(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】2-ベンゾイル安息香酸アルキルの合成のための効率的かつ選択的な経路
(51)【国際特許分類】
C07C 67/30 20060101AFI20230329BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C07C67/30
C07C69/76 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548095
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 US2021018516
(87)【国際公開番号】W WO2021168072
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビスワス、スヴァギャ
(72)【発明者】
【氏名】フィゲロア、ルース
(72)【発明者】
【氏名】サティオサタム、ムハンタン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC44
4H006BB15
4H006BC10
4H006BJ50
4H006BR60
4H006KA31
4H006KC30
(57)【要約】
2-ベンゾイル安息香酸アルキルを調製するための方法であって、酸素化溶媒の存在下で、フタル酸ジアルキルをグリニャール試薬と反応させることを含む、方法。グリニャール試薬は、臭化フェニルマグネシウム、塩化フェニルマグネシウム及びヨウ化フェニルマグネシウムから選択され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ベンゾイル安息香酸アルキルを調製するためのプロセスであって、
酸素化溶媒の存在下で、フタル酸ジアルキルをグリニャール試薬と反応させることであって、前記グリニャール試薬が、臭化フェニルマグネシウム、塩化フェニルマグネシウム及びヨウ化フェニルマグネシウムから選択される、反応させること、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記フタル酸ジアルキルが、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル及びフタル酸ビ-tert-ブチル(bi-tert-butyl phthalate)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フタル酸ジアルキルが、フタル酸ジメチルから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸素化溶媒が、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン及び2-メチルテトラヒドロフランから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応が、-78℃~150℃の範囲の温度で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応が、-40℃~100℃の範囲の温度で実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記フタル酸ジアルキルが、前記グリニャール試薬1モル当たり0.9~3.0モルの範囲の前記フタル酸ジアルキルの量で存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸素化溶媒が、0.2~1.0Mの濃度で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応が、少なくとも1時間実行される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応が、少なくとも12時間実行される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-ベンゾイル安息香酸アルキルを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
2-ベンゾイル安息香酸アルキルは、典型的には、フリーデル-クラフツ反応によって調製される。例えば、2-ベンゾイル安息香酸メチル(methyl 2-benzoylbenzoate、M2BB)は、従来、化学量論量のルイス酸の存在下での無水フタル酸とベンゼンとのフリーデル-クラフツ反応、それに続く第2のステップのエステル化反応によって調製される。エステル化反応は、強酸の存在下でメタノールを用いた酸性条件下で起こり得る(Vogel.et.al.Practical Organic Chemistry,5th Ed.pp 1016)。代替的に、エステル化反応は、塩基の存在下でヨードメタンを用いた塩基性条件下で起こり得る(ChemCatChem 2017,9,3989-3996)。
【0003】
2-ベンゾイル安息香酸メチルはまた、ベンズアルデヒドと2-ハロメチルベンゾエートとの間のパラジウム触媒アシル化化学反応を介しても合成することができる。しかしながら、この化学反応は、高価な遷移金属触媒及び化学量論量の酸化剤を必要とする(J.Org.Chem.2016,81,6409)。
【0004】
加えて、2-ベンゾイル安息香酸メチルは、活性化アミドと、対応するボロン酸との間の鈴木カップリングによって合成できる可能性がある(Org.Process Res.Dev.2018,22,1188)。
【0005】
(1)生成時の化学量論的ルイス酸の使用を回避し、(2)毒性試薬及び強酸若しくは塩基の使用を必要とせず、(3)単一ステップ操作で2-ベンゾイル安息香酸アルキルを調製することができ、かつ/又は(4)製造コストを削減することができる、2-ベンゾイル安息香酸アルキルを調製するためのプロセスを開発することが望ましいであろう。
【0006】
本発明は、既存の2-ベンゾイル安息香酸アルキルの合成プロセスに関連する問題のうちの1つ以上に対処するプロセスを提供する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、2-ベンゾイル安息香酸アルキルを調製するためのプロセスに関する。
【0008】
酸素化溶媒の存在下で、フタル酸ジアルキルを、臭化フェニルマグネシウム、塩化フェニルマグネシウム、ヨウ化フェニルマグネシウム及びフェニルリチウムから選択されるグリニャール試薬と反応させることを含むプロセス。
【0009】
驚くべきことに、2-ベンゾイル安息香酸アルキルについての反応の選択率は非常に高く、ほんの少量のジケトン副生成物が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による、16時間のフタル酸ジメチルと臭化フェニルマグネシウムとの反応のGC-FIDデータを示す。
【
図2】本発明の一実施形態による、生成物2-ベンゾイル安息香酸メチルの
1H NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用される場合、「1つ(a)」、「1つ(an)」、「その(the)」、「at least one(少なくとも1つ)」及び「one or more(1つ以上)」という用語は、互換的に使用される。「含む(comprise)」、「含む(include)」、「含有する(contain)」という用語及びそれらの変形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲に現れる場合、限定的な意味を有しない。すなわち、例えば重合阻害剤を含む混合物は、当該混合物が少なくとも1つの重合阻害剤を含むことを意味すると解釈することができる。
【0012】
本明細書で使用される場合、終点による数値範囲の列挙は、その範囲に包含されるすべての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。本発明の目的のために、当業者が理解することと一致して、数値範囲は、その範囲に含まれる可能性のあるすべての部分範囲を含み、かつサポートすることを意図することを理解されたい。例えば、1~100の範囲は、1.1~100、1~99.99、1.01~99.99、40~6、1~55などを伝えることを意図している。
【0013】
本明細書で使用される場合、特許請求の範囲におけるこのような列挙を含む、数値範囲及び/又は数値の列挙は、「約」という用語を含むと読むことができる。このような場合、「約」という用語は、本明細書に列挙されているものと実質的に同じである数値範囲及び/又は数値を指す。
【0014】
相対する記述がない限り、又は文脈から黙示的でない限り、すべての部及びパーセンテージは、重量に基づくものであり、すべての試験方法は、本出願の出願日現在のものである。米国特許実務を目的として、参照される特許、特許出願又は刊行物の内容は必ず、内容全体が、特に定義の開示、及び当技術分野における一般的な知識に関して(本開示において具体的に提供される定義に決して矛盾しない程度に)、参照により本明細書に組み込まれるか、又は、刊行物の相当する米国特許出願が同じように参照により組み込まれる。
【0015】
本発明のプロセスでは、2-ベンゾイル安息香酸アルキルは、以下の式(I)に示されるように、グリニャール反応で調製される。フタル酸ジアルキルは、酸素化溶媒の存在下でグリニャール試薬と反応する。
【0016】
【0017】
フタル酸ジアルキルにおいて、R及びR’は、同じであっても、異なっていてもよい。好ましくは、R及びR’は、以下の式(II)に示されるように同一である。
【0018】
【0019】
R及びR’は、独立して、例えばメチル基、エチル基、プロピル基又はtert-ブチル基などの1~4個の炭素原子を含むアルキル基から選択され得る。好ましくは、R及びR’は、独立して、メチル基及びエチル基から選択される。より好ましくは、R及びR’は両方ともメチル基であり、生成物は、以下の式(III)に示されるように、2-ベノイル安息香酸メチル(methyl 2-benoylbenzoate)である。
【0020】
【0021】
グリニャール試薬は、臭化フェニルマグネシウム、塩化フェニルマグネシウム及びヨウ化フェニルマグネシウムから選択され得る。
【0022】
グリニャール試薬は、フタル酸ジアルキルのエステル官能基のうちの1つと選択的に反応して、平均60%の収率で2-ベンゾイル安息香酸アルキルを形成する。R及びR’が両方ともメチル基であるとき、単一ステップ反応は、2-ベンゾイル安息香酸メチル(12:1)に対して非常に選択的であり、ほんの少量の副生成物(例えば、ジケトン)が形成される。新たに形成されたケト-カルボニル官能基又はフタル酸ジメチルの第2のエステル官能基のいずれかに対する過剰なグリニャール反応は系においてほとんど観察されなかった。
【0023】
本発明のプロセスは、高価な試薬、添加剤又は配位子を使用せずに行われ、旧来の2ステップ反応と比較して、有意に改善されたプロセス収率を提供することができる。
【0024】
本発明で使用され得る酸素化溶媒の例としては、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン及び2-メチルテトラヒドロフランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
反応は、好ましくは、0.2~1.0Mの酸素化溶媒の全体的な濃度で実行される。
【0026】
好ましくは、反応は、-78℃~150℃の範囲の温度で実施される。より好ましくは、反応は、-40℃~100℃の範囲の温度で実施される。更により好ましくは、反応は、0℃~40℃の範囲の温度で実施される。好ましくは、反応は、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも3時間及びより好ましくは少なくとも12時間実施される。
【0027】
フタル酸ジアルキルとグリニャール試薬との配合比は、好ましくは、グリニャール試薬1モル当たり0.90~3.0モルの範囲のフタル酸ジアルキル、より好ましくは、グリニャール試薬1モル当たり1.0~2.75モルの範囲のフタル酸ジアルキル、なおより好ましくは、グリニャール試薬1モル当たり1.25~2.5モルの範囲のフタル酸ジアルキル、更により好ましくは、グリニャール試薬1モル当たり1.4~1.6モルの範囲のフタル酸ジアルキルである。
【実施例】
【0028】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0029】
実施例1
3つ口250mL丸底フラスコに、フタル酸ジメチル(1.0当量)及びテトラヒドロフラン(濃度0.2M)を窒素雰囲気下で充填し、塩化フェニルマグネシウム(1.0当量)を-78℃の反応混合物にゆっくりと添加した。この反応を-78℃で1時間保持した。2時間後、薄層クロマトグラフィー(thin-layer chromatography、TLC)及びガスクロマトグラフィー-水素炎イオン化検出器(gas chromatography-flame ionization detector、GC-FID)は、主に出発材料を示し、反応を0℃まで温めた。反応を0℃で更に3時間実行し続けた。TLCは、生成物形成を示したが、大部分は出発材料であった。反応を室温までゆっくりと温め、更に12時間実行し続けた。その後、1N HCl溶液を反応混合物に添加することによって、反応を停止させた。ジエチルエーテルを添加し、反応混合物を分液ロートに移した。有機層を分離し、水層をジエチルエーテルで更に洗浄した。有機層を合わせ、MgSO4上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去して、褐色がかった油を得、これをシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中10%~25%酢酸エチル)によって精製して、生成物2-ベンゾイル安息香酸メチル(収率49%)及びジケトン生成物(収率6%)を得た。
【0030】
実施例2
3つ口250mL丸底フラスコに、フタル酸ジメチル(1.0当量)及びテトラヒドロフラン(濃度0.2M)を窒素雰囲気下で充填し、臭化フェニルマグネシウム(1.0当量)を-78℃の反応混合物にゆっくりと添加した。この反応を-78℃で1時間保持した。2時間後、TLC及びGC-FIDは、主に出発材料を示し、反応を0℃まで温めた。反応を0℃で更に3時間実行し続けた。TLCは、生成物形成を示したが、大部分は、なお、出発材料であった。反応を40℃までゆっくりと温め、更に12時間実行し続けた。その後、1N HCl溶液を反応混合物に添加することによって、反応を停止させた。ジエチルエーテルを添加し、反応混合物を分液ロートに移した。有機層を分離し、水層をジエチルエーテルで更に洗浄した。有機層を合わせ、MgSO4上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去して、褐色がかった油を得、これをシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中10%~25%酢酸エチル)によって精製して、生成物2-ベンゾイル安息香酸メチル(収率60%)及びジケトン生成物(収率5%)を得た。
【0031】
実施例3
実施例1及び2に上述されたものと同様の技法を使用する様々な実験を実行して、フタル酸ジメチルとのグリニャール反応条件を試験した。これらの実験を以下の表1にまとめている。16時間後の臭化フェニルマグネシウムと反応したフタル酸ジメチルの代表的なGC-FIDデータを
図1に示す。
【0032】
【0033】
実施例4
臭化フェニルマグネシウム(45ml、135ミリモル、1.05当量)を、0℃での窒素雰囲気下で、フタル酸ジメチル(25.0g、128.8ミリモル、1当量)のTHF溶液(600ml、0.2M)に30分間かけて滴下し、反応を室温までゆっくりと温め、続いて40℃まで穏やかに加熱し、12時間実行し続けた。反応アリコートを6時間及び12時間の間隔で採取し、この結果を以下の表2に示す。12時間で、反応を1N HCl溶液で停止させ、有機層を水層から単離した。有機層を濃縮し、濃縮した材料をジエチルエーテルで希釈し、ヘキサン(3X)を添加して、生成物を放置する(
1H NMRについての
図2を参照されたい)。一方、水層をUPLC法によって分析し、ごく少量の有機化合物が水層上に浸出したことを示した。
【0034】
【0035】
実施例5
オーバーヘッド撹拌機、氷浴、添加ロート、乾燥窒素入口を備えた1000ml丸底フラスコに、フタル酸ジメチル(100g、0.51モル)を充填し、-10℃まで冷却した。添加ロートに、臭化フェニルマグネシウム(250gの16重量%溶液、0.22モル)を添加した。反応器温度を-10℃に維持しながら、冷えたフタル酸ジメチルに、臭化フェニルマグネシウムを添加ロートから75分間かけて添加した。反応混合物の含有量を、-10℃で30分間撹拌した。この期間中、添加ロートに塩酸水溶液(247gの12重量%溶液)を充填した。30分間保持した後、塩酸溶液を、添加ロートから-10℃で30分間かけて反応混合物に添加した。反応器の内容物を周囲温度に温め、有機層を分液ロートによって分離した。有機層は、乾燥した無水硫酸ナトリウムであり、13C-NMR分光分析によって分析した。2-ベンゾイル安息香酸メチルについての選択率は、93.5%であった。
【国際調査報告】