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特表2023-514540凍結乾燥医薬品の目標残留水分含有量
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(54)【発明の名称】凍結乾燥医薬品の目標残留水分含有量
(51)【国際特許分類】
   F26B 5/06 20060101AFI20230330BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230330BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230330BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230330BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
F26B5/06
A61K9/19
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K38/02
A61K39/00 H
A61K47/68
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/18
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547191
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(85)【翻訳文提出日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 US2021016569
(87)【国際公開番号】W WO2021158759
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】62/969,961
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】タン シャオリン
(72)【発明者】
【氏名】クレッペ メアリー
(72)【発明者】
【氏名】チャリ ラヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ツル フランコ
【テーマコード(参考)】
3L113
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AC24
3L113AC67
3L113BA02
3L113BA19
3L113BA36
3L113DA30
4C076AA30
4C076CC29
4C076DD08
4C076DD38Q
4C076DD41Z
4C076DD46
4C076DD51Q
4C076DD60Z
4C076DD67Q
4C076EE23Q
4C076FF63
4C076GG06
4C084AA03
4C084AA06
4C084BA03
4C084BA41
4C084MA44
4C084NA03
4C084NA20
4C084ZC41
4C085AA13
4C085AA14
4C085DD84
4C085EE01
(57)【要約】
室温での長期貯蔵または冷蔵貯蔵における改善された安定性のための、タンパク質製剤を調製するための凍結乾燥方法が提供される。具体的には、本出願は、3~5%の残留水分などの凍結乾燥製品の残留水分の目標パーセントを得るための凍結乾燥方法を提供する。凍結乾燥の二次乾燥は、一次乾燥の棚温度と類似する温度下で、制御された脱着速度で行うことができる。代替的に、凍結乾燥は、区別された二次乾燥ステップなしで行われ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥ケーキを調製する方法であって、
少なくとも1つの溶媒分子と、ペプチドまたはタンパク質とを含む製剤を調製する工程;および
前記製剤を凍結乾燥に供して、前記凍結乾燥ケーキを得る工程
を含み、
前記凍結乾燥ケーキを得る工程が、
前記製剤をフリーズドライヤーのチャンバ内に配置することと、
前記製剤を凍結することと、
前記製剤に対して第1の乾燥を行って、凍結した前記少なくとも1つの溶媒分子を昇華によって除去することであって、前記第1の乾燥が、約0℃以下である前記フリーズドライヤーの棚温度で行われる、除去することと、
前記製剤に対して第2の乾燥を行い、前記少なくとも1つの溶媒分子を除去して、前記凍結乾燥ケーキ中の前記少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセントを得ることであって、前記第2の乾燥が、0℃以下である前記フリーズドライヤーの前記棚温度で行われる、得ることと
を含む、方法。
【請求項2】
前記凍結乾燥ケーキ中の前記少なくとも1つの溶媒分子の前記目標重量パーセントが、制御された乾燥速度での前記第2の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度によって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凍結乾燥ケーキ中の前記少なくとも1つの溶媒分子の前記目標重量パーセントが、前記第2の乾燥の持続時間によって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度が、前記第1の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度と等しいか、またはそれよりもわずかに高い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度が、前記第1の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度と同じである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度が、前記第1の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度よりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度が、前記第1の乾燥のための前記フリーズドライヤーの前記棚温度よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記凍結乾燥ケーキ中の前記少なくとも1つの溶媒分子の前記目標重量パーセントが、約3~5%、約4%、または約4.5%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドまたはタンパク質が、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、タンパク質医薬品または薬物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記凍結乾燥ケーキが、室温での貯蔵条件下で安定であるか、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの溶媒分子が水分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記フリーズドライヤーの前記チャンバ内の圧力の変化に基づいて、前記第1の乾燥の終了を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記凍結乾燥ケーキの温度が、前記第1の乾燥における前記凍結乾燥ケーキの崩壊温度より低い、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記製剤が、緩衝剤、賦形剤、安定剤、凍結保護剤、増量剤、可塑剤、またはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記緩衝剤が、酢酸塩および/またはヒスチジン塩酸塩を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記緩衝剤が、約5.3または約6のpH値を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記賦形剤がポリソルベート80である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記安定剤がスクロースであり、前記ペプチドまたはタンパク質に対するスクロースの比が、約1:1、約3:1、約10:1、または約1:1~10:1である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記安定剤が、ポリオール、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、アミノ酸、またはそれらの組み合わせである、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記凍結保護剤が、界面活性剤、糖、塩、アミノ酸、またはそれらの組み合わせである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、タンパク質製剤の凍結乾燥のための方法に関する。具体的には、本出願は、室温貯蔵に対して安定であるか、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する凍結乾燥医薬品の残留水分の目標パーセントを得るための凍結乾燥プロセスを提供する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどのバイオ医薬製剤は、様々な形態の分解、凝集、または化学修飾により、長期貯蔵のために溶液中では安定していない。凍結乾燥、例えば、制御された条件下でのフリーズドライは、タンパク質製剤などのバイオ医薬製剤を固体状態に変換して、長期貯蔵に対する製剤の安定性を改善するための好ましい方法である。凍結乾燥製品、例えばケーキは、好ましくは、約2~8℃および/または室温で比較的長期間にわたって貯蔵される。また、ケーキは、世界中で商業的な輸送および貯蔵中に、特に電気および冷蔵が信頼できない可能性がある場所で、遅い時期のタンパク質薬物に対する冷蔵の必要性を排除するために、室温でより長い貯蔵安定性を有することが望ましい場合がある。
【0003】
凍結乾燥は、長い処理時間を必要とする比較的高価なプロセスである。凍結乾燥プロセスを最適化する主な目的は、製品を崩壊させる危険にさらすことなくプロセスを最適化すること、一次乾燥の見かけの終点を決定すること、および凍結乾燥製品の望ましい残留水分含有量を達成するために二次乾燥を最適化することを含み得る。所与のバイオ医薬製剤のフリーズドライサイクルの最適化には、凍結乾燥プロセス、製剤特性、装置容量、およびプロセスパラメータに関連する実用的なリスクのバランスの取れた理解が必要である。(Chang et al.,2004,American Association of Pharmaceutical Scientists,pages 113-138,Freezing-drying process development for protein pharmaceuticals,Lyophilization of Biopharmaceuticals(非特許文献1))
【0004】
長期間の室温貯蔵に対する安定性を有する、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する凍結乾燥製品を生成することができる凍結乾燥方法が必要とされていることが理解されよう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chang et al.,2004,American Association of Pharmaceutical Scientists,pages 113-138,Freezing-drying process development for protein pharmaceuticals,Lyophilization of Biopharmaceuticals
【発明の概要】
【0006】
凍結乾燥は、長期貯蔵のためにバイオ医薬製剤を固体状態に変換するために好ましい方法であることが多い。凍結乾燥ケーキは、比較的長期間にわたって室温で貯蔵することが好ましい場合がある。本出願は、室温貯蔵に対して増加した長期間の製品安定性を有するか、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する、凍結乾燥製品の残留水分の目標パーセントを得るための凍結乾燥方法を提供する。
【0007】
凍結乾燥ケーキを調製する従来の方法は、製剤をフリーズドライヤーのチャンバに配置すること、例えば、製剤をフリーズドライヤーの凍結乾燥チャンバの棚上の容器/バイアル中に配置することと、製剤を凍結すること、例えば、-30℃未満の低い棚温度で凍結することと、製剤に対して一次乾燥を行い、凍結した溶媒分子を昇華によって除去することであって、一次乾燥が、比較的低い棚温度であるフリーズドライヤーの棚温度、例えば、典型的には約0℃以下で、チャンバ圧力が通常200ミリトル未満であるような高真空下で行われる、除去することと、製剤に対して二次乾燥を行い、脱着した溶媒分子を除去して、凍結乾燥ケーキ中の溶媒分子の目標重量パーセントを得ることであって、二次乾燥が、200ミリトルより低いチャンバ圧力などの高真空下で、25℃以上の比較的高い棚温度で行われる、得ることと、を含む。
【0008】
本開示は、凍結乾燥ケーキを調製する方法を提供し、本方法は、少なくとも1つの溶媒分子と、ペプチドまたはタンパク質とを含む製剤を調製することと、製剤を凍結乾燥に供して、凍結乾燥ケーキを得ることと、を含み、凍結乾燥ケーキを得ることは、(a)製剤をフリーズドライヤーのチャンバに配置すること、例えば、製剤をフリーズドライヤーの凍結乾燥チャンバの棚上の容器/バイアル中に配置することと、(b)製剤を凍結することと、(c)製剤に対して第1の乾燥、例えば、一次乾燥を行い、少なくとも1つの凍結した溶媒分子を昇華によって除去することであって、第1の乾燥が、約0℃以下であるフリーズドライヤーの棚温度で行われる、除去することと、(d)製剤に対して第2の乾燥、例えば、二次乾燥を行い、少なくとも1つの溶媒分子を除去して、凍結乾燥ケーキ中の少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセントを得ることであって、第2の乾燥が、約0℃以下であるフリーズドライヤーの棚温度で行われる、得ることと、を含む。いくつかの実施形態では、区別された二次乾燥は存在しなかった。いくつかの例示的な実施形態では、凍結乾燥ケーキ中の少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセントは、約3~5%、約4%、または約4.5%である。
【0009】
いくつかの例示的な実施形態では、製剤中の少なくとも1つの溶媒分子は、水分子である。いくつかの例示的な実施形態では、本出願の製剤中のペプチドまたはタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、タンパク質医薬品または薬物である。いくつかの例示的な実施形態では、本出願の方法を使用して生成された凍結乾燥ケーキは、室温での貯蔵条件下で安定であるか、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する。
【0010】
いくつかの態様では、本出願の凍結乾燥ケーキ中の少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセントは、制御された乾燥速度での第2の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度によって制御される。いくつかの態様では、本出願の凍結乾燥ケーキ中の少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセントは、第2の乾燥の持続時間によって制御される。
【0011】
いくつかの態様では、第2の乾燥、例えば二次乾燥のフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥、例えば一次乾燥のフリーズドライヤーの棚温度と同じであり得る。いくつかの態様では、第2の乾燥のフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥のフリーズドライヤーの棚温度よりも高くすることができる。いくつかの態様では、第2の乾燥のフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥のフリーズドライヤーの棚温度よりも低くすることができる。いくつかの態様では、第2の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度と等しいか、またはそれよりもわずかに高い。
【0012】
いくつかの態様では、本出願の方法は、フリーズドライヤーのチャンバ内の圧力の変化に基づいて、第1の乾燥の終了を決定することをさらに含む。いくつかの態様では、凍結乾燥ケーキの温度は、第1の乾燥における凍結乾燥ケーキの崩壊温度より低い。
【0013】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願の製剤は、緩衝剤、賦形剤、安定剤、凍結保護剤、増量剤、可塑剤、またはそれらの組み合わせをさらに含み、安定剤は、ポリオール、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、アミノ酸、またはそれらの組み合わせであり、凍結保護剤は、界面活性剤、糖、塩、アミノ酸、またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様では、緩衝剤は、酢酸塩および/またはヒスチジン塩酸塩を含み、緩衝剤は、約5.3または約6のpH値を有し、賦形剤は、ポリソルベート80である。いくつかの態様では、安定剤は、スクロースであり、スクロースのペプチドまたはタンパク質に対する比は、約1:1、約3:1、約10:1、または約1:1~10:1である。
【0014】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の説明および添付の図面と併せて考慮される場合、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態および多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修正、追加、または再配置は、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Patelらによって示されるような凍結乾燥プロセスにおけるチャンバ圧力の測定を示す。静電容量式圧力計(capacitance manometer)によって測定されるようなチャンバ圧力、ピラニ真空計(Pirani gauge)によって測定されるようなチャンバ圧力、およびチャンバ圧力設定点(Vac SetPt)を、Patelらに従って乾燥時間に対してプロットした。
図2】3つのステップ、例えば、凍結、一次乾燥、および二次乾燥を含む従来の凍結乾燥プロセスを示す。従来の凍結乾燥は、棚温度約-45℃での凍結、棚温度約-20℃または約-25℃での一次乾燥、および棚温度約40℃などのより高い温度での二次乾燥を含む3つのステップで行われる。従来、約40℃などの二次乾燥棚温度は、常に、約-20℃または-25℃などの一次乾燥棚温度よりも著しく高い。
図3】例示的な実施形態による、残留溶媒の目標パーセントを達成するために、二次乾燥を制御された脱着速度で行うことによる、本出願の独自の凍結乾燥プロセスを示す。本出願の二次乾燥は、例示的な実施形態によれば、一次乾燥の棚速度と同じ温度、一次乾燥の棚温度よりもわずかに高い温度、または一次乾燥の棚温度よりも低い温度などの低温で行われる一次乾燥の延長とみなされる。いくつかの態様では、区別される二次乾燥は存在しない。
図4】Patelらおよび例示的な実施形態による、凍結乾燥プロセスにおける氷昇華の完了を示す、一次乾燥の見かけの終点、例えば、オンセット、中点、およびオフセットを定義するための指標として、ピラニ真空計(PG)の測定値と静電容量式圧力計(CM)の測定値との間の差、例えばPG-CMの使用を示す。Patelらおよび例示的な実施形態に従って、試料中の関連する残留水分パーセントに対応するPG-CMの測定値を図に示した。
図5】例示的な実施形態による昇華の完了後の脱着速度を示す。二次乾燥は、例示的な実施形態によれば、0℃、-10℃、-20℃、または-30℃の棚温度で一次乾燥を延長することによって、一次乾燥の同じ棚温度で行った。いくつかの態様では、区別される二次乾燥は存在しなかった。
図6】例示的な実施形態による推奨貯蔵温度を含む残留水分含有量のパーセントに対応する凍結乾燥タンパク質製剤のガラス転移温度を示す。
図7】例示的な実施形態による、持続時間が延長された凍結乾燥プロセスにおける、静電容量式圧力計(CM)およびピラニ真空計(PG)によって測定されたチャンバ圧力の測定値を示す。例示的な実施形態に従って、チャンバ圧力を乾燥時間に対してプロットした。PGとCMとの間の差、例えば(PG-CM)を使用して、例示的な実施形態による一次乾燥のオフセット点を決定した。
図8】例示的な実施形態による、一次乾燥の持続時間が延長された-20℃または-30℃の棚温度に対する氷昇華の完了後の脱着速度を示す。得られた含水率を、例示的な実施形態に従って、オフセットからの持続時間に対してプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
凍結乾燥は、タンパク質医薬品を調製および製造するための一般的な方法である。凍結乾燥、例えば、フリーズドライを使用して、昇華を通じてタンパク質製剤から氷または他の凍結した溶媒を除去し、脱着を通じて結合した水分子を除去することができる。凍結乾燥プロセスを開発するための重要なプロセスパラメータを選択することには、様々な課題がある。タンパク質製剤の従来の凍結乾燥は、3つのステップ、例えば、凍結、一次乾燥(昇華)、および二次乾燥(脱着)、例えば、約-45℃での凍結、約-20℃での一次乾燥、および約40℃、約35℃~55℃、または約25℃~55℃というより高い温度での二次乾燥で実施することができる。一次乾燥完了後のタンパク質製剤の乾燥製品は、製品に結合した結合水分子の存在により、依然として約5~10%の含水率を有し得る。従来の二次乾燥は、一般に、約40℃、約35℃~55℃、または約25℃~55℃での乾燥など、約1%未満または約2%未満の残留水分含有量に達するように、一次乾燥のものよりもはるかに高い温度で行われる。
【0017】
本出願は、従来の凍結乾燥プロセスとは実質的に異なる、独自の凍結乾燥プロセスを提供する。例えば、本出願は、約4.0%、約4.5%、または約3~5%での残留水分の目標重量パーセントを達成するために、制御された脱着速度で二次乾燥を行うことによって、独自の凍結乾燥プロセスを提供する。本出願の二次乾燥は、一次乾燥の棚速度と同じ温度、一次乾燥の棚温度よりもわずかに高い温度、または一次乾燥の棚温度よりも低い温度などの低温で制御された脱着速度下で行うことができるため、一次乾燥の延長とみなされ得る。一態様では、第2の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度と等しいか、またはそれよりもわずかに高い。代替的に、凍結乾燥は、区別された二次乾燥ステップなしで行われ得る。本出願の二次乾燥は、従来の二次乾燥を行う温度よりも実質的に低い温度で行うことができるため、本出願の凍結乾燥は、従来の凍結乾燥とは実質的に異なる。
【0018】
例えば、凍結、一次乾燥、および二次乾燥を行う凍結乾燥プロセスを開発するために、重要なプロセスパラメータを選択することには、様々な課題がある。凍結乾燥の重要なプロセスパラメータは、主に、製品製剤の崩壊温度および/または凍結状態のガラス転移温度(Tg’)などの製品製剤の物理化学的特性によって決定される。凍結および一次乾燥段階中に、製品温度を有利な低温に維持することによって、乾燥製品の外観および特性の変化を回避するために、凍結乾燥プロセス中に乾燥プロセスを十分に制御することができる。例えば、各プロセス段階の棚温度、チャンバ圧力、持続時間およびランプ速度を含む乾燥プロセスは、凍結乾燥プロセス中に十分に制御され得る。本出願は、二次乾燥のための棚温度および持続時間を制御することによって、凍結乾燥製品中の目標含水率を達成するためのプロセスを提供する。
【0019】
凍結乾燥プロセスの凍結ステップは、製品製剤を凍結して、乾燥のための固体マトリックスを生成することを含む。場合によっては、凍結ステップは、追加のアニーリングステップ(Chang et al.)または制御された核形成ステップ(Fang et al.,Effect of Controlled Ice Nucleation on Stability of Lactate Dehydrogenase During Freeze-Drying,J Pharm Sci.2018 March,107(3):824-830)を含んでもよい。凍結乾燥プロセスの一次乾燥ステップは、製品の温度を低い目標レベルに維持しながら、圧力を低減させることによって、昇華を通して、氷などの凍結した溶媒を除去することを含む。昇華プロセスは、物質が液相(水など)を経由せずに、固相(氷など)から気相(蒸気など)に直接変化することを指す。昇華の発生には、一般に低圧が必要である。昇華、例えば吸熱プロセスは、物質が液体として存在することができる最低圧力に対応する状態図における物質の三重点以下の温度および圧力で発生する。また、昇華は吸熱相変化であるため、一次乾燥中に凍結乾燥棚温度を製品温度より高い温度に制御することによって提供される、凍結物質への熱エネルギーの追加が必要である。製品温度は、棚温度およびチャンバ圧力の両方を制御することにより、崩壊温度(またはTg’)よりも数度低く制御される。凍結乾燥プロセスの二次乾燥ステップは、目標とされるレベルで所望の残留水分含有量に達するように、脱着を通して結合された水を除去することを含む。乾燥プロセス中、凝縮器は、効果的な変換および昇華溶媒を固体状態に閉じ込めるために、低温(例えば、-50℃より低い)および低圧で制御される。
【0020】
フリーズドライ装置(freeze-drying equipment)は、冷蔵システム、真空システム、制御システム、製品チャンバ、および凝縮器を備えることができる。フリーズドライヤー(freeze-dryer)の製品チャンバの棚温度は、一次乾燥および二次乾燥を行うために適切に制御される必要がある。凍結乾燥プロセスの一次乾燥ステップ中、フリーズドライヤーのチャンバの圧力は、真空を導入することによって、凍結製品温度での凍結溶媒の飽和蒸気圧よりも低く減少させることができる。すべてまたは実質的にすべての凍結溶媒が昇華によって除去されるとき、一次乾燥ステップは完了に達するとみなすことができる。一次乾燥ステップの完了後、製品製剤中に結合した非凍結溶媒が残っている場合、それらは、従来の凍結乾燥プロセスのための二次乾燥中には、はるかに高い温度での脱着によって除去され得る。(Chang et al.)
【0021】
例えば、PG(ピラニ真空計)チャンバ圧力のオンセット中点およびオフセットからの一次乾燥(昇華)の見かけの終点は、比較圧力測定(ピラニ真空計対静電容量式圧力計)、露点、ガスプラズ分光法、水蒸気濃度、凝縮器圧力、圧力上昇試験または製品熱電対などの様々な方法によって決定することができる(Patel et al.,Determination of end point of primary drying in freeze-drying process control,AAPS PharmSciTech,Vol.11,No.1,March 2010)。ピラニ真空計は、チャンバ内のガスの熱伝導率を測定する。凍結乾燥中は、チャンバ内の絶対圧力を測定する静電容量式圧力計を使用して、チャンバ圧力を制御することができる。ピラニ真空計は、一次乾燥中に、チャンバ内のガスの実質的にすべてが水蒸気であるときに、静電容量式圧力計よりも約60%高い値を読み取り、これは、水蒸気の熱伝導率が窒素の熱伝導率の約1.6倍であるためである。ピラニ圧力が急激に低下し始めると、例えば、オンセット点は、多くの場合、水蒸気から窒素へのガス組成の変化を示し、これは、一次乾燥の終了を示すことができる(Patel et al.)。例えば、PGチャンバ圧力の変化は、含水率に関連し得る。静電容量式圧力計によって測定されるチャンバ圧力、ピラニ真空計によって測定されるチャンバ圧力、およびチャンバ圧力設定点(Vac SetPt)を、図1に示すように乾燥時間に対してプロットする(Patelらの図7に従って)。残留水分のパーセントは、重量測定および/またはカール・フィッシャー法によって測定する。
【0022】
一般に、凍結乾燥プロセスは、3つのステップ、例えば、凍結、一次乾燥、およびより高温での二次乾燥を含む。例えば、図2に示すように、従来の凍結乾燥は、棚温度約-45℃で少なくとも約120分間の凍結、棚温度約-20℃で約1~3日間の一次乾燥、および約40℃などのはるかに高い温度での二次乾燥を含む3つのステップで行うことができる。従来の凍結乾燥プロセスでは、約-10℃~約-35℃の範囲の棚温度、または約-40℃~約-45℃の範囲の棚温度などの低温での一次乾燥中に、真空下で昇華することにより、バルク水を除去することができる。二次乾燥の間、図2に示すように、製品中に残っている結合していない非凍結の水は、約40℃の棚温度などの高温での急速な脱着によって除去することができる。一般に、凍結乾燥製品の残留水分含有量は、従来の二次乾燥を高温で適用することによって約1%未満に達することができる。典型的には、凍結乾燥製品の残留水分含有量は、二次乾燥の棚温度および持続時間の増加によって低減させることができる。
【0023】
本出願は、残留溶媒の目標パーセントを達成するために、制御された脱着速度で二次乾燥を行うことによって、従来の凍結乾燥プロセスとは実質的に異なる独自の凍結乾燥プロセスを提供する。いくつかの実施形態では、区別される二次乾燥は存在しない。いくつかの例示的な実施形態では、本出願の凍結乾燥プロセスの二次乾燥は、約4.0%、約4.5%または約3~5%などの凍結乾燥製品の残留水分の目標重量パーセントを達成するために、制御された脱着速度下で行われ得る。いくつかの態様では、本出願の凍結乾燥プロセスの二次乾燥は、制御された脱着速度下で行うことができ、本出願の凍結乾燥プロセスにおける二次乾燥の棚温度は、従来の二次乾燥の棚温度よりもはるかに低くすることができる。例えば、本出願の二次乾燥は、約-20℃、約-10℃~約-30℃の範囲、約0℃~約-30℃の範囲などの低温で、一次乾燥の棚温度と同じ温度、一次乾燥の棚温度よりもわずかに高い温度、または図3に示す一次乾燥の棚温度よりもわずかに低い温度で行われるため、一次乾燥の延長とみなされ得る。対照的に、従来の二次乾燥は、約40℃などの高温で、または約35℃~約55℃の範囲で行われる。
【0024】
一次乾燥中、昇華フロントは、製品内を移動して、乾燥した製品、例えば、ケーキを、氷表面界面の上に堆積させ、昇華した氷晶を形成する。望ましいケーキは、ほぼ均一な外観を有し、表面または縁部に沿って若干の剥がれまたは潰れがある。昇華完了後のタンパク質製剤の乾燥製品は、製品に結合した結合水分子の存在により、5~10%の含水率を有し得る。一般に、凍結製品は、構造上、結晶質ガラスまたは非晶質ガラスのいずれかに分類され得る。凍結製品のガラス転移温度(Tg’)は、一次乾燥中の凍結乾燥ケーキの崩壊温度(Tc)と強く相関することが見出されている。ガラス転移温度は、乾燥製品が剛性ガラス状態からより高い可動性を有する柔軟性ゴム状態に移行する温度領域とみなすことができる。ケーキ構造の完全性は、製品温度がTg’未満に維持されるときに、無視できるほどの可動性でガラス状態で維持することができる。一次乾燥中に製品温度をタンパク質製剤のTg’未満に維持して、ケーキの崩壊を防止することが重要である。(Chang et al.)ケーキが柔らかくなると、ケーキの構造が維持できないことが多い。
【0025】
ケーキがフリーズドライ中に崩壊またはメルトバックする兆候がないことが望ましい。望ましい良好なケーキは、剛性の巨視的構造を有し、崩壊、変色、およびメルトバックを有してはならない。ケーキの崩壊(または部分的崩壊)は、一次乾燥中の(氷昇華界面での)製品製剤中の結晶剤の共晶融解に起因し得る。製品温度を、一次乾燥中に製品製剤の結晶成分の共晶融解温度より低く保つことが望ましい。(Chang et al.)ケーキのメルトバックは、一次乾燥中の不完全な氷の昇華によって引き起こされる部分的または完全なケーキの崩壊の形態とみなすことができる。製品温度は、氷昇華界面における蒸気圧と相関している。蒸気圧は、棚温度およびシステム真空レベルの設定値によって制御される製品への熱伝達速度に依存する。対象製品の温度は、一次乾燥中に棚温度およびシステム真空レベル(圧力)を制御することによって適切に維持することができる。
【0026】
一実施形態では、プロセスは、容器内にタンパク質および賦形剤を含有する水性試料を得るステップを含む。容器は、バイアル、ガラスバイアル、注射器バレル、またはデュアルチャンバ自動注入器のチャンバであり得る。容器は、水蒸気のガス放出を可能にするのに十分に開放し得る。水性試料を含む容器がチャンバ内に配置され、試料から熱が除去されて第1の温度を達成することができ、ここで氷晶が試料中に形成される。チャンバから空気を除去して、第1の圧力を達成することができる。次いで、熱エネルギーを試料に加えて、第2の温度を達成して、昇華による試料からの水の除去を可能にすることができる。昇華後、残留水が試料内に閉じ込められたままになる可能性があり、第2の乾燥ステップを通じて除去することができる。一態様では、初期の凍結および一次乾燥ステップ中に、毎分約0.5℃の速度で水性試料から熱が除去され得る。一態様では、第1の温度は、約-45℃である。
【0027】
賦形剤は、医薬製剤中に活性原薬と一緒に添加される成分である。賦形剤は、原薬を安定化する、および/または製剤に嵩を加えるのを助けることができる。成分という用語は、賦形剤と互換的に使用され得る。賦形剤は、原薬の緩衝、増量、可溶化、安定化、可塑化、および保護のような様々な目的のための様々な物質を含む。保護剤は、熱応力および/または撹拌のような物理的応力から保護することができる。凍結保護剤は、氷界面応力および凍結濃度応力などの凍結応力からタンパク質を保護することができる。リオプロテクタントは、タンパク質を凍結および脱水ストレスから保護することができる。賦形剤は、安定剤を含み得る。安定剤は、凍結乾燥前溶液に添加されて、凝集または他の分解に対してタンパク質を安定化することができる。凍結乾燥プロセス中にガラス動力学を制御することによって、または安定剤とタンパク質との特異的相互作用を通してタンパク質の本来の構造を貯蔵するのを助けることによって、安定化が生じ得る。
【0028】
室温での長期貯蔵に対して安定性を有するバイオ医薬製剤の生成のニーズは、凍結乾燥プロセスを開発するための増加した需要につながった。本開示は、望ましい特性および残留水分含有量を有する凍結乾燥製品を生成するためのバイオ医薬製剤の凍結乾燥のための方法を提供することによって、前述の要求を満たすための方法を提供する。
【0029】
本明細書で開示される例示的な実施形態は、室温貯蔵に対して安定であるか、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する凍結乾燥製品の残留水分の目標パーセントを得るための凍結乾燥プロセスを提供することによって、前述の要求を満たす。
【0030】
「1つ(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」および「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0032】
いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、凍結乾燥ケーキを調製する方法を提供し、本方法は、少なくとも1つの溶媒分子と、ペプチドまたはタンパク質とを含む製剤を調製することと、製剤を凍結乾燥に供して、凍結乾燥ケーキを得ることと、を含み、凍結乾燥ケーキを得ることは、(a)製剤をフリーズドライヤーのチャンバに配置すること、例えば、製剤をフリーズドライヤーの凍結乾燥チャンバの棚上の容器/バイアル中に配置することと、(b)製剤を凍結することと、(c)製剤に対して第1の乾燥(一次乾燥)を行い、少なくとも1つの凍結した溶媒分子を昇華によって除去することであって、第1の乾燥が、0℃以下であるフリーズドライヤーの棚温度で行われる、除去することと、(d)製剤に対して第2の乾燥(二次乾燥)を行い、少なくとも1つの溶媒分子を除去して、凍結乾燥ケーキ中の少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセントを得ることであって、第2の乾燥が、0℃以下であるフリーズドライヤーの棚温度で行われる、得ることと、を含む。代替的に、区別された二次乾燥ステップなしで、凍結乾燥を行うことができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「昇華」という用語は、液体状態を経由せずに水分子(溶媒分子)が固体状態(氷)から蒸気状態に直接進む凍結乾燥(フリーズドライ)における現象を指す。凍結乾燥の間、製品は凍結され、真空下に置かれ、液体状態を通過することなく、氷が固体状態から蒸気状態に直接変化することを可能にする。昇華は、物質が液体として存在することができる最低圧力に対応する状態図における物質の三重点以下の温度および圧力で発生する吸熱プロセスである。水の昇華は、三重点未満の圧力および温度、例えば、4.579mmHgおよび0.0099℃で起こり得る。凍結製品からの氷の昇華速度は、通常、コールドトラップの圧力をわずかに上回るか等しい凍結乾燥チャンバの蒸気圧と比較して、氷昇華界面での製品の蒸気圧の差に依存する(Nireesha et al.,Lyophilization/freeze drying-an review,International Journal of Novel Trends in Pharmaceutical Sciences,page 87-98,volume 3,No.4,October,2013;Chang et al.)。凍結製品からの氷の昇華速度は、氷昇華界面からの蒸気移動に対するドライケーキの抵抗にも依存する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「フリーズドライヤー」という用語は、(a)凍結乾燥を行うために充填されたバイアルが積載される棚を有する凍結乾燥チャンバと、(b)昇華された水蒸気を氷として捕捉するための凝縮器と、(c)温度制御を容易にする冷蔵および加熱ユニットと、(d)低大気圧値までチャンバ圧力を低下させることができる真空ポンプと、を備えるシステムを指す。フリーズドライヤーのチャンバ圧力は、制御された様式(通常は窒素ガス)で、不活性で乾燥した抽気ガスを導入することによって、設定点に維持される。ほとんどの場合、凍結乾燥チャンバは、主弁を介して凝縮器から分離される。製品バイアルは、制御された棚温度でチャンバの棚に積載される。(Chang et al.)
【0035】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」または「タンパク質」という用語は、共有結合アミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、当該技術分野において「ペプチド」または「ポリペプチド」として一般に既知である1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つまたは複数のポリペプチドを含有し得る。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、宿主細胞タンパク質、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0036】
一態様では、本出願の製剤中のペプチドまたはタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、タンパク質医薬品または薬物である。
【0037】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)および重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)からなる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域へとさらに細分され得る。各VHおよびVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRおよび4つのFRから構成され得る:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化および非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体など、組換え手段によって調製、発現、作成、または単離されたものが含まれるが、これらに限定されない。IgGは、抗体のサブセットを含む。
【0038】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体の一部、例えば、抗体の抗原結合領域または可変領域などを含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、および単離された相補性決定領域(CDR)領域、ならびに抗体断片から形成されるトリアボディ(triabodies)、テトラボディ(tetrabodies)、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、および多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリン軽鎖および重鎖可変領域がペプチドリンカーによって連結された組換え一本鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々な手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的または化学的に産生されてもよく、および/またはそれは、部分的抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に産生されてもよい。代替的または追加的に、抗体断片は、完全にまたは部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、一本鎖抗体断片を含んでもよい。代替的または追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結される複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「抗体-薬物複合体」または「ADC」という用語は、不安定な結合を有するリンカーによって生物学的活性薬物に結合された抗体を指し得る。ADCは、抗体のアミノ酸残基の側鎖に共有結合され得る生物学的に活性な薬物(またはペイロード)のいくつかの分子を含むことができる(Siler Panowski et al.,Site-specific antibody drug conjugates for cancer therapy,6 mAbs 34-45(2013))。ADCに使用される抗体は、目標部位における選択的蓄積および持続的保持に十分な親和性で結合することができる。ほとんどのADCは、ナノモル範囲のKd値を有することができる。ペイロードは、ナノモル/ピコモル範囲での効力を有することができ、目標組織へのADCの分布に続いて達成可能な細胞内濃度に到達することができる。最後に、ペイロードと抗体との間の連結を形成するリンカーは、抗体部分の薬物動態特性(例えば、長い半減期)を利用し、ペイロードが組織内に分布するときに抗体に結合したままであることを可能にするが、ADCが目標細胞内に取り込まれ得るようになると、生物学的活性薬物の効率的な放出を可能にすることができるはずである。リンカーは、細胞プロセシング中に切断することができないもの、およびADCが目標部位に到達すると切断することができるものであり得る。切断不可能なリンカーでは、呼び出し(call)内に放出される生物学的活性薬物は、ペイロードと、リソソーム内のADCの完全なタンパク質分解後に、抗体のアミノ酸残基、典型的にはリジンもしくはシステイン残基に依然として結合しているリンカーのすべての要素とを含む。切断可能なリンカーは、その構造がペイロードと抗体上のアミノ酸結合部位との間の切断部位を含むものである。切断メカニズムは、酸性細胞内コンパートメント中の酸不安定結合の加水分解、細胞内プロテアーゼまたはエステラーゼによるアミドもしくはエステル結合の酵素的切断、および細胞内部の還元環境によるジスルフィド結合の還元的切断を含むことができる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「タンパク質医薬品」という用語は、本質的に完全にまたは部分的に生物学的であり得る活性成分を含む。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質医薬品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド薬物複合体、抗体-薬物複合体、タンパク質薬物複合体、細胞、組織、またはそれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの他の例示的な実施形態では、タンパク質医薬品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド薬物複合体、抗体-薬物複合体、タンパク質薬物複合体、細胞、組織、またはそれらの組み合わせの組換え型、操作型、修飾型、変異型、または短縮型を含むことができる。
【0041】
例示的な実施形態
本明細書で開示される実施形態は、室温貯蔵に対して安定であるか、または冷蔵貯蔵に対して改善された安定性を有する凍結乾燥製品の残留水分の目標パーセントを得るために凍結乾燥を行うための組成物および方法を提供する。
【0042】
いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、凍結乾燥ケーキ中の少なくとも1つの溶媒分子の目標重量パーセント、例えば、約3~6%、約4%、約4.5%、約2~5.5%、約2.5~6%、約3~4.5%、約3.5~6.5%、約4~5%、約4.1%、約4.2%、約4.3%、約4.4%、約4.6%、約4.7%、約4.8%、または約4.9%を有する、凍結乾燥ケーキを提供する。
【0043】
いくつかの例示的な実施形態では、第2の乾燥を行うためのフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥(一次乾燥)を行うためのフリーズドライヤーの棚温度と同じとすることができる。いくつかの態様では、第2の乾燥(二次乾燥)のためのフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度よりもわずかに高くすることができる。いくつかの態様では、第2の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度は、第1の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度よりも低くすることができる。いくつかの態様では、第2の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度と第1の乾燥のためのフリーズドライヤーの棚温度との間の差は、約0~25℃、約0~20℃、約0~15℃、約0~10℃、約0~5℃、約0~3℃、約0~2℃、約1℃、約2℃、約3℃、約4℃、約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃、または約10℃であり得る。
【0044】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願の方法は、フリーズドライヤーのチャンバ内のPG圧力の変化に基づいて、第1の乾燥(一次乾燥)の終了を決定することをさらに含む。いくつかの態様では、フリーズドライヤーのチャンバ内の圧力の変化は、ピラニ真空計および/または静電容量式圧力計によって測定される。ピラニ真空計(PG)と静電容量式圧力計(CM)との測定値の差、例えばPG-CMは、第1の乾燥の終了または二次乾燥の終了を定めるための指標として使用される。いくつかの態様では、フリーズドライヤーのチャンバ圧力は、約100ミリトルでの典型的な条件で、または50もしくは200ミリトルなどの他の典型的な条件で、維持することができる。
【0045】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願の製剤は、凍結乾燥ケーキを得るために、フリーズドライヤーのチャンバ内に製剤を配置することによって凍結乾燥に供される。製剤をガラスバイアルなどのバイアルに移し、次にバイアルをフリーズドライヤーのチャンバ内に配置することができる。バイアルの充填深さは、約1cm、約1.5cm、約0.8cm、約0.9cm、約1.1cm、約1.2cm、約1.3cm、約1.4cm、約1.6cm、約1.7cm、約1.8cm、約1.9cm、または約2cmである。ガラスバイアルサイズは、約2mL、約5mL、約10mL、約20mL、約6mL、約7mL、約8mL、約9mL、約15mL、約25mL、約30mL、約40mL、または約50mLである。ガラスバイアルのフリーズドライヤーへの積載量は、完全な棚積載または部分的な棚積載であり得る。
【0046】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願の製剤は、緩衝剤、賦形剤、安定剤、凍結保護剤、リオプロテクタント、増量剤、可塑剤、またはそれらの組み合わせをさらに含み、安定剤は、ポリオール、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビタール、アミノ酸、またはそれらの組み合わせであり、凍結保護剤またはリオプロテクタントは、界面活性剤、糖、塩、アミノ酸、またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様では、緩衝剤は酢酸塩またはヒスチジン塩酸塩を含み、緩衝剤は約5.3のpH値を有し、賦形剤はポリソルベート80である。いくつかの態様では、安定剤はスクロースであり得、ペプチドまたはタンパク質に対するスクロースの比は約1:1であり、例えば、50mg/mLのスクロースおよび50mg/mLのタンパク質を含有する。いくつかの製剤は、スクロースおよびタンパク質を、約1:1、約3:1、約10:1、または約1:1~10:1の比で含む。いくつかの態様では、安定剤には、グリセロール、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、スクロース、アルギニン塩酸塩、アラニン、プロリン、グリシン、塩化ナトリウム、またはそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの態様では、安定剤は、凍結乾燥ケーキの重量の約19.9%~約82.2%を構成する。いくつかの態様では、安定剤はスクロースであり、安定剤は、他の安定剤成分の存在、ならびにタンパク質、水、および他の賦形剤の量に応じて、凍結乾燥ケーキの重量の約3%~約15%、好ましくは約5~11%、4~7.5%、または5~7.5%を構成する。一態様では、タンパク質対安定剤の重量比は、1:1~3:1、好ましくは1.2:1~2:1、より好ましくは約1.5:1である。いくつかの態様では、賦形剤は、約0.01%~約0.96%の界面活性剤などの界面活性剤を含む。界面活性剤は、脂肪アシル化ポリエトキシレート化ソルビタンなどの非イオン性洗剤を含み得る。いくつかの態様では、薬学的に許容される凍結乾燥ケーキは、タンパク質、緩衝剤、非イオン性界面活性剤、および1つ以上の安定剤を水中で組み合わせることによって調製される、凍結乾燥前水溶液、例えば、タンパク質製剤から調製される。次いで、溶液をフリーズドライして、所望の目標残留水分含有量を含有するケーキを調製する。
【0047】
本方法は、前述の凍結乾燥プロセス、製剤、フリーズドライヤー、圧力測定方法、医薬品、ペプチド、タンパク質、または抗体のいずれかに限定されないことが理解される。本明細書で提供される方法ステップの数字および/または文字での連続した標識は、方法またはその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。
【0048】
特許、特許出願、公開特許出願、受入番号、技術論文、および学術論文を含む、様々な刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用文献の各々は、その全体およびすべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。別段記載されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0049】
本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。これらは、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0050】
方法
1.残留水分の決定
Patelらによれば、凍結乾燥中の試料中の残留水分のパーセントは、重量法またはカール・フィッシャー法を使用して決定した。凍結乾燥された試料を含有するバイアルを、試料採取器を使用して回収した。選択した試料バイアルが、残留氷の存在により室温まで温めた後に完全なメルトバックを有する場合、残留水分を重量法で計算した。選択された試料バイアルがケーキ構造を保持している場合、残留水分を、カール・フィッシャー残留水分分析器を使用して決定した。本出願のいくつかの実施形態では、凍結乾燥試料を含有するバイアルを回収するために、凍結乾燥実行を停止して、試料を回収した。続いて、凍結乾燥実行を再開させた。本出願のいくつかの実施形態では、試料中の残留水分のパーセントを分析するために、Vapor Pro(登録商標)水分分析器(Arizona Instrument LLC)を使用した。試料をVapor Pro水分分析器で加熱し、放出した揮発物を分析セルに移動させて、流れるガスの含水率の測定を行い、全水分に変換して水のパーセントを計算した。
【0051】
実施例1.一次乾燥の完了の判定
以前の研究は、凍結乾燥されたタンパク質製剤の製品安定性を調査するために行われた。結果は、約0%の含水率を含有する凍結乾燥製品が、より高い量の高分子量(HMW)凝集体の形成を伴って比較的低い安定性を有することを示した。約3~5%の含水率を含有する凍結乾燥製品は、より低い量のHMW凝集体を伴ってより高い安定性を有した。25℃の貯蔵条件下で最適な安定性を達成するための凍結乾燥製品の目標残留水分含有量は、約4.0%、約4.5%または約3~5%であると推定された。
【0052】
25℃での貯蔵条件下で最適な安定性を達成するための凍結乾燥製品の約4.0%、約4.5%、または約3~5%の目標残留水分含有量に到達するために、凍結乾燥プロセス中に、一次乾燥、例えば、昇華の完了を決定した。一次乾燥の見かけの終点、例えば、オンセット、中間点、およびオフセットを、Patelらに従って、図4に示すように、一次乾燥時間の異なる時点でのピラニ真空計の測定によって決定した。Patelらによれば、不完全な氷昇華からの残留水パーセントのプロファイルは、ピラニ真空計および/または静電容量式圧力計によって測定されるチャンバ圧力に関連している。凍結乾燥プロセスにおける昇華(一次乾燥)の完了を示すグローバルオフセット点を定義するための指標として、ピラニ真空計(PG)と静電容量式圧力計(CM)との間の測定値の差、例えばPG-CMを使用した。実験は、5%スクロースまたは5%マンニトールを含有するタンパク質製剤を使用して行われた。オンセット点に対応するPG-CMの測定値は、図4に示されるように、試料中に約25%の残留水分を有した。中間点に対応するPG-CMの測定は、図4に示すように、試料中に約9%の残留水分を有した。オフセット点に対応するPG-CMの測定は、図4に示すように、試料中の氷昇華が完全に完了したときに、約5%の残留水分を有した。5%のスクロースを含有するタンパク質製剤は、オフセット点で約5%の残留水分を有した。5%マンニトールを含有するタンパク質製剤は、オフセット点で約4%の残留水分を有した。
【0053】
実施例2.目標残留水分含有量を達成するための凍結乾燥プロセスを開発する
凍結乾燥された製品の約3~5%で目標残留水分含有量を達成するために、凍結乾燥プロセスの様々な実験パラメータを試験した。0℃、-10℃、-20℃、または-30℃などの様々な棚温度の一次乾燥を試験した。二次乾燥(または一次乾燥の延長)は、昇華(例えば、一次乾燥)の完了後に行った。0℃、-10℃、-20℃、または-30℃などのいくつかの二次乾燥の棚温度を試験し、二次乾燥中の脱着速度の変化を調査した。本出願の実験設計における二次乾燥の棚温度は、従来の二次乾燥の棚温度よりも実質的に低く、なぜなら、従来の二次乾燥は、一般に、約40℃、約35℃~55℃、または約25℃~55℃などの約1%未満または約2%の残留水分含有量に達するように、より高い温度で行われたためである。対照的に、ゆっくりとした脱着速度に達するために、本出願の二次乾燥は、図3に示すように、一次乾燥の棚温度と同じ温度、一次乾燥の棚温度よりもわずかに高い温度、または一次乾燥の棚温度よりも低い温度で行われた。
【0054】
フリーズドライヤーのチャンバ圧力を、典型的な状態で約100ミリトルに維持した。50mg/mLのタンパク質および50mg/mLのスクロースを含有するなど、タンパク質とスクロースとの1:1の比率でスクロースを含有するタンパク質製剤を含む様々なタンパク質製剤を試験した。ガラスバイアルの充填深さは、5mLのガラスバイアルに2.5mL充填するなど、約1cmであった。製品がどのように凍結されるかが、その後の乾燥挙動および最終製品の品質属性に影響を及ぼす可能性があるため、制御された核形成ステップを、凍結乾燥プロセスの凍結段階中に使用した。制御された核形成は、より大きな氷晶の形成などの急速な結晶化速度を促進することができる。大きな氷晶は、氷昇華界面からの水蒸気流に対する抵抗を低下させ、一次乾燥に必要な時間を短縮することができる。さらに、凍結中の核形成を制御することにより、バッチ内およびバッチ間の可変性が低くなる。ケーキの外観、含水率、およびガラス転移温度を調べることを含む分析のために、様々な時点でバイアルを取り出した。MABB(モノクローナル抗体)を含有するタンパク質製剤を凍結乾燥に使用し、例えば、pH5.3で、50mg/mLのMABB、10mMの酢酸塩、25mMのアルギニン塩酸塩、0.2%のポリソルベート80および5%のスクロースを含む製剤化された薬物である。スクロースのタンパク質に対する比は1:1であった。
【0055】
二次乾燥は、一次乾燥を延長することによって、一次乾燥と同じ棚温度で行った。0℃、-10℃、-20℃、または-30℃での棚温度を試験した。昇華完了後の脱着速度は、図5に示すように、異なる時点での残留水のパーセントを決定することによって分析した。異なる乾燥時点に対応する残留水のパーセントは、指数関数的減衰曲線を示した。残留含水率は、当初、乾燥時間の増加に伴い、現在の速度に比例した速度で減少した。最終的に減衰は一定の値に近づくプラトーに達した。棚温度を-30℃に維持した場合、残留含水率の減衰は、図5に示す3~5%の残留水分の目標重量パーセントの範囲内である3.5%近いプラトーに達した。終了値が目標パーセントの範囲内であったため、棚温度-30℃の含水率をさらに低下させることなく乾燥時間を延長することができる。
【0056】
図5に示すように、棚温度を-20℃に維持した場合、残留含水率の減衰は2.5%近くに達し、3~5%の残留水分の目標重量パーセントの範囲外となった。棚温度を-10℃に維持した場合、残留含水率の減衰は2.1%に近いプラトーに達し、3~5%の残留水分の目標重量パーセントの範囲外となった。棚温度を0℃に維持した場合、残留含水率の減衰は1.2%に近いプラトーに達し、3~5%の残留水分の目標重量パーセントの範囲外となった。したがって、-20℃、-10℃、または0℃など、より高い棚温度については、3~5%で残留水分の目標重量パーセントに達するために、乾燥時間を制御する必要があった。所与の棚温度で凍結乾燥製品中の目標含水率を達成するための乾燥時間は、棚温度での脱着速度を踏まえて指数関数的減衰方程式によって計算することができる。棚温度が比較的高かった場合、昇華完了後の乾燥時間は比較的短く、脱着速度を制御することにより、目標パーセントまで含水率を十分に低下させることができた。
【0057】
実施例3.製品のガラス転移温度
残留水分のパーセントに対応する凍結乾燥タンパク質製剤のガラス転移温度(Tg)を分析した。pH5.3で50mg/mLのMABB(モノクローナル抗体)、5%スクロース、25mMのアルギニン塩酸塩、10mMの酢酸塩、および0.2%のポリソルベート80を含有するタンパク質製剤を凍結乾燥した。図6に示すように、残留水分のパーセントが増加した場合、Tgは著しく減少した。推奨貯蔵温度は、2.5%残留水分では52℃より低く、3.3%残留水分では43℃より低く、3.6%残留水分では42℃より低く、4.9%残留水分では33℃より低く、6.6%残留水分では25℃より低かった。室温貯蔵製品については、本製剤の含水率は5%を超えないことが好ましかった。
【0058】
実施例4.凍結乾燥ケーキの外観
様々な凍結乾燥サイクルを試験して、凍結乾燥ケーキの外観を調べた。ケーキがフリーズドライ中に崩壊またはメルトバックする兆候がないことが望ましい。ケーキのメルトバックは、一次乾燥中の氷昇華界面での製品製剤中の結晶剤の共晶融解に起因し得る。ケーキのメルトバックは、一次乾燥中の不完全な氷の昇華によって引き起こされる部分的または完全なケーキの崩壊の形態とみなすことができる。望ましいケーキは、ほぼ均一な外観を有し、表面または縁部に沿って若干の剥がれまたは潰れがある。
【0059】
表1に示すように、-20℃または-30℃での一次乾燥の棚温度を使用して、6つの異なるサイクルの凍結乾燥を試験した。pH5.3で、50mg/mLのMABB、10mMの酢酸塩、25mMのアルギニン塩酸塩、0.2%のポリソルベート80および5%のスクロースを含む製剤化された薬物を使用する凍結乾燥に、MABB(モノクローナル抗体)を含有するタンパク質製剤を使用した。スクロースのタンパク質に対する比は1:1であった。
【0060】
(表1)一次乾燥条件
【0061】
フリーズドライヤーのチャンバ圧力を、典型的な状態で約100ミリトルに維持した。凍結乾燥プロセスの凍結段階中に、-5℃で制御された核形成ステップを使用した。フリーズドライヤーのチャンバ圧力は、ピラニ真空計および静電容量式圧力計によって測定した。凍結乾燥プロセスにおける昇華(一次乾燥)の完了のグローバル末端部点を定義するための指標として、ピラニ真空計(PG)と静電容量式圧力計(CM)との間の測定値の差、例えばPG-CMを使用した。
【0062】
所望の絶対圧力差(例えば、PG-CM)を満たすと、一次乾燥のための凍結乾燥プロセスが完了した。試験結果を、表2に示す。サイクル1および6のケーキは、差(PG-CM)が大きい場合(15ミリトル以上)、昇華の不完全による氷の存在を示すメルトバックの形態を示した。サイクル2~5のケーキは、例えば、崩壊、変色、およびメルトバックを有さない、良好なケーキの外観を示し、差(PG-CM)が小さい(5ミリトル以下)場合の氷昇華の完了を示した。昇華完了後、凍結乾燥製品の残留水分含有量のパーセントを使用して、脱着曲線の速度をモデル化した。
【0063】
(表2)絶対圧力差の試験
【0064】
実施例5.より長い持続時間を有する凍結乾燥プロセス
より長い持続時間およびより多くのバイアルでの凍結乾燥サイクルを、-20℃での棚温度を使用して試験した。MABB(モノクローナル抗体)を含有するタンパク質製剤を、pH5.3で50mg/mLのMABB、10mMの酢酸塩、25mMのアルギニン塩酸塩、0.2%のポリソルベート80および5%のスクロースを含む製剤化された原薬を使用して、凍結乾燥に使用した。スクロースのタンパク質に対する比は1:1であった。ガラスバイアルの充填深さは、5mLのガラスバイアルに2.5mL充填するなど、約1cmであった。27本のバイアルを試験した。フリーズドライヤーのチャンバ圧力を、典型的な状態で約100ミリトルに維持した。
【0065】
一次乾燥(昇華)の終点は、積載に依存した。図7に示すように、昇華の終わりは、(PG-CM)の値が2に達したとき、例えば、一次乾燥の完了したとき、オフセット遷移を示すPG圧力曲線がオフセット遷移を示して生じた。昇華完了後、残留水分含有量は徐々に減少し、図7に示すように4.3%または3.8%までの減少など、3~5%の残留水分の目標重量パーセントに達した。凍結乾燥プロセスがより長い期間継続したとき、残留水分含有量は、依然として3~5%の許容範囲内であったが、著しく低下しなかった。凍結乾燥の持続時間を数日に延長したところ、残留水分含有量は2.5%に達した。
【0066】
昇華完了後の脱着速度を、-20℃または-30℃の棚温度を使用して分析した。図8に示すように、-30℃の棚温度では、昇華(一次乾燥)の完了後、含水率(Y軸)は9%に達した。二次乾燥(脱着)(または一次乾燥の延長)は、図8のX軸、例えば、PG圧力曲線のオフセット点からの時間(氷昇華の終わり)に示されるように、50時間、100時間、150時間以上などの延長された持続時間で、-30℃の棚温度での脱着速度を制御することによって行った。得られた残留水分含有量は、棚温度-30℃では、約30時間から150時間以上の延長された持続時間にわたって、3~5%の残留水分の目標重量パーセントの範囲内であった。図8に示すように、-20℃の棚温度では、昇華(一次乾燥)の完了後、含水率は7%に達した。二次乾燥(脱着)は、図8のX軸、例えば、PG圧力曲線のオフセット点からの時間(氷昇華の終わり)に示されるように、50時間、100時間、150時間以上などの延長された持続時間で、-20℃の棚温度での脱着速度を制御することによって行った。得られた残留水分含有量は、50時間の持続時間内に、-20℃の棚温度について3~5%の残留水分の目標重量パーセントの範囲内にあった。得られた残留水分含有量は、棚温度が-20℃の場合、最長150時間またはそれ以上の延長された持続時間にわたって残留水分含有量の目標パーセントをわずかに下回り、脱着時間を-20℃の棚温度で50時間以内、好ましくは10~30時間以内に制御すべきであることを示した。
【0067】
凍結乾燥を開発するための実験計画法(DOE)を、表3に示すように行った。タンパク質濃度を、5~15%で試験した。スクロース濃度を、0~5%で試験した。アルギニン塩酸塩濃度を、0~2%で試験した。
【0068】
(表3)実験計画法(DOE)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】