(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】硫酸組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
D21C 3/04 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
D21C3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549742
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 CA2021000016
(87)【国際公開番号】W WO2021168536
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522328079
【氏名又は名称】シックスリング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パーディー、クレイ
(72)【発明者】
【氏名】ワイゼンバーガー、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ウィンニック、カイル、ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン、カール、ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AB07
4L055AB12
4L055AB14
4L055EA32
(57)【要約】
硫酸;アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;および場合により過酸化物;を含む、水性酸組成物。バイオマス処理での当該組成物の使用も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸;
アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;および
過酸化物、
を含む、変性水性酸組成物であって、
ここで、硫酸、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物、および前記過酸化物が、1:1:1以上のモル比で存在する、前記の組成物。
【請求項2】
硫酸、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物、および前記過酸化物が、15:1:1以下のモル比で存在する、請求項1に記載の変性水性酸組成物。
【請求項3】
硫酸;
アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物、
を含む、変性酸組成物であって、
硫酸と、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物とが、3:1以上のモル比で存在する、前記の組成物。
【請求項4】
アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物が、タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記タウリン誘導体又はタウリン関連化合物が、スルファミン酸;タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウロムスチン;5-タウリノメチルウリジンおよび5-タウリノメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;およびタウレート;ならびに、アルキルがC1~C5直鎖アルキルおよびC1~C5分枝アルキルから成る群から選択されるアミノアルキルスルホン酸から成る群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記直鎖アルキルアミノスルホン酸が、メチル;エチル(タウリン);プロピル;及びブチルから成る群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記分岐アミノアルキルスルホン酸が、イソプロピル;イソブチル;及びイソペンチルから成る群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物がタウリンである請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記硫酸と、アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物とが、3:1以上のモル比で存在する、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
植物バイオマスの脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、前記組成物が、
硫酸を、組成物の全重量に対して20~70wt%;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物、および
過酸化物、
を含む、前記組成物。
【請求項11】
植物バイオマスの脱リグニンにおいて使用するための請求項10に記載の組成物であって、前記組成物が、
硫酸を、組成物の全重量に対して40~80wt%;
タウリンおよびその誘導体(タウリン関連化合物など)から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物、
を含み、
前記硫酸と、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物とが、3:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記組成物。
【請求項12】
前記タウリン誘導体又はタウリン関連化合物が、スルファミン酸;タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウロムスチン;5-タウリノメチルウリジン及び5-タウリノメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;及びタウレート;並びにアルキルがC1~C5直鎖アルキル及びC1~C5分枝アルキルから成る群から選択されるアミノアルキルスルホン酸から成る群から選択される、請求項10及び11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
植物バイオマス源からのセルロースの分解に使用するための水性組成物であって、前記組成物が、
硫酸を、組成物の全重量に対して20~70wt%;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分およびスルホン酸部分を含む化合物;および
過酸化物;
を含み、
ここで、前記硫酸と前記アミン含有化合物は、3:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記水性組成物。
【請求項14】
植物バイオマス源からのヘミセルロースの分解に使用するための水性組成物であって、前記組成物が、
硫酸を、組成物の全重量に対して20~70wt%;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物、および
過酸化物;
を含み、ここで、前記硫酸と前記アミン含有化合物は、3:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記水性組成物。
【請求項15】
アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物が、タウリン及びタウリン関連化合物等のその誘導体から成る群から選択される請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物がタウリンである、請求項14から15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
過酸化物が過酸化水素である、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
植物バイオマスまたはバイオマス材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記バイオマス材料を提供すること;
- 必要とする前記バイオマス材料を、
組成物の全重量に対して20~70wt%の硫酸;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;および
過酸化物;を含む組成物に、前記バイオマス材料上に存在するリグニンを実質的に全て除去するのに十分な時間、暴露すること;
を含む、前記方法。
【請求項19】
前記タウリン誘導体またはタウリン関連化合物が、スルファミン酸;タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウロムスチン;5-タウリノメチルウリジンおよび5-タウリノメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;およびタウレート;ならびにアルキルがC1~C5直鎖アルキルおよびC1~C5分枝アルキルから成る群から選択されるアミノアルキルスルホン酸から成る群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記硫酸と、アミン部分とスルホン酸部分を含む前記化合物とが、3:1以上のモル比で存在する、請求項18および19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
過酸化物が過酸化水素である請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、例えば、木材物質の脱リグニンのような酸化による有機物の分解に有用な方法および組成物に関するものであり、より具体的には、現在クラフトプロセスが行われている条件よりも最適な条件でこれを行うための方法および組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
紙の生産で最もエネルギーを消費するのは、パルプの生産である。パルプの原料となる木材やその他の植物には、水だけでなく、セルロース繊維、リグニン、ヘミセルロースの3つの主成分が含まれている。パルプ化には、繊維とリグニンを分離することが第一の目的である。リグニンは3次元のポリマーで、いわば植物内にあるすべての繊維をつなぎとめるモルタルのようなものである。リグニンがパルプに含まれることは好ましくなく、最終製品に何のプラスにもならない。木材のパルプ化とは、チップ、茎、その他の植物の部分など、繊維原料のバルク構造を分解し、構成繊維にすることである。セルロース繊維は、製紙工程で最も必要とされる成分である。ヘミセルロースは、様々な糖質モノマーがランダムに非晶質重合体構造を形成した、より分岐の短い炭水化物ポリマーである。完成パルプ中のヘミセルロースの存在は、セルロースほど紙の剛性に重要ではない。このことは、バイオマス変換にも当てはまる。課題は似ている。ただ、求められる結果が異なるだけである。バイオマス変換では、一価炭水化物へのさらなる分解が望ましい結果となるが、パルプ&ペーパープロセスでは通常、リグニン溶解後すぐに停止する。
【0003】
木材パルプや木質バイオマスの調製には、主に機械的処理と化学的処理の2つのアプローチがある。機械的処理またはパルプ化は、一般的に木材チップを物理的に引き裂き、その結果、セルロース繊維を引き裂き、互いに分離することを目的としている。この方法の欠点は、セルロース繊維が切れたり傷ついたりして繊維が短くなること、セルロース繊維にリグニンが混入したり残留したりして、最終製品に不純物が混入したり残留したりすることである。また、このプロセスは、高圧、腐食性の化学物質、熱を必要とするため、大量のエネルギーを消費し、資本集約的である。化学パルプ化には、いくつかのアプローチやプロセスがある。これらは一般に、リグニンとヘミセルロースを水溶性の分子に分解することに重点を置いている。これらの分解された成分は、セルロース繊維を傷つけることなく、洗浄することによってセルロース繊維から分離される。この化学プロセスは、大量の熱を必要とするため、エネルギー集約型であり、また多くの場合、攪拌や機械的な介入を必要とし、プロセスの非効率性とコストを増大させる。
【0004】
パルプ化の化学的側面とパルプ化の機械的側面を様々な程度に組み合わせたパルプ化または処理方法が存在する。例えば、サーモメカニカルパルプ化(一般にTMPとも呼ばれる)、ケミザーモメカニカルパルプ化(CTMP)などがある。それぞれの一般的なパルプ化法が提供する利点を選択することにより、パルプ化処理の機械的側面で必要なエネルギー量を削減するような処理が行われる。これはまた、これらの組み合わせパルプ化アプローチに供される繊維の強度または引張強度の劣化に直接影響し得る。一般に、これらのアプローチでは、(従来の専用化学パルプ化と比較して)化学処理を短縮し、その後、通常、繊維を分離するための機械的処理を行いる。
【0005】
製紙用パルプの最も一般的な製造方法は、クラフト法である。クラフト工程では、木材チップをほぼ純粋なセルロース繊維である木材パルプに変換する。クラフト工程は、まず木材チップをホワイトリカーと呼ばれる水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含む強アルカリ性の薬液で含浸・処理することから始まる。これは、木材チップを浸漬した後、蒸気で加熱することによって行われる。この工程で木片が膨張し、木片内の空気が抜けて、ホワイトリカーに置き換わる。木質材料を様々な薬液に浸した後、調理を行う。木質チップの脱リグニン化のために、176℃に達する温度で数時間加熱する。この温度でリグニンが分解され、水溶性の断片が生成される。このとき、クラフト工程で発生する副産物として黒液が発生する。黒液には、水、リグニン残渣、ヘミセルロース、無機化学物質が含まれている。残ったセルロース系繊維は、調理工程後に回収・洗浄される。
【0006】
米国特許番号5,080,756は、改良されたクラフトパルプ化プロセスを教示し、有機物を含む使用済み濃硫酸組成物をクラフト回収システムに添加して、回収炉で脱水、熱分解および還元に供されるその全硫黄含有量に富む混合物を提供することを特徴としている。硫酸組成物の有機物は、炉内で起こる酸化および還元反応を促進するために高い熱レベルを容易に維持できる熱エネルギー源として特に有益であり、その結果、パルプ化に適した煮汁の調製に用いられる硫化物が形成される。
【0007】
カロ酸は、ペルオキシモノ硫酸(H2SO5)としても知られ、既知の最強の酸化剤の1つであり、非常に爆発性が高い。カロ酸を調製するための反応はいくつか知られているが、最も簡単な方法の1つは、硫酸(H2SO4)と過酸化水素(H2O2)を反応させるものである。この方法でカロ酸を調製すると、さらに反応させて貴重な漂白剤、酸化剤である一過硫酸カリウム(PMPS)を調製することができる。カロ酸にはいくつかの有用な用途が知られているが、注目すべきは木材の脱リグニン(脱木)用途である。
【0008】
過酢酸はカロ酸同様、硫酸(35%)と共に引火性の蒸気や液体を形成する。したがって、このような混合物を含む反応を加熱すると、可燃性物質と強力な酸化剤が存在する可能性があり、安全上の大きな懸念となり、爆発につながる可能性がある。このような反応性物質の使用は、許容できないリスクプロファイルがあるため、大規模な用途では歓迎されない。カロ酸や過酢酸(硫酸を含む)は腐食性で強い酸化剤であるため、安全性の懸念はほとんど同じである。
【0009】
バイオ燃料の製造も、クラフトプロセスの潜在的な用途のひとつである。バイオ燃料生産の現在の欠点は、炭水化物を合理的に効率的なプロセスで燃料に変換するために、食品等級の植物部分(種子など)を使用する必要があることである。炭水化物は、非食品グレードのバイオマスをクラフト工程で使用することにより、セルロース系繊維から得ることもできるが、クラフト工程は脱リグニンのためにエネルギーを消費するため、商業的にはあまり実行可能な選択肢ではない。植物由来の化学資源サイクルを構築するためには、人間の食料生産と競合しない植物由来の原料を利用できる、エネルギー効率の高いプロセスが非常に必要である。
【0010】
クラフトパルプ製造プロセスは、世界で最も広く使用されている化学パルプ製造プロセスであるが、非常にエネルギーを必要とし、例えば、パルプ製造工場の周囲にかなりの臭気を放ち、多くの紙パルプ製造管轄区域で現在強く規制されている一般排出物などの欠点もある。気候変動の原因となる現在の環境問題や、実施されつつある排出料金または税金を考慮すると、現在のパルプ化プロセスを最適化して、その製造中に環境に悪影響を及ぼすことなく、高品質の繊維を経済的に提供することが強く望まれる。したがって、現在使用されているものよりも低い温度と圧力で木材物質に対して脱リグニンを行うことができ、大幅な追加資本支出を必要としない組成物の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明の一態様によれば、下記の変性水性酸組成物が提供される:
硫酸;
アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;および
過酸化物;
を含み、
ここで、硫酸、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物、および前記過酸化物は、1:1:1を下回らないモル比で存在する、変性水性酸組成物。
【0012】
好ましい実施形態によれば、前記硫酸、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物、および前記過酸化物は、15:1:1を超えないモル比で存在する。
【0013】
本発明の別の態様によれば、下記の変性酸組成物が提供される:
硫酸;
アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;
を含み、
ここで、硫酸と、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物とが、3:1以上のモル比で存在する、変性酸組成物。
【0014】
好ましくは、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物は、タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択される。好ましくはまた、前記タウリン誘導体またはタウリン関連化合物は、以下から成る群から選択される:スルファミン酸;タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウロムスチン;5-タウリノメチルウリジンおよび5-タウリノメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;およびタウレート;ならびにアルキルがC1~C5線形アルキルおよびC1~C5分枝アルキルから成る群から選択されるアミノアルキルスルホン酸。好ましくは、直鎖アルキルアミノスルホン酸は、メチル;エチル(タウリン);プロピル;およびブチルから成る群から選択される。好ましくは、分枝状アミノアルキルスルホン酸は、イソプロピル;イソブチル;およびイソペンチル以下から成る群から選択される。
【0015】
最も好ましくは、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物は、タウリンである。
【0016】
好ましい実施形態によれば、前記硫酸と、アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物とが、3:1以上のモル比で存在する。
【0017】
本発明の別の態様によれば、下記の水性組成物が提供される:
木材又は木質パルプの脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、
硫酸を20~70wt%;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;および
過酸化物;
を含む、前記組成物。
【0018】
好ましくは、組成物は1未満のpHを有し、より好ましくは、組成物は0.5未満のpHを有する。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、下記の組成物が提供される:
木材の脱リグニンにおいて使用するための組成物であって、
硫酸を40~80wt%;
タウリンおよびその誘導体(タウリン関連化合物など)から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;
を含み、
ここで、前記硫酸と前記アミン含有化合物は、3:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記組成物。
【0020】
好ましくは、前記タウリン誘導体又はタウリン関連化合物は、以下から成る群から選択される:タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウラムスチン;5-タウリノメチルウリジン及び5-タウリノメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;及びタウレート。
【0021】
本発明の別の態様によれば、下記の水性組成物が提供される:
植物源からセルロースを分解または分離する際に使用するための水性組成物であって、
硫酸を20~70wt%;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物、および
過酸化物;
を含み、
ここで、前記硫酸と前記アミン含有化合物は、3:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記組成物。好ましくは、アミン部分とスルホン酸部分とを含む前記化合物は、タウリンである。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、過酸化物は、過酸化水素である。
【0023】
本発明の別の態様によれば、下記の方法が提供される:
植物材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記バイオマス材料を提供すること;
- 必要とする前記バイオマス材料を、
硫酸を20~70wt%;
タウリン;タウリン誘導体;およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物;および
過酸化物;を含む組成物に、前記バイオマス材料上に存在するリグニンを実質的に全て除去するのに十分な時間、暴露すること;
を含む、前記方法。
【0024】
タウレートは、マイルドで泡立ちの良い界面活性剤として、ボディクレンザーやパーソナルケア製品、湿潤剤、洗剤、染料分散剤などの繊維加工、作物保護製剤やその他の産業用途に使用されている。
【0025】
本発明者らは、木材材料(例えば、木材チップまたは他の一般的なバイオマスに限定されない)の脱リグニンは、従来のクラフトパルプ化中に使用される温度よりも実質的に低い温度で起こり得ることを発見した。実際、いくつかの実験は、好ましい組成物を用いて18~21℃の範囲の平均室温で行われ、本発明によれば、木材チップ上に存在するリグニンを分解して、セルロース繊維を非常に効率的に遊離させることが示された。本発明による方法の別の好ましい実施形態によれば、木材サンプルは、本発明の好ましい実施形態による組成物への曝露時に30℃で溶解された。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の好ましい組成物を含む方法を適用することによって、パルプ脱リグニンにおいて現在排出されているエネルギーコスト、関与する資本コストを大幅に削減し、関連する排出物を大幅に削減することができる。本発明による方法の別の好ましい実施形態によれば、バイオマスは、本発明の好ましい組成物への曝露時に0℃で溶解され得る。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の好ましい組成物の時間と温度とモル比に依存する多段階プロセスが提供され、ここで溶解の別々の段階は下記を達成する:
1.脱リグニン;
2.ヘミセルロースの溶解;および
3.結晶性セルロースの溶解。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図面の簡単な記述
本発明は、添付図と関連した本発明の様々な実施形態の以下の説明を考慮すると、より完全に理解され得る。
【
図1-6】
図1は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が1分であることを比較した写真である。
図2は、過酸化物存在下での硫酸中での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物存在下での本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が1分であった場合の比較写真である。
図3は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が8分の場合の比較写真である。
図4は、過酸化物存在下での硫酸での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物存在下での本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が5分であった場合の比較写真である。
図5は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が16分であることを比較した写真である。
図6は、過酸化物存在下での硫酸での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物存在下での本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が10分であった場合の比較写真である。
【
図7-12】
図7は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が26分であった場合の比較写真である。
図8は、過酸化物の存在下における硫酸での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物の存在下における本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が15分であった場合の比較写真である。
図9は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が39分であった場合の比較写真である。
図10は、過酸化物存在下での硫酸での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物存在下での本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が25分であった場合の比較写真である。
図11は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が44分であった場合の比較写真である。
図12は、過酸化物の存在下における硫酸での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物の存在下における本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が40分であった場合の比較写真である。
【
図13-14】
図13は、木材チップの硫酸への溶解(右ビーカー)と本発明による組成物(左ビーカー)の経過時間が60分である場合の比較写真である。
図14は、過酸化物の存在下における硫酸での木材チップの溶解(右ビーカー)と、過酸化物の存在下における本発明による組成物(左ビーカー)の、経過時間が60分であった場合の比較写真である。
【
図15】
図15a~
図15hは、従来のカロ酸組成物に最大45分間曝された鶏の皮膚を示す一連の写真であり;そして
【
図16】
図16a~
図16iは、本発明の好ましい実施形態による変性カロ酸組成物に最大75分間曝露された鶏の皮膚を示す一連の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
本発明の好ましい実施形態による水性酸性組成物を用いて行われた実験は、木質バイオマスを制御された反応条件下で脱リグニンし、セルロースの劣化をなくすか、少なくとも最小限に抑えることができることを明らかにした。劣化とは、セルロースの黒化または炭化(カーボンブラックへの変換)を意味すると理解され、これは、セルロースへの制御されない酸攻撃およびその染色を象徴するものである。
【0029】
好ましくは、本発明による組成物は、以下を含む:
硫酸;および
タウリン;タウリン誘導体およびタウリン関連化合物から成る群から選択されるアミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物。
【0030】
好ましくは、タウリン誘導体およびタウリン関連化合物は、以下を含むと理解される:スルファミン酸;タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウラムスチン;5-タウリンメチルウリジンおよび5-タウリンメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;およびタウレート、ならびにアルキルがC1~C5直鎖アルキルおよびC1~C5分枝アルキルを含むグループから選ばれたアミノアルキルスルホン酸。好ましくは、直鎖アルキルアミノスルホン酸は、メチル;エチル(タウリン);プロピル;およびブチルから成る群から選択される。好ましくは、分枝状アミノアルキルスルホン酸は、以下から成る群から選択される:イソプロピル;イソブチル;およびイソペンチル。
【0031】
好ましい実施形態によれば、タウリン誘導体およびタウリン関連化合物は、以下から成る群から選択される:タウロリジン;タウロコール酸;タウロセルコール酸;タウロムスチン;5-タウリノメチルウリジンおよび5-タウリノメチル-2-チオウリジン;ホモタウリン(トラミプロサート);アカンプロサート;およびタウレート。
【0032】
最も好ましくは、アミン部分とスルホン酸部分とを含む化合物がタウリンであることである。
【0033】
本発明の好ましい実施形態による組成物を用いて木材の脱リグニンを行う場合、プロセスは、従来のクラフトパルプ化プロセスで使用される温度よりも実質的に低い温度で実施することが可能である。利点は相当なものであり、ここではそのいくつかを挙げる:現在のクラフトパルプ化プロセスは、脱リグニン工程を行うために176~180℃付近の温度を必要とするが、本発明によるプロセスの好ましい実施形態は、はるかに低い温度、場合によっては20℃とさえ低い温度で木材を脱リグニンすることが可能である。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、0℃という低い温度で実施することができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、10℃という低い温度で実施することができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、30℃という低い温度で実施することができる。本発明の別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、40℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、50℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、60℃と低い温度で実施することができる。
【0034】
上記の好ましい実施形態の各1つにおいて、工程が実施される温度は、現在のエネルギー集約的で非効率的なクラフト工程よりも実質的に低い温度である。
【0035】
さらに、クラフトプロセスは、最初に資本集約的で、危険で、維持費が高く、関連するターンアラウンドまたは維持費が高い木材の脱リグニンを実行するために高圧を使用する。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、大気圧で実行することができる。このことは、ひいては、圧力容器/消化器のような高度に専門的で高価な産業機器の必要性を回避することになる。それはまた、クラフトプラントの実施が様々な理由のために以前は実行不可能であった世界の多くの地域での脱リグニン装置の実施を可能にする。
【0036】
従来のクラフトプロセスに対する本発明の好ましい実施形態によるプロセスの利点のいくつかは、後者のための熱/エネルギー要件が大きな汚染源であるだけでなく、得られるパルプ製品が非常に高価であり、高い初期資本要件を有する理由の大部分であるため、相当なものである。本発明の好ましい実施形態によるプロセスの実施におけるエネルギー節約は、より低価格のパルプに反映されるであろうし、環境上の利点は、即効性とすべての人のための長期的な多世代にわたる利点の両方を有するであろう。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によるプロセスの完全または部分的な実施におけるさらなるコスト削減は、高温高圧パルプ消化器の操作に対する制限的な規制がない、または最小化されることに見出すことができる。
【0038】
例1
脱リグニン試験に使用した本発明の好ましい実施形態による組成物は、1モル当量のタウリンを硫酸に溶解し、その後過酸化水素を添加することにより調製した。最終的な組成物は、硫酸:タウリン:過酸化水素を、5:1.7:1.0のモル比で構成される。好ましくは、組成物の得られるpHは1未満であり、より好ましくは、組成物の得られるpHは0.5未満である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、当該組成物は、当該組成物を混合して7日後に25%超の過酸化物収率を提供する。より好ましくは、過酸化物パーセント収率は、当該組成物を混合して2週間後に35%以上である。
【0040】
脱リグニン実験
本発明による組成物の好ましい実施形態は、木材チップの脱リグニンにおけるその力を決定するために試験された。
【0041】
実験は、約0.2gの木材と約20gの溶液を用いて完了した。混合物は、温度30℃で200rpmで撹拌した。
【0042】
図1、3、5、7、9、11及び13は、硫酸の存在下での木材チップの溶解(全ての写真において右ビーカー)を、本発明の好ましい実施形態による組成物(全ての写真において左ビーカー)と比較したものである。当該好ましい実施形態による組成物は、硫酸とタウリンを3:1の割合で含んでいる。実験の最初から、右ビーカーが積極的な酸化によるカーボンブラックの生成の証拠を示したことを指摘するのは注目すべきことである。これは、硫酸が木片に含まれるリグニンを分解するだけでなく、セルロース系物質をかなり急速に分解してカーボンブラックを生成したことを示している。この効果は、60分経過するまでの実験時間中、継続している。左側のビーカーでは、溶液が徐々に黒くなっており、これもセルロース系材料がカーボンブラックに分解された証拠であるが、反応は大幅に鈍化し、8分経過した時点で溶液の色は非常に薄くなっている。よく観察すると、16分経過した時点でも、1分経過した時点の硫酸のみの溶液よりも薄い変色を呈していることがわかる。
【0043】
図2、4、6、8、10、12および14は、硫酸および過酸化水素の存在下での木材チップの溶解(すべての写真において右ビーカー)を、過酸化水素をも含む本発明の好ましい実施形態による組成物(すべての写真において左ビーカー)と比較したものである。1分後、硫酸/過酸化水素溶液は、いくらかの着色が現れ始めているものの、まだかなり透明であることが観察される。この着色は、溶液中に残留しているカーボンブラックを示すものである。本発明の好ましい組成物を含むビーカーでは、溶液は1分後でも透明である。実際、60分後でさえ、好ましい実施形態の溶液は透明なままである。硫酸ビーカーに関しては、溶液は5分の時点で幾分暗くなり、その時点からもはやそれ以上劣化しないようである。
【0044】
上記の実験は、本発明による組成物が、植物材料を脱リグニンするための適切な溶解酸を提供するだけでなく、セルロース系材料のカーボンブラック残留物への究極の分解を制御する上で貴重であり、その結果、作業者により高い収率をもたらし、したがって、排出物および社員、契約業者および公衆に対するリスクを低減しながら収益性を増大することを明確に示すものである。
【0045】
木材パルプからグルコースを得る方法は、そのような変換が化学的、エネルギー的、および排出を集約し、コストがかかり、特に大規模な操作において高効率の結果をもたらさない一方で危険である現在のプロセスに対する重要な進歩を意味するものである。木質パルプを脱リグニンできる組成物を採用することが望ましいが、効率と収率を向上させ、安全性を高め、全体コストを削減するために、セルロースをカーボンブラックに分解するのではなく、保存するためにオペレーターがある程度制御できるようにすることも望ましい。
【0046】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、リグニンの分離を達成することができ、得られたセルロース繊維をさらに処理してグルコースモノマーを得ることができる。グルコース化学は、ジアセトニド、ジチオアセタール、エタノール、グルコシド、グルカルおよびヒドロキシグルカルを含むがこれらに限定されない広く使用される化学物質の調製の出発ブロックとして、多数の用途を有する。
【0047】
脱リグニンの追加実験
硫酸,タウリンおよび過酸化水素をタウリン濃度が低くなるように混合し,バイオマス(木材チップ)と常温で一晩反応させ,モル比の変化が反応範囲に及ぼす効果を評価した。バイオマスの代わりにクラフトリグニンまたはセルロースのみを添加した混合物についても対照試験を実施した。市販のリグニン(Sigma-Aldrich; Lignin, kraft; Prod# 471003)を試験における対照として使用した。市販のセルロース(Sigma-Aldrich; Cellulose, fibers (medium); Prod# C6288)も、試験における対照として使用された。
【0048】
各ブレンドの固相を20時間の反応時間後に濾過し、水で洗浄した後、45℃のオーブンで一定重量まで乾燥させた。すべてのデータは、3回繰り返した実験の平均値である。効果的なブレンドは、すべてのリグニンを溶解し、セルロースを可能な限り無傷で残す必要がある。実験結果を以下の表1に報告する。
【0049】
【0050】
硫酸(96%濃度で使用):タウリン:過酸化水素(30%溶液として)のモル比が3:1:3のブレンドでは、木材から40%、セルロースから86%の質量回収が得られ、リグニンは皆無であった。すべてのリグニンはブレンドに溶解されるほど分解された。タウリン濃度を10:1:10または15:1:15に下げても、固形物回収の結果に大きな変化はないことが注目された。最低濃度でもタウリンは硫酸の効果的な遅延剤であり、反応混合物を安定させる。
【0051】
皮膚腐食性試験
本発明の好ましい実施形態による組成物の即時腐食性を評価するために、鶏皮を用いて視覚的比較評価を実施した。つの鶏皮サンプルを、2つのビーカーの開口部の上に固定した。第1の皮膚サンプルは、硫酸(H2SO4)と過酸化水素(H2O2)の溶液に曝された。第2の皮膚サンプルは、本発明の好ましい実施形態による組成物、すなわち硫酸;タウリン;および過酸化水素(H2O2)(5.0:1.7:1.0のモル比)に暴露された。
【0052】
図15a-
図15h(標準的なH
2SO
4-H
2O
2溶液で処理した皮膚を示す)は、0、4、6、10、15、30および45分の時間における腐食性の結果を示している。
図16a-
図16i(上述のH
2SO
4-タウリン-H
2O
2組成物で処理した皮膚を示す)は、0、5、10、15、30、45、60および75分の時間における腐食性の結果を示している。従来のカロ酸および(硫酸:タウリンのモル比が3:1)の間のこの経皮腐食性試験比較は、本発明の好ましい実施形態による組成物の安全性の利点を強調するものである。カロ酸および変性カロ酸における硫酸濃度はそれぞれ約80wt%および60wt%であり、一方、過酸化水素濃度は同等であった。
【0053】
従来のカロ酸では、約5.5分後にブレークスルーが発生する。5.5分後である。記載され試験された好ましい実施形態による変性カロ酸は、約45分後に皮膚サンプルを突破するが、突破の程度は従来のカロ酸に比べはるかに小さい。これはOECDが認めた公式の試験ではないにもかかわらず、この試験は、本発明の実施形態による変性カロ酸に誤ってさらされた人が、不可逆的な皮膚損傷およびさらなる損傷を最小限に抑えるために安全なシャワーを見つけるために利用できる時間が著しく長いという利点を明確に強調する。
【0054】
カロ酸の滴定と本発明の好ましい組成物の滴定
本発明者らは、カロ酸(H2SO4:H2O2のモル比 5.57:1)と変性カロ酸(H2SO4:タウリン:H2O2のモル比 5.0:1.7:1.0)の両方を氷浴と一定の撹拌を用いて合成し、滴定を行った。この組成物は、30℃の一定温度で水浴中にキャップをして、密閉せずに保存される。
【0055】
H2O2の濃度を決定するために,標準化されたKMnO4溶液に対して溶液を滴定した。滴定手順は以下の通りである:
1. dH2Oを約245mL、96%H2SO4を5mL添加した溶液を調製。
2. カロ酸/変性カロ酸の約1gを分析天秤で測定し、記録する。
3. H2SO4希釈した溶液を用いて、測定したカロ酸/修正カロ酸を300mL三角フラスコに定量的に移し替える。
4. 溶液は、滴定中に磁気撹拌板/撹拌棒と絶えず混合される。
5. 標準化KMnO4溶液を用いて、少なくとも1分間持続するピンク色が現れるまで滴定を行う。
【0056】
滴定サンプルに含まれるH2O2のモル数と合成に使用したH2O2のモル数から、収率パーセントを算出する。
【0057】
【0058】
カロ酸と変性カロ酸を比較すると、変性カロ酸は合成後のH2O2の活性が著しく高く、その活性を長期間(少なくとも27日間)保持する。結果として、製品の保存期間が著しく長くなり、作業効率が上がり、期限切れ製品による廃棄物が最小化されることがわかる。
【0059】
バッチプロセス-使用したブレンド:H
2
SO
4
:H
2
O
2
:スルファミン酸のモル比は10:10:1。
先に議論したようなプロセスにおける本発明の好ましい実施形態による組成物の使用をスケールアップするために、バッチプロセスを実施した。バッチプロセスの調製のために、3,301gの硫酸(93%)を大型ガラス反応器(公称容積10L)に入れ、304gのスルファミン酸を添加した。この混合物をオーバーヘッドテフロン(登録商標)パドルスターラーで100RPMで攪拌した。次に、3,549gの過酸化水素溶液(29%)を変性酸にゆっくりと(1~1.5時間)添加した。ブレンドの温度が40℃を超えないように、反応器を冷却して発生する熱を放散させた。過酸化水素の添加後、846gの水を混合物に加え、ブレンドを周囲温度に平衡化するために放置した(約30分)。モルブレンド比(添加順)は、10:1:10であった。400gのサイズ未調整の木屑(オガクズ)を反応器にゆっくりと加えた(10分間)。温度上昇をモニターした。反応器の温度が50℃に達したとき、反応器を26℃の温度まで冷却した。この後、冷却はもはや必要なかった。反応を20時間行った後、反応混合物を20μmのテフロン(登録商標)フィルターシートを有するフィルターシステムに移した。濾液を捨て、残ったフィルターケーキを12リットルの水で、流出液が約6のpH値になるまで洗浄した。フィルターケーキは、オーブン乾燥(45℃)で一晩乾燥させた。添加したバイオマスと比較したセルロース収率は42.6%であった。
【0060】
得られたセルロースの炭化水素含有率は94.9%であり、比較のために用いたシグマ-アルドリッチ社のセルロースLot# WXBC9745V-95.7%標準に近い値であった。水分量は2.22%であり、比較のために用いたシグマ・アルドリッチ社のセルロースLot# WXBC9745V-3%標準に近い値であることがわかる。また、Kappa# = 0であり、試料中にリグニンが残存していないことを意味する。X線回折を行ったところ、見かけの結晶化度は58.2%で、以前試験した数値と一致し、Aldrich社の市販セルロースは62.9%と測定された。走査型電子顕微鏡で観察したところ、Sigma-Aldrich社の製品よりも高い繊維含有率であることが分かった。
【0061】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本組成物は、水処理、浄水及び/又は脱塩に用いられるような酸化による有機物の分解に使用することができる。この例としては、ろ過膜上の藻類の除去(すなわち、破壊)が挙げられる。ろ過膜は高価であるため、できるだけ長く使用することが望まれる。しかし、膜に付着した有機物を除去することは難しく、膜にダメージを与えずに効率よく除去するためには、新しいアプローチが必要である。鉱酸は強すぎるため、有機物を除去することはできるが、ろ過膜にダメージを与えることになる。本発明の好ましい組成物は、鉱酸よりも攻撃性が低いので、この問題を改善し、その結果、はるかに穏やかなアプローチで有機汚染物質を除去し、したがって膜を免れることになる。
【0062】
前述の発明は、明確さと理解のためにある程度詳細に説明されているが、関連する技術分野の当業者であれば、一旦この開示に精通すれば、添付の請求項に記載の発明の真の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更を行うことができることが理解されよう。
【国際調査報告】