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▶ アディボ ゲーエムベーハーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-04
(54)【発明の名称】改変Fc領域
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230328BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230328BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230328BHJP
【FI】
C07K16/18
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P37/08
A61P35/00
A61P37/02
A61P25/04
A61P25/00
A61P27/02
A61P9/00
A61P31/00 171
C12N15/13 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549587
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(85)【翻訳文提出日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2021054057
(87)【国際公開番号】W WO2021165417
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】20158132.9
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】318016227
【氏名又は名称】アディボ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ブラント フェレナ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー クリスティナ
(72)【発明者】
【氏名】シュテルナー アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトフーバー マルクス
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB17
4C085CC23
4H045AA11
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
(57)【要約】
本発明は、変化した免疫エフェクター機能を有するイヌ抗体またはネコ抗体の改変定常ドメインおよびそれらの使用の分野に関する。より具体的には、本出願は、有意に低減したFcγRIおよびC1q結合を有する改変Fcフラグメントに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、該Fcフラグメントが、
野生型Fcフラグメントと比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択される、好ましくは、L235、S239、D270、および/またはP331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換
を含む、前記ポリペプチド。
【請求項2】
野生型配列が、Seq ID NO: 1~7、GeneBankアクセッション番号AF354264、AF354265、AF354266、AF354267のアミノ酸234~331(Kabatの番号付けによる)の配列、またはStriezelら、第220頁によって開示された配列のいずれかより選択される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記Fcフラグメントが、
アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331の少なくとも2つより、好ましくは、L235およびS239、L235およびD270、L235およびP331、L235およびP331、S239およびD270、S239およびP331、D270およびP331、M234およびL235、M234およびS239;M234およびD270;M234およびP331より選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換
を含む、請求項1または2記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記Fcフラグメントが、アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331より選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換を含み、
該2つのアミノ酸位置のうちの少なくとも1つが、239、270、および/または331より選択される、
前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記Fcフラグメントが、
アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331の少なくとも3つより、好ましくは、L235、S239、およびD270;S239、D270、およびP331;L235、D270、およびP331;またはL235、S239、およびP331より選択されるアミノ酸の少なくとも3つの置換
を含む、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記Fcフラグメントが、
アミノ酸位置234、235、239、270、および331より選択される、好ましくはアミノ酸235、239、270、および331である少なくとも4つの置換
を含む、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記1つまたは複数の置換がアラニンまたはグリシンによる置換であり、好ましくは、前記1つまたは複数の置換がL235A、S239A、D270A、および/またはP331Gである、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記イヌFcフラグメントが、IgGアイソタイプIgG-A、IgG-B、IgG-C、またはIgG-Dに由来する、最も好ましくは、IgGアイソタイプIgG-Bに由来するFcフラグメントである、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
SEQ ID NO: 8~29、好ましくは、SEQ ID NO: 18、19、26、27、または29より選択される配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
結合分子、好ましくは、抗体、抗体フラグメント、または、抗体フラグメントを含むポリペプチドである、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項11】
対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して、C1qおよび/またはFc受容体に対する低減した結合親和性を有する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項12】
前記Fc受容体がFcγRIまたはFcγRIIIである、請求項11記載のポリペプチド。
【請求項13】
対応する野生型ポリペプチドと比較して実質的に損なわれていない、FcRnおよび/またはプロテインAへの結合
を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項14】
前記ポリペプチドが、対象への投与の際に、対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して低減した免疫エフェクター機能を誘導し、好ましくは、該対象が、欠陥のない免疫系を有する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項15】
対象への投与の際に、対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して低減したADCCまたはCDCを誘導する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項16】
CTLA-4、EGF、Her1(Erb-B1、EGFR)、IgE、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-10、IL-12、IL-17、IL-17R、IL-18、IL-18R、IL-23、IL-31、IL-31R IL-33、IL-33R、インテグリンα4/β7、NGF、TNF-α、PD-1. PD-L1、VEGFより選択されるタンパク質に由来するエピトープに特異的に結合するドメインを含む、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項17】
イヌまたはネコ対象における、好ましくは炎症性疾患、アレルギー、癌、疼痛、(自己)免疫疾患、神経障害、眼疾患、心血管機能障害、または感染性疾患である疾患を治療する方法で使用するための、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、変化した免疫エフェクター機能を有するイヌ抗体またはネコ抗体の改変定常ドメインおよびそれらの使用の分野に関する。より具体的には、本出願は、有意に低減したFcγRIおよびC1q結合を有する改変Fcフラグメントに関する。
【0002】
添付の配列表(txt.形式)は、本出願の本開示内容の一部を形成する。
【背景技術】
【0003】
背景
免疫グロブリンGまたはIgG抗体は大きな四量体タンパク質である。各IgGタンパク質は、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成され、これらはジスルフィド結合によって互いに連結している。カッパ鎖およびラムダ鎖と称される2つのタイプの軽鎖が存在する。軽鎖のそれぞれは、1つの可変ドメイン(VL)および1つの定常ドメイン(CL)から構成される。また、重鎖は、1つの可変ドメイン(VH)ならびにCH1、CH2、およびCH3と称される3つの定常ドメインからなる。重鎖の中心部の非常に柔軟なアミノ酸ストレッチ、いわゆる「ヒンジ領域」は、CH1ドメインとCH2ドメインを連結する。
【0004】
原理上は、抗体は、2つの別々のサブユニット:重鎖のVHドメインおよびCH1ドメインと軽鎖からなる「Fab」フラグメントならびに重鎖の残りのドメインCH2およびCH3を含む「Fc」に分離され得る。Fabフラグメントは抗原の認識および結合に関与するが、Fcは免疫系と相互作用して、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性食作用(ADCP)、および補体依存性細胞傷害(CDC)などのエフェクター機能を媒介する。
【0005】
ヒト由来の免疫グロブリンG抗体(IgG)は広範に研究されており、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4と呼ばれる4つのヒトIgGサブクラスが、生物学的機能、生化学的特性、およびDNA配列に基づいて記載されている(Davies DR, Metzger H. Structural basis of antibody function. Annu Rev Immunol. 1983;1:87-117; Jefferis R, Lund J, Goodall M. Recognition sites on human IgG for Fc gamma receptors: the role of glycosylation. Immunol Lett. 1995;44(2-3):111-117; Shakib F. the human IgG subclasses. 1990. Pergamon Press, New York; Kenneth Murphy PT, Walport M)。各サブクラスは別個の特性を有し、補体タンパク質C1q、Fcγ受容体(FcγR)、および新生児型Fc受容体(FcRn)を含めた免疫エフェクタータンパク質に対する異なる結合親和性によって媒介される免疫系に別様に関与する。これらの相互作用パートナーは、それぞれ、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、および血清半減期に対して重要な役割を果たす。
【0006】
ヒトでは、補体活性化は、IgG1およびIgG3によって最も効果的に誘発される(Bruggemann M, Williams GT, Bindon CI, et al. Comparison of the effector functions of human immunoglobulins using a matched set of chimeric antibodies. J Exp Med. 1987;166(5):1351-1361; Michaelsen TE, Aase A, Westby C, Sandlie I. Enhancement of complement activation and cytolysis of human IgG3 by deletion of hinge exons. Scand J Immunol. 1990;32(5):517-528)。補体カスケードの第1のタンパク質であるC1qへの抗体定常ドメイン(Fc)の結合は、食細胞を活性化し、病原体を破壊するのに役立つ補体を惹起する(Schifferli JA, Ng YC, Peters DK. the role of complement and its receptor in the elimination of immune complexes. N Engl J Med. 1986;315(8):488-495; Garred P, Michaelsen TE, Aase A. the IgG subclass pattern of complement activation depends on epitope density and antibody and complement concentration. Scand J Immunol. 1989;30(3):379-382; Moore GL, Chen H, Karki S, Lazar GA. Engineered Fc variant antibodies with enhanced ability to recruit complement and mediate effector functions. MAbs. 2010;2(2):181-189)。ヒトIgGサブクラスが血液単核細胞によってADCCを誘発する能力は、IgG1およびIgG3について、最も強いことが示されている。FcγRIおよびFcγRIIIへのこれらのサブクラスの高親和性は、ADCC活性と関係がある。これに対して、阻害性受容体、FcγRIIbへの他のサブクラスの結合は、低いADCC活性に寄与する(Daeron M. Fc receptor biology. Annu Rev Immunol. 1997;15:203-234; Armour KL, Clark MR, Hadley AG, Williamson LM. Recombinant human IgG molecules lacking Fc gamma receptor I binding and monocyte triggering activities. Eur J Immunol. 1999; 29(8):2613-2624;2-J; Clynes RA, Towers TL, Presta LG, Ravetch JV. Inhibitory Fc receptors modulate in vivo cytotoxicity against tumor targets. Nat Med. 2000;6(4):443-446)。上皮細胞上のFcRnへの抗体結合は抗体のリサイクルと関係があり、血清半減期と相関的である(Ghetie V, Hubbard JG, Kim JK, Tsen MF, Lee Y, Ward ES. Abnormally short serum half-lives of IgG in beta 2-microglobulin-deficient mice. Eur J Immunol. 1996;26(3):690-696, Wilsker DF, Hayes KC, Schoenfeld D, Simister NE. Increased clearance of IgG in mice that lack beta 2-microglobulin: possible protective role of FcRn. Immunology. 1996;89(4):573-578; Praetor A, Hunziker W. beta(2)-Microglobulin is important for cell surface expression and pH-dependent IgG binding of human FcRn. J Cell Sci. 2002;115(Pt 11):2389-2397.; Jefferis R. Antibody therapeutics: isotype and glycoform selection. Expert Opin Biol Ther. 2007;7(9):1401-1413)。
【0007】
ヒトIgGに加えて、げっ歯類(マウスおよびラット)の免疫グロブリンクラスが良く特徴付けられている。これに対して、イヌまたはネコなどの伴侶動物のIgGサブクラスの機能的特性についてはあまり分かっていない。
【0008】
イヌIgGは、caIgG-A(HC-A)、caIgG-B(HC-B)、caIgG-C(HC-C)、およびcaIgG-D(HC-D)と称される4つのサブクラスからなる(Tang L, Sampson C, Dreitz MJ, McCall C. Cloning and characterization of cDNAs encoding four different canine immunoglobulin gamma chains. Vet Immunol Immunopathol. 2001;80(3-4):259-270)。さらに、ヒト受容体I、IIA、IIB、およびIIIと類似しているイヌFcγRが記載されている(Nimmerjahn F, Ravetch JV. Fc gamma receptors: old friends and new family members. Immunity. 2006;24(1):19-28)が、阻害性のイヌFcγRIIAは、別の研究では確かめることができなかった(Bergeron LM, McCandless EE, Dunham S, et al. Comparative functional characterization of canine IgG subclasses. Vet Immunol Immunopathol. 2014;157(1-2):31-41)。インビトロ結合実験によって、イヌのHC-BおよびHC-CはイヌFcγRに強く結合するが、HC-Aは弱く結合するだけであることが明らかになった(Bergeron, 2013)。同様に、HC-BおよびHC-Cは、ヒトC1qタンパク質に強固に結合するが、HC-AおよびHC-Dは、ほとんど親和性無しからまったく親和性無しで結合することが報告された(Bergeron, 2013)。HC-Cを除いて、イヌのサブクラスすべてはFcRnに強く結合する(Bergeron, 2013)。
【0009】
抗体精製ストラテジーは、典型的には、ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程を含む。イヌのサブクラス4つのうちHC-Bのみが、プロテインAに強く結合することを報告されている。HC-Aはブドウ球菌プロテインAに対して弱い親和性を有し、HC-CサブクラスとHC-Dサブクラスの両方は結合しない。しかし、連鎖球菌(Streptococcus)プロテインG樹脂を使用して、4つのイヌのサブクラスすべてを精製することができる(Bergeron, 2013)。
【0010】
治療の用途に応じて、それぞれの抗体サブクラスの選択は極めて重要であり、免疫系の体液性もしくは細胞性成分の関与が有利であるかどうか、またはさらに薬物の望まれない副作用につながり得るかどうかが考慮される必要がある。例えば、腫瘍細胞増殖または病原体に対する治療抗体は、強いエフェクター機能を有するべきである。これに対して、受容体-リガンド相互作用を防止するために正常細胞の可溶性メディエーターまたは細胞表面受容体を標的化することは、典型的には、標的細胞の死または望まれないサイトカイン分泌を防止するために、いかなるCDC活性もADCC活性も存在しないことを必要とする。サイレントな抗体形式が必要である疾患領域は、限定されないが、炎症性疾患(例えば、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患)、アレルギー(例えば、喘息)、疼痛(例えば、骨関節炎の疼痛、癌の疼痛、腰の疼痛)、および眼疾患(例えば、加齢性黄斑変性)を含む。
【0011】
IgG抗体は、ファミリーFc受容体へのそのFc部分の結合を介してADCCなどのエフェクター機能を媒介するが、CDCは補体の第1の成分、すなわちC1qへのFcの結合を介して媒介されることが周知である。エフェクター機能の増強または排除は、それぞれの相互作用分子の親和性を変化させる、抗体のFc部分中の突然変異を介して、達成することができる。そのエフェクター機能をモジュレートするために抗体分子中に導入することができるアミノ酸置換を記載する多数の報告が先行技術において存在する。例えば、非グリコシル化抗体をもたらす、ヒトIgG1におけるアスパラギンからアラニンへ(N297A)の置換は、いくつかのFc受容体への抗体結合を有意に低減させる(Shields RL, Namenuk AK, Hong K, et al. High resolution mapping of the binding site on human IgG1 for Fc gamma RI, Fc gamma RII, Fc gamma RIII, and FcRn and design of IgG1 variants with improved binding to the Fc gamma R. J Biol Chem. 2001;276(9):6591-6604)。さらに、アスパラギン酸からアラニンへ(D265A)の置換もFc受容体への抗体の結合を有意に低減させる。N297AおよびD265A置換のそれぞれは、CDCを有意に損なうことも示された(Shields 2001)。抗体においてエフェクター機能を低減させるかまたは排除する潜在的な置換を特定する他の同様の報告がある(例えば、Xu D, Alegre ML, Varga SS, et al. In vitro characterization of five humanized OKT3 effector function variant antibodies. Cell Immunol. 2000;200(1):16-26; Alegre ML, Collins AM, Pulito VL, et al. Effect of a single amino acid mutation on the activating and immunosuppressive properties of a "humanized" OKT3 monoclonal antibody. J Immunol. 1992;148(11):3461-3468.; Bolt S, Routledge E, Lloyd I, et al. the generation of a humanized, non-mitogenic CD3 monoclonal antibody which retains in vitro immunosuppressive properties. Eur J Immunol. 1993;23(2):403-411; Tao MH, Morrison SL. Studies of aglycosylated chimeric mouse-human IgG. Role of carbohydrate in the structure and effector functions mediated by the human IgG constant region. J Immunol. 1989;143(8):2595-2601.; Walker MR, Lund J, Thompson KM, Jefferis R. Aglycosylation of human IgG1 and IgG3 monoclonal antibodies can eliminate recognition by human cells expressing Fc gamma RI and/or Fc gamma RII receptors. Biochem J. 1989;259(2):347-353)。
【0012】
N297残基はヒトだけでなく全クラスの哺乳動物、特に、イヌ、ネコ、ウシ、ラクダ、ウマ、マカク、サル、オポッサム、マウス、ウサギ、ヒツジ、チンパンジー、ラット、およびブタでも保存されている。多数の種にわたる残基の強い保存は、それぞれの残基の保存された機能と表現型的に関連していることが一般に公知であり、他の種のいずれかにおけるN297A突然変異の導入は、ヒトにおいて示されるように、免疫エフェクター機能を低減させる可能性があると考えられる。
【0013】
したがって、EP 2 705 057 A1は、イヌHC-BおよびHC-Cにおけるアスパラギンからアラニンへ(N297A)の置換の導入によって生成された非グリコシル化イヌ抗体を開示する。このバリアントは、実際には、C1qへの結合の無効化または縮小を特徴とする。しかし、非グリコシル化は、Chenら(Chen TF, Sazinsky SL, Houde D, et al. Engineering Aglycosylated IgG Variants with Wild-Type or Improved Binding Affinity to Human Fc Gamma RIIA and Fc Gamma RIIIAs. J Mol Biol. 2017;429(16):2528-2541)によって示されるように、抗体の血漿内半減期に負に影響を及ぼす可能性があり、したがって、組換え抗体のより高い用量またはより高頻度の投与を必要とする可能性がある。さらに、非グリコシル化は熱安定性を低下させる可能性があり(Ghirlando R, Lund J, Goodall M, Jefferis R. Glycosylation of human IgG-Fc: influences on structure revealed by differential scanning micro-calorimetry. Immunol Lett. 1999;68(1):47-52.)、かつタンパク質分解への感受性を高める可能性がある(Raju TS, Scallon BJ. Glycosylation in the Fc domain of IgG increases resistance to proteolytic cleavage by papain. Biochem Biophys Res Commun. 2006;341(3):797-803.)。
【0014】
また、HC-AおよびHC-DサブタイプはC1qに結合しないことが報告されており、補体活性化ならびに潜在的に他の下流のエフェクター機能、例えば、ADCCおよびADCPをもたらさなかった。
【0015】
HC-AおよびHC-Dアイソタイプのイヌ抗体は、標的の中和が必要とされない適用のために望ましい、補体への結合の欠如を有するが、これらはブドウ球菌プロテインAに弱く結合するだけであり、このことは、商業的に実行可能な製造および精製方法の開発をより複雑にする。これに対して、非グリコシル化イヌHC-B抗体はブドウ球菌プロテインAへの結合を保持し、このことは、このバリアントを、エフェクター機能を欠くより適切な候補にする。ヒト抗体について、非グリコシル化アプローチは、低親和性FcγRへの結合ならびにCDCおよびADCCなどのエフェクター機能を抑止することに成功したと判明した。しかし、結合活性ベースの結合条件下で、エフェクター機能が保持され得ることも認められた(Lo M, Kim HS, Tong RK, et al. Effector-attenuating Substitutions That Maintain Antibody Stability and Reduce Toxicity in Mice. J Biol Chem. 2017;292(9):3900-3908; Nesspor TC, Raju TS, Chin CN, Vafa O, Brezski RJ. Avidity confers FcγR binding and immune effector function to aglycosylated immunoglobulin G1. J Mol Recognit. 2012;25(3):147-154)。さらに、別の研究(WO 2015/091910 A2)で開示されるように、ヒトIgG1のものと類似しており、非グリコシル化抗体をもたらす、イヌHC-Bにおける位置N297Aでの単一置換は、対応するイヌ抗体においてADCCとCDCの両方のエフェクター機能を完全に排除しない。
【0016】
「サイレントな」イヌ治療抗体形式を開発するために、天然に存在するイヌIgGサブクラスと非グリコシル化HC-Bバリアントのどれも、すべての必要とされる特性、すなわち、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性食作用(ADCP)、および補体依存性細胞傷害(CDC)などのエフェクター機能の欠如、長いインビボ半減期、ならびにプロテインAクロマトグラフィーなどの業界標準によって精製される可能性を満たさない。
【0017】
上述のN297A突然変異体に付け加えて、いくつかの他のサイレンシング突然変異体が先行技術で公知である。
【0018】
WO 2018/073185 A1は、残基253、255、257における突然変異が、定常領域のFcRn結合を増大させることができることを開示する。しかし、ADCCに対してもCDCに対しても効果は示されなかった。
【0019】
WO 2019/035010 A1は、イヌのIgG-BおよびIgG-Cの、IgG-AおよびIgG-Dと比較したタンパク質配列および3D構造モデリングの解析後に特定された残基5、38、38、97、98における突然変異が、ADCC活性に影響を及ぼす可能性があることを推測する。しかし、この仮説は実験的に確かめられなかった。
【0020】
WO 2015/091910 A2は、残基4、31、63、93、および95における突然変異がC1q結合およびFcγRI結合を低減させることを開示する。しかし、FcRnへの結合が同様に低下しないことは示されなかった。
【0021】
ネコIgGの機能的特性については、ほとんど公知でない。ネコのIgG1aおよび1bと称される2つの対立遺伝子配列が記載されており、それらはヒトIgG1と同様に機能し、インビボで強いエフェクター機能を誘導することが期待される(Strietzel CJ, Bergeron LM, Oliphant T, Mutchler VT, Choromanski LJ, Bainbridge G. In vitro functional characterization of feline IgGs. Vet Immunol Immunopathol. 2014;158(3-4):214-223)。同じ著者らは、ネコIgG2と現在称されるまれなIgG配列の存在を報告する。このさらなるIgGは、組換えfFcγRIにもfFcγRIIIにも結合せず、hC1qへの無視できるほどの結合しか有さず、これはエフェクター機能の欠如を示す。
【0022】
本発明の根底にある問題は、当技術分野において公知のFcフラグメントの欠点を克服する、C1qおよびFcγRへの結合が増した、低下した、または排除されたイヌ抗体およびネコ抗体のFcフラグメントの提供であった。
【発明の概要】
【0023】
本発明の根底にある問題は、添付の特許請求の範囲による、および本明細書においてさらに記載されるポリペプチドおよび方法によって解決される。
【0024】
本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fcフラグメントが、野生型Fcフラグメントと比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換を含む、ポリペプチドを提供することによって、前記問題を解決する。好ましくは、FcフラグメントはイヌIgGのアイソタイプBに由来する。
【0025】
好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fcフラグメントが、位置234、235、239、270、および/または331のアミノ酸の少なくとも2つより選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換を含む、ポリペプチドに関する。より好ましくは、2つのアミノ酸は、235および239;235および270;235および331;239および270;239および331;270および331、234および235、234および239;234および270;または234および331である。
【0026】
別の好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fcフラグメントが、アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331の少なくとも3つより選択されるアミノ酸の少なくとも3つの置換を含む、ポリペプチドに関する。より好ましくは、3つのアミノ酸位置は、235、239、および270;239、270、および331;235、270、および331;または235、239、および331である。
【0027】
別の好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fcフラグメントが、アミノ酸位置234、235、239、270、および331、より好ましくは235、239、270、および331、最も好ましくはアミノ酸L235、S239、D270、およびP331より選択されるアミノ酸の少なくとも4つの置換を含む、ポリペプチドに関する。
【0028】
本発明によるポリペプチドは、SEQ ID NO: 8~SEQ ID NO: 29、より好ましくはSEQ ID NO: 18、19、26、27、または29を含むことができる。最も好ましくは、ポリペプチドはSEQ ID NO: 19または27を含む。
【0029】
驚いたことに、本発明によるポリペプチドは、対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して、C1qおよび/またはFc受容体に対する結合親和性の低減を示す。欠陥がない免疫系の生理的条件下において、C1qおよび/またはFcγRIへの結合の低減または結合の縮小は、補体依存性細胞傷害(CDC)の免疫エフェクター機能の低減または完全な排除および抗体依存性細胞傷害(ADCC)の誘導をもたらす。Fcフラグメント中に少なくとも1つの置換を含むポリペプチドのC1qおよび/もしくはFcγRIへの結合の低減もしくは結合の縮小、ならびに/またはその結果として生じるCDCもしくはADCCの低減もしくは完全な排除は、本明細書において「サイレンシング」とも称される。
【0030】
好ましくはポリペプチドがイヌIgGのアイソタイプBに由来する、本発明の一態様では、Fcフラグメントは、驚いたことに、結新生児型Fc受容体(FcRn)およびプロテインAに結合する能力を維持する。
【0031】
図4に示すように、本発明による、HC-Bアイソタイプの突然変異Fcフラグメントを含むポリペプチドは、新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する能力を維持する。
【0032】
本発明を以下でより詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
第1の局面では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、野生型Fc領域と比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換を含む、ポリペプチドに関する。好ましくは、Fc領域はイヌIgGのアイソタイプBに由来する。
【0034】
特定の態様について特に明記されない限り、イヌまたはネコのFc領域をヒトIgG1に対して整列させる場合、本明細書において言及される「アミノ酸位置」は、EU番号付けシステムによるアミノ酸の位置の番号である(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)). Woof et al. Molec. Immunol. 23:319-330 (1986); Duncan et al. Nature 332:563 (1988); Canfield and Morrison, J. Exp. Med. 173:1483-1491 (1991); Chappel et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 88:9036-9040 (1991)。イヌまたはネコのFc領域における位置の番号は、整列させたヒトIgGにおける位置の番号に対応する。図6aおよびbに示すように、ヒト配列に対するイヌおよびネコの配列のアライメントは、イヌおよびネコの配列中にギャップをもたらす。したがって、いくつかの配列は、連続した番号付けのすべての数字(digit)でアミノ酸を有さない。EU番号付けシステムは元々ヒトIgG1抗体に適用されたが、これは、他の種の抗体にも適用される。EUシステムによる、抗体または抗体由来分子におけるアミノ酸の位置の番号は、抗体のための改変的なアミノ酸番号付けシステム、例えば、Chothia(Chhota C & Lesk AM (1987) Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins. J Mol Biol.196(4):901-17; Chothia C, Lesk AM, Tramontano A, Levitt M, Smith-Gill SJ, Air G, Sheriff S, Padlan EA, Davies D, Tulip WR (1989) Conformations of immunoglobulin hypervariable regions. Nature. 342(6252):877-83)またはIMGT(Lefranc MP, Giudicelli V, Ginestoux C, Bodmer J, Muller W, Bontrop R, Lemaitre M, Malik A, Barbie V, Chaume D (1999) IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. 27(1):209-12)による番号付けシステムに容易に変えることができる。図6は、EUシステムによる番号付けを用いた、イヌおよびネコのFcの野生型配列を示す。
【0035】
本発明によるアミノ酸の位置の番号は、Tang et al.(Tang L, Sampson C, Dreitz MJ, McCall C (2001) Cloning and characterization of cDNAs encoding four different canine immunoglobulin gamma chains. Vet Immunol Immunopathol. 80 (3-4):259-70)の266頁の図2に示されるように、アライメント中の位置に従って割り当てることもできる。Tang et al.による位置の番号付けも割り当て中にギャップを含み、かつ、Fc領域の第1のアミノ酸からではなく、CDRおよびリーダー配列を含む完全イヌ抗体のN末端から開始することに留意されたい。Tang et al.によるこの代替の番号付けでは、アミノ酸位置番号262、263、267、298、および359は、EU番号付けのそれぞれ234、235、239、270、および331に対応する。
【0036】
用語「Fcフラグメント」は、完全な定常重鎖領域2(C2もしくはCH2)および定常重鎖領域3(C3もしくはCH3)の少なくとも一部またはその全体を含む免疫グロブリンのフラグメント、あるいはパパイン消化によって得られる免疫グロブリンの結晶化可能なフラグメントのフラグメントに関する。フラグメントは、より大きなポリペプチド配列の一部と理解される。したがって、「フラグメント」は、通常、C末端および/またはN末端に結合したアミノ酸配列を有すると考えられる。用語「C2」または「CH2」および用語「C3」または「CH3」は、互換的に使用することができる。さらに、用語「Fc領域」および「Fcドメイン」は、特に明確に記載されない限り、免疫グロブリンFc CH2およびCH3配列に言及する場合に、互換的に使用することができる。本発明の文脈内で、イヌ免疫グロブリンのアイソタイプHC-A、HC-B、HC-C、およびHC-DについてのCH2領域とCH3領域の境界部位は、参照により本明細書に組み入れられる、Tang et al.(Tang L, Sampson C, Dreitz MJ, McCall C (2001) Cloning and characterization of cDNAs encoding four different canine immunoglobulin gamma chains. Vet Immunol Immunopathol. 80 (3-4):259-70)に従って定義される。
【0037】
本発明によるFc領域は、イヌ由来のFc領域、したがってイヌFc領域、またはネコ由来のFc領域、したがってネコFc領域である。
【0038】
用語「イヌ(dogまたはcanine)」は、すべてのイエイヌ、カニス・ルプス・ファミリアリス(Canis lupus familiaris)またはカニス・ファミリアス(Canis familiaris)を指す。同様に、用語「ネコ(catまたはfeline)」は、イエネコ、フェリス・カトゥス(Felis catus)、フェリス・カトゥス・ドメスティカス(Felis catus domesticus)、フェラス・アンゴレンシス(Felus angorensis)、およびフェリス・ブルガリス(Felis vulgaris)を指す。
【0039】
本発明によるFc領域は、野生型Fc領域と比較して、アミノ酸の少なくとも1つの置換を含む。用語「置換」は、少なくとも別のアミノ酸による、好ましくは1つのアミノ酸での配列中のアミノ酸の置き換えを指す。本発明のポリペプチドは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上のアミノ置換を含むことができる。
【0040】
本発明の文脈内で、「野生型」Fc領域は、例えば遺伝子工学の方法で突然変異を導入することによって人工的に提供されていない、天然に存在するアミノ酸配列を有するFc領域である。野生型Fc領域と比較して、アミノ酸の少なくとも1つの置換を含む、本発明によるFc領域の野生型配列は、本明細書において、「対応する野生型」または「対応する野生型配列」とも称される。「野生型」と比較して、アミノ酸の少なくとも1つの置換を含むFc領域は、本発明の文脈内で「突然変異体」とも称される。
【0041】
本発明によるFc領域は、イヌの免疫グロブリンGのアイソタイプA(HC-A、HCA、caIgG-Aとも称される)、免疫グロブリンGのアイソタイプB(HC-B、HCB、caIgG-Bとも称される)、免疫グロブリンGのアイソタイプC(HC-C、HCC、caIgG-Cとも称される)、または免疫グロブリンGのアイソタイプD(HC-D、HCD、calgG-Dとも称される)より選択することができる。好ましくは、Fc領域はアイソタイプBより選択される。ネコFc領域は、免疫グロブリンGのアイソタイプ1a(IgG1aとも称される)、アイソタイプ1b(IgG1bとも称される)、およびアイソタイプ2(IgG2とも称される)由来であり得る。
【0042】
特定の態様では、本明細書において言及されるイヌの野生型配列は、図6aおよびbならびに表1aに開示されるSEQ ID NO: 1~4による配列である。
【0043】
(表1a)イヌの野生型配列
【0044】
位置234~331の下線が引かれた配列は、前に記載された置換を含む配列範囲を示す。
【0045】
あるいは、本発明によるイヌの野生型配列は他で公開されている。
【0046】
(表1b)イヌの野生型配列
【0047】
特定の態様では、本明細書において言及されるネコの野生型配列は、表2ならびに図6aおよびbに示されるSEQ ID NO: 5~7による配列である。
【0048】
(表2)ネコの野生型配列
【0049】
あるいは、本発明によるネコの野生型配列は、Striezelら(Strietzel CJ, Bergeron LM, Oliphant T, Mutchler VT, Choromanski LJ, Bainbridge G (2014) In vitro functional characterization of feline IgGs. Vet Immunol Immunopathol, 158(3-4):214-23)、第220頁によって開示される。
【0050】
好ましい態様では、本発明によるポリペプチドは、野生型Fc領域と比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換を有する、Kabatの番号付けによるアミノ酸234~331に対応する少なくとも1つの配列を含む。表1aおよび2の下線を引いた配列は、イヌまたはネコの野生型Fc領域の配列におけるKabatの番号付けによるアミノ酸234~331に対応する。
【0051】
要約すると、本発明による野生型配列は、好ましくは、Seq ID No: 1~7、GeneBankアクセッション番号AF354264、AF354265、AF354266、AF354267のアミノ酸234~331(Kabatの番号付けによる)の配列、またはStriezelら、第220頁によって開示された野生型配列のいずれかより選択することができる。したがって、GeneBankアクセッション番号AF354264、AF354265、AF354266、AF354267の(アミノ酸)配列(Kabatの番号付けによる)、およびStriezelら、第220頁によって開示された野生型配列は、参照配列として本明細書に明確に組み入れられ、それにより、本出願の本開示内容の一部を形成する。
【0052】
本明細書においてさらに記載されるように、野生型Fcフラグメントと比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の置換は、様々な態様において、野生型Fcフラグメントの(アミノ酸)配列の位置235、239、270、および/または331に対応する(アミノ酸)位置の少なくとも1つにおけるアミノ酸置換として記載され得る。したがって、野生型Fcフラグメントと比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換への言及は、様々な態様において、野生型Fcフラグメントの(アミノ酸)配列の位置235、239、270、および/または331に対応する(アミノ酸)位置の少なくとも1つにおける少なくとも1つのアミノ酸置換として記載され得る。
【0053】
したがって、野生型Fcフラグメントと比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換への言及は、Seq ID NO: 1~7、またはGeneBankアクセッション番号AF354264、AF354265、AF354266、AF354267の(アミノ酸)配列(Kabatの番号付けによる)、またはStriezelら、第220頁によって開示された(野生型)配列のいずれかで開示されるように、様々な態様において、野生型Fcフラグメントの(アミノ酸)配列の位置235、239、270、および/または331に対応する(アミノ酸)位置の少なくとも1つにおける少なくとも1つのアミノ酸置換として記載され得る。
【0054】
本明細書においてさらに記載されるように、用語「野生型Fcフラグメント(領域)と比較して」と「野生型Fcフラグメント(領域)のアミノ酸配列と比較して」は、本明細書において互換的に使用することができる。
【0055】
本発明によれば、特定の位置に、「野生型Fc領域と比較して、アミノ酸の置換」を有するポリペプチド配列は、特定の置換を除いて、参照される野生型配列に対して少なくとも96%、好ましくは98%、より好ましくは99%、最も好ましくは100%の同一性を有するアミノ酸配列を特徴とするポリペプチドである。したがって、本発明によるポリペプチドは、本明細書において記載されるように、「少なくとも1つのアミノ酸の置換」以外の挿入、欠失、または置換などの突然変異を含むこともできる。
【0056】
所与のアミノ酸配列に関する「パーセント(%)同一性」は、配列を整列させ、必要ならばギャップを導入して最大配列同一性パーセントを達成した後に比較し、かついかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない、該アミノ酸配列中のアミノ酸残基と同一である参照配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして、本発明の文脈内で定義される。本発明内の配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当業者に周知の様々な方法で、例えば、公的に利用可能なコンピューターソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMEGALINETM(DNASTAR)ソフトウェアを使用して行うことができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アライメントを達成するのに必要とされるアルゴリズムを含めて、アライメントを測定するための適切なパラメーターを慣例的に決定することができる。
【0057】
アミノ酸置換は保存的置換でもよいし、非保存的置換でもよい。アミノ酸は共通の側鎖特性に従ってグループ化することができる:(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile;(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;(3)酸性:Asp、Glu;(4)塩基性:His、Lys、Arg;(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。非保存的置換では、1つの群のアミノ酸は異なる群のアミノ酸と交換される。保存的置換では、1つの群のアミノ酸は同じ群の別のアミノ酸と交換される。
【0058】
野生型ポリペプチド配列に含まれる天然アミノ酸を別の天然アミノ酸と置換することの代わりに、用語アミノ酸置換は、アミノ酸誘導体との天然アミノ酸の置換も包含する。本明細書において使用する場合、「アミノ酸誘導体」は、哺乳動物で見出されない任意の非天然アミノ酸、修飾アミノ酸、および/またはアミノ酸類似体を指す。例示的なアミノ酸誘導体としては、ヒトで見出されない天然アミノ酸(例えば、ある種の微生物で見出すことができる、セレノシステインおよびピロリジン)または化学的に修飾されたアミノ酸が挙げられる。
【0059】
好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、野生型Fc領域と比較して、L235、S239、D270、および/またはP331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換を含む、ポリペプチドに関する。
【0060】
図2に開示されるように、本発明者らは、驚いたことに、L235、S239、D270、および/またはP331の突然変異のいずれか1つが、FcフラグメントのC1q結合とFcγRI結合の両方に影響を与えることを見出した。Shieldsら(Shields RL, Namenuk AK, Hong K, et al. High resolution mapping of the binding site on human IgG1 for Fc gamma RI, Fc gamma RII, Fc gamma RIII, and FcRn and design of IgG1 variants with improved binding to the Fc gamma R. J Biol Chem. 2001;276(9):6591-6604)によって開示されたようにヒトFcにおけるS239、D270、またはP331の突然変異はヒトFcγRIへの結合を損なわないので、これらの結果は特に驚くべきことである。したがって、好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、位置239、270、および/または331のアミノ酸の群より選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換を含む、ポリペプチドに関する。
【0061】
イヌFc領域中の突然変異の効果とヒトのFc領域中の対応する突然変異の効果の観察された違いは、エフェクター機能の有意な低減がヒトシステムで記載されている突然変異M234A/L235A(Xu D, Alegre ML, Varga SS, et al. In vitro characterization of five humanized OKT3 effector function variant antibodies. Cell Immunol. 2000; 200(1):16-26.)についての実験1でも確かめられる。これとは対照的に、イヌのフレームワークにおける同じ突然変異はFcγRI結合を無効にしたが、このバリアントは依然としてC1qに結合することができる。
【0062】
別の好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、位置234、235、239、270、および/または331のアミノ酸の少なくとも2つより選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換を含む、ポリペプチドに関する。好ましくは、アミノ酸M234、L235、S239、D270、および/またはP331の少なくとも2つより選択されるアミノ酸、特に、S239、D270、またはP331からなるアミノ酸の群より選択される少なくとも2つのアミノ酸の置換。より好ましくは、2つのアミノ酸は、位置235および239;235および270;235および331;239および270;239および331;270;331、234、および235;234および239;234および270;234および331;234および331のアミノ酸である。より好ましくは、2つのアミノ酸は、L235およびS239;L235およびD270;L235およびP331;S239およびD270;S239およびP331;D270およびP331、M234およびL235;M234およびS239;M234およびD270;M234およびP331である。最も好ましくは、2つのアミノ酸位置は235および331であり、それぞれアミノ酸L235およびP331である。特に、置換は、M234AおよびL235A;L235AおよびS239A;L235AおよびD270A;L235AおよびP331G;S239AおよびD270A;S239AおよびP331G;またはD270AおよびP331Gでもよい。
【0063】
別の好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331より選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換を含み、2つのアミノ酸位置のうちの少なくとも1つが、239、270、および/または331より選択される、ポリペプチドに関する。
【0064】
別の好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331の少なくとも3つより選択されるアミノ酸の少なくとも3つの置換を含む、ポリペプチドに関する。好ましくは、少なくともM234、L235、S239、D270、および/またはP331より選択されるアミノ酸の置換。より好ましくは、3つのアミノ酸位置は、235、239、および270;239、270、および331;235、270、および331;または235、239、および331である。より好ましくは、3つのアミノ酸は、L235、S239、およびD270;S239、D270、およびP331;L235、D270、およびP331;またはL235、S239、およびP331である。最も好ましくは、3つのアミノ酸位置は235、239、および270;または235、239、および331であり、それぞれ、アミノ酸L235、S239およびD270;またはL235、S239、およびP331である。特に、置換は、L235A、S239A、およびD270A;S239A、D270A、およびP33G1;L235A、D270A、およびP331G;またはL235A、S239A、およびP331Gでもよい。
【0065】
別の好ましい態様では、本発明は、少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、Fc領域が、アミノ酸位置234、235、239、270、および331より選択される少なくとも4つの置換を含む、ポリペプチドに関する。好ましくは、アミノ酸235、239、270、および331、より好ましくは、L235、S239、D270、およびP331。特に、置換は、L235A、S239A、D270A、およびP331Gでもよい。
【0066】
前述のポリペプチドにおいて、1つまたは複数の置換は、好ましくは、アラニン、グリシン、グルタミン、バリン、またはセリンによる野生型アミノ酸の置換である。より好ましくは、ロイシン、好ましくはL235が、アラニン、グルタミンまたはバリン、最も好ましくはアラニンによって置換される。セリン、好ましくはS239は、好ましくは、アラニンまたはバリン、最も好ましくはアラニンによって置換される。アスパラギン酸、好ましくはD270は、好ましくは、アラニンまたはバリン、最も好ましくはアラニンによって置換される。プロリン、好ましくはP331は、好ましくは、グリシン、アラニンまたはセリンによって、最も好ましくはグリシンによって置換される。
【0067】
したがって、上記の1つまたは複数の置換は、L235A、S239A、D270A、および/またはP331Gより選択される。
【0068】
本発明の好ましい態様では、本発明によるポリペプチドは、少なくとも1つのイヌFcフラグメント形態の免疫グロブリンアイソタイプBを含む。
【0069】
本明細書においてさらに記載されるように、用語「Fc領域」および「Fcドメイン」および「Fcフラグメント」は、互換的に使用することができる。特に、用語「Fc領域」および「Fcフラグメント」は、本明細書において互換的に使用することができる。より具体的には、用語「イヌまたはネコのFc領域」および「イヌまたはネコのFcフラグメント」は、本明細書において互換的に使用することができる。用語「野生型Fc領域」および「野生型Fcフラグメント」に関して同じことが当てはまり、これらも本明細書において互換的に使用することができる。
【0070】
本発明によるポリペプチドは、表3に開示されるSEQ ID NO: 8~29より選択される配列を含むことができる。
【0071】
(表3)イヌHC-Bバリアント:
以下の配列は、Seq ID No: 2のAA 234~331に対応する。突然変異の位置の表示は、Seq ID No: 2のAAの位置に基づく。突然変異AAは太字で示される。
【0072】
好ましくは、本発明によるポリペプチドは、SEQ ID NO: 18、19、26、27、または29より選択される配列を含む。最も好ましくは、ポリペプチドはSEQ ID NO: 19または27を含む。
【0073】
本発明によるポリペプチドは結合分子でもよい。本発明による用語「結合分子」は、リガンド、好ましくはポリペプチド、最も好ましくはエピトープに特異的に結合する少なくとも1つのドメインを含むポリペプチドを強化する。最も好ましくは、リガンドに特異的に結合する少なくとも1つのドメインは、抗体または抗体フラグメントの相補性決定領域(CDR)である。
【0074】
したがって、本発明の好ましい態様では、本発明によるポリペプチドは、抗体、抗体フラグメント、または、抗体フラグメントを含むポリペプチドでもよい。好ましくは、抗体、抗体フラグメント、または、抗体フラグメントを含むポリペプチドは、以下に開示されるエピトープに結合する。
【0075】
本明細書において使用する場合、用語「抗体」は、全長モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体を含めた、モノクローナル抗体などの任意の形態の抗体を指す。
【0076】
本明細書において使用する場合、用語「抗体フラグメント」または「抗原結合フラグメント」は、抗原結合特性を示す抗体のすべてのフラグメント、すなわち、対応する全長抗体が結合する抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体フラグメントを指す。したがって、「抗体フラグメント」は、それが由来する全長抗体の少なくとも1つであるが、好ましくはすべてのCDR領域を含む。抗原結合フラグメントまたは抗体フラグメントの例としては、限定されないが、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFvフラグメント;ダイアボディ;直鎖抗体;単鎖抗体分子、例えばsc-Fv;ナノボディおよび抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0077】
本発明によるポリペプチドは、イヌ抗体またはネコ抗体でもよい。用語「イヌ抗体」または「ネコ抗体」は、本発明による突然変異を除いて、完全イヌ抗体または完全ネコ抗体に対して、少なくとも96%、好ましくは98%、より好ましくは99%、最も好ましくは100%の同一性を有するFc領域の配列(イヌまたはネコの配列)を有する抗体に関する。用語「完全イヌ抗体または完全ネコ抗体」は、イヌまたはネコの遺伝子由来の配列を完全に含む抗体を指す。場合によっては、これは、本明細書において概要が述べられる修飾を有する、イヌまたはネコの染色体に由来する抗体の遺伝子配列を有するイヌ抗体またはネコ抗体でもよい。「イヌ抗体」または「ネコ抗体」は、異なる種の細胞、例えば、マウス細胞、ヒト細胞、またはハイブリドーマ細胞において組換えで生成され得る。抗体はまた、合成または半合成の抗体配列ライブラリーに由来してもよい。これらの配列は、イヌまたはネコの遺伝子によってコードされる配列、および人工配列、例えば人工CDRなどを含むことができる。したがって、イヌ抗体またはネコ抗体は、典型的にはイヌまたはネコの細胞で生成される抗体で見出されない修飾、例えば糖質の付着を含むことができる。
【0078】
本発明によるポリペプチドはまた、イヌ化抗体またはネコ化抗体でもよい。「イヌ化抗体」または「ネコ化抗体」は、それぞれ、イヌ抗体と非イヌ(例えば、マウス)抗体の両方からの配列、ネコ抗体と非ネコ(例えば、マウス)抗体からの配列を含む抗体の形態である。典型的には、イヌ化抗体またはネコ化抗体は、非イヌ科生物または非ネコ科生物からの少なくとも1つの、典型的には2つの、またはすべてのCDR、およびCDRの外側の実質的にイヌまたはネコの配列を含むと考えられる。
【0079】
本発明によるポリペプチドはまた、キメラ抗体でもよい。「キメラ抗体」は、第1の抗体由来の可変ドメインおよび第2の抗体由来の定常ドメインを有する抗体であって、第1および第2の抗体が異なる種に由来する抗体である。キメラ抗体は、例えば、げっ歯類に由来する抗体、例えば、マウスまたはラットの抗体からの可変ドメイン、およびイヌまたはネコの定常ドメインを含むことができる。
【0080】
本発明によるポリペプチドはまた、融合タンパク質でもよい。融合タンパク質はイヌ免疫グロブリン重鎖定常ドメインでもよく、これは、サイトカインまたはケモカイン受容体または他の膜貫通タンパク質の細胞外ドメインに全体または部分的に融合していてもよい。
【0081】
異なるイヌ免疫グロブリンアイソタイプのFcの結合特性および免疫エフェクター機能が、表4に示すように、Bergeronと共同研究者(Bergeron LM, McCandless EE, Dunham S (2014) Comparative functional characterization of canine IgG subclasses. Vet Immunol Immunopathol. 2014;157(1-2):31-41によって決定された。
【0082】
(表4)イヌIgGアイソタイプの結合およびエフェクター特性
【0083】
表中、「+++」は非常に強固な結合または高い反応性を示し、「++」は良好な結合を示し、「+」は多少の結合が観察されたことを示し、「--/+」はほとんどまたはまったく活性化/結合が無いことを示し、「--」は結合が無いことを表す(上記の表4)。
【0084】
Fcγ受容体I受容体(FcγRI)は一般にCD64とも称される。Fcγ受容体III(FcγRIII)は一般に(CD16)とも称される。
【0085】
主な局面では、本発明によるポリペプチドは、対応する野生型Fc領域を含むポリペプチドと比較して、C1qおよび/またはFc受容体に対する結合親和性の低減を示す。好ましくは、結合が低減するFc受容体はFcγRI、FcγRIIIである。本発明による結合の低減は、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍、少なくとも10000倍、または少なくとも100000倍の、それぞれの受容体に対するポリペプチドのKDの増加を特徴とし得る。
【0086】
C1qおよび/またはFc受容体への本発明によるポリペプチドの結合は、当技術分野において周知であるインビトロ結合アッセイによって決定することができる。例えば、C1qおよび/またはFc、特にFcγRI受容体への結合は、実施例1またはBergeron et al. 2014のセクション2.5および2.6またはWO 2015/091910に開示されるように決定することができ、これらのすべては、参照により本明細書に組み入れられる。したがって、実施例1またはBergeron et al. 2014のセクション2.5および2.6またはWO 2015/091910に開示されるような、C1qおよび/またはFc、特にFcγRI受容体への結合を決定するためのアッセイは、本出願の本開示内容の一部を形成する。
【0087】
抗体は、特に大規模な商業的プロセスにおいて、一般に、プロテインA結合を介して単離および精製される。しかし、最も強いプロテインA結合を示すHC-Bは、C1qおよびFcγ受容体I受容体(FcγRI)への強い結合も示し、補体系(CDC)の免疫エフェクター機能の活性化および細胞溶解活性(ADCC)の誘導をもたらし、これらは、前述したような治療用抗体で治療される多くの適応症に受け入れられない。
【0088】
驚いたことに、図2に示すように、L235、D270、またはP331の単一置換を含むSEQ ID 9、13、および15を含むポリペプチドは既に、FcγRIまたはC1qへの弱いかまたは有意に低減した結合を示した。特に、FcγRIへの結合は、SEQ ID 9を含むポリペプチドについては実質的に無く、C1qへの結合は、SEQ ID 15を含むポリペプチドについては実質的に無かった。
【0089】
さらに驚いたことに、FcγRIおよびC1qへの結合は、L235とP331の2つの置換のみを含むSEQ ID 19を含むポリペプチドについては本質的に完全に無かった。
【0090】
抗体の脱グリコシル化をもたらす突然変異をKabatの位置297に含む、EP 2 705 057 A1に開示される先行技術の突然変異と対照的に、本発明によるポリペプチドは、抗体を脱グリコシル化することなく、抗体の定常領域の、特に非常に活性なアイソタイプHC-Bのサイレンシングを達成する。脱グリコシル化は循環からの抗体のクリアランスに負の影響を有し得るので、本発明は、先行技術を超える利点を提供する。
【0091】
さらに、図4に示すように、本発明による、HC-Bアイソタイプの突然変異Fcフラグメントは、新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する能力を維持する。FcRnへの結合は、一般に、内皮細胞および骨髄由来細胞においてリソソーム分解を低減させることによってIgGの半減時間を延ばすことが公知である。したがって、FcγRIへのおよびC1qへの有意に低減した結合を有するかまたは該結合を有さないポリペプチドにおいてFcRn結合を維持することは、組換え治療用抗体にとって非常に有利である。
【0092】
したがって、本発明のポリペプチドは、対応する野生型ポリペプチドと比較して損なわれていないかまたは実質的に損なわれていない、FcRnへの結合を特徴とし得る。前記ポリペプチドのFcγRIおよび/またはC1qへの結合は、好ましくは、有意に低減または縮小している。実質的に損なわれていない、本発明によるポリペプチドFcRnへの結合は、2倍未満、3倍未満、5倍未満、10倍未満、25倍未満、または50倍未満の、FcRnに対するポリペプチドのKDの増加を特徴とする結合であり得る。FcRnへの結合は、本出願の実施例1に開示されるように決定することができる。
【0093】
本発明は、好都合なことに、免疫グロブリンサブタイプHC-B由来の少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、野生型Fc領域と比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換を含み、対応する野生型ポリペプチドと比較して、FcγRI受容体および/またはC1qへの低減した結合を有するが、実質的に損なわれていないプロテインAへの結合を有する、ポリペプチドを提供する。
【0094】
実施例1のセクション1.3に示すように、本発明のポリペプチドは、プロテインAへの結合を介して精製され得る。したがって、本発明のポリペプチドは、対応する野生型ポリペプチドと比較して実質的に損なわれていない、プロテインAへの結合を特徴とし得る。前記ポリペプチドのFcγRIおよび/またはC1qへの結合は、好ましくは、有意に低減または縮小している。プロテインAへの本発明によるポリペプチドの結合は、突然変異ポリペプチドをそれぞれの野生型ポリペプチドと比較した場合に2倍未満、3倍未満、5倍未満、または10倍未満の、プロテインAに対するポリペプチドのKDの変化を特徴とする結合であり得る。
【0095】
好ましい態様では、ポリペプチドは、突然変異ポリペプチドをそれぞれの野生型ポリペプチドと比較した場合に、FcγRI受容体および/またはC1qへの有意に低減した結合または該結合の不在を示し、上記のように新生児型Fc受容体(FcRn)およびプロテインAへの結合を示す、グリコシル化されたポリペプチドである。FcRnおよびプロテインAへの結合は、前述のように、野生型と比較して、本発明による突然変異ポリペプチドのKDの変化を特徴とする結合であり得る。
【0096】
FcγRI受容体および/またはC1qへの有意に低減した結合によって証明されるように、本発明は、対象への投与の際に、対応する野生型Fc領域を含むポリペプチドと比較して、有意に低減した免疫エフェクター機能を誘導する、上記のポリペプチドを提供する。図4に示すように、本発明によるポリペプチドのFcγRI受容体および/またはC1qへの結合は、実質的に無い可能性がある。したがって、対象へのポリペプチドの投与の際に、免疫エフェクター機能は、対応する野生型Fc領域を含むポリペプチドと比較して、実質的に無い可能性がある。
【0097】
ポリペプチドが投与される対象は、欠陥のない免疫系を有する対象でもよい。好ましくは、ポリペプチドが投与される対象はイヌまたはネコ対象、より好ましくは、イヌもしくはネコ患畜(または、イヌもしくはネコ動物)である。
【0098】
上記のリガンドに特異的に結合するドメインは、以下より選択されるタンパク質に由来するエピトープへの結合である:17-IA、4-1 BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRUB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAMS、ADAM9、ADAMTS、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、α-1-抗トリプシン、α-V/β-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bel、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMPs、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児抗原(CEA)、癌腫関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/ZIP、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL1 1、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD1 1 a、CD1 1 b、CD1 1 c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD50、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80、CD89、CD95、CD123、CD133、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD154、CD163、CD164、CEACAM5、CEACAM6、CFTR、CGRP、cGMP、CINC、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)毒素、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CX3CL1、CXCL1 1、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、崩壊促進因子、des(1-3)-IGF-l(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシンl、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、第IIa因子、第VII因子、第VIIIc因子、第IX因子、第XI因子、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-3リガンド、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルキン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas 6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-α1、GFR-α2、GFR-α3、GITR、グルカゴン、Glut 4、糖タンパク質llb/llla(GP llb/llla)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capもしくはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gB外被糖タンパク質、HCMV)gH外被糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her1(Erb-B1、EGFR)、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV)gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MM)、HIV gp120、HIV 1MB gp120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、1-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1 R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-13R IL-15、IL-18、IL-18R、IL-22、IL-23、IL-31、IL-31R IL-33、IL-33R、インターフェロン(INF)-α、INF-β、INF-γ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα4/β1、インテグリンα4/β7、インテグリンα5(αV)、インテグリンα5/β1、インテグリンα5/β3、インテグリンα6、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インターフェロンγ、IP-10、l-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン1 1、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト成長因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在型TGF-1、潜在型TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティー、Lewis-Y抗原、Lewis-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺サーファクタント、黄体形成ホルモン、リンホトキシンβ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、メタロプロテアーゼ、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-α、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-1 1、MMP-12、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MMP-13、MMP-3、MMP-1、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Mud)、MUC18、ミュラー阻害物質(Muellerian-inhibitin)、Mug、MuSK、Nav1.3、Nav1.5、Nav1.7、NAIP、NAP、NCAD、N-カドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、もしくは-6、ニュールツリン、NGF、NGFR、NGF-β、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PD-1、PD-L1、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、PIGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロリラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、レニン、呼吸系発疹ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマトイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、5100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、ST2、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体α/β)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、精巣PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-α、TGF-β汎特異的、TGF-βRl(ALK-5)、TGF-βRll、TGF-βRllb、TGF-β Rill、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、TGF-β5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-α、TNF-β、TNF-β2、TNF-a、TNFR1、TNFc、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF1 1A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF1 1B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF Rl CD120a、p55-60)、TNFRSF1 B(TNF Rll CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIM、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1 BB CD137、I LA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF1 1(TRANCE/RANKリガンドODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンドAITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-aコネクチン、DIF、TNFSF2)、TNFSF1 B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンドgp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンドCD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(FasリガンドApo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド、CD70)、TNFSF8(CD30リガンドCD153)、TNFSF9(4-1 BBリガンドCD137リガンド)、TSLP、TSLPR、TARC、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスファーリング(transferring)受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、腫瘍関連抗原CA125、Lewis Y関連炭水化物を発現する腫瘍関連抗原、TWEAK、TXB2、Ung、uPA、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-カドヘリン、VE-カドヘリン-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(fit-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィルブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT1 OA、WNT1 OB、WNT1 1、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、ならびに/またはホルモンおよび成長因子の受容体、毒素、寄生虫エピトープ、細菌エピトープ、および/もしくはウイルスエピトープ。
【0099】
好ましくは、エピトープは、CTLA-4、EGF、Her1(Erb-B1、EGFR)、IgE、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-10、IL-12、IL-17、IL-17R、IL-18、IL-18R、IL-23、IL-31、IL-31R IL-33、IL-33R、インテグリンα4/β7、NGF、TNF-α、PD-1. PD-L1、および/またはVEGFより選択されるタンパク質に由来する。
【0100】
分子、特にタンパク質「に由来するエピトープ」は、それぞれの標的の配列内に含まれるペプチドエピトープでもよく、またはそれぞれの標的の構造によって確立されたコンフォメーションエピトープでもよい。
【0101】
さらなる局面では、本発明は、本明細書において記載されるポリペプチドを任意で薬学的に許容される担体とともに含む薬学的組成物に関する。「薬学的組成物」は、本発明によるポリペプチドと毒物学的に許容され、本発明によるポリペプチドの保存および治療される対象への投与を可能にし、ポリペプチドがその意図された薬理学的および生物活性を発揮することを可能にするさらなる化合物とを含む組成物である。
【0102】
薬学的に許容される担体としては、剤、例えば、用いられる投薬量および濃度で、それに曝露される細胞または哺乳動物に対して毒性がない、希釈剤、安定化剤、補助剤、または他のタイプの賦形剤を挙げることができる。薬学的に許容される担体の例としては、アルミナ;ステアリン酸アルミニウム;レシチン;血清タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、イヌもしくは他の動物のアルブミン;バッファー、例えば、リン酸バッファー、クエン酸バッファー、トロメタミンバッファー、もしくはHEPESバッファー;グリシン;ソルビン酸;ソルビン酸カリウム;植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合液;水;塩もしくは電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、もしくは三ケイ酸マグネシウム;ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質;ポリエチレングリコール;ショ糖;マンニトール;またはアミノ酸、例えば限定されないが、アルギニンが挙げられる。
【0103】
本発明は、疾患を治療する方法で使用するための本明細書において記載されるポリペプチドまたは薬学的組成物にさらに関する。同様に、本発明は、疾患を治療する方法における本明細書において記載されるポリペプチドまたは薬学的組成物の使用に関する。疾患を治療する方法は、治療を必要としている患者に、好ましくは、イヌまたはネコ対象に本明細書において記載されるポリペプチドまたは薬学的組成物を投与する工程を包含する。
【0104】
好ましい態様では、疾患は、炎症性疾患、アレルギー、癌、疼痛、(自己)免疫疾患、神経障害、眼疾患、心血管機能障害、または感染性疾患である。
【0105】
好ましくは、炎症性疾患は、関節リウマチ、骨関節症、乾癬、アトピー性皮膚炎、および炎症性腸疾患より選択することができ;アレルギーは喘息でもよく、癌は、リンパ腫、黒色腫、血管肉腫、肥満細胞腫瘍、骨肉腫、脳腫瘍、乳癌、腸癌)より選択することができ;疼痛は、骨関節炎の疼痛、癌の疼痛、腰の疼痛、手術後の疼痛、神経障害性または炎症性の疼痛より選択することができ;(自己)免疫疾患は全身性エリテマトーデスより選択することができ;神経障害はてんかんより選択することができ;眼疾患は加齢性黄斑変性より選択することができ;心血管機能障害は高血圧、うっ血性心不全より選択することができ;感染性疾患は、肝炎、ジステンパー、イヌ感染性呼吸器疾患、ネコ免疫不全ウイルスより選択することができる。
【0106】
本発明のFcドメインまたは抗体またはFc融合タンパク質は、イヌの外部寄生生物および内部寄生生物によって誘導される疾患、ならびに呼吸器感染症、尿感染症、および皮膚科学的感染症、特に、皮膚感染症、軟組織感染症、および耳炎の中より選択され得る感染性または寄生虫性疾患の治療で使用するためのものでもよい。
【0107】
前に述べたように、本発明の抗体およびFc融合タンパク質は、治療的、診断的、または研究の使用または方法のために使用することができる。
【0108】
さらなる局面では、本発明は、本発明によるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは単離ポリヌクレオチドでもよい。ポリヌクレオチドは、ベクター、例えばプラスミドまたは人工染色体に含まれ得る。ポリヌクレオチドは、転写および翻訳制御配列に機能的に連結され得る。この文脈では、用語「機能的に連結される」は、転写および翻訳制御配列がポリヌクレオチドを機能的に転写および翻訳して、コードされるポリペプチドを発現する働きをすることを意味する。
【0109】
ベクターは細胞に含まれ得る。細胞は、好ましくは、抗体または抗体フラグメントを組換えで発現するのに適した宿主細胞である。例示的な真核細胞としては、哺乳動物細胞、例えば、霊長類または非霊長類動物細胞;酵母細胞;植物細胞;および昆虫細胞が挙げられる。非限定な例示的哺乳動物細胞としては、限定されないが、NSO細胞、293細胞、およびCHO細胞、ならびにそれらに由来する細胞株、例えば、293-6E、DG44、CHO-S、およびCHO-K細胞が挙げられる。
【0110】
さらなる局面では、本発明は、Fcフラグメントを含むポリペプチドを生成する方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法に関する:
- 少なくとも1つのFcフラグメントをコードするポリヌクレオチド中に少なくとも1つの突然変異を導入する工程であって、
ポリヌクレオチド中の突然変異が、ポリヌクレオチドにコードされるポリペプチド内に上記で開示される少なくとも1つのアミノ酸の置換をもたらす工程;
- 該少なくとも1つの置換を含むFcフラグメントを含むポリペプチドを宿主細胞で発現させる工程。
【0111】
好ましくは、突然変異ポリヌクレオチドは上記のSEQ ID NO: 1~29の少なくとも1つをコードする。
【0112】
さらに、本発明は、Fcフラグメントを含むポリペプチドの免疫エフェクター機能を低減させる方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
- Fcフラグメントを含むポリペプチド中に少なくとも1つの突然変異を導入する工程であって、
ポリヌクレオチド中の突然変異が、ポリヌクレオチドにコードされるFcフラグメントを含む該ポリペプチド中に上記で開示される少なくとも1つのアミノ酸の置換をもたらす工程;
- 該少なくとも1つの置換を含むFcフラグメントを含むポリペプチドを宿主細胞で発現させる工程。
【0113】
本発明を、添付の図面および実施例によってより詳細に説明するものとする。
【0114】
本発明の番号付けされた局面および態様
1. 少なくとも1つのイヌまたはネコのFcフラグメントを含むポリペプチドであって、該Fcフラグメントが、
野生型Fcフラグメントと比較して、アミノ酸位置235、239、270、および/または331の少なくとも1つより選択され、好ましくは、L235、S239、D270、および/またはP331の少なくとも1つより選択されるアミノ酸の少なくとも1つの置換
を含む、ポリペプチド。
2. 野生型配列(前記野生型Fcフラグメントの配列)が、Seq ID NO: 1~7、GeneBankアクセッション番号AF354264、AF354265、AF354266、AF354267の配列(Kabatの番号付けによる)、特に、GeneBankアクセッション番号AF354264、AF354265、AF354266、AF354267のアミノ酸234~331(Kabatの番号付けによる)の配列、またはStriezelら、第220頁によって開示された野生型配列のいずれかより選択される、局面1によるポリペプチド。
3. 前記Fcフラグメントが、
アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331の少なくとも2つより、好ましくは、L235およびS239、L235およびD270、L235およびP331、L235およびP331、S239およびD270、S239およびP331、D270およびP331、M234およびL235、M234およびS239;M234およびD270;M234およびP331より選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換
を含む、局面1または2によるポリペプチド。
4. 前記Fcフラグメントが、アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331より選択されるアミノ酸の少なくとも2つの置換を含み、
該2つのアミノ酸位置のうちの少なくとも1つが、239、270、および/または331より選択される、
前記局面のいずれかによるポリペプチド。
5. 前記Fcフラグメントが、
アミノ酸位置234、235、239、270、および/または331の少なくとも3つより、好ましくは、L235、S239、およびD270;S239、D270、およびP331;L235、D270、およびP331;またはL235、S239、およびP331より選択されるアミノ酸の少なくとも3つの置換
を含む、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
6. 前記Fcフラグメントが、
アミノ酸位置234、235、239、270、および331より選択される、好ましくはアミノ酸235、239、270、および331である少なくとも4つの置換
を含む、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
7. 前記1つまたは複数の置換がアラニンまたはグリシンによる置換であり、好ましくは、前記1つまたは複数の置換がL235A、S239A、D270A、および/またはP331Gである、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
8. 前記イヌFcフラグメントが、IgGアイソタイプIgG-A、IgG-B、IgG-C、またはIgG-Dに由来する、最も好ましくは、IgGアイソタイプIgG-Bに由来するFcフラグメントである、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
9. SEQ ID NO: 8~29、好ましくは、SEQ ID NO: 18、19、26、27、または29より選択される配列を含む、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
10. 結合分子、好ましくは、抗体、抗体フラグメント、または、抗体フラグメントを含むポリペプチドである、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
11. 対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して、C1qおよび/またはFc受容体に対する結合親和性が低減している、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
12. 前記Fc受容体がFcγRIまたはFcγRIIIである、局面11によるポリペプチド。
13. 対応する野生型ポリペプチドと比較して実質的に損なわれていないFcRnおよび/またはプロテインAへの結合を特徴とする、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
14. 前記ポリペプチドが、対象への投与の際に、対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して低減した免疫エフェクター機能を誘導し、好ましくは、該対象が、欠陥のない免疫系を有する、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
15. 対象への投与の際に、対応する野生型Fcフラグメントを含むポリペプチドと比較して低減したADCCまたはCDCを誘導する、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
16. CTLA-4、EGF、Her1(Erb-B1、EGFR)、IgE、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-10、IL-12、IL-17、IL-17R、IL-18、IL-18R、IL-23、IL-31、IL-31R IL-33、IL-33R、インテグリンα4/β7、NGF、TNF-α、PD-1. PD-L1、VEGFより選択されるタンパク質に由来するエピトープに特異的に結合するドメインを含む、前記局面のいずれかによるポリペプチド。
17. 前記局面のいずれかによるポリペプチドを含む薬学的組成物。
18. イヌまたはネコ対象において疾患を治療する方法で使用するための前記局面のいずれかによるポリペプチドまたは組成物であって、好ましくは、該疾患が、炎症性疾患、アレルギー、癌、疼痛、(自己)免疫疾患、神経障害、眼疾患、心血管機能障害、または感染性疾患である、ポリペプチドまたは組成物。
19. 前記局面によるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
20. 局面19によるポリヌクレオチドを含むベクターまたは細胞。
21. Fc C2およびC3フラグメントを含むポリペプチドを生成する方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法:
- 少なくとも1つのFc C2およびC3フラグメントをコードするポリヌクレオチド中に少なくとも1つの突然変異を導入する工程であって、
該ポリヌクレオチド中の該突然変異が、該ポリヌクレオチドにコードされるポリペプチド内に上記で開示される少なくとも1つのアミノ酸の置換をもたらす工程;
- 該少なくとも1つの置換を含むFc C2およびC3フラグメントを含むポリペプチドを宿主細胞で発現させる工程。
22. Fc C2およびC3フラグメントを含むポリペプチドの前記免疫エフェクター機能を低減させる方法であって、以下の工程を含む方法:
- Fc C2およびC3フラグメントを含むポリペプチド中に少なくとも1つの突然変異を導入する工程であって、
ポリヌクレオチド中の該突然変異が、該ポリヌクレオチドにコードされるFc C2およびC3フラグメントを含む該ポリペプチド中に上記で開示される少なくとも1つのアミノ酸の置換をもたらす工程;
- 該少なくとも1つの置換を含むFc C2およびC3フラグメントを含む該ポリペプチドを宿主細胞で発現させる工程。
23. イヌまたはネコ対象において疾患を治療する方法であって、前記局面のいずれかによる(治療的有効量)の前記ポリペプチドまたは(薬学的)組成物をそれらを必要とするイヌまたはネコ対象に投与する工程を含み、好ましくは、該疾患が、炎症性疾患、アレルギー、癌、疼痛、(自己)免疫疾患、神経障害、眼疾患、心血管機能障害、または感染性疾患である方法。
【図面の簡単な説明】
【0115】
図1図1は、本研究で試験したバリアントの模式的概説を示す。
図2図2は、C1q(A)またはFcγRI(B)のいずれかへの野生型および突然変異バリアントの結合を示す。すべてのIgGバリアントは、細胞培養上清(ccSup)として生成し、異なる希釈で試験した。上清に由来するIgGを、C1qまたはFcγRIへの結合の検出のために標的抗原への結合によって捕獲した。シグナルは棒として示され、C1qまたはFcγRIへの最大結合を示すHC-B野生型バリアントに対して正規化される。
図3図3は、C1q(A)またはFcγRI(BおよびC)のいずれかへの野生型および突然変異バリアントの結合を示す。すべてのIgGバリアントは、細胞培養上清(ccSup)として生成し、異なる希釈で試験した。上清に由来するIgGを、C1q(A)への結合の検出のための標的抗原への結合によって捕獲すると同時に、抗原(B)を介して、およびFcγRIへの結合の検出のためのFab抗イヌIgG(C)によってIgGを捕獲した。シグナルは棒として示され、C1qまたはFcRIへの最大結合を示すHC-B野生型バリアントに対して正規化される。2つ以上の突然変異を組み合わせると、C1qまたはFcRIのいずれかへの結合が完全に無効にされたFcバリアントが得られる。
図4図4は、C1q(A)、FcγRI(B)、およびFcRn(C)への選択されたバリアントの結合を示す。すべてのIgGバリアントは、精製されたIgGとして様々な濃度で試験した。野生型HC-BバリアントのみがC1qおよびFcγRIに対する結合を示し、一方で、他のアイソフォームは高濃度であってもそれぞれの分子に結合しない。HC-B-LPおよびHC-B_LSDPについて、FcRn受容体への匹敵する結合が観察され、興味深いことに、HC-A wt は最小の結合しか示さない。抗体バリアントのFc部分中の突然変異は抗原認識に対する影響がない(D)。
図5図5は、C1q(A)、FcγRI(B)、およびFcRn(C)への選択されたバリアントの結合を示す。すべてのIgGバリアントは、精製されたIgGとして様々な濃度で試験した。野生型HC-BバリアントはC1qおよびFcγRIに対する強い結合を示し、一方で、HC-A wtは高濃度であってもそれぞれの分子に結合しない。Fcが操作されたHC-Bバリアント、HC-B_MLは、C1qへのわずかに低減した結合を示すが、FcγRI結合を完全に欠く。HC-B wtおよびHC-B_MLについて、FcRn受容体への匹敵する結合が観察され、興味深いことに、HC-A wtは最小の結合しか示さない。抗体バリアントのFc部分中の突然変異は抗原認識に対する影響がない(D)。
図6A図6は、イヌIgGアイソタイプHC-A(SEQ ID NO: 1)、イヌIgGアイソタイプHC-B(SEQ ID NO: 2)、イヌIgGアイソタイプHC-C(SEQ ID NO: 3)、イヌIgGアイソタイプHC-D(SEQ ID NO: 4)、ネコIgG 1a(SEQ ID NO: 5)、ネコIgG 1b(SEQ ID NO: 6)、およびネコIgG 2(SEQ ID NO: 7)の定常領域の野生型配列とヒトIgG1定常領域との比較を示す。
図6B図6Aの続きを示す図である。
【実施例
【0116】
実施例1
1. 材料および方法:
1.1 バリアントの構築
完全イヌ抗GFP抗体をモデル抗体として使用して、異なる抗体定常領域を含むFc-突然変異体のC1qおよびFcγRI相互作用を研究した。抗体は、WO 2018/234438に記載されているように、完全イヌファージディスプレイライブラリーから得られた。
【0117】
合計で、SEQ ID NO: 9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、および29に従う改変Fcフラグメントを含むコンストラクトを含む13コンストラクトを生成し、したがってこれは、1アミノ酸の突然変異を有する4つのHC-Bバリアントおよびこれらの単一突然変異の組み合わせを有する6つのHC-Bバリアント、ならびに、陽性対照としての野生型HC-Bおよび結合実験における陰性対照としての、エフェクター機能を欠くことが記載されている野生型HC-Aであった。
【0118】
図1にコンストラクトを模式的に示す。
【0119】
突然変異体FcコンストラクトをPCR突然変異誘発によって合成し、抗GFP IgG抗体の重鎖配列と軽鎖配列の両方をコードする所有の哺乳動物発現ベクターにこれをクローニングした。
【0120】
1.2 スクリーニングのためのIgG含有細胞培養上清の生成
jetPRIME(登録商標)トランスフェクション試薬(Polyplus-transfection(登録商標))を使用して、HEK293-EBNA細胞に哺乳動物発現ベクターDNAをトランスフェクトした。トランスフェクション後3日目に細胞培養上清を採取し、IgGの濃度をELISAによって決定した(データ非表示)。上清を結合アッセイに使用した。
【0121】
1.3 IgGの生成および精製
HEK293F懸濁細胞を対数期に増殖させ、これに、FectoPRO(Polyplus-transfection(登録商標))を使用して哺乳動物発現ベクターDNAをトランスフェクトした。トランスフェクション後8日目に細胞培養上清を採取し、標準的なプロテインAアフィニティークロマトグラフィー(MabSelect SURE, GE Healthcare)に供した。1×ダルベッコ(Dulbcecco)PBS(pH7.2)にバッファー交換を行い、試料を滅菌濾過した(0.2μm孔径)。タンパク質濃度をUV分光光度法によって決定し、変性還元下でSDS-PAGEを使用して、およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって、IgGの純度を解析した。SECは、AKTA Purifierシステム(GE Healthcare Europe GmbH, Freiburg, Germany)で行った。分離については、Superdex75 HR 10/30カラムは使用された30であった(GE Healthcare Europe GmbH, Freiburg, Germany)。各試料について、10μlのタンパク質をカラムにロードし、分離は、0.05ml/分の流速で行い、260および280nmのUV吸収を解析して記載した。ランニングバッファーはGibco D-PBS、pH7.4(Invitrogen, Paisley, USA)から構成されていた。
【0122】
トランスフェクションおよび精製後の品質管理によって、結合実験で使用した抗体バリアントは非常に純粋であり、単量体であることが明らかされ、これにより、C1qまたはFcγRI結合の変動が、タンパク質調製物内に例えば凝集物が存在することが理由である可能性が除外される(データ非表示)。興味深いことに、HC-Aタイプの抗体もプロテインAを使用して容易に精製することができ、これは、通過画分または洗浄液中に検出可能な抗体が無いことによって示され、すべてのタンパク質がプロテインAで捕獲されたことを示唆する(データ非表示)。
【0123】
また、すべての抗体コンストラクトは、それらの標的タンパク質GFPに対して同じ結合効率を有していた(図4および図5)。
【0124】
1.4 細胞培養上清を使用したC1q & FcγRI ELISA
補体タンパク質C1qへの抗体結合をELISAによって評価した。手短に言えば、Maxisorpプレート(Nunc(商標))をGFP(3μg/ml)で室温(RT)で1時間コーティングした。PBS中の5%脱脂乳を使用してプレートをブロッキングした。抗体含有上清をPBS中でタイトレーションを行い、振盪して室温で1時間、固定化されたGFP上でインキュベートした。M-PBST(0.5%脱脂乳および0.05%Tween-20が補充されたPBS)中に10μg/mlの濃度で、精製された組換えヒトC1qタンパク質(Quidel Corporation, San Diego, CA, USA)を結合した抗体に添加し、軽く振盪して室温で1時間プレートをインキュベートした。PBS-T(0.05%Tween-20が補充されたPBS)での洗浄工程の後、HRPに結合したヒツジ抗ヒトC1q抗体(Bio-Rad)を使用して結合を検出した。プレートは、製造業者の指示に従ってQuantaBlu蛍光発生的ペルオキシダーゼ基質キット(Thermo)を使用して蛍光を発生させ(developed)、蛍光は、320nmの励起および430nmの発光を使用してGenios Reader Pro(Tecan)で測定した。
【0125】
ヒトFcγRIへの抗体結合をELISAによって評価した。手短に言えば、Maxisorpプレート(Nunc(商標))をGFP(3μg/ml)またはFab抗イヌIgG(H+L)(5μg/ml)のいずれかで室温(RT)で1時間でコーティングした。ChemiBLOCKER(Millipore)を使用してプレートをブロッキングした。抗体含有上清をPBS中でタイトレーションを行い、振盪して室温で1時間、固定化されたGFP上でインキュベートした。10%ChemiBLOCKERおよび0.05%Tween-20が補充されたPBS中に1μg/mlの濃度で、ビオチン標識された組換えヒトFcγRIタンパク質(Sino Biological)を結合した抗体に添加し、軽く振盪して室温で1時間プレートをインキュベートした。PBS-T(0.05%Tween-20が補充されたPBS)での洗浄工程の後、ストレプトアビジン-HRP(Jackson ImmunoResearch)を使用して結合を検出した。プレートは、製造業者の指示に従ってQuantaBlu蛍光発生的ペルオキシダーゼ基質キット(Thermo)を使用して蛍光を発生させ、蛍光は、320nmの励起および430nmの発光を使用してGenios Reader Pro(Tecan)で測定した。
【0126】
図2に示すように、HC-B野生型バリアントは、C1q(1A、左手側のグラフ)またはFcγRIタンパク質(1B、左手側のグラフ)の両方に良く結合した。また、予想通り、野生型HC-A抗体はC1qにもFcγRIにも結合しなかったかまたは非常に弱くしか結合しなかった。すべての単一突然変異は、野生型HC-Bと比較して、C1qまたはFcγRIのいずれかへの弱い結合を示す。しかし、個々のバリアント間で明らかな違いがある。L235A突然変異はC1qへの結合を有意に低減させ、FcγRI結合を縮小した一方で、P331GはFcγRIへの結合をある程度保持したが、C1qを認識しない。S239AおよびD270バリアントは、両方のタンパク質への結合の低減を示したが、しかし、その効果はD270Aでより優勢である。
【0127】
単一突然変異体のどれもC1qとFcγRIの両方への結合の完全な欠如を示さなかったので、様々な組み合わせを試験した。図3に結果を示し、これは、2つ以上の突然変異の組み合わせが、C1qおよびFcγRIへの結合を無効にすることができることを示す。C1qまたはFcγRIのいずれかへのわずかな残留結合しか示さないバリアントHC-B_LSおよびHC-B_DPを除いて、すべての他のバリアントは実験環境下で結合しなかった。
【0128】
スクリーニングアッセイの結果を検証するために、いくつかのバリアントを精製し、HC-B wtおよびHC-A wtと比較して、C1q、FcγRI、およびFcRnへの結合について濃度依存的に試験した。
【0129】
1.5 精製された抗体を使用したFcバリアントの特徴付け
1.5.1 精製されたIgGを用いたC1q ELISA
本質的に上記のように、補体タンパク質C1qへの精製されたIgGの結合をELISAによって評価した。手短に言えば、精製された抗体をPBS中でタイトレーションを行い、Maxisorpプレート(Nunc(商標))上に室温で1時間固定化した。PBS中の5%脱脂乳を使用してプレートをブロッキングした。M-PBST(0.5%脱脂乳および0.05%Tween-20が補充されたPBS)中に10μg/mlの濃度で、精製された組換えヒトC1qタンパク質(Quidel Corporation, San Diego, CA, USA)を結合した抗体に添加し、軽く振盪して室温で1時間プレートをインキュベートした。PBS-T(0.05%Tween-20が補充されたPBS)での洗浄工程の後、HRP(Bio-Rad)に結合したヒツジ抗ヒトC1q抗体を使用して結合を検出した。プレートは、製造業者の指示に従ってQuantaBlu蛍光発生的ペルオキシダーゼ基質キット(Thermo)を使用して蛍光を発生させ、蛍光は、320nmの励起および430nmの発光を使用してGenios Reader Pro(Tecan)で測定した。
【0130】
1.5.2 精製されたIgGを用いたFcγRI ELISA
ヒトFcγRIへの抗体結合をELISAによって評価した。手短に言えば、抗体をPBS中でタイトレーションを行い、Maxisorpプレート(Nunc)上に室温で1時間固定化した。ChemiBLOCKERを使用してプレートをブロッキングした。10%ChemiBLOCKERおよび0.05%Tween-20が補充されたPBS中に1μg/mlの濃度で、ビオチン標識された組換えヒトFcγRIタンパク質(Sino Biological)を結合した抗体に添加し、軽く振盪して室温で1時間プレートをインキュベートした。PBS-T(0.05%Tween-20が補充されたPBS)での洗浄工程の後、ストレプトアビジン-HRP(Jackson ImmunoResearch)を使用して結合を検出した。プレートは、製造業者の指示に従ってQuantaBlu蛍光発生的ペルオキシダーゼ基質キット(Thermo)を使用して蛍光を発生させ、蛍光は、320nmの励起および430nmの発光を使用してGenios Reader Pro(Tecan)で測定した。
【0131】
1.5.3 精製されたIgGを用いたFcRn-ELISA
イヌFcRnへの抗体結合をELISAによって評価した。手短に言えば、抗体をPBS中でタイトレーションを行い、Maxisorpプレート(Nunc)上に室温で1時間固定化した。ChemiBLOCKERを使用してプレートをブロッキングした。10%ChemiBLOCKERおよび0.05%Tween-20が補充されたPBS、pH6中に10μg/mlの濃度で、ビオチン標識された組換えイヌFcRnタンパク質(Immunitrack)を結合した抗体に添加し、軽く振盪して室温で1時間プレートをインキュベートした。PBS-T(0.05%Tween-20が補充されたPBS)での洗浄工程の後、ストレプトアビジン-HRP(Jackson ImmunoResearch)を使用して結合を検出した。プレートは、製造業者の指示に従ってQuantaBlu蛍光発生的ペルオキシダーゼ基質キット(Thermo)を使用して蛍光を発生させ、蛍光は、320nmの励起および430nmの発光を使用してGenios Reader Pro(Tecan)で測定した。
【0132】
1.5.4 抗原結合ELISA
モデル抗原GFPへの抗体結合をELISAによって評価した。PBS中に希釈した3μg/mLのGFPをMaxisorpプレート(Nunc)上に室温で1時間固定化した。PBS中の5%脱脂乳を使用してプレートをブロッキングした。抗体をM-PBST(0.5%脱脂乳および0.05%Tween-20が補充されたPBS)中でタイトレーションを行い、結合した抗原に添加し、軽く振盪して室温で1時間プレートをインキュベートした。PBS-T(0.05%Tween-20が補充されたPBS)での洗浄工程の後、HRP(Sigma)に結合したウサギ抗イヌ(Fab)2抗体を使用して結合を検出した。プレートは、製造業者の指示に従ってQuantaBlu蛍光発生的ペルオキシダーゼ基質キット(Thermo)を使用して蛍光を発生させ、蛍光は、320nmの励起および430nmの発光を使用してGenios Reader Pro(Tecan)で測定した。
【0133】
2. 結果
HC-B wtは、タンパク質C1qおよびFcγRIへの結合を介して媒介されるエフェクター機能を効率的に誘導することが公知であり、これを陽性対照として後の実験で使用する。以前の研究のインビトロ結合実験によって、イヌHC-Aは、ほとんど親和性無しからまったく親和性無しでC1qタンパク質およびFcγRIに結合し、これによって、エフェクター機能の欠如がもたらされることが明らかになった。選択された候補を精製し、野生型HC-BおよびHC-Aに対して試験した。バリアントHC-B_MLは二重突然変異M234A/L235Aを含み、この二重突然変異は、ヒト抗体について、エフェクター機能を有意に低減させることが記載されている(Xu D, Alegre ML, Varga SS, et al. In vitro characterization of five humanized OKT3 effector function variant antibodies. Cell Immunol. 2000;200(1):16-26.)。非常に驚いたことに、イヌフレームワーク中の同じ突然変異はFcγRI結合を無効にしたが、該バリアントは依然としてC1qに結合することができた(図4AおよびBを参照されたい)。これらの結果は、ヒトのFc領域中の突然変異の特性は、一般にイヌFc領域へ移すことができないことを示す。新生児型受容体FcRn(図4C)および抗体が対象とする抗原(図4D)への結合は匹敵していた。HC-A野生型は期待される結果を与えたが、HC-Bバリアントと比較してFcRnへの結合も低減したことを認めたことは驚くべきことであった。
【0134】
細胞培養上清を使用した実験でも見られたように、バリアントHC-B_LPおよびHC-B_LSDPは、高い抗体濃度であってもC1qおよびFcγRIへの結合を失っていることが確かめられ(図5AおよびB)、一方で、FcRnへの結合を保持することができ、また、標的抗原の認識は影響を受けていなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
【配列表】
2023513952000001.app
【国際調査報告】