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特表2023-514481制御された方法で超伝導体線材上にピンニングセンターを生成する方法
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  • 特表-制御された方法で超伝導体線材上にピンニングセンターを生成する方法 図1
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  • 特表-制御された方法で超伝導体線材上にピンニングセンターを生成する方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(54)【発明の名称】制御された方法で超伝導体線材上にピンニングセンターを生成する方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
H01B13/00 565C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539337
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 TR2020051227
(87)【国際公開番号】W WO2021133314
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】2019/21955
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520307148
【氏名又は名称】ガジ・ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】GAZI UNIVERSITESI
(71)【出願人】
【識別番号】522254022
【氏名又は名称】バチェシェヒシュ ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】BAHCESEHIR UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100081455
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100170966
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 正紀
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルダー、スクル ヴァルダー
(72)【発明者】
【氏名】コラレイ、ハルク
(72)【発明者】
【氏名】アルダ、ルトゥフィ
(72)【発明者】
【氏名】チュラン、ネスリハン
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321AA98
5G321CA13
5G321DB99
(57)【要約】
本発明は、超伝導体線材/薄膜上に制御された方法でピンニングセンターを生成する方法に関するものである。本発明は、特に、レーザシステムを用いて、超伝導体線材/薄膜上に異なる幾何学的形状を有する人工的なピンニングセンターを生成し、それによって臨界電流密度を向上させることができる方法に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御された方法によって超伝導体線材/薄膜上にピンニングセンターを生成する方法であって、以下の処理工程を含む。
・超伝導体上に欠陥を生成するため、出力1~10W、周波数帯域100~1000kHz、超短時間パルス幅(<1×10-10秒)のパラメータを備えるレーザと同一のパルスレーザを照射する。
・前記超伝導体線材/薄膜上に、等しいエネルギー値、100μm間隔、最大直径20μm及び250~300nmの範囲の深さを備える同一の孔状の変形を生成する。
【請求項2】
前記レーザは、エキシマレーザであることを特徴とする請求項1記載の超伝導体にピンニングセンターを生成する方法。
【請求項3】
前記レーザは、フェムト秒レーザであることを特徴とする請求項1記載の超伝導体にピンニングセンターを生成する方法。
【請求項4】
請求項1に記載のピンニングセンターを生成する方法によって得られ、100μm間隔で形成された同一の孔から構成されることを特徴とする超伝導体線材/薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された方法で超伝導体線材/薄膜上にピンニングセンターを生成する方法に関するものである。
【0002】
特に本発明は、レーザシステムを用いて、超伝導体線材/薄膜上に異なる幾何学的形状を有する人工的なピンニングセンターを生成し、それによって臨界電流密度を向上させることができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
昨今では、産業・技術分野において超伝導体材料の利用は日を追うごとに普及している。技術的な利用を目的とするために、超伝導体材料は、高い臨界電流密度が必要である。そのため、科学者たちは、より高い臨界電流密度を有する超伝導体構造を作り、超伝導体材料の利用を拡大することを目指している。超伝導体構造にナノ・マイクロ構造をピンニングセンターとして組み込むことは多様な方法で観察されており、このような研究の結果、臨界電流は向上している。
【0004】
現在、ナノ・マイクロ構造体をピンニングセンターとして超伝導体構造に組み込むことが多くの方法(PVD、PLD、CVDなど)で観察され、これらの研究を通じて臨界電流が向上している。これらの研究の殆どは、異なる時間での蒸発技術や超伝導体の生成プロセスで使用する添加物、あるいはイオン照射法などを用いて、無制御下でピンニングセンターを生成することを目的としている。
【0005】
超伝導体は、印加される外部磁場での挙動によって、第一種超伝導体と第二種超伝導体との2つのグループに分けられる。第一種超伝導体は、低周波磁場(Hc)で構造が劣化し易く、臨界温度(Tc)特性も低いため、産業用途では使用されない。第一種超伝導体では、外部磁場が印加され、臨界磁場(Hc1)以上の値になると磁場が超伝導体に侵入し始める。その結果、超伝導体内の表面には、動的な磁束とその反対の磁束が発生する。超伝導状態は、臨界磁場(Hc2)値に達するまで続き、臨界磁場値に達すると常伝導状態へと戻る。
【0006】
超伝導体中の欠陥は、外部磁場に対して形成される自然な磁束点(vortex points)のセンターであるが、欠陥がない場合でも、構造内に磁束が動的に発生することが分かっている。Hc1臨界磁場以上の外部磁場において磁束が発生すると、これらの磁束の半径は、コヒーレンス長に等しくなる。超伝導体材料上に発生する磁束は、印加する外部磁場に比例して増加し、磁束が表面で躍動するため磁束間の距離も短くなり、外部磁場の値が大きくなると、磁束により形成される格子の数も多くなる。また、磁束は、結晶原子と同じように秩序ある格子を生成する。
【0007】
各磁束に対して、超電流が磁気源として機能する。超伝導体に電流を流すと、電流と磁束との相互作用により電気抵抗が発生し、その抵抗によりエネルギーの散逸が観測される。この電気抵抗によって超伝導の特性が失われる。ピンニングセンターによって磁束が表面に固定されると、超電子と磁束の相互作用が小さくなることで、より高い通電容量を得られる。
【0008】
超伝導体が頻繁に使用される重要な理由は、高い通電容量があることである。この研究では、臨界電流密度を下げ、製造コストを下げることを目的としている。生成された人工的なピンニングセンターは、全てランダムであり、製造段階での異なる工程とコストが思い当たる。また、これらの方法で生成されたピンニングセンターは、製造条件に依存するため、制御するのが困難である。
【0009】
従来技術について実施された予備調査の結果、特許文献番号TR2018/19595号が検討された。当該発明の要約には、「本発明は、超電導技術分野で使用される、単芯及び/又は多芯構造、内壁にマグネシウム(Mg)を被覆した鉄(Fe)シースを有する二ホウ化マグネシウム(MgB2)超伝導体線材に関するもので、In-situ法により前記線材を得るものである。」と開示されている。
【0010】
従来技術について実施された予備調査の結果、特許文献番号TR2013/03686号が検討された。当該発明の要約には、「超伝導素子列からなる超伝導装置を備え、各々が、導電性基板と、超伝導膜と、基板と超伝導膜との間に設けられた電気絶縁性中間層と、を有し、列の隣接する超伝導素子の超伝導膜が、特に電気的に直列接続されている故障電流制限装置」が開示されている。
【0011】
従来技術について実施された予備調査の結果、特許文献番号JP4643522号が検討された。当該発明は、テープ状超電導体の製造方法を開示している。この発明の製造方法を実施することにより、結晶粒界におけるクラックの発生原因や電気的結合を確実に低減し、高いJc値及びIc値を有するテープ状超電導体を得ることができる。
【0012】
従来技術について実施された予備調査の結果、特許文献番号US5968877号が検討された。当該発明は、高いTc値を有するYBCO超伝導体を、二軸テクスチャ加工されたNi基板上に巻き取るための方法を開示している。この方法によれば、その上にエピタキシャルバッファー層を有する二軸テクスチャNi基板を含んだ二軸テクスチャ超伝導体が得られる。
【0013】
結晶構造中における点欠陥、線状欠陥(c方向)及び面状欠陥、不純物などの自然なセンター、或いは、ホール、量子ドット、非超伝導ナノ構造などのセンターがピンニングセンターを生成する可能性がある。臨界電流密度は、超伝導体におけるこれらの欠陥に由来するピン止め機構に直接関係している。このような欠陥は、磁束の自由な動きを妨げる。磁束は、ピン止め力(FP)よりも大きなローレンツ力(FL=JcxB)が磁束に加わったときにのみ動くことができる。その結果、規則正しい磁束格子ではなく、磁束密度勾配を発生させる磁束分散が生成される。この磁束のピン止め過程が増加するにつれ、磁束の動きによって発生するエネルギーの散逸が減少し、臨界電流密度が増加し、磁化ヒステリシスが拡大し、一時的に磁化が増加する。
【0014】
現状では、様々なナノ・マイクロサイズの原子でドーピングする、構造中の原子を異なる原子で部分的に置換する、テンプレートをデコレーションする、粒子放射するなどの方法を用いて、超伝導体の高い臨界電流の通電特性やこの特性を強化する人工的なピンニングセンターの生成が試みられている。また、超伝導体や人工的なピンニングセンターに不純物を生成する研究もいくつか行われている。
【0015】
Matsumoto et al.では、Y203ナノ粒子をYBCO薄膜の表面に一次元の人工ピンニングセンターとしてテンプレート上でc軸方向へ垂直に分布させている(Matsumoto et al. 2005)。この研究では、臨界電流密度が77K、1-5Tの範囲における磁場の関数として測定されたことが報告されている。
【0016】
Jha et al.の研究では、PLD法を用いてYBCOを生成しながら、BaTiO3、BaZrO3、La0.67Sr0.33MnO3、SrTiO3構造を加えることによりピンニングセンターを生成し、これらの構造の臨界電流密度値が増加することが観察されている(Jha et al. 2012, 2011a, 2011b, 2011c, 2010)。
【0017】
Wang et al.は、YBCO薄膜にFe2O3ナノ粒子をドープした場合の転移特性を臨界電流値で調べたものである(Wang et al. 2009)。65K及び40Kでの臨界電流密度測定では、Fe2O3をドープした YBCO 試料は、単体のYBCO 試料よりもピン止め効果が優れており、高い臨界磁場の密度を持つことが示された。
【0018】
Goswami et al.は、PLD法を用いて薄膜中のイットリウムと異なる量のEu原子を部分置換して形成された構造の欠陥と微細構造とを電子顕微鏡でスキャンして調べたものである(Gosvvami et al. 2010)。それらは、部分置換によって形成された欠陥がピンニングセンターを生成し、臨界電流密度値を30~65%増加させたと述べている。
【0019】
Konya et al.は、TFA-MOD法で生成されたYBCO膜にBaZrO3構造のピンニングセンターを得て、臨界電流値を向上させたものである(Konya et al. 2013)。また、Yang et al.は、トップシードインフィルトレーション成長法(TSIG)により、Bi2O3添加物を異なる割合で添加し、表面での核生成により単一ドメインYBCO超伝導体が作り出されたものである(Yang et al.2013)。磁気浮上実験では、Bi2O3添加量が0.1%から0.7%に増加すると磁束ピンニングセンターによりYBCO試料の浮上力が13Nから34Nに増加するが、Bi2O3添加量が2%の場合は11Nに減少することが示された。高分子強化有機金属凝集法(polymer-reinforced metal-organic flocculation method)により、LaAIO3(001)テンプレート上にコバルト添加の有無にかかわらずYBa2Cu3-XCoXO7-Z超伝導体薄膜が生成される(Wang et al.)。それらは、研究の中でコバルト添加量の増加に伴い、臨界電流密度が増加することを述べている。臨界電流密度の変化については、Ben Salem et al.がYBCO化合物に0~1wt%のナノスケールSiO2(30nm)粒子を添加して検討し、SiO2の添加量は、0.1%未満の値で電流密度に正の影響を与え、添加量が多くなると電流密度が低下すると報告している(Salem, 2014)。
【0020】
現状では、人工的なピンニングセンターを生成するために、構造中にナノ・マイクロサイズの原子を加える、異なる原子を部分的に置換する以外に、テンプレートに様々な手法でデコレーションを施し、その効果を研究している研究者もいる。
【0021】
現在の解決方法は、コーティングで製造された薄膜にコーティング段階で異なる割合の希土類元素を加えることで構造内にランダムな欠陥を発生させ、又は、製造段階で異なるプロセスを加えることで追加の製造コストをもたらすというものである。
【0022】
その結果、前述のような欠点があり、利用可能な解決策が不十分であるため、関連する技術分野の改善が必要となっていた。
【発明の目的】
【0023】
本発明の主な目的は、制御された方法でレーザによりランダムなピンニングセンターを生成しながら、異物原子をドープすることによってランダムなピンニングセンターを制御された方法で得ることである。したがって、ピンニングセンターが臨界電流にプラスの効果を与えることを実現する。
【0024】
本発明の他の目的は、制御された方法でレーザを用いて超伝導体線材に不純物を生成することである。したがって、複数の制御可能なピンニングセンターを線材/薄膜上に生成することができる。
【0025】
本発明の他の目的は、他の方法と比較してさらなる生産コストを導入することなく、変形を生じさせるために適切なレーザパラメータを決定し、適切なレーザのみ使用することによって、生産ラインにおける適切なパラメータで表面処理を行うことを可能にすることである。
【0026】
本発明の他の目的は、材料の製造ラインを出ることなく、又、標準的な製造フェーズに影響を与えることなく、レーザを用いて臨界電流密度を増加させることにある。したがって、臨界電流密度の増加に伴い、これらの線材/薄膜を使用することにより、より高い磁場を有する磁石を作成することが可能になる。
【0027】
本発明の他の目的は、標準的に製造された超伝導体線材/薄膜の製造ラインを出ることなく、レーザを用いて同一且つ制御された孔を生成することである。
【0028】
本発明の他の目的は、超伝導体の製造ライン上で処理を行い、処理時間が非常に短いため、追加の人件費及び時間コストを削減することである。
【0029】
本発明の他の目的は、臨界電流密度を10%から20%に増加させることである。したがって、同じ線材/薄膜によって遥かに高い磁場を発生させることができる。
【0030】
本発明の他の目的は、超伝導体薄膜を生成するシステムに追加されたり、又は、その後実験室で生成された薄膜に適用されたりすることを実現することである。
【0031】
本発明の構造的及び特徴的な特色と全ての利点は、添付図面及び当該図面を参照して概説される詳細な説明によって明らかになるであろう。従って、これらの図面と詳細な説明を考慮して評価がなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、レーザ誘起ドット変形部の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図2図2は、本発明の方法用いて変形させた試料及び参考方法を用いて変形させた試料のM-H曲線のグラフである。
図3図3は、本発明の方法用いて変形させた試料及び参考方法を用いて変形させた試料のM-H曲線から算出したJc値のグラフである。
図4図4は、本発明の方法用いて変形させた試料及び参考方法を用いて変形させた試料の共焦点顕微鏡画像を示す図である。
【発明の詳細】
【0033】
本発明の方法は、標準的に製造される超伝導体の線材/薄膜の製造ラインを出ることなく、システム内に含まれるエキシマUVレーザ又はフェムト秒レーザを用いて、100μm間隔で同一の孔を生成することが可能である。
【0034】
この工程は、超伝導体の製造ライン上で行われ、加工時間も非常に短いため(1cm2の走査時間は15×10-6秒)、人件費や時間的な追加コストが発生しない。これにより、臨界電流密度を10%~20%増加させることができる。つまり、同じ線材/薄膜で、より高い磁場を発生させることができる。製造ラインから出荷される直前の標準的な超伝導体の線材/薄膜にレーザを適用することが可能である。適用されたレーザ加工は、製造工程に影響を与えることなく、材料の臨界電流密度にプラスの効果を生み出すものである。
【0035】
レーザは、実験室及び産業界において、金属や合金、セラミックスやガラス、高分子、複合材料などの加工に使用される大規模な装置である。レーザは、紫外線から赤外線までの波長とミリワットやキロワットレベルの出力を持つパルス又は連続ビームを生成できる装置である。レーザビームは、一貫性(空間的・時間的)、単色性、低収差、高輝度などの特性を持っている。これらの特性は、計測、ホログラフィー、データ保管、通信などのさまざまな分野における応用の基礎となる。
【0036】
レーザが機能するためには、4つの基本的な構成要素が必要である。ビームを発生させるために励起する材料、励起を維持するシステム、ビームを伝送する光学システム、そしてレーザビームのエネルギーを調整するシステムである。これらに加え、励起材料の冷却システムや使用時の制御ユニットも必要である。レーザから放射されたビームは、ミラーシステムやファイバーケーブルによって伝送される。反射光学システムや回折光学システムを用いることで、レーザビームの密度や分布を制御することができる。
【0037】
レーザを用いた応用は、レーザエネルギーとそのパルス周期によって、熱・非熱という巨視的・微視的なスケールで行われる。このため、レーザは、幅広い分野で利用されている。熱的相互作用では、レーザビームは高い輝度と出力密度を備えている。熱(光)相互作用では、ビームは短波長(高エネルギー)、短パルス時間を備えている。
【0038】
レーザと材料の相互作用は、光物理的、光化学的、光電気的の3つのレベルで熱的に評価することができる。光電気的作用では、入射ビームは材料の電子によって吸収される。
【0039】
その例として、レーザプリンタを挙げることができる。光化学作用とは、レーザ光の光子と化学結合との相互作用のことである。この相互作用により、結合を形成したり、切断したりすることができる。結合を形成する例としては、歯の詰め物や3Dプリンタが挙げられる。化学結合を切断するためには、紫外線エキシマフェムト秒レーザを用いることができる。紫外線エキシマレーザは、波長が短いので切断回数が少なく、制御可能なため微細加工に利用される。フェムト秒固体レーザのパルス間隔(10-12秒)は、分子間相互作用時間(10-12-10-14秒)よりはるかに短いので、典型的な熱伝達法則に従わない材料レーザ相互作用が起こる。エキシマレーザは、105-108W/mm2の範囲の出力密度と10-9-10-11秒のパルス範囲を持つビームを発生させるので、環境を損なうことなく所望の領域で磨滅させることができる。多くの非金属材料は、非常に薄い表面層(0.5-1μm)で紫外線を吸収することができる。
【0040】
本発明の方法によって、超伝導体の表面にレーザドット欠陥が制御された方法で形成される。試料表面に形成された欠陥は、共焦点顕微鏡で詳細に観察し、MPMS(磁気特性測定装置)で0-5Tの範囲で磁気特性を調べる。得られたデータを用いて、臨界電流密度を算出した。
【0041】
本発明の方法によれば、エキシマレーザ又はフェムト秒レーザを用いて、エネルギー値が等しく(出力1-10W、周波数帯域100-1000kHz、超短時間パルス幅(<1×10-10秒))、100μm間隔、最大直径20μm、深さ250-300nmの範囲で同一孔型の変形が超伝導体の線材/薄膜上に形成される。変形させた試料のM-H測定を行うと、未処理の試料に比べ、M-Hサイクルにおける拡大が見られる。これは、レーザを用いて規則的に制御された変形を行うことにより、試料の臨界電流密度が増加することが見られた。この効果により、孔がピンニングセンターとして作用し、移動する磁束の動きを妨げることで臨界電流値を増加させることが観察された。
【0042】
本発明の方法を適用する手順は、以下の通りである。レーザパルスは、超伝導層上に制御された欠陥を生成するためのレーザと同じにする。
【0043】
出力1-10W、周波数帯域100―1000kHz、パルス間隔(<1×10-10秒)のパラメータを備えるエキシマレーザやフェムト秒レーザは、超伝導体線材/薄膜上に制御された欠陥を生成するために使用される。レーザによって形成された痕跡の直径は、20μmを超えないことが好ましい。
【0044】
レーザの出力(パワー)と周波数のパラメータを用いることで、所望の領域にドットピンニングセンターに代わる欠陥が生成されている。超伝導体線材/薄膜上にレーザで生成されたドット欠陥は、同一である。エネルギー値、P=平均出力、f=繰り返し周波数、A=レーザの影響を受ける表面積は、数式(1)及び数式(2)を用いて計算される。ここで、レーザのパルスエネルギーは、数式(1)で計算され、表面に照射されるビームのパワーは、数式(2)で計算される。
【数1】
【数2】
【0045】
図1は、超伝導線材/薄膜上のレーザ誘起ドット変形部の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像である。この画像を検証すると、レーザが照射されている部分とされていない部分とが区別されている。レーザ照射により、表面で結晶が溶融する。このとき、所望の欠陥以外の表面には、クラック、孔、割れなどの制御不能な欠陥が発生しないことが確認されている。したがって、この方法を生産ライン上で工業的に適用することが可能である。
【0046】
MPMS用試料は、直径3mmのレーザ切断により作製したものである。これらの試料を0磁場中で冷却し、15Kで0-5Tの間、0.2T間隔で表面に対して垂直な磁場を印加し、SQUIDマノメーター(Quantum Design MPMS XL)で測定した。
【0047】
M-H曲線を用いて、臨界状態モデルを参考にし、Rサンプルの直径を考慮しつつ、「Bean Model」を用いることによって、数式(3)よりJc値を算出した。
【数3】
【0048】
試料を作製する一方で、比較のための基準試料も作製した。基準試料とレーザ変形試料とのM-H測定結果を図2に、これらの結果から算出した臨界電流密度のグラフを図3に、レーザ変形試料と基準試料との共焦点顕微鏡画像を図4に示す。
【0049】
M-Hサイクルから算出した基準試料及びレーザ変形させた試料のJc値を表1に示す。表1の値を調べると、「15K 0T」では基準試料のJc値が1.05×106であるのに対し、レーザドット欠陥のある試料では1.46×105と増加している。「15K 2T」では、基準試料のJc値が3.91×105であるのに対し、ドット欠陥試料のJc値は 5.89×105の値まで増加している。Jc値の上昇を示すグラフを総合的に見ると、0~2Tの外部磁場下で臨界電流値がより上昇していることがわかる。
【0050】
表1 M-Hサイクルから算出した基準試料及びレーザ変形させた試料のJc値
【表1】
【0051】
これらの結果を踏まえて得られたデータは、この新規の方法によって臨界電流密度を高めることができることを示している。さらに、文献を調べると、実施されたすべての研究において、外添効果による追加工程と追加コストがもたらされている。これらのプロセスを無制限で工業的に生産することは、かなり困難である。本発明の方法によって生成された超伝導体は、追加の材料とプロセスを必要とせずに無制限の距離で使用することができる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】