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特表2023-514710三尖弁逆流を減少させるための経カテーテルシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-07
(54)【発明の名称】三尖弁逆流を減少させるための経カテーテルシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549997
(86)(22)【出願日】2021-02-20
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 US2021018942
(87)【国際公開番号】W WO2021168381
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】62/979,403
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/151,629
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522329744
【氏名又は名称】タウ メディカル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TAU MEDICAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジュン-ホン
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC05
4C097CC18
4C097SB01
4C097SB10
(57)【要約】
本発明は、三尖弁逆流に対する経カテーテル治療のためのシステム及び方法に関する。本発明の1つの好ましい実施形態に係る三尖弁逆流に対する経カテーテル治療のためのシステムは、冠状静脈洞に挿入される冠状静脈洞チューブと、三尖弁を横断する三尖弁チューブとを含み、冠状静脈洞チューブ及び三尖弁チューブは、上側が予め定められた長さの範囲内で互いに連通する又は互いに隣り合うとともに、下側が互いに分離されており、三尖弁の不完全な閉鎖によってもたらされる空間を閉塞するための閉塞部材が、三尖弁チューブの下部に又は冠状静脈洞チューブと三尖弁チューブとの間に設けられる。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓の三尖弁逆流を治療する方法であって、
セルクラージュフィラメントを有するステップと、
スリーブチューブを有するステップであって、該スリーブチューブが、
(a)主セグメントと、
(b)冠状静脈洞脚と、
(c)三尖弁脚と、
(d)前記三尖弁脚に装着されるスペーサ本体と、
を備え、
前記三尖弁脚が、前記冠状静脈洞脚よりも長く、
前記主セグメントが、前記三尖弁脚よりも長く、前記冠状静脈洞脚よりも長い、ステップと、
入口静脈への血管入口部位を形成するステップと、
前記セルクラージュフィラメントを、前記血管入口部位及び前記入口静脈に挿通するとともに、右心房への経路をとるように患者の心臓に更に挿入し、冠状静脈洞を介し、大心臓静脈から右心室へと挿入して、三尖弁を通じて前記右心房内へと戻し、前記入口静脈を通じて前記血管入口部位に戻してそこから出すステップと、
前記スリーブチューブを前記セルクラージュフィラメント上に摺動させるステップと、
前記患者の右心房に向けて前記スリーブチューブを前進させるステップと、
前記スペーサ本体を前記患者の三尖弁の弁尖間に位置させるステップと、
前記セルクラージュフィラメントの入口セグメントを前記セルクラージュフィラメントの反対側の戻しセグメントに締結することによって、ロックされたセルクラージュループを形成するステップであって、前記締結が、前記右心房の外側の位置で行なわれる、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
セルクラージュフィラメントの前記経路が、前記患者の中隔穿通枝静脈も含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血管入口部位にガイドワイヤを挿通して、該ガイドワイヤを前記患者の前記右心房内へと前進させるステップと、
前記ガイドワイヤの遠位端部を前記患者の前記冠状静脈洞に挿入するステップと、
前記ガイドワイヤを前進させ、前記ガイドワイヤの前記遠位端部を前記患者の右心室へ出すステップと、
前記ガイドワイヤを把持して、前記ガイドワイヤの前記遠位端部を前記入口静脈から引き出すステップと、
前記セルクラージュフィラメントが前記患者の心臓を通過する前記経路をとるように前記ガイドワイヤを前記セルクラージュフィラメントと交換するステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ガイドワイヤを前記セルクラージュフィラメントと交換する前記ステップが、前記セルクラージュフィラメントの遠位端部を前記ガイドワイヤの近位端部に取り付けることと、前記セルクラージュフィラメントが前記ガイドワイヤによって生み出された前記経路をたどるように前記ガイドワイヤを引き出すこととを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記入口静脈が、大腿静脈であり、前記セルクラージュフィラメントが、前記患者の下大静脈を通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記締結が、前記患者の腎静脈よりも上方の位置にある前記下大静脈における位置で行なわれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記スリーブチューブの近位端部が、前記患者の腎静脈よりも上方の位置にある前記下大静脈における位置で終端する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記冠状静脈洞脚を前記セルクラージュフィラメントの前記入口セグメント又は前記戻しセグメントのうちの一方上において摺動させるステップと、
前記三尖弁脚を前記セルクラージュフィラメントの前記入口セグメント又は前記戻しセグメントのうちの他方上において摺動させるステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記スペーサ本体を位置させる前記ステップが、心エコー図で監視しながら実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記セルクラージュループを前記患者の体内の固定部位に固定するステップを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記スリーブチューブを前進させる前記ステップが、前記冠状静脈洞脚を前記右心房内の前記患者の冠状静脈洞に挿入することと、前記三尖弁脚を前記患者の三尖弁に挿通することとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記セルクラージュフィラメントが、オーバーパスアーチを更に備え、前記方法が、前記オーバーパスアーチを冠状動脈の上方の位置で前記大心臓静脈の内側に位置させるステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記スペーサ本体が、前記三尖弁の弁尖のための接合面を与える、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記スリーブチューブが、前記三尖弁脚の遠位端部に位置するストッパを更に備え、前記方法が、前記ストッパを前記患者の前記右心室の壁に抗して位置付けるステップを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
入口セグメントと戻しセグメントとを有するセルクラージュフィラメントと、
スリーブチューブであって、
(a)主セグメントと、
(b)冠状静脈洞脚と、
(c)三尖弁脚と、
(d)前記三尖弁脚に装着されるスペーサ本体と、
(e)前記三尖弁脚の遠位端部に位置するストッパと、
を備え、
前記三尖弁脚が、前記冠状静脈洞脚よりも長く、
前記主セグメントが、前記三尖弁脚よりも長く、前記冠状静脈洞脚よりも長く、
前記ストッパが、前記三尖弁脚の前記遠位端部よりも幅が広く、又は前記三尖弁脚の前記遠位端部よりも大きい直径を有し、前記ストッパが、2~6mmの範囲の幅又は直径を有する、
前記スリーブチューブと、
を備え、
前記入口セグメント及び前記戻しセグメントの両方が、前記スリーブチューブの前記主セグメントを通じて移動し、
前記入口セグメント又は前記戻しセグメントのうちの一方が、前記スリーブチューブの前記冠状静脈洞脚を通じて移動し、
前記入口セグメント又は前記戻しセグメントのうちの他方が、前記スリーブチューブの前記三尖弁脚を通じて移動する、
心臓セルクラージュアセンブリ。
【請求項16】
前記スペーサ本体が、20~60mmの範囲の長さを有する湾曲したクロワッサン形状を有する、請求項15に記載の心臓セルクラージュアセンブリ。
【請求項17】
前記三尖弁脚が、4.0~11cmの範囲の長さを有する、請求項15に記載の心臓セルクラージュアセンブリ。
【請求項18】
前記冠状静脈洞脚が、2.2~5.0cmの範囲の長さを有する、請求項15に記載の心臓セルクラージュアセンブリ。
【請求項19】
前記セルクラージュフィラメントの前記入口セグメントを反対側の戻しセグメントに締結するロックを更に備える、請求項15に記載の心臓セルクラージュアセンブリ。
【請求項20】
三尖弁逆流を治療するための心臓セルクラージュキットであって、
セルクラージュフィラメントと、
スリーブチューブであって、
(a)主セグメントと、
(b)冠状静脈洞脚と、
(c)三尖弁脚と、
(d)前記三尖弁脚に装着されるスペーサ本体と、
を備え、
前記三尖弁脚が、前記冠状静脈洞脚よりも長く、
前記主セグメントが、前記三尖弁脚よりも長く、前記冠状静脈洞脚よりも長い、
前記スリーブチューブと、
を備える、心臓セルクラージュキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三尖弁逆流のための経カテーテル治療を減少させるためのシステム及び方法に関し、より詳細には、三尖弁逆流を減少させるための経カテーテル治療のためのシステム及び方法に関し、システム及び方法は、三尖弁が完全に閉じないことによって心臓内で血液を逆流させる心臓病である三尖弁逆流を減少させるためのカテーテル治療を行なうことができる。
【背景技術】
【0002】
人間の心臓は、4つの部屋、すなわち、2つの心房と2つの心室とに分かれており、これらの部屋は、大動脈、大静脈、肺動脈、肺静脈などの4つの血管に接続されることによって血液を送る通路として機能している。心臓の中心にある心室中隔は、心臓を、2つの側に、すなわち、一方側の右心房及び右心室と、他方側の左心房及び左心室とに分ける。三尖弁は右心房と右心室との間に位置し、僧帽弁は左心房と左心室との間に位置する。
【0003】
心臓は、収縮と弛緩とを繰り返すことによってポンプの役目を果たして、血液が血管に沿って流れることができるようにする。心臓の収縮期では、心臓の血液が血管に向かって前方に流れるにつれて、右心の血液が右心室から肺動脈へ送出され、左心の血液が左心室から大動脈へ送出される。
【0004】
しかしながら、心房と心室との間の弁が適切に機能しないと、心臓の収縮期に心室の血液が逆流する、すなわち、心房に向かって移動する。右心房と右心室との間の三尖弁が適切に機能しないと、右心室の血液が右心房へと逆流し、これが「三尖弁逆流」と呼ばれ、また、左心房と左心室との間の僧帽弁が適切に機能しないと、左心室の血液が左心房へと逆流する。これは「僧帽弁逆流」と呼ばれる。
【0005】
三尖弁逆流では、三尖弁が適切に機能しないため、心臓が収縮するときに血液が肺動脈に送出されず、そのため、血液が右心室へと逆流する。これが「三尖弁閉鎖不全症」と呼ばれる。三尖弁逆流の発生は、心臓の右心房と右心室との間にある三尖弁が伸びたり又は切れたり、或いは、三尖弁を右心房と右心室との間で固定する腱索が壊れることで、本来閉じるべき三尖弁が完全に閉じないことで引き起こされる。
【0006】
従来技術に係る三尖弁逆流のための典型的な治療法として、患者の胸部を開いて心臓を切開することにより外科的に疾患を修復する方法、すなわち、弁輪形成リング法及びデベガ法が広く使用されてきた。しかしながら、これらの手術法では、侵襲性の高い手術を行なう必要があるため、三尖弁のためだけの外科的アプローチは、三尖弁の重要性が比較的低いことから、あまり普及してこなかった。すなわち、三尖弁逆流がある患者が僧帽弁手術又は冠動脈等の重要な心臓病手術を受ける際に、上記のような三尖弁逆流の外科的処置が同時に行なわれた。
【0007】
この点で、胸部を開いて心臓を切開する手術法ではなく、カテーテル又は簡単なデバイスを用いて行なわれ得る三尖弁逆流治療の研究に対する世界的な期待が徐々に高まってきた。
【発明の概要】
【0008】
セルクラージュ方法:一態様において、本発明は、患者の三尖弁逆流を治療する方法である。この方法は、(i)セルクラージュフィラメントを使用し、及び、(ii)スリーブチューブを有することを使用する。スリーブチューブは、主セグメント、冠状静脈洞脚、三尖弁脚、及び、三尖弁脚に装着されるスペーサ本体を備える。方法は、入口静脈への血管入口部位を形成するステップを含む。入口静脈は、鎖骨下静脈又は大腿静脈など、患者の体内の任意の適切な静脈となり得る。方法は、セルクラージュフィラメントを、血管入口部位及び入口静脈に挿通し、更に患者の心臓内へと挿入するステップを更に含む。
【0009】
完全に挿入されると、セルクラージュフィラメントによってとられる経路は、右心房に入り、冠状静脈洞を介して、大心臓静脈から出て右心室へと入り(本明細書で使用する「右心室」は右心室流出路を含む)、三尖弁を通じて右心房内へと戻り、元の入口静脈を通じて血管入口部位に戻ってそこから出る。右心室への侵入は、心室中隔、特に右心室流出路に位置する膜性心室中隔から穿孔することによって起こり得る。セルクラージュフィラメントによるこの経路は、セルクラージュループを形成する。セルクラージュフィラメントの経路は、中隔を出て右心室に入る前に中隔穿通枝静脈に入ることも含み得る。
【0010】
方法は、スリーブチューブをセルクラージュフィラメントの方へ摺動させるステップを更に含む。セルクラージュフィラメントはループを形成するため、セルクラージュフィラメントは、入口セグメント(心臓へ向けて方向付けられる)と戻しセグメント(心臓から離れるように方向付けられる)とを有すると見なされ得る。幾つかの実施形態において、スリーブチューブをセルクラージュフィラメントの方へ摺動させるステップは、(i)冠状静脈洞脚をセルクラージュフィラメントの入口セグメント又は戻しセグメントのうちの一方上において摺動させるステップ、(ii)三尖弁脚をセルクラージュフィラメントの入口セグメント又は戻しセグメントのうちの他方上において摺動させるステップを含む。例えば、セルクラージュフィラメントの入口セグメントを冠状静脈洞脚へ摺動させることができ、また、セルクラージュフィラメントの戻しセグメントを三尖弁脚へ摺動させることができる。これは、心臓を通じてセルクラージュフィラメントによりとられる経路及び方向と適合する。しかしながら、逆の形態も想定し得る。
【0011】
方法は、スリーブチューブを患者の右心房に向けて前進させるステップを更に含む。スリーブチューブは、右心房に入る途中で上大静脈又は下大静脈を通過する場合がある。スリーブチューブは、冠状静脈洞脚が患者の右心房の冠状静脈洞に入って三尖弁脚が患者の三尖弁を通過するように前進させられる。スリーブチューブ又はセルクラージュフィラメントを操作して、患者の三尖弁の弁尖間にスペーサ本体を位置させる。スペーサ本体を位置させるこのステップは、心エコー図で監視しながら実行され得る。スペーサ本体の目的は、弁尖の接合を改善するための良好な表面を与えることである。
【0012】
セルクラージュループが作成された状態で、方法は、セルクラージュフィラメントの入口セグメントの一部をセルクラージュフィラメントの反対側の戻しセグメントに締結することによってセルクラージュループをロックするステップを更に含む。この締結は、右心房の外側の位置にある患者の身体内の任意の適切な場所で行なわれ得る。例えば、入口静脈が大腿静脈である状況において、この締結は、患者の腎静脈の一方又は両方よりも上方にある下大静脈内の位置で行なわれ得る。同様に、この状況において、スリーブチューブの近位端部は、一方又は両方の腎静脈よりも上方にある下大静脈内の位置で終端し得る。方法は、セルクラージュループを患者の体内の固定部位に固定するステップを更に含んでもよい。例えば、入口静脈が鎖骨下静脈である状況において、この固定は、鎖骨下静脈入口部位付近(10cm以内)の皮下ポケットで行なわれ得る。
【0013】
幾つかの実施形態において、スリーブチューブは、三尖弁脚の遠位端部に位置するストッパを更に備える。この状況において、方法は、ストッパを患者の右心室の壁に抗して位置付けるステップを更に含む。ストッパの目的は、セルクラージュフィラメントが穿孔する右心室壁に当接することである。したがって、ストッパは、スリーブチューブの三尖弁脚が心室壁に埋め込まれるのを防止する。
【0014】
セルクラージュフィラメントの経路は、ガイドワイヤを使用して形成され得る。この実施形態において、方法は、血管入口部位にガイドワイヤを挿通して、ガイドワイヤを患者の右心房内に前進させるステップを含む。ガイドワイヤは、右心房に入る途中で上大静脈又は下大静脈を通って移動し得る。ガイドワイヤの遠位端部は冠状静脈洞に挿入される。ガイドワイヤは心臓を通じて前進させられ、その遠位端部は患者の右心室に入るように形成される。
【0015】
幾つかの実施形態では、導入シースがガイドワイヤ上において摺動され、造影剤がシースを通じて注入されて、冠静脈造影が行なわれる。これにより、中隔穿通枝静脈を識別し、中隔穿通枝静脈内へとガイドワイヤを前進させることができる。ガイドワイヤは、右心室に入る経路をたどる。これは、心室中隔、特に右心室流出路に位置する膜性心室中隔から穿孔するようにガイドワイヤを前進させることによって行なわれ得る。ガイドワイヤを把持して(例えば、右心室内でスネアカテーテルにより)、その遠位端部を入口静脈から引き出す。
【0016】
セルクラージュフィラメントが患者の心臓を通じた経路をとるようにガイドワイヤがセルクラージュフィラメントと交換される。幾つかの実施形態において、このガイドワイヤ交換は、ガイドワイヤ上にわたって導入シースを挿入した後にガイドワイヤを引き出して導入シースを通じてセルクラージュフィラメントを前進させることを伴う。幾つかの実施形態において、このガイドワイヤ交換は、セルクラージュフィラメントの遠位端部をガイドワイヤの近位端部に取り付けて、セルクラージュフィラメントがガイドワイヤによって生み出された経路をたどるようにガイドワイヤを引き出すことを伴う。
【0017】
幾つかの実施形態では、セルクラージュフィラメント上にオーバーパスアーチがあってもよく、また、方法は、冠状動脈の上方の位置で大心臓静脈の内側にオーバーパスアーチを位置させるステップを更に含む。オーバーパスアーチの目的は、その下方を通る冠状動脈を圧迫しないようにすることである。したがって、セルクラージュフィラメントによってとられる経路は、セルクラージュフィラメントが大心臓静脈を通過する際に冠状動脈上にわたってアーチ状になり得る。この発明の態様の前述の方法は、以下に記載されるような心臓セルクラージュアセンブリ又は心臓セルクラージュキットを使用して行なうことができる。
【0018】
心臓セルクラージュアセンブリ:他の態様において、この発明は、(i)セルクラージュフィラメント、及び、(ii)セルクラージュフィラメントが通過するスリーブチューブを備える心臓セルクラージュアセンブリである。セルクラージュフィラメントは、ワイヤ、ロープ、コード、ストリング、又は、任意の他のタイプの非常に柔軟な細い糸のような線として規定されてもよい。セルクラージュフィラメントは、任意の適切な厚さを成し得る。幾つかの実施形態において、セルクラージュフィラメントは、0.3~1.0mmの範囲の厚さを有する。セルクラージュフィラメントの一例は、ナイロン被覆の編組ステンレス鋼線である。セルクラージュフィラメントは様々な異なるセグメントを有する。その中で、セルクラージュフィラメントは、入口セグメントと戻しセグメントとを有する。
【0019】
スリーブチューブは、(a)主セグメント、(b)冠状静脈洞脚、(c)三尖弁脚、及び、(d)三尖弁脚に装着されるスペーサ本体を備える。スリーブチューブは、金属又はプラスチック材料などの任意の適した材料又は材料の組み合わせから形成されてもよい。スリーブチューブの様々な構成要素は、同じ材料又は異なる材料から形成されてもよい。スリーブチューブのセグメントは異なる長さを有する。三尖弁脚は冠状静脈洞脚よりも長い。主セグメントは、三尖弁脚よりも長く、冠状静脈洞脚よりも長い。2つの脚が主セグメントから分離するスリーブチューブ上のポイントに接合部が形成される。
【0020】
幾つかの実施形態において、スリーブチューブの主セグメントは、25~65cmの範囲の長さ、場合によっては、30~55cmの範囲の長さ、場合によっては約45cmの長さを有する。これは、入口静脈が鎖骨下静脈である状況において、前述したようなセルクラージュアセンブリの位置決めにおいて有用となり得る。幾つかの実施形態において、スリーブチューブの主セグメントは、6~20cmの範囲の長さ、場合によっては、8~18cmの範囲の長さを有する。これは、入口静脈が大腿静脈である状況において、前述したようにセルクラージュアセンブリの位置決めにおいて有用となり得る。幾つかの実施形態において、三尖弁脚は、4.0~11cmの範囲の長さ、場合によっては、5.5~9.0cmの範囲の長さを有する。幾つかの実施形態において、冠状静脈洞脚は、2.2~5.0cmの範囲の長さ、場合によっては約3.0cmの長さを有する。
【0021】
心臓セルクラージュアセンブリは、セルクラージュフィラメントの入口セグメント及び戻しセグメントのいずれもがスリーブチューブの主セグメントを通じて移動するように組み立てられる。更に、入口セグメント又は戻しセグメントの一方は、スリーブチューブの冠状静脈洞脚を通じて移動する。また、入口セグメント又は戻しセグメントの他方は、スリーブチューブの三尖弁脚を通じて移動する。例えば、入口セグメントは冠状静脈洞脚を通じて移動することができ、戻しセグメントは三尖弁脚を通じて移動することができ、或いは、逆もまた同様である。
【0022】
スリーブチューブの主セグメントは、単一バレル型又は2つのバレルが組み合わされた二重バレル型であってもよい。単一バレル型形態では、入口セグメント及び戻しセグメントの両方が2つの脚で分離する前に主セグメントの単一バレルを通じて移動する。二重バレル型形態では、入口セグメントが2つのバレルのうちの一方を通じて移動し、戻しセグメントが2つのバレルのうちの他方を通じて移動する。2つのバレルは、三尖弁脚及び冠状静脈洞脚のそれぞれと別々に隣り合う。
【0023】
三尖弁脚は伸縮機能を有してもよい。そのような実施形態では、三尖弁脚を伸張及び収縮させることができる。したがって、三尖弁脚は、収縮長さ及び伸長長さを有することができる。この伸縮機能を与えるために、任意の適した機構を実装することができる。例えば、三尖弁脚は、互いに対して摺動する内側チューブ及び外側チューブを備えることができる。
【0024】
スリーブチューブは、三尖弁脚に装着されるスペーサ本体を更に備える。スペーサ本体は、円筒形、三日月形、球形、楕円形、卵形、翼などの任意の適切な形状を有することができる。幾つかの実施形態では、スペーサ本体が湾曲したクロワッサン形状を有する。スペーサ本体は、バルーン(例えば発泡体又は空気充填)、バスケット、メッシュ、支柱(例えばステントのような)、フレームワーク、骨格、足場、閉塞装置などの任意の適切な構造を有することができる。必要に応じて、スペーサ本体の表面は、スキン、シェル、ケーシング、又は、膜などの任意の適切な態様で与えられてもよい。スペーサ本体は、プラスチック、金属、又は、それらの組み合わせなど、任意の適切な材料から形成されてもよい。
【0025】
スペーサ本体は、三尖弁の弁尖のための接合面を与えるのに適した寸法を有するように形成される。幾つかの実施形態において、スペーサ本体は、20~60mmの範囲の長さ、場合によっては、30~50mmの範囲の長さを有する。本明細書で使用されるスペーサ本体における「長さ」は、チューブの三尖弁脚に沿って測定されるその長さを意味する。スペーサ本体は、弛緩した長尺な形態を有することができる。この状況において、スペーサ本体における上記の測定は、弛緩形態で行なわれる。
【0026】
スペーサ本体の幅は、長手方向軸線と直交する断面で測定され得る。この断面上には、スペーサ本体がその最も広い幅を有する幅軸線と、その幅軸に直交する交差軸線とがある。幾つかの実施形態において、幅軸線上のスペーサ本体の幅は、7~30mmの範囲であり、場合によっては、10~25mmの範囲である。幾つかの実施形態において、交差軸線上のスペーサ本体の幅は、7~30mmの範囲であり、場合によっては、10~25mmの範囲である。幾つかの実施形態において、幅軸線上のスペーサ本体の幅は、交差軸線上のスペーサ本体の幅よりも大きい(すなわち、非円形断面)。スペーサ本体は、弛緩した長尺な形態を有することができる。この状況において、スペーサ本体における上記の測定は、弛緩された形態で行なわれる。
【0027】
幾つかの実施形態において、セルクラージュアセンブリは、セルクラージュフィラメントに装着されるオーバーパスアーチを更に備える。オーバーパスアーチは、セルクラージュフィラメントが通過する曲線状の細いチューブである。オーバーパスアーチは、ステンレス鋼又はニチノール合金などの任意の適切な硬質材料から形成され得る。オーバーパスアーチは、セルクラージュフィラメントを保持して冠状動脈の通過をもたらすのに適した任意の寸法を有することができる。例えば、オーバーパスアーチは、アーチからベースまでの高さが2~6mmであり、長さが6~17mmであり得る。幾つかの実施形態において、スリーブチューブは、三尖弁脚の遠位端部に位置するストッパを更に備える。ストッパは、三尖弁脚の遠位端部よりも幅が広く、又は三尖弁脚の遠位端部よりも大きい直径を有する。更に、ストッパは、2~6mmの範囲の幅又は直径を有する。
【0028】
幾つかの実施形態において、セルクラージュアセンブリは、セルクラージュフィラメントの入口セグメントを反対側の戻しセグメントに締結するロックを更に備える。このロックは、スリーブチューブの主セグメントの近位端部に位置し得る。この発明の態様の心臓セルクラージュアセンブリは、以下に記載されるように心臓セルクラージュキットから組み立てられてもよい。
【0029】
心臓セルクラージュキット:他の態様において、この発明は、患者の三尖弁逆流を治療するための心臓セルクラージュキットである。この心臓セルクラージュキットを使用して、前述の心臓セルクラージュアセンブリを形成することができる。心臓セルクラージュキットは、(i)セルクラージュフィラメント、及び、(ii)スリーブチューブを備える。スリーブチューブは、(a)主セグメント、(b)冠状静脈洞脚、(c)三尖弁脚、及び、(d)三尖弁脚上に位置するスペーサ本体を備える。
【0030】
キットは、セルクラージュフィラメントの経路をもたらすために使用されるガイドワイヤを更に備えることができる。キットは、ガイドワイヤ上において摺動する、又は、ガイドワイヤをセルクラージュフィラメントと交換する、又は、スリーブチューブを導入するためのチャネル経路をもたらす導入シースを更に備えることができる。キットは、ガイドワイヤに回転トルクを加えるためのトルク印加ツールを更に備えることができる。これは、ガイドワイヤをねじって中隔壁に穴をあけるのに特に役立つことができる。キットは、セルクラージュループが形成されるようにセルクラージュフィラメントの両側のセグメントを締結するためのロックを更に備えることができる。
【0031】
更なる実施形態:本明細書で与えられる説明及び例は、単に本発明を例示することを意図しており、限定することを意図していない。本発明の開示された態様及び実施形態のそれぞれは、個別に、又は、本発明の他の態様、実施形態、及び、変形と組み合わせて考えられ得る。更に、特に明記しない限り、本発明の方法のステップは、任意の特定の実施順序に限定されない。本発明の思想及び要旨を組み入れる開示された実施形態の変更は、当業者が想起することができ、そのような変更は本発明の範囲内である。
【0032】
本明細書における「又は」という言葉の使用は、包括的であることを意図しており、文脈が明らかに別段の指示をしない限り、「及び/又は」という表現と同等である。したがって、例えば、「A又はB」という表現は、A、又は、B、又は、A及びBの両方を意味する。同様に、例えば、「A、B、又は、C」という表現は、A、又は、B、又は、C、又は、それらの任意の組み合わせを意味する。
【0033】
特許請求の範囲に記載される主題の特徴及び利点は、それらと一致する実施形態の以下の説明から明らかであり、この説明は、添付図面と併せて考慮されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A】本開示と一致する、長手方向ステム部を含む経カテーテルシステムの一実施形態を示す図である。
図1B】本開示と一致する、セルクラージュフィラメント上にわたって挿入される経カテーテルシステムを示す図である。
図1C】本開示と一致する、三尖弁脚及び冠状静脈洞脚が拡張されるときの経カテーテルシステムを示す図である。
図2】本開示と一致する、ヒンジリングを含む経カテーテルシステムを示す図である。
図3】本開示と一致するステムレス経カテーテルシステムを示す図である。
図4】本開示と一致する、ヒンジリングを含むステムレス経カテーテルシステムを示す図である。
図5】本開示と一致する、1チューブステム経カテーテルシステムを示す図である。
図6】本開示と一致する、ヒンジリングを伴う1チューブステム経カテーテルシステムを示す図である。
図7】本開示と一致する、1チューブステムレス経カテーテルシステムを示す図である。
図8A】本開示と一致する、アンカーリングを含む経カテーテルシステムを示す図である。
図8B】本開示と一致する、リング本体及びアンカーを含むアンカーリングを示す図である。
図9A】本開示と一致する、疾患のある三尖弁を示す図である。
図9B】本開示と一致する、疾患のある三尖弁を貫通して配置されるスペーサ本体を示す図である。
図10A】本開示と一致する、拡張時のスペーサ本体の側面図である。
図10B】本開示と一致する、スペーサ本体の断面図である。
図10C】本開示と一致する、収縮時のスペーサ本体の側面図である。
図11A】本開示と一致する、拡張時のスペーサ本体の側面図である。
図11B】本開示と一致する、スペーサ本体の断面図である。
図11C】本開示と一致する、収縮時のスペーサ本体の側面図である。
図12A】本開示と一致する、拡張時のスペーサ本体の斜視図である。
図12B】本開示と一致する、収縮時のスペーサ本体の斜視図である。
図13A】本開示と一致する、拡張時のスペーサ本体の側面図である。
図13B】本開示と一致する、スペーサ本体の断面図である。
図13C】本開示と一致する、収縮時のスペーサ本体の側面図である。
図13D】本開示と一致する、スペーサ本体の一実施形態の斜視図である。
図14A】本開示と一致する、スペーサ本体の一実施形態の斜視図である。
図14B】本開示と一致する、スペーサ本体の実施形態の側面図である。
図14C】本開示と一致する、スペーサ本体の実施形態の断面図である。
図15A】本開示と一致する、三尖弁脚が拡張されるときのスペーサ本体の一実施形態を示す図である。
図15B】本開示と一致する、三尖弁脚が収縮されるときのスペーサ本体の一実施形態を示す図である。
図16A】本開示と一致する、バルーンを含む三尖弁脚の一実施形態を示す図である。
図16B】本開示と一致する、バルーン拡張時の三尖弁脚の実施形態を示す図である。
図17A】本開示と一致する、収縮時のバルーンスペーサ本体の一実施形態の斜視図である。
図17B】本開示と一致する、拡張時のバルーンスペーサ本体の一実施形態の斜視図である。
図18A】本開示と一致する、ステントを伴うバルーンスペーサ本体の一実施形態の斜視図である。
図18B】本開示と一致する、ステントを部分的に覆う膜を含むスペーサ本体の一実施形態の斜視図である。
図19A】本開示と一致する、三尖弁脚のみを含む経カテーテルシステムの一実施形態の斜視図である。
図19B】本開示と一致する、別個の冠状静脈洞脚を含む経カテーテルシステムの一実施形態の斜視図である。
図20】本開示と一致する、心臓内に配置される経カテーテルシステムを示す図である。
図21】本開示と一致する、心臓内に配置される経カテーテルシステムの異なる角度から見た斜視図である。
図22】本開示と一致する、心臓内に配置される経カテーテルシステムの異なる角度から見た斜視図である。
図23】本開示と一致する、心臓内に配置される経カテーテルシステムの異なる角度から見た斜視図である。
図24】本開示と一致する、心臓内に配置される経カテーテルシステムの異なる角度から見た斜視図である。
図25A】本開示と一致する、セルクラージュフィラメントの側面図である。
図25B】本開示と一致する、セルクラージュフィラメントの断面図である。
図26A】この発明のセルクラージュアセンブリの一例を示す図である。
図26B】この発明のセルクラージュアセンブリの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の理解を助けるために、添付図面を参照して、本発明を実施できる特定の実施形態を例示として示す。本明細書中の図面は、必ずしも原寸に比例して又は実際の比率で作成されているわけではない。例えば、構成要素の長さ及び幅は、ページサイズに合わせて調整することができる。
【0036】
心臓の心臓三尖弁における逆流を治療するためのセルクラージュフィラメント18上の経カテーテルシステム10は、外周面及び遠位端部を有して軸線を規定する第1のカテーテルチューブ12を含み得る。第1のカテーテルチューブ12は、三尖弁を通じて延びるように寸法付けられ得る。経カテーテルシステム10は、外周面から突出する第1のカテーテルチューブ12の遠位端部に近接して設けられたスペーサ本体16を更に含むことができる。スペーサ本体16は、三尖弁の不完全な閉鎖によって生成された三尖弁内の空間と交差するように寸法付けられ得る。
【0037】
スペーサ本体16は、軸線に対して斜めの角度で、三尖弁の不完全な閉鎖によって生成される三尖弁内の空間と交差するように構成され得る。スペーサ本体16は、拡張可能なステントと、第1のカテーテルチューブ12の外周縁と外周面との間に画定された膜部分とを含んでもよい。スペーサ本体16のサイズ又は形状のうちの少なくとも一方は、体積が調整可能であってもよい。
【0038】
経カテーテルシステム10は、遠位端部が心臓の心室内中隔を貫通しないようにするべく構成された、第1のカテーテルチューブ12上に画定されたストッパ15を更に含み得る。
【0039】
心臓内の心臓三尖弁における逆流を治療するためのセルクラージュフィラメント18上の経カテーテルシステム10の一実施形態は、第1の外周面及び遠位端部を有して軸線を画定する第1のカテーテルチューブ12を含み得る。第1のカテーテルチューブ12は、三尖弁を通じて延びるように寸法付けられ得る。経カテーテルシステム10は、外周面から突出する第1のカテーテルチューブ12の遠位端部に近接して設けられたスペーサ本体16を更に含んでもよく、スペーサ本体16は、三尖弁の不完全な閉鎖によって生成される三尖弁内の空間と交差するように寸法付けられる。
【0040】
経カテーテルシステム10は、選択された距離にわたって第1の外周面と接触するとともに第1のカテーテルチューブ12の遠位端部から離間した選択された位置で第1の外周面から分岐するように設けられた第2の外周面を有する第2のカテーテルチューブ11を更に含んでもよい。
【0041】
スペーサ本体16は、軸線に対して斜めの角度で、三尖弁の不完全な閉鎖によって生じる三尖弁内の空間と交差するように構成され得る。第2のカテーテルチューブ11は、心臓の冠状静脈洞に入るように構成され得る。スペーサ本体16のサイズ、形状、又は、位置のうちの少なくとも1つが調整可能であってもよい。
【0042】
経カテーテルシステム10は、遠位端部が心臓の心室内中隔を貫通しないようにするべく構成された、第1のカテーテルチューブ12上に画定されたストッパ15を更に含み得る。経カテーテルシステム10は、心臓の冠状動脈を乗り越えるように構成された、第1のカテーテルチューブ12の遠位端部と第2のカテーテルチューブ11の遠位端部との中間に画定されたオーバーパスアーチ18aを更に含み得る。
【0043】
図1Aは、経カテーテルシステム10の一実施形態を示す。経カテーテルシステム10は、主セグメント13、ストッパ15、及び、スペーサ本体16を含み得る。主セグメント13は、冠状静脈洞脚11と三尖弁脚12とに分離し得る。主セグメント13が冠状静脈洞脚11と三尖弁脚12とに分離する場所として接合部14が規定され得る。
【0044】
図1A及び図20図24に示されるように、冠状静脈洞脚11は、冠状静脈洞(CS)を介して僧帽弁(MV)の周りを包む又は取り囲むように構成されてもよく、また、三尖弁脚12は、三尖弁弁尖のオリフィスを横断又は貫通して延びるように構成されてもよい。ストッパ15は、三尖弁脚11の遠位端部に配置されてもよく、それにより、ストッパ15は、図20図24に示されるように、遠位端部が心室中隔(IVS)内へと更に前進することを防止する。接合部14は、冠状静脈洞のオリフィス又はその近くに配置され得る。三尖弁脚11は、三尖弁弁尖のオリフィスを通じて逆「C」字形で自由に吊り下げられるように構成されてもよい。三尖弁脚12は、張力がセルクラージュフィラメント18又はセルクラージュフィラメント19に加えられるときに曲げに抵抗するのに十分な剛性を有し得る。スペーサ本体16は、接合部14とストッパ15との間で三尖弁脚12に取り付けられ得る。
【0045】
図1B及び図1Cに示されるように、セルクラージュフィラメント18が所定の位置に配置された時点で、経カテーテルシステム10は、セルクラージュフィラメント18上にわたって挿入され、それにより、心臓内に位置することができる。セルクラージュフィラメント18はアーチ部分18aを含んでもよい。アーチ部分18aは、張力が加えられるときに冠状動脈を乗り越えるように構成されてもよい。
【0046】
図2に示される一態様によれば、経カテーテルシステム10は、接合部14の周りにヒンジリング17も含み得る。ヒンジリング17は、接合部14が張力により分離されないように補強するべく構成され得る。
【0047】
図3は、ステム部13を伴わずに構成されたステムレス経カテーテルシステム10の一実施形態を示す。図4は、補強のためにヒンジリング17が追加されたステムレス経カテーテルシステム10を示す。
【0048】
図5は、ステム部13が1つの主チューブとして構成され得る、1チューブステム経カテーテルシステム10の一実施形態を示す。経カテーテルシステム10は、このとき、ヒンジ部14で、冠状静脈洞脚11及び三尖弁脚12の2つのチューブに分離され得る。図6は、ヒンジ部14にヒンジリング17を伴う1チューブステム経カテーテルシステム10の一実施形態を示す。
【0049】
図7は、接合部14で冠状静脈洞脚11と三尖弁脚12とに分離し得る1チューブステムレス経カテーテルシステム10の一実施形態を示す。1チューブステムレス経カテーテルシステム10は、冠状静脈洞脚11及び/又は三尖弁脚12上に配置された少なくとも1つの固定リング20も含むことができる。固定リング(複数可)は、経カテーテルシステム10の任意の実施形態に追加されてもよい。
【0050】
図8A図8Bには、冠状静脈洞脚11上に少なくとも1つのリング形状のアンカー20が配置された経カテーテルシステム10が示される。リング形状のアンカー20は、リング本体20aと少なくとも1つのアンカー21bとを含み得る。アンカー20は、経カテーテルシステム10を安定させるとともに心臓の収縮の全体にわたって接合部14を適所に維持するように構成され得る。
【0051】
図9Aは、三尖弁の逆流をもたらすその3つの弁尖による不完全な閉鎖に起因して形成されたオリフィスを伴う疾患のある三尖弁を示す。図9Bは、疾患のある三尖弁のオリフィスを貫通して配置されることでスペーサ本体16上に対する三尖弁弁尖の接合を誘導することによって不完全な閉鎖及びその逆流を減少させるスペーサ本体16を示す。
【0052】
図10A図10Cは、ステント16a及び少なくとも1つの膜16bを含むことができるスペーサ本体16の一実施形態を示す。ステント16aは拡張可能であってもよい。膜16aは、ステント16aを完全に又は部分的に覆うように構成され得る。ステント16aは、膜16bで内側又は外側のいずれか或いはその両方を覆われるように構成され得る。膜16bは、可撓性であってもよく、膜16bがステント16aの動きにしたがって拡張又は収縮するように構成され得るように可撓性材料で作られる。
【0053】
図10Aに示されるように、スペーサ本体16は、三尖弁脚12の長手方向軸線に沿って同軸的に取り付けられるように構成され得る。スペーサ本体16の両端部は、テーパ形状を有してもよい。当業者であれば分かるように、スペーサ本体16は、テーパ形状以外の形状を有してもよい。図10Bは、スペーサ本体16の断面図を示す。図10Cは、スペーサ本体16をその収縮状態で示す。スペーサ本体16の遠位部は、近位部が固定されている状態でそれが拡張又は収縮されるにつれて摺動するように構成されてもよく、或いは、逆もまた同様である。スペーサ本体16の両端部は、スペーサ本体16の伸縮に伴って摺動するように構成することもできる。
【0054】
一態様によれば、図11A図11Bは、スペーサ本体16の上部が下部よりも大きく膨張し得るクロワッサン形状又は三日月形のスペーサ本体16を示す。図11Bは、拡張されたスペーサ本体16、三尖弁脚12、及び、セルクラージュフィラメント18の断面図を示す。スペーサ本体16は、三尖弁脚が逆C字形に屈曲又は湾曲する場合にスペーサ本体16がそのクロワッサン形状又は三日月形を維持し続けることができるように構成され得る。当業者であれば分かるように、スペーサ本体16は、クロワッサン又は三日月形以外の形状を有し得る。例えば、スペーサ本体16は、卵形又はボールを形成することができる。図11Cは、スペーサ本体16をその収縮状態で示す。
【0055】
図12A図12Bは、クロワッサン形状又は三日月形のスペーサ本体16のその拡張状態及び収縮状態での斜視図である。三尖弁脚12は、図示のような曲線を成すように構成され得る。スペーサ本体16のサイズ、形状、及び、体積は、心臓及び三尖弁の異なるサイズ及び形状にしたがって変化し得る。
【0056】
一態様によれば、図13A図13Dは、三尖弁脚12の2つの部品に接続された2チューブスペーサ本体16の別の実施形態を示す。三尖弁脚12は、図示のように、近位三尖弁チューブ部品12b及び遠位三尖弁チューブ部品12aを含むことができる。スペーサ本体の近位端部は、近位三尖弁チューブ部品12bに取り付けられるように構成されてもよく、スペーサ本体16の遠位端部は、遠位三尖弁チューブ部品12aに取り付けられるように構成されてもよい。この形態において、セルクラージュフィラメント18は、近位三尖弁チューブ部品12b及び遠位三尖弁チューブ部品12aを通過した後にストッパ15を通じて出るように構成され得る。
【0057】
図13Cは、近位三尖弁チューブ部品12b及び遠位三尖弁チューブ部品12aを伴う収縮状態の2チューブスペーサ本体16を示す。図13Dは、近位三尖弁チューブ部品12b及び遠位三尖弁チューブ部品12aを伴う拡張された2チューブスペーサ本体16の斜視図を示す。
【0058】
一態様によれば、スペーサ本体16は、図14A図14Cに示されるように、三尖弁脚12の画定された遠位部の表面に取り付けられるように構成され得る。図14Aは、この実施形態の斜視図である。図14Bは、この実施形態の側面図を示す。図14Cは、スペーサ本体16の断面図を示す。
【0059】
一態様によれば、図15A図15Bのスペーサ本体は、三尖弁脚12の2つの別個のチューブ上に配置されるように構成され得る。図示のように、三尖弁脚12は、遠位部品12a及び近位部品12bを含み得る。遠位部品12aは、その端部に配置されたストッパ15を含んでもよい。スペーサ本体16のステント16aは、三尖弁脚12の2つの部品の上にわたって配置され得る。例えば、図示のように、ステント16aの近位端部は、近位部品12b上に強固に取り付けられるように構成されてもよく、ステント16aの遠位端部は、遠位部品12aに強固に取り付けられるように構成されてもよい。したがって、スペーサ本体16は、三尖弁脚12の2つの部品の動きによって拡張又は収縮するように構成され得る。
【0060】
一態様によれば、図16A図16Bの三尖弁脚12は、溝及びバルーンを含んで成ることができる。図16Bは、バルーンスペーサ本体として拡張されたバルーン12eを示す。
【0061】
一態様によれば、図17A図17Bの三尖弁脚12の他の実施形態は、遠位端部のストッパ15、遠位穴12c、近位穴12d、及び、その表面上に配置されたバルーン12eを含み得る。遠位穴12cは、近位穴12dを通じて空気が供給されるときにバルーン12eが拡張するように、近位穴12dに接続されるように構成されてもよい。
【0062】
図18Aは、バルーン12eとバルーン12e内のステント16aとを有し得る他の実施形態の斜視図を示す。
【0063】
一態様によれば、図18Bのスペーサ本体16の他の実施形態は、ステント16aの近位端部及び遠位端部が露出され得るようにステント16aを部分的に覆うことができる膜16bを含んでもよい。
【0064】
一態様によれば、図19Aの経カテーテルシステム10の他の実施形態は、三尖弁脚12、ストッパ15、スペーサ本体16、及び、ヒンジリング17を含むことができる。セルクラージュフィラメント18が、ヒンジリング17、三尖弁脚12、スペーサ本体16、及び、ストッパ15を通過するように構成され得る。
【0065】
図19Bは、スペーサ本体16aを有する三尖弁脚12、ストッパ15、及び、冠状静脈洞脚11を含み得る経カテーテルシステム10の他の実施形態の斜視図を示す。冠状静脈洞脚11は、その表面に穴11aを有する。セルクラージュフィラメント18が、図示のように、冠状静脈洞脚11、三尖弁脚12、スペーサ本体16、ストッパ15の穴11aを通過して冠状静脈洞脚11に戻るように構成され得る。
【0066】
図20は、心臓内に配置された経カテーテルシステム10を示す。図示のように、経カテーテルシステム10の接合部14又はヒンジリング17は、冠状静脈洞のオリフィスの近く又はオリフィスに位置するように構成され得る。冠状静脈洞脚11は、冠状静脈洞を通って延びて僧帽弁(MV)の周りを包むように構成され得る。図示のようにスペーサ本体16を有する三尖弁脚12は、三尖弁(TV)の弁尖を通って延在する又は横断するように構成されてもよく、三尖弁脚12の遠位端部は、心室中隔(IVS)に対してストッパ15により停止されてもよい。接合部又はヒンジリングからストッパ15まで画定され得る三尖弁脚の部分は、セルクラージュフィラメント18が適切な張力を有するときに屈曲形状を維持するように構成され得る。したがって、三尖弁脚12に取り付けられたスペーサ本体16は、図9Bに示されるように疾患のある三尖弁の逆流を阻止するように構成され得る。
【0067】
図20に示されるように、セルクラージュフィラメント18は、図23図24にも示されるようにセルクラージュフィラメント18が心エコーガイド下で心室中隔(IVS)、冠状動脈、及び、三尖弁を横切って冠状静脈洞を通るループを形成し得るように、ステム部13、三尖弁脚12、ストッパ15、及び、冠状静脈洞脚11の内部に配置されるように構成され得る。
【0068】
図21図24は、心臓内に配置された経カテーテルシステム10の異なる角度から見た斜視図を示す。スペーサ本体16の近位部は、三尖弁(TV)の心房側に位置してもよく、一方、スペーサ本体16の遠位部は、三尖弁の心室側に位置してもよい。スペーサ本体16の位置、サイズ、及び、体積は、患者の状況に応じて変化し得る。図23は腹側から見た斜視図を示す。図24は、心房側から見た斜視図を示す。
【0069】
一態様によれば、経カテーテルシステム10は、図25Aに示されるように、セルクラージュフィラメント18及びオーバーパス部分18aの両方をセルクラージュロープ19で完全に置き換えることができる。セルクラージュロープ19は、その中にステンレス金属ワイヤ19bを含むとともに、生体適合性ナイロンで作られてワイヤを覆うコーティング19cを含むことができる。セルクラージュロープ19は、アーチ形の冠状動脈プロテクタ19eを更に含むことができる。セルクラージュロープ19は、冠状動脈プロテクタ19dを部分的に覆うことによってアーチ形の冠状動脈プロテクタ19eを組み込むコーティング19dを更に含むことができる。図25Bは、ステンレス金属ワイヤ19b及びコーティング19cを示すセルクラージュロープ19の断面図である。
【0070】
図26A及び図26Bは、本発明のセルクラージュアセンブリの一例を示す。図26Aは、スリーブチューブ46を備えるセルクラージュアセンブリ30を示す。スリーブチューブ46は、主セグメント32を備える。接合部38で、スリーブチューブ34は、三尖弁脚34と冠状静脈洞脚36とに分かれる。三尖弁脚34には、湾曲したクロワッサン形状のスペーサ本体40が装着される。三尖弁脚34の遠位端部にはストッパ42がある。また、冠状静脈洞脚34には、冠状静脈洞内での固定を改善する滑り止めリング44もある。
【0071】
また、図26Aは、スペーサ本体40の長さ及び幅がどのように測定されるかの例も示す。ここで、クロワッサン形状のスペーサ本体40は弛緩形態にあり、その長さは、三尖弁脚34に沿った距離L1として測定される。また、L1は、スペーサ本体40の長手方向軸線を表わす。測定目的のために、スペーサ本体40が弛緩形態で最大幅を有する平面X1もある。平面X1は、三尖弁脚34の長手方向軸線と直交する。図26Bは、幅がどのように測定されるかを示すために平面X1に沿ったスペーサ本体40の断面を示す。スペーサ本体40の最大幅の線47に沿って幅W1がある。幅W1における線と直交する線48に沿って幅W2もある。ここに見られるように、幅W1は幅W2よりも大きい。
【0072】
他の態様によれば、本開示は、心臓弁に対して経カテーテルシステム10を導入する方法を特徴とし、この方法は、左鎖骨下静脈又は右頸部静脈又は大腿静脈に主シースを挿通するステップと、右心房、冠状静脈洞、中隔トラバーサル(中隔静脈を伴う又は伴わない)、及び、RVOT中隔からガイドワイヤを通すステップと、RVOTから出るワイヤを捕捉して捕捉したワイヤを右心房に再進入させるステップと、ガイドワイヤを右心房に向かって引っ張るステップと、セルクラージュフィラメント18とガイドワイヤを交換するステップと、セルクラージュフィラメントの両端部を主シースから引き出すステップと、経カテーテルシステム10をセルクラージュフィラメント18上にわたって挿入又は押し込むステップと、経カテーテルシステム10を心臓内に配置するステップと、セルクラージュフィラメント18に作用する経カテーテルシステム10に適した張力を調整するとともに心エコー図で監視しながら経カテーテルシステム10の位置を調整するステップと、経カテーテルシステム10が意図したとおりに位置するときにセルクラージュフィラメント18をロックするステップとを含む。
【0073】
本明細書に記載の説明及び実施例は、単に本発明を説明することを意図しており、限定することを意図していない。本発明の開示された態様及び実施形態のそれぞれは、個別に又は本発明の他の態様、実施形態、及び変形と組み合わせて考えられ得る。更に、特に明記しない限り、本発明の方法のステップは、特定の実施順序に限定されない。本発明の思想及び要旨を組み込んだ開示された実施形態の変更は、当業者が想起することができ、そのような変更は本発明の範囲内である。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B
図26A
図26B
【手続補正書】
【提出日】2022-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B
図26A
図26B
【国際調査報告】