(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ホルムアルデヒドのバイオマスへの取り込みのための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20230329BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230329BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20230329BHJP
C12P 19/32 20060101ALI20230329BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230329BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
C12P13/04
C12N1/21 ZNA
C12P7/40
C12P19/32 B
C12N15/31
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549396
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(85)【翻訳文提出日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2021053715
(87)【国際公開番号】W WO2021165229
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513099094
【氏名又は名称】サイエンティスト・オブ・フォーチュン・ソシエテ・アノニム
(71)【出願人】
【識別番号】500449363
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルンク デル ヴィッセンシャフテン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】バー‐エヴェン,アレン
(72)【発明者】
【氏名】ヒー,ハイ
(72)【発明者】
【氏名】マルリエ,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC24
4B064AD52
4B064AE03
4B064AE09
4B064AE10
4B064AF26
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC06
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC24
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4B064DA16
4B065AA24Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BB03
4B065BB07
4B065BB11
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4B065BB29
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC11
4B065BC26
4B065CA04
4B065CA10
4B065CA14
4B065CA17
4B065CA54
(57)【要約】
以下の酵素的に触媒されるステップ、(1)ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;(2)そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;(3)そうして生成されたホモセリンからトレオニンへの変換;(4)そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドまたはアセチル-CoAへの変換;(5)そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに(6)そうして生成されたセリンの変換によるピルビン酸の生成であって、前記ピルビン酸を次いでステップ(1)における基質として使用することができる、生成を含む、ホルムアルデヒドのバイオマスへの取り込みのための方法が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の酵素的に触媒されるステップ
(1)ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;
(2)そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;
(3)そうして生成されたホモセリンからトレオニンへの変換;
(4)そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドまたはアセチル-CoAへの変換;
(5)そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに
(6)そうして生成されたセリンの変換によるピルビン酸の生成であって、前記ピルビン酸を次いでステップ(1)における基質として使用することができる、生成
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(3)におけるホモセリンからトレオニンへの変換が、
(iii)そうして生成されたホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成;および
(iv)そうして生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成
によって起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(6)におけるセリンからピルビン酸への変換が脱アミノ化によって達成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(a)ステップ(1)において、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合が、EC4.1.2._に分類されるアルドラーゼを使用して達成される;
(b)ステップ(2)において、そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成が、EC2.6.1._に分類されるアミノトランスフェラーゼ酵素を使用することによって、またはアミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.4.1._)によって達成される;
(c)請求項2に記載のステップ(3)(i)において、そうして生成されたホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成が、ホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39)を使用することによって達成される;
(d)請求項2に記載のステップ(3)(ii)において、そうして生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成が、トレオニンシンターゼ(EC4.2.3.1)を使用することによって達成される;
(e)ステップ(4)において、そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドへの変換が、トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)を使用することによって達成され、ならびに/またはステップ(5)において、そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセチル-CoAへの変換が、トレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)と2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)の組合せによって達成される;
(f)ステップ(5)において、そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドとの縮合によるセリンの生成が、トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)を使用することによって達成される;
(g)ステップ(6)において、そうして生成されたセリンの変換によるピルビン酸の生成が、セリンデアミナーゼ(EC4.3.1.17)またはトレオニンデアミナーゼ(EC4.3.1.19)を使用することによって達成される;
または(a)から(g)のうちの任意の組合せである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(1)および/または(5)において縮合のために使用されるホルムアルデヒドが、メタノールの酸化によってもたらされる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(1)および/または5)におけるホルムアルデヒドが、
(a)メタノールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.244)もしくはメタノールデヒドロゲナーゼ(シトクロムc)(EC1.1.2.7)を使用して、メタノールをホルムアルデヒドに酵素的に変換すること;および/または
(b)アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)を使用して、メタノールをホルムアルデヒドに酵素的に変換すること
によって提供される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
次の反応:
(1)EC4.1.2._に分類されるアルドラーゼによる、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;
(2)EC2.6.1に分類されるアミノトランスフェラーゼ酵素による、またはアミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.4.1._)による、そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;
(3)ホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39)による、そうして生成されたホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成;
(4)トレオニンシンターゼ(EC4.2.3.1)による、そうして生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成;
(5)トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)またはトレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)および2-アミノ-3-ケチ酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)による、そうして生成されたトレオニンからグリシンへの変換;
(6)トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)による、そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに
(7)セリンデアミナーゼ(EC4.3.1.17またはトレオニンデアミナーゼ(EC4.3.1.19)による、そうして生成されたセリンの脱アミノ化によるピルビン酸の生成であって、前記ピルビン酸を次いでステップ(1)における基質として使用することができる、生成
を触媒する酵素を発現する組換え微生物であって、ステップ(1)を触媒するアルドラーゼをコードする少なくとも1つの異種核酸分子を含有し、ステップ(6)、すなわち、グリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成を触媒する酵素を過剰発現する、前記組換え微生物。
【請求項8】
ステップ(3)、ステップ(4)またはステップ(5)を触媒する酵素のうちの少なくとも1つをさらに過剰発現する、請求項7に記載の微生物。
【請求項9】
メタノールをホルムアルデヒドに変換することができる、請求項7または8に記載の微生物。
【請求項10】
前記微生物が、
(a)メタノールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.244)もしくはメタノールデヒドロゲナーゼ(シトクロムc)(EC1.1.2.7)によって、メタノールをホルムアルデヒドに酵素的に変換する;および/または
(b)アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)によって、メタノールをホルムアルデヒドに酵素的に変換する、
請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
ピルビン酸をアスパラギン酸セミアルデヒドに変換する酵素活性が欠損している、請求項7~10のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項12】
3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.95)の酵素活性が欠損している、請求項7~11のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項13】
セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(EC2.1.2.1)の酵素活性および/またはグリシン開裂系(gcvTHP)の酵素活性が欠損している、請求項7~12のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項14】
大腸菌(E.coli)である、請求項7~13のいずれか一項に記載の微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の酵素的に触媒されるステップ
(1)ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;
(2)そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;
(3)そうして生成されたホモセリンからトレオニンへの変換;
(4)そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドまたはアセチル-CoAへの変換;
(5)そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに
(6)そうして生成されたセリンの変換によるピルビン酸の生成であって、前記ピルビン酸を次いでステップ(1)における基質として使用することができる、生成
を含む、方法または酵素経路に関する。
【0002】
この方法/経路は、ホルムアルデヒドの炭素化合物への効率的な取り込みを可能にし、ひいてはホルムアルデヒドのバイオマスへの変換を可能にする。本発明はまた、対応する酵素反応を触媒するための酵素を発現する組換え微生物にも関する。
【背景技術】
【0003】
汎用化学製品の微生物生産は、供給原料の入手可能性およびコストによって制約される。糖およびデンプンは、一般的に使用されているにもかかわらず、それらの生物工学的利用が人による消費と直接競合し、したがって食料安全保障を侵害するため、理想的な微生物供給原料ではない(Walker, J. Appl. Phycol. 21 (2009), 509-517)。さらに、農業栽培の拡大は自然生息地の縮小という犠牲を払っており、それ故に生物多様性を脅かしている(Scholes et al., in Intergovernmental Science- Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (Bonn, Germany; 2018))。リグノセルロース系バイオマスの使用は、これらの問題のいくつかを回避する一方で、不均一な組成、処理の困難さ、および有害廃棄物を含む、他の課題を提起する(Sanderson, Nature 474 (2011), 12-14)。一炭素化合物は、農業生産に負担をかけずに高レベルで製造することができ、均一で取り扱いやすい微生物供給原料であることから(Takors et al., Microb. Biotechnol. 11 (2018), 606-625; Yishai et al., Curr. Opin. Chem. Biol. 35 (2016), 1-9; Schrader et al., Trends Biotechnol. 27 (2009), 107-115)、好ましい代替物となる。メタノールは、完全に水混和性であって、ガス状の一炭素化合物(例えば、一酸化炭素およびメタン)の使用の制約となる物質移動障壁を回避することから、特に興味深い。メタノールは天然ガスから低コストで製造することができ(Zakaria and Kamarudin, Renew. Sust. Energ. Rev. 65 (2016), 250-261)、またはそれをCO2および電気化学的に誘導された水素から持続可能かつ効率的に製造することもできる(Szima and Cormos, J. CO2 Util. 24 (2018), 555-563)。メタノールの生物学的同化には、主として、ホルムアルデヒドへのその酸化と、その後の特化したサイクルを介したバイオマスへのホルムアルデヒドの取り込みが含まれる。
【0004】
メタノール上で自然に増殖する微生物、例えば、メチロバクテリウム・エキストロクエンス(Methylobacterium extorquens)の代謝操作は、近年大きく進展している(Schada von Borzyskowski et al., ACS Synthetic Biology 4 (2015), 430-443; Marx and Lidstrom, Microbiology 150 (2004), 9-19)。また、最近の複数の取り組みにより、天然のメタノール同化経路(Whitaker, Curr. Opin. Biotechnol. 33 (2015), 165-175; Zhang et al., RSC Advances 7, (2017) 4083-4091);リブロース一リン酸(RuMP)サイクル(Chen et al., Metab. Eng. 49, (2018) 257-266; Meyer et al., Nature Communications 9, (2018) 1508; He et al., ACS Synthetic Biology 7, (2018) 1601-1611);ジヒドロキシアセトン(DHA)サイクル(Dai et al., Bioresour. Technol. 245 (2017), 1407-1412)およびセリンサイクル(Yu and Liao, Nature Communications 9 (2018), 3992)のうちの1つを介して、メタノール上での増殖のために生物工学的宿主を操作することが模索されている。しかし、これらの天然の経路は最適な解決手段ではない可能性がある。細胞資源の使用がより効率的である、および/または宿主微生物とより代謝的に適合する、より優れた経路を設計して実行することができる。例えば、最近のある研究では、大腸菌(E.coli)の改変セリンサイクルを設計して部分的に実行し、天然の反応のいくつかを他の反応に置き換えて、宿主の内因性代謝により適合させた(Yu and Liao, Nature Communications 9 (2018), 3992)。しかし、セリンサイクルおよびその改変された変形物はATP効率が不良であり、得られるバイオマスおよび生成物の収量が少なかった(Claassens et al., Nature Catalysis 2 (2019), 437)。他の研究では、ホルムアルデヒド分子2個または3個が縮合してそれぞれグリコールアルデヒドまたはDHAを生じる、自然界にないホルモラーゼ反応が実証された(Lu et al., Nature Communications 10 (2019), 1378; Wang et al., Bioresour. Bioprocess. 4 (2017), 41)。しかし、ホルムアルデヒドに関する縮合速度および親和性は、生理的に妥当であるには低すぎる。
【0005】
したがって、ホルムアルデヒド(メタノールから製造され得る)のバイオマスへの効率的な同化および取り込みを可能にし、それによって、例えば、バイオプロダクションのための供給原料としてのメタノールの使用を容易にする手段および方法を開発することには需要がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、以下の酵素的に触媒されるステップ
(1)ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;
(2)そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;
(3)そうして生成されたホモセリンからトレオニンへの変換;
(4)そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドまたはアセチル-CoAへの変換;
(5)そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに
(6)そうして生成されたセリンの変換によるピルビン酸の生成であって、前記ピルビン酸を次いでステップ(1)における基質として使用することができる、生成
を含む、方法または酵素経路を提供することによって、この需要に応える。
【0007】
この方法/経路は、ホルムアルデヒドの炭素化合物への効率的な取り込みを可能にし、ひいてはそれのバイオマスへの変換を可能にする。
【0008】
以上に明記された一連の酵素的ステップはサイクル(以下では「ホモセリンサイクル」とも称する)となり、その限定的ではない例を
図1に示す。本発明者らは、ホルムアルデヒド同化のためのより効率的な手段を提供するための取り組みにおいて、上述のセリンサイクルから出発し、ホルムアルデヒドのより効率的な取り込みを可能にするその改良された変形物を提供した。提供される経路には、生物工学的生産方法によく使用される微生物、例えば、大腸菌(E.coli)において容易に実行することができるという利点もある。
【0009】
ホモセリンサイクルでは、ピルビン酸がホルムアルデヒドと縮合して、非天然代謝物である4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)が生じ(Bouzon et al., ACS Synthetic Biology 6 (2017), 1520-1533)、それが次いでアミノ化されてホモセリンになる。これらの反応のうちの最初のもの(
図1中の項目(1))は、大腸菌(E.coli)2-ケト-3-デオキシ-L-ラムノン酸アルドラーゼ(RhmA)によってプロミスキャスに触媒されることが見出された(Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711)。後者の反応であるHOBアミノ化(
図1中の項目(2))は、多数のアミノトランスフェラーゼ(Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711; Walther et al., Metab. Eng. 45 (2018), 237-245; Zhong et al., ACS Synthetic Biology 8 (2019), 587-595)、さらにはアミノ酸デヒドロゲナーゼ、例えば、(操作された)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Chen et al., Biotechnol. J. 10 (2015), 284-289)によって支えられる。文献では主として逆方向の反応が報告されているが、これは可逆的であるため、HOBアミノ化の方向に使用することもできる。この経路は、(ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼによる)カルボキシル化反応を、C
4中間体を生じる代替的な方法をもたらすホルムアルデヒド同化反応に効果的に置き換える。ホモセリンは次いで、例えば、ホモセリンキナーゼ(
図1中の項目(3)のThrB)およびトレオニンシンターゼ(
図1中の項目(4)のThrC)の作用によってトレオニンに変換される。トレオニンは切断されて、グリシンとアセトアルデヒドが生成される。これは例えば、トレオニンアルドラーゼ(
図1中の項目(5))、例えば、SAL反応を触媒する同じトレオニンアルドラーゼ(LtaE)((
図1の項目(6))を利用して、グリシンを再生してアセトアルデヒドを生成させることによって達成することができる。生成されたアセトアルデヒドを、例えば、さらに酸化してアセチル-CoAにして、中枢代謝に同化させることもできる。
【0010】
ホモセリンサイクルでは、トレオニンの切断によって生成されたグリシンがホルムアルデヒドと直接縮合してセリンを生じる。この反応(
図1中の項目(6))(本明細書ではセリンアルドラーゼ(SAL)反応とも称する)は、トレオニンアルドラーゼ(LtaE)によって(インビトロで)プロミスキャスに触媒されることが以前に見出された(Contestabile et al., Eur. J. Biochem. 268 (2001), 6508-6525)。SAL反応は、既知の非常に長く、複数の補因子に依存し、かつATP効率が不良である、5,10-メチレン-テトラヒドロ葉酸(CH
2-THF)へのホルムアルデヒド同化の経路を迂回する(Crowther et al., J. Bacteriol. 190 (2008), 5057-5062)。以前に提唱された改変セリンサイクル(Yu and Liao, Nature Communications 9 (2018), 3992; Bar-Even, Biochemistry 55 (2016), 3851-3863)と同じく、セリンは次いでセリンデアミナーゼ(
図1中の項目(7))によって脱アミノ化されてピルビン酸となり、グリセリン酸を経由し、毒性の高い中間体であるヒドロキシピルビン酸がさらに関与する、より長い経路を迂回する(Kim and Copley, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109 (2012), E2856-2864)。その結果得られたピルビン酸を、次いで本方法のステップ(1)に使用して、サイクルを閉鎖することができる。
【0011】
この新たに提唱される合成経路は、バイオマス収量、熱力学的有利性、および宿主の内因性代謝への実装に関して、セリンサイクルおよびその既知の変形物よりも性能が優れる可能性があることが示されている。
【0012】
本発明者らはまた、このサイクルのインビボ活性、特に非天然の反応に依拠する経路のそのような反応の機能性を実証することができた。より正確には、本発明者らは、必要とされるすべての活性、特にこれらの酵素活性を発現するように宿主細胞を遺伝子改変する必要なく宿主細胞自身によって提供され得るプロミスキャスな酵素活性をも含む、種々の経路セグメントのインビボ活性を、実験によって実証した。このサイクルは、バイオマスの生産に不可欠な構成要素を効率的に提供することができる。本出願において提供されるデータは、提唱される経路がメタノール(ホルムアルデヒドを経由して)の効率的な同化を可能にし、したがって、この一炭素供給原料の汎用化学製品への高効率変換の実行を可能にすることを確認するものである。
【0013】
本発明による方法は、例えば、それがCO2固定をホルムアルデヒド同化に置き換えるという点で、既知のセリンサイクルとは異なる。このために、本方法は、アルドラーゼによって(プロミスキャスに)触媒される2つのホルムアルデヒド縮合反応に依拠する。
【0014】
上記のように、本発明による方法または経路は、ホルムアルデヒドの取り込みを可能にする。「ホルムアルデヒドの取り込み」という用語は、ホルムアルデヒドが、微生物の中心的代謝の一部である炭素化合物へと同化され、ひいてはバイオマスおよび/または所望の化合物に変換され得ることを意味する。したがって、本方法/経路を、ホルムアルデヒドの炭素化合物への同化およびバイオマスへのその取り込みのために使用することができる。
【0015】
方法のステップ1:ピルビン酸とホルムアルデヒドの縮合による4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)の生成
本方法/経路の第1段階では、ピルビン酸をホルムアルデヒドとの酵素的に触媒される反応で縮合させて、4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)を生成する。
【0016】
好ましい一実施形態では、この縮合は、アルドラーゼ、より好ましくは、EC4.1.2._に分類されるアルドラーゼを利用することによって達成される。
【0017】
本発明の方法/経路の文脈において特に有用であり得る、EC4.1.2に分類されるアルドラーゼの例は、
(i)EC4.1.2.53(2-ケト-3-デオキシ-L-ラムノン酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼ;
(ii)EC4.1.2.51(2-デヒドロ-3-デオキシ-D-グルコン酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼ;
(iii)EC4.1.2.28(2-デヒドロ-3-デオキシ-D-ペントン酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼ;
(iv)EC4.1.2.20(2-デヒドロ-3-デオキシグルカル酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼ
から選択されるアルドラーゼである。
【0018】
好ましい一実施形態では、アルドラーゼは、HpcHアルドラーゼファミリーに属するアルドラーゼである。HpcHアルドラーゼファミリーに属すると分類されるアルドラーゼは、ドメインが「HpcH」(PF03328;http://pfam.xfam.org/family/PF03328)と称されることで特徴付けられる。さらに、そのようなアルドラーゼは、好ましくは、供与体結合およびエノール化のための二価金属カチオンが関与する触媒機構を使用することでも特徴付けられる。そのようなアルドラーゼの例には、EC4.1.2.53として分類されるかまたはEC4.1.2.20として分類されるアルドラーゼがある。
【0019】
別の実施形態では、アルドラーゼは、DHDPSアルドラーゼファミリーに属するアルドラーゼである。DHDPSアルドラーゼファミリーに属すると分類されるアルドラーゼは、ドメインが「DHDPS」(PF00701、http://pfam.xfam.org/family/PF00701)と称されることで特徴付けられる。さらに、そのようなアルドラーゼは、好ましくは、供与体基質と共にシッフ塩基を形成する触媒性リジン残基が関与する触媒機構を使用することでも特徴付けられる。そのようなアルドラーゼの例には、EC4.1.2.51として分類されるかまたはEC4.1.2.28として分類されるアルドラーゼがある。
【0020】
ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合は、天然には起こらないことが知られている反応である。しかし、ある文献(Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711)には、大腸菌(E.coli)由来のアルドラーゼ、すなわちRhmA/YfaU(EC4.1.2.53)タンパク質が、この変換をプロミスキャスに触媒し得ることが報告されている。さらに、本発明者らは、この変換が様々なアルドラーゼによって実際にプロミスキャスに触媒され得ること、すなわち、これらの酵素はピルビン酸およびホルムアルデヒドを基質として使用し得るが、それらの天然基質はこれらの化合物とは異なることを示すことができた。さらに、添付の実施例から明らかなように、本発明者らは、対応するアルドラーゼが、対応する反応をインビボで触媒することができ、それがピルビン酸およびホルムアルデヒドを4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)に効率的に縮合させることができる程度であることも示すことができた。
【0021】
EC4.1.2.53(2-ケト-3-デオキシ-L-ラムノン酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼは、反応
【0022】
【化1】
すなわち、2-デヒドロ-3-デオキシ-L-ラムノン酸のピルビン酸および(S)-ラクトアルデヒドへの可逆的逆アルドール開裂を、天然に触媒する(Rakus et al., Biochemistry 47 (2008), 9944-9954; Read et al., Biochemistry 47 (2008), 9955-9965)。
【0023】
この酵素は、いくつかの生物、例えば、アゾトバクター・ビネランジイ(Azotobacter vinelandii)、シェフェルソミセス・スティピティス(Scheffersomyces stipitis)およびシュワニオミセス・ポリモルファス(Schwanniomyces polymorphus)、さらに大腸菌(E.coli)で同定されている(Uniprot受託番号:P76469およびD3QKU2)。原理的に、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒し得る限り、任意の2-ケト-3-デオキシ-L-ラムノン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.53)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のrhmA遺伝子または大腸菌(E.coli)のyfaU遺伝子によってコードされる酵素が使用される(Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711)。
【0024】
好ましい一実施形態では、そのような酵素は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するか、または配列番号1と少なくともx%相同であって、xが60と100との間の整数、好ましくは65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99である2-ケト-3-デオキシ-L-ラムノン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.53)の活性を有するアミノ酸配列を示し、ここでそのような酵素は、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒することができる。
【0025】
好ましくは、同一性の程度は、それぞれの配列を配列番号1のアミノ酸配列と比較することによって決定される。
【0026】
本出願に記載される配列同一性の決定に関しては、一般に以下のことが適用されるべきである:比較される配列が同じ長さを有していない場合、同一性の程度は、より長い配列におけるアミノ酸残基と同一であるより短い配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージ、またはより短い配列中のアミノ酸残基と同一であるより長い配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージのいずれかを指す。好ましくは、それはより長い配列におけるアミノ酸残基と同一であるより短い配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージを指す。
【0027】
配列同一性の程度は、好ましくは、EMBOSS NEEDLEソフトウェアによるNeedleman-Wunschアルゴリズムなどの、当技術分野で周知のアルゴリズムおよびソフトウェアを使用してペアワイズアラインメントを行うことによって決定することができる。
【0028】
特定の配列が、例えば、参照配列に対して少なくとも60%同一であるか否かを決定するためにこの方法を適用する場合、以下のように定義されるEMBOSS NEEDLEソフトウェアのデフォルト設定を使用することができる:
- マトリックス:BLOSUM62
- ギャップオープン:10
- ギャップ伸長:0.5
- エンドギャップペナルティなし。
【0029】
好ましくは、同一性の程度は、アラインメントされた配列の全長にわたって計算される。
【0030】
EC4.1.2.51(2-デヒドロ-3-デオキシ-D-グルコン酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼは、反応
【0031】
【化2】
すなわち、ピルビン酸およびグリセルアルデヒドからの2-ケト-3-デオキシグルコン酸(KDG)の形成(Bhaskar et al., Proteins 79 (2011), 1132-1142)、
または反応
【0032】
【化3】
(Liu et al., Appl. Microbiol. Biotechnol 97 (2013), 3409-3417)を、天然に触媒する。
【0033】
この酵素は、例えば、ピクロフィルス・トリダス(Picrophilus torridus)および大腸菌(E.coli)で同定されている。原理的に、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒し得る限り、任意の2-デヒドロ-3-デオキシ-D-グルコン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.51)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のyagE遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P75682)が使用される。
【0034】
好ましい一実施形態では、そのような酵素は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するか、または配列番号2と少なくともx%相同であって、xが60と100との間の整数、好ましくは65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99である2-デヒドロ-3-デオキシ-D-グルコン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.51)の活性を有するアミノ酸配列を示し、ここでそのような酵素は、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒することができる。
【0035】
好ましくは、同一性の程度は、それぞれの配列を配列番号2のアミノ酸配列と比較することによって決定される。配列同一性の程度の決定に関しては、上述したものと同じことが適用される。
【0036】
EC4.1.2.28(2-デヒドロ-3-デオキシ-D-ペントン酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼは、反応
【0037】
【化4】
を、天然に触媒する(Liu et al., Appl. Microbiol. Biotechnol 97 (2013), 3409-3417)。
【0038】
この酵素は、例えば、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)(Dahms, A.S.; Biochem. Biophys. Res. Commun. 60, 1433-1439 (1974))および大腸菌(E.coli)で同定されている(Uniprot受託番号:P39359)。原理的に、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒し得る限り、任意の2-デヒドロ-3-デオキシ-D-ペントン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.28)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のyjhH遺伝子によってコードされる酵素(Liu et al., 上記引用文中;Uniprot受託番号P39359)が使用される。
【0039】
好ましい一実施形態では、そのような酵素は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するか、または配列番号3と少なくともx%相同であって、xが60と100との間の整数、好ましくは65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99である2-デヒドロ-3-デオキシ-D-ペントン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.28)の活性を有するアミノ酸配列を示し、ここでそのような酵素は、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒することができる。
【0040】
好ましくは、同一性の程度は、それぞれの配列を配列番号3のアミノ酸配列と比較することによって決定される。配列同一性の程度の決定に関しては、上述したものと同じことが適用される。
【0041】
EC4.1.2.20(2-デヒドロ-3-デオキシグルカル酸アルドラーゼ)に分類されるアルドラーゼは、反応
【0042】
【化5】
を、例えば、Hubbard et al., Biochemistry 37 (1998), 14369-14375に記載されているように、天然に触媒する。
【0043】
この酵素はいくつかの生物、例えば、クレブシエラ・エロゲネス(Klebsiella aerogenes)、レプトスピラ・インターロガンス(Leptospira interrogans)、ピクロフィルス・トリダス(Picrophilus torridus)、大腸菌(E.coli)で同定されている(Uniprot受託番号:P23522)。原理的に、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒し得る限り、任意の2-デヒドロ-3-デオキシグルカル酸アルドラーゼ(EC4.1.2.20)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のgarL遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号:P23522)が使用される。
【0044】
好ましい一実施形態では、そのような酵素は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するか、または配列番号4と少なくともx%相同であって、xが60と100との間の整数、好ましくは65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99である2-デヒドロ-3-デオキシグルカル酸アルドラーゼ(EC4.1.2.20)の活性を有するアミノ酸配列を示し、ここでそのような酵素は、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合を触媒し得る。
【0045】
好ましくは、同一性の程度は、それぞれの配列を配列番号4のアミノ酸配列と比較することによって決定される。配列同一性の程度の決定に関しては、上述したものと同じことが適用される。
【0046】
方法のステップ2:4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)からホモセリンへの変換
本発明の方法/経路によれば、ステップ(2)において、ステップ(1)で生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)は、アミノ化反応によってホモセリンにさらに酵素的に変換される。
【0047】
自然界では、3種類の酵素ファミリーがアミノ酸を対応するα-ケト酸に変換し得ることが知られており(または可逆反応)、これはすなわち、(1)アミノ酸トランスアミナーゼ(アミノトランスフェラーゼ)、(2)アミノ酸デヒドロゲナーゼ、および(3)アミノ酸デアミナーゼ(オキシダーゼ)である。本発明の方法には、原理的に、これらの群のうちの任意の1つからの酵素を、HOBからホモセリンへの変換を触媒するために使用することができる。基本的に、すべての微生物を含むすべての生物は上記の3群の酵素を発現することから、本発明の方法は、生物においてインビボで実行される場合、HOBからホモセリンへの変換を達成するために、上記3群のいずれかの内因性に生じる酵素活性に依拠することができる。
【0048】
アミノ化は、好ましくは、アミノトランスフェラーゼ酵素またはアミノ酸デヒドロゲナーゼ酵素によって達成され得る。好ましい一実施形態では、アミノ化は、EC2.6.1._に分類されるアミノトランスフェラーゼ、またはEC1.4.1._に分類されるアミノ酸デヒドロゲナーゼを利用することによって達成される。特に、文献ではこの反応(大部分の報告では逆方向)は、多数のアミノトランスフェラーゼ(例えば、Bouzon et al., ACS Synth. Biol. 6 (2017), 1520-1533; Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711; Walther et al., Metab. Eng. 45 (2018), 237-245; Zhong et al., ACS Synthetic Biology 8 (2019), 587-595)、さらにはアミノ酸デヒドロゲナーゼ、例えば、(操作された)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Chen et al., Biotechnol. J. 10 (2015), 284-289)によって支えられることが報告されている。
【0049】
HOBからホモセリンへの変換を実施するための、EC2.6.1._に分類されるアミノトランスフェラーゼの使用は、文献、例えば、Bouzon et al. (ACS Synth. Biol. 6 (2017), 1520-1533)にすでに記載されている。
【0050】
本発明の方法/経路の文脈において特に有用であり得る、EC2.6.1._に分類されるアミノトランスフェラーゼの例は、
(i)EC2.6.1.2(グルタミン酸ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ;アラニントランスアミナーゼとも称される)に分類されるアミノトランスフェラーゼ;
(ii)EC2.6.1.1(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;アスパラギン酸トランスアミナーゼとも称される)に分類されるアミノトランスフェラーゼ;
(iii)EC2.6.1.42(分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)に分類されるアミノトランスフェラーゼ
から選択されるアミノトランスフェラーゼである。
【0051】
EC2.6.1.2(グルタミン酸ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ;アラニントランスアミナーゼとも称される)に分類されるアミノトランスフェラーゼは、反応
【0052】
【0053】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、動物、植物、真菌および細菌を含む、多種多様な生物に存在する。原理的に、HOBをホモセリンに変換し得る限り、任意のグルタミン酸-ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.2)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のalaC遺伝子およびalaA遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P77434およびP0A959)が使用される。Bouzon et al. (ACS Synth. Biol. 6 (2017), 1520-1533)は、L-ホモセリンおよび2-オキソグルタル酸のHOBおよびL-グルタミン酸への可逆的変換のためのグルタミン酸-ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.2)の使用を既に記載している。Bouzon et al. (ACS Synth. Biol. 6 (2017), 1520-1533)に使用された大腸菌(E.coli)由来の酵素は、ホモセリンに対する酵素の触媒効率を劇的に増加させる位置142および275の置換、すなわち置換A142PおよびY275Dを示した。したがって、好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)AlaCタンパク質の配列における位置142および/もしくは275の置換、またはこれらの位置に対応する位置での置換、さらにより好ましくは、位置142(または対応する位置)でのAからPへの置換および/もしくは位置275(または対応する位置)でのYからDへの置換を示す、グルタミン酸-ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.2)が使用される。
【0054】
EC2.6.1.1(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;アスパラギン酸トランスアミナーゼとも称される)に分類されるアミノトランスフェラーゼは、反応
【0055】
【0056】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、動物、植物、真菌および細菌を含む、多種多様な生物に存在する。原理的に、HOBをホモセリンに変換し得る限り、任意のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.1)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のaspC遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P00509)が使用される。この酵素については、この反応を触媒し得ることが既に報告されている(Walther et al, Metabolic Engin. 45 (2018), 237-245; Zhong et al., ACS Synthetic Biology 8 (2019) 587-595)。
【0057】
EC2.6.1.42に分類されるアミノトランスフェラーゼ(分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)は、反応
【0058】
【0059】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、動物、植物、真菌および細菌を含む、多種多様な生物に存在する。原理的に、HOBをホモセリンに変換し得る限り、任意の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.42)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に大腸菌(E.coli)のilvE遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P0AB80)が使用される。この酵素については、この反応を触媒し得ることが既に報告されている(Walther et al, Metabolic Engin. 45 (2018), 237-245)。
【0060】
HOBからホモセリンへの変換を実施するための、EC1.4.1に分類されるアミノ酸デヒドロゲナーゼの使用は、文献、例えば、Chen et al. (Biotechnol. J. 10 (2015), 284-289)に既に記載されている。本発明の方法/経路の文脈において特に有用であり得る、EC1.4.1._に分類されるアミノ酸デヒドロゲナーゼの例は、EC1.4.1.4(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+))に分類されるアミノ酸デヒドロゲナーゼである。
【0061】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+)(EC1.4.1.4)は、反応
【0062】
【0063】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、動物、植物、真菌および細菌を含む、多種多様な生物に存在する。原理的に、HOBをホモセリンに変換し得る限り、任意のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+)(EC1.4.1.4)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のgdhA遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P00370)が使用される。
【0064】
Chen et al. (Biotechnol. J. 10 (2015), 284-289)に報告されているように、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+)(EC1.4.1.4)は、基質としてホモセリンを受容し得るが、活性は低い。しかし、Chen et al. (上記引用文中)は、ホモセリンを基質として使用して強く増大した活性を示す、この酵素の変異体を提供し得ることを示した。したがって、好ましい一実施形態では、ホモセリンを基質として使用することで増大した活性を示すグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+)の変異型(EC1.4.1.4)、特に、Chen et al. (Biotechnol. J. 10 (2015), 284-289)に開示されたような変異型が使用される。
【0065】
方法のステップ3:ホモセリンからトレオニンへの変換
本発明による方法のステップ(3)による、ステップ(2)において生成されたホモセリンからトレオニンへの変換は、当業者に公知の方法によって達成することができる。好ましい一実施形態では、ステップ(2)において生成されたホモセリンからトレオニンへの変換は、
(i)そうして生成されたホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成;および
(ii)そうして生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成
によって起こる。
【0066】
これらは天然の反応である。ステップ(i)の反応、すなわち、ホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成は、EC2.7.1.39(ホモセリンキナーゼ)に分類される酵素によって触媒される。反応は次のスキームに従って進行する:
【0067】
【0068】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、植物、真菌および細菌を含む、多種多様な生物に存在する。原理的に、ホモセリンをo-ホスホホモセリンに変換し得る限り、任意のホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39)を本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のthrB遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P00547)が使用される。
【0069】
ステップ(ii)の反応、すなわち、生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成は、ECEC4.2.3.1(トレオニンシンターゼ)に分類される酵素によって触媒される。反応は次のスキームに従って進行する。
【0070】
【0071】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、植物、真菌および細菌を含む、多種多様な生物に存在する。原理的に、o-ホスホホモセリンをトレオニンに変換し得る限り、任意のトレオニンシンターゼ(EC4.2.3.1)を本発明による方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のthrC遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P00934)が使用される。
【0072】
方法のステップ4:トレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドへの変換
本発明による方法のステップ(4)において、トレオニンはグリシンに変換される。この変換は、様々な方法で達成することができる。
【0073】
一実施形態では、トレオニンはグリシンおよびアセトアルデヒドに変換される。この変換は、例えば、トレオニンアルドラーゼを使用することによって達成し得る。トレオニンアルドラーゼは、トレオニン(またはアロトレオニン)をグリシンおよびアセトアルデヒドに変換する酵素である。好適なトレオニンアルドラーゼの例には、EC4.1.2.5またはEC4.1.2.48に分類されるトレオニンアルドラーゼがある。
【0074】
EC4.1.2.5に分類されるトレオニンアルドラーゼは、真核生物および原核生物、例えば、植物、動物および細菌を含む、多種多様な生物において同定されている。原理的に、EC4.1.2.5に分類される任意のトレオニンアルドラーゼを、トレオニンをグリシンおよびアセトアルデヒドに変換し得る限り、本発明の方法に使用することができる。
【0075】
EC4.1.2.48に分類されるトレオニンアルドラーゼ(低特異性L-トレオニンアルドラーゼとも称される)は、真菌および細菌などの真核生物および原核生物を含む、多種多様な生物において同定されている。原理的に、EC4.1.2.48に分類される任意のトレオニンアルドラーゼを、トレオニンをグリシンおよびアセトアルデヒドに変換し得る限り、本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のltaE遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P75823)が使用される。
【0076】
好ましい一実施形態では、そのような酵素は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するか、または配列番号3と少なくともx%相同であって、xが60と100との間の整数、好ましくは65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99である低特異性L-スレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.48)の活性を有するアミノ酸配列を示し、ここでそのような酵素は、トレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドへの変換を触媒することができる。
【0077】
好ましくは、同一性の程度は、それぞれの配列を配列番号5のアミノ酸配列と比較することによって決定される。配列同一性の程度の決定に関しては、上述したものと同じことが適用される。
【0078】
代替的な一実施形態では、トレオニンはステップ(5)においてグリシンおよびアセチル-CoAに変換され得る。この変換は、例えば、トレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)と2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)との組合せによって達成することができる。
【0079】
トレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)は、次の反応を天然に触媒する:
【0080】
【0081】
EC1.1.1.103に分類されるトレオニンデヒドロゲナーゼは、真核生物および原核生物、例えば、動物および細菌を含む、多種多様な生物において同定されている。原理的に、トレオニンを2-アミノ-3-オキソブタン酸に変換し得る限り、EC1.1.1.103に分類される任意のトレオニンデヒドロゲナーゼを本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のtdh遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P07913)が使用される。
【0082】
2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29;グリシンC-アセチルトランスフェラーゼとも称される)は、次の反応を天然に触媒する:
【0083】
【0084】
この酵素は、真核生物および原核生物、例えば、動物および細菌を含む、多種多様な生物において同定されている。原理的に、2-アミノ-3-オキソブタン酸およびCoAをグリシンおよびアセチル-CoAに変換し得る限り、EC2.3.1.29に分類される任意の2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼを本発明の方法に使用することができる。好ましい一実施形態では、大腸菌(E.coli)由来の酵素、特に、大腸菌(E.coli)のkbl遺伝子によってコードされる酵素(Uniprot受託番号P0AB77)が使用される。
【0085】
[ステップ5]
本発明の方法のステップ(5)によれば、グリシンをホルムアルデヒドと縮合させてセリンを生成する。この縮合反応は、例えば、トレオニンアルドラーゼを利用することによって達成することができる。トレオニンアルドラーゼの定義に関しては、本方法のステップ(4)に関して既に上述したものと同じことが適用される。したがって、好ましい一実施形態では、このステップにおいて使用されるトレオニンアルドラーゼは、EC4.1.2.5またはEC4.1.2.48に分類されるトレオニンアルドラーゼである。好ましい実施形態に関しては、ステップ(4)に関連して上述したものと同じことが適用される。
【0086】
特に好ましい一実施形態では、このステップにおいて使用されるトレオニンアルドラーゼは、EC4.1.2.48に分類されるトレオニンアルドラーゼであり、さらにより好ましくは、latE遺伝子によってコードされる大腸菌(E.coli)由来のトレオニンアルドラーゼ(Uniprot受託番号P75823)である。Contestabile et al (Eur. J. Biochem 268 (2001), 6508-6525)は、トレオニンアルドラーゼが、セリンを生成するように、グリシンとホルムアルデヒドとの縮合を実際に触媒し得ることを報告している。
【0087】
[ステップ6]
本発明の方法のステップ(6)によれば、次いで、ステップ(5)において生成されたセリンをさらに変換してピルビン酸を生成する。この変換を達成するための酵素反応および各々の酵素は当業者に公知である。一実施形態では、セリンからピルビン酸への変換は脱アミノ化反応によって達成される。この反応を触媒する酵素は当業者に公知であり、例えば、セリンデアミナーゼ(EC4.3.1.17;L-セリンアンモニア-リアーゼとも称される)およびトレオニンデアミナーゼ(EC4.3.1.19;トレオニンアンモニア-リアーゼとしても知られる)が含まれる。
【0088】
セリンをピルビン酸に変換する代替的な経路は、アミノトランスフェラーゼ酵素(2.6.1.X)またはアミノ酸デヒドロゲナーゼ酵素(EC1.4.1.X)を介して、セリンをヒドロキシピルビン酸にすることから始まる。次いで、ヒドロキシピルビン酸はヒドロキシピルビン酸レダクターゼ(1.1.1.29または1.1.1.81)によってグリセリン酸に変換され、次いでさらに、グリセリン酸2-キナーゼ(2.7.1.165)によって2-ホスホグリセリン酸に変換される。後者は、グリセリン酸3-キナーゼ(EC2.7.1.31)とホスホグリセリン酸ムターゼ(EC5.4.2.1)の組合せによって置換され得る。次いで、ホスホグリセリン酸はエノラーゼ(EC4.2.1.11)によってホスホエノールピルビン酸に変換することができ、これは次いでピルビン酸キナーゼ(EC2.7.1.40)によってピルビン酸に変換され得る。
【0089】
本発明による方法の縮合ステップ(1)および(5)において使用されるホルムアルデヒドは、当業者に公知の手段および方法によって用意することができる。一実施形態では、ホルムアルデヒドは外部から用意され、すなわち、反応混合物に、または本発明による方法の反応を触媒するのに好適な生物が培養される培地に添加される。
【0090】
別の実施形態では、ホルムアルデヒドはそのものが酵素的変換によって用意される。当業者は、ホルムアルデヒドが酵素的に生成され得る種々の基質を認識している。その例には、例えば、メタノール、ギ酸塩、メタン、ハロゲン化メタンおよびメチルアミン(またはその誘導体)、さらにはメチル化アミノ酸(例えば、サルコシン、ベタインおよびグリシン)がある。
【0091】
好ましい一実施形態では、ホルムアルデヒドは、メタノールのホルムアルデヒドへの酵素的変換によって、好ましくは酸化反応を介して用意される。
【0092】
この文脈において使用し得る酵素の1つのタイプは、EC1.1.1.244として分類されるメタノールデヒドロゲナーゼ(NAD+)である。この酵素は、反応:
【0093】
【0094】
本発明による方法に使用し得るそのようなメタノールデヒドロゲナーゼの一例は、コリネバクテリウム・グルタミクム(C.glutamicum)のadhA遺伝子によってコードされるメタノールデヒドロゲナーゼである。この酵素については、メタノールをホルムアルデヒドに変換し得ることが文献で既に示されている(He et al., ACS Synthetic Biology 7 (2018), 1601-1611)。
【0095】
メタノールからのホルムアルデヒドの生成のために使用し得る別のタイプの酵素は、EC1.1.2.7として分類されるメタノールデヒドロゲナーゼ(シトクロムc;「キノン依存性」とも称される)である。
【0096】
メタノールからのホルムアルデヒドの生成のために使用し得る別のタイプの酵素は、メタノールオキシダーゼ、例えば、EC1.1.3.13に分類されるメタノールオキシダーゼである。
【0097】
上述のように、本発明の方法の縮合ステップ(1)および(5)において使用されるホルムアルデヒドを、メタンから酵素的に生成することによって用意することもできる。これは、例えば、メタンをメタノールに変換することによって達成することができ、このメタノールを続いて、上記のようにホルムアルデヒドに変換することができる。メタンからメタノールへの変換は、例えば、メタンモノオキシゲナーゼ(EC1.14.14.3または1.14.13.25)を利用することによって達成することができる。
【0098】
さらに上述したように、本発明の方法の縮合ステップ(1)および(5)において使用されるホルムアルデヒドを、ハロゲン化メタンから酵素的に生成することによって用意することもできる。これは、例えば、ハロゲン化メタン、例えば、ジクロロメタンをホルムアルデヒドに変換することによって達成することができる。この変換は、例えば、デハロゲナーゼ、好ましくはデハロゲナーゼ(EC4.5.1.3に分類される)を利用することによって達成することができる。
【0099】
ホルムアルデヒドを酵素的に生成させ得る別の基質は、メチルアミン(またはその誘導体)である。メチルアミン(またはその誘導体)は、例えば、酸化によってホルムアルデヒドに変換され得る。これは、例えば、メチルアミンデヒドロゲナーゼ(EC1.4.9.1に分類される)または一級アミンオキシダーゼ(EC1.4.3.21に分類される)を利用することによって達成することができる。
【0100】
さらに、ホルムアルデヒドを、ギ酸塩から出発して酵素的に用意することもできる。例えば、ギ酸塩をアセチル-CoAシンターゼ(ACS)によってホルミルCoAに変換することができ、次いでそれを、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ACDH)を利用することによってホルムアルデヒドにさらに変換し得ることが、Siegel et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 24 (2015), 3704-3709)に記載されている。
【0101】
本発明による方法は、インビトロまたはインビボで実施することができる。インビトロ反応は、細胞を使用しない反応、すなわち、無細胞反応であると理解される。したがって、インビトロは好ましくは無細胞系を意味する。一実施形態における「インビトロ」という用語は、単離された酵素(または場合により必要とされる補因子を任意選択で含む酵素系)の存在下を意味する。一実施形態では、本方法において使用される酵素は、精製された形態で使用される。
【0102】
本方法をインビトロで実施するためには、反応のための基質および酵素を、酵素が活性であって、酵素的変換が起こることを可能にする条件(緩衝液、温度、補助基質、補因子など)の下でインキュベートする。反応を、各々の生成物を生成するのに十分な時間にわたって進行させる。各々の生成物の生成は、当技術分野で公知の方法、例えば、場合によっては質量分析検出と連動するガスクロマトグラフィーによって測定することができる。
【0103】
酵素は、酵素反応が起こることを可能にする任意の好適な形態であり得る。それは、精製されてもよく、部分的に精製されてもよく、または粗細胞抽出物もしくは部分的に精製された抽出物の形態であってもよい。酵素を好適な担体上に固定化することも可能である。
【0104】
別の実施形態では、本発明による方法は、本明細書に上述したような本発明による方法の変換のために上記の酵素を生産する生物、好ましくは微生物の存在下において、培養下で実施される。
【0105】
本発明による方法を実施するために微生物を使用する方法は、「インビボ」法と称される。本発明による方法の変換のために、上記の酵素を天然に生産する微生物、またはそのような酵素のうちの1つまたは複数を発現する(過剰発現を含む)ように遺伝子改変された微生物を使用することが可能である。
【0106】
一実施形態では、本発明の方法に使用される微生物は、本発明の方法のステップ(2)、(3)、(4)および(6)を触媒する酵素を天然に発現し、かつステップ(1)および(5)を触媒する酵素が過剰発現される微生物である。
【0107】
したがって、微生物は、本発明による方法の変換のために上記の酵素の少なくともいくつかを発現する、すなわち、そのゲノム中(またはプラスミド上)に、そのような酵素をコードするヌクレオチド配列を有し、それを過剰発現するように改変されている、操作された微生物であり得る。発現は恒常的に起こってもよく、または誘導性もしくは調節性の様式で起こってもよい。
【0108】
別の実施形態では、微生物は、本発明による方法の変換のために上記の1つまたは複数の酵素をコードするヌクレオチド配列を含有する、1つまたは複数の核酸分子の導入によって遺伝子改変された微生物であり得る。核酸分子は、微生物のゲノム中に安定に組み込まれてもよく、または染色体外様式、例えば、プラスミド上に存在してもよい。
【0109】
そのような遺伝子改変微生物は、例えば、本発明による方法の変換のための上記のすべての酵素を天然には発現せず、そのような酵素を発現するように遺伝子改変された微生物、またはそのような酵素を天然に発現し、かつ遺伝子改変された、例えば、各々の酵素をコードする核酸、例えば、ベクターによって、および/もしくはその酵素をコードする内因性ヌクレオチド配列の前にプロモーターの挿入によって、もしくは前記微生物における各々の活性を増大させるために効率的なリボソーム結合部位の導入によって、形質転換された微生物であり得る。
【0110】
しかし、本発明からは、好ましくは、自然界に存在するレベルで上記のような酵素を発現する、自然界に見出される天然の微生物は除外される。その代わりに、本発明の方法に使用される本発明の微生物は、ゲノム中に天然には存在しない少なくとも1つの外因性核酸分子を発現するように(過剰発現を含む)遺伝子改変されているか否かにかかわらず、天然には存在しない微生物であることが好ましい。
【0111】
一実施形態では、本発明に関連して使用される(微)生物は、好ましくは、天然には存在しない(微)生物であり、すなわち、それは天然に存在する(微)生物とは著しく異なるか、または自然界に存在しない(微)生物である。
【0112】
酵素に関しては、それは天然に存在する酵素であってもよく、または自然界には存在しない、天然に存在する酵素のバリアントであってもよい。そのようなバリアントには、例えば、より高い酵素活性、より高い基質特異性、より高い温度耐性などの改善された特性を示す、特に分子生物学的方法によって調製される変異体が含まれる。(微)生物に関しては、それは好ましくは、遺伝子改変が原因で天然に存在する生物とは異なる、本明細書に記載される遺伝子改変生物である。遺伝子改変生物は、天然には存在せず、すなわち、自然界には存在せず、外来核酸分子の導入が原因で天然に存在する生物とは実質的に異なる生物である。
【0113】
本明細書における上記のような外因性または内因性酵素を過剰発現させることによって、酵素の濃度は、自然界に見出されるものよりも実質的に高くなる。そのような過剰発現は、対応する遺伝子改変微生物における代謝のフラックスをある特定の方向に導くことができる。そのような過剰発現はまた、各々の酵素について非天然の基質を使用する本発明の方法の反応をある特定の方向に強制することができる。好ましくは、「過剰発現される」という用語は、対応する酵素の活性が、前記酵素を発現する遺伝子改変微生物において、対応する非遺伝子改変微生物における活性よりも少なくとも5%、10%、20%、30%または40%高いことを意味する。
【0114】
本発明の方法のステップのいくつか(例えば、ステップ(1)、(2)および(5))は、各々の酵素によってそれらの「天然」反応に従っては触媒されないと理解されている変換に依拠する。このことは、酵素が異なる反応を天然に触媒し、特に異なる基質を使用することが知られていることを意味する。本発明は、ある特定の酵素は、「非天然」基質を使用して各々の変換を触媒することもできることが見出されたという事実を利用している。ある酵素が「非天然」基質を使用する能力は、「プロミスキャスな」活性とも称される。「非天然」基質は、たとえそれが微生物内に内因性酵素と共に実際に共存していたとしても、自然界において各々の酵素による作用を受けない(またはわずかな度合いでしか受けない)分子であると理解される。他の基質(例えば、「天然基質」)が選好されるため、この「非天然」基質は、自然界にある微生物によっては変換されない(またはわずかな度合いでしか変換されない)。したがって、本発明は、非天然基質を受容することができる酵素をある特定のステップに利用することを想定している。
【0115】
本発明の文脈において、微生物は、本発明の方法によって要求される酵素活性のうちの1つまたは複数を天然には有しないが、対応する酵素の発現を可能にするヌクレオチド配列を含むように遺伝子改変された微生物であることも可能である。同様に、微生物は、各々の酵素活性を天然に有するが、例えば、対応する酵素をコードする外因性ヌクレオチド配列の導入によって、または内因性生産を過剰発現(非天然)レベルに増加させるための酵素をコードする内因性遺伝子のプロモーターの導入によって、そのような活性を増強するように遺伝子改変された微生物であってもよい。
【0116】
対応する酵素を天然に発現する微生物を使用する場合には、その微生物において各々の活性が過剰発現するように微生物を改変することが可能である。これは例えば、対応する遺伝子のプロモーター領域に変異を生じさせるか、または遺伝子のより高度の発現を確実にするプロモーターをもたらすために高発現プロモーターの導入を行うことによって達成することができる。または、より高い活性を示す酵素にもたらすために遺伝子を変異させることも可能である。
【0117】
本発明の方法の変換のために上記の酵素を発現する微生物を使用することによって、酵素を分離することも精製することも必要なく、培地中で本発明の方法を直接実施することが可能である。
【0118】
一実施形態では、本発明による方法に使用される微生物は、本発明による方法の変換のために上記の少なくとも1つの酵素をコードする外来性核酸分子を含有するように遺伝子改変された微生物である。
【0119】
一実施形態では、微生物は、本発明による方法のステップ(1)の変換を触媒し得る酵素をコードする外来性核酸分子を含有するように遺伝子改変されている。
【0120】
一実施形態では、微生物は、本発明による方法のステップ(1)の変換を触媒し得る酵素をコードする外来性核酸分子を含有するように遺伝子改変されており、かつ本発明による方法のステップ(5)の変換を触媒し得る酵素をコードする外来性核酸分子を含有するように遺伝子改変されている。
【0121】
この文脈において、「外来性」または「外因性」という用語は、核酸分子が前記微生物中に天然には存在しないことを意味する。これは、核酸分子が微生物において同じ構造でも同じ場所にも存在しないことを意味する。好ましい一実施形態では、外来性核酸分子は、プロモーターと各々の酵素をコードするコード配列とを含み、コード配列の発現を作動させるプロモーターがコード配列に関して異種性である組換え分子である。この文脈において「異種性の」は、プロモーターが、前記コード配列の発現を天然に作動させるプロモーターではなく、異なるコード配列の発現を天然に作動させるプロモーターであること、すなわち、それが別の遺伝子に由来するか、または合成プロモーターもしくはキメラプロモーターであることを意味する。好ましくは、プロモーターは、微生物に対して異種性のプロモーター、すなわち、各々の微生物に天然には存在しないプロモーターである。さらにより好ましくは、プロモーターは誘導性プロモーターである。異なるタイプの生物、特に微生物における発現を作動させるためのプロモーターは、当業者に周知である。
【0122】
さらなる一実施形態では、核酸分子は、コードされる酵素が微生物に対して内因性でない、すなわち、それが遺伝子改変されていない場合には微生物によって天然に発現されないという点で、微生物に対して外来性である。換言すれば、コードされる酵素は、微生物に関して異種性である。外来性核酸分子は、染色体外形態で、例えば、プラスミドとして微生物中に存在してもよく、または染色体に安定に組み込まれてもよい。安定な組込みが好ましい。したがって、遺伝子改変は、例えば、酵素をコードする対応する遺伝子を染色体に組み込むこと、または酵素をコードする配列の上流にプロモーターを含有するプラスミドから酵素を発現させることであって、プロモーターおよびコード配列が好ましくは異なる生物に由来すること、または当業者に公知の任意の他の方法にあってもよい。
【0123】
本発明の文脈において「微生物」という用語は、細菌、さらには真菌、例えば、酵母を指し、また、藻類および古細菌も指す。好ましい一実施形態では、微生物は細菌である。原理的に、任意の細菌を使用することができる。本発明によるプロセスに使用される好ましい細菌は、バチルス属(Bacillus)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ザイモモナス属(Zymomonas)または大腸菌属(Escherichia)の細菌である。特に好ましい一実施形態では、細菌は大腸菌属(Escherichia)に属し、さらにより好ましくは大腸菌(Escherichia coli)の種に属する。別の好ましい実施形態では、細菌はプチダ菌(Pseudomonas putida)の種、またはザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)の種、またはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)の種、または枯草菌(Bacillus subtilis)の種に属する。
【0124】
また、好極限性細菌、例えば、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、またはクロストリジウム科(Clostridiae)の嫌気性細菌を使用することも可能である。
【0125】
別の好ましい実施形態では、微生物は、真菌、より好ましくは、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)またはピキア属(Pichia)、さらにより好ましくは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、クリベロマイセス・マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・トルラ(Pichia torula)またはピキア・ウチリス(Pichia utilis)の種の真菌である。
【0126】
別の実施形態では、本発明による方法は、上記のような本発明による変換のための少なくとも1つの酵素を発現する光合成微生物を利用する。好ましくは、微生物は、光合成細菌、または微細藻類である。さらなる一実施形態では、微生物は藻類、より好ましくは珪藻類に属する藻類である。
【0127】
別の実施形態では、本発明による方法は、メタノールを代謝することができる微生物、例えば、メタン資化性細菌、メチロトローフ細菌、メタン資化性酵母またはメチロトローフ酵母を利用する。
【0128】
別の実施形態では、微生物は、C1固定微生物、好ましくは組換えC1固定微生物である。C1固定微生物の性質は、それが一酸化炭素(CO)、およびCOを含むガス状基質、例えば、シンガスを炭素源およびエネルギー源として使用し得る微生物であれば特に限定されない。シンガスまたは合成ガスは、COおよびCO2、さらにH2の混合物である。対応する天然に存在する(または遺伝子改変された)微生物は、COを利用して、それをアセチル-CoAに変換することができ、当技術分野で公知である。これらの微生物はしばしば、酢酸生成微生物(カルボキシドトロフィック酢酸生成微生物とも称される)と称される。これらの微生物は、ウッド・リュンガル(Wood-Ljungdahl)経路を使用してCOを固定し、それをアセチル-CoAに変換する。そのような微生物の例は、クロストリジウム(Clostridiae)科に属し、例えば、国際公開第2009/094485号パンフレット;国際公開第2012/05905号パンフレット;国際公開第2013/180584号パンフレット;米国特許出願公開第2011/0236941号明細書;PNAS 107(29):13087-13092 (2010); Current Opinion in Biotechnology 23:364-381 (2012); Applied and Environmental Microbiology 77(15):5467-5475 (2011)に記載されている。
【0129】
ある特定の実施形態では、C1固定微生物は、カルボキシドトロフィック酢酸生成細菌の群から選択される。好ましい一実施形態では、微生物は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・リュングデール(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・ラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)、クロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxydivorans)、クロストリジウム・ドラケイ(Clostridium drakei)、クロストリジウム・スカトロゲネス(Clostridium scatologenes)、クロストリジウム・アセチカム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・ホルミコアセチカム(Clostridium formicoaceticum)、クロストリジウム・マグナム(Clostridium magnum)、ブチリバクテリウム・メチロトロフィカム(Butyribacterium methylotrophicum)、アセトバクテリウム・ウーディ(Acetobacterium woodii)、アルカリバクルム・バッキ(Alkalibaculum bacchii)、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)、ユーバクテリウム・リモスム(Eubacterium limosum)、モレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、モレラ・サーモオートロフィカ(Moorella thermautotrophica)、スポロミュサ・オバタ(Sporomusa ovata)、スポロミュサ・シルバセティカ(Sporomusa silvacetica)、スポロミュサ・スフェロイデス(Sporomusasphaeroides)、オキソバクター・フェニギイ(Oxobacter pfennigii)、およびサーモアナエロバクター・キウビ(Thermoanaerobacter kiuvi)を含む群から選択される。
【0130】
微生物において実行された場合の「ホモセリンサイクル」を通してのフラックスを改善するために、各々の微生物において内因性に生じ得る、ある特定の酵素活性を不活性化することが有利なことがある。
【0131】
したがって、一実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、ホルムアルデヒド解毒系をコードするオペロンを内因性に含有し、このオペロンが欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、ホルムアルデヒド解毒(frmRAB)オペロン(Chen et al., Metabol. Engineering 49 (2018), 257-266)が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。この系はグルタチオン依存性ホルムアルデヒド酸化系とも称される。このオペロンの不活性化または欠失は、ホルムアルデヒドが除去されずに、細胞増殖には利用できることを確実にする。特に、このオペロンの不活性化は、ホルムアルデヒドの細胞内プールの枯渇を招き得る、ホルムアルデヒドのギ酸への酸化を回避するはずである。
【0132】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、ピルビン酸からアスパラギン酸セミアルデヒドへの変換を触媒する酵素活性をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、前記遺伝子は、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC1.2.1.11)をコードする遺伝子である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするasd遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0133】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.95)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするserA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0134】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(EC2.1.2.1)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失または不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするglyA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0135】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、グリシン開裂系(GCS)をコードするオペロンを内因性に含有し、このオペロンが欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、グリシン開裂系(gcvTHP)オペロンが欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。大腸菌(E.coli)のGCSオペロンは、3つの酵素、すなわち、GcvT、GcvH、GcvPをコードしており、オペロン全体を不活性化することも、3つの遺伝子のうちの1つまたは複数を不活性化することも可能である。
【0136】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、二機能性アスパルトキナーゼ/ホモセリンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.3)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするthrA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0137】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、L-トレオニン3-デヒドロゲナーゼデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするtdh遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0138】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失または不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするkbl遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0139】
別の実施形態では、本発明の方法が実行される微生物は、乳酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.28)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするldhA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0140】
別の実施形態では、微生物は、上記の遺伝子欠失の任意の可能な組合せを示す。
【0141】
また、本発明の方法では、上記のように異なる微生物が異なる酵素を発現する、微生物の組合せを使用することも考えられる。目的の酵素を発現する微生物の遺伝子改変についても、以下にさらに詳細に説明する。
【0142】
別の実施形態では、本発明の方法は、生物、好ましくは各々の酵素活性または活性を保有する微生物を、(細胞)培養物の形態で、好ましくは液体細胞培養物の形態で用意するステップと、生物、好ましくは微生物を、各々の酵素の発現を可能にする好適な条件下で発酵槽(しばしばバイオリアクターとも称される)において培養する次のステップとを含み、さらに、本明細書において上述した本発明の方法の酵素的変換を行うステップを含む。好適な発酵槽またはバイオリアクター装置および発酵条件は、当業者に公知である。バイオリアクターまたは発酵槽は、生物学的に活性な環境を支える、当業者に公知の任意の製造または設計された装置またはシステムを指す。したがって、バイオリアクターまたは発酵槽は、生物、好ましくは微生物および/または生化学的活性物質、すなわち、そのような生物または上記の酵素を持つ生物に由来する上記の酵素を含む、本発明の方法のような化学/生化学が実施される容器であってもよい。バイオリアクターまたは発酵槽において、このプロセスは好気性または嫌気性のいずれでもあり得る。これらのバイオリアクターは、一般に円筒形であり、リットルから立方メートルの大きさの範囲であってよく、しばしばステンレス鋼で作られる。この点に関して、理論には拘束されないが、発酵槽またはバイオリアクターは、生物、好ましくは微生物を、例えば、いずれも当技術分野で一般に公知であるバッチ培養、フェドバッチ培養、灌流培養または恒温培養において培養するのに好適な方法で設計することができる。
【0143】
培地は、各々の生物または微生物を培養するのに好適な任意の培地であり得る。
【0144】
微生物を利用して実施する場合、本発明による方法は、例えば、連続発酵培養法、バッチ培養法、または当業者に公知の任意の好適な培養法として設計することができる。
【0145】
本発明による方法に使用される酵素は、天然に存在する酵素であってもよく、または、例えば、酵素活性、安定性などを変更または改善する変異または他の変更の導入による、天然に存在する酵素に由来する酵素であってもよい。
【0146】
タンパク質の所望の酵素活性を改変および/または改善するための方法は当業者に周知であり、これには例えば、ランダム変異誘発または部位特異的変異誘発、およびそれに続く所望の特性を有する酵素の選択、またはいわゆる「定向進化」のアプローチが含まれる。
【0147】
例えば、原核細胞における遺伝子改変のために、対応する酵素をコードする核酸分子を、DNA配列の組換えによる変異誘発または配列改変を可能にするプラスミドに導入することができる。標準的な方法(Sambrook and Russell (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press, Cold Spring Harbor, NY, USAを参照)により、塩基交換を行うこと、または天然もしくは合成の塩基配列を付加することが可能になる。DNA断片に相補的なアダプターおよびリンカーを使用することによって、DNA断片をライゲートすることができる。さらに、好適な制限部位を用意するか、または過剰なDNAもしくは制限部位を除去するために工学的手段を使用することができる。挿入、欠失または置換が可能な場合には、インビトロ変異誘発、「プライマー修復」、制限またはライゲーションを使用し得る。一般に、配列分析、制限解析、ならびに生化学および分子生物学の他の方法が、分析方法として実施される。次いで、結果として得られた酵素バリアントを、上記のアッセイを用いて、所望の活性、例えば、酵素活性に関して、特にそれらの増大した酵素活性に関して試験する。
【0148】
上記のように、本発明の方法に使用される微生物は、対応する酵素をコードする核酸分子の導入によって遺伝子改変された微生物であってもよい。好ましくは、微生物は、以下に記載される本発明による微生物である。したがって、好ましい一実施形態では、微生物は、本発明による方法の変換のために、上記の少なくとも1つの酵素の活性が増大するように遺伝子改変された組換え微生物である。これは、例えば、対応する酵素をコードする核酸を用いて微生物を形質転換することによって達成することができる。好ましくは、微生物に導入される核酸分子は、微生物に対して異種性である核酸であり、すなわち、前記微生物中に天然には存在しない。
【0149】
本発明の文脈において、「増大した活性」は、遺伝子改変微生物における酵素の発現および/または活性が、対応する非改変微生物におけるよりも少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%または50%、さらにより好ましくは少なくとも70%または80%、特に好ましくは少なくとも90%または100%高いことを意味する。さらにより好ましい一実施形態では、発現および/または活性の増大は、少なくとも150%、少なくとも200%または少なくとも500%であり得る。特に好ましい一実施形態では、発現は、対応する非改変微生物におけるよりも少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも100倍、さらにより好ましくは少なくとも1000倍の高さである。
【0150】
「増大した」発現/活性という用語は、対応する非改変微生物が対応する酵素を発現せず、そのため非改変微生物における対応する発現/活性がゼロである状況も範囲に含む。好ましくは、過剰発現された酵素の濃度は、宿主細胞の総タンパク質の少なくとも5%、10%、20%、30%、または40%である。
【0151】
細胞内の所定のタンパク質の発現レベルを測定するための方法は、当業者に周知である。一実施形態では、発現レベルの測定は、対応するタンパク質の量を測定することによって行われる。対応する方法は当業者に周知であり、ウエスタンブロット、ELISAなどが含まれる。別の実施形態では、発現レベルの測定は、対応するRNAの量を測定することによって行われる。対応する方法は当業者に周知であり、例えば、ノーザンブロットを含む。
【0152】
本発明において、「組換え型」という用語は、微生物が、野生型または非改変微生物と比較して、上記に定義される酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されていることを意味する。上記に定義される酵素をコードする核酸分子は、単独でまたはベクターの一部として使用することができる。
【0153】
核酸分子は、核酸分子に含まれるポリヌクレオチドに作動可能に連結された発現制御配列をさらに含むことができる。本明細書の全体にわたって使用される「作動可能に連結された(operatively linked)」または「作動可能に連結された(operably linked)」という用語は、1つまたは複数の発現制御配列と、発現制御配列と適合する条件下で発現が達成されるような方法で発現されるポリヌクレオチド中のコード領域との間の連結を指す。
【0154】
発現は、異種DNA配列の、好ましくは翻訳可能なmRNAへの転写を含む。真菌および細菌における発現を確実に行わせる調節エレメントは、当業者に周知である。それらは、プロモーター、エンハンサー、終結シグナル、標的化シグナルなどを範囲に含む。ベクターに関する説明に関連して、以下にさらに例を示す。
【0155】
核酸分子に関連して使用するためのプロモーターは、その起源および/または発現させる遺伝子に関して相同または異種であり得る。好適なプロモーターは、例えば、恒常的発現を与えるプロモーターである。しかし、外部影響によって決定される時点でのみ活性化されるプロモーターを使用することもできる。人工的および/または化学的に誘導可能なプロモーターがこの文脈では使用され得る。
【0156】
ベクターは、ベクターに含まれる前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結された発現制御配列をさらに含むことができる。これらの発現制御配列は、細菌または真菌における翻訳可能なRNAの転写および合成を確実にするのに適し得る。
【0157】
加えて、分子生物学において通常の方法(例えば、Sambrook and Russell (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press, Cold Spring Harbor, NY, USAを参照)によってポリヌクレオチドに異なる変異を挿入して、改変された生物学的特性を有する可能性のあるポリペプチドの合成をもたらすことが可能である。点変異の導入は、例えば、アミノ酸配列の改変が、ポリペプチドの生物学的活性または調節に影響を及ぼす位置で考えられる。
【0158】
さらに、改変された基質特異性または生成物特異性を有する変異体を調製することができる。好ましくは、そのような変異体は活性の増大を示す。あるいは、基質結合活性を失うことなく、その触媒活性が消失した変異体を調製することができる。
【0159】
さらに、上記に定義される酵素をコードするポリヌクレオチドに変異を導入することにより、前記ポリヌクレオチドによってコードされる酵素の遺伝子発現速度および/または活性を低下または増大させることが可能である。
【0160】
細菌または真菌の遺伝子改変を行うために、上記に定義される酵素またはこれらの分子の一部をコードするポリヌクレオチドを、DNA配列の組換えによる変異誘発または配列改変を可能にするプラスミドに導入することができる。標準的な方法(Sambrook and Russell (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press, Cold Spring Harbor, NY, USAを参照)により、塩基交換を行うこと、または天然もしくは合成の塩基配列を付加することが可能になる。DNA断片にアダプターおよびリンカーを適用することによって、DNA断片を互いに接続することができる。さらに、好適な制限部位を用意するか、または過剰なDNAもしくは制限部位を除去するために工学的手段を使用することができる。挿入、欠失または置換が可能な場合には、インビトロ変異誘発、「プライマー修復」、制限またはライゲーションを使用し得る。一般に、配列分析、制限解析、ならびに生化学および分子生物学の他の方法が、分析方法として実施される。
【0161】
したがって、本発明によれば、上記のポリヌクレオチド、核酸分子またはベクターを真菌または細菌に導入することを含む、真菌または細菌を遺伝子改変することによって、組換え微生物を作製することができる。
【0162】
各々の酵素をコードするポリヌクレオチドを、上記の活性のいずれかを有するポリペプチドを産生するように発現させる。様々な発現系の概要は、例えば、Methods in Enzymology 153 (1987), 385-516, in Bitter et al. (Methods in Enzymology 153 (1987), 516-544) and in Sawers et al. (Applied Microbiology and Biotechnology 46 (1996), 1-9), Billman-Jacobe (Current Opinion in Biotechnology 7 (1996), 500-4), Hockney (Trends in Biotechnology 12 (1994), 456-463), Griffiths et al., (Methods in Molecular Biology 75 (1997), 427-440)に含まれる。酵母発現系の概要は、例えば、Hensing et al. (Antonie van Leuwenhoek 67 (1995), 261-279), Bussineau et al. (Developments in Biological Standardization 83 (1994), 13-19), Gellissen et al. (Antonie van Leuwenhoek 62 (1992), 79-93, Fleer (Current Opinion in Biotechnology 3 (1992), 486-496), Vedvick (Current Opinion in Biotechnology 2 (1991), 742-745) and Buckholz (Bio/Technology 9 (1991), 1067-1072)によって与えられる。
【0163】
発現ベクターは文献に広く記載されている。一般に、それらは選択マーカー遺伝子および選択された宿主における複製を確実にする複製起点を含有するだけでなく、細菌またはウイルスのプロモーター、およびほとんどの場合、転写の終結シグナルも含有する。プロモーターと終結シグナルとの間には、一般に、コードDNA配列の挿入を可能にする少なくとも1つの制限部位またはポリリンカーが存在する。対応する遺伝子の転写を天然に制御するDNA配列は、選択された宿主生物において活性であれば、プロモーター配列として使用し得る。しかし、この配列を他のプロモーター配列と交換することもできる。遺伝子の恒常的発現を確実にするプロモーターおよび遺伝子の発現の意図的制御を可能にする誘導性プロモーターを使用することが可能である。これらの特性を有する細菌性およびウイルス性プロモーター配列は文献に詳細に記載されている。微生物(例えば、大腸菌(E.coli)、出芽酵母(S.cerevisiae))における発現のための調節配列は文献に十分に記載されている。下流配列の特に高度の発現を可能にするプロモーターは、例えば、T7プロモーター(Studier et al., Methods in Enzymology 185 (1990), 60-89)、lacUV5、trp、trp-lacUV5(DeBoer et al., in Rodriguez and Chamberlin (Eds), Promoters, Structure and Function; Praeger, New York, (1982), 462-481; DeBoer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983), 21-25)、lp1、rac(Boros et al., Gene 42 (1986), 97-100)である。ポリペプチドの合成のためには、好ましくは誘導性プロモーターが使用される。これらのプロモーターはしばしば、恒常的プロモーターよりも高いポリペプチド収率をもたらす。最適量のポリペプチドを得るために、2段階プロセスがしばしば使用される。まず、宿主細胞を最適な条件下で比較的高い細胞密度まで培養する。第2のステップでは、使用されるプロモーターの種類に応じて転写が誘導される。この点に関して、ラクトースまたはIPTG(=イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)によって誘導され得るtacプロモーターが特に好適である(deBoer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80 (1983), 21-25)。転写の終結シグナルも文献に記載されている。
【0164】
上記のようなポリヌクレオチドまたはベクターによる宿主細胞の形質転換は、例えば、Sambrook and Russell (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press, Cold Spring Harbor, NY, USA; Methods in Yeast Genetics, A Laboratory Course Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1990に記載されている標準的な方法によって実施することができる。宿主細胞を、特にpH値、温度、塩濃度、通気、抗生物質、ビタミン、微量元素などに関して、使用される特定の宿主細胞の要件を満たす栄養培地中で培養する。
【0165】
本発明はさらに、以下の反応:
(1)EC4.1.2._に分類されるアルドラーゼによる、ピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;
(2)EC2.6.1._に分類されるアミノトランスフェラーゼ酵素による、またはアミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.4.1._)による、そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;
(3)ホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39)による、そうして生成されたホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成;
(4)トレオニンシンターゼ(EC4.2.3.1)による、そうして生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成;
(5)トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)による、またはトレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)と2-アミノ-3-ケチ酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)との組合せによる、そうして生成されたトレオニンからグリシンへの変換;
(6)トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)による、そうして生成されたグリシンとホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに
(7)セリンデアミナーゼ(EC4.3.1.17)またはトレオニンデアミナーゼ(EC4.3.1.19)による、そうして生成されたセリンの脱アミノ化によるピルビン酸の生成であって、前記ピルビン酸をステップ(1)において基質として使用することができる、生成
を触媒する酵素を発現する組換え微生物に関し、ここで前記微生物は、アルドラーゼ触媒ステップ(1)をコードする少なくとも1つの異種核酸分子を含有し、かつステップ(6)を触媒する酵素、すなわち、グリシンとホルムアルデヒドの縮合によりセリンを生成する酵素を過剰発現する。
【0166】
好ましい一実施形態では、微生物は、ステップ(3)、ステップ(4)またはステップ(5)を触媒する酵素の少なくとも1つをさらに過剰発現する。
【0167】
上記の項目(1)~(7)において言及される酵素およびその好ましい態様、ならびに微生物の好ましい態様については、本発明による方法に関して上述したものと同じことが適用される。
【0168】
本発明の微生物は、上記の項目(1)~(7)に挙げた酵素活性のすべてに関して組換え型である微生物であってもよく、ここで「組換え型」という用語は、微生物が各々の酵素をコードする異種核酸分子によって形質転換されていることを意味する。これらの異種核酸分子は、微生物のゲノムに組み込まれてもよく、または染色体外エレメントとして存在してもよい。染色体位置が好ましい。したがって、そのような場合、「ホモセリンサイクル」は、必要な酵素活性のすべてについて、それらをコードする対応する核酸分子を導入することによって、各々の微生物において確立される。核酸分子によってコードされる酵素は、微生物に内因性に存在するが、異種プロモーターおよび/またはリボソーム結合部位などの異種調節領域の使用が原因で過剰発現される酵素であってもよい。あるいは、酵素は、各々の微生物に天然には存在しない酵素であってもよい。
【0169】
しかし、本出願に記載される「ホモセリンサイクル」は、それが、多種多様な微生物において内因的に発現され、特にサイクルを通して代謝フラックスを支えることができるレベルまで発現される酵素活性に部分的に依拠しているという利点を示す。したがって、本発明による微生物は、上記の項目(1)~(7)の酵素活性のうちの1つまたは複数が内因性に存在する微生物であってもよい。しかし、そのような場合には、項目(1)の酵素活性をそのような生物に組換えにより導入し、それがそのような微生物に既に内因性に存在する場合には、それを過剰発現させる。さらに、項目(2)~(7)に挙げられた内因性に存在する酵素活性のうちの1つまたは複数が、対応する微生物において過剰発現していることが好ましい。「過剰発現」という用語は、各々の酵素の酵素活性が、微生物において、親株と比較して、特に、内因性に存在する遺伝子の発現レベルと比較して、好ましくは少なくとも5%、10%、20%、30%、または少なくとも40%増大することを意味する。そのような増大は、対応する遺伝子の発現の増大に起因してもよい。そのような発現の増大は、例えば、各々の遺伝子のコード配列を、異種プロモーター、特に遺伝子のより高度の発現を確実にする異種プロモーターの制御下に配置することによって達成することができる。あるいは、遺伝子の内因性プロモーターを、遺伝子のより高度の発現を導くように変異させることもできる。そのようなプロモーターの置き換えまたは変異は、微生物の染色体上に位置する内因性遺伝子に生じさせることができ、またはより強力なプロモーターを有する対応する改変された遺伝子をプラスミド上に配置することもできる。アルドラーゼ遺伝子の過剰発現を可能にするために使用し得る強力なプロモーターの例は、恒常的な強力なプロモーターpgi-20(Braatsch et al., Biotechniques 45 (2008), 335-337)である。
【0170】
加えて、発現の増大を可能にするために、効率的なリボソーム結合部位を使用することも有利であり得る。この点に関して、「異種性」という用語は、その天然のリボソーム結合部位とは異なるリボソーム結合部位を含むように各々の遺伝子が改変されており、その遺伝子の発現(翻訳)の増大を可能にする状況も含む。好適な結合部位の一例は、リボソーム結合部位「C」(AAGTTAAGAGGCAAGA)(Zelcbuch et al., Nucleic Acids Res. 41 (2013), e98)である。
【0171】
増大した酵素活性を得るための別の可能性は、変異していない酵素と比較して各々の反応に対して増大した活性を示す変異した酵素の発現である。
【0172】
「発現の増大」という用語は、より高度の活性をもたらすタンパク質の変異が原因で酵素の活性が増大する可能性も含む。変異によって酵素活性を向上させるための手段および方法は、上述されている。
【0173】
好ましい一実施形態では、微生物は、ホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39)を内因性に発現し、親株と比較してホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39)が過剰発現している微生物である。
【0174】
別の好ましい実施形態では、微生物は、トレオニンシンターゼ(EC4.2.3.1)を内因性に発現し、かつトレオニンシンターゼ(EC4.2.3.1)が親株と比較して過剰発現している微生物である。
【0175】
さらなる好ましい一実施形態では、微生物は、トレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)を内因性に発現し、かつトレオニンアルドラーゼ(EC4.1.2.5、EC4.1.2.6、EC4.1.2.48およびEC4.1.2.49からなる群から選択される)が親株と比較して過剰発現している微生物である。
【0176】
別の好ましい一実施形態では、微生物は、トレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)および2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)を内因性に発現し、かつトレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)および2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)が親株と比較して過剰発現している微生物である。
【0177】
別の好ましい一実施形態では、微生物は、EC2.6.1._に分類されるアミノトランスフェラーゼ酵素、または4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)をホモセリンに変換することができるアミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.4.1._)を内因性に発現し、かつEC2.6.1._に分類される前記アミノトランスフェラーゼ酵素または前記アミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.4.1._)が親株に比較して過剰発現している微生物である。
【0178】
別の好ましい実施形態では、微生物は、セリンデアミナーゼ(EC4.3.1.17)またはトレオニンデアミナーゼ(EC4.3.1.19)を内因性に発現し、かつセリンデアミナーゼ(EC4.3.1.17)またはトレオニンデアミナーゼ(EC4.3.1.19)が親株と比較して過剰発現している微生物である。
【0179】
別の実施形態では、微生物は、ステップ(2)~(7)を触媒するために上記の酵素の任意の可能な組合せを過剰発現する。好ましい一実施形態では、微生物は、ステップ(3)および(4)を触媒する酵素を過剰発現するか、またはステップ(3)および(5)を触媒する酵素を過剰発現するか、またはステップ(3)および(5)を触媒する酵素を過剰発現するか、またはステップ(3)、(4)および(5)を触媒する酵素を過剰発現する。
【0180】
微生物は、上記の項目(1)から(7)までに特定されたすべての酵素活性を内因性に発現するが、少なくとも項目(1)に特定された酵素活性、すなわち、EC4.1.2._.に分類されるアルドラーゼについては組換え型である微生物であってもよい。この文脈において「組換え型」という用語は、微生物が対応するアルドラーゼをコードする異種核酸分子を含有することを意味する。この文脈において、アルドラーゼそのものは微生物に対して内因性であってもよいが、この場合の「異種性」という用語は、アルドラーゼが、コード領域がその天然の状況下にない核酸によってコードされることを意味する。好ましくは、コード領域は、それが天然に位置するゲノム位置に位置していない(すなわち、ゲノム中の異なる位置に位置するか、またはプラスミドなどの染色体外エレメント上に位置する)か、および/またはプロモーターなどの異種調節領域に連結されている。アルドラーゼをコードする遺伝子は、その発現が対応する内因性遺伝子の発現と比較して、好ましくは少なくとも5%、10%、20%、30%、または少なくとも40%増大するように改変されていることが好ましい。そのような発現の増大(本明細書では「過剰発現」とも称される)は、例えば、アルドラーゼのコード配列を、異種プロモーター、特に遺伝子のより高度の発現を確実にする異種プロモーターの制御下に配置することによって達成することができる。あるいは、遺伝子の内因性プロモーターを、遺伝子のより高度の発現を導くように変異させることもできる。そのようなプロモーターの置き換えまたは変異は、微生物の染色体上に位置する内因性遺伝子に生じさせることができ、またはより強力なプロモーターを有する対応する改変された遺伝子をプラスミド上に配置することもできる。アルドラーゼ遺伝子の過剰発現を可能にするために使用し得る強力なプロモーターの例は、恒常的な強力なプロモーターpgi-20(Braatsch et al., Biotechniques 45 (2008), 335-337)である。
【0181】
加えて、発現の増大を可能にするために、効率的なリボソーム結合部位を使用することも有利であり得る。この点に関して、「異種性」という用語は、その天然のリボソーム結合部位とは異なるリボソーム結合部位を含むようにアルドラーゼ遺伝子が改変されており、その遺伝子の発現(翻訳)の増大を可能にする状況も含む。好適な結合部位の一例は、リボソーム結合部位「C」(AAGTTAAGAGGCAAGA)(Zelcbuch et al., Nucleic Acids Res. 41 (2013), e98)である。
【0182】
「発現の増大」という用語は、より高度の活性をもたらすタンパク質の変異が原因で酵素の活性が増大する可能性も含む。変異によって酵素活性を向上させるための手段および方法は、上述されている。
【0183】
本発明の微生物は、細菌、真菌、例えば、酵母、藻類、または古細菌であってもよい。好ましい一実施形態では、微生物は細菌である。好ましい細菌は、バチルス属(Bacillus)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ザイモモナス属(Zymomonas)または大腸菌属(Escherichia)の細菌である。特に好ましい一実施形態では、細菌は大腸菌属(Escherichia)に属し、さらにより好ましくは大腸菌(Escherichia coli)の種に属する。別の好ましい実施形態では、細菌はプチダ菌(Pseudomonas putida)の種、またはザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)の種、またはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)の種、または枯草菌(Bacillus subtilis)の種に属する。
【0184】
また、好極限性細菌、例えば、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、またはクロストリジウム科(Clostridiae)の嫌気性細菌を使用することも可能である。
【0185】
別の好ましい実施形態では、微生物は、真菌、より好ましくは、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)またはピキア属(Pichia)、さらにより好ましくは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、クリベロマイセス・マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・トルラ(Pichia torula)またはピキア・ウチリス(Pichia utilis)の種の真菌である。
【0186】
別の実施形態では、微生物は光合成微生物、好ましくは光合成細菌、または微細藻類である。さらなる一実施形態では、微生物は藻類であり、より好ましくは、珪藻類に属する藻類である。
【0187】
別の実施形態では、微生物は、メタノールを代謝することができる微生物である。一実施形態では、微生物は、天然にメタノールを代謝することができ、例えば、メタン資化性細菌、メチロトローフ細菌、メタン資化性酵母またはメチロトローフ酵母である。
【0188】
別の実施形態では、微生物は、C1固定微生物、好ましくは組換えC1固定微生物である。C1固定微生物の性質は、それが一酸化炭素(CO)、およびCOを含むガス状基質、例えば、シンガスを炭素源およびエネルギー源として使用し得る微生物であれば特に限定されない。シンガスまたは合成ガスは、COおよびCO2、さらにH2の混合物である。対応する天然に存在する(または遺伝子改変された)微生物は、COを利用して、それをアセチル-CoAに変換することができ、当技術分野で公知である。これらの微生物はしばしば、酢酸生成微生物(カルボキシドトロフィック酢酸生成微生物とも称される)と称される。これらの微生物は、ウッド・リュンガル(Wood-Ljungdahl)経路を使用してCOを固定し、それをアセチル-CoAに変換する。そのような微生物の例は、クロストリジウム(Clostridiae)科に属し、例えば、国際公開第2009/094485号パンフレット;国際公開第2012/05905号パンフレット;国際公開第2013/180584号パンフレット;米国特許出願公開第2011/0236941号明細書;PNAS 107(29):13087-13092 (2010); Current Opinion in Biotechnology 23:364-381 (2012); Applied and Environmental Microbiology 77(15):5467-5475 (2011)に記載されている。
【0189】
ある特定の実施形態では、C1固定微生物は、カルボキシドトロフィック酢酸生成細菌の群から選択される。好ましい一実施形態では、微生物は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・リュングデール(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・ラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)、クロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxydivorans)、クロストリジウム・ドラケイ(Clostridium drakei)、クロストリジウム・スカトロゲネス(Clostridium scatologenes)、クロストリジウム・アセチカム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・ホルミコアセチカム(Clostridium formicoaceticum)、クロストリジウム・マグナム(Clostridium magnum)、ブチリバクテリウム・メチロトロフィカム(Butyribacterium methylotrophicum)、アセトバクテリウム・ウーディ(Acetobacterium woodii)、アルカリバクルム・バッキ(Alkalibaculum bacchii)、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)、ユーバクテリウム・リモスム(Eubacterium limosum)、モレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、モレラ・サーモオートロフィカ(Moorella thermautotrophica)、スポロミュサ・オバタ(Sporomusa ovata)、スポロミュサ・シルバセティカ(Sporomusa silvacetica)、スポロミュサ・スフェロイデス(Sporomusa sphaeroides)、オキソバクター・フェニギイ(Oxobacter pfennigii)、およびサーモアナエロバクター・キウビ(Thermoanaerobacter kiuvi)を含む群から選択される。
【0190】
一実施形態では、微生物はメタノールをホルムアルデヒドに変換することができる。好ましい一実施形態では、微生物は、メタノールのホルムアルデヒドへの酵素的変換によって、好ましくは酸化反応を介して、ホルムアルデヒドをもたらすことができる。
【0191】
この文脈において使用し得る酵素の1つのタイプは、EC1.1.1.244として分類されるメタノールデヒドロゲナーゼ(NAD+)である。この酵素は反応:
【0192】
【0193】
したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。そのようなメタノールデヒドロゲナーゼの一例は、コリネバクテリウム・グルタミクム(C.glutamicum)のadhA遺伝子によってコードされるメタノールデヒドロゲナーゼである。
【0194】
メタノールからのホルムアルデヒドの生成のために使用し得る別のタイプの酵素は、EC1.1.2.7として分類されるメタノールデヒドロゲナーゼ(シトクロムc;「キノン依存性」とも称される)である。したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。
【0195】
メタノールからのホルムアルデヒドの生成のために使用し得る別のタイプの酵素は、メタノールオキシダーゼ、例えば、EC1.1.3.13に分類されるメタノールオキシダーゼである。したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。
【0196】
一実施形態では、微生物は、メタンをホルムアルデヒドに変換することができる。好ましくは、微生物は、メタンをメタノールに変換し、さらにメタノールをホルムアルデヒドに変換することができる。メタンからメタノールへの変換は、例えば、メタンモノオキシゲナーゼ(EC1.14.14.3または1.14.13.25)を利用することによって達成することができる。したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。
【0197】
一実施形態では、微生物はハロゲン化メタンをホルムアルデヒドに変換することができる。好ましくは、微生物はハロゲン化メタン、例えば、ジクロロメタンをホルムアルデヒドに変換することができる。この変換は、例えば、デハロゲナーゼ、好ましくはEC4.5.1.3に分類されるデハロゲナーゼを使用することによって達成することができる。したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。
【0198】
一実施形態では、微生物は、メチルアミン(またはその誘導体)をホルムアルデヒドに変換することができる。好ましくは、微生物は、メチルアミン(またはその誘導体)を酸化によってホルムアルデヒドに変換することができる。これは、例えば、メチルアミンデヒドロゲナーゼ(EC1.4.9.1に分類される)または一級アミンオキシダーゼ(EC1.4.3.21に分類される)を利用することによって達成することができる。したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。
【0199】
一実施形態では、微生物は、ギ酸をホルムアルデヒドに変換することができる。例えば、ギ酸を、アセチル-CoAシンターゼ(ACS)によってホルミルCoAに変換することができ、次いでそれを、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ACDH)を利用することによってホルムアルデヒドにさらに変換され得ることが、Siegel et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 24 (2015), 3704-3709)に記載されている。したがって、微生物は、好ましくは、内因性に、またはそのような酵素をコードする核酸分子を含有するように遺伝子改変されているために、そのような酵素を発現する。
【0200】
微生物において実行された場合、「ホモセリンサイクル」を通してのフラックスを改善するために、各々の微生物において内因性に生じ得る、ある特定の酵素活性を不活性化することが有利なことがある。
【0201】
したがって、一実施形態では、微生物は、ホルムアルデヒド解毒系をコードするオペロンを内因性に含有し、このオペロンが欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、ホルムアルデヒド解毒(frmRAB)オペロン(Chen et al., Metabol. Engineering 49 (2018), 257-266)が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。この系はグルタチオン依存性ホルムアルデヒド酸化系とも称される。このオペロンの不活性化または欠失は、ホルムアルデヒドが除去されずに、細胞増殖には利用できることを確実にする。特に、このオペロンの不活性化は、ホルムアルデヒドの細胞内プールの枯渇を招き得る、ホルムアルデヒドのギ酸への酸化を回避するはずである。
【0202】
別の実施形態では、微生物は、ピルビン酸からアスパラギン酸セミアルデヒドへの変換を触媒する酵素活性をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、前記遺伝子は、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC1.2.1.11)をコードする遺伝子である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするasd遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0203】
別の実施形態では、微生物は、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.95)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするserA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0204】
別の実施形態では、微生物は、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(EC2.1.2.1)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失または不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするglyA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0205】
別の実施形態では、微生物は、グリシン開裂系(GCS)をコードするオペロンを内因性に含有し、このオペロンが欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、グリシン開裂系(gcvTHP)オペロンが欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。大腸菌(E.coli)のGCSオペロンは、3つの酵素、すなわち、GcvT、GcvH、GcvPをコードしており、オペロン全体を不活性化することも、3つの遺伝子のうちの1つまたは複数を不活性化することも可能である。
【0206】
別の実施形態では、微生物は、二機能性アスパルトキナーゼ/ホモセリンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.3)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするthrA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0207】
別の実施形態では、微生物は、L-トレオニン3-デヒドロゲナーゼデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)をコードする遺伝子を内因性に含み、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするtdh遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0208】
別の実施形態では、微生物は、2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼ(EC2.3.1.29)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失または不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするkbl遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0209】
別の実施形態では、微生物は、乳酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.28)をコードする遺伝子を内因性に含有し、この遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。好ましい一実施形態では、微生物は、大腸菌(E.coli)の種に属し、前記酵素をコードするldhA遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されている微生物である。
【0210】
別の実施形態では、微生物は、上記の遺伝子欠失/不活性化の任意の可能な組合せを示す。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【
図1】ホルムアルデヒドを組み込むための本発明による方法にかかわる酵素ステップの代表的な例の概略版を示している。 (1)アルドラーゼを介したピルビン酸とホルムアルデヒドから4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)への縮合;(2)そうして生成された4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)のアミノ化によるホモセリンの生成;(3)そうして生成されたホモセリンのリン酸化によるo-ホスホホモセリンの生成;(4)そうして生成されたo-ホスホホモセリンの脱リン酸化によるトレオニンの生成;(5)そうして生成されたトレオニンからグリシンおよびアセトアルデヒドへの変換;(6)そうして生成されたグリシンとのホルムアルデヒドの縮合によるセリンの生成;ならびに(7)そうして生成されたセリンの変換によるピルビン酸の生成。プロミスキャスな酵素活性に基づく反応を色で示している。
【
図2】LtaEによって触媒されるインビボ「セリンアルドラーゼ」(SAL)活性を示す:(a)LtaEは、グリシンと種々のアルデヒドとの間のアルドール縮合を触媒する。トレオニンアルドラーゼ(LTA)がその主要な機能であるが、セリンアルドラーゼはプロミスキャスな活性である(Contestabile et al., Eur. J. Biochem. 268 (2001), 6508-6525)。(b)、(c)SAL反応のインビボ活性に対する2つの選択スキーム。炭素源は紫色で示されており(グルコースは示していない)、ホルムアルデヒド部分は緑色で示されている。(b)セリン生合成のためにメタノール同化を必要とするΔfrmRABΔserAΔglyA株。(c)ΔfrmRABΔserAΔgcvTHP株。この株は、セリンおよび細胞C
1部分の生合成のためにメタノールの同化を必要とする。(d)、(e)種々の濃度のメタノールを用いた増殖により、SAL反応の活性が確かめられている。すべての場合に、10mMグルコースおよび10mMグリシンを培地に添加した。メタノールデヒドロゲナーゼ(mdh)およびltaEをプラスミドから発現させた。各々の増殖曲線は3回の反復試験の平均を表し、相互の違いは5%未満である。(f)、(g)
13C-メタノールならびに非標識グルコースおよびグリシンを供給した場合のタンパク質新生グリシン(GLY)、セリン(SER)、トレオニン(THR)、メチオニン(MET)およびヒスチジン(HIS)の標識パターン。
【
図3】Mn
2+補給がLtaE依存性増殖を向上させることを示している。Mn
2+はLtaEの補因子であるが、M9培地はMn
2+を0.08μMしか含有しない。50μM MnCl
2の添加により、LtaE依存性株の増殖速度および収量が増加している。エラーバーは標準偏差を表す、n=3。
【
図4】LtaEがトレオニンアルドラーゼおよびセリンアルドラーゼとして同時に作用し得ることを示している。(a)トレオニンおよびホモセリンからのセリンとグリシンの生成のための選択スキーム。(b)LtaE非依存性トレオニン切断系が欠失した2つの選抜株(Δkbl-tdh)は、セリン前駆体としてのメタノールの存在下で増殖することができる。グリシンは外部に用意されるか(10mM、黒線)、または外部に添加されたトレオニン(10mM、赤線)もしくはトレオニンの内部プール(緑色の線)から内部で生成される。後者の増殖により、LtaEがLTAおよびSALの反応を同時に触媒し得ることが確かめられる。すべての場合に、10mMグルコースおよび500mMメタノールを添加した。各々の増殖曲線は3回の反復試験の平均を表し、相互の違いは5%未満である。(c)種々の炭素で標識したグルコース、ならびに標識または非標識メタノールを供給した場合のタンパク質新生グリシンおよびセリンの標識パターン。この標識により、グリシンがトレオニン生合成および分解によって内部で生成される場合にも、すべての細胞セリンがグリシンおよびメタノールから生成されることが確かめられる。
【
図5】ピルビン酸とホルムアルデヒドをHOBに縮合し、HOBをホモセリンに変換する酵素のインビボ活性をそれぞれ示している。(a)ピルビン酸とホルムアルデヒドをHOBに縮合し、HOBをホモセリンに変換する反応のインビボ活性の選択スキーム。炭素源は紫色で示され、ホルムアルデヒド部分は緑色で示されている。(b)いくつかの大腸菌(E.coli)酵素は、ピルビン酸を受容体としてアルドラーゼ反応を触媒することが知られており、ホルムアルデヒドを供与体として受容し得る可能性がある。これらの酵素の配列類似性を左に模式的な樹状図で示している。(c)試験した4種のアルドラーゼは、メタノールデヒドロゲナーゼと共に過剰発現させると、選択株の増殖を支える。グルコースを10mM、メタノールを500mM、ジアミノピメレートを0.25mM、イソロイシンを1mMとして添加した。各増殖曲線は3回の反復試験の平均を表し、相互の違いは5%未満である。(d)非標識グルコース、ジアミノピメレートおよびイソロイシンを
13C-メタノールと共に供給した場合のタンパク質新生メチオニン(MET)、トレオニン(THR)、リジン(LYS)およびアスパラギン酸(ASP)の標識パターン。その結果から、すべての細胞トレオニンおよびメチオニンが、ホルムアルデヒドとピルビン酸を縮合する酵素活性、およびアミナーゼ反応に由来することが確かめられる。
【
図6-1】ピルビン酸とホルムアルデヒドをHOBに縮合させる候補の酵素の多重配列アラインメントを示す。RhmA/YfaU(P76469;配列番号1)、GarL(P23522;配列番号4)、YagE(P75682;配列番号2)、YjhH(P39359;配列番号3)、Eda(P0A955;配列番号45)、DgoA(Q6BF16;配列番号46)およびMhpE(P51020;配列番号47)のタンパク質配列をUniProtから入手した。配列アラインメントは、MAFFT(Katoh and Standley, Mol. Biol. Evol. 30 (2013), 772-780)によって生成された。ESPpript 3.0(Rober and Gouet, Nucleic Acids Res. 42 (2014), W320-W324)を使用して、アラインメントされた配列を、GarLの3D構造、1dxe(Izard and Blackwell, EMBO J. 19 (2000), 3849-3856)と共に表示した。タンパク質のαヘリックスおよびβシートを上に示し、consには配列コンセンサスが70%を上回るものを示している。
【
図7】ピルビン酸とホルムアルデヒドをHOBに縮合する候補の酵素のタンパク質構造に基づくアラインメントを示している。入手可能なタンパク質構造である、GarLについての1dxf(Izard and Blackwell, EMBO J. 19 (2000), 3849-3856)、RhmAについての2vwt(Rea et al., Biochemistry-US 47 (2008), 9955-9965)、YagEについての4ptn(Manicka et al., Proteins 71 (2008), 2102-2108)、DgoAについての2v82(Walters et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry 16 (2008), 710-720)およびEdaについての1eua(Allard et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 98 (2001), 3679-3684)は、RCSB PDBから入手した。構造のアラインメントは、TM-align(Zhang et al., Nucleic Acids Res. 33, 2302-2309 (2005)によってPyMOL内で行った。アラインメントの結果であるRMSDおよびTMスコアを表に示している。図はPyMOLを使用してレンダリングした。
【
図8】ホモセリンサイクルの酵素のゲノム過剰発現の影響を示す。ThrB(HSK)、ThrC(TS)、AlaC*(AlaC A142P Y275D)またはAspCを、それらの天然のプロモーターを選択株ΔfrmRABΔasdの内部で合成プロモーターと交換することによって過剰発現させた。各増殖曲線は3回の反復試験の平均を表し、相互の違いは5%未満である。
【0212】
本明細書には、特許出願を含む数多くの文書が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連しないと考えられるが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、すべての参考文書は、それぞれの個々の文書が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されているのと同じ程度に参照により組み込まれる。
【0213】
本発明を、以下の実施例を参照してさらに説明するが、これらの実施例は単なる説明であり、本発明の範囲の制限として解釈してはならない。
【実施例】
【0214】
ホモセリンサイクルのインビボ実現可能性を確認するために、その増殖が種々の経路セグメントの活性と連関している、いくつかの大腸菌(E.coli)遺伝子欠失株を構築した。この方法を使用して、要求されるすべてのプロミスキャスな酵素が、栄養要求性株の増殖を可能にするのに十分な活性を有することを示した。
【0215】
方法
菌株およびゲノム操作.本研究に使用した菌株の一覧を表1に示している。
【0216】
【0217】
大腸菌(E.coli)MG1655由来株SIJ488(Jensen et al., Scientific Reports 5 (2015), 17874)を、ゲノム改変のための親株として使用した。λ-Redリコンビニアリング(Jensen et al., 上記引用文中)またはP1ファージ形質導入(Thomason et al., Curr. Protoc. Mol. Biol. Chapter 1, Unit 1 17 (2007))を、遺伝子欠失のために反復して使用した。リコンビニアリングのために、カナマイシン耐性(Km)のためのFRT-PGK-gb2-neo-FRT(Km)カセット(Gene Bridges,Germany)およびクロラムフェニコール耐性カセット(CAP)のためのテンプレートとしてのpKD3プラスミド(GenBank:AY048742;Datsenko and Wanner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97 (2000), 6640-6645)を使用して、Baba et al. (Mol. Syst. Biol. 2 (2006), 2006-2008)におけるように、プライマー50bp相同アームを用いるPCRを介して、選択用耐性カセットを作製した。欠失、検証および抗生物質カセットの取り出しの手順は、Wenk et al. (Methods Enzymol. 608 (2018), 329-367)に詳述されている。
【0218】
同様の戦略を、標的遺伝子のゲノムプロモーターを交換することにも適用した。恒常的な強力なプロモーターpgi-20(Braatsch et al., Biotechniques 45 (2008), 335-337)およびリボソーム結合部位「C」(AAGTTAAGAGGCAAGA(配列番号44);Zelcbuch et al., Nucleic Acids Res. 41 (2013), e98.)を、表2に一覧を示したプライマーを使用してCAPカセットの下流に構築した。
【0219】
【0220】
【0221】
合成プロモーターを、リコンビニアリング法によってSIJ488株にまず導入した;次いで、P1形質導入を使用して合成プロモーターを選択株に移入した。thrB(ホモセリンキナーゼ、HSKをコードする)およびthrC(トレオニンシンターゼ、TSをコードする)は、thrLおよびthrAと同じオペロン上にある。thrLは調節性ペプチドをコードし、thrAはΔasd選抜株において重複しているため、thrLAをthrBCのプロモーター交換の際に欠失させた。点変異A142P Y275D(Bouzon et al., ACS Synthetic Biology 6 (2017), 1520-1533)を、alaCのプロモーター交換と共に導入した(この場合、リコンビニアリングカセットはCAPカセットおよび合成プロモーターの下流に変異遺伝子を有する)。プロモーター交換を、プロモーター領域の配列決定によって確かめた。
【0222】
プラスミド構築.すべてのクローニング手順は、大腸菌(E.coli)DH5α株で実施した。大腸菌(E.coli)の天然遺伝子ltaE、rhmA、garL、yagE、yjhH、eda、dgoAおよびmhpEを、上記の表2に示されたプライマーを用いて、大腸菌(E.coli)MG1655ゲノムからクローニングした。
【0223】
NAD依存性メタノールデヒドロゲナーゼ(CgAdhA)を、コドン最適化の後に、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)Rから取り出した(He et al., ACS Synthetic Biology 7 (2018), 1601-1611)。リボソーム結合部位「C」(AAGTTAAGAGGCAAGA(配列番号44);Zelcbuch et al., Nucleic Acids Res. 41 (2013), e98.)の下流のpNivCベクターに、遺伝子を挿入した。これらの遺伝子を、BioBrick酵素:BcuI、SalI、NheIおよびXhoI(FastDigest,Thermo Scientific;Zelcbuch et al., Nucleic Acids Res. 41 (2013), e98.)を使用して、1つのオペロンとして組み立てた。次いで、EcoRIおよびPstIを使用して、合成オペロンを、過剰発現pZASSベクター(Wenk et al., Methods Enzymol. 608 (2018), 329-367)中の、恒常的な強力なプロモーターpgi-20(Braatsch et al., Biotechniques 45 (2008), 335-337)の下に挿入した。最終的なプラスミドを表3に示す。
【0224】
【0225】
増殖培地.LB培地(0.5%酵母エキス、1%トリプトン、1%NaCl)を、菌株の操作および組換えプラスミドのクローニングに用いた。抗生物質を以下の濃度で使用した:カナマイシン、50μg/mL;アンピシリン、100μg/mL;ストレプトマイシン、100μg/mL;クロラムフェニコール、30μg/mL。増殖実験は、微量元素(134μM EDTA、31μM FeCl
3、6.2μM ZnCl
2、0.76μM CuCl
2、0.42μM CoCl
2、1.62μM H
3BO
3、0.081μM MnCl
2)を添加したM9最小培地(47.8mM Na
2HPO
4、22mM KH
2PO
4、8.6mM NaCl、18.7mM NH
4Cl、2mM MgSO
4および100μM CaCl
2)中で行った。すべての実験について50μM MnCl
2を添加したが、これはそれがLtaEのインビボ活性を向上させるためである(
図3)。炭素源を菌株および個々の実験に応じて添加した:10mMグルコース、10mMグリシン、10mMセリン、10mMトレオニン、2mMホモセリンおよび1mMイソロイシン。Δasd株(Cardineau and Curtiss, J. Biol. Chem. 262 (1987), 3344-3353)の培養に使用したすべての培地に、0.25mMジアミノピメリン酸(DAP)を添加した。
【0226】
増殖実験.菌株を、好適な炭素源およびストレプトマイシンを含む4mLのM9培地中で前培養した。前培養物を採取して、M9培地中で3回洗浄し、次いで開始OD600を0.02として、好適な炭素源を含むM9培地に接種した。150μLの培養物を、96ウェルマイクロプレート(Nunclon Delta Surface,Thermo Scientific)の各ウェルに添加した。蒸発を避けるため(一方でガス拡散は可能にするため)に、さらに50μLの鉱油(Sigma-Aldrich)を各ウェルに添加した。96ウェルマイクロプレートをマイクロプレートリーダー(BioTek EPOCH 2)内で37℃でインキュベートした。振盪プログラムサイクル(Gen 5 v3により制御)は、それぞれ60秒間持続する4回の振動相を有した:線状振盪およびそれに続く振幅3mmでの軌道振盪、次いで線形振盪およびそれに続く振幅2mmでの軌道振盪。各ウェルにおける吸光度(OD600)をモニタリングし、3回の振盪サイクル(約16.5分)ごとに記録した。プレートリーダーからの生データを、ODcubette=ODplate/0.23に従って正常キュベット測定OD600値に較正した。増殖パラメーターは、MATLAB(登録商標)(MathWorks)を使用して3回の技術的な反復試験に基づいて算出し、平均値を使用して増殖曲線を作成した。MATLAB(登録商標)で調べたところ、3つの測定値の間のばらつきはすべて5%未満であった。
【0227】
安定な同位体標識.
13C-メタノール、グルコース-1-13C、グルコース-2-13C、グルコース-3-13CをSigma-Aldrichから購入した。細胞は後期対数期に採取した。OD600 1の培養物1mLの同量を採取し、遠心分離によって洗浄した。タンパク質バイオマスを、6M HClにより95℃で24時間かけて加水分解した(You et al., Journal of Visualized Experiments 59 (2012))。試料を95℃の気流下で完全に乾燥させ、加水分解されたアミノ酸を、以前記載された通りにUPLC-ESI-MSで分析した(Giavalisco et al., Plant J. 68 (2011), 364-376)。クロマトグラフィーは、HSS T3 C18逆相カラム(100mm×2.1mm、1.8μm;Waters)を使用して、Waters Acquity UPLCシステム(Waters)を用いて行った。H2O中の0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル中の0.1%ギ酸(B)を移動相とした。流速は0.4mL/分とし、勾配については0~1分は99%A;1~5分は99%Aから82%までの直線的な勾配;5~6分は82%Aから1%Aまでの直線的な勾配;6~8分は1%Aに維持;8~8.5分は99%Aまでの直線的な勾配;8.5~11分は再平衡とした。質量スペクトルは、50.0から300.0m/zまでの走査範囲で、正イオン化モードでExactive質量分析計(Thermo Scientific)を使用して取得した。スペクトルはLC勾配の最初の5分間に記録した。データ解析はXcalibur(Thermo Scientific)を使用して行った。アミノ酸の同定は、同じ条件下でアミノ酸標準物質(Sigma-Aldrich)を分析することによって決定した保持時間およびm/zに基づいた。
【0228】
分子系統発生解析.HAL反応を触媒するために使用したアルドラーゼのタンパク質配列は、UniProt:RhmA/YfaU P76469、GarL P23522、YagE P75682およびYjhH P39359、Eda P0A955、DgoA Q6 BF16およびMhpE P51020から入手した。MAFFT v7(Katoh and Standley, Mol. Biol. Evol. 30 (2013), 772-780)を、デフォルトパラメーターで多重配列アラインメントのために使用した。アラインメントされた配列を、系統樹を構築するために、最尤法と共にMEGA X(Kumar et al., Mol. Biol. Evol. 35 (2018), 1547-1549)によって使用した。ブートストラップ・コンセンサス・ツリーを、ブートストラップ反復の数を1000に設定して作製した。
【0229】
[実施例1]
新たに開発された「ホモセリンサイクル」の概念
既知の天然のセリンサイクルよりも優れる代謝経路を得ることを目的として、本明細書において「ホモセリンサイクル」とも称される代謝経路を設計した。ホモセリンサイクルの代表例を
図1に示す。
【0230】
このホモセリンサイクルにおいて、グリシンはホルムアルデヒドと直接縮合してセリンを生じる。この反応(
図1中の項目(6))(本明細書ではセリンアルドラーゼ(SAL)反応とも称する)は、トレオニンアルドラーゼ(LtaE)によって(インビトロで)プロミスキャスに触媒されることが以前見出されている(Contestabile et al., Eur. J. Biochem. 268 (2001), 6508-6525)。SAL反応は、非常に長く、複数の補因子に依存し、かつATP効率が不良である、5,10-メチレン-テトラヒドロ葉酸(CH
2-THF)へのホルムアルデヒド同化の経路を迂回する(Crowther et al., J. Bacteriol. 190 (2008), 5057-5062)。以前に提唱された改変セリンサイクル(Yu and Liao, Nature Communications 9 (2018), 3992; Bar-Even, Biochemistry 55 (2016), 3851-3863)と同じく、セリンは次いでセリンデアミナーゼ(
図1中の項目(7))によって脱アミノ化されてピルビン酸となり、グリセリン酸塩を経由し、毒性の高い中間体であるヒドロキシピルビン酸がさらに関与する、より長い経路を迂回する(Kim and Copley, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109 (2012), E2856-2864)。次いで、ピルビン酸はホルムアルデヒドと縮合されて、非天然代謝物である4-ヒドロキシ-2-オキソブタン酸(HOB)を生じ(Bouzon et al., ACS Synthetic Biology 6 (2017), 1520-1533)、これが次いでアミノ化されてホモセリンになる。これらの反応のうち最初のもの(
図1中の項目(1))は、大腸菌(E.coli)の2-ケト-3-デオキシ-L-ラムノン酸アルドラーゼによってプロミスキャスに触媒されることが見出された(Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711)。後者の反応であるHOBアミノ化(
図1中の項目(2))は、多数のアミノトランスフェラーゼ(例えば、Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711; Walther et al., Metab. Eng. 45 (2018), 237-245; Zhong et al., ACS Synthetic Biology 8 (2019), 587-595)、さらにはアミノ酸デヒドロゲナーゼ、例えば、(操作された)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Chen et al., Biotechnol. J. 10 (2015), 284-289)によって支えられる。この経路は、(ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼによる)カルボキシル化反応をホルムアルデヒド同化反応に効果的に置き換え、これはC
4中間体を生成する別の方法をもたらす。次いで、ホモセリンは、例えば、ホモセリンキナーゼ(
図1中の項目(3)のThrB)およびトレオニンシンターゼ(
図1中の項目(4)のThrC)の作用によってトレオニンに変換される。最後に、トレオニンが切断されて、グリシンおよびアセトアルデヒドが生成する。これは例えば、トレオニンアルドラーゼ(
図1中の項目(5))、例えば、SAL反応を触媒する同じトレオニンアルドラーゼ(LtaE)(
図1中の項目(6))を利用して、グリシンを再生してアセトアルデヒドを生成させることによって達成することができる。生成されたアセトアルデヒドを、例えば、さらに酸化してアセチル-CoAにして、中心代謝に同化させることもできる。
【0231】
グリシンとホルムアルデヒドからセリンへの縮合を触媒する酵素のインビボ活性の実証
上記のように、新たに提唱される「ホモセリンサイクル」の反応のいくつかは、それらの触媒酵素の一次活性に対応し、したがって、各々の酵素によってインビボで正常に触媒されることが予想され、また、これらの反応が経路フラックスを制約しないことも予想される。しかし、新たに設計された「ホモセリンサイクル」」の反応のうち3つ(すなわち、
図1の項目(1)、(2)および(6))は、これまでインビトロでしか特徴付けがなされていないプロミスキャスな活性に相当する。このため、これらのプロミスキャスな活性のそれぞれについて、それらがインビボでの対応する変換を支え得るか否かを試験した。この目的のために、増殖がこれらの反応の活性に依存する特化した遺伝子欠失株を作製した。
【0232】
まず、LtaEがインビボで「SAL反応」(
図1の項目(6);
図2a)を触媒する能力を試験した。この目的に向けて、グリシンおよびセリンについて栄養要求性である2つの株を構築した。どちらの株においても、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ΔserA)が欠失していた。一方の株ではセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子も欠失しており(ΔglyA)、他方の株ではグリシン開裂系の遺伝子が欠失していた(ΔgcvTHP)。これらの株の増殖にはグリシンおよびセリンの両方の添加が必要であるが、これはこれらの化合物の細胞内相互変換が遮断されているためである(
図2bおよびc)。
【0233】
SAL反応が生理的に意味のあるフラックスを実際に支えるならば、メタノールデヒドロゲナーゼ(MDH)およびLtaEが過剰発現し、培地中でセリンをメタノールで置換した場合にどちらの株も増殖することができるはずであると推論した。ΔserAΔglyA株では、SAL反応がセリン(
図2b)の生成に関与すると考えられ、これはバイオマス中の炭素の約3%を占める(Neidhardt et al., in: Physiology of the Bacterial Cell: A Molecular Approach 134-143 (1990))。ΔserAΔgcvTHP株では、SAL反応はセリンおよび細胞C
1部分の両方の生成に関与すると考えられ(
図2c)、これは合計でバイオマス中の炭素の約6%を占める(Neidhardt et al., 上記引用文中)。細胞内プールを枯渇させ、その同化を制限する可能性のあるギ酸へのホルムアルデヒドの酸化を回避するために、グルタチオン依存性ホルムアルデヒド酸化系をコードする遺伝子も欠失させた(ΔfrmRAB)(He et al., ACS Synthetic Biology 7 (2018), 1601-1611)。
【0234】
MDHおよびLtaEの過剰発現により、グルコースを主炭素源とし、グリシンおよびメタノールをセリンの前駆体とする、両方の選択株の増殖が観察された(
図2d、e)。これは、SAL反応がインビボで生理的に意味のある速度で作用し得ることを示す。MDHのみ、またはLtaEのみの発現では増殖を維持することができず、このことはゲノムltaEの天然の発現はSAL反応を支えるには少なすぎることを示す。観察された増殖速度および収量はメタノール濃度に依存し、ΔserAΔglyAΔfrmRAB株は、低メタノール濃度でΔserAΔgcvTHPΔfrmRAB株よりも高い速度および収量を示した。これは、後者の株は細胞炭素のより多くの部分を得るためにSAL反応に依存するという予測に対応する。200~1000mMの範囲のメタノール濃度が最適であると思われ、これは陽性対照(培地にセリンを添加したもの)と同様の増殖速度を支えた。すべての実験において、50μM MnCl
2を添加したが、これはMn
2+がLtaEの既知の補因子であるためである(Fesko, Appl. Microbiol. Biotechnol. 100 (2016), 2579-2590)。MnCl
2をさらに添加しなくても反応は依然として起こるが、増殖速度および収量の低下が観察された(
図3参照)。
【0235】
SAL反応の活性を確認するために、
13C標識実験を実施した。両方の株を
13C-メタノール、非標識グルコースおよびグリシンと共に培養した。ΔserAΔglyAΔfrmRAB株のセリンは、予想された通り、完全に単一標識であったが、他のアミノ酸は非標識であった(
図2f)。トレオニンおよびメチオニンはオキサロ酢酸に由来し、それ故にCO
2に由来する炭素を保有するため(すなわち、補充反応)、それらの標識の欠如は、frmRABの欠失によって予想されるように、CO
2へのホルムアルデヒド酸化が無視できる程度であることを示す。ΔserAΔgcvTHPΔfrmRAB株では、セリン、メチオニンおよびヒスチジンは完全に単一標識であった(
図2g)。トレオニンとは異なり、メチオニンおよびヒスチジンは両方ともC
1単位を保有するTHF由来の炭素を持っており、メチオニンの場合にはメチル-THF、ヒスチジンの場合にはホルミル-THFである(Yishai et al., ACS Synthetic Biology 6(9) (2017), 1722-1731)。したがって、これらのアミノ酸の標識は、すべての細胞のC
1部分がメタノールに由来することを示す。以上を総合すると、標識化の結果から、両方の株においてSAL反応がセリンの唯一の源となり、ΔserAΔgcvTHPΔfrmRAB株ではC
1部分の唯一の源となることが確かめられる。
【0236】
次に、グリシンがLtaE依存性トレオニン切断(
図4a)を介して内因性に生成されるように、培地からグリシンを除外し得るか否かについて試験した。この目的に向けて、両方の選択株において、トレオニンデヒドロゲナーゼおよび2-アミノ-3-ケト酪酸CoAリガーゼをコードする遺伝子(Δkbl-tdh)を欠失させ、そうすることでトレオニン分解のLtaE非依存性経路(
図4a)を遮断した(Yishai et al., ACS Synthetic Biology 6(9) (2017), 1722-1731)。グリシンをトレオニンに置き換えても、どちらの選択株の増殖も変化しなかった(
図4b、増殖は依然としてメタノールに厳密に依存することに注目されたい)。この増殖を可能にするために、過剰発現されたLtaEは2つのその後の反応を触媒しており、まずトレオニンをグリシンとアセトアルデヒドに切断し、次いでグリシンをホルムアルデヒドと反応させてセリンを生成する。このため、LtaEは、グリシン部分をある小さなアルデヒド(アセトアルデヒド)から別のアルデヒド(ホルムアルデヒド)に転移させるグリシルトランスフェラーゼとみなすことができる。
【0237】
次に、培地からトレオニンを除去して、このアミノ酸をグリシンおよびセリンの前駆体として用意するために天然のトレオニン生合成に依拠することも可能であるか否かについて評価した(
図4a)。実際、増殖速度の低下を示したにもかかわらず、両方の選択株とも、グリシンおよびトレオニンのいずれも添加せずに、グルコース(主な炭素源として)およびメタノールのみで増殖することができた(
図4bの緑色の線)。このことは、ホモセリンサイクルの半分が活性であることを示す:すなわち、ホモセリン(アスパラギン酸から天然に生じる)は、ホモセリンキナーゼ(HSK)およびトレオニンシンターゼ(TS)を介してトレオニンに代謝され、次いでLtaEはトレオニンをグリシン(およびアセトアルデヒド)に切断し、グリシンをホルムアルデヒドと縮合させてセリンを生成する(
図4a)。
【0238】
外部から与えられるグリシンおよびトレオニンの非存在下であっても、すべての細胞セリンがホルムアルデヒドとグリシンの縮合から生成されることを確かめるために、
13C標識実験を実施した。これらの株を、標識または非標識メタノール、ならびに種々の炭素で標識したグルコース(グルコース-1-
13C、グルコース-2-
13C、およびグルコース-3-
13C)の存在下で培養した。グリシンの標識パターンはグルコースの標識炭素に応じて変化したものの、
13C-メタノールとの培養は常にセリンの方がグリシンよりも正確に1つ多い標識炭素をもたらした(
図4c)。このことは、後者の化合物がホモセリン代謝によって内部で産生される場合に、グリシンからセリンがメタノール依存的に生成されることを明確に裏付ける。
【0239】
以上を総合すると、得られた結果は、アセトアルデヒドを放出させてホルムアルデヒドを同化することによって、インビボでトレオニンをセリンに変換する、LtaEの能力を裏付ける。これらの所見はさらに、ホモセリンサイクルの半分に生理的に意味のある活性があり、グリシンおよびセリンへのホモセリンの代謝は、これらのアミノ酸および細胞C1部分のすべてのバイオマス必要量をもたらし、合計でバイオマス中の炭素の10%を占めることを裏付けている(Neidhardt et al., in: Physiology of the Bacterial Cell: A Molecular Approach 134-143 (1990))。
【0240】
グリシンとピルビン酸の縮合を触媒してHOBを生成する酵素、およびHOBからホモセリンへの変換を触媒する酵素のインビボ活性の実証
ホモセリンのセリンへのメタノール依存性変換を実証した後に、目的はピルビン酸のホモセリンへのメタノール依存性変換を実証することとなった。HOB生成およびアミノ化を介したピルビン酸のホモセリンおよびトレオニンへのインビボ変換について選択するために、ホモセリン栄養要求性株を構築した:アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の欠失(Δasd)は、ホモセリンおよびジアミノピメリン酸(DAP)(Cardineau and Curtiss, J. Biol. Chem. 262 (1987), 3344-3353)を培地に添加した場合にのみ増殖可能な株をもたらした。この株では、ホモセリンはメチオニン、トレオニンおよびイソロイシンに代謝され、一方、DAPはリジンおよびペプチドグリカンに代謝される。(形式的には可逆的であるにもかかわらず、ホモセリンデヒドロゲナーゼは、ホモセリンをDAPの前駆体であるアスパラギン酸セミアルデヒドに酸化することができず、それ故に培地への後者の中間体の添加が必要であったことに注目されたい)。
【0241】
メタノールおよびメタノールデヒドロゲナーゼの存在下で、ピルビン酸とホルムアルデヒドを縮合することによってHOBの生成を触媒する酵素と、HOBからホモセリンへの変換を触媒する酵素との複合活性が、培地にホモセリンを添加しなくてもΔasdΔfrmRAB株の増殖を可能にするはずであると推論した(
図5a)。これまでに、ピルビン酸のホルムアルデヒドとの縮合を触媒してHOBを生成することが以前に示されているのはRhmAのみである(Hernandez et al., ACS Catal. 7 (2017), 1707-1711)。この反応を触媒し得る他の酵素を見出すために、類似のアルドラーゼの活性を検討した。このため、ピルビン酸を受容体としてアルドラーゼ反応を触媒することが知られている(また、ホルムアルデヒドを供与体として使用し得るかもしれない)すべての大腸菌(E.coli)酵素(MG1655株、EcoCycを使用;Keseler et al., Nucleic Acids Res. 33 (2005), D334-337)について探索を実施した。RhmAそれ自体の他に、候補となる6つのアルドラーゼが見出された:GarL、YagE、YjhH、Eda、DgoA、およびMhpE(
図5b)。RhmAおよびGarLはHpcHの構造ファミリーに属し、一方、mhpEはDmpGファミリーに属する。これらのファミリーは両方ともII型ピルビン酸アルドラーゼであり、供与体結合およびエノール化のために二価金属カチオンを使用する(Fang et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 58 (2019), 11841-11845)。YagEおよびYjhHはDHDPSの構造ファミリーに属し、一方、EdaおよびDgoAはKDPGファミリーに属する。これらのファミリーはI型ピルビン酸アルドラーゼであり、供与体基質とシッフ塩基を形成するためにリジン残基を使用する(Fang et al., 上記引用文中)。
【0242】
mdhをrhmA、garL、yagEまたはyjhHと共に過剰発現させると、ホモセリンをメタノールで置き換えた場合、ΔasdΔfrmRAB株の増殖が可能になった(
図5c)。これらの4種のアルドラーゼ酵素は、ほぼ同じ増殖速度を支えた。メタノールの非存在下、またはメタノールデヒドロゲナーゼもしくはアルドラーゼ酵素を単独で過剰発現させた場合には、増殖は観察されなかった。RhmA、GarL、YagE、およびYjhHの間の相対的な配列類似性(
図5bおよび
図6)が、他の酵素ではなくてこれらの酵素がHAL反応を支えることができた理由の説明となるかもしれない。実際、RhmAとGarLの構造はほぼ同一である(
図7)。
【0243】
HOBをホモセリンに変換する反応は、高発現タンパク質である天然のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AspC)によって支えられることが知られており(Li et al., Cell 157 (2014), 624-635)、他の高発現性のプレミスキャスなアミノトランスフェラーゼによってもさらに触媒される可能性があることから、この重要な反応を可能にするために特化した酵素の過剰発現は必要ではないとの仮説を立てたところ、これは実際にそうであった。特に、増殖はアミノトランスフェラーゼ酵素の特化した過剰発現なしに可能であった。aspCまたはアラニンアミノトランスフェラーゼの変異型(alaC*、そのタンパク質産物はHOBからホモセリンが生成する反応を触媒することが以前に示されている;Bouzon et al., ACS Synthetic Biology 6 (2017), 1520-1533)のゲノム性過剰発現は、増殖を実質的に変化させなかった(
図8)。同様に、thrBCのゲノム性過剰発現も一貫して増殖を支えなかった(
図8)。このことは、HOBからホモセリンに至る反応、ホモセリンキナーゼ(HSK)反応およびトレオニンシンターゼ(TS)反応が、ピルビン酸からトレオニンへのフラックスを制約しないことを示す。
【0244】
ホモセリン、ならびにその下流生成物であるトレオニンおよびメチオニンが、ピルビン酸とホルムアルデヒドの縮合およびその後のHOBからホモセリンへの変換によってHOBが生成される反応を介して、ピルビン酸およびメタノールから生成されることを確かめるために、13C標識実験を行った。非標識グルコースと13C-メタノールとの培養により、トレオニンおよびメチオニンは完全に一度標識され、リジンおよびアスパラギン酸(対照として利用)は完全に標識されないことが見出された。このことにより、ホモセリンおよびトレオニンは完全にピルビン酸およびメタノールに由来することが確かめられる。
【配列表】
【国際調査報告】