(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】変性硫酸およびその使用
(51)【国際特許分類】
D21C 3/04 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
D21C3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549721
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-08-17
(86)【国際出願番号】 CA2021000017
(87)【国際公開番号】W WO2021168537
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522328079
【氏名又は名称】シックスリング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パーディー、クレイ
(72)【発明者】
【氏名】ワイゼンバーガー、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ウィンニック、カイル、ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン、カール、ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA00
4L055AB07
4L055AB14
4L055AB19
4L055EA32
(57)【要約】
硫酸、アミン部分を含む化合物、スルホン酸部分を含む化合物、および過酸化物を含む水性組成物。前記組成物は、バイオマスを脱リグニンすることが可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物。
【請求項2】
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、硫酸、アミン部分を含む前記化合物、およびスルホン酸部分を含む前記化合物が、1:1:1以上のモル比で存在する、前記の組成物。
【請求項3】
硫酸、アミン部分を含む前記化合物、およびスルホン酸部分を含む前記化合物が、28:1:1~2:1:1の範囲のモル比で存在する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
アミン部分を含む前記化合物が、300g/mol未満の分子量を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
アミン部分を含む前記化合物が、一級アミンである請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
アミン部分を含む前記化合物が、アルカノールアミンである請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
アミン部分を含む前記化合物が、3級アミンである請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルカノールアミンが、モノエタノールアミン;ジエタノールアミン;トリエタノールアミン;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルカノールアミンが、トリエタノールアミンである請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
スルホン酸部分を含む前記化合物が、アルキルスルホン酸およびその組み合わせから成る群から選択される請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記アルキルスルホン酸が、アルキル基がC1~C6の範囲にあり、直鎖状または分枝状であるアルキルスルホン酸;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記アルキルスルホン酸が、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;2-プロパンスルホン酸;イソブチルスルホン酸;t-ブチルスルホン酸;ブタンスルホン酸;イソペンチルスルホン酸;tペンチルスルホン酸;ペンタンスルホン酸;tブチルヘキサンスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選ばれる請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
スルホン酸部分を含む前記化合物がメタンスルホン酸である、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、木材の脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、
ここで、硫酸、アミン部分を含む前記化合物、およびスルホン酸部分を含む前記化合物が、2:1:1~28:1:1の範囲のモル比で存在する、前記の組成物。
【請求項15】
植物源からのセルロースの処理および解重合に使用するための水性組成物であって、前記組成物が、
硫酸を、組成物の全重量に対して20~70wt%;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物;
を含み、
ここで、硫酸、アミン部分を含む化合物;およびスルホン酸部分を含む化合物は、2:1:1~28:1:1の範囲のモル比で存在する、前記水性組成物。
【請求項16】
過酸化物が過酸化水素である、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
植物材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記植物材料を提供すること;
- 必要とする前記植物材料を、
組成物の全重量に対して20~70wt%の硫酸;
アミン部分を含む化合物;および
スルホン酸部分を含む化合物;を含む組成物に、前記植物材料上に存在するリグニンを実質的に全て除去するのに十分な時間、暴露すること;
を含む、前記方法。
【請求項18】
スルホン酸部分を含む前記化合物が、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;ブタンスルホン酸;ペンタンスルホン酸;ヘキサンスルホン酸;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
アミン部分を含む前記化合物が300g/mol未満の分子量を有する、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が過酸化物をさらに含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、アミン部分を含む前記化合物、およびスルホン酸部分を含む前記化合物が、2:1~1:2の範囲のモル比で存在する、前記の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、広い例では、バイオマスの脱リグニンのような酸化によるバイオマスなどの有機物の分解に有用な方法および組成物に関するものであり、より具体的には、現在クラフトプロセスが行われている条件よりも最適な条件でこれを行うための方法および組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
紙の生産で最もエネルギーを消費するのは、パルプの生産である。パルプの原料となる木材やその他の植物には、水だけでなく、セルロース繊維、リグニン、ヘミセルロースの3つの主成分が含まれている。パルプ化には、繊維とリグニンを分離することが第一の目的である。リグニンは3次元のポリマーで、いわば植物内にあるすべての繊維をつなぎとめるモルタルのようなものである。リグニンがパルプに含まれることは好ましくなく、最終製品に何のプラスにもならない。木材のパルプ化とは、チップ、茎、その他の植物の部分など、繊維原料のバルク構造を分解し、構成繊維にすることである。セルロース繊維は、製紙工程で最も必要とされる成分である。ヘミセルロースは、様々な糖質モノマーがランダムに非晶質重合体構造を形成した、より分岐の短い炭水化物ポリマーである。完成パルプ中のヘミセルロースの存在は、セルロースほど紙の剛性に重要ではない。このことは、バイオマス変換にも当てはまる。課題は似ている。ただ、求められる結果が異なるだけである。バイオマス変換では、一価炭水化物へのさらなる分解が望ましい結果となるが、パルプ&ペーパープロセスでは通常、リグニン溶解後すぐに停止する。
【0003】
木材パルプや木質バイオマスの調製には、主に機械的処理と化学的処理の2つのアプローチがある。機械的処理またはパルプ化は、一般的に木材チップを物理的に引き裂き、その結果、セルロース繊維を引き裂き、互いに分離することを目的としている。この方法の欠点は、セルロース繊維が切れたり傷ついたりして繊維が短くなること、セルロース繊維にリグニンが混入したり残留したりして、最終製品に不純物が混入したり残留したりすることである。また、このプロセスは、高圧、腐食性の化学物質、熱を必要とするため、大量のエネルギーを消費し、資本集約的である。化学パルプ化には、いくつかのアプローチやプロセスがある。これらは一般に、リグニンとヘミセルロースを水溶性の分子に分解することに重点を置いている。これらの分解された成分は、セルロース繊維を傷つけることなく、洗浄することによってセルロース繊維から分離される。この化学プロセスは、大量の熱を必要とするため、エネルギー集約型であり、また多くの場合、攪拌や機械的な介入を必要とし、プロセスの非効率性とコストを増大させる。
【0004】
パルプ化の化学的側面とパルプ化の機械的側面を様々な程度に組み合わせたパルプ化または処理方法が存在する。例えば、サーモメカニカルパルプ化(一般にTMPとも呼ばれる)、ケミザーモメカニカルパルプ化(CTMP)などがある。それぞれの一般的なパルプ化法が提供する利点を選択することにより、パルプ化処理の機械的側面で必要なエネルギー量を削減するような処理が行われる。これはまた、これらの組み合わせパルプ化アプローチに供される繊維の強度または引張強度の劣化に直接影響し得る。一般に、これらのアプローチでは、(従来の専用化学パルプ化と比較して)化学処理を短縮し、その後、通常、繊維を分離するための機械的処理を行いる。
【0005】
製紙用パルプの最も一般的な製造方法は、クラフト法である。クラフト法では、木材チップをほぼ純粋なセルロース繊維である木材パルプに変換する。- クラフト工程は、まず木材チップを薬液で含浸・処理することから始まる。これは、木材チップを浸し、蒸気で予熱することで行われる。この工程では、木材チップを膨張させ、チップ内の空気を追い出し、空気と液体を入れ替えます。このとき、クラフト工程で発生する副産物として黒液が発生する。黒液には、水分、リグニン残渣、ヘミセルロース、無機化学物質が含まれている。白液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含む強アルカリ性の溶液である。木材チップを各種薬液に浸した後、調理を行う。木質チップを脱リグニン化するために、176℃までの温度で数時間煮沸する。この温度でリグニンが分解され、水溶性の断片が生成される。調理後、残ったセルロース繊維は回収・洗浄される。
【0006】
米国特許番号5,080,756は、改良されたクラフトパルプ化プロセスを教示し、有機物を含む使用済み濃硫酸組成物をクラフト回収システムに添加して、回収炉で脱水、熱分解および還元に供されるその全硫黄含有量に富む混合物を提供することを特徴としている。硫酸組成物の有機物は、炉内で起こる酸化および還元反応を促進するために高い熱レベルを容易に維持できる熱エネルギー源として特に有益であり、その結果、パルプ化に適した煮汁の調製に用いられる硫化物が形成される。
【0007】
カロ酸は、ペルオキシモノ硫酸(H2SO5)としても知られ、既知の最強の酸化剤の1つである。カロ酸を調製するための反応はいくつか知られているが、最も簡単な方法の1つは、硫酸(H2SO4)と過酸化水素(H2O2)を反応させるものである。この方法でカロ酸を調製すると、さらに反応させて貴重な漂白剤、酸化剤である一過硫酸カリウム(PMPS)を生産することができる。カロ酸にはいくつかの有用な用途が知られているが、注目すべきは木材の脱リグニン(脱木)用途である。
【0008】
バイオ燃料の製造も、クラフトプロセスの潜在的な用途のひとつである。バイオ燃料生産の現在の欠点は、炭水化物を合理的に効率的なプロセスで燃料に変換するために、食品等級の植物部分(種子など)を使用する必要があることである。炭水化物は、非食品グレードのバイオマスをクラフト工程で使用することにより、セルロース系繊維から得ることもできるが、クラフト工程は脱リグニンのためにエネルギーを消費するため、商業的にはあまり実行可能な選択肢ではない。植物由来の化学資源サイクルを構築するためには、人間の食料生産と競合しない植物由来の原料を利用できる、エネルギー効率の高いプロセスが非常に必要である。
【0009】
クラフトパルプ製造プロセスは、世界で最も広く使用されている化学パルプ製造プロセスであるが、非常にエネルギーを必要とし、また、例えば、パルプ製造工場周辺から発生する悪臭や、多くの紙パルプ製造管轄地域で現在強く規制されている一般的な排気ガスなどの欠点もある。現在の環境問題、経済問題、気候の変化、および排出権料の導入を考慮すると、現在のパルプ化プロセスを最適化することが非常に望まれる。その製造中に環境に現在の実質的な害を与えることなく、少なくとも線形品質の繊維を提供するためである。したがって、現在使用されているものよりも低い温度と圧力で、追加の設備投資を必要とせずに木材物質の脱リグニンを行うことができる組成物の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明の一態様によれば、下記の水性酸性組成物が提供される:
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物。
【0011】
本発明の一態様によれば、下記の水性酸性組成物が提供される:
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、硫酸、アミン部分を含む前記化合物、およびスルホン酸部分を含む前記化合物が、1:1:1以上のモル比で存在する、前記の組成物。
【0012】
好ましくは、硫酸と、アミン部分を含む前記化合物と、スルホン酸部分を含む前記化合物とが、28:1:1~2:1:1の範囲のモル比で存在することである。より好ましくは、硫酸と、アミン部分を含む前記化合物と、スルホン酸部分を含む前記化合物とが、24:1:1から3:1:1までの範囲のモル比で存在する。好ましくは、硫酸と、アミン部分を含む前記化合物と、スルホン酸部分を含む前記化合物とが、20:1:1から4:1:1までの範囲のモル比で存在する。より好ましくは、前記硫酸と、アミン部分を含む前記化合物と、スルホン酸部分を含む前記化合物とが、16:1:1から5:1:1までの範囲のモル比で存在することである。本発明の好ましい実施形態によれば、硫酸と、アミン部分を含む前記化合物と、スルホン酸部分を含む前記化合物とが、12:1:1から6:1:1までの範囲のモル比で存在する。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、アミン部分を含む前記化合物とスルホン酸部分を含む前記化合物は、2:1~1:2の範囲のモル比で存在する。
【0014】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、アミン部分を含む前記化合物とスルホン酸部分を含む前記化合物は、3:1~1:3の範囲のモル比で存在する。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、アミン部分を含む前記化合物とスルホン酸部分を含む前記化合物は、4:1~1:4の範囲のモル比で存在する。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、アミン部分を含む前記化合物とスルホン酸部分を含む前記化合物は、5:1~1:5の範囲のモル比で存在する。
【0017】
また、好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、分子量が300g/mol未満である。また、好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、分子量が150g/mol未満である。より好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、1級アミンである。さらに好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、アルカノールアミンである。さらに好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、3級アミンである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルカノールアミンは、モノエタノールアミン;ジエタノールアミン;トリエタノールアミン;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましくは、アルカノールアミンはトリエタノールアミンである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、スルホン酸部分を含む化合物は、アルキル基がC1~C6の範囲にあり、直鎖状または分枝状であるアルキルスルホン酸;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましくは、スルホン酸部分を含む前記化合物は、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;2-プロパンスルホン酸;イソブチルスルホン酸;t-ブチルスルホン酸;ブタンスルホン酸;iso-ペンチルスルホン酸;t-ペンチルスルホン酸;ペンタンスルホン酸;t-ブチルヘキサンスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。より好ましくは、スルホン酸部分を含む前記化合物は、メタンスルホン酸である。
【0020】
本発明の一態様によれば、下記の水性組成物が提供される:
硫酸;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物、
を含む、木材などのバイオマスの脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、
ここで、硫酸、アミン部分を含む前記化合物、およびスルホン酸部分を含む前記化合物が、2:1:1~30:1:1の範囲のモル比で存在する、前記の組成物。
【0021】
本発明の一態様によれば、下記の水性組成物が提供される:
バイオマス(すなわち、植物源)からのセルロースの分解に使用するための水性組成物であって、前記組成物が、
硫酸を、組成物の全重量に対して20~70wt%;
アミン部分を含む化合物;
スルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物;
を含み、
ここで、硫酸、アミン部分を含む化合物;およびスルホン酸部分を含む化合物は、2:1:1~30:1:1の範囲のモル比で存在する、前記水性組成物。
【0022】
好ましくは、過酸化物は過酸化水素である。
【0023】
本発明の一態様によれば、下記の方法が提供される:
バイオマス/植物材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記植物材料を提供すること;
- 必要とする前記植物材料を、
組成物の全重量に対して20~70wt%の硫酸;
アミン部分を含む化合物;および
スルホン酸部分を含む化合物;を含む組成物に、前記植物材料上に存在するリグニンを実質的に全て除去するのに十分な時間、暴露すること;
を含む、前記方法。
好ましくは、本組成物は、過酸化物をさらに含む。
【0024】
好ましくは、スルホン酸部分を含む化合物は、アルキル基がC1-C6の範囲にあり、直鎖状または分枝状であるアルキルスルホン酸;およびこれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましくは、スルホン酸部分を含む前記化合物は、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;2-プロパンスルホン酸;イソブチルスルホン酸;t-ブチルスルホン酸;ブタンスルホン酸;iso-ペンチルスルホン酸;t-ペンチルスルホン酸;ペンタンスルホン酸;t-ブチルヘキサンスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。より好ましくは、スルホン酸部分を含む前記化合物は、メタンスルホン酸である。
【0025】
好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、分子量が300g/mol未満である。より好ましくは、アミン部分を含む前記化合物は、150g/mol未満の分子量を有する。本発明の好ましい実施形態によれば、該組成物は1未満のpHを有し、本発明の別の好ましい実施形態によれば、該組成物は0.5未満のpHを有する。
【0026】
本発明者らは、木材材料/木質パルプ(例えば、木材チップに限定されない)などのバイオマスの脱リグニンは、従来のクラフトパルプ化プロセス中に使用される温度よりも大幅に低い温度で起こり得ることを発見した。実際、本発明による好ましい組成物を用いて室温で行われた実験では、木材チップに存在するリグニンを分解してセルロース繊維を遊離させることが示された。本発明による方法の好ましい実施形態によれば、木材サンプルは、本発明の好ましい実施形態による組成物への曝露時に30℃で溶解された。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の好ましい組成物を含む方法を適用することによって、現在のパルプ脱リグニンに関わるエネルギー投入コストを実質的に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図面の簡単な記述
本発明は、添付図と関連した本発明の様々な実施形態の以下の説明を考慮することにより、より完全に理解され得るものである。
【
図1】
図1は、経過時間が1分である本発明による組成物中の木材チップの溶解の写真であり;そして
【
図2】
図2は、経過時間は24時間である本発明による組成物中の木材チップの溶解の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
本発明の好ましい実施形態による水性酸性組成物を用いて行われた実験により、木材チップは制御された反応条件下で脱リグニンを受け、セルロースの劣化を排除するか、または少なくとも最小限に抑えることができることが示された。劣化とは、セルロースの黒化又は炭化(カーボンブラックへの変換)を意味すると理解され、これは、セルロースへの制御されない酸攻撃及びその汚れの象徴である。
【0029】
好ましくは、アミン部分を含む化合物とスルホン酸部分を含む化合物は1:1の割合で存在する。硫酸の存在下で一緒になると、変性硫酸として作用する化合物の配位があるように思われる。その点で、アミン基と一緒にスルホン酸基が存在することは、この変性された酸の一部を形成すると考えられている。変性酸の強さは、アミン部分を含む化合物およびスルホン酸部分を含む化合物のモル数に対する硫酸のモル数によって規定される。したがって、硫酸:アミン部分を含む化合物:スルホン酸部分を含む化合物のモル比が6:1:1である組成物は、同じ成分を28:1:1のモル比で配合した組成物よりも反応性がはるかに低くなるであろう。また、アミン部分を含む化合物とスルホン酸部分を含む化合物との間の比率は、組成物全体の反応性に顕著な影響を与えることなく、すなわち、硫酸の存在下に置かれた時に、0.5:1~2:1の範囲で変化し得ることが指摘された。
【0030】
本発明の好ましい実施形態による組成物を用いて木材の脱リグニンを行う場合、そのプロセスは、従来のクラフトパルプ化プロセスで用いられる温度よりも大幅に低い温度で実施することができる。利点は相当なものであり、ここではそのいくつかを紹介する:クラフトパルプ化プロセスは、脱リグニン工程を行うために176~180℃付近の温度を必要とする、本発明によるプロセスの好ましい実施形態は、20℃とさえも低い、はるかに低い温度で木材を脱リグニンすることが可能である。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、0℃のような低い温度で行うことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、10℃のような低い温度で行うことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、30℃のような低い温度で実行することができる。本発明の別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、40℃のような低い温度で行うことができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、50℃のような低い温度で実行することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、60℃のような低い温度で実施することができる。他の利点としては、エネルギーの投入量の低減;排出量の低減および資本支出の低減;メンテナンスの低減;シャットダウン/ターンアラウンドコストの低減;また、従来のクラフトパルプ化組成物と比較してHSEの利点もある。
【0031】
上記の好ましい実施形態の各1つにおいて、工程が実施される温度は、現在のエネルギー集約的なクラフト工程よりも実質的に低い温度である。
【0032】
さらに、クラフトプロセスは、木材の脱リグニンを行うために高圧を使用し、これは当初、資本集約的であり、危険であり、維持費が高く、関連するターンアラウンドコストが高いものである。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、大気圧で実行することができる。このことは、ひいては、圧力容器/消化器のような高度に専門的で高価な産業機器の必要性を回避することになる。それはまた、クラフトプラントの実施が様々な理由のために以前は実行不可能であった世界の多くの地域での脱リグニン装置の実施を可能にする。
【0033】
従来のクラフトプロセスに対する本発明の好ましい実施形態によるプロセスの利点のいくつかは、後者のための熱/エネルギー要件が大きな汚染源であるだけでなく、得られるパルプ製品が非常に高価であり、高い初期資本要件を有する理由の大部分であるため、相当なものである。本発明の好ましい実施形態によるプロセスの実施におけるエネルギー節約は、より低価格のパルプおよび環境上の利点に反映され、これは即効性およびすべての人にとって長期的な多世代にわたる利点の両方を有するであろう。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によるプロセスの完全または部分的な実施におけるさらなるコスト削減は、高温高圧パルプ消化器の操作に対する制限的な規制がない、または最小化されることに見出すことができる。
【0035】
実験その1
本発明による組成物の好ましい実施形態は、木材チップを脱リグニンするその力を決定するために試験された。
【0036】
実験は、約0.2gの木材と約20gの溶液を用いて完了した。混合物は、温度30℃で200rpmで撹拌した。
【0037】
図1および
図2は、本発明の好ましい実施形態による組成物の存在下での2つの木材チップの溶解を示す。当該好ましい実施形態による組成物は、硫酸とモノエタノールアミンとメタンスルホン酸を6:1:1の割合で含んでいる。注目すべきは、1分後にも溶液が透明であることである(
図1参照)。硫酸組成物であれば、すでにセルロースがカーボンブラックに分解されていることを示す変色の兆候が見られるはずである。実際、24時間にわたる実験の間、溶液は透明なままであった(
図2参照)。24時間後、溶液は木材チップに含まれるリグニンをすべて溶解し、結晶性セルロースのパケットをそのまま(または実質的にそのまま)維持している。これは、リグニンを狙い、セルロースを残す穏やかな酸化組成の証拠である。
【0038】
上記の実験は、本発明による好ましい組成物が、植物材料を脱リグニンするための適切な溶解酸を提供するだけでなく、セルロース系材料のカーボンブラック残留物への最終的な分解を制御することに価値があり、その結果、排出と従業員、契約者及び公衆に対するリスクを低減しながら、潜在的に事業者により高い収率をもたらすことを明確に示すものである。
【0039】
追加の脱リグニン実験
硫酸、メタンスルホン酸(MSA)、トリエタノールアミン(TEOA)および過酸化水素をMSAおよびTEOA濃度を増加させて混合し,バイオマス(木材チップ)と常温で一晩反応させて,モル比の変動が反応の程度に及ぼす効果を評価した。バイオマスの代わりにクラフトリグニンまたはセルロースを添加した混合物についても対照試験を実施した。市販のリグニン(Sigma-Aldrich; Lignin, kraft; Prod# 471003)を試験における対照として使用した。市販のセルロース(Sigma-Aldrich; Cellulose, fibers (medium); Prod# C6288)も、試験における対照として使用された。
【0040】
各ブレンドの固相は、20時間の反応時間後に濾過し、水で洗浄した後、45℃のオーブンで一定重量まで乾燥させた。効果的なブレンドは、すべてのリグニンを溶解し、セルロースをできるだけ無傷のまま残すべきである。実験結果を以下の表1に報告する。
【0041】
【0042】
硫酸(96%濃度で使用)、MSA、TEOA、過酸化水素(30%溶液として)の比率が28:1:1:28のブレンドでは、木材とセルロースからの質量回収率が43%になった。このことから、酸/過酸化物混合物は攻撃性が高すぎ、セルロースの多くを解重合してしまうことがわかる。リグニンは全く回収できず、これは要求された結果である。MSA/TEOAの遅延剤混合物の濃度を酸と過酸化物の濃度の10分の1に上げると、それでもすべてのリグニンは溶液になるのに十分なほど解重合される。しかし、セルロースはそれほど攻撃されなくなった。この配合では、セルロースの89%を回収することができた。遅延剤濃度を酸/過酸化物濃度の半分まで上げると、バイオマスの消化が遅くなり、あまり好ましくない。木材の55%とセルロースの92%を回収することができたが、リグニンの22%は溶液化されなかった。
【0043】
H
2
SO
4
:TEOA:MSA:H
2
O
2
を10:1:1:10のモル比でブレンドしたバッチプロセス。
先に述べた組成物とプロセスをスケールアップするために、バッチプロセスを実施した。バッチプロセスの調製のために、3,409gの硫酸(93%)を大型ガラス反応器(10L)に入れ、444gのメタンスルホン酸(70%)および482gのトリエタノールアミンを添加した。この混合物を100RPMで攪拌した。次に、3,665gの過酸化水素溶液(29%)を変性酸にゆっくりと(1~1.5時間かけて)添加した。ブレンドの温度が40℃を超えないように、反応器を冷却して発生する熱を放散させた。過酸化水素の添加後,反応器系を周囲温度に平衡化するために放置した(30分)。モルブレンド比(添加順)は、10:1:1:10であった。400gの大きさのない木屑(おがくず)をゆっくりと反応器に加えた。温度上昇をモニターした。反応器の温度が55℃に達したとき、反応器を26℃の温度まで冷却した。この後、冷却はもはや必要なかった。反応を20時間行った後、反応混合物を20μmのテフロン(登録商標)フィルターシートを備えたフィルターシステムに移した。濾液を捨て、残ったフィルターケーキを12lの水で、流出液が約6のpH値になるまで洗浄した。フィルターケーキを一晩オーブン乾燥(45℃)した。添加したバイオマスと比較したセルロース収率は43.2%であった。
【0044】
得られたセルロースの炭化水素含有率は94.4%であり、比較のために用いたシグマ-アルドリッチ社のセルロースLot# WXBC9745V-95.7%標準に近い値であった。水分量は1.70%であり、比較のために用いたSigma-Aldrich社のセルロースLot# WXBC9745V-3%標準に近い値であることがわかる。また、Kappa# = 0であり、試料中にリグニンが残存していないことを意味する。X線回折を行ったところ、見かけの結晶化度は58.2%で、以前試験した数値と一致し、Aldrich社の市販セルロースは62.9%と測定された。走査型電子顕微鏡で観察したところ、非常に高い繊維含有率を示している。
【0045】
木材パルプからグルコースを得る方法は、そのような変換が化学的およびエネルギー集約的で、コストが高く、排出が多く、危険である一方で、特に大規模な操作において高効率の結果をもたらさない現在のプロセスに対する重要な進歩である。木材を脱リグニンし、かつセルロースをカーボンブラックに分解するのではなく、保存するためにオペレーターがある程度対照できる組成物を採用することが望ましく、その結果、より高い効率と収率、および安全性の向上と全体コストの削減を実現することができる。
【0046】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、リグニンの分離を効果的に行い、得られたセルロース繊維をさらに処理して、グルコースモノマーを得ることができる。グルコース化学は、ジアセトニド、ジチオアセタール、グルコシド、グルカルおよびヒドロキシグルカルを含むがこれらに限定されない広く用いられる化学物質の調製の出発ブロックとして、多数の用途を有している。
【0047】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本組成物は、水処理、浄水及び/又は脱塩に用いられるような酸化による有機物の分解に使用することができる。この例としては、ろ過膜上の藻類の除去(すなわち、破壊)が挙げられる。ろ過膜は高価であるため、できるだけ長く使用することが望まれる。しかし、膜に付着した有機物を除去することは難しく、膜にダメージを与えずに効率よく除去するためには、新しいアプローチが必要である。鉱酸は強すぎるため、有機物を除去することはできるが、ろ過膜にダメージを与えることになる。本発明の好ましい組成物は、鉱酸よりも攻撃性が低いので、この問題を改善し、その結果、はるかに穏やかなアプローチで有機汚染物質を除去し、したがって膜を免れることになる。
【0048】
前述の発明は、明確さと理解のためにある程度詳細に説明されているが、関連する技術分野の当業者であれば、一旦この開示に精通すれば、添付の請求項に記載の発明の真の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更を行うことができることが理解されよう。
【国際調査報告】