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特表2023-514066脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/37 20210101AFI20230329BHJP
   A61B 5/372 20210101ALI20230329BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61B5/37
A61B5/372
A61B5/055 390
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544658
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2021051413
(87)【国際公開番号】W WO2021148582
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】20153732.1
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519018886
【氏名又は名称】ユニバーシティ ド エクス‐マルセイユ(エーエムユー)
(71)【出願人】
【識別番号】521442659
【氏名又は名称】インスティテュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジルサ,ヴィクトール
(72)【発明者】
【氏名】エル フサイニ,ケンザ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,フイファン
【テーマコード(参考)】
4C096
4C127
【Fターム(参考)】
4C096AA17
4C096AA18
4C096AD14
4C096DC19
4C127AA03
4C127BB05
4C127GG05
4C127LL08
(57)【要約】
本発明は、てんかん患者の脳のてんかん原性領域を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法に関する。この方法は、てんかん原性領域のモデル及びてんかん領域から伝搬領域へのてんかん性放電の伝搬のモデルを提供し、患者の脳に応じてパーソナライズされるコンピュータ化されたプラットフォームに前記モデルをロードするステップと、患者の脳のてんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説を提供するステップと、前記てんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説について、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートし、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するステップと、脳波電極の複数の頭蓋内植込みスキームについて、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティを取得するステップと、前記複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップとを含む。
【選択図】図9B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
てんかん患者の脳のてんかん原性領域を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法であって、以下の:
てんかん原性領域のモデル及びてんかん領域から伝搬領域へのてんかん性放電の伝搬のモデルを提供し、霊長類脳の様々な領域又はノード及び前記領域又はノード間の接続性をモデル化するコンピュータ化されたプラットフォームに前記モデルをロードするステップであって、前記モデルは、てんかん性放電の始まり、時間経過、及び終わりを記述し、前記患者の脳の構造データを使用して前記コンピュータプラットフォームをパーソナライズするものであるステップと、

患者の脳のてんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説を提供するステップと、
前記てんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説について、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートし、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するステップと、
植え込まれる電極の数及びそれらの配置を仮想的に定義する脳波電極の複数の頭蓋内植込みスキームについて、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティを取得するステップと、
複数の頭蓋内植込みスキームについてシミュレートされた脳波シグナルアクティビティ間の差異を測定するメトリックを使用して、前記複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記てんかん原性領域から伝搬領域へのてんかん性放電のモデルは、パラメータxに依存する一連の式によって定義され、前記パラメータは、モデル内のノードの興奮性に比例し、前記てんかん原性領域は、そのようなパラメータを使用してパラメータ化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記てんかん原性領域の位置特定の仮説は、臨床的仮説である、請求項1又は2のうちの一項に記載の方法。
【請求項4】
患者の脳のてんかん原性領域の位置特定の複数の仮説が提供される、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項5】
前記メトリックは、パワー密度スペクトルである、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項6】
前記植込みスキームの電極は、コンピュータ化されたプラットフォームに仮想的に1つずつ配置され、各電極の配置後にシミュレーション及び最適化が実行される、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項7】
前記植込みスキームのすべての電極は、シミュレーション及び最適化の前に、コンピュータ化されたプラットフォームに仮想的に配置される、請求項1乃至5のうちの一項に記載の方法。
【請求項8】
シミュレートされた脳波シグナルを取得するために、発作伝搬のソースレベル分析が実行される、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項9】
前記シミュレートされた脳波シグナルの取得は、以下の線形システムを使用して植え込まれる電極の数及びそれらの配置を定義した後に各仮説について実行され、
Y=G*S
式中、Gは、ソースアクティビティSを観測されたセンサアクティビティYと関連付けるゲイン行列であり、電極の位置に依存する、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電極のセンサの数を考慮に入れたスキームの各電極についてシグナルベクトルが計算される、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項11】
必要な電極と必要ではない電極を区別し、前記スキームから必要ではない電極を除去することによって植込みスキームを最適化するステップをさらに含む、先の請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項12】
てんかん患者の脳のてんかん原性領域を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化するためのコンピュータ化されたシステムであって、
てんかん原性領域のモデル及びてんかん領域から伝搬領域へのてんかん性放電の伝搬のモデルであって、前記モデルは、霊長類脳の様々な領域又はノード及び前記領域又はノード間の接続性をモデル化するコンピュータ化されたプラットフォームにロードされ、前記モデルは、てんかん性放電の始まり、時間経過、及び終わりを記述し、前記患者の脳の構造データを使用して前記コンピュータプラットフォームをパーソナライズするものである、モデルと、
患者の脳のてんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説と、
前記てんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説について、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートするための、及び、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するためのシミュレータと、
植え込まれる電極の数及びそれらの配置が仮想的に定義され、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティが取得される、脳波電極の複数の頭蓋内植込みスキームと、
を備える、システムであり、
前記複数の頭蓋内植込みスキームから、前記複数の頭蓋内植込みスキームについてシミュレートされた脳波シグナルアクティビティ間の差異を測定するメトリックを使用して、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームが決定される、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかん患者の脳のてんかん原性領域(EZ)を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかん患者の脳のてんかん原性領域の特定は、てんかんの科学文献で継続的に議論されてきた。非侵襲的分析は、一般に、患者の脳にわたる発作の開始と伝搬の最初の知識を提供する。それにもかかわらず、脳波電極の侵襲的植込みが、この最初の知識を改善するのに必要な臨床ツールであり、外科切除の可能性のために調べられるEZのより良好な位置特定を可能にする。
【0003】
患者の脳における脳波電極の正確な植込みスキームの決定は明らかではない。植込みスキームの成功の要件は、疑わしい発作発生領域、並びに、発作伝搬領域、及び潜在的に機能的脳領域での発作活動を測定できることであり、これは術式決定に関係する可能性がある。
【0004】
不十分な植込みスキームは、手術に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、これは、脳活動の時空間編成に関する希薄な情報を提供し、いわゆる「電極欠落問題」を引き起こし、選択した植込みによってサンプリングされない脳領域での神経活動の関連情報を臨床医が見落とす可能性がある。同時に、外科的制約(解剖学的構造など)、及び、一般に植え込む電極の数を最小にすることが優先される各電極の植込みに関連した外科的リスクに起因して、すべての脳領域をサンプリングすることができるわけではない。
【0005】
したがって、脳活動に関する可能な限り多くの情報を伝えることができ、EZのより良好な特定を可能にする、改善又は最適化された電極植込みスキームの提案を可能にする方法を開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様によれば、本発明は、てんかん患者の脳のてんかん原性領域を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法であって、以下の:
てんかん原性領域のモデル及びてんかん領域から伝搬領域へのてんかん性放電の伝搬のモデルを提供し、霊長類脳の様々な領域又はノード及び前記領域又はノード間の接続性をモデル化するコンピュータ化されたプラットフォームに、前記モデルをロードするステップであって、前記コンピュータ化されたプラットフォームは患者の脳に応じてパーソナライズされるステップと、
患者の脳のてんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説を提供するステップと、
前記てんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説について、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートし、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するステップと、
脳波電極の複数の頭蓋内植込みスキームについて、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティを取得するステップと、
前記複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップと、
を含む方法に関する。
【0007】
優先的に、本発明の方法は、患者の脳の構造データを取得するステップをさらに含み、患者の脳に応じたコンピュータ化されたプラットフォームのパーソナライゼーションは、前記構造データを使用して実行され、てんかん原性領域から伝搬領域へのてんかん性放電のモデルは、パラメータxに依存する一連の式によって定義され、前記パラメータは、モデル内のノードの興奮性に比例し、てんかん原性領域は、そのようなパラメータを使用してパラメータ化され、てんかん原性領域の位置特定の仮説は、臨床的仮説であり、患者の脳のてんかん原性領域の位置特定の複数の仮説が提供され、脳波電極の頭蓋内植込みスキームは、植え込まれる電極の数及びそれらの配置を定義する仮想スキームであり、複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップは、複数の頭蓋内植込みスキームについてシミュレートされた脳波シグナル間の差異を測定するメトリックを使用して実行され、メトリックは、パワー密度スペクトルであり、植込みスキームの電極は、コンピュータ化されたプラットフォームに仮想的に1つずつ配置され、各電極の配置後にシミュレーション及び最適化が実行され、植込みスキームのすべての電極は、シミュレーション及び最適化の前に、コンピュータ化されたプラットフォームに仮想的に配置され、シミュレートされた脳波シグナルを取得するために、発作伝搬のソースレベル分析が実行され、シミュレートされた脳波シグナルの取得は、以下の線形システムを使用して電極の植込み後に各仮説について実行され、
Y=G*S
式中、Gは、ソースアクティビティSを観測されたセンサアクティビティYと関連付けるゲイン行列であり、電極の位置に依存し、前記電極のセンサの数を考慮に入れたスキームの各電極についてシグナルベクトルが計算され、方法は、(所与の植込みスキームにおいて)必要な電極と必要ではない電極を区別し、前記スキームから必要ではない電極を除去することによって植込みスキームを最適化するステップをさらに含み、植込みスキームの最適化は、てんかん原性領域のより良好な特定を可能にし、優先的に、頭蓋内電極の数を最小にし、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートし、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するステップと、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティを取得するステップと、前記複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップは、コンピュータで実施される。
【0008】
第2の態様によれば、本発明は、てんかん患者の脳のてんかん原性領域を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化するためのコンピュータ化されたシステムであって、
てんかん原性領域のモデル及びてんかん領域から伝搬領域へのてんかん性放電の伝搬のモデルと、
前記モデルは、霊長類脳の様々な領域又はノード及び前記領域又はノード間の接続性をモデル化するコンピュータ化されたプラットフォームにロードされ、前記モデルは、てんかん性放電の始まり、時間経過、及び終わりを記述し、前記患者の脳の構造データを使用して前記コンピュータプラットフォームをパーソナライズするものであり、
患者の脳のてんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説と、
前記てんかん原性領域の位置特定に関する少なくとも1つの仮説について、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートするための、及び、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するためのシミュレータと、
植え込まれる電極の数及びそれらの配置が仮想的に定義され、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティが取得される、脳波電極の複数の頭蓋内植込みスキームと、
を備え、前記複数の頭蓋内植込みスキームから、複数の頭蓋内植込みスキームについてシミュレートされた脳波シグナルアクティビティ間の差異を測定するメトリックを使用して、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームが決定される、
システムに関する。
【0009】
本発明の他の特徴及び態様は、以下の説明及び添付の図面から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1A及び図1Bは、仮想脳を使用した脳てんかんネットワークを示す図である。a1及びa2の行は、それぞれ、2つの異なる仮説1及び仮説2での脳領域間に広がるてんかん発作の例を示している。両方の仮説でのてんかん原性領域(EZ)の2つの異なるセットで、発作は、ライトグレーの丸で描かれている同じ領域(伝搬領域としてPZ)に広がる可能性がある。しかしながら、発作は、1つの仮説、例えば、ここではa2でのみ、より明るいライトグレーの丸で描かれている他の領域(PZ)に広がる可能性がある。図1Aの右上及び右下のプロットは、それぞれ、仮説1及び仮説2での脳領域の時間とアクティビティを示している。図1Bは、仮想脳を使用した仮想電極の植込みを示している。
図2】本発明に係る方法のワークフローを示す図である。
図3】本発明に係るてんかん患者の発作伝搬の例を示す図である。
図4図4A図4B、及び図4Cは、本発明に係る電極H’の位置特定及びシグナルを示す図である。図4Aには、仮説1及び仮説2でのH’シグナルが、それぞれライトグレー色及びダークグレー色で示されている。図4Bは、パワースペクトル密度を示している。図4Cは、電極H’が植え込まれた、仮説1(左のパネル)及び仮説2(右のパネル)での脳の図である。
図5図5A図5B、及び図5Cは、本発明に係る必要な電極OF’の位置特定及びシグナルを示す図である。図5Aには、仮説1及び仮説2でのOF’シグナルが、それぞれライトグレー色及びダークグレー色で示されている。図5Bは、パワースペクトル密度を示している。図5Cは、電極OF’が植え込まれた、仮説1(左のパネル)及び仮説2(右のパネル)での脳の図である。
図6図6A図6B、及び図6Cは、推奨される電極OR及びOR’のシグナル及び位置特定を示す図である。図6Aには、仮説1及び仮説2でのOR及びOR’シグナルが、それぞれライトグレー色及びダークグレー色で示されている。図6Bは、パワースペクトル密度を示している。図6Cは、電極OR及びOR’が植え込まれた、仮説1(左のパネル)及び仮説2(右のパネル)での脳の図である。
図7図7A図7B、及び図7Cは、必要ではない電極TB’のシグナル及び位置特定を示す図である。図7Aには、仮説1及び仮説2でのTB’シグナルが、それぞれライトグレー色及びダークグレー色で示されている。図7Bは、パワースペクトル密度を示している。図7Cは、電極TB’が植え込まれた、仮説1(左のパネル)及び仮説2(右のパネル)での脳の図である。
図8図8A図8B、及び8Cは、必要ではない電極A’のシグナル及び位置特定を示す図である。図8Aは、仮説1及び仮説2でのA’シグナルを、それぞれライトグレー色及びダークグレー色で示している。図8Bは、パワースペクトル密度を示している。図8Cは、電極A’が植え込まれた、仮説1(左のパネル)及び仮説2(右のパネル)での脳の図である。
図9図9A及び図9Bは、本発明に係る最適化後の植込み電極の編成を示す図である。図9Aは、必要な電極と推奨される電極を示している。図9Aに示すように、2つの必要な電極が存在する。H’は、両方の仮説でEZの近くに配置される。OF’は、仮説2(下のパネル)では発作が広がり、仮説1(上のパネル)では広がらない、インデックス付き領域(37)に配置される。OR及びOR’は、両方の仮説で発作によって出現する脳領域(PZ)に配置される、推奨される電極と考えられる。図9Bは、必要ではない電極を示している。これらの電極の場所はEZ及びPZの外にある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、てんかん患者の脳のてんかん原性領域(EZ)を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化する方法に関する。
【0012】
てんかん原性領域(EZ)を特定するための脳波電極セットの頭蓋内植込みスキームを最適化するとは、患者の脳に植え込まれる電極セットの電極の配置又は位置決めを、EZの特定を改善するために可能な限り効果的なものにすることを意味する。セットのいくつかの電極について、侵襲性が最小の、最良の電極の配置が提案される。電極セットのうちのいくつかの電極がEZの特定に有用ではないと思われる場合、それらの電極はそのように特定され、植込みスキームから除外される。
【0013】
本発明に係る方法の様々なステップがコンピュータで実施される。特に、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳でてんかん発作をシミュレートし、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークを決定するステップと、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティを取得するステップと、前記複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップはコンピュータで実施される。
【0014】
発作活動の発生元を特定するために、植込み型の脳波(EEG)電極が必要になることがよくある。それらは、例えば、頭皮EEG記録で以前に特定された発作活動をより正確に位置特定するのに特に役立つ。頭皮EEG記録は、特に発作が特定の大脳半球から発生していると判断するのに役立つ場合がある。一方、植込み型のEEG電極は、てんかん原性活動が、前記大脳半球の側頭葉、頭頂葉、又は後頭葉ではなく、特に前頭葉から発生するかどうかを明らかにし得る。これらの侵襲性電極は、脳の表面又はより深部の皮質構造から直接のEEG記録を可能にする。植込み型のEEG電極はまた、てんかん手術の準備の際に、脳を刺激し、運動機能又は言語機能などの皮質及び皮質下の神経機能をマッピングするために使用することができる。次いで、この情報を発作データと併せて使用して、手術のリスクと利益の側面が判断される。場合によっては、電極による刺激が、この機能マッピングセッション中に前兆又は発作を引き起こし得る。実際には、植え込まれる電極には、硬膜下電極と定位深部電極との2つの主な種類がある。硬膜下電極は、一般に、皮質の表面上に置くように設計された、薄いプラスチックにマウントされた、一連のディスクを含む。これらのディスクは、多くの場合、選択された数の電極接点からなる線形ストリップとして構成される。これらのストリップは、小さな穿頭孔の開口部から頭蓋内腔に挿入され、側頭葉又は前頭葉の下、又は大脳半球の内側表面に沿って配置される。定位深部電極は、深部の脳表構造からの電流を運ぶワイヤに取り付けられた細い可撓性のプラスチック電極である。これらの電流は、電極の壁にマウントされた接点を通じて記録される。プラスチック電極の穴を通って延びる細いワイヤは、穴の中に配置されるスタイレットで挿入される。定位深部電極は、側頭葉てんかん、又は、より一般的には、一方の前頭葉から他方の前頭葉への異常な放電の広がりが非常に速く、発生元の部位又は側を確かめるのが難しい前頭葉てんかんでの発生元の側を判断するのに特に役立つ。深部電極は、頭蓋の表面から角度をなす軌道で凸面から配置されるか、又は、それらが頭蓋の側面と真に水平又は垂直である場合にすべて平行な軌道で頭の側面に沿って配置され得る。
【0015】
本発明の第1のステップによれば、EZのモデル及び前記EZから伝搬領域(PZ)へのてんかん性放電の伝搬のモデルが提供され、これらのモデルは、霊長類脳の様々な領域又はノード及び前記領域又はノード間の接続性をモデル化するコンピュータ化されたプラットフォームにロードされ、前記コンピュータ化されたプラットフォームは、患者の脳に応じてパーソナライズされる。
【0016】
コンピュータ化されたプラットフォームは、例えば、仮想脳である。仮想脳の例は、刊行物文書“The Virtual Brain: a simulator of primate brain network dynamics”, Paula Sanz Leon et al., 11 June 2013で開示されており、これは参照文献の引用により本明細書に組み込まれる。この刊行物文書において、「仮想脳」は、生物学的に現実的な接続性を使用した全脳ネットワークシミュレーションのためのニューロインフォマティクスプラットフォームとして開示されている。このシミュレーション環境は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、EEG、及び脳磁図法(MEG)を含む巨視的ニューロイメージングシグナル生成の根底にある様々な脳スケールにわたる神経生理学的メカニズムのモデルベースの推論を可能にする。これは、個々の被検者データを使用することによって、脳のパーソナライズされた構成の再現及び評価を可能にする。EZのモデルは、前記領域でのてんかん性放電の始まり、時間経過、及び終わりを記述する数学的モデルである。このようなモデルは、例えば、刊行物文書“On the nature of seizure dynamics”, Jirsa et al., Brain 2014, 137, 2210-2230で開示されており、これは参照文献の引用により本明細書に組み込まれる。このモデルは、「Epileptor」と名付けられている。これは、3つの異なる時間スケールで機能する5つの状態変数を含む。最も速い時間スケールでは、状態変数x及びyが、発作中の高速放電を説明する。最も遅い時間スケールでは、誘電率状態変数zが、細胞外イオン濃度の変動、エネルギー消費、及び組織の酸素化などの低速プロセスを説明する。システムは、変数x及びyを通じて発作期中に高速振動を呈する。発作間欠期と発作期との自律的な切り替えは、それぞれ発作の始まり及び終わりについてサドルノード及びホモクリニック分岐メカニズムを通じて誘電率変数zを介して実現される。切り替えには、インビトロ及びインビボで記録されている直流(DC)シフトが付随する。中間的な時間スケールでは、状態変数x及びyは、発作中に観測される棘徐波エレクトログラフィックパターンと、結合g(x)を介して最も高速のシステムによって興奮したときの発作間欠期及び発作前スパイクを説明する。モデルの式は次のようになる:
【数1】
式中、
【数2】
であり、x=-1.6、τ=2857、τ=10、I=3.1、I=0.45、γ=0.01である。パラメータxは、組織の興奮性を制御し、xが臨界値x0C=-2.05よりも大きい場合、発作を自律的に引き起こすてんかん原性である。そうでない場合、組織は正常である。I及びIは、モデルの動作点を設定するパッシブ電流である。伝搬領域のモデルは、EZのモデルと同一であるが、興奮性パラメータは、臨界値x0C=-2.05を下回る。他のすべての脳領域は、興奮性値が閾値から遠く離れているEpileptor、又は、参照文献の引用により本明細書に組み込まれる2013年6月11日にPaula Sanz Leonらによって開示された同等の標準神経細胞集団モデルによってモデル化され得る。脳領域間の結合は、参照文献の引用により本明細書に組み込まれる刊行物文書“Permittivity Coupling across Brain Regions Determines Seizure Recruitment in Partial Epilepsy”, Timothee Proix et al., The Journal of Neuroscience, November 5, 2014, 34(45):15009-15021で開示された数学的モデルに従う。誘電率結合は、遠隔領域jのニューロン高速放電x1jが領域iの局所的な低速の誘電率変数に及ぼす影響を定量化する。イオンホメオスタシスの変化は、同期多様体に垂直な外乱として発作間欠期の安定状態からの偏差を定量化する線形差分結合関数を介して、局所ニューロン放電と遠隔ニューロン放電との両方の影響を受ける。線形性は、同期解の周りのテイラー展開の一次近似として正当化される。誘電率結合は、コネクトームCijとスケーリングファクタGをさらに含み、どちらもKij=GCijに吸収される。領域jから領域iへの誘電率結合は次のようになり、
【数3】
式中、τijはシグナル伝達遅延を表す。てんかん原性領域(EZ)のモデル及び伝搬領域(PZ)のモデルを仮想脳にロードするとき、同期効果は考慮されないため、シグナル伝達時間遅延はここでは無視されるが、誘電率結合のスローダイナミクスによって決定されるてんかんの広がりのみが考慮される。数学的には、仮想脳は、次式に対応する:
【数4】
【0017】
パーソナライゼーションは、仮想脳で実行される患者の脳の構造的再構築を含み、患者の脳について取得された構造データを使用する。構造データは、例えば、磁気共鳴画像法(MRI)、拡散強調磁気共鳴画像法(DW-MRI)、核磁気共鳴画像法(NMRI)、又は磁気共鳴断層撮影法(MRT)を使用して取得した患者の脳の画像データである。
【0018】
本発明のさらなるステップによれば、患者の脳のてんかん原性領域(EZ)の位置特定に関する少なくとも1つの仮説が提供される。
【0019】
実際、患者の脳の機能データで、1つ又は複数の可能性あるてんかん原性領域、1つ又は複数の可能性ある伝搬領域、及び1つ又は複数の可能性ある他の領域の位置が最初に特定され、対応する領域が、仮想脳でのてんかん原性領域、伝搬領域、又は他の領域としてパラメータ化される。実際には、非侵襲性機能的ニューロイメージングにより、熟練した臨床医は、てんかん発作の推移を知り、EZの位置、すなわち、てんかん活動の発生元と初期編成に関与する脳の仮想領域の仮説を作成することができる。PZは、発作の推移中に出現するが、それ自体ではてんかん原性ではない領域を含む。パラメータは、EZの仮説に従って仮想脳ネットワークモデルで最初に設定される。てんかん原性の空間マップを仮想脳で定義することができる。このマップでは、各ノードは、領域のモデルが発作を引き起こす能力を定量化する興奮性値xによって特徴付けられる。孤立した領域について、G=0、x>x0Cである場合、モデルは発作を自律的に引き起こすことができるため、てんかん原性とみなされる。逆に、x<x0Cである場合、モデルは発作を自律的に引き起こさないため、てんかん原性ではない。てんかん原性の空間マップは、EZ、PZ、及びすべての他の領域の興奮性値を含む。もちろん、仮想脳に組み込まれている状態では、EZのノードのみが自律的に放電する。
【0020】
本発明のさらなるステップによれば、てんかん原性領域の位置特定の各仮説についてパーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳において、てんかん発作のシミュレーションが実行され、前記仮説及びてんかん発作について、伝搬領域のネットワークが決定される。
【0021】
本発明のさらなるステップによれば、脳波電極の複数の頭蓋内植込みスキームについて、パーソナライズされているコンピュータ化された患者の脳を使用して、前記複数のスキームに従って植え込まれた頭蓋内電極によって測定されるシミュレートされた脳波シグナルアクティビティが取得される。
【0022】
てんかん脳に配置された電極シグナルから測定される発作の始まりの振幅及びパワーは、電極の位置に依存する。発作が大きい振幅及びパワーで始まるとき、てんかん原性領域がよりよく説明され、関連する電極は最良と考えることができる。本発明は、てんかんの患者のために、SEEGシグナルのパワー及び発作の始まりの振幅形状を含めることによって、電極の植込みの最適化を可能にする。
【0023】
本発明のさらなるステップによれば、シミュレートされた脳波シグナルアクティビティが取得された複数の頭蓋内植込みスキームから、脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームが決定される。
【0024】
複数の頭蓋内植込みスキームから脳波電極セットの最適化された頭蓋内植込みスキームを決定するステップは、複数の頭蓋内植込みスキームについてシミュレートされた脳波シグナル間の差異を測定するメトリックを使用して実行される。
【0025】
実装され得るメトリックは、例えば、パワー密度スペクトル(PSD)である。しかしながら、例えば、シグナルの角度又はエンベロープ関数などの他のメトリックが実装されてもよい。
【0026】
例1:方法
ワークフロー
最適な電極の植込みに必要とされる順序付けられた様々な手順を定義するワークフローを作成した。このワークフローは図2で提供される。この図に示されているように、少なくとも1つ、例えば2つ、場合によっては2つよりも多くの、臨床医のEZの仮説が、各てんかん患者について作成される。図2のワークフローは、臨床医の2つの仮説(SS1及びSS2)に基づいて構築される。各仮説について、患者の皮質表面で定義される脳領域活動が生成され、仮想脳シミュレーションに基づいて発作の伝搬(PZ及びPZネットワーク)が推定される。これらのシミュレーションを行うために、患者から記録された発作のダイナミクスを厳密に模擬できる仮想脳からの数学的モデルが選択され、パラメータの適切なセットが定義される。最適化を実行する前に、電極の仮想脳植込みに進む。これに関連して、電極を植え込むのに様々な手法が有用であり得る。最後に、最適化が行われる。臨床医の仮説のSEEGシグナル間の差異を測定するためのメトリックとしてパワースペクトル密度(PSD)を使用するツールが定義され、PSD、電極の配置、及び発作伝搬の編成から、考えられる各仮説に関連して、脳に配置される電極のシグナルパターンをどのように予測できるかが実証される。さらに興味深いことに、侵襲性が最小の、最良の電極の配置が提案される。ワークフローの特定のステップは、後の電極の最適化を可能にする発作伝搬の編成である。両方の仮説の発作伝搬(PZ及びPZネットワーク)を編成する方法が提案される。
【0027】
患者データ
この例では、Proixらの以前の刊行物(刊行物文書の参照文献を参照)でRBとして特定された、最初に左側頭葉てんかんと診断された右利きの35歳の男性てんかん患者のデータを考慮した。これは患者の脳に配置された電極から最良の位置にある電極を判断することを目的とするものであった。患者の脳の接続とてんかん診断をデータとして使用した。植え込まれる電極の数及び位置は、EZ仮説の位置特定後に決定された。10個の電極を左大脳半球に配置し、他の2個を右大脳半球に配置し、各電極は10個又は15個の接点を備える。
【0028】
EZの臨床医の仮説は様々である可能性があり、仮説のシグナル間の良好な区別をもたらす電極が有用と考えられる。本発明の最適化方法を開発するために、2つのEZ仮説を考えた。仮説1のEZセットは、左側頭葉極に対応する1つの脳領域で構成される。仮説2のEZセットは、互いに近接している、左側頭葉極と左視床との2つの脳領域からなる。
【0029】
数値シミュレーション
脳を通じた発作伝搬のソースレベル分析は重要なポイントであり、いわゆる伝搬領域、すなわち、発作活動中に出現する領域のセットを決定する試みとして実施した。2つのEZ仮説のそれぞれについて、仮想脳を使用してコンピュータシミュレーションを行った。発作を示すソースレベルのシグナルが決定され、対応する脳領域が、仮説1の場合はPZネットワークに、仮説2の場合はPZネットワークにグループ化される。
【0030】
シミュレーションを行うために使用したモデルは、上で定義したEpileptor(商標)モデルであり、発作のダイナミクスをほとんど模擬する。モデルは、2つの2D母集団と、モデルのダイナミクスを駆動する低速状態変数を含み、発作期と安静期との間で自律的な交互の切り替えを提供する。両方の仮説で設定されるモデルパラメータは、てんかん原性領域EZに関係なく作成された臨床的仮説に基づいて変更されるてんかん原性パラメータxを除いて、ネットワークで同じである。x値は、てんかんの広がりと仮想てんかん患者に関する以前の研究(Jirsa et al., Neuroimage 2016, Proix et al., Brain 2017)から選択した。
【0031】
使用したパラメータ値は、以下の通りである:
【数5】
低速zのダイナミクス:
【数6】
ネットワークでのEpileptorのKij間の結合は、Kij=Kijで与えられる正規化された脳の接続性に対応し、ここで、Cijは接続性行列であり、Kはスケールファクタである。ここで、K=-2である。
【0032】
ネットワーク伝搬
EZの仮説が変わると、同じ特徴(結合、モデル式、及びパラメータ)によって特徴付けられている場合であっても、発作は、脳ネットワークで異なる広がりを呈する可能性がある。
【0033】
時系列の視覚化により、発作によって出現する脳領域を、仮説1と仮説2のそれぞれで決定した。これらは、それぞれ2つのネットワークセットPZ及びPZを形成する。
【0034】
電極の植込み
頭皮EEGでは、てんかん原性領域を正確に特定することはできない。このため、臨床医は、頭蓋内EEGを行って脳を診て、EZの考えられる仮説についてSEEG記録を通じて調べる必要がある。
【0035】
TalairachとBancaudによって提案された、脳領域の上の電極の標準配置による、頭蓋内植込みの確立された慣習が存在する。この種の植込みの利点があるにしても、リスクとのバランスをとらなければならない。植込み前の段階では、配置する電極の数が限られていることは重大な複雑化因子である。臨床医はEEG記録及び他の分析に基づいてEZを特定するため、植込み電極の数は、臨床医によって作成されたすべての考えられる仮説をカバーしつつ、最小限に抑えられるべきである。
【0036】
仮想脳及び仮想てんかん患者(VEP)により、患者の脳ネットワークを再構築し、臨床医による提案どおりに電極を三次元位置で脳に配置した。さらに、電極及び脳ネットワークの2D投影を行って、空間内の電極分布の概要を把握した。脳ネットワークは、両方の仮説について同じ電極構成で再構築される。
【0037】
電極の植込み戦略
電極の植込み戦略は様々である。本発明者らは、電極の最適化を改善するために用いられ得る以下の2つの戦略を考えた。最適化に用いられるメトリックは、2つの戦略で同じであることに留意されたい。選択は、可能な限り低くするべき、計算コストに基づいている。実際、戦略の計算コストが低いほど、より良い。
【0038】
第1の戦略は、1つの電極が配置されるたびに電極アクティビティを記録することからなる。そして、最適化メトリックに基づいて、それぞれのケースについて有益な値が決定される。計算上、これは、最後の電極に到達するまで植え込まれた電極アクティビティが毎回測定される、E回のシミュレーションを行うことを意味し、ここで、Eは、植込みの候補電極の数である。さらに、電極が追加されるたびに、最適化に関するすべてのメトリックが、植え込まれる電極の決定を行うために用いられる。
【0039】
脳への植込みのために選択されたすべての電極を位置決めし、次いで、最良の電極位置を決定するために最適化メトリックを導入することからなる、より計算コストが低い別の戦略を用いることが提案される。ここでは、SEEGシグナルを取得するために単一のシミュレーションが実行され、すべての最適化メトリックを1回使用するだけで最良の電極位置が決定される。
【0040】
計算コストを除いて、第1又は第2の戦略のいずれでも、配置されたすべての電極アクティビティは依然として同じである。
【0041】
SEEGシグナルの構築
以下の単純な線形システム(順問題)を使用して電極の植込み後に両方の仮説についてシミュレートされたSEEGシグナルの構築を行った。
Y=G*S
式中、Gは、ソースアクティビティSを観測されたセンサアクティビティYと関連付けるゲイン行列であり、電極の位置に依存する。
【0042】
ゲイン行列Gは次のように書くことができ:
【数7】
式中、rsens及びrscは、それぞれ、電極及び脳領域の3D位置ベクトルである。これは、ソースの配向の制約なしに達成された(配向:対応する頂点での皮質の法線)。
【0043】
シグナルベクトルS(t)=[s(t),…,s(t)]Tは、仮想脳数値シミュレーションで得られるN個の領域の脳ネットワークにおいてどこで発作が広がるかを示している。
【0044】
電極の最適化を改善する方法
シグナルベクトルY(t)=[Y(t),…,Y(t)]T(Kはセンサの総数)は、必ずしも同じセンサナンバーCを有していないE個の配置された電極アクティビティを示している。Y(t)は、E個のサブベクトルx(t)=[Y(t),…,YCi(t)]T(Cは、電極iのセンサナンバー)に分割することができる。x(t)は、次のように書くことができ:
【数8】
式中、A(C×N)は、電極IのC個のセンサをN個の脳領域に接続するゲイン行列である。
【0045】
したがって、ゲイン行列G(K×N)は、ブロック行列として解釈することができ、各ブロックは、電極iのC個のセンサをN個の脳領域に接続するサブ行列A(C×N)に対応する。
【0046】
前述のように、Y(t)に配置されたすべての電極アクティビティは、植込みのために用いられるすべての戦略で依然として同じである。
【0047】
植込み1の証明として:1つの電極がC個のセンサとともに配置される場合、アクティビティはY(1)=G(1).Sで取得することができ、式中、G(1)=G11であり、これはソースアクティビティSを配置された電極アクティビティY(1)と関連付けるゲイン行列であり、電極の位置に依存する。その場合、Y(1)=G11.Sであり、G11のサイズは(C×N)であり、ここで、Cは、配置された電極のセンサナンバーを表し、Nは、脳領域(ソース)ナンバーを表す。Y(1)(t)は、次元(C×1)のベクトルである。
【0048】
植込み2の証明として:第2の電極が配置される場合、2つの電極の時間シグナルは次のように書くことができ:
(2)=G(2).S
式中、
【数9】
は、ソースアクティビティSを2つの配置された電極アクティビティY(2)と関連付けるゲイン行列である。その場合、
【数10】
であり、ここで、G11は、C個のセンサで第1の電極位置から得られ、G21は、C個のセンサで第2の電極位置から得られる。G(2)は、((C+C)×N)のサイズのブロック行列として解釈することができる。Y(2)(t)は、次元((C+C)×1)のベクトルであり、第1のサブベクトルがベクトルY(1)(t)に対応する、2つのサブベクトルの分割と考えることができる。
【0049】
植込みEの証明として:Eiethの電極が配置される場合、E個の電極の時間シグナルは次のように書くことができ、
(E)=G(E).S
式中、
【数11】
【数12】
及び
【数13】
である。
【0050】
メトリックの最適化:パワースペクトル密度
E個の電極からのシミュレートされたSEEGシグナルは、電極の位置に応じて変化するパワー及び形状を有する。てんかん脳の場合、発作を示すセンサのシグナルは、てんかん原性領域の存在に関係する。最良の電極位置を決定するために、時間シグナルのパワーが周波数とともにどのように分布するかを表すパワースペクトル密度PSDを使用して、仮説1及び仮説2で得られたSEEG時系列を分析した。すべての仮説kについて、同じ時間間隔で、PSDの最大値に対応するセンサのシグナルの最大周波数を取得した。次いで、PSD値を各電極iで別々にアセンブルしてベクトルv を生成する。ベクトルv のサイズは、対応する電極iのセンサナンバーに依存する。
【0051】
2つの仮説1及び仮説2を区別するために、すべての電極iについて、
【数14】
と書かれる、それぞれ仮説1及び仮説2の最大PSD値からなるベクトルv (1)とベクトルv (2)の絶対差を求めた。次いで、ベクトルDIFのノルムであるN (i)値を求めた。患者について、それぞれ電極iに関係する(12)のN(i)値が存在する。ここで、配置されたどの電極が最良の電極であるかを判断するために、それらをN(i)値の降順にソートし、対応する電極のソートと関連付けた。ベクトルv (1)とベクトルv (2)の差がより大きい電極で2つの仮説をより良好に区別できると想定された。
【0052】
メトリックの最適化:発作の伝搬
サイズK×Nの行列Gは、N個のソースアクティビティを観測されたK個のセンサアクティビティと関連付け、電極の位置に依存する。センサKと領域Nとの距離がどれだけ遠いかを示すGの各行について、N個の要素を降順にソートし、最初の5つのソートされた要素のみを考慮した。ソートされた要素は、サイズK×5の新しい行列を形成する領域の対応するインデックスと関連付けられた。
【0053】
G(K×N)の各ブロックは、電極iのC個のセンサをN個の脳領域に接続するサブ行列A(C×N)に対応する。その結果、電極iと関連付けられた領域の対応するインデックスを含む行列Rが定義され、ここで、C×5はRのサイズであり、Cは電極iのセンサナンバーである。この手法は、すべてのセンサにとって最も近い領域を決定することに専念している場合、有用ではない可能性がある。現在の手法の主な強みは、仮想脳のネットワーク特性の活用であり、これにより、電極の植込みの最適化のためのデータ特徴としてネットワーク伝搬を使用することができ、これは行列Rの要素でインデックス付けされた領域に基づいている。
【0054】
の行のインデックスが、2つの仮説のEZに関係するのか、又は伝搬ネットワークPZ及びPZの編成後に得られたセットQcom、QHyp1、及びQHyp2に関係するのかを調べた。
【0055】
例2:結果
ワークフローの実装
それぞれ脳領域の様々なセットを含む臨床医の仮説の例として、2つのケースを考えた。第1の仮説は、1つの脳領域(左側頭葉、SS1)からなるてんかん原性領域EZを含む。第2の仮説のEZは、2つの脳領域(左側頭葉と左視床、SS2)を含む。
【0056】
数値シミュレーションを通じた発作伝搬
仮想脳により、図3に示すように仮説1及び仮説2での脳ソースのネットワークアクティビティを取得した。ダークグレーのシグナルとライトグレーのシグナルは、それぞれ、てんかん原性領域EZ及び伝搬領域PZに関係する領域のものである。黒のシグナルは、関与していない領域のものである。EZが変わると、発作は2つのネットワークで異なる広がりを呈する。仮説1のネットワークPZは、(26、28、60、62、及び83)でインデックス付けされた領域を含む。仮説2のネットワークPZは、領域(4、26、28、37、60、62、及び83)を含む。仮説1及び仮説2での発作伝搬の空間的推移は図3で視覚化される。
【0057】
発作伝搬ネットワークの編成
ネットワークPZ及びPZに基づくと、PZとPZの両方での共通領域を含むセットQcomは、26、28、60、62、及び83である。セットQHyp2は、仮説2ではてんかん活動の推移中に出現するが仮説1では出現しない(4及び37)でインデックス付けされた領域を含む。最後に、仮説1では発作が広がるが仮説2では発作が広がらない領域は存在しない。したがって、セットQHyp1は依然として空である。ここでは、どの脳領域が最初に放電するかを判断することは重要ではなく、発作の伝搬によって出現する領域を判断することが重要であることに留意されたい。したがって、関連するデータ特徴は、実際のネットワーク特性であり、単純に側頭葉の特徴ではない。
【0058】
メトリックの最適化:パワースペクトル密度(PSD)
PSDを使用して、2つの仮説について、シミュレートされたSEEGシグナルのパワーを測定した。各電極のシグナルパワー、より具体的には各接点のシグナルの最大PSD値であるPSDを別々に導出した。ソートから得られた最初の6つの電極のプロットが、図4C図5C、及び図6Cに示されており、PSD値は丸でラベル付けされている。仮説1のベクトルv 及び仮説2のv は、それぞれ、ダークグレーの曲線及びライトグレーの曲線で表され、各ベクトルはPSDのC値からなり、Cは電極iのセンサナンバーである。
【数15】
のノルムであるN(i)のソートは、E及びEの2つのセットに分けることができ、ここで、Eは、H’、OF’、A’、OR、及びOR’の最良の位置にある最初の5つの電極を含む。Eは、(TB’、GC’、I’、TP’、B’、TB、GPH’)として順序付けられる残りの電極からなる。セット1の電極及びセット2からのTB’は、実際、前述の最初の6つの電極であることに留意されたい。
【0059】
電極A’を除いて、セット1のすべての電極は、図4及び図5に示すように発作を示す。さらに、図4A図4B、及び、図6A図6Bに示す電極シグナルと、図4C及び図6Cに示す対応するPSD値は、接点のシグナルが発作を示す際にシグナルパワーが増加することを示している。
【0060】
電極A’のシグナルは、図6A図6Bに示すように高周波であるが、発作とは関係がなく、パワースペクトル密度のメトリックを使用しても、電極の植込みを最適化するのに十分ではない可能性があることが確認される。一方、セット2の電極TB’のシグナルを見ると、発作は存在しない。TB’はセット2の最良の電極であり、したがって、セット2のシグナルのいずれも発作を示さないことに留意されたい。結果の詳細な分析は、ゲイン行列と発作の伝搬を調べるときに提供される。
【0061】
必要な電極
電極H’及びOF’は、セットEの最初の2つの電極である。仮説1(図4A)の電極H’及びOF’のセンサのシグナルは、仮説2(図4B)のものとは異なる。それで、それらは仮説1と仮説2の両方の良好な区別をもたらし、したがって、それらは必要であると考えられる。行列RH’及びROF’で電極H’及びOF’のセンサのシグナルを説明することができ、各電極iは行列Rと関連付けられる。Rの行は、ゲイン行列Gの要素のソートから得られた領域のインデックスからなる。関連する行列RH’及びROF’は、次式で与えられる:
【数16】
【0062】
行列RH’及びROF’のサイズはそれぞれ(15×5)及び(10×5)であり、行ナンバーは、2つの電極のそれぞれのセンサナンバーに対応することに留意されたい。
【0063】
行列RH’の各行は、両方とも仮説2でのてんかん原性領域を形成する33及び36でインデックス付けされた領域のうちの少なくとも1つを含む。仮説1は、てんかん原性領域として領域(33)で示される33でインデックス付けされた領域を有する。RH’とは異なり、行列ROF’の最後の行だけが領域(33)を含み、ROF’の最初の行は、発作の伝搬に関係する領域(37)を含む(QHyp2参照)。
【0064】
行列RH’及びROF’をインデックス付き領域(33、36、及び37)と組み合わせることで、仮説1及び仮説2で電極H’及びOF’のいくつかのセンサのシグナルが発作を示し、他は示さない理由を説明することができる。
【0065】
まず、電極H’及びOF’のセンサのシグナルは、RH’及びROF’の対応する行が図4A及び図4Bのインデックス付き領域(33、36、37)のうちの1つを含むときにのみ発作を示す。
【0066】
また、電極H’及びOF’のセンサのシグナルは、インデックス付き領域(33、36、又は37)がそれぞれ行列RH’及びROF’の対応する行の最初の列にある場合に、より明らかな発作を示す。図4Dは、領域(33、36、及び37)に対する電極H’及びOF’の位置の3D視覚化を示している。
【0067】
両方の仮説での発作を示すシグナルパワーの推移は、図4Cに示すようにPSD値で説明及び測定することができ、図4に示すゲイン行列値でよりよく表され、ゲイン行列値はセンサに依存する。
【0068】
重要なことに、図4A及び図4Bに示すように、発作を示すH’及びOF’シグナルの形状は異なっており、開始時間も同様である。形状は、行列RH’及びROF’の対応する行で見られる最初の列に依存する。得られた各インデックスは、対応するセンサのシグナルと同じ形状を有する、図3A及び図3B(B1、B2)に示すようなソースレベルでのシグナルと関連付けられる。
【0069】
推奨される電極
OR及びOR’電極は、センサのシグナルが発作を示しているセットEの最後の2つの電極である。ORシグナルは、図5A図5Bに示すように仮説1と仮説2の両方で類似しているように見える。電極OR’でも観測されたこのシグナルの類似性は、必要な電極H’及びOF’では生じない。したがって、OR及びOR’のセンサのシグナルでは、H’及びOF’とは対照的に、仮説1と仮説2の区別は行わなかった。そこで、これらは発作の存在を示しているが、これらの2つの電極OR及びOR’を考慮することが提案された。
【0070】
ORシグナルのパワーは、仮説1と仮説2の両方で同じであり、これは、図5Cに示すように、それぞれPSD値からなるダークグレーの曲線及びライトグレーの曲線で表される。図5Cに示すように、電極OR’に関連するダークグレーの曲線及びライトグレーの曲線は重ね合わされないが、それでも同じ形状をもつため、仮説1と仮説2(図5A図5B)のシグナルの類似性が説明される。電極OR及びOR’の両方のPSD値は、発作がより多く現れるにつれて図5Cに示すように増加する(図5A図5B)。
【0071】
この類似性を調べるために、それぞれ電極OR及びOR’と関連付けられる
【数17】
で与えられる行列ROR及びROR’の要素を分析することによって、発作伝搬の概念が使用された。
【0072】
要素がインデックス付き領域(33、36、37)のうちの1つであり得る行列RH’及びROF’とは異なり、行列RORは、60及び62でインデックス付けされたセットQcomからの2つの領域を含む。セットQcomは、2つのセットPZ及びPZ間の共通領域を含むことに留意されたい。言い換えれば、これらの領域は、仮説1と仮説2の両方で、てんかん活動の推移中に出現する。図5A図5Bは、行列RORの対応する行の最初の列がインデックス付き領域60及び62のうちの1つであるとき、電極ORのセンサのシグナルが発作を示すことを示している。
【0073】
行列ROR’により、電極iのシグナルで観測される発作の形状に結び付けるために行列Rの最初の列に焦点をあてることが有利である理由が示される。実際、60でインデックス付けされた領域が配置される行列ROR’の列を見ると、領域(60)が最初の列にはない場合、シグナルは明らかな発作を示さないことが観測された。また、領域(60)としてセットQcomに属する領域(26)で始まるROR’の最後の行は、図5A図5Bに示すようなOR’シグナルの類似性の証明と、発作の伝搬の概念を提供する。
【0074】
電極H’及びOF’と同様に、発作の開始時間は電極OR及びOR’間で異なる。これは、発作の開始時間が異なるソースレベルでのシグナルを示す領域60及び26をそれぞれ最初の列に含む行列ROR及びROR’で示される。
【0075】
発作の伝搬を使用した仮想脳の予想能力
最良の電極位置を含むセットEの第3の順序付けられた要素は、
【数18】
で与えられるRA’行列での電極A’である。
【0076】
行列RA’の最後の行だけが領域(33)を含むが、最後に順序付けられているため、最後のセンサのシグナルは、図6A図6Bに示すように明らかな発作を示さない。反対に、A’の最初のセンサのシグナルは、図6CのPSDに示すように強いパワーを有するが、それにもかかわらず、それらは発作を示さない。実際、RA’の対応する行は、てんかん原性領域及び発作の伝搬に関係する領域のうちの1つではない領域(41)で始まる。数学的には、領域(41)は、QHyp1、QHyp2、及びQcomのいずれのセットにも属していない。セットEのすべての電極で、パワースペクトル密度はメトリックとして十分ではないと結論付けられる。有用な電極の決定は、発作が脳全体のどこに広がるかを知ることを通じて仮想脳で進められる。
【0077】
有用でない電極
セットEで最初に順序付けられた電極TB’のシグナルは、図7A図7Bに示すように発作を示さない。電極TB’の3D位置は、図7Dに示されている。
【数19】
で与えられる行列RTB’は、てんかん原性領域又は発作の伝搬に関係するインデックス付き領域を含んでおらず、したがって、TB’のシグナルパターンを説明している。対応するPSD値が図7Cに示されている。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
【国際調査報告】