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特表2023-514446遺伝子療法のためのAAV2をベースとするウイルスベクター粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】遺伝子療法のためのAAV2をベースとするウイルスベクター粒子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20230329BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230329BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230329BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230329BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
A61K35/76
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P21/00
A61P43/00 105
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550865
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(85)【翻訳文提出日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2021054347
(87)【国際公開番号】W WO2021165544
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】20158633.6
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195668
【氏名又は名称】メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファー
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Hochschule Hannover
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】トゥム・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ビュニング・ヒルデガルト
(72)【発明者】
【氏名】ザンター・ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ベーア・クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA941
4C084ZB211
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、AAV2をベースとするウイルスベクター粒子であって、そのカプシドタンパク質(CAP)において、心筋細胞への指向性を与える挿入されたアミノ酸区画を含有する、AAV2をベースとするウイルスベクター粒子を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフェクター分子のための核酸構築物を含むAAV2ウイルスベクター粒子であって、配列番号56のCAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸587番または588番または453番のC末端に配列番号1~配列番号53から選択されるアミノ酸配列のうちの1つを含む挿入されたアミノ酸区画を含有するカプシドタンパク質(CAP)を含むことを特徴とする、AAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項2】
1~4個のアミノ酸のリンカー配列が、CAPのN末端区画のアミノ酸587番または588番または453番と、前記の挿入されたアミノ酸区画のN末端アミノ酸との間に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項3】
1~3個のアミノ酸のリンカー配列が、前記の挿入されたアミノ酸区画のC末端と、CAPの残りのC末端部分のN末端アミノ酸との間に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項4】
前記のCAPの残りのC末端部分が、配列番号56のアミノ酸588~735、またはアミノ酸589~735、またはアミノ酸454~735であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載のAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項5】
突然変異R585A(アミノ酸585がArgからAlaへ)およびR588A(アミノ酸588がArgからAlaへ)を特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載のAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項6】
心筋細胞の疾患もしくは欠陥の処置における、または筋肉筋細胞もしくは骨格筋細胞の疾患もしくは欠陥の処置における使用のための、請求項1~5のいずれか一つに記載のAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項7】
前記ベクター粒子が、エフェクター配列を含む核酸構築物を含有することを特徴とする、請求項6に記載の心筋細胞の疾患または欠陥の処置における使用のためのAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項8】
前記エフェクター配列が、エフェクター分子をコードする発現カセットであることを特徴とする、請求項6または7に記載の心筋細胞の疾患または欠陥の処置における使用のためのAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項9】
前記疾患または欠陥が、心肥大、心筋梗塞、心毒性または心不全である、請求項6~8のいずれか一つに記載の心筋細胞の疾患または欠陥の処置における使用のためのAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項10】
前記処置が、心筋細胞のin vivoまたはex vivo形質導入である、請求項6~9のいずれか一つに記載の心筋細胞の疾患または欠陥の処置における使用のためのAAV2ベクター粒子。
【請求項11】
前記ウイルスベクター粒子を受容する人が、野生型AAV2を中和する抗体を有し、および/またはAAV9を中和する抗体を有する、請求項6~10のいずれか一つに記載の心筋細胞の疾患または欠陥の処置における使用のためのAAV2ウイルスベクター粒子。
【請求項12】
培養真核細胞におけるAAVベクター産生のための成分の送達、それに続く細胞溶解ならびに細胞成分およびプラスミドDNAの除去、ならびにAAVウイルスベクター粒子のさらなる精製による、AAV2ウイルスベクター粒子を産生するための方法であって、前記AAV2ウイルスベクター粒子が、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸587番のC末端に、またはアミノ酸588番のC末端に、またはアミノ酸453番のC末端に、配列番号1~配列番号53から選択されるアミノ酸配列のうちの1つを含む挿入されたアミノ酸区画を含有するカプシドタンパク質(CAP)を含むことを特徴とする、AAV2ウイルスベクター粒子を産生するための方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一つに記載のAAV2ベクター粒子を、心疾患または心臓欠陥を有すると診断されている患者に投与することを含む、心臓欠陥を含む心疾患の処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子療法における使用のための、とりわけ心臓欠陥を含む心疾患の治療における使用のための、例えば心臓欠陥を含む心疾患の遺伝子治療における使用のための、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)をベースとするウイルスベクター粒子に関する。心疾患または心臓欠陥は、好ましくは、心筋細胞の疾患または欠陥である。心疾患または心臓欠陥は、例えば心過負荷と関連付けられる医学的状態、または心不全であり、例えば、前記ウイルスベクター粒子は、以下の医療適用の処置における使用のためである:心筋梗塞、心肥大後の、または心不全の処置のための、心筋細胞において治療効果を呈する導入遺伝子の送達。
【0002】
本発明のウイルスベクター粒子は、野生型AAV血清型2および9(AAV2およびAAV9)と比較した場合、心筋細胞により特異的であり、かつ非標的細胞、例えば肝細胞に形質導入することにおいてはより効率的でなく、心筋細胞においてウイルスベクター粒子にコードされる導入遺伝子の発現を可能にするという利点を有する。
【背景技術】
【0003】
最先端技術
Peraboら、Molecular Therapy、第8巻、1号、151~157頁(2003)(非特許文献1)は、AAV2ビリオンのVP1カプシドタンパク質と称されるカプシドタンパク質の587位へ7つのアミノ酸のランダム配列を挿入することと、アデノウイルスと共感染させたヒト巨核球細胞株M-07eまたはB細胞慢性リンパ性白血病細胞株Mec1からAAV2突然変異体を選択することとを説明している。その結果、ウイルスベクターに、細胞特異性ではないが、受容体特異性を与える突然変異体カプシドタンパク質の配列が、同定された。
【0004】
Yingら、Gene Therapy 17、980~990頁(2010)(非特許文献2)は、AAV2ライブラリーをマウスに注射し、その3日後にマウスから心組織スライスを単離し、培養条件において心組織スライスにAd5をin vitroで重感染させることによって、心組織に対して増加した特異性を有するベクターを選択するための、AAV2ディスプレイペプチドライブラリーの3ラウンドのスクリーニングを説明している。心組織に高い特異性を示す2つのAAV2バリアントが同定されたが、これらのバリアントからのレポーター遺伝子発現は、野生型AAV9ウイルスベクター粒子からの発現よりも低かった。
【0005】
Wangら、Nature Reviews Drug Discovery 358~378頁(2019)(非特許文献3)は、組換えAAV(AAVベクター粒子またはAAVベクター)がそれらの一本鎖DNAにおいて、ウイルスITRに両側を挟まれた非ウイルス配列からなり得、唯一のウイルス配列がITRであることを示す。AAVのITRは、ゲノム複製のため、およびベクター産生中のパッケージングシグナルとして働く。
【0006】
Rockmanら、PNAS 88:8277~8281頁(1991)(非特許文献4)は、心肥大のマウスモデルを生成するための、マウスにおける心圧過負荷の誘導を説明している。
【0007】
Zhangら、Hum. Gene Ther.、1284~1296頁、doi: 10.1089/hu.2019/027 (2019)(非特許文献5)は、カプシドバリアントのAAVベクター粒子のクローニングおよび生成における使用のための、AAV2のrepおよびcapタンパク質のオープンリーディングフレーム(ORF)を含有するpRC’99と呼ばれるプラスミドを説明している。
【0008】
Zincarelliら、Molecular Therapy、第16巻、6号、1073~1080頁(2008)(非特許文献6)は、AAVの天然に存在する血清型の中で、AAV9が、マウスにおいて全身性注射後に心臓における最も高い導入遺伝子発現を示すことを示した。
HajjarおよびIshikawa、Circulation Res、第120巻、1号、33~35頁(2017)(非特許文献7)によって概略される通り、AAV9は、高い心指向性を有するベクターとして出現し、したがって、それは、典型的に、遺伝子療法研究において心臓をターゲティングするために使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Peraboら、Molecular Therapy、第8巻、1号、151~157頁(2003)
【非特許文献2】Yingら、Gene Therapy 17、980~990頁(2010)
【非特許文献3】Wangら、Nature Reviews Drug Discovery 358~378頁(2019)
【非特許文献4】Rockmanら、PNAS 88:8277~8281頁(1991)
【非特許文献5】Zhangら、Hum. Gene Ther.、1284~1296頁、doi: 10.1089/hu.2019/027 (2019)
【非特許文献6】Zincarelliら、Molecular Therapy、第16巻、6号、1073~1080頁(2008)
【非特許文献7】HajjarおよびIshikawa、Circulation Res、第120巻、1号、33~35頁(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の目的
例えば野生型血清型AAV2と比較して、およびとりわけAAV9と比較して、マウスおよびヒト心筋細胞に対する指向性とも呼ばれる特異性の改善と、肝組織へのより低い親和性とを有するAAV2、とりわけAAV2のカプシドタンパク質をベースとする代替ウイルスベクター粒子を提供することが本発明の目的である。遺伝子療法における使用のために、心筋細胞への優れた特異性を有する当該ウイルスベクター粒子は、心筋細胞において、ウイルスベクター粒子に含有される核酸コード配列の発現を可能にするはずである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の説明
本発明は、特許請求の範囲の特徴によって目的を達成し、とりわけ、AAV2をベースとするウイルスベクター粒子を提供し、そのウイルスベクター粒子は、そのカプシドタンパク質(CAP)においてCAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸587番のC末端に、および/またはアミノ酸588番のC末端に、および/またはアミノ酸453番のC末端に、配列番号1~53から選択される以下のアミノ酸配列のうちの1つ、好ましくは配列番号1または配列番号11のうちの1つを含むかまたはそれからなる挿入されたアミノ酸区画を含有する。本発明のCAPは、N末端からC末端へ、野生型CAPのアミノ酸1~587を含むかまたはそれらからなるCAPのN末端区画と、任意選択的にリンカー配列と、挿入されたアミノ酸区画と、任意選択的にリンカー配列と、アミノ酸587番のC末端への挿入のために野生型CAPのアミノ酸588~735を含むかもしくはそれらからなる、アミノ酸588番のC末端への挿入のために野生型CAPのアミノ酸589~735を含むかもしくはそれらからなる、またはアミノ酸453番のC末端への挿入のために野生型CAPのアミノ酸454~735を含むかもしくはそれらからなる、CAPのC末端区画とを含むかまたはそれらからなる。したがって、一実施形態における挿入されたアミノ酸区画は、野生型CAPアミノ酸配列のアミノ酸N587とR588との間に挿入されている。あるいは、挿入されたアミノ酸配列は、野生型CAPアミノ酸配列のアミノ酸R588と589との間に挿入されており、またそれは本明細書において代替的に、野生型CAPアミノ酸配列のN587とR588との間の挿入によって記載され、および/またはI456とアミノ酸454との間の挿入によって記載され、本明細書および特許請求の範囲からのすべての特徴は、野生型CAPアミノ酸配列のN587とR588との間の挿入に適用され、R588と589との間の挿入に適用され、アミノ酸I453と454との間の挿入に適用され、各アミノ酸は、野生型CAPアミノ酸配列について番号付けられている。これらの挿入部位の各々について、とりわけ挿入されたアミノ酸区画が野生型CAPアミノ酸配列のアミノ酸453番と454番との間に挿入されている実施形態において、CAPアミノ酸配列は、R585A(アミノ酸585 ArgからAlaへ)およびR588A(アミノ酸588 ArgからAlaへ)へさらに突然変異されることが好ましい。これらの好ましい追加の突然変異は、野生型CAPのヘパリン硫酸(heparin sulfate)プロテオグリカン結合部位を妨げる。
【0012】
【表1】
【0013】
その中で、CAPのアミノ酸587番、もしくはCAPのアミノ酸588、もしくはCAPのアミノ酸453それぞれと、挿入されたアミノ酸区画のN末端アミノ酸との間に、追加のアミノ酸は、存在しなくてもよく、そのため、挿入されたアミノ酸配列は、直接的にCAPのアミノ酸587番に隣接するか、別にCAPのアミノ酸588番に隣接するか、もしくは別にCAPのアミノ酸454番に隣接するか、またはあるいは1~5個のアミノ酸の、例えば1~4個のアミノ酸のリンカー配列を、CAPのアミノ酸587番、別にCAPのアミノ酸588番、もしくは別にCAPのアミノ酸454番と、挿入されたアミノ酸区画との間に配置してもよく、かつ/または挿入されたアミノ酸区画のC末端とCAPの残りのC末端部分との間に、追加のアミノ酸は存在しなくてもよく、そのため、挿入されたアミノ酸配列は、直接的にCAPのC末端部分のアミノ酸に隣接し、かつ/または1~4個のアミノ酸の、例えば1~3個のアミノ酸のリンカー配列を、挿入されたアミノ酸区画のC末端と、CAPの残りのC末端部分のN末端アミノ酸との間に配置してもよい。
【0014】
アミノ酸587番のC末端への挿入のために、CAPの残りのC末端部分のN末端アミノ酸は、好ましくは野生型CAPのアミノ酸588番である。好ましくは、挿入されたアミノ酸区画のC末端に隣接する、CAPのC末端部分は、任意選択的に、挿入されたアミノ酸区画のC末端とCAPのC末端部分との間のリンカー配列を伴い、配列番号56のアミノ酸588番~735番のアミノ酸配列を有する。
【0015】
アミノ酸588番のC末端への挿入のために、CAPの残りのC末端部分のN末端アミノ酸は、好ましくは野生型CAPのアミノ酸589番である。好ましくは、挿入されたアミノ酸区画のC末端に隣接する、CAPのC末端部分は、任意選択的に、挿入されたアミノ酸区画のC末端とCAPのC末端部分との間のリンカー配列を伴い、配列番号56のアミノ酸589番~735番のアミノ酸配列を有する。
【0016】
アミノ酸454番のC末端への挿入のために、CAPの残りのC末端部分のN末端アミノ酸は、好ましくは野生型CAPのアミノ酸455番である。好ましくは、挿入されたアミノ酸区画のC末端に隣接する、CAPのC末端部分は、任意選択的に、挿入されたアミノ酸区画のC末端とCAPのC末端部分との間のリンカー配列を伴い、配列番号56のアミノ酸455番~735番のアミノ酸配列を有する。
【0017】
挿入されたアミノ酸区画は、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸587番のC末端に直接的に隣接するか、別にアミノ酸588番のC末端に直接的に隣接するか、もしくは別にアミノ酸455番のC末端に直接的に隣接してもよく、または例えば1~5個のアミノ酸の、好ましくは3個のアミノ酸の、リンカー配列を、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸587番、別にアミノ酸588番、もしくは別にアミノ酸453番と、挿入されたアミノ酸区画との間に配置してもよい。挿入されたアミノ酸は、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸588番、別にアミノ酸589番、もしくは別にアミノ酸454番のN末端に直接的に隣接してもよく、または1~4個のアミノ酸の、好ましくは2個のアミノ酸の、リンカー配列を、挿入されたアミノ酸区画と、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸588番、別にアミノ酸589番、もしくは別にアミノ酸454番のN末端との間に配置してもよい。CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸588番、別にアミノ酸589番、または別にアミノ酸454番と、挿入されたアミノ酸区画のN末端との間の配置のための例示的なリンカー配列は、ASAであり、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸588番、別にアミノ酸589番、または別にアミノ酸454番と、挿入されたアミノ酸区画のC末端との間の配置のための例示的なリンカー配列は、AAである。好ましくは、挿入されたアミノ酸区画は、そのN末端のリンカー配列およびそのC末端のリンカー配列と合わせて、16~7個のアミノ酸、例えば14~7個のアミノ酸、より好ましくは12個のアミノ酸からなる。
【0018】
各場合におけるリンカー区画は、Ala、Thr、Pro、Gly、Leuおよび/またはSerから選択されるアミノ酸のうちの少なくとも1つを含むかまたはそれらからなることができ、これらのアミノ酸は、各リンカー区画において互いに異なっていても、またはすべて同じであってもよい。
【0019】
本発明のウイルスベクター粒子は、例えば各々の野生型CAPを有するAAV2およびAAV9と比較して、心筋細胞への指向性または特異性が増大していること、心筋細胞以外の細胞種についての指向性が低減していること、とりわけ肝組織についての指向性が低減していること、ならびに心筋細胞において、ウイルスベクター粒子に含有される核酸配列を発現すること、例えばAAV9からの同じ導入遺伝子の発現レベルと同等のレベルおよびAAV2からの同じ導入遺伝子の発現レベルよりもはるかに高いレベルで導入遺伝子を発現することという利点を有する。心筋細胞は、心組織の一部分であり、ウイルスベクター粒子は、医学的使用のため、例えば心疾患または心臓欠陥の処置における使用のため、例えばヒト患者への投与のためであり得る。さらに、ウイルスベクター粒子は、細胞における高タイターでのその産生を可能にする利点を有する。
【0020】
さらに、本発明によるウイルスベクター粒子は、大部分の人に存在する抗体であり、野生型AAV粒子を中和することが公知であるヒト静脈内免疫グロブリン(IVIG)によって、有意により低い程度だけ中和されることが見出された。このことは、処置における使用のための本発明によるウイルスベクター粒子は、AAVに対する天然に存在する抗体による中和を回避するという利点を有することを示す。
【0021】
野生型CAPのアミノ酸587番とアミノ酸588番との間に挿入された、および/または野生型CAPのアミノ酸588番とアミノ酸589番との間に挿入された、および/または野生型CAPのアミノ酸453番とアミノ酸454番との間に挿入された配列番号1~配列番号53の挿入されたアミノ酸区画のうちの1つ、好ましくは配列番号1または配列番号11のうちの1つを含むCAPを含有するウイルスベクター粒子は、例えば導入遺伝子をコードする同じ核酸配列を含有するAAV9ウイルスベクター粒子よりも、心筋細胞への高い指向性を有し、心筋細胞における、粒子に含有される核酸配列の発現、および肝組織における有意により低い発現を可能にする。
【0022】
したがって目下、挿入されたアミノ酸区画のうちの1つを含有するCAPを有するウイルス粒子は、標的分子として作用する同じ心筋細胞表面分子への親和性を有すると考えられる。
【0023】
野生型CAPのアミノ酸587番とアミノ酸588番との間、すなわち、野生型CAPのアミノ酸587番のC末端へ挿入されたアミノ酸区画は、配列番号1の好ましい挿入されたアミノ酸区画について、配列番号54において野生型CAPにおける挿入物として含有され、配列番号11の好ましい挿入されたアミノ酸区画は、配列番号55において野生型CAPにおける挿入物として含有され、各挿入されたアミノ酸区画について、アミノ酸ASAのリンカー配列は、野生型CAPのN末端区画の間、すなわち、アミノ酸587番の間に配置され、アミノ酸AAのリンカー配列は、挿入されたアミノ酸区画とCAPのC末端区画との間、すなわち、挿入されたアミノ酸区画と野生型CAPのアミノ酸588との間に配置される。野生型CAPは、AAV2 cap ORFによってコードされる(コード配列は配列番号56)。ASAの代替として、野生型CAPのN末端区画の間、すなわち、野生型CAPのアミノ酸587番と挿入されたアミノ酸区画との間に配置されたリンカーは、アミノ酸配列AAAを有し得る。
【0024】
ウイルスベクター粒子は、AAV2の末端ITR配列間にエフェクター配列を含むかまたはそれからなる核酸構築物、例えば一本鎖DNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖を含有する。エフェクター配列は、エフェクター分子をコードする、例えば機能的非コードRNAまたはタンパク質コードRNAをコードする発現カセットであってもよく、エフェクター分子は、心筋細胞においてベクター構築物から発現され得、それによって、心筋細胞においておよびしたがってまた心臓全体にとって治療的有益機能を呈する。
【0025】
本明細書において、心筋細胞の形質導入は、心筋細胞へのウイルスベクター粒子による核酸の導入であり、このプロセスは、また、とりわけ心筋細胞の処置におけるウイルスベクター粒子の使用について、ウイルスベクター粒子による感染と称することができる。概して、前記ウイルスベクター粒子は、in vivoまたはin vitroでの、心筋細胞の処置における使用のため、例えば心筋細胞の遺伝的欠陥の処置のため、とりわけ心筋細胞の形質導入のためであり得る。
【0026】
例示的なエフェクター分子は、例えばウイルスベクター粒子のレシピエントの欠損遺伝子を補完することにおける使用のために、任意の野生型配列から選択することができる。例示的なエフェクター分子は、任意の種からの遺伝子、好ましくはヒト遺伝子を含む、天然遺伝子である。
【0027】
特定の実施形態において、核酸分子を含有しない空のウイルス粒子が提供される。これらの空のウイルス粒子は、例えば機能的分子の心組織への送達のための機能的分子と関連付けることができる。機能的分子は、例えば治療剤もしくはインジケーター化合物、例えば色素もしくは薬学的に許容可能な診断造影剤、またはこれらのうちの少なくとも2つの組合せであってもよい。空のウイルス粒子は、HEK293細胞において産生することができる。当該プロセスは、AAV空カプシド産生のためにHEK293細胞において各々のヘルパープラスミド(野生型AAV2のcap遺伝子(適用可能である場合挿入されたアミノ酸区画を伴う)、およびrep遺伝子を含有する)ならびにアデノウイルスヘルパープラスミド(AAVベクター産生に必要とされるアデノウイルスヘルパー機能を含有する)をトランスフェクトするステップを含み(発現カセットの両側にあるITRを含有するベクターゲノムプラスミドは、この特定の場合には使用されない)、続いてイオジキサノール勾配遠心分離による空のカプシド粒子の精製を伴った。
【0028】
概して、本発明によるAAVウイルスベクター粒子を産生するためのプロセスは、送達によって、例えば、ヘルパーウイルス共感染を伴うかまたは伴わない、AAVベクター産生に必要なすべての成分のプラスミドトランスフェクションによって、例えばITRにより両側を挟まれた導入遺伝子発現カセット、AAVrepおよびAAVcap遺伝子ならびにAAV粒子産生に必要な他のウイルスヘルパー遺伝子を含有するベクターゲノムから、例えばアデノウイルスからであってもよい。当該プロセスは、培養真核宿主細胞において行って、続いて、例えば酵素消化、濾過および/または遠心分離ならびにさらなる精製、例えばAAVウイルスベクター粒子の勾配密度遠心分離および/またはクロマトグラフィーによるさらなる精製によって、細胞を溶解し、細胞成分およびプラスミドDNAを除去してもよい。前記プロセスにより得られるAAVウイルスベクター粒子は、CAPの野生型アミノ酸配列のアミノ酸587番のC末端に、配列番号1~配列番号53から選択されるアミノ酸配列のうちの1つを含む挿入されたアミノ酸区画を含有するカプシドタンパク質(CAP)を含む。
【0029】
ウイルスベクター粒子は、注射のために、例えば心組織への直接的注射のために、または全身性注射、例えば静脈内(i.v.)注射のために、製剤化され得る。
【0030】
本発明は、ここで、例により、かつ図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の挿入されたアミノ酸区画を伴うCAPを同定するために使用される選択プロセスのスキームである。
図2】全身性注射後に実験動物の様々な細胞タイプに存在するウイルスベクター粒子のコピー数を示す。
図3】本発明によるウイルスベクター粒子の形質導入効率および特異性を示す。
図4A】ヒト静脈内免疫グロブリン(IVIG)による、本発明によるウイルスベクター粒子の中和を測定した結果を示す。
図4B】ヒト静脈内免疫グロブリン(IVIG)による、本発明によるウイルスベクター粒子の中和を測定した結果を示す。
図5図5A~5D:AAV2、AAV9または本発明によるウイルスベクター粒子のいずれかを以前に注射したマウスからの血清による、本発明のウイルスベクター粒子の中和を測定した結果を示す。
図6図6Aおよび6B:非心筋細胞におけるウイルスベクターによる形質導入効率の結果を示す。図6C:ヘパリンの存在下または非存在下におけるウイルスベクターによる形質導入効率の結果を示す。図6D:ウイルスベクターについての熱安定性データを示す。図6E:ウイルスベクターによる心筋細胞形質導入を示す。
図7図7A:実験処置のスキームを示す。図7B~7I:本発明のウイルスベクターおよび比較用ベクターのin vivo効果について、偽手術およびTAC術マウスにおいて、図7B~7Eは、心エコーの結果を示し、図7Fは、心臓の脛骨長に対する比を示し、図7Gは、H19の発現レベルを示し、図7Hおよび7Iは、心組織および肝組織におけるH19のベクターコピー数を示す。
【実施例
【0032】
例:心筋細胞に対する特異性を有するAAV2ウイルスベクター粒子の同定
概して、CAPに挿入されたランダムアミノ酸区画を含有する、AAV2カプシド突然変異体のウイルス粒子の初期ライブラリーを生成した。挿入されたアミノ酸区画は、CAPをコードする野生型遺伝子において野生型配列のアミノ酸587番をコードする区画と588番をコードする区画との間に配置される核酸構築物によりコードされた。野生型CAPのアミノ酸587についてのコドンとアミノ酸588についてのコドンとの間に、核酸構築物は5’から3’へ、リンカー配列としてのAAAのコード配列と、挿入されるアミノ酸配列としてのランダムな7merと、リンカー配列としてのAAのコード配列とからなる挿入されるアミノ酸配列をコードし、N末端からC末端へ各々のコードされたアミノ酸配列の配置を生じた。
【0033】
心筋細胞特異的ウイルスベクター粒子の選択のために、2~4匹のマウス(雄C57BL/6N、6~8週齢)を使用し、ここでは、Rockmanら、PNAS 88:8277~8281頁(1991)(非特許文献4)により説明される通りに、26ゲージの針を使用して心圧過負荷を人工的に誘導し、これらのマウスは、TAC術マウスとも称される。結果としての大動脈縮窄術(TAC)による大動脈弁狭窄症を、心エコーにより確認し、その後、ウイルス/ベクター粒子を注射した。マウスを、ウイルス0.66x1011~1x1011個/ベクター粒子による尾静脈注射により1回処置した。
【0034】
このマウスモデルとしてのin vivo選択プロセスにおけるTAC術マウスの使用は、とりわけ肥大性心筋細胞についての指向性の増大をもたらす挿入されたアミノ酸区画をCAP内に含有するAAV2のカプシド突然変異体ウイルスベクター粒子の同定を支持したと考えられる。したがって、このウイルスベクター粒子は、心組織の処置における使用に、とりわけ肥大疾患段階において心筋細胞をターゲティングするために好適である。同時に、マウスにおけるin vivo選択は、肝臓についての指向性の低減ならびにしたがってより効率的な心筋細胞特異的導入遺伝子送達および導入遺伝子発現、例えば野生型AAV9と比較して増大した心筋細胞特異的導入遺伝子送達および導入遺伝子発現をもたらすカプシド突然変異体AAV粒子を同定することを可能にする。このプロセスにおいて、初期ライブラリーについて、RepおよびCap遺伝子を含有するウイルス粒子を使用し、さらなる選択プロセスにおいて、Repコード配列をEGFP DNAの発現カセットにより置換した。
【0035】
代表的な導入遺伝子として、EGFP(高感度緑色蛍光タンパク質)のコード配列を使用した。
【0036】
プラスミドプールから、HEK293細胞のリン酸カルシウムトランスフェクション、続いてウイルスベクター粒子のイオジキサノール勾配精製により、ウイルスベクター粒子のAAVライブラリーを産生した。ベクター粒子タイターを、cap特異的またはEGFP特異的プライマーを使用する定量的PCRにより決定した。
【0037】
in vivo選択プロセスは、3つの連続選択ステップからなった。第1の選択ステップにおいて、ウイルス粒子の初期ライブラリーを、マウスに、TAC術の53日後に注射した。3日後、心組織を分画して、心筋細胞を単離した。このために、マウスを吸入チャンバーにおいて酸素中の4%イソフルランにより麻酔した。動物を、ホットプレート(37℃)上で仰臥位にて固定し、麻酔を呼吸マスク(酸素中の2%イソフルラン)により維持した。皮膚を切開し、2つの気管柵状織間に切開を施し、これを通してカニューレを挿入した。その後、管を糸で固定し、人工換気システムに接続した。胸部の消毒後、皮膚を肋骨のアーチに並行して2~3cmの長さに沿って切断し、腹部および胸部を開放し、出血はすべて軽く拭き取った。次に、大動脈の位置を特定し、持ち上げ、静かに切断した。穴を通して鈍端カニューレを挿入し、糸で固定した。心臓は、マウスにおいて、事前に温めた灌流緩衝液(113mM NaCl、4.7mM KCl、0.6mM KHPO、0.6mM NaHPO、1.2mM MgSO-7HO、0.032mMフェノールレッド、12mM NaHCO、10mM KHCO、10mM HEPES、30mMタウリン、0.1%グルコース、10mM 2,3-ブタンジオンモノオキシム)により即座に逆行性灌流を3分間行い、その後マウスから除去し、灌流緩衝液によりさらなる3分間灌流し、続いて事前に温めた消化緩衝液(113mM NaCl、4.7mM KCl、0.6mM KHPO、0.6mM NaHPO、1.2mM MgSO-7HO、0.032mMフェノールレッド、12mM NaHCO、10mM KHCO、10mM HEPES、30mMタウリン、0.1%グルコース、10mM 2,3-ブタンジオンモノオキシム、12.5μM CaCl、700U/mlコラゲナーゼII)により10分間灌流した。心房を除去し、心室を、2.5mlの温かい消化緩衝液中で切断し、1mlシリンジを通して剪断することにより機械的に分離した。コラゲナーゼII消化を、2.5mlの停止緩衝液(113mM NaCl、4.7mM KCl、0.6mM KHPO、0.6mM NaHPO、1.2mM MgSO-7HO、0.032mMフェノールレッド、12mM NaHCO、10mM KHCO、10mM HEPES、30mMタウリン、0.1%グルコース、10mM 2,3-ブタンジオンモノオキシム、12.5μM CaCl、10%FBS)を細胞懸濁液に添加することにより停止した。得られた細胞懸濁液を、100μmの細胞こし器を通して濾過し、フィルターを1~2mlのAMCF培地(NEAAを含む10.8g/l MEM HBS(Bioconcept)、4.2mM NaHCO、2ng/mlビタミンB12、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(100U/ml;100μg/ml)、10%FBS、pH7.3)により洗浄した。顕微鏡下で、棒状の心筋細胞の外観を評価した。心筋細胞を室温(RT)において10分間沈殿させた。心筋細胞沈殿ペレット(CMC画分)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で洗浄し、900xgにおいて4℃にて5分間遠心分離し、液体窒素中で凍結し、-80℃において保存した。残りの上清を、30xgにおいて室温にて3分間遠心分離して残留の心筋細胞を除去した。残留の心筋細胞を含有する細胞ペレットを捨て、残りの他の心臓細胞種を含有する上清をさらに処理した。ライブラリー選択中、他の特定の心臓細胞種、例えば、線維芽細胞または内皮細胞が必要とされなかった場合、上清を430xgにおいて遠心分離してすべての非心筋細胞をペレット化し、ペレットを液体窒素中で凍結し、-80℃において保存した。また、心臓線維芽細胞および内皮細胞が必要とされた場合(個々のベクターバリアントのベクターコピーおよび発現解析のために)、代わりに非筋細胞画分を含有する細胞ペレットをAMCF培地(NEAAを含む10.8g/l MEM HBS(Bioconcept)、4.2mM NaHCO、2ng/mlビタミンB12、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(100U/ml;100μg/ml)、10%FBS、pH7.3)中に溶解し、10cmペトリ皿上に事前播種し、1%COインキュベーター内に1時間置いた。付着した細胞(心臓線維芽細胞)をPBSにより2回洗浄し、その後、2mlのPBSを皿に添加し、細胞を細胞スクレーパーにより回収し、900xgにおいて4℃にて5分間遠心分離した。ペレットを液体窒素中で凍結し、-80℃において保存した。非筋細胞を含有する事前播種ステップの上清である非線維芽細胞画分を、次に430xgにおいて4℃にて5分間遠心分離した。得られた細胞ペレットを80μlのMACS緩衝液(auto-MACSすすぎ溶液中に1:20希釈したMACSウシ血清アルブミンストック溶液、両方ともMiltenyi Biotec)中に再懸濁し、20μlのCD146 MACSビーズ(Miltenyi Biotec)と混合し、4℃において15分間インキュベートした。後に、2mlのMACS緩衝液を添加し、細胞懸濁液を完全に混合し、430xgにおいて4℃にて5分間遠心分離した。細胞ペレットを、MACS緩衝液中に再懸濁し、事前洗浄したMACS分離カラムに移した。MACS緩衝液による3回の洗浄ステップ後、分離カラムを磁場から除去した。カラムを500μlのMACS緩衝液により3回すすぐことによりEC画分を回収し、900xgにおいて4℃にて5分間遠心分離した。ペレットを液体窒素中で凍結し、-80℃において保存した。
【0038】
DNeasy Blood and Tissueキット(Qiagen、Hilden、ドイツから得た)を使用して製造業者の使用説明書に従って、細胞画分からDNAを単離した。心筋細胞内に蓄積されたウイルス粒子のCAP遺伝子の挿入されたアミノ酸配列を再クローニングするために、挿入されたアミノ酸配列のコード配列の両側に位置するプライマー(フォワードプライマー配列番号57、リバースプライマー配列番号58)を使用するPCRにより、ウイルスベクターDNAを増幅し、これらの再クローニングしたCAP遺伝子配列からウイルスベクター粒子の二次ライブラリーを生成した。
【0039】
第2の選択ステップのために、二次ライブラリーにおいて、rep遺伝子を、EGFPをコードする発現カセットにより置換し、二次ライブラリーのウイルスベクター粒子の産生中に、repタンパク質コード配列を、プラスミドトランスフェクションによりtransで供給した。repコードヌクレオチド配列を、別のプラスミドで提供し、これはさらにAAVベクター産生のためのトランスフェクション中に使用した。パッケージングのために、二次ライブラリーのベクターゲノムは、両側にAAV2の末端逆位配列(ITR)を有した。二次ライブラリーのウイルスベクター粒子を、TAC術の42日後に注射し、心筋細胞および非筋細胞を2週間後に収集し、続いて、心筋細胞内にさらに蓄積された、挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列を再クローニングするために次なるDNA増幅を行った。再クローニングしたアミノ酸配列を使用して、以前の第2の選択ラウンドと同じ方法で選択した三次ライブラリーを生成した。
【0040】
選択プロセスを図1に示し、ここで、標的細胞は心筋細胞であり、心筋細胞に対する特異性を査定するために、AAVベクターの主要なオフターゲット組織として肝組織を解析した。
【0041】
3ラウンドの選択後、心筋細胞画分から、非筋細胞心臓画分から、および肝組織からサブライブラリーを単離した。3回の選択ラウンド後のこのサブライブラリーのDNAを、454パイロシークエンシングプラットホーム(GS Junior、Roche Diagnostics)での次世代シークエンシングによりcap特異的プライマー(配列番号57のフォワードプライマー)を使用して解析した。シークエンシングデータは、cap遺伝子内において配列番号1~配列番号53の挿入されたアミノ酸配列をコードする心筋細胞富化バリアントのコード配列を同定した。
【0042】
以前に行ったAAVペプチドディスプレイライブラリーの選択から選択した個々のカプシド改変ベクター粒子の産生のために、挿入されたアミノ酸配列および隣接部分をコードするオリゴヌクレオチドを使用して、挿入されたアミノ酸配列のうちの1つを含有するcapタンパク質を有するウイルスベクター粒子を個々に生成した。挿入されたアミノ酸配列のうちの1つをコードする個々のcap遺伝子についてのオリゴヌクレオチドを、Zhangら、Hum. Gene Ther.、1284~1296頁(2019)(非特許文献5)により説明される通りに、ヘルパープラスミドpRC’99にクローニングした。
【0043】
配列番号1の挿入されたアミノ酸区画を有するCAPを含有する本発明によるウイルスベクター粒子は、配列番号54のCAPを有し、配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を有するCAPは、配列番号55のCAPを有した。
【0044】
野生型、および本発明による挿入されたアミノ酸区画を有するCAPを含むカプシド改変バリアントの両方のAAVウイルスベクター粒子、ならびにまた野生型AAV9粒子を、HEK293細胞のリン酸カルシウムトランスフェクションにより産生し、続いてイオジキサノール勾配精製によりウイルスベクター粒子を精製した。各々挿入されたアミノ酸配列のうちの1つを含有する個々のウイルスベクターを、自己相補的ゲノムコンフォメーションにおいてCMVプロモーターの制御下でEGFPをコードするウイルスベクターとして産生した(scEGFP)。要するに、当該プロセスは、AAVベクター産生のためにHEK293細胞においてベクターゲノムプラスミド(AAV2 ITRにより両側を挟まれた、CMVプロモーターおよびEGFPコード配列)、各々のヘルパープラスミド(野生型AAV2のcap遺伝子(適用可能である場合挿入されたアミノ酸区画を伴う)、およびrep遺伝子を含有する)ならびにアデノウイルスヘルパープラスミド(AAVベクター産生に必要とされるアデノウイルスヘルパー機能を含有する)をトランスフェクトするステップを含み、続いてイオジキサノール勾配遠心分離によるベクター粒子の精製を伴った。
【0045】
ベクター産生のゲノムタイターを、EGFPコード配列に特異的なプライマーを使用する定量的PCRによって決定した。
【0046】
配列番号1または配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPの例についての、実験動物の様々な組織に存在するウイルスベクター粒子のコピー数は、本発明によるCAPを含有するウイルスベクター粒子が、例えば野生型AAV9と比較して、特に肝細胞との関係において、心筋細胞に対して高い特異性を有することを示す。
【0047】
AAVベクターコピー数解析を、絶対標準曲線法を使用して、心臓細胞試料および器官組織におけるqPCRにより、それぞれ、Ptbp2(ポリピリミジントラクト結合タンパク質2;二倍体ゲノム当たり2コピー)およびEGFPの絶対遺伝子コピー数を決定することにより行った。マルチプレックスTaqManプローブベースのqPCR検出を、384ウェルフォーマットにおいて、TaqMan Fast Advance Master Mix(Thermo Fisher Scientific)、TaqMan Copy Number Assay for EGFP(Thermo Fisher Scientific;FAM蛍光標識済み)、Ptbp2プライマー(フォワード:TCTCCATTCCCTATGTTCATGC(配列番号59)、リバース:GTTCCCGCAGAATGGTGAGGTG(配列番号60))およびJOE蛍光標識Ptbp2プローブ(5’[JOE]-ATGTTCCTCGGACCAACTTG-[BHQ1]3’(配列番号61))を使用して行った。各qPCR反応は、10μlの総体積中に、1xTaqMan Fast Advance Master Mix、1xEGFP TaqMan Copy Number Assay、150nM Ptbp2 TaqManプローブ、330nMプライマー(フォワードおよびリバース)の最終濃度ならびに2μlのDNA試料を含有した。DNA試料は、絶対コピー数標準曲線(分子5x10、5x10、5x10、5x10、5x10個/μl)のための直鎖状プラスミドDNA(1つのプラスミド当たりPtbp2およびEGFPのうちの1つのコピーを含有する)、または15ng/μlの濃度の事前希釈したDNAのいずれかを包含した。
【0048】
QuantStudio Real-Time PCR System(ThermoFisher Scientific)において以下のプロトコールを使用してqPCRを行った:50℃で2分間および95℃で20秒間の初回活性化、続いて、95℃で5秒間の変性と、56℃で20秒間のプライマー/プローブアニーリングおよび伸長と、65℃で20秒間の蛍光シグナルの検出とを40周期。二倍体細胞におけるベクターコピー数(VCN)を以下の式によって計算した:VCN=量(EGFP)/量(Ptbp2)x2。
【0049】
エフェクター遺伝子を表すEGFPの発現レベルにより、本発明によるウイルスベクター粒子が、心筋細胞においてエフェクター遺伝子発現の高い特異性を有することが示される。導入遺伝子発現のレベルは、野生型AAV9により送達された同じ導入遺伝子の発現レベルと同等である。しかしながら、AAV9と比較して、本発明によるベクター粒子は、主要なオフターゲットである肝組織において発現の低減を示す。
【0050】
ウイルスベクターの注射の2週間後に収集した、心臓画分化によって得られた心臓細胞種および肝組織において、例示的な導入遺伝子EGFPの発現を定量的逆転写PCR(qrtPCR)により解析した。結果は、概して、TATAボックス結合タンパク質(Tbp)の転写物に関するRNA入力について正規化した。詳細には、65~500ngのトータルRNAの逆転写を、Biozym cDNA Synthesis Kit(Biozym)を使用して製造業者の使用説明書に従い、行った。器官組織試料の場合、逆転写前に、500ngのトータルRNAを、0.684μlのDNアーゼ(1:10希釈、RNase-Free DNase Set(Qiagen))、1.15μlのRDD緩衝液(RNase-Free DNase Set(Qiagen))および0.144μlのRNasin Ribocluclease Inhibitor(Promega)と11.5μlの総体積において37℃にて30分間インキュベートすることによって、第2のDNアーゼ消化を直接的に行った。0.23μlの62.5mM EDTAを添加し、65℃で5分間インキュベートすることにより反応を停止させた。65~500ngのRNAを含有する11.5~11.73μlのRNA希釈溶液(第2のDNアーゼ消化を伴うかまたは伴わない)を、4μlの5x cDNA合成緩衝液、2μlのdNTP Mix(各10mM)、1μlのヘキサマープライマー(25μM)、0.5μlのRNアーゼ阻害剤(40U/μl)および1μlの逆転写酵素を使用して逆転写した。反応混合物を30℃で10分間、続いて55℃で60分間インキュベートし、最後に、酵素を99℃で5分間熱不活性化した。qPCR前に、cDNA試料を、2倍体積のヌクレアーゼ非含有HOにより希釈し(1:3希釈)、-20℃において保存した。
【0051】
384ウェルフォーマットにおいてiQ SYBR Green Supermix(Biorad)を使用して製造業者の使用説明書に従い、qPCR測定を行った。5μlのiQ SYBR Green Supermix、0.05μlのROX Reference Dye 1:50希釈(Thermo Scientific)、0.025μlのPrecision BlueTM Real-Time PCR Dye(BioRad)、0.5μlの事前混合プライマー(10μMフォワードおよび10μMリバースプライマー)、2.45μlのヌクレアーゼ非含有HOおよび2μlのcDNA(cDNA合成後に1:3希釈)からなる反応混合物を混合し、qPCRプロトコールをViiaTM 7 Real-Time PCR System(ThermoFisher Scientific)において以下のプロトコールを使用して行った:95℃で3分間の初回活性化、95℃で15秒間の変性と、60℃で30秒間のプライマーアニーリングと、72℃で40秒間の伸長と、続いて単PCRアンプリコンの増幅を確実にするための95℃から55℃までの10秒間の0.5℃毎の蛍光検出による融解曲線の生成とを45周期。心臓細胞画分およびマウス器官におけるEGFP発現を、相対標準法により解析した。プールしたEGFP発現試料の同じ1:5連続希釈系を、すべてのqPCR測定に含めて、すべての試料について相対標準値を得た。
【0052】
図2は、それぞれ、実験動物から単離した細胞および器官における、つまり、心筋細胞(CMC)、肝臓、骨格筋(sk筋)における、腎臓および脾臓における、ウイルスベクター粒子の平均コピー数(VCN)を示す。上~下に示されるウイルスベクター粒子は、グラフにおいて左~右に示される。動物は、偽手術(偽)としてか、手術により誘導した大動脈縮窄術(TAC)を有するかが示される。結果から、挿入されたアミノ酸区画THGTPAD(配列番号1)を含有するCAP(AAV2-THGTPAD)、および挿入されたアミノ酸区画NLPGSGD(配列番号11)を含有するCAP(AAV2-NLPGSGD)は、心筋細胞において野生型AAV9(AAV9)と同様のコピー数、および野生型AAV2(AAV2)よりも高いコピー数を与え、肝臓において野生型AAV2およびAAV9よりも低いコピー数を与えることが示される。このことは、野生型AAV血清型AAV2およびAAV9に優る、心筋細胞についての、本発明による挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPの増加された特異性を示す。対照的に、配列LPSRPSL(配列番号62、比較用)を有する挿入されたアミノ酸区画を有するCAPは、心筋細胞においてより低いコピー数、および肝臓においてより高いコピー数を有し、心筋細胞についてのより低い指向性を示す。
【0053】
本発明によるウイルスベクター粒子の形質導入効率および形質導入特異性を、配列番号1の挿入されたアミノ酸区画を有するCAP(配列番号54のCAP)または配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を有するCAP(配列番号55のCAP)を有するウイルスベクター、および比較のために野生型AAV2もしくは野生型AAV9または配列番号62の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPを導入することにより、解析した。ウイルスベクター粒子は、EGFPの発現カセットを含有した。ウイルスベクター粒子を、偽手術マウスまたはTAC術マウス(各2~4匹の動物)に手術の6週間後に注射した。ウイルスベクター粒子注射の後、2週間後に、心組織から画分化した心筋細胞、心臓線維芽細胞(CF)および心臓内皮細胞(EC)において、骨格筋細胞(sk筋)において、肝臓、腎臓および脾臓において、EGFPの発現をqrtPCRにより決定した。
【0054】
図3Aは、解析プロセスを模式的に示す。図3Bは、各ベクター:野生型AAV2(AAV2)、野生型AAV9(AAV9)、配列番号1の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPを有するウイルスベクター粒子(AAV2-THGTPAD)、配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPを有するウイルスベクター粒子(AAV2-NLPGSGD)、または配列番号62の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPを有する比較用ベクター粒子(AAV2-LPSRPSL)について別々に、偽手術マウス(偽)またはTAC術マウス(TAC)についての、Tbp発現について正規化したEGFP発現(相対発現(EGFP/Tbp))の検出結果を示す。これらの実験の組合せを、図3Bにおいて上~下へ2列で示し、この順序で左~右へ様々な細胞種について示す。結果から、心筋細胞における本発明によるベクター粒子は、偽手術およびTAC術マウスの心筋細胞において、野生型AAV2よりも高い導入遺伝子発現、および野生型AAV9と類似の発現を生成し、主要なオフターゲット器官である肝臓において野生型AAV9よりも低い導入遺伝子発現を生成することが示される。
【0055】
図3Cは、ベクターAAV2、AAV9、AAV2-THGTPACおよびAAV2-NLPGSGDについて偽手術動物およびTAC術動物からの結果について組み合わせた、ならびに比較用の挿入されたアミノ酸区画配列番号62を含有するCAP(AAV2-LPSRPSL)については偽およびTACについて別々の、肝臓における発現と比較した、心筋細胞(CMC)における、Tbp発現について正規化したEGFP発現を示す。データは、AAV2およびAAV9(野生型カプシド)について、ならびに配列番号1の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPを有するウイルスベクター粒子(AAV2-THGTPAD)および配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を含有するCAPを有するベクター(AAV2-NLPGSGD)について、ならびに比較用ベクター(配列番号62)について与えられる。挿入されたアミノ酸区画を含有する例示的なCAPに基づいて、これは、本発明による挿入されたアミノ酸区画を有するCAPを含有するAAV2をベースとするウイルスベクター粒子は、心筋細胞においてウイルスベクター粒子によりコードされるエフェクター分子の発現特異性の有意な増大、例えば野生型AAV2およびAAV9と比較した有意な増大、ならびに配列番号62の挿入されたアミノ酸区画を含む比較用CAPと比較した有意な増大をもたらすことを示す。
【0056】
ヒト静脈内免疫グロブリン(IVIG)を含有する血清における本発明によるウイルスベクター粒子の持続性を試験するために、IVIG血清の中和活性を試験した。本発明によるCAPを含有するウイルスベクター粒子および野生型血清型AAV2のベクター粒子を、1mLのDMEM細胞培養培地(10%ウシ胎児血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した)中のIVIG血清の様々な希釈物とインキュベートした。ウイルスベクター粒子を、IVIGの非存在下において、すなわち、細胞培養培地のみにおいて、細胞の30~40%をトランスフェクトしてEGFPを発現させる(細胞の30~40%がEGFP陽性)濃度において使用し、これを陽性対照としても使用した。ウイルスベクター粒子を、IVIG血清と混合したまたは混合していない細胞培養培地において室温にて1時間インキュベートし、その後、12ウェルプレートにおいて培養したHEK293細胞に添加した。細胞培養条件下での48時間のインキュベーション後、HEK293細胞を、蛍光活性化セルソーティング(FACS)により解析して、EGFP陽性細胞のパーセントを決定した。
【0057】
図4Aは、FACS結果を示し、ここで、EGFP陽性細胞のパーセントは、陽性対照について決定されたパーセントについて正規化された(pos.CRL)=1。野生型AAV2(AAV2)および挿入されたアミノ酸区画として配列番号62を有するCAPを含有する比較用ウイルスベクター粒子(AAV2-LPS)は、例えば配列番号1の挿入されたアミノ酸区画を含有する(AAV2-THG)または配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を含有する(AAV2-NLP)本発明のウイルスベクター粒子よりも、高度に希釈されたIVIG血清において既に中和されていることが見出される。図4Bは、図4Aのデータに由来するIC50値のグラフを示す。
【0058】
本発明によるウイルスベクター粒子の産生は、マウス組織における発現およびベクターコピー数解析について本明細書で説明される通りに行われた。
【0059】
図5A~Dは、FACS結果を示し、ここで、EGFP陽性細胞のパーセントは、陽性対照について決定されたパーセントについて正規化された(pos.CRL)=1。以前に野生型AAV9を注射したマウスからのマウス血清(AAV9)は、AAV9を中和するのみであり、一方で、AAV2および本発明のウイルスベクター粒子は、この血清の存在にかかわらず、細胞に形質導入されることが見出される。同様に、以前に野生型AAV2を注射したマウスからのマウス血清(AAV2)は、AAV2を中和するのみであり、一方で、AAV9および本発明のウイルスベクター粒子は、細胞に形質導入する能力を保持する。以前にAAV-NLPを注射したマウスの血清は乏しい中和能を示し、血清低希釈物でのみAAV2および本発明のウイルスベクター粒子の中和をもたらすことは注目に値する。同様に、以前にAAV-THGを注射したマウスの血清は、乏しい中和能を示し、血清低希釈物で野生型AAV2のみの弱い中和をもたらす。
【0060】
本発明のAAV2ウイルス粒子のin vitroでの特徴付けを、図6において示す。様々な量のベクターを、12ウェルフォーマットのHek293細胞の形質導入に使用した。このアッセイにおいて使用したベクターのゲノムタイターは、同等の範囲であった。形質導入効率を、形質導入の48時間後にEGFP陽性細胞についての蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって決定した(n=3)。図6Aは、本発明のAAV2ウイルスベクターAAV2-THGTPAD(配列番号1の挿入されたアミノ酸区画を含有する)およびAAV2-NLPGSGD(配列番号11の挿入されたアミノ酸区画を含有する)、ならびに比較として野生型AAV2およびAAV2-LPSRPSL(配列番号62の比較用の挿入されたアミノ酸区画を含有する)の形質導入効率を示す。図6Aのデータに基づいて、図6Bは、ベクターゲノム当たりの感染性粒子(Hek293細胞についての)の計算された比を示し、ここで、ゲノムタイターはqPCR(定量的PCR)によって決定された。結果から、これらの細胞において、比較用ベクターAAV2-LPSRPSLは野生型AAV2よりも低い感染性を示すこと、および本発明によるベクターはこれらの非標的細胞において著しく低減した感染性を示すことが示される。
【0061】
図6Cは、ヘパリン競合アッセイの結果を示し、ここで、ヘパリンは、ウイルスベクターの推定上の受容体であるHSPGの可溶性アナログを形成する。AAVベクターおよび野生型AAV2をヘパリンと事前インキュベートし、その後Hek293細胞に形質導入して、ヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)依存性細胞進入を調査した。形質導入効率は、形質導入48時間後にEGFP陽性細胞についてのFACSにより決定した(n=3)。結果から、ヘパリンは、本発明によるベクターによる形質導入に影響を及ぼさなかったが、比較用ベクターAAV2およびAAV2-LPSRPSLによる形質導入には影響を及ぼしたことが示される。このことは、本発明のベクターの細胞進入は、HSPGとは独立して起こることを示唆する。
【0062】
AAVベクター粒子の熱安定性を、ベクター粒子を様々な温度に15分間供し、その後、検出のために、インタクトなAAVベクター粒子のアセンブルされたカプシドタンパク質の検出に特異的なA20抗体を使用してドットブロッティングすることにより、アッセイした。結果を図6Dに示し、カプシドの安定性は、野生型AAV2についてよりも、比較用ベクターAAV2-LPSRPSLおよび本発明のウイルスベクターの両方について低いことを示す。しかしながら、比較用ベクターAAV2-LPSRPSLが、57.9℃での部分的な分解を示す最も安定でないバリアントである一方で、本発明のベクターは、60.7℃で開始する部分的なカプシド分解と非常に類似する安定性を示し、バリアントカプシドの分解の開始は、63.4℃でのみ開始した。
【0063】
図6Eは、交差種活性のアッセイ結果を示す。ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(iPSC-CMC)に、scEGFPを発現するAAVベクターを、2x10のベクター粒子対細胞比により形質導入した。EGFP発現を、形質導入7日後に蛍光顕微鏡(スケールバー=100μm)により査定した(n=3)。結果は、本発明のウイルスベクターは心筋細胞に形質導入されることを示す。
【0064】
以下のマウス実験データは、AAV2-THGTPADおよびAAV2-NLPGSGDの例についての本発明のウイルスベクターの治療的有効性および肝臓脱ターゲティングを示す。長鎖非コードRNA(lncRNA)H19のAAV9ベースの送達は、TACマウス様式において病理学的心肥大を逆進させるという観察を利用して、図7Aで模式的に示されるように、H19をAAV9、AAV2-THGTPADおよびAAV2-NLPGSGDへパッケージングし、TACの誘導の4週間後にマウスに注射した。3.55x1010個のみのウイルスゲノム(vg)/マウスを注射したので、データから、改善された心筋細胞指向性のために、低用量のウイルスベクターが形質導入に十分であることが示される。AAV処置の4週間後の心エコーによる機能査定は、AAV9空対照群と比較して、AAV2-THGTPAD-H19およびAAV2-NLPGSGD-H19の両方について左心室駆出率における有意な救済を示したが、AAV9-H19については示さなかった(図7B)。これは、AAV2-THGTPAD-H19およびAAV2-NLPGSGD-H19処置マウスにおける、より低い左心室質量(図7C)および救済された心臓寸法(図7D、7E)ならびに脛骨長に対する、より低い心臓重量比(図7F)と同時に起きた。AAV9-H19処置群は、すべてのパラメーターについて治療的救済への明確な傾向を示したが、これは統計的優位性に達しなかった。心臓の解釈後のH19発現解析は、AAV2-THGTPAD-H19、AAV2-NLPGSGD-H19およびAAV9-H19処置マウスにおける部分的にのみ救済された心肥大において、H19の予測された低減を示した(図7G、おそらく、非心筋細胞の希釈効果に関連する低いベクター用量のため)。それにもかかわらず、H19コピー数解析は、AAV9空対照と比較して、すべてのバリアントについて強い増大を示した(図7H)。著しく、AAV9-H19が肝臓において強く蓄積した一方で、AAV2-THGTPAD-H19、AAV2-NLPGSGD-H19処置マウスにおけるH19コピー数は偽およびAAV9空対照群と同等であった(図7I)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
【配列表】
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【国際調査報告】