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▶ ニロン マグネティクス,インコーポレイティドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】異方性窒化鉄永久磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/10 20060101AFI20230405BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20230405BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20230405BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230405BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230405BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20230405BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20230405BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20230405BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230405BHJP
【FI】
H01F1/10
H01F1/113
H01F1/11 120
B22F3/00 C
B22F1/00 Y
B22F1/17 100
B22F1/16 100
B22F1/054
B22F1/14 400
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549862
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 US2021019100
(87)【国際公開番号】W WO2021168438
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】62/979,668
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/080,144
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521509240
【氏名又は名称】ニロン マグネティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】フランシス ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ダブリュ.グレガー
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エム.ラーソン
(72)【発明者】
【氏名】イーミン ウー
(72)【発明者】
【氏名】ファン チャン
(72)【発明者】
【氏名】キャスリン サラ ダミアン
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC22
4K018BC28
4K018BD01
4K018KA46
5E040AB01
5E040BB03
5E040CA01
5E040NN02
5E040NN06
5E040NN15
(57)【要約】
本明細書で開示されているのは、複数の整列した窒化鉄ナノ粒子であって、窒化鉄ナノ粒子がα’’-Fe16相ドメインを含み;整列した窒化鉄ナノ粒子についての、α’’-α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が、少なくとも7%より大きく、回析ベクトルが整列方向に対して平行である整列した窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石において、窒化鉄ナノ粒子が、整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きい整列方向に平行に測定された角形性を示す、永久磁石である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の整列した窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石であって、
前記窒化鉄ナノ粒子がα’’-Fe16相ドメインを含み;
回析ベクトルが整列方向に対して平行である場合に、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が、少なくとも7%より大きく、
前記窒化鉄ナノ粒子が、前記整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きい前記整列方向に平行に測定された角形性を示す、
永久磁石。
【請求項2】
前記整列した窒化鉄ナノ粒子が、ワイヤ、薄いシート又はテープとして形成されており、前記ワイヤ、薄いシート又はテープが結合されて前記永久磁石を提供する、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも50%よりも大きい、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項4】
α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも100%よりも大きい、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項5】
前記窒化鉄ナノ粒子が、0.50より大きい前記整列方向に平行に測定された角形性を示す、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項6】
前記窒化鉄ナノ粒子が、0.75より大きい前記整列方向に平行に測定された角形性を示す、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項7】
前記窒化鉄ナノ粒子が、0.9より大きい前記整列方向に平行に測定された角形性を示す、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項8】
α’’-Fe16相を含む整列した異方性ナノ粒子の集団とバインダーとを含むナノコンポジットであって、
前記ナノコンポジットは、前記異方性ナノ粒子の整列方向に対して垂直な方向で観察された角形性よりも大きい平行方向で測定された角形性を示し、
前記ナノコンポジットは、回折ベクトルが前記整列方向に平行である場合に、回析パターンにおけるα’’-Fe16(202)ピークの強度よりも大きいα’’-Fe16(004)ピークの強度を有するX線回折パターンを示す、
ナノコンポジット。
【請求項9】
前記バインダーがポリマー材料を含む、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項10】
前記ポリマー材料が、エポキシ系、アクリル系、アクリレート系、ビスマレイミド系、エステル系、ウレタン系、スチレン系、ポリビニルアルコール系、ポリ酢酸ビニル系、酢酸セルロース系、エチルセルロース系、ポリカーボネート系、ポリエステル系、シンジオタクチックポリスチレン系のポリマー材料、又はそれらの組み合わせを含む、請求項9に記載のナノコンポジット。
【請求項11】
前記ナノコンポジットに対する前記ナノ粒子の質量分率が、80%~95%の範囲内にある、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項12】
前記ナノコンポジットに対する前記ナノ粒子の前記質量分率が、85%~95%の範囲内にある、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項13】
前記ナノコンポジットに対する前記ナノ粒子の前記質量分率が、90%~95%の範囲内にある、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項14】
前記ナノコンポジットに対する前記ナノ粒子の体積分率が、40%~75%の範囲内にある、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項15】
前記ナノコンポジットに対する前記ナノ粒子の前記体積分率が、50%~75%の範囲内にある、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項16】
前記ナノコンポジットに対する前記ナノ粒子の前記体積分率が、60%~75%の範囲内にある、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項17】
190emu/gより大きい飽和磁化MSat及び2,500Oeより大きい保持力Hcを有することを特徴とする、複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【請求項18】
前記複数の窒化鉄ナノ粒子は、さらに、全体的に均一な相組成を有することを特徴とし、前記複数の窒化鉄ナノ粒子は、高質量分率のα’’-Fe16相と低質量分率のα-Fe相及びε-Fe2-3N相とを含む、請求項17に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【請求項19】
前記α’’-Fe16相の質量百分率が少なくとも70%である、請求項18に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【請求項20】
前記窒化鉄ナノ粒子が、炭素、ホウ素、酸化アルミニウム、銅金属、又はアルミニウム金属のうちの1種以上で被覆されている、請求項17に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【請求項21】
複数の窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石であって、約12.5kG~約14kGの範囲内の飽和磁化MSatを有することを特徴とする永久磁石。
【請求項22】
前記窒化鉄ナノ粒子が、マトリックス中で磁気的に整列され、結合されている、請求項21に記載の永久磁石。
【請求項23】
前記ナノ粒子は、さらに、全体的に均一な相組成を有することを特徴とし、前記ナノ粒子は、高質量分率のα’’-Fe16相と、低質量分率のα-Fe相及びε-Fe2-3N相とを含む、請求項21に記載の永久磁石。
【請求項24】
前記α’’-Fe16相の質量百分率が少なくとも70%である、請求項23に記載の永久磁石。
【請求項25】
前記窒化鉄ナノ粒子が、炭素、ホウ素、酸化アルミニウム、銅金属又はアルミニウム金属のうちの1種以上で被覆されている、請求項21に記載の永久磁石。
【請求項26】
前記窒化鉄ナノ粒子の少なくとも一部分が、解凝集された個別の一次粒子であることを特徴とする、請求項21に記載の永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2020年2月21日に出願された米国仮出願第62/979,668号、及び2020年9月18日に出願された米国仮出願第63/080,144号の優先権を主張する。各出願の開示全体は、全ての目的のために、参照により本明細書に援用する。
【0002】
発明の属する分野
開示される発明は、窒化鉄磁性材料の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
永久磁石は、再生可能エネルギー技術に高い効率と信頼性を提供することができる。希土類永久磁石は、一般的に、供給上の制約及び高価格という障害がある。より豊富に存在し戦略的重要性の低い元素から形成された新規の磁石が、希土類磁石に取って代わることが望まれており、α’’-Fe16などの材料が、かかる「希土類フリー」の磁石の望ましい候補である。
【0004】
永久ナノコンポジット磁石は、固化(consolidation)によって、個別のナノ粒子から製造することができる。マトリックス中にナノ粒子を固定するバインダーを使用することができる。ナノ粒子が充分に大きい磁気異方性を有する場合、固化の前及び/又は固化の間にナノ粒子を整列させるために外力を用いることができる。しかしながら、静電力及び電磁力は、一般的に、組み合わさって、ナノ粒子を、典型的には多孔質で比較的大きなナノ粒子クラスターである凝集体にする。これらの凝集体は、外部の整列力に応答して回転する個別のナノ粒子の能力を妨害するおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、希土類フリーの磁石を製作するための処理中にナノ粒子が凝集する傾向を克服する希土類フリーの異方性永久磁性材料に対するニーズが依然として存在する。開示される発明は、これらの及び他の重要なニーズに向けられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
さまざまな例において、本開示は、複数の整列した窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石について記載する。整列した窒化鉄ナノ粒子は、α’’-Fe16相ドメインを含み得る。窒化鉄ナノ粒子は、回析ベクトルが整列方向に対して平行である場合に、少なくとも7%より大きい、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比を示し得る。さらに、窒化鉄ナノ粒子は、整列方向に対して垂直に測定された角形性(squareness)よりも大きい整列方向に平行に測定された角形性を示し得る。
【0007】
本開示は、開示される窒化鉄ナノ粒子と好適な溶媒とを含む分散体も記載する。
【0008】
さらに、本開示は、開示される窒化鉄ナノ粒子と好適なバインダーとを含むナノコンポジットを記載する。
【0009】
さらに、本開示は、本開示に記載の技術のいずれかにより作られた異方性窒化鉄ナノ粒子を含むワークピースについて記載する。ワークピースは、例えば、ワイヤ、ロッド、テープ、バー(bar)、管(conduit)、中空管(hollow conduit)、フィルム、シート又は繊維などの多くの形態をとることができ、これらの各々は、多種多様な断面形状及びサイズ、並びにそれらの任意の組み合わせを有し得る。
【0010】
開示される窒化鉄ナノ粒子の形成方法及びそれを含む物品の形成方法がさらに本開示に記載されている。
【0011】
一般的説明及び以下の詳細な説明は、単に例示及び説明のためのものにすぎず、添付の特許請求の範囲に規定されるとおりの本発明を限定するものではない。本発明の他の態様は、本開示で提供されているとおりの本発明の詳細な説明から、当業者に明らかであろう。1つ以上の例の詳細は、添付図面及び以下の説明に記載されている。他の特徴、目的及び利点は、明細書及び図面から、また、特許請求の範囲から明らかであろう。
【0012】
発明の概要ならびに以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことによってさらに理解される。本発明を例示する目的で、本発明の例示的実施形態が図面に示されている。しかしながら、本開示は、開示されている特定の方法、組成物及び装置に限定されない。さらに、図面は必ずしも原寸に比例して描かれているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、試料S5について測定したヒステリシスループを示す。測定は、整列磁場方向に平行な方向(実線)及び垂直な方向(破線)の両方において行なった。
【0014】
図2図2は、試料S5について測定されたX線回析パターンを示す。回折ベクトルの向きは整列方向に平行である。
【0015】
図3図3は、比較用試料CS6について測定されたヒステリシスループを示す。測定は、整列磁場方向に平行な方向(実線)及び垂直な方向(破線)の両方において行なった。挿入図は、下降曲線が垂直軸と交差する部分を中心とするヒステリシスループの領域を示す。
【0016】
図4図4は、比較用試料CS6について測定されたX線回折パターンを示す。回折ベクトルの向きは整列方向に平行である。
【0017】
図5図5は、試料S8について測定されたヒステリシスループを示す。測定は、整列磁場方向に平行な方向(実線)及び垂直な方向(破線)の両方において行なった。挿入図は、下降曲線が垂直軸と交差する部分を中心とするヒステリシスループの領域を示す。
【0018】
図6図6は、試料S8について測定されたX線回折パターンを示す。回折ベクトルの向きは整列方向に平行である。
【0019】
図7図7は、試料S16について測定されたヒステリシスループを示す。測定は、整列磁場方向に平行な方向(実線)及び垂直な方向(破線)の両方において行なった。試料ホルダーに由来する反磁性寄与はヒステリシスループから差し引いた。挿入図は、下降曲線が垂直軸と交差する部分を中心とするヒステリシスループの領域を示す。
【0020】
図8図4は、試料S16について測定されたX線回折パターンを示す。回折ベクトルの向きは整列方向に平行である。
【0021】
図9図9は、本発明に係る例示的実施形態を示す。
【0022】
図10図10は、例示的実施形態に係るナノ粒子の解凝集を示す。
【0023】
図11図11は、凝集したナノ粒子の説明図を示す。
【0024】
図12-1】図12は、凝集したナノ粒子の説明図を示す。
図12-2】図12の続き。
【0025】
図13図13は、磁気特性に及ぼすミリングの効果を示す。
【0026】
図14図14は、相分布に及ぼすミリングの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示は、本開示の一部を成す添付の図面及び実施例と関連して以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解できるものである。本開示は、本開示で説明及び/又は図示されている具体的装置、方法、用途、条件又はパラメーターに限定されないこと、並びに本開示で使用される用語は、特定の例を説明するためのものであり、特許請求の範囲を限定するよう意図されたものではないことを理解すべきである。値の範囲が表現されている場合、別の例は、一方の特定の値から、及び/又は他方の特定の値までが含まれる。同様に、値が先行詞「約」の使用により近似として表現されている場合、特定の値が別の例を形成すると理解されるであろう。全ての範囲は、包含的で組み合わせ可能である。さらに、ある範囲内に記載された値に対する言及には、その範囲内の各々全ての値が含まれる。
【0028】
明確さのため本開示で別個の例の文脈で説明されている本開示のいくつかの特徴は、単一の例で組み合わされて提供されてもよいということが理解されるべきである。反対に、表現の簡略化のために単一の例の文脈で説明されている本開示のさまざまな特徴は、別個に又は任意の部分的組み合わせの形でも提供され得る。
【0029】
同様に、本開示で使用される用語は、特定の態様を説明するためだけのものであって、限定することを意図したものでないということも理解されるべきである。本明細書中及び特許請求の範囲中で使用される「を含む(comprising)」なる用語は、「から成る(consisting of)」及び「実質的に~からなる(consisting essentially of)」の実施形態を含み得る。別段の定義がない限り、本開示中で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。本明細書中及び添付の特許請求の範囲において、多くの用語が言及されており、それらは本開示において定義されるものとする。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈から明らかな別段の断りがない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「a thermoplastic polymer component(熱可塑性ポリマー成分)」に対する言及には、2種以上の熱可塑性ポリマー成分の混合物が含まれる。本開示で使用される「組み合わせ」なる用語は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などを包含する。
【0031】
本開示中では、範囲が1つの値(第1の値)から別の値(第2の値)までとして表現され得る。このような範囲が表現された場合、この範囲には、いくつかの態様において第1の値と第2の値の一方又は両方が含まれる。同様に、値が先行詞「約」の使用により近似として表現されている場合、特定の値が別の態様を形成すると理解されるであろう。さらに、各範囲の端点は、他方の端点との関係において、及び他方の端点とは独立に、重要でであることが理解されるであろう。同様に、本開示では多くの値が開示されていること、及び各値は本開示において当該値自体に加えてその特定の値の「おおよそ」の値としても開示されていることが理解されるべきである。例えば、値「10」が開示されている場合には、「約10」も同様に開示されている。2つの特定の単位の間の各単位も開示されていると理解されるべきである。例えば10及び15が開示されている場合には、11、12、13及び14も開示されている。
【0032】
本開示中で使用される「約~」及び「~又は約~」なる用語は、対象となっている量又は値が、指定値、おおよそのその指定値、又はその指定値とおおよそ同じ値であることができることを意味する。本開示で使用される場合、別段の断り又は暗示のない限り、それは、示された公称値±10%の変動値であるものと一般的に理解されるべきである。この用語は、類似の値が特許請求の範囲に記載されたのと同等の結果又は効果を促すことを伝えることを意図している。すなわち、量、サイズ、配合、パラメーター及び他の数量及び特徴が正確でなく、正確である必要もなく、必要に応じておおよそのものであり、及び/又はより大きいもの又はより小さいものであることができ、公差、換算係数、丸め方、測定誤差など、及び当業者に知られている他の因子を反映し得るということが理解されるべきである。概して、量、サイズ、配合、パラメーター又は他の数量又は特徴は、そのように明示的に記載されているか否かに関わらず、「約」又は「おおよそ」である。「約」が定量値の前に使用される場合、そのパラメーターは、具体的に別段の記載のない限り、この具体的定量値自体も内含する。
【0033】
本開示で使用される「任意選択の(optional)」又は「任意選択的に(optionally)」なる用語は、その後に記載された事象又は状況があり得るか又はあり得ないことを意味し、本詳細な説明は、前記事象又は状況がある事例及びそれがない事例を含むことを意味する。例えば「任意選択のさらなるプロセス(optional additional processes)」なる語句は、さらなるプロセスが含まれても含まれなくてもよく、本詳細な説明はさらなるプロセスを含む方法及び含まない方法の両方を包含することを意味する。
【0034】
窒化鉄ナノ粒子は、酸化鉄ナノ粒子前駆体の制御された還元及び窒化によって、都合よく生産可能である。酸化鉄ナノ粒子前駆体は、さまざまな手段によって製造することができ、典型的には、凝集したナノ粒子の塊を含む乾燥粉末として供給される。低温処理ルートでは、酸化鉄ナノ粒子凝集体を、まず、水素含有雰囲気中でのアニーリングにより元素状鉄へと還元して、鉄ナノ粒子を生成させることができる。鉄ナノ粒子を、次に、アンモニア雰囲気中でのアニーリングにより窒化鉄に変換することができる。任意選択的に、窒化鉄ナノ粒子を、安定な金属酸化物の薄層でコーティングする不動態化処理を提供することができる。これらのプロセスステップは、高い飽和磁化及び適度な保磁力を特徴とする窒化鉄ナノ粒子の等方性凝集体を生成する。磁気特性のこの組み合わせは、窒化鉄ナノ粒子を永久磁石の構成成分として有用なものにする。
【0035】
整列したナノ粒子及びそれから形成された永久磁石
永久ナノコンポジット磁石は、好適な固化プロセスにより個別のナノ粒子から製造することができる。ナノ粒子が充分に大きい磁気異方性を有する場合、固化の前及び/又は固化の間にナノ粒子を整列させるために外力を用いることができる。しかしながら、静電力と電磁力は、一般的に、組み合わさると、ナノ粒子が凝集体を形成することを引き起こし、当該凝集体は、典型的には、直径が数百ミクロンであり得るナノ粒子の多孔質のクラスターである。したがって、外部から加えられる整列力に応答して回転する能力を個別のナノ粒子に与えるのに必要とされる程度までナノ粒子を解凝集させるのは困難である。さらに、解凝集プロセスは、ナノ粒子集合体の比表面積を増加させる。この表面積の増加の結果として、ナノ粒子はより反応性が高くなり、ひいては、これらのナノ粒子は、整列する前に、酸化、分解及び再焼結をより受け易くなる。したがって、これらのナノ粒子は整列されず、固化された場合に、等方性ナノコンポジット永久磁石を形成し得る。
【0036】
等方性ナノコンポジット永久磁石は、低いエネルギー積及び残留磁化を有し、これは低い角形性に起因する。これらの従来のナノ粒子凝集体は等方性であることから、それらを外力で整列させることはできず、その結果、上記の低い残留磁化及び低い角形性がもたらされる。本開示の整列ナノコンポジット永久磁石は、ナノ粒子がランダムに配向した凝集体を形成する傾向を克服することができる。したがって、本開示は、増大した角形性を示す異方性ナノコンポジット永久磁石を提供する。
【0037】
さまざまな態様にしたがって、ナノコンポジットを構成するナノ粒子を整列させることによって、異方性ナノコンポジット永久磁石を形成することができる。したがって、得られるナノコンポジットの異方性は、各構成要素であるナノ粒子の異方性の体積加重平均であり、ナノコンポジットはその磁化ベクトルの好ましい配向を有することになる。ナノコンポジットの残留磁化は、好ましい配向ベクトル上への各ナノ粒子の磁化ベクトルの射影の総和である。したがって、開示されるナノコンポジットは、多数のランダムに配向したナノ粒子の凝集体を形成する磁性ナノ粒子の固有の傾向を克服することができる。
【0038】
さまざまな態様において、本開示は、複数の整列した窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石を提供する。かかる永久磁石は、高いエネルギー積を提供し、磁石の微細構造を構成する各々の個別のナノ粒子又はグレインの好ましい磁化方向を特徴とする。その結果、磁石の残留磁化(Mr)は、磁石の飽和磁化(MSat)の大部分を占める。飽和磁化に対する残留磁化の比(Mr/MSat)は、角形性(S)として定義される。整列方向に平行に測定された角形性の値が整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きい場合、永久磁石を異方的なものであるとみなすことができる。角形性は、そのため、整列した異方性ナノ粒子から構成されるナノコンポジット永久磁石の形成によって増大される。この整列の結果として、ナノコンポジットは好ましい磁化方向を有することになる。それによって、ナノコンポジットの残留磁化及びエネルギー積は、コンポジット中に配置された磁性ナノ粒子の整列のために増大される。
【0039】
本開示で提供されるように、開示される整列したナノ粒子は、α’’-Fe16相ドメインを含み得る。本開示全体を通して、例えば、Fe16、α’’-Fe16、α’’-Fe16相、及びα’’-Fe16相ドメインなる用語は、材料中のα’’-Fe16相ドメインを指すために互換的に使用することがある。いくつかの例において、本開示で開示される技術にしたがって形成された異方性ナノ粒子は、少なくとも1つのFe16窒化鉄結晶を含み得る。さらなる例において、かかる異方性粒子は、複数の窒化鉄結晶を含むことができ、そのうちの少なくともいくつか(又は全て)がFe16結晶である。Fe16を含む開示される異方性窒化鉄ナノ粒子は、Fe16を含む従来の等方性粒子と比べて、例えば、増大した角形性、磁気配向又はエネルギー積のうちの少なくとも1つを含む、向上した磁気特性を有し得る。したがって、例えば、Fe16を含む開示される整列した異方性粒子は、永久磁石の利用分野にとって望ましいものであり得る。
【0040】
開示されるナノ粒子の整列は、整列磁場に対して垂直に測定されたヒステリシスループにおける角形性と比べて、整列磁場に平行な方向で測定されたヒステリシスループにおいてより大きな角形性を観察することによって検出可能である。そのため、本開示のナノ粒子は、整列磁場に平行な方向で測定したヒステリシスループにおける角形性が整列磁場に対して垂直に測定されたヒステリシスループにおける角形性に比べて大きい場合に、好ましい整列を示すことができる。一例として、窒化鉄ナノ粒子は、0.50超、0.75超、又は0.9超である、整列方向に平行に測定された角形性を示すことができる。
【0041】
整列した窒化鉄ナノ粒子はα’’-Fe16相ドメインを含むことから、X線回折パターンの特定のピークの強度にしたがって、より具体的に整列を説明することができる。整列は、(004)結晶面α’’-Fe16相の好ましい配向を示すX線回折パターンで検出することができる。X線回折パターンにおける(004)ピークは、α’’-Fe16の単位格子のc軸に対応する。c軸は、α’’-Fe16相の磁化容易軸である。かかる好ましい配向は、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、回折パターンにおける最高強度のα’’-Fe16(202)ピークに対するα’’-Fe16(004)ピークの相対強度を測定することによって決定することができる。
【0042】
開示されるナノ粒子は、かかる好ましい配向を示す。より具体的には、開示されるナノ粒子は、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、少なくとも7%より大きい、整列した窒化鉄ナノ粒子についてのα’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比を示す。いくつかの例において、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比は少なくとも50%より大きい。さらなる例において、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比は少なくとも100%より大きい。
【0043】
本開示にしたがって達成される異方性窒化鉄ナノ粒子は、例えば、針状体(needles)、フレーク、積層体(laminations)、ワイヤ、薄いシート、又はテープとして、成形することができる。さらなる態様において、異方性窒化鉄ナノ粒子は、接合又は結合されて、バルク永久磁石などのバルク材料を形成することができる。
【0044】
ある態様では、これらの窒化鉄粒子は、ナノコンポジットとして構成されてもよい。かかるナノコンポジットは、α’’-Fe16を含む整列した異方性ナノ粒子の集団と、好適なバインダーを含むことができる。ナノコンポジットは、異方性ナノ粒子の整列方向に対して垂直な方向で観察された角形性よりも大きな異方性ナノ粒子の整列方向に平行な方向で測定された角形性を示すことができる。さらなる態様において、ナノコンポジットは、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、少なくとも7%より大きい、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比を有するX線回折パターンを示すことができる。いくつかの例において、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比は少なくとも50%より大きい。さらなる例において、α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比は少なくとも100%より大きい。ナノコンポジットに対するナノ粒子の質量分率は、80%~95%、85%~95%又は90%~95%の範囲内にあることができる。ナノコンポジットに対するナノ粒子の体積分率は、40%~75%、50%~75%、又は60%~75%の範囲内にあることができる。
【0045】
さらなる態様において、また、本開示でさらに詳述するように、かかる異方性窒化鉄ナノ粒子は、好適な溶媒を用いて、分散体として構成されてもよい。窒化鉄ナノ粒子は、α’’-Fe16相を含み得る。窒化鉄ナノ粒子を、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、窒化鉄ナノ粒子についてのα’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも7%より大きく整列させることができ、分散体は整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きな整列方向に平行に測定された角形性を示す。分散体に対するナノ粒子の質量分率は、80%~95%、85%~95%、又は90%~95%の範囲内にあることができる。分散体に対するナノ粒子の体積分率は、40%~75%、50%~75%又は60%~75%の範囲内にあることができる。
【0046】
整列したナノ粒子の調製及びそれから形成された永久磁石
異方性永久磁石を形成する方法は、窒素の存在下で鉄含有凝集粉末をアニールして、窒化鉄ナノ粒子を提供するステップを含み得る。窒化鉄ナノ粒子は、低温(例えば200℃未満)で行なわれるガス窒化プロセスにより鉄系前駆体ナノ粒子から製造できる。このプロセスは、前駆体ナノ粒子を、α’’-Fe16相を含む窒化鉄ナノ粒子に直接変換するために、アンモニアガスを取り入れることがある。この窒化プロセスが進行し得る低温範囲は、遅い反応速度のために、高い比表面積を有する鉄系前駆体(例えばナノ粒子又はナノ多孔性フォームなど)を必要とすることがある。
【0047】
鉄含有凝集粉末は、例えば、鉄粉末、バルク鉄、FeCl、Fe、又はFeなどの鉄含有原料を含み得る。いくつかの例において、鉄含有原料は、バルク又は粉末形態にある実質的に純粋な鉄(例えば、約10原子パーセント(at.%)未満のドーパント又は不純物を含む鉄)を含み得る。ドーパント又は不純物は、例えば酸素又は酸化鉄を含んでいてもよい。凝集粉末は、粒子の離散集合体の形態にある鉄含有材料を表すことがある。粉末が描かれているが、鉄含有原料は、任意の好適な形態、例えば粉末又は比較的小さい粒子などの形態で提供することができる。いくつかの例において、鉄含有原料中の粒子の平均サイズは、約50ナノメートル(nm)~約5マイクロメートル(μm)であり得る。
【0048】
鉄含有凝集粉末をアニールするプロセスは、ナノ粒子を元素状鉄Feに還元するための多くの方法にしたがって実施することができる。一例として、いくつかの例では、窒化鉄を含む異方性粒子をアニールすることは、粒子を、約120℃~約250℃、例えば約120℃~約180℃、例えば約120℃~150℃の温度まで加熱することを含むことがある。アニーリングは、窒素ガス、例えばアンモニアなどの下で実施することができる。
【0049】
アニールプロセスは、さらに、不動態化ステップを含んでもよい。ナノ粒子を、制御された酸化によって不動態化することができ、その結果、ナノ粒子の表面上に酸化鉄の層が形成される。ナノ粒子は、別の化合物、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、窒化アルミニウム、及び/又は窒化チタンなどでナノ粒子を被覆することによって不動態化されてもよい。
【0050】
いくつかの例において、アニールプロセスは、約10時間~約200時間、例えば約10時間~約40時間継続する。一例において、アニールは、約20時間実施されることがある。いくつかの例において、アニールプロセスは、鉄の酸化を減らすか又は実質的に防止するため、不活性雰囲気、例えばアルゴンAr又はAr/酸素ブレンドなどの下で行なうことができる。さらに、いくつかの実施形態では、窒化鉄を含む異方性粒子をアニールしている間、温度は実質的に一定に保たれる。
【0051】
いくつかの例において、ミリング技術を用いて形成されるというよりもむしろ、異方性鉄含有前駆体を窒化しアニールすることによって、少なくとも1つのα’’-Fe16相ドメインを含む異方性粒子を形成することができる。1つの例示的技術としては、例えば、鉄を含む異方性粒子を窒化して異方性窒化鉄ナノ粒子を形成することが挙げられる。
【0052】
アニールされた窒化鉄ナノ粒子は、特定の固有保磁力を示すことができる。一例として、窒化鉄ナノ粒子は、約2,000エルステッド(Oe)~4,000Oeの固有の保磁力を示すことができる。さらなる態様において、鉄ナノ粒子は、2,500~4,000Oeの固有保磁力を有する。さらなる態様において、鉄ナノ粒子は、3,000Oe~4,000Oeの固有保磁力を有する。固有保磁力は、当該技術分野で知られている多くの方法にしたがって測定することができる。一つの具体例において、固有保磁力は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定可能である。
【0053】
角形性を増大させるためには、アニールされた窒化鉄ナノ粒子を、さらなる処理のため、好適な流体中に分散させることができる。好適な流体に対する窒化鉄ナノ粒子の質量分率は、80%~95%、85%~95%、又は90%~95%の範囲内にあることができる。好適な流体に対するナノ粒子の体積分率は、40%~75%、50%~75%、又は60%~75%の範囲内にあることができる。好適な流体は、水系溶媒(水性)又は有機溶媒(非水性)と、1種以上の好適な添加剤を含む。1種以上の添加剤は、分散剤、安定剤、湿潤剤、界面活性剤、粘度調整剤、腐食抑制剤、乳化剤、又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0054】
したがって、一態様において、窒化鉄ナノ粒子を、1種以上の安定剤と水との溶液中に分散させることができる。得られた分散体を、機械的撹拌によりナノ粒子を解凝集させるためのプロセスにかけ、その後、凍結乾燥にかけることができる。これらの機械的撹拌プロセスは、超音波処理及び/又は機械的ボールミリングを含み得るが、これらに限定されない。ここで、1種以上の安定剤は、立体的安定剤、例えばポリエチレングリコールなどを含むことができる。1種以上の安定剤は、静電安定剤であってもよい。静電安定剤としては、クエン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム又はクエン酸が挙げられる。凍結乾燥は、窒化鉄ナノ粒子の整列をさらに促進するため、磁場の存在下で行うことができる。
【0055】
他の態様において、アニールされた窒化鉄ナノ粒子を、さらなる処理のため、有機溶媒中に分散させることができる。そのため、窒化鉄ナノ粒子を、1種以上の安定剤と有機溶媒との溶液中に分散させ、超音波処理及び/又は機械的ボールミリングにかけてもよい。有機溶媒に添加され得る安定剤は有機化合物を含み得る。好適な有機化合物としては、オレイン酸、ステアリン酸又はオレイルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。有機溶媒としては、極性溶媒、例えばメタノールなど、又は非極性溶媒、例えばヘプタンなどが挙げられる。好適な極性溶媒としては、メタノールが挙げられる。好適な非極性溶媒としては、ヘプタンが挙げられる。
【0056】
超音波処理は、ナノ粒子/溶媒分散体中に超音波プローブのトランスデューサーを浸すことによって行なうことができる。超音波エネルギーを、溶媒を介してナノ粒子凝集体に伝達させることができる。超音波処理は、溶媒中にキャビテーションを生じ、キャビテーションは、ナノ粒子凝集体の中及び周りで生じ得る。キャビティの崩壊は、ナノ粒子を機械的に撹拌する効果を生じて、ナノ粒子を強制的に分離(解凝集)させるのに必要な力を提供する。
【0057】
いくつかの例において、例えば、ローリングモード、撹拌モード又は振動モードのミリング装置のビン内で、ミリング球を用いて、ミリングを行なうことができる。いくつかの例において、異方性窒化鉄ナノ粒子の形成を促進するために、各種成分がミリングされる温度を制御することができる。例えば、本開示に係る技術は、ミリング媒体を用いて、窒素源の存在下で、所定の低温で、鉄含有原料をミリングすることを含み得る。
【0058】
処理後、過剰な流体を除去し、好適な方法にしたがって窒化鉄ナノ粒子を乾燥させることができる。窒化鉄ナノ粒子を乾燥させる適切な方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、脱バインダー処理、溶媒交換又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0059】
ナノ粒子バインダー混合物を提供するために、乾燥させた窒化鉄ナノ粒子を好適なバインダー組成物と組み合わせることができる。好適なバインダー組成物は、ポリマー材料を含むことができ、窒化鉄ナノ粒子の凝集体をさらに処理するために組み込まれてもよい。ある態様では、ポリマー材料は、アクリル系、アクリレート系、ビスマレイミド系、エステル系、ウレタン系、スチレン系、ポリビニルアルコール系、ポリ酢酸ビニル系、酢酸セルロース系、エチルセルロース系、ポリカーボネート系、ポリエステル系、シンジオタクチックポリスチレン系のポリマー材料、又はそれらの組み合わせを含む。一つの具体例として、窒化鉄ナノ粒子の混合物とエポキシ組成物とを組み合わせ、さらに処理することができる。より小さい凝集体はより大きい角形性を示すことから、例えばサイズ別にナノ粒子凝集体を分離する1つの方法として、得られた窒化鉄ナノ粒子/エポキシ混合物を遠心分離することができる。
【0060】
ある態様では、ナノ粒子バインダー混合物を、磁場中で整列させることができる。すなわち、さまざまな例において、ナノ粒子バインダー混合物を、特定の磁束密度(テスラ(T))で、一定の時間にわたり磁場にさらすことができる。
【0061】
いくつかの例において、印加磁場は、少なくとも0.2T(2000ガウス)であることができる。磁場が印加される際の温度は、窒化鉄系組成物に対するさらなる元素添加、及び最初に窒化鉄系組成物を合成するために使用されるアプローチに少なくとも部分的に依存することがある。いくつかの例において、磁場は、少なくとも約0.2T、少なくとも約0.3T、少なくとも約1T、少なくとも約2T、少なくとも約5T、少なくとも約6T、少なくとも約8Tであることができる。いくつかの例において、磁場は約0.2T~約1Tである。他の例において、磁場は、約0.3T~約1Tである。磁場は、連続静的磁場として、又はパルス磁場として印加することができる。
【0062】
ナノ粒子バインダー混合物を硬化させて永久磁石を形成することができる。熱硬化性バインダーにおいては、硬化プロセスは、出発樹脂中でポリマー分子を架橋させ、ナノ粒子を定位置に固定することによって行なわれる。熱可塑性バインダーにおいては、硬化は、液体バインダーをそのガラス転移温度未満に冷却することによって行われる。
【0063】
特性及び物品
本開示にしたがって得られる異方性窒化鉄ナノ粒子は、例えば、針状体、フレーク、積層体、ワイヤ、薄いシート又はテープとして成形されてもよい。ナノ粒子の形状は、所与のナノ粒子を形成するために用いられる方法によって決定することができる。例えば、針状体は、ナノロッドを窒化することによって形成することができる。フレークは、ナノプレートレットを窒化することによって形成することができる。ワイヤは、ナノフィラメントを窒化することによって形成することができる。
【0064】
さらなる態様において、バルク材料、例えばバルク永久磁石を形成するために、異方性窒化鉄ナノ粒子を接合又は結合させることができる。いくつかの例において、ワークピースとしては、記載したとおりのバルク材料が挙げられる。本開示に記載の技術によって形成された窒化鉄材料は、例えばバルク永久磁石を含め、さまざまな利用分野において磁性材料として使用することができる。バルク永久磁石は、少なくとも約0.1mmの最小寸法を含み得る。いくつかの例において、窒化鉄を含むバルク材料は、印加磁場の存在下でアニールされてもよい。他の例において、窒化鉄材料はバルク材料でなくてよく(約0.1mm未満の最小寸法を有し得る)、窒化鉄材料は他の窒化鉄材料とともに固化されてバルク永久磁石を形成することができる。窒化鉄磁性材料を固化するために使用可能な技術の例が、当該技術分野において記載されている。
【0065】
ある態様では、本開示で提供されているとおり、これらの窒化鉄ナノ粒子は、ナノコンポジットとして又は分散体として構成されていてもよい。
【0066】
上記の例のいずれにおいても、複数の異方性窒化鉄ナノ粒子の固化のための他の技術、例えば圧力、電気パルス、スパーク、外部印加磁場、無線周波数信号、レーザー加熱、赤外線加熱などを使用することが可能である。窒化鉄を含む複数の異方性粒子を接合するためのこれらの例示的技術の各々は、使用される温度がどのFe16相ドメインも実質的に変更せずに残すことができるように(その結果、Fe16相ドメインが他のタイプの窒化鉄へ変換されないように)、比較的低い温度を採用したものであってもよい。
【0067】
本開示は、整列した異方性窒化鉄ナノ粒子を提供する。本開示で示すさように、永久磁石の窒化鉄ナノ粒子は、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、窒化鉄ナノ粒子についてのα’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも7%より大きくなるように整列させることができる。さらに、窒化鉄ナノ粒子は、整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きい、整列方向に対して平行に測定された角形性を示し得る。
【0068】
開示される整列した異方性窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石は、多くの向上した特性、特に、向上した角形性を示すことができる。本開示で示すように、改善された角形性により、永久磁石の性能をさらに改善することができる。改善された角形性は、永久磁石のヒステリシスループの面積を増大させることによりエネルギー積を増大させることができる。さらに、角形性がより高いほど、永久磁石の磁極から出るより高密度の磁束線をもたらすために、永久磁石は、より高い残留磁化を示すことができる。これにより、磁気回路で使用可能なより高い起磁力(MMF)がもたらされる。
【0069】
高い角形性を有する永久磁石は、第2の象限上に線形磁束対磁場(B v.H)曲線を有し得る。この特性は、高い磁気装荷を有する装置、例えば電動モーター及び発電機などにおける減磁耐性を改善することができる。向上した角形性を有する開示される磁石のような整列した磁石は、向上した保磁力も示し、さらにエネルギー積を増大させることもできる。高い角形性を有する異方性永久磁石は、同じ組成の等方性磁石に比べて高い経済的価値を有する。
【0070】
さらなる実施形態において、本発明は、飽和磁化(Msat)を犠牲にすることなく窒化鉄ナノ粒子の保磁力(Hc)を増大させ、より高いHcを有する組成物、ひいてはより高いエネルギー積を有する磁性材料を創製する方法を提供する。このHc増加は、Msatを減少させずに、より高いエネルギー積を生じる方向へHc-Msatトレードオフをシフトさせる。
【0071】
例えば、ある方法は、ナノ粒子前駆体の機械的ミリングを使用する。機械的ミリングは、凝集した酸化鉄ナノ粒子から生じた窒化鉄ナノ粒子の磁気特性を調整する。平均凝集体サイズを減少させる1つの方法として、機械的ミリングを用いて、粉末の流動性及び粉末取扱い特性を調整することができる。特定の作用理論に束縛されるわけではないが、機械的ミリングは、例えば格子空孔及び転位などの欠陥を生じさせることによって、ナノ粒子のエネルギー含量を増加させることもできると考えられる。連結された単一ナノ粒子間で分配された残留歪は、これらのナノ粒子をプロセスガスに対してより反応性の高いものにするおそれがある。
【0072】
さらに、本開示に記載したとおりのミリング方法は、ナノ粒子凝集体全体にわたって均一な相組成の形成を促進することができる。これは、高い量分率の好ましいα’’-Fe16相と、低質量分率の有害なα-Fe相及びε-Fe2-3N相とをもたらすことができる。その結果、ミリング方法なしで作られた窒化鉄ナノ粒子中で得ることのできるものに比べて高い、所与の飽和磁化に対してより高い保磁力を有する組成物が生じる。本開示は、少なくとも以下の態様に関する。
【0073】
態様1. 複数の整列した窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石であって、窒化鉄ナノ粒子がα’’-Fe16相ドメインを含み、回析ベクトルが整列方向に対して平行である場合に、整列した窒化鉄ナノ粒子についてのα’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも7%より大きく、窒化鉄ナノ粒子が、整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きい整列方向に平行に測定された角形性を示す、永久磁石。
【0074】
態様2. 整列した窒化鉄ナノ粒子が、ワイヤ、薄いシート又はテープとして形成されており、ワイヤ、薄いシート又はテープが結合されて永久磁石を提供する、態様1に記載の永久磁石。
【0075】
態様3. α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも50%よりも大きい、態様1に記載の永久磁石。
【0076】
態様4. α’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも100%よりも大きい、態様1に記載の永久磁石。
【0077】
態様5. 窒化鉄ナノ粒子が、0.50より大きい整列方向に平行に測定された角形性を示す、態様1に記載の永久磁石。
【0078】
態様6. 窒化鉄ナノ粒子が、0.75より大きい整列方向に平行に測定された角形性を示す、態様1に記載の永久磁石。
【0079】
態様7. 窒化鉄ナノ粒子が、0.9より大きい整列方向に平行に測定された角形性を示す、態様1に記載の永久磁石。
【0080】
態様8. 窒化鉄ナノ粒子を含む分散体であって、窒化鉄ナノ粒子がα’’-Fe16相及び溶媒を含み、回析ベクトルが整列方向に対して平行である場合に、窒化鉄ナノ粒子についてのα’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも7%より大きく、整列方向に対して垂直に測定された角形性よりも大きい整列方向に平行に測定された角形性を示す、分散体。
【0081】
態様9. 分散体に対するナノ粒子の質量分率が80%~95%の範囲内にある、態様8に記載の分散体。
【0082】
態様10. 態様に対するナノ粒子の質量分率が85%~95%の範囲内にある、態様8に記載の分散体。
【0083】
態様11. 分散体に対するナノ粒子の質量分率が90%~95%の範囲内にある、態様8に記載の分散体。
【0084】
態様12. 分散体に対するナノ粒子の体積分率が40%~75%の範囲内にある、態様8に記載の分散体。
【0085】
態様13. 分散体に対するナノ粒子の体積分率が50%~75%の範囲内にある、態様8に記載の分散体。
【0086】
態様14. 分散体に対するナノ粒子の体積分率が60%~75%の範囲内にある、態様8に記載の分散体。
【0087】
態様15. 溶媒が水及び1種以上の添加剤を含む、態様8に記載の分散体。
【0088】
態様16. 溶媒が有機溶媒及び1種以上の添加剤を含む、態様8に記載の分散体。
【0089】
態様17. α’’-Fe16相を含む整列した異方性ナノ粒子の集団とバインダーとを含むナノコンポジットであって、当該ナノコンポジットは、異方性ナノ粒子の整列方向に対して垂直な方向で観察された角形性よりも大きな平行方向で測定された角形性を示し、また、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、回析パターンにおける最高強度のα’’-Fe16(202)ピークの強度を超える相対強度のα’’-Fe16(004)ピークを有するX線回折パターンを示す、ナノコンポジット。
【0090】
態様18. バインダーがポリマー材料を含む、態様17に記載のナノコンポジット。
【0091】
態様19. ポリマー材料が、エポキシ系、アクリル系、アクリレート系、ビスマレイミド系、エステル系、ウレタン系、スチレン系、ポリビニルアルコール系、ポリ酢酸ビニル系、酢酸セルロース系、エチルセルロース系、ポリカーボネート系、ポリエステル系、シンジオタクチックポリスチレン系のポリマー材料、又はそれらの組み合わせを含む、態様18記載のナノコンポジット。
【0092】
態様20. ナノコンポジットに対するナノ粒子の質量分率が80%~95%の範囲内にある、態様5に記載のナノコンポジット。
【0093】
態様21. ナノコンポジットに対するナノ粒子の質量分率が85%~95%の範囲内にある、態様5に記載のナノコンポジット。
【0094】
態様22. ナノコンポジットに対するナノ粒子の質量分率が90%~95%の範囲内にある、態様5に記載のナノコンポジット。
【0095】
態様23. ナノコンポジットに対するナノ粒子の体積分率が40%~75%の範囲内にある、態様5に記載のナノコンポジット。
【0096】
態様24. ナノコンポジットに対するナノ粒子の体積分率が50%~75%の範囲内にある、態様5に記載のナノコンポジット。
【0097】
態様25. ナノコンポジットに対するナノ粒子の体積分率が60%~75%の範囲内にある、態様5に記載のナノコンポジット。
【0098】
態様26. 異方性永久磁石を形成する方法であって、窒素の存在下で鉄含有凝集粉末をアニールして、約2,000Oe~4,000Oeの固有保磁力を有する窒化鉄ナノ粒子を提供すること;流体中に窒化鉄ナノ粒子を分散させること;過剰な流体を除去し、窒化鉄ナノ粒子を乾燥させること;窒化鉄ナノ粒子をバインダー組成物と組み合わせてナノ粒子バインダー混合物を提供すること;磁場中でナノ粒子バインダー混合物を整列させること;及びナノ粒子バインダー混合物を硬化させて永久磁石を形成することを含む方法。
【0099】
態様27. 鉄ナノ粒子が2,500~4,000Oeの固有保磁力を有する、態様26に記載の方法。
【0100】
態様28. 鉄ナノ粒子が3,000Oe~4,000Oeの固有保磁力を有する、態様26に記載の方法。
【0101】
態様29. 流体が水性である、態様26に記載の方法。
【0102】
態様30. 流体中に窒化鉄ナノ粒子を分散させることが、水と1種以上の添加剤の混合物に窒化鉄ナノ粒子を導入して水溶液を提供すること;及び水溶液を超音波処理及び/又は湿式ボールミリングのプロセスにかけることとを含む、態様26に記載の方法。
【0103】
態様31. 1種以上の添加剤が、分散剤、安定剤、湿潤剤、界面活性剤、粘度調整剤、腐食抑制剤、乳化剤、又はそれらの任意の組み合わせを含む、態様30に記載の方法。
【0104】
態様32. 流体が非水性である、態様26に記載の方法。
【0105】
態様33. 窒化鉄ナノ粒子を乾燥させるステップが、凍結乾燥、噴霧乾燥、脱バインダー処理、溶媒交換、又はそれらの任意の組み合わせを含む、態様26に記載の方法。
【0106】
態様34. 態様26の方法によって形成された永久磁石であって、永久磁石は、ナノ粒子の整列方向に対して垂直な方向で観察された角形性よりも大きな平行方向で測定された角形性を示し、また、回折ベクトルが整列方向に平行である場合に、回析パターンにおける最高強度のα’’-Fe16(202)ピークの強度よりも大きいα’’-Fe16(004)ピークの相対強度を有するX線回折パターンを示す、永久磁石。
【0107】
態様35. 態様26に記載の方法によって形成された永久磁石であって、回析ベクトルが整列方向に対して平行である場合に、窒化鉄ナノ粒子についてのα’’-Fe16(202)X線回析ピークに対するα’’-Fe16(004)X線回析ピークの積分強度比が少なくとも7%より大きい、永久磁石。
【実施例
【0108】
以下の実施例は、本開示で特許請求される化合物、組成物、物品、装置及び/又は方法がどのように作られ評価されるかについての完全な開示及び説明を当業者に提供するために提示されており、純粋に例示的なものであることが意図されており、本開示を限定することを意図するものではない。数値(例えば、量、温度など)についての精度を確保を保証するように努めたが、幾分かの誤差及び偏差が考慮されるべきである。特に断らない限り、割合は質量部であり、温度は℃単位又は周囲温度であり、圧力は大気圧又は大気圧近傍である。特に断らない限り、組成に関する百分率は、質量%単位である。
【0109】
例えば、構成成分の濃度、望ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、並びに記載したプロセスから得られる生成物の純度及び収率を最適化するために使用可能な他の反応の範囲及び条件の多くの変形形態及び組み合わせが存在する。かかるプロセス条件を最適化するために必要なのは、合理的な常套的実験だけである。
【0110】
実施例I:試料1~6
γ-Feの市販のナノ粒子を、乾燥した凝集粉末として入手した。ナノ粒子凝集体をふるいカラムに通し、25μm~53μmサイズの画分が残った。各々質量で2.0グラムの7つの粉末ロットを、回転式管状炉内で窒化鉄ナノ粒子へと変換させた。まず、約200毎分標準立方センチメートル(sccm)で流動する水素ガス中、約340℃の温度で約17時間のアニーリングによりナノ粒子を元素状鉄Feに還元することで、窒化鉄ナノ粒子を形成した。次に、約60sccmで流動するアンモニアガス中、約145℃の温度で19時間のアニーリングによりFeナノ粒子を窒化鉄に変換した。流動する窒素下で室温まで冷却した後、毎時約2標準立方フィート(scfh)の流量で、窒化鉄ナノ粒子全体にわたり1%酸素/アルゴン混合物を約2時間流動させることにより、窒化鉄ナノ粒子を不動態化した。さらなる処理のため、窒化鉄ナノ粒子の7つのロットを混ぜ合わせた。混ぜ合わせたナノ粒子の固有保磁力は、1971Oeであると求められた。保磁力は、VSMを用いて測定した。
【0111】
不動態化した窒化鉄ナノ粒子およそ1グラムを、安定剤と水の水溶液中に導入した。次に、超音波処理及び/又は湿式ボールミリングにより混合物をミリングした。ミリング後、過剰な溶液を除去し、ナノ粒子を連結乾燥するか、又はイソプロピルアルコールで洗浄した。200ワットのプローブソニケータを使用して、超音波処理を行なった。300rpmで動作するステンレス鋼ミリングジャー及びミリング媒体を使用して、遊星ボールミルで湿式ボールミリングを行なった。表1は、試料S1~S5及び比較用試料CS6についての試料調製に先立つナノ粒子のミリング条件、ナノ粒子酸化物コーティング、ミリング溶液及び最終処理を示す。
【表1】
【0112】
凍結乾燥したナノ粒子を液体エポキシ組成物と混合し、ナノ粒子を容器の底部に沈降りさせた。過剰な液体エポキシを除去し、残りの混合物を液体エポキシと再度混合し、再び沈降させ、容器の上部から底部までエポキシ中のナノ粒子濃度の勾配を形成させた。容器の上部からナノ粒子/エポキシ混合物の試料を採取し、2つの永久磁石の磁極の間に位置する金型に入れた。磁場の大きさは約5000ガウスであった。ナノ粒子エポキシ混合物を磁場中で一晩硬化させた。
【0113】
硬化したナノ粒子/エポキシ複合材料は薄い円板を形成した。この円板の直径は約6mmで、厚みは約1mmであった。整列磁場の配向は、円板の平面に対して垂直であった。
【0114】
比較用試料CS6は、超音波処理もボールミリングも凍結乾燥もされなかった窒化鉄ナノ粒子を含み、エポキシ中のナノ粒子混合物を永久磁石の磁極片間で硬化させることによって同様の方法で作製した。
【0115】
図1は、試料S5から測定されたヒステリシスループを示す。ループは、整列に平行な方向及び垂直な方向で測定した。平行な方向で測定された角形性は、垂直な方向の角形性よりも大きかった(0.53と0.41の比較)。この現象は、ナノ粒子/エポキシ複合材料中のナノ粒子が少なくとも部分的に整列していることを表わす。平行な方向で測定された保磁力は2,376Oeであった。出発材料の保磁力は記録されなかった。
【0116】
試料S5から作製した試料のX線回折パターンが図2に示されている。XRDスペクトルは、25~105°の2θ角度範囲にわたって、Cu放射線源を用いるD5005X線回析計を使用して収集した。α’’-Fe16(004)ピークの相対強度は、α’’-Fe16(004)の積分強度をα’’-Fe16(202)ピークの積分強度で除することによって計算される。α’’-Fe16(004)ピークの相対強度は0.22であると計算された。α’’-Fe16の(202)ピークに対する(004)ピークの強度は、音波処理しなかったナノ粒子から作製した比較用試料のα’’-Fe16(004)ピークの相対強度(0.11、比較用試料CS6)よりも大きかった(0.22であった)。これは、α’’-Fe16相のc軸の好ましい配向を示す。これは、ナノ粒子/エポキシ複合材料中のナノ粒子が少なくとも部分的に整列していたことをさらに示すものである。
【0117】
比較用試料CS6についての整列磁場に平行な方向及び垂直な方向で測定されたヒステリシスループが図3に示されている。挿入グラフは、平行な方向での角形性が、垂直な方向での角形性よりもわずかに小さいことを示している(0.41と0.43の比較)。これは、試料CS6中のナノ粒子が整列磁場により配向されなかったことを示す。垂直な方向で測定された角形性(0.33)は、平行な方向での角形性(0.43)より大きかった。平行な方向で測定された保磁力は1,948Oeであった。出発材料の保磁力は記録されなかった。
【0118】
比較用試料CS6のX線回折パターンが図4に示されている。回折ベクトルは、整列磁場に平行であった。観察されたピークは、α’’-Fe16(菱形印)相とα-Fe(丸印)相の混在を示す。α’’-Fe16(004)ピークの相対強度は、α’’-Fe16(004)の積分強度をα’’-Fe16(202)ピークの積分強度で除することによって計算した。α’’-Fe16(004)ピークの相対強度は0.11と計算された。(202)ピークに対する(004)ピークの積分強度の比は0.11である。この知見は、整列していなかったナノ粒子/エポキシ複合材料からの信号を示す。
【0119】
実施例II. 試料7~15
第2の一連の不動態化された窒化鉄ナノ粒子S7~S15を調製した。2,521Oeの保磁力を有するこれらの不動態化された窒化鉄ナノ粒子を、25%オレイン酸/メタノール溶液中で約120分間音波処理した。200ワットのプローブソニケータで超音波処理を行なった。音波処理したナノ粒子をメタノールで2回洗浄して、過剰なオレイン酸を除去した。洗浄したナノ粒子をエポキシと混合した。表2は、磁気整列に先立つ、試料の調製方法を示す。各試料を、2つの永久磁石の磁極片の間に設置することによって、磁気的に整列させた。整列磁場は約5,000Oeであった。試料を一晩硬化させた。整列試料は円板の形状を有し、厚さ約1mm、直径約6mmであり、整列方向は円板の表面に対して垂直であった。
【表2】
【0120】
図5は、試料S8についての整列磁場方向に平行な方向及び垂直な方向で測定されたヒステリシスループを示す。挿入グラフは、平行な方向での角形性(0.78)が、垂直な方向での角形性(0.40)よりも大きいことを示す。これは、実施例8におけるナノ粒子が整列磁場により部分的に配向されたことを示す。整列方向で測定された保磁力は、出発材料に比べてかなり大きい2,917Oeであった。
【0121】
図6は、実施例8のX線回折パターンを示す。回折ベクトルは、整列磁場に平行であった。観察されたピークは、α’’-Fe16(菱形)相とα-Fe(丸印)相の混在を示す。α’’-Fe16(004)ピークの相対強度は、α’’-Fe16(004)の積分強度をα’’-Fe16(202)ピークの積分強度で除することによって計算した。したがって、α’’-Fe16の(202)ピークに対する(004)ピークの強度は、音波処理しなかったナノ粒子から作製された比較用試料のα’’-Fe16(004)ピークの相対強度より大きかった(0.74をCS6の場合の0.11と比較)。これは、α’’-Fe16相のc軸の好ましい配向を示す。これは、ナノ粒子/エポキシ複合材料中のナノ粒子が少なくとも部分的に整列していたことをさらに示すものである。
【0122】
実施例III: 試料16
2,357Oeの保磁力を有する不動態化された窒化鉄ナノ粒子を、10%のPEG-400/水の溶液中で約120分間音波処理して、試料S16を得た。音波処理後、ナノ粒子を沈殿させ、過剰な溶液を除去した。2つの永久磁石の磁極片の間で、ナノ粒子を一晩凍結乾燥した。凍結乾燥後、永久磁石磁極片の間にペーストが浮遊していることを観察した。浮遊したペーストをエポキシと混合し、ナノ粒子エポキシ混合物の試料を2つの永久磁石の磁極片間で硬化させた。
【0123】
試料S16についての整列磁場に平行な方向及び垂直な方向で測定されたヒステリシスループが図7に示されている。挿入グラフは、平行な方向での角形性(0.76)が、垂直な方向での角形性(0.41)よりも大きかったことを示している。これは、S16中のナノ粒子が整列磁場により部分的に配向していたことを示す。整列方向で測定された保磁力は2.357Oeであり、出発材料に比べてわずかな減少を示した。
【0124】
S16のX線回折パターンが図8に示されている。回折ベクトルは整列磁場に平行であった。試料ホルダーに由来する反磁性寄与をヒステリシスループから差し引いた。ここでもまた、α’’-Fe16(004)ピークの相対強度は、α’’-Fe16(004)の積分強度をα’’-Fe16(202)ピークの積分強度で除することによって計算した。α’’-Fe16の(202)ピークに対する(004)ピークの強度(0.55)は、音波処理しなかったナノ粒子から作製した比較用試料のα’’-Fe16(004)ピークの相対強度(0.11、CS6)より大きかった。これは、α’’-Fe16相のc軸の好ましい配向を示す。これは、ナノ粒子/エポキシ複合材料中のナノ粒子が少なくとも部分的に整列していたことをさらに示すものである。
【0125】
表3は、実施例I~IIIのナノ粒子/エポキシ複合材料試料(S1~S5、CS6、S7~S16)に対して行なった磁気的及び結晶学的測定結果をまとめたものである。角形性は、以下の式によって計算した:
角形性=Mr/MSat(式1)
式中、Mrは、ナノ粒子/エポキシ試料の残留磁化(印加磁場Hが0エルステッドに等しいときに測定)であり、MSatは、複合材料試料の飽和磁化(H=20,000エルステッドのときに測定)である。Mrは、振動試料型磁力計(VSM)を使用して測定した。角形性は、整列磁場の方向に平行な方向及び垂直な方向で測定された磁化曲線から求めた。平行角形性と垂直角形性の差は試料の磁気異方性の尺度である。ナノ粒子のBrは、整列磁場に平行に測定された窒化鉄ナノ粒子(エポキシを含まない)の残留磁化の計算値である。(004)X線回析ピークの相対強度は、α’’-Fe16についての(004)X線回析ピークと(202)X線回析ピークの比として計算される。これらの測定では、回折ベクトルは整列方法に平行であった。窒化鉄ナノ粒子のランダム配向された試料についての(004)ピークの相対強度は0.07である。したがって、0.07よりも大きい(004)ピークの相対強度は、窒化鉄ナノ粒子の結晶格子が優先的に整列方向に平行に配向されていることを示す。
【0126】
表3は、結合型永久磁石を形成する目的でエポキシ中に導入された後の整列したナノ粒子の磁気的測定値も示している。ここで、ナノ粒子の磁化の尺度はBrである。これは、ひとたび磁場がエポキシ結合された試料に印加され除去された時点で生成される残留磁化である。より高いBrほど、一般的に、より優れた磁石を生じる。Brは、飽和磁化と角形性の両方の関数である。飽和磁化は、表中のBr値を、式1を用いて、平行方向で測定された角形性で除することによって計算される。この計算は、12.5~14kGのMSat値範囲を生じさせ、これらの値を用いて、結合型永久磁石におけるナノ粒子の飽和磁化を特徴付けることができる。
【表3】
【0127】
他の実施形態において、機械的ミリング方法が、ナノ粒子凝集体全体にわたって均一な相組成の形成を促進し、結果として、高質量分率の好ましいα’’-Fe16相と、低質量分率の有害なα-Fe相及びε-Fe2-3N相とをもたらす。均一な相組成と好ましいα’’-Fe16相の量の増加の組み合わせが、ミリング方法なしで製造された従来の窒化鉄ナノ粒子と比べてより高い、所与の飽和磁化に対する保磁力を生み出す。本開示全体を通して、多くのプロセスが説明されている。これらのプロセスを使用して製造される窒化鉄ナノ粒子、組成物及び磁性材料は、かかる処理なしに製造された比較可能な窒化鉄ナノ粒子、組成物及び磁性材料と比べて、改善された磁気特性、例えばより高い保磁力、より高いエネルギー積などを有する。
【0128】
例えば、一実施形態において、還元、窒化及び不動態化ステップに先立って、凝集した酸化鉄ナノ粒子が機械的にミリングされる。酸化鉄ナノ粒子の凝集体は、乾燥凝集体として受入れられる。凝集体は、1~100ナノメートルの範囲内の粒径を有する多数の酸化鉄ナノ粒子で構成される。凝集体は、直径が1~200マイクロメートルの範囲内にあり、10~90体積パーセントの範囲内の空隙率(porosities)を有する。凝集体中で、ナノ粒子は、化学的な力、静電的な力、磁力及び/又は摩擦力の組み合わせによりまとまっている。
【0129】
機械的ミリングに関して、ナノ粒子を解凝集させるために、任意の形態の機械的ミリングが考えられる。例えば、酸化鉄凝集体の機械的ミリングは、流体中での超音波処理、流体の存在下のボールミリング、乾式ボールミリング、流体の存在下での高せん断混合、高速ガス流中でのジェットミリング、又はそれらの何らかの組み合わせのうちのいずれかによって、達成することができる。流体は、水、有機溶媒、又はナノ粒子凝集体を搬送することができる別の流体であることができる。流体は、ナノ粒子の解凝集を促進するために界面活性剤を含んでもよい。流体は、例えば凍結乾燥及び/又は噴霧乾燥などの乾燥方法のいずれかにより、ミリング後に除去することができる。凝集酸化鉄ナノ粒子は、ミリングプロセスの前又は後に、ふるいにかけられてもよい。ミリングプロセスの温度は、ナノ粒子の過熱又は焼結を回避するように制御することができる。例えば、氷溶中にミリング容器を浸漬することにより、温度を制御することができる。代わりに、合目的に設計されたクライオミリング設備を使用してもよい。
【0130】
ミリングプロセスの効果は、凝集酸化鉄ナノ粒子の平均サイズを減少させることにある。凝集体サイズは、累積的サイズ分布のx%がそのサイズ以下に含まれている直径として求められるDxとして表現可能である。多くの場合、凝集体サイズは、累積的サイズ分布の50%がそのサイズ以下に含まれている直径として求められるD50として表現される。例えば、D50は、全ての粒子の50%が、示された値以下の粒子サイズを有することを意味する。対応して、D99は、全ての粒子の99%が、示された値以下の粒子サイズを有することを意味する。凝集体サイズ分布は、レーザ回析、動的光散乱、光学顕微鏡法及び/又は電子顕微鏡法によって測定することができる。
【0131】
ミリングプロセスの効果は、ナノ粒子凝集体の内部に、例えば空孔、転位、歪み勾配などの結晶欠陥を導入することもでき、また、部分的焼結に起因して、形成する粒子間結合の強さを減少させることもできる。ミリング中に凝集体中に誘発される歪みは、ナノ粒子中にマイクロポアを形成させることができるため、その後のガス還元及び窒化にとって有用であり得る。
【0132】
別の実施形態において、還元ステップが完了した後でかつ窒化ステップが行われる前に、凝集鉄ナノ粒子が機械的にミリングされる。鉄ナノ粒子を、還元性化学種(reducing species)に曝露することができる。例えば、鉄ナノ粒子を窒化する前に、水素還元ステップを適用することができ、これにより、窒素拡散を増進させるマイクロチャネルが生じる。鉄ナノ粒子は、最長約24時間、約200℃~約500℃の温度で、Hに曝露することができる。いくつかの例において、材料を、約300℃以上の温度でHに曝露することができる。水素還元中の水素源の流量は、毎分約100標準立方センチメートル(sccm)であることができる。いくつかの例において、水素還元中の水素源の流量は、毎分約400標準立方センチメートル(sccm)以上であることができる。他の例において、反応容器のサイズ及び粒子の量がグラムからキログラムまで増大するにつれて、水素還元中の水素源の流量は、400sccm超及び毎分10リットル(lpm)又はそれ以上になり得る。機械的ミリングプロセスは、還元ステップ中に起こり得る鉄ナノ粒子の任意の焼結を完全に又は部分的になくすことができる。窒化前の鉄ナノ粒子の再酸化及び/又は汚染を回避するため、例えば乾式ボールミリングなどの乾式ミリング方法が考えられる。乾式ボールミリングは、鉄ナノ粒子の酸化を防止するために、例えば窒素、アルゴン及び/又はヘリウムなどの不活性雰囲気中で行なうことができる。
【0133】
別の実施形態において、窒化が完了した後でかつ窒化鉄ナノ粒子の表面上に任意のさらなるコーティング及び/又は不動態化層が設けられる前に、凝集窒化鉄ナノ粒子が機械的にミリングされる。鉄ナノ粒子の窒化させることは、鉄ナノ粒子中に拡散する原子状窒素物質に鉄ナノ粒子を曝露することを含むことができる。いくつかの例において、原子状窒素物質は、二原子窒素(N)として供給することができ、これはその後、個別の窒素原子へと分離(クラッキング)される。他の例において、原子状窒素は、アンモニア(NH)などの別の原子状窒素前駆体から提供することができる。他の例において、原子状窒素は、尿素(CO(NH)から提供することができる。窒素は、気相単独で(例えば実質的に純粋なアンモニア又は二原子窒素ガス)又はキャリヤガスとの混合物として供給することができる。いくつかの例において、キャリヤガスはアルゴン(Ar)である。この実施形態において、機械的ミリングプロセスは、還元及び窒化ステップ中に起こり得るナノ粒子の任意の焼結を完全に又は部分的になくすことができる。
【0134】
コーティング及び/又は不動態化は、ミリングされた粒子を安定化し、再凝集を防止することができる。表面酸化は、表面不動態化方法を使用することによって減少させることができる。いかなる理論にも束縛されるわけではないが、窒化鉄粒子の酸化を減少させるか又は実質的に防止することは、例えば保磁力、磁化などのアニールされた窒化鉄ナノ粒子の磁気特性の改善に貢献することができる。いくつかの例において、窒化鉄ナノ粒子を被覆することができる。好適なコーティングとしては、炭素及びホウ素が挙げられる。他の例において、コーティングは、酸化アルミニウム、もしくは銅金属、又はアルミニウム金属であることができる。コーティングは、原子層堆積を用いて付着させることができる。窒化鉄ナノ粒子の反応及び分解を回避するために乾式ボールミリングなどの乾式ミリング方法が考えられる。乾式ボールミリングは、窒化鉄ナノ粒子の酸化を防止するために、例えば窒素、アルゴン及び/又はヘリウムなどの不活性雰囲気中で行なうことができる。
【0135】
さらに別の実施形態において、凝集窒化鉄ナノ粒子を、不動態化の後であるが磁気整列の前に、機械的にミリングすることができる。印加磁場の存在下で窒化鉄ナノ粒子をアニールすることは、窒化鉄ナノ粒子中でのFe16相ドメインの形成を増進することができる。α’’-Fe16相ドメインの増大した体積分率によって、窒化鉄を含むコア-シェルナノ粒子の磁気特性を改善することができる。改善された磁気特性としては、例えば、保磁力磁化及び磁気配向が挙げられる。
【0136】
いくつかの実施形態では、機械的ミリングプロセスは、凝集した窒化鉄ナノ粒子をそれらの個別の単結晶成分まで完全に又は部分的に解凝集させることによって、凝集した窒化鉄ナノ粒子の磁気異方性を増大させることができる。窒化鉄凝集体の機械的ミリングは、流体中での超音波処理、流体の存在下でのボールミリング、乾式ボールミリング、流体の存在下での高せん断混合、ジェットミリングなど、又はこれらの方法の何らかの組み合わせによって、好適に達成可能である。流体は、水性(例えば水又は水含有流体)、非水性(有機溶媒又は有機溶媒含有流体)、又はナノ粒子凝集体が分散可能である別の流体、並びにそれらの組み合わせであることができる。流体は、ナノ粒子の解凝集を促進するため、及び/又はナノ粒子の再凝集を防止するために、それに添加された界面活性剤、分散剤又はそれらの両方を有することができる。流体は、例えば凍結乾燥及び/又は噴霧乾燥などの乾燥方法のいずれかによりミリング後に除去することができる。ミリングプロセスの効果は、凝集酸化鉄ナノ粒子の平均サイズを減少させることにある。機械的ミリングは、ナノ粒子を解凝集させるのに充分であるが窒化鉄ナノ粒子をコーティングする不動態化層を中断させるには充分高くないミリングエネルギーにおいて行なわれ得る。凝集した窒化鉄ナノ粒子は、ミリングプロセスの前又は後に、ふるいにかけられてもよい。ミリングされた窒化鉄ナノ粒子は、ミリングプロセス中に受けた酸化物シェルへの損傷を修復するために、さらなる不動態化及び/又はコーティングステップにかけられてもよい。前述のように、上述のプロセスを使用して製造された窒化鉄ナノ粒子、組成物及び磁性材料は、かかる処理なしに製造された対応する窒化鉄ナノ粒子、組成物及び磁性材料に比べて、例えばより高い保磁力、より高いエネルギー積などの改善された磁気特性を有する。
【0137】
ナノ粒子の湿式及び乾式ボールミリング中に使用されるミリング媒体及び容器は、それ自体、磁性又は非磁性であることができる。いくつかの状況において、磁性のミリング媒体及び容器は、ミリング容器の隙間にナノ粒子が堆積するのを回避する一助となり得るため、これらの使用が好ましい場合がある。他の状況において、非磁性のミリング媒体及び容器の使用は、ナノ粒子の磁気凝集を最低限に抑えるのを助けることによりミリングの効率及び収率を増大させる1つの方法として考えられる。
【0138】
さらに別の実施形態では、上記プロセスにおけるステップの任意の組み合わせでミリングステップを行なうことができる。一例において、ミリングは、還元前かつ窒化後に行なうことができる。別の例では、ミリングは、還元前かつ窒化後かつ不動態化後にミリングを行なうことができる。
【0139】
前駆体として凝集酸化鉄ナノ粒子を調製するために、プロセスのいくつかの改変が考えられる。酸化鉄ナノ粒子が化学的手段により製造される場合、ナノ粒子の成長を停止させ凝集を防止するために、キャッピング剤を使用することができる。代わりに、酸化鉄ナノ粒子のサイズ分布を化学的に変更するために、消化熟成法を使用することができる。酸化鉄ナノ粒子が蒸気凝縮によって製造される場合、狭い粒子サイズ分布を有する球状ナノ粒子の形成を促進するように、処理方法を調整することができる。
【0140】
一般的に、ナノ粒子を生成させる及び/又は変更するためには、ナノ粒子の集塊を解凝集させるよりも高いミリング用エネルギーが必要とされる。本発明中の機械的ミリング方法は、概して、ナノ粒子の集塊を解凝集させるとともに、還元、窒化、不動態化及び/又は整列作業中にナノ粒子の挙動を有益に変化させる傾向をもつ。
【0141】
図9は、窒化鉄磁石を製造するための4つの異なる材料処理スキームを示す。スキーム#1は、還元及び窒化前の凝集酸化鉄ナノ粒子のミリングを示している。スキーム#2は、還元後かつ窒化前の凝集ナノ粒子のミリングを示している。スキーム#3は、窒化後かつコーティング/不動態化前の凝集ナノ粒子のミリングを示している。スキーム#4は、コーティング/不動態化後かつ磁気整列前の凝集ナノ粒子のミリングを示している。
【0142】
図10は、例示的実施形態に係るナノ粒子の解凝集を示す。例えば、乾燥凝集体として供給されたガンマ酸化鉄ナノ粒子の超音波処理及び/又はボールミリング(湿式及び乾式)などの機械的ミリング方法は、凝集体の粒子サイズ及びサイズ分布の減少に極めて効果的である。
【0143】
図11は、凝集ナノ粒子の説明図を示す。強固に結合した凝集体は、物理的に接合された複数のナノ粒子で構成されている。ナノ粒子の緩く結合した凝集体は、互いに引き付け合う(凝結する)が、物理的に接合していないナノ粒子を有するものとして特徴付けられる。安定剤は、望ましいことに、酸化鉄ナノ粒子のサイズ分布がおよそ数十ナノメートルのサイズとなるように、フロキュレーションを防止することを助ける。
【0144】
図12は、レーザ回析法を使用する、凝集したナノ粒子、フロキュレートしたナノ粒子及び一次(小さい)ナノ粒子のサイズの測定を説明するものである。音波処理により、酸化鉄ナノ粒子の緩く結合した凝集体がばらばらになる。安定剤中での音波処理は、望ましいことに、一次(小さい)酸化鉄ナノ粒子を生成させる。測定:1.出発点、2.たとえ粒子が音波処理中に分離しても粒子はフロキュレートして元の「平衡」状態になる。
3.音波処理は、緩く結合した凝集体をばらばらにし、安定剤は、小さな粒子が見え始めるフロキュレーションを防止する。
【0145】
図13は、複数の異方性窒化鉄ナノ粒子の飽和磁化及び保磁力の範囲を示す。丸印のデータ点は、MsatとHciの必要とされる組み合わせを有する。すなわち、MSatは190emu/gより大きく、Hcは2,500Oeより大きい。
【0146】
図14は、窒化鉄ナノ粒子におけるコア中のα’’%対コア中のα-Fe%の相分布に及ぼすミリングの効果を示す。本開示に記載の方法にしたがう音波処理されたナノ粒子は、70%超のアルファ’’相を有する窒化鉄ナノ粒子を生じる。α-Fe、α’’-Fe16、ε-Fe2-3N、並びに超常磁性Fe酸化物及び超常磁性Fe窒化物相中のFe原子の分率を決定するためには、メスバウアー分光法を使用した。「コア中のα’’」は、α’’-Fe16相中のFe原子を全非酸化物相中のFe原子で除したものとして計算される。「コア中のα-Fe」は、α-Feを全非酸化物相中のFe原子で除したものとして計算される。Fe原子は、超常磁性相中の原子の合計分率から導出された関数に基づいて、ε-Fe2-3N相及び酸化物相中に分布していた。「D50」は、50ミクロン未満の直径を有するミリング処理された酸化鉄ナノ粒子凝集体の合計体積分率である。符号は、窒化前に酸化鉄ナノ粒子に適用されたミリング方法を示す。
【0147】
本開示は、少なくとも以下のさらなる態様に関する。
【0148】
態様36. 鉄含有ナノ粒子を機械的にミリングするステップと、ミリングされた鉄含有ナノ粒子を磁場の存在下で整列させるステップとを実施することを含む、窒化鉄ナノ粒子の製造方法。
【0149】
態様37. 鉄含有ナノ粒子が、機械的ミリング前に鉄含有ナノ粒子の凝集体の形態にある、態様36に記載の方法。
【0150】
態様38. さらに、鉄含有ナノ粒子を還元性化学種の存在下で還元するステップを実施することを含む、態様36に記載の方法。
【0151】
態様39. 還元性化学種が水素を含む、態様38に記載の方法。
【0152】
態様40. 機械的ミリングが還元ステップの前に実施される、態様38に記載の方法。
【0153】
態様41. さらに、原子状窒素物質の存在下で鉄含有ナノ粒子を窒化して窒化鉄ナノ粒子を得るステップを実施することを含む、態様38に記載の方法。
【0154】
態様42. 還元ステップの後でかつ窒化ステップの前に、機械的ミリングが実施される、態様41に記載の方法。
【0155】
態様43. 窒化ステップの後に、さらに、炭素及びホウ素、酸化アルミニウム、銅金属、及びアルミニウム金属のいずれかで鉄含有ナノ粒子をコーティングするステップを含み、鉄含有ナノ粒子が窒化鉄ナノ粒子を含む、態様41に記載の方法。
【0156】
態様44. 機械的ミリングが、窒化ステップの後でかつコーティングステップの前に実施される、態様43に記載の方法。
【0157】
態様45. 機械的ミリングが、流体中での超音波処理、流体の存在下でのボールミリング、乾式ボールミリング、流体の存在下での高せん断混合、及び高速ガス流中でのジェットミリングのうちのいずれかによって実施される、態様36に記載の方法。
【0158】
態様46. さらに、機械的ミリングの後にミリング容器を氷浴中に浸漬するステップを含み、機械的ミリングが、鉄含有ナノ粒子を格納するミリング容器内で実施される、態様36に記載の方法。
【0159】
態様47. 流体のいずれかが、水、有機物質又はそれらの両方を含む、態様45に記載の方法。
【0160】
態様48. 流体のいずれかが界面活性剤を含んで、鉄含有ナノ粒子の解凝集を促進する、態様45に記載の方法。
【0161】
態様49. 乾式ボールミリングが、窒素、アルゴン及びヘリウムのうちのいずれかを含む不活性雰囲気中で実施される、態様45に記載の方法。
【0162】
態様50. 機械的ミリングがコーティングステップの後に実施される、態様43に記載の方法。
【0163】
態様51. 磁気的にアニールされた鉄含有ナノ粒子が、25μm以下のD50を有する、態様36に記載の方法。
【0164】
態様52. 磁気的にアニールされた鉄含有ナノ粒子が、10μm以下のD50を有する、態様36に記載の方法。
【0165】
態様53. 磁気的にアニールされた鉄含有ナノ粒子が、2.5μm以下のD50を有する、態様36に記載の方法。
【0166】
態様54. 機械的ミリングが磁性媒体の存在下で実施される、態様36に記載の方法。
【0167】
態様55. 窒化鉄ナノ粒子のうちの少なくとも1つがα’’-Fe16相ドメインを含む、態様36に記載の方法によって得られる窒化鉄ナノ粒子の凝集体。
【0168】
態様56. 190emu/gより大きい飽和磁化MSat及び2,500Oeより大きい保持力Hcを有することを特徴とする、複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【0169】
α’’-Fe16相の質量百分率が少なくとも70%である、請求項18に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【0170】
態様57. 態様56に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子であって、当該複数の異方性窒化鉄ナノ粒子は、さらに、全体的に均一な相組成を有することを特徴とし、高質量分率のα’’-Fe16相と低質量分率のα-Fe相及びε-Fe2-3N相とを含む、態様56に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【0171】
態様58. α’’-Fe16相の質量百分率が、少なくとも70%、少なくとも75%、又は少なくとも80%である、態様57に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【0172】
態様59. 窒化鉄ナノ粒子が、炭素、ホウ素、酸化アルミニウム、銅金属、又はアルミニウム金属のうちの1種以上で被覆されている、態様56に記載の複数の異方性窒化鉄ナノ粒子。
【0173】
態様60. 複数の窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石であって、当該永久磁石が約12.5~約14kGの範囲内の飽和磁化MSatを有することを特徴とする、複数の窒化鉄ナノ粒子を含む永久磁石。
【0174】
態様61. 窒化鉄ナノ粒子が、マトリックス中で磁気的に整列され、結合されている、態様60に記載の永久磁石。
【0175】
態様62. 態様60に記載の永久磁石であって、ナノ粒子は、さらに、全体的に均一な相組成を有することを特徴とし、ナノ粒子は、高質量分率の好ましいα’’-Fe16相と低質量分率のα-Fe相及びε-Fe2-3N相とを含む、態様60に記載の永久磁石。
【0176】
態様63. α’’-Fe16相の質量百分率が少なくとも70%、75%、80%である、態様62に記載の永久磁石。
【0177】
態様64. 窒化鉄ナノ粒子が、炭素、ホウ素、酸化アルミニウム、銅金属又はアルミニウム金属のうちの1種以上で被覆されている、態様60に記載の永久磁石。
【0178】
態様65. 窒化鉄ナノ粒子の少なくとも一部分が、解凝集された個別の一次粒子であることを特徴とする、態様60に記載の永久磁石。
【0179】
さまざまな例を説明してきた。これらの及び他の例が、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0180】
分子量などの物理的特性、又は化学式などの化学的特性について本開示で範囲が使用されている場合、その中の特定の実施形態についての範囲の全ての組み合わせ及び部分的組み合わせが含まれることを意図している。
【0181】
本明細書中に引用又は記載されている各々の特許、特許出願及び刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0182】
当業者であれば、本発明の好ましい実施形態に対し多くの変更及び改変を加えることが可能であること、かかる変更及び修正は、本発明の精神から逸脱することなく行なうことができることを理解するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、かかる等価の変形形態を本発明の真の精神及び範囲内に入るものとして網羅することが意図されている。
【0183】
以上の説明は、例示的であり、限定的でないものであることを意図している。例えば、上述の例(又はその1つ以上の態様)を互いに組み合わせて使用することが可能である。当業者は、例えば以上の説明を考慮した上で、他の態様を使用することもできる。要約書は、読者が技術的開示の内容を迅速に確認できるようにするために、米国連邦規則法典第37巻§1.72(b)を遵守するように提供されている。要約書は、特許請求の範囲又は意味を解釈又は限定するために使用されるものではないということを了解の上で提出されている。同様に上述の詳細な説明の中では、開示を簡素化するために、さまざまな特徴がまとめられている場合がある。これは、請求されていない開示される特徴がいずれかの請求項にとって不可欠であることを意図するものとして解釈されるべきではない。むしろ、発明力ある主題は、特定の開示される態様の全特徴より少ない特徴の中に存在し得る。したがって、以下の特許請求の範囲は、詳細な説明中に例又は態様として組込まれており、各請求項は別個の態様として独立しており、かかる態様をさまざまな組み合わせ又は置換の形で互いに組み合わせることができると考えられる。本開示の範囲は、添付特許請求の範囲と共にかかる特許請求の範囲が権利を有する等価物の全範囲を基準にして、決定されるべきものである。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
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図12-1】
図12-2】
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【国際調査報告】