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特表2023-514518(I)マイクロフィブリル化セルロースと、(II)少なくとも1種の酸化状態II以上の金属との組み合わせを含む接着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(54)【発明の名称】(I)マイクロフィブリル化セルロースと、(II)少なくとも1種の酸化状態II以上の金属との組み合わせを含む接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 101/02 20060101AFI20230330BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20230330BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C09J101/02
C09J11/04
C09J11/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546635
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2021052758
(87)【国際公開番号】W WO2021156413
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】20156214.7
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513013182
【氏名又は名称】ボレガード アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100227592
【弁理士】
【氏名又は名称】孔 詩麒
(72)【発明者】
【氏名】シンノーベ ホルタン
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ リアピス
(72)【発明者】
【氏名】スティーン ヤコプスン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ヘンリク オェーブレビェー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ベルグ
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040BA021
4J040DD022
4J040HA066
4J040HA166
4J040KA23
4J040NA07
(57)【要約】
本発明は、特にi)マイクロフィブリル化セルロースと、ii)少なくとも1種の酸化状態II以上の金属とを含む接着剤組成物に関する。本発明はさらに、このような接着剤組成物の使用、及びこのような接着剤組成物を使用して製造された製品に関する。さらに、本発明は、このような接着剤組成物を使用することにより、段ボール板紙又は段ボール紙、又はソリッド板紙又はソリッドボール紙を製造する方法に関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤組成物であって、
a) マイクロフィブリル化セルロースと、
b) 少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と、
c) 少なくとも1種の化合物であって、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物と、
d) 少なくとも1種の溶媒と
を含み、
前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属の相対量が、下記のもの、すなわち
(i) 溶媒を含む前記接着剤組成物全体の重量kgに対する前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.0005~5、好ましくは0.001~1、さらに好ましくは0.005~0.5、さらに好ましくは0.01~0.2、さらに好ましくは0.02~0.1であること、
(ii) (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物の乾燥質量の重量kgに対する、前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.002~20、好ましくは0.05~5、さらに好ましくは0.08~2、さらに好ましくは0.1~1.5であること、又は
(iii) 前記酸化状態II以上の金属が酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物、又はこれらの任意の混合物として存在しており、そして溶媒を含む前記組成物全体の重量に対する前記酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物の重量パーセンテージが0.001~3、好ましくは0.05~2、さらにより好ましくは0.06~1.5、さらにより好ましくは0.1~1、さらにより好ましくは0.1~0.4であること、
のうちの少なくとも1つに従う、接着剤組成物。
【請求項2】
前記酸化状態II以上の金属が、酸化状態II以上のアルミニウム、酸化状態II以上のカルシウム、酸化状態II以上のジルコニウム、酸化状態II以上のマグネシウム、酸化状態II以上の亜鉛、酸化状態II以上のハフニウム、又は酸化状態II以上のチタン、又はこれらの任意の組み合わせを含み、好ましくは酸化状態II以上のアルミニウムを含み、
任意には前記酸化状態II以上の金属がアルミニウムイオンを含み、そしてさらに任意には硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、又は水酸化アルミニウムから誘導される、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記溶媒がプロトン性溶媒であり、任意には前記溶媒が水を含むか又は水から成る、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記マイクロフィブリル化セルロースが少なくとも1つの長さスケール、すなわちフィブリル直径及び/又はフィブリル長を有しており、前記長さスケールが非フィブリル化セルロースのフィブリル直径及び/又はフィブリル長に対して低減されており、好ましくは、本発明のマイクロフィブリル化セルロースを形成するマイクロフィブリル化セルロースフィブリルの直径が、ナノメートル範囲にあり、すなわち1nm~1000nm、好ましくは平均して10nm~500nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量が、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt.%(w/w)、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%であり、又は
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物に対するマイクロフィブリル化セルロースの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1又は0.0005~0.03又は0.001~0.01である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記溶媒が、前記接着剤組成物の総重量を基準として20~90wt.%、好ましくは30~80wt.%、より好ましくは40~80wt.%、さらにより好ましくは50~80wt.%、例えば65~80wt.%、好ましくは66~79wt.%の量で存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記組成物がホウ素含有架橋剤を含まないか又は微量にしか含まず、好ましくは前記接着剤組成物がホウ砂及びホウ酸を含まないか又は微量にしか含まず、さらに好ましくは、前記接着剤組成物が好ましくはホウ素を含まないか又は微量にしか含まない、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、下記化合物、すなわち、
少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体、少なくとも1種のポリビニルアルコール、少なくとも1種のポリビニルアセテート、少なくとも1種のポリエチレングリコール、少なくとも1種のポリプロピレングリコール、少なくとも1種の多糖、少なくとも1種の炭水化物、少なくとも1種のポリペプチド、少なくとも1種のアクリレート、少なくとも1種のアクリルアミド、少なくとも1種のエチレンオキシド、少なくとも1種のプロピレンオキシド、少なくとも1種のグリコール、少なくとも1種のポリエーテル、少なくとも1種のポリエステル、少なくとも1種のポリオール、少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種のポリウレタン、少なくとも1種のポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、少なくとも1種のポリ尿素、及び少なくとも1種のカルバミド、又はこれらの任意の組み合わせから選択され、
好ましくは少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体、及び少なくとも1種のポリビニルアルコールから選択される、
請求項1~7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
前記酸化状態II以上の金属が、Al(OH) として存在し、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体であり、任意には、
前記デンプン系接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量が、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt%、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%であり、且つ/又は
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物に対するマイクロフィブリル化セルロースの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1、さらにより好ましくは0.0005~0.03、さらにより好ましくは0.001~0.01である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
前記酸化状態II以上の金属が、Al3+として存在し、且つ/又は硫酸アルミニウムから誘導され、そして、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のポリビニルアルコール(PVA)であり、任意には、
前記PVA系接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量が、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt%,、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.015~1wt.%、さらにより好ましくは0.02~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.05~0.3wtであり、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物に対するマイクロフィブリル化セルロースの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1、さらにより好ましくは0.005~0.1、さらにより好ましくは0.008~0.08である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
段ボール又はソリッドボードを製造するための、請求項1~10のいずれか1項に記載の接着剤組成物の使用であって、任意には、
(I)前記使用が段ボールの製造を目的としており、前記酸化状態II以上の金属が、Al(OH) として存在し、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体であり、又は、
(II)前記使用がソリッドボードの製造を目的としており、前記酸化状態II以上の金属が、Al3+として存在し、且つ/又は硫酸アルミニウムから誘導され、そして、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のポリビニルアルコールである、
接着剤組成物の使用。
【請求項12】
接着剤としての、塗料組成物中の、被膜としての、(表面)サイズ組成物としての、複合体としての又は複合体中の、樹脂としての、ペーストとしての、食品増粘剤又は添加剤としての、ゲル中の、ヒドロゲル中の又は吸収剤としての又は接着剤被膜、保護被膜、プライマー被膜、表面サイジング被膜中の、請求項1~10のいずれか1項に記載の接着剤組成物の使用。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の接着剤組成物を含む、段ボール又はソリッドボード。
【請求項14】
段ボールを製造する方法であって、前記方法が少なくとも下記工程、すなわち
a) 請求項1~10のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用意し、
b) 段ボールのためのフルート用中芯紙とライナー紙とを用意し、任意には、前記フルートのための紙又は前記ライナーのための紙、又は両方が、少なくとも部分的に化学処理されるか又は化学処理されており、
c) 前記接着剤組成物を波状紙片のフルートの頂部の少なくとも一部に、少なくとも一方の側で、好ましくは両方の側で被着し、そして
d) コルゲータ内で、前記波状紙片上に少なくとも1つのライナーを被着し、好ましくは前記波状紙片の他方の側にさらなるライナーを被着し、そして
e) シングル、ダブル、トリプル、又はさらなる多重のウォールボードを、好ましくは連続プロセスで製造する
工程を含む、段ボールを製造する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって得られた、又は得ることができる段ボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、i)マイクロフィブリル化セルロース(MFC)と、ii)酸化状態II以上の金属とを、一緒にそして少なくとも含む接着剤組成物に関する。本発明はさらに、このような接着剤組成物の使用、及びこのような接着剤組成物を使用して製造された製品に関する。さらに、本発明は、このような接着剤組成物を使用することにより、段ボール又はソリッドボードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも1種の溶媒、例えば水と、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有する少なくとも1種の化合物とを含む組成物は、種々様々な用途において実用的に適切である。このような用途において組成物は、基体上への被着後に少なくとも部分的に硬化するようになっている。このような用途の一例としては、接着剤被膜、保護被膜、プライマー被膜、表面サイジング被膜などが挙げられる。
【0003】
重合及び水素結合が可能なこのような化合物の例として、デンプン系及びPVA(ポリビニルアルコール)系接着剤組成物が、包装業界において、例えばそれぞれ段ボール又はソリッドボードを製造するために有利に使用されている。
【0004】
このような接着剤組成物において、硬化、及び組成物の分子間の、そして基体との結合を改善するために、架橋剤が一般に使用される。
【0005】
ホウ素含有化合物、例えばホウ砂及びホウ酸がしばしば架橋剤として使用される/された。しかしながら、このような架橋剤は、以下の欠点の少なくとも1つ、又は任意の組み合わせ(すべてを含む)を一般に有する。
・増大する又は望ましくない毒性レベル
・他の潜在的に有害な(化学)特性
・環境に対する不都合な影響
・生分解性がない、又は制限されたものにすぎないこと
【0006】
これらの懸念にもかかわらず、ホウ砂は接着剤及び種々の工業用途のための不可欠な添加剤と見なされていた、又は未だに見なされている。しかしながら、欧州化学機関(European Chemicals Agency(ECHA))によって2011年に高懸念物質の候補リスト(the Candidate List of Substances of Very High Concern(SVHC))にCMR物質として加えられたことに基づくだけでなく、ホウ砂は、ボール紙業界が他のものと置換することを広く目指す、議論の的となる原材料となってきている。しかしながら、ホウ砂を他の無害材料と置換することは容易ではなく、ボール紙製造業界が目下直面している主要な難題のうちの1つである。
【0007】
段ボールの生産プロセスにおいて、一般に直面するボトルネックは、典型的にはダブルバッカーのグルーステーション又は加熱区分の入口で、具体的には複雑で重い紙質のフルートとライナー(図7参照)とを効率的に貼り合わせる能力である。段ボールの品質が最も重く最も複雑である場合、加熱時の接着能力及び/又はゼラチン化速度は、ホウ砂をMFCによって(完全に)置換しようとするならば、さらなる改善を必要とし得ることが判っている。いくつかの事例では、段ボールは層間剥離するか、あるいはより多くの熱を得てこの具体的な欠点を克服するために、コルゲータをより低い速度で運転しなければならない。したがって、要求の厳しいこれらの品質を生産するときに高い運転速度を可能にするためには、MFC及び(何らかの)ホウ砂との組み合わせが、概ね有利であると未だに見られている。
【0008】
他の接着剤用途、つまりPVA系接着剤組成物においてホウ酸を置換するためにMFCを有利に使用することもできる。ホウ酸をMFCと置換することによって所定の改善された特性が達成されるのに対して、PVA系接着剤組成物は、具体的にはホウ酸が(完全に)置換された場合にソリッドボード生産において、いくつかの被着領域内で不十分な低タックを被るものと未だに見られている。
【0009】
接着剤組成物中のホウ素含有架橋剤、具体的にはホウ砂を置換するためのいくつかの戦略が過去数年にわたって開発されている。1つの戦略において、具体的にはデンプン系接着剤組成物中のホウ砂に対する完全又は部分的な置換体として、マイクロフィブリル化セルロースが使用される(国際公開第2019/034649号パンフレット)。
【0010】
接着剤組成物中のホウ素含有架橋剤、具体的にはホウ砂を回避するための、従来技術(例えば国際公開第2013/087530号明細書)に基づき公知の別のアプローチは、具体的にはデンプン系接着剤組成物中のホウ砂を置換するために、アルミン酸ナトリウムを使用することである。アルカリ性水性媒体中で、アルミン酸塩はAl(OH) イオンを形成すると考えられている。Al(OH) イオンは、下記一般反応メカニズムに従ってデンプンポリマーのための架橋剤として作用すると考えられている。
【化1】
【0011】
しかしながら、単にホウ砂又はホウ酸のすべて又はほとんどをアルミン酸塩によって置換することは、容認し得る接着剤組成物をもたらさない。
【0012】
理論に縛られたくはないが、これらのグルーはコルゲータを高速で運転可能にするには十分に安定ではない。とりわけその理由は、このようなグルーのレオロジー(粘度)及び弾性が要求の厳しい用途には十分でないからである。また、従来技術に基づき周知の接着剤の高い水取り込み率が、最終製品の品質に不都合な影響を及ぼすことがある。
【0013】
このように、ホウ素非含有、具体的にはホウ砂・ホウ酸非含有の接着剤組成物が、種々の用途のために、具体的には段ボール(紙)及びソリッドボードを製造するためになおも模索されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記に基づき、本発明の目的は、上述のような従来技術において周知の組成物の欠点を回避又は最小化する、ホウ素非含有、具体的にはホウ砂・ホウ酸非含有の接着剤組成物を提供することである。具体的には、グルーの安定性、レオロジー、初期タック、及び接着特性、並びに段ボール生産ラインにおける処理速度を改善しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(i)マイクロフィブリル化セルロース(MFC)と、(ii)酸化状態II以上の金属との独自の組み合わせを、ホウ素含有架橋剤、具体的にはホウ砂及びホウ酸の完全又は部分的な置換体として使用することにより、これらの目的及びその他の目的が達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化状態II以上の金属は、II以上の少なくとも1つの酸化状態において安定な、当業者によって広く理解されている任意の金属を意味する。例えば、アルカリ金属は含まれない。それというのも、これらは一般に、酸化状態Iにおいてのみ安定だからである。
【0017】
当業者に知られているように、種々の金属が2つ以上の酸化状態において安定である。このような金属は多価金属とも呼ばれる。例えば、アルミニウムは3つの安定な酸化状態を有している。最も一般的な酸化状態はIII(+3)である。他の2つはI(+1)及びII(+2)である。酸化状態Iにおけるアルミニウムは本発明と合致しないのに対して、酸化状態II及びIIIにおけるアルミニウムは本発明と合致する。
【0018】
本発明によれば、酸化状態という用語は、IUPAC. Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the “Gold Book”), A. D. McNaught and A. Wilkinson編、Blackwell Scientific Publications, Oxford (1997)、S. J. Chalkによって作成されたOnline version (2019-), ISBN 0-9678550-9-8. https://doi.org/10.1351/goldbookに基づいて理解されるべきである。
【0019】
酸化状態II以上の金属は、単原子イオン(すなわち正確に1つの原子から成るイオン)として、多原子イオン(すなわち2つ又は3つ以上の共有結合された原子から成るイオン又は金属錯体から成るイオン)の形態を成して、塩の形態を成して、ポリマー網目構造の一部として、又はこれらの任意の組み合わせで存在し得る。例えば、多原子イオンは水和物又は水酸化物、又はオキシド水酸化物、又はこれらの任意の混合物であってよい。
【0020】
本発明の実施態様では、前記酸化状態II以上の金属は元素周期系(PSE)の第2族から選択された金属、具体的にはMg又はCa、又は第4族から選択された金属、具体的にはTi,Zr又はHf、又は第8族から選択された金属、具体的にはFe、又は第12族から選択された金属、具体的にはZn、又は第13族から選択された金属、具体的にはAlを含む。
【0021】
本発明の実施態様では、前記酸化状態II以上の金属は、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、ハフニウム、又はチタン、又はこれらの任意の組み合わせから成る群から選択された金属、具体的にはイオンを含み、好ましくはアルミニウムのイオンを含む。
【0022】
本発明によれば、「イオン」が言及されるときにはいつでも、単原子イオン(「裸の」イオンと表わされることもある。例えばAl3+)、並びに多原子イオン(例えば配位配位子を有する錯体イオン[例えばAl(OH) ])が含まれる。
【0023】
本発明は、本発明の根底を成す有利な効果、具体的にボード、具体的には板紙/ボール紙の貼り合わせ/積層における高い処理速度を達成するために、(「重合及び水素結合が可能な化合物」の量に対して、そして組成物全体に対して)必要となる酸化状態II以上の金属が相対的に少量であるという認識に少なくとも部分的には基づいている。実際に、組成物の総量に対して必要とされる前記酸化状態II以上の金属は極めて少量である。接着剤全体の接着特性を改善するために(そしてホウ素含有化合物の使用を廃止するために)MFCが主要アジュバントとして使用されるという事実と併せて、全体的に天然の製品、全体として見れば高度にサステナブルであり且つ環境適合性である接着剤を、本発明に基づいて提供することができる。
【0024】
したがって、本発明によれば、酸化状態II以上の金属の相対量(濃度)は、下記のもの、すなわち
(i) 溶媒を含む前記接着剤組成物全体の重量kgに対する前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.0005~5、好ましくは0.001~1、さらに好ましくは0.005~0.5、さらに好ましくは0.01~0.2、さらに好ましくは0.02~0.1であること、
(ii) (a)重合及び水素結合が可能である前記少なくとも1種の化合物の乾燥質量の重量kgに対する、前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.002~20、好ましくは0.05~5、好ましくは0.08~2、さらに好ましくは0.1~1.5であること、又は
(iii) 前記酸化状態II以上の金属が酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物、又はこれらの任意の混合物として存在しており、そして溶媒を含む前記組成物全体の重量に対する前記酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物の重量パーセンテージが0.001~3、好ましくは0.05~2、さらにより好ましくは0.06~1.5、さらにより好ましくは0.1~1、さらにより好ましくは0.1~0.4であること、
のうちの少なくとも1つに従う。
【0025】
本発明の第1態様によれば、この目的及び他の目的は、請求項1に記載された接着剤組成物によって達成される。
【0026】
本発明の第2態様によれば、この目的及び他の目的は、段ボール又はソリッドボードを製造するために本発明の接着剤組成物を使用することによって達成される。
【0027】
本発明の第3態様によれば、この目的及び他の目的は、接着剤組成物を製造するために(i)MFCと(ii)酸化状態II以上の金属との組み合わせを使用することにより達成される。
【0028】
本発明の第4態様によれば、この目的及び他の目的は、請求項に記載された段ボール及びソリッドボードによって達成される。
【0029】
本発明の第5態様によれば、この目的及び他の目的は、請求項に記載された段ボールを製造する方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、ASTM D6195「ループ・タック(loop tack)」試験に基づく方法を用いて判定される初期タックを判定するための設定を示す図である。
図2図2及び3は、本発明に基づく接着剤組成物を使用した、そして比較組成物に関する、2つの表面を貼り合わせるための初期タックを示す図である(図2は左から右へ見て、「実施例」の項に記載された組成物15,14,11,12,13、図3は、「実施例」の項に記載された組成物15,14,11,16)。
図3図2及び3は、本発明に基づく接着剤組成物を使用した、そして比較組成物に関する、2つの表面を貼り合わせるための初期タックを示す図である(図2は左から右へ見て、「実施例」の項に記載された組成物15,14,11,12,13、図3は、「実施例」の項に記載された組成物15,14,11,16)。
図4図4は、本発明に基づく接着剤組成物、及び比較組成物の水取り込み率を示す図である(「実施例」の項に記載された組成物15,14,11)。
図5図5(上側パネル)は、デンプンのみ、デンプン・プラス・MFC、デンプン・プラス・金属イオン(すべて比較)、及びデンプン・プラス・MFC及び金属イオン(本発明による)に基づく接着剤組成物のブルックフィールド粘度、貯蔵弾性率、及び保水性を示し、下側パネルは、同じ組成物のせん断速度の関数としての粘度を示している。
図6図6は、段ボール紙(シングルフェーサ)を製造するための連続生産ラインを示す概略図である。
図7図7は、接着剤を塗布されたフルート先端を有する1つの波状紙層、並びに上側ライナー及び下側ライナーを含む段ボール層を示す概略図である。フルート状(fluted)(波状(corrugated))紙片、すなわち波状(フルート状)形状を有するために段ロール上に熱又は蒸気、又はその両方を用いて接触させられた紙片の概略図が示されており、この図はまた、フルート頂部にどのように模範的に糊付けするかを示している。この図はまた、フルート紙の上頂部及び下頂部へ被着された上側ライナー及び下側ライナーであって、ボードのシングルフェーサ側及びダブルバッカー側とも呼ばれ、結果としてシングルウォール段ボールをもたらすものを示している。
図8図8は、典型的には水性媒体中に存在するアルミニウム種をpHに応じて示す図である。
図9図9は、MFC単独、カルシウム、アルミニウム、及びジルコニウムイオンを含むMFCに基づく種々異なるデンプン接着剤組成物のゼラチン化ピーク粘度値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、接着剤組成物中に使用されるホウ素含有架橋剤、具体的にはホウ砂及びホウ酸を、MFCと酸化状態II以上の金属イオンとの組み合わせによって完全に置換し得るという驚くべき発見に、少なくとも部分的に基づいている。
【0032】
pHに応じてAl3+又は多原子アルミニウム含有イオン(例えばAl(OH) )をその場で形成する硫酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウムが、接着剤組成物を調製するのに特に有利であることが判っている。
【0033】
当業者に知られているように、水性媒体中にアルミニウムイオンが存在する種はpHに依存する。高pHにおける主要なアルミニウム種はアルミン酸イオンAl(OH) であるのに対して、低pHでは、Al3+が大部分を占めることが概ね理解される。他の関連種はとりわけAl(OH)、Al(OH) 、Al(OH) 4+を含む。さらに、存在するこの種類のアルミニウム種はまた温度及び濃度に依存する。例えば、高pHにおいて濃度が高いと、縮合反応を生じさせ、これによりAlO(OH) 2-を形成することがある。
【0034】
pHに対する種々異なるアルミニウム種の模範的概観が図8に示されている。
【0035】
本発明において、ホウ素含有架橋剤、具体的にはホウ砂及びホウ酸が、MFCと酸化状態II以上の金属との組み合わせによって完全に置換された接着剤組成物が、初期タック及び接着特性の改善、並びに段ボール生産ライン上の処理速度の増大を示すことが、驚くべきことに判った。
【0036】
具体的には、MFCと酸化状態II以上の金属との組み合わせは、個々の化合物、すなわち一方ではMFC、そして他方ではホウ砂置換体としての酸化状態II以上の金属の効果の和よりも高い接着効果を達成することが判っている。
【0037】
このように、MFCと酸化状態II以上の金属との組み合わせは相乗作用をもたらし、すなわちMFCを単独で、又は酸化状態II以上の金属イオンを単独で使用したときに得られる結合強度及び処理可能性を上回る、改善された結合強度及び処理可能性をもたらすことが驚くべきことに判っている。
【0038】
本発明によれば、「接着剤」、「接着剤組成物」又はこれに類するものは、基体、例えば物品の表面に被着される材料であって、これによりこれらの表面を接着結合プロセスによって永久的に接合するものと理解される。接着剤は、2つの部分のそれぞれに結合を形成し得る物質である。最終物体は、互いに結合された2つの区分(基体)から成る。接着剤の具体的な特徴は、最終物体の重量と比較して結合のために必要な量が比較的わずかにすぎないという事実である。
【0039】
本発明によれば、「ホウ砂」及びホウ酸は、同じ化合物ではなく、[ホウ砂はホウ酸の塩であり、すなわちホウ砂は四ホウ酸ナトリウムであるのに対して、ホウ酸はホウ酸水素塩である]と概ね理解されるものの、「ホウ砂」という用語が用いられるときにはいつでも、この用語はホウ酸及びそのアルカリ金属塩を意味する。具体的には、主としてその結晶水含量が異なる数多くの関連する鉱物又は化合物が「ホウ砂」と呼ばれ、本発明の範囲内に含まれ、具体的には十水和物が含まれる。商業的に販売されているホウ砂は典型的には部分的に無水化されている。本発明によれば、「ホウ砂」という用語はまたホウ酸又はホウ砂誘導体、例えば化学的又は物理的に加工されたホウ酸又はホウ砂を含む。
【0040】
特に明示されない限りは、本発明の組成物中の任意の成分の量に関して示されるすべての範囲又は値は、接着剤組成物の総重量に対する成分の重量パーセント(「wt./wt.」)で示されるものとする。
【0041】
本発明によれば、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物として主張された「デンプン」は、複数のグリコシド結合を含むポリマー炭水化物である。
【0042】
好ましいデンプン源はとりわけ、トウモロコシ、小麦、エンドウ、ジャガイモ、米、タピオカ、及びサゴである。
【0043】
本発明によれば、加工デンプンは、例えば加水分解により、化学的に加工されたデンプンである。
【0044】
本発明の実施態様では、デンプンは好ましくは加工されていない小麦デンプン又はトウモロコシデンプンであるが、しかし接着剤中に一般に使用されるデンプンのいずれか、すなわち、ヒドロキシル基と他の反応物質との間で共重合反応が発生し得るのに十分に利用可能なヒドロキシル基を含有するあらゆるデンプン及び誘導体であってよい。
【0045】
本発明によれば、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基と架橋することができる、少なくとも1種の化合物としてのポリビニルアルコール(PVA)は、式/反復単位-[CHCH(OH)]-を有する水溶性の合成ポリマーを意味する。
【0046】
マイクロフィブリル化セルロース(「網状(reticulated)」セルロース又は(超微細(superfine)セルロース、又は「セルロースナノフィブリル(cellulose nanofibrils)」としても知られる)はセルロース系生成物であり、例えば米国特許第4 481 077号明細書、米国特許第4 374 702号明細書、及び米国特許第4 341 807号明細書に記載されている。本発明によれば、マイクロフィブリル化セルロースは、非フィブリル化セルロースに対して低減された少なくとも1つの長さスケール(直径、繊維長)を有している。マイクロフィブリル化セルロース(典型的には「セルロースパルプ」として存在する)を製造するための出発生成物である(非フィブリル化)セルロース中には、個別化され「分離された」セルロース「フィブリル」の部分は全く見いだせないか、又は少なくとも有意な部分を見いだせないか、又は目立った部分さえ見いだせない。木質繊維中のセルロースはフィブリルの凝集体である。セルロース(パルプ)中では、基本フィブリルが凝集してマイクロフィブリルとなり、マイクロフィブリルがさらに凝集してより大きいフィブリル束になり、そして最後にセルロース繊維になる。木質系繊維の直径は典型的には10~50μmである(これらの繊維の長さはより大きい)。セルロース繊維がマイクロフィブリル化されると、nm~μmの断面寸法及び長さを有する「解放された」フィブリルの不均質な混合物が生じ得る。フィブリル及びフィブリル束は、結果として生じるマイクロフィブリル化セルロース中に共存し得る。本発明のマイクロフィブリル化セルロースの直径は、典型的にはナノメートル範囲である。
【0047】
マイクロフィブリル化セルロースは、下記工程、すなわち
(a)セルロースパルプに少なくとも1つの機械的前処理工程を施す工程、
(b)機械的に前処理された工程(a)のセルロースパルプに均質化工程を施し、その結果、機械的に前処理された工程(a)のセルロースパルプに対して長さ及び直径が低減されたフィブリル及びフィブリル束を生じさせる工程(b)であって、前記工程(b)が結果としてマイクロフィブリル化セルロースをもたらし、
前記均質化工程(b)は、工程(a)のセルロースパルプを圧縮し、そしてセルロースパルプに圧力降下を施すことを伴う工程(b)、
を少なくとも含むプロセスによって、調製し又は得ることができる。
【0048】
機械的前処理工程は好ましくは精製工程であり、又は精製工程を含む。機械的前処理の目的は、セルロースパルプを「叩く」ことにより、セル壁のアクセス可能性を高めること、すなわち表面積を増大させることである。
【0049】
機械的前処理工程において好ましくは使用される精製機は、少なくとも回転ディスクを含む。そこでは、少なくとも1つの回転ディスクと少なくとも1つの定置ディスクとの間で、セルロースパルプスラリーにせん断力を加える。機械的前処理工程の前に、又は機械的前処理工程に加えて、セルロースパルプの酵素的(前)処理が任意の付加的な工程となる。この工程はいくつかの用途にとって好ましいことがある。マイクロフィブリル化セルロースと関連する酵素的前処理に関しては、国際公開第2007/091942号パンフレットのそれぞれの内容が、参照することにより本明細書中に援用される。化学的前処理を含むいかなる他のタイプの前処理も、本発明の範囲に含まれる。
【0050】
(機械的)前処理工程後に行われることになっている均質化工程(b)において、例えばPCT/EP2015/001103に記載されているように、工程(a)のセルロースパルプスラリーをホモジナイザに少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回通す。
【0051】
本開示全体を通して記載されているマイクロフィブリル化セルロースにおいて、コンベンショナルな光学顕微鏡によって、例えば倍率40Xで、且つ/又は電子顕微鏡(SEM又はTEM)によって、個々のフィブリル又はフィブリル束を識別し、容易に判別することができる。
【0052】
実施態様において、本発明に基づくマイクロフィブリル化セルロースは、とりわけ下記特徴のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる。
【0053】
本発明の実施態様では、マイクロフィブリル化セルロースは、溶媒としてのポリエチレングリコール(PEG)中でそしてMFCの固形分含有率0.65%において測定して、ゼロせん断粘度ηが少なくとも2000Pa・s、好ましくは少なくとも3000Pa・s又は4000Pa・s、さらに好ましくは少なくとも5000Pa・s、さらに好ましくは少なくとも6000Pa・s、さらに好ましくは少なくとも7000Pa・sであるゲル様分散体をもたらすことを特徴とする。
【0054】
ゼロせん断粘度η(「静止時粘度(viscosity at rest)」は、ゲル様分散体を形成する三次元網目構造の安定性のための尺度である。
【0055】
本明細書中に開示され主張される「ゼロせん断粘度」は下記のように測定される。具体的には、(「比較」及び「本発明に基づく」)MFC分散体のレオロジー特徴づけは、溶媒としてPEG 400を用いて実施した。「PEG 400」は分子量が380~420g/molのポリエチレングリコールであり、製薬用途に幅広く使用されており、ひいては一般に知られており利用可能である。
【0056】
レオロジー特性、具体的にはゼロせん断粘度は、Anton Paar Physica MCR 301のタイプのレオメーター上で測定された。すべての測定における温度は25℃であり、「プレート間(plate-plate)」ジオメトリを使用した(直径50mm)。レオロジー測定は、分散体中の構造度を評価するための振動測定(周波数1Hzで振幅スイープ)として、そして回転粘度測定として実施された。回転粘度測定の場合には、粘度は静止時粘度(せん断力→0)、並びに分散体のせん断減粘特性を評価するために、粘度はせん断速度の関数として測定された。測定装置はさらにPCT/EP2015/001103(EP 3 149 241)にさらに記載されている。
【0057】
実施態様において、マイクロフィブリル化セルロースの保水容量(水保持容量)は、30超、好ましくは40超、好ましくは50超、好ましくは60超、好ましくは70超、好ましくは75超、好ましくは80超、好ましくは90超、さらに好ましくは100超である。保水容量は、MFCがMFC構造内部に水を保持する能力を示し、これもやはりアクセス可能な表面積に関連する。保水容量は、MFC試料を固形分含有率0.3%まで希釈し、次いで試料を1000Gで15分間にわたって遠心分離することにより測定される。透明水相を堆積物から分離し、堆積物を秤量した。保水容量を(mV/mT)-1として示す。式中mVは湿潤堆積物の重量であり、mTは分析された乾燥MFCの重量である。測定法は、PCT/EP2015/001103(EP 3 149 241)にさらに記載されている。
【0058】
本発明の実施態様では、MFCは、EN ISO 5267-1に定義された規格に基づいて得られたショッパー-リーグラー(Schopper-Riegler)(SR)値95未満、好ましくは90未満を有しており、あるいは別の実施態様では、ショッパーリーグラー法に基づいて合理的に測定することができない。それというのもMFC繊維はあまりにも小さいので、これらの繊維の大部分がSR法で定義されたスクリーンを単に通過するだけだからである。
【0059】
本発明の実施態様では、マイクロフィブリル化セルロースは非加工(天然)マイクロフィブリル化セルロースであり、好ましくは植物材料から誘導された非加工マイクロフィブリル化セルロースである。
【0060】
本出願全体を通して記載されたデンプン系接着剤の粘度、及び具体的にはこの例では「秒」の単位で「Lory粘度」として判定され、そして下記方法によって判定される。Lory粘度は、規格ASTM D 1084-D又はASTM D4212に従って、Lory粘度カップ(Elcometerモデル2215/1)を用いて測定される。Elcometerデバイスは、底部に針が固定されたコンベンショナルな円筒形カップから成る。カップは先ず接着剤中に浸漬される。接着剤は次いで逃げ穴を通ってカップを空にする。針の先端が判別できたらすぐに流動時間を測定する。
【0061】
接着剤のせん断粘度はレオメーター(Anton Paar Physica MCR 102)上で判定された。同軸的な円筒形ジオメトリを使用した。せん断プロフィールを判定するために、せん断速度スイープ0.001 1/s~1000 1/sに続いてせん断速度スイープ1000 1/s~0.001 1/sを25℃で実施した。せん断粘度をせん断速度の関数として測定した。
【0062】
接着剤の貯蔵弾性率をレオメーター(Anton Paar Physica MCR 102)上で判定した。同軸的な円筒ジオメトリを使用した。貯蔵弾性率を判定するために、一定の周波数1Hz及び25℃で歪速度スイープ0.01~1000%を実施した。貯蔵弾性率を、線形粘弾性プラトーに相当する貯蔵弾性率値の平均として判定した。ゼラチン化ピーク粘度を温度を高くすることにより測定した。
【0063】
理論に縛られたくはないが、少なくとも1種の化合物であって、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基と架橋することができる、少なくとも1種の化合物(便宜上、本明細書中ではこの化合物は「少なくとも1種の化合物」とも呼ばれる)を含む組成物に、マイクロフィブリル化セルロースを添加することにより、マイクロフィブリル化セルロース単位と前記少なくとも1種の化合物との水素結合による物理的且つ/又は化学的相互作用に基づいて、網状構造がもたらされると考えられる。
【0064】
マイクロフィブリル化セルロースは極性、具体的にはプロトン性の溶媒系中、具体的には水中の効率的な増粘剤であり、水素結合によって安定化される大きな三次元フィブリル網状構造を形成する。
【0065】
MFCフィブリルは表面上にヒドロキシル基を含む。ヒドロキシル基は高pHにおいて解離され(O)、ひいては粒子内及び粒子間の相互作用(intra and inter-particular interactions)をもたらす。
【0066】
デンプンは本質的にはアミロースとアミロペクチンとから成っている。アミロースは、螺旋の外側に向けられたヒドロキシル基を有するα(1→4)-結合D-グルコース単位から成る螺旋線状ポリマーである。マイクロフィブリル化セルロースのフィブリル網状構造は水素結合を通してそれらの基と相互作用し、アミロース鎖の周りに保護層を形成し、ひいては高せん断劣化に対してデンプンを保護し、そして粘度を安定化する。全体として見ると、MFCは、もつれたフィブリルの網状構造であり、これらのフィブリルはデンプン分子を捕捉することができ、こうしてデンプン組成物を強化し、接着特性を改善することができる。同じ全体的な効果がPVAに関しても達成される。これらの網状構造は、本発明によれば、酸化状態II以上の金属の(比較的少量の)存在によってさらに安定化されると、さらに考えられる。
【0067】
さらに、理論に縛られたくはないが、マイクロフィブリル化セルロースの保水容量は、水が紙へ、そして紙を通って移動するのを防止すると考えられる。したがって、前記「少なくとも1種の化合物」を含む接着剤にマイクロフィブリル化セルロースを添加することは、段ボールの製造に特に有用である。接着剤から紙内へ水が移動すると、最終段ボール製品の安定性を損ない、そしてとりわけ、たわみ及び層間剥離を招くおそれがある。これに加えて、この効果はまた、他のボード構造、例えばソリッドボードの製造にも有利である。
【0068】
さらに、そして重要なことには、理論に縛られたくはないが、MFCを添加すると水取り込み率の減少が観察されたことは、水取り込みのために利用可能な、前記「少なくとも1種の化合物」、例えばデンプン又はPVAのOH基が、代わりにMFCと相互作用し、ひいては水と結合するためにはもはや利用できないという事実によって説明される。
【0069】
接着剤の水取り込み率が減少することは概ね望ましい。それというのも最終製品内、特にエッジ周りの水の取り込みは、膨潤及び変形を招き、このことは概ね望ましくないからである。さらに、MFCは、硬化済み接着剤にバリア特性を提供する。バリア特性はボードのエッジをシールし、硬化済みボード及び最終製品の耐水性を改善する。
【0070】
第1実施態様によれば、本発明は接着剤組成物であって、
a) マイクロフィブリル化セルロースと、
b) 酸化状態II以上の金属イオンと、
c) 少なくとも1種の化合物であって、重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物と、
d) 少なくとも1種の溶媒と
を含む接着剤組成物に関する。
【0071】
本発明の実施態様では、接着剤組成物は、前記酸化状態II以上の金属の相対量(濃度)が、下記のもの、すなわち
(i) 溶媒を含む前記接着剤組成物全体の重量kgに対する前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.0005~5、好ましくは0.001~1、さらに好ましくは0.005~0.5、さらに好ましくは0.01~0.2、さらに好ましくは0.02~0.1であること、
(ii) 重合及び水素結合が可能な前記少なくとも1種の化合物の乾燥質量の重量kgに対する、前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.002~20、好ましくは0.05~5、さらに好ましくは0.08~2、さらに好ましくは0.1~1.5であること、又は
(iii) 前記酸化状態II以上の金属が酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物、又はこれらの任意の混合物として存在しており、そして溶媒を含む前記組成物全体の重量に対する前記酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物の重量パーセンテージが0.001~3、好ましくは0.05~2、さらにより好ましくは0.06~1.5、さらにより好ましくは0.1~1、さらにより好ましくは0.1~0.4であること、
のうちの少なくとも1つに従うことを特徴とする。
【0072】
酸化状態II以上の金属の量(濃度)は種々異なる方法で判定することができる。例えば、接着剤組成物を調製するために使用される「金属イオン源」から酸化状態II以上の金属の量を計算することができる。
【0073】
例えば、1kgの接着剤組成物を調製するために、342.13gの無水硫酸アルミニウム(Al(SO)を使用する場合、接着剤組成物は、接着剤組成物1kg当たり2モルの酸化状態II以上のアルミニウムを含有する。あるいは、酸化状態II以上の金属の量は、周知の分析手段によって接着剤組成物から直接に判定することもできる。例えば、接着剤組成物中の酸化状態II以上の金属の量を判定するために、原子発光分析法を用いることができる。接着剤組成物中の酸化状態II以上の金属の量を判定するために使用し得るさらなる分析法は、例えば原子吸光分光法、又はICP-MSである。
【0074】
MFCは、上記及び下記のMFCから選択することができる。
【0075】
酸化状態II以上の金属は好ましくはアルミニウムイオン、さらに好ましくはAl3+、又は多原子アルミニウム含有イオンを含む。上記のように、アルミニウムイオンが水性媒体中に存在する種はpH、温度、濃度、及び存在する他の成分に依存する。どの種がどのpHで存在するかは当業者ならば知っている(例えばPanias et al. (2001), Hydrometallurgy, Volume 59, issue 1, pages 15-29から再現された図8参照)。
【0076】
本発明の金属イオンは配位された任意の量の結晶水を含んでもよく、あるいはイオンは酸化物/水酸化物混合物の一部であってもよい。
【0077】
本発明の組成物中に存在する酸化状態II以上の金属は、「金属イオン源」から概ね誘導されている。本明細書中に使用される「金属イオン源」は、酸化状態II以上の金属を組成物中に導入するために使用される化合物を意味する。例えば、硫酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウムは、酸化状態II以上のアルミニウムを組成物中に導入するためのアルミニウム源である。当業者には知られているように、硫酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウムは次いで、pHに応じて、単原子イオンAl3+、又は多原子アルミニウム含有イオン、例えば、例えばAl(OHを形成する(図8参照)。
【0078】
好ましい金属イオン源は例えば塩、酸化物、及びこれに類するものであり、これらは酸化状態II以上の金属を含む。
【0079】
酸化状態II以上の好ましいアルミニウム源は、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム(例えば液体NaAl(二酸化ナトリウムアルミニウム)又は固体NaAlO(酸化ナトリウムアルミニウム)、両者のアルミニウム含有率は%酸化アルミニウムとして計算される)、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、アルミン酸カリウム、又は他のアルミニウム誘導体及び/又は酸化アルミニウム、及び/又は水酸化アルミニウムの液体又は固体形態である。特に好ましい酸化状態II以上のアルミニウム源は硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、及び水酸化アルミニウムである。
【0080】
好ましくは、アルミニウムイオン又はアルミニウム含有イオンは、アルミン酸ナトリウム及び/又は硫酸アルミニウム(Al(SO)から誘導される。
【0081】
他の好ましい酸化状態II以上の金属はジルコニウム又はカルシウムである。
【0082】
好ましくは金属イオン源は、接着剤組成物が、溶媒を含む前記接着剤組成物全体の重量kgに対して前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属を、0.0005~5モル、好ましくは0.001~1モル、さらに好ましくは0.005~0.5モル、さらに好ましくは0.01~0.2モル、さらに好ましくは0.02~0.1モルの濃度で含むような量で存在するか、又は
接着剤組成物が、重合及び水素結合が可能である前記少なくとも1種の化合物の乾燥質量の重量kgに対して、前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属を、0.002~20モル、好ましくは0.05~5モル、好ましくは0.08~2モル、さらに好ましくは0.1~1.5モルの濃度で含むような量で存在する。
【0083】
これは、無水硫酸アルミニウムが接着剤組成物を調製するために使用される場合に、溶媒を含む1kgの接着剤組成物は好ましくは0.0855g~855g(0.0005モル~5モル)、さらに好ましくは0.1711g~171.065g(0.001モル~1モルのアルミニウムイオン)、より好ましくは0.8553g~85.5325g(0.005~0.5モルのアルミニウムイオン)、さらに好ましくは1.711g~34.213g(0.01~0.2モルのアルミニウムイオン)、さらに好ましくは3.421g~17.1065g(0.02~0.1モルのアルミニウムイオン)の硫酸アルミニウムを含むことを意味する。
【0084】
このように、1実施態様では、本発明は接着剤組成物であって、
a) マイクロフィブリル化セルロースと、
b) 接着剤組成物を調製するために使用される金属イオン源から誘導された、少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と、
c) 少なくとも1種の化合物であって、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物と、
d) 少なくとも1種の溶媒と
を含み、
前記接着剤組成物が、前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属の相対量、すなわち濃度が、下記のもの、すなわち
(i) 溶媒を含む前記接着剤組成物全体の重量kgに対する前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.0005~5、好ましくは0.001~1、さらに好ましくは0.005~0.5、さらに好ましくは0.01~0.2、さらに好ましくは0.02~0.1であること、
(ii) (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物の乾燥質量の重量kgに対する、前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.002~20、好ましくは0.05~5、さらに好ましくは0.08~2、さらに好ましくは0.1~1.5であること、又は
(iii) 前記酸化状態II以上の金属が酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物、又はこれらの任意の混合物として存在しており、そして溶媒を含む前記組成物全体の重量に対する前記酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物の重量パーセンテージが0.001~3、好ましくは0.05~2、さらにより好ましくは0.06~1.5、さらにより好ましくは0.1~1、さらにより好ましくは0.1~0.4であること、
のうちの少なくとも1つに従うような量で前記金属イオン源を含む、接着剤組成物に関するものとして記載することができる。
【0085】
例えば、金属イオン源が硫酸アルミニウムである場合には、本発明は好ましくは接着剤組成物であって、
a) マイクロフィブリル化セルロースと、
b) 硫酸アルミニウム(Al(SO)から誘導された少なくとも1種の酸化状態II以上のアルミニウムと、
c) 少なくとも1種の化合物であって、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物と、
d) 少なくとも1種の溶媒と
を含み、
前記接着剤組成物が、溶媒を含む総接着剤組成物の1kg当たり0.0855g~855g(0.0005モル~5モル)、さらに好ましくは0.1711g~171.065g(0.001モル~1モルのアルミニウムイオン)、より好ましくは0.8553g~85.5325g(0.005~0.5モルのアルミニウムイオン)、さらに好ましくは1.711g~34.213g(0.01~0.2モルのアルミニウムイオン)、さらに好ましくは3.421g~17.1065g(0.02~0.1モルのアルミニウムイオン)の量で前記硫酸アルミニウム(Al(SO)を含む、
接着剤組成物に関連するものとして記載することができる。
【0086】
溶媒を含む総接着剤組成物の重量kgに対して少なくとも1種の酸化状態II以上の金属を、0.0005~5モル、好ましくは0.001~1モル、さらに好ましくは0.005~0.5モル、さらに好ましくは0.01~0.2モル、さらに好ましくは0.02~0.1molの濃度で含む接着剤組成物をもたらす他の金属イオン源の量は、当業者ならば計算することができる。
【0087】
例えば、Al含有率が54%であるGilunal A (Kurita)として提供されたアルミン酸ナトリウム(NaAlO)が金属イオン源として使用される場合、前記アルミン酸ナトリウムが好ましくは、溶媒を含む全接着剤組成物1kg当たり0.047g~472g、好ましくは0.094g~94.4g、より好ましくは0.472g~47.2g、より好ましくは0.944g~18.9g、より好ましくは1.888g~9.441gの量で使用される。
【0088】
このように、例えば金属イオン源がアルミン酸ナトリウム(Al含有率が54%の固形粉末)である場合には、本発明は好ましくは接着剤組成物であって、
a) マイクロフィブリル化セルロースと、
b) アルミン酸ナトリウム(NaAlO)から誘導された少なくとも1種の酸化状態II以上のアルミニウムと、
c) 少なくとも1種の化合物であって、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物と、
d) 少なくとも1種の溶媒と
を含み、
前記接着剤組成物が、溶媒を含む接着剤組成物全体の1kg当たり0.047g~472g、好ましくは0.094g~94.4g、より好ましくは0.472g~47.2g、より好ましくは0.944g~18.9g、より好ましくは1.888g~9.441gの量で前記アルミン酸ナトリウム(Al3/NaO)を含む、
接着剤組成物に関連するものとして記載することができる。
【0089】
それぞれの計算は任意の金属イオン源に対して当業者によって行うことができる。
【0090】
本発明において、酸化状態II以上の金属がアルミン酸ナトリウムから誘導される(例えばAl含有率が約54%である固形粉末の形態で)場合、前記アルミン酸ナトリウムは、1kgの前記接着剤組成物が0.02~0.1モルの量で酸化状態II以上の金属(この事例ではアルミニウム)を含むような量で接着剤組成物中に存在することが概ね好ましい。これは、酸化状態II以上の金属がアルミン酸ナトリウムから誘導される場合に、前記アルミン酸ナトリウムが溶媒を含む前記接着剤組成物全体の1kg当たり1.889g~9.441gの量で接着剤組成物中に存在することを意味する。
【0091】
本発明によれば、酸化状態II以上の金属がジルコニウム(例えばジルコニウム含有率が約15%である炭酸ジルコニウム(IV)アンモニウム溶液から誘導される)である場合、前記ジルコニウムは、接着剤組成物全体の1kgが0.0005~0.1モル、好ましくは0.001~0.05モルの量で酸化状態II以上の金属(この事例ではジルコニウム)を含むような量で、接着剤組成物中に存在することが好ましい。
【0092】
本発明によれば、酸化状態II以上の金属がカルシウム(例えば97% CaCO炭酸カルシウムから誘導される)である場合、前記カルシウムイオンは、接着剤組成物全体の1kgが0.05~5モル、好ましくは0.1~3モルの量で酸化状態II以上の金属(この事例ではカルシウム)を含むような量で、接着剤組成物中に存在することが好ましい。これは、酸化状態II以上の金属が炭酸カルシウムから誘導される場合に、前記炭酸カルシウムが溶媒を含む前記接着剤組成物全体の1kg当たり5.2g~516g、好ましくは10.3g~309gの量で接着剤組成物中に存在することを意味する。
【0093】
好ましくは、本組成物中に使用される溶媒はプロトン性溶媒である。より好ましくは、溶媒は水を含むか又は水から成る。
【0094】
好ましくは、MFCは少なくとも1つの長さスケール、すなわちフィブリル直径及び/又はフィブリル長を有しており、長さスケールは非フィブリル化セルロースのフィブリル直径及び/又はフィブリル長に対して低減されている。好ましくは、本発明のMFCを形成するMFCフィブリルの直径は、ナノメートル範囲にあり、すなわち1nm~1000nm、好ましくは平均して10nm~500nmである。上述のように、繊維長及び直径は、繊維の寸法に応じて、コンベンショナルな光学顕微鏡によって、例えば倍率40Xで、且つ/又は電子顕微鏡(SEM又はTEM)によって判定することができる。
【0095】
接着剤組成物中のMFCの量は0.001~10wt.%である。より好ましくは、接着剤組成物中のMFCの量は0.01~5wt.%、さらにより好ましくは、0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%である。
【0096】
酸化状態II以上の金属が硫酸アルミニウムから誘導される場合、又は接着剤組成物がAl3+イオンを含む場合、接着剤組成物全体の重量に対する、接着剤組成物中のMFCの量(重量)は、0.01~5wt.%、さらにより好ましくは、0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%である。
【0097】
好ましくは接着剤組成物全体における無水硫酸アルミニウムの量は、0.001~10wt.%(w/w)である。より好ましくは、接着剤組成物中の硫酸アルミニウムの量は、0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.015~2wt.%,、さらにより好ましくは0.03~0.5wt.%.である。あるいは、接着剤組成物中の硫酸アルミニウムの量は0.01~0.25wt.%、又は0.1~1.3wt%である。
【0098】
酸化状態II以上の金属がアルミン酸ナトリウムから誘導される場合、又は接着剤組成物がAl(OH) イオンを含む場合、接着剤組成物全体におけるMFCの量は好ましくは0.01~5wt.%、より好ましくは0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%である。
【0099】
好ましくは、接着剤組成物全体におけるアルミン酸ナトリウムからの(又は硫酸アルミニウム又は他のアルミニウム化合物からの)Alの当量は0.001~3%(w/w)である。より好ましくは、接着剤組成物中のAlの量は0.05~2%、さらにより好ましくは0.06~1.5%、さらにより好ましくは0.1~1%、さらにより好ましくは0.1~0.4%である。
【0100】
好ましくは、MFCの少なくとも1つの官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、好ましくはヒドロキシル基からなる群から選択される。これらの基は、前記「少なくとも1種の化合物」との特に良好な架橋をもたらすことが判っている。
【0101】
溶媒は好ましくは20~90wt.%(w/w)、好ましくは30~80wt.%、より好ましくは40~80wt.%、さらにより好ましくは50~80wt.%の量で存在する。さらにより好ましくは、溶媒はそれぞれ接着剤組成物全体に対して、65~80wt.%、好ましくは69~79wt.%の量で存在する。
【0102】
上記のように、MFCと酸化状態II以上の金属[例えばAl3+又はAl(OH) ]との独自の組み合わせは、接着剤組成物の特性全体に不都合な影響を及ぼすことなしに、ホウ砂及び/又はホウ酸を完全に省くことを可能にする。
【0103】
このように、好ましい実施態様によれば、接着剤組成物はホウ素含有架橋剤を含まないか又は微量にしか含まない。
【0104】
好ましくは、接着剤組成物はホウ砂及び/又はホウ酸を含まないか又は微量にしか含まない。
【0105】
さらにより好ましくは、接着剤組成物はその起源及び機能とは無関係に、ホウ素を含まないか又は微量にしか含まない。本明細書中に使用される「微量」とは、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、さらに好ましくは200ppm未満、さらに好ましくは100ppm未満、さらに好ましくは50ppm未満の量を意味する。
【0106】
好ましくは「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」に対するMFCの重量比は、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1である。
【0107】
好ましくは、「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」は、以下の化合物、すなわち
少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体、具体的にはデキストリン、
少なくとも1種のポリビニルアルコール、
少なくとも1種のポリビニルアセテート、
少なくとも1種のポリエチレングリコール、
少なくとも1種のポリプロピレングリコール、
少なくとも1種の多糖、
少なくとも1種の炭水化物、
少なくとも1種のポリペプチド、
少なくとも1種のアクリレート、
少なくとも1種のアクリルアミド、
少なくとも1種のエチレンオキシド、
少なくとも1種のプロピレンオキシド、
少なくとも1種のグリコール、
少なくとも1種のポリエーテル、
少なくとも1種のポリエステル、
少なくとも1種のポリオール、
少なくとも1種のエポキシ樹脂、
少なくとも1種のポリウレタン、
少なくとも1種のポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、
少なくとも1種のポリ尿素、及び
少なくとも1種のカルバミド
から選択される。
【0108】
好ましくは、「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」は、少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体、又は少なくとも1種のポリビニルアルコールである。
【0109】
好ましくは、「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」が、少なくとも1種のポリビニルアルコールであり、接着剤組成物のpHは、7未満、好ましくは2.0~6、より好ましくは2.5~5.0である。
【0110】
好ましくは、「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」は、少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体であり、接着剤組成物のpHは7超、好ましくは10~13、さらに好ましくは10.5~12.5、又は11~12である。
【0111】
好ましい実施態様によれば、アルミニウムイオンは、Al(OH) であり、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」は少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体である。
【0112】
実施態様では、前記(デンプン系)接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量は、接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt%、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%である。
【0113】
好ましい実施態様では、前記(デンプン系)接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量は、0.01~0.25wt%である。
【0114】
この実施態様においても、溶媒は好ましくは20~90wt.%(w/w)、好ましくは30~80wt.%、より好ましくは40~80wt.%、さらにより好ましくは50~80wt.%の量で存在する。さらにより好ましくは、溶媒は接着剤組成物の総重量を基準として、例えば65~80wt.%、好ましくは66~79wt.%の量で存在する。
【0115】
この実施態様においても、「前記少なくとも1種の化合物」に対するMFCの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1、さらにより好ましくは0.0005~0.03、さらにより好ましくは0.001~0.01である(デンプンに対するMFC)。
【0116】
好ましくは、接着剤組成物中のデンプンの量は、10~60wt.%、より好ましくは15~45wt.%、さらにより好ましくは20~40wt.%である。
【0117】
別の好ましい実施態様によれば、アルミニウムイオンは硫酸アルミニウムから誘導され、そして前記「少なくとも1種の化合物」は少なくとも1種のポリビニルアルコールである。
【0118】
実施態様において、前記(PVA系)接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量は、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt%、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.015~1wt.%、さらにより好ましくは0.02~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.05~0.3wtである。
【0119】
好ましい実施態様では、前記(PVA系)接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量は、0.05~0.25wt%である。
【0120】
また実施態様において、溶媒は好ましくは20~90wt.%(w/w)、好ましくは30~80wt.%、より好ましくは40~80wt.%、さらにより好ましくは50~80wt.%の量で存在する。さらにより好ましくは、溶媒は接着剤組成物の総重量を基準として、65~80wt.%、好ましくは69~79wt.%の量で存在する。
【0121】
また実施態様において、前記「少なくとも1種の化合物」に対するMFCの重量比は、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1、さらにより好ましくは0.005~0.1、さらにより好ましくは0.008~0.08である(ポリビニルアルコールに対するMFC)。
【0122】
接着剤組成物中のPVAの量は、1~30wt.%、より好ましくは2~28wt.%、さらにより好ましくは3~25wt.%、さらにより好ましくは3~10wt.%である。
【0123】
本発明の実施態様では、本発明による接着剤組成物中にさらなる添加剤、例えば塩化カルシウム、水酸化ナトリウム、尿素、硝酸ナトリウム、チオ尿素、及びグアニジン塩が使用されてよい。これらのうちのいくつか又はすべてを、粘度を(さらに)制御するための液化剤(liquefiers)として使用することができる。
【0124】
本発明による接着剤組成物中に使用してよい他の実施態様は例えば保存剤、漂白剤、及び消泡剤である。
【0125】
第2実施態様によれば、本発明は、段ボール又はソリッドボード、具体的にはボール紙又は板紙を調製するための、本発明による接着剤組成物の使用に関する。
【0126】
上記のように、そして実施例から明らかなように、本発明による接着剤組成物は段ボール又はソリッドボードを製造するのに特に適している。
【0127】
具体的には、MFCとアルミニウムイオン又は多原子アルミニウム含有イオンとの独自の組み合わせが相乗作用を生じさせ、その結果ホウ砂が完全に存在しない状態でも、驚くほど良好な全接着特性をもたらすことが、驚くべきことに判っている。このような特性は、ホウ砂非含有接着剤組成物に対して以前は観察されていない。
【0128】
具体的には本発明の接着剤組成物は、ボードの品質を達成するのが最も難しいものを含むすべてに対して、高いコルゲータ運転速度の利用を可能にすることが判っている。実際に、本発明の接着剤組成物がホウ砂系接着剤組成物よりも良好に機能し、そしてまたMFC(単独)系又はホウ砂/MFC系接着グルーよりも良好に機能することが判っている。
【0129】
また、本発明の接着剤組成物がホウ酸含有PVA(ポリビニルアルコール)接着剤組成物と同様の初期タッキネスを示すが、しかしそれと同時に、水取り込み率の著しい減少を示すことも判っている。水取り込み率の著しい減少は、ソリッドボードを調製するのに特に有益である。ソリッドボードは農業のような又は魚介類の包装のための高湿環境内でしばしば使用される。これらの、そしてその他の驚くべき効果は、接着剤組成物を段ボール又はソリッドボード(ボール紙又は板紙)を調製するのに特に適したものにする。
【0130】
1実施態様では、本発明に基づく接着剤組成物は段ボールを調製するために使用される。この実施態様では、酸化状態II以上の金属は好ましくはAl(OH) であり、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」は好ましくは少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体である。
【0131】
別の実施態様では、本発明による接着剤組成物はソリッドボードを調製するために使用される。この実施態様では、酸化状態II以上の金属は好ましくはAl3+であり、且つ/又は硫酸アルミニウムから誘導され、そして「重合及び水素結合が可能な少なくとも1種の化合物」は好ましくは少なくとも1種のポリビニルアルコールである。
【0132】
第3実施態様によれば、本発明は、MFCと酸化状態II以上の金属、好ましくは単原子アルミニウムイオン又は多原子アルミニウム含有イオン、好ましくはAl3+又はAl(OH) との組み合わせの使用であって、前記Al3+が好ましくは硫酸アルミニウムから誘導され、そしてAl(OH) が好ましくはアルミン酸ナトリウムから誘導される、MFCと酸化状態II以上の金属との組み合わせの使用に関する。
【0133】
第4実施態様によれば、本発明は、本発明の接着剤組成物を含む段ボール及びソリッドボードに関する。
【0134】
好ましくは、段ボールが本発明の接着剤組成物を含み、アルミニウムイオン又は多原子アルミニウム含有イオンはAl(OH) であり、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして「少なくとも1種の化合物」は少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体である。
【0135】
好ましくは、ソリッドボードが本発明の接着剤組成物を含み、アルミニウムイオン又は多原子アルミニウム含有イオンはAl3+であり、且つ/又は硫酸アルミニウムから誘導され、そして「少なくとも1種の化合物」は少なくとも1種のポリビニルアルコールである。
【0136】
第5実施態様によれば、本発明は段ボールを製造する方法であって、前記方法が少なくとも下記工程、すなわち
a) 本発明に基づく接着剤組成物を用意し、
b) 段ボールのためにフルート用中芯紙とライナー紙とを用意し、任意には、前記フルートのための紙又は前記ライナーのための紙、又は両方が、少なくとも部分的に化学処理されるか又は化学処理されており、
c) 前記接着剤組成物を波状紙片のフルートの頂部の少なくとも一部に、少なくとも一方の側で、好ましくは両方の側で被着し、
d) コルゲータ内で、前記波状紙片上に少なくとも1つのライナーを被着し、好ましくは前記波状紙片の他方の側にさらなるライナーを被着し、そして
e) シングル、ダブル、トリプル、又はさらなる多重ウォールボードを、好ましくは連続プロセスで調製する
工程を含む、段ボールを製造する方法に関する。
【0137】
本発明は下記項目に関して記載することもできる。これらの項目は、上記実施態様のそれぞれ及びすべてと組み合わせることができる。
項目1 接着剤組成物であって、
a) マイクロフィブリル化セルロースと、
b) 少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と、
c) 少なくとも1種の化合物であって、(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる、少なくとも1種の化合物と、
d) 少なくとも1種の溶媒と
を含み、
前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属の相対量が、下記のもの、すなわち
(i) 溶媒を含む前記接着剤組成物全体の重量kgに対する前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.0005~5、好ましくは0.001~1、さらに好ましくは0.005~0.5、さらに好ましくは0.01~0.2、さらに好ましくは0.02~0.1であること、
(ii) (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物の乾燥質量の重量kgに対する、前記酸化状態II以上の金属のモル量が、0.002~20、好ましくは0.05~5、さらに好ましくは0.08~2、さらに好ましくは0.1~1.5であること、又は
(iii) 前記酸化状態II以上の金属が酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物、又はこれらの任意の混合物として存在しており、そして溶媒を含む前記組成物全体の重量に対する前記酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物の重量パーセンテージが0.001~3、好ましくは0.05~2、さらにより好ましくは0.06~1.5、さらにより好ましくは0.1~1、さらにより好ましくは0.1~0.4であること、
のうちの少なくとも1つに従う、接着剤組成物。
【0138】
項目2 前記酸化状態II以上の金属が、酸化状態II以上のアルミニウム、酸化状態II以上のカルシウム、酸化状態II以上のジルコニウム、酸化状態II以上のマグネシウム、酸化状態II以上の亜鉛、酸化状態II以上のハフニウム、又は酸化状態II以上のチタン、又はこれらの任意の組み合わせを含み、好ましくは酸化状態II以上のアルミニウムを含む、項目1に記載の接着剤組成物。
【0139】
項目3 前記酸化状態II以上の金属がアルミニウムイオンを含み、そしてさらに好ましくは硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、又は水酸化アルミニウムから誘導される、項目1又は2に記載の接着剤組成物。
【0140】
項目4 前記溶媒がプロトン性溶媒である、先行の項目のうちのいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0141】
項目5 前記溶媒が水を含むか又は水から成る項目4に記載の接着剤組成物。
【0142】
項目6 前記マイクロフィブリル化セルロースが少なくとも1つの長さスケール、すなわちフィブリル直径及び/又はフィブリル長を有しており、前記長さスケールが非フィブリル化セルロースのフィブリル直径及び/又はフィブリル長に対して低減されており、好ましくは、本発明のマイクロフィブリル化セルロースを形成するマイクロフィブリル化セルロースフィブリルの直径が、ナノメートル範囲にあり、すなわち1nm~1000nm、好ましくは平均して10nm~500nmである、先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0143】
項目7 前記接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量が、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt.%(w/w)、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%である、先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0144】
項目8 前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、及びアルデヒド基である、先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0145】
項目9 前記溶媒が、前記接着剤組成物の総重量を基準として20~90wt.%、好ましくは30~80wt.%、より好ましくは40~80wt.%、さらにより好ましくは50~80wt.%、例えば65~80wt.%、好ましくは66~79wt.%の量で存在する、先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0146】
項目10 前記組成物がホウ素含有架橋剤を含まないか又は微量にしか含まず、好ましくは前記接着剤組成物がホウ砂及びホウ酸を含まないか又は微量にしか含まず、さらに好ましくは、前記接着剤組成物が好ましくはホウ素を含まないか又は微量にしか含まない、先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0147】
項目11 (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物に対するマイクロフィブリル化セルロースの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1又は0.0005~0.03又は0.001~0.01である、先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0148】
項目12 (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、下記化合物、すなわち、
少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体、少なくとも1種のポリビニルアルコール、少なくとも1種のポリビニルアセテート、少なくとも1種のポリエチレングリコール、少なくとも1種のポリプロピレングリコール、少なくとも1種の多糖、少なくとも1種の炭水化物、少なくとも1種のポリペプチド、少なくとも1種のアクリレート、少なくとも1種のアクリルアミド、少なくとも1種のエチレンオキシド、少なくとも1種のプロピレンオキシド、少なくとも1種のグリコール、少なくとも1種のポリエーテル、少なくとも1種のポリエステル、少なくとも1種のポリオール、少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種のポリウレタン、少なくとも1種のポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、少なくとも1種のポリ尿素、及び少なくとも1種のカルバミド、又はこれらの任意の組み合わせから選択され、
好ましくは少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体、及び少なくとも1種のポリビニルアルコールから選択される、
先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0149】
項目13 前記酸化状態II以上の金属が、Al(OH) として存在し、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体である、
先行の項目のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0150】
項目14 前記デンプン系接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量が、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt%、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.01~1wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.01~0.3wt.%である、項目13に記載の接着剤組成物。
【0151】
項目15 (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物に対するマイクロフィブリル化セルロースの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1、さらにより好ましくは0.0005~0.03、さらにより好ましくは0.001~0.01である、項目13又は14に記載の接着剤組成物。
【0152】
項目16 前記酸化状態II以上の金属が、Al3+として存在し、且つ/又は硫酸アルミニウムから誘導され、そして、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のポリビニルアルコール(PVA)である、項目1から12までのいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0153】
項目17 前記PVA系接着剤組成物中のマイクロフィブリル化セルロースの量が、前記接着剤組成物の総重量を基準として、0.001~10wt%,、好ましくは0.01~5wt.%、さらにより好ましくは0.015~1wt.%、さらにより好ましくは0.02~0.5wt.%、さらにより好ましくは0.05~0.3wtである、項目16に記載の接着剤組成物。
【0154】
項目18 (a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記少なくとも1種の化合物に対するマイクロフィブリル化セルロースの重量比が、0.0001~0.5、好ましくは0.0002~0.3、より好ましくは0.0004~0.2、さらにより好ましくは0.0005~0.1、さらにより好ましくは0.005~0.1、さらにより好ましくは0.008~0.08である、項目16又は17に記載の接着剤組成物。
【0155】
項目19 段ボール又はソリッドボードを製造するための、項目1から18までのいずれか1項に記載の接着剤組成物の使用。
【0156】
項目20 段ボールの製造を目的としており、前記酸化状態II以上の金属が、Al(OH) として存在し、且つ/又はアルミン酸ナトリウムから誘導され、そして
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のデンプン又はデンプン誘導体である、
項目19に記載の使用。
【0157】
項目21 ソリッドボードの製造を目的としており、前記酸化状態II以上の金属が、Al3+として存在し、且つ/又は硫酸アルミニウムから誘導され、そして、
(a)重合可能であるか、又は既に部分的又は完全に重合しており、そして(b)水素結合のために利用可能な少なくとも2つの基、好ましくはOH基を有しており、前記基が、前記マイクロフィブリル化セルロースの少なくとも1つの官能基及び/又は前記少なくとも1種の酸化状態II以上の金属と架橋することができる前記化合物が、少なくとも1種のポリビニルアルコールである、
項目19に記載の使用。
【0158】
項目22 接着剤としての、塗料組成物中の、被膜としての、(表面)サイズ組成物としての、複合体としての又は複合体中の、樹脂としての、ペーストとしての、食品増粘剤又は添加剤としての、ゲル中の、ヒドロゲル中の又は吸収剤としての又は接着剤被膜、保護被膜、プライマー被膜、表面サイジング被膜中の、項目1から18までのいずれか1項に記載の接着剤組成物の使用。
【0159】
項目23 請求項1から18までのいずれか1項に記載の接着剤組成物を含む段ボール又はソリッドボード。
【0160】
項目24 項目13~15のいずれか1項に記載の接着剤組成物を含む段ボール。
【0161】
項目25 項目16~18のいずれか1項に記載の接着剤組成物を含むソリッドボード。
【0162】
項目26 段ボールを製造する方法であって、前記方法が少なくとも下記工程、すなわち
a) 項目1から18までのいずれか1項に記載の接着剤組成物を用意し、
b) 段ボールのためにフルート用中芯紙とライナー紙とを用意し、任意には、前記フルートのための紙又は前記ライナーのための紙、又は両方が、少なくとも部分的に化学処理されるか又は化学処理されており、
c) 前記接着剤組成物を波状紙片のフルートの頂部の少なくとも一部に、少なくとも一方の側で、好ましくは両方の側で被着し、そして
d) コルゲータ内で、前記波状紙片上に少なくとも1つのライナーを被着し、好ましくは前記波状紙片の他方の側にさらなるライナーを被着し、そして
e) シングル、ダブル、トリプル、又はさらなる多重のウォールボードを、好ましくは連続プロセスで調製する
工程を含む、段ボールを製造する方法。
【0163】
項目27 請求項26に記載の方法によって得られた、又は得ることができる段ボール。
【実施例
【0164】
実施例1
マイクロフィブリル化セルロース(MFC)の調製
本発明に基づく組成物を調製するために使用されるMFCは、商業的に入手可能であり、そして例えば、ノルウェートウヒ(針葉樹)に由来するセルロースパルプに基づく“Exilva Microfibrillated cellulose FBX 01-V”、又は “Exilva Microfibrillated cellulose P01-L”としてBorregaardによって商業化されている。
【0165】
重合及び水素結合が可能な化合物としてのデンプンに関連する実施例に使用されるMFCはペーストとして存在した。ペーストの固形分含有率は10%であり、すなわち、MFCペースト中のマイクロフィブリル化繊維の乾燥物質含有率は10%であるのに対して、残りの90%は水であり、水はこの事例では唯一の溶媒であった。
【0166】
重合及び水素結合が可能な化合物としてのポリビニルアルコール(PVA)に関連する実施例に使用されるMFCは分散体として存在した。分散体の固形分含有率は2%であり、すなわち、MFCペースト中のマイクロフィブリル化繊維の乾燥物質含有率は2%であるのに対して、残りの98%は水であり、水はこの事例では唯一の溶媒であった。
【0167】
実施例2
デンプン含有接着剤組成物の特性の改善、コルゲータ速度及び接着性に対する効果[MFC及びアルミン酸ナトリウム(固体)]
表1に示された組成物を以下のプロトコルに従って調製した。すなわち接着剤をスタイン-ホール法に従って調製した。一次デンプン部分を一次水部分に温度39℃で添加し、そして苛性ソーダの添加前に30秒間にわたって撹拌した。次いでMFCの添加前に、一次デンプンを500秒間にわたって撹拌した。次いで一次デンプン及びMFCをさらに600秒間にわたって撹拌し、これに続いて二次水及び消毒剤を添加した。二次水部分の添加後、組成物の温度は31℃であった。次いで二次デンプン部分を添加し、組成物を30秒間にわたって撹拌し、次いでアルミン酸ナトリウムを添加した。次いで、35Lory秒の粘度設定点が達成されるまで、200±700秒間の最終撹拌時間前に、組成物を200秒間にわたって撹拌した。ホウ砂を含む組成物に関しては、二次デンプンの添加前にホウ砂の1/3を添加し、そして二次非膨潤デンプンを添加し30秒間の混合時間の後に、ホウ砂の2/3を添加した。
【0168】
Lory粘度はLory粘度カップ(Elcometerモデル2215/1)を用いて測定した。Lory粘度カップは、接着剤、塗料、及び被膜の業界に置いて広く使用されており、本質的には、底部に針が固定されたコンベンショナルな円筒形カップから成る。カップは先ず接着剤中に浸漬する。接着剤は次いで逃げ穴を通ってカップを空にする。針の先端が見えたらすぐに流動時間を測定した。
【0169】
ホウ砂のみを含む比較デンプン系接着剤(組成物no.2)のLory粘度は高せん断における混合時間とともに容易に低下したのに対して、MFCを含む接着剤(組成物1,3及び4)の粘度は、高せん断混合に関してかなり高い粘度安定性を有した。さらに、MFCを含む組成物は、ホウ砂参照接着剤と比較して経時的にはるかにより高い粘度安定性を有した。
【0170】
【表1】
【0171】
デンプンは、Amilina/Roquetteによって供給される天然小麦デンプンであった。ホウ砂は、HB Fullerから商業的に入手可能なFullbor W6364であり、そしてアルミン酸ナトリウムは、Kuritaから商業的に入手可能なGilunal A(Al含有率53~55%)であった。乾燥固形分含有率(DS)をすべての組成物に対して、商業的(総グルー中のデンプン量)、及び絶対的(すべての成分、そして各成分中の乾燥固形分に応じて調節される)の両方に関して計算した。グルーのpHは11.5-11.7であった。
【0172】
表1に示された組成物を次いで、以下のプロトコルに従って段ボールを調製するために使用した。
【0173】
BHS(ウェットエンド)及びFosber(ドライエンド)のコルゲータによる段ボール生産に際して、デンプン接着剤組成物1~4を試験した。コルゲータは、数枚の紙を一緒にまとめることにより、シングル、ダブル、又はトリプルウォール型の段ボールを連続プロセスで形成するように設計された一連の機械である。プロセスは、段ロール上で熱及び蒸気によってコンディショニングされた紙シートで始まり、これによりシングルフェーサにおいて紙シートにフルート形状が与えられる。次いで、デンプン接着剤を一方の側でフルートの先端に被着し、内側ライナーをフルートに接着する(図6及び7参照)。1つのライナーが取り付けられた波状中芯(シングルフェーサ)を次いでダブルバッカーに運び、そこで外側ライナをシングルフェーサに接着する。
【0174】
種々異なる組成物1,2及び3に関してシングルウォールBフルート品質、及びダブルウォールEB及びBCフルート品質のために達成されたコルゲータ生産速度を表2に示す。
【0175】
【表2】
【0176】
表2から明らかなように、本発明の接着剤組成物は、ホウ砂のみの参照組成物と比較して、試験されるすべての品質の段ボール及び紙の組み合わせにおいて、生産速度の著しい向上を可能にする。さらに、本発明の接着剤組成物は、「MFCのみ」の参照組成物と比較して、生産速度の著しい向上を可能にする。セミケミカル中芯紙を含む最も重く最も困難なBCの組み合わせでは、本発明の接着剤組成物によるグルー能力は、ホウ砂のみ及びMFCのみの参照組成物と比較して、驚くべきことに著しく良好であり、運転能力及び生産速度を改善する。
【0177】
半硬化済みの段ボールの初期結合強度は当業者が手で裂くことによって、生産中及び生産後に測定し、そしてその結果を所定のスケールに従って等級分けした。このスケールでは、1は最低であり、そして4は最高であった(初期結合強度)。制御された温度及び湿度のもとで硬化及びコンディショニングを施した後、Fefco no. 11規格に基づくピン接着試験(Pin Adhesion Test (PAT))によって、最終接着強度(Newton (N)/m)を測定した。標準試験法を表3で概説する。
【0178】
【表3】
【0179】
表4には、手で裂くことにより、そして接着剤組成物1,2,3及び4で生産されたBフルート品質115EK/100WF/115EKのシングルフェーサ(SF)側及びダブルバッカー(DB)側でピン接着試験を行うことにより測定された段ボールの結合強度が示されている。マイクロフィブリル化セルロースを含む接着剤組成物は、「ホウ砂のみ」の組成物と比較して、段ボールのN/mで測定されたPAT-DBが増大することを示している。本発明の接着剤組成物はPATで測定して圧倒的に最高の接着強度をもたらす。MFC及びアルミン酸ナトリウムの組成物は、MFC及びホウ砂の組成物と比較して、PAT値をシングルフェーサに関しては+57%だけ増大させる。本発明の接着剤組成物はまた、ボードを手で裂くことにより評価して、そしてホウ砂のみ又はMFCのみの組成物と比較して、又はMFC及びホウ砂の組成物と比較して、最高の初期又は半硬化時の結合強度をもたらす。
【0180】
【表4】
【0181】
理論に縛られたくはないが、これらの驚くべき結果は、接着剤の改善された湿潤性、浸透性、及び弾性(高い貯蔵弾性率)によって説明することができる。これらは、マイクロフィブリル化セルロースの添加によって提供され、加熱時の接着剤の水素結合架橋能力の増大によって組み合わせされ、利用可能なOH基を有するMFCの存在と、溶解されたアルミン酸ナトリウムの存在とによって提供される。これらは相乗的に作用すると考えられる。すなわち、安定性と弾性と接着性との組み合わされた関与は、各成分からの関与を個々に加える場合よりも大きい。半硬化グルー結合及び最終硬化グルー結合の強度が著しく改善されたことに関する1つの他の説明は、生デンプンのより多くの部分がゼラチン化されるのに対して、MFCがデンプン顆粒を捕捉し、顆粒の周りの湿分を保持することであり得る。アルミニウムイオンはより均一且つより高い熱伝達速度を提供することができ、接着性を高める。別の説明は、溶解されたアルミン酸ナトリウムが紙表面の繊維との相互作用を直接に、又は架橋によって改善することであると考えられる。紙強度を高めるためにアルミン酸ナトリウムを製紙業界で使用することは広く知られている。pH約11.5(例えばデンプン接着剤の場合)において、分子動力学シミュレーションは、アルミン酸イオンが、表面上の多価正イオンの結合、並びに界面水素結合に強く相互作用することを示している。
【0182】
理論に縛られたくはないが、低濃度の主要なアルミニウム担持化合物として四面体Al(OH) を有するアルミン酸ナトリウムのアルカリ性(高pH)アルミン酸塩溶液の性質が、より高濃度のAlO(OH) 2-を形成するための縮合を生じさせると考えられる。
【0183】
全体として見ると、接着剤組成物中にMFCを含むすべてのボードは、MFCなしのボードよりも平らである。
【0184】
全体として見ると、本発明に基づくMFCとアルミン酸ナトリウムとの組み合わせを用いると、グルー能力が著しく改善される。このようなグルー能力の改善は、生産速度及び段ボールの結合強度が、ホウ素のみの参照グルーと比較して高度に増大することによって表現される。ホウ砂のみの参照接着剤と比較して、MFCとアルミン酸ナトリウムとを組み合わせた接着剤の場合、生産速度を最大56%高めることさえできる。「中度」の複雑さを有する段ボール品質においては、MFCだけを含むホウ素非含有接着剤が良好な性能を有する。しかしながら、目下の結果は、本発明の接着剤組成物を使用すると、運転速度及びボード品質がさらに改善されることを明示している。こうして、本発明の接着剤は、すべての段ボール品質のために同じ(ホウ素非含有)接着剤を使用することを可能にする。このことは業界にとって大きな利点である。
【0185】
要約すれば、本発明の接着剤組成物は、プロセス中及び貯蔵中に高い安定性を示し、極めて良好な接着性能を提供し、平らなボードをもたらし、そして全てのボード品質において高い生産速度を可能にすることが判っている。
【0186】
これらの結果は、接着特性に対するMFCとアルミン酸塩との組み合わせの優れた効果を示す実験室試験によってさらに支持される。
【0187】
デンプンのみ、MFCのみ、アルミン酸ナトリウムのみの接着剤、及び本発明によるMFC・アルミン酸ナトリウム接着剤のブルックフィールド粘度、貯蔵弾性率(エラスティシティ)、及び保水性が図5に示されている。それぞれの接着剤の実験室レシピ及び調製手順は、表5に示されている。
【0188】
図5の上側の3つのパネルから判るように、アルミン酸ナトリウムは単独ではブルックフィールド粘度にさほど関与しない。しかしながらMFCはグルーの粘度を著しく高める。
【0189】
MFCとアルミン酸ナトリウムとの組み合わせは、金属イオン(ここではアルミン酸塩)を含まないがしかしその他の点では同じ接着剤に対して、同様の高い粘度をもたらす一方、保水性を著しく高める。
【0190】
MFCを含まないコンベンショナルな接着剤とは異なり、図5に示された貯蔵弾性率31Paの2種の接着剤(両方ともMFCを含む)は、線形粘弾性範囲内で主として弾性的な挙動を呈し、そしてプラトー値が判定される。
【0191】
図5のデータ全体は、MFCとアルミン酸ナトリウムとの組み合わせが、ゲル様材料を生じさせ、ひいてはゼラチン化デンプン及び生デンプンの両方を安定化するより良好な能力を示唆することを示している。
【0192】
アルミン酸ナトリウムは接着剤の保水性にはほとんど関与しない。それというのも、アルミン酸ナトリウムを含む接着剤の保水値は、添加剤を含有しない接着剤の保水値と同様であるからである。
【0193】
MFCとアルミン酸ナトリウムとの組み合わせの保水値は、同等の単一添加剤接着剤よりも高い。
【0194】
図5の下側パネルからは、MFCの存在が、顕著なせん断減粘挙動を維持しつつ、低せん断速度でより高い粘度をもたらすことが明らかに認識される。低せん断における高い粘度は、接着剤がゼラチン化デンプン及び生デンプンを懸濁状態に保つのを可能にする。このことは、MFCの存在が、アルミン酸ナトリウムとの組み合わせにおいても、容易な処理可能性を維持しながら、より安定な接着剤を製剤する機会を与えることを示唆する。
【0195】
全体として見ると、アルミン酸ナトリウムは単独では、接着剤の粘度、貯蔵弾性率、又は保水性に顕著に関与することはなく、これに対してアルミン酸塩とMFCとの組み合わせはレオロギー特性及び保水性を明らかに改善する。ゼラチン化試験は、アルミン酸塩とMFCとの組み合わせが結果として、ホウ砂参照グルーと比較してゼラチン化プロフィールをもたらすことをさらに示す。その結果は、段ボールの製造のために有益な、レオロジー特性と、保水値と、ゼラチン化プロフィールとの独自の組み合わせを有する本発明の優れた接着剤を示す。同様の結果がトウモロコシデンプンによっても得られた。
【0196】
【表5】
【0197】
実施例3
デンプン含有接着剤組成物の特性の改善、接着性に対する効果(MFC及び金属)
上記実施例2は、MFCとアルミン酸ナトリウムとの組み合わせがデンプン含有接着剤の特性を改善し、そして生産速度並びに接着性を高め得ることを示した。この実施例では、MFCと、他の酸化状態II以上の金属との組み合わせの、グルー特性に対する効果を実験室内で調査する。MFCと、アルミン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム(AZC)との組み合わせを、デンプン接着剤中で、そしてMFCを単独で含むデンプン接着剤と比較して試験した。コルゲータ加熱区分の入口におけるグルー能力及び結合速度を反映するゼラチン化ピーク粘度、及び接着剤の保水性を判定した。組成物を表6に示し、スタイン-ホール法に従って調製した(表5に示された手順)。
【0198】
【表6】
【0199】
実験室試験のために使用されるデンプンは、Amilina/Roquetteによって供給される天然小麦デンプンであった。ホウ砂は、HB Fullerから商業的に入手可能なFullbor W6364であり、そしてアルミン酸ナトリウムは、Kuritaから商業的に入手可能なGilunal A(Al含有率53~55%)であった。炭酸カルシウムはLhoist(CaCO含有率95~97%)から入手したRollovit 30であった。炭酸ジルコニウムアンモニウム(ジルコニウム含有率15%)をSigma Aldrichから購入した。乾燥固形分含有率(DS)を商業ベース(総グルー中のデンプン量)で計算した。グルーのpHは11.5~11.8であった。
【0200】
図9は、種々異なるデンプン接着剤組成物9~12のゼラチン化ピークの値を示している。比較試料(組成物no.9)は最低ゼラチン化ピーク値を呈する。3種の本発明の接着剤組成物10~12は、互いに比較すると同様の値を示すが、しかし比較組成物よりも2.3~2.7倍高い。ゼラチン化ピーク粘度の重要性はいくつかの工場試験で実証された。高いゼラチン化ピーク値は、段ボールの製造時の高い生産速度を反映させた。具体的には、高いゼラチン化ピーク粘度は、加熱区分の入口における困難な条件(例えばバー及びライナーの最適化されていない角度)下で行われるコルゲータ内の高速生産にとっては決定的なものであることが判った。これらの結果は、MFCとアルミニウムとの組み合わせ、並びにMFCと金属カルシウムとの組み合わせ、及びMFCと金属ジルコニウムとの組み合わせの両方が、デンプン接着剤の接着特性を改善するための優れた効果をもたらすことを明示する。
【0201】
さらに、実施例2におけるMFC及びアルミニウムを含む本発明の組成物に関して示されたものと同様に、MFCとジルコニウムとの組み合わせ、及びMFCとカルシウムとの組み合わせに関する保水値は、それぞれの金属イオンを含まない比較組成物よりも高い。
【0202】
理論に縛られたくはないが、金属の酸化状態が高ければ高いほど、MFCの重量kgに対する、又は重合可能な化合物(ここではデンプン)の重量kgに対する、又は接着剤組成物全体の重量kgに対する、改善された接着性を達成するのに必要な金属のモル量をより低減できる、と考えられる。
【0203】
実施例4
デンプン含有接着剤組成物の特性の改善、コルゲータ速度及び接着性に対する効果[MFC及びアルミン酸ナトリウム(液体)]
MFCと液体アルミン酸ナトリウムとを含む、表7の本発明の組成物No.13及び14を、実施例2に示されたプロトコルに従って調製した。デンプンは、Amilina/Roquetteによって供給される天然小麦デンプンであった。アルミン酸ナトリウムは、Alumichem から入手可能なAl含有率19.9%のAluPurePlus (APP)であった。接着剤の粘度を35Lory秒にし、そしてpHを11.7にするために、一次デンプン及び苛性ソーダの濃度を相応に調節した。
【0204】
【表7】
【0205】
上記プロトコル(実施例2)に従って段ボールを生産する際に、表7の組成物no.13及び14を使用した。白色ライナー紙を含むダブルウォールEBフルート品質において、組成物no.13の性能を組成物no.4(表1)の性能と比較した。同じコルゲータ設定値及び生産速度を両グルーのために使用した。段ボール特性を分析し、そして下記表8に示す。
【0206】
【表8】
【0207】
MFCとアルミニウムとの組み合わせを含む接着剤組成物は、MFC・ホウ砂組成物と比較して、上側ダブルバッカー(db)の結合強度を33%増大させる(表8)。さらに本発明のMFC・アルミニウム組成物は、比較組成物と比較して、ECT及びねじり剛性をそれぞれ2.6%及び17.5%増大させる。同じコルゲータ設定値で運転すると、本発明の接着剤のより高乾燥の固形物は、MFC・ホウ砂組成物と比較して、計算グルー消費量の増大におそらく関与した。グルー消費量は下記方法及び等式に従って計算した。すなわち空気乾燥した(一定の温度及び湿度の条件)段ボールの重量 - 紙の理想重量=差=グルー消費量。
【0208】
組成物no.13よりも低乾燥であり、且つ比較組成物no.4により等しい乾燥固形分を含む本発明の組成物no.14の性能を、セミケミカル中芯紙を含むダブルウォールBC品質において試験した。同じコルゲータ設定値及び生産速度を両グルーのために使用した。段ボール特性を分析し、そして下記表9に示す。
【0209】
【表9】
【0210】
この困難なBC品質においても、MFCとアルミニウムとの組み合わせを含む接着剤組成物は、MFC・ホウ砂組成物と比較して、上側及び下側の両ダブルバッカー(db)のための結合強度をそれぞれ7.1%及び12.9%増大させる(表9)。さらに、本発明のMFC・アルミニウム組成物は、比較組成物と比較して、ECT及びねじり剛性をそれぞれ2.8%及び5.4%増大させる。このように、EB品質において本発明の組成物no.13を用いて改善されたグルー能力及び結合強度の結果は、BC品質における本発明の組成物no.14に対しても確認された。
【0211】
MFCと液体アルミン酸ナトリウムとの組み合わせを含むデンプン接着剤はしたがって、複雑で重いダブルウォール品質において、ホウ砂含有参照接着剤と同じ生産速度を可能にすることを証明した。さらに、困難なダブルバッカー結合の改善されたボード特性及びより高い強度は、ホウ砂含有参照接着剤と比較して、本発明の接着剤によってより良好な接着特性が達成されることを実証する。
【0212】
実施例5
PVA含有接着剤組成物の特性の改善
表10に示された組成物を下記プロトコルに従って調製した。PVAグルー・ワン・バッグ・ミックス(ホウ酸を含むSupermixグルー、Borregaardによる「Supermix」として商業的に入手可能な粉末状混合物、PVA含有率約25%)を、撹拌しながら冷水に添加することにより、参照(比較組成物)を調製する。混合物を96℃まで加熱し、30分間にわたって撹拌する。最終接着剤中のホウ酸の濃度は0.5%であった。
【0213】
MFCと硫酸アルミニウムとを含む本発明の接着剤は同様に調製され、先ずMFCを、次いで硫酸アルミニウムを添加し、続いて水と、ホウ酸なしのSupermixグルーとを添加する。混合物を96℃まで加熱し30分間にわたって撹拌した。実施例では、液体硫酸アルミニウム(Kemiraにより提供、Al3+含有率4.2%、Al含有率8.1%)、又は固体硫酸アルミニウム水和物(Al(SO ・ x HO,7.9~9.4% Al, Sigma Aldrich)を使用した(それぞれ表10及び表12)。
【0214】
【表10】
【0215】
表10の接着剤組成物をソリッドボード大量生産において試験した。試験中、種々異なる品質の紙をテストし、4~5枚の紙を貼り合わせた。こうして生産されたソリッドボードの品質パラメータを表11に要約する。
【0216】
【表11】
【0217】
表11から明らかなように、本発明の接着剤組成物は、ホウ酸含有接着剤組成物を凌ぐ種々の改善された効果、例えば破裂強度の12%増大、ECT(edge wise crush resistance)(エッジクラッシュ抵抗)の11%増大、たわみの19%減少、及び吸水性の52%減少をもたらす。
【0218】
さらに、接着性が著しく増大したことにより、最大運転速度は144 m/minに達することができた。接着性の増大は、下に示す初期タック測定値と合致する。
【0219】
また、ボードは、ホウ酸含有接着剤組成物を使用した参照ボードよりも平らであった。したがって、より数多くのボードを次いで積み重ねることができる。また、本発明の接着剤組成物を使用して調製されたソリッドボードはより平滑なカットエッジを有した。すなわち、切断後、エッジは平滑にシールされた外観を有した。
【0220】
さらに、表12に示された接着剤組成物を、初期タック及び水取り込み率に関して試験した。
【0221】
【表12】
【0222】
【表13】
【0223】
組成物を下記一般プロトコルに基づいて調製した。
【0224】
ホウ酸を含むグルー粉末を冷水に1:2.33の比で添加することにより、組成物No.20を調製した。次いで、申し分のない分散体に達するように、混合物を分散ブレードを用いて400rpmで撹拌した。次いで、組成物を油浴内で95℃まで加熱し、そこで10~20分間にわたって連続的に撹拌しながら保持した。冷却後、グルーは使用の準備が整った。
【0225】
先ずMFCを冷水中に分散し、そして混合物を分散ブレードを用いて5分間にわたって400rpmで撹拌することにより、組成物No.21を調製した。次いで、Supermixグルー粉末(ホウ酸なし)を添加し、そして混合物をさらに10分間にわたって撹拌した。最後にこれを95℃まで加熱し、そして400rpmで連続的に撹拌しながら10~20分間にわたってその温度に維持した。
【0226】
本発明の接着剤組成物(組成物17,18及び19)を調製するために、硫酸アルミニウムをSupermix粉末と一緒に導入した。その他に関しては、組成物No.21を調製するためのものと同じ手順を用いた。
【0227】
グルー粉末(ホウ酸なし)及び硫酸アルミニウムを冷水に添加することにより、組成物No.22を調製した。次いで、申し分のない分散体に達するように、混合物を分散ブレードを用いて400rpmで撹拌した。次いで、混合物を油浴内で95℃まで加熱し、そこで10~20分間にわたって連続的に撹拌しながら保持した。冷却後、グルーは使用の準備が整った。
【0228】
ASTM D6195ループ・タック試験(Loop tack tests)に基づく方法を用いて、初期タックを判定し、試験はテクスチャ分析装置(TA.XTplus, stable micro systems)上で実施した。2組のソリッドボードストリップを切り取った。1組は上側部分175x25mm及び下側部分90x25mmであった。上側部分をループとして形成し、テクスチャ分析装置の上側クロスヘッドに装着し、下側部分を折り曲げて、これが下側クランプで装着され得るように、そして25x25mmの表面を試験のために利用できるようにした。0.29±0.1gのグルーを下側部分に被着した。この測定法のための設定一式は、図1に示されている。次いで上側部分を、下側部分からクロスヘッド速度10mm/s~35mmで接近させることにより、両部分が完全に接触するようにした。接触状態を15秒間にわたって維持し、次いで上側部分をクロスヘッド速度で引き上げた。5kgのロードセルを使用した。紙片を引き裂くのに必要な力を記録し、初期湿潤タックの尺度として比較した。
【0229】
水取り込み率を判定するために、接着剤をアルミニウムパン上に注ぎ、そして換気扇付きの炉内で105℃で24時間にわたって乾燥させた。乾燥済みフィルムを秤量し、そして蒸留水とともにガラス内へ挿入した。水取り込み率を測定するために、試料を水から取り出し、表面をティッシュで注意深く乾燥させ、そして再び秤量した。水取り込み率を(等式1)に見られるように計算した。
【化2】
上記式中、mw及びmdは、それぞれ湿潤試料及び乾燥試料の質量である。測定は先ず1時間にわたって20分毎に、次いで4時間にわたって1時間毎に行い、そして次いで24時間後に最終測定を行った。最終測定では値は安定していた。
【0230】
初期タックの結果を図2及び3に示す。
【0231】
水取り込み率の結果を図4に示す。
【0232】
図面から明らかなように、(参照)組成物No.20(望ましくないホウ酸を含有する)は最高の初期タックを示した。ホウ酸をMFCのみと置換することにより、初期タックは約50%だけ減少し(組成物No.21)、そしてホウ酸を硫酸アルミニウムのみと置換することにより、初期タックは約40%だけ減少する(組成物No.22)。しかしながら、MFCと硫酸アルミニウムとの組み合わせを使用すると、MFCのみ、又は硫酸アルミニウムのみを使用する場合に対して、初期タックを著しく改善することができる。0.2%のMFC及び0.2%の硫酸アルミニウム(0.1%の無水硫酸アルミニウム)の量を使用すると(組成物17参照)、初期タックは、ホウ酸含有接着剤組成物のものと同様である。
【0233】
したがって、MFCと硫酸アルミニウムとの組み合わせを使用することによって、組成物のタッキネスを著しく劣化させることなしに、接着剤PVA系組成物中のホウ酸を完全に回避することができる。
【0234】
さらに、図4から明らかなように、ホウ酸含有接着剤組成物がかなり高い水取り込み率を示している。高い水取り込み率は一般には望ましくない。なぜならば、このような接着剤が被着されるソリッドボード箱はしばしば、農業のような又は魚介類の包装のための高湿環境内でしばしば使用されるからである。しかしながら、MFCを組成物に添加することにより、水取り込み率を驚くほどに低減することができる。
【0235】
全体として見ると、MFCと硫酸アルミニウムとの組み合わせを用いると、接着剤組成物からのホウ酸の完全な除去が可能になる一方、これと同時に、水取り込み率を低減し、タッキネスをほとんど一定に保つことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】