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特表2023-514314水性液体から気体を除去するためのデバイス
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  • 特表-水性液体から気体を除去するためのデバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】水性液体から気体を除去するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20230329BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20230329BHJP
   B01D 61/28 20060101ALI20230329BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61M1/18 525
B01D61/00
B01D61/28
B01D63/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549418
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(85)【翻訳文提出日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2021053800
(87)【国際公開番号】W WO2021165277
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】102020104117.9
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512310011
【氏名又は名称】ユニバーシタット デ ザールラント
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】オムラー アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】レッパー フィリップ
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA03
4C077BB06
4C077CC06
4C077EE01
4C077EE06
4C077KK11
4C077LL05
4C077LL13
4D006GA13
4D006GA32
4D006GA35
4D006HA02
4D006KA16
4D006MA01
4D006MA13
4D006MC22
4D006MC28
4D006MC30
4D006MC74
4D006PB09
4D006PB62
4D006PB64
4D006PC41
(57)【要約】
本発明は、水性液体、特に血性液体から気体を除去するためのデバイスに関し、本デバイスは、デバイス作動中に水性液体が流れる第一区画室と、デバイス作動中にパージ用気体が流れる第二区画室とを有し、第一区画室と第二区画室とは半透膜によって互いから分離されており;かつ本デバイスは、デバイス作動中に有機酸または無機酸である液体プロトン供与体が流れる第三区画室を有し、第一区画室と第三区画室とは少なくとも1つのカチオン伝導体を含むイオンを透過する膜によって互いから分離されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス作動中に血性液体、好ましくは血液によって浸透される第一区画室と;
該デバイス作動中にパージ用気体によって浸透される第二区画室であって、該第一区画室と該第二区画室とが半透膜によって互いから分離されている、第二区画室と;
該デバイス作動中に、有機酸または無機酸である液体プロトン供与体によって浸透される第三区画室であって、該第一区画室と該第三区画室とが、少なくとも1つのカチオン伝導体を含むイオン透過膜によって互いから分離されている、第三区画室と
を含む、水性液体から気体を除去するためのデバイス。
【請求項2】
血性液体中に溶解した二酸化炭素が、イオン透過膜を通じた該血性液体と液体プロトン供与体との相互作用によって、該プロトン供与体の水素イオンと反応して、炭酸を形成し、該水素イオンは、該イオン透過膜を通じて該液体プロトン供与体から出て該血性液体中に拡散する、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
生じた炭酸が、水と、第二区画室のパージ用気体によって運び去られるための二酸化炭素とに分解される、請求項1または2記載のデバイス。
【請求項4】
第二区画室が、半透性材料で作られた複数のライン、好ましくは中空繊維を備える、請求項1~3のいずれか一項記載のデバイス。
【請求項5】
第三区画室が、イオン透過膜で作られた複数のライン、好ましくは中空繊維を備える、請求項1~4のいずれか一項記載のデバイス。
【請求項6】
イオン透過膜がカチオン・アニオン伝導体を含む、請求項1~5のいずれか一項記載のデバイス。
【請求項7】
第二区画室のラインと第三区画室のラインとが、それらのインレットおよびアウトレットを除いて、第一区画室内に存在している、請求項4~6のいずれか一項記載かつ請求項3および4参照のデバイス。
【請求項8】
第二区画室のラインと第三区画室のラインとが、第一区画室の部分体積によって常に互いから分離されている、請求項4~7のいずれか一項記載かつ請求項3および4参照のデバイス。
【請求項9】
水性液体をガイドして第一区画室に通すために該第一区画室がインレットとアウトレットとを備え、該インレットおよび該アウトレットは、該第一区画室を通る血液のフローをデバイス作動中に調整できるように配されている、請求項4~8のいずれか一項記載のデバイス。
【請求項10】
液体プロトン供与体を含み、かつ高炭酸ガス血症を処置するための方法における使用のために請求項1~9のいずれか一項記載のデバイスの第三区画室に浸透する、組成物。
【請求項11】
液体プロトン供与体を含み、かつ高炭酸ガス血症を処置するために請求項1~9のいずれか一項記載のデバイスの第三区画室に浸透する、組成物の使用。
【請求項12】
液体プロトン供与体が、好ましくは非毒性の酸であるか、または酸性の緩衝溶液を含む、請求項10記載の組成物または請求項11記載の使用。
【請求項13】
生理学的関連性があるタイプの少なくとも1つの金属カチオンが、液体プロトン供与体中に少なくとも生理学的濃度で存在しており、かつ
好ましくは該液体プロトン供与体中にナトリウムが存在していない、
請求項10もしくは12記載の組成物、または請求項11もしくは12記載の使用。
【請求項14】
前記組成物が、請求項1~8のいずれか一項記載のデバイスの第二区画室に浸透するパージ用気体をさらに含む、請求項10、12、もしくは13のいずれか一項記載の組成物、または請求項11~13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
処置が、以下の段階:
第一区画室を通る水性液体のフローを提供する段階;
第二区画室を通るパージ用気体のフローを提供する段階;および
第二区画室を通る液体プロトン供与体のフローを提供する段階
を含む、請求項10、12~14のいずれか一項記載の組成物、または請求項11~14のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液体、好ましくは血性液体から気体を除去するためのデバイスに関する。本発明はさらに、液体プロトン供与体を含む組成物と、高炭酸ガス血症を処置するためのその組成物の使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
高炭酸ガス血症は血液中の二酸化炭素レベルが高くなっていることを指す。細胞代謝の老廃物として二酸化炭素が血液中に存在することは正常である。二酸化炭素は血液循環によって細胞から肺内まで運ばれ、そこで吐き出される。例えば肺疾患または肺不全の場合など、肺の換気が不充分であると、二酸化炭素が血液中に蓄積する。このことは血液の呼吸性アシドーシスという結果をもたらし、pH値が低下して7.0を下回ると死につながる潜在可能性がある。
【0003】
そうした状況においては、できるだけ速やかに二酸化炭素を血液から除去しなければならない。患者がこれを自分自身で実現することはできないので、血液が膜を介してパージ用気体(掃引用気体)と相互作用するという体外式膜型人工肺(ECMO)が典型的に使用される。二酸化炭素は人工肺内で膜を介して血液から除去され、同時に酸素が添加される。膜型人工肺では、血液を抜き取りそして戻すために大きな脈管(例えば大腿静脈または内頚静脈)が用いられる。したがって、本法が行われている間は、患者から抜き取られた微量でない血液がECMO機械の中を循環する。
【0004】
本発明の目的は、患者から採る血液をより少なくできかつ血液中に存在する二酸化炭素のうち充分な割合を(より)短時間で除去できるように、二酸化炭素の除去が比較的小さな患者アクセスによって遂行可能でありかつ同時により効率的になるよう、水性液体からの二酸化炭素の除去を、特に血性液体の場合に向上させることである。
【発明の概要】
【0005】
本発明において、水性液体から気体を除去するためのデバイスが提供される;本デバイスは、デバイス作動中に水性液体によって浸透される第一区画室と、デバイス作動中にパージ用気体によって浸透される第二区画室とを備え、第一区画室と第二区画室とは半透膜によって互いから分離されており;かつ本デバイスは、デバイス作動中に液体プロトン供与体によって浸透される第三区画室を備え、第一区画室と第三区画室とはイオン透過膜によって互いから分離されている。
【0006】
本発明に基づくデバイスは、水性液体から気体を少なくとも部分的に除去するため、特に血液から二酸化炭素を少なくとも部分的に除去するために役立つ。各区画室は個々の循環の一部であり、作動中は対応する物質によって浸透される。ポンプが各循環内に提供されていてもよく、ポンプは対応するフローを実施するために役立つ。本発明に基づくデバイスは、作動中に第一区画室内の物質が第二区画室内の物質と半透膜を通じて相互作用し、かつ作動中に第一区画室内の物質が同時に第三区画室内の物質ともイオン透過膜を通じて相互作用するように実施される。対照的に、第二および第三区画室を通って流れる物質は互いに相互作用しない。前記特徴は、第二区画室内の物質が第三区画室のイオン透過膜に直接接触せず、かつ逆に第三区画室内の物質も第二区画室の半透膜に直接接触しないように、第二区画室と第三区画室とが互いから空間的に分離されているという点において実現される。相互作用とは、本明細書において、膜などの分離層を通じた2つの物質間の材料交換を意味する。第一区画室内の物質が第二区画室内の物質および第三区画室内の物質と好適に相互作用することによって、第一区画室内の物質から、すなわち水性液体から、気体が少なくとも部分的に除去される。好適なまたは望ましい相互作用は、除去対象の気体および関連するイオンに関して、第一および第二区画室間ならびに第一および第三区画室間に濃度勾配を提供することによって実現されてもよい。液体プロトン供与体は、塩酸(HCl)など、有機酸または無機酸であってもよい。液体プロトン供与体は好ましくは非毒性である。等量のイオン(例えば水素カチオン)を含みながらも塩酸と比較してより穏やかなpH値(6.9など)を有する緩衝溶液もまた用いられてもよい。
【0007】
本デバイスのさらなる態様において、水性液体は血性液体、好ましくは血液であってもよい。その場合は、特に二酸化炭素が本デバイスによって血液から少なくとも部分的に除去されてもよい。この文脈において、ECMO用途について典型的であるように、パージ用気体が純酸素であってもよい。水性液体が血液である場合、本デバイスは、二酸化炭素が血液から除去されかつ酸素がそこに添加される膜型人工肺の中に、液体プロトン供与体が浸透された第三区画室が追加的に提供された、拡張型のECMO機械として見ることができる。
【0008】
血性液体とパージ用気体とが半透膜を通じて相互作用することによって、血液中に物理的に溶解した二酸化炭素がパージ用気体中に移り、そしてそれゆえに血性液体から除去される。物理的に溶解した(物理的に結合した)二酸化炭素は、血性液体中に気体として溶解した二酸化炭素であると理解される。同時に、血液はパージ用気体からの酸素で富化される。前記プロセスは、ECMOまたはECCO2Rの膜を通じた血液の従来の酸素付加に対応する(ECCO2R:体外式CO2除去)。血性液体と液体プロトン供与体とがイオン透過膜を通じて相互作用することによって、血性液体中に化学的に溶解した二酸化炭素が、膜を通じて液体プロトン供与体から出て血性液体中に拡散した水素イオン(H+)と反応する。化学的に溶解した(化学的に結合した)二酸化炭素は、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、または重炭酸マグネシウムなどの重炭酸塩化合物中に「捕捉された」二酸化炭素であると理解される。それにより、塩酸(HCl)などの液体プロトン供与体と、血性液体中に存在する重炭酸塩化合物との間でプロトン交換が起こり、それによって炭酸(H2CO3)が形成される。しかし、前記の酸は非常に不安定であり、分解して水(H2O)および二酸化炭素(CO2)になる。すると、前記二酸化炭素は、その元々の重炭酸塩化合物から放出されて、パージ用気体によって運び去ることが可能になる。液体プロトン供与体によって提供される水素カチオン(H+)と交換に、カチオンが血性液体から出て液体プロトン供与体の側に移行するプロトン交換は、本発明に基づくデバイス内の物質間に電位が生じないこと、および、それゆえに物質とデバイスとが電気的に中性のままであることを確実にする。
【0009】
例えばカリウムおよび/またはカルシウムおよび/またはマグネシウムなどの材料に関して、血性液体に向かう濃度勾配があると、それによって生理学的に重要な前記ミネラルが血液から除去されてしまうが、液体プロトン供与体は、そうした濃度勾配が回避されるように前記材料を含んでもよい。換言すると、特定の材料(カリウムおよびカルシウムなど)が血性液体から除去されず、かつ液体プロトン供与体に移行しないように、液体プロトン供与体と血性液体との間で前記材料に関する電気化学ポテンシャルの平衡が追及される。ナトリウムは、好ましくは誘導されたイオン交換中に血性液体から除去されてもよく、かつ、交換カチオンとしてイオン透過膜を通じて液体プロトン供与体中に移行してもよい。交換イオンとしてのナトリウムの拡散は、前記材料に関する血性液体と液体プロトン供与体との間の対応する濃度勾配によって調整されてもよい。特にこの目的のために、液体プロトン供与体がナトリウムを含有しなくてもよい。
【0010】
液体プロトン供与体によって浸透された第三区画室を提供することによって、典型的なECMO処置と比較して二酸化炭素をさらに血液から除去できる手段となる追加的な機序が提供される。換言すると、血性液体中の二酸化炭素の追加的な供給源に「タップをつける(tapped)」ことができ、それによって二酸化炭素がより効率的かつ迅速に排除される。それにより、本発明に基づくデバイスは典型的なECMO処置の場合より少量の血液を用いて作動させることが可能であり、ゆえに、より小さいアクセスポイントで充分であり、血液を取り出すために大きな血管を用いる必要がない。ゆえに、本発明に基づくデバイスは、1分間につき約400 mlの血液が採られる血液アクセスポイントで血性液体からの二酸化炭素の充分な除去を提供できる。さらに有利な点として、本発明に基づくデバイスを用いると、呼吸圧をより低くするなど、呼吸をより保護的に設定することができ、それによって肺に引き起こす損傷をより少なくできる。
【0011】
本発明に基づくデバイスは、第二および第三区画室の各々が、例えば複数の中空チャネルなどである複数の細長の構造を、例えば中空繊維の形態で備えるように、実施されてもよい。区画室の長さが長いこと(およびそれに対応して調整される浸透速度)は、pHショックを回避できるよう、液体プロトン供与体のプロトンによる血性液体の富化がゆっくり生じることを可能にする。ここでは第一および第三区画室内の物質間の接触時間が決定因となる。
【0012】
本デバイスのさらなる態様において、第二区画室は、半透性材料で作られた複数のライン、好ましくは中空繊維によって境界づけされるかまたはこれを備えてもよい。ラインは例えばポリオレフィンで実質的に作られてもよく、かつ例えばポリメチルペンテン(PMP)を備えてもよい。第二区画室を形成するラインはすべて、他の区画室のインレットおよびアウトレットとは分離した共通のインレットおよびアウトレットを有してもよい。
【0013】
本デバイスのさらなる態様において、第三区画室は、イオン透過性材料で作られた複数のライン、好ましくは中空繊維によって境界づけされるかまたはこれを備えてもよい。ラインは、イオン、特に水素カチオンに対して透過性であるプラスチックで作られてもよい。第三区画室を形成するラインはすべて、他の区画室のインレットおよびアウトレットとは分離した共通のインレットおよびアウトレットを有してもよい。
【0014】
本デバイスのさらなる態様において、イオン透過膜は、ナフィオンなどのカチオン伝導体、またはカチオン・アニオン伝導体を含んでもよい。カチオン伝導体は選択的であってもよい。非選択的カチオン伝導体の場合、その透過性に関する選択性は、イオン交換に関与するカチオン(H+およびNa+など)について水性液体と液体プロトン供与体との間に濃度勾配がもたらされるという点において実現される。対照的に、イオン交換に関与することが意図されないカチオン(血液の場合であれば生理学的関連性があるK+、Ca2+、Mg2+など)については、血性液体中と少なくとも同濃度の前記イオンがプロトン供与体中に存在するという点において、血性液体から液体プロトン供与体中への拡散が防がれる。イオン透過膜はまた、アニオンおよびカチオンの両方に対して透過性であるプラスチック、すなわちイオン伝導体であってもよい。
【0015】
イオン透過膜は、イオンに対してのみ透過性であるが、対照的に、中性の原子および分子に対しては透過性でない膜であると理解される。イオン透過膜はさらに、例えば特定のイオン半径までのイオンなど、特定のイオンについてのみ透過性であってもよい。イオン交換膜、すなわち薄膜になるように処理されたイオン交換体もまた、イオン透過膜によって意味されうる。イオン交換膜は、選択的に決定されたイオンの通過を可能にするために用いられてもよい。ゆえに、イオン交換膜は、カチオンに対してのみ透過性であってもよく(カチオン伝導体)、またはカチオンおよびアニオンの両方に対して透過性であってもよい(カチオン・アニオン伝導体)。
【0016】
1つの好ましいカチオン伝導体はナフィオンである。ナフィオン(2-[1-[ジフルオロ-[(トリフルオロエテニル)オキシ]メチル]-1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホン酸; CAS番号: 31175-20-9)は、イオン基としてスルホン酸基を含む有孔コポリマーである。ナフィオンの下部構造は、パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテン-1-スルホン酸、およびテトラフルオロエテンである。ナフィオン中の酸性のスルホン酸基は、イオン性の性質を有する全フッ素置換ポリマーを可能にする。ナフィオンはプロトンおよび他のカチオンに対して選択的に導電性である。ゆえにナフィオンはアニオンに対してブロッキング効果を有する。
【0017】
そうすると、塩酸が液体プロトン供与体として用いられる場合におけるCl-などのアニオンを液体プロトン供与体から外にシフトさせることによっても、Na+などの標的カチオンを血性液体から外にシフトさせることに加えて、液体プロトン供与体のカチオン(例えばH+)をシフトさせるための電気的交換が生じうる。ただし、それと引き換えに血性液体から出て液体プロトン供与体中に入ってゆくアニオンの望ましくないシフトを回避するために、注意もまた同時に払われるべきである。
【0018】
本デバイスのさらなる態様において、第二区画室のラインおよび第三区画室のラインが、それらのインレットおよびアウトレットを除いて、第一区画室内に存在していてもよい。それによって、第一および第二区画室の物質間、ならびに第一および第三区画室の物質間における相互作用に利用可能な表面積が最大化されうる。区画室のインレットおよびアウトレットを分離することによって、対応する物質についての流量とフローの方向とを各々において個別に設定できる。
【0019】
本デバイスのさらなる態様において、第二区画室のラインと第三区画室のラインとが、第一区画室の部分体積によって常に互いから分離されていてもよい。換言すると、第二区画室のラインと第三区画室のラインとは、第一区画室内に存在する物質が前記ラインの間に流入できるように、互いから空間を空けて配されていてもよい。第一区画室内の物質が第二および第三区画室内の物質と相互作用するための標的物質であるので、前記デザインは有利である。
【0020】
本デバイスのさらなる態様において、血液をガイドして第一区画室に通すために第一区画室がインレットとアウトレットとを備えてもよい;ここで、インレットおよびアウトレットは、第一区画室を通る水性液体のフローをデバイス作動中に調整できるように配される。水性液体が第一区画室のインレットから第一区画室のアウトレットに到達するために(重力の方向に対して垂直、水平、または斜めに)第一区画室全体を通って実質的に流れるように、インレットおよびアウトレットは区画室の互いに反対側に有利に配されていてもよい。
【0021】
本発明に基づくデバイスが、フローリミッターおよびヒーターなどの追加的な流体要素を備えていてもよい。例えば、第三区画室を通って循環する循環内に例えばpHセンサーが存在してもよい。それによって、液体プロトン供与体のpH値が血液のpH値に自動的に調節されうるような閉ループ制御回路が提供され得る。例えば、液体プロトン供与体のpH値が低すぎるならば、第三区画室を通るその流速を遅くしてもよい。代替的に、水性液体のpH値を直接測定するためにpHセンサーが第一区画室内にもまた提供されてもよい。
【0022】
種々の態様において、高炭酸ガス血症を処置または治療するための方法において使用するために、本発明に基づくデバイスの第三区画室に浸透する液体プロトン供与体を含む、組成物がさらに提供される。
【0023】
種々の態様において、高炭酸ガス血症を処置するために本発明に基づくデバイスの第三区画室に浸透するための、液体プロトン供与体を含む組成物の使用が提供される。組成物の使用はまた、本発明に基づくデバイスの第一区画室が血液によって浸透される段階と、本発明に基づくデバイスの第二区画室がパージ用気体によって浸透される段階とを含んでもよい。
【0024】
本組成物の、または本組成物の本発明に基づく使用の、さらなる態様において、液体プロトン供与体は、塩酸など好ましくは非毒性の酸、または酸性の緩衝溶液を含んでもよい。酸性の緩衝溶液は、ヒトについて7.35~7.45である血液の生理学的なpH値に対して相対的にやや酸性寄りであってもよく、例えば6.5~7の範囲内のpH値を有してもよい。さらなる態様例において、酸性の緩衝溶液は、4~6.5、好ましくは4~6、さらに好ましくは4~5.5、さらに好ましくは4~5、さらに好ましくは4~4.5の範囲内のpH値を有してもよい。
【0025】
本組成物の、または本組成物の本発明に基づく使用の、さらなる態様において、生理学的関連性があるタイプの少なくとも1つの金属カチオンが、液体プロトン供与体中に少なくとも生理学的濃度で存在してもよい。好ましくは、生理学的関連性がある金属カチオン(K+、Ca2+、およびMg2+)のうち複数または実質的に全部が、液体プロトン供与体中に、少なくともその対応する生理学的濃度で存在してもよい。換言すると、生理学的関連性がある金属カチオンが、各ケースにおいて血漿中と同濃度またはそれより高い濃度で液体プロトン供与体中に存在してもよい。それによって、生理学的関連性がある金属カチオンが、濃度勾配のゆえに血液から除去されて第三区画室内に拡散することが防がれてもよい。ただし、好ましくは液体プロトン供与体中にナトリウムは存在しない。それによって、本発明に基づくデバイスの作動中に、ナトリウムについて第一区画室と第三区画室との間に濃度勾配が生じる;それによって、先に説明したように、液体プロトン供与体によって供与される水素カチオンと引き換えに、第一区画室から出て第三区画室内に拡散する交換カチオンに関して、選択がなされる。
【0026】
本発明に基づく組成物の、または本組成物の本発明に基づく使用の、さらなる態様において、高炭酸ガス血症は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、喘息、肺炎、または睡眠時無呼吸によって引き起こされ得る。
【0027】
本組成物の、または本組成物の本発明に基づく使用の、さらなる態様において、組成物は、本明細書に説明するデバイスの第二区画室に浸透するパージ用気体をさらに含んでもよい。パージ用気体は、ECMO処置用に典型的に使用されるパージ用気体であってもよい。
【0028】
本組成物の、または本組成物の本発明に基づく使用の、さらなる態様において、処置は、第一区画室を通る水性液体のフローを提供する段階;第二区画室を通るパージ用気体のフローを提供する段階;および第三区画室を通る液体プロトン供与体のフローを提供する段階を含んでもよい。
【0029】
本発明の好ましい態様例を、添付の図面を用いて以下により詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】さまざまな態様例に基づく、水性液体から気体を除去するためのデバイスの模式的構造を示す。
図2】3つの区画室と、本発明に基づくデバイスの作動中に生じる化学反応とを示した模式図である。
図3図3A~3Cは、本発明に基づくデバイスの3つの区画室の、互いに対する位置として可能性があるものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に、水性液体から気体を除去するための本発明に基づくデバイス1の模式的構造の側面図を示す。描写は、デバイス1の相互作用空間、すなわち対応する区画室内の物質が互いに相互作用できる領域に焦点を当てており、他の流体コンポーネント(ライン、ポンプ、センサーなど)は描写されていない。デバイス1は、第一区画室2と、第二区画室3と、第三区画室4とを備える。区画室2、3、4の各々が2つの接続部を有する:第一区画室2は第一接続部21と第二接続部22とを備え、第二区画室3は第三接続部31と第四接続部32とを備え、そして第三区画室4は第五接続部41と第六接続部42とを備える。対応する物質が対応する区画室に浸透する方向に応じて、区画室2、3、4の各々の1つの接続部が、本発明に基づくデバイスの作動中にインレットとして機能し、かつ、対応する他方の接続部がアウトレットとして機能する。物質の循環を維持するために、区画室2、3、4の接続部の各ペア間に、例えばポンプが配されてもよい。
【0032】
水性液体によって浸透される第一区画室2は、例えば図1に示すような円柱形など、任意の形状を備えてよい。各1つの接続部は、床の近くかつ区画室のカバーの近くに配されてもよい。第二区画室3は、第三接続部31と第四接続部32との間に流体接続を提供する複数の第一ライン33、好ましくは中空繊維を備える。第三接続部31および第四接続部32の各々が、デバイス1の相互作用空間の最上部領域および最下部領域内においてリザーバー内に開口するが、ここで前記リザーバーは必須の特徴ではない;本明細書に示す態様例における各リザーバーは、相互作用空間の基部表面全体の上に延在している。第一ライン33は、2つのリザーバーを互いに接続する。類似の様式で、第三区画室4は、第五接続部41と第六接続部42との間に配された複数の第二ライン43、好ましくは中空繊維を備える。第五接続部41および第六接続部42の各々が、デバイス1の相互作用空間の最上部領域および最下部領域内においてリザーバー内に開口する;本明細書に示す態様例における各リザーバーは、相互作用空間1の基部表面全体の上に延在している。第二区画室3のリザーバーは、外部から見ると第三区画室4のリザーバーを封入しているか、またはこれらの上方および下方に配された状態になるので、第一ライン33は、第三区画室4のリザーバーを通って延びている。この点に関して、第一ラインは第三区画室4のリザーバーもまた通って延びているので、第三区画室4の第二ライン43は設計上、第二区画室3の第一ライン33より有利に長い。相互作用空間の中央領域における断面Qの平面図を、デバイス1の相互作用空間の側面図の右側に示す。断面図Qは、第二区画室3の第一ライン33および第三区画室4の第二ライン43の各々が、ある距離だけ互いから空間を空けて第一区画室2を通って延びていることを示している。第一ライン33および第二ライン43はまた、第一区画室2の体積中においても、ある距離だけ互いから空間を空けて配される。
【0033】
留意される点として、図1に示すような第二区画室3および第三区画室4の配置と位置とは、可能性がある多数の配置のうち1つを具現化したものである。さらなる態様例において、図1に示すような第二および第三区画室3、4の位置が互いに入れ替えられてもよい。さらに、区画室2、3、4の各々の中を流れる物質のフロー方向(図1において上から下または下から上)は、概して、各ケースにおいて個別にかつ他の2つの区画室とは独立に調整されてもよい。第一ライン33および第二ライン43の総数と断面とは、必要に応じて選択されてよい。
【0034】
図2に、本発明に基づくデバイス1の作動中に、第一および第二区画室2、3間、ならびに第一および第三区画室2、4間において生じる化学的プロセスを示す。第一区画室2は、好ましくは二酸化炭素である気体がそこから除去される対象である水性液体、好ましくは血液によって浸透される。血性液体中には物理的に溶解した二酸化炭素が存在する。加えて、血性液体中には、生理学的関連性がある金属カチオンが各々の対応する生理学的濃度で存在する。前記金属カチオンは重炭酸塩化合物中に拘束されている。同時に、二酸化炭素も重炭酸塩化合物中に化学的に拘束されている。
【0035】
典型的に純酸素(O2)を含むパージ用気体が、第二区画室3を通って流れる。第一区画室2と第三区画室3との間に半透膜5が配される。第一区画室2と第二区画室3との間で二酸化炭素(CO2)について濃度勾配があるゆえに、血液7中に物理的に拘束された二酸化炭素が放出されて、半透膜5を介して第二区画室3内に拡散する。引き換えに、酸素がパージ用気体から出て半透膜5を介して血性液体中に拡散し、そしてその中にある赤血球7によって受け取られる。前記過程は典型的なECMO用途から周知であり、第一マーク領域8内にスケッチされている。
【0036】
重炭酸塩化合物中に化学的に結合した二酸化炭素は、第三区画室4に浸透している液体プロトン供与体によって重炭酸塩化合物から放出される。第一区画室2と第三区画室4との間に配されたイオン交換膜6を通じて陽イオン交換が生じ、前記交換は、第二マーク領域9内にさらにスケッチされている。前記過程もまた、交換イオンに関する濃度勾配によって誘導される。血液の酸素付加について示している態様例において、交換イオンは、図示の例における標的交換イオンであるナトリウム(Na+)である。ナトリウムは、イオン交換膜6を通って(低ナトリウムの)第三区画室4内に拡散する。引き換えに、液体プロトン供与体中に存在する水素カチオンが、第三区画室4から出て第一区画室2内に拡散する。水素カチオンは重炭酸塩(HCO- 3)に結合し、それによって炭酸(H2CO3)が形成されるが、それは不安定であり、結局は比較的速やかに分解して水(H2O)と二酸化炭素とになる。このように放出された二酸化炭素分子は、物理的に溶解した二酸化炭素分子と類似の様式で、半透膜5を横切って第二区画室3に入る。それによって第三区画室4内の液体プロトン供与体は、化学的に結合した二酸化炭素を放出させるために役立ち、一方で、血性液体からそのように放出された二酸化炭素の除去が、前述したように第二区画室3に浸透しているパージ用気体によって起こる。
【0037】
概して、3つの物質間の相互作用空間の設計について、特に、第二区画室3の第一ライン33と第三区画室4の第二ライン43との、互いに対する相対的な空間配置および第一区画室2内における空間配置について、多数の異なる可能性が存在する。3つの基本的な態様が図3A~3Cにスケッチされている。各図内のバーはデバイス1の相互作用領域内の区画室を表しており、対応する区画室の符番でラベル付けされている。各バーの縦方向の長さは、対応する区画室がその軸に沿って関連物質で浸透されていくという軸もまた規定している。したがって、各々の区画室2、3、4について2つの基本的な浸透フロー方向が生じる。
【0038】
図3Aにスケッチされている態様は、第二区画室3および第三区画室4のラインが互いに平行にアライメントされ、かつ3つの区画室2、3、4を通る物質のフロー方向がすべて互いに平行にアライメントされている、図1に示した本発明に基づくデバイス1の態様に実質的に対応している。各区画室を通る物質の実際のフロー方向は、他の2つの区画室内のフロー方向とは独立に、上から下または下から上に生じてもよい。図3Aにスケッチされた相互作用領域1内の区画室2、3、4の位置は、区画室を通るフロー方向の互いに対する相対的な配置を描写するために役立つのみであり、図に示されているバーの数量が、ある区画室に関連するラインの数量に特に対応するわけではない。第二区画室3と第三区画室4とを形成している中空チャネルの、互いに対する相対的な数量および配置は、さまざまな様式で実施されうる。この1例が図1における断面図Q内に示されている;同図において、第一ライン33が六角形のグリッドを形成しており、第二ライン43が(縁部に配された第二ライン43を除いて)その六角形の中央に配されていることが明らかである。第二区画室3および第三区画室4のラインはさらに、一つずつ交互になった列として、もしくは互いに隣接して配されるか、または他の幾何学パターンに配されてもよい。
【0039】
図3Bに示す、区画室2、3、4の互いに対する相対的な配置において、第一区画室2を通る水性液体のフロー方向は、第二区画室3を通る物質および第三区画室4を通る物質のフロー方向に垂直である。第二区画室3のラインと第四区画室4のラインとの、互いに対する相対的な配置は、図3Aに関して言及した配置のうち1つに根本的に対応していてもよい。
【0040】
最後に、本デバイスの相互作用空間のさらなる可能な態様を図3Cに示す;同図において、第二区画室3を通るフロー方向および第三区画室4を通るフロー方向は、第一区画室2を通るフロー方向に垂直である。ただし、図3Bに示した態様の改変として、第二区画室3の中空チャネルは追加的に、第一区画室2の中空チャネルに対して角度をつけて配される;それは、フロー方向もまたそれに対応して互いに対して相対的に角度をつけて配されるように行われる。その角度は、好ましくは例えば90°であってもよい。それによって、第二区画室3のラインおよび第三区画室4の第二ラインが、(第一区画室2に浸透している水性液体から見て)長方形または正方形のグリッド構造を実質的に実施してもよい;ここでグリッド構造の中間の空間は水性液体によって浸透されている。グリッド構造は、第二区画室3のラインと第三区画室4のラインとが互いに接触し、ゆえにグリッド状構造の交点を実施するように、実施されてもよい。代替的に、第二区画室3のラインと第三区画室4のラインとは、互いから空間を空けた列として互いに垂直に配されてもよい。
図1
図2
図3
【国際調査報告】