(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】ナノ酸化ジルコニウム粉体、その調製方法及び得られる分散液、光学フィルム
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20230405BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20230405BHJP
G02B 1/111 20150101ALN20230405BHJP
【FI】
C01G25/02
G02B1/113
G02B1/111 ZNM
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560552
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 CN2021072369
(87)【国際公開番号】W WO2022105053
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】202011320047.8
(32)【優先日】2020-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519094927
【氏名又は名称】山東国瓷功能材料股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG SINOCERA FUNCTIONAL MATERIAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼曦
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼兵
(72)【発明者】
【氏名】宋▲錫▼▲濱▼
【テーマコード(参考)】
2K009
4G048
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009CC03
2K009CC21
2K009DD02
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE06
4G048AE08
(57)【要約】
本出願ではナノ酸化ジルコニウム粉体を提供しており、粒径は3~10nm、比表面積は200~240m
2/gであり、ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶酸化ジルコニウムの割合が粉体の60~95%を占めている。本出願で提供するナノ酸化ジルコニウム粉体は、粒径が小さく、比表面積が大きく、粒子単分散効果がよく、主結晶相が正方晶であるなどの特徴を有し、水中で分散した後に得られる水分散液は、後続の例えば輝度向上フィルムや反射防止フィルムの調製において、高屈折コーティングの屈折率を大幅に向上させ、フィルムの性能を向上させることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ酸化ジルコニウム粉体であって、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nm、比表面積は200~240m
2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムの割合が粉体の60~95%を占めることを特徴とする、ナノ酸化ジルコニウム粉体。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体の調製方法であって、
ジルコニウム塩と安定性元素塩を一緒に水に溶かし、溶液Aを得るステップと、
アルカリを水に溶かして溶液Bを得るステップと、
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合し、沈殿物を生じさせるステップであって、沈殿物の質量は混合液の全質量の1~40%を占めており、沈殿物を複数回洗浄して濾過した後、前駆体Cを得るステップと、
前躯体Cに水と有機酸またはその塩とを加えて、総固形分含有量が6~20wt%のスラリーを作るステップと、
前記得られたスラリーを反応釜に投入し、充填量を60~90%とし、180℃~220℃で1~12時間、水熱反応を行い、反応後に反応液を得るステップと、
反応液を直接乾燥させ、または濃縮洗浄後に乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得るステップと、
を含むことを特徴とする調製方法。
【請求項3】
投入するジルコニウム塩は水溶性ジルコニウム塩であり、塩基性炭酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、オキシ塩化物の中から選択される少なくとも1種であり、投入する安定性元素塩は安定性元素の塩化物または硝酸塩であり、前記安定性元素は、アルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素の中から選択される少なくとも1種であり、前記アルカリは、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムの中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
投入するジルコニウム塩濃度が≦2mol/L、投入する安定性元素とジルコニウム元素のモル濃度の比が2/98~30/70、投入するアルカリの濃度が≦8mol/Lであることを特徴とする、請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
前記有機酸は、モノカルボン酸、ポリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸の中から選択される少なくとも1種であり、前記モノカルボン酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸の中から選択される少なくとも1種であり、ポリカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸の中から選択される少なくとも1種であり、ヒドロキシカルボン酸は、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸の中から選択される少なくとも1種であり、前記有機酸の塩はそのアルカリ金属塩であり、カリウム塩、ナトリウム塩の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の調製方法。
【請求項6】
投入する有機酸またはその塩のモル濃度が、ジルコニウム元素と安定元素のモル濃度の総和の10~100%であることを特徴とする、請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
投入する有機酸の沸点が<150℃の場合、反応液を直接乾燥させればナノ酸化ジルコニウム粉体が得られ、投入する有機酸の沸点が>150℃である場合は、反応液を複数回濃縮洗浄した後、乾燥させることで、ナノ酸化ジルコニウム粉体が得られることを特徴とする、請求項2に記載の調製方法。
【請求項8】
前記乾燥方式は、真空低温乾燥、オーブン乾燥及び噴霧の中から選択される任意の1種であり、前記濃縮洗浄方式は、限外濾過、回転蒸発及びセラミック膜濃縮洗浄の中から選択される任意の1種であることを特徴とする、請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
請求項1に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液において、前記分散液は有機溶剤型分散液であり、前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は40~70wt%で、その屈折率が1.400~1.554であることを特徴とする、分散液。
【請求項10】
請求項9に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液において、前記分散液に含まれるナノ酸化ジルコニウムの含有量が70wt%の場合、前記分散液の屈折率は1.554を下回らないことを特徴とする、分散液。
【請求項11】
前記分散液は、請求項2に記載の調製方法を通して、調製プロセスで得られる反応液中の分散媒質水を有機溶剤に置き換えることによって得られるものであり、前記有機溶剤は、アルコール類、エステル類、芳香族炭化水素類、エーテル類及びアミド類有機溶剤の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項9に記載の分散液。
【請求項12】
前記分散液中には改質剤が添加されており、前記改質剤の添加量がナノ酸化ジルコニウム含有量の1~20wt%であることを特徴とする、請求項9に記載の分散液。
【請求項13】
前記改質剤は、シランカップリング剤、チタン酸エステルカップリング剤、金属錯体、芳香系または高度共役の化学物質の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項12に記載の分散液。
【請求項14】
前記分散液中には油性分散助剤が添加されており、前記油性分散助剤の添加量がナノ酸化ジルコニウム含有量の1~20wt%であることを特徴とする、請求項9に記載の分散液。
【請求項15】
光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液において、前記分散液は、光硬化性樹脂を請求項9~14のいずれかに記載のナノ酸化ジルコニウム粉体の分散液中に添加した後、減圧蒸留によって有機溶剤を除去して得られるものであり、
前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は50~80wt%で、その屈折率が1.60~1.70であることを特徴とする、
光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液。
【請求項16】
前記光硬化性樹脂の添加量が、酸化ジルコニウムと光硬化性樹脂の総質量の20~50%であることを特徴とする、請求項15に記載の光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液。
【請求項17】
光学フィルムであって、請求項9~14のいずれか1項に記載の、ナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液を採用するか、または請求項15または16に記載の、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液を採用して調製し、得られることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項18】
請求項1に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体、または請求項9~14のいずれか1項に記載の、ナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液、または請求項15または16に記載の、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液の、光学フィルムの調製における応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年11月23日に中国専利局に提出された、出願番号202011320008.8、発明の名称「ナノ酸化ジルコニウム粉体、その調製方法及び得られる分散液、光学フィルム」の中国特許出願の優先権を請求するものであり、その内容のすべては引用によって本出願に組み込まれる。
【0002】
本出願は精密化学工業分野に属し、特にナノ酸化ジルコニウム粉体、その調製方法及び得られる分散液、光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0003】
近年では、酸化ジルコニウム粒子分散体と透明樹脂または薄膜の結合により、その高い屈折率を利用して、光学分野で優れた応用が得られている。例えば、高屈折の酸化ジルコニウム分散液を利用して調製された輝度向上フィルムや反射防止フィルムなどの光学フィルムは、LCDディスプレイに用いて、スクリーンの輝度及び明瞭度を高めることができる。また、LED封止樹脂の屈折率を向上させて、発光体が放出する光をより有効に取り出すことにより、LEDの輝度を向上させることもできる。つまり、その高屈折という特性は、高屈折コーティングに用いることができ、様々な分野に応用できるのである。
【0004】
酸化ジルコニウム分散液の屈折率の高低は、体系中のナノ酸化ジルコニウムの粒径、結晶構造、粒子分散状態及び分散液の調製工程と密接に関連している。特許文献1では、高分散ナノ酸化ジルコニウム粒子及びその透明分散体の調製方法を開示しており、そこでは超重力環境下で無機ジルコニウム塩を熱分解する方法を採用してナノ酸化ジルコニウム粒子を直接調製しており、しかも超重力レベルの向上とともに凝集性が大幅に低下し、その後、洗浄、改質を経て、直接、透明な酸化ジルコニウム液相分散体となる。前記方法で調製される酸化ジルコニウムは、粒径が小さく、分散性は比較的よいが、その粉体結晶構造は単斜晶で、粉体の屈折率は正方晶粉体の屈折率にははるかに及ばず、しかも対応する液相分散体の屈折率も同一条件下ではかなり低い。そのため、性能に優れたナノ酸化ジルコニウム粒子、及び体系が安定し、分散が均一で、屈折率が高い酸化ジルコニウム分散液をどのようにして調製するかが、透明な有機・無機複合物の性能要求を満たすことにとって、極めて重要なのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願CN201810704465.3号明細書
【発明の概要】
【0006】
本出願では、以下のように、ナノ酸化ジルコニウム粉体、その調製方法及び得られる分散液、光学フィルムの具体的な技術手法を提供する。
【0007】
ナノ酸化ジルコニウム粉体であって、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nm、比表面積は200~240m2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムの割合は粉体の60~95%を占めている。
【0008】
本出願はさらに、以下のステップを含む上記の技術手法に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体の調製方法を提供する。
【0009】
ジルコニウム塩と安定性元素塩を一緒に水に溶かし、溶液Aを得る。
【0010】
アルカリを水に溶かして溶液Bを得る。
【0011】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿物が生じ、そのうち、沈殿物の質量は混合液の質量全体の1~40%を占める。沈殿物を複数回洗浄して濾過し、前駆体Cを得る。
【0012】
前躯体Cに水と有機酸またはその塩とを加えてスラリーを作る。得られるスラリーの全固形分含有量は6~20wt%である。
【0013】
前記得られたスラリーを反応釜に投入する。充填量は60~90%で、180℃~220℃で1~12時間水熱反応を行い、反応後に反応液を得る。
【0014】
反応液を直接乾燥させ、または濃縮洗浄後、乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0015】
好適には、投入するジルコニウム塩は水溶性ジルコニウム塩であり、塩基性炭酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、オキシ塩化物の中から選択される少なくとも1種であり、投入する安定性元素塩は安定性元素の塩化物または硝酸塩であり、そのうち、前記安定性元素は、アルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素の中から選択される少なくとも1種であり、前記アルカリは、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムの中から選択される少なくとも1種である。
【0016】
好適には、投入するジルコニウム塩濃度は≦2mol/Lであり、投入する安定性元素とジルコニウム元素のモル濃度比は2/98~30/70であり、投入するアルカリの濃度は≦8mol/Lである。
【0017】
好適には、前記有機酸は、モノカルボン酸、ポリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸の中から選択される少なくとも1種であり、そのうち、前記モノカルボン酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸の中から選択される少なくとも1種であり、ポリカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸の中から選択される少なくとも1種であり、ヒドロキシカルボン酸は、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸の中から選択される少なくとも1種であり、前記有機酸の塩はそのアルカリ金属塩であり、カリウム塩、ナトリウム塩の中から選択される少なくとも1種である。
【0018】
好適には、投入する有機酸またはその塩のモル濃度は、ジルコニウム元素と安定元素のモル濃度の総和の10~100%である。
【0019】
好適には、投入する有機酸の沸点が<150℃の場合、反応液を直接乾燥させれば、ナノ酸化ジルコニウム粉体が得られる。投入する有機酸の沸点が>150℃である場合は、反応液を複数回濃縮、洗浄した後、乾燥させることで、ナノ酸化ジルコニウム粉体が得られる。
【0020】
好適には、前記乾燥方式は、真空低温乾燥、オーブン乾燥及び噴霧の中から選択される任意の1種であり、前記濃縮洗浄方式は、限外濾過、回転蒸発及びセラミック膜濃縮洗浄の中から選択される任意の1種である。
【0021】
本出願はさらに、前記の技術手法に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体を含む有機溶剤型分散液を提供しており、前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は40~70wt%、その屈折率は1.400~1.554である。
【0022】
好適には、前記分散液に含まれるナノ酸化ジルコニウムの含有量が70wt%である場合、前記分散液の屈折率は1.554を下回らない。
【0023】
好適には、前記分散液は、前記技術手法に記載の調製方法を通して調製過程で得られる反応液中の分散媒質水を有機溶剤に置き換えることによって得られ、または前記技術手法を通して調製されるナノ酸化ジルコニウム粉体を有機溶剤中に分散させることによって得られる。そのうち、前記有機溶剤は、アルコール類、エステル類、芳香族炭化水素類、エーテル類及びアミド類有機溶剤の中から選択される少なくとも1種である。
【0024】
好適には、前記分散液の中には改質剤が添加されており、前記改質剤の添加量はナノ酸化ジルコニウム含有量の1~20wt%である。
【0025】
好適には、前記改質剤は、シランカップリング剤、チタン酸エステルカップリング剤、金属錯体、芳香系或は高度共役の化学物質の中から選択される少なくとも1種である。
【0026】
好適には、前記分散液の中には油性分散助剤が添加されており、前記油性分散助剤の添加量はナノ酸化ジルコニウム含有量の1~20wt%である。
【0027】
本発明はさらに、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液を提供しており、前記分散液は、光硬化性樹脂を前記いずれかの技術手法に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体の分散液中に添加した後、減圧蒸留によって有機溶剤を除去して得られる。
【0028】
前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は50~80wt%で、その屈折率は1.60~1.70である。
【0029】
好適には、前記光硬化性樹脂の添加量は、酸化ジルコニウムと光硬化性樹脂の総質量の20~50%である。
【0030】
本出願ではさらに、前記技術手法の中の任意の1項に記載の、ナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液を採用するか、または前記技術手法の中の任意の1項に記載の、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液を採用して調製し、得られる光学フィルムを提供している。
【0031】
本出願ではさらに、前記技術手法に記載の、ナノ酸化ジルコニウム粉体、または前記技術手法の中の任意の1項に記載の、ナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液、または前記技術手法の任意の1項に記載の、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液の、光学フィルムの調製における応用も提供している。
【0032】
従来技術と比較して、本出願の有益な効果は以下の通りである。
【0033】
1、本発明で提供するナノ酸化ジルコニウム粉体は粒径が小さく、比表面積が大きく、粒子の単分散効果がよく、主結晶相が正方晶であるなどの特徴を有する。
【0034】
2、前記得られたナノ酸化ジルコニウム粉体を利用して調製した有機溶剤型及び光硬化性樹脂型の分散液は、体系が安定し、分散が均一で、分散液の濃度が高く、屈折率が高い。
【0035】
3、前記の特性を有する分散液を利用して、後続の、例えば輝度向上フィルムまたは反射防止フィルムを調製する際に、高屈折コーティングの屈折率を大幅に向上させ、フィルムの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】本出願の実施例1によって提供されるナノ酸化ジルコニウム粉体の透過電子顕微鏡
図1である。
【
図1b】本出願の実施例1によって提供されるナノ酸化ジルコニウム粉体の透過電子顕微鏡
図2である。
【
図2】本出願の実施例1によって提供されるナノ酸化ジルコニウム粉体と標準正方晶結晶粒のXRD比較スペクトルである。
【
図3】本出願の実施例1によって提供されるナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径分布図である。
【
図4】本出願の比較例1によって提供されるナノ酸化ジルコニウム粉体の走査電子顕微鏡図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では、本出願の技術手法について具体的な実施形態と結び付けて詳細に説明する。但し、さらなる説明がない限り、一つの実施形態における素子、構造及び特徴は、他の実施形態に有益に結合させることができることを理解しておかなければならない。
【0038】
実施形態において方法ステップの特定の順序を示すことがあるかもしれないが、必ずしもこの特定の順序でこれらの操作を実行することが求められたり、暗示されたりするものではなく、また示されているすべての操作を実行しなければ所期の結果を実現できないというわけではなく、反対に、ステップで実行の順序を変更することができるということに理解が必要である。追加または代替的に、いくつかのステップを省略したり、複数のステップを1つのステップに統合して実行したり、及び/または1つのステップを複数のステップに分割して実行したりすることも可能である。但し、特に説明があったり、またはステップ間の関連性によって実行順序が決まったりする場合は除く。このような変形は、その選択によって決まる。そのような変形はすべて、本開示の範囲内にある。
【0039】
実施形態は、本出願の好適な実施形態について述べているにすぎず、本出願の範囲を限定するものではなく、本出願の設計の主旨を逸脱しないことを前提に、当業者によって行われる本出願の技術手法に対する様々な変形及び改善は、すべて本出願の請求項によって確定される保護範囲内に含まれなければならない。
【0040】
本出願の一実施形態では、ナノ酸化ジルコニウム粉体を提供しており、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nm、比表面積は200~240m2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムの割合が粉体の60~95%を占める。
【0041】
当該実施形態で提供するナノ酸化ジルコニウム粉体は粒径が小さく、比表面積が大きく、屈折率が高いので、分散が均一で、屈折率が高いナノ酸化ジルコニウム分散液を調製することができる。上記の実施形態で提供するナノ酸化ジルコニウム粉体は、その粒径、比表面積及び正方晶系結晶構造の占有比という三者の協同作用により、獲得されるナノ酸化ジルコニウム粉体の分散後、分散が均一で、屈折率が高といった特徴を持たせることができる。具体的には、粒径が小さく、比表面が大きい場合、その粒子の分散性がよく、調製して得られる水分散液の分散が均一であるほど、屈折率は高くなる。さらに、酸化ジルコニウム結晶相が正方晶で、かつ粉体中の正方晶の占める割合が高いほど、対応する屈折率は高くなる(正方晶の酸化ジルコニウムの屈折率は2.40であり、単斜晶の酸化ジルコニウムの屈折率2.02より明らかに高い)。ナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は4、5、6、7、8、9nmまたは前記範囲内の任意の一点の値であってよく、比表面積は205、210、215、220、225、230、235m2/gまたは前記範囲内の任意の一点の値であってよく、正方晶系結晶構造が粉体に占める割合は65、70、75、80、85、90%または前記範囲内の任意の一点の値であってよいことが理解できる。
【0042】
本出願のもう一つの実施形態はさらに、前記実施形態に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体の調製方法を提供しており、以下のステップを含む。
【0043】
ジルコニウム塩と安定性元素塩を一緒に水中に溶かし、溶液Aを得る。
【0044】
アルカリを水に溶かして溶液Bを得る。
【0045】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿物が生成され、そのうち、沈殿物の質量は混合液全体の質量の1~40%を占める。沈殿物を複数回洗浄して濾過すると、前駆体Cが得られる。
【0046】
前躯体Cに水と有機酸またはその塩とを加えてスラリーを作る。得られるスラリーの総固形分含有量は6~20wt%である。
【0047】
前記得られたスラリーを反応釜に投入する。充填量は60~90%で、180℃~220℃で1~12時間、水熱反応を行い、反応後に反応液を得る。
【0048】
反応液を直接乾燥させ、または濃縮洗浄して乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0049】
前記実施形態で限定されるナノ酸化ジルコニウム粉体の調製方法は、有機酸またはその塩の投入順が従来の技術と異なっている。即ち、有機酸またはその塩は、スラリーを作った後ではなく、スラリーを作る前に導入しなければならないのである。これは、スラリーを作る前に、電荷の作用により、スラリーを作る過程において前駆体の粘度が大幅に低下するからであり、それにより、スラリーの分散効果が高まるだけでなく、前駆体が釜に入る濃度を高めることもできるので、スラリーの分散効果が悪く、調製した粉体の粒径が高くなりすぎて固まり、容易に分散しないといった欠陥を避けることができるのである。また、従来の技術では、水熱反応は170℃以上で行うことができると報告されているが、この実施例では、その温度を180~220℃の範囲、例えば、190℃、195℃、200℃、205℃、210℃、215℃または前記範囲内の任意の一点の値に限定している。本実施形態で提供する調製方法における水熱反応の温度は、得られる粉体の結晶構造に直接影響する。即ち、<180℃、例えば170℃では、得られる粉体の結晶系は単斜晶系結晶構造であり、予期した正方晶系結晶構造ではない。>220℃であれば、生産設備に対する要求が厳しくなり、生産の拡大には不向きである。
【0050】
好適な実施形態として、投入するジルコニウム塩は水溶性ジルコニウム塩であり、塩基性炭酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、オキシ塩化物の中から選択される少なくとも1種であり、投入する安定性元素塩は安定性元素の塩化物または硝酸塩であり、そのうち、前記安定性元素は、アルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素の中から選択される少なくとも1種であり、前記アルカリは、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムの中から選択される少なくとも1種である。
【0051】
好適な実施形態として、投入するジルコニウム塩濃度は≦2mol/Lであり、投入する安定性元素とジルコニウム元素のモル濃度比は2/98~30/70であり、投入するアルカリの濃度は≦8mol/Lである。前記投入する安定性元素の量は厳格に制御する必要があり、多すぎたり少なすぎたりしてはならないことは理解できる。これは、少なすぎると、調製して得られる粉体の正方晶の占有比率がかなり小さくなり、単斜晶になることさえあり、多すぎると、調製して得られる粉体中の安定性元素の含有量が高くなり、粉体自身の屈折率に影響するからである。投入するジルコニウム塩濃度と安定性元素塩の量を制御することによって、溶液A中の安定性元素とジルコニウム元素のモル濃度比を厳密に制御する。
【0052】
好適な実施形態として、前記有機酸は、モノカルボン酸、ポリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸の中から選択される少なくとも1種であり、そのうち、前記モノカルボン酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸の中から選択される少なくとも1種であり、ポリカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸の中から選択される少なくとも1種であり、ヒドロキシカルボン酸は、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸の中から選択される少なくとも1種であり、前記有機酸の塩はそのアルカリ金属塩であり、カリウム塩、ナトリウム塩の中から選択される少なくとも1種である。
【0053】
好適な実施形態として、投入する有機酸またはその塩のモル濃度はジルコニウム元素と安定元素のモル濃度の総和の10~100%である。本実施例で、有機酸及びその塩の含有量を明確に限定し、かつ有機酸及びその塩のモル濃度をジルコニウム元素と安定元素のモル濃度の総和の10~100%に限定していることは理解できる。その理由は、従来技術(例えば中国特許出願CN102264645A)で酸化ジルコニウム分散液を調製する場合、投入する有機酸の量は、通常、ジルコニウムのモル濃度の1倍以上であるが、有機酸、特に分子量が比較的大きい有機酸については、その添加量が多すぎると、一方で反応スラリーの酸性が強く、反応設備に対する腐食性が大きくなり、また一方で、後続の水分散液の調製において大量の水で複数回濃縮、洗浄を行う必要があるため、水の浪費が著しいという点にある。さらに重要なのは、酸量が多くなるほど、後に調製する溶剤型分散液に酸が残留する可能性が大きくなり、工業化生産に不利であるという点である。そこで、本実施形態では、全体案を最適化することにより、その量を10~100%の範囲に限定している。好適には、有機酸及びその塩のモル濃度は、ジルコニウム元素と安定元素のモル濃度の総和の20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または前記範囲内の任意の一点の値であってよい。
【0054】
好適な実施形態として、投入する有機酸の沸点が<150℃の場合、反応液を直接乾燥させれば、ナノ酸化ジルコニウム粉体が得られる。投入する有機酸の沸点が>150℃である場合は、反応液を複数回濃縮洗浄した後、乾燥させることで、ナノ酸化ジルコニウム粉体が得られる。沸点<150℃の有機酸は、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸などから選択することができ、沸点>150℃の有機酸は、例えばオレイン酸、クエン酸、イソ吉草酸などから選択することができるが、ここでは列挙するだけとし、具体的な限定は行わない。
【0055】
好適な実施形態として、前記乾燥方式は、真空低温乾燥、オーブン乾燥及び噴霧の中から選択される任意の1種であり、前記濃縮洗浄方式は、限外濾過、回転蒸発及びセラミック膜濃縮洗浄の中から選択される任意の1種である。上記の乾燥方式及び濃縮洗浄方式は、いずれも当業者が熟知している操作方式であることは理解できるが、具体的な方式の具体的な要求については、実際の状況によって選択または調整することができる。
【0056】
本出願の実施形態ではさらに、前記の実施形態に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体を含む有機溶剤型分散液を提供しており、前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は40~70wt%、屈折率は1.400~1.554である。得られる有機溶剤型分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は、従来技術中のナノ酸化ジルコニウムの含有量より明らかに増加しており、高濃度ナノ酸化ジルコニウムの有機溶剤型分散液に属していることは理解できる。前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69wt%または前記範囲内の任意の一点の値であってよい。
【0057】
好適な実施形態では、前記分散液は、前記の実施形態に記載の調製方法を通して調製過程で得られる反応液中の分散媒質(即ち水)を有機溶剤に置き換えることによって得られ、または前記の実施形態を通して調製されたナノ酸化ジルコニウム粉体を有機溶剤中に分散させることによって得られる。そのうち、前記有機溶剤は、アルコール類、エステル類、芳香族炭化水素類、エーテル類及びアミド類有機溶剤の中から選択される少なくとも1種である。
【0058】
前記アルコール類は、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノールの中から選択される少なくとも1種であってよく、ケトン類は、アセトン、ブタノン、メチルイソブチルケトンの中から選択される少なくとも1種であってよく、エステル類は、酢酸エチルまたは酢酸ブチルから選択することができ、芳香族炭化水素類は、トルエン、キシレン、エチルベンゼンの中から選択される少なくとも1種であってよく、エーテル類は、プロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選択される少なくとも1種であってよく、アミド類は、ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンの中から選択される少なくとも1種であってよい。
【0059】
好適な実施形態として、前記分散液中には改質剤が添加されており、前記改質剤の添加量はナノ酸化ジルコニウム含有量の1~20wt%である。本実施形態において、改質剤を投入して二次分散を行う目的は、改質剤と酸化ジルコニウムが十分に結合することによって、ナノ酸化ジルコニウムを十分に分散させることにある。前記改質剤の添加量は、ナノ酸化ジルコニウム含有量の2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%、11wt%、12wt%、13wt%、14wt%、15wt%、16wt%、17wt%、18wt%、19wt%または前記範囲内の任意の一点の値であってよいことは理解できる。
【0060】
好適な実施形態として、前記改質剤は、シランカップリング剤、チタン酸エステルカップリング剤、金属錯体、芳香系または高度共役の化学物質の中から選択される少なくとも1種である。そのうち、シランカップリング剤とチタン酸エステルカップリング剤については、ここでは具体的な限定はしておらず、市販の各種規格のカップリング剤であってよい。金属錯体は、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム及び錫の中から選択される少なくとも1種の金属と、アセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトンの中から選択される少なくとも1種の配位子との金属錯体(例えば、アセチルアセトナトチタン、アセチルアセトナトアルミニウム)であってよい。また、前記改質剤は、芳香系または高度共役の物質であってもよく、1-スチレンアセトン、フェニルアセチルアセトン、ジフェニル酢酸、フェニルホスフィン酸、リン酸トリフェニルの中から選択される少なくとも1種であってよい。
【0061】
好適な実施形態として、前記分散液中には油性分散助剤が添加されており、前記油性分散助剤の添加量は、ナノ酸化ジルコニウム含有量の1~20wt%である。本実施形態に油性分散助剤を加える目的は、分散液の安定性及び分散性をより高めることにあると理解することができる。ここでは、分散助剤について具体的な限定は行っておらず、市販の陰イオン型分散剤、陽イオン型分散剤、非イオン型分散剤及び高分子型分散剤の中の少なくとも1種であってよく、好適には燐酸エステル系分散助剤である。
【0062】
好適な実施形態として、前記ナノ酸化ジルコニウムの有機溶剤型分散液は、以下の方式を通して得られる。前記実施形態のナノ酸化ジルコニウム粉体の調製方法において、水熱反応後に得られる反応液の中に有機溶剤を投入して回転蒸発処理を行い、濃縮して水を除去した後、再び有機溶剤を投入し、希釈、濃縮を繰り返すと、酸化ジルコニウムの有機溶剤型分散液が得られる。
【0063】
前記好適な実施形態では、前記実施形態に記載の調製方法の調製過程で得られた反応液中の分散媒質の水を有機溶剤に置き換えた後、さらに改質剤を投入して親油性改質処理を行っている。その他に、さらに油性分散助剤を投入して、分散液の安定性及び分散性を強化している。従来の技術において分散媒質の入替を行った分散液に比べて、この方式で処理した分散液は、顕著な優位性を有している。
【0064】
本出願のもう一つの実施形態では、さらに光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液を提供しており、前記分散液は、光硬化性樹脂を前記いずれかの実施形態に記載のナノ酸化ジルコニウム粉体の分散液中に添加した後、減圧蒸留によって有機溶剤を除去して得られる。前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は50~80wt%で、その屈折率は1.60~1.70である。採用する光硬化性樹脂は1つまたは複数の放射重合可能な二重結合を含むことは理解できる。前記光硬化性樹脂は、含エステル、ウレタン、エーテル、シリコン、ハロゲン及び/または含リンなどの基を含む(メタ)アクリル系のモノマーまたはそのオリゴマーから選択することができる。好適には、屈折率が比較的高い光硬化性樹脂であり、例えば脂環骨格を含むアクリル酸エステル(メタクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸シクロヘキシル)である。または、好適には粘度が比較的低い光硬化性樹脂であり、例えばベンジルアクリレート、(メタ)アクリル酸メチルである。前記光硬化性樹脂は、市販のモノマーまたはオリゴマーであってよい。
【0065】
好適な実施形態として、前記光硬化性樹脂の添加量は、酸化ジルコニウムと光硬化性樹脂の総質量の20~50%である。
【0066】
本出願ではさらに、前記いずれかの実施形態に記載の、ナノ酸化ジルコニウム粉体を含む分散液、または前記いずれかの実施形態に記載の、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液、を採用して調製して得られる光学フィルムを提供している。本実施形態で提供する光学フィルムは、主に、輝度向上フィルム、反射防止フィルム及び他の高屈折コーティングを有する光学フィルムであることは理解できる。
【0067】
以下では、実施例と結び付けて本出願に対する詳細な説明を行うが、理解しておかなければならないのは、これらの実施例は本出願における好適ないくつかの実施例にすぎず、本出願の保護範囲に対する限定と理解することはできないということである。
【0068】
実施例1
塩化酸化ジルコニウム1.47kgと塩化イットリウム138gを量って8kgの水に溶かし、その混合溶液Aを得る。
【0069】
水酸化ナトリウム421gを6kgの水に溶かして水酸化ナトリウム溶液Bを得る。
【0070】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿が生じるので、沈殿物を複数回洗浄して抽出濾過し、前駆体Cを得る。
【0071】
前駆体Cに水と270gの酢酸(酢酸の物質的な量はジルコニウム元素と安定元素物質の量の和の90%に等しく、つまり、酢酸のモル濃度はジルコニウム元素と安定元素のモル濃度の和の90%である)を加え、総体積を8Lに制御し、撹拌してスラリーを作る。
【0072】
上記で得られたスラリーを10Lの反応釜に投入し、200℃で3時間、水熱反応を行う。
【0073】
反応の終了後、反応液を直接乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0074】
図1~3に示すように、得られたナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nm、比表面積は220m
2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムの割合が粉体の90%以上を占めている。
図1a及び
図1bからわかるように、得られたナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nmであり、
図2から、上方のナノ酸化ジルコニウム粉体の回折ピークは下方の標準正方晶結晶粒のXRD特徴ピークに対応しており、かつ正方晶系結晶構造の占有比率が比較的高いことがわかる。回折強度データを分析して計算すると、正方晶系結晶構造の占有比率は90%以上となる。
【0075】
実施例2
塩化酸化ジルコニウム1.47kgと塩化イットリウム69gを量って8kgの水に溶かし、その混合溶液Aを得る。
【0076】
水酸化ナトリウム550gを6kgの水に溶かして水酸化カリウム溶液Bを得る。
【0077】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿が生じるので、沈殿物を複数回洗浄して抽出濾過し、前駆体Cを得る。
【0078】
前駆体Cに水と160gの酢酸(酢酸の物質的な量はジルコニウム元素と安定元素物質の量の総和の56%である)を加え、総体積を8Lに制御し、撹拌してスラリーを作る。
【0079】
上記で得られたスラリーを10Lの反応釜に投入し、180℃で4時間、水熱反応を行う。
【0080】
反応の終了後、反応液を直接乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0081】
得られたナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nm、比表面積は200m2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムの割合が粉体の約75%を占める。
【0082】
実施例3
塩化酸化ジルコニウム1.47kgと塩化イットリウム160gを量って8kgの水に溶かし、その混合溶液Aを得る。
【0083】
水酸化ナトリウム460gを6kgの水に溶かして水酸化ナトリウム溶液Bを得る。
【0084】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿が生じるので、沈殿物を複数回洗浄して抽出濾過し、前駆体Cを得る。
【0085】
前駆体Cに水と337gのプロピオン酸(プロピオン酸の物質的な量はジルコニウム元素と安定元素物質の量の総和の90%である)を加え、総体積を8Lに制御し、撹拌してスラリーを作る。
【0086】
上記で得られたスラリーを10Lの反応釜に投入し、220℃で3時間、水熱反応を行う。
【0087】
反応の終了後、反応液を直接乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0088】
得られたナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は3~10nm、比表面積は210m2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含み、かつ正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムの割合が粉体の約83%を占める。
【0089】
実施例4
実施例1の水熱反応後の反応液にブタノン(MEK)溶媒を加えて回転蒸発処理を行い、濃縮して水を除去した後、再びMEKを加え、希釈濃縮を繰り返して、酸化ジルコニウムのMEK分散液を得る。その後、改質剤リン酸トリフェニルエステル(添加量はジルコニウム含有量の10wt%)を加えて改質を行い、さらに油性分散助剤(添加量は5wt%)を加え、ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液を得る。
【0090】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.458、濃度が60%であるときの屈折率は1.516、濃度が70wt%であるときの屈折率は1.554である。
【0091】
実施例5
ナノ酸化ジルコニウム有機溶剤型分散液の調製方法は実施例4と同じであるが、実施例2の水熱反応後の反応液を採用している点、及び投入する改質剤の量がジルコニウム含有量の10%で、ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液を得るという点が異なっている。
【0092】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.455、濃度が60wt%であるときの屈折率は1.511、濃度が70wt%であるときの屈折率は1.549である。
【0093】
実施例6
ナノ酸化ジルコニウム有機溶剤型分散液の調製方法は実施例4と同じであるが、実施例3の水熱反応後の反応液を採用している点、及び投入する改質剤の量がジルコニウム含有量の15wt%で、ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液を得るという点が異なっている。
【0094】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.439、濃度が60wt%であるときの屈折率は1.492、濃度が70wt%であるときの屈折率は1.545である。
【0095】
実施例7
ベンジルアクリレート(得られたモノマー分散液中の酸化ジルコニウム濃度80wt%に基づいて添加)を実施例4で調製して得られたナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液に投入し、前記混合液を減圧蒸留し、有機溶剤を除去して、光硬化可能なベンジルアクリレートを有するナノ酸化ジルコニウム分散液を得る。
【0096】
前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は80wt%で、その屈折率は1.649である。
【0097】
実施例8
ベンジルアクリレート(得られたモノマー分散液中の酸化ジルコニウム濃度60wt%に基づいて添加)を実施例5で調製して得られたナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液に投入し、前記混合液を減圧蒸留し、有機溶剤を除去して、光硬化可能なベンジルアクリレートを有するナノ酸化ジルコニウム分散液を得る。
【0098】
前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は60wt%で、その屈折率は1.636である。
【0099】
実施例9
ベンジルアクリレート(得られたモノマー分散液中の酸化ジルコニウム濃度50wt%に基づいて添加)を実施例6で調製して得られたナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液に投入し、前記混合液を減圧蒸留し、有機溶剤を除去して、光硬化性樹脂を有するナノ酸化ジルコニウム分散液を得る。
【0100】
前記分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は50wt%で、その屈折率は1.611である。
【0101】
比較例1
塩化酸化ジルコニウム1.47kgと塩化イットリウム138gを量って8kgの水に溶かし、その混合溶液Aを得る。
【0102】
水酸化ナトリウム421gを6kgの水に溶かして水酸化ナトリウム溶液Bを得る。
【0103】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿が生じるので、沈殿物を複数回洗浄して抽出濾過し、前駆体Cを得る。
【0104】
前駆体Cに水を加え、撹拌してスラリーを作る。
【0105】
上記で得られたスラリーを10Lの反応釜に投入し、酢酸270gを加えて総堆積を8Lに制御し、200℃で3時間、水熱反応を行う。
【0106】
反応の終了後、反応液を直接乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0107】
図4に示すように、得られたナノ酸化ジルコニウム粉体の粒径は約30nm、比表面積は180m
2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は正方晶系結晶構造の酸化ジルコニウムを含む。
【0108】
比較例2
塩化酸化ジルコニウム1.47kgと塩化イットリウム138gを量って8kgの水に溶かし、その混合溶液Aを得る。
【0109】
水酸化ナトリウム421gを6kgの水に溶かして水酸化ナトリウム溶液Bを得る。
【0110】
溶液Aと溶液Bを撹拌して十分に混合すると、沈殿が生じるので、沈殿物を複数回洗浄して抽出濾過し、前駆体Cを得る。
【0111】
前駆体Cに水と270gの酢酸を加え、総体積を8Lに制御し、撹拌してスラリーを作る。
【0112】
上記で得られたスラリーを10Lの反応釜に投入し、170℃で3時間、水熱反応を行う。
【0113】
反応の終了後、反応液を直接乾燥させて、ナノ酸化ジルコニウム粉体を得る。
【0114】
得られたナノ酸化ジルコニウム粉体の平均粒径は30nm、比表面積は177m2/gであり、前記ナノ酸化ジルコニウム粉体は単斜晶系結晶構造の酸化ジルコニウムである。
【0115】
比較例3
ナノ酸化ジルコニウムの有機溶液型分散液の調製方法は実施例4と同じであるが、採用しているのが比較例1の水熱反応後の溶液であるという点が異なっている。
【0116】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.445、濃度が60wt%であるときの屈折率は1.491、濃度が70wt%であるときの屈折率は1.530である。
【0117】
比較例4
ナノ酸化ジルコニウムのブタノン分散液の調製方法は実施例4と同じであるが、採用しているのが比較例2の水熱反応後の溶液であるという点が異なっている。
【0118】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.439、濃度が60%であるときの屈折率は1.480、濃度が70wt%であるときの屈折率は1.532である。
【0119】
比較例5
ナノ酸化ジルコニウムの有機溶液型分散液の調製方法は実施例4と同じであるが、改質剤を投入していないという点が異なっている。
【0120】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.416であるが、濃度が70wt%の分散液を得ることはできない。
【0121】
比較例6
ナノ酸化ジルコニウムの有機溶液型分散液の調製方法は実施例4と同じであるが、油性分散助剤を投入していないという点が異なっている。
【0122】
前記ナノ酸化ジルコニウム有機MEK型分散液において、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるときの屈折率は1.411であるが、濃度が70wt%の分散液を得ることはできない。
【0123】
以上のことから、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が70wt%であるという条件において、実施例4~6の屈折率は1.545~1.554、比較例3~4の屈折率は1.530~1.532で、その差は0.013~0.024であり、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が60wt%であるという条件では、実施例4~6の屈折率は1.492~1.516、比較例3~4の屈折率は1.480~1.491で、最大差は0.036であり、ナノ酸化ジルコニウムの濃度が40wt%であるという条件では、実施例4~6の屈折率は1.439~1.458、比較例3~4の屈折率は1.439~1.445であり、最大差は0.013であることがわかる。これは、比較例の分散液中の酸化ジルコニウムの粒径が比較的大きく(比較例3、4)、結晶系が単斜晶(比較例4)なので、調製された分散液の屈折率が相対的に低くなっているためである。数値的に見ると、屈折率の差はそれほど大きくないが、分散液の屈折率の光学特性という点から見ると、雲泥の差があることがわかる。例えば、屈折率に0.01の差がある分散液を用いてそれぞれ輝度向上フィルムを調製してディスプレイに応用すると、その光透過率は89%と93%となり、これは正にA級スクリーンとB級スクリーンの差となる。また、有機溶剤型分散液を調製する場合は、比較例5及び比較例6から、油性分散助剤または改質剤を添加しない場合、分散液中のナノ酸化ジルコニウムの含有量は最大でも40wt%にしかならず、しかも濃度が70wt%の分散液は得ることができないことがわかるので、70wt%で高屈折率を得ることについては言うまでもない。
【国際調査報告】