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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】動的広体積範囲ピペット
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20230405BHJP
   B01J 4/02 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B01L3/02 D
B01J4/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548989
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 US2021017798
(87)【国際公開番号】W WO2021163437
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】62/976,412
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518127761
【氏名又は名称】デノビクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DeNovix Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】シーファー,ダニエル エイ
(72)【発明者】
【氏名】アッシュ,デイビッド エル
(72)【発明者】
【氏名】ウォード,デイビッド ビー
【テーマコード(参考)】
4G057
4G068
【Fターム(参考)】
4G057AB18
4G068AA02
4G068AA04
4G068AB11
4G068AD24
4G068AE04
4G068AF31
(57)【要約】
入れ子式プランジャー構成および真空チャンバー構成を備えたマルチ体積液体ピペットおよびかかるピペットを用いる方法が本願明細書で開示される。かかるピペットは、大プランジャー要素にてスライド可能に受容される小プランジャー要素を備えるボディおよび流体ディスプレイスメント・アッセンブリを含んでおり、空気などの流体のディスプレイスメントの精度良く正確な制御のため大プランジャー要素および小プランジャー要素の各々は真空チャンバー内で移動可能となっている。これにより、シングル・デバイスが動的な正確および精度良い手法で幅広い範囲の液体を吸引およびディスペンスできるようになっている。さらに、本明細書で開示されるデバイスは、多段バネ荷重エジェクター機構を含んでおり、それにより、ユーザーが異なるサイズのピペット先端部を使用およびエジェクトできるようになっている。
【選択図】図1Aおよび図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペットであって、
ボディであって、該ボディ内への流体の導入および該ボディからの流体の排出を可能とする開口端を有するボディ;
第1真空チャンバー、第1プランジャー要素、第2真空チャンバー、および第2プランジャー要素を有して成る流体ディスプレイスメント・アッセンブリ、ならびに
第1プランジャー要素および第2プランジャー要素を作動させるための電子駆動ユニット
を有して成り、
第1真空チャンバーは、第1流体入口を有する第1穴部を有して成り、第1プランジャー要素が、第1流体入口に位置する閉位置と開位置との間で第1穴部内にてスライドできるように位置付けられており、第1プランジャー要素が開位置にある場合に第1流体入口がボディの開口端と流体連通状態となり、
第2真空チャンバーは、第1プランジャー要素内に第2穴部を有して成ると共に、第2流体入口を有し、第2プランジャー要素が、第2流体入口に位置する閉位置と開位置との間で第2穴部内にてスライドできるように位置付けられており、第2プランジャー要素が開位置にある場合に第2流体入口がボディの開口端と流体連通状態となり、
電子駆動ユニットは、
第1プランジャー要素と操作可能に接続され、第1穴部内にて閉位置と開位置との間で第1プランジャー要素を作動させるように構成された第1モーター、および
第2プランジャー要素と操作可能に接続され、第2穴部内にて閉位置と開位置との間で第2プランジャー要素を作動させるように構成された第2モーターを有して成り、
第1モーターおよび第2モーターが制御システムで制御され、制御システムが、ピペットを操作するためのユーザー・インターフェースを介して制御され、
第1プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第1液体体積が規定される距離となるように、第1モーターが第1プランジャー要素の開位置への移動を引き起こす場合、第2プランジャー要素は閉位置にあり、
第2プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第2液体体積が規定される距離となるように、第2モーターが第2プランジャー要素の開位置への移動を引き起こす場合、第1プランジャー要素は閉位置にある、ピペット。
【請求項2】
開位置から閉位置への第1プランジャー要素の移動によって、第1液体体積がピペットから正確にディスペンスされるか、あるいは、開位置から閉位置への第2プランジャー要素の移動によって、第2液体体積がピペットから正確にディスペンスされる、請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
流体は空気である、請求項1または2に記載のピペット。
【請求項4】
第1液体体積の範囲は、第2液体体積の範囲の上限よりも大きい上限を有する、請求項1~3のいずれかに記載のピペット。
【請求項5】
第1液体体積の範囲と第2液体体積の範囲とが互いにオーバーラップする、請求項4に記載のピペット。
【請求項6】
第1液体体積が約10μL~約1500μLの範囲となっている、請求項4または請求項5に記載のピペット。
【請求項7】
第2液体体積が約0.1μL~約200μLの範囲である、請求項4、請求項5または請求項6に記載のピペット。
【請求項8】
第1モーターは、第1ピストンにより第1プランジャー要素に操作可能に接続されており、第2モーターは、第2ピストンにより第2プランジャー要素に操作可能に接続されている、請求項1~7のいずれかに記載のピペット。
【請求項9】
第1プランジャー要素は円筒形状であって第1断面直径を有し、第2プランジャー要素は円筒形状であって第2断面直径を有し、第1断面直径が第2断面直径よりも大きい、請求項1~8のいずれか1つに記載のピペット。
【請求項10】
第1断面直径は約3mm~約20mmであり、第2断面直径は約0.5mm~約5mmである、請求項9に記載のピペット。
【請求項11】
第2断面直径と第1断面直径との比は、1:1.1~1:40である、請求項9および請求項10のうちのいずれか1つに記載のピペット。
【請求項12】
第1モーター、第2モーター、または、第1モーターと第2モーターとの双方が、サーボモーター、ステッパー・モーター、およびリニア・アクチュエーター・モーターから成る群から選択される、請求項1~11のいずれか1つに記載のピペット。
【請求項13】
ボディは、ピペット・ハウジングおよびディスペンサー・ハウジングを更に有して成り、流体ディスプレイスメント・アッセンブリが、ディスペンサー・ハウジング内に少なくとも部分的に配置され、電子駆動ユニットがピペット・ハウジング内に配置されている、請求項1~12のいずれか1つに記載のピペット。
【請求項14】
ディスペンサー・ハウジングは、ピペット先端部が取り付けられるように構成された周縁面を有する第1部分を有して成る、請求項1~13のいずれか1つに記載のピペット。
【請求項15】
ディスペンサー・ハウジングは、ピペット先端部が取り付けられるように構成された周縁面を有する第2部分を更に有して成り、第1部分が、第2部分の断面直径よりも大きい断面直径を有する、請求項14に記載のピペット。
【請求項16】
ピペットの容積を調整する方法であって、
(a)制御モジュールにてユーザーからリクエスト体積を受けること、
(b)受けられたリクエスト体積が収まる体積範囲を制御モジュールにて決定すること、および
(c)制御モジュールにより第1モーターまたは第2モーターを制御すること
を含んで成り、
(i)第1モーターは、第1プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第1液体体積が規定される距離となるように第1プランジャー要素を第1真空チャンバー内にて閉位置から開位置へと移動させ、または、
(ii)第2モーターは、第2プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第2液体体積が規定される距離となるように第2プランジャー要素を第2真空チャンバー内にて閉位置から開位置へと移動させ、
第2真空チャンバーは、第1プランジャー要素内に配置され、第2プランジャー要素が、第1プランジャー要素の第2真空チャンバーにおいてスライド可能に受容されている、方法。
【請求項17】
制御モジュールにより第1モーターまたは第2モーターを制御することを更に含んで成り、
第1モーターは、第1液体体積がディスペンスされるように第1プランジャー要素を第1真空チャンバー内にて開位置から閉位置に移動させるか、あるいは、第2モーターは、第2液体体積がディスペンスされるように第2プランジャー要素を第2真空チャンバー内にて開位置から閉位置に移動させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1プランジャー要素または第2プランジャー要素のいずれかの移動によってディスプレイスメントされる流体が空気である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1液体体積の範囲は、第2液体体積の範囲の上限よりも大きい上限を有する、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第1液体体積の範囲と第2液体体積の範囲とが互いにオーバーラップする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
第1液体体積が約10μL~約1500μLの範囲である、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
第2液体体積が約0.1μL~約200μLの範囲である、請求項19、請求項20または請求項21に記載の方法。
【請求項23】
第1モーターは、第1ピストンによって第1プランジャー要素に操作可能に接続されており、第2モーターは、第2ピストンによって第2プランジャー要素に操作可能に接続されている、請求項16~22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
第1プランジャー要素は円筒形状であって第1断面直径を有し、第2プランジャー要素は円筒形状であって第2断面直径を有し、第1断面直径が第2断面直径よりも大きい、請求項16~23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
第1断面直径は約3mm~約20mmであり、第2断面直径は約0.5mm~約5mmである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
第2断面直径と第1断面直径との比は、約1:1.1~約1:40である、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項27】
第1モーター、第2モーター、または、第1モーターと第2モーターとの双方が、サーボモーター、ステッパー・モーター、およびリニア・アクチュエーター・モーターから成る群から選択される、請求項16~26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
マルチ体積液体ディスペンサーであって、
ピペット・ハウジングおよびディスペンサー・ハウジングを有して成る長尺ボディ、ならびに
ピペット・ハウジング内に配置され、制御システムで制御される第1モーターおよび第2モーターを有して成るモーター・アッセンブリ
を有して成り、
ディスペンサー・ハウジングは、該ディスペンサー・ハウジング内への空気の導入および該ディスペンサー・ハウジングからの空気の排出を可能とする開口端を有し、また、ディスペンサー・ハウジングはシリンジまたは先端部が取り付けられる構成を有し、
制御システムは、マルチ体積液体ディスペンサーを操作するためのユーザー・インターフェースを介して制御され、
第1モーターは、大プランジャーに操作可能に接続され、閉位置と開位置との間で大円筒形真空チャンバーにおいて大プランジャーを作動させるようになっており、大プランジャーの開位置への移動が、マルチ体積液体ディスペンサーによって吸引される第1液体体積に略等しい大円筒形真空チャンバー内への空気のディスプレイスメントを引き起こし、
第2モーターは、小プランジャーに操作可能に接続され、大プランジャー内に配置される小円筒形真空チャンバーにおいて小プランジャーを閉位置と開位置との間で作動させるようになっており、小プランジャーの開位置への移動が、マルチ体積液体ディスペンサーによって吸引される第2液体体積に略等しい小円筒形真空チャンバー内への空気のディスプレイスメントを引き起こし、
小プランジャーが開位置に移動する場合にて大プランジャーは閉位置にあり、大プランジャーが開位置に移動する場合にて小プランジャーは閉位置にある、マルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項29】
第1モーターは、マルチ体積液体ディスペンサーから第1液体体積がディスペンスされるように開位置から閉位置へと大プランジャーを作動させるように更になっており、第2モーターは、マルチ体積液体ディスペンサーから第2液体体積がディスペンスされるように開位置から閉位置へと小プランジャーを作動させるように更になっている、請求項28に記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項30】
第1液体体積の範囲と第2液体体積の範囲とが互いにオーバーラップする、請求項28または請求項29に記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項31】
第1液体体積が約10μL~約1500μLの範囲となっており、第2液体体積が約0.1μL~約200μLの範囲となっている、請求項28、請求項29または請求項30に記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項32】
大プランジャーは、小プランジャーの断面直径よりも大きい断面直径を有する、請求項28~31のいずれか1つに記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項33】
小プランジャーの断面直径と大プランジャーの断面直径との比は、約1:1.1~約1:40である、請求項32に記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項34】
第1モーター、第2モーター、または、第1モーターと第2モーターとの双方が、サーボモーター、ステッパー・モーター、およびリニア・アクチュエーター・モーターから成る群から選択される、請求項28~33のいずれか1つに記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項35】
ディスペンサー・ハウジングへのシリンジまたは先端部の取付けが締まりばめによる、請求項28~34のいずれか1つに記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項36】
ディスペンサー・ハウジングは、少なくともの2つのシリンジ取付け面または先端部取付け面を有し、第1取付け面が第2取付け面の周縁面よりも大きい周縁面を有して成る、請求項28~35のいずれか1つに記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項37】
多段バネ荷重エジェクター機構を更に有して成る、請求項28に記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【請求項38】
多段バネ荷重エジェクター機構が、第1付勢要素により上方位置へと付勢されている上方エジェクション部分、および、第2付勢要素により上方位置へと付勢されている下方エジェクション部分を有して成り、上方エジェクション部分が下方エジェクション部分と接触し、下方エジェクション部分を第1位置または第2位置へと移動させ、
下方エジェクション部分の第1位置への移動では、ユーザーによって第1力が多段バネ荷重エジェクター機構に加えられる場合にて第1取付け面からシリンジまたは先端部がエジェクトされ、
下方エジェクション部分の第2位置への移動では、ユーザーによって第2力が多段バネ荷重エジェクター機構に加えられる場合にて第2取付け面からシリンジまたは先端部がエジェクトされる、請求項37に記載のマルチ体積液体ディスペンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2020年2月14日に出願の米国仮出願第62/976,412号の優先権を主張するものであり、その出願内容の全体が参照により本願明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、広範囲の体積にわたって液体をディスペンス(または供給もしくは計量供給、dispense)することができるピペッティング・デバイスに一般に関する。特に、本願明細書では、シングル・デバイス内において別個のディスプレイスメント・チャンバー(displacement chamber)が供される入れ子式プランジャー要素(またはネスト化したプランジャー要素、nested plunger elements)のセットを含むモーター駆動ピストン・システムを備えた電子ピペットが開示される。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ピペットおよび他の同様の液体ディスペンス・デバイスは、実験室および液体投与のフィールド・リサーチで一般に用いられている。典型的なピペットは、シリンダー内で動くことができるピストンを含んでおり、そのピストンはピペットのディスペンス端に取り付けられたディスポーザブルな先端部(または使い捨て可能な先端部)内へと液体を仕向け、当該ディスポーザブルな先端部から液体をディスペンスするのに供する。液体体積はたいてい調整可能である。ピストンは、手動の作動(例えば、ボタンに加えられる力)または電子モーターおよび関連する制御システムによって動かされる。電子ピペットは、制御システムおよび関連のユーザー・インターフェースを有しており、そのような制御システムおよび関連のユーザー・インターフェースは、例えば、体積および他の必要なピペット機能を設定することができ、操作実行するためのコマンドを与える。所望の機能が選択され、体積および他の設定が入力されると、操作スイッチの押下げが自動的にピストン動作を実行する。
【0004】
ピペットは、概して約1mL未満の液体体積であって約0.5μL~約1mLの範囲の液体体積をディスペンスするのに通常用いられる。しかしながら、当業者に理解されるように、現在のピペット技術では、単一の流体ディスプレイスメント・デバイス(single displacement device)を使用してこの範囲全体に及ぶ液体体積のディスペンスは可能となっておらず、特に少なくとも正確性および精度を犠牲にすることなく範囲全体に及ぶ液体体積のディスペンスは可能ではない。かかる範囲の液体のディスペンスを要する典型的なウェットラボ作業では、3~4つの異なるピペット・デバイス(各々がそのような体積範囲のサブセットの正確かつ精度良い吸引/ディスペンスのため最適化されている3~4つの異なるピペット・デバイス)の使用を要する。例えば、研究者は、約2μL~約20μLの範囲の流体体積をディスペンスするため20μLピペット、約20μL~約200μLの範囲の流体体積をディスペンスするため200μLピペット、および約100μL~約1000μLの範囲の流体体積をディスペンスするため1000μLピペットを通常使用することになる。多くのデバイスの使用を要することは、作業(work area)が煩雑となり、コストを上昇させる。
【0005】
それゆえ、正確性および/または精度を犠牲にすることなくより幅広い液体体積範囲に及ぶように液体を吸引(aspirate)およびディスペンスすることができる単一ピペット・デバイス(single pipetting device)にはニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
本明細書においては、正確および精度良く広い体積範囲に及んで液体を吸引(または引き込み、aspirate)およびディスペンスする(または供給、調剤、投薬もしくは分注する、dispense)ことが可能なマルチ体積(または複数の体積、multi-volume)のピペット・デバイス(またはピペット用デバイス)が開示される。特に、本明細書で開示されるデバイスは、空気のディスプレイスメント(または押しのけ、移動、変位もしくは置換、displacement)のための異なる(または区別される、distinct)真空チャンバー内で作動し、それにより略等しい体積の液体の吸引を引き起こす入れ子状のプランジャー要素(または互いに入れ子になったプランジャー要素)を好ましくは採用している。斬新な入れ子状のプランジャー設計によって、デバイスは、シームレスかつ素早く低体積範囲(または小さい体積範囲)から高体積範囲(または大きい体積範囲)への動的な変換(またはダイナミック・スイッチ、dynamically switch)が可能となっている。
【0007】
1つの要旨において、本発明は、ボディおよび流体移動アッセンブリを含むピペットであって、ボディは、ボディ内への流体の導入およびボディからの流体の排出を可能とする開口端を有しており、流体ディスプレイスメント・アッセンブリ(または流体押しのけもしくは移動もしくは変位デバイス、fluid displacement assembly)は、第1真空チャンバー、第1プランジャー要素、第2真空チャンバー、および第2プランジャー要素を有して成る。かかる要旨では、第1真空チャンバーは、第1流体入口を備えた第1穴部(または第1ボア、first bore)を有する。第1プランジャー要素は、第1穴部内にてスライド可能状態で位置付けることができるようになっており、閉位置(第1流体入口における閉位置)と開位置との間で動くことができる。第1プランジャー要素が開位置にある場合では第1流体入口がボディの開口端と流体連通状態となっている。第2真空チャンバーは、第1プランジャー要素内に第2穴部を有して成ると共に、第2流体入口を有している。第2プランジャー要素は、第2穴部内にてスライド可能状態で位置付けることができるようになっており、閉位置(第2流体入口における閉位置)と開位置との間で動くことができる。第2プランジャー要素が開位置にある場合には、第2流体入口はボディの開口端と流体連通状態にある。かかるピペットの設計は、第1プランジャー要素および第2プランジャー要素を作動させるための電子駆動ユニット(electronic drive unit)の特徴も有している。電子駆動ユニットは、第1プランジャー要素と操作可能に接続され、第1穴部内にて閉位置と開位置との間で第1プランジャー要素を作動させるべく構成された第1モーター、および、第2プランジャー要素と操作可能に接続され、第2穴部内にて閉位置と開位置との間で第2プランジャー要素を作動させるべく構成された第2モーターを有して成る。第1モーターと第2モーターが制御システムで制御され、制御システムが、ピペットを操作するためのユーザー・インターフェースを介して制御される。第1プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる(または押しのけられる)流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第1液体体積が規定されるような距離でもって第1モーターが第1プランジャー要素の開位置への移動を引き起こす場合、第2プランジャー要素は閉位置にある。また、第2プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる(または押しのけられる)流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第2液体体積が規定されるような距離でもって第2モーターが第2プランジャー要素の開位置への移動を引き起こす場合、第1プランジャー要素は閉位置にある。付加的にいえば、開位置から閉位置への第1プランジャー要素の移動によって、第1液体体積がピペットから正確にディスペンスされたり、開位置から閉位置への第2プランジャー要素の移動によって、第2液体体積がピペットから正確にディスペンスされたりする。幾つかの態様において、ディスプレイスメントされる(または押しのけられる)流体は空気である。
【0008】
1つの態様において、第1液体体積の範囲は、第2液体体積の範囲の上限よりも大きい上限を有している。しかしながら、別の態様では、第1液体体積の範囲と第2液体体積の範囲とが互いにオーバーラップしている。幾つかの態様において、第1液体体積が約10μL~約1500μLの範囲となっている。他の態様において、第2液体体積が約0.1μL~約200μLの範囲となっている。付加的にいえば、第1プランジャー要素および第2プランジャー要素の双方は円筒形状(またはシリンダー形状)を有し、第1プランジャー要素の第1断面直径が第2プランジャー要素の第2断面直径よりも大きくなっている。例えば、1つの態様において、第1断面直径が約3mm~約20mmとなっており、第2断面直径が約0.5mm~約5mmとなっている。幾つかの態様において、第2断面直径と第1断面直径との比は、約1:約1.1~約1:約40である。
【0009】
幾つかの態様において、第1モーターは、第1ピストンによって第1プランジャー要素に操作可能に接続されており、第2モーターは、第2ピストンによって第2プランジャー要素に操作可能に接続されている。さらに、第1モーター、第2モーター、または、第1モーターと第2モーターとの双方は、種々の適当なモーターから選択されるものであってよく、制限されないものの、サーボモーター(servo motor)、ステッパー・モーター(stepper motor)、およびリニア・アクチュエーター・モーター(linear actuator motor)を含む種々の適当なモーターから成る群から選択されるものであってよい。
【0010】
幾つかの態様において、ピペットのボディは、ピペット・ハウジングおよびディスペンサー・ハウジングを更に有して成り、流体ディスプレイスメント・アッセンブリが、ディスペンサー・ハウジング内に少なくとも部分的に配置されており、電子駆動ユニットがピペット・ハウジング内に配置されている。幾つかの態様において、ディスペンサー・ハウジングは、ピペット先端部の取付けのために構成された周縁面を有する第1部分を有して成っている。かかる態様において、ディスペンサー・ハウジングは、ピペット先端部の取り付けのために構成された周縁面を有する第2部分を更に有して成ってよい。第1部分は、第2部分の断面直径よりも大きい断面直径を有していてよい。
【0011】
本発明の別の要旨は、ピペットの容積(または容積容量、体積容量、体積処理量もしくは体積キャパシティー、volume capacity)を調整する方法を特徴としており、当該方法は、制御モジュールにてユーザーからリクエストされたリクエスト体積を受ける工程、受けられたリクエスト体積が収まる体積範囲を制御モジュールにて決定する工程、および、制御モジュールによって第1モーターまたは第2モーターを制御する工程を含んでいる。かかる例示的な方法では、第1モーターは、第1プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる(または押しのけられる)流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第1液体体積が規定されるような距離で第1プランジャー要素を第1真空チャンバー内にて閉位置から開位置へと移動させるか、あるいは、第2モーターは、第2プランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる(または押しのけられる)流体体積に略等しい量でピペット・デバイスにより吸引される第2液体体積が規定されるような距離で第2プランジャー要素を第2真空チャンバー内にて閉位置から開位置へと移動させる。かかる方法において、第2真空チャンバーは、第1プランジャー要素内に配置され、第2プランジャー要素が、第1プランジャー要素の第2真空チャンバーにてスライド可能な状態で受容されている。かかる方法は、第1モーターまたは第2モーターを制御する工程を含んでいてよく、第1液体体積がディスペンスされるべく第1モーターが第1プランジャー要素を第1真空チャンバー内にて開位置から閉位置に移動させるか、あるいは、第2液体体積がディスペンスされるべく第2モーターが第2プランジャー要素を第2真空チャンバー内にて開位置から閉位置に移動させるように第1モーターまたは第2モーターを制御することを含んでいてよい。
【0012】
かかる方法の幾つかの態様において、第1プランジャー要素または第2プランジャー要素のいずれかの移動によってディスプレイスメントされる(または押しのけられる)流体は空気である。他の態様において、第1液体体積の範囲(例えば、約10μL~約1500μLの範囲)は、第2液体体積の範囲(例えば、約0.1μL~約200μLの範囲)の上限よりも大きい上限を有してよいが、第1液体体積の範囲と第2液体体積の範囲とが互いにオーバーラップしていてもよい。
【0013】
上記方法の別の態様において、第1モーターは、第1ピストンにより第1プランジャー要素に操作可能に接続されており、第2モーターは、第2ピストンにより第2プランジャー要素に操作可能に接続されている。更に別の態様では、第1プランジャー要素は円筒形状であって第1断面直径(例えば、約3mm~約20mm)を有し、第2プランジャー要素は円筒形状であって第2断面直径(例えば、約0.5mm~約5mm)を有し、第1断面直径が第2断面直径よりも大きい。幾つかの態様において、第2断面直径と第1断面直径との比は、約1:約1.1~約1:約40である。他の態様において、第1モーター、第2モーター、または、第1モーターと第2モーターとの双方が、サーボモーター、ステッパー・モーター、およびリニア・アクチュエーター・モーターから成る群から選択される。
【0014】
本発明の更に別の要旨は、マルチ体積液体ディスペンサーを特徴としており、当該マルチ体積液体ディスペンサーは、ピペット・ハウジングおよびディスペンサー・ハウジングを有して成る長尺ボディ、ならびに、ピペット・ハウジング内に配置され、制御システムで制御される第1モーターおよび第2モーターを有して成るモーター・アッセンブリ
を有して成り、ディスペンサー・ハウジングは、該ディスペンサー・ハウジング内への空気の導入および該ディスペンサー・ハウジングからの空気の排出を可能とする開口端を有し、また、ディスペンサー・ハウジングはシリンジまたは先端部(または先端部材、tip)が取り付けられる構成となっており、制御システムは、マルチ体積液体ディスペンサーを操作するためのユーザー・インターフェースを介して制御される。かかる特定の設計のマルチ体積液体ディスペンサーでは、第1モーターは、大プランジャーに操作可能に接続され、閉位置と開位置との間で大円筒形真空チャンバー内にて大プランジャーを作動させるようになっており、大プランジャーの開位置への移動が、マルチ体積液体ディスペンサーによって吸引される第1液体体積に略等しい大円筒形真空チャンバー内への空気のディスプレイスメント(または空気の押しのけ)を引き起こすことになり、第2モーターは、小プランジャーに操作可能に接続され、大プランジャー内に配置された小円筒形真空チャンバー内にて小プランジャーを閉位置と開位置との間で作動させるようになっており、小プランジャーの開位置への移動が、マルチ体積液体ディスペンサーによって吸引される第2液体体積に略等しい小円筒形真空チャンバー内への空気のディスプレイスメント(または空気の押しのけ)を引き起こす。さらに、小プランジャーが開位置に移動する場合にて大プランジャーは閉位置にあり、大プランジャーが開位置に移動する場合にて小プランジャーは閉位置にある。そして、幾つかの態様において、第1モーターは、マルチ体積液体ディスペンサーから第1液体体積をディスペンスすべく開位置から閉位置へと大プランジャーを作動させるように更になっており、第2モーターは、マルチ体積液体ディスペンサーから第2液体体積をディスペンスすべく開位置から閉位置へと小プランジャーを作動させるように更になっている。
【0015】
ある態様において、第1液体体積が約10μL~約1500μLの範囲となっており、第2液体体積が約0.1μL~約200μLの範囲となっている。さらに、大プランジャーは、小プランジャーの断面直径よりも大きい断面直径を有している。例えば、小プランジャーの断面直径と大プランジャーの断面直径との比は、約1:約1.1~約1:約40となっている。上述の設計と同様、プランジャーは対を成すモーター(または対のモーター若しくは一対のモーター)によって動かされるものであり、そのようなモーターは、制限されないものの、サーボモーター、ステッパー・モーター、またはリニア・アクチュエーター・モーターを含むいずれの個数の好適なモーターから成る群から選択することができる。
【0016】
特定の態様では、ディスペンサー・ハウジングへのシリンジまたは先端部の取付けが締まりばめ(または干渉はまり、干渉フィットもしくは静合、interference fit)によるものとなっている。他の態様では、ディスペンサー・ハウジングは、少なくともの2つのシリンジ取付け面または先端部取付け面を有し、第1取付け面の周縁面が第2取付け面の周縁面よりも大きくなっている。
【0017】
いくつかの態様において、マルチ体積液体ディスペンサーは、多段バネ荷重エジェクター機構(またはマルチプルな段階状もしくは層状のバネ荷重が掛かるエジェクター機構、multi-tiered spring-loaded ejector mechanism)を含んでいる。かかる態様において、多段バネ荷重エジェクター機構は、第1付勢要素により上方位置に付勢(またはバイアス、biased)されている上方エジェクション部分(または上方エジェクター部分もしくは上方エジェクト部分)、および、第2付勢要素により上方位置に付勢(またはバイアス)されている下方エジェクション部分(または下方エジェクター部分もしくは下方エジェクト部分)を有して成るエジェクション要素(またはエジェクター要素もしくはエジェクト要素)を含んでいてよい。かかる設計では、ユーザーが第1力を多段バネ荷重エジェクター機構へと加えると、上方エジェクション部分が下方エジェクション部分と接触し、下方エジェクション部分が第1位置へと移動し、第1取付け面からシリンジまたは先端部がエジェクト(または排出もしくは取り外し)されたり、あるいは、ユーザーが第2力を多段バネ荷重エジェクター機構へと加えると、上方エジェクション部分が下方エジェクション部分と接触し、下方エジェクション部分が第2位置へと移動し、第2取付け面からシリンジまたは先端部がエジェクト(または排出もしくは取り外し)されたりする。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、図面ならびに以下の詳細な説明および例示事項を参照することにより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A図1Aは、本明細書に記載のピペット・デバイスの態様の側面図を示す。
図1B図1Bは、多段状(または複数の段階状・層状もしくはマルチ・ティアー)先端部エジェクト・アッセンブリの態様を示す。
図2図2は、本明細書に記載のピペット・デバイスのモーター-ピストン・アッセンブリおよび流体ディスプレイスメント・システムの態様を示す。
図3図3は、本明細書に記載のピペット・デバイスのモーター・アッセンブリおよび流体ディスプレイスメント・システムの態様の分解図である。
図4A図4Aは、大プランジャー要素および小プランジャー要素の態様を示す。
図4B図4Bは、大プランジャー要素の底側図である。
図5A図5Aは、図5A~5Dの操作中のピペット・デバイスに態様に関して、閉位置にある大プランジャー要素および小プランジャー要素を備えるピペット・デバイスを示す。
図5B図5Bは、図5A~5Dの操作中のピペット・デバイスに態様に関して、大プランジャー要素が開位置に向かって動き、小プランジャー要素の端部が小真空チャンバーにてシートと接触している(閉位置)ピペット・デバイスを示す。かかるモードにおいて、ピペット・デバイスは、大真空チャンバー内の空気のディスプレイスメントにより液体を吸引およびディスペンスするようになっている。
図5C図5Cは、図5A~5Dの操作中のピペット・デバイスに態様に関して、閉位置にある大プランジャー要素および小プランジャー要素を備えるピペット・デバイスを表している。
図5D図5Dは、図5A~5Dの操作中のピペット・デバイスに態様に関して、小プランジャー要素が開位置に向かって動き、大プランジャー要素の端部が大真空チャンバーにてシートと接触している(閉位置)ピペット・デバイスを示す。かかるモードにおいて、ピペット・デバイスは、小真空チャンバー内の空気のディスプレイスメントにより液体を吸引およびディスペンスするようになっている。
図6A図6Aは、図6A~6Eのピペット・デバイスの別態様に関して、そのピペット・デバイス態様の側面図を示す。
図6B図6Bは、図6A~6Eのピペット・デバイスの別態様に関して、そのピペット・デバイス態様のインラインのモーター駆動ピストン・アッセンブリおよび流体ディスプレイスメント・システムを示す。
図6C図6Cは、図6A~6Eのピペット・デバイスの別態様に関して、そのピペット・デバイス態様の小プランジャーと大プランジャーとのアッセンブリを示す。
図6D図6Dは、図6A~6Eのピペット・デバイスの別態様に関して、大プランジャー要素の底側図である。
図6E図6Eは、図6A~6Eのピペット・デバイスの別態様に関して、本明細書のピペット・デバイスのモーター・アッセンブリおよび流体ディスプレイスメント・システムの態様の分解図である。
図7図7は、カンチレバー・モーター接続要素を備えたピペット・デバイス態様の側面図を示す。
図8A図8Aは、図8A~8Dの操作中のカンチレバー設計のピペット・デバイス態様において、閉位置にある大プランジャー要素および小プランジャー要素を備えるピペット・デバイスを表している。
図8B図8Bは、図8A~8Dの操作中のカンチレバー設計のピペット・デバイス態様において、大プランジャー要素が開位置に向かって動き、小プランジャー要素が閉位置にあるピペット・デバイスを示す。かかるモードにおいて、ピペット・デバイスは、大真空チャンバー内の空気のディスプレイスメントによって液体を吸引およびディスペンスするようになっている。
図8C図8Cは、図8A~8Dの操作中のカンチレバー設計のピペット・デバイス態様において、閉位置にある大プランジャー要素および小プランジャー要素を備えるピペット・デバイスを表している。
図8D図8Dは、図8A~8Dの操作中のカンチレバー設計のピペット・デバイス態様において、小プランジャー要素が開位置に向かって動き、大プランジャー要素が閉位置にあるピペット・デバイスを示す。かかるモードにおいて、ピペット・デバイスは、小真空チャンバー内の空気のディスプレイスメントによって液体を吸引およびディスペンスするようになっている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本明細書で記載されたピペット・デバイスは、マルチな(または複数もしくは多数の)体積空気ディスプレイスメント・チャンバー(即ち、真空チャンバー)が供されるように組合せで機能する2つ又はそれより多いモーター駆動プランジャー要素を有して成る斬新なディスペンサー設計により、大きい範囲(または広い範囲)の液体体積を移送することができる。特に、各々の真空チャンバーは、異なる体積範囲に及んで、空気などの流体の精度良いディスプレイスメント(または押しのけ、移動もしくは変位、displacement)のために最適化され得るものである。チャンバー内で真空が形成されると、流体(例えば空気)がチャンバー内に入り、ピペットによる略等しい体積の液体の吸引が引き起こされる。さらに、各プランジャー要素が個々の(または別個の)モーターにより駆動され、それによって、幅広い範囲の体積においてシームレスにユーザーによる液体ピペッティングができるようにある真空チャンバーから次の真空チャンバーへと迅速かつ動的な切替えを可能としている。このような手法において、ピペット・デバイスは、現在利用されているデバイスと比べて幅広い範囲の体積に及ぶように液体を吸引およびディスペンスすることができる。マルチプルなプランジャー要素(または複数もしくは多数のプランジャー要素)は、デバイス・ハウジング内に含まれており、ハウジング内のプランジャーの物理的な動きにより真空を形成する。好適な態様では、デバイスのディスペンサー・セクションにおけるハウジングまたはケーシング内の穴(またはボア)または中空の空間内にてプランジャーが少なくとも部分的に含まれている。プランジャー要素が真空チャンバーの中空スペースまたは穴部内にて移動することで、流体(例えば、空気)がチャンバー内に引き込まれるか又はチャンバーから出され、それにより、対応する体積の液体がピペット先端部からそれぞれ吸引され又はディスペンスされる。プランジャーは、プラスチック材または金属材などの硬い材料(または剛性材料)を含んで成るものであってよい。さらに、プランジャーは、他の形状も可能であるものの、好ましくは円筒形状を有している。以下で説明されるように、本発明の好適な態様において、少なくとも2つのプランジャー要素が使用の点で適しており、プラジャーが円筒形であって入れ子構成となるようにプランジャー同士が配置されている。
【0021】
他で特段に規定されない限り、本明細書で使用されている全ての技術的および科学的な用語は、本発明に係る当業者に通常理解される意味と同じ意味を有している。他で特段に規定されない限り、標準的な技術が用いられる。本明細書における記載と同様または等しい手法および材料は、本開示の実施または試行において用いることができるものの、適当な手法および材料が以下で説明されている。材料、手法および実施例事項が単に例示として挙げられており、本発明を制限することを意図していない。本明細書で言及される全ての公報、特許および他の書類は、参照することによりその全部・全体が本明細書に組み込まれる。
【0022】
本明細書で使用されている、単数に関する書式「a」、「an」および「the」などは、文脈から明らかに他を指すとされていない限り、複数の意味をも包含する。
【0023】
「約(about)」といった用語は、測定(例えば、直径、面積、長さ、体積など)の数値に関してかかる測定値を得るに際して用いられるデバイスの典型的な誤差率(error rates)に起因した当該測定の数値変動を示している。
【0024】
本明細書において、「略等しい(approximately equivalent)」といった用語は、デバイスによって吸引される液体体積と比較した場合においてデバイスによりディスプレイスメント(または押しのけ、移動もしくは変位)される流体体積のことを指しており、真空チャンバー内のプランジャー要素の移動によりディスプレイスメントされる流体(例えば空気)の体積が、流体の密度と液体の密度との差に起因してデバイスの端部に取り付けられる先端部内に吸引される液体体積と正確には等しくないことを意味している。デバイス設計は、このような要因を考慮してキャリブレート(または較正)され、当業者の満足のいく範囲内となる。
【0025】
「締まりばめ(interference fit)」または「摩擦フィット(もしくは摩擦はまり或いは摩擦嵌合、friction fit)」は、本明細書にて互い交換可能に使用され、パーツ同士が共にプッシュされた後で摩擦によって達成される2つのパーツ間の取付け(または固定、fastening)を指している。
【0026】
本明細書に使用されている「上(up)」、「下(down)」、「上方(または上向き、upward)」、「下方(または下向き、downward)」、「水平(horizontal)」および「垂直(vertical)」などの指定は、ピペット・デバイスの向き・方向を指しており、ピペット・ハウジングがアクチュエート部材またはプッシュ・ボタンが頂部となってディスペンス端部が底部となる向き(例えば図1A参照)となる向き・方向を指している。このような向きにおいて、ディスペンサー・ハウジングのディスペンス端部に固定または取付けられるピペット端部(pipette tip)は、液体の吸引またはデリバリーのために、その下に位置付けられるベッセルに対して向けられ得る。
【0027】
図1A図4には、本発明のピペット・デバイス(またはピペッティング・デバイス)の態様が示されている。ピペット・デバイス10は、一般に、ピペット・ハウジング15に包まれた駆動ユニットおよび関連要素の全てを含む頂部側の駆動セクション12を備えた長尺状(または細長い、elongated)又は棒状の形状を有している。また、ピペット・デバイス10は、底部側の流体ディスプレイスメント(または流体押しのけ、流体移動もしくは流体変位)・流体ディスペンスのセクション14を一般に含んでおり、かかるセクションがプランジャー要素60,70の少なくとも一部を含むディスペンサー・ハウジング52を含んでいる。円筒状のプッシュ・ボタン形態のアクチュエート要素(または作動要素)20は、駆動セクション12のピペッティング・ハウジング15から上方に突出している。アクチュエート要素20は、ピペット・ハウジング15内で軸方向に移動可能となっており、ピペット・デバイスによる流体吸引または流体ディスペンス(もしくは流体の分配もしくは分注)をもたらすべくユーザー(または使用者)により使用される。
【0028】
本明細書に記載されたピペット・デバイスの底部またはディスペンス端(または分配端もしくは分注端)は、少なくとも1つのホルダーまたはシート要素(または椅子要素もしくは台座要素、seat element)を含んでおり、当該ホルダーまたはシート要素に対して液体吸引のためのピペット先端部が取り付けられる(または留められるもしくは固定される、fasten)。ディスペンス端のハウジングまたはケーシングは、2つ以上のシート部分(seat portion)またはホルダー部分を含むことが好ましく、分配ハウジングの一方の部分は、或る体積のピペット先端部が取付けられるように構成されており、分配ハウジングの他方の部分は、別の異なる体積のピペット先端部が取り付けられるように構成されている。例えば、典型的なディスペンス・ハウジングは、約10μL~約1500μLの範囲の体積(または容積もしくは容量)で液体を吸引できるピペット先端部のためのホルダー部分を含んでいてよく、好ましくは、ピペット先端部は約50μL~約1000μLの範囲の体積の液体を吸引できるようになっている。このような態様では、ディスペンサー・ハウジングは、約0.50μL~約200μLの範囲の体積で液体を吸引できるピペット先端部のための第2ホルダー部分を含む。そのため、ディスペンス・セクションの形状/デザイン(または設計)は、異なるサイズのピペット・ポイント/ピペット先端部に対応するのに適している。
【0029】
図1Aおよび図2には、約10μL~約1500μL(例えば、約10μL、約15μL、約20μL、約25μL、約30μL、40μL、約50μL、約60μL、約70μL、約80μL、約90μL、約100μL、約110μL、約120μL、約130μL、約140μL、約150μL、約160μL、約170μL、約180μL、約190μL、約200μL、約210μL、約220μL、約230μL、約240μL、約250μL、約260μL、約270μL、約280μL、約290μL、約300μL、約350μL、約400μL、約450μL、約500μL、約550μL、約600μL、約650μL、約700μL、約750μL、約800μL、約850μL、約900μL、約950μL、約1000μL、約1100μL、約1200μL、約1300μL、約1400μL、または約1500μL)の範囲の液体体積を吸引可能な大ピペット先端部、および、約0.1μL~約200μL(例えば、約0.1μL、約0.2μL、約0.3μL、約0.4μL、約0.5μL、約1.0μL、約1.5μL、約2.0μL、約2.5μL、約3.0μL、約4.5μL、約5.0μL、約10μL、約15μL、約20μL、約25μL、約30μL、約40μL、約50μL、約60μL、約70μL、約80μL、約90μL、約100μL、約110μL、約120μL、約130μL、約140μL、約150μL、約160μL、約170μL、約180μL、約190μL、約200μL)の範囲の液体体積を吸引可能な小ピペット先端部に適応するように構成された例示的なディスペンサー・ハウジング52が示されている。いくつかの態様では、第1液体体積の範囲は約50μL~約1000μLであり、第2液体体積の範囲は約0.5μL~約200μLである。したがって、ディスペンサー・ハウジング52は、大先端部ホルダー48と小先端部ホルダー49とを有する段階状構造(または層状構造もしくは階状構造、tiered structure)を含んでいる。この段階状構造は、大先端部ホルダー部分におけるデバイスの外側周縁(または外周、outer circumference)が小先端部ホルダー部分における外側周縁(または外周)よりも幅広く(または大きく)なっている。したがって、段階設計は、締まりばめ又は摩擦フィットに起因して異なるサイズの先端部のフィッティングまたは留め・固定を可能とするところ、ピペット・デバイスの先端部ホルダー部分(または先端ホルター部分)に抗するようなピペット先端部の円形力(circular force)を利用することで、ピペット先端部がディスペンサー・ハウジング52に固定され、大先端部ホルダー58か小先端部ホルダー59のいずれかに固定される。したがって、ピペット・デバイス10は、約0.1μL~約1500μLの体積範囲(例えば、約0.1μL、約0.2μL、約0.3μL、約0.4μL、約0.5μL、約1.0μL、約1.5μL、約2.0μL、約2.5μL、約3.0μL、約4.5μL、約5.0μL、約10μL、約15μL、約20μL、約25μL、約30μL、約40μL、約50μL、約60μL、約70μL、約80μL、約90μL、約100μL、約110μL、約120μL、約130μL、約140μL、約150μL、約160μL、約170μL、約180μL、約190μL、約200μL、約210μL、約220μL、約230μL、約240μL、約250μL、約260μLμL、約270μL、約280μL、約290μL、約300μL、約350μL、約400μL、約450μL、約500μL、約550μL、約600μL、約650μL、約700μL、約750μL、約800μL、約850μL、約900μL、約950μL、約1000μL、約1100μL、約1200μL、約1300μL、約1400μL、または約1500μL)で液体を吸引およびディスペンスすることができる。特定の態様では、ピペット・デバイス10は、約0.5μL~約1000μLの体積範囲の液体を吸引およびディスペンスすることができる。以下でより詳細に説明するように、本発明のデバイスは、そのデュアル・モーター駆動(または2つのモーター駆動、dual motor driven)のピストンおよびプランジャー要素の設計によって、このような広い範囲の体積の液体を正確かつ精度よく吸引およびディスペンスできる。
【0030】
当業者に理解されるように、典型的なピペットは使い捨てのピペット先端部を利用しており、コンタミ(もしくは汚染)または非所望の液体混合を防ぐべく異なる液体サンプルの取扱いの間にて迅速に当該ピペット先端部を取り外して交換しなければならない。これにつき、本開示のピペット・デバイスは、ユーザーが先端部自体に触れる必要なく、ピペット先端部を迅速かつ容易に取り外すためのエジェクター機構(または排出機構)を備えた設計を有するデバイスであってよい。
【0031】
本発明のピペット・デバイスにおける使用に適したエジェクト機構は、図1Aおよび1Bに示される多段バネ荷重エジェクターを含んでおり、これは異なるサイズの先端部をピペットのディスペンス部分の異なる取付けポイントからエジェクト(または排出もしくは取外し)できる単一のエジェクト・アッセンブリ(または排出アッセンブリもしくは取外しアッセンブリ)である。図1Aおよび1Bに表されている態様では、ピペット・デバイス10は、エジェクト・スリーブ(またはエジェクション・スリーブ、排出スリーブもしくは取外しスリーブ)40に接続されるエジェクト要素30(例えば、プッシュ・ボタン)を有している。エジェクト・スリーブ40の適当な態様は、ピペット・ハウジング15の略長さ分を有するように延在する上方エジェクト・スリーブ(または上方エジェクション・スリーブ)41を含んでいてよい。上方エジェクト・スリーブ41は、ピペット・ハウジング・ポイント以降において、中間エジェクト・スリーブ43に向かってテーパー部42を有しており(またはテーパー付けされており)、中間エジェクト・スリーブ43が機械的キャッチ要素(または構造的にキャッチもしくは捕捉する要素、mechanical catch element)46を含んでいる。上方エジェクト・スリーブ41は、付勢バネ(またはバイアス用バネ)35によって頂部にてバネ荷重が掛けられており、最も高い機械的位置にエジェクト・アッセンブリが保持される一方、ユーザーはスリーブを付勢バネ35に抗するように機械的に下方・下向きに移動させることができる。エジェクト・スリーブ40を下方・下向きに移動させると、機械的キャッチ要素46が下方エジェクト・スリーブ(または下方エジェクション・スリーブ)44と接触する。
【0032】
下方エジェクト・スリーブ44も付勢バネ51によってバネ荷重が掛けられており、最も高い位置に保持されている。大先端部が大先端部ホルダー48に存在する場合において、上方エジェクト・スリーブ40は、下方エジェクト・スリーブ44に対する付勢バネ51からのテンションを増加させるポイントに達するまで下方・下向きへと移動させられる。このような移動の範囲では(又はこのように上方エジェクト・スリーブが移動する範囲においては)、大先端部エジェクト・エッジ45から圧力がもたらされ、大先端部ホルダー48から大先端部が取り外される。
【0033】
大先端部が存在しない場合では、ユーザーは、機械的キャッチ要素46が下方エジェクト・スリーブ44と係合するまで、エジェクト要素30を押し下げる。そして、かかるポイントにおいて(又はかかる時点から)ユーザーが押下げを継続すると、下方エジェクト・スリーブ44の付勢バネ51の関与(または係合)がもたらされ、下方エジェクト・スリーブ44は下方に移動することになり、小先端部が小先端部ホルダー49からリリースされる。このような設計態様では、大先端部ホルダーが小先端部エジェクト・エッジとしても兼務(double)するところ、Oリング54が含まれており、大先端部ホルダーが気密性を保つことを確実ならしめている。
【0034】
他の態様では、ピペット・デバイスの多段バネ荷重エジェクターは、2つの別個のエジェクター要素(例えば、ボタン)を含んでおり、大先端部が大先端部ホルダーに取り付けられているか又は小先端部が小先端部ホルダーに取り付けられているかに応じて、ユーザーは、大先端部エジェクター要素または小先端部エジェクター要素のいずれかを押圧する。例えば、ユーザーは大先端部エジェクター要素を押し、それによって、エジェクト・スリーブを下方に動かして大ピペット先端部を大先端部ホルダーからエジェクトするか、あるいは、小先端部エジェクター要素を押し、それによってエジェクト・スリーブを下方に動かして小先端部を小先端部ホルダーからエジェクトする。いくつかの態様では、大先端部ホルダーおよび小先端部ホルダーに相当する異なる距離にあるものの、大先端部エジェクター要素および小先端部エジェクター要素の双方とも同じエジェクト・スリーブを動かすようになっていてもよい。他の態様では、大先端部エジェクター要素および小先端部エジェクター要素の各々が、異なるエジェクト・スリーブを動かし、それによって、大先端部または小先端部のいずれかをそれぞれエジェクトする。
【0035】
上述したように、本開示のピペット・デバイスは、そのモーター駆動の入れ子式プランジャー要素設計(少なくとも1つのプランジャー要素が別のプランジャー要素にスライド可能(または滑動可能、slideably)に受け入れられる設計)に多く起因して、広範囲・大範囲の液体体積の吸引およびディスペンスが可能である。対応する真空チャンバー内における各プランジャー要素の移動によって、流体(例えば、空気)の流入を引き起こすことになる“チャンバー内の真空”が形成される。かかる流体ディスプレイスメント(または流体押しのけ、流体移動もしくは流体変位)は、取り付けられたピペット先端部内への略同体積量の液体の吸引を助力する。このようにして、各プランジャー要素は、デバイスに真空チャンバーを付加できるようになっている。そして、各真空チャンバーは、流体(例えば、空気)の流入に対して異なる容積(または容積容量)を備える。好ましい態様では、プランジャー要素がその真空チャンバー内で移動することにより、空気のディスプレイスメントを引き起こす真空が形成される。換言すれば、空気が真空チャンバー内へと入っていく。かかる空気のディスプレイスメントにより、対応する体積の液体がデバイス端部に取り付けられた先端部内へと吸引されることになる。
【0036】
さらに、断面積が減少する入れ子式のプランジャー要素のアレンジメント(または配置)によって、容積を減じる真空チャンバーがもたらされる。例えば、1つのプランジャー要素は、別のより小さいプランジャー要素がスライド可能(または摺動可能)に受容される又は位置付けられる内部空間または穴部(bore)を含んでいる。したがって、かかる相対的に小さいプランジャー要素(又はより小さいプランジャー要素)が相対的に大きいプランジャー要素(又はより大きいプランジャー要素)内で上方および下方へと移動すると、相対的に小さい体積容積(より小さい体積容積)ではあるものの、別の真空チャンバーがもたらされる。それゆえ、本明細書に記載されるピペット・デバイスは、異なるプランジャー要素を操作することで或る真空チャンバーから別の真空チャンバーへの迅速かつ動的な切替えを可能としており、現在市場に出回っているデバイスと比較してより広い範囲・大きい範囲の液体体積量を正確かつ精密にディスペンスできるデバイスとなっている。本明細書に開示されるピペット・デバイスは、任意の個数の入れ子式のプランジャー要素および真空チャンバーを有することが可能であるところ、図1A図8Dに示される非限定的な例示的な態様のピペット・デバイスは、2つのプランジャー要素および2つの真空チャンバーを有している。好ましい態様において、プランジャー要素は円筒状である(または円筒形状を有している)。
【0037】
好ましい態様において、ピペット・デバイスは少なくとも2つのプランジャー要素を含んでおり、プランジャー要素の一方が他方のプランジャー要素内にスライド可能に収容されて入れ子状または同心状のプランジャー要素アレンジメント(または入れ子状または同心状のプランジャー要素配置)を成している。特に、ピペット・デバイスは、ハウジング内の真空チャンバー内でスライドする大プランジャー要素と、大プランジャー要素のレセプタクルまたは穴部内にてスライド可能に受け入れられる小プランジャー要素とを含み、別の相対的に小さい真空チャンバー(又はより小さい真空チャンバー)がもたらされるようになっている(例えば、図2図4を参照)。プランジャー要素の動きは、デバイス内のピストンのモーター駆動作動によって制御される。プランジャー要素の動きは、対応する真空チャンバーの容積を制御し、真空チャンバーによりディスプレイスメントされる流体(例えば、空気)の量を制御する。最終的には、流体のディスプレイスメントによって、略同体積量の液体がピペット先端部内へと吸引される。プランジャー要素の動きは、デバイスの駆動セクション内に収容されたモーター駆動ピストンのセット(a set of motor-driven pistons)によって制御されることが好ましい。
【0038】
上述したように、異なる容積となる別個の(又は区別される)真空チャンバーを備える入れ子式プランジャー設計がもたらされるように、プランジャー要素は、異なる断面直径を有する円筒形状となっていることが好ましい。例えば、1つの特定の態様では、大プランジャー要素の断面直径は、典型的には、約3mm~約20mmであってよく、例えば、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mm、16mm、17mm、18mm、19mm、または20mmである。好ましい態様では、大プランジャー要素の断面直径は、約5mm~約15mmであり、より好ましくは約6mm~約10mmである。例えば、1つの態様において、大プランジャー要素の断面直径は、約7mm~約8mmである。小プランジャー要素については、断面直径は、約0.5mm~約5mmであってよく、例えば、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2.0mm、3.1mm、3.2mm、3.3mm、3.4mm、3.5mm、3.6mm、3.7mm、3.8mm、3.9mm、4.0mm、4.1mm、4.2mm、4.3mm、4.4mm、4.5mm、4.6mm、4.7mm、4.8mm、4.9mm、または5.0mmであってよい(ただし、小プランジャー要素の断面直径は、大プランジャー要素の断面直径よりも小さく、入れ子式配置を可能とすることを条件とする)。いくつかの態様において、小プランジャー要素の断面直径は、約1mm~約3mmの間である。例えば、1つの特定の態様では、小プランジャー要素の断面直径は、約1.4mm~約1.7mmとなっている。
【0039】
本設計での使用に適した入れ子式プランジャー・アレンジメントは、ハンドヘルド(または携帯タイプもしくは手持ちタイプ)のピペットにおける効率的な流体ディスプレイスメント(または流体押しのけ、流体移動もしくは流体変位)を確実ならしめつつも軽量でコンパクトな設計を可能とする「小プランジャー要素の断面直径と大プランジャー要素と断面直径との比率」を有する。いくつかの実施形態では、小プランジャー要素の直径と大プランジャー要素の直径との比は、1:1.1~1:40であり、例えば1:1.1、1.1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.5、1:8、1:8.5、1:9、1:9.5、1:10、1:15、1:20、1:25、1:30、1:35、1:40であってよい。他の態様では、小プランジャー要素の直径と大プランジャー要素の直径との比率は、1:2~1:10である。例えば、ある1つの特定の態様では、かかる比率は1:5となっている。
【0040】
次に、入れ子になったプランジャーの構成および機能についてより詳細に説明する。図2図3図4Aおよび図4Bに示されるように、駆動セクション12は、ピペット・ハウジング15に収められたモーター・アッセンブリ16を含む。モーター・アッセンブリ16は、取付け要素115を介して大プランジャー・アッセンブリ18に接続されている。取付け要素115は、ねじ(例えば、ねじ穴162を介するねじ)、釘、接着剤などでモーター・アッセンブリ16に取り付けることができる対のモーター・アッセンブリ・アンカー160を有する。大プランジャー要素60は、取付け要素115に取り付けられ、ディスペンサー・ハウジング52内に部分的に配置される。ディスペンサー・ハウジング52は、その中心を通る穴部または流体通路85と、外部環境から液体または気体(例えば空気)などの流体を受けるための入口50とを含む。大プランジャー要素60は、ディスペンサー・ハウジング52内の穴部または流体通路内にてスライド可能に受け入れられる。ディスペンサー・ハウジング52内の大プランジャー要素60の動きによって、大真空チャンバー55がもたらされる。
【0041】
図2に示されているのは、典型的なアレンジメントであり、大プランジャー要素60およびディスペンサー・ハウジング52が垂直に向けられている。大プランジャー要素は、この垂直軸Aに沿って移動できるように構成されている。大プランジャー要素60は、閉位置と開位置との間で移動または作動することが可能となっている。閉位置では、大プランジャー要素は、その移動軸の底部(すなわち、ディスペンサー・ハウジング52の流体入口86)にある。このように、大プランジャー要素60の端部145は、ディスペンサー・ハウジング52の内部および大真空チャンバー55の底部にてシート75と接触する。図2図4Aおよび図4Bに表される態様において、封止が気密(air tight)であることを確実ならしめるため、Oリング56が大プランジャー要素60の底部内に入れ子状に設けられてよい。開位置では、大プランジャー要素60は、その移動軸の頂部に向かって移動することになる。開位置では、大プランジャー要素60はシート75から離れて移動することになり、それによって大真空チャンバー55の容積(または体積)が増す。大プランジャー要素60が十分に開位置にあって、その移動軸の頂部にあるとき、大真空チャンバー55は最大容積(または最大体積)となる。大プランジャー要素60が開位置にあるとき、大真空チャンバー55の床の流体入口86を介して大真空チャンバー55内へと外部環境から空気がディスプレイスメントされ得る。
【0042】
好ましい態様では、大プランジャー要素60は、空気などの流体を受け入れるため端部145にて開口部88を備えた内部空間または通路155を有している(図2図4A、および図4B参照)。このような態様では、小プランジャー要素70と大プランジャー要素60とが入れ子に設けられている。小プランジャー要素70が大プランジャー要素60の内部空間または通路155と共にスライド可能に受け入れられており、大プランジャー要素60内における小プランジャー要素70の垂直軸Aに沿う動きにより小真空チャンバー65が形成されるようになっている。したがって、小プランジャー要素70は、大プランジャー要素60の断面積よりも小さい断面積を必然的に有することになる。かかる態様では、小プランジャー要素70は、典型的には中実となっている(すなわち、内部流体通路を有していない)。しかしながら、3つ以上の真空チャンバーを有する態様として、小プランジャー要素70が、さらに別のプランジャー要素をスライド可能に受け入れる内部空間を有していてよい。
【0043】
小プランジャー要素70もまた閉位置と開位置との間で移動可能となっている。閉位置では、小プランジャー要素70は、その移動軸の底部(すなわち、大プランジャー要素60の開口部88)に位置している。したがって、小プランジャー要素70の端部135は、大プランジャー要素60の内部および小真空チャンバー65の底部においてシート80と接触することになる。したがって、ディスプレイスメント(または押しのけ、移動、置換もしくは変位)された空気は小真空チャンバー65に入ることができない。開位置では、小プランジャー要素70は、その移動軸の頂部に向かって移動することになる。開位置において、小プランジャー要素70はシート80から離れて移動することになり、それによって小真空チャンバー65の容積が増す。よって、ディスプレイスメントされた空気は、大プランジャー要素60の流体入口88を通って小真空チャンバー65内へと入ることができる。
【0044】
いくつかの態様では、デバイスは、小プランジャー要素70が閉位置にある時に良好な封止を確実ならしめるべく小プランジャー要素70の端部にOリング140を有する。さらに、付勢バネ90の使用により、小プランジャー要素70を開位置に向かって付勢できる。小プランジャー要素70が十分に開位置にあって、その移動軸の頂部にあるとき、小真空チャンバー65が最大容積(または最大体積)となる。小プランジャー要素70が閉位置にあるとき、小真空チャンバー65も閉鎖され、空気などの流体は小真空チャンバー65に入らない。
【0045】
好ましい態様では、大プランジャー要素60が“開”にあるとき、小プランジャー要素70は“閉”となって、ディスプレイスメントされた空気が大真空チャンバー55から小真空チャンバー65へと移動しないように防止する。同様にして、小プランジャー要素70が“開”となる場合、大プランジャー要素60は“閉”となり、ディスプレイスメントされた空気が大真空チャンバー55に移動しないように防止する。大プランジャー要素60が閉位置にある場合、ディスプレイスメントされた空気は流体入口通路85から入口86、88を介して直接移動して大プランジャー要素の内部に配置された小真空チャンバー65に入る(図2参照)。小Oリング56が大プランジャーの底部に入れ子に設けられていてもよく、それによって、大プランジャーが“閉”にあるときに小プランジャーの空気通路の気密を確実ならしめることができる。
【0046】
手動作動の設計が考えられるものの、本ピペット・デバイスの好ましい設計は、電子モーター駆動システムを利用してプランジャー要素を作動させる。特に、デバイスは、各プランジャー要素を作動させるように構成された別個の電気モーターを有していてよい。好ましい態様において、ピペット・デバイスは、入れ子となった2つのプランジャー要素の各々を作動させるためのデュアル・モーターを有する。モーターは、インターフェースを介してユーザーが操作する制御システムに対して応答する。いくつかの態様では、プランジャー要素はモーターに直接的に接続される。他の態様では、各モーターは、プランジャー要素に接続されたピストンを作動させる。適当なモーターには、サーボモーター、ステッパー・モーター、およびリニア・アクチュエーター・モーターが含まれるが、必ずしもこれらに限らない。特定の態様では、プランジャー要素は、カン・スタック・リニア・アクチュエーター・モーター(can stack linear actuator motor)とも呼ばれるカン・スタック・ステッパー・モーター(can stack stepper motor)などのステッパー・モーターにより作動される。各プランジャーは、同じタイプのモーターまたは異なるタイプのモーターにより作動に付すことができる。
【0047】
図2および図3は、プランジャー要素の作動のためにデュアル・モーター駆動ピストンを利用する本発明の態様を示す。図2および図3に示されるように、小プランジャー要素70は小容積ピストン(または小体積ピストン)95に接続される。小体積ピストン95は、ピストン・レシーバー105によって、接続要素100を介して(例えば、ねじによる組合せ又は嵌合を介して)小ピストン・モーター110に接続される。小ピストン95、接続要素100、および小プランジャー要素70は、小ピストン・モーター110の計量に応じて軸Aに沿って作動可能に移動できるようになっている。小ピストン・モーター110は、モーター・コネクタ要素120を介して大容積ピストン(または大体積ピストン)130に接続されている。このように、大容積ピストン130、モーター・コネクタ要素120、小ピストン・モーター110、小容積ピストン95、小プランジャー要素70、および大プランジャー要素60は、大容積ピストン130が大ピストン・モーター125の計量に応じて作動する際に単一ユニットとして移動する。
【0048】
1つの態様では、適当なモーターは、カン・ステッパー・モーター、または、カン・スタック・リニア・アクチュエーター・モーターである。これらモーターは、回転させずに直線的にピストンを動かす。これらモーターの各々は、ピペッティング操作中に各モーターを独立的に動かしたり、タンデムで動かしたりできるコントローラー・ボードに接続されている。
【0049】
ピペット・デバイスの操作は、図5A図5Dに示されている。図5Aおよび図5Bは、大体積の液体(例えば、約50μL~約1000μL)の吸引およびディスペンスを示している。大体積量のディスペンスを行う場合、ユーザーは、上述した締まりばめ(interference fit)を使用して、ディスペンサー ハウジングの端部に大ピペット先端部(例えば、約50μL~約1000μLの範囲の容量をディスペンスする大ピペット先端部)を取り付けることができる。大体積量の吸引のためにデバイスを操作する場合、小プランジャー要素60は閉位置にあり、小プランジャー要素70の端部135は大真空チャンバー55内のシート80と接触している。Oリング140が、小真空チャンバー65への流体(例えば、空気)のリークを防止するため気密封止を確実ならしめている。換言すれば、小プランジャー要素が「ボトム・アウトされている(または底を打っている若しくは底配置されている、bottomed out)」と言うことができる。図5Aでは、大プランジャー要素60が大真空チャンバー55のシート75と接触している。したがって、大プランジャー要素60もまた“ボトム・アウト”されている。換言すれば、両方のプランジャー要素が閉位置にあるといえる。両方のプランジャー要素が閉位置にあるとき、外部環境から真空チャンバー55、65のいずれにも空気がディスプレイスメントされない。
【0050】
ユーザーは、ノブおよび/またはボタンから成るインターフェースを介して所望のディスペンス量を入力し、LCDスクリーン(またはLCD画面)を介してフィードバックが与えられるようになっている。例えば、当業者に理解されるように、アクチュエーター要素20は、LCDスクリーンを介して与えられるフィードバックを用いるユーザーによる回転によって体積調整のため構成されていてよい。かかる入力は、電源および通信ケーブルを介してモーターに接続されているピペットのヘッド内のコントローラー・プリント回路基板(PCB)へと伝達される。PCBは、小モーターを制御するモーターの小体積範囲と、大プランジャーを制御するモーターの大体積範囲といった、各モーターの動作レンジを保存すべくプログラムされている。大体積範囲の体積が用いられる場合、ユーザーは大ピペット先端部を大ピペット先端部ホルダー48に取り付け、所望の吸引体積を入力し、吸引されることになる液体中に大ピペット先端部の端部を置く。
【0051】
所望の吸引体積を(大体積範囲で)設定した後、ユーザーがピペットの頂面25のボタンを押圧すると、大モーターに信号が送られ、適当な体積の液体を引くことが可能となる位置までピストンの移動を引き起こす。そして、大ピストン・モーター125は大体積ピストン130を上方に移動させる。大体積ピストン130が上方に移動すると、モーター・コネクタ要素120、小ピストン・モーター110、および大プランジャー要素60が同時に1つのユニットとして上方に移動する。大プランジャー60が軸Aに沿って上方に移動して大真空チャンバー55のシート75から大プランジャー60が離れると、大真空チャンバー55の体積容積が増し、それによって真空が生成され、流体入口50を通るように空気の対応するディスプレイスメント(または押しのけ、移動、置換もしくは変位)が引き起こされる。空気はディスペンサー・ハウジング52の流体通路85を上昇し、流体入口86を介して大真空チャンバー55内へと入る。これにより、対応する体積の液体がピペット先端部内に吸引される。次に、ユーザーによりアクチュエーター要素20がもう一度押されると、大体積ピストン130および大プランジャー要素60が下方へと移動する。大プランジャー要素60が下方に移動すると、押しのけられた空気が流体入口50から戻されるようにディスプレイスメントされ、ピペット先端部から液体がディスペンスされる。
【0052】
図5Bに示される特定の態様では、小プランジャー要素70は、その下端135が大プランジャー要素60内のシート75に接触することになるように閉位置にある。したがって、大真空チャンバー55からディスプレイスメントされた空気は、大プランジャーの流体入口88を介して小真空チャンバー65に入ることができない。いくつかの態様では、デバイスは、Oリング140(例えば、図3を参照)などの封止部材を含んでおり、ディスプレイスメントされた空気が小真空チャンバー内へとリークしないように防止する。
【0053】
いくつかの態様では、流体をディスペンスした後にピペット先端部をエジェクトし、当該先端部を新しいものと交換することが望ましい。本明細書に記載されたピペット・デバイスは、図1Bに示された多段バネ荷重エジェクター機構などのエジェクト機構を含むことができる。この特定の態様において、ユーザーによりエジェクター要素30が押し下げられると、機械的キャッチ要素46が下方エジェクト・スリーブ44に接触するので、エジェクト・スリーブ40が下方へと移動する。大先端部ホルダー48に大先端部が存在する場合、下方エジェクト・スリーブ44に抗する付勢バネ51からのテンションが大先端部エジェクト・エッジ45からの圧力を引き起こして大先端部ホルダー48から大先端部が取り除かれる接触点に至るまで、上方エジェクト・スリーブ40が下方に動かされる。
【0054】
次いで、ユーザーは、ディスペンサー・ハウジングの端部をピペット先端部の上方開口部に挿入し、下向きの力を用いてピペット先端部をピペット デバイスに締まりばめまたは摩擦フィットで取り付けて、ピペット先端部の交換を行う。いくつかの態様では、ユーザーにとって望まれ得る事項として、より小さい先端部(例えば、約1μL~約200μLの範囲のディスペンス体積用に構成されたより小さい先端部)がディスペンス・ハウジングの端部に留められる(または固定される)ようにしてディスペンス体積を低減する。
【0055】
図5Cおよび図5Dは、少体積量の液体(例えば、約1μL~約200μLの液体)の吸引およびディスペンスを示している。図5Cに示されるように、小プランジャー要素70および大プランジャー要素60は、「ボトム・アウトされている」または閉位置にある。ユーザーは、小ピペット先端部を小ピペット先端部ホルダー49に取り付け、吸引される液体に小ピペット先端部の端部を入れる。デバイスは、ユーザー・インターフェースを介して大体積範囲から小体積範囲へと切り替えることができる。好ましい態様において、ピペット・デバイスが大体積モードであろうと小体積モードであろうとレスト・ポジション(resting position)は同一であるため、ピペット・デバイスは物理的なスイッチを含んでいない。したがって、好ましい態様において、ユーザーが小体積範囲の体積量を選択すると、ファームウェア(firmware)が小モーター/プランジャー機構のみを動かすように指示されることになる。逆に、大体積範囲の体積量を選択すると、大モーターおよびプランジャーが係合する。したがって、好ましい態様において、かかるプロセスはユーザーにとってシームレスなものとなっている。いくつかの態様では、制御システムに関連するインターフェースは、ユーザーがプリセット体積間の迅速な切替えができるように、ユーザーにより1つまたは複数のプリセット体積がプログラムされるオプションを含んでいる。
【0056】
小体積範囲内の所望の体積が一旦設定されると、ユーザーは作動要素20の頂面25を押圧する。これにより小ピストン・モーター110に信号が送られ、ユーザーが指定した適切な体積の液体を引き込む位置にまで小体積ピストン95が上方に動かされる。図5Dに示されるように、小体積ピストン130が上方に移動すると、小プランジャー要素70が軸Aに沿って小真空チャンバー65のシート80から離れて上方に移動する。よって、小プランジャー要素70は、閉位置から開位置へと遷移することになる。小プランジャー要素70が開位置に向かって移動する間、小真空チャンバー65の容積が増して真空が形成され、それによって、流体入口50を通るように大プランジャー要素60の流体入口88を介して小真空チャンバー65内への対応する空気のディスプレイスメントが生じる。これにより、略等しい体積の液体がピペット先端部内へと吸引される。そして、ユーザーによりアクチュエーター要素20がもう一度押されると、小体積ピストン95および小プランジャー要素70が下向きに移動する。小プランジャー要素70が付勢バネ90に抗するように下向きに移動するので、押しのけられた空気が流体入口50から戻されるようにディスプレイスメントされ、ピペット先端部から流体がディスペンスされる。
【0057】
小ピペット先端部をエジェクトするために、ユーザーは、中間エジェクト・スリーブ43の機械的キャッチ要素46が下方エジェクト・スリーブ44と係合するまで、エジェクター要素30を押し下げる。かかるポイントにおいて、ユーザーが下方押圧を継続し、付勢バネ51を関与させる(または付勢バネの係合をもたらす)。そして下方エジェクト・スリーブ44を下方へと移動させると、小先端部が小先端部ホルダー49からリリース(または解放)されることになる。
【0058】
小プランジャー要素が作動中にあるときは、大プランジャー要素は閉位置に維持されその端部145が大真空チャンバー55の床のシート75と接触した状態となる。小体積チャンバーの気密を保つため大プランジャーの底部内にOリング56が入れ子状に設けられている。したがって、通路85を上方に流れる「ディスプレイスメントされる空気」は、大真空チャンバー55内へとリークせず、流体入口86、88を通って小真空チャンバー65内へと直接的に流入することになる。
【0059】
図6A~6Eは、LCDスクリーンおよび再充電可能な電池を備えたピペット・デバイスの別の態様を示す。ピペット・デバイス200は、図1~5に関して上述したインラインのデュアル・モーター駆動ピストンおよびディスペンス・システムの構成を含み、実質的に同様に機能する。図6Aおよび図6Bに示されるように、上方ピペット・ハウジング205は、電子駆動ユニットを含んでおり、ハウジング・ナット208によってディスペンサー・ハウジング252に接続されている。ディスペンサー・ハウジング内には、上記のものと実質的に同じ流体ディスプレイスメント・システム(fluid displacement system)が設けられている。上方ピペット・ハウジング205内には、大ピストン・モーター225、大体積ピストン230、モーター接続要素220、および小ピストン・モーター210が設けられている。小ピストン・モーター210は、大プランジャー要素260に接続されるプランジャー接続要素264に取り付けられている。小ピストン・モーター210は小体積ピストン212に取り付けられ、小体積ピストン212がコネクター271によって小プランジャー要素270に接続されている。小プランジャー要素270および大プランジャー要素260の大部分は、ディスペンサー・ハウジング252内に収容されている。
【0060】
大プランジャー要素260は、大真空チャンバー255内を移動する。大プランジャー要素260は、円筒形の穴部または小真空チャンバー265を含んでおり、その中において小プランジャー要素270がスライド可能に受け入れられて入れ子式プランジャー構成がもたらされている。Oリング250、262、263および272のセットを含めることができ、それにより、真空チャンバーと接続ポイントとの間の空気のリークを防止できるようになっている。例えば、大プランジャー要素260の底部にあるOリング262(図6D参照)は、大プランジャー要素260が十分に閉位置または「ボトム・アウト(又は底打ったような状態)」の位置にあるときに、大真空チャンバー255への空気リークを防止する。ピペット・デバイス200は、小先端部ホルダー245と大先端部ホルダー248の両方を含み、ユーザーは、それに対して、上述のように締まりばめまたは制限嵌め(restriction fit)により所望の使い捨てピペット先端部を取り付けることができる。
【0061】
図6Aおよび6Eには、上方ハウジング205内に設けられる再充電可能なバッテリー280が示されている。そのような上方ハウジング205内の充電式バッテリー280によって、ピペット・デバイス200を外部コンセントまたは他の電源につなぐ必要なく、ピペット・デバイス200のピストン・モーター210、225へと電力を供給することができる。ユーザーは、作動要素/体積コントロール部215を回す/回転させることによって、またはいくつかの態様ではLCDスクリーン295のインターフェースを介して所望の体積を入力することによって、所望のディスペンス体積の入力を行う。いずれの設計であっても、フィードバックの読み出しは、LCDスクリーン295を介して表示される。デバイスのモーターと電子的に通信され、それに信号を送る機器制御PCB285へと体積入力が送られることになる。
【0062】
動作中のピペット・デバイス200は、図1図5に示されるピペット・デバイス100と略同じように機能する。大体積範囲(例えば、約50μL~約1000μLまたはそれ以上の体積範囲)にある間において、ユーザーは作動要素/体積コントロール部215を押圧する。これにより、機器制御PCB285を介して信号が大ピストン・モーター210に送られ、モーター接続要素220、小ピストン・モーター225および大プランジャー要素260と共に大体積ピストン230が上方に動く。大プランジャー要素260が大真空チャンバー255内にて上方に移動するので、大真空チャンバーの容積が増し、流体入口275内への対応する空気のディスプレイスメントを引き起こすのに必要な真空が生じることになり、この空気のディスプレイスメントによって対応する体積の液体がピペット先端部内に引き込まれる。そして、ユーザーが、作動要素/体積コントロール部215をもう一度押すと、大プランジャー要素260が下向きに動くことになり、ピペット先端部から液体がディスペンスされる。その一方、小体積範囲(例えば、約1μL~約100μL)にある間では、大プランジャー要素260および小プランジャー要素270の両方が閉位置へと「ボトム・アウト」される。ユーザーが作動要素/体積コントロール部215を押すと、機器制御PCB285を介して信号が小ピストン・モーター225に送られ、小体積ピストン212および小プランジャー要素270が上方に移動する。小プランジャー要素270が小真空チャンバー265内にて上方に移動するので、流体入口275内への対応する空気のディスプレイスメントを引き起こすのに必要な真空が生じることになり、この空気のディスプレイスメントにより対応する体積の液体がピペット先端部内に引き込まれる。そして、ユーザーが、作動要素/体積コントロール部215をもう一度押すと、小プランジャー要素270が下向きに動くことになり、ピペット先端部から液体がディスペンスされる。
【0063】
さらに、ピペット・デバイス200は多段バネ荷重式の先端部エジェクター機構を含んでいる。この機構は、エジェクター要素235、大先端部エジェクター付勢バネ237、大先端部エジェクター・スリーブ240、および、小先端部エジェクター付勢バネ290を有して成る。多段バネ荷重式の先端部エジェクター機構の機能については、上記で詳細に説明している。
【0064】
図7図8Dは、カンチレバー・モーター接続要素(cantilever motor connection element)320を含んだ本開示のピペット・デバイス300の代替的な実施形態を示している。カンチレバー・モーター接続要素320は、より人間工学的で省スペースの設計を可能とする。上述のインライン・モーター駆動ピストン設計というよりもむしろ、カンチレバー・モーター接続要素320は、ピペット・ハウジング305内にてオフセット構成がもたらされるように大ピストン・モーター325の大体積ピストン330および小ピストン・モーター310に接続される(図7参照)。ユーザーは、上述のように作動要素/体積コントロール部315を回して所望の体積を入力し、その値がLCDスクリーン395に表示される。他の態様と同様にして、LCDスクリーン395は、所望の体積を選択するためのユーザー・インターフェースを含んでいる。ユーザーがより大きな体積(例えば、約50μL~約1000μLまたはそれ以上の体積)を入力すると、その体積入力が機器制御PCB385へと伝達され、PCB385は大ピストン・モーター325へと信号を送り、それにより、小ピストン・モーター310および大プランジャー要素360が閉位置に移動する。ユーザーが作動要素/体積コントロール部315を押すと、機器制御PCB385は、大体積ピストン330、カンチレバー・モーター接続要素320、小ピストン・モーター310、および大プランジャー要素360を上向きに動かすことになるように大ピストン・モーター325へと信号を送る。大プランジャー要素360が大真空チャンバー355内で閉位置から開位置へと上方に移動すると(図8Aおよび8D参照)、生じた真空によって空気が流体入口375に引き込まれ、対応する量の液体が、上記で詳細に説明したように先端部ホルダー345に取り付けられたピペット先端部内へと引き込まれる。そして、ユーザーは、作動要素/体積コントロール部315をもう一度押して、大プランジャー要素360を閉位置へと下方に移動させ、それにより液体をピペット先端部から排出する。
【0065】
ユーザーによってより小体積(例えば、約1μL~約100μL)が入力されると、その体積入力が器制御PCB385に伝達され、当該PCB385が、大ピストン・モーター325に信号を送り、それにより、小ピストン・モーター310および大プランジャー要素360を閉位置へと動かす。ユーザーが作動要素/体積コントロール部315を押すと、機器制御PCB385は、小ピストン・モーター310に信号を送り、小容積ピストンおよび小プランジャー要素370を閉鎖位置から小真空チャンバー365内の開放位置にまで上方に移動させる(図8Aおよび8D参照)。小プランジャー要素370が小真空チャンバー365内で閉位置から開放位置へと上方に移動すると、液体は、上記で詳述したように、先端部ホルダー345に取り付けられたピペット先端部内へと引き込まれる。次いで、ユーザーにより、作動要素/体積コントロール部315がもう一度押されると、小プランジャー要素370が閉位置へと下方に移動して、それにより液体がピペット先端部から排出される。
【0066】
ピペット・デバイス300は、再充電可能なバッテリー380、ならびに、真空チャンバーとプランジャー要素との間の空気リークを防止するためのOリング372、363、および362のセットを含んでいる。
【0067】
参照番号
10:ピペット
12:駆動セクション
14:ディスペンス・セクション(又はディスペンサー・セクション)
15:ピペット・ハウジング
16:モーターとピストンのアッセンブリ
18:大プランジャー・アッセンブリ
20:作動要素(又はアクチュエート要素)
25:作動要素の頂面(又は上面)
30:エジェクター要素(又は取外し用要素)
35:付勢バネ(またはバイアス用スプリング)(大先端部エジェクター)
40:エジェクト・スリーブ
41:上方エジェクト・スリーブ(または上側エジェクト/エジェクション・スリーブ)
42:エジェクト・スリーブのテーパー部分
43:中間エジェクト・スリーブ
44:下方エジェクト・スリーブ(または下側エジェクト/エジェクション・スリーブ)
45:大先端部エジェクト・エッジ
46:機械的キャッチ要素
48:大先端部ホルダー(又は大先端ホルダー)
49:小先端部ホルダー(又は小先端ホルダー)
50:流体入口/出口(空気)
51:付勢バネ(またはバイアス用スプリング)(小先端部エジェクター)
52:ディスペンサー・ハウジング
53:ナット
54:Oリング(エジェクター用Oリング)
55:大真空チャンバー
56:Oリング(大プランジャー)
60:大プランジャー要素
65:小真空チャンバー
70:小プランジャー要素
75:シート(大プランジャー要素)
80:シート(小プランジャー要素)
85:流体通路(ディスペンサー・ハウジング)
86:流体入口(大真空チャンバー)
88:流体入口(大プランジャー)
90:付勢バネ(またはバイアス用スプリング)(小プランジャー要素用)
92:上方スプリング・シート
95:小体積ピストン
100:接続要素 (ねじ付きの要素)
105:ピストン・レシーバー
110:小ピストン・モーター
115:取付け要素
120:モーター・コネクタ要素
125:大ピストン・モーター
130:大体積ピストン
135:小プランジャー端部
140:Oリング(小プランジャー)
145:大プランジャー端部
155:内部スペースまたは穴部(小プランジャー・レセプタクル)
160:モーター・アッセンブリ・アンカー
162:ネジ穴
200:ピペット
205:ピペット・ハウジング
208:ハウジング・ナット
210:小ピストン・モーター
212:小体積ピストン
215:作動要素/体積コントロール部
220:モーター接続要素
225:大ピストン・モーター
230:大体積ピストン
235:エジェクター要素
237:付勢バネ(またはバイアス用スプリング)(大先端部エジェクター)
240:大先端部エジェクター・スリーブ
245:小先端部ホルダー
248:大先端部ホルダー/小先端部エジェクター
250:Oリング (小先端部)
252:ディスペンサー・ハウジング
255:大真空チャンバー
260:大プランジャー要素
262:Oリング(大プランジャー)
263:Oリング(大真空チャンバー)
264:大プランジャー・コネクター
265:小真空チャンバー
270:小プランジャー要素
271:(小プランジャー)コネクター
272:Oリング(小真空チャンバー)
275:流体入口
280:再充電可能なバッテリー(又は充電式バッテリー)
285:機器制御PCB
290:バイアス・スプリング(小先端部エジェクター)
295:液晶スクリーン(または液晶画面)
300:ピペット
305:ピペット・ハウジング
310:小ピストン・モーター
312:小体積ピストン
315:作動要素/体積コントロール部
320:カンチレバー・モーター接続要素
325:大ピストン・モーター
330:大体積ピストン
345:先端部ホルダー
355:大真空チャンバー
360:大プランジャー要素
362:Oリング(大プランジャー要素)
363:Oリング(大真空チャンバー)
365:小真空チャンバー
370:小プランジャー要素
372:Oリング(小真空チャンバー)
375:流体入口
380:再充電可能なバッテリー(又は充電式バッテリー)
385:機器制御PCB
395:液晶スクリーン(または液晶画面)
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
【国際調査報告】