(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】マイクロニードルアレイ、アクチュエータ及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
A61M37/00 520
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537227
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2019086853
(87)【国際公開番号】W WO2021121638
(87)【国際公開日】2021-06-24
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504104899
【氏名又は名称】アレス トレーディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】マクシム エットリ
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ ネルソン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ソマービル
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
(57)【要約】
薬剤の経皮送達のために皮膚上に配置される、マイクロニードルアレイパッチなどの経皮薬物送達装置が本明細書に記載されている。哺乳動物の皮膚を介して生物活性剤を送達するための経皮薬物送達装置は、マイクロニードルのアレイと、マイクロニードルを作動させる手段とを含み、作動手段は、マイクロニードルを別々に作動させる。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルのアレイ、及びマイクロニードルを別々に作動させる手段を含む、哺乳動物の皮膚を介して生物活性剤を送達するための装置。
【請求項2】
前記作動手段が、2つ以上のマイクロニードルを含む、マイクロニードルのアレイのサブセットを同時に作動させる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記マイクロニードルのアレイのサブセットの同時作動が、1~60秒の期間にわたる作動を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
哺乳動物の皮膚に付着するための手段をさらに含む皮膚上の装置であり、ここで前記皮膚に付着するための手段は、接着剤、ベルト、及びゴムバンドから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記マイクロニードルが生物活性剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記マイクロニードルが生物活性剤でコーティングされている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記マイクロニードルの遠位端の少なくとも一部が、生物活性剤を含む固体製剤である、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記生物活性剤が、小分子、ペプチド、タンパク質、抗体、融合タンパク質、DNA、及びRNAから選択される薬剤である、請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記生物活性剤がゴナルFなどの不妊治療薬である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記生物活性剤がインスリンである、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記生物活性剤が癌治療剤である、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記マイクロニードルが、マイクロニードルの作動後に液体と接触して溶解し、それによって生物活性剤を哺乳動物に放出する、請求項1~11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記作動手段が、アクチュエータ及び熱膨張性作動媒体を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記熱膨張性作動媒体が、パラフィンワックス、サーモスタットワックス、ポリエチレングリコール又はそれらの混合物を含む、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
熱膨張性作動媒体が、比較的高い融点及び高い熱膨張性を有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記作動手段がさらに熱源を含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記熱源が、プリント回路基板を介して制御される抵抗などの電気熱源である、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記アレイ内の各マイクロニードルが、個別の熱源と結合されている、請求項16又は17に記載の装置。
【請求項19】
前記作動手段が、アクチュエータ及びばねを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
前記ばねが、アクチュエータが各マイクロニードルに係合する前に繰り返しプライミングされる、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記アクチュエータ手段が、アクチュエータが1つのマイクロニードルから次のマイクロニードルに移動する螺旋状トラックをさらに備える、請求項19又は20に記載の装置。
【請求項22】
前記螺旋状トラックが複数の傾斜及びくぼみを含み、それにより、作動ごとにばね及びアクチュエータがプライミングする、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記マイクロニードルが、少なくとも0.5Nの力及び少なくとも0.5mmの作動ストロークで作動する、請求項1~22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
前記マイクロニードルが、約1N~約5N、好ましくは約1Nの力で作動され、そして1mm~約5mmの作動ストロークを有する、請求項1~23のいずれか1項に記載の装置。
【請求項25】
各作動間の期間が制御可能である、請求項1~24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
前記期間が約1秒~約7日である、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記期間が事前定義された注入サイクルである、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか1項に記載の装置を使用して、哺乳動物に生物活性剤を投与する方法。
【請求項29】
前記哺乳類がヒトである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒトが女性であり、そして前記生物活性剤が不妊治療薬である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記生物活性剤がインスリンである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記生物活性剤が癌治療薬である、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮薬物送達装置に関する。特に、本発明は、薬剤の経皮送達のために皮膚上に配置される、マイクロニードルアレイパッチなどのマイクロニードルアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬組成物は、例えば、経口投与又は皮下注射を含む様々な経路を介して投与することができる。医薬組成物中の特定の活性成分については、より局所的な投与が好ましい。これは、例えば生物製剤などのより大きな活性成分に特に当てはまる。従って、そのようなより大きな活性成分は、皮下、筋肉内、又は静脈内にかかわらず、注射によって投与されることが多い。
【0003】
注射によって投与されている活性医薬成分の例は、例えば、受精能治療領域における特定のホルモン治療、インスリン、又は例えば抗体又は融合タンパク質治療などの腫瘍学及び自己免疫治療領域における多くの生物学的製剤である。
【0004】
注射投与は、訓練を受けた医療提供者の支援を必要とするか、又は患者の訓練を必要とすることがよくある。多くの患者は、注射を苦痛で面倒な手順として認識しており、場合によっては、医薬品の有効成分を控えるか、中止するか、まれに注射する。その結果、治療計画の順守が著しく損なわれる可能性がある。さらに、針が露出した注射装置を使用すると、針刺し損傷のリスクがあり、安全性の観点からリスクを可能な限り最小限に抑える必要がある。
【0005】
経皮パッチにアレイとして組み込まれたマイクロニードル技術は、注射投与のより一般的な方法に代わる魅力的な方法を提供した。経皮投与用の典型的なマイクロニードルアレイは、患者の皮膚に適用されるパッチの形をしている。医薬活性成分を含む医薬組成物は、マイクロニードルのアレイを介して患者に送達され、マイクロニードルは、医薬組成物でコーティングされているか、又は部分的に溶解可能であり、固体医薬組成物で構築されている。マイクロニードルアレイを備えた経皮パッチを介して有効な医薬成分が投与されると、そのような経皮パッチを除去することができる。
【0006】
従って、従来の経皮パッチは、単回投与で活性医薬成分を送達し、これは、即時放出組成物又は持続放出組成物のいずれかとしてあり得る。このような経皮パッチの欠点は、単回投与用に設計されていることである。但し、特定の治療では、事前に設定された間隔で一定期間にわたって医薬品活性成分を複数回投与する必要がある。例えば、特定の治療では、例えば2週間にわたって1日1回の注射が必要である。各投与の最後に経皮パッチを取り除き、次の投与の前に別の経皮パッチと交換することは可能ですが、それは患者にとって非常に不便なままであり、患者が治療計画に従わない可能性を改善しない。
【0007】
従って、注射可能な活性医薬成分を患者に投与するための便利で使いやすい装置を提供する必要があり、特に、治療は、所定の時間間隔で一定期間にわたって送達される複数回の投与から成る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、活性医薬成分の経皮送達のための装置に関する。本発明の装置は、活性医薬成分を用いた治療の患者への投与に便利且つ容易に使用でき、その治療は、所定の時間間隔で一定期間にわたって複数回の投与を必要とする。本発明の経皮マイクロニードルアレイパッチ装置は、アレイ内の1つ又は複数のマイクロニードルを個別にアドレス指定するためのアクチュエータ機構を備える。その結果、単一のマイクロニードルアレイ経皮パッチ装置を一定期間にわたる複数回の投与に使用することができる。従って、本発明の装置は、マイクロニードルアレイ内の1つ又は複数の個々の針の作動を可能にすることにおいて、上記の技術的問題に対する解決策を提供し、それにより、医薬品活性成分の特定の投与計画に従って、一定期間にわたる複数回の投与に使用できるマイクロニードルアレイパッチ装置が可能になる。さらに、このような装置は、特に自宅での患者の自己投与において、患者の利便性を大幅に向上させ、事前設定された投与計画を順守する可能性を高める。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施形態によれば、マイクロニードルのアレイ及びマイクロニードルを作動させる手段を含む哺乳動物の皮膚を介して、活性医薬成分である生物活性剤を送達するための装置が提供され、ここで作動手段はマイクロニードルを別々に作動させる。好ましい実施形態によれば、作動手段は、マイクロニードルのアレイのサブセットを同時に作動させる。本発明のいくつかの実施形態によれば、マイクロニードルは、活性医薬成分又は活性医薬成分を含む組成物を含む溶解可能な部分を含む。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、マイクロニードルのアレイ及びマイクロニードルを作動させる手段を含む、哺乳動物の皮膚を介して生物活性剤を送達するための装置が提供され、ここで、作動手段は、マイクロニードルを別々に作動させ、1つ又は複数の加熱要素及び熱膨張性作動媒体を含む。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、マイクロニードルのアレイ及びマイクロニードルを作動させる手段を含む、哺乳動物の皮膚を介して生物活性剤を送達するための装置が提供され、ここで、作動手段は、マイクロニードルを別々に作動させ、螺旋状のガイドトラックを備えたディスク上のアクチュエータ及びばねを含む。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、マイクロニードルのアレイ及びマイクロニードルを作動させる手段を含む、哺乳動物の皮膚を介して生物活性剤を送達するための装置を使用して、哺乳動物に生物活性剤を投与する方法が提供され、ここで、作動手段はマイクロニードルを別々に作動させる。
【0013】
本発明のさらなる目的及び有利な特徴は、特許請求の範囲、詳細な説明、及び添付の図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、作動機構を含むマイクロニードルアレイを備えた経皮パッチの切り抜き上面図を示す。
【0015】
【
図2】
図2は、作動手段として、熱膨張性作動媒体(ここではワックス)を備えたマイクロニードルアレイを備えた経皮パッチを示す。
【0016】
【
図3】
図3は、経皮パッチ用のマイクロニードルアレイでのマイクロニードル作動用のワックスアクチュエータの概略図を示す。
【0017】
【
図4】
図4は、針先及び皮膚接触面の詳細な概略図を示す。
【0018】
【
図5】
図5は、アクチュエータ及びばね機構の作動として使用するための螺旋状のガイドトラックを備えたディスクの概略図を示す。
【0019】
【
図6】
図6は、アクチュエータ及びばね機構を使用した作動を示し、最初の工程では、アクチュエータのピン/パックがアクティブな位置にあり、針を経皮マイクロニードルアレイパッチから押し出し(
図6A)、一方では、傾斜した斜面での進行は、経皮マイクロニードルアレイパッチから後続の針を押し出すためのアクチュエータピン/パックをプライミングする(
図6B)。
【0020】
【
図7】
図7は、マイクロニードルアレイ内の連続するマイクロニードル上でピン/パックを前進させる機構を示し、第1の機構では、SMA(形状メモリ合金)ばねを使用して、回転するディスクを次の増分まで段階的に進め(
図7A)、第2の機構では、回転ディスクが回転スピンドルを使用して段階的に前進する(
図7B)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載の装置及び方法は、1つの側面いよれば、活性医薬成分を患者に投与するための表皮内送達装置を含む、経皮装置を対象としている。1つの例示的な実施形態によれば、システム及び方法は、患者の皮膚の角膜層の中又は下に活性医薬成分を投与するための送達装置を提供する。本明細書で使用される場合、経皮は、皮膚の1つ又は複数の層を介した、活性医薬成分(生物学的薬剤)又はワクチンなどの物質の交換を指す。
【0022】
前記装置及び方法は、患者、特にヒトの患者に、様々な活性薬剤/成分(生物活性剤)を投与する際に使用するのに特に適している。活性薬剤/成分には、皮膚を通して送達することができる生物学的活性を有する物質が含まれる。例としては、抗生物質、抗ウイルス剤、鎮痛剤、麻酔薬、食欲不振症、抗関節炎薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、DNAワクチンを含むワクチン、アジュバント、生物製剤などがある。患者に皮内送達することができる他の物質には、タンパク質、ペプチド、及びそれらの断片が含まれる。タンパク質及びペプチドは、天然に存在するか、合成されるか、又は組換えにより生成され得る。活性薬剤/成分の適切な例には、組換えゴナドトロピン(例えば、組換えヒトFSH)などのインスリン又は受精ホルモンが含まれる。
【0023】
本明細書に記載の経皮送達用のマイクロニードルアレイ装置は、活性薬剤の経皮投与のための便利で使いやすい装置を提供するという点で有利である。本明細書に記載の装置が、この期間内の特定の事前設定された時間に、ある期間にわたって複数回の投与を必要とする治療に使用できることも、患者にとって便利である。患者は、治療の過程で、マイクロニードル装置を交換したり、毎回異なる装置を複数回注入したりする必要はない。そのようなものとして、治療方法における装置及びその使用はまた、そのような治療計画への患者の順守を改善する。
【0024】
装置の特定の実施形態では、通信モジュールが含まれる。通信モジュールは、装置から中央サーバー/外部サーバーにデータを転送できる任意の通信モジュールにすることができる。転送されるデータは、マイクロニードルアレイの活性化の確認、活性化される針の数、マイクロニードルアレイの活性化の日時、又は線量調整の一部として活性化されるマイクロニードルの数の変更の1つ以上に関連する。通信モジュールは、任意の数の接続を使用して、例えばワイヤレス接続を含むデータを転送できる。
【0025】
図1は、一般的に、マイクロニードルのアレイ及びマイクロニードルを作動させる手段を含む、哺乳動物の皮膚を介して生物活性剤を送達するための装置の実施形態を示し、ここで前記作動手段は、マイクロニードルを別々に作動させる。
図1では、装置(1)は、経皮パッチ装置、つまり、患者の皮膚に接着される装置(皮膚上の装置)であり、活性薬剤を患者の皮膚を通して送達するための機構を包含している。装置(1)は、マイクロニードルアレイ(3)(多数のマイクロニードルを含む支持構造)及び作動手段(4)を含む本体又はケース(2)を含む。本体又はケース(2)は、コントローラー(5)及びバッテリー(6)をさらに含む。皮膚への付着は、装置を患者の皮膚に固定するための任意の適切な手段(7)によって達成することができる。装置を患者の皮膚に固定するための適切な手段(7)の例には、接着剤層(
図1に例示される)又はベルト又はゴムバンドが含まれる。
【0026】
図2では、本発明の装置の実施形態のより詳細な構造が提供されている。そのような実施形態によれば、マイクロニードル(8)を作動させるための手段は、熱膨張性作動媒体(9)、例えば、ワックス層を含む。装置の本体又はケース(2)には、バッテリー(6)、コントローラー(5)、熱膨張性作動媒体(ワックス層など)(9)、マイクロニードルアレイ(3)が含まれ、このマイクロニードルアレイには、 多くのマイクロニードル(8)が含まれる。装置はさらに、装置を患者の皮膚に固定するための手段(7)を含み、これは、
図2に示されるように、適切には接着層である。
【0027】
マイクロニードルを作動させるための作動手段(4)は、マイクロニードルが皮膚を貫通することを可能にする任意の適切な作動手段であり得る。本発明の作動手段は、各マイクロニードルの個別の作動を可能にすることを特徴とする。マイクロニードルを作動させるための好ましい手段には、熱膨張性作動媒体の使用、又はばね及びアクチュエータピンの使用が含まれる。
【0028】
熱膨張性作動媒体は、温度の上昇の結果として膨張する任意の作動媒体であり得る。そのような作動媒体は、マイクロニードルに十分な力を提供するような方法で膨張する必要があるだろう。マイクロアレイ内の各マイクロニードルは、皮膚を貫通できるようにする必要があり、薬剤の経皮送達のために、例えば皮下に十分な深さまで移動させる必要がある。マイクロニードルが一般的に薬剤でコーティングされているか、又はマイクロニードル先端の遠位端に生分解性の形で薬剤が含まれていることを考慮すると、 マイクロニードルは、薬剤を含む遠位先端が皮膚を横切り、そして作動後、例えば皮下に位置するように移動させられるべきである。従って、作動手段が熱膨張性媒体を含む場合、適切な熱膨張性媒体は、マイクロニードルが移動する全移動範囲にわたって少なくとも1Nの力を発揮するのに十分な膨張量を有する。好ましくは、この力は約1N~約5Nである。このような拡張では、結果として生じる力は、マイクロニードルが少なくとも0.5mm、適切には少なくとも0.65mm、好ましくは約1mm~約5mmのストローク距離を有するのに十分でなければならない(
図4を参照)。
図4には、マイクロニードルアレイに含まれるマイクロニードルの実施形態が記載されている。ここで、作動する前に、針先(11)は装置内に配置され、外部環境からバリア(12)(例えば、フォイル)によって保護されている。このようなバリア(12)は、装置内のマイクロニードル(8)の無菌性を維持する。無菌性を維持するために、マイクロニードルの周囲の環境は、バリアなどの滅菌シールによって密閉されている(12)。特定の実施形態によれば、マイクロニードル(8)は、そのようなバリア(12)で個別に密封され得る。従って、マイクロニードルの作動はまた、活性薬剤の経皮投与のためにこの障壁(12)を貫通する必要がある。バリア(12)は、好ましくは、マイクロニードルアレイと、装置を皮膚(例えば、接着剤層)に接着するための手段(7)との間に配置される。
図4で、例として針先(11)の長さが500μmであることを考慮すると、針先(11)とバリア(12)との間のクリアランスは50μmであり、そしてこの例では、50μmの厚さのバリア(12)及び皮膚接着手段(7)の両方で、必要な最小ストロークは少なくとも0.65mmである。
【0029】
適切には、そのような熱膨張性作動媒体は、好ましくはワックスである。好ましいワックスには、例えば、パラフィンワックス、サーモスタットワックス、ポリエチレングリコール又はそれらの混合物が含まれる。そのような適切な熱膨張性媒体は、比較的高い融点及び高い熱膨張を有する。高熱膨張とは、膨張時に0.5mm~5mmの膨張範囲で少なくとも1Nの力を及ぼすことができる任意のパラフィン又はサーモスタットワックスを指す。例えば、各方向の拡張範囲は0.5mm~5mmの範囲である。比較的高い融点とは、体温よりも著しく高いが、装置の他の要素又は装置が適用される患者に悪影響を与えるほど高くない融点を有するパラフィンワックス及びサーモスタットワックスを指す。適切には、パラフィンワックス又はサーモスタットワックスの溶融温度は、50℃~90℃、より適切には、60℃~80℃、例えば、65℃~75℃である。適切には、パラフィンワックス又はサーモスタットワックスは、パラフィンワックス又はサーモスタットワックスの炭素鎖長の範囲が広いと、溶融温度の範囲が広くなる可能性があるため、炭素鎖の長さの範囲が狭く、一方、本発明に記載されているような装置で使用するための用途では、定義された溶融温度がより適切である。熱膨張性作動媒体の例は、60%のヘキサトリアコンタン及び40%のパラフィンワックスを含む。熱膨張性媒体の適切な例には、Kerax1303及びAlfa1260などのワックスが含まれる。
【0030】
このような熱膨張性作動媒体は、
図3に示すように、熱源(13)と密接に接触している。このような熱源(13)は、熱膨張性作動媒体(9)と直接接触しており、コントローラー(5)によって制御される。マイクロニードルアレイ(3)の各マイクロニードル(8)は、専用の熱源(13)で作動する。個々のマイクロニードル(8)を作動させるために、そのマイクロニードル専用の熱源(13)は、熱膨張性作動媒体(9)を膨張させるのに十分な熱を生成する。特定の実施形態によれば、そのような熱源(13)は、例えば、コントローラ(5)に含まれるプリント回路基板(PCB)の一体部分であり得る。適切な実施形態によれば、各熱源(13)は、例えば、PCB上の抵抗器などの電気熱源である。
【0031】
熱膨張性作動媒体(4)を加熱すると、各マイクロニードル(8)がその開口部、滅菌バリア(12)、及び患者の皮膚に押し込まれ、薬剤が投与される。
図3には、例示的な実施形態が示され、プリント回路基板(PCB)は、マイクロニードルアレイ(3)内の各マイクロニードル(8)のための熱源(13)を含む。熱膨張性作動媒体(9)は各熱源(13)と密接に接触しており、PCB(図示せず)上のコントローラー(5)が個々の熱源を作動させて各マイクロニードル(8)を作動させる。各マイクロニードル(8)は開口部(14)に配置されている。このような開口部(14)は、支持板(15)から形成することができる。支持プレート(15)は、1つ又は複数の層を含むことができる。支持プレート(15)が複数の層で構成されている場合、そのような層はスペーサーによって分離される(
図3を参照)。好ましい実施形態によれば、支持プレート(15)は、スペーサー(16)によって分離された2つの層(15a、15b)を含む。このようなスペーサー(16)は、開口部(14)の潜在的な摩擦を低減し、この摩擦により、薬剤又は活性薬剤の経皮投与のためにマイクロニードル(8)を作動させるために必要な力が増加する場合がある。
【0032】
適切な実施形態によれば、マイクロニードル(8)は、0.3~0.5mm、好ましくは約0.4mmの直径を有する。本発明のマイクロニードルアレイへの適用に適したマイクロニードルは、活性薬剤/生物活性剤を患者に投与することである。そのようなものとして、各マイクロニードル(8)は、投与される生物活性剤の用量又は部分用量を含む。マイクロニードル(8)の活性化は、患者に用量又は部分用量を投与する。従って、本発明の送達装置のマイクロニードルアレイ(4)は、患者に投与される1つ又は複数の用量の生物活性剤のいずれかを含む。マイクロニードルアレイ(4)が複数用量の生物活性剤を含む場合、コントローラー(5)は、マイクロニードル(8)のサブセットの作動を開始して、治療計画に従って適切な用量を投与することができる。
【0033】
生物活性剤は、例えば、小分子、ペプチド、タンパク質、抗体、融合タンパク質、DNA、及びRNAから選択される薬剤を含む、記載される任意の活性薬剤であり得る。1つの実施形態によれば、生物活性剤は、ゴナルF(登録商標)(組換えゴナドトロピン)などの不妊治療薬である。別の実施形態によれば、生物活性剤はインスリンである。さらに別の実施形態によれば、生物活性剤は癌治療剤である。そのような薬剤のいずれも、唯一の活性医薬成分として、又は同じ医薬製剤中の医薬活性成分の組み合わせの一部として、医薬組成物に配合することができる。
【0034】
生物活性剤を含むそのような医薬製剤は、マイクロニードルアレイ(3)内のマイクロニードル(8)に適用されて、マイクロニードルアレイ内の生物活性剤の単回投与又は複数回投与をもたらす。マイクロニードル(8)への適用は、各マイクロニードルに単一用量又は用量の一部の生物活性剤を含ませるための任意の適切な方法であり得る。1つの実施形態によれば、マイクロニードル(8)は、生物活性剤を含む医薬製剤でコーティングされた固体マイクロニードルである。別の実施形態によれば、生物活性剤を含む医薬製剤は、マイクロニードル(8)の一部を形成するのに十分な粘稠度及び強度を有する固体製剤である。生物活性剤を含む適切なそのような固体製剤は、針先の一部、すなわち、マイクロニードルの作動時に患者に投与されるマイクロニードル(8)の遠位端を形成する。注入されると、生物活性剤は製剤から放出される。本発明の特定の実施形態によれば、マイクロニードルアレイ(4)のマイクロニードル(8)は、溶解可能なマイクロニードルであり、作動され、患者の皮膚を通して注入された後、流体と接触すると溶解する。適切な溶解性針は、例えば、米国特許出願第2017/0296465号に記載されている。
【0035】
代替の実施形態によれば、作動手段(4)は、アクチュエータ及びばね(
図5に示されるように)を含む。
図5のような1つの実施形態によれば、マイクロニードルアレイ(4)は同心円状に配置されている。このような実施形態によれば、作動手段(4)は、同心螺旋状トラック(16)を含む歯車(15)を含み、その上でパック(17)が螺旋状トラック(16)の周りを前進して、1つ又は複数のマイクロニードル(8)を作動させる。パック(17)は、アクチュエータ及びばねで構成されている(
図6を参照)。
【0036】
パック(17)の螺旋状トラック(16)の周りを前進させると、1つ又は複数のマイクロニードル(8)が連続して作動し、用量を送達する。
図6A及び6Bに示すように、パック(17)はアクチュエータ(18)及びばね(19)で構成されている。螺旋状トラック(16)は、連続する傾斜で構成され、各傾斜(20)の直後に、次の傾斜(20)の前に穴(21)が続く。傾斜(20)に沿ってパック(17)を前進させると、アクチュエータ(18)がばね(19)に押し付けられ、ばね力ポテンシャル(spring force potential)が生成される(
図6Aを参照)。パック(17)を穴の上でさらに前進させると、ばね力ポテンシャルが解放され、ばね(19)が作動して、アクチュエータ(18)が作動し、滅菌バリア(12)及び患者の皮膚(ここには示されていない)の両方を貫通するのに十分な力で、マイクロニードル(8)が押し下げられる(
図6Bを参照)。螺旋状トラックに沿ってパック(17)を前進させると、ばね(19)をばね力ポテンシャルでプライミングし、ばね(19)を解放してアクチュエータ(18)を作動させ、マイクロニードル(8)を押し下げ、患者への生物活性剤を投与するというこのサイクルが繰り返される。ばね(19)は、ばね力ポテンシャルをアクチュエータ(18)に解放することができる任意の形状のばねであり得る。このようなばね(19)は、適切には、約0.01N / mm~約10N / mmの範囲のK値を有するばねである。適切には、ばねのK値は1N/mmである。
【0037】
パック(17)は、任意の適切な方法で螺旋状トラック(16)の周りを前進させることができる。
図7A及び7Bは、螺旋状トラック(16)の周りでパック(17)を前進させるための代替機構の例を示している。どちらの例でも、螺旋状トラック(16)は静止しているが、パック(17)は歯車(15)にスライド可能に接続されている。歯車(15)を回転させると、パック(17)が螺旋状トラック(16)の周りを前進する。パック(17)のこのような前進は、マイクロニードル(8)の数に基づいて段階的に増加する。螺旋状トラック(16)の周りのパック(17)の増分前進は、歯車(15)の増分回転によって制御される。歯車(15)の回転は、
図7Aに示すように、例えば形状記憶合金(SMA)ばね(22)の作用を使用して実行される。別の例(
図7B)では、歯車(15)の回転はスピンドル(23)を使用して実行される。外力を介してスピンドル(23)を段階的に回転させると、歯車(15)が回転する。外力は、例えばステップモーター又はブラシレスモーターなど、スピンドル(23)を回転させる任意の力によって提供することができる。
【0038】
マイクロニードルの作動がワックスモーターを使用して実行されるか、螺旋状トラックの周りのパックの移動が実行されるかにかかわらず、注入されるマイクロニードル(8)の数は、特定の生物活性剤の投与計画に基づいて事前設定される。装置のコントローラー(5)は、治療期間中の1つ以上のプリセット時間に、投与計画に基づいてプリセット数のマイクロニードル(8)を作動させる。コントローラ(5)は、例えば、装置が患者に置かれる時又は直前に装置を開始する工程などで、生物活性剤を投与するための事前設定されたスケジュールで構成することができる。投与量(すなわち、注入されるマイクロニードル(8)の数)は、装置を患者に配置した後、コントローラー(5)の構成を調整することにより、時間の経過と共に調整することもできる。コントローラ(5)は、装置上で直接(例えば、ユーザーインターフェイスを介して)構成することも、リモートで構成することもできる。コントローラ(5)は、適切には、処理モジュール並びに通信モジュールを含む。このような通信モジュールは、固定接続や無線接続などの適切な手段を介して外部サーバーに接続できる。コントローラー(5)がリモートサーバーに接続されているこのような装置では、用量の調整は、コントローラー(5)の通信モジュールを介してリモートで実行でき、そしてリモート調整後、コントローラー(5)は調整済み投薬計画で構成できる。
【0039】
さらに、コントローラ(5)は、注入日又は使用日を保存するための処理モジュールをさらに含み得る。コントローラ(5)の通信モジュールを介した中央サーバー又は外部サーバーとの接続により、使用状況及び注入データの収集が可能になる。使用状況と注射のデータを外部サーバーで処理して、医療専門家又は患者に追加情報を提供し、患者の転帰を監視又は特定の投与計画の順守と関連付けることができる。コントローラ(5)の通信モジュールを使用するデータは、任意のクラウドサービス又は専用アプリを介した無線接続によって送信できることが理解される。
【0040】
本発明は、好ましい設計を有するものとして示され、説明されてきたが、本発明は、本開示の精神及び範囲内で修正され得る。従って、本出願は、その一般的な原理を使用して、本発明の任意の変形、使用、又は適合をカバーすることを意図している。さらに、本出願は、本発明が関係する当技術分野における既知の又は慣習的な慣行の範囲内にあるような本開示からの逸脱をカバーすることを意図している。
【国際調査報告】