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特表2023-514394プラスミンで切断可能なPSD-95阻害剤及び再灌流を用いる脳卒中の併用療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】プラスミンで切断可能なPSD-95阻害剤及び再灌流を用いる脳卒中の併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230329BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230329BHJP
   A61K 38/49 20060101ALI20230329BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K38/10
A61P9/10
A61P43/00 105
A61P25/00
A61K38/49
A61P43/00 121
C07K7/08 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549921
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 IB2021051405
(87)【国際公開番号】W WO2021165888
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】62/978,759
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/978,792
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509011178
【氏名又は名称】ノノ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ティミアンスキー, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ガーマン, ジョナサン デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084DC21
4C084MA56
4C084MA59
4C084NA06
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC751
4C084ZC752
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA20
(57)【要約】
PSD-95のペプチド阻害剤であるTat-NR2B9cは、血栓溶解剤によって誘導される血清プロテアーゼであるプラスミンによって切断される。逆に、Tat-NR2B9cは血栓溶解剤の活性に悪影響を及ばない。血栓溶解剤によるTat-NR2B9cの不活性化は、いくつかのアプローチによって軽減又は回避することができる。前記アプローチは、Tat-NR2B9cとプラスミンの血漿滞留の実質的な重複を避けるためにそれぞれを間隔を空けて投与すること、血栓溶解剤による再灌流の代わりに機械的再灌流を使用すること、又はプラスミンによって切断されないPSD-95を阻害する活性薬剤(例えば、Tat-NR2B9cのD-アミノ酸バリアント)を含む。
【選択図】図10B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血に罹患しているか又は罹患するリスクがある被験体の集団を治療する方法であって、
前記被験体に、プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、再灌流を施すことを含み、
前記被験体の集団は、
PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、かつ機械的再灌流を施されたか又は再灌流を生じさせるための血管拡張剤若しくは昇圧剤を投与された被験体、及び/又は
PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、かつ再灌流を生じさせるための血栓溶解剤を投与された被験体であって、血栓溶解剤の投与の少なくとも10分前にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与された被験体を含み、
前記被験体の集団には、
PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前3時間未満又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、方法。
【請求項2】
前記被験体は、虚血性脳卒中に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前4時間未満又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前8時間未満又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後20分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後30分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後60分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記被験体の集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、かつ血栓溶解剤を受けずに機械的再灌流を施される被験体を含む、請求項1から8のいずれか1項似記載の方法。
【請求項10】
治療される前記集団は、
(a)PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、機械的再灌流を施され、血栓溶解剤なしで血管拡張剤又は昇圧剤を投与された被験体と、
(b)PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与の少なくとも10、20、30、40、50、60又は120分後に血栓溶解剤を投与された被験体、から構成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記(b)に係る前記被験体の少なくとも一部は、さらに機械的再灌流を施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記集団は、被験体が脳卒中発症後3時間未満に血栓溶解剤による治療に適すると決定された場合、脳卒中発症の3時間又は4.5時間以上後に血栓溶解剤を投与された被験体を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
前記集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を鼻腔内又は髄腔内に投与される被験体を含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記集団は、100個の被験体を含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を10分間かけて投与され、活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に血栓溶解剤を投与された被験体を含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記活性薬剤は、ネリネチドである、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
虚血性脳卒中のために血管内血栓除去術を受ける被験体の集団を治療する方法であって、
前記被験体の集団のうちのいくつかの被験体にプラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤の両方を投与し、PSD-95を阻害する活性薬剤は、血栓溶解剤の投与の少なくとも10、20、30、40、50、60又は120分前に投与されることと、
PSD-95を阻害する活性薬剤又は血栓溶解剤を前記被験体の集団のうちの残りの被験体に投与することと、を含む、方法。
【請求項19】
PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を受ける前記被験体は、血管内血栓除去術を受ける前に前記活性薬剤及び血栓溶解剤を投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
PSD-95を阻害する活性薬剤又は血栓溶解剤を受ける前記被験体は、血管内血栓除去術を受ける前に前記活性薬剤又は血栓溶解剤を投与される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤の両方を受ける前記被験体に、血栓溶解剤を投与する少なくとも10分前にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、
他の被験体にPSD-95を阻害する活性薬剤又は血栓溶解剤を投与する、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
虚血に罹患しているか又は罹患するリスクがある被験体の集団を治療する方法であって、
前記被験体にPSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を投与することを含み、前記被験体の集団は、
プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する第1の活性薬剤及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、血栓溶解剤を投与される前の少なくとも10、20、30、40、50、60及び120分間から選択される間隔でPSD-95を阻害する第1の活性薬剤を投与された被験体、及び
PSD-95を阻害しかつプラスミンによる切断に耐性がある第2の活性薬剤、及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、PSD-95を阻害する第2の活性薬剤を投与される前に又は投与された後の前記間隔以内に血栓溶解剤を投与された被験体、
を含む、方法。
【請求項23】
虚血性脳卒中の疑いのある被験体を治療する方法であって、
血栓溶解剤による治療に対する前記被験体の適格性を決定することと、
プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することと、
活性薬剤を投与した少なくとも10、20、30、40、50、60又は120分後に血栓溶解剤を投与することと、
を含む、方法。
【請求項24】
PSD-95を阻害する活性薬剤を10分間かけて投与され、前記活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に血栓溶解剤を投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記活性薬剤は、ネリネチドである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
イメージングにより虚血性脳卒中の存在及び脳出血の非存在を決定する、請求項23から26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
虚血性脳卒中の発症後の3時間未満に適格性を決定し、虚血性脳卒中の発症の3時間以上後の血栓溶解剤を投与する、請求項23から27のいずれか1項に記載の方法、請求項23から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
虚血性脳卒中の発症後の4.5時間未満に適格性を決定し、虚血性脳卒中の発症の4.5時間以上後の血栓溶解剤を投与する、請求項23から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
虚血性脳卒中の発症後の3時間未満に適格性を決定し、虚血性脳卒中の発症の4.5時間以上後の血栓溶解剤を投与する、請求項23から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
PSD-95を阻害する活性薬剤は、C末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号1)を含むか、又はC末端にX-[T/S]-XV(配列番号2)を含むペプチドを含み、ここで、[T/S]は代替アミノ酸であり、XはE、Q、A及びそれらの類似体から選択され、XはA、Q、D、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-N及びそれらの類似体から選択され、前記ペプチドのN末端に内在化ペプチドが結合される、請求項1から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
PSD-95を阻害する前記活性薬剤は、ネリネチドである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記血栓溶解剤は、tPAである、請求項1から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤で脳卒中に罹患している被験体を治療する方法であって、
前記活性薬剤は、
血栓溶解剤が投与される少なくとも10分前に投与され、又は
血栓溶解剤が投与された少なくとも2、3、4時間若しくはそれ以上後に投与され、又は
血栓溶解剤なしで投与される、方法。
【請求項35】
PSD-95を阻害する活性薬剤は、10分間かけて投与され、血栓溶解剤は、前記活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記活性薬剤は、ネリネチドである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
血栓溶解剤によりプラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤の分解を最小限に抑制する方法であって、
血栓溶解剤を投与する少なくとも10分前にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、或いは
血栓溶解剤を投与した少なくとも2、3又は4時間以上後にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、或いは
血栓溶解剤なしでPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、或いは
鼻腔内又は髄腔内投与によりPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することを含む、方法。
【請求項39】
PSD-95を阻害する活性薬剤を10分間かけて投与し、前記活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に血栓溶解剤を投与する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記活性薬剤は、ネリネチドである、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
虚血性脳卒中を治療する方法であって、
虚血性脳卒中に罹患している被験体にプラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することと、
前記活性薬剤の投与開始から20-40分後に血栓溶解剤を投与することと、
を含む、方法。
【請求項43】
PSD-95を阻害する活性薬剤は10分間にわたって阻害され、血栓溶解剤は前記活性薬剤の投与開始から20-30分後に投与される、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月19日に出願された米国特許出願第US 62/978,759及びUS62/978,792の優先権を主張し、その全体がすべての目的で参照により組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、2021年2月17日に作成された22,109バイトの552735SEQLST.TXTという名前のtxtファイルに開示された配列を含み、それが参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
Tat-NR2B9c(NA-1又はネリネチドとしても知られている)は、PSD-95を阻害することでN-メチル-D-アスパラギン酸塩受容体(NMDAR)及び神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)へのPSD-95の結合を干渉し、脳虚血による興奮毒性を低下させる薬剤である。治療により、脳損傷及び神経変性疾患のモデルにおける梗塞サイズ及び機能障害が軽減される。Tat-NR2B9cは、第II相試験(WO2010144721;Aarts et al.,Science 298,846-850(2002),Hill et al.,Lancet Neurol.11:942-950(2012))及び第III相試験(Hill et al,Lancet395:878-887(2020))に成功した。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、虚血に罹患しているか又は罹患するリスクがある被験体の集団を治療する方法を提供する。前記方法は、前記被験体に、プラスミン(plasmin)によって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、再灌流(reperfusion)を行うことを含む。前記被験体の集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、かつ機械的再灌流を施されたか又は再灌流を生じさせるための血管拡張剤若しくは昇圧剤を投与された被験体、及び/又はPSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、かつ再灌流を生じさせるための血栓溶解剤を投与された被験体であって、血栓溶解剤の投与の少なくとも10分前にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与された被験体を含み、前記被験体の集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前3時間未満又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。
【0005】
選択的に、前記被験体は、虚血性脳卒中に罹患している。選択的に、前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前4時間未満又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。選択的に、前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前8時間未満又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。選択的に、前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後10分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。選択的に、前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後20分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。選択的に、前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後30分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。選択的に、前記集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与前に又は投与後60分間未満に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。選択的に、被験体の集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、かつ血栓溶解剤を受けずに機械的再灌流を施される被験体を含む。
【0006】
選択的に、治療される前記集団は、(a)PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、機械的再灌流を施され、血栓溶解剤なしで血管拡張剤又は昇圧剤を投与された被験体と、(b)PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与の少なくとも10、20、30、60又は120分後に血栓溶解剤を投与された被験体、から構成される。選択的に、前記(b)に係る前記被験体の少なくとも一部は、さらに機械的再灌流を施される。選択的に、前記集団は、被験体が脳卒中発症後3時間未満に血栓溶解剤による治療に適すると決定された場合、脳卒中発症の3時間又は4.5時間以上後に血栓溶解剤を投与された被験体を含む。選択的に、前記集団は、少なくとも100個の被験体を含む。選択的に、前記集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を10分間かけて投与され、活性薬剤の投与開始から少なくとも30分後に血栓溶解剤を投与された被験体を含む。選択的に、前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである。選択的に、前記活性薬剤は、ネリネチドである。
【0007】
本発明は、虚血性脳卒中のために血管内血栓除去術を受ける被験体の集団を治療する方法をさらに提供する。前記方法は、前記被験体の集団のうちのいくつかの被験体にプラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤の両方を投与し、PSD-95を阻害する活性薬剤は、血栓溶解剤の投与の少なくとも10、20、30、60又は120分前に投与されることと、PSD-95を阻害する活性薬剤又は血栓溶解剤を残りの被験体に投与することとを含む。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を受ける前記被験体は、血管内血栓除去術を受ける前に前記活性薬剤及び血栓溶解剤を投与される。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤又は血栓溶解剤を受ける前記被験体は、血管内血栓除去術を受ける前に前記活性薬剤又は血栓溶解剤を投与される。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤の両方を受ける前記被験体に、血栓溶解剤を投与する少なくとも10分前にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、他の被験体にPSD-95を阻害する活性薬剤又は血栓溶解剤を投与する。
【0008】
本発明は、虚血に罹患しているか又は罹患するリスクがある被験体の集団を治療する方法をさらに提供する。前記方法は、前記被験体にPSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を投与することを含み、前記被験体の集団は、プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する第1の活性薬剤及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、血栓溶解剤を投与される前の少なくとも10、20、30、60及び120分間から選択される間隔でPSD-95を阻害する第1の活性薬剤を投与された被験体、及びPSD-95を阻害しかつプラスミンによる切断に耐性がある第2の活性薬剤、及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、PSD-95を阻害する第2の活性薬剤を投与される前に又は投与された後の前記間隔以内に血栓溶解剤を投与された被験体を含む。
【0009】
本発明は、虚血性脳卒中の疑いのある被験体を治療する方法をさらに提供する。前記方法は、血栓溶解剤による治療に対する前記被験体の適格性を決定することと、プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することと、活性薬剤を投与した少なくとも10、20、30、60又は120分後に血栓溶解剤を投与することと、を含む。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤を10分間かけて投与され、前記活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に血栓溶解剤を投与される。選択的に、前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドであり、選択的に、ネリネチドである。選択的に、イメージングにより虚血性脳卒中の存在及び脳出血の非存在を決定する。選択的に、虚血性脳卒中の発症後の3時間未満に適格性を決定し、虚血性脳卒中の発症の3時間以上後の血栓溶解剤を投与する。選択的に、虚血性脳卒中の発症後の4.5時間未満に適格性を決定し、虚血性脳卒中の発症の4.5時間以上後の血栓溶解剤を投与する。選択的に、虚血性脳卒中の発症後の3時間未満に適格性を決定し、虚血性脳卒中の発症の4.5時間以上後の血栓溶解剤を投与する。
【0010】
いずれかの上記方法において、PSD-95を阻害する活性薬剤は、C末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号1)を含むか、又はC末端にX-[T/S]-XV(配列番号2)を含むペプチドを含み、ここで、[T/S]は代替アミノ酸であり、XはE、Q、A及びそれらの類似体から選択され、XはA、Q、D、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-N及びそれらの類似体から選択され、前記ペプチドのN末端に内在化ペプチドが結合される。選択的に、内在化ペプチドに結合したPSD-95を阻害する活性薬剤は、Tat-NR2B9c(ネリネチド)である。選択的に、前記血栓溶解剤は、tPAである。
【0011】
本発明は、PSD-95を阻害するプラスミン感受性(即ち、プラスミンによって切断可能)活性薬剤で脳卒中に罹患している被験体を治療する方法をさらに提供する。前記活性薬剤は、血栓溶解剤が投与される少なくとも10分前に投与され、又は血栓溶解剤が投与された少なくとも2、3、4時間若しくはそれ以上後に投与され、又は血栓溶解剤なしで投与される。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤は、10分間かけて投与され、血栓溶解剤は、前記活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に投与される。選択的に、前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである。選択的に、前記活性薬剤は、ネリネチドである。
【0012】
本発明は、血栓溶解剤によりプラスミン感受性(即ち、プラスミンによって切断可能)PSD-95を阻害する活性薬剤の分解を最小限に抑制する方法をさらに提供する。前記方法は、血栓溶解剤を投与する少なくとも10分前にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、或いは血栓溶解剤を投与した少なくとも2、3又は4時間以上後にPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、或いは血栓溶解剤なしでPSD-95を阻害する活性薬剤を投与し、或いは鼻腔内又は髄腔内投与によりPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することを含む。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤を10分間かけて投与し、前記活性薬剤の投与開始から少なくとも20分後に血栓溶解剤を投与する。選択的に、前記活性薬剤は、全てのアミノ酸がL-アミノ酸であるペプチドである。選択的に、前記活性薬剤は、ネリネチドである。
【0013】
本発明は、虚血性脳卒中を治療する方法をさらに提供する。前記方法は、虚血性脳卒中に罹患している被験体にプラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することと、前記活性薬剤の投与開始から20-40分後に血栓溶解剤を投与することと、を含む。選択的に、PSD-95を阻害する活性薬剤は10分間にわたって阻害され、血栓溶解剤は前記活性薬剤の投与開始から20-30分後に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アルテプラーゼ投与有無のネリネチドの血漿中濃度を示す。
図2A】ネリネチド治療群の修正ランキンスケールでの主要転帰分布を示す積み上げ横棒グラフである。バーには比率のラベルが付けられている。
図2B】通常のケアアルテプラーゼ治療によるネリネチド治療群の修正ランキンスケールの主要転帰分布を示す水平積み上げ棒グラフ。バーには比率のラベルが付けられている。
図3】事前に指定されたサブグループにおけるネリネチド治療効果のフォレストプロットである。比較は多重度のために調整されていない。一次分析と同じ変数(アルテプラーゼ、血管内アプローチ、年齢、性別、NIHSSスコア、ASPECTS、閉塞位置、部位)で調整された効果量は、ランダム化層によって示され、事前に指定された追加のサブグループに従って示される。このプロットには、事前に指定された2つのサブグループが含まれていない。(1)発症から治療までの時間<=4h又は>4h(6時間の時間しきい値を使用した同様のグループ化と重複しているためである);(2)体重>105-120kg vs.40-105kg(この高体重のカテゴリーに分類される患者が非常に少なく、モデリングが不安定になるためである)。発症から治療までの時間>6時間とアルテプラーゼなし層との間には有意な重複がある。これは、通常のケアでは、後の時間窓の患者は静脈内アルテプラーゼで治療されないためである。
【0015】
図4図4A-4Eでは、ネリネチドはプラスミンによって切断される。図4Aは、PBS中でプラスミンとインキュベートした後のネリネチドのLC/MSスペクトルである。ネリネチド(18mg/mL)の10uLアリコート及びプラスミン(1mg/mL)をリン酸緩衝生理食塩水の500uLチューブ内で37℃で5分間インキュベートし、試験まで-80℃に冷却することにより反応を停止させた。様々なピークは、示された断片に対応する。挿入:予測されたトリプシン切断部位と実際の切断部位。図4B及び4Cは、ラット(B)及びヒト(C)血漿中のネリネチド含有量に対するrt-PAのインビトロ効果を示す。ネリネチドは、t=0で65ug/mlの濃度で血漿サンプルにスパイクされたのに対し、アルテプラーゼ(rt-PA)は、所定の濃度で60分間の注入として投与された。図4D及び4Eは、ラットにおけるCmax(D)及びAUC(E)に対するネリネチドとrt-PAの共投与のインビトロ効果である。ネリネチドボーラスとアルテプラーゼ(60分間の注入)は、2つの別々の静脈ラインを介して同時に開始された。記号は平均±SDを表す。ネリネチド単独群と比較した場合の有意差(B)、(C)及び(D) は、アスタリスク(*)で表される(ポストホックシダックの多重比較検定による双方向ANOVAの反復測定、*P<0.01)。ネリネチド+rt-PA(5.4mg/kg)との有意差(E)は、ネリネチド単独群と比較した場合にアスタリスクで表される(一元配置分散分析多重比較検定の事後テューキー補正、*P<0.01)図4Aの配列の配列識別子は、ネリネチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号3)である。YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号3)(全長NA-1、未消化)、RRQRRRKLSSIESDV(配列番号4)、RQRRRKLSSIESDV(配列番号5)、QRRRKLSSIESDV(配列番号6)、RRKLSSIESDV(配列番号7)、RKLSSIESDV(配列番号8)、KLSSIESDV(配列番号9)、LSSIESDV(配列番号10)。
【0016】
図5図5A-5Dは、ネリネチド投与とrt-PAによる再灌流の間の投薬分離(Dose separation)は、ネリネチドの治療効果の無効化を解決することを示す。ネリネチド(7.6mg/kg)は、rt-PAの60分間注入(5.4mg/kg、10%ボーラス、続いて90%60分間注入)開始の30分前又は開始と同時に、静脈内ボーラス注射により投与された。(A)実験的なタイムライン;BP=血圧;TTC=塩化トリフェニルテトラゾリウムによる染色。(B)eMCAoの24時間後の半球梗塞体積測定。(C)eMCAoの24時間後の半球脳腫脹の割合。(D)eMCAoの24時間後の神経学的スコア。(A)に示される時間に静脈内投与により処理する。バーは平均±SDを表し、すべての個々のデータポイントがプロットされる。(B)及び(C)の有意差は、対照群/ネリネチド単独と比較した場合はアスタリスクで示され、血栓溶解剤と比較した場合は番号記号で示される(一元配置分散分析多重比較検定のポストホックテューキー補正、それぞれ*P<0.01又は#P<0.01;N=12-15動物/群)。有意差(D)は、対照群/ネリネチド単独と比較した場合はアスタリスクで示され、血栓溶解剤と比較した場合は番号記号で示される(多重比較検定の事後ダン補正を使用したランクのクラスカル・ウォリス分散分析、*それぞれP<0.01又は#P<0.01)。
【0017】
図6図6A-6Fは、D-Tat-L-2B9cがネリネチドと同じ標的親和性を有するが、血栓溶解剤による切断の影響を受けないことを示す。(A)ネリネチドとD-Tat-L-2B9cは、PSD-95 PDZ2ドメインに対して類似の結合親和性を有する。PSD-95のPDZ2ドメインに対する指定ビオチン化ペプチドの直接ELISA。ネリネチドEC50=0.093uM。D-Tat-L-2B9c EC50=0.151uM。記号は、3回の実験の平均±SDを示す。すべての相互作用を複数回滴定し、一貫した結果を示す。(B)rt-PA(135ug/ml)又はプラスミン(10ug/mL)によるチャレンジ中のPBS中のネリネチド(65ug/ml)又はD-TAT-L-2B9c(65ug/ml)含有量の経時変化。(C)、(D):rt-PA(135ug/ml)によるチャレンジ中のラット血漿(C)及びヒト血漿(D)中のネリネチド又はD-TAT-L-2B9c含有量の経時変化。(E)、(F)テネクテプラーゼ(TNK;それぞれ37.5ug/ml又は6.25ug/ml)によるチャレンジ中のラット血漿(E)及びヒト血漿(F)中のネリネチド又はD-TAT-L-2B9c含有量の経時変化。ネリネチド+プラスミン(B)、ネリネチド+rt-PA(C、D)、及びネリネチド+TNK(E、F)との有意差は、対照群/ネリネチド単独と比較した場合にアスタリスクで表される(事後シダックの多重比較検定による反復測定双方向ANOVA、*P<0.01)。記号は平均±SDを示す。
【0018】
図7図7A-7Cは、ネリネチドとD-TAT-L-2B9cの薬物動態プロファイルが類似することを示す。(A)ラットにおけるネリネチド(7.6mg/kg)及びD-TAT-L-2B9c(7.6mg/kg)の静脈内ボーラス投与の経時変化。記号は平均±SDを表す。アスタリスク(*)は、プラセボ又は対照と比較した場合の統計的有意性を表す。*P<0.01は、事後シダックの多重比較検定を使用した双方向反復測定ANOVAによる。(B)ゼロ時間から60分間までの濃度-時間曲線下面積;*対応のないスチューデントt検定によるP<0.05。(C)示された薬物動態パラメータの比較(Cmax=最大濃度;Tmax=Cmaxに達する時間;T1/2=半減期;AUC(0-last)=最後の測定までの曲線下面積;AUC(0-inf)=無限大に外挿したAUC;Cl=クリアランス)。
【0019】
図8図8A-8Dは、脳卒中発症の1時間後にD-Tat-L-2B9cとrt-PAを同時に投与することによりeMCAOを受けた動物の梗塞体積が減少することを示す。(A)実験的なタイムライン;BP=血圧;TTC=2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリドによる染色。(B)梗塞体積。(C)半球性腫脹。(D)eMCAoの24時間後の神経学的スコア。D-Tat-L-2B9c及びネリネチドは、eMCAoの60分後にボーラス注射により静脈内投与された。バーは平均±SDを表し、すべての個々のデータポイントがプロットされる。(B)及び(C)の有意差は、対照群/ネリネチド単独と比較した場合はアスタリスクで示され、血栓溶解剤と比較した場合は番号記号で示される(一元配置分散分析多重比較検定のポストホックテューキー補正、それぞれ*P<0.01又は#P<0.01;N=10-17動物/群)。対照群/ネリネチド単独と比較した場合の有意差(D)は、アスタリスクで示される(多重比較検定の事後ダン補正によるランクのクラスカル・ワリス分散分析、*P<0.01)。(E)指定群からの代表的な冠状脳切片は、梗塞体積及び半球膨張評価のために、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)で染色された。
【0020】
図9】健康なヒトへの投与後のネリネチドの血漿中濃度を示す。
【0021】
図10図10A-10Cでは、10分間のネリネチド注入の終了10分後にアルテプラーゼを投与すると、ネリネチドの切断が大幅に減少する。図10Aはネリネチドの血漿濃度を示す。図10Bは曲線下面積を示す。図10Cは薬理学的パラメータの変化を示す。
【0022】
図11図11A-11Bでは、ラット tMCAoモデルにおいて、ネリネチドは少なくとも0.025~25mg/kgの用量範囲で(A)梗塞サイズの減少及び(B)神経障害の軽減に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
【0024】
「医薬製剤」又は組成物は、活性薬剤が有効であり、その製剤を投与する被験体にとって毒である追加の構成成分を含まない調製品である。
【0025】
大文字の1文字のアミノ酸コードの使用は、文脈で別段の指示がない限り、D-又はL-アミノ酸のいずれかを指すことができる。小文字の1文字コードは、D-アミノ酸を示すために使用される。グリシンにはD型とL型がないため、大文字及び小文字で交換可能に表すことができる。
【0026】
濃度又はpH等の数値は、値を測定可能な精度を反映している許容範囲内で与えられる。文脈上別段の解釈を要する場合を除き、微小な値は、最も近い整数に丸められる。文脈上別段の解釈を要する場合を除き、値の範囲の説明は、任意の整数、又は、使用可能な範囲内のサブ範囲を意味する。
【0027】
用語「疾患」及び「状態」は、被験体の正常構造又は機能に関する任意の破壊又は停止を示すものとして同義的に用いられる。
【0028】
明示の用量は、一般的な病院の設備で用量を計量することができる精度に固有の誤差を含むものとして理解すべきである。
【0029】
「単離」又は「精製」との用語は、対象種(例えばペプチド)が、対象種を含有する天然源由来の試料などの、試料に存在する混入物質から精製されていることを意味する。対象種が、単離又は精製された場合、それは試料における主たる高分子(例えばポリペプチド)種であり(つまり、モル基準で、その組成物において他の個々の種のどれよりも多い)、好ましくは、対象種は、存在する全高分子種の少なくとも50%(モル基準)を含む。一般に、単離された、精製された又は実質的に純粋な組成物は、組成物に存在する全高分子種の80~90%よりも多くを含む。より好ましくは、対象種は、組成物が本質的に単一の高分子種で構成される、本質的な均一度(つまり、従来の検出法で組成物中の混入種を検出することができない)にまで、精製される。単離された又は精製されたという用語は、単離された種との組み合わせで作用するように意図された他の成分の存在を、必ずしも排除するものではない。例えば、内在化ペプチドは、活性ペプチドに連結されるにもかかわらず、単離されていると記載される。
【0030】
「ペプチド模倣体」は、天然アミノ酸で構成されるペプチドと実質的に同じ構造及び/又は機能特性を有する、合成の化学物質を指す。ペプチド模倣体は、完全に合成の非天然のアミノ酸アナログを包含することができ、又は、部分的に天然のペプチドアミノ酸と部分的に非天然のアミノ酸アナログとのキメラ分子であり得る。ペプチド模倣体は、また、天然アミノ酸の保存的置換を、その置換が模倣体の構造及び/又は阻害活性もしくは結合活性を実質的に変更することもない限り、いくらでも取り込むことができる。ポリペプチド模倣組成物は、一般に次の3つの構造群に由来する非天然の構造成分の、あらゆる組み合わせを含有することができる:a)天然のアミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結群;b)天然に存在するアミノ酸残基に代わる非天然残基;又は、c)2次構造模倣を誘導する残基、つまり、例えば、ベータターン、ガンマターン、ベータシート、アルファへリックスコンホメーションなどの2次構造を誘導又は安定化する残基。活性ペプチド及び内在化ペプチドを含むキメラペプチドのペプチド模倣体において、活性部分及び内在化部分の一方又は両方は、ペプチド模倣体であり得る。
【0031】
特異的結合」の用語は、2つの分子、例えばリガンド及び受容体、の間の結合であって、多くの他の様々な分子が存在するときでも、一方の分子(リガンド)が他方の特異的分子(受容体)に会合する能力、つまり、分子の異種混合物における1つの分子の他の分子に対する優先的結合を示す能力、によって特徴付けられる結合を指す。受容体へのリガンドの特異的結合は、また、検出可能に標識されたリガンドの受容体への結合が、過剰の非標識リガンドの存在下で低下すること(つまり、結合競合アッセイ)によっても証明される。
【0032】
興奮毒性は、神経細胞と周囲の細胞が、NMDA受容体、例えば、NMDAR2Bサブユニットを持つNMDA受容体などの、興奮性神経伝達物質グルタメートの受容体の過剰活性化によって、損傷を受けて死ぬ病理過程である。
【0033】
「被験体」との用語には、ヒト、ならびに、哺乳動物などの獣医学動物及び前臨床試験で使用されるマウス又はラットなどの実験動物が含まれる。
【0034】
tatペプチドは、RKKRRQRRR(配列番号11)からなる又はRKKRRQRRR(配列番号13)を含むペプチドであって、その配列内で5つ以下の残基が削除、置換又は挿入され、連結したペプチド又は他の薬剤を細胞に取り込むことを促進する能力を維持しているペプチドを意味する。好ましくは、あらゆるアミノ酸変化は、保存的置換である。好ましくは、会合体におけるあらゆる置換、削除又は内部挿入は、好ましくは上記の配列のものに類似する、正味正電荷をペプチドに残す。このようなこれは、例えば、R又はK残基を置換しないことによって、又はR及びK残基の合計を同じに保持することによって達成することができる。tatペプチドのアミノ酸は、炎症反応を低減するために、ビオチン又は類似の分子によって誘導体化することができる。
【0035】
薬理活性薬剤の共投与は、それらの薬剤の検出可能な量が血漿中に同時に存在するために、及び/又は、それらの薬剤が疾患の同じエピソードに対する治療効果を奏する、もしくは、それらの薬剤が疾患の同じエピソードに対して協働的又は相乗的に作用するために十分に近接した時間に、それらの薬剤が投与されることを意味する。例えば、抗炎症薬は、tatペプチドを含む薬剤と、両薬剤が内在化ペプチドによって誘導され得る抗炎症反応を抗炎症薬が抑止し得るだけ十分に近い時間に投与されるとき、協働的に作用する。
【0036】
統計的に有意であるとは、p値が<0.05、好ましくは<0.01、最も好ましくは<0.001でることを指す。
【0037】
疾患のエピソードとは、疾患の兆候又は症状が存在する期間であって、その兆候及び/又は症状が存在しないもしくはより低い程度で存在する、より長い期間が隣接することによって、間歇的に存在する期間を意味する。
【0038】
薬物の投与が瞬間的でない場合、特に明記されていない限り、間隔は投与の最初の時点から計算される。
【0039】
「NMDA受容体」又は「NMDAR」の用語は、以下に記載する種々のサブユニット型を含むNMDAと相互作用することが知れられている、膜結合タンパクを指す。このような受容体は、ヒトのものであることも、ヒトのものでない(例えば、ラット、ウサギ、サル)こともあり得る。
【0040】
発明の詳細な説明
I.概要
【0041】
本発明は、PSD-95のペプチド阻害剤Tat-NR2B9c及び関連ペプチドがセリンプロテアーゼであるプラスミン(血栓溶解剤(例えば、tPA)によって誘導される)によって切断されるという知見に部分的に基づく。Tat-NR2B9cと血栓溶解剤が同時に又は十分に短い間隔で投与されることでTat-NR2B9cと血栓溶解剤によって誘導されるプラスミンとの血漿滞留に実質的な重なりをもたらすと、Tat-NR2B9cの切断が発生し、治療効果は低下又はなくなる。逆に、Tat-NR2B9cは血栓溶解剤の活性に悪影響を及ばない。血栓溶解剤によるTat-NR2B9cの不活性化は、いくつかのアプローチによって軽減又は回避することができる。前記アプローチは、Tat-NR2B9cとプラスミンの血漿滞留の実質的な重複を避けるためにそれぞれを間隔を空けて投与すること、血栓溶解剤による再灌流の代わりに機械的再灌流を使用すること、又はプラスミンによって切断されないPSD-95を阻害する活性薬剤(例えば、Tat-NR2B9cのD-アミノ酸バリアント)を含む。
II.活性薬剤
【0042】
本発明の活性薬剤は、PSD-95に特異的に結合する(例えば、Stathakism,Genomics 44(1):71-82(1997))ことでNMDAR2B(例えば、GenBank ID4099612)を含むNMDA受容体2サブユニット及び/又はNOS(例えば、神経型又はnNOS Swiss-Prot P29475)へのPSD-95の結合を阻害する。好ましいペプチドは、ヒト被験体において使用されるヒト形態のPSD-95 NMDAR 2B及びNOSを阻害する。しかし、阻害は、タンパク質の種バリアントから示され得る。このような薬剤は、細胞膜及び血液脳関門を通過するPSD-95ペプチド阻害剤の通過を促進するために、PSD-95ペプチド阻害剤及び内在化ペプチドを含み得る。このような薬剤には、塩基性残基R及び Kの通常以上の表現が含まれる。この薬剤が従来のL-アミノ酸から形成される場合、R及びK残基の過剰発現により、R及びK残基とC末端側の近接残基の間の部位は、特にプラスミンによって切断されやすい。ネリネチド又は他の活性薬剤のプラスミン感受性は、実施例によって実証することができる。
【0043】
いくつかのペプチド阻害剤は、それらのC末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号1)を含むアミノ酸配列を有する。例示的なペプチドは、ESDV(配列番号12)、ESEV(配列番号13)、ETDV(配列番号14)、ETAV(配列番号15)、ETEV(配列番号16)、DTDV(配列番号17)及びDTEV(配列番号18)をC末端アミノ酸として含む。いくつかのペプチドは、それらのC末端に[I]-[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号19)を含むアミノ酸配列を有する。例示的なペプチドは、IESDV(配列番号20)、IESEV(配列番号21)、IETDV(配列番号22)、IETAV(配列番号23)、IETEV(配列番号24)、IDTDV(配列番号25)及びIDTEV(配列番号26)をC末端アミノ酸として含む。いくつかのペプチドは、それらのC末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号1)又はX-[T/S]-XV(配列番号2)を含むアミノ酸配列を有し、ここで、[T/S]は、代替アミノ酸であり、Xは、E、Q、A及びそれらの類似体から選択され、Xは、A、Q、D、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-N及びそれらの類似体から選択される(Bach,J.Med.Chem.51,6450-6459(2008)及びWO 2010/004003)。いくつかの阻害剤ペプチドは、それらのC末端にX-[T/S]-X4-V(配列番号27)を含むアミノ酸配列を有し、[T/S]は、代替アミノ酸であり、Xは、E、D、Q、A及びそれらの類似体から選択され、Xは、A、Q、D、E、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-E、N-Me-N及びそれらの類似体から選択される。選択的に、前記ペプチドは、P3位置(C末端から3番目のアミノ酸、即ち、[T/S]が占める位置)でN-アルキル化される。このペプチドは、シクロヘキサン又は芳香族置換基によってN-アルキル化され、ペプチド又はペプチド類似体の置換基と末端アミノ基との間にスペーサ基をさらに含み得る。前記スペーサ基は、アルキル基であり、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基から選択される。芳香族置換基は、ナフタレン-2-イル部分、或いは1つ又は2つのハロゲン及び/又はアルキル基で置換された芳香環であり得る。いつかの阻害剤ペプチドは、C末端にIX-[T/S]-XV(配列番号28)を含むアミノ酸配列を有し、ここで、[T/S]は、代替アミノ酸であり、Xは、E、Q、A及びそれらの類似体から選択され、Xは、A、Q、D、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-N及びそれらの類似体から選択される。いくつかの阻害剤ペプチドは、それらのC末端にI-X-[T/S]-X4-V(配列番号29)を含むアミノ酸配列を有し、ここで、[T/S]は、代替アミノ酸であり、Xは、E、Q、A、D及びそれらの類似体から選択され、Xは、A、Q、D、E、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-E、N-Me-N及びそれらの類似体から選択される。例示的な阻害剤ペプチドは、配列IESDV(配列番号20)、IETDV(配列番号22)、KLSSIESDV(配列番号9)及びKLSSIETDV(配列番号30)を有する。阻害剤ペプチドは、通常3-25個のアミノ酸(内在化ペプチドなし)を含み、5-10個のアミノ酸、特に9個のアミノ酸(内在化ペプチドなし)のペプチド長が好ましい。
【0044】
内在化ペプチドは、多くの細胞タンパク又はウイルスタンパクが膜を横断するのを可能にする、比較的短いペプチドの周知のクラスである。それらは細胞膜又は血液脳関門を通過する連結ペプチドの通過を促進することもできる。内在化ペプチドは、細胞膜形質導入ペプチド、タンパク質形質導入ドメイン、脳シャトル又は細胞透過性ペプチドとしても知られ、例えば5~30個のアミノ酸を有し得る。このようなペプチドは、一般に、アルギニン残基及び/又はリジン残基の上記の通常の表記から、(一般のタンパクと比べて)正電荷を有し、このことが膜透過を促進すると信じられている。いくつかのこのようなペプチドは、少なくとも5,6,7又は8個のアルギニン残基及び/又はリジン残基を有する。例には、アンテナペディアタンパク(Bonfanti,Cancer Res.57,1442-6(1997))(及びそのバリアント)、ヒト免疫不全ウイルスのtatタンパク、タンパクVP22,ヘルペスシンプレックスウイルスタイプ1のUL49遺伝子の産生物、ペネトラチン、SynB1及び3、トランスポータン(Transportan)、アンフィパシック(Amphipathic)、gp41NLS、polyArg、ならびに、リシン、アブリン、モデシン、ジフテリア毒素、コレラ毒素、炭疽毒素、易熱性毒素、及び、緑膿菌外毒素A(ETA)などの、いくつかの植物及び細菌タンパク毒素が含まれる。他の例は、次の文献に記載されている(Temsamani,Drug Discovery Today,9(23):1012-1019,2004;De Coupade,Biochem J.,390:407-418,2005;Saalik Bioconjugate Chem.15:1246-1253,2004;Zhao,Medicinal Research Reviews 24(1):1-12,2004;Deshayes,Cellular and Molecular Life Sciences 62:1839-49,2005);Gao,ACS Chem.Biol.2011,6,484-491,SG3(RLSGMNEVLSFRWL)(配列番号31)),Stalmans PLoS ONE 2013,8(8)e71752,1-11 and supplement;Figueiredo et al.,IUBMB Life 66,182-194(2014);Copolovici et al.,ACS Nano,8,1972-94(2014);Lukanowski,Biotech J.8,918-930(2013);Stockwell,Chem.Biol.Drug Des.83,507-520(2014);Stanzl et al.,Accounts.Chem.Res/ 46,2944-2954(2013);Oller-Salvia et al.,Chemical Society Reviews 45:10.1039/c6cs00076b(2016); Behzad Jafari et al.,(2019)Expert Opinion on Drug Delivery,16:6,583-605(2019)(すべて参照によって組み込まれる)。さらに別の戦略では、追加の方法又は組成物を使用して、PSD-95阻害剤などのカーゴ分子の脳への送達を強化する(Dong,Theranostics 8(6):1481-1493(2018)。
【0045】
好ましい内在化ペプチドは、HIVウイルス由来のtatである。先の研究で報告したtatペプチドは、HIVtatタンパクに見られる標準的アミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号2)を含み、又はこの配列からなる。RKKRRQRRR(配列番号11)及びGRKKRRQRRR(配列番号32)も使用することができる。このようなtatモチーフに隣接する追加の残基が(阻害剤ペプチドの他に)存在する場合、その残基は、例えば、tatタンパク由来のこのセグメントに隣接する天然アミノ酸、もしくは、2つのペプチドドメインを結合するのに一般に使用される種類のスペーサ又はリンカーアミノ酸、例えば、gly(ser)4(配列番号33)、TGEKP(配列番号34)、GGRRGGGS(配列番号35)、もしくはLRQRDGERP(配列番号36)(例えば、Tang et al.(1996),J.Biol.Chem.271,15682-15686;Hennecke et al.(1998),Protein Eng.11,405-410)を参照)であり、又は、隣接残基なしでバリアントの取り込みをもたらす能力を大きく減じることのない他のあらゆるアミノ酸であり得る。好ましくは、活性ペプチド以外の隣接アミノ酸の数は、YGRKKRRQRRR(配列番号2)のどちら側においても10を超えない。ただし、好ましくは、隣接アミノ酸は存在しない。YGRKKRRQRRR(配列番号2)のC末端に隣接する追加のアミノ酸残基を含む1つの好適なtatペプチド又は他の阻害剤ペプチドは、YGRKKRRQRRRPQ(配列番号37)である。使用可能な他のtatペプチドには、GRKKRRQRRRPQ(配列番号38)及びGRKKRRQRRRP(配列番号39)が含まれる。
【0046】
N型カルシウムチャンネルに結合する能力が低い上記tatペプチドのバリアントは、国際特許出願公開公報第WO/2008/109010号に記載されている。そのようなバリアントは、アミノ酸配列XGRKKRRQRRR(配列番号40)を含み、又はこのアミノ酸配列からなり、ここで、Xは、Y以外のアミノ酸であり、或いはアミノ酸配列GRKKRRQRRR(配列番号32)を含むか、又はこのアミノ酸配列からなり得る。好ましいtatペプチドは、N末端のY残基がFで置換されている。したがって、FGRKKRRQRRR(配列番号41)を含む、又はこの配列からなるtatペプチドが好ましい。他の好ましい変異tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号32)を含む、又はこの配列からなる。他の好ましいtatペプチドは、RRRQRRKKRG(配列番号42)若しくはRRRQRRKKRGY(配列番号43)を含み、又はこの配列からなる。N型カルシウムチャンネルを阻害することなく阻害剤ペプチドの取り込みを促進する他のtat由来ペプチドには、以下に示したものが含まれる。
【0047】
Xは、遊離アミノ末端、1つ以上のアミノ酸又は結合部分であり得る。
【0048】
好ましい活性薬剤は、Tat-NR2B9cであり、NA-1又はネリネチドとしても知られており、アミノ酸配列:YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号3)を有する。他の好ましい薬剤は、YGRKKRRQRRRKLSSIETDV(配列番号61)である。ネリネチドの全てのアミノ酸はL-アミノ酸である。これは、上記の活性薬剤のいずれにも当てはまり得る。したがって、ネリネチド及び他のL-アミノ酸から形成される活性薬剤は、プラスミンによって切断されやすい。
【0049】
いくつかの活性薬剤は、ペプチドのプラスミン媒介切断を減少又は排除するためにD-アミノ酸を含む。このような薬剤において、阻害剤ペプチドの少なくとも4つのC末端残基、好ましくは阻害剤ペプチドの5つのC末端残基はL-アミノ酸であり、阻害剤ペプチド及び内在化ペプチドにおける残りの残基の少なくとも1つはD-残基である。D-残基を含める位置は、D-残基が任意の塩基性残基(即ち、アルギニン又はリジン)の直後(即ち、C末端側)に現れるように選択することができる。プラスミンは、このような塩基性残基のC末端側のペプチド結合を切断することにより作用する。切断部位に隣接する部位、特に塩基性残基のC末端側にD-残基を含めることにより、ペプチド切断は減少するか又はなくされる。塩基性残基のC末端側にある残基の一部又は全部はD-残基であり得る。任意の塩基性残基もD-アミノ酸であり得る。
【0050】
いくつかの活性薬剤は、内在化ペプチド及び阻害剤ペプチドの両方に少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。いくつかの活性薬剤は、内在化ペプチドの各位置にD-アミノ酸を含む。いくつかの活性薬剤は、L-アミノ酸である4つ又は5つのC末端残基以外の阻害剤ペプチドの各位置にD-アミノ酸を含む。いくつかの阻害剤ペプチドは、内在化ペプチドの各位置、及びL-アミノ酸である最後の4つ又は5つのC末端アミノ酸残基以外の阻害剤ペプチドの各位置に、D-アミノ酸を含む。
【0051】
Tat-NR2B9cは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号3)を有する。いくつかの活性薬剤は、ESDV(配列番号12)又はIESDV(配列番号20)がL-アミノ酸であり、残りのアミノ酸の少なくとも1つがD-アミノ酸である上記配列のバリアントである。いくつかの活性薬剤において、少なくともC末端から8及び9番目の位置にあるL及び/又はK残基はD-残基である。いくつかの活性薬剤において、N末端から6番目、7番目、8番目、10番目及び11番目の位置を占めるR、R、Q、R、R残基の少なくとも1つはD-残基である。いくつかの活性薬剤において、これらの残基は全てD-残基である。いくつかの活性薬剤において、残基4-8及び残基10-13はそれぞれD-アミノ酸である。いくつかの活性薬剤において、残基4-13又は3-13はそれぞれD-アミノ酸である。いくつかの活性薬剤において、内在化ペプチドの11個の残基は、それぞれD-アミノ酸である。いくつかの例示的な活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号62)、ygrkkrrqrrrklssiESDV(配列番号63)、ygrkkrrqrrrklsSIESDV(配列番号64)、ygrkkrrqrrrklSSIESDV(配列番号65)、ygrkkrrqrrrkssIESDV(配列番号66)、ygrkkrrqrrrksIESDV(配列番号67)及びygrkkrrqrrrkIESDV(配列番号68)を含む。他の活性薬剤は、C末端から3番目の位置にあるSがTで置換された上記配列のバリアントygrkkrrqrrrklssIETDV(配列番号69)、ygrkkrrqrrrklssiETDV(配列番号70)、ygrkkrrqrrrklsSIETDV(配列番号71)、ygrkkrrqrrrklSSIETDV(配列番号72)、ygrkkrrqrrrkssIETDV(配列番号73)、ygrkkrrqrrrksIETDV(配列番号74)及びygrkkrrqrrrkIETDV(配列番号75)を含む。活性薬剤は、ygrkkrrqrrrIESDV(配列番号76)(D-Tat-L-2B5c)及びygrkkrrqrrrIETDV(配列番号77)を含む。
【0052】
本発明は、例えば、阻害剤ペプチドに結合して融合ペプチドを形成する内在化ペプチドと、阻害剤ペプチドとを含む活性薬剤、或いは内在化ペプチドと阻害剤ペプチドの全体に最大1、2、3、4若しくは5つの置換又は欠失を有する前記活性薬剤のバリアントをさらに含む。阻害剤ペプチドは、NOSへのPSD-95の結合を阻害する。内在化ペプチドは、YGRKKRRQRRR(配列番号2)、GRKKRRQRRR(配列番号32)又はRKKRRQRRR(配列番号11)を含むアミノ酸配列を有する。阻害剤ペプチドは、KLSSIESDV(配列番号9)を含む配列を有する。このような活性薬剤において、阻害剤ペプチドの少なくとも4つ又は5つのC末端アミノ酸はL-アミノ酸であり、全てのR残基及びK残基を含むアミノ酸の連続セグメント並びに最もC末端のR残基又はK残基のすぐ隣のC末端の残基はD-アミノ酸である。このように、配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号3)を含むペプチドにおいて、1番目のRからL-残基までの連続セグメントはD-アミノ酸である。
【0053】
許容される置換の一例は、阻害剤ペプチドのC末端にあるモチーフ[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号1)によって提供される。例えば、C末端から3番目のアミノ酸は、S又はTであり得る。好ましくは、阻害剤ペプチドの5つのC末端アミノ酸はそれぞれL-アミノ酸である。好ましくは、活性薬剤ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号78)と同様に、他のアミノ酸はそれぞれD-アミノ酸である。ここで、小文字はD-アミノ酸、大文字はL-アミノ酸である。
【0054】
好ましいD-アミノ酸を有する活性薬剤は、Tat-NR2B9c又は他の点では同一の全L-活性薬剤と比較して、ラット又はヒト血漿中での向上した安定性を有する(例えば、半減期により判断)。安定性は実施例に記載のように測定することができる。好ましい活性薬剤は、Tat-NR2B9c又は他の点では同一の全L-活性薬剤と比較して向上したプラスミン耐性を有する。プラスミン耐性は実施例に記載のように測定することができる。活性薬剤は、好ましくはTat-NR2B9c(全L)又は他の点では同一の全L-ペプチドと比較して1.5倍、2倍、3倍又は5倍以内でPSD-95に結合するか、或いは実験誤差内で区別できない結合を有する。好ましい活性薬剤は、結合についてTat-NR2B9c又はPSD-95に結合するためのPDZ結合ドメインを含むNMDA受容体サブユニット2配列の最後の15-20個のアミノ酸を含むペプチドと少なくとも10%、25%又は50%競合する(例えば、10倍過剰の活性薬剤はTat-NR2B9c結合を減少させる)。この競合は、活性薬剤がTat-NR2B9cと同じ又は重複する結合部位に結合することを示唆している。同じ又は重複する結合部位を有することは、PSD-95のアラニン変異導入によっても示され得る。残基の同一又は重複セットの変異導入が活性薬剤及びTat-NR2B9cの結合を減少させる場合、活性薬剤及びTAT-NR2B9cはPSD-95上の同一又は重複する部位に結合する。
【0055】
本発明の活性薬剤は、修飾アミノ酸残基(例えば、Nアルキル化された残基)を含むことができる。N末端アルキル修飾は、例えば、N-メチル、N-エチル、N-プロピル、N-ブチル、N-シクロヘキシルメチル、N-シクロヘキシルエチル、N-ベンジル、N-フェニルエチル、N-フェニルプロピル、N-(3、4-ジクロロフェニル)プロピル、N-(3,4-ジフルオロフェニル)プロピル、そして、N-(ナフタレン-2-イル)エチル)を挙げることができる。活性薬剤は、レトロペプチドを含んでもよい。レトロペプチドは、逆アミノ酸配列を有する。ペプチド模倣物は、アミノ酸の順序が逆であるレトロインベルソペプチドも含むため、元のC末端アミノ酸はN末端に現れ、D-アミノ酸はL-アミノ酸の代わりに使用される(例えば、RI-NA-1としても知られているアミノ酸vdseisslkrrrqrrkkrgy(配列番号79))。
【0056】
ペプチド、ペプチド模倣体又は他の薬剤の適当な薬理活性は、所望の場合、霊長類及び本出願に記載の臨床試験における試験に先立ち、前述の脳卒中のラットモデルを用いて、確認することができる。ペプチド又はペプチド模倣体は、PSD-95とNMDAR2Bとの相互作用を阻害する能力について、米国特許出願公開公報第US20050059597号に記載のアッセイを用いて、スクリーニングすることも可能であり、この公報は参照によって組み込まれる。有用なペプチド又は他の薬剤は、一般に、そのようなアッセイにおいて、50μM,25μM,10μM,0.1μM又は0.01μMのIC50値を有している。好ましいペプチド又は他の薬剤は、一般に、0.001~1μMのIC50値を、より好ましくは、0.001~0.05,0.05~0.5μM又は0.05~0.1μMのIC50値を有している。ペプチド又は他の薬剤が1つの相互作用、例えば、NMDAR2BへのPSD-95の相互作用、の結合を阻害するとして特徴付けられるとき、そのような表現は、ペプチド又は薬剤が、他の相互作用、例えば、nNOSへのPSD-95の結合、の相互作用をも阻害することを排除するものではない。
【0057】
上述のようなペプチドは、随意的に、誘導体化(例えば、アセチル化、リン酸化、ミリストイル化、ゲラニル化、ペグ化及び/又はグリコシル化)して、阻害剤への結合親和性を高め、阻害剤の細胞膜を透過する能力を高め、又は安定性を高めることが可能である。具体的な例として、C末端から3番目の残基がS又はTである阻害剤については、この残基は、そのペプチドを使用する前に、リン酸化することができる。
【0058】
内在化ペプチドは、従来法によって阻害剤ペプチドに取り付けることができる。例えば、上記薬剤は、化学結合によって(例えば、結合又は接合薬剤を介して)内在化ペプチドに結合することができる。多数のかかる薬剤は、商業的に入手可能であり、S.S.Wong,Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking,CRC Press(1991)によって検討されている。架橋試薬のいくつか例として、J-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)又はN,N'-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド;N,N'-エチレンビス-(ヨードアセトアミド)又は6~11個の炭素メチレンブリッジ(スルフヒドリル基に比較的特異的)を有する他のかかる試薬;そして、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(それは、不可逆結合をアミノ基とチロシン基が不可逆結合を形成)が挙げられる。他の架橋試薬として、p,p'-ジフルオロ-m,m'-ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基とフェノール基が不可逆架橋を形成);ジメチルアジプイミド酸(アミノ基に特異的);フェノール-1,4-ジスルホニルクロリド(主にアミノ基と反応);ヘキサメチレンジイソシアナート又はジイソチオシアネート又はアゾフェニル-p-ジイソシアナート(主にアミノ基と反応);グルタルアルデヒド(いくつかの種々の側鎖と反応)及びジスジアゾベンジジン(disdiazobenzidine)(主にチロシン及びヒスチジンと反応)が挙げられる。
【0059】
リンカー(例えばポリエチレングリコールリンカー)は、ペプチド又はペプチド模倣体の活性部分を二量化して、タンデムPDZドメインを含有するタンパクに対する、その親和性及び選択性を向上させるのに使用することができる。Bach et al.,(2009)Angew.Chem.Int.Ed.48:9685-9689及び国際特許出願公開公報第WO2010/004003号を参照。PLモチーフ含有ペプチドは、好ましくは、2つの分子のN末端を結合して二量化され、C末端は自由のままとされる。Bachは、さらに、NMDAR2BのC末端由来の五量体ペプチドIESDV(配列番号20)が、PSD-95へのNMDAR2Bの結合の阻害に有効であることを報告している。IETDV(配列番号22)もIESDV(配列番号20)の代わりに使用することができる。選択的に、PEGの2~10個のコピーは、直列に結合してリンカーとすることができる。選択的に、リンカーは、内在化ペプチドに結合するか、脂質化して細胞取り込みを強化することもできる。例示的な二量体阻害剤の例を以下に示す(Bach et al.,PNAS 109(2012)3317-3322)。本明細書に開示されているPSD-95阻害剤のいずれもIETDV(配列番号22)の代わりに使用することができ、任意の内在化ペプチド又は脂質化部分はtatの代わりに使用することができる。示されている他のリンカーも使用できる。
【0060】
内在化ペプチドは、阻害剤ペプチドに結合して融合ペプチドを形成することもでき、好ましくは内在化ペプチドのC末端で阻害剤ペプチドのN末端に結合され、阻害剤ペプチドのC末端は遊離末端となる。
【0061】
ペプチドを内在化ペプチドに連結することに代えて、又は加えて、そのようなペプチドは脂質に連結して(脂質付加)、複合体の疎水性をペプチド単独よりも高め、これによって、連結ペプチドが細胞膜及び/又は脳関門を透過するのを促進することができる。脂質付加は、好ましくは、N末端アミノ酸において実施されるが、PSD-95とNMDAR2Bとの相互作用を阻害するペプチドの能力が、50%を超えて低下しないことを条件に、内部アミノ酸においても実施することが可能である。好ましくは、脂質付加は、最もC末端の4個のアミノ酸の1つ以外のアミノ酸において実施される。脂質は、水よりもエーテルに溶け易い有機分子であり、脂肪酸、グリセリド及びステロイドを含む。脂質付加の好適な形態は、ミリストイル化、パルミトイル化、又は、ラウリル酸及びステアリン酸などの、好ましくは10~20炭素の鎖長を有する他の脂肪酸の付加のほか、ゲラニル化、ゲラニルゲラニル化及びイソプレニル化である。天然タンパクの翻訳後の変更で生じる種類の脂質付加が、好ましい。ペプチドのN末端アミノ酸のアルファアミノ基へのアミド結合の形成を介する、脂肪酸での脂質付加も好ましい。脂質付加は、予め脂質付加されたアミノ酸を含むペプチド合成により行うことができ、インビトロで酵素的に、又は、遺伝子組み換え発現によって、化学架橋によって、もしくはペプチドの化学的誘導体化によって、実施することができる。ミリストイル化によって変更されたアミノ酸及び他の脂質変更体は、市販されている。内在化ペプチドの代わりに脂質を使用することにより、プラスミン切断部位を提供するK及びR残基の数が減少する。いくつかの例示的な脂質付加分子には、好ましくはN末端に脂質付加を有するKLSSIESDV(配列番号9)、klSSIESDV(配列番号80)、lSSIESDV(配列番号81)、LSSIESDV(配列番号10)、SSIESDV(配列番号82)、SIESDV(配列番号83)、IESDV(配列番号20)、KLSSIETDV(配列番号29)、klSSIETDV(配列番号84)、lSSIETDV(配列番号85)、LSSIETDV(配列番号86)、SSIETDV(配列番号87)、SIETDV(配列番号88)、IETDV(配列番号22)が含まれる。
【0062】
阻害剤ペプチド、選択的に内在化ペプチドに融合された阻害剤ペプチドは、固相合成又は遺伝子組み換え法によって合成することができる。ペプチド模倣体は、科学文献及び特許文献、例えば、Organic Syntheses Collective Volumes,Gilman et al.(Eds)John Wiley&Sons,Inc.,NY,al-Obeidi(1998)Mol.Biotechnol.9:205-223;Hruby(1997)Curr.Opin.Chem.Biol.1:114-119;Ostergaard(1997)Mol.Divers.3:17-27;Ostresh(1996)Methods Enzymol.267:220-234、に記載されている様々な手順及び手法を用いて合成することができる。
【0063】
III.塩
【0064】
上述のタイプのペプチドは、一般的に、固相合成によって作られる。固相合成では、トリフルオロアセテート(TFA)を用いて保護基を除去するか樹脂からペプチドを除去するため、ペプチドは一般的に、トリフルオロ酢酸塩として最初は生産される。トリフルオロアセテートは、例えば、固体担体(例えばカラム)にペプチドを結合するステップと、カラムを洗浄して既存のカウンターイオンを取り除くステップと、新たなカウンターイオンを含む溶液でカラムを平衡化させるステップと、例えば、疎水性溶媒(例:アセトニトリル)をカラムに導入することによってペプチドを溶出させるステップによって、別のアニオンと置換することができる。アセテートへのトリフルオロアセテートの置換は、ペプチドを別の従来の固相合成法で溶出させる前に、最終工程としてアセテート洗浄で行なうことができる。トリフルオロアセテート又はアセテートをクロライドで置換することは、塩化アンモニウムで洗浄し、その次に溶出させることによって行なうことができる。疎水性担体の使用が好ましく、調製用逆相HPLCは、特にイオン交換式が好ましい。トリフルオロアセテートは、クロライドで直接置換することもできるし、最初にアセテートで置換して、次に、アセテートをクロライドで置換することもできる。
【0065】
トリフルオロアセテート、アセテート又はクロライドに関わらず、カウンターイオンは、Tat-NR2B9c及びそのDバリアント、特にN末端アミノ基並びにアルギニン及びリジン残基のアミノ側鎖上の正に荷電する原子に結合する。本発明の実施に、Tat-NR2B9cの塩及びそのDバリアントにおけるアニオンに対するペプチドの正確な化学量を理解する必要はないが、最高約9つのカウンターイオン分子が塩の分子当たりに存在しているものと考えられる。
【0066】
あるイオンによるそのカウンターイオンとの置換は効率的に生じるが、最終的なカウンターイオンの純度は100%未満であってもよい。したがって、TAT-NR2B9c又はそのDバリアントの塩化物塩に関する言及は、塩の調製品において、クロライドは、塩の凝集体に存在する全ての他のアニオンに対して、重量(又は、モル)当たりで主要なアニオンであることを意味する。言い換えると、クロライドは、塩又は製剤に存在する全てのアニオンの50重量又はモル%超、好ましくは75重量又はモル%、95重量又はモル%超、99重量又はモル%超又は99.9重量又はモル%超で構成されている。かかる塩又はこの塩から調製された製剤において、アセテート及びトリフルオロアセテート単独及び組み合わせは、重量又はモルで、塩又は製剤中のアニオンの50%、25%、5%、1%、0.5%又は0.1未満で構成させている。
【0067】
IV.製剤
活性薬剤は、液体製剤又は凍結乾燥製剤に製剤化することができる。液体製剤は、緩衝液、塩及び水を含み得る。好ましい緩衝液はリン酸ナトリウムである。好ましい塩は塩化ナトリウムである。pHは、例えばpH7.0又は生理的レベルであり得る。
【0068】
凍結乾燥製剤は、活性薬剤、緩衝剤、増量剤及び水を含む未凍結乾燥製剤から調製され得る。他の構成成分、例えば、凍結又は凍結乾燥保存剤、医薬的に許容可能なキャリア等が存在していても存在していなくてもよい。好ましい緩衝剤は、ヒスチジンである。好ましい増量剤は、トレハロースである。トレハロースは、凍結又は凍結乾燥保存剤としての役割も果す。例示的な未凍結乾燥製剤は、活性薬剤、ヒスチジン(例えば、10-100mM、15-100mM、15-80mM、40-60mM又は15-60mM、例えば、20mM又は任意に50mM、又は、20-50mM)及びトレハロース(50-200mM、好ましくは80-160mM、100-140mM、より好ましくは、120mM)を含む。pHは、5.5~7.5、より好ましくは6-7、より好ましくは6.5である。活性薬剤の濃度は、20-200mg/ml、好ましくは50-150mg/ml、より好ましくは70-120mg/ml又は90mg/mlである。したがって、例示的な未凍結乾燥製剤は、20mMのヒスチジン、120mMのトレハロース及び90mg/mlの活性薬剤の塩化物塩である。任意に、US10,206,878にて説明しているように、製剤中の任意の残余アセテート又はトリフルオロアセテートを更に減らすために、アセチル化スカベンジャー(例えばリジン)を含めることができる。
【0069】
凍結乾燥後、凍結乾燥製剤は、重量当たりの水分含量が低く、好ましくは約0%-5%水、より好ましくは2.5%未満である。凍結乾燥製剤は、フリーザー(例えば、-20又は-70℃)、冷蔵庫(0-40℃)、又は、室温(20-25℃)で保存することができる。
【0070】
活性薬剤は、水溶液、好ましくは注射用の水又は任意に通常の生理食塩水(0.8-1.0%の生理食塩水及び好ましくは0.9%の生理食塩水)において再構成され得る。再構成品は、未凍結乾燥製剤と同一若しくは類似の量又はそれよりも多い量とすることができる。好ましくは、上記量は、再構成品のほうが再構成前のものよりも多い(例えば、3-6倍多い)。例えば、3-5mlの未凍結乾燥量は、10mL、12mL、13.5ml、15mL若しくは20mL又は特に10-20mLの量として再構成することができる。再構成後、ヒスチジンの濃度は、好ましくは2-20mM(例えば、2-7mM、4.0-6.5mM、4.5mM又は6mM)であり、トレハロースの濃度は、好ましくは15-45mM又は20-40mM又は25-27mM又は35-37mMである。リジンの濃度は、好ましくは100-300mM(例えば、150-250mM、150-170mM又は210-220mM)である。活性薬剤は、好ましくは10-30mg/ml、例えば15-30、18-20、20mg/mlの活性薬剤又は25-30、26-28若しくは27mg/mLの活性薬剤の濃度である。再構成後の例示的な製剤は、4-5mMのヒスチジン、26-27mMのトレハロース、150-170mMのリジン及び20mg/mlの活性薬剤(最も近い整数に丸めた濃度)を有する。再構成後の第二の例示的な製剤は、5-7mMのヒスチジン、35-37mMのトレハロース、210-220mMのリジン及び26-28mg/mlの活性薬剤(最も近い整数に丸めた濃度)を有する。再構成製剤は、例えば、通常の生理食塩水が入っている流体バッグに加えることによって投与前に更に希釈することができる。
【0071】
V.病状
本発明の方法は、虚血、具体的にCNSの虚血、より具体的に虚血性脳卒中(例えば、急性虚血性脳卒中)に起因する症状の治療に有用である。血栓溶解剤又は機械的再灌流による治療は、虚血を引き起こす血管閉塞を取り除くように作用する。PSD-95を阻害する活性薬剤による治療は、虚血の有害な影響を軽減するように作用する。
【0072】
脳卒中は、原因によらず、CNSにおける血流障害の結果の疾患である。原因となり得るものには、塞栓症、出血及び血栓症がある。血流の障害の結果として、いくつかのニューロン細胞が直ちに死ぬ。これらの細胞は、グルタメートを含むそれらの成分分子を放出し、これはNMDA受容体を活性化し、NMDA受容体は、細胞内カルシウムレベル及び細胞内酵素レベルを上昇させて、さらなるニューロン細胞の死を招く(興奮毒性カスケード)。CNS組織の死は、梗塞と呼ばれる。梗塞体積(つまり、脳において脳卒中の結果死んだニューロン細胞の体積)は、脳卒中に起因する病理学的損傷の程度の指標として使用することができる。症候性作用は、梗塞の体積及びそれが脳の何処に位置するかの、双方に依存する。ランキンストロークアウトカムスケール(Rankin,Scott Med J;2:200-15(1957))及びバーセルインデックスなどの障害指数は、症候的損傷の測定に使用することができる。ランキンスケールは、以下のように、被験体の全体的状態を直接評価することに基づいている。
0:完全に無症状。
1:症状にかかわらず重大な障害はない;通常の職務及び動作を行うことができる。
2:軽度の障害;従前のすべての動作を行うことはできないが、介助なしで自分の世話をすることができる。
3:中度の障害;いくらかの援助を必要とするが、介助なしで歩くことができる。
4:中度ないし重度の障害;介助なしでは歩くことができず、介助なしでは自分の身体の世話をすることができない。
5:重度の障害;寝たきりで、失禁を起こし、看護及び注意を常時必要とする。
【0073】
バーセルインデックスは、日常生活の10の基本的動作を行う被験体の能力についての一連の質問に基づいており、結果は0~100のスコアで表され、低いスコアは障害が重いことを示す(Mahoney et al.,Maryland State Medical Journal 14:56-61(1965))。
【0074】
代替の脳卒中重度/転帰は、ワールドワイドウェブninds.nih.gov/doctors/NIH脳卒中Scale Booklet.pdfにて入手可能な、NIHストロークスケールを用いて測定することができる。
【0075】
このスケールは、被験体の意識、運動、知覚及び言語機能のレベルの評価を含む、11群の機能を行う被験体の能力に基づいている。
【0076】
虚血性脳卒中とは、より具体的には、脳への血流の妨害によって引き起こされる種類の脳卒中を指す。この種の妨害の基礎疾患は、血管壁を内張りする脂肪性沈着物の成長が、最も普通である。この疾患は、アテローム性動脈硬化と呼ばれる。これらの脂肪性沈着物は、2種類の妨害を引き起こし得る。脳血栓症とは、血管の詰まった部分に成長する血栓(血液塊)を指す。「脳塞栓」とは、一般に、循環系の他の場所、通常、心臓又は胸郭上部及び頸部の大動脈、で形成された血液塊を指す。次いで、血液塊の一部が抜け出して血流に入り、脳の血管を通って、最終的に、通り抜けるには小さすぎる血管に達する。塞栓の第2の重要な原因は、心房細動として知られる不規則な心拍である。これは、血液塊が心臓で形成され、遊離して脳に達する状況を生成する。虚血性脳卒中の原因となり得るさらなるものには、出血、血栓形成、動脈又は静脈の切開、心拍停止、出血を含むあらゆる原因のショック、及び、脳血管又は脳に達する血管の外科手術又は心臓手術などの医原生の原因が含まれる。虚血性脳卒中はすべての脳卒中の症例の、約83%を占める。
【0077】
一過性脳虚血発作(TIA)は、小脳卒中又は警告脳卒中である。TIAにおいては、虚血性脳卒中を示す状態が存在し、一般的な脳卒中の警告信号が現れる。ただし、妨害(血液塊)は、短時間生じて、通常の機構で自然に消える傾向にある。心臓手術を受ける患者は、一過性脳虚血発作の危険性が特に高い。
【0078】
出血性脳卒中は、脳卒中症例の約17%を占める。これは、弱くなった血管が破裂して周囲の脳に出血した結果で生じる。血液は鬱積し、周囲の脳組織を圧迫する。出血性脳卒中の2つの一般な種類は、脳内出血及びくも膜下出血である。出血性脳卒中は、弱くなった血管の破裂の結果である。弱くなった血管の破裂の原因となり得るものには、高い血圧が血管の破裂を引き起こす高血圧性出血、又は、弱くなった血管の他の根本原因、例えば、脳動脈瘤を含む破裂性脳血管奇形、動静脈奇形(AVM)もしくは海綿状奇形など、が含まれる。出血性脳卒中は、梗塞部の血管を弱める虚血性脳卒中の出血性変化、又は、異常に弱い血管を包含するCNSにおける原発性もしくは転移性の腫瘍からの出血によっても生じ得る。出血性脳卒中は、脳血管への直接の外科的損傷などの、医原生の原因からも生じ得る。動脈瘤は、血管の弱った領域の膨張である。放置すると、動脈瘤は弱くなり続け、最終的に破裂して脳に出血する。動静脈奇形(AVM)は、異常に形成された血管の房である。海綿状奇形は、弱くなった静脈構造からの出血を引き起こし得る静脈異常である。これらの血管のいずれも、破裂して、脳への出血を引き起こし得る。出血性脳卒中は、物理的な外傷によっても発生する可能性がある。脳の一部分における出血性脳卒中は、出血性脳卒中で失われる血液の不足を通じて、他の部分に虚血性脳卒中をもたらし得る。
【0079】
治療に適する1つの被験体のクラスは、脳に供給している血管に関与する若しくは関与する可能性がある、そうでなければ脳若しくはCNSに関与する若しくは関与する可能性がある外科手術処置を受けている被験体である。いくつかの例では、心肺バイパス、頚動脈ステント術、脳又は大動脈弓の冠状動脈の診断的血管造影、脈管外科的処置及び神経外科的処置を受けている被験体である。かかる被験体の更なる例は、上記セクションIVにて述べている。脳動脈瘤被験体が特に適している。かかる被験体は、動脈瘤を留め血液を閉ざすこと、又は、小さいコイルを用いて若しくは動脈瘤が現れている血管にステントを導入して若しくはマイクロカテーテルを挿入して動脈瘤を遮断する血管内手術を実行することを含む様々な外科的処置によって治療することができる。血管内処置は、動脈瘤を留めることより侵襲性が低く、より良好な被験体の転帰と関連しているが、この転帰は小さい梗塞の発生率がそれでも高い。かかる被験体は、上述のNMDAR 2BとのPSD95の相互作用の阻害剤及び、とりわけ、上記の活性薬剤を用いて治療することができる。手術を実行することに対する投与のタイミングは、上記の通り、治験による可能性がある。
【0080】
他のクラスの被験体は、ESCAPE-NA1試験など凝血塊を除去するための血管内血栓切除術に適した虚血性脳卒中の患者である(NCT02930018)。薬物は、手術の前後に投与して凝塊を除去することができ、脳卒中自体と、上記の手順に関連する潜在的な医原性脳卒中の両方の結果を改善することが期待され得る。別の例は、画像診断基準を使用せずに脳卒中の可能性があると診断され、脳卒中発症後の数時間以内、好ましくは脳卒中発症後の最初の3時間以内、選択的に、最初の6、9又は12時間以内に治療を受ける患者である(NCT02315443に類似)。
【0081】
VI.再灌流を伴うPSD-95を阻害する活性薬剤の共投与
虚血を引き起こすプラーク及び血液塊(塞栓としても知られる)は、薬理的手段及び物理的手段の双方によって、溶解し、除去し、又は迂回することが可能である。プラーク及び血液塊の溶解及び除去ならびに結果として生じる血流の回復は、再灌流と呼ばれる。1つのクラスの薬剤は、血栓溶解により作用する。血栓溶解剤は、プラスミノーゲンからのプラスミンの産生を促進することによって機能する。プラスミンは、架橋したフィブリンの網目(血液塊の骨格)を消去して、血液塊を可溶にし、他の酵素によるさらなるタンパク分解に付し、閉塞した血管の血流を回復させる。血栓溶解剤の例には、組織プラスミノーゲン活性化因子t-PA、アルテプラーゼ(Activase)、レテプラーゼ(Retavase)、テネクテプラーゼ(TNKase)、アニストレプラーゼ(Eminase)、ストレプトキナーゼ(Kabikinase,Streptase)、及び、ウロキナーゼ(Abbokinase(登録商標))が含まれる。
【0082】
再灌流に使用することができる薬理学的薬剤の他のクラスは、血管拡張剤である。これらの薬理学的薬剤は、血管を弛緩させ拡げて、血液が閉塞の周囲を流れるようにすることで、作用する。血管拡張剤の種類のいくつかの例には、アルファ-アドレナリン受容体拮抗剤(アルファ-ブロッカー)、アンジオテンシン受容体ブロッカー(ARB)、β2-アドレナリン受容体拮抗剤(β2-ブロッカー)、カルシウムチャンネルブロッカー(CCB)、中枢作用性交感神経遮断剤、直接作用性血管拡張剤、エンドセリン受容体拮抗剤、神経節遮断剤、ニトロ拡張剤(nitrodilator)、ホスホジエステラーゼ阻害剤、カリウムチャンネル開口剤、及び、レニン阻害剤が含まれる。
【0083】
再灌流に使用することができる薬理学的薬剤の他のクラスは、エピネフリン、フェニレフリン、プソイドエフェドリン、ノルエピネフリン、ノルエフェドリン、テルブタリン、サルブタモール、及び、メチルエフェドリンなどの、昇圧剤(つまり、血圧を上昇させる薬剤)である。上昇した灌流圧は、障害物の周囲の血液の流れを増大させ得る。
【0084】
再灌流のための機械的手段には、血管形成、カテーテル挿入、及び、動脈バイパス移植手術、ステント留置、塞栓除去、動脈内膜切除又は血管内血栓切除術が含まれる。これらの処置は、プラークの機械的除去によってプラークの流れを回復し、血管を開いたままに維持することにより、血液がプラークの周りを流れ、又はプラークを迂回し得る。
【0085】
再灌流の他の方法には、血流を身体の他の領域から脳に転用する装置の使用が含まれる。1つの例は、大動脈を部分的に閉塞するカテーテルであり、例えば、CoAxia NeuroFlo(商標)カテーテル装置であり、これは、最近、ランダム化試験に付されており、脳卒中治療についてのFDAの認可を受けるかも知れない。この装置は、虚血の発症後14時間までの脳卒中を示す被験体に、使用されている。
【0086】
本発明の方法は、どちらも治療に貢献できるように再灌流を施すとともにPSD-95を阻害する活性薬剤を投与する投与計画を提供する。このような投与計画により、プラスミン切断に敏感なPSD-95を阻害する活性薬剤(例えば、全てL-アミノ酸)及び血栓溶解剤が短い時間間隔で投与されることが回避される。この時間間隔は、PSD-95を阻害する活性薬剤と血栓溶解剤によって誘導されるプラスミンの両方が血漿中に実質的に共存し、その結果、PSD-95を阻害する活性薬剤が切断され、PSD-95を阻害する活性薬剤の活性が低下又は消失するのに十分に短い。以下の説明の多くでは、Tat-NR2B9cが例示として言及されているが、同じ方法は、本明細書に記載のPSD-95を阻害する他の活性薬剤について言及するものとして理解されるべきである。
【0087】
Tat-NR2B9cのヒト血漿中の血漿半減期は約10分間である。これは、Tat-NR2B9cが血漿中で10分後に通常半分分解されることを意味するのではなく、Tat-NR2B9cが10分間の半減期で血漿を出るという意味ではない。アルテプラーゼ(tPAの組換え型)のヒト血漿中での半減期はわずか約5分間である。しかし、本発明の目的にとってより重要なのは、アルテプラーゼ及び他の血栓溶解剤によって誘導され、Tat-NR2B9cの切断の原因となるプラスミンの半減期である。プラスミンのヒト血漿中での半減期は約4~8時間であると報告されている。
【0088】
Tat-NR2B9c及びプラスミンのそれぞれの半減期から分かるように、血栓溶解剤を投与する前に、Tat-NR2B9cの少なくとも1つの血漿半減期(即ち、約10分間)の間隔でTat-NR2B9cを投与することによって、両者の間の相互作用が回避される。Tat-NR2B9cが血栓溶解剤の少なくとも20分又は30分前(2つ又は3つの半減期のより長い間隔)に投与されることにより、血漿中の共存がさらに低減され、結果としてTat-NR2B9c及び血栓溶解剤の不活性化の可能性が低下する。血栓溶解剤の前(例えば、少なくとも45分間、1時間、2時間、3時間、5時間前)にTat-NR2B9cを投与することにより、Tat-NR2B9cの不活性化の可能性がさらに低下する。典型的な10分間にわたるTat-NR2B9cの投与では、Tat-NR2B9c投与開始から20分間は、Tat-NR2B9c投与終了から10分間に相当し、Tat-NR2B9cの投与開始から30分間が終了から20分間に相当する。
【0089】
PSD-95を阻害するプラスミン感受性活性薬剤と血栓溶解剤は、単一の組成物として投与するか、又は別々の組成物として同時に共投与するにもかかわらず、一緒に投与すべきではない。
【0090】
血栓溶解剤を最初に投与する場合は、プラスミン切断に敏感なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与する前に、血栓溶解剤によって誘導されたプラスミンの血漿濃度が大幅に低下するのに十分な時間が経過する必要がある。例えば、この間隔は、少なくとも3、4、8、12又は24時間であり得る。
【0091】
再灌流の機械的方法又は血栓溶解剤以外のクラスの薬物によって誘導される再灌流は、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与に関して、活性薬剤の不活化が発生することなくいつでも行うことができる。これは、プラスミン切断に耐性のあるPSD-95を阻害する活性薬剤のDバリアントの投与の場合にも当てはまる。PSD-95を阻害する活性薬剤の切断は、血液を通過せずに脳に到達することを可能にする経路(例えば、鼻腔内又は髄腔内投与などの非静脈内投与経路)で投与することによっても減少させることができる。
【0092】
虚血に罹患しているか又はその疑いがある被験体が、何らかの治療を受けておらず、治療の相対的な順序を制御できる場合、通常、まず、PSD-95を阻害する活性薬剤で治療し、次に、神経細胞の進行中の死を軽減するために、血栓溶解剤をできるだけ早く投与すべきであるという当該分野の従来の通念にもかかわらず、上記の適切な間隔後であって少なくとも脳卒中発症後の3時間又は4.5時間前に血栓溶解剤を投与することが好ましい。PSD-95を阻害する活性薬剤と血栓溶解剤を投与する間隔は、虚血性脳卒中の存在を確認し、血栓溶解剤の投与が禁止される出血性脳卒中又は他の出血の存在若しくはリスクを排除するための追加試験を実行するために使用することができる。PSD-95を阻害する活性薬剤の事前投与はまた、虚血発症後に血栓溶解剤が効果時間域を延長できるという利点を有する。PSD-95を阻害する活性薬剤の非存在下で、この時間域はわずか約3-4.5時間であるが、PSD-95を阻害する活性薬剤により少なくとも5、6、9、12又は24時間延長することができる。
【0093】
被験体が虚血性脳卒中を患っており、血栓溶解剤による治療に適格である(例:出血がない)ことがすでに決定されている場合でも、血栓溶解剤を投与される前に少なくとも10、20、30、40、50、60、120又は180分間の間隔でプラスミン切断に敏感なPSD-95を阻害する活性薬剤を投与することが好ましい。これは、血栓溶解剤が3又は4.5時間の時点後に投与されることを意味する。それを超えると、従来の通念では効果がないと考えられている。
【0094】
しかし、再灌流の実施を待つことが、その有効性を低下させる許容できないリスクをもたらすと考えられる場合、再灌流は、機械的再灌流、又は血管拡張剤や昇圧剤などの血栓溶解剤以外のクラスの薬物によって生じさせることができる。
【0095】
既に血栓溶解剤を投与された虚血に罹患している被験体について、プラスミンによる切断を受けるPSD-95を阻害する活性薬剤を投与される前に、適切な間隔(少なくとも約3時間)がある必要がある。代替的に、この間隔が、例えば、この間隔中で被験体の状態が悪化するために許容できないと見なされる場合、プラスミン切断に耐性のあるPSD-95を阻害する活性薬剤を使用することができる。
【0096】
したがって、PSD-95を阻害する活性薬剤及び再灌流の両方を受ける虚血の治療を受ける被験体の集団は、異なる形態の治療を受ける個体を含み得る。このような集団は、例えば、同じ医師又は同じ機関によって治療される被験体を表すことができる。このような集団は、少なくとも10、50、100又は500個の被験体を含み得る。このような集団におけるいくつかの被験体は、PSD-95を阻害する活性薬剤、及び機械的再灌流又は再灌流を生じさせるための血管拡張剤又は昇圧剤を受ける。このような形態の再灌流は、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与との間、任意の順序で行うことができる。前記集団におけるいくつかの被験体は、プラスミン切断に敏感なPSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を投与され、前記PSD-95を阻害する活性薬剤は、血栓溶解剤が投与される少なくとも10、20、30、40、50、60、120又は180分前に投与される。このような集団には、PSD-95を阻害する活性薬剤を投与される3時間未満前又は投与された10、20、30、40、50、60、120若しくは180分後に血栓溶解剤を投与された被験体がない。いくつかの集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤の前に血栓溶解剤を投与された被験体を有さない。いくつかの集団には、活性薬剤を阻害する阻害剤を投与された30未満後に血栓溶解剤を投与された被験体が含まれない。いくつかの集団は、PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、血栓溶解剤なして機械的再灌流を施される被験体を含む。いくつかの集団は、(a)PSD-95を阻害する活性薬剤を投与され、血栓溶解剤なしで機械的再灌流を施される被験体と、(b)PSD-95を阻害する活性薬剤及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、PSD-95を阻害する活性薬剤の投与の少なくとも10分後に血栓溶解剤を投与された被験体とから構成される。選択的に、(b)の被験体の少なくとも一部は、さらに機械的再灌流を施される。
【0097】
代替的に、プラスミン切断に敏感なPSD-95を阻害する活性薬剤と、プラスミン切断に耐性のPSD-95を阻害する別の活性薬剤の両方が利用可能である場合、虚血に罹患しているか又は罹患するリスクがある個体の集団は、プラスミンによって切断可能なPSD-95を阻害する第1の活性薬剤及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、血栓溶解剤を投与される前の少なくとも10、20、30、40、50、60、120又は180分間の間隔でPSD-95を阻害する第1の活性薬剤を投与された被験体;及びPSD-95を阻害しかつプラスミンによる切断に耐性がある第2の活性薬剤、及び血栓溶解剤を投与された被験体であって、PSD-95を阻害する第2の活性薬剤を投与される前に又は投与された後の前記間隔以内に血栓溶解剤を投与された被験体、を含み得る。
【0098】
活性薬剤での治療及び再灌流療法での治療の両者は、虚血による梗塞サイズ及び機能障害を低減する能力を個別に有する。組み合わせて使用するとき、梗塞サイズ及び/又は機能障害の低減は、好ましくは、組み合わせのためのものではない同等の投与計画の下で投与されるどちらかの薬剤のみの使用から生じる低減よりも大きい。より好ましくは、梗塞サイズ及び/又は機能障害の低減は、少なくとも、組み合わせを除く同等の投与計画の下で投与された単独の薬剤で達成される低減を加えたものであり、好ましくは加えたものを超える。いくつかの投与計画において、再灌流療法は、PSD-95を阻害する活性薬剤の共投与又は先行投与がなければ有効ではないときに、虚血の発症後の一時点(例えば、4.5時間超)で梗塞サイズ及び/又は機能障害を低減するのに有効である。換言すると、被験体が活性薬剤及び再灌流療法を実施されるとき、再灌流療法は、好ましくは、少なくとも、活性薬剤なしでより早い時点で実施される場合と同様に、有効である。したがって、活性薬剤は、再灌流療法が効果を生じる前又は生じるときに、虚血の1つ以上の損傷作用を低減することによって、再灌流療法の効果を効果的に向上させる。活性薬剤は、したがって、再灌流の実施の遅れを、その遅れが、被験体を病院又は他の医療施設に搬送する途中での、被験体における彼又は彼女の初期症状の危険性を認識することの遅れ、あるいは、虚血の存在及び/もしくは出血の非存在又はその許容できない危険性を確証するための診断処理の実施の遅れの、どちらに由来するかにかかわらず、補償することができる。活性薬剤と再灌流療法との、相加的効果又は相乗的効果を含む統計的に有意な組み合わせ効果は、臨床試験において集団間で、又は、臨床前研究において動物モデルの集団間で、実証することができる。
【0099】
VII.有効な投与計画
活性薬剤は、治療する疾患を患っている被験体の疾患の少なくとも一つの兆候又は症状の更なる悪化を治癒するか、低減させるか、又は阻害するのに有効な量、頻度及び投与経路にて投与されるように投与される。治療有効量(投与前)又は投与後の治療有効血漿濃度は、著しく本発明の薬剤で治療されない、疾患又は状態を患っている被験体(又は、動物モデル)のコントロール群の損傷と比較して、本発明の薬剤で治療される疾患を患っている被験体(又は、動物モデル)群において治療される疾患又は状態の少なくとも一つの兆候又は症状の更なる悪化を治癒するか、低減させるか又は阻害するのに十分な活性薬剤の量又はレベルを意味する。上記量又はレベルは、個々に治療した被験体が本発明の方法によって治療されていない比較被験体のコントロール群における平均転帰より良好な転帰を達成する場合、治療的に有効であるとも考えられる。治療的に有効な投与計画には、本発明の目的を達成するのに必要な投与頻度及び経路で治療的に有効な量を投与することが含まれる。
【0100】
脳卒中又は他の虚血性状態を患っている被験体に関して、活性薬剤は、脳卒中又は他の虚血性状態の損傷の影響を低減させるのに有効な用量、頻度及び経路を含む投与計画にて投与される。治療を必要とする状態が脳卒中である場合、転帰は、梗塞体積又は障害指数によって決定することができ、個々に治療した被験体がRankinスケールが2又は2未満及びより少ないもの及びBarthelスケールが75又は75超の障害度を示す場合、又は、治療した被験体群が比較未治療群よりも障害度のスコア分布が大幅に改善した(すなわち、障害がより小さい)ことを示す場合、用量は治療的に有効であると考えられる(Lees et at L, N Engl J Med 2006;354:588-600を参照)。単回用量の薬剤で、脳卒中の治療には充分であってもよい。
【0101】
本発明は、障害のリスクがある被験体における障害の予防のための方法及び製剤も提供する。通常、かかる被験体は、コントロール群と比較して障害(例えば、状態、病気、障害又は疾患)が進行する可能性が高い。コントロール群には、例えば、診断も受けておらず障害の家族歴もない母集団(例えば、年齢、性別、人種及び/又は民族がマッチした母集団)から選択される1又は複数の個人を含めることができる。被験体は、障害と関連する「危険因子」がその被験体と関連しているとことが見出された場合、障害のリスクがあると考えることができる。危険因子には、被験体群に対する統計学的又は疫学的調査を通じた、所定の障害に伴う任意の活量、形質、事象又は特性を含めることができる。したがって、被験体は、根底にある危険要因を同定する調査が具体的に被験体を含まなかった場合であっても、障害のリスクがあるとして分類することができる。例えば、心臓手術を受けている被験体は、心臓手術を受けた被験体群とそれを受けなかった被験体群と比較して一過性脳虚血発作の頻度が増加するため、一過性脳虚血発作のリスクにさらされている。
【0102】
脳卒中に関する他の一般的な危険要因には、年齢、家族歴、性別、脳卒中、一過性脳乏血発作又は心臓発作の事前の発病率、高血圧、喫煙、糖尿病、頸動脈又は他の動脈疾患、心房細動、他の心臓病(例えば心臓病、心不全、拡張心筋症、心臓弁疾患及び/又は先天性心臓の欠陥)、高血液コレステロール及び飽和脂肪、トランス脂肪又はコレステロールが高い食事が含まれる。
【0103】
予防において、活性薬剤又は手順は、疾患のリスクがあるがまだ疾患を患っていない患者に、疾患の少なくとも一つの兆候又は症状の進行を防止、遅延又は阻害するのに十分な量、頻度及び経路で投与される。投与前の予防有効量又は投与後の血漿中濃度は、著しく本発明の活性薬剤で治療されていない疾患のリスクがある患者(又は、動物モデル)のコントロール群と比較して、薬剤で治療した疾患のリスクがある患者(又は、動物モデル)の群における疾患の少なくとも一つの兆候又は症状を防止、阻害又は遅延させるのに十分な薬剤の量又はレベルを意味する。上記量又はレベルは、個々に治療した患者が本発明の方法によって治療されていない比較患者のコントロール群における平均転帰より良好な転帰を達成する場合、予防的に有効であるとも考えられる。予防的に有効な投与計画には、本発明の目的を達成するのに必要な投与頻度及び経路で予防的に有効な量を投与することが含まれる。脳卒中の差し迫ったリスクがある患者(例えば、心臓手術を受けている患者)における脳卒中の予防に関して、単回用量の薬剤で通常充分である。
【0104】
薬剤に応じて、投与は、非経口、静脈内、肺内、経鼻、経口的、皮下、動脈内、脳内、髄腔内、腹膜内、局所、鼻腔内、筋肉内であってもよい。
【0105】
静脈内投与の場合では、本発明の薬剤は、抗炎症薬と共投与されない場合、例えば、3mg/kg以下、0.1-3mg/kg、2-3mg/kg若しくは2.6mg/kgで投与することができ、或いは抗炎症薬と共投与される場合、より高い用量(例えば、5以上、10、15、20若しくは25mg/kg)で投与することができる(少なくとも0.25mg/kgから25mg/kgの範囲で有効性を示す図11A、Bを参照)。皮下、鼻腔内、肺内又は筋肉内などの経路の場合では、抗炎症薬の有無にかかわらず、用量は最大10、15、20又は25mg/kgになり得る。より高い用量で抗炎症薬を投与する必要性は、より長期間にわたる活性薬剤の投与によって減少又は排除することができる(例えば、1分間未満、1~10分間、及び10分間を超える投与は、一定量のヒスタミン放出及び抗炎症薬の必要性が経時的に減少又は排除される代替的な投与計画を構成する)。
【0106】
活性薬剤は、単回投与又は複数回投与計画として投与することができる。単回投与計画は、急性虚血性脳卒中などの急性病状の治療に使用して梗塞及び認知障害を軽減することができる。このような用量は、神経血管手術を受けている被験体などの病状のタイミングが予測可能な場合、病状の発症前に投与することができ、或いは病状が発症した後の時間域内(例えば、最大1、3、6又は12時間後)で投与することができる。
【0107】
複数回投与計画は、長期間(例えば、少なくとも1、3、5若しくは10日、又は少なくとも、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月若しくは無期限)にわたって活性薬剤が血漿中で検出可能なレベルに維持されるように設計することができる。例えば、活性薬剤は、毎時間、1日2、3、4、6、又は12回、毎日、隔日、毎週などに投与することができる。このような投与計画は、単回投与の場合のように、急性病状から初期障碍を軽減し、その後、まだ進行している病状からの回復を促進することができる。このような投与計画は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの慢性疾患の治療にも使用することができる。活性薬剤は、放出制御製剤に組み込まれて複数回投与計画に使用されることがある。あるいは、ヒスタミンの放出を誘導することなく神経保護を達成するために、より短い期間に複数回のより少ない用量を投与するか、静脈内投与する場合はゆっくりとした注入として投与することができる。
【0108】
活性薬剤は、制御製剤又はコーティングなど、身体からの急速な排出から化合物を保護する担体を用いて調製することができる。このような担体については、修飾、遅延、持続若しくは徐放又は胃貯留剤形としても知られており、例えば、Depomed GRTMシステムでは、薬剤は、胃の中で膨潤し、多くの薬剤の毎日の投与に十分な約 8 時間保持するポリマーによってカプセル化される。放出制御システムには、マイクロカプセル化送達システム、インプラント、生分解性及び生体適合性ポリマー(例えば、コラーゲン、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸)、マトリックス型放出制御デバイス、浸透圧型放出制御デバイス、多粒子放出制御デバイス、イオン交換樹脂、腸溶コーティング、多層コーティング、ミクロスフェア、ナノ粒子、リポソーム、及びそれらの組み合わせが含まれる。活性薬剤の粒子サイズを変えることにより、活性薬剤の放出速度を変更することもできる。修飾した放出の例として、例えば米国特許3,845,770、916,899、3,536,809、3,598,123、4,008,719、5,674,533、5,059,595、5,591,767、5, 120,548、5,073,543、5,639,476、5,354,556、5,639,480、5,733,566、5,739,108、5,891,474、5,922,356、5,972,891、5,980,945、5,993,855、6,045,830、6,087,324、6,113,943、6,197,350、6,248,363、6,264,970、6,267,981、6,376,461、6,419,961、6,589,548、6,613,358、及び6,699,500に記載のものが挙げられる。
【0109】
VIII.抗炎症薬との共投与
用量及び投与経路に応じて、本発明の活性薬剤は、肥満細胞の脱顆粒、並びにヒスタミンの放出及びその続発症を特徴とする炎症反応を誘導する可能性がある。例えば、IV投与では少なくとも 3mg/kgの用量、他の経路では少なくとも10mg/kgの用量がヒスタミンの放出を引き起こす。
【0110】
炎症反応の1つ又は複数の側面を阻害するための抗炎症薬は多くあり、容易に入手可能である。抗炎症薬の好ましいクラスは、肥満細胞脱顆粒阻害剤である。このクラスの化合物は、クロモリン(5,5'-(2-ヒドロキシプロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)ビシ(4-オキシ-4H-クロメン-2-カルボン酸)(クロモグリケートとしても知られている)、2-カルボキシラートクロモン-5'-イル-2-ヒドロキシプロパン誘導体、例えば、ビス(アセトキシメチル)、クロモグリケート二ナトリウム、ネドクロミル(9-エチル-4,6-ジオキソ-10-プロピル-6,9-ジヒドロ-4H-ピラノ[3,2-g]キノリン-2,8-ジ-カルボン酸)、トラニラスト(2-{[(2E)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)プロプ-2-エノイル]アミノ})、及びロドキサミド(2-[2-クロロ-5-シアノ-3-(オキサロアミノ)アニリノ]-2-オキソ酢酸)を含む。特定の化合物は、その化合物の薬学的に許容される塩を含む。クロモリンは、経鼻、経口、吸入、又は静脈内投与用の製剤として容易に入手可能である。本発明の実施はメカニズムの理解に依存しないが、これらの薬剤は、内在化ペプチドによって誘導される炎症反応の初期段階で作用するため、血圧の一時的な低下を含む続発症の発生を阻害するのに最も効果的であると考えられている。後述する他のクラスの抗炎症薬は、肥満細胞の脱顆粒に起因する1つ以上の下流イベントを阻害し、例えば、H1又はH2受容体へのヒスタミンを阻害するが、肥満細胞脱顆粒の全ての続発症を阻害することができないか、又はより高い用量若しくは併用が必要とされる。以下の表4は、本発明と併用可能ないくつかの肥満細胞脱顆粒阻害剤の名称、化学式及びFDA状態を示す。
【0111】
【表4】
【0112】
抗炎症薬の別のクラスは、抗ヒスタミン化合物である。このような薬剤は、ヒスタミンとその受容体との相互作用を阻害することにより上記炎症の続発症を阻害する。多くの抗ヒスタミン薬は市販されており、一部はOTCである。抗ヒスタミン薬の例として、アザタジン、アゼラスチン、バーフロリン、セチリジン、シプロヘプタジン、ドキサントロゾール、エトドロキシジン、フォルスコリン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、オキサトミド、ピゾチフェン、プロキシクロミル、N,N'-置換ピペラジン又はテルフェナジンが挙げられる。抗ヒスタミン薬は、CNS及び末梢受容体の抗ヒスタミンをブロックする能力が異なり、第2世代及び第3世代の抗ヒスタミン薬は末梢受容体に対して選択性を持っています。アクリバスチン、アステミゾール、セチリジン、ロラタジン、ミゾラスチン、レボセチリジン、デスロラタジン及びフェキソフェナジンは、第2世代及び第3世代の抗ヒスタミン薬の例である。抗ヒスタミン薬は、経口製剤及び局所製剤として広く入手可能である。使用可能な他のいくつかの抗ヒスタミン薬を以下の表5に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
炎症反応を阻害するのに有用な別のクラスの抗炎症薬は、コルチコステロイドである。これらの化合物は転写調節因子であって、肥満細胞の脱顆粒に起因するヒスタミンやその他の化合物の放出によって引き起こされる炎症症状の強力な阻害剤である。コルチコステロイドの例として、コルチゾン、ヒドロコルチゾン(Cortef)、プレドニゾン(Deltasone,Meticorten,Orasone)、プレドニゾロン(Delta-Cortef,Pediapred,Prelone)、トリアムシノロン(Aristocort,Kenacort)、メチルプレドニゾロン(Medrol)、デキサメタゾン(Decadron,Dexone,Hexadrol)及びベタメタゾン(Celestone)が挙げられる。コルチコステロイドは、経口、静脈内及び局所製剤として広く入手可能である。
【0115】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も使用することができる。このような薬は、アスピリン化合物(アセチルサリチラート)、非アスピリンサリチレート、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナメート、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、フェニルブタゾン、スリンダク、トメチンを含む。しかし、このような薬の抗炎症効果は、抗ヒスタミン薬やコルチコステロイドよりも低い。アザチオプリン、シクロホスファミド、ロイケラン、シクロスポリンなどの強力な抗炎症薬も使用できるが、作用が遅く、及び/又は副作用を引き起こすため、望ましくない。Tysabri(登録商標)やHumira(登録商標)などの生物学的抗炎症薬も使用できるが、同じ理由で望ましくない。
【0116】
炎症反応を阻害する際に、異なるクラスの薬物と併用することができる。好ましい併用は、肥満細胞脱顆粒阻害剤と抗ヒスタミン剤である。
【0117】
内在化ペプチドに結合したPSD-95阻害剤が抗炎症薬と共に投与される方法において、両者は、抗炎症薬が内在化ペプチドによって誘導される炎症反応を阻害できるように十分に短い投与間隔で投与される。抗炎症薬は、前記活性薬剤の投与前、同時又は投与後に投与することができる。好ましい投与間隔は、抗炎症薬の薬物動態及び薬力学に部分的に依存する。抗炎症薬は、活性薬剤が投与される時点で抗炎症薬が最大血清濃度に近くなるように、活性薬剤の投与前に間隔を置いて投与することができる。典型的には、抗炎症薬は、活性薬剤投与の6時間前から1時間後に投与される。例えば、抗炎症薬は、活性薬剤投与の1時間前から30分後に投与され得る。好ましくは、抗炎症薬は、活性薬剤投与の30分前から15分後に投与され、より好ましくは、活性薬剤投与の15分前から活性薬剤投与時に投与される。いくつかの方法において、抗炎症薬は、活性薬剤が投与される前の15、10又は5分間内に投与される。いくつかの方法において、抗炎症薬は、活性薬剤投与の1-15、1-10又は1-5分前に投与される。
【0118】
抗炎症薬が内在化ペプチドに結合した阻害剤ペプチドの炎症反応を阻害できると言われる場合において、このような反応が特定の被験体に発生する可能性がある場合(このような反応が当該被験体に発生することを必ずしも意味するものではない)、抗炎症薬が内在化ペプチドに結合した阻害剤ペプチドによって誘導可能な炎症反応を阻害するのに十分に短い投与間隔で両者が投与されることを意味する。一部の被験体は、対照臨床試験又は非臨床試験において、統計的に有意な数の被験体で炎症反応に関連する内在化ペプチドに結合した阻害剤ペプチドの投与量で治療される。このような被験体のかなりの割合が、必ずしも全てではないが、内在化ペプチドに結合した阻害剤ペプチドに対して抗炎症反応を起こすと合理的に推測することができる。一部の被験体では、内在化ペプチドに結合した阻害剤ペプチドに対する炎症反応の徴候又は症状が検出されるか又は検出可能である。
【0119】
個々の被験体の臨床治療において、通常、抗炎症薬の存在下と非存在下で、内在化ペプチドに結合した阻害剤ペプチドからの炎症反応を比較することはできない。しかし、対照臨床試験又は前臨床試験において、同じ又は類似の共投与条件下で有意な阻害が見られる場合、抗炎症薬はペプチドによって誘導される炎症反応を阻害すると合理的に結論付けることができる。被験体の結果(血圧、心拍数、蕁麻疹など)は、個々の被験体に阻害が発生したかどうかの指標として臨床試験における対照群の典型的な結果と比較することもできる。通常、抗炎症薬は、薬理学的薬剤の投与後1時間以内のある時点で検出可能な血清濃度で存在する。多くの抗炎症薬の薬物動態は広く知られており、それに応じて抗炎症薬の投与の相対的なタイミングを調整することができる。抗炎症薬は、通常、末梢に投与され、即ち、血液脳関門によって脳から分離される。例えば、抗炎症薬は、論議されている薬剤に応じて、経口、経鼻、静脈内又は局所的に投与することができる。抗炎症薬が薬理学的薬剤と同時に投与される場合、両者は組み合わせた製剤として投与することができ、別々に投与することもできる。
【0120】
いくつかの方法において、抗炎症薬は、少なくとも脳内で検出可能な薬理学的活性を発揮するのに十分な量で経口又は静脈内投与された場合、血液脳関門を通過しないものである。このような薬剤は、それ自体が脳内で検出可能な治療効果を発揮することなく、肥満細胞の脱顆粒及び末梢における活性薬剤の投与に起因するその続発症を阻害することができる。いくつかの方法において、抗炎症薬は、血液脳関門の透過性を高めるための共処理なしで投与されるか、血液脳関門を通過する能力を高めるために誘導体化若しくは製剤化される。しかし、他の方法において、抗炎症薬は、その性質、誘導体化、製剤化、又は投与経路により、脳に侵入するか又は脳内の炎症に影響を与えることによって、肥満細胞の脱顆粒及び/又は内在化ペプチドによる末梢におけるその続発症を抑制し、脳内の炎症を阻害するという二重の効果を発揮することができる。WO04/071531(Strbianら)には、肥満細胞脱顆粒阻害剤であるクロモグリケートのi.c.v.投与(非静脈内投与)は、動物モデルでの梗塞に対して直接な抑制作用を有することが報道されている。
【0121】
いくつかの方法において、被験体は、活性薬剤と共投与される前及び/又は後の日、週又は月内に活性薬剤と共投与される同じ抗炎症薬で治療されていない。いくつかの方法において、被験体が反復投与計画(例えば、同じ量、投与経路、投与頻度、投与日のタイミング)で活性薬剤と共投与される同じ抗炎症薬で治療されている場合、抗炎症薬と活性薬剤の共投与は、量、投与経路、投与頻度及び投与日のタイミングのいずれか又はすべてにおいて反復投与計画と一致しない。いくつかの方法において、被験体が本方法において活性薬剤と共投与される抗炎症薬の投与を必要とする炎症性疾患又は病状に罹患していることは知られていない。いくつかの方法において、被験体は、肥満細胞脱顆粒阻害剤で治療可能な喘息又はアレルギー疾患に罹患していない。いくつかの方法において、抗炎症薬及び活性薬剤はそれぞれ疾患のエピソードごとに上記のように定義された時間域内で一度だけ投与される。エピソードは、症状が現れないか又は軽減される長い期間に隣接する、疾患の症状が現れる比較的短い期間である。
【0122】
抗炎症薬は、抗炎症薬の非存在下で炎症反応が起こることが知られている条件下で、内在化ペプチドに対する炎症反応を阻害するのに有効な量、頻度及び経路の投与計画で投与される。抗炎症薬の結果として炎症の徴候又は症状が減少する場合、炎症反応は抑制される。炎症反応の症状には、発赤、蕁麻疹などの発疹、熱、腫れ、痛み、ヒリヒリ感、かゆみ、吐き気、発疹、口渇、しびれ、気道のうっ血などが含まれる。炎症反応は、血圧や心拍数などの徴候を測定することによって監視することもできる。あるいは、炎症反応は、肥満細胞の脱顆粒によって放出されるヒスタミン又は他の化合物の血漿濃度を測定することによって評価することができる。肥満細胞の脱顆粒によって放出されるヒスタミン又は他の化合物のレベルの上昇、血圧の低下、蕁麻疹などの皮膚の発疹、又は心拍数の低下は、大量細胞の脱顆粒の指標である。実際的には、上記抗炎症薬のほとんどの投与量、投与計画、及び投与経路は、Physicians' Desk Reference 及び/又は製造業者から入手することができ、このような抗炎症薬は、このような一般的なガイダンスと一致する本発明の方法に使用することができる。
【0123】
本発明を、理解を明瞭にするために詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲内で、一定の変更をしてもよい。本出願で引用するすべての文献、受託番号、及び特許文献は、各々について個別にそうであると述べるのと全く同様に、それらの全体が、参照によって本明細書に組み込まれる。異なる時点で、1つ以上の配列が受託番号に関連付けられている場合、その受託番号に関連する配列は、本出願の有効な出願日のものであることが意図されている。有効な出願日は、問題の受託番号を開示した最も早い優先出願の日である。文脈から他に明らかでない限り、本発明のあらゆる要素、実施形態、工程、機能又は特徴は、他との組み合わせで実施することが可能である。
【0124】
実施例
実施例1
血管内血栓除去術(EVT)によって現在達成可能な急速な再灌流の設定で、静脈内アルテプラーゼによる通常のケアの有無にかかわらず、ネリネチドによる治療が被験体の転帰を改善するかどうかを判断しようとした。この被験体は、大血管閉塞による虚血性脳卒中に罹患しており、画像基準によって潜在的に救済可能な脳が決定された。
【0125】
方法
研究デザイン
【0126】
ESCAPE-NA1は、血栓除去術を受けるために選択された急性虚血性脳卒中患者における静脈内ネリネチドの有効性と安全性を判断するための、多施設、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間、単回投与試験である。患者は1:1の比率でランダムに割り付けられ、2.6mg/kg(最大用量270mgまで)のネリネチド又は生理食塩水プラセボの単回静脈内投与が10+1分間にわたって行われた。ネリネチドとプラセボは、番号が付けられた冷蔵バイアルにおいて無色の溶液として調製された。
ランダム化及びマスキング
【0127】
ネリネチド又はプラセボに対する1:1の比率でのランダム化は、リアルタイム、動的、インターネットベース、階層化ランダム化最小化手順により行われた。層別化は、静脈内アルテプラーゼの使用(はい/いいえ)で発生し、最初の血栓除去デバイス(ステントレトリーバー又は吸引デバイス)を宣言しました。層別化の選択は、薬物間相互作用又は薬物デバイス間相互作用の可能性に基づいた。層内で発生するランダム化された最小化は、年齢、性別、国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)のベースライン(範囲は0~42で、スコアが高いほど脳卒中の重症度が高いことを示す)、動脈閉塞部位、アルバータ州脳卒中プログラム早期CTスコア(ASPECTS)のベースライン(範囲は0~10で、CTスキャンで定義された各領域で初期の虚血性変化の証拠がある場合、1ポイントが差し引かれる)及び臨床現場に関する分布バランスを達成することを目的とした。
【0128】
参加者
【0129】
適格な患者は、ランダム化の時点で後遺障害を伴う虚血性脳卒中を患っている18歳以上の成人であった(ベースラインNIHSS>5)。このような患者は、脳卒中前にコミュニティで独立して機能していた(バーセルインデックススコア>90[範囲は0から100で、スコアが高いほど日常生活の活動を完成する能力が高いことを示す])。治験登録は、脳卒中症状の発症後12時間まで発生した(最終未発症時刻(last-seen-well time))。近位頭蓋内動脈閉塞(頭蓋内内頸動脈又は中大脳動脈の最初のセグメント、又はその両方として定義される)が確認された患者を特定するために、血栓除去センターで非造影CT及び多相CTAを実施した。患者は、小から中等度の虚血性コア(5~10のASPECTSとして定義、範囲:0~10;Alberta脳卒中プログラムの早期CTスコア;aspectsinstroke.com;スコアが低いほど、急性虚血性変化の程度が大きいことを示す)及び中等度から良好な側副循環(CTAで中大脳動脈軟膜動脈循環の50%以上が充満していると定義され;aspectsinstroke.com/collateral-scoring)を有した。
【0130】
手順
【0131】
画像診断を行った後、現在利用可能なデバイスを使用して迅速なEVTで患者を治療した。一部の患者は、国又は地域のガイドラインに従って通常のケアに従って、EVT の前又は最中に、転院前の主要病院又は血管内治療センターでアルテプラーゼの静脈内投与を受けた。治療ガイドラインの解釈は、治療チームの裁量に任された。脳卒中発症から4.5時間以上アルテプラーゼで治療された患者は、この理由だけで試験から除外されなかった。患者は、EVT 病院での包含基準と除外基準を満たさなければならなかった。患者は、専用の静脈内ラインを使用して、推定体重又は実際の体重(既知の場合)に基づいて、2.6mg/kgの単回用量から最大用量270mgまでの治験薬を投与された。ランダム化後、できるだけ早く治験薬を投与した。
【0132】
目標時間は、イメージングからランダム化まで:30分間以下、イメージングから治験薬投与まで:60分間以下、イメージングから動脈アクセス/穿刺まで:60分間以下であった。イメージングから再灌流までの目標時間は、90パーセンタイル≦90分間、中央値≦75分間であった。一般に、イベントの順序は、EVT治療の適格性を判断するためのイメージング、研究のランダム化、アルテプラーゼの投与(一部の患者)、ネリネチドの投与、及びEVTの実施であった。
【0133】
臨床評価と結果
【0134】
すべての患者は、人口統計学的特徴、病歴、検査値、及び脳卒中の重症度(NIHSSスコア)の標準的な評価を受けた。一部の患者は、ネリネチドレベルの薬物動態分析のために、投与後に最大6回の連続した血液サンプルが採取された。
【0135】
一次転帰は、神経機能障害の評価のための修正ランキンスケール(mRS)(0[症状なし]~6[死亡]の範囲)で0~2のスコアによって定義される良好な転帰であった(ランダム化の90日後に、mRSのスコアリングで認定された担当者により直接又は直接の訪問が不可能な場合は電話で評価された)。二次有効性転帰は、0~2のNIHSSによって定義される神経学的転帰、≧95のバーセルインデックススコアによって定義される日常生活動作における機能的独立性、mRS及び死亡率の0~1のスコアによって定義される優れた機能転帰であった。三次転帰には、24時間イメージング(MR又はCT脳)での1回拍出量の評価が含まれた。事前に指定された安全性評価項目は、すべて重大な有害事象と死亡率であった。イメージングの解釈は中央のコアラボで実施され、臨床データは独立したモニターによって検証された。梗塞体積は、アキシャルイメージングでの梗塞の手動の平面測定境界の合計によって測定された(636/1099(57.9%)CT及び463/1099(42.1%)MRI)。
【0136】
統計分析
この試験は、ネリネチド群とプラセボ群においてランダム化後90日目にmRS0-2を達成した患者の割合の8.7%の絶対差を検出する検出力が80%になるように設計された。ランダム化された最小化を使用したため、事後並べかえ検定(5000回のシミュレーション)により治療群間の共変量バランスを生み出すランダム化プロセスの完全性が確認された。サンプルサイズは両側アルファレベル0.05を使用し、600人の患者が90日間の追跡調査を完了したときに、O'Brien-Fleming境界を使用してアルファ支出を説明する1回の中間分析を説明した(Z=2.784、p=0.003)。
【0137】
一次分析は、治療意図(ITT)集団に対して行われ、効果量(静脈内アルテプラーゼ及び宣言された初期血管内アプローチの治療と層別化変数、年齢、性別のベースラインの共変量、ベースライン NIHSSスコア、ベースラインASPECTS、閉塞部位及び臨床現場を含む)の調整済み推定値であった。Huber-Whiteロバスト分散推定量を使用した多変数ポアソン回帰により導出されたリスク比を報告する。これにより、効果の未調整の推定値との直接比較が可能になり、治療効果の大きさをより直感的に理解できるようになる。階層的アプローチを使用して多重比較を制御し、一次転帰から始めて次の順序で二次転帰に進んだ。mRSスケール全体の比例オッズモデルでの90日間mRSのシフト分析、90日後NIHSS0-2対3以上、95-100対0-90でのBI、90日後の死亡率、及び90日後のmRSスコアが0~1の被験体の割合。両側p>0.05で差がないというデモンストレーション以降のすべての結果は、探索的と見なされ、多重性が調整されなかった。治療効果の不均一性に関する探索的分析は、薬物間及び薬物-デバイスの相互作用を評価するために、アルテプラーゼ使用の2つの層別化変数で実行され、最初の血管内デバイスの選択が宣言された。統計分析計画でアプリオリに特定された11の追加の関心のあるサブグループに関する探索的分析が実行された。梗塞体積は歪んだ分布を示し、中央値及び四分位範囲として報告された。治療群の梗塞体積を立方根変換体積に対するt検定を使用して比較した。コックス比例ハザードモデルは、治療の割り当てによる死亡までの相対時間の調整されたハザード比を提供した。
【0138】
分析は、受けた治療に関係なく、試験にランダムに割り付けられたすべての患者として定義される治療意図(ITT)集団で実施された。死亡した患者は、mRS スコアが6、バーセル指数が0、NIHSSが42のITT集団に含まれた。欠落している一次転帰(n=9)は、最悪の可能性のあるスコアとして帰属され、不良転帰(mRS3-6二分法)としてカウントされ、死亡率分析では死亡として帰属された。すべての分析は、SASソフトウェア(v9.4、SAS Institute)又はSTATA(v16.0)により実行された。
【0139】
発見
患者
【0140】
2017年3月1日から2019年8月12日までの間に、1,105人の患者が登録され、549人がネリネチドの投与に割り当てられ、556人がプラセボの投与に割り当てられた。9人の患者の一次転帰データが欠落した(0.81%;追跡不能:2;同意の撤回:7)。これらの患者は非応答者と見なされた。ベースラインの特性は2つ群において類似した(表1)。
【0141】
登録された1105人の患者の中、4人(0.4%;各群2人)の患者は治験薬を投与されず、25人(2.3%;14人がプラセボ、11人がネリネチド)は正しい薬を投与されたが、正しい量や期間で投与されなかった。クロスオーバーがなかった。すべての患者はEVTを試した。8人は選択的脳血管造影を完了してなかった。1人はEVTの前に同意を撤回した。アルテプラーゼの静脈内投与による通常のケア治療は、ネリネチド患者330人(60.1%)、プラセボ患者329人(59.2%)に対して行われた。宣言された最初のデバイスは、ネリネチド患者とプラセボ患者に均等に分けられた850人(76.9%)の患者のステントレトリーバーであった。全体的なワークフロー(イメージングからランダム化、イメージングから治験薬、治験薬から再灌流)と再灌流の質(脳虚血における拡張血栓溶解療法(eTICI)スケール)は、アルテプラーゼなし層での治療開始までの時間が長いことを除いて、両方のアームで類似した(表1)。脳卒中発症からランダム化までの時間は、アルテプラーゼプラセボなし、アルテプラーゼネリネチドなし、アルテプラーゼプラセボ及びアルテプラーゼネリネチド層のそれぞれにおいて160-537min(平均275min)、142-541min(平均270min)、112-228min(平均161min)及び109-240min(平均152min)であった。言い換えれば、アルテプラーゼなし層は、アルテプラーゼ層よりも脳卒中発症後約2時間後にネリネチドで治療された。「Time means brain」という言葉によって特徴付けられる病状では、アルテプラーゼなし層は、アルテプラーゼ層よりも治療がはるかに困難な患者のサブセットを表す。
【0142】
ネリネチドの血漿中濃度は、ESCPAE-NA1の22人の被験体から得られ、2.6mg/kgのネリネチドの単回投与を静脈内投与された8人の健康なボランティア被験体から以前に取得されたデータであった。時刻0は、注入前の時点である。アルテプラーゼを投与されたESCAPE-NA-1患者では、アルテプラーゼを投与されなかった患者及びアルテプラーゼを投与されていない過去の非脳卒中患者と比較して、ネリネチドの血漿中濃度が低下した。バーは平均の標準誤差を表す。図1は、アルテプラーゼの非存在下で、ネリネチドが10分後にピークレベルに達し、約120分後にバックグラウンドに低下したことを示している。アルテプラーゼの存在下では、ネリネチドの最大濃度は50%以上低下し、60分間以内でバックグラウンドレベルに低下した。AUCも同様に減少した(p=0.0119、混合効果線形回帰)。
【0143】
転帰
【0144】
90日目にmRS0-2を達成した患者の割合の一次転帰は、ネリネチド61.4%、プラセボ59.2%であった(adj RR=1.04;CI950.96-1.14;p=0.350)。二次転帰を表2Aに示し、探索的サブグループを図2A、B及び図3に示す。
【0145】
参加者の特徴は、アルテプラーゼを受けていない被験者がより長い脳卒中発症からランダム化までの平均時間を有することを除いて、デバイスとアルテプラーゼ層のそれぞれにおいてバランスが取れた。これは、アルテプラーゼを投与された被験体が、アルテプラーゼ治療ガイドラインによって指示された時間域(最後の既知のウェルから<4.5時間の治療可能時間域)内に一般的に登録されたのに対し、アルテプラーゼを投与されていない被験体が、プロトコルで許可されている12時間の登録時間域全体にわたって登録されたためである。宣言された最初の血管内デバイスの選択による治療効果修飾の証拠はなかった。これに対し、通常のケアの静脈内アルテプラーゼ使用による治療効果修飾の証拠はあった(表2B、図2B)。
【0146】
アルテプラーゼを投与されなかった層では、プラセボを投与された患者の49.8%と比較して、ネリネチドを投与された患者の59.3%がmRS0-2を達成した(adj RR1.18,CI951.01-1.38)。90日間の死亡率の絶対リスクは7.5%低下した。これにより、死亡の危険性が約半分になった(adj HR0.56,CI950.35-0.95)。アルテプラーゼを受けた層では、mRS0-2を達成した患者の割合は類似した(62.7%ネリネチドvs.65.7%プラセボ、adj RR0.97,CI950.87-1.08)。観察されたアルテプラーゼによる治療効果修飾は、アルテプラーゼ層のピーク血漿中ネリネチド濃度の減少によって裏付けられている(図1)。関心のある他の事前に指定された探索的サブグループは、差別的な治療効果の証拠を示さなかった(図3)。
【0147】
ネリネチド群の梗塞体積の中央値は26.0(iqr6.6-101.5)ml、プラセボ群では23.7(iqr6.4-78.9)mlであった。ネリネチド群とプラセボ群の間で、宣言された血管内デバイス層による梗塞体積に違いがなかった。アルテプラーゼ層において、治療群間で梗塞体積の中央値(21.1vs.22.7ml)に違いがなかった。アルテプラーゼなし層において、ネリネチド群では、梗塞体積の中央値が減少した(39.2vs.26.7ml)(表2B)。
【0148】
安全性
安全集団には、任意の量の治験薬を投与されたすべての患者が含まれた(n=1101)。重要な安全性転帰に違いがなかった(表3)。
【0149】
解釈
アルテプラーゼなし層では、ネリネチドは転帰の改善と関連しており、アルテプラーゼ層では、絶対リスク差がわずかに(有意ではないが)プラセボに有利であり、ベネフィットは観察されなかった。
【0150】
ネリネチドに対するアルテプラーゼによる効果修飾の観察は予想外であった。前臨床動物研究から得られるデータは、アルテプラーゼの投与後にネリネチドを投与すると、ネリネチドの治療効果が維持されることを示唆している。ヒトのネリネチド治療反応に対するアルテプラーゼの影響の大きさは予測されなかった。この発見は、アルテプラーゼとネリネチドの間の薬物間相互作用により、アルテプラーゼ層ではネリネチドの治療効果が無効になり、アルテプラーゼ非存在層では絶対ベネフィットが9.4%である(10~11人の患者の治療に必要な数)ことによって解釈され得る。このアルテプラーゼ層におけるネリネチドの有効性の欠如は、生物学的にもっともらしい。ネリネチドはアルテプラーゼの活性に影響を与えない。しかし、ネリネチドは、組織プラスミノーゲン活性化因子(アルテプラーゼなど)によって循環プラスミノーゲンから生成されるセリンプロテアーゼであるプラスミンによって切断されるアミノ酸配列を有し、動物のアルテプラーゼによって切断される。アルテプラーゼ層におけるネリネチドのベネフィットの欠如は、試験参加者のサブセットからの薬物動態データによって裏付けられているように、プラスミンによるネリネチドの酵素的切断によりネリネチドが治療濃度以下になることが原因である可能性がある。ネリネチドの切断はアルテプラーゼの間接的な影響であるため、アルテプラーゼ注入とネリネチド投与の時間時間は、活性の持続時間とプラスミンの継続的生成に比べてそれほど重要ではない可能性がある。アルテプラーゼなし層における臨床転帰の改善、死亡率の減少、及び梗塞体積の減少は、薬物動態学的観察と併せて、効果修飾の臨床観察が偶然の発見ではないことを証明できる説得力のある証拠を提供する。
【0151】
アルテプラーゼ層の患者は、通常、アルテプラーゼの治療可能時間域内(脳卒中発症から最大4.5時間)に登録されたのに対し、アルテプラーゼなしの患者は、試験の脳卒中発症からランダム化までの時間域全体(12時間)にわたって登録された。通常、アルテプラーゼの使用と時間との間に共線性があり、アルテプラーゼなし層には、発症からランダム化までの時間が長い患者が含まれる可能性がはるかに高かった。
【0152】
ネリネチド群とプラセボ群の両方で同数の重篤な有害事象が発生した。ネリネチドは、動物において高用量で循環ヒスタミンを一時的に上昇させ、プロタミンやバンコマイシンなどの高荷電カチオン分子によって引き起こされるものと類似する非免疫媒介性マスト細胞脱顆粒が原因であると考えられている。これは、低血圧、紅潮、蕁麻疹、そう痒症などのヒスタミン誘発性の有害反応を引き起こす可能性がある。プラセボと比較して、ネリネチドで治療された患者の有害事象の発生率に有意差はなかった。しかし、プラセボと比較して、この薬物による一過性低血圧、肺炎、うっ血性心不全の症例はより多くなった。アルテプラーゼなし層の中で、ネリネチド群は、プラセボと比較して、脳卒中進行、再発性脳卒中、及び出血性梗塞の数が少なかった。
【0153】
【表1】
*N=546(3人データ欠落)
**N=1090:イメージングの欠落又はスコアリング不能による
§.脳卒中が目撃されていない場合では、脳卒中発症は最終未発症時刻最後によく見られた時間として定義された。覚醒時に脳卒中が発生した場合、患者が就寝した時刻を意味することが多かった。
すべての値は中央値(iqr)又はn(%)として示される。
NIHSS=国立衛生研究所脳卒中スケール;ECG=心電図;ASPECTS=アルバータ脳卒中プログラム早期CTスコア;ICA=内頸動脈;EVT=血管内血栓除去術;eTICI=脳虚血における拡大血栓溶解
【0154】
【表2A】
*中央値の絶対体積差
**ベータ係数は、対照と比較した、ネリネチド(NA-1)による立方根体積(ml1/3)の調整済み減少を表す。N=1099:イメージングの欠落又は測定不可の体積による。平均体積は73.1ml(プラセボ)及び71.1ml(ネリネチド)であった。
§転帰が欠落している9人の患者を死亡に帰属させない場合、プラセボ群で74/550(13.5%)死亡し、ネリネチド群で64/546(11.7%)が死亡した(RR0.87(CI95:0.64-1.19))
mRS=修飾ランキンスケール;NIHSS=国立衛生研究所脳卒中スケール;BI=修飾バーセルインデックス;RR=リスク比;CI95=95%信頼区間
注:リスク比は、Huber-Whiteロバスト分散推定量を使用した多変数ポアソン回帰を使用して導出される。このアプローチは、ピアレビューの時点で査読者と編集者の両方によって推奨されていたため、SAP(多変数ロジスティック回帰からオッズ比を報告すると述べた)とは異なる。比例オッズの仮定が満たされていないため(スコア試験)、修飾ランキンスケール全体での「シフト」の共通オッズ比は報告されない。調整:年齢(y)、性別、ベースラインNIHSSスコア、コアラボが読み取ったASPECTSスコア、閉塞位置MCAvs.ICA、宣言された血管内アプローチ及び部位。
【0155】
【表2B】
*中央値の絶対体積差
**ベータ係数は、対照と比較した、ネリネチド(NA-1)による立方根体積(ml1/3)の減少を表す。梗塞体積の転帰のためのネリネチドに対するアルテプラーゼの効果修飾、p相互作用=0.0400。アルテプラーゼなし群では、平均体積は87.2ml(プラセボ)及び67.8ml(ネリネチド)であった。アルテプラーゼ群では、平均体積は63.3ml(プラセボ)及び73.3ml(ネリネチド)であった。
§転帰が欠落している9人の患者を死亡に帰属させない場合:(1)アルテプラーゼなし層:プラセボ群では43/224(19.2%)が死亡し、ネリネチド群では25/216(11.6%)が死亡した(RR0.60(CI950.38-0.95));(2)アルテプラーゼ層:プラセボ群では31/326(9.5%)が死亡し、ネリネチド群では39/330(11.8%)が死亡した(RR1.24(CI950.80-1.94))。
注:mRS0-2転帰のためのネリネチドに対するアルテプラーゼの効果修飾、p相互作用=0.0330。考えられる最悪スコアで代入されたバイナリ転帰の欠落データ(アルテプラーゼなし層:対照3、ネリネチド3;アルテプラーゼ層:対照3、ネリネチド0)。リスク比は、Huber-Whiteロバスト分散推定量を使用した多変数ポアソン回帰を使用して導出される。このアプローチは、ピアレビューの時点で査読者と編集者の両方によって推奨されていたため、SAP(多変数ロジスティック回帰からオッズ比を報告すると述べた)とは異なる。比例オッズの仮定が満たされていないため(スコア試験)、修飾ランキンスケール全体での「シフト」の共通オッズ比は報告されない。調整:年齢(y)、性別、ベースラインNIHSSスコア、コアラボが読み取ったASPECTSスコア、閉塞位置MCA vs.ICA、宣言された血管内アプローチ及び部位。
mRS=修飾ランキンスケール;NIHSS=国立衛生研究所脳卒中スケール;BI=修飾バーセルインデックス;RR=リスク比;CI95=95%信頼区間
【0156】
【表3】
*未調整
注:安全集団には、任意用量の治験薬を投与された患者のみが含まれる(N=1101)。RR=リスク比
症候性頭蓋内出血(ICH)にはMedDRA PTコード:血管手術合併症、脳卒中の出血性転換、出血性脳卒中、頭蓋内出血、脳出血、くも膜下出血が含まれる。
肺炎には、MedDRA PTコード:肺炎、誤嚥性肺炎、細菌性肺炎が含まれる。
尿路感染症には、MedDRA PTコード:尿路感染症及び尿路性敗血症が含まれる。
**ネリネチド群の1例は投与後11日目に発生し、残りの低血圧イベントは投与と同じ日に発生した。
【0157】
実施例2
【0158】
本実施例は、プラスミンによるネリネチドの切断を調査し、プラスミン切断に耐性のあるPSD-95を阻害するバリアント活性薬剤を説明する。
結果
ネリネチドはプラスミンによって切断される。
【0159】
ネリネチドには固有の線維素溶解活性がなく、アルテプラーゼやテネクテプラーゼなどの血栓溶解剤の活性には影響しないが、逆は異なる。セリンプロテアーゼであるプラスミンは、血栓溶解剤によって活性化され、フィブリン血餅を溶解し、数時間持続する(Chandler et al.,Haemostasis30,204-218(2000)。プラスミンは、塩基性残基のC末端側に切断特異性があるため、ネリネチドのN末端から残基3、4、5、6、7、9、11及び12の後に発生する可能性がある。ネリネチド(18mg/mL)とプラスミン(1mg/mL)をリン酸緩衝生理食塩水中で37℃でインキュベートし、サンプルをLC/MSで分析した後、これらの切断部位と一致する切断産物が観察された(図4A)。37℃で血漿中でアルテプラーゼと65ug/mlのネリネチドをインキュベートし、HPLCでネリネチドのレベルを試験することによりラットとヒトの両方の血漿において直接試験した(図4B、4C)。ネリネチドの65ug/mlの濃度は、ボーラスとして2.6mg/kgの用量を投与された75kgのヒトにおける理論上のピーク濃度を表す。臨床投薬アプローチをシミュレートするために、アルテプラーゼを60分間にわたって添加した(方法)。アルテプラーゼの濃度(図4B[ラット]及び図4C[ヒト]に示す)は、0.9mg/kg用量(22.5ug/ml)の最初の10%ボーラスの終了時にヒトで予想されるピーク濃度、並びにラットでその3倍及び6倍の用量(ラットの線溶系がヒト組換えtPAに対して感受性が低い可能性があるため)をシミュレートするように選択された(Korninger,Thromb Haemost46,561-565(1981))。アルテプラーゼの添加により、ラット血漿中のネリネチド含有量が濃度依存的に減少し(図4B)、22.5ug/mlアルテプラーゼの「ヒト相当」用量の効果は、ラットとヒトの血漿では同じであった(図4B、4C)。
【0160】
ESCAPE-NA1試験におけるネリネチドの効果はアルテプラーゼによって低減されたため、次に、ラットにおけるネリネチドの薬物動態(PK)に対するアルテプラーゼの影響を評価した。アルテプラーゼは、0.9mg/kg(ヒト用量)及び5.4mg/kg(ヒト用量の6倍)で、臨床プロトコルをシミュレートした注入で投与された(10%ボーラスに続いて残りを60分間注入)。ネリネチドは、アルテプラーゼ注入の開始時に7.6mg/kgで静脈内ボーラス投与された。これは、以前の脳卒中研究(5、7、15)においてラットで最も一般的に使用された用量であり、ラットにおけるCmaxは、ESCAPE-NA1で使用された用量である2.6mg/kgを投与されたヒトにおいて産生されたものと類似する。ネリネチドとヒト用量のアルテプラーゼとの共投与は、ネリネチドのCmax及びAUCの非有意の減少をもたらした(図4D、4E)。しかし、ヒト用量の6倍(5.4mg/kg)のアルテプラーゼは、ネリネチドの平均Cmax及びAUCを有意に低下させた(それぞれ49.5%及び44%)。動物でのこの発見は、アルテプラーゼで治療された患者が低いネリネチドの血漿中濃度を示したESCAPE-NA1試験のPKデータをサポートしている。
【0161】
高用量アルテプラーゼによる全長ネリネチドの切断は不完全であるため、いくつかの活性薬剤が依然として神経保護を達成できる可能性を向上させた。これは、一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)のモデルにおけるネリネチドの用量反応研究によってラットにおいてサポートされている。ネリネチド及びロドキサミドは、tMCAoの60分後にラットにボーラス注射により静脈内投与された。図11Aは、tMCAoの24時間後の半球梗塞体積測定値を示す。図11Aにおけるバーは平均±SDを表し、すべての個々のデータポイントがプロットされる。図11Aにおけるアスタリスクは、溶媒群と比較した場合にP<0.01を示す(多重比較検定のためのone-way ANOVA post hoc Tukey's correction;N=12-14動物/群)。図11Bは、tMCAoの24時間後の神経学的スコアを示す。有意差は、溶媒群と比較した場合にアスタリスクで示される(順位に基づく分散のKruskal-Wallis分析;多重比較検定のためのpost-hoc Dunn's correction;*P<0.01)。溶媒:PBS単独。スクランブル(Scrambled):PSD-95に結合できないADAペプチド。0.25mg/kgの低用量で、梗塞体積が大幅に減少し(P=0.01)、神経機能が改善された。0.025mg/kgのような低用量でも効果があった。少なくとも25mg/kgまでの用量でも効果があり、約15mg/kgで最大の効果が得られた。観察された広い治療範囲はネリネチドに起因するものであり、ヒスタミン放出による潜在的な低血圧を回避するためにすべての溶液に存在するマスト細胞脱顆粒阻害剤ロドキサミドに起因するものではない。
【0162】
投薬分離によるネリネチドの治療効果の回復
ラット及びヒトの両方において、ヒトと同等の濃度では、ネリネチドの半減期は約5~10分間であり(図4D)、これは健康なヒトボランティアにおけるネリネチドの半減期と同じである(図9)。血漿中でのネリネチドの分解が遅いため(図4B図4Dを比較)、ラットとヒトにおけるネリネチドの短い半減期は、分解によるものではない。これは、ネリネチドが血管内コンパートメントを急速に出て他の組織に入ることを示唆している。そうすると、アルテプラーゼを投与する前にネリネチドを投与することで、血流中のネリネチドの切断が排除され、神経保護効果を維持することができる。
【0163】
これを試験するために、雄のSprague-Dawleyラット(10-12週齢;270-310g;Charles River,Montreal,QC,Canada)を用い、中大脳動脈に自己血血栓を導入することにより塞栓性中大脳動脈閉塞(eMCAO)を構築した。虚血発症の90分後に総用量5.4mg/kgのアルテプラーゼの静脈内投与による治療によって再灌流を達成した。アルテプラーゼは、ヒト注射プロトコルにより投与され、即ち、総用量の10%はボーラス投与され、残りの90%は60分間の注入で投与される。アルテプラーゼの投与量は、ラットの線溶系がヒト組換えtPAに対する感受性が低い可能性があるため、ヒト投与量の6倍であった。この用量の選択は、パイロット研究では、高用量のアルテプラーゼ(ヒト用量の10倍)が脳卒中の出血性転換による許容できない死亡率をもたらしたためである。ネリネチドは、7.6mg/kgの用量でアルテプラーゼ投与開始の30分前又は開始と同時に投与された(図5A)。この用量は、臨床的に有効な用量2.6mg/kgを受けたヒトにおいて達成されたものと類似のPKパラメータ(Cmax及びAUC)をもたらす(図4D図9を比較)。梗塞体積、半球腫脹及び神経学的スコアを24時間内で評価した。
【0164】
eMCAOの60分後のネリネチドの単独投与では、梗塞体積が59.2%減少した(427±27mmから175±40mm)のに対し、アルテプラーゼ単独では、eMCAOの60分後に投与すると梗塞体積が26%減少し、90分後に投与すると梗塞体積が18%減少した(図5B)。ネリネチドの有益な効果は、eMCAOの60分後にアルテプラーゼと同時に投与された場合、完全になくされた。対照的に、60分後にネリネチドを投与し、さらに30分後にアルテプラーゼを投与した場合、ネリネチドは非常に効果的であった(梗塞体積が70%減少した)。ネリネチドとアルテプラーゼの30分間の投薬分離による有益な効果は、eMCAO後の半球腫脹の軽減(図5C)及び神経学的スコアの改善(図5D)に同様に反映された。群間の生理学的パラメータ、死亡率又は排斥に違いがなかった。
【0165】
分解を軽減するために必要な投薬分離間隔を調べるために、さらにPK研究を実施した。ヒトとの関連性を最大化するために、これらの研究をカニクイザル(Macaca fascicularis)を用いて実施した。ネリネチドは、2.6mg/kgの用量で10分間の静脈内注入により投与された。この投与計画は、LVO による脳卒中にさらされたマカクザルにおいて神経保護的であり(Cook et al.,Nature483,213-217(2012))、第2相ENACT試験(Lancet Neurol 11,942-950(2012))及びESCAPE-NA1試験の両方(Lancet 395,878-887(2020))において使用された。ネリネチド注入開始と同時に、10分間ネリネチド注入終了時、又はネリネチド注入終了10分後にアルテプラーゼ投与を開始するシナリオを検討した。別の静脈ラインを介してアルテプラーゼ(1mg/kg)の10%をボーラス投与し、続いて残りの90%臨床使用に従って1時間かけて注入した。
【0166】
ネリネチドとアルテプラーゼの同時投与により、ネリネチドのCmaxは47.4%減少し、AUCは53.9%減少した(図10A~10C)。ネリネチド注入の最後にアルテプラーゼを投与し始めた場合、Cmaxがわずか23.1%減少し、AUCが32.3%減少したが、動物モデルに基づいて有効である可能性が高い血漿濃度を達成した。10分間ネリネチド注入の最後の10分後(又は同等に注入開始の20分後)にアルテプラーゼを投与した場合、アルテプラーゼによるCmax又はAUCの減少は、エラーバーによって示される測定誤差の範囲内に収まった(図10A~10C)。
【0167】
これらの結果に基づいて、投薬分離アプローチは、アルテプラーゼで処理された動物においてネリネチドによる神経保護を維持するための実用的な戦略である。
【0168】
D-アミノ酸は、血栓溶解剤による切断に対してネリネチドを非感受性にする。
PSD-95 PDZ2への特異的結合には、C末端アミノ酸のL-エナンチオマー配置が必要である可能性があるが、Tat部分は、D-アミノ酸をL-に変更することにより、プロテアーゼ分解に対する耐性を有することができると考えた。そうすることで、GluN2B C末端の9個のL-アミノ酸に融合したTatの11個のD-アミノ酸を含むD-Tat-L-2B9cと呼ばれるペプチド(ygrkkrrqrrrKLSSIESDV配列番号89)を生成した。このペプチドは、ELISAアッセイにおいて、PSD95の標的PDZ2ドメインへのネリネチドと実質的に同様の結合を有した(図6A)。最後の3つのC末端残基に二重点変異を含む同じD-Tat-L-2B9c構造(Lys-Leu-Ser-Ser-Ile-Glu-Ala-Asp-Ala(配列番号90);D-Tat-L-2B9cAAと呼ばれる)が結合できなかったため、この結合は特異的であった。
【0169】
ネリネチド又はD-Tat-L-2B9c単独では、リン酸緩衝生理食塩水中で37℃で安定であるが、ネリネチドはプラスミンとインキュベートされると急速に分解する(図6B)。対照的に、D-Tat-L-2B9cは同じ条件下で有意な分解を示さなかった。ネリネチドではなくプラスミノーゲンがアルテプラーゼの直接の基質であるため、どちらもアルテプラーゼとの共インキュベーションの影響を受けなかった(図6B)。同様に、ネリネチドとD-Tat-L-2B9c単独は、両方ともアルテプラーゼの非存在下でラット及びヒトの血漿の両方において安定であった(図6C、6D)。しかし、アルテプラーゼ(rt-PA;135ug/ml)の添加により、ネリネチドは急速に分解されたが、D-Tat-L-2B9cは分解されなかった(図6C、6D)。また、脳卒中に起因する可能性のある急性心筋梗塞の治療に現在使用されている組織プラスミノーゲン活性化因子であるテネクテプラーゼ(TNK)を使用して同様の実験を行った。ラットとヒトの両方の血漿にTNKを添加すると、ネリネチドは急速に消失したが、D-Tat-L-2B9cは消失しなかった(図6E、6F)。
【0170】
ラットに静脈内ボーラス投与した場合、ネリネチドとD-Tat-L-2B9cはどちらも実質的に同様の薬物動態プロファイルを示し、D-Tat-L-2B9cはより有利であった(より高いCmax及びAUC)。血栓溶解剤の非存在下で、相対的な血漿安定性(図6C-6F)にもかかわらず血管内コンパートメントからの両方の急速な消失(図7A-7C)は、両方の薬物動態がタンパク質分解によるよりも組織への急速な分布によってより支配されるという仮説をサポートしている。
【0171】
D-Tat-L-2B9cは、アルテプラーゼと共投与する場合、効果的な神経保護剤である。
【0172】
D-Tat-L-2B9cとネリネチドは、tMCAOのラットモデルにおいて、梗塞体積の減少、半球腫脹の減少、及び神経学的スコアの改善において同等に効果的であった。したがって、アルテプラーゼの同時投与がある場合、D-Tat-L-2B9cの有効性が維持されるかどうかを調べた。
【0173】
雄のSprague-Dawleyラットを用いて上記のようにeMCAOを構築した。ネリネチド(7.6mg/kg)又はD-Tat-L-2B9c(7.6mg/kg)を60分後にボーラス注射により投与した。eMCAOの60分後に、PSD-95を阻害する活性薬剤と同時に、アルテプラーゼ(60分間にわたって5.4mg/kg)の投与も開始した。神経学的スコアリング、梗塞体積、及び半球腫脹を24時間内で評価した(図8A)。
【0174】
eMCAOの60分後に単独で投与されたネリネチドは、アルテプラーゼの非存在下で梗塞体積を大幅に減少させた(458±39mmから296±66mm)。この効果は、ネリネチドとアルテプラーゼの両方が与えられた場合に完全になくなった(図8B)。対照的に、D-Tat-L-2B9cによる処理は、アルテプラーゼの非存在下でネリネチド単独と同じくらい効果的であったが、この効果は、D-Tat-L-2B9cとアルテプラーゼを一緒に投与した場合にも持続した(図8B)。D-Tat-L-2B9cの有益な効果は、梗塞体積(図8B)、半球腫脹(図8C)、及び神経学的スコア(図8D)を測定することにより明らかになった。群間の生理学的パラメータ、死亡率又は排斥に違いがなかった。
【0175】
討論
以上の説明では、アルテプラーゼ処理の開始の短時間前にネリネチドを投与することにより、アルテプラーゼによるネリネチドの不活化が完全に排除されることが示された(図6A~6F)。このアプローチは、ヒトとラットの間で類似するPKに鑑みてなされたものであり(図4D)、線維素溶解生物学の種間の違いに依存しない。血漿中での短い半減期のため、血管内コンパートメントを出ることにより、ネリネチドが投与された30分後にアルテプラーゼが投与された場合、ネリネチドはアルテプラーゼによる実質的な切断を受けなくなる。
【0176】
投薬分離の代替として、PSD-95のタンパク質間相互作用は、プロテアーゼ非感受性阻害剤により解決することができる。ネリネチドを血栓溶解剤による切断に対して非感受性にするための実際的なアプローチは、プラスミン感受性残基(すなわち、少なくともTatタンパク質伝達ドメイン)をD-アミノ酸に変換することであることを示した。PDZドメイン結合[T/S]-XVモチーフで終了するコンセンサス配列は保存され、その結果、ネリネチドとD-Tat-L-2B9cは、PSD-95への結合及び神経保護効果が同じであった。
【0177】
D-Tat-L-2B9cのような薬剤は、現在のFRONTIER試験におけるネリネチドのように、病院に到着する前であっても、脳卒中が特定されるとすぐに投与することができる。また、医療専門家が適切であると判断した場合、血栓溶解剤の投与前、投与と同時、又は投与後に、脳卒中患者のケアパスの任意の時点で投与することもできる。
【0178】
材料と方法
動物
実験は、麻酔をかけた雄のSprague-Dawleyラット(週齢10~12週、体重270~320g)を用いて実施された(Charles River;Montreal,QC,Canada)。ラットは無菌ケージに収容され、実験を通して自由に動き、食物と水を自由に摂取できるようにした。
【0179】
治験薬
ネリネチドは、NoNO Inc.(Toronto,Canada)によって合成され、18mg/mlで製剤化された。プラセボは、見た目が同じバイアルに入ったリン酸緩衝生理食塩水で構成された。凍結乾燥D-TAT-L-2B9cは、Genscript(中国)によって合成され、ペプチド加水分解及びアミノ酸液体クロマトグラフィー分析にかけられ、ペプチド含有量の正確な測定値が得られた。再構成されたペプチドは、使用まで-20℃で保存された。ヒトrt-PA(Alteplase/CathFlo;Roche,San Franscisco,U.S.A)は、注射用滅菌水(USP3ml、AirLife、AL7023)で最終濃度1mg/mlに再構成され、使用まで2~8°Cで保存された。安定性研究用のTNK(50mg溶液用粉末、Hoffmann-La Roche Limited)は、注射用滅菌水(SWFI)で37.5ug/ml又は6.25ug/mの最終濃度に再構成され、使用まで2~8℃で保存された。すべての動物実験において、ネリネチド又はD-Tat-L-2B9cはボーラス注射により投与された。カチオン性ペプチドの潜在的な影響であるヒスタミン放出による潜在的な低血圧を避けるために、マスト細胞脱顆粒阻害剤であるロドキサミド(0.1mg/kg)は、両方と共投与された。すべての実験において、rt-PAは60分間にわたって投与された(10%はボーラス投与、続いて残りの90%は60分間注入)。
【0180】
他の試薬
【0181】
特に指定のない限り、すべてSigma-Aldrich(Oakville,ON,Canada),から購入された。HPLCグレードのアセトニトリル、トリフルオロ酢酸、及び水は、Fisher Scientific(Fair Lawn,NJ,USA)から購入しました。TRIS、過塩素酸、及びリン酸緩衝生理食塩水は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA)から入手した。市販のラット血漿(Innovative Research Inc、NA-EDTAを含む Rat Sprague Dawley血漿[カタログ番号:IRTSDPLANAE10ML])及びヒト血漿(Innovative Research Inc、NA-EDTAを含むプールされたヒト血漿[カタログ番号:IPLANAE10ML])を使用した。
【0182】
脳卒中研究
【0183】
研究は、p=0.05で対照群と治療群の間に40%の絶対差を検出する80%の検出力を持つように設計された。動物のランダム化、薬物の割り当て、及び治療薬の調製は、外科的又は転帰の評価に直接関与していない研究員によって行われた。ネリネチド及びD-Tat-L-2B9cは、500uLアリコートにおいて7.6mg/mLの濃度で新たに調製された。アルテプラーゼは凍結乾燥薬から調製され、マッチングするプラセボと同様に、同じガラス管に保存された。薬物は、使用の10分前まで4℃に保存された。手術、一回拍出量の測定、行動評価、統計分析を担当する外科医と研究者は、治療の割り当てについて知らされていなかった。
【0184】
手術を受けたすべての動物について、MCA閉塞の前に生理学的パラメータを測定した。平均動脈血圧の侵襲的モニタリングのために、並びに血液ガス(pH、PaO、及びPaCO)、電解質(Na、K、iCa)及びベースラインでの血漿グルコース[血液ガスカートリッジCG8+、VetScan i-STAT1アナライザー]を測定するための血液サンプルを取得するために、PE-50ポリエチレンチューブを右大腿動脈に挿入した。直腸プローブで体温を継続的に監視し、加熱ランプで37.0±0.7℃に維持した。tMCAO構築は、上記のように実行された(5,7)。Henninger et al.,Stroke37,1283-1287(2006)に記載されているようにeMCAOを達成した。簡単に言うと、同じラットから閉塞の24時間前に採取された全血から生成された長さ18~22mmの自己血栓を内頸動脈に導入されたPEチューブからの脱出によって中大脳動脈に導入した。レーザードップラーモニター(Perimed,Jarfalla,Stockholm,Sweden)を用いた相対的な局所脳血流(rCBF)測定により、eMCAOの成功(rCBFにおける65%以上の低下)とアルテプラーゼによる再灌流を確認した。
【0185】
脳卒中後の24時間内で、2%2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリドで染色した標準脳切片から、梗塞体積と半球腫脹を評価した(Sigma Aldrich,St.Louis,MD,USA)(7)。神経学的スコアリングは、脳卒中発症後の24時間内で、前頭視覚配置、横向き視覚配置、正面触覚配置、横向き触覚配置、及び垂直触覚配置を含む前肢配置試験により実施された(各コンポーネントのスコア範囲は0~2であり、最大12は最大の障害を示す)。
【0186】
インビトロペプチド分解アッセイ
血漿中のrt-PAの存在下でのネリネチドの安定性を判断するために、HPLCによるインビトロペプチド含有量分析を使用した。簡単に言えば、ネリネチド又はD-Tat-L-2B9cをラット又はヒトの血漿に65ug/mlの濃度でスパイクした。ベースラインの時点が収集された後、特定の濃度でrt-PAを添加した。rt-PA投与は、臨床投薬アプローチ[10%の用量はボーラス投与、続いて90%用量は60分間注入]に従って、Harvard Apparatus Pumpを用いて行われた。IVボーラス投与後のサンプル収集は、投与の5分、15分、30分及び45分後に実施された。各時点で新しい注射器を使用して各バイアルから約100μLの血漿を採取した。次に血漿を収集して分析するまで-80℃で保存した。
【0187】
インビボ薬物動態解析
これらの研究の目的は、循環するrt-PAとプラスミンが存在する場合のネリネチドPKパラメータの変化を評価することであった。雄のナイーブラットに、ネリネチド単独、ネリネチド+rt-PA(0.9mg/kg)、又はネリネチド+rt-PA(5.4mg/kg)のいずれかを静脈内投与した。サンプルの採取は、投与前及び投与後の0分、5分、10分、20分、50分目に行った。各時点で新しい注射器を使用して各動物から約300uLの血液を採取した。血液サンプルを事前に準備されたエッペンドルフチューブ[30ulのEDTA2.5%]に収集し、血漿と細胞成分を分離するために20分間遠心分離した。その後、血漿サンプルを収集し、HPLCで分析するまで-80°Cで保存した。
【0188】
高圧液体クロマトグラフィー
血漿サンプルは、分析するまで-80℃で保存された。ネリネチド又はD-Tat-L2B9cは、1M過塩素酸で沈殿させることにより抽出された。すべての分析は、Agilent 1260 Infinity Quaternary LC System(Agilent Technologies, Santa Clara,CA, USA)及び25cm[YMAA12S052546WT]C-18 RP‐HPLCカラム(Agilent Technologies,Santa Clara,CA, USA)を用いて実施された。カラムは、40℃で0.1%TFAを含む10%アセトニトリルで平衡化された。溶離液の流量は1.5ml/分(0.1%TFA中の10%から35%アセトニトリルのグラジエント)であった。UVトレースは220nmで記録された。ネリネチド又はD-Tat-L-2B9cの濃度は、薬剤を血漿にスパイクすることによって得られたキャリブレーション標準から導き出された。
【0189】
ELISAアッセイ
【0190】
ELISAプレートを、50mM重炭酸緩衝液中の1ug/ml PSD95PDZ2でコーティングし、4℃で一晩静置した。プレートをPBST(0.05%)中の2%BSAで室温で2時間ブロックした。次に、所定濃度のビオチン化リガンド(ネリネチド、D-tat-L2B9c又はD-Tat-L-AA)と共にインキュベートし(図4A)、4℃で一晩インキュベートした。PBS-Tで洗浄した後、プレートを(1:3000)SA-HRPで30分間インキュベートし、再度洗浄し、TMB溶液で10分間インキュベートした。100ulのHSOで反応を停止した。Synergy H1リーダーを用いて450nmで吸光度を測定した。
【0191】
統計
【0192】
二元反復測定ANOVAによりペプチド濃度の変化を分析した後、多重比較のためのシダック補正を行った。ピーク血漿濃度(Cmax)の薬物動態(PK)パラメータ及び0から最終測定濃度(AUC)までの血漿濃度-時間曲線下面積は、PKsolver Software(USA)を用いて、非コンパートメント分析及び線形補間により得られた。脳卒中研究では、多重比較のためのテューキー補正を用いた一元配置分散分析により群間の違いを試験した。神経学的スコア評価の群間の違いは、事後ダン補正によるランクのノンパラメトリックKruskal-Wallis分散分析により分析された。くも膜下出血又は出血性変化を含む何らかの理由による早期死亡を経験している動物の値は、すべての動物で達成された最悪の神経学的スコアと最大拍出量を反映すると推定された。
図1
図2A
図2B
図3
図4A-1】
図4A-2】
図4A-3】
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
【配列表】
2023514394000001.app
【国際調査報告】