(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-07
(54)【発明の名称】糖蛋白質の定量のための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230331BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230331BHJP
C12Q 1/34 20060101ALN20230331BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230331BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V ZNA
G01N27/62 X
C12Q1/34
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549792
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2021054194
(87)【国際公開番号】W WO2021165488
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518192172
【氏名又は名称】ジェンマブ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン ブレメル エワルト ティー.ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】サンジャース シプケ
(72)【発明者】
【氏名】ウィレムス デメルツァ
(72)【発明者】
【氏名】ヒベルト リシャルト ジー.
(72)【発明者】
【氏名】デ ヨング ロブ エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】イエンセン セーレン スコフ
(72)【発明者】
【氏名】ポールセン エミル
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA12
2G045AA13
2G045BB20
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4B063QR10
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4B063QS39
(57)【要約】
本発明は、サンプル中の糖蛋白質の定量のための方法に関し、前記糖蛋白質を内部標準との比較によって定量することを含み、前記内部標準は前記糖蛋白質のバリアント形態を含み、前記バリアント形態はコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法であって、
定量されるべき各糖蛋白質が、1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、
前記方法が、以下の工程を含む、前記方法:
a. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程;
b. 内部標準を前記サンプルに追加する工程であって、前記内部標準が、定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を含み、前記バリアント形態が、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、各コアAsn結合型GlcNAc部分が、前記バリアントのポリペプチド鎖におけるAsnアクセプター残基に直接的に取り付けられるN-アセチルグリコサミン部分であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない、前記工程;および
c. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程。
【請求項2】
工程c.に先立って、酵素によるサンプルの処置を含み、
前記酵素が、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができるが、前記バリアント形態からコアAsn結合型GlcNAc部分を除去することができない、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酵素処置が、工程b.に先立って行われる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記酵素処置が、工程b.における内部標準の追加後に行われる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、PNGase F(EC 3.5.1.52)である、請求項2~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
工程b.に先立って、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができる酵素によってサンプルを処置すること、任意で、次に前記酵素の除去または失活を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程c.における定量が質量分析を用いて行われる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
工程c.における定量が、質量分析および質量に基づかない分離技術の組み合わせを用いて行われる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
工程c.における定量が、液体クロマトグラフィー - 質量分析(LC-MS)、例えば逆相に基づくLC-MSを用いて行われる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
定量されるべき糖蛋白質のアミノ酸鎖を蛋白質分解的に消化または別様に断片化する工程を含まない、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質(単数または複数)と内部標準に用いられるそのバリアント形態(単数または複数)との両方が、それらの全長の、すなわち全長アミノ酸鎖を有する形態で、またはほとんど全長の、例えばそれらの全長アミノ酸配列の50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上を含む形態で用いられる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質が抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
2つ以上の、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、またはより多くの、異なる抗体の定量を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記2つ以上の抗体が、IgG抗体、例えば全長IgG抗体である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質の少なくとも1つが、コアAsn結合型GlcNAc部分にフコースを含有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
サンプルが細胞培養サンプルである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
サンプルが、精製された、組換え的に産生された糖蛋白質を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記方法の工程b.およびc.が自動化された様式で行われ、好ましくは工程a.、b.、およびc.が自動化された様式で行われる、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
サンプルが、血液サンプル、血漿サンプル、または血清サンプルである、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
細胞培養中の糖蛋白質の産生をモニタリングするためのプロセスであって、
前記糖蛋白質を産生する宿主細胞を培養することと、
請求項16または18記載の方法を行うことと
を含む、前記プロセス。
【請求項21】
精製された、組換え的に産生された糖蛋白質の、品質管理のためのプロセスであって、
請求項17または18記載の方法を行うこと
を含む、前記プロセス。
【請求項22】
糖蛋白質の公知の数量のバリアント形態を含む組成物であって、
前記バリアント形態がコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、各コアAsn結合型GlcNAc部分が、前記バリアントのポリペプチド鎖におけるAsnアクセプター残基に直接的に取り付けられているN-アセチルグリコサミン部分であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない、
サンプル中の前記糖蛋白質の定量のための内部標準としての使用のための、前記組成物。
【請求項23】
サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法であって、
定量されるべき各糖蛋白質が1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、
前記方法が、以下の工程を含む、前記方法:
a. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を1つまたは複数の酵素により処置して前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を得ることによって、内部標準を調製する工程であって、前記バリアント形態がコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、各コアAsn結合型GlcNAc部分が、前記バリアントのポリペプチド鎖におけるAsnアクセプター残基に直接的に取り付けられているN-アセチルグリコサミン部分であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない、前記工程;
b. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程;
c. 前記内部標準を前記サンプルに追加する工程;および
d. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程。
【請求項24】
工程a.における1つまたは複数の酵素による前記処置が、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、例えばEndoS2またはEndoSによる処置を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
工程a.における1つまたは複数の酵素による前記処置が、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、例えばEndoS2またはEndoS、およびAsn結合型フコース-アルファ-1,6-GlcNAc部分からのアルファ-1,6連結を加水分解することができるフコシダーゼによる処置を含む、請求項23~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
請求項2~19のさらなる特徴の1つまたは複数を含む、請求項23~25のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、サンプル中の糖蛋白質の定量のための方法と、かかる方法での使用のための材料とに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組換え蛋白質は例えば薬物製品としての使用のためにますます開発されつつある。液体クロマトグラフィー(LC)およびキャピラリー電気泳動(CE)などの分析ツールは、インタクトなモノクローナル抗体バリアントのサイズおよび荷電バリアントを分離および定量するために首尾良く用いられている(Staub et al, J Pharm Biomed Anal 55, 810-822, 2011(非特許文献1))。加えて、例えばヒト血清または血漿中の標的蛋白質に対する特異的抗体を利用する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのイムノアッセイもまた、定量目的で実施された(Mushens et al, J. Immunol. Methods, 162 (1), 1993(非特許文献2))。LC-質量分析(MS)は蛋白質分析および定量のための一般的に用いられる方法である。「ボトムアップ」MSアプローチでは、標的蛋白質の酵素的な消化がシグネチャーペプチドを生じ、これがその後、内部標準(IS)としての安定同位体標識(SIL)ペプチドの存在下で定量される(US20120264155A1(特許文献1))。ペプチドレベルの定量におけるいくつかの欠点は、インタクトな蛋白質の定量についての関心を増大させている(Jin et al, Bioanalysis 10(11), 851-862, 2018(非特許文献3))。最も適当なシグネチャーペプチドの選択と、酵素消化工程の最適化は、アッセイの開発を複雑にかつ時間浪費的にする。加えて、酵素的な蛋白質消化はスペクトルの複雑さを増大させ、分析を、干渉を受けやすくする。しかしながら、ペプチドレベルの定量における大きな制約は、蛋白質分子全体についての情報が消化によって失われ、任意の所与のペプチドが蛋白質全体を真には描き出し得ないことである。Macchiらは、インタクトな二重特異性抗体およびそれらのバリアントを定量するためのMSに基づく方法を記載している(Macchi et al., Anal Chem 87:10475-82 (2015)(非特許文献4))。しかしながら、インタクトな抗体混合物のLC-MSに基づく定量は、LCおよびMSの両方において、サイズ、構造的な複雑さ、および不均一性に関する課題を提供する。ゆえに、ISとしてのインタクトなサロゲート蛋白質種の使用は依然として限定されている。
【0003】
免疫グロブリンは糖蛋白質である。IgG1、IgG2、およびIgG4は単一の保存されたAsn結合型グリコシル化部位をCH2領域に(IgG1では位置Asn297に)有し、それゆえに免疫グロブリン分子あたり2つのグリカンを持つ。他の免疫グロブリンは、より重度にグリコシル化されている(例えばMaverakis et al. (2015) J Autoimmun, 57:1-13(非特許文献5)参照)。コアの複合型二分枝7糖(GlcNAc2Man3GlcNAc2)への、フコース、ガラクトース、およびシアル酸残基の一定でない追加が原因で、IgG-Fc Asn結合型グリカンは高度に不均一な翻訳後修飾物である。グリカンは、蛋白質の立体配座、安定性、および生物学的機能において重要な役割を果たしている(Costa et al., Crit Rev Biotechnol 34(4): 281-99 (2014)(非特許文献6))。Fcグリカンの不均一性は、種および発現系によって異なる。哺乳類細胞株は、組換え糖蛋白質を製造するために一般的に適用され、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)に基づく発現系が最も一般的に用いられる。組換えバイオ医薬は他の発現系、例えば酵母、植物、または昆虫においてもまた産生される(Lalonde et al., J Biotechnol 251:128-40 (2017)(非特許文献7))。しかしながら、これら後者の生物は、酵素的な機構の違いが原因で、哺乳類細胞で産生されるものとは異なるグリカン構造を産生する。
【0004】
糖蛋白質サンプルの脱グリコシル化は、種々のグリコシダーゼ、例えばペプチド:N-グリコシダーゼF(PNGase F)によって達成され得、各酵素はその固有のグリカン切断パターンを有する(Seki et al., (2019) J. Biol. Chem. 294(45): 17143-54(非特許文献8))。脱グリコシル化後のLC-MS分析が、治療用モノクローナル抗体のN-グリコ-占有状態を特徴付けするために適用されている(Liu et al, Anal Biochem 509 p142-45, 2016(非特許文献9))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Staub et al, J Pharm Biomed Anal 55, 810-822, 2011
【非特許文献2】Mushens et al, J. Immunol. Methods, 162 (1), 1993
【非特許文献3】Jin et al, Bioanalysis 10(11), 851-862, 2018
【非特許文献4】Macchi et al., Anal Chem 87:10475-82 (2015)
【非特許文献5】Maverakis et al. (2015) J Autoimmun, 57:1-13
【非特許文献6】Costa et al., Crit Rev Biotechnol 34(4): 281-99 (2014)
【非特許文献7】Lalonde et al., J Biotechnol 251:128-40 (2017)
【非特許文献8】Seki et al., (2019) J. Biol. Chem. 294(45): 17143-54
【非特許文献9】Liu et al, Anal Biochem 509 p142-45, 2016
【発明の概要】
【0007】
サンプル中の、特に蛋白質混合物中の蛋白質を正確に定量するための改善された方法の必要性が依然としてある。
【0008】
本発明は、糖蛋白質の定量のための方法を提供し、これは、混合物中の個々の蛋白質サンプル成分に高度に似通っている生物物理学的特性を有する内部標準を用い、それによって、かかる蛋白質サンプルの組成の正確な定量を可能にする。
【0009】
本発明の方法に用いられる内部標準は、定量されるべき糖蛋白質(単数または複数)のバリアント形態であり、これは完全なグリカン構造ではなくむしろコアGlcNAc部分のみを含有する。本発明の方法は、サンプル中の糖蛋白質と、内部標準であるバリアント形態との間の、質量について生じる違いを、内部標準と比べたサンプル中の蛋白質の定量のために活用する。
【0010】
従って、第1の局面では、本発明は、サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法に関し、定量されるべき各糖蛋白質は1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、前記方法は、以下の工程:
a. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程と、
b. 内部標準を前記サンプルに追加する工程であって、前記内部標準が、定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を含み、前記バリアント形態が、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記工程と、
c. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程と
を含む。
【0011】
さらなる局面では、本発明は、サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法に関し、定量されるべき各糖蛋白質は、1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、前記方法は、以下の工程:
a. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を1つまたは複数の酵素により処置して前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を得ることによって、内部標準を調製する工程であって、前記バリアント形態が、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記工程と、
b. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程と、
c. 前記内部標準を前記サンプルに追加する工程と、
d. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程と
を含む。
【0012】
なおさらなる局面では、本発明は、糖蛋白質の公知の数量のバリアント形態を含む組成物に関し、前記バリアント形態は、サンプル中の前記糖蛋白質の定量のための内部標準としての使用のための、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】記載される方法のあり得る適用の模式的な概観を示す。この例では、5つのIgG抗体の混合物が、定量されるべき5つの抗体についての内部標準としての用をなす5つのバリアント抗体を用いて定量され得る。これらの内部標準は、それらを定量されるべき抗体から区別するための内部標準上の残存するコアGlcNAc部分を例外として、定量されるべき完全に脱グリコシル化された抗体と同一である。観測質量(x軸)が溶出時間(y軸)に対してプロットされる時間分解デコンボリューション(TRD)を適用することによって、2次元ビューが生成され得、個々の抗体サンプルおよび内部標準の同定を可能とし得る。第3の次元では、ピーク体積がさらなる定量的計算のために推定され得るようなやり方で、ピーク強度が保存される。
【
図2A】
図2は、EndoS2によるIgG抗体の酵素的な脱グリコシル化が、脱フコシル化された種の存在によって引き起こされるサンプル不均一性をもたらすことを示す。(A)EndoS2によるIgG1-CD19-21D4-E345Kの酵素的な脱グリコシル化は、コアAsn結合型GlcNAc基までのグリカンの効率的除去をもたらす。しかしながら、脱フコシル化されたIgG1-CD19-21D4-E345Kの存在はサンプル不均一性をもたらし、ここで、いくつかの抗体はGlcNAc-フコース部分を有する2つの重鎖を含有し、いくつかはGlcNAc-フコース部分を有する1つの重鎖とそれに取り付けられたフコースなしのGlcNAc部分を有する1つの重鎖とを含有し、いくつかはそれに取り付けられたフコースなしのGlcNAc部分を有する2つの重鎖を含有する。(B)PNGase FによるIgG1-CD19-21D4-E345Kの酵素的な脱グリコシル化は、完全に脱グリコシル化されたIgG1-CD19-21D4-E345Kの均一な集団をもたらす。
【
図3】L.カゼイ(L. casei)からのα-L-フコシダーゼによる、EndoS2によって処置されたIgG抗体の酵素的な処置が、残存するフコース基を効率的に除去し、減少した質量不均一性をもたらしたことを示す。パネルAでは、IgG1-CD19-21D4-E345KがEndoS2のみによって処置され、大きい割合のIgG-(GlcNAc-Fuc)
2ならびにいくらかのIgG-(GlcNAc-Fuc)およびIgG-(GlcNAc)をもたらした。パネルBでは、IgG1-CD19-21D4-E345KがEndoS2およびα-L-フコシダーゼの両方によって処置され、IgG-(GlcNAc)の単一のピークをもたらした。
【
図4】PNGase Fによって処置されたサンプルからのPNGase Fが、EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置されたIgG抗体から、残存するGlcNAc部分を除去しないことを示す。(A)PNGase Fによって処置されたサンプルIgG1-CD19-21D4-E345KからのPNGase Fは、EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置された内部標準IgG1-CD19-21D4-E345K-(GlcNAc)
2には作用しない。(B)PNGase Fによって処置されたサンプルIgG1-CD19-21D4-E345KからのPNGase Fは、EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置された内部標準IgG1-CD19-21D4-E345K-(GlcNAc)
2または無処置のIgG1-b12には作用しないが、内部標準からのEndoS2およびα-L-フコシダーゼは無処置のIgG1-b12に作用する。
【
図5-1】
図5は、脱グリコシル化されたヒトIgG1-CD19-21D4-E345K、IgG1-CD22-huRFB4、IgG1-7D8、IgG1-CD37-37-3、およびIgG1-CD52-Campath-E345K抗体、ならびにAsn結合型GlcNAc部分を各重鎖に持つこれらの抗体の対応する内部標準から構成される抗体混合物のMS分析およびLC分析を示す。(A)従来のデコンボリューション質量分析によって処理された、オーバーラップする抗体質量ピークおよびマッチする内部標準を示すMSスペクトル。(B)LC分析によって決定された、(A)で挙げられた抗体およびバリアント抗体内部標準の溶出時間。(C)各サンプル混合物または標準混合物の質量(Da)をx軸に、溶出時間(min)をy軸に有する、(A)で挙げられた抗体サンプル混合物およびバリアント内部標準のMSおよびLCデータの時間分解デコンボリューション質量スペクトル。四角は、ピーク体積積分の境界を示す。
【
図6-1】
図6は、試験された各抗体について、公知の抗体濃度(μg/mL)に対してプロットされたサンプル/IS比を示す。(A)IgG1-CD19-21D4-E345K、(B)IgG1-CD22-huRFB4、(C)IgG1-7D8、(D)IgG1-CD37-37-3、および(E)IgG1-CD52-Campath-E345Kについて、結果が示されている。
図6F~Jは、予想される公知の抗体濃度(μg/mL)に対してプロットされた、時間分解デコンボリューションMSを用いて決定された抗体濃度(μg/mL)を示す。(F)IgG1-CD19-21D4-E345K、(G)IgG1-CD22-huRFB4、(H)IgG1-7D8、(I)IgG1-CD37-37-3、および(J)IgG1-CD52-Campath-E345Kについて、結果が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な記載
定義
本明細書において用いられるときの用語「糖蛋白質」は、ポリペプチド鎖に共有結合的に取り付けられた1つまたは複数のグリカン(すなわちオリゴ糖または炭水化物側鎖)を含有する蛋白質を言う。グリカンをポリペプチドに取り付けるプロセスは、グリコシル化として公知である。グリコシル化の最も一般的な型の1つはAsn結合型グリコシル化であり、グリカンがポリペプチドのアスパラギン残基のアミド窒素に取り付けられる。
【0015】
用語「内部標準」は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、定量されるべき分析対象物質、例えば糖蛋白質を含有するサンプルに追加される、公知の数量の物質、本明細書ではバリアント糖蛋白質を言う。この物質は、次いで、分析対象物質シグナル 対 内部標準シグナルの比を決定することによる、分析対象物質の定量に用いられ得る。
【0016】
用語「免疫グロブリン」は、一対の低分子量軽(L)鎖および一対の重(H)鎖という二対のポリペプチド鎖からなる構造的に近縁の糖蛋白質のクラスを言い、4つは全てジスルフィド結合によって相互に接続され得る。免疫グロブリンの構造は良く特徴付けされている。例えば、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989) )を参照。簡潔には、各重鎖は、典型的には、重鎖可変領域(本明細書においてはVHと略称される)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、典型的には、3つのドメインCH1、CH2、およびCH3から構成される。重鎖はいわゆる「ヒンジ領域」においてジスルフィド結合を介して相互に接続される。各軽鎖は、典型的には、軽鎖可変領域(本明細書においてはVLと略称される)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、典型的には、1つのドメインCLから構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼称される、より保存されている領域が散在する、相補性決定領域(CDR)ともまた呼称される超可変性の領域(または配列が超可変的および/もしくは構造的に定められたループの形態であり得る超可変領域)へと、さらに細分され得る。各VHおよびVLは、典型的には、アミノ末端からカルボキシ末端に次の順序で配置された3つのCDRおよび4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196, 901 917 (1987)もまた参照)。別様に申し立てられないかまたは文脈によって否定されない限り、本明細書におけるCDR配列はIMGT規則に従ってDomainGapAlignを用いて同定される(Lefranc MP., Nucleic Acids Research 1999;27:209-212およびEhrenmann F., Kaas Q. and Lefranc M.-P. Nucleic Acids Res., 38, D301-307 (2010);インターネットhttpアドレス(www.imgt.org/)もまた参照。
【0017】
本発明におけるFc領域/Fcドメインにおけるアミノ酸位置の参照は、EU付番に従う(Edelman et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1969 May;63(1):78-85;Kabat et al., Sequences of Proteins of immunological interest. 5th Edition - 1991 NIH Publication No. 91-3242)。
【0018】
免疫グロブリンのFc領域は、免疫グロブリンの2つのCH2-CH3領域および接続領域、例えばヒンジ領域を包含する、典型的には、パパインによる抗体の消化後に生成するであろう抗体の断片として定められる。抗体重鎖の定常ドメインは、抗体アイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgD、またはIgEを定める。Fc領域は、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体および補体系の蛋白質との抗体のエフェクター機能を媒介する。
【0019】
本明細書において用いられる用語「グリコシル化」は、ポリペプチドの構造を安定化するまたはポリペプチドに機能をもたらすための、ポリペプチド、例えば抗体への、グリカンの選択的取り付けが関わる翻訳後修飾を言う。グリカン構造は生物間で異なるが、一般的には、2つ以上のGlcNAc部分、多数のマンノース部分、ならびに任意でさらなる炭水化物部分、例えばガラクトース部分、フコース部分、およびシアル酸部分を含む。グリコシル化の最も支配的な型のN結合型およびO結合型グリコシル化は、それぞれ真核細胞の小胞体およびゴルジ装置において起こる。N結合型(またはAsn結合型)グリコシル化は、ポリペプチドのアスパラギン(Asn)残基の側鎖窒素原子への炭水化物構造の連結のプロセスを言い、O結合型グリコシル化は、ポリペプチドのセリン(Ser)またはトレオニン(Thr)残基の側鎖酸素原子への炭水化物構造の連結のプロセスを言う。IgG分子などの免疫グロブリンは、単一の保存されたAsn結合型グリコシル化部位をCH2ドメインのアミノ酸位置Asn297に有する。本明細書において用いられる用語「脱グリコシル化」は、ポリペプチド、例えば抗体からのグリカンの除去、例えば酵素的な除去を言う。
【0020】
本明細書において用いられるときに、用語「コアGlcNAc部分」または「コアAsn結合型GlcNAc部分」は、ポリペプチド鎖におけるAsnアクセプター残基に直接的に(それゆえに別の部分を介さずに)取り付けられるGlcNAcとしてもまた公知のN-アセチルグリコサミン(acetylglycosamine)部分を言う。換言すると、ポリペプチド鎖に対して最も近位であるのはGlcNAc部分である。
【0021】
本明細書において用いられるときに、用語「フコース」または「フコシル化」は、糖蛋白質のグリカン構造の一部であるフコース部分を言う。フコース部分は複合型グリカン構造において種々の場所に存在し得る。本文脈においては、コアGlcNAc部分に連結されるフコース部分が特に対象となる。
【0022】
本明細書において用いられるときに、用語「完全な除去」またはその変形は、糖蛋白質からのAsn結合型グリカンの除去の文脈において、コアGlcNAc部分を包含するポリペプチド鎖におけるAsnアクセプター部位からのグリカン構造全体の除去を言う。Asnアクセプター残基はそれによってAspに変換される。
【0023】
本明細書において用いられる用語「ヒンジ領域」は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域を言うことが意図される。それゆえに、例えばヒトIgG1抗体のヒンジ領域はEU付番に従うアミノ酸216~230に対応する。
【0024】
本明細書において用いられる用語「CH2領域」または「CH2ドメイン」は、免疫グロブリン重鎖のCH2領域を言うことが意図される。それゆえに、例えばヒトIgG1抗体のCH2領域はEU付番に従うアミノ酸231~340に対応する。しかしながら、CH2領域は本明細書に記載される他のサブタイプのいずれかでもまたあり得る。
【0025】
本明細書において用いられる用語「CH3領域」または「CH3ドメイン」は、免疫グロブリン重鎖のCH3領域を言うことが意図される。それゆえに、例えばヒトIgG1抗体のCH3領域はEU付番に従うアミノ酸341~447に対応する。しかしながら、CH3領域は本明細書に記載される他のサブタイプのいずれかでもまたあり得る。
【0026】
本明細書において用いられる用語「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンクラスを言う(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA1、IgGA2、IgE、もしくはIgM、またはそれらのいずれかのアロタイプ、例えばIgG1m(za)およびIgG1m(f))。さらに、各重鎖アイソタイプは、カッパ(κ)またはラムダ(λ)軽鎖のどちらかと組み合わせられ得る。
【0027】
用語「抗体」(Ab)は、本発明の文脈においては、抗原に特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはそれらのどちらかの誘導体を言う。免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。上に記載されている通り、抗体の定常または「Fc」領域は、免疫系の種々の細胞(例えばエフェクター細胞)および補体系の成分、例えば補体活性化の古典的経路の第1の成分C1qを包含する宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体または類似の分子でもまたあり得る。用語「二重特異性抗体」は、少なくとも2つの、異なる、典型的にはオーバーラップしないエピトープに対して特異性を有する抗体を言う。かかるエピトープは同じかまたは異なる標的上にあり得る。エピトープが異なる標的上にある場合に、かかる標的は、同じ細胞または異なる細胞もしくは細胞型上にあり得る。上で示されている通り、別様に申し立てられないかまたは文脈によって明瞭に否定されない限り、本明細書における用語抗体は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の断片を包含する。かかる断片は、任意の公知の技術、例えば酵素的な切断、ペプチド合成、および組換え発現技術によって提供され得る。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって発揮され得ることが示されている。
【0028】
用語「全長抗体」は、本明細書において用いられるときに、そのアイソタイプの野生型抗体において通常見出されるものに対応する全ての重鎖および軽鎖の定常および可変ドメインを含有する抗体を言う。「全長アミノ酸配列」は、それが定量されるべきサンプル中に存在するままの蛋白質のアミノ酸配列全体、例えばサンプル中の抗体の重鎖のアミノ酸配列全体を言う。
【0029】
本明細書において用いられる用語「抗原結合(antigen-binding)領域」、「抗原結合(antigen binding)領域」、「結合領域」または「抗原結合ドメイン」は、抗原に結合することができる抗体の領域を言う。この結合領域は典型的には抗体のVHおよびVLドメインによって定められ、これらは、フレームワーク領域(FR)と呼称される、より保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)ともまた呼称される超可変性の領域(または配列が超可変的および/もしくは構造的に定められたループの形態であり得る超可変領域)へと、さらに細分され得る。抗原は例えば細胞、細菌、またはビリオン上に存在するポリペプチドなどの任意の分子であり得る。
【0030】
本明細書において用いられる用語「標的」または「標的抗原」は、抗体の抗原結合領域が結合する分子を言う。標的は、抗体が指向する任意の抗原を包含する。用語「抗原」および「標的」は抗体に関して交換可能に用いられ得、本発明のいずれかの局面または態様について同じ意味および目的に該当し得る。
【0031】
「バリアント形態」は、「親の」糖蛋白質と比較して、1つまたは複数の改変、例えばアミノ酸置換を含む糖蛋白質分子である。例示的な親の抗体のフォーマットは、限定されることなく、野生型抗体、全長抗体もしくはFc含有抗体断片、二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはそれらのいずれかの組み合わせを包含する。改変は、グリカンのまたはアミノ酸配列の改変を含み得る。本発明の文脈において、バリアントにおけるアミノ酸置換は、以下:
元のアミノ酸 - 位置 - 置換されたアミノ酸
として示される。
【0032】
アミノ酸残基を示すためのコードXaaおよびXを包含する、3文字コードまたは1文字コードが用いられる。従って、表記「E345R」または「Glu345Arg」は、バリアントが、親の抗体の位置345のアミノ酸に対応するバリアントアミノ酸位置において、アルギニンによるグルタミン酸の置換を含むことを意味する。
【0033】
本明細書において用いられる用語「組換え宿主細胞」(または単純に「宿主細胞」)は、発現ベクターが導入された細胞を言うことが意図される。かかる用語は、その特定の対象細胞のみならず、かかる細胞の子孫をもまた言うことが意図されることが理解されるべきである。ある種の改変は、変異または環境的影響のどちらかが原因で後々の世代において起こり得るので、かかる子孫は実際には親細胞と同一ではあり得ないが、本明細書において用いられる用語「宿主細胞」の範囲内になお包含される。組換え宿主細胞は、例えばCHO細胞、HEK 293細胞、PER.C6、NS0細胞、およびリンパ球細胞、ならびに他の真核宿主、例えば植物細胞および真菌を包含する。
【0034】
本明細書において用いられる用語「血漿中半減期」は、血液の血漿中のポリペプチドの濃度を、消失の間に(分布期の後に)、その当初の濃度の半分まで縮減するためにかかる時間を示す。抗体では、分布期は、典型的には、1~3日と考えられる。この期間には、血漿組織間における再分布が原因で、血液の血漿中濃度の約50%の減少がある。
【0035】
本明細書において用いられる用語「抗体-薬物コンジュゲート」は、悪性細胞の少なくとも1つの型に対して特異性を有する抗体またはFc含有ポリペプチド、薬物、および薬物を例えば抗体につなぐリンカーを言う。リンカーは悪性細胞の存在下で切断可能または非切断可能であり、抗体-薬物コンジュゲートは悪性細胞を殺す。
【0036】
本発明のさらなる局面および態様
上に記載されている通り、第1の局面では、本発明は、サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法に関し、定量されるべき各糖蛋白質が1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、前記方法は、以下の工程:
a. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程と、
b. 内部標準を前記サンプルに追加する工程であって、前記内部標準が、定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を含み、前記バリアント形態が、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記工程と、
c. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程と
を含む。
【0037】
1つの態様では、本発明の方法は、定量されるべき糖蛋白質のポリペプチド鎖を蛋白質分解的に消化または別様に断片化する工程を含まない。
【0038】
1つの態様では、方法は、工程c.に先立って、酵素によるサンプルの処置を含み、前記酵素は、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができるが、前記バリアント形態からコアAsn結合型GlcNAc部分を除去することはできない。すなわち、前記酵素は、コアGlcNAc部分から延在するAsn結合型グリカンを完全に除去することができるが、任意でフコシル化されたコアGlcNAc部分のみからなるAsn結合型グリカンなどの、コアGlcNAc部分からのいかなる延在も有さないAsn結合型グリカンを除去することはできない。
【0039】
本明細書の実施例で示される通り、PNGase FはAsn結合型グリカンを糖蛋白質から完全に除去し得る酵素の例である。すなわち、この酵素は、コアGlcNAc部分を包含する糖蛋白質からAsn結合型グリカン全体を除去する(それによって、AsnをAspに変換する)。しかしながら、PNGase Fは、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを有する糖蛋白質バリアントからコアGlcNAc部分を除去しないこともまた本明細書の実施例において示される。それゆえに、PNGase Fの特性を有する酵素によるサンプルの処置は、サンプル中の糖蛋白質の完全な脱グリコシル化をもたらすが、コアAsn結合型GlcNAcを保持する内部標準の完全な脱グリコシル化はもたらさない。本発明の方法は、質量においてもたらされる違いを、内部標準と比べたサンプル中の蛋白質の定量のために活用する。
図1は本発明の方法の(限定しない)態様を例解する。
【0040】
1つの態様では、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができるがバリアント形態からコアAsn結合型GlcNAc部分を除去することはできない酵素による処置は、工程b.に先立って行われる。別の態様において、前記酵素処置は工程b.における内部標準の追加後に行われる。1つの態様では、前記酵素はペプチド:N-グリコシダーゼFであり、別様にはPNGase F(EC 3.5.1.52)として公知である(Norris et al., Structure 2(11): p1049-59 (1994))。
【0041】
別の態様において、方法は、工程b.に先立って、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができる酵素によって、サンプルを処置する工程、任意で、次に、工程b.に先立つ、前記酵素の除去または失活を含む。例えば、定量されるべき糖蛋白質の脱グリコシル化のために、糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去し得るがバリアント形態からコアAsn結合型GlcNAcをもまた除去し得る酵素が用いられる場合には、バリアント形態と定量されるべき脱グリコシル化された蛋白質との間の質量の違いを保存するために、バリアント形態の追加の前に前記酵素を除去または不活性化することが有益またはさらには必要であり得る。
【0042】
記載された通り、本発明の方法は、定量されるべき糖蛋白質のバリアント形態を内部標準として用いる。好ましくは、定量されるべき各糖蛋白質について、内部標準における対応するバリアント形態は均一な調製物である。すなわち、各糖蛋白質について、全てのバリアント分子は質量が同一である。
【0043】
用いられるバリアント形態は、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である。特に、各コアAsn結合型GlcNAc部分は、前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれの前記バリアント形態のポリペプチド鎖におけるAsnアクセプター残基に直接的に取り付けられている単一のN-アセチルグリコサミン部分からなり得る。好ましい態様では、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない。
【0044】
他の態様では、前記コアGlcNAc部分は、フコシル化、好ましくは100%フコシル化される。すなわち、内部標準として用いられるバリアント形態の全ての分子がフコシル化される。
【0045】
好ましい態様では、内部標準として用いられるバリアント形態は95%超グリコシル化される。すなわち、組成物中の全てのバリアント分子のアクセプター部位の総数のうちAsnアクセプター部位の95%超は、取り付けられたGlcNAcを有する。さらなる態様では、バリアント形態は98%超、例えば99%超、例えば100%グリコシル化される。
【0046】
記載された通り、前記1つまたは複数の糖蛋白質の定量は前記内部標準との比較によって行われる。これは、専ら用いられるときに、別々の測定として測定されるサンプルからなる外部検量線が、実験条件、例えばMS装置条件、スプレー条件、サンプル回収、キャリーオーバーなどによって影響されるという問題を克服する。サンプル調製および分析のプロセス全体の間の任意の起こり得るばらつきを埋め合わせるために、内部標準およびサンプル分析対象物質は両方とも同時に分析される。内部標準の追加量は、ダイナミックレンジの考慮後に分析対象物質に対して適当な比であるべきである。内部標準およびサンプル分析対象物質(単数または複数)の濃度が直線的なダイナミックレンジに収まる限りは、いかなる検量線も要しない。しかしながら、内部標準と併せての外部検量線の使用は慣行であり、最も良好な結果を提供する。なぜなら、外部標準(ES)の使用は例えば内在的な蛋白質および/またはサンプルマトリクスの干渉を有さないと考えられ、内部標準が同時に分析の間の装置安定性の任意のバイアスを補正するからである。検量線を得るために、MSピーク強度比(ES/IS)が計算され(Y値)、公知のES濃度(X値)に対してプロットされる。サンプル分析(ISを添加される)によって、MSピーク強度比(Y値)が計算され(未知/IS)、サンプル濃度が内挿によって検量線から推定され得る。
【0047】
1つの態様では、工程c.における定量は質量分析を用いて行われる。さらなる態様では、工程c.における定量は、質量分析および質量に基づかない分離技術の組み合わせを用いて行われる。異なる技術のかかる組み合わせは、サンプルが複雑な組成を有するおよび/または複数の糖蛋白質が定量されるべきである場合には特に有用であり得る。質量に基づかない分離技術は、高度に類似の質量を有する2つ以上の蛋白質の分離を可能とし、それゆえに別々の定量を可能とし得る。例えば、1つの態様では、サンプルは、内部標準の追加後に、75 Da未満の、例えば60 Da未満の、例えば50 Da未満の、質量の違いを有する2つ以上の糖蛋白質を含み得る。1つの態様では、工程c.における定量は、液体クロマトグラフィー - 質量分析(LC-MS)、例えば逆相に基づくLC-MSを用いて行われる。
【0048】
定量されるべき糖蛋白質は、天然の糖蛋白質、組換え糖蛋白質、治療用糖蛋白質、診断用糖蛋白質、酵素などを包含する1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含む任意の糖蛋白質であり得る。1つの態様では、定量されるべき糖蛋白質はAsn-X-Thrグリコシル化部位のみを含有し、いかなるAsn-X-Ser部位も含有しない。別の態様において、定量されるべき糖蛋白質は95%超グリコシル化される。すなわち、組成物中の全ての分子のアクセプター部位の総数のうちAsnアクセプター部位の95%超は、取り付けられたグリカンを有する。さらなる態様では、定量されるべき糖蛋白質は98%超、例えば99%超、例えば100%グリコシル化される。
【0049】
いくつかの態様では、2つ以上の、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、またはより多くの、異なる糖蛋白質が、好ましくは同時に定量されることになる。特に、提供されるサンプルは、2~10個の、異なる抗体、例えば2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2~3、3~10、3~9、3~8、3~7、3~6、3~5、3~4、4~10、4~9、4~8、4~7、4~6、4~5、5~10、5~9、5~8、5~7、5~6、6~10、6~9、6~7、7~10、7~9、7~8、8~10、8~9、または9~10個の、異なる抗体を含み得る。サンプルが、定量されるべき2つ以上の抗体を含む、本発明の特定の態様では、前記2つ以上の、異なる抗体のうち最も豊富でない方は、前記2つ以上の、異なる抗体のうち最も豊富である方の量の少なくとも1%(w/w)、2% (w/w)、3%(w/w)、4%(w/w)、5%(w/w)、6%(w/w)、7%(w/w)、8%(w/w)、9%(w/w)、または10%(w/w)である量で存在する。特に、2つ以上の抗体は、任意の2つの抗体の量の間の比(w/w)が、1:5~5:1、例えば1:4~5:1、1:3~5:1、1:2~5:1、1:1~5:1、2:1~5:1、3:1~5: 1、3:4~5:1、1:5~4:1、1:5~3:1、1:5~2:1、1:5~1:1、1:5~1:2、1:5~1:3、1:5~1:4、1:4~4:1、1:4~3:1、1:4~2:1、1:4~1:1、1:4~1:2、1:4~1:3、1:3~4:1、1:3~3:1、1:3~2:1、1:3~1:1、1:3~1:2、1:2~4:1、1:2~3:1、1:2~2:1、1:2~1:1、1:1~4:1、1:1~3:1、または例えば1:1~2:1であるような量で存在し得る。
【0050】
定量されるべき天然糖蛋白質は、例えば動物起源、例えば哺乳類起源、または他の真核生物起源、例えば真菌または酵母起源を包含する、任意の起源であり得る。同様に、組換え的に産生された糖蛋白質は、動物宿主細胞、例えば哺乳類宿主細胞、例えばCHO細胞、またはヒト細胞、例えばHEK細胞、または真菌もしくは酵母細胞を包含する、Asn結合型グリコシル化ができる任意の種類の宿主細胞において産生され得る。
【0051】
1つの態様では、定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質は抗体である。さらなる態様では、方法は、2つ以上の、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、またはより多くの、異なる抗体の定量を含む。なおさらなる態様では、前記2つ以上の、異なる抗体は、IgG抗体、例えば全長IgG抗体である。「異なる」は、この文脈においては、アミノ酸配列の違い、および/またはAsn結合型グリコシル化以外の任意の翻訳後修飾、例えばコンジュゲート化、末端クリッピング、もしくは他のアミノ酸残基修飾の違いであり得る。1つの態様では、違いはAsn結合型グリコシル化以外の翻訳後修飾の違いである。1つの態様では、方法は、同じサンプル中の抗体-薬物コンジュゲートおよび非コンジュゲート化抗体の同時定量を含む。
【0052】
さらなる態様では、定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質を含有するサンプルは、半分子交換によってインビトロで二重特異性抗体を生成するための当技術分野において記載された方法の工程の1つから得られるサンプルである(例えば、Labrijn et al. (2013) PNAS 110:5145およびWO2011131746参照)。これらの方法のいくつかでは、親のホモ二量体の抗体が混合され、インビトロの、制御された還元条件に付され、これらは抗体を半分子へと分離し、二重特異性抗体を形成するための再アセンブリおよび再酸化を可能にする。本発明の定量方法は、親のホモ二量体抗体およびもたらされる二重特異性抗体の同時定量によって二重特異性抗体形成の進行をモニタリングおよび/または純度をアッセイするために用いられ得る。
【0053】
さらなる態様では、定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質を含有するサンプルは、WO2019243626(Genmab)に記載されている方法の工程の1つから得られるサンプルである。
【0054】
WO2019243626は、それらのアミノ酸配列の違いを有する、2つ以上の、異なる抗体のアウトプット混合物を生ずるための方法を記載し、この違いがクロマトグラフィーによる抗体の分離を可能にし、
- 2つ以上の、異なる抗体が、所望のもしくは所定の濃度比で、または本質的に所望のもしくは所定の濃度比で、前記アウトプット混合物中に存在し;
- 方法は、以下の工程:
a. 2つ以上の、異なる抗体が、所望のもしくは所定の濃度比では存在しない、または本質的に所望のもしくは所定の濃度比では存在しない、インプット混合物を提供する工程;
b. 2つ以上の抗体をクロマトグラフィーによって分離する工程;
c. アウトプット混合物を提供するために要求される量で、2つ以上の抗体を回収する工程
を含む。
【0055】
本明細書における用語「アウトプット混合物」は、2つ以上の、異なる抗体が、所望のまたは所定の濃度比で存在する抗体混合物を言うことが意図される。用語「インプット混合物」は、「アウトプット混合物」の文脈において言われる、2つ以上の、異なる抗体の少なくとも2つが、所望のもしくは所定の濃度比ではない濃度比で存在する、および/または所望のもしくは所定の濃度比からの許容偏差内にない濃度比で存在する、抗体混合物を言うことが意図される。
【0056】
それゆえに、本発明の方法は例えばインプット混合物またはアウトプット混合物中の抗体を定量するために用いられ得る。
【0057】
本発明の方法で提供されるサンプルは、糖蛋白質を含む任意の種類のサンプルであり得る。1つの態様では、サンプルは、細胞培養サンプル、すなわち、定量されるべき糖蛋白質(単数または複数)を産生する細胞、例えば組換え宿主細胞の、培養物から取られるかまたはそれに由来するサンプルである。それゆえに、本発明の方法は、例えば糖蛋白質の産生をモニタリングするために用いられ得、複数の糖蛋白質が細胞培養において産生される場合には、産生された糖蛋白質、例えば抗体の、数量および/または比のモニタリングを包含する。
【0058】
従って、さらなる局面では、本発明は、細胞培養における糖蛋白質の産生をモニタリングするためのプロセスに関し、前記プロセスは、前記糖蛋白質を産生する宿主細胞を培養することと、本明細書に記載される本発明に従う方法を行うこととを含む。定量のアウトカムに依存して、細胞培養成長条件は、糖蛋白質産生、または複数の糖蛋白質が産生される場合には糖蛋白質の比を調節するために調整され得る。
【0059】
本発明の方法は、精製および/またはポリッシング後の糖蛋白質調製物またはバッチの、品質管理(GC)のためにもまた用いられ得る。それゆえに、1つの態様では、サンプルは、精製された糖蛋白質、例えば、精製された、組換え的に産生された糖蛋白質を含む。
【0060】
従って、さらなる局面では、本発明は、精製された、組換え的に産生された糖蛋白質の、品質管理のためのプロセスに関し、前記プロセスは、本明細書に記載される通り本発明に従う方法を行うことを含む。
【0061】
本発明に従う方法は、自動化された様式で、すなわち方法の1つまたは全ての工程においてヒトの介入なしに実施され得る。1つの態様では、方法の工程b.およびc.は自動化された様式で行われる。さらなる態様では、工程a.、b.、およびc.は自動化された様式で行われる。方法は、定量結果を十分に短いタイムフレーム、例えば4時間以下で提供して、進行中の細胞培養プロセスの調整を可能とし得る。
【0062】
別の態様では、サンプルは体液サンプル、例えば血液サンプル、血漿サンプル、もしくは血清サンプルであるか、またはそれに由来する。それゆえに、本発明の方法は、ヒト対象などの対象における糖蛋白質(単数または複数)の運命、例えば血漿中半減期をモニタリングするために用いられ得る。
【0063】
本発明の方法は、濃度の広い範囲に亘って糖蛋白質を定量することにとって好適である。1つの態様では、サンプル中の定量されるべき糖蛋白質のそれぞれの濃度は、0.001 g/Lよりも上、例えば0.005 g/Lよりも上、例えば0.01 g/Lよりも上である。別の態様では、サンプル中の定量されるべき糖蛋白質のそれぞれの濃度は、1 g/Lよりも下、例えば0.25 g/Lよりも下、例えば0.1 g/Lよりも下である。
【0064】
記載された通り、さらなる局面では、本発明は、サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法に関し、定量されるべき各糖蛋白質は1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、前記方法は、以下の工程:
a. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を1つまたは複数の酵素により処置して前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を得ることによって、内部標準を調製する工程であって、前記バリアント形態がコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記工程と、
b. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程と、
c. 前記内部標準を前記サンプルに追加する工程と、
d. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程と
を含む。
【0065】
方法は、必要な修正を加えて、本発明の第1の局面の方法について上に記載されているさらなる特徴の1つまたは複数を含み得る。
【0066】
1つの態様では、内部標準を調製する工程は、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase EC 3.2.1.96)(Fairbanks (2017) Chem Soc Rev46:5128)、例えばEndoS2またはEndoSによる処置を含む。
【0067】
好ましい態様では、前記バリアント形態は、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない。
【0068】
1つの態様では、工程a.における1つまたは複数の酵素による前記処置は、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、およびAsn結合型フコース-アルファ-1,6-GlcNAc部分からのアルファ-1,6-連結を加水分解することができるフコシダーゼ、例えばLcFuc29A(GH29)としてもまた公知のフコシダーゼ29A、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)またはバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)からのE.C.番号3.2.1.51による処置を含む(Tsai et al. 2017 ACS Chem. Biol 12:63)。さらなる態様では、内部標準を調製する工程は、EndoS2またはEndoS(好ましくはEndoS2)による処置、次にフコシダーゼによる処置を含む。
【0069】
本発明の、上に記載されている方法の1つの態様では、定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質の少なくとも1つは、コアAsn結合型GlcNAc部分、すなわちコアAsn結合型GlcNAc部分の全てのうちのいくつかにフコースを含有する。
【0070】
1つの態様では、本発明の方法に用いられる内部標準は同位体標識されない。
【0071】
1つの態様では、定量されるべき糖蛋白質と内部標準に用いられるそのバリアント形態との両方が、それらの全長の、すなわち全長アミノ酸鎖を有する形態で、またはほとんど全長の、例えばそれらの全長アミノ酸配列の50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上を含む形態で用いられ、例えば、重鎖抗体配列の50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上を含む。
【0072】
さらなる局面では、本発明は、糖蛋白質の公知の数量のバリアント形態を含む組成物に関し、前記バリアント形態は、サンプル中の前記糖蛋白質の定量のための内部標準としての使用のための、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である。好ましくは、前記バリアント形態はコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない。
【0073】
本開示の追加の項目
1.
サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法であって、
定量されるべき各糖蛋白質が1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、
前記方法が、以下の工程を含む、前記方法:
a. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程、
b. 内部標準を前記サンプルに追加する工程であって、前記内部標準が、定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を含み、前記バリアント形態が、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記工程、および
c. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程。
【0074】
2.
前記バリアント形態がコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない、項目1に従う方法。
【0075】
3.
工程c.に先立って、酵素によるサンプルの処置を含み、
前記酵素が、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができるが、前記バリアント形態からコアAsn結合型GlcNAc部分を除去することができない、
項目1または2に従う方法。
【0076】
4.
前記酵素処置が、工程b.に先立って行われる、項目3に従う方法。
【0077】
5.
前記酵素処置が、工程b.における内部標準の追加後に行われる、項目3に従う方法。
【0078】
6.
前記酵素が、PNGase F(EC 3.5.1.52)である、項目3~5のいずれか1つに従う方法。
【0079】
7.
工程b.に先立って、前記1つまたは複数の糖蛋白質からAsn結合型グリカンを完全に除去することができる酵素によってサンプルを処置すること、任意で、次に前記酵素の除去または失活を含む、項目1または2に従う方法。
【0080】
8.
工程c.における定量が質量分析を用いて行われる、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0081】
9.
工程c.における定量が、質量分析および質量に基づかない分離技術の組み合わせを用いて行われる、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0082】
10.
工程c.における定量が、液体クロマトグラフィー - 質量分析(LC-MS)、例えば逆相に基づくLC-MSを用いて行われる、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0083】
11.
定量されるべき糖蛋白質のアミノ酸鎖を蛋白質分解的に消化または別様に断片化する工程を含まない、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0084】
12.
定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質(単数または複数)と内部標準に用いられるそのバリアント形態(単数または複数)との両方が、それらの全長の、すなわち全長アミノ酸鎖を有する形態で、またはほとんど全長の、例えばそれらの全長アミノ酸配列の50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上を含む形態で用いられる、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0085】
13.
定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質が抗体である、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0086】
14.
2つ以上の、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、またはより多くの、異なる抗体の定量を含む、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0087】
15.
前記2つ以上の抗体が、IgG抗体、例えば全長IgG抗体である、項目14に従う方法。
【0088】
16.
定量されるべき1つまたは複数の糖蛋白質の少なくとも1つが、コアAsn結合型GlcNAc部分にフコースを含有する、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0089】
17.
サンプルが細胞培養サンプルである、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0090】
18.
サンプルが、精製された、組換え的に産生された糖蛋白質を含む、先行する項目のいずれか1つに従う方法。
【0091】
19.
前記方法の工程b.およびc.が自動化された様式で行われ、好ましくは、工程a.、b.、およびc.が自動化された様式で行われる、項目17または18に従う方法。
【0092】
20.
サンプルが、血液サンプル、血漿サンプル、または血清サンプルである、項目1~16のいずれか1つに従う方法。
【0093】
21.
細胞培養中の糖蛋白質の産生をモニタリングするためのプロセスであって、
前記糖蛋白質を産生する宿主細胞を培養することと、
項目17または19に従う方法を行うことと
を含む、前記プロセス。
【0094】
22.
精製された、組換え的に産生された糖蛋白質の、品質管理のためのプロセスであって、
項目18または19に従う方法を行うこと
を含む、前記プロセス。
【0095】
23.
糖蛋白質の公知の数量のバリアント形態を含む組成物であって、
前記バリアント形態が、サンプル中の前記糖蛋白質の定量のための内部標準としての使用のための、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記組成物。
【0096】
24.
サンプル中の1つまたは複数の糖蛋白質の定量のための方法であって、
定量されるべき各糖蛋白質が1つまたは複数のAsn結合型グリカンを含み、
前記方法が、以下の工程を含む、前記方法:
a. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を1つまたは複数の酵素により処置して前記1つまたは複数の糖蛋白質のそれぞれのバリアント形態を得ることによって、内部標準を調製する工程であって、前記バリアント形態がコアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態である、前記工程、
b. 定量されるべき前記1つまたは複数の糖蛋白質を含むサンプルを提供する工程、
c. 前記内部標準を前記サンプルに追加する工程、および
d. 前記1つまたは複数の糖蛋白質を前記内部標準との比較によって定量する工程。
【0097】
25.
工程a.における1つまたは複数の酵素による前記処置が、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、例えばEndoS2またはEndoSによる処置を含む、項目24に従う方法。
【0098】
26.
前記バリアント形態が、コアAsn結合型GlcNAc部分のみを含有する形態であり、いかなるフコース部分も前記コアGlcNAc部分に連結されていない、項目24または25に従う方法。
【0099】
27.
工程a.における1つまたは複数の酵素による前記処置が、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、例えばEndoS2またはEndoS、およびAsn結合型フコース-アルファ-1,6-GlcNAc部分からのアルファ-1,6連結を加水分解することができるフコシダーゼによる処置を含む、項目24~25のいずれかに従う方法。
【0100】
28.
項目2~20のさらなる特徴の1つまたは複数を含む、項目24~27のいずれか1つに従う方法。
【0101】
【0102】
本発明は、以下の実施例によってさらに例解される。これらはさらに限定していると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0103】
実施例1:ヒトIgG1-CD19-21D4、ヒトIgG1-CD22-huRFB4、ヒトIgG1-7D8、ヒトIgG1-CD37-37-3、およびヒトIgG1-CD52-Campath、ならびにバリアントの、発現および抗体産生
単離された免疫グロブリン蛋白質の抗体発現のために、可変重(VH)鎖および可変軽(VL)鎖配列を遺伝子合成(GeneArt Gene Synthesis;ThermoFisher Scientific、ドイツ)によって調製し、IgG1m(f) アロタイプ重鎖(HC;SEQ ID NO: 1)および軽鎖(LC;SEQ ID NO: 3)定常領域を含有するpcDNA3.3発現ベクター(ThermoFisher Scientific、US)にクローニングした。用いられた重鎖定常領域アミノ酸配列は下の配列参照表において明らかにされている。
【0104】
所望の変異を遺伝子合成または部位特異的変異導入のどちらかによって導入した。本願において挙げられる抗体は、先に記載されたIgG1-CD19-21D4(WO2007002223;VH:SEQ ID NO 4;VL:SEQ ID NO 8)、IgG1-CD22-huRFB4(Weber et al., J Immunol Res 2015, 561814 (2015)で公開されたネズミ抗体のヒト化バリアント)、IgG1-7D8(WO2004/035607;VH:SEQ ID NO 16;VL:SEQ ID NO 20)、IgG1-CD37-37-3(WO2011/112978;VH:SEQ ID NO 23;VL:SEQ ID NO 27)、およびIgG1-CD52-Campath(Crowe et al., Immunology 87(1):105 - 110 (1992);VH:SEQ ID NO 30;VL:SEQ ID NO 34)に由来するVHおよびVL配列を有する。配列は本明細書においてもまた提供される。実施例に用いられたIgG1-CD19-21D4およびIgG1-CD52-Campath抗体はアミノ酸位置E345の変異、E345Kを持ち(SEQ ID NO: 2)、これは個々の抗体間のFc:Fc相互作用を増強する。これらの抗体バリアントは溶液中において単量体状であるので、これらの変異の存在は本願に記載される方法に影響しない。
【0105】
配列を、pcDNA 3.3発現ベクターから、自前開発の発現ベクターpGENpr6DGVにサブクローニング(IgG1-CD19-21D4-E345K、IgG1-CD22-huRFB4、IgG1-CD37-37-3、およびIgG1-CD52-Campath-E345K)、またはベクターpCon7D8-DGVにクローニング(IgG1-7D8について)、のどちらかを行い、両方のORFを同じベクターから発現した。これらの発現ベクターは、上流のCMVプロモーターおよび下流のTKポリA転写終結シグナルによって制御される抗体オープンリーディングフレームと、SV40プロモーター断片およびSV40ポリA転写終結シグナルの制御下で発現されるグルタミン合成酵素選択マーカーとを両方含有した。ベクターを、既知組成培地による浮遊成長に適合したCHO-K1細胞株(ECACC cat. nr. 85051005)の細胞に、または既知組成培地による浮遊成長に適合したCHO-K1SV細胞株(ECACC cat. nr. 85051005)の細胞に、1μg/1.0E+06細胞でヌクレオフェクション(Lonza Nucleofector 2b)によって移入した。ここでは、Amaxa Solution Vキットを本質的に製造者の説明に従って用い、プログラムT020を用いた(Lonza)。発現ベクターを含有する細胞を、96ウェルプレートにおいてGS EMサプリメント(Sigma)を含有するCD-CHO培地(Life Technologies/Thermo Scientific)中、MSX選択(Sigma)下で4週に亘って成長させ、これの後に、成長およびIgG発現を呈する親細胞培養のパネルを、より大きい体積に拡大培養した。上位の産生クローンをIgG発現についてAmbr15プラットフォーム(TAP Biosystems)において試験し、これの後に、最も良好な産生親細胞を、IgG材料を供給するための3Lバイオリアクターへの500mLの接種のために選択した。細胞培養を14日後に集め、IgG含有上清を濾過によって収集した。
【0106】
抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。細胞培養上清を0.2μMデッドエンドフィルターによって濾過し、次に、適当なサイズのMabSelect SuReカラム(GE Healthcare)へのローディングおよび0.1 Mクエン酸-NaOH、pH 3による抗体の溶出をした。溶出物を直ちに2M Tris-HCl、pH 9によって中和し、12.6mMリン酸ナトリウム、140mM NaCl、pH 7.4(GE Healthcare)に対して一晩透析した。透析後に、サンプルを0.2μMデッドエンドフィルターによって濾過滅菌した。精製されたIgGの濃度を280nmにおける吸光度によって決定した。精製された蛋白質をCE-SDS、HP-SEC、および質量分析によって分析した。
【0107】
実施例2:EndoS2によるIgG抗体の酵素的な脱グリコシル化は、脱フコシル化された種の存在によって引き起こされるサンプル不均一性を明らかにし、一方でPNGase FはIgG抗体を完全に脱グリコシル化する
複雑な蛋白質混合物中のIgG抗体クローンの絶対的な定量のためには、IgG抗体内部標準との組み合わせで質量分析が用いられ得る。これらの内部標準は、サンプル分析対象物質のものに類似の生物物理学的性質(例えば、類似のイオン化効率および物理化学的特性)を有するべきであるが、サンプル分析対象物質からは区別可能であるべきである。Asn結合型グリコシル化部位Asn297は構造的に多様なAsn結合型グリカン分枝を持ち、全ては2つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)基を基部に有する。エンドグリコシダーゼEndoS2はこれらの2つのGlcNAc基の間の連結を加水分解し、ポリペプチド鎖に対して最も近位であるAsn結合型コアGlcNAc部分のみが残る。ここで、EndoS2を用いる酵素的な処置が、小さい均一な質量のタグが保持されている内部標準抗体の生成を可能とするかどうかを試験した。
【0108】
Fc-グリカンのN-グリカンコアの基部の2つのGlcNAc残基間の連結を加水分解するために、50μLの200μg/mL 抗体IgG1-CD19-21D4-E345Kを、M49血清型A群ストレプトコッカス(Streptococcus)株からのエンドグリコシダーゼである1μLのEndoS2(40U/μL;Genovis、cat. no. A0-GL1-020)によって、37℃で1時間に亘って処置した。代替的には、完全な脱グリコシル化のために、50μLの200μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、1μLのペプチド-N-グリコシダーゼF(PNGase F;2.5U/mL;PROzyme、cat. no. GKE-5006D)によって37℃で一晩処置した。
【0109】
サンプルを液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によって分析した。ここでは、Orbitrap Q-Exactive Plus質量分析計(Thermo Scientific)にオンラインでつながれたDionex Ultimate 3000 UHPLC系(Thermo Scientific)によって行った。サンプルをBioResolve逆相モノクローナル抗体カラム(1.0 mm × 5 cm、450Å細孔径の2.7μm粒径;Waters、cat. no. 186009015)に注入した(5μL)。移動相Aは、水中の0.1%蟻酸(v/v)を含有し(BioSolve、cat. no. 0023244101BS)、移動相Bは、アセトニトリル中の0.1%(v/v)蟻酸を含有した(BioSolve、cat. no. 0001934101BS)。200μL/minで次の直線勾配を用いて、蛋白質を溶出した:0 minで25% B、2 minで30% B、12 minで40% B、13 minで80% B、18 minで80% B、19 minで25% B、25 minで25% B。完全なMSスペクトルを、17,500の分解能設定で、5×106の自動ゲインコントロール(AGC)ターゲット値、および200msの最大インジェクション時間によって取得した。スペクトルのそれぞれは10回のマイクロスキャンからなった。
【0110】
生データをGenedata Expressionist Refiner MS(バージョン13.0)ソフトウェアを用いて分析した。保持時間(RT)範囲は1~22分に制限し、m/z範囲は1400~4000Daに制限した。スペクトルをデコンボリューションした。ここでは、インタクト蛋白質アクティビティのハーモニックサプレッションデコンボリューション(モード:完全自動化、イーガネス:標準;質量あたりの複数の保持時間:はい;ステップ:1.0Da)を、湾曲に基づくピーク検出(スムージング:7スキャン;中央計算:強度によって重みづけ(0%閾値);境界決定:変曲点)および次の詳細設定で用いた:最小ピーク強度:1%;最小探索質量:5.0kDa;最大探索質量:500.0kDa;相対質量ウィンドウ:2%;最大質量ウィンドウ:1.0kDa;質量デコンボリューション:相対質量ウィンドウ10%、最大質量ウィンドウ5.0kDa)。次いで、デコンボリューションされたスペクトルを、算術平均法を用いて平均した。ここでは、デコンボリューションされたスペクトルのピークを、スペクトルピーク検出アクティビティを用いて検出した(スムージング:3点;ピーク検出:上昇に基づく;中央計算:極大値;境界決定:変曲点)。最大強度の1%未満の強度を有するピークは除外した。
【0111】
EndoS2によるIgG1-CD19-21D4-E345Kの酵素的な処置は、Asn結合型GlcNAc基までのグリカンの効率的な除去をもたらし、最も内側のGlcNAc残基および単一の取り付けられたコアフコースのみを残した(IgG-(GlcNAc-Fuc)
2;
図2)。しかしながら、抗体調製物中のコアフコシル化なしの(すなわち、α-1,6-連結を介して最も内側のGlcNAc残基に取り付けられたコアフコース基なしの)抗体種の存在は、サンプル不均一性をもたらす:IgG-(GlcNAc-Fuc)
2抗体に加えて、EndoS2によって処置されたサンプルは、コアフコースに連結された最も内側のGlcNAc残基を有する1つの重鎖とコアフコースなしの最も内側のGlcNAc残基を有する1つの重鎖とを含有するわずかな抗体(-Fuc、またはIgG-(GlcNAc-Fuc))、およびコアフコース基なしの最も内側のGlcNAc残基を有する2つの重鎖を含有するわずかな抗体(-Fuc
2またはIgG-(GlcNAc))をもまた含有する。対照的に、PNGase Fによる抗体IgG1-CD19-21D4-E345Kの酵素的な処置は(
図2B)、完全に脱グリコシル化されたIgG1-CD19-21D4-E345Kの均一な集団をもたらした。
【0112】
実施例3:ラクトバチルス・カゼイα-L-フコシダーゼによる、EndoS2によって処置されたIgG抗体の酵素的な脱フコシル化は、フコース基をコアGlcNAc基から除去する
実施例2に示されている通り、EndoS2によるIgG抗体の酵素的な脱グリコシル化は、取り付けられたフコース基ありまたはなしのGlcNAcコア基からなるグリカン基を持つIgG抗体の不均一な集団をもたらす。結果として、抗体は、コアフコース基に連結された最も内側のGlcNAc残基を有する2つの重鎖を含有し得るか(IgG-(GlcNAc-Fuc)2)、または代替的には、重鎖の1つもしくは両方は、取り付けられるフコース基なしのコアGlcNAc基を持ち得る(それぞれIgG-(GlcNAc-Fuc)またはIgG-(GlcNAc))。
【0113】
ここで、酵素的な脱フコシル化が、IgG-(GlcNAc-Fuc)2およびIgG-(GlcNAc-Fuc)上の残存するフコース基を除去しながら、GlcNAc基は手付かずで残すことによって、この不均一性を除去するために用いられ得るかどうかを試験した。
【0114】
50μLの200μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、6時間に亘って37℃で、Fc-グリカンのN-グリカンコアの基部の2つのGlcNAc残基間の連結を加水分解するための1μLのエンドグリコシダーゼEndoS2(40U/μL;Genovis、cat. no. A0-GL1-020)と、最も内側のGlcNAc残基へのコアフコース基のα-1,6連結を加水分解するための1μLのラクトバチルス・カゼイフコシダーゼ(フコシダーゼ29A;0.5mg/ml;NZYtech、cat. no. CZ0566)とによって処置した。代替的には、50μLの200μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、6時間に亘って37℃で、1μL EndoS2によって処置した。LC-MSを実施例2に記載されている通り行った。
【0115】
L.カゼイからのα-L-フコシダーゼによる、EndoS2によって処置されたIgG抗体の酵素的な処置は、残存するフコース基を、IgG-(GlcNAc-Fuc)
2およびIgG-(GlcNAc-Fuc)から効率的に除去し、均一なGlcNAcタグを有するIgG抗体をもたらした(
図3B)。
【0116】
実施例4:PNGase Fによって処置されたサンプルからのPNGase Fは、EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置されたIgG抗体から、残存するGlcNAc部分を除去しない
実施例3に示されている通り、EndoS2およびα-L-フコシダーゼによるIgG抗体の酵素的な脱グリコシル化は、小さい均一なGlcNAc部分を両方の重鎖上に残す。内部標準として用いられるときに、これらのIgG-(GlcNAc)2抗体は、エンドグリコシダーゼPNGase Fによって完全に脱グリコシル化されている抗体の複雑な混合物に添加され得る。IgG-(GlcNAc)2内部標準が添加され得る前に、抗体サンプルからのPNGase Fの枯渇化または不活性化を要する可能性があるかどうかを決定するために、本発明者らは、PNGase Fが、残存するGlcNAc部分をIgG-(GlcNAc)2抗体から除去し得るかどうかを試験した。
【0117】
50μLの400μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、6時間に亘って37℃で、Fc-グリカンのN-グリカンコアの基部の2つのGlcNAc残基間の連結を加水分解するための2μLのエンドグリコシダーゼEndoS2(40 U/μL;Genovis、cat. no. A0-GL1-020)と、最も内側のGlcNAc残基へのコアフコース基のα-1,6連結を加水分解するための2μLのラクトバチルス・カゼイフコシダーゼ(フコシダーゼ29A;0.5 mg/ml;NZYtech、cat. no. CZ0566)とによって処置した。平行して、50μLの400μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、一晩、37℃で、2μLのPNGase F(2.5U/mL)によって、実施例2に記載されている通り完全に脱グリコシル化した。処置後に、25μLの各サンプルを1:1で混合した。LC-MSを実施例2に記載されている通り行った。
【0118】
代替的には、50μLの600μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、3μL EndoS2および3μL α-L-フコシダーゼによって、6時間に亘って37℃で処置した。平行して、50μLの600μg/mL IgG1-CD19-21D4-E345Kを、一晩、37℃で、3μL PNGase F(2.5U/mL)によって完全に脱グリコシル化した。25μLの各サンプルおよび25μLの600μg/mL IgG1-b12を1:1:1混合し、3時間に亘って37℃でインキュベーションした。LC-MSを実施例2に記載されている通り行った。
【0119】
EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置されたIgG抗体(IgG1-CD19-21D4-E345K-(GlcNAc)
2)への、PNGase Fによって処置されたIgG1-CD19-21D4-E345Kの追加は、EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置されたIgG抗体上の残存するGlcNAc部分の除去をもたらさず(
図4A)、サンプル分析対象物質からのPNGase Fの不活性化または除去を要しないことを示している。
【0120】
EndoS2およびα-L-フコシダーゼによって処置された内部標準IgG1-CD19-21D4-E345Kならびに無処置のIgG1-b12への、PNGase Fによって処置されたIgG1-CD19-21D4-E345Kの追加は、内部標準または無処置のIgG1-b12の完全な脱グリコシル化をもたらさなかった。代わりに、IgG1-b12は、IgG1-b12-(GlcNAc)2およびIgG1-b12-(GlcNAc)-(GlcNAc-Fuc)バリアントとして現れ、内部標準からのEndoS2およびα-L-フコシダーゼの酵素活性が、この混合物中のサンプル分析対象物質からのPNGase Fの酵素活性に対して優位であることを示唆する。
【0121】
実施例5:抗体混合物の分析は多次元分離方法によって容易化される
実施例2~4に記載されている通り、高度に均一なバリアント抗体内部標準が、EndoS2エンドグリコシダーゼおよびラクトバチルス・カゼイフコシダーゼ(29A)による抗体サンプルのその後の脱グリコシル化によって生成され得る。この方法の使用は、残存するAsn結合型コアGlcNAc部分のみを両方の重鎖に有するインタクトな蛋白質全体をもたらす。これらの抗体バリアントは抗体混合物中の個々の抗体の定量のための内部標準として用いられ得る。しかしながら、抗体を含有するサンプルの質量分析に基づく分離および検出は、全ての分析される抗体サンプルおよびそれらの指定された内部標準が、オーバーラップする質量プロファイル、すなわち(ほぼ)同重体質量を有さないときに最も適切である。ここで、オーバーラップする質量プロファイル(すなわち(ほぼ)同重体質量)を有する抗体混合物を含有するサンプルの時間分解デコンボリューションを可能にするために、本発明者らは、LCに基づく分離方法をどのように手順に追加し得るかを記載する。
【0122】
等濃度のヒト抗体IgG1-CD19-21D4-E345K、IgG1-CD22-huRFB4、IgG1-7D8、IgG1-CD37-37-3、およびIgG1-CD52-Campath-E345Kを、合計8mg/mLの終濃度で混合することによって、抗体混合物を生成した。内部標準の生成のために、40μLのEndoS2(40U/μL;Genovis、cat. no. A0-GL1-020)および21.3μLのラクトバチルス・カゼイフコシダーゼ(フコシダーゼ29A;0.5mg/ml;NZYtech、cat. no. CZ0566)、ならびに378.6μL MilliQを200μLの抗体混合物に追加し(終濃度2.5mg/mL)、37℃で一晩インキュベーションした。サンプル抗体混合物を、以下:160μLのPNGase F(2.5U/mL;PROzyme、cat. no. GKE-5006D)および440μL MilliQを200μLの前記抗体混合物に追加する(終濃度2mg/mL)ことと、サンプルを37℃で一晩インキュベーションすることと、によって、完全に脱グリコシル化した。抗体サンプルを120μg/mLの濃度に希釈した後に、内部標準を75μg/mLの終濃度で追加した。LC-MSを本質的に実施例2に記載されている通り行った。
【0123】
生データをGenedata Expressionist Refiner MS(バージョン13.0)ソフトウェアを用いて分析した。保持時間(RT)範囲は1~16分に制限し、次に、1のギャップペナルティーおよび50スキャンの最大RTシフトによるペアワイズアライメントに基づくツリーアライメントスキームを用いるクロマトグラムのアライメントをした。化学ノイズは、クロマトグラム化学ノイズサブトラクションアクティビティを用いて差し引いた(RTウィンドウ:50;分位数:50%、方法:クリッピング、閾値:0.0、RT構造除去:6スキャン)。インタクトな蛋白質アクティビティの時間分解デコンボリューションを用いて、イオンマップをデコンボリューションした(最小質量:140 kDa;最大質量:150 kDa;方法:ハーモニックサプレッションデコンボリューション;1.0 Daステップ;7スキャン、境界を決定するための変曲点による湾曲に基づく強度によって重みづけされた(0%閾値)ピーク検出;最小ピーク強度:1%;最小探索ウィンドウ:5.0kDa;最大探索ウィンドウ:500.0kDa;相対質量ウィンドウ:2%;最大質量ウィンドウ:1.0kDa;ならびに10%の相対質量ウィンドウおよび5.0kDaの最大質量ウィンドウによる質量デコンボリューション)。デコンボリューションされたイオンマップのピークを、ピーク検出アクティビティを用いて検出した(総和ウィンドウ:10スキャン;最小ピークサイズ:10スキャン;最大マージ距離:25点;マージ戦略:中央;スムージング:3点;ピーク検出:上昇に基づく;アイソレーションフィルター:はい、3点;中央計算:極大値;境界決定:変曲点)。検出に先立って、蛋白質マッピングアクティビティによって公知の配列を用いて、ピークを同定した(10Daのコンソリデートマッチでの10Daの質量許容差;N末端グルタミンからピログルタミン酸へのおよびC末端のリジンの喪失という固定された修飾;グリコシル化設定:脱グリコシル化、Asn結合部位のみ、コンセンサス配列の使用、およびコア構造についてのフィルタリング;完全に接続されたジスルフィドブリッジ;各IgGの複合的接続可能性;ならびにコンジュゲートについての次の質量シフト:GlcNAc(Fuc)2:698 Δ;GlcNAc(Fuc):552 Δ;GlcNAc:406 Δ、最大数1コンジュゲートによる)。
【0124】
図5Aは、ヒトIgG1-CD19-21D4-E345K、IgG1-CD22-huRFB4、IgG1-7D8、IgG1-CD37-37-3、およびIgG1-CD52-Campath-E345K(A~E種と標識)、ならびにそれらの対応する内部標準(全てアポストロフィによって示されるA’~E’種)から構成される抗体混合物の質量スペクトルを示す。抗体サンプルB(IgG1-CD22-RFB4)およびD(IgG1-CD37-37-3)はほぼ同一の質量を有し、よって、それらの質量ピークはオーバーラップする。同様に、それらの対応する内部標準B’およびD’は、オーバーラップする質量ピークを有する。他の抗体サンプルおよびそれらの対応する内部標準の質量スペクトルは、オーバーラップを示さない。LC分離は4つの大きな溶出ピークをもたらし(
図5B)、個々の抗体サンプルおよび内部標準を同定することを困難にする。しかしながら、質量(x軸)および溶出時間(y軸)がプロットされる時間分解デコンボリューション(TRD)を適用することによって、2次元ビューが生成され、個々の抗体サンプルおよび内部標準の同定を可能とし得た(
図5C)。抗体BおよびDならびに付随する内部標準B’およびD’のオーバーラップする質量ピークにもかかわらず、これらのサンプル間の溶出時間の違いは、TRD後のピーク分離を可能にした。第3の次元では、ピーク体積がさらなる定量的計算のために推定され得るようなやり方で、ピーク強度が保存される。
【0125】
実施例6:時間分解デコンボリューションMSによる、混合されたサンプルおよび内部標準の分析は、高い正確度によるIgG濃度決定を可能にする
実施例5に記載されている時間分解デコンボリューションMSに基づく分離手順は、複雑な抗体混合物中の個々の抗体を定量するために適用され得た。ここで、本発明者らは、指定されたIgG-GlcNAc2内部標準(IS)を含有する抗体サンプルのMSピーク体積/強度を測定することによって、抗体サンプル濃度をどのように正確に決定し得るかを記載する。
【0126】
IgG1-CD19-21D4-E345K、IgG1-CD22-huRFB4、IgG1-7D8、IgG1-CD37-37-3、およびIgG1-CD52-Campath-E345Kを、実施例5に記載されている通り定められた抗体濃度で混合することによって、抗体の混合物を生成して、外部検量標準として用いた。混合物の一部分を、EndoS2およびラクトバチルス・カゼイフコシダーゼ(29A)によって実施例5に記載されている通り処置して、ISを生成し、別の部分を、PNGase Fを用いて実施例2に記載されている通り完全に脱グリコシル化して、抗体外部標準を生成した。次に、外部標準の希釈系列を生成し、1つの固定されたIS濃度で各標準に添加した(すなわち、各IgG-GlcNAc2についてXXXμg/mL)。抗体外部検量標準は、個々の抗体によって15~80μg/mLで異なる。各検量標準の50μLをQ-sertバイアル(Sigma)にピペットで秤取した。データを取得し、その後、実施例2および5に記載されている通り、TRD MSによって処理した。
【0127】
脱グリコシル化されたIgG1-CD19-21D4-E345K、IgG1-CD22-huRFB4、IgG1-7D8、IgG1-CD37-37-3、およびIgG1-CD52-Campath-E345K、ならびに参照IS IgG-GlcNAc2バリアントを含有する検量標準のMSピーク体積/強度をLC-MSによって測定し、データを時間分解デコンボリューションによって処理した。
【0128】
第1に、ISのMSピーク体積/強度に対する、脱グリコシル化された抗体のMSピーク強度の比(Ext st./IS)を計算することによって、検量線を生成した。
図6A~Eは、得られた比(Y軸)を個々の標準抗体濃度に対してプロットするときの、優れた直線性を示す。各生成された抗体の標準曲線について、0.99の決定係数(R
2)が見出され、検量線を得るためのIgG-GlcNAc
2 ISの適合性を示している。
図6F~Jは、検量線から推定される、各抗体について計算された抗体サンプル濃度を、予想される抗体濃度に対して示し、測定の高い正確度を示している。
【0129】
実施例7:時間分解デコンボリューションMSによるインプロセスIgG濃度決定
実施例5に記載されている方法をインプロセスワークフローに一体化することによって、IgG定量が加速され得る。この目的のために、細胞培養上清を含む試験サンプルは、PNGase Fによって2~24時間で脱グリコシル化される(実施例2に記載されているものに類似の方法を用いる)。その後に、脱グリコシル化された細胞上清サンプルは、先に調製されたIS抗体(実施例5)を、好ましくは予想されるサンプルIgG濃度に近い範囲で添加される。次に、調製されたサンプルはLC-MS系に注入されるであろう。LC-MS系はアフィニティー精製トラップカラムを含む。この例では、アフィニティートラップカラムは、抗体のFc部分に結合する固定化されたプロテインAを含有する。調製された細胞培養サンプルの注入によって、抗体がプロテインAカラム上に捕捉される。その後に、洗浄緩衝液を利用することによって、全ての宿主細胞蛋白質がカラムから洗い落とされる。次の工程では、トラップされた抗体が1工程で、低pH溶出緩衝液によってカラムから溶出され、その後に逆相(RP)分析カラムによって分離される。これは質量分析計とインラインである。取得されたMSデータは処理され、抗体質量が検出され、実施例6に従ってシグナル強度から濃度値が計算されるであろう。
【配列表】
【国際調査報告】