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特表2023-515244副腎白質ジストロフィー又は副腎脊髄ニューロパチーの処置におけるチエノピリドン誘導体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(54)【発明の名称】副腎白質ジストロフィー又は副腎脊髄ニューロパチーの処置におけるチエノピリドン誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4365 20060101AFI20230405BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230405BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
A61K31/4365
A61P25/00
A61P3/06
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022558239
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2021057988
(87)【国際公開番号】W WO2021191435
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】20166035.4
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】512169062
【氏名又は名称】ポクセル
【氏名又は名称原語表記】POXEL
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・ボルズ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・フォクレ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー・アラク-ボゼク
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB26
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZC33
(57)【要約】
本発明は、副腎白質ジストロフィー(ALD)及び副腎脊髄ニューロパチー(AMN)から選択される遺伝性神経変性疾患の処置におけるチエノピリドン誘導体、又はチエノピリドン誘導体を含む医薬組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
副腎白質ジストロフィー及び/又は副腎脊髄ニューロパチーの処置における使用のための、
式(I):
【化1】
(式中、式中、R1は水素原子又はハロゲン原子を表し、
R2は、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ、アルコキシ基、アミノ、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド、シアノ、アルキルスルホニル及びトリフルオロメチル基から選択される1個又は複数の基で置換されているか、又は置換されていない、インダニル又はテトラリニル基を表し、
R3は、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド、シアノ、アルキルスルホニル、及びトリフルオロメチル基から選択される、1個又は複数の原子又は基で置換されているか、又は置換されていない、アリール基を表す)
のチエノピリドン誘導体、又はその薬学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物、又は前記チエノピリドン誘導体、又はその薬学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物が、ヒト患者に0.5mg~3000mg、好ましくは20mg~1000mg、更に好ましくは60mg~500mgの1日投与量で1日1回又は2回投与される、請求項1に記載の使用のための、式(I)のチエノピリドン誘導体、又は前記チエノピリドン誘導体を含む医薬組成物。
【請求項3】
前記化合物又は医薬組成物が、中枢性脱髄、副腎皮質機能不全又は副腎機能不全を処置するのに有効である、請求項1又は2に記載の使用のための、式(I)のチエノピリドン誘導体、又は前記チエノピリドン誘導体を含む医薬組成物。
【請求項4】
以下の条件の少なくとも1つ、好ましくは以下の条件を全て満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための、式(I)のチエノピリドン誘導体。
・ R1がハロゲン原子、特に塩素原子を表す、
・ R2が置換されていないか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を含む1若しくは2個の置換基で置換されている、
・ R2がテトラリニル基である、
・ R3が、置換されていないか、又は1若しくは2個の置換基で置換されているフェニル基を表す、
・ 式(I)の化合物が塩の形態、好ましくはナトリウム又はカリウム塩、更に好ましくはカリウム塩である、
・ 式(I)の化合物が、溶媒和物の形態、好ましくは水和物、更に好ましくは一水和物である。
【請求項5】
以下の条件の少なくとも1つ、好ましくは以下の条件を全て満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための、請求項4に記載のチエノピリドン誘導体。
・ R1がハロゲン原子、特に塩素原子を表す、
・ R2が、少なくとも1個のヒドロキシ基を含む1又は2個の置換基で置換されている、
・ R2がテトラリニル基である、
・ R3が、置換されていないフェニル基を表す、
・ 式(I)の化合物が塩の形態、好ましくはナトリウム又はカリウム塩、更に好ましくはカリウム塩である、
・ 式(I)の化合物が、溶媒和物の形態、好ましくは水和物、更に好ましくは一水和物である。
【請求項6】
式(Ia):
【化2】
を有する2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オンの一水和物カリウム塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための、式(I)のチエノピリドン誘導体。
【請求項7】
以下の条件の少なくとも1つ、好ましくは以下の条件を全て満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための、請求項1に記載のチエノピリドン誘導体。
・ R1がハロゲン原子、特に塩素原子を表す、
・ R2が、少なくとも1個のヒドロキシ基を含む1又は2個の置換基で置換されている、
・ R2がインダニル基である、
・ R3が、置換されていないか、又は1若しくは2個の置換基で置換されているフェニル基を表す。
【請求項8】
式(Ib):
【化3】
を有する2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための、請求項7に記載のチエノピリドン誘導体。
【請求項9】
式(Ic):
【化4】
を有する2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための、請求項7に記載のチエノピリドン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副腎白質ジストロフィー(ALD)及び副腎脊髄ニューロパチー(adrenomyeloneuropathy, AMN)から選択される遺伝性神経変性疾患の処置におけるチエノピリドン誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
副腎白質ジストロフィー及び副腎脊髄ニューロパチーは神経変性遺伝性疾患である。X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)は、X染色体に関連づけられる遺伝病である。罹患した男性では、主に3種の表現型が確認されている。小児大脳型は、通常4歳から8歳の間に発症する。これは、初期は注意欠陥障害又は多動性障害に類似している。認知、行動、視覚、聴覚及び運動機能の障害を伴う進行性の中枢性脱髄が初期症状に続き、2年以内に完全な障害に至ることが多い。第2の表現型は、成人型ALDである副腎脊髄ニューロパチー(AMN)であり、20代後半に進行性の対麻痺、括約筋障害、性機能障害として現れ、副腎皮質機能障害として最もよく現れる。更に、AMNの患者には一般的に脊髄の機能障害があり、これが歩行困難や歩行パターンの変化を含む初期症状を引き起こす。全ての症状は数十年かけて進行する。特に、AMNは2種の一般的な臨床形態:脊髄及び脳の両者が冒される脳の関与を伴うAMNと、脊髄のみが冒される脳の関与を伴わないAMNとに分けることができる。第3の表現型はアジソン病であり、これは、2歳から成人期、最も一般的には7.5歳までに原発性副腎皮質機能不全を示し、神経学的異常は認められない。
【0003】
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)は、ABCD1遺伝子の変異によって引き起こされる。ABCD1遺伝子は、副腎白質ジストロフィータンパク質(ALDP)を産生するための指令を与える。ALDPはペルオキシソームと呼ばれる細胞構造体の膜に存在している。ペルオキシソームは細胞内の小さな袋であり、多くの種類の分子を処理する。ALDPは、超長鎖脂肪酸(VLCFA)と呼ばれる一群の脂肪をペルオキシソームに運び、脂肪はそこで分解される。副腎白質ジストロフィーの原因となる変異は、この障害を有する患者の約75%において、あらゆるALDPの産生を抑制する。ALDPがほとんど又は全く機能しないため、VLCFAは分解されず、体内に蓄積される。このため、超長鎖脂肪酸(VLCFA)のレベルが上昇し、ペルオキシソームにおけるVLCFAの酸化が減少する。VLCFAを含有する脂質は全ての組織中に蓄積されるが、脳、脊髄、副腎皮質、精巣のライディッヒ細胞ではVLCFAが最も増加する。これらの脂肪の蓄積は、副腎、及び体内の多くの神経を包む絶縁体の脂肪層(ミエリン)に対して毒性を示す可能性がある。小児期の脳性ALDでは、細胞が脱髄を起こすだけでなく、炎症反応も起こり、これら全てが脳を破壊する。炎症の過程でミエリンが破壊され、進行性の悪化が容赦なく進み、通常は5年以内に植物状態又は死に至る。
【0004】
副腎脊髄ニューロパチー(AMN)は、成人発症型の副腎白質ジストロフィー(ALD)である。ALDと同様、AMNは、ABCD1遺伝子の変異により、ペルオキシソーム機能が低下し、超長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積及び脱髄が起こることが特徴である。ALDは幼児期に急速に進行する致死性の疾患であるが、AMNは成人期にゆっくりと進行し、副腎、脊髄(脊髄症)、及び末梢神経(神経障害)の機能不全の原因となる。
【0005】
X-ALDに対する有効な治療法はない。造血幹細胞骨髄移植(HSCT)は、神経症状が最初に現れたときに行えば、一部の患者においてはALDの進行を抑える可能性がある。しかし、HSCTは、かなりの罹患率及び死亡率も伴う。
【0006】
これらの疾患に対する現在の処置方法は、基本的に患者の症状を軽減することを目的としている。例えば、AMN患者の可能性のある症状の1つは副腎機能不全であるので、この副腎機能不全に対してステロイド補充療法による処置を行うことが焦点となる。
【0007】
近年、ALD患者においてAMPKα1が消失していることが報告され、メトホルミンが、AMPKを活性化することにより、これらの患者の処置に有用であり得ることが報告されている(J. Singhら、Journal of Neurochemistry、138、86~100頁、2016年)。しかし、メトホルミンは、副作用として乳酸アシドーシスを誘発することが知られている。更に、培養線維芽細胞では少なくとも100μMの用量で、及びABCD2 KOマウスでは100mg/kgの経口投与でその有効性が確認されている。
【0008】
したがって、ALD及びAMNの処置に有用な、より低用量及び/又は副作用が低減した代わりの化合物の必要性が残っている。
【0009】
本発明者らは、特定のチエノピリドン誘導体がこの必要性を満たし得ることを示した。これらの化合物は、WO2014/001554においてAMPK活性化剤として広く開示されたが、ALD及びAMNの処置にそれらを使用することはこれまで提案されていない。これらは、β1サブユニットを含む種々のAMPKアイソフォームの直接活性化剤であることが証明されており、AMPKの直接活性化剤がメトホルミンなどのAMPKの間接活性化剤で得られるものとは異なる代謝効果をもたらすことが知られているため、これらの状態の処置におけるその有効性はより一層驚くべきことである。
【0010】
より具体的には、本発明者らは、これらのチエノピリドン誘導体が、これらの疾患の健常な表現型を回復させ、又は表現型を改善することを見出した。
【0011】
これらのチエノピリドン誘導体は、超長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積を減少させるように作用する。また、式(I)のチエノピリドン誘導体の存在下で細胞を培養すると、ALDPに関連する(ALDPの配列に非常に近い配列を有する)代替タンパク質(ABCD2)の発現が誘導されることがわかった。ALD及びAMNにおいてALDPは欠失するため、式(I)のチエノピリドン誘導体がこのモデル系において疾患の表現型を改善することができるメカニズムの根底には、関連タンパク質の誘導があると考えられる。したがって、これらのチエノピリドン誘導体は、このタンパク質の過剰発現を通じて、脂肪酸の蓄積を減少させることを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2014/001554
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J. Singhら、Journal of Neurochemistry、138、86~100頁、2016年
【非特許文献2】Kemp S.、Wei H.M.、Lu J.F.、Braiterman L.T.、McGuinness M.C.、Moser A.B.、Watkins P.A.及びSmith K.D.(1998) Gene redundancy and pharmacological gene therapy: implications for X-linked adrenoleukodystrophy. Nat. Med. 4, 1261~1268
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、チエノピリドン誘導体による副腎白質ジストロフィー及び/又は副腎脊髄ニューロパチーの処置に関する。
【0015】
より具体的には、本発明は、ALD及び/又はAMNの処置における使用のための、
式(I):
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、R1は水素原子又はハロゲン原子を表し、
R2は、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ、アルコキシ基、アミノ、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド、シアノ、アルキルスルホニル及びトリフルオロメチル基から選択される1個又は複数(例えば、2、3、4、5、6又は7個)の基で置換されているか、又は置換されていない、インダニル又はテトラリニル基を表し、
R3は、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド、シアノ、アルキルスルホニル、及びトリフルオロメチル基から選択される、1個又は複数(例えば、2、3、4又は5個)の原子又は基で置換されているか、又は置換されていない、アリール基を表す)
のチエノピリドン誘導体、又はその薬学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物、又は前記チエノピリドン誘導体、又はその薬学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物を含む医薬組成物に関する。
【0018】
本発明はまた、ALD及び/又はAMNを処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上記チエノピリドン誘導体、又は有効量の上記チエノピリドン誘導体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
【0019】
本発明はまた、ALD及び/又はAMNの処置のための医薬の製造のための、上記チエノピリドン誘導体、又は上記チエノピリドン誘導体を含む医薬組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、AMN患者由来の線維芽細胞及びリンパ球をPXL770で処置した場合と処置しなかった場合の、AMN患者由来の線維芽細胞(図1.A)及びリンパ球(図1.B)中のヘキサコサン酸のレベルを示す。 健常対照/AMN無治療/AMN+PXL770(5μM)/AMN+PXL770(10μM)/AMN+PXL770(25μM)/AMN+PXL770(50μM)の6つの状況について検討した。
図2図2は、AMN線維芽細胞をPXL770の存在下又は非存在下で培養したときのAMN線維芽細胞中のABCD2の発現レベルを示す。
図3図3は、AMNマウス混合グリア細胞をPXL770で処置した場合と処置しなかった場合の、AMNマウス混合グリア細胞中のヘキサコサン酸のレベルを示す。野生型/ALD-KO/ALD-KO+PXL770(25μM)の3つの状況について検討した。
図4図4は、ALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞をPXL770の存在下又は非存在下で培養したときのALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞中のABCD2の発現レベルを示す。
図5図5は、ALD患者由来の線維芽細胞及びリンパ球をPXL770で処置した場合と処置しなかった場合の、ALD患者由来の線維芽細胞(図5.A)及びリンパ球(図5.B)中のヘキサコサン酸のレベルを示す。健常対照/AMN無処置/AMN+PXL770(5μM)/AMN+PXL770(10μM)/AMN+PXL770(25μM)/AMN+PXL770(50μM)の6つの状況について検討した。
図6図6は、ALD線維芽細胞をPXL770の存在下又は非存在下で培養したときのALD線維芽細胞中のABCD2の発現レベルを示す。
図7図7は、PXL770で処置したX-ALDマウスの大脳皮質中のヘキサコサン酸レベルを、処置していないX-ALDマウス及び野生型マウスと比較して示す。
図8図8は、PXL770で処置したX-ALDマウスの血漿中のヘキサコサン酸レベルを、処置していないX-ALDマウス及び野生型マウスと比較して示す。
図9図9は、AMN患者由来の線維芽細胞及びリンパ球を、メトホルミンで処置した場合と処置しなかった場合のAMN患者由来の線維芽細胞及びリンパ球中のヘキサコサン酸のレベルを示す。
図10図10は、AMN患者由来の線維芽細胞におけるヘキサコサン酸レベルに関するPXL770と及びメトホルミンの直接の比較を示す。
図11図11は、AMNの線維芽細胞及びALDの線維芽細胞をメトホルミン存在下又は非存在下で培養したときのAMNの線維芽細胞及びALDの線維芽細胞中のABCD2の発現レベルを示す。
図12図12は、ALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞をメトホルミン存在下又は非存在下で培養したときのALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞中のABCD2の発現レベルを示す。
図13図13は、PXL770で処置したX-ALDマウスの脊髄中のヘキサコサン酸レベルを、処置していないX-ALDマウス及び野生型マウスと比較して示す。
図14図14は、AMN患者由来の線維芽細胞を、種々の用量の本発明による化合物で処置した場合のAMN患者由来の線維芽細胞中のヘキサコサン酸のレベルを示す。
図15図15は、AMN患者由来の線維芽細胞を、本発明による種々の化合物で処置した場合のヘキサコサン酸のレベルを、メトホルミンと比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書で使用する場合、以下の用語は、特に明記しない限り、以下の意味であると定義される。
【0022】
「ハロゲン原子」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子から選択される元素を意味する。
【0023】
「アルキル基」という用語は、1~5個の炭素原子の直鎖又は分岐鎖の飽和鎖、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソ-ブチル、又はtert-ブチルを意味する。好ましくは、アルキル基は、1~3個の炭素原子の直鎖又は分岐鎖の飽和鎖、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、又はイソ-プロピルを意味する。
【0024】
「アリール基」という用語は、場合により、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ(OH)、アルキルオキシ基、アミノ(NH2)、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ(COOH)、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド(CONH2)、シアノ(CN)、アルキルスルホニル基及びトリフルオロメチル(CF3)から選択される1個又は複数の原子又は基で置換されているC6~C18の芳香族基、例えば、フェニル又はナフチル基を意味する。より具体的には、アリール基は、フッ素、塩素、臭素原子、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、アミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、イソプロピル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、カルボキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、カルボキサミド、ジメチルアミノカルボニル、メチルアミノカルボニル、シアノ、メチルスルホニル又はトリフルオロメチル基によって置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
【0025】
「アラルキル基」という用語は、その水素原子が上記で定義されたアリール基で置き換えられている、上記で定義したアルキル基を意味する。アラルキル基の例はベンジル基である。
【0026】
「アルキルオキシ」(又は「アルコキシ」)基という用語は、酸素原子を介して分子の残部に結合した上記で定義したアルキル基を意味する。アルキルオキシ基としては、メトキシ及びエトキシ基を挙げることができる。
【0027】
「アラルキルオキシ」基という用語は、酸素原子を介して分子の残部に結合した上記で定義したアラルキル基を意味する。アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基を挙げることができる。
【0028】
「アルキルアミノ基」という用語は、窒素原子を介して分子の残部に結合した上記で定義したアルキル基を意味する。アルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ及びジエチルアミノ基を挙げることができる。
【0029】
「アルキルオキシカルボニル基」という用語は、カルボニル基を介して分子の残部に結合した上記で定義したアルキルオキシ基を意味する。
【0030】
「アルキルアミノカルボニル基」という用語は、カルボニル基を介して分子の残部に結合した上記で定義したアルキルアミノ基を意味する。
【0031】
「アルキルスルホニル」という用語は、SO2基を介して分子の残部に結合した上記で定義したアルキルを意味する。アルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル及びエチルスルホニル基を挙げることができる。
【0032】
本発明においては、化合物の「溶媒和物」は、不活性な溶媒分子が化合物に付加し、相互の引力で形成されるものを意味する。溶媒和物は、例えば水和物又はアルコラートである。
【0033】
本発明は、
式(I):
【0034】
【化2】
【0035】
(式中、R1は水素原子又はハロゲン原子を表し、
R2は、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ、アルコキシ基、アミノ、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド、シアノ、アルキルスルホニル及びトリフルオロメチル基から選択される1個又は複数(例えば、2、3、4、5、6又は7個)の基で置換されているか、又は置換されていない、インダニル又はテトラリニル基を表し、
R3は、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、モノ又はジアルキルアミノカルボニル基、カルボキサミド、シアノ、アルキルスルホニル、及びトリフルオロメチル基から選択される1個又は複数(例えば、2、3、4又は5個)の原子又は基で置換されているか、又は置換されていない、アリール基を表す)
のチエノピリドン誘導体、又はその薬学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物の特定の使用に関する。
【0036】
特定の実施形態では、以下の条件の少なくとも1つ、好ましくは以下の条件を全て満たす:
・ R1がハロゲン原子、特に塩素原子を表す、
・ R2が置換されていないか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を含む1若しくは2個の置換基で置換されている、
・ R2がテトラリニル基である、
・ R3が、置換されていないか、又は1若しくは2個の置換基で置換されているフェニルを表す、
・ 式(I)の化合物が塩の形態、好ましくはナトリウム又はカリウム塩、更に好ましくはカリウム塩である、
・ 式(I)の化合物が、溶媒和物の形態、好ましくは水和物、更に好ましくは一水和物である。
【0037】
更に好ましくは、以下の条件の少なくとも1つ、好ましくは以下の条件を全て満たす:
・ R1がハロゲン原子、特に塩素原子を表す、
・ R2が、少なくとも1個のヒドロキシ基を含む1又は2個の置換基で置換されている、
・ R2がテトラリニル基である、
・ R3が、置換されていないフェニル基を表す、
・ 式(I)の化合物が塩の形態、好ましくはナトリウム又はカリウム塩、更に好ましくはカリウム塩である、
・ 式(I)の化合物が、溶媒和物の形態、好ましくは水和物、更に好ましくは一水和物である。
【0038】
別の実施形態では、以下の条件の少なくとも1つ、好ましくは以下の条件を全て満たす:
・ R1がハロゲン原子、特に塩素原子を表す、
・ R2が、少なくとも1個のヒドロキシ基を含む1又は2個の置換基で置換されている、
・ R2がインダニル基である、
・ R3が、置換されていないか、又は1若しくは2個の置換基で置換されているフェニル基を表す。
【0039】
式(I)の化合物の例としては、以下のものが挙げられる:
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-(3-メトキシフェニル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-(4-メトキシフェニル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
3-(2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-6-オキソ-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-5-イル)ベンゾニトリル
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-(3-メチルフェニル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシインダン-5-イル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-5-(3-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシインダン-5-イル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシインダン-5-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-5-(2-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシインダン-5-イル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
3-(2-クロロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-3-テトラリン-6-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-5-イル)ベンゾニトリル
三ナトリウム2-クロロ-3-(5-オキシドテトラリン-6-イル)-5-フェニル-チエノ[2,3-b]ピリジン-4,6-ジオレート
2-クロロ-4-ヒドロキシ-5-フェニル-3-テトラリン-6-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
二ナトリウム2-クロロ-3-(5-オキシドテトラリン-6-イル)-6-オキソ-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-4-オレート
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-(3-メチルフェニル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-(4-メチルフェニル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
2-クロロ-5-(3-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン
ナトリウム2-クロロ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-6-オキソ-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-4-オレート、
カリウム2-クロロ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-6-オキソ-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-4-オレート。
【0040】
式(I)の化合物は、一般にWO2014/001554に開示されたようにして調製することができる。
【0041】
このような化合物の例としては、以下のものが挙げられる:
下記式(Ia):
【0042】
【化3】
【0043】
の構造に対応する2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オンのカリウム塩一水和物であるPXL770、
式(Ib):
【0044】
【化4】
【0045】
を有する2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン、
式(Ic):
【0046】
【化5】
【0047】
を有する2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン。
【0048】
PXL770は、
(A)式(II):
【0049】
【化6】
【0050】
の化合物を、水並びに酢酸n-ブチル及びイソプロパノールから選択される溶媒を含む溶液中で炭酸カリウムと反応させる工程と;
(B)沈殿を形成させる工程と;
(C)工程(B)で得られた沈殿を、好ましくはろ過により回収する工程と
を含む方法により調製することができる。
【0051】
式(II)の化合物及びその調製方法は、特許出願WO2014/001554に開示されている。
【0052】
或いは、式(II)の前記化合物は、
(a)6-アセチル-5-ヒドロキシテトラリンを、塩基の存在下で求電子性ベンジル源、好ましくは臭化ベンジルと反応させる工程と;
(b)工程(a)で得られた化合物を、ヘキサメチルジシラザン及び酢酸の存在下でシアノ酢酸エチルと反応させる工程と;
(c)工程(b)で得られた化合物を、塩基の存在下で硫黄と反応させる工程と;
(d)場合により、工程(c)で得られた化合物の塩、好ましくは塩酸塩を形成する工程と;
(e)工程(c)又は(d)で得られた化合物を、求電子性塩素源、好ましくはN-クロロスクシンイミドと反応させる工程と;
(f)工程(e)で得られた化合物をフェニルアセチルクロリドと反応させる工程と;
(g)工程(f)で得られた化合物を塩基と反応させる工程と;
(h)工程(g)で得られた化合物を、三臭化ホウ素又は三塩化ホウ素、好ましくは三塩化ホウ素と反応させる工程と;
(i)場合により、工程(h)で得られた化合物を回収する工程と
を含む、改善された方法により得ることができる。
【0053】
典型的には、工程(B)は、工程(A)で得られた混合物を、好ましくは混合物の還流に近い温度で加熱するサブステップ(b1)と、それに続いて、得られた混合物を、例えば-15℃~35℃の間に含まれる温度で冷却するサブステップ(b2)を含んでいてもよい。「混合物の還流に近い」という表現は、典型的には工程(A)の溶媒系(例えば、水/イソプロパノール又は水/酢酸n-ブチル)の沸点の90%~100%の間に含まれる温度を意味する。
【0054】
蒸留工程は、加熱サブステップ及びサブステップ(b2)の間に、好ましくは減圧下で実施することができる。
【0055】
工程(B)により、結晶性沈殿が形成され、この形成は、工程(b2)にシードを加えることで有利に誘発されることがある。
【0056】
好ましい実施形態では、前記沈殿は工程(C)においてろ過によって回収される。その後、沈殿を、1種又は複数の溶媒、好ましくは水、酢酸n-ブチル、及び/又はtert-ブチルメチルエーテルで連続的に洗浄してもよい。
【0057】
このようにして、式(Ia)の化合物、すなわちPXL770は、CuK(アルファ)線を使用する回折計による測定で以下のXRPD(粉末X線回折)ピークを有する、粉末等の固体形態で得られる。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の目的は、副腎白質ジストロフィー及び副腎脊髄ニューロパチーからなる群から選択される疾患を処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の式(I)のチエノピリドン誘導体、又は有効量の式(I)チエノピリドン誘導体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を投与することを含む方法である。
【0060】
本発明は、副腎白質ジストロフィー及び/又は副腎脊髄ニューロパチーの処置のための医薬の製造における、式(I)のチエノピリドン誘導体又はそれを含む組成物の使用に更に関する。
【0061】
式(I)のチエノピリドン誘導体は、VLCFAの蓄積の低減を通じてALD及び/又はAMNを処置すると思われる。実際、VLCFA負荷は疾患の重症度と共に増加し、VLCFAを低減させることで炎症反応を抑止できることが文献で示されている。したがって、特に中枢神経系においてVLCFAの過負荷を低減させることにより、ALD及び/又はAMNの疾患進行を停止し、又は回復させる可能性がある。
【0062】
本発明者らは、式(I)のチエノピリドン誘導体が、ALD及びAMN患者由来の線維芽細胞及びリンパ球並びにマウス混合グリア細胞において、VLCFAレベルを強く低下させることを見出した。式(I)のチエノピリドン誘導体は、ALDPと顕著な配列類似性を有するALDRPとしても知られているABCD2の過剰発現を誘導することにより、ALDP(ABCD1)の機能を回復させる作用を有する。本発明者らは、式(I)のチエノピリドン誘導体がABCD2の過剰発現を誘導し、ABCD1の不足を補うことにより、VLCFAの蓄積の低減を可能にすることを見出した。
【0063】
本発明に従って使用される医薬組成物は、任意の従来の方法によって調製することができる。式(I)のチエノピリドン誘導体は、ここで、少なくとも1種の固体、液体、及び/又は半液体の賦形剤又は補助剤と共に、また所望に応じて、1種又は複数の更なる活性成分と組み合わせて適切な剤形に変換することができる。
【0064】
「薬学的に許容される担体」という用語は、対象には薬理学的/毒性学的観点から、及び製薬化学者には物理的/化学的観点から、組成、製剤、安定性、対象の受容性及びバイオアベイラビリティに関して許容されるキャリア、補助剤又は賦形剤を意味する。
【0065】
「キャリア」、「補助剤」、又は「賦形剤」という用語は、それ自体は治療薬ではないが、その取扱い性又は保存特性を改善するため、又は組成物の投与単位を個別の物品に形成することを可能にし、若しくは容易にするために、治療薬を対象に送達するためのキャリア、補助剤、及び/又は希釈剤として使用されるように医薬組成物に添加される、あらゆる物質を意味する。本発明の医薬組成物は、個々に、又は組み合わされ、分散剤、可溶化剤、安定化剤、保存料等の中から選択される1種又は複数の薬剤又はビヒクルを含んでいてもよい
【0066】
「処置」、「処置すること」及び「処置する」という用語は、副腎白質ジストロフィー(ALD)及び副腎脊髄ニューロパチー(AMN)からなる群から選択される障害の治療、防止及び予防を意味する。本明細書に開示されるように、「処置」、又は「処置すること」という用語は、疾患又はその症状の少なくとも1つの予防を意味する。これはまた、処置されている疾患に関連する少なくとも1つの測定可能な身体的パラメータの改善、防止を意味し、対象の識別は可能であっても可能でなくてもよい。「処置」、又は「処置すること」という用語は更に、身体的には、識別可能な症状の安定化、生理学的には、例えば身体的パラメータの安定化、又はその両方で、疾患の進行を抑制し、又は遅延させることを意味する。「処置」又は「処置すること」という用語はまた、疾患又は障害の発症を遅延させることを意味する。いくつかの実施形態では、本発明の化合物は防止的手段として投与される。この文脈では、「防止」又は「防止すること」は、疾患に関連する症状の少なくとも1つが発症するリスクを低減することを意味する。
【0067】
「処置すること」という用語は、式(I)のチエノピリドン誘導体又はそれを含む医薬組成物で超長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積に対する作用を含み得る。より具体的には、式(I)のチエノピリドン誘導体は、VLCFAの蓄積を低減し、その結果、炎症反応を抑止又は低減することができる。本明細書で使用される「処置」は、中枢性脱髄、副腎皮質機能不全又は副腎機能不全のあらゆる処置も対象とする。したがって、「処置する」、「処置すること」、「処置」等の用語は、ALD及び/又はAMNに関連する症状の処置を含む。
【0068】
処置には、申告された障害を有する対象に本発明の式(I)のチエノピリドン誘導体又は医薬組成物を投与して、進行を治癒し、遅延し又は遅らせ、それによって患者の病状を改善することが含まれる。
【0069】
本発明の文脈では、「対象」という用語は、哺乳動物、より詳細にはヒトを意味する。本発明により処置される対象は、免疫学的、生化学的、酵素学的、化学的、又は核酸検出法によって評価することができる他のあらゆる関連バイオマーカーと同様に、以前の薬剤処置、関連病理、遺伝子型、危険因子への曝露、ウイルス感染等の疾患に関連するいくつかの基準に基づいて適切に選択することができる。ALDの場合、処置は、2歳から10歳までの患者に特に適切なものである。AMNは成人型ALDであるため、処置は、20歳~39歳の患者に対して特に適切なものである。
【0070】
医薬組成物は、投与単位あたり所定の有効量の活性成分を含む投与単位の形態で投与することができる。
【0071】
医薬組成物は、あらゆる所望の適切な方法、例えば、経口(頬又は舌下を含む)、直腸、鼻、局所(頬、舌下又は経皮を含む)、膣又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内又は皮内を含む)方法による投与に適合させることができる。このような組成物は、例えば、活性成分を賦形剤(複数可)又は補助剤(複数可)と組み合わせることにより、医薬の分野において既知のあらゆる方法を使用して調製することができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は経口投与に適している。
【0072】
経口投与に適した医薬組成物は、例えば、カプセル剤又は錠剤;粉末若しくは顆粒;水性若しくは非水性液体中の溶液若しくは懸濁液;食用フォーム若しくはフォーム食品;又は水中油型液体エマルション若しくは油中水型液体エマルションのようなエマルション等の個別のユニットとして投与することができる。
【0073】
したがって、例えば、錠剤又はカプセル剤の形態で経口投与する場合、活性成分を、経口用の、非毒性で薬学的に許容される不活性な賦形剤と組み合わせることができる。粉末は、化合物を適当な大きさに粉砕し、同様の方法で粉砕した医薬賦形剤、例えば、デンプン又はマンニトールのような、例えば食用炭水化物と混合することにより調製される。香料、防腐剤、分散剤、及び色素も同様に存在してもよい。
【0074】
カプセル剤は、上記のような粉末混合物を調製し、これを成形したゼラチンシェルに充填することにより製造することができる。充填操作の前に、例えば、固体形態の高分散ケイ酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム又はポリエチレングリコール等の流動促進剤及び滑沢剤を粉末混合物に添加することができる。また、カプセル剤を服用した後の医薬の有効性を高めるために、例えば寒天、炭酸カルシウム、又は炭酸ナトリウム等の崩壊剤又は可溶化剤を添加してもよい。
【0075】
更に、所望に応じて、又は必要に応じて、適切な結合剤、滑沢剤及び崩壊剤、並びに色素を同様に混合物に配合することができる。適切な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、例えばグルコースや又はベータ-ラクトース等の天然糖類、トウモロコシを原料とする甘味料、例えばアラビアガム、トラガカント、アルギン酸ナトリウム等の天然及び合成ガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等が挙げられる。これらの剤型に使用される滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム等が挙げられるが、これらに限定されない。錠剤は、例えば、粉末混合物を調製し、混合物を造粒又は乾式成形し、滑沢剤及び崩壊剤を添加し、混合物全体をプレスして錠剤を得ることにより製剤化される。粉末混合物は、適当な方法で粉砕した化合物を、上記のように希釈剤又は基剤と混合し、場合により、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン又はポリビニルピロリドン等の結合剤、例えばパラフィン等の溶解遅延剤、例えば第四級塩等の吸収促進剤、及び/又は例えばベントナイト、カオリン又は第二リン酸カルシウム等の吸収剤を混合することにより調製される。粉末混合物は、例えばシロップ、デンプンペースト、アラビアガム粘液、又はセルロース若しくは高分子材料の溶液等の結合剤で湿潤させ、篩を通してプレスすることで造粒することができる。造粒の代わりに、粉末混合物を打錠機にかけて、形状が不均一の塊を作り、それを砕いて粒状にすることもできる。錠剤鋳造用鋳型への付着防止のため、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク又は鉱物油を添加して顆粒を潤滑にすることができる。次いで、この潤滑化された混合物をプレスして錠剤を得る。また、本発明による化合物は、流動性のある不活性な賦形剤と組み合わせ、次いで、造粒又は乾式プレスの工程を実施せずに、直接プレスして錠剤を得ることもできる。シェラックシール層、糖又はポリマー材料の層、及びワックスの光沢層からなる透明又は不透明な保護層が存在してもよい。これらのコーティングには、異なる投与単位を区別し得るように色素を添加することができる。
【0076】
経口投与に適した医薬組成物は、固体又は液体分散体を噴霧乾燥することによって製剤化することもできる。
【0077】
例えば、溶液、シロップ、エリキシル等の経口液体は、所定の量が予め指定された量の化合物を含むように、投与単位の形態で調製することができる。シロップは、化合物を適切な香料を含む水溶液に溶解して調製することができ、エリキシルは非毒性のアルコール性ビヒクルを使用して調製される。懸濁液は、非毒性のビヒクル中に化合物を分散させることによって製剤化することができる。例えばエトキシ化イソステアリルアルコール及びポリオキシエチレンソルビトールエーテル等の可溶化剤及び乳化剤、保存料、例えばペパーミントオイル等の風味添加物、又は天然甘味料若しくはサッカリン、又は他の人工甘味料等も同様に添加することができる。
【0078】
経口投与用の投与単位製剤は、所望に応じて、マイクロカプセルに封入することができる。また、製剤は、例えば、ポリマー、ワックス等で微粒子材料をコーティング又は包埋して、放出が延長又は遅延されるように調製することもできる。
【0079】
また、本発明に従って使用されるチエノピリドン誘導体は、例えば、小型単層小胞体、大型単層小胞体及び多層小胞体等のリポソーム送達系の形態で投与することもできる。リポソームは、例えば、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリン等の様々なリン脂質から形成することができる。
【0080】
「有効量」とは、ヒトにおいて処置される疾患の有害な影響を防止、除去又は軽減する、上記で定義される化合物の量を意味する。投与量は、患者、病状、投与形態等に応じて、当業者により調整することができると理解される。例えば、式(I)のチエノピリドン誘導体は、ヒト患者に対して、1日あたり0.5mg~300mg、好ましくは20mg~1000mg、更に好ましくは60mg~500mgの用量で、1日1回又は2回投与することができる。チエノピリドン誘導体は、長寿命薬として週4、5、6、7日投与することができる。
【0081】
本発明の特定の実施形態では、式(I)のチエノピリドン誘導体は、0.5mg~1500mg、好ましくは20mg~1000mg、更に好ましくは60mg~500mgの式(I)のチエノピリドン誘導体を含む投与単位で投与される。
【0082】
本発明を以下の実施例においても更に詳細に説明するが、この実施例は添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例
【0083】
(実施例1)
PXL770の合成
略語
a/a:スペクトル又はクロマトグラム上の所定の化合物のピーク面積とピーク面積の合計との比。eq
分析法
XRPD
粉末X線回折(XRPD)分析は、Cu(Kアルファ線)X線管及びピクセル検出システムを備えたPanalytical Xpert Pro回折計を使用して行った。試料を透過モードで分析し、低密度ポリエチレンフィルムの間に保持した。HighScore Plus 2.2cソフトウェアを使用してXRPDパターンを分類し、処理し、インデックスを付けた。
【0084】
TG/DTA
熱重量(TG)分析は、Perkin Elmer社製Diamond Thermogravimetric/Differential Temperature Analyser(TG/DTA)を用いて実施した。キャリブレーション標準物質はインジウム及びスズであった。試料をアルミニウム試料皿に入れ、TG炉へ装入し、正確に秤量した。試料を窒素流中で30~300℃まで10℃/分の速度で加熱した。試料の分析の前に炉の温度を30℃で平衡化させた。
【0085】
1a)1-(5-ベンジルオキシテトラリン-6-イル)エタノン(1)の合成
【0086】
【化7】
【0087】
6-アセチル-5-ヒドロキシテトラリン(100g、1当量)をアセトニトリル(300mL)中に溶解させた。K2CO3(1.1当量)及び臭化ベンジル(1.05当量)を添加した後、懸濁液を加熱した(76℃)。48時間後、臭化ベンジル(0.1当量)を添加した。全体で74時間後、固体をろ過して除き、アセトニトリル(200mL)で洗浄し、合わせたろ液を蒸発させた。
【0088】
化合物1がシロップとして得られた。m=148.6g、定量的収率、純度96.6% a/a。
【0089】
1b)エチル2-アミノ-4-(5-ベンジルオキシテトラリン-6-イル)チオフェン-3-カルボキシレート(2)の合成
【0090】
【化8】
【0091】
酢酸(70mL)をT=65℃まで加熱した。HMDS(1.5当量)を10分かけて添加した。その後、酢酸(140mL)中の化合物1(69.5g、1当量)及びシアノ酢酸エチル(1.5当量)の溶液を添加した。得られた混合物をT=65℃で24時間撹拌した。
【0092】
室温まで冷却した後、NaOH水溶液(1M、140mL)及びTBME(210mL)を添加した。層を分離させた。水性相のpHが塩基性(pH=13)になるまで、有機層を水性NaOH(1M、4×140mL)で洗浄した。有機層を水性HCl(1M、140mL)及びH2O(2×140mL)で洗浄した。
【0093】
EtOH(240mL)、NaHCO3(1.3当量)、及び硫黄(1.0原子当量)を添加した。180分間加熱還流させた後、反応混合物を210mLまで濃縮し、TBME(3×140mL)で共蒸発させた。室温まで冷却した後、懸濁液をろ過し、固体をTBME(70mL)で洗浄した。合わせたろ液を210mLまで濃縮し、ジオキサン中のHCl(1.1当量)を室温で滴下して添加した。シードを添加した後、析出が観察された。ヘプタン(350mL)を室温で滴下して添加した。14時間撹拌した後、懸濁液をろ過した。ヘプタン(3×70mL)で洗浄し乾燥させた後、化合物2を固体として回収した。m=83.2g、収率71%、純度93.7% a/a。
【0094】
1c)エチル4-(5-ベンジルオキシテトラリン-6-イル)-5-クロロ-2-[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオフェン-3-カルボキシレート(3)の合成
【0095】
【化9】
【0096】
化合物2(17.69g、1当量)をジクロロメタン(140mL)に溶解した。得られた溶液を氷/水で冷却した。撹拌下で、N-クロロスクシンイミド(1.05当量)を添加した。混合物は数分かけて暗色になった。1時間後、フェニルアセチルクロリド(1.25当量)を添加した。
【0097】
0℃で1時間及び室温で2時間後、混合物を約35mLまで蒸発させ、EtOH(2×70mL)を添加し、再び蒸発させた。混合物をEtOH(35mL)で希釈し、氷/水で冷却した。生成物が沈殿した。固体をろ過し、冷却したEtOH(3×18mL)で洗浄した。
【0098】
化合物3を固体として得た。m=20.99g、収率94.2%、純度99.3% a/a。
【0099】
1d)3-(5-ベンジルオキシテトラリン-6-イル)-2-クロロ-4-ヒドロキシ-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン(4)の合成
【0100】
【化10】
【0101】
化合物3(19.88g、1当量)をメチルテトラヒドロフラン(120mL)中に可溶化させ、反応混合物を-16℃~-10℃(NaCl/氷)の間の温度まで冷却した。カリウムtert-ブトキシド(5当量)を4回に分けて添加した。次いで、反応混合物を室温まで温め、室温で65分間撹拌した。T=0~5℃(水/氷)で2N HCl(5当量)の滴下を行い、得られた混合物を強く撹拌した。有機相をNaCl(aq)(11%、1×50mL)及び水(2×50mL)で洗浄した。有機相を約50%の溶液まで濃縮した。メチルテトラヒドロフラン(80mL)を添加し、得られた溶液を約50%の溶液まで濃縮した。TBME(100mL)を添加し、得られた溶液を約50%の溶液まで濃縮した(この工程を3回繰り返した)。次いで、TBME(25mL)、化合物4のシード、及びn-ヘプタン(20mL)を添加し、得られた溶液を室温で一晩撹拌した。混合物を約50mLまで濃縮し、ろ過し、母液ですすぎ、n-ヘプタン(2×40mL)で洗浄し、乾燥させた。化合物4を粒状固体として得た。収率88%、純度99.5% a/a。
【0102】
1e)2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン(I)の合成
【0103】
【化11】
【0104】
化合物4(15g、1当量)を75mLのジクロロメタンに溶解させ、T=-10℃/-15℃まで冷却した(氷/NaClを用いて)。BCl3(1.5当量、ジクロロメタン中の1mol/L溶液)を滴下して添加し、得られた混合物を室温で15時間撹拌した。得られた混合物を氷/水で冷却し、水(75mL)を添加した。得られた混合物を強く撹拌し、有機相を水/MeOH(9:1v/v、5×45mL)で抽出した。有機相を濃縮し、トルエン(3×90mL)により溶媒交換を行い、90mLのトルエンの最終体積に到達するようにトルエンで希釈した。得られた混合物を加熱還流し、15mLのメタノールを添加した。少量の粒子を含む褐色がかった溶液が得られた。シードをT=40℃で添加し、T=52℃まで温め、室温まで冷却した。得られた混合物を一晩撹拌し、次いで、氷/NaCl(T=-10℃/-15℃)で100分間冷却した。沈殿した生成物をろ過し、トルエン/ヘプタン1:2v/v(15mL)及びヘプタン(15mL)で洗浄し、乾燥させた。化合物(I)の結晶を得た。収率87%、純度99.0% a/a。
【0105】
1f)2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン(Ia)のカリウム塩一水和物の合成
化合物(I)を水/イソプロパノール混合物(1/1、5部の各溶媒)中に懸濁させ、次いで0.50~0.55当量の炭酸カリウムを添加した。炭酸カリウムの添加終了時点でpHは約12であった(pH試験紙)。50℃で3時間撹拌した後、懸濁液は濃くなり、pHは約8であった(pH試験紙)。溶液が得られるまで温度を80℃に上昇させた(10~15分間)。必要に応じて、プロセスのこの時点で清澄化を行うことができる。7部の水を添加し、次いで反応混合物を40℃まで冷却した(濁った溶液が観察された)。7部の溶媒が反応器中に残るまで、溶媒を減圧下(180mbar~40mbar)、40℃で蒸留した。ここで、カリウム塩一水和物の結晶化が生じる可能性がある。4.2部の水を添加し、混合物に化合物(I)のシード(1~2%のシード)を添加した。次いで、懸濁液を7時間で40℃から5℃まで冷却し(5℃/時間)、5℃で数時間維持した。懸濁液をろ過した。ケーキを1.42部の水で2回洗浄した。収集した固体を真空下、40℃で乾燥させて、必要とされる化学純度(すなわち98%+)において化合物(Ia)を収率80%以上で得た。
【0106】
(実施例2)
PXL770の特性決定
a)化合物(Ia)の粉末X線回折(XRPD)データにより、この化合物が結晶性物質で構成されていることがわかった。化合物(Ia)のXRPDの説明をTable 1(表2)に示す。
【0107】
【表2A】
【0108】
【表2B】
【0109】
b)TG/DTA分析では30~100℃で1.1%の初期重量減少が示され、続いて117~160℃で結合水の減少に起因する3%のより大きい重量減少が示された。2番目の重量減少は大きな吸熱を伴い、合わせて4%の重量減少は一水和物の重量減少理論値(3.75%w/w)に近い。この化合物は240℃を超えたところで分解した。
【0110】
(実施例3)
PXL770で処置したAMN患者由来リンパ球中の超長鎖脂肪酸(VLCFA)レベルの低下
血漿及び組織(脳及び脊髄を含む)中の超長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積は、AMN病の特徴である。VLCFAの負荷は疾患の重症度と共に増加し、VLCFAを低下させることで炎症反応が抑止されることが文献で示されている。したがって、特に中枢神経系においてVLCFAの過負荷を低下させることにより、AMNの疾患進行を停止し、又は回復させる可能性がある。
【0111】
PXL770のインビトロにおける超長鎖脂肪酸(VLCFA)低下に対する有効性を示すため、本試験は、健常対照細胞及びAMNヒト患者由来初代リンパ球における、VLCFAとして最も多く存在するヘキサコサン酸のレベルの評価に焦点を当てたものである。細胞株はCoriell Cell Repositories社から入手した。リンパ球は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI-1640で培養した。培養物は1:5の比で分割した。健常な患者由来のリンパ球を対照として使用した。全ての処置は、ウシ胎児血清(FBS、15%)を含む完全培地中で行った。全ての培養細胞は、37℃、5%CO2で維持した。
【0112】
その後、VLCFA含量を以下のように測定した。試料はLC-MSグレードの水で最終容量0.5~1mlに調整し、内部標準として10ngのリグノセリン酸-d4を加えた。試料を希塩酸でpH3~4に酸性化し、等量のイソオクタン-酢酸エチル(9:1)で3回抽出した。抽出物を窒素下で乾燥し、残渣をメタノール-水-酢酸アンモニウム(75:25:10mM)で再構成した。
【0113】
総脂肪酸:遊離脂肪酸については、上記のように内部標準を用いて試料を調製した後、水性水酸化ナトリウムを最終濃度1Mになるように添加する。窒素雰囲気下、混合物を37℃の暗所で3時間インキュベートする。その後、試料を酸性化し、抽出し、上記のように再構成する。
【0114】
脂肪酸のLC-MS分析:再構成した脂肪酸抽出物を、メタノール-水性酢酸アンモニウム(10mM)溶媒混合物を使用したTargaC8カラム(2×10mm)でHPLCに供する。カラムは、0.25ml/分の流速で8分間かけてメタノール(75~90%)の勾配で溶出する。カラム溶出液は質量分析計(QTRAP5500)に直接導入し、公表されている擬似MRM法を用いて脂肪酸をモニターする。これらの条件下では、VLCFAは5分~8分の間に溶出する。各脂肪酸を、添加した内部標準に対して定量化する。
【0115】
まず、健常な対照細胞、及びAMNヒト患者由来の初代リンパ球において、リンパ球中のヘキサコサン酸の発生をモニターする:2回目では、培養液中のAMNヒト由来初代リンパ球にPXL770を種々の濃度(5μM、10μM、25μM、50μM)で1週間投与し、ヘキサコサン酸のレベルを測定した。
【0116】
この試験の結果を図1に示す。この図は、AMN患者のリンパ球を種々の用量のPXL770で処置した場合、ヘキサコサン酸のレベル(106細胞あたりのngで表す)が低下することを示す。PXL770は、試験した全ての用量でヘキサコサン酸のレベルを強く低下させ、5及び50μMの用量で健常対照のリンパ球に存在するのと同じレベルにまで達した。
【0117】
結論として、PXL770はAMN患者由来のリンパ球において、ヘキサコサン酸、より広範には最も一般的なVLCFAのレベルを強く低下させることが確認できる。
【0118】
(実施例4)
PXL770の存在下で培養したAMN線維芽細胞におけるABCD2の過剰発現
AMNの治療研究では、機能的に不要な(redundant)なペルオキシソーム輸送体である副腎白質ジストロフィー関連タンパク質(ABCD2、別名ALDRP)の誘導にも焦点が当てられている。ABCD2は、AMNで変異/欠失した遺伝子であるABCD1(別名ALDP)との有意な配列類似性を有するため、過剰発現させるとABCD1の欠損を補うことができる。AMN線維芽細胞の培養液にPXL770が存在すると、ABCD2レベルの発現が増加することを示すために、PXL770の非存在下及び存在下で、AMN線維芽細胞におけるABCD2レベルを比較するためのウェスタンブロットを実施した。より具体的には、以下のようにしてタンパク質抽出を行った。
【0119】
細胞を、冷Tris緩衝生理食塩水(20mM Trizma塩基及び137mM NaCl、pH7.5)で洗浄し、1X SDSサンプルローディング緩衝液(62.5mM Trizma塩基、2%[w/v]SDS、10%グリセロール)で溶解し、超音波処理後15,000gで5分間遠心分離し、上清を免疫ブロットアッセイに使用した。試料のタンパク質濃度は、BSAを標準として使用し、界面活性剤適合性タンパク質アッセイ試薬(Bio-Rad社)を用いて測定した。試料を0.1容量の10%β-メルカプトエタノール及び0.5%ブロモフェノールブルー混合物で3分間煮沸した。次いで、40μgの全細胞タンパク質を8%又は12%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動により分離し、電気泳動転写し、5%スキムミルクを含むTween 20含有Tris緩衝食塩水(TBST;10mM Trizma塩基、pH7.4、1%Tween 20、150mM NaCl)でブロッキングした。ABCD2、ABCD3、及びβ-アクチンに対する抗体と4℃で一晩インキュベートした後、次いで、膜をTBSTで洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギ又はマウスIgGと共に室温で1時間インキュベートした。TBSTバッファーで洗浄した後、ECL-plus(Amersham Biosciences社)を使用してオートラジオグラフィーで膜を検出した。
【0120】
ウェスタンブロット解析の結果を図2に示す。この図により、AMN線維芽細胞を5、10、25μMの濃度でPXL770で処置した場合、対照線維芽細胞におけるそれらのレベルと比較して、また、より興味深いことにPXL770で処置していないAMN線維芽細胞と比較して、タンパク質ABCD2が過剰発現していることを確認することができる。
【0121】
ABCD2の過剰発現により、AMN患者由来の培養線維芽細胞においてVLCFA蓄積が減少することは文献では知られていた(Kemp S.、Wei H.M.、Lu J.F.、Braiterman L.T.、McGuinness M.C.、Moser A.B.、Watkins P.A.及びSmith K.D.(1998) Gene redundancy and pharmacological gene therapy: implications for X-linked adrenoleukodystrophy. Nat. Med. 4, 1261~1268)。
【0122】
その結果、PXL770はABCD2の過剰発現を誘導し、したがってABCD1の不足を補うことができるため、これらの代替タンパク質の一方又は両方がVLCFAの蓄積の低減に寄与することが可能となる。
【0123】
(実施例5)
AMNマウス混合グリア細胞中の超長鎖脂肪酸(VLCFA)レベルの低下
本発明者らは、AMNマウス混合グリア細胞において、無処置の場合とPXL770を種々の用量で処置した場合のVLCFA蓄積の測定試験を実施した。
【0124】
C57BL6マウスのつがいをJackson Laboratory社(バーハーバー、メイン州)から購入し、Henry Ford Health System(HFHS)の動物施設で維持した。全ての動物の手順はHFHS動物審査委員会により承認され、全ての動物はHFHS実験ガイドライン及び米国研究評議会の人道的ケアの基準(実験動物のケアと使用のためのガイド)に準拠した人道的ケアを受けた。Abcd1遺伝子をノックアウトしたマウスを飼育し、混合グリア細胞の抽出に使用した。1日齢のC57BL/6マウスの大脳皮質全体からアストロサイト濃縮初代培養物を調製した。簡単に説明すると、大脳皮質は、前述したように、pH7.4の氷冷カルシウム/マグネシウム不含HBSS中で迅速に解剖した。組織を細かく刻み、トリプシン(2mg/ml)を含むHBSS中で20分間インキュベートし、10%FBS及び10μg/mlゲンタマイシンを含有するプレーティング培地で2回洗浄し、次いで、パスツールピペットを通して粉砕することによって破壊し、その後、細胞を75cm2の培養フラスコ(Falcon社、フランクリン、ニュージャージー州)中に播種した。37℃、5%CO2で1日インキュベートした後、培地を完全に培養培地(10%FBS及び10μg/mlゲンタマイシンを含有するDMEM)に交換した。培養液は週に2回、新鮮な培地と半分交換した。全ての培養細胞は、37℃、5% CO2で維持した。10日後、コンフルエントな混合グリア培養物を、概要を述べた実験に使用した。
【0125】
6群の混合グリア細胞中のヘキサコサン酸レベルを測定した。これらの6群には、野生型混合グリア細胞、ALD-KO混合グリア細胞(AMNマウス由来グリア細胞に相当、ALDはABCD1の別名)、及び種々の濃度のPXL770(5μM、10μM、25μM、50μM)で処置したALD-KO混合グリア細胞が含まれる。
【0126】
結果を図3に示す。ALD-KOマウス混合グリア細胞をPXL770(25μM)の存在下で培養すると、これらの細胞におけるヘキサコサン酸の蓄積は減少する。結論として、PXL770はヘキサコサン酸、より広範にはVLCFA全般の蓄積を減少させる役割を果たす。
【0127】
(実施例6)
PXL770存在下でのALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞中のABCD2の過剰発現
ALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞について、実施例4と同じ実験プロトコルを実施した。このモデルは、主にAMNのモデルである。
【0128】
図4は、実施例4のAMN患者由来線維芽細胞と同様に、ALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞をPXL770で処置した場合、処置していないALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞(ctl)と比較してABCD2が過剰に発現していることを示す。
【0129】
結論として、PXL770はALD-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞中のABCD2レベルの発現を増加させる。
【0130】
(実施例7)
PXL770で処置したALD患者由来リンパ球中の超長鎖脂肪酸(VLCFA)レベルの低下
最も重症型のALD(AMN)患者由来の細胞に関する試験の後、本発明者らは、実施例1と同じ試験方法を反復して、X-ALD患者(重症炎症表現型)由来の細胞に対するPXL770の効果を分析した。
【0131】
図5に示す結果は、ALD患者のリンパ球を高濃度のPXL770で処理すると、ALD患者のリンパ球中のヘキサコサン酸のレベルが減少し、健常対照のリンパ球と同じレベルに達することを示す。
【0132】
PXL770は、ALD患者由来リンパ球中のVLCFAレベルを強く低下させる。
【0133】
(実施例8)
PXL770の存在下で培養したALD線維芽細胞中のABCD2の過剰発現
実施例4と同様に、ALD患者の線維芽細胞の培養液においてPXL770が存在するとABCD2の発現レベルが増加することを示すために、PXL770の非存在下及び存在下でのALD患者の線維芽細胞中のABCD2のレベルを比較するためのウェスタンブロットを実施した。
【0134】
ウェスタンブロットの結果を図6に示す。これらの結果は、ALD線維芽細胞をPXL770、特に低濃度(5μM)のPXL770で処置すると、ALD線維芽細胞中のタンパク質ABCD2が過剰発現することを示す。
【0135】
結論として、PXL770はABCD1の不足を補い、VLCFAの蓄積の低減に貢献できることがわかった。
【0136】
(実施例9)
X-ALDマウスにおけるインビボ実験
雄のABCD1-KOマウス(n=15)を、PXL770(75mg/kg)を1日2回、60日間毎日、経管栄養経口投与で処置した。未処置のABCD1-KOマウス(n=15)及び野生型(WT)マウス(n=12)を対照とした。処置後のマウスを殺処分し、VLCFA分析のために大脳皮質及び血漿を採取した。分析はLipidomics Core Facilityの標準プロトコルに従って行い、データはVLCFAμg/mlレベルで表示した。代表的なVLCFAとしてヘキサコサン酸(C26:0)を選択した。
【0137】
脳のVLCFAに対するPXL770の効果を評価するために、Dunnettの多重比較検定を用いた一元ANOVAを行った(****p<0.0001、***p<0.001)。血漿のVLCFAに対するPXL770の効果を評価するために、Dunnの多重比較検定を用いたクラスカル・ワリス検定を行った(****p<0.0001、***p<0.01)。
【0138】
図7及び図8に示すように、PXL770は、X-ALDマウスの大脳皮質中及び血漿中のいずれにおいても、VLCFAの蓄積をそれぞれ有意に減少させた。
【0139】
(実施例10)
メトホルミンで処置したAMN及びALD患者由来のリンパ球中の超長鎖脂肪酸(VLCFA)レベルの低下
実施例3及び7に記載の実験は同じ研究室によってメトホルミンで実施され、Singhら、Journal of Neurochemistry、2016年;第138巻、86~100頁に記載されている。
【0140】
これらの実験結果を図9に示す。
【0141】
メトホルミンは、5mMで、AMN及びALD患者由来リンパ球のVLCFA含量を、処置の7日後にそれぞれ-29%及び42%減少させることが確認されたが、これは、図9に示すように、正常化効果をもたらすには十分ではなかった(VLCFA含量は対照より高いままであった)。
【0142】
一方、PXL770では、はるかに低い濃度(5μM)で投与した場合、AMN患者(実施例3参照)及びALD患者(実施例7参照)のいずれにおいても正常化効果が得られた。
【0143】
このように、本実施例により、PXL770がメトホルミンよりも高い有効性及び高い効力で、AMN及びALD患者由来の細胞のVLCFA含量を減少させることが実証される。
【0144】
(実施例11)
PXL770及びメトホルミンの直接比較
PXL770及びメトホルミンのインビトロにおける超長鎖脂肪酸(VLCFA)を低下させる有効性を比較するため、試験では、健常対照細胞及びAMNヒト患者由来初代線維芽細胞におけるVLCFAとして最も多く存在するヘキサコサン酸のレベル評価に焦点を当てる。細胞株はCoriell Cell Repositories社から入手した。線維芽細胞は、15%FBSを含むDMEM中で培養した。培養物は1:5の比で分割した。健常な患者からの線維芽細胞を対照として使用した。全ての処置は、ウシ胎児血清(FBS、15%)を含有する完全培地中で行った。全ての培養細胞は、37℃、5%CO2で維持した。
【0145】
その後、VLCFA含量を以下のように測定した。試料はLC-MSグレードの水で最終容量0.5~1mlに調整し、内部標準として10ngのリグノセリン酸-d4を加えた。試料を希塩酸でpH3~4に酸性化し、等量のイソオクタン-酢酸エチル(9:1)で3回抽出した。抽出物を窒素下で乾燥し、残渣をメタノール-水-酢酸アンモニウム(75:25:10mM)で再構成した
【0146】
総脂肪酸:遊離脂肪酸については、上記のように内部標準を用いて試料を調製した後、水性水酸化ナトリウムを最終濃度1Mになるように添加する。窒素雰囲気下、混合物を37℃の暗所で3時間インキュベートする。その後、試料を酸性化し、抽出し、上記のように再構成する。
【0147】
脂肪酸のLC-MS分析:再構成した脂肪酸抽出物を、メタノール-水性酢酸アンモニウム(10mM)溶媒混合物を使用したTargaC8カラム(2×10mm)でHPLCに供する。カラムは、0.25ml/分の流速で8分間かけてメタノール(75~90%)の勾配で溶出する。カラム溶出液は質量分析計(QTRAP5500)に直接導入し、公表されている擬似MRM法を使用して脂肪酸をモニターする。これらの条件下では、VLCFAは5分~8分の間に溶出する。各脂肪酸を、添加した内部標準に対して定量化する。
【0148】
この試験では、患者の種々のグループについて計画した。まず、健常対照細胞及びAMNヒト患者由来初代線維芽細胞で線維芽細胞中のヘキサコサン酸の進化をモニターし、2回目にPXL770を種々の用量(PXL770:0.1、0.5、1、2、3.5及び5μM、メトホルミン:100、200、300及び400μM)で1週間培養物中のAMNヒト由来初代線維芽細胞に割り当て、ヘキサコサン酸レベルを測定した。
【0149】
この試験の結果を図10に示す。この図は、AMN患者の線維芽細胞を高用量のPXL770で処置すると、AMN患者の線維芽細胞中のヘキサコサン酸のレベル(細胞106個あたりのngで表す)が低下することを示す。更に、PXL770はメトホルミンと比較してはるかに高い効力及び有効性に到達する。
【0150】
(実施例12)
メトホルミン存在下で培養したAMN及びALD患者の線維芽細胞中のABCD2の過剰発現
実施例4及び6に記載の実験は同じ研究室によってメトホルミンで実施され、Singhら、Journal of Neurochemistry、2016年;第138巻、86~100頁に記載されている。
【0151】
これらの実験結果を図11に示す。
【0152】
メトホルミンは5mMの濃度でAMN及びALD患者由来の線維芽細胞においてABCD2タンパク質の発現をわずかに増加させるだけであることが観察された。
【0153】
一方、PXL770は、はるかに低濃度(5μM)で投与された場合、はるかに大きな効果を発揮した。このように、PXL770はメトホルミンよりも高い有効性及び効力を有する。
【0154】
(実施例13)
メトホルミン存在下におけるAMN-KOマウス大脳皮質混合グリア細胞中のABCD2の過剰発現
実施例6と同じ実験プロトコルは同じ研究室によってメトホルミンで実施され、Singhら、Journal of Neurochemistry、2016年;第138巻、86~100頁に記載されている。
【0155】
この実験結果を図12に示す。
【0156】
ABCD1-KOマウスのグリア細胞では、メトホルミンは100μMでABCD2タンパク質のレベルを限定的に増加することが観察された。
【0157】
一方、PXL770は、はるかに低濃度(5μM)で投与された場合、はるかに大きな効果を発揮した。このように、PXL770はメトホルミンよりも高い有効性及び効力を有する。
【0158】
(実施例14)
X-ALDマウスによるインビボ実験
雄のABCD1-KOマウス(n=8)を、PXL770(75mg/kg)を1日2回、90日間毎日、経管栄養経口投与で処置した。未処置のABCD1-KOマウス(n=8)及び野生型(WT)マウス(n=8)を対照とした。処置後のマウスを殺処分し、VLCFA分析のために脊髄を採取した。分析はLipidomics Core Facilityの標準プロトコルに従って行い、データはVLCFAμg/mlレベルで表示した。代表的なVLCFAとしてヘキサコサン酸(C26:0)を選択した。
【0159】
図13に示すように、PXL770は、X-ALDマウスの脊髄中のVLCFAの蓄積を有意に減少させる。
【0160】
(実施例15)
種々のチエノピリドンで処置したAMN患者由来線維芽細胞中の超長鎖脂肪酸(VLCFA)レベルの低下
実施例3に記載した実験を種々のチエノピリドン化合物、すなわち以下の化合物を用いて再現し、それぞれ0.1~5μMの濃度で試験した。
PXL770:カリウム2-クロロ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-6-オキソ-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-4-オレート、
PXL700:2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-(3-ピリジル)-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン、
PXL702:2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン、
PXL695:2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン。
【0161】
PXL700は以下の式を有する。
【0162】
【化12】
【0163】
脳のVLCFAに対するPXL770の効果を評価するために、Dunnettの多重比較検定を用いた一元ANOVAを行った(**** p<0.0001、 *** p<0.001)。血漿のVLCFAに対するPXL770の効果を評価するために、Dunnの多重比較検定を用いたクラスカル・ワリス検定を行った(**** p<0.0001、 *** p<0.01)。
【0164】
図14に示すように、PXL770、PXL695及びPXL702は、VLCFAレベルについて同等の減少を示したが、PXL700(本発明によるチエノピリドン内に含まれない)は、全く効果を示さないか、又は非常に限定的な効果を示した。
【0165】
これらの化合物を5μMの濃度で、400μMのメトホルミンと更に比較した。図15に示すように、メトホルミンもまた、効果を示さないか、又は非常に限定された効果を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2022-11-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
副腎白質ジストロフィー及び/又は副腎脊髄ニューロパチーの処置における使用のための医薬組成物であって、(i)2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン、2-クロロ-5-(4-フルオロフェニル)-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン、2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-インダン-5-イル-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オンからなる群から選択されるチエノピリドン誘導体、又はその薬学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物と、(ii)薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項2】
副腎白質ジストロフィー及び/又は副腎脊髄ニューロパチーの処置における使用のための医薬組成物であって、(i)2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オン又はその薬学的に許容される塩及び/若しくはその溶媒和物と、(ii)薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項3】
前記チエノピリドン誘導体が、式(Ia):
【化1】
を有する2-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(5-ヒドロキシテトラリン-6-イル)-5-フェニル-7H-チエノ[2,3-b]ピリジン-6-オンのカリウム塩一水和物である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
ト患者に対して、0.5mg~3000mgの1日用量で1日1回又は2回投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項5】
20mg~1000mgの1日用量で、1日1回又は2回投与される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
60mg~500mgの1日用量で、1日1回又は2回投与される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
枢性脱髄、副腎皮質機能不全又は副腎機能不全を処置するのに有効である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項8】
2~10歳の対象における副腎白質ジストロフィーの処置における使用のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
成人対象における副腎脊髄ニューロパチーの処置における使用のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
経口経路により投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】