底核変性症、嗜銀顆粒病(AGD)、ハンチントン病、ならびに前頭側頭葉変性症が含まれる。
【0225】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、タウオパチー病を予防すること、タウオパチー病のリスクを低下させること、及び/またはタウオパチー病を処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、タウオパチー病を有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0226】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、散在性硬化症または散在性脳脊髄炎と呼ばれることもある。MSは、脳及び脊髄の軸索を覆う脂質性ミエリン鞘が損傷を受けて、脱髄及び瘢痕化ならびに広範な徴候及び症状が生じる炎症性疾患である。MSは、脳及び脊髄の神経細胞が互いに有効的に情報伝達を行う能力に影響を及ぼす。神経細胞は、ミエリンと呼ばれる絶縁性物質内に含まれる軸索と呼ばれる長い線維に沿って活動電位と呼ばれる電気信号を送ることによって情報を伝達している。MSでは、身体自体の免疫系がミエリンを攻撃し、損傷を与える。ミエリンが失われると、軸索は、シグナル伝達を有効的に行うことができなくなる。MS発症は、通常、若年成人で起こり、女性でより一般的である。
【0227】
MSの症状には、限定するものではないが、感覚欠如またはヒリヒリ感などの感覚変化;感覚減退及び感覚異常などの刺痛またはしびれ感;筋力低下;クローヌス;筋痙攣;移動困難;運動失調などの協調及びバランス困難;構音障害などの発語障害、または嚥下障害などの嚥下困難;視覚問題、例えば、眼振、眼閃を含む視神経炎、及び複視;疲労;急性または慢性の疼痛;ならびに膀胱及び腸管障害;さまざまな程度の認知障害;うつ病または気分不安定の感情症状;通常の周辺温度よりも高い温度に曝されることにより現存する症状が憎悪するウートホフ現象;ならびに頸部を曲げると背中から下方に電気が走ったような感覚があるレルミット徴候が含まれる。
【0228】
いくつかの態様では、本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の投与は、MSを予防すること、MSのリスクを低下させること、及び/またはMSを処置することができる。いくつかの態様では、抗ヒトPILRA抗体、抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の投与は、MSを有する個体における1つまたは複数のPILRA活性を調節し得る。
【0229】
投与及び投薬
本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物は、任意の好適な手段、例えば、非経口、肺内、鼻腔内、腫瘍内、病巣内投与、脳脊髄内、頭蓋内、脊髄内、滑膜内、髄腔内、経口、局所、または吸入経路によって投与され得る。非経口注入には、筋肉内、ボーラスとしてのもしくは所定期間にわたる連続注入による静脈内投与、動脈内、関節内、腹腔内、または皮下投与が含まれる。いくつかの態様では、投与は、静脈内投与である。いくつかの態様では、投与は、皮下である。
【0230】
本明細書で提供する抗ヒトPILRA抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本明細書で提供するその医薬組成物の適切な投薬量及び投薬レジメンは、単独でまたは1つもしくは複数の他の追加の治療剤と組み合わせて使用する場合、処置される疾患、疾患の重症度及び経過、投与経路ならびにその他の要因に依存するだろう。
【0231】
いくつかの態様では、医薬品として使用するための本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を本明細書で提供する。
【0232】
いくつかの態様では、がんの処置のための方法において使用するための、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を本明細書で提供する。いくつかの態様では、有効量の本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を対象に投与することを含む、対象におけるがんの処置のための方法において使用するための、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を本明細書で提供する。
【0233】
いくつかの態様では、神経変性疾患の処置のための方法において使用するための、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を本明細書で提供する。いくつかの態様では、有効量の本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における神経変性疾患の処置のための方法において使用するための、本明細書で提供する抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物を本明細書で提供する。
【0234】
5.5.2 検出及び診断用途
本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、セクション5.2を参照されたい)を使用して、イムノアッセイ、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、免疫沈降法、ウェスタンブロット法を含む当業者に公知の古典的な方法を使用して、生体試料中のPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)レベルをアッセイすることができる。好適な抗体アッセイ標識は当技術分野で公知であり、酵素標識、例えばグルコースオキシダーゼ;放射性同位体、例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(121In)、及びテクネチウム(99Tc);発光標識、例えばルミノール;ならびに蛍光標識、例えば、フルオレセイン及びローダミン、ならびにビオチンが含まれる。かかる標識を使用して、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを標識することができる。あるいは、本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントを認識する第2の抗体またはその抗原結合フラグメントを標識し、抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントと組み合わせて使用して、PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)レベルを検出することができる。
【0235】
PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)の発現レベルに関するアッセイは、第1の生体試料中のPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)のレベルを、直接的に(例えば、絶対タンパク質レベルを決定または推定することにより)または相対的に(例えば、第2の生体試料中の疾患関連タンパク質レベルと比較することにより)、定性的または定量的に測定または推定することを含むことを意図している。第1の生体試料中のPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)発現レベルを測定または推定し、標準的なPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)レベルと比較することができ、標準は、障害を有していない個体から得た第2の生体試料から取得するか、または障害を有していない個体の集団からのレベルを平均化して決定する。当技術分野で理解されるように、「標準的な」PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)レベルが判明したら、これを比較用の標準として繰り返し使用することができる。
【0236】
本明細書で使用する場合、「生体試料」という用語は、対象、細胞株、組織、またはPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)を潜在的に発現する細胞の他の供給源から得られる任意の生体試料を指す。動物(例えば、ヒト)から組織生検及び体液を採取するための方法は、当技術分野で周知である。
【0237】
本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体は、当業者には周知でありかつ標準的であり、本明細書の記載に基づいた、インビトロ及びインビボ用途を含む、予後、診断、モニタリング及びスクリーニング用途に使用することができる。免疫系の状態及び/または免疫応答のインビトロアセスメント及び評価のための予後、診断、モニタリング及びスクリーニングアッセイ及びキットを利用して、予測、診断及びモニタリングして、免疫系の機能不全、がんまたは神経変性疾患、例えばアルツハイマー病を有すると判明しているかまたは疑われる患者の試料を含む患者の試料を評価してもよい。
【0238】
本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体及びその抗原結合フラグメントは、検出可能なまたは機能的な標識を保有することができる。蛍光標識を使用する場合、当技術分野で公知の現在利用可能な顕微鏡法及び蛍光活性化細胞選別分析(FACS)または両方の方法手順の組み合わせを利用して、特異的結合メンバーを同定及び定量してもよい。本明細書に記載の抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントは、蛍光標識を保有することができる。例示的な蛍光標識としては、例えば、反応性及び共役プローブ、例えば、アミノクマリン、フルオレセイン及びテキサスレッド、Alexa Fluor色素、Cy色素及びDyLight色素が挙げられる。抗ヒトPILRA抗体は、放射性標識、例えば、同位体3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、67Cu、90Y、99Tc、111In、117Lu、121I、124I、125I、131I、198Au、211At、213Bi、225Ac、及び186Reを保有することができる。放射性標識を使用する場合、当技術分野で公知の現在利用可能な計数手順を利用して、抗ヒトPILRA抗体または抗原結合フラグメントのPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)への特異的結合を同定及び定量してよい。標識が酵素である場合、検出は、当技術分野で公知の現在利用されている比色法、分光測光法、蛍光分光光度法、電流測定法またはガス測定法のいずれかによって達成され得る。これは、試料または対照試料を、抗ヒトPILRA抗体またはその抗原結合フラグメントと、抗体またはその抗原結合フラグメントとPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)との間で複合体の形成を可能にする条件下で接触させることにより達成することができる。抗体またはその抗原結合フラグメントとPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)との間に形成された任意の複合体を検出し、試料及び対照において比較する。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントのヒトPILRAへの特異的結合に照らして、抗体またはその抗原結合フラグメントを使用して、細胞の表面上でのPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)発現を特異的に検出することができる。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを使用して、免疫親和性精製を介してPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)を精製することもできる。
【0239】
PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)の存在の程度の定量的分析のための試験キットの形態で調製され得るアッセイシステムも本明細書に含まれる。システムまたは試験キットは、標識された成分、例えば、標識された抗体または抗原結合フラグメント、及び1つまたは複数の追加の免疫化学的試薬を含み得る。キットの詳細については、例えば、以下のセクション5.6を参照されたい。
【0240】
いくつかの態様では、試料中のPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)のインビトロ検出のための方法であって、前記試料を、抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させることを含む、方法を、本明細書で提供する。いくつかの態様では、試料中のPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)のインビトロ検出のための本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントの使用を本明細書で提供する。いくつかの態様では、対象または対象から得た試料中のPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)の検出に使用するための本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントまたは組成物を本明細書で提供する。いくつかの態様では、診断用として使用するための本明細書で提供する抗体またはその抗原結合フラグメントを本明細書で提供する。いくつかの態様では、抗体は、検出可能な標識を含む。
【0241】
5.6 キット
本明細書に記載の1つまたは複数の抗体またはその抗原結合フラグメントを含むキットを本明細書で提供する。いくつかの態様では、本明細書で提供する1つまたは複数の抗体またはその抗原結合フラグメントなどの、本明細書に記載の医薬組成物の成分のうちの1つまたは複数を充填した1つまたは複数の容器を含む医薬パックまたはキットを本明細書で提供する。かかる容器(複数可)には、任意選択で、医薬品または生物学的製品の製造、使用、または販売を規制する政府機関により規定される形式の通知書を添付することができ、その通知書は、ヒト投与に関する製造、使用または販売の機関による承認を反映したものである。
【0242】
また、検出方法において使用できるキットも本明細書で提供する。いくつかの態様では、キットは、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、好ましくは、精製された抗体またはその抗原結合フラグメントを、1つまたは複数の容器に含む。いくつかの態様では、本明細書に記載のキットは、対照として使用できる実質的に単離されたPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)を含有する。いくつかの態様では、本明細書に記載のキットは、PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)と反応しない対照抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含む。いくつかの態様では、本明細書に記載のキットは、PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)への抗体またはその抗原結合フラグメントの結合を検出するための1つまたは複数の要素を含有する(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、検出可能な基質、例えば、蛍光化合物、酵素基質、放射性化合物もしくは発光化合物にコンジュゲートすることができるか、または第1の抗体もしくはその抗原結合フラグメントを認識する第2の抗体もしくはその抗原結合フラグメントは、検出可能な基質にコンジュゲートすることができる)。いくつかの態様では、本明細書で提供するキットは、組換え的に産生された、または化学的に合成されたPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)を含むことができる。キットで提供されるPILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)は、固体支持体に付着させることもできる。いくつかの態様では、上記キットの検出手段には、PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)が付着する固体支持体が含まれる。かかるキットにはまた、非付着レポーター標識された、抗ヒト抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または抗マウス/ラット抗体もしくはその抗原結合フラグメントが含まれ得る。この態様では、PILRAタンパク質(例えば、ヒトPILRAタンパク質)への抗体またはその抗原結合フラグメントの結合は、前記レポーター標識抗体またはその抗原結合フラグメントの結合によって検出することができる。
【実施例】
【0243】
6.実施例
このセクション(すなわち、セクション6)における実施例は、例示として提供され、限定するものではない。
【0244】
実施例1:抗PILRA抗体はT細胞へのPILRAの結合を阻害する
ヒトPILRAがT細胞に結合する能力を試験するために、可溶性ヒトPILRA hIgG1 Fc構築物(「PILRA Fc」)を使用した。PILRA Fcのアミノ酸配列を、配列番号74で提供する。
QPSGSTGSGPSYLYGVTQPKHLSASMGGSVEIPFSFYYPWELATAPDVRISWRRGHFHGQSFYSTRPPSIHKDYVNRLFLNWTEGQKSGFLRISNLQKQDQSVYFCRVELDTRSSGRQQWQSIEGTKLSITQGQQRTKATTPAREPFQNTEEPYENIRNEGQNTDPKLNPKLHLTQSTSQPPSPQEPPERDPVLCLKGLTNGQPSQDADDDDKEPKSSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号74)
【0245】
PILRA FcまたはhIgG1アイソタイプ対照を、初代CD4+T細胞またはJurkat細胞と30分間4℃にてインキュベートした。細胞を2回洗浄した後、結合したPILRA FcまたはIgG1アイソタイプ対照を、抗ヒトIgG1 Alexa 647を用いて検出した。細胞を、BD FACS Cantoで取得し、平均蛍光強度を計算した。
図1Aに示すように、PILRA Fcの結合が、CD4
+T細胞及びJurkat細胞上で検出された。
【0246】
T細胞へのPILRA Fcの結合を阻害する抗PILRA抗体の能力を試験した。PILRA-Fcに結合し、T細胞へのPILRA-Fcの結合を遮断する抗PILRA抗体は、T細胞上のPILRAリガンドへのPILRA-Fcの結合を、遮断していると推定される。この活性を有する抗体は、同様に、T細胞上での内因性PILRAリガンドへの内因性PILRAの結合を、遮断することにおいて機能し、それにより、内因性PILRAの阻害性シグナル伝達を抑制すると予想され得る。
【0247】
抗PILRA抗体がT細胞へのPILRA Fcの結合を阻害する能力を試験するために、まずPILRA Fcを、10ug/mlの抗PILRA抗体、アイソタイプ対照IgG1、またはFACSバッファー単独と、30分間4℃にてインキュベートした。2人の健常ドナーからのCD4
+T細胞を加え、追加で30分間さらにインキュベートした。2回洗浄した後、CD4
+T細胞に結合したPILRA Fcを、抗ヒトIgG Alexa 647で検出した。抗PILRA抗体またはアイソタイプ対照の存在下でのPILRA Fc結合の程度を、FACSバッファー単独の存在下でのPILRA Fc結合の程度と比較して計算した。抗ヒトPILRA抗体2175B(R&D Systems)は、PILRA Fc結合を部分的に阻害した(
図1B)。対照的に、抗ヒトPILRA抗体2175D(R&D Systems)は、結合に影響を与えず、抗ヒトPILRAヒツジポリクローナル抗体(R&D Systems)は、結合を増加させた(
図1B)。結論として、T細胞へのPILRA Fcの結合は、使用される抗ヒトPILRA抗体に応じて阻害または増強され得る。
【0248】
実施例2:PILRAは骨髄由来抑制細胞の分化及び活性化を制御する
骨髄細胞活性化及び分化におけるPILRAの役割を決定するために、骨髄由来抑制細胞(MDSC)を、3人の健常ドナーの単球から、100ng/mlのGM-CSF及び100ng/mlのIL-6と5日間培養することによって生成した。次に、細胞を回収し、ビヒクルまたは漸増用量のmIgG1アイソタイプ対照もしくはヒトPILRA Fc(mIgG1)構築物(「PILRA mFc」)を用いて処理した。アミノ酸配列PILRA mFc構築物を、配列番号75で提供する。
QPSGSTGSGPSYLYGVTQPKHLSASMGGSVEIPFSFYYPWELATAPDVRISWRRGHFHGQSFYSTRPPSIHKDYVNRLFLNWTEGQKSGFLRISNLQKQDQSVYFCRVELDTRSSGRQQWQSIEGTKLSITQAVTTTTQRPSSMTTTWRLSSTTTTTGLRVTQGKRRSDSWHISLETAGGSGVPRDCGCKPCICTVPEVSSVFIFPPKPKDVLTITLTPKVTCVVVDISKDDPEVQFSWFVDDVEVHTAQTQPREEQFNSTFRSVSELPIMHQDWLNGKEFKCRVNSAAFPAPIEKTISKTKGRPKAPQVYTIPPPKEQMAKDKVSLTCMITDFFPEDITVEWQWNGQPAENYKNTQPIMDTDGSYFIYSKLNVQKSNWEAGNTFTCSVLHEGLHNHHTEKSLSHSPGK(配列番号75)
【0249】
PILRA mFcは、可溶性アンタゴニストとして作用し、これらの細胞上で発現するPILRAリガンドと結合し、細胞表面の内因性PILRA受容体とのその相互作用を防止する。3日間の処理後、細胞を回収し、MDSCの活性化を、CD14及びCD86に関して染色することにより調べた。CD14は、未成熟骨髄からより成熟した骨髄細胞型への分化時に下方制御される骨髄マーカーである。CD86は、骨髄細胞上の活性化マーカーであり、適応免疫応答の強力な活性化因子であり、原型のM1遺伝子である。
【0250】
図2Aは、ビヒクル、mIgG1、またはPILRA mFcで処理したMDSC上のCD14対CD86発現を示す代表的なFACSプロットを提供する。PILRA mFcを用いた処理は、CD14
loCD86
hi(活性化)骨髄細胞のパーセンテージを増加させ、このことは、PILRAの阻害性シグナル伝達を遮断すると、これらの細胞のより成熟した活性化表現型への分化が増強されたことを示す。それゆえ、抗PILRA抗体の遮断は、骨髄細胞の活性化及び分化の促進において同等の効果を有する予想され得る。
【0251】
図2Bは、3人のドナー(955、956、及び957)からのMDSCをmIgG1アイソタイプ対照またはPILRA mFcで処理した後のビヒクル処理細胞と比較した活性化骨髄細胞のパーセンテージを示す。PILRA mFcは、3人のドナーすべてからのMDSC試料における、CD14
loCD86
hi(活性化)骨髄細胞のパーセンテージによって測定した場合に、活性化骨髄細胞を増加させた。
【0252】
実施例3:PILRA FcはMIP1bのMDSC産生を誘導する
骨髄細胞活性化におけるPILRAの役割をさらに調査するために、骨髄由来抑制細胞(MDSC)を、2人のドナーから、血液由来単球を100ng/mlのGM-CSF及び100ng/mlのIL-6と5日間培養することによって生成した。次に、細胞を回収し、ビヒクルで、または漸増用量のhIgG1アイソタイプ対照もしくはPILRA Fcで処理した(実施例1の通り)。PILRA Fcは、可溶性アンタゴニストとして作用し、これらの細胞上で発現するPILRAリガンドと結合し、細胞表面の内因性PILRAとのその相互作用を防止する。3日間の処理後、馴化培地を回収し、MIP1b(CCL4)に関してアッセイした。MIP1bは、骨髄細胞及びリンパ球の動員を促進する化学誘引物質である。hIgG1アイソタイプ対照と比較して、PILRA Fcを使用したPILRA拮抗作用は、MIP1b産生を誘導した。これは、骨髄細胞活性化の増加と一致する(
図3)。
【0253】
実施例4:抗マウスPILRA抗体はヒトPILRAと結合しない
マウスPILRAに対する抗体を以下の通りに生成した。C57BL/7 PILRA-/-PILRB1-/-PILRB2-/-マウスを、マウスPILRA(mPILRA)タンパク質で免疫付与し、ハイブリドーマを、標準的な方法を使用して調製した。抗体を含有する135個の馴化培地試料を、親293F細胞またはヒトPILRA(hPILRA)、ヒトPILRB(hPILRB)、カニクイザルPILRA(cPILRA)、mPILRA、もしくはマウスPILRB(mPILRB1)を異所的に発現する293細胞への結合についてFACSによって評価した。簡潔には、抗体を含有する馴化培地を、293細胞と30分間4℃にてインキュベートし、2回洗浄した後、抗マウスIgG Alexa 647を用いて検出した。細胞を、FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析し、すべての細胞株について、293親細胞に対するMFI値を、各馴化培地に関して計算した。結果を、表8に報告する。15個の抗体が、5倍を超える結合のカットオフを使用してmPILRAバインダーとして同定された。これらのバインダーのうち、10個の抗体は、マウスPILRB(mPILRB)発現細胞への結合(5倍超)も示し、1つの抗体は、カニクイザルPILRA(cPILRA)発現細胞に結合した(5倍超)。これらの15個のmPILRAバインダーはいずれも、hPILRAにもhPILRB発現細胞にも結合しなかった。
【0254】
(表8)PILRA及びPILRBへの抗マウス抗体の結合
【0255】
実施例5:抗マウスPILRA抗体によってPILRA発現細胞へのNPDC1の結合が増加または低減することができる
上記の実施例4に記載の抗体を含有する135個の馴化培地試料を、マウスPILRAを異所的に発現する293細胞への神経増殖分化及び制御タンパク質1(NPDC1)Fcの結合の調節に関して評価した。簡潔には、抗体を含有する馴化培地試料を、マウスPILRAを発現する293細胞と30分間4℃にてインキュベートした後、5ug/mlのNPDC1 hIgG1 Fc(「NPDC Fc」)をこの混合物に加えた。4℃にて30分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、細胞結合NPDC1 hIgG1 Fcを、抗ヒトIgG Alexa 647を用いて検出した。細胞を、FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析し、すべての細胞株について、NPDC1 Fc結合単独に対する馴化培地の存在下でのNPDC1 Fc結合のパーセンテージを計算した。結果を、
図4に示す。NPDC-1を妨害した10個のブロッキング抗マウスPILRA抗体を同定した(mPA-001からmPA-009)。NPDC1 Fc結合を増加させた5つの抗マウスPIRLA抗体を同定した(mPA-011からmPA-015)。
【0256】
実施例6:抗ヒトPILRA抗体の産生
ヒトPILRAに対する抗体を、以下の通りに生成した。C57BL/7 PILRA-/-PILRB1-/-PILRB2-/-マウスを、ヒトPILRAタンパク質で免疫付与し、ハイブリドーマを、標準的な方法を使用して調製した。抗体を含有する300個の馴化培地試料を、親293細胞またはhPILRA、hPILRB、cPILRA、mPILRA、もしくはmPILRBを異所的に発現する293細胞への結合についてFACSによって評価した。簡潔には、抗体を含有する馴化培地を、293細胞と30分間4℃にてインキュベートし、2回洗浄した後、抗マウスIgG Alexa 647を用いて検出した。細胞を、FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析し、すべての細胞株について、293親細胞に対するMFI値を、各馴化培地に関して計算した。結果を、表9に示す。6つの抗体が、5倍を超える結合のカットオフを使用してヒトPILRAバインダーとして同定された。これらのバインダーのうち、1つの抗体は、ヒトPILRB及びカニクイザルPILRAを発現する293細胞への結合も示した。マウスPILRAに結合した抗体は同定されなかった。
【0257】
(表9)PILRA及びPILRBへの抗ヒト抗体の結合
【0258】
実施例7:抗ヒトPILRA抗体はT細胞へのPILRAの結合を阻害する
上の実施例6に記載の抗体を含有する300個の馴化培地試料が、ヒトCD3+T細胞へのPILRA Fcの結合を阻害する能力を評価した。簡潔には、抗体を含有する馴化培地を、1.25ug/mlのPILRA Fcと30分間4℃にてインキュベートした後、ヒトT細胞に加えた。4℃にて30分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、結合したPILRA Fcを、抗ヒトIgG Alexa 647を用いて検出した。細胞を、FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析し、すべての細胞株について、PILRA Fc結合単独に対する馴化培地の存在下でのPILRA Fc結合(MFI)の量及びPILRA Fc結合のパーセンテージを計算した。6つのブロッキング抗ヒトPILRA抗体を同定した(
図5)。
【0259】
実施例8:抗ヒトPILRA抗体は細胞表面PILRAを下方制御する
抗ヒトPILRA抗体を、細胞表面PILRAを下方制御する能力について試験した。上の実施例6に開示したハイブリドーマキャンペーン(hybridoma campaign)からの精製抗体(10μg/ml)を、ヒトPILRAのG78変異体を異所的に発現するシアリダーゼ処理293細胞と、30分間または2時間氷上でまたは37℃にてインキュベートした。次に、表面PILRAを、蛍光標識されたヒツジ抗ヒトPILRA(1μg/ml、R&D Systems)を用いて検出し、FACS Canto IIでフローサイトメトリーを使用して分析した。ヒトPILRA下方制御のパーセンテージを、37℃と比較して氷上で示された時点のインキュベーション後に検出された表面PILRAのレベルに関して正規化することによって計算した。
図6に示す結果は、抗ヒトPILRA抗体が、細胞表面ヒトPILRAを下方制御できることを実証する。
【0260】
実施例9:腫瘍におけるPILRAの発現
健常組織と比較した場合の、腫瘍におけるPILRAの発現を比較するために、TCGA由来のがん試料及びGTEX由来の正常試料からのRNAseqデータを、PILRA発現に関して分析した。結果を
図7に示し、ここで各ドットは、個々の試料を表す。これらの結果は、膠芽腫、頭頸部癌、腎臓癌、及び膵臓癌(各列の左側、ドット及び塗りつぶされていないボックスを示す)が、対応する健常組織(各列の右側、ドット及び塗りつぶされたボックスを示す)と比較して、PILRA発現が増加していることを実証する。理論に拘束されないが、発現の増加は、少なくともPILRA発現骨髄細胞の浸潤に起因する。
【0261】
実施例10:PILRAシグナル伝達の遮断は抗PD-L1抗体との組み合わせで腫瘍増殖を減少させる
腫瘍増殖に対するPILRAシグナル伝達の遮断の効果を、抗PD-L1抗体と組み合わせたPILRA-Fcを使用して調べた。mPILRA mIgG1 Fcは、PILRAリガンドに結合し、細胞表面PILRAによるシグナル伝達を防ぐことができるため、PILRA経路のアンタゴニストとして機能する。これらのアッセイでは、C57BL/6マウスに、MC38結腸癌細胞を皮下接種した。マウスに、抗体アイソタイプ対照(13mg/kg)、抗PD-L1(3mg/kg)、またはmPILRA mIgG1 Fc(10mg/kg)及び抗PD-L1抗体(3mg/kg)の組み合わせを、週に2回、3週間にわたって投薬した。
【0262】
図8は、結果として得られた腫瘍体積(左のグラフ)及び生存率(右のグラフ)を示す。抗PD-L1抗体のみを投与したマウスの群と比較して、抗PD-L1抗体と組み合わせてmPILRA mIgG1 Fcを投与したマウスの群において、腫瘍増殖の低減傾向が17日目及び20日目に観察された。さらに、抗PD-L1抗体のみを投与したマウスの群と比較して、抗PD-L1抗体と組み合わせてmPILRA mIgG1 Fcを投与したマウスの群において、生存率の増加傾向が観察された。これらのデータは、PILRAシグナル伝達の遮断は、抗PD-L1抗体と組み合わせて、腫瘍増殖を低減させ、生存率を増加させることができることを実証する。
【0263】
実施例11:hPA-002は高度に強力なリガンドブロッカーである
精製された抗hPILRA抗体を、これらの抗体のリガンド遮断力を計算するために、3人の別々のドナーからのヒトCD3+T細胞へのPILRA Fcの結合を遮断するその能力に関して評価した。各抗体に関してIC50値を計算し(平均+標準誤差)、それらを表10に示す。
【0264】
【0265】
hPA-002抗体は、2175B抗体よりも強力にPILRA Fcの結合を遮断する。hPA-005及びhPA-004は、2175Bと同様の効力を有する。
【0266】
実施例12:hPA-002、hPA-005、及びhPA-004はPILRAと競合的に結合するが、2175BはPILRAと競合的に結合しない
hPA-002、hPA-005、hPA-004、及び/または2175Bが、PILRAに競合的に結合するか否かを調べるために、293FS hPILRA発現細胞を、非標識2175B、hPA-002、hPA-005、またはhPA-004と30分間氷上でインキュベートした。次に、Alexa 647コンジュゲートhPA-002を5μg/mlの濃度にて加え、30分間さらにインキュベートした。洗浄後、結合したA647コンジュゲートhPA-002の量を、フローサイトメトリーによって評価した。結果は、
図9に示し、非標識hPA-002、hPA-005、及びhPA-004がhPA-002 A647の結合を遮断したのに対し、2175BはhPA-002 A647の結合を遮断しなかったことを実証する。これらのデータは、hPA-005及びhPA-004が、hPILRAへのhPA-002の結合を競合的に阻害するが、2175Bは、hPILRAへのhPA-002の結合を競合的に阻害しないことを実証する。
【0267】
実施例13:hPA-002、hPA-005、及びhPA-004はFc受容体による骨髄細胞の活性化を増強する
Fc受容体を介した活性化に対する抗PILRA抗体の効果を、この実施例に記載するようにU937骨髄細胞株及び誘導体を使用して評価した。U937親細胞、対照(スクランブルされた)ベクターを発現するU937細胞(U937対照細胞)、及びヒトPILRAを異所的に発現するU937細胞(PILRA OE細胞)を生成した。FACS分析を細胞に対して行って、PILRA発現の相対量を決定した。FACS分析は、PILRA OE細胞が高レベルのPILRAを発現し、U937親細胞またはU937対照細胞よりも約17倍高いのに対し、U937親細胞及びU937対照細胞は最小量のPILRAを発現することを示した。(
図10Aも参照されたい。)
【0268】
Fc受容体による骨髄細胞の活性化に対するhPA-002、hPA-005、及びhPA-004の効果を判定するために、96ウェルプレートを、一晩PBS中の30μg/mLマウスIgG2a(mIgG2a)でコーティングし、次にPBSで洗浄した。U937親細胞、U937対照細胞、及びPILRA OE細胞を、mIgG2aでコーティングしたウェルまたは未処理ウェルに加えた。可溶性IgG(陰性対照)、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004を、ウェルに10μg/mLで加えた。48時間後、馴化培地を、ケモカイン産生に関して評価した(MCP-1、
図10B;RANTES、
図10C)。
【0269】
mIgG2aでコーティングしたウェルのU937親細胞、U937対照細胞、及びPILRA OE細胞は、未処理ウェルの細胞と比較してMCP-1及びRANTES産生の増加を示し(
図10B及び
図10Cの黒いバーと白いバーを比較)、このことは、hIgG1と挙動が類似する、プレート結合mIgG2aが、細胞に結合し、Fc受容体を介して細胞を活性化することを示す。mIgG2aでコーティングされたウェルのPILRA OE細胞は、mIgG2aでコーティングされたウェルのU937親細胞及びU937対照細胞と比較して、MCP-1及びRANTES産生の増加が少なく、このことは、PILRAの過剰発現が骨髄細胞のFcを介した活性化を阻害することを示す(
図10B及び
図10C)。
図10B及び
図10Cは、抗PILRA抗体(hPA-002、hPA-005、及びhPA-004)が、対照IgGまたは培地のみの存在下でのFc受容体活性化を伴うPILRA OE細胞と比較して、(mIgG2aでコーティングされたウェルの)Fc受容体活性化を伴うPILRA OE細胞においてMCP-1及びRANTES産生を増加させたことも実証する。抗PILRA抗体(hPA-002、hPA-005、及びhPA-004)はまた、(mIgG2aで処理されていないウェルの)Fc受容体活性化を伴わないPILRA OE細胞と比較して、(mIgG2aでコーティングされたウェルの)Fc受容体活性化を伴うPILRA OE細胞においてMCP-1及びRANTES産生を増加させた。抗PILRA抗体は、mIgG2a処理の有無にかかわらず、U937親細胞またはU937対照細胞に対して一致した効果を示さなかった。ゆえに、これらのデータは、PILRAの過剰発現が、骨髄細胞のFc受容体を介した活性化を阻害し、hPA-002、hPA-005、hPA-004などの抗PILRA遮断抗体が、骨髄細胞のFc受容体を介した活性化を増強できることを実証する。
【0270】
実施例14:MCP-1産生に対する抗PILRA抗体の用量反応効果
U937 PILRA OE細胞におけるMCP-1産生に対する異なる濃度の抗PILRA抗体の用量反応効果を調べるために、96ウェルプレートを一晩PBS中の30μg/mLのmIgG2aでコーティングし、次にPBSで洗浄した。U937 PILRA OE細胞を、mIgG2aでコーティングしたウェルに加え、可溶性IgG(陰性対照)、hPA-002、hPA-005、hPA-004、及び2175B抗体を、さまざまな濃度にてウェルに加えた(
図11)。48時間後、馴化培地を、MCP-1産生に関して評価した。
【0271】
図11は、抗PILRA抗体hPA-002、hPA-005、及びhPA-004が、MCP-1産生を用量依存的に増加させるが、抗PILRA抗体2175Bは、MCP-1産生を阻害したことを示す。これらのデータは、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004がPILRAアンタゴニストであり、一方で2175BがPILRAアゴニストであることを示唆している。異なる機能的活性は、実施例12のデータ(
図9)と一致しており、これは、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004が競合的結合を実証するが、2175Bはそれを実証しないことを示し、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004が、2175Bとは異なるPILRAの領域に結合することを示唆している。
【0272】
実施例15:hPA-002、hPA-005、及びhPA-004は初代ヒト単球においてFc受容体活性化を増強する
初代ヒト単球におけるFc受容体を介した活性化に対する抗PILRA抗体(hPA-002、hPA-005、及びhPA-004)の効果を判定するために、96ウェルプレートを一晩PBS中の30μg/mLのmIgG2aでコーティングし、次にPBSで洗浄した。2人の異なるドナーからの初代ヒト単球を、mIgG2aでコーティングされたウェルまたは未処理ウェルに加えた。可溶性IgG(陰性対照)、hPA-002、hPA-005、及びhPA-004抗体を、10μg/mLにてウェルに加えた。48時間後、馴化培地を、MCP-1産生に関して評価した(
図12)。
【0273】
図12では、mIgG2aでコーティングされたウェルの初代ヒト単球は、未処理ウェルの初代ヒト単球と比較して、MCP-1産生の増加を示し、このことは、プレート結合mIgG2aがFc受容体を介して初代ヒト単球を活性化したことを示す。抗PILRA抗体hPA-002、hPA-005、及びhPA-004は、Fc受容体を介した活性化により、初代ヒト単球におけるMCP-1産生を増加させ、hPA-002が最も強い効果を示した。これらのデータは、抗PILRA抗体が、初代ヒト単球におけるFc受容体を介した活性化を増強できることを実証する。
【0274】
本発明は、本明細書に記載の特定の態様によって範囲を限定されるものではない。実際、記載したものに加えて本発明のさまざまな改変が、前述の説明及び添付の図面から当業者には明らかとなるだろう。そのような改変は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0275】
本明細書中に引用するすべての参考文献(例えば、刊行物または特許もしくは特許出願)は、あたかも各個々の参考文献(例えば、刊行物または特許もしくは特許出願)があらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれることを具体的かつ個別に示すのと同程度に、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0276】
他の実施形態は、以下の添付の特許請求の範囲内である。
【配列表】
【国際調査報告】