(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】脂肪酸分子とコンジュゲートされた抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230405BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230405BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230405BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230405BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230405BHJP
C07K 1/113 20060101ALI20230405BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230405BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230405BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/00
C07K1/113
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551581
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 US2021019583
(87)【国際公開番号】W WO2021173783
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520032206
【氏名又は名称】フェインズ セラピューティクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジャック チョンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジア,ハイチュン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ミンガン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB01
4C085BB36
4C085CC23
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA55
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
抗原結合ドメイン又はその近傍にコンジュゲートされた脂肪酸(FA)分子を含むモノクローナル抗体(mAb)又は二重特異性抗体(bsAb)又は多重特異性抗体について記載される。これらの抗体をコードする核酸、これらの抗体を含む組成物、並びにこれらの抗体を産生する方法及び疾患、例えば、がん及び/又は関連する合併症を処置又は予防するためにこれらの抗体を使用する方法も記載される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、抗体又はその抗原結合断片が、
a.可変重鎖領域(VH)、
b.可変軽鎖領域(VL)
を含み、
抗体又はその抗原結合断片が、標的抗原、好ましくはヒト標的抗原に結合し、
一方若しくは両方のアーム上のVH、VLにおける、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離にあるアミノ酸残基が、脂肪酸(FA)にコンジュゲートされたアミノ酸残基で置換されており、
置換されたアミノ酸残基でのFAとのコンジュゲート後、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が依然として標的抗原に結合する、
単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
置換されたアミノ酸残基が、一方又は両方のアーム上のVH又はVLから5アミノ酸以内の距離にある、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
置換されたアミノ酸残基が、システイン残基、リジン残基、又は化学的コンジュゲーションに好適な改変アミノ酸である、請求項1又は2に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
置換されたアミノ酸残基が、
(1)配列番号1の残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113、
(2)配列番号2の残基26、27、52、53、56若しくは67、
(3)配列番号9、10、11若しくは12の残基119若しくは120、又は
(4)配列番号13若しくは14の残基121若しくは124
に対応するアミノ酸残基に生じる、請求項3に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
置換されたアミノ酸残基が、
(1)配列番号1のK64C置換、
(2)配列番号2のS26C置換、又は
(3)配列番号9、10、11若しくは12のT120C置換
に対応するアミノ酸残基に生じる、請求項4に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が、抗免疫細胞モジュレーター(ICM)抗体又はその抗原結合断片であり、ICM、好ましくはヒトICMに特異的に結合することができる、請求項1から5のいずれか一項に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
ICMが、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節抗原からなる群から選択される、請求項6に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
ICMがCD3であり、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が、それぞれ配列番号3、4、5、6、7及び8、又はそれぞれ配列番号33、34、35、36、37及び38のポリペプチド配列を有する、重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、HCDR2、HCDR3、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、LCDR2、及びLCDR3を含む、請求項7に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
置換されたアミノ酸残基が、
(1)配列番号1若しくは27の残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113、
(2)配列番号2若しくは28の残基26、27、52、53、56若しくは67、
(3)配列番号9、10、11若しくは12の残基119若しくは120、又は
(4)配列番号13若しくは14の残基121若しくは124
から選択されるアミノ酸残基に生じる、請求項7又は8に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
1)K64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、
2)K64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、
3)配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、
4)配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、
5)T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11又は12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域及び配列番号13又は14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、
6)配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11又は12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13又は14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、
7)配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11又は12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13又は14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域
を含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項11】
単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、請求項1から10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含み、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸残基を含む1つ以上の抗原結合アームを含む、単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項12】
多重特異性抗体又はその抗原結合断片が、第1の抗原結合アーム(Ab1)及び第2の抗原結合アーム(Ab2)を含む二重特異性抗体又は抗原結合断片であり、Ab1及び/又はAb2が、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸を含む、請求項11に記載の単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項13】
Ab1が免疫細胞モジュレーター(ICM)、好ましくはヒトICMに結合する、請求項12に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項14】
ICMが、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子からなる群から選択される、請求項13に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項15】
Ab2が腫瘍関連抗原(TAA)、好ましくはヒト腫瘍関連抗原(ヒトTAA)に結合する、請求項12から14のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項16】
TAAがDLL3である、請求項15に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項17】
第1の抗原結合アーム(Ab1)がH1及びL1を含み、第2の抗原結合アーム(Ab2)がH2及びL2を含み、
(a)H1及びH2がそれぞれ、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のCH1領域を含み、
(b)L1及びL2がそれぞれ、ヒトカッパ軽鎖又はヒトラムダ軽鎖のCL領域を含み、
H1L1及びH2L2がそれぞれ、以下のアミノ酸置換:
(1)それぞれH1のCH1におけるG166D/E及びL1のCLにおけるS114K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるG166K/R及びL2のCLにおけるS114D/E、
(2)それぞれH1のCH1におけるT187D/E及びL1のCLにおけるD/N170K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるT187K/R及びL2のCLにおけるD/N170D/E、
(3)それぞれH1のCH1におけるS131D/E及びL1のCLにおけるP119K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるS131K/R及びL2のCLにおけるP119D/E、
(4)それぞれH1のCH1におけるA129D/E及びL1のCLにおけるS121K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるA129K/R及びL2のCLにおけるS121D/E、
(5)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるK207K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるK207D/E、
(6)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるI/L117K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるI/L117D/E、
(7)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるF/V209K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるF/V209D/E、
(8)それぞれH2のCH1におけるG166D/E及びL2のCLにおけるS114K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるG166K/R及びL1のCLにおけるS114D/E、
(9)それぞれH2のCH1におけるT187D/E及びL2のCLにおけるD/N170K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるT187K/R及びL1のCLにおけるD/N170D/E、
(10)それぞれH2のCH1におけるS131D/E及びL2のCLにおけるP119K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるS131K/R及びL1のCLにおけるP119D/E、
(11)それぞれH2のCH1におけるA129D/E及びL2のCLにおけるS121K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるA129K/R及びL1のCLにおけるS121D/E、
(12)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるK207K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるK207D/E、
(13)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるI/L117K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるI/L117D/E、又は
(14)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるF/V209K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるF/V209D/E
からなる群から選択される電荷対を含む、請求項12から16のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項18】
1)配列番号15のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号17のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、
2)配列番号19のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号21のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、
3)配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、又は
4)配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)
を含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項19】
第2の抗原結合アーム(Ab2)が、配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む、請求項18に記載の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項20】
FAが、炭素6個、炭素8個、炭素10個、炭素12個、炭素14個、炭素16個、若しくは炭素18個、又はその間の任意の数の炭素を伴うFAから選択される、請求項1から19のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項21】
FAが、炭素14個若しくは炭素18個又はその間の任意の数の炭素を伴うFAから選択される、請求項20に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項22】
FAが、置換されたアミノ酸残基へのコンジュゲーションのためのリンカーを含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項23】
リンカーがペプチドリンカー又はポリエチレングリコールリンカーから選択される、請求項22に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項24】
ペプチドリンカーが50アミノ酸未満である、請求項23に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項25】
抗体又はその抗原結合断片にコンジュゲートされたFAがアルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合が、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす、請求項1から24のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項26】
単離された抗体又はその抗原結合断片がT細胞を活性化する能力が、アルブミンに結合していない単離された抗体又はその抗原結合断片と比較して、アルブミンへの結合に際して低下する、請求項1から25のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片をコードする単離された核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項29】
請求項28に記載のベクターを含む単離された宿主細胞。
【請求項30】
請求項1から26のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項31】
それを必要とする対象においてがんを処置する方法であって、請求項30に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項32】
がんが、肺がん、胃がん、食道がん、胆管がん、胆管細胞がん、結腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膀胱尿路上皮がん、転移性黒色腫、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、及び他の固形腫瘍、並びに非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、多発性骨髄腫(MM)、急性骨髄性白血病(AML)、及び他の液状腫瘍からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項1から26のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法であって、これらの抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を、抗体又はその抗原結合断片を産生する条件下で培養するステップ、及び抗体又はその抗原結合断片を細胞又は培養物から回収するステップを含む方法。
【請求項34】
FAを、抗体又はその抗原結合断片に、置換されたアミノ酸残基の箇所でコンジュゲートするステップをさらに含む、請求項33に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項35】
請求項1から26のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を産生する方法であって、抗体又はその抗原結合断片を薬学的に許容される担体と組み合わせて、医薬組成物を得るステップを含む方法。
【請求項36】
アルブミンを請求項1から26のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片と接触させるステップを含む方法であって、抗体又はその抗原結合断片が標的抗原に特異的に結合することができ、FAがアルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合が、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす方法。
【請求項37】
接触させるステップが、単離された抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を腫瘍の処置を必要とする対象に投与することを含み、腫瘍が標的抗原を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
アルブミンが循環血中と比較して腫瘍微小環境中においてより高い代謝回転速度を有し、及び/又は対象の循環血中のアルブミンレベルよりも低いレベルで腫瘍微小環境中に存在し、好ましくは、腫瘍微小環境におけるアルブミンのより低いレベルが、腫瘍微小環境における高度なアルブミン異化作用及び/又は腫瘍微小環境におけるプロテアーゼの高いレベルに起因する、請求項36又は37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月27日に出願された米国仮出願第62/982,476号に基づく優先権を主張する。本開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が、(a)重鎖可変領域(VH)、及び軽鎖可変領域(VL)を含み、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が、標的抗原に特異的に結合することができ、VH、VLにおける、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離にあるアミノ酸残基が、脂肪酸(FA)にコンジュゲートすることができるアミノ酸残基で置換されており、置換されたアミノ酸残基でFAとコンジュゲート後に依然として標的抗原に特異的に結合することができ、FAにコンジュゲートされたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片が、生理的レベルのアルブミン(例えば、35~50mg/mL)の存在下で、標的抗原への特異的結合が低下又は消失している、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。本発明はまた、多重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸残基を含む1つ以上の抗原結合アームを含む、多重特異性抗体又はその抗原結合断片にも関する。本発明はまた、これらの抗体をコードする核酸及び発現ベクター、これらのベクターを含有する組換え細胞、並びにこれらの抗体を含む組成物にも関する。抗体を作製する方法、抗体をFAにコンジュゲートする方法、コンジュゲートされた抗体を含む組成物を作製する方法、及びコンジュゲートされた抗体をがんを処置するために使用する方法も提供される。
【0003】
電子的に提出した配列表への言及
本出願は、ファイル名「065799.32WO1 Sequence Listing」及び作成日2021年2月22日で29kbのサイズを有するアスキーフォーマットの配列表として、EFS-Webを介して電子的に提出される配列表を含む。EFS-Webを介して提出される配列表は明細書の一部であり、本明細書に参照により完全に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
T細胞エンゲージャーは、2つの結合ドメインからなる分子であり、一方のドメインはがん細胞の表面に発現される腫瘍関連抗原(TAA)に結合し、他方のドメインはT細胞表面分子への結合によってT細胞を活性化する。様々なT細胞結合ドメインが活性化構成要素として使用されてきたが、抗CD3結合ドメインはT細胞エンゲージャーの一部として広く使用されてきた。抗CD3二重特異性抗体は、腫瘍細胞にT細胞を動員してがん死滅を促進するためのT細胞が関与する免疫治療剤として使用されている。この免疫腫瘍学的アプローチの1つの主要な問題は、サイトカイン放出症候群(CRS)のリスクである。腫瘍微小環境から離れた部位でのT細胞活性化におけるこれらの薬剤の活性をモジュレートすることは、CRS及び他の毒性のリスクを低下させるのに役立ち得る。
【0005】
脂肪酸(FA)は循環血液中に高濃度で存在する。疎水性の性質により、脂肪酸は、35~50mg/mLの範囲にある血中アルブミン分子に結合する(Peters, T., 1996. All About Albumin: Biochemistry, Genetics and Medical Applications. San Diego, CA: Academic Press Limited)。7つの共通のFA結合部位がアルブミン上で同定されている(Bhattacharya et al., J Mol Biol. 2000. 303:721-32; Petitpas et al., J Mol Biol. 2001.314:955-60.)。さらに、腫瘍はアルブミンをエネルギー源として使用してそれらの活発な成長を支えることが提唱されており(Merlot et al., Front Physiol. 2014. 5:299)、これは腫瘍部位でのアルブミン異化作用の速度が高いことに合致する(HRADEC, Br J Cancer. 1958. 12:290-304; Andersson et al., J Surg Res. 1991. 50:156-62; Schilling et al., Int J Rad Appl Instrum B. 1992. 19:685-95; Stehle et al., Crit Rev Oncol Hematol. 1997. 26:77-100.)。腫瘍部位でのアルブミンの代謝回転速度の高さは、腫瘍微小環境ではアルブミン濃度が低下していることを示唆する。したがって、ある特定の腫瘍細胞の周りのアルブミンレベルは、循環血におけるものよりも低いことが予想される。さらに、間質アルブミン濃度は、血清中濃度と比較して脂肪組織及び骨格筋において有意に低いことが報告されている(Ellmerer et al., Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 278:E352-E356 (2000))。
【0006】
組織、例えば、脂肪組織、骨格筋、及び腫瘍微小環境におけるアルブミンレベルが循環血と比較してより低いことを利用することで、アルブミンへのFAの結合を使用して、アルブミンレベルの低い組織又は部位を標的とする治療剤の活性をモジュレートすることができる。これは、アルブミンがFAに結合した場合に、治療剤の活性が低下又は消失するように、治療剤の活性部位にコンジュゲートされたFAを用いて実施することができる。このアプローチが、免疫腫瘍学的治療剤、例えば、抗CD3モノクローナル及び/又は二重特異性抗体に適用されると、がんを処置する方法におけるCRS及び他の毒性のリスクを低下させる可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
1つの一般的な態様では、本発明は、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、抗体又はその抗原結合断片が、(a)重鎖可変領域(VH)、及び軽鎖可変領域(VL)を含み、抗体又はその抗原結合断片が、標的抗原、好ましくはヒト標的抗原に結合し、VH、VLにおける、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離にあるアミノ酸残基が、脂肪酸(FA)にコンジュゲートされたアミノ酸残基で置換されており、置換されたアミノ酸残基でFAとコンジュゲート後、抗体又はその抗原結合断片が依然として標的抗原に結合し、FAにコンジュゲートされた抗体又はその抗原結合断片は、生理的レベルのアルブミン(例えば、35~50mg/mL)の存在下で標的抗原への特異的結合が低下又は消失している、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。置換されたアミノ酸残基は、例えば、システイン残基又はリジン残基又は化学的コンジュゲーションに好適な改変アミノ酸であり得る。
【0008】
ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、配列番号1の残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113に対応するアミノ酸残基、又は配列番号2の残基26、27、52、53、56若しくは67に対応するアミノ酸残基に生じ、好ましくは、置換は、配列番号1のS25C、Y27C、K62C、K64C、K73C、S76C、D101C、S112C若しくはS113Cに対応する置換、又は配列番号2のS26C、S27C、S52C、K53C、S56C若しくはS67Cに対応する置換から選択され、ここで残基はKabatに従って番号付けされる。ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、配列番号1に対応する残基64又は配列番号2に対応する残基26であり、好ましくは、置換は、配列番号1に対応するK64C置換又は配列番号2に対応するS26C置換から選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。
【0009】
ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、配列番号9、10、11若しくは12の残基119若しくは120、又は配列番号13若しくは14の残基121若しくは124に生じ、好ましくは置換は、配列番号9、10、11若しくは12のS119C若しくはT120C、又は配列番号13若しくは14のS121C若しくはQ124Cから選択され、ここで残基はEU番号付けに従って番号付けされる。ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、配列番号9、10、11若しくは12の残基120であり、好ましくは置換はT120C置換であり、残基はEU番号付けに従って番号付けされる。
【0010】
ある特定の実施形態では、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、抗免疫細胞モジュレーター(ICM)抗体又はその抗原結合断片であり、ICM、好ましくはヒトICMに特異的に結合することができる。ICMは、例えば、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子からなる群から選択され得る。
【0011】
ある特定の実施形態では、抗ICM抗体又はその抗原結合断片は、抗CD3抗体又はその抗原結合断片であり、CD3、好ましくはヒトCD3に特異的に結合することができる。単離された抗CD3抗体又はその抗原結合断片は、例えば、それぞれ配列番号3、4、5、6、7及び8、又はそれぞれ配列番号33、34、35、36、37及び38のポリペプチド配列を有する、重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、HCDR2、HCDR3、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、LCDR2、及びLCDR3を含み得る。
【0012】
ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、抗CD3 mAbのVH(配列番号1又は配列番号27)における残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113、又は抗CD3 mAbのVL(配列番号2又は配列番号28)における残基26、27、52、53、56若しくは67に生じ、好ましくは置換は、VH(配列番号1又は27)におけるS25C、Y27C、K62C、K64C、K73C、S76C、D101C、S112C若しくはS113C、又はVL(配列番号2又は28)におけるS26C、S27C、S52C、K53C、S56C若しくはS67Cから選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、VH(配列番号1又は27)における残基64、又はVL(配列番号2又は28)における残基26にあり、好ましくは置換は、VH(配列番号1又は27)におけるK64C置換又はVL(配列番号2又は28)におけるS26C置換から選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。
【0013】
単離された抗CD3抗体又はその抗原結合断片は、例えば、K64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域;又はK64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域;又は配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域;又は配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域;又はT120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有する重鎖定常ドメイン1(CH1)領域及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有する軽鎖定常ドメイン(CL)領域;又は配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域;又は配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、を含み得る。
【0014】
ある特定の実施形態では、単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含み、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸残基を含む1つ以上の抗原結合アームを含む、単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片が提供される。多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、例えば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片であり得る。
【0015】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の抗原結合アーム(Ab1)及び第2の抗原結合アーム(Ab2)を含み、Ab1及び/又はAb2は、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸を含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、Ab1は免疫細胞モジュレーター(ICM)、好ましくはヒトICMに結合する。ICMは、例えば、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子からなる群から選択され得る。ある特定の実施形態では、ICMはCD3、好ましくはヒトCD3である。
【0017】
ある特定の実施形態では、Ab2は腫瘍関連抗原(TAA)、好ましくはヒト腫瘍関連抗原(ヒトTAA)に結合する。TAAは、例えば、DLL3であり得る。
【0018】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、H1及びL1を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)並びにH2及びL2を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)を含み、
(a)H1及びH2はそれぞれヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のCH1領域を含み、
(b)L1及びL2はそれぞれヒトカッパ軽鎖又はヒトラムダ軽鎖のCL領域を含み、
H1L1及びH2L2はそれぞれ、以下のアミノ酸置換:
(1)それぞれH1のCH1におけるG166D/E及びL1のCLにおけるS114K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるG166K/R及びL2のCLにおけるS114D/E、
(2)それぞれH1のCH1におけるT187D/E及びL1のCLにおけるD/N170K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるT187K/R及びL2のCLにおけるD/N170D/E、
(3)それぞれH1のCH1におけるS131D/E及びL1のCLにおけるP119K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるS131K/R及びL2のCLにおけるP119D/E、
(4)それぞれH1のCH1におけるA129D/E及びL1のCLにおけるS121K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるA129K/R及びL2のCLにおけるS121D/E、
(5)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるK207K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるK207D/E、
(6)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるI/L117K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるI/L117D/E、
(7)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるF/V209K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるF/V209D/E、
(8)それぞれH2のCH1におけるG166D/E及びL2のCLにおけるS114K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるG166K/R及びL1のCLにおけるS114D/E、
(9)それぞれH2のCH1におけるT187D/E及びL2のCLにおけるD/N170K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるT187K/R及びL1のCLにおけるD/N170D/E、
(10)それぞれH2のCH1におけるS131D/E及びL2のCLにおけるP119K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるS131K/R及びL1のCLにおけるP119D/E、
(11)それぞれH2のCH1におけるA129D/E及びL2のCLにおけるS121K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるA129K/R及びL1のCLにおけるS121D/E、
(12)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるK207K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるK207D/E、
(13)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるI/L117K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるI/L117D/E、又は
(14)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるF/V209K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるF/V209D/E
からなる群から選択される電荷対を含む。
【0019】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、配列番号15のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号17のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む。
【0020】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、配列番号19のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号21のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む。
【0021】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む。
【0022】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む。
【0023】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、
(a)配列番号15のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号17のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)、
(b)配列番号19のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号21のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)、
(c)配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)、又は
(d)配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)
を含む。
【0024】
ある特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、置換されたアミノ酸残基の箇所でFAにコンジュゲートされる。FAは、例えば、炭素6個、炭素8個、炭素10個、炭素12個、炭素14個、炭素16個、若しくは炭素18個、又はその間の任意の数の炭素を伴うFAから選択され得る。ある特定の実施形態では、FAは、炭素14個若しくは炭素18個又はその間の任意の数の炭素を伴うFAから選択される。
【0025】
ある特定の実施形態では、FAは、置換されたアミノ酸残基へのコンジュゲーションのためのリンカーを含む。リンカーは、例えば、ペプチドリンカー又はポリエチレングリコール(PEG)リンカーから選択され得る。ペプチドリンカーは、例えば、50アミノ酸未満であり得る。
【0026】
ある特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片にコンジュゲートされたFAは、アルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合は、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす。ある特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合断片が二重特異性抗体又はその抗原結合断片であり、Ab1アーム上のFAへのアルブミンの結合は、Ab2アームのその抗原への結合に影響を及ぼさず、又はAb2アーム上のFAへのアルブミンの結合は、Ab1アームのその抗原への結合に影響を及ぼさない。ある特定の実施形態では、FAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片は、アルブミンへの結合後にT細胞を活性化する能力が、アルブミンに結合していないFAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片と比較して低下する。
【0027】
本発明の単離された抗体又はその抗原結合断片をコードする単離された核酸も提供される。
【0028】
本発明の単離された抗体又はその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含むベクターも提供される。
【0029】
本発明のベクターを含む宿主細胞も提供される。
【0030】
本発明の単離された抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も提供される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、FAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、FAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含み、FAはアルブミンに結合している。
【0031】
それを必要とする対象においてがんを処置する方法であって、本発明の医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法も提供される。がんは、例えば、肺がん、胃がん、食道がん、胆管がん、胆管細胞がん、結腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膀胱尿路上皮がん、転移性黒色腫、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、及び他の固形腫瘍、並びに非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、多発性骨髄腫(MM)、急性骨髄性白血病(AML)、及び他の液状腫瘍からなる群から選択され得る。
【0032】
本発明の単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法も提供される。本方法は、これらの抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を、抗体又はその抗原結合断片を産生する条件下で培養するステップ、及び場合により、抗体又はその抗原結合断片を細胞又は培養物から回収するステップを含む。
【0033】
本発明のFAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法も提供される。本方法は、FAを抗体又はその抗原結合断片に、置換されたアミノ酸残基の箇所でコンジュゲートするステップを含む。アルブミンに結合し、FAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法であって、FAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片をアルブミンと接触させるステップを含む方法も提供される。
【0034】
本発明の単離された抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を産生する方法も提供される。本方法は、抗体又はその抗原結合断片を薬学的に許容される担体と組み合わせて医薬組成物を得るステップを含む。
【0035】
アルブミンを、必要に応じてリンカーを介して、抗体又はその抗原結合断片に共有結合によって連結したFAを含むコンジュゲートと接触させるステップを含む方法であって、コンジュゲートにおける抗体又はその抗原結合断片が、標的抗原に特異的に結合することができ、コンジュゲートにおけるFAがアルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合が、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす方法も提供される。ある特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、VH、VLにおける、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離にある1つ以上の置換されたアミノ酸残基を含み、1つ以上の置換されたアミノ酸残基は、必要に応じてリンカーを介して、FAに共有結合によって連結されている。ある特定の実施形態では、接触させるステップは、コンジュゲートを含む医薬組成物を腫瘍の処置を必要とする対象に投与することを含み、腫瘍は標的抗原を含む。ある特定の実施形態では、アルブミンは循環血と比較して腫瘍微小環境においてより高い代謝回転速度を有し、及び/又はアルブミンは、対象の循環血中のアルブミンレベルよりも低いレベルで腫瘍微小環境に存在する。
【0036】
前述の概要、及び本出願の好ましい実施形態についての以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読まれるとより理解されるであろう。しかし、本出願は、図面に示される実施形態には限定されないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1A】
図1A~1Eは、脂肪酸(FA)分子がVH領域にコンジュゲートされたモノクローナル抗体(mAb)(
図1A)及び二重特異性抗体(bsAb)(
図1B及び1C)の概略構造、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体のin vivoでの作用様式の説明(
図1D)、並びにFAにコンジュゲートされた抗体を同定するための戦略の概略図(
図1E)を示す。
図1A~1Cは、コンジュゲーション部位が、VL領域及びCL領域を含む、Fab領域内の他の適した部位にもあり得ることから、例示のみを目的とする概略図を提供する。FAは、コンジュゲートされたアームの抗原結合活性を種々の程度でモジュレートする可能性がある。
図1Aでは、FA分子は両方のアームのVH領域にコンジュゲートされることが示される。コンジュゲートされたアームの抗原結合活性はアルブミンによってモジュレートされることが予想されるが、これはコンジュゲートされたFAに結合したアルブミンが、コンジュゲートされたアームによる標的抗原の結合を完全又は部分的に遮断し得るためである。アルブミン依存的な活性は、コンジュゲートされた抗体の活性がアルブミンによってモジュレートされるという事実を指す(すなわち、高濃度のアルブミンは抗原結合活性を低下させる、又は完全に遮断する)。
【
図1B】
図1A~1Eは、脂肪酸(FA)分子がVH領域にコンジュゲートされたモノクローナル抗体(mAb)(
図1A)及び二重特異性抗体(bsAb)(
図1B及び1C)の概略構造、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体のin vivoでの作用様式の説明(
図1D)、並びにFAにコンジュゲートされた抗体を同定するための戦略の概略図(
図1E)を示す。
図1A~1Cは、コンジュゲーション部位が、VL領域及びCL領域を含む、Fab領域内の他の適した部位にもあり得ることから、例示のみを目的とする概略図を提供する。さらに、
図1B~1Cでは、二重特異性抗体の両方のアームにコンジュゲートさせることができる。FAは、コンジュゲートされたアームの抗原結合活性を種々の程度でモジュレートする可能性がある。
図1Bでは、FA分子は、二重特異性抗体の一方のアームのVH領域にコンジュゲートされることが示される。コンジュゲートされたアームの抗原結合活性はアルブミンによってモジュレートされることが予想されるが、これはコンジュゲートされたFAに結合したアルブミンが、コンジュゲートされたアームによる標的抗原の結合を完全又は部分的に遮断し得るためである。二重特異性抗体の両方のアームがFAとコンジュゲートされた場合に、同じ目標を達成することができる;しかし、この場合におけるアルブミンによるモジュレーションは、一方のアームのみがコンジュゲートされた二重特異性抗体と比較して増加し得る。アルブミン依存的な活性は、コンジュゲートされた抗体の活性がアルブミンによってモジュレートされるという事実を指す(すなわち、高濃度のアルブミンは抗原結合活性を低下させる、又は完全に遮断する)。
【
図1C】
図1A~1Eは、脂肪酸(FA)分子がVH領域にコンジュゲートされたモノクローナル抗体(mAb)(
図1A)及び二重特異性抗体(bsAb)(
図1B及び1C)の概略構造、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体のin vivoでの作用様式の説明(
図1D)、並びにFAにコンジュゲートされた抗体を同定するための戦略の概略図(
図1E)を示す。
図1A~1Cは、コンジュゲーション部位が、VL領域及びCL領域を含む、Fab領域内の他の適した部位にもあり得ることから、例示のみを目的とする概略図を提供する。さらに、
図1B~1Cでは、二重特異性抗体の両方のアームにコンジュゲートさせることができる。FAは、コンジュゲートされたアームの抗原結合活性を種々の程度でモジュレートする可能性がある。
図1Cでは、FA分子は、二重特異性抗体の一方のアームのCH1領域にコンジュゲートされることが示される。コンジュゲートされたアームの抗原結合活性はアルブミンによってモジュレートされることが予想されるが、これはコンジュゲートされたFAに結合したアルブミンが、コンジュゲートされたアームによる標的抗原の結合を完全又は部分的に遮断し得るためである。二重特異性抗体の両方のアームがFAとコンジュゲートされた場合に、同じ目標を達成することができる;しかし、この場合におけるアルブミンによるモジュレーションは、一方のアームのみがコンジュゲートされた二重特異性抗体と比較して増加し得る。アルブミン依存的な活性は、コンジュゲートされた抗体の活性がアルブミンによってモジュレートされるという事実を指す(すなわち、高濃度のアルブミンは抗原結合活性を低下させる、又は完全に遮断する)。
【
図1D】
図1A~1Eは、脂肪酸(FA)分子がVH領域にコンジュゲートされたモノクローナル抗体(mAb)(
図1A)及び二重特異性抗体(bsAb)(
図1B及び1C)の概略構造、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体のin vivoでの作用様式の説明(
図1D)、並びにFAにコンジュゲートされた抗体を同定するための戦略の概略図(
図1E)を示す。FAは、コンジュゲートされたアームの抗原結合活性を種々の程度でモジュレートする可能性がある。コンジュゲートされたアームの抗原結合活性はアルブミンによってモジュレートされることが予想されるが、これはコンジュゲートされたFAに結合したアルブミンが、コンジュゲートされたアームによる標的抗原の結合を完全又は部分的に遮断し得るためである。
図1Dは、in vivoでがん細胞を標的とするためにT細胞を関与させるのに使用するための、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体の作用様式を図示する。二重特異性抗体の両方のアームがFAとコンジュゲートされた場合に、同じ目標を達成することができる;しかし、この場合におけるアルブミンによるモジュレーションは、一方のアームのみがコンジュゲートされた二重特異性抗体と比較して増加し得る。さらに、
図1Dは、アルブミンレベルがいかにして、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体の抗原結合活性を調節するかを図示する。アルブミン依存的な活性は、コンジュゲートされた抗体の活性がアルブミンによってモジュレートされるという事実を指す(すなわち、高濃度のアルブミンは抗原結合活性を低下させる、又は完全に遮断する)。
【
図1E】
図1A~1Eは、脂肪酸(FA)分子がVH領域にコンジュゲートされたモノクローナル抗体(mAb)(
図1A)及び二重特異性抗体(bsAb)(
図1B及び1C)の概略構造、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体のin vivoでの作用様式の説明(
図1D)、並びにFAにコンジュゲートされた抗体を同定するための戦略の概略図(
図1E)を示す。FAは、コンジュゲートされたアームの抗原結合活性を種々の程度でモジュレートする可能性がある。コンジュゲートされたアームの抗原結合活性はアルブミンによってモジュレートされることが予想されるが、これはコンジュゲートされたFAに結合したアルブミンが、コンジュゲートされたアームによる標的抗原の結合を完全又は部分的に遮断し得るためである。二重特異性抗体の両方のアームがFAとコンジュゲートされた場合に、同じ目標を達成することができる;しかし、この場合におけるアルブミンによるモジュレーションは、一方のアームのみがコンジュゲートされた二重特異性抗体と比較して増加し得る。
図1Eは、FAにコンジュゲートされたmAb又はbsAbを同定するための具体的なステップを示す。アルブミン依存的な活性は、コンジュゲートされた抗体の活性がアルブミンによってモジュレートされるという事実を指す(すなわち、高濃度のアルブミンは抗原結合活性を低下させる、又は完全に遮断する)。
【
図2-1】
図2A~2Dは、例示的な抗体のアミノ酸配列を示す。
図2Aは、抗CD3抗体のVH領域(配列番号1)のアミノ酸配列を示す。
図2Bは、抗CD3抗体のVL領域(配列番号2)のアミノ酸配列を示す。
図2Cは、ヒトIgG1(配列番号9)、IgG2(配列番号10)、IgG3(配列番号11)、及びIgG4(配列番号12)のCH1領域のアミノ酸配列を示す。
図2Dは、ヒトカッパ(配列番号13)及びラムダ軽鎖(配列番号14)のCL領域のアミノ酸配列を示す。IMGT及びKabatの方法の組合せによって決定されたCDR領域をグレーで強調表示している。*は、既知のアレル変異の部位を表す。
【
図3-1】
図3A~3Gは、抗CD3モノクローナル抗体(mAb)における、置換及びFAによるコンジュゲーションのために選択されたアミノ酸残基の例を示す。
図3Aは、FAコンジュゲーションのためのシステインノックインの可能性のある部位を同定するための、抗CD3 mAbにおけるFab領域(VH、CH1、VL及びCLを含有)の3Dモデリングを示す。4つの部位が3D構造において例として示される(LC_S26、LC_S31、HC_K64、及びHC_T120)(LC:軽鎖;HC:重鎖)。その他の部位は表3に示される。
図3B~3Gは、CD3へのシステインノックインを伴う抗CD3 mAbのJurkat細胞に対する結合を示すグラフである。MFI:蛍光強度中央値。抗CD3 mAb、野生型抗CD3 mAb。
【
図4-1】
図4A~4Cは、抗CD3 mAbとのコンジュゲーションのためのFA分子の構造、及びFAにコンジュゲートされた抗CD3 mAbの質量分析(MS)プロファイルを示す。
図4Aは、コンジュゲーションのためのFA分子の構造を示す。すべてのFA分子がPEGリンカーを介してコンジュゲートされた。
図4Bは、C18 FAとコンジュゲートされたmAb(LC_S26C、HC_K64C、及びHC_T120C)のMSプロファイルを示す。
図4Cは、C6、C10、及びC14 FAのそれぞれとコンジュゲートされたHC_K64C mAbのMSプロファイルを示す。Expt、予測されたデコンボリューション質量;obs、観測されたデコンボリューション質量。LC_S26Cは、軽鎖のS26位置にあるセリンがシステインで置換された抗CD3 mAbを表す;システインがノックインされた他のすべてのmAbは、同じ命名規則に従う。
【
図5】
図5A~5Cは、C18 FAにコンジュゲートされた抗CD3 mAbの、Jurkat細胞上のCD3への結合に対するアルブミンの影響を示す。アッセイは50mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)の非存在下又は存在下で実施した。
図5A、コンジュゲートされたLC_S26C;
図5B、コンジュゲートされたHC_K64C;
図5C、コンジュゲートされたHC_T120C。
【
図6-1】
図6A~6Cは、C18 FAにコンジュゲートされた抗CD3 mAbによるT細胞活性化に対する種々の濃度のアルブミンの影響を示す。
図6A、コンジュゲートされたLC_S26C;
図6B、コンジュゲートされたHC_K64C;
図6C、コンジュゲートされたHC_T120C。アッセイ培地は、1% FBS(ウシ胎仔血清)を含有する;表示されたBSA濃度は、アッセイ培地に添加されたBSAを表す。
【
図7-1】
図7A~7Cは、C6、C10及びC14 FAにコンジュゲートされた抗CD3 mAbのそれぞれによるT細胞活性化に対する種々の濃度のアルブミンの影響を示す。
図7A、C6 FAにコンジュゲートされたHC_K64C;
図7B、C10 FAにコンジュゲートされたHC_K64C;
図7C、C14 FAにコンジュゲートされたHC_K64C。アッセイ培地は1% FBSを含有する;表示されたBSA濃度は、アッセイ培地に添加されたBSAを表す;対照、BSAを添加せず。
【
図8-1】
図8A~8Cは、抗CD3アームのHC上の残基K64がシステインで置換された、精製された抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体bsAb HC_K64Cの純度を示す。
図8Aは、ある特定の不純物標準を伴う、精製されたbsAb HC_K64CのHIC HPLC分析の結果を示す;
図8Bは、ある特定の不純物標準を伴う、精製されたbsAb HC_K64CのSCX HPLC分析の結果を示す;
図8Cは、精製されたbsAb HC_K64CのSEC HPLC分析の結果を示す。抗CD3ノブ(knob)ホモ二量体/half mol.、抗CD3 HC及び抗CD3 LCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準;抗DLL3ホール(hole)ホモ二量体/half mol.、抗DLL3 HC及び抗DLL3 LCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準;2x抗CD3 LCミスマッチ、抗CD3 HC、抗CD3 LC及び抗DLL3 HCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準;2x抗DLL3 LCミスマッチ、抗CD3 HC、抗DLL3 HC及び抗DLL3 LCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準。Half mol.、1つのHC及び1つのLCのみを有する半分のIgG分子。
【
図9-1】
図9A~9Cは、抗CD3アームのHC上の残基T120がシステインで置換された、精製された抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体bsAb HC_T120Cの純度を示す。
図9Aは、ある特定の不純物標準を伴う、精製されたbsAb HC_T120CのHIC HPLC分析の結果を示す;
図9Bは、ある特定の不純物標準を伴う、精製されたbsAb HC_T120CのSCX HPLC分析の結果を示す;
図9Cは、精製されたbsAb HC_T120CのSEC HPLC分析の結果を示す。抗CD3ノブホモ二量体/half mol.、抗CD3 HC及び抗CD3 LCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準;抗DLL3ホールホモ二量体/half mol.、抗DLL3 HC及び抗DLL3 LCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準;2x抗CD3 LCミスマッチ、抗CD3 HC、抗CD3 LC及び抗DLL3 HCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準;2x抗DLL3 LCミスマッチ、抗CD3 HC、抗DLL3 HC及び抗DLL3 LCをトランスフェクトした細胞の培地からプロテインA精製した不純物標準。Half mol.、1つのHC及び1つのLCのみを有する半分のIgG分子。
【
図10-1】
図10A~10Bは、脂肪酸分子とコンジュゲートされた精製された抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体の純度を示す。
図10Aは、脂肪酸分子とコンジュゲートされた精製された抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体のHIC HPLC分析の結果を示す;
図10Bは、脂肪酸分子とコンジュゲートされた精製された抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体のSEC HPLC分析の結果を示す。bsAb HC_T120C_C18は、C18 FAとコンジュゲートされた抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体bsAb HC_T120Cを指す;他のコンジュゲートされた二重特異性抗体は、同じ命名規則に従う。
【
図11】遮断抗体の存在下又は非存在下での、非コンジュゲート及びコンジュゲートされた抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体による、SHP-77細胞及びJurkat細胞の架橋アッセイの結果を示す。抗DLL3遮断mAbは、抗DLL3アームのmAbバージョンである;抗CD3遮断mAbは、抗CD3アームのmAbバージョンである(ノックインされたシステインを有しない)。WT bsAb、野生型抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体(システインノックインがない);SHP-77+Jurkat対照、抗体を添加せずに細胞を用いてアッセイを行った。
【
図12】
図12A~12Bは、非コンジュゲート及びコンジュゲートされた抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体によって媒介される、SHP-77細胞(DLL3を発現する)の存在下における、Jurkat細胞上でのT細胞-受容体-CD3(TCR/CD3)複合体の活性化に関する結果を示す。Jurkat細胞活性化が二重特異性抗体によるSHP-77細胞の同時結合を必要とすることを示すことを目的として、活性化を抑制するために抗DLL3遮断mAbを使用した。アッセイ培地は0.5% FBSを含有する。
【
図13-1】
図13A~13Bは、非コンジュゲート及びコンジュゲートされた抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体によって媒介される、SHP-77細胞(DLL3を発現する;標的細胞としても知られる)の存在下における、Jurkat細胞上でのTCR/CD3複合体の活性化に対するBSAの影響に関する結果を示す。アッセイ培地は0.5% FBSを含有する;表示されたBSA濃度は、アッセイ培地に添加されたBSAを表す。
【
図14】コンジュゲートされた二重特異性抗体の抗DLL3アームの抗原結合活性に対するBSAの影響を評価するために使用したELISAアッセイの結果を示す。抗DLL3 F(ab')2を、コンジュゲートされた二重特異性抗体の抗DLL3アームによるDLL3結合の阻害に関する対照として使用した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
様々な刊行物、文献、及び特許が背景技術及び本明細書の全体を通して引用又は記載され、これらの参照文献のそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、法令(act)、材料、デバイス、物品等についての議論は、本発明に関する背景を提供することを目的とする。このような議論は、これらの事項のいずれか又は全てが、開示されるか又は特許請求される任意の発明に関して先行技術の一部を形成することを認めるものではない。
【0039】
別途定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関与する技術分野の当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。そうでなければ、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に示す意味を有する。
【0040】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、別途この文脈で明確に示されていない限り、複数の対象を含む。
【0041】
別途記載されていない限り、任意の数値、例えば、本明細書に記載の濃度又は濃度範囲は、全ての例で、用語「約」で修飾されているものと理解されるべきである。よって、数値は、通常は、記載された値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は、0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は、0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用する場合、数値範囲の使用は、文脈が別途明確に示していない限り、そのような範囲内の整数及びその値の分数を含む、可能性のある全ての下位範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明確に含む。
【0042】
別途示されていない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、その一連の中のあらゆる要素を指すものと理解されるべきである。当業者であれば、慣用の実験を超えるものを使用することなく、本明細書に記載の本発明の具体的実施形態の多くの均等物を認識するか、又は確認することができるであろう。このような均等物は、本発明に包含されることが意図される。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」、「含む(includes)」、「含むこと(including)」、「有する(has)」、「有すること(having)」、「含有する(contains)」若しくは「含有すること(containing)」、又はその任意の他の変形は、記載された整数又は整数の群の包含を意味するが、任意の他の整数又は整数の群の除外を意味するものではなく、非排他的又はオープンエンドであることを意図するものである。例えば、要素の列挙を含む組成物、混合物、プロセス、方法、物品、又は装置は、これらの要素のみに必ずしも限定されるものではなく、明示的に列挙されていないか又はこのような組成物、混合物、プロセス、方法、物品、若しくは装置に固有の他の要素を含み得る。さらに、明示的にその逆が述べられていない限り、「又は(or)」は、包括的な又はを指し、排他的な又はを指すものではない。例えば、条件A又はBは、以下のうちのいずれか1つを満たす:Aが真であり(又は存在し)Bが偽である(又は存在しない);Aが偽であり(又は存在しない)Bが真である(又は存在する);及びAとBの両方が真である(又は存在する)。
【0044】
本明細書で使用する場合、複数の記載された要素間の接続的用語「及び/又は」は、個々の選択肢及び組み合わせた選択肢の両方を包含するものと理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」により接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしでの第1の要素の適用性を指す。第2の選択肢は、第1の要素なしでの第2の要素の適用性を指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素の一緒の適用性を指す。これらの選択肢のいずれか1つは、その意味の範囲内にあると理解され、したがって、本明細書で使用される用語「及び/又は」の要件を満たす。この選択肢の1つ以上の同時適用も、この意味に含まれると理解され、したがって、用語「及び/又は」の要件を満たす。
【0045】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用される用語「からなる(consists of)」、又はその変形、例えば、「からなる(consist of)」若しくは「からなる(consisting of)」は、任意の記載された整数又は整数の群の包含を示すが、さらなる整数又は整数の群を特定の方法、構造、又は組成物に追加することはできない。
【0046】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用される、用語「から本質的になる(consists essentially of)」、又はその変形、例えば、「から本質的になる(consist essentially of)」若しくは「から本質的になる(consisting essentially of)」は、任意の記載された整数又は整数の群の包含、及び特定の方法、構造又は組成物の基本的な又は新規な特性を実質的に変えない任意の記載された整数又は整数の群の任意選択の包含を示す。M.P.E.P.§2111.03を参照のこと。
【0047】
本明細書で使用する場合、「対象」は、任意の動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを意味する。用語「哺乳動物」は、本明細書で使用する場合、任意の哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、これらに限定されないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、ヒト等、より好ましくはヒトが挙げられる。
【0048】
用語「右」、「左」、「下」、及び「上」は、言及される図面中の方向を示す。
【0049】
好ましい発明の構成要素の寸法又は特徴に言及する場合に本明細書で使用する用語「約(about)」、「およそ(approximately)」、「全般的に(generally)」、「実質的に(substantially)」等の用語は、記載された寸法/特徴が、厳密な境界又はパラメータではなく、当業者に理解されるように、機能的に同じか又は同様のそれらの軽微な変化を除外するものではないことも理解されるべきである。少なくとも、数値パラメータを含むこのような言及は、当技術分野で許容される数学的及び工業的原理(例えば、丸め誤差、測定誤差又は他の系統誤差、製作公差等)を使用した場合に少なくとも最下位桁を変化させないばらつきを含む。
【0050】
本明細書で使用する場合、明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用される、用語「異なる重鎖」又は「異なる軽鎖」は、互いに同一でない配列を有する重鎖又は軽鎖を示す。
【0051】
2つ以上の核酸又はポリペプチド配列(例えば、抗DLL3抗体、抗CD3抗体、抗CD3/抗DLL3二重特異性抗体、DLL3ポリペプチド及びそれらをコードするポリヌクレオチド、及びCD3ポリペプチド及びそれらをコードするポリヌクレオチド)の文脈における、用語「同一の」又は「同一性」パーセントは、以下の配列比較アルゴリズムのうちの1つを使用するか又は目視検査によって測定して最大一致となるように比較及びアライメントされた場合に、同じであるか、又は同じであるアミノ酸残基若しくはヌクレオチドを特定のパーセンテージで有する、2つ以上の配列又は部分配列を指す。
【0052】
配列比較では、通常は、1つの配列が、試験配列が比較される参照配列として機能する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じて部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムによって、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列と比較した試験配列に関する配列同一性パーセントが計算される。
【0053】
比較のために最適な配列アラインメントは、例えば、Smith及びWaterman、Adv. Appl. Math. 2:482(1981)のローカルホモロジーアルゴリズムによって、Needleman及びWunsch、J. Mol. Biol. 48:443(1970)のホモロジーアラインメントアルゴリズムによって、Pearson及びLipman、Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444(1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr., Madison、WIのGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)のコンピュータ上での実行によって、又は目視検査(全般的に、Current Protocols in Molecular Biology、F.M. Ausubelら編、Current Protocols、Greene Publishing Associates, Inc.とJohn Wiley & Sons, Inc.の合弁事業、(1995補遺)(Ausubel)を参照のこと)によって行うことができる。
【0054】
配列同一性パーセント及び配列類似性を決定するのに好適なアルゴリズムの例は、Altschulら(1990)J. Mol. Biol. 215:403~410頁及びAltschulら(1997)Nucleic Acids Res. 25:3389~3402頁にそれぞれ記載される、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、米国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)を通じて公的に利用可能である。このアルゴリズムはまず、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合、ある正の値の閾値スコアTと一致するか又はそれを満たすかのいずれかである、クエリー配列中の長さWの短いワードを特定することによって、高スコア配列対(HSP)を特定することを伴う。Tは、隣接ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschulら、上掲)。これらの初期隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして作用する。次いで、このワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に伸長される。
【0055】
累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(一致する残基の対に関するリワードスコア;常に0より大きい)及びN(ミスマッチの残基に関するペナルティスコア;常に0より小さい)を使用して計算される。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスを使用して、累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ下降するか;累積スコアが1つ以上の負のスコアリングの残基アラインメントの蓄積のために、0以下になるか;又はいずれかの配列の末端に達するかした場合、それぞれの方向でのワードヒットの伸長が停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、T及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、ワード長(W)を11、期待値(E)を10、M=5、N=-4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、ワード長(W)を3、期待値(E)を10、及びBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff及びHenikoff、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915頁(1989)を参照のこと)をデフォルトとして使用する。
【0056】
配列同一性パーセントを計算することに加えて、BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計分析も実施する(例えば、Karlin及びAltschul、Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90:5873~5787頁(1993)を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間の一致が偶然に生じる確率の指標を提供する最小和確率(P(N))である。例えば、試験核酸と参照核酸との比較における最小和確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、その核酸は参照配列と類似すると考えられる。
【0057】
2つの核酸配列又はポリペプチドが実質的に同一であることのさらなる指標は、第1の核酸によってコードされるポリペプチドが、以下に記載されるように、第2の核酸によってコードされるポリペプチドと免疫学的に交差反応性であることである。よって、ポリペプチドは、典型的には、例えば、2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合に、第2のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、2つの分子が、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。
【0058】
本明細書で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸分子」、「ヌクレオチド」又は「核酸」と同義であり、あらゆるポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これらは修飾されていないRNA若しくはDNA又は修飾されたRNA若しくはDNAであってもよい。「ポリヌクレオチド」とは、一本鎖DNA及び二本鎖DNA、一本鎖領域と二本鎖領域の混合であるDNA、一本鎖RNA及び二本鎖RNA、一本鎖領域と二本鎖領域の混合であるRNA、一本鎖若しくはより典型的には二本鎖のDNA及びRNAを含むハイブリッド分子、或いは一本鎖領域と二本鎖領域の混合物を含むが、これらに限定されない。さらに、「ポリヌクレオチド」とは、RNA若しくはDNA又はRNA及びDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。また、ポリヌクレオチドという用語は、1以上の修飾された塩基を含むDNA又はRNA、及び安定性若しくは他の理由のために骨格が修飾されたDNA又はRNAも含む。「修飾された」塩基としては、例えば、トリチル化塩基及びイノシン等の異常塩基が含まれる。DNA及びRNAには様々な修飾を施すことができる。したがって、「ポリヌクレオチド」は、天然に一般に見られるような化学的に、酵素により、又は代謝により修飾された形態のポリヌクレオチド、並びに、ウイルス及び細胞に特徴的なDNA及びRNAの化学的形態を含む。また「ポリヌクレオチド」は、比較的短い核酸鎖(しばしばオリゴヌクレオチドと呼ばれる)も含む。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「ベクター」は、他の核酸セグメントが、そのセグメントの複製又は発現をもたらすように遺伝子操作により中に挿入されている、レプリコンである。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「宿主細胞」は、本発明の核酸分子を含む細胞を指す。「宿主細胞」は、任意のタイプの細胞、例えば初代細胞、培養細胞、細胞株から得た細胞等である。一実施形態では、「宿主細胞」は、本発明の核酸分子がトランスフェクトされた細胞である。他の実施形態では、「宿主細胞」は、このようなトランスフェクトされた細胞の子孫である細胞、又は子孫である可能性がある細胞である。細胞の子孫は、親細胞と同一であることもあるし、或いは例えば核酸分子を宿主細胞のゲノムに組み込む際又は継代の際に突然変異が生じたり環境の影響を受けることにより、同一でないこともある。
【0061】
本明細書中で使用される用語「発現」は、遺伝子産物の生合成を指す。この用語は、RNAへの遺伝子の転写を含む。またこの用語は、RNAから1以上のポリペプチドへの翻訳も含み、さらに、全ての自然発生する転写後修飾及び翻訳後修飾も包含する。発現したモノクローナル抗体又は二重特異性抗体は、宿主細胞の細胞質内にあったり、細胞培養の増殖培地等の細胞外環境中に入ったり、又は細胞膜に固定されるものもある。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、又は「タンパク質」は、アミノ酸で構成される分子を指し、当業者がタンパク質として認識することができるものである。本明細書では、アミノ酸残基を表す従来の1文字若しくは3文字コードが使用される。用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書において、任意の長さのアミノ酸からなるポリマーを指すために交換可能に用いられる。ポリマーは直鎖状であっても分岐状であってもよいし、修飾されたアミノ酸を含んでもよいし、非アミノ酸が割り込んでいてもよい。またこの用語は、天然に若しくは介入(例えばジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化等)又は任意の他の操作若しくは修飾(例えばコンジュゲーション等) により修飾された、アミノ酸ポリマーも包含する。またこの定義には、例えばアミノ酸の1以上の類似体(例えば非天然アミノ酸等を含む)並びに当分野において公知である他の修飾を含むポリペプチドも含まれる。
【0063】
本明細書に記載されるペプチド配列は、慣例に従って記載されるため、ペプチドのN-末端領域は左側に、C-末端領域は右側になっている。アミノ酸の異性体型が公知であるが、特にそうでないと明記しない限り、アミノ酸のL-型が記載される。
【0064】
本明細書に記載される場合、用語「CD3」は、T細胞受容体(TCR)に対する共受容体として機能するマルチサブユニットタンパク質複合体である分化抗原群3を指す(Dong et al., Nature 573(7775):546-552 (2019))。標的細胞の表面上のペプチド-MHC(pMHC)へのTCRの結合は、TCR-CD3複合体のクラスター化を誘導し、CD3のζ鎖によって媒介される細胞内シグナル伝達を活性化する(Annu Rev Immunol. 27:591-619 (2009))。CD3はT細胞の活性化のために必要であり、例えば、CAR-T細胞等の治療剤による、及びCD3ベースのT細胞エンゲージャーによるそのpMHC非依存的な活性化は、T細胞を動員して腫瘍細胞を死滅させるのに非常に有効である(Brown and Mackall, Nat Rev Immunol 19(2):73-74 (2019)及びClynes and Desjarlais, Annu Rev Med 70:437-450 (2019))。ヒトCD3イプシロンサブユニットの例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_000724.1に表される。
【0065】
本明細書に記載される場合、用語「DLL3」は、デルタ様3又はデルタ様タンパク質3としても知られるデルタ様カノニカルNotchリガンド3(DLL3)を指し、これは発生初期の間の体節分節に必要である(Dunwoodie et al., Development 129:1795-806 (2002))。哺乳動物NotchファミリーリガンドであるDLL1、DLL4、JAG1、及びJAG2のすべてがNotch受容体シグナル伝達をin transで活性化するのとは異なり(Ntziachristos et al., Cancer Cell 25(3):318-34 (2014))、DLL3は主としてゴルジ体に局在し、Notchシグナル伝達を活性化することはできない(Chapman et al., Hum Mol Genet 20(5):905-16 (2011)及びGeffers et al., J Cell Biol 178(3):465-76 (2007))。正常発生の間に、DLL3は、Notch及びDLL1と相互作用することによって、シス作用性及びトランス作用性の両方のNotch経路の活性化を阻害する(Chapman et al., Hum Mol Genet 20(5):905-16(2011))。DLL3は、脳を除く成体正常組織には通常は存在しないか、又は非常に低レベルでしか存在しないが、肺がん、精巣がん、神経膠腫及び黒色腫の試料では過剰発現される(Uhlen et al., Science 357(6352): eaan2507 (2017))。さらに、DLL3は、小細胞肺がん(SCLC)及び大細胞神経内分泌がん(LCNEC)腫瘍細胞の表面で検出可能であり(Saunders et al., Sci Transl Med 7(302):302ra136 (2015)及びSharma et al., Cancer Res 77(14):3931-41 (2017))、このことからDLL3はがん療法のためのモノクローナル抗体の有望な標的となる。したがって、抗DLL3モノクローナル抗体を、DLL3を発現する腫瘍細胞を特異的に標的化するために使用して、抗がん治療剤として役立てられる可能性があると考えられる。用語「ヒトDLL3」は、ヒトに由来するDLL3を指す。ヒトDLL3の例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_058637.1に表される。
【0066】
「腫瘍関連抗原(TAA)」は、本明細書に記載される場合、正常組織よりも腫瘍においてより高いレベルで存在する、任意の細胞表面ペプチド及び/若しくは抗原、又は細胞表面ペプチド及び/若しくは抗原の組合せ、並びにその翻訳後修飾部分(例えば、グリコシル化)を指す。腫瘍において特異的に存在する一部の腫瘍関連抗原は、腫瘍特異抗原(TSA)としても知られる。腫瘍関連抗原の例には、腫瘍ウイルスによってコードされるウイルスタンパク質;変異した腫瘍性タンパク質又は腫瘍抑制因子;腫瘍細胞の表面及び/又は内部で過剰発現される正常タンパク質;細胞表面タンパク質の翻訳後修飾;その発現が通常は発生段階に限られ、成体組織では発現されない癌胎児性タンパク質、並びにその発現が非必須組織に限られる細胞型特異的タンパク質がある。
【0067】
「脂肪酸」は、本明細書に記載される場合、一般に6~22個の炭素原子を有するカルボン酸基で終結する炭化水素鎖で構成される化学分子を指す。本発明においては、様々な脂肪酸誘導体も、アルブミンに結合するそれらの能力から脂肪酸と考える。脂肪酸及びその誘導体は脂質の主成分であり、疎水性を与える。炭化水素鎖の長さ及び飽和度は脂肪酸によって異なり、それらが付随する物性を決定する。脂肪酸の種類には、不飽和脂肪酸(多価不飽和及び一価不飽和)及び飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸は水素で飽和しており、ほとんどは直鎖状の炭化水素鎖であり、炭素原子数は偶数である。
【0068】
「免疫細胞モジュレーター(ICM)」は、本明細書に記載される場合、免疫細胞の表面に発現されて免疫細胞の機能を調節する、任意の細胞表面分子、例えばタンパク質を指す。ICMには刺激性分子及び抑制性分子が含まれる。刺激性ICMは、ある特定の特徴を有する特異的抗体又は抗原結合断片が刺激性ICMに特異的に結合する場合に、免疫細胞の活性化を媒介することができる。抑制性ICMは、リガンド/相互作用パートナーによる結合を受けると免疫細胞の活性を抑制し、これは免疫細胞の活性化を導くある特定の特徴を有する特異的抗体又は抗原結合断片によって遮断され得る。これらの免疫細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、又は免疫系の他の種類の細胞であり得る。ICMの例には、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子が含まれるが、これらには限定されない。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「完全な遮断」又は「完全な阻止」は、標的抗原結合ドメイン(例えば、モノクローナル若しくは二重特異性抗体又はその抗原結合断片)への標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)の結合の完全な阻害を指す。標的抗原結合の完全な阻害は、標的抗原結合ドメインへの標的抗原の結合がないこと(例えば、0%の結合)を意味する。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「部分的な遮断」又は「部分的な阻止」は、標的抗原結合ドメイン(例えば、モノクローナル若しくは二重特異性抗体又はその抗原結合断片)への標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)の結合の不完全な阻害を指す。標的抗原結合の不完全な阻害は、標的抗原結合ドメインへの標的抗原の少なくとも一部の結合(例えば、1%から99%の結合)があることを意味する。
【0071】
本明細書で使用される場合、用語「特異的結合」は、対照抗原と比較した場合の抗体若しくはその抗原結合断片への標的抗原の有意な結合、及び/又は対照抗体若しくは抗原結合断片と比較した場合の抗体若しくはその抗原結合断片への標的抗原の有意な結合を指し、ここで対照抗原は配列及び/又は構造の比較によって標的抗原とは異なり、並びに対照抗体又は抗原結合断片は、配列及び/又は構造の比較によって標的抗原とは異なるその対応する抗原のみに有意且つ選択的に結合する。
【0072】
抗体
本発明は一般に、可変重鎖領域(VH)及び可変軽鎖領域(VL)を含む抗原結合ドメイン又はその近傍に(例えば、VH、VL内、又はVH若しくはVLのいずれかから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離に)コンジュゲートされた脂肪酸(FA)分子を含む、モノクローナル抗体(mAb)(例えば、抗ICM mAb、例えば、抗CD3 mAb)又は二重特異性抗体(bsAb)(例えば、抗CD3/抗DLL3 bsAb)に関する。コンジュゲーション部位は、抗原結合ドメイン内又はその近傍の反応性残基であり、ノックインされたシステイン又は別の反応性アミノ酸であり得る。コンジュゲーション部位の位置は、ノックインされたシステイン(若しくは他の反応性アミノ酸)又はコンジュゲートされたFAが、抗原結合ドメインの標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)結合活性を消失させないように特定される。コンジュゲートされたFAは、アルブミン分子に結合することができ、結合したアルブミン分子は、抗原結合ドメインと標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)との間に意味のある空間を占めることができる。結合したアルブミン分子は、抗原結合ドメインへの標的抗原の結合を立体的に妨害して、標的抗原の抗原結合ドメインとの結合の減少又は完全な遮断を導くことができる。FAにコンジュゲートされたmAb、又はbsAbのFAにコンジュゲートされたアームは、抗体結合時に免疫細胞活性化を導き得る免疫細胞モジュレーター(ICM)に対するものであり得る。ICMの例には、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子が含まれるが、これらに限定されない。したがって、コンジュゲートされたmAb又はbsAbの免疫細胞活性化活性を、コンジュゲートされたFAに結合したアルブミンによって調節することができる。調節の程度は、コンジュゲートされたmAb又はbsAbの周りのアルブミンの濃度、FA分子の長さ、及びコンジュゲーション部位の具体的な位置に依存する。本発明はまた、多重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸残基を含む1つ以上の抗原結合アームを含む多重特異性抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0073】
mAb又はbsAb又は多重特異性抗体上でコンジュゲートされたFAは、血液中の循環アルブミンによる結合を受けることができ、これはコンジュゲートされたmAb又はbsAbのT細胞上の標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)への結合を減少させるか又は遮断して、T細胞活性化の部分的又は完全な阻害を導くのに役立ち得る。循環血と比較してアルブミン代謝回転速度がより高く、局所アルブミンレベルが循環血中よりも低いと予想される腫瘍微小環境では、コンジュゲートされた抗体に結合したアルブミンはより少ないか又は全くなく、このことは標的抗原結合(例えば、CD3)及びT細胞活性化の増大を導き得る。加えて、又は代替的に、腫瘍微小環境におけるより高いアルブミン代謝回転速度は、アルブミンが結合したmAb又はbsAb又は多重特異性抗体のレベルを低下させて抗原結合ドメインを露出させ、標的抗原結合(例えば、CD3)及びT細胞活性化の増大を導くことができる。コンジュゲートされた抗体は、in vivoでの安全性に関して利点がある可能性があり、治療目的に使用することができる。また、コンジュゲートされたbsAbを、一方のアームが腫瘍関連抗原(TAA)に対する抗原結合ドメインを含み、他方のアームがコンジュゲートされた抗ICM抗原結合領域(例えば、抗CD3抗原結合領域)を含む、T細胞エンゲージャー又は他の免疫細胞エンゲージャーとして使用することもできる。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、広義の意味で使用され、免疫グロブリン又は抗体分子を含み、モノクローナル若しくはポリクローナルである、ヒトの、ヒト化された、複合体の及びキメラの抗体及び抗体断片を含む。一般的に、抗体は、特定の抗原への結合特異性を示すタンパク質又はペプチド鎖である。抗体構造は周知である。免疫グロブリンは、重鎖定常ドメインアミノ酸配列に応じて5つの主要なクラス(すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM)に割り当てることができる。IgA及びIgGは、アイソタイプIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4にさらに細分類される。したがって、本発明の抗体は、5つの主要なクラス又は対応するサブクラスのいずれかのものであり得る。好ましくは、本発明の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4である。脊椎動物種の抗体軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、2つの明確に異なるタイプ、すなわち、カッパ及びラムダのうちの一方に割り当てることができる。したがって、本発明の抗体は、カッパ又はラムダ軽鎖定常ドメインを含有し得る。特定の実施形態によれば、本発明の抗体は、ラット又はヒト抗体由来の重鎖及び/又は軽鎖定常領域を含む。重鎖及び軽鎖定常ドメインに加えて、抗体は、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域から構成される抗原結合領域を含み、その軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のそれぞれが3つのドメイン(すなわち、相補性決定領域1~3;CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む。軽鎖可変領域のドメインは、代わりに、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3と称され、重鎖可変領域のドメインは、代わりに、HCDR1、HCDR2、及びHCDR3と称される。
【0075】
抗体のアミノ酸残基のナンバリングために幾つかのシステムが使用される。Kabatナンバリング法は、抗体の可変領域に基づいたスキームである(Elvin A. Kabatら、 Sequences of Proteins of Immunological Interest第5版(1991))。EUナンバリングシステムは、定常ドメイン(CH1、ヒンジ、及びFcの一部を含む)で広く使用されている(Elvin A. Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest第5版(1991))。
【0076】
本明細書で使用する場合、用語「単離(された)抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えばDLL3に特異的に結合する単離された抗体は、DLL3に結合しない抗体を実質的に含まず、CD3に特異的に結合する単離された抗体は、CD3に結合しない抗体を実質的に含まず、CD3及びDLL3に特異的に結合する二重特異性抗体は、CD3及びDLL3に結合しない抗体を実質的に含まない)。さらに、単離された抗体は他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まない。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、わずかな量で存在し得る天然に存在する可能性のある突然変異を除いて、同一である。本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ技法、単一リンパ球遺伝子クローニング技法によって、又は組換えDNA法によって、作製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、ヒト重鎖導入遺伝子及び軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えば、トランスジェニックマウス又はラットから得られるB細胞を含むハイブリドーマによって産生させることができる。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「抗原結合断片」は、例えば、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、単一ドメイン抗体(sdab)、scFv二量体(二価のダイアボディ)、1つ以上のCDRを含む抗体の一部から形成された多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、二価ドメイン抗体、又は抗原に結合するが完全な抗体構造を含まない任意の他の抗体断片等の、抗体断片を指す。抗原結合断片は、親抗体又は親抗体断片が結合するのと同じ抗原に結合することが可能である。特定の実施形態によれば、抗原結合断片は、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域、及び重鎖のFdセグメントを含む。他の特定の実施形態によれば、抗原結合断片は、Fab及びF(ab')を含む。
【0079】
本明細書で使用する場合、用語「単鎖抗体」は、約15~約20アミノ酸の短いペプチドによって連結した重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、この分野の従来の単鎖抗体を指す。本明細書で使用する場合、用語「単一ドメイン抗体」は、重鎖可変領域及び重鎖定常領域を含むか又は重鎖可変領域のみを含む、この分野の従来の単一ドメイン抗体を指す。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される抗体又は当技術分野で公知の任意の技法を使用して作製されるヒトによって産生される抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体を指す。ヒト抗体のこの定義は、インタクトな若しくは完全長の抗体、その断片、並びに/又は少なくとも1つのヒト重鎖及び/若しくは軽鎖ポリペプチドを含む抗体を含む。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「ヒト化抗体」は、抗体の抗原結合特性は保持されるが、ヒトの身体におけるその抗原性は低下するように、ヒト抗体のものに対する配列相同性を増加させるよう改変されている、非ヒト抗体を指す。
【0082】
本明細書で使用する場合、用語「キメラ抗体」は、免疫グロブリン分子のアミノ酸配列が2つ以上の生物種に由来する抗体を指す。軽鎖と重鎖の両方の可変領域が、所望の特異性、親和性、及び能力を有する哺乳動物のうちの1種(例えば、マウス、ラット、ウサギ等)に由来する抗体の可変領域に対応する場合が多く、一方、定常領域は、その種における免疫応答の誘発を回避するために、哺乳動物の別の種(通常、ヒト)に由来する抗体の配列に対応する。
【0083】
本明細書で使用する場合、用語「多重特異性抗体」は、複数の免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む抗体を指し、この複数のうち第1の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、第1のエピトープに対する結合特異性を有し、この複数のうち第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、第2のエピトープに対する結合特異性を有する。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、同じ抗原上、例えば、同じタンパク質(又は多量体タンパク質の同じサブユニット)上にある。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、重複しているか又は実質的に重複している。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、重複していないか又は実質的に重複していない。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、異なる抗原上、例えば、異なるタンパク質(又は多量体タンパク質の異なるサブユニット)上にある。一実施形態では、多重特異性抗体は、第3、第4、又は第5の免疫グロブリン可変ドメインを含む。一実施形態では、多重特異性抗体は、二重特異性抗体分子、三重特異性抗体分子、又は四重特異性抗体分子である。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「二重特異性抗体」は、たった2つのエピトープ又は2つの抗原に結合する多重特異性抗体を指す。二重特異性抗体は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する第1の免疫グロブリン可変ドメイン配列と、第2のエピトープに対する結合特異性を有する第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列とによって特徴付けられる。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、同じ抗原上、例えば、同じタンパク質(又は多量体タンパク質の同じサブユニット)上にある。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、重複しているか又は実質的に重複している。一実施形態では、第1及び第2のエピトープは、異なる抗原上、例えば、異なるタンパク質(又は多量体タンパク質の異なるサブユニット)上にある。一実施形態では、二重特異性抗体は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する重鎖可変ドメイン配列及び軽鎖可変ドメイン配列と、第2のエピトープに対する結合特異性を有する重鎖可変ドメイン配列及び軽鎖可変ドメイン配列とを含む。一実施形態では、二重特異性抗体は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する半抗体、又はその断片、及び第2のエピトープに対する結合特異性を有する半抗体、又はその断片を含む。一実施形態では、二重特異性抗体は、第1のエピトープに対する結合特異性を有するscFv、又はその断片、及び第2のエピトープに対する結合特異性を有するscFv、又はその断片を含む。
【0085】
本明細書で使用される場合、用語「CD3」は、分化抗原群3を指す。ヒトCD3イプシロンサブユニットの例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_000724.1に表される。用語「4-1BB」は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー9(TNFRSF9)を指し、これはCD137及びILA(リンパ球活性化によって誘導される受容体)としても知られる。ヒト4-1BBの例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_001552.2に表される。用語「OX40」は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー4(TNFRSF4)を指し、これはCD134としても知られる。ヒトOX40の例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_003318.1に表される。用語「CD28」は、分化抗原群28を指す。ヒトCD28バリアントの例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_001230006.1、NP_001230007.1、NP_006130.1、XP_011510496.1、及びXP_011510499.1に表される。用語「PD-1」は、プログラム細胞死1(programmed cell death 1)を指す。ヒトPD-1の例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_005009.2に表される。用語「GITR」は、グルココルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質(GITR)を指し、これは腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー18(TNFRSF18)又は活性化誘導可能TNFRファミリー受容体(AITR)としても知られる。ヒトGITRバリアントの例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_004186.1、NP_683699.1、及びNP_683700.1に表される。用語「VISTA」は、T細胞活性化のVドメインIg抑制因子を指し、これはVセット免疫調節受容体(VSIR)としても知られる。ヒトVISTAの例示的なアミノ酸配列は、GenBank受託番号NP_071436.1に表される。
【0086】
本明細書で使用される場合、「CD3及び/又はDLL3に特異的に結合する」抗体は、CD3及び/又はDLL3、好ましくはヒトCD3及び/又はヒトDLL3に、1×10-7M以下、好ましくは1×10-8M以下、より好ましくは5×10-9M以下、1×10-9M以下、5×10-10M以下、又は1×10-10M以下のKDで結合する抗体を指す。用語「KD」は解離定数を指し、これはKdとKaとの比(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表される。抗体に関するKD値は、本開示に鑑みて、当技術分野における方法を使用して決定することができる。例えば、抗体のKDは、表面プラズモン共鳴を使用することによって、例えば、バイオセンサーシステム、例えば、Biacore(登録商標)システムを使用することによって、又はバイオレイヤーインターフェロメトリー技術、例えば、Octet RED96システムを使用することによって、決定することができる。
【0087】
抗体のKDの値が小さいほど、抗体が標的抗原に結合する親和性は高い。
【0088】
1つの特定の態様によれば、本発明は、単離されたモノクローナル抗体又は抗原結合断片であって、(a)重鎖可変領域(VH)、及び軽鎖可変領域(VL)を含み、標的抗原、好ましくはヒト標的抗原に結合し、VH、VLにおける、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離にあるアミノ酸残基が、脂肪酸(FA)にコンジュゲートされたアミノ酸残基で置換されており、置換されたアミノ酸残基でFAとコンジュゲートした後、抗体又は抗原結合断片が依然として標的抗原に結合し、FAにコンジュゲートされた抗体又はその抗原結合断片が、生理的レベルのアルブミン(例えば、35~50mg/mL)の存在下で標的抗原への特異的結合が低下又は消失している、単離されたモノクローナル抗体又は抗原結合断片に関する。置換されたアミノ酸残基は、例えば、システイン残基又はリジン残基であり得る。
【0089】
本明細書で使用される場合、語句「VH又はVLから20アミノ酸以内の距離にある」は、可変重鎖又は軽鎖から20アミノ酸未満の距離にあるCH1又はCL領域内の残基を指す。語句「VH又はVLから5アミノ酸以内の距離にある」は、可変重鎖又は軽鎖から5アミノ酸未満の距離にあるCH1又はCL領域内の残基を指す。
【0090】
本明細書で使用される場合、語句「依然として標的抗原に結合する」は、抗体又はその抗原結合断片が、脂肪酸(FA)にコンジュゲートされた場合に、依然として標的抗原に結合を行うことができることを示す。FAにコンジュゲートされた抗体又はその抗原結合断片への標的抗原の結合のレベルは、例えば、コンジュゲートされたFAの非存在下での本発明のコンジュゲーションのためのアミノ酸置換を含む抗体又はその抗原結合断片への標的抗原の結合のレベルの、約10%~約100%であり得る。ある特定の実施形態では、FAにコンジュゲートされた抗体又はその抗原結合断片への標的抗原の結合のレベルは、コンジュゲートされたFAの非存在下での本発明のコンジュゲーションのためのアミノ酸置換を含む抗体又はその抗原結合断片への標的抗原の結合のレベルの、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、又は約100%である。当業者は、FAにコンジュゲートされた抗体又はその抗原結合断片の標的抗原への結合のレベルを、当技術分野で公知の方法を利用して決定し得るであろう。結合のレベルを、脂肪酸にコンジュゲートされていない本発明のコンジュゲーションのためのアミノ酸置換を含む抗体又はその抗原結合断片と比較することができる。脂肪酸にコンジュゲートされていない、本発明のコンジュゲーションのためのアミノ酸置換を含む抗体又はその抗原結合断片への標的抗原の結合のレベルは、野生型抗体又は抗原結合断片によるものの少なくとも50%である。
【0091】
特定の態様によれば、置換されたアミノ酸は、配列番号1の残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113に対応するアミノ酸残基、又は配列番号2の残基26、27、52、53、56若しくは67に対応するアミノ酸残基に生じ、好ましくは置換は、配列番号1のS25C、Y27C、K62C、K64C、K73C、S76C、D101C、S112C若しくはS113Cに対応する置換、又は配列番号2のS26C、S27C、S52C、K53C、S56C若しくはS67Cに対応する置換から選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、配列番号1に対応する残基64又は配列番号2に対応する残基26であり、好ましくは置換は、配列番号1に対応するK64C置換又は配列番号2に対応するS26C置換から選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。
【0092】
本明細書で使用される場合、配列番号のアミノ酸残基番号に対応する置換されたアミノ酸を参照する場合には、配列番号は、目的の配列の置換されたアミノ酸残基を決定するための参照である。当業者は、置換しようとするアミノ酸残基の位置を決定するために、目的の配列を参照配列番号とアライメントするであろう。一例として、抗CD3モノクローナル抗体の可変重鎖領域である配列番号1のアミノ酸残基番号25は、セリン残基である。目的の抗体の可変重鎖領域とのアライメントの後、配列番号1の位置番号25にあるセリン残基とアライメントされる残基が、アミノ置換の標的となると考えられる。
【0093】
特定の態様によれば、置換されたアミノ酸は、配列番号9、10、11若しくは12のCH1における残基119若しくは120、又は配列番号13若しくは14のCLにおける残基121若しくは124に生じ、好ましくは置換は、配列番号9、10、11若しくは12のCH1におけるS119C若しくはT120C、又は配列番号13若しくは14のCLにおけるS121C若しくはQ124Cから選択され、残基はEU番号付けに従って番号付けされる。ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、配列番号9、10、11又は12のCH1領域における残基120にあり、好ましくは置換は、配列番号9、10、11又は12のCH1領域におけるT120C置換であり、残基はEU番号付けに従って番号付けされる。
【0094】
特定の態様によれば、単離された抗体又はその抗原結合断片は、抗CD3抗体又はその抗原結合断片であり、CD3、好ましくはヒトCD3に特異的に結合することができる。単離された抗CD3抗体又はその抗原結合断片は、例えば、それぞれ配列番号3、4、5、6、7及び8、又はそれぞれ配列番号33、34、35、36、37及び38のポリペプチド配列を有する、重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、HCDR2、HCDR3、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、LCDR2、及びLCDR3を含み得る。
【0095】
特定の態様によれば、置換されたアミノ酸は、抗CD3 mAbのVH(配列番号1又は配列番号27)における残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113、又は抗CD3 mAbのVL(配列番号2又は配列番号28)における残基26、27、52、53、56若しくは67から選択され、好ましくは置換は、VH(配列番号1又は27)におけるS25C、Y27C、K62C、K64C、K73C、S76C、D101C、S112C若しくはS113C、又はVL(配列番号2又は28)におけるS26C、S27C、S52C、K53C、S56C若しくはS67Cから選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。ある特定の実施形態では、置換されたアミノ酸は、VH(配列番号1又は27)における残基64、又はVL(配列番号2又は28)における残基26にあり、好ましくは置換は、VH(配列番号1又は27)におけるK64C置換、又はVL(配列番号2又は28)におけるS26C置換から選択され、残基はKabatに従って番号付けされる。
【0096】
特定の態様によれば、単離された抗CD3抗体又はその抗原結合断片は、例えば、K64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、又はK64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、又は配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、又は配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、又はT120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、又は配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、又は配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、を含み得る。
【0097】
特定の態様によれば、多重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含み、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸残基を含む1つ以上の抗原結合アームを含む多重特異性抗体又はその抗原結合断片が本明細書で提供される。多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、例えば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片であり得る。
【0098】
ある特定の実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片の各アームは、同じ又は異なるコンジュゲートされたFAで異なる残基位置に置換されたアミノ酸を含有し得る。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片の各アームは、同じ又は異なるコンジュゲートされたFAで異なる残基位置に同じ置換されたアミノ酸を含有し得る。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片の各アームは、同じ又は異なるコンジュゲートされたFAで同じ残基位置に置換されたアミノ酸を含み得る。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片の各アームは、同じ又は異なるコンジュゲートされたFAで同じ残基位置に同じ置換されたアミノ酸を含み得る。
【0099】
ある特定の実施形態では、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の抗原結合アーム(Ab1)及び第2の抗原結合アーム(Ab2)を含み、ここでAb1及び/又はAb2は、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸を含む。
【0100】
ある特定の実施形態では、Ab1は、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子からなる群から選択される免疫細胞モジュレーター(ICM)、好ましくはヒトICMに結合する。ICMは、例えば、CD3、好ましくはヒトCD3であり得る。
【0101】
ある特定の実施形態では、Ab2は、腫瘍関連抗原(TAA)、好ましくはヒト腫瘍関連抗原(ヒトTAA)に結合する。TAAは、例えば、DLL3であり得る。
【0102】
本発明の一実施形態では、本発明の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、抗CD3/抗DLL3二重特異性抗体又はその抗原結合断片であり、ここで第1の抗原結合アーム(Ab1)は、CD3、好ましくはヒトCD3に特異的に結合し、第2の抗原結合アーム(Ab2)は、DLL3、好ましくはヒトDLL3に特異的に結合する。
【0103】
特定の態様によれば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、H1及びL1を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)並びにH2及びL2を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)を含み、ここで
(a)H1及びH2はそれぞれヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のCH1領域を含み、
(b)L1及びL2はそれぞれヒトカッパ軽鎖又はヒトラムダ軽鎖のCL領域を含み、
H1L1及びH2L2はそれぞれ、以下のアミノ酸置換からなる群から選択される電荷対を含む:
(1)それぞれH1のCH1におけるG166D/E及びL1のCLにおけるS114K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるG166K/R及びL2のCLにおけるS114D/E、
(2)それぞれH1のCH1におけるT187D/E及びL1のCLにおけるD/N170K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるT187K/R及びL2のCLにおけるD/N170D/E、
(3)それぞれH1のCH1におけるS131D/E及びL1のCLにおけるP119K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるS131K/R及びL2のCLにおけるP119D/E、
(4)それぞれH1のCH1におけるA129D/E及びL1のCLにおけるS121K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるA129K/R及びL2のCLにおけるS121D/E、
(5)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるK207K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるK207D/E、
(6)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるI/L117K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるI/L117D/E、
(7)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるF/V209K/R、及びそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるF/V209D/E、
(8)それぞれH2のCH1におけるG166D/E及びL2のCLにおけるS114K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるG166K/R及びL1のCLにおけるS114D/E、
(9)それぞれH2のCH1におけるT187D/E及びL2のCLにおけるD/N170K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるT187K/R及びL1のCLにおけるD/N170D/E、
(10)それぞれH2のCH1におけるS131D/E及びL2のCLにおけるP119K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるS131K/R及びL1のCLにおけるP119D/E、
(11)それぞれH2のCH1におけるA129D/E及びL2のCLにおけるS121K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるA129K/R及びL1のCLにおけるS121D/E、
(12)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるK207K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるK207D/E、
(13)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるI/L117K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるI/L117D/E、又は
(14)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるF/V209K/R、及びそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるF/V209D/E。
【0104】
本明細書で使用される場合、用語「電荷対」は、一方が正電荷を有し、他方が負電荷を有するアミノ酸の一対を指し、これは、二重特異性抗体の第1のアームの重鎖CH1領域及び軽鎖CL領域における天然のアミノ酸残基をそれぞれ置換することによって導入することができ、同時に、二重特異性抗体の第2のアームの軽鎖CL領域及び重鎖CH1領域における天然のアミノ酸残基をそれぞれ置換することによって、正電荷及び負電荷アミノ酸の同じ対を導入することができる。あるいは、正電荷及び負電荷アミノ酸を、二重特異性抗体の第1のアームの重鎖のVH領域及び軽鎖のVL領域のそれぞれにアミノ酸置換によって導入することもでき、同時に、第2のアームの軽鎖のVL領域及び重鎖のVH領域のそれぞれにアミノ酸置換によって、正電荷及び負電荷アミノ酸の同じ対を導入することができる。電荷対を形成するために使用されるアミノ酸には、通常、D/E(負電荷)及びK/R(正電荷)が含まれる。CH1/CL領域又はVH/VL領域にひとたび導入されると、電荷対アミノ酸は構造的にごく近接し、反対の電荷を介して同じアームの重鎖/軽鎖相互作用を強化し、同じ電荷を介してミスマッチの重鎖/軽鎖相互作用(ミスマッチの重鎖及び軽鎖は2つの異なるアームからである)を排除することが期待される。導入された電荷対のその結果生じる電荷分布は以下の通りである:H1(CH1正電荷)/L1(CL負電荷)/H2(CH1負電荷)/L2(CL正電荷)又はH1(CH1負電荷)/L1(CL正電荷)/H2(CH1正電荷)/L2(CL負電荷)。CH1及びCL境界面に複数の電荷対を組み合わせて導入することができ、すべての正電荷アミノ酸をCH1に導入し、すべての負電荷アミノ酸を同じアームのCLに導入すること、又はその反対によって、上記の分布パターンが満たされる。類似のアプローチをVH/VL境界面にも適用することができる。さらに、CH1/CL境界面に導入された1つ又は複数の電荷対と組み合わせて、1つ又は複数の電荷対をVH及びVLの境界面に導入することもでき、この場合、同じ鎖(H1、L1、H2又はL2のいずれか)に導入されたアミノ酸は通常、同じ電荷を有し、導入された電荷対のその結果生じる分布は以下の通りである:H1(CH1及びVH正電荷)/L1(CL及びVL負電荷)/H2(CH1及びVH負電荷)/L2(CL及びVL正電荷)又はH1(CH1及びVH負電荷)/L1(CL及びVL正電荷)/H2(CH1及びVH正電荷)/L2(CL及びVL負電荷)。電荷対置換を、コグネイト鎖の対形成の選好性(それぞれH1L1及びH2L2)をさらに改良するため、並びに/又はイオン交換クロマトグラフィー及び/若しくはHICを使用する二重特異性抗体の精製を容易にするために、他の改変と組み合わせることもできる。例えば、電荷対置換に加えて、二重特異性抗体の一方のアーム上の天然の鎖間ジスルフィド結合を移動させ、その一方で他方のアームは天然の鎖間ジスルフィド結合を有するようにすることができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2020年12月3日に出願されたPCT/US2020/063066号を参照)。
【0105】
電荷対の記載において、G166D/Eは、位置166のG(EU番号付け)のD又はEによる置換を表し、この場合、G166はノックイン部位である;D170D/Eは、位置170のDを保つか又は位置170のDのEにより置換することを表す;K/R133D/Eは、位置133のK又はR(どちらかこの位置にある方)のD又はEによる置換を表す;他のすべての置換も同じ命名規則に従う。
【0106】
特定の態様によれば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、以下を含む:配列番号15のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号17のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)。
【0107】
特定の態様によれば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、以下を含む:配列番号19のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号21のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)。
【0108】
特定の態様によれば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、以下を含む:配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)。
【0109】
特定の態様によれば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、以下を含む:配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)。
【0110】
特定の態様によれば、二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、以下を含む:
(a)配列番号15のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号17のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)、
(b)配列番号19のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号21のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)、
(c)配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)、又は
(d)配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、並びに配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第2の抗原結合アーム(Ab2)。
【0111】
ある特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、置換されたアミノ酸残基の箇所でFAにコンジュゲートされる。FAは、例えば、炭素6個、炭素7個、炭素8個、炭素9個、炭素10個、炭素11個、炭素12個、炭素13個、炭素14個、炭素15個、炭素16個、炭素17個、又は炭素18個を有するFAから選択することができる。ある特定の実施形態では、FAは、炭素14個若しくは炭素18個又はその間の任意の数の炭素を有するFAから選択される。FAの長さは、FAへのアルブミンの相対的結合を決定することができ、これは標的抗原への抗体又はその抗原結合断片の相対的結合を決定することができる。コンジュゲートされたFAが長いほど、コンジュゲートされたFAがアルブミンに対して有する結合親和性が大きくなり、これはコンジュゲートされたmAb又はbsAbによる標的抗原への特異的結合のアルブミン媒介性減少が大きくなることにつながる。FAが短いほど、コンジュゲートされたFAがアルブミンに対して有する結合親和性が低くなり、これはコンジュゲートされたmAb又はbsAbによる標的抗原への特異的結合のアルブミン媒介性減少が小さくなること、又は無視しうる程度になることにつながる。
【0112】
ある特定の実施形態では、FAは、置換されたアミノ酸残基へのコンジュゲーションのためのリンカーを含む。リンカーは、例えば、ペプチドリンカー又はポリエチレングリコール(PEG)リンカーから選択することができる。ペプチドリンカーは、例えば、50アミノ酸未満であり得る。ペプチドリンカーは、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、又は5個以下のアミノ酸であり得る。
【0113】
ある特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片にコンジュゲートされたFAは、アルブミンに結合することができる。FAへのアルブミンの結合は、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす。ある特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合断片が二重特異性抗体又はその抗原結合断片であり、Ab1アームのみがFAとコンジュゲートされ、FAへのアルブミンの結合は、TAAへのAb2アームの結合に影響を及ぼさない。ある特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合断片が二重特異性抗体又はその抗原結合断片であり、両方のアームAb1及びAb2がFAとコンジュゲートされ、FAへのアルブミンの結合は、Ab1及びAb2のそれぞれに関して、標的抗原へのAb1及びAb2結合の低下又は消失をもたらす。ある特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、アルブミンに結合していない単離された抗体又はその抗原結合断片と比較して、アルブミンへの結合に際して、T細胞を活性化する能力が低下している。
【0114】
本発明の一実施形態では、本発明の抗CD3/抗DLL3二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、T細胞を活性化することができる。
【0115】
本発明の全長二重特異性抗体は、例えば、2つの単一特異性二価抗体間のFabアーム交換(半分子交換)を用いて、インビトロで無細胞環境において又は共発現を用いて、別個の特異性を有する2つの抗体半分子のヘテロ二量体形成に好都合となるように各半分子中の重鎖CH3の境界面に置換を導入することによって、作成することができる。Fabアーム交換反応は、ジスルフィド結合の異性化反応及びCH3ドメインの解離-会合の結果である。親単一特異性抗体のヒンジ領域における重鎖ジスルフィド結合を減らす。その結果得られた、親単一特異性抗体の一方の遊離システインは、第2の親単一特異性抗体分子のシステイン残基と重鎖間のジスルフィド結合を形成すると同時に、親抗体のCH3ドメインは、解離-会合によって離れそして再形成する。ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化が優先されるように、FabアームのCH3ドメインを遺伝子操作することができる。得られる生成物は、それぞれが別個のエピトープ(すなわちCD3上のエピトープとDLL3上のエピトープ)に結合する2本のFabアーム又は半分子を有する二重特異性抗体である。
【0116】
本明細書で使用する「ホモ二量体化」とは、同一のCH3アミノ酸配列を有する2つの重鎖の相互作用を指す。本明細書で使用する「ホモ二量体」とは、同一のCH3アミノ酸配列を持つ2つの重鎖を有する抗体を指す。
【0117】
本明細書で使用する「ヘテロ二量体化」とは、同一でないCH3アミノ酸配列を有する2つの重鎖の相互作用を指す。本明細書で使用する「ヘテロ二量体」とは、同一でないCH3アミノ酸配列を持つ2つの重鎖を有する抗体を指す。
【0118】
「knob-in-hole」戦略(例えば国際特許公開公報第WO2006/028936号を参照されたい)を用いて、全長二重特異性抗体を生成することができる。簡潔に述べると、ヒトIgGにおけるCH3ドメインの境界面を形成する選択されたアミノ酸を、CH3ドメインの相互作用に影響を及ぼす位置で突然変異させて、ヘテロ二量体の形成を促進することができる。小さな側鎖(くぼみ(hole))を有するアミノ酸を、第一抗原に特異的に結合する抗体の重鎖の中に導入し、大きな側鎖(こぶ(knob))を有するアミノ酸を、第二抗原に特異的に結合する抗体の重鎖の中に導入する。2つの抗体を共発現させた後、「くぼみ」を有する重鎖と「こぶ」を有する重鎖とが優先的に相互作用する結果、ヘテロ二量体が形成される。「こぶ」及び「くぼみ」を形成するCH3置換ペアの例は、以下のとおりである(第1の重鎖の第1のCH3ドメインの中の修飾位置/第2の重鎖の第2のCH3ドメインの中の修飾位置で表される):T366Y/F405A、T366W/F405W、 F405W/Y407A、T394W/Y407T、T394S/Y407A、T366W/T394S、F405W/T394S及び T366W/T366S_L368A_Y407V。
【0119】
米国特許公開番号第2010/0015133号、米国特許公開番号第2009/0182127号、米国特許公開番号第2010/028637号、又は米国特許公開番号第2011/0123532号に記載されるように、一方のCH3表面に正電荷を持つ残基を、及び第2のCH3表面に負電荷を持つ残基を置換することにより、静電相互作用を用いて重鎖ヘテロ二量体化を促進する等の他の戦略を用いることができる。他の戦略において、ヘテロ二量体化は、以下の置換により促進することができる(第1の重鎖の第1のCH3ドメインの中の修飾位置/第2の重鎖の第2のCH3ドメインの中の修飾位置として表される):L351Y_F405AY407V/T394W、T366I_K392M_T394W/F405A_Y407V、T366L_K392M_T394W/F405A_Y407V、 L351Y_Y407A/T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V K409F Y407A/T366A_K409F、又はT350V_L351Y_F405A Y407V/T350V_T366L_K392L_T394W(米国特許公開番号第2012/0149876号又は米国特許公開番号第2013/0195849号に記載)
【0120】
上記方法に加え、本発明の二重特異性抗体は、国際特許公開公報第2011/131746号に記載される方法に従って、還元条件下において、2つの単一特異性ホモ二量体抗体のCH3領域の中に非対称な突然変異を導入して2つの親単一特異性ホモ二量体抗体から二重特異性ホモ二量体抗体を形成することにより、ジスルフィド結合の異性化を可能にすることによって、無細胞環境においてインビトロで作成することができる。この方法では、第一の単一特異性二価抗体及び第二の単一特異性二価抗体を遺伝子操作して、CH3ドメインにおいて、ヘテロ二量体の安定性を促進するある種の置換を行う。これらの抗体を、ヒンジ領域のシステインにジスルフィド結合の異性化をさせるのに十分な還元条件下で一緒にインキュベートし、これにより、Fabアームを交換させて二重特異性抗体を作成する。インキュベート条件は、任意で、非還元条件に戻してもよい。使用することができる還元剤の例としては、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール(DTE)、グルタチオン、トリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、L-システイン及びβ-メルカプトエタノールが挙げられ、好ましくは、還元剤は、2-メルカプトエチルアミン、ジチオトレイトール及びトリ(2-カルボキシエチル)ホスフィンからなる群より選択される。例えば、少なくとも90分間少なくとも20℃にて、少なくとも25mM 2-MEAの存在下で又は少なくとも0.5mMジチオトレイトールの存在下で、pH5~8(例えばpH7.0又はpH7.4)にてインキュベートすることができる。
【0121】
本発明の完全長二重特異性抗体は、上記のヘテロ二量体化アプローチ及び以下のいくつかのアプローチの組合せを使用して作製することができる:(a)二重特異性抗体の一方のアーム上のHC/LC鎖間ジスルフィド結合を移動させること(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2020年12月3日に出願されたPCT/US2020/063066号を参照);(b)電荷対をVH/VL境界面に導入すること;(c)電荷対をCH1/CL境界面に導入すること、又は(d)(a)~(c)に記載されたアプローチの一部又はすべての組合せ(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年2月5日に出願された米国仮特許出願第63/146,334号に最初に記載されたものを参照)。
【0122】
別の一般的態様では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片をコードする、単離された核酸に関する。タンパク質のコード配列を、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく、変化させる(例えば、置換、欠失、挿入等)ことができることは当業者によって認識されるであろう。したがって、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸配列は、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく変更され得ることは、当業者によって理解されるであろう。
【0123】
別の一般的態様では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含むベクターに関する。本開示を鑑みて、当業者に公知の任意のベクター、例えば、プラスミド、コスミド、ファージベクター又はウイルスベクターを使用することができる。一部の実施形態では、ベクターは、組換え発現ベクター、例えば、プラスミドである。ベクターは、発現ベクターの従来の機能を確立するための任意の要素、例えば、プロモーター、リボソーム結合エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、及び複製起点を含むことができる。プロモーターは、構成性、誘導性又は抑制性プロモーターであってもよい。核酸を細胞に送達することが可能な多くの発現ベクターが、当技術分野で公知であり、本明細書において、細胞における抗体又はその抗原結合断片の産生に使用することができる。本発明の実施形態によれば、従来のクローニング技法又は人工遺伝子合成を使用して組換え発現ベクターを生成することができる。本開示に関して、このような技術は当業者に周知である。
【0124】
別の一般的態様では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含むベクターを含む宿主細胞に関する。本開示に鑑みて、当業者に公知の任意の宿主細胞を、本発明の抗体又はその抗原結合断片の組換え発現に使用することができる。一部の実施形態では、宿主細胞は、大腸菌(E. coli)TG1若しくはBL21細胞(例えば、scFv又はFab抗体の発現用)、CHO-DG44若しくはCHO-K1細胞又はHEK293細胞(例えば、完全長IgG抗体の発現用)である。特定の実施形態によれば、従来の方法、例えば、化学的トランスフェクション、熱ショック、又はエレクトロポレーションによって、組換え発現ベクターは宿主細胞に形質転換され、組換え核酸が有効に発現されるように組換え発現ベクターが宿主細胞のゲノムに安定して組み込まれる。
【0125】
別の一般的態様では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を産生する方法であって、本発明の抗体又はその抗原結合断片を産生する条件下で、抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を培養するステップ、及び細胞又は細胞培養物から(例えば、上清から)、抗体又はその抗原結合断片を回収するステップを含む方法に関する。当技術分野で公知であり、本明細書に記載される従来の技法に従って、発現された抗体又はその抗原結合断片を細胞から採取し、精製することができる。
【0126】
別の一般的態様では、本発明は、本発明のFAにコンジュゲートされた単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法に関する。本方法は、FAを抗体又はその抗原結合断片に置換されたアミノ酸残基でコンジュゲートさせるステップ、及びFAにコンジュゲートされた抗体又はその抗原結合断片を回収するステップを含む。
【0127】
別の一般的態様では、本発明は、FAにコンジュゲートされ、かつアルブミンに結合した単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法に関する。本方法は、FAにコンジュゲートされた単離された抗体またはその抗原結合断片をアルブミンと接触させるステップ、及びFAにコンジュゲートされ、アルブミンに結合した抗体又はその抗原結合断片を回収するステップを含む。
【0128】
医薬組成物
別の一般的態様では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。単離されたモノクローナル抗体若しくは二重特異性抗体又はこれらの抗原結合断片は、例えば、脂肪酸(FA)にコンジュゲートさせることができる。FAにコンジュゲートしたモノクローナル抗体若しくは二重特異性抗体又はこれらの抗原結合断片は、例えばアルブミンに結合することができる。用語「医薬組成物」は、本明細書で使用する場合、本発明の抗体を、薬学的に許容される担体と一緒に含む生産物を意味する。本発明の抗体及びこれらを含む組成物は、本明細書で言及した治療適用のための医薬の製造においても有用である。
【0129】
本明細書で使用する場合、用語「担体」は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、相溶剤、油、脂質、ベシクルを含む脂質、マイクロスフェア、リポソーム封入、又は医薬製剤において使用するための当技術分野で周知の他の材料を指す。担体、賦形剤又は希釈剤の特徴は、特定の適用のための投与経路に依存することが理解されよう。本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される担体」は、本発明による組成物の有効性又は本発明による組成物の生物学的活性を妨げない非毒性材料を指す。特定の実施形態によれば、本開示に鑑みて、抗体医薬組成物において使用するのに好適な任意の薬学的に許容される担体を、本発明において使用することができる。
【0130】
薬学的に活性な成分の薬学的に許容される担体との製剤化は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy(例えば、第21版(2005)、その後の任意の版)にあるように、当技術分野で公知である。追加の成分の非限定例として、緩衝剤、希釈剤、溶媒、張性調節剤、防腐剤、安定剤、及びキレート剤が挙げられる。1つ以上の薬学的に許容される担体を、本発明の医薬組成物の製剤化において使用することができる。
【0131】
本発明の一実施形態では、医薬組成物は、液体製剤である。液体製剤の好ましい例は、水性製剤、すなわち、水を含む製剤である。液体製剤は、溶液、懸濁液、エマルション、マイクロエマルション、ゲル等を含むことができる。水性製剤は、典型的には、少なくとも50%w/wの水、又は少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は少なくとも95%w/wの水を含む。
【0132】
一実施形態では、医薬組成物は、例えば、注射デバイス(例えば、シリンジ又は輸液ポンプ)を介して注射することができる注射剤として製剤化することができる。注射は、例えば、皮下、筋肉内、腹腔内、硝子体内、又は静脈内に送達することができる。
【0133】
別の実施形態では、医薬組成物は、固体製剤、例えば、凍結乾燥又は噴霧乾燥組成物であり、これはそのまま使用してもよく、又は、医師若しくは患者が使用前に溶媒、及び/若しくは希釈剤を添加して使用してもよい。固体剤形としては、錠剤、例えば、圧縮錠剤、及び/又はコーティングされた錠剤、並びにカプセル(例えば、ハード又はソフトゼラチンカプセル)を挙げることができる。医薬組成物はまた、例えば、サッシェ、糖衣錠、粉末、顆粒、トローチ剤、又は再構築用の粉末の形態であってもよい。
【0134】
剤形は、即時放出(この場合、水溶性又は分散性担体を含み得る)であってもよく、又は、遅延放出、持続放出、若しくは修正放出(これらの場合は、胃腸管又は皮下における剤形の溶解速度を調節する非水溶性ポリマーを含み得る)であってもよい。
【0135】
他の実施形態では、医薬組成物は、鼻腔内、頬内、又は舌下送達され得る。
【0136】
水性製剤のpHは、pH3~pH10の間であり得る。本発明の一実施形態では、製剤のpHは、約7.0~約9.5である。本発明の別の実施形態では、製剤のpHは、約3.0~約7.0である。
【0137】
本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、緩衝剤を含む。緩衝剤の非限定例として、アルギニン、アスパラギン酸、ビシン、クエン酸塩、リン酸水素二ナトリウム、フマル酸、グリシン、グリシルグリシン、ヒスチジン、リシン、マレイン酸、リンゴ酸、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、コハク酸塩、酒石酸、トリシン、及びトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、並びにこれらの混合物が挙げられる。緩衝剤は、個々に又は全体で、約0.01mg/ml~約50mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約20mg/mlの濃度で存在してもよい。これらの具体的な緩衝剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0138】
本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、防腐剤を含む。防腐剤の非限定例として、塩化ベンゼトニウム、安息香酸、ベンジルアルコール、ブロノポール、ブチル4-ヒドロキシベンゾエート、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロヘキシジン、クロルフェネシン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、エチル4-ヒドロキシベンゾエート、イミド尿素、メチル4-ヒドロキシベンゾエート、フェノール、2-フェノキシエタノール、2-フェニルエタノール、プロピル4-ヒドロキシベンゾエート、デヒドロ酢酸ナトリウム、チメロサール、及びこれらの混合物が挙げられる。防腐剤は、個々に又は全体で、約0.01mg/ml~約50mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約20mg/mlの濃度で存在してもよい。これらの具体的な防腐剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0139】
本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、等張剤を含む。等張剤の非限定例として、塩(例えば、塩化ナトリウム)、アミノ酸(例えば、グリシン、ヒスチジン、アルギニン、リシン、イソロイシン、アスパラギン酸、トリプトファン、及びトレオニン)、アルジトール(例えば、グリセロール、1,2-プロパンジオールプロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、及び1,3-ブタンジオール)、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400)、及びこれらの混合物が挙げられる。等張剤の別の例としては、糖が挙げられる。糖の非限定例は、単糖類、二糖類、若しくは多糖類、又は水溶性グルカンであってもよく、例えば、フルクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、ラクトース、ショ糖、トレハロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、アルファ及びベータ-HPCD、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、並びにカルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。等張剤の別の例は糖アルコールであり、用語「糖アルコール」は、少なくとも1つの-OH基を有するC(4~8)炭化水素として定義される。糖アルコールの非限定例として、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール、ズルシトール、キシリトール、及びアラビトールが挙げられる。等張剤は、個々に又は全体で、約0.01mg/ml~約50mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約20mg/mlの濃度で存在してもよい。これらの具体的な等張剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0140】
本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、キレート剤を含む。キレート剤の非限定例として、クエン酸、アスパラギン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の塩、及びこれらの混合物が挙げられる。キレート剤は、個々に又は全体で、約0.01mg/ml~約50mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約20mg/mlの濃度で存在してもよい。これらの具体的なキレート剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0141】
本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、安定剤を含む。安定剤の非限定例として、1つ以上の凝集阻害剤、1つ以上の酸化阻害剤、1つ以上の界面活性剤、及び/又は1つ以上のプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
【0142】
本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、安定剤を含み、前記安定剤は、カルボキシ/ヒドロキシセルロース及びその誘導体(例えば、HPC、HPC-SL、HPC-L及びHPMC)、シクロデキストリン、2-メチルチオエタノール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG3350)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、塩(例えば、塩化ナトリウム)、硫黄含有物質、例えば、モノチオグリセロール)、又はチオグリコール酸である。安定剤は、個々に又は全体で、約0.01mg/ml~約50mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約20mg/mlの濃度で存在してもよい。これらの具体的な安定剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0143】
本発明のさらなる実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の界面活性剤、好ましくは1つの界面活性剤、少なくとも1つの界面活性剤、又は2つの異なる界面活性剤を含む。用語「界面活性剤」は、水溶性(親水性)部分と、脂溶性(親油性)部分とから構成される任意の分子又はイオンを指す。界面活性剤は、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び/又は双極性イオン界面活性剤からなる群から選択することができる。界面活性剤は、個々に又は全体で、約0.1mg/ml~約20mg/mlの濃度で存在してもよい。これらの具体的な界面活性剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0144】
本発明のさらなる実施形態では、医薬組成物は、1つ以上のプロテアーゼ阻害剤、例えば、EDTA、及び/又は塩酸(HCl)ベンズアミジン等を含む。プロテアーゼ阻害剤は、個々に又は全体で、約0.1mg/ml~約20mg/mmlの濃度で存在してもよい。これらの具体的なプロテアーゼ阻害剤の各々を含む医薬組成物は、本発明の代替的な実施形態を構成する。
【0145】
別の一般的態様では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を産生する方法であって、抗体又はその抗原結合断片を薬学的に許容される担体と配合して、医薬組成物を得るステップを含む方法に関する。
【0146】
使用方法
別の一般的な態様では、本発明は、それを必要とする対象においてがん細胞表面上に発現される腫瘍関連抗原(TAA)(例えば、DLL3)を標的化する方法に関する。本方法は、本発明のFAにコンジュゲートされたAb1アーム(例えば、抗ICMアーム、例えば、抗CD3アーム)を含む単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片(例えば、抗CD3/抗DLL3二重特異性抗体又はその抗原結合断片)及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を対象に投与することを含む。単離されたFAにコンジュゲートされた二重特異性抗体又はその抗原結合断片の、低アルブミンレベルでの、抗TAAアーム(Ab2アーム)を介したTAA発現がん細胞への、及び抗CD3アーム(Ab1アーム)を介したT細胞への同時の結合は、がん細胞の死滅を媒介し得る。アルブミンレベルが高い(例えば、35~50mg/mL)循環血において、FAにコンジュゲートされた抗CD3アームはアルブミン結合状態にあり、それ故に、T細胞に結合してそれを活性化する能力が低下している。Ab1アームが結合するT細胞標的抗原は、別のT細胞ICM、例えば、4-1BB、GITR、CD28又はPD-1であり得る。このアプローチは、オンターゲット腫瘍外毒性を最小限にすることにより、抗ICM(例えば、抗CD3)ベースの二重特異性T細胞エンゲージャーの安全域を増大させることができる。さらに、本アプローチを、他の免疫細胞のエンゲージャーとして使用し得るbsAb(抗TAAアーム及びコンジュゲートされた抗ICMアームを含む)に適用することができる。さらに、本アプローチを、循環中におけるオンターゲット安全性の問題を最小限にするために、局所アルブミンレベルが循環血液中のそれよりも低い標的組織(例えば、脂肪組織又は骨格筋)に対するFAにコンジュゲートされたmAb及び/又はbsAbの使用に適用することができる(Ellmerer et al., Am J Physiol Endocrinol Metab. 2000. 278: E352-E356)。
【0147】
標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)に結合するモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又はTAA(例えば、DLL3)及びT細胞標的抗原(例えば、ICM、例えば、CD3)の両方に結合する二重特異性抗体及びその抗原結合断片の機能的活性は、当技術分野で公知であって本明細書に記載の方法によって特徴付けることができる。TAA(例えば、DLL3)及びT細胞標的抗原(例えば、CD3)の両方に結合する二重特異性抗体及びその抗原結合断片を特徴付けるための方法には、Biacore、ELISA、FACS及びOctetRed分析を含む親和性及び特異性アッセイが含まれるが、それらには限定されない。特定の実施形態によれば、DLL3及びCD3の両方に結合する二重特異性抗体及びその抗原結合断片を特徴付けるための方法には、以下に記載されるものが含まれる。ICMに結合するモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又はTAA(例えば、DLL3)及びCD3以外のICMの両方に結合する二重特異性抗体及びその抗原結合断片の機能的活性は、上記のものに類似の方法によって特徴付けることができる。
【0148】
別の一般的態様では、本発明は、それを必要とする対象において、癌を処置(治療)する方法であって、単離されたモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は単離された二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法に関する。癌は任意の液体又は固形癌であり得るが、例えば、以下に限定されないが、肺がん、胃がん、食道がん、胆管がん(a bile duct cancer)、胆管がん(cholangiocarcinoma)、結腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膀胱尿路上皮がん、転移性黒色腫、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、及び他の固形腫瘍、並びに非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、多発性骨髄腫(MM)、急性骨髄性白血病(AML)、及び他の液体腫瘍から選択され得る。
【0149】
本発明の実施形態によれば、医薬組成物は、治療有効量の、本発明のモノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を含む。本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」は、対象において、所望の生物学的又は医学的応答を誘発する、有効成分又は構成成分の量を指す。治療有効量は、記載された目的に関連して、経験的且つ慣用方法で決定することができる。
【0150】
モノクローナル及び/若しくは二重特異性抗体又はこれらの抗原結合断片に関連して本明細書で使用する場合、治療有効量は、それを必要とする対象において、免疫応答をモジュレートするモノクローナル及び/若しくは二重特異性抗体又はその抗原結合断片の量を意味する。また、モノクローナル及び/若しくは二重特異性抗体又はその抗原結合断片に関連して本明細書で使用する場合、治療有効量は、疾患、障害、若しくは状態の治療をもたらし、疾患、障害、若しくは状態を予防するか若しくはその進行を遅延させるか、又は疾患、障害、若しくは状態に伴う症状を低減するか若しくは完全に緩和する、モノクローナル及び/若しくは二重特異性抗体又はその抗原結合断片の量を意味する。
【0151】
特定の実施形態によれば、治療される疾患、障害又は状態は、癌、好ましくは、肺がん、胃がん、食道がん、胆管がん、胆管がん、結腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膀胱尿路上皮がん、転移性黒色腫、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、及び他の固形腫瘍、並びに非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、多発性骨髄腫(MM)、急性骨髄性白血病(AML)、及び他の液体腫瘍からなる群から選択されるがんである。他の特定の実施形態によれば、治療される疾患、障害又は状態は、炎症性疾患、代謝性疾患、心血管疾患、神経疾患、感染性疾患、又は二重特異性抗体を療法に使用することができる任意のその他の疾患である。
【0152】
特定の実施形態によれば、治療有効量は、以下の効果のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれを超えるものを達成するのに十分な治療の量を指す:(i)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状の重症度を低減又は改善すること、(ii)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状の期間を短縮すること、(iii)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状の進行を予防すること、(iv)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状の退縮を生じること、(v)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状の進展又は発症を予防すること、(vi)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状の再発を予防すること、(vii)治療される疾患、障害、若しくは状態、又はそれに伴う症状を有する対象の入院を減少させること、(viii)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状を有する対象の入院期間を短縮させること、(ix)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状を有する対象の生存率を高めること、(xi)対象における、治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに伴う症状を阻害若しくは低減すること、並びに/あるいは(xii)別の治療の予防的又は治療効果を強化又は改善すること。
【0153】
治療有効量又は治療有効投与量は、様々な因子、例えば、治療される疾患、障害又は状態、投与の手段、標的部位、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、健康を含む)、対象がヒトであるか又は動物であるか、投与される他の医薬、及び治療が予防的であるか又は治療的であるかに応じて変動し得る。治療投与量は、安全性及び有効性を最適化するよう最適に用量設定される。
【0154】
特定の実施形態によれば、本明細書に記載の組成物は、対象への意図した投与経路に好適となるように製剤化される。例えば、本明細書に記載の組成物は、静脈内、皮下、又は筋肉内投与に好適となるよう製剤化することができる。
【0155】
本明細書で使用する場合、用語「処置(治療)する(treat)」、「処置(治療)すること(treating)」、及び「処置(治療)(treatment)」はいずれも、癌に関連した少なくとも1つの測定可能な物理的パラメータの改善又は好転を指すことを意図し、これは対象において必ずしも認識されるとは限らないが、対象において認識可能な場合もある。用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」はまた、疾患、障害、又は状態の退縮を生じること、その進行を予防すること、又は少なくともその進行速度を低下させることを指してもよい。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」は、腫瘍、より好ましくは癌等の、疾患、障害、又は状態に伴う1つ以上の症状の緩和、進展若しくは発症の予防、又はその期間の短縮を指す。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」は、疾患、障害、又は状態の再発の予防を指す。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」は、疾患、障害、又は状態を有する対象の生存率の向上を指す。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」は、対象における疾患、障害、又は状態の消失を指す。
【0156】
特定の実施形態によれば、癌の治療において使用される組成物も提供される。癌療法では、組成物は、以下に限定されないが、化学療法、抗TIM-3 mAb、抗LAG-3 mAb、抗CD73 mAb、抗CD47 mAb、抗アペリン mAb、抗CTLA-4抗体、抗EGFR mAb、抗HER-2 mAb、抗CD19 mAb、抗CD20 mAb、抗CD33 mAb、抗TIP-1 mAb、抗DLL3 mAb、抗CLDN18.2 mAb、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、PD-1/PD-L1療法、他の癌免疫薬(immuno-oncology drug)、抗血管新生薬、放射線療法、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、標的療法、又は他の抗癌薬を含む別の治療と組み合わせて使用され得る。
【0157】
本明細書で使用する場合、対象への2つ以上の治療の施行の文脈における、用語「組み合わせて」は、2つ以上の治療の使用を指す。用語「組み合わせて」の使用は、治療が対象に施行される順序を限定するものではない。例えば、第1の治療(例えば、本明細書に記載の組成物)を、対象への第2の治療の施行前に(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間前に)、施行と同時に、又は施行後に(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間後に)施行することができる。
【0158】
抗体又はその抗原結合断片に、必要に応じてリンカーを介して、共有結合によって連結された脂肪酸(FA)を含むコンジュゲートとアルブミンを接触させるステップを含む方法であって、コンジュゲートにおける抗体又はその抗原結合断片は、標的抗原に特異的に結合することができ、コンジュゲートにおけるFAは、アルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合は、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす、方法も提供される。ある特定の実施形態では、接触のステップは、コンジュゲートを含む医薬組成物を腫瘍の処置を必要とする対象に投与することを含み、ここで腫瘍は標的抗原を含む。ある特定の実施形態では、アルブミンは循環血と比較して腫瘍微小環境においてより高い代謝回転速度を有し、及び/又は対象の循環血中のアルブミンレベルよりも低いレベルで腫瘍微小環境に存在する。
【0159】
実施形態
本発明は、以下の非限定的な実施形態も提供する。
【0160】
実施形態1は、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、抗体又はその抗原結合断片が、
a.可変重鎖領域(VH)、
b.可変軽鎖領域(VL)、
を含み、
抗体又はその抗原結合断片が、標的抗原、好ましくはヒト標的抗原に結合し、一方若しくは両方のアーム上のVH、VLにおける、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離にあるアミノ酸残基は、脂肪酸(FA)にコンジュゲートされたアミノ酸残基で置換されており、
置換されたアミノ酸残基でのFAとコンジュゲート後、依然として標的抗原に結合する、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0161】
実施形態2は、置換されたアミノ酸残基が、一方又は両方のアーム上のVH又はVLから5アミノ酸以内の距離にある、実施形態1の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0162】
実施形態3は、置換されたアミノ酸残基が、システイン残基、リジン残基、又は化学的コンジュゲーションに好適な改変アミノ酸である、実施形態1又は2の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0163】
実施形態4は、置換されたアミノ酸残基が、
(1)VHにおける配列番号1の残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113(Kabat番号付け)、
(2)VLにおける配列番号2の残基26、27、52、53、56若しくは67(Kabat番号付け)、
(3)CH1における配列番号9、10、11若しくは12の残基119若しくは120(EU番号付け)、又は
(4)CLにおける配列番号13若しくは14の残基121若しくは124(EU番号付け)
に対応するアミノ酸残基に生じる、実施形態3の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0164】
実施形態5は、置換されたアミノ酸残基が、
(1)VHにおける配列番号1のK64C置換、
(2)VLにおける配列番号2のS26C置換、又は
(3)CH1領域における配列番号9、10、11若しくは12のT120C置換
に対応するアミノ酸残基に生じる、実施形態4の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0165】
実施形態6は、抗体又はその抗原結合断片が、抗免疫細胞モジュレーター(ICM)抗体又はその抗原結合断片であり、ICM、好ましくはヒトICMに特異的に結合することができる、実施形態1~5のいずれか1つの単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0166】
実施形態7は、ICMが、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子からなる群から選択される、実施形態6の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0167】
実施形態8は、ICMがCD3であり、抗体又はその抗原結合断片が、それぞれ配列番号3、4、5、6、7及び8、又はそれぞれ配列番号33、34、35、36、37及び38のポリペプチド配列を有する、重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、HCDR2、HCDR3、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、LCDR2、及びLCDR3を含む、実施形態7の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0168】
実施形態9は、ICMがCD3であり、置換されたアミノ酸残基が、
(1)VHにおける配列番号1若しくは27の残基25、27、62、64、73、76、101、112若しくは113(Kabat番号付け)、
(2)VLにおける配列番号2若しくは28の残基26、27、52、53、56若しくは67(Kabat番号付け)、
(3)CH1における配列番号9、10、11若しくは12の残基119若しくは120(EU番号付け)、又は
(4)CLにおける配列番号13若しくは14の残基121若しくは124(EU番号付け)
から選択されるアミノ酸残基に生じる、実施形態7又は8の単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0169】
実施形態10は、
(1)K64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、
(2)K64Cのアミノ酸置換を伴う配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及び配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、
(3)配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、
(4)配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域及びS26Cのアミノ酸置換を伴う配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、
(5)T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域及び配列番号13若しくは14からのポリペプチド配列を有するCL領域、
(6)配列番号1のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号2のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域、又は
(7)配列番号27のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号28のポリペプチド配列を有するVL領域、T120Cのアミノ酸置換を伴う配列番号9、10、11若しくは12から選択されるポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号13若しくは14から選択されるポリペプチド配列を有するCL領域
を含む、実施形態5~9のいずれか1つの単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0170】
実施形態11は、単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、実施形態1~10のいずれか1つのモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含み、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸残基を含む1つ以上の抗原結合アームを含む、単離された多重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0171】
実施形態12は、多重特異性抗体又はその抗原結合断片が、第1の抗原結合アーム(Ab1)及び第2の抗原結合アーム(Ab2)を含む二重特異性抗体又は抗原結合断片であり、Ab1及び/又はAb2が、FAにコンジュゲートされた置換されたアミノ酸を含む、実施形態11の多重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0172】
実施形態13は、Ab1が免疫細胞モジュレーター(ICM)、好ましくはヒトICMに結合する、実施形態12の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0173】
実施形態14は、ICMが、CD3、CD27、CD28、CD40、CD122、OX40、CD16、4-1BB、GITR、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、SIGLEC7、NKG2D、SIGLEC9、KIR、CD91、BTLA、NKp46、B7-H3、SIPRα、及び他の細胞表面免疫調節分子からなる群から選択される、実施形態13の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0174】
実施形態15は、Ab2が腫瘍関連抗原(TAA)、好ましくはヒト腫瘍関連抗原(ヒトTAA)に結合する、実施形態12~14のいずれか1つの単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0175】
実施形態16は、TAAがDLL3である、実施形態15の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0176】
実施形態17は、第1の抗原結合アーム(Ab1)がH1及びL1を含み、第2の抗原結合アーム(Ab2)がH2及びL2を含み、
(a)H1及びH2がそれぞれ、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のCH1領域を含み、
(b)L1及びL2がそれぞれ、ヒトカッパ軽鎖又はヒトラムダ軽鎖のCL領域を含み、
H1L1及びH2L2がそれぞれ、以下のアミノ酸置換:
(1)それぞれH1のCH1におけるG166D/E及びL1のCLにおけるS114K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるG166K/R及びL2のCLにおけるS114D/E、
(2)それぞれH1のCH1におけるT187D/E及びL1のCLにおけるD/N170K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるT187K/R及びL2のCLにおけるD/N170D/E、
(3)それぞれH1のCH1におけるS131D/E及びL1のCLにおけるP119K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるS131K/R及びL2のCLにおけるP119D/E、
(4)それぞれH1のCH1におけるA129D/E及びL1のCLにおけるS121K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるA129K/R及びL2のCLにおけるS121D/E、
(5)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるK207K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるK207D/E、
(6)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるI/L117K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるI/L117D/E、
(7)それぞれH1のCH1におけるK/R133D/E及びL1のCLにおけるF/V209K/R、並びにそれぞれH2のCH1におけるK/R133K/R及びL2のCLにおけるF/V209D/E、
(8)それぞれH2のCH1におけるG166D/E及びL2のCLにおけるS114K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるG166K/R及びL1のCLにおけるS114D/E、
(9)それぞれH2のCH1におけるT187D/E及びL2のCLにおけるD/N170K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるT187K/R及びL1のCLにおけるD/N170D/E、
(10)それぞれH2のCH1におけるS131D/E及びL2のCLにおけるP119K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるS131K/R及びL1のCLにおけるP119D/E、
(11)それぞれH2のCH1におけるA129D/E及びL2のCLにおけるS121K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるA129K/R及びL1のCLにおけるS121D/E、
(12)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるK207K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるK207D/E、
(13)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるI/L117K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるI/L117D/E、又は
(14)それぞれH2のCH1におけるK/R133D/E及びL2のCLにおけるF/V209K/R、並びにそれぞれH1のCH1におけるK/R133K/R及びL1のCLにおけるF/V209D/E
からなる群から選択される電荷対を含む、実施形態12~16のいずれか1つの単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0177】
実施形態18は、二重特異性抗体又はその抗原結合断片が、
a.配列番号15のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号17のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、
b.配列番号19のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号21のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、
c.配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、又は
d.配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)
を含む、実施形態12~17のいずれか1つの単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0178】
実施形態19は、第2の抗原結合アーム(Ab2)が、配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む、実施形態18の単離された二重特異性抗体又はその抗原結合断片である。
【0179】
実施形態20は、FAが、炭素6個、炭素8個、炭素10個、炭素12個、炭素14個、炭素16個若しくは炭素18個、又はその間の任意の数の炭素を伴うFAから選択される、実施形態1~19のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0180】
実施形態21は、FAが、炭素14個若しくは炭素18個又はその間の任意の数の炭素を伴うFAから選択される、実施形態20の単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0181】
実施形態22は、FAが、置換されたアミノ酸残基へのコンジュゲーションのためのリンカーを含む、実施形態1~21のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0182】
実施形態23は、リンカーがペプチドリンカー又はポリエチレングリコールリンカーから選択される、実施形態22の単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0183】
実施形態24は、ペプチドリンカーが50アミノ酸未満である、実施形態23の単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0184】
実施形態25は、抗体又はその抗原結合断片にコンジュゲートされたFAがアルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合が、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす、実施形態1~24のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0185】
実施形態26は、単離された抗体又はその抗原結合断片がT細胞を活性化する能力が、アルブミンに結合していない単離された抗体又はその抗原結合断片と比較して、アルブミンへの結合に際して低下する、実施形態1~25のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片である。
【0186】
実施形態27は、実施形態1~26のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片をコードする単離された核酸である。
【0187】
実施形態28は、実施形態27の単離された核酸を含むベクターである。
【0188】
実施形態29は、実施形態27のベクターを含む単離された宿主細胞である。
【0189】
実施形態30は、実施形態1~26のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【0190】
実施形態31は、それを必要とする対象においてがんを処置する方法であって、実施形態30の医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法である。
【0191】
実施形態32は、がんが、肺がん、胃がん、食道がん、胆管がん、胆管細胞がん、結腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膀胱尿路上皮がん、転移性黒色腫、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、及び他の固形腫瘍、並びに非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、多発性骨髄腫(MM)、急性骨髄性白血病(AML)、及び他の液状腫瘍(liquid tumor)からなる群から選択される、実施形態31の方法である。
【0192】
実施形態33は、実施形態1~26のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片を産生する方法であって、これらの抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を、抗体又はその抗原結合断片を産生する条件下で培養するステップ、及び抗体又はその抗原結合断片を細胞又は培養物から回収するステップを含む方法である。
【0193】
実施形態34は、FAを抗体又はその抗原結合断片に置換されたアミノ酸残基の箇所でコンジュゲートするステップをさらに含む、実施形態33の方法である。
【0194】
実施形態35は、単離された抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を産生する方法であって、実施形態1~26のいずれか1つの抗体又はその抗原結合断片を薬学的に許容される担体と組み合わせて、医薬組成物を得るステップを含む方法である。
【0195】
実施形態36は、アルブミンを実施形態1~26のいずれか1つの単離された抗体又はその抗原結合断片と接触させるステップを含む方法であって、抗体又はその抗原結合断片が標的抗原に特異的に結合することができ、FAがアルブミンに結合することができ、FAへのアルブミンの結合が、標的抗原と抗体又はその抗原結合断片との結合の部分的又は完全な遮断をもたらす、方法である。
【0196】
実施形態37は、接触させるステップが、単離された抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を腫瘍の処置を必要とする対象に投与することを含み、腫瘍が標的抗原を含む、実施形態36の方法である。
【0197】
実施形態38は、アルブミンが循環血中と比較して腫瘍微小環境においてより高い代謝回転速度を有し、及び/又は対象の循環血中のアルブミンレベルよりも低いレベルで腫瘍微小環境中に存在し、好ましくは、腫瘍微小環境におけるアルブミンのより低いレベルが、腫瘍微小環境における高度なアルブミン異化作用及び/又は腫瘍微小環境におけるプロテアーゼの高いレベルに起因する、実施形態36又は37の方法である。
【実施例】
【0198】
[実施例1]
脂肪酸分子とのコンジュゲーションのためのモノクローナル抗体の構築及び特徴付け
図1Aは、VH領域における残基が特定され、システイン(ノックインされたシステイン)で置換された、モノクローナル抗体(mAb)の概略図を図示する。リンカー及び反応性基を含む脂肪酸(FA)分子が、ノックインされたシステインにコンジュゲートされて、その結果、各mAbは2つのFA分子を含有する(
図1A)。モノクローナル抗体はまた、VLにおいて、又はCH1若しくはCL領域におけるVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離に、置換されたアミノ酸残基を含むこともできる。ノックインされたシステイン残基は、FAコンジュゲーションのために好適である別の反応性アミノ酸残基であることもできる。
【0199】
コンジュゲートされたFA分子は、血液中及び/又は組織内の間質液中を循環するアルブミンに結合することができる。結合したアルブミン分子は、結合したアルブミンの立体障害効果が原因で、コンジュゲートされたmAbの抗原結合ドメイン(VH及びVLを含む)と抗原との相互作用を部分的又は完全に遮断することが予想される。それ故に、コンジュゲートされたmAbの抗原結合活性は、周囲のアルブミンレベルにより調節を行うことができる。ノックインされたアミノ酸残基の位置、FAの長さ、リンカーの存在、及びリンカーの長さに応じて、標的抗原へのmAb結合の様々な度合いのモジュレーションを達成することができる。
【0200】
図1AにおけるmAbは、例えば、抗CD3抗体であり得る。コンジュゲーション後に、抗CD3 mAbの活性をin vivoでアルブミンによってモジュレートすることができ、その結果、抗CD3 mAbは循環血中で不活性であるか又はより低い活性になる。腫瘍微小環境では、アルブミンの代謝回転速度が循環血と比較してより高いため、裸のコンジュゲートされたmAb(すなわち、アルブミン非結合型のコンジュゲートされた抗CD3 mAb)の濃度が上昇し、T細胞の活性化が、抗CD3 mAbによって媒介されるがん死滅効果をもたらす。治療アプローチが、循環血中のmAbの活性がより低いか又は活性がないこと、及び腫瘍微小環境において活性がより高いことを必要とする場合に、mAbを、他のがん標的、特にICM(例えば、4-1BB、GITR、OX40、CD28又はPD-1)に向かわせることができる。さらに、このコンジュゲーション及びモジュレーション戦略を、mAbではない抗原結合断片と共に使用することができる。この場合には、FAコンジュゲーション部位、FAの長さ、リンカーの存在、及びリンカーの長さは、FAに結合したアルブミンが抗原結合ドメインと標的抗原との間の境界面に突出するように選択される。
【0201】
コンジュゲートされたmAb又はその抗原結合断片は、別の抗体又はその抗原結合断片と共に二重特異性抗体(bsAb)又はその抗原結合断片を構築するために使用し得る。例示の目的で、コンジュゲートされた二重特異性抗体を
図1B~1Cに示す。Ab1アームは抗CD3抗体由来であり、Ab2アームは腫瘍関連抗原(TAA)に対するmAb由来である。抗CD3アームの領域(例えば、VH、VL、又はVH若しくはVLから20アミノ酸以内の距離、好ましくは5アミノ酸以内の距離にある領域)へのFA分子のコンジュゲーションは、抗CD3活性をモジュレートし、それ故に、二重特異性抗体によるT細胞活性化をモジュレートすることができ、一方、TAAへの抗TAAアームの結合は周囲のアルブミン濃度によって影響されない。FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体は、高いアルブミンレベル(例えば、35~50mg/mL)が存在する循環血及び/又は特定の組織液中では、活性が低いか又は活性がないと予想される。FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体は、アルブミンの代謝回転速度が高いことが原因で、特定の腫瘍微小環境ではT細胞を刺激する活性があり、これはより低い局所アルブミンレベル、並びに裸のコンジュゲートされたbsAb(すなわち、アルブミン非結合型のコンジュゲートされた抗CD3 bsAb)のより高い濃度、及びT細胞の活性化によるがん細胞死滅の増加をもたらす。治療アプローチが、循環血中のbsAbの活性がより低いか又は活性がないこと、及び腫瘍微小環境においてより活性が高いことを必要とする場合に、bsAbの抗CD3アームを、他のがん標的、特にICM(例えば、4-1BB、GITR、OX40、CD28又はPD-1)に向かわせることができる。このアプローチは、オンターゲット腫瘍外毒性を最小限にすることにより、抗CD3ベースの二重特異性T細胞エンゲージャーの安全域を増大させることができる。そのような治療剤は、抗CD3 T細胞エンゲージャーで通常観察されるサイトカインストーム症候群(CRS)のリスクを低下させることができる。このコンジュゲーション及びモジュレーション戦略を、二重特異性抗体ではない二重特異性抗原結合断片と共に使用することができる。この場合には、FAコンジュゲーション部位、FAの長さ、リンカーの存在、及びリンカーの長さは、FAに結合したアルブミンが抗原結合ドメインと標的抗原との間の境界面に突出するように選択される。
【0202】
図1Dは、FAにコンジュゲートされた二重特異性抗体T細胞エンゲージャーががん細胞を死滅させる作用機序を示す概略図を提供する。抗TAAアームは、周囲のアルブミンレベルに関係なく、がん細胞表面上のTAAに結合する。FAにコンジュゲートされたT細胞エンゲージングアーム(例えば、抗CD3アーム)は、周囲のアルブミンレベルが高い場合(例えば、35~50mg/mL、例えば、循環血中)には、標的抗原(例えば、CD3)に結合しない;しかし、周囲のアルブミンレベルが低い場合には、FAにコンジュゲートされたT細胞エンゲージングアーム(例えば、抗CD3アーム)は標的抗原(例えば、CD3)に結合してT細胞を活性化し、これはがん細胞の死をもたらす。FAにコンジュゲートされたアームは、他のT細胞ICM、例えば、4-1BB、GITR、OX40、CD28、PD-1、又はT細胞上に発現される任意の他の標的に対するT細胞エンゲージングアームであることができ、特異的抗体による結合に際してT細胞活性化を媒介することができる。さらに、FAにコンジュゲートされたアームは、他の免疫細胞上のICMに対するものであり得る。循環血中のものと比較して標的部位上のアルブミンレベルがより低いことを利用するアプローチは、局所アルブミンレベルが低い組織を標的とする治療法に適用することもできる;これらの組織には、脂肪組織及び骨格筋が含まれる(Ellmerer et al., Am J Physiol Endocrinol Metab. 2000. 278: E352-E356)。
図1Eは、FAにコンジュゲートされたmAb又はbsAbを同定するための具体的なステップを示す。
【0203】
改変された抗CD3抗体を使用して、コンジュゲートされたmAbを構築した。抗CD3 mAbのVH及びVL領域の配列及び番号付けは、
図2A~2B及び表1に示される(それぞれ配列番号1及び2)。CDR領域(HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3)の配列は、表2に列挙される(それぞれ配列番号3、4、5、6、7及び8、並びにそれぞれ配列番号33、34、35、36、37及び38)。IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4重鎖(HC)のCH1領域の配列及び番号付けは、
図2C及び表1に示される(それぞれ配列番号9、10、11及び12)。カッパ及びラムダ軽鎖(LC)のCL領域の配列及び番号付けは、
図2D及び表1に示される(それぞれ配列番号13及び14)。
【0204】
抗CD3抗体のFab領域の表面上の残基を、構造モデリングを使用して同定した。抗CD3 mAbの配列は、Schrodinger Bioluminate(登録商標)(Schrodinger; New York, NY)により、1SY6及び3EO9とモデル化された。側鎖の溶媒露出度を計算し、側鎖露出度が30%~70%の範囲にある重鎖及び軽鎖の両方の可変領域の内部又は近傍の残基を、可能性のあるシステインノックイン候補として選択した。ノックインのために同定された残基は表3に列挙される。システインノックイン実験のために選択された4つの残基を、例として抗CD3 mAbの3D構造で示す(
図3A):VL領域におけるS26及びS31、VH領域におけるK64、及びHCのCH1領域におけるT120(VH領域のC末端から3アミノ酸残基の距離)。これらの部位にノックインされたシステインを有するmAbを、それぞれLC_S26C、LC_S31C、HC_K64C、及びHC_T120Cと命名した。LC_S26Cは、軽鎖上のS26位置におけるセリン残基がシステインで置換された抗CD3 mAbを表す。他のmAbも同じ命名規則に従う。
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
ヒトIgG4 HC及びヒトカッパLCフレームワークにおける4つのmAb、LC_S26C、LC_S31C、HC_K64C及びHC_T120CをCHO細胞で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーを使用して精製し、Jurkat細胞を使用するFACSによってCD3結合について試験した(
図3B~3E)。LC_S31Cはシステインノックイン後に有意な活性を失った(
図3C)。LC_S26C、HC_K64C及びHC_T120Cは、CD3結合において実質的な活性を有し(
図3B及び
図3D~3E)、さらなる検討のために選択された。システインノックインを、表3に示される追加の残基に対しても実施した。得られたIgG4 HC及びカッパLCフレームワークにおけるmAbをCHO細胞で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーを使用して精製し、Jurkat細胞を使用するFACSによってCD3結合について試験した。野生型抗CD3 mAbの最大抗原結合活性の50%超を維持したシステインノックイン後の残基は表3に太字で示されており、Jurkat細胞を使用するFACSによるCD3結合についての結果は
図3F~3Gに示される。抗原結合活性に対するアミノ酸置換の影響が試験されてない残基は標準体で示される(表3)。
【0209】
[実施例2]
脂肪酸分子とコンジュゲートされたモノクローナル抗体の特徴付け
コンジュゲーションのために使用されたFA分子は、C18、C14、C10及びC6を含めて
図4Aに示される。すべての分子がPEGリンカー及びブロモアセトアミド反応性基を含有する。コンジュゲーション反応のために、抗体を20~30mg/mLの濃度に濃縮し、緩衝液をTBS緩衝液に交換した。10当量のトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の添加によって抗体を部分的に還元し、溶液を37℃で1時間インキュベートした。次いで、抗体の緩衝液をDPBSに交換し、室温(RT)で1時間インキュベートすることによって30当量のデヒドロアスコルビン酸で再酸化した。抗体の緩衝液をコンジュゲーション緩衝液(20mM Tris pH 8.5+150mM NaCl+10%グリセロール)に交換し、10mg/mLの濃度に希釈した。FA分子をDMSO中の50mM溶液から20当量で添加し、得られた混合物を室温で1又は2日間インキュベートした。未反応のFA分子を除去するために、最終産生物の緩衝液をコンジュゲーション緩衝液に交換した。試料を疎水性相互作用クロマトグラフィーによって精製し、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によって分析した。各コンジュゲートされたmAbについて、HC又はLC上の正しいコンジュゲートを質量分析(MS)によって確認した(
図4B~4C)。正しいシステインノックイン部位へのFAのコンジュゲーションは、LC/MSによって確認された(表4)。
【0210】
【0211】
C18にコンジュゲートされたmAbを、50mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)の非存在下又は存在下で、それらがJurkat細胞(CD3を発現することが知られる)に結合する能力について試験した(
図5A~5C)。BSAを含有するか又は含有しない、0.1%カゼインを含有するHBSS緩衝液中で、Jurkat細胞を指定の抗体と共に、一次抗体結合ステップの間インキュベートし、その後はBSA非含有緩衝液中で処理した。抗体結合をFACSによって定量した。Jurkat細胞への非コンジュゲートmAbの結合が示され、この結合はBSAの存在によって影響されなかった(
図5A~5C)。コンジュゲートされたmAbは、依然としてJurkat細胞に結合を行うことができた(
図5A~5C)。コンジュゲートされたmAbのJurkat細胞への結合はBSAによって阻害され、このことからコンジュゲートされたFAはBSAへの結合を行うことができ、これがその後に抗CD3 mAbによる抗原結合を減少させたことが示された。コンジュゲートされたmAbによるCD3結合に対するBSAの阻害効果を確認するために、2人の異なるドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)を使用するT細胞活性化アッセイを実施した。複数の濃度のBSAを含有する培地中で、PBMCを指定の抗体と共に16時間インキュベートした。T細胞活性化を、FACSを介してCD25発現を測定することによって評価した。培地は1% FBSを含有するため、低レベルのBSA(1% FBSから推定して約0.25mg/mL)がアッセイにおける各群に存在し、それはBSAが培地に添加される前に、コンジュゲートされたmAbによるT細胞活性化を抑制することが予想される(
図6A~6C)。BSAを培地に添加すると、添加したBSAによるT細胞活性化の阻害の増加が観察された(
図6A~6C)。
【0212】
コンジュゲートされたFA分子の長さの影響を試験するために、C6、C10、及びC14 FA分子をそれぞれ、HC_K64Cにコンジュゲートした。各mAbの重鎖への各FAの特異的なコンジュゲーションが、LC/MSによって確認された(
図4C)。各システインノックイン部位へのFAのコンジュゲーションが、LC/MSによって確認された(表4)。コンジュゲートされたmAbを、上記のように2人の異なるドナー由来のPBMCを使用して、T細胞活性化について試験した(
図7A~7C)。C6及びC10コンジュゲーションは、より高濃度のBSAの存在下でのCD3結合の遮断により効果的でなかった(
図7A~7B);C14コンジュゲーションは、より高濃度のBSAの存在下でCD3結合を完全に遮断した(
図7C)。これらのデータから、より長いFA分子、例えばC14及びC18は、コンジュゲーション後、結合したBSAを介したCD3結合の遮断においてより強力であり、一方、より短いC6及びC10 FA分子は、コンジュゲーション後、結合したBSAを介したCD3結合の遮断においてより強力ではないことが示された。これらの特徴のそれぞれを、腫瘍微小環境における異なる条件下で治療的に利用することができる。例えば、腫瘍微小環境と循環血との間の異なるアルブミンレベルに応じて、より長いFA又はより短いFAが、最良のin vivo有効性/安全域を達成するためのコンジュゲートされた分子として好ましいと考えられる。
【0213】
脂肪酸分子とコンジュゲートされた二重特異性抗体の特徴付け
FAコンジュゲーションアプローチは、二重特異性抗体の2つのアームのうちの一方の抗原結合活性をモジュレートするために使用することができる。例えば、二重特異性抗体は、抗CD3アーム(
図1B~1CにAb1アームとして図示)のFab領域にFAがコンジュゲートされた抗TAA/抗CD3 T細胞エンゲージャーであり得る。ここでは、抗DLL3アームを抗TAAアームの一例として使用した。抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体を構築するために使用された配列(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年2月5日に出願された米国仮特許出願第63/146,334号に最初に記載された)を使用して、FAコンジュゲーションのためのシステインノックインを導入した。システインを、抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体の抗CD3アームのK64位置(VH領域;Kabat番号付け)又はT120位置(CH1領域;EU番号付け)にノックインした。得られたbsAbは、それぞれbsAb HC_K64C及びbsAb HC_T120Cと命名され、それらの配列を表5に列挙する。bsAb HC_K64C及びbsAb HC_T120Cは同じ抗DLL3アームを有することに留意されたい(表5)。これらの二重特異性抗体は、IgG1のFc領域内に以下の改変を伴うヒトIgG1 HC及びヒトカッパLCフレームワーク上に存在する:抗CD3アームのHCは、「ノブ(knob)」を形成するT366W(EU番号付け)突然変異を有し、抗DLL3アームのHCは、「ホール(hole)」を形成する突然変異T366S、L368A、及びY407Vを有する。さらに、ヘテロ二量体対形成を安定化するために、S354Cシステイン突然変異を抗CD3 HCに導入し、Y349Cシステイン突然変異を抗DLL3 HCに導入した。さらに、L234A及びL235A突然変異を、H1及びH2の両方のCH2領域に導入した。
【0214】
【0215】
bsAb HC_K64C及びbsAb HC_T120C二重特異性抗体をExpiCHO-S細胞に一過性にトランスフェクトしたところ、同じ細胞における2つの重鎖及び2つの軽鎖の同時発現は、所望の二重特異性抗体及びある特定の不純物の発現及びアセンブリを導いた。不純物標準は、必要に応じて同じHC及びLCベクターを使用する一過性トランスフェクションによって作製した。二重特異性抗体をまずプロテインAクロマトグラフィーを使用して精製した。プロテインA精製試料のpH調整で最終pHを5.5にして、25mMリン酸塩(pH 5.8)+210mM NaClで予め平衡化したporos XS(Thermo)CEXカラムに直接ロードした。試料を、直線勾配[緩衝液A-25mMリン酸塩(pH 5.8)+210mM NaCl;緩衝液B-25mMリン酸塩(pH 8)+115mM NaCl]で溶出させた。溶出した画分を強陽イオン交換(SCX)HPLCによって分析し、2x抗DLL3 LCミスマッチ(両方のアーム上にマッチする抗DLL3 LCを有するHCヘテロ二量体)の完全な除去を示す画分をプールした。プールした画分に(NH4)2SO4を最終濃度700mMまで添加し、50mMトリス(pH 7.5)+700mM(NH4)2SO4+3%グリセロールで予め平衡化したブチルセファロース高速(Cytiva)HIC(疎水性相互作用クロマトグラフィー)カラムに試料を直接ロードした。試料を、直線勾配 [緩衝液A-50mMトリス(pH 7.5)+700mM(NH4)2SO4+3%グリセロール;緩衝液B-50mMトリス(pH 7.5)+10%グリセロール]を使用して溶出させた。溶出した画分をHIC HPLCによって分析し、2x抗CD3 LCミスマッチ(両方のアーム上にマッチする抗CD3 LCを有するHCヘテロ二量体)の完全な除去を示す画分を、精製されたタンパク質としてプールした。精製された二重特異性抗体を、3種類の異なる方法で分析した。
【0216】
HIC HPLCのために、試料を、1M(NH4)2SO4を含有する緩衝液で最終濃度1mg/mLまで希釈し、15μlを、Agilent AdvanceBio HIC 4.6×100mm 3.6μmカラム(PN:685975-908)を使用するHIC HPLC分析のために直接注入した。試料を、直線勾配(緩衝液A-50mM Tris pH 7.5+1M(NH4)2SO4;緩衝液B-50mM Tris pH 7.5+10%グリセロール)を使用して、30℃で1mL/分の流速で分析した。
【0217】
SCX HPLCのために、試料を、25mMクエン酸塩pH 4.5を含有する緩衝液で最終濃度1mg/mLまで希釈し、15μlを、Waters Bioresolve SCX mAb 4.6×100mm 3μmカラム(PN:18609060)を使用するSCX HPLC分析のために直接注入した。試料を、直線勾配(緩衝液A-25mMリン酸塩pH 5.8+2% ACN;緩衝液B-25mMリン酸塩pH 8+250mM NaCl+2% ACN)を使用して、30℃で1mL/分の流速で分析した。
【0218】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)HPLCのために、試料をPBS中に最終濃度1mg/mLまで希釈し、8μlを、Agilent AdvanceBio SEC 300A 2.7μm 4.6×300mmカラム(PN:PL1580-5301)を使用するSEC HPLC分析のために直接注入した。試料を、イソクラティック溶出(緩衝液-50mMリン酸塩pH 7.4+300mM NaCl+5%イソプロパノール)を使用して、0.35mL/分の流速で分析した。
【0219】
精製されたbsAbを、HIC HPLC、SCX HPLC及びSEC HPLCで分析した(
図8A~8B及び9A~9B)。
図8Aにおいて、精製されたbsAb HC_K64Cは、HIC HPLC上では2x抗DLL3 LCミスマッチを除き、不純物から分離される;しかし、SCX HPLCで分析した場合には、精製されたbsAb HC_K64Cは、2x抗DLL3 LCミスマッチから十分に分離された(
図8B)。これらのデータは、精製されたbsAb HC_K64Cが不純物を含まないことを示す。さらに、精製されたbsAb HC_K64Cは、SEC HPLC上の単一の種であった(
図8C)。類似の観察所見はbsAb HC_T120Cでも得られ(
図9A~9B)、このことは精製されたbsAb HC_T120Cの高い純度を示す。
【0220】
精製されたbsAb HC_K64C及びbsAb HC_T120C二重特異性抗体を、異なるFA分子とコンジュゲートした。コンジュゲーションのために、K64又はT120にノックインされたシステインを伴う二重特異性抗体を20~30mg/mLの濃度まで濃縮し、緩衝液をTBS緩衝液に交換した。10当量のTCEPの添加によって二重特異性抗体を部分的に還元し、溶液を37℃で1時間インキュベートした。次いで、二重特異性抗体の緩衝液をDPBSに交換し、30当量のデヒドロアスコルビン酸の添加によって再酸化し、溶液を室温で1時間インキュベートした。最終的な二重特異性抗体試料の緩衝液をコンジュゲーション緩衝液(20mM Tris pH 8.5+150mM NaCl+10%グリセロール)に交換し、10mg/mLの濃度まで希釈した。FA分子をDMSO中の50mM溶液から12当量で添加し、得られた混合物を室温で1日間インキュベートした。未反応のFA分子を除去するために、最終産生物の緩衝液をコンジュゲーション緩衝液に交換し、次いでHIC精製によって精製した。精製されたコンジュゲートされた二重特異性抗体を、HIC HPLC(
図10A)及びSEC HPLC(
図10B)で分析した。コンジュゲートされたbsAbのそれぞれは、対応する非コンジュゲートbsAbのものとは異なる保持時間を有する単一のピークとして現れ(
図10A)、これはコンジュゲーションの高い効率を示す。さらに、各コンジュゲートされたbsAbは、SEC HPLC上でも単一のピークとして現れた(
図10B)。
【0221】
【0222】
DLL3及びCD3の両方に対する非コンジュゲート及びコンジュゲートされた二重特異性抗体の結合活性を同時に評価するために、精製された二重特異性抗体を、異なる蛍光マーカーで標識したSHP-77細胞及びJurkat細胞と共にインキュベートした。二重特異性抗体によって誘導される二重染色イベントを、フローサイトメトリーによって検出し、定量した。手短に述べると、Jurkat細胞をViolet Proliferation Dye 450(BD、カタログ番号562158)で染色し、SHP-77細胞をCFSE(ThermoFisher、カタログ番号34554)により、製造元のプロトコールに従って染色した。次いで、標識されたSHP-77細胞及びJurkat細胞を1:1の比で、1.5μMの抗DLL3遮断mAb又は1.5μMの抗CD3遮断mAbの存在下又は非存在下で、2μg/mLのbsAbと共にインキュベートした(
図11)。遮断mAbを使用する場合には、SHP-77細胞を4.5μMの抗DLL3遮断mAbにより室温で10分間前処理し、その後にJurkat細胞とのインキュベーションを抗DLL3遮断mAbの最終濃度1.5μMで行うか、又はJurkat細胞を4.5μMの抗CD3遮断mAbにより室温で10分間前処理し、その後にSHP-77細胞とのインキュベーションを抗CD3遮断mAbの最終濃度1.5μMで行った。CO
2インキュベーターにおける37℃での1時間のインキュベーション後に、細胞を2%ホルムアルデヒドで固定し、TBSで1回洗浄して、FACS緩衝液(HBSS、0.1% BSA、0.05%アジ化ナトリウム)中に再懸濁させて、次いでフローサイトメトリー(Attune NxT)によって分析した。bsAbの存在下での2つの細胞型の架橋をFACSで検出したところ、各bsAb(非コンジュゲート及びコンジュゲート)についてのシグナルは、抗DLL3又は抗CD3遮断mAbによって阻害された(
図11)。これらのデータは、非コンジュゲート及びコンジュゲートされたbsAbが、2つの異なる抗原に同時に結合しうることを示す。
【0223】
これらの二重特異性抗体を、機能的T細胞活性化アッセイにおいてT細胞を活性化するためにも使用した。活性化(CD3媒介性活性化を含む)によりホタルルシフェラーゼを条件的に発現するJurkat NFATルシフェラーゼレポーター細胞株(BPS Bioscience)を使用した。各bsAb(非コンジュゲート及びコンジュゲート)の存在下、及び抗DLL3遮断抗体(最終濃度500nM)の存在下又は非存在下で、レポーター細胞をSHP-77標的細胞と共に、CO
2インキュベーターにおいて37℃で22時間、増殖培地中でインキュベートした。次いで細胞を、ルシフェラーゼ検出試薬及びルミノメーターにより、活性化についてアッセイした。二重特異性抗体のそれぞれは、標的細胞SHP-77と共にインキュベートした場合にレポーター細胞の用量依存的活性化を誘導し、このシグナルは抗DLL3遮断抗体(抗DLL3アームのmAbバージョン)によって阻害され(
図12A~12B)、このことは二重特異性抗体のT細胞エンゲージャー機能を示す。アッセイ中の細胞生存のために0.5% FBS(ウシ胎仔血清)が培地の一部として必要であるため、低レベルのBSA(0.5% FBSから推定して約0.13mg/mL)がアッセイ内に存在し、それはbsAb HC_K64C_C10、bsAb HC_K64C_C14及びbsAb HC_K64C_C18によるT細胞活性化シグナルの減少を導くことが予想される(
図12A)。
【0224】
コンジュゲートされた二重特異性抗体のT細胞活性化機能に対するアルブミンの阻害効果を評価するために、Jurkat NFATルシフェラーゼレポーター細胞株を使用するT細胞活性化アッセイを、低レベル及び高レベルのBSAの存在下でも実施した。0.5% FBSはアッセイ中の細胞生存のために培地の一部として必要であるため、低レベルのBSA(0.5% FBSから推定して約0.13mg/mL)がアッセイ内に各群に存在した。高レベルのBSA(0.5% FBSに加えて最終濃度10mg/mLのBSA)をアッセイに添加した場合には、コンジュゲートされた二重特異性bsAb HC_K64C_C14及びbsAb HC_K64C_C18によって誘導されるT細胞活性化が、対照群(0.5% FBSのみ)と比較した場合に阻害された(
図13A);高レベルのBSA(10mg/mL BSA+0.5% FBS)は、コンジュゲートされた二重特異性bsAb HC_T120C_C14及びbsAb HC_T120C_C18によって誘導されるT細胞活性化を、対照群(0.5% FBSのみ)と比較した場合に阻害した(
図13B)。これらのデータは、FA分子とコンジュゲートされた抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体の活性が、BSAレベルによってモジュレートされ得ることを示す。
図5Bは、mAb HC_K64CへのFAコンジュゲーションが、CD3へのコンジュゲートされたアームの結合を変化させなかったことを示す;さらに、
図11は、bsAb HC_K64CへのFAコンジュゲーションが、その二重特異性活性を劇的には変化させなかったことを示し、これは
図13AにおけるbsAb HC_K64C_C10のより低い活性が、培地の一部として必要な0.5% FBSによって持ち越される低いBSAレベルのためであることを示唆する。類似の観察所見は、HC_K64C_C14及びHC_K64C_C18についても得られた(
図13A)。これらの観察所見は
図6B及び7A~7Cにおけるデータに合致し、BSAの存在下において、K64でのFAコンジュゲーションがT120でのものよりもCD3への抗CD3アームの結合により大きな影響を及ぼすことを示す。これは、K64CでコンジュゲートされたFAに結合したBSAが、T120CでのものよりもCDRにより近く、標的抗原(CD3)結合をより効率的に遮断しうるという事実とも合致する。
【0225】
各コンジュゲートされた二重特異性抗体の抗DLL3アームの抗原結合活性に対するBSAの影響を評価するために、ELISAアッセイを実施した。96ウェルELISAプレートを、DLL3タンパク質(Adipogen、カタログ番号AG-40B-0151-C010)により室温で1時間コーティングし、その後にTBST中の5% BSAにより室温で1時間ブロックした。プレートをTBSTで3回洗浄し、ブロッカー(200μg/mL抗DLL3 F(ab')2又は50mg/mL BSA(Sigma、カタログ番号A4612-25G);非ブロッカー群にはTBSTを使用した)の存在下又は非存在下で、室温で1時間プレインキュベートした。次いで、プレートを、100μg/mL抗DLL3 F(ab')2又は50mg/mL BSAの存在下又は非存在下で、1μg/mL bsAbと共に室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後に、プレートを洗浄して、シグナルを、HRP結合抗ヒトIgG二次抗体(ThermoFisher、カタログ番号H10007)及びTMB基質(ThermoFisher、カタログ番号34029)を用い、Envision分光光度計を使用して検出した。
図14は、BSAが、各コンジュゲートされたbsAbの抗DLL3アームの抗原結合活性に対して非常にわずかな影響しか及ぼさないことを示す。
【0226】
第2のセットの抗CD3(#2抗CD3)VH及びVL配列(それぞれ配列番号27及び28;Kabat番号付け)を、コンジュゲートされたmAb及びbsAbを構築するために使用することもでき、それらは表1に列挙される。さらに、これらの配列の改変版を、配列番号29のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号30のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号16のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号18のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)、又は配列番号31のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号32のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号20のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号22のポリペプチド配列を有するCL領域を含む第1の抗原結合アーム(Ab1)を含む、コンジュゲートされた抗DLL3/抗CD3二重特異性抗体(表5)を構築するために使用することもできる。上記の場合のそれぞれにおいて、第2の抗原結合アーム(Ab2)は、配列番号23のポリペプチド配列を有するVH領域、配列番号25のポリペプチド配列を有するVL領域、配列番号24のポリペプチド配列を有するCH1領域、及び配列番号26のポリペプチド配列を有するCL領域を含む。さらに、以上に言及した第1の抗原結合アーム(Ab1)のそれぞれは、CD3及びDLL3以外のTAAに対する二重特異性抗体を構築するために使用することができる。
【0227】
当業者には、上記の実施形態に対して、その広義の発明概念から逸脱することなく変更がなされ得ることは理解されよう。したがって、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されず、本明細書によって定義されている本発明の趣旨及び範囲内の改変を網羅するものとすると理解される。
【配列表】
【国際調査報告】