(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】心臓、膵臓ベータ細胞、および神経細胞の成熟度を高める方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230329BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20230329BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230329BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230329BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230329BHJP
C12Q 1/44 20060101ALI20230329BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20230329BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0793
C12N5/077
C12N5/071
C12Q1/02
C12Q1/44
C12N5/0735
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548409
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 IB2021000106
(87)【国際公開番号】W WO2021156680
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513045677
【氏名又は名称】イッスム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ナフミアス、ヤーコヴ
(72)【発明者】
【氏名】エールリッヒ、アヴナー
(72)【発明者】
【氏名】アヤシュ、ムニーフ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ13
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4B065BB32
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC46
4B065CA46
(57)【要約】
共役脂肪酸および任意にモノ不飽和オメガ9脂肪酸、パルミチン酸、リノール酸(LA)および短鎖脂肪酸からなる群から選択される非共役脂肪酸の有効濃度を用いて、心筋細胞、膵臓ベータ細胞および神経細胞からなる群から選択される代謝的に成熟したヒト細胞を生成する方法が提供される。また、代謝的に成熟したヒト細胞の単離集団、およびそれを用いて細胞に対する毒性について化合物を選択する方法とキットも提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝的に成熟したヒト細胞をゼノフリー培地で生成するin vitroの方法であって、
(a)トランス脂肪酸の非存在下で、ヒト幹細胞または前駆細胞を、前記幹細胞の未熟な分化細胞への分化を誘導するのに有効な時間、分化培地中で培養する工程と、
(b)工程(a)の前記未熟な分化細胞を、代謝的成熟を誘導するために有効量の共役トランス脂肪酸を有する成熟培地で、適切な時間培養する工程であって、前記処理によりトランス脂肪酸を含む代謝的に成熟したヒト細胞を製造する、培養する工程と、
を有する、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記成熟培地が、モノ不飽和オメガ9脂肪酸、パルミチン酸、リノール酸(LA)、または短鎖脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸をさらに有する、方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、前記トランス脂肪酸は、シス-9、トランス-11共役リノール酸(9CLA)である、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の方法において、前記未熟な分化細胞が、拍動する心筋細胞、インスリン分泌膵臓ベータ細胞、または神経伝達が可能な神経細胞から選択される、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法において、前記成熟培地での前記未成熟分化細胞の培養は、seahorseアッセイで測定して、予備ミトコンドリア容量を少なくとも60%増加させる、方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の方法において、前記代謝的に成熟した細胞は、seahorseアッセイで測定される基礎呼吸と同等以上の予備ミトコンドリア容量によって定義され、工程a)の細胞は、脱メチル化促進剤との接触によって分化を誘導される、方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1つに記載の方法において、前記ヒト多能性幹細胞が、少なくとも8歳の成人ヒト対象の体細胞から誘導されたヒト人工多能性幹細胞、少なくとも50回の継代後に得られたヒト胚性幹細胞である、方法。
【請求項8】
請求項2記載の方法において、前記モノ不飽和オメガ9脂肪酸はオレイン酸(OA)である、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の方法において、前記共役脂肪酸は、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌の細菌株などのヒトマイクロバイオーム株の代謝により形成される、方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載の方法において、前記ミトコンドリア予備容量が、seahorseアッセイを用いて決定される、方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、前記ヒト多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞である、方法。
【請求項12】
請求項4記載の方法において、前記代謝的に成熟した分化細胞は、前記代謝的に未成熟な心筋細胞と比較して、核周囲の空間のみに限定されない前記細胞の細胞質に分布するミトコンドリアネットワークを示すヒト心筋細胞であり、前記成熟培地は、B27サプリメントからインスリン(1X)、オレイン酸、及び9CLAを除いたものを補充した基礎培地を有する、方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記代謝的に成熟した分化したヒト心筋細胞は、
i)長さ2.0~2.4μmのサルコメア;および
ii)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、超分極活性化環状ヌクレオチド依存性カリウムチャンネル1(HCN1)、MYH7(ミオシン重鎖7)、MYH6、心臓タイチン(N2B)、心臓トロポニンI(TNNI3)、及び筋小胞体ATPアーゼ(SERCA2)からなる群から選択される胎児マーカーの発現が、QPCR又はRNASEQ分析により測定した工程(a)で得られたヒト代謝未熟心筋細胞における前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍低下すること、
によって特徴付けられるものである、方法。
【請求項14】
請求項4記載の方法において、前記代謝的に成熟した分化細胞は、ヒト膵臓ベータ細胞であって、同一の条件下で工程(a)で得られた未熟分化ヒト膵臓ベータ細胞におけるグルコース刺激に対するインスリン分泌と比較して、グルコース刺激に対するインスリン分泌が少なくとも2倍増加することによって特徴づけられる、ヒト膵臓ベータ細胞であり、前記成熟培地は、Alk5i II、T3、オレイン酸及び9CLAを添加した基礎培地を有する、方法。
【請求項15】
請求項4記載の方法において、前記代謝的に成熟した分化細胞は、ヒト神経細胞であって、seahorseアッセイによって測定された、妊娠週数16~24週のヒト胎児脳から単離された神経胎児細胞、又はストレス神経細胞において観察される予備能及び基礎呼吸速度より少なくとも40%高いミトコンドリアの予備能及び基礎呼吸速度、および、QPCR又はRNASEQ分析によって測定された、サイクリンB2(CCNB2)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、オリゴデンドロサイト転写因子1(OLIG1)及びスタスミン2(STMN2)からなる群より選択される胎児マーカーの発現が、前記神経胎児細胞又はストレス神経細胞の前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍発現が減少することによって特徴付けられる、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1つに記載の方法において、前記培養培地中の前記共役脂肪酸の前記有効濃度が10~50マイクロモルである、方法。
【請求項17】
請求項12~15のいずれか1つに記載の方法において、前記共役脂肪酸がシス-9、トランス-11共役リノール酸(9CLA)である、方法。
【請求項18】
請求項2~17のいずれか1つに記載の方法において、前記モノ不飽和オメガ-9脂肪酸の前記有効濃度が50~150マイクロモルである、方法。
【請求項19】
請求項2~17のいずれか1つに記載の方法において、前記オレイン酸(OA)の前記有効濃度が50~150マイクロモルである、方法。
【請求項20】
請求項2~17のいずれか1つに記載の方法において、前記オレイン酸(OA)の前記有効濃度が約100マイクロモルである、方法。
【請求項21】
請求項2~17のいずれか1つに記載の方法において、前記パルミチン酸の前記有効濃度が50~150マイクロモルである、方法。
【請求項22】
請求項2~17のいずれか1つに記載の方法において、前記リノール酸(LA)の前記有効濃度が、50~150マイクロモルである、方法。
【請求項23】
請求項2~17のいずれか1つに記載の方法において、前記短鎖脂肪酸の前記有効濃度が500~10,000マイクロモルである、方法。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか1つに記載の方法において、前記培養培地が血清を含まないものである、方法。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか1つに記載の方法において、前記培養培地が化学的に定義された培地である、方法。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか1つに記載の方法において、前記培養培地が、補充されたカルニチンを含まない、方法。
【請求項27】
代謝的に成熟したヒト心筋細胞であって、細胞膜に存在する9CLA、長さ2.0~2.4μmのサルコメアを有し、ミトコンドリア予備能及び基礎呼吸速度が、seahorseアッセイにより測定された、8~24週の妊娠週から得られたヒト胎児心臓から単離された胎児心筋細胞、又はミトコンドリアストレスを受けた未熟分化細胞において観察される予備能を少なくとも60%上回り、および、QPCR又はRNASEQ分析によって測定された、ANP、BNP、HCN1およびMIH6からなる群より選択される胎児マーカーの発現が、前記胎児心筋細胞の前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍発現が減少する、代謝的に成熟したヒト心筋細胞。
【請求項28】
代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞であって、細胞膜に存在する9CLAと、seahorseアッセイによって測定された、16~24週の妊娠週から得られたヒト胎児の膵島から分離された胎児膵臓ベータ細胞で観察される予備能及び基礎呼吸速度より少なくとも60%高いミトコンドリアの予備能及び基礎呼吸速度、および、QPCR又はRNASEQ分析によって測定された、v-maf筋無神経症性線維肉腫癌遺伝子ファミリー、タンパク質B(MFAB)、およびニューロゲニン-3(NEUROG3)からなる群より選択される胎児マーカーの発現が、前記胎児膵臓ベータ細胞の前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍発現が減少する、代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞。
【請求項29】
代謝的に成熟したヒト神経細胞であって、細胞膜に存在する9CLAと、seahorseアッセイによって測定された、ミトコンドリアの予備能及び基礎呼吸速度が、妊娠週数16~24週のヒト胎児脳から分離した神経胎児細胞で観察される予備能及び基礎呼吸速度より少なくとも40%高く、および、QPCR又はRNASEQ分析によって測定された、サイクリンB2(CCNB2)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、オリゴデンドロサイト転写因子1(OLIG1)及びスタスミン2(STMN2)からなる群から選択される胎児マーカーの発現が、前記神経胎児細胞の前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍減少している、代謝的に成熟したヒト神経細胞。
【請求項30】
請求項27記載の代謝的に成熟したヒト心筋細胞を有する、代謝的に成熟したヒト心筋細胞の単離された均質な集団。
【請求項31】
請求項28記載の代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞を有する、代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞の単離された均質な集団。
【請求項32】
請求項29に記載の代謝的に成熟したヒト神経細胞を有する、代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞の単離された均質な集団。
【請求項33】
細胞の代謝活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項30、31または32の単離された細胞の集団を、予め決められた時間、化合物とともに培養する工程と、および
(b)細胞内エステラーゼ活性およびMTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイドの不溶性ホルマザンへの変換からなる群から選択される代謝活性のレベルを前記予め定められた時間の後に測定する工程であって、前記レベルが所定の閾値より低くまたは高く減少または増加することは、前記化合物が前記細胞の代謝活性の調節物質であることを示す、測定する工程と、
を有し、これにより、細胞の代謝活性を調節する化合物をスクリーニングする、方法。
【請求項34】
請求項33記載の方法において、前記化合物との前記培養が、前記所定の閾値以下の前記減少をもたらす、方法。
【請求項35】
請求項34記載の方法において、前記化合物との前記培養が、前記所定の閾値を超える前記増加をもたらす、方法。
【請求項36】
細胞に対して毒性がある化合物を選択する方法であって、前記方法は、
(a)請求項36、37または38の単離された細胞の集団を、予め決められた時間、化合物とともに培養する工程と、および
(b)細胞内エステラーゼ活性およびMTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイドの不溶性ホルマザンへの変換からなる群から選択される代謝活性のレベルを前記予め定められた時間の後に測定する工程であって、前記レベルが所定の閾値より低くなることは、前記化合物が前記細胞に対して毒性であることを示す、測定する工程と、
を有し、これにより、細胞に対して毒性のある化合物を選択する、方法。
【請求項37】
細胞に対して毒性がある化合物を選択する方法であって、前記方法は、
(a)請求項30、31または32のいずれかの単離された細胞の集団からの所定の数の細胞を、予め決められた時間、化合物とともに培養する工程と、および
(b)前記予め定められた時間の後に細胞の数を数える工程であって、前記化合物と共に培養した後に前記細胞の数が予め決められた閾値より低くなることは、前記化合物が前記細胞に対して毒性であることを示す、数える工程と、
を有し、これにより、細胞に対して毒性のある化合物を選択する、方法。
【請求項38】
細胞に対して毒性を有する化合物をスクリーニングするためのキットであって、請求項30、31または32のいずれかに記載の細胞の単離集団と、細胞生存率アッセイ、機能的生存率アッセイ、カルシウム処理アッセイ、炎症/損傷マーカーアッセイ、またはTOX21、EuroTOX、EPA若しくは他の政府機関によって公表されている他の標準アッセイからなる群から選択される毒性学的エンドポイントを検出できる少なくとも一つの薬剤を有する、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2020年2月9日に出願された米国仮特許出願第62/972,001号の優先権を主張し、その開示全体は、参照により、あたかも完全に記載されているように本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表の説明
本願の出願と同時に提出された、2021年2月9日に作成された9412バイトを有するSEQLIST.txtと題するASCIIファイルは、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
発明の分野および背景
本発明は、そのいくつかの実施形態において、心筋細胞、膵臓ベータ細胞および神経細胞からなる群から選択されるヒト細胞の代謝成熟度を高める方法に関し、より詳細には、代謝的に成熟したヒト細胞を用いる方法およびキットに関するものであるが、これに限定されない。
【0004】
哺乳類の臓器は、生後数週間から数ヶ月の間、その発達を続ける。産後の発達は、確立された転写プログラムによって推進され1-4、新生児の変化する要求に対応すると考えられている5,6。出産後に起こる最も重要な変化の一つは、酸素とグルコースが直接胎児循環に供給される胎盤栄養からの急速な移行であり7、産後の代謝では、心拍数の変化により血流が増加し、急速にコロニー化する腸から新生児の肝臓に酸素と脂質の豊富な栄養が供給される8。
【0005】
哺乳類の臓器は、生後数週間から数ヶ月の間、その発達を続ける。産後の発達は、確立された転写プログラムによって推進され1-4、新生児の変化する要求に対応すると考えられている5,6。出産後に起こる最も重要な変化の一つは、酸素とグルコースが直接胎児循環に供給される胎盤栄養からの急速な移行であり7、産後の代謝では、心拍数の変化により血流が増加し、急速にコロニー化する腸から新生児の肝臓に酸素と脂質の豊富な栄養が供給される8。
【0006】
最近、本発明者らは、出生後の段階で産生される微生物修飾胆汁酸が、ヒト胎児肝細胞のPXR依存的な薬物代謝を活性化することを明らかにした12。また、マウスの筋肉、脳、免疫系の発達にマイクロバイオームが関与していることを明らかにした13-15。これらの結果は、栄養素とマイクロバイオームの相互作用が、哺乳類の臓器の成熟に重要な役割を果たす可能性を示唆している。脂肪酸は、母乳育児中にその利用可能性が劇的に変化するため、新生児の発達にも役割を果たしている可能性がある。長鎖多価不飽和脂肪酸(PUFA)の新生児への供給は、出生後に大幅に増加し16、齧歯類の網膜と脳の成熟を駆動する17-19。残念なことに、哺乳類の種間における母乳の組成には大きな違いがあるため、動物モデルから得られるヒトの発達に関する知見は限られている。母乳中の脂肪酸の種類の違い、脂質代謝における遺伝子や代謝調節の違いにより、齧歯類とヒトの代謝には大きな違いがある。
【0007】
ヒト胚性幹細胞はヒトの発生を研究する重要なモデルである20,21。これまでの研究から、肝臓や心臓の細胞をうまく分化させるには、生体内で見られる明確な発生段階を模倣する必要があることが明らかになっている22,23。現在のプロトコルでは均質な細胞集団が得られるものの、幹細胞由来の肝細胞や心筋細胞の表現型はまだ胎児性である24,25。実際、幹細胞由来の肝細胞や心筋細胞は、成熟を促進するための多大な努力にもかかわらず、主に解糖系で、胎児性マーカーを発現したままである。
【0008】
追加の背景技術は、Xiaojie MaおよびSaiyong Zhu,Acta Biochim Biophys Sin,2017,49(4),289-301;Ulf Diekmann et al.,Nature,Scientific Reports(2019)9:996;Xiulan Yang et al.,Stem Cell Reports,2017,49(4),289-301;Xiulen Yang et al.,Stem Cell Reports Vol.13,657-668,October 8,2019;Fabio Bianchi et al.,Stem Cell Research 32(2018)126-134;Yuya Kunisada et al.,Stem Cell Research(2012)8,274-284;および米国特許出願公開第2017-0266145-A1号を含む。
【発明の概要】
【0009】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、代謝的に成熟したヒト細胞を生成するin vitroの方法が提供される。例示的な方法は、トランス脂肪酸の非存在下で、幹細胞の未熟な分化細胞への分化を誘導するのに有効な時間、分化培地中で前記ヒト幹細胞をゼノフリー培地で培養し;次いで、代謝的成熟を誘導するために有効量の共役トランス脂肪酸を含む成熟培地でそのように分化した未熟細胞を適切な時間培養し、それによってトランス脂肪酸を含む代謝的に成熟したヒト細胞を生成させる工程を含む。特定の実施形態では、工程b)の成熟培地は、モノ不飽和オメガ9脂肪酸、パルミチン酸、リノール酸(LA)、又は短鎖脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸をさらに有する。好ましい実施形態では、前記トランス脂肪酸は、シス-9、トランス-11共役リノール酸(9CLA)である。特に好ましい実施形態では、幹細胞は、拍動する心筋細胞、インスリン分泌膵臓ベータ細胞、又は神経伝達が可能な神経細胞から選択される細胞に成熟される。特定の実施形態において、成熟培地は、seahorseアッセイによって測定されるように、そのように培養された未熟分化細胞において、予備ミトコンドリア容量を少なくとも60%増加させる。他の実施形態では、代謝的に成熟した細胞は、seahorseアッセイによって測定されるように、その基礎呼吸と等しいか、またはそれよりも大きい予備のミトコンドリア容量によって定義される。特定の実施形態では、工程a)において、前記幹細胞の分化を誘導するために脱メチル化促進剤が使用される。細胞は、工程a)において分化培地中で少なくとも30日間培養され得る。特定の態様では、幹細胞は、工程a)において、8~10日、7~30日、12~21日、及び12~30日の間培養される。工程b)において、細胞は、成熟培地中で3、4、5、6、7、8、9、または10日間培養される。特定の実施形態では、細胞は、成熟培地中で4日間培養される。他の実施形態では、工程a)及び工程b)の全成熟プロセスは、21日以内に完了する。
【0010】
ミトコンドリア予備能は、市販のseahorseアッセイを用いて測定することができる。
【0011】
本発明の特定の態様において、代謝的に成熟した分化細胞は、代謝的に未成熟な心筋細胞で観察されるように、核周囲の空間に閉じ込められているのではなく、前記細胞の細胞質内に分布するミトコンドリアネットワークを示すヒト心筋細胞である。他の態様では、成熟培地は、B27サプリメントからインスリン(1X)、オレイン酸、及び9CLAを除いたものを補充した基礎培地を有する。代謝的に成熟した分化したヒト心筋細胞は、i)長さ2.0~2.4μmのサルコメア;及びii)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、超分極活性化環状ヌクレオチド依存性カリウムチャンネル1(HCN1)、MYH7(ミオシン重鎖7)、MYH6、心臓タイチン(N2B)、心臓トロポニンI(TNNI3)、及び筋小胞体ATPアーゼ(SERCA2)からなる群から選択される胎児マーカーの発現が、QPCR又はRNASEQ分析により測定した工程(a)で得られたヒト代謝未熟心筋細胞における前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍低下すること、の少なくとも1つによって特徴付けられ得る。
【0012】
他の実施形態では、代謝的に成熟した分化細胞は、ヒト膵臓ベータ細胞は、同一の条件下で工程(a)で得られた未熟分化ヒト膵臓ベータ細胞におけるグルコース刺激に対するインスリン分泌と比較して、グルコース刺激に対するインスリン分泌が少なくとも2倍増加することによって特徴づけられる。特定の態様において、膵臓ベータ細胞を生成するための成熟培地は、Alk5i II、T3、オレイン酸、及び9CLAを添加した基礎培地を有する。
【0013】
別の実施形態では、代謝的に成熟した分化した細胞は、ヒト神経細胞であり、seahorseアッセイによって測定された、妊娠週数16~24週のヒト胎児脳から単離された神経胎児細胞、又はストレス神経細胞において観察される予備能及び基礎呼吸速度より少なくとも40%高いミトコンドリアの予備能及び基礎呼吸速度、および、QPCR又はRNASEQ分析によって測定された、サイクリンB2(CCNB2)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、オリゴデンドロサイト転写因子1(OLIG1)及びスタスミン2(STMN2)からなる群から選択される胎児マーカーの発現が、前記神経胎児細胞又はストレス神経細胞の前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍発現が減少することによって特徴付けられている。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、代謝的に成熟したヒト心筋細胞の単離された集団が提供され、前記集団は均質であるか、又は前記細胞の少なくとも50%が本発明のいくつかの実施形態の代謝的に成熟したヒト心筋細胞を有する。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞の単離された集団が提供され、前記集団は均質であるか、又は前記細胞の少なくとも50%が本発明のいくつかの実施形態の代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞を有する。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、代謝的に成熟したヒト神経細胞の単離された集団が提供され、前記集団は均質であるか、又は前記細胞の少なくとも50%が本発明のいくつかの実施形態の代謝的に成熟したヒト神経細胞を有する。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、細胞に対して毒性がある化合物を選択する方法であって、前記方法は、
(a)請求項34、35または36の単離された細胞の集団を、予め決められた時間、化合物と共に培養する工程と、および
(b)細胞内エステラーゼ活性およびMTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイドの不溶性ホルマザンへの変換からなる群から選択される代謝活性のレベルを前記予め定められた時間の後に測定する工程であって、前記レベルが所定の閾値より低くなることは、前記化合物が前記細胞に対して毒性であることを示す、測定する工程と、を有し、
これにより、細胞に対して毒性のある化合物を選択することができる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、細胞に対して毒性がある化合物を選択する方法であって、前記方法は、
(a)本発明のいくつかの実施形態の分離された細胞集団から所定の数の細胞を、予め定められた時間、化合物と共に培養する工程と、及び、
(b)前記予め定められた時間の後に細胞の数を数える工程であって、前記化合物と共に培養した後に前記細胞の数が予め決められた閾値より低くなることは、前記化合物が前記細胞に対して毒性であることを示す、数える工程と、を有する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、細胞に対して毒性がある化合物をスクリーニングするためのキットが提供され、前記キットは、本発明のいくつかの実施形態の細胞の単離集団と、細胞生存率アッセイ、機能生存率アッセイ、カルシウムハンドリングアッセイ、炎症/損傷マーカーアッセイ又はTOX21、EuroTOX、EPA又は他の政府機関によって公表される他の標準アッセイからなる群から選択される毒性学的エンドポイントを検出できる少なくとも一つの薬剤とを有する。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、培養条件は、さらに、seahorseアッセイによって測定される、工程(a)の結果の前記代謝的に未熟な心筋細胞、前記代謝的に未熟な膵臓ベータ細胞、または前記代謝的に未熟な神経細胞を特徴付ける基礎呼吸速度よりも少なくとも60%、前記代謝的に未熟な細胞の基礎呼吸速度を増大させる。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ヒト多能性幹細胞は、ゲノムDNA中に存在するCpGアイランドに少なくとも60%のメチル化CpGジヌクレオチドを有するゲノムDNAによって特徴付けられる「メチル化されたヒト多能性幹細胞」であり、前記CpGアイランドは少なくとも200個のヌクレオチドからなり、そのうちの50%より多くがCpGジヌクレオチドである。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本方法は、前記ヒト多能性幹細胞を前記代謝的に未成熟な細胞へ分化させるのに適した条件に供する前に、有効濃度の脱メチル化促進剤と接触させる工程をさらに含み、前記接触する工程は、前記分化に適した前記条件の非存在下である、ことを特徴とする。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接触は、前記ヒト多能性幹細胞を前記条件に供する前に、少なくとも20~24時間行われる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ヒト多能性幹細胞は、少なくとも8歳の成人ヒト対象の体細胞から誘導されたヒト人工多能性幹細胞である。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ヒト多能性幹細胞は、少なくとも50回の継代後に得られたヒト胚性幹細胞である。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、モノ不飽和オメガ9脂肪酸は、オレイン酸(OA)である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、共役脂肪酸は、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌の細菌株(複数可)により代謝される。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、請求項1の工程(a)における培養は、0.007ピコモル以下のインスリンを有する培養培地の存在下で行われる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、請求項1の工程(a)における培養は、0.05ピコモル以下のコルチゾンを有する培養培地の存在下で行われる。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、心筋細胞、神経細胞又は膵臓ベータ細胞を含む代謝的に成熟した細胞は、細胞膜及び脂質滴に有効量の共役脂肪酸(例えば、9CLA)を含む。本発明のいくつかの実施形態によれば、代謝的に成熟した細胞は、細胞の細胞質の50%以上を覆う相互接続されたミトコンドリアネットワークによって特徴付けられる。本発明のいくつかの実施形態によれば、代謝的に成熟した細胞は、細胞の基礎呼吸と同じかそれ以上の予備のミトコンドリア容量によって特徴付けられる。本発明のいくつかの実施形態によれば、代謝的に成熟した細胞は、未熟な細胞よりも細胞外酸性化速度が30%低下することを特徴とする。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、代謝的に成熟したヒト心筋細胞は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性カリウムチャンネル1(HCN1)、ミオシン重鎖6(MYH6)、心臓タイチン(N2B)、骨格トロポニンI(TNNI1)、サイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)、オーロラキナーゼB(AURKB)からなる群から選択される胎児マーカーの発現が、QPCRまたはRNASEQ分析によって測定した、工程(a)で得られたヒト代謝未熟心筋細胞における前記胎児マーカーの発現と比較して、少なくとも5倍低下していることによって特徴付けられる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、成熟したヒト心筋細胞は、サルコメア長が1.9μmを超える異方性細胞によって特徴付けられるが、未熟な心筋細胞はサルコメア長1.5~1.8μmを示す。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態によれば、代謝的に成熟したヒト膵臓ベータ細胞は、工程(a)で得られた代謝的に未成熟なヒト膵臓ベータ細胞におけるグルコース刺激に応答したインスリン分泌と比較して、グルコース刺激に応答したインスリン分泌が同一条件で少なくとも2倍に増加することを特徴とする。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記培養培地中の前記共役脂肪酸の有効濃度は、10~50マイクロモルである。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、共役脂肪酸は、シス-9、トランス-11共役リノール酸(9CLA)である。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記モノ不飽和オメガ9脂肪酸の有効濃度は、50~150マイクロモルである。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記オレイン酸(OA)の有効濃度は、50~150マイクロモルである。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記オレイン酸(OA)の有効濃度は、約100マイクロモルである。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記パルミチン酸の有効濃度は、50~150マイクロモルである。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記リノール酸(LA)の有効濃度は、50~150マイクロモルである。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記短鎖脂肪酸の有効濃度は、500~10,000マイクロモルである。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、培養培地には血清が含まれていない。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によれば、培養培地は、化学的に定義された培地である。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によれば、培養培地は、補充されたカルニチンを除いたものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
特許又は出願ファイルには、少なくとも1枚のカラー図面が含まれている。この特許又は特許出願公開のカラー図面の写しは、請求と必要な手数料の支払いに応じて、国内官庁から提供される。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態は、添付の図面を参照して、例としてのみ、本明細書で説明される。ここで図面を詳細に参照すると、示された特定事項は、例として、本発明の実施形態の例示的な議論のためのものであることが強調される。この点に関して、図面とともにされる説明は、本発明の実施形態がどのように実施され得るかを当業者に明らかにする。
【0047】
【
図1】
図1A-F:母乳の豊富な脂肪酸は、心臓の生後成熟を促進する。
図1A-6~10週齢の無菌マウス(GF)、標準化されたマウス(CONV-D)およびPpara
-/-ノックアウト動物(Ppara
-/-)の心臓組織から分離したmRNAのGeneChip解析結果。GFおよびPpara
-/-マウスでは、成熟した構造、機能および代謝遺伝子のレベルが有意に低く、胎児心臓組織のマーカーが上昇していることを示した。
図1B-GFとCONV-Dマウスの心臓を比較したGeneChipのGene Ontology解析では、代謝経路、特に脂質代謝、解糖、ミトコンドリアでの酸化プロセスに破綻が示されていた(p<1.1x10
-4)。出生後数週間のマイクロバイオームの不在により、PPARシグナル伝達経路が破壊された(p<2.2x10
-5)。
図1C-人工多能性幹細胞を初期段階の新生児心筋細胞へ11日間分化させ、その後、母乳の豊富な脂肪酸とその微生物誘導体に4日間曝露した様子を示す模式図。
図1D-幹細胞由来心筋細胞のSeahorse MitoStress解析。出生後の栄養状態を模倣した脂肪酸刺激により、幹細胞由来心筋細胞の酸化的リン酸化および最大呼吸容量が1.8~2.5倍上昇した(n=3、p<0.001)。解糖は24%減少し、より成熟した代謝表現型であることが示された(Piquereau,J.et al.Front Physiol 9,959,2018)。GW9662への短期間の曝露は、両方の効果を逆転させた。上段グラフ:OCR(酸素消費率)は、10
4セルあたり1分あたりのpmolで測定される。下段ヒストグラム:MitoStress Test時のOCRおよびECAR測定値から算出した酸化(基礎)呼吸、最大呼吸容量、予備呼吸容量、および解糖速度の定量値である。各段階は上部に表示されている。
図1E-ヒト心組織の構造的、機能的および代謝的成熟に関連する主要遺伝子のアップレギュレーションと、胎児遺伝子の顕著なダウンレギュレーションを示すqRT-PCR分析(n=3;p<0.01)。
図1F-成熟培地(対照)、GW9662、PPARα/γ阻害剤(OA+9CLA+GW9662)の非存在下または存在下でOA+9CLAを補充して培養した幹細胞由来心筋細胞の細胞面積の解析。9CLAで成熟した心筋細胞は肥大化し、細胞面積が1.5倍増加したが、PPARα/γ阻害により逆転した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。エラーバーは±S.E.を表す。有意性は片側不均一分散型student-testを用いて決定された。
【
図2】
図2A-C-無菌マウスは、心臓の成熟が損なわれている。
図2A-胎児マウス心臓と成熟した(2~3ヶ月齢)成熟心臓との間の有意に異なる発現パターンおよびKEGG経路の遺伝子オントロジー濃縮ネットワークマップである。転写およびシグナル伝達プロセス、代謝、構造およびカルシウム処理と伝導経路で有意なアップレギュレーションがあり、細胞周期経路で有意なダウンレギュレーションが見られる。
図2B-無胚葉マウスの心臓で有意にダウンレギュレートされた遺伝子の経路注釈。多くの成熟した心機能関連経路ファミリーが胚芽除去マウスの心臓で差次的に発現しており、重要な経路が出生後のマイクロバイオームの出現により誘導されることが示唆された。
図2C-無菌マウスおよびPPARαノックアウトマウス(いずれも従来の野生型マウス;CONV WTと比較)の心臓における制御の差異をまとめたボルケーノプロット。赤、緑、および黒の点は、それぞれ、発現が高い、低い、または変化しない遺伝子を表す。両欠損とも同様の発現分布の差異パターンを示し、PPAR、特にPPARαがマイクロバイオームの出現による成熟に重要な役割を担っていることが示唆された。
【
図3】
図3A-B.分化中のOA+9CLAの添加は分化を阻害する。(A)異なる工程で100μMオレイン酸および50μM 9CLAを添加した4工程心臓分化(方法)中のUN1 iPSCの光学顕微鏡写真。分化中にOA+9CLAを補充すると、9CLA補充後の連続した工程で非定型の形態になった。(B)完全なウェル死(左)および拍動しているウェルの部分の定量化は、4段階の心臓分化の異なる段階において、100μMオレイン酸および50μM 9CLAを補充することによって生じた(n=24;方法)。
【0048】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料が、本発明の実施形態の実践または試験において使用され得るが、例示的な方法および/または材料が以下に記載される。矛盾がある場合は、定義を含む特許明細書が支配的となる。さらに、材料、方法、および実施例は、例示に過ぎず、必ずしも限定的であることを意図していない。
【発明を実施するための形態】
【0049】
リノール酸を食事から摂取すると、ビフィズス菌や乳酸菌などの微生物によってこの脂肪酸が9CLAに抱合され、速やかに細胞膜に吸収される。胎内では無菌状態で発育するため、心筋細胞、神経細胞、β細胞などの細胞は、新生児期に腸がコロニー化するまでこのトランス脂肪酸を欠く。したがって、未熟な細胞は、脂質滴と細胞膜に9CLAを欠いている。ヒトの細胞は脂肪酸を結合させることができないため、現在の幹細胞分化プロトコルでは、膜に9CLAを欠いた細胞が作られ、膜の移動性が制限され、細胞の生体エネルギーに劇的な影響を与えることになる。9CLAを培養培地に添加すると、この欠乏が修正され、共役脂肪酸が細胞の脂質滴に取り込まれ、リン脂質が貯蔵されるようになる。Agathaら、Cancer Lett.2004(PMID:15145524)は、40μMのCLAを48時間添加すると、がん細胞が全リン脂質脂肪酸100グラムあたり32~63グラムの共役脂肪酸を蓄積することを示した。
【0050】
トランス脂肪酸は心疾患や神経血管障害のリスクを高めることが知られているため、国連食糧農業機関によると、乳幼児および成人における摂取量は1日のエネルギー摂取量の1%未満にすることが推奨されている。実際、初期の研究では、母親の食事に含まれるトランス脂肪酸が出生時体重や脳の発達に悪影響を及ぼすことが示唆されている(PMID:11724473)。
【0051】
RajalaらStem Cell Studies 2011の初期の研究では、マウス繊維芽細胞支持層で培養したヒト胚性幹細胞に共役リノール酸を添加すると、分化が遅れることが示された。CLAで処理した幹細胞コロニーの分化は、20%減少した(
図2B)。脂肪形成に関するKennedyらJ.Nutr.Biochem 2010による、より最近の研究では、CLAに短期間曝露した後、成熟脂肪細胞の分化が遅れることが示され、LarsenらJournal of Nutrition 2010は、CLAがヒト筋肉細胞における筋原性遺伝子発現を抑制することを示し、TaylorらArterioscler Thromb Vasc Biol.2006はヒト対象で内皮機能に対するCLAの負の影響を示している。予備的研究において、心筋細胞の分化中にCLAを添加すると、未熟な線維芽細胞様細胞が生じ、培養しても拍動を開始しないことを示すデータを作成した。しかし、産後の自然なマイクロバイオーム由来CLAへの曝露を模倣して、終末分化した拍動心筋細胞にCLAを添加すると、成熟した心筋細胞が得られることが示された。
【0052】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、同じ種類の代謝的に未成熟なヒト細胞と比較して、ミトコンドリアの予備能が増加することを特徴とする代謝的に成熟したヒト細胞を生成するin vitro方法に関するものである。成熟した細胞は、基礎呼吸で観察される約2倍の最大酸素消費量を示し、したがってその予備能は基礎呼吸と同等かそれ以上である。より詳細には、本発明は、様々な目的に使用することができるヒト代謝的に成熟した細胞の単離集団を提供し、それには例えば、代謝的に成熟した心臓、膵臓ベータ細胞及び神経細胞の毒性に影響を与える化合物のスクリーニングが含まれる。
【0053】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用が、以下の説明で規定され、または実施例によって例示される詳細に必ずしも限定されないことが理解されるであろう。本発明は、他の実施形態、または様々な方法で実施または実行することが可能である。
【0054】
本発明者らは、胎児プログラムのサイレンシングとミトコンドリアの成熟が、生後数週間のマイクロバイオーム改変脂質に富んだ栄養への食事移行によって誘導されるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)によって部分的に駆動されていることを明らかにした。実際、このような脂質が豊富な新生児期の栄養は、幹細胞由来の実質の最終的な機能的成熟を促進するために必要な、欠けている要素である可能性がある。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、代謝的に成熟したヒト細胞を生成するin vitro方法が提供され、前記方法は、
(a)ヒト多能性幹細胞又はヒト前駆細胞を、脱メチル化促進剤の存在下で、代謝的に未成熟な心筋細胞、代謝的に未成熟な膵臓ベータ細胞、及び代謝的に未成熟な神経細胞(例えば、運動ニューロン)からなる群から選択される代謝的に未成熟な細胞に分化させるのに適した条件下で培養する工程であって、前記ヒト前駆細胞は、心筋細胞、膵臓ベータ細胞、または、神経細胞へ分化可能である、培養する工程と、および、
(b)seahorseアッセイによって測定される、工程(a)で得られた前記代謝的に未成熟な心筋細胞、前記代謝的に未成熟な膵臓ベータ細胞、または前記代謝的に未成熟な神経細胞を特徴付けるミトコンドリア予備能よりも少なくとも60%増加させる培養条件下で、工程(a)で得られた前記代謝的に未成熟な細胞を培養する工程であって、前記培養条件は、以下の群から選ばれる非共役脂肪酸を有効濃度含む培養培地からなり、このとき、この非共役脂肪酸は、以下のものからなる。モノ不飽和オメガ9脂肪酸、パルミチン酸、リノール酸(LA)および短鎖脂肪酸からなる群から選択される有効濃度の非共役脂肪酸、および有効濃度の共役脂肪酸を有する培養培地を有し、それによって代謝的に成熟したヒト細胞を生成する、培養する工程と
を有する。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態によれば、培養条件は、代謝的に未熟な細胞の基礎呼吸速度を、当該技術分野で知られている多くの方法、しかし好ましい実施形態において「seahorseアッセイ」によって測定した、工程(a)により得られる代謝的に未熟な心筋細胞、または前記代謝的に未熟な膵臓ベータ細胞、または前記代謝的に未熟な神経細胞において観察される基礎呼吸速度よりも少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%さらに増加させる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態によれば、代謝的に未成熟な細胞のミトコンドリア予備能の増加は、seahorseアッセイによって測定される、工程(a)により得られる代謝的に未成熟な心筋細胞、代謝的に未成熟な膵臓ベータ細胞、又は代謝的に未成熟な神経細胞結果物を特徴付ける基礎呼吸速度より少なくとも約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%以上である。
【0058】
本明細書で使用される「基礎呼吸速度」という語句は、標準培養培地中の細胞の酸素消費速度を指す(いかなる介入もなく、例えば、細胞及び培養培地にいかなる毒素も加えることなく)。例えば、参照により本明細書に組み込まれ、このアッセイを実施するための詳細な指示を提供する、(ワールドワイドウェブ at.agilent.com/cs/library/usermanuals/public/XF_Cell_Mito_Stress_ Test_Kit_User_Guide.pdf)を参照することができよう。
【0059】
基礎呼吸数とは、ミトコンドリアのプロトン漏出に起因する細胞のATP需要に対応するために使用される酸素消費量のことである。Seahorse XF Mito Stressアッセイは、細胞の通常の未処理酸素消費量に対する非ミトコンドリア酸素消費量の差をpmol/分/10,000細胞の単位で測定するために使用することができる。成熟した心筋細胞における基礎呼吸は、50~100pmol/分/10,000細胞の範囲である。膵臓ベータ細胞の基礎呼吸速度は10~20pmol/分/10,000細胞、成熟神経細胞では75~120pmol/分/10,000細胞の範囲にある。
【0060】
本明細書で使用する「予備能」とは、標準状態での細胞の酸素消費率(基礎呼吸)と、SeaHorse mitoStressアッセイでカルボニルシアニド4-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP)などのカップリング剤注入後に測定した最大呼吸との差のことを指す。ミトコンドリア予備能とは、エネルギー需要に対応するための細胞の能力である。これは、Seahorse XF Mito Stressアッセイを用いて、脱共役剤で処理した細胞の最大ミトコンドリア呼吸と未処理細胞の基底呼吸速度との差として計算される。成熟心筋細胞の予備能は125から225pmol/分/10,000細胞、未熟心筋細胞は50から75pmol/分/10,000細胞の間で予備能を示す。代謝的に成熟した膵臓ベータ細胞および神経細胞の予備ミトコンドリア容量は、未処理細胞で観察される基礎呼吸速度よりも約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%高い。
【0061】
本明細書で使用される「ゼノフリー培地」という用語は、ヒト以外の動物に由来する成分、またはヒト以外の動物のDNA配列から作られた組換え材料を含まない培地を指す。このような培地はまた、ヒト由来の精製、加工、または未加工の材料を含むことができる。
【0062】
本明細書で使用される「約」という用語は、?10%を指す
【0063】
「有する(comprises)」、「有する(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」という用語およびそれらの共役は、「~を含むがこれに限定されない」ことを意味する。
【0064】
「からなる」という用語は、「~を含み、かつ、それに限定される」という意味である。
【0065】
「本質的にからなる」という用語は、請求された組成物、方法または構造体の基本的かつ新規な特性を実質的に変えない場合にのみ、組成物、方法または構造体が、追加の成分、工程および/または部品を含むことができることを意味する。
【0066】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数参照のものを含む。例えば、用語「化合物」または「少なくとも1つの化合物」は、それらの混合物を含む複数の化合物を含むことができる。
【0067】
本願全体を通じて、この発明の様々な実施形態は、範囲形式で提示されることがある。範囲形式での説明は、単に便宜上および簡潔さのためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、すべての可能な部分範囲を具体的に開示したとみなされるべきである。例えば、1~6という範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲と、例えば1、2、3、4、5、6などのその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見なされるべきである。これは、範囲の広さに関係なく適用される。
【0068】
明細書において、数値範囲を示す場合、その範囲内の引用数字(小数または整数)を含むことを意味する。本明細書では、第1の指示数字と第2の指示数字との間の「範囲/~間の範囲」および第1の指示数字「から」第2の指示数字までの「範囲/~の範囲」という表現は互換的に用いられ、第1および第2の指示数字とその間のすべての小数および整数の数字を含むことを意図している。
【0069】
本明細書で使用される「方法」という用語は、所定のタスクを達成するための方法、手段、技術および手順を指し、化学、薬学、生物学、生化学および医学の専門家が知っている、または既知の方法、手段、技術および手順から容易に開発される方法、手段、技術および手順を含むが、これらに限定されない。
【0070】
本明細書で使用される「治療する」という用語は、状態の進行を中止、実質的に抑制、減速もしくは逆転させること、状態の臨床的もしくは審美的な症状を実質的に改善すること、または状態の臨床的もしくは審美的な症状の出現を実質的に防止することを含む。
【0071】
特定の配列表を参照する場合、その参照は、例えば、配列決定エラー、クローニングエラー、または塩基置換もしくは塩基付加をもたらす他の改変に起因する小さな配列変動を含む、その相補配列と実質的に対応する配列も包含するものと理解されるであろう。配列決定エラー、クローニングエラー、または塩基置換、塩基欠失もしくは塩基付加をもたらす他の変化、ただし、そのような変化の頻度は、50ヌクレオチドに1未満、あるいは、100ヌクレオチドに1未満、あるいは、200ヌクレオチドに1未満、あるいは、500ヌクレオチドに1未満、あるいは、1000ヌクレオチドに1未満、あるいは、5000ヌクレオチドに1未満、あるいは、10,000ヌクレオチドに1未満である。
【0072】
本出願に開示された任意の配列識別番号(配列ID番号)は、その配列ID番号が言及される文脈に応じて、その配列ID番号がDNA配列形式またはRNA配列形式でのみ発現される場合でも、DNA配列またはRNA配列のいずれかを指すことができると理解される。いずれにせよ、任意の置換基を有する開示された配列を有するDNA分子およびRNA分子の両方が想定される。
【0073】
明確さのために、別々の実施形態の文脈で記載されている本発明の特定の特徴も、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔さのために、単一の実施形態の文脈で説明されている本発明の様々な特徴は、別々に、または任意の適切な下位の組み合わせで、または本発明の任意の他の説明された実施形態において好適に提供されることもできる。様々な実施形態の文脈で説明される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしでは動作しない場合を除き、それらの実施形態の本質的な特徴とみなされるべきではない。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ヒト多能性幹細胞は、50%以上、好ましくは約60%メチル化されている目的の核酸配列中の少なくとも200ヌクレオチドのCpGアイランドを有する。
【0075】
CpGアイランドは、通常、1)長さが200bpより長い、2)G+C含量が50%より多い、3)CpGの予想比が0.6より大きい、領域と定義されている(Initial sequencing and analysis of the Human Genome, NATURE | VOL 409 | 15 FEBRUARY 2001, 860-921)。潜在的なCpGアイランドは、ドラフトゲノム配列を1塩基ずつ検索し、各ジヌクレオチドをスコアリング(GCは+17、その他は-1)して、最大スコアのセグメントを同定する。各セグメントは、G.Micklemが開発したプログラムを改変して、GC含有率(>50%)、長さ(>200)およびセグメントのGC含有率に基づく予想比率に対するGCジヌクレオチドの観察比率(>0.60)について評価された。WenYin Heら、"Defining Differentially Methylated Regions Specific for the Acquisition of Pluripotency and Maintenance in Human Pluripotent Stem Cells via Microarray", PLOS One Sep.2014 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0108350。
【0076】
ヒト多能性幹細胞におけるDNA(核酸配列)のメチル化状態は、様々な方法によって決定することができる。例えば、細胞のメチル化変化は、27,578のユニークなCpGジヌクレオチド部位を評価するHuman-Methylation 27Kまたは250K BeadChipマイクロアレイ(Illumina)を使用して決定できる。Simone Borkら、2010. "DNA methylation pattern changes upon long-term culture and aging of human mesenchymal stromal cells". Aging Cell (2010) 9, pp54?63。
【0077】
本明細書で使用される「脂肪酸」という用語は、脂肪族鎖を有するカルボン酸を意味する。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態によれば、脂肪族鎖は、偶数の炭素原子からなる。例えば、脂肪酸の脂肪族鎖は、4~28個の炭素原子を含むことができる。
【0079】
脂肪族化合物には、単結合(アルカン)で結合した飽和(飽和脂肪酸)、または、二重結合(アルケン)または三重結合(アルキン)を伴う不飽和(不飽和脂肪酸)であり得る。水素に加えて、他の元素が炭素鎖に結合する可能性があり、酸素、窒素、硫黄、塩素が最も一般的である。
【0080】
脂肪酸はステロイドをベースとした分子ではないことに注意する必要がある。したがって、脂肪族鎖を有する脂肪酸は、骨格に芳香環を含むリトコール酸などの胆汁酸とは全く異なるものである。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態によれば、共役脂肪酸は、2つの共役二重結合を有する共役リノール酸、3つの共役二重結合を有する共役リノール酸、9E,11Z,15E-オクタデカ-9,11,15-トリエン酸(ルメレン酸)、9E,11Z,13Z,15E-オクタデカ-9,11,13,15-テトラエン酸(α-パリナリン酸)、全てトランス-オクタデカ-9,11,13,15-トレトレエン酸(β-パリナリン酸)、および5Z,8Z,10E,12E,14Z-エイコサン酸(ボセオペンタエン酸)からなる群から選択される。
追加の既知の異性体は、Sheng-hui Wangら、Poultry Science. 98(10):4632?4639, OCTOBER 2019に掲載されている。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態によれば、2つの共役二重結合を有する共役リノール酸は、9Z,11E-オクタデカ-9,11-ジエノ酸(9CLA、またはルーメン酸もしくはボビン酸)および10E,12Z-オクタデカ-10,12-ジエノ酸(10CLA)からなる群から選択される。特定の実施形態では、成熟培地における9CLAの使用が特に好ましい。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態によれば、3つの共役二重結合を有する共役リノール酸は、8E,10E,12Z-オクタデカトリエン酸(α-カレンジン酸)、8E,10E,12E-オクタデカトリエン酸(β-カレンジン酸)、8Z,10E.12Z-オクタデカトリエン酸(ジャカリン酸)、9Z,11E,13E-オクタデカ-9,11,13-トリエン酸(α-エレオステアリン酸)、9E,11E,13E-オクタデカ-9,11.13-トリエン酸(β-エレオステアリン酸)、9Z,11Z,13E-オクタデカ-9,11,13-トリエン酸(カタルプ酸)、9Z,11E,13Z-オクタデカ-9,11,13-トリエン酸(プニシック酸)からなる群から選択される。
【0084】
本明細書で使用される「短鎖脂肪酸」という語は、骨格に1~5個の炭素原子を有することを特徴とする脂肪酸を指す。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態によれば、共役脂肪酸の有効濃度は、代謝的に未成熟なヒト細胞においてペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)核内受容体を活性化することが可能である。
【0086】
PPARは、転写因子である核内受容体スーパーファミリーのサブファミリーのメンバーであり、脂質および糖代謝に重要な役割を果たし、高脂血症、インスリン抵抗性および冠動脈疾患などの肥満関連の代謝性疾患への関与が指摘されている。
【0087】
PPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ)は、PPARサブファミリーの脂肪酸活性化メンバーである。それは、主に代謝組織(褐色脂肪組織、肝臓、腎臓)において発現されるが、高いレベルは、消化器(空腸、回腸、結腸、胆嚢)および心肺系(大動脈、心臓)にも存在する(Sher Tら、1993;"cDNA cloning, chromosomal mapping, and functional characterization of the human peroxisome proliferator activated receptor". Biochemistry 32 5598-604)。
【0088】
PPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ)は、PPARサブファミリーの脂肪酸活性化メンバーである。中枢神経系(CNS)、内分泌系、胃腸系、生殖系、心肺系、代謝組織など、ほとんどの生理系において低レベルで発現するが、褐色および白色脂肪組織で最も高く発現する(Elbrecht Aら、1996;"Molecular cloning, expression and characterization of human peroxisome proliferator activated receptors gamma 1 and gamma 2".Biochem.Biophys.Res. Commun.224 431-7 V)。
【0089】
中胚葉前駆細胞は、ブラキウリ(T)、中胚葉後部1(MESP1)、およびNODALの正の発現、SRY(性決定領域Y)-box1(SOX1)、SOX2の負の発現によって特徴付けられる。
【0090】
心筋前駆細胞は、ホメオボックスタンパク質Nkx-2.5(NKx2.5)、キナーゼ挿入ドメインタンパク質受容体(KDR)、中胚葉後部1(MESP1)、中胚葉後部2(MESP2)およびGATA4の正の発現、筋細胞特異的エンハンサー因子2C(MEF2C)、心臓トロポニンT2(TNNT2)および心臓トロポニンI3(TNNI3)の負の発現によって特徴付けられる。
【0091】
成体あるいは胎児の心筋細胞前駆細胞は、幹細胞抗原-1(Sca-1)、ホメオボックスタンパク質Nkx-2.5(NKx2.5)、筋細胞特異的エンハンサー因子2C(MEF2C)、GATA4およびGATA6の正の発現、心臓トロポニンT2(TNNT2)および心臓トロポニンI3(TNNI3)の負の発現によって特徴付けられる。終末分化した未熟な心筋細胞は、TNNT2を発現している拍動細胞である。
【0092】
成熟心筋細胞は、TNNI3が発現し、TNNI1、タイチンアイソフォームN2B(TTN-N2B)、リアノジン受容体2(RYR2)、筋/小胞体Ca2+-ATPアーゼ(SERCA2)、ギャップ結合タンパク質アルファ1(GJA1)およびPPARGコアクチベーター1アルファ(PPARGC1A)が低く発現することが特徴的である。成熟した心筋細胞は、CLAを膜に取り込み、コレステロール親和性と膜移動性を変化させている。
【0093】
膵臓前駆細胞あるいは成体膵臓幹細胞は、ホメオボックスタンパク質Nkx-2.2(NKX2.2)、NKX6.1、塩基性ヘリックスループヘリックスタンパク質PTF1A(P48)の発現で特徴づけられる。最終分化した未熟な膵臓ベータ細胞は、NKX6.1を発現するインスリン分泌細胞である。
【0094】
成熟膵臓ベータ細胞は、IAPP、HOPX、NEFM、SIX2、UCN3、MAFA、SIX3を発現し、LDHAやIGF2を含む未熟遺伝子マーカーをダウンレギュレートしている。成熟した膵臓ベータ細胞は、膜にCLAを取り込み、コレステロール親和性と膜移動度を変化させている。
【0095】
間葉系幹細胞(MSC)は、表面抗原分類44(CD44)、CD90、CD105、CD106、CD166、およびStro-1の正の発現と、CD14およびCD34の負の発現によって特徴づけられる。
【0096】
神経外胚葉細胞は、SOX2とorthodenticleホメオボックス2(OTX2)の正の発現によって特徴付けられる。
【0097】
胎児または成体の神経幹細胞は、ネスチンとSOX2の正の発現によって特徴付けられる。
【0098】
終末分化した未熟な神経細胞は、ネスチンを発現し、電気的誘導により活動的な活動電位を生み出す細胞である。
【0099】
成熟神経細胞マーカーは、アストロサイトマーカーALDH1L1、ALDOC、CD44、EAAT1、およびEEAT2を含む神経細胞タイプ特異的マーカーと同様に、ヘキサリボヌクレオチド結合タンパク質3(NeuN)、微小管関連タンパク質2(MAP2)およびシナプトフィジン(SYP)が発現する。中脳ドーパミン作動性成熟マーカーは、カルビンジン、DAT、GIRK2、THおよびvDATを含む。前脳コリン作動性成熟マーカーは、ChAT、vAChT、MAP2、p75NTR、およびTrKAを含む。オリゴデンドロサイト成熟マーカーは、Olig2、MBP、MOG、およびSOX10を含む。運動ニューロン成熟マーカーは、Olig2、Islet1、Islet2、およびニューロゲニンを含む。成熟した神経細胞は、膜にCLAが取り込まれ、コレステロール親和性や膜の移動性が変化している。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態によれば、毒性学的エンドポイントアッセイは、細胞生存率アッセイ(例えば、ライブ/デッドアッセイ)、機能的生存率アッセイ(例えば、MTT)、カルシウム処理アッセイ(例えば、フル-4)、炎症/損傷マーカーアッセイ(例えば、IL-10のELISA)又はTOX21、EuroTOX、EPA若しくは他の政府によって公表される他の標準アッセイである。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、細胞に対して毒性を有する化合物を選択する方法であって、前記方法は、
(a)本発明のいくつかの実施形態の細胞の単離された集団を、予め決定された時間、化合物と共に培養する工程と、及び、
(b)細胞内エステラーゼ活性およびMTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイドの不溶性ホルマザンへの変換からなる群から選択される代謝活性のレベルを、前記予め決定された時間の後に測定する工程であって、前記レベルの90%未満の減少は、前記化合物が前記細胞に対して毒性であることを示す、測定する工程と、を有し、
これにより、細胞に対して毒性のある化合物を選択することができる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内エステラーゼ活性は、生細胞において測定される。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内エステラーゼ活性は、非蛍光性カルセインAMの蛍光性カルセインへの酵素的変換によって測定される。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態によれば、MTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイドのその不溶性ホルマザンへの変換は、紫色をもたらす。
【0105】
表1には、幹細胞やiPSCを代謝的に未熟な目的の分化細胞に分化させるためのプロトコルで有利に使用できる脱メチル化促進剤が多数記載されている。
【表1】
【表2】
【表3】
【0106】
以下の表は、幹細胞を心筋細胞、膵臓ベータ細胞、神経細胞へ分化させるために有利に使用できる具体的なプロトコルと試薬である。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0107】
以下、本明細書に記載された膵臓ベータ細胞の分化および成熟のための培養培地の組成を示す。
Pan-S1培地:MCDB131(Cellgro;15-100-CV)+8mM D-(+)-グルコース(Sigma;G7528)+2.46g/L NaHCO
3(Sigma;S3817)+2% FAF-BSA(Proliant;68700)+ITS-X(Invitrogen;51500056)1:50.000+2mM Glutamax(Invitrogen;35050079)+0.25mM ビタミンC(Sigma Aldrich;A4544)+1% Pen/Strep(Cellgro;30-002-CI)
Pan-S2培地:MCDB131+8mM D-グルコース+1.23g/L NaHCO
3+2% FAF-BSA+ITS-X 1:50.000+2mM Glutamax+0.25mM ビタミンC+1% Pen/Strep
Pan-S3培地:MCDB131+8 mM D-グルコース+1.23 g/L NaHCO
3+2% FAF-BSA+ITS-X1:200+2mM Glutamax+0.25mM ビタミンC+1% Pen/Strep
Pan-S5培地:MCDB131+20mM D-グルコース+1.754g/L NaHCO
3+2% FAF-BSA+ITS-X1:200+2mM Glutamax+0.25mM ビタミンC+1%Pen/Strep+ヘパリン 10μg/ml(Sigma;H3149)
Pan-S6培地:CMRL1066補充+10% FBS+1% Pen/Strep
【表9】
【表10】
【表11】
【0108】
以下に、本明細書に記載された神経細胞の分化および成熟のための培養培地の組成を示す。
Neu-S1培地:Neural induction培地(NIM) KO-DMEM/F:12とNBMの1:1混合、10%KSR、1%NEAA、1%GlutaMAX、0.1mM L-AA、2μM SB431542、3μM CHIR99021、1μMドルソモルフィンおよび1μM 化合物E
Neu-S2培地:NPC拡張培地(NEM)。KO-DMEM:F12とNBMの1:1混合、1%
P/S、1% B27、1% N2、1% NEAA、1% GlutaMAX、0.1 mM L-AA
Neu-S3培地:MN成熟培地。1:1 KO-DMEM:F12およびNBM、1% P/S、1% N2、1% NEAA、1% GlutaMAX、0.1mM L-AA、10ng/mL CNTF、10ng/ml BDNF、10ng/mL NT-3および10ng/mL GDNF、OA(100μM)、9CLA(50μM)
細胞の解離とは、アキュターゼを用いて細胞を解離させ、Matrigel(GFR)コートプレートに0.5×106細胞/ウェルでプレーティングすることを指す。
【0109】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するために提供されるものである。これらは、本発明を何ら限定することを意図するものではない。
【0110】
実施例
次に、上記の説明と共に、本発明のいくつかの実施形態を非限定的に示す以下の実施例を参照する。
【0111】
一般に、本明細書で使用される命名法および本発明で利用される実験手順は、分子生物学的、生化学的、微生物学的および組換えDNA技術を含むものである。このような技術は、文献に徹底的に説明されている。例えば、"Molecular Cloning:A laboratory Manual"Sambrook et al., (1989); "Current Protocols in Molecular Biology"Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994); Ausubel et al., "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989); Perbal, "A Practical Guide to Molecular Cloning", John Wiley & Sons, New York (1988); Watson et al.,"Recombinant DNA", Scientific American Books, New York; Birren et al. (eds) "Genome Analysis: A Laboratory Manual Series", Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998);米国特許第4,666,000号、第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号および第5,272,057号明細書に記載されている方法論、"Cell Biology: A Laboratory Handbook", Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994); "Current Protocols in Immunology" Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994); Stites et al. (eds), "Basic and Clinical Immunology"(8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994); Mishell and Shiigi (eds), "Selected Methods in Cellular Immunology", W. H. Freeman and Co., New York (1980)を参照;利用可能なイムノアッセイは、特許文献および科学文献に広範に記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号及び第5,281,521号、"Oligonucleotide Synthesis" Gait, M. J., ed. (1984); "Nucleic Acid Hybridization" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985); "Transcription and Translation" Hames, B. D., and Higgins S. J., Eds. (1984);"Animal Cell Culture"Freshney, R. I., ed. (1986); "Immobilized Cells and Enzymes"IRL Press, (1986); "A Practical Guide to Molecular Cloning" Perbal, B., (1984) および "Methods in Enzymology" Vol. 1-317, Academic Press; "PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications", Academic Press, San Diego, CA (1990); Marshak et al., "Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual" CSHL Press (1996)を参照。これらは全て、本明細書に完全に記載されているかのように参照により組み込まれる。他の一般的な参考文献は、この文書を通して提供される。その中の手順は、当該技術分野において周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。そこに含まれるすべての情報は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0112】
一般材料と実験方法
ヒト対象
ヒト組織を含むすべてのプロトコルは、Hebrew University of JerusalemおよびWeill Cornell Medical CollegeのInstitutional Review Boardの審査を受け、免除されたものである。
【0113】
マウス
C57Bl/6マウスはHarlanから購入し、実験前に2週間馴化させた。GFマウスはWeizmann Instituteの無菌施設にて飼育した。すべての実験において、関連するセクションに示されるように年齢をマッチさせたマウスを使用した。肝臓の生後成熟は、4週齢のGFマウスまたはSPFマウスで検討した。すべての実験手順は、地元のIACUCによって承認された(IACUC申請番号10320119-2)。
【0114】
細胞および細胞培養
ヒト胚性幹細胞株I3、HuES-8、H9、H1および人工多能性幹細胞株UN-1を、成長因子低減マトリゲル(BD Biosceinces, サンノゼ、カリフォルニア州)上でmTeSR-1培地(StemCell Technologies,バンクーバー、カナダ)にて培養した。細胞は、Technion(J.Itskovitz-Eldor教授)、Harvard Stem Cell Institute(ボストン、マサチューセッツ州)、WiCell(マディソン、ウィスコンシン州)からそれぞれ入手し、入手先で認証した後、PCRを用いてマイコプラズマ汚染について検査した。細胞はAccutase(Merck、米国)を用いて連続的に継代し、37℃、5% CO2の加湿インキュベーターで培養した。これらの細胞はそれぞれ、代謝的に成熟した心筋細胞、膵臓ベータ細胞、または神経細胞を作製するための出発細胞として使用することができる。
【0115】
凍結保存されたヒト肝細胞は、XenoTech(Lenexa, KS)、Lonza(スイス)またはLife Technologies(グランドアイランド、ニューヨーク州)から購入し、解凍して製造者の指示に従って肝細胞維持培地(Lonza、ドイツ)の成長因子低減マトリゲル上にプレーティングされた。
【0116】
方法
従来化WT、無菌WT、および従来化-Pparα-/-マウス心臓GeneChip(Affymetrix Mouse Genome 430 2.0 Array)データは、GEOデータベースアクセッションGSE14929からダウンロードしたもので、添付のメタデータと一緒に掲載している。マウス胎児および成体心臓GeneChip (Illumina MouseRef-8 v2.0 expression beadchip)データは、GEOデータベースアクセッションGSE129090から、付随するメタデータと共にダウンロードした。すべての遺伝子の発現レベルはGEO2Rを用いて定量した。GEO2RとLIMMAを用いて、推定された遺伝子数の発現行列と差分発現解析をデフォルトパラメータで実施した。負の二項Wald検定によるp値を報告する。全体として、本発明者らは、BH-FDR<0.04およびp<0.002で、従来型WTと無胚芽WTの心臓の間で有意なmRNA発現差を示した1087遺伝子を見いだした。
【0117】
ゲノムデータの処理、解析およびグラフィック表示
R studio(https://www(dot)rstudio(dot)com/)を用いて、主成分分析(PCA;prcompパッケージ)、散布図、ボルケーノプロット(ggplotパッケージ)を実施した。階層的クラスタリング、ヒートマップ、相関プロット、類似性マトリックスはMorpheusで作成した。遺伝子オントロジー濃縮解析とクラスタリングはDAVID Informatics Resources 6.7で行った。ネットワークマップはMcGill’s Network Analyst ToolでKEGGデータベースを用いて行った。
【0118】
定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)
総RNA は、NucleoSpin RNA II kit(マシェリー・ナーゲル、ドイツ)を用いて、ホモジナイズした組織標本または細胞ペレットから製造者の指示に従って抽出および分離した。RNAの濃度と純度はNanoDrop ND-1000 spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific,米国)を用いて測定した。cDNA合成は、qScript(商標)cDNA Synthesis(Quanta BioSciences)を用いてメーカーの説明書に従って実施した。各反応には1μgの精製RNAを使用し、濃度と純度はND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies)で測定した。mRNAの発現量は、Applied Biosystems(商標)QuantStudio(商標)5 Real-Time PCR System上でKAPA SYBR FAST(Kapa Biosystems)を用いてqRT-PCRにより測定した。遺伝子転写は、リボソームタンパク質L32(RPL32)およびユビキチン結合酵素(UBC1)で標準化したΔΔCt法で評価した。プライマー配列と供給源を以下の表12に示す。
【表12】
【0119】
透過型電子顕微鏡(TEM)
TEM解析のために、細胞をプラスチック製8室スライド(Lab-Tek)に播種し、0.1Mカコジル酸 Na(CH3)2AsO2HとpH7.4に調整したNaOHから構成される0.1Mカコジル酸緩衝液中で、2.5%グルタルアルデヒド、2%パラホルムアルデヒドで室温2時間固定後40℃で一晩培養をした。その後、細胞をカコジル酸緩衝液で10分ずつ4回洗浄し、0.1Mカコジル酸緩衝液中の1%四酸化オスミウムと1.5%フェリシアン化カリウムで1時間ポスト固定染色した。その後、カコジル酸緩衝液で4回洗浄し、30%、50%、70%、80%、90%、95%と濃度の上がるエタノールで10分ずつ脱水し、100%の無水エタノールで20分ずつ3回脱水を行った。脱水後、25、50、75および100%からなる濃度の高いエタノール中のAgar 100樹脂に16時間ずつ浸潤させた。その後、細胞を新しい樹脂に埋め込み、600℃のオーブンで48時間重合させた。
【0120】
ブロックに包埋した細胞をLKB 3ミクロトームでダイヤモンドナイフで切開し、超薄切片(80nm)を200メッシュの細棒銅グリッドに集めた。グリッド上の切片を酢酸ウラニルとクエン酸鉛で順次10分ずつ染色し、MegaView II CCDカメラを搭載したTecnai 12 TEM 100kV(Phillips、オランダ)で観察した。ミトコンドリア径と細胞および核の大きさは、Analysis(登録商標)version 3.0 software(SoftImaging System GmbH,ドイツ)を用いて手動で測定した。
【0121】
免疫蛍光顕微鏡
培養細胞は4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で15分間固定した。その後、ブロッキング溶液(PBS中の2%ウシ血清アルブミン(BSA)と0.25%TritonX-100)中で室温1時間透過させ、さらに1時間、一次抗体(以下の表13)と培養した。洗浄後、細胞をブロッキング溶液中で室温で1時間、二次抗体(以下の表14)と培養し、PBSで2回洗浄し、1μg/ml Hoechest 33258(Sigma Aldrich、米国)で5分間対比染色した。画像処理は、Zeiss LSM 700共焦点顕微鏡で行った。アクチンの染色は、ローダミン-ファロイジン溶液の1:100を加えることにより、二次抗体のインキュベーション工程と同時に行われた。顕微鏡による単一細胞およびミトコンドリアの形状解析は、CellProfilerソフトウェアを使用して実施した。ミトコンドリアの伸長は0から1までスコア化し、0は円、1は長方形に相当する。
【表13】
【表14】
【0122】
ヒトhPSCの心臓分化
細胞をmTeSR-1培地中のマトリゲル上に播種し、80-90%コンフルエンスに達するようにした。心臓の分化は、以前に記載されたように行った(Burridge, P. W. et al. Chemically defined generation of human cardiomyocytes.Nat Methods 11, 855-860, 2014)。簡潔には、CDM3と名付けられた基礎培地(RPMI-1640、500μg/mL組み換えヒト血清アルブミン、213μg/mL L-アスコルビン酸2-リン酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)を使用した。分化の0日目に、培地を6μmol/L CHIR99021(Stemgent)を添加したCDM3に交換し、2日間培養した。分化2日目に培地を2μM Wnt-C59(Selleckchem)添加のCDM3培地に交換し、さらに2日間培養した。4日目以降は、B27-I(インスリン無添加B27サプリメント;Gibco、米国)添加のRPMIで培養した。そして、8-9日目に、細胞が拍動し始めたら、培地を100μMウシ血清アルブミン(コントロール)または100μMオレイン酸-アルブミン(Gibco、米国)および50μM 9CLA(Sigma、米国)添加のCDM3培地に交換し、さらに4日間維持した。本文に示すように、阻害研究中に培地に10μM GW9662(Sigma Aldrich、米国)を補充した。追加の詳細は、上記の表4~6に記載されている。
【0123】
代謝機能の定量化
ミトコンドリア機能は、製造元の指示に従い、Seahorse XF Cell Mito Stress Test Kitを使用して測定した(Agilent,サンタクララ、カリフォルニア州)。簡単に言うと、細胞をトリプシン処理し、90xgで5分間遠心分離し、対照培地で再懸濁し、1% マトリゲルでコーティングしたSeahorse XFpミニプレートにウェル当たり3,000細胞の密度で播種した。細胞は、一過性および残留効果を除去するために、脂肪酸なしで24時間馴化させた。その後、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、10mMグルコース(pH7.4)を添加した非緩衝XFベース培地で、37℃、非CO2インキュベーターで1時間培養した。30分間基礎酸素消費率(OCR)を測定した後、酸化的リン酸化を阻害するミトコンドリア複合体V阻害剤である1μMオリゴマイシンを注入した。オリゴマイシン処理によるOCRの減少を酸化的リン酸化速度とした。最大ミトコンドリア活性を測定するため,60 分後に脱共役剤である0.5μM カルボニルシアニド4-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP)を加え、90分後にミトコンドリア複合体IIIおよびミトコンドリア複合体I阻害剤の0.5μM アンチマイシンAおよびロテノン混合物を用いて完全阻害を誘発させた。
【0124】
実施例1
マイクロバイオーム由来脂質が心臓の代謝的成熟を促進する
マイクロバイオーム由来脂質が心臓の代謝的成熟を促進する
新生児期の心臓は、成長する乳児のエネルギー的要求を支えるようになり、産後急速に成熟する。心筋細胞はグルコースから脂肪酸を炭素源とするようになり、仕事量の増加を可能にするため、酸化力が急速に上昇する
53。6~10週齢の無菌マウス(GF)と微生物叢を移植した従来型マウス(CONV-D)の心臓組織から単離したmRNAを解析したところ、成熟した構造、機能、代謝遺伝子のレベルが低く、胎児心臓組織のマーカーが上昇しており、従来型マウスと比較して、無菌マウスでは成熟が遅れていることが示された(
図1A、
図2)。PPARα
-/-ノックアウト動物の心臓組織も、無菌マウスと同様のサインを示した。GFとCONV-Dマウスを比較したGene Ontology解析では、脂質代謝やミトコンドリアプロセスを含む代謝経路の崩壊が見られ(
図1B;
図2)、PPARシグナル伝達経路を示唆していた(q=2.4?10
-5)。
【0125】
実施例2
in vitroヒト心臓成熟
ヒトにおける心臓の発達をモデル化するために、本発明者らは、しばしば新生児の特徴を示す多能性幹細胞由来の心筋細胞を利用した(
図1C)。免疫蛍光分析によれば、50μMのOAおよび9CLAで4日間出生後の栄養を模倣して処理すると、ミトコンドリアの存在量および長さが増加し、成熟した相互接続ネットワークが生成された(データは示していない)。この効果は、ミトコンドリアネットワークに沿って絡み合った心臓トロポニンI 3(TNNI3)繊維およびサルコメアの存在量の3.5倍の増加と関連していた(データは示していない)本明細書に開示された方法を用いて成熟した心筋細胞集団は均質で、2~2.4μm、通常約2.1μmのサルコメアを呈する。出生後の栄養状態を模倣した脂肪酸刺激により、幹細胞由来心筋細胞の酸化的リン酸化、および最大呼吸容量が1.8~2.5倍増加した(
図1D)。解糖は24%減少し、細胞面積は1.5倍増加(肥大化)し、より成熟した表現型であることが示された
53。さらに、遺伝子発現解析の結果、ヒト心筋組織の構造的、機能的、代謝的成熟に関連する主要遺伝子の発現が増加し、胎児マーカーの発現が減少していることがわかった(
図1E)。すべて場合において、出生後の脂質の影響は、PPAR依存的なメカニズムを支持するGW9662処理後に逆転した。コンピュータ解析により、マウスのin vivo心臓成熟と強く関連する9CLA誘導遺伝子クラスターが示された(
図2)。
【0126】
分析および考察
哺乳類の発達は主に子宮内で起こるが、生後数週間から数ヵ月間、変化する環境に適応するために継続することが明らかにされた54,55。発達は主に転写ネットワークダイナミクスによって駆動されると考えられているが1-4、最近の研究では、腸のコロニー形成56および栄養 57などの環境的な手がかりが生後の発達に影響を与える可能性があることが明らかになった。以前の研究では、マイクロバイオームで修飾された胆汁酸が胎児ヒト肝細胞の薬物代謝を活性化することが示された(Avior, Y. et al. Microbial-derived lithocholic acid and vitamin K2 drive the metabolic maturation of pluripotent stem cells-derived and fetal hepatocytes.Hepatology 62, 265-278, 2015)、一方、マイクロバイオームとミクログリア細胞の相互作用がマウスの脳発達をサポートすることを示した研究者もいる15。
【0127】
ヒトのモデルが入手できないため、無菌(GF)動物は、マイクロバイオームと新生児器官の発達との相互作用について、ある程度の洞察を与えることができる58,59。これまでの研究では、GFマウスは腹腔の発達が不適切で、生殖能力が低下し、心拍出量は従来の動物の30%未満であることが示されている60。これまでの研究では、マイクロバイオームの発達と、それが成体動物やヒトの代謝に及ぼす影響に焦点が当てられてきた61-64。本研究では、新生児臓器の発達に焦点を当て、マイクロバイオームが出生後の組織の代謝的および機能的成熟にどのような影響を及ぼすかを問う。
【0128】
本発明者らは、マイクロバイオームと生後臓器形成の相互作用を明らかにするため、母乳保育と成熟が完了した産後4~6週のGFマウスの心臓を調べたところ
65,66、GFマウスから単離された組織には、胎児のサイン、ミトコンドリアの発達の欠如、脂質代謝、特にリノール酸およびPPARαシグナルの崩壊を示唆する転写サインが認められた(
図1A,B)。リノール酸はヒトの母乳に豊富に含まれ(表2)、生後数日でビフィズス菌と乳酸菌株によって9CLAに代謝される
43。9CLAはPPARαのアゴニストであり、肥満の成人においてインスリン感受性と脂質過酸化を増加させることが示された
67。一方、健常者では低密度リポタンパク質(LDL)を減少させることが示された
68。しかし、以前の研究では、3週齢のラットに9CLAを投与しても有益な効果は得られなかった(Turpeinen, A. M. et al. Cis-9,trans-11 CLA in rats at intake levels reported for breast-fed infants.Lipids 41, 669-677 (2006)), 一方、PPARαアゴニストのフェノフィブラートの投与は、新生児ラットのAFPサイレンシングを実際に遅らせることができた
70。これらの結果は、ヒトの発達を研究するためにげっ歯類モデルを使用することの難しさを物語っている。
【0129】
ヒト胚性幹細胞は、ヒトの発生を研究する上で魅力的なモデルを提供する。本発明者らは、9CLA添加により、PPARシグナルを介して心筋細胞の劇的なミトコンドリア発達、転写および機能的成熟を促すことを示す(
図1、2および3)。
【0130】
栄養、生理、および器官の発達を注意深く調和させることは、興味をそそる。子宮内では、解糖は比較的低酸素の環境下で胚の急速な成長を促進することができる。肺と腸はほとんど活動していないため、心拍出量と他の臓器機能は最小限である。分娩後の呼吸の増加は急激であり、酸素供給量を増加させ、それに伴い心拍出量も増加する。臓器の灌流が増加すると、支持細胞の一部が洗い流され、一方、臓器は新たにコロニーを形成する腸の要求に対応する必要がある。経腸栄養は乳糖と乳酸に富み、ビフィズス菌と乳酸菌が増殖し、産後の授乳期にはこれらの菌が優位になる39-42。オレイン酸とリノール酸の両方が成熟を促す一方で、ミトコンドリア生合成を推進し、酸化的リン酸化へのシフトを完了させるのは、マイクロバイオーム由来の9CLAの吸収である。新生児が子宮の外で、より過酷な、しかし酸素の豊富な環境で成長を続けることができるのは、生後数週間のこの代謝のシフトのおかげである。この理解は、新生児栄養のカスタマイズに役立ち、早産やハイリスク出産によくある病気や抗生物質治療によるマイクロバイオームの変化に伴うリスクに対処できる可能性がある72。
【0131】
ヒト多能性幹細胞の現在の分化プロトコルは、依然として多くの胎児の特徴を持つ解糖系細胞を生成していることに留意することが重要である24,25。この困難さは、心臓の分化だけでなく、卵母細胞、神経細胞、筋細胞、または膵臓β細胞の出生後の成熟細胞の誘導においても、出生後の状態を模倣する現在のプロトコルに欠けている部分があるためと思われる73-76。
【0132】
本発明は、その特定の実施形態と関連して説明されてきたが、多くの代替案、修正および変形が当業者には明らかであろうことは明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲内に入るすべてのそのような代替案、修正および変形を包含することが意図される。
【0133】
本明細書で言及されたすべての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願が参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、本願における任意の文献の引用または特定は、当該文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈してはならない。セクションの見出しが使用されている限り、それらは必ずしも限定的であると解釈されるべきではない。さらに、本出願の優先権文書は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0134】
参考文献
(追加の参考文献は本文中に引用している)
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【配列表】
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