(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】フルAAVカプシドから空のAAVカプシドを分離又は枯渇させる方法
(51)【国際特許分類】
B01D 15/08 20060101AFI20230329BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20230329BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20230329BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B01D15/08
B01J20/22 D
B01J20/34 G
C12N7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550244
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2021054337
(87)【国際公開番号】W WO2021165537
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521262714
【氏名又は名称】ザルトリウス ビーアイエー セパレーションズ ディー.オー.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェルニゴイ、ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ゴリツァル、ブラジュ
(72)【発明者】
【氏名】ドーレンク、ダルコ
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン、ピーター エス.
【テーマコード(参考)】
4B065
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA44
4D017AA09
4D017BA07
4D017CA14
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4D017DA03
4G066AB09B
4G066AC11C
4G066BA03
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4G066BA36
4G066CA54
4G066DA07
4G066EA01
4G066GA11
(57)【要約】
空のAAVカプシド及びフルAAVカプシドを含む水性混合物中のフルAAVカプシドから空のAAVカプシドを分離又は枯渇させる方法であって、混合物を、第1アルカリ性環境中、第一級アミノ基を担持する固相表面と接触させることによって、(i)フルAAVカプシドを固相表面に結合させる一方、空のAAVカプシドの少なくとも一部を固相表面に結合させない、又は(ii)フルAAVカプシド及び空のAAVカプシドをどちらとも固相表面に結合させ、続いて、空のAAVカプシドの少なくとも一部を第1アルカリ性環境のpH値よりも高いpH値の第2アルカリ性環境によって溶出させる、但し、第2アルカリ性環境は固相表面からフルAAVカプシドを溶出させない、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空のアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシド及びフルAAVカプシドを含む水性混合物中のフルAAVカプシドから空のAAVカプシドを分離又は枯渇させる方法であって、前記混合物を、第1アルカリ性環境中、第一級アミノ基を担持する固相表面(a primary amino groups bearing solid phase surface)と接触させることによって、
(i)フルAAVカプシドを前記固相表面に結合させる一方、空のAAVカプシドの少なくとも一部を前記固相表面に結合させず、結合した場合の空のAAVカプシドの少なくとも一部を前記第1アルカリ性環境のpH値よりも高いpH値の第2アルカリ性環境によって溶出させる、但し、前記第2アルカリ性環境は前記固相表面からフルAAVカプシドを溶出させない、
又は
(ii)フルAAVカプシド及び空のAAVカプシドをどちらとも前記固相表面に結合させ、続いて、空のAAVカプシドの少なくとも一部を前記第1アルカリ性環境のpH値よりも高いpH値の第2アルカリ性環境によって溶出させる、但し、前記第2アルカリ性環境は前記固相表面からフルAAVカプシドを溶出させない、
方法。
【請求項2】
前記第1アルカリ性環境のpH値が、pH7を超え8以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
空のAAVカプシドの少なくとも一部を前記第2環境によって溶出させた後、前記固相表面を前記第2環境のpH値よりも高いpH値を有する第3アルカリ性環境と接触させる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記固相表面を、前記第3アルカリ性環境のpH値又は前記第2アルカリ性環境のpH値よりも低いpH値を有し、前記第1アルカリ性環境の塩濃度、前記第2アルカリ性環境の塩濃度、又は前記第3アルカリ性環境の塩濃度に比して高い塩濃度を有する第4アルカリ性環境と接触させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2アルカリ性環境のpH値が、pH8.0~pH9.0の範囲、pH8.1~pH8.9の範囲、pH8.2~pH8.8の範囲、pH8.3~pH8.7の範囲、又はpH8.4~pH8.6の範囲である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第3アルカリ性環境のpH値が、pH8.5~pH10.5の範囲、又はpH8.5~10.0の範囲、又はpH8.5~9.5の範囲である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1アルカリ性環境、前記第2アルカリ性環境、前記第3アルカリ性環境及び/又は前記第4アルカリ性環境が、NaCl等のアルカリ金属塩1M以下の濃度、特に、1mM~1,000mMの濃度又は2.5mM~250mMの濃度に相当する塩濃度を含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ性環境が、1.0mM~5.0mMの範囲、特に、1.5mM~3.0mMの範囲又は2.0mM~2.5mMの範囲の濃度でマグネシウムイオンを含む、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
フルAAVカプシド及び空のAAVカプシドがいずれかの血清型に属しており、特に、天然又は組換え血清型、キメラ、混合、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第一級アミノ基を担持する固相表面が、クロマトグラフィー装置内に配置される、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第一級アミノ基を担持する固相表面が、モノリス、充填粒子のカラム、充填ナノファイバーのカラム、膜吸着体、又はヒドロゲルである、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
空のAAVカプシド及びフルAAVカプシドを含む水性混合物中の空のAAVカプシドを分離又は枯渇させるための、第一級アミノ基を担持する固相表面(a solid phase surface bearing primary amino groups)を有する固相抽出材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出を用いてフルAAVカプシドから空のAAVカプシドを分離又は枯渇させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の調製物は、一般に2種のカプシドの亜集団で占められている。所望のカプシドは、目的とする治療用DNAペイロード(therapeutic DNA payload)で適切に満たされている。これらはフルカプシド(full capsids)と呼ばれる。純粋でない調製物は、目的とするDNAロードで満たされていないカプシドも含有する。これらは空のカプシド(empty capsids)と呼ばれる。90%以上の空のカプシドを含む調製物もあれば、50%未満の調製物もある。現行の臨床ガイドラインは、空のAAVカプシドの含有量を10%未満に減らすことを推奨している。これは超遠心分離法によって達成できるが、装置とプロセスのスケールアップが難しく、作業者の些細な誤りによって不具合が生じる傾向にある。クロマトグラフィー法は遠心分離よりも有利であると考える者が多い。
【0003】
空のAAVカプシドをフルAAVカプシドから分離するためのクロマトグラフィー法が知られている[1-3]。強陰イオン交換体(strong anion exchangers)を用いてアルカリ性pHでの塩勾配(salt gradient)で溶出させると、多くのAAV血清型について空のAAVカプシドが適切に減少することが証明されている。しかしながら、1又は複数の点で結果が不十分な場合がある。第1に、分離度が制限される傾向にある。ベースライン分割が達成されるケース、つまり、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドにそれぞれ対応するピークが完全に分離されることが知られているものの、これは例外的である。一般に各溶出ピークは互いにある程度オーバーラップし、場合によってほぼ完全にオーバーラップする。これにより、空のカプシドを十分に除去するために空のAAVカプシドとオーバーラップするフルAAVカプシドを犠牲にする必要がある。したがってフルカプシドの回収に支障をきたす(compromised)。
【0004】
関連する支障はまた強陰イオン交換体では分離が制限されることに関係し、当該技術の産業スケールでの使用に負担がかかる。多くの使用者は、大スケールのクロマトグラフィー技術で段階勾配溶出(step gradient elution)を採用することを好む。この技術はより単純で、機器、緩衝液調製、画分の回収及び分析にかかる費用を節約できるからである。段階勾配は残念なことに、プロセス毎の変数(every single process variable)が処理ロット間で不変でなければならないため、再現性に問題がある。変数の中でも特に、緩衝液はpHと導電率の両方に関して正確に同一の組成(composition)でなければならず、クロマトグラフィー媒体は正確に同一の組成でなければならず、処理温度は同一でなければならない。これらのパラメーターは実際にはどれも不変ではなく、フルAAVカプシドの回収及び/又は空のAAVカプシドの除去の程度に関して結果が必然的に変わってしまう。
【0005】
線形勾配溶出(linear gradient elution)は再現性を向上させる。溶出プロファイルは物質又は条件の変化によりわずかに変動することがあるが、溶出するフルカプシドのピークと空のカプシドのピークの相対的な関係は物質又は条件の変化とは無縁であり、分離が維持される。しかしながら、線形勾配溶出を担うスケール機器(scale equipment)の製造が段階勾配に比べて高価であり、また、多くのトレーニング、多くの緩衝液、多くの画分の分析、及び多くの時間を要する。
【0006】
3つめの制限は、強陰イオン交換体で空とフルの分離(empty-full separation)を行う際の極端な化学的条件に関係する。要求されるpHは多くの場合pH9.0以上であり、場合によって最大pH10.0又はそれ以上である[1-3]。多くの場合、pHが高いほど分離が良好である。しかし、pH9.0超のpH値によって生じる化学的なストレスは多くのバイオ医薬品(biologics)の安定性を低下させることが残念ながら知られており、pHが9.0を超えて高いほど化学的なストレスのレベルが高くなる。十分に精製されたAAVカプシドのクロマトグラムは、多くの場合、部分的に解離したカプシドと遊離のカプシドタンパク質をそれぞれ表すと解される空のAAVカプシドとフルAAVカプシドに加えて、別のピークを示す。損傷がなかったフルAAVカプシドへのダメージにより放出されたDNAがはっきり表れることもある。
【0007】
強陰イオン交換体という用語は、第四級アミンリガンドを担持するクロマトグラフィー媒体に関連すると理解される。「強(strong)」という形容詞は、特に、約pH2.0~pH12.0等の広いpH値範囲において完全な帯電(full electrostatic charge)を維持する能力を指す。市販の製品名は一般にQ、QA、QAEを含み、それぞれ第四級、第四級アミン、第四級アミノエチルを指す。強陰イオン交換体の他の名称は、TEAE(トリエチルアミノエチル)又はTMAE(トリメチルアミノエチル)を含み、これらは同程度のアミン誘導体化に対応するが、命名規則が異なる。TEAE及びTMAEはやはり第四級アミンリガンドを表している。
【0008】
さほど誘導体化されていないアミノクロマトグラフィーリガンドの例は、DEAE(ジエチルアミノエチル)等の名称で広く知られている。DEAEは第三級アミノリガンドを表す。第三級アミノリガンドは、比較的限定されたpH値範囲において完全な電荷を維持するため、いわゆる弱陰イオン交換体(weak anion exchangers)の例である。DEAEリガンドは、7.5ほどの低pH値で電荷を失い始める。DEAEリガンドは、pH9.0で大部分の電荷を失い、pH12で本質的にすべての電荷を失う。pH9.0での電荷が低いと、AAVのための容量が低くなり生産性が低下する。また、第二級アミノリガンド又は第一級アミノリガンド等のより弱い陰イオン交換リガンドは、第四級アミノリガンドに比べて好ましくない結果をもたらす可能性が高いことも示唆される。この点で、DEAEのような弱交換体は空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離において殆ど検討されていないことは注目に値する。
【0009】
陰イオン交換体は、通常、例えば塩化ナトリウムの濃度を上昇させることによって生じる塩勾配を使用して、一定のpH(fixed pH)で溶出される。陰イオン交換体は、低下するpH勾配に伴い溶出されることもある。強交換体の電荷は約2~12の範囲内では一定であるが、タンパク質の電荷は変化する。タンパク質の電気陰性度はpHの低下とともに弱くなり、タンパク質の電気陽性度は強くなる。電気陰性度の低下は、正に帯電した陰イオン交換表面への引力の低下を意味する。電気陽性度の増加は、正に帯電した陰イオン交換表面に対する反発力の増加を意味する。2つの現象が協奏的に起こりpHの低下に伴う溶出を実現する。強陰イオン交換体を上昇するpH勾配にさらすと、結合している成分が更に強く結合する。
【0010】
陽イオン交換体はAAV精製に広く使用されているが、殆どの場合、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドを単一のピークで一緒に溶出させる塩勾配溶出を使用する。それらはpH勾配でも溶出できるが、陰イオン交換体が正に帯電するのに対して陽イオン交換体は負に帯電するため、陽イオン交換体の勾配溶出にはpHを上昇させることが必要である。上昇するpH勾配での陽イオン交換体の溶出は、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドをある程度分離可能にするが、その分離度は強陰イオン交換体の塩溶出によってもたらされる分離よりも劣る。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、空のAAVカプシドからのフルAAVカプシドの分離が第一級アミノ基で修飾された固相によって達成できるという驚くべき知見に基づいている。本発明の方法は、一定のアルカリ性pHで上昇する塩勾配で溶出される強(第四級アミン)陰イオン交換体を使用して空のAAVカプシドを除去する既知の方法に関連するいくつかの実用上の制限を克服することができる[1-3]。本発明の方法を可能にする主要な特徴は、過剰な塩が存在しないにも関わらず、pHをアルカリ性の範囲で上昇させることにより空のAAVカプシドの大部分を選択的に除去できるという驚くべき知見である。これは、過剰な塩が存在しないアルカリ性pHではカプシド結合が強く[1-3]、より高いpH値ではカプシド結合が更に強くなるという、既知の陰イオン交換法における空のAAVカプシドの振る舞いとは逆である。ここでいう「過剰な塩(excess salt)」という用語は、操作溶液(operating solutions)のpHを制御するために使用される緩衝液成分を超える塩、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、又は、トリス緩衝液若しくはビス-トリス-プロパン緩衝液若しくは結合した成分の溶出を達成するための他の緩衝液に添加され得る他の塩を指す。
【0012】
本発明は、全般的な態様では、固相抽出を使用してフルAAVカプシド及び空のAAVカプシドを含む水性混合物において空のAAVカプシドからフルAAVカプシドを分離又は枯渇させる方法であって、フルAAVカプシド及び空のAAVカプシドを含む水性混合物を、第一級アミノ基を担持する固相(primary amino group bearing solid phase)と接触させる方法に関する。
【0013】
本発明は、別の態様では、空のAAVカプシド及びフルAAVカプシドを含む水性混合物中のフルAAVカプシドから空のAAVカプシドを分離又は枯渇させるための方法であって、混合物を、第1アルカリ性環境中、第一級アミノ基を担持する固相表面と接触させることによって、
(i)フルAAVカプシドを固相表面に結合させる一方、空のAAVカプシドの少なくとも一部を固相表面に結合させない、
又は
(ii)フルAAVカプシド及び空のAAVカプシドをどちらとも固相表面に結合させ、続いて、空のAAVカプシドの少なくとも一部を第1アルカリ性環境のpH値よりも高いpH値の第2アルカリ性環境によって溶出させる、但し、第2アルカリ性環境は固相表面からフルAAVカプシドを溶出させない、
方法に関する。
【0014】
本発明の一実施形態では、第1アルカリ性環境のpH値がpH7超であり得、特に、pH7を超え8以下であり得る。
【0015】
本発明の別の実施形態では、第2アルカリ性環境のpH値は、第1アルカリ性環境のpH値よりも高い値であり得る。本発明の更に別の実施形態では、空のAAVカプシドの少なくとも一部を溶出させた後、固相表面を第2アルカリ性環境のpH値よりも高いpH値を有する第3アルカリ性環境と接触させてもよい。
【0016】
本発明の更に別の実施形態では、空のAAVカプシドの少なくとも一部を溶出させた後、固相表面を、第3アルカリ性環境のpH値又は第2アルカリ性環境のpH値よりも低いpH値を有し、第1アルカリ性環境の塩濃度、第2アルカリ性環境の塩濃度、又は第3アルカリ性環境の塩濃度に比して高い塩濃度を有する第4アルカリ性環境と接触させてもよい。
【0017】
本発明によれば、第2アルカリ性環境のpH値は、特に、pH8.0~pH9.0の範囲、pH8.1~pH8.9の範囲、pH8.2~pH8.8の範囲、pH8.3~pH8.7の範囲、又はpH8.4~pH8.6の範囲であってもよい。
【0018】
本発明によれば、第3アルカリ性環境のpH値は、特に、pH8.5~pH10.5の範囲、又はpH8.5~pH10.0の範囲、又はpH8.5~pH9.5の範囲であってもよい。
【0019】
第1pH値、第2pH値、又は第3pH値のpH範囲の重複は実質上(virtual)のものである。もし第1アルカリ性環境のpH値がpH8(pH7を超えpH8以下の範囲)となるように選択され、第2アルカリ性環境の各pH値がpH8.0~pH9.0となるように選択された場合、第2アルカリ性環境のpH値は当該pH範囲の最低値、つまりpH8であってはならず、これより高い値、例えば8.1又は8.2でなければならないことを意味しており、当業者はこのことを容易に理解することができる。第2アルカリ性環境のpH範囲と第3アルカリ性環境のpH範囲の実質上の重複に関しても同様の考察が当てはまる。
【0020】
本発明の方法の別の実施形態では、NaCl等のアルカリ金属塩1M以下の濃度、特に、1mM~1,000mMの濃度、又は2.5mM~250mMの濃度、例えば2.5mMの濃度、又は5mMの濃度、又は12.5mMの濃度、又は25mMの濃度、又は50mMの濃度、又は100mMの濃度、又は150mMの濃度、又は200mMの濃度、又は250mMの濃度に相当する塩濃度を含む、
【0021】
本発明の特定の実施形態では、アルカリ性環境が、1.0mM~5.0mMの範囲、特に、1.5mM~3.0mMの範囲又は2.0mM~2.5mMの範囲のマグネシウムイオン濃度でマグネシウム塩を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の有利な態様は、フルAAVカプシド及び空のAAVカプシドがいずれかの血清型に属していてもよく、特に、天然又は組換え血清型、キメラ(混合)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されてもよいという事である。
【0023】
本発明の方法は、当技術分野で通例の任意の装置に適用することができ、例えば、第一級アミノ基を担持する固相表面(primary amino groups bearing solid phase surface)をクロマトグラフィー装置内に配置させることができる。典型的には、第一級アミノ基を担持する固相表面は、モノリス、充填粒子のカラム、充填ナノファイバーのカラム、膜吸着体、又はヒドロゲルであり得る。
【0024】
本発明の主題はまた、空のAAVカプシド及びフルAAVカプシドを含む水性混合物中の空のAAVカプシドを分離又は枯渇させるための、第一級アミノ基を担持する固相表面を有する固相抽出材料の使用である。
【0025】
本発明の方法を追加の処理ステップの後、前、又は前後とすることで、それらの追加の処理ステップのいずれか単独で達成され得るよりも大幅に空のカプシド含有量を減らし得る。空のカプシドの量を減らすための実用性をもたらすことが現在既知の追加の処理ステップは、第四級アミンイオン交換体を用いたイオン交換クロマトグラフィー及び密度勾配超遠心分離(density gradient ultracentrifugation)を含む。一実施形態では、本発明と第四級陰イオン交換体によるイオン交換クロマトグラフィーとを組み合わせることにより、空のカプシドを除去するために追加の処理を必要としない空のカプシドの濃度が十分に低いフルカプシドの画分を生み出す可能性がある。2つの工程は任意の順序で実行されてよい。別の実施形態では、本発明の方法の後に密度勾配超遠心分離を行うことができる。別の実施形態では、本発明と第四級アミン陰イオン交換体によるイオン交換クロマトグラフィーの組み合わせの後に、密度勾配超遠心分離を行うことができる。
【0026】
本発明が機能する特定のメカニズム(specific mechanism or mechanisms)に関する理論はまだ構築されていないが;本発明は既知の陽イオン交換クロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィーとは根本的に違っており、本発明は、強陰イオン交換体による塩溶出を基準に比べると、フルAAVカプシドからの空のAAVカプシドの優れた分離を達成する。分離の優位性とは、次の3つの特性の任意の組み合わせを指す:フルカプシドの安定性の維持に有利なより穏やかな化学的条件下で分離を行うことができる、及び/又は空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離度を向上させる、及び/又は分離度が段階勾配溶出を実行可能な手法とするのに十分である。
【0027】
本方法(the method)は、分析又は調製用途を実行する目的で使用され得る。本方法は、すべてのAAV血清型に適用できる。特定のクロマトグラフィー条件、及び空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離度は、血清型間で又は血清型内の異なる組換え構築物間で異なることがある。これは、イオン交換クロマトグラフィーの既知の方法で実施される空-フル分離(empty-full separation)においてよく知られた特徴であり、異なるAAV血清型間のカプシドの表面化学における本質的な変化を単純に反映している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、塩溶出によるフルAAVカプシドからの空のAAVカプシドの分離を第四級アミノ固相と第一級アミノ固相とで比較した結果を示す。
【
図2】
図2は、塩溶出によるフルAAVカプシドからの空のAAVカプシドの分離を第四級アミノ固相と上昇するpH勾配の第一級アミノ固相とで比較した結果を示す。
【
図3】
図3は、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドがどちらとも結合し、空のAAVカプシドを第2洗浄ステップで除去し、フルAAVカプシドを上昇するpH勾配で溶出させる条件下での第一級アミンカラムの平衡化とローディングの結果を示す。
【
図4】
図4は、空のAAVカプシドが結合せず、続いてpHを低下させつつ塩を増加させてフルAAVカプシドを段階勾配溶出させる条件下での第一級アミンカラムの平衡化及びサンプルローディングの結果を示す。
【
図5】
図5~
図10は一連の実験結果を示す。空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、第一級アミノ基を担持する固相にpH8.0で付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液で洗浄し、上昇するpH勾配で溶出させ、pH9.5で終了した。
【
図6】
図5~
図10は一連の実験結果を示す。空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、第一級アミノ基を担持する固相にpH8.0で付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液で洗浄し、上昇するpH勾配で溶出させ、pH9.5で終了した。
【
図7】
図5~
図10は一連の実験結果を示す。空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、第一級アミノ基を担持する固相にpH8.0で付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液で洗浄し、上昇するpH勾配で溶出させ、pH9.5で終了した。
【
図8】
図5~
図10は一連の実験結果を示す。空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、第一級アミノ基を担持する固相にpH8.0で付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液で洗浄し、上昇するpH勾配で溶出させ、pH9.5で終了した。
【
図9】
図5~
図10は一連の実験結果を示す。空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、第一級アミノ基を担持する固相にpH8.0で付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液で洗浄し、上昇するpH勾配で溶出させ、pH9.5で終了した。
【
図10】
図5~
図10は一連の実験結果を示す。空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、第一級アミノ基を担持する固相にpH8.0で付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液で洗浄し、上昇するpH勾配で溶出させ、pH9.5で終了した。
【
図11】
図11は、勾配による空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの相対的な回収率をグラフで示す。
【
図12】
図12は、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの溶出に対するマグネシウムイオンの影響とマグネシウムイオン不在による影響を比較クロマトグラムで示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
「第一級アミンを担持する固相(primary amine-bearing solid phase)」という用語は、その表面に第一級アミンリガンドを主に担持するか又はそれだけを担持する固相を指し、第一級アミノリガンドという用語は、一重の共有結合(single covalent bond)によって2つの水素原子各々に結合し、一重の共有結合によって炭素原子にも結合している窒素原子を表す。第二級アミンは、固相表面に存在しないか又は存在しても少数であろう。第三級アミン及び第四級アミンは、存在しないか又は存在してもごく少数であろう。負に帯電した残基は存在しないであろう。荷電していない疎水性残基又は水素結合残基が存在する場合がある。第一級アミノリガンドは、リガンドの炭素原子を介して固相に直接共有結合していてもよい。或いは、第一級アミノリガンドは、固相に共有結合している所謂スペーサーアームへのリガンドの炭素原子の共有結合により、固相に間接的に結合していてもよい。第一級アミノリガンドは、固相に共有結合したポリマー構造の一部であってもよい。固相は、1種若しくは複数種の多孔質膜、1種若しくは複数種の繊維、1種若しくは複数種の多孔質粒子、又は1種若しくは複数種の非多孔質粒子の形態のクロマトグラフィー固相、或いは、単一のポリマー混合物から合成されたモノリス、又はまずマクロ骨格として合成され当該骨格上に合成された二次リガンドを担持するポリマー相(a secondary ligand-bearing polymer phase)を有するモノリスを含むモノリシック固相であってもよい。上記固相物質はいずれも、クロマトグラフィーの実施を容易にするためにハウジング内に提供されてもよい。ハウジング内のクロマトグラフィー固相は一般にクロマトグラフィー装置と呼ばれ、多くの場合カラムと呼ばれる。
【0030】
第一級アミンを担持するクロマトグラフィー固相は知られており、商業的に入手可能である。一例は、Toyopearl NH2-750F(東ソーバイオサイエンス)という名称で販売されており、「NH2」は第一級アミンを指す[https://www.separations.eu.tosohbioscience.com/solutions/process-media-products/by-mode/ion-exchange/anion-exchange/toyopearl-nh2-750f]。販売資料には、第一級アミンリガンドがポリアミンの形態であることが示されており、これは、固相に共有結合で固定された繰り返し第一級アミンサブユニットを有するポリマーであることを意味する。別の例は、Sartobind STIC PA(Sartorius)という名称で販売されており、「PA」は第一級アミンを指す
【0031】
【0032】
販売資料には、第一級アミンリガンドがポリアミン、具体的にはポリアリルアミンの形態であり、固相に共有結合で固定された繰り返し第一級アミンサブユニットを有することが示されている。クロマトグラフィー固相の全主要メーカーは、表面にアミン誘導体を有する製品を製造しており、第一級アミンを担持する固相を日常的又は実験的に製造するための当分野で必要な知識とリソースを提示している。
【0033】
第一級アミンを担持するクロマトグラフィー固相はその組成を明らかにする方法で名称がつけられていない場合があることを考慮すると、ある製品が本発明を実施するのに適切な特性を持っているかどうかを判断するための分析方法を持つことが有用であろう。この判断を行う1つの簡便な方法は、当該クロマトグラフィー固相を10mMのトリス、10mMのビス-トリス-プロパン、15mMのNaCl、pH7.2等の緩衝液で平衡化し、等電点電気泳動(isoelectric focusing)用のタンパク質標準物からなるサンプルを付与し、固相を平衡化緩衝液で洗浄した後、平衡化緩衝液で開始して、10mMのトリス、10mMのビス-トリス-プロパン、15mMのNaCl、pH9.5で終点となり、終点緩衝液で10カラムボリューム(CV)ホールドである、50CVの線形勾配を適用する。線形勾配にわたるタンパク質の溶出が、当該固相が第一級アミンを担持する固相であることを示すであろう。第四級アミンを担持する固相からなる対照実験を並行して実行してもよい。タンパク質は溶出しないであろう。等電点電気泳動用のタンパク質標準物は、ThermoFisher、Bio-Rad、及びServaを含む種々の供給会社から市販されている。
【0034】
場合によっては、ポリエチレンイミン(PEI)を担持する固相が上記適性試験に従ったアルカリ性等電点を持つタンパク質の溶出を可能にし、空のカプシドとフルカプシドのある程度の分離を可能にし得る。直鎖状PEIは、末端だけ第一級アミンで占められており、ポリマーの各繰り返しサブユニットは第二級アミンで占められているアミンを有するポリマーである。分岐PEIポリマーは分岐点に第三級アミンも有している。PEI固相は、一部のタンパク質の下降pH勾配分離を可能にすることが知られているが、第四級アミン固相と同様に、上昇するpH勾配溶出のみが知られている。
【0035】
「平衡化した(equilibrated)」又は「平衡化(equilibration)」という用語は、特定の化学環境を作り出すために固相及び/又はサンプルに対して施される化学的な調整ステップを指す。固相は通常、目的とするpH、塩組成、及び塩濃度を具現化する緩衝液にさらすことによって調整される。サンプルは通常、pH滴定、又は場合により塩濃度を下げるための希釈、又は場合によりクロマトグラフィー、透析、タンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)膜を用いたダイアフィルトレーション(diafilteration)を含む緩衝液交換技術によって調整される。この場合、平衡条件は、固相が空のAAVカプシドとフルカプシドの両方と結合するように設定できる。或いは、空のカプシドの大部分又は全部を含み得る空のカプシドのサブセットがサンプルローディング中に固相に結合しないように設定できる。これらの手法のすべて及びそのうちどれを選択するかの基準は、何十年にもわたり当技術分野でよく知られている。
【0036】
どのサンプルのフルAAVカプシドも空のAAVカプシドも、キメラ(混合)及び新規血清型を含む天然又は組換え血清型を含むいかなる血清型に属していてもよい。異なる血清型のカプシドは、空のAAVカプシドとフルカプシドの異なるレベルの電荷特性を含め、異なる電荷特性を有し、そのような違いは血清型内の異なる組換え構築物間にもみられる場合があることが理解されるであろう。これは、どの調製物の挙動も強陰イオン交換体によって変化することから第一級アミノ固相でも変化する可能性があるため、重要であるである。また、これは、強陰イオン交換体で塩勾配を用いて空のAAVカプシドとフルAAVカプシドを分離する既知の方法の場合と同様に、未試行のAAVサンプルに本方法(the method)を適用する場合ある程度の最適化が必要になる可能性が高いことを意味する。サンプルは、細胞培養回収物、細胞溶解物、アフィニティークロマトグラフィーカラムからの溶出画分、イオン交換クロマトグラフィーカラムから溶出した部分的に精製された画分、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムから溶出した部分的に精製された画分、又はAAVを処理するために使用される任意の他の精製方法又はそれらの組み合わせからのカプシド混合物等の部分的に精製された調製物の形態であってもよい。
【0037】
「ロードした(loaded)」という用語は、平衡化したサンプルを平衡化した第一級アミノ固相と接触させるプロセスを指す。これは通常、クロマトグラフィー装置を用いて、重力又はポンピング等の外力によってサンプルを装置に通過させることにより行われる。
【0038】
「吸着(adsorption)」という用語は、生物学的産物(biological product)を化学的に相補性のある表面に結合させるプロセスを指す。この場合の相補性とは静電荷を伴うものと理解される。AAVカプシドの表面の負の静電荷は、第一級アミン残基の共有結合による固定化によって正に帯電した固相表面への吸着を取りもつ。クロマトグラフィーに使用される固相への生物学的産物の吸着は、しばしば「結合(binding)」と呼ばれる。
【0039】
「選択的吸着(seletive adsorption)」という用語は、少なくとも1の種(species)の吸着を可能にしつつ、1又は複数の他の種(species)の吸着を防ぐ条件を適用することを指す。本願の場合(present case)では、操作pHをアルカリ性範囲に調整して、所望のフルAAVカプシドを吸着させつつ、望まない空のAAVカプシドが吸着するのを防止することができる。
【0040】
「脱離(desorption)」という用語は、生物学的産物が吸着した化学的に相補性のある表面から当該生物学的産物を放出させるプロセスを指す。本願の場合、そのような脱離は、例えばpHを低下させることによって;又は固相の電気陽性度を低下させることによって(例えばpHを上昇させることによって);又は塩等の競合物質の導入により静電相互作用を妨げることによって;又はこれらの手法の任意の組み合わせによって生物学的産物(AAV)の電気陰性度を低下させることを含む様々な手段によって行うことができるが、これらに限定されない。クロマトグラフィー媒体からの生物学的産物の脱離はしばしば溶出と呼ばれる。
【0041】
「選択的脱離(selective desorption)」という用語は、吸着した1の種(species)が、1又は複数の追加の種(additional species)を吸着させたままにする条件変更によって固相表面から放出され、続いて、更に異なる条件のセットにより異なる種が放出される状況を指す。条件変更は段階的に行ってもよい。条件変更は連続的に行ってもよく、弱く結合した種は一連の中で(in the continuum)早期に脱離し、強く結合した種は一連の中で後半に溶出し、理想的には互いに十分に分離される。
【0042】
「洗浄した(washed)」という用語は、結合していない種を固相から置換する目的で、ロードされたカラムをきれいな緩衝液にさらすプロセスを指す。本明細書の文脈において、「リンスした(rinsed)」という用語は同じ意味を有する。最も基本的なケースでは、洗浄緩衝液は平衡化緩衝液と同じ処方である。より複雑な構成では、洗浄緩衝液は、所望の産物が溶出する前に弱く結合した不純物を除去できるように、当該不純物のサブセットを固相から置換する追加の役割を有していてもよい。或いは、1回目は平衡化緩衝液と同じ条件を使用し、2回目は弱く結合した不純物のサブセットを固相から置換する条件を使用して溶出前にそれら不純物を除去できるようにする、複数の洗浄ステップがあってもよい。
【0043】
「溶出(elution)」又は「溶出した(eluted)」という用語は、固体が存在する化学環境を変化させて、第一級アミノ固相と、ロード及び洗浄ステップ後に結合したままの種との間の相互作用を断ち切るプロセスを指す。
【0044】
空のAAVカプシドが固相から除去されたら、さまざまな手法のいずれかによってフルAAVカプシドを溶出することができる。上記のように、フルAAVカプシドは、塩の不在下又は過剰な塩の存在下pHを更に上昇させることによって溶出されてもよい。或いは、空のAAVカプシドが除去されたら、フルAAVカプシドは、塩の存在下pHを上昇させることによって溶出されてもよい。或いは、空のAAVカプシドが除去されたら、フルAAVカプシドは、pHを一定に保ちながら過剰な塩を導入することによって溶出されてもよい。或いは、空のAAVカプシドが除去されたら、フルAAVカプシドは、pHを下げながら過剰な塩を導入することによって溶出されてもよい。
【0045】
下記一連の基本方法の選択枝の一般的で非限定的な説明は、各方法がどのように実行され得るかの変形例を示し、操作変数(operational variables)に関する詳細な議論のための基礎を提供するものである。これらの構想(senarios)のそれぞれで言及されている緩衝液条件は、各方法をどのように実施するかについての一般的な考え方を提供することを意図しており、異なる血清型からのカプシド混合物又は血清型内の異なる組換え構築物にも対応するためには緩衝液処方の最適化が必要であることが理解されるだろう。
【0046】
上昇するpH勾配による溶出だけを利用する一実施形態では、モノリス等のクロマトグラフィー装置の形態の第一級アミノ固相が20mMのトリス、20mMのビス-トリス-プロパン、pH7.5±0.2等の中性に近いpH値に平衡化される。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物を含むサンプルは、緩衝液交換によって20mMのトリス、20mMのビス-トリス-プロパン、pH7.5±0.2に平衡化される。サンプルがクロマトグラフィー装置にロードされる。続いて、クロマトグラフィー装置は、平衡化緩衝液から20mMのトリス、20mMのビス-トリス-プロパン、pH9.5±0.2、20装置ボリューム(device volume)以上、又は50装置ボリューム以上、又は100装置ボリューム以上の終点緩衝液までの線形pH勾配で溶出される。装置ボリュームの数は、勾配中にpHが変化する速度、つまり勾配スロープを調節する手段として用いられる。この手法は、全体の空のカプシドとフルカプシド集団が勾配内で溶出するため特に分析目的で使用され得る。また、分取の使用条件を開発するための出発点としても価値があるだろう。分取用にも使用できるが、この手法ではフルAAVカプシドがさまざまなpH値にさらされる可能性があり、カプシドの安定性に悪影響を与える可能性があることに留意されたい。
【0047】
上昇する塩勾配による溶出だけを利用する実施形態では、モノリス等のクロマトグラフィー装置の形態の第一級アミノ固相が20mMのHepes pH7.5±0.2等のわずかにアルカリ性の値に平衡化される。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物を含むサンプルが緩衝液交換によって同じ条件に平衡化される。サンプルがクロマトグラフィー装置にロードされる。続いて、クロマトグラフィー装置は、20mMのHepes、pH7.5±0.2の平衡化緩衝液から20mMのHepes、200mMのNaCl、pH7.5±0.2、20装置ボリューム以上、又は50装置ボリューム以上、又は100装置ボリューム以上の終点緩衝液への線形塩化ナトリウム勾配で溶出される。装置ボリュームの数は、勾配中に塩濃度が変化する速度、つまり勾配スロープを調節する手段として用いられる。この手法は、上記のように空のカプシドとフルカプシドのすべてがサンプルロード中に第一級アミノ固相に結合するため、分析目的にも適し得る。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離度は、上昇するpH勾配での溶出よりも一般に劣るが、固定したpHで塩勾配で溶出される強陰イオン交換体による分画よりは優れている。
【0048】
上昇する塩勾配による溶出だけを利用する密接に関連した実施形態では、モノリス等のクロマトグラフィー装置の形態の第一級アミノ固相が10mMのトリス、10mMのビス-トリス-プロパン、pH8.7±0.2等の弱アルカリ性のpH値に平衡化される。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物を含むサンプルが緩衝液交換によって同じ条件に平衡化され、固体表面に適用される。続いて、クロマトグラフィー装置は、10mMのトリス、10mMのビス-トリス-プロパン、100mMのNaCl、pH8.7±0.2、20装置ボリューム以上、又は50装置ボリューム以上、又は100装置ボリューム以上の平衡化緩衝液からの線形塩化ナトリウム勾配で溶出させる。装置ボリュームの数は、勾配中に塩濃度が変化する速度、つまり勾配スロープを調節する手段として用いられる。この手法は、上記のように空のカプシドとフルカプシドのすべてがサンプルロード中に第一級アミノ固相に結合するため、分析目的にも適し得る。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離度は、より低い固定したpH値での塩勾配よりも良好であり、固定したpHでの塩勾配で溶出される強陰イオン交換体による分画よりも一般に優れているが、第一級アミノ固相での上昇するpH勾配での溶出よりは一般に劣る。
【0049】
pH溶出と塩溶出の組み合わせ(mixed pH-salt elustion)を利用する実施形態では、モノリス等のクロマトグラフィー装置の形態の第一級アミノ固相が20mMのHepes、pH7.0±0.2等の中性に近いpH値に平衡化される。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物を含むサンプルが緩衝液交換によって20mMのHepes、pH7.0±0.2に平衡化される。サンプルがクロマトグラフィー装置にロードされる。これらの条件下では、空の粒子とフル粒子はどちらとも固相に結合する。装置が平衡化緩衝液で洗浄され、結合していない種が除去される。空のAAVカプシドは、20mMのトリス、pH8.5±0.2等のより高いpHの緩衝液にさらすことで化学環境を変化させることにより、装置から洗浄/溶出される。この緩衝液は、カラムからの流出液のUV吸光度がベースラインに達するまでクロマトグラフィー装置に流される。空のAAVカプシドが装置から除去されたら、20mMのHepes、50mMのNaCl、pH7.0等のより低いpHで過剰な塩を含む緩衝液にさらすことで化学環境を再び変化させる。この手法は、フルカプシドの溶出の条件が穏やかなため分取に有利であり得る。これは段階勾配溶出構成(step gradient elution format)の例でもあり、一部の使用者はこの構成が有利であると考えるだろう。
【0050】
pH溶出と塩溶出の組み合わせを利用する別の実施形態では、モノリス等のクロマトグラフィー装置の形態の第一級アミノ固相が20mMのトリス、pH8.5±0.2等のアルカリ性pHに平衡化される。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物を含むサンプルが緩衝液交換によって20mMのトリス、pH8.5±0.2に平衡化される。サンプルがクロマトグラフィー装置にロードされる。これらの条件下では、フル粒子は固相に結合するが、空の粒子は固相に結合しない。空のAAVカプシドが装置から除去されたら、20mMのHepes、50mMのNaCl、pH7.0等のより低いpHで少量の塩を含む緩衝液にさらすことで化学環境を再び変化させる。この手法は、前述した手法よりも手順が簡単であるため、分取目的において興味を引く。しかしながら、平衡化条件がフルカプシドの結合を妨げる閾値に近いため、フルAAVカプシドの結合能力が低下する可能性がある。
【0051】
フルAAVカプシドの溶出においてpH及び塩を利用する別の方法で実施形態では、モノリス等のクロマトグラフィー装置の形態の第一級アミノ固相が20mMのビス-トリス-プロパン、pH8.5±0.2等の中性に近いpH値に平衡化される。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物を含むサンプルが緩衝液交換によって20mMのビス-トリス-プロパン、pH8.5に平衡化される。サンプルがクロマトグラフィー装置にロードされる。続いて、クロマトグラフィー装置は、平衡化緩衝液(pH7.5)から20mMのビス-トリス-プロパン、100mMのNaCl、pH8.5、20装置ボリューム以上、又は50装置ボリューム以上、又は100装置ボリューム以上の終点緩衝液への線形塩勾配で溶出される。装置ボリュームの数は、勾配中に塩濃度が変化する速度、つまり勾配スロープを調節する手段として用いられる。予備データは、塩勾配によって、強陰イオン交換体に比べてより穏やかな条件下で当該強陰イオン交換体によって達成される空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離と同様の分離がなされるものの、pH勾配に比べれば劣ることを示している。多くの場合、塩勾配のpHが高いほど、空のカプシドとフルカプシドの分離度(resolution)が向上する。
【0052】
上記基本構成のいずれか1つにおける1つ又は複数の要素が他の構成に適用されてもよいことは当業者にとって明白だろう。例えば、pHと塩濃度の両方を同時に変化させ、両方のパラメーターを上昇させる溶出勾配、又は、pHと塩濃度の両方を同時に変化させ、どちらかの(one or the other)パラメーターを上昇させつつ他方(the other)を低下させる溶出勾配を適用することができ;単段階溶出(single step elution)は多段階溶出(multiple step elution)に変形(converted)でき;線形勾配溶出は段階溶出に変形でき;線形勾配溶出は、依然として結合している分を大幅に減らすものの完全に排除し切れない段階の後に適用でき;線形勾配溶出は、空のAAVカプシドの殆どを結合させない平衡化条件下でのローディング後に適用できる。これら変形例又は多くの他の変形例を本方法(the method)の特徴的要素及び本質を逸脱しない範囲で適用することができる。
【0053】
一実施形態では、第一級アミノ固相及びサンプルがpH5.5±0.2~pH8.5±0.2の範囲、又はpH6.0±0.2~pH8.5±0.2の範囲、又はpH6.5±0.2~pH8.5±0.2の範囲、又はpH7.0±0.2~pH8.5±0.2の範囲、又はpH7.5±0.2~pH8.5±0.2の範囲の操作pHに平衡化される。正確な条件はAAV血清型によって変動し得、また、血清型内の異なる組換え構築物によっても変動し得ることは理解される。高いpH範囲に耐えることが知られているサンプルの場合、pH範囲を更に高くしてもよい。一般に、上記範囲内でpHが高いほど、結合する空のAAVカプシドは少なくなる。本質的にすべてのフルAAVカプシドが結合しつつ空のAAVカプシドは結合しないpH値を特定するには、未検証のAAVに対して簡単な実験が必要であろう。上記範囲内でpHが低いほど、フルAAVカプシドは強く結合し、フルカプシドの結合容量が高くなる。しかしながら、空のAAVカプシドがフルAAVカプシドと結合スペースをめぐって競合する可能性があり、そのような競合がフルカプシドの結合容量を制限し得ることが熟練者にとって明らかであろう。これらは、あらゆる工業的精製法の開発中に検討される日常的なプロセス最適化の問題である。
【0054】
pH8.5±0.2で空のカプシド結合が懸濁(suspended)せず、カプシドの安定性を損なう可能性があるより高いpH値の回避が特に望まれるいくつかの実施形態では、例えば2mMのNaCl、又は5mMのNaCl、又は10mMのNaCl、又は20mMのNaCl、又はそれらの中間の濃度、又はそれ以上の濃度の塩が平衡化緩衝液に添加されてもよい。中程度のpHで結合している空のカプシドの懸濁を達成する最低限の塩濃度が一般に最も有利である。空のAAVカプシドを置換するために、30mM、又は40mM、又は50mM、又は60mM、又は70mM、又はそれらの中間の濃度、又はそれ以上の濃度等のより高い濃度の使用を評価したい場合、迂闊な置換及びフルカプシドの損失を回避するよう注意しながら評価することができる。この手法は、特に酸性のpH値、中性のpH値、又は非常に弱アルカリ性のpH値で結合する空のカプシド結合を減らすために必要に応じて検討することができる。
【0055】
サンプルをクロマトグラフィーカラムにロードするための条件に当該サンプルを平衡化させる多くの方法が当業者に知られている。これらの方法はいずれも、本方法(the method)の本質を変更しない範囲で用いることができる。これらの方法には、実験室スケールの透析法、タンジェンシャルフローフィルトレーション膜を用いたダイアフィルトレーション、及び緩衝液交換クロマトグラフィー法がある。場合により、サンプルを目的のpHに滴定し、必要に応じて水又は塩を少し含有する緩衝液又は塩を含有しない緩衝液でサンプルを希釈することにより、十分なサンプル平衡化が行われてもよい。
【0056】
平衡化は、空のAAVカプシドによる結合を防ぐものであるが、そうする条件はフルAAVカプシドの結合を弱め、フルカプシドに対する固相の容量を減らしてしまう可能性がある。分取分離の目標は所望のフルカプシドの最大の実用的なロードを提供することであるため、洗浄は溶出前の空のカプシドの含有量を最小限に抑えるための潜在的に支障が少ない手法を提供する。最も効果的な洗浄条件が用いられると、一般に中性か又はより低いpHで最小限の塩を用いるか又は更なる塩を用いない、所望のフルカプシドの高容量結合に有利な平衡化条件を選択することができる。
【0057】
一実施形態では、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物がロードされた第一級アミン固相は、固相を平衡化するために使用した緩衝液と同じ組成の緩衝液で洗浄される。
【0058】
別の実施形態では、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの混合物をロードした第一級アミン固相が、平衡化緩衝液よりも高いpHを有する緩衝液で洗浄される。例えば、pH7.5で平衡化及びロードされた第一級アミン固相が、固相を平衡化するために使用される緩衝液と同じ組成の緩衝液で最初に洗浄され、続いて、pH8.0±0.2、又はpH8.1±0.2、又はpH8.2±0.2、又はpH8.3±0.2、又はpH8.4±0.2、又はpH8.5±0.2、又はpH8.6±0.2、又はpH8.7±0.2等のより高いpHの緩衝液で再度洗浄されてもよい。正確な条件は、AAV血清型によって変動し得、血清型内の異なる組換え構築物によって変動し得ることは理解される。pHを上げても空のAAVカプシドが完全に除去されない場合は、塩が添加されてもよい。例えば、pH8.5±0.2の緩衝液に対して、2mM、又は5mM、又は10mM、又は20mM、又はそれらの中間の濃度、又はそれ以上の濃度に相当する量のNaClが添加されてもよい。
【0059】
関連する実施形態では、サンプル平衡化のpH条件とは異なる条件で洗浄する手法が、本方法全体(the overall nethod)を簡略化する別の方法で行われてもよい。サンプルとカラムは異なる条件で平衡化できる。具体的には、サンプルは、フルカプシドの最大容量の結合を後押しするpH及び/又は塩濃度に平衡化することができ、一方でカラムは、フルカプシドの溶出ステップの前に空のAAVカプシドを大幅に除去する条件に平衡化することができる。例えば、サンプルが50mMのHepes、pH7.5±0.2に平衡化され、カラムが50mMのトリス、pH8.5±0.2に平衡化されてもよい。サンプルがカラムにロードされると、カラムを少なくとも部分的にサンプルの条件に再平衡化させる効果を有するだろう。サンプルのロードの最後に、より高いpH条件の平衡化/洗浄緩衝液がサンプル付与中に結合した空のAAVカプシドをすぐに置換し始める。2回目の洗浄ステップを含める必要はないであろう。緩衝液の調製と本方法全体が簡略化されるだろう。
【0060】
一実施形態では、pHを上げることによってフルAAVカプシドだけを溶出させる。これは、AAVカプシドの血清型に応じて、pH8.6±0.2、又は8.7±0.2、又は8.8±0.2、又は8.9±0.2、又は9.0±0.2、又は9.1±0.2、又は9.2±0.2、又は9.3±0.2、又は9.4±0.2、又は9.5±0.2、又はそれらより低い値、又はそれらの中間の値、又はそれらより高い値への単段階溶出(single elution step)、又は多段階勾配溶出(multiple step gradient elution)、又は線形勾配溶出(liner gradient elution)で構成されてもよい。
【0061】
pH値が9.0±0.2に近づきそれを超えることでフルAAVカプシドが不安定化するリスクが高まることが認められたら、塩の添加によって溶出pHを緩和させてもよい。例えば、pH9.5±0.2への段階又は勾配による溶出の代わりに、2mMのNaCl、又は5mMのNaCl、又は10mMのNaCl、又は15mMのNaCl、又は25mMのNaCl、又はこれらより低い値のNaCl、又はこれらの中間の値のNaCl、又はこれらより高い値のNaClの存在下、pH8.5±0.2への段階又は勾配による溶出が実施されてもよい。或いは、pH8.0±0.2、又はpH7.5±0.2、又はpH7.0±0.2、又はpH6.5±0.2、又はpH6.0±0.2、又はpH5.5±0.2、又はこれらより低い値、又はこれらの中間の値、又は塩の添加によって高めたこれらより高い値で段階勾配又はpH勾配が実施されてもよい。塩を多く添加するほどpHを低くできることは当業者にとって明らかであろう。必要であれば、任意のpH値で添加される塩の量は、2.5mM~250mMの範囲内、例えば2.5mM、又は5mM、又は12.5mM、又は25mM、又は50mM、又は100mM、又は150mM、又は200mM、又は250mM、又はこれらより低い値、又はこれらの中間の値、又はこれらより高い値の任意の値に増やすことができる。
【0062】
上記実施形態はいずれもマグネシウム及び/又はカルシウム等の二価金属陽イオンの存在下で行われてもよく、濃度はいずれも0.1mM~10mMの範囲、又は0.5mM~5mMの範囲、又は1.0mM~2.75mMの範囲、又は1.5mM~2.5mMの範囲、又は1.75mM~2.25mMの範囲、又は2.0mM±0.1mMの範囲、又はこれらより高い値(例えば最大5mM)である。
【0063】
一実施形態では、マグネシウム及び/又はカルシウム等の二価金属カチオンは空のAAVカプシドの完全性を維持するのに役立ち、空のカプシドを単一のピークとして溶出させる傾向にあるため、当該二価金属カチオンを含むことは分析の点で有利であり得る。これにより、所与のサンプル内の空のAAVカプシドの総量と、空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの相対的な量の測定がより簡単になる。
【0064】
いくつかの実施形態では、マグネシウム及び/又はカルシウム等の二価金属カチオンの存在は、空のカプシドからのフルカプシドの分離を改善することが多く、それに加えてフルカプシドを安定化させるため、分取分離にも有利であり得る。
【0065】
マグネシウムの存在は一般にAAVの純度及び/又は回収率に関してより望ましい結果をもたらすと期待されている。しかし、他の実施形態では、マグネシウム及び/又はカルシウム等の二価金属イオンが不足していてもよいし、又は不在でもよい。これは特に次の場合に当てはまる:選択された分離条件下でフルAAVカプシドが十分な安定性を示す場合;及び、不純物が全体に分布し、二価金属陽イオン非存在下での分画でフルカプシド画分の分離が可能であり、二価金属陽イオンの存在下で分離を行った場合に比べて空のAAVカプシドによる汚染を少ない場合。
【0066】
前述の実施形態はいずれも、フルカプシドを安定化させる目的で、及び/又はカプシドの溶解度を向上させる目的で、及び/又は分離効率を減少させ得る若しくはフルカプシドの回収率を減少させ得るカプシドと固相の非特異的な相互作用を抑制する目的で、及び/又は単に分離の過程における導電率を低減する目的で、アルギニン又はヒスチジンの存在下で実施されてもよい。
【0067】
いくつかの実施形態では、勾配分離を行うためにNaCl又は他の塩の代わりにアルギニン又はヒスチジンが直接用いられてもよい。アルギニンの水に対する溶解度(aqueous solubility)は約600mMに制限され、ヒスチジンの水に対する溶解度は約200mMに制限される。アルギニンは溶解度が高いため使うのにより便利であるが、溶解度がより制限されたヒスチジンでも多くの場合効果的に使うことができる。
【0068】
カプシドを溶出するのに十分なアルギニン濃度又はヒスチジン濃度を達成することができない実施形態では、いずれも塩と併用されてもよく、例えば、アルギニンと塩化ナトリウムの組み合わせ、又は、ヒスチジンと塩化ナトリウムの組み合わせが含まれる。いくつかのそのような実施形態では、アルギニンのベースラインレベル(baseline level)が平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び/又は溶出緩衝液に、或いは、洗浄緩衝液及び溶出緩衝液だけに、或いは、溶出緩衝液だけに追加され得る。このようなベースラインレベルは、25mM又は50mM、又はその溶解度範囲内の中間の濃度又はそれ以上の濃度であってもよい。
【0069】
別の実施形態では、アルギニン又はヒスチジンは、例えば5mMの濃度、又は10mMの濃度、又はその溶解度範囲内の中間の濃度又はそれ以上の濃度で、上昇するpH勾配中にベースラインレベルで用いられてもよい。
【0070】
上記実施形態はいずれも、グリシン又はアラニン又はベタイン等の低分子量両性イオンの存在下で実施されてもよい。そのような添加剤は、導電率を増加させずにカプシドの溶解性及び安定性を向上させる効果を有し得る。そのような両性イオンは極性を高めるが、導電率には寄与しない。また、それら両性イオンはタンパク質表面から優先的に排除され、これにより安定化効果を付与することができる。このような添加剤は、低導電率という不溶解化効果(desolubilizing effect)を克服するためにpH勾配と併用されることが特に有用であり得、ここで添加剤はピークの鋭さ及び/又はカプシドの安定性を改善する効果を有し得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、ベタインはpH5.0~pH10.0で使用されてもよいが、アラニン及びグリシンは5.0~約8.5の範囲に制限される。pH8.5を超えると、グリシン又はアラニンの窒素原子は正電荷を失い始め、分子は全体で負に帯電する。これによりアラニン又はグリシンがサンプルの導電率に影響し、それらの両性イオンの形態における他の有益な効果も一時的に発揮されなくなる。ベタインの窒素原子は、約pH12以下でその電荷を維持する第四級アミンであり、その範囲全体にわたり両性イオンの形態を保つ。
【0072】
操作pHが8.5以下である一実施形態では、グリシン又はアラニンが最大2M以上(up to 2M or more)、又は0.5M~2.5M、又は1.0M~2.0M、又は1.25M~1.75M、又は1.4M~1.6M、又は約1.5M、又はこれらとは異なる範囲の濃度で含まれていてもよい。
【0073】
pHが10未満である一実施形態では、ベタインが最大2M以上(up to 2M or more)、又は0.5M~2.5M、又は1.0M~2.0M、又は1.25M~1.75M、又は1.4M~1.6M、又は約1.5M、又はこれらとは異なる範囲の濃度で含まれていてもよい。
【0074】
上記実施形態はいずれも、例えばフルカプシドを安定化することを意図として、糖類の存在下で実施されてもよい。例えば0.5%~25%以上の範囲の濃度のスクロース、ソルビトール、キシロース、マンニトール、トレハロース、又は他の非イオン性の糖類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
上記実施形態はいずれも、例えばフルカプシドを安定化することを意図として、例えば0.5%~25%以上の濃度のグリセロールの存在下で実施されてもよい。
【0076】
上記実施形態はいずれも、カプシドと第一級アミノ固相表面の非特異的な相互作用を最小限に抑えるために、有機添加剤の存在下で実施されてもよい。このような添加剤には、0.01%~1.0%の範囲の濃度のノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤が含まれる。このような添加剤には、1%~10%の範囲の濃度のエチレングリコール又はプロピレングリコール等の物質(agent)も更に含まれる。
【0077】
本発明の方法は、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アミン等のより高度に誘導体化されたアミンを全く有さないか又は有するとしてもごく低割合の第一級アミノ基以外のリガンドに対して実施できることが当業界の熟練者に認識されるであろう。同様に、疎水性残基又はカプシドと固相の水素結合をより増強させる残基を含むことによって結果が改善し得ることも認識されるであろう。
【0078】
本明細書において引用されたすべての参考文献は、その取り込みが本明細書における明示的な教示と矛盾しない限り、参照により完全に取り込まれる。
【0079】
本発明を以下の非限定的な実施例によって更に説明する。
【実施例】
【0080】
実施例1
第四級アミノ固相と第一級アミノ固相の塩溶出による、フルAAVカプシドからの空のAAVカプシドの分離の比較。
【0081】
第一級アミン表面を担持する100マイクロリットルのモノリスを、20mMのビス-トリス-プロパン、2mMの塩化マグネシウム、pH8.8に平衡化した。陽イオン交換精製したAAV8のサンプルをカラムに付与し、平衡化緩衝液で洗浄した。続いてモノリスを、20mMのビス-トリス-プロパン、2mMの塩化マグネシウム、100mMのNaCl、pH8.8で終了する50ベッドボリュームの線形勾配で溶出した。勾配終点の緩衝液中のNaCl濃度が200mMであることを除いて、第四級アミン(強陰イオン交換モノリス、CIMac QA)について同様の基本操作を行った。どちらのカラムでも空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの完全な分離は達成されなかったが、第一級アミン固相のほうがより良好な結果を達成した(
図1)。
【0082】
実施例2
塩勾配を用いた強(第四級アミノ)陰イオン交換体と上昇するpHによって溶出を行う第一級アミノ固相による、空のカプシド/フルカプシドの分離の比較。
【0083】
第一級アミノ表面を担持する100マイクロリットルのモノリスを、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、pH8.0に平衡化した。陽イオン交換精製したAAV8のサンプルをカラムに付与し、平衡化緩衝液で洗浄した。続いて、カラムを、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、pH9.5で終了する100ベッドボリュームの線形勾配で溶出した。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの分離を、塩勾配で溶出を行った強陰イオン交換(第四級アミン)モノリスと比較した。強陰イオン交換モノリスを、20mMのビス-トリス-プロパン、2mM塩化のマグネシウム、pH9.0に平衡化した。陽イオン交換精製したAAV8のサンプルをカラムに付与し、平衡化緩衝液で洗浄した(第一級アミンカラムの実験に使用したものと同じサンプル)。続いて、カラムを、20mMのビス-トリス-プロパン、2mMの塩化マグネシウム、200mMの塩化ナトリウム、pH9.0で終了する50カラムボリュームの線形勾配で溶出した。比較結果を
図2に示す。示されているように、過剰な塩を存在させずに上昇するpH勾配を使用した第一級アミンカラムの溶出は、塩勾配を使用した強陰イオン交換体によって達成される分離よりも劇的に優れていた。空のカプシドとフルカプシドの優れた分離を示すことに加えて、他の不純物の溶出順序が強陰イオン交換体に比する第一級アミンカラムの根本的に異なる選択性を示している。強陰イオン交換体で空のAAVカプシドよりも前に溶出した不純物は、第一級アミンカラムではフルAAVカプシドよりも後に溶出し、当該フルAAVカプシドからより良好に分離された。
【0084】
実施例3
フルカプシドのpH勾配溶出の前の洗浄工程による結合した空のAAVカプシドの除去。
【0085】
第一級アミンモノリスを、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、pH8.0に平衡化した。陽イオン交換精製したAAV8のサンプルをカラムに付与し、平衡化緩衝液で洗浄した(実施例2で使用したものと同じサンプル)。続いて、空のAAVカプシドを、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、pH8.7の洗浄ステップで除去した。続いて、カラムを元の平衡状態に戻し、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、pH9.5で終了する40ベッドボリュームの線形勾配で溶出した。結果を
図3に示す。この実験は、第一級アミンカラムは弱アルカリ性のpH(8.0)で空のAAVカプシドとフルAAVカプシドを両方とも結合させる能力を有することを示し、過剰な塩の存在させない上昇するpH勾配(pH9.5まで)において空のAAVカプシドが選択的に除去されることを支持する。
【0086】
実施例4
空のAAVカプシドが結合しない条件下での平衡化の後、塩濃度の増加とpHの低下を同時に行う単段階によるフルAAVカプシドの溶出。
【0087】
第一級アミンモノリスを、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、pH8.5に平衡化した。陽イオン交換精製したAAV8のサンプルをカラムに付与し、平衡化緩衝液で洗浄した(実施例2及び実施例3で使用したものと同じサンプル)。空のAAVカプシドはこれらの条件下ではほとんど結合せず、長い洗浄過程でほぼ完全に除去された。続いて、フルAAVカプシドを、10mMのビス-トリス-プロパン、10mMのトリス、2mMの塩化マグネシウム、50mMのNaCl、pH7.5までの段階でカラムから溶出させた。結果を
図4に示す。この実験は特に、最も単純なクロマトグラフィー機器さえをも提供する非常に単純化された段階勾配手法を使用してフルAAVカプシドから空のAAVカプシドを分離する第一級アミンカラムの能力を示している。
【0088】
実施例5
以下の実施例は、pHを上昇させることによって空のAAVカプシドを分離するための様々な方法を採用した、pH8で開始する本発明の方法の方法論を説明する。
【0089】
異なる血清型のカプシドは同じ条件に対して異なる反応を示し、条件は製品ごとに個別に調整する必要があることが理解される。一連の図は、最も効果的な条件を得るために任意の血清型からのカプシドをどれくらい簡単にスクリーニングすることができるかを示す。
【0090】
一連の実験では、空のAAV8カプシドとフルAAV8カプシドを含むサンプルを、pH8.0(20mMのトリス、20mMのビス-トリス-プロパン)の第一級アミノ基を担持する固相に付与した。各実験では、ロードされたカラムをより高いpHの緩衝液(20mMのトリス、20mMのビス-トリス-プロパン)で洗浄し、続いて、pH9.5(20mMのトリス、20mMのビス-トリス-プロパン)で終了する上昇するpH勾配で溶出した。元のクロマトグラムを図(
図5~
図10)に示す。勾配による空のAAVカプシドとフルAAVカプシドの相対的な回収率を
図11にグラフで示す。
【0091】
図5。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドはどちらともpH8.0で結合している。どちらともpH8.3での洗浄中は結合したままである。フルカプシドは、0.68のUV吸光度比によって示されるように、pH溶出勾配(pH elution gradient)の適用により直ちに溶出し始める。1.32のはっきり異なる波長比を示す後で溶出するフルカプシドとは明らかに部分的に分離されている。
【0092】
図6。空のAAVカプシドとフルAAVカプシドはどちらともpH8.0で結合している。空のAAVカプシドの一部は、pH8.4での洗浄によって除去される。残りの空のAAVカプシドはpH溶出勾配の適用により直ちに溶出し始める。フルAAVカプシドは結合したまま、pH勾配で溶出する。
【0093】
図7:空のAAVカプシドとフルAAVカプシドはどちらともpH8.0で結合している。空のAAVカプシドのほとんどは、pH8.5での洗浄によって除去される。残りの空のAAVカプシドはpH溶出勾配の適用により直ちに溶出し始める。フルAAVカプシドは結合したまま、pH勾配で溶出する。
【0094】
図8:空のAAVカプシドとフルAAVカプシドはどちらともpH8.0で結合している。空のAAVカプシドのすべてが、pH8.6での洗浄によって除去される。フルAAVカプシドは結合したまま、pH勾配で溶出する。
【0095】
図9:空のAAVカプシドとフルAAVカプシドはどちらともpH8.0で結合している。空のAAVカプシドのすべてがpH8.7での洗浄によって除去されるが、一部のフルAAVカプシドも洗浄中に溶出する。残りのフルAAVカプシドは結合したままで、pH勾配で溶出する。
【0096】
図10:空のAAVカプシドとフルAAVカプシドはどちらともpH8.0で結合している。空のAAVカプシドのすべてがpH8.8での洗浄によって除去されるが、フルAAVカプシドの大部分も除去される。残りのフルAAVカプシドはpH勾配で溶出する。
【0097】
図11:グラフは、異なるのpH値での洗浄ステップ後に勾配溶出するフルAAVカプシドと空のAAVカプシドの相対的な量を示す。影付きの垂直なバーは、空のAAVカプシドを最も効果的に除去し、フルカプシドの回収が最大の洗浄pH域を示す。
【0098】
実施例6
マグネシウムイオンの含有又は不在による選択性の変化。
【0099】
図12は、第一級アミンを担持する固相での2つのクロマトグラフィー実験の溶出プロファイルを比較している。一方のプロファイルは両勾配緩衝液(both gradient buffers)中2mMのマグネシウムイオンを使用して作成し、もう一方のプロファイルはマグネシウムイオンの不在下で作成した。両実験に使用する緩衝液は同じにした。平衡化緩衝液は、10mMのトリス、10mMのビス-トリス-プロパン、15mMのNaCl、pH7.0(2mMの塩化マグネシウムあり又はなし)とした。勾配終点は、10mMのトリス、10mMのビス-トリス-プロパン、15mMのNaCl、pH9.5(2mMの塩化マグネシウムあり又はなし)とした。マグネシウム存在下では、フルカプシドがpH約8.77(ピーク中央)で溶出した。マグネシウム不在下では、フルカプシドはpH約9.23(ピーク中央)で溶出し、マグネシウムが存在する場合よりもおよそ半pH単位(a half pH unit)高かった。空のカプシドとフルカプシドの分離もマグネシウム存在下でより明瞭になり、フルカプシドの回収率は約50%高かった。
【0100】
参考文献
本明細書において引用されたすべての参考文献は、その取り込みが本明細書における明示的な教示と矛盾しない限り、参照により完全に取り込まれる。
[1]M.Lock、M.Alvira、J.Wilson、イオン交換クロマトグラフィーによる組換えアデノ随伴ウイルス血清型8ベクターの粒子含有量の分析、Human Genetherapy Methods:Part B 23(2012)56-64。
[2]M.Lock、M.Alvira、AAV9のスケーラブルな精製方法、米国特許出願公開第20190002842(A1)号、米国仮特許出願第201562266357(P)号への優先権、国際公開第2017160360(A9)号。
[3]X.Fu、WC.Chen、C.Argento、P.Clarner、V.Bhatt、R.Dickerson、G.Bou-Assaf、M.Bahshaveshi、X.Lu、S.Bergelson、J.Pieracci、プロセス開発をサポートするアデノ随伴ウイルス空AAVカプシドの定量化のための分析戦略、Hum.Gene Ther.Met.30(2019)144-152。
【国際調査報告】