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特表2023-514062荷電リング構造を使用して、高均一性を有するパルス電界を印加するシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】荷電リング構造を使用して、高均一性を有するパルス電界を印加するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/40 20060101AFI20230329BHJP
   A61N 1/32 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61N1/40
A61N1/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544423
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 US2021016554
(87)【国際公開番号】W WO2021158746
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】62/971,562
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/143,303
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521241100
【氏名又は名称】ザ ファントム ラボラトリー,インコーポレイテッド
(74)【復代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】マロッツィ,リチャード
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ04
4C053JJ13
4C053JJ15
4C053JJ32
4C053LL13
(57)【要約】
【解決手段】高均一性のパルス電界を生成する装置、システム、および方法が提供される。電界は、ヒトまたは動物の患者を置くのに適切な大きな体積を占める。電界を生成するための装置が提供され、該装置は導電性材料で作られた複数のリング構造を含み、リング構造は異なる電圧レベルに充電される。装置は、電流でパルス化される際、リング構造の内部領域中に高均一性の電界を生成する。これらの電界パルスは、薬剤と組み合わせて使用すると、標的浸透圧溶解と呼ばれるプロセスを通じて癌細胞を破壊する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電界を生成するための装置であって、
導電性材料で作られた複数のリング構造を含み、前記リング構造は異なる電圧レベルに荷電される、装置。
【請求項2】
前記リング構造は、同軸に配置され、空間的に分離されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記導電性材料は、金属、電解質、超電導体、半導体、プラズマ、グラファイトおよび導電性ポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記リング構造は円形状である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記リング構造は非円形状である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記リング構造の直径は同じである、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記リング構造の直径は異なる、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記リング構造の直径は、リング構造内にヒトまたは動物の対象を置くのに十分な大きさである、請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記ヒトまたは動物の対象は、装置の中心軸に沿って置かれる、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記リング構造は、数インチ~数フィートの範囲の距離だけ分離される、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記パルス電界は、前記リング構造に印加される異なる電圧レベルによって生成される、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
各リング構造に印加された電圧レベルは、前記パルス電界の均一性を最適化するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
請求項1~12に記載の装置を含むパルス電界を生成するためのシステムであって、
駆動および感知回路と、
前記装置を前記駆動および感知回路に接続する複数のケーブルと、
前記装置と、前記駆動および感知回路を操作するためのユーザインタフェースを提供するマイクロプロセッサと、をさらに含む、システム。
【請求項14】
標的浸透圧溶解による治療処置のための方法であって、ヒトまたは動物の対象に請求項1~12に記載の装置によって生成される治療上有効量のパルス電界を施す工程を含む、方法。
【請求項15】
前記治療上有効量のパルス電界は、2日間連続して、2時間18V/mの電界振幅である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
腫瘍が臨床的に検出不可能になるまで、腫瘍を有するヒトまたは動物の対象に前記治療上有効量のパルス電界を毎月施す工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
腫瘍を有するヒトまたは動物の対象に前記治療上有効量のパルス電界を一生にわたって毎月施す工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記Na、K-ATPアーゼをブロックするための治療上有効量の薬剤をヒトまたは動物の対象に投与する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
Na、K-ATPアーゼをブロックするための薬剤は、ジゴキシンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ジゴキシンの定常状態のレベルは、前記パルス電界を施す前に、ヒトまたは動物の対象において到達される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
マウスにおいて前記ジゴキシンの定常状態のレベルは、1時間あたり3mg/kgの用量で達成される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記パルス電界を各2日間施す間にジゴキシンが投与されない期間がある、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記パルス電界を各2日間施す間にジゴキシンが投与されない期間は、少なくとも5日間である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記パルス電界を各2日間施す間にジゴキシンが投与されない期間は、約2~4週間である、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年2月7日出願の米国仮特許出願第62/971,562号、および2021年1月29日出願の米国仮特許出願第63/143,303号の優先権利益を主張するものであり、その両方は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、医療装置、および疾患ならびに障害の医学的処置の分野に関する。より具体的には、発明は、医療用途ための荷電リング構造によって高均一性を有するパルス電界を生成する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、パルス電界処置は、遺伝子導入、電気化学療法および癌治療など、多様な生物学的および医学的応用において広く利用されている。パルス電界処置の1つの利点は、非加熱で組織または腫瘍を破壊する性能である。結果的に、パルス電界処置によって、血管ならびに軸索などの敏感な組織を無傷に保護することが可能になる。さらに、この非侵襲性技術によって、瘢痕を残すことなく、処置領域の正常細胞および組織で再生が可能になる。
【0004】
パルス電界を生成するための従来の器具は、パルス生成器、電極およびそれらの間の接続リンクの3つの部分から構成される。パルス生成器は一定間隔で矩形波(方形)パルスを生成する。振幅、パルス幅、周期および位相遅延は出力波形の形状を決定する主要なパラメータである。パルスの振幅および電極間の距離に依存する電界強度は、多くの場合完全な治療効果のために重要である。電極が不適切な場合、特定の標的地域の強度は不十分であり、不完全な治療効果になる。
【0005】
レーダーで使用されるものと同様の電界を生成させる従来技術は、コストおよび可用性でいくつかの欠点を有する。この技術を使用する典型的な機器は、短い方形波を生成し、部分的に電極の侵食を回避するためにも、極性を反転させる双極発生器である。しかしながら、双極発生器は、単極発生器の2倍くらいのコストがかかる。他の波形は指数波および正弦波を含む。正弦波形は、一般的な無線機器と同様の機器を使用するため、生成が多少より容易であるが、ピークパワーに達するのは一瞬のみであるため、臨界電界強度の上の1つのサイクル当たりのエネルギーは矩形波より少なくなる。
【0006】
現在、電界パルスを生成するため3つの代替技術が存在する。1つの技術では、2枚の大きな導電プレート間で電界は生成され、各々のプレートは、それらの間に電圧差が生じるように帯電される。患者はプレートの間に置かれる。電界は一方のプレートから他方のプレートに向けられ、患者の表面積の大部分に対して垂直に方向付けられ、それによって患者の体内の電界が大幅に減少する。実際の電界が患者によって充填されるプレート間のスペースの割合に非常に敏感に反応するため、患者の体内の電界を制御することが非常に困難になる。結果として生じる電界は、患者の体重に応じて実質的にばらつきする。局所的な解剖学的構造が多かれ少なかれプレート間の領域を充填するため、電界はさらに患者の解剖学的構造内でばらつきする場合がある。例えば、腹部の大きな患者の場合、患者の腹部の電界が胸部または頭部の電界とかなり異なる。電界ばらつきを回避するために、導電プレートを患者に直接接触して配置することができる。しかし、典型的な導電プレートは、柔軟性がない限り患者の皮膚のごく一部にしか接触しないことがある。
【0007】
実験室実験で適用された別の技術は、空のボアを備えたソレノイドコイルを使用することであり、患者はそれの内部に置かれる。コイル中の電流は時間的に変化されると、磁場が変化し、ファラデーの誘導法則により、患者の体内の電界を変化させる。コイルは磁性材料で作られている。この技術の1つの欠点は、ソレノイドコイルによって生成された電界における空間的ばらつきであり、中心軸に沿ってゼロ、軸から半径が大きくなるほど大きくなる。さらに、ヒトまたは大型動物の大きさの装置に拡大した場合、50~400キロワットの範囲のピークパワーになる、電力要件は極めて高くなる。このような大電力の要件は、構築設備にとって大きな課題となる。本技術は、装置自体、および装置が作動する建物の両方の極めて強力な熱除去システムをさらに必要とする。静電リングユニットは、電球などの小型機器に匹敵する熱を発生する。
【0008】
第3の技術は、高磁化率を有する材料の内部の磁場を変化させることにより、電界を作製する方法である。このように生成された電界は所要性質を有するが、大量の磁性材料を必要とするため、装置の重量が大きくなり得る。この技術のさらなる欠点は、所与のパルス持続時間のための電界強度の上限が、磁性材料の材質特性によって制限されることである。
【0009】
最近、細胞死を誘発するための電気パルスの使用において進歩が見られるが、正常組織を破損することなく、腫瘍組織などの疾患または障害組織を破壊するための改良された装置および方法がまだ当技術分野において必要とされる。特に、高均一性を有するパルス電界を大きな容積で生成させるシステムおよび方法が求められる。
【発明の概要】
【0010】
以上のことから、本発明の目的は、医療用途のための高均一性を有するパルス電界(PEF)を大容積で生成させる要求を満たすことである。本発明の実施形態は、癌治療プロトコルの一部としてヒトまたは動物の対象のためにパルス電界を生成する装置および方法に関する。本発明は、ヒトまたは動物の患者を内部に置くことに適切な、大容積および高均一性を有する電界を生成させるシステムを提供する。
【0011】
実施形態は、複数の共軸、導電性のリング構造を含む、パルス電界を生成するための装置を記載する。リング構造は、その内部領域にヒトまたは動物の対象を置くことができるほど十分に大きく、数インチ~数フィートの範囲の距離で離れている。各リング構造はある電圧レベルに荷電され、リング構造間の電圧差は内部領域の電界を生成させる。各リング構造に印加された電圧レベルは、生成される電界の均一性を最適化するように設計されている。一実施形態によると、電界は一連の繰り返しパルスとして印加される。
【0012】
別の実施形態として、電界パルスの振幅、持続時間、間隔をユーザーが制御できる駆動エレクトロニクスに接続された導電性リング構造からなるシステムが記載されている。駆動エレクトロニクスは、パルスされた電圧または電流の波形を発生させる要素、波形の出力を増幅およびフィルタリングする要素、および出力を制御するためのユーザインタフェースを提示するマイクロプロセッサを含む。
【0013】
本発明に係る電界を生成するための装置およびシステムは、様々な望ましい特徴を有する。第一に、生成された電界には高い空間的均一性がある。第二に、電界は装置内に横たわる患者の表面の接線方向を向いている。第三に、電力要求および発熱量が他のいくつかの方法に対して非常に低い。第四に、駆動エレクトロニクスは比較的簡易である。第五に、本装置は元々軽量である。
【0014】
本発明によって生成された電界パルスは、薬学的薬剤と組み合わせて使用される場合、その開示全体が参照することにより本明細書に明示的に組み込まれる、米国特許第8,921,320号に記載されているように、標的浸透圧溶解(TOL)というプロセスによって癌細胞を破壊する可能性がある。
【0015】
別の実施形態は、標的浸透圧溶解を介した治療用処置のための方法を提供し、ヒトまたは動物の対象に、本発明に係る装置およびシステムによって生成されるパルス電界刺激の治療的有効量を投与する工程を含む。この方法は、Na+、K+ATPアーゼをブロックする薬理学的薬剤と組み合わせることで、癌処置のための標的浸透圧溶解の応用に利用され得る。いくつかの実施形態では、腫瘍を有するヒトまたは動物の対象に、治療上有効量のパルス電界を一生にわたってまたは腫瘍が臨床的に検出不可能になるまで、毎月施す工程を含む、標的浸透圧溶解を介した処置の方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
発明は、例示的な実施形態を示す1つ以上の図面に基づいてより詳細に以下に記載される。
図1図1は、電界曝露の拡張領域を提供するために同軸上に配置された複数のリング構造を示す。
図2図2は、電子リングユニットを筐体に収め、制御システムに接続し、電界を伴う治療を行うシステムを示す。
図3図3は、TOL適用に関連する典型的なパルストレインを示す。
図4図4は、処置1日以内のパルス電界の刺激期間反応曲線を示す。
図5A図5Aは、TOLでの処置前後の4T1同種移植片における電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)のナトリウムチャネル標識を示す。
図5B図5Bは、TOLでの処置前後の4T1同種移植片における電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)のナトリウムチャネル標識を示す。
図5C図5Cは、TOLでの処置前後の4T1同種移植片における電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)のナトリウムチャネル標識を示す。
図6図6は、TOLを受けたトリプルネガティブ乳癌マウスモデルにおける処置後の生存率を示す。
図7図7は、TOLまたはパクリタキセルを受けたトリプルネガティブ乳癌マウスモデルにおける処置後の生存率を示す。
図8A図8Aは、パクリタキセルでの処置前後の4T1同種移植片におけるのVGSCのナトリウムチャネル標識を示す。
図8B図8Bは、パクリタキセルでの処置前後の4T1同種移植片におけるのVGSCのナトリウムチャネル標識を示す。
図8C図8Cは、パクリタキセルでの処置前後の4T1同種移植片におけるのVGSCのナトリウムチャネル標識を示す。
図8D図8Dは、パクリタキセルでの処置前後の4T1同種移植片におけるのVGSCのナトリウムチャネル標識を示す。
図9図9は、異所性4T1同種移植片マウスにおけるトロイダル装置とリング装置の腫瘍サイズ縮小の差異を示す。
図10図10は、TOLによる同種移植片のサイズ縮小効果に対するジゴキシンの投与頻度の効果を示す。
図11図11は、TOLでの処置前に定常状態になるまでジゴキシンを投与したメスBALBcマウスにおける4T1同種移植片の成長に対するTOLの効果を示す。
図12図12は、メスBALBcマウスにおけるジゴキシンでの事前処置があり、および事前処置がない4T1同種移植片の成長に対するTOLの効果の比較を示す。
図13図13は、ジゴキシンとPEF刺激との間の処置間隔が様々であるTOL処置の有効性を例示する。
図14図14は、異なる刺激期間のTOLを受けるメスのBALBcマウスにおける4T1同種移植片の成長を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法、プロトコル、およびシステム等に制限されず、そのようなものとして変動することがあることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態だけを記載することを目的としており、請求項によってのみ定義される本発明の範囲を制限することを意図してない。
【0018】
本明細書と添付の請求項で使用されるように、反対の意味に指定されない限り、次の用語は以下に示す意味を有する。
【0019】
本明細書で使用される「腫瘍」は、悪性良性に関わりなく、すべての腫瘍性細胞の成長および増殖、ならびにすべての前癌性および癌性の細胞および組織を指す。
【0020】
「癌」及び「癌性」は、典型的には無秩序な細胞成長を特徴とする哺乳類の生理的な状態に関連し、またはそれを記載する。本定義には、良性および悪性、休眠腫瘍や微小血管転移も含まれる。
【0021】
「対象」は、哺乳類を意味し、例えば、ヒト、または、牛、馬、犬、羊、または猫などの非ヒト哺乳類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態だけを記載することを目的としており、本発明を制限することを意図していない。本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が他に明白に示していない限り、複数形を同様に含むことが意図されている。用語「含む」および/または「含むこと」は、本明細書での使用時に、明示された特徴、整数、工程、操作、要素、および/または構成要素の存在を特定するが、1以上の他の特徴、整数、工程、操作、要素、構成要素、および/またはそれらの群の存在または追加を妨げないことが、さらに理解される。
【0023】
以下の説明および図面は、当業者が実施できるように、特定の実施形態を十分に例示する。他の実施形態は、構造的、論理的、電気的、プロセス的、および他の変化を取り込んでもよい。いくつかの実施形態の部分および特徴は、他の実施形態のものに含まれ、または置換されてもよい。
【0024】
本発明は、大容量(人体サイズ)のパルス電界を生成する必要性に対処するものである。この必要性は、標的浸透圧溶解(TOL)の適用に生じ、それには、そのような電界パルスが、癌細胞の細胞膜中のナトリウムチャネルを開くように刺激するために使用される。米国特許第8,921,320号を参照。関連治療効果が均一になるように、電界を高均一にすることが望ましい。
【0025】
図1に示されるように、リング構造間の電圧差により電界が生成される。各リング構造は電圧が荷電される。リング構造間の電圧差により、リング間に電界が発生し、電界は装置の軸の近く、主に軸に沿って配向される。各リング構造に印加される電圧の値およびリング構造の空間的な位置と直径は、所望の強度および均一性の電界を生成するために最適化される。
【0026】
リング構造の円形状が、均一性の良い電界を生成するため、好ましい実施形態である。電界は、楕円、多角形、および直方形状を含むが、これらに限定されない非円形状で生成できることも理解されたい。リング構造は必ずしも同じ直径である必要はない。
【0027】
リング構造は、金属、電解質、超伝導体、半導体、プラズマ、およびグラファイトや導電性ポリマーなどのいくつかの非金属材料を含むが、これらに限定されない導電性材料から作製されてもよい。
【0028】
電圧レベルが異なり、かつ直径に関して幾何学的な関係が慎重に設計されたこのようなリング構造の多重度を使用することにより、高電界均一性の大領域を生成させることができる。図1に示されるように、この配置では、複数のリング構造(1)は、共通の軸を共有するように整列され、距離によって空間的に分離されている。この配置では、患者は装置の中心軸に沿って置かれる。このように配置する場合、生成された電界はリング構造の軸に沿って流れ、好ましい適用では、ヒト患者または多くの種類の獣医患者の長軸に沿って流れる。リング構造の数を増やすことによって、より大きな均一性領域を作ることができる。このような設計は、システムのコスト、重量、および複雑さを犠牲にして、均質な体積を増やすために、任意の多数のリング構造に拡張し得る。
【0029】
所与の振幅の電界パルスを得るために、各リング構造は電圧レベルに荷電され、リング構造間の電圧差によって、内部領域に電界が発生する。
【0030】
電界を生成する装置は、さらに、薬理学的薬剤と組み合わせることで、特定種類の癌を処置することができる治療性能に適用できるシステムに取り込むことができる。具体的には、システムは、静電リングユニット(ERU)と呼ばれる筐体に1つ以上のリングを含み、電界を伴う治療の適用のために制御システムに接続される。図2はシステムのブロック図を示す。静電リングユニット(ERU)(2)は、患者が置かれる内部領域に電界パルスを生成させる。ケーブル(3)は、静電リングユニットを、ERU(2)内のリングに電圧または電流パルスを供給する駆動および感知回路(4)に接続する。ERU内部のセンシングコイルは、内部に生成される電界を測定し、出力を制御するために使用され得る。マイクロプロセッサ(5)は、装置のオペレータにユーザインタフェースを提供し、およびパルスの振幅、持続時間、および間隔を制御するのと同様にパルスの開始と停止を行うための駆動回路および感知回路にインタフェースを提供する。
【0031】
駆動エレクトロニクスは、ユーザーがパルスの振幅、持続時間、および間隔とともに、パルス療法の開始と停止を制御することを可能にするユーザインタフェースをホストするコンピューターに接続される。コンピューターは、シリアルバスを介して駆動エレクトロニクスと通信状態になり得るが、他の選択肢も可能である。
【0032】
電界振幅は、電界センサー(4.1)によって、期待される電界出力が入力電圧、生成された電流からわかる「開ループ」配置、またはフィードバックループが使用される「閉ループ」配置で制御され得る。フィードバックは、各リングに印加された実際の電圧の測定、または印加された電界を測定する装置内の電界センサーからの測定などの複数の形式で生成され得る。
【0033】
駆動エレクトロニクスの電圧パルスは、多様なタイプの増幅器構成(4.2)で作成され得る。通常、リングを駆動する電圧は15~100ボルトの範囲であることが望ましいため、増幅器の出力トランジスタでの大きな熱放散を避けるためにD級増幅器の構成が望ましい。この構成は、増幅器の出力を制御するためにパルス幅変調(PWM)を使用し、その高効率および低コストで知られている。
【0034】
本発明によって生成される電界の1つの重要な特性は、高均一性である。身体または治療領域全体にわたって一貫した方法で治療が適用されるように、高均一性が望ましい。この適用のための使用可能な治療領域は、電界強度のばらつきが空きスペースにおいて約10%未満の場所である。
【0035】
本発明の別の重要な態様は、電界が装置内に横たわっている患者の表面に対して接線方向を向いていることである。患者の表面に対して接線方向に向いている電界が望ましいのは、身体内の分極水分子から生じる電界の減少を最小限に抑えることが必要とされるためである。水は非常に強力な分極率(電気感受率)を有しており、これによって身体内の電界が大幅に減少される。この効果は、表面に対して垂直方向を向いた電界で最大になり、電界は75~80分の1にまで減少する。患者の表面に沿って向いている電界の場合、減少率ははるかに小さく、ほとんど減少しないものから約20分の1に減少するものまでの範囲であり得る。
【0036】
本発明のさらに別の重要な態様は、この装置が非常に低い発生電力で電界を生成し、駆動エレクトロニクスのコスト低減、施設の電気要件の低減、および臨床施設のHVACシステムに影響を与えないことにつながることである。さらに、装置は本質的に軽量である。
【0037】
パルス電界システムは標的浸透圧溶解(TOL)と呼ばれる治療技術に応用され得る。米国特許第8,921,320号を参照。この技術の原理は、電界パルスが細胞膜のナトリウムチャネルを刺激して開き、より多くのナトリウムを細胞内に通過させるというものである。癌細胞は、非癌細胞よりはるかに多くのナトリウムチャネルを有することが知られている。電界パルスの処置によりナトリウムチャネルが刺激され、結果として癌細胞内のナトリウム濃度が上昇し、その後に水分が流入して癌細胞が破裂する。正常組織は、この処置で損なわれない。
【0038】
治療効果を高めるために、Na,K-ATPアーゼ遮断剤などの細胞からのナトリウムの排出をブロックする薬理学的薬剤をパルス電界と併用することもできる。Na+、K+ATPアーゼをブロックするために使用し得る医薬化合物の非限定的な例は、ウアバイン(gストロファンチン)、ジヒドロウアバイン、ウアバイン八水和物、ウアバゲニン、ジゴキシン、ジギトキシン、ジギタリス、アセチルジギトキシン、アセチルジゴキシン、ラナドシドC、デスラノシド、メチルジゴキシン、ギトホルメート(gitoformate)、オレアンドリン(oleanderin)、オレアンドリゲニン、ブホトキシン、ブホタリン、マリノブファゲニン(3,5ジヒドロキシ14,15エポキシブファジエノライド)、パリトキシン、オリゴマイシンA、B、C、E、F、およびG、ルタマイシン(オリゴマイシンD)、ルタマイシンB、ストロファンチン(gストロファンチン、Acocantherine)、kβストロファンチン、ストロファンチジン、kストロファントシド、シマリン、エリシモシド(カルデノライド)、ヘルベチコシド(helveticoside)、ペルーボシド(peruvoside)、視床下部性Na+、K+ATPアーゼ抑制因子(HIF)、HIFのアグリコン、アレノブファギン、シノブファギン、マリノブファギン、プロスシラリジン、シリロシド、ダイグレモンティアニン(daigremontianin)、3,4,5,6,テトラヒドロキシキサントン、およびNa+、K+ATPアーゼの他のすべての阻害剤、各々の組み合わせおよび誘導体を含む。
【0039】
Na+、K+ATPアーゼ遮断剤は、直接または静脈内投与により単一の腫瘍に、静脈内または腔内投与により単一の臓器または部位に、あるいは静脈内、皮下、筋肉内または経口投与により全身に送達することができる。ナトリウムチャネルのパルス電界刺激は、単一の腫瘍、単一の臓器、身体の一部、または全身に送達され得る。VGSCファミリーのすべてのタイプおよびサブタイプは、この技術の影響を等しく受けるはずである。例えば、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.5n、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8およびNav1.9を過剰発現している細胞株は、媒介による標的溶解に感受性がある。
【0040】
図3は、TOLの応用に関連する典型的なパルス列を示す。電界振幅は、自由スペースで0.1V/m~100V/mの範囲になる。パルスは、約1~50ミリ秒の順方向分極と、それに続く同様の持続時間と振幅の逆方向分極から構成される。パルスは、終了から開始まで5~50ミリ秒間隔で区切られる。タイミング、持続時間、および振幅の正確な詳細は、応用によって大きく異なる場合がある。
【0041】
図4は、18V/mのPEFへの4回の曝露のそれぞれの持続時間が5~60分(n=15)で変化する、TOLによる各単一の治療前と治療後に見られる4T1ホモグラフの平均サイズを示す。図4に示されるように、30分間の曝露で、ベースラインからの平均腫瘍サイズの縮小が観察された。刺激持続時間のさらなる増加は、腫瘍の縮小に対する効果が少なかった。マウスを30分、または15分を超え60分未満の範囲でPEFにさらすと、最適な腫瘍縮小効果が確認される。
【0042】
図5A~5Cは、2日間のTOLでの単回処置の前(図5A)および後(図5B)の4T1同種移植片における電圧依存性ナトリウムチャネル(VGSC)の免疫組織化学的標識を表す。核はDRAQ5(商標)蛍光プローブで対比染色されている。VGSCを高度に発現する細胞数は、TOLでの処置後に大幅に減少し、2日目以降の処置で腫瘍の縮小が持続しないことに寄与する可能性がある。図5Bの低出力キャリブレーションバーは50μm、挿入図の高出力キャリブレーションバーは25μmである。図5Cのヒストグラムは、TOLでの処置の前後の同種移植片で明らかになったナトリウムチャネルの発現を表すピクセル数を表す。図5Cに示すように、TOLは、VGSCを最も高度に発現する固形腫瘍中の新生細胞を事実上すべて排除する。この観察では、TOLの有効性が処置開始2日目以降に減少することを部分的に説明することができる。
【0043】
図6は、乳癌マウスモデルに浸透圧溶解を誘発するパルス電界(PEF)の治療有効性に対するin vivo検証を示す。4T1マウス乳癌細胞の異所性同種移植片を、メスの免疫適格BALBcマウス(n=12)に樹立した。「TOL」群にはジゴキシン(7mg/kg)を注射し、リング装置によって生成したPEFにさらした。この処置は、0日目(処置初日)、および1日目に実施した。「薬物のみ」群にはジゴキシン(7mg/kg)のみを投与し、「刺激のみ」群にはPMF刺激のみを行い、「ビヒクル」群には10%DMSO/生理食塩水のみを投与した。TOLおよび対照での処置は、2日間連続で行った(矢印)。腫瘍のサイズは、0日目から3日目までは毎日測定し、3日目以降はNIHの屠殺に関する人道的エンドポイント基準が満たされるまで1日おきに測定した。図4に示すように、TOLでの処置により、人道的エンドポイント基準を満たすのに必要な接種後期間は、対照で処置したマウス群と比較して大幅に延びた。TOLは、行動に悪影響を及ぼすことも組織傷害を生じさせることもなく、陰性処置対照と比較してマウス宿主の生存率を大幅に向上させる。
【0044】
図7は、乳癌マウスモデルに浸透圧溶解を誘発するパルス電界(PEF)の治療有効性に対するin vivo検証を、パクリタキセルと比較して示す。パクリタキセルは、現在、トリプルネガティブ乳癌に対する最良の化学療法である。4T1マウス乳癌細胞の異所性同種移植片を、メスの免疫適格BALBcマウス(n=12)に樹立し、様々な処置にさらした。図7は、BALB/cマウスに4T1マウス乳癌細胞を接種してから同種移植片が人道的エンドポイント屠殺の基準を満たしたときまでの日数を例示する。接種の5日後、マウスにパクリタキセル20mg/kgを単回腹腔内投与するか(黒いダイアモンド)、またはパクリタキセルを懸濁させるのに使用した等量のビヒクル(黒い逆三角形)を投与した。Csi(ξ)は、パクリタキセルおよびパクリタキセルビヒクルを投与した日を表す。追加の対照群には、接種後5日目にパクリタキセル20mg/kgを投与し、その後、パクリタキセルとTOLによる処置の対照として、2日間連続(矢印)でジゴキシン(Dig)3mg/kgを8回投与するか、またはPEF(電界振幅18V/m、正/負のランプ10ms、刺激間隔15ms)による30分間の刺激(Stim)を4回行った。同種移植片は、接種後6日目(処置0日目)に測定し、処置後1日目と2日目にも再び測定し、その後は、人道的エンドポイント屠殺の基準を満たすまで1日おきに測定した。図7に示すように、パクリタキセルでの処置では、生存率に対して対照群よりも有意な効果はなかった。TOL単独で処置したマウスの人道的エンドポイント屠殺を満たすのに必要な時間は、PCTX単独および対照と比較して大幅に増加したが、パクリタキセルとTOLを併用すると、TOL単独で得られる効果が減少した。したがって、TOLは、トリプルネガティブ乳癌の治療において陽性対照であるパクリタキセルで処置したマウスと比較して、マウス宿主の生存率を大幅に向上させる。TOLとパクリタキセルによる同時処置では、TOLの効果は低下する。パクリタキセルと同時に処置した場合のTOLの効果の低下は、おそらく、図8A~8Dにて後述するようなパクリタキセルの処置に起因する腫瘍細胞のVGSCの発現減少によるものである可能性がある。
【0045】
図8A~8Dは、パクリタキセルで処置する前(図8A)、1日後(図8B)、および2日後(図8C)の4T1同種移植片におけるVGSCの免疫組織化学標識を表す。核はDRAQ5で対比染色される。VGSCの発現は、パクリタキセルによる処置の開始後、大幅かつ漸減的に減少する。図8Bの低出力キャリブレーションバーは50μm、図8Cの挿入図の高出力キャリブレーションバーは25μmである。図8Dのヒストグラムは、パクリタキセルで処置する前、1日後(図8B)、および2日後(図8C)に同種移植片で明らかになったナトリウムチャネル発現を表すピクセル数を示す。VGSC標識の漸減的減少は認められるが、最高レベルのVGSCを発現する細胞の数は減少していないことが注目される。これらのデータは、パクリタキセルが4T1マウス乳癌同種移植片におけるVGSCの発現を減少させることを示す。VGSCの発現の低下は、TOLとパクリタキセルを同時に使用したときにTOLの有効性低下に寄与する可能性がある。
【0046】
図9は、2種類のパルス電界発生装置を使用してTOLを投与した4T1マウス乳癌細胞の異所性同種移植片を有するメスの免疫適格BALBcマウスにおける、腫瘍の平均面積の減少を示す。マウスを、2つのトロイダル型(黒色の棒)と1つの同軸リング型(灰色の棒)からなる3つの刺激装置を用いて、異なる電圧レベルのパルス電界にさらし、各装置で利用可能な最大電界強度は、トロイダル型装置ではそれぞれ3.0V/mと6.0V/m、同軸リング装置では36.0V/mである。この実験に使用したトロイダル型装置はWO2020/117662に記載されている。使用した同軸リング装置は、本願明細書に記載される。棒グラフには、様々なPEF強度により得られたTOLでの単回処置後に観察した平均腫瘍減少量を、正規化したベースライン平均値(白色の棒)との比較とともに要約する。トロイダル型装置と同軸リング装置による腫瘍の減少は、電界振幅6V/mでPEFをいずれかの装置で送達しても同等であった(棒6.0と6.0x)(各刺激群でn=8)ことが注目される。図9に示すように、同軸リング装置によるTOL処置の効果は、電界振幅18V/mでは最大であったが、それよりも大きいまたは小さい強度の電界では少なかった。
【0047】
図10は、ジゴキシンの投与頻度が、TOLによる同種移植片のサイズ縮小効果に及ぼす効果を示す。このグラフには、ジゴキシンの定常状態が達成も維持もされないときに、TOLによる処置後に見られる4T1同種移植片サイズの平均減少の差を例示する。この試験では、メスのBALBcマウスにジゴキシン(3mg/kg)を1回、3回、5回(定常状態)、または8回(定常状態を維持)皮下(s.c.)注射し、1時間ごとに30分間のパルス電界(PEF)刺激(18V/m、正/負のランプ10ms、15の刺激間隔)を4回、すなわち2日間連続(白抜きの矢印)で計2時間の刺激を行った。図10に示すように、ジゴキシンの投与頻度により薬物の定常状態レベルが3mg/kgであると(黒塗りの三角形と菱形)、さらにPEFへ曝露しても腫瘍成長に対する効果はほとんどなかった。対照的に、ジゴキシンの定常状態レベルが達成されると(黒塗りの正方形と円形)、PEFへの曝露により同種移植片のサイズが減少した。抗腫瘍効果は、薬物の定常状態レベルが維持されたときに改善した(黒塗りの丸)。このため、TOLでの処置に応じた腫瘍の減少には、PEF刺激の前にジゴキシンが定常状態レベルに達している必要がある。ジゴキシンの定常状態レベルが刺激期間全体にわたって維持される場合、有効性を改善することができる。
【0048】
図11は、TOLで処置する前に(白抜きの矢印)ジゴキシン(3mg/kg)を1日間、3日間、または5日間(黒矢印)、定常状態になるまで投与(5回の皮下注射)したメスBALBcマウスにおける4T1同種移植片の成長に対するTOLの効果を示す。成長はすべての群(n=6)で持続したが、同種移植片の成長に対するTOLの効果は、TOLで処置する前に1日だけ事前に処置したマウス(黒塗りの三角形)において最も少ないと考えられた。したがって、薬物の定常状態レベルを達成するのに十分なジゴキシンによりマウスを毎日事前処置すると、わずか1日で、用量依存的に腫瘍サイズを縮小するTOLの有効性が排除されるおそれがある。
【0049】
図12は、処置前の5日間(黒矢印)、ジゴキシン(3mg/kg)を定常状態になるまで毎日投与(5回の皮下注射)したメスのBALBcマウスにおける4T1同種移植片の成長と、TOLでの処置前(白抜きの矢印)にジゴキシンを事前に投与しなかったマウスにおける同種移植片の成長とに対する、TOLの効果の比較を示す。ジゴキシンで事前処置することなくTOLで処置すると、同種移植片のサイズは約40%減少するが(黒塗りの正方形)、ジゴキシンで事前に処置したマウスの同種移植片の成長には効果がなかった(黒塗りの丸)ことが注目される。したがって、薬物の定常状態レベルを達成するのに十分なジゴキシンによりマウスを毎日事前処置すると、腫瘍サイズの縮小におけるTOL治療の効果が低下するおそれがある。
【0050】
図13は、ジゴキシンとPEF刺激との間の処置間隔が様々であるTOL処置の有効性を例示する。4T1マウス乳癌細胞の異所性同種移植片を、メスの免疫適格BALBcマウスに樹立した。これらのマウスにジゴキシン(3mg/kg)を5回注射し、2日間連続で定常状態レベルを達成した。次に、マウスの群(n=12)を、2日間の事前処置(1時間ごとのジゴキシン(3mg/kg)の皮下注射を8回行い、30分間のパルス電界(PEF)刺激を4回(18V/m、正/負のランプ10ms、15の刺激間隔で、2日間連続で計2時間の刺激)行うにより定常状態を達成し維持する)の後、TOLにより0、1、3、5、および7日間隔で処置した。同種移植片の成長に対する効果は、ジゴキシンによる事前処置の5日以内には観察されなかった。ジゴキシンによる事前処置の5日後と7日後にTOLを投与すると、腫瘍縮小の段階的改善を観察した。プラス記号(+)は、群の全マウスが人道的エンドポイントの屠殺基準を満たした日を表す。ジゴキシンによる事前処置の5日後と7日後にTOLで処置したマウス群では、間隔に依存する形で生存が延びることが観察された。このデータは、ジゴキシンに対して生じる忍容性が可逆的であることを示す。マウスなどの小動物では、1回で2日間の処置間に、少なくとも5日間、好ましくは7日間、ジゴキシンを投与しない期間が必要とされる。1回で2日間のパルス電界投与間にジゴキシンを投与しない期間は、ヒト患者、またはネコやイヌなどの大型動物で約2~4週間である。
【0051】
図14は、異なる刺激期間を使用してTOLで処置したメスのBALBcマウスにおける4T1同種移植片の成長を示す。群(n=8)1、2、および3には、0日目に1時間ごとのジゴキシン(3mg/kg)注射を行い、計1、2、または3時間の刺激を行うためにPEF(18V/m、正/負のランプ10ms、15の刺激間隔)への曝露を行うことで、薬物の定常状態レベルを達成し、これを維持した。この手順を、4日目に繰り返した。群4には、0日目、4日目、および8日目にジゴキシン注射を8回行い、1日の処置日に30分間のPEF刺激への曝露を4回行うことで定常状態レベルを達成し、これを維持した。群5にも同様の処置を行ったが、通常どおり、0日目から開始して4日目、8日目にも2日間連続して処置を行った。すべての処置プロトコルで、処置の初日以降に同種移植片のサイズがベースラインから減少することが観察された。この反応は、翌日に2回目の処置を行った場合に、より大きくなった。1日に1、2、または3時間のPEF刺激に曝露したマウス群間に、有意差は認められなかった。プラス記号(+)は、群の全マウスが人道的エンドポイントの屠殺基準を満たした日を示す。マウスの生存率に明らかな差は見られなかった。TOLでの最適な安全で有効な処置プロトコルは、2日間連続で2時間のPEF刺激を行うことにより、ジゴキシンの定常状態レベルを達成し、これを維持することである。
【0052】
本発明によって生成される電界はさらに、他の治療用途または産業用途を有し得る。
【0053】
上述の実施形態は、本発明の原理の適用を構成し得る多数の様々な他の実施形態を単に例示するものであることを理解されたい。このような他の実施形態は、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく当業者により容易に想到され得、これら実施形態が本発明の範囲内にあるとみなされることを意図している。
【実施例
【0054】
実施された実験および達成された結果を含む以下の実施例は、説明の目的のみに提供され、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0055】
実施例1.標的浸透圧溶解による大動物試験処置
標的浸透圧溶解(TOL)によって、行動的悪影響も正常組織に対する損傷も伴うことなく対照処置マウスと比較して、異所性異種移植片のサイズを一貫して30~50%減少させ、宿主マウスの生存期間を平均10~14日延長させることができたことが明らかにした実験動物を用いたin vivo試験の一貫した結果に基づいて、正常なネコとイヌで広範な安全性試験を行った後、本同軸リング装置を使用して2匹のイヌで試験的処置を開始した。
【0056】
イヌ1は、12歳のメスのラブラドールレトリーバー犬であり、右肺に2つの腫瘍がある。この犬は化学療法に反応しなかった。胸部のX線を取得し、腫瘍からの組織サンプルを得、免疫細胞化学的に処理することで、電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)の発現レベルを決定した。VGSC発現のレベルは、処置を推奨し、処置に対する肯定的な反応が予想されることを示すほど高いことが明らかになった。薬物の定常状態レベルを達成するために、ジゴキシンによる事前処置を開始した。処置日に、イヌにはジゴキシンの追加用量を1回投与し、次いで同軸リング装置において18V/mの電界振幅でパルス電界(PEF)刺激にさらした。その後、このイヌは家に送られ、翌日、2回目の期間刺激を受けるために戻ってきた。このイヌは、処置中に不快感を示すことなく、飼い主は認知または行動への悪影響の兆候を観察しなかった。治療後の胸部X線では、各腫瘍のサイズが約17~20%減少していることが明らかになった。処置に対する当初の反応に基づいて、2回目の処置を施した。処置中に副作用は認められなかった。このイヌの食欲が増し、このイヌの活動レベルが大幅に増加したことが注目された。1ヶ月後に、このイヌには3回目の処置を受けさせたが、精神的な「鈍さ」と無気力を伴う胃腸の不調を経験していることが注目された。このイヌを検査し、BUN/クレアチニンの中程度の上昇を明らかにした臨床検査のためにサンプルを採取した。彼女にステロイドを投与させた。犬の状態が悪化し続けたため、安楽死を決定した。臨床検査と臨床症状に基づくと、突然の悪化の理由は、処置に関連した腫瘍溶解症候群に関連する可能性は低く、脳への癌の転移拡大に関連している可能性が高い。
【0057】
イヌ2は15歳のオスのラブラドールレトリーバー犬であり、右肺に2つの腫瘍がある。このイヌは化学療法に反応しなかった。胸部のX線を取得し、腫瘍からの組織サンプルを得、免疫細胞化学的に処理し、電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)の発現レベルを決定した。VGSC発現のレベルは、処置を推奨し、処置に対する肯定的な反応が予想されることを示すほど高いことが明らかになった。薬物の定常状態レベルを達成するために、ジゴキシンによる事前処置を開始した。処置日に、イヌにジゴキシンの追加用量を1回投与し、次いで同軸リング装置において18V/mの電界振幅でパルス電界(PEF)刺激に2時間さらした。その後このイヌは家に送られ、翌日、2回目の期間刺激のために戻ってきた。このイヌは、キャリアに入ることにある程度の不安を示したが、処置中に不快感の兆候はなく、認知または行動への悪影響の兆候もなかった。治療後の胸部X線では、各腫瘍のサイズが約25%減少していることが明らかになった。処置に対する当初の反応に基づいて、2回目の処置を施した。処置中または処置後に副作用は認められなかった。腫瘍はサイズが減少し続けたが、腫瘍減少の量は処置ごとにわずかに減少したように見えた。重大な行動の変化は認められなかった。3回目の処置を、ベンチサイズの小型の同軸リング装置を使用して施した。治療パラメータは以前と同じだったが、このイヌの不安レベルのため、装置のボア内に配置する前に単回用量のアセプロマジンを投与した。手順は十分に許容された。処置前に処置前のX線は取得しなかったが、3回目の処置で得られた治療後の胸部のX線を、2回目の処置で得られた処置後のX線と比較すると、ばらつきはあるものの、全体として約5%の腫瘍サイズの減少を明らかにした。この所見は、2回目の処置と3回目の処置の間の期間中に腫瘍が成長すると予想されていたため、重要であると考えられた。
【0058】
イヌには、ベンチサイズの同軸リング装置を使用して、同じ電界強度18V/mで2日間連続して2時間、4回目の処置をさせた。イヌには処置後にX線を受けさせ、腫瘍は安定しており、3回目の処置後よりもわずかに小さいことが見出された。このイヌは現在、3か月で4つのコースの処置を完了し、腫瘍は最初に撮像されたときよりも小さくなっている。飼い主は、このイヌの行動と食欲はほぼ同じままであること、および鎮静剤を除いて深刻な副作用はなかったことを報告した。
【0059】
要するに、これらの所見は、標的浸透圧溶解が、患者の生活の質を損なうことなく、大型動物の進行した段階の癌腫に対して安全で有効な処置を提供する可能性があることを示唆している。
【0060】
実施例2.ヒト患者のパルス電界発生装置による緊急使用処置
患者は、難治性の子宮頸がんを患っている50歳代であった。患者の臨床的問題は、PCAポンプでの高用量の麻薬に対してさえもの難治性疼痛や、不健康を含んだ。患者はヒドロモルフォン、モルヒネ、メタドン、抗不安薬を服用中であった。痛み止めの薬を何度も扱っても、緩和されることはなかった。患者のECOGパフォーマンスステータスは4であった。この患者の腫瘍は、すべての標準治療処置に抵抗性であると見なされ、この患者はいかなる局所的な臨床試験にも適格ではなかった。腫瘍進行による患者の極度の苦痛を考慮し、この患者が以前に行った生検でナトリウムチャネルの発現の増加を示していたことから、緊急使用として標的浸透圧溶解療法(TOL)を検討した。
【0061】
患者は以下の投与量でジゴキシンの投与を開始した:1日目に0.25mg;2日目に0.5mg;3日目に0.25mg;4日目に0.25mg;5日目に0.25mg。刺激の前に、患者はCBC、CMP、尿酸、ジゴキシンレベル、および心電図リズムストリップの安全性テストを受けた。患者はまたIV輸液とアロプリノールも受けた。
【0062】
その後、患者を、パルス電界(電界振幅18V/m、正/負のランプ10ms、刺激間隔15ms)を送達する同軸リング装置に配置した。パルス電界間に発生し得る有害な相互作用を回避するために、2(最低の電界強度)、4、6、8、10、12、14、16、および18V/m(処置の電界強度)で開始する15~30秒のテスト刺激期間を適用した。患者は、不快感を感じなかったと報告した。その後、血圧と心拍数をチェックするために15分間隔で休憩を挟みながら、合計2時間、18V/mで処置を行った。
【0063】
処置後の臨床検査サンプルおよび処置後の心電図ストリップを取得した。処置後の観察期間で問題は示されなかった。患者に、腫瘍の溶解を見越して、さらに1リットルの生理食塩水を投与した。患者はこの処置によく耐えたように見えた。
【0064】
患者の配偶者は、自宅で患者の血圧、尿排出、および体温を監視した。患者は、アセトアミノフェンによる処置に反応して、夕方に101度までの軽度の体温上昇を経験したことが報告された。患者は夜間に高レベルの疼痛を経験し、患者の現状打開のための鎮痛レジメンを追加投与する必要があった。疼痛の質と分布は、TOLによる処置を受ける前に報告されたものと同じであった。
【0065】
患者は、翌日、2日間のプロトコルの2回目のセッションに戻った。事前処置の臨床検査サンプルおよびEKGリズムストリップを取得した。血圧と心拍数を確認するために休憩を挟んで、患者を再び同軸リング装置で18V/mで2時間処置した。
【0066】
ヘモグロビンが6.4グラムと低値になった以外は、患者の臨床検査値は安定していた。これは血液希釈であると考えられた。患者は輸血していなかった。
【0067】
患者の配偶者は、患者が101.9度の熱を経験し、2日目の夜に経口アセトアミノフェンで100.7度に下がったと報告した。患者は尿を出し続け、尿量は50ccおよび30ccで2回測定された。患者の疼痛は、2回目の刺激の後も急上昇することはなく、患者は通常よりも起きて家の中を「短いスパートで」歩き回っていることが注目された.
【0068】
処置後2日目に、患者は臨床検査を受け、これは患者のヘモグロビンが患者のベースラインである7.1グラムに戻ったことを示した。他のすべての検査値はベースラインで継続した。
【0069】
処置後3日目に、患者は在宅ホスピスケアに戻った。患者はより歩行可能で、無熱であると報告された。疼痛は持続し、患者の麻薬の投与量が増加した。患者はより対話的であり、適度に長い会話を続けることができた。最も顕著な変化は、患者の食欲が大幅に改善したことである。腫瘍密度の客観的測定により、腫瘍密度は処置後3日で70HUから56HUに減少し、処置後20日でさらに47HUに減少したことが明らかになった。
【0070】
患者は軽度の出血性肛門分泌物を2回経験したが、めまいを報告しなかった。患者の血圧は89~102/60~63で安定しており、患者の看護師は患者の顔色が良くなったと報告した。
【0071】
参照記号のリスト
1リング構造
2静電気リングユニット
3ケーブル
4駆動および感知回路
5マイクロプロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】