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特表2023-515150調整可能な低血圧閾値を用いた低血圧予測
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】調整可能な低血圧閾値を用いた低血圧予測
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20230405BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20230405BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
A61B5/022 400L
A61B5/02 310A
A61B5/0215 B
A61B5/022 400F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550981
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 US2021018827
(87)【国際公開番号】W WO2021173445
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】62/981,179
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500218127
【氏名又は名称】エドワーズ ライフサイエンシーズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Edwards Lifesciences Corporation
【住所又は居所原語表記】One Edwards Way, Irvine, CALIFORNIA 92614, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サイ・プラサド・ブディ
(72)【発明者】
【氏名】ブレンナン・マイケル・シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ジョンピン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】フェラス・アル・ハティブ
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AB02
4C017AB03
4C017AC28
4C017BC11
4C017BD01
4C017DD17
4C017FF05
(57)【要約】
血行動態モニタリングシステムが、患者の動脈血圧を監視し、患者の予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告する。患者の動脈圧波形を表す検知された血行動態データが、血行動態モニタによって受け取られる。受け取った血行動態データは、低血圧の標準的な平均動脈圧(MAP)閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて、調整された血行動態データを作り出すためにオフセットされる。調整された血行動態データの波形分析が行われ、患者の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアが、波形分析に基づいて決定される。リスクスコアが所定のリスク基準を満たしたことに応答して、感覚信号を作り出すために感覚アラームが呼び出される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の動脈圧をモニタリングし、前記患者の予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告するための方法であって、
血行動態モニタによって、前記患者の動脈圧波形を表す検知された血行動態データを受け取るステップと、
前記血行動態モニタによって、調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的な平均動脈圧(MAP)閾値と、低血圧の前記標準的なMAP閾値とは異なる低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて、前記受け取った血行動態データをオフセットするステップと、
前記血行動態モニタによって、前記調整された血行動態データの波形分析を行うステップと、
前記血行動態モニタによって前記調整された血行動態データの前記波形分析に基づいて、前記患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するステップと、
前記血行動態モニタによって、前記リスクスコアが所定のリスク基準を満たしたことに応答して、感覚信号を作り出すために感覚アラームを呼び出すステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記受け取った血行動態データをオフセットするステップが、低血圧の前記標準的なMAP閾値と前記調整されたMAP閾値との前記差を、前記受け取った血行動態データに加算するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低血圧の前記標準的なMAP閾値と前記調整されたMAP閾値との前記差を、前記受け取った血行動態データに加算するステップが、以下の式に従って、低血圧の前記標準的なMAP閾値と前記調整されたMAP閾値との前記差を、前記受け取った血行動態データに加算するステップを含み、
f'(t)=f(t)+(θ-θ')
ただし、f'(t)は前記調整された血行動態データであり、
f(t)は前記受け取った血行動態データであり、
θは低血圧の前記標準的なMAP閾値であり、
θ'は低血圧の前記調整されたMAP閾値である、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記調整された血行動態データの前記波形分析を行うステップが、前記患者についての前記未来の低血圧事象を予測する複数の低血圧プロファイリングパラメータを決定するために、前記調整された血行動態データの前記波形分析を行うステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記患者についての前記未来の低血圧事象の前記確率を表す前記リスクスコアを決定するステップが、前記リスクスコアを決定するために、複数のリスク係数を前記複数の低血圧プロファイリングパラメータに適用するステップを含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のリスク係数が、前記標準的なMAP閾値に基づいて決定される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者についての前記未来の低血圧事象を予測する前記複数の低血圧プロファイリングパラメータを決定するために前記調整された血行動態データの前記波形分析を行うステップが、
前記調整された血行動態データからバイタルサインパラメータを取得するために、前記調整された血行動態データの前記波形分析を行うステップと、
前記バイタルサインパラメータの1つもしくは複数に基づいて差分パラメータを導出するステップと、
前記バイタルサインパラメータの1つもしくは複数および/または前記差分パラメータの1つもしくは複数を使用して組合せパラメータを生成するステップと
を含み、
前記複数の低血圧プロファイリングパラメータが、前記バイタルサインパラメータ、前記差分パラメータ、および前記組合せパラメータのうちの1つまたは複数を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記バイタルサインパラメータが、一回拍出量、心拍数、呼吸、および心収縮性のうちの1つまたは複数を含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記バイタルサインパラメータの1つまたは複数に基づいて前記差分パラメータを導出するステップが、時間に関して、周波数に関して、または他のバイタルサインパラメータに関して、前記バイタルサインパラメータの前記1つまたは複数における変動を表すために前記差分パラメータを導出するステップを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組合せパラメータを生成するステップが、バイタルサインパラメータの組合せ、差分パラメータの組合せ、または少なくとも1つのバイタルサインパラメータと少なくとも1つの差分パラメータの組合せとして、前記組合せパラメータを生成するステップを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記血行動態モニタによって、前記血行動態モニタのユーザインターフェースを介して低血圧の前記調整されたMAP閾値を受け取るステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
患者の動脈圧をモニタリングし、予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告するためのシステムであって、
前記患者の動脈圧波形を表す血行動態データを作り出す血行動態センサーと、
予測重み付けモジュールを含む低血圧予測ソフトウェアコードを記憶するシステムメモリと、
前記患者が低血圧状態に入るより前に、前記予測される未来の低血圧事象を前記医療関係者に警告するために感覚信号を提供する感覚アラームを含むユーザインターフェースと、
ハードウェアプロセッサであって、
調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて前記患者の前記動脈圧波形を表す前記血行動態データをオフセットすることと、
前記調整された血行動態データの波形分析を行うことと、
前記予測重み付けモジュールを使用して、前記調整された血行動態データの前記波形分析に基づいて、前記患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定することと、
前記リスクスコアが所定のリスク基準を満たしたことに応答して、前記ユーザインターフェースの前記感覚アラームを呼び出すことと
を行う前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成されたハードウェアプロセッサと
を備える、システム。
【請求項13】
前記ハードウェアプロセッサが、低血圧の前記標準的なMAP閾値と前記調整されたMAP閾値との前記差を前記血行動態データに加算することによって、前記血行動態データをオフセットするために前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成される、
請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記ハードウェアプロセッサが、以下の式に従って、低血圧の前記標準的なMAP閾値と前記調整されたMAP閾値との前記差を前記血行動態データに加算する前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成され、
f'(t)=f(t)+(θ-θ')
ただし、f'(t)は前記調整された血行動態データであり、
f(t)は前記血行動態データであり、
θは低血圧の前記標準的なMAP閾値であり、
θ'は低血圧の前記調整されたMAP閾値である、
請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記ハードウェアプロセッサが、前記患者についての前記未来の低血圧事象を予測する複数の低血圧プロファイリングパラメータを決定することによって、前記調整された血行動態データの前記波形分析を行う前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成される、
請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
前記ハードウェアプロセッサが、前記リスクスコアを決定するために、前記予測重み付けモジュールを使用して、複数のリスク係数を前記複数の低血圧プロファイリングパラメータに適用することによって、前記患者についての前記未来の低血圧事象の前記確率を表す前記リスクスコアを決定する前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成される、
請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記複数のリスク係数が、前記標準的なMAP閾値に基づいて決定される、
請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記ハードウェアプロセッサが、前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行して、
前記調整された血行動態データからバイタルサインパラメータを取得するために前記調整された血行動態データの前記波形分析を行うことと、
前記バイタルサインパラメータの1つもしくは複数に基づいて差分パラメータを導出することと、
前記バイタルサインパラメータの1つもしくは複数および/または前記差分パラメータの1つもしくは複数を使用して組合せパラメータを生成することと
を行う前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行することによって、前記患者についての前記未来の低血圧事象を予測する前記複数の低血圧プロファイリングパラメータを決定するように構成され、
前記複数の低血圧プロファイリングパラメータが、前記バイタルサインパラメータ、前記差分パラメータ、および前記組合せパラメータのうちの1つまたは複数を含む、
請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記バイタルサインパラメータが、一回拍出量、心拍数、呼吸、および心収縮性のうちの1つまたは複数を含む、
請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記ハードウェアプロセッサが、時間に関して、または周波数に関して、または他のバイタルサインパラメータに関して、前記バイタルサインパラメータの1つもしくは複数における変動を表すために前記差分パラメータを導出することによって前記バイタルサインパラメータの1つもしくは複数に基づいて前記差分パラメータを導出する前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成される、
請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記ハードウェアプロセッサが、前記低血圧予測ソフトウェアコードを実行して、バイタルサインパラメータの組合せ、差分パラメータの組合せ、または少なくとも1つのバイタルサインパラメータと少なくとも1つの差分パラメータの組合せとして前記組合せパラメータを生成することによって前記組合せパラメータを生成するように構成される、
請求項18に記載のシステム。
【請求項22】
前記血行動態センサーが、前記患者の末端部に取り付け可能な非侵襲血行動態センサーである、
請求項12に記載のシステム。
【請求項23】
前記血行動態センサーが、最小侵襲動脈カテーテルをベースとする血行動態センサーである、
請求項12に記載のシステム。
【請求項24】
前記血行動態センサーが、前記患者の前記動脈圧波形を表すアナログ血行動態センサー信号として前記血行動態データを作り出す、
請求項12に記載のシステム。
【請求項25】
前記アナログ血行動態センサー信号を、前記患者の前記動脈圧波形を表すデジタル血行動態データに変換するアナログ-デジタル変換器
をさらに備える、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記ユーザインターフェースが、低血圧の前記調整されたMAP閾値のユーザ入力を可能にする制御要素をさらに含む、
請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、動脈圧モニタリングに関し、より詳細には、調整可能な低血圧閾値を用いた低血圧の予測に関する。
【背景技術】
【0002】
低血圧、または低い血圧は、手術を受けている患者および集中治療室(ICU)において治療を受けている急性期または重症の患者の場合、深刻な医学的合併症、およびまさに死の前触れである可能性がある。患者における低血圧の発生と関連する危険は、低血圧自体によって引き起こされる潜在的損傷と、低血圧の発生がその兆しとなり得る多くの深刻な基礎内科障害の両方に起因するものである。
【0003】
本来、外科患者または重症患者における低血圧は、深刻な病状である。たとえば、手術室(OR)の環境では、外科手術中の低血圧は、死亡率の上昇および臓器障害と関連付けられる。外科手術中の極度の低血圧は短期間でも、急性腎障害および心筋障害と関連する。重症患者のうち、緊急挿管後に低血圧を体験した患者では院内死亡率がほぼ2倍になり得る。外科患者および重症患者では同様に、低血圧は、矯正されない場合、臓器灌流を悪くし、不可逆的虚血性損傷、神経学的欠損、心筋症、および腎臓障害につながる可能性がある。
【0004】
外科患者および重症患者にそれ自体で重大な危険を与えることに加えて、低血圧は、1つまたは複数の他の重大な基礎内科疾患の症候である可能性がある。低血圧が急性症候となる場合がある基礎疾患の例には、敗血症、心筋梗塞、心不整脈、肺塞栓、出血、脱水、アナフィラキシー、薬物に対する急性反応、血液量減少、心拍出量不足、および血管拡張性ショックが含まれる。そのような様々な重大な医学的状態との関連に起因して、低血圧は比較的よく起こり、しばしばORおよびICUにおいて患者悪化の最初のサインの1つとして見られる。
【0005】
ORおよびICUの環境における低血圧についての従来の患者モニタリングは、連続的または定期的な血圧測定を含むことができる。しかしながら、そのようなモニタリングは、連続的であろうと定期的であろうと、一般にただリアルタイムの評価を与えるにすぎない。結果として、外科患者または重症患者における低血圧は、通常、それが発生し始めた後にのみ検出され、治療手段および介入は、患者が低血圧状態に入るまで開始されない。上述のように、極度の低血圧が、場合によっては破滅的な医学的結果を極めて速く有する可能性があるが、比較的軽症レベルの低血圧でさえも、心臓予備力が限られている患者では心停止を予告するまたは突如引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低血圧がORおよびICUの環境において発生することが観測される頻度に鑑み、また低血圧が発生するとき生じる可能性がある、重大かつ時には緊急の医学的結果により、未来の低血圧事象を、それの発生前に、予測可能にする解決策が大いに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一例では、患者の動脈圧をモニタリングし、患者の予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告するための方法が、血行動態モニタによって、患者の動脈圧波形を表す検知された血行動態データを受け取るステップを含む。方法は、血行動態モニタによって、調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて、受け取った血行動態データをオフセットするステップをさらに含む。方法は、血行動態モニタによって、調整された血行動態データの波形分析を行うステップと、血行動態モニタによって調整された血行動態データの波形分析に基づいて、患者の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するステップと、血行動態モニタによって、リスクスコアが所定のリスク基準を満たしたことに応答して感覚信号を作り出すために感覚アラームを呼び出すステップとをさらに含む。
【0008】
別の例では、患者の動脈圧をモニタリングし、予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告するためのシステムが、血行動態センサーと、システムメモリと、ユーザインターフェースと、ハードウェアプロセッサとを含む。血行動態センサーは、患者の動脈圧波形を表す血行動態データを作り出す。システムメモリは、予測重み付けモジュールを含む低血圧予測ソフトウェアコードを記憶する。ユーザインターフェースは、患者が低血圧状態に入るより前に予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告するために感覚信号を提供する感覚アラームを含む。ハードウェアプロセッサは、調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的な平均動脈圧(MAP)閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて患者の動脈圧波形を表す血行動態データをオフセットするために低血圧予測ソフトウェアコードを実行するように構成される。ハードウェアプロセッサは、調整された血行動態データの波形分析を行い、予測重み付けモジュールを使用して、調整された血行動態データの波形分析に基づいて、患者の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するために、低血圧予測ソフトウェアコードを実行するようにさらに構成される。ハードウェアプロセッサは、リスクスコアが所定のリスク基準を満たしたことに応答して、ユーザインターフェースの感覚アラームを呼び出すために低血圧予測ソフトウェアコードを実行するようにさらに構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定する例示的な血行動態モニタの斜視図である。
図2】患者の動脈圧を表す血行動態データを検知するための例示的な最小侵襲圧力センサーの斜視図である。
図3】患者の動脈圧を表す血行動態データを検知するための例示的な非侵襲センサーの斜視図である。
図4】低血圧の標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて調整された血行動態データに基づいて患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定する例示的な血行動態モニタリングシステムを示すブロック図である。
図5A】患者における未来の低血圧の確率に対応する例示的なしるしを含む動脈圧波形の例示的なトレースを示すグラフである。
図5B】低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいてオフセットされた、調整された動脈圧波形の例示的なトレースを示すグラフである。
図6】低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて調整された血行動態データを使用して未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するための血行動態モニタリングシステムの例示的な動作を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で説明するように、血行動態モニタリングシステムが、患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを作り出す予測リスクモデルを実装する。リスクスコアは、未来の低血圧事象を予測する複数の低血圧プロファイリングパラメータの重み付き組合せに基づいて決定される。重み付けを実装するリスク係数が、65水銀柱ミリメートル(mmHg)または他の定義された圧力閾値などの、低血圧の標準的な(または定義された)平均動脈圧(MAP)閾値に基づいて選択される。リスク係数および/または低血圧プロファイリングパラメータの選択は、低血圧の標準的なMAP閾値に従って低血圧を定義するトレーニングサブセットの真値に対する予測リスクモデル出力の誤差を表すコスト関数を最小にするように、機械学習または他の技法を使用して予測リスクモデルのトレーニング(たとえば、オフライントレーニング)によって遂行され得る。
【0011】
本開示の技法によれば、血行動態モニタリングシステムは、変更された低血圧圧力閾値を表すために低血圧の調整可能なMAP閾値を利用することができる。調整可能な(たとえば、ユーザ定義またはそれ以外で調整の)MAP閾値に対応するように予測リスクモデルを(再トレーニングまたはそれ以外によって)変更するのではなく、低血圧モニタリングシステムは、患者の検知された動脈圧波形を表す血行動態データを調整する。すなわち、低血圧の変更された定義(すなわち、調整されたMAP閾値)に基づいて新しいリスク係数および/または血行動態プロファイリングパラメータを決定するために、予測リスクモデルの再トレーニングまたは他の変更を必要とするのではなく、血行動態モニタリングシステムは、標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて入力信号(すなわち、患者の動脈圧波形を表す検知された血行動態データ)を調整する。未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するために、調整された血行動態データ上で波形分析が行われる。
【0012】
したがって、本開示の技法を実装する血行動態モニタリングシステムは、予測リスクモデルへの再トレーニングまたは他の変更を必要とせずに、低血圧の調整可能な圧力閾値を利用することができ、それによって、たとえば手術室(OR)、集中治療室(ICU)、または他の患者ケア環境において手術中に低血圧閾値へのリアルタイムの更新を可能にする。したがって、このシステムは、変更された低血圧閾値の使用を是認することができる医療関係者のトレーニングおよび/または体験も活用しながら、適時の、効果的な介入を可能にするために患者の未来の低血圧の確率を表すリスクスコアを提供することができ、それによって患者ケアのための医療関係者によるシステムの有用性を高める。
【0013】
図1は、患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定する血行動態モニタ10の斜視図である。図1に示すように、血行動態モニタ10は、図1の例では、血行動態モニタ10とのユーザ対話を可能にする制御要素(たとえば、グラフィカル制御要素)を含むグラフィカルユーザインターフェースを提示するディスプレイ12を含む。血行動態モニタ10は、以下でさらに説明するように、1つまたは複数の血行動態センサーなどの1つまたは複数の周辺構成要素との有線接続(たとえば、電気および/または通信接続)のために構成された複数の入力および/または出力(I/O)コネクタもまた含むことができる。たとえば、図1に示すように、血行動態モニタ10は、I/Oコネクタ14を含むことができる。図1の例は、5つの別個のI/Oコネクタ14を示しているが、他の例では、血行動態モニタ10は5個よりも少ないI/Oコネクタまたは5個よりも多いI/Oコネクタを含む可能性があることを理解されたい。さらに他の例では、血行動態モニタ10は、I/Oコネクタ14を含まない場合があるが、むしろ様々な周辺デバイスとワイヤレスに通信する場合がある。
【0014】
以下でさらに説明するように、血行動態モニタ10は、1つまたは複数のプロセッサと、患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを作り出すように実行可能である低血圧予測ソフトウェアコードを記憶するコンピュータ可読メモリとを含む。たとえば、血行動態モニタ10は、たとえばI/Oコネクタ14を介して血行動態モニタ10に接続された1つまたは複数の血行動態センサーを介して、患者の動脈圧波形を表す検知された血行動態データを受け取ることができる。血行動態モニタ10は、以下でさらに説明するように、受け取った血行動態データを使用して、患者のバイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータ、ならびにこの1つまたは複数のバイタルサインパラメータから導出される差分および組合せパラメータを含むことができる複数の低血圧プロファイリングパラメータを取得するために低血圧予測ソフトウェアコードを実行する。血行動態モニタ10は、患者の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアとなる重み付き組合せを作り出すために、低血圧プロファイリングパラメータに複数のリスク係数を適用する低血圧予測ソフトウェアコードをさらに実行する。以下でさらに詳細に説明するように、複数のリスク係数は、65mmHgまたは他の定義された圧力閾値などの、標準的な平均動脈圧(MAP)閾値に基づいて決定することができる。
【0015】
本明細書で説明するように、血行動態モニタ10は、低血圧の調整されたMAP閾値をさらに利用することができ、調整されたMAP閾値は、低血圧予測ソフトウェアコードによって利用される係数が決定されるもとになる標準的なMAP閾値からの偏差を表す。たとえば、血行動態モニタ10は、物理的制御(たとえば、ボタン、つまみ、または他の物理的入力制御)によって受け取られる入力が可能であるが、低血圧の調整されたMAP閾値のユーザ入力を可能にするグラフィカル制御要素を(たとえば、ディスプレイ12に提示されるグラフィカルユーザインターフェースに)提示することができる。
【0016】
たとえば、図1に示すように、血行動態モニタ10は、ディスプレイ12にグラフィカルユーザインターフェースを提示することができる。ディスプレイ12は、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、またはグラフィカル形態でユーザに情報を提供するのに適している他のディスプレイデバイスとすることができる。図1の例などのいくつかの例では、ディスプレイ12は、タッチジェスチャー、スクロールジェスチャー、ズームジェスチャー、スワイプジェスチャー、または他のジェスチャー入力などの、ジェスチャーの形態でユーザ入力を受け取るように構成されたタッチ感知および/または存在感知ディスプレイデバイスとすることができる。血行動態モニタ10は、絶対圧力(たとえば、MAP閾値)、偏差値(たとえば、標準的なMAP閾値からの偏差)、またはいくつかの例では医療関係者などによるユーザ定義であることがある調整されたMAP閾値の他の表示などの、調整されたMAP閾値のユーザ入力を可能にする制御要素を提示する。
【0017】
血行動態モニタ10は、調整されたMAP閾値を受け取ったことに応答して、以下でさらに説明するように、調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて患者の動脈圧波形を表す血行動態データをオフセットする。血行動態モニタ10は、標準的なMAP閾値に基づいて決定されたリスク係数を使用して患者についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するために低血圧予測ソフトウェアコードを実行する。血行動態モニタ10は、リスクスコアが所定のリスク基準を満たすとの決定に応答して、可聴アラーム、触覚アラーム、または他の感覚アラームなどの感覚アラームを呼び出すことができる。
【0018】
したがって、血行動態モニタ10は、患者が低血圧状態に入るより前に患者の予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告することができる。さらに、調整されたMAP閾値に基づく新しいリスク係数を決定するために低血圧予測ソフトウェアコードの再トレーニングまたは他の変更を必要とするのではなく、血行動態モニタ10は、標準的なMAP閾値に基づいて決定されたリスク係数を使用してリスクスコアを決定することができる。したがって、本開示の技法が、医療関係者のトレーニングおよび専門知識に基づくことができる調整されたMAP閾値への動的適合を可能にすることによって血行動態モニタ10の有用性を高める。
【0019】
図2は、患者の動脈圧を表す血行動態データを検知するために患者に取り付けることができる血行動態センサー16の斜視図である。図2に示す血行動態センサー16は、たとえば、患者の腕に挿入される橈骨動脈カテーテルによって患者に取り付けることができる最小侵襲血行動態センサーの一例である。他の例では、血行動態センサー16は、患者の脚に挿入される大腿動脈カテーテルによって患者に取り付けることができる。
【0020】
図2に示すように、血行動態センサー16は、ハウジング18と、流体投入ポート20と、カテーテル側流体ポート22と、I/Oケーブル24とを含む。流体投入ポート20は、管材または他の水圧接続によって、生理食塩水バッグまたは他の流体投入源などの流体源に接続されるように構成される。カテーテル側流体ポート22は、管材または他の水圧接続によってカテーテル(たとえば、橈骨動脈カテーテルまたは大腿動脈カテーテル)に接続されるように構成され、カテーテルは、患者の腕に(すなわち、橈骨動脈カテーテル)または患者の脚に(すなわち、大腿動脈カテーテル)挿入される。I/Oケーブル24は、たとえば、I/Oコネクタ14(図1)の1つまたは複数を介して、血行動態モニタ10に接続するように構成される。血行動態センサー16のハウジング18には、1つまたは複数の圧力変換器と、通信回路と、処理回路と、I/Oケーブル24を介して血行動態モニタ10(図1)に送信される患者の動脈圧に対応する流体圧力を検知するための対応する電子構成要素とが入っている。
【0021】
動作時、流体(たとえば、生理食塩水)のカラムが、流体投入ポート20を介して血行動態センサー16を通して流体源(たとえば、生理食塩水バッグ)から、患者に挿入されたカテーテルに向かうカテーテル側流体ポート22に導入される。動脈圧は、流体カラムを通して、流体カラムの圧力を検知する、ハウジング16内にある圧力センサーに伝えられる。血行動態センサー16は、流体カラムの検知した圧力を、圧力変換器を介して電気信号に変換し、対応する電気信号をI/Oケーブル24を介して血行動態モニタ10(図1)に出力する。血行動態センサー16は、したがって、アナログセンサーデータ(またはアナログセンサーデータのデジタル表現)を、患者の動脈圧の実質的に連続した拍動毎のモニタリングを表している血行動態モニタ10(図1)に送信する。
【0022】
図3は、患者の動脈圧を表す血行動態データを検知するための血行動態センサー26の斜視図である。図3に示す血行動態センサー26は、患者の動脈圧を表すデータを検知するために1つまたは複数の指カフによって患者に取り付けることができる非侵襲血行動態センサーの一例である。図3に示すように、血行動態センサー26は、膨張式指カフ28と、心臓基準センサー30とを含む。膨張式指カフ28は、膨張式指カフ28に空気圧で接続されている圧力コントローラ(図示せず)によって制御されるように膨らみかつしぼむように構成された膨張式血圧ブラダーを含む。膨張式指カフ28はまた、指の動脈の変化する容積を測定するために心臓基準センサー30に電気的に接続された光(たとえば、赤外線)送信機および光受信機を含む。
【0023】
動作中、圧力コントローラは、膨張式指カフ28の光送信機および光受信機を介して心臓基準センサー30によって測定される、指の動脈の一定の容積(すなわち、動脈の無負荷の容積)を維持するために、指カフ内の圧力を継続的に調整する。無負荷の容積を継続的に維持するために圧力コントローラによって加えられる圧力は、指の血圧を表すものであり、圧力コントローラによって心臓基準センサー30に伝えられる。心臓基準センサー30は、指の血圧を表す圧力信号を、患者の動脈圧波形を表す血行動態データに変換し、これが、たとえばI/Oコネクタ14(図1)を介して血行動態モニタ10(図1)に送信される。したがって、血行動態センサー26は、患者の動脈圧の実質的に連続した拍動毎のモニタリングを表しているセンサーデータを送信する。
【0024】
図4は、低血圧の標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて調整された血行動態データに基づいて未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定する血行動態モニタリングシステム32のブロック図である。図4に示すように、血行動態モニタリングシステム32は、血行動態モニタ10と、血行動態センサー34とを含む。血行動態モニタリングシステム32は、ICU、ORなどの患者ケア環境、または他の患者ケア環境内に実装され得る。図4に示すように、患者ケア環境は、患者36と、血行動態モニタリングシステム32を利用するように訓練された医療従事者38とを含むことができる。
【0025】
図1に関して上記で説明したように、血行動態モニタ10は、たとえば、システムプロセッサ40、システムメモリ42、ディスプレイ12、アナログ-デジタル(ADC)変換器44、およびデジタルアナログ(DAC)変換器46を含む統合ハードウェアユニットとすることができる。他の例では、血行動態モニタ10のいずれか1つまたは複数の構成要素および/または説明した機能が、複数のハードウェアユニットの間で分散されることがある。たとえば、いくつかの例では、ディスプレイ12が、血行動態モニタ10から離れていて、これと動作可能に結合されている別個のディスプレイデバイスであることがある。一般に、図4の例では統合ハードウェアユニットとして示し、説明しているが、血行動態モニタ10は、本明細書では血行動態モニタ10に帰属する機能を行うために電気的に、通信可能に、または場合によっては動作可能に接続されたデバイスおよび構成要素のどんな組合せも含むことができることを理解されたい。
【0026】
図4に示すように、システムメモリ42は、低血圧予測ソフトウェアコード48を記憶する。低血圧予測ソフトウェアコード48は、予測重み付けモジュール50と、低血圧プロファイリングパラメータ52とを含む。ディスプレイ12は、ユーザインターフェース54を提供し、ユーザインターフェース54は、血行動態モニタ10および/または血行動態モニタリングシステム32の他の構成要素とのユーザ対話を可能にする制御要素56を含む。図4に示すように、ユーザインターフェース54はまた、以下でさらに説明するように、患者36の予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告するために感覚アラーム58を提供する。
【0027】
血行動態センサー34は、患者36の動脈圧波形を表す血行動態データを検知するために患者36に取り付けることができる。血行動態センサー34は、検知された血行動態データを血行動態モニタ10に提供するために、血行動態モニタ10に動作可能に接続される(たとえば、有線もしくはワイヤレス接続または両方によって電気的におよび/または通信可能に接続される)。いくつかの例では、血行動態センサー34は、患者36の動脈圧波形を表す血行動態データを血行動態モニタ10にアナログ信号として提供し、アナログ信号は、ADC44によって、動脈圧波形を表すデジタル血行動態データに変換される。他の例では、血行動態センサー34は、検知された血行動態データを血行動態モニタ10にデジタル形態で提供することができ、この場合血行動態モニタ10は、ADC44を含まない、または利用しないことがある。さらに他の例では、血行動態センサー34は、患者36の動脈圧波形を表す血行動態データを血行動態モニタ10にアナログ信号として提供することができ、アナログ信号は、それのアナログ形態で血行動態モニタ10によって分析される。
【0028】
血行動態センサー34は、患者36に取り付けられる非侵襲または最小侵襲センサーとすることができる。たとえば、血行動態センサー34は、最小侵襲血行動態センサー16(図2)、非侵襲血行動態センサー26(図3)、または他の最小侵襲もしくは非侵襲血行動態センサーの形態をとることができる。いくつかの例では、血行動態センサー34は、手首、腕、指、足首、足指などの患者36の末端部に、または患者36の他の末端部に、非侵襲的に取り付けることができる。したがって、血行動態センサー34は、数分または数時間などの長時間期間にわたって患者36の動脈圧の実質的に継続した拍動毎のモニタリングを提供するために、患者36が長時間装着するのに適している、小さく、軽量で、苦痛のない血行動態センサーの形態をとることができる。
【0029】
いくつかの例では、血行動態センサー34は、最小侵襲方法で患者36の動脈圧を検知するように構成され得る。たとえば、血行動態センサー34は、患者36の腕に挿入される橈骨動脈カテーテルによって患者36に取り付けることができる。他の例では、血行動態センサー34は、患者36の脚に挿入される大腿動脈カテーテルによって患者36に取り付けることができる。そのような最小侵襲技法は同様に、血行動態センサー34が、数分または数時間などの長時間期間にわたって患者36の動脈圧の実質的に継続的な拍動毎のモニタリングを提供することを可能にすることができる。
【0030】
システムプロセッサ40は、低血圧予測ソフトウェアコード48を実行するように構成され、低血圧予測ソフトウェアコード48は、患者36の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを作り出すために、低血圧プロファイリングパラメータ52を利用する予測重み付けモジュール50を実装する。システムプロセッサ40の例は、マイクロプロセッサ、コントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または他の同等の個別もしくは集積論理回路のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0031】
システムメモリ42は、動作中に血行動態モニタ10内の情報を記憶するように構成され得る。システムメモリ42は、いくつかの例では、コンピュータ可読記憶媒体として説明される。いくつかの例では、コンピュータ可読記憶媒体は、非一時的媒体を含むことができる。「非一時的」という用語は、記憶媒体が搬送波または伝播信号において具現化されないことを示すことができる。いくつかの例では、非一時的記憶媒体は、時間とともに変化する可能性があるデータを(たとえば、RAMまたはキャッシュ内に)記憶することができる。システムメモリ42は、揮発性および不揮発性のコンピュータ可読メモリを含むことができる。揮発性メモリの例は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、および他の形態の揮発性メモリを含むことができる。不揮発性メモリの例は、たとえば、磁気ハードディスク、光ディスク、フラッシュメモリ、または電気的プログラマブルメモリ(EPROM)もしくは電気的消去可能プログラマブルメモリ(EEPROM)の形態を含むことができる。
【0032】
ディスプレイ12は、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、またはグラフィカル形態でユーザに情報を提供するのに適している他のディスプレイデバイスとすることができる。ユーザインターフェース54は、ユーザ入力が血行動態モニタ10および/または血行動態モニタリングシステム32の他の構成要素と対話することを可能にするグラフィカルおよび/または物理制御要素を含むことができる。いくつかの例では、ユーザインターフェース54が、たとえば、ディスプレイ12のタッチ感知および/または存在感知ディスプレイ画面に提示されるグラフィカル制御要素を提示するグラフィカルユーザインターフェース(GUI)の形態をとることができる。そのような例では、ユーザ入力を、タッチジェスチャー、スクロールジェスチャー、ズームジェスチャー、または他のジェスチャー入力などの、ジェスチャー入力の形態で受け取ることができる。いくつかの例では、ユーザインターフェース54は、物理的ボタン、キー、つまみ、または血行動態モニタリングシステム32の構成要素と対話するためにユーザ入力を受け取るように構成された他の物理的制御要素などの、物理制御要素の形態をとる、および/またはこれらを含むことができる。
【0033】
動作時、血行動態センサー34は、患者36の動脈圧波形を表す血行動態データを検知する。血行動態センサー34は、血行動態データを(たとえば、アナログセンサーデータとして)、血行動態モニタ10に提供する。ADC44は、アナログ血行動態データを、患者の動脈圧波形を表すデジタル血行動態データに変換する。
【0034】
システムプロセッサ40は、受け取った血行動態データを使用して、患者36についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するために低血圧予測ソフトウェアコード48を実行する。たとえば、システムプロセッサ40は、受け取った血行動態データを使用して、複数の低血圧プロファイリングパラメータ52を取得するために、低血圧予測ソフトウェアコード48を実行することができる。低血圧プロファイリングパラメータ52は、以下でさらに説明するように、患者36のバイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータ、ならびにこの1つまたは複数のバイタルサインパラメータから導出される差分および組合せパラメータを含むことができる。
【0035】
低血圧予測ソフトウェアコード48の予測重み付けモジュール50は、患者36についての未来の低血圧事象の確率に対応するリスクスコアを、低血圧プロファイリングパラメータ52の重み付き組合せに基づいて決定する。すなわち、予測重み付けモジュール50は、リスクスコアとなる重み付き組合せを作り出すために、システムメモリ42に記憶された複数のリスク係数を、低血圧プロファイリングパラメータ52に適用する。リスク係数は、低血圧の標準的なMAP閾値に従って低血圧を定義するトレーニングサブセット(たとえば、複数の患者からのデータの集合体)の真値に対するリスクスコアの誤差を表すコスト関数を最小にするように機械学習または他の技法を使用してトレーニング動作(たとえば、オフライントレーニング)によって決定することができる。すなわち、予測重み付けモジュール50によって利用されるリスク係数は、未来の低血圧事象の予測として低血圧予測ソフトウェアコード48によって決定される予測リスクスコアの誤差を最小にするようにトレーニング動作により選択することができる。未来の低血圧事象を予測するための予測リスクスコアの誤差は、65mmHgまたは他の圧力閾値などの、標準的な(たとえば、定義済みの)MAP閾値に関して低血圧の発生を定義する、正および負のトレーニングデータサブセットに関して評価することができる。
【0036】
本明細書で説明するように、血行動態モニタ10は、ユーザインターフェース54の制御要素56によってユーザ定義のMAP閾値などの、低血圧の調整されたMAP閾値を受け取ることができる。調整されたMAP閾値は標準的なMAP閾値からの偏差を表すことができ、これによって予測重み付けモジュール50が利用するリスク係数が決定される。たとえば医療従事者38によって提供される調整されたMAP閾値は、絶対圧力(たとえば、MAP閾値)、偏差値(たとえば、標準的なMAP閾値からの偏差)、または調整されたMAP閾値の他の表示の形態をとることができる。
【0037】
調整されたMAP閾値を受け取ったことに応答して、低血圧予測ソフトウェアコード48は、調整されたデジタル血行動態データを作り出すために、たとえばユーザインターフェース54を介して受け取ることができる低血圧の標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて、患者36の動脈圧波形を表す血行動態データをオフセットする。たとえば、低血圧予測ソフトウェアコード48は、患者36の動脈圧波形を表す受け取った血行動態データに、標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差を加算することができる。システムプロセッサ40は、調整された血行動態データに基づいて低血圧プロファイリングパラメータ52を決定するために、および標準的なMAP閾値に基づいて決定されたリスク係数を使用して低血圧プロファイリングパラメータ52の重み付き組合せとして予測リスクスコアを決定するために、低血圧予測ソフトウェアコード48を実行する。
【0038】
システムプロセッサ40は、以下でさらに説明するように、リスクスコアが所定のリスク基準を満たすとの決定に応答して、ユーザインターフェース54を介して感覚アラーム58を呼び出すために低血圧予測ソフトウェアコード48を実行する。たとえば、低血圧予測ソフトウェアコード48は、たとえば、1~5分後に、または最高約30分後に発生すると予測される低血圧事象を警告するために感覚アラーム58を呼び出すことができる。感覚アラーム58は、視覚アラーム、可聴アラーム、触覚アラーム、または他のタイプの感覚アラームのうちの1つまたは複数として実装することができる。たとえば、感覚アラーム58は、ディスプレイ12上にユーザインターフェース54によって示される点滅するおよび/または色付きのグラフィックス、ディスプレイ12上のユーザインターフェース54によるリスクスコアの表示、サイレンまたは繰返し音などの警告音、ならびに血行動態モニタ10を振動させる、または場合によっては医療従事者38もしくは他のユーザに知覚可能な物理的衝撃を届けるように構成された触覚アラームなどの任意の組合せとして呼び出すことができる。
【0039】
したがって、血行動態モニタ10は、患者36の予測される未来の低血圧事象を医療関係者に警告し、それによって適時の、効果的な介入が予測される未来の低血圧事象を防ぐことを可能にする。さらに、調整されたMAP閾値に基づいて新しいリスク係数を決定するために予測リスクモデルの再トレーニングを必要とするのではなく、本開示の技法を実装する血行動態モニタ10は、標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差に基づいて、血行動態センサー34から受け取った検知された血行動態データをオフセットする。血行動態モニタ10は、変更されていないリスク係数を使用してリスクスコアを決定するために、調整された血行動態データを利用し、それによって低血圧を定義するMAP閾値への医療関係者によるリアルタイムの更新を可能にする。本明細書で説明する技法はしたがって、血行動態モニタ10がたとえば、患者36についての未来の低血圧事象を予測するために担当医療関係者のトレーニングおよび専門知識に基づくことができるユーザ定義の変更に適合することを可能にすることによって、血行動態モニタ10の有用性を高める。
【0040】
図5Aおよび図5Bは、オフセットより前の(図5A)およびオフセット適用後の(図5B)動脈圧波形の例示的なトレースを示すグラフであり、オフセットは、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて決定される。説明を明瞭かつ容易にするために、図5Aおよび図5Bは、図4の血行動態検知システム32とともに、およびこれを参照しながら以下で説明する。
【0041】
図5Aは、血行動態センサー34によって検知され、血行動態モニタ10によって受け取られた血行動態データに対応する動脈圧波形60Aの例示的なトレースを示すグラフである。図5Bは、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づく低血圧予測ソフトウェアコード48によるオフセットの適用後の動脈圧波形60Aを表す動脈圧波形60Bの例示的なトレースを示すグラフである。
【0042】
図5Aおよび図5Bに示すように、この例では、低血圧予測ソフトウェアコード48は、動脈圧波形60Aに5mmHgのオフセットを適用して、調整された動脈圧波形60Bを作り出す。図5Aおよび図5Bの例では、適用された5mmHgのオフセットは、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との5mmHgの差に対応する。すなわち、図5Aおよび図5Bの例では、低血圧の調整されたMAP閾値が、たとえばユーザインターフェース54の制御要素56を介して提供される。システムプロセッサ40が、血圧予測ソフトウェアコード48を実行して、この例では5mmHgの差に対応する、標準的なMAP閾値(たとえば、65mmHg)と調整されたMAP閾値(たとえば、60mmHg)との差を決定するが、他の差が考えられる(たとえば、5mmHgよりも大きいまたは5mmHgよりも小さい)。システムプロセッサ40によって実行される低血圧予測ソフトウェアコード48は、血行動態波形60Aにオフセットを適用して、血行動態波形60A全体に一貫して5mmHgのオフセットを加算した波形60Aを表す調整された血行動態波形60Bを作り出す。
【0043】
図5Aおよび図5Bの例は、調整された血行動態波形60Bを作り出すために血行動態波形60Aに適用された正のオフセット(すなわち、5mmHgのオフセット)に関して説明しているが、負のオフセットもまた考えられることを理解されたい。たとえば、低血圧の標準的なMAP閾値よりも大きい低血圧の調整されたMAP閾値が(たとえば、ユーザによって)提供される場合、適用されるオフセットは負である。逆に、図5Aおよび図5Bの例に関して説明するように、低血圧の標準的なMAP閾値よりも小さい低血圧の調整されたMAP閾値が(たとえば、ユーザによって)提供される場合、適用されるオフセットは正である。
【0044】
システムプロセッサ40は、調整された動脈圧波形60Bに基づいて低血圧プロファイリングパラメータ52を決定するために低血圧予測ソフトウェアコード48を実行する。予測重み付けモジュール50は、患者36の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定するために、標準的なMAP閾値(たとえば、65mmHg)に基づいて決定されたリスク係数を適用する。
【0045】
図5Bにさらに示すように、調整された血行動態波形60B(たとえば、デジタル血行動態データにより表される)は、患者36の未来の低血圧事象を予測する様々なしるしを含むことができる。図5Bは、例示的なしるし62、64、66、および68を示し、それぞれ患者36の心拍の開始(しるし62)、収縮期の終わりを示す最高収縮期圧(しるし64)、収縮期の終わりを示す重複切痕の存在(しるし66)、および心拍の拡張期(しるし68)に対応する。また図5Bには、調整された動脈圧波形60Bの例示的な傾き「m」を示しているが、傾き「m」は、調整された動脈圧波形60Bに沿った複数の場所で決定され得る複数の傾きを代表しているにすぎないことを理解されたい。
【0046】
患者についての未来の低血圧を予測する追加のしるしは、しるし64における最高収縮期圧からしるし66における拡張期までの区間、ならびにしるし62における心拍の始まりからしるし66における拡張期までの区間などの、様々な区間で調整された血行動態波形60Bの動きに基づいて低血圧予測ソフトウェアコード48によって調整された血行動態波形60Bから抽出することができる。以下の区間の間、すなわち1)収縮立上り62~64、2)収縮減衰64~66、3)収縮期62~66、4)拡張期66~68、5)区間64~68、および6)拍動区間62~68の間の調整された動脈圧波形60Bの動きは、低血圧予測ソフトウェアコード48によって、調整された血行動態波形60Bの曲線の下の面積および区間1~区間6の各々における調整された血行動態波形60Bの標準偏差を決定することによって決定され得る。区間1~区間6に対して決定されたそれぞれの面積および標準偏差は、患者36についての未来の低血圧を予測する追加のしるしとして役立つ可能性がある。
【0047】
したがって、本開示の技法を実装する血行動態モニタ10は、調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて、血行動態センサー34によって検知された受け取った血行動態データをオフセットすることができる。調整されたMAP閾値に基づいて変更されたリスク係数を決定するために低血圧予測ソフトウェアコード48によって実装された予測モデルを再トレーニングまたは場合によっては変更するのではなく、血行動態モニタ10は、低血圧の標準的なMAP閾値に基づいて決定される変更されていないリスク係数で使用するために、入力信号(すなわち、血行動態センサー34から受け取られた血行動態データ)をオフセットすることができる。したがって、血行動態モニタ10は、低血圧のユーザ定義のMAP閾値に対応しながら、変更されていないリスク係数を利用して、患者36についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定することができる。
【0048】
図6は、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて調整された血行動態データを使用して未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定する例示的な動作を示す流れ図である。説明を明瞭かつ容易にするために、例示的な動作について以下では、図4の血行動態モニタリングシステム32のコンテキスト内で説明する。
【0049】
低血圧の調整されたMAP閾値が、血行動態モニタ10によって受け取られる(ステップ70)。たとえば、血行動態モニタ10は、たとえば医療従事者38によって、ユーザインターフェース54の制御要素56を介して提供された低血圧の調整されたMAP閾値を受け取ることができる。血行動態モニタ10は、患者36の動脈圧波形を表す検知された血行動態データを受け取る(ステップ72)。たとえば、血行動態モニタ10は、患者36の動脈圧波形を表すアナログ血行動態センサー信号を血行動態センサー34から受け取ることができる。
【0050】
血行動態モニタ10が、調整された血行動態データを作り出すために、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差に基づいて、受け取った血行動態データをオフセットする(ステップ74)。たとえば、システムプロセッサ40は、標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差を決定するために低血圧予測ソフトウェアコード48を実行することができる。低血圧予測ソフトウェアコード48は、低血圧の標準的なMAP閾値と調整されたMAP閾値との差を受け取った血行動態データに加算することによって、血行動態センサー34から受け取った血行動態データをオフセットすることができる。いくつかの例では、低血圧予測ソフトウェアコード48が、低血圧の標準的なMAP閾値と低血圧の調整されたMAP閾値との差を、以下の式にしたがって加算することができる。
f'(t)=f(t)+(θ-θ') (式1)
ただし、f'(t)は調整された血行動態データであり、f(t)は受け取った血行動態データであり、θは低血圧の標準的なMAP閾値であり、θ'は低血圧の調整されたMAP閾値である。
【0051】
血行動態モニタ10のシステムプロセッサ40は、調整された血行動態データの波形分析を行うために、低血圧予測ソフトウェアコード48を実行する(ステップ76)。たとえば、システムプロセッサ40は、調整された血行動態データの波形分析を行うために、低血圧予測ソフトウェアコード48を実行して、患者36における未来の低血圧を予測する低血圧プロファイリングパラメータ52を取得することができる。低血圧プロファイリングパラメータ52は、患者36のバイタルサインデータを特徴づけるバイタルサインパラメータ、バイタルサインパラメータから導出される差分パラメータ、ならびにバイタルサインパラメータおよび差分パラメータの1つもしくは複数の組合せを表す組合せパラメータのうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0052】
バイタルサインデータを特徴づけるバイタルサインパラメータは、たとえば、一回拍出量、心拍数、呼吸、心収縮力、平均動脈圧、圧反射感度測定、血行動態複雑度測定、周波数領域血行動態特徴、または他のバイタルサインパラメータを含むことができる。圧反射感度測定は、補完的な生理学的プロセス間の関係を定量化する。たとえば、健康な患者における血圧の低下は、一般に、心拍数の増加および/または末梢抵抗の増加によって補われる。バイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータに含まれ得る圧反射感度測定は、患者36が通常の生理的変動に適切に反応している度合いに対応する。
【0053】
血行動態複雑度測定は、時間による心臓測定における規則性の量、ならびにエントロピー、たとえば時間による心臓測定における変動の予測不可能性を定量化する。たとえば、予測不可能な心臓変動は、健康と関連する通常の現象である。極めて低いエントロピー、すなわち時間による心臓測定における高度の規則性および予測不可能な変動の実質的な不在は、差し迫った低血圧事象の重要な警告サインである可能性がある。周波数領域血行動態特徴は、時間ではなく周波数に応じた心機能の様々な測定を定量化する。
【0054】
低血圧予測ソフトウェアコード48は、患者36のバイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータに基づいて差分パラメータをさらに決定することができる。低血圧予測ソフトウェアコード48は、時間に関して、周波数に関して、または1つもしくは複数のバイタルサインパラメータの中からの他のパラメータに関して、1つまたは複数のバイタルサインパラメータの変動を決定することによって、1つまたは複数のバイタルサインパラメータから差分パラメータを導出することができる。結果として、1つまたは複数のバイタルサインパラメータの各々は、低血圧プロファイリングパラメータ52の中に含まれる1つ、2つ、またはいくつかの差分パラメータを生じさせることができる。
【0055】
たとえば、差分パラメータ一回拍出量変動(SVV)は、時間に応じたおよび/またはサンプリング周波数に応じたパラメータ一回拍出量(SV)の変化に基づいて導出することができる。同様に、平均動脈圧(ΔMAP)の変化は、時間および/またはサンプリング周波数に関して差分パラメータとして導出することができる。さらなる例として、時間に関するMAPの変化は、過去5分、10分、または他の継続時間にわたるMAPの平均を、MAPの現在の値から引くことによって導出することができる。
【0056】
低血圧予測ソフトウェアコード48は、1つまたは複数のバイタルサインパラメータおよび導出された差分パラメータを使用して、低血圧プロファイリングパラメータ52に含まれる組合せパラメータを生成することができる。たとえば、組合せパラメータは、1つまたは複数のバイタルサインパラメータおよび差分パラメータを使用して、1つまたは複数のバイタルサインパラメータおよび差分パラメータのサブセットのべき乗組合せを生成することによって、生成することができる。たとえば、組合せパラメータの各々は、3つのパラメータのべき乗組合せとして生成することができ、3つのパラメータは、バイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータおよび/または差分パラメータの中から無作為にまたは意図的に選択され得る。1つまたは複数のバイタルサインパラメータおよび/または差分パラメータの中から選択された3つのパラメータの各々は、指数べきに累乗することができ、同様に指数べきに累乗された他の2つのパラメータと乗算またはこれらに加算することができる。1つもしくは複数のバイタルサインパラメータおよび/または差分パラメータから選択された3つのパラメータの各々が累乗される指数べきは、同じ指数べきとすることができるが、そうである必要はない。
【0057】
いくつかの例では、組合せパラメータの生成は、指数べきの所定の、限られた整数範囲を使用して行われ得る。たとえば、組合せパラメータを生成するために使用される指数べきは、負の2、負の1、ゼロ、1、および2(-2、-1、0、1、2)の中から選択された整数べきとすることができる。したがって、各組合せパラメータは、いくつかの例では、以下の式に従って表すことができる。
【0058】
【数1】
【0059】
ただしYは、バイタルサインデータを特徴づける1つもしくは複数のバイタルサインパラメータの1つまたは差分パラメータの1つであり、nは、2よりも大きい任意の整数であり、a、b、およびcの各々は、-2、-1、0、1、および2のいずれか1つとすることができる。いくつかの例では、上記の式2は、上記で説明した所定の制約を受ける(すなわち、nの値が2より大きい任意の整数であり、a、b、およびcの各々が-2、-1、0、1、および2から成るグループから選択される)、1つまたは複数のバイタルサインパラメータ、差分パラメータ、および異なる差分パラメータを有する1つまたは複数のバイタルサインパラメータの実質的にすべての考えられるべき乗組合せに適用することができる。
【0060】
低血圧プロファイリングパラメータ52は、バイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータと、差分パラメータと、組合せパラメータとを含む。したがって、低血圧予測ソフトウェアコード48は、調整された血行動態データに基づいてバイタルサインデータを特徴づける1つまたは複数のバイタルサインパラメータを識別することと、1つまたは複数のバイタルサインパラメータに基づいて差分パラメータを取得することと、バイタルサインパラメータおよび差分パラメータの1つまたは複数を使用して組合せパラメータを生成することとによって、低血圧プロファイリングパラメータ52を決定する。
【0061】
患者36の未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアが、調整された血行動態データの波形分析に基づいて決定される(ステップ78)。たとえば、システムプロセッサ40は、予測重み付けモジュール50に、低血圧プロファイリングパラメータ52の重み付き組合せリスクスコアを決定させるために、低血圧予測ソフトウェアコード48を実行することができる。予測重み付けモジュール50は、患者36のバイタルサインデータを特徴づけるバイタルサインパラメータ、バイタルサインパラメータから導出された差分パラメータ、および組合せパラメータを含む、低血圧プロファイリングパラメータ52に複数のリスク係数を適用することによって、低血圧プロファイリングパラメータ52の重み付き組合せを決定することができる。予測重み付けモジュール50によって適用される複数のリスク係数は、低血圧の標準的なMAP閾値に関して(たとえば、オフライントレーニングによって)決定することができる。したがって、低血圧予測ソフトウェアコード48が、患者36に取り付けられた血行動態センサーによって検知される血行動態データから導出される低血圧プロファイリングパラメータ52に基づいてリスクスコアを決定するので、低血圧予測ソフトウェアコード48は、患者36についてのリスクスコアを、他の患者における低血圧と直接比較することなく、また患者36以外の患者における低血圧に関する情報を記憶し得る低血圧データベースを直接参照することなく決定することに留意されたい。
【0062】
いくつかの例では予測重み付けモジュール50は、以下の式に従って、患者36についての未来の低血圧事象の確率を表すリスクスコアを決定する。
R=1/(1+e-A) (式3)
ただし、Rはリスクスコアであり、Aは
【0063】
【数2】
【0064】
として表される。
ただし、
v1=CWI、すなわち、患者36の体表面積によってインデックスされる心仕事量、
v2=MAPavg、すなわち平均の平均動脈圧、
v3=ΔMAPavg、すなわち初期状態と比較したときの平均の平均動脈圧MAPavgの変化、
v4=avgSysDec、すなわち収縮期の減衰部分における平均の圧力、
v5=ΔSys、すなわち初期値と比較したときの収縮期圧の変化、
v6=ppAreaNor、すなわち調整された動脈圧波形の下の正規化された面積、
v7=biasDia、すなわち拡張期の傾きのバイアス、
v8=CW、すなわち心仕事量、
v9=mapDnlocArea、すなわちMAPの最初のインスタンスと重複切痕との間の調整された動脈圧波形の下の面積、
v10=SWcomb、すなわち一回仕事量、
v11=ppArea、すなわち調整された動脈圧波形の下の面積、
v12=decAreaNor、すなわち減衰期の正規化された面積、
v13=slopeSys、すなわち収縮期の傾き、
v14=Cwk、すなわちウィンドケッセルコンプライアンス、
v15=sys_rise_area_nor、すなわち収縮立上り期の下の正規化された面積、
v16=pulsepres、すなわち脈圧、
v17=avg_sys、すなわち収縮期の平均の圧力、
v18=dpdt2、すなわち調整された動脈圧波形の2次導関数の最大値、
v19=dpdt、すなわち調整された動脈圧波形の1次導関数の最大値、
c0、c1、......、c11は、低血圧の標準的なMAP閾値に関して決定されるリスク係数。
【0065】
いくつかの例では、リスクスコアRは、上記の式3で表されるように、分数として表すことができる。他の例では、リスクスコアは、0パーセントと100パーセントの間のパーセンテージリスクスコアに変換することができる。
【0066】
血行動態モニタ10は、リスクスコアが所定のリスク基準を満たしたことに応答して感覚アラームを呼び出す(ステップ80)。たとえば、低血圧予測ソフトウェアコード48が、上記の式3に従って決定されたリスクスコアRが所定のリスク基準を満たすとの決定に応答してユーザインターフェース54の感覚アラーム58を呼び出すことができる。いくつかの例では、低血圧予測ソフトウェアコード48の出力は、ディスプレイ12でユーザインターフェース54を介して提示するためにデジタル信号をアナログ信号に変換するためのDAC46を使用して処理され得る。
【0067】
所定のリスク基準は、リスクスコアの値、時間期間にわたるリスクスコアのトレンド、または両方に基づくものとすることができる。たとえば、リスクスコアが0と100の間のパーセンテージとして表される場合、低血圧予測ソフトウェアコード48は、リスクスコアが85パーセントなどの第1の所定の閾値を超えたとの決定に応答して(たとえば、直ちに)感覚アラーム58を呼び出すことができる。いくつかの例では、低血圧予測ソフトウェアコード48は、リスクスコアが第1の所定の時間期間の全体にわたって第2の所定の閾値を満たすとの決定に応答して感覚アラーム58を呼び出すことができる。そのような例では、第2の所定の閾値は、第1の所定の閾値よりも低くてもよい。
【0068】
したがって、低血圧予測ソフトウェアコード48は、リスクスコアが第1の所定の閾値(たとえば、85パーセント)を超えたとの決定に応答して、たとえば直ちに感覚アラーム58を呼び出すことができる。低血圧予測ソフトウェアコード48はまた、リスクスコアが、第1の所定の時間期間(たとえば、10~30秒)の間、第1の所定の閾値よりも小さい第2の所定の閾値(たとえば、80パーセント)を超え、その間リスクスコアが継続的に第2の所定の閾値(80パーセント)よりも大きく、第1の所定の閾値(たとえば、85パーセント)よりも小さいとの決定に応答して、感覚アラーム58を呼び出すことができる。いくつかの例では、低血圧予測ソフトウェアコード48は、リスクスコアが第2の所定の時間期間(たとえば、1分または数分)の間、第2の所定の閾値よりも小さい第3の所定の閾値よりも大きいとの決定に応答して、感覚アラーム58を呼び出すことができる。さらに他の例では、低血圧予測ソフトウェアコード48は、リスクスコアが第3の所定の時間期間(たとえば、1分、2分、または他の時間期間)にわたって閾値回数(たとえば、2回、3回、または他の回数)、第4の所定の閾値(たとえば、75パーセント)を超えたとの決定に応答して、感覚アラーム58を呼び出すことができる。
【0069】
図6の例示的な動作には図示していないが、いくつかの例では、血行動態モニタ10が、低血圧予測ソフトウェアコード48を使用して、患者36の予測される未来の低血圧事象の最も考えられる原因を識別することができる。たとえば、識別されたしるしに基づいて、低血圧予測ソフトウェアコード48は、血管緊張の不足、血液量の減少、心収縮力の低下、または患者36の予測される未来の低血圧事象の他の最も考えられる原因を識別することができる。
【0070】
いくつかの例では、血行動態モニタ10は、患者36の予測される未来の低血圧事象の識別された最も考えられる原因に対応する推奨される医療介入を識別することなどによって、患者36の予測される未来の低血圧事象を防ぐために医療介入を推奨することができる。たとえば、血管緊張の不足の最も考えられる原因に関して、血行動態モニタ10は、血管収縮剤の投与の医療介入を推奨することができる。たとえば血液量の減少の最も考えられる原因に関して、血行動態モニタ10は、生理食塩水または全血の投与の医療介入を推奨することができる。
【0071】
したがって、本開示の技法を実装する血行動態モニタ10は、患者36についての未来の低血圧事象を予測するリスクスコアを提供し、それによって、患者36が低血圧状態に入るより前に、低血圧事象を防ぐための適時の、効果的な介入を可能にする。さらに、予測リスクモデルの再トレーニングを必要とすることなく、定義された低血圧閾値の調整を可能にすることによって、本明細書で説明する技法は、たとえば、医療関係者のトレーニングおよび経験に対応するように血行動態モニタリングシステム32の有用性を高める。
【0072】
例示的な実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱することなくその要素に対して様々な変更を行うことができ、また均等物を代用できることは、当業者には理解されよう。加えて、特定の状況または材料を本発明の教示内容に適合させるために、その本質的な範囲から逸脱することなく、多くの変更を行うことができる。したがって、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲内にあるすべての実施形態を含むものとする。
【符号の説明】
【0073】
10 血行動態モニタ
12 ディスプレイ
14 入力および/または出力(I/O)コネクタ
16 血行動態センサー
18 ハウジング
20 流体投入ポート
22 カテーテル側流体ポート
24 I/Oケーブル
26 血行動態センサー
28 膨張式指カフ
30 心臓基準センサー
32 血行動態モニタリンスシステム
34 血行動態センサー
36 患者
38 医療従事者
40 システムプロセッサ
42 システムメモリ
44 アナログ-デジタル(ADC)変換器
46 デジタル-アナログ(DAC)変換器
48 低血圧予測ソフトウェアコード
50 予測重み付けモジュール
52 低血圧プロファイリングパラメータ
54 ユーザインターフェース
56 制御要素
58 感覚アラーム
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
【国際調査報告】