(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】磁気共鳴造影剤及びその製造方法並びに使用
(51)【国際特許分類】
C07F 9/38 20060101AFI20230406BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20230406BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C07F9/38 E CSP
C07F9/38 C
A61K51/04 200
A61B5/055 383
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549168
(86)(22)【出願日】2021-02-23
(85)【翻訳文提出日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 CN2021077399
(87)【国際公開番号】W WO2021169934
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】202010114947.0
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522322169
【氏名又は名称】広州平瀾医療科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU PINGLAN MEDICAL TECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 307,Block B8,No.11 Kaiyuan Avenue,Huangpu District,Guangzhou City,Guangdong 510530,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱 江
(72)【発明者】
【氏名】鐘 磊
(72)【発明者】
【氏名】陳 柯宇
(72)【発明者】
【氏名】▲聶▼ 宇亭
(72)【発明者】
【氏名】張 俊▲麗▼
(72)【発明者】
【氏名】夏 倩
(72)【発明者】
【氏名】沈 成義
(72)【発明者】
【氏名】雷 軍
(72)【発明者】
【氏名】張 小明
(72)【発明者】
【氏名】▲ミー▼ 慶寧
【テーマコード(参考)】
4C085
4C096
4H050
【Fターム(参考)】
4C085HH07
4C085KA09
4C085KB07
4C085KB08
4C085KB59
4C085LL07
4C096FC14
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4H050AC70
4H050WA13
4H050WA23
(57)【要約】
本発明は、核磁気共鳴造影剤の分野に関し、磁気共鳴造影剤及びその製造方法並びに使用を提供する。本発明の磁気共鳴造影剤は、式Iの構造的特徴を有する化合物から製造され、本発明の磁気共鳴造影剤は、式IIの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩であってもよく、式中、M
1は、常磁性金属Mn、Fe、Eu若しくはDyの+2価イオン、又は、Mn、Fe、Eu若しくはDyの+3価イオンであり、M
2は、Na
+、K
+又はメグルミンカチオンである。M
1が+2価イオンである時に、a=2であり、M
1が+3価イオンである時に、a=3である。本発明の磁気共鳴造影剤は、水溶性が良好である、緩和効率が高い、毒性と副作用が低いなどの特徴を有する。
【化9】
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩。
【化6】
【請求項2】
次の経路を採用して合成し、
【化7】
S1において、シクロヘキサンジアミンを原料とし、カバチニク・フィールズ(Kabachnik-Fields)反応によってパラホルムアルデヒドと亜リン酸エステルを縮合させて化合物1を得、
S2において、化合物1を酸性条件下で加水分解反応させて化合物2を得、
S3において、化合物2をN-アルキル化反応させて化合物3を得、
S4において、化合物3を加水分解反応させて化合物4を得、即ち式I化合物であることを特徴とする請求項1に記載の式Iの構造的特徴を有する化合物の製造方法。
【請求項3】
S1において、テトラヒドロフランを溶媒とし、シクロヘキサンジアミン、亜リン酸ジエチル、パラホルムアルデヒドを加えて混合させ、還流して反応させて、化合物1を得、
S2において、ステップS1で得た生成物にメタノールを加え、高濃度酸性条件下で反応させて、化合物2を得、
S3において、ステップS2で得た生成物をアセトニトリルに溶解して、KI、ブロモ酢酸tert-ブチル、塩基を加え、反応させて化合物3を得、
S4において、ステップS3で得た生成物を酸性溶液に溶解し、加熱して、還流して反応させ、保護基を除去して、化合物4を得、即ち式I化合物であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
磁気共鳴造影剤の製造における請求項1に記載の式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩の使用。
【請求項5】
式Iに示される化合物は、配位子として磁気共鳴造影剤を製造するために使用されることを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項6】
式IIの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩であって、
【化8】
式中、M
1は、Mn、Fe、Eu若しくはDyの+2価イオン、又は、Mn、Fe、Eu若しくはDyの+3価イオンから選ばれ、
M
2は、Na
+、K
+、メグルミンカチオンから選ばれ、
M
1が+2価イオンである時に、a=2であり、M
1が+3価イオンである時に、a=3である式IIの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項7】
M
1は、Mnの+2価イオン、Feの+3価イオンから選ばれ、M
2は、Na
+から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩を、M
1イオンを含む化合物と反応させ、塩基を加えてpHを6~9に調整して、完了するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の式IIの構造的特徴を有する化合物の製造方法。
【請求項9】
前記塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メグルミンから選ばれることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
磁気共鳴造影剤の製造における請求項6又は7に記載の式IIの構造的特徴を有する化合物の使用。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の式IIの構造的特徴を有する化合物と、薬学的に許容される添加物とを含むことを特徴とする磁気共鳴造影剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴造影剤の分野に関し、特に、磁気共鳴造影剤及びその製造方法並びに使用に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging、MRI)は、核磁気共鳴技術の医療分野における応用である。他の医用画像造影方法と比べ、軟部組織コントラストが高く、マルチパラメータ・マルチシーケンスでの造影、電離放射線損傷がないなどの利点を有する。現在、臨床上の磁気共鳴強調スキャン検査では、磁気共鳴スキャンの50%が希土類金属ガドリニウム(Gd3+)系磁気共鳴造影剤を用いている。人体にとって、ガドリニウム(Gadolinium)は外因性金属である。遊離するGd3+は毒性が高く、体内で骨格と肝臓内に分布し、短時間で肝臓壊死を引き起こす可能性がある。1988年にマグネビスト(Magnevist(登録商標)、バイエル)がFDAによって承認されて以来、ガドリニウム系造影剤(Gadolinium-based contrast agents、GBCA)は30年間にわたって臨床的に使用されており、腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis、NSF)、ガドリニウムイオンの脳内沈着(Gadolinium Retation)が安全性問題として浮き彫りになっている。
【0003】
2006年、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、腎不全患者(糸球体濾過量が30mL/min/1.73m2未満)に安定性の低い一部のガドリニウム系造影剤を使用すると、体から速やかかつ完全に排出できないため、全身性強皮症NSFの症状が出現し、深刻な場合は組織や器官が影響を受けることを見出した。現在、NSFに対する効果的な療法がまだない。
【0004】
近年(2014年以来)、ガドリニウム造影剤によるコントラスト強調磁気共鳴スキャンを4回以上受けた患者の一部では、最後の検査を終えてからの長い間に、ガドリニウム造影剤が大脳組織に蓄積されていることを示す証拠が見つかった。メイヨー・クリニックの研究者は、ガドリニウム造影剤によるコントラスト強調MRI検査を複数回受けたことがあって死亡した患者では、脳内にガドリニウムが沈着され且つ用量反応関係が認められるが、腎機能、年齢、初回曝露と死亡との間の時間間隔とは関係がないことを見出した。
【0005】
以上から分かるように、ガドリニウム系磁気共鳴造影剤には大きな副作用が潜んでおり、臨床Gd3+造影剤におけるNSFと脳内沈着の安全性問題は臨床で早急に解決すべき課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに鑑みて、ガドリニウム系磁気共鳴造影剤に大きな副作用が潜んでいるという課題に対し、式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩を提供する必要があり、式I化合物は、適切な油水分配係数を有するため、磁気共鳴造影剤を製造するために使用することができ、さらに非ガドリニウム磁気共鳴造影剤を製造するために重要な構造的基礎を提供する。
【化1】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施例では、前記薬学的に許容される塩は、式III又は式IVの構造的特徴を有する化合物から選ばれる。
【化2】
【0008】
なお、前記薬学的に許容される塩は、他の形態であってもよく、製造プロセスにおける加水分解の方式によって調整することができる。
【0009】
本発明の一態様では、さらに、次の経路を採用して合成し、式Iの構造的特徴を有する化合物の製造方法が提供される。
【化3】
S1において、シクロヘキサンジアミンを原料とし、カバチニク・フィールズ(Kabachnik-Fields)反応によってパラホルムアルデヒドと亜リン酸エステルを縮合させて化合物1を得て、
S2において、化合物1を酸性条件下で加水分解反応させて化合物2を得て、
S3において、化合物2をN-アルキル化反応させて化合物3を得て、
S4において、化合物3を加水分解反応させて化合物4を得、即ち式I化合物である。
【0010】
なお、前記原料のシクロヘキサンジアミンの立体配置は、目的化合物に基づいて選択することができ、好ましくは、より優れた安定性を有するトランスシクロヘキサンジアミン(tans-CDTA)である。
【0011】
一実施例では、前記製造方法は、
S1において、テトラヒドロフランを溶媒とし、シクロヘキサンジアミン、亜リン酸ジエチル、パラホルムアルデヒドを加えて混合させ、還流して反応させて、化合物1を得て、
S2において、ステップS1で得た生成物にメタノールを加え、高濃度酸性条件下で反応させて、化合物2を得る。前記高濃度酸性条件は、例えば、2~4M HClであり、好ましくは、3M HClであり、又は、同等な酸性条件(H+濃度が2~4Mである)を提供できる他の有機酸若しくは無機酸であて、
S3において、ステップS2で得た生成物をアセトニトリルに溶解して、KI、ブロモ酢酸tert-ブチル、塩基を加え、反応させて化合物3を得る。好ましくは、前記塩基は、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリエチルアミンから選ばれて、
S4において、ステップS3で得た生成物を酸性溶液に溶解し、加熱して、還流して反応させ、保護基を除去して、化合物4を得、即ち式I化合物である。当該ステップは加水分解反応であり、なお、酸性溶液に使用可能な酸及び濃度としては、具体的な反応条件に基づいて調整することができ、例えば、4~8M HClであり、好ましくは、6M HClであり、又は、同等な酸性条件(H+濃度が4~8Mである)を提供できる他の有機酸若しくは無機酸である。
【0012】
一実施例では、前記製造方法は、具体的には次のとおりである。
S1において、無水テトラヒドロフラン、シクロヘキサンジアミン、亜リン酸ジエチル、パラホルムアルデヒドを混合させて、還流して反応させ、反応が完了したら、テトラヒドロフランを除去して、ジクロロメタンと水を加えて抽出し、有機相を保持し、洗浄して、乾燥させ、濾過し、ジクロロメタンを除去して、化合物1を得て、
S2において、ステップS1で得た生成物にメタノールと濃塩酸とを加え、濃塩酸中のHClの質量分率は36~38%であり、反応させ、反応が完了したら、メタノールを除去して、水を加え、塩基を加えて中和し、濾過し、ジクロロメタンを加えて抽出し、有機相を保持し、洗浄して、乾燥させ、濾過し、ジクロロメタンを除去して、化合物2を得て、
S3において、ステップS2で得た生成物を無水アセトニトリルに溶解し、KI、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ブロモ酢酸tert-ブチルを加えて、反応させ、反応が完了したら、濾過して、アセトニトリルを除去し、酢酸エチルと水とを加えて、抽出し、有機相を保持し、洗浄して、乾燥させ、濾過して、酢酸エチルを除去して、化合物3を得て、
S4において、ステップS3で得た生成物を塩酸に溶解し、加熱して、還流して反応させ、反応が完了したら、液体を除去して、水を加えて溶解し、アセトニトリルを加えて、白色の固体を析出させ、濾過し、固体を保持して、化合物4を得、即ち式I化合物である。
【0013】
一実施例では、前記ステップS1は、具体的に次のとおりである。無水テトラヒドロフラン、シクロヘキサンジアミン、亜リン酸ジエチル、一部のパラホルムアルデヒドを混合させて、92~98℃下で3~5時間還流して反応させ、還流反応中に3~5回に分けて残りのパラホルムアルデヒドを加え、反応が完了したら、減圧下回転蒸発によりテトラヒドロフランを除去し、ジクロロメタンと水を加えて抽出し、有機相を保持し、水又は飽和食塩水で洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、濾過し、減圧下回転蒸発によりジクロロメタンを除去して、化合物1を得る。前記シクロヘキサンジアミン、亜リン酸ジエチル、パラホルムアルデヒドのモル比は、1:(1.8~2.2):(2.8~3.2)である。
【0014】
一実施例では、前記ステップS2は、具体的に次のとおりである。ステップS1で得た生成物にメタノールと濃塩酸とを加え、メタノールと濃塩酸の体積比は、8:(2~4)であり、48~52℃下で6~12時間反応させ、反応が完了したら、減圧下回転蒸発によりメタノールを除去して、水を加え、塩基を加えてpHが6.8~7.2になるよう中和し、濾過して、ジクロロメタンを加えて抽出し、有機相を保持し、飽和食塩水を加えて洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ、濾過し、減圧下蒸留によりジクロロメタンを除去して、化合物2を得る。
【0015】
一実施例では、前記ステップS3は、具体的に次のとおりである。ステップS2で得た生成物を無水アセトニトリルに溶解し、触媒KI、ブロモ酢酸tert-ブチル、N,N-ジイソプロピルエチルアミン又はトリエチルアミンを加えて、68~72℃下で5~7時間反応させ、反応が完了したら、濾過して沈殿物を除去し、減圧下回転蒸発によりアセトニトリルを除去して、酢酸エチルと水とを加えて抽出し、有機相を保持し、飽和食塩水を加えて洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ、濾過し、減圧下回転蒸発により酢酸エチルを除去し、シリカゲルカラムを通して精製して、化合物3を得る。
【0016】
一実施例では、前記ステップS4は、具体的に次のとおりである。ステップS3で得た生成物を5.5~6.5mol/Lの塩酸に溶解し、加熱して、6~12時間還流して反応させ、反応が完了したら、減圧下蒸留により液体を除去して、水を加え、加熱して残留物を溶解し、溶解したら冷却し、アセトニトリルを加えて、撹拌して混合させた後に静置して、白色の固体を析出させ、濾過し、ドライして、化合物4を得る。
【0017】
本発明では、さらに、磁気共鳴造影剤の製造における式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩の使用が提供される。当該造影剤は、水溶性が良好である、緩和効率が高い、毒性と副作用が低いなどの特徴を有する。
【0018】
一実施例では、式Iに示される化合物は、配位子として磁気共鳴造影剤を製造するために使用される。
【0019】
本発明の別の態様では、さらに、式IIの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩が提供される。
【化4】
式中、M
1は、Mn、Fe、Eu若しくはDyの+2価イオン、又は、Mn、Fe、Eu若しくはDyの+3価イオンから選ばれ、
M
2は、Na
+、K
+、メグルミンカチオンから選ばれ、
M
1が+2価イオンである時に、a=2であり、M
1が+3価イオンである時に、a=3である。
【0020】
前記化合物又は薬学的に許容されるその塩は、式I化合物を配位子とし、Mn、Fe、Eu又はDyを配位金属イオンとして、非ガドリニウム常磁性金属錯体磁気共鳴造影剤として使用することができ、水溶性が良好である、緩和効率が高い、毒性と副作用が低いなどの特徴を有しており、臨床的なMRI造影剤に用いることができる。
【0021】
一実施例では、M1は、Mnの+2価イオン、Feの+3価イオンから選ばれ、M2は、Na+、K+又はメグルミンカチオンであり、a=2である。
【0022】
マンガン(Manganese)は、人体に不可欠な微量元素であり、体内の様々な重要な生化学反応に関与している。高スピンMn2+は、高い常磁性を有するため、磁気共鳴造影剤の常磁性金属中心として用いることができる。Mn2+の配位化学によれば、当該新規なMn(II)T1磁気共鳴造影剤は、市販のガドリニウム系造影剤と同等な緩和効率を有し、腎性全身性線維症リスクがないため、腎不全患者でも当該Mn系造影剤を使用してコントラスト強調検査を行うことができる。
【0023】
鉄(Fe)も人体に不可欠な微量元素であり、体内でヘモグロビンによる酸素輸送などの重要な生理機能を果たす。正常な場合、人体が約4グラムの鉄を含み、体内には鉄元素の輸送と貯蔵を確保するために、高度に協調された調節システムが存在し、Fe3+の長期毒性はGd3+よりはるかに低い。高スピンFe3+の錯体も高い磁気モーメントを有し(Mn2+、Gd3+より低い)、ガドリニウム造影剤に安全性の問題が潜んでいることを考慮すると、本発明の式IIによる対応するFe3+錯体は、Fe系磁気共鳴造影剤として用いることができる。
【0024】
本発明では、さらに、
式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩を、M1イオンを含む化合物と反応させ、塩基を加えてpHを6~9に調整して、完了するステップを含む式IIの構造的特徴を有する化合物の製造方法が提供される。
【0025】
一実施例では、式IIの構造的特徴を有する化合物の製造方法は、具体的に次のとおりである。
式Iに示される化合物を水と混合させて、Mn、Fe、Eu又はDy金属化合物を加え、前記金属化合物の金属イオンは+2価又は+3価であり、塩基を加えてpHを6~9に調整し、溶液を得て凍結乾燥させると、常磁性金属錯体を得る。
【0026】
好ましくは、塩基を加えてpHを7~8に、より好ましくは、7.3~7.4に調整する。
【0027】
一実施例では、前記塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はメグルミンである。
【0028】
本発明の一態様では、さらに、磁気共鳴造影剤の製造における前記式IIの構造的特徴を有する化合物の使用が提供される。
【0029】
本発明の一態様では、さらに、式IIの構造的特徴を有する化合物と、薬学的に許容される添加物とを含む磁気共鳴造影剤が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、従来技術と比べ、次の有益な効果を有する。
本発明の式Iの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩は、配位子として適切な油水分配係数を有するため、磁気共鳴造影剤を製造するために使用することができ、さらに非ガドリニウム磁気共鳴造影剤を製造するために重要な構造的基礎を提供する。
本発明の式IIの構造的特徴を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩は、水溶性が良好である、緩和効率が高い、毒性と副作用が低いなどの特徴を有するため、臨床的なMRI造影剤に用いることができ、ガドリニウム系磁気共鳴造影剤の毒性と副作用を軽減させる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】実施例に係るKBR0826の緩和効率試験結果である。
【
図3】実施例に係るマンガンイオン濃度の標準曲線である。
【
図4】実施例に係るKBR0826の薬物動態試験結果である。
【
図5】実施例に係るKBR0826の排泄動態試験結果である。
【
図6】実施例に係るKBR0826の肝毒性結果である。
【
図7】実施例に係るKBR0826のラット体内における造影画像である。
【
図8】実施例に係るKBR0826のラット体内における造影信号強度図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明が理解しやすくなるよう、好ましい実施例を挙げて本発明をより完全に説明する。ただし、本発明は、本明細書で説明される実施例に限られず、様々な異なる形態で実現できる。むしろ、これらの実施例は、本発明で開示される内容がより完全に理解されるために提供される。
【0033】
特に定義されない限り、本明細書で使用される科学技術用語は、当業者が理解している通常の意味と同じである。本明細書で使用される用語は、特定の実施例を説明するために使用されるもので、本発明を限定するためのものではない。
【0034】
(実施例1)
トランス-シクロヘキシルジアミノ-ジメチレンリン酸-二酢酸配位子の製造であって、合成経路は次のとおりである。
【化5】
【0035】
当該配位子の製造方法の詳細は、次のとおりである。
(1)化合物1の調製
100mLの無水テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とし、シクロヘキサンジアミン(10g、98%、85.8mmol)、亜リン酸ジエチル(24.2g、98%、171.6mmol)、パラホルムアルデヒド(合計8.31g、96%、266mmol,まず約5分の1)を加え、95℃に加熱して、還流させ、残りのパラホルムアルデヒドを4回に分けて加えて、4時間還流して反応させた。
反応が完了したら、減圧下回転蒸発により溶媒を除去し、液体残留物にジクロロメタンと水をそれぞれ約100mL加えて抽出し、水相をジクロロメタンで3回抽出して(各回は約20mL)、有機相を合わせ、有機相を水、次に飽和食塩水で各1回洗浄し(各回は約50mL)、有機相を無水Na2SO4で乾燥させて、濾過し、減圧下回転蒸発によりジクロロメタンを除去して、暗紫色で油状の化合物1の粗生成物を得た(27.37g、収率72.8%)。
化合物1の構造解析は、次のとおりである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:1.20(d,4H),1.35(t,12H),1.72(s,2H),1.93(d,2H),2.16(s,2H),2.71(br,2H),3.15(t,2H),3.89(s,2H),4.15(br,8H)。
MS(ESI):[M+H]+計算値:427.20,測定値:427.2。
【0036】
(2)化合物2の調製
(1)で得た化合物1(27.1g、63.56mmol)を、120mLのメタノールと45mLの濃塩酸で調製した溶液に溶解して、50℃下で一晩反応させ、反応が完了したら、減圧下回転蒸発によりメタノールを除去し、液体残留物に水を加えて約150mLとし、次にNaHCO3で中和し、濾過して過剰のNaHCO3を除去し、約100mLのジクロロメタンで抽出し、次に水相をジクロロメタンで2回洗浄して、有機相を合わせ、有機相を飽和食塩水で1回洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させて、濾過した後、減圧下回転蒸発によりジクロロメタンを除去して、ワインレッド色の化合物2の粗生成物を得た(11.51g、収率43.7%)。
化合物2の構造解析は次のとおりである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:0.98(d,2H),1.18(t,2H),1.32(t,12H),1.75(d,2H),2.09(d,2H),2.22(d,2H),2.85(t,2H),3.15(t,2H),4.18(br,8H)。
MS(ESI):[M+H]+計算値:415.20,測定値:415.2。
【0037】
(3)化合物3の調製
(2)で得た化合物2(11.50g、27.75mmol)を無水アセトニトリル(80mL)に溶解し、触媒KI(0.46g、2.8mmol)、DIPEA(99%、8.95g、69.38mmol)、ブロモ酢酸tert-ブチル(98%、13.53g、69.38mmol)をこの順に加え、70℃下で6時間反応させた。
反応が完了したら、濾過して沈殿物を除去して、回転蒸発し、次に酢酸エチルと水で溶解及び抽出し、有機相を飽和食塩水で1回洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、濾過した後、減圧下回転蒸発により酢酸エチルを除去して、化合物3の粗生成物を得、次に、シリカゲルカラムで分離精製して、化合物3を得た(12.75g、収率71.5%)。
化合物3構造解析は、次のとおりである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:1.12(d,4H),1.35(t,12H),1.48(s,18H),1.69(s,2H),2.03(d,2H),2.78(s,2H),3.16(t,2H),3.42(br,2H),3.52(d,2H),3.65(d,2H),4.18(br,8H)。
MS(ESI):[M+H]+計算値:643.34,測定値:643.4;[M+Na]+計算値:665.34,測定値:665.4。
【0038】
(4)化合物4の調製
(3)で得た化合物(12.75g、19.84mmol)を6M塩酸(100mL)に溶解し、加熱して還流させて、一晩反応させ、反応が完了したら、反応液を完全に回転蒸発させて、少量の水(約10mL)を加え、加熱して残留物を溶解し、完全に溶解したら冷却し、約100mLのアセトニトリルを加えて、撹拌して混合させた後に静置し、白色の固体を析出させ、混合液において固体を撹拌して粉末状になると、濾過して少量のアセトニトリルで洗浄して、白色の粉末状固体を得、ドライして白色の粉末状化合物4を得た(7.34g、収率88.4%)。
化合物4の構造解析は、次のとおりである。
1H-NMR(400MHz,D
2O)
MS(ESI):[M+Na]
+計算値:441.09,測定値:441.0;[M-H]
-計算値:417.09,測定値:417.0。
化合物4の結晶構造は、
図1に示されるとおりである。
【0039】
(実施例2)
常磁性金属マンガン錯体磁気共鳴造影剤の製造であって、ステップは次のとおりである。
実施例1の(4)で得た化合物(7.19g、17.2mmol)を60mLの純水に加え、撹拌しながら塩化マンガン四水和物(3.33g、16.8mmol)を加え、固体水酸化ナトリウムでpHを7.3~7.4に調整し、溶液を得て凍結乾燥させて固体11.68gとなった。
【0040】
MS(ESI):[M+H]-計算値:470.0,測定値:469.9;[M+3H]+計算値:472.0,測定値:472.0。
【0041】
(実施例3)
実施例2で得た常磁性金属マンガン錯体磁気共鳴造影剤(表示コード:KBR0826)に対し、次の特性試験を行った。
一.緩和効率の測定
緩和効率の測定方法は、次のとおりである。勾配濃度の造影剤溶液(0.054、0.109、0.224、0.451、0.906mM、Hepesバッファー中、pH=7.4)を調製し、NIUMAG PQ001核磁気共鳴造影剤緩和率試験装置(0.5±0.08T、主周波数21.3MHz、32℃)で測定して異なる濃度の造影剤サンプルのT1、T2緩和時間を得、緩和率Ri(Ri=1/Ti、i=1,2)、造影剤濃度で線形当てはめをして、傾きは緩和効率(relaxivity、ri、i=1,2)であった。緩和効率は、磁気共鳴造影剤が水分子の緩和時間を変える能力を反映しており、造影剤の優劣を判断するための重要なパラメータである。緩和効率(relaxivity、ri、i=1,2)は、単位濃度の磁気共鳴造影剤(mmol/L)による水分子の緩和率の変化(1/Ti、i=1,2)と定義される。
【0042】
試験結果は
図2に示されており、図中、横軸はMn
2+のモル濃度で、縦軸は1/T(S
-1)であり、0.5T(32℃、pH=7.4)では、KBR0826の緩和効率が、r
1=3.12mmol
-1s
-1、r
2=3.75mmol
-1s
-1、r
2/r
1=1.2であり、Magnvist(登録商標)(r
1=3.4mmol
-1s
-1、r
2=4.0mmol
-1s
-1)と同等であった。
【0043】
二.薬物動態試験
薬物動態試験方法:
1.実験準備
体重が220~240gで雌3匹と雄5匹の8匹のSDラットであった。3%ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)腹腔内注射で麻酔し、仰臥位で固定した。頚部を脱毛し、通常の消毒をしておいた。
【0044】
左頸動脈へのカテーテル留置:
頚部の正中線(胸骨と下顎を結ぶ線)の左側3mm、胸骨の上方7mmで縦方向に切り込みを入れ、長さは約20mmであった。皮膚を切開して、皮下組織を露出させ、頸動脈が見えるまで層ごとに鈍的分離した。付随する神経と静脈を鈍的剥離した。それぞれ遠心端と近心端を結紮し、結紮点の間の距離は2.5~3.5cmであった。遠心端の結紮点近くで留置針を動脈に挿し込み、止血クリップで固定して、針管を引き抜き、近心端の結紮点を解放させた。ヘパリンリチウム(150μg/kg)を注射して全身をヘパリン化した。
【0045】
2.血液標本の採取と処理
尾静脈にKBR0826溶液(0.05mmol/mL)を急速に(5秒以内に)注射し、用量は0.1mmol/kgであった。注射前と注射後1分、2分、3分、5分、8分、13分、20分、30分、50分に頸動脈血を0.1mL採取し、0.5mLのEPチューブに入れて、-20℃で保存した。
【0046】
3.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によるサンプルのMn2+濃度測定
3.1 装置の動作条件
パワーは1150Wであり、アトマイズアルゴンガスの流速は0.95L・min-1であり、補助アルゴンガスの流速は1.2L・min-1であり、プラズマアルゴンガスの流速は18L・min-1であり、ポンプの回転速度は20r・min-1であり、分析モードは標準モードであり、サンプリングを3回繰り返した。
【0047】
3.2 標準曲線の作成
標準試薬(PerkinElmer、10μg/mL(1000ppb):Ag、Al、As、Cs、Cu、Sr、Se、Mnなど)で1.0、10、50、100、200、1000ppbの異なる濃度の標準溶液を調製し、標準曲線を作成し(
図3に示される)、線形方程式のR
2は0.9999を超えた。
【0048】
3.3 試験サンプルの調製と測定
サンプル(全血)20μLを、Mn2+濃度が1~100ppbの範囲にあるよう1%HNO3で6~10mLに希釈し、番号を付けて、測定し、応答強度と標準曲線に基づいてサンプル溶液中のMn2+濃度を算出した。
【0049】
3.4 濃度時間曲線の作成と薬物動態パラメータの計算
PKSolver 2.0を用いて薬物動態パラメータを計算した。
【0050】
試験結果は
図4と表1に示されており、図中、横軸は時間(分)で、縦軸はMn
2+濃度(ppb)であり、結果は、KBR0826が非コンパートメントモデルの特徴を有し、類似する細胞外液造影剤の薬物動態特徴に一致しており、血漿半減期(t
1/2=23分)がガドリニウム系磁気共鳴造影剤に近いことを示していた。
【0051】
【0052】
三.排泄動態試験
1.実験準備
体重が250±50gで雄5匹と雌3匹のSprague Dawley(SD)ラット(クリーン)であり、川北医学院動物実験センターより購入した。実験前に12~16時間絶食させた。3%ペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)腹腔内注射で麻酔した。
【0053】
2.尾静脈へのカテーテル留置
約40℃の温水にラットの尾部を約1分間浸し、アルコールを付けたコットンで拭いて消毒した。左手の親指と中指で尾部の先端を固定して引き伸ばし、食指で水平に支えた。尾静脈は尾部の両側に位置し、淡青色であった。留置針を生理食塩水で空気を除去して、静脈と15°になって挿入して、逆血確認ができたら同じ角度で刺し入れた。留置針をラットの尾端に固定した後に生理食塩水を点滴し、速度は約2mL/hであった。
【0054】
3.総胆管へのカテーテル留置
消毒した後、ラットの剣状突起のような下腹部の正中線で縦方向に切り込みを入れ、層ごとに皮膚、皮下組織、白線、腹膜を切開して内部に入った。鑷子で肝臓の左右葉を開いて、下方に十二指腸と大網膜を露出させた。真中から鑷子で十二指腸の横断部を引き伸ばしたら、淡黄色の胆道が大網膜によって覆われており、肝の下方から十二指腸まで延在しているのを見た。胆道を鈍的剥離して、ガラスピックで摘み取り、十二指腸の近くに静脈留置針を挿入して、止血クリップで固定し、投与前サンプルとして胆汁を集めた。
【0055】
4.膀胱へのカテーテル留置
ラットの尿道口の直上0.5cmで縦方向に切り込みを入れ、皮膚を切開して、筋肉を鈍的分離した。膀胱がある程度満たされたら、左手で鑷子を使って膀胱を持ち上げ、右手で静脈留置針を持って膀胱の背外側の尿管口から下から上へと斜めに膀胱に挿入して、針管を引き抜いて投与前サンプルとして尿液を集めた。
【0056】
5.投与
投与前の胆汁及び尿液サンプルを集めた後、尾静脈で急速に投与し、用量は0.1mmol/kgであった。
【0057】
6.胆汁と尿液の採取
投与後に30分ごとに胆汁の排泄量を、1時間ごとに尿液の排泄量を集計した。サンプルを秤量した後に、-20℃で凍結保存した。
【0058】
7.ICP-MSによるサンプルのMn2+濃度の測定
7.1 試験サンプルの調製と測定
サンプル(胆汁、尿液)20μLを、Mn2+濃度が1~1000ppbの範囲にあるよう1%HNO3で6~10mLに希釈し、番号を付けて、測定し、応答強度と標準曲線に基づいてサンプル溶液中のMn2+濃度を算出した。
【0059】
8.排泄曲線の作成
origin9.0を用いてデータを計算し、グラフを作成した。希釈倍率、濃度測定値と尿液(胆汁)体積を掛け算して当該時間帯の排泄量を得て、各時間帯の排泄量の和を投与用量で割って、対応する時間帯内の薬物累積排泄パーセンテージを得た。表2には、前記データに基づく単位時間(h)あたりの尿液と胆汁におけるKBR0826の排泄状況が示され、体積(mL)、Mn
2+排泄量(mg)、累積排泄量(mg)、累積排泄率(%)を除いて、肝臓/腎臓排泄曲線として、時間-肝臓/腎臓排泄量曲線(
図5)を作成した。
【0060】
【0061】
図5において、横軸は時間(h)で、縦軸は総代謝量(mg)であり、結果は、KBR0826が主に肝臓と腎臓から排泄され、600分以内で肝臓と腎臓から約60%排泄され、肝臓と腎臓が半分ずつであったことを示していた。KBR0826はラット体内で尿液と胆汁の両方から排泄され、初期では尿液が主で、以後は胆汁が主であった。
【0062】
四.肝毒性試験
実験方法:
1. QSG7701細胞の継代、凍結保存と蘇生
1)継代:QSG7701細胞株(25cm2培養フラスコ)を観察し、増殖状態が良好であることを確認したら、細胞の種類、日付、培養者の名前を記して37℃×5%CO2インキュベータに入れて培養した。1~2日後に、細胞密度が継代の要件に合致したら(細胞増殖率が80~90%に達していたら)、PBSで細胞を1~2回洗浄し、PBSを捨てて1mLのトリプシンを加えて細胞の表面を1~2分間完全に被覆させ、倒立顕微鏡下で観察して、90%以上の細胞が大きくなり丸みを帯びてきており、軽やかに振ると少しだけ離脱した時、直ちに完全培地(DMEM培地:FBS:抗生物質=100:10:1)を加えて消化を停止させ、ピペッティングにより単一の細胞を得、15mLの遠心管に移し、1000rpmで常温下5分間遠心分離して、上清を捨て、10MMのシャーレに移して、5~10mLの新鮮な完全培地を加えて引き続き培養した。2~3日ごとに培地を交換し、又は1:2、1:3で分割して継代させた。
【0063】
2)凍結保存:細胞が対数増殖期にあり、増殖状態が良好である時に、選択して凍結保存し、凍結保存液(DMEM:FBS:DMSO=6:3:1)を調製して、上記と同じようにトリプシンで細胞を消化した後に遠心管に集め、凍結保存液で細胞を懸濁させて、細胞濃度を(1~10)×106/mLに調整して凍結保存管に分注し、細胞の種類、日付、凍結保存実施者、継代回数を記した。勾配凍結保存ボックスに入れて-80℃冷蔵庫に置いた。翌日に液体窒素タンクに移して保存した。
【0064】
3)細胞蘇生:液体窒素タンクから1本のQSG7701凍結保存管を取り出して37℃ウォーターバスに入れて1~2分間迅速に振とうすると、解凍ができた。解凍後の細胞液を15mLの遠心管に移して、1000rpmで常温下5分間遠心分離して、上清を捨て、5~10mLの新鮮な完全培養液を加え、細胞の種類、日付、培養者の名前を記して、37℃×5%CO2インキュベータに入れて培養した。
【0065】
2. KBR0826溶液の調製
KBR0826固体粉末31.93mgを、血清含有培地で12.5mmol/Lに調製し、希釈して、それぞれ、濃度が12.5、2.5、0.5、0.1、0.02mmol/Lの溶液を得て、使用に備えた。
【0066】
3.細胞培養と投与
1)96ウェルプレートを4個用意し、測定時刻(6時間、12時間、24時間、48時間)ごとに1個を使用した。各プレートは対照群と、5つの異なる濃度のKBR0826の投与群とを設置し、投与群では各群に5つのウェルを設け、合計で30のウェルを使用した。各ウェルに100μLの対数増殖期細胞液を加えた。
【0067】
2)37℃×5%CO2インキュベータにおいて一晩(24時間)培養し、細胞が良好に壁に付着したことを観察したら古い培地を捨て、対照群では新しい血清含有培地に交換し、他はそれぞれ12.5、2.5、0.5、0.1、0.02mmol/LのKBR0826を含む血清含有培地に更新して、引き続き培養した。
【0068】
3)投与後6時間、12時間、24時間、48時間に、それぞれ1個の96ウェル培養プレートを取り出して、培地を除去した後にMTT含有無血清培地(MTT 0.5mg/mL)100μLを加え、次に、細胞インキュベータに入れて2時間培養した。
【0069】
4)最後に、96ウェルプレートを取り出して、培地を除去し、100μLのDMSOを加えた後に水平に振とうして、2~3分間均一に混合させて結晶を充分に溶解した後、マイクロプレートリーダーにおいて595nmでOD値を読み取った。
【0070】
4.統計方法
データをグラフ化する際には製図ソフトウェアorigin9.0を用いて処理し、測定データは平均±標準偏差(±sd)で示す。データ統計には統計解析ソフトウェアSPSS14.0を用い、単変量解析を採用した。
【0071】
5.結果
正常なヒト肝細胞の、異なる濃度のKBR0826における異なる時間での生存率(595nm)結果は
図6に示されており、異なる濃度のKBR0826を加えて細胞培養し、統計学的に分析した結果が示すように、濃度が低い(0.02、0.1、0.5mmol/L)時に、肝細胞株QSG7701の各測定時刻(6時間、12時間、24時間、48時間)での生存率が有意に低下しなかったが、KBR0826濃度が2.5mmol/Lである時に肝細胞株QSG7701の24時間と48時間の2つの測定時刻での生存率が有意に低下し(p<0.05)、KBR0826濃度が12.5mmol/Lである時に12時間から肝細胞株QSG7701の生存率が有意に低下し始めた(p<0.05)。24時間以内に、25倍の臨床投与用量(2.5mmol/L)でも、KBR0826は肝細胞株QSG7701の増殖に明らかな阻害効果がなかった。
【0072】
図中、*は対照群のOD値と比較して、統計的差異があることを示した。
【0073】
五.ラット体内造影
1. SDラット16匹を、KBR0826造影剤群(実験群)とガドテル酸メグルミン(Gd-DOTA)造影剤群(対照群)とに分け、各群は8匹であった。12時間絶食させた(飲水制限なし)。
【0074】
2. 3%ペントバルビタールナトリウム(60~70mg/kg)腹腔内注射で麻酔した。
【0075】
3. KBR0826の用量は0.2mmol/kgであった。3.0T MRI装置を用いてSDラットの体内造影を行い、尾静脈に造影剤を注射し、注射前と注射後の異なる時間でラットの心臓、肝臓、脳実質、筋肉、腹大動脈の信号強度(SI)を測定し、ノイズ比(SNR)を計算して、時間-信号強度曲線を作成することによって、造影剤の造影効果を評価した。
【0076】
造影効果は
図7に示されていた。結果は、KBR0826が心血管信号における強度の変化の傾向がGd-DOTAに似ており、肝臓では増強が明らかでかつ持続していることを示していた。KBR0826のラット器官における造影信号強度は
図8に示されており、横軸は時間で、縦軸は信号強度であり、結果はKBR0826が血液脳関門を正常に通過できず、腎臓と消化管から排泄できることを示していた。
【0077】
以上から分かるように、上記の試験結果において、本実施例の常磁性金属マンガン錯体磁気共鳴造影剤は、水溶性が良好であり、緩和効率が高く、毒性と副作用が低いなどの特徴を有し、臨床MRI造影剤としての使用が可能であることを示していた。
【0078】
(実施例4)
実施例1の(4)で得た化合物(3.60g、8.6mmol)を30mLの純水に加え、撹拌しながら無水FeCl3(1.38g、8.5mmol)を加え、固体水酸化ナトリウムでpHを7.3~7.4に調整し、溶液を得て凍結乾燥させて固体5.5gとなった。
【0079】
前記錯体の緩和効率測定結果は、r1=1.80mmol-1s-1、r2=2.10mmol-1s-1(0.5T、32℃)であった。
【0080】
上記の実施例の各技術的特徴を自由に組み合わせることができ、説明の簡素化の観点から、前記実施例における各技術的特徴の可能な組み合わせを全て説明していないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾が生じなければ、本明細書に記載されているものと見なされる。
【0081】
上記の実施例は本発明のいくつかの実施形態を示しているだけで、具体的にかつ詳しく説明されているが、本発明特許の範囲に対する限定として理解できない。明言すべきは、当業者が本発明の構想を逸脱することなくいくつかの修正と改良を行うことができ、それらも本発明の保護範囲に属する。したがって、本発明特許の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に準拠する。
【国際調査報告】