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特表2023-513964表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を生成させるためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-04
(54)【発明の名称】表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を生成させるためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20230328BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230328BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230328BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549938
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 GB2021050411
(87)【国際公開番号】W WO2021165693
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】2002416.2
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ケアンズ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】コナハン,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ダイアモンド,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,ジェシカ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,スチュアート
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA23
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を生成させるためのプロセスが提供される。このプロセスは、焼結ステップの前に、インシピエントウェットネスプロセスを使用して、金属含有化合物及びリチウム含有化合物を含むコーティング液を調節量でニッケル金属前駆体粒子に添加することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
LiNiCo2+b
式1
の組成を有する表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を生成させるためのプロセスであって、
式中、
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上であり、
0.8≦a≦1.2であり、
0.5≦x<1であり、
0<y≦0.5であり、
0≦z≦0.2であり、
-0.2≦b≦0.2であり、
x+y+z=1であり、
前記プロセスが、
(i)複数の一次粒子を含む二次粒子の形態でニッケル金属前駆体粒子を供給するステップと、
(ii)金属含有化合物及びリチウム含有化合物を含むコーティング液を供給するステップと、
(iii)インシピエントウェットネスプロセスを使用して前記コーティング液を前記ニッケル金属前駆体粒子に添加して含浸粉末を形成させるステップと、
(iv)前記含浸粉末を焼結して前記表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を形成させるステップと、
を含む、前記プロセス。
【請求項2】
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記インシピエントウェットネスプロセスが、前記ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の50~150%に相当する体積で前記コーティング液を添加することを含む、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ニッケル金属前駆体が、ニッケル金属水酸化物前駆体またはニッケル金属オキシ水酸化物前駆体である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
Aが、Al及び/またはMgを含むか、あるいはA及び/またはMgである、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記金属含有化合物が、コバルト含有化合物であり、好ましくは、硝酸コバルトである、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
AがAlを含み、前記コーティング液がアルミニウム含有化合物、好ましくは硝酸アルミニウムを含む、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記コーティング液が硝酸リチウムを含む、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記含浸粉末が、焼結ステップ(iv)前に水酸化リチウムと混合される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ニッケル金属前駆体粒子が、前記コーティング液の添加前にリチウム含有化合物(水酸化リチウムなど)と混合される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記コーティング液が、50~80℃の温度で供給される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記添加ステップが、40~80℃の温度で実施される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記コーティング液が、少なくとも1つの水和金属塩を加熱することによって形成される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記コーティング液中の金属の総モル濃度が、少なくとも0.5mol/L、少なくとも0.75mol/L、少なくとも1mol/L、少なくとも1.25mol/L、少なくとも1.5mol/L、少なくとも1.75mol/L、または少なくとも2mol/Lである、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記コーティング液が、前記コーティング液を前記ニッケル金属前駆体粒子上に噴霧することによって前記粒子に添加される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記焼結ステップが、600~800℃の温度に加熱することを含み、前記加熱することが、好ましくは、30分間~8時間実施される、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
添加されるコーティング液の体積が、前記ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の70~150%に相当し、好ましくは、前記ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の90~150%または90~125%に相当する、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
添加されるコーティング液の体積が、前記ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の100~150%に相当し、好ましくは、前記ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の100~125%に相当する、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を形成させるステップをさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料を含む前記電極を含む電池または電気化学セルを構築するステップをさらに含む、請求項19に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次リチウムイオン電池におけるカソード材料として有用なリチウムニッケル金属酸化物材料の改良調製プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有するリチウムニッケル金属酸化物材料は、二次リチウムイオン電池におけるカソード材料として有用である。そのような材料中のニッケル含量が高いと、放電容量は高まり得るが、充放電サイクルが繰り返された後の電気化学的安定性が不良であることに起因して容量維持率の低下も招き得る。
【0003】
粒子表面における、または二次粒子の場合は近接一次粒子間の粒界における、ある特定の金属元素(コバルトなど)の量を増加させることまたは高濃度化することが容量維持率の改善に有効な方法であり得ることが明らかとなっている。
【0004】
典型的には、リチウムニッケル金属酸化物材料は、ニッケル金属前駆体をリチウム源と混合した後、混合物を焼結して所望の層状結晶構造を形成させることによって生成される。その後、1つ以上の金属含有化合物の溶液中にリチウムニッケル金属酸化物材料の二次粒子を浸漬させた後、溶媒を蒸発によって除去してから第2の焼結ステップを行うことによって粒界高濃度化が達成される。
【0005】
例えば、WO2013025328では、層状α-NaFeO型構造を有するリチウムニッケル金属酸化物組成を含む複数の結晶子と近接結晶子間の粒界とを含む粒子について説明されており、粒界中のコバルトの濃度は結晶子中のコバルトの濃度よりも高い。WO2013025328の実施例2は、Li1.01Mg0.024Ni0.88Co0.122.03という組成を有し、コバルトが高濃度化された粒界を有する。この材料を形成させるには、ニッケルコバルト水酸化物前駆体、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、及び硝酸リチウムの混合物を焼結してリチウムニッケル金属酸化物のベース材料が形成される(実施例1)。粒界の高濃度化を達成するには、その後にこのリチウムニッケル金属酸化物のベース材料の粒子が硝酸リチウム及び硝酸コバルトの水溶液に添加された後、得られるスラリーが噴霧乾燥後に第2の熱処理ステップに供される(実施例2)。
【0006】
表面修飾及び/または粒界高濃度化を行うことは、追加のプロセスステップが必要になることで、エネルギー消費が大きくなり、プロセス廃棄物のレベルが上昇し、製造コストの上昇を招くという欠点を有する。このことは、そのような材料の商業的な実現可能性にも環境にも影響を与え得る。
【0007】
リチウムニッケル金属酸化物材料の改良製造プロセスが依然として必要とされている。具体的には、表面修飾及び/または粒界高濃度化を生じさせるプロセスを改良することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
粒界のコバルト高濃度化を達成する上ではコバルト含有化合物の溶液中にリチウムニッケル金属酸化物粒子を浸漬することは不要であり、体積が調節されたコーティング液をリチウムニッケル金属前駆体材料の二次粒子に添加することで、単回の焼結ステップの後に形成されるリチウムニッケル金属酸化物材料の粒界における組成を改変できることを本発明者らは発見しており、これは驚くべきことであった。
【0009】
浸漬-蒸発法によって生成される材料の容量維持率に少なくとも匹敵する材料が、本明細書に記載のプロセスによって生成され得ることがさらに明らかになっており、本明細書に記載のプロセスでは、製造プロセスの間に噴霧乾燥を行うことも焼結を複数回行うことも不要であるいう利点が得られることから、エネルギー消費が顕著に低減される。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様では、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を生成させるためのプロセスが提供され、この表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料は、式1:
LiNiCo2+b
式1
の組成を有し、
式中、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上であり、
0.8≦a≦1.2であり、
0.5≦x<1であり、
0<y≦0.5であり、
0≦z≦0.2であり、
-0.2≦b≦0.2であり、
x+y+z=1であり、
上記プロセスは、
(i)複数の一次粒子を含む二次粒子の形態でニッケル金属前駆体粒子を供給するステップと、
(ii)金属含有化合物及びリチウム含有化合物を含むコーティング液を供給するステップと、
(iii)インシピエントウェットネスプロセスを使用してコーティング液をニッケル金属前駆体粒子に添加して含浸粉末を形成させるステップと、
(iv)含浸粉末を焼結して表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を形成させるステップと、
を含む。
【0011】
本発明の第2の態様では、本明細書に記載のプロセスによって得られるまたは得ることが可能な表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい及び/または任意選択の特徴がここに記載されることになる。文脈上異なる解釈を要する場合を除き、本発明の態様はいずれも、本発明の任意の他の態様と組み合わせることができる。文脈上異なる解釈を要する場合を除き、いずれかの態様の好ましい及び/または任意選択の特徴はいずれも、単独でまたは組み合わせて、本発明の任意の態様と組み合わせることができる。
【0013】
本発明は、上に定義される式Iの組成を有する表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を生成させるためのプロセスを提供する。
【0014】
式Iでは、0.8≦a≦1.2である。aは、0.9以上または0.95以上であることが好ましくあり得る。aは、1.1以下または1.05以下であることが好ましくあり得る。0.90≦a≦1.10(例えば、0.95≦a≦1.05)であること、またはa=0もしくは約0であることが好ましくあり得る。
【0015】
式Iでは、0.5≦x<1である。0.6≦x<1(例えば、0.7≦x<1、0.75≦x<1、0.8≦x<1、0.85≦x<1、または0.9≦x<1)であることが好ましくあり得る。xは、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.96以下、または0.95以下であることが好ましくあり得る。0.75≦x<1(例えば、0.75≦x≦0.99、0.75≦x≦0.98、0.75≦x≦0.97、0.75≦x≦0.96、または0.75≦x≦0.95)であることが好ましくあり得る。0.8≦x<1(例えば、0.8≦x≦0.99、0.8≦x≦0.98、0.8≦x≦0.97、0.8≦x≦0.96、または0.8≦x≦0.95)であることがさらに好ましくあり得る。0.85≦x<1(例えば、0.85≦x≦0.99、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.97、0.85≦x≦0.96、または0.85≦x≦0.95)であることも好ましくあり得る。
【0016】
式1では、0<y≦0.5である。yは0.01以上、0.02以上、または0.03以上であることが好ましくあり得る。yは0.4以下、0.3以下、0.25以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、または0.05以下であることが好ましくあり得る。0.01≦y≦0.5、0.02≦y≦0.5、0.03≦y≦0.5、0.01≦y≦0.4、0.01≦y≦0.3、0.01≦y≦0.25、0.01≦y≦0.20、0.01≦y≦0.1、または0.03≦y≦0.1であることも好ましくあり得る。
【0017】
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上である。好ましくは、Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上である。Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であることがさらに好ましくあり得る。Aは少なくともMg及び/またはAlであること、あるいはAはAl及び/またはMgであること、すなわち、AはMg及び/またはAlであり、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上と任意選択で組み合わせられること、あるいは好ましくは、AはMg及び/またはAlであり、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上と任意選択で組み合わせられることがさらに好ましくあり得る。Aが複数の元素を含む場合、zは、Aを構成するそれらの元素のそれぞれの量の合計である。
【0018】
式Iでは、0≦z≦0.2である。0≦z≦0.15、0≦z≦0.10、0≦z≦0.05、0≦z≦0.04、0≦z≦0.03、0≦z≦0.02であること、またはzは0もしくは約0であることが好ましくあり得る。
【0019】
式Iでは、-0.2≦b≦0.2である。bは、-0.1以上であることが好ましくあり得る。bは、0.1以下であることも好ましくあり得る。-0.1≦b≦0.1であること、またはbは0もしくは約0であることがさらに好ましくあり得る。
【0020】
0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、かつx+y+z=1であることが好ましくあり得る。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1であり、かつA=Mg単独またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上とMgとの組み合わせ、もしくはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上とMgとの組み合わせであることも好ましくあり得る。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1であり、かつA=Al単独またはV、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上とAlとの組み合わせ、もしくはMg、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上とAlとの組み合わせであることも好ましくあり得る。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1であり、かつA=Al及びMgのみまたはV、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、Wのうちの1つ以上とAl及びMgとの組み合わせもしくはV、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上とAl及びMgとの組み合わせであることがさらに好ましくあり得る。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.1、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1であり、かつAは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上であること、またはAは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上であること、またはAは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であることも好ましくあり得る。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.05、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1であり、かつAは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、及びWのうちの1つ以上であること、またはAは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上であること、またはAは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であることがさらに好ましくあり得る。
【0021】
典型的には、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料は、結晶性(または実質的に結晶性の材料)である。これは、α-NaFeO型構造を有し得る。
【0022】
表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子は、複数の一次粒子を含む二次粒子(1つ以上の結晶子から構成される)の形態を有する。一次粒子は、結晶粒としても知られ得る。一次粒子は、粒界によって隔てられている。
【0023】
典型的には、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料の粒界におけるコバルトの濃度は、ニッケル金属前駆体粒子の粒界におけるコバルトの濃度よりも高い。
【0024】
式Iのリチウムニッケル金属酸化物粒子材料は表面修飾される。本明細書では、「表面修飾」という用語は、粒子材料中の粒子が当該粒子の表面または表面付近に材料の層を含み、この層が含む少なくとも1つの元素の濃度が当該粒子の残りの材料(すなわち、粒子のコア)のものよりも高いことを指す。典型的には、粒子を1つ以上のさらなる金属含有化合物と接触させ、その後に材料を加熱することで表面修飾が生じる。明確には、本明細書での式Iの組成の議論は、表面修飾粒子の文脈の場合、粒子全体、すなわち、修飾表層を含む粒子に関する。
【0025】
典型的には、式Iの表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料は、高濃度化粒界を含み、すなわち、粒界における1つ以上の金属の濃度は、一次粒子中の1つ以上の金属の濃度よりも高い。
【0026】
表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料の一次粒子の間の粒界におけるコバルトの濃度は、一次粒子中のコバルトの濃度よりも高いことが好ましくあり得る。代替的または付加的に、一次粒子間の粒界におけるアルミニウムの濃度は、一次粒子中のアルミニウムの濃度よりも高いことがさらに好ましくあり得る。
【0027】
一次粒子中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、Co、及びAの総含量に対して少なくとも0.5原子%(例えば、少なくとも1原子%、少なくとも2原子%、または少なくとも2.5原子%)であり得る。一次粒子中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、Co、及びAの総含量に対して35原子%以下(例えば、30原子%以下、20原子%以下、原子%以下、15原子%以下、10原子%以下、8原子%以下、または5原子%以下)であり得る。
【0028】
粒界におけるコバルトの濃度は、粒界におけるNi、Co、及びAの総含量に対して少なくとも1原子%、少なくとも2原子%、少なくとも2.5原子%、または少なくとも3原子%であり得る。粒界におけるコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、Co、及びAの総含量に対して40原子%以下(例えば、35原子%以下、30原子%以下、20原子%以下、原子%以下、15原子%以下、10原子%以下、または8原子%以下)であり得る。
【0029】
一次粒子中のコバルトの濃度と粒界におけるコバルトの濃度との差は、(粒界におけるコバルトの濃度(原子%)から一次粒子中のコバルトの濃度(原子%)を差し引くことによって計算した場合)少なくとも1原子%(例えば、少なくとも3原子%または少なくとも5原子%)であり得る。
【0030】
粒界における及び一次粒子中の金属(コバルトまたはアルミニウムなど)の濃度は、薄片化手法(集束イオンビーム加工など)によって粒子を薄く切った(例えば、厚さ100~150nm)切片について粒界の中心及び近接一次粒子の中心をエネルギー分散型X線分光法(EDX)で分析することによって決定され得る。
【0031】
典型的には、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、その表面上にコバルト高含有コーティングを有する。二次粒子中のコバルトの濃度は、二次粒子の表面から二次粒子の中心に向かう方向で減少し得る。二次粒子の表面におけるコバルトの濃度と二次粒子の中心のコバルトの濃度との間の差は、(粒子の中心のコバルトの濃度(原子%)から粒子の表面におけるコバルトの濃度(原子%)を差し引くことによって計算した場合)少なくとも1原子%(例えば、少なくとも3原子%、または少なくとも5原子%)であり得る。コバルトの濃度は、粒界及び一次粒子について上に定義されるように決定され得る。
【0032】
表面修飾リチウムニッケル金属酸化物の二次粒子は、典型的には、少なくとも1μm(例えば、少なくとも2μm、少なくとも4μm、または少なくとも5μm)のD50粒径を有する。表面修飾リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、典型的には、30μm以下(例えば、25μm以下または12μm以下)のD50粒径を有する。表面修飾リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、1μm~30μm(2μm~25μmまたは5μm~20μmなど)のD50を有することが好ましくあり得る。本明細書で使用されるD50という用語は、体積加重分布のメジアン粒径を指す。D50は、レーザー回折法(例えば、粒子を水に懸濁し、Malvern Mastersizer 2000を使用して分析することによるもの)を使用することによって決定され得る。
【0033】
本明細書に記載のプロセスは、コーティング液をニッケル金属前駆体粒子に添加することを含む。ニッケル金属前駆体は、ニッケル及び1つ以上の追加の金属を含み、熱処理時に層状構造を有するリチウムニッケル金属酸化物へと変換され得る化合物である。ニッケル金属前駆体は、沈降ニッケル金属化合物であり得、例えば、共沈混合ニッケル金属化合物であり得る。
【0034】
ニッケル金属前駆体は、ニッケル金属水酸化物、ニッケル金属オキシ水酸化物、またはそれらの混合物であり得る。
【0035】
ニッケル金属前駆体は、式2:
[NiX2Coy2z2][O(OH)α1
式2
の化合物を含むことが好ましくあり得、
式中、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、Ca、S、Ce、La、Mo、Nb、P、Sb、Wのうちの1つ以上であり、好ましくは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であり、
0.5≦x2<1であり、
0≦y2≦0.5であり、
0≦z2≦0.2であり、
pは、0≦p<1の範囲内であり、qは、0<q≦2の範囲内であり、x2+y2+z2=1であり、αは、全電荷バランスが0になるように選択される。
【0036】
好ましくは、pは0であり、qは2である。換言すれば、好ましくは、ニッケル金属前駆体は、一般式[NiX2Coy2Z2][(OH)αを有する純粋な金属水酸化物である。
【0037】
上で議論されるように、αは、全電荷バランスが0になるように選択される。したがって、αは、0.5≦α≦1.5を満たし得る。例えば、αは1であり得る。+2の原子価状態を有さないまたは+2の原子価状態で存在しない1つ以上の金属をAが含む場合、αは1以外であり得る。
【0038】
x2、y2、及びz2の値ならびに元素(複数可)Aは、本明細書に記載のプロセスの後に所望の式1の組成が達成されるように選択されることを当業者なら理解するであろう。
【0039】
0.7≦x2<1、0<y2≦0.3、0≦z2≦0.2であること、または0.75≦x2<1、0<y2≦0.25、0≦z2≦0.2であることが好ましくあり得る。0.75≦x2<1、0<y2≦0.25、0≦z2≦0.2であり、かつA=Mg単独またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上とMgとの組み合わせであることも好ましくあり得る。0.75≦x1<1、0<y1≦0.25、0≦z1≦0.2であり、かつA=Al単独またはMg、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上とAlとの組み合わせであることも好ましくあり得る。
【0040】
例えば、ニッケル金属前駆体は、式Ni0.90Co0.05Mg0.05(OH)、式Ni0.90Co0.06Mg0.04(OH)、式Ni0.90Co0.07Mg0.03(OH)、式Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)、式Ni0.88Co0.08Mg0.04(OH)、式Ni0.90Co0.08Mg0.02(OH)、または式Ni0.93Co0.06Mg0.01(OH)の化合物であり得る。
【0041】
ニッケル金属前駆体粒子は、複数の一次粒子を含む二次粒子の形態で供給される。
【0042】
ニッケル金属前駆体材料は、当業者によく知られる方法によって生成される。典型的には、こうした方法は、金属塩(金属硫酸塩など)の溶液から(例えば、アンモニア及び塩基(NaOHなど)の存在下で)混合金属水酸化物を共沈させることを含む。場合によっては、適切なニッケル金属前駆体(混合金属水酸化物など)は、当業者に知られる商業的な供給元から得ることが可能であり得る。
【0043】
コーティング液の添加前に、少なくとも1つのリチウム含有化合物を前駆体粒子と混合することが好ましくあり得る。前駆体粒子と混合され得る適切なリチウム含有化合物には、リチウム塩(無機リチウム塩など)が含まれる。水酸化リチウムは、特に好ましくあり得る。
【0044】
コーティング液は、少なくとも1つの金属含有化合物とリチウム含有化合物とを含む。金属含有化合物(複数可)は、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料の表層に存在することが望まれる1つ以上の元素を含むことを当業者なら理解するであろう。金属含有化合物は、典型的には、金属塩(硝酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、または酢酸塩など)である。金属含有化合物(コバルト含有化合物を含む)は、無機金属塩であることが好ましくあり得る。硝酸塩は、特に好ましくあり得る。典型的には、コーティング液は、水溶液である。
【0045】
好ましくは、金属含有化合物は、コバルト含有化合物である。典型的には、コバルト含有化合物は、コバルト塩(無機コバルト塩(例えば、硝酸コバルトまたは硫酸コバルト)など)である。硝酸コバルトは、特に好ましくあり得る。
【0046】
好ましくは、コーティング液は、アルミニウム含有化合物を含む。アルミニウム含有化合物は、典型的には、アルミニウム塩(無機アルミニウム塩(例えば、硝酸アルミニウム)など)である。これは、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界及び/または表面もしくは表面付近におけるアルミニウムの濃度を増加させ得るものであり、これによって電気化学的性能が改善され得る。
【0047】
コーティング液は、コバルト含有化合物及びアルミニウム含有化合物を含むことが特に好ましくあり得る。
【0048】
コーティング液は、リチウム含有化合物も含む。リチウム含有化合物をコーティング液に含めることは、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料の構造中の空隙または欠損を回避する上で有益であり得、こうした空隙または欠損は、耐用年数の低下を引き起こし得るものである。コーティング液に含められ得る適切なリチウム含有化合物には、リチウム塩(無機リチウム塩(例えば、硝酸リチウムまたは硫酸リチウム)など)が含まれる。硝酸リチウムは、特に好ましくあり得る。
【0049】
金属含有化合物(複数可)は、金属塩の水和物(例えば、金属硝酸塩の水和物(硝酸コバルト及び/または硝酸アルミニウムの水和物など))が任意選択で硝酸リチウムまたは硝酸リチウムの水和物と組み合わさったものとして供給されることが好ましくあり得る。
【0050】
金属塩水和物は、加熱してコーティング液を形成させることが特に好ましくあり得る。有利には、加熱時にそのような材料に脱水が生じて相転移を起こし、高い金属濃度でのコーティングに適した液体が形成される。さらに、金属塩水和物は、典型的には、脱水された均等物よりも経済的である。任意選択で、必要に応じて、さらに水を添加することで、コーティング液の必要体積が達成され得る。
【0051】
金属含有化合物(複数可)及びリチウム含有化合物の溶液を、溶媒(例えば、水)の蒸発によって所望の体積が得られるまで加熱することによってコーティング液を形成させることも好ましくあり得る。
【0052】
好ましくは、コーティング液は、少なくとも50℃の温度で供給される。これによって、添加中に金属含有化合物(複数可)が結晶化する可能性が低減される。この結晶化は、混合不良及びコーティングの不均一化を引き起こし得るものである。さらに、温度を上昇させることで、金属塩を高濃度で使用すること、及び金属塩水和物を加熱することによってコーティング液を調製することが可能になる。
【0053】
典型的には、コーティング液は、50~80℃の温度(50~75℃、55~75℃、60~75℃、または65~75℃など)で供給される。
【0054】
典型的には、コーティング液中の金属の総モル濃度(すなわち、コーティング液中の各金属のモル濃度の合計)は、少なくとも0.5mol/Lである。使用されるコーティング液の総金属濃度は、前駆体材料への適用に必要な金属の量に加えて、前駆体材料の見かけの細孔容積にも依存することになることを当業者なら理解するであろう。一方で、総金属濃度が0.5mol/L未満であると、表面修飾及び/または粒界高濃度化の一貫性が失われ得る。好ましくは、コーティング液中の金属の総モル濃度は、少なくとも0.75mol/L、1.0mol/L、1.25mol/L、1.5mol/L、1.75mol/L、2.0mol/L、2.5mol/L、または3mol/Lである。
【0055】
総モル濃度は、必要体積のコーティング液における金属含有化合物の溶解性によって制限されることになることを当業者なら理解するであろう。典型的には、コーティング液中の金属の総モル濃度は7mol/L未満である。典型的には、コーティング液中の金属の総モル濃度は、0.5mol/L~7mol/L(1mol/L~7mol/L、2mol/L~7mol/L、3mol/L~7mol/L、または4mol/L~7mol/Lなど)である。
【0056】
コーティング液は、ニッケル金属前駆体粒子に添加される。典型的には、ニッケル金属前駆体粒子は、コーティング液の添加前に混合容器に入れられる。典型的には、コーティング液が添加される間、粒子は(例えば、撹拌またはかき混ぜによって)混合される。これによって、コーティング液の均一分布が確保される。
【0057】
添加ステップは、制御された雰囲気(CO及び/または水分が存在しない雰囲気など)の下で実施し得ることが好ましくあり得、こうして雰囲気を制御することで、表面上の不純物(炭酸リチウムなど)のレベルが低減され得る。
【0058】
添加は、いくつかの手段によって実施され得る。こうした手段は、注入管を介して混合容器への添加を少量ずつ行うもの、またはコーティング液をリチウムニッケル金属前駆体粒子上に噴霧することによるものなどである。コーティング液を噴霧することで、コーティング液の分布一貫性が向上し、コーティングプロセスの再現性が向上し、コーティング液の添加が完了するまでの混合時間が短縮され得ると考えられる。
【0059】
添加ステップは、温度を上昇させて実施することができ、すなわち、リチウムニッケル金属前駆体粒子を含む容器をコーティング液の添加前に加熱して容器の温度を環境温度よりも高い温度(25℃超の温度、好ましくは30℃超の温度、または40℃超の温度など)にして添加ステップを実施することができる。添加ステップの間に温度を上昇させておくことで、添加ステップの間にコーティング液の成分が固化または結晶化する可能性が低減され、ひいてはコーティングの均一性確保に役立つ。
【0060】
40℃~80℃(50℃~70℃または55℃~65℃など)の温度で添加ステップを実施することが好ましくあり得る。
【0061】
本明細書に記載のプロセスでは、コーティング液は、インシピエントウェットネスプロセスを使用してニッケル金属前駆体粒子に添加される。本明細書では、インシピエントウェットネスプロセスは、ニッケル金属前駆体粒子に添加されるコーティング液の体積がニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の決定に基づいて調節されることを意味する。インシピエントウェットネスプロセスを使用することで含浸粉末が得られ、先行技術プロセスによって説明されるように前駆体粒子をコーティング液中に含む懸濁液が得られることはない。
【0062】
好ましくは、コーティング液は、ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の50~150%に相当する体積でリチウムニッケル金属前駆体粒子に添加される。コーティング液の体積を粒子の見かけの細孔容積の50%未満にすると、表面修飾が不均一なものとなり得る。表面修飾及び粒界高濃度化を達成するにはコーティング液の体積を粒子の見かけの細孔容積の150%超にすることは不要であり、150%超にすると、溶媒除去及び/または乾燥、それに伴うエネルギー消費の必要性が高まり、悪影響が生じることが明らかになっている。
【0063】
好ましくは、コーティング液は、ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の70~150%またはより好ましくは90~150%に相当する体積でニッケル金属前駆体粒子に添加される。コーティング液の体積を利用可能な細孔容積の70%超または90%超にすることで、粒界高濃度化が増進し得る。
【0064】
好ましくは、コーティング液は、ニッケル金属前駆体粒子の見かけの細孔容積の70~125%またはより好ましくは90~125%に相当する体積でニッケル金属前駆体粒子に添加される。コーティング液の体積を見かけの細孔容積の125%未満にすることで、乾燥及び蒸発の必要性が低減される。コーティング液の体積を粒子の見かけの細孔容積の125%超にすると、コーティング液が添加された時点でニッケル金属前駆体粒子を含む容器中にコーティング液が溜まり得、これによって表面修飾の均一化を達成する上で悪影響が生じ得ることも観察されている。添加されるコーティング液の体積は、粒子の見かけの細孔容積の95%~120%相当、または95%~115%相当、または95%~110%相当、または95%~105%相当であることが好ましくあり得る。
【0065】
添加されるコーティング液の体積は、粒子の見かけの細孔容積の100%~150%相当、または100~125%相当、100~120%相当、100~115%相当、または100~110%相当であることも好ましくあり得る。
【0066】
ニッケル金属前駆体材料の単位質量当たりの見かけの細孔容積は、トルク測定システム(Brabender Adsorptometer「C」など)を使用して決定される。この方法では、混合プロセスの間にトルクが測定される。混合しながらニッケル金属前駆体粒子に水が添加され、添加体積-トルク曲線上でトルクピークが生じる。トルクピークが生じた時点での粒子の単位質量当たりの添加水の体積が、粒子の単位質量当たりの見かけの細孔容積である。
【0067】
コーティング液の添加完了後、粒子は、ある一定の時間混合され得る。典型的には、粒子は、コーティング液の添加完了後1~60分間混合され得る。
【0068】
好ましくは、プロセスは、焼結ステップの前に含浸粉末をリチウム含有化合物と混合することを含む。含浸粉末と混合され得る適切なリチウム含有化合物は、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸水素リチウム、酢酸リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、及び過酸化リチウムから選択される1つ以上のリチウム化合物を含む。含浸粉末と混合されるリチウム含有化合物は、炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうちの1つ以上から選択されることが好ましくあり得る。含浸粉末と混合されるリチウム含有化合物は水酸化リチウムであることがさらに好ましくあり得る。本発明は、含浸粉末と混合されるリチウム含有化合物が水酸化リチウムである場合に特に有利であり得る。リチウム遷移金属酸化物材料が含むマンガンのレベルが低く(例えば、リチウムニッケル金属酸化物材料中の遷移金属のモルに対して10mol%未満、5mol%未満、もしくは1mol%未満)、及び/またはリチウム遷移金属酸化物材料がマンガンを全く含まない場合、水酸化リチウムは、特に適切なリチウム含有化合物である。
【0069】
好ましくは、焼結ステップ(iv)の前に、コーティング液は、第1のリチウム含有化合物(硝酸リチウムまたは硫酸リチウムなど)を含み、含浸粉末は、第2のリチウム含有化合物(水酸化リチウムなど)と混合される。
【0070】
リチウム含有化合物が含浸粉末に添加されている場合、混合物は、典型的には、焼結前にある一定時間(例えば、リチウム含有化合物の添加完了から1~60分間)混合される。
【0071】
その後、混合物は、焼結ステップの前に任意選択で乾燥され、この乾燥は、例えば100~150℃(120℃など)の温度で、例えば1~5時間(2時間など)加熱することによって行われる。混合物を焼結ステップに直接的に供することが好ましくあり得、追加の乾燥が不要となる。有利には、混合物は、コーティング液の添加に使用する容器から直接的に焼結炉に移され得る。
【0072】
その後、混合物は焼結されて表面修飾リチウムニッケル金属酸化物粒子材料を形成する。有利には、本明細書に記載のプロセスは、好ましくは、単回の焼結ステップを含む。
【0073】
焼結ステップは、典型的には、約800℃以下の温度で実施される。より高い焼結温度を使用すると、粒界高濃度化及び/またはリチウムニッケル金属酸化物粒子内での金属元素の分布均一化が低下し得る。
【0074】
焼結ステップは、約750℃以下、740℃以下、730℃以下、720℃以下、または710℃以下の温度で実施することがさらに好ましくあり得る。
【0075】
好ましくは、焼結ステップは、少なくとも約600℃または少なくとも約650℃の温度に混合物を加熱することを含み、例えば、約600℃~約800℃、約600~約750℃、または約650~約750℃の温度に混合物を加熱することを含む。焼結ステップは、少なくとも30分間、少なくとも1時間、または少なくとも2時間、少なくとも約600℃または少なくとも約650℃の温度に混合物を加熱することを含むことがさらに好ましくあり得る。この時間は、8時間未満であり得る。
【0076】
好ましくは、焼結は、600~800℃の温度に混合物を30分間~8時間加熱するステップを含み、より好ましくは、600~750℃の温度に混合物を30分間~8時間加熱するステップを含み、さらにより好ましくは、650~750℃の温度に混合物を30分間~8時間加熱するステップを含む。
【0077】
焼結ステップは、CO非含有雰囲気下で実施され得る。例えば、加熱の間にCO非含有空気を材料上に通気することができ、この通気は、任意選択で冷却の間にも行われる。CO非含有空気は、例えば、酸素と窒素との混合物であり得る。好ましくは、雰囲気は、酸化雰囲気である。本明細書で使用される「CO非含有」という用語は、COの含有量が100ppm未満(例えば、COの含有量が50ppm未満、COの含有量が20ppm未満、またはCOの含有量が10ppm未満)である雰囲気を含むことが意図される。こうしたCOレベルは、COスクラバーを使用してCOを除去することによって達成され得る。
【0078】
CO非含有雰囲気は、OとNとの混合物を含むことが好ましくあり得る。混合物は、N及びOを1:99~90:10(例えば、1:99~50:50、1:99~10:90、例えば、約7:93)の比で含むことがさらに好ましくあり得る。焼結における酸素レベルが高いこと(酸素含量が90%を超えることなど)は、形成される表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料の放電容量を増強する上で有利となり得る。CO非含有雰囲気は、酸素雰囲気でもあり得る。
【0079】
プロセスは、1つ以上のミリングステップを含み得、こうしたミリングステップは、焼結ステップ後に実施され得る。ミリング装置の性質については、特に限定されない。例えば、ミリング装置は、ボールミル、遊星ボールミル、またはローリングベッドミル(rolling bed mill)であり得る。ミリングは、粒子が所望のサイズに達するまで実施され得る。例えば、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が少なくとも5μm(例えば、少なくとも5.5μm、少なくとも6μm、または少なくとも6.5μm)となるような体積粒径分布を有するまでミリングに供され得る。表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が15μm以下(例えば、14μm以下または13μm以下)となるような体積粒径分布を有するまでミリングに供され得る。
【0080】
本発明のプロセスは、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極(典型的には、カソード)を形成させるステップをさらに含み得る。典型的には、このステップは、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料のスラリーを形成させ、集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面にスラリーを供し、任意選択で加工(例えば、カレンダリング)を行って電極の密度を上げることによって実施される。スラリーは、溶媒、バインダー、炭素材料、及びさらなる添加剤のうちの1つ以上を含み得る。
【0081】
典型的には、本発明の電極は、少なくとも2.5g/cm、少なくとも2.8g/cm、または少なくとも3g/cmの電極密度を有することになる。本発明の電極は、4.5g/cm以下または4g/cm以下の電極密度を有し得る。電極密度は、電極形成の基礎である集電体を含まない、電極の電極密度(質量/体積)である。したがって、電極密度は、活物質、任意の添加剤、任意の追加の炭素材料、及び任意の残りのバインダーからの寄与を含む。
【0082】
本発明のプロセスは、表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を含む電池または電気化学セルを構築することをさらに含み得る。電池またはセルは、典型的には、アノード及び電解質をさらに含む。電池またはセルは、典型的には、二次(再充電可能)リチウム(例えば、リチウムイオン)電池であり得る。
【0083】
ここで、本発明は、下記の実施例を参照して説明されることになるが、これらの実施例は、本発明の理解を支援するために与えられるものであり、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【実施例
【0084】
実施例1-表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料(Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012)の生成方法.
【0085】
(A)ニッケル金属前駆体材料の見かけの細孔容積の計算
式Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)のニッケル金属水酸化物前駆体材料(Brunp)をBrabendar absorptometer Bトルク測定システムに90.0gロードし、脱塩水を4ml/分で添加した。固体材料質量当たりの添加液体量に対してトルク指示値をプロットした。トルク指示値は0.19ml/gにピーク値を示した。このピークへと繋がるトルク上昇の発生を、ニッケル金属水酸化物前駆体材料の単位質量当たりの見かけの細孔容積(0.15ml/g)とした。
【0086】
(B)使用すべきコーティング液の体積の計算
所望の表面修飾リチウムニッケル金属酸化物組成であるLi1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012に基づいて、ニッケル金属水酸化物前駆体のサンプル250gへの添加に必要なCo、Al、及びLiの量を計算し(以下に示される)、これによって、使用すべき硝酸塩結晶の量を計算した。
前駆体の質量:250g
添加すべきコバルトの質量:6.30g Co(NO.6HOの重量:31.09g
添加すべきアルミニウムの質量:0.46g AI(NO.9HOの重量:6.41g
添加すべきリチウムの質量:0.50g LiNOの重量:4.95g
コーティング後に添加すべき水酸化リチウムの質量:65.82g
【0087】
(2)混合した硝酸塩結晶を60℃に加熱したときに得られた液体の体積は、23mLと測定された。
【0088】
(3)ニッケル金属水酸化物前駆体(250g)の見かけの細孔容積は、37.5mL(0.15mL/g250g)と計算された。
【0089】
(4)見かけの細孔容積の約110%に相当するコーティング液体積を達成するために硝酸塩結晶に添加すべき水の量は、18mLと計算された。
【0090】
(C)表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料(Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012)の調製
硝酸コバルト(II)六水和物(31.1g、ACS、98~102%、(Alfa Aesarから入手))、硝酸アルミニウム九水和物(6.41g、98%(Alfa Aesarから入手))、及び硝酸リチウム(4.95g、無水、99%(Alfa Aesarから入手))を水(18ml)と混合し、その後に約60℃に加熱してコーティング液を形成させた。式Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)のニッケル金属水酸化物前駆体材料のサンプル(250g)をWinkworth MixerモデルMZ05にロードし、ミキサーを50rpmで動かしながら60℃に加熱した。その後、ピペットを使用してコーティング液を5分間にわたって前駆体材料に添加した。次に、ミキサーをそのまま10分間動かした後、無水LiOH(65.8g)の添加を行った。取り出しまでミキサーをそのままさらに10分間動かした。
【0091】
この粉末をアルミナるつぼ(寸法:4.5cm×4.5cm、ベッドローディング2.4g/cm)に約48g添加した。次に、このサンプルを、スクラバーから供給されるCO非含有空気と共にCarbolite Gero GPC1200炉中で焼結させた。このサンプルの焼結は、CO非含有空気を流速2.5ml/分で供給しながら、5℃/分での450℃への加熱、450℃での2時間の保持、2℃/分での700℃への加熱、700℃での6時間の保持、室温への冷却を行うことによって実施した。
【0092】
実施例2-焼結条件のバリエーション
標的式Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012の表面修飾リチウムニッケル金属酸化物材料のサンプルを、実施例1に記載の方法によって生成させた。焼結条件は以下のように改変した:
【0093】
実施例2A:実施例1と同じ温度プロファイルを用いて焼結を実施したが、その際、ベッド深度は0.8g/cmとした。生成された材料の粉末X線回折(XRD)では、LiNiOの主相に帰属される回折パターンを有する結晶材料であることが示された。
【0094】
実施例2B:実施例1と同じ焼結条件で粉末を焼結し、その際、酸素:窒素(93:7)の流速は2.5ml/分とし、ベッド深度は2.4g/cmとした。
【0095】
実施例2C:酸素:窒素(93:7)の雰囲気の下で下記の温度プロファイルを使用して粉末を焼結した:450℃まで5℃/分、450℃での1時間の保持、2℃/分での700℃への加熱、700℃での2時間の保持、室温への冷却。
【0096】
実施例3-電気化学的試験
実施例1及び実施例2で得られたサンプルを、以下に記載のプロトコールを使用して電気化学的に試験した。これらのサンプルを、WO2013025328に記載の方法と類似的な溶液浸漬-噴霧乾燥法を使用して調製した組成と一致するリチウムニッケル金属酸化物材料の対照サンプルと比較した。
【0097】
電気化学プロトコール
活物質としてのリチウムニッケル金属酸化物(94%wt)、導電助剤としてのSuper-C(3%wt)、及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)(3%wt)を、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリジン(NMP)中で混合することによって電極を調製した。スラリーをリザーバー上に入れ、125μmのドクターブレードコーティング(Erichsen)をアルミホイルに適用した。電極を120℃で1時間乾燥させた後、圧縮してその密度を3.0g/cmにした。典型的には、活物質のローディングは9mg/cmである。圧縮電極を切断して14mmディスクとし、減圧下、120℃で12時間さらに乾燥させた。
【0098】
CR2025コイン電池型を用いて電気化学的試験を実施した。このCR2025コイン電池型は、アルゴン充填グローブボックス(MBraun)中で組み立てた。リチウムホイルをアノードとして使用した。多孔質ポリプロピレン膜(Celgrad2400)をセパレーターとして使用した。炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、及び炭酸エチルメチル(EMC)の1:1:1混合物(炭酸ビニル(VC)を1%含む)中の1MのLiPFを電解質として使用した。
【0099】
3.0~4.3Vの電圧範囲を使用するCレート試験及び維持試験を行ってMACCOR4000シリーズでセルを試験した。Cレート試験では、セルの充電及び放電を0.1C及び5C(0.1C=200mAh/g)で行った。容量維持率試験は1Cで実施し、サンプルの充電及び放電を50サイクル行った。
【0100】
電気化学的試験の結果
電気化学的試験の結果は表1に示される。このデータは、先行技術である浸漬-噴霧乾燥法を使用して得られる容量維持率に少なくとも匹敵する材料が本明細書に記載のプロセスによって生成されることを示す。
【表1】
【0101】
実施例4-粒界高濃度化の分析
実施例2Aで生成された材料をFIB-TEM(集束イオンビーム-透過型電子顕微鏡法)によって分析した。サンプルをグローブボックス内で導電カーボン片上に乗せ、トランスファーシャトルを使用してFIBに移した。30kVでガリウムイオンビームを用いて集束イオンビーム機器でサンプルを調製した。最終的な仕上げを5kVで実施した。JEM2800(走査)透過型電子顕微鏡において、下記の機器条件でサンプルを調べた:電圧(kV)200;C2絞り(um)70及び40;軸外環状検出器を使用する走査モードでの暗視野(Zコントラスト)像の取得。組成分析は、走査モードでのX線放射検出(EDX)によって実施した。
【0102】
この分析では、粒子表面及び粒界においてコバルトが高濃度化しており、粒界及び表面におけるコバルト濃度が一次粒子中のコバルト濃度よりも高いことが示された。
【0103】
実施例2Aの方法に従って調製したサンプルのTEM分析では、粒子表面においてアルミニウムが高濃度化しており、表面におけるアルミニウム濃度が一次粒子中のアルミニウム濃度よりも高いことが示された。
【国際調査報告】