(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】機能性疾患特異的制御性T細胞を同定する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6809 20180101AFI20230329BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230329BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230329BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230329BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230329BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230329BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230329BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230329BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230329BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230329BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230329BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20230329BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
C12Q1/6809 Z
G01N33/53 M
G01N33/574 D
C12Q1/02
C12Q1/6869 Z
C12N5/0783
C12N5/10
A61K45/00 101
A61P35/00
A61P43/00 105
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550833
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2021054355
(87)【国際公開番号】W WO2021165546
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509181699
【氏名又は名称】アンスティテュ・クリー
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】522333534
【氏名又は名称】アンスティテュ・ミュチュアリスト・モンスリ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリアーヌ・ピアッジオ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルフリッド・リシュ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーヌ・セドリク
(72)【発明者】
【氏名】ヒメナ・トセッロ
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・ウォーターフォール
(72)【発明者】
【氏名】エリザ・ボンニン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
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4B063QR35
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4C084AA17
4C084NA14
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4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的な制御性T細胞及びそのマーカーの同定の方法に関する。本発明は、生成した機能性腫瘍特異的制御性T細胞、マーカー、及び操作した制御性T細胞、並びにがんの診断、予後、モニタリング、及び処置のためのそれらの使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性疾患特異的制御性T細胞マーカーの同定の方法であって、以下の工程:
a)少なくとも患者の疾患組織試料及び患者の末梢血試料から、単離した制御性T(Treg)細胞及び従来型T(Tconv)細胞の同程度の割合の混合物を調製する工程;
b)少なくとも疾患組織及び末梢血からの単離したTreg及びTconv細胞の各混合物のT細胞受容体(TCR)プロファイリングと組み合わせたシングルセル遺伝子発現プロファイリングを実施する工程;
c)Treg細胞及びTconv細胞のクラスターを同定する工程であって、クラスターが互いの間で差次的発現遺伝子又は遺伝子シグネチャーを含む、工程;
d)Treg細胞の同定したクラスターの中で、機能性疾患特異的Treg細胞の少なくとも1つのクラスターを決定する工程であって、少なくとも1つのクラスターが:
(i)末梢血よりも疾患組織で高割合のTreg細胞;
(ii)疾患組織においてクローン的に拡大したTCR特異性を有する高割合のTreg細胞;及び
(iii)疾患組織においてTCRトリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーを有する高割合のTreg細胞
を含む、工程;並びに
e)Treg及びTconv細胞の他の全ての同定したクラスターと比較して、機能性疾患特異的Treg細胞のクラスターで差次的に発現された遺伝子を同定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
患者の疾患組織試料が患者の腫瘍試料であり、及び/又は工程(a)の患者の試料が患者の疾患組織試料、患者の組織流入領域リンパ節試料及び患者の末梢血試料、特に患者の腫瘍試料、患者の腫瘍流入領域リンパ節試料及び患者の末梢血試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物が、約50%のTconv細胞と約50%のTreg細胞から構成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)において組み合わせたシングルセル遺伝子発現プロファイリング及びT細胞受容体(TCR)プロファイリングが、シングルセルRNAシークエンシング法によって実施される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
機能性疾患特異的Treg細胞の少なくとも1つのクラスターが、REL、NKKB2、NR4A1、OX-40、4-1BB、MHCクラスII分子、特にHLA-DR; CD39、CD137及びGITRの1つ又はそれ以上を過剰発現する高割合のTreg細胞を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患が、がん、好ましくは、非小細胞性肺がん(NSCLC);乳がん、皮膚がん、卵巣がん、腎臓がん及び頭頸部がん;並びにラブドイド腫瘍;より好ましくは非小細胞性肺がんを含む群から選択されるがんである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患が、急性又は慢性炎症性疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患又は感染性疾患、移植片対宿主疾患、移植片拒絶から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
以下の工程:
- 工程1:細胞膜タンパク質;好ましくは細胞外ドメインを有する膜貫通又はGPI-アンカータンパク質をコードするn個の差次的発現遺伝子の画分を同定及び選択する工程;
- 工程2:正常組織においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及び正常組織において最低発現レベルの遺伝子の-1から最高発現レベルの遺伝子の-nまで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアAを割り当てる工程;
- 工程3:腫瘍組織においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及び腫瘍組織において最高発現レベルの遺伝子の+nから最低発現レベルの遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアBを割り当てる工程;
- 工程4:Tregを除く正常PBMCにおいてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及びTregを除く正常PBMCにおいて最低発現レベルの遺伝子の+nから最高発現レベルの遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアCを割り当てる工程;
- 工程5:Tregを除く腫瘍環境においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及びTregを除く腫瘍環境において最低発現レベルの遺伝子の+nから最高発現レベルの遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアDを割り当てる工程;
- 工程6:i)正常組織-Tregと比較した腫瘍-Treg、及びii)Tconvと比較したTregにおいてn個の選択された遺伝子の相対発現レベルを決定する工程、並びにi)(スコアE)正常な隣接組織のTregと比較した腫瘍のTreg、及びii)(スコアF)Tconvと比較したTreg、において最高倍率変化の発現レベルの遺伝子の+nから最低倍率変化の遺伝子の+1まで、各遺伝子に2つのスコアE及びFを割り当てる工程;
- 工程7:割り当てたスコアを加算して、各遺伝子の累積評価値(SUM SCORE)を得る工程;並びに
- 工程8:累積評価値に基づき候補治療標的を決定する工程
による、治療目的の腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキングを更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Table1(表1)に列挙した上方制御された及び下方制御された遺伝子の組合せを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって同定された機能性腫瘍特異的Treg細胞の遺伝子シグネチャー。
【請求項10】
Table1(表1)の遺伝子、及びそれらのRNA又はタンパク質産物から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって同定された腫瘍特異的Treg細胞の検出、不活性化又は枯渇のための分子マーカー。
【請求項11】
ADORA2A、CALR、CCR8、CD4、CD7、CD74、CD80、CD82、CD83、CSF1、CTLA4、CXCR3、HLA-B、HLA-DQA1、HLA-DR、例えばHLA-DRB5、ICAM1、ICOS、IGFLR1、IL12RB2、IL1R2、IL21R、IL2RA、IL2RB、IL2RG、LRRC32、NDFIP2、NINJ1、NTRK1、SDC4、SLC1A5、SLC3A2、SLC7A5、SLCO4A1、TMPRSS6、TNFRSF18、TNFRSF1B、TNFRSF4、TNFRSF8、TNFRSF9、TSPAN13及びTSPAN17からなる群から選択される細胞表面マーカーである、請求項10に記載の分子マーカー。
【請求項12】
CCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、TNFRS9、TNFRSF18、HLA-DR、例えばHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、TNFRSF4、CXCR-3、及びTNFRSF1Bからなる群から選択される細胞表面マーカーである、請求項10又は11に記載の分子マーカー。
【請求項13】
CD74、IL12RB2、HLA-DR、例えばHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなる群から選択される細胞表面マーカーである、請求項10から12のいずれか一項に記載の分子マーカー。
【請求項14】
ビタミンD受容体(VDR)である、請求項10に記載の分子マーカー。
【請求項15】
治療標的である、請求項10から14のいずれか一項に記載の分子マーカー。
【請求項16】
機能性腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性又は抑制機能を調節する、請求項15に記載の分子マーカー。
【請求項17】
がんを処置する方法におけるTreg不活性化剤又はTreg枯渇剤としての使用のための薬剤であって、前記薬剤が、請求項15又は16に規定の治療標的のモジュレーターであり;好ましくは:小有機分子、アプタマー、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA、リボザイム、及び例えば、治療標的タンパク質のドミナントネガティブ変異体若しくは機能性断片のような他のアゴニスト又はアンタゴニストを含む群から選択される、薬剤。
【請求項18】
がんを処置する方法におけるTreg不活性化剤又はTreg枯渇剤としての使用のための薬剤であって、前記薬剤が、細胞傷害性化合物と結合した、Table1(表1)からの腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーに結合する分子を含む細胞障害性薬剤であり;好ましくは、前記腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーに結合する分子が、抗体又は抗原結合部位を含むその機能性断片である、使用のための薬剤。
【請求項19】
Table1(表1)からの腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーが、請求項11から13のいずれか一項のリストから選択される、請求項18に記載の使用のための薬剤。
【請求項20】
in vivo又はex vivoで腫瘍特異的Treg細胞を不活性化又は枯渇させるための使用のためである、請求項18又は19に記載の使用のための薬剤。
【請求項21】
対象からの腫瘍試料において、及び最終的には対象からの腫瘍流入領域リンパ節試料においても、請求項10から14のいずれか一項に規定の少なくとも1つの分子マーカーの存在又はその発現レベルを検出する工程を含む、がんの診断、予後又はモニタリングのin vitro方法であって;好ましくは、前記マーカーの存在、不在又は発現のレベルに基づき、好ましいか又は好ましくない転帰カテゴリーへと対象を分類する工程を更に含む、方法。
【請求項22】
Table1(表1)の少なくとも1つの上方制御された遺伝子を欠損するか又はTable1(表1)の少なくとも1つの下方制御された遺伝子を過剰発現する、操作したTreg細胞であって;好ましくは、標的抗原に特異的に結合する少なくとも1つの遺伝子操作した抗原受容体を更に含む、操作したTreg細胞。
【請求項23】
請求項11から14のいずれか一項に列挙した遺伝子の1つを欠損する、請求項22に記載の操作したTreg細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にがんの免疫療法の分野に関する。本発明は、機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的制御性T細胞及びそのマーカーの同定の方法に関する。本発明はまた、生成した機能性腫瘍特異的な制御性T細胞、マーカー、及び操作した制御性T細胞、並びにがんの診断、予後、モニタリング、及び処置のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CD4+ Foxp3+制御性T細胞(Treg)は、免疫恒常性の維持に重要な役割を果たし、並びに自己、腫瘍、微生物及び移植片への免疫応答を積極的に抑制する(Sakaguchiら, Int. Immunol., 2009年, 21, 1105~1111頁)。そのため、Tregの生物学及び機能を理解することは、免疫学者の主要課題であり、疾患、特にがんの診断、予後、モニタリング及び処置の現時点でのアプローチを改善するための必要条件である。
【0003】
Tregの頻度の上昇は、多くのヒトがんで見出され、不良な臨床転帰と関連する。マウスモデルでは、Tregの操作は、目覚ましい結果をもたらす。一方では、治療用Tregの付加又は内在性Tregのブーストは、自己免疫(Churlaudら, Clin. Immunol. Orlando Fla, 2014年, 151, 114~126頁; Gringer-Bleyerら, J. Clin. Invest., 2010年, 120, 4558~4568頁)又は炎症(Gaidotら, Blood, 2011年, 117, 2975~2983頁; Perolら, Immunol. Lett., Dutch Society for Immunology, 2014年, 162, 173~184頁) を弱めることが示された。他方では、Tregを枯渇/不活性化することは、抗腫瘍(Alonsoら, Nat. Commun., 2018年, 9, 2113頁; Caudanaら, Cancer Immunol. Res., 2019年, 7, 443~457頁; Fontenotら, Nat. Immunol., 2003年, 4, 330~336頁)又は抗ワクチン応答を増加させるために非常に重要であることがわかっている。したがって、Tregを標的化する治療戦略は、非網羅的であるが:(i)血液系悪性病変の処置のための造血幹細胞移植後のTreg枯渇ドナーのリンパ球の注射を含むTreg細胞ベースのアプローチ(Mauryら, Sci. Transl. Med., 2010年, 2, 41ra52-41ra52頁)並びに(ii)シクロホスファミド(Lutsiakら, Blood, 2005年, 105, 2862~2868頁)、フルダラビン、ゲムシタビン、及びミトキサントロン(Dwarakanathら, Cancer Rep., 2018年, 1, e21105; Wangら, Cell Rep., 2018年, 23, 3262~3274頁)のようなTreg関連経路を調節する化学薬品;Treg枯渇抗体(抗CTLA-4、抗CD25、抗CCR5、抗CCR4のような; Dwarakanath ら, Cancer Rep., 2018年, 1, e21105);例えば、高用量のIL-2(がんにおいてエフェクター細胞を刺激するため)、及びTreg又はエフェクター細胞に特異的な選択性を有するIL-2誘導体(IL-2/抗IL-2複合体、ペグ化IL-2;再表面形成されたIL-2バリアント(Perol, L., Piaggio, E., 2016年. New Molecular and Cellular Mechanisms of Tolerance: Tolerogenic Actions of IL-2, in: Cuturi, M.C., Anegon, I. (Eds.), Suppression and Regulation of Immune Responses. Springer New York, New York, NY, 11~28頁)を含むサイトカイン及び改変サイトカインを含む、Treg細胞の選択的枯渇又は機能変更を誘導するアプローチを含むがん処置のために提案された。
【0004】
それにもかかわらず、細胞ベースの治療は、非常に高価及び厄介であり;前臨床データは、上記のアプローチを使用する実質的な推論を与えるが、一部は臨床評価下にあり、自己免疫/炎症性疾患、並びにがんの処置のための有効及び選択的なTreg標的化免疫療法を見出す医学的必要性が依然としてある。
【0005】
臨床への移行を排除してきた主なハードルの1つは、ユニークなTregマーカーを同定することの難しさである。実際、Tregは高レベルのCD25及びFoxp3を発現する(Horiら, Science, 2003年, 299, 1057~1061頁; Tranら, Blood, 2007年, 110, 2983~2990頁)が、従来型のヒトCD4+T細胞(Tconv)も活性化するとCD25及びFoxp3を獲得することができ、Tregと活性化Tconvの表現系には大きな重複がある(Tranら, Blood, 2007年, 110, 2983~2990頁)。
【0006】
更に、Tregは、微小環境刺激によって形作られた異種集団を構成する(Campbell and Koch, Nat. Rev. Immunol., 2011年, 11, 119~130頁; Feuererら, Nat. Immunol., 2003年, 4, 330~336頁)。実際、Tregトランスクリプトームシグネチャーの研究の出現により、Tregがユニークな分子シグネチャーを持たないことが明らかになった。実際、定常状態では、異なる組織(血液、リンパ組織、非リンパ組織)から得られたTregのユニークな分子パターンは、Tregが、周辺の微小環境に容易に応答することができ、異なる遊走能を獲得し、異なる機能及び代謝経路を活性化し、多様な機能を示し;異なるTregサブ集団を規定することを示唆している。
【0007】
更に、異なる病理に関連する炎症環境は、Treg分子プロファイル及び関連機能に明確に影響し得る(Burzynら, Nat. Immunol., 2013年, 14, 1007~1013頁; Chaudhryら, Science, 2009年, 326, 986~991頁; Zhouら, Nat. Immunol., 2009年, 10, 1000~10074頁)。その結果、治療目的のTregを効果的に操作するため、それぞれの病理に関連するユニークなTregの特性を理解することが必須である。
【0008】
Treg及びヒトがんは、実際、解決が困難な大きな問題である。腫瘍に存在するTregは、異なる起源であり得、複数のメカニズムによって抑制され得る。増大する文献データは、腫瘍Tregが、エフェクターT細胞及びNK細胞の直接阻害及び骨髄細胞の免疫寛容原性細胞への再プログラミングから、異なる間質細胞による阻害分子(例えば、VEGF、IDO、プロスタグランジン)の産生の誘導までの範囲にわたり、全体的に抑制性の腫瘍微小環境を刷り込む多様なメカニズムによってがんの進行をブーストできることを示唆している。更に、腫瘍特異的Tregは、胸腺で生じ得るか(tTreg)、又はナイーブT細胞の「末梢誘導性」Tregへの変換から生じ得る(pTreg)(Lee, H.-M., Bautista, J.L., Hsieh, C.-S., 2011年. Chapter 2 - Thymic and Peripheral Differentiation of Regulatory T Cells, in: Alexander, R., Shimon, S. (Eds.), Advances in Immunology, Regulatory T-Cells. Academic Press, 25~71頁; Leeら, Exp. Mol. Med., 2018年, 50, e456)。今日、pTregからのtTregの区別は、特異性の制限されたわずかなマーカーのみの使用に限定される(Helios、Nrp-1、CD31、Fopx3プロモーターメチル化)(Linら, J. Clin. Exp. Pathol., 2013年, 6, 116~123頁)。腫瘍特異的TregがtTregか又はpTregかどうかは未知のままである。tTreg及びpTregのユニークな特徴を理解することは、治療目的のために腫瘍-Tregを精密に操作する新しい可能性を与えるはずである。
【0009】
ヒトのがん関連Treg生物学の情報は限られている。異なるがん種のTreg細胞の研究は:i)がん患者の血液中のFOXP3+CD4+ Tregの割合が、健常ドナーと比較して増加すること(Liyanageら, J. Immunol., 2002年, 169, 2756~2761頁; Wolfら, Clin. Cancer Res., 2003年, 9, 606~612頁)、及びii)腫瘍の高割合のFOXP3+CD4+ Tregは予後の悪さと関連すること(Batesら, J. Clin. Oncol., 2006年, 24, 5373~5380頁; Mahmoudら, J. Clin. Oncol., 2011年, 29, 1949~1955頁; Merloら, J. Clin. Oncol., 2009年, 27, 1746~1752頁; Mouawadら, J. Clin. Oncol., 2011年, 29, 1935~1936頁; Oharaら, Cancer Immunol. Immunother., 2009年, 58, 441~447頁; Sunら, Cancer Immunol. Immunother., 2014年, 63, 395~406頁)を示す。
【0010】
最近になって、ヒト腫瘍から精製したTregの最初のバルクRNAseq解析が実施され(Plitasら, Immunity, 2016年, 45, 1122~1134頁)、ごく最近、ヒト腫瘍から精製したTregのシングルセル(sc)解析が実施された(De Simoneら, Immunity, 2016年, 45, 1135~1147頁)。更により最近になって、T細胞トランスクリプトームとTCRの関連性のscデータは、肝臓がん、乳がん、大腸がん及び非小細胞性肺がんで初めて報告された(Aziziら, Cell, 2018年, 174, 1293~1308頁; Guoら, Nat. Med., 2018年, 24, 978頁; Zemmourら, Nat. Immunol. 19, 2018年, 291~301頁; Zhangら, Nature, 2018年, 564, 268)。これらの種の研究は、正常状態と病的状態の両方での、Treg細胞間の先例のない異種性を明らかにし、腫瘍特異的Treg解析を科学者にとって技術的に困難な課題にした。更に、これらの研究では、比較的少数のTregを解析したところ、腫瘍特異的Treg細胞を検出又は定義する力が弱く、腫瘍特異的Treg細胞の定義の解析レベルが低かった。
【0011】
それにもかかわらず、腫瘍に対する免疫応答の免疫調節は、腫瘍床のエフェクターT細胞期の間でのみでなく、腫瘍流入領域リンパ節(TDLN)におけるT細胞プライミングのレベルでも生じる(Chen and Mellman, Immunity, 2013年, 39, 1~10頁)。重要なことに、TDLNに存在するTregは、抗腫瘍T細胞応答を大きく形作るが、がん患者のTDLNに存在するTreg細胞の表現型及び機能のデータは、非常に限定されている(Faghigら, Immunol. Lett., 2014年, 158, 57~65頁; Guptaら, Cancer Invest., 2011年, 29, 419~425頁; Kohrtら, PLOS Med., 2005年, 2, e284; Nakamuraら, Eur. J. Cancer, 2009年, 45, 2123~2131頁; Zuckermanら, Int. J. Cancer, 2013年. 132, 2537~2547頁)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Sakaguchiら, Int. Immunol., 2009年, 21, 1105~1111頁
【非特許文献2】Churlaudら, Clin. Immunol. Orlando Fla, 2014年, 151, 114~126頁
【非特許文献3】Gringer-Bleyerら, J. Clin. Invest., 2010年, 120, 4558~4568頁
【非特許文献4】Gaidotら, Blood, 2011年, 117, 2975~2983頁
【非特許文献5】Perolら, Immunol. Lett., Dutch Society for Immunology, 2014年, 162, 173~184頁
【非特許文献6】Alonsoら, Nat. Commun., 2018年, 9, 2113頁
【非特許文献7】Caudanaら, Cancer Immunol. Res., 2019年, 7, 443~457頁
【非特許文献8】Fontenotら, Nat. Immunol., 2003年, 4, 330~336頁
【非特許文献9】Mauryら, Sci. Transl. Med., 2010年, 2, 41ra52-41ra52頁
【非特許文献10】Lutsiakら, Blood, 2005年, 105, 2862~2868頁
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、腫瘍特異的Tregを同定する確かな方法並びにがん及び他の疾患の処置のための確かな腫瘍特異的Tregマーカーは無い。
【0014】
本発明は、機能性疾患特異的制御性T細胞、特に機能性腫瘍特異的制御性T細胞、及びそのマーカーの同定の方法を提供することによって、この問題を解決する。本発明は、がんの診断、予後、モニタリング、及び処置に有用であるバイオマーカー及び候補治療標的を含む方法によって同定された機能性腫瘍特異的制御性T細胞及びTregマーカーも提供する。本発明は、前記機能性腫瘍特異的制御性T細胞由来の操作したTreg細胞及びTregマーカーを更に提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、がん患者の血液、腫瘍流入領域リンパ節(TDLN)及び腫瘍からのTreg及びTconvのTCRに結合したトランスクリプトームのシングルセルRNAシークエンシングを使用し、Tregを機能性サブセットに分類し、Tregの異種性プールの中から機能性腫瘍Tregクラスター(FT-Treg)を区別した。FT-Tregクラスターは、(血液と比較して)腫瘍又は腫瘍流入領域リンパ節に蓄積したTreg細胞のクラスターとして同定され、クローン的に拡大した細胞に豊富であり、TCR媒介活性化のトランスクリプトームの特徴を有する細胞に豊富である。TCRは、3つの組織間のFT-Tregクローン動力学を研究する「分子タグ」として使用され、FT-Tregを操作する有効及び選択的アプローチの設計のため、異なるTregサブ集団の組織適応の理解を完全にする。全てのTregではなく、FT-Tregを特異的に無効にする新規の治療標的(分子又は経路)は、異なる遺伝子発現解析によって同定され、標的は、候補分子のTregノックアウト及び機能性in vitro及び/又はin vivo試験を使用して確認され、Treg生物学におけるそれらの役割を理解した。生成したFT-Treg分子標的を使用して、Treg細胞の選択的枯渇又は機能変更を誘導する細胞療法、抗体、サイトカイン又は化学薬品に基づくアプローチを含む、候補治療戦略の選択をガイドすることができる。腫瘍特異的Tregの選択的阻害は、健常組織からのエフェクターT細胞又はTregを保存しながら(免疫恒常性を維持し、自己免疫を調節する)、一般化した自己免疫を引き出すことなく、有効な抗腫瘍免疫の増強をもたらすはずであるより有効且つ安全な戦略を提示する。
【0016】
また、方法は、任意の定義したヒト病理と関連するTregを特徴付ける研究ツールとして応用することができた。この方法は、診断、予後又は毒性のバイオマーカーとしての潜在価値を有するTreg関連分子の同定をもたらすことができた。この方法によって得ることができた新規のTreg関連分子の生物学的役割の理解を使用して、ワクチン接種アプローチを改善し、自己免疫疾患、炎症性疾患及び免疫代謝性疾患、アレルギー、感染性疾患、GVHD、移植、胎児拒絶及びがんを含む、広範な免疫媒介病理を処置する新規の治療戦略を設計することができた。
【0017】
したがって、本発明は、以下の工程:
(a)少なくとも患者の疾患組織試料及び患者の末梢血試料から、単離した制御性T(Treg)細胞及び従来型T(Tconv)細胞の同程度の割合の混合物を調製する工程;
(b)少なくとも疾患組織及び末梢血からの単離したTreg及びTconv細胞の各混合物のT細胞受容体(TCR)プロファイリングと組み合わせたシングルセル遺伝子発現プロファイリングを実施する工程;
(c)Treg細胞及びTconv細胞のクラスターを同定する工程であって、クラスターが互いの間で差次的発現遺伝子又は遺伝子シグネチャーを含む、工程;
(d)Treg細胞の同定したクラスターの中で、機能性疾患特異的Treg細胞の少なくとも1つのクラスターを決定する工程であって、少なくとも1つのクラスターが:
(i)末梢血よりも疾患組織で高割合のTreg細胞;
(ii)疾患組織においてクローン的に拡大したTCR特異性を有する高割合のTreg細胞;及び
(iii)疾患組織においてTCRトリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーを有する高割合のTreg細胞
を含む、工程;並びに
(e)Treg及びTconv細胞の他の全ての同定したクラスターと比較して、機能性疾患特異的Treg細胞のクラスターで差次的に発現された遺伝子を同定する工程
を含む、機能性疾患特異的制御性T細胞マーカーの同定の方法に関する。
【0018】
本発明の方法の一部の実施形態では、患者の疾患組織試料は患者の腫瘍試料であり、及び/又は患者の試料は患者の疾患組織試料、患者の組織流入領域リンパ節試料及び患者の末梢血試料、特に患者の腫瘍試料、患者の腫瘍流入領域リンパ節試料及び患者の末梢血試料を含む。
【0019】
本発明の方法の一部の好ましい実施形態では、混合物は、約50%のTconv細胞と約50%のTreg細胞から構成される。
【0020】
本発明の方法の一部の実施形態では、工程(b)において組み合わせたシングルセル遺伝子発現プロファイリング及びT細胞受容体(TCR)プロファイリングは、シングルセルRNAシークエンシング法によって実施される。
【0021】
本発明の方法の一部の実施形態では、機能性疾患特異的Treg細胞の少なくとも1つのクラスターは、REL、NKKB2、NR4A1、OX-40、4-1BB、MHCクラスII分子、特にHLA-DR; CD39、CD137及びGITRの1つ又はそれ以上を過剰発現する高割合のTreg細胞を含む。
【0022】
本発明の方法の一部の好ましい実施形態では、前記疾患はがんである。好ましくは、がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC);乳がん、皮膚がん、卵巣がん、腎臓がん及び頭頸部がん;並びにラブドイド腫瘍;より好ましくは非小細胞性肺がん(NSCLC)を含む群から選択される。
【0023】
本発明の方法の一部の実施形態では、前記疾患は、急性又は慢性炎症性疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患又は感染性疾患、移植片対宿主疾患、及び移植片拒絶から選択される。
【0024】
一部の実施形態では、本発明の方法は、以下の工程:
- 工程1:細胞膜タンパク質;好ましくは細胞外ドメインを有する膜貫通又はGPI-アンカータンパク質をコードするn個の差次的発現遺伝子の画分を同定及び選択する工程;
- 工程2:正常組織においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及び正常組織において最低発現レベルの遺伝子の-1から最高発現レベルの遺伝子の-nまで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアAを割り当てる工程;
- 工程3:腫瘍組織においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及び腫瘍組織において最高発現レベルの遺伝子の+nから最低発現レベルの遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアBを割り当てる工程;
- 工程4:Tregを除く正常PBMCにおいてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及びTregを除く正常PBMCにおいて最低発現レベルの遺伝子の+nから最高発現レベルの遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアCを割り当てる工程;
- 工程5:Tregを除く腫瘍環境においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及びTregを除く腫瘍環境において最低発現レベルの遺伝子の+nから最高発現レベルの遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアDを割り当てる工程;
- 工程6:i)正常組織-Tregと比較した腫瘍-Treg、及びii)Tconvと比較したTregにおいてn個の選択された遺伝子の相対発現レベルを決定する工程並びにi)(スコアE)正常な隣接組織のTregと比較した腫瘍のTreg、及びii)(スコアF)Tconvと比較したTregにおいて最高倍率変化の発現レベルの遺伝子の+nから最低倍率変化の遺伝子の+1まで、各遺伝子に2つのスコアE及びFを割り当てる工程;
- 工程7:割り当てたスコアを加算して、各遺伝子の累積評価値(SUM SCORE)を得る工程;並びに
- 工程8:累積評価値に基づき候補治療標的を決定する工程
による、治療目的の腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキングを更に含む。
【0025】
本発明の別の対象は、本開示に記載の方法によって同定された腫瘍特異的Treg細胞の検出、不活性化又は枯渇のための分子マーカーであり、Table1(表1)の遺伝子、及びそれらのRNA又はタンパク質産物から選択される。一部の特定の実施形態では、分子マーカーは: ADORA2A、CALR、CCR8、CD4、CD7、CD74、CD80、CD82、CD83、CSF1、CTLA4、CXCR3、HLA-B、HLA-DQA1、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、ICOS、IGFLR1、IL12RB2、IL1R2、IL21R、IL2RA、IL2RB、IL2RG、LRRC32、NDFIP2、NINJ1、NTRK1、SDC4、SLC1A5、SLC3A2、SLC7A5、SLCO4A1、TMPRSS6、TNFRSF18、TNFRSF1B、TNFRSF4、TNFRSF8、TNFRSF9、TSPAN13及びTSPAN17からなる群から選択される細胞表面マーカーであるか;又は分子マーカーはVDRであり;好ましくはCCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなる群から選択され;より好ましくは:CD74、VDR、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなる群から選択される。
【0026】
一部の実施形態では、本開示に記載の分子マーカーは、好ましくは機能性腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性又は抑制機能を調節する治療標的である。
【0027】
本発明の別の対象は、がんを処置する方法におけるTreg不活性化剤又はTreg枯渇剤としての使用のための薬剤であり、前記薬剤は、本開示に記載の治療標的のモジュレーターであり;好ましくは:小有機分子、アプタマー、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA、リボザイム、及び例えば、治療標的タンパク質のドミナントネガティブ変異体若しくは機能性断片のような他のアゴニスト又はアンタゴニストを含む群から選択される。
【0028】
一部の実施形態では、薬剤は、細胞障傷害害性化合物と結合した、Table1(表1)の腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーに結合する分子を含む細胞障害性薬剤である。前記腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーに結合する分子は、好ましくは抗体又は抗原結合部位を含むその機能性断片である。Table1(表1)の腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーは、好ましくは、本開示に記載の上記に列挙した腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーから選択される。
【0029】
一部の実施形態では、薬剤は、in vivo又はex vivoで腫瘍特異的Treg細胞を不活性化又は枯渇させるための使用のためである。
【0030】
本発明の別の対象は、対象からの腫瘍試料において、及び最終的には対象からの腫瘍流入領域リンパ節試料においても、本開示に記載の少なくとも1つの分子マーカーの存在又はその発現レベルを検出する工程を含む、がんの診断、予後又はモニタリングのin vitro方法であり;好ましくは、方法は、前記マーカーの存在、不在又は発現のレベルに基づき、好ましいか又は好ましくない転帰カテゴリーへと対象を分類する工程を更に含む。
【0031】
本発明の別の対象は、Table1(表1)の少なくとも1つの上方制御された遺伝子を欠損するか又はTable1(表1)の少なくとも1つの下方制御された遺伝子を過剰発現する、操作したTreg細胞である。特定の実施形態では、操作したTreg細胞は、本開示に記載の少なくとも1つの上記に列挙した腫瘍特異的Treg細胞表面マーカーを欠損する。
【0032】
一部の実施形態では、操作したTreg細胞は、標的抗原に特異的に結合する少なくとも1つの遺伝子操作した抗原受容体を更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1はデータの説明を示す図である。A.5000個のTconv(DAPI- CD45+ CD4+ CD25lo CD127lo/hi)及び5000個のTreg(DAPI- CD45+ CD4+ CD25hi CD127lo)をFACSソートし、10 X Genomicsを使用するscRNAseq解析のため、同数で混合した。B.各患者及び組織において回収された細胞の総数を示す図である。C.試料は、Cell Ranger V3及びSeurat2パイプラインを使用して解析し、CCAバッチ効果補正後の凝集した全ての細胞のUMAP可視化が示される。0.9のresolution (Louvain algorithm)を使用し、21個のクラスターを定義した(異なる色で可視化した)。点線によって区切られた上部ゾーン及び下部ゾーンは、それぞれTreg及びTconvを含み、差次的発現遺伝子、遺伝子及びシグネチャー発現のヒートマップを使用して定義した(
図2の例を参照)。
【
図2A】
図2Aは、T細胞クラスターの同定を示す図である。T細胞クラスターは、文献から抽出した選択遺伝子(「特徴」)又はシグネチャーのUMAPプロジェクションによって定義された。パネルは、どのようにCD4+ Tconv細胞がCD40L、及びCD127を発現するとして同定され:並びにTregがFOXP3、CD25を発現し、公開されたTregシグネチャーの遺伝子を発現するとして同定されたかを示す(
* Zemmourら, 2018年及び
** Aziziら, 2018年)。
【
図2B】
図2Bは、T細胞クラスターの同定を示す図である。T細胞クラスターは、文献から抽出した選択遺伝子(「特徴」)又はシグネチャーのUMAPプロジェクションによって定義された。パネルは、どのようにナイーブ表現型を示すCD4+ T細胞がStubbingtonら, 2015年に公開されたシグネチャーを使用して同定され;最終分化した細胞がAziziら, 2018年に公開されたシグネチャーを使用して同定され;セントラルメモリー細胞がAbbas ARら, 2009年のように同定され、循環細胞がChungら, 2017年のように、IFNアルファ応答シグネチャーを有する細胞がMSigDB (HALLMARK_INTERFERON_ALPHA_RESPONSE, M5911)のように同定され、濾胞性ヘルパーT細胞がKenefeck Rら; 2015年のように、並びにTh17細胞がZhang Wら; 2012年のように同定されたことを示す。
【
図2C】
図2Cは、T細胞クラスターの同定を示す図である。T細胞クラスターは、文献から抽出した選択遺伝子(「特徴」)又はシグネチャーのUMAPプロジェクションによって定義された。パネルは、T細胞の最終クラスター分類を示し;全部で7個の純粋なTconv細胞クラスターが同定され(Tconvクラスター1~7)、全部で5個の純粋なTregクラスターが同定され(Tregクラスター1~5)、全部で9個の<<混合T細胞>>クラスターが同定され、それらはTregとTconvの特徴を有する細胞の混合物から構成された(Tmix 1~9)。
【
図3】
図3は、血液と比較した、腫瘍又はLNに蓄積するTregクラスターの同定を示す図である。3つの組織間で5つのTregクラスターのそれぞれの全Tregのパーセンテージの比較。Tregクラスター4及び5の割合のみが、血液と比較して、TDLN又は腫瘍において統計的に有意に増加した(対応のあるt検定<0.05)。
【
図4】
図4は、腫瘍においてクローン的に拡大したTCRを持つTregの同定を示す図である。A.全ての患者のクロノタイプ情報を示す表である。B~D.結果は、患者4について示す。B.患者4の全ての及び拡大したクローンの分布。C.場所(血液、腫瘍流入領域リンパ節及び腫瘍)により拡大したことが見出されたTCRを有するクローンの%(左のパネル)並びに各Tregクラスターの腫瘍において拡大したことが見出されたTCRを有するクローンの%(右のパネル)を示す。D.腫瘍細胞において拡大したことが見出されたTCRを発現する細胞のUMAPプロジェクション。各点は細胞である。左から右へ、血液、TDLN、腫瘍及び全組織において拡大したクローンをハイライトした。
【
図5】
図5は、TCRトリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーを有するCD4+FOXP+Tregのクラスターの同定を示す図である。選択されたシグネチャー又は遺伝子を発現する細胞のUMAPプロジェクション(暗い点)。TCR活性化シグネチャーは、MSigDB(REACTOME_DOWNSTREAM_TCR_SIGNALING, MI3166)から抽出された。
【
図6】
図6は、差次的発現遺伝子解析(DEG)を示す図である。腫瘍拡大クロノタイプを有し、Tregクラスター4(全ての患者から)に存在する細胞対個々のクラスターに属する細胞(Treg 1~5; Tconv 1~7、Tmix 1~7)のDEG解析は交差した。常に上方制御されるか又は常に下方制御される遺伝子は、腫瘍特異的Tregの特徴と考えられた。
【
図7】
図7は、腫瘍特異的Tregの選択されたマーカーの同定を示す図である。一部の選択された遺伝子を発現する細胞のUMAPプロジェクション(暗い点)。
【
図8】
図8は、開発したパイプラインの要約図である。
【
図9】
図9は、選択パイプライン出力を示す図である。各点は、標的を表す。標的を、それらの遺伝子ランク(選択パイプラインの最終スコア)によってランク付けし、それらのGTEx安全性スコアに対してプロットした。赤は、公知のTreg参照遺伝子を示す。ENTPD1(CD39)は、安全性について最も低くランク付けされたTreg参照であり、したがってスコアは両カットオフのために選択された。
【
図10】
図10は、NSCLC患者からの血液(PBMC)、腫瘍流入領域リンパ節(TDLN)及び腫瘍から得られた、Treg細胞でのモデル候補腫瘍特異的TregマーカーCCR8の発現を示す代表的なFACSドットプロット(CD4+FOXP3 T細胞としてゲートをかけた)を示す図である。ゲート内の数は、CCR8が陽性のTregのパーセンテージを表す。
【
図11】
図11は、処置していないNSCLC患者からのPBMC及び腫瘍からのマッチしたCD4+ T細胞おける選択された遺伝子の発現を示す代表的なドットプロットを示す図である。A.同じ患者のPBMC及び腫瘍からのCD4+CD3+生細胞中のFOXP3+の発現を示す代表的なドットプロット(数字は、示したゲート内の細胞のパーセンテージを示す)、B.2つの解析した組織からのTreg及びTconv集団におけるCD4、FOXP3及びCD25の発現レベル(MFI)(数字は、MFI値である)。同じ患者のPBMC及び腫瘍からのTreg細胞間のCD74 (C)、CD80 (D)、4-1BB (E)、OX40 (F)、CXCR3 (G)、及びVDR (H)の発現を示す代表的なドットプロット(数字は、示したゲート内の細胞のパーセンテージを示す)。
【
図12】
図12は、NSCLC患者からのPBMC及び腫瘍からのCD8+ T細胞、CD4+ T従来型(Tconv)、及びTreg細胞における腫瘍特異的Treg標的の発現を示す図である。ex-vivo FACS染色の代表的なプロットは、同じ患者からのマッチしたPBMCと腫瘍における、示したマーカーを発現する生CD8+ T細胞及びCD4+従来型T細胞(Tconv)及び制御性T細胞(Treg、CD4+ FOXP3+)の幾何平均発現(A)、又は頻度(B)を示す。(A)の数字は、CD4、FOXP3及びCD25の幾何平均発現を示す。(B)の数字は、CD177、CTLA-4、GITR、TNFR2、VDR、CCR8、41BB、OX40、CD39、CSF1、CD80、HLA-DR、CXCR3、IL12RB2、CD74、ICOS、及びICAM1の陽性細胞のパーセンテージを示す。遺伝子は、Table1(表1)及びTable2(表2)の間で選択される。
【
図13】
図13は、OX-40、41BB、及びCCR8が機能性腫瘍特異的Tregを同定することを示す。NSCLC患者の腫瘍細胞懸濁液は、抗ヒトHLA-DRブロッキング抗体あり又はなしで自己腫瘍細胞ライセートによって37℃で12時間刺激され、続いてFACS染色された。代表的なプロットは、NSCLC患者の腫瘍からのTregの表面でのマーカー発現の頻度を示した。
【
図14】
図14は、Mock(左のパネル)又はCD74(右のパネル)RNAガイドによるヌクレオフェクションの12日後に、FSC-SSC/singlet/Aqua-/CD3+CD4+/FOXP3+としてゲートした、CD74のTreg KOにおけるCD74及びFoxP3発現の代表的なドットプロットを示す図である。新しくFACSソートした、健常ドナーのPBMCから得たTreg(DAPI-CD4+CD25hiCD127lo)は、aCD3/aCD28ビーズ(細胞と1:1比)及びIL-2と培養中で7日間拡大させた。Tregは、CRSIPR/Cas9アプローチを使用してCD74をノックアウトされた。細胞は12日後に解析された。
【
図15】
図15は、CD74KO又はWT Tregを
図14のように生成した図である。A.ヌクレオフェクション後に拡大したWT又はCD74 KO Tregの細胞数。B.ヌクレオフェクションの20日目の拡大したWT又はCD74 KO TregのFACS解析。代表的なプロットは、CD25、ICOS、OX-40、PD1 CD38、HLA-DR、4-1BB及びKi67を発現するCD74+及びCD74-Treg(FOXP3+細胞)の頻度を示す。
【
図16】
図16は、Tregの表面でのMIF共受容体とのCD74の共発現を示す図である。左のパネル:CD74+Foxp3+Tregのゲート戦略の代表的なプロット。右のプロット:CD74+TregでのCXCR4、CXCR2及びCD44共発現の頻度。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
本明細書で使用される場合、「制御性T細胞」又は「Treg」は、CD4+ Foxp3+細胞を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「機能性疾患特異的制御性T細胞」又は「FD-Treg」は、CD4+ Foxp3+細胞の異なる集団(又は群、サブセット若しくはクラスター)を指し:(i)末梢血と比較して疾患組織で増加される; (ii)疾患組織において、クローン的に拡大したTCR特異性が豊富である;及び(iii) T細胞受容体(TCR)トリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーが豊富であるTregの異種性プールと区別する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「機能性腫瘍特異的制御性T細胞」又は「FT-Treg」は、CD4+ Foxp3+細胞の異なる及び単離した集団(又は群、サブセット若しくはクラスター)を指し:(i)腫瘍、最終的には腫瘍流入領域リンパ節でも増加される; (ii)疾患組織において、クローン的に拡大したTCR特異性が豊富である;及び(iii) T細胞受容体(TCR)トリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーが豊富であるTregの異種性プールと区別する。
【0037】
本明細書で使用される場合、<<遺伝子シグネチャー>>又は<<遺伝子発現シグネチャー>>は、変更若しくは未変更の生物学的過程又は病原性の医学的状態の結果として生じる、遺伝子発現のユニークで特徴的なパターンを有する細胞の単一遺伝子又は遺伝子の組み合わせた群を指す。
【0038】
用語「マーカー」は、本明細書で使用される場合、「分子マーカー」又は「分子シグネチャー」を意味し、特定の遺伝子又は遺伝子産物(RNA又はタンパク質)を指す。用語「マーカー」は、バイオマーカー及び/又は治療標的を含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」は、過程、事象又は状態の特有の生物学的又は生物学的に誘導された指標を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「疾患」は、制限なく、急性又は慢性炎症性疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患又は感染性疾患、移植片対宿主疾患、移植片拒絶、及びがんのような任意の免疫障害を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「がん」は、コントロール不良の細胞分裂、及び進入による隣接する組織への直接増殖によるか又は転移による離れた部位への移植片転移による他の組織へと進入するこれらの細胞の能力によって特徴付けられる疾患又は障害のクラスの任意のメンバーを指す。転移は、血流又はリンパ系を通ってがん細胞が輸送される病期として定義される。本発明に記載の用語がんは、がん転移及びがんの再発も含む。がんは、腫瘍が似ている細胞の型、したがって腫瘍の起源と考えられる組織によって分類される。例えば、癌腫は、上皮細胞由来の悪性腫瘍である。この群は、乳がん、前立腺がん、肺がん、及び大腸がんの共通型を含む、最も一般的ながんを表す。リンパ腫及び白血病は、血液及び骨髄細胞由来の悪性腫瘍を含む。肉腫は、結合組織又は間葉系細胞由来の悪性腫瘍である。中皮腫は、腹膜及び肋膜の内側にある中皮細胞由来の腫瘍である。グリオーマは、脳細胞の最も一般的な型であるグリア由来の腫瘍である。胚細胞腫は、睾丸及び卵巣に通常見出される生殖細胞由来の腫瘍である。絨毛癌は、胎盤由来の悪性腫瘍である。本明細書で使用される場合、「がん」は、固形及び液体腫瘍を含む任意のがん種を指す。
【0042】
用語「対象」及び「患者」は、本明細書で交換可能に使用され、ヒト及び非ヒト動物の両方を指す。本明細書で使用される場合、用語「患者」は、制限無く、齧歯類、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ウマ及び霊長類のような哺乳動物を示す。好ましくは、本発明に記載の患者はヒトである。
【0043】
用語「患者試料」は、患者由来の任意の生物学的試料を意味する。そのような試料の例としては、体液、組織、細胞試料、器官、生検が挙げられる。好ましい生物学的試料は、腫瘍試料である。
【0044】
用語「処置する(treating)」又は「処置(treatment)」は、本明細書で使用される場合、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を逆転させる、緩和する、阻害するか若しくはそれらを予防することを意味し、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又はそれ以上の症状の進行を逆転させる、緩和する、阻害するか若しくはそれらを予防することを意味する。本明細書で使用される場合、用語「処置(treatment)」又は「処置する(treat)」は、予防的又は予防処置並びに治療又は疾患改変処置の両方を指し、疾患にかかるリスクのある又は疾患にかかったと思われる患者並びに病気であるか又は疾患若しくは医学的状態を患っていると診断された患者の処置を含み、臨床的再発の抑制を含む。処置は、障害若しくは再発する障害の1つ又はそれ以上の症状を予防する、治療する、その発症を遅らせる、その重症度を減少させる、又は緩和するため、又はそのような処置をしない場合に予想されるのを超えて患者の生存を延長するため、医学的障害を有するか、又は最終的に障害を獲得し得る患者に投与され得る。
【0045】
「がんを処置する」は、限定はされないが、患者においてがん細胞の数又は腫瘍の大きさを減少させること、より侵襲性のがんへの進行を減少させること(すなわち、治療剤に感受性の形態でがんを維持する)、がん細胞の増殖を減少させること又は腫瘍増殖の速さを減速させること、がん細胞を死滅させること、がん細胞の転移を減少させること又は対象におけるがんの再発の可能性を減少させることを含む。本明細書で使用される場合、対象を処置することは、がんに悩むか、又はがんを発症するリスクがあるか又はがんの再発に直面している対象に利益を与える任意の型の処置を指す。処置は、対象の状態の改善(例えば、1つ又はそれ以上の症状において)、疾患の進行の遅延、症状の発症の遅延、症状の進行を遅らせる、及びその他を含む。
【0046】
本明細書で使用される場合、「薬物」又は「治療剤」は、ヒト又は動物に投与された場合、所望の生物学的又は薬理学的効果を提供する化合物又は薬剤を指し、特に、意図した治療効果又は状態若しくは疾患を処置又は予防する身体への応答を生じる。治療剤は、任意の好適な生物学的に活性な化学化合物又は生体由来の化合物を含む。
【0047】
本明細書で使用される場合、「治療応答」又は「薬物による治療への応答」は、疾患の目的の臨床徴候、患者の自己報告パラメーター及び/又は生存の増加のような目的パラメーター又は基準によって特徴付けられる正の医学的応答を指す。薬物処置への応答を評価するための目的の基準は、1つの疾患から別の疾患で変わり、臨床スコアを使用することにより当業者によって容易に決定され得る。薬物への正の医学的応答は、当技術分野で周知の疾患の適切な動物モデルで容易に検証することができる。
【0048】
「1つ(a)」、「1つ(an)」、及び「その(the)」は、文脈で他に明確に示さない限り、複数の参照を含む。そのため、用語「1つ(a)」(又は「1つ(an)」)、「1つ又はそれ以上(one or more)」又は「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書で交換可能に使用することができ、他に特定しない限り、「又は(or)」は「及び/又は(and/or)」を意味する。
【0049】
機能性疾患特異的Treg及びそのマーカーの同定の方法
本発明は、以下の工程:
(a)少なくとも患者の疾患組織試料及び患者の末梢血試料から、単離した制御性T(Treg)細胞及び従来型T(Tconv)細胞の同程度の割合の混合物を調製する工程;
(b)少なくとも疾患組織及び末梢血からの単離したTreg及びTconv細胞の各混合物のT細胞受容体(TCR)プロファイリングと組み合わせたシングルセル遺伝子発現プロファイリングを実施する工程;
(c)Treg細胞及びTconv細胞のクラスターを同定する工程であって、クラスターが互いの間で差次的発現遺伝子又は遺伝子シグネチャーを含む、工程;及び
(d)Treg細胞の同定したクラスターの中で、機能性疾患特異的Treg細胞の少なくとも1つのクラスターを決定する工程であって、少なくとも1つのクラスターが:
(i)末梢血よりも疾患組織で高割合のTreg細胞;
(ii)疾患組織においてクローン的に拡大したTCR特異性を有する高割合のTreg細胞;及び
(iii)疾患組織においてTCRトリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーを有する高割合のTreg細胞
を含む、工程
を含む、機能性疾患特異的制御性T細胞の同定の方法に関する。
【0050】
本発明は、機能性疾患特異的制御性T細胞の同定の上記の方法の工程(a)~(d)を実施する工程、及び更なる工程:
(e)Treg及びTconv細胞の他の全ての同定したクラスターと比較して、機能性疾患特異的Treg細胞の少なくとも1つのクラスターで差次的に発現された遺伝子を同定する工程
を実施する工程を含む、機能性疾患特異的制御性T細胞マーカーの同定の方法にも関する。
【0051】
本発明の方法は、先行技術の方法とは異なり、Tregの異種性プール中、機能性疾患特異的、特に、機能性腫瘍特異的Tregのクラスターの同定を可能にする。結果として、本発明の方法によって同定されるマーカーは、信頼できる確かな疾患特異的、特に腫瘍特異的なTregマーカーであると考えられ、有効な選択的バイオマーカー、治療標的又は研究ツールとして使用され得る。特に、同定したマーカーによって提供された機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的Tregの検出、不活性化又は枯渇、分類又は研究は、従来技術の方法よりも有効及び選択的であり、より効率的であると考えられる。
【0052】
方法は、少なくとも末梢血試料及び疾患組織試料、特に腫瘍試料で実施される。本明細書で使用される場合、用語「疾患組織」は、疾患組織流入領域リンパ節を含む。したがって、他に指定しない限り、「患者疾患組織試料」は、「患者疾患組織試料又は患者疾患組織流入領域リンパ節試料」を指す。本明細書で使用される場合、「組織」は、固体組織又は組織液を指す。例えば、固体組織は、膵臓組織(糖尿病)、軟骨組織/関節組織(関節炎)、固形腫瘍組織(がん)、及び他の固形組織であり得る。組織液は、制限無く、腹水、気管支肺胞洗浄、胸腔洗浄、尿、胸膜液、脳脊髄液(CSF)、滑液、心膜液、軟骨組織/関節液及び腹水を含む。本明細書で使用される場合、「腫瘍」は、腫瘍組織及び腫瘍液を含む。腫瘍組織は、原発性腫瘍、転移及び腫瘍流入領域リンパ節、特に転移性腫瘍流入領域リンパ節を含む。腫瘍液は、腫瘍を排出する全ての液体を含む。方法は、好ましくは、患者の疾患組織試料と患者の組織流入領域リンパ節試料の両方、特に患者の腫瘍組織試料及び患者の腫瘍流入領域リンパ節試料の両方で実施される。
【0053】
方法は、通常、少なくとも2人、好ましくは3、4、5人又はそれ以上の患者からの試料で実施される。各患者からの各試料は別々に処理され、すなわち方法は、個々の患者からの試料で実施されるか、或いは異なる患者からの試料が混合され、方法は患者の試料のプールで実施される。Treg及びTconv細胞は、当技術分野で周知であり、本出願の実施例に開示される標準的な細胞単離技術を使用して、末梢血及び疾患組織(疾患組織及び/又は流入領域リンパ節)、特に腫瘍(腫瘍及び/又は流入領域リンパ節)から単離される。組織処理後、Treg及びTconvは、例えばCD4、CD45、CD25及びCD127のような特定の細胞表面マーカーに対する抗体を使用するFACSソーティングによって単離される。Tregは、CD45+ CD4+ CD25
hi CD127
lo細胞として定義され、Tconvは、CD45+ CD4+ CD25
lo CD127
lo/hi細胞として定義される。更に、単離した細胞の生存能力は、DAPI(生存細胞はDAPI
-)のような適切なマーカーを使用して測定され得る。試料中のTreg及びTconvのパーセンテージは、通常、FACS解析によって同時に決定される。例えば、
図1Aは、解析した腫瘍試料が95.1%のTconv及び4.63%のTregを含むことを示す。単離したTreg及びTconvは、次いで同程度の割合で混合され、混合物を得る。本明細書で使用される場合、「同程度の割合で(in similar proportions)」は、Treg及びTconvの約35%~約65%(35%、40%、45%、50%、55%、60%又は65%);好ましくは約40%~約60%(40%、45%、50%、55%又は60%);より好ましくは約45%~約55%のパーセンテージを指し、混合物中のTregのパーセンテージとTconvのパーセンテージの合計は約100%に等しい。用語「約」は、測定可能な値を指し、特定の値から±0.1%~5%(0.1%; 0.5%; 1%; 1.5%; 2%; 2.5%; 3%; 3.5%; 4%; 4.5%又は5%)のバリエーションを包含することを意味する。混合物は、少なくとも100個の細胞、通常500~10000(500、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000又は10000)個の細胞又はそれ以上の細胞を含み、少なくとも100個のTreg細胞、好ましくは少なくとも200、300、400、500個又はそれ以上のTregを含む。
【0054】
本発明の方法の一部の実施形態では、患者の疾患組織試料は患者腫瘍試料である。
【0055】
本発明の方法の一部の実施形態では、工程(a)は、患者の疾患組織流入領域リンパ節試料;好ましくは、患者の腫瘍流入領域リンパ節試料で更に実施される。
【0056】
本発明の方法の一部の実施形態では、単離したTregは、CD45+ CD4+ CD25hi CD127lo細胞であり、単離したTconvは、CD45+ CD4+ CD25lo CD127lo/hi細胞であり;好ましくは単離したTregは、DAPI-CD45+ CD4+ CD25hi CD127lo細胞であり、単離したTconvは、DAPI-CD45+ CD4+ CD25lo CD127lo/hi細胞である。
【0057】
一部の好ましい実施形態では、混合物は、等しい割合のTreg及びTconvから構成され、約50%のTconv細胞と約50%のTreg細胞を意味する。
【0058】
工程(b)において組み合わせたシングルセル遺伝子発現プロファイリング及びT細胞受容体(TCR)プロファイリングは、当業者に周知であり本出願の実施例に開示される標準的な方法によって実施される。遺伝子発現プロファイリングは、通常、トランスクリプトーム解析(トランスクリプロームプロファイリング)に基づき、好ましくはRNAシークエンシング技術による。RNA-seq(RNAシークエンシング)は、次世代シークエンシング(NGS)を使用して、試料中のRNAの量及びシークエンスを調べることができる技術である。それは、RNAにコードされる遺伝子発現パターンのトランスクリプトームを解析する。RNA-seqは、シングルセル解析に適合され、シングルセルRNAseqはTangら(Nat. Methods, 2009年, 6, 377~382頁)によって初めて報告され; Wangら, Nature Reviews Genetics, 2009年, 10, 57~63頁及びSvenssonら (Nat Protoc. 2018年4月;13(4):599~604頁)に概説されている。TCRプロファイリングは、個々の細胞でペアにしたTCRアルファ及びベータ鎖のシークエンシングを含み、特に、CDR3シークエンス並びにV、J及びC領域使用を含むV(D)J組換えによって体細胞再編成の最終産物を決定する。トランスクリプトーム及びTCR解析は、シングルセルRNA-seqを使用して組み合わせ、各細胞のマッチした発現プロファイル及びTCRを同定することができる。
【0059】
工程(c)で差次的発現遺伝子又はシグネチャーを含むTreg細胞及びTconv細胞のクラスター(細胞の群)の同定は、当技術分野で周知の、及び本出願の実施例に開示されるバイオインフォマティクス法を使用するsc-RNA-seqトランスクリプトームデータ解析によって実施される。試料毎のトランスクリプトームシークエンシングデータは、Cell Ranger及びSeuratのような適切なソフトウェアを使用して処理及び統合される。クラスター間で差次的発現遺伝子(シグネチャー)は、MASTを使用するFindAllMarkers関数によって同定され得る(Finak, McDavid, Yajimaら, 2015年)。クラスタリングの結果は、UMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction; McInnes, L. and Healy, J. (2018年)によって可視化され得る。クラスターは、Tconvのみ、Tregのみを含んでもよく、又は
図2に示したように混合してもよい。
【0060】
一部の実施形態では、工程(c)は、互いの間で差次的発現遺伝子を含むTreg及びTconv細胞の混合されたクラスターを同定する工程を更に含む。
【0061】
工程(d)でのTreg細胞の同定したクラスターの中で、機能性疾患特異的Treg細胞のクラスターの決定は、scTCR解析後、TCR拡大解析によって実施される。scTCR解析は、各組織のクロノタイプを決定し、異なる組織間でクロノタイプを解析する。TCR拡大解析は、組織によるクローン拡大を測定する。クロノタイプによる細胞の数は、各組織について決定される。クローンが1つより多くの細胞を含有する場合、それらは拡大したと考えられる。組織によって拡大したクローンのパーセンテージは、各患者について算出される。scRNA-seqトランスクリプトーム解析及びTCR情報から得られたペアにしたクラスターは、クラスターによる腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞のパーセンテージの算出を可能にする。
【0062】
機能性腫瘍特異的Treg(FT-Treg)は、以下の特徴全てを有するクラスター(又は細胞の群)に属する細胞として定義される: (i)CD4+ FOXP3+ Tregのクラスター: (i)血液中よりも高割合で疾患組織(特に腫瘍)又は流入領域LN(特に転移性腫瘍流入領域LN)で見出される(すなわち、腫瘍又はTDLNに蓄積する); (ii)疾患組織(特に腫瘍)からのTreg細胞において、クローン的に拡大したことが見出される特異性(TCR)を有する細胞が豊富である;及び(iii) 近年のTCRトリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーを有する細胞が豊富である。それらのTCRを介して抗原、特に腫瘍抗原を認識すると、Treg細胞が活性化、分裂、及び局所的に蓄積される。結果として、それらのトランスクリプトームは、これらの生物学的経路を反映する。例えば、それらのTCRを介した同種の抗原の認識は、とりわけ、REL、NKKB2、NR4A1、OX-40、4-1BBのようなTCR活性化下流の遺伝子、並びにMHCクラスII分子(HLA-DR)、CD39、CD137、GITRのようなTreg活性化の公知の遺伝子の上方制御を誘導する。一部の実施形態では、FT-Tregは、血液中よりも高割合で疾患組織(特に腫瘍)、及び最終的には流入領域LN(特に、転移性腫瘍流入LNのような腫瘍流入LN)でも見出される(すなわち、腫瘍及び最終的にはTDLNでも蓄積される)。
【0063】
一部の実施形態では、工程(a)及び工程(b)は、各患者について別々に実施され、工程(b)で得られた全ての患者からのデータは、統合され、工程(c)~(e)を実施する。
【0064】
一部の実施形態では、本発明に記載の機能性疾患特異的制御性T細胞マーカーの同定の方法は、治療目的の腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキングを更に含む。
【0065】
治療目的の腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキングは、好ましくは以下の工程:
- 工程1:細胞膜タンパク質をコードするn個の差次的発現遺伝子の画分を同定及び選択する工程;
- 工程2:正常組織においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及び正常組織において最低発現レベルの(最高)遺伝子の-1から最高発現レベルの(最低)遺伝子の-nまで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアAを割り当てる工程;
- 工程3:腫瘍組織においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及び腫瘍組織において最高発現レベルの(最高)遺伝子の+nから最低発現レベルの(最低)遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアBを割り当てる工程;
- 工程4:Tregを除く正常PBMCにおいてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及びTregを除く正常PBMCにおいて最低発現レベルの(最高)遺伝子の+nから最高発現レベルの(最低)遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアCを割り当てる工程;
- 工程5:Tregを除く腫瘍環境においてn個の選択された遺伝子の平均発現レベルを決定する工程及びTregを除く腫瘍環境において最低発現レベルの(最高)遺伝子の+nから最高発現レベルの(最低)遺伝子の+1まで、各遺伝子に少なくとも1つのスコアDを割り当てる工程;
- 工程6:i)正常組織-Tregと比較した腫瘍-Treg、及びii)Tconvと比較したTregにおいてn個の選択された遺伝子の相対発現レベルを決定する工程並びにi)(スコアE)正常な隣接組織のTregと比較した腫瘍のTreg、及びii)(スコアF)Tconvと比較したTregにおいて最高倍率変化の発現レベルの遺伝子の+nから最低倍率変化の遺伝子の+1まで、各遺伝子に2つのスコアE及びFを割り当てる工程;
- 工程7:割り当てたスコアを加算して、各遺伝子の累積評価値(SUM SCORE)を得る工程;並びに
- 工程8:累積評価値に基づく候補治療標的を決定する工程
を含むインフォーマティクス解析によって実施され得る。
【0066】
方法の様々な工程は、当技術分野で周知の、及び本実施例に開示される、周知の方法を使用して実施され得る。
【0067】
細胞膜タンパク質は、細胞表面タンパク質を指す。細胞膜タンパク質は、好ましくは細胞外ドメインを有する膜貫通又はGPIアンカータンパク質である。
【0068】
工程1は、Uniprot、Gene Ontology、ヒトタンパク質アトラス、及びその他のような公開データベースから入手可能なタンパク質配列アノテーションデータ、又はタンパク質の膜局在を決定するために利用可能な様々なウェブツールを使用して実施され得る。
【0069】
工程2は、The Genotype-Tissue Expression (GTEx)データベースのような公開データベースから入手可能な健常(正常)組織における遺伝子発現プロファイルからのデータを使用して実施され得る。全血及び脾臓のような免疫関連組織は、それらは本実施例に開示されるように工程4でより評価することができるため、工程2の健常組織から除外されてもよい。
【0070】
工程3は、The Cancer Genome Atlas (TCGA) RNAseqデータのような、公開データベースから入手可能な腫瘍の遺伝子発現プロファイルからのデータを使用して実施され得る。正常(健常)組織と比較して、いくつかの主ながん、特に肺がん、乳がん及び大腸がんでの発現レベルの倍率変化は、n個の標的遺伝子へのスコアの割り当てに使用されてもよい。
【0071】
工程4は、公開データベースから入手可能な正常PBMCの遺伝子発現プロファイルからのデータ、好ましくはシングルセル発現レベルからのデータを使用して実施され得る。好ましくは、工程(d)で同定された機能性腫瘍特異的Tregクラスターは血液中で同定され、このクラスターからの全ての細胞はデータセットから除去される。残りの細胞では、各標的の平均発現は、個々に工程(c)で同定された互いのクラスターで算出され、次いでクラスター平均の平均値を各データセットの各標的について算出する。
【0072】
工程5は、公開データベースから入手可能な腫瘍環境の遺伝子発現プロファイルからのデータ、好ましくはシングルセル発現レベルからのデータを使用して実施され得る。広範な腫瘍(NSCLC、乳がん、PDAC、メラノーマ、HCC、SCC、BCC及びその他)及び広範な細胞型(全ての免疫細胞だけでなく腫瘍細胞、上皮細胞、内皮細胞、がん関連線維芽細胞及び組織特異的細胞型)からのデータも、有利に使用される。腫瘍環境での各標的の平均発現は、工程4のPBMCのように決定されてもよい。
【0073】
工程6は、腫瘍Treg並びに腫瘍及び正常な隣接組織からのTconvにおける遺伝子発現プロファイルからのデータ、例えばバルクRNAseqからのデータを使用して実施され得る。2スコアは、腫瘍におけるTconvと比較したTregでの発現の倍率変化及び正常な隣接組織のTregと比較した腫瘍Tregでの発現の倍率変化が決定されてもよい。
【0074】
工程7 (データ統合)では、全てのスコアは平均され(平均値)、各パラメーターについて1つの値のみが定義される。各遺伝子の全スコアは、割り当てられたスコア(A、B、C、D及びE)を加算し、各遺伝子の累積評価値(SUM SCORE)を得ることによって決定される。次いで、遺伝子は、それらの全体的なスコアによってランク付けされ得る。各標的は、安全性(GTEx平均スコア)及び重要性(全パラメーターのSUMスコア)に関して更に特徴付けられ得る。両方のカットオフ値を定義するため、記載された活性化Treg標的のリストが使用され得る(IL2RA、ICOS、TNFRSF18、CCR8、CCR4、CTLA4、HAVCR2、ENTPD1、TNFRSF9)。安全性と重要性の両方のカットオフ値は、最低ランクの参照遺伝子の値として設定されてもよい。
【0075】
一部の実施形態では、治療目的の腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキングの上記の方法は、構造、機能、試薬の利用可能性、及び競争環境に関して、情報により治療標的化のための各遺伝子の可能性のプロファイルを完了する工程を更に含む。情報は、手動で精選され(データマイニング)、標準化されたファイルで提示され得る。
【0076】
一部の実施形態では、本発明に記載の機能性疾患特異的制御性T細胞マーカーの同定の方法は、以下の工程:
f1)機能性、疾患特異的、特に腫瘍特異的、Tregにおいて工程(e)で同定した前記分子マーカーの発現若しくは活性を阻害するか又は不活性化する工程;及び
g1)その阻害又は不活性化が、前記機能性、疾患特異的、特に腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性又は抑制機能を調節するマーカーからなる候補治療標的を同定する工程
を更に含む。
【0077】
本明細書で使用される場合、「前記分子マーカーの発現又は活性を阻害する工程」は、直接又は間接阻害を含む。直接阻害は、特異的に分子マーカーに向けられる。間接阻害は、限定せずに:リガンド又は共リガンド、前記分子マーカーの受容体又は共受容体;前記分子マーカー生物学的若しくはシグナル伝達経路の共因子若しくは共エフェクターのような、分子マーカー生物学的若しくはシグナル伝達経路の任意のエフェクターに向けられる。例えば、分子マーカーが転写因子又はキナーゼを含むシグナル伝達カスケードの下流の分子である場合、タンパク質キナーゼ阻害剤を使用して分子マーカーを阻害してもよい。調節は、前記腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖又は抑制機能の増加(刺激)又は減少(阻害)であり得る。前記腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖又は抑制機能の増加又は刺激は、標的が活性化因子によって標的化されるはずであるTreg抑制因子であることを示す。前記腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖又は抑制機能の増加又は阻害は、標的が阻害因子によって標的化されるはずであるTreg活性化因子であることを示す。
【0078】
一部の実施形態では、本発明に記載の方法は、以下の工程:
f2)機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的Tregにおいて工程(e)で同定された前記分子マーカーの表面発現を試験する工程;及び
g2)機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーを同定する工程
を更に含む。
【0079】
一部の好ましい実施形態では、前記疾患はがんである。好ましくは、がんは:非小細胞性肺がん(NSCLC);乳がん、皮膚がん、卵巣がん、腎臓がん、及び頭頸部がん;並びにラブドイド腫瘍;より好ましくは非小細胞性肺がん(NSCLC)を含む群から選択される。
【0080】
一部の他の実施形態では、前記疾患は、急性若しくは慢性炎症性疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患又は感染性疾患、移植片対宿主疾患、移植片拒絶から選択される。自己免疫疾患の非限定的な例としては:1型糖尿病、関節リウマチ、乾癬及び乾癬性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス(ループス)、クローン病及び潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患、アジソン病、グレーブス病、シェーグレン症候群、円形脱毛症、橋本甲状腺炎のような自己免疫性甲状腺疾患、重症筋無力症、HCV関連血管炎及び全身性血管炎を含む血管炎、ブドウ膜炎、筋炎、悪性貧血、セリアック病、ギランバレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発性ニューロパシー、強皮症、溶血性貧血、糸球体腎炎、自己免疫性脳炎、線維筋痛症、再生不良性貧血及びその他が挙げられる。炎症性疾患及びアレルギー疾患の非限定的な例としては:パーキンソン病のような神経変性障害、寄生虫感染症又は疾患様クルーズ・トリパノゾーマ感染のような慢性感染症、喘息のようなアレルギー、アテローム性動脈硬化症、慢性腎症、及びその他が挙げられる。疾患は、移植片拒絶、移植片対宿主疾患(GVHD)及び自然流産を含む、同種移植片拒絶であり得る。
【0081】
機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的Tregマーカーの同定の上記方法は、機能性サブセットでのTregの分類にも有用であり、Tregの異種性プールから機能性疾患特異的、特に腫瘍特異的Tregクラスター(FT-Treg)を区別する。一部の好ましい実施形態では、疾患はがんである。
【0082】
機能性腫瘍特異的Treg及びその分子マーカー
本発明は、本発明の方法によって同定された機能性腫瘍特異的Treg及びその分子マーカー、並びに特にバイオマーカー、治療標的又は研究ツールとして含むそれらの様々な応用にも関する。分子バイオマーカーは、特に、機能性腫瘍特異的Tregの検出、不活性化又は枯渇、分類又は研究のために使用される。
【0083】
特に、本発明は、Table1(表1)に列挙した、上方制御された及び下方制御された遺伝子の組合せを含む機能性腫瘍特異的Tregの遺伝子シグネチャーに関する。
【0084】
本発明は、Table1(表1)に示すように遺伝子シグネチャーを有する機能性腫瘍特異的Tregの単離した集団に関する。
【0085】
本発明は、Table1(表1)の遺伝子及びそれらのRNA又はタンパク質産物から選択される機能性腫瘍特異的Tregの分子マーカーにも関する。
【0086】
Table1(表1)は、機能性腫瘍特異的Tregの分子マーカー(col.1);ヒト遺伝子ID番号(col.2);公開シークエンスデータベースのヒトmRNA(col.3)及びタンパク質配列(col.4及び5)の受託番号の例示的な例;上方制御(+)又は下方制御(-)された遺伝子(col.6);細胞膜状態(col.7);細胞膜貫通状態(col.8)及び細胞表面発現(col.9)のリストを提供する。本発明は、例えば遺伝的多型性から生じるバリアントのような、前記遺伝子又は遺伝子産物の機能性バリアントを包含する。Table1(表1)に列挙した179遺伝子は、下方制御される4遺伝子:PPP2R5C、MT-ND4(別名:ND4)、GIMAP7、GIMAP4以外は、FT-Tregで全て上方制御される。
【0087】
一部の実施形態では、分子マーカーは、機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーである。そのようなマーカーは、抗体若しくは機能性断片又は抗原結合部位を含むその誘導体による腫瘍特異的Tregの検出又は標的化(活性化/不活性化又は枯渇)に有用である。
【0088】
一部の好ましい実施形態では、機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーは、Table1(表1)のリストから選択され、機能性腫瘍特異的Tregの前記細胞表面マーカーは: ADORA2A、CALR、CCR8、CD4、CD7、CD74、CD80、CD82、CD83、CSF1、CTLA4、CXCR3、HLA-B、HLA-DQA1、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、ICOS、IGFLR1、IL12RB2、IL1R2、IL21R、IL2RA、IL2RB、IL2RG、LRRC32、NDFIP2、NINJ1、NTRK1、SDC4、SLC1A5、SLC3A2、SLC7A5、SLCO4A1、TMPRSS6、TNFRSF18、TNFRSF1B、TNFRSF4、TNFRSF8、TNFRSF9、TSPAN13及びTSPAN17;好ましくはCCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、及びTNFR2 (TNFRSF1B);より好ましくはCD74、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなるか若しくはこれらを含む群から選択される。
【0089】
一部の特定の実施形態では、機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーは、Table1(表1)及びTable2(表2)のリストから選択され、機能性腫瘍特異的Tregの前記細胞表面マーカーは: CD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39 (ENTPD1)、HAVCR2 (TIM3)、IL2RA、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、CCR4及びTNFR2 (TNFRSF1B);好ましくはCD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなるか又はこれらを含む群から選択される。
【0090】
Tregでのマーカーの細胞表面発現は、マーカーの細胞外ドメインに対する抗体を使用するFACS解析のような当技術分野で公知の及び本出願の実施例に開示される標準的なアッセイによって試験され得る。
【0091】
一部の特定の実施形態では、分子マーカーは: CD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39 (ENTPD1)、HAVCR2 (TIM3)、IL2RA、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR、CCR4及びTNFR2 (TNFRSF1B);好ましくはCD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなる群から選択される。
【0092】
一部の好ましい実施形態では、分子マーカーは: CCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B);より好ましくはCD74、VDR、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなる群から選択される。
【0093】
一部の実施形態では、機能性腫瘍特異的Tregのマーカーは、候補治療標的である。特に、機能性腫瘍特異的Tregのマーカーは、機能性腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、不安定化及び/又は抑制機能を調節する。そのような候補治療標的は、当技術分野で公知の、及び本出願の実施例に開示される標準的なアッセイによって決定され得る。Treg不安定化は、Munnら, Cancer Res., 2018年, 78, 18, 5191~5199頁に開示される。
【0094】
例えば、候補治療標的は、以下の工程:
a)機能性、疾患特異的、特に腫瘍特異的Tregにおいて前記分子マーカーの発現若しくは活性を阻害するか又は不活性化する工程;及び
b)その阻害又は不活性化が、前記機能性、疾患特異的、特に腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性又は抑制機能を調節するマーカーからなる候補治療標的を同定する工程
を含む方法を使用して選択され得る。
【0095】
調節は、前記腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、抑制機能又は安定性の増加(刺激)又は減少(阻害)であり得る。前記腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性又は抑制機能の増加又は刺激は、標的が活性化因子によって標的化されるはずであるTreg抑制因子であることを示す。前記腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖又は抑制機能の増加又は阻害は、標的が阻害因子によって標的化されるはずであるTreg活性化因子であることを示す。
【0096】
上方制御されるTable1(表1)のマーカーは、阻害因子によって標的化されるはずである候補Treg活性化因子である。下方制御されるTable1(表1)のマーカーは、活性化因子によって標的化されるはずである候補Treg抑制因子である。一部の好ましい実施形態では、候補治療標的は、CD74、Vitamin D受容体(VDR)及びその他;好ましくはCD74、VDR、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1を含む群から選択される。
【0097】
例えば、CD74の阻害は、小分子又は抗MIF抗体によるその共受容体MIFのブロッキングによって実施され得る。VDRの阻害は、VDRシグナル伝達経路(VDRより先)の阻害によって実施され得る。
【0098】
一部の特定の実施形態では、治療標的は、Table1(表1)及びTable2(表2)のリストから選択される機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーであり、前記治療標的は: CD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、HAVCR2 (TIM3)、IL2RA、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、CCR4及びTNFR2 (TNFRSF1B);好ましくはCD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなるか、又はこれらを含む群から選択される。
【0099】
一部の好ましい実施形態では、治療標的は、Table1(表1)のリストから選択される機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーであり、前記治療標的は: ADORA2A、CALR、CCR8、CD4、CD7、CD74、CD80、CD82、CD83、CSF1、CTLA4、CXCR3、HLA-B、HLA-DQA1、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、ICOS、IGFLR1、IL12RB2、IL1R2、IL21R、IL2RA、IL2RB、IL2RG、LRRC32、NDFIP2、NINJ1、NTRK1、SDC4、SLC1A5、SLC3A2、SLC7A5、SLCO4A1、TMPRSS6、TNFRSF18、TNFRSF1B、TNFRSF4、TNFRSF8、TNFRSF9、TSPAN13及びTSPAN17;好ましくは、CCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、及びTNFR2 (TNFRSF1B);より好ましくはCD74、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなるか、又はこれらを含む群から選択される。
【0100】
一部の特定の実施形態では、治療標的は:CD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39 (ENTPD1)、HAVCR2 (TIM3)、IL2RA、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR、CCR4及びTNFR2 (TNFRSF1B);好ましくはCD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなる群から選択される。
【0101】
一部の好ましい実施形態では、治療標的は: CCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B);より好ましくはCD74、VDR、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなる群から選択される。
【0102】
本発明は、少なくとも2個、例えば2~10個(2、3、4、5、6、7、8、9、10個)又はそれ以上の機能性腫瘍特異的Tregのマーカーを含むマーカーの組合せも包含する。一部の実施形態では、組合せは、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)からの、好ましくは機能性腫瘍特異的Tregの上記に列挙した細胞表面マーカーから選択される少なくとも2個の異なるマーカーを含む。一部の好ましい実施形態では、組合せは、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)からの、好ましくは機能性腫瘍特異的Tregの上記に列挙した細胞表面マーカーから選択される2~10個(2、3、4、5、6、7、8、9、10個)又はそれ以上のマーカーを含む。一部の実施形態では、マーカーの組合せは、代謝状態、阻害サイトカインの産生若しくはその他のような生物学的機能、経路のクラスターシグネチャー;又は転写因子及び上流制御因子のクラスターシグネチャーである。
【0103】
がんの診断、予後、モニタリング
Tregは抗腫瘍免疫応答を活発に抑制し、Tregの頻度の上昇が多くのヒトがんで見出され、不良な臨床転帰と関連する。したがって、前記マーカーの組合せを含む本発明に記載の機能性腫瘍特異的Treg及びそのマーカーは、がんの診断、予後及びモニタリングのバイオマーカーとして有用である。
【0104】
したがって、本発明は、がんの診断、予後及びモニタリングのためのバイオマーカーとして、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Treg又はマーカー又はそれらのマーカーの組合せのin vitroでの使用に関する。
【0105】
本発明は、対象からの腫瘍試料において、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregの存在を検出する工程を含む、がんの診断、予後又はモニタリングのin vitro方法にも関する。検出は、本開示に記載のFT-Tregの同定の方法の工程(a)~(d)に従って実施され得る。検出は、半定量的又は定量的であってもよく、機能性腫瘍特異的Tregの存在又はレベルの検出を含んでもよい。
【0106】
本発明は、対象からの腫瘍試料において、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregの少なくとも1つのマーカーの発現を検出する工程を含む、がんの診断、予後又はモニタリングのin vitro方法にも関する。
【0107】
一部の実施形態では、機能性腫瘍特異的Tregの分子マーカーは、Table1(表1)の遺伝子及びそれらのRNA又はタンパク質産物から選択される。
【0108】
一部の特定の実施形態では、分子マーカーは、Table1(表1)及びTable2(表2)のリストから選択される機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーであり、前記治療標的は:CD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、HAVCR2 (TIM3)、IL2RA、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、CCR4及びTNFR2 (TNFRSF1B);好ましくはCD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなるか又はこれらを含む群から選択される。
【0109】
一部の特定の実施形態では、分子は、Table1(表1)のリストから選択される機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーであり、前記治療標的は: ADORA2A、CALR、CCR8、CD4、CD7、CD74、CD80、CD82、CD83、CSF1、CTLA4、CXCR3、HLA-B、HLA-DQA1、HLA-DRB5のようなHLA-DR、ICAM1、ICOS、IGFLR1、IL12RB2、IL1R2、IL21R、IL2RA、IL2RB、IL2RG、LRRC32、NDFIP2、NINJ1、NTRK1、SDC4、SLC1A5、SLC3A2、SLC7A5、SLCO4A1、TMPRSS6、TNFRSF18、TNFRSF1B、TNFRSF4、TNFRSF8、TNFRSF9、TSPAN13及びTSPAN17;好ましくはCCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DRB5のようなHLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、及びTNFR2 (TNFRSF1B);より好ましくはCD74、IL12RB2、HLA-DRB5のようなHLA-DR, ICAM1及びCSF1からなるか又はこれらを含む群から選択される。
【0110】
一部の特定の実施形態では、分子マーカーは:CD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39 (ENTPD1)、HAVCR2 (TIM3)、IL2RA、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR、CCR4及びTNFR2 (TNFRSF1B);好ましくはCD177、CCR8、CD80、ICOS、CD39、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B)からなる群から選択される。
【0111】
一部の好ましい実施形態では、分子マーカーは: CCR8、CD80、ICOS、IL12RB2、CTLA-4、4-1BB (TNFRS9)、TNFRSF18 (GITR)、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1、CSF1、CD74、OX-40 (TNFRSF4)、CXCR-3、VDR及びTNFR2 (TNFRSF1B);より好ましくはCD74、VDR、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1からなる群から選択される。
【0112】
一部の実施形態では、方法は、Table1(表1)からの少なくとも2個の異なるマーカーの組合せの検出を含む。一部の特定の実施形態では、上記に列挙したように、Table1(表1)からの少なくとも2個の異なるマーカーの組合せは、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)からの少なくとも1つの分子、好ましくは上記に列挙したように少なくとも1個の細胞表面マーカーを含む。
【0113】
一部の実施形態では、分子マーカーは、本開示に記載のFT-Tregの同定の方法の工程(a)~(d)に従って同定されたFT-Tregのサブセットにおいて検出される。
【0114】
検出は、半定量的又は定量的であってもよく、マーカーの存在又は発現のレベルの検出を含んでもよい。検出は、腫瘍全体で、又はTregを含むか若しくはTregからなる単離細胞の画分で実施されてもよい。発現は、タンパク質レベルのRNAで決定され得る。発現のレベルは、マーカーRNA若しくはタンパク質の量又は前記RNA若しくはタンパク質を発現する細胞の数を指し得る。解析する試験試料での発現のレベルは、予定値と、又は平行して試験した対照試料によって得られた値と比較される。典型的には、患者試料における発現レベルは、前記予定値のものに対する前記患者における前記マーカーの発現レベルの比が、1.2、好ましくは1.5、更により好ましくは2、更により好ましくは5、10又は20より高いか低い場合、母集団又は健常対照から得られた予定値よりも高いか低いと思われる。
【0115】
本明細書で使用される場合、用語「マーカーの予定値」は、母集団から又は対象の選択された集団から得られた生物学的試料におけるマーカーの量を指す。例えば、母集団は、がんの存在を示すいずれの兆候又は症状も以前に示さなかった個体のような、明らかな健常対象を含んでもよい。用語「健常対象」は、本明細書で使用される場合、いずれの公知の状態も患っていない、特にいずれのがんにも冒されていない対象の集団を指す。別の実施例では、予定値は、確立されたがんを有するが、抗がん剤によって処置された場合、がん種の臨床的に顕著な軽減を示す対象の選択された集団から得られたマーカーの量であり得る。予定値は、閾値、又は範囲であり得る。予定値は、明らかな健常対象と確立されたがんを有する対象の間の比較測定に基づいて確立され得る。
【0116】
前記マーカーの発現は、当業者に公知の任意の好適な方法によって決定されてもよい。通常、これらの方法は、mRNA又はタンパク質の量を測定する工程を含む。mRNAの量を決定する方法は、当技術分野で周知である。例えば、試料中に含有されるmRNAは、まず標準的な方法、例えば、試料中に含有されるmRNAは、まず、例えば、溶菌酵素又は化学溶液を使用する標準的な方法によって抽出されるか、又は製造業者の説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出される。抽出されたmRNAは、次いで、ハイブリダイゼーション(例えばノーザンブロット解析)及び/又は増幅(例えばRT-PCR)によって検出される。定量的又は半定量的RT-PCRが好ましい。好ましい実施形態では、mRNA発現レベルは、RNAseq法によって、より好ましくはシングルセルRNA-seqによって測定される。RNAseqを使用して、細胞のトランスクリプトームを解析することができる。RNAseq、好ましくはシングルセルRNAseqは、本出願の実施例に開示されるように、例えばプレート、マイクロ又はナノウェル、液滴ベースのマイクロ流体、マイクロ流体、チューブで実施され得る。
【0117】
タンパク質発現は、当業者に公知の任意の好適な方法によって決定されてもよい。通常、これらの方法は、細胞試料、好ましくは細胞ライセートを、試料中に存在するタンパク質と選択的に相互作用することができる結合パートナーと接触させる工程を含む。結合パートナーは、通常、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。タンパク質の量は、例えば、半定量的ウェスタンブロット、ELISA、ビオチン/アビジン型アッセイ、放射免疫アッセイ、免疫電気泳動法若しくは免疫沈降のような酵素標識及び媒介免疫アッセイ、又はタンパク質若しくは抗体アレイによって測定されてもよい。反応は、通常、蛍光、化学発光、放射性、酵素標識若しくは色素分子のような標識を暴露する工程、又は抗原と、それらと反応する抗体若しくは複数の抗体との間での複合体の形成を検出する他の方法を含む。
【0118】
がんの診断、予後又はモニタリングの上記の方法の一部の実施形態では、検出工程は、対象からの腫瘍流入領域リンパ節試料及び/又は血液試料で更に実施される。血液試料は、対照として寄与し得る。
【0119】
一部の実施形態では、方法は、腫瘍試料において、最終的には対象からの腫瘍流入領域リンパ節試料及び/又は血液試料においても、マーカーの発現レベルを検出する工程を含む。
【0120】
患者試料におけるマーカーの存在又はレベルは、がん処置を受ける前又はがん処置中の患者のがんの望ましくない転帰を示している。望ましくない転帰は、患者の生存時間の減少、腫瘍進化の増加、転移の増加、又はがんの再発の増加の1つ又はそれ以上を含む。
【0121】
一部の実施形態では、方法は、患者のがんの転帰が望ましいか望ましくないか、前記マーカーの存在、不在又は発現のレベルから決定する更なる工程を含む。
【0122】
一部の実施形態では、方法は、患者の腫瘍試料における機能性腫瘍特異的Tregの前記マーカーの存在、不在又は発現のレベルに基づき、患者を望ましいか又は望ましくない転帰カテゴリーに分類する更なる工程を含む。
【0123】
この工程は、望ましくない転帰のリスクがあり、より積極的な又は標的化した治療から利益を得るはずである患者を決定する工程により処置を改善する。
【0124】
一部の実施形態では、マーカーは、治療標的又は治療標的の組合せであり、特にTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)に列挙した治療標的から;より好ましくは上記に列挙したようにTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の細胞表面マーカーから選択される。この実施形態では、患者試料中のマーカーの存在又はレベルは、患者が前記治療標的を標的化する治療の反応者であることを示す。この方法は、前記処置の投与前に処置の応答者でありそうな患者を決定することによりがん処置の有効性を改善する。
【0125】
本明細書で使用される場合、用語「がん」は、以下の組織又は器官:乳房;肝臓;腎臓;心臓;縦隔;肋膜;口腔底;唇;唾液腺;舌;歯肉;口腔;口蓋;扁桃;喉頭;気管;気管支、肺;咽頭、下咽頭、中咽頭、鼻咽頭;食道;胃、肝内胆管、胆道、膵臓、小腸、大腸のような消化器官;直腸;膀胱、胆嚢、尿管のような泌尿器官;直腸S状結腸移行部;肛門、肛門管;皮膚;骨;関節;肢の関節軟骨;目及び付属器;脳;末梢神経;自立神経系;脊髄;脳神経;髄膜;及び中枢神経系の様々な部分;結合組織、皮下組織及びその他の軟組織;後腹膜、腹膜;副腎;甲状腺;内分泌腺及び関連する構造;卵巣、子宮、子宮頸部のような女性器;子宮体、膣、陰門;陰茎、精巣及び前立腺のような男性器;造血及び細網内皮系;血液;リンパ節;胸腺のいずれか1つを冒し得る任意のがんを指す。
【0126】
本発明に記載の用語「がん」は、白血病、セミノーマ、メラノーマ、テラトーマ、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、腺癌、中皮腫(胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫及び末期の中皮腫を含む)、直腸がん、子宮内膜がん、甲状腺がん(甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、甲状腺髄様癌、未分化甲状腺がん、多発性内分泌腫瘍症2A型、多発性内分泌腫瘍症2B型、家族性甲状腺髄様がん、褐色細胞腫及び傍神経節腫を含む)、皮膚がん(悪性メラノーマ、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、角化棘細胞腫、黒子、異形成母斑、脂肪腫、血管腫及び皮膚線維腫を含む)、神経系がん、脳がん(星状細胞腫、髄芽細胞腫、神経膠腫、低悪性度神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫(松果体腫)、多形神経膠芽腫、乏突起膠腫、シュワン腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍、脊髄神経線維腫、神経膠腫又は肉腫を含む)、頭蓋骨がん(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫又は変形性骨炎を含む)、髄がん(髄膜腫、髄膜肉腫又は神経膠腫を含む)、頭頸部がん(頭頸部扁平上皮癌及び口腔がん(例えば、頬側口腔がん、口唇がん、舌がん、口腔がん又は咽頭がんなど)を含む)、リンパ節がん、消化器がん、肝臓がん(肝細胞腫、肝細胞癌、胆管細胞癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫及び血管腫を含む)、大腸がん、胃(stomach)又は胃(gastric)がん、食道がん(扁平上皮細胞癌、喉頭、腺癌、平滑筋肉腫又はリンパ腫を含む)、結腸直腸がん、腸がん、小腸(small bowel)又は小腸(small intestines)がん(例えば、腺癌リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫又は線維腫など)、大腸(large bowel)又は大腸(large intestines)がん(例えば、腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫又は平滑筋腫)、膵臓がん(管状腺癌、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍又はVIP産生腫瘍を含む)、耳鼻咽喉(ENT)がん、乳がん(HER2-enriched乳がん、luminal A乳がん、luminal B乳がん及び三種陰性乳がんを含む)、子宮のがん(子宮内膜癌、子宮内膜間質肉腫及び悪性混合ミュラー腫瘍のような子宮内膜がん、子宮肉腫、平滑筋肉腫及び妊娠性絨毛疾患を含む)、卵巣がん(未分化胚細胞腫、顆粒膜莢膜細胞腫瘍及びセルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍を含む)、子宮頸がん、膣がん(膣扁平上皮癌、膣腺癌、明細胞膣腺癌、膣胚細胞腫瘍、膣ブドウ状肉腫及び膣メラノーマを含む)、外陰がん(外陰扁平上皮がん、いぼ状外陰癌、外陰メラノーマ、基底細胞外陰癌、バルトリン腺癌、外陰腺癌及びケーラー紅色肥厚症を含む)、尿生殖器管がん、腎臓がん(明細胞型腎細胞癌、嫌色素細胞性腎癌、乳頭状腎細胞癌、腺癌、ウィルムス腫瘍、腎芽細胞腫、リンパ腫又は白血病を含む)、副腎がん、膀胱がん、尿道がん(例えば、扁平上皮癌、移行細胞癌又は腺癌など)、前立腺がん(例えば、腺癌又は肉腫など)及び精巣がん(例えば、セミノーマ、テラトーマ、胚性癌、奇形癌腫、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、線維腫、線維腺腫、腺腫様腫瘍又は脂肪腫など)、肺がん(小細胞性肺癌(SCLC)、扁平上皮肺癌、肺腺癌(LUAD)、及び大細胞肺癌を含む非小細胞性肺癌(NSCLC)、気管支原性肺癌、肺胞癌、細気管支癌、気管支腺腫、肺肉腫、軟骨性過誤腫及び胸膜中皮腫を含む)、肉腫(アスキン腫瘍、ブドウ状肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫及び軟組織肉腫を含む)、軟組織肉腫(胞状軟部肉腫、血管肉腫、葉状嚢胞肉腫、隆起性皮膚線維肉腫、類腱腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、類上皮肉腫、骨外性軟骨肉腫、骨外性骨肉腫、線維肉腫、消化管間質腫瘍(GIST)、血管外皮腫、血管肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、リンパ肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、神経線維肉腫、網状筋腫球性腫瘍、横紋筋肉腫、滑膜肉腫及び未分化多形性肉腫を含む)、噴門がん(肉腫、例えば血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫又は脂肪肉腫、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫及びテラトーマを含む)、骨がん(骨原性肉腫、骨肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫及び細網肉腫、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫瘍、脊索腫、骨軟骨腫(osteochronfroma)、骨軟骨性外骨症、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨骨腫及び巨細胞腫を含む)、血液及びリンパのがん、血液がん(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、及び骨髄異形成症候群を含む)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫及びヘア
リー細胞及びリンパ球障害、並びにこれらの転移を含む。
【0127】
一部の実施形態では、がんは:非小細胞性肺がん(NSCLC);乳がん、皮膚がん、卵巣がん、腎臓がん及び頭頸部がん;並びにラブドイド腫瘍;好ましくは非小細胞性肺がん(NSCLC)からなる群から選択される。
【0128】
がん処置
Tregは、抗腫瘍免疫応答を活発に抑制し、Tregを枯渇/不活性化することは、抗腫瘍応答を増加するのに大いに価値があることが実証されている。したがって、候補治療標的である、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregのマーカーは、例えば、養子細胞治療を含む細胞治療、Treg細胞の選択的枯渇又は機能性変更を誘導する抗体、サイトカイン又は化学薬品に基づくアプローチを含む、新しい抗がん剤及びがん治療の開発に有用である。腫瘍特異的Tregの選択的阻害は、健常な組織からのエフェクターT細胞及びTregを保存しながら(免疫恒常性を維持し、自己免疫を制御する)、全身性自己免疫を誘発することなく、有効な抗腫瘍免疫の増強をもたらすはずである、より有効且つ安全な戦略を提示する。
【0129】
したがって、本発明は、がんを処置する方法でのTreg不活性化又はTreg枯渇剤としての使用のための薬剤又は薬剤の組合せに関する。
【0130】
一部の実施形態では、前記薬剤は、不活性なTregに使用される、本開示に記載の治療標的のモジュレーターである。
【0131】
一部の実施形態では、治療標的は、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の遺伝子、並びにそれらのRNA又はタンパク質産物から選択される。一部の特定の実施形態では、治療標的は、上記に列挙したようにTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の細胞表面マーカー、並びにそれらのRNA又はタンパク質産物から選択される。一部の好ましい実施形態では、治療標的は; CD74、Vitamin D受容体(VDR)及びその他;より好ましくはCD74、VDR、IL12RB2、HLA-DR、特にHLA-DRB5、ICAM1及びCSF1を含む群から選択される。
【0132】
一部の実施形態では、薬剤の組合せは、それらのRNA又はタンパク質産物を含む、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)からの少なくとも2個の異なる遺伝子を標的化する治療標的のモジュレーターの組合せを含む。一部の特定の実施形態では、組合せは、上記に列挙したように、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の少なくとも1つの細胞表面マーカー、並びにそれらのRNA又はタンパク質産物を標的化する。
【0133】
モジュレーターは、治療標的の活性若しくは発現を阻害又は刺激し得る。本明細書で使用される場合、「前記分子マーカーの発現若しくは活性の阻害又は刺激」は、直接又は間接阻害又は刺激を含む。直接阻害又は刺激は、分子マーカーに特異的に向けられる。間接阻害又は刺激は、限定せずに:リガンド又は共リガンド、前記分子マーカーの受容体又は共受容体;前記分子マーカーの生物学的若しくはシグナル伝達経路の共因子若しくは共エフェクターのような、分子マーカーの生物学的若しくはシグナル伝達経路の任意のエフェクターに向けられる。例えば、MIF共受容体としてのCD74機能の阻害は、小分子又は抗MIF抗体を使用することによって実施され得る。VDRの阻害は、VDRシグナル伝達経路(VDRより先)の阻害によって実施され得る。
【0134】
モジュレーターは、(機能性)腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性及び/又は抑制機能を阻害又は減少させる。治療標的の発現若しくは活性への薬剤の阻害又は刺激活性、又は(機能性)腫瘍特異的Treg細胞の生存能力、増殖、安定性及び/又は抑制機能へのその阻害又は減少活性は、当技術分野で公知であり、本出願の実施例に開示される標準的なアッセイによって試験され得る。
【0135】
一部の好ましい実施形態では、モジュレーターは治療標的の活性を阻害又は刺激する。活性のモジュレーターは:小有機分子、アプタマー、抗体、及び例えばドミナントネガティブ変異体又は治療標的タンパク質の機能性断片のような他のアゴニスト又はアンタゴニストを含む群から選択され得る。
【0136】
用語「小有機分子」は、医薬品で通常使用される有機分子のものに匹敵するサイズの分子を指す。用語は、生体高分子(例えば、タンパク質、核酸等)を除外する。好ましい小有機分子は、サイズが最大約5000Da、より好ましくは最大2000Da、及び最も好ましくは最大約1000Daの範囲である。様々な小有機分子阻害剤又はアンタゴニストが当技術分野で公知である。新しい小分子阻害剤の同定は、当分野の伝統的な技術に従って達成され得る。ヒット化合物を同定する現在の広く行われているアプローチは、ハイスループットスクリーニング(HTS)の使用による。
【0137】
アプタマーは、分子認識に関して抗体の代替を示す分子のクラスである。アプタマーは、高親和性及び特異性で事実上いずれのクラスの標的分子も認識する能力を有するオリゴヌクレオチド又はオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C. and Gold L., 1990年に記載されるように、ランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment (SELEX))によって単離され、場合により化学的に改変され得る。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリンの少なくとも1つの抗原結合領域を含むタンパク質を指す。抗原結合領域は、例えばVHドメイン及びVLドメイン又は単一VHH又はVNARドメインのような1つ又は2つの可変ドメインを含み得る。用語「抗体」は、任意のアイソタイプの全長免疫グロブリン、少なくとも抗原結合領域を含むそれらの機能性断片及びそれらの誘導体を包含する。抗体の抗原結合断片としては、例えば、Fv、scFv、Fab、Fab’、F(ab')2、Fd、Fabc及びsdAb (VHH、V-NAR)が挙げられる。抗体誘導体は、制限なく、多特異性又は多価抗体、細胞内抗体及び免疫複合体を含む。細胞内抗体は、同じ細胞内で産生された後に細胞内でそれらの抗原に結合する抗体である(検討のため、例えばMarschall AL, Duebel S and Boeldicke T “Specific in vivo knockdown of protein function by intrabodies”, MAbs. 2015年;7(6):1010~35頁参照)。抗体は、グリコシル化されてもよい。抗体は、抗体依存的細胞障害性及び/又は補体媒介細胞障害性に機能的であり得るか、又はこれらの活性の1つ又は両方に非機能的であってもよい。抗体は、ハイブリドーマ技術、選択リンパ球抗体法(SLAM)、トランスジェニック動物、組換え抗体ライブラリー又は合成産生のような当技術分野で周知の標準的な方法によって調製される。
【0139】
一部の特定の実施形態では、モジュレーターは、治療標的の活性を阻害する。
【0140】
一部の他の特定の実施形態では、モジュレーターは、治療標的の発現を阻害する。一部の好ましい実施形態では、阻害剤は:アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA分子、リボザイム及びゲノム又はエピゲノム編集システムを含む群から選択される。
【0141】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNA、DNA又は混合であり、改変されてもよい。干渉RNA分子は、制限無く、siRNA、shRNA及びmiRNAを含む。ゲノム及びエピゲノム編集システムは、CRISPR/Cas、TALEN、Zinc-Fingerヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼのような任意の公知のシステムに基づいてもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA分子、リボザイム、ゲノム及びエピゲノム編集システムは、当技術分野で周知であり、本発明に記載の治療標的の阻害剤は、当技術分野で周知の治療標的の配列を使用するこれらの技術に基づいて容易に設計され得る。
【0142】
一部の他の実施形態では、薬剤は、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーに結合する分子、及びTregを不活性化又は不安定化する化合物を含み、Tregを不活性化するために使用される。
【0143】
機能性腫瘍特異的Tregの前記細胞表面マーカーに結合する分子は、好ましくは抗体又は抗原結合部位を含むその機能性断片である。抗体は、機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーの細胞外ドメインに向けられる。
【0144】
Tregを不活性化又は不安定化する化合物は当技術分野で周知であり、制限無く、シクロホスファミド(Lutsiakら, Blood, 2005年, 105, 2862~2868頁)、フルダラビン、ゲムシタビン、及びミトキサントロン(Dwarakanathら, Cancer Rep., 2018年, 1, e21105; Wangら, Cell Rep., 2018年, 23, 3262~3274頁);Treg枯渇抗体(抗CTLA-4、抗CD25、抗CCR5、抗CCR4のような; Dwarakanathら, Cancer Rep., 2018年, 1, e21105);例えばTreg又はエフェクター細胞に特異的選択性を有する高用量IL-2(がんにおいてエフェクター細胞を刺激する)、及びIL-2誘導体(IL-2/抗IL-2複合体、ペグ化IL-2;再表面化IL-2バリアント(Perol, L., Piaggio, E., 2016年. New Molecular and Cellular Mechanisms of Tolerance: Tolerogenic Actions of IL-2, in: Cuturi, M.C., Anegon, I. (Eds.), Suppression and Regulation of Immune Responses. Springer New York, New York, NY, 11~28頁)を含むサイトカイン及び改変サイトカインのような、Treg関連経路を調節する化学薬品を含む。
【0145】
薬剤は、例えばTreg又はエフェクター細胞に特異的選択性を有するIL-2及びIL-2誘導体(IL-2/抗IL-2複合体、再表面化IL-2バリアント)を含むサイトカイン又は改変サイトカインのようなTregを阻害するタンパク質化合物に融合した免疫複合体、二重特異性抗体又は抗体であってもよい。
【0146】
一部の他の実施形態では、薬剤は、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーに結合する分子を含む細胞障害性薬及び細胞傷害性化合物であり、Tregを枯渇するために使用される。
【0147】
機能性腫瘍特異的Tregの前記細胞表面マーカーに結合する分子は、好ましくは抗体又は抗原結合部位を含むその機能性断片である。抗体は、機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーの細胞外ドメインに向けられる。細胞傷害性化合物は、毒素、抗生物質、放射性同位元素及び核酸分解酵素のような免疫毒素中で使用される任意の細胞傷害性化合物である。
【0148】
一部の他の実施形態では、薬剤は、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregの細胞表面マーカーに向けられる細胞障害性抗体であり、Tregを枯渇するために使用される。細胞障害性抗体は、CDC又はADCC活性を有し得る。
【0149】
一部の実施形態では、薬剤は、組換えベクターによって送達される。組換えベクターは、例えばプラスミド及びウイルスベクターを含む、遺伝子工学及び遺伝子治療で使用される通常のベクターを含む。
【0150】
薬剤は、in vivo又はex vivo(細胞ベース治療)で腫瘍特異的Treg細胞を不活性化又は枯渇するために使用され得る。細胞ベース治療は、当技術分野で周知の標準的な方法を使用する患者の腫瘍生検からの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の調製を含む。TILは、通常、患者の腫瘍に存在する機能性腫瘍特異的Tregを不活性化又は枯渇する本発明に記載の薬剤による処置の前にin vitroで増殖される。処置後、TILは、患者に再注入される。
【0151】
本発明は、Table1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の上方制御された遺伝子の少なくとも1つを欠損する、又はTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の下方制御された遺伝子の少なくとも1つ、特に上記に列挙したTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の細胞表面マーカーの少なくとも1つを過剰発現する操作されたTreg細胞も包含する。本開示に記載のTregの遺伝子改変は、全身性自己免疫を誘発することなく、有効な抗腫瘍免疫の増強をもたらす。
【0152】
一部の実施形態では、操作されたTreg細胞は、標的抗原に特異的に結合する少なくとも1つの遺伝子操作した抗原受容体を更に含む。標的抗原は、好ましくはがん細胞で発現され、及び/又は一般的な腫瘍抗原である。遺伝子操作した抗原受容体は、好ましくはキメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である。
【0153】
本発明は、Treg細胞においてTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の少なくとも1つの上方制御された遺伝子を破壊する工程、又はTreg細胞においてTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の下方制御された遺伝子、特に上記に列挙したようにTable1(表1)又はTable1(表1)及びTable2(表2)の少なくとも1つの細胞表面マーカー、又はその機能性構築物を導入する工程を含む、本開示に記載の操作されたTreg細胞を産生する方法にも関する。好ましくは、方法は、前記Treg細胞に、標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作した抗原受容体を導入する工程を更に含む。方法は、標準的なノックイン及びノックアウト技術によって、好ましくはCRISPR/Cas、TALEN及びメガヌクレアーゼのような遺伝子編集システムを使用して実施される。
【0154】
一部の実施形態では、Treg細胞は、自己Treg細胞又は同種Treg細胞であり得る腫瘍特異的Treg細胞である。Treg細胞は、好ましくは、本開示に記載の機能性腫瘍特異的Tregである。FT-Tregは、患者腫瘍生検から単離される。
【0155】
本発明は、がんの養子細胞治療での使用のための、本開示に記載の、又は本開示の方法によって得られた操作されたTreg細胞、又は医薬組成物若しくは前記操作されたTreg細胞を含むキットに更に関する。
【0156】
薬剤又は操作されたTregは、活性物質として薬剤、ベクター又は本発明に記載の操作されたTreg、並びに少なくとも1つの薬学的に許容されるビヒクル及び/又は担体を含む医薬組成物の形態で有利に使用される。
【0157】
医薬組成物は、限定はされないが、経口、非経口及び局所を含む多くの経路による投与のために製剤化される。医薬ビヒクルは、当技術分野で周知の投与の計画ルートに適切なものである。
【0158】
医薬組成物は、それが投与される個体において正の医学的応答を示すのに十分な治療有効量の薬剤、ベクター又は操作されたTregを含む。正の医学的応答は、その後の(予防処置)又は確定した(治療処置)疾患症状の減少を指す。正の医学的応答は、疾患の症状の部分又は全阻害を含む。正の医学的応答は、疾患の目的の臨床徴候及び/又は生存の増加のような様々な対象パラメーター又は基準を測定することによって決定され得る。本発明に記載の組成物への医学的応答は、当技術分野で周知の疾患の適切な動物モデルで容易に実証することができる。
【0159】
薬学的に有効な用量は、使用する組成物、投与の経路、処置される哺乳動物の種類(ヒト又は動物)、当医学分野の業者に認識されるであろう検討、併用投薬、及び他の因子下での特定の哺乳動物の生理的特徴に依存する。
【0160】
「治療レジメン」により、病気の処置のパターン、例えば治療中に使用される用量のパターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。語句「導入レジメン」又は「導入期間」は、疾患の初期処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的なゴールは、処置レジメンの初期中に患者に高レベルの薬物を提供することである。導入レジメンは、「負荷レジメン」を(一部又は全体に)用いてもよく、維持レジメン中に医師が用いるよりも高用量の薬物を投与する工程、維持レジメン中に医師が薬物を投与するよりもより頻繁に薬物を投与する工程、又は両方を含み得る。語句「維持レジメン」又は「維持期間」は、病気の処置中に患者の維持、例えば長期間(数ヶ月又は数年)、患者を寛解状態に維持するために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続治療(例えば、一定間隔、例えば毎週、毎月、毎年等で薬物を投与する工程)又は間欠治療(例えば、断続的処置、間欠処置、再発時の処置、又は特定の所定の基準[例えば、痛み、疾患発現等]到達時の処置)を用いてもよい。
【0161】
本発明の医薬組成物は、通常、個体に有益な効果を導入するのに有効な投与量及び期間で、公知の手順に従って投与される。投与は、注入によるか又は経口、舌下、鼻腔内、直腸又は膣内投与、吸入、又は経皮適用により得る。注入は、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮内又はその他であり得る。
【0162】
一部の実施形態では、医薬組成物は、特に、免疫調節剤、抗がん剤又は腫瘍抗原のような別の活性薬剤を含む。
【0163】
本発明の医薬組成物は、制限無く:免疫チェックポイント療法及び免疫チェックポイント阻害剤を含む免疫療法、共刺激抗体、CAR-T細胞療法、抗がんワクチン;化学療法及び/又は放射線治療のような更なるがん治療と組み合わせて有利に使用される。併用療法は、別々、同時、及び/又は順番であってもよい。
【0164】
一部の好ましい実施形態では、がんは:非小細胞性肺がん(NSCLC);乳がん、皮膚がん、卵巣がん、腎臓がん、及び頭頸部がん;並びにラブドイド腫瘍;より好ましくは非小細胞性肺がん(NSCLC)を含む群から選択される。
【0165】
一部の実施形態では、医薬組成物は、ヒトの処置のために使用される。
【0166】
一部の実施形態では、医薬組成物は、動物の処置のために使用される。
【0167】
本発明の実施は、他に指定しない限り、当業者の範囲内である従来技術を用いるであろう。そのような技術は、文献中に完全に説明されている。
【0168】
本発明は、ここで、限定ではないが、添付の図面を参照して以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0169】
(実施例1)
機能性腫瘍特異的Treg(FT-Treg)マーカーの同定
材料及び方法
1.工程1:臨床試料収集
血液、腫瘍流入領域リンパ節(TDLN)及び腫瘍のマッチした試料は、標準治療の外科的切除を受けた非小細胞性肺がん(NSCLC)を有する5人の患者から収集した。試料は、IHC、NGS及びCytoscanによるゲノム異常の検出によって特徴付けられた。患者は、欧州倫理ガイダンスに従って、同意書にサインした。
【0170】
2.工程2:細胞単離
試料は、最初の外科手術後4時間以内に処理し、小さい断片に切断し、CO2に依存しない培地(GIBCO)の添加前に30分間、0.1mg/ml DNase (Roche社)の存在下で0.1mg/mL Liberase TL (Roche社)によって消化した。次いで細胞を濾過し、40μmセルストレーナー(BD)の2.5mLシリンジのプランジャーによって機械的に分離し、0.4%ヒトBSAを含むCO2に依存しない培地(GIBCO)によって洗浄した。
【0171】
3.工程3:scRNAseq(トランスクリプトーム及びTCR)
各組織について、Treg (DAPI- CD45+ CD4+ CD25hi CD127lo)及びTconv (DAPI- CD45+ CD4+ CD25lo CD127lo/hi)をFACSソートし、10X Chromium (10X Genomics)にロードする前に50/50比で混合した。2人の患者について、Single Cell 3’Reagent Kit (V2ケミストリー、10X Genomics)を使用してライブラリーを調製し、3人の他の患者について、Single Cell 5’Reagent Kit (免疫プロファイリングキット、10X Genomics)を使用してライブラリーを調製し、製造業者のプロトコールに従ってV(D)Jリードを高める追加の工程を伴う。両プロトコールでは、チップをロードし、試料あたり10000個の細胞(5000個のTreg及び5000個のTconv)を回収した。
【0172】
シングルセルは、ユニークバーコード、分子分子識別子(UMI)、ポリ(dT)配列(Single Cell 3′ Reagent Kit)又はswitchオリゴ(TSO)配列(Single Cell 5′ Reagent Kit)、及びバーコード付加されたcDNAを生成する逆転写のための全ての試薬(それぞれ、Single Cell 3′及び5′ Reagent Kit)によってコートされたゲルビーズと共に液滴中に捕捉された。プロトコールに従って、液滴中でレトロ転写が生じた。cDNAは、続いて液滴から回収され、DynaBeads MyOne Silane Beads (Thermo Fisher Scientific社)によって精製され、増幅マスターミックス及び酵素(それぞれ、Single Cell 3′及び5′ Reagent Kit)によって増幅された。増幅されたcDNA産物は、SPRI select Reagent Kit (Beckman Coulter社)を使用して精製された。cDNA定量及び質評価は、dsDNA High Sensitivity Assay Kit及びBioanalyzer Agilent 2100 Systemを使用して達成された。次いで、インデックスライブラリーを、これらの工程に従って構築した: (1)断片化、末端修復及びA-tailing; (2)SPRI選択ビーズによるサイズ選択; (3)アダプターライゲーション; (4)SPRI選択ビーズによるライゲーション後精製; (5)試料インデックスPCR及びSPRI選択ビーズによる最終精製。ライブラリー定量及び質評価は、dsDNA High Sensitivity Assay Kit及びBioanalyzer Agilent 2100 Systemを使用して達成された。インデックスライブラリーは、Illuminaシークエンシングプラットフォームのために推奨されるように質を試験され、変性され、希釈され、シークエンシングモードとして対合末端26×98bpを使用してIllumina HiSeq2500でシークエンスされ(Transcriptome又はGene Expression, GEX)、細胞当たり少なくとも50000リードを標的化した。
【0173】
シングルセルTCR増幅及びシークエンシングは、製造業者の説明書に従ってSingle Cell V(D)J kitを使用して5′ GEX生成後に実施された(10X Genomics)。簡潔に言うと、V(D)Jセグメントは、2人のヒトTCR標的PCRによって増幅したcDNAから濃縮し、続いて特定のライブラリーを構築した。TCR濃縮cDNA及びライブラリー定量及び質評価は、dsDNA High Sensitivity Assay Kit及びBioanalyzer Agilent 2100 Systemを使用して達成された。V(D)Jライブラリーは、シークエンシングモードとして対合末端150bpを使用してIllumina Hiseq又はMiseqでシークエンスされた。
【0174】
4.工程4: scRNA-seqトランスクリプトーム及びTCRデータ解析
4.1 工程4.1:試料毎のscRNA-seqトランスクリプトーム解析
HiSeq Illuminaシークエンサーからの対合末端26×98bpアウトプットは、更なる解析のため、カウントマトリックスの作成のためのcell rangerパイプラインにより、及びSeurat v3により処理された。
【0175】
Cell ranger
Cell Ranger version 2.1.1でパイプラインCellranger mkfastq(デフォルトパラメーター)を実行し、Illuminaシークエンサーからの生のベースコール(BCL)ファイルをデマルチプレックスし、FASTQファイルを作成した。
【0176】
シークエンスデータ処理は、次いでCell Ranger version 3.0.2パイプラインで実施した。Cellrangerカウント関数は、各GEMで実行した。GEMによるリードは、更なるMAPQアジャストメント、トランスクリプトームアライメント、各遺伝子のUMIカウント、及びcalling cellバーコードによるSTARを使用してヒトゲノムにマッピングした(2013年12月17日に提出されたGRCh38/hg38; Genome Reference Consortium Human Build 38; GenBank assembly accession: GCA_000001405.15)。
【0177】
Cellrangerのアウトプットを、次いでRにロードした。
【0178】
Seurat
R3.6.1のSeurat 3.1.1(Butlerら, 2018年; Stuart, Butlerら, 2019年)。カウントマトリックスからのSeuratオブジェクトの作成後、データは、QCメトリックス、データノーマライゼーション及びスケーリング、並びに非常に変動の大きい特徴の検出に基づき、細胞の選択及びフィルトレーションのための前処理ワークフローを行った。その後、試料は、Seurat v3パイプラインのデフォルトパラメーターに従って個々に解析された。
【0179】
- QC及び更なる解析のための細胞の選択
わずかな遺伝子を有する細胞(デブリス、死細胞)のフィルター;200遺伝子よりも少ない細胞は除去された。
【0180】
死細胞又はミトコンドリア遺伝子のダブレットトラフ%及びトータルカウントUMI/細胞のフィルター:可能である場合、1)log2 %ミトコンドリア遺伝子及び、2)細胞によるlog2トータルカウントUMIによる細胞数の分布は、多モード関数にフィットされた。関数の最大及び最小値は、代数の方法で最高点又は変向点を見出すことで決定された。ミトコンドリア遺伝子の%及び2つの最大値間の関数の最小値に相当する細胞によるUMIのトータルカウントは、カットオフとして選択された。相当するカットオフ値よりも細胞当たり高いパーセンテージのミトコンドリア遺伝子又はトータルUMIカウントを有する全ての細胞は、死細胞又はダブレットと考えられ、除去された。ミトコンドリア遺伝子の%の分布の多モード関数を作成することが可能でない場合、10%をカットオフ値として使用した。
【0181】
- ノーマライゼーション
各細胞の遺伝子当たりのUMIカウントは、総発現によってノーマライズした。デフォルトにより、Seuratはグローバルスケーリングノーマライゼーション法「LogNormalize」を使用し、総発現により各細胞の特徴発現測定をノーマライズし、これにスケールファクター(デフォルトにより10000)を掛け、結果をログ変換した。
【0182】
細胞:遺伝子によりNormalizeData関数(試料毎に行われる)UMIカウントを使用するLogNormalize
【0183】
- 非常に変動の大きい特徴の同定(特徴選択)
次に、データセットにおいて、高い細胞間バリエーションを示す2000個の特徴のサブセットが、関数FindVariableFeaturesを使用して同定された。FindVariableFeatures(方法: vst,分散のカットオフ値= 0.5; 平均発現のカットオフ値= 0) (試料毎に)。
【0184】
- データのスケーリング
次いで、データは、1) 細胞間の平均発現が0であるように、各遺伝子の発現をシフトする; 2)細胞間の分散が1であるように、各遺伝子の発現をスケールする、ScaleData関数を使用して線形変換(「スケーリング」)した。この工程は、下流の等量の各遺伝子を解析し、高発現遺伝子の影響を減らす。
【0185】
- 線形次元削減
scRNA-seqデータの任意のシングルフィーチャーの過剰な技術的ノイズを克服するため、主成分分析(Principal Component Analysis (PCA))をスケールデータで実施した。PCAは発現マトリックスを分散の関数で規定された(最高から最低まで)主要成分(principal components (PC))と呼ばれる線形の無相関な変数の値のセットへと変換する。最高主要成分は、したがって、データセットの強い圧縮を表す。重要な成分の数を選択するため、PCに対する分散のパーセンテージ(ElbowPlot)が可視化され、2つの連続値の間の線形関数の傾斜が算出された。本発明者らは、各試料について、前述の傾斜が安定化されたPCを見出し、全ての試料の評価後、トップ50のPCをキープすることを決定した。
【0186】
4.2 工程4.2:統合したデータのscRNA-seqトランスクリプトーム解析
- 統合
Treg及びTconvの多様性を含むそれらのユニークなデータセットの異なる試料(組織及び患者)を統合するため、本発明者らはSeurat v3統合法を使用した。簡潔に言うと、この方法は、データセットの対を調和させるか又は一方から他方へと情報を移行するために使用される、個々の細胞間の対での一致(「アンカー」として同定される)を同定する。
【0187】
- 上記で説明したようにLogノーマライズした2000個の最も発現変動の大きい遺伝子を有するSeuratオブジェクトの設定
【0188】
-(最初の30個のPCにおいて)FindIntegrationAnchorsを使用する各試料中(全部で15個;5人の患者×3個の組織)のアンカーの同定
【0189】
- (最初の30個のPCにおいて)アンカーを使用するIntegrate Dataを使用する試料の統合。関数は、統合された発現マトリックスとして新しいアッセイエントリーを含有するSeuratオブジェクトを返した。
【0190】
- データのスケーリング(上記)
【0191】
- 線形次元削減(上記)
【0192】
- 細胞のクラスター
【0193】
Seurat v3を使用して、グラフベースのクラスタリングアプローチを適用した。簡潔に言うと、KNNグラフをPCA空間でユークリッド距離に基づいて構築し、近傍に存在する任意の2細胞間のエッジの重みをフィーチャーオーバーラップに従って更新した(トップ50のPCのFindNeighbors関数)。これは、高度に連結したコミュニティでの細胞の区画化を可能にする。次いで、クラスターのモジュラリティが最適化され、FindClusters関数により細胞を反復してグループ化した(Louvainアルゴリズム)。このアルゴリズムは、「クラスタリングの粒度」を決定する「resolution」と呼ばれるパラメーターを含有し、それは得られるクラスターの数と関連する。最適なresolutionを同定するため、Clustree v.0.2.2 (Zappia, Oshlack, 2018年)を実施して、異なるresolutionに渡るクラスタリング挙動の照合を可能にするクラスタリングツリーを可視化した(クラスタリングresolutionが増加した場合のクラスター間の細胞運動のグラフ表示)。
【0194】
最初の50個のPCのFindNeighbors関数;resolutionが0と2の間(各10進数:0.1、0.2、...、2)のクラスターを同定するFindClusters関数。
【0195】
- 非線形次元削減(UMAP)
それらの高次元データを可視化するため、本発明者らは、2次元の可視化のため、有益なクラスターを作成する新しいアルゴリズムであるUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)を使用し、有意義な方法でこれらのクラスターを体系づける。McInnes, L. and Healy, J. (2018年). UMAP: Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction。
【0196】
- グローバル差次解析
クラスター間の差次的発現遺伝子は、統合されたマトリックスに、最小Log Fold-Change 0.25及び2つの群の細胞のいずれかにおいて遺伝子を発現する細胞の最小画分(min.pct)=0.25でMAST(Finak, McDavid, Yajimaら, 2015年)を使用するFindAllMarkers関数によって同定された。
FindAllMarkersのパラメーター:統合したデータで実施、Only.pos=TRUE、min.pct=0.25、logfc.threshold=0.25。
【0197】
- 夾雑物の同定及び除去
T細胞マーカー(CD3E、CD3G、TRAC、TRBC1、及びTRBC2)を発現せず、他の集団のマーカー(B細胞のCD79A、単球のCD14、樹状細胞のCD11c)を発現した細胞を夾雑物として同定し、除去した。
【0198】
- 統合(夾雑物を含まない)
- 統合アプローチは、FindVariableFeatures(方法:vst、分散のカットオフ値=0.5;平均発現のカットオフ値=0)(試料毎に)を使用して、CD4+ T細胞のみ(すなわち、夾雑物を除去後)の2000個の最も発現変動の大きい遺伝子を使用して再処理した。より多くの発現変動の大きい遺伝子を統合のために試験したが、2000個がCD4+ T細胞集団の多様性を効果的に区別するのに十分であった。
【0199】
- FindIntegrationAnchors(最初の30個のPCで)を使用する各試料中(全部で15個;5人の患者×3個の組織)のアンカーの同定。
【0200】
(最初の30個のPCにおいて)アンカーを使用するIntegrated Dataを使用する試料の統合。関数は、統合された発現マトリックスとして新しいアッセイエントリーを含有するSeuratオブジェクトを返した。
【0201】
- 細胞のクラスタリング(夾雑物を含まない)
- グラフベースのクラスタリング解析を最初の50個のPCで算出した。最初の50個のPCのFindNeighbors関数; resolutionが0と2の間(各10進数:0.1、0.2、...、2)のクラスターを同定するFindClusters関数。
【0202】
- Clustree v.0.2.2 (Zappia, Oshlack, 2018年)の構築
【0203】
- 最初の50個のPCでのPCA削減に基づく、RunUMAP関数を使用する次元削減可視化の構築。
【0204】
- 本発明者らのデータへの適応
- Resolution:本発明者らは、生物学的重要性を有するクラスターの安定性と数の間の良好な妥協を提示するため、resolution0.9を選択した。
【0205】
- クラスターの概要:本発明者らは、更なる解析のために1つの試料又は患者を除外されたクラスターを同定及び除去するため、試料及び/又は患者当たりの細胞のパーセンテージを確認した。本発明者らは、クラスター19が含有する98%の細胞が、1つの試料(Tumor 18P05408)だけから由来することを見出し、本発明者らはその更なる解析を考慮しなかった。
【0206】
- 非線形次元削減(UMAP)
【0207】
- クラスターの特徴付け
- グローバル差次解析:クラスター間の差次的発現遺伝子は、最小Log Fold-Change (FC) 0.25及び2つの群の細胞のいずれかにおいて遺伝子を発現する細胞の最小画分(min.pct)=0.25でMAST(Finak, McDavid, Yajimaら, 2015年)を使用するFindAllMarkers関数によって同定された。
【0208】
FindAllMarkers関数のパラメーター:オブジェクト:統合データ、only.pos=TRUE、min.pct=0.25、logfc.threshold=0.25。
【0209】
- 細胞アイデンティティーの探索
- 各クラスターの細胞アイデンティティーは、マーカー遺伝子発現及び関連シグネチャーの濃縮を使用して決定した。シグネチャースコアは、ctrlパラメーターとしてgenes/2の数を使用するAddModuleScore関数により各関連シグネチャーについて算出した。
【0210】
- 本発明者らは、クラスター2及び18が、ほんのわずかな差次的発現遺伝子を有する発現プロファイルの高い重複を示し、統一されたことを確証した。注目すべきは、それらがresolution0.8に融合されたことである。
【0211】
- クラスターは、Tregシグネチャー及びkey遺伝子(TregのFOXP3、IL2RA、CTLA4、及びTNFRSF1B; TconvのIL7R及びCD40L)を使用して、Treg、Tconv及びTmixとして分類された。クラスターの細胞がTregのシグネチャー及び遺伝子の高スコア並びにTconvの遺伝子及びシグネチャーの低スコアを示す場合、これは、「純」Treg(1~5)として分類された。「純」Tconv(1~7)についても同様である。混合された特徴を有するクラスターは、Tmixと呼ばれた。Tmixアノテーションは参照として2つの大きなクラスター:シングルクラスターとして全てのTreg(Tregクラスター:1~5)及びシングルクラスターとして全てのTconvクラスター(Tconv 1~7);並びにクエリとして個々の混合クラスターにより、ラベル伝達関数を使用して確証した。
【0212】
4.3 工程4.3:scTCR解析
Single cell 5’遺伝子発現及びV(D)Jシークエンシングは、cellranger mkfastq関数を参照してGRCh38/hg38を使用するCell Ranger v.2.1.1によって多重分離及びアラインされた。Cellranger vdj関数を、次いで、Cell Ranger v.3.0.2で実行し、V(D)J配列アセンブリーを実施するために使用した。本発明者らは、アウトプットとして:TCRアルファ(TRA)及びベータ(TRB) V(D)J配列、細胞バーコード及びCDR3配列(ヌクレオチド)を得た。
【0213】
クロノタイプコーリングを生成するため、本発明者らは、TRA鎖及びTRB鎖を別々に検討するCDR3ヌクレオチド配列データベースを作成した。本発明者らのデータベースは、各クロノタイプ又は完全な一致による有効なCDR3配列のセット:TRB-CDR3ユニーク配列に基づくTRB識別子(ID)、及びTRA-CDR3ユニーク配列に基づくTRA副識別子(sub-ID)を共有する細胞のコレクションの異なる識別子を含有する。
【0214】
本発明者らは、それらのデータベースを使用して、クロノタイプのコーリングを改善し、同じクロノタイプに属する細胞をより良く同定し、共通のTRAドロップアウトを克服し、TRA再編成において対立遺伝子排除がないことを検討する。患者により:
- 2つより多くのsub-ID(TRA-CDR3配列)及び/又は1つより多くのID(TRB-CDR3配列)を有する細胞はダブレットの可能性があるとして除外された。
- 同じID(TRB-CDR3配列)を含有する細胞は、全体的に、細胞が最大2個のsub-ID(TRA-CDR3配列)で提示される同じIDを共有する場合、クロノタイプであると考えられた。
- 1個又は2個のsub-ID(TRA-CDR3配列)及び0個のID(TRB-CDR3配列)を含有するクロノタイプは、データベースで検索された。
- それらが見出されなかった場合、それらはTCR解析に含まれなかった。
- それらが見出された場合、それらはTRB-CDR3とのペアリングと関連して評価された:
- それらがユニークであった場合、本発明者らはデータベース中で見出されたペアIDを割り当てた。
- それらがユニークではなかった場合、それらはTCR解析に含まれなかった。
【0215】
同じ患者からの腫瘍、リンパ節及びPBMC試料の間で共通のクロノタイプも、本発明者らの戦略によって同定された。ペアリングしたトランスクリプトーム及びV(D)J情報は細胞バーコードを使用する試料毎に試料を作成した。
【0216】
4.4 工程4.4:クローンのTCR拡大解析
細胞によるTCR情報によって、本発明者らは、まず組織によるクローン的な拡大を調べた。本発明者らは、組織によるユニークなクローン及びこの組織におけるクロノタイプによる細胞のカウントした数のリストを同定した。クローンが1つより多くの細胞を含有する場合、それらは拡大したと考えられた。各患者の組織によって拡大したクローンのパーセンテージは:
組織によって拡大したクローンの%=拡大したクローンの数/総クローン
として算出した。
【0217】
ペアにしたクラスター(scRNA-seqトランスクリプトーム解析から得られた)及びTCR情報により、本発明者らは、次いでクラスターによる腫瘍拡大クローンのパーセンテージを算出した。事前に得られたユニークな腫瘍拡大クロノタイプのリストにより、本発明者らは3つの組織全てに存在する細胞を選択し、それらのクラスターラベルに従ってそれらを分類した。
【0218】
クラスターによる腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞のパーセンテージ(各患者について)は以下のように算出した:
クラスターNにおいて腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞の%=クラスターNにおいて腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞の数 /クラスターNにおける総細胞数
【0219】
5.工程5:機能性腫瘍特異的Tregの同定
機能性腫瘍特異的Treg (FT-Treg)は、以下の特徴の全てを有するクラスター(又は細胞の群)に属する細胞として規定された:
5.1 CD4+ FOXP3+ Tregの特徴を持つ細胞のクラスター、及び
5.2 血液中よりも高割合で腫瘍又は腫瘍流入領域LN(特に転移性腫瘍流入領域LN)に見出される(すなわち腫瘍又はTDLNに蓄積する)CD4+ FOXP3+ Tregのクラスター、及び
5.3 腫瘍からのTreg細胞においてクローン的に拡大したことが見出される特異性(TCR)を有する細胞に豊富なCD4+ FOXP3+ Tregのクラスター、及び
5.4 腫瘍からのTreg細胞においてTCRトリガリング、細胞活性化及び増殖のトランスクリプトームシグネチャーを有する細胞において豊富なCD4+ FOXP3+ Tregのクラスター。
したがって、この方法は機能性サブセットにTregを分類し、Tregの異種性プールから機能性腫瘍Tregクラスターを区別するのを助ける。
【0220】
6. 工程6:腫瘍特異的Tregの特異的マーカーの同定
腫瘍特異的Tregは、Tregクラスター4に存在する腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞として規定され、それらのトランスクリプトームはこの集団でのユニークな差次的発現遺伝子(DEG)の解析によって同定された。第1に、データのゼロカウント及び異種性は、統計ツールMAST(Finak, McDavid, Yajimaら, 2015年)によって扱われた。第2に、クラスター間のDEGの解析が少しの細胞から構成され、大きなクラスターのデータが最大のクラスター対してバイアスをかけられる事実に対処するため、本発明者らは2工程の戦略を設計した。第1に、本発明者らは、腫瘍特異的Treg(上記に規定したように:全ての患者からのTregクラスター4に存在する腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞)と独立して他のクラスターのそれぞれとの間のDEGを規定した。第2に、本発明者らは、全てのDEGを合計した(全ての比較の交差)。細胞の群間の差次的発現遺伝子解析は、0.05より低いか又は等しいボンフェローニのp値補正、0.2の最小Log Fold-Change、及びmin.pct=0.05で、MASTを使用するFindMarkers関数によりオリジナルデータ(統合されていない)を使用して実施された。
【0221】
7. 工程7:治療目的の腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキング
腫瘍特異的Tregマーカーの選択のため、本発明者らは、MAST、及び0.05より低いか又は等しいボンフェローニのp値補正、0.12の最小Log Fold-Change、及びmin.pct=0.05で、FindMarkers関数を使用して、腫瘍特異的Treg(上記に規定したように:全ての患者からのTregクラスター4に存在する腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞)と他のクラスターの全て(全てのTconvクラスター及びTreg4を除く全てのTregクラスター)との間のDEGの大きなリストを規定した。
【0222】
この新しいリストは、工程6の全ての遺伝子及び他の遺伝子を含み、次いで
図8に示したように6ステージからなる新規のバイオインフォマティクスパイプラインを使用して優先順位付けられる。
【0223】
BioITステージ1:確認された細胞外ドメインを有する膜貫通又はGPIアンカータンパク質をコードするもののみを抽出する、全ての差次的発現遺伝子の最初のリストのフィルタリング。
そのために、アノテーションテーブルを3つのsourceについて抽出した情報によって作成し、以下のコマンドを使用する:
- Source: Uniprot: 細胞内局在は「細胞膜」を含有する:TRUE/FALSE
- 細胞内局在は「GPI-アンカー」を含有する:TRUE/FALSE
- トポロジードメインは「Extracell」を含有する:TRUE/FALSE
- 膜貫通は「TRANSMEM」を含有する:TRUE/FALSE
- Source: Gene Ontology
- 細胞成分は「細胞膜」を含有する:TRUE/FALSE
- Source: Human protein atlas:
- タンパク質クラスは「膜」を含有する:TRUE/FALSE
- タンパク質の主な局在は「細胞膜」を含有する:TRUE/FALSE
- タンパク質の更なる局在は「細胞膜」を含有する:TRUE/FALSE
【0224】
少なくとも1つの正のキーワードを有する全ての遺伝子は、所与のタンパク質のアミノ酸及びその膜局在の可視化を可能にするウェブツールである、Protter(https://wlab.ethz.ch/protter/)を使用して調べた。このアプローチを使用して、n=333個の遺伝子(差次的に発現された全ての遺伝子のおよそ10%に相当する)は、確認された細胞外ドメインを有する潜在的な膜貫通タンパク質をコードするとして確認された。
【0225】
BioITステージ2:正常組織における標的発現の重み付け
まず、各標的の発現のプロファイルを、健常組織において組織レベルで決定した。Genome Tissue Expression (GTEx)データベース(V8リリース、TPM)を使用して、各標的について、健常組織での発現のスコアを算出した。GTExからの全ての組織(シングルセルデータを使用して本発明者らがより良いresolutionを有する免疫関連組織「全血」及び「脾臓」を除く)は、まず各組織型にわたり平均し、いくつかのエントリーを有する組織からのバイアスを避けた(組織内での亜局在に相当する)。各標的の平均発現は、次いで全てのまとめた組織で算出した。ペナルティのスコアは、333個の標的のそれぞれに原因があり(1が最良、333が最悪)、健常組織におけるそれらの発現を説明する。
【0226】
BioITステージ3:腫瘍組織における標的発現の重み付け
各標的発現は、The Cancer Genome Atlas (TCGA) RNAseqデータを使用して疾患組織において解析した。いくつかの疾患型について、がん試料と比較する健常試料の数が不十分であったため、TCGAデータはGTExデータベースから抽出した健常試料からのデータを補った。2つのデータベースの比較に固有のバッチ効果を補正するため、TCGAbiolinks (Mounirら, PLoS Comput. Biol., 2019年, 15, e1006701)からのrecount2 resourceのノーマライズしたカウントの使用、edgeR (McCarthyら, Nucleic Acids Res., 2012年, 10, 4288~4297頁)を使用するライブラリーサイズ、RNA組成及び遺伝子長の補正、及び、次いでLimma (Ritchieら, Nucleic Acids Res., 2015年, 43, e47)を使用するバッチ効果の再補正からなるノーマライゼーション法が開発された。2つのデータベースの補正アライメントは、主成分解析によっていくつかの組織で実証された。各標的について、がん試料(TCGAから)の中央値vs健常試料(TCGA及びGTEx試料の両方を含む)の中央値の倍率変化を3つの主ながん種:肺がん、乳がん及び大腸がんにおいて算出した。各標的は、先に述べたがんにおいてがん/健常の平均倍率変化についてそれらのランクによるスコアを与えられた(最高は333、最低は1)。
【0227】
BioITステージ4:健常ドナーPBMCのシングルセルRNAシークエンシングから得られたデータにおける標的発現の重み付け
最初の差次的解析は、機能性腫瘍Tregによって差次的発現遺伝子の同定をもたらすが、他の免疫細胞によるこれらの遺伝子の発現には情報を与えない。したがって、機能性腫瘍Tregによって差次的に発現されるだけでなく全てのPBMCにおいて非常に低レベルで発現される遺伝子を同定するワークフローが開発された。このため、末梢血単核細胞(PBMC)のシングルセルレベルでの各標的の発現パターンは、10X genomicsを使用してプロファイルされ、それぞれ5000個及び10000個の細胞を含むPBMCの2つの一般に利用可能な異なるデータセットを使用して解析された。
【0228】
まず、PBMCデータベースは、血液中のTregクラスターの同定を可能にする深さまで解析された。このクラスターからの全ての細胞を、次いでデータセットから除去した。残りの細胞で、各標的の平均発現を各クラスターで個々に算出し、次いでクラスター平均の平均を各データセットの各標的について算出した。この中間工程は、解析において任意のクラスターサイズのバイアスを避ける。各標的は、両データセットの全てのPBMC(除去されたTregを除く)における平均発現についてそのランクによるスコアを与えられた(最少発現は333、最大発現は1)。
【0229】
BioITステージ5:腫瘍微小環境からの細胞のシングルセルRNAシークエンシングから得られたデータにおける標的発現の重み付け
シングルセルレベルでの腫瘍微小環境における各標的の発現パターンを特徴付けるため、一般に利用可能なシングルセルRNAseqは、広範な腫瘍型(NSCLC、乳がん、PDAC、メラノーマ、HCC、SCC、BCC…)及び広範な細胞型(全ての免疫細胞だが、腫瘍細胞、上皮、内皮、がん関連線維芽細胞及び組織特異的細胞型)もカバーする7本の論文(Aziziら, Cell, 2018年, 174, 1293~1308頁; Liら, Cell, 2019年, 176, 775~789頁; Yostら, Nat. Med., 2019年, 8, 1251~1259頁; Guoら, Nat. Med., 2018年, 24, 978~985頁; Zhengら, Cell., 2017年, 169, 1342~1356頁; Sade-Feldmanら, Cell., 2018年, 175, 998~1013頁; Pengら, Cell. Res., 2019年, 9, 725~738頁)からの8個のデータセットを使用して得られた。PBMCに使用したもの(工程4)と類似のアプローチが適用された。このステージの目的は、Treg特異的標的を同定することであったため、Tregクラスターが同定され得るresolutionまで各データセットは処理された。Tregは次いで、データセットから除去され、全ての細胞(Tregを除く)間の各標的の平均発現が算出された。各標的は、8個全てのデータセットにおいて、腫瘍微小環境の全ての細胞(除去されたTregを除く)における平均発現のそのランクに応じたスコアを与えられた(最少発現は333、最大発現は1)。
【0230】
BioITステージ6:腫瘍vs正常隣接組織における標的発現の重み付け
i)TregとTconvの間を区別する各標的の能力を測定するため及びii)腫瘍-Tregと正常組織-Tregの間の標的の分布を評価するため、ソートした細胞集団からのバルクRNAseqデータを解析した。そのため、一般に利用可能なバルクRNAseqデータを、乳がん、肺がん及び大腸がんの2試験から回収した(Plitasら, Immunity, 2016年, 45, 1122~1134頁; De Simoneら, Immunity, 2016年, 45, 1135~1147頁)。各データベースについて、各標的は2つのスコアを与えられた。第1のものは、Treg/Tconv発現の倍率変化を算出する場合、そのランクを反映し、第2のものは、腫瘍Treg/正常隣接組織Treg発現の倍率変化を算出する場合、そのランクを反映する(最高倍率変化は333、最低は1)。
【0231】
BioITステージ7:データ統合
これら全ての解析時に、各標的は以下のように特徴付けられた:
1 GTEx発現のペナルティスコア
1 TCGA発現のスコア
2 正常シングルセルRNAseq PBMC発現のスコア
8 シングルセルRNAseqがん発現のスコア
4 バルクRNAseqがん発現のスコア
【0232】
全ての解析が等しく重み付けられる必要があるため、全てのスコアは平均(Average(mean))され、各パラメーターにつき1つの値のみに規定した。
【0233】
遺伝子は、次いでそれらの全体的なスコアによってランク付けされた:
スコア=Σ(TCGAスコア、scPBMCスコア、scTUMORスコア、バルクTUMORスコア) - GTEXペナルティ
【0234】
各標的は、次いで安全性(GTEx平均スコア)及び重要性(全てのパラメーターのSUMスコア)に関して特徴付けられた。両方のカットオフ値を定義するため、記載された活性化Treg標的のリストが使用された(IL2RA、ICOS、TNFRSF18、CCR8、CCR4、CTLA4、HAVCR2、ENTPD1、TNFRSF9)。安全性と重要性の両方のカットオフ値は、最低ランクの参照遺伝子の値として設定された。
【0235】
上記のプロセス全体に従い、n=83個の標的を「潜在的な重要性」として規定した。
【0236】
BioITステージ8:各標的の関連アノテーション
治療標的化のための各遺伝子の可能性のプロファイルを完成するため、構造、機能、試薬の利用可能性、及び競争環境に関する情報は、手動で精選され(データマイニング)、標準化したファイルで提示された。
【0237】
結果
工程5.1- CD4+ FOXP3+ Tregの特徴を持つ細胞のクラスターの同定
本発明者らは、成人において最も頻度の高いがんの1つであり、現在免疫療法によって処置され、Tregが不良な臨床転帰と関連するため、非小細胞性肺がん(NSCLC)に注目した。本発明者らは、トランスクリプトームに結合したTCRによる10X-genomics sc-RNAseq(@Chromium 10X Immunoprofiling kit)及び上記に開示した新しい方法を使用するその解析のためのバイオインフォマティクスパイプラインを設定した。
【0238】
5人の未処置のNSCLC患者から得られた(48303シングルセル)、15個の試料(血液、TDLN及び腫瘍)からソートされたCD4+ T細胞で実施した解析の結果は
図1に示す。
【0239】
CD4+ Tconv細胞は、CD40L、及びCD127を発現するとして同定され、TregはFOXP3、CD25、及び公表されたTregシグネチャーの発現遺伝子を発現するとして同定された(
* Zemmourら, 2018年及び
** Aziziら, 2018年;
図2A)。ナイーブ表現型を示すCD4+ T細胞は、Stubbingtonら, 2015年に公表されたシグネチャーを使用して同定され;最終分化した細胞は、Aziziら, 2018年に公表されたシグネチャーを使用して同定され;セントラルメモリー細胞は、Abbas ARら, 2009年のように同定され、循環細胞は、Chungら, 2017年のように、IFN応答シグネチャーを有する細胞は、MSigDBのように、濾胞性ヘルパーT細胞はKenefeck R, JCI, 2014年のように、及びTh17細胞はZhang Wら, 2012年のように同定された(
図2B)。T細胞の最終クラスター分類は、全部で7個の純粋なTconv細胞クラスター(Tconvクラスター1~7)が同定され、全部で5個の純粋なTregクラスター(Tregクラスター1~5)が同定され、並びにTreg及びTconvの特徴を有する細胞の混合物から構成された全部で9個の<<混合T細胞>>クラスター(Tmix 1~9;
図2C)が同定されたことを示す。
【0240】
残りの解析のため、腫瘍特異的Tregを含有するクラスターを同定する目的により、TregとTconvを混合した集団を含有するクラスターは腫瘍特異的Tregの選択に有益ではないため、純粋なTregクラスターのみ;すなわちTregクラスター1、2、3、4及び5が検討された。
【0241】
工程5.2-血液中よりも高割合で腫瘍又は転移性腫瘍流入領域LNで見出されるCD4+ FOXP3+ Tregのクラスター(すなわち、腫瘍又はTDLNに蓄積する)
本発明者らは、腫瘍特異的Tregが、血液(腫瘍特異的Tregが他の特異性を有するTreg中で希釈されるであろう)と比較して腫瘍組織又はTDLNに増加した割合で存在するはずであると仮定した。どのTregクラスターが腫瘍中に増加した割合で見出されたか同定するため、本発明者らは、3つの組織間で各純粋なTregクラスターの総Tregのパーセンテージを比較した。
図3で観察されるように、血液と比較してクラスター4及び5の割合のみが、腫瘍において統計的に有意に増加し、クラスター5はTDLNにおいてもそうであり(対応ありt検定 <0.05)、腫瘍特異的Tregがクラスター4及び/又は5で濃縮されるはずであることを示している。
【0242】
工程5.3-腫瘍からのTreg細胞でクローン的に拡大したことが見出される特異性(TCR)を有する細胞で濃縮されるCD4+ FOXP3+ Tregのクラスター
本発明者らは、それらのTCRを介して腫瘍抗原を認識すると、それらが活性化、分裂、及び局所的に蓄積するはずであるため、腫瘍特異的Tregがクローン的に拡大したはずであると仮定した。Tregのクローン多様性を調査するため、本発明者らはそれらのTCRレパートリーを調べた。TCRレパートリー解析は、19572個の細胞で成功裏に実施された。各シングルセルについてのトランスクリプトーム及びTCRデータの統合の結果は、
図4Aに示す。
【0243】
1人の患者について例示したように(
図4D)、ペアにしたTCR(アルファTCR鎖とベータTCR鎖の両方を含有する)及びトランスクリプトームを有する5432個の検出された細胞は、3881個の異なるTCR(クローン)を提示した。全てのクローンの19.7%(763個)が拡大された(同じTCRを有する2つ又はそれ以上の細胞が検出される場合、1つのクローンが増殖したと考えられた)。腫瘍において、20%より多くのT細胞クローンが拡大された(示さない)。
【0244】
どのTregクラスターが腫瘍においてクローン的に拡大される特異性で濃縮されるか同定するため、本発明者らは、各Tregクラスター内で腫瘍拡大TCRを持つ細胞の割合を解析した。
図4Cに示すように、5つの純粋なTregクラスター内で、クラスター1、3及び4は、腫瘍拡大TCRを持つ高割合のT細胞を示し、腫瘍TCR拡大クローンを持つ細胞のUMAPプロジェクションによってわかるように、クラスター4は腫瘍TCR特異性が最も強化された(
図4D)。類似の結果が他の患者についても得られた(示さない)。
【0245】
工程5.2では、本発明者らは、腫瘍特異的Tregがクラスター4及び/又は5で濃縮されるはずであることを規定した。Tregクラスター4(Tregクラスター5ではない)が、腫瘍TCR拡大クロノタイプで濃縮されるとすると、本発明者らは、Tregクラスター4が腫瘍特異的Tregで濃縮されると結論付ける。
【0246】
本発明者らは、同じクローンのT細胞が同時に異なる組織に存在し(血液、TDLN及び腫瘍内でのT細胞循環を確認する)、一部のTconv及びTregが同じTCRを共有し、ヒトにおけるTreg転換の研究を可能にすることも観察した。
【0247】
工程5.4-腫瘍からのTreg細胞における近年のTCRトリガリング、細胞活性化及び拡大のトランスクリプトームシグネチャーを有する細胞で濃縮されたCD4+ FOX3P+ Tregのクラスター
この方法では、それらのTCRを介する腫瘍抗原の認識時に、それらは活性化、分裂、及び局所的に蓄積されるはずであるため、腫瘍特異的Tregはクローン的に拡大したはずである。その結果、それらのトランスクリプトームは、これらの生物学的経路を反映するはずである。例えば、それらのTCRを介する同種の抗原の認識は、他の中でも、TCR活性化の下流の遺伝子、例えばREL、NKKB2、NR4A1、OX-40、4-1BB、及びTreg活性化の公知の遺伝子、例えばMHCクラスII分子(HLA-DR)、CD39、CD137、GITRの上方制御を誘導するはずである。
図5で観察されるように、これらの特徴は、Tregクラスター4で濃縮される(UMAPプロジェクションで可視化されるように)。また、これらの遺伝子は、このクラスターで差次的に上方制御され(以下の結果を参照)、Tregクラスター4を「腫瘍特異的Tregクラスター」として指示する。
【0248】
工程6:腫瘍特異的Tregの特異的マーカーの同定
腫瘍特異的Tregは、Tregクラスター4に存在する腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞として規定され、それらのトランスクリプトームは、上記の材料及び方法節に記載されるようにこの集団でのユニークな差次的発現遺伝子(DEG)の解析によって同定された。
【0249】
図6に示すように、DEG解析は、個々のクラスター(Treg 1~5; Tconv 1~7、Tmix 1~7)に属する細胞に対するTregクラスター4に存在する腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞(全ての患者から)を比較して行った。これらの19DEG全ての交差から、本発明者らは、常に同じ方向で変化した遺伝子のみをキープした(常に上方制御されるか又は常に下方制御される)。常に上方制御されるか又は常に下方制御される遺伝子は、腫瘍特異的Treg特徴として考えられた。腫瘍特異的遺伝子の例示的且つ非網羅的リストはTable1(表1)に含まれる。
【0250】
図7は、Table1(表1)のリストからの一部の選択された遺伝子のUMAPプロジェクションを示す。上記したように、「拡大したTregクラスター4」において特異的に上方制御された差次的発現遺伝子(DEG)は、TCR活性化遺伝子及びTreg活性化マーカーを含み、このリストの一部の遺伝子はTreg生物学に事前に関連しなかった。
【0251】
工程7:治療目的のための腫瘍特異的Tregマーカーの同定及びランキング
腫瘍特異的Tregマーカーの選択のため、本発明者らは、MAST、及び0.05より低いか又は等しいボンフェローニのp値補正、0.12の最小Log Fold-Change、及びmin.pct=0.05で、FindMarkers関数を使用して、腫瘍特異的Treg(上記に規定したように:全ての患者からのTregクラスター4に存在する腫瘍拡大クロノタイプを有する細胞)と他のクラスターの全て(全てのTconvクラスター、及びTreg4を除く全てのTregクラスター)との間のDEGの大きなリストを規定した。
【0252】
上記のプロセス全体に従い、n=83個の標的を「潜在的な重要性」として規定した(
図9)。
【0253】
(実施例2)
腫瘍特異的Tregマーカーの検証
1.腫瘍特異的Tregマーカーのタンパク質発現レベルの検証
方法論的アプローチを検証するため、候補腫瘍特異的遺伝子のタンパク質発現レベルをFACSによって評価し、血液からのTreg対TDLN及び腫瘍からのTregにおける発現のレベルを比較した。
図10で例示したように、本発明者らは、CCR8 (Treg4クラスターに存在するモデル候補腫瘍特異的Treg遺伝子として)のタンパク質発現レベルを、1人のNSCLC患者の血液、TDLN及び腫瘍からのTregで解析した。この候補タンパク質が陽性のTreg細胞のパーセンテージは、scRNAseq結果によって予測されるように、血液からTDLN及び腫瘍に増加したことが観察することができる。
【0254】
図11に例示するように、本発明者らは、Table1(表1)のリストから他の候補腫瘍特異的マーカー、すなわち:CD4、FOXP3、CD25、CD74、CD80、4-1BB(TNFRSF9)、OX40(TNFRSF4)、CXCR3のタンパク質発現レベルを解析し、その一部はTreg生物学においてそれらの役割に関する情報がほとんどない(Cantornaら, Nutrients, 2015年, 7, 3011~3021頁; Chambers and Hawrylowicz, Curr. Allergy Asthma Rep., 2011年, 11, 29~36頁; Xuら, Front. Immunol. 2018年, 9)。それらの方法によって予測されるように、全ての例示的な遺伝子は、血液Tregよりも腫瘍Tregでより多く発現され、発現レベル(平均蛍光強度、MFI、
図11A~B)及び/又はマーカーを発現する細胞のパーセンテージ(
図11C~Gの細胞の%)で観察することができる。これらの結果は、本発明者らの方法の有効性を強調する。更に、
図12に例示するように、本発明者らは、NSCLC患者からのPBMC及び腫瘍からのCD8+ T細胞、CD4+ T従来型(Tconv)、及びTreg細胞において、Table1(表1)及びTable2(表2)のリストからの一部の候補腫瘍特異的マーカーのタンパク質発現レベルを解析した。それらの方法によって予測されるように、全ての例示的な遺伝子は、血液Tregよりも腫瘍Tregにおいてより多く発現され、血液及び腫瘍からのCD8+ T細胞でもそうであり、発現レベル(平均蛍光強度、MFI、
図12A)及び/又はマーカーを発現する細胞のパーセンテージ(
図12Bの細胞の%)で観察することができる。これらの結果は本発明者らの方法の有効性を強調する。
【0255】
2.同定された腫瘍関連Tregマーカーが腫瘍特異的Tregと関連することの検証
ヒトTregの特異性を評価する1つのアプローチは、それらを自己腫瘍細胞のライセートと共培養し、誘導された分子の発現を解析し、それらの発現がHLA-cII分子に対するブロッキング抗体の存在下で誘導されないように調節することである。
図13に例示したように、本発明者らは、自己腫瘍抗原を特異的に認識している細胞におけるリストから選択されたマーカーの発現を解析し、OX-40、41BB、及びCCR8が腫瘍特異的Tregを効果的にマークすることを観察できた。
【0256】
3.ヒトTregの生物学における標的タンパク質の役割の評価
ヒトTregの生物学における標的マーカーの役割を評価する1つのアプローチは、例えば、CRISPR/CAS9技術を使用することによって、一次ヒトTregにおいて候補遺伝子をノックアウトすることである。例として、本発明者らは、CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered, regularly interspaced, short palindromic repeats))/Cas9(CRISPR関連タンパク質)を使用して、一次ヒトTregにおいて、それらのリストから選択された一例の候補遺伝子:CD74をノックアウトした。このため、Treg (CD4+CD127-CD25high)を健常ドナーのPBMCからFACSソートし、2日間、CD3/CD28ビーズ及びIL-2とin vitroで拡大した。次いで、2×106個のTregは、化学的に改変された合成標的遺伝子-1つのガイドRNAとトレーサーRNA(後者はCas9との相互作用を媒介する)を使用する特異的CRISPR RNA(crRNA)によってトランスフェクトされた。dsRNAなしで処置された細胞(Mock)は、陰性対照(WT)として使用された。ノックアウトの有効性は、標的タンパク質発現を喪失した細胞のパーセンテージを測定することによって評価された(FACS)。Treg細胞WT又はKOは、次いでCD3/CD28ビーズ及びIL-2による数回の刺激によって拡大された。
【0257】
図14で観察されるように、CD74遺伝子発現は、CRIPR/Cas9 KO技術によってTregの40%で効果的に抑制される。
【0258】
ヒトTreg生物学へのそれらの候補遺伝子CD74の役割を解析するため、本発明者らは、生存能力、増殖及び表現型を調べた(Treg関連タンパク質:すなわち、HLA-DR、Ki67、CD25、OX40及び4-1BBのFACS発現)。
本発明者らは、それらのWTカウンターパートと比較して、CD74 KO Tregが、in vitro拡大の欠損並びに低レベルのKi67発現、及び発現された低レベルのCD25、OX40、HLA-DR、及び高レベルの4-1BBを示したことを観察した(
図15)。
【0259】
4.TregのCD74媒介遊走の機能性阻害が小分子又は抗MIF抗体によってその共リガンドMIFをブロッキングすることにより実施されたことの検証
本発明者らは、Tregの表面でのMIF共受容体とCD74の共発現を評価し、効果的にTregがCD74を公知のMIF共受容体、すなわちCXCR4、CXCR2及びCD44と共発現することを観察した(
図16)。
【0260】
5.それらのWTカウンターパートと比較することによる遺伝的に改変されたTregの抑制機能の研究
十字実験は、候補遺伝子に対してTreg KO又はWTを使用して行うことができる。抑制試験のため、本発明者らは、2つのアッセイを設定した:Tconv増殖の伝統的な抑制試験並びにマウス及び/又は同種ドナーから得られた抗原提示細胞における共刺激マーカー(CD86、CD80、CD40L、HLA-DR)の調節。
【0261】
【0262】
【0263】
【0264】
【0265】
【0266】
【0267】
【0268】
【0269】
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
【0274】
【0275】
【0276】
【0277】
【0278】
【国際調査報告】