(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ペプチド-メラニン結合の最適化
(51)【国際特許分類】
A61K 39/385 20060101AFI20230329BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230329BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230329BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230329BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230329BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20230329BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230329BHJP
C07K 14/74 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
A61K39/385
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/10
A61P33/00
A61P37/04
C07K14/74 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550867
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(85)【翻訳文提出日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2021053865
(87)【国際公開番号】W WO2021165306
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504006434
【氏名又は名称】アシスタンス パブリック-ホピトー デ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】522330809
【氏名又は名称】アルテヴァックス
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カーペンティア アントワン
(72)【発明者】
【氏名】バニシ クレール
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA01
4C085CC21
4C085CC32
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA86
4H045EA31
(57)【要約】
本発明は、特に、免疫賦活組成物として使用するためのエピトープを含む、ペプチドと複合体化されたメラニンの使用に関し、ここで、ペプチドは、求核性を増加させるために修飾されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物を得るための方法であって、
(a) メラニン前駆体の酸化重合によって得られた合成メラニンを提供する工程、および
(b) 合成メラニンと、求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって修飾されたペプチドとを混合し、修飾されたペプチドに結合されたメラニンを含む組成物を得る工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
メラニンが可溶性メラニンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ペプチドが、免疫学的に活性なペプチドである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ペプチドに付加されたアミノ酸が、システイン、アセチルシステイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、ヒスチジンおよびリジンからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸ペプチドが、ペプチドのN末端に付加されている、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
ペプチドに付加されたアミノ酸が、システインであり、かつペプチドのN末端に付加されている、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって修飾されたペプチドが、SEQ ID NO: 22、SEQ ID NO: 23、SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO: 25、SEQ ID NO: 26、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 28、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 32、およびSEQ ID NO: 33からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
メラニン前駆体が、L-ドパ、DHICA、DHI、L-チロシン、D-ドパ、6-ヒドロキシ-ドパ、ドパキノン、シクロドパ、ドパクロム、ドパミン-o-キノン、ドパミン、ロイコドパミノクロム(leukodopaminochrome)およびドパミノクロム(dopaminochrome)からなる群より選択される、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
メラニン前駆体がL-ドパである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
酸化剤としての酸化剤としての酸素、H
2O
2または過硫酸塩の存在下で酸化重合を行う、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
チロシナーゼの存在下で酸化重合を行う、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
ペプチドと混合する前に、合成メラニンを先ず10kDaフィルターでの濾過によって精製する、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
工程(b)の後または投与の前に得られた組成物に免疫アジュバントを添加する、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
ホスト、特にヒトへの投与のために組成物をコンディショニングする工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項記載の方法によって得られやすい、免疫賦活組成物。
【請求項16】
エピトープを発現する抗原を発現する細胞に関連する疾患からヒトまたは動物を保護または処置するためのワクチンとして使用するための、請求項11記載の免疫賦活組成物。
【請求項17】
疾患が、がん、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症または寄生生物感染症である、請求項16記載の使用のための免疫賦活組成物。
【請求項18】
疾患が、低悪性度グリア系腫瘍または高悪性度グリア系腫瘍である、請求項17記載の使用のための免疫賦活組成物。
【請求項19】
ペプチドが、SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 34およびSEQ ID NO: 35からなる群より選択される、請求項18記載の使用のための免疫賦活組成物。
【請求項20】
SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 34、またはSEQ ID NO: 35を含む、ペプチド。
【請求項21】
SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 34、またはSEQ ID NO: 35をそのN末端に含む、請求項20記載のペプチド。
【請求項22】
SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 34、またはSEQ ID NO: 35からなる、請求項20記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に免疫学的目的のための、ペプチド送達の分野に関し、特に、アジュバント、すなわち抗原の免疫原性特性を増強する成分の分野に関し、予防または治療にかかわらず、特にワクチンの分野において有益である。
【背景技術】
【0002】
メラニンは、前駆体の酸化重合によって得られる、色素である。
【0003】
メラニンは、動物界において、特にしかし排他的にではなく皮膚において広く見られ、いくつかの機能がメラニンに起因すると考えられ(d’Ishia et al 2015)、その中には以下がある:
- その最も重要な生物学的機能の1つである変異原性光に対する光保護。
- 酸化ストレスに対する保護(フリーラジカルスカベンジャー)
- 毛髪および皮膚の色素沈着
- 昆虫における自然免疫
- 金属恒常性。
【0004】
メラニン上にペプチド、タンパク質、糖タンパク質、または脂質などの生物学的に活性な分子をグラフトすることは、メラニンの生物学的および物理化学的特性を利用するために有用であり得る。
- メラニンは、結合された分子をUV光、化合物または酵素による分解から保護することができる
- メラニンは、光を吸収し、したがって結合された分子を選択的に加熱することができる
- 体内に(例えば皮下に)注入されると、メラニンは局所放出を可能にすることができるデポー効果をもたらす。メラニンはまた、一旦注入されると、部分的に流入領域リンパ節へ運ばれ、したがって、分子がリンパ系に到達するための担体として使用することができる。これらの特性は、Carpentierら(PLoS One. 2017 Jul 17;12(7):e0181403)(非特許文献1)およびWO2017089529(特許文献1))によって開示されるようなワクチンアプローチにおいて特に有用であり得る。
【0005】
これまでのワクチンは、弱毒化した生病原体、全不活性化生物、または改変された毒素に基づいていた。潜在的副作用を制限するため、最近の開発では、概して30~60個のアミノ酸で構成されているが、8個のアミノ酸と同様の短さの1つのエピトープに限定され得るサブユニットワクチンに焦点が当てられている。抗原のごく一部分の使用は、抗原の所望の部分に反した免疫応答に焦点を当てることによる潜在的な交差反応のリスクを制限する。しかしながら、サブユニットワクチン、および特にペプチドサブユニットワクチンは、危険信号としてふるまう病原体由来分子の欠如のため、しばしば免疫原性が乏しい。サブユニットワクチンは、したがって、効果があるように追加のアジュバントを必要とする(Fujitaら、Chem Cent J. 2011;5(1):48(非特許文献2); Azmiら、Hum Vaccin Immunother. 2014;10(3):778-96(非特許文献3))。
【0006】
あらゆる進展があったにもかかわらず、最新のワクチンはいくつかの制限に依然として直面している。サブユニット抗原は、しばしば免疫原性に乏しい。免疫を引き起こすのに必要とされる抗原の投与量(通常、10~300μgの範囲内)は、特に抗原を製造するのが困難なとき、あるいは需要が生産能力を超えるときは、制限因子となり得る。さらに、細胞外分子は通常、MHCクラスIではなく、MHCクラスIIによって提示されるため、CD8+応答の誘導は、依然として困難な課題のままである。最後に、エマルション、リポソーム、融合分子といったワクチン製剤は、不安定であるか合成が困難であり得、製造コストが法外なものとなることがある。理想的なアジュバントは、したがって、Ag特異的な免疫応答(体液性および細胞性応答の両方)を引き起こすまたは促進するのに効力があり、製造が容易で、毒性がなく、安定であるべきである。
【0007】
メラニン色素は、当技術分野で公知であり、認識されており、メラニン前駆体であるアミノ酸の単なるポリペプチドとは異なる。例えば、酸化重合なしで、タンパク質合成(アミノ酸のN末端を別のアミノ酸のC末端へ連結する)によって得られるポリチロシルまたはポリドパペプチドは、メラニン分子ではなく、当業者によってそのようには考えられないであろう。
【0008】
メラニンは、したがって、アミノ酸のチロシン(または別の前駆体)の酸化、続いて重合によって生成される、大部分の生物で見られる天然色素群を指すための広範囲で包括的な用語である。この酸化は、重要なステップであり、一般に、酵素のチロシナーゼによって仲介され、チロシンをドパに変換する。
【0009】
メラニンは、したがって、メラニン前駆体の酸化およびそれらのその後の重合の両方を組み合わせた複雑なプロセス(
図1にあるとおり)を通して得られる。
【0010】
メラニンは多くの生物に自然に存在し、また、合成的に製造可能であり(インビトロでの酸化重合)、チロシンを過酸化水素で酸化して調製されて、たとえばSigma Aldrichにより、販売されている。
【0011】
メラニン合成は、いくつかの中間化合物、いくつかの酵素を伴い、またpH、カチオン金属の存在、温度により修飾され得る。
【0012】
中間化合物としては、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドパ、ドパキノン、シクロドパ、ドパクロム、キノンメチド、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジン、ジヒドロエスクレチン、ジヒドロキシインドールカルボン酸(DHICA)、5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)、ドパミン-o-キノン、ドパミン ロイコドパミノクロム(leukodopaminochrome)、ドパミノクロム(dopaminochrome)、ノルエピネフリン、ノルアデノクロム(noradenochrome)、エピネフリン、アデノクロム(adenochrome)、3-アミノ-チロシン、およびその他が挙げられ得る。
【0013】
合成に伴う酵素としては、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、チロシナーゼ(EC 1.14.18.1およびEC1.10.3.1)、キノコチロシナーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノール-オキシダーゼ、ドパクロムトートメラーゼ(E.C.5.3.2.3, DCT/Trp2);DHICAオキシダーゼ(Trp1) DHIオキシダーゼが挙げられ得る。
【0014】
合成メラニンは、メラニン前駆体のインビトロ酸化重合の生成物である。このような重合は、酸化剤の存在下で行われる。このようなメラニンは、もう少し均質であるため、上記のような天然メラニンと区別することができる。
【0015】
Arnonら(1960 - Biochem. J., 75: 103-109)(非特許文献4)は、中でも、メラニンではないポリチロシルに結合した、抗原タンパク質、すなわちゼラチン、卵アルブミンまたはエデスチンを開示している。
【0016】
Selaら(Biochem. J., vol. 75, 1 January 1960 (1960-01-01), p.91-102)(非特許文献5)は、ポリペプチドゼラチンを得るための作業プロセスを開示している。酸化重合はなく、得られた生成物はメラニンを含まず、メラニンと見なされ得ない。
【0017】
Akagiら("Bioactive Surfaces", 1 January 2011 (2011-01-01), Springer Berlin Heidelberg, Berlin, Heidelberg, Adv Polym Sci, vol. 247, p.31-64(非特許文献6))は、ワクチンアジュバントおよび送達システムとしての生分解性ナノ粒子を開示している。ポリアミノ酸ナノ粒子は、チロシンで調製されているが、この文献は、メラニンについて、または重合が最終生成物としてメラニンを与えることについては、開示も言及もしていない。
【0018】
US 2004/057958(特許文献2)は、ポリアミノ酸ポリマーであり得る免疫原性担体を開示している。この文献は、免疫原としてメラニンを用いることについては、全く言及も示唆もしていない。
【0019】
Fujitaら(Chemistry Central Journal, Biomed Central Ltd, vol. 5, no. 1, 23 August 2011 (2011-08-23), p.48)(非特許文献2)は、ナノ粒子を用いる、複合的な抗原提示ペプチドワクチンシステムの状況をレビューしている。この文献は、抗原の免疫原性を増加させるためのメラニンおよび抗原の複合体を調製することについては言及も示唆もしていない。
【0020】
Cuiら(Biomacromolecules, vol. 13, no. 8, 13 August 2012 (2012-08-13), p.2225-2228)(非特許文献7)は、細胞内薬物送達を行うためのカプセルにおけるポリドパミンフィルムの使用を記載している。粒子は、メラニンとは異なり、免疫原性組成物を得るために使用されていない。
【0021】
Cuiら(NANO, vol. 10, no. 05, 1 July 2015 (2015-07-01), p.1530003-1~1530003-23)(非特許文献8)は、ポリドパミンカプセルを更に開示している。粒子は、メラニンとは異なり、免疫原性組成物を得るために使用されていない。
【0022】
Leeら(Advanced Materials, vol. 21, no. 4, 26 January 2009 (2009-01-26), p.431-434)(非特許文献9)は、ポリドパミンフィルムが様々な基質とバイオコンジュゲートされ得ることを開示しているが、これらのフィルムが免疫原性特性を示すこと、または、抗原が修飾されてメラニンとコンジュゲートされた場合に抗原に対する標的化および特異的免疫反応を獲得および誘発することが可能であることを示していない。
【0023】
Parkら(ACS Nano, vol. 8, no. 4, 22 April 2014 (2014-04-22), p.3347-3356)(非特許文献10)は、薬物を運ぶために用いられるポリドパミンナノ粒子を開示している。粒子はメラニンとは異なる。この文献は、免疫原性組成物としてのメラニン-抗原複合体については言及も示唆もしていない。さらに、著者は、免疫原性効果を獲得または増加するために抗原およびペプチドを修飾する必要性について言及していない。
【0024】
US 2012/237605(特許文献3)は、ポリドパミンベースの表面を有するナノ粒子を開示しているが、免疫原性組成物としてのそれらの使用については示唆も開示もしていない。粒子はメラニンとは異なる。
【0025】
Liuら(Small. 2016 Apr 6;12(13):1744-57)(非特許文献11)は、強い体液性および細胞性免疫反応を誘導するためのワクチンアジュバントとしての、ポリドパミンでコーティングされた、病原体を模倣するポリ(D,L-乳酸-グリコール酸)ナノ粒子を開示している。
【0026】
WO2017089529(特許文献1)、ならびにCarpentierら(PLOS ONE, 12(7), 2017, e0181403)(非特許文献1)は、免疫賦活組成物としての、抗原と複合化された、メラニンの使用を開示している。このような組成物は、抗原の存在下でメラニン前駆体の酸化重合を行うことにより得られる。この文献において、記載された抗原は、ヒトgp100エピトープなどのT細胞エピトープを保有するペプチドである。これらは、そのような標的抗原またはそのエピトープを、細胞内、細胞の表面で発現する、または分泌する、細胞に関連する(すなわち、関与するおよび/または関係する)疾患から動物を保護(予防的適用)または処置(治療的適用)するためのワクチンとして使用される。抗原とメラニンを複合化することで、免疫応答を改善することができる。
【0027】
Slominskiら(Physiol Rev. 2004 Oct;84(4):1155-228)(非特許文献12)およびMicilloら(Int J Mol Sci. 2016 May 17;17(5). pii: E746)(非特許文献13)は、システインまたはグルタチオン(システインを含む)がドパキノンに結合してシステイニルドパおよびグルタチオニルドパを生じ、これが次いでフェオメラニンに変換される、メラニン形成の代替経路としての、フェオメラニン形成を記載している。したがって、メラニン前駆体へのシステインのこの結合は、フェオメラニンが合成される前に起こる。さらに、遊離アミノ酸として重合前にシステインを添加することは、メラニンへのペプチドの結合を助けるように意図されたものではない。
【0028】
Jangら(Macromol. Biosci. 2016, DOI: 10.1002/mabi.201600195)(非特許文献14)は、メラニンナノ粒子ではない、ポリドパミン被覆ミクロスフェアを開示している。オボアルブミンまたはTLR9アゴニストが次いでミクロスフェアに付加され、これは貪食を介してマクロファージによって内在化される。サイトカイン放出は観察されているが、抗原特異的反応は報告されていない。著者らは、結合を増加させるためにタンパク質を修飾することも修飾する必要性を言及することもなかった。
【0029】
Carpentierら(European Journal Of Cancer, 92, 2018, S2-S3)(非特許文献15)は、腫瘍サブユニットワクチンモデルにおいて、メラニンのアジュバント効果がフロイント不完全アジュバントよりも優れていると報告している。ペプチドpOVA30に結合された合成メラニンは、Carpentier (2017, 前掲書中)およびWO2017089529(特許文献1)の開示に従って、メラニン前駆体と抗原との共重合によって得られた。
【0030】
ElObeidら(Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology, 2017, 120, 515-522)(非特許文献16)は、メラニンの薬理学的特性および健康におけるその機能についてレビューしている。この文献は、この分子のアジュバント効果については言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】WO2017089529
【特許文献2】US 2004/057958
【特許文献3】US 2012/237605
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】Carpentierら、PLoS One. 2017 Jul 17;12(7):e0181403
【非特許文献2】Fujitaら、Chem Cent J. 2011;5(1):48
【非特許文献3】Azmiら、Hum Vaccin Immunother. 2014;10(3):778-96
【非特許文献4】Arnonら、1960 - Biochem. J., 75: 103-109)
【非特許文献5】Selaら、Biochem. J., vol. 75, 1 January 1960 (1960-01-01), p.91-102
【非特許文献6】Akagiら、"Bioactive Surfaces", 1 January 2011 (2011-01-01), Springer Berlin Heidelberg, Berlin, Heidelberg, Adv Polym Sci, vol. 247, p.31-64
【非特許文献7】Cuiら、Biomacromolecules, vol. 13, no. 8, 13 August 2012 (2012-08-13), p.2225-2228
【非特許文献8】Cuiら、NANO, vol. 10, no. 05, 1 July 2015 (2015-07-01), p.1530003-1~1530003-23
【非特許文献9】Leeら、Advanced Materials, vol. 21, no. 4, 26 January 2009 (2009-01-26), p.431-434
【非特許文献10】Parkら、ACS Nano, vol. 8, no. 4, 22 April 2014 (2014-04-22), p.3347-3356
【非特許文献11】Liuら、Small. 2016 Apr 6;12(13):1744-57
【非特許文献12】Slominskiら、Physiol Rev. 2004 Oct;84(4):1155-228
【非特許文献13】Micilloら、Int J Mol Sci. 2016 May 17;17(5). pii: E746
【非特許文献14】Jangら、Macromol. Biosci. 2016, DOI: 10.1002/mabi.201600195
【非特許文献15】Carpentierら、European Journal Of Cancer, 92, 2018, S2-S3
【非特許文献16】ElObeidら、Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology, 2017, 120, 515-522
【発明の概要】
【0033】
本出願人は、このような抗原を既に形成されているメラニンと複合化させることによって抗原に対する免疫応答を高めることができると判断した。抗原が酸化重合の前に付加された、WO2017089529の開示とは対照的に、このような効果は、抗原が酸化重合によるメラニンの形成前にメラニンへ付加される場合にも観察される。驚くべきことに、本出願人は、メラニンへの抗原の結合が、抗原への求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって増加され、それによって、そのような付加のないペプチドが使用される場合と比較して生物学的活性(免疫応答)が増加されることを示した。抗原を修飾し、次いでそれを既に重合されたメラニンと共にインキュベートすることは、抗原とメラニン前駆体との混合物の重合後に複合体メラニン-抗原が調製されたWO2017089529に記載の方法と比較して、特に規制要件に関して、免疫原性組成物およびワクチンを調製するプロセスを改善する。
【0034】
本発明は、したがって、組成物を得るための、または合成メラニンへペプチドを結合するための方法であって、
a)メラニン前駆体の酸化重合によって得られた合成メラニンを提供する工程、および
b)メラニンへのペプチドの結合を可能にするかまたは増加させるために求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって修飾されたペプチドと合成メラニンとを混合する工程
を含む、方法に関する。
【0035】
本発明は、したがって、組成物を得るための、または合成メラニンへペプチドを結合するための方法であって、
a)メラニン前駆体の酸化重合によって得られた合成メラニンを提供する工程、および
b)メラニンへのペプチドの結合を可能にするかまたは増加させるために求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって修飾されたペプチドを、合成メラニンへ添加する工程
を含む、方法に関する。
【0036】
具体的な態様において、ペプチドは免疫学的に活性なペプチドであり、本発明は、したがって、免疫賦活組成物を得ることを可能にし、
a)1つまたは複数のメラニン前駆体の酸化重合によって得られた合成メラニンを提供する工程、および
b)合成メラニンと、求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって修飾された免疫学的に活性なペプチドとを混合する工程
を含み、それによって、ペプチドがメラニンに結合されている組成物を得る。この方法において、メラニンへのペプチドの結合は、修飾されていないペプチドと比較して増加する。さらに、メラニンへの結合を増加させることによって、ペプチドの生物学的活性は、修飾されていないペプチドがメラニンに付加された場合に観察される活性と比較して、組成物が対象に投与される場合、増加する。
【0037】
これらの方法に続いて、ホスト、特にヒトへの投与のために組成物をコンディショニングしてもよい。このような工程は、組成物を滅菌すること(特に、高エネルギー電子もしくは高エネルギー電磁放射線による衝撃、または濾過を使用する)、および/またはペプチド-メラニン複合体の量を含む個別のバイアル中に組成物を分配することを含み得る。
【0038】
組成物は、皮下、皮内、腹腔内、腫瘍内、静脈内投与によって送達することができる。それは、注射および/または注入および/または徐放デバイスによって投与することができる。複数の投与(数日から数週間分離)も企図される。投与後、免疫系の分子および細胞(例えば抗原提示細胞)の動員ならびに/または抗原放出を改善するために、メラニンを加熱することができる。このような加熱は、Yeら(Sci. Immunol. 2, eaan5692 (2017))またはWO2019084259に記載されるものなどの、近赤外線照射により行うことができる。特に、これらの文献に記載されるデバイスを用いて、組成物は経皮マイクロニードルパッチを使用して送達することができ、ここで、組成物は、徐放を可能にするポリマーマイクロニードル中へロードされ、投与後に加熱される。
【0039】
その中において記載されるように、「免疫賦活組成物」は、少なくとも1つの抗原を含有し、ホストへの投与後にそのような抗原のエピトープに対する免疫応答を誘導する、組成物である。該ホストは、ヒトまたは動物であり、好ましくはヒトである。このような免疫賦活組成物は、したがって、ホストに投与されるように、または、例えば、ホスト、好ましくはヒトもしくは動物における投与(好ましくは注射)の前に、生細胞を抗原に対して感作させ刺激するために、生細胞(例えばマクロファージ、樹状細胞またはリンパ球)の存在下にてインビトロで使用されるように意図される。
【0040】
本明細書において定義されるように、「合成メラニン」は、メラニン前駆体の酸化重合によってインビトロで得られたメラニン色素(または高分子)である。
【0041】
求核性アミノ酸
本発明は、したがって、ペプチドへ求核性アミノ酸を付加するためのペプチドの配列における修飾の導入に関する。その結果、結果として生じたペプチドの配列は、天然ペプチドまたはペプチドが単離された天然タンパク質中に存在しないアミノ酸鎖を示す。この結果として生じたペプチドは、したがって、新しい実体であり、当技術分野において存在するかまたは見出されたペプチドとは異なる。
【0042】
求核性アミノ酸によって、求核性部分を提示するアミノ酸を設計することが意図される。求核性は、孤立電子対を有する分子が求核置換反応においてどれだけ迅速に反応できるかの尺度である。ペプチドの末端NH2部分およびそのアミノ酸の側鎖のいくつかは、公知の求核剤である。求核性側鎖を有するアミノ酸として、Cys (RSH, pKa 8.5-9.5)、His (pKa 6-7)、Lys (pKa 10.5)および、より小さい程度に、Ser (ROH, pKa 13)またはメチオニンを挙げることができる。さらに、ペプチドのNH2末端に付加され得るプロリンまたはヒドロキシプロリンは求核剤である。
【0043】
好ましい態様において、NHもしくはNH2部分、または硫黄原子を含む側鎖を含むアミノ酸は、このような求核修飾をするためにペプチドのN末端に好ましくは付加される。
【0044】
この態様において、ペプチドに付加された残基は、システイン、アセチルシステイン、プロリン、ヒドロキシプロリン、リジン、およびヒスチジンからなる群より選択される。
【0045】
別の態様において、ペプチドに付加された残基は、システイン、ヒドロキシプロリンおよびリジンからなる群より選択される。
【0046】
ペプチドのN末端へのシステインの付加は、特に、SEQ ID NO: 22、SEQ ID NO: 23、SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO: 25、SEQ ID NO: 26、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 28、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 32およびSEQ ID NO: 33として本明細書に記載されるペプチドについて、特に好ましい。
【0047】
結果として生じた修飾ペプチドもまた本発明の目的であり、これはまた、SEQ ID NO: 22、SEQ ID NO: 23、SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO: 25、SEQ ID NO: 26、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 28、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 32およびSEQ ID NO: 33より選択されるペプチドを含み、かつ、その末端で求核性アミノ酸の付加によって修飾されている。特に、そのような求核性アミノ酸は、システイン、ヒドロキシプロリンまたはリジンである。具体的な態様において、求核性アミノ酸はシステインである。
【0048】
特に、本発明は、SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 34、またはSEQ ID NO: 35を、特にそれらのN末端に含むペプチドに関する。このようなペプチドは、メラニンへの結合を可能にするシステインを含有し(かつ特にシステインから始まり)、かつ、SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 34、またはSEQ ID NO: 35に存在するエピトープを含有する。
【0049】
具体的な態様において、ペプチドはSEQ ID NO: 29からなる。
【0050】
具体的な態様において、ペプチドはSEQ ID NO: 31からなる。
【0051】
具体的な態様において、ペプチドはSEQ ID NO: 34からなる。
【0052】
具体的な態様において、ペプチドはSEQ ID NO: 35からなる。
【0053】
このようなペプチドは修飾されており、本明細書に開示される組成物および方法における使用のためにそのようなものとして有用である。実施例に示されるように、求核性アミノ酸(特にシステイン)の付加は、ペプチドを、メラニンとのコンジュゲーションについて、および、特にがんを処置するために有用な、強い特異的免疫応答を生じさせることについて適切にする。
【0054】
修飾するためのペプチド
修飾され、メラニンに結合されるペプチドは、好ましくは、生物学的にまたは免疫学的に活性なペプチドである。ペプチドが修飾されたという事実は、メラニンに付加されるペプチドの配列が自然界で(特に、ペプチドの配列がより広いポリペプチドまたはタンパク質配列の一部である場合、ペプチドがその一部であるタンパク質において)見られないことを暗示する。
【0055】
それは、好ましくは少なくとも3個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも8個のアミノ酸を示す。それは、一般に、多くとも100個のアミノ酸、より好ましくは多くとも50個のアミノ酸、より好ましくは多くとも40個のアミノ酸を含む。したがって、8~50個のアミノ酸を含むペプチドが、本明細書に開示される方法に従う修飾および使用に完全に適している。
【0056】
また、1~10個のアミノ酸、好ましくは1~5個により形成されたリンカーを用いての、異なる抗原から単離された2つのペプチドの融合からなるペプチドを使用することもできる。この場合、求核性アミノ酸は融合ペプチドのN末端に付加される(例示として、SEQ ID NO: 35を参照のこと)。
【0057】
生物学的に活性な(または生物活性)ペプチドは、適切な身体受容体と相互作用し、有益または有害な効果を提供するペプチドである。このようなペプチドの例は、KastinおよびPan (Curr Pharm Des. 2010;16(30):3390-3400)またはIwaniakおよびMinkiewicz (Polish Journal of Food and Nutrition Sciences, 2008. 58. 289-294)において見ることができる。グリアジンまたはプロリンリッチペプチドの断片などのセリアック病毒性ペプチド、糖ペプチド、ホルモン、免疫グロブリンのペプチド断片を含む免疫調節ペプチド、ならびに食品タンパク質から単離されたペプチド(Werner, Immunol Lett. 1987 Dec;16(3-4):363-70)、例えばオリザテンシン、人乳およびウシ乳由来のカゼインおよび乳清タンパク質から単離されたペプチド、オピオイドおよびオピオイドアゴニストペプチドを挙げることができる。
【0058】
免疫学的に活性なペプチドは、抗原と交差反応性であり、好ましくはそのような抗原に対する保護効果を示す免疫応答を(好ましくはヒトまたは哺乳動物において)誘導することができるペプチドである。いくつかの態様において、免疫学的に活性なペプチドは、タンパク質抗原から単離されたペプチドである。したがって、免疫学的に活性なペプチドは、抗原の1つまたは複数のエピトープ、好ましくは少なくとも1つのT細胞エピトープを含む。特に、免疫学的に活性なペプチドは、SEQ ID NO: 22、SEQ ID NO: 23、SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO: 25、SEQ ID NO: 26、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 28、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 32およびSEQ ID NO: 33からなる群より選択される。
【0059】
抗原
本発明の文脈において、「抗原」は、生きている動物の免疫システムがそれを認識するためにそれに対して免疫応答を引き起こすことが望ましい、分子または分子の組合せである。そのような抗原は、免疫応答が求められる宿主の体に対して外来であってよい。この場合、抗原は、細菌、寄生生物、真菌またはウイルスにより発現されたタンパク質であってよい。抗原は、自己抗原、すなわち、腫瘍抗原といった、宿主の細胞により発現されたタンパク質であってもよい。
【0060】
抗原は、全生物(ウイルスまたは細菌、真菌、原生動物、またはたとえがん細胞であっても)、死んでいるものまたは死んでいないもの、細胞(放射線照射されたものまたはされていないもの、遺伝子操作されているものまたはされていないもの)、あるいは細胞抽出物または細胞溶解物のようなこれら生物/細胞のフラクションからなることができる。抗原は、また、タンパク質、ペプチド、多糖類、脂質、糖脂質、糖ペプチドのような単一分子またはこれらの混合物からなってもよい。抗原は、また、化学修飾または化学的安定化を通して改変された上記に挙げた分子の一つであってもよい。特に、抗原の正味電荷は、適切なアミノ酸の置換または抗原の化学修飾を用いて改変することができる。
【0061】
抗原は、完全なタンパク質、またはタンパク質のエピトープといったタンパク質のある一部分であってよい。抗原に対する応答を引き起こすように設計されたペプチドは、本発明の文脈において、互いに結合した複数のエピトープを含む合成タンパク質または分子にあってもよい。態様において、これらエピトープはMHCハプロタイプに特異的である。
【0062】
別の態様において、ペプチドは、同じ病原体(病原体なる用語は、好ましくは、細菌、ウイルス、寄生生物または真菌といった、外来の病原体を意味するが、腫瘍細胞にまで及んでもよい)の様々な抗原から得られた複数のエピトープを含んでもよい。この場合、この病原体に対する強い免疫応答を得るために免疫賦活分子を使用することができる。
【0063】
開示された組成物においてメラニン高分子とともに使用し得るペプチドは、それに対する免疫応答が調べられた任意の抗原の配列を含んでもよい。
【0064】
この抗原は、修飾前は、自然界で見られる全タンパク質であり得、好ましくは、自然界で見られるタンパク質の一部分のみである。
【0065】
ここに記載される免疫原性組成物において意図されるペプチドは、ペプチドの混合物とすることもできる。
【0066】
抗原は、タンパク質、ペプチド、多糖、または脂質であってよい。抗原は、細菌、ウイルス、または他の微生物の部分(被膜、カプセル、細胞壁、鞭毛、線毛および毒素)であってよい。抗原は、タンパク質および/または多糖と結合した脂質といったような、より複雑な分子であってよい。
【0067】
エピトープ
特定の態様において、免疫原性組成物において使用されるペプチドは、1つまたは複数のMHCエピトープを含む。
【0068】
特定の態様において、免疫原性組成物において使用されるペプチドは、単一のMHCエピトープを含むか、または単一のMHCエピトープからなる。
【0069】
別の態様において、免疫原性組成物において使用されるペプチドは、そのN末端および/またはC末端で、少数のアミノ酸(1~10アミノ酸、好ましくは1~6アミノ酸の、C末端およびN末端終端の一つまたは両方)によって隣接されている、1つまたは複数のMHCエピトープを含む。
【0070】
MHCエピトープ(またはT細胞エピトープ)は、抗原提示細胞の表面上に提示され、それらはMHC分子に結合している。MHCクラスI分子により提示されたT細胞エピトープは、典型的には、8~11アミノ酸長のペプチドであるのに対し、MHCクラスII分子は、13~17アミノ酸長である、より長いペプチドを提示する(https://en.wikipedia.org/wiki/Epitope#T_cell_epitopes)。
【0071】
MHCエピトープは、(そのC末端および/またはN末端先端でアミノ酸を付加してまたは付加なしで)インビトロで合成されてもよい。MHC結合ペプチドは、特に塩酸を用いた、酸処理といった、当技術分野で公知の任意の方法により、生細胞、特に腫瘍細胞から抽出されてもよい。
【0072】
別の態様において、ペプチドは、抗原由来のアミノ酸の連続配列により形成される、1つまたは複数のB細胞エピトープ、すなわち、抗体により認識されるタンパク質の一部分、好ましくは、リニアエピトープを含む。
【0073】
特定の態様において、免疫原性組成物において使用されるペプチドは、B細胞エピトープにある。
【0074】
別の態様において、免疫原性組成物において使用されるペプチドは、B細胞エピトープにあり、これはそのN末端および/またはC末端で、少数のアミノ酸(1~10アミノ酸、好ましくは1~6アミノ酸の、C末端およびN末端終端の一つまたは両方)によって隣接されている。
【0075】
エピトープマッピングに関連する文献における異なる方法により、所定の抗原からT細胞またはB細胞エピトープを同定することが可能である。
【0076】
ここに開示される組成物は、全抗原ではなく、むしろ抗原エピトープを使用する。免疫応答を引き起こすためにエピトープ(すなわち、小さな抗原性の部分)だけを使用することは、大きなサイズのタンパク質の使用に関連し得る何らかの悪影響を制限する上で、特に興味深い。
【0077】
他の合成抗原
特に、ペプチドは、アミノ酸のストレッチ、またはデンドリマー構造で用いられるポリエーテル化合物または他のリンカーといった他の許容されるリンカーによって隔てられた、複数のエピトープを含む合成分子であってもよい(Tam, Proc Natl Acad Sci USA. 1988, 85(15):5409-13; Seelbach et al, Acta Biomater. 2014 10(10):4340-50; Sadler and Tam, Reviews in Molecular Biotechnology 90, 3-4, pp195-229; Bolhassani et al, Mol Cancer. 2011 Jan 7;10:3 )。
【0078】
(患者の広範な集団において所定の抗原または病原体に対する免疫応答を引き起こすことができる、単一の免疫原性または免疫賦活組成物を生成するためには、)複数のエピトープは、異なるHLAハプロタイプに特異的なエピトープであってよい。
【0079】
別の態様において、複数のエピトープを有する該病原体に対する強い免疫応答を引き起こすためには、エピトープは、同じ病原体の同じまたは複数の抗原に由来してもよい。
【0080】
別の態様において、免疫原性組成物を用いて一度に様々な病原体に対する免疫応答を引き起こすためには、エピトープは、異なる病原体に由来してもよい。
【0081】
抗原は、pan-DRエピトープ(PADRE)およびPol711エピトープといったユニバーサルTヘルパーエピトープを含んでもよい。他のユニバーサルTヘルパーエピトープが文献に広く開示されている。
【0082】
抗原の供給源
本発明で使用され得る抗原は、特に下記の中から選ぶことができる:
- 外来性抗原(たとえば、吸入、摂取または注射により、外部から体内に入った抗原;これらの抗原は一般にMHC II分子により提示される)。
- 内在性抗原(正常細胞の代謝の結果、またはウイルスまたは細胞内細菌感染が理由で、正常細胞内で生じた抗原;これらの抗原は一般にMHC I分子により提示される)。
- 新抗原(たとえば、腫瘍抗原、たとえば、ウイルス関連腫瘍におけるウイルスのオープンリーディングフレームに由来するエピトープ、または、腫瘍細胞の表面上にMHC IまたはMHC II分子により提示される他の腫瘍抗原)。
- アレルゲン(アトピー性の個体における免疫グロブリンE(IgE)応答を通したタイプI過敏性反応を刺激することができる抗原)。
【0083】
腫瘍抗原の例としては、下記を挙げることができる:胚細胞腫瘍および肝細胞がんで見られるαフェトプロテイン(AFP)、大腸がんで見られるがん胎児性抗原(CEA)、卵巣がんで見られるCA-125、乳がんで見られるMUC-1、乳がんで見られる上皮腫瘍抗原(ETA)、悪性黒色腫で見られるチロシナーゼまたはメラノーマ関連抗原(MAGE)、rasの異常生成物、様々な腫瘍で見られるp53、gp100(メラニン細胞タンパク質PMEL、メラノソームに富むタイプI膜貫通糖タンパク質)、TRP2(チロシナーゼ関連タンパク質2)、EPHA2(多様な進行がんでしばしば過剰発現される、受容体チロシンキナーゼ)、NY-ESO-1、サバイビン(特に乳がんおよび肺がんで発現する、バキュロウイルスアポトーシス阻害剤リピート含有5(baculoviral inhibitor of apoptosis repeat-containing 5)またはBIRC5)、ブレビカンコアタンパク質、キチナーゼ3様タンパク質1または2、脂肪酸結合タンパク質、極長鎖脂肪酸脳伸長タンパク質2(Brain Elongation of very long chain fatty acids protein 2)、受容体型チロシンタンパク質ホスファターゼζ、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、EGFRvIII(特に膠芽細胞腫で発現する上皮細胞増殖因子受容体突然変異体)。
【0084】
テロメラーゼは、テロメアの長さおよび完全性を維持するリボ核タンパク質複合体である。テロメラーゼは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(
TERT; # o14746)、ヒトテロメラーゼRNA成分(TR)、およびテロメラーゼ関連タンパク質1(TEP1)の3つの主要成分を含む大分子の複雑系を構成する(Huang et al, Science. 2013 Feb 22;339(6122):957-9)。TERTは、がんの約80~95%において過剰発現され、正常細胞において非常に低いレベルまたはほとんど検出不能で存在する主要ながん遺伝子である(Shay and Bacchetti, Eur J Cancer. 1997 Apr;33(5):787-91)。例えば、TERTプロモーターの突然変異は原発性膠芽腫のおよそ80%に見られ、TERTの発現を増強することにつながる(Killela et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Apr 9;110(15):6021-6; Labussiere et al (Br J Cancer. 2014 Nov 11;111(10):2024-32)。TERTのいくつかの潜在的なCD4またはCD8エピトープが文献に記載され、そのうちのいくつかは臨床試験に入っている(Zanetti Nat Rev Clin Oncol. 2017 Feb;14(2):115-128; Vonderheide RH, Biochimie 90 (2008) 173e180 175)。とりわけ、UCP2:
などの、ほとんどのMHCクラスIIに結合する能力を有するユニバーサルがんペプチド(UCP)と呼ばれるTERTに由来する一連の非常に無差別的なペプチドが記載されている(Dosset et al: Clin Cancer Res Off J Am Assoc Cancer Res 18:6284-6295, 2012)。これらのペプチドは、最も一般的に発現されるHLA DR分子に結合し、多数のがん患者において潜在的に免疫原性である可能性を高める(Adotevi et al Hum Vaccin Immunother. 2013 May;9(5):1073-7; Laheurte et al Oncoimmunology 5:e1137416, 2016;
US20170360914)。
【0085】
PTPRZ1(タンパク質チロシンホスファターゼ受容体型Z1、# P23471)は、受容体タンパク質チロシンホスファターゼファミリーのメンバーである。この遺伝子の発現は中枢神経系に限定され、CNSにおける特異的な発生過程の調節に関与している。膠芽腫(GBM)の患者は、最も高いPTPRZ1遺伝子レベルを発現し、続いて低悪性度神経膠腫および頭頸部扁平上皮がんが続いた。興味深いことに、PTPRZ1を含む融合遺伝子(PTPRZ1-MET、PTPRZ1-ETV1)が神経膠腫および髄膜腫において報告されている(Matsajic 2020; Magill 2020)。PTPRZ1-MET融合膠芽腫を保有する患者の腫瘍は、テモゾロミドに耐性があり、全生存率を低下させている。PTPRZ1-プレイオトロフィンシグナル伝達を遮断すると、膠芽腫の増殖が抑制され、動物の生存期間が延長された(Fujikawa 2017; Shi 2018)。いくつかのMHCクラス1ヒトエピトープがPTPRZ1内で記載されており、その中には、
がある(Dutoit 2012)。
を挙げることもできる。
【0086】
免疫原性組成物において病原体からの抗原が使用され得る、該病原体の例としては、感染症に関わる病原体を挙げることができる(ウイルス、細菌、寄生生物、真菌症)。
【0087】
感染症に関して、好ましい病原体は、下記から選択される:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型肝炎およびB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、エボラウイルス、パポーバウイルス、コロナウイルス、パピローマウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス(EBV)、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、麻疹および風疹ウイルス、天然痘ウイルス、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、クラミジア(Chlamydiae)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter Pilorii)、サルモネラ属(Salmonella)、プラスモジウム属の菌種(Plasmodium sp.)(熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)など)、ニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)、ランブル鞭毛虫(Giardia duodenalis)、住血吸虫属(Schistosoma)(ビルハルジアス(Bilharziose))、リーシュマニア属(Leishmania)、アスペルギルス属(Aspergillus)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、またはトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)。
【0088】
適切な抗原による免疫付与から恩恵を受けることができる疾患の例として、以下を挙げることができる:がん(良性または悪性腫瘍);悪性血液疾患、アレルギー、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症といった慢性疾患、またはアルツハイマー病。
【0089】
抗原は、したがって、好ましくは、細菌性またはウイルス性の抗原(または細菌性もしくはウイルス性の抗原から単離された1種もしくは複数種のエピトープを含むポリペプチドもしくはポリマー(たとえばデンドリマーにおいて使用可能なもの))である。
【0090】
別の態様において、抗原は、自己抗原(内因性または新抗原)、特に腫瘍特異性抗原(またはそのような抗原から単離された1種または複数種のエピトープを含むポリペプチド)である。
【0091】
別の態様において、抗原は、アレルゲンであるか、またはそのような抗原から単離された1種または複数種のエピトープを含むポリペプチドである。
【0092】
抗原は、該抗原が特異的に疾患の経過中に存在する場合、疾患に関連すると言われる。したがって、このような抗原は、感染症の場合は細菌、ウイルス、真菌または寄生生物抗原であり、がん疾患の場合は腫瘍抗原である。
【0093】
特に、ペプチドは、神経膠腫を処置するために特に有用な、
、神経膠腫を処置するために特に有用な、
、がん、特に膀胱がん、尿路がんまたは脂肪肉腫を処置するために特に有用な、
、
からなる群より選択され、最後の3つは全てコロナウイルスCovid-19を処置するために有用である。このようなペプチドは、好ましくはN末端先端で、それらの配列に求核性アミノ酸を付加することによって、本明細書の開示に従って修飾される。付加されるアミノ酸がシステインである場合が好ましい。
【0094】
さらに、神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置に使用することができる、
(SEQ ID NO: 24、上記)、KVFAGIPTV (SEQ ID NO: 30)またはAIIDGVESV (SEQ ID NO: 32)を挙げることができる。このようなペプチドは、好ましくはN末端先端で、それらの配列に求核性アミノ酸を付加することによって、本明細書の開示に従って修飾される。付加されるアミノ酸がシステインである場合が好ましい。結果として生じたペプチドは、SEQ ID NO: 29:
(ペプチドA10、SEQ ID NO: 24に由来する)、SEQ ID NO: 31: CKVFAGIPTV (ペプチドA30、SEQ ID NO: 30に由来する)、SEQ ID NO: 34:
(ペプチドA08;これはSEQ ID NO: 30以外のアミノ酸を含有し、SEQ ID NO: 28に基づく)またはSEQ ID NO: 35:
(これはSEQ ID NO: 30とSEQ ID NO: 24とを組み合わせる融合ペプチドである)である。
【0095】
合成メラニンの取得
合成メラニンは、インビトロでのメラニン前駆体の酸化重合後に得られる。
【0096】
メラニン前駆体の重合は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。特に、メラニン前駆体は、緩衝液とともにまたは緩衝液なしで、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、チロシナーゼ、キノコチロシナーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノール-オキシダーゼ、ドパクロムトートメラーゼ、DHICAオキシダーゼ、DHIオキシダーゼといった酵素とインキュベートされてよい。酵素の選択は、重合前に溶液中に存在する前駆体の特質に応じて当業者により行われ得る。
【0097】
混合物はまた、重合を促進して合成メラニンを得るために、上記に開示されるような酸化剤に曝露される。
【0098】
とりわけ、当業者は、使用される混合物中のメラニン前駆体の比率、酸化剤の種類、pH、緩衝液、インキュベーションの長さ、または反応温度といった様々なパラメータを最適化してもよい。
【0099】
特に、メラニン合成は、pH(アルカリ性のpHはカテコールの自動酸化を促進する)、およびインキュベーション溶液中に存在する金属イオン(例えば、Cu2+、Ni2+、Fe3+、Fe2+、Co2+、Zn2+、Mn2+、Mg2+…)の存在によって影響され得る(Palumbo et al, Biochim Biophys Acta. 1987; 13;925(2):203-9; Palumbo et al, Biochim Biophys Acta. 1991;1115(1):1-5; WO95009629)。
【0100】
メラニン前駆体
「メラニン前駆体」は、インビトロでのメラニン合成の間に使用または合成される分子である。特に、下記を挙げることができる:L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドパ、ドパキノン、シクロドパ、ドパクロム、ジヒドロキシインドールカルボン酸または5,6-ジヒドロキシインドール-2カルボン酸(DHICA)、インドール5,6キノン、5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)、ドパミン-o-キノン、ドパミン ロイコドパミノクロム、ロイコドパクロム(シクロドパ)、ドパミノクロム、ノルエピネフリン、ノルアデキノン(noradequinone)、ノルアデノクロム、エピネフリン、エピネフリン-o-キノン、アデノクロム、3-アミノ-チロシン、6-ヒドロキシ-ドパ、ジヒドロカフェー酸、カフェー酸およびその他。
【0101】
「メラニン前駆体」なる用語は、そのような前駆体の誘導体および/またはそのような前駆体を高い割合で含むポリマーをさらに含む(たとえばイガイ接着タンパク質)。このようなメラニン前駆体および誘導体は、WO2017089529に記載されており、本発明の文脈において同等のメラニン前駆体として使用することができる。
【0102】
メラニン前駆体は、好ましくは、DHICA、DHI、L-ドパ、L-チロシン、D-ドパ、6-ヒドロキシ-ドパ、ドパキノン、シクロドパ、ドパクロム、ドパミン-o-キノン、ドパミン、ロイコドパミノクロムおよびドパミノクロムからなる群より選択される。
【0103】
好ましいメラニン前駆体はL-ドパである。別の好ましいメラニン前駆体はDHICAである。別の好ましいメラニン前駆体はDHIである。別の好ましいメラニン前駆体はL-チロシンである。具体的な態様において、メラニン前駆体はDHICAおよびDHIの混合物である。別の態様において、メラニン前駆体はドパクロムである。
【0104】
酸化剤
「酸化剤」または「酸化性分子」は、メラニン前駆体を含む溶液の酸化重合およびメラニン高分子の形成を促進することができる化合物である。
【0105】
この目標を達成できる酸化剤は、酸素、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、鉄イオン、過酸化水素と一緒のヨウ化ナトリウム、および空気酸化のための触媒としての硫酸銅などの遷移金属カチオンの塩での処理を含む。
【0106】
酸化剤は、酸素、過酸化水素(H2O2)、過硫酸アンモニウム、および鉄イオンからなる群において選ばれる場合が、したがって好ましい。
【0107】
チロシナーゼの存在下で酸化重合を行う場合がまた好ましい。
【0108】
態様において、合成メラニン(重合後)を、5kDa~100kDaフィルター、好ましくは10kDaフィルターでの濾過によって精製する。
【0109】
好ましい態様において、合成メラニンは可溶性メラニンであり、即ち、500nm未満の粒子の形態である。
【0110】
したがって、態様において、メラニンを、ペプチドと混合する前に、緩衝液(例えばリン酸緩衝液)とともにまたは緩衝液なしで、水に再懸濁する。
【0111】
組成物の取得
「免疫原性または免疫賦活組成物」は、動物に投与されたときに、該動物において免疫応答を起こすことができる組成物である。好ましくは、前記動物は哺乳動物であり、しかし、特に組成物が鳥類の家畜で用いられるときは、鳥類であってもよい(たとえば、鶏、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、ウズラ)。免疫原性組成物は魚の養殖で用い得ることから、動物は魚であってもよい。そのような免疫原性または免疫賦活組成物は、ペプチドが免疫学的に活性なペプチドである場合に得られる。
【0112】
本発明に係る免疫原性組成物は、哺乳動物において好ましく用いられる。そのような哺乳動物は、好ましくはヒトであるが、組成物が獣医学領域で用いられるとき、特に畜牛(乳牛)、ヒツジ、ヤギまたは馬などの家畜、またイヌまたはネコといったペットにおいて免疫を誘導するために、他の哺乳動物であってもよい。
【0113】
免疫原性組成物は、したがって、上記に開示されるような、抗原由来のエピトープを含むペプチドを含有し、かつそのような抗原に対する免疫応答を起こすことができる組成物である。発生した免疫応答は、細胞性(T細胞媒介)のまたは体液性(B細胞媒介、抗体の産生)の免疫応答であり得る。免疫原性組成物は、したがって、細胞性および体液性免疫応答のいずれをも誘導してもよい。
【0114】
細胞性免疫応答は、CD8 Tリンパ球媒介応答(すなわち、細胞傷害反応)、またはCD4 Tリンパ球媒介応答(ヘルパー応答)であり得る。細胞傷害およびヘルパー細胞性免疫応答を組み合わせることもできる。ヘルパー応答は、Th1、Th2またはTh17リンパ球を含んでもよい(当技術分野で公知であるように、そのようなリンパ球は、異なるサイトカイン反応を引き起こすことができる)。
【0115】
免疫原性組成物は、MHC1またはMHC2経路を介して、そこに存在する抗原のよりよい提示を可能にし得る。
【0116】
組成物は、上記に開示されるような、修飾されたペプチドを、本明細書に記載されるような合成メラニンに付加することによって得られる。
【0117】
一例として、合成メラニンは、撹拌下で好気条件においてpH 8.5+/-0.5でインキュベートされたL-ドパの溶液から得ることができる。物理化学的条件は、温度を20℃超(例えば60~80℃)に上昇させる、反応混合物に空気をバブリングする、または大気圧を増加させるなど、反応速度論を増加させるために改変することができる。合成されると、メラニンは限外濾過によってまたは約10kDaフィルターでの濾過によって洗浄され(メラニンは保持液に残る)、次いで水または緩衝液(例えばリン酸緩衝液)に再懸濁される。メラニンは、滅菌のために0.2μmフィルターで濾過することができる。次いで、ペプチドをメラニン溶液(ペプチド/メラニンの重量比が1/1~1/10の間)へ添加し、使用前に様々な期間、好ましくは室温でインキュベートする。結果として生じた溶液を洗浄し、水または任意の適切な緩衝液に再懸濁することができる。
【0118】
メラニンへのペプチドの結合は、Carpentier; 2017 (前掲書中)に記載されているようにトリシン-SDS-PAGE分析によって検証することができる。簡潔には、サンプル(ペプチド-Melまたはペプチド単独)をアクリルアミドゲル上にロードする。電気泳動に続いて、ゲルをクーマシー-ブリリアントブルーR-250で染色し、ゲル中の遊離ペプチドの定量化を可能にする。メラニンへのペプチドの結合は比率として表すことができる:[サンプルペプチド-Mel中の未結合ペプチドの量/ペプチド単独を含有する対照サンプル中のペプチドの量]。
【0119】
アジュバントの添加
開示される免疫賦活組成物はまた、別の免疫賦活分子、すなわち、上記に開示されるようなアジュバントを含んでもよい。
【0120】
「アジュバント」は、抗原に対する免疫応答を改変または増強する能力を有する物質である。換言すれば、抗原に対する免疫応答は、アジュバントが存在しないときよりも、アジュバントの存在下でより高くまたは異なっていてよい(これは、応答が改変される場合、たとえば、アジュバントの存在下で活性化されるT細胞のサブセットが、アジュバントの非存在下で活性化されるサブセットとは異なる場合を含む)。アジュバントは、当技術分野で公知であり、ワクチン分野で広く用いられてきている。
【0121】
ミョウバン、エマルジョン(水中油型または油中水型のいずれか、たとえば不完全フロイントアジュバント(IFA)およびMF59(登録商標))、PRR(パターン認識受容体)リガンド、TLR3(Toll様受容体3)およびRLR(RIG-I様受容体)リガンドたとえば二本鎖RNA(dsRNA)、またはdsRNAの合成類縁体、たとえばポリ(I:C)、TLR4リガンドたとえば細菌性リポ多糖(LPS)、MPLA(モノホスホリルリピドA)、特にミョウバンとともに形成されたもの、TLR5リガンドたとえば細菌フラジェリン、TLR7/8リガンドたとえばイミダゾキノリン(すなわち、イミキモド、ガーディキモドおよびR848)、TLR9リガンドたとえば特定のCpGモチーフを含むオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、またはNOD2(ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質2)リガンドを挙げることができる。上記のリガンドなる用語は、好ましくは受容体のアゴニスト、すなわち、受容体に結合して、受容体を活性化する物質をいう。
【0122】
このアジュバントは、TLR3アゴニストおよびTLR9アゴニストからなる群において選ばれる場合が好ましく、特に、さらに添加されるこのアジュバントは、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリI:C)およびCpGオリゴヌクレオチドの中から選ばれる場合が好ましい。
【0123】
好ましい態様において、投与の直前に、すなわち投与前1時間未満で、得られた組成物にアジュバントを添加する。
【0124】
本発明はまた、本明細書に開示される方法によって得られやすい免疫賦活組成物に関する。本発明はまた、本明細書に開示される方法によって得られた免疫賦活組成物に関する。
【0125】
このような組成物は、酸化重合前ではなく合成メラニンが得られた後に抗原が付加された点で、WO2017089529に記載の組成物(抗原/ペプチドの存在下でメラニン前駆体を重合することによって得られる)と区別することができる。
【0126】
免疫原性組成物の用途
本発明は、また、動物(上記のとおり、ヒトを含む)に投与された場合に、抗原に対して免疫応答を引き起こすためのワクチンとしての、その使用のための上記に開示されるような免疫賦活組成物に関する。あるいは、免疫賦活組成物は、例えば、ヒトまたは動物に投与(好ましくは注射)する前に、抗原に対して生細胞(たとえば、マクロファージ、樹状細胞またはリンパ球)を感作するために、該生細胞の存在下でインビトロで使用することができる。得られる組成物は、したがって、レシピエントにおける抗原に対する免疫応答を引き起こす。特に、US 6210662は、抗原複合体との接触により活性化された抗原提示細胞からなる治療用または免疫原性組成物を形成するためのそのような原理を開示している。本発明の場合においては、抗原-メラニン複合体は、ここに記載された方法にしたがって得られたものである。
【0127】
本発明は、また、標的抗原に対する免疫応答を増加するまたは引き起こすためのそのような免疫賦活組成物の使用に関する。これは、標的抗原が、それ単独で免疫原性ではない(すなわち、抗原が単独で投与された場合に免疫応答が得られない)場合に、特に有用である。
【0128】
特に、合成メラニンに抗原を結合させることは、抗原に対する免疫応答を増加させるように作用する。
【0129】
本発明は、また、標的抗原またはそのエピトープを細胞内、細胞の表面で発現するかまたは標的抗原またはそのエピトープを分泌する細胞に関連する(すなわち、関与するおよび/または関係する)疾患から、動物を保護または処置するためのワクチンとして使用するための、上記に開示されるような免疫賦活組成物に関する。
【0130】
ワクチンは、予防(すなわち、疾患の発症に対してレシピエントを保護することを目的とするもの)または治療(すなわち、既に存在する疾患とレシピエントが戦うのを助けることを目的とするもの)用のワクチンとすることができる。
【0131】
保護される動物は上記で開示されており、ヒトであってよい。
【0132】
疾患は、免疫賦活組成物に使用される標的抗原に関連する。これは、抗原またはそのエピトープは、疾患の過程において動物の細胞により(または病原体により)発現または提示されることを意味する。疾患は、したがって、標的抗原を発現している細胞に関係または関与する。そのような発現は、抗原の分泌(実例としては、抗原が細菌毒素であり得る場合)、または、抗原またはそのエピトープの表面発現(抗原が、ウイルスの表面タンパク質、または、腫瘍細胞の表面で発現する腫瘍特異的抗原またはそのエピトープであり得る場合)、または、細胞の表面での抗原またはそのエピトープの提示(たとえば、標的細胞による抗原またはそのエピトープのMHC提示)であってよい。
【0133】
本発明はまた、患者を処置するための医薬を得るための方法であって、
a)メラニン前駆体の酸化重合によって得られた合成メラニンを提供する工程、および
b)求核性残基を含む1つまたは複数のアミノ酸の付加によって修飾された生物学的に/免疫学的に活性なペプチドと、合成メラニンとを混合し(合成メラニンに添加し)、修飾されたペプチドに結合されたメラニンを含む組成物を得る工程
c)任意で混合物をインキュベートする工程、
d)任意で混合物を洗浄し、ペプチドに結合した合成メラニンを再懸濁する工程
を含み、
それによって、患者(または動物)を処置するための薬物を得る、方法に関する。
【0134】
潜在的な用途として、そのような製剤は、インビボで投与した場合、またはインビトロで細胞と共にインキュベートした場合(これは、その後患者または動物に投与され得る細胞に初回抗原刺激を与えるものである)、抗原(ペプチドが抗原である場合)に対する免疫応答を引き起こすことができる。
【0135】
この方法で用いられる抗原は、レシピエントにおいて抗原に対する免疫応答が求められている抗原である。
【0136】
合成メラニンは、インビトロで酸化重合によって得られたものであり、好ましくは可溶性メラニンである。
【0137】
具体的な態様において、組成物(薬物または医薬として使用される)はまた、アジュバントを含有し、アジュバントは、患者への投与前に、使用直前または使用数時間もしくは数日前のいずれかで添加される。該アジュバントは、メラニン前駆体以外のものであり、好ましくは、ポリI:CおよびCpG-オリゴヌクレオチドからなる群において選ばれるアジュバントといった、TLR3またはTLR9アゴニストである。
【0138】
本発明はまた、上記に開示されるような免疫賦活組成物の治療量または有効量を対象に投与する工程を含む、対象において抗原に対する免疫応答を引き起こすための方法であって、ここで、免疫賦活組成物が合成メラニンと抗原または抗原を含むペプチドとを混合することによって得られている、方法に関する。
【0139】
薬剤の「有効量」または「治療量」は、本明細書で使用される場合、臨床結果、または免疫応答、特にT細胞媒介性免疫応答の発生などの、有利なまたは所望の結果を誘導するのに十分な量である。本文脈において、薬剤の治療量は、例えば、抗原に対する免疫応答の発生、および、組成物の投与なしで観察される状況と比較して、抗原に関連する疾患の症状の重症度の低下を達成するのに十分な量である。有効量は、副作用または有害作用を最小限に抑えながら治療的改善を提供する量である。有効量として、10μg~5mgの抗原、好ましくは100μg~500μgを使用することができる。使用できるメラニンの量は、50μg~10mg、特に500μg~2mgで含まれ得る。
【0140】
本発明はまた、本明細書に開示されるような免疫賦活組成物の治療量または有効量を患者へ投与する工程を含む、それを必要とする患者を処置するための方法であって、ここで、該免疫賦活組成物が、該患者において免疫賦活組成物中に存在する抗原に対する免疫応答を誘導し、かつここで、免疫応答が治療効果を有する、方法に関する。したがって、免疫応答は、患者の症状を緩和し、所与の病原体の負荷を減少させ、または腫瘍、特に固形腫瘍を退縮させ得る。
【0141】
本発明はまた、本明細書に開示されるような免疫賦活組成物の治療量または有効量を患者へ投与する工程を含む、疾患から患者を保護するための方法であって、ここで、該免疫賦活組成物が、疾患に関連する抗原に対する免疫応答を誘導し、ここで、免疫応答が疾患に対する保護効果を有する、方法に関する。
【0142】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のためのSEQ ID NO: 29に関する。
【0143】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のためのSEQ ID NO: 31に関する。
【0144】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のためのSEQ ID NO: 34に関する。
【0145】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のためのSEQ ID NO: 35に関する。
【0146】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のための合成メラニンと複合体化された、SEQ ID NO: 29に関する。
【0147】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のための合成メラニンと複合体化された、SEQ ID NO: 31に関する。
【0148】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のための合成メラニンと複合体化された、SEQ ID NO: 34に関する。
【0149】
本発明はまた、がん、特に脳腫瘍、特に神経膠腫、髄膜腫、または神経膠芽腫の処置についてのその使用のための合成メラニンと複合体化された、SEQ ID NO: 35に関する。
【0150】
ペプチドは本明細書に開示される方法に従ってメラニンと複合化されることが意図される:複合体は、合成メラニン(好ましくは可溶性)と共のペプチド(そのN末端にシステインを導入することによって修飾されている)のインキュベーション後に得られる。
【0151】
本発明はまた、疾患の処置または予防方法であって、本明細書に記載されるような、求核性アミノ酸の付加によって修飾された、抗原と複合化された合成メラニンを含む、組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法に関する。疾患は、抗原またはそのエピトープを、対象の細胞内、細胞の表面で発現する、または分泌する、細胞に関連する(すなわち、関与するおよび/または関係する)点で、使用される抗原に関連する。疾患は、従って、標的抗原を発現する細胞に関与または関係する。そのような発現は、抗原の分泌(実例としては、抗原が細菌毒素であり得る場合)、または、抗原またはそのエピトープの表面発現(抗原が、ウイルスの表面タンパク質、または、腫瘍細胞の表面で発現する腫瘍特異的抗原またはそのエピトープであり得る場合)、または、細胞の表面での抗原またはそのエピトープの提示(たとえば、対象の細胞による抗原またはそのエピトープのMHC提示)であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【
図1】5週齢のC57BL/6マウスにおける皮下免疫化後のCTL応答。ペプチド(10μg/マウス)をL-ドパと混合し(gp100およびEphA2についてそれぞれ重量比ペプチド/L-ドパ=1/4および1/6)、上述の条件下でインキュベートした(表1参照)。ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドCpG-28(5’-TAAACGTTATAACGTTATGACGTCAT、SEQ ID NO: 21)を免疫化の直前にワクチン製剤に添加した(10μg/マウス)。次いで、マウスを、gp100-Mel + CpG(「gp100-Mel」)、またはgp100およびCpGと混合した前もって合成されたメラニン(「Mel + gp100」);EphA2-Mel + CpG (「EphA2-Mel」)、メラニン + EphA2 + CpG (「Mel + EphA2」)で皮下免疫化した。マウスを8日目に犠牲にし、CTL応答をCarpentier; 2017に記載されるように実施した。簡潔には、脾細胞を対応するMHCクラスI-エピトープ(メラニンへ非コンジュゲート)を用いてインビトロで再刺激し、IFNg-SFC(スポット形成細胞)の数を測定し、平均値+/-S.E.M.として表した(n=8マウス/群;それぞれ4匹のマウスの2つの異なる実験からのデータをプールした。スチューデントT検定: gp100-Mel対Mel + gp100: p<0.001; EphA2-Mel対Mel + EphA2: p<0.001)。
【
図2】C57BL/6マウスにおける皮下免疫化後のCTL応答。gp100ペプチド(10μg/マウス)をL-ドパと混合し(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4)、60℃で2時間、好気条件においてpH 8.5でインキュベートし、gp100-Melを生成した。あるいは、L-ドパ(0.8mg/ml)を、60℃で2時間、好気条件においてpH 8.5で酸化重合した。反応混合物を次いで10kDaフィルターで濾過し、合成メラニンを含有する保持液をリン酸緩衝液中にpH 7.5で再懸濁した。ペプチド(gp100 (SEQ ID NO: 1)またはC-gp100 (SEQ ID NO: 17); 10μg/マウス)を次いで添加し(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4で)、混合物(Mel + gp100またはMel-C-gp100)をマウスにおける皮下免疫化のために迅速に(<1時間)使用した。ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドCpG-28(5’-TAAACGTTATAACGTTATGACGTCAT、SEQ ID NO: 21)を免疫化の直前にワクチン製剤に添加した(10μg/マウス)。マウスを8日目に犠牲にし、CTL応答を
図1に記載されるように実施した。(n=12マウス/群;それぞれ4匹のマウスの3つの異なる実験からのデータをプールした。スチューデントT検定: gp100-Mel対Mel + gp100: p<0.01; Mel + gp100対Mel + C-gp100: p<0.05)。
【実施例】
【0153】
実施例1.WO2017089529に従う免疫原性組成物の調製
抗原と合成メラニンとを組み合わせたワクチン製剤を調製し、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)免疫応答を誘発するそれらの能力について試験した(Carpentier et al, PLoS One. 2017 Jul 17;12(7):e0181403、WO2017089529)。これらの研究では、T細胞エピトープを含む短い合成ペプチド(8~35アミノ酸長)を、メラニンの前駆体であるL-ドパの溶液と混合した。次いで、混合物を酸化して、マウスにおいて免疫応答を誘発するためのワクチンとして効率的に使用することができるメラニン結合ペプチドのナノ粒子を生成した。合成メラニンへの抗原の結合は、免疫を誘発するために重要であるように思われた。実際、抗原(例えば、ペプチドgp100、EphA2の場合)が、L-ドパがメラニンに重合される前ではなく、L-ドパがメラニンに重合された直後に添加される場合、メラニンへのペプチドの最小限の結合がSDS-page分析において見られ(表1)、マウスにおいてCTL(CD8)応答を誘発するワクチン製剤の能力は失われる(
図1)。
【0154】
(表1)メラニンへのgp100 (KVPRNQDWL, SEQ ID NO: 1)またはEphA2 (FSHHNIIRL, SEQ ID NO: 2)結合の割合(トリシン-SDS-PAGE分析)
【0155】
ペプチドをL-ドパと混合し(gp100およびEphA2についてそれぞれ重量比ペプチド/L-ドパ=1/4および1/6)、次いで溶液の酸素化を確実にするために撹拌下にてpH 8.5および60℃で2時間インキュベートし、メラニン結合ペプチドのナノ粒子(ペプチド-Mel)を生成した。あるいは、L-ドパ単独(0.8mg/ml)を撹拌下にてpH 8.5および60℃で2時間メラニンに重合し、その後、ペプチド(gp100およびEphA2についてそれぞれ重量比ペプチド/L-ドパ=1/4および1/6)を溶液へ添加した(Mel+ペプチド)。トリシン-SDS-PAGE分析を、Carpentier; 2017 (前掲書中)に記載されるように実施した。簡潔には、サンプル(ペプチド-Melまたはペプチド単独)をアクリルアミドゲル上にロードした。電気泳動に続いて、ゲルをクーマシー-ブリリアントブルーR-250で染色し、ChemiDoc XRS+システム(Bio-Rad Laboratory)でイメージングし、ゲル中の遊離ペプチドの定量化を可能にした。メラニンへのペプチドの結合を比率として表した:[サンプルペプチド-Mel中の未結合ペプチドの量/ペプチド単独を含有する対照サンプル中のペプチドの量]。
【0156】
実施例2.メラニンに結合するペプチドの最適化
上記に示したように、メラニンへの抗原ペプチドの効率的な結合は、生物学的特性を得るために重要な役割を果たしている。この結合はWO2017089529に開示されているようにL-ドパの重合中にペプチドを混合することによって簡便に達成することができる。
【0157】
しかし、活性酸素種を生成する、この酸化プロセス中にペプチドが分解されるという懸念がある。(合成メラニンをL-ドパの酸化重合によって得た後に)合成メラニン上にペプチドをグラフト/結合する方法を開発した。
【0158】
メラニン結合に関与するラジカル部分を最初に研究した。全てが基本配列SIYRYYGL (SEQ ID NO: 3)を含む、異なるペプチドをL-ドパと混合し、次いで、撹拌下にてpH 8.5で2時間インキュベートして、メラニン結合ペプチドのナノ粒子(ペプチド-Mel)を生成した。表3の第1列(ペプチド-Mel)に見られるように、メラニン結合は、ペプチド内の求核性部分の存在に依存するようである:
1)末端NH2がアセチル残基(アセチル-R-SIYRYYGL, SEQ ID NO: 4)によって遮断された場合に結合は見られず、メラニン結合におけるペプチドの-NH2末端の重要かつ恐らく決定的な役割(および末端-COOH部分のあまり重要でない役割)を指摘した。
2)求核性プロリンまたはヒドロキシプロリンをNH2末端アミノ酸に付加することができる。
3)リジンおよびシステインなどのいくつかの求核性アミノ酸の側鎖はまた、ペプチドのNH2末端が遮断された場合でさえ、有意な結合を可能にした。
【0159】
最も驚くべきことに、L-ドパ単独を最初にメラニンに重合し、その後、ペプチドを溶液に添加し、次いで室温で2時間インキュベートした場合でさえ(Mel + ペプチド)、いくつかの特定のアミノ酸(システイン、およびより小さい程度にヒドロキシプロリン)がペプチドに含まれる場合、いくらかの結合を見ることができる(表2、第2列)。
【0160】
(表2)合成メラニンにおけるペプチドの結合(トリシン-SDS-PAGE分析)
【0161】
第1列(ペプチド-Mel):L-ドパ(0.8 mg/ml)をペプチドと混合し(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4)、次いでpH 8.5および60℃で2時間インキュベートして、メラニン結合ペプチドのナノ粒子を生成した。あるいは(第2列;Mel + ペプチド)、L-ドパ単独(0.8mg/ml)を、まず激しい撹拌下でpH 8.5および60℃にて2時間メラニンに重合させ、その後、ペプチド(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4)を溶液に添加し、室温で2時間インキュベートした。どちらの場合も、メラニンに結合したペプチドの割合を、表1に記載したように、次いでSPS-page分析で定量化した(ND=実施せず)。
【0162】
インキュベーション条件
本発明者らはさらに、様々なインキュベーション手順のメラニン結合に対する影響を調べた。L-ドパを酸化重合し、反応混合物を次いで濾過し、次いで、合成メラニンを含有する保持液を、様々な時間および温度で異なるペプチドと混合した。表3は、文献(Carpentier 2017)に開示されているように、インキュベーション時間が短い場合(およそ10分間)、ペプチドの限られた結合が見られることを示す。さらに、結合は、インキュベーション時間、pH(表3)、または温度(示さず)とともに増加した。この結合は、ペプチドが遊離NH2末端部分、または以下のアミノ酸のうちの1つのいずれかを含む場合に特に見られる:リジン、システイン、プロリン、ヒドロキシプロリン。興味深いことに、システインの場合、メラニン結合に対するより高いpHの影響は限定的であるように見えた。
【0163】
(表3)合成メラニンにおけるペプチドの結合;様々な物理化学的条件の影響
【0164】
L-ドパ(0.8mg/ml)を、60℃で2時間、好気条件下にてpH 8.5で酸化重合した。反応混合物を次いで10kDaフィルターで濾過し、合成メラニンを含有する保持液をリン酸緩衝液中にpH 7.5で再懸濁した。次いで、ペプチドを添加し(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4で)、混合物を様々な時間またはpHでインキュベートした。メラニンに結合したペプチドの割合を、表1に記載したように、次いでSPS-page分析で定量化した(ND=実施せず)。
【0165】
同様の実験を、gp100ペプチドのファミリーについて行った(基本配列:KVPRNQDWL (SEQ ID NO: 1)、実施例1も参照のこと)(表4)。ここでも、ペプチドを添加する前にメラニンを合成する場合、1)インキュベーション時間を増加させることによって、およびb)ペプチドがリジン、システイン、ヒドロキシプロリンまたはメチオニンなどの特定のアミノ酸を含む場合、ペプチドのメラニン結合が増強される。
【0166】
(表4)合成メラニンにおけるペプチドの結合;インキュベーション時間およびアミノ酸の影響
【0167】
L-ドパ(0.8mg/ml)をpH 8.5および60℃で2時間酸化重合した。反応混合物を次いで10kDaフィルターで濾過し、合成メラニンを含有する保持液をリン酸緩衝液中にpH 7.5で再懸濁した。次いで、ペプチドを添加し(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4で)、混合物を様々な時間インキュベートした。ペプチドの結合を、表1に記載したように、次いでSPS-page分析で定量化した(ND=実施せず)。
【0168】
異なる長さの種々のペプチドについても同様の結果が得られた:ペプチドのNH2末端にシステインを付加することは、合成メラニンに対する結合を有意に増加させた(データは示さず)。
【0169】
メラニン結合を促進するアミノ酸を、エピトープを含むペプチドのNH2末端の代わりにCOOH末端に配置した場合(例えば、X-VYDFFVWL (SEQ ID NO: 19)対VYDFFVWL-X (SEQ ID NO: 20))、メラニンへのペプチド結合は類似していた(51%対55%)。
【0170】
システインは酸化状態または還元状態のいずれかであり得、メラニンへの結合を両方の場合において研究した。L-ドパを酸化重合し、次いで反応混合物を濾過し、次いで、合成メラニンを含有する保持液を、Cgp100 (SEQ ID NO: 17) (酸化状態または還元状態のいずれか)ペプチドと室温で2時間混合した。結合は両方の場合において観察されたが、システインが還元状態にある場合、より有利であった。
【0171】
最後に、ペプチドが良好なメラニン結合(>50%)を有する上述の製剤のうちの1つが良好な生物学的活性を有することを確認した。
図2に示されるように、そのような製剤のうちの1つでのマウスの免疫化は、酸化重合前にペプチドがL-ドパへ混合されたヒストリカルコントロールと同じ大きさの免疫応答を誘導した。
【0172】
結論
全体として、これらの実験は、ペプチドへのシステイン、プロリン、ヒドロキシプロリン、リジン、メチオニンなどのアミノ酸に含まれる求核性部分の付加が、メラニンへのその結合を増加させることを示している。これらの製剤の免疫学的有効性は、L-ドパが酸化される前にペプチドが反応混合物中に添加される、先行技術(WO2017089529)に開示されたものと同様である。
【0173】
したがって、求核性アミノ酸がペプチドに付加された場合の、前もって合成されたメラニンとペプチドとの共インキュベーションは、メラニンへの結合、およびそれに起因する免疫応答を増加させるための効率的な方法である。それはまた、合成メラニンの品質(これは確実に特徴付けることができ、これは規制問題にとって利点である)およびメラニンに実際に結合したペプチドの量の両方のより良い制御という利点を示す。このプロセスはまた、そのようなペプチドがメラニン前駆体を重合するために使用される酸化剤へ供される先行技術のものと比べて、ペプチドの完全性のより良い保護を提供する。
【0174】
実施例3.他のペプチドの使用
ヒト化雌性HLADRB1* 0101/HLA-A*0201 (HHD DR1)マウスにおける皮下免疫化後にCTL応答を評価した。
【0175】
L-ドパ(0.8mg/ml)を、60℃で2時間、好気条件においてpH 8.5で酸化重合した。反応混合物を次いで10kDaフィルターで濾過し、合成メラニンを含有する保持液をリン酸緩衝液中にpH 7.5で再懸濁した。
【0176】
ペプチド(A10, SEQ ID NO: 29; A8, SEQ ID NO: 34; A30, SEQ ID NO: 31, 10μg/マウス)を次いで添加した(重量比ペプチド/L-ドパ=1/4で)。混合物(Mel + ペプチドまたはペプチド単独のいずれか)をマウスにおける皮下免疫化のために迅速に(<1時間)使用した。ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドCpG-28
を免疫化の直前にワクチン製剤に添加した(10μg/マウス)。マウスを8日目に犠牲にし、CTL応答をCarpentier; 2017に記載されるように実施した。簡潔には、脾細胞を対応するペプチド(メラニンへ非コンジュゲート)を用いてインビトロで再刺激し、IFNg-SFC(スポット形成細胞)の数を測定し、平均値+/-S.E.M.(n=4~8マウス/群)として表した。10を超えるスポットが陽性免疫応答と見なされる。
【0177】
【0178】
、ペプチドA10
SEQ ID NO: 31: CKVFAGIPTV、ペプチドA30
、ペプチドA08
、N末端にてCで修飾された、SEQ ID NO: 30およびSEQ ID NO: 24を組み合わせたペプチド
、セリン(S)によって分離された、SEQ ID NO: 30およびSEQ ID NO: 24を組み合わせたペプチド。
【配列表】
【国際調査報告】