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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(54)【発明の名称】安定化されたシラン組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20230330BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230330BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C07F7/18 P
C09K3/10 Z
C09J201/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549022
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2021053006
(87)【国際公開番号】W WO2021160575
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】20157314.4
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラリッサ ミスラク
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート マック
【テーマコード(参考)】
4H017
4H049
4J040
【Fターム(参考)】
4H017AC11
4H017AC17
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ43
4H049VR21
4H049VR22
4H049VR42
4H049VR43
4H049VU21
4H049VU23
4H049VW22
4J040HB36
4J040HD30
4J040KA29
(57)【要約】
本発明は、a)少なくとも1種のイミノシラン;及びb)少なくとも1種の酸化防止剤を含み、前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、立体障害フェノールであることを特徴とする、シラン組成物及びそれらの製造方法並びにそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のイミノシラン;及び
b)少なくとも1種の酸化防止剤
を含む、シラン組成物であって、
前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、立体障害フェノールであることを特徴とする、前記シラン組成物。
【請求項2】
前記立体障害フェノールが、
- 式(A1):
【化1】
の分子単位、上記式中、
a11、Ra12、Ra13及びRa14は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され、
a11及びRa12のうち少なくとも1つは、水素ではない;
- 式(A2):
【化2】
の分子単位、上記式中、
a21、Ra22、Ra23及びRa24は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され、
a21及びRa22のうち少なくとも1つは、水素ではない;
- 式(A3):
【化3】
の分子単位、上記式中、
a31、Ra32、Ra33及びRa34は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択される;及び
- 上記のものの組合せ
から選択される、少なくとも1つの分子単位を含むことを特徴とする、請求項1に記載のシラン組成物。
【請求項3】
前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、式(A1)の少なくとも1つの分子単位を含む立体障害フェノールであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシラン組成物。
【請求項4】
前記立体障害フェノールが、式(A1)の1個を超える分子単位を含むことを特徴とする、請求項3に記載のシラン組成物。
【請求項5】
前記立体障害フェノールが、式(A1)の2、3又は4個の分子単位を含むことを特徴とする、請求項4に記載のシラン組成物。
【請求項6】
前記立体障害フェノールが、リン原子を全く含まないことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のシラン組成物。
【請求項7】
前記立体障害フェノールが、リン原子も硫黄原子も含まないことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のシラン組成物。
【請求項8】
前記立体障害フェノールが、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート、tert-ブチルヒドロキシアニソール、2-tert-ブチルヒドロキノン及び上記のものの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のシラン組成物。
【請求項9】
前記の少なくとも1種の酸化防止剤の量が、前記の少なくとも1種のイミノシラン1kgあたり10~10000mgの範囲内、好ましくは前記の少なくとも1種のイミノシラン1kgあたり50~1000mg、より好ましくは1kgあたり100~600mgの範囲内であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のシラン組成物。
【請求項10】
前記イミノシランが、式(Z):
【化4】
によるイミノシランであり、上記式中、
z1、Rz2及びRz3は、それぞれ独立して、オキシム基、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基、オキシアルカンジイルオキシアルキル基、アルキル基、アリール基、エノキシ基及び上記のものの組合せからなる群から選択され;
z4は、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され;
z5は、一価の有機基であり;
は、二価の有機基及び式(Z2):
【化5】
のジオルガニルシリル基からなる群から選択され、上記式中、
z21及びRz22は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、オキシアルキル基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され;
は、二価の有機基であり;かつ
sは、1、2、3、4及び5から選択される整数である
ことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のシラン組成物。
【請求項11】
少なくとも1種のイミノシランが、特に好ましくは、
【化6】
及び上記のものの混合物からなる群から選択され、ここで、RIMは、イソブチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基及びtert-ブチル基から選択されることを特徴とする、請求項10に記載のシラン組成物。
【請求項12】
前記シラン組成物が、1種以上のブレンステッド塩基を最大で0.0001重量%の濃度で含むことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載のシラン組成物。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のシラン組成物を製造する方法であって、以下の方法工程:
I)前記の少なくとも1種のイミノシランを用意する方法工程;
II)請求項1から12までのいずれか1項に定義される少なくとも1種の酸化防止剤を用意する方法工程;
III)前記の少なくとも1種のイミノシラン及び前記の少なくとも1種の酸化防止剤を混合し、こうして、前記シラン組成物が得られる方法工程
を含む、前記方法。
【請求項14】
重合反応における連鎖停止試薬として又は接着剤及びシーラントにおける、請求項1から12までのいずれか1項に記載のシラン組成物の使用。
【請求項15】
本発明によるシラン組成物を含む接着剤又はシーラント配合物を表面上へ適用する方法であって、以下の方法工程:
A)表面を用意する方法工程、
B)前記の本発明によるシラン組成物を含む接着剤又はシーラント配合物を前記表面に適用し、こうして、コーティングされた表面が得られる方法工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン組成物、その製造方法及び本発明によるシラン組成物の使用に関する。
【0002】
発明の背景
イミノシランは、より大きな工業的関心が持たれ、とりわけ、反応性配合物、例えば接着剤及びシーラント又はコーティングの製造において、使用される。アミノシランは、求核性かつ塩基性であり、かつ、それらの反応性のために、しばしば、配合物における望ましくない副反応(例えば貯蔵安定性の減少、粘度の増加、変色)をまねく。それに対して、イミノシランの使用は、これらの問題が回避されるか又は低減されることを可能にし、かつ特に一液型製品についての、配合に関する自由を生じさせる。イミノシランは、少なくとも1個のイミノ官能基を含むシランである。イミノシランが配合される製品の例は、ハイブリッドエポキシド系接着剤である。該ハイブリッドは、シリル化ポリエーテル(例えばMS Polymer(商標))、シリル化ポリウレタン(例えばST Polymer)又はシリル化アクリレートであってよい。
【0003】
他の適用例は、ポリマー用途における、例えば溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(sSBR)を変性するための、そのようなイミノシランの使用である。
【0004】
議論された利点及び有利な特性にもかかわらず、今までのイミノシランは、少ない製品及び配合物においてのみ使用される。これは、殊に、例えば貯蔵期間の増加に付随するか、又は工業的方法の過程で生じる望ましくない色変化に対する顕著な感受性による。特に、暗色化、黄変及び濃色化は、それ自体として望ましくない色変化を生じる。
【0005】
しかしながら、これらのシランの望ましくない色変化は、それらの使用に関して非常に制限する欠点である。それというのも、特に、該色変化は容易に逆戻りすることができず、そうなるとその色は特に目視でも、該製品、該配合物及び前記の配合された製品又は該シランが適用される表面を損なう。
【0006】
この問題は、従来技術において公知であるが、しかしこれまで不適切に解決される。特開2005-281158号公報(JP 2005-281158 A)には、酸素含有率が低下された雰囲気中でのそのようなイミノシランの貯蔵が推奨されている。該酸素含有率の低下は、実験室中では通常、一部の技術的努力で達成することができるけれども、標準的な工業的方法において、これは、はるかに大きな努力と関連しており、かつ実際には、通常は不可能である、それというのも、適切な装置が取り扱えないか又は入手できないからである。特に該イミノシランの一部のみが抜き出されうる大きな容器の場合に、酸素及び水の排除は、しばしば、より大きな技術的なハードル及びコストに結び付いている。
【0007】
そのうえ、上記で引用された文献において、その鉄含有率の低下及び低下された温度での貯蔵が、そのようなシランの黄変を防止するために提案される。しかしながら、これらの提案も、特殊で費用のかかる装置及び複雑な方法の使用を必要とし、このことは一部の場合に、上記で挙げたシランの使用を、既存の工業的方法において、特にコストの理由のために、不可能にしうる。
【0008】
米国特許第5134234号明細書(US 5,134,234)には、少量のイミノシラン及びさらなる添加剤、例えば酸化防止剤と一緒にポリイソシアネートを含む硬化性組成物が教示されている。酸化防止剤は、多様な用途にも使用される。例えば米国特許第8877955号明細書(US 8,877,955)及び米国特許第9708429号明細書(US 9,708,429)には、ポリマーをベースとする組成物において使用されうる酸化防止剤が報告されている。
【0009】
米国特許出願公開第2018/0016287号明細書(US 2018/0016287 A1)には、ブレンステッド塩基、例えば水酸化カリウムを使用して、イミノシランを安定化させることが提案されている。しかしながら、ブレンステッド塩基での安定化は不十分である、それというのも、その色変化を防止することができないからである。反対に、ブレンステッド塩基の添加は時には、該イミノシランが分解し、ひいては貯蔵安定性が低下する結果となることすらある(実施例参照)。
【0010】
発明の対象
したがって、従来技術の欠点を克服する必要性がある。
【0011】
特に、安定化されたイミノシランを提供する需要がある。特に、望ましくない色変化が弱くなるか又は理想的にはないイミノシランが必要とされる。
【0012】
標準的な工業的方法において複雑で費用のかかる貯蔵条件及び取扱いなしで使用することができるイミノシランの需要もある。
【0013】
発明の要約
本発明の対象は、
a)少なくとも1種のイミノシラン;及び
b)少なくとも1種の酸化防止剤
を含み、
前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、立体障害フェノールであることにより特徴付けられる、本発明によるシラン組成物により達成される。
【0014】
本発明によるシラン組成物は有利に、対応するイミノシラン単独よりも又は公知の配合物中の該イミノシランよりも有意に高い貯蔵安定性を示す。本発明に関して、貯蔵安定性は、定義された期間にわたる望ましくない化学的分解に対する該イミノシランの安定性を意味する。驚くべきことに、この改善された貯蔵安定性は、高めた温度でさえ、かつ本発明によるシラン組成物が光下で又は暗所で貯蔵されたかとは無関係に、示された。本発明によるシラン組成物の貯蔵安定性は、酸素及び水を排除しない貯蔵の際にも特に著しく改善される。これは特に有利である、それというのも、貯蔵及び取扱いのための複雑な方法を回避することができるからである。
【0015】
本発明の対象を扱うのに特に有効である本発明によるシラン組成物の有利な実施態様は、以下の説明及び従属請求項に列挙される。
【0016】
発明の説明
本説明及び請求の範囲におけるパーセンテージは、別に明記されない限り、重量によるパーセント(重量%と略す)である。本説明及び請求の範囲における濃度は、別に明記されない限り、当該の溶液又は分散液又は組成物の全質量又は全体積をいう。
【0017】
下記に記載される多様な実施態様は、これが技術的に可能であり、かつ正反対のことが明記されない場合には、互いに組み合わせることができる。
【0018】
本発明に関連して、用語「脂肪族」は、環状及び非環状(ノンサイクリック)、飽和及び不飽和の炭素化合物を含み、ここで、芳香族化合物は、この用語に明示的に含まれない(Compendium of Technical Terminology, Gold Book, International Union of Pure and Applied Chemistry, 2014、Version 2.3.3、p. 57参照)。
【0019】
本発明に関連して、用語「アルキル」は、環状及び/又は非環状の構造要素を含む分岐状及び非分岐状のアルキル基を含み、ここで、前記の環状の構造要素は必ず、少なくとも3個の炭素原子を含む。本説明及び請求の範囲におけるC1-CX-アルキルは、炭素原子1~X個(Xは自然数である)を含むアルキル基をいう。C1~C8-アルキルは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチルを含む。オキシアルキル基は、酸素原子に結合されているアルキル基である。これは、しばしば、従来技術においてアルコキシ基と呼ばれる。本発明に関連して、水素という用語は、その同位体、例えばジュウテリウムも含む。
【0020】
アルケニル基は、アルキル基の不飽和類似体であり、該アルキル基の2個の隣接炭素原子間に1個以上の二重結合を含む。アルケニル基は必ず、少なくとも2個の炭素原子を含む。
【0021】
用語「アルカンジイル」は、アルキル基に対応する類似体をいい、(該アルキル基の場合の1つの代わりに)2つの結合部位を有する。アルカンジイル基は、時には、従来技術においてアルキレン基とも呼ばれる。C1~C4-アルカンジイルは、例えば、メタン-1,1-ジイル、エタン-1,2-ジイル、エタン-1,1-ジイル、プロパン-1,3-ジイル、プロパン-1,2-ジイル、プロパン-1,1-ジイル、ブタン-1,4-ジイル、ブタン-1,3-ジイル、ブタン-1,2-ジイル、ブタン-1,1-ジイル及びブタン-2,3-ジイルを含む。
【0022】
本発明に関連して、用語「アリール」は、環状の芳香族分子フラグメント(又は基)、例えばフェニル又はナフチルを含み、この中で、例えばピリジルのように、該環を形成する炭素原子のうち1個以上が、N、O及び/又はSにより置換されていてよい。好ましくは、該環を形成する炭素原子のいずれも、正反対のことが明記されない限り、N、O及び/又はSにより置換されない。
【0023】
本発明に関連して、アルキルとアリールとの組合せは、少なくとも1個のアルキル基と少なくとも1個のアリール基の双方、すなわち、例えばアラルキル基又はアルカリール基を含む、分子フラグメントである。ベンジル及びトリルは、そのような組合せの例である。
【0024】
任意に、アルキル及びアリールは、官能化される。この場合に、挙げた基の形式的に1個以上の水素原子は、それぞれ官能基により、好ましくはヒドロキシル(-OH)及び/又はアミノ基により、置換される。アミノ基は、第一級(-NH)、第二級(-NHR、ここで、Rは、有機基、例えばアルキル基又はアリール基である)及び第三級アミノ基(-NR、ここで、各Rは、独立して、有機基である)である。
【0025】
1個を超える基が、請求の範囲又は本説明において挙げられる化合物について―1つのリストからにしても複数のリストからにしても―選択されなければならない場合には、これらの基は、別に明記されない限り、互いに独立して選択される。そのため、それらは、該リストに提供される場合に、同じか又は異なっていてよい。
【0026】
用語「少なくとも1」が、本説明及び請求の範囲において明記される場合には、これは、1又は1を超える挙げられた要素が選択されることを意味する。同じことは、より大きい数、例えば2又は3に当てはまる。
【0027】
化合物が、1を超える列挙された部類に含まれうる場合には、これは、IUPACに従って適切に分類される。例えば、適宜置換された4-アミノフェノール誘導体は、芳香族アミンに又はフェノールとしてのいずれかに分類することができるかもしれない。前記の酸素含有官能基に、より高い優先順位が与えられるので、本発明に関連して、フェノール誘導体として理解される。水素が置換基として列挙される場合には、天然に存在するその同位体も含まれる。化学式中の結合部位は、時には、波線で示される。
【0028】
本発明によるシラン組成物は、少なくとも1種のイミノシランを含む。イミノシランは、少なくとも1個のイミノ基を含むシランである。好ましいイミノシランの例は、ケチミノシラン及びアルジミノシランである。
【0029】
好ましくは、該イミノシランは、式(Z):
【化1】
によるイミノシランに相当し、上記式中、
z1、Rz2及びRz3は、それぞれ独立して、オキシム基、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基、オキシアルカンジイルオキシアルキル基、アルキル基、アリール基、エノキシ基及び(任意に)上記のものの組合せからなる群から選択され;
z4は、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され;
z5は、一価の有機基であり;
は、二価の有機基及び式(Z2)
【化2】
のジオルガニルシリル基からなる群から選択され、上記式中、
z21及びRz22は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、オキシアルキル基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され;
は、二価の有機基であり;かつ
sは、1、2、3、4及び5から選択される整数である。
【0030】
この場合にエノキシ基は、典型的に、酸素原子を介してケイ素原子に結合されているアルケニル基を含む基である。エノキシ基の例は、
-O-C(RL1)=CRL2L3
であり、ここで、RL1、RL2及びRL3は、独立して、水素及びアルキル基から、好ましくは水素及びメチル基から、選択される。
【0031】
z1、Rz2及びRz3は、好ましくは、それぞれ独立して、オキシム基、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基、オキシアルカンジイルオキシアルキル基、アルキル基、アリール基、エノキシ基からなる群から選択される。Rz1、Rz2及びRz3は、より好ましくは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基及びオキシアルカンジイルオキシアルキル基からなる群から選択される。Rz1、Rz2及びRz3は、よりいっそう好ましくは、それぞれ独立して、オキシ-C1~C4-アルキル基、アセトキシ基(CH-C(O)-)及びオキシ-C1~C2-アルカンジイルオキシ-C1~C2-アルキル基からなる群から選択される。
【0032】
オキシ-C1~C2-アルカンジイルオキシ-C1~C2-アルキル基の例は、CH-O-CH-O-、CH-CH-O-CH-CH-O-、CH-CH-O-CH-O-及びCH-O-CH-CH-O-である。
【0033】
z4は、好ましくは、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択される。より好ましくは、Rz4はC1~C4-アルキル基である。
【0034】
z5は、好ましくは、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択される。より好ましくは、Rz5はC1~C4-アルキル基である。
【0035】
は好ましくは二価の有機基である。好ましくは、この二価の有機基は、
【化3】
に相当し、ここで、t及びvは、1~6の間から独立して選択される整数であり、
uは、0、1、2及び3から選択される整数であり、かつ
各RT1は、それぞれ独立して、水素及びメチル基からなる群から選択される。好ましくは、RT1は水素である。特に、Zは、
【化4】
であり、t及びvは、それぞれ独立して、好ましくは2又は3である。uは好ましくは0又は1である。
z21及びRz22は、好ましくは、それぞれ独立して、C1~C4-アルキル基又はオキシ-C1-4-アルキル基からなる群から選択される。
は、好ましくはアルカンジイル基、より好ましくはC1~C8-アルカンジイル基、よりいっそう好ましくはC2~C4-アルカンジイル基である。
sは、好ましくは、2及び3から選択される整数である。
【0036】
前記の少なくとも1種のイミノシランは、特に好ましくは、
【化5】
及び上記のものの混合物からなる群から選択される。RIMは、イソブチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基及びtert-ブチル基から選択され、好ましくはRIMはイソブチル基である。前記の少なくとも1種のイミノシランは、殊に好ましくは、
【化6】
からなる群から選択される。
【0037】
該シラン組成物中の前記の少なくとも1種のイミノシランの量は、少なくとも好ましくは、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、よりいっそう好ましくは少なくとも95重量%、さらによりいっそう好ましくは少なくとも99重量%である。1種を超えるイミノシランが使用される場合には、全てのイミノシランの全量は好ましくは、上記に定義される範囲内になる。
【0038】
該シラン組成物は、少なくとも1種の酸化防止剤を含む。前記の少なくとも1種の酸化防止剤は、立体障害フェノールである。前記の少なくとも1種の酸化防止剤としての該立体障害フェノールは、他の酸化防止剤に比べて、殊に延長された期間にわたって(例えば10日以上にわたって)、該シラン組成物の望ましくない色変化の著しく改善された防止を示す。他の酸化防止剤、例えば立体障害アミン、非立体障害フェノール、芳香族アミン、有機硫黄化合物、ジアルキルヒドロキシルアミン、脂肪族ホスフィット化合物、ホスホニット化合物及びベンゾフラノンは驚くべきことに、イミノシラン用の添加剤として使用される際に、望ましくない色変化を防止する点ではるかに効果的ではなかった。
【0039】
好ましくは、1種のみの酸化防止剤が使用される、それというのも、これは、該シラン組成物の製造を容易にし、かつ前記の多様な酸化防止剤の潜在的な望ましくない二次効果を回避することができるからである。
【0040】
本発明による立体障害フェノールは、少なくとも1個のヒドロキシル基で官能化され、かつ水素(又はその同位体)ではない置換基を、前記の少なくとも1個のヒドロキシル基に対する2つのオルト位のうち少なくとも1つで持つ、少なくとも1個のベンゼン環を含む芳香族化合物である。好ましくは、前記の少なくとも1個のヒドロキシル基に対する該ベンゼン環の双方のオルト位が、水素ではない置換基により占有される。可能性のある置換基は、アルキル基、アリール基、チオエーテル基等を含む。
【0041】
該立体障害フェノールは好ましくは、リン原子を全く含まない。一実施態様において、該立体障害フェノールは、リン原子も硫黄原子も含まない。結果として、望ましくない色変化を防止する点でさらなる改善が達成される。
【0042】
該立体障害フェノールは好ましくは、
- 式(A1)
【化7】
の分子単位、上記式中、
a11、Ra12、Ra13及びRa14は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され、
a11及びRa12のうち少なくとも1つは、水素ではない;
- 式(A2)
【化8】
の分子単位、上記式中、
a21、Ra22、Ra23及びRa24は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され、
a21及びRa22のうち少なくとも1つは、水素ではない;
- 式(A3)
【化9】
の分子単位、上記式中、
a31、Ra32、Ra33及びRa34は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択される;及び
-(任意に)上記のものの組合せ
から選択される、少なくとも1個の分子単位を含む。
【0043】
上記のものの組合せは、式(A1)、(A2)及び(A3)の少なくとも2個の異なる分子単位を含む、本発明による立体障害フェノールである。そのような立体障害フェノールは、それらの製造に必要とされる比較的高い合成労力のために、あまり好ましくない。
【0044】
a11は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1~C8-アルキル基、よりいっそう好ましくはC2~C6-アルキル基、殊にtert-ブチル基である。
a12は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1~C8-アルキル基、よりいっそう好ましくはC2~C6-アルキル基、殊にtert-ブチル基である。
a13及びRa14は、好ましくは、水素及びC1~C4-アルキル基からなる群から、より好ましくは水素及びメチル基から、選択される。Ra13及びRa14は、特に好ましくは水素である。好ましくは、Ra11及びRa12のうち少なくとも1つは、アルキル基であり、より好ましくはRa11及びRa12は、それぞれ独立して、アルキル基である。
【0045】
好ましい実施態様において、式(A1)の分子単位は、式(A1-1):
【化10】
に相当する。
【0046】
a21は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1~C8-アルキル基、よりいっそう好ましくはC1~C4-アルキル基、殊にメチル基である。
a22は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1~C8-アルキル基、よりいっそう好ましくはC2~C6-アルキル基、殊にtert-ブチル基である。
a23は特に好ましくは水素である。
a24は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1~C8-アルキル基、よりいっそう好ましくはC1~C4-アルキル基、殊にメチル基である。
【0047】
好ましい実施態様において、式(A2)の分子単位は、式(A2-1):
【化11】
に相当する。
【0048】
式(A2)の分子単位を含む、殊に好ましい立体障害フェノールは、式(A2-2):
【化12】
に相当する。
【0049】
a31は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC8~C18-アルキル基、よりいっそう好ましくはC10~C14-アルキル基、殊にn-ドデシル基である。
a32及びRa34は、好ましくは水素である。
a33は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1~C8-アルキル基、よりいっそう好ましくはC1~C4-アルキル基、殊にメチル基である。
【0050】
好ましい実施態様において、式(A3)の分子単位は、式(A3-1):
【化13】
に相当する。
【0051】
式(A3)の分子単位を含む、殊に好ましい立体障害フェノールは、式(A3-2):
【化14】
に相当する。
【0052】
該立体障害フェノールが、式(A1)の少なくとも1個の分子単位又は式(A2)の少なくとも1個の分子単位を含むことが好ましい。より好ましくは、該立体障害フェノールは、式(A1)の少なくとも1個の分子単位を含む。したがって、前記の少なくとも1種の酸化防止剤は、殊に好ましくは、式(A1)の少なくとも1個の分子単位を含む立体障害フェノールである。最も好ましくは、前記の少なくとも1種の酸化防止剤は、式(A1)の1個を超える、例えば2、3又は4個の分子単位を含む、立体障害フェノールである。そのような酸化防止剤は、貯蔵安定性の最も顕著な改善及び試験された全ての酸化防止剤の望ましくない色変化の防止を示した。驚くべきことに、本発明者は、相乗効果を見出した:式(A1)の分子単位の量を基準とした当量の式(A1)の1個を超える分子単位を有する立体障害フェノールと比べた、式(A1)の1個の分子単位を有する立体障害フェノールの使用でさえ、望ましくない色変化のそのような顕著な回避を示さない。
【0053】
特に好ましい実施態様において、該立体障害フェノールは、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(CAS番号1709-70-2)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ブチルヒドロキシトルエン又はBHTとしても公知、CAS番号128-37-0)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(また:ペンタエリトリトールテトラキス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)、CAS番号6683-19-8)、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート(CAS番号125643-61-0)、tert-ブチルヒドロキシアニソール(CAS番号25013-16-5、異性体混合物として、BHAとしても公知又は純物質として3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール)、2-tert-ブチルヒドロキノン(CAS番号1948-33-0、TBHQとしても公知)及び上記のものの混合物からなる群から選択される。
【0054】
本発明によるシラン組成物中の前記の少なくとも1種の酸化防止剤の量は、好ましくは、前記の少なくとも1種のイミノシラン1kgあたり10及び10000mg(ppm、百万分率)の範囲内である。1種を超える酸化防止剤を使用することを意図する場合には、全ての酸化防止剤の量の総計は、上記で明記された範囲内である。類推して、1種を超えるイミノシランが使用される場合に、全てのイミノシランの量の総計が参考値として使用されるということになる。前記の少なくとも1種の酸化防止剤の量は、より好ましくは、前記の少なくとも1種のイミノシラン1kgあたり50~1000mg、よりいっそう好ましくは1kgあたり100~600mgの範囲内である。これらの量は、望ましくない色変化を防止するのに特に効率的であることが判明した。
【0055】
不必要に高すぎる酸化防止剤の量は、そのコストを増加させ、かつ同時に、工業的方法における使用が望ましいイミノシランの量を低下させる。―該イミノシラン、該酸化防止剤及びその貯蔵条件に応じて―少なすぎる量は、必ずしも十分な効果を有するとは限らない。
【0056】
本発明によるシラン組成物は、好ましくは、均質混合物である。これは、前記の少なくとも1種のイミノシラン及び前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、互いに溶解されることを意味する。あるいは、該シラン組成物は、不均質混合物である。均質混合物は好ましい、それというのも、該シラン組成物のより良好な安定性は、明記された成分(イミノシラン及び酸化防止剤)のより緊密な混合により達成することができるからであり、そのうえ、より少ない量の酸化防止剤も、望ましくない色変化を防止するために一部の場合に必要とされるからである。
【0057】
本発明によるシラン組成物は好ましくは、1種以上のブレンステッド塩基を、(該シラン組成物を基準として)最大で0.0001重量%、より好ましくは最大で0.00001重量%の(全)濃度で含む。本発明によるシラン組成物は、特に好ましくは、ブレンステッド塩基不含である、それというのも、一部の場合に、これが、該シラン組成物のより低い貯蔵安定性の結果となりうるからである(実施例参照)。前記の少なくとも1種のイミノシラン又は前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、ブレンステッド塩基である場合には、本発明によるシラン組成物は、他のブレンステッド塩基も、意図的に添加されるブレンステッド塩基も含まない。特に本発明によるシラン組成物に含まれることが意図されないブレンステッド塩基の例は、金属水酸化物、例えばアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)、アルカリ性酸化物、例えばアルカリ土類金属酸化物(例えば酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム)、炭酸塩及び炭酸水素塩、例えば炭酸カルシウム並びに金属アルコキシド、例えばアルカリ金属アルコキシド(例えばナトリウムメトキシド)である。
【0058】
本発明によるシラン組成物は好ましくは、1種以上のブレンステッド酸を、(該シラン組成物を基準として)最大で0.0001重量%、より好ましくは最大で0.00001重量%の(全)濃度で含む。本発明によるシラン組成物は、特に好ましくは、ブレンステッド酸不含である、それというのも、一部の場合に、該イミノシランの望ましくない分解の結果となりうることが本発明者により見出されたからである。前記の少なくとも1種のイミノシラン又は前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、ブレンステッド酸である場合には、本発明によるシラン組成物は、他のブレンステッド酸も、意図的に添加されるブレンステッド酸も含まない。ブレンステッド酸の例は、鉱酸、例えば硫酸及び塩酸並びに有機酸、例えばクエン酸及びメタンスルホン酸である。
【0059】
本発明によるシラン組成物は好ましくは、重金属(特に鉄)又はそれらの塩を、(該シラン組成物を基準として)最大で0.0001重量%、より好ましくは最大で0.00001重量%の濃度で含む。特に、本発明によるシラン組成物は、(意図的に添加される)重金属又はそれらの塩不含である。本発明によるシラン組成物は、特に好ましくは、上記で提示された理由のために鉄及び鉄塩不含である。
【0060】
好ましい実施態様において、本発明によるシラン組成物は、
a)前記の少なくとも1種のイミノシラン;及び
b)前記の少なくとも1種の酸化防止剤
からなる。
【0061】
好ましいこの実施態様において、前記の少なくとも1種の酸化防止剤は、上記で明記された量で使用され、かつ該シラン組成物の残りの割合は、該イミノシランにより形成される。
【0062】
好ましいこの実施態様において、本発明によるシラン組成物は好ましくは、
a)少なくとも1種のイミノシラン;及び
b)前記の少なくとも1種のイミノシラン1kgあたり10~10000mg、好ましくは1kgあたり50~1000mg、より好ましくは1kgあたり100~600mgの量の、少なくとも1種の酸化防止剤
からなる。
【0063】
前記の少なくとも1種のイミノシランは、該シラン組成物の残りの割合を形成する。
【0064】
本発明によるシラン組成物は、好ましくは、(酸素及び水分(水)を排除した)不活性雰囲気中に貯蔵され、それにより、付加的な望ましくない色変化が回避される。不活性雰囲気の例及びそれらの使用は、当業者に周知であり、例えば窒素又は貴ガス、例えばアルゴンがこのために、好ましくは水も排除して、使用される。したがって、本発明は、本発明によるシラン組成物を、好ましくは不活性雰囲気中で、貯蔵する方法にも関する。本発明によるシラン組成物は、密閉容器中、例えばびん中、容器中又はドラム中で典型的に貯蔵される。しかしながら、本発明のさらなる利点は、本発明によるシラン組成物が、不活性雰囲気下で貯蔵されることを必要としないことである、それというのも、空気下で改善された安定性を示すからである(従来技術の解決手段及び前記のそれぞれのイミノシラン自体と比べて、第2表参照)。
【0065】
本発明によるシラン組成物は、好ましくは、0~110℃、より好ましくは5~30℃の温度範囲内で貯蔵される。これは付加的に、望ましくない色変化が起こることを防止する。
【0066】
本発明によるシラン組成物は、対応するイミノシランが他の点では適用できる全ての用途にも使用することもできる。典型的な用途は、反応性配合物における、例えば接着剤及びシーラント又はコーティングにおけるか又はポリマー用途における、本発明によるシラン組成物の使用を含む。
【0067】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるシラン組成物を製造する方法に関し、以下の方法工程:
I)前記の少なくとも1種のイミノシランを用意する方法工程;
II)前記の少なくとも1種の酸化防止剤を用意する方法工程;及び
III)前記の少なくとも1種のイミノシラン及び前記の少なくとも1種の酸化防止剤を混合する方法工程、
を含み、こうして、本発明によるシラン組成物が得られる。
【0068】
該方法工程は、典型的に、明記された順序において実施される。あるいは、方法工程I)及びII)は、逆の順序で又は同時に不利なく実施することができる。本発明による方法は任意に、明記された方法工程の前、最中及び/又は後に実施することができる、さらなる方法工程を含む。
【0069】
方法工程I)において、前記の少なくとも1種のイミノシランは装入される。イミノシランは、一般に商業的に入手可能であるか又は公知の方法により製造することができる。イミノシランを製造する方法は、当業者に、例えば米国特許出願公開第2008/138522号明細書(US 2008/138522 A1)(段落31~94)、米国特許出願公開第2010/130764号明細書(US 2010/130764 A1)(段落3、7~36)、米国特許出願公開第2013/281562号明細書(US 2013/281562 A1)(段落74~112)及び米国特許出願公開第2018/0016287号明細書(US 2018/0016287)(段落34~68)から、公知である。
【0070】
本発明の一実施態様において、前記の少なくとも1種のイミノシランは、少なくとも1種のアミノシランと、少なくとも1種のカルボニル化合物との反応により用意される。
【0071】
前記の少なくとも1種のアミノシランは、好ましくは、式(X)
【化15】
のアミノシランであり、上記式中、
x1、Rx2及びRx3は、それぞれ独立して、オキシム基、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基、オキシアルカンジイルオキシアルキル基、アルキル基、アリール基、エノキシ基及び上記のものの組合せからなる群から選択され;かつ
は、二価の有機基及び式(X2)
【化16】
のジオルガニルシリル基からなる群から選択され、上記式中、
x21及びRx22は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、オキシアルキル基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され;
は、二価の有機基であり;かつ
xは、1、2、3、4及び5から選択される整数である。
【0072】
x1、Rx2及びRx3は、好ましくは、それぞれ独立して、オキシム基、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基、オキシアルカンジイルオキシアルキル基、アルキル基、アリール基、エノキシ基からなる群から選択される。Rx1、Rx2及びRx3は、より好ましくは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、オキシアルキル基、オキシアシル基及びオキシアルカンジイルオキシアルキル基からなる群から選択される。Rx1、Rx2及びRx3は、よりいっそう好ましくは、それぞれ独立して、オキシ-C1~C4-アルキル基、アセトキシ基及びオキシ-C1~C2-アルカンジイルオキシ-C1~C2-アルキル基からなる群から選択される。
【0073】
は、好ましくは二価の有機基である。好ましくは、この二価の有機基は、
【化17】
に相当し、
上記式中、x′及びx′″は、1~6の間から独立して選択される整数であり、
x″は、0、1、2及び3から選択される整数であり、
かつ各RU1は、独立して、水素及びメチル基からなる群から選択される。好ましくは、RU1は水素である。
【0074】
特に、Xは、
【化18】
である。
【0075】
x′及びx′″は、それぞれ独立して、好ましくは2又は3である。x″は、好ましくは0又は1である。
x21及びRx22は、好ましくは、それぞれ独立して、C1~C4-アルキル基又はオキシ-C1~C4-アルキル基からなる群から選択される。
は、好ましくはアルカンジイル基、より好ましくはC1~C8-アルカンジイル基、よりいっそう好ましくはC2~C4-アルカンジイル基である。
xは、好ましくは、2及び3から選択される整数である。
【0076】
特に好ましいアミノシランは、トリアルコキシシリルプロピルアミン及びジアルコキシアルキルシリルプロピルアミンからなる群から選択される。よりいっそう好ましくは、アミノシランは、(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン(AMMO、CAS番号13822-56-5)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(AMEO、CAS番号919-30-2)、3-アミノプロピル(ジメトキシ)メチルシラン(CAS番号3663-44-3)、3-アミノプロピル(ジエトキシ)メチルシラン(CAS番号3179-76-8)及び上記のものの混合物からなる群から選択される。
【0077】
前記の少なくとも1種のカルボニル化合物は好ましくは、式(Y):
【化19】
のカルボニル化合物に相当し、上記式中、
Y1は、水素、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択され;かつ
Y2は、一価の有機基である。
【0078】
Y1は、より好ましくは、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択される。よりいっそう好ましくは、RY1はC1~C4-アルキル基である。
Y2は、より好ましくは、アルキル基、アリール基及びアルキル基とアリール基との組合せからなる群から選択される。よりいっそう好ましくは、RY2はC1~C4-アルキル基である。
【0079】
典型的に、前記の少なくとも1種のアミノシラン及び前記の少なくとも1種のカルボニル化合物の反応は、70~130℃の範囲内の温度で実施される。その期間は、使用される反応物に基づいており、かつ一般に、該反応物のできる限り完全な転化まで選択され;典型的に、2~5時間で十分である。当業者は、上記で引用された文献にさらなるパラメーターを見出すことができる。
【0080】
その反応様式及び前記の少なくとも1種のアミノシラン及び前記の少なくとも1種のカルボニル化合物に応じて、当業者は、任意に、前記の少なくとも1種のアミノシラン及び前記の少なくとも1種のカルボニル化合物の反応から生じる反応混合物を精製にかけることができる。当業者は、常用の精製方法を知っており、これらをそれに応じて適用する。好ましくは、該カルボニル化合物と一緒に生じる水は、特に過剰量で使用される場合には、該反応混合物から蒸留により除去され、ついで、生じる無水イミノシランは、蒸留により、例えば該反応混合物から塔頂を経て留去されることにより、精製される。
【0081】
前記の少なくとも1種のイミノシランを、前記の少なくとも1種のアミノシランと前記の少なくとも1種のカルボニル化合物との上記に記載された反応、引き続き精製により、用意する場合に、該酸化防止剤は、該反応混合物に、精製前、精製中又は精製後に添加される。前記の少なくとも1種の酸化防止剤が、前記の少なくとも1種のイミノシランに精製後に添加される場合には、理想的には、精製が完了した直後に、例えば精製の完了後1日以内、より良好には数時間以内、さらにより良好には5分以内に、添加される。こうして、望ましくない色変化は、直ちに回避される。生じるか又は結果としてのイミノシランを蒸留により精製すること及び前記の少なくとも1種の酸化防止剤が貯蔵容器中に存在して、蒸留により精製されたイミノシランを、蒸留直後にその酸化防止剤と混合することは特に有利である。
【0082】
方法工程II)における前記の少なくとも1種の酸化防止剤は、一般に商業的に入手可能であるか、又は当業者に周知の常用の標準的な方法により合成することができる。
【0083】
方法工程III)において、前記の少なくとも1種のイミノシラン及び前記の少なくとも1種の酸化防止剤は混合され、そこで、本発明によるシラン組成物が得られる。明記された2つの成分を混合する方法は、当業者に公知であり、かつ日常試験によりそれぞれの要件に調整することができる。
【0084】
例えば、前記の2つの成分をガラスビーカー中に装入し、引き続き、前記の2つの成分の好ましくは均質混合物が形成されるまで、例えばマグネチックスターラーバーを用いて、室温で撹拌し、かつ水分及び酸素を排除することが適している。この混合物は、本発明によるシラン組成物である。あるいは、明記された2つの成分は、撹拌槽中で互いに混合することができる。このためには、前記の2つのうち一方を装入することができ、かつ他方を添加することができるか又は双方とも混合しながら添加することができる。
【0085】
方法工程III)は、好ましくは、不活性雰囲気下で(すなわち水及び酸素を排除して)実施され、このことも、貯蔵安定性を改善し、かつ望ましくない色変化を回避する。
【0086】
本発明によるシラン組成物は、例えば、重合反応における、例えばアニオン重合反応における連鎖停止試薬として、又は(好ましくは)接着剤及びシーラントにおける接着促進添加剤として、使用される。
【0087】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるシラン組成物を含む接着剤又はシーラント配合物を表面上へ適用する方法に関し、以下の方法工程:
A)表面を用意する方法工程、
B)本発明によるシラン組成物を含む接着剤又はシーラント配合物を、該表面に適用する方法工程
を含み、こうして、コーティングされた表面が得られる。
【0088】
接着剤及びシーラント並びに表面でのそれらの用途のためのプロセスパラメーターは、一般に当該技術分野において公知である。
【0089】
本発明は、以下の例によってより詳細に説明されるが、その対象を限定するものではない。
【実施例
【0090】
市販製品は、別に記載されない限り、本出願の提出時点で入手可能な技術資料におけるものとして使用される。以下のものを、全ての試験においてイミノシランとして使用した:
【化20】
【0091】
以下の酸化防止剤を、本試験において使用した:
【表1】
【0092】
本発明によるシラン組成物の製造
該イミノシランを、0.1L角型褐色ガラスびん中へ窒素下で精密てんびん上で量り入れた。該酸化防止剤を、秤量ボート中へ化学てんびん上で差引きにより量り入れた。該酸化防止剤の添加前に、該酸化防止剤を完全に該秤量ボートから0.1L角型褐色ガラスびん中へすすぎ入れるために、シリンジを、使い捨てピペットを用いて該イミノシランで充填した。該すすぎ中に、その液を連続的に乾燥窒素流下で維持した。
【0093】
該添加後に、マグネチックスターラーバー及びマグネチックスターラープレートによって、該酸化防止剤を該イミノシラン中へ、乾燥窒素雰囲気下で該0.1L角型褐色ガラスびん中で、溶解が完了するまで混合した。
該酸化防止剤が完全に溶解した後に、該試料約15gを、シンチレーションバイアル中へ、使い捨てピペットを用いて充填した。該試料を、周囲空気雰囲気下で充填し、空気接触下で密閉した。
【0094】
該試料を、KOH(該イミノシラン1kgあたり250mg)を用いて同様に製造した。
【0095】
該シラン組成物の貯蔵:
該シラン組成物を、次のとおり貯蔵した:
周囲空気雰囲気下で充填された試料を、乾燥器中で60℃で貯蔵し、分析量の抜き取りのために室温に冷却し、該シンチレーションバイアルを開け、かつ該試料を、周囲空気雰囲気下で5分間撹拌した。引き続き、使い捨てピペットを用いて試料量を分析のために取った。引き続き、該試料を、次の試料の抜き取りまで、60℃で乾燥器中で周囲空気雰囲気下で再び貯蔵した。その貯蔵期間は、それぞれ、以下の第1及び2表に列挙されている。
【0096】
ガスクロマトグラフィー(GC)による該イミノシラン含有率の測定:
該イミノシラン含有率を測定するために、該シラン組成物の試料を、ガスクロマトグラフィーによる分析により調べた。このためには、Agilentからの“Agilent 6890”機器を、“Ultra-2/HP5(5%フェニルメチルシロキサン)”型のカラム(長さ:25.0mm、直径:320.00μm)と共に使用した。その注入量は0.4μLであった。該機器を、250℃のインジェクター温度及び280℃の検出器温度で操作した。以下の温度プログラムを使用した:100℃を2分間、毎分10℃の加熱速度で275℃に加熱し、最終温度をさらに20分間維持する。
【0097】
該シラン組成物の色数の測定:
該色数を、Hach Langeからの“LICO 690”分光光度計で測定した。色数を、白金-コバルトカラースケールの範囲内及びガードナーカラースケールの範囲内の双方において測定した。
【0098】
全ての測定のために、前記の液状シラン組成物の試料を、測定キュベット中へ充填し、かつ透過率を、分光光度計(0°/180°幾何条件)を用いて測定した。白金-コバルトカラースケールの範囲内の色数の測定のために、手順は、DIN EN ISO 6271-2:2004に従った。ガードナーカラースケールの範囲内の色数の測定のために、手順は、DIN EN ISO 4630:2015に従った。
【0099】
第1表:時間及び該酸化防止剤に応じた該シラン組成物又は該イミノシランの色変化(色数[mg Pt Co/l]又は[ガードナー])。
【表2】
初めに25mg Pt Co/lの色数を有する製造したてのイミノシランのバッチを基準とする。
【0100】
周囲空気雰囲気下での貯蔵の際に、本発明によるシラン組成物は、該イミノシラン(比較例)よりも低い濃色化、すなわち望ましくない色変化の改善された回避を示した。一部の比較酸化防止剤ですら、該イミノシラン単独(酸化防止剤3及び4)と比べてより早い色変化の結果となった。本発明によるシラン組成物における酸化防止剤1の使用は、経時的に圧倒的に最も少ない色変化を示した。本発明によるシラン組成物のみが、望ましくない色変化を回避する長期の効果を与えることがわかる。添加剤としてのKOHの使用は、即時のかつ永続的な濃色化の結果となった。
【0101】
第2表:GCにより測定される、時間及び可能な添加剤に応じた、使用された当初のイミノシランの割合(面積%)
【表3】
【0102】
周囲空気雰囲気下での貯蔵の際に、前記の酸化防止剤を含むシラン組成物は、純度の下落が該イミノシランよりもゆっくりとしていた。しかしながら、本発明によるシラン組成物のみが、望ましくない化学的分解を妨げることに関してより長持ちする効果を可能にした。比較酸化防止剤(酸化防止剤2)を用いる場合に、該イミノシランの化学的分解は、短期間防止することができるに過ぎない。該シラン組成物における添加剤としてのKOHの使用は、純度の即時のかつ永続的な減少の結果となる。
【国際調査報告】