(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】タンパク質を標的化する分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230405BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230405BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230405BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/11 20060101ALI20230405BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20230405BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230405BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K4/00 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
C12N1/11
A61K38/10
A61K38/16
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550694
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2021054121
(87)【国際公開番号】W WO2021165453
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522331253
【氏名又は名称】エイリン・セラピューティクス
(71)【出願人】
【識別番号】514185600
【氏名又は名称】ブイアイビー ブイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Rijvisschestraat 120, B-9052 Gent, Belgium
(71)【出願人】
【識別番号】512320560
【氏名又は名称】カトリック ユニヴェルシテット ルーヴェン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】クラース,フィリップ・マリア・ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】シムコウィッツ,ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】ルソー,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ベルナル,エルス・アンナ・アリス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
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4B063QS34
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4H045AA10
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4H045AA30
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4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明の態様は、特にタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子、ならびにその適用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子であって、
a)タンパク質が、β凝集傾向領域(APR)を含み、前記APRが、タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型にタンパク質に存在しない新規のAPRを導入し;
前記分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されている、分子。
【請求項2】
分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRと分子間ベータシートを形成するが、タンパク質中のAPRとは実質的に分子間ベータシートを形成しないように構成されている、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記分子間ベータシートが、タンパク質の変異またはバリアント型とタンパク質の間で異なるアミノ酸のうちの1個または複数を含む、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRとはアミノ酸配列または凝集傾向が、好ましくはアミノ酸配列が、さらに好ましくはアミノ酸配列および凝集傾向が異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の分子。
【請求項5】
タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの凝集傾向が、タンパク質中のAPRの凝集傾向よりも高い、請求項4に記載の分子。
【請求項6】
a)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRよりも高い割合の疎水性アミノ酸を有する;
b)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸の割合がタンパク質中のAPRよりも低い;
c)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRよりも低い割合の荷電アミノ酸を有する;および/または
d)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRよりも少なくとも1個のアミノ酸分長く、例えば、2、3または4個のアミノ酸分長い、請求項4または5に記載の分子。
【請求項7】
a)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動が、タンパク質中のAPR内の1つもしくは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失する、もしくは付加する;
b)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動が、タンパク質中のAPRにN末端で隣接する1~10個、好ましくは1~4個の連続するアミノ酸の領域内の1つもしくは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失する、もしくは付加し、好ましくはそれにより前記領域の少なくとも1個のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分になる;および/または
c)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動が、タンパク質中のAPRにC末端で隣接する1~10個、好ましくは1~4個の連続するアミノ酸の領域内の1つもしくは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失する、もしくは付加し、好ましくはそれにより前記領域の少なくとも1個のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分になる、
請求項4~6のいずれか一項に記載の分子。
【請求項8】
タンパク質中のAPRにN末端またはC末端で隣接する前記領域での突然変異または変動が、
a)前記領域中で疎水性アミノ酸の割合を増やす;
b)前記領域中でベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸の割合を低減する;および/または
c)前記領域中で荷電アミノ酸の割合を低減する、
請求項7に記載の分子。
【請求項9】
分子が、タンパク質の変異またはバリアント型の溶解性を減らすか、またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができる、請求項1~8のいずれか一項に記載の分子。
【請求項10】
分子が、アミノ酸ストレッチ、好ましくは少なくとも6個の連続するアミノ酸のストレッチ、例えば、6~10個の連続するアミノ酸のストレッチを含み、このストレッチが、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートに関与する、請求項2~9のいずれか一項に記載の分子。
【請求項11】
分子により含まれる前記ストレッチが、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRに含まれるアミノ酸ストレッチに、好ましくは少なくとも6個の連続するアミノ酸のストレッチ、例えば、6~10個の連続するアミノ酸のストレッチに対応し、好ましくは、
a)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、APRに含まれるストレッチと同一である;
b)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、APRに含まれるストレッチのアミノ酸配列と少なくとも80%同一である;
c)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、APRに含まれるストレッチのアミノ酸配列と最大3個の、好ましくは最大2個の、さらに好ましくは最大1個のアミノ酸置換によって異なっている;
d)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、a)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、分子ストレッチのすべてのアミノ酸がL-アミノ酸である;
e)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、a)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸である;
f)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸の類似体により置き換えられている;または
g)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸の類似体により置き換えられている、
請求項10に記載の分子。
【請求項12】
同一または異なる、2つまたはそれ以上、好ましくは2つの前記アミノ酸ストレッチを含む、請求項10または11に記載の分子。
【請求項13】
アミノ酸ストレッチ(単数または複数)がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1個または複数のアミノ酸によって、各末端に独立して隣接されている、請求項10~12のいずれか一項に記載の分子。
【請求項14】
以下の構造:
a)NGK1-P1-CGK1、
b)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2、
c)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3、または
d)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3-Z3-NGK4-P4-CGK4
を含み、それから本質的になり、またはそれからなり、
P1~P4が、それぞれ独立して、請求項10~13のいずれか一項に定義されているアミノ酸ストレッチを表示し、
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1~4個の連続するアミノ酸、例えば、R、K、D、E、P、N、S、H、G、Q、およびA、D-異性体および/または類似体、ならびにその組合せからなる群から選択される1~4個の連続するアミノ酸、好ましくはR、K、D、E、P、N、S、H、G、およびQ、D-異性体および/またはその類似体、ならびにその組合せからなる群から選択される1~4個の連続するアミノ酸、さらに好ましくはR、K、D、E、およびP、D-異性体および/またはその類似体、ならびにその組合せからなる群から選択される1~4個の連続するアミノ酸を示し、
Z1~Z3が、それぞれ独立して、直接結合、または好ましくはリンカーを表示する、請求項10~13のいずれか一項に記載の分子。
【請求項15】
突然変異または変動が生殖系列または体細胞突然変異または変動である、請求項1~14のいずれか一項に記載の分子。
【請求項16】
タンパク質の変異またはバリアント型が、疾患を引き起こすかまたはそれに関連する、請求項1~15のいずれか一項に記載の分子。
【請求項17】
疾患が、新生物疾患、特に、がんである、請求項16に記載の分子。
【請求項18】
タンパク質が、癌原遺伝子であり、タンパク質の変異またはバリアント型が癌遺伝子である、請求項17に記載の分子。
【請求項19】
医薬で使用するための、特に、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患を処置する方法において使用するための、請求項16~18のいずれか一項に記載の分子;または
分子が、医薬で使用するための、特に、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患を処置する方法において使用するためのポリペプチドである、請求項16~18のいずれか一項に記載の分子をコードする核酸。
【請求項20】
タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるかまたはそれに関連する新生物疾患を処置する方法において使用するための、請求項17もしくは18に記載の分子;または
タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるか、またはそれと関連した新生物疾患を処置する方法における使用のための、請求項17もしくは18に記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか一項に記載の分子;または
請求項1~18のいずれか一項に記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸
を含む、医薬組成物。
【請求項22】
タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する細胞においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するためのin vitro方法であって、タンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子に、細胞を接触させるステップを含み、
a)タンパク質が、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRがタンパク質の変異またはバリアント型中で突然変異または変動により改変される;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型中でタンパク質に存在しない新規APRを導入し;
前記分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されている;または
前記分子をコードする核酸に、細胞を接触させるステップを含み、分子がポリペプチドである、方法。
【請求項23】
タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する生物においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するための方法であって、生物にタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子を投与するステップを含み、
a)タンパク質が、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRがタンパク質の変異またはバリアント型中で突然変異または変動により改変される;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型中でタンパク質に存在しない新規APRを導入し;
前記分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されているか;または
前記分子をコードする核酸に、細胞を接触させるステップを含み、分子がポリペプチドである、方法。
【請求項24】
分子が請求項1~14のいずれか一項で定義されている通りである、請求項22または23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
細胞が、細菌細胞、酵母細胞もしくはカビ細胞を含む真菌細胞、原生生物細胞、植物細胞、または非ヒト哺乳動物細胞もしくはヒト細胞を含む動物細胞である、請求項22または24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
生物が、細菌、酵母もしくはカビを含む真菌、植物、または動物である、請求項23または24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質をin vitroまたはin vivoで下方制御するのに適した分子および組成物に広く関しており、この分子および組成物は、医療もしくは獣医分野、または農業もしくは園芸分野などにおける様々な領域で適用可能である。本出願はまた、分子を作製および使用するための方法、ならびにその分子を含む組成物を教示する。
【背景技術】
【0002】
天然のタンパク質は配列変動を呈することが多く、これによりはっきり異なるアミノ酸配列を有するそのようなタンパク質のバリアントまたは変異型が生成される。一例では、配列変動はタンパク質のプレmRNAの選択的スプライシングから生じる場合があり、そのため最終的mRNA分子は、タンパク質コードエクソンの異なったサブセットで構成される。別の例では、タンパク質の所与のアミノ酸位(単数または複数)での配列変動は、前記アミノ酸(単数または複数)をコードするコドン(単数または複数)に影響を及ぼす対応する遺伝子の核酸配列の配列変動に起因する場合がある。所与の遺伝子座での核酸配列変動は、その遺伝子座の多型性質、すなわち、天然の集団においてその遺伝子座での2つもしくはそれ以上の遺伝的に決定された選択的配列もしくは対立遺伝子の存在に起因する場合があり;またはその遺伝子座での遺伝性もしくは新規の突然変異の結果である場合があり、そのような突然変異はある特定の例では、有害な表現型変化、さらに具体的には疾患もしくは障害などの表現型変化を引き起こすかまたはこれに関連する場合がある。一例は癌原遺伝子の突然変異であり、これは細胞の増殖を調節解除し、がんなどの新生物疾患を引き起こすことがある。核酸配列変動または突然変異は、生殖系列と体細胞両方の核酸配列変動または突然変異を包含しうる。
【0003】
WO2007/071789A1およびWO2012/123419A1は、目的のタンパク質における対応するβ凝集傾向性領域(APR)に方向づけられ、それと相互作用することができる少なくとも1つのβ凝集性配列を含む、新規にデザインされたペプチドベースの分子(そこでは「インターフェラーズ(interferors)」と呼ばれている)を利用して、目的のタンパク質の標的化下方制御を可能にする技術を記載する。そのようなAPRは、TANGO(Fernandez-Escamillaら、Nat Biotechnol. 2004、22巻1302~6、http://tango.embl.de/)またはZyggregator(Pawarら、J Mol Biol. 2005、350巻、379~92;Tartaglia and Vendruscolo、Chem Soc Rev、2008、37巻、1395~401)などの公表されているアルゴリズムおよびコンピュータプログラムを使用して、タンパク質配列において決定することができる。
【0004】
WO 2007/071789A1およびWO2012/123419A1において、アミノ酸配列にAPRを含む目的のタンパク質と、前記APRに対応するβ凝集性配列を含むインターフェラー分子との間の接触により、前記インターフェラーと前記目的のタンパク質との間に特異的なβシート相互作用および共凝集が起こり、前記目的のタンパク質の可溶性の低下および凝集物または封入体へのそれの隔離、ならびに結果的に、前記目的のタンパク質の生物機能の効果的な下方制御またはノックダウンをもたらすことが提案された。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、タンパク質中のある特定のアミノ酸配列変動または突然変異は、前記タンパク質でのβ凝集傾向性領域(APR)のプロファイルを改変することができるので、下方制御のためにタンパク質のバリアントまたは変異型を特異的に標的化する新規の分子を設計することが可能になるという発明者らの洞察に少なくとも一部基づく。例えば、タンパク質中の配列変動または突然変異は、そのタンパク質中のアミノ酸配列および/または既存のAPRの凝集傾向を改変する場合があり、APR特性のこの違いを利用すれば、タンパク質のバリアントまたは変異型中のAPRを特異的に標的化する新規の分子を設計することができる。別の例では、タンパク質中の配列変動または突然変異は、前記変動または突然変異が非存在であり、タンパク質が対応するAPRを含有しなかった場所に新たな(新規の)APRを導入しうる。これは、例えば、APRを含有する追加のアミノ酸配列が、選択的スプライシングによりもしくは挿入突然変異によりなどでタンパク質中に挿入される場合;またはある程度はAPRに近づくがまだAPRとして適格ではないアミノ酸ストレッチが変動もしくは突然変異により改変されてAPRとして適格になることができる場合に生じうる。
【0006】
したがって、態様は、タンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子であって、
a)タンパク質は、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRは、タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型にタンパク質に存在しない新規のAPRを導入し;
分子は、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成される、分子を提供する。
【0007】
さらなる態様は、ヒトまたは獣医学において、すなわち、ヒトまたは動物の処置においてを含む医療で使用するための本明細書で教示されるような任意の分子を提供する。さらなる態様は、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはこれに関連する疾患を処置する方法で使用するための本明細書で教示されるような任意の分子を提供する。関連態様は、処置を必要とする対象を処置するための方法であって、本明細書で教示されるような任意の分子の治療有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法を提供する。さらなる関連する態様は、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはこれに関連する疾患を有する対象を処置するための方法であって、対象に治療有効量の本明細書で教示されるような任意の分子を投与するステップを含む方法を提供する。
【0008】
さらなる態様は、本明細書で教示されるような任意の分子を含む医薬組成物を提供する。
さらなる態様は、タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはそれを内因的に発現する細胞においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するためのin vitro方法であって、細胞を本明細書で教示されるような任意の分子に接触させるステップを含む方法を提供する。
【0009】
さらなる態様は、タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する生物においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するための方法であって、生物に本明細書で教示されるような任意の分子を投与するステップを含む方法を提供する。
【0010】
本分子は、変異またはバリアントタンパク質型の優先的な検出または標的化が、例えば、目的の生物において、またはそのような生物の病原体において、変異またはバリアントタンパク質の発現および生物活性を検出するまたは低減するのに興味深いことがある多くの技術分野または領域で広く適用可能であることは理解されるべきである。そのような分野は、限定せずに、医療および獣医行為、診断、研究ツール、農業、園芸、水産養殖、および他を含む。
【0011】
本発明のこれらを始めとする態様および好ましい実施形態は、以下のセクションおよび添付の特許請求の範囲に記載されている。添付の特許請求の範囲の主題は、この明細書に具体的に組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】NCI-H441腫瘍細胞系培養物に対する本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)のスクリーニングを示す図である。(A)接着的に成長している(2D)NCI-H441細胞に対するRAS標的化pept-inの単回用量(25μM)のスクリーニング。試験化合物への4日間の曝露の後に生存能力を評価し、媒体条件(30mMの尿素)に対して正規化した。(B)懸濁液スフェロイド培養物として成長している(3D)NCI-H441細胞に対するRAS標的化pept-inの単回用量(25μM)のスクリーニング。試験化合物への5日間の曝露の後に生存能力を評価し、媒体条件(30mMの尿素)に対して正規化した。NT:試験せず。誤差のバーはSDを表している。
【
図2】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)および陰性対照の用量応答およびIC
50の決定を示す図である。pept-inを、接着的に成長している(2D)NCI-H441細胞に対して、最大用量として50μMから開始した2倍連続希釈物を使用して、5つのポイントの用量応答で試験した。生存能力を試験化合物への3日間の曝露の後に評価し、媒体条件に対して正規化した。誤差のバーはSDを表している。
【
図3】懸濁液スフェロイド培養物に対する本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)のIC
50を示す図である。懸濁液スフェロイド培養物に対するRAS標的化pept-inのIC
50の中央値を示す、ウォーターフォールプロット。pept-inを、異なるKRAS突然変異を有する細胞系のセットでのスフェロイド懸濁液培養物に対して、最大用量として50μMから開始した2倍連続希釈物を使用して、5つのポイントの用量応答で試験した。生存能力を、試験化合物への曝露の5日後に評価した。誤差のバーは、該当する場合、中央値のSDを表している。
【
図4】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)についての動的着色凝集アッセイを示す図である。RAS標的化pept-inの凝集挙動を、アミロイド凝集センサー色素であるチオフラビンT(ThT、下部のパネル)および五量体ホルミルチオフェン酢酸(p-FTAA、上部のパネル)を使用する動的着色アッセイを行うことによって研究した。4つの生物学的に活性なpept-inの全てが、明らかなアミロイド凝集動態を両色素で示し、一方、不活性対照は顕著なThTシグナルを示さず、p-FTAAシグナルのわずかな増大を経時的に示したにすぎなかった。
【
図5-1】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図5-2】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図5-3】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図5-4】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図5-5】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図6】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)の標的選択性を示すin vitroでの翻訳アッセイを示す図である。ビオチン化されたRAS標的化pept-inの存在下で野生型KRASまたは異なる変異型KRASのいずれかを生産するin vitroでの翻訳アッセイ。ストレプトアビジンでのプルダウンを使用して、ビオチン化されたpept-inを翻訳反応物から捕捉し、プルダウンされた画分を、ウェスタンブロットを使用してKRASについて調べた。ビオチン化されたバージョンのpept-in 04-004-N001、すなわち、野生型APRに由来するAPRウィンドウ配列を有する04-004-N011は、全てのRASタンパク質をそれらの突然変異の状態とは無関係に標的化すると予測される。04-004-N001での効率的なプルダウンがKRAS野生型のG12VおよびG12Cで実際に見られたが、G12DおよびG13D突然変異体への結合はあまり効率的ではないと思われた。しかし、G12V突然変異部位を含むAPRウィンドウを有する、ビオチン化されたバージョンの生物学的に活性なpept-in(04-006-N007、04-015-N026、および04-033-N003)を使用すると、プルダウンはG12V変異型KRASでのみ見られ、04-015-N026のケースでは、G12C変異型KRASでのみ見られた。
【
図7】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)による標的化エンゲージメントを示す細胞共免疫沈降アッセイを示す図である。ビオチン化されたpept-inの細胞標的化エンゲージメントを、共免疫沈降アッセイを使用して評価した。NCI-H441細胞を25μMのビオチン化されたpept-inで一晩処理し、その後、pept-inを、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して、溶解物から免疫沈降させた。沈殿した画分を、ウェスタンブロットを使用してKRASについて調べた。このアプローチによって、媒体または陰性対照ペプチドで処理した条件の沈殿画分では検出可能なKRASタンパク質は得られなかったが、KRASタンパク質は、生物学的に活性なpept-inで処理したNCI-H441細胞からの沈殿画分では容易に検出された。
【
図8】本発明のある特定の実施形態に従った、mCherry標識されたKRASとFITC標識されたRAS標的化分子(「pept-in」)との間の細胞共局在化を示す図である。mCherryでタグ付けされたKRAS G12Vを過剰発現するHeLa細胞を、FITC標識されたバージョンのRAS標的化pept-in 04-015-N001(04-015-N032)で処理し、pept-inへの最初の曝露の75分後にイメージングした。FITCおよびmCherryの両方が陽性である封入様核周囲構造の出現によって明らかにされた通り、mCherry標識されたKRASはpept-inと結び付いた(白の矢印)。
【
図9】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)がKRASタンパク質の溶解性および総レベルを低下させることを示す図である。NCI-H441細胞を、およそのIC50用量(12.5μM)およびおよその2×IC50用量(25μM)で24時間処理した。溶解物中の不溶性タンパク質を遠心分離によって回収し、可溶性タンパク質画分および不溶性タンパク質画分の両方を、ウェスタンブロットでKRASについて調べた。この分析は、全ての生物学的に活性なRAS標的化ペプチドが、不溶性画分中のKRASのパーセンテージを用量依存的に増大させ、一方、不溶性KRASのパーセンテージは媒体および陰性対照ペプチドで処理した試料の間で同等であったことを示した(A)。これらの試料における総KRASレベル(すなわち、各処理での可溶性画分および不溶性画分におけるKRASレベルの合計)の定量は、総KRASレベルもまた、生物学的に活性なRAS標的化pept-inで処理した試料において用量依存的に低減することを示した(B)。
【
図10】RASless MEFパネルを使用する、突然変異体選択的な細胞有効性を示す図である。グラフは、内因性のKRAS、HRAS、およびNRASの不在下での、野生型(WT)、変異型G12VもしくはG12C KRAS、またはV600E変異型BRAFのいずれかを発現するRASless MEFのパネルでの、示されたRAS標的化pept-inの有効性を評価する、少なくとも3つの独立した実験から得られた平均±SDおよび個々のアッセイのIC50を示している。
【
図11】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)による標的化エンゲージメントを示す細胞共免疫沈降アッセイを示す図である。ビオチン化されたpept-inの細胞標的化エンゲージメントを、共免疫沈降アッセイを使用して評価した。KRAS野生型または変異型G12Vを発現するRASless MEF。RASless MEFに基づくアッセイにおいて、ブロットは、04-004由来のビオチン化されたpept-inが野生型および変異型G12V KRASの両方を良く沈殿させたことを示している。しかし、ビオチン化されたバージョンのG12V選択的pept-inは、G12V変異型KRASタンパク質への優先的な結合を示している。
【
図12-1】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図12-2】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図12-3】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図12-4】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図12-5】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図12-6】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図13】RAS標的化pept-inが、KRAS G12V変異型がんの異種移植モデルにおける腫瘍成長を低減させることを示す図である。ヒトKRAS G12V変異型結腸直腸がんの異種移植モデルであるSW620を使用して、RAS標的化pept-inのin vivo投与が腫瘍成長の低減をもたらすかどうかを評価した。腫瘍が100~150mm
3に達したら、pept-inを、20または200μgのいずれかで、腫瘍内注射によって週に3回投与した。モデルの応答を、100mg/kgのイリノテカンを週に1回、3週間投与した陽性対照群によってモニタリングした。群のサイズは、未処理群ではN=6、媒体群ではN=5、ならびにpept-in群および陽性対照群ではN=8であった。グラフは、処理開始後22日目の腫瘍体積の箱ひげ図を示す。示されたグラフは、一元配置ANOVAによる、04-004-N001(200μg投与群)ならびに04-015-N001(20gおよび200g投与群)での腫瘍体積の有意な低減を示している。
【
図14】
図14は、in vitro翻訳アッセイにおけるそれぞれのITK変異体への、ITK R29CまたはR29L変異体に対して設計されたpept-ins 22-006-N001および22-018-N001の選択的結合を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上、明らかにそうでないことが示されない限り、単数形および複数形の両方の目的物を包含する。
【0014】
用語「を含むこと(comprising)」、「を含む(comprises)」、および「で構成される(comprised of)」は、本明細書に使用される場合、「を含むこと(including)」「を含む(includes)」または「含有すること(containing)」「含有する(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンド形式であり、追加の列挙されていないメンバー、要素、または方法ステップを排除しない。この用語は、「からなる」および「から本質的になる」も包含し、それらは、特許用語において十分確立された意味を享有する。とは言え、用語「から本質的になる」に関して、さらなる例示によって、分子が、本質的に構造要素A-B-Cからなると言及される場合、分子は、必ず、列挙された要素を含み、ならびに分子の基本的特性および新規の特性に実質的に影響を及ぼさない列挙されていない構造要素も含むことに対してオープンであろう。したがって、要素A-B-Cが、特に、所定の標的との分子の相互作用または標的に対する作用を促進することによって、分子の作動的部分または原理を形成する場合、用語「から本質的になる」は、分子における要素A-B-Cの存在を確実にするであろうし、標的との分子の相互作用に実質的に影響を及ぼさない列挙されていない要素の存在も許容するであろう。
【0015】
エンドポイントによる数値範囲の列挙は、それぞれの範囲内に包含される全ての数および分数ならびに列挙されたエンドポイントを含む。このことは、数値範囲が表現「~から~まで」または表現「~と~との間」または別の表現によって導入されるか否かに関わらず、数値範囲にも当てはまる。
【0016】
用語「約」または「およそ」は、測定可能な値、例えば、パラメーター、量、期間など、を意味するために本明細書において使用される場合、指定された値からの変動が、開示される本発明において実施するのに適切である限り、指定された値からの変動、例えば、指定された値からその値の+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下の変動など、を包含することが意図される。修飾語「約」または「およそ」が参照する値それ自体も、詳細にそして好ましく開示されることは理解すべきである。
【0017】
用語「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」、例えば、メンバーのグループのうちの1つまたは複数のメンバーまたは少なくとも1つのメンバーなどは、さらなる例示により、それ自体明確であるが、その一方で、この用語は、特に、メンバーのうちの任意の1つ、またはメンバーのうちの任意の2つ以上、例えば、メンバーのうちの任意の≧3、≧4、≧5、≧6、または≧7など、ならびにメンバーの全てまで、に対する参照を包含する。別の例において、「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7、またはそれ以上を意味し得る。
【0018】
本明細書における本発明に対する背景の説明は、本発明の内容を説明するために含まれる。これは、言及される材料のいずれかが、請求項のいずれかの優先日のものとして任意の国において公開されているか、公知であるか、または共通の一般的知識の一部であることの承認と見なされるべきではない。
【0019】
本開示全体を通して、確認的引用によって様々な刊行物、特許、および公開特許出願が参照される。本明細書において引用された全ての文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。特に、そのような文献の教示または一部は、本明細書において、参照により組み込まれることが明確に言及される。
【0020】
特に明記されない限り、本発明の開示において使用される全ての用語は、技術用語および科学用語を含め、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる教導により、用語の定義は、本発明の教示をより良く理解するために含まれる。特定の用語が、本発明の特定の態様または本発明の特定の実施形態との関連において定義される場合、そのような含意または意味は、本明細書全体に適用されること、すなわち、特に明記されない限り、本発明の他の態様または実施形態に関しても適用されることが意図される。
【0021】
下記の説明において、本発明の異なる態様または実施形態が、より詳細に定義される。そのように定義される各態様または実施形態は、相反することが示されない限り、任意の他の態様または実施形態を組み合わせてもよい。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の特徴と組み合わせてもよい。
【0022】
本明細書全体を通して「一実施形態」、「ある実施形態」に対する言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、および特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所における語句「一実施形態において」または「ある実施形態において」の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているものではなく、しかし、同じ実施形態であってもよい。その上、特定の特徴、構造、または特性は、本開示から当業者に明らかであるように、1つまたは複数の実施形態において、任意の好適な方式において組み合わせてもよい。その上、本明細書において説明されるいくつかの実施形態が、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴は含まない場合、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内であることが意図され、ならびに当業者によって理解されるであろうように、異なる実施形態を形成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれも、任意の組合せにおいて使用することができる。
【0023】
実験セクションによって確証されるように、このセクションは本発明のある特定の代表的な実施形態、特にミスセンス突然変異を保有するヒトRASタンパク質を特異的に下方制御することができるが野生型のヒトRASには実質的に作用しない分子を説明し、そこでは分子の設計が、突然変異はRASタンパク質のN末端の大半のβ凝集傾向性領域(APR)を変更するという事実を利用しており、発明者らは、この時点で、タンパク質のバリアントまたは変異型の量または生物活性を特異的に下方制御する分子は、タンパク質のそのようなバリアントまたは変異型において変更されたまたは新規に生じるAPRを特異的に標的化することにより設計することができるという広い教示を提供する。
【0024】
タンパク質のバリアントまたは変異型を特異的に標的化して下方制御する能力は、そのようなバリアントまたは変異型が非改変タンパク質とははっきり異なる特性、機能または効果を示すところでは、特にこれらの特性、機能または効果がタンパク質のバリアントまたは変異型を細胞または生物の健康または生存にとって有害にするところでは特に重要になりうる。例えば、「機能獲得型の」突然変異は、例えば、しかし限定せずに、タンパク質の活性を増やすもしくは、細胞シグナル伝達に関与するタンパク質などのタンパク質を構成的に活性にもしくは制御解除にする;タンパク質にミスフォールドさせておそらく他のタンパク質のミスフォールディングを誘発する;タンパク質の正常な分解を妨げる;タンパク質を新しいもしくはもっと強いタンパク質-タンパク質相互作用に関与させる;またはタンパク質の細胞内標的化および局在化を損なう、等などの有害な特性、機能または効果をタンパク質に獲得させる可能性がある。さらに、「ドミナントネガティブ」突然変異は、非改変タンパク質に拮抗的に作用するタンパク質の変異型を生成する場合がある。したがって、そのようなドミナントネガティブ突然変異は変異タンパク質の機能を損なうだけではなく、変異タンパク質は、例えば、野生型タンパク質と不活性複合体を形成することにより、または、野生型タンパク質であれば考えられるように、それでも細胞パートナーと結合するかまたは細胞プロセスに関与することにより、しかしそのような結合もしくは関与の正常な結果を誘発することなく、野生型タンパク質の機能も妨害するまたは除去する。ある特定の例では、癌原遺伝子での機能獲得型の突然変異または腫瘍抑制遺伝子でのドミナントネガティブ突然変異は、変異タンパク質に細胞の癌化を引き起こすかまたは一因となる潜在力を与えることができる。
【0025】
したがって、タンパク質のバリアントまたは変異型の量または生物活性を下方制御すれば、そのようなおよびさらなる状況では大いに価値があることになる。そうすることで、例えば、変異タンパク質を発現する細胞または生物の健康を回復する一助となりうる。またはそうすることで、例えば、細胞の生存能力を低減するかまたは細胞を殺傷する場合があり、細胞は、細胞による変異タンパク質の発現のせいで生物にとって有害である。したがって、態様は、タンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子であって、
a)タンパク質が、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRが、タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型にタンパク質に存在しない新規のAPRを導入し;
分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成される、分子を提供する。
【0026】
用語「天然には存在しない」は、概して、天然では形成されないかまたは天然には存在しない材料または存在を意味する。そのような天然には存在しない材料または存在は、本明細書において説明される方法または当技術分野において公知の方法を使用して人によって作製、合成、半合成、修飾、介入、または操作され得る。一例により、この用語は、ペプチドとの関連において使用される場合、特に、同一のアミノ酸配列のペプチドが、天然において見出されないこと、あるいは、同一のアミノ酸配列のペプチドが天然に存在する場合には、天然には存在しないペプチドが、天然に存在するカウンターパートには含まれておらず、したがってカウンターパートを区別するような、1つまたは複数の追加の構造要素、例えば、化学結合、修飾、または部分を含むことを意味する。ある特定の実施形態において、この用語は、ペプチドとの関連において使用される場合、天然には存在しないペプチドのアミノ酸配列が、天然に存在するペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質によって包含される連続したアミノ酸のストレッチと同一ではないことを意味し得る。疑問の回避のために、天然には存在しないペプチドは、ペプチド全体より短いアミノ酸ストレッチを完全に含有し得、この場合、特にその配列を含むアミノ酸ストレッチの構造は、天然に存在するペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質において見出される連続したアミノ酸のストレッチと同一である。
【0027】
本開示との関連において、語句「するように構成された分子」は、適切な状況下において列挙された結果または機能性を示す任意の分子を包含することを意図する。したがって、この語句は、「にとって好適な分子」、「する能力を有する分子」、「するように設計された分子」、「するのに適した分子」、「するように作製された分子」、または「することができる分子」などの語句と同義語で、交換可能であると見なすことができる。
【0028】
タンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性のいかなる意味のある程度の下方制御も想定される。したがって、用語「下方制御する」または「下方制御された」または「低下する」または「低下した」または「減少させる」または「減少した」は、適切な文脈、例えば、実験または治療における文脈などにおいて、レファレンスに対する統計的に有意な減少を意味し得る。当業者は、そのようなレファレンスを選び出すことができる。好適な参照の例は、類似する組成であるがタンパク質の変異またはバリアント型に対して何の効果もないことが分かっている分子などの「負の対照」分子に曝露される場合のタンパク質の変異またはバリアント型の量または活性であり得る。例えば、そのような減少は、レファレンスに対する許容誤差(例えば、標準偏差または標準誤差によって、あるいはそれらの所定の倍数、例えば、±1×SD、または±2×SD、または±1×SE、または±2×SEなど、によって表現されるような)の範囲外であり得る。例示として、タンパク質の変異またはバリアント型の量または活性は、レファレンスと比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%または少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、例えば、少なくとも50%または少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、例えば、少なくとも80%または少なくとも90%、またはそれよりも多く減少する、最大100%減少およびこれを含む場合、低下したと見なされ得る。
【0029】
いかなる既存の、利用可能なまたは従来の分離、検出および/または定量化方法でも使用して、タンパク質の量または生物活性を定量化し、したがって、例えば、細胞、細胞集団、組織、器官、または生物中または上でその下方制御を決定しうる。ある特定の例では、そのような方法は、特に、タンパク質の酵素活性、膜チャネル活性、基質結合活性、遺伝子制御活性、または細胞シグナル伝達活性のアッセイを含む生化学または細胞生物学アッセイ方法を含みうる。そのようなアッセイは、例えば、溶液中のタンパク質上で、in vitro翻訳系でのタンパク質上で、天然にもしくは異種性にタンパク質を発現する細胞の細胞可溶化物中のタンパク質上で、または天然にもしくは異種性にタンパク質を発現する無傷のもしくは透過処理された細胞上で実施してもよい。そのようなアッセイの選択は、タンパク質の変異またはバリアント型により示される生物活性により決定されることは理解されるものとする。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、がんドライバータンパク質などの、細胞の発癌性の挙動(例えば、発癌遺伝子または腫瘍抑制遺伝子のドミナントネガティブ型)を引き起こすかまたは寄与するタンパク質の変異またはバリアント型の量または活性は、その成長をタンパク質の前記変異またはバリアント型の発癌活性に依存する形質転換細胞系の生存能力の低減を測定することにより検出し定量化することができる。他の例では、そのような方法は免疫学的アッセイ方法を含んでもよく、そこではタンパク質を分離する、検出するおよび/または定量化する能力は、免疫学的結合性物質(抗体)などの分離可能な、検出可能なおよび/または定量化可能な結合剤とタンパク質との間での特異的な結合により与えられる。免疫学的アッセイ方法は、限定せずに、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、マスサイトメトリー、蛍光標識細胞分取(FACS)、蛍光顕微鏡、マイクロ流体系を使用する蛍光ベースの細胞分取、アフィニティークロマトグラフィーなどの免疫親和性吸着ベースの技法、磁気粒子分離、磁気活性化細胞分取またはマイクロ流体系を使用するビーズベースの細胞分取、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびELISPOTベースの技法、放射免疫アッセイ(RIA)、ウェスタンブロット、等を含む。さらなる例では、そのような方法は、質量分析分析法を含んでもよい。一般的に、ペプチドの質量に関する、好ましくは選択されたペプチドの断片化および/または(部分的)アミノ酸配列に関する正確な情報を得ることができるいかなる質量分析(MS)技法でも(例えば、タンデム質量分析、MS/MSにおいて;またはポストソース分解、TOF MSにおいて)、本明細書ではタンパク質の分離、検出および/または定量化に有用でありうる。MSペプチド分析法は、例えば、クロマトグラフィーおよび他の方法となどの、上流ペプチドまたはタンパク質分離または分別法と有利に組み合わせてもよい。タンパク質を分離する、検出するおよび/または定量するためのさらなる技法は、必要に応じて、上記分析方法のいずれかと併せて使用してもよい。そのような方法は、限定せずに、化学的抽出分配、毛管等電点電気泳動(CIEF)、毛管等速電気泳動(CITP)、キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)および同類のものを含む等電点電気泳動、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)、毛管ゲル電気泳動(CGE)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、ミセル導電クロマトグラフィー(MEKC)、フリーフロー電気泳動(FFE)、等を含む。さらなる例では、本明細書で考察されるなどの方法の任意の組合せを用いてもよい。
【0030】
用語「タンパク質」は、一般的に、1つまたは複数のポリペプチド鎖を含む巨大分子を包含する。用語「ポリペプチド」は、一般的に、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基による直鎖状高分子鎖を包含する。「ペプチド結合」、「ペプチドリンク」、または「アミド結合」は、1つのアミノ酸のカルボキシル基が他方のアミノ酸のアミノ基と反応してそれによって水の分子を放出するときに2つのアミノ酸の間に形成された共有結合である。とりわけ、タンパク質が単一のポリペプチド鎖のみで構成される場合、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、そのようなタンパク質を示すために互換的に使用され得る。この用語は、ポリペプチド鎖の任意の最小長にも限定されない。50以下(≦50)のアミノ酸、例えば、≦45、≦40、≦35、≦30、≦25、≦20、≦15、≦10、または≦5のアミノ酸など、から本質的になるかまたはそれらからなるポリペプチド鎖は、一般的に「ペプチド」と呼ばれ得る。タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドとの関連において、「配列」は、アミノ末端からカルボキシル末端への方向における鎖のアミノ酸の並びであり、配列においてお互いに隣接した残基が、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの一次構造において隣接する。この用語は、天然により、組換えにより、半合成により、または合成により生成されるタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを包含し得る。したがって、例えば、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、自然に存在し得るかまたは自然から単離することができ、例えば、細胞または組織によって天然によりまたは内因的に産生または発現され得、必要に応じてそれらから単離され得;あるいは、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、組換え体であり得、すなわち、組換えDNA技術によって作製することができ、および/または、部分的にまたは全体的に、化学的または生化学的に合成することができる。これらに限定されるものではないが、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、好適な宿主または宿主細胞発現系によって組換えにより作製することができ、ならびに、必要に応じて、それら(例えば、好適な細菌、酵母、真菌、植物、または動物宿主または宿主細胞発現系)から単離することができ、あるいは無細胞翻訳または無細胞転写および翻訳、あるいは非生物学的なペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成によって、組換え的に作製することができる。この用語は、ポリペプチド鎖の1つまたは複数の共発現タイプまたは発現後タイプの修飾、例えば、これらに限定されるものではないが、グリコシル化、脂質化、アセチル化、アミド化、リン酸化、スルホン化、メチル化、ペギル化(典型的には1つまたは複数のLys残基のN末端または側鎖へのポリエチレングリコールの共有結合)、ユビキチン化、SUMO化、システイン化、グルタチオン付加、メチオニンスルホキシドまたはメチオニンスルホンへのメチオニンの酸化、単一のペプチドの除去、N末端Metの除去、前酵素または前ホルモンの活性形態への変換など、を保持するタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドも包含する。そのような同時またはポスト発現タイプの修飾は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを発現する宿主細胞などの細胞によりin vivoで導入されてもよく(同時翻訳もしくは翻訳後タンパク質修飾機構は宿主細胞に固有でもよくおよび/または宿主細胞は1つもしくは複数の(追加の)同時翻訳もしくは翻訳後タンパク質修飾機能性を含むように遺伝子操作されていてもよい)、または単離されたタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの化学的(例えば、ペグ化)および/もしくは生化学的(例えば、酵素的)修飾によりin vitroで導入されてもよい。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、ある特定の実施形態において、ペプチドの電荷全体を変更するため、および/または、結果として得られるペプチドを安定化して、エキソペプチダーゼによる酵素分解に抵抗するそれらの能力を高めるために、化学的に合成されたペプチドのN末端における遊離アルファアミノ基のアセチル化および/または化学的に合成されたペプチドのC末端における遊離カルボキシル基のアミド化が選ばれ得る。
【0031】
用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸、天然においてコードされるアミノ酸、非天然においてコードされるアミノ酸、天然には存在しないアミノ酸、天然に存在するアミノ酸と同様の方式において機能するアミノ酸類似物およびアミノ酸模倣物、それらのDおよびL立体異性体全て、を包含するが、ただし、それらの構造がそのような立体異性体を許容する場合に限る。アミノ酸は、本明細書において、それらの名前、それらの一般的に知られる三文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される一文字記号によって呼ばれる。「天然においてコードされるアミノ酸」は、20個の一般的なアミノ酸あるいはピロリジン、ピロリン-カルボキシ-リジン、またはセレノシステインのうちの1つであるアミノ酸を意味する。20個の一般的なアミノ酸は、以下:アラニン(AまたはAla)、システイン(CまたはCys)、アスパラギン酸(DまたはAsp)、グルタミン酸(EまたはGlu)、フェニルアラニン(FまたはPhe)、グリシン(GまたはGly)、ヒスチジン(HまたはHis)、イソロイシン(IまたはIle)、リジン(KまたはLys)、ロイシン(LまたはLeu)、メチオニン(MまたはMet)、アスパラギン(NまたはAsn)、プロリン(PまたはPro)、グルタミン(QまたはGln)、アルギニン(RまたはArg)、セリン(SまたはSer)、トレオニン(TまたはThr)、バリン(VまたはVal)、トリプトファン(WまたはTrp)、およびチロシン(YまたはTyr)である。「非天然においてコードされるアミノ酸」は、20個の一般的なアミノ酸あるいはピロリジン、ピロリン-カルボキシ-リジン、またはセレノシステインのうちの1つではないアミノ酸を意味する。この用語は、これらに限定されるわけではないが、N-アセチルグルコサミニル-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-トレオニン、およびO-ホスホチロシンによって非限定的に例示されるような、天然においてコードされるアミノ酸の修飾(例えば、翻訳後修飾など)によって生じるが、それ自体は天然においては、翻訳複合体によって成長するポリペプチド鎖中に組み入れられないアミノ酸を包含する。非天然においてコードされるアミノ酸、非天然アミノ酸、または修飾されたアミノ酸のさらなる例としては、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、ベータ-アラニン、ベータ-アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、ピペリジン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2’-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモセリン、ホモシステイン、ヒドロキシリシン、アロ-ヒドロキシリシン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、6-N-メチルリジン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、またはオルニチンが挙げられる。そのようなアミノ酸のさらなる例は、シトルリンである。1つまたは複数の個々の原子が、異なる原子、同じ原子の同位体、または異なる官能基で置換されたアミノ酸類似物も含まれる。Ellmanら Methods Enzymol. 1991, vol. 202, 301~36に記載される非天然アミノ酸およびアミノ酸類似物も含まれる。タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに非天然アミノ酸を組み入れることは、いくつかの異なる方法において有利であり得る。例えば、D-アミノ酸を含むタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、Lアミノ酸を含むカウンターパートと比較して、in vitroまたはin vivoにおいて増加した安定性を示す。より詳細には、D-アミノ酸を含むタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、内因性ペプチダーゼおよびプロテアーゼに対してより抵抗性であり得、その結果、in vivoにおいて改善された分子のバイオアベイラビリティおよび延長された寿命を提供し得る。
【0032】
文脈から明らかになるように、用語「タンパク質」は、その変異またはバリアント型が本明細書で教示されるような分子により標的化されるタンパク質を特に意味するために本明細書では繰り返し使用されうる。この文脈では、したがって、この用語は好都合な参照点を提供し、この参照点に関連してタンパク質のそのようなバリアントまたは変異型を想定し理解することができる。天然に存在しないタンパク質の、すなわち、人間が思い付くタンパク質のバリアントまたは変異体を提供するステップを確かに想定することができるが、本分子の1つの特に望ましい強さは、天然に存在するタンパク質とそのバリアントまたは変異体、好ましくはその天然に存在するバリアントまたは変異体を区別して、下方制御のために後者を特異的に標的にする能力でもよい。これは、天然に存在するタンパク質の天然に存在するバリアントまたは変異体がある表現型損傷をもたらすか、またはこれに寄与し、そのためその特定の下方制御が、維持された発現により支えられる正常な表現型および参照タンパク質の活性を回復する一助となることができる、またはその特定の下方制御が、変異もしくはバリアントタンパク質型を発現するために有害になっている細胞の生存能力を低減するかまたは殺傷することができる状況では特に価値がある可能性がある。
【0033】
したがって、ある好ましい実施形態では、タンパク質は天然に存在するタンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質の標的化されるバリアントまたは変異体は天然に存在する。非限定的例を用いて、タンパク質は、原核生物の、真核生物の、またはウイルスの天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、真性細菌界、古細菌界、原生生物界、真菌界、植物界または動物界の属する生物の天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、より詳細には、グラム陽性菌(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)などのスタフィロコッカス(Staphylococcus)菌種、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)またはエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などのエンテロコッカス(Enterococcus)菌種などの球菌、バシラス・アンスラシス(Bacillus anthracis)などのバシラス(Bacillus)菌種などの杆菌)、グラム陰性菌(例えば、エシュエリキア・コリ(Escherichia coli)などのエシュエリキア(Escherichia)菌種、エルシニア・ペスチス(Yersinia pestis)などのエルシニア(Yersinia)菌種)、スピロヘータ菌(例えば、トレポネーマ・パリズム(Treponema pallidum)などのトレポネーマ(Treponema)菌種、レプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans)などのレプトスピラ(Leptospira)菌種、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)などのボレリア(Borrelia)菌種)、モリキュート菌(すなわち、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)またはマイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)などのマイコプラズマ(Mycoplasma)菌種などの細胞壁のない細菌)、または抗酸菌(例えば、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)などのマイコバクテリウム(Mycobacterium)菌種、ノカルジア・アステロイデス(Nocardia asteroides)などのノカルジア(Nocardia)菌種)などの細菌の天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、酵母およびカビ(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などのカンジダ(Candida)菌種、アスペルギルス・フミガツース(Aspergillus fumigatus)またはアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)などのアスペルギルス(Aspergillus)菌種、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)またはコクシジオイデス・ポサダシ(Coccidioides posadasii)などのコクシジオイデス(Coccidioides)菌種、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)およびクリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)などのクリプトコッカス(Cryptococcus)菌種、ヒストプラズマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)などのヒストプラズマ(Histoplasma)菌種、ニューモシスチス・ジロベシ(Pneumocystis jirovecii)などのニューモシスチス(Pneumocystis)菌種、またはトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)などのトリコフィトン(Trichophyton)菌種)を含む真菌の天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、原生生物(例えば、プラスモジウム・ファルスィパラム(Plasmodium falciparum)などのプラスモジウム(Plasmodium)菌種、エンタメーバ・ヒストリティカ(Entamoeba histolytica)などのエンタメーバ(Entamoeba)菌種、ジアルジア・デュオデナリス(Giardia duodenalis)などのジアルジア(Giardia)菌種、トキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)などのトキソプラズマ(Toxoplasma)菌種、クリプトスポリジウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)などのクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)菌種、トリコモナス・バジナリス(Trichomonas vaginalis)などのトリコモナス(Trichomonas)菌種、ドノバンリーシュマニア(Leishmania donovani)などのリーシュマニア(Leishmania)種、またはトリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)などのトリパノソーマ(Trypanosoma)菌種)の天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、植物、例えば、トウモロコシ、イネ、コムギ、ダイズ、オオムギ、モロコシ、アワ、カラスムギ、ライムギ、ライコムギ、ソバ、キノア、フォニオ、ヒトツブコムギ、デュラムコムギ、ジャガイモ、コーヒー、ココア、キャッサバ、ティー、パラゴムノキ、ココヤシ、アブラヤシ、サトウキビ、サトウダイコン、バナナの木、オレンジの木、パイナップルの木、リンゴの木、セイヨウナシの木、レモンの木、オリーブの木、ピーナッツの木、サヤインゲン、レタス、トマト、ニンジン、ズッキーニ、カリフラワー、ナタネ、ヤトロファ、マスタード、ジョジョバ、アマ、ヒマワリ、緑藻、ジュート、綿、タイマ(またはアサの他の系統)、キャノーラ、またはタバコの天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、動物、好ましくは、温血動物、さらに好ましくは、脊椎動物、さらに好ましくは、高等動物、さらに好ましくは、ヒトおよび非ヒト霊長類、齧歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、またはブタなどの非ヒト哺乳動物、最も好ましくはヒトを含み、例えば、ペット(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、アレチネズミ、ハムスター、チンチラ、マウス、ラット、モルモット、ロバ、ラバ、フェレット、ピグミーゴート、ポットベリーピッグ;カナリア、インコ、オウム、ニワトリ、シチメンチョウなどの鳥類ペット;トカゲ、ヘビ、カメおよびウミガメなどの爬虫類ペット;サカナ、カエルなどの水棲ペット)、実験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ブタ、サル、フェレット、ヒツジ)、家畜動物(例えば、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、ウシ(雌ウシ)、シカ、ロバ、ガヤル、ヤギ、ウマ、ラマ、ラバ、ブタ、ポニー、トナカイ、ヒツジ、スイギュウ、ヤク)などの哺乳動物の天然に存在するタンパク質でもよい。例えば、タンパク質は、dsDNAウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス)、ssDNAウイルス(例えば、パルボウイルス)、dsRNAウイルス(例えば、レオウイルス)、(+)ssRNAウイルス(例えば、ピコルナウイルス、トガウイルス)、(-)ssRNAウイルス(例えば、オルソミクソウイルス、ラブドウイルス)、ssRNA-RT(逆転写)ウイルス(例えば、レトロウイルス)、dsDNA-RTウイルス(例えば、ヘパドナウイルス)、またはバクテリオファージなどのウイルスの天然に存在するタンパク質でもよい。
【0034】
この数10年にわたる数多くのゲノムシーケンシング取り組みのおかげで、多くの生物のゲノム配列が解読されており、そのタンパク質コード遺伝子が、米国国立生物工学情報センター(NCBI)ジェンバンク(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)またはThe UniProt Consortium’s Uniprot/SwissprotおよびUniprot/TrEMBLデー茶ベース(http://www.uniprot.org/)などの公開されたデータベースに同定され注釈を付けられてきた。そのようなゲノムシーケンシング研究は個々のタンパク質に関する十分な報告書により補完されており、このタンパク質の配列も前述のデータベースに注釈を付けられている。その結果、多くの生物の実質的に完全なタンパク質コレクション(プロテオーム)が公知である。さらに、配列決定されたゲノムおよび注釈を付けられたタンパク質を有する生物の数は日ごとに増加し続け、ゲノムシーケンシングおよび注釈付けのためのツールは、平均的な当業者がそれを利用できるようになるほど進化してきた。したがって、多くの生物の天然に存在するタンパク質の配列が利用可能であるまたは容易に入手することができる。
【0035】
動物または植物タンパク質のバリアントまたは変異型は本技術にとって特に興味深い目標になる可能性がある。なぜならば、そのようなバリアントまたは変異体は、生物の表現型の正常なまたは健康な範囲から、多くの場合、生物の健康または生存の損傷に逸脱する表現型を引き起こすかまたは寄与する場合があるからである。したがって、根底にあるバリアントまたは変異体を下方制御することによりそのような表現型を緩和するまたは無効にしたいと思う場合がある。脊椎動物で、好ましくは、高等動物で、さらに好ましくは、非ヒト哺乳動物でなどの動物においてそのようなタンパク質バリアントまたは変異体を下方制御するのは、畜産または獣医文脈では特に有用である可能性がある。ヒトでそのようなタンパク質バリアントまたは変異体を下方制御するのは、医療文脈では特に有用である可能性がある。植物でそのようなタンパク質バリアントまたは変異体を下方制御するのは、農業または園芸文脈では特に有用である可能性がある。
【0036】
したがって、ある好ましい実施形態では、タンパク質は動物の天然に存在するタンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質のバリアントまたは変異体は天然に存在する動物タンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質は脊椎動物の天然に存在する動物タンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質のバリアントまたは変異体は、天然に存在する脊椎動物タンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質は高等動物の天然に存在する動物タンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質のバリアントまたは変異体は、天然に存在する高等動物タンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質は非ヒト哺乳動物の天然に存在するタンパク質である。ある好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質のバリアントまたは変異体は、天然に存在する非ヒト哺乳動物タンパク質である。ヒト健康の中心的重要性およびヒト対象における医療介入の必要性および価値を考慮すると、ある非常に好ましい実施形態では、タンパク質は天然に存在するヒトタンパク質である。ある非常に好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質のバリアントまたは変異体は、天然に存在するヒトタンパク質である。ある非常に好ましい実施形態では、タンパク質は植物の天然に存在するタンパク質である。ある非常に好ましい実施形態では、タンパク質およびタンパク質のバリアントまたは変異体は、天然に存在する植物タンパク質である。
【0037】
ヒト遺伝子およびタンパク質は、特に前述のジェンバンクおよびUniprotデータベースに広範に注釈が付けられている。ヒトタンパク質の既知のバリアントおよび変異体(アイソフォーム、多形型、病原性または関連変異体、等を含む)もそこで注釈が付けられている。ヒト遺伝子命名法は、HGNCウェブページ(https://www.genenames.org/)でさらに調べることができる。さらに、ヒト遺伝子およびタンパク質において既知の病原性または関連突然変異に注釈を付ける専用のデータベースが存在する。例示として、Online Mendelian Inheritance in Man(登録商標)(OMIM(登録商標)、https://www.omim.org/)は、ヒト遺伝子、遺伝性障害および根底にある突然変異の広範なカタログを提供する。GWAS Central(https://www.gwascentral.org/)は、独特の一塩基多型間の関連のカタログを提供しており、これは、ゲノムワイド関連研究(GWAS)により決定された場合、タンパク質コード配列、および疾患または表現型中に存在することがある。Clinical Interpretation of Variants in Cancerデータベース(CIViC, https://civicdb.org/home)は、がんゲノム変化の臨床的意義に焦点を当てたデータベースおよびフォーラムを提供する。The Cancer Genome Atlas(TCGA)Program’s GDC data portal(https://portal.gdc.cancer.gov/)は、多くのがんタイプにおいて原発がんと適合する正常な試料を比較するゲノム、エピゲノミック、トランスクリプトーム、およびプロテオミクスデータを収集する。Catalogue of Somatic Mutations in Cancer(COSMIC,https://cancer.sanger.ac.uk/cosmic)は、ヒトがんで検出された体細胞突然変異に関するデータを編集する。ICGC/TCGA Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes Consortium(Nature 2020年、578巻、82~93頁)の最近の刊行物は、38の腫瘍タイプにわたる2,658の全がんゲノムおよびその適合正常組織の統合解析を記載しており;準供給源はhttps://docs.icgc.org/pcawg/のデータポータルおよび可視化により利用可能である。
【0038】
ある実施形態では、病原体のタンパク質のバリアントまたは変異型は、特に、変動または突然変異が病原性の1つまたは複数の側面を変更する、例えば、病原性を増加させるまたは広げる場合などの、下方制御に対して興味深い標的になりうる。したがって、根底にあるバリアントまたは変異体を下方制御して、病原性を、低減するなどの、調節したいと願うことがある。用語「病原体」とは広くは、対象にとって病原性である、したがって、明白な疾患症状を引き起こすことなく対象中に存在できる寄生体を含む、対象において病理、状態または疾患を引き起こすことができる生物学的実体のことである。病原体は、ウイルス、細菌、原虫、真菌(カビおよび酵母を含む)、原生生物(例えば、プラスモディウム(Plasmodium)、フィトフソラ(Phytophthora)、エントアメーバ(Entamoeba)、ジアルジア(Giardia)、トキソプラズマ(Toxoplasma)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)、トリコモナス(Trichomonas)、リーシュマニア(Leishmania)、トリパノソーマ(Trypanosoma))(小寄生体)および(例えば、回虫、糸状虫、鉤虫、蟯虫および鞭虫のような線形動物または条虫および吸虫のような扁形動物)などの大寄生体、しかしダニおよびコダニなどの外寄生生物の任意の病原性種などの病原性微生物を包含する。この用語は、易感染性宿主で病原性を示すが、通常、非易感染性宿主で病原性ではない場合がある生物学的実体も包含する。植物病原体は、限定せずに、真菌(例えば、子嚢菌(Ascomycetes)、担子菌(Basidiomycetes)、卵菌(Oomycetes))、細菌、フィトプラズマ(Phytoplasma)、スピロプラズマ(Spiroplasma)、ウイルス、線虫、原虫、および寄生植物を含む。
【0039】
上記のように、バリアントまたは変異体は本明細書では、適切な基準点としての「タンパク質」に関して考察される。好ましくは、タンパク質およびそのバリアントまたは変異体は天然に存在するものでよい。「非改変の」、「非変化の」、「最初の」、「開始の」などの形容詞が用語「タンパク質」と併せて使用されて、タンパク質とそのバリアントまたは変異体の間の違いを強調することがある。ある実施形態では、タンパク質は、集団中で最もよく観察されるそれぞれの遺伝子の対立遺伝子によりコードされる形態というその従来の意味での「野生型」タンパク質でもよい。ある実施形態では、タンパク質は、疾患などの変更された表現型を引き起こさないまたは関連もない任意の形態というその表現型指向性の意味での「野生型」タンパク質でもよい。
【0040】
この基準点を念頭に置くと、用語タンパク質の「バリアント」(同じことが変異体に当てはまることが可能である)は、ある実施形態では、そのアミノ酸配列がタンパク質のアミノ酸配列と実質的に同一である(すなわち、大部分が同一であるが完全に同一ではない)、例えば、少なくとも約70%同一である、または少なくとも約75%同一である、または少なくとも約80%同一である、または少なくとも約85%同一である、または少なくとも約90%同一である、例えば、少なくとも91%同一である、少なくとも92%同一である、少なくとも93%同一である、少なくとも94%同一である、または少なくとも95%同一である、例えば、少なくとも96%同一である、少なくとも97%同一である、少なくとも98%同一である、または少なくとも99%同一であるタンパク質またはポリペプチドを包含していてよい。アミノ酸配列に関する用語「配列同一性」は、N末端からC末端までの間において読まれるアミノ酸配列に対して%で表現された全体的な配列同一性の程度(すなわち、比較におけるアミノ酸配列全体を含む)を意味する。配列同一性は、配列アライメントを実施するための好適なアルゴリズムと、それ自体公知である配列同一性の判定とを使用して判定され得る。例示的だが非限定的であるアルゴリズムとしては、元はAltschulら 1990(J Mol Biol 215: 403-10)によって説明されたBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)に基づくもの、例えば、公開されたデフォルトの設置または他の好適な設定(例えば、BLASTNアルゴリズムの場合:cost to open a gap=5、cost to extend a gap=2、penalty for a mismatch=-2、reward for a match=1、gap x_dropoff=50、expectation value=10.0、word size=28;または、BLASTPアルゴリズムの場合:matrix=Blosum62(Henikoffら, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci., 89:10915-10919)、cost to open a gap=11、cost to extend a gap=1、expectation value=10.0、word size=3)を使用した、TatusovaおよびMadden 1999(FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)によって説明された「Blast 2 sequences」アルゴリズムなど、が挙げられる。
【0041】
特定のアミノ酸配列とクエリーアミノ酸配列との間のパーセント同一性を判定するための実例手順は、好適なアルゴリズムパラメーターを用いた、NCBIウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)においてウェブアプリケーションとしてまたはスタンドアロン実行可能プログラム(BLAST version 2.2.31+)として利用可能なBlast 2 sequences(Bl2seq)アルゴリズムを使用して、それぞれN末端からC末端まで読み出した2つのアミノ酸配列のアライメントを伴うであろう。好適なアルゴリズムパラメーターの例としては:matrix=Blosum62、cost to open a gap=11、cost to extend a gap=1、expectation value=10.0、word size=3、が挙げられる。2つの比較される配列が同一性を共有する場合、アウトプットは、アラインメントされた配列としてこれらの同一性の領域を提示するであろう。2つの比較される配列が同一性を共有しない場合、アウトプットは、アラインメントされた配列を提示しないであろう。アラインメントされると、両方の配列において同一のアミノ酸残基が提示される位置の数をカウントすることによって、一致の数が判定されるであろう。クエリー配列の長さで一致の数を割り、結果として得られる値に100を掛けることによって、パーセント同一性が決定される。パーセント同一性の値は、必要ではないが、最も近い小数第一位に四捨五入してもよい。例えば、78.11、78.12、78.13、および78.14は、78.1に四捨五入され得、その一方で、78.15、78.16、78.17、78.18、および78.19は、78.2に四捨五入され得る。さらに、好都合なことに、Bl2seqによってアウトプットされるアライメントの各セグメントに対する詳細なビューにはすでに同一性のパーセンテージを含むことが示される。
【0042】
ある実施形態では、バリアントは、タンパク質のプレmRNAの選択的スプライシングを通じて生じる同じタンパク質の異なる形態を意味する場合がある。典型的には、タンパク質のスプライシングバリアントは、それぞれタンパク質に存在しないまたは存在するバリアント中の1つまたは複数の連続するアミノ酸ストレッチ(エクソンによりコードされる)の存在または非存在がタンパク質とは異なる場合があり、これらのストレッチ(単数または複数)は別として(またはこれを除いて)、スプライシングバリアントおよびタンパク質の配列は典型的には同一である場合がある。言い換えるならば、選択的スプライシングは、同じプレmRNAで作られたmRNAのエクソンの異なる組合せを含み、それによってmRNAによりコードされるタンパク質は差示的にスプライスされたエクソンに応じてアミノ酸配列が異なることになる。そのような状況では、スプライシングバリアントまたはアイソフォームと言ってもよい。ある他の実施形態では、バリアントは、同じ遺伝子の異なる対立遺伝子によりコードされるタンパク質の形態を指していてもよく、そのような対立遺伝子は天然の集団中に存在する、例えば、天然の集団中に1.0%またはそれよりも多い頻度で存在する。そのような状況では、対立遺伝子バリアントと言ってもよい。あるさらなる実施形態では、バリアントは、同じmRNAによりコードされるタンパク質の形態を指してもよいが、アミノ酸配列変動は翻訳後修飾の結果として生じる。あるさらに他の実施形態では、バリアントは、参照タンパク質に高度に類似しており(例えば、上に示されるように少なくとも約70%またはそれよりも多い)別の遺伝子または遺伝子座によりコードされる他のタンパク質を指していてもよい。そのような状況では、相同体と言ってもよい。
【0043】
タンパク質の「変異体」という用語は特にそのアミノ酸配列がタンパク質と異なるタンパク質の形態を指してもよく、変異型はタンパク質として同じ遺伝子または遺伝子座によりコードされるが、その遺伝子の核酸配列はタンパク質の変異型をコードするように変化している。本明細書ではバリアントおよび変異体について、欠失、挿入、および/または置換(「欠失」とは、核酸の1つまたは複数のヌクレオチド、典型的には連続するヌクレオチドが核酸から取り除かれた、すなわち、欠失した突然変異のことであり;「挿入」とは、1つまたは複数のヌクレオチド、典型的には連続するヌクレオチドが核酸中に付加されている、すなわち、挿入されている突然変異のことであり;「置換」とは、核酸の1つまたは複数のヌクレオチドが別のヌクレオチドによりそれぞれ独立して置き換えられている、すなわち、置換されている突然変異のことである)を含むいかなるタイプの配列変化も想定されている。例示として、突然変異は、タンパク質中に単一のアミノ酸のまたはいくつかの連続するアミノ酸(例えば、2~10の連続するアミノ酸)の欠失、置換または付加をもたらし、タンパク質の残りではリーディングフレームを移動させなくてもよい。ある実施形態では、突然変異は、既存のAPRを改変する(例えば、APRの配列、TANGOスコア、および/または長さを改変する)または新規のAPRの出現をもたらす単一アミノ酸置換などの単一アミノ酸置換でもよい。単一アミノ酸置換は比較的頻繁に起こる突然変異タイプであり、癌原遺伝子でのまたは腫瘍抑制遺伝子での単一アミノ酸置換は、がんの遺伝子原因に寄与している場合がある。または、欠失もしくは付加などの突然変異は、リーディングフレームを移動させることがあり、これにより変異したタンパク質に元のタンパク質に存在しないアミノ酸配列が与えられることがあるおよび/または未成熟終始コドンもしくはタンパク質のC末端切断型が生じることがある。タンパク質の切断型は、ドミナントネガティブ効果を示す場合が多い。またはエクソン、イントロンもしくはエクソン-イントロン境界での突然変異は、タンパク質のプレmRNAのスプライシングを変更し、例えば、1つもしくは複数のエクソンの読み飛ばしまたは1つもしくは複数のエクソンの包含をもたらして、リーディングフレームの移動が起こるまたは移動しないことがある。
【0044】
本明細書で想定されている突然変異は、細胞中の遺伝子不安定性またはゲノム再編成に関連してまたはその結果として生じることもある。そのような現象は、血液学的がんを含むがんならびに肉腫、癌腫、およびCNS腫瘍を含む固形腫瘍の場合に特にありふれており、他の状況または病理でも起こりうる。遺伝子不安定性は、遺伝子突然変異、転座、コピー数変更、欠失、およびDNAの断片の反転を包含することができる。ある状況では、ゲノム再編成は、1つに融合された正常なら別々の遺伝子またはその部分を含有する融合タンパク質の形成をもたらすことがある。したがって、ある実施形態では、本明細書で想定されている突然変異は、融合タンパク質をコードする融合遺伝子の形成でもよい。そのような実施形態では、タンパク質の変異型は、前記タンパク質またはその部分が別のタンパク質またはその部分に融合している形態と見られてもよい。融合遺伝子は、最初は血液悪性腫瘍で発見されたが、後には固形腫瘍のいたるところで見つかってきた。がんで見つかった融合遺伝子/タンパク質の非限定的例は、BCR-ABL1、EWSR1-FLI1、SS18-SSX1、PML-RARA、EWSR1-ATF1、ETV6-NTRK3、PAX8-PPARG、MECT1-MAML2、TMPRSS2-ERG、TMPRSS2-ETV1、EML4-ALK、KIAA1549-BRAF、MYB-NFIB、ESRRA-C11orf20、FGFR3-TACC3、FGFR3-TACC3、PTPRK-RSPO3、EIF3E3-RSPO2、およびSFPQ-TFE3を含む。本文脈では、第1の遺伝子の第2の遺伝子への融合は、それによって融合タンパク質をコードする融合遺伝子を創造するが、特に興味深い。なぜならば、融合は、第1のタンパク質中に第2のタンパク質の(融合された部分)に見出される任意のAPRを組み込み/第2のタンパク質中に第1のタンパク質の(融合された部分)に見出される任意のAPRを組み込み、任意のそのようなAPRはタンパク質の変異型にだけ存在する新規のAPRと見なしてよく、したがってこれにより変異タンパク質は本アプローチにより標的化可能になるからである。その上本文脈では、第1と第2の遺伝子の間の正確な融合部位で、新規のAPRは出現しうるまたは既存のAPRは改変されうるものであり、そのようなAPRは、第1のタンパク質にも第2のタンパク質にも見出されず、融合タンパク質は本アプローチにより選択的に標的化可能になる。
【0045】
多くの遺伝子の変異対立遺伝子は、集団の生殖系列遺伝物質に存在しこれを通じて遺伝する。伝統的に、対立遺伝子は、集団でのその出現頻度が1.0%未満である場合は多形バリアント対立遺伝子というよりもむしろ変異対立遺伝子と見なされうる。突然変異は新規にも起こりうる。既存であれ新規に生じるのであれ、突然変異は、典型的には、核酸複製、修復(例えば、化学的または物理的傷害により引き起こされるDNA損傷の修復)、有糸分裂もしくは減数分裂の間に、またはトランスポゾンもしくはウイルス配列の挿入のせいで生じるDNA配列エラーの結果である。多くの突然変異がサイレントである場合があるため、変異タンパク質は、野生型タンパク質とアミノ酸配列の違いを示すが、タンパク質機能が感知できるほど変更されることはない。好ましくは、本明細書で意図されている突然変異はサイレントではないので、タンパク質のある特性、機能または効果は突然変異の影響を受ける。ある好ましい実施形態では、突然変異は「機能獲得型の」突然変異である場合がある。ある好ましい実施形態では、突然変異はドミナントネガティブ突然変異である場合がある。好ましい実施形態では、機能獲得型またはドミナントネガティブ突然変異などの突然変異は、変異タンパク質を発現する細胞の機能または生存能力にとってまたは突然変異を保有する生物の健康または適応度にとって有害である。ある実施形態では、突然変異は生殖系列突然変異、すなわち、親の生殖細胞に存在しその親により生み出される配偶子により子孫に渡される突然変異、または親の生殖細胞もしくは配偶子でもしくは接合子で新規に生じる突然変異でもよい。ある好ましい実施形態では、突然変異は、体細胞突然変異、すなわち、受胎後に生じる対象のDNAでの獲得された変更でもよい。PCR増幅および対象由来の体細胞を含有する試料中の遺伝子のシーケンシングをするまたは遺伝子型を他の方法で同定するなどの、対象で体細胞突然変異を検出する技法が存在し、そのような遺伝子情報は、必要なまたは情報を与える場合には、その遺伝子での対象の生殖系列配列変動と比較してもよい。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、体細胞突然変異が新生物疾患の原因となるまたは関連している場合、突然変異の存在は、腫瘍組織生検(例えば、原発性または転移性腫瘍組織;例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織または新鮮凍結腫瘍組織)、微細針吸引液、血液試料(「液体」生検)、または唾液、尿、糞便(排泄物)、涙、汗、皮脂、乳頭吸引液、乳管洗浄細胞診、脳脊髄液、もしくはリンパ液などの、腫瘍細胞が流されて入ってもよい体滲出液などの対象の腫瘍細胞を含有する試料で決定しうる。
【0046】
上記のように、本明細書で予想されている変動または突然変異は、タンパク質に存在するβ凝集傾向性領域(APR)が突然変異により改変されるか、または新しいもしくは新規APRが突然変異によりタンパク質中に導入されるようなことである。例えば、天然に生じる変異またはバリアント対立遺伝子は、そのような改変されたまたは新たに出現したAPRを有するタンパク質をコードする場合がある。
【0047】
本明細書で使用されるAPRまたは自己会合領域は、タンパク質中の連続アミノ酸ストレッチを意味し、このストレッチは、分子間のベータシートを形成することにより自己会合する傾向を示す。さらに詳しくは、本明細書で予想されているAPRは、統計力学アルゴリズムTANGOによりそのようなものとして予測または定義されている領域を包含する(Fernandez-Escamillaら、Nat Biotechnol.2004年、22巻、1302~6頁;前記文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる、特に1305および1306頁の方法のセクションならびに較正のために使用される方法およびデータセットならびにTANGOアルゴリズムの試験に関する付属書1および2を参照されたい;さらに多くの背景は国際公開第2007/071789号にも見出せる;TANGOアルゴリズムはhttp://tango.crg.es/により公開されている)。さらなる説明を用いて、しかし、Fernandez-Escamillaら(上記に)およびhttp://tango.crg.es/の教えに完全に準拠することを意図して、TANGOアルゴリズムにより使用されるモデルは、ペプチドおよびタンパク質においてβ凝集を予測するように設計されており、ランダムコイルおよび天然の立体構造ならびに他の主要な立体構造、すなわち、ベータターン、αヘリックスおよびβ凝集体を包含する位相空間からなる。ペプチドのすべてのセグメントは、ボルツマン分布に従ってこれらの状態のそれぞれに存在することができる。したがって、ペプチドの自己会合領域を予測するため、TANGOは位相空間の分配関数を計算する。特定のアミノ酸配列の凝集傾向を推定するため、以下のような推測をする:(i)規則正しいベータシート凝集体では、主要な二次構造はベータ鎖であり、(ii)凝集過程に関与している領域は完全に埋もれており、したがって、完全な溶媒和経費および利益、完全なエントロピーを支払い、その水素結合ポテンシャルを最適化する(すなわち、凝集体中に作られた水素結合の数は、アクセプターにより償われるドナー群の数と関係している。過剰なドナーまたはアクセプターは満たされないままである)、(iii)選択された窓での補完的な荷電は有利な静電的相互作用を確立し、窓の内側のしかし外側もペプチドの全部の正味荷電は凝集を嫌う。アルゴリズムは、所与のアミノ酸配列の凝集傾向スコアを類似の長さの配列のセットから計算された平均傾向と比べることにより凝集傾向配列を同定する。
【0048】
ある実施形態では、TANGOにより5~6残基にわたり5%より上と予測される凝集傾向を有する任意のセグメントは、潜在的凝集セグメント(APR)を構成しうる。好ましくは、本明細書で意図されTANGOにより予測されるAPRの凝集傾向は、≧6%、≧7%、≧8%、≧9%、好ましくは、≧10%、≧15%、さらに好ましくは≧20%、≧25%、さらに好ましくは≧30%、≧40%、または非常に好ましくは≧50%、≧60%でもよい。好ましくは、APRとして予測されるセグメントの長さ(ベータシート形成傾向を低減する隣接するゲートキーパー残基を含まない)は、少なくとも6個の連続アミノ酸、好ましくは6~16個の連続アミノ酸、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16個の連続アミノ酸でもよい。配列ストレッチの高TANGOスコアは典型的には、高(および動力学的に有利である)β凝集傾向を有する配列に一致する。実例を用いれば、本明細書で意図されTANGOにより予測されるAPRは、6~12個の連続アミノ酸長でもよく、>5%、好ましくは>10%、さらに好ましくは>20%またはそれよりも高いTANGOスコアを有しうる。
【0049】
ある実施形態では、APRは6~16個の連続アミノ酸、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16個の連続アミノ酸により構成されていてもよく、そのうちの少なくとも50%(例えば、≧55%、≧60%、≧65%、好ましくは、≧70%、≧75%、さらに好ましくは、≧80%、≧85%、さらに好ましくは≧90%、≧95%)は疎水性アミノ酸であり、そこでは少なくとも1つの脂肪族残基またはFが存在し、1つの脂肪族残基またはFのみが存在する場合、少なくとも1つの、好ましくは、少なくとも2つの他の残基はY、W、A、MおよびTから選択され、そこでは1以下のP、R、K、DまたはE残基が存在し、好ましくは存在しない。疎水性のアミノ酸は、特に、I、L、V、F、Y、W、H、M、T、K、A、C、およびG、好ましくは、I、L、V、F、Y、W、M、T、およびAを含む。脂肪族残基は特にI、LおよびVである。
【0050】
変動または突然変異が元のタンパク質に存在していたAPRを改変する場合、APRの配列は改変される場合がある。例えば、APRの1つもしくは複数のアミノ酸が置換されることがある;または1つもしくは複数のアミノ酸がAPRに、内部でもしくはAPRの側面の一方もしくは両方でなどで付加されることがある;および/または1つもしくは複数のアミノ酸がAPRから、内部でもしくはAPRの側面の一方もしくは両方でなどで欠失されることがある。APRのそのような配列変更は、APRの予想される凝集傾向を調節する場合があるが、調節しなくてもよく、好ましくは、改変されたAPRの凝集傾向は元のAPRと比べて増加していてもよい。ある実施形態では、変動または突然変異が元のタンパク質に存在していたAPRを改変する場合、APRの凝集傾向のみが改変される、好ましくは増加される場合がある。これは、例えば、変動または突然変異が、APRに隣接しているなどの、APRの近位のアミノ酸(単数または複数)を改変する場合に起こり、それによってこれは、その配列を変化させることなくAPRの凝集傾向に影響を及ぼす。したがって、ある実施形態では、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質のAPRとはアミノ酸配列が異なる。さらなる実施形態では、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質のAPRとは凝集傾向が異なる。特に好ましい実施形態では、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質のAPRとはアミノ酸配列および凝集傾向、さらに好ましくは、増加した凝集傾向が異なる。したがって、ある特に好ましい実施形態では、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの凝集傾向は、タンパク質のAPR凝集傾向よりも高い。
【0051】
変動または突然変異がバリアントまたは変異タンパク質中に、対応するAPRが元のタンパク質に存在していない新規APRを導入する場合、これは、典型的には、APRを含有する追加のアミノ酸配列が、例えば、タンパク質のプレmRNAの選択的スプライシングにより、またはタンパク質のプレmRNAのスプライシングパターンを変更する突然変異により、または挿入突然変異により、またはフレームシフトを引き起こす突然変異によりタンパク質に挿入され、それによって突然変異の下流の変異タンパク質中に新たな配列を導入する、等の場合に起こることがある。これは、APRに近いがまだAPRとは見なせない、例えば、APRについてTANGOアルゴリズムにより設定される閾値を超えていないアミノ酸ストレッチが変動または突然変異により改変されているため、次にはAPRの資格をもつ場合にも起こることがある。例えば、そのようなプロトAPRもしくはプレAPRの1つもしくは複数のアミノ酸が置換されることがある;または1つもしくは複数のアミノ酸がプロトAPRに、例えば、内部でもしくはプロトAPRの側面の一方もしくは両方で付加されることがある;および/または1つもしくは複数のアミノ酸がプロトAPRから、例えば、内部でもしくはプロトAPRの側面の一方もしくは両方で欠失されることがある。
【0052】
本明細書で教示されるような分子は、タンパク質のバリアントまたは変異型中のAPRを特異的に標的化するように構成されている。これは特に、分子が元のタンパク質の量または生物学的活性を下方制御し得る程度が、仮にあったとしても、その分子がタンパク質のバリアントまたは変異型の量または生物学的活性を下方制御する程度と比べて無視できるほどであるまたは取るに足りないことを告げ得る。数量化できるアッセイを実施すれば、タンパク質のバリアントまたは変異型対元のタンパク質の量または生物学的活性に対する分子の影響を評価することができる場合、元のタンパク質についての分子により生じる量または生物学的活性の減少は、バリアントまたは変異タンパク質についての分子により生じる量または生物学的活性の減少の、好ましさが増えていく順に、10分の1以下、102分の1以下、103分の1以下、104分の1以下、105分の1以下、または106分の1以下でもよい。例えば、タンパク質のバリアントまたは変異型を発現する細胞は、そこでは細胞中のバリアントまたは変異型の量または生物学的活性は100%として示すことができるが、そのバリアントまたは変異型に対して特異的に向けられる本明細書で教示されるような分子の量と接触されると、細胞中のバリアントまたは変異型の量または生物学的活性は、50%またはそれ未満まで、好ましくは20%またはそれ未満まで、さらに好ましくは10%またはそれ未満まで、さらに好ましくは1%またはそれ未満まで、例えば、特に好ましい例では、0.1%、0.01%、0.001%または0.0001%まで低減されてもよく;一方、タンパク質を発現する同じタイプの細胞が同じ条件下で同量の分子と接触されると、細胞は、タンパク質の量または生物学的活性の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%および100%まで保持してもよい。治療における文脈では、標的化の特異性は、分子が、治療的に有効で現実的な量で投与されると、非改変タンパク質の下方制御に帰すことができる望ましくない効果を全くまたはごくわずかしかまたは耐えられるほどしか引き起こさないと考えられることも意味することがある。
【0053】
ある実施形態では、本明細書で教示されるような分子は、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRと分子間ベータシートを形成するが、元のタンパク質中のAPRとは実質的にこれを形成しない(元のタンパク質が対応するAPRを含有する場合)ように構成されている。
【0054】
用語「ベータシート」、「ベータプリーツシート」、「βシート」、「βプリーツシート」は、当分野において周知であり、追加の説明によって、互換的に、バックボーン水素結合(鎖間水素結合)によって側方に接続された2つ以上のベータ鎖を含む分子構造を意味する。ベータ鎖は、ほぼ完全に拡張されたコンフォメーションにおけるバックボーンによる典型的には3個から10個のアミノ酸長のストレッチであり、その後に「ジグザグ」軌跡が続く。ベータシートにおける隣接するアミノ酸鎖は、反対方向において(アンチパラレルβシート)、または同じ方向において(パラレルβシート)延び得るか、あるいは混合配置を示し得る。ベータシートを形成しない場合(例えば、ベータシートに参加する前)、アミノ酸のストレッチは、非ベータ鎖コンフォメーションを示し得;例えば、それは、非構造化コンフォメーションを有し得る。
【0055】
「分子間」ベータシートは、2つ以上の別々の分子、例えば、2つ以上の別々のペプチドまたはペプチド含有分子、ポリペプチド、および/またはタンパク質など、からのベータ鎖を伴う。開示との関連において、この用語は、特に本明細書で教示される1つまたは複数の標的化分子からの1つまたは複数のベータ鎖と、タンパク質のバリアントまたは変異型の1つまたは複数の分子からの1つまたは複数のベータ鎖を含むベータシートを特に意味する。分子間ベータシート形成によって種付けされた共凝集は、現在の分子の作用様式において重要な役割を果たすと仮定すると、本明細書で教示される多くの数十、数百、数千、またはそれ以上の分子ならびにタンパク質のバリアントまたは変異型の分子が、基本的なベータシート相互作用に関与し得、より高く秩序だった組織および構造、例えば、前原線維、原線維、および凝集物など、をもたらし得る。
【0056】
典型的には、ベータ鎖は、ベータシートに関与する分子、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の一部のみによって(例えば、これらの連続するアミノ酸のストレッチにより)形成され得る。例えば、本明細書で教示されるような分子は、タンパク質のバリアントまたは変異型の1つまたは複数の分子の連続するアミノ酸のストレッチによって構成される1つまたは複数のベータ鎖と共に、ベータシートに関与するベータ鎖へと組織化されるようになる、連続したアミノ酸の1つまたは複数のストレッチを含み得る。換言すれば、分子がタンパク質のバリアントまたは変異型と分子間ベータシートを形成することができるという見解は、典型的には、分子の1つまたは複数の部分、例えば、分子における連続したアミノ酸の1つまたは複数のストレッチなど、は、連続するアミノ酸の1つまたは複数のストレッチなど、すなわち、タンパク質のバリアントまたは変異型の1つまたは複数のAPRと一緒にベータシートに参加することができるベータ鎖へと組織化するように設計されていることを意味する。
【0057】
したがって、2つ以上の別々の分子からのベータ鎖がベータシートへとインターロックすることは、2つ以上の別々の分子が物理的に会合または結合して空間的に隣接するようになるような複合体を作り出すことができる。前述の説明を考慮すると、語句「タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRと分子間ベータシートを形成するように構成された分子」とは、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートの生成に参加、貢献、またはそれを誘導することができる分子;タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートの生成に参加、貢献、またはそれを誘導することができる部分を含む分子;およびタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートの生成に参加、貢献、またはそれを誘導することができる連続するアミノ酸のストレッチを含む分子という意味も包含しうる。
【0058】
タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRと分子間ベータシートを形成することができる本分子の特徴付けは、特に、「インターフェラー」技術の作用の基礎をなす国際公開第2007/071789号および国際公開第2012/123419号に記載される機構に基づいている。しかしながら、ベータシートのコンフォメーションの出現も、利用可能な方法によって実験的に評価され得る。非限定的な例により、溶液中のタンパク質の二次構造をキャラクタリゼーションするために、核磁気共鳴(NMR)スペクトル分析が何年間も採用されてきた(Wuetrichら FEBS Letters. 1991, vol. 285, 237~247においてレビューされる)。
【0059】
おそらく、本発明との関連においてより率直には、分子間ベータシートの形成は、分子とタンパク質の変異またはバリアント型の間の相互作用につながり、それは、免疫共沈殿アッセイなどの標準的方法によって定性的および定量的に評価することができる。そのような免疫共沈殿アッセイのいくつかの例は、野生型タンパク質の説明的変異型、すなわち、12位で変異されたヒトRASタンパク質、換言すれば、G12変異ヒトRASタンパク質について実施例において提示されている。例示的アプローチの1つにおいて、G12変異型RASまたは野生型RASを発現する細胞をビオチンで標識した本明細書において教示される分子と接触させ、細胞を溶解させ、分子(およびそれに結合した任意のRASタンパク質)をストレプトアビジン被覆ビーズによって沈降させ、共沈殿したRASタンパク質をイムノアッセイ法、すなわち、定量的ウェスタンブロットによって定量した。別の例示的アプローチでは、G12変異型RASまたは野生型RASを生成するin vitro翻訳反応物をビオチンで標識した本明細書において教示される分子と接触させ、分子(およびそれに結合した任意のRASタンパク質)をストレプトアビジン被覆ビーズによって沈降させ、共沈殿したRASタンパク質をイムノアッセイ法、すなわち、定量的ウェスタンブロットによって定量した。さらに、本発明との関連において、分子とタンパク質の変異またはバリアント型の間の相互作用は、タンパク質の変異またはバリアント型の溶解度の減少および、凝集体または同一物を含有する封入体の出現さえももたらし得る。これは、標準免疫アッセイまたは蛍光顕微鏡法により分析することができ、野生型タンパク質の説明的変異型、すなわち、G12変異ヒトRASタンパク質について実施例でも例証されている。例示的アプローチの1つにおいて、G12変異型RASまたは野生型RASを発現する細胞を本明細書において教示される分子と接触させ、細胞を非変性緩衝液によって溶解させ、この緩衝液に不溶性のタンパク質を、強力なカオトロピック剤(6M尿素)で処理した。この処理後に不溶性のままでフラクション中に存在するRASを、イムノアッセイ法、すなわち、定量的ウェスタンブロットによって定量した。別の例示的アプローチでは、ヒトなどの哺乳動物の培養した細胞を、蛍光部分、例えば、標準的緑色または赤色蛍光タンパク質など、に融合させたG12変異型RASまたは野生型RASによってトランスフェクトさせ、細胞を、本明細書において教示される分子によって処理し、蛍光タグ付けされたRASの細胞局在化を、蛍光顕微鏡によって判定した。これらの例示的アッセイは、状況に応じて適用および採用することができるが、タンパク質の変異またはバリアント型がリボソーム上で生成されているときに分子がこれに接触できる(細胞においてまたはin vitroで)という利点を有する。そのようなまだ折り畳まれていないタンパク質の変異またはバリアント型において、標的化されたAPRは比較的よりアクセスしやすく、環境に露出しており、それにより、分子との分子間相互作用を促進することができると予想される。さらに、本発明との関連において、分子とタンパク質の変異またはバリアント型の間の相互作用は、同一物を下方制御することが意図され、それは、例えば、本明細書で教示されるような分子に晒された場合に、タンパク質のそのような変異またはバリアント型の存在にその成長を依存している細胞の生存能力の減少を測定することによって、検出および定量化することができる。G12変異RASの下方制御を研究するためのそのような例示的細胞系の1つは、NCI-H441肺腺癌細胞であり、特に、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)(10801 University Blvd.Manassas、Virginia 20110-2209、USA)、受託番号、HTB-174(商標)から入手可能であり、これは構成的RASシグナル伝達に依存している。これは実施例においても例証されている。
【0060】
元のタンパク質中のAPRと分子間ベータシートを実質的に形成しない本分子の説明は、そのタンパク質が分子により標的化されるAPRと一致するAPRを含有する限り、当然のことながら、タンパク質の変異またはバリアント型を標的化するための分子の上で考察された特異性と同一延長線上にある。なぜならば、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートの選択的形成は、タンパク質の変異またはバリアント型を標的化する際の分子の特異性の基礎となると考えられるからである。培養細胞で実施されるin vitroアッセイまたは試験、例えば、免疫共沈降アッセイ、溶解度測定、または凝集物を可視化するための蛍光顕微鏡アッセイなどの、上記のベータシートの形成を検出するためのアッセイまたは試験が使用される場合、分子と非改変タンパク質の間の分子間ベータシート形成の実質的な欠如は、それぞれのアッセイでのシグナルの不在(すなわち、「陽性」と考えられる結果または測定の不在)として、または陰性対照により(例えば、同様の化学組成だがいかなるベータシート形成品質も有さないかまたは無視できる程度ほどのみしか有さない分子により、例えば、ペプチド分子の場合、スクランブルされたペプチドにより)生じるシグナルに匹敵すかまたは有意に高くはない数量化できるシグナルの存在として、またはタンパク質の変異またはバリアント型に対して分子により生じるシグナルよりもかなり低いもしくは強くない定量可能なシグナルの存在として観察されうる。例えば、元のタンパク質に対して分子が生じるシグナル(例えば、分子と共沈殿するタンパク質の量、不溶性タンパク質の量または不溶性対可溶性タンパク質の割合、または細胞中の可視的タンパク質凝集物の数、サイズもしくは蛍光強度)は、好ましさが増加する順に、タンパク質の変異またはバリアント型に対して分子により生じるシグナルの、10分の1以下、102分の1以下、103分の1以下、104分の1以下、105分の1以下、または106分の1以下でもよい。
【0061】
したがって、本分子は、タンパク質のそのそれぞれの標的変異またはバリアント型との分子間ベータシート形成を誘導し、その特異的な下方制御またはノックダウンを生じさせるように設計されている。実験観察に基づいて、分子は、標的化された変異またはバリアントタンパク質における溶解度の減少および凝集を生じさせることができる。したがって、ある特定の実施形態において、本明細書で教示されるような分子は、タンパク質の標的変異またはバリアント型の溶解度を減少するまたは凝集もしくは封入体形成を誘導することができる。タンパク質の溶解度および凝集を評価する好適なアッセイは本明細書の別の箇所において説明される。
【0062】
タンパク質の標的変異またはバリアント型の溶解度の低下におけるいかなる意味ある程度も想定される。これは、適切な文脈、例えば、実験または治療における文脈などにおいて、それぞれのレファレンスに対する、可溶性タンパク質フラクション中に存在する変異もしくはバリアントタンパク質の量の統計的に有意な減少、または不溶性タンパク質フラクション中に存在する変異もしくはバリアントタンパク質の量の統計的に有意な増加、または可溶性対不溶性タンパク質画分での変異もしくはバリアントタンパク質の相対存在量の統計的に有意な減少を意味する。当業者は、そのようなレファレンス、例えば、特に、「陰性対照」分子の存在下で変異またはバリアントタンパク質の溶解度を示すレファレンスなど、選び出すことができる。例えば、溶解度におけるそのような減少は、レファレンスに対する許容誤差(例えば、標準偏差または標準誤差によって、あるいはそれらの所定の倍数、例えば、±1×SD、または±2×SD、または±1×SE、または±2×SEなど、によって、表現されるような)の範囲外であり得る。例示として、変異またはバリアントタンパク質の溶解度が、レファレンスと比較して、100%までの減少も含め(すなわち、可溶性タンパク質フラクション中に変異またはバリアントタンパク質が存在せず/すべての変異もしくはバリアントタンパク質が不溶性タンパク質フラクション中に存在する)、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%または少なくとも30%、好ましくは、少なくとも40%、例えば、少なくとも50%または少なくとも60%、さらに好ましくは、少なくとも70%、例えば、少なくとも80%または少なくとも90%またはそれ以上など、において減少する場合、低下したと見なされ得る。
【0063】
前にも述べたように、ベータ鎖は、3から10個のアミノ酸長である傾向がある。したがって、ある特定の実施形態において、分子とタンパク質の変異またはバリアント型の間に形成される分子間ベータシートは、標的化されたAPRの少なくとも3個、例えば、少なくとも4個または少なくとも5個の連続するアミノ酸を含む場合がある。言い換えると、APRの少なくとも3個、少なくとも4個または少なくとも5個の連続するアミノ酸は、ベータシートに参加するベータ鎖を構成するであろう。標的化の特異性を増強するため、分子は、標的APRの少なくとも6個、例えば、正確に6個、または少なくとも7個、例えば、正確に7個、または少なくとも8個、例えば、正確に8個、または少なくとも9個、例えば、正確に9個、または少なくとも10個、例えば、正確に10個の連続するアミノ酸を伴うベータシートを誘導するように設計され得る。APRの11個、12個、13個または14個の連続したアミノ酸を含むベータシートも想到されるが、6から10個の連続したアミノ酸のベータ鎖が望ましいことがある。なぜならば、6から10個の連続するアミノ酸のベータ鎖は分子の設計を単純化しつつ納得のいく特異性を可能にするからである。
【0064】
さらに、ある特定の実施形態では、分子間ベータシートは、タンパク質の変異またはバリアント型とタンパク質の間で異なるアミノ酸の1つまたは複数を伴うであろう。言い換えると、タンパク質の変異またはバリアント型が元のタンパク質と異なる1つまたは複数のアミノ酸は、ベータシートに参加するベータ鎖の一部分であろう。前記1つまたは複数のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分である場合は、これは特にそうである。突然変異または変動が、元のタンパク質にも存在していたが元のタンパク質ではAPRの一部分ではなかった1つまたは複数のアミノ酸を含むAPRをもたらす場合、分子間ベータシートはそのような1つまたは複数のアミノ酸も伴い得る。実例として、ヒトRASタンパク質中のG12V突然変異は野生型ヒトRASにおいて予想されるAPRを、2~12位に及ぶように伸ばすために、G12V RAS変異体中のAPRは2~15位に及ぶ。そのような例では、12位で変異したアミノ酸(V)だけではなく、13~15位(GVG)で隣接するアミノ酸もベータシート形成に関与する場合がある。
【0065】
変動または突然変異が元のタンパク質に存在するAPRを、変異体またはバリアントのおよび元のタンパク質のそれぞれのAPRがそのアミノ酸配列および/または凝集傾向が異なるように改変する場合、ある実施形態では、以下のうちのいずれか1つまたは複数が当てはまりうる。
a)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質中のAPRよりも高い割合(比、百分率)の疎水性アミノ酸を有する場合がある;
b)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸の割合がタンパク質中のAPRよりも低い場合がある;
c)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質中のAPRよりも低い割合の荷電アミノ酸を有する場合がある;
d)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質中のAPRよりも少なくとも1個のアミノ酸分長く、例えば、2、3または4個のアミノ酸分長い場合がある。
【0066】
そのような特長は、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを非改変タンパク質中の対応するプロトAPRと比べた場合にも当てはまりうる。
疎水性アミノ酸、特に、プロリン以外の疎水性アミノ酸は、V、F、Y、W、H、M、T、K、A、C、およびGを含む。好ましくは、疎水性アミノ酸は、I、L、V、F、Y、W、M、T、またはA、さらに好ましくは、I、L、V、F、W、M、およびAでもよい。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、タンパク質中のAPRが少なくとも50%または少なくとも60%または少なくとも70%の疎水性アミノ酸を含む場合、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、それぞれ50%を超える(例えば、60%もしくはそれよりも多いまたは70%もしくはそれよりも多い)、60%を超える(例えば、70%もしくはそれよりも多いまたは80%もしくはそれよりも多い)または70%を超える(例えば、80%もしくはそれよりも多いまたは90%もしくはそれよりも多い)疎水性アミノ酸を含みうる。ある実施形態では、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、タンパク質中のAPRよりも高い割合の脂肪族アミノ酸、特に、I、Lおよび/またはV、またはFを有する場合がある。
【0067】
ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、R、K、E、D、P、N、S、H、GまたはQでもよい。特にベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する特に高い傾向を有するアミノ酸は、R、K、DもしくはEなどの荷電アミノ酸または高い立体配座の剛性に象徴されるアミノ酸、特にPでもよい。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、タンパク質中のAPRがベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有する3、2または1個のアミノ酸を含む場合、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRはそれぞれ2、1もしくは0、1もしくは0、または0個のそのようなアミノ酸を含みうる。
【0068】
タンパク質中の荷電アミノ酸はR、K、H、E、およびDを含み、好ましくはR、K、E、およびDのことでもよい。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、タンパク質中のAPRが3、2または1個の荷電アミノ酸を含む場合、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRはそれぞれ2、1もしくは0、1もしくは0、または0個のそのようなアミノ酸を含みうる。
【0069】
突然変異または変動はAPRの長さにも影響を及ぼす場合があり、好ましくは、1、2、3または4個のアミノ酸などの、APRの長さを増やしてもよい。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、タンパク質中のAPRが6または8または10個の連続するアミノ酸長である場合、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは、6個を超える(例えば、7~16個)、8個を超える(例えば、9~16個)または10個を超える(例えば、11~16個)アミノ酸長でもよい。
【0070】
前述の説明の点から見て、ある特定の実施形態では、以下のうちのいずれか1つまたは複数が当てはまりうる:
a)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動は、タンパク質中のAPR内の1つまたは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失するまたは付加することがある;
b)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動は、タンパク質中のAPRにN末端で隣接する1~10個、好ましくは1~4個の連続するアミノ酸の領域内の1つまたは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失するまたは付加することがあり、好ましくはそれにより前記領域の少なくとも1個のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分になる;
c)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動は、タンパク質中のAPRにC末端で隣接する1~10個、好ましくは1~4個の連続するアミノ酸の領域内の1つまたは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失するまたは付加することがあり、好ましくはそれにより前記領域の少なくとも1個のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分になる。
【0071】
言い換えれば、突然変異または変動は、非改変タンパク質中のAPRを構成すると予測された連続するアミノ酸ストレッチの配列に影響を及ぼす場合があり、例えば、限定せずに、前記ストレッチの1つまたは複数のアミノ酸(例えば、極性または荷電アミノ酸などの非疎水性アミノ酸)は1つまたは複数の他のアミノ酸(例えば、疎水性アミノ酸)で置換されてもよい。あるいは、突然変異または変動は、N末端および/またはC末端で非改変タンパク質中のAPRに隣接するまたは囲む配列に影響を及ぼす場合がある。典型的には、天然のタンパク質では、APRは、比較的ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸が隣接している(例えば、TANGOにより予測されるようなまたは上で考察されたような)。そのような「ゲートキーパー」配列の包含は、APRの凝集傾向を生来の特性で制御し、それによって細胞中、正常な発現の条件で自己凝集を最小限に抑えるまたは回避するのに役立つ。典型的には、そのような隣接するゲートキーパー領域は、APRにN末端でおよびC末端で隣接して、それぞれが独立して1~10個、さらに典型的には1~6個、さらに典型的には1~4個、例えば、1、2、3または4個の連続するアミノ酸に及びうる。したがって、そのような隣接する領域での突然変異または変動は、これらの領域の特徴を変更する場合があるので、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRは以前は隣接したまたはゲートキーパー領域であったものに伸びるまたはこれに突き出る。限定せずに、これは、APR隣接領域の1つもしくは複数の非疎水性または弱い疎水性のアミノ酸が、1つまたは複数の脂肪族アミノ酸などの1つまたは複数の(もっと多い)疎水性アミノ酸により置換されるときに起こる場合がある。
【0072】
したがって、ある特定の実施形態では、APRにN末端でまたはC末端で隣接する前記領域中の突然変異またはバリアントは:
a)前記領域で疎水性アミノ酸の割合を増やす;
b)前記領域でベータシートを形成する低い能力もしくはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸の割合を低減する;および/または
c)前記領域で荷電アミノ酸の割合を低減する場合がある。
【0073】
本分子は、タンパク質の変異またはバリアント型との分子間ベータシートの形成を誘導することができる。このために、分子は、有利には、ベータ鎖との相互作用によって形成される分子間ベータシートを生じさせるように、変異またはバリアントタンパク質により、さらに詳細にはそのAPRにより与えられるベータ鎖と相互作用することができるベータ鎖コンフォメーションを装うまたは模倣することができる少なくとも1つの一部分を含み得る。
【0074】
ある実施形態では、分子は、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートに関与する少なくとも1つのアミノ酸ストレッチを含みうる。前に説明したように、ベータ鎖は、3個から10個のアミノ酸長である傾向がある。したがって、ある特定の実施形態において、分子で構成された少なくとも1つのアミノ酸ストレッチは、少なくとも3個、例えば、少なくとも4個または少なくとも5個など、の連続したアミノ酸長であり得る。相互作用の特異性を高めるために、分子で構成された少なくとも1つのアミノ酸ストレッチは、少なくとも6個、例えば、正確に6個、または少なくとも7個、例えば、正確に7個、または少なくとも8個、例えば、正確に8個、または少なくとも9個、例えば、正確に9個、または少なくとも10個、例えば、正確に10個の、連続したアミノ酸長であり得る。11個、12個、13個、または14個の連続したアミノ酸長であるアミノ酸ストレッチは、おそらく、分子によっても構成することができるが、6個から10個の連続したアミノ酸のストレッチは、分子の設計を簡素化しつつ、満足できる特異性を可能にするため、好ましくあり得る。したがって、ある特定の実施形態では、分子は、分子間ベータシートに関与する少なくとも6個の連続するアミノ酸のアミノ酸ストレッチを含む。さらなる実施形態では、分子は、分子間ベータシートに関与する少なくとも6~10個の連続するアミノ酸のアミノ酸ストレッチを含む。
【0075】
ある好ましい特定の実施形態では、分子(簡潔さのため、以降は「分子ストレッチ」)により含まれる、アミノ酸の少なくとも1つのストレッチ、例えば、少なくとも6個の連続するアミノ酸または6~10個の連続するアミノ酸の少なくとも1つのストレッチは、ベータシートに存在するまたは関与するタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRにより含まれる連続するアミノ酸のストレッチ(簡潔さのため、以降は「変異/バリアントストレッチ」)に対応し得る。ある例を用いれば、ベータシートが、APRの3、4、5、好ましくは6~10個を、例えば、6、7、8、9もしくは10個の、または11、12、13もしくは14個もの連続するアミノ酸の変異/バリアントストレッチを伴う場合、分子ストレッチはこの変異/バリアントストレッチに対応し得る。
【0076】
分子ストレッチと変異/バリアントストレッチの間の対応は、特に:
a)分子ストレッチのアミノ酸配列が、変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列と同一である状況;
b)分子ストレッチのアミノ酸配列が、変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、ただし、この配列同一性の程度は、本明細書で教示される分子間ベータシートの形成に適合する状況で、例えば、前記少なくとも80%の配列同一性は、ある特定の実施形態において、変異/バリアントストレッチが6個または7個のアミノ酸長である場合、6個または7個のアミノ酸長の分子ストレッチが、多くとも1個のアミノ酸置換において変異/バリアントストレッチと異なるか、あるいは変異/バリアントストレッチが8個から12個のアミノ酸長である場合、8個から12個のアミノ酸長の分子ストレッチが、多くとも2個のアミノ酸置換において変異/バリアントストレッチと異なるか、あるいは変異/バリアントストレッチが13個から14個のアミノ酸長である場合、13個から14個のアミノ酸長の分子ストレッチが、多くとも3個のアミノ酸置換において変異/バリアントストレッチと異なることを意味し得る;
c)分子ストレッチのアミノ酸配列が、多くとも3個の、好ましくは多くとも2個の、さらに好ましくは多くとも1個のアミノ酸置換において変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列と異なり、ただし、この置換(単数または複数)が本明細書で教示されるような分子間ベータシートの形成と適合する場合に限られる状況で;
d)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つにおいて説明される変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの程度の配列同一性を示し、分子ストレッチのすべてのアミノ酸がL-アミノ酸である状況;
e)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つにおいて説明される変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの程度の配列同一性を示し、分子ストレッチの少なくとも1個(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくとも6個またはそれよりも多くまたは全部)のアミノ酸がD-アミノ酸であるという状況、但し、D-アミノ酸(単数または複数)の組込みが本明細書で教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる状況;
f)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つにおいて説明される変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの配列同一性を示し、分子ストレッチの少なくとも1個(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4、個少なくとも5個、または少なくとも6個またはそれよりも多くまたは全部)のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸の類似体で置換され、ただし、類似体(単数または複数)の組込みが本明細書で教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる、または
g)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つにおいて説明される変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの配列同一性を示し、分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸の類似体で置換され、ただし、D-アミノ酸(単数または複数)および類似体(単数または複数)の組込みが本明細書で教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる状況
を包含し得る。
【0077】
好ましくは、分子ストレッチは、そのような分子ストレッチを含有する分子のオフ標的化活性を低下させるまたは防ぐために、そのアミノ酸配列が、変異またはバリアントタンパク質以外のそれぞれの生物(ヒト変異またはバリアントタンパク質が標的にされるヒト生物などの)のタンパク質中のアミノ酸配列と同一ではないように設計され得る。分子ストレッチのアミノ酸配列は、この評価を実施するために、容易に生物の完全プロテオームに揃えることができる。
【0078】
言及したように、ある特定の実施形態において、分子ストレッチのアミノ酸配列は、変異/バリアントストレッチのアミノ酸配列に対して100%未満の同一性であり得、例えば、分子ストレッチの配列は、変異/バリアントストレッチの配列に対して、少なくとも80%、例えば、81%、82%、83%、または84%、好ましくは少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、または89%、より好ましくは少なくとも90%、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性であり得る。
【0079】
そのような実施形態において、分子ストレッチは、変異/バリアントストレッチに対して(すなわち、変異/バリアントストレッチと比較して)1つまたは複数のアミノ酸の追加、欠失、または置換を含み得る。好ましくは、分子ストレッチは、変異/バリアントストレッチに対する、1つまたは複数のアミノ酸置換、好ましくは多くとも3つ、より好ましくは多くとも2つ、さらにより好ましくは多くとも1つのアミノ酸置換、例えば、特に、1つまたは複数の単一のアミノ酸置換、好ましくは多くとも3つ、より好ましくは多くとも2つ、さらにより好ましくは多くとも1つの単一のアミノ酸置換など、を含み得る。
【0080】
好ましくは、1つまたは複数のアミノ酸置換、特に、1つまたは複数の単一のアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換であり得る。保存的アミノ酸置換は、同様の特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸置換としては、以下の群内での置換:バリン、アラニン、およびグリシン;ロイシン、バリン、およびイソロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギンおよびグルタミン;セリン、システイン、およびトレオニン;リジンおよびアルギニン;ならびにフェニルアラニンおよびチロシン、が挙げられる。非極性疎水性アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが挙げられる。極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。正に荷電された(すなわち、塩基性の)アミノ酸としては、アルギニン、リシン、およびヒスチジンが挙げられる。負に荷電された(すなわち、酸性の)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。同じ群の別のメンバーによる、上記において言及した極性、塩基性、または酸性の群の1つのメンバーの任意の置換は、保存的置換であると見なされ得る。対照的に、非保存的置換は、異なる特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換である。
【0081】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数のアミノ酸置換、特に、1つまたは複数の単一のアミノ酸置換は、それぞれ独立して、非荷電アミノ酸、好ましくは、プロリン以外の疎水性アミノ酸、例えば、グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、およびトリプトファン(W)など、によってであり得る。そのような置換は、分子ストレッチの可能性を誘導するベータシートを増加させることができる。
【0082】
ある特定の好ましい実施形態において、標的化された変異またはバリアントタンパク質中の変異したまたはバリアントアミノ酸(単数または複数)に対応するかまたはそれに揃えられる分子ストレッチのアミノ酸(単数または複数)は、前記変異したまたはバリアントアミノ酸と同一であり得るか、またはそのD異性体であり得るか、またはその類似体であり得、好ましくは、それと同一である。
【0083】
さらに、上記で実例が示されているように、分子ストレッチ、すなわち、分子間ベータシートに関与する、本明細書で教示されているような分子により含まれる少なくとも1つのアミノ酸ストレッチはまた、D-アミノ酸および/または列挙されたアミノ酸の類似体を含んでもよい。より一般的に述べれば、ある特定の実施形態では、本分子の少なくとも1つのアミノ酸ストレッチは、1個もしくは複数のD-アミノ酸か、またはそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体、または1個もしくは複数のD-アミノ酸とそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含んでもよく、ただし、前記1個もしくは複数のD-アミノ酸および/または前記1個もしくは複数の類似体の組入れが、本明細書で教示されているような分子間ベータシートの形成と適合するという条件下である。
【0084】
非限定的に、ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、1個のみのD-アミノ酸を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、2個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上)のD-アミノ酸を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチを構成する約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または100%(すなわち、全部)のアミノ酸がD-アミノ酸であり得る。ある特定の実施形態では、D-アミノ酸は、L-アミノ酸間に散在し得、および/またはD-アミノ酸は、L-アミノ酸によって分離された、2個以上のD-アミノ酸の1つもしくは複数の部分ストレッチへ構築され得る。非限定的に、ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、それのアミノ酸のうちの1個のみの類似体を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、それのアミノ酸のうちの2個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上)の類似体を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、それのアミノ酸の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または100%(すなわち、全部)の類似体を含み得る。ある特定の実施形態では、アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸間に散在し得、および/またはアミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸によって分離された、2個以上のそのような類似体の1つまたは複数の部分ストレッチへ構築され得る。非限定的に、ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、D-アミノ酸またはアミノ酸類似体である1個のみの構成要素を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、D-アミノ酸またはアミノ酸類似体である2個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上)の構成要素を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチの約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または100%(すなわち、全部)の構成要素がD-アミノ酸またはアミノ酸類似体であり得る。
【0085】
すでに説明されているように、分子ストレッチは、変異/バリアントストレッチに対応するようにデザインされ得、そのことは、特に、分子ストレッチと変異/バリアントストレッチとの間のある程度の配列同一性を要求し得る。例えば、分子ストレッチは、最も好ましくは、変異/バリアントストレッチと同一であり得、または単一アミノ酸置換によってのみ、特に、3つ以下、好ましくは2つ以下、より好ましくは1つ以下の単一アミノ酸置換によって、後者とは異なり得る。分子ストレッチと変異/バリアントストレッチとの間のそのような比較的高い程度の配列同一性は、それらのストレッチを、特に、それらの間での分子間ベータシートの形成を通して、会合させるのを助ける。実際、天然に存在するタンパク質内のベータ凝集性領域の「自己会合」がそのようなタンパク質の凝集の広く行き渡った根本的な機構であることが報告されており(例えば、Fernandez-Escamillaら、2004、上記、参照)、本アプローチがこれを利用することができる。またすでに説明されているように、分子ストレッチと変異/バリアントストレッチとの間の一致の概念は、D-異性体および/または分子ストレッチにおけるそれぞれのアミノ酸の類似体の包含を許容する。
【0086】
アミノ酸類似体への言及は、天然でコードされるアミノ酸と同じまたは類似した基本的な化学構造を有する任意の化合物、すなわち、カルボキシル基、アミノ基、およびR部分を含む有機化合物(アミノ酸残基)を包含し得る。典型的には、アミノ基およびR部分は、α炭素原子(すなわち、カルボキシル基が結合している炭素原子)と結合し得る。他の実施形態では、アミノ基は、α炭素原子以外の炭素原子、例えば、βまたはγ炭素原子、好ましくはβ炭素原子と結合し得る。そのような実施形態では、R部分は、アミノ基と同じ炭素原子、またはα炭素原子に、より近い炭素原子、またはα炭素自体と結合し得る。典型的には、カルボキシル基、アミノ基、およびR部分が、α炭素原子と結合している場合、前記α炭素原子はまた、水素原子と結合し得る。典型的には、アミノ基およびR部分がβ炭素原子と結合している場合、前記β炭素原子はまた、水素原子と結合し得る。非限定的に、アミノ酸類似体のR部分は、それぞれの天然でコードされるアミノ酸のR基とは、R基の1つまたは複数の個々の原子または官能基が、異なる原子で(例えば、メチル基が水素原子で置き換えられ、またはS原子がO原子で置き換えられるなど)、同じ原子の同位元素で(例えば、12Cが13Cで置き換えられ、14Nが15Nで置き換えられ、または1Hが2Hで置き換えられるなど)、または異なる官能基で(例えば、水素原子が、メチル、エチル、もしくはプロピル基で、または別のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクリル、アリール、もしくはヘテロアリール基で置き換えられ;-SH基が、-OH基または-NH2基で置き換えられるなど)、置き換えられまたは置換されていることにより、異なり得る。それぞれの天然でコードされるアミノ酸と比較しての、アミノ酸類似体における構造の違いまたは改変は、好ましくは、電荷および極性に関するそのアミノ酸の中核的性質を保存している。したがって、無極性疎水性アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、無極性疎水性R部分を有し得る;極性中性アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、極性中性R部分を有し得る;正荷電(塩基性)アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、正に荷電した、好ましくは同数の荷電基を有する、R部分を有し得る;負荷電(酸性)アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、負に荷電した、好ましくは同数の荷電基を有する、R部分を有し得る。全てのアミノ酸類似体は、D-立体異性体とL-立体異性体の両方として構想され、ただし、それらの構造がそのような立体異性体形を可能にするという条件下である。
【0087】
例として、非限定的に、ロイシン類似体は、2-アミノ-3,3-ジメチル-酪酸(t-ロイシン)、アルファ-メチルロイシン、ヒドロキシロイシン、2,3-デヒドロ-ロイシン、N-アルファ-メチル-ロイシン、2-アミノ-5-メチル-ヘキサン酸(ホモロイシン)、3-アミノ-5-メチルヘキサン酸(ベータ-ホモロイシン)、2-アミノ-4,4-ジメチル-ペンタン酸(4-メチル-ロイシン、ネオペンチルグリシン)、4,5-デヒドロ-ノルロイシン、L-ノルロイシン、N-アルファ-メチル-ノルロイシン、および6-ヒドロキシ-ノルロイシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、バリン類似体は、c-アルファ-メチル-バリン(2,3-ジメチルブタン酸)、2,3-デヒドロ-バリン、3,4-デヒドロ-バリン、3-メチル-L-イソバリン(メチルバリン)、2-アミノ-3-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸(ヒドロキシバリン)、ベータ-ホモバリン、およびN-アルファ-メチル-バリン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、グリシン類似体は、N-アルファ-メチル-グリシン(サルコシン)、シクロプロピルグリシン、およびシクロペンチルグリシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、アラニン類似体は、2-アミノ-イソ酪酸(2-メチルアラニン)、2-アミノ-2-メチルブタン酸(イソバリン)、N-アルファ-メチル-アラニン、c-アルファ-メチル-アラニン、c-アルファ-エチル-アラニン、2-アミノ-2-メチル-4-ペンテン酸(アルファ-アリルアラニン)、ベータ-ホモアラニン、2-インダニル-グリシン、ジ-n-プロピル-グリシン、ジ-n-ブチル-グリシン、ジエチルグリシン、(1-ナフチル)アラニン、(2-ナフチル)アラニン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、シクロペンチルグリシン、アダマンチル-グリシン、およびベータ-ホモアリルグリシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。
【0088】
ある特定の実施形態では、本分子は、分子間ベータシートに関与する正確に1つのアミノ酸ストレッチを含み得る(すなわち、上記で論じられているような正確に1つの「分子ストレッチ」)。ある特定の好ましい実施形態では、本分子は、分子間ベータシートに関与する2つまたはそれ以上のアミノ酸ストレッチを含み得る(すなわち、上記で論じられているような2つまたはそれ以上の「分子ストレッチ」)。例えば、本分子は、2~6つ、好ましくは2~5つ、より好ましくは2~4つ、またはさらにより好ましくは2もしくは3つの分子ストレッチを含み得る。例えば、本分子は、正確に2つ、または正確に3つ、または正確に4つ、または正確に5つの分子ストレッチ、特に好ましくは正確に2つまたは正確に3つの分子ストレッチ、さらにより好ましくは正確に2つの分子ストレッチを含み得る。2つまたはそれ以上の分子ストレッチの包含は、それぞれの変異またはバリアントタンパク質を下方制御し、その凝集を誘導することにおいて分子の有効性を増加する傾向がある。したがって、好ましい実施形態では、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは、同じ変異またはバリアントタンパク質に方向づけられるであろう。しかしながら、2つまたはそれ以上の分子ストレッチが異なる変異またはバリアントタンパク質に方向づけられている構成が構想され得、より普遍的な標的化剤を提供することができる。
【0089】
本分子が、本明細書で教示されているような2つまたはそれ以上の分子ストレッチを含む場合、これらはそれぞれ独立して、同一または異なり得る。例えば、正確に2つの分子ストレッチを有する分子において、前記2つの分子ストレッチは、同一または異なり得る;正確に3つの分子ストレッチを有する分子において、全ての3つのストレッチが同一であり得、または各ストレッチがお互いのストレッチと異なり得、または2つのストレッチが同一であり得、残りのストレッチが異なり得る;あるいは、正確に4つの分子ストレッチを有する分子において、全ての4つのストレッチが同一であり得、または各ストレッチがお互いのストレッチと異なり得、または2つもしくは3つのストレッチが同一であり得、残りのストレッチが前者と異なり得、必要に応じて、お互いに同一であり得る。
【0090】
例として、非限定的に、2つの分子ストレッチが異なると言われる場合、各分子ストレッチは、本明細書で教示されているような異なる変異またはバリアントタンパク質、例えば、重複しない、重複する、または入れ子状態であるが、それでもなお、異なる変異/バリアントストレッチになど、好ましくは同じ変異またはバリアントタンパク質に対応し得る。そのような実施形態では、2つの分子ストレッチは、根底にあるアミノ酸配列が異なるように考慮して、デザインされ得、必要に応じて、他の点においても、例えば、それらが、アミノ酸置換、D-異性体、および/またはそれぞれのアミノ酸の類似体を組み入れる(または組み入れない)程度においても異なり得る。または、2つの分子ストレッチが異なると言われる場合、各分子ストレッチは、根底にあるアミノ酸配列が同じであるように考慮して、デザインされ得るが、他の点においては、例えば、それらが、アミノ酸置換、D-異性体、および/もしくはそれぞれのアミノ酸の類似体を組み入れる(または組み入れない)程度において、異なり得るように、同じ変異/バリアントストレッチに対応し得る。特に好ましい実施形態では、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは、同じ変異/バリアントストレッチに対応し、より好ましくは、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは、アミノ酸置換において異ならず(例えば、それらは、変異/バリアントストレッチと比較して、少しのアミノ酸置換も組み入れず、または同じアミノ酸置換を組み入れ得る)、さらにより好ましくは、それらがD-異性体および/またはそれぞれのアミノ酸の類似体を組み入れる程度においても異ならない(例えば、それらは、少しのD-異性体および/もしくは類似体も組み入れず、または同じ位置において同じD-異性体および/もしくは類似体を組み入れ得る)。したがって、特に好ましい実施形態では、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは同一である。
【0091】
本分子が、分子間ベータシートに関与する2つまたはそれ以上のアミノ酸ストレッチを含む(すなわち、上記で論じられているような2つまたはそれ以上の「分子ストレッチ」)場合、「分子間ベータシート」への言及は、必ずしも、物理的に同じベータシートを意味するわけではなく、別の変異またはバリアントタンパク質分子との別のベータシートを意味する場合がある。例えば、2つの分子ストレッチを有する分子は、同じベータシートにおいて、または2つの別々のベータシートにおいて、または最初に2つの別々のベータシートにおいてであり、それらのベータシートが、後で、同じベータシートの部分、もしくはベータシート形成により駆動された同じ、より高次の構造になる、ベータシートにおいて、2つの変異またはバリアントタンパク質分子を会合し得る。したがって、特に求められることは、ベータ鎖およびベータシートに向かう変異またはバリアントタンパク質分子の標的APRの立体構造変化の発生であり、この発生により最終的に溶解性が減少しその凝集が引き起こされる。
【0092】
好ましい実施形態では、上記で論じられたアミノ酸ストレッチを含有する分子が、それらの標的変異またはバリアントタンパク質に曝露される前でも、自己会合または自己凝集する(例えば、作製時または貯蔵中に沈殿する)傾向を低下させるために、アミノ酸ストレッチは、そのような自己会合を低下させまたは防止することができるアミノ酸によって囲まれまたはゲートを付与され得る(「ゲートキーパーアミノ酸」または「ゲートキーパー」とも名付けられている)。したがって、ある特定の実施形態では、本分子内のアミノ酸ストレッチはそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1個または複数のアミノ酸、特に連続したアミノ酸と、各末端に独立して、隣接し、特に直接的にまたはすぐに隣接している。典型的には、そのような隣接領域はそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有する、1~10個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、またはさらにより好ましくは1~4個、例えば、正確に1個、正確に2個、正確に3個、または正確に4個のアミノ酸、特に連続したアミノ酸を含み得る。
【0093】
ある特定の好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、荷電アミノ酸、例えば、正荷電(塩基性、例えば、+1または+2の総電荷)アミノ酸または負荷電(酸性、例えば-1または-2の総電荷)アミノ酸、例えば、それのR部分においてアミノ基(プロトン化された場合、-NH3
+)またはカルボキシル基(解離した場合、-COO-)を含有するアミノ酸であり得る。ある特定の他の実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、例えばピロリジンなどのヘテロ環におけるそれのペプチド結合形成性アミノ基の包含による、高い立体構造的強剛性により典型的に表されるアミノ酸であり得る。
【0094】
したがって、ある特定の好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、D-およびL-立体異性体またはその類似体を含む、R、K、E、D、P、N、S、H、G、Q、またはAであり得る。ある特定の好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、D-およびL-立体異性体または類似体を含む、R、K、E、D、P、N、S、H、G、またはQであり得る。ある特定のより好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、そのD-およびL-立体異性体または類似体を含む、R、K、E、D、またはPであり得る。ある特定のより好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、D-およびL-立体異性体または類似体を含む、R、K、E、またはDであり得る。したがって、ある特定の実施形態では、本分子内のアミノ酸ストレッチはそれぞれ独立して、R、K、E、D、P、N、S、H、G、Q、およびA、それらのD-およびL-立体異性体、およびそれらの類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択され、またはR、K、E、D、P、N、S、H、G、およびQ、それらのD-およびL-立体異性体、およびそれらの類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択され、またはR、K、E、D、およびP、それらのD-およびL-立体異性体、およびそれらの類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、1個または複数のアミノ酸、好ましくは1~4個の連続したアミノ酸と、各末端に独立して、隣接している。
【0095】
例として、非限定的に、アルギニン類似体、特に、正電荷を有し、または正電荷を有するようにプロトン化することができるアルギニン類似体は、2-アミノ-3-ウレイド-プロピオン酸、ノルアルギニン、2-アミノ-3-グアニジノ-プロピオン酸、グリオキサール-ヒドロイミダゾロン、メチルグリオキサール-ヒドロイミダゾロン、N’-ニトロ-アルギニン、ホモアルギニン、オメガ-メチル-アルギニン、N-アルファ-メチル-アルギニン、N,N’-ジエチル-ホモアルギニン、カナバニン、およびベータ-ホモアルギニン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択から選択され得る。例として、非限定的に、リジン類似体、特に、正電荷を有し、または正電荷を有するようにプロトン化することができるリジン類似体は、N-イプシロン-ホルミル-リジン、N-イプシロン-メチル-リジン、N-イプシロン-i-プロピル-リジン、N-イプシロン-ジメチル-リジン、N-イプシロン-トリメチルアンモニウム-リジン、N-イプシロン-ニコチニル-リジン、オルニチン、N-デルタ-メチル-オルニチン、N-デルタ-N-デルタ-ジメチル-オルニチン、N-デルタ-i-プロピル-オルニチン、c-アルファ-メチル-オルニチン、ベータ,ベータ-ジメチル-オルニチン、N-デルタ-メチル-N-デルタ-ブチル-オルニチン、N-デルタ-メチル-N-デルタ-フェニル-オルニチン、c-アルファ-メチル-リジン、ベータ,ベータ-ジメチル-リジン、N-アルファ-メチル-リジン、ホモリジン、およびベータ-ホモリジン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、グルタミン酸またはアスパラギン酸類似体、特に、負電荷を有し、または負電荷を有するように解離することができるグルタミン酸またはアスパラギン酸類似体は、2-アミノ-アジピン酸(ホモグルタミン酸)、2-アミノ-ヘプタン二酸(2-アミノピメリン酸)、2-アミノ-オクタン二酸(アミノスベリン酸)、および2-アミノ-4-カルボキシ-ペンタン二酸(4-カルボキシグルタミン酸)、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、プロリン類似体は、3-メチルプロリン、3,4-デヒドロ-プロリン、2-[(2S)-2-(ヒドラジンカルボニル)ピロリジン-1-イル]-2-オキソ酢酸、ベータ-ホモプロリン、アルファ-メチル-プロリン、ヒドロキシプロリン、4-オキソ-プロリン、ベータ,ベータ-ジメチル-プロリン、5,5-ジメチル-プロリン、4-シクロヘキシル-プロリン、4-フェニル-プロリン、3-フェニル-プロリン、および4-アミノプロリン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。場合により他のアミノ酸と組み合わせて、本明細書に開示されているようなゲートキーパー部分に含まれ得るアミノ酸のさらなる非限定的例は、ジアミノピメリン酸である。場合により他のアミノ酸と組み合わせて、本明細書に開示されているようなゲートキーパー部分に含まれ得るアミノ酸のさらなる非限定的例は、シトルリンである。
【0096】
実例として、非限定的に、分子ストレッチに隣接し得るそのようなゲートキーパー配列または領域の例は、それぞれ独立して、R、K、E、D、P、A、ジアミノピメリン酸、シトルリン、RR、KK、EE、DD、PP、RK、KR、ED、DE、RRR、KKK、DDD、EEE、PPP、RRK、RKK、KKR、KRR、RKR、KRK、DDE、DEE、EED、EDD、EDE、またはDEDなどであり得、その場合、任意のアルギニン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、またはアラニンは、L-またはD-異性体であり得、必要に応じて、任意のアルギニン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、またはアラニンは、この明細書の他の箇所で論じられているように、それの類似体によって置換されてもよい。
【0097】
前に論じられているように、本分子は、変異またはバリアントタンパク質APRにより寄与されるベータ鎖と相互作用し、その結果、前記相互作用するベータ鎖により形成される分子間ベータシートを生じる能力がある、前記ベータ鎖立体構造を想定または模倣することができる少なくとも1つの部分を含み得るが、ある特定の実施形態では、そのような一部分は、好ましくは、分子間ベータシートに関与するアミノ酸ストレッチ(「分子ストレッチ」)であり得る。ある特定の他の実施形態では、一部分は、そのような分子ストレッチのペプチド模倣体であり得る。用語「ペプチド模倣体」は、対応するペプチドの形態的類似体である非ペプチド剤を指す。ペプチドのペプチド模倣体を合理的にデザインする方法は、当技術分野において知られている。例えば、硫酸化8-merのペプチド、CCK26-33に基づいた3つのペプチド模倣体、および11-merのペプチド、サブスタンスPに基づいた2つのペプチド模倣体の合理的デザイン、ならびに関連したペプチド模倣体デザイン原理は、Horwell 1995(Trends Biotechnol 13:132~134)に記載されている。
【0098】
変異またはバリアントタンパク質APRのベータ鎖とかみ合わすことを意図される前記一部分の外側、例えば、言い換えれば、これまで論じられているような「分子ストレッチ」の外側の、本分子の化学的性質および構造は、本分子のこれらの残りのセクションまたは一部分が、前述の分子間ベータシート相互作用に干渉せず、または好ましくはそれを促進もしくは可能にする限りにおいて、比較的あまり重要ではない。
【0099】
ある特定の実施形態では、本分子が、本明細書で論じられているような2つまたはそれ以上の分子ストレッチを含み、それぞれが、必要に応じておよび好ましくは、ゲートキーパー領域と隣接している場合、これらの分子ストレッチは、直接的にまたは好ましくはリンカー(スペーサーとしても知られている)を通して、接続され、特に共有結合性に接続される。そのようなリンカーまたはスペーサーの組入れは、個々の分子ストレッチに、変異またはバリアントタンパク質と相互作用するのにより大きい立体構造的自由およびより小さい立体障害を与え得る。必要に応じて、分子ストレッチ間に挿入されることに加えて、リンカーはまた、本分子の最初の分子ストレッチの外側および/または最後の分子ストレッチの外側に付加されてもよい。これは、必要に応じておよび好ましくはゲートキーパー領域と隣接した、1つの分子ストレッチを含むだけの分子のために、変更すべき所は変更して、適用され、その場合、リンカーは、単一の分子ストレッチの一方または両方の末端に連結され得る。
【0100】
そのようなリンカーの性質および構造は特に制限されない。リンカーは、強剛性リンカーまたは可動性リンカーであり得る。特定の実施形態では、リンカーは、共有結合を達成する共有結合性リンカーである。用語「共有結合性の」または「共有結合」は、2個の原子間での1つまたは複数の電子対の共有を含む化学的結合を指す。リンカーは、例えば、(ポリ)ペプチドリンカー、または非生物学的ポリマーのような非ペプチドポリマーなどの非ペプチドリンカーであり得る。好ましくは、任意の連結は、加水分解に安定な連結であり得、すなわち、長期間、例えば数日間、有用なpH値における水中で、例えば特に生理学的条件下で、実質的に安定であり得る。
【0101】
ある特定の実施形態では、各リンカーは独立して、1から20の間の同一のまたは非同一の単位のストレッチから選択され得、単位が、アミノ酸、単糖、ヌクレオチド、またはモノマーである。非同一の単位は、同じ性質の非同一の単位(例えば、異なるアミノ酸またはいくつかのコポリマー)であり得る。それらはまた、異なる性質の非同一の単位、例えば、アミノ酸単位とヌクレオチド単位を有するリンカー、または2つもしくはそれ以上の異なるモノマー種を含むヘテロポリマー(コポリマー)であり得る。特定の実施形態によれば、各リンカーは独立して、同じ性質の1~10の単位、特に同じ性質の1~5の単位で構成され得る。特定の実施形態によれば、本分子に存在する全てのリンカーは、同じ性質であり得、または同一であり得る。
【0102】
特定の実施形態では、任意の1つのリンカーは、1個または複数のアミノ酸のペプチドまたはポリペプチドリンカーであり得る。ある特定の実施形態では、本分子における全てのリンカーは、ペプチドまたはポリペプチドリンカーであり得る。より特には、ペプチドリンカーは、1~20アミノ酸長、例えば、好ましくは1~10アミノ酸長、より好ましくは2~5アミノ酸長であり得る。例えば、リンカーは、正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸長、例えば、好ましくは正確に2、3、または4アミノ酸長であり得る。リンカーを構成するアミノ酸の性質は、それらにより連結された分子ストレッチの生物活性が実質的に損なわれることがない限り、特別な関連性はない。好ましいリンカーは、本質的に、非免疫原性でありおよび/またはタンパク質切断を起こしにくい。ある特定の実施形態では、リンカーは、アルファヘリックス構造などの予想される二次構造を含有し得る。しかしながら、柔軟なランダムコイル構造を想定することが予想されるリンカーが好ましい。ベータ鎖を形成する傾向を有するリンカーは、あまり好ましくなくあり得、または避ける必要があり得る。システイン残基は、分子間ジスルフィド架橋を形成するそれらの能力のせいで、あまり好ましくなくあり得、または避ける必要があり得る。塩基性または酸性アミノ酸残基、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸は、意図されない静電気的相互作用を生じるそれらの能力のせいで、あまり好ましくなくあり得、または避ける必要があり得る。ある特定の好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、アラニン、フェニルアラニン、トレオニン、プロリン、およびそれらの組合せ、加えて、そのD-異性体および類似体からなる群から選択されるアミノ酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。ある特定の好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、アラニン、トレオニン、プロリン、およびそれらの組合せ、加えて、そのD-異性体および類似体からなる群から選択されるアミノ酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。さらにより好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、およびそれらの組合せ、加えて、そのD-異性体および類似体からなる群から選択されるアミノ酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシンおよびセリン残基のみからなり得る。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン残基またはその類似体のみから、好ましくはグリシン残基のみからなり得る。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、セリン残基またはそのD-異性体もしくは類似体のみから、好ましくはセリン残基のみからなり得る。そのようなリンカーは、特に良い可動性を提供する。ある特定の実施形態では、リンカーは、グリシンおよびセリン残基から本質的になるか、またはそれらからなり得る。ある特定の実施形態では、グリシンおよびセリン残基は、4:1から1:4の間の比(数による)、例えば、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、または約1:3のグリシン:セリンの比で存在し得る。好ましくは、グリシンは、セリンより豊富であり得、例えば、4:1から1.5:1の間のグリシン:セリンの比、例えば、約3:1または約2:1のグリシン:セリンの比である(数による)。ある特定の実施形態では、リンカーのN末端およびC末端残基は両方ともセリン残基であり得る;または、リンカーのN末端およびC末端残基は両方ともグリシン残基であり得る;または、N末端残基はセリン残基であり、C末端残基はグリシン残基である;または、N末端残基はグリシン残基であり、C末端残基はセリン残基である。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、プロリン残基またはそのD-異性体もしくは類似体のみから、好ましくはプロリン残基のみからなり得る。例として、非限定的に、本明細書で意図されるようなペプチドリンカーは、例えば、PP、PPP、GS、SG、SGG、SSG、GSS、GGS、GSGS(配列番号70)、AS、SA、GF、FFなどであり得る。
【0103】
ある特定の実施形態では、リンカーは、非ペプチドリンカーであり得る。好ましい実施形態では、非ペプチドリンカーは、非ペプチドポリマーを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得る。本明細書で使用される場合、用語「非ペプチドポリマー」は、ペプチド結合を除く、共有結合によってお互いに連結された2つまたはそれ以上の反復単位を含む生体適合性ポリマーを指す。例えば、非ペプチドポリマーは、2~200単位長、または2~100単位長、または2~50単位長、または2~45単位長、または2~40単位長、または2~35単位長、または2~30単位長、または5~25単位長、または5~20単位長、または5~15単位長であり得る。非ペプチドポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、多糖、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性ポリマー、例えば、PLA(ポリ(乳酸)およびPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸)、脂質ポリマー、キチン、ヒアルロン酸、ならびにそれらの組合せからなる群から選択され得る。特に好ましいのは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)である。別の特に構想される化学的リンカーはTtds(4,7,10-トリオキサトリデカン-13-スクシンアミド酸)である。非ペプチドポリマーの分子量は、好ましくは、1kDaから100kDaまで、好ましくは1~20kDaの範囲であり得る。非ペプチドポリマーは、1つのポリマー、または異なる型のポリマーの組合せであり得る。非ペプチドポリマーは、そのリンカーにより連結されることになっている要素と結合する能力がある反応基を有する。好ましくは、非ペプチドポリマーは、各末端に反応基を有する。好ましくは、反応基は、反応性アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基、およびスクシンイミド誘導体からなる群から選択される。スクシンイミド誘導体は、プロピオン酸スクシンイミジル、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル、または炭酸スクシンイミジルであり得る。非ペプチドポリマーの両端における反応基は、同じまたは異なり得る。ある特定の実施形態では、非ペプチドポリマーは、両端に反応性アルデヒド基を有する。例えば、非ペプチドポリマーは、一方の末端にマレイミド基、および他方の末端に、アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、またはブチルアルデヒド基を有し得る。両端に反応性ヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(PEG)は、非ペプチドポリマーとして使用され、前記ヒドロキシ基が、既知の化学反応により様々な反応基へ活性化され得、または市販の修飾反応基を有するPEGが、タンパク質コンジュゲートを調製するために使用され得る。
【0104】
ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子の作動部、すなわち、変異またはバリアントタンパク質への効果を担う部分は、ペプチドであり得る。言い換えれば、そのような実施形態では、変異またはバリアントタンパク質APRと相互作用するベータ鎖を形成する分子ストレッチ(必要に応じておよび好ましくは、ゲートキーパー領域に隣接し、リンカーが必要に応じておよび好ましくは前記分子ストレッチ間に挿入され、およびリンカーが、あまり好ましくはないが、必要に応じて、最も外側の分子ストレッチの外側に付加される)は全て、ペプチド結合によって共有結合性に連結されたアミノ酸(D-およびL-立体異性体ならびにアミノ酸類似体を含んでもよい)で構成される。好ましくは、本分子のそのようなペプチド作動部の全長は、50アミノ酸を超えず、例えば、45アミノ酸、40アミノ酸、35アミノ酸、30アミノ酸、25アミノ酸、またはさらに20アミノ酸を超えない。本分子のそのようなペプチド作動部は、1つまたは複数の他の部分と連結され得、前記他の部分は、それら自体、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドであり得るが、そうである必要はなく、この明細書の他の箇所で論じられているように、本分子を検出することを可能にすること、対象へ投与された時、本分子の半減期を増加させること、本分子の溶解性を増加させること、本分子の細胞取込みを増加させることなどの他の機能を果たし得る。ある特定の特に好ましい実施形態では、分子はペプチドである。好ましくは、そのようなペプチドの全長は、50アミノ酸を超えず、例えば、45アミノ酸、40アミノ酸、35アミノ酸、30アミノ酸、25アミノ酸、またはさらに20アミノ酸を超えない。本分子が、ペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、例えば、ペプチドである場合、前記分子のN末端は、例えばアセチル化により、修飾され得、および/または前記分子のC末端は、例えばアミド化により、修飾され得る。
【0105】
上述の議論を考慮すれば、ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、便利には、以下の構造:
a)NGK1-P1-CGK1、
b)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2、
c)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3、または
d)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3-Z3-NGK4-P4-CGK4
を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
P1~P4がそれぞれ独立して、上記で教示されているようなアミノ酸ストレッチ(「分子ストレッチ」)を表示し、
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、上記で教示されているようなゲートキーパー領域を表示し、
Z1~Z3がそれぞれ独立して、直接的結合、または好ましくは上記で教示されているようなリンカーを表示する。
【0106】
したがって、構造a)は、本明細書で教示されているような1つの分子ストレッチのみを含有する分子を指すが、構造b)、c)、およびd)は、それぞれ、本明細書で教示されているような2つ、3つ、または4つの分子ストレッチを含有する分子を指す。
【0107】
ある特定の実施形態では、上記で説明されているように、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1~4個の連続したアミノ酸、例えば、R、K、D、E、P、N、S、H、G、Q、およびA、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、好ましくは、R、K、D、E、P、N、S、H、G、およびQ、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、より好ましくは、R、K、D、E、およびP、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸を表示し得る。ある特定の実施形態では、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、R、K、A、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸を表示し得、例えば、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、K、R、D、A、またはKKであり得る。ある特定の特に好ましい実施形態では、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、R、K、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸を表示し得、例えば、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、K、R、D、またはKKであり得る。
【0108】
ある特定の特に好ましい実施形態では、各リンカーは、独立して、1~10単位の間、好ましくは1~5単位の間のストレッチから選択され、単位が、それぞれ独立して、1個のアミノ酸またはPEGであり、例えば、各リンカーが、独立して、GS、PP、AS、SA、GF、FF、またはGSGS(配列番号70)、またはそのD-異性体および/もしくは類似体であり、好ましくは、各リンカーは、独立して、GS、PP、またはGSGS(配列番号70)、好ましくはGS、またはそのD-異性体および/もしくは類似体である。ある特定の好ましい実施形態では、それぞれ独立して、直接的結合は、リンカーの代わりに含まれる。
【0109】
ある好ましい実施形態では、本分子は、以下の構造:
a)Gate-Pept-Gate;
b)Linker-Gate-Pept-Gate;
c)Gate-Pept-Gate-Linker;
d)Linker-Gate-Pept-Gate-Linker;
e)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
f)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
g)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
h)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
i)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
j)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
k)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;または
l)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
「Gate」、「Pept」、および「Linker」が、ペプチド結合により隣接ペプチド要素と結合したペプチド要素を表示し、前記ペプチド要素の左から右への順番が、前記ペプチドにおけるそれらのN末端からC末端への構築を表し、
「Pept」はそれぞれ独立して、上で教示されるようなアミノ酸ストレッチ(「分子ストレッチ」)を意味し、
「Gate」はそれぞれ独立して、リジン(K)またはD-リジンまたはD-もしくはL-リジン類似体(好ましくはリジン)、アルギニン(R)またはD-アルギニンまたはD-もしくはL-アルギニン類似体(好ましくはアルギニン)、アスパラギン酸(D)またはD-アスパラギン酸またはD-もしくはL-アスパラギン酸類似体(好ましくはアスパラギン酸)、グルタミン酸(E)またはD-グルタミン酸またはD-もしくはL-グルタミン酸類似体(好ましくはグルタミン酸)、KK、KKK、KKKK(配列番号45)、RR、RRR、RRRR(配列番号46)、DD、DDD、DDDD(配列番号47)、EE、EEE、EEEE(配列番号48)、KR、RK、KKR、KRK、RKK、RRK、RKR、KRR、KRKR(配列番号49)、KRRK(配列番号50)、RKKR(配列番号51)、DE、ED、DDE、DED、EED、EED、EDE、DEE、DEDE(配列番号52)、DEED(配列番号53)、またはEDDE(配列番号54)であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたはそれのもしくはそれらの類似体(そのような類似体のL-およびD-異性体を含む)により置き換えられ;
丸括弧内の語「Linker」の包含は、リンカーが、それぞれ独立して、存在しない場合があり、または好ましくは存在することを表示し、「Linker」はそれぞれ独立して、グリシン(G)またはD-もしくはL-グリシン類似体(好ましくはグリシン)、セリン(S)またはD-セリンまたはD-もしくはL-セリン類似体(好ましくはセリン)、プロリン(P)またはD-プロリンまたはD-もしくはL-プロリン類似体(好ましくはプロリン)、GG、GGG、GGGG(配列番号55)、SS、SSS、SSSS(配列番号56)、GS、SG、GGS、GSG、SGG、SSG、SGS、SSG、GGGS(配列番号57)、GGSG(配列番号58)、GSGG(配列番号59)、SGGG(配列番号60)、GGSS(配列番号61)、GSSG(配列番号62)、SSGG(配列番号63)、GSGS(配列番号70)、SGSG(配列番号64)、GSGSG(配列番号65)、SGSGS(配列番号66)、PP、PPP、もしくはPPPP(配列番号)であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたはそれのもしくはそれらの類似体(そのような類似体のL-およびD-異性体を含む)により置き換えられている。
【0110】
そのようなペプチドにおいて、N末端アミノ酸は、アセチル化など、修飾され得、および/またはC末端アミノ酸は、アミド化など、修飾され得る。そのようなペプチドにおいて、D-アミノ酸および/またはアミノ酸類似体は、それらの組入れが、本明細書で教示されているような分子間ベータシートの形成と適合性である限り、組み入れることができる。
【0111】
上記ですでに触れられているように、ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、他の機能を果たしまたは他の役割および活性を実施し得る、1つまたは複数のさらなる部分、基、コンポーネント、またはパーツを含み得る。そのような機能、役割、または活性は、例えば、本分子の作製、合成、単離、精製、もしくは製剤化に関連して、またはそれの実験的もしくは治療的使用に関連して、有用でまたは望ましくあり得る。便利には、本分子の作動部、すなわち、変異またはバリアントタンパク質への効果を担う作動部は、1つまたは複数のそのようなさらなる部分、基、コンポーネント、またはパーツと接続され得、好ましくは、直接的にまたはリンカーを通して、共有結合性に接続され、結合され、連結され、または融合され得る。そのようなさらなる部分、基、コンポーネント、またはパーツがペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である場合、本分子の作動部への接続は、好ましくは、直接的な結合またはペプチドリンカーを通してである、ペプチド結合を含み得る。
【0112】
全てのそのような付加される部分について、その融合物またはリンカーの性質は、その部分と本分子がそれらの特異的な機能を発揮できる限り、本発明に重要ではない。特定の実施形態によれば、本分子と融合される部分は、例えば、プロテアーゼ認識部位を有するリンカー部分を使用することにより、切断することができる。このように、前記部分および本分子の機能は、分離することができ、それは、より大きい部分について、または前記部分が特定の時点後、もはや必要ではない実施形態、例えば、タグを使用する分離ステップ後、切り離されるタグについて、特に関心が高いものであり得る。
【0113】
ある特定の好ましい実施形態では、本分子は、検出可能な標識、本分子の単離を可能にする部分、本分子の安定性を増加させる部分、本分子の溶解性を増加させる部分、本分子の細胞取込みを増加させる部分、本分子の細胞への標的化をもたらす部分、またはそれらの任意の2つもしくはそれ以上の組合せを含み得る。単一部分が、2つまたはそれ以上の機能または活性を実行できることは理解されているはずである。
【0114】
したがって、ある特定の実施形態では、本分子は検出可能な標識を含み得る。用語「標識」は、検出可能な、および好ましくは定量可能な読み出しまたは性質を提供するために使用され得、目的の実体、例えば、本明細書で教示されているようなペプチドなどの本明細書で教示されているような分子と付着しまたはそれの一部となり得る、任意の原子、分子、部分、または生体分子を指す。標識は、例えば、質量分析的、分光学的、光学的、比色分析的、磁気的、光化学的、生化学的、免疫化学的、または化学的手段により適切に検出可能であり得る。標識には、非限定的に、色素;水素、炭素、窒素、酸素、リン、イオウ、フッ素、塩素、またはヨウ素の同位元素、例えば、それぞれ、2H、3H、13C、11C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、33P、35S、18F、36Cl、125I、または131Iなどの放射標識;高電子密度試薬;酵素(例えば、イムノアッセイに一般的に使用されるような、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ);ビオチン-ストレプトアビジンなどの結合性部分;ジゴキシゲニンなどのハプテン;発光性、リン光性、または蛍光発生的部分;質量タグ;単独で、または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により発光スペクトルを抑制もしくはシフトし得る部分と組み合わせての、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(FAM)、テトラクロロ-フルオレセイン、TAMRA、ROX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、テキサスレッドなどのフルオロフォア);および蛍光タンパク質(例えば、GFP、RFP)が挙げられる。ある特定の同位体標識された、本明細書で教示されているようなペプチドなどの分子、例えば、3Hおよび14Cなどの放射性同位元素が組み込まれている分子は、薬物および/または基質の組織分布アッセイにおいて有用である。3Hおよび14C同位元素は、それらの調製の容易さおよび検出性で特に好ましい。さらに、2Hなどのより重い同位元素での置換は、より高い代謝安定性から生じるある特定の治療的利点、例えば、in vivo半減期の増加または投薬必要量の低減を提供し得、したがって、いくつかの状況において好ましくあり得る。ペプチドなどの同位体標識された分子は、一般的に、容易に入手できる同位体標識試薬が非同位体標識試薬の代わりをする、作製または合成方法を行うことにより調製され得る。いくつかの実施形態では、本分子は、別の作用物質(例えば、プローブ結合性パートナー)での検出を可能にするタグと共に、提供され得る。そのようなタグは、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、hisタグ、mycタグ、FLAGタグ(DYKDDDDK、配列番号68)、マルトース、マルトース結合性タンパク質、または結合性パートナーを有する、当技術分野において知られた任意の他の種類のタグであり得る。プローブ:結合パートナー配置に利用され得る会合の例は、任意であり得、それには、例えば、ビオチン:ストレプトアビジン、hisタグ:金属イオン(例えば、Ni2+)、マルトース:マルトース結合タンパク質などが挙げられる。標識変異またはバリアント標的化分子は、様々な使用および適用に役立つことができ、例えば、非限定的に、診断アッセイを含むin vitroアッセイにおける使用であり、その場合、標識化pept-inが、対象由来の生体試料において目的のそれぞれの変異またはバリアントタンパク質に結合し、その検出を可能にするという原理を提供し得る;またはin vivoイメージングにおける使用であり、その場合、身体における標識変異またはバリアント標的化pept-inの分布が、投与後、非侵襲性イメージング方法により追跡され得る。
【0115】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の単離(分離、精製)を可能にする部分を含み得る。典型的には、そのような部分は、アフィニティー精製方法と共に作動し、その方法において、目的の特定のコンポーネントを他のコンポーネントから単離する能力が、免疫学的結合性物質(抗体)などの分離可能な結合性物質と目的のコンポーネントとの間の特異的結合によって与えられる。そのようなアフィニティー精製方法には、非限定的に、アフィニティークロマトグラフィーおよび磁気粒子分離が挙げられる。そのような部分は当技術分野においてよく知られており、非限定的例には、ビオチン(ストレプトアビジンを利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、hisタグ(金属イオン、例えばNi2+を利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、マルトース(マルトース結合性タンパク質を利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)(グルタチオンを利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、またはmycもしくはFLAGタグ(それぞれ、抗mycまたは抗FLAG抗体を利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)が挙げられる。
【0116】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の溶解性を増加させる部分を含み得る。本分子の溶解性は、上記で論じられているように、分子ストレッチに隣接するゲートキーパー部分の包含(それにより、これは、本分子の早期凝集を阻止し、それらを溶液中に保つのに、原理的には十分であり得る)により、保証しおよび制御することができるが、溶解性を増加させる、すなわち凝集を阻止する、部分のさらなる追加は、本分子のより容易なハンドリングを提供し得、特に、それらの安定性および保存可能期間を向上させ得る。上記で論じられた標識および単離タグの多くはまた、本分子の溶解性を増加させる。さらに、そのような可溶化部分の周知の例は、PEG(ポリエチレングリコール)である。この部分は、特に構想され、それが、可溶化部分としてだけでなく、リンカーとしても使用することができるからである。他の例には、ペプチドおよびタンパク質またはタンパク質ドメイン、またはさらにタンパク質全体、例えば、GFPが挙げられる。この関連において、PEGのような、1つの部分が異なる機能または効果を生じ得ることは留意されるべきである。例として、FLAGタグは、標識として使用することができるペプチド部分であるが、それの電荷密度により、それはまた、可溶化を増強する。PEG化はすでにしばしば、生物医薬品の溶解性を増加させることが実証されている(例えば、VeroneseおよびMero、BioDrugs. 2008;22(5):315~29)。ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質ドメインタグを目的の分子へ付加することは、当技術分野において広範囲にわたって記載されている。例には、シヌクレインに由来したペプチド(例えば、Parkら、Protein Eng.Des.Sel. 2004;17:251~260)、SET(溶解増強タグ、Zhangら、Protein Expr Purif 2004;36:207~216)、チオレドキシン(TRX)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合性タンパク質(MBP)、N-利用物質(N-Utilization substance)(NusA)、低分子ユビキチン様修飾因子(SUMO)、ユビキチン(Ub)、ジスルフィド結合C(DsbC)、17キロダルトンタンパク質(Seventeen kilodalton protein)(Skp)、ファージT7プロテインキナーゼ断片(T7PK)、プロテインG B1ドメイン、プロテインA IgG ZZ反復ドメイン、および細菌免疫グロブリン結合性ドメイン(Huttら、J Biol Chem.;287(7):4462~9、2012)が挙げられるが、それらに限定されない。タグの性質は、当業者によって決定することができるように、適用に依存する。例として、本明細書に記載された本分子のトランスジェニック発現について、細胞機構による早期分解を阻止するために本分子をより大きいドメインと融合させることが構想され得る。他の適用は、本分子の性質を過度に変化させないために、より小さい可溶化タグ(例えば、30アミノ酸未満、または20アミノ酸未満、またはさらに10アミノ酸未満)との融合を構想し得る。
【0117】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の安定性、例えば本分子の保存可能期間、および/または本分子の半減期を増加させる(投与された場合、本分子の安定性を増加させ、および/または本分子のクリアランスを低下させることを含み得る)部分を含み得る。そのような部分は、本分子の薬物動態学的および薬力学的性質を調節し得る。上記で論じられた標識、単離タグ、および可溶化タグの多くはまた、本分子の保存可能期間またはin vivo半減期を増加させ、D-アミノ酸および/またはアミノ酸類似体の包含も同様にそうであり得る。例として、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)、アルブミン結合性ドメイン、または合成アルブミン結合性ペプチドとの融合が、種々の治療用タンパク質の薬物動態学および薬力学を向上させることが知られている(LangenheimおよびChen、Endocrinol.;203(3):375~87、2009)。使用される場合が多い別の部分は、抗体のフラグメント結晶化可能領域(Fc)である。Strohl(BioDrugs. 2015、29巻、215~39)は、生物製剤の半減期延長のための融合タンパク質に基づいたストラテジーを概説し、そのストラテジーには、非限定的に、ヒトIgG Fcドメインとの融合、HSAとの融合、ヒトトランスフェリンとの融合、人工ゼラチン様タンパク質(GLP)との融合などが挙げられる。特定の実施形態では、本分子は、アガロースビーズとも、ラテックスビーズとも、セルロースビーズとも、磁気ビーズとも、シリカビーズとも、ポリアクリルアミドビーズとも、マイクロスフェアとも、ガラスビーズとも、いかなる固体支持体(例えば、ポリスチレン、プラスチック、ニトロセルロース膜、ガラス)とも、NusAタンパク質とも融合していない。しかしながら、これらの融合は可能であり、特定の実施形態では、それらもまた構想される。
【0118】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の細胞取込みを増加させる部分を含み得る。例えば、本分子は、細胞透過(または細胞移行)を媒介する配列をさらに含み得、すなわち、本分子は、細胞透過配列の組換えまたは合成的付着を通してさらに修飾される。細胞透過性ペプチド(CPP)またはタンパク質形質導入ドメイン(PTD)配列は当技術分野においてよく知られている。それらの用語は、一般的に、細胞へ進入する能力があるペプチドを指す。この能力は、本明細書に開示されているような分子の細胞への送達に利用することができる。例示的だが、非限定的なCPPには、HIV-1 Tat由来CPP(例えば、Frankelら 1988(Science 240:70~73)参照);アンテナペディアペプチドまたはペネトラチン(例えば、Derossiら 1994(J Biol Chem 269:10444~10450)参照);HSV-1 VP22に由来したペプチド(例えば、Aintsら 2001(Gene Ther 8:1051~1056)参照);トランスポータン(例えば、Poogaら 1998(FASEB J 12:67~77)参照);プロテグリン1(PG-1)抗微生物ペプチドSynB(Kokryakovら 1993(FEBS Lett 327:231~236));モデル両親媒性(MAP)ペプチド(例えば、Oehlkeら 1998(Biochim Biophys Acta 1414:127~139)参照);シグナル配列に基づいた細胞透過性ペプチド(NLS)(例えば、Linら 1995(J Biol Chem 270:14255~14258)参照);疎水性膜輸送配列(MTS)ペプチド(例えば、Linら 1995、上記);およびポリアルギニン、オリゴアルギニン、およびアルギニンリッチペプチド(例えば、Futakiら 2001(J Biol Chem 276:5836~5840)参照)が挙げられる。さらに他の一般的に使用される細胞透過性ペプチド(天然ペプチドと人工ペプチドの両方)は、例えば、SawantおよびTorchilin、Mol Biosyst. 6(4):628~40、2010;Noguchiら、Cell Transplant. 19(6):649~54、2010、ならびにLindgrenおよびLangel、Methods Mol Biol. 683:3~19、2011に開示されている。これらのタンパク質に由来している担体ペプチドは、お互いにほとんど配列相同性を示さないが、全て、カチオン性が高く、アルギニンまたはリジンリッチである。CPPは、任意の長さであり得る。例えば、CPPは、500アミノ酸長以下、250アミノ酸長以下、150アミノ酸長以下、100アミノ酸長以下、50アミノ酸長以下、25アミノ酸長以下、10アミノ酸長以下、または6アミノ酸長以下であり得る。例えば、CPPは、4アミノ酸長以上、5アミノ酸長以上、6アミノ酸長以上、10アミノ酸長以上、25アミノ酸長以上、50アミノ酸長以上、100アミノ酸長以上、150アミノ酸長以上、または250アミノ酸長以上であり得る。好ましくは、CPPは、4アミノ酸長から25アミノ酸長の間であり得る。CPPの適切な長さおよびデザインは、当業者により容易に決定されるであろう。CPPに関する一般的な参考文献として、とりわけ、「Cell penetrating peptides:processes and applications」(Ulo Langel編、第1版、CRC Press 2002);Advanced Drug Delivery Reviews 57:489~660(2005);Dietz & Bahr 2004(Moll Cell Neurosci 27:85~131))が役に立つ。本明細書で開示されているような作用物質は、CPPと直接的または間接的に、例えば、非限定的にPEGベースのリンカーなどの適切なリンカーを用いて、コンジュゲートされ得る。本明細書に記載された分子は、細胞に進入するためにCPPを必要としない場合がある。実際、実施例に示されているように、本分子が細胞によって取り込まれることを必要とする細胞内タンパク質を標的化することは可能であり、これは、CPPへの融合なしに起こる。
【0119】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の細胞への標的化をもたらす部分を含み得る。例として、本分子は、例えば、所定の標的に対する特異性、特に、本分子が方向づけられる変異またはバリアントタンパク質を発現する細胞に対する特異性、その細胞の表面上に特異的に発現したタンパク質に対する特異性を有する、抗体、ペプチド、または小分子と融合され得る。そのような実施形態では、本分子は、標的化された細胞において特異的に、変異またはバリアントタンパク質の下方制御または凝集を惹起する。ある特定の場合では、結合性ドメインは、化合物(例えば、少なくとも1つの標的タンパク質に対する親和性を有する低分子化合物)であり、ある特定の他の場合では、結合性ドメインは、ポリペプチドであり、ある特定の他の場合では、結合性ドメインはタンパク質ドメインである。タンパク質の結合性ドメインは、自己安定化性であり、そのタンパク質鎖の残りとは無関係にフォールディングしている場合が多い、タンパク質構造全体の要素である。結合性ドメインは、長さが約25アミノ酸から500アミノ酸まで、およびそれ以上で、様々である。多くの結合性ドメインは、フォールドへ分類することができ、認識可能で、同定可能な3D構造である。いくつかのフォールドは、多くの異なるタンパク質において共通しているため、それらは、特別な名前を与えられている。非限定的例は、Rossmannフォールド、TIMバレル、アルマジロリピート、ロイシンジッパー、カドヘリンドメイン、デスエフェクタードメイン、免疫グロブリン様ドメイン、ホスホチロシン結合性ドメイン、プレクストリン相同ドメイン、src相同ドメイン2、BRCA1のBRCTドメイン、Gタンパク質結合性ドメイン、Eps 15相同(EH)ドメイン、およびp53のタンパク質結合性ドメインである。抗体は、超可変ループ領域、いわゆる相補性決定領域(CDR)を通して媒介される特異性を有する特異的結合性タンパク質の天然プロトタイプである。
【0120】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、それの最も広い意味で用いられ、一般的に、任意の免疫学的結合性物質を指す。その用語は、具体的には、無傷モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つ無傷抗体から形成された多価(例えば、2価、3価、またはそれ以上)および/または多重特異性抗体(例えば、二重またはそれ以上の特異性抗体)、ならびに所望の生物活性(特に、目的の抗原を特異的に結合する能力、すなわち、抗原結合性断片)を示す限りにおいて抗体断片、加えて、そのような断片の多価および/または多重特異性複合体を包含する。用語「抗体」は、免疫化を含む方法により作製された抗体を含めるだけでなく、目的の抗原上のエピトープと特異的に結合する能力がある少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を包含するように生成される任意のポリペプチド、例えば、組換え的に発現したポリペプチドも含む。したがって、その用語は、それらがin vitroで産生されるかin vivoで産生されるかに関わらず、そのような分子に適用される。
【0121】
抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMクラスのいずれかであり得、好ましくは、IgGクラス抗体である。抗体は、ポリクローナル抗体、例えば、抗血清またはそれから精製(例えば、アフィニティー精製)された免疫グロブリンであり得る。抗体は、モノクローナル抗体、またはモノクローナル抗体の混合物であり得る。モノクローナル抗体は、特定の抗原、または抗原内の特定のエピトープを、より高い選択性および再現性を以て標的化することができる。例として、非限定的に、モノクローナル抗体は、Kohlerら 1975(Nature 256:495)によって初めて記載されたハイブリドーマ方法により作製され得、または組換えDNA方法により作製され得る(例えば、US4,816,567に記載されているように)。モノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから、例えば、Clacksonら 1991(Nature 352:624~628)およびMarksら 1991(J Mol Biol 222:581~597)に記載されているような技術を使用して、単離され得る。
【0122】
抗体結合性物質は、抗体断片であり得る。「抗体断片」は、無傷抗体の抗原結合性または可変性領域を含む、無傷抗体の一部分を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、およびscFv断片、VHドメイン、VLドメイン、およびVHHドメインなどの単一ドメイン(sd)Fv;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子、特に、重鎖抗体;ならびに抗体断片から形成される多価および/または多重特異性抗体、例えば、ジボディ(dibodies)、トリボディ(tribodies)、およびマルチボディ(multibodies)が挙げられる。上記の名称Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFvなどは、当技術分野で確立された意味をもつことを意図される。
【0123】
抗体という用語は、任意の動物種、好ましくは脊椎動物種、例えば、トリおよび哺乳動物から生じた、またはそれに由来した1つもしくは複数の一部分を含む抗体を含む。非限定的に、抗体は、ニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒル、ホロホロチョウ、ウズラ、またはキジ由来であり得る。また非限定的に、抗体は、ヒト、マウス(例えば、マウス、ラットなど)、ロバ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ラクダ(例えば、フタコブラクダ(Camelus bactrianus)およびヒトコブラクダ(Camelus dromaderius))、ラマ(例えば、アルパカ(Lama paccos)、リャマ(Lama glama)、またはビクーニャ(Lama vicugna))、またはウマ由来であり得る。
【0124】
抗体が、1つまたは複数のアミノ酸欠失、付加、および/または置換(例えば、保存的置換)を含み得、ただし、そのような変更がそれのそれぞれの抗原の結合を保存する限りにおいてであることを、当業者は理解しているであろう。抗体はまた、それの構成要素のアミノ酸残基の1つまたは複数の天然または人工的修飾(例えば、グリコシル化など)も含み得る。
【0125】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、加えてその断片を作製する方法は、当技術分野においてよく知られており、組換え抗体またはその断片を作製するための方法も同様である(例えば、HarlowおよびLane、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbour Laboratory、New York、1988;HarlowおよびLane、「Using Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbour Laboratory、New York、1999、ISBN 0879695447;「Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques」、Zola編、CRC Press 1987、ISBN 0849364760;「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」、Dean & Shepherd編、Oxford University Press 2000、ISBN 0199637229;Methods in Molecular Biology、248巻:「Antibody Engineering:Methods and Protocols」、Lo編、Humana Press 2004、ISBN 1588290921参照)。
【0126】
ある特定の実施形態では、前記作用物質は、Nanobody(登録商標)であり得る。用語「Nanobody(登録商標)」および「Nanobodies(登録商標)」は、Ablynx NV(Belgium)の登録商標である。用語「Nanobody」は、当技術分野においてよく知られており、それの最も広い意味で、本明細書で使用される場合、(1)重鎖抗体、好ましくはラクダ科動物に由来した重鎖抗体、のVHHドメインを単離することにより;(2)VHHドメインをコードするヌクレオチド配列の発現により;(3)天然に存在するVHHドメインの「ヒト化」により、もしくはそのようなヒト化VHHドメインをコードする核酸の発現により;(4)任意の動物種由来、特にヒトなどの哺乳動物種由来のVHドメインの「ラクダ化(camelization)」により、もしくはそのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現により;(5)当技術分野において記載されているように「ドメイン抗体」もしくは「dAb」の「ラクダ化」により、もしくはそのようなラクダ化dAbをコードする核酸の発現により;(6)それ自体が知られたタンパク質、ポリペプチド、もしくは他のアミノ酸配列を調製するための合成もしくは半合成技術を使用することにより;(7)それ自体が知られた、核酸合成についての技術を使用するNanobodyをコードする核酸を調製し、その後、このようにして得られた前記核酸を発現させることにより;および/または(8)前述のうちの1つもしくは複数の任意の組合せにより、得られる免疫学的結合性物質を包含する。本明細書で使用される場合、「ラクダ科動物」は、旧世界ラクダ科動物フタコブラクダ(Camelus bactrianus)およびヒトコブラクダ(Camelus dromaderius))および新世界ラクダ科動物(例えば、アルパカ(Lama paccos)、リャマ(Lama glama)、およびビクーニャ(Lama vicugna))を含む。
【0127】
一般的に、抗体様スキャフォールドは、特異的な結合剤として十分、働くことが証明されているが、CDR様ループを示す厳格なスキャフォールドのパラダイムへ厳密に固執することは必須ではないことが明らかになっている。抗体に加えて、多くの他の天然タンパク質が、ドメイン間の特異的な高親和性相互作用を媒介する。免疫グロブリンに代わるものは、新規な結合性(認識)分子のデザインのための魅力的な出発点を提供している。本明細書で使用される場合、スキャフォールドという用語は、特異的な標的タンパク質への結合を与える、アミノ酸の変化または配列挿入を保有することができるタンパク質フレームワークを指す。スキャフォールドをエンジニアリングすることおよびライブラリーをデザインすることは、お互いに相互依存する過程である。特異的な結合剤を得るために、スキャフォールドのコンビナトリアルライブラリーが作製されなければならない。これは、通常、DNAレベルにおいて、適切なアミノ酸位置におけるコドンを、縮重コドンまたはトリヌクレオチドのいずれかを使用することによりランダム化することによって、行われる。幅広く多様な起源および特性を有する様々な異なる非免疫グロブリンスキャフォールドが、現在、コンビナトリアルライブラリーディスプレイに使用されている。それらのいくつかは、サイズが抗体のscFv(約30kDa)と同等であるが、それらの大部分は、ずっとより小さい。反復タンパク質に基づいたモジュラースキャフォールドは、反復単位の数に依存して、サイズが異なる。例の非限定的リストは、10番目のヒトフィブロネクチンIII型ドメインに基づいた結合剤、リポカリンに基づいた結合剤、SH3ドメインに基づいた結合剤、ノッチンファミリーのメンバーに基づいた結合剤、CTLA-4に基づいた結合剤、T細胞受容体、ネオカルチノスタチン、糖質結合性モジュール4-2、テンダミスタット、クニッツドメインインヒビター、PDZドメイン、Src相同ドメイン(SH2)、サソリ毒、昆虫デフェンシンA、植物ホメオドメインフィンガータンパク質、細菌酵素TEM-1ベータ-ラクタマーゼ、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プロテインAのIg結合性ドメイン、大腸菌(E.coli)コリシンE7免疫タンパク質、大腸菌(E.coli)チトクロムb562、アンキリンリピートドメインを含む。したがって、用語「抗体様タンパク質スキャフォールド」または「エンジニアリング化タンパク質スキャフォールド」は、典型的にはコンビナトリアルエンジニアリング(例えば、ファージディスプレイまたは他の分子選択技術と組み合わせた、部位特異的ランダム突然変異誘発など)により得られる、タンパク質性非免疫グロブリンの特異的結合性物質を広く包含する。通常、そのようなスキャフォールドは、ロバストかつ小さい可溶性モノマータンパク質(例えば、クニッツインヒビターまたはリポカリンなど)、または細胞表面受容体の安定的にフォールディングされた膜外ドメイン(例えば、プロテインA、フィブロネクチン、またはアンキリンリピートなど)に由来している。そのようなスキャフォールドは、Binzら、GebauerおよびSkerra、GillおよびDamle、Skerra 2000、ならびにSkerra 2007に広く概説されており、非限定的に、ブドウ球菌プロテインAのZドメインに基づいたアフィボディ、アルファヘリックスの2つにインターフェイスを提供する58残基の3ヘリックスバンドル(Nygren);典型的にはヒト起源の、小さく(約58残基)かつロバストなジスルフィド架橋セリンプロテアーゼインヒビターに基づいたエンジニアリング化クニッツドメイン(例えば、LACI-D1)(異なるプロテアーゼ特異性についてエンジニアリングすることができる(NixonおよびWood));ヒトフィブロネクチンIIIの10番目の細胞外ドメイン(10Fn3)に基づいたモノボディまたはアドネクチン(2~3つの露出したループを有するが、中央のジスルフィド架橋を欠損する、Ig様ベータサンドイッチフォールド(94残基)の形をとる(KoideおよびKoide));リポカリン(開放端における4つの構造的可変性ループを用いて低分子リガンドの結合部位を天然で形成する八本鎖ベータバレルタンパク質の多様なファミリー(約180残基)であり、ヒト、昆虫、および多くの他の生物体において豊富にある)に由来したアンチカリン(Skerra 2008);DARPins、デザインされたアンキリンリピートドメイン(166残基)(典型的には、3つの反復ベータ-ターンから生じる剛性インターフェイスを提供する)(Stumppら);アビマー(avimers)(多量体化LDLR-Aモジュール)(Silvermanら);およびシステインリッチノッチンペプチド(Kolmar)が挙げられる。また、結合性ドメインとして、所定の標的タンパク質に対する特異性を有する化合物、環状および線状ペプチド結合剤、ペプチドアプタマー、多価アビマータンパク質または低分子モジュラー免疫薬学的薬物、受容体または共受容体に対する特異性を有するリガンド、ツーハイブリッド分析において同定されたタンパク質結合性パートナー、ビオチン-アビジン高親和性相互作用の特異性に基づいた結合性ドメイン、シクロフィリン-FK506結合性タンパク質の特異性に基づいた結合性ドメインもまた挙げられる。特定の糖鎖構造に対する親和性を有するレクチンもまた挙げられる。
【0128】
例として、癌原遺伝子の突然変異は、がんに見出される場合が多いため、本分子に融合したモノクローナル抗体が、対象における腫瘍細胞により発現したタンパク質、例えば、腫瘍抗原、好ましくは表面腫瘍抗原を特異的に結合するように構成され得る。用語「腫瘍抗原」は、正常または非腫瘍性細胞と比較して、細胞内か腫瘍細胞表面上かに関わらず(好ましくは、腫瘍細胞表面上に)、腫瘍細胞により固有的または差次的に発現する抗原を指す。例として、腫瘍抗原は、腫瘍細胞内もしくは上に存在し得、典型的には、正常細胞や非腫瘍性細胞の内にも上にも存在せず(例えば、精巣および/または胎盤などの限定された数の正常組織によってのみ発現している)、または腫瘍抗原は、正常もしくは非腫瘍性細胞の内もしくは上よりも多い量で腫瘍細胞内もしくは上に存在し得、または腫瘍抗原は、正常もしくは非腫瘍性細胞の内もしくは上に見出されるものとは異なる形で腫瘍細胞内もしくは上に存在し得る。したがって、その用語は、腫瘍特異的膜抗原を含む腫瘍特異的抗原(TSA)、腫瘍関連膜抗原を含む腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍上の胎児性抗原、増殖因子受容体、増殖因子リガンドなどを含む。その用語はさらに、がん/精巣(CT)抗原を含む。腫瘍抗原の例には、非限定的に、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(βHCG)、糖タンパク質100(gp100/Pme117)、がん胎児性抗原(CEA)、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1(gp75/TRP1)、チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2)、NY-BR-1、NY-CO-58、NY-ESO-1、MN/gp250、イディオタイプ、テロメラーゼ、滑膜肉腫X限界点2(SSX2)、ムチン1(MUC-1)、黒色腫関連抗原(MAGE)ファミリーの抗原、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、T細胞により認識される黒色腫抗原1(MART1)、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、HER2/neu、メゾテリン(MSLN)、アルファフェトプロテイン(AFP)、がん抗原125(CA-125)、およびrasまたはp53の異常形を含む。腫瘍性疾患におけるさらなる標的には、非限定的に、CD37(慢性リンパ球性白血病)、CD123(急性骨髄性白血病)、CD30(ホジキン/大細胞リンパ腫)、MET(NSCLC、胃食道がん)、IL-6(NSCLC)、およびGITR(悪性黒色腫)が挙げられる。
【0129】
他の部分が本分子に融合している場合において、特定の実施形態では、これらの部分が本分子から除去され得ることが構想される。典型的には、これは、特異的なプロテアーゼ切断部位を組み入れること、または等価のアプローチを通して行われる。これは、特に、前記部分が大きなタンパク質である場合である;そのような場合、前記部分は、本明細書に記載された方法のいずれかにおいて本分子を使用する前に(例えば、本分子の精製中に)切り離され得る。
【0130】
しかしながら、本分子自体がそれらの標的を特異的な配列認識を通して見出すことができるため、標的化部分は必要ではないことを留意されたい。これはまた、代替の実施形態では、標的化部分として機能し、さらに薬物、毒素、または小分子などの他の部分と融合することができる分子を用いることを可能にし得る。本分子を変異またはバリアントタンパク質へ標的化することにより、これらの化合物は、特異的な細胞型/コンパートメントへ標的化することができる。したがって、例として、毒素が、変異した癌原遺伝子を発現するがん細胞へ選択的に送達され得る。
【0131】
本発明は、WO2007/071789A1およびWO2012/123419A1に一般的に記載される「インターフェラー」技術を利用しており、タンパク質の変異またはバリアント型が非改変タンパク質中のAPRまたは新規APRとは異なるAPRを含有している新規の状況にこの技術を取り入れるので、そのような「インターフェラー」分子が産生され、単離され、精製され、貯蔵され、および製剤化され得る方法に関するWO2007/071789A1およびWO2012/123419A1の教示は本発明の文脈で適用することができ、本明細書で詳細に述べる必要がないことは、理解されているであろう。
【0132】
述べられているように、特定の実施形態では、本分子の作動部は、ペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得、好ましくは、本分子の作動部は、ペプチドであり得る。さらに、多くの実施形態では、例えば、本分子の作動部が他の補助的な部分と接続もしくは融合していない場合、またはそのような追加の部分がそれら自体、ペプチドである場合、本分子全体がペプチドであり得る。したがって、化学的ペプチド合成または組換えペプチドもしくはポリペプチド産生の標準ツールおよび方法が、本分子の調製に適用することができる。組換えタンパク質産生はまた、それ自体タンパク質性である追加の部分が本分子に含まれ、本分子の作動部とペプチド結合により融合している分子を調製することに適用することができる。
【0133】
そのような技術が一般的に日常的になっていることを考えれば、簡略にするために、本分子の組換え産生は、本明細書で教示されているような分子をコードする核酸、および前記核酸と作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットまたは発現ベクターを用いることができ、前記発現カセットまたは発現ベクターが、細菌細胞、酵母細胞を含む真菌細胞、動物細胞、またはヒト細胞および非ヒト哺乳動物細胞を含む哺乳動物細胞などの適切な宿主細胞において前記分子の発現をもたらすように構成される。ベクターには、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージ、バクテリオファージ由来ベクター、PAC、BAC、線状核酸、例えば線状DNA、またはウイルスベクターなどが挙げられ得る。発現ベクターは、自律性または組込み型であり得る。発現ベクターは、形質転換細胞の検出および/または選択を可能にする選択マーカー、例えば、URA3、TRP1を含有することができる。作動可能な連結は、制御配列、および発現することを求められた配列が、前記発現を可能にするような様式で接続されている連結である。プロモーターは、構成的または誘導性(条件的)プロモーター、例えば、化学的に制御されたまたは物理的に制御された誘導性プロモーターであり得る。プロモーターの非限定的例には、T7、U6、H1、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、メタロチオネインプロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーターが挙げられる。転写ターミネーター、および必要に応じて、転写エンハンサーが含まれ得る。組換え核酸は、宿主細胞へ、直接的注入、プロトプラスト融合、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、塩化リチウム、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、陽イオン性脂質またはリポソーム、微粒子銃(「遺伝子銃」法)、ウイルスベクター(レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、またはアンチウイルス由来)の感染、電気穿孔などの様々な方法を使用して、導入することができる。ペプチドまたはポリペプチドのスモールまたはラージスケール産生に使用することができる発現系(宿主細胞)には、非限定的に、細菌(例えば、大腸菌(Escherichia. coli)、エルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)、ブルセラ種(Brucella sp.)、ネズミチフス菌(Salmonella tymphimurium)、霊菌(Serratia marcescens)、または枯草菌Bacillus subtilis)、真菌細胞(例えば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、メチロトローフ酵母(例えば、カンジダ属(Candida)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、オガタエア属(Oogataea)、ピキア属(Pichia)、もしくはトルロプシス属(Torulopsis)のメチロトローフ酵母、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、もしくはピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、またはアスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フザリウム属(Fusarium)、もしくはクリソスポリウム属(Chrysosporium)の糸状菌、例えば、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、またはサッカロミセス属(Saccharomyces)もしくはシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)の酵母、例えば、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)もしくはシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの微生物、昆虫細胞系(例えば、シュナイダー2細胞(Schneider 2 cell)などのキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に由来した細胞、Sf9およびSf21細胞などの、ヨトウムシ(army worm)ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)に由来した細胞系、またはHigh Five細胞などのキャベツルーパー(cabbage looper)イラクサキンウワバ(Trichoplusia ni)に由来した細胞)、組換えウイルス発現ベクター(例えば、タバコモザイクウイルス)に感染したまたは組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞系が挙げられる。哺乳動物発現系には、ヒトおよび非ヒト哺乳動物細胞、例えば、げっ歯類細胞、霊長類細胞、またはヒト細胞が挙げられる。ヒトまたは非ヒト哺乳動物細胞などの哺乳動物細胞には、初代細胞、二次、三次細胞などが挙げられ、またはクローンの細胞系を含む不死化細胞系が挙げられ得る。好ましい動物細胞は、組織培養において容易に維持および形質転換することができる。ヒト細胞の非限定的例には、ヒトHeLa(子宮頸がん)細胞系が挙げられる。組織培養実施においてよく見られる他のヒト細胞系には、とりわけ、ヒト胎児由来腎臓293細胞(HEK細胞)、DU145(前立腺がん)、Lncap(前立腺がん)、MCF-7(乳がん)、MDA-MB-438(乳がん)、PC3(前立腺がん)、T47D(乳がん)、THP-1(急性骨髄性白血病)、U87(神経膠芽腫)、SHSY5Y(神経芽細胞腫)、またはSaos-2細胞(骨がん)が挙げられる。霊長類細胞の非限定的例は、Vero(アフリカミドリザルChlorocebus腎臓上皮細胞系)細胞、およびCOS細胞である。げっ歯類細胞の非限定的例は、ラットGH3(下垂体腫瘍)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)、PC12(褐色細胞腫)細胞系、またはマウスMC3T3(胎仔性頭蓋冠)細胞系である。
【0134】
本明細書で調製されているようなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドなどの任意の分子は、適切に精製することができる。分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に関連した用語「精製された」は、絶対的な純度を必要としない。その代わりに、それは、そのような分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質が、他のコンポーネントに比べてそれらの存在量(質量または重量または濃度に関して便宜上、表現される)が、出発組成物または試料、例えば、その分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を産生する組換え宿主細胞の可溶化液または上清などの産生試料において、より多いという、孤立的環境にあることを意味する。孤立的環境は、例えば、単一の溶液、ゲル、沈殿物、凍結乾燥物などの単一の媒体を意味する。精製された分子、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、公知の方法、例えば、化学合成、クロマトグラフィー、調製用電気泳動、遠心分離、沈殿、アフィニティー精製などにより取得され得る。精製された分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、好ましくは、孤立的環境の非溶媒含有量の≧10重量%、より好ましくは≧50重量%、例えば≧60重量%、さらにより好ましくは≧70重量%、例えば≧80重量%、なおより好ましくは≧90重量%、例えば≧95重量%、≧96重量%、≧97重量%、≧98重量%、≧99重量%、またはさらに100重量%を構成し得る。例えば、精製されたペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、好ましくは≧10質量%、より好ましくは≧50質量%、例えば≧60質量%、なおより好ましくは≧70質量%、例えば≧80質量%、さらにより好ましくは≧90質量%、例えば≧95質量%、≧96質量%、≧97質量%、≧98質量%、≧99質量%を構成し得る。タンパク質含有量は、例えば、ローリー法(Lowryら 1951 J Biol Chem 193:265)により、必要に応じて、Hartree 1972(Anal Biochem 48:422~427)により記載されているように、決定され得る。ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の純度は、HPLC、またはクーマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を使用する還元もしくは非還元条件下でのSDS-PAGEにより決定され得る。
【0135】
本明細書で調製されているようなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドなどの任意の分子は、脱イオン水において、またはDMSOを含む脱イオン水、例えば、脱イオン水中50%v/v DMSOにおいて、または水溶液において、または適切な緩衝剤、例えば、生理的pHを有する、もしくは5から9の間のpH、より特に6から8の間のpHにおける緩衝剤、例えば、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水、Tris-HCl、酢酸もしくはリン酸緩衝剤において、または強いカオトロピック剤、例えば6M尿素において、下流使用に好都合な前記分子の濃度、例えば、非限定的に、約1mMから約500mMの間、または約1mMから約250mMの間、または約1mMから約100mMの間、または約5mMから約50mMの間、または約5mMから約20mMの間で、溶液中に適切に保持することができる。あるいは、本明細書で調製されているようなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドなどの任意の分子は、当技術分野において一般的に知られているように、凍結乾燥され得る。貯蔵は、典型的には、室温以下(25℃以下)であり得、ある特定の実施形態では、0℃より上の温度(非低温貯蔵)、例えば、0℃より上および25℃を超えない温度であり得、または凍結保存が好ましくあり得るある特定の実施形態では、0℃以下、典型的には-5℃以下、より典型的には-10℃以下、例えば、-20℃以下、-25℃以下、-30℃以下、もしくはさらに-70℃以下、もしくは-80℃以下で、もしくは液体窒素中であり得る。
【0136】
組換え核酸技術は、ポリペプチド性質を有し、核酸によってコードされるpept-insの異種性発現および単離を可能にするだけでなく、そのようなpept-insを導入遺伝子として投与すること、すなわち、それぞれのpept-insをコードし、細胞へ導入された時、それぞれのpept-insの発現をもたらす能力がある核酸(例えば、DNAベースまたはRNAベースのカセット、ベクター、または構築物など)を投与することまでも可能にし得る。例えば、DNA構築物において、pept-inコード配列は、DNA構築物からpept-inの転写および翻訳を駆動させるように構成された制御配列、例えば、プロモーターおよび転写ターミネーターと作動可能に連結され得る。RNAまたはmRNA構築物において、pept-inコード配列は、それが細胞のタンパク質翻訳機構によって翻訳され得るように含まれ得る。前述の構築物において、pept-inコード配列は、典型的には、インフレームでの翻訳開始コドンに先行され、その後に翻訳終止コドンが続いて、正しい翻訳を促進する。したがって、本明細書で教示されるようなpept-inを用いた治療の投与/導入が本明細書で想定される場合はどこでも、細胞または生物へのそれらのpept-inをコードする核酸の投与/導入は開示に包含される。そのような投与/導入/治療は一般には、遺伝子治療または遺伝子形質転換または遺伝子改変と呼ばれ得る。したがって、本出願の分子を含む全ての方法および使用はまた、本分子がそれらをコードする核酸配列として提供され、本分子が前記核酸配列から発現する場合の方法および使用を包含する。
【0137】
したがって、本明細書に記載されているような任意のpept-in分子をコードする核酸もまた提供され、そのようなpept-in分子がポリペプチド性質を有する。前記核酸が、変更すべき所は変更して、本明細書に記載された全ての特徴およびバリエーションを有する本分子をコードすることが特に構想される。したがって、前記コードされたポリペプチドは、本質において、本明細書に記載されている通りであり、つまり、この態様と適合性であるpept-in分子について言及されたバリエーションもまた、前記核酸配列によりコードされるポリペプチドについてのバリエーションとして構想される。
【0138】
ある特定の実施形態では、前記核酸配列は人工遺伝子である。前記核酸態様は、トランスジェニック発現を使用する適用において最も特に適切であるため、特に構想される実施形態は、前記核酸配列(または人工遺伝子)が、別の部分、特に、前記遺伝子産物の溶解性および/または安定性を増加させる部分と融合している実施形態であり得る。
【0139】
この態様において、本明細書に記載されているような分子をコードするそのような核酸配列を含む組換えベクターもまた提供される。これらの組換えベクターは、目的の核酸配列を、下方制御されるべきタンパク質が発現する細胞の内側へ運び、前記細胞において前記核酸の発現を駆動させる媒介物として理想的に適している。組換えベクターは、細胞において別個の実体として(例えば、プラスミドとして)存続し得、または細胞のゲノムへ組み込まれ得る。組換えベクターには、とりわけ、プラスミドベクター、バイナリーベクター、クローニングベクター、発現ベクター、シャトルベクター、およびウイルスベクターが挙げられる。したがって、本分子が、本分子をコードする核酸配列を有する組換えベクターとして提供され、本分子が、前記組換えベクターにおいて提供された前記核酸配列から発現する場合の方法および使用もまた本明細書に包含される。したがって、本明細書に記載されているような分子をコードする核酸配列を含む細胞、またはそのようなpept-in分子をコードする核酸配列を含有する組換えベクターを含む細胞が本明細書に提供される。細胞は原核細胞でも真核細胞でもよい。後者の場合、細胞は、酵母、藻類、植物または動物細胞(例えば、昆虫、哺乳動物またはヒト細胞)でもよい。このように、本明細書には、分子がその分子をコードする核酸配列を有する細胞として提供される、および分子が細胞中に提供される核酸配列から発現される方法および使用も包含される。これは、例えば、幹細胞治療に当てはまる。
【0140】
そのようなトランスジェニックアプローチは医療応用に限られてはいない。特定の実施形態によれば、ポリペプチドとして直接的ではなく核酸にコードされるpept-in分子の提供は、植物での使用に特に適している場合がある。したがって、本明細書に記載される核酸配列、人工遺伝子または組換えベクターを含有する植物、または植物細胞、または植物種が本明細書で提供される。そのような配列を含有する植物プロトプラストも本明細書では想定されている。
【0141】
上で考察されるように、本タンパク質およびその変異またはバリアント型は、いかなる生物、構造または機能のものでもよく、タンパク質対その変異またはバリアント型のAPRプロファイルに差異が存在する限り、この差異を利用すればAPR標的化分子を設計して後者を特異的に下方制御することができる。言い換えると、本発明は、タンパク質の変異またはバリアント型が下方制御のための興味深い目標となりうるいかなる状況にも広く適用可能である。
【0142】
ある実施形態では、特にヒトでの医療応用でまたは好ましくは非ヒト哺乳動物などの脊椎動物でのような動物での獣医応用で、タンパク質の変異またはバリアント型は疾患の原因となるまたはこれに関連する場合がある。タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはこれに関連する疾患への言及は、突然変異または変動が疾患で少なくともある役割を果たす、したがって、タンパク質の変異またはバリアント型の下方制御は治療効果がある可能性があるいかなる疾患も広く包含することを意図している。例えば、突然変異または変動が、単独でもしくは他の突然変異などの他の要因と一緒に、疾患の病因の原因であるもしくは一因である場合があり、および/または突然変異または変動が、単独でもしくは他の突然変異などの他の要因と一緒に、疾患の持続性、進行、悪化、他の処置に対する抵抗性もしくは再発の原因であるもしくは一因である場合がある。
【0143】
ある好ましい実施形態では、疾患は、新生物疾患、特にがんでもよい。
用語「腫瘍性疾患」は、一般的に、腫瘍性細胞成長および増殖により特徴づけられる、良性(周囲の正常組織を浸潤しない、転移を形成しない)か、前悪性(前がん性)か、または悪性(隣接組織を浸潤し、転移を生じる能力がある)かに関わらず、任意の疾患または障害を指す。腫瘍性疾患という用語は、一般的に、全てのがん化した細胞および組織、ならびに全てのがん性細胞および組織を含む。腫瘍性疾患または障害には、異常な細胞成長、良性腫瘍、前悪性または前がん性病変、悪性腫瘍、およびがんが挙げられるが、それらに限定されない。腫瘍性疾患または障害の例は、任意の組織または臓器、例えば、前立腺、結腸、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、精巣、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頚部、神経(中枢および末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟部組織、脾臓、胸部、または泌尿生殖器に位置する良性、前悪性、または悪性新生物である。
【0144】
本明細書で使用される場合、用語「腫瘍」または「腫瘍組織」は、過剰な細胞分裂から生じる組織の異常な塊を指す。腫瘍または腫瘍組織は、異常な成長性を有し、有用な身体機能をもたない腫瘍性細胞である腫瘍細胞を含む。腫瘍、腫瘍組織、および腫瘍細胞は、良性、前悪性、もしくは悪性であり得、または少しのがん性可能性ももたない病変を表し得る。腫瘍または腫瘍組織はまた、腫瘍関連の非腫瘍細胞、例えば、腫瘍または腫瘍組織を供給し得る血管を形成する血管細胞を含み得る。非腫瘍細胞は、腫瘍細胞によって複製および発生するように誘導され得、例えば、腫瘍または腫瘍組織における血管新生の誘導である。
【0145】
本明細書で使用される場合、用語「がん」は、調節解除されたまたは未制御の細胞成長により特徴づけられる悪性新生物を指す。用語「がん」は、原発性悪性細胞または腫瘍(例えば、最初の悪性病変または腫瘍の部位以外の対象の身体における部位へ細胞が遊走していないもの)、および続発性悪性細胞または腫瘍(例えば、最初の腫瘍の部位とは異なる続発性部位への悪性細胞または腫瘍の遊走である、転移から生じたもの)を含む。用語「転移性の」または「転移」は、一般的に、1つの臓器または組織から別の非隣接臓器または組織へのがんの伝播を指す。他の非隣接臓器または組織における腫瘍性疾患の発生は、転移と呼ばれる。
【0146】
がんの例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病またはリンパ系腫瘍が挙げられるが、それらに限定されない。そのようながんのより具体的な例には、非限定的に、以下が挙げられる:扁平細胞がん(例えば、上皮扁平細胞がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、および肺の大細胞癌を含む肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、消化管がんを含む胃のもしくは胃がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、子宮頚がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝細胞腫、乳がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がんもしくは子宮癌、唾液腺がん、腎臓もしくは腎臓のがん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝細胞癌、肛門癌、陰茎癌、加えて、CNSがん、黒色腫、頭頚部がん、骨がん、骨髄がん、十二指腸がん、食道がん、甲状腺がん、または血液がん。
【0147】
がんまたは悪性病変の他の非限定的例には、以下が挙げられるが、それらに限定されない:急性小児リンパ芽球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、成人(原発性)肝細胞がん、成人(原発性)肝臓がん、成人急性リンパ球性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人ホジキン病、成人ホジキンリンパ腫、成人リンパ球性白血病、成人非ホジキンリンパ腫、成人原発性肝臓がん、成人軟部組織肉腫、AIDS関連リンパ腫、AIDS関連悪性病変、肛門がん、星細胞腫、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、乳がん、腎盂および尿道のがん、中枢神経系(原発性)リンパ腫、中枢神経系リンパ腫、小脳星細胞腫、大脳星細胞腫、子宮頚がん、小児(原発性)肝細胞がん、小児(原発性)肝臓がん、小児急性リンパ芽球性白血病、小児急性骨髄性白血病、小児脳幹神経膠腫、神経膠芽腫、小児小脳星細胞腫、小児大脳星細胞腫、小児頭蓋外胚細胞性腫瘍、小児ホジキン病、小児ホジキンリンパ腫、小児視床下部および視覚路神経膠腫、小児リンパ芽球性白血病、小児髄芽腫、小児非ホジキンリンパ腫、小児松果体およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍、小児原発性肝臓がん、小児横紋筋肉腫、小児軟部組織肉腫、小児視覚路および視床下部神経膠腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、膵内分泌島細胞癌、子宮内膜がん、上衣腫、上皮がん、食道がん、ユーイング肉腫および関連腫瘍、膵外分泌がん、頭蓋外胚細胞性腫瘍、性腺外胚細胞性腫瘍、肝外胆管がん、眼がん、女性の乳がん、胆嚢がん、胃のがん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管腫瘍、胚細胞性腫瘍、妊娠性トロホブラスト腫瘍、有毛細胞白血病、頭頚部がん、肝細胞がん、ホジキン病、ホジキンリンパ腫、高ガンマグロブリン血症、下咽頭がん、腸がん、眼球内黒色腫、島細胞癌、膵島細胞がん、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭がん、唇および口腔がん、肝臓がん、肺がん、リンパ球増殖性障害、マクログロブリン血症、男性の乳がん、悪性中皮腫、悪性胸腺腫、髄芽腫、黒色腫、中皮腫、転移性潜在性原発性頚部扁平上皮がん、転移性原発性頚部扁平上皮がん、転移性頚部扁平上皮がん、多発性骨髄腫、多発性骨髄腫/形質細胞新生物、骨髄異形成症候群、骨髄性白血病(Myelogenous Leukemia)、骨髄球性白血病(Myeloid Leukemia)、骨髄増殖性障害、鼻腔および副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、妊娠中の非ホジキンリンパ腫、非黒色腫皮膚がん、非小細胞肺がん、潜在性原発性転移性頚部扁平上皮がん、中咽頭がん、骨/悪性線維性肉腫、骨肉腫/悪性線維性組織球腫、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞性腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓がん、異常タンパク血症、紫斑病、副甲状腺がん、陰茎がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、形質細胞新生物/多発性骨髄腫、原発性中枢神経系リンパ腫、原発性肝臓がん、前立腺がん、直腸がん、腎細胞がん、腎盂および尿道がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、サルコイドーシス肉腫、セザリー症候群、皮膚がん、小細胞肺がん、小腸がん、軟部組織肉腫、頚部扁平上皮がん、胃がん、テント上原始神経外胚葉性および松果体腫瘍、T細胞リンパ腫、精巣がん、胸腺腫、甲状腺がん、腎盂および尿道の移行上皮がん、移行性腎盂および尿道がん、トロホブラスト腫瘍、尿道および腎盂細胞がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、視覚路および視床下部神経膠腫、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、またはウィルムス腫瘍。
【0148】
ある実施形態では、タンパク質は癌原遺伝子でもよく、タンパク質の変異またはバリアント型は癌遺伝子でもよく、これらの遺伝子は細胞の新生物形質転換を引き起こすかまたはこれに寄与する。これは、タンパク質は腫瘍抑制遺伝子であり、タンパク質の変異またはバリアント型は、特に機能獲得型またはドミナントネガティブ機構により、細胞の新生物形質転換を促進する状況も包含する。突然変異または変動は生殖系列または体細胞性でもよい。そのような癌原遺伝子または腫瘍抑制遺伝子、ならびにその中の腫瘍原性突然変異は周知であり、上記のデータベースに包括的に注釈付けをされている。既知の癌原遺伝子の例は、限定せずに、HER-2/neu、EGFR、VEGF、PDGFR、BCR/ABL、C-KIT、KRAS、HRAS、NRAS、サイクリンD1、サイクリンE、MYC、ベータ-カテニン、B-RAF、MITF、GNAS、MP2K2、IDHP、ITK、ERBB2、等を含み、これらは、本明細書全体を通して説明される改変APRが突然変異により生み出される限り、標的化が可能である。既知の癌原遺伝子の例は、限定せずに、p53、CDKN2A/CDKN2B、PTEN、pRb、BCL2、INK4a、NM23、SWI/SNF、pVHL、PARP、CIP2A、APC、CD95、ST5、YPEL3、ST7、ST14、p16、BRCA1/BRCA2、およびAPCを含む。ある場合では、腫瘍抑制遺伝子中で生じる突然変異は、APRの凝集傾向を増やす場合があり、これによりがん細胞中の変異腫瘍抑制タンパク質の凝集およびしたがって下方制御が(および野生型腫瘍抑制タンパク質がそのような凝集体中に隔離されている場合は潜在的にドミナントネガティブ効果も)推進される。本分子は、標的変異またはバリアントタンパク質の凝集を誘導することを意図するが、したがって、典型的には、そのような状況では適用されない場合がある。なぜならば、すでに凝集している変異腫瘍抑制タンパク質のさらなる凝集を誘導すると通常では疾患に対して有益な効果があるとは期待されないと考えられるからである。
【0149】
したがって、本明細書で教示されるような分子は、治療に有用である可能性がある。態様はこのように、医学で使用するための本明細書で教示されるようないかなる分子でも、または言い換えると、治療で使用するための本明細書で教示されるようないかなる分子でも提供する。下記で論じられているように、本明細書で教示されているような分子は、医薬組成物へ製剤化することができる。したがって、治療における前記分子の使用へのいかなる言及も(またはそのような言語のいかなるバリエーションも)また、治療における前記分子を含む医薬組成物の使用を含む。
【0150】
特に、本分子は、タンパク質の変異またはバリアント型が重要な役割を果たす苦悩の治療を目的とする。したがって、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、本明細書で教示されるような任意の分子もまた提供される。処置を必要とする対象、特に、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるか、または関連した疾患を有する対象を処置するための方法であって、本明細書で教示されるようなそれぞれの分子の治療有効量を対象に投与するステップを含む、方法がさらに提供される。タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるか、または関連した疾患の処置のための薬剤の製造のための、本明細書で教示されるようなそれぞれの分子の使用がさらに提供される。タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるか、または関連した疾患の処置のための本明細書で教示されるようなそれぞれの分子の使用がさらに提供される。
【0151】
「治療」または「処置」への言及は、治癒的処置と防止的処置の両方を広く包含し、それらの用語は、特に、疾患または障害などの病的状態の1つまたは複数の症状または測定可能なマーカーの軽減または測定可能な減少を指し得る。それらの用語は、一次処置、加えてネオアジュバント処置、アジュバント処置、および補助的療法を包含する。測定可能な減少には、測定可能なマーカーまたは症状における任意の統計学的に有意な低下が挙げられる。一般的に、それらの用語は、治癒的処置と、疾患の症状を低減しおよび/またはその進行を遅くするように向けられた処置の両方を包含する。それらの用語は、すでに発症した病理学的状態の治療的処置と、加えて予防的または防止的測定(その目的が、病理学的状態の発生の可能性を防止しまたは減少させることである場合)の両方を包含する。ある特定の実施形態では、それらの用語は、治療的処置に関係し得る。ある特定の他の実施形態では、それらの用語は、防止的処置に関係し得る。寛解の期間中の慢性病理学的状態の処置もまた、治療的処置を構成すると考えられ得る。それらの用語は、本発明の関連において適切である場合、ex vivoまたはin vivo処置を包含し得る。
【0152】
用語「対象」、「個体」、または「患者」は、この明細書を通して交換可能に使用され、典型的に、好ましくは、ヒトを意味するが、非ヒト動物、好ましくは温血動物、さらにより好ましくは非ヒト哺乳動物への言及も包含し得る。特に好ましくはヒト対象であり、それは、その両方のジェンダーおよび全ての年齢のカテゴリーを含む。他の実施形態では、対象は、疾患モデルとしての実験動物または動物代用物である。その用語は、特定の年齢も性別も意味しない。したがって、成体および新生児の対象、加えて胎児が、雄または雌に関わらず、網羅されることを意図される。対象という用語はさらに、トランスジェニック非ヒト種を含むことを意図される。
【0153】
本明細書で使用される場合、用語「処置を必要とする対象」または類似の用語は、本明細書で列挙されているような疾患と診断されたもしくはそれを有する対象、および/または前記疾患が防止されるべきである対象を指す。
【0154】
用語「治療有効量」は、一般的に、単一かまたは複数のいずれかの用量において、医師、臨床医、外科医、獣医、または研究者などの医療従事者によって達成するように努力されることになっている、対象における薬理学的効果または医薬的応答を誘発するのに十分な量を意味し、その薬理学的効果または医薬的応答には、とりわけ、処置されることになっている疾患の症状の軽減が挙げられる。本分子の適切な治療有効量は、疾患の性質および重症度、ならびに患者の年齢および状態に当然払うべき注意を払って、資格のある医師により決定され得る。投与されることになっている、本明細書に記載された分子の有効量は、多くの異なる因子に依存し得、当業者により日常的な実験を通して決定することができる。考慮され得るいくつかの非限定的因子には、活性成分の生物活性、活性成分の性質、処置されることになっている対象の特性などが挙げられる。用語「投与すること」は一般的に、投薬することまたは適用することを意味し、典型的には、組織へのin vivo投与とex vivo投与の両方を含み、好ましくはin vivo投与である。一般的に、組成物は、全身性にまたは局所的に投与され得る。
【0155】
前述のように、変異またはバリアントタンパク質は、新生物疾患、例えば、癌遺伝子または変異した腫瘍抑制遺伝子を引き起こすかまたはこれと関連する場合がある。したがって、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたは関連する新生物疾患、特に、がんを処置する方法において使用するための本明細書で教示されるようなそれぞれの分子も提供される。処置を必要とする対象、特に、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたは関連する新生物疾患、特にがんを有する対象を処置するための方法であって、本明細書で教示されるような任意の分子の治療有効量を対象に投与するステップを含む方法がさらに提供される。タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたは関連する新生物疾患、特にがんの処置用の薬物の製造のための本明細書で教示されるような任意の分子の使用がさらに提供される。タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたは関連する新生物疾患、特にがんの処置のための本明細書で教示されるような任意の分子の使用がさらに提供される。
【0156】
ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような任意の分子は、単独の医薬品(活性医薬成分)として、または1つもしくは複数の他の医薬品と組み合わせて(ただし、その組合せは、許容されない有害効果を引き起こさない)、投与され得る。例として、本明細書で教示されているような2つ以上の分子が同時投与され得る。別の例として、本明細書で教示されているような1つまたは複数の分子は、本明細書で構想されているような分子ではない医薬品と同時投与され得る。例えば、本明細書で教示されるような分子が抗がん特性を有する場合、分子は、例えば、手術、放射線療法、化学療法、生物学療法、またはその組合せなどの、既知の抗がん療法(単数または複数)と組み合わせてもよい。本明細書で使用される場合、用語「化学療法」は、広く解釈され、一般的には、化学的物質または組成物を使用する処置を包含する。化学療法剤は、典型的には、細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を示す。ある特定の実施形態では、化学療法剤は、アルキル化剤、細胞毒性化合物、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、テルペノイド、トポイソメラーゼ阻害剤、またはそれらの組合せであり得る。本明細書で使用される場合、用語「生物療法」は、広く解釈され、一般的には、生体分子などの生物学的物質もしくは組成物、またはウイルスもしくは細胞などの生物剤を使用する処置を包含する。ある特定の実施形態では、生体分子は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、もしくは小分子(例えば、一次代謝産物、二次代謝産物、または天然産物)、またはそれらの組合せであり得る。適切な生体分子の例には、インターロイキン、サイトカイン、抗サイトカイン、腫瘍壊死因子(TNF)、サイトカイン受容体、ワクチン、インターフェロン、酵素、治療用抗体、抗体断片、抗体様タンパク質スキャフォールド、またはそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。適切な生体分子の例には、アルデスロイキン、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、カツマキソマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、デニロイキンジフチトクス、デノスマブ、ジヌツキシマブ、エロツズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、90Y-イブリツモマブチウキセタン、イダルシズマブ、インターフェロンA、イピリムマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、タソネルミン、131I-トシツモマブ、トラスツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。適切な腫瘍退縮ウイルスの例には、タリモジンラヘルパレプベク(talimogene laherparepvec)が挙げられるが、それに限定されない。抗がん治療のさらなるカテゴリーには、とりわけ、ホルモン療法(内分泌療法)、免疫療法、および幹細胞療法が挙げられ、それらは、一般的に、生物療法内に含まれると見なされている。適切なホルモン療法の例には、タモキシフェン;アロマターゼ阻害剤、例えば、アナストロゾール(atanastrozole)、エキセメスタン、レトロゾール、およびそれらの組合せ;黄体ホルモン遮断剤、例えば、ゴセレリン、ロイプロレリン、トリプトレリン、およびそれらの組合せ;抗アンドロゲン、例えば、ビカルタミド、酢酸シプロテロン、フルタミド、およびそれらの組合せ;生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン遮断剤、例えば、デガレリクス;プロゲステロン処置、例えば、酢酸メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、およびそれらの組合せ;ならびにそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。用語「免疫療法」は、対象の免疫系を調節する任意の処置を広く包含する。特に、その用語は、体液性免疫応答、細胞性免疫応答、または両方などの免疫応答を調節する任意の処置を含む。免疫療法は、T細胞および/または樹状細胞などの免疫細胞が患者へ移入される、細胞に基づいた免疫療法を含む。その用語はまた、対象の免疫系を調節する化合物および/または生体分子(例えば、抗体、抗原、インターロイキン、サイトカイン、またはそれらの組合せ)などの物質または組成物の投与を含む。がん免疫療法の例には、非限定的に、モノクローナル抗体、例えば、腫瘍細胞により発現したタンパク質に対する、Fcエンジニアリング化モノクローナル抗体を用いる処置、免疫チェックポイント阻害剤、予防的または治療的がんワクチン、養子細胞療法、およびそれらの組合せが挙げられる。阻害のための免疫チェックポイント標的の例には、非限定的に、PD-1(PD-1阻害剤の例には、非限定的に、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、およびそれらの組合せが挙げられる)、CTLA-4(CTLA-4阻害剤の例には、非限定的に、イピリムマブ、トレメリムマブ、およびそれらの組合せが挙げられる)、PD-L1(PD-L1阻害剤の例には、非限定的に、アテゾリズマブが挙げられる)、LAG3、B7-H3(CD276)、B7-H4、TIM-3、BTLA、A2aR、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、IDO、およびそれらの組合せが挙げられる。治療的抗がんワクチン接種への別のアプローチには、樹状細胞ワクチンが挙げられる。その用語は、免疫反応が望まれる抗原を負荷されている樹状細胞を含むワクチンを広く包含する。養子細胞療法(ACT)は、細胞、最も一般的には免疫由来細胞、特に、例えば、細胞傷害性T細胞(CTL)の、同じ患者へ戻しての移入、または新しいレシピエント宿主への移入(その新しい宿主へその免疫学的機能性および特性を移入することを目的とする)を指し得る。可能なら、自己細胞の使用が、組織拒絶および移植片対宿主病問題を最小限にすることによりレシピエントを助ける。様々なストラテジーが、例えば、選択されたペプチド特異性を有する新しいTCR α鎖およびβ鎖を導入することによって、T細胞受容体(TCR)の特異性を変化させることにより、T細胞を遺伝子修飾するために、用いられ得る。あるいは、キメラ抗原受容体(CAR)が、悪性細胞などの選択された標的に対して特異的なT細胞などの免疫応答細胞を作製するために使用され得、様々な受容体キメラ構築物が説明されている。CAR構築物の例には、非限定的に、1)可動性リンカー、例えば、CD8αヒンジドメインおよびCD8α膜貫通ドメインにより、CD3ζかまたはFcRγのいずれかの膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインへ連結された、抗原に対して特異的な抗体の、例えば、特異的抗体のVHと連結されたVLを含む、一本鎖可変断片からなるCAR;ならびに2)前記内部ドメイン内に1つまたは複数の共刺激分子、例えば、CD28、OX40(CD134)、または4-1BB(CD137)の細胞内ドメイン、またはさらに、例えば、そのような共刺激性内部ドメインの組合せをさらに組み入れたCARが挙げられる。がんにおける幹細胞療法は一般的に、放射線療法および/または化学療法により破壊された骨髄幹細胞を置き換えることを目的とし、それには、非限定的に、自己、同系、または同種の幹細胞移植が挙げられる。幹細胞、特に造血幹細胞は、典型的には、骨髄、末梢血、または臍帯血から取得される。抗がん剤の投与経路、用量、および処置レジメンの詳細は、例えば、「Cancer Clinical Pharmacology」(2005)Jan H.M.Schellens、Howard L.McLeod、およびDavid R.Newell編、Oxford University Pressに記載されているように、当技術分野において知られている。ある特定の実施形態では、MEK阻害剤(例えば、セルメチニブまたはトラメチニブ)、SHP2阻害剤(例えば、TNO155)、mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシンまたはラパマイシン誘導体(「ラパログ(rapalog)」)、例えば、シロリムス、テムシロリムス(CCI-779)、テムシロリムス(CCI-779)、エベロリムス(RAD001)、およびリダフォロリムス(AP-23573)が挙げられる)の1つまたは複数と本明細書で教示されているような任意の分子を用いた併用療法が構想される。任意の併用療法の活性コンポーネントは、混合され得、または物理的に分離され得、同時にもしくは任意の順番で逐次的に投与され得る。
【0157】
本明細書で教示されているような任意の分子は、任意の適切なまたは作動可能な形または型式で対象へ投与され得る。
例えば、本明細書で意図されているような分子への言及は、所定の治療的に有用な化合物、加えて、そのような化合物の任意の薬学的に許容される形、例えば、その化合物の任意の付加塩、水和物、または溶媒和化合物を包含し得る。本明細書で使用される場合、とりわけ塩、水和物、溶媒和化合物、および賦形剤に関連しての、用語「薬学的に許容される」は、当技術分野と一致し、医薬組成物の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに有害ではないことを意味する。薬学的に許容される酸および塩基付加塩は、その化合物が形成することができる治療的活性のある無毒の酸および塩基付加塩の形を含むことを意図される。薬学的に許容される酸付加塩は、便利には、化合物の塩基形を適切な酸で処理することにより、得ることができる。適切な酸は、例えば、ハロゲン化水素酸、例えば、塩酸または臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、およびその他同種類の酸などの無機酸;または、例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸(すなわち、ブタン二酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクラミン酸、サリチル酸、p-アミノサリチル酸、パモン酸、およびその他同種類の酸などの有機酸を含む。逆に、前記塩基塩の形は、適切な塩基での処理により、遊離塩基の形へ変換することができる。酸性プロトンを含有する化合物もまた、適切な有機および無機塩基での処理により、それの無毒性金属またはアミン付加塩の形へ変換され得る。適切な塩基塩の形は、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム塩、およびその他同種類の塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、有機塩基、例えば、一級、二級、および三級の脂肪族および芳香族アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、4つのブチルアミン異性体、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、キヌクリジン、ピリジン、キノリンおよびイソキノリンとの塩;ベンザチン、N-メチル-D-グルカミン、ヒドラバミンの塩、ならびに例えば、アルギニン、リジン、およびその他同種類のものなどのアミノ酸との塩を含む。逆に、塩の形は、酸での処理により、遊離酸の形へ変換することができる。溶媒和化合物という用語は、その化合物が形成することができる水和物および溶媒付加の形、加えて、その塩を含む。そのような形の例は、例えば、水和物、アルコラート、およびその他同種類のものである。
【0158】
例えば、本分子は、組成物の一部であり得る。用語「組成物」は、一般的に、2つ以上のコンポーネントで構成されるものを指し、より具体的には、特に、2つ以上の材料、例えば、要素、分子、物質、生体分子、または微生物学的材料の混合物またはブレンド、加えて、組成物の材料から形成される反応生成物および分解生成物を意味する。例として、組成物は、本明細書で教示されているような任意の分子を1つまたは複数の他の物質と組み合わせて含み得る。例えば、組成物は、本明細書で教示されているような分子を前記1つまたは複数の他の物質と混合することなど、組み合わせることにより取得され得る。ある特定の実施形態では、本組成物は、医薬組成物として形成され得る。医薬組成物は、典型的には、1つまたは複数の薬理学的活性のある成分(1つまたは複数の薬理学的効果を生じる化学的および/または生物学的活性のある材料)および1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含む。典型的に本明細書で使用される場合の組成物は、液体、半固体または固体であり得、それには、溶液または分散体が挙げられ得る。
【0159】
したがって、さらなる態様は、本明細書で教示されているような任意の分子を含む医薬組成物を提供する。用語「医薬組成物」および「医薬製剤」は、交換可能に使用され得る。本明細書で教示されているような医薬組成物は、1つまたは複数の活性物に加えて、1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含み得る。適切な薬学的賦形剤は、活性成分の剤形およびアイデンティティに依存し、当業者によって選択され得る(例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients 第7版 2012、Roweら編を参照することにより)。
【0160】
本明細書で使用される場合、用語「担体」または「賦形剤」は、交換可能に使用され、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、緩衝剤(例えば、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水、または必要に応じて、Tris-HCl、酢酸またはリン酸緩衝剤など)、可溶化剤(例えば、Tween(登録商標)80、ポリソルベート80など)、コロイド、分散媒、媒介物、増量剤、キレート剤(例えば、EDTAまたはグルタチオンなど)、アミノ酸(例えば、グリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、芳香剤、濃厚剤、デポー効果を達成するための作用物質、コーティング剤、抗真菌剤、保存剤(例えば、チメロサール(商標)、ベンジルアルコールなど)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウムなど)、張度調節剤、吸収遅延剤、アジュバント、充填剤(例えば、ラクトース、マンニトールなど)、およびその他同種類のものを広く含む。医薬および化粧品組成物の製剤のためのそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野においてよく知られている。許容される希釈剤、担体、および賦形剤は、典型的には、レシピエントのホメオスタシス(例えば、電解質バランス)に悪影響を及ぼさない。薬学的活性のある物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野においてよく知られている。そのような材料は、無毒性であるべきであり、活性物の活性に干渉すべきではない。許容される担体には、生体適合性、不活性、または生体吸収性の塩、緩衝剤、オリゴ糖または多糖、ポリマー、増粘剤、保存剤、およびその他同種類のものが挙げられ得る。他の例示的な担体は、生理食塩水(0.15M NaCl、pH7.0~7.4)である。別の例示的な担体は、50mM リン酸ナトリウム、100mM 塩化ナトリウムである。
【0161】
担体または他の材料の的確な性質は、投与経路に依存する。例えば、医薬組成物は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性、および安定性を有する、非経口的に許容される水溶液の形をとり得る。
【0162】
医薬製剤は、生理的条件に近づけるために必要とされる場合、薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整および緩衝剤、保存剤、錯化剤、張度調整剤、湿潤剤、およびその他同種類のもの、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化水素、ベンジルアルコール、パラベン、EDTA、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミンなどを含み得る。好ましくは、医薬製剤のpH値は、生理的pH範囲にあり、例えば、特に、製剤のpHは、約5から約9.5の間、より好ましくは約6から約8.5の間、さらにより好ましくは約7から約7.5の間である。
【0163】
医薬組成物を製剤化することに使用される、実例となる非限定的な担体には、例えば、水中油または油中水乳剤、静脈内(IV)使用に適した有機共溶媒の含有ありまたはなしの水性組成物、リポソームまたは界面活性剤含有ベシクル、マイクロスフェア、マイクロビーズおよびマイクロソーム、粉末、錠剤、カプセル、坐剤、水性懸濁液、エアロゾル、ならびに当業者に明らかな他の担体が挙げられる。リポソームは、in vitroおよびin vivoでの送達媒介物として有用である人工膜ベシクルである。これらの製剤は、正味の陽イオン、陰イオン、または中性電荷特性を有し得、in vitro、in vivo、およびex vivoの送達方法に関して有用な特性である。サイズが0.2~4.0PHI.mの範囲である大型単層ベシクル(LUV)は、大きな高分子を含有する水性緩衝剤の相当なパーセンテージをカプセル化することができる。リポソームの組成は、通常、ステロイド、特にコレステロールと組み合わせての、通常、リン脂質、特に、高い相転移温度のリン脂質の組合せである。他のリン脂質または他の脂質もまた使用され得る。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度、および二価陽イオンの存在に依存する。
【0164】
本明細書で意図されているような医薬組成物は、本質的に任意の投与経路、例えば、非限定的に、経口投与(例えば、経口摂取または吸入など)、鼻腔内投与(例えば、鼻腔内吸入または鼻腔内粘膜塗布など)、非経口投与(例えば、皮下、静脈内(I.V.)、筋肉内、腹腔内、または胸骨内注射または注入など)、経皮または経粘膜(例えば、経口、舌下、鼻腔内)投与、局所投与、直腸、膣、または気管内の点滴注入、およびその他同種類のもののために製剤化され得る。このようにして、本方法および組成物により達成可能な治療効果は、所定の適用の特定のニーズに応じて、例えば、全身的、局所的、組織特異的などであり得る。
【0165】
例えば、経口投与について、医薬組成物は、丸剤、錠剤、ラッカー被覆錠(lacquered tablets)、被覆(例えば、糖衣)錠剤、顆粒、硬および軟ゼラチンカプセル、水性、アルコール性、または油性溶液、シロップ、乳剤、または懸濁液の形をとって製剤化され得る。例において、非限定的に、経口剤形の調製は、必要に応じて微粉化された1つまたは複数の固体担体も含む、粉末の形をとる本明細書で開示されているような作用物質の適切な量を、均一に密に合体してブレンドし、そのブレンドを丸剤、錠剤、またはカプセルに製剤化することにより、適切に達成され得る。非限定的ではあるが、例示的な固体担体には、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖(例えば、グルコース、マンノース、ラクトース、またはスクロースなど)、糖アルコール(例えば、マンニトールなど)、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が挙げられる。医薬組成物を含有する圧縮錠は、本明細書で開示されているような作用物質を、必要な圧縮性質を有する混合物を提供するように上記などの固体担体と均一に密に混合し、その後、その混合物を適切な機械において、望まれる形状およびサイズへ圧縮することにより調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らされた粉末化化合物の混合物を適切な機械において成形することにより、作製され得る。軟ゼラチンカプセルおよび坐剤のための適切な担体は、例えば、脂肪、ワックス、半固体および液体ポリオール、天然または硬化油などである。
【0166】
例えば、経口または鼻エアロゾルまたは吸入投与について、医薬組成物は、実例的な担体と共に、例えば、食塩水、ポリエチレングリコールもしくはグリコール、DPPC、メチルセルロースを含む溶液において、または粉末化分散剤との混合物において、さらに、ベンジルアルコールもしくは他の適切な保存剤、生物学的利用率を増強するための吸収促進剤、フルオロカーボン、および/または当技術分野において知られた他の可溶化剤もしくは分散剤を用いて、製剤化され得る。エアロゾルまたはスプレーの形をとる投与のための適切な医薬製剤は、例えば、本明細書で教示されているような作用物質の溶液、懸濁液、もしくは乳剤、または薬学的に許容される溶媒、例えば、エタノールもしくは水、もしくはそのような溶媒の混合物中のそれらの生理的に許容できる塩である。必要とされるならば、製剤はまた、追加として、他の薬学的補助物、例えば、界面活性剤、乳化剤、および安定剤、加えて、噴霧剤を含有し得る。実例として、送達は、使い捨て送達デバイス、ミストネブライザー、呼吸作動型粉末吸入器、エアロゾル定量噴霧吸入器(MDI)、または当技術分野において利用可能な、任意の他の多数のネブライザー送達デバイスの使用であり得る。追加として、ミストテントまたは気管内チューブと通しての直接的投与もまた使用され得る。
【0167】
粘膜表面を介しての投与のための担体の例は、特定の経路、例えば、経口、皮下、鼻腔内などに依存する。経口で投与される場合、実例には、医薬品グレードのマンニトール、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカライドナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、およびその他同種類のものが挙げられ、マンニトールが好ましい。鼻腔内に投与される場合、実例には、ポリエチレングリコール、リン脂質、グリコールおよび糖脂質、スクロース、および/またはメチルセルロース、ラクトースなどの充填剤を含むまたは含まない粉末懸濁液、ならびに塩化ベンザルコニウム、EDTAなどの保存剤が挙げられる。特定の実例的な実施形態では、リン脂質1,2ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)が、約0.1~3.0mg/mlの濃度における本発明の化合物の鼻腔内投与のための、約0.01~0.2%における等張性水性担体として使用される。
【0168】
例えば、非経口投与について、医薬組成物は、有利には、適切な溶媒、希釈剤、可溶化剤、または乳化剤などと共に、溶液、懸濁液、または乳剤として製剤化され得る。適切な溶媒は、非限定的に、水、生理食塩水、PBS、リンゲル液、デキストロース溶液、もしくはハンクス液、またはアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、グリセロール、加えて、糖溶液、例えば、グルコース、転化糖、スクロース、もしくはマンニトール溶液、または代替として、言及された様々な溶媒の混合物である。注射可能な溶液または懸濁液は、公知の技術に従って、適切な無毒性の、非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば、マンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル液、もしくは等張性塩化ナトリウム溶液、または適切な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤、例えば、無菌、無刺激性の固定油、例えば合成モノもしくはジグリセリド、および脂肪酸、例えばオレイン酸を使用して、製剤化され得る。本発明の作用物質およびその薬学的に許容される塩はまた、凍結乾燥することができ、得られた凍結乾燥物は、例えば注射または注入調製物の作製のために、使用することができる。例えば、静脈内使用のための担体の一つの実例には、10%USPエタノール、40%USPプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール600、および注射用バランスUSP水(WFI)の混合物が挙げられる。静脈内使用のための担体の他の実例には、10%USPエタノールおよびUSP WFI;USP WFI中0.01~0.1%トリエタノールアミン;またはUSP WFI中0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン;ならびに1~10%スクアレンまたは非経口用水中植物油の乳剤が挙げられる。皮下または筋肉内使用のための担体の実例には、リン酸緩衝食塩水(PBS)、WFI中5%デキストロース、および5%デキストロース中0.01~0.1%トリエタノールアミン、またはUSP WFI中0.9%塩化ナトリウム、または10%USPエタノール、40%プロピレングリコールの1:2もしくは1:4混合物、および平衡、許容される等張性溶液、例えば5%デキストロースもしくは0.9%塩化ナトリウム;またはUSP WFI中0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン、ならびに1~10%スクアレンまたは非経口用水中植物油の乳剤が挙げられる。
【0169】
水性製剤が好ましい場合、そのようなものは1つまたは複数の界面活性剤を含み得る。例えば、組成物は、少なくとも1つの適切な界面活性剤、例えば、リン脂質界面活性剤を含むミセルの分散体の形をとり得る。リン脂質の実例には、ジアシルホスファチジルグリセロール、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DPMG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、およびジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)など、ジアシルホスファチジルコリン、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DPMC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)など;ジアシルホスファチジン酸、例えば、ジミリストイルホスファチジン酸(DPMA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、およびジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)など;ならびにジアシルホスファチジルエタノールアミン、例えば、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DPME)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)などが挙げられる。典型的には、水性製剤における界面活性剤:活性物質のモル比は、約10:1から約1:10まで、より典型的には約5:1から約1:5までであるが、関心対象となる特定の目的に最適であるような、界面活性剤の任意の有効量が、水性製剤中に使用され得る。
【0170】
坐剤の形をとって直腸性に投与される場合、これらの製剤は、常温において固体であるが、直腸腔において液体化および/または溶解して、薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤、例えば、カカオバター、合成グリセリドエステル、またはポリエチレングリコールと、本発明による化合物を混合することにより調製され得る。
【0171】
マイクロカプセル、植込錠、またはロッドについての適切な担体は、例えば、グリコール酸と乳酸のコポリマーである。
上記の説明が包括的というよりむしろ実例的であることは、当業者は認識しているであろう。実際、多くの追加の製剤技術ならびに薬学的に許容される賦形剤および担体溶液が、当業者によく知られており、本明細書に記載された特定の組成物を様々な処置レジメンにおいて使用するための適切な投薬および処置レジメンの開発も同様である。
【0172】
必要に応じて、投与され得る1つまたは複数の他の活性化合物と組み合わせての、本明細書で教示されているような分子の投薬量または量は、個々の症例に依存し、常として、最適な効果を達成するように個々の状況に適応させることになっている。したがって、単位用量およびレジメンは、処置されるべき障害の性質および重症度に、ならびにまた、対象の種、処置されることになっているヒトまたは動物の性別、年齢、体重、全般的な健康状態、食事、投与の様式および時間、免疫状態、および個々の応答性、使用される化合物の有効性、代謝安定性、および作用持続期間などの因子に、治療が急性か慢性か予防的かに、または本発明の作用物質に加えて他の活性化合物が投与されるかどうかにも依存する。治療有効性を最適化するために、本明細書で教示されているような分子は、最初、異なる投薬レジメンで投与することができる。典型的には、組織における本分子のレベルは、例えば、所定の処置レジメンの有効性を決定するために、臨床試験手順の一部として適切なスクリーニングアッセイを使用してモニターすることができる。投与の頻度は、医療従事者(例えば、医師、獣医、または看護師)の技能および臨床判断の範囲内である。典型的には、投与レジメンは、最適な投与パラメーターを確立し得る臨床試験により確立される。しかしながら、従事者は、前述の因子、例えば、対象の年齢、健康状態、体重、性別、および医学的状態の1つまたは複数に従って、そのような投与レジメンを変え得る。投薬の頻度は、その処置が予防的か治療的かに依存して、異なり得る。
【0173】
本明細書に記載されているような分子またはそれを含む医薬組成物の毒性および治療有効性は、例えば細胞培養または実験動物における、公知の薬学的手順により決定することができる。これらの手順は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するために、使用することができる。毒性効果と治療効果との間での用量比は、治療指数であり、それは、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す医薬組成物が好ましい。毒性副作用を示す医薬組成物が使用され得るが、正常細胞(例えば、非標的細胞)への潜在的損傷を最小限にし、それにより、副作用を低減するために、患部組織の部位へそのような化合物を標的化する送達系をデザインするように気を配るべきである。
【0174】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータは、適切な対象における使用についての投薬量の範囲を処方することに使用することができる。そのような医薬組成物の投薬量は、一般的に、有るか無しかの毒性で、ED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変動し得る。本明細書に記載されているような、使用される医薬組成物について、治療有効量は、最初は、細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養において決定されるようなIC50(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する医薬組成物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クラマトグラフィーにより、測定することができる。
【0175】
非限定的に、疾患の型および重症度に依存して、本明細書で教示されているような分子の典型的な投薬量(例えば、典型的な一日投薬量または典型的な間欠投薬量、例えば、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、1週間ごと、1.5週間ごと、2週間ごと、3週間ごと、1ヶ月ごと、またはその他の典型的な投薬量)は、上記で言及された因子に依存して、1回の投与あたり約10μg/kgから約100mg/kg対象の体重までの範囲であり得、例えば、1回の投与あたり約100μg/kgから約100mg/kg対象の体重まで、もしくは約200μg/kgから約75mg/kg対象の体重まで、もしくは1回投与あたり約500μg/kgから約50mg/kg対象の体重まで、もしくは1回投与あたり約1mg/kgから約25mg/kg対象の体重まで、もしくは1回投与あたり約1mg/kgから約10mg/kg対象の体重までの範囲であり得、例えば、約100μg/kg、約200μg/kg、約300μg/kg、約400μg/kg、約500μg/kg、約600μg/kg、約700μg/kg、約800μg/kg、約900μg/kg、約1.0mg/kg、約2.0mg/kg、約5.0mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約30mg/kg、約40mg/kg、約50mg/kg、約75mg/kg、もしくは約100mg/kg対象の体重であり得る。
【0176】
特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、持続性送達系、例えば、(部分的)植え込み型持続性送達系を使用して、投与される。そのような持続性送達系が、本明細書で教示されているような作用物質を保持するためのリザーバー、ポンプ、および注入手段(例えば、チュービングシステム)を含み得ることを当業者は理解しているであろう。
【0177】
すでに考察したように、さらなる態様は、タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する細胞においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するためのin vitro方法であって、細胞をタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子に接触させるステップを含み、
a)タンパク質が、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRが、タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型中でタンパク質に存在しない新規APRを導入し;
分子が、本明細書で教示されるようなタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されている、方法を提供する。
【0178】
用語「in vitro」は一般に、身体、例えば、動物またはヒト身体の外側、またはこの外部を意味する。細胞は、当技術分野で周知の単離および培養技法、材料および使い捨ての器具を使用してin vitroで単離する、維持するおよび増殖することができる。本明細書で使用される用語「接触させる」または「接触させること」は、1つまたは複数の第1の成分(例えば、1つまたは複数の分子、生物学的実体、細胞、または材料)を1つまたは複数の第2の成分(例えば、1つまたは複数の分子、生物学的実体、細胞、または材料)に、第1の成分が、それについて可能であれば、第2の成分に結合するかまたはこれを調節することができるまたは第2の成分が、それについて可能であれば、第1の成分に結合するかまたはこれを調節することができるような方法で接近させることを意味する。用語「接触させる」は、文脈に応じて、「曝露する」、「インキュベートする」、「混合する」、「反応させる」、または同類のものと同義でありうる。
【0179】
ある実施形態では、細胞は、細菌細胞、酵母細胞もしくはカビ細胞を含む真菌細胞、原生生物細胞、植物細胞、または動物細胞、例えば、昆虫細胞、温血動物細胞、脊椎細胞、高等動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞もしくはヒト細胞でもよい。
【0180】
さらなる態様は、タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する生物においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するための方法であって、生物にタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子を投与するステップを含み、
a)タンパク質が、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRが、タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型中でタンパク質に存在しない新規APRを導入し;
分子が、本明細書で教示されるようなタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されている、方法を提供する。
【0181】
ある特定の実施形態では、生物は、細菌、酵母もしくはカビを含む真菌、植物、または動物でもよい。ヒトおよび非ヒト動物での分子の治療的使用は本明細書の他の場所でさらに詳細に考察されており、ある特定の実施形態では、方法は非治療的でもよく、例えば、方法は、手術または治療によるヒトまたは動物の身体の処置のためではない方法でもよい。ある特定の好ましい実施形態では、生物は植物でもよい。ある特定の好ましい実施形態では、生物は、非脊椎動物または下等動物でもよい。
【0182】
本明細書で使用される用語「植物」は、全植物、植物の先祖および子孫ならびに種子、苗条、茎、葉、根(塊茎を含む)、花、および組織および器官を含む植物の部分を包含し、そのような植物または植物部分は変異またはバリアントタンパク質型を発現する。浮遊培養物、カルス組織、胚、分裂領域、配偶体、胞子体、花粉および小胞子も用語「植物細胞」または「植物」によって包含されてよく、これらは変異またはバリアントタンパク質型を発現する。本発明の方法で特に有用である植物は、特に、マグサまたはマメ科牧草を含む単子葉および双子葉植物、観賞植物、主食作物、樹木または灌木を含む。
【0183】
前述の概念は、以下の特定の実施例により例証されさらに説明される。RASタンパク質は、低分子GTPアーゼクラスのタンパク質に属し、細胞成長および分裂、分化、ならびに生存などの多様な正常の細胞過程を制御する細胞質シグナル伝達経路に関与する。RAS GTPアーゼは、活性化を促進するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、およびGTP加水分解を触媒することによりRASを不活性化するGTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)の助けを借りて、GDP結合型不活性状態とGTP結合型活性状態との間を循環する。いったん活性化されたならば、RAS-GTPは、別々の触媒機能を有する一連の下流エフェクターと結合し、活性化する。3つのヒトRAS遺伝子(カーステンラット肉腫ウイルスがん遺伝子相同体(KRAS)、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)ジェンバンク(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)遺伝子ID番号3845下で注釈付き、神経芽細胞腫RASウイルスがん遺伝子相同体NRAS)、遺伝子ID番号4893、およびハーベイラット肉腫ウイルスがん遺伝子相同体(HRAS)、遺伝子ID番号3265)は4つのRASタンパク質をコードしており、KRAS転写物の選択的RNAスプライシングから生じる2つののKRASアイソフォームを有する(KRAS4AおよびKRAS4B)。
【0184】
ヒト野生型KRAS4Aアイソフォームアミノ酸配列は、Genbank受託番号:NP_203524.1またはSwissprot/Uniprot(http://www.uniprot.org/)受託番号:P01116-1(v1)の下においてアノテーションされる通りであり得、ここで、NP_203524.1配列は下記を再現した:
MTEYKLVVVGAGGVGKSALTIQLIQNHFVDEYDPTIEDSYRKQVVIDGETCLLDILDTAGQEEYSAMRDQYMRTGEGFLCVFAINNTKSFEDIHHYREQIKRVKDSEDVPMVLVGNKCDLPSRTVDTKQAQDLARSYGIPFIETSAKTRQRVEDAFYTLVREIRQYRLKKISKEEKTPGCVKIKKCIIM(配列番号1)
RAS遺伝子におけるある特定の突然変異は、永久に活性化されたRASタンパク質の産生をもたらし得、それは、入ってくるシグナルがない時でさえも活性細胞内シグナル伝達をもたらし、それが、最終的に、そのような変異型RASタンパク質を発現する細胞の腫瘍性形質転換を生じまたはそれに寄与する。RAS遺伝子における機能獲得型ミスセンス突然変異(130個を超える異なるミスセンス突然変異がRAS遺伝子において報告されている)が、全てのヒトがんの約27%、およびある特定の型のがんにおいて最高90%において見出され、腫瘍惹起および維持を駆動させる最も多く見られるがん遺伝子ではないにせよ、変異型RAS遺伝子を非常によく見られるものと確証している。ヒトがんにおいて、KRASが主に、変異型RASアイソフォーム(85%)であり、一方、HRAS(4%)およびNRAS(11%)はそれほど頻繁には変異していない。さらに、突然変異の98%が、3つのミスセンス突然変異ホットスポット:G12(G12C、G12D、G12S、およびG12V突然変異が、G12において最も頻度の高い突然変異の中に入る)、G13(G13C、G13D、G13R、G13S、およびG13V突然変異が、G13において最も頻度の高い突然変異の中に入る)、およびQ61(Q61H、Q61K、Q61L、およびQ61R突然変異が、Q61において最も頻度の高い突然変異の中に入る)のうちの1つに見出される。伝統的には、変異型RASは、GAP媒介性GTP加水分解において欠陥があり、それが、結果として、細胞における恒常的活性GTP結合型RASの蓄積を生じると考えられている。Hobbsら、J Cell Sci. 2016、129巻、1287~92参照。
【0185】
ヒトRASタンパク質は、少なくとも5個のアミノ酸の5つのAPR領域を含有することが予想される(表3参照)。最もN末端のAPR(TEYKLVVVGAG、配列番号2)はその野生型タンパク質においてC末端がG12(下線が引かれている)によって描写されている。しかしながら、ある特定のG12ミスセンス突然変異、例えば、特に、G12V、G12C、G12A、またはG12Sは、それぞれのRAS突然変異体におけるAPRが12位における変異型残基だけでなく、追加として、1個または複数のその後の残基も含むように、このAPRを拡張する。さらに、ある特定のG13ミスセンス突然変異、例えば、特に、G13V、G13C、またはG13Sは、それぞれのRAS突然変異体におけるAPRが、12位におけるグリシンだけでなく、追加として、13位における変異型残基、および場合によっては、1個または複数のその後の残基も含むように、このAPRを拡張する。
【0186】
したがって、APRは、G12V RAS変異体において、2~15位に及び、配列TEYKLVVVGAVGVG(配列番号3)を示し;G12C RAS変異体において、2~14位に及び、配列TEYKLVVVGACGV(配列番号4)を示し;G12A RAS変異体において、2~14位に及び、配列TEYKLVVVGAAGV(配列番号5)を示し;G12S RAS変異体において、2~13位に及び、配列TEYKLVVVGASG(配列番号6)を示し;G13C RAS変異体において、2~14位に及び、配列TEYKLVVVGAGCV(配列番号7)を示し;G13V RAS変異体において、2~15位に及び、配列TEYKLVVVGAGVVG(配列番号8)を示し;G13S RAS変異体において、2~13位に及び、配列TEYKLVVVGAGS(配列番号9)を示すと予想される。追加として、ヒトRASのG12またはG13における少なくともいくつかの突然変異、例えば、特に、G12VまたはG13V突然変異はまた、対応するAPRの予測される凝集傾向を有意に増加させる。
【0187】
G12またはG13変異型ヒトRASタンパク質におけるそのような変更されたAPRプロファイルの存在を認識することにより、本発明者らは、G12またはG13変異型RASタンパク質を下方制御することを可能にする分子間βシート相互作用のために、G12またはG13変異型RASタンパク質における変更されたAPRを特異的に標的化するが野生型RASにおける対応する変更されていないAPRを標的化しないことによってこれらの違いを利用する分子について調べ、ここで教示する。任意の仮説または理論に限定されることを望むわけではないが、本明細書において提示されるデータは、この下方制御が、おそらく、G12またはG13変異型RASタンパク質の溶解度を低下させ、それらを凝集物または封入体(細胞機構による分解を受け得る)内へと隔離し、細胞内シグナル伝達に利用可能なままのG12またはG13変異型RASタンパク質の量を実質的に減少させる、タンパク質との特異的共凝集を誘導する分子の能力に起因することを示唆している。分子が、その標的のG12またはG13変異型RASタンパク質の凝集を誘導または開始した後、共凝集したRASはそれ自体、凝集物への追加の可溶性G12またはG13変異型RASタンパク質の封入を促進または駆動する能力を獲得することができ、すなわち、既存のRAS凝集物は、タンパク質のさらなる凝集および凝集物の成長のための「種(seed)」として機能することができることを理解されたい。分子は、野生型RASとの共凝集または下方制御に対して、匹敵するまたは同等の誘導を示さない。例えば、これは、いくつかの分子間βシート形成は、分子と野生型RASとの間において生じるはずであっても、この結果は、比較的無視できるであろうし、分子は、そのような下方制御が野生型RASによる分子内シグナル伝達を有害に減少する程度までは、野生型RASをあまり下方制御しないかまたは全く下方制御しないであろうことを意味する場合がある。
【0188】
したがって、本発明の原理を具体化するある特定の分子は、G12変異ヒトRASタンパク質の溶解度を下方制御し、減少させ、および/またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができ、野生型ヒトRASタンパク質を実質的に下方制御も減少も誘導もできず、分子は、アミノ酸配列:a)TEYKLVVVGAVGVG(配列番号3);またはb)TEYKLVVVGACGV(配列番号4);またはc)TEYKLVVVGAAGV(配列番号5);またはd)TEYKLVVVGASG(配列番号6)のうちの少なくとも6個、例えば、6、7、8、9、または10個の連続するアミノ酸を含み、それぞれの配列の11位にアミノ酸を含むβ凝集配列を含む。本発明の原理を具体化するある特定の分子は、G12変異ヒトRASタンパク質の溶解度を下方制御し、減少させ、および/またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができ、野生型ヒトRASタンパク質を実質的に下方制御も減少も誘導もできず、分子は、アミノ酸配列:a)LVVVGAVGVG(配列番号10);またはb)LVVVGACGV(配列番号11);またはc)LVVVGAAGV(配列番号12);またはd)LVVVGASG(配列番号13)のうちの少なくとも6個、例えば、6、7、8、9、または10個(または最大)の連続するアミノ酸を含み、それぞれの配列の7位にアミノ酸を含むβ凝集配列を含む。G12C RASに関連して、保護されていないシステインを分子に含ませることは、システイン残基における反応性-SH基の存在により、あまり好都合ではないかもしれない。したがって、G12C RASに、より一般的には、システインを含有する任意のAPRに方向づけられた分子は、その位置に、セリンなどの別のアミノ酸を含有してもよく、または他の方法で、例えば、保護基(例えば、p-メチルベンジル基、ジフェニルメチル基、p-メトキシベンジル基、またはアセトアミドメチル基)により、もしくはその-SH基を同じ分子中のまたは2つの分子間で別のシステインの-SH基と反応させる(ジスルフィド橋)ことにより保護されているその位置にシステインを含有してもよい。したがって、ある特定の実施形態において、G12C変異型ヒトRASを対象とする分子において、G12C RASの12位に対応する分子ストレッチのアミノ酸は、L-セリンまたはD-セリンまたはセリン類似体、好ましくはL-セリン、であろう。ある特定の他の実施形態において、G12C変異型ヒトRASを対象とする分子において、G12C RASの12位に対応する分子ストレッチのアミノ酸は、保護基によって保護されるかまたはジスルフィド架橋に関与する-SH基を有するL-システインまたはD-システインまたはシステイン類似体、好ましくはL-システイン、であろう。
【0189】
本発明の原理を具体化するある特定の分子は、G13変異ヒトRASタンパク質の溶解度を下方制御し、減少させ、および/またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができ、野生型ヒトRASタンパク質を実質的に下方制御も減少も誘導もできず、分子は、アミノ酸配列:a)TEYKLVVVGAGCV(配列番号7);またはb)TEYKLVVVGAGVVG(配列番号8);またはc)TEYKLVVVGAGS(配列番号9)のうちの少なくとも6個、例えば、6、7、8、9、または10個の連続するアミノ酸を含み、それぞれの配列の12位にアミノ酸を含むβ凝集配列を含む。本発明の原理を具体化するある特定の分子は、G13変異ヒトRASタンパク質の溶解度を下方制御し、減少させ、および/またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができ、野生型ヒトRASタンパク質を実質的に下方制御も減少も誘導もできず、分子は、アミノ酸配列:a)LVVVGAGCV(配列番号14);またはb)LVVVGAGVVG(配列番号15);またはc)LVVVGAGS(配列番号16)のうちの少なくとも6個、例えば、6、7、8、9、または10個(または最大)の連続するアミノ酸を含み、それぞれの配列の8位にアミノ酸を含むβ凝集配列を含む。
【0190】
例えば、G12またはG13変異RAS標的化分子は、以下の構造:
a)Gate-Pept-Gate;
b)Linker-Gate-Pept-Gate;
c)Gate-Pept-Gate-Linker;
d)Linker-Gate-Pept-Gate-Linker;
e)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
f)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
g)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
h)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
i)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
j)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
k)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;または
l)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなるとして表してもよく、
「Gate」、「Pept」、および「Linker」が、ペプチド結合により隣接ペプチド要素と結合したペプチド要素を表示し、前記ペプチド要素の左から右への順番が、前記ペプチドにおけるそれらのN末端からC末端への構築を表し;
「Pept」(G12変異RASに方向づけられた)は、それぞれ独立して、アミノ酸配列:LVVVGAVGVG(配列番号10);またはLVVVGACGV(配列番号11);またはLVVVGAAGV(配列番号12);またはLVVVGASG(配列番号13)のうちの少なくとも6個、例えば、6、7、8、9、または10個(または最大)の連続するアミノ酸を含み、それぞれの配列の7位にアミノ酸を含むβ凝集配列であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたは、それのもしくはそれらの類似体、そのような類似体のL-およびD-異性体を含む、により置き換えられ(本明細書の他の箇所で説明されているように、システインを含有すると示される任意の「Pept」におけるシステインは、セリンと交換されまたは適切な保護基もしくはジスルフィド架橋により保護され得る);
または「Pept」(G13変異RASに対して方向づけられた)が、それぞれ独立して、アミノ酸配列:LVVVGAGCV(配列番号14);またはLVVVGAGVVG(配列番号15);またはLVVVGAGS(配列番号16)のうちの少なくとも6個、例えば、6、7、8、9、または10個(または最大)の連続するアミノ酸を含み、それぞれの配列の8位にアミノ酸を含むβ凝集配列であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、そのもしくはそれらのD-異性体によりまたは、そのもしくはそれらの類似体、そのような類似体のL-およびD-異性体を含む、により置き換えられ(本明細書の他の箇所で説明されているように、システインを含有すると示される任意の「Pept」におけるシステインは、セリンと交換されるまたは適切な保護基もしくはジスルフィド架橋により保護され得る);
「Gate」は、それぞれ独立して、リジン(K)またはD-リジンまたはD-もしくはL-リジン類似体(好ましくはリジン)、アルギニン(R)またはD-アルギニンまたはD-もしくはL-アルギニン類似体(好ましくはアルギニン)、アスパラギン酸(D)またはD-アスパラギン酸またはD-もしくはL-アスパラギン酸類似体(好ましくはアスパラギン酸)、グルタミン酸(E)またはD-グルタミン酸またはD-もしくはL-グルタミン酸類似体(好ましくはグルタミン酸)、KK、KKK、KKKK(配列番号45)、RR、RRR、RRRR(配列番号46)、DD、DDD、DDDD(配列番号47)、EE、EEE、EEEE(配列番号48)、KR、RK、KKR、KRK、RKK、RRK、RKR、KRR、KRKR(配列番号49)、KRRK(配列番号50)、RKKR(配列番号51)、DE、ED、DDE、DED、EED、EED、EDE、DEE、DEDE(配列番号52)、DEED(配列番号53)、またはEDDE(配列番号54)であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、そのもしくはそれらのD-異性体によりまたは、そのもしくはそれらの類似体、そのような類似体のL-およびD-異性体を含む、により置き換えられ;
丸括弧内の語「Linker」の包含は、リンカーが、それぞれ独立して、存在しない場合があり、または好ましくは存在することを表示し、「Linker」は、それぞれ独立してグリシン(G)またはD-もしくはL-グリシン類似体(好ましくはグリシン)、セリン(S)またはD-セリンまたはD-もしくはL-セリン類似体(好ましくはセリン)、プロリン(P)またはD-プロリンまたはD-もしくはL-プロリン類似体(好ましくはプロリン)、GG、GGG、GGGG(配列番号55)、SS、SSS、SSSS(配列番号56)、GS、SG、GGS、GSG、SGG、SSG、SGS、SSG、GGGS(配列番号57)、GGSG(配列番号58)、GSGG(配列番号59)、SGGG(配列番号60)、GGSS(配列番号61)、GSSG(配列番号62)、SSGG(配列番号63)、GSGS(配列番号70)、SGSG(配列番号64)、GSGSG(配列番号65)、SGSGS(配列番号66)、PP、PPP、もしくはPPPP(配列番号)であり、必要に応じて、列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたは、それのもしくはそれらの類似体、そのような類似体のL-およびD-異性体を含む、により置き換えられている。
【0191】
そのようなペプチドでは、N末端アミノ酸は、アセチル化など、修飾され得、および/またはC末端アミノ酸はアミド化など、修飾され得る。そのようなペプチドにおいて、D-アミノ酸および/またはアミノ酸類似体は、それらの組入れが、本明細書で教示されているような分子間ベータシートの形成と適合性である限り、組み入れることができる。
【0192】
例えば、G12V変異RAS標的化分子は、以下のアミノ酸配列のペプチド:
a)KVVVGAVKGSKVVVGAVK(配列番号17);または
b)KLVVVGAVKGSKLVVVGAVK(配列番号18);または
c)KVVVGAVGKGSKVVVGAVGK(配列番号19);または
d)KVVVGAVGVGKGSKVVVGAVGVGK(配列番号20)
を含む、それから本質的になるか、またはそれからなり、
必要に応じて、アミノ酸配列が、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそのアミノ酸のうちの1個または複数の類似体を含み、必要に応じて、N-末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される。
【0193】
ある特定の好ましい実施形態では、分子は配列番号76、77~78、80~95、97、または99~100などの、表7に示されるアミノ酸配列のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、必要に応じて、アミノ酸配列が1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそのアミノ酸のうちの1個または複数の類似体を含み、必要に応じて、N-末端アミノ酸はアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される。したがって、ある特定の好ましい実施形態では、分子は以下のアミノ酸配列:
a)[Dap]LSVFAIKGSKLSVFAI[Dap](配列番号79);または
b)[Dap]VVVGAVKGSKVVVGAV[Dap](配列番号80);または
c)[Dap]VVVGAVGKGSKVVVGAVG[Dap](配列番号81);または
d)[Dap]VVVGAVGVGKGSKVVVGAVGVG[Dap](配列番号82);または
e)[Cit]VVVGAVKGSKVVVGAVK(配列番号83);または
f)KVVVGAV[Cit]GSKVVVGAVK(配列番号84);または
g)AVVVGAVKGSKVVVGAVK(配列番号85);または
h)KVVVGAVAGSKVVVGAVK(配列番号86);または
i)KVVVGAVKGSAVVVGAVK(配列番号87);または
j)KVVVGAVKGSKVVVGAVA(配列番号88);または
k)AVVVGAVKGSAVVVGAVK(配列番号89);または
l)KVVVGAVAGSKVVVGAVA(配列番号90);または
m)AVVVGAVAGSKVVVGAVK(配列番号91);または
n)KVVVGAVKASKVVVGAVK(配列番号92);または
o)KVVVGAVKGAKVVVGAVK(配列番号93);または
p)KVVVGAVGKGFKVVVGAVGK(配列番号94);または
q)KVVVGAVGKFFKVVVGAVGK(配列番号95);または
r)KVVVGAVGVGKKVVVGAVGVGK(配列番号97);
のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
必要に応じて、アミノ酸配列が1個または複数のD-アミノ酸および/またはそのアミノ酸のうちの1個または複数の類似体を含み、必要に応じて、N-末端アミノ酸はアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸はアミド化されている(「[Dap]」はジアミノピメリン酸を意味し、「[Cit]」はシトルリンを意味する)。
【0194】
ある特定の実施形態では、本明細書で教示されるような分子は、アミノ酸配列KLVVVGAVGV(配列番号101)からなるペプチドではない。ある特定の実施形態では、本明細書で教示されるような分子は、アミノ酸配列KLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号102)からなるペプチドではない。ある特定の実施形態では、本明細書で教示されるような分子は、アミノ酸配列KLVVVGAVGVGKS(配列番号103)からなるペプチドではない。
【0195】
そのような分子ならびにその効果および使用も実施例において実験的に説明される。
さらなる例として、非限定的に、以下は、対応する変異タンパク質においてTANGO予測APRを改変するまたは付加するヒト遺伝子中の既知の突然変異の例を提供する。
【0196】
既存のAPRの長さを改変する癌遺伝子中の疾患突然変異の例:
GNAS(グアニンヌクレオチド結合タンパク質Gサブユニットアルファアイソフォームショート、Awissprot/UniProt受託番号P63092配列バージョン1):
【0197】
【0198】
上記の表の横列1~3の配列は、それぞれ配列番号21~23と示される。
MP2K2(二重特異性マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ2、Swissprot/UniProt受託番号P36507配列バージョン1):
【0199】
【0200】
上記の表の横列1~2の配列は、それぞれ配列番号24~25と示される。
IDHP(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ[NADP]、ミトコンドリア、Swissprot/UniProt受託番号P48735配列バージョン2):
【0201】
【0202】
上記の表の横列1~3の配列は、それぞれ配列番号26~28と示される。
ITK(チロシンキナーゼITK/TSK、Swissprot/UniProt受託番号Q08881、配列バージョン1):
【0203】
【0204】
上記の表の横列1~3の配列は、それぞれ配列番号29~31と示される。
B)APRの長さを変えないがミスマッチを作り出しおよび/またはスコアを変える癌遺伝子中の疾患突然変異の例:
BCL2(アポトーシス調節因子Bcl-2、Swissprot/UniProt受託番号P10415、配列バージョン2):
【0205】
【0206】
上記の表の横列1~3の配列は、それぞれ配列番号34~36と示される。
新規APRを生み出す癌遺伝子中の疾患突然変異の例:
ERBB2(受容体方チロシンキナーゼerbB-2、Swissprot/UniProt受託番号P04626、配列バージョン1):
【0207】
【0208】
上記の表の横列2の配列は、配列番号37と示される。
B-RAF(セリン/スレオニンプロテインキナーゼB-RAF、Swissprot/UniProt受託番号P15056、配列バージョン4):
【0209】
【0210】
上記の表の横列2~3の配列は、それぞれ配列番号38~39と示される。
本出願は、以下のステートメントに示されているような態様および実施形態も提供する:
ステートメント1. タンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子であって、
a)タンパク質が、β凝集傾向領域(APR)を含み、前記APRがタンパク質の変異またはバリアント型中で突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型にタンパク質に存在しない新規のAPRを導入し;
分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されている、
分子。
ステートメント2. 分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRと分子間ベータシートを形成するが、タンパク質中のAPRとは実質的に分子間ベータシートを形成しないように構成されている、ステートメント1に記載の分子。
ステートメント3. 分子間ベータシートが、タンパク質の変異またはバリアント型とタンパク質の間で異なるアミノ酸のうちの1個または複数を含む、ステートメント1または2に記載の分子。
ステートメント4. タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRとはアミノ酸配列または凝集傾向が、好ましくはアミノ酸配列が、さらに好ましくはアミノ酸配列および凝集傾向が異なる、ステートメント1~3のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント5. タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの凝集傾向が、タンパク質中のAPRの凝集傾向よりも高い、ステートメント4に記載の分子。
ステートメント6. a)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRよりも高い割合の疎水性アミノ酸を有するか;
b)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、低いベータシート形成潜在力またはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸の割合がタンパク質中のAPRよりも低いか;
c)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRよりも低い割合の荷電アミノ酸を有するか;および/または
d)タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRが、タンパク質中のAPRよりも少なくとも1個のアミノ酸分長く、例えば、2、3または4個のアミノ酸分長い、
ステートメント4または5に記載の分子。
ステートメント7. a)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動が、タンパク質中のAPR内の1個もしくは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失する、もしくは付加するか;
b)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動が、タンパク質中のAPRにN末端で隣接する1~10個、好ましくは1~4個の連続するアミノ酸の領域内の1個もしくは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失する、もしくは付加し、好ましくはそれにより前記領域の少なくとも1個のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分になるか;および/または
c)タンパク質の変異またはバリアント型中の突然変異または変動が、タンパク質中のAPRにC末端で隣接する1~10個、好ましくは1~4個の連続するアミノ酸の領域内の1個もしくは複数のアミノ酸を改変する、例えば、置換する、欠失する、もしくは付加し、好ましくはそれにより前記領域の少なくとも1個のアミノ酸がタンパク質の変異またはバリアント型中のAPRの一部分になる、
ステートメント4~6のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント8. タンパク質中のAPRにN末端またはC末端で隣接する前記領域での突然変異または変動が、
a)前記領域中で疎水性アミノ酸の割合を増やすか;
b)前記領域中でベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示すアミノ酸の割合を低減するか;および/または
c)前記領域中で荷電アミノ酸の割合を低減する、
ステートメント7に記載の分子。
ステートメント9. 分子が、タンパク質の変異またはバリアント型の溶解性を減らすか、またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができる、ステートメント1~8のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント10. 分子が、アミノ酸ストレッチ、好ましくは少なくとも6個の連続するアミノ酸のストレッチ、例えば、6~10個の連続するアミノ酸のストレッチを含み、このストレッチが、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRとの分子間ベータシートに関与する、ステートメント2~9のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント11. 分子により含まれる前記ストレッチが、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRにより含まれるアミノ酸ストレッチに、好ましくは少なくとも6個の連続するアミノ酸のストレッチ、例えば、6~10個の連続するアミノ酸のストレッチに対応し、好ましくは、
a)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、APRに含まれるストレッチと同一であるか;
b)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、APRに含まれるストレッチのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であるか;
c)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、APRに含まれるストレッチのアミノ酸配列と最大3個の、好ましくは最大2個の、さらに好ましくは最大1個のアミノ酸置換によって異なっているか;
d)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、分子ストレッチのすべてのアミノ酸がL-アミノ酸であるか;
e)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であるか;
f)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸の類似体により置き換えられているか;または
g)分子により含まれるストレッチのアミノ酸配列が、上のa)~c)のいずれか1つに示されるAPRにより含まれるストレッチのアミノ酸配列に対してある程度の配列同一性を示し、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、前者のストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸の類似体により置き換えられている、
ステートメント10に記載の分子。
ステートメント12. 分子が2つまたはそれよりも多い、好ましくは2つの前記アミノ酸ストレッチを含み、このストレッチは同一であるまたは異なっている、ステートメント10または11に記載の分子。
ステートメント13. 1つまたは複数のアミノ酸ストレッチが、それぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1個または複数のアミノ酸と、各末端に独立して隣接している、ステートメント10~12のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント14. 以下の構造:
a)NGK1-P1-CGK1、
b)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2、
c)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3、または
d)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3-Z3-NGK4-P4-CGK4
を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
P1~P4がそれぞれ独立して、請求項10~13のいずれか一つに定義されているアミノ酸ストレッチを表示し、
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1~4個の連続したアミノ酸、例えば、R、K、D、E、P、N、S、H、G、Q、およびA、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、好ましくは、R、K、D、E、P、N、S、H、G、およびQ、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、より好ましくは、R、K、D、E、およびP、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸を表示し、
Z1~Z3がそれぞれ独立して、直接的結合、または好ましくはリンカーを表示する、ステートメント10~13のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント15. 突然変異または変動が生殖系列または体細胞突然変異または変動である、ステートメント1~14のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント16. タンパク質の変異またはバリアント型が、疾患を引き起こすかまたはそれに関連する、ステートメント1~15のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント17. 疾患が、新生物疾患、特に、がんである、ステートメント16に記載の分子。
ステートメント18. タンパク質が、癌原遺伝子であり、タンパク質の変異またはバリアント型が癌遺伝子である、ステートメント17に記載の分子。
ステートメント19. 医薬で使用するための、特に、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはそれに関連する疾患を処置する方法において使用するためのステートメント16~18のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント19’. 分子が、医薬で使用するための、特に、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはそれに関連する疾患を処置する方法において使用するためのポリペプチドである、ステートメント16~18のいずれか1つに記載の分子をコードする核酸。
ステートメント20. タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはそれに関連する新生物疾患を処置する方法において使用するためのステートメント17または18に記載の分子。
ステートメント20’. 分子が、タンパク質の変異またはバリアント型により引き起こされるまたはそれに関連する新生物疾患を処置する方法において使用するためのポリペプチドである、ステートメント17または18に記載の分子をコードする核酸。
ステートメント21. ステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子を含む、医薬組成物。
ステートメント21’. ステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子をコードする核酸を含む医薬組成物であって、前記分子がポリペプチドである、医薬組成物。
ステートメント22. タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する細胞においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するためのin vitro方法であって、細胞をタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子に接触させるステップを含み、
a)タンパク質がβ凝集傾向領域(APR)を含み、前記APRがタンパク質の変異またはバリアント型中で突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型中でタンパク質に存在しない新規APRを導入し;
分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されているか;または
分子をコードする核酸に、細胞を接触させるステップを含み、分子がポリペプチドである、方法。
ステートメント23. タンパク質の変異またはバリアント型を発現する、好ましくはこれを内因的に発現する生物においてタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御するための方法であって、生物にタンパク質の変異またはバリアント型の量または生物活性を下方制御することができる天然に存在しない分子を投与するステップを含み、
a)タンパク質が、β凝集傾向性領域(APR)を含み、前記APRがタンパク質の変異またはバリアント型中で突然変異または変動により改変されるか;または
b)突然変異または変動が、タンパク質の変異またはバリアント型中でタンパク質に存在しない新規APRを導入し;
分子が、タンパク質の変異またはバリアント型中のAPRを特異的に標的化するように構成されているか;または
分子をコードする核酸に、細胞を接触させるステップを含み、分子がポリペプチドである、方法。
ステートメント24. 分子がステートメント1~14のいずれか1つで定義されている通りである、ステートメント22または23のいずれか1つに記載の方法。
ステートメント25. 細胞が、細菌細胞、酵母細胞もしくはカビ細胞を含む真菌細胞、原生生物細胞、植物細胞、または非ヒト哺乳動物細胞もしくはヒト細胞を含む動物細胞である、ステートメント22または24のいずれか1つに記載の方法。
ステートメント26. 生物が、細菌、酵母もしくはカビを含む真菌、植物、または動物である、ステートメント23または24のいずれか1つに記載の方法。
【0211】
本発明は、その特定の実施形態と共に記載されているが、多くの代替物、改変、およびバリエーションが、前述の説明を鑑みれば、当業者に明らかであろうことは明白である。したがって、以下のような、全てのそのような代替物、改変、およびバリエーションを、添付された特許請求の範囲の精神および幅広い範囲において包含することを意図される。
【0212】
本明細書で開示された本発明の態様および実施形態は、以下の非限定的実施例によってさらに裏付けられる。
【実施例】
【0213】
実施例1~7で使用する材料および方法
RAS特異的凝集分子(「pept-in」)の設計
RASファミリーメンバータンパク質のタンパク質配列を、UniProt(登録:P01116(KRAS)、P01112(HRAS)、およびP01111(NRAS))から得た(Nucleic Acid Res.47(2008)36、D190~5)。TANGOアルゴリズム(上記のFernandez-Escamillaら、2004)を使用してタンパク質配列を分析し、凝集傾向のある領域(APR)を同定した。この目的のために、以下の設定を使用した:温度=298K、pH=7.5、イオン強度=0.10M、およびTANGOスコアのカットオフが残基当たり1。TANGOプロファイルに対する、一般的なG12およびG13突然変異の影響を評価するために、本発明者らは、影響を受けたAPRを含む19のアミノ酸(1~19)からなる配列断片を使用した。この配列断片は、KRAS、HRAS、およびNRASの間で100%保存されており、そのため、結果は全てのRASアイソフォームに適用される。突然変異を手動で導入し、上記のようなTANGOアルゴリズムを使用して配列を分析した。
【0214】
RAS野生型配列およびRAS G12V配列の両方を使用するTANGO結果に基づいて、本発明者らは、スライディングウィンドウアプローチを使用して、6~10アミノ酸の間の全ての考えられるAPRウィンドウを作成した。得られた配列ウィンドウを、完全ヒトプロテオームと交差比較し、RASタンパク質との固有の正確なマッチを有する配列のみを、分子(以降、「pept-in」)設計のために保持した。
ペプチドの合成および精製
固相ペプチド合成
ペプチド合成を、50または100μmolスケールで、Symphony Xペプチド合成装置(Gyros Protein Technologies)で行った。Rinkアミド低ローディング樹脂(100~200メッシュ)、O-(1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、およびジエチルエーテルを、Novabiochem/Merckから購入した。Fmoc保護されたアミノ酸(AA)およびトリフルオロ酢酸(TFA)をFluorochemから購入した。N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、DMF溶液中の20%ピペリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリイソプロピルシラン(TIS)、およびジチオスレイトール(DTT)を、Sigma-Aldrichから購入した。ジクロロメタン(DCM)をAcros Organicsから購入した。所望の配列の伸長を、Fmoc除去およびアミノ酸カップリングの反復サイクルによって行った(スケールに依存する体積および濃度については、以下の表1を参照されたい)。まず、樹脂をDMF中で2×10分間膨張させた。Fmoc保護基を次に、DMF中の20%ピペリジン溶液に2×5分間曝露することによって除去した。樹脂を次いでDMFで洗浄し、DMF中で4当量のAA、4当量のHCTU、および16当量のDIPEAを使用して、30分間カップリングを行った。次のサイクルの前に、樹脂をDMFで洗浄した。第2のAPRの最初のAAから所望の配列の最後までの広範囲のFmoc除去(2×15分)およびダブルカップリング(2×30分)を行った。樹脂を次いでDMF、DCMで数回洗浄し、次いで、2×10分間乾燥させた。ペプチドを最後に、2.5%超純水、2.5%TIS、および2.5%DTTを含有するTFA溶液を使用して、2時間、乾燥樹脂から切断した。ペプチド溶液を次いで、冷たいジエチルエーテル(5mLのTFA溶液に35mL)中で沈殿させ、遠心分離した。液相を次いで廃棄し、ペプチドペレットを15mLのジエチルエーテルで洗浄した。遠心分離した後、ペレットを30分間空気乾燥させ、次いで、10mLの水/アセトニトリル溶液(1:1)中に溶解し、凍結し、そして凍結乾燥器で一晩凍結乾燥させて、ペプチドを粗粉末として得た。
【0215】
【0216】
ペプチド精製
PhenomenexのC18カラム(5μm、110Å、250×21.2mm、参照番号006-4435-P0-AX)を使用する、322 Pump、159 UV-vis検出器、およびGX281コレクターを備えたGilsonシステムでの逆相分取HPLCを介して、粗ペプチドを精製した。HPLCグレードの水およびアセトニトリルをVWRから購入し、TFAをFluorochemから購入した。グアニジンヒドロクロリド(Gu)をSigma Aldrichから購入し、ジメチルスルホキシド(DMSO)および酢酸をMerckから購入した。溶媒Aは水+0.1%TFAであり、溶媒Bはアセトニトリル+0.1%TFAである。粗粉末をDMSO中に20mg/mLで溶解し、ボルテックスし、そして超音波処理した。溶液を次いで、Gu+10%酢酸水で10倍希釈し、最後に、0.22μmの酢酸セルロースフィルター(Merck)で濾過した。ペプチド溶液を次いで、15%Bでの7分間の平坦時間、15%Bから45%Bまでの10分間の溶出、その後の、95%Bを使用する2分間のカラム洗浄、および15%Bでの6分間の平衡からなる勾配を使用して、30mL/分の流速で精製した。画分を次いで、MALDI質量分析によって分析した。純粋な画分をガラスバイアルに集め、凍結し、そして少なくとも2日間にわたり凍結乾燥させた。純粋なペプチドを最後に、品質管理のバリデーションのために、UVおよびMSシグナルの両方による90%純度を閾値として使用して、LCMSによって分析した。
細胞効力のスクリーニング
本願において使用した細胞系を以下の表2に列挙する。
【0217】
【0218】
DSMZ:Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures、Inhoffenstr.7B、D-38124 Braunschweig Germany。
【0219】
CLS:CLS Cell Lines Service、Dr.Eckener-Str.8、D-69214 Eppelheim、Germany(www.https://clsgmbh.de/)。
【0220】
BPS Bioscience、6042 Cornerstone Court West、Suite B、San Diego、CA 92121、United States(www.bpsbioscience.com)。
【0221】
ヒト腫瘍細胞系を、ATCC(すなわち、NCI-H441(HBT-174TH)、NCI-H1299(CRL-5803TM))、NCI-H358(CRL-5807TM)、NCI-H727(CRL-5815TM)、A-427(HTB-53TM)、PANC-1(CRL-1469TM)、HCT-116(CCL-247TM)、およびMIAPaCa-2(CRL-1420TM))、CLS Cell Line Service GmbH(すなわち、Capan-1(300143)およびLCLC-97TM1(300409))、またはLeibniz-Institut DSMZ(すなわち、PA-TU-8998T(ACC 162))から入手した。単一のRASアイソフォームを発現するマウス胚性線維芽細胞(「RASless MEF」と呼ぶ)を、米国国立がん研究所のフレデリック国立研究所、フレデリック、MD、USAから入手した。全ての細胞系を、供給元の指示に従って維持した。
接着性生存能力のアッセイ
接着細胞での単回用量生存能力スクリーニングのために、黒色のμclear(登録商標)Cellstar(登録商標)F底96ウェルプレート(Greiner)において、100μLの完全増殖培地中に、ウェル当たり4000個の細胞を播種した。播種の翌日、増殖培地を、25μMの一定最終用量の示されたpept-inを含有する完全増殖培地で置き換えた。全ての実験上のpept-in条件について、2回の技術的反復が含まれた。処置の2日および4日後に、CellTiter Blue試薬(Promega)を、CellTiter Blue試薬をPBS中に2倍希釈するという適応を伴って、製造者の指示に従って使用して、生存能力を評価した。読み出しをClariostarプレートリーダー(BMG)で行った。使用した最大最終濃度が50μMである2倍連続希釈物を使用する用量応答でpept-inを試験するという適応を伴って、用量応答アッセイを行った。さらに、Celltiter Glo試薬(Promega)を、CellTiter Glo試薬をPBS中に4倍希釈するという適応を伴って、製造者の指示に従って使用して、単回の生存能力読み出しを処置の3日後に行った。
【0222】
全ての試験プレートは、複数の正常増殖および媒体対照、ならびに、2連の陽性対照化合物SAH-SOS-1A(CAS番号1652561-87-9)の用量応答を含んでいた。
スフェロイド生存能力のアッセイ
スフェロイド培養物での単回用量生存能力スクリーニングのために、黒色のUltra-Low Attachment(ULA)丸底96ウェルプレート(Corning)において、75μLの完全増殖培地中に、ウェル当たり1000個の細胞を播種した。播種の翌日、スフェロイドを、示された試験化合物を含有する50μlの完全増殖培地を添加することによって処置し、その結果、添加後の最終濃度は25μMとなった。全ての実験上のpept-in条件について、2回の技術的反復が含まれ、処置の5日後に、ウェル当たり80μLの試薬を添加するという適応を伴って、CellTiter Glo 3D試薬(Promega)を製造者の指示に従って使用して、生存能力を評価した。読み出しをClariostarプレートリーダー(BMG)で行った。RASless MEFを使用する用量応答アッセイのために、細胞をMatrigel含有培地に1000個(G12VおよびG12C)または2000個(野生型およびBRAF V600E)で播種して、処置の開始時に生存能力が等しいスフェロイドを、24時間後に得た。最大最終濃度が50μMである2倍連続希釈物を使用する用量応答でpept-inを試験するという適応を伴って、用量応答アッセイを行った。
【0223】
全ての試験プレートは、複数の正常増殖および媒体対照、ならびに、2連の陽性対照化合物SAH-SOS-1A(Merck)の用量応答を含んでいた。
着色によるin vitro凝集アッセイ
着色凝集アッセイを、アミロイドセンサー色素であるチオフラビンT(ThT)および五量体ホルミルチオフェン酢酸(p-FTAA)を使用して行った。pept-inを、PBS中の6Mの尿素中の5mMのストック溶液から100μMの最終濃度に希釈した。測定は、Clariostarプレートリーダー(BMG)で37℃で、黒色のハーフエリア96ウェルプレートにおいて、22時間、動力学的に行った。
KRAS凝集シーディングアッセイ
pept-inを、低吸着チューブにおいて、PBS中の6Mの尿素中の5mMのストック溶液から100μMの最終濃度に希釈し、37℃で20時間インキュベートした。この溶液を次のシーディングアッセイにおいて直接使用したか、または、液体窒素を使用してアリコートを急速冷凍し、後のシーディングアッセイのために-80℃で保存した。
【0224】
成熟pept-in凝集体を用いるシーディングアッセイのために、5μMの成熟pept-in溶液を、200mMのアルギニンおよびグルタミンを含有するHepes緩衝剤中で1mg/mlの組換え変異型KRAS G12Vと混合した。シーディングを、Clariostarプレートリーダー(BMG)で37℃で、ThTを凝集/アミロイドセンサー色素として使用して、黒色の384ウェルプレート(ウェル当たり30μlの最終体積)内でモニタリングした。
【0225】
pept-inシードを用いるシーディングアッセイのために、成熟pept-in溶液をPBS中で3倍希釈し、3秒間の休止によって離された5秒間のサイクルを使用して5分間、超音波処理した。5μMの超音波処理されたpept-in溶液を次に、200mMのアルギニンおよびグルタミンを含有するHepes緩衝剤中で1mg/mlの組換え変異型KRAS G12Vと混合した。シーディングを、Clariostarプレートリーダー(BMG)で37℃で、ThTをアミロイドセンサー色素として使用して、黒色の384ウェルプレート(ウェル当たり30μlの最終体積)内でモニタリングした。
in vitroでの翻訳アッセイ
in vitroでの翻訳アッセイを、PURExpress(登録商標)In Vitroタンパク質合成キット(New England Biolabs)を製造者の指示に従って使用して行った。簡潔に述べると、KRASコード配列に隣接するT7プロモーター配列およびターミネーター配列を含有する直鎖状のDNA断片を、PCRを使用して作製し、MinElute PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。250ngの直鎖状DNAをその後、in vitroでの翻訳反応に使用し、この翻訳反応は、振とうしながら(1000rpm)37℃で2時間行った。示されたビオチン化されたpept-inを、6Mの尿素中の5mMのストック溶液から10μMの最終濃度まで、翻訳反応において混合した。翻訳反応が完了すると、ビオチン化されたpept-inを、ストレプトアビジン被覆ビーズ(Pierce)を使用して、90分間、室温で、反応混合物から捕捉した。ビーズを次に、0.1%Tween 20を含有するTBSで洗浄し、結合したタンパク質を最後にTBS緩衝剤中の1×SDSローディングダイ(Bio-Rad)中で煮沸除去した。タンパク質を、SDS-PAGEの間に、Any kD 15ウェルMini-PROTEANゲル(Bio-Rad)を使用して分離し、マウスモノクローナルKRAS特異的抗体(SC-30、Santa Cruz Biotechnology)を使用するウェスタンブロッティングの後に、KRASについて調べ、これを、Bio-Rad Chemidoc MPイメージング機器で、化学発光を使用して、HRP結合型抗マウス二次抗体で検出した。
共免疫沈降アッセイ
細胞共免疫沈降アッセイを、KRAS野生型または変異型G12Vのいずれかを発現する、RASless MEF(他の箇所を参照されたい)またはヒトNCI-H441肺腺癌腫瘍細胞、およびN末端がビオチン化されたpept-inを使用して行った。細胞を、透明の6ウェルプレート(Cellstar、Greiner)内に300,000個の細胞の密度で播種した。播種の翌日、細胞を、25μMの最終濃度の示されたpept-inで処理し、20時間インキュベートした。次に、細胞を、NP-40溶解緩衝剤(150mMのNaCl、50mMのTris HCl、pH8、1%IGEPAL(NP40)、1×Haltホスファターゼ/プロテアーゼ阻害剤(Thermo)、1U/μlのユニバーサルヌクレアーゼ(Pierce))で溶解し、ビオチン化されたpept-inをストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(Pierce)で、1時間、室温で捕捉した。ビーズをNP40溶解緩衝剤で少なくとも3回洗浄し、その後、結合したタンパク質を、NP40溶解緩衝剤中の1×SDSローディングダイ(Bio-Rad)中で煮沸除去した。タンパク質を、SDS-PAGEの間に、Any kD 15ウェルMini-PROTEANゲル(Bio-Rad)を使用して分離し、ウサギポリクローナルKRAS特異的抗体(12063-1-AP、Proteintech)を使用するウェスタンブロッティングの後に、KRASについて調べた。
フローサイトメトリー
NCI-H441細胞を、175k細胞/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した。翌日、細胞を、媒体または12.5μMのRAS標的化pept-inまたは陰性対照pept-inで処理した。6、16、および24時間の処理の後、細胞をPBSで洗浄し、TrypLE Express(Thermo Fisher)を使用して取り外した。洗浄した細胞を次に、Sytox Blue(Thermo Fisher)およびAmytracker Red(Ebba Biotech AB)を使用して染色し、その後、これらをGalliosフローサイトメーター(Beckman Coulter)で分析した。
細胞蛍光イメージング
N末端がmCherryで標識されたKRAS G12Vを発現する構築物を有するレンチウイルス粒子を形質導入したHeLa細胞を使用して、蛍光細胞イメージングを行った。細胞を、黒色のμclear(登録商標)Cellstar(登録商標)F底96ウェルプレート(Greiner)において、100μLの完全増殖培地中に播種した。翌日、細胞を、通常の増殖培地において、示されたFITC標識されたpept-inで20分間処理し、その後、pept-in溶液を洗い流し、通常の増殖培地で再び置き換え、そしてさらに2時間インキュベートした。次に、細胞を固定し、洗浄し、そして核用色素NucBlue(商標)(Hoechst 33342を含有する)で対比染色した。イメージをライカ共焦点顕微鏡でキャプチャした。
in vivoのSW620異種移植モデル
メスのNCr nu/nuマウス(8~12週齢)の後ろ脇腹に、50%Matrigel中の1×106のSW620腫瘍細胞を皮下接種した。細胞注射体積は0.1mL/マウスであった。腫瘍が100~150mm3の平均サイズに達したら、ペアマッチを行い、処置を開始した。群のサイズは、未処理群ではN=6、媒体群ではN=5、ならびにpept-in群および陽性対照群ではN=8であった。腫瘍成長をキャリパー測定によって週に2回モニタリングした。モデルの応答を、イリノテカンを100mg/kgで週に1回、3週間、腹腔内に投与することによって、モニタリングした。
【0226】
実施例1:RAS特異的凝集分子(「pept-in」)の設計
本発明者らは、統計学的な熱力学的アルゴリズムであるTANGOを使用して、ヒトRASファミリータンパク質(HRAS、NRAS、およびKRAS)の一次アミノ酸配列における、凝集傾向のある領域(APR)を同定した。この分析は、3つのRASファミリーメンバーの全てが同一のTANGOプロファイルを有し、メンバーの各々が少なくとも5アミノ酸長の5つのAPRを有し、このうち2つのAPRが少なくとも20%のTANGOスコアを有することを示した(表3)。表6に示される所与のAPRの開始位置(「Start」)は、RAS配列内の、それぞれの凝集傾向のある領域自体の前にある最初のN末端ゲートキーパーの位置に対応しているが、本明細書の他の箇所では、APRの開始位置は、N末端ゲートキーパーを用いずに示されている場合がある。したがって、例えば、RASの最もN末端側のAPRは、表3では、RASの1位のMゲートキーパーで開始していると記載されているが、このAPRは、本明細書の他の箇所では、2位のTで開始している記載される場合がある。さらに、表3において、「N-GK」は、RAS内の予測されるAPRのN末端側に隣接したネイティブなゲートキーパー残基を示し、「C-GK」は、RAS内の予測されるAPRのC末端側に隣接したネイティブなゲートキーパー残基を示し、「APR seq」はAPR配列を示し、「スコア」は%表示のTANGOスコアを意味し、「長さ」は、全てのゲートキーパーを排除したAPRの長さ(aa)を示している。
【0227】
【0228】
RASファミリーメンバーにおける突然変異の活性化は、ヒトがんにおける一般的で頻繁な初期事象であり、そして、全てのヒト腫瘍の最大3分の1がRASファミリーメンバーの1つにおいてミスセンス突然変異を有していることが報告されている。これらの突然変異の99%超がいわゆるホットスポット突然変異部位で生じ、この部位もまたRASファミリーメンバーの間で共有されており、コドン12、13、および61に位置する。興味深いことに、コドン12はAPRのC末端に位置し、コドン13はAPRのC末端のすぐ隣に位置し、そのため、これらの位置の1つにあるミスセンス突然変異は、凝集傾向だけではなく凝集プロセスの配列選択性も改変し得る(表3)。前者について研究するために、本発明者らは、コドン12または13にある、一般的な突然変異(全てのKRAS変異型がんで>1%)の組が配列のTANGO結果をどの程度変えるかを分析した(表4)。表4において、「スコア」は%表示のTANGOスコアを意味し、「長さ」は、全てのゲートキーパーを排除したAPRの長さ(aa)を示し、「頻度」は、COSMICデータベースに基づく、%表示の、全てのKRAS変異型がんにおける特定のG12またはG13突然変異の頻度を示す。
【0229】
【0230】
G12位で最も一般的な突然変異はG12Dである。この突然変異は、TANGOがゲートキーパー残基として同定する、負に荷電したアスパラギン酸塩を導入し、その結果、APRがわずかに短縮し、TANGOスコアが増大する。しかし、APRに対する、2番目に一般的な突然変異であるG12Vの影響は、G12VがAPR配列の長さおよびTANGOスコアの両方を増大させるため、最も大きい。他の一般的なG12突然変異は、APR配列を短縮するかまたは延長するが、TANGOスコアは大きくは変化させない。G13D突然変異も非常に一般的であり、APRの凝集傾向を、その配列を改変することなく増大させる。したがって、野生型APRに対応するストレッチを有するpept-inが野生型RASよりもG13D RASを下方調節する傾向を示す可能性がある。APR上のG13Vの影響もまた、G13VがAPR配列の長さおよびTANGOスコアの両方を増大させるため、非常に大規模である。
【0231】
これらのデータに基づいて、本発明者らは、RAS WTまたはG12V選択的pept-inの設計のための、RASのWTおよびG12VのAPRを、干渉物(interferor)技術を使用してG12またはG13変異型ヒトRASを特異的に標的化する実現可能性を示す実施形態として選択した。
【0232】
この目的のために、本発明者らは、スライディングウィンドウアプローチを使用して、APRの配列に基づいて、全ての考えられる6~10mer(本実験において、10アミノ酸という長さの限界は、固相合成の長さのキャパシティーによって得られた)を作製した。次に、得られた「APRウィンドウ」を完全ヒトプロテオームとアラインして、RASファミリーメンバーよりも他のタンパク質において正確なマッチを有する配列を排除して、これらの配列を含有するpept-inのオフターゲット活性を制限した。このフィルタリングステップで38個のAPRウィンドウが得られ、これらウィンドウを、本発明者らのpept-in設計においてさらに採用した。設計では、本発明者らは、APRウィンドウが1回反復し、リンカーによって離されている、以前に作り出されたタンデムリピート立体構造(WO2012/123419A1を参照されたい)を採用した。最初のスクリーニングライブラリーの設計に、本発明者らは、GSリンカーおよびPPリンカーの両方を有するバリアントを含めた。さらに、これらの凝集配列のコロイド安定性を増大させるために、pept-in内のAPRウィンドウの各リピートに隣接してゲートキーパー残基を導入した。2つの正に荷電した(アルギニン(R)およびリシン(K))ならびに1つの負に荷電した(アスパラギン酸塩(D))アミノ酸を選択し、スクリーニングライブラリーに導入した。異なるゲートキーパー残基およびリンカーを有する、得られたpept-in鋳型の概要を、表8に示す。K-APR-KGSK-APR-K鋳型を全てのAPRウィンドウに適用し、一方で、他の鋳型を、8アミノ酸長までの全てのAPRウィンドウに適用した。
【0233】
【0234】
設計された全てのpept-inは固相合成を使用して生成されたが、しかし、いくつかの配列では、合成または精製が品質基準(純度>95%)を満たすことができず、したがって、さらなる分析から排除された。合成および精製が成功したpept-inを6Mの尿素中に溶解して5mMのストックとし、それらの生物活性について試験した。
【0235】
実施例2:RAS標的化pept-inの活性のスクリーニング
RAS変異型腫瘍細胞の生存能力に対するpept-inの活性を評価するために、本発明者らは、KRASにおけるG12V突然変異を有する接着性のNCI-H441肺腺癌細胞を使用した。この細胞系が実際にその成長についてKRASに依存していたことを確認するために、本発明者らは、SAH-SOS-1Aを陽性対照として使用した。SAH-SOS-1Aはペプチド化合物であり、その設計は、KRASの正規のグアニン交換因子であるson of sevenless 1の安定なヘリックスに基づく(Leshchinerら、Proc Natl Acad Sci USA.2015、第112巻(6)、1761~6)。SAH-SOS-1AでのNCI-H441細胞の処理は、生存能力の用量依存的な低下をもたらし、4日間の曝露の後のIC50は約15μMであり、これは、他の細胞系について報告された値と一致しており、NCI-H441細胞系がKRAS依存性であることを立証した。本発明者らはまた、NCI-H441細胞の尿素耐性についても試験し、4日間の曝露の後に、60mMまでの尿素では生存能力に対する顕著な影響はないことが分かった。
【0236】
pept-inを25μMの単回用量(30mMの尿素最終濃度に対応する)でスクリーニングし、2日間および4日間の曝露の後に、CellTiter Blue試薬を使用して生存能力を測定した。4日間の曝露の後、試験した全てのK-APR-KGSK-APR-K pept-inの半分超(約52%)が、媒体で処理された細胞(30mMの尿素、
図1A)と比較して、生存能力の少なくとも25%の低減を誘導した。試験した他の鋳型のヒット率および効力は著しく低かった。さらなる特徴付けのための強力なヒットを選択するために、本発明者らは、4日間の曝露の後に生存能力の少なくとも75%の低下を示した全てのpept-inを選択した。このカットオフによって5つのpept-inが選択され、これらの全ては、K-APR-KGSK-APR-K鋳型:04-004-N001、04-006-N001、04-014-N001、04-015-N001、および04-033-N001を有している。これらのpept-inの1つ(04-004-N001)は、RASの別のAPRに由来するAPRウィンドウ配列を有しており、このウィンドウ配列はしたがって、G12突然変異体および野生型RASの両方に存在し、その一方、他の4つのpept-in(04-006-N001、04-014-N001、04-015-N001、および04-033-N001)は、G12V突然変異部位に由来しこの部位を含む、APRウィンドウ配列を有する。さらに、本発明者らは、後のアッセイにおいて陰性対照として使用するための、1つの生物学的に不活性なペプチド(04-016-N001)を選択した。このpept-inは、RAS G12Vを標的化するように設計された7merのAPRウィンドウを有するが、NCI-H441細胞の生存能力を変えることはできなかった。
【0237】
前述のpept-inの配列を表6に示す。
【0238】
【0239】
本明細書の他の箇所でも示されるように、表6に示すpept-in 04-004-N001のアミノ酸配列は配列番号69に割り当てられ、一方、pept-in 04-006-N001、04-014-N001、04-015-N001、および04-033-N001のアミノ酸配列は、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20としてそれぞれ表される。表6の「Ac」はN末端のアセチル化を示し、表6の「NH2」はC末端のアミド化を示す。
【0240】
これらの6つのpept-inを再合成および精製して、接着的に成長している(「2D生存能力アッセイ」)NCI-H441細胞の生存能力を用量応答で低減させるそれらの効力を試験した。この目的のために、pept-inを、接着的に成長しているNCI-H441細胞に対して、最大用量として50μMから開始した2倍連続希釈物を使用して、5つのポイントの用量応答で試験した。生存能力を、試験化合物への曝露の3日後に、CellTiter Glo生存能力アッセイを使用して評価した。この分析は、5つの活性化合物が全て、およそ10μMのIC
50を示すことを示した(
図2)。
【0241】
KRAS変異細胞系の接着性の成長がKRASの阻害またはノックダウンに対するそれらの感度を弱め得るということが、以前の報告によって報告されているため(Fujita-Satoら、Cancer Res.2015、第75巻、2851~62;Patricelliら、Cancer Discov.2016、第6巻、316~29;Vartanianら、J Biol Chem.2013、第288巻、2403~13)、本発明者らは、接着的に成長しているNCI-H441細胞でのスクリーニングを、同一細胞系の懸濁液スフェロイド培養物でのスクリーニングで補った。この目的のために、NCI-H441細胞を超低接着丸底プレートに播種し、スフェロイドを形成させた。接着性のスクリーニングに関して、本発明者らは、25μMの各試験用pept-inを使用する単回用量アプローチを採用した。スフェロイド培養物の生存能力を、5日間の曝露の後に、PromegaのCellTiter Glo 3D試薬を使用して判定した。このアプローチを使用してのヒット率は、上記の接着性のスクリーニングと比較して著しく低かった(
図1B)。実際、接着の設定では、試験した全てのK-APR-KGSK-APR-K pept-inの半分超が、媒体で処理された細胞と比較して生存能力の少なくとも25%の低減を誘導したが、スフェロイドの設定では、このpept-inのセットのうちで生存能力を25%超低減させたのは、わずか17%であった。さらに、試験した他の鋳型でのヒット率および効力もまた、より低かった。留意すべきこととして、ここでの、強力なヒットへの、接着性のスクリーニングと同一の選択基準の適用、すなわち、5日間の曝露の後に生存能力の少なくとも75%の低下を示したpept-inの選択の結果、スフェロイドの設定で活性を示さなかった04-014-N001を除いて、接着性のスクリーニングにおけるものと同一のpept-inが選択された。
【0242】
次に、懸濁液スフェロイドのアプローチを使用して、KRAS突然変異体および野生型腫瘍細胞系のより大きなセットに対する、4つの活性なpept-inの有効性を評価した。これらの細胞系に対するIC
50の中央値を示す、各pept-inのウォーターフォールプロットを
図3に示す。
【0243】
次に、懸濁液スフェロイドのアプローチを使用して、NCI-H441肺腺癌細胞において、代替的なゲートキーパーおよび/またはリンカー部分を含有する04-004、004-006、04-015、および04-033 pept-inの様々なバージョンの有効性を評価した。各pept-inの用量応答への5日間の曝露の後に、CellTiter Glo 3Dアッセイ(Promega)を使用して、細胞の生存能力に対するIC50を決定した。pept-inおよびそれぞれのIC50値を以下の表7に列挙する(「Ac」はN末端のアセチル化を示し、「NH2」はC末端のアミド化を示し、[Dap]はジアミノピメリン酸を示し、[Cit]はシトルリンを示し、L-アミノ酸は大文字コードを使用して表されており、D-アミノ酸は小文字コードによって表されている)。
【0244】
【0245】
表7は、細胞の生存能力に対する説得力のあるIC50値が、本明細書において開示されている様々な実施形態のpept-inの典型である分子によって実証されていることを示しており、前記pept-inは例えば、それらのゲートキーパーストレッチの1つまたは複数の中に、1つもしくは複数のD-リシン(「k」)、ジアミノピメリン酸(「[Dap]」)、シトルリン(「[Cit]」)、またはL-アラニン(「A」)を含有するpept-in;1つもしくは複数のL-アラニン(「A」)もしくはL-フェニルアラニン(「F」)を含有する、または、それらのリンカー部分の中に1つもしくは複数のD-セリン(「s」)を含有する、またはいかなるリンカー部分も含まないpept-in;ならびに/あるいは全体がD-アミノ酸およびグリシンからなるpept-inである。これらのpept-inは、タンパク質内の凝集傾向のあるストレッチの標的化に焦点を当てた本アプローチの構造的柔軟性を実証している。
【0246】
実施例3:RAS標的化pept-inは、凝集傾向があり、in vitroで直接的な相互作用を介してRASの凝集をシードする
RAS標的化pept-inの凝集挙動を研究するために、本発明者らは、アミロイド凝集センサー色素であるチオフラビンT(ThT)および五量体ホルミルチオフェン酢酸(p-FTAA)を使用して動的着色アッセイを行った。4つの代表的な生物学的に活性なpept-inの全ては、明らかなアミロイド凝集動態を両色素で示し、一方、不活性対照は顕著なThTシグナルを示さず、p-FTAAシグナルのわずかな増大を経時的に示したにすぎなかった(
図4)。
【0247】
例示的な生物学的に活性なpept-inが実際に、それらの標的タンパク質であるKRAS G12Vを標的化し、タンパク質の凝集をシードすることができることを示すために、本発明者らは、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体または超音波処理したシードを用いてシーディング実験を行った。この目的のために、pept-inを着色動的アッセイと同一の時間枠で凝集させた。最終段階の試料を次いで、組換えによって生産されたKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される(
図5)。
【0248】
RAS標的化pept-inがRASタンパク質と直接的に相互作用することを示すために、本発明者らは、in vitroでの翻訳アッセイを設定した。実際、利用可能な構造データによって、RAS APRがネイティブなフォールディングでは曝露され得ないことが示されているため、本発明者らは、タンパク質が翻訳されている間にpept-inとそれらの標的との最初の相互作用がリボソームで生じ、これらのAPRを一時的に曝露させると仮定している。これをin vitroで模倣するために、本発明者らは、ビオチン化されたRAS標的化pept-inの存在下で野生型または変異型KRAS(G12V、G12C、G12D、もしくはG13D)のいずれかを生産するin vitro翻訳設定を考案した。これによって、本発明者らは、ビオチン化されたpept-inを翻訳反応物から捕捉するためのストレプトアビジンでのプルダウンを行うこと、ならびにプルダウンされた画分をKRASの存在について調べるためのSDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングを行うことができた。ビオチン化されたバージョンのpept-in 04-004-N001、すなわち、野生型APRに由来するAPRウィンドウ配列を有する04-004-N011は、全てのRASタンパク質をそれらの突然変異の状態とは無関係に標的化すると予測される。04-004-N011での効率的なプルダウンがKRAS野生型のG12VおよびG12Cで実際に見られたが、G12DおよびG13D突然変異体への結合はあまり効率的ではないと思われた。しかし、G12V突然変異部位を含むAPRウィンドウを有する、ビオチン化されたバージョンの生物学的に活性なpept-in(04-006-N007、04-015-N026、および04-033-N003)を使用すると、顕著なプルダウンはG12V変異型KRASでのみ見られ、04-015-N026のケースでは、G12C変異型KRASでのみ見られた(
図6)。
【0249】
総合すると、これらのデータは、これらの例示的なRAS標的化pept-inがpept-inに存在するAPRウィンドウについての正確なマッチを含有するRASタンパク質と直接的に相互作用し、タンパク質の凝集をシードし得ることを示している。
【0250】
実施例4:RASless MEF系における突然変異体選択的な細胞有効性
細胞有効性に対するRAS突然変異体選択性を、同質遺伝子的なRASlessマウス胚性線維芽細胞(MEF)パネルを使用して評価した。これらのMEFは、KRAS遺伝子も同様にflox化されている(ER-Creによる除去)、NRASヌルマウスおよびHRASヌルマウスに由来する。増殖は、内因性KRAS遺伝子の発現に、または、タモキシフェン処理を介してそれが除去されている場合には、発現している導入遺伝子の発現に依存する。評価対象のパネルは、導入遺伝子(WT、G12V、およびG12C)として発現している一般的な臨床的KRASバリアント、ならびに、増殖をBRAF V600Eの発現に依存する追加の細胞系を含んでいた。後者は、これがいずれのRASアイソフォームも発現しないため、KRAS標的化剤に対して不応性であり、これらの細胞の増殖は、RASの下流にある変異型BRAFに排他的に依存する。
【0251】
スフェロイドとして増殖しているMEFに対するRAS標的化pept-inの有効性を、5日間の曝露の後に評価した。04-004-N001の標的化部分は、野生型RAS配列に由来するAPRウィンドウであるため、これは、突然変異の状態とは無関係に、全てのRAS依存性の増殖を標的化すると予測される。しかし、驚くべきことに、04-004-N001の顕著な増大した有効性が、BRAF V600Eを発現するRASless MEFと同程度の応答であった、KRAS WTおよびG12Cを発現するMEFと比較して、KRAS G12Vを発現するMEFで見られた。
【0252】
G12V標的化RAS pept-inでは、G12Vを発現するRASless MEFを評価した際に最も高い有効性が見られ、このことは、突然変異体選択的な結合が、これらのpept-inによって提示される変異型RASに対する選択性を少なくとも部分的に促進し、前記選択性の主な原因であり得ることを示している。データを
図10に示す。
【0253】
実施例5:RAS標的化pept-inはKRASと相互作用する
RAS標的化pept-inが細胞内の(変異型)KRASタンパク質とも相互作用し得るかどうかを評価するために、本発明者らは、共免疫沈降アッセイを設定した。
【0254】
まず、本発明者らは、KRAS野生型および変異型G12Vを発現するRASless MEFを使用して、(i)RAS標的化pept-inが細胞環境内のKRASタンパク質を結合するかどうか、および(ii)何らかの結合が、実施例4において記載されているin vitroでの翻訳アッセイで見られたものと類似のG12V突然変異体選択性を示すかどうかを評価した。この目的のために、関連するMEF細胞を、25μMのビオチン化されたpept-inで一晩(16時間)処理した。次に、細胞を溶解し、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して、pept-inを溶解物から免疫沈降させた。沈殿した画分を次に、SDS PAGEを使用して分離し、ウェスタンブロットを使用してKRASタンパク質の存在について調べた。結果は、04-004由来のビオチン化されたpept-inが、野生型および変異型G12V KRASの両方を、それぞれのRASless MEF細胞の16時間の処理の後に良く沈殿させると思われることを示している。しかし、ビオチン化されたバージョンのG12V選択的pept-inでの処理および沈殿は、G12V変異型KRASタンパク質への優先的な結合を示した(
図11)。
【0255】
次に、本発明者らは、RAS標的化pept-inがヒト腫瘍細胞への曝露の後にKRASへの結合を示すかどうかを評価した。この目的のために、KRAS G12V変異型NCI-H441肺腺癌細胞を、25μMのビオチン化されたpept-inで一晩(16時間)処理した。次に、細胞を溶解し、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して、pept-inを溶解物から免疫沈降させた。沈殿した画分を次に、SDS PAGEを使用して分離し、ウェスタンブロットを使用してKRASタンパク質の存在について調べた。このアプローチによって、媒体または陰性対照ペプチドで処理した条件の沈殿画分では検出可能なKRASタンパク質は得られなかったが、KRASタンパク質は、生物学的に活性なpept-inで処理したNCI-H441細胞からの沈殿画分では容易に検出された(
図7)。
【0256】
共免疫沈降アプローチを補うために、本発明者らはまた、標的化エンゲージメントを示すための細胞イメージングアプローチも使用した。この目的のために、本発明者らは、mCherryでタグ付けされたKRAS G12Vを過剰発現するHeLa細胞系およびFITC標識されたバージョンのRAS標的化pept-inを作成した。これらのHeLa細胞の処理は、FITC標識されたバージョンの全ての生物学的に活性なRAS標的化pept-inが細胞によって容易に取り込まれ、その一方、FITC標識されたバージョンの陰性対照pept-in 04-016-N001の取込みは検出不可能であったことを示し、したがって、生物活性の欠如を説明している。さらに、この分析は、FITC標識されたpept-inでの処理の75分後に、FITCおよびmCherryの両方が陽性である封入様核周囲構造の出現によって明らかにされた通り、細胞内に侵入した直後に、FITC標識されたバージョンのRAS標的化pept-in 04-015-N001(04-015-N032)が、mCherry標識されたKRASと結び付くことを示した(
図8)。
【0257】
実施例6:RAS標的化pept-inは、細胞におけるその凝集および分解を促進する
RAS標的化pept-inでの腫瘍細胞の処理が、細胞死を誘導する前にタンパク質凝集を誘導するかどうかを評価するために、細胞死をタンパク質凝集と並行してモニタリングするためのフローサイトメトリーアッセイを考案した。この目的のために、NCI-H441細胞を、ほぼIC
50用量のRAS標的化pept-in(12.5μM)または対照条件(媒体および陰性対照pept-in)で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、Sytox(商標)Blue色素を使用して細胞死について、およびAmytracker(商標)Red色素を使用して(アミロイド様)タンパク質凝集体の存在について染色した。この分析は、媒体および対照pept-inで処理された細胞では、実験の過程で、顕著な細胞死もタンパク質凝集も見られなかったことを示した。しかし、RAS標的化pept-inで処理すると、タンパク質凝集は容易に検出され、経時的に進行することが分かった。さらに、タンパク質凝集のこの増大は、細胞死の緩やかな増大と並行し、タンパク質凝集の発生に次いで生じるものであると考えられた(
図12)。
【0258】
上記のフローサイトメトリーアッセイでは、観察されたタンパク質凝集が影響力のあるKRASであったかどうかについての粒状性が得られないため、本発明者らは、溶解性分画アッセイにおいてKRAS凝集を評価することを目指した。この目的のために、NCI-H441細胞を、およそのIC50用量(12.5μM)およびおよその2×IC50用量(25μM)で24時間処理した。処理の後、穏やかな非変性緩衝剤を使用して細胞を溶解し、この緩衝剤に不溶性であったタンパク質を遠心分離によってペレット化した。不溶性タンパク質を次に、強力なカオトロピック剤、すなわち6Mの尿素を使用して可溶化した。このアプローチを使用すると、アミロイド(様)凝集体は最終的に不溶性画分となることが予想される。可溶性画分および不溶性画分の両方を、SDS PAGEを使用して分離し、その後のウェスタンブロットにおいて、KRASおよびGAPDHについて調べた。この分析は、全ての生物学的に活性なRAS標的化ペプチドが、不溶性画分中のKRASのパーセンテージを用量依存的に増大させ、一方、不溶性KRASのパーセンテージは媒体および陰性対照ペプチドで処理した試料の間で同等であったことを示し、このことは、pept-in処理が実際に、KRAS標的タンパク質の凝集をもたらすことを示している。これらの所見を補うために、本発明者らはまた、これらの試料における総KRASレベル(すなわち、各処理での可溶性画分および不溶性画分におけるKRASレベルの合計)を定量した。これらのデータの分析は、総KRASレベルもまた、生物学的に活性なRAS標的化pept-inで処理した試料において用量依存的に低減することを示した(
図9)。
【0259】
総合すると、これらのデータは、pept-inで処理した際の不溶性KRASタンパク質の増大によって証明されるように、細胞においても、生物学的に活性なRAS標的化pept-inがそれらの目的の標的タンパク質であるKRASと相互作用し、その凝集を誘導し得ることを示している。さらに、具体的なメカニズムに限定する意図は全くないが、おそらく、凝集の次に生じる結果として、総KRASレベルもまた、活性なpept-inでの処理の後に低減する。
【0260】
実施例7:RAS標的化pept-inは、KRAS G12V変異型がんの異種移植モデルにおける腫瘍成長を低減させる
RAS標的化pept-inが、in vivoで、KRAS G12Vによって促進される腫瘍の成長を弱め得るかどうかを評価するために、ヒトKRAS G12V結腸直腸がんの皮下異種移植モデル(SW620)を使用した。腫瘍が100~150mm
3のサイズに達したら、pept-inを、2つの異なる用量(20μgおよび200μg)で2週間、週に3回、腫瘍内注射することによって腫瘍塊に直接投与した。G12V選択的なRAS APRウィンドウ配列を有するpept-in(04-006-N001、04-015-N001、および04-033-N001)のセットのうち、04-015-N001が腫瘍成長の最も強い低減を誘導し、このことは、処理開始後22日目の、20μgおよび200μgの投与群の両方での平均腫瘍体積の著しい低減によって証明された。さらに、腫瘍成長の類似の低減が、野生型RAS APRウィンドウ配列を有する04-004-N001で見られたが、200μgの投与群でのみ有意であった(
図13)。
【0261】
実施例8:ITK R29LおよびR29C変異体を標的化するPept-in
ITK(チロシンプロテインキナーゼITK/TSK、Swissprot/UniProt受託番号Q08881、配列バージョン1)の単一のアミノ酸置換変異体(R29LおよびR29C)は、野生型ITKタンパク質と比べて、突然変異により長くなり増加したTANGOスコアも示すAPRを含む(下の表を参照、横列1~3の配列はそれぞれ配列番号29~31として示される)。
【0262】
【0263】
N末端ビオチン化およびC末端アミド化pept-in 22-006-N001、AKVCFFVKGSKVCFFVK(配列番号32)、および22-018-N001、AKVLFFVKGSKVLFFVK(配列番号33)は、それぞれR29CおよびR29L ITK変異体に対して設計された。突然変異されたアミノ酸は上の配列では太字で示されている。
【0264】
in vitroでの翻訳アプローチを使用して22-006-N001および22-018-N001 pept-inについて野生型と比べたITK変異体選択的結合を評価した。特に、in vitro翻訳アッセイは、PURExpress(登録商標)In vitroタンパク質合成キット(New England Biolabs)を製造者の指示に従って使用して行った。簡潔に述べると、DYKDDDDK(配列番号68)タグ付きITKコード配列に隣接するT7プロモーターおよび転写終結配列を含有する直鎖状DNA断片を、PCRを使用して作製し、MinElute PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。250ngの直鎖状DNAをその後in vitroでの翻訳反応に使用し、この翻訳反応は振盪しながら(1000rpm)37℃で2時間実施した。示されたビオチン化されたpept-inを、6M尿素中の5mMのストック液から10μMの最終濃度まで、翻訳反応に混合した。翻訳反応が完了すると、ビオチン化されたpept-inは、ストレプトアビジン被覆ビーズ(Pierce)を使用して、90分間、室温で、反応混合液から捕捉した。ビーズを次に0.1%のTween20を含有するTBSで洗浄し、結合したタンパク質を最後にTBS緩衝剤中の1×SDSローディングダイ(Bio-Rad)に煮沸除去した。タンパク質を、SDS-PAGEの間に、Any kD 15ウェルMini-PROTEANゲル(Bio-Rad)を使用して分離し、ウェスタンブロッティング後ウサギ抗DYKDDDDK(配列番号68)タグ抗体(Cell Signaling 14793)を使用してITKについて調べた。
【0265】
図14の棒グラフ中のデータは、それぞれのpept-inについて産生された全タンパク質の結合割合および溶媒条件に対して正規化された標的化タンパク質組合せを示している。野生型と比べた変異体への選択的結合は、22-006-N001と22-018-N001の両方のそれぞれITK R29CおよびR29Lについて観察された。
【配列表】
【国際調査報告】