(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】神経変性疾患及び脳卒中を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールの用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/045 20060101AFI20230329BHJP
A41B 11/00 20060101ALI20230329BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20230329BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230329BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230329BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230329BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230329BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230329BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230329BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230329BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230329BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230329BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230329BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61K31/045
A41B11/00 Z
A41D19/00 Z
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/04
A61K9/70 401
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/12
A61K9/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548551
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2020080917
(87)【国際公開番号】W WO2021189256
(87)【国際公開日】2021-09-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509248615
【氏名又は名称】中国▲医▼薬大学
【氏名又は名称原語表記】CHINA MEDICAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】陳 易宏
(72)【発明者】
【氏名】黄 相碩
(72)【発明者】
【氏名】洪 詩雅
(72)【発明者】
【氏名】蘇 幸慧
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲イー▼忻
(72)【発明者】
【氏名】鍾 欣怡
(72)【発明者】
【氏名】羅 思庭
(72)【発明者】
【氏名】陳 朝栄
(72)【発明者】
【氏名】朱 ▲ユ-ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド,イオナ,ジーン
【テーマコード(参考)】
3B018
3B033
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
3B018AC00
3B033AB00
3B033AC03
4C076AA06
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4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA16
(57)【要約】
本発明は、脳ニューロンの損傷変性または脳内ドーパミンの不足に起因する神経変性疾患または脳卒中を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体の用途を提供する。前記外用組成物は、皮膚に適用するパッチ、液剤、クリーム、オイル、パウダー、ジェル、スプレーまたは他の組み合わせで製造された製品または四肢を被覆する製品である。前記四肢を被覆する製品は、手袋、フットカバー、靴下、衣類の延長設計部位または層状物であって、皮膚とメントールとの持続的な接触を確保する。本発明はさらに脳ニューロンの損傷変性、脳内ドーパミンの不足、脳卒中に起因する疾患または症状を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患または脳卒中を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体である
ことを特徴とする用途。
【請求項2】
前記異性体は構造異性体または立体異性体である
ことを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項3】
前記外用組成物中の前記メントールまたは前記メントール異性体の重量百分率は1%~20%である
ことを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項4】
前記外用組成物の投与頻度は1日1~2回である
ことを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項5】
前記外用組成物は、皮膚に適用するパッチ、液剤、クリーム、オイル、パウダー、ジェル、スプレーまたは他の組み合わせで製造された製品または四肢を被覆する製品である
ことを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項6】
前記四肢を被覆する製品は、手袋、フットカバー、靴下、衣類の延長設計部位または層状物である
ことを特徴とする請求項5に記載の用途。
【請求項7】
前記四肢を被覆する製品は、皮膚とメントールとの持続的な接触を確保する
ことを特徴とする請求項5に記載の用途。
【請求項8】
前記神経変性疾患は、脳ニューロンの損傷変性または脳内ドーパミンの不足によって引き起こされる
ことを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項9】
前記神経変性疾患はパーキンソン病、アルツハイマー病であって、前記脳卒中は虚血性脳卒中である
ことを特徴とする請求項1または8に記載の用途。
【請求項10】
前記外用組成物は、脳ニューロンの損傷変性、ドーパミンの不足または脳卒中による症状を改善するために使用することができ、前記症状は認知機能障害、運動機能障害、うつ病、四肢脱力、四肢片麻痺、頭痛、めまい、失語または不明瞭言語、霧視または視力障害、動悸、痙攣、悪心・嘔吐、嗜眠、流涎、嚥下困難、顔面神経障害、便失禁を含むが、これらに限定されない
ことを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項11】
脳ニューロンの損傷変性に起因する疾患または症状を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体である
ことを特徴とする用途。
【請求項12】
脳内ドーパミンの不足に起因する疾患または症状を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体である
ことを特徴とする用途。
【請求項13】
脳卒中に起因する疾患または症状を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体である
ことを特徴とする用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患及び脳卒中の改善分野に属し、メントールの外用組成物の用途を提供し、その応用範囲を明確にするものである。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患は、脳や脊髄のニューロンが経時的に持続的に変性または死亡し、運動失調や精神機能障害(認知症)を引き起こすという世界的な問題であり、現在、神経変性疾患を治癒または阻止する改善法はない。パーキンソン病は、振戦麻痺(paralysis agitans)とも呼ばれる代表的な疾患であり、臨床検査では、脳内のドーパミン含有量が一般的に低く、脳幹の2つの色素核(黒質、青斑核)が劣化する現象がある。また、黒質変性の部分は線条体(striatum)ドーパミン含有量の減少と対応しているため、パーキンソン病は黒質緻密部が線条体に投影されるドーパミン経路の劣化によるものと考えられており、症状は1)静止時不随意細動、2)筋硬直、3)動き開始困難、4)行動遅滞を含む。パーキンソン病は、現在治癒することができず、主に薬を服用することによって症状を緩和する。しかし、薬物はしばしばジスキネジアなどの副作用を伴い、且つ病気が悪化するにつれて薬物の量を増加させ、精神疾患を引き出すリスクも高い。
【0003】
脳卒中は脳への血流供給の遮断または減少によって引き起こされ、臨床脳卒中は虚血性脳卒中、出血性脳卒中及び一過性脳虚血発作の主な3種類に分けられる。虚血性脳卒中は、すべての脳卒中発生率の85%以上を占めている。脳卒中が発生すると、脳組織に十分な酸素と栄養が行き渡らなくなり、さらに脳細胞が死滅し、局所的または全体的な脳機能障害が臨床的に急速に進行し、24時間以上持続すると、死に至る場合もある。脳卒中の発生後、脳組織の神経炎症が誘発され、脳がさらに損傷する。脳卒中後の合併症の予防または緩和のために、神経の炎症を遅らせる臨床治療薬がよく使われる。現在、脳卒中の標準治療薬は組織型プラスミノーゲン活性化因子(tissue-type plasminogen activator, tPA)であるが、患者に静脈内投与が可能かどうかを評価する仕組みが厳しく、頭蓋内出血を引き起こす高いリスクもある。
【0004】
本発明の分野に関する現在の特許は、以下のとおりである。
台湾特許公開第TW200848063号は、神経変性障害を治療する方法及び組成物を開示し、経口阻害薬により、イオンチャネルを介してイオンの流通を阻害し、神経変性障害を治療する。しかし、当該特許は、細胞株のイオンチャネル実験によって有効性を確認したが、各適応症の行動改善評価は行わず、臨床的有効性は不明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記により、発明が解決しようとする課題は、神経変性疾患及び脳卒中を改善するための、効率的かつ簡便で副作用のない方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、神経変性疾患または脳卒中を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体の用途を提供することにある。
本明細書に記載されたメントール異性体は、構造異性体または立体異性体であり、当該メントールまたは当該メントール異性体の重量百分率は、1%~20%である。
【0007】
本明細書に記載された外用組成物は、皮膚に適用するパッチ、液剤、クリーム、オイル、パウダー、ジェル、スプレーまたは他の組み合わせで製造された製品または四肢を被覆する製品である。前記四肢を被覆する製品は、手袋、フットカバー、靴下、衣類の延長設計部位または層状物であり、皮膚とメントールとの持続的な接触を確保する。
【0008】
本明細書に記載された前記神経変性疾患は、脳ニューロンの損傷変性または脳内ドーパミンの不足によって引き起こされ、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病である。前記脳卒中は虚血性脳卒中である。前記外用組成物は、脳ニューロンの損傷変性、ドーパミンの不足または脳卒中による症状を改善するために使用することができ、前記症状は認知機能障害、運動機能障害、うつ病、四肢脱力、四肢片麻痺、頭痛、めまい、失語または不明瞭言語、霧視または視力障害、動悸、痙攣、悪心・嘔吐、嗜眠、流涎、嚥下困難、顔面神経障害、便失禁を含むが、これらに限定されない。
【0009】
また、本発明は、脳ニューロンの損傷変性、脳内ドーパミンの不足、または脳卒中に起因する疾患または症状を改善する外用組成物の調製に用いられるメントールまたはメントール異性体を提供するものである。
【0010】
本発明に係る実施形態により、パーキンソン病マウスモデルにおいて、メントールの外用がパーキンソン病の運動協調性を改善し、脳内ドーパミン含有量を高め、黒質におけるドーパミンニューロンの損傷を防ぎ、したがってTHの含有量を高める神経保護の効果を有することを実証した。また、他の実施形態により、虚血性脳卒中マウスモデルにおいて、メントールの外用は7日間にわたって脳梗塞体積を低下すると共に、感覚運動神経の障害を改善することができることも実証した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来の神経変性疾患及び脳卒中の難病と薬物の副作用が強い壁を突破し、以下の有益な効果を実現する。
(1)外用剤のため使いやすいこと
本発明は、神経変性疾患及び脳卒中に対する従来の薬物改善の形式を突破し、注射または経口の不快感、及び必要である定期的な投与または条件評価の不便などを排除し、皮膚に塗布、噴霧、浸漬または被覆することによって効果を達成することができる初の外用改善の形式であり、使用上非常に簡便で、場所によって制限されない。
(2)副作用がないこと
現在の神経変性疾患や脳卒中の改善薬は、副作用がある場合が多く、用法用量を考慮し、他の副作用抑制剤を使用する必要があるが、メントールは安全に使用でき、副作用もないので、他の改善薬や製剤と組み合わせても非常に柔軟性が高いのである。
(3)神経変性と脳卒中の二重の改善効果を同時に有すること
本発明が提供するメントールの新たな用途は、厳密かつ完全な動物実験により、神経保護作用、脳内ドーパミン増強作用、脳梗塞改善作用などの効果を有し、すなわち、前記の疾患の原因である神経変性や脳卒中に外用でき、これらの疾患に対する種々の薬剤を一度に服用しなければならないことによる不快感や副作用がないので、患者の生活の質を向上させることができることが実証されている。
(4)病気の改善に広く適用することができること
メントールには、神経保護作用、脳内ドーパミンの増加作用、脳梗塞改善作用の効果が実証されているため、神経変性症や脳卒中に加えて、上記の原因に起因する他の疾患にも改善効果が期待でき、多くの疾患や症状に適用でき、および上記の低い副作用および外用の利点と組み合わせ、市場開発の可能性が非常に高く、産業応用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1B】各群のパーキンソン病マウスのロータロッド上での滞留時間を示す図である。
【
図1C】各群のパーキンソン病マウスの線条体ドーパミン含有量を示す図である。
【
図1D】各群のパーキンソン病マウスの黒質におけるチロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase, TH)の表現状況を示す図である。
【
図2B-1】各群の虚血性脳卒中マウスのロータロッド上での滞留時間を示す図である。
【
図2B-2】各群の虚血性脳卒中マウスのロータロッド上での滞留時間を示す図である。
【
図2C-1】各群の虚血性脳卒中マウスがテープを発見した時間を示す図である。
【
図2C-2】各群の虚血性脳卒中マウスがテープを除去した時間を示す図である。
【
図2D-1】各群の虚血性脳卒中マウスの脳梗塞の定量体積を示す図である。
【
図2D-2】各群の虚血性脳卒中マウスを脳TTC(2,3,5-triphenyltetrazolium chloride,2,3,5-塩化トリフェニルテトラゾリウム)を介して染色したサンプルを示す図である。
【
図3A】メントール外用組成物が実施できる製品の一つ目、手袋を示す図である。
【
図3B】メントール外用組成物が実施できる製品の二つ目、フットカバーを示す図である。
【
図4A】虚血性脳卒中マウスは、メントールを経口、四肢または背中に浸漬する実験設計を行った図である。
【
図4B-1】各群の虚血性脳卒中マウスのロータロッド上での滞留時間を示す図である。
【
図4B-2】各群の虚血性脳卒中マウスのロータロッド上での滞留時間を示す図である。
【
図4C-1】各群の虚血性脳卒中マウスがテープを発見した時間を示す図である。
【
図4C-2】各群の虚血性脳卒中マウスがテープを発見した時間を示す図である。
【
図4D-1】各群の虚血性脳卒中マウスの脳梗塞の定量体積を示す図である。
【
図4D-2】各群の虚血性脳卒中マウスの脳梗塞の定量体積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載されているすべての技術的及び科学的用語は、特に定義されていない限り、その分野の専門家が共有できる意味である。本明細書において、使用される「MPTP」という用語は、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)を意味し、脳内の黒質(substantia nigra, SN)におけるドーパミン(Dopamine)を産生するニューロンを破壊するパーキンソン神経毒素である。当業者は、MPTPをマウス体内に打ち込むことにより、パーキンソン病マウスの動物モデルを構築する。「LC-MS/MS」という用語のフルネームは、液相クロマトグラフィータンデム質量分析計(Liquid chromatography-tandem mass spectrometry)である。用語「TH」のフルネームはチロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase)であり、細胞にドーパミンを生成するために必要な酵素である。用語「黒質」(substantia nigra, SN)は、中脳の神経核団であり、THを含む細胞を有し、ドーパミンを産生し、アポトーシスがパーキンソン病を引き起こす。「MCAO」という用語は、虚血性脳卒中の動物モデルを構築するために使用される技術である中大脳動脈閉塞(Middle Cerebral Artery Occlusion)である。「TTC」という用語のフルネームは、2,3,5-塩化トリフェニルテトラゾリウム(2,3,5-triphenyltetrazolium chloride)であり、生存細胞内のデヒドロゲナーゼ(特にミトコンドリア内のコハク酸デヒドロゲナーゼ)によって赤色化合物TPF(1,3,5-トリフェニルホルマザン, 1,3,5-triphenylformazan)に還元される酸化還元指示剤であり、組織壊死後、デヒドロゲナーゼ活性を失い、TTCを還元することができないため、壊死組織が淡い白色を呈し、正常組織が濃赤色を呈する。TTCは染剤として虚血梗塞組織を検出することができる。
以下は、本発明の技術的特徴および効果をさらに説明するため、具体的な実施形態についての説明である。
【0014】
実施形態1 外用メントールによるパーキンソン病の改善
【0015】
1.実験設計とパーキンソン病マウスの疾患モデルの構築
【0016】
実験マウスは、それぞれ対照群(Control、正常マウス)、MPTP群(MPTPによって疾患モデルのパーキンソンマウスを構築する)、MPTP+8%ME群(MPTPによる疾患モデルのパーキンソンマウスの構築+8%メントール(menthol)による前足の浸漬処理)の3つのグループに分けられ、実験スケジュールは
図1Aを参照されたい。メントールの投与上、1~5日目及び8~10日目に、MPTP+8%ME群マウスの2本の前足を10秒間、重量百分率濃度8%のメントール溶液に毎日浸漬した。パーキンソン病マウスの疾患モデルの構築は、3~5日目に、MPTP群及びMPTP+8%MEマウスに対して、腹腔内注射(intraperitoneal、i.p.)を用いて、MPTPを10mg/kg(日)で毎日投与し、3日間持続し、パーキンソン病マウスの動物モデルを完成させた。最終的に,10日目に、運動持久力試験、ドーパミン含有量測定及び免疫組織化学染色を行い、パーキンソン病に対するメントールの症状改善効果を観察した。
【0017】
2.運動持久力試験-ロータロッド試験(Rotarod test)
【0018】
ロータロッド試験により、各群のマウスを1日目及び10日目に測定し、自動加速ロータロッド上で、ロータロッド速度を4rpm(毎分回転)から開始し、ロータロッドを加速させ続け、約5分間最大ロータロッド速度40rpmに達し、その後、最大ロータロッド速度40rpmで試験を続け、ロータロッド上のマウスの滞留時間を算出した(
図1B)。図中の縦軸に示すΔ落下までの待ち時間(Latency to fall)とは、10日目の滞留時間から初日の滞留時間を差し引いたことを示している。その結果、1日目と比較して10日目の試験では、MPTP群の滞留時間が有意に短くなり、マウスはパーキンソン病の運動協調性の低下の症状を示した。パーキンソン病と同様に、メントールを浸漬したMPTP+8%ME群では、マウスの滞留秒数は初日よりも長くなり、メントールの浸漬はパーキンソン病による運動協調性の低下から回復し、正常マウス(対照群)と同等に回復することさえあることを示した。
【0019】
3.ドーパミン含有量の測定
【0020】
脳内のドーパミンの含有量を測定するために、マウスのロータロッド試験終了後、マウスを犠牲にし、マウスの脳を取り出し、マウスの線条体のドーパミン含有量をLC-MS/MSで測定した(
図1C)。その結果、10日目にMPTP群の脳内ドーパミン含有量が有意に低下し、パーキンソン病の典型的な症状を呈した。MPTP+8%ME群では、ドーパミン含有量は対照群と同等であり、メントールはパーキンソン病マウスの脳内ドーパミン含有量の低下の症状を回復できることを示した。
【0021】
4.免疫組織化学(Immunohistochemical, IHC) 染色
【0022】
続いて、IHCを用いてマウスの脳における黒質領域のTH含有量を検出した(
図1D)。その結果、MPTP群のパーキンソン病の典型的なTH含有量の低下と比較して、MPTP+8%ME群のTH含有量は対照群と同等に回復することを示した。パーキンソン病のマウスは、THを含み、ドーパミンを産生する神経細胞が破壊される。この部分の結果は、メントールが神経細胞保護効果を有し、ドーパミンの低下を回避することを示している。
【0023】
パーキンソン病試験の最初の部分では、外用のメントールがパーキンソン病による運動能力の低下を改善し、脳内ドーパミン含有量を回復し、且つ神経保護効果を有するため、神経変性疾患の改善経路として使用することができることを示した。
【0024】
実施形態2 外用メントールによる脳卒中の改善
【0025】
1.実験設計と虚血性脳卒中マウスの疾患モデルの構築
【0026】
マウスを4つのグループに分け、それぞれ対照群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス)、水群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+水による四肢の浸漬処理)、MCAO+8%ME群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+8%メントールによる四肢の浸漬処理)、MCAO+16%ME群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+16%メントールによる四肢の浸漬処理)とした。メントールは、すべて95%エタノールで調製された。実験スケジュールは
図2Aを参照し、マウスは7日目にフォローアップ分析のために犠牲にした。マウスは0日目にMCAO手術を受け、虚血性脳卒中を発症した。メントールの最初の投与は、MCAOの後、1日1回で6日目まで投与された。MCAO処理の当日、マウスはMCAO手術を経た20分後、四肢をメントールに1分間浸漬させた。2日目から6日目は、メントールを15秒間だけ浸漬させた。水群は対照として同じ時間で水に浸漬させた。MCAO処理の1日前(pre-MCAOで表示)と、MCAO処理後の1日目、3日目、6日目にそれぞれ感覚運動神経機能試験を行い、MCAO処理後の7日目に脳梗塞体積測定を行い、脳卒中に対するメントールの改善効果を観察した。
【0027】
2.感覚運動神経機能試験
【0028】
2.1 ロータロッド試験(Rotarod test)
【0029】
ロータロッド試験は、各群のマウスを3日目及び6日目に自動加速ロータロッド(4~40rpm)上で、マウスの滞留時間(
図2B-1、
図2B-2)を測定し、当該日の結果をpre-MCAOを基準とし、各群を3回繰り返し試験し、一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて多重比較分析(ダネット検定(Dunnett’s test))を行い、統計グループ間の差異は(*p<0.05)である。星印*は、対照群、水群、MCAO+8%ME群の間の有意差(*p<0.05; **p<0.01)を示す。その結果、MCAO群の滞留時間は3日目及び6日目に有意に短縮され、虚血性脳卒中による感覚運動障害症状が確認された。一方、メントール処理を経たマウスではMCAO群及び水群よりも滞留時間が延長され、メントールは脳卒中マウスの感覚運動ニューロンの機能を改善することを示した。
【0030】
2.2 テープ除去試験 (Adhesive removal test)
【0031】
マウスは、1日目、3日目、6日目にそれぞれテープ除去試験を行い、同じくpre-MCAOの当日の結果を基準とした。実験工程は、まず、マウスを試験ケージに入れる前に、マウスの前足に4(mm)×4(mm)のテープを貼付し、マウスが発見してテープを除去する時間を計測した(
図2C-1、
図2C-2)。また、2.1に記載の方法で統計分析(*p<0.05; ** p<0.01; ***p<0.001)を行った。グループ間の統計分析の結果、メントールを投与したマウスは、対照群及び水群よりもテープ除去時間が有意に少なく、かつ6日目に、テープを発見した時間が水群よりも有意に少なく、反応速度が有意に良好であり、メントールの投与は脳卒中による感覚運動機能障害を改善できることを示した。
【0032】
3.脳梗塞体積の測定
【0033】
MCAOを経た1週間後、各群のマウスを灌流で犠牲にして、脳の検体を生体TTC染色(
図2D-2)で提示し、脳梗塞体積(mm
3)を測定した(
図2D-1)。また、測定した体積を一元配置分散分析(one-way ANOVA)で多重比較分析(テューキー検定(Tukey’s test))を行い、統計グループ間の差異は(*p<0.05)である。その結果、メントールの使用は、対照群及び水群と比較して脳梗塞体積を有意に減少できることを示した。
【0034】
本発明は、実施形態1により、パーキンソン病マウスモデルにおいて、メントールの外用がパーキンソン病の運動協調能力を改善させ、脳内ドーパミンの含有量を増加させ、かつ、黒質におけるドーパミンニューロンの損傷を防止し、ひいてはTH含有量を増加させる神経保護効果を有することを示した。実施形態2により、虚血性脳卒中マウスモデルにおいて、外用メントールは7日以内に脳梗塞体積を低下させ、感覚運動神経の欠陥を改善できることを示した。
【0035】
本発明は、メントールを外用剤としての方法で投与することによって、パーキンソン病及び脳卒中を改善することができることを明らかにした。また、この方法において、メントールは、脳内ドーパミンの増加、神経の保護、且つ脳梗塞体積の減少などの効果を有するため、神経保護効果を有し、それによって、アルツハイマーなどの他の神経変性疾患の改善にも使用することができることを明らかにした。メントール異性体及びそれに近い化合物は、当業者に類似した有効性を有すると推定するのに十分であり、本発明に係る特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0036】
本発明に係る実施形態から明らかなように、メントールは、神経変性疾患または脳卒中を改善するために使用することができる外用組成物として調製され、脳ニューロンの損傷変性、ドーパミンの不足または脳卒中に起因する症状を改善するために使用することができる。前記症状は、認知機能障害、運動機能障害、うつ病、四肢脱力、四肢片麻痺、頭痛、めまい、失語または不明瞭言語、霧視または視力障害、動悸、痙攣、悪心・嘔吐、嗜眠、流涎、嚥下困難、顔面神経障害、便失禁を挙げられるが、これらに限定されない。本発明に係る実施形態によって、異なる動物モデルにおいて換算することにより当該外用組成物が人体に投与される際に、メントールの割合は1%~20%の有効範囲である。
【0037】
当該外用組成物は、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、キャリア剤を含んでもよい。メントール自体の冷却効果によって、化粧またはスキンケアのための有効成分を添加した後、疾患改善、冷感、及びスキンケア、化粧などの用途を併せ持つ外用組成物とすることができる。また、当該外用組成物は、皮膚に適用するパッチ、液剤、クリーム、オイル、パウダー、ジェル、スプレーまたは他の組み合わせで製造された製品または四肢を被覆する製品であってもよい。前記四肢を被覆する製品は、手袋(
図3A)、フットカバー(
図3B)、靴下、衣類の延長設計部位または層状物であり、皮膚とメントールとの持続的な接触を確保することができる。なお、前記
図3A、
図3Bの例示は、本発明の実施の可能性の1つであり、上記概念から脱却しない実施、変換、被覆材質の変化、外観の改造は、本発明に係る特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0038】
4.外用形式と経口形式の間の効能差
【0039】
当該実験では、マウスを水群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+水による四肢の浸漬処理)、8%ME群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+8%メントールによる四肢の浸漬処理)、16%ME群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+16%メントールによる四肢の浸漬処理)、背中ME群(MCAO処理により構築された虚血性脳脳卒中マウス+ミントールによる背中の浸漬処理)、経口ME群(MCAO処理により構築された虚血性脳卒中マウス+メントールを経口投与)の5つのグループに分けた。メントールは、全て95%エタノールで処理した。実験設計とデータ分析方法は、本明細書を参照し、実験スケジュールは
図4Aを参照されたい。マウスは7日目にフォローアップ分析のために犠牲にした。
図4B-1、
図4B-2に示すように、測定結果を一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて多重比較分析(ダンカン検定(Duncan’s method)を行い、統計グループ間の差異は(p<0.05、*:水群との比較、†:16%ME群との比較、△:8%ME群との比較)である。ロータロッド試験において、背中への外用または経口投与などの群は滞留時間を改善する効果を有していないか、四肢にメントール浸漬処理されたマウスの群は、背中浸漬、水浸漬または経口投与などの群よりも滞留時間が長くなり、四肢に応用された外用形式のメントールは脳卒中マウスの感覚運動ニューロンの機能を改善することができることを示した。テープ除去試験において、試験結果は
図4C-1、
図4C-2に示すように、四肢がメントールによって浸漬処理されたマウスの群は、テープを発見する時間が他の群よりも有意に少なく、反応速度が有意に良好であるため、外用形式のメントールは脳卒中による感覚運動機能障害を改善できることを示した。比較すると、背中への外用または経口投与の方法は、上記の効果を有していなかった。脳梗塞体積の測定試験において、試験結果は
図4D-1、
図4D-2に示すように、四肢がメントールによって浸漬処理されたマウスの群は、脳梗塞体積を著しく低下させることができることを示した。一方、背中浸漬、水浸漬または経口投与などの群は、脳梗塞体積を低下させる効果を有しなかった。したがって、本発明に係るメントールを外用形式で四肢に応用することによって、脳卒中マウスの感覚運動ニューロン機能及び運動機能不全を改善し、脳梗塞体積を減少させることができるか、背中への外用または経口投与場合、虚血性脳卒中症状の有意な改善効果を有さないため、本発明の効果を得るには、特殊の経路である外用形式による応用が必要だと示されている。
【0040】
本発明に係る実施形態は、さらに、脳ニューロンの損傷変性、脳内ドーパミンの不足、または脳卒中による疾患または症状を改善する外用組成物を提供する。本発明に記載された疾患及びそれらによる症状を改善するために、外用の方法でメントールまたはメントール異性体を応用する概念は、全て同等の実施とみなされ、本発明によって宣言された特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0041】
上記の実施形態は、本発明に係る技術的思考及び特徴を説明するためであり、その目的は、当業者が本発明の内容を理解し、実施できるようにすることであって、本発明に係る特許請求の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明によって開示された精神に従って行われる均等な変更または修正は、本発明の特許請求の範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】