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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】ガスギャップ式ヒートスイッチ構成
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
F25B9/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551412
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(85)【翻訳文提出日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 GB2021050375
(87)【国際公開番号】W WO2021170975
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】2002653.0
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100224672
【弁理士】
【氏名又は名称】深田 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】マシューズ アンソニー
(57)【要約】
【課題】極低温冷凍機に熱的に結合された冷却プレート、ヒートスイッチ組立体、及び目標組立体を備える極低温冷却システムを提供する。
【解決手段】目標組立体5は、極低温冷凍機9よりも低い基準温度を取得するように構成された目標冷凍機12を備える。ヒートスイッチ組立体18は、1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチを備え、ヒートスイッチ組立体18は、冷却プレート2に熱的に結合された第1の端部と、目標組立体5に熱的に結合された第2の端部とを有する。ヒートスイッチ組立体18全体にわたって吸着ポンプ22の温度に従って熱伝導率を制御する吸着ポンプ22が提供される。吸着ポンプ22は、冷却プレート2からヒートスイッチ組立体18に延びる熱リンク部によって極低温冷凍機に熱的に結合される。吸着ポンプ22は、ヒートスイッチ組立体18と冷却プレート2との間の熱リンク部に沿った位置に配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温冷却システムであって、
極低温冷凍機に熱的に結合された冷却プレートと、
前記極低温冷凍機よりも低い基準温度を取得するように構成された目標冷凍機を含む目標組立体と、
1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチを含むヒートスイッチ組立体であって、前記冷却プレートに熱的に結合された第1の端部と、前記目標組立体に熱的に結合された第2の端部とを有する、ヒートスイッチ組立体と、
吸着ポンプであって、前記吸着ポンプの温度に従って前記ヒートスイッチ組立体全体にわたって熱伝導率を制御するように構成された吸着ポンプと、
を備え、
前記吸着ポンプが、前記冷却プレートから前記ヒートスイッチ組立体に延びる熱リンク部によって前記極低温冷凍機に熱的に結合され、
前記吸着ポンプが、前記ヒートスイッチ組立体と前記冷却プレートとの間の前記熱リンク部に沿った位置に配置される、
極低温冷却システム。
【請求項2】
前記吸着ポンプは、公称遷移温度を超える前記吸着ポンプの温度に応答して前記ヒートスイッチ組立体の1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチを閉成するように構成され、前記吸着ポンプは、前記極低温冷凍機の動作中に前記吸着ポンプの温度を、前記公称遷移温度を下回って冷却するように、前記冷却プレートに熱的に結合される、請求項1に記載の極低温冷却システム。
【請求項3】
前記吸着ポンプは、前記目標組立体の温度から独立して前記吸着ポンプの温度を、前記公称遷移温度を下回って維持するように、前記冷却プレートに熱的に結合される、請求項2に記載の極低温冷却システム。
【請求項4】
前記公称遷移温度は、4~30ケルビン、好ましくは15~25ケルビンである、請求項2又は3の何れかに記載の極低温冷却システム。
【請求項5】
前記目標組立体は、目標加熱器及び前記目標冷凍機に熱的に結合された目標プレートを含み、前記吸着ポンプは、前記目標加熱器の動作中に前記吸着ポンプの温度を、前記公称遷移温度を下回って維持するように、前記冷却プレートに熱的に結合される、請求項2~4の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項6】
前記目標加熱器の動作は、前記目標プレートの温度を、前記公称遷移温度を超えて上昇させる、請求項5に記載の極低温冷却システム。
【請求項7】
前記目標組立体は、目標加熱器及び前記目標冷凍機に熱的に結合された目標プレートを含む、請求項1~4の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項8】
前記吸着ポンプは、前記ヒートスイッチ組立体の前記各ガスギャップ式ヒートスイッチを開閉するように構成される、請求項1~7の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項9】
局所的な加熱を前記吸着ポンプに加えるように構成された吸着加熱器を更に備える、請求項1~8の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項10】
前記熱リンク部は、第1の接続部材と第2の接続部材とを含み、前記第1の接続部材は、前記ヒートスイッチ組立体と前記吸着ポンプとの間に延び、前記第2の接続部材は、前記吸着ポンプと前記冷却プレートとの間に延びる、請求項1~9の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項11】
前記第1の接続部材は、前記吸着ポンプと前記ヒートスイッチ組立体の1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチとの間にガスを伝達する導管を含む、請求項10に記載の極低温冷却システム。
【請求項12】
前記第2の接続部材は、4ケルビンで1ケルビン当たり1~50ミリワット、好ましくは1ケルビン当たり5から10ミリワットの熱伝導率を有する、請求項10又は11に記載の極低温冷却システム。
【請求項13】
前記冷却プレートと前記目標組立体との間に配置された1又は2以上のステージを更に備え、前記各ステージは、前記ヒートスイッチ組立体の1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチに熱的に結合される、請求項1~12の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項14】
前記極低温冷凍機は、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機、及びギフォードマクマホン冷凍機を含む群から選択された機械式冷凍機である、請求項1~13の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項15】
前記目標冷凍機は、ヘリウム3冷凍機、希釈冷凍機の蒸留器又は混合チャンバ、又は1ケルビンポットの何れかを含む、請求項1~14の何れか一項に記載の極低温冷却システム。
【請求項16】
請求項1~15の何れかに記載の極低温冷却システムを動作する方法であって、
前記吸着ポンプが、公称遷移温度を超える前記吸着ポンプの温度に応答して前記極低温冷凍機を前記目標組立体と熱的に結合するように構成され、
前記方法が、
(a)前記目標組立体の温度を、前記公称遷移温度を下回る第1の温度から前記公称遷移温度を超える第2の温度に上昇させるステップを含み、
前記吸着ポンプは、前記ステップ(a)中に前記吸着ポンプの温度を、前記公称遷移温度を下回って維持するように、前記熱リンク部を使用して前記極低温冷凍機に熱的に結合される、方法。
【請求項17】
前記極低温冷却システムは更に、前記吸着ポンプに熱的に結合された吸着加熱器を備え、
前記方法は更に、前記ステップ(a)の後に、
(b)前記公称遷移温度を超えて前記吸着ポンプの温度を上昇させるように前記吸着加熱器を動作させることによって、前記極低温冷凍機を前記目標組立体に熱的に結合するステップを実行することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記目標組立体が更に、目標加熱器を備え、前記ステップ(a)は、前記目標加熱器を動作することによって実行される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の温度は、5ケルビンを下回る、請求項16~18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の温度は、20ケルビンを上回る、請求項16~19の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷却システム及びこのシステムの動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温システムは、一般に、システムの定常状態運転中に異なる温度に保持される真空チャンバ内に封入された複数のステージを備える。室温から低温までの冷却を容易にするために、冷却プロセス中にステージを熱的に連結し、定常運転中にはステージを熱的に隔離できることが望ましい。これを達成するために、ヒートスイッチを使用することができる。例えば、ガスギャップ式ヒートスイッチは、熱負荷をスイッチの一端から他端に移送又は隔離するように制御することができる。
【0003】
ガスギャップ式ヒートスイッチは、ガスを導入することができるチャンバ内で互いから分離される2つの導体を備える。スイッチが閉成されたとき、チャンバ内のガスは、熱伝導によって導体間の熱伝達を容易にする。スイッチは、この熱伝達経路がもはや利用可能でないようにガスをチャンバから排気することによって開放される。導体を含むチャンバの熱伝導率は、システム動作温度での導体の熱伝導率と比較して低い。従って、ガスギャップ式ヒートスイッチは、2つの導体間の熱伝導率がチャンバの熱伝導率を上回ったときに「閉成される」とみなすことができる。「開放」状態において、熱伝導率は、チャンバの外形形状、材料、及び温度によって決定され、「閉成」状態の熱伝導率よりも桁違いに小さい。スイッチの開閉は、吸着ポンプを使用して制御することができる。ポンプの温度が閾値遷移温度を下回ると、吸着ポンプは、ガス分子をスイッチから吸着し、従って、スイッチが開放される。逆に、ポンプの温度がこの遷移温度を上回ると、ポンプは、これらのガス分子をチャンバに再導入するようにガス分子を脱着して、スイッチを閉成する。
【0004】
室温から極低温までシステムの冷却プロセス中、ガスギャップ式ヒートスイッチは、典型的には、各ステージ間の熱伝達を可能にするように閉成されたままとなる。しかしながら、吸着ポンプが、遷移温度を下回って冷却すると、スイッチは、スイッチの両端に接続されるステージを実質的に熱隔離するように開放される。これにより、各ステージは、その後システムの継続運転によって異なる温度を得ることを可能にすることができる。
【0005】
理解されるように、吸着ポンプは、専用のポンプ送給ライン及び関連機器を必要とせずにガスギャップ式ヒートスイッチの自動制御を容易にする。従って、吸着ポンプは、システムの複雑性を低減し、その性能を向上させることができる。しかしながら、このような吸着ポンプを組み込んだ従来技術のシステムはまた、一般に、潜在的な動作モードの観点から限界がある。例えば、ガスを吸着ポンプから脱着させることなく、システムの個々のステージの温度を吸着ポンプの閾値温度を超えて上昇させることは可能ではない可能性がある。これにより、スイッチを閉成状態に遷移させる可能性があり、これはシステム性能に影響を与え、各ステージで達成できる潜在的温度を制限する。本発明は、この問題を解決する関連において設定される。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様は、極低温冷凍機に熱的に結合された冷却プレートと、極低温冷凍機よりも低い基準温度を取得するように構成された目標冷凍機を含む目標組立体と、1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチを含むヒートスイッチ組立体であって、冷却プレートに熱的に結合された第1の端部と、目標組立体に熱的に結合された第2の端部とを有する、ヒートスイッチ組立体と、吸着ポンプであって、吸着ポンプの温度に従ってヒートスイッチ組立体全体にわたって熱伝導率を制御するように構成された吸着ポンプと、を備え、吸着ポンプが、冷却プレートからヒートスイッチ組立体に延びる熱リンク部によって極低温冷凍機に熱的に結合され、吸着ポンプが、ヒートスイッチ組立体と冷却プレートとの間の熱リンク部に沿った位置に配置される、極低温冷却システムを提供する。
【0007】
熱リンク部は、有利には、冷却プレートとヒートスイッチ組立体から独立した吸着ポンプとの間の熱接続部をもたらす。これにより、吸着ポンプの温度、及び従って、ヒートスイッチ組立体の熱伝導率のより優れた制御が可能となる。例えば、極低温冷凍機を使用して、吸着ポンプの温度を、吸着ポンプが接続される1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチの温度を下回って維持することができる。従って、吸着ポンプを偶発的に加温することなく、目標組立体の温度を上昇させることが可能であり、そうでない場合は、ヒートスイッチ組立体は開放状態から閉成状態に遷移する可能性がある。従って、極低温システムの新しい動作モードが可能である。例えば、目標組立体の温度は、冷却プレートの温度を超えて上昇することができる。更に、ヒートスイッチ組立体は、目標組立体の加熱中に開放状態で維持することができるので、目標組立体のこの加熱は、冷却プレートの温度に影響を与えない。
【0008】
理解されるように、吸着ポンプは、典型的には、公称遷移温度を超える吸着ポンプの温度に応答して、ヒートスイッチ組立体の1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチを閉成するように構成される。公称遷移温度は、用途(例えば、ガスギャップ式ヒートスイッチ内の作動流体及び吸着材料の選択)によって左右される可能性があるが、典型的には、4~30ケルビン、及び好ましくは15~25ケルビンである。上記で検討したように、ガスギャップ式ヒートスイッチの開放状態は、ヒートスイッチ組立体の第1及び第2の端部間の熱伝導率を実質的に低減するように、ガスがガスギャップ式ヒートスイッチ組立体から実質的に又は完全に除去された状態に相当する。逆に、閉成状態は、ガスがガスギャップ式ヒートスイッチ内に収容されて第1及び第2の端部間ではるかに高い熱伝導率を容易にする状態に相当する。熱リンク部は、好ましくは、吸着ポンプを極低温冷凍機動作中に吸着ポンプの公称遷移温度を下回って維持できるように配置される。特に、吸着ポンプは、好ましくは、吸着ポンプの温度を、公称遷移温度を下回って維持するように、冷却プレートに熱的に結合される。
【0009】
目標組立体は、典型的には、電気制御抵抗加熱器など目標加熱器備える。目標加熱器は、例えば、目標冷凍機が希釈冷凍機の蒸留器又は混合チャンバを備える場合など、任意選択的に目標冷凍機の一部を形成することができる。目標組立体は、目標加熱器及び目標冷凍機に熱的結合された目標プレートを備えることができる。吸着ポンプは、好ましくは、目標加熱器の動作中に吸着ポンプの温度を、公称遷移温度を下回って維持するように、冷却プレートに熱的に結合される。目標加熱器の上記の動作は、目標組立体の温度を吸着ポンプの公称遷移温度を超えて上昇させることができる。
【0010】
上記で説明したように、ガスがガスギャップ式ヒートスイッチから除去されたときでも、目標加熱器の動作は、熱をヒートスイッチ組立体に沿って及び吸着ポンプに伝達させることができる。吸着ポンプは、典型的には、(毛細管とも呼ばれる)導管によってヒートスイッチ組立体に接続され、吸着ポンプとヒートスイッチ組立体との流体連通をもたらす。導管は、好ましくは、低伝導率材料で形成されるが、ヒートスイッチ組立体と吸着ポンプとの間の熱接続部を必然的に提供する。冷却プレートと吸着ポンプとの間に延びる熱リンク部の一部がない場合、導管に沿った目標加熱器からの入熱は、特にヒートスイッチ組立体自体の一端が吸着ポンプの公称遷移温度を超えて加温されたときに、ガスをポンプから脱着させる可能性がある。これは、閉成状態へのヒートスイッチ組立体の不必要な遷移を引き起こす可能性がある。しかしながら、熱リンク部は、有利には、目標組立体から吸着ポンプに導入された何れかの熱が、極低温冷凍機の動作によって奪われるのを確実にする。これにより、目標組立体の高温動作が容易になる。
【0011】
典型的には、極低温冷凍機は、極低温システムの使用中に連続的に動作されることになる。それでも、吸着ポンプを使用して、ヒートスイッチ組立体を開放状態から閉成状態に遷移できることが望ましい。検討したように、これには、一般に、吸着ポンプの温度を、公称遷移温度を超えて上昇させる必要がある。従って、システムは更に、局所的な加熱を吸着ポンプに加えるように構成された吸着加熱器を備えることが好ましい。例えば、吸着加熱器は、吸着ポンプに設けられて、吸着ポンプの温度を、公称遷移温度を超えて上昇させるように、動作できる電気作動の抵抗加熱器を備えることができる。従って、吸着加熱器は、典型的には電気制御システムを使用して作動させ、必要時に極低温冷凍機を目標組立体と熱的に結合することができるようにする。
【0012】
熱リンク部は、典型的には、第1の接続部材と第2の接続部材とを備え、第1の接続部材は、ヒートスイッチ組立体と吸着ポンプとの間に延び、第2の接続部材は、吸着ポンプと冷却プレートとの間に延びる。第1の接続部材は、典型的には、ガスを吸着ポンプとヒートスイッチ組立体の1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチとの間に伝達する導管を備える。第1の接続部材は、好ましくは、低伝導率材料で形成され、一般に第2の接続部材の熱伝導を下回る熱伝導率を有する。それでもなお、目標組立体の高温動作により、ヒートスイッチ組立体及び第1の接続部材に沿った熱伝導によって熱が吸着ポンプに伝達することができる。第2の接続部材は、有利には、極低温冷凍機の動作によってこの熱を吸着ポンプから除去することができる熱伝導路をもたらす。従って、第1の接続部材とは異なり、第2の接続部材によって形成された熱接続部は、吸着ポンプからのガスの偶発的な脱着を防止するという意味で「望ましい」。
【0013】
第2の接続部材に沿ったあるレベルの熱伝達が望ましいが、第2の接続部材の熱伝導率は、好ましくは、吸着ポンプの温度を個々に制御できるほどの低いことが好ましい。例えば、吸着加熱器の動作によって吸着ポンプの温度を冷却プレートの温度を上回って上昇させることが望ましいとすることができる。従って、第2の接続部材は、好ましくは脆弱な熱リンク部を形成する。第2の接続部材は、1ケルビン当たり1~50ミリワット、好ましくは1ケルビン当たり5~10ミリワットの熱伝導率を有することが特に望ましい。従って、吸着ポンプは、吸着加熱器の動作によってヒートスイッチ組立体を閉成することが望ましいこのような時間まで、公称遷移温度を下回って維持することができる。
【0014】
ヒートスイッチ組立体は、複数のガスギャップ式ヒートスイッチを備えることができる。例えば、1又は2以上のステージは、冷却プレートと目標組立体との間に配置することができ、各ステージは、ヒートスイッチ組立体の1又は2以上のガスギャップ式ヒートスイッチに熱的に結合される。上記の各ステージは、極低温冷却システムの動作中にそれぞれの基準温度を取得するように配置することができる。更に、吸着ポンプは、ヒートスイッチ組立体の上記の各ガスギャップ式ヒートスイッチを開閉するように構成することができる。代替的に、ヒートスイッチ組立体の各ガスギャップ式ヒートスイッチは、それぞれの吸着ポンプを使用して制御することができ、上記の各吸着ポンプは、熱リンク部によって冷却プレートに熱的に接続することができる。システムはまた、ヒートスイッチ組立体に流体結合されたガスリザーバを更に備えることができる。このガスリザーバは、極低温までのシステムの冷却の前に所定の量のガスをヒートスイッチ組立体の各ガスギャップ式ヒートスイッチに導入するように制御することができる。
【0015】
システムは、冷却プレートを冷却する液体冷凍剤に依存する「湿潤」システムと考えることができる。例えば、極低温冷凍機は、液体窒素又はヘリウムのデュワーを備えることができる。しかしながら、極低温冷凍機は、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機、及びギフォードマクマホン冷凍機を含む群から選択された機械式冷凍機であることが特に望ましく、これらは、液体冷凍剤を必要としないという利点がある。目標冷凍機は、典型的には、極低温冷凍機の冷却能よりも低い冷却能を有する。目標冷凍機は、ヘリウム3冷凍機、希釈冷凍機の蒸留器又は混合チャンバ、又は1ケルビンポットの何れかを備えることができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様による極低温冷却システムを動作する方法を提供し、吸着ポンプが、公称遷移温度を超える吸着ポンプの温度に応答して極低温冷凍機を目標組立体と熱的に結合するように構成され、上記方法は、(a)目標組立体の温度を、公称遷移温度を下回る第1の温度から公称遷移温度を超える第2の温度に上昇させるステップを含み、吸着ポンプは、ステップ(a)にわたって吸着ポンプの温度を、公称遷移温度を下回って維持するように、熱リンク部を使用して極低温冷凍機に熱的に結合される。
【0017】
第2の態様は、第1の態様に関連して検討したように類似した利点を共有する。第1の態様に関連して検討した特徴の何れも第2の態様に関して等しく適用可能であり、その逆もまた同様である。
【0018】
上述したように、極低温冷却システムは、好ましくは、吸着ポンプに熱的に結合された吸着加熱器を更に備える。この場合、本方法は更に、好ましくは、(b)吸着ポンプの温度を、公称遷移温度を超えて上昇させるように、吸着加熱器を動作させることによって、極低温冷凍機を目標組立体に熱的に結合するステップを含む。ステップ(b)は、理解されるように、ステップ(a)の後に実行されることになる。次いで、極低温冷凍機及びその後の目標冷凍機の動作により、システムのステージがそれぞれの基準温度に戻ることになる。
【0019】
一般に、目標組立体が目標加熱器を更に備えることが望ましく、この場合、ステップ(a)は、目標加熱器を動作させることによって実行することができる。ステップ(a)の実行後、本方法は更に、好ましくは、目標加熱器によって生成された熱を低減又は排除するステップを含む。
【0020】
第1及び第2の温度は、用途に応じて選択することができるが、一般に、第1の温度は、典型的には、5ケルビンを下回り、第2の温度は、典型的には20ケルビンを上回る。第2の温度は、好ましくは少なくとも30ケルビンであり、少なくとも100ケルビンとすることができる。
【0021】
ここで、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態による、極低温冷却システムの概略図である。
図2】本発明の第2の実施形態による、極低温冷却システムの概略図である。
図3】本発明の第1の実施形態による、動作中の極低温冷却システムの構成要素の第1の例示的な温度プロファイルを示すグラフである。
図4】本発明の第1の実施形態による、動作中の極低温冷却システムの構成要素の第2の例示的な温度プロファイルを示すグラフである。
図5】3.5時間~5.5時間の間の図4の温度プロファイルの領域を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで、極低温冷却システムの第1の実施形態について、図1を参照して説明する。図1は、無冷媒冷却システムの内部の断面図を示す。本システムは、複数の熱ステージ1~5と外側ステージ6とを備え、これらが段階的組立体を形成し、ステージが中心軸に沿って整列し空間的に分散されている。熱ステージ1~5は、外側ステージ6に取り付けられたクライオスタット7内に収容される。クライオスタット7は、典型的には、使用中時に排気される。外側ステージ6の外面8は、室温及び大気圧で周囲環境に晒され、一般に、アルミニウムで形成される。
【0024】
極低温冷却システムは、システムを室温から動作基準温度まで冷却する冷却装置を備える。各熱ステージ1~5は、銅などの高伝導材料で形成され、異なる動作基準温度を有する。この実施形態において、冷却は、機械式冷凍機及び希釈ユニットを使用して達成される。機械式冷凍機は、パルスチューブ冷凍機(PTR)、スターリング冷凍機、又はギフォードマクマホン冷凍機とすることができる。この実施形態において、機械式冷凍機は、PTR9である。PTR9は、第1の熱ステージ1に熱的に結合される第1のPTRステージ10と、第2の熱ステージ2の形態で冷却プレートに熱結合される第2のPTRステージ11とを備える。2ステージPTR9(図示するような)の代わりに、機械式冷凍機は、代替的に、1つのみ又は2つよりも多い冷却ステージを有することができる。この実施形態において、第2のPTRステージ11は、PTR9の最低温度ステージを形成する。吸着ポンプ22は、典型的に、図1の場合と同様に、PTRの最低温度ステージに熱的に接続される。
【0025】
第3の熱ステージ3、第4の熱ステージ4、及び第5の熱ステージ5は、希釈ユニット12に熱的に結合される。第3の熱ステージ3は、希釈ユニット12の一部を形成する蒸留器13に熱的に結合される。第5の熱ステージ5は、希釈ユニット12の混合チャンバ14に熱的に結合される。第3、第4、及び第5の熱ステージ3、4、5の冷却は、希釈ユニットの動作を介して達成され、希釈ユニットにおいて、作動流体は、温度を低減するために冷却回路24の周りで循環される。作動流体は、典型的には、ヘリウム3及びヘリウム4の混合物である。作動流体は、圧縮機ポンプ27及びターボ分子ポンプ28を使用して、凝縮ライン25及び蒸留ポンプ送給ライン26を備える冷却回路24の周りにポンプ送給される。作動流体は、第1の貯蔵容器29内に貯蔵されて、供給ライン30を使用して冷却回路24に供給することができる。
【0026】
使用時には、5つの熱ステージ1~5の各々は、異なる動作基準温度を達成するように構成される。熱輻射シールドが熱ステージ1~5に装着することができ、各シールドは、熱ステージ1~5間の不必要な熱的連通を低減するために残りのより低い基準温度構成要素の各々を封入する。これにより、ステージは、異なる動作基準温度を達成することができ、動作基準温度は、システムの定常状態動作中の所与の構成要素が取得可能な最低温度を表す。この実施形態において、第1の熱ステージ1は、約50~70ケルビンの動作基準温度に達するように構成され、第1の熱輻射シールド15に取り付けられる。第2の熱ステージ2の動作基準温度は、約3~5ケルビンである。第2の熱輻射シールド16は、第2の熱ステージ2に取り付けられる。第3の熱ステージ3の動作基準温度は、典型的には0.5~2ケルビンである。第3の熱輻射シールド17は、第3の熱ステージ3に取り付けられる。第5の熱ステージ5の動作基準温度は、典型的には3~30ケルビンである。第4の熱ステージ4は、第3と第5の熱ステージ3、5との間の中間部ステージを形成し、約50~200ミリケルビンの動作基準温度を有する。
【0027】
これらのような極低温冷却システムは、低温での測定を実行するのに使用することができる。典型的には、サンプル35が、システムの最も低温の熱ステージ、この場合は第5の熱ステージ5に取り付けられる。希釈ユニット12は、第5の熱ステージ5でミリケルビン温度を取得するのに使用される。正常動作の一部として、抵抗加熱器が、蒸留器及び混合チャンバの一部を形成することは理解されるであろう。この実施形態において、混合チャンバ14のための抵抗加熱器は、目標加熱器36を提供し、目標加熱器36は、第5の熱ステージ5に熱的に結合され、サンプル35を加熱するために使用することができる。これは、有利には、温度に関する試料35の制御された測定を容易にする。目標加熱器36は、抵抗加熱器とすることができ、説明するように、第5の熱ステージ5の温度を動作基部温度から約30ケルビンの温度まで上昇させるのに使用することができる。代替の実施形態において、第5の熱ステージの温度は、第5の熱ステージに熱的に結合され且つ混合チャンバとは別個とすることができる追加の目標加熱器を使用して、100ケルビンを上回って上昇させることができる。第5の熱ステージ5の温度は、極低温冷却システムの高温動作モードにおいて制御可能に上昇させることができ、説明するように、その後、冷却されて動作基準温度に戻すことができる。
【0028】
第5の熱ステージ5、混合チャンバ14、サンプル35、及び目標加熱器36は、目標組立体42を形成する。従って、第5の熱ステージ5は、本明細書では「目標プレート」とも呼ばれる。混合チャンバ14は、目標組立体42を第2のPTRステージ11よりも低温に冷却するように構成された「目標冷凍機」を形成する。ヒートスイッチ組立体18は、第2の熱ステージ2と目標組立体42との間の選択的に結合可能な熱接続部を提供する。ヒートスイッチ組立体18は、3つのガスギャップ式ヒートスイッチ19~21で形成される。第1のガスギャップ式ヒートスイッチ19は、第2の熱ステージ2に接続された上端部と、第3の熱ステージ3に接続された下端部とを有する。第2のガスギャップ式ヒートスイッチ20は、第3の熱ステージ3に接続された上端部と、第4の熱ステージ4に接続された下端部とを有する。第3のガスギャップ式ヒートスイッチ21は、第4の熱ステージ4に接続された上端部と、第5の熱ステージ5に接続された下端部とを有する。
【0029】
各ガスギャップ式ヒートスイッチは、伝導ガスを導入することができる低伝導チャンバ内で互いから分離される2つの導体を備える。チャンバは、ステンレス鋼で形成された環状シェルであり、使用される伝導ガスはヘリウムである。ガスがチャンバから除去されると、スイッチは開放され、これらの熱ステージは、熱的に隔離される。実際には、ガスギャップ式ヒートスイッチは、10ケルビンの温度で約0.01Wcm-1-1である開放状態のチャンバと同じ熱伝導率を有する。伝導ガスがガスギャップ式ヒートスイッチ内にあるときには、スイッチは閉成され、スイッチが各端部で接続されるそれぞれの熱ステージは、熱的に結合される。閉成されたスイッチの熱伝導率は、開放されたスイッチの熱伝導率よりも少なくとも2桁高い。
【0030】
開放と閉成間のスイッチの動作は、典型的には、吸着ポンプを使用して達成され、温度に依存する。吸着ポンプは、吸着性材料(典型的には活性炭又は分子篩)を備える。吸着ポンプ22の温度が閾値遷移温度(この場合、約20ケルビン)を下回ると、吸着ポンプ22は、スイッチからガス分子を吸着し、その結果、スイッチは開放される。逆に、吸着ポンプ22の温度がこの遷移温度を上回ると、吸着ポンプ22は、これらのガス分子をチャンバに再導入するようにこれらのガス分子を脱着してスイッチを閉成する。この実施形態において、吸着ポンプ22は、モニタリングの目的で温度センサー(図示せず)が取り付けられる。
【0031】
吸着ポンプ22は、第1の接続部材45として本明細書で呼ばれる導管によって、各ガスギャップ式ヒートスイッチ19~21に流体結合される。第1の接続部材45は、ガスの流れを容易にするだけでなく、ヒートスイッチ19~21と吸着ポンプ22との間で熱伝導経路を必然的に提供する。吸着ポンプ22の別の部分は、第2の接続部材46によって第2の熱ステージ2に熱的に結合され、第2の接続部材46は、これらの構成要素間の機械的リンク機構部を提供する。第2の接続部材は、例えば、吸着ポンプ46のために銅製支持体を形成することができる。別の実施形態において、吸着ポンプは、ステンレス鋼など、超低熱伝導率材料を使用して第2の熱ステージに取り付けることができる。この場合、吸着ポンプと第2の熱ステージとの間の熱接続部は、吸着ポンプから第2の熱ステージに延びる1又は2以上の銅線など、比較的高い伝導率を有する第2の接続部材によって補足されることになる。
【0032】
第1及び第2の接続部材45、46が一緒になって、ヒートスイッチ組立体18と吸着ポンプ22が位置決めされる第2の熱ステージ2との間の熱リンク部を形成する。以下で説明されるように、第2の接続部材46によってもたらされた熱伝導路は第2のPTRステージ11の高い冷却能を吸着ポンプ22に熱的に結合し、第1の接続部材45を介して導入された不必要な熱を吸着ポンプ22から除去できるようにするので、特に有利である。この構成を用いて、目標組立体42の温度は、ヒートスイッチ組立体18を閉成することなく、吸着ポンプ22の遷移温度を超えて上昇させることができる。
【0033】
吸着加熱器31の形態の局所化された熱源は、吸着ポンプ22に熱的に結合され、その動作により、ガスが吸着ポンプ22から脱着する。ガスの脱着によって、ガスギャップ式ヒートスイッチ19~21が閉成され、第2から第5の熱ステージ2~5が熱的に結合される。この実施形態において、吸着加熱器31は、抵抗加熱器である。
【0034】
吸着ポンプ22と第2の熱ステージ2との間の第2の接続部材46は、弱い熱結合部を提供する。第2の接続部材46の熱伝導率は、吸着加熱器31による吸着ポンプ22の効果的な加熱を確保するほどの低さとする必要がある。加えて、第2の接続部材46の熱伝導率は、PTR9による吸着ポンプ22の冷却が妥当な時間フレーム内で達成されることを確保するほどの高さである必要がある。例えば、吸着ポンプを30ケルビンから5ケルビンまで冷却するには、2時間未満、好ましくは30分未満の時間を要することになる。
【0035】
第2の貯蔵容器32は、ガス供給ライン33を介して熱伝導ガスをガスギャップ式ヒートスイッチ19~21の各々に供給するように構成される。この供給は、ガスポンプ34の作動によって制御され、又は第2の貯蔵容器32によって与えられる圧力を受けて制御される。伝導ガスの選択は、ガスギャップ式ヒートスイッチの遷移温度に影響を及ぼす。この例では、ヘリウム4ガスが使用され、遷移温度は典型的には、4~30ケルビン、好ましくは10~20ケルビンである。他の実施形態では、ヘリウム3、水素又はネオンガスを用いることができる。
【0036】
図1の極低温冷却システムは、制御システム37を使用して制御することができる。制御システム37は、所望の手順を実行するために、PTR9、希釈ユニット12、加熱器31、36、ポンプ27、28、34、及び関連のバルブの動作、センサーのモニタリング、並びに他の補助装置の動作を含む、システムの種々の部品の各々を制御する。適切なこれを達成するために、コンピュータシステムが使用されるが、手動制御も企図される。
【0037】
図2は、第2の実施形態による極低温冷却システムの概略図である。ダッシュ記号付きの参照番号は、類似の装置の特徴部を示すのに使用される。本システムは、第1の実施形態の熱ステージと同様に配置された複数の熱ステージ1′~4′を備える。ヒートスイッチ組立体18′は、第2、第3、及び第4の熱ステージ2′~4′に接続された2つのガスギャップ式ヒートスイッチ19′、20′で形成される。この実施形態において、第4の熱ステージ4′は、ヒートスイッチ組立体18′を使用して第2の熱ステージ2′に熱的に接続することができる目標組立体42′の「目標プレート」とみなすことができる。目標加熱器36′は、第4の熱ステージ4′に取り付けられる。
【0038】
この実施形態において、ヒートスイッチ組立体18′は、ヘリウム4ガスが予め充填されている。ヒートスイッチ組立体18′及び吸着ポンプ22′を接続するチャンバは、閉システムであり、従って、漏洩がなく、ガス充填ラインは不要である。他の実施形態において、複数の吸着ポンプを設けることができ、これらのうちの1又は2以上は、接続部材を用いて第2の熱ステージ2′に熱的に結合することができる。
【0039】
第3及び第4の熱ステージ3′、4′の冷却は、第1のヘリウムリザーバ40′及び第2のヘリウムリザーバ41′を備えるヘリウム冷凍機を用いて達成される。第1のヘリウムリザーバ40′は、第3の熱ステージ3′に熱的に結合され、典型的には約1.3ケルビンの動作基準温度で液体ヘリウム4を収容するように構成される。これはまた、一般に「1ケルビンポット」と呼ばれる。第2のヘリウムリザーバ41′は、第4の熱ステージ4′に熱的に結合される。第2のヘリウムリザーバ41′は、この実施形態において「目標冷凍機」の一部を形成し、典型的には約0.3ケルビンの動作基準温度で液体ヘリウム3を収容するように構成される。第1及び第2のヘリウムリザーバ40′、41′は、ヘリウムがポンプ送給される第1及び第2の冷却回路38′、39′それぞれに結合される。流体は、外部リザーバ29′、29′′に貯蔵して外部リザーバから供給することができる。
【0040】
図1及び図2の実施形態は、冷媒なし極低温冷凍機9、9′の使用を描いているが、代替の実施形態は、その代わりに、吸着ポンプが熱的に連結される熱ステージに冷却を加える液体冷凍剤のリザーバを組み込む「湿潤」システムに関することができる。
【0041】
図3は、本発明の第1の実施形態による極低温冷却システムに対して実行された第1の高温実験中の経時的な温度変化を示すグラフである。このグラフは、高温実験中の第5の熱ステージ5、第2の熱ステージ2、及び第2のPTRステージ11の温度変化を示す。高温実験中の極低温冷却システムの動作について、図1のシステムの構成要素を参照して以下で説明する。
【0042】
図3で分かるように、0と6000秒の経過時間の間、システムは、定常状態運転にあり、各構成要素は動作基準温度にある。この時間の間、ガスギャップ式ヒートスイッチ19~21は開放されており、第2の熱ステージ2は、第5の熱ステージ5から熱的に隔離される。第2のPTRステージ11は、第2の熱ステージ2に熱的に結合され、これは、0~20000秒の測定期間を通して第2のPTRステージ11と第2の熱ステージ2の間の温度プロファイルの類似性によって分かる。第5の熱ステージ5は、混合チャンバ14に熱的に結合され、作動流体は、第5の熱ステージ5に冷却を提供するために希釈ユニット12の冷却回路24の周りで循環している。第5の熱ステージ5の温度が0~6000秒の経過時間間で約1.5ケルビンであると示されているが、これは、実際の温度は、当該温度センサーについて確実に記録できる最低温度を下回ることに起因するだけである。実際に、第5の熱ステージ5の温度は、約3から30ミリケルビンであるその動作基準温度である。
【0043】
極低温冷却システムは、約6000秒の経過時間で定常状態運転から高温動作に切り替えられる。詳細には、制御システム37は、第5の熱ステージ5の温度を15ケルビンに上昇させるように目標加熱器36を動作させるのに使用される。定常状態基準温度運転中に冷却回路24の周りで循環される作動流体は、高温動作中に収集されて、第1の貯蔵容器29内に貯蔵される。目標加熱器36の動作は、第5の熱ステージ5の温度を急激に上昇させるが、第2の熱ステージ5及び第2のPTRステージ11の温度は、この加熱によって実質的に変動しないことに留意されたい。これは、吸着ポンプ22が、第2の接続部材46によって吸着ポンプ22に熱的に結合される第2のPTRステージ11の冷却能によって遷移温度を下回って保たれるからである。遷移温度を下回って吸着ポンプ22を保持することによって、ガスギャップ式ヒートスイッチ19~21は、開放状態に維持される。
【0044】
約7500秒の経過時間にて、第5の熱ステージ5の温度は、約1500秒間15ケルビンに維持される。極低温冷却システムの任意選択的な高温動作の利点は、広範囲の温度にわたって、例えばサンプル35の測定を行うことができる点である。第1の実施形態の極低温冷却システムは、オペレータが目標組立体42の温度を制御可能な方法でミリケルビン温度から数十ケルビンにまで上昇させしながら、一方で、極低温の冷凍機の動作を維持することができる。従来システムは、典型的には、この範囲に対応せず、従って、この極低温冷却システムは、低温で測定を行う更なる柔軟性を提供する。ある範囲の温度にわたって実行される好適な実験としては、輸送測定及び圧力セル実験を含む。典型的には、温度制御と共に、これらの実験は、変化する電磁場の関数として実行することができる。再現可能な実験を実行することができるためには、システムは、サンプル温度を制御可能に調整するように構成する必要がある。これには、温度を、図3によって例証されるように、サンプル35の測定を行うことができる時間期間で選ばれた値に維持することが必要とすることができる。
【0045】
約8800秒の経過時間では、第5の熱ステージ5の温度は、26ケルビンに上昇され、11100~12500秒の間ほぼ一定に保持される。温度制御は、目標加熱器36の動作を介して達成される。この時間の間、ヒートスイッチ組立体18は開放状態であるにもかかわらず、一部の熱は、ガスギャップ式ヒートスイッチ19~21及び第1の接続部材45のチャンバに沿って吸着ポンプ22に必然的に導かれることになる。第2の接続部材46がない場合、この熱は、(約20ケルビンである)吸着ポンプ22の遷移温度以上にまで吸着ポンプの温度を上昇させることができる。結果的に、ガス分子は、吸着ポンプ22から脱着し、ヒートスイッチ組立体18は、閉成状態に遷移し始めることになる。第2の接続部材46は、有利には、この「不必要な」熱を吸着ポンプ22から除去することができる熱伝導路を好もたらす。これは、第2のPTRステージ11によって供給される高い冷却能を有して、吸着ポンプ22を熱的に接続することによって達成される。これは、ガスが脱着するのを防止し、ヒートスイッチ組立体18を所望通りに長く開放状態に維持する。
【0046】
極低温冷却システムを動作基準温度に戻すために、吸着加熱器31は、ヒートスイッチ19~21が閉成し、第2の熱ステージ2を第3、第4、及び第5の熱ステージ3、4、5に熱的に結合するように、約12500秒の経過時間で動作される。目標加熱器36もまた、非作動にされる。目標加熱器の非作動化は、典型的には、吸着加熱器の動作と同時に効果的に実行される。12500秒~14500秒の時間期間の間の第2のPTRステージ11及び第2の熱ステージ2の温度上昇は、目標組立体によって初期熱負荷がこれらの構成要素上に載置された結果である。
【0047】
ヒートスイッチ組立体を閉成することによって、12500秒~14500秒の時間期間の間で観測されたように、第5の熱ステージ5の温度の急激な低下が引き起こされる。目標加熱器の動作は、目標組立体への入熱を除去して、この冷却時間を短縮するように約12500秒で終了される。この実施形態において、吸着加熱器31は、目標組立体の温度が、第2のPTRステージ5の温度に低下するまで、ヒートスイッチ組立体18を閉成状態に維持するように動作される。これは、約14500秒で行われる。この時点では、吸着ポンプ22は、第2の熱ステージ2を第5の熱ステージ5から熱的に隔離するように、遷移温度を下回って冷却することが許容される。
【0048】
第2の接続部材46は、吸着ポンプ22と第2の熱ステージとの間の重要な熱接続部を提供するが、第2の接続部材46はそれ自体が、材料及び外形形状の選択によって比較的低い熱伝導率を有するように形成される。例えば、銅などの高伝導材料が使用される場合、小さな面積:長さ比が選択されて熱伝導率を低下させ、ステンレス鋼又は真鍮などの低伝導性材料が使用される場合には、より大きな面積:長さ比が選択されることになる。第2の接続部材46は、約4ケルビンの温度で8mW/Kの熱伝導を有することができる。これによって、吸着ポンプ22の温度は、吸着加熱器31の動作中に発生するように、第2の熱ステージ2の温度から独立して変化できることが確保される。第2のPTRステージ11は、低い熱伝導率を有するにもかかわらず、吸着加熱器31からの加温の影響がない場合には、遷移温度を下回って吸着ポンプ22を冷却する。第2のPTRステージ11での冷却能は、典型的には4ケルビンの温度にて1ワットを超える。吸着加熱器31の動作は、典型的には第2の熱ステージ2の温度を、0.2ケルビンを超えて上昇させないものである。しかしながら、ヒートスイッチ組立体18が閉成状態に遷移したときには、第5の熱ステージ5からの熱負荷が、図3で観察されるように、第2の熱ステージ2の温度を更に上昇させる場合がある。
【0049】
吸着ポンプ22の温度は、第2から第5の熱ステージ2~5が約5ケルビンまで冷却するまで、公称遷移温度を超えて維持される。制御システム37は、ステージの温度をモニターして、吸着加熱器31の動作を自動的に非作動にし、このステージで作動流体を冷却回路24に再導入するのに使用される。その後、作動流体は、希釈ユニット12を通って循環され、第3、第4、及び第5の熱ステージ3、4、5をそれぞれの動作基準温度に冷却し続ける。吸着加熱器31の非作動の後、吸着ポンプ22は、約0.5時間で33ケルビンから5ケルビンまで冷却する。
【0050】
図4は、本発明の第1の実施形態による極低温冷却システムに実行された第2の高温実験中の経時的な温度の変化を示すグラフである。システムの動作は、実質的に図3に関連して説明した通りである。しかしながら、図4は、この使用中の第5の熱ステージ5、吸着ポンプ22、第2の熱ステージ2、第3の熱ステージ3、及び第4の熱ステージ4の温度に関する更なる詳細を提供する。
【0051】
図4の実施例において、第5の熱ステージ5の温度は、測定が各温度間隔で目標組立体から得ることができるように、0から3時間の間で段階的に上昇される。温度ステップのサイズ及びタイミングは、システムのユーザーによって決定することができる。1つの実施形態において、値は、予めプログラムすることができ、高温実験は、制御システム37を使用して自動的に実行することができる。目標加熱器36の動作は、第5の熱ステージ5の設定温度制御を達成するために、第5の熱ステージ5上の温度センサーから取得されたフィードバックデータに基づいて制御される。第2のPTRステージ11は、第2の熱ステージ2に熱的に結合され、この方法を通して連続冷却を提供する。
【0052】
実験が開始した直後、第5の熱ステージの温度は、5ケルビンに上昇し、約0.8時間維持される。第5の熱ステージ5の温度は、その後、10ケルビンに再度上昇され、0.8~1.4時間の間維持される。その後、約0.2時間の期間にわたって、第5の熱ステージ5の温度は20ケルビンに上昇され、1.6~2.2時間の間保持される。次いで、約0.6時間の期間にわたって、第5の熱ステージ5の温度は、30ケルビンに上昇され、更に0.8時間この温度に保持される。この場合も同様に、目標組立体の温度を吸着ポンプの遷移温度を超えて上昇させたにもかかわらず、吸着ポンプ22は、第2の接続部材46を介した第2のPTRステージ11の冷却の影響に起因して、遷移温度を下回って保持される。これによって、ヒートスイッチ組立体18は、開放状態に保持され、従って、目標加熱器36の動作は、第2の熱ステージ2の温度に影響を及ぼさない。第3及び第4の熱ステージ3、4の温度は、対応する温度センサーがこの時間の間に非作動であってことに起因して、0から3.5時間の経過時間では図4には示されていない。しかしながら、第3及び第4の熱ステージ3、4が、0.5~2.5ケルビンの範囲で維持されていたであろうと予想される。
【0053】
極低温冷却システムの高温動作の後に冷却プロセスを開始するために、制御システム37を用いて、吸着加熱器31を動作することによって吸着ポンプ22の温度を約33ケルビンに上昇させる。これは、約3.5時間の経過時間にて起こり、このとき、また、第3及び第4の熱ステージ3、4の温度センサーも作動される。目標加熱器36の動作は、本質的に同時に又は直後に終了し、第5の熱ステージ5が冷却するのを可能にする。別の実施形態において、目標加熱器36は、吸着ポンプ22の温度が上昇する前に電源オフにされる。
【0054】
吸着加熱器31及び目標組立体と残りの熱ステージとの間の結果として得られた熱接続部の動作によって、約3.6時間の経過時間で、第2、第3、及び第4の熱ステージ2~4の各々の温度が最大で約4.5ケルビン、14ケルビン、及び18ケルビンにそれぞれ急激に上昇する。その後、ヒートスイッチ組立体18が閉成状態では、これらの熱ステージの各々の温度は、第2のPTRステージ11の冷却の影響を受けて低下する。
【0055】
第3、第4、及び第5の熱ステージ3、4、5の各々の温度が、約5ケルビンに達すると、吸着加熱器31が遮断される。吸着ポンプ22は、その後、第2のPTRステージ11によって遷移温度を下回って冷却され、ヒートスイッチ組立体18を開放状態に遷移する。
【0056】
4.4時間で視認できる第5の熱ステージ5の温度上昇は、目標冷凍機回路が開始されて、ヘリウム混合物の初期凝縮が希釈冷凍機に戻される結果である。混合物が凝縮されると、目標冷凍機の温度は、第2のPTRステージ11の温度を下回って冷却される。これにより、希釈ユニット12に熱的に結合される第3、第4、及び第5の熱ステージ3、4、5の温度は、それぞれの動作基準温度に達するまで低下する。
【0057】
図5は、図4に示す実験の3.5時間と5.5時間の経過時間の間の温度プロファイルを示すグラフである。図4とは異なり、図5のy軸は、数桁にわたる場合に異なる熱ステージの温度をより明確に示すように、対数的体温スケールで示されている。図5は、それぞれの動作基準温度に戻ったときのシステムの各構成要素の温度の低下を示す。
【0058】
最後に、従って、吸着ポンプが極低温冷凍機に熱的に結合される改善された極低温冷却システムが供給されることが理解されるであろう。ガスギャップ式ヒートスイッチの動作は、吸着ポンプの温度に左右されるので、ガスギャップ式ヒートスイッチは、ヒートスイッチ組立体から吸着ポンプに伝達することができる熱から独立して制御可能に開閉することができる。結果として、ヒートスイッチ組立体の一端に接続された目標組立体は、システムの残りのステージの温度を上昇させることなく、高温で動作することができる。
【符号の説明】
【0059】
1~5 熱ステージ
6 外側ステージ
7 クライオスタット
8 外面
9 PTR
10 第1のPTRステージ
11 第2のPTRステージ
12 希釈ユニット
22 吸着ポンプ
13 蒸留器
14 混合チャンバ
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】