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特表2023-514505多価不飽和脂肪酸の塩基性アミノ酸固形塩の調製方法
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  • 特表-多価不飽和脂肪酸の塩基性アミノ酸固形塩の調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(54)【発明の名称】多価不飽和脂肪酸の塩基性アミノ酸固形塩の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/12 20060101AFI20230330BHJP
   C07C 57/03 20060101ALI20230330BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20230330BHJP
   C07C 229/26 20060101ALI20230330BHJP
   C07C 227/18 20060101ALI20230330BHJP
   C07C 279/14 20060101ALI20230330BHJP
   C07C 277/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C11B3/12
C07C57/03
C07C51/41
C07C229/26
C07C227/18
C07C279/14
C07C277/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545131
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 CA2021050094
(87)【国際公開番号】W WO2021151199
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/967,657
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521163477
【氏名又は名称】シリサイクル インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】シアオウェイ ウー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ メロン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H059
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC47
4H006BB14
4H006BS10
4H006NB23
4H059BA26
4H059BB05
4H059CA18
4H059EA01
(57)【要約】
本開示は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の塩基性アミノ酸塩、およびその製造方法であって、酸の形態の1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸を、第1の有機溶媒と水の混合物中で、0℃超程度から第1の有機溶媒の沸点程度の間の温度で混合することと;第1の有機溶媒と水の混合物に、PUFAの塩基性アミノ酸塩を沈殿させるために有効な量の第2の有機溶媒を加えることと;第1および第2の有機溶媒ならびに水を蒸発させてPUFAの塩基性アミノ酸塩を回収することとを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の、少なくとも1つの塩基性アミノ酸塩を製造するための方法であって、
酸の形態の1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸を、第1の有機溶媒と水の混合物中で、0℃超程度から前記第1の有機溶媒の沸点程度の間の温度で混合することと、
前記第1の有機溶媒と水の前記混合物に、PUFAの塩基性アミノ酸塩を沈殿させるために有効な量の第2の有機溶媒を加えることと、
前記第1および第2の有機溶媒ならびに水を蒸発させて前記PUFAの塩基性アミノ酸塩を回収することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記PUFAの塩基性アミノ酸塩は固形である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PUFAはオメガ3PUFAおよびオメガ6PUFAの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記オメガ3PUFAはドコサヘキサエン酸(C22:6n-3)(DHA)、エイコサペンタエン酸(20:5n-3)(EPA)およびアルファ-リノレン酸(C18:3n-3)(ALA)の少なくとも1つを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記オメガ3PUFAはさらに、エイコサトリエン酸(C20:3(n-3))(ETE)、エイコサテトラエン酸(C20:4(n-3))(ETA)、ヘネイコサペンタエン酸(C21:5(n-3))(HPA)、ドコサペンタエン酸(C22:5(n-3))(DPA)、テトラコサペンタエン酸(C24:5(n-3))およびテトラコサヘキサエン酸(C24:6(n-3))の少なくとも1つを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記オメガ6PUFAはリノール酸(C18:2n-6)およびアラキドン酸(C20:4n-6)の少なくとも1つを含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記オメガ6PUFAはさらに、エイコサジエン酸(C20:2(n-6))、ジホモ-ガンマ-リノレン酸(C20:3(n-6))(DGLA)、ドコサジエン酸(C22:2(n-6))、アドレン酸(C22:4(n-6))、ドコサペンタエン酸(C22:5(n-6))、テトラコサテトラエン酸(C24:4(n-6))およびテトラコサペンタエン酸(C24:5(n-6))の少なくとも1つを含む、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PUFAは脂肪および/または油に含まれる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記PUFAはEPAを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記PUFAはDHAを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記PUFAはマグロ油に含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記PUFAは、PUFAの総量に対して50~55%のDHAと20~25%のEPA wt/wtとを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記PUFAは、PUFAの総量に対して45~60%のDHAと18~27%のEPA wt/wtとを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記PUFAはアザラシ油に含まれる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記PUFAは、PUFAの総量に対して5~40%のDHAと、5~45%のEPAと、3~10%のDPA wt/wtとを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノン、アセトンおよびTHFまたはそれらの混合物を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の有機溶媒と水の混合物中における、前記1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸の前記混合は、均質な溶液が得られるまで行われる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
混合ステップは、前記第1の有機溶媒中に酸の形態の前記1つまたは複数のPUFAを含む有機溶液を提供することと、前記塩基性アミノ酸と水とを含む水溶液を提供することと、前記有機溶液と前記水溶液を混合することとを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記塩基性アミノ酸はL-リジンである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記塩基性アミノ酸はL-アルギニンである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の有機溶媒は、エタノール、アセトンまたはそれらの混合物の少なくとも1つである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の塩基性アミノ酸塩、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1980年代に、海洋哺乳類および魚を豊富に含むグリーンランドの伝統的な食事によって、イヌイット集団およびデンマーク人入植者の虚血性心疾患(IHD)による死亡率が、レベルは異なるが大幅に低下したことが、いくつかの論文で明らかにされた。このような事実は、伝統的な海洋食に含まれる多価不飽和脂肪酸(PUFA)の効果に寄与すると信じられている。
【0003】
オメガ3については、抗炎症作用および抗血液凝固作用、トリグリセリド(TAG)レベルの低下、血圧の低下、ならびに糖尿病、いくつかのがんなどのリスクの低減など、ヒトに対する多くの好ましい効果のために、近年関心が高まっている。
【0004】
しかしながら、食品添加物または食品サプリメントとしてのPUFAの使用は、安定性の問題、ならびに不快な味および臭いによってしばしば制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一態様は、1つまたは複数の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の、少なくとも1つの塩基性アミノ酸塩を製造するための方法であって:酸の形態の1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸を、第1の有機溶媒と水の混合物中で、0℃超程度から前記第1の有機溶媒の沸点程度の間の温度で混合することと;前記第1の有機溶媒と水の前記混合物に、PUFAの塩基性アミノ酸塩を沈殿させるために有効な量の第2の有機溶媒を加えることと;前記第1および第2の有機溶媒ならびに水を蒸発させて前記PUFAの塩基性アミノ酸塩を回収することとを含む方法に関する。
【0006】
一実施形態において、PUFAの塩基性アミノ酸塩は固形である。
【0007】
さらなる実施形態において、PUFAはオメガ3PUFAおよびオメガ6PUFAの少なくとも1つを含む。
【0008】
別の実施形態において、オメガ3PUFAはドコサヘキサエン酸(C22:6n-3)(DHA)、エイコサペンタエン酸(20:5n-3)(EPA)およびアルファ-リノレン酸(C18:3n-3)(ALA)の少なくとも1つを含む。
【0009】
一実施形態において、前記オメガ3PUFAはさらに、エイコサトリエン酸(C20:3(n-3))(ETE)、エイコサテトラエン酸(C20:4(n-3))(ETA)、ヘネイコサペンタエン酸(C21:5(n-3))(HPA)、ドコサペンタエン酸(C22:5(n-3))(DPA)、テトラコサペンタエン酸(C24:5(n-3))およびテトラコサヘキサエン酸(C24:6(n-3))の少なくとも1つを含む。
【0010】
さらなる実施形態において、前記オメガ6PUFAはリノール酸(C18:2n-6)およびアラキドン酸(C20:4n-6)の少なくとも1つを含む。
【0011】
別の実施形態において、前記オメガ6PUFAはさらに、エイコサジエン酸(C20:2(n-6))、ジホモ-ガンマ-リノレン酸(C20:3(n-6))(DGLA)、ドコサジエン酸(C22:2(n-6))、アドレン酸(C22:4(n-6))、ドコサペンタエン酸(C22:5(n-6))、テトラコサテトラエン酸(C24:4(n-6))およびテトラコサペンタエン酸(C24:5(n-6))の少なくとも1つを含む。
【0012】
一実施形態において、前記PUFAは脂肪および/または油に含まれる。
【0013】
さらなる実施形態において、前記PUFAはEPAを含む。
【0014】
別の実施形態において、前記PUFAはDHAを含む。
【0015】
一実施形態において、前記PUFAはマグロ油に含まれる。
【0016】
さらなる実施形態において、前記PUFAは、PUFAの総量に対して50~55%のDHAと20~25%のEPA wt/wtとを含む。
【0017】
別の実施形態において、前記PUFAは、PUFAの総量に対して45~60%のDHAと18~27%のEPA wt/wtとを含む。
【0018】
一実施形態において前記PUFAはアザラシ油に含まれる。
【0019】
さらなる実施形態において、前記PUFAは、PUFAの総量に対して5~40%のDHAと、5~45%のEPAと、3~10%のDPA wt/wtとを含む。
【0020】
別の実施形態において、第1の有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノン、アセトンおよびTHFまたはそれらの混合物を含む。
【0021】
一実施形態において、前記第1の有機溶媒と水の混合物中における、前記1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸の前記混合は、均質な溶液が得られるまで行われる。
【0022】
さらなる実施形態において、混合ステップは、前記第1の有機溶媒中に酸の形態の前記1つまたは複数のPUFAを含む有機溶液を提供することと、前記塩基性アミノ酸と水とを含む水溶液を提供することと、前記有機溶液と前記水溶液を混合することとを含む。
【0023】
別の実施形態において、前記塩基性アミノ酸はL-リジンである。
【0024】
一実施形態において、前記塩基性アミノ酸はL-アルギニンである。
【0025】
一実施形態において、前記第2の有機溶媒は、エタノール、アセトンまたはそれらの混合物の少なくとも1つである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、PUFAのリジン塩の過酸化物価およびアニシジン価を時間の関数で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示は、1ステップでの自由流動性粉末の形成をもたらす、PUFAの塩基性アミノ酸塩を製造するための方法に関する。
【0028】
本明細書で使用される用語「多価不飽和脂肪酸」または「PUFA」は、炭素骨格中に2つ以上のエチレン性炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸化合物を意味する。PUFAの2つの主要なクラスは、オメガ3およびオメガ6PUFAであり、PUFAの化学構造における最終二重結合の位置によって特徴付けられる。
【0029】
オメガ3PUFAは、最終二重結合の位置を示し、オメガ3では、二重結合は分子鎖の「オメガ」つまり末端から3番目と4番目の炭素原子の間にある。
【0030】
3つの最も重要なオメガ3PUFAは、22個の炭素およびメチル末端から3番目の炭素から始まる6つの二重結合を有し(C22:6n-3)と示されるドコサヘキサエン酸(DHA)、(20:5n-3)と示されるエイコサペンタエン酸(EPA)、および(C18:3n-3)と示されるアルファ-リノレン酸(ALA)である。
【0031】
他のオメガ3PUFAとしては、エイコサトリエン酸(ETE)(C20:3(n-3))、エイコサテトラエン酸(ETA)(C20:4(n-3))、ヘネイコサペンタエン酸(HPA)(C21:5(n-3))、ドコサペンタエン酸(クルパノドン酸)(DPA)(C22:5(n-3))、テトラコサペンタエン酸(C24:5(n-3))、およびテトラコサヘキサエン酸(ニシン酸)(C24:6(n-3))が挙げられる。
【0032】
オメガ6PUFAは、オメガ6位と呼ばれる位置に末端二重結合を有する、つまり脂肪酸分子のオメガ末端から6番目の炭素に最終二重結合が生じる。
【0033】
オメガ6PUFAのうち、リノール酸(C18:2n-6)およびアラキドン酸(C20:4n-6)は、主要なオメガ6の2つである。
【0034】
他のオメガ6PUFAとしては、エイコサジエン酸(C20:2(n-6))、ジホモ-ガンマ-リノレン酸(DGLA)(C20:3(n-6))、ドコサジエン酸(C22:2(n-6))、アドレン酸(C22:4(n-6))、ドコサペンタエン酸(オスボンド酸)(C22:5(n-6))、テトラコサテトラエン酸(C24:4(n-6))、およびテトラコサペンタエン酸(C24:5(n-6))が挙げられる。
【0035】
本明細書で使用される用語「脂肪」および/または「油」は、本明細書に記載の方法における使用に適したレベルのPUFAを含む任意の脂肪および/または油を指す。脂肪または油中に存在するPUFAエステルは、アルキルエステル、トリグリセリド、ジグリセリドもしくはモノグリセリドまたはそれらの混合物として存在する。ジグリセリドまたはトリグリセリドの場合、グリセロール単位は任意にリン誘導体を有していてもよい(それ故、脂肪および/または油はリン脂質であるか、またはリン脂質を含む可能性がある)。
【0036】
本明細書で使用される「第1の有機溶媒」は、任意の有機溶媒を指す。また、該第1の有機溶媒は、少なくとも約0~20(w/w)超の割合で、1つまたは複数のPUFAを溶解させることが可能である。そのような媒体の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノン、アセトンおよびTHFが挙げられる。好ましくは、第1の有機溶媒は、エタノール、メタノールまたはそれらの混合物である。
【0037】
本明細書で使用される「塩基性アミノ酸」は、カルボン酸と塩を形成することが可能なアミン官能基を側鎖に有する任意のアミノ酸を指す。塩基性アミノ酸は水に溶解すると、塩基性水溶液を形成する。
【0038】
本明細書で使用される「第2の有機溶媒」は、PUFAの塩基性アミノ酸塩の沈殿を生じさせることが可能な溶媒を意味する。
【0039】
前述のとおり、一態様は、1つまたは複数の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の、少なくとも1つの塩基性アミノ酸塩を製造するための方法であって:酸の形態の1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸を、第1の有機溶媒と水の混合物中で、0℃超程度から前記第1の有機溶媒の沸点程度の間の温度で混合することと;前記第1の有機溶媒と水の前記混合物に、PUFAの塩基性アミノ酸塩を沈殿させるために有効な量の第2の有機溶媒を加えることと;前記第1および第2の有機溶媒ならびに水を蒸発させて前記PUFAの塩基性アミノ酸塩を回収することとを含む方法に関する。
【0040】
一実施形態において、本方法は大気圧下で行われる。
【0041】
一実施形態において、本方法は不活性ガスを使用せずに行われる。
【0042】
一実施形態において、本方法は不活性ガスを使用して行われる。
【0043】
一実施形態において、第1の有機溶媒と水の混合物中における、前記1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸の前記混合は、均質な溶液が得られるまで行われる。
【0044】
一実施形態において、混合ステップは、前記第1の有機溶媒中に酸の形態の前記1つまたは複数のPUFAを含む有機溶液を提供することと、前記塩基性アミノ酸を含む水溶液を提供することと、前記有機溶液と前記水溶液を混合することとを含む。
【0045】
一実施形態において、第1の有機溶媒と水の混合物中における、酸の形態の1つまたは複数のPUFAと塩基性アミノ酸の混合ステップは、50℃未満または「大気条件」(すなわち室温(例えば約20~25℃)および大気圧)下で実施されることが好ましい。
【0046】
一実施形態において、PUFAの塩基性アミノ酸塩は、例えば粉末のような固形である。さらなる実施形態においては、該粉末は、自由流動性粉末である。
【0047】
一実施形態において、本方法はさらに、PUFAの塩基性アミノ酸塩を少なくとも1日間粗引きポンパーに付すステップを含む。
【0048】
一実施形態において、1つまたは複数のPUFAは、PUFAの総量に対して90%wt/wt超のオメガ3PUFA EPAを含むEPAである。
【0049】
一実施形態において、1つまたは複数のPUFAは、PUFAの総量に対して90%wt/wt超のオメガ3PUFA DHAを含むDHAである。
【0050】
一実施形態において、オメガ3PUFAは、オメガ3PUFAの総量に対して50~55%wt/wtのDHAと20~25%wt/wtのEPAとを、あるいは45~60%wt/wtのDHAと18~27%wt/wtのEPAとを含むマグロ油由来のものである。
【0051】
一実施形態において、オメガ3PUFAは、オメガ3PUFAの総量に対して5~40%wt/wtのDHAと、5~45%のEPAと、3~10%wt/wtのDPAとを含むアザラシ油由来のものである。
【0052】
一実施形態において、第1の有機溶媒はエタノールである。
【0053】
一実施形態において、第1の有機溶媒はメタノールである。
【0054】
一実施形態において、第1の有機溶媒はイソプロパノールである。
【0055】
一実施形態において、第1の有機溶媒はブタノンである。
【0056】
一実施形態において、第1の有機溶媒はアセトンである。
【0057】
一実施形態において、塩基性アミノ酸はL-リジンである。
【0058】
一実施形態において、塩基性アミノ酸はL-アルギニンである。
【0059】
水溶液と塩基性アミノ酸の重量比は、塩基性アミノ酸の性質に依存する。水性成分は、アミノ酸を溶解するための最小量から、最大でその10倍まで使用することが可能であり、該溶解は、室温(すなわち約20~25℃)で行われる場合、水性成分中に相当量の固体塩基性アミノ酸が視覚的に存在していないときに達成される。一実施形態においては、使用量は最小量の2倍、あるいは最小量の4倍、さらには最小量の5倍である。
【0060】
一実施形態において、水溶液とL-リジンの重量比は、0.9から1.1の間である。さらなる実施形態においては、該重量比は1である。
【0061】
一実施形態において、第2の有機溶媒はエタノールである。
【0062】
一実施形態において、第2の有機溶媒はアセトンである。
【0063】
あるいは、第2の有機溶媒はエタノールとアセトンの混合物である。
【0064】
一実施形態において、第2の有機溶媒と1つまたは複数のPUFAの重量比は10:1から100:1、10:1から70:1、10:1から50:1であり、好ましくは10:1から30:1である。
【0065】
遊離酸形態の1つまたは複数のPUFAに対する塩基性アミノ酸の正確な化学量論は、脂肪または油を使用する場合、例えば魚油の分子量が不定であるため、確実に確立することが困難である。また、魚油の供給元は互いに異なり、多様な割合のオメガ3組成物、オメガ6組成物および飽和脂肪酸など、異なる種の割合が含まれ得る。しかしながら当業者は、本発明を実施するために、脂肪酸組成物の炭素長がC14~C24の範囲であると仮定することによって、容易に分子量を推定することが可能である。したがって、本明細書に包含されるとおり、脂肪酸はC19の平均炭素鎖長を有する。よって、脂肪酸塩の形成に使用する塩基性アミノ酸の量を推定するために、本明細書では300g/molの分子量を使用する。
【0066】
脂肪酸塩の製造に必要な塩基性アミノ酸の量は、脂肪酸1モルに対して1~1.5モルであり、好ましくは1モルで十分である。
【0067】
混合プロセスには、ローターステータホモジナイザが使用される。通常、ホモジナイザの回転数は50rpmから1000rpmであり、好ましくは100~200rpmである。
【0068】
粉末形態の最終生成物は、反応混合物から第1および第2の有機溶媒ならびに水を蒸発させ、PUFAの塩基性アミノ酸塩を回収することによって単離される。好ましくは、蒸発ステップは、使用される装置の特性に依存して約0℃~70℃の間で、減圧下で行われる。本明細書に記載の蒸発ステップは、噴霧ノズルが100℃を超える入口空気温度をしばしば必要とする噴霧乾燥のような方法の使用を想定していない。蒸発ステップはまた、凍結乾燥法を含むことも想定していない。蒸発ステップでは、第1/第2の有機溶媒および水が液状である必要があり、そのことによって溶媒を凍結させる必要がある凍結乾燥法は除外される。得られた最終生成物の酸化状態は、過酸化物価(PV)、アニシジン価(AV)およびトトックス価によって定量化される。PVは生成物中の一次酸化生成物(脂質ヒドロペルオキシド)のレベルの指標で、試料1kgあたりのOミリ当量で規定され、AVは飽和および不飽和カルボニル化合物の不特定の指標である。トトックスは、式トトックス=2PV+AVによって計算される。
【0069】
PUFAの塩基性アミノ酸塩、エステル形態の出発物質および遊離酸形態の魚油の酸化状態の比較は、PVおよびAVを測定することによって評価し、次にすべての試料を一定期間にわたって同じ酸化条件に付し、その後、試料のPVおよびAVを測定する。酸化条件は、以下のいずれかから選択される:1)大気条件で密閉容器に保管し、最初の1ヶ月は毎日1回、2ヶ月目は週に2回、3ヶ月目は週に1回、6ヶ月目までは月に2回開封する;2)45℃の空気に曝露された緩い密閉容器で1ヶ月間保管する。
【0070】
一実施形態において、PUFAの塩基性アミノ酸塩は、一般的手順(1つまたは複数のPUFAは、PUFAの総量に対して90%wt/wt超の濃度のエイコサペンタエン酸(EPA)を含む)に従って合成される。塩基性アミノ酸に対するEPAのモル%の範囲は、それぞれ30~50%/70~50%、40~50%/60~50%、および45~50%/55~50%であり、優先的にはモル%比は50%/50%である。溶媒は、減圧0~70mmHg、0℃~70℃、優先的には30mmHg、40℃で除去され、その後少なくとも1日間粗引きポンプにかけられる。
【0071】
一実施形態において、PUFAの塩基性アミノ酸塩は、一般的手順(1つまたは複数のPUFAは、PUFAの総量に対して90%wt/wt超の濃度のドコサヘキサエン酸(DHA)を含む)に従って合成される。塩基性アミノ酸に対するDHAのモル%の範囲は、それぞれ30~50%/70~50%、40~50%/60~50%、および45~50%/55~50%であり、優先的にはモル%比は50%/50%である。溶媒は、減圧0~70mmHg、0℃~70℃、優先的には30mmHg、40℃で除去され、その後少なくとも1日間粗引きポンプにかけられる。
【0072】
一実施形態において、PUFAの塩基性アミノ酸塩は、一般的手順(1つまたは複数のPUFAは、PUFAの総量に対して50~56%のDHAおよび20~25%のEPA wt/wtを含む、遊離酸としてのマグロ油である)に従って合成される。塩基性アミノ酸に対するマグロ油のモル%の範囲は、それぞれ30~50%/70~50%、40~50%/60~50%、および45~50%/55~50%であり、優先的にはモル%比は50%/50%である。溶媒は、減圧0~70mmHg、0℃~70℃、優先的には30mmHg、40℃で除去され、その後少なくとも1日間粗引きポンプにかけられる。
【0073】
一実施形態において、PUFAの塩基性アミノ酸塩は、一般的手順(1つまたは複数のPUFAは、PUFAの総量に対して5~40%のDHA、5~45%のEPA、および3~10%のDPA wt/wtを有する、遊離酸としてのアザラシ油である)に従って合成される。塩基性アミノ酸に対する遊離酸としてのアザラシ油のモル%の範囲は、それぞれ30~50%/70~50%、40~50%/60~50%、および45~50%/55~50%であり、優先的にはモル%比は50%/50%である。溶媒は、減圧0~70mmHg、0℃~70℃、優先的には30mmHg、40℃で除去され、その後少なくとも1日間粗引きポンプにかけられる。
【0074】
〔試料特性評価〕
本明細書で使用されるすべての試薬および溶媒は、さらに精製することなく商業的に利用可能である。ここで使用したGC-MSはAgilent5977B/7890Bであり、カラムはAgilent HP-5ms-UIである。
【0075】
Food Labアナライザ:当該技術分野において周知の、試料の酸化レベルを決定するためのいくつかの技術のうち、本明細書ではPVおよびAVを決定するためにCDR FoodLab(登録商標) Juniorアナライザを使用した。その手順を以下に記載する。
【0076】
固体生成物0.5gを、1:10(v/v)の比率のMeOHおよびHCl溶液2mLに溶解させた。該混合物を5分間撹拌し、次いで5mLの水を加えた。混合物を、100ppmのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含む3mLのヘキサンで抽出した。有機層をMgSO上で乾燥させ、濾過し、減圧下、0~70℃の温度で蒸発させて遊離酸形態の魚油を得、これをCDR FoodLab(登録商標) Juniorアナライザを使用して評価しアニシジンおよび過酸化物価を得た。
【0077】
ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC-MS):最終生成物のPUFA濃縮物をガスクロマトグラフィ質量分析法(GC-MS)により決定した。
【0078】
PUFAのエステル化:約25mgのFFAまたはFFA塩(遊離脂肪酸)を封管に装填し、2%HSO溶液2mLを加えて均一な溶液を生成し、これを80℃で30分間撹拌せずに加熱し、次いで溶液を室温まで冷却した後に飽和NaHCO水溶液2mLを加えた。エステル形態のFFAを、8~10mLの100ppm BHTヘキサンで一度抽出した。その後、有機層をMgSO上で乾燥させ、GC-MSにより分析した。
【0079】
球状オルガノシロキサンサブミクロン/ナノ粒子(カールフィッシャー)中の水分定量化:メトラー・トレド社製の滴定装置Compact V20sを使用して、水分率を推定した。
【0080】
流動性:流動性は、一般情報番号1174(粉体流801)から、米国薬局方の方法を使用して決定した。
【実施例
【0081】
実施例1:マグロ油のPUFAエチルエステルからの遊離酸形態のマグロ油の調製。
【0082】
2Lの3首丸ビンガラス器具にエタノール200mLを装填し、次いで50%NaOH水溶液64gを加えた。その後、窒素下で該混合物にAVが6.8A/g、PVが13meqO/kgのマグロ油のPUFAエチルエステルを滴下し、オーバーヘッドスターラを用いて150rpmの回転数で攪拌した。得られた溶液を室温で1.5時間攪拌した。室温まで冷却した後、HO600mLおよびHPO60mL(85%)を加え、10分間攪拌した。その後、有機相を60mLのヘキサンで一度抽出し、MgSO上で乾燥させた。有機溶媒を除去した後、PVが0.96meqO/kg、AVが1.5A/gの油として、23.7%のEPAおよび55.6%のDHAを有する遊離酸形態のマグロ油170gを生成させた。
【0083】
実施例2:エイコサペンタエン酸のL-リジン塩(EPA-Lys)の調製。
【0084】
250mL丸ビンフラスコに、まず50meqO/kg超のPVおよび100A/g超のAVを示すEPA3gならびにエタノール3gを装填し、次いで50%L-リジン水溶液3gを加えた。EPAとL-リジンのモル比は1:1であった。この混合物を大気条件で5分間攪拌し、均一な溶液を得た。30mLのエタノールを加え、L-リジンアミノ酸塩を沈殿させた。その後、減圧30mmHg、40℃で溶媒を蒸発させて最終生成物を茶色粉末として得、これをさらに1日間粗引きポンパーに付して、PVが6.0meqO/kg、AVが9.5A/gのEPA-Lysを生成させた。EPA-Lys約4.5gを直径27mmの20mL透明バイアルに保管し、蓋を閉めて室温のベンチに置き、90日間の安定性試験を行った。その結果を表1にまとめた。
【0085】
実施例3:ドコサヘキサエン酸のL-リジン塩(DHA-Lys)の調製。
【0086】
250mL丸ビンフラスコに、まずPVが50meqO/kg超、AVが100A/g超のDHA3g、エタノール3gを装填し、次いで50%L-リジン水溶液3gを加えた。DHAとL-リジンのモル比は1:1であった。この混合物を大気条件で5分間攪拌し、均一な溶液を得た。30mLのエタノールを加え、L-リジンアミノ酸塩を沈殿させた。その後、減圧30mmHg、40℃で溶媒を蒸発させて最終生成物を茶色粉末として得、これをさらに1日間粗引きポンパーに付して、PVが16.0meqO/kg、AVが29.3A/gのDHA-Lysを生成させた。EPA-Lys約4.5gを直径27mmの20mL透明バイアルに保管し、蓋を閉めて室温のベンチに置き、90日間の安定性試験を行った。その結果を表1にまとめた。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例4:遊離酸形態のマグロ油のL-リジン塩の調製(EPA23.7%およびDHA55.6%)(PUFA-Lys)。
【0089】
1L丸ビンフラスコに、まず実施例1から調製した遊離酸形態のマグロ油10gおよびエタノール10gを装填し、次いで50%L-リジン水溶液10.6gを加えた。遊離酸形態のマグロ油とL-リジンのモル比は1:1であった。この混合物を大気条件で5分間攪拌し、均一な溶液を得た。300mLのエタノールを加え、L-リジンアミノ酸塩を沈殿させた。その後、減圧30mmHg、40℃で溶媒を蒸発させて最終生成物をベージュ色粉末として得、これをさらに1日間粗引きポンパーに付して、PVが1.8meqO/Kg、AVが0.5A/gのPUFA-Lysを生成させた。EPA-Lys約15gを直径48mmの120mL透明ビンに保管し、蓋を閉めて室温のベンチに置き、183日間の安定性試験を行った。その結果を表1に示した。
【0090】
実施例5:遊離酸形態のアザラシ油のL-リジン塩の調製(EPA20.2%、DHA 25.3%およびDPA7.7%)(アザラシ油-Lys)。
【0091】
250mL丸ビンフラスコに、まず10.6meqO/kgのPVおよび5.7A/gのAVを示す遊離酸形態のアザラシ油3gならびにエタノール3gを装填し、次いで50%L-リジン水溶液6gを加えた。遊離酸形態のアザラシ油とL-リジンのモル比は1:1であった。この混合物を大気条件で5分間攪拌し、均一な溶液を得た。35mLのエタノールを加え、L-リジンアミノ酸塩を沈殿させた。その後、減圧30mmHg、40℃で溶媒を蒸発させて最終生成物をベージュ色粉末として得、これをさらに1日間粗引きポンパーに付して、PVが1.5meqO/kg、AVが0.5A/g未満のPUFAのアミノ酸塩を生成させた。アザラシ油-Lysの安定性は表1のとおりである。
【0092】
実施例6:遊離酸形態のマグロ油のL-アルギニン塩の調製(EPA23.7%およびDHA55.6%)(PUFA-Arg)。
【0093】
250mL丸ビンフラスコに、まず実施例1から調製した遊離酸形態のマグロ油3gおよびエタノール30gを装填し、次いで63%L-アルギニン水溶液2.70gを加えた。遊離酸形態のマグロ油とL-アルギニンのモル比は1:1であった。この混合物を均質な溶液が得られるまで大気条件で撹拌した。300mLのアセトンを加え、L-アルギニンアミノ酸塩を沈殿させた。その後、溶媒を濾過して最終生成物をピンク色がかった粉末として生成させ、これをさらに1日間粗引きポンパーに付して、PVが2.6meqO/Kg、AVが0.7A/gのPUFA-Lysを生成させた。
【0094】
実施例7:PUFAのアミノ酸塩(PUFA-Lys)ならびにエステル形態(PUFA-OEt)および遊離酸形態(PUFA-OH)のPUFAの安定性評価。
【0095】
約5gの、実施例1で使用した液状マグロ油エチルエステル(PUFA-OEt)、実施例1で得られた遊離酸形態のマグロ油(PUFA)およびそのL-リジン塩(PUFA-Lys)を直径27mmの20mL透明バイアルに加えた。3つのバイアルは蓋を閉めて室温のベンチに置いた。30日後に分析を行った。その結果に基づいて、蓋を開けた該バイアルを換気された45℃のオーブン中にさらに30日間保管することによって、オメガ3のL-リジン塩の安定性をさらに評価した。得られた結果を表2にまとめた。
【0096】
【表2】

【0097】
本開示は、その特定の実施形態に関連して記載されているが、さらなる修正が可能であり、当該技術分野において既知または通例の慣行の範囲内にあり、本明細書において先に記載された本質的特徴に適用可能で、かつ添付の特許請求の範囲に従う本開示からの逸脱を含んだ任意の変形、使用または適応を、本出願は網羅することが意図されることが理解されよう。
図1
【国際調査報告】