(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】循環BMP10(骨形成タンパク質10)の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230406BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230406BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230406BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
G01N33/531 A
C12N15/13
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549516
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2021054139
(87)【国際公開番号】W WO2021165465
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503285519
【氏名又は名称】ユニベルシテイト マーストリヒト
(71)【出願人】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】エンゲル,アルフレート
(72)【発明者】
【氏名】ゲルク,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ユックニシュケ,ウテ
(72)【発明者】
【氏名】カール,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒルリングハウス,ラルス
(72)【発明者】
【氏名】ショッテン,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ラティーニ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】メーセン,ジェニファー・マリー・テレジア・アンナ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、対象において心房細動を評価するための方法であって、対象からの試料中のBMP10の量を決定する工程、及びBMP10の量を基準量と比較し、それにより心房細動を評定する工程を含む方法に関する。さらに、本発明は、対象からの試料中のBMP10の決定に基づいて心不全を診断するための方法に関する。さらに、本発明は、対象からの試料中のBMP10型ペプチドの決定に基づいて、対象が心不全により入院するリスクを予測するための方法に関する。本発明はさらに、NT-proBMP10等の1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において心房細動を評定するための方法であって、
a)前記対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量を決定する工程、及び
b)前記BMP10型ペプチドの量を前記BMP10型ペプチドについての基準量と前記少なくとも1つの更なるバイオマーカーについての基準量と比較し、それによって心房細動を評定する工程
を含み、
工程a)が、前記試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む、方法。
【請求項2】
前記作用物質がモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントが、
a)配列番号1のアミノ酸領域171~185に含まれるエピトープ(LESKGDNEGERNMLV、配列番号3)、例えば、配列番号1のアミノ酸領域173~181に含まれるエピトープ(SKGDNEGER、配列番号4)、
b)配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~47に含まれるエピトープ(SLFGDVFSEQD、配列番号2)、又は
c)配列番号1のアミノ酸領域291~299に含まれるエピトープ(SSGPGEEAL、配列番号5)
に結合することができる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変ドメイン(表Aを参照)及び/又は好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23若しくは24に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変ドメイン(表Bを参照)を含む、請求項2から3に記載の方法。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントが、
(a)
(a1)配列番号34~42から選択される軽鎖CDR1、
(a2)配列番号52~60から選択される軽鎖CDR2、及び
(a3)配列番号70~78から選択される軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変ドメイン、
並びに
(b)
(b1)配列番号25~33から選択される重鎖CDR1、
(b2)配列番号43~51から選択される重鎖CDR2、及び
(b3)配列番号61~69から選択される重鎖CDR3
を含む重鎖可変ドメイン
を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記心房細動の評定が心房細動の診断である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記心房細動の評定が、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測であって、
特に、前記心房細動に関連する有害事象が心房細動の再発(肺静脈隔離術(PVI)又はアブレーション療法後の心房細動の再発等)及び/又は脳卒中である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記BMP10型ペプチドの量が、心房細動に関連する有害事象に罹患するリスクがある対象を示し、及び/又は前記基準量を下回る前記BMP10型ペプチドの量が、心房細動に関連する有害事象に罹患するリスクがない対象を示す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
心不全を診断するための方法であって、
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
(b)前記BMP10型ペプチドの量を前記BMP10型ペプチドについての基準量と比較すること、及び任意に、前記少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つの更なるバイオマーカーについての基準量と比較することによって、心不全を診断する工程
を含み、
工程a)が、前記試料を、請求項2~4のいずれか一項に記載の、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質、例えばモノクローナル抗体、又はそのフラグメントと接触させることを含む、方法。
【請求項10】
心房細動を評定するため、心不全を診断するため、又は対象が心不全により入院するリスクを予測するための、
(a)1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質であって、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質のin vitroでの使用であって、
例えば、前記少なくとも1つの作用物質が、請求項2~4のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントである、使用。
【請求項11】
1つ以上のBMP10型ペプチドに結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
a)配列番号1のアミノ酸領域171~185に含まれるエピトープ(LESKGDNEGERNMLV、配列番号3)、例えば、配列番号1のアミノ酸領域173~181に含まれるエピトープ(SKGDNEGER、配列番号4)、
b)配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~47に含まれるエピトープ(SLFGDVFSEQD、配列番号2)、
c)配列番号1のアミノ酸領域291~299に含まれるエピトープ(SSGPGEEAL、配列番号5)
に結合することができる、モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
1つ以上のBMP10型ペプチドに結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
(a)
(a1)配列番号34~42から選択される軽鎖CDR1、
(a2)配列番号52~60から選択される軽鎖CDR2、及び
(a3)配列番号70~78から選択される軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変ドメイン、
並びに
(b)
(b1)配列番号25~33から選択される重鎖CDR1、
(b2)配列番号43~51から選択される重鎖CDR2、及び
(b3)配列番号61~69から選択される重鎖CDR3
を含む重鎖可変ドメイン
を含む、モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
1つ以上のBMP10型ペプチドに結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントであって、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変ドメイン(表Aを参照)及び/又は好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23若しくは24に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変ドメイン(表Bを参照)を含む、モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
請求項2~4又は11~13のいずれか一項に記載の少なくとも1つのモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む、キット。
【請求項15】
前記BMP10型ペプチドがNT-proBMP10である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法、請求項10に記載の使用、請求項11~13のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体若しくはそのフラグメント、又は請求項14に記載のキット。
【請求項16】
対象において白質病変の程度を評定するための方法であって、
a)前記対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された前記量に基づいて対象における白質病変の程度を評定する工程
を含み、
工程a)が、前記試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む、方法。
【請求項17】
対象において脳血管性認知症及び/又はアルツハイマー病等の認知症を予測するための方法であって、
a)前記対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)工程a)で決定された前記量を基準と比較する工程、及び
c)前記対象における認知症のリスクを予測する工程
を含み、
工程a)が、前記試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む、方法。
【請求項18】
対象が1回以上の潜在性脳卒中を経験したかどうかを評定するための方法であって、
a)前記対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)工程a)で決定された前記量を基準と比較する工程、及び
c)対象が1回以上の潜在性脳卒中を経験したかどうかを評定する工程
を含み、
工程a)が、前記試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象において心房細動を評定するための方法であって、当該方法が、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較し、それにより心房細動を評定する工程を含む方法に関する。さらに、本発明は、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの決定に基づいて心不全を診断するための方法に関する。さらに、本発明は、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの決定に基づいて心不全によって対象が入院するリスクを予測するための方法に関する。本発明は更に、NT-proBMP10等の1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
背景部分
心房細動(AF)は、最も一般的なタイプの心不整脈であり、高齢者の間で最も蔓延している症状の1つである。心房細動は、不規則な心臓の鼓動を特徴とし、短時間の異常な鼓動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、永続的な症状となる場合がある。米国では推定270~610万人が心房細動を発症し、全世界で約3300万人が心房細動を発症している(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。
【0003】
心房細動等の心不整脈の診断には、通常、不整脈の原因の特定、及び不整脈の分類が含まれる。米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、及び欧州心臓病学会(ESC)による心房細動の分類の指針は主として、単純性及び臨床上の関連性に基づいている。第1のカテゴリーは「最初に検出されたAF」と呼ばれる。このカテゴリーの人々は、最初にAFと診断され、以前に検出されなかった発作があったかどうかは不明である。最初に検出された発作が1週間以内に自然に停止したが、その後に別の発作が続く場合、カテゴリーは「発作性AF」に変わる。このカテゴリーの患者は最大7日間続く発作を持つが、発作性AFのほとんどの場合、発作は24時間以内に止まる。発作が1週間以上続く場合は、「持続性AF」に分類される。そのような発作が電気的又は薬理学的な心臓除細動によって停止できず、1年以上続く場合、分類は「永続性AF」に変更される。心房細動は脳卒中及び全身性塞栓症の重要なリスクファクターであることから、心房細動の早期診断が非常に望ましい(Hart et al.,Ann Intern Med 2007,146(12):857-67;Go AS et al JAMA 2001;285(18):2370-5)。脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減させるために、抗凝固療法は最も適切な治療法であると思われる。
【0004】
心房細動の評定を可能にするバイオマーカーが強く望まれている。
【0005】
Latini R.et al.(J Intern Med.2011 Feb;269(2):160-71)は、心房細動を有する患者の様々な循環バイオマーカー(hsTnT、NT-proBNP、MR-proANP、MR-proADM、コペプチン、及びCT-プロエンドセリン-1)を測定した。
【0006】
骨形成タンパク質10(BMP10と略記する)は、タンパク質のTGF-ベータ(トランスフォーミング増殖因子-ベータ)スーパーファミリーのリガンドである。このファミリーのリガンドは、様々なTGF-β受容体に結合し、遺伝子発現を調節する特定の転写因子の動員及び活性化をもたらす。BMP10は、アクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1)に結合し、内皮細胞におけるこのキナーゼの機能的活性化因子であることが示されている(David et al.,Blood.2007,109(5):1953-61)。
【0007】
骨形成タンパク質は、様々な形態(非切断型、プロセス型(processed)又は複合型)で血中を循環している。Kienast et.al.,J.Biol.Chem.(2016)293(28)10963-10974は、BMP9の循環変異体を調べ、成熟BMP9が、他のBMP9変異体と比較して、ヒト血漿中の総BMP9のわずか0.5%に相当することを見出した。
【0008】
ヒトpreproBMP10は、酵素的に切断されて不活性前駆体タンパク質であるproBMP10(ヒトpreproBMP10のアミノ酸22~424)を放出する短いシグナルペプチド(アミノ酸1~21)を含む。proBMP10はプロテアーゼによって切断され、108アミノ酸の非グリコシル化C末端ペプチド(約14kDa;BMP10、アミノ酸317~424)及び約50kDaのN末端プロセグメント(アミノ酸22~424、Susan-Resiga et al.,J Biol Chem.2011 Jul 1;286(26):22785-94)をもたらす。成熟BMP10とBMP-10のN末端プロセグメントの両方は、構造的に近接したままであり、BMP10のホモ二量体又はヘテロ二量体を形成するか、又は他のBMPファミリータンパク質と組み合わさっている(Yadin et al.,CYTOGFR 2016,27(2016)13-34)。二量体化は、両結合パートナーのC末端ペプチドにおけるCys-Cys架橋の形成又は強い接着によって起こる。したがって、2つのサブユニットからなる構造が形成される。
【0009】
米国特許第8,287,868号明細書は、成熟ヒト化抗体又は完全ヒト抗体BMP10ペプチドに結合し、成熟BMP10への結合について BMP10プロペプチドと競合する単離されたモノクローナル抗体を開示している。BMP10又はその前駆体に対する更なる抗体は、米国特許第5,932,216号に開示されている。
【0010】
BMP10は、心筋細胞増殖及び心臓サイズの調節、動脈管の閉鎖、血管新生及び心室トラベキュレーション(ventricular trabeculation)を含む心血管発生において役割を果たすことが示されている。
【0011】
可溶性BMP10は、組織修復の調節に関与することから、心血管疾患(例えば、米国特許第2013209490号を参照)においても組織線維化に関与する診断及び処置標的として見出されており、血管線維症及び心線維症においてBMP10の関与が記載されている。
【0012】
米国特許出願公開第2012/0213782号は、心臓障害を処置するために使用することができるBMP10プロペプチドを開示している。
【0013】
BMP10の一般的な役割は、血管リモデリングの発生調節にある(Ricard et al.,Blood.2012 Jun 21;119(25):6162-6171)。さらに、BMP10は心臓発生因子(Huang et al.,J Clin Invest.2012;122(10):3678-3691)であり、心筋梗塞時に心筋細胞増殖を誘導する(Sun et al.,J Cell Biochem.2014;115(11):1868-1876)。これはまた、内皮細胞(Jiang et al.,JBC 2016,291(6):2954-2966)に由来すると記載されている。
【0014】
トランスクリプトーム分析は、健康な状態のBMP10 mRNAが心臓の右心房及び右心耳で強く発現されることを明らかにする。これは、左心耳と比較して主に右に発現される(Kahr et al.,Plos ONE,2010,6(10):e26389)。
【0015】
2019年8月29日から2019年9月2日までパリで開催されたESC(欧州心臓病学会)会議において、Larissa Fabritzは心房細動におけるバイオマーカーに関するプレゼンテーションを行った。言及されたバイオマーカーの1つはBMP(FP番号:2365)であった。
【0016】
国際特許出願PCT/EP2019/072042号は、心房細動の評定における循環BMP10(骨形成タンパク質10)を開示している。
【0017】
心房細動の診断、心房細動患者のリスク層別化(脳卒中の発生等)、心房細動の重症度の評定、及び心房細動患者における治療法の評定を含む、心房細動の評定のための信頼できる方法についての必要性がある。さらに、心不全を確実に評定する必要がある。
【0018】
Tillet et.al.(J.Biol.Chem.(2018)293(28)10963-10974)は、BMP9及びBMP10のヘテロ二量体が血漿中に見出される生物学的BMP活性の大部分を担うことを見出した。
【0019】
しかしながら、Tilletらは、血漿中のBMP10のレベルがより低いことを見出し、血漿中のマスキングタンパク質の存在を示唆した。
【0020】
本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応する方法の提供としてとらえることができる。この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲及び本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0021】
有利には、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定することで、心房細動及び心不全の改善された評定が可能であるという本発明の研究との関連において発見された。したがって、例えば、対象が心房細動又は心不全に罹患しているか、心房細動に関連する脳卒中に罹患するリスクがあるか、又は治療的介入後に再発性Afibのリスクがあるかどうかを診断することができる。
【0022】
さらに、本明細書中に記載される研究では、1つ以上のBMP10型ペプチドの量が患者における白質病変(WML)の存在と相関することが示された。WMLの程度は臨床上の無症候性脳卒中(Wang Y,Liu G,Hong D,Chen F,Ji X,Cao G.White matter injury in ischemic stroke.Prog Neurobiol.2016;141:45-60)によって引き起こされ得ることから、BMP10型ペプチドは、白質病変の程度の評定のため、及び対象が過去に1回以上無症候性脳卒中、すなわち臨床上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評定のために使用され得る。WMLは認知症の予測のリスクに関連するので、1つ以上のBMP10型ペプチドはまた、認知症、例えば血管性認知症及び/又はアルツハイマー病の予測を可能にする。
【0023】
有利には、本明細書中に記載される研究において、ヒトpreproBMP10のアミノ酸領域22~316に対する(すなわち、BMP10のN末端プロセグメントに対する)抗体を使用する場合、成熟BMP10ホルモン自体に対する抗体を使用する場合と比較して、血液、血清又は血漿試料中のBMP10型ペプチドの検出が優れていることが見出された。したがって、成熟BMP10ではなく、ヒトpreproBMP10のアミノ酸領域22~316内に結合する検出剤の使用は、心房細動及び心不全の改善された評定を可能にする。さらに、本発明者らは、検出剤のための特に好適な標的領域であるヒトpreproBMP10のアミノ酸領域22~316内のサブ領域を同定した。これに関連して、BMP10型ペプチドの改善された検出を可能にする抗体が同定された。抗体は、NT-proBMP10及びNT-proBMP10フラグメントを含む任意のBMP10型ペプチド、例えばpreproBMP10及びproBMP10に結合することができる。
【発明の概要】
【0024】
本発明の概要
本発明は、対象において心房細動を評定するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって心房細動を評定する工程、を含む、方法に関する。
【0025】
本発明は、更に、心房細動の評定を支援する方法に関し、当該方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料を提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
c)1つ以上のBMP10型ペプチドの決定された量に関する情報、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それによって心房細動の評定を支援する工程、を含む。
【0026】
さらに、本発明は、心房細動の評定を支援するための方法であって、
a)1つ以上のBMP10型ペプチドに対するアッセイと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーに対する少なくとも1つの更なるアッセイとを提供する工程、並びに
b)心房細動の評定における当該アッセイ(複数可)によって得られた、又は得ることができるアッセイ結果の使用するための指示を提供する工程、を含む、方法を企図する。
【0027】
さらに、本発明は、対象における白質病変の程度を評定するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された量に基づいて対象における白質病変の程度を評定する工程、を含む。
【0028】
さらに、本発明は、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評定するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)工程a)で決定された量を基準と比較する工程、及び
c)対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評定する工程、を含む。
【0029】
さらに、本発明は、対象の脳血管性認知症及び/又はアルツハイマー病等の認知症を予測するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)工程a)で決定された量を基準と比較する工程、及び
c)当該対象における認知症のリスクを予測する工程、を含む。
【0030】
本発明はまた、治療的介入の前に採取された試料における治療的介入(肺静脈隔離(PVI)又は心房細動におけるアブレーション療法等)後のAFib再発のリスクを予測するための方法であって、
a)1つ以上のBMP10型ペプチドに対するアッセイと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーに対する少なくとも1つの更なるアッセイとを提供する工程、並びに
b)心房細動の再発リスクの評定における当該アッセイ(複数可)によって得られた、又は得ることができるアッセイ結果の使用するための指示を提供すること、を含む、方法を企図する。
【0031】
また、本発明によって、心房細動を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットにおいて、1つ以上のBMP 10型ペプチドの量についての値、及び任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量についての少なくとも1つの更なる値を受け取る工程であって、当該1つ以上のBMP10型ペプチドの量及び任意に少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量が対象に由来する試料において決定されている工程、
b)当該処理ユニットによって、工程(a)で受け取った値(複数可)を基準(複数可)と比較する工程、並びに
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評定する工程、を含む、コンピュータ実装方法が包含される。
【0032】
本発明は更に、心不全を診断するための方法に関し、当該方法は、
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
(b)(1つ以上BMP10型ペプチドの量をBMP10型ペプチドについての基準量と比較すること、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーについての基準量と比較することによって、心不全を診断する工程、を含み得る。
【0033】
本発明は更に、心不全によって対象が入院するリスクを予測するための方法に関し、当該方法は、
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較する工程、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較する工程、並びに
(c)心不全によって対象が入院するリスクを予測する工程、を含む。
【0034】
本発明の方法の好ましい実施形態では、1つ以上のBMP10型ペプチドの量の決定が、試料を、BMP10のN末端プロセグメント(NT-proBMP10、BMP10のN末端プロドメインとも呼ばれる)に結合する(すなわち、結合することができる)少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む。したがって、それは成熟BMP10に結合しないものとする。したがって、当該作用物質は、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域22~316内に結合する(すなわち、結合することができる)。例えば、試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内に結合する少なくとも1つの作用物質と接触させる。
【0035】
本発明は更に、1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定するための方法であって、1つ以上のBMP10型ペプチドを含有する試料を、BMP10のN末端プロセグメント、したがって配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域22~316内に結合する少なくとも1つの作用物質と接触させ、それによってBMP10型ペプチドと少なくとも1つの作用物質との複合体の形成を可能にする工程、及び形成された複合体の量を決定する工程を含む方法に関する。
【0036】
いくつかの実施形態では、1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定するための方法は、サンドイッチイムノアッセイによって行われる。
【0037】
本発明は、更に、配列番号1に示すポリペプチドのアミノ酸領域22~316内に結合する作用物質等の、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する作用物質、ESM-1に特異的に結合する作用物質、Ang2に特異的に結合する作用物質、及びFABP3に特異的に結合する作用物質からなる群から選択される少なくとも1つの更なる作用物質と、を備える、キットに関する。
【0038】
さらに、本発明は、in vitroでの使用であって、
i)1つ以上のBMP10型ペプチドと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの、及び/又は
ii)1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質、及び任意に、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する作用物質、ESM-1に特異的に結合する作用物質、Ang2に特異的に結合する作用物質及びFABP3に特異的に結合する作用物質からなる群から選択される少なくとも1つの更なる作用物質の心房細動を評定するため、脳卒中のリスクを予測するため若しくは心不全を診断するため、又は心不全によって対象が入院するリスクを予測するための使用に関する。
【0039】
前述の使用の好ましい実施形態では、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質は、NT-proBMP10、すなわち配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域22~316に結合する作用物質である。NT-proBMP10のアミノ酸配列を配列番号6にも示す。
【0040】
本発明は更に、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域22~316内で結合する(すなわち、結合することができる)作用物質、例えば抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0041】
いくつかの実施形態では、作用物質は、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~47に含まれるエピトープ(SLFGDVFSEQD、配列番号2)に結合する作用物質である。
【0042】
いくつかの実施形態では、配列番号1のアミノ酸領域171~185に含まれるエピトープ(LESKGDNEGERNMLV、配列番号3)、に結合する作用物質、例えば、配列番号1のアミノ酸領域173~181に含まれるエピトープ(SKGDNEGER、配列番号4)に結合する作用物質である。
【0043】
いくつかの実施形態では、作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域291~299に含まれるエピトープ(SSGPGEEAL、配列番号5)に結合する作用物質である。
【0044】
本発明はまた、1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体)又はそのフラグメントに関する。
【0045】
一実施形態では、抗体又はそのフラグメントは、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変ドメイン(表Aを参照)及び/又は好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23若しくは24に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変ドメイン(表Bを参照)を含む。
【0046】
追加的又は代替的に、本発明の抗体又はそのフラグメントは、
(a)
(a1)表Dに示す軽鎖CDR1(したがって、配列番号34~42から選択される軽鎖CDR1配列)、
(a2)表Dに示す軽鎖CDR2(したがって、配列番号52~60から選択される軽鎖CDR2配列)、及び
(a3)表Dに示す軽鎖CDR3(したがって、配列番号70~78から選択される軽鎖CDR3配列)
を含む軽鎖可変ドメイン、
並びに
(b)
(b1)表Cに示される重鎖CDR1(したがって、配列番号25~33から選択される重鎖CDR1配列)、
(b2)表Cに示される重鎖CDR2(したがって、配列番号43~51から選択される重鎖CDR2配列)、及び
(b3)表Cに示す重鎖CDR3(したがって、配列番号61~69から選択される重鎖CDR3配列)
を含む重鎖可変ドメイン、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明/定義の詳細な説明
本発明は、対象において心房細動を評定するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量を決定する工程、及び
b)BMP10型ペプチドの量をBMP10型ペプチドについての基準量と比較し、それにより心房細動を評定する、方法に関する。
【0048】
BMP10型ペプチドは、BMP10、BMP10のN末端プロセグメント(N末端proBMP10)、proBMP10及びpreproBMP10からなる群から選択されることが好ましい。より好ましくは、BMP10型ペプチドは、BMP10のN末端プロセグメント(N末端proBMP10)、proBMP10及びpreproBMP10からなる群から選択される。更により好ましくは、BMP10型ペプチドは、proBMP10及び/又はN末端proBMP10である。最も好ましくは、BMP10型ペプチドはNT-proBMP10である。
【0049】
本発明によれば、1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定するものとする。本明細書の他の箇所に記載されるように、決定は、好ましくは、NT-proBMP10又はその中の特定のサブ領域に結合する少なくとも1つの作用物質を用いて行われる。それにより、proBMP10、preproBMP10及びNT-proBMP10等のNT-proBMP10ペプチド配列を含む全ての(すなわち、それらを合わせた)BMP10型ペプチドの量を決定することができる。したがって、「1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する」という表現は、好ましくは、NT-proBMP10アミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドの合計量(すなわち、それらの量の合計)が決定されること、特に、proBMP10、preproBMP10及びNT-proBMP10の合計量(すなわち、それらの量の合計)が決定されることを意味する。preproBMP10は原則として多くの試料に存在しないため、この表現はまた、NT-proBMP10とproBMP10との合計が決定されることを意味し得る。したがって、NT-proBMP10及び/又はBMP10の量が決定される。
【0050】
本発明の方法の一実施形態では、該方法は、工程a)の対象からの試料中のナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量の決定、並びに工程b)の基準量に対する少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量の比較を更に含む。
【0051】
したがって、本発明は、対象において心房細動を評定するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量をBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって心房細動を評定する工程、を含む、方法に関する。
【0052】
心房細動(AF)の評定は、比較工程b)の結果に基づくものとする。
【0053】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチドの量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較する工程、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較する工程、並びに
c)比較工程b)の結果に基づいて心房細動を評定する工程、を含む。
【0054】
本発明によって言及される方法は、本質的に上述の工程からなる方法、又は更なる工程を含む方法、を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、ex vivo、より好ましくはin vitroの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えて、工程を含んでもよい。例えば、更なる工程は、更にマーカーを決定すること、及び/又は処置前の試料を採取すること、若しくは上記方法で得られた結果を評価することに関する場合がある。この方法は、手動で実行されてもよく、自動化によって支援されてもよい。好ましくは、工程(a)、(b)及び/又は(c)は、全体的又は部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)における決定又は工程(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボット及び感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0055】
本発明に従って、心房細動を評定するものとする。本明細書で使用される場合、「心房細動を評定する」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、AFの最近の発作の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測(例えば、脳卒中及び/又は心房細動の再発、例えば、介入後のAFの再発等)、心電図検査(ECG)を受ける対象の識別、又は心房細動の治療法の評定を指す。
【0056】
当業者によって理解されるように、本発明の評定は、通常、検査されることになる対象の100%について正確であることを意図するものではない。この用語は、好ましくは、対象の統計的に有意な部分に対して、正しい評定(例えば、本明細書でいう治療法の診断、区別、予測、識別、又は評定)を行うことができること、を必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等のさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者が更に苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.4、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0057】
本発明によれば、「心房細動の評定」という表現は、心房細動の評定の支援として、したがって心房細動の診断の支援、発作性心房細動と持続性心房細動との区別の支援、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測の支援、心電図検査(ECG)を受ける対象の識別の支援として、又は心房細動の治療法の評定の支援として理解される。最終的な診断は、原則として医師が行う。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、心房細動の評定は、心房細動の診断である。したがって、対象が心房細動に罹患しているかどうかが診断される。
【0059】
したがって、本発明は、対象における心房細動を診断するための方法であって、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較し、それにより心房細動を診断する工程、を含む方法を想定する。
【0060】
一実施形態では、上述の方法は、
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
(b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって心房細動を診断する工程、を含む。
【0061】
好ましくは、心房細動を診断するための方法に関連して検査されることになる対象とは、心房細動に罹患していることが疑われる対象である。しかしながら、対象はすでにAFに罹患していると以前に診断されており、以前の診断を本発明の方法を実施することによって確認することも企図される。
【0062】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定は、発作性心房細動と持続性心房細動との区別である。したがって、対象が発作性又は持続性の心房細動に罹患しているかどうかが決定される。
【0063】
したがって、本発明は、対象における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するための方法であって、
【0064】
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較し、それにより、発作性心房細動と持続性心房細動とが区別される工程、を含む方法を想定する。
【0065】
一実施形態では、上述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する工程、を含む。
【0066】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定とは、心房細動と関係する有害事象(脳卒中等)のリスクの予測である。したがって、対象は、当該有害事象に罹患するリスクがあるか否かが予測される。
【0067】
したがって、本発明は、対象における心房細動に関連する有害事象のリスクを予測するための方法であって、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較する工程、を含み、それにより、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する工程、を含む方法を想定する。
【0068】
一実施形態では、上述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する工程を含む。
【0069】
さまざまな有害事象を予測することができることが想定されている。予測される好ましい有害事象は脳卒中である。
【0070】
そのため、本発明は、特に、対象における脳卒中のリスクを予測するための方法であって、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較し、それにより脳卒中のリスクを予測する工程、を含む方法を想定する。
【0071】
上述の方法は、工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程c)を更に含んでもよい。したがって、工程a)、b)、c)は、好ましくは以下の通りである:
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較する工程、及び
c)工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程。
【0072】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定は、心房細動の治療法の評定である。
【0073】
したがって、本発明は、対象における心房細動の治療法を評定するための方法であって、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較する工程、を含み、それにより、心房細動の治療法を評定する工程、を含む方法を想定する。
【0074】
一実施形態では、上述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって心房細動に対する治療法を評定する工程、を含む。
【0075】
好ましくは、上述の区別、上述の予測、及び心房細動のための治療法の評定に関連する対象とは、心房細動に罹患している、特に心房細動に罹患していることが(したがって、心房細動の既往歴があることが)わかっている対象である。しかしながら、前述の予測方法に関して、対象が心房細動の既往歴を有していないことも想定される。
【0076】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定とは、心電図検査(ECG)に供されなければならない対象の識別である。そのため、心電図検査に供されなければならない対象が識別される。
【0077】
この方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって心電図検査を受ける対象が識別される工程、を含み得る。
【0078】
好ましくは、心電図検査に供されなければならない対象を識別する上述の方法に関連する対象とは、心房細動の既往歴がない対象である。「心房細動の既往歴がない」という表現は、本明細書の他の箇所で定義されている。
【0079】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定は、対象の抗凝固療法の有効性の評定である。したがって、当該治療法の有効性が評定される。
【0080】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定は、対象における脳卒中のリスクの予測である。したがって、本明細書でいう対象が脳卒中のリスクがあるかどうかが予測される。
【0081】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、又は少なくとも1つの抗凝固薬の投与量を増やすのに適格である対象の識別である。したがって、対象が当該投与及び/又は当該投与量の増加に適格であるかどうかが評定される。
【0082】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評定は抗凝固療法の監視である。したがって、対象が当該治療法に反応するかどうかが評定される。
【0083】
「心房細動」という用語(AF又はAFibと略記)は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能が結果として悪化する非協調的な心房活動を特徴とする上室頻脈性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。該用語には、心臓の2つの心房が関係している。正常な心調律では、洞房結節によって発生した興奮が心臓全体に広がり、心筋の収縮及び血液の駆出を引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心拍を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、又は胸痛である。しかしながら、ほとんどの発作には症状がない。心電図では、心房細動は、房室伝導が損なわれていないときに、心室応答が不規則で頻繁に急速になることと関係して振幅、形状、及びタイミングが変化する、急速な振動又は細動波によって、均一なP波が置き換えられることを特徴とする。
【0084】
米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、及び欧州心臓病学会(ESC)は、次の分類システム、すなわち、最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、及び永続性AFを提案している(本明細書とともに、その全体が参考として組み込まれるFuster V.et al.,Circulation 2006;114(7):e257-354を参照されたく、例えば、該文書中の
図3を参照)。最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、及び恒久性AF。
【0085】
AFに罹患している人々は皆、初めは、最初に検出されたAFと呼ばれる区分にある。しかしながら、対象は、これまで検出されていなかった発作が出たことがあってもなくてもよい。心房細動が1年を超えて持続した場合、対象は永続性AFに罹患しており、特に洞調律へ戻る変換は生じない(又は医学的介入がある場合のみ)。AFが7日を超えて続く場合、対象は持続性AFに罹患している。対象が、心房細動を終止させるには、薬理学的介入又は電気的介入のいずれかを要することがある。好ましくは、持続性AFは発作で発生するが、不整脈は、自発的に(つまり、医学的介入なしで)洞調律へ戻る変換はない。発作性心房細動とは、好ましくは、最長7日間続く心房細動の間欠性発作を指す。発作性AFのほとんどの場合、発作が続くのは、24時間未満である。心房細動の発作は、自然に、すなわち医学的介入なしで終止する。したがって、発作性心房細動の発作(複数可)は、好ましくは自然には終止するのに対し、持続性心房細動は、好ましくは自然には終止しない。好ましくは、持続性心房細動は、終結のための電気的又は薬理学的な心臓除細動、又はアブレーション手技等の他の手技を必要とする(Fuster V.et al.,Circulation 2006;114(7):e257-354)。持続性AFと発作性AFの両方が再発する可能性があり、それによって発作性AFと持続性AFの区別がECG記録によって提供される。患者に2回以上の発作があったとき、AFは再発と見なされる。不整脈が自然に終止する場合、AF、特に再発性AFは発作性と呼ばれる。AFは、7日を超えて持続する場合、永続性と呼ばれる。
【0086】
本発明の好ましい実施形態では、「発作性心房細動」という用語は、自然に終止するAFの発作として定義され、当該発作は24時間も続かない。代替の実施形態では、自然に終止する発作は、最長7日間続く。
【0087】
本明細書でいう「対象」とは、好ましくは哺乳動物である。哺乳類としては、家畜化動物(例えば、牛、羊、猫、犬、馬等)、霊長類(例えば、ヒト、サル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス、ラット等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、対象とは、ヒト対象である。
【0088】
好ましくは、検査される対象は、任意の年齢であり、より好ましくは、検査される対象は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、そして最も好ましくは65歳以上である。さらに、検査される対象は、70歳以上であることが想定されている。
【0089】
さらに、検査される対象は、75歳以上であることが想定されている。また、対象は、50歳から90歳の間であってよい。
【0090】
心房細動を評定する本発明の方法の好ましい一実施形態では、検査される対象は、心房細動を患っている。そのため、対象は、心房細動の既往歴を有するものとする。したがって、対象は、検査試料を入手することに先立って心房細動の発作があったものとし、心房細動の以前の発作の少なくとも1つが、例えば、ECGによって診断されているものとする。例えば、心房細動の評定が発作性心房細動と持続性心房細動との区別である場合、又は心房細動の評定が心房細動に関連する有害事象のリスクの予測である場合、又は心房細動の評定が心房細動の治療法の評定である場合、対象は心房細動に罹患していることが想定される。
【0091】
心房細動を評定する方法の別の好ましい実施形態では、例えば、心房細動の評定が心房細動の診断又は心電図検査(ECG)を受けるべき対象の識別である場合、検査される対象は、心房細動に罹患していることが疑われる。
【0092】
好ましくは、心房細動に罹患していることが疑われる対象は、心房細動を評定するための方法を実施する前に、心房細動の少なくとも1つの症状を示したことがある対象である。当該症状は通常一過性であり、数秒で発生し、同じくらい早く消えることがある。心房細動の症状には、めまい、失神、息切れ、特に心臓の動悸が含まれる。好ましくは、対象は、試料を入手する前の6ヶ月以内に心房細動の少なくとも1つの症状を示したことがある。
【0093】
代替的又は追加的に、心房細動に罹患していることが疑われる対象は、70歳以上の対象とする。
【0094】
好ましくは、心房細動に罹患していることが疑われる対象は、心房細動の既往歴がないものとする。
【0095】
本発明によれば、心房細動の既往歴がない対象は、好ましくは、以前に、すなわち本発明の方法を実施する前に(特に、対象から試料を得る前に)心房細動に罹患していると診断されていない対象である。ただし、対象は、以前に診断されなかった心房細動の発作を持っている場合と持っていない場合があってもよい。
【0096】
好ましくは、「心房細動」という用語は、全てのタイプの心房細動を指す。したがって、この用語は、発作性、持続性、又は永続性の心房細動を包含することが好ましい。
【0097】
しかしながら、本発明の一実施形態では、検査される対象は、永続性の心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、発作性及び持続性の心房細動のみを指す。
【0098】
しかしながら、本発明の別の実施形態では、検査される対象は、発作性及び永続性の心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、持続性心房細動のみを指す。
【0099】
検査対象は、試料が採取されたときに心房細動の発作を経験する場合と経験しない場合があってもよい。したがって、心房細動の評定の好ましい実施形態(心房細動の診断等)では、対象は、試料が得られたときに心房細動の発作を経験していない。この実施形態では、対象は、試料が得られたときに、正常洞調律を有するものとする(したがって、洞調律にあるものとする)。したがって、ECGにおいて心房細動が(一時的に)存在しない場合であっても、バイオマーカーを用いた心房細動の診断が可能である。本発明の方法によれば、本明細書で言及されるバイオマーカーの上昇は、心房細動の発作後に保存されるはずであり、したがって、心房細動に罹患した対象の診断を提供する(「記憶効果」)。好ましくは、本発明の方法を実施した後(又はより正確には、試料が得られた後)、約3日以内、約1週間以内、約1ヶ月以内、約3ヶ月以内、又は約6ヶ月以内のAFの診断。好ましい実施形態では、発作後約6か月以内の心房細動の診断が実行可能である。好ましい実施形態では、発作後約6ヶ月以内の心房細動の診断が実行可能である。したがって、本明細書でいう心房細動の評定、特に心房細動の評定に関連して本明細書でいう診断、リスクの予測又は区別は、好ましくは心房細動の最後の発作から約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、更により好ましくは約3ヶ月後、そして最も好ましくは約6ヶ月後に実施される。したがって、検査される試料を、好ましくは心房細動の最後の発作の約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、更により好ましくは約3ヶ月後、そして最も好ましくは約6ヶ月後に得ることが想定される。したがって、心房細動の診断は、好ましくは試料を得る前の約3日以内、より好ましくは約1週間以内、更により好ましくは約約3ヶ月以内、最も好ましくは約6ヶ月以内に発生した心房細動の発作の診断も包含することが好ましい。したがって、本発明は、本発明の方法を実施する前に(又はより正確には、検査される試料が得られる前に)約3日以内又はより好ましくは約1週間以内に発生した発作等のAFの最近の発作の診断を可能にする。さらに、AFの最近の発作は、本発明の方法を実施する約2週間前に発生した可能性がある。
【0100】
したがって、本発明は、1つ以上のBMP10ペプチド(及び任意に、本明細書の他の箇所に記載される少なくとも1つの更なるバイオマーカー)の量の決定、及びこのように決定された量(又は複数の量)を基準量(又は複数の基準量)と比較することにより、AFの最近の発作の診断を支援することを含む、洞調律状態にある対象における心房細動の最近の発作の診断を支援することを可能にする。一実施形態では、当該対象は、最近AFの発作に罹患した疑いがあるものとし、例えば、対象は、最近AFの症状を示した対象(例えば、本発明の方法を実施する前の3日以内、1週間以内又は2週間以内)であり得る。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、又は胸痛である。
【0101】
しかしながら、(例えば、脳卒中の予測に関して)試料を入手するときに、対象が心房細動の発作を経験することも想定される
【0102】
「試料」という用語は、体液の試料、分離された細胞の試料、又は組織若しくは器官からの試料を指す。体液の試料は、周知の技術によって入手することができ、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水の試料、又はその他の体分泌物若しくはその派生物の試料を含む。組織又は器官の試料は、例えば生検によって、いずれかの組織又は器官から入手してもよい。分離された細胞を、体液又は組織若しくは器官から、遠心分離又は細胞選別等の分離技術によって得てもよい。例えば、バイオマーカーを発現又は生成する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官の試料を採取してもよい。試料は、凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離、及び/又は包埋(例えばパラフィン包埋)等であり得る。もちろん、細胞試料には、試料中のバイオマーカー(複数可)の量を評定する前に、さまざまな周知の収集後の分取及び保管技術(例えば、核酸及び/又はタンパク質の抽出、固定、保管、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離等)を実施することができる。
【0103】
本発明の好ましい一実施形態では、試料は、血液(すなわち、全血)、血清又は血漿の試料である。血清とは、血液を凝血させた後に入手される全血の液体画分である。血清を得るためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿試料を得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理又はEDTA処理されたチューブ)に収集される。遠心分離により細胞を試料から除去し、上清(すなわち、血漿試料)を入手する。
【0104】
上記のように、対象は洞調律にあるか、又は試料を得る時点でAF調律の発作に罹患している可能性がある。
【0105】
BMP10型ペプチドは当該技術分野で周知である。好ましいBMP10型ペプチドは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるSusan-Resiga et al.(J Biol Chem.2011 Jul 1;286(26):22785-94)に開示されている(例えば、Susan-Resiga et al.の
図3A、又は米国特許出願公開第2012/0213782号を参照)。
【0106】
一実施形態では、BMP10型ペプチドは、プロセシングされていないpreproBMP10(下記の配列番号1を参照)である。別の実施形態では、BMP10型ペプチドはプロペプチドproBMP10である。このマーカーは、N末端プロセグメント及びBMP10を含む。別の実施形態では、BMP10型ペプチドは、BMP10のN末端プロセグメント(N末端proBMP10又はNT-proBMP10)である。
【0107】
一実施形態では、BMP10型ペプチドは、ホモ又はヘテロ二量体複合体の一部である。
【0108】
ヒトpreproBMP10(すなわち、プロセシングされていないpreproBMP10)は、424アミノ酸の長さを有する。ヒトpreproBMP10のアミノ酸配列は、例えば、米国特許出願公開第2012/0213782号の配列番号1又は
図3に示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。また、preproBMP10のアミノ酸配列は、Uniprotにより評定することができる(受託番号O95393-1の配列を参照)。
【0109】
例示的なヒトpreproBMP10のアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0110】
MGSLVLTLCALFCLAAYLVSGSPIMNLEQSPLEEDMSLFGDVFSEQDGVDFNTLLQSMK
DEFLKTLNLSDIPTQDSAKVDPPEYMLELYNKFATDRTSMPSANIIRSFKNEDLFSQPV
SFNGLRKYPLLFNVSIPHHEEVIMAELRLYTLVQRDRMIYDGVDRKITIFEVLESKGDN
EGERNMLVLVSGEIYGTNSEWETFDVTDAIRRWQKSGSSTHQLEVHIESKHDEAEDASS
GRLEIDTSAQNKHNPLLIVFSDDQSSDKERKEELNEMISHEQLPELDNLGLDSFSSGPGE
EALLQMRSNIIYDSTARIRRNAKGNYCKRTPLYIDFKEIGWDSWIIAPPGYEAYECRGVC
NYPLAEHLTPTKHAIIQALVHLKNSQKASKACCVPTKLEPISILYLDKGVVTYKFKYEGM
AVSECGCR
【0111】
ヒトpreproBMP10は、proBMP10(上記の配列において、シグナルペプチドは斜体で示されている)を放出するために酵素によって切断される短いシグナルペプチド(アミノ酸1~21)を含む。したがって、ヒトproBMP10は、ヒトpreproBMP10のアミノ酸22~424(すなわち、配列番号1に示される配列を有するポリペプチド)を含む。ヒトproBMP10は、BMP10のN末端プロセグメントと、活性型である(非グリコシル化)BMP10とに更に切断される。BMP10のN末端プロセグメントは、配列番号1に示される(すなわち、ヒトpreproBMP10の)配列を有するポリペプチドのアミノ酸22~316を含む。上記の配列では、NT-proBMP10の配列に下線を付している。したがって、NT-proBMP10は、以下のような配列を有する(配列番号6):
SPIMNLEQSPLEEDMSLFGDVFSEQDGVDFNTLLQSMK
DEFLKTLNLSDIPTQDSAKVDPPEYMLELYNKFATDRTSMPSANIIRSFKNEDLFSQPV
SFNGLRKYPLLFNVSIPHHEEVIMAELRLYTLVQRDRMIYDGVDRKITIFEVLESKGDN
EGERNMLVLVSGEIYGTNSEWETFDVTDAIRRWQKSGSSTHQLEVHIESKHDEAEDASS
GRLEIDTSAQNKHNPLLIVFSDDQSSDKERKEELNEMISHEQLPELDNLGLDSFSSGPGE
EALLQMRSNIIYDSTARIRR
【0112】
BMP10は、配列番号1に示される配列(上記配列において太字で示される)を有するポリペプチドのアミノ酸317~424を含む。
【0113】
好ましいBMP10型ペプチドは、proBMP10及びN末端proBMP10である。proBMP10の切断後、BMP10及びN末端proBMP10は構造的に近接したままでBMP10のホモ二量体又はヘテロ二量体を形成するか、又は他のBMPファミリータンパク質と組み合わされたままである(Yadin et al.,CYTOGFR 2016,27(2016)13-34)。二量体化は、両結合パートナーのC末端ペプチドにおけるCys-Cys架橋の形成又は強い接着によって起こる。したがって、2つのサブユニットからなる構造が形成される。
【0114】
好ましくは、BMP10型ペプチドの量は、BMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質、例えばBMP10型ペプチドに特異的に結合する1つ以上の抗体(又はその抗原結合フラグメント)を使用することによって決定される。
【0115】
上記のように、本発明の基礎となる研究では、ヒトpreproBMP10のアミノ酸領域22~316に対する抗体を使用した場合、成熟BMP10ホルモン自体に対する抗体と比較して、BMP10型ペプチドの検出がより良好であることがわかった。
【0116】
したがって、BMP10のN末端プロセグメントに結合し、したがって配列番号1のアミノ酸領域22~316に結合し、すなわち、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドのアミノ酸22~アミノ酸316のアミノ酸領域内に結合する少なくとも1つの作用物質を使用することによって、1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定することが特に企図される。したがって、作用物質は、本明細書の他の箇所に記載されるか又は実施例12の表に示されるエピトープ等、この領域に含まれるエピトープに結合するものとする。
【0117】
配列番号1は、ヒトpreproBMP10の配列である。この配列は、本明細書では参照配列として使用される。本明細書では、作用物質は、配列番号1に示される配列を有するポリペプチド内の特定の領域、例えば、配列番号5のアミノ酸領域37~299、又は領域171~185に結合するものとする。これは、作用物質がこれらの領域に対応するBMP10型の領域に結合することを意味する。例えば、proBMP10及びNT-proBMP10は、ヒトpreproBMP10の最初の21アミノ酸を欠いている。したがって、作用物質は、NT-proBMP10又はproBMP10のアミノ酸領域16~278及び領域150~164に結合する。
【0118】
BMP10型ペプチドの検出に特に適した配列番号1のアミノ酸領域22~316内のサブ領域を同定した。
【0119】
好ましい実施形態では、BMP10型ペプチドに結合する少なくとも1つの作用物質(抗体又はそのフラグメント等)は、配列番号1のアミノ酸領域37~299内に結合する、すなわち、当該少なくとも作用物質は、配列番号1の37位のアミノ酸で開始し、299位のアミノ酸で終了する領域に含まれるエピトープに結合する。
【0120】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの作用物質が配列番号1のアミノ酸領域110~200内に結合する、すなわち、当該少なくとも作用物質がこの領域に含まれるエピトープに結合する。
【0121】
別の好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域37~195内等のアミノ酸領域37~185内に結合する、すなわち、当該少なくとも1つの作用物質は、この領域に含まれるエピトープに結合する。
【0122】
別の好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域160~299内等のアミノ酸領域171~299内に結合する、すなわち、当該少なくとも1つの作用物質は、この領域に含まれるエピトープに結合する。
【0123】
別の好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域160~195内、例えばアミノ酸領域171~185内に結合する。
【0124】
更に好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域37~47に含まれるエピトープ(SLFGDVFSEQD、配列番号2)に結合する。一実施形態では、当該作用物質のエピトープは、SLFGDVFSEQD(配列番号2)から本質的になる。
【0125】
更に好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域171~185に含まれるエピトープ(LESKGDNEGERNMLV、配列番号3)に結合する。例えば、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域173~181に含まれるエピトープ(SKGDNEGER、配列番号4)に結合する。一実施形態では、当該作用物質のエピトープは、SKGDNEGER(配列番号4)から本質的になる。
【0126】
更に好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域291~299に含まれるエピトープ(SSGPGEEAL、配列番号5)に結合する。一実施形態では、当該作用物質のエピトープは、SSGPGEEAL(配列番号5)から本質的になる。
【0127】
好ましい実施形態では、BMP10のN末端プロセグメントに特異的に結合する1つ以上の抗体又はその抗原結合フラグメントを使用することができる。そのような抗体(又はフラグメント)はproBMP10及びpreproBMP10にも結合することから、BMP10のN末端プロセグメント、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計を、本発明の方法の工程a)において決定することができる。したがって、「BMP10のN末端プロセグメントの量を決定する」という表現はまた、「BMP10のN末端プロセグメント、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計を決定する工程」を意味するものとする。preproBMP10は多くの試料に本質的に存在しないため、この表現はまた、「BMP10のN末端プロセグメント及びpreproBMP10の量の合計を決定すること」を意味し得る。
【0128】
例えば、BMP10に特異的に結合する1つ以上の抗体を使用することができる。そのような抗体(又はフラグメント)はproBMP10及びpreproBMP10にも結合することから、BMP10、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計は、本発明の方法の工程a)において決定される。したがって、「BMP10の量を決定する」という表現はまた、「BMP10、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計を決定する工程」を意味するものとする。
【0129】
さらに、上記の4つ全てのBMP10型ペプチド、すなわちBMP10、BMP10のN末端プロセグメント、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計を決定することが想定される。
【0130】
したがって、本発明によれば、BMP10型ペプチドの以下の量を決定することができる:
●BMP10の量
●BMP10のN末端プロセグメントの量
●proBMP10の量
●preproBMP10の量
●BMP10、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計
●BMP10のN末端プロセグメント、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計、又は
●BMP10、BMP10のN末端プロセグメント、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計
【0131】
特に、本発明によれば、BMP10型ペプチドの以下の量を決定することができる:
●BMP10のN末端プロセグメントの量
●proBMP10の量
●preproBMP10の量
●BMP10のN末端プロセグメント、proBMP10及びpreproBMP10の量の合計、又は
●BMP10のN末端プロセグメント及びproBMP10及びpreproBMP10の量の合計
【0132】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型及び脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型のペプチドを含む。したがって、本発明によるナトリウム利尿ペプチドは、ANP型及びBNP型ペプチド、並びにそれらの変異体を含む(例えば、Bonow RO.et al.,Circulation 1996;93:1946-1950を参照)。
【0133】
ANP型のペプチドは、pre-proANP、proANP、NT-proANP、及びANPを含む。
【0134】
BNP型ペプチドは、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、及びBNPを含む。
【0135】
プレプロペプチド(pre-proBNPの場合は134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含み、該プレプロペプチドは、プロペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)を放出するために酵素で切断される。プロペプチドは更に、N末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-proBNPの場合は76アミノ酸)及び活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)へと切断される。
【0136】
本発明による好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proANP、ANP、NT-proBNP、BNPである。ANP及びBNPは活性ホルモンであり、それぞれの不活性対応物であるNT-proANP及びNT-proBNPよりも半減期が短い。BNPは血中で代謝されるのに対し、NT-proBNPは損なわれていない分子として血中を循環し、このようなものとして、腎臓から放出される。
【0137】
本発明による最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proBNP及びBNP、特にNT-proBNPである。先に簡単に論議したように、本発明に従っていうところのヒトNT-proBNPは、好ましくは、ヒトNT-proBNP分子のN末端部分に相当する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNP及びNT-proBNPの構造は、先行技術、例えば、国際公開第02/089657号同第02/083913号、及びBonow RO.Et al.,New Insights into the cardiac natriuretic peptides.Circulation 1996;93:1946-1950に既に詳述されている。好ましくは、本明細書で使用されるヒトNT-proBNPは、欧州特許第0648228号B1に開示されるヒトNT-proBNPである。
【0138】
本明細書で使用される場合、「FABP-3」という用語は、脂肪酸結合タンパク質3を指す。FABP-3は、心臓脂肪酸結合タンパク質又は心臓型脂肪酸結合タンパク質(H-FABPと略記する)としても知られている。好ましくは、この用語は、FABP-3の変異体も含む。本明細書で使用されるFABP-3は、好ましくはヒトFABP-3に関する。ヒトFABP-3ポリペプチドをコードするポリペプチドのDNA配列並びにヒトFABP-3のタンパク質配列は当該技術分野で周知であり、Peeters et al.(Biochem.J.276(Pt 1),203-207(1991))によって最初に記載された。さらに、ヒトH-FABPの配列は、好ましくは、GenbankエントリーU57623.1(cDNA配列)及びAAB02555.1(タンパク質配列)に見出すことができる。FABPの主要な生理学的機能は、遊離脂肪酸の輸送であると考えられている(例えば、Storch et al.,Biochem.Biophys.Acta.1486(2000),28-44を参照)。FABP-3及びH-FABPの他の名称は以下の通りである:FABP-11(脂肪酸結合タンパク質11)、M-FABP(筋肉脂肪酸結合タンパク質)、MDGI(乳房由来増殖阻害剤)、及びO-FABP。
【0139】
バイオマーカー内皮細胞特異的分子1(ESM-1と略記する)は当該技術分野でよく知られている。バイオマーカーは、しばしばエンドカンとも呼ばれる。ESM-1は分泌タンパク質であり、主にヒトの肺及び腎臓組織の内皮細胞で発現される。パブリックドメインのデータは、甲状腺、肺、腎臓だけでなく、心臓組織でも発現することを示唆している。例えばProtein Atlas database(Uhlen M.et al.,Science 2015;347(6220):1260419)のESM-1のエントリを参照されたい。この遺伝子の発現はサイトカインによって調節されている。ESM-1は、20kDaの成熟ポリペプチドと30kDaのO-結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.,J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM-1ポリペプチドの量は、対象からの試料において測定される。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は当該技術分野で周知であり(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458-20464を参照)、例えば、Uniprotデータベースを介して評定することができる。エントリQ9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照されたい。ESM-1の2つのアイソフォームは、選択的スプライシングによって生成され、アイソフォーム1(Uniprot識別子Q9NQ30-1を有する)及びアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)である。アイソフォーム1は、長さ184アミノ酸である。アイソフォーム2では、アイソフォーム1のアミノ酸101~150が欠損している。アミノ酸1~19は、シグナルペプチドを形成する(該シグナルペプチドは切断され得る)。
【0140】
好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1の量が決定され、すなわち、アイソフォーム1はUniProt受入番号Q9NQ30-1の下に示されるような配列を有する。
【0141】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム2の量が決定され、すなわち、アイソフォーム2はUniProtアクセッション番号Q9NQ30-2の下に示されるような配列を有する。
【0142】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム-1及びアイソフォーム2の量、すなわち総ESM-1が決定される。
【0143】
例えば、ESM-1の量は、ESM-1ポリペプチドのアミノ酸85~184に対するモノクローナル抗体(マウス抗体等)及び/又はヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0144】
バイオマーカーであるアンジオポエチン-2(「Ang-2」と略され、しばしばANGPT2とも呼ばれる)は、当該技術分野において周知である。これは、天然に存在するAng-1とTIE2の両方に対する拮抗薬である(例えば、Maisonpierre et al.,Science 277(1997)55-60を参照)。タンパク質は、ANG-1の不存在下で、TEK/TIE2のチロシンのリン酸化を誘導できる。VEGF等の血管新生誘発物質が存在しない場合、ANG2を介した細胞マトリックス接触の緩みにより、結果として生じる血管退縮を伴う内皮細胞アポトーシスが誘発されることがある。VEGFと連携して、内皮細胞の遊走と増殖を促進することがあり、それ故に許容的な血管新生シグナルとして機能する。ヒトのアンジオポエチンの配列は、当該技術分野において周知である。Uniprotは、アンジオポエチン-2の3つのアイソフォームを収載する:アイソフォーム1(Uniprot識別子:O15123-1)、アイソフォーム2(識別子:O15123-2)及びアイソフォーム3(O15123-3)。好ましい一実施形態では、アンジオポエチン-2の総量が決定される。この総量は、好ましくは複合型及び遊離型のアンジオポエチン-2の量の合計である。
【0145】
バイオマーカーの量の決定
本明細書で言及されるバイオマーカー(1つ以上のBMP10型ペプチド又はナトリウム利尿ペプチド等)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化、例えば、本明細書の他の場所に記載されている適切な検出方法を使用して、試料中のバイオマーカーのレベルを測定することを指す。「測定する」及び「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0146】
一実施形態では、バイオマーカーの量の決定は、試料をバイオマーカーに特異的に結合する作用物質(本発明の抗体等)と接触させ、それによって作用物質と当該バイオマーカーとの間に複合体を形成すること、形成された複合体の量を検出すること、それによって当該バイオマーカーの量を決定することを含む。判定は、試料を第2の作用物質と接触させる等の工程を更に含み得る。
【0147】
本明細書で言及されるバイオマーカー(1つ以上のBMP10型ペプチド等)は、当該技術分野で一般的に知られている方法を使用して検出することができる。検出方法は概して、試料中のバイオマーカーの量を定量する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のいずれがバイオマーカーの定性的及び/又は定量的検出に適しているかは、当業者に概して公知である。試料は、例えば、ウエスタン法並びにELISA、RIA、蛍光及び発光に基づく免疫学的検定法のような免疫学的検定法、並びに市販されている近接伸長法を使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するための更に適切な方法は、ペプチド又はポリペプチドに特異的な物理的又は化学的特性、例えば、その正確な分子量又はNMRスペクトル等を測定することを含む。当該方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連関した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析機、又はクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化した又はロボットによる免疫学的検定(Elecsys(商標)分析装置で利用可能)、CBA(酵素によるCobalt Binding Assay、例えば、Roche-Hitachi(商標)分析装置で利用可能)、及びラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)分析装置で利用可能)が含まれる。
【0148】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広いイムノアッセイ技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号、第4,424,279号、及び第4,018,653号を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位及び2部位又は「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイはまた、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0149】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。このような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、該金属錯体は、励起状態から基底状態へ緩和して、電気化学発光を放出する。総説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照されたい。
【0150】
一実施形態では、バイオマーカーの量を測定するのに使用される抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、ルテニウム化(ruthenylated)又はイリジウム化(iridinylated)されている。そのため、抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態では、当該ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。或いは、抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態では、当該イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号において開示されているような錯体である。
【0151】
1つ以上のBMP10型ペプチドを決定するためのサンドイッチアッセイの一実施形態では、アッセイは、ビオチン化された第1のモノクローナル抗体(又はそのフラグメント)及び1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナル抗体(又はそのフラグメント)を含む。.2種の抗体は、試料中、1つ以上のBMP10型ペプチドとサンドイッチイムノアッセイ複合体を形成する。
【0152】
ポリペプチド(例えば、BMP10型ペプチド又はナトリウム利尿ペプチド)の量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを当該ポリペプチドと特異的に結合する作用物質と接触させる工程、(b)(任意に)結合していない作用物質を除去する工程、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された作用物質の複合体の量を測定する工程、を含み得る。好ましい実施形態によれば、当該接触させる工程、除去する工程及び測定する工程は、分析装置ユニットにより実施してもよい。いくつか実施形態によれば、当該工程は、当該システムの単一の分析装置ユニットによって、又は互いに作動可能な通信状態にある複数の分析装置ユニットによって実施され得る。例えば、具体的な実施形態によれば、本明細書で開示される当該システムは、該接触させる工程及び除去する工程を実施するための第1の分析装置ユニットと、当該測定する工程を実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、当該第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットとを備えていてもよい。
【0153】
バイオマーカーを特異的に結合する作用物質(本明細書では「結合剤」ともいう)は、結合した作用物質の検出及び測定を可能にする標識に、共有結合又は非共有結合していてもよい。標識化は、直接又は間接の方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合又は非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合又は非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。当該第2の結合剤は、適切な標識と結合することができ、及び/又は第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)であってよい。適切な二次的な及びより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含むことができる。結合剤又は基質はまた、当該技術分野で公知の1つ以上のタグで「タグ付けされ」ていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性及び超常磁性標識を含む)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に適した基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnostics製の既成の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組合せにより、着色された反応産物、蛍光又は化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法によって(例えば感光フィルム又は適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を測定することに関しては、上述の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。更なる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。放射性標識は、公知かつ適切な、例えば感光膜又はホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出され得る。
【0154】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り決定され得る:(a)本明細書の別の箇所で説明されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固形支持体を、ペプチド又はポリペプチドを含む試料と接触させること、及び(b)支持体に結合したペプチド又はポリペプチドの量を測定すること。支持体を製造するための材料は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェル及び壁、プラスチックチューブ等が挙げられる。
【0155】
更なる一態様では、結合剤と少なくとも1つのマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定に先立って、試料が除去される。そのため、一態様では、結合剤は固形支持体上に固定されていてもよい。更なる態様では、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上で形成された複合体から試料が除去され得る。
【0156】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかのバリエーションを包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されているか、又は固体基質上に固定化することができ、そして検査される試料を、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体の形成を可能にするのに十分な時間の、適切なインキュベート時間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識した第2の(検出)結合剤を添加し、結合剤-バイオマーカーで標識した結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を許容してインキュベートする。いかなる未反応の物質も洗い流すことができ、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察によって決定される。その結果は、可視シグナルの単純な観察によって定性的であってもよいか、又は既知量のバイオマーカーを含有する対照試料との比較によって定量されてもよいかのいずれかである。
【0157】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤及びバイオマーカーが共インキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析される試料及び標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析される試料及び標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、又は固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0158】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、試料中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性及び/又は感度が、試料中に含まれる、特異的に結合することができる少なくとも1つのマーカーの比率の程度を規定することは理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、試料中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0159】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「分析対象特異結合剤」、「検出剤」及び「バイオマーカーに特異的に結合する作用物質」という用語は、本明細書では相互互換可能に使用される。好ましくは、該用語は、相当するバイオマーカーを特異的に結合する結合部分を含む作用物質に関する。「結合剤」、「検出剤」、「作用物質」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)又は化合物である。好ましい作用物質は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書の「抗体」という用語は、最も広い意味で使用されており、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を呈する限りの抗体フラグメントフラグメント(すなわち、その抗原結合フラグメント)を含むが、これらに限定されない、さまざまな抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(又は、それに由来する抗原結合フラグメント)である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体(又はその抗原結合フラグメント)であり、したがって、本明細書の他の箇所で説明するように、(サンドイッチ免疫学的検定において)1つ以上のBMP10型ペプチドの異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、BMP10型ペプチドの量を決定するために少なくとも1つの抗体が使用される。
【0160】
一実施形態では、少なくとも1つの抗体は、マウスモノクローナル抗体である。別の実施形態では、少なくとも1つの抗体は、ウサギモノクローナル抗体である。更なる実施形態では、該抗体は、ヤギポリクローナル抗体である。更に他の実施形態では、本抗体は、ヒツジポリクローナル抗体である。
【0161】
いくつかの実施形態では、BMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの抗体又はそのフラグメントは、(「本発明の抗体」という標題の)次の節に記載される少なくとも1つの抗体又はそのフラグメントである。
【0162】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、1つ以上のBMP10型ペプチド又はナトリウム利尿ペプチド)の絶対量、当該バイオマーカーの相対量又は濃度とならんで、それらと相関する又はそれらから導き出され得る任意の値又はパラメータを包含する。このような値又はパラメータは、直接的な測定により当該ペプチドから得られる、全ての具体的な物理的又は化学的特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値又はパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチド又は強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量が包含される。上述の量又はパラメータに相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得られるということを理解されたい。
【0163】
本明細書で使用される場合、「比較する」という用語は、対象からの試料中のバイオマーカー(1つ以上のBMP10型ペプチド、及びNT-proBNP又はBNP等のナトリウム利尿ペプチド等)の量を、本明細書の別の箇所で明示されるバイオマーカーの基準量と比較することを指す。比較する、は本明細書で使用される場合、通常、対応するパラメータ又は値の比較を指すということを理解すべきであり、例えば、絶対量は絶対基準量と比較され、濃度は参照濃度と比較され、試料中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは第1の試料から得られる同じタイプの強度シグナルと比較される。比較は、手作業又はコンピュータを利用して実施され得る。したがって、比較は、コンピューティングデバイスによって実施することができる。対象からの試料中のバイオマーカーの決定量又は検出量、及び基準量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。当該評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評定を提供する。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果を更に評価してもよく、すなわち、適切な出力形式で所望の評定を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果を更に評価してもよく、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評定を自動的に提供してもよい。
【0164】
本発明によれば、1つ以上のBMP10型ペプチドの量、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド等)の量を参照と比較するものとする。基準は、好ましくは基準量である。「基準量」という用語は、当業者によって十分に理解されている。基準量は、本明細書で説明する心房細動の評定を可能にするものとすることは理解されたい。例えば、心房細動を診断するための方法に関連して、基準量は、好ましくは、(i)心房細動に罹患している対象の群、又は(ii)心房細動に罹患していない対象の群、のいずれかに、対象を割り当てることができる量を指す。好適な基準量は、検査試料とともに、すなわち同時に又は続いて分析される第1の試料から決定されてもよい。
【0165】
1つ以上のBMP10型ペプチドの量は、1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較されるが、少なくとも1つの更なるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド等)の量は、当該少なくとも1つの更なるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド等)の基準量と比較されることが理解されるべきである。2つ以上のマーカーの量が決定される場合、2つ以上のマーカーの量(1つ以上のBMP10型ペプチドの量及びナトリウム利尿ペプチドの量等)に基づいて合計スコアを計算することも想定される。次の工程では、このスコアが基準スコアと比較される。
【0166】
基準量は、原則として、統計学の標準的な方法を適用することによって、所定のバイオマーカーの平均又は平均値に基づいて、先に指定したような対象のコホートについて算出することができる。特に、イベントの診断を目的とする方法等の検査が正確であるか否かは、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感度対特異性の対のプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象をある特定の予後又は診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重なりを示す。y軸は、感度、又は真陽性率であり、真陽性の検査結果の数及び偽陰性の検査結果の数の積に対する、真陽性の検査結果の数の比率として定義される。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、又は1-特異性であり、これは、真陰性の数及び偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率及び偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるので、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率に非依存性である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感度/1-特異性の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、又は100%(完全な感度)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、検査の全体的な精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導くことができ、これにより、感度及び特異性の適切な平衡状態をそれぞれ備えた所与の事象についての診断が可能になる。そのため、本発明の方法に使用される基準、すなわち心房細動を評定することを可能にする閾値は、好ましくは、上述のように当該コホートのROCを確立することと、そこから閾値量を導くこととによって、生成することができる。診断方法についての所望の感度及び特異性に応じて、ROCプロットは、適切な閾値を導くことができる。最適な感度は、例えば、心房細動に罹患していることから対象を除外する(すなわちルールアウト)ために望ましいのに対し、至適感度が、心房細動に罹患していると評定される対象について想定されることは理解される。一実施形態では、本発明の方法は、対象が、心房細動及び/又は脳卒中の発生又は再発等、心房細動と関係する有害事象のリスクがあるという予測を可能にする。
【0167】
好ましい実施形態では、本明細書の「基準量」という用語は、所定の値を指す。当該所定の値は、心房細動を評定すること、したがって心房細動を診断すること、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別すること、心房細動と関係する有害事象のリスクを予測すること、心電図検査(ECG)に供されるものとする対象を識別すること、又は心房細動のための治療法の評定を可能にするものとする。基準量は、評定の種類に基づいて異なることがあることは理解されたい。例えば、AFを区別するための1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量は、通常、AFの診断用の基準量よりも高くなるであろう。しかしながら、これは当業者により考慮される。
【0168】
先に明らかにしたように、「心房細動を評定すること」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動と関係する有害事象のリスクの予測、心電図検査(ECG)に供されるものとする対象の識別、又は心房細動のための治療法の評定を指す。以下では、本発明の方法のこれらの実施形態をより詳細に説明する。先の定義は適宜、適用される。
【0169】
心房細動を診断するための方法
本明細書で使用される場合、「診断する」という用語は、本発明の方法に従って言及される対象が心房細動(AF)に罹患しているか否かを評定することを意味する。好ましい実施形態では、対象が発作性AFに罹患していると診断される。代替の実施形態では、対象がAFに罹患していないと診断される。
【0170】
本発明に従って、全ての種類のAFを診断することができる。したがって、心房細動は発作性、持続性、又は永続性のAFであってよい。好ましくは、発作性又は持続性心房細動は、特に永続性心房細動に罹患していない対象において診断される。
【0171】
対象がAFに罹患しているかどうかの実際の診断は、診断の確認(例えば、ホルターECG等のECGによる)等の更なる工程を含み得る。したがって、本発明は、患者が心房細動に罹患している尤度を評定することを可能にする。基準量を超える1つ以上のBMP10型ペプチドの量を有する対象は、心房細動罹患の可能性が高いが、基準量を下回る1つ以上のBMP10型ペプチドの量を有する対象は、心房細動罹患の可能性が低い。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、対象が心房細動に罹患しているか否かを評定するために医師を支援することも包含する。
【0172】
好ましくは、基準量(複数の場合がある)と比較して増加した検査対象からの試料中のある量の1つ以上のBMP10型ペプチド(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1つの更なるバイオマーカー)は(複数の場合がある)心房細動に罹患している対象を示し、及び/又は基準量(複数の場合がある)と比較して減少している対象からの試料中のある量の1つ以上のBMP10型ペプチド(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1つの更なるバイオマーカー)は、心房細動に罹患していない対象を示している。
【0173】
好ましい実施形態では、基準量、すなわち基準量の1つ以上のBMP10型ペプチド、及び決定される場合には、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量は、心房細動に罹患している対象と心房細動に罹患していない対象とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0174】
一実施形態では、本発明は、心房細動に罹患している対象の診断を可能にする。好ましくは、1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等の少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量)が基準量を上回る場合、対象はAFに罹患している。一実施形態では、1つ以上のBMP10型ペプチドの量が基準量の特定のパーセンタイル(例えば、99パーセンタイル)の参照上限(URL)を超える場合、対象はAFに罹患している。
【0175】
心房細動を診断する方法の一実施形態では、当該方法は、診断の結果に基づいて心房細動の治療法を推奨及び/又は開始する工程を更に含む。好ましくは、対象がAFに罹患していると診断された場合、治療法が推奨又は開始される。心房細動の好ましい治療法は、本明細書の他の場所に開示されている(抗凝固療法等)。
【0176】
発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するための方法
本明細書で使用される場合、「区別すること」という用語は、対象における発作性心房細動と持続性心房細動とを差別することを意味する。本明細書で使用される用語は、好ましくは、対象における発作性心房細動及び持続性心房細動を区別して診断することを含む。したがって、本発明の方法は、心房細動に罹患している対象が発作性心房細動に罹患しているか又は持続性心房細動に罹患しているかを評定することを可能にする。実際の区別は、区別の確認等の更なる工程を含んでもよい。したがって、本発明の文脈における「区別」という用語は、発作性心房細動と持続性AFとを区別するために医師を支援することも包含する。
【0177】
好ましくは、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等の少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量)が、1つ以上の基準量と比較して増加していることは、持続性心房細動に罹患している対象の指標であり、及び/又は1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等の少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量)が、1つ以上の基準量と比較して減少していることは、発作性心房細動に罹患している対象の指標である。両方のAFタイプ(発作性及び持続性)で、BMP10型ペプチドの量は非AF対象の基準量と比較して増加している。
【0178】
好ましい実施形態では、基準量(複数可)は、発作性心房細動に罹患している対象と持続性心房細動に罹患している対象とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0179】
発作性心房細動と持続性心房細動を区別する上記方法の一実施形態では、対象は永続性心房細動に罹患していない。
【0180】
心房細動と関係する有害事象のリスクリスクを予測するための方法
本発明の方法はまた、有害事象のリスクを予測するための方法を企図している。
【0181】
一実施形態では、本明細書で明らかにされた有害事象のリスクは、心房細動と関係するいずれかの有害事象の予測であることができる。好ましくは、当該有害事象は、心房細動の再発(心臓除細動後の心房細動の再発等)及び脳卒中から選択される。適宜、(心房細動に罹患している)対象が将来、有害事象(脳卒中又は心房細動の再発等)に罹患するリスクが予測されるものとする。
【0182】
さらに、心房細動と関係する当該有害事象が、心房細動の既往歴を有していない対象における心房細動の発生であることが想定されている。
【0183】
特に好ましい実施形態では、脳卒中のリスクが予測される。
【0184】
したがって、本発明の対象の脳卒中のリスクを予測するための方法であって、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を基準量と比較し、それにより脳卒中のリスクを予測する工程、を含む方法。
【0185】
特に、本発明は、対象の脳卒中のリスクを予測するための方法であって、
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
(b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量をBMP10型ペプチドの基準量と比較し、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較し、それによって脳卒中のリスクが予測される工程、を含む、方法に関する。
【0186】
さらに、対象が電気的除細動後に心房細動を再発するリスクが予測され、例えば、肺静脈隔離又はアブレーション療法後の心房細動の再発リスクが予測されることが想定される。したがって、本明細書に記載のバイオマーカーは、肺静脈隔離及びアブレーション療法等の治療的介入後の心房細動再発の予測因子として使用される。そのような手技における治療成功率は、アブレーション戦略及び患者特性に依存し、持続性AFについては50%~60%と報告されている(J Am Heart Assoc.2013;2:e004549)。この実施形態では、対象は、治療的介入の前に分析されるべきであり、すなわち、検査される対象は、検査時、すなわち試料が得られたときにAFの発作に罹患していることが想定される。この実施形態によれば、バイオマーカー(複数可)の量は、(計画された)介入前、好ましくは計画された介入の1ヶ月前、より好ましくは(計画された)介入の1週間前、最も好ましくは(計画された)介入の1日前に得られた試料において決定されるものとする。したがって、バイオマーカーによるAF再発リスクの予測は、治療前に可能である。本発明の方法によれば、本明細書で言及されるバイオマーカーの上昇は、治療的介入後の再発性AFibについて高リスクを有する対象を低リスクから層別化するのに役立つはずである。検出又は予測されたリスクに応じて、成功の確率が低い一部の患者は、PVI又はアブレーション後のAF再発の予測因子として手技の前に測定された血液バイオマーカーに応じて、成功の確率が高い患者とは異なるように処置され得る。
【0187】
好ましくは、本明細書で使用される場合、「リスクを予測すること」という用語は、対象が本明細書でいう有害事象に罹患することになる尤度を評定することを指す。通常は、対象が当該有害事象に罹患するリスクがある(また、それ故にリスクが高い)か、リスクがない(また、それ故にリスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法は、リスクのある対象と、当該有害事象に罹患するリスクのない対象とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、リスクが低減した、平均の、及び上昇した対象を区別することを可能にすることが想定されている。
【0188】
先に明らかにされたように、ある特定の時間枠内に当該有害事象に罹患するリスク(及び尤度)が予測されるものとする。本発明の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、約3カ月、約6カ月、又は特に約1年の期間である。したがって、短期的なリスクが予測される。
【0189】
別の好ましい一実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である(例えば、脳卒中の予測のため)。さらに、予測ウィンドウは、約6年の期間であることがある(例えば、脳卒中の予測のため)。あるいは、予測ウィンドウは約10年であってもよい。また、予測ウィンドウは、1~3年の期間であることが想定される。したがって、1~3年以内に脳卒中に罹患するリスクが予測される。また、予測ウィンドウは、1~10年の期間であることが想定されている。したがって、1~10年以内に脳卒中に罹患するリスクが予測される。
【0190】
好ましくは、当該予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、当該予測ウィンドウは、検査される試料が採取された時点から計算される。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図していない。ただし、この用語では、統計的に有意な対象の部分を適切かつ正確に予測できる必要がある。部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等の様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者が更に苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0191】
好ましい実施形態では、「当該有害事象に罹患するリスクを予測すること」という表現は、本発明の方法によって分析される対象が、当該有害事象に罹患するリスクがある対象の群、又は当該有害事象(脳卒中等)に罹患するリスクがない対象の群のいずれかに割り当てられることを意味する。したがって、対象が当該有害事象に罹患するリスクがあるかないかが予測される。本明細書で使用される場合、「当該有害事象に罹患するリスクがある対象」は好ましくは、(好ましくは予測ウィンドウ内の)当該有害事象に罹患するリスクが上昇している。好ましくは、当該リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「当該有害事象に罹患するリスクがない対象」は好ましくは、(好ましくは予測ウィンドウ内の)当該有害事象に罹患するリスクが低減している。好ましくは、当該リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。当該有害事象に罹患するリスクがある対象は好ましくは、約1年の予測ウィンドウ内で、好ましくは少なくとも20%、又はより好ましくは少なくとも30%の心房細動の再発又は発生等の当該有害事象に罹患するリスクを有する。当該有害事象に罹患するリスクがない対象は好ましくは、1年の予測ウィンドウ内で、当該有害事象に罹患する好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満のリスクを有する。
【0192】
脳卒中の予測に関して、当該有害事象に罹患するリスクがある対象は好ましくは、約5年の、又は特に6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは少なくとも10%又はより好ましくは少なくとも13%の当該有害事象に罹患するリスクを有する。当該有害事象に罹患するリスクがない対象は好ましくは、約5年の、特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは当該有害事象に罹患する10%未満、より好ましくは8%未満、又は最も好ましくは5%未満のリスクを有する。対象が抗凝固療法を受けていない場合、リスクがより高いことがある。これは当業者により考慮される。
【0193】
好ましくは、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等の少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量)の、1つ以上の基準量と比較した増加は、心房細動に関連する有害事象のリスクがある対象の指標であり、及び/又は対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等の少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量)の、1つ以上の基準量と比較した減少は、心房細動に関連する有害事象のリスクがない対象の指標である。
【0194】
好ましい実施形態では、基準量(又は複数の基準量)は、本明細書でいう有害事象のリスクがある対象と、当該有害事象のリスクがない対象との間の区別を可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0195】
予測される有害事象は、好ましくは脳卒中である。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、該用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳又はその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目又は両目の突然の見えづらさ、突然の歩行困難、めまい、バランス又は調整の喪失等が挙げられる。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症又は塞栓症によって、凝固障害又は非アテローム性血管疾患によって、又は全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。上記虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中及び小窩性卒中からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、予測される脳卒中は、急性虚血性脳卒中、特に心塞栓性脳卒中である。心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性又は血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。
【0196】
好ましくは、当該脳卒中は心房細動と関係しているものとする。より好ましくは、脳卒中は心房細動によって引き起こされるものとする。しかしながら、対象が心房細動の病歴を持たないことも想定される。
【0197】
好ましくは、脳卒中と心房細動の発作との間に時間的な関連性がある場合、脳卒中は心房細動と関係している。より好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされる場合、脳卒中は心房細動と関係している。最も好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされる可能性がある場合、脳卒中は心房細動と関係している。例えば、心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性脳卒中又は血栓塞栓性脳卒中ともいう)は、心房細動によって引き起こされる可能性がある。好ましくは、AFに関連する脳卒中は、経口抗凝固によって予防することができる。また好ましくは、検査される対象が心房細動に罹患している、及び/又はその既往歴を有する場合、脳卒中は心房細動と関係していると見なされる。また、一実施形態では、対象が心房細動に罹患していると疑われる場合、脳卒中は心房細動と関係していると見なすことができる。
【0198】
「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。
【0199】
有害事象(脳卒中等)を予測する上述の方法の好ましい一実施形態では、検査される対象は、心房細動に罹患している。より好ましくは、対象は、心房細動の既往歴を有する。有害事象を予測するための方法に従って、対象は好ましくは、永続性心房細動に、より好ましくは持続性心房細動に、及び最も好ましくは発作性心房細動に罹患している。
【0200】
有害事象を予測する方法の一実施形態では、心房細動に罹患している対象は、試料が入手されたとき、心房細動の発作を経験している。有害事象を予測する方法の別の実施形態では、心房細動に罹患している対象は、試料が入手されたときに心房細動の発作を経験していない(したがって、正常な洞調律を有するものとする)。さらに、リスクが予測される対象は、抗凝固療法中であることがある。
【0201】
有害事象を予測する方法の別の実施形態では、検査される対象は、心房細動の既往歴を有していない。特に、対象は心房細動に罹患していないことが想定されている。
【0202】
本発明の方法は、個別化医療を支援することができる。好ましい一実施形態では、対象の脳卒中のリスクを予測するための方法は、上記対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定された場合にi)、抗凝固療法を推奨する工程又はii)抗凝固療法の強化を推奨する工程を更に含む。好ましい一実施形態では、対象の脳卒中のリスクを予測するための方法は、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定された場合、i)抗凝固療法を開始する工程、又はii)抗凝固療法を強化する工程を更に含む。
【0203】
検査対象が抗凝固療法を受けている場合、及び(本発明の方法によって)対象が脳卒中に罹患するリスクがないと識別された場合、抗凝固療法の投与量を減らすことができる。したがって、投与量を減らすことが推奨される場合がある。投与量を減らすことで、副作用(出血等)に罹患するリスクが減る可能性がある。
【0204】
本明細書で使用される場合、「推奨する」という用語は、対象に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療法を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療法は、本発明の方法によって提供される結果に依存する。
【0205】
特に、以下が適用される:
検査される対象が抗凝固療法を受けていない場合、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法を開始するものとする。
【0206】
検査される対象がすでに抗凝固療法を受けている場合、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法を強化するものとする。
【0207】
好ましい一実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている凝固剤の投与量を増やすことにより強化される。
【0208】
特に好ましい一実施形態では、現在投与されている抗凝固剤のより効果的な抗凝固剤への置き換えを増やすことにより、抗凝固療法が強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0209】
Hijazi at al.,The Lancet 2016 387,2302-2311(
図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0210】
したがって、検査される対象は、ワルファリン又はジクマロール等のビタミンK拮抗薬で処置される対象であることが想定される。対象が脳卒中に罹患するリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬を経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバン又はアピキサバンによる置き換えが推奨される。したがって、ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療が開始される。
【0211】
心電図検査(ECG)に供されるものとする対象を識別するための方法
本発明の方法のこの実施形態に従って、バイオマーカーで検査される対象が心電図検査(ECG)、すなわち心電図検査評定に供されるものとするかどうかが評定されるものとする。当該評定は、当該対象において、診断のために、すなわち、AFの存在又は非存在を検出するために実施されるものとする。
【0212】
本明細書で使用される場合、「対象を識別する」という用語は、好ましくは、対象を識別するために、ECGを受ける対象の試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量)に関して生成された情報又はデータを使用することを指す。識別された対象は、AFに罹患している尤度が上昇している。ECGの評定は確認として行われる。
【0213】
心電図検査(ECGと略記する)は、適切なECGによって心臓の電気的活動を記録するプロセスである。ECG装置は、心臓によって生成され、体全体から皮膚に広がる電気信号を記録する。記録は、検査対象の皮膚をECG装置によって備えられている電極と接触させることによって達成された電気信号のものである。記録を入手するプロセスは、非侵襲的でありかつリスクがない。ECGは、心房細動の診断のために、すなわち、検査対象における心房細動の存在又は非存在の評定のために行われる。本発明の方法の実施形態では、ECG装置は、リードが1本の装置(リードが1本の携帯式ECG装置等)である。別の好ましい実施形態では、ECGデバイスは、ホルターモニター等の12誘導ECGデバイスである。
【0214】
好ましくは、基準量(複数の基準量)と比較して増加した検査対象からの試料中のある量の1つ以上のBMP10型ペプチド(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1つの更なるバイオマーカー)は(複数可)ECGを受ける対象を示し、及び/又は基準量(複数可)と比較して減少している対象からの試料中のある量の1つ以上のBMP10型ペプチド(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1つの更なるバイオマーカー)は、ECGを受けない対象を示している。
【0215】
好ましい実施形態では、基準量は、ECGに供されるものとする対象と、ECGに供されないものとする対象とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0216】
前述の方法の一実施形態では、該方法は、特に、検査対象に由来する試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量(及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカー、例えば、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチドの量)が基準量(又は複数の基準量)と比較して増加している場合に、心電図検査を受ける対象を同定すること、及び同定された対象を心電図検査に供することを含む。
【0217】
心房細動のための治療法の評定のための方法
本明細書で使用される場合、「心房細動のための治療法を評定すること」という用語は、好ましくは、心房細動を処置することを目的とする治療法の評定を指す。特に、治療法の有効性を評定するものとする。
【0218】
評定される治療法は、心房細動を処置することを目的とする任意の治療法であり得る。好ましくは、当該治療法は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与、調律制御、速度制御、心臓除細動及び切除からなる群から選択される。当該治療法は当該技術分野でよく知られており、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるFuster V et al.Circulation 2011;123:e269-e367において概説されている。
【0219】
一実施形態では、治療法は、少なくとも1つの抗凝固剤の投与、すなわち抗凝固療法である。抗凝固療法は、好ましくは、当該対象における抗凝固のリスクを低減することを目的とする治療法である。少なくとも1つの抗凝固剤を投与することは、血液の凝固及び関連する脳卒中を抑制又は防止することを目的とする。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリン又はジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバン又はアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、及びトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。したがって、対象は上記の少なくともいずれか1つの医薬を服用することが想定される。
【0220】
好ましい実施形態では、上記抗凝固剤は、ワルファリン又はジクマロール等のビタミンK拮抗薬である。ワルファリン又はジクマロール等のビタミンK拮抗薬は、安価であるが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い処置が多いため、患者のコンプライアンスを改善する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)及びPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0221】
別の好ましい実施形態では、抗凝固剤及び経口抗凝固剤、特にアピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ボラパクサル、又はアトパキサール。
【0222】
したがって、検査される対象は、検査時(すなわち、試料を受け取る時)に、経口抗凝固剤又はビタミンK拮抗薬による治療を受けている可能性がある。
【0223】
好ましい実施形態では、心房細動のための治療法の評定は、当該治療法の監視である。この実施形態では、基準量は、好ましくは、以前に得られた試料(すなわち、工程aの検査試料の前に得られた試料)における1つ以上のBMP10型ペプチドの量である。
【0224】
任意に、本明細書でいう少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量は、1つ以上のBMP10型ペプチドの量に加えて決定される。
【0225】
したがって、本発明は、対象における心房細動のための治療法を監視するための方法に関し、当該対象は好ましくは心房細動に罹患しており、当該方法は、
(a)対象からの第1の試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)対象からの第2の試料において、1つ以上のBMP10型ペプチドの量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程であって、当該第2の試料が当該第1の試料の後に得られる工程、並びに
(c)第1の試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を当該第2の試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量と比較する工程、及び任意に、第1の試料中の当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を、当該第2の試料中の当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量と比較し、それにより抗凝固療法を監視する工程、を含む。
【0226】
本明細書で使用される場合、「監視」という用語は、好ましくは、本明細書の他の箇所でいうところの治療法の効果を評定することに関する。したがって、治療法(抗凝固療法等)の有効性が監視される。
【0227】
上述の方法は、工程c)において実施した比較工程の結果に基づいて治療法を監視する更なる工程を含んでもよい。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図していない。ただし、この用語では、統計的に有意な対象の部分を適切かつ正確に予測できる必要がある。したがって、実際の監視は、確認等の更なる工程を含んでもよい。
【0228】
好ましくは、本発明の方法を実施することによって、対象が当該治療法に応答するかどうかを評定することができる。対象の容態が第1の試料を入手することと第2の試料を入手することの間に症状が改善する場合、対象は治療法に反応している。好ましくは、容態が、第1の試料を入手することと第2の試料を入手することとの間に症状が悪化した場合、対象は治療法に応答していない。
【0229】
好ましくは、第1の試料は、当該治療法の開始前に得られる。より好ましくは、試料は、当該治療法の開始に先立って1週間以内に、特に2週間以内に入手される。しかしながら、第1の試料は、当該治療法の開始後(ただし、第2の試料が取得される前)に取得され得ることもまた企図される。この場合、進行中の治療法は監視される。
【0230】
したがって、第2の試料を第1の試料の後に取得するものとする。第2の試料は、当該治療法の開始後に得られるものであることを理解されたい。
【0231】
さらに、第2の試料は、第1の試料を取得した後、妥当な期間の後に取得されることが特に企図される。本明細書で言及されるバイオマーカーの量は、即座に(例えば、1分又は1時間以内)変化しないことを理解されたい。したがって、この文脈における「妥当な」は、バイオマーカー(複数可)を調整することを可能にする間隔である第1及び第2の試料を取得する間隔を指す。したがって、第2の試料を、好ましくは、当該第1の試料の少なくとも1ヶ月後、少なくとも3ヶ月、又は特に、当該第1の試料の少なくとも6ヶ月後に得る。
【0232】
第1の試料中のバイオマーカー(複数可)の量(複数可)と比較した、第2の試料中のバイオマーカー(複数可)、すなわち1つ以上のBMP10型ペプチド、及び任意に、ナトリウム利尿ペプチドの量(複数可)の、好ましくは減少、より好ましくは有意な減少、最も好ましくは統計的に有意な減少は、治療法に反応する対象の指標である。したがって、治療法は効率的である。また、好ましくは第2の試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの濃度の無変化、又はバイオマーカー(複数可)の量(複数可)の、第1の試料中のバイオマーカー(複数可)の量(複数可)と比較した増加、より好ましくは有意な増加、最も好ましくは統計的に有意な増加は、治療法に反応しない対象の指標である。したがって、治療法は効率的ではない。
【0233】
「有意な」及び「統計的に有意な」という用語は、当業者に公知である。したがって、増加又は減少が有意であるか統計的に有意であるかは、さまざまな周知の統計評価ツールを使用して当業者によってすぐさま決定することができる。例えば、有意な増加又は減少とは、少なくとも10%の、特に少なくとも20%の増加又は減少である。
【0234】
治療法が心房細動の再発のリスクを低減する場合、対象は治療法に応答すると見なされる。治療法が心房細動の再発の対象のリスクを低減しない場合、対象は治療法に応答していないものと見なされる。
【0235】
一実施形態では、対象が治療法に応答していない場合、治療法の強度は上昇している。その上、対象が治療法に応答している場合、治療法の強度が低下していることが想定されている。例えば、治療法の強度は、投与される医薬の投与量を増加させることによって上昇させることができる。例えば、治療法の強度は、投与される医薬の投与量を減少させることによって低下させることができる。これにより、出血等の望ましくない有害な副作用を回避できる可能性がある。
【0236】
別の好ましい実施形態では、心房細動のための治療法の評定は、心房細動のための治療法の誘導案内となる。本明細書で使用される場合、「ガイダンス」という用語は、好ましくは、治療中のバイオマーカー、すなわちBMP10型ペプチドの決定に基づく、経口抗凝固剤の用量の増加又は減少等、治療の強度を調整することに関する。
【0237】
更に好ましい実施形態では、心房細動についての治療法の評定は、心房細動についての治療法の層別化である。したがって、心房細動のためのある特定の治療法に対して適格である対象が識別されるものとする。本明細書で使用される場合、「層別化」という用語は、好ましくは、所与の又は特定のリスク、識別された分子経路、及び/又は特定の薬物若しくは手技の予想される有効性に基づいて適切な治療法を選択することに関する。検出された又は予測されたリスクに応じて、特に不整脈に関連する症状が最小限又はまったくない患者は、心拍数のコントロール、心臓除細動又はアブレーションに適格となり、そうでなければ抗血栓療法のみを受ける。検出又は予測されたリスクに応じて、成功の確率が低い一部の患者は、PVI又はアブレーション後のAF再発の予測因子として手技前に測定された血液バイオマーカーに応じて、成功の確率が高い患者とは異なるように処置され得る。
【0238】
本明細書での上記の定義及び説明は、(特に明記されていない限り)以下の本発明の方法について準用する。例えば、「対象」、「試料」、「決定(決定すること)」という用語は上記で定義されている。さらに、決定は、好ましくは、試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む。
【0239】
興味深いことに、BMP10型ペプチドは、心房細動患者等の患者における認知症及び認知機能障害の原因としての脳血管損傷のリスク、存在及び/又は重症度を推定するために使用できることが、本発明の基礎となる研究において示された。具体的には、バイオマーカーは患者の白質病変(WML)の存在と相関することが示された。バイオマーカーの量が多いほど、白質病変の程度が高くなる(逆もまた同様)。したがって、白質病変の程度を評定するためのマーカーとして使用することができる。
【0240】
さらに、本発明は、対象における白質病変の程度を評定するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された量に基づいて対象における白質病変の程度を評定する工程、を含む。
【0241】
「白質病変」という用語は、当該技術分野で周知である。白質とは、主に有髄軸索で構成される中枢神経系(CNS)の領域を指す。白質病変(「白質疾患」とも呼ばれる)は、一般に、老化個体の脳MRIで白質過強度(WMH)又は「白質萎縮症」として検出される。WMHの存在及び程度は、小脳血管疾患のX線マーカーであり、脳卒中、認知障害及び機能障害の生涯リスクの重要な予測因子であることが記載されている(Chutinet A,Rost NS.White matter disease as a biomarker for long-term cerebrovascular disease and dementia.Curr Treat Options Cardiovasc Med.2014;16(3):292.doi:10.1007/s11936-013-0292-z)。RETの決定は、WMLの程度、すなわちWMLの負担を評定することを可能にする。したがって、バイオマーカーは、対象におけるWMLの定量化を可能にする、すなわち、機能的脳組織の体積の喪失のマーカーである。
【0242】
白質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアは0~3の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、3は重度WMLを示す。
【0243】
WMLの程度は、臨床上の無症候性脳卒中によって引き起こされ得る。したがって、バイオマーカーRETは、対象が過去に、すなわち試料が得られる前に1回以上の無症候性脳卒中経験したかどうかの評定評試料を支援するために更に使用することができる。
【0244】
無症候性脳卒中(Silent strokes)、すなわち 無症候性脳卒中(silent cerebral strokes)は、当該技術分野で知られており、例えば、Conen et al.(Conen et al.,J Am Coll Cardiol 2019;73:989-99)に記載され、その開示内容全体に関して参照により本明細書に組み込まれる。無症候性脳卒中は、脳卒中又は一過性虚血発作の臨床病歴のない患者における臨床的に無症候性の脳卒中である。したがって、検査される対象は、脳卒中及び/又はTIA(一過性虚血発作)の既往歴を有さないものとする。
【0245】
さらに、本発明は、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評定するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)工程a)で決定された量を基準と比較する工程、及び
c)対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評定する工程、を含む。
【0246】
好ましくは、診断アルゴリズムとして以下が適用される。基準よりも大きいバイオマーカーの量は、1回以上の無症候性脳卒中を経験した対象を示し、及び/又は基準よりも低い量は、無症候性脳卒中を経験していない対象を示す。
【0247】
したがって、本発明は、対象の脳血管性認知症及び/又はアルツハイマー病等の認知症を予測するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、
b)工程a)で決定された量を基準と比較する工程、及び
c)当該対象における認知症のリスクを予測する工程、を含む。
【0248】
本明細書で使用される場合、「認知症を予測する」という用語は、好ましくは、対象が認知症に罹患する確率を評定することを指す。通常は、対象が認知症を罹患するリスクがある(また、それ故にリスクが高い)か、リスクがない(また、それ故にリスクが低い)かどうかが予測される。
【0249】
一実施形態では、予測ウィンドウは1~3年の期間である。したがって、1~3年以内に認知症に罹患するリスクが予測される。好ましい実施形態では、予測ウィンドウは1~10年の期間である。よって、対象が1年~10年以内に認知症に罹患するリスクが予測される。好ましくは、当該予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、当該予測ウィンドウは、検査される試料が採取された時点から計算される。
【0250】
本明細書で使用される場合、「認知症」という用語は、好ましくは、様々な障害によって引き起こされる知覚又は意識の障害を伴わないが、最も一般的には構造的脳疾患に関連する、認知及び知的機能の通常は進行性の喪失として特徴付けることができる症状を指す。認知症の最も一般的なタイプはアルツハイマー病であり、これは症例の50%~70%を占める。他の一般的なタイプとしては、脳血管性認知症(25%)、レビー小体型認知症、及び前頭側頭型認知症が挙げられる。「認知症」という用語は、限定されないが、AIDS認知症、アルツハイマー型認知症、初老性認知症、老人性認知症、緊張性痴呆、レビー小体型認知症(びまん性レビー小体型疾患)、多発梗塞性認知症(脳血管性認知症)、麻痺性認知症、外傷後認知症、早発性痴呆、脳血管性認知症を含む。
【0251】
一実施形態では、認知症という用語は、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び/又は前頭側頭型認知症を指す。したがって、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び/又は前頭側頭型認知症に罹患するリスクが予測される。
【0252】
一実施形態では、「アルツハイマー病」に罹患するリスクが予測される。「アルツハイマー病」という用語は、当該技術分野で周知である。アルツハイマー病は、通常、ゆっくりと始まり、経時的に徐々に悪化する慢性神経変性疾患である。疾患が進行するにつれて、症状には、言語の問題、見当識障害、気分変動、動機の喪失、セルフケアを管理しないこと、及び行動上の問題が含まれ得る。
【0253】
一実施形態では、「血管性認知症」に罹患するリスクが予測される。「血管性認知症」という用語は、好ましくは、脳内の血管損傷又は疾患によって引き起こされる記憶及び他の認知機能の進行性喪失を指す。したがって、この用語は、脳への血液の循環の問題によって引き起こされる認知症の症状を指すものとする。これは、脳卒中後に発生するか、又は経時的に蓄積する可能性がある。
【0254】
認知症のリスクの予測に関連して、診断アルゴリズムは、好ましくは以下の通りである:好ましくは、基準より大きいバイオマーカーの量は、認知症のリスクがある対象を示し、及び/又は基準より低いバイオマーカーの量は、認知症のリスクがない対象を示す。
【0255】
本明細書での上記の定義及び説明は、(特に明記されていない限り)以下の本発明の方法について準用する。例えば、「対象」、「試料」、「決定(決定すること)」という用語は上記で定義されている。さらに、決定は、好ましくは、試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができる少なくとも1つの作用物質と接触させることを含む。
【0256】
本発明は更に、心房細動の評定を支援する方法であって、当該方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料を提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチドの量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
c)1つ以上のBMP10型ペプチドの決定された量に関する情報、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それによって心房細動の評定を支援する工程、を含む。
【0257】
医師は主治医、すなわちバイオマーカー(複数可)の決定を要求した医師とする。上述の方法は、心房細動の評定において主治医を支援するものとする。したがって、この方法は、心房細動を評定する方法に関連して先にいう診断、予測、監視、区別、識別を包含していない。
【0258】
試料を入手する上述の方法の工程a)は、対象からの試料の引抜きを包含していない。好ましくは、試料は、前記対象からの試料を受け取ることによって入手される。したがって、試料は、送達された可能性がある。
【0259】
一実施形態では、上記の方法は、脳卒中の予測を支援する方法であり、当該方法は、
a)心房細動を評定する方法に関連して、特に心房細動を予測する方法に関連して、本明細書で言及される対象からの少なくとも1つの試料を提供する工程、
b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量と、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量とを決定する工程、並びに
c)1つ以上のBMP10型ペプチドの決定された量に関する情報、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供し、それにより脳卒中の予測を支援する工程、を含む。
【0260】
本発明は更に、
a)1つ以上のBMP10型ペプチドに対するアッセイと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーに対する少なくとも1つの更なるアッセイとを提供する工程、並びに
b)心房細動の評定における当該アッセイ(複数可)によって得られた、又は得ることができるアッセイ結果の使用に関する指示を提供する工程、を含む方法に関する。
【0261】
上述の方法の目的は、好ましくは、心房細動の評定を支援することである。
【0262】
この説明書は、本明細書に説明する心房細動を評定する方法を実行するためのプロトコルを含むものとする。さらに、指示は、1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量の少なくとも1つの値、及び任意にナトリウム利尿ペプチドの基準量の少なくとも1つの値を含むものとする。
【0263】
「アッセイ」は、好ましくは、バイオマーカーの量を決定するために適合されたキットである。「キット」という用語については、以下で説明する。例えば、当該キットは、1つ以上のBMP10型ペプチドに対する少なくとも1つの検出剤、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する作用物質、ESM-1に特異的に結合する作用物質、Ang2に特異的に結合する作用物質及びFABP-3に特異的に結合する作用物質からなる群から選択される少なくとも1つの更なる作用物質を備えるものとする。したがって、1~4種の検出剤が存在し得る。1~4種のバイオマーカーの検出剤は、1つのキット又は別々のキットで提供され得る。
【0264】
予測ウィンドウ検査によって入手された又は入手可能な検査結果は、バイオマーカー(複数可)の量についての値である。
【0265】
一実施形態では、工程b)は、(本明細書の他の箇所で説明されるように)脳卒中の予測における当該検査(複数可)によって入手される又は入手可能な検査結果を使用するための説明書を提供することを含む。
【0266】
本発明は更に、心房細動を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットにおいて、1つ以上のBMP 10型ペプチドの量についての値、及び任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量についての少なくとも1つの更なる値を受け取る工程であって、当該1つ以上のBMP10型ペプチドの量及び任意に少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量が対象に由来する試料において決定されている工程、
b)当該処理ユニットによって、工程(a)で受け取った値(複数可)を基準(複数可)と比較する工程、並びに
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評定する工程、を含む、方法に関する。
【0267】
上記の方法は、コンピュータ実装方法である。好ましくは、コンピュータ実装方法の全ての工程は、コンピュータ(又はコンピュータネットワーク)の1つ以上の処理ユニットによって実行される。したがって、工程(c)の評定は、処理ユニットによって実行される。好ましくは、当該評定は、工程(b)の結果に基づく。
【0268】
工程(a)で受け取った値(複数の場合がある)は、本書の他の場所で説明されているように、対象からのバイオマーカーの量の決定から導き出されるものとする。好ましくは、値は、バイオマーカーの濃度の値である。値は通常、値を処理ユニットにアップロード又は送信することによって処理ユニットによって受信される。あるいは、ユーザーインターフェースを介して値を入力することにより、処理ユニットが値を受け取ることができる。
【0269】
前述の方法の一実施形態では、工程(b)に示される基準(複数の場合がある)は、メモリから確立される。好ましくは、基準の値はメモリから確立される。
【0270】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の一実施形態では、工程c)で行われる評定の結果は、結果を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。
【0271】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の一実施形態では、この方法は、工程c)で行われた評定に関する情報を対象の電子医療記録に転送する更なる工程を含み得る。
【0272】
心不全の診断のための方法
さらに、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量の決定は、心不全の診断を可能にすることが本発明の研究において示されている。したがって、本発明はまた、1つ以上のBMP10型ペプチドの量に基づいて(並びに任意に、更にナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、Ang2及び/又はFABP3に基づいて)心不全を診断するための方法を企図する。
【0273】
心房細動の評定に関連して本明細書で上に示される定義は、以下に対して必要な変更を加えて適用される(別段に述べられている場合を除く)。
【0274】
したがって、本発明は更に、対象において心不全を診断するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する工程、及び
b)1つ又はBMP10型ペプチドの量を基準量と比較し、それによって心不全を診断する工程、を含む。
【0275】
心不全を診断するための方法は、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定すること、並びに適切な基準量と比較することを更に含み得る。
【0276】
したがって、心不全を診断するための方法は、
a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
b)1つ以上BMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドについての基準量と比較すること、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーについての基準量と比較することによって、心不全を診断する工程、を含み得る。
【0277】
本明細書で使用される場合、「診断する」という用語は、本発明の方法に従って言及される対象が心不全に罹患しているか否かを評定することを意味する。対象が心不全に罹患しているか否かの実際の診断は、診断の確認等の更なる工程を含むことができる。したがって、心不全の診断は、心不全の診断の支援として理解される。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、対象が心不全に罹患しているか否かを評定するために医師を支援することも包含する。
【0278】
「心不全」(「HF」と略記する)という用語は、当業者に周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、当業者に公知の心不全の明白な兆候を伴う、心臓の収縮期性機能及び/又は拡張期性機能の障害に関する。好ましくは、本明細書でいう心不全はまた、慢性心不全でもある。本発明による心不全は、顕性心不全及び/又は進行性心不全を含む。顕性心不全では、対象は、当業者に公知の心不全の症状を示す。
【0279】
本発明の一実施形態では、「心不全」という用語は、左室駆出率(HFrEF)が低減した心不全を指す。本発明の別の実施形態では、「心不全」という用語は、左室駆出率(HFpEF)が保存された心不全を指す。
【0280】
HFはさまざまな重症度に分類することができる。NYHA(ニューヨーク心臓協会)の分類によると、心不全患者は、NYHAクラスI、II、III、及びIVに属するものとして分類される。心不全に罹患している患者は、心膜、心筋、冠循環、又は心臓弁の構造的及び機能的な変化をすでに経験している。この患者は、健康状態を完全に回復することができないことになっているので、処置を必要としている。NYHAクラスIの患者には、心血管疾患の明らかな症状はないが、機能障害の客観的な証拠がすでにある。NYHAクラスIIの患者は、身体活動のわずかな制限がある。NYHAクラスIIIの患者は、身体活動の著しい制限を示している。NYHAクラスIVの患者は、不快感なしでいかなる身体活動も行うことができない。これらの患者は、安静時に心不全の症状を示す。
【0281】
この機能的分類は、米国心臓病学会及び米国心臓協会によるより最近の分類によって補足される(J.Am.Coll.Cardiol.2001;38;2101-2113,updated in 2005,see J.Am.Coll.Cardiol.2005;46;e1-e82を参照)。4つの病期A、B、C、及びDが定義されている。病期A及びBはHFではないが、「真に」HFを発症する前に患者を早期に識別するのに役立つと考えられている。病期A及びBの患者は、HFの発症についての危険因子を持つ患者として最もよく定義される。例えば、左室(LV)機能障害、肥大、又は幾何学的心室歪みをまだ示さない冠動脈疾患、高血圧、又は真性糖尿病を有する患者はステージAと見なされ、無症候性であるがLV肥大及び/又はLV機能障害を示す患者はステージBとされる。次いで、ステージCは、根底にある構造的心疾患に関連するHFの現在又は過去の症状を有する患者(HFを有する患者の大部分)を示し、ステージDは真に難治性のHFを有する患者を示す。
【0282】
本明細書で使用される場合、「心不全」という用語は、好ましくは、先にいったACC/AHA分類の病期A、B、C及びDを含む。また、この用語には、NYHAクラスI、II、III、及びIVが含まれる。したがって、対象は、心不全の典型的な症状を示すことがあったりなかったりする。
【0283】
好ましい実施形態では、「心不全」という用語は、先にいったACC/AHA分類による心不全病期A、又は特に心不全病期Bを指す。これらの早期の病期、特に病期Aの識別は、不可逆的な損傷が発生する前に処置が開始され得るので、有利である。
【0284】
心不全を診断する方法に従って検査される対象は、好ましくは心房細動に罹患していない。しかしながら、また、対象が心房細動に罹患していることも想定されている。「心房細動」という用語は、心不全を評定する方法に関連して定義される。
【0285】
好ましくは、心不全を診断する方法に関連して検査される対象は、心不全に罹患している疑いがある。
【0286】
「基準量」という用語は、心房細動を評定する方法に関連して定義されている。心不全の診断のための方法において適用される基準量は、原則として、上記のようにして決定することができる。
【0287】
好ましくは、基準量と比較して増加した対象からの試料中のある量の1つ以上のBMP10型ペプチド(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1つの更なるバイオマーカー)は心不全に罹患している対象を示し、及び/又は基準量と比較して減少している対象からの試料中のある量の1つ以上のBMP10型ペプチド(及び任意に、ESM-1、Ang-2、FABP-3及び/又はナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1つの更なるバイオマーカー)は、心不全に罹患していない対象を示す。
【0288】
心不全を診断する方法の一実施形態では、当該方法は、診断の結果に基づいて心不全の治療を推奨及び/又は開始する工程を更に含む。好ましくは、対象が心不全に罹患していると診断された場合、治療が推奨又は開始される。好ましくは、心不全治療は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、β遮断薬及びアルドステロン拮抗薬からなる群から選択される少なくとも1つの医薬の投与を含む。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、β遮断薬及びアルドステロン拮抗薬の例は、次の節に記載されている。
【0289】
対象の入院リスクを予測するための方法
一部の対象は、より急速に心不全に進行するため、心不全による入院のリスクが高いことが知られている。これらの対象を可能な限り早期に同定することが重要であり、これは、心不全への進行を予防又は遅延させる治療手段を可能にするためである。
【0290】
有利には、対象の試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量が、心不全入院のリスクがある対象の同定を可能にすることが、本発明の基礎となる研究において見出された。例えば、分析されたコホートのBMP10の第4四分位の対象(実施例4)は、第1四分位の対象と比較して、3年以内に心不全入院のリスクが約4倍であった。
【0291】
したがって、本発明は更に、心不全によって対象が入院するリスクを予測するための方法であって、当該方法は、
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、並びに
(b)1つ以上のBMP10型ペプチドの量を1つ以上のBMP10型ペプチドの基準量と比較する工程、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較する工程を含む。
【0292】
心房細動を評定する方法及び心不全を診断する方法に関連して行われる定義及び説明は、好ましくは、心不全によって対象が入院するリスクを予測するための方法に適用される。
【0293】
上記の方法は、
心不全によって対象が入院するリスクを予測する工程(c)を更に含むことができる。したがって、工程(a)、(b)、(c)は、好ましくは以下の通りである:
(a)対象からの少なくとも1つの試料において、1つ以上のBMP10型ペプチド(骨形成タンパク質10型ペプチド)の量、並びに任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(Endocan)、Ang2(アンジオポエチン2)及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)BMP10型ペプチドの量を基準量と比較する工程、及び任意に、少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量を当該少なくとも1つの更なるバイオマーカーの基準量と比較する工程、並びに
(c)心不全によって対象が入院するリスクを予測する工程。
【0294】
好ましくは、予測は、工程(b)における比較の結果に基づく。
【0295】
「入院」という表現は、当業者にはよく理解されており、好ましくは、対象が、特に入院患者ベースで、病院に入院することを意味する。入院は心不全によるものでな苦手はならない。したがって、心不全が入院の原因となる。好ましくは、入院は、急性又は慢性心不全による入院である。したがって、心不全には、急性心不全と慢性心不全の両方が含まれる。より好ましくは、入院は急性心不全による入院である。これにより、心不全によって対象が入院するリスクが予測される。
【0296】
「心不全」という用語は上記で定義されている。この定義は適宜、適用される。いくつかの実施形態では、入院は、ACC/AHA分類に従ってステージC又はDとして分類される心不全によるものである。ACC/AHA分類は当該技術分野で周知であり、例えば in Hunt et.al.(Journal of the American College of Cardiology,Volume 46,Issue 6,20 September 2005,Pages e1-e82,ACC/AHA Practice Guidelines)に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0297】
上記の方法によれば、心不全によって対象が入院するリスクが予測される。したがって、心不全のために入院するリスクがあるか、又は心不全のために入院するリスクがない対象を識別することができる。したがって、本明細書で上述の方法に従って使用される「リスクを予測する」という用語は、好ましくは、心不全による入院の確率を評定することを指す。いくつかの実施形態では、本発明の上記方法は、心不全による入院のリスクがある対象とリスクのない対象とを区別することを可能にする。
【0298】
本発明によれば、「リスクを予測する」という用語は、心不全による入院のリスクの予測を支援するものとして理解される。最終予測は、原則として、医師によって行われ、更なる診断結果を含み得る。
【0299】
当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図していない。この用語は、好ましくは、統計的に有意な対象の部分を適切かつ正確に予測できることを意味する。部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等の様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者が更に苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0300】
好ましくは、特定の時間ウィンドウ内のリスク/確率が予測される。いくつかの実施形態では、当該予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。特に、当該予測ウィンドウは、検査される試料が採取された時点から計算される。
【0301】
本発明の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、好ましくは、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、又は少なくとも10年の間隔、又は任意の間欠時間範囲である。本発明の別の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、好ましくは、最大5年、より好ましくは最大4年、又は最も好ましくは最大3年の期間である。したがって、最大3年、最大4年、又は最大5年の期間内のリスクが予測される。また、予測ウィンドウは、1~5年の期間であることが想定されている。あるいは、予測ウィンドウは1~3年の期間であってもよい。
【0302】
好ましい実施形態では、3年以内の心不全による入院のリスクが予測される。
【0303】
好ましくは、本発明の上記方法によって分析される対象は、心不全による入院のリスクがある対象の群、又は心不全による入院のリスクがない対象の群のいずれかに割り当てられる。リスクがある対象では、好ましくは、(特に予測ウィンドウ内で)心不全による入院のリスクが高い対象である。好ましくは、当該リスクは、対象のコホート(すなわち、対象の群)におけるリスクと比較して上昇している。リスクがない対象では、好ましくは、(特に予測ウィンドウ内で)心不全による入院のリスクが低い対象である。好ましくは、当該リスクは、対象のコホート(すなわち、対象の群)における平均リスクと比較して低下している。したがって、本発明の方法は、リスク上昇とリスク低下とを区別することを可能にする。リスクのある対象は、好ましくは3年の予測ウィンドウ内で、好ましくは12%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上の心不全による入院のリスクを有する。リスクがない対象は、好ましくは3年の予測ウィンドウ内で、好ましくは10%未満、より好ましくは8%未満、又は最も好ましくは7%未満の心不全による入院のリスクを有する。
【0304】
「基準量」という用語は、本明細書の他の箇所で定義されている。この定義は適宜、適用される。上記の方法で適用される基準量は、心不全による入院のリスクを予測することを可能にするものとする。いくつかの実施形態では、基準量は、心不全による入院のリスクがある対象と心不全による入院のリスクがない対象とを区別することを可能にするものとする。いくつかの実施形態では、当該基準量は所定の値である。
【0305】
好ましくは、基準量と比較して増加した対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量は、心不全による入院のリスクがある対象を示す。また好ましくは、基準量と比較して減少した対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量は、心不全による入院のリスクがない対象を示す。
【0306】
2つ以上のバイオマーカーが決定された場合、以下が適用される:
好ましくは、それぞれの基準量と比較して増加した、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量及び少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量(又は複数の量)は、心不全による入院のリスクがある対象を示す。また好ましくは、それぞれの基準量と比較して減少した、対象からの試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量及び少なくとも1つの更なるバイオマーカーの量(又は複数の量)は、心不全による入院のリスクがない対象を示す。
【0307】
「試料」という用語は、本明細書の他の箇所で定義されている。この定義は適宜、適用される。いくつかの実施形態では、試料は、血液、血清又は血漿試料である。
【0308】
「対象」という用語は、本明細書の他の箇所で定義されている。この定義は適宜、適用される。いくつかの実施形態では、対象はヒト対象である。好ましくは、検査される対象は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上である。さらに、検査される対象は、70歳以上であることが想定されている。さらに、検査される対象は、75歳以上であることが想定されている。また、対象は、50歳から90歳の間であってよい。
【0309】
一実施形態では、検査対象の対象は、心不全の病歴を有する。別の実施形態では、検査される対象は、心不全の病歴を有さない。
【0310】
本発明の方法は、個別化医療を支援することができる。好ましい実施形態では、心不全によって対象が入院するリスクを予測する上記方法は、対象が心不全による入院のリスクがあると予測される場合、少なくとも1つの適切な治療を推奨及び/又は開始する工程を更に含む。したがって、本発明はまた、処置方法に関する。
【0311】
好ましくは、心不全によって対象が入院するリスクを予測するための方法の文脈で使用される「治療法」という用語は、ライフスタイルの変更、食事療法、身体への介入、並びに薬物処置、すなわち医薬(又は複数の医薬)による処置を包含する。好ましくは、当該治療法は、心不全による入院のリスクを低減することを目的とする。一実施形態では、治療は、医薬(又は複数の医薬)の投与である。好ましくは、医薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、アルドステロン拮抗薬及びβ遮断薬からなる群から選択される。
【0312】
いくつかの実施形態では、医薬は、プロプレノロール、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、ブシンドロール、及びネビボロール等のβ遮断薬である。いくつかの実施形態では、医薬は、エナラプリル、カプトプリル、ラミプリル及びトランドラプリル等のACE阻害剤である。いくつかの実施形態では、医薬は、ロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン及びエプロサルタン等のアンジオテンシンII受容体遮断薬である。いくつかの実施形態では、医薬は、エプレロン、スピロノラクトン、カンレノン、メキセノン及びプロレノン等のアルドステロン拮抗薬である。
【0313】
生活様式の変化としては、禁煙、アルコール摂取の緩和、身体活動の増加、減量、ナトリウム(塩)制限、体重管理及び健康的な食事、毎日の魚油、塩制限が挙げられる。
【0314】
さらに、本発明は、使用(特にin vitroでの使用、例えば、対象からの試料における)であって、
i)1つ以上のBMP10型ペプチドと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2及びFABP-3(脂肪酸結合タンパク質3)からなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの、及び/又は
ii)1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質、及び任意に、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する作用物質、ESM-1に特異的に結合する作用物質、Ang2に特異的に結合する作用物質及びFABP-3に特異的に結合する作用物質からなる群から選択される少なくとも1つの更なる作用物質のa)心房細動を評定するための、b)対象における脳卒中のリスクを予測するための、及び/又はc)心不全を診断するための使用に関する。
【0315】
「試料」、「対象」、「検出剤」、「特異的結合」、「心房細動」、及び「心房細動を評定する」等の前述の使用に関連して言及された用語は、心房細動を評定するための方法に関連して定義されている。定義及び説明は、適宜、適用される。
【0316】
本発明は更に、対象における認知症を予測するためのBMP10型ペプチド及び/又はBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質のin vitro使用に関する。
【0317】
本発明は更に、対象における白質病変の程度を評定するためのBMP10型ペプチド及び/又はBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質のin vitro使用に関する。
【0318】
本発明は更に、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評定するための、BMP10型ペプチド、及び/又はBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質のin vitro使用に関する。
【0319】
本発明は更に、心不全によって対象が入院するリスクを予測するためのBMP10型ペプチド及び/又はBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質の使用(特に、例えば対象由来の試料におけるin vitro使用)に関する。
【0320】
好ましくは、上述の使用は、in vitroでの使用である。さらに、検出剤は、好ましくは、モノクローナル抗体(又はその抗原結合フラグメント)等の抗体である。
【0321】
本発明はまた、キットにも関する。一実施形態では、本発明のキットは、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの作用物質と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する作用物質、ESM-1に特異的に結合する作用物質、Ang2に特異的に結合する作用物質、及びFABP-3に特異的に結合する作用物質からなる群から選択される少なくとも1つの更なる作用物質と、を備える。
【0322】
好ましくは、当該キットは、本発明の方法、すなわち心房細動を評定する方法、又は心不全を診断する方法、又は心不全によって対象が入院するリスクを予測するための方法を実施するのに適している。任意に、当該キットは、当該方法を実施するための指示を備えている。
【0323】
いくつかの実施形態では、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つ作用物質は、(「本発明の抗体」という標題の)次の節に記載される少なくとも1つの抗体又はそのフラグメントである。
【0324】
本明細書で使用される場合、「キット」という用語は、好ましくは、別個に又は単一の容器内に提供される、上述の構成要素の集合を指す。容器はまた、本発明の方法を実施するための説明書も含む。これらの説明書は、マニュアルの形式であってもよく、又は本発明の方法でいう計算及び比較を実行して、コンピュータ又はデータ処理装置に実装されるときに適宜、評定又は診断を確立することができるコンピュータプログラムコードによって提供されてもよい。コンピュータ・プログラム・コードは、光記憶媒体(例えば、コンパクトディスク)等のデータ記憶媒体若しくは装置上に、又はコンピュータ若しくはデータ処理装置に直接提供されてもよい。さらに、キットは、好ましくは、キャリブレーション目的のBMP10型ペプチドの標準量を含み得る。好ましい実施形態では、キットは、較正の目的で、本明細書でいう少なくとも1つの更なるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド、又はESM-1等)の基準量を更に含む。
【0325】
一実施形態では、当該キットは、in vitroで心房細動を評定するために使用される。代替実施形態では、当該キットは、in vitroで心不全を診断するために使用される。代替実施形態では、当該キットは、in vitroで心不全による入院のリスクを予測するために使用される。
【0326】
本明細書中上記及び特許請求の範囲に記載される本発明の方法及び使用において、抗体(そのフラグメントの)は、次の節において記載される抗体を使用することができる。
【0327】
本明細書の上記でなされた定義及び説明は、以下について準用する。
【0328】
本発明の抗体
本発明はまた、1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体)又はそのフラグメントに関する。特に、それはNT-proBMP10に結合するものとする。
【0329】
抗体(又はそのフラグメント)は、前の節で開示された配列番号1に示される配列を有するポリペプチドのアミノ酸領域の少なくとも1つに結合することができるものとする。
【0330】
したがって、本発明の抗体(又はそのフラグメント)は、NT-proBMP10と結合することができなければならず、すなわち、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域22~316内で結合することができなければならないものとする。領域はpreproBMP10及びproBMP10に含まれることから、抗体(又はそのフラグメント)はpreproBMP10、proBMP10及びNT-proBMP10に結合することができるものとする。ただし、抗体(又はフラグメント)はBMP10、すなわち成熟BMP10に結合しないものとする。
【0331】
好ましい実施形態では、NT-proBMP10等の1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~299内で結合することができ、すなわち、配列番号1に示されるポリペプチドの37位のアミノ酸で開始し、299位のアミノ酸で終了する領域に含まれるエピトープに結合することができる。
【0332】
例えば、1つ以上のBMP10型ペプチド、例えばNT-proBMP10に結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域110~200内で結合することができ、すなわち、当該少なくとも作用物質は、この領域に含まれるエピトープに結合する。
【0333】
例えば、1つ以上のBMP10型ペプチド(例えば、NT-proBMP10)に結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域37~195内、例えばアミノ酸領域37~185内で結合することができ、すなわち、当該少なくとも作用物質は、この領域に含まれるエピトープに結合する。
【0334】
例えば、NT-proBMP10等の1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1のアミノ酸領域160~299内、例えばアミノ酸領域171~299内に結合することができる、すなわち当該少なくとも作用物質はこの領域に含まれるエピトープに結合する。
【0335】
例えば、NT-proBMP10等の1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1のアミノ酸領域160~195内、例えばアミノ酸領域171~185内で結合することができる。
【0336】
例えば、1つ以上のBMP10型ペプチド、例えばNT-proBMP10に結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1のアミノ酸領域37~47に含まれるエピトープ(SLFGDVFSEQD、配列番号2)に結合することができる。
【0337】
例えば、1つ以上のBMP10型ペプチド、例えばNT-proBMP10に結合する抗体又はそのフラグメントは、配列番号1のアミノ酸領域171~185に含まれるエピトープ(LESKGDNEGERNMLV、配列番号3)に結合することができる。例えば、当該少なくとも1つの作用物質は、配列番号1のアミノ酸領域173~181に含まれるエピトープ(SKGDNEGER、配列番号4)に結合する。
【0338】
例えば、1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体又はそのフラグメント、例えばNT-proBMP10は、配列番号1のアミノ酸領域291から299に含まれるエピトープに結合することができる(SSGPGEEAL、配列番号5)。
【0339】
本発明の基礎となる研究において、本発明者らは、ヒトNT-proBMP10に対するモノクローナル抗体(ウサギにおいて)を作製した。280の抗体を詳細な動力学的スクリーニングに供した。このスクリーニングでは、NT-proBMP10及び/又はproBMP10等のBMP10型ペプチドの検出に特に有用にする好ましい動力学的特性を示す抗体を同定した。例えば、NT-proBMP10-抗体複合体の複合体の形成の速い速度を示す抗体が同定された。さらに、抗体は複合体の遅い解離を示し、複合体の長い半減期をもたらす。クローン11A5、11C10、13G6、14C8、2H8及び9E7は、同等の速い複合体形成速度及びt/diss>15分の複合体半減期を示した。クローン13G6は、最も遅い解離(kd<1.0E-04 s-1)を示し、錯体半減期t/2-diss>115分をもたらした。
【0340】
同定された抗体は以下の通りであった:11A2、11A5、11C10、13G6、14C8、2H8、3H8、8G5、及び9E7。抗体の配列を以下の表A~Dに示す。
【0341】
上述の抗体のうちの4つについて、線状エピトープを検出することができた(実施例のセクション及び
図12を参照)。2つの抗体は同じ領域に結合した。
【0342】
3H8のエピトープは、配列番号2(SLFGDVFSEQD)に示される配列を含む。
【0343】
11A5のエピトープは、配列番号3(LESKGDNEGERNMLV)に示される配列を含む。
【0344】
13G6のエピトープは、配列番号4(SKGDNEGER)に示される配列を含む。
【0345】
2 H 8のエピトープは、配列番号5(SSGPGEEAL)に示される配列を含む。
【0346】
したがって、BMP10型ペプチドの量を決定するために使用される抗体(又はそのフラグメント)又は作用物質は、上記領域に結合し得る。
【0347】
表Aは、本発明の抗体の可変重(VH)鎖のアミノ酸配列を要約する。
【表A】
【0348】
表Bは、本発明の抗体の可変軽鎖のアミノ酸配列を要約したものである(下記を参照)。
【表B】
【0349】
重鎖CDR配列を表Cに示す。軽鎖CDR配列を以下の表Dに示す。抗体の相補性決定領域(CDR)は、例えば、Kabat et al.in Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH,NIH Publication no.91-3242,1991に記載されているシステムを用いて同定することができる。
【表C】
【表D】
【0350】
本発明の抗体(又はそのフラグメント)は、preproBMP、proBMP10及びNT-proBMP10ポリペプチドに特異的に結合するものとする。したがって、抗原結合タンパク質は、本明細書の他の箇所でより詳細に記載されるように、配列番号1のアミノ酸領域22~316内のpreproBMP、proBMP10及びNT-proBMP10に結合するものとする。成熟BMP10には結合しないことを理解されたい。しかしながら、成熟BMP10に結合する抗原結合タンパク質と組み合わせて使用してもよい。
【0351】
本発明は、同定された抗体、すなわち11A2、11A5、11C10、13G6、14C8、2H8、3H8、8G5及び9E7に限定されず、1つ以上のBMP10型に、好ましくは同じ領域内で結合するそれらの変異体も包含する。例えば、13G6の変異体は、13G6と同じ又は本質的に同じエピトープに結合するものとする。
【0352】
好ましくは、本発明の抗体又はそのフラグメントは、抗体11A2、11A5、11C10、13G6、14C8、2H8、3H8、8G5又は9E7の軽鎖可変ドメイン(又はその変異体)及び重鎖可変ドメイン(又はその変異体)を含むものとする。例えば、13G6の軽鎖可変ドメイン(又はその変異体)及び重鎖可変ドメイン(又はその変異体)を含み得る。例えば、抗体11C10の軽鎖可変ドメイン(又はその変異体)及び重鎖可変ドメイン(又はその変異体)を含み得る。
【0353】
好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントが、表Aに示されるVH1、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8及びVH9から選択される重鎖可変ドメイン(又はその変異体)及び/又は表Bに示されるVL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8及びVL9から選択される軽鎖可変ドメイン(又はその変異体)を含む。上記の表Aに示される各重鎖可変ドメインは、表Bに示される各軽鎖可変ドメインと組み合わせることができる。好ましい実施形態では、表Aの重鎖可変ドメインは、表Bの対応する軽鎖可変ドメインを、例えば、VH1とVL1、VH2とVL2、VH3とVL3のように組み合わせる。
【0354】
いくつかの実施形態では、本発明に従って言及されるポリペプチドの変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加のために異なるアミノ酸配列を有するものとし、変異体のアミノ酸配列は、ポリペプチドのアミノ酸配列と依然として、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%同一である。
【0355】
いくつかの実施形態では、抗体(又はそのフラグメント)の変異体は、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%若しくは99%同一である重鎖可変ドメイン(表Aを参照)及び/又は好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23若しくは24に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%若しくは99%同一である軽鎖可変ドメイン(表Bを参照)を含む。
【0356】
代替的又は追加的に、本発明の抗体又はそのフラグメントの変異体は、親抗体の6つのCDRを含み、当該6つのCDRは、それぞれの親CDRから合計3、2、又は特に1つ以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失が異なる(表C及びDを参照)。
【0357】
したがって、本発明の抗体又はそのフラグメントは、いくつかの実施形態では、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変ドメイン(表Aを参照)及び/又は好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23若しくは24に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変ドメイン(表Bを参照)を含み得る。に示される各重鎖可変ドメインは、各軽鎖可変ドメインと組み合わせることができる。ただし、対応する配列が組み合わされることが好ましい(例えば、配列番号7と、配列番号16)。
【0358】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、最大パーセントの配列同一性を達成するために、配列をアライメントし、必要に応じてギャップを導入した後の、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。好ましくは、2つの配列の配列同一性の程度を決定するために標準的なパラメータが適用される。好ましくは、同一性の程度は、比較ウィンドウにわたって2つの最適にアラインメントされた配列を比較することによって決定されるべきであり、比較ウィンドウ内のアミノ酸配列のフラグメントは、最適なアラインメントのために、参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して、付加又は欠失(例えば、ギャップ又はオーバーハング)を含み得る。パーセンテージは、両方の配列において同一のアミノ酸残基が出現する位置の数を決定して一致した位置の数を産出し、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを産出することによって、算出される。比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith and Waterman Add.APL.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch J.Mol.Biol.48:443(1970)によるホモロジーアラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)85:2444(1988)による類似検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group(GCG)、ウィスコンシン州マディソン、サイエンスドライブ575)のソフトウェアパッケージ、GAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)、又は目視検査によって行われ得る。比較のために2つの配列が同定されていることを考えると、GAP及びBESTFITを用いて、それらの最適なアラインメント、したがって同一性の程度を決定することが好ましい。好ましくは、ギャップ重みについては5.00、ギャップ重み長については0.30のデフォルト値が使用される。一実施形態では、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、EMBOSSソフトウェアパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice,P.,Longden,I.,and Bleasby,A.,Trends in Genetics 16(6),276-277,2000)のニードルプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunschアルゴリズム(Needleman 1970,J.Mol.Biol.(48):444-453)、BLOSUM62スコアリングマトリックス、及び10のギャップオープニングペナルティ及び0.5のギャップエンテンションペンタルティを使用して決定される。ニードルプログラムを使用して2つのアミノ酸配列をアライメントするために使用されるパラメータの好ましい非限定的な例は、EBLOSUM 62スコアリングマトリクス、10のギャップオープニングペナルティ及び0.5のギャップ伸長ペナルティを含むデフォルトパラメータである。
【0359】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号7に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号16に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0360】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号8に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号17に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0361】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号9に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号18に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0362】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号10に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号19に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0363】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号11に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号20に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0364】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号12に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号21に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0365】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号13に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号22に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0366】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号14に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号23に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0367】
一態様において、本発明の抗体又はそのフラグメントは、配列番号15に示される配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号24に示される配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。
【0368】
代替的又は追加的に、本発明の抗体又はそのフラグメントは、
(a)
(a1)表Dに示される軽鎖CDR1とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR1、
(a2)表Dに示される軽鎖CDR2とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR2
(a3)表Dに示される軽鎖CDR3とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変ドメイン、並びに
(b)
(b1)表Cに示される重鎖CDR1とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のア ミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR1、
(b2)表Cに示される重鎖CDR2とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR2、並びに
(b3)表Cに示される重鎖CDR3とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR3
を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0369】
例えば、本発明の抗体又はそのフラグメントは、
(a)
(a1)表Dに示される軽鎖CDRL1-4とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR1、
(a2)表Dに示される軽鎖CDRL2-4とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR2、
(a3)表Dに示される軽鎖CDRL3-4とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変ドメイン、並びに
(b)
(b1)表Cに示される重鎖CDRH1-1とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR1、
(b2)表Cに示される重鎖CDRH2-4とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR2、並びに
(b3)表Cに示される重鎖CDRH3-4とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR3
を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0370】
好ましくは、本発明の抗体又はそのフラグメントは、
(c)
(a1)表Dに示す軽鎖CDR1(したがって、配列番号34~42から選択される軽鎖CDR1配列)、
(a2)表Dに示す軽鎖CDR2(したがって、配列番号52~60から選択される軽鎖CDR2配列)、及び
(a3)表Dに示す軽鎖CDR3(したがって、配列番号70~78から選択される軽鎖CDR3配列)
を含む軽鎖可変ドメイン、並びに
(d)
(b1)表Cに示される重鎖CDR1(したがって、配列番号25~33から選択される重鎖CDR1配列)、
(b2)表Cに示される重鎖CDR2(したがって、配列番号43~51から選択される重鎖CDR2配列)、及び
(b3)表Cに示す重鎖CDR3(したがって、配列番号61~69から選択される重鎖CDR3配列)
を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0371】
より好ましくは、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、11A2の6つのCDR、11A5の6つのCDR、11C10の6つのCDR、13G6の6つのCDR、14C8の6つのCDR、2H8の6つのCDR、3H8の6つのCDR、8G5の6つのCDR又は9E7の6つのCDR(又は当該6つのCDRとは、重鎖からの合計で3個以下、2個以下、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる6つのCDR)を含む。
【0372】
特に好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、13G6の6つのCDRを含む。したがって、抗体又はそのフラグメントは、配列番号28の重鎖CDRH1(NYAMS)、配列番号46の重鎖CDRH2(YISASGNTYYASWVKG)及び配列番号64の重鎖CDRH3(GYSGWISGTWA)、配列番号37の軽鎖CDRL1(QSSQSVVNNNRLS)、配列番号55の軽鎖CDRL2(RASTLAS)及び配列番号73の軽鎖CDRL3(LGDYVSYSEAA)を含む。
【0373】
別の好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、11C10の6つのCDRを含む。したがって、抗体又はそのフラグメントは、配列番号27の重鎖CDRH1(RNLMS)、配列番号45の重鎖CDRH2(SINFRNITWYASWAKG)、配列番号63の重鎖CDRH3(GVYVNSNGYYSL)、配列番号36の軽鎖CDRL1(QASQSVSNLLA)、配列番号54の軽鎖CDRL2(GASKLES)、配列番号72の軽鎖CDRL3(QTYWGGDGTSYLNP)を含む。
【0374】
いくつかの実施形態では、抗体又はそのフラグメントは、11A2の6つのCDRを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又はフラグメントは、11A5の6つのCDRを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又はフラグメントは、14C8の6つのCDRを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又はフラグメントは、2H8の6つのCDRを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又はフラグメントは、3H8の6つのCDRを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又はフラグメントは、8G5の6つのCDRを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又はフラグメントは、9E7の6つのCDRを含む。
【0375】
軽鎖CDRは軽鎖可変ドメインに包含され、重鎖CDRは重鎖可変ドメインに包含されると理解される。
【0376】
さらに、本発明の抗体又はそのフラグメントは、
(a)好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23又は24(表Bを参照)に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメインであって、
(a1)表Dに示される軽鎖CDR1とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR1、
(a2)表Dに示される軽鎖CDR2とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR2、
(a3)表Dに示される軽鎖CDR3とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により異なる軽鎖CDR3
を含む、軽鎖可変ドメイン、並びに、
(b)配列番号7、8、9、10、11、12、13、14又は15(表Aを参照)に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメインであって、
(b1)表Cに示される重鎖CDR1とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR1、
(b2)表Cに示される重鎖CDR2とは合計で3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR2、並びに
(b3)表Cに示される重鎖CDR3とは合計3個、2個、又は特に1個以下のアミノ酸の付加、置換、及び/又は欠失により異なる重鎖CDR3
を含む、重鎖可変ドメインを含むことが想定される。
【0377】
一実施形態では、本発明の抗体又はそのフラグメントは、
(a)好ましい順に増加する、配列番号16、17、18、19、20、21、22、23又は24(表Bを参照)に示される配列を含む軽鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメインであって、
(a1)表Dに示す軽鎖CDR1、
(a2)表Dに示す軽鎖CDR2、及び
(a3)表Dに示す軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変ドメイン、並びに
(b)配列番号7、8、9、10、11、12、13、14又は15(表Aを参照)に示される配列を含む重鎖可変ドメインと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメインであって、
(b1)表Cに示される重鎖CDR1、
(b2)表Cに示される重鎖CDR2、及び
(b3)表Cに示す重鎖CDR3
を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0378】
「抗体」という用語は、例えば、限定されるものではないが、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、これらの組み合わせ、並びに、任意の脊椎動物、例えば、ヤギ、ウサギ、及びマウス等の哺乳類における免疫応答の間に産生される同様の分子、並びに、非哺乳類種、例えばサメ免疫グロブリンを含む免疫グロブリン又は免疫グロブリン様分子を指す。いくつかの実施形態では、抗体はウサギ抗体であり得る。「抗体」という用語は、インタクトな免疫グロブリン、及び目的の分子に特異的に結合する「抗体フラグメント」又は「抗原結合フラグメント」を含む。好ましい実施形態では、抗体はIgG抗体である。
【0379】
特に、「抗体」という用語は、抗原のエピトープを特異的に認識し、特異的に結合する、少なくとも軽鎖及び重鎖免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドリガンドを意味する。抗体は、重及び軽鎖で構成されており、それらの各々には可変重(VH)領域及び可変軽(VL)領域と呼ばれる可変領域がある。まとまって、VH領域及びVL領域は、抗体によって認識される抗原を結合することの原因となる。典型的には、本発明の抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された重(H)鎖及び軽(L)鎖を有する。本明細書で使用される場合、「軽鎖」という用語は、完全長軽鎖、及び結合特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するそのフラグメントを含む。完全長軽鎖は、可変領域ドメインVL及び定常領域ドメインCLを含む。軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にある。「重鎖」という用語は、完全長重鎖、及び結合特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するそのフラグメントを含む。完全長重鎖は、可変領域ドメインVH、並びに3つの定常領域ドメインCH1、CH2、及びCH3を含み、VHドメインはポリペプチドのアミノ末端にあり、CHドメインはカルボキシル末端にあり、CH3はポリペプチドのカルボキシ末端に最も近くにある。
【0380】
抗体分子の機能活性を決定する5つの主要な重鎖クラス(又はアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEが存在する。各重及び軽鎖は、定常領域及び可変領域を含有する(領域は「ドメイン」としても知られている)。組み合わせると、重及び軽鎖可変領域は特異的に、抗原を結合する。軽及び重鎖可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれる、3つの超可変領域により中断された「フレームワーク」領域を含有する。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合を担う。各鎖のCDRは通常、N末端から始まって連続して番号付けされている、CDR1、CDR2、及びCDR3と呼ばれ、また、通常は、特定のCDRが位置する鎖により同定される。したがって、VH CDR3は、それが見出される抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、一方、VL CDR1は、それが見出される抗体の軽鎖の可変ドメイン由来のCDR1である。
【0381】
本発明の抗体又はそのフラグメントは、一本鎖抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体及びそのフラグメントであり得る。例えば、抗体はIgG抗体、例えばIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体であり得る。一実施形態では、抗体又はそのフラグメントは組換え生産されている。
【0382】
本発明のモノクローナル抗体のフラグメントも本発明に包含される。フラグメントは、免疫学的に機能的なフラグメント、すなわち抗原結合フラグメントであるものとする。したがって、本発明のモノクローナル抗体のフラグメントは、1つ以上のBMP10型ペプチドに結合することができるものとする。したがって、抗体の「免疫学的に機能的なフラグメント」という用語は、本明細書で使用される場合、全長鎖に存在するアミノ酸の少なくとも一部を欠くが、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合することができる抗体の部分を指す。免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントとしては、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント及びFvフラグメントが含まれる。抗原結合フラグメントの作製方法は当該技術分野で周知である。例えば、フラグメントは、本発明の抗体の酵素的切断によって作製され得る。さらに、フラグメントは、合成又は組換え技術によって生成され得る。Fabフラグメントは、好ましくは、抗体のパパイン消化により、Fab’フラグメントはペプシン消化及び部分還元により、F(ab’)2フラグメントはペプシン消化により生成される。Fvフラグメントは、好ましくは分子生物学技術によって産生される。
【0383】
一実施形態では、本発明の抗体のフラグメントはF(ab’)2フラグメントである。別の実施形態では、本発明の抗体のフラグメントはF(ab’)2フラグメントである。別の実施形態では、本発明の抗体のフラグメントはFabフラグメントである。別の実施形態では、本発明の抗体のフラグメントはFvフラグメントである。
【0384】
抗体のフラグメントは、ダイアボディであってもよい。ダイアボディは、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントである。ダイアボディは、好ましくは、同じポリペプチド鎖内の軽鎖可変ドメインに接続された重鎖可変ドメインを含む。
【0385】
本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、Bリンパ球の単一クローンによって、又は抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子がトランスフェクトされた細胞によって産生される抗体を指す。
【0386】
一実施形態では、本発明の抗体は単離された抗体である。したがって、抗体は精製された抗体とする。抗体の精製は、当該技術分野で周知の方法によって達成することができる。
【0387】
本発明のモノクローナル抗体又はそのフラグメント(及び前の節で言及した作用物質は、1つ以上のBMP10型ペプチド、例えばNT-proBMP10に結合することができるものとする。「結合する」、「特異的に結合する」、「結合することができる」及び「特異的に結合することができる」という用語は、好ましくは、本明細書では互換的に使用される。「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は、結合対の分子が、別の分子に有意に結合しない条件下で、互いへの結合を呈する結合反応を指す。「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質又はペプチドに関するとき、好ましくは、結合剤が、相当のバイオマーカーに少なくとも107M-1の親和性(「会合定数」Ka)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は好ましくは、標的分子に対して、少なくとも108M-1、又は更により好ましくは少なくとも109M-1の親和性を指す。「特異的な」又は「特異的に」という用語は、試料中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。しかしながら、本明細書で上に説明したように、本明細書で言及される作用物質は、NT-proBMP10に結合することができるだけでなく、preproBMP10及びproBMP10にも結合することができるものとする。
【0388】
KDは、表面プラズモン共鳴技術(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare、スウェーデン国ウプサラ)等の結合アッセイで決定することができる解離定数である。好ましくは、1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、いくつかの実施形態では、37℃において1桁のナノモル範囲又はサブナノモル範囲の1つ以上のBMP10型ペプチド(特にヒトNT-proBMP10)に対するKD値を有する。
【0389】
抗体のその抗原に対する動力学的結合特性を記述する別の手段は、解離速度定数の動力学的速度寄与への分解であり、会合速度ka定数及び解離速度定数kdが存在する。会合速度ka定数は、抗体/抗原複合体形成の速度を特徴づけ、時間及び濃度に依存する。いくつかの実施形態では、本明細書中で言及されるような1つ以上のBMP10型ペプチド(特に、ヒトNT-proBMP10)に結合する本発明の抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、37℃において1.0E+05M-1s-1を超える(その抗原についての)ka値を有する。
【0390】
解離速度定数(kd)は、抗体の抗原からの解離速度を示す。したがって、解離速度定数は、複合体が時間単位で崩壊する確率を示す。解離速度定数が低いほど、抗体はその抗原により強く結合する。いくつかの実施形態では、本明細書中で言及されるような1つ以上のBMP10型ペプチド(特に、ヒトNT-proBMP10)に結合する本発明の抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、37℃において1.1E-03s-1未満のkd値を有する。
【0391】
いくつかの実施形態では、KD値、kd値及びka値は、実施例の節ように決定される。
【0392】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することができるタンパク質決定基を表す。したがって、この用語は、好ましくは、本発明の抗体(又はそのフラグメント)によって特異的に結合され得る、本明細書で言及されるポリペプチドの部分を指す。エピトープは、通常、アミノ酸等の分子の化学的に活性な表面集団からなり、通常、特定の三次元構造特性と並んで特定の電荷特性を有する。立体構造エピトープ及び非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下で、立体構造エピトープに対する結合が失われるが、非立体構造エピトープに対する結合は失われないことから区別される。
【0393】
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、本明細書で言及されるBMP10型ペプチドの量の決定に関連する方法において有用である。例えば、抗体又はそのフラグメントは、診断方法で使用するための試料のBMP10型ペプチドの量を決定することを可能にする。
【0394】
したがって、本発明は、本発明の抗体又はフラグメントを使用することによって1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定するための方法に関する。バイオマーカーの量を決定するための好ましい方法、例えばサンドイッチアッセイは、「バイオマーカーの量の決定」という標題の節に記載されている。
【0395】
例えば、1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定する方法は、1つ以上のBMP10型ペプチドを含有する試料を、配列番号1に示されるポリペプチドのアミノ酸領域22~316内に結合する少なくとも1つの作用物質と接触させ、それによってBMP10型ペプチドと少なくとも1つの作用物質との複合体の形成を可能にする工程、及び形成された複合体の量を決定する工程を含み得る。
【0396】
さらに、抗体又はそのフラグメントは、標識を含んでいてもよく、すなわち、結合した作用物質の検出及び測定を可能にする標識に共有結合又は非共有結合していてもよい。好ましい標識は、本明細書中上記で開示される。例えば、標識は、より詳細に上述したように、ビオチン、放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、電気化学発光標識、金標識、又は磁気標識であり得る。
【0397】
一実施形態では、抗体又はそのフラグメント(F(ab’)2フラグメント等)はビオチン化されている。別の実施形態では、抗体又はそのフラグメントは、(上記のように)ルテニウム化されている。
【0398】
本発明は更に、試料中の1つ以上のBMP10型ペプチドの量を決定するための本発明の抗体又はそのフラグメントのin vitro使用に関する。
【0399】
本発明はまた、本発明の少なくとも1つのモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むキットに関する。キットという用語は上記で定義されている。
【0400】
さらに、サンドイッチアッセイにおいてBMP10型ペプチドの改善された検出を可能にする抗体対を同定した(実施例13)。具体的には、ビオチン化及びルテニウム化クローン2H8、3H8、8G5、9E7 11A5、11C10、14C8、13G6を、サンドイッチパートナーの同定のために複数のサンドイッチで試験した。クローン13G6及び11C10の組み合わせは、配向とは無関係に高いグレードの性能を示すことが見出された場合。3H8と9E7の組み合わせについても同様の観察を行った。他の組み合わせは良好な比を達成した。一方向のみではあるが、他の組み合わせも良好な比を達成した。
【0401】
したがって、本発明は、1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する第1の抗体又はその抗原結合フラグメント及び1つ以上のBMP10型ペプチドに結合する第2の抗体又はその抗原結合フラグメントを含むキットに関し、好ましくは、当該第1及び第2の抗体は異なるエピトープに結合し、第1の抗体は2H8、3H8、8G5、9E7、11A5、11C10、14C8、13G6(又はその変異体)から選択され、第2の抗体は2H8、3H8、8G5、9E7、11A5、11C10、14C8、13G6(又はその変異体)から選択される。
【0402】
両方の抗体又はそのフラグメントを標識することができる。例えば、第1の抗体又はそのフラグメントはルテニウム化されてもよく、第2の抗体又はそのフラグメントはビオチン化されてもよい(逆もまた同様)。
【0403】
いくつかの実施形態では、第1の抗体は2H8である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は3H8である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は8G5である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は9E7である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は11A5である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は11C10である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は14C8である。いくつかの実施形態では、第1の抗体は13G6である。
【0404】
抗体の好ましい組み合わせは、実施例14の表13及び14に開示されている。
【0405】
例えば、第1の抗体は11C10であり得、第2の抗体は13G6(逆もまた同様)であり得る。
【0406】
例えば、第1の抗体は3H8であり得、第2の抗体は9E7(逆もまた同様)であり得る。
【0407】
一実施形態では、キットは、第1の抗体が11C10(又はその変異体)である、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体又はそのフラグメントと、第2の抗体が13G6(又はその変異体)であるルテニウム化された第2のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む。
【0408】
一実施形態では、キットは、第1の抗体が13G6(又はその変異体)である、1つ以上のBMP10型ペプチドに特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体又はそのフラグメントと、第2の抗体が11C10(又はその変異体)であるルテニウム化された第2のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む。
【0409】
本発明はまた、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを産生する宿主細胞に関する。好ましい実施形態では、本発明の抗体を産生する宿主はハイブリドーマ細胞である。さらに、宿主細胞は、本発明による抗体を生成するように操作することができる任意の種類の細胞系であり得る。例えば、宿主細胞は、動物細胞、特にHEK細胞等の哺乳動物細胞であり得る。或る実施形態では、実施例の欄で使用されるHEK293-F細胞等のHEK293(ヒト胎児腎臓細胞)又はCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞が宿主細胞として使用される。別の実施形態では、宿主細胞は、非ヒト動物又は哺乳動物細胞である。
【0410】
宿主細胞は、好ましくは、本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。例えば、宿主細胞は、本発明の抗体の軽鎖をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、及び本発明の抗体の重鎖をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。当該ポリヌクレオチド(複数可)は、適切なプロモーターに作動可能に連結されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0411】
図面は以下を示す:
【
図1】3つの患者群(発作性心房細動、持続性心房細動及び洞調律の患者)におけるBMP10 ELISAの測定
【
図2】発作性AfibにおけるBMP10のROC曲線;AUC=0.68
【
図3】持続性AfibにおけるBMP10のROC曲線;AUC=0.90(探索的AFibパネル:発作性AFib14例、持続性AFib16例及び対照30例を包含する心房細動の病歴を有する患者)
【
図4】心不全患者と心不全のない患者の鑑別におけるBMP10[単位:ng/ml]
【
図5】心不全の鑑別におけるBMP10;BMP10のROC曲線;AUC=0.76
【
図6】心不全の以前の病歴を有する患者におけるBMP-10の四分位によるHF入院のリスクを示すカプラン・マイヤー曲線。
【
図7】心不全の以前の病歴のない患者におけるBMP-10の四分位によるHF入院のリスクを示すカプラン・マイヤー曲線。
【
図8】BMP-10の2分画(中央値)によって脳卒中のリスクを示すカプラン・マイヤー曲線。
【
図9】肺静脈隔離術(BEAT-PVI)を受けている患者におけるBMP-10の四分位数によってAFibの再発リスクを示すカプラン・マイヤー曲線。
【
図10-1】SPRを介して得られた37℃での8mAbの選択に対するプロペプチドBMP10結合についての動力学的シグネチャー。c=3.7~300nMの範囲のプロペプチドBMP10濃度を増加させるためのセンサーグラムオーバーレイが示される。 A)2H8 B)3H8 C)8G5 D)9E7 E)11A5 F)11C10 G)14C8 H)13G6
【
図10-2】SPRを介して得られた37℃での8mAbの選択に対するプロペプチドBMP10結合についての動力学的シグネチャー。c=3.7~300nMの範囲のプロペプチドBMP10濃度を増加させるためのセンサーグラムオーバーレイが示される。 A)2H8 B)3H8 C)8G5 D)9E7 E)11A5 F)11C10 G)14C8 H)13G6
【
図11】37℃におけるプロペプチドBMP10に結合する8 mAbについての正規化された解離相のオーバーレイ
【
図12】本発明の4つのモノクローナル抗体のエピトープ
【
図13】NT-proBMP 10の検出対成熟BMP10の検出
【
図14】Fazekasスコア<2(no)対Fazekasスコア≧2(yes)でのSWISS AF研究のEDTA血漿試料中の循環BMP-10の測定:WMLの検出/無症候性脳卒中のリスクの予測:循環BMP-10レベルを評定した。
【実施例】
【0412】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。当該実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を制限する様式で解釈されないものとする。
【0413】
実施例1:マッピング試験-心房細動を有する患者を、それらの異なる循環NT-proBMP10レベルに基づいて患者と比較して診断する
開胸手術を受けている患者に関連するマッピング研究。試料を麻酔及び手術の前に得た。患者を、多電極アレイを使用した高密度心外膜マッピング(高密度マッピング)を使用して電気生理学的に特徴付けた。試験は、可能な限り(年齢、性別、併存症について)最良に一致した、発作性心房細動患者14人、持続性心房細動患者10人及び対照28人を含んでいた。NT-proBMP10を、MAPPING研究の血清試料において決定した。上昇したNT-proBMP10レベルが、心房細動を有する患者において対照に対して観察された。NT-proBMP10レベルは、発作性心房細動患者対適合対照、並びに持続性心房細動患者対対照において上昇した。
【0414】
さらに、バイオマーカーESM-1を、MAPPINGコホートからの試料において決定した。興味深いことに、NT-proBMP10とESM-1との組み合わせた決定は、持続性AF対SR(洞調律)の間の区別のためにAUCを0.92まで増加させることを可能にしたことが示された。
【0415】
さらに、バイオマーカーFABP-3を、MAPPINGコホートからの試料において決定した。興味深いことに、NT-proBMP10とFABP-3との組み合わせた決定は、発作性AF対SR(洞調律)の間の区別のためにAUCを0.73まで増加させることを可能にしたことが示された。
【0416】
実施例2:心不全パネル
心不全パネルは、慢性心不全の60人の患者を含んでいた。ESCガイドライン基準に従って、典型的な徴候及び症状、並びに安静時の心臓の構造的又は機能的異常の客観的証拠を有する患者において心不全を診断した。虚血性若しくは拡張型心筋症又は重大な弁膜症を有し、同意フォームに署名することができた18歳~80歳の患者を試験に含めた。過去6ヶ月に急性心筋梗塞、肺塞栓症又は脳卒中を有し、更に重度の肺高血圧症及び末期腎疾患を有する患者を除外した。患者は主に心不全ステージNYHA II~IVを患っていた。
【0417】
健常対照コホートには33人の対象が含まれていた。健康状態は、ECG及び心エコー検査結果の状態を評定することによって検証した。何らかの異常を有する参加者は除外した。
【0418】
上昇したNT-proBMP10レベルが、対照と比較して心不全患者の血清試料において観察された。
【0419】
実施例3:バイオマーカーの測定
骨形成タンパク質10(BMP10)についての研究グレードのECLIAアッセイ(Roche Diagnostics製のECLIAアッセイ、ドイツ国)でNT-proBMP10を測定した。
【0420】
ヒト血清及び血漿試料中のNT-proBMP10の検出のため、BMP10のN末端プロセグメントに特異的に結合する抗体サンドイッチを使用した。そのような抗体はまた、proBMP10及びpreproBMP10に結合する。そこで、BMP10、proBMP10及びpreproBMP10のN末端プロセグメント量の合計を求めた。例えばBMP9等の他のBMP型タンパク質からの知見に基づく構造予測は、BMP10がproBMP10との複合体中に残存していることを示し、したがって、N末端プロセグメントの検出はまた、プロドメイン結合BMP10の量を反映する。さらに、BMP10のホモ二量体型、並びにヘテロ二量体構造、例えばBMP9又は他のBMP型タンパク質との組み合わせを検出することができる。
【0421】
実施例4:SWISS AF研究-心不全入院のリスク予測
SWISS-AF研究からのデータは、2387人の患者を含み、そのうち617人が心不全(HF)の病歴を有する。これらの患者においてBMP-10を測定して、心不全による入院リスクを予測する能力を評定した。
【0422】
心不全の病歴がある患者及び心不全の既往歴がない患者では心不全入院が起こり得るため、将来の心不全入院を予測する能力をこれらの群で独立して評定した。合計で233人の患者について、フォローアップ中にHFによる入院が記録された。233人の入院のうち125人が以前に既知のHFを有する患者であった。
【0423】
HFの既往歴を有する患者におけるHF入院の予測
表1は、HFの既往歴を有する患者を含むコックス比例ハザードモデルの結果を示す。従属変数はHF入院までの時間であり、独立変数は変換されたNT-proBMP10 値のlog-2である。
【0424】
ハザード比及び低いp値によって明らかなように、NT-proBMP10は、HFの既往歴を有する患者においてHF入院のリスクを有意に予測することができる。NT-proBMP10値をモデルに入力する前にlog-2変換したため、NT-proBMP10の値が倍増する場合、ハザード比は患者のリスクが3.43増加すると解釈することができる。
【表1】
【0425】
図6は、NT-proBMP10の四分位によってHF入院のリスクを示すカプラン・マイヤー曲線を示す。NT-proBMP10値が増加するにつれてリスクが絶えず増加し、NT-proBMP10レベルが最大四分位以内である患者について最大リスクが観察されることが分かる。
【0426】
HFの既往歴のない患者におけるHF入院の予測
表2は、HFの既往歴のない患者を含むコックス比例ハザードモデルの結果を示す。従属変数はHF入院までの時間であり、独立変数はlog-2変換されたNT-proBMP10値である。
【0427】
ハザード比及び低いp値によって明らかなように、NT-proBMP10は、HFの既往歴のない患者においてHF入院のリスクを有意に予測することができる。NT-proBMP10値をモデルに入力する前にlog-2変換したため、NT-proBMP10の値が倍増する場合、ハザード比は患者のリスクが3.43増加すると解釈することができる。
【表2】
【0428】
図7は、NT-proBMP10の四分位によってHF入院のリスクを示すカプラン・マイヤー曲線を示す。NT-proBMP10値が増加するにつれてリスクが増加し、NT-proBMP10レベルが2つの最も高い四分位以内である患者についてリスクが最も高いことが分かる。
【0429】
実施例5:SWISS AF研究-脳卒中のリスク予測
脳卒中の発症リスクを予測する循環NT-proBMP10の能力は、心房細動が確認された患者の、予想される多中心的レジストリ(multicentric registry)で検証した(実施例3を参照して)(Conen D.,Swiss Med Wkly 2017 Jul 10;147-w14467)。
【0430】
NT-proBMP10の結果は、事象を有する65人の患者及び事象を有さない2269人の患者で利用可能であった。
【0431】
NT-proBMP10の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中(outcome stroke)で使用した。
【0432】
NT-proBMP10の単変量予後成績を、NT-proBMP10によって付与される予後情報の2つの異なる組込みによって評定した。
【0433】
最初の比例ハザードモデルは、中央値(2.2ng/mL)で二値化されたNT-proBMP10を含み、したがって、中央値以下のNT-proBMP10を有する患者対中央値より上のNT-proBMP10を有する患者のリスクを比較した。
【0434】
2番目の比例ハザードモデルは、元のNT-proBMP10レベルを含んだが、log2スケールに変換した。log2変換は、より良好なモデル較正を可能にするために実行した。
【0435】
二分されたベースラインNT-proBMP10測定(<=2.2ng/mL対>2.2ng/mL)に基づいて2つのグループにおける絶対生存率についての推定を得るために、カプラン・マイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0436】
NT-proBMP10の予後値が、既知の臨床的及び人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを評定するために、可変年齢、及び脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルが計算された。これらは、コホート全体(全ての対照を含む)で唯一の有意な臨床的リスク予測因子であった。
【0437】
脳卒中の予後に関する既存のリスクスコアを改善するNT-proBMP10の能力を評定するために、CHADS2、CHA2DS2-VASc及びABCスコアをNT-proBMP10(log2変換)によって拡張した。拡張を、NT-proBMP10及びそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む部分ハザードモデルを作成することによって行った。
【0438】
CHADS2及びCHA2DS2-VASc及びABCスコアのc指標を、これらの拡張モデルのc指標と比較した。
【0439】
結果
表1は、2値化又はlog2変換されたNT-proBMP10を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。脳卒中を経験するリスクとNT-proBMP10のベースライン値との関連は、log2変換されたNT-proBMP10をリスク予測因子として使用するモデルでは有意ではないが、0.05の有意水準に近い。
【0440】
2値化されたNT-proBMP10を使用するモデルの場合、p値はわずかに高い。しかし、事象の数が多いほど、その効果は統計的に有意であると主張することができる。
【0441】
二値化されたNT-proBMP10のハザード比は、NT-proBMP10>2.2ng/mLの患者群は、ベースラインNT-proBMP10≦2.2ng/mLの患者群に対して、脳卒中のリスクが1.5倍高くなることを意味する。これは、2つの群のカプラン・マイヤー曲線を示す
図8でも見ることができる。
【0442】
log2変換線形リスク予報値として、NT-proBMP10を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値NT-proBMP10が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比2.038は、NT-proBMP10の2倍の増加が、脳卒中のリスクの2.038の増加に関連すると解釈され得る。
【表1】
【0443】
表2は、臨床的及び人口統計学的変数を組み合わせたNT-proBMP10(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。NT-proBMP10の予後値はある程度低下するが、これはモデルの低い統計的パワーによっても部分的に説明され得ることが分かる。
【表2】
【0444】
表3は、CHADS
2スコアに、NT-proBMP10(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。このモデルでは、NT-proBMP10は、CHADS
2スコアに予後情報を追加することができるが、0.05を超えるp値を有し、これは低い試料サイズに関して許容され得る。
【表3】
【0445】
表4は、CHA
2DS
2-VAScスコアに、NT-proBMP10(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。このモデルにおいても、NT-proBMP10は、CHA
2DS
2-VAScスコアに予後情報を追加することができるが、0.05を超えるp値を有し、これは低い試料サイズに関して許容され得る。
【表4】
【0446】
表5は、ABCスコアに、NT-proBMP10(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。このモデルでは、推定ハザード比は減少し、NT-proBMP10は予後性能を追加できない可能性が高い
【表5】
【0447】
表6は、症例コホート選択に対する、NT-proBMP10単独、CHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコア及びCHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコアとNT-proBMP10(log2)とを組み合わせた重み付き比例ハザードモデルの推定c指標を示す。NT-proBMP10の添加は、CHADS2のC指標、CHA2DS2-VAScスコアを改善するが、ABCスコアを改善しないことが分かる。
【0448】
c指標の差は、CHADS
2、CHA
2DS
2-VASc、ABCスコアでそれぞれ0.019、0.015及び-0.002である。
【表6】
【0449】
実施例6:BEAT-AF-PVI研究-肺静脈隔離及びカテーテルアブレーション後の再発性AFibのリスクの予測。
NT-proBMP10が将来の再発性心房細動発作のリスクを予測する能力を、BEAT-AF-PVI研究において評定した。BEAT-AF-PVI試験(Knecht S,International Journal of Cardiology,Volume 176,Issue 3,2014,Pages 645-650)は、肺静脈隔離術を受けた心房細動患者を含む前向きコホート試験である。収集した研究エンドポイントの1つは、心房細動の最初の再発までの時間であった。したがって、PVI及びカテーテルアブレーション後のAFibの再発のリスクを予測する循環NT-proBMP10の能力を、記録された心房細動を有する患者の前向き多施設登録で検証した(Zeljkovic I.,Biochem Med.2019;29:020902)。
【0450】
NT-proBMP10測定値及び心房細動再発に関する情報が719名の患者において利用可能であった。719名中310名で心房細動の再発が認められた。NT-proBMP10を、Roche Diagnostics(ドイツ)からの骨形成タンパク質10(NT-proBMP10)についての研究グレードのECLIAアッセイで測定した。
【0451】
再発性心房細動のリスクを予測するNT-proBMP10の能力を、Cox(比例ハザード)回帰モデルによって評定した。比例ハザードモデルの結果を表1に示す。結果は、NT-proBMP10の値が増加するにつれて、再発性心房細動のリスクが有意に増加することを示す。モデル較正を改善するために変換されたモデルlog2にNT-proBMP10が含まれたため、NT-proBMP10が2倍増加する場合、ハザード比を1.91のリスク増加と解釈することができる。
【表7】
【0452】
あるいは、NT-proBMP10は、心房細動のリスク予測のために二値化(例えば、1.7ng/mLの中央値で分割)形態でも使用することができる。表8は、NT-proBMP10レベルが中央値を上回る患者群におけるリスクが32%上昇することを示す。このリスク差も統計的に有意である。
【表8】
【0453】
実施例7:NT-proBMP10による再発性AFの評定
GISSI AF研究は、心房細動(AF)の病歴を有するが、有意な左心室機能不全又は心不全を有さない洞調律(SR)の患者に関する。全ての患者は、1年間の追跡調査中に3回、NT-proBMP10の生化学評定及び心電図検査を受けた。
【0454】
循環NT-proBMP10レベルを、6ヶ月の来院時のSRにおいて、血液試料採取及びバイオマーカーのアッセイを行ったn=281名の患者の試料で、並びに6ヶ月の来院時にAFが進行している、血液試料採取及びバイオマーカーのアッセイを行ったn=33名の患者の試料で決定した。プロペプチドBMP10に対する抗体を使用した。
【表9】
【0455】
表9に示すように、NT-proBMP10は、GISSI AF研究の6ヶ月の来院時の採血時にSRの患者と比較して、サンプリング時に進行中のAFを有する患者において観察された。
【0456】
NT-proBMP10について、AF患者対SR患者におけるマーカー上昇の小さいが非常に有意なデルタ変化が検出され得ることは明らかである。サンプリング時にAFが進行中の33人の患者において、2.31[2.04~2.67]対1.97[1.75~2.33]ng/mLのNT-proBMP10中央値が、採血時にSR中の281人の患者に対して観察された。
【0457】
n=105人の患者の試料は、6ヶ月の来院時にSRにあったが、無作為化から6ヶ月の来院までにAFの複数の再発を経験していた。105人の患者全員が自発的にSRに転換した。
- 0~7日 n=11人の患者
- 8~30日間 n=17人の患者
- 30日超 n=77人の患者
【表10】
【0458】
表10に示されるように、NT-proBMP10力価は、自発的にSRに転換した患者においてAF後7日間まで上昇することが観察された。サンプリング前7日までの先行AFを有する11名の患者において、採血前30日を超える先行AFを有する77名の患者に対して、2.30[1.65~2.45]対1.90[1.75~2.25]ng/mLの中央値が観察された。顕著なことに、NT-proBMP10についての非常に同じ中央値が、進行中のAFを有する患者におけるように、サンプリング前のAFの7日後まで観察された。サンプリング時点で7日前までのAF後のSRの11人の患者において、2.30[1.65~2.45]ng/mLのNT-proBMP10中央値が観察された。表9に示されるように、2.31[2.04~2.67]ng/mlのNT-proBMP-10中央値の採血時のSR中の時点で進行中のAFを有する33名の患者において観察された。
【0459】
データ評価は、基準値(試験で>2.0ng/mL)を上回る(他のバイオマーカーから独立した)NT-proBMP10レベルを有する患者が、治療的介入後、例えば電気的除細動後に再発性心房細動を有する疑いがあることを示した。不十分な治療応答者と良好な治療応答者との区別は意思決定を支援し、その患者は、高価な治療及び関連する負担を回避するために治療から利益を得ることはできないが、患者に対する転帰は悪い。
【0460】
上昇したNT-proBMP10レベルが、先行するAF発作の7日後までに洞調律で呈する患者において検出され得ることさえ示されている。
【0461】
要約すると、7日後以内に洞調律を呈する患者における発作性心房細動の診断は、増強されたレベルのNT-proBMP10を単独で、又は心損傷のマーカー(例えば、cTNThs)及び/又は心不全のマーカー(NT-ProBNP)と組み合わせて検出することによって達成され得る。
【0462】
実施例8:NT-proBMP 10の検出対成熟BMP10の検出
成熟BMP10及びNT-proBMP10を検出する比較のため、実施例14に記載されるようなElecsysプロトタイプ検出方法を、成熟BMP-10ホモ二量体(aa317~424)を検出するBMP-10 ELISA(R&Dsystems DuoSet DY 2926-05)を用いたhead to head分析において測定した。測定された試料は、実施例1に記載されるようなマッピングコホートから導出される。R&Dsystemsからの成熟BMP10の検出のための市販のイムノアッセイと比較して、NT-proBMP10の検出のための新規方法を適用して、異なる循環BMP10レベルに基づいて心房細動を有する診断患者を患者と比較した。患者からの血清試料を、多電極アレイによる高密度心外膜マッピング(MAPPING研究)を使用して電気生理学的に特徴付けた(
図13、又は以下の表)。
【表10A】
【0463】
52個の試料のうち6個のみについて、成熟BMP10レベルを検出することができた。これらは、4人が洞調律、1人が発作性、1人が持続性AF患者であることを反映している。一方、実施例1に記載されるように、NT-proBMP10レベルを全ての試料について検出することができた。
【0464】
検出可能なレベルの成熟BMP10を有する試料のわずか11.5%というこの知見は、受容体結合時の内在化のために、生理学的に成熟形態が循環において十分に代表されないことを示唆している。したがって、NT-proBMP10は、より安定な形態及びより高い検出可能な濃度レベルで循環している。循環NT-proBMP10レベルに基づく臨床的意思決定を可能にすること。
【0465】
実施例9:BMP-10に対する抗体の作製のためのウサギの免疫化
ここで、本発明者らは、骨形成タンパク質-10(NT-proBMP10)に結合する能力を有する発生抗体を記載する。そのような抗体の作製のために、本発明者らは12~16週齢のNZWウサギをrecで免疫した。NT-proBMP10、preproBMP10の最初の312アミノ酸を含むポリペプチド。全てのウサギを反復免疫化に供した。最初の月に、動物を毎週免疫した。2ヶ月目以降、動物を1ヶ月に1回免疫した。最初の免疫化のため、本発明者らは、500μgの免疫原を1mLの140mM NaClに溶解し、1mlのCFAで溶液を乳化した。その後の全ての免疫化について、CFAをIFAに置き換えた。
【0466】
実施例10:NT-proBMP10に結合する抗体の開発
BMP-10に結合する抗体の開発のため、Seeber et al.(2014),PLoS One.2014 Feb 4;9(2)に記載されるようなB細胞クローニングを使用した。最初に、細胞のPBMCプールを、フィコール勾配遠心分離によって免疫化動物の全血から調製した。PBMCプール由来の抗原反応性B細胞を濃縮するために、ランダムビオチン化NT-proBMP10をストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(Miltenyi)上に固定化した。ビーズのコーティングのために、タンパク質を1μg/mlの濃度で使用した。したがって、本発明者らは、免疫化動物の調製されたPBMCプールをNT-proBMP10被覆ビーズと1時間インキュベートした。抗原反応性B細胞の濃縮のため、MACSカラム(Miltenyi)を使用した。B細胞選別及びインキュベーションを、Seeber et al.(2014),PLoS One.2014 Feb 4;9(2)に記載されているように行った。ELISAによってNT-proBMP10反応性クローンを同定するために、本発明者らは、96ウェルプレートの表面にNT-proBMP10を固定化し、固定化に使用した濃度は250ng/mlであった。洗浄後、バックグラウンドシグナルを減少させるために、プレートを5%BSAでブロッキングした。プレートを再度洗浄し、30μlの初代ウサギB細胞上清を96ウェルプレートに移し、室温で1時間インキュベートした。スクリーニングペプチドに結合した抗体の検出のために、HRP標識F(ab’)2ヤギ抗ウサギFcγ(Dianova)及び基質としてのABTS(Roche)を添加した。プレートに結合したNT-proBMP10に結合するクローンを、Seeber et al.(2014),PLoS One.2014 Feb 4;9(2)に記載されているように、その後の分子クローニングのために選択した。
【0467】
実施例11:動力学的スクリーニング
情報抗原:プロペプチドBMP10(R&D-Systems)及び社内構築物「312」(プレプロペプチドBMP10)は両方とも、BMP10±19aaのN末端リーダーペプチドのプロドメインを表す。組換えヒトBMP-10、R&D-Systems、カタログ番号2926-BP/CF、ロット:Qual 0518031、ジスルフィド結合ホモ二量体、MW 24.40kDa。
【0468】
動力学的スクリーニング
動力学的スクリーニングは、GE Healthcare Biacore 4000機器で37℃で実施した。Biacore CM5シリーズSセンサを機器に取り付け、流体力学的にアドレスし、製造業者の指示に従って事前調整した。系緩衝液はHBS-EP(10mM HEPES、150mM NaCl、1mM EDTA、0.05%(w/v)P20)とした。1mg/mL CMD(カルボキシメチルデキストラン、Fluka)を補充したシステム緩衝液を試料緩衝液として使用した。
【0469】
ウサギ抗体捕捉系をセンサ表面に固定化した。ポリクローナルヤギ抗ウサギIgG Fc捕捉抗体GARbFcγ(コード番号111-005-046;Jackson Immuno Research)を、製造業者の説明書に従ってEDC/NHS化学を使用してアミンカップリングした。
【0470】
10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中30μg/mLのGARbFcγをフローセル1、2、3及び4のスポット1、2、4及び5に予備濃縮し、約10000RUの密度でCMD表面に共有結合させた。続いて、遊離活性化カルボキシル基を1MエタノールアミンpH8.5で飽和させた。
【0471】
スポット1及び5を相互作用測定に使用し、スポット2及び4を参照として使用した。各ウサギ抗体上清懸濁液を試料緩衝液で1:5に希釈し、10μL/分の流量で2分間注入した。共鳴単位RUにおけるウサギ抗体捕捉レベル(CL)を監視した。
【0472】
コンストラクト「312」を単一濃度c=150nMでそれぞれの表面に注入すると、抗プロペプチドBMP10ウサギmAbが30μL/分で提示された。会合相及び解離相をそれぞれ5分間監視した。動力学的決定の各サイクルの後、ウサギクローンを、10mMグリシンpH1.5を20μL/分で30秒間注入することによってセンサ表面から完全に洗浄した。報告点のプロペプチドBMP 10注入の終了直前のBinding Late(BL)及び解離の終了直前のStability Late(SL)を、得られたセンサーグラムから抽出した。それらは、抗体/抗原結合安定性を特徴付けるために使用される。また、ラングミュア1:1モデルにより、解離速度定数kd[s-1]を算出した。抗原/抗体複合体安定性半減時間(分)を、式ln(2)/60*kd.に従って計算した。結合化学量論を表すモル比を、以下の式を用いて計算した:
MW(抗体)/MW(抗原)*BL(抗原)/CL(抗体)
【0473】
このアプローチを使用して280個のウサギ抗体を試験した。Elecsys-platformの基準を満たす適切な動力学的特性を有する18種のAbを同定した。
【0474】
動力学的特性評価
GE HealthcareのBIAcore 8K装置を使用して、詳細な動力学的調査を行った。動力学的スクリーニングによって同定されたウサギmAb<プロペプチドBMP 10>クローン2H8、3H8、8G5、9F7、11A5、11C10、14C8及び13G6を、37℃でプロペプチドBMP10に結合することについて詳細に動力学的に特徴づけた。
【0475】
Biacore CM 5 Series Sセンサ(ロット番号10281824/10276998)を機器に取り付けた。
【0476】
捕捉分子のアミンカップリング
ウサギ抗体捕捉系をセンサ表面に固定化した。ポリクローナルヤギ抗ウサギIgG Fc捕捉抗体GARbFcγ(コード番号111-005-046、ロット番号131053;Jackson Immuno Research)を、製造業者の説明書に従ってEDC/NHS化学を使用してアミンカップリングした:ランニング緩衝液:HBS-N緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)、EDC/NHSの混合物による活性化、捕捉-Abをカップリング緩衝液NaAc、pH5.0に希釈、c=30μg/mL;最後に残った活性化カルボキシル基を1MエタノールアミンpH8.5の注入によってブロックした;Ab密度は11200~12700RUに達した
【0477】
37℃でのmAbの選択に対するプロペプチドBMP10結合についての動力学的な特徴づけ
系及び試料緩衝液はHBS-EP(10mM HEPES、150mM NaCl、1mM EDTA、0.05%(w/v)P20、pH7.4)であった。
【0478】
チャネル1、2、3、4、5、6、7及び8のフローセル2を相互作用測定に使用し、各チャネルのフローセル1を基準として使用した。各ウサギ抗体を試料緩衝液中で3nMに希釈し、5μL/分の流量で2分間注入した。共鳴単位RUにおけるウサギ抗体捕捉レベル(CL)を監視した。
【0479】
一連の漸増濃度c=3.7nM~300nMのプロペプチドBMP10「BMP10(312)」をそれぞれの表面ディスプレイ抗プロペプチドBMP10ウサギmAbに60μL/分で注入し、濃度c=33.3nMについて複製した。会合相を3分間監視し、解離相を10分間監視した。動力学的決定の各サイクルの後、ウサギクローンを、10mMグリシンpH2.0の1分間の注入、続いて10mMグリシンpH2.25の20μL/分での1分間の2回の連続注入によって捕捉系から溶出した。
【0480】
解離速度定数kd は、GE HealthcareのBIAcore(商標)評価ソフトウェアInsight SW V 2.0に従って、ラングミュア1:1適合モデルを使用して評価した。抗原/抗体複合体安定性半減期時間(分)を、式ln(2)/60*kd.に従って計算した。
【0481】
結合化学量論を表すモル比を、以下の式を用いて計算した:
MW(抗体)/MW(抗原)*BL(抗原)/CL(抗体)
【0482】
プロペプチドBMP10は二量体分子であるので、得られた親和性はアビディチン負荷され、したがって、明らかなデータを表す。
【0483】
結果
動力学的スクリーニング
280個のウサギ抗体を動力学的スクリーニングアプローチを用いて試験した。適切な動力学的特性を有する18個のAbを同定し、更に特徴付けた。
【0484】
詳細な動力学的特性評価
280個の動力学的にスクリーニングされたウサギモノクローナル抗体から、18個の抗体を選択した。
【0485】
詳細な濃度依存性動力学的研究は、プロペプチドBMP10相互作用がラングミュア1:1相互作用に従って挙動しないことを示した。
【0486】
プロペプチドBMP10は二量体分子であり、相互作用はおそらく、アビディティに重み付け(avidity burdened)されている。動力学的データは見かけのデータを表すが、センサーグラムの目視検査及び抗体線状解離相の定量によって特徴付けることができる。
【0487】
複雑な半減期は、t/2diss=6~115分超の間で変化する。
【0488】
結合化学量論は1.2~1.4であり、2:1の結合化学量論を示す。
【0489】
14C8及び8G5を除く全てのAbは、適切な動力学的プロファイル:同等の速い複合体形成速度及び15分超の複合体半減期t/2dissを示す。全てのAbのモル比は、2:1の結合化学量論を示す。クローン8G5及び14C8は、他のクローンよりもわずかに遅い会合及びあまり複雑でない安定性を示す。両方とも同じエピトープ領域を包含する。クローン2H8及び3H8はそれぞれ、固有のエピトープ領域を包含する。
【0490】
クローン13G6は、最も遅い解離(kd<1.0E-04 s-1)を示し、錯体半減期t/2-diss>115分をもたらす。クローン11A5は、速い複合体形成速度及び30分の複合体半減期を有する適切な動力学的シグネチャを示す。モル比は、2:1の結合化学量論を有する完全に官能性のAbを示す。
【0491】
結果を表11に要約し、センサーグラムオーバーレイを
図10に示す。8つのクローンの正規化された抗体解離相を
図11に示す。
【表11】
【0492】
実施例12:ペプチドマイクロアレイを用いたエピトープマッピング
抗体クローンのエピトープマッピングを、ヒト骨形成タンパク質10の配列に対応する重複固定化ペプチドフラグメント(長さ:15アミノ酸、14アミノ酸オーバーラップ)のライブラリーによって行った。合成後に溶解した修飾セルロースディスク上で、自動合成装置(Intavis MultiPep RS)を用いてペプチドを合成した。次いで、個々のペプチドの溶液を、コーティングされた顕微鏡スライド上にスポットした。合成は、384ウェル合成プレート中のアミノ修飾セルロースディスク上で9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学を利用して段階的に実施した。各カップリングサイクルにおいて、対応するアミノ酸をDMF中のDIC/HOBtの溶液で活性化した。カップリング工程の間に、未反応アミノ基を無水酢酸、ジイソプロピルエチルアミン及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾールの混合物でキャッピングした。合成が完了すると、セルロースディスクを96ウェルプレートに移し、側鎖脱保護のためトリフルオロ酢酸(TFA)、ジクロロメタン、トリイソプロピルシラン(TIS)及び水の混合物で処置した。切断溶液の除去後、セルロース結合ペプチドをTFA、TFMSA、TIS及び水の混合物と共に溶解し、ジイソプロピルエーテルで沈殿させ、DMSOに再懸濁させた。続いて、これらのペプチド溶液を、Intavisスライドスポッティングロボットを用いてIntavis CelluSpot(商標)スライド上にスポットした。
【0493】
エピトープ分析のため、調製したスライドをエタノールで洗浄し、次いで、トリス緩衝生理食塩水(TBS;50mM Tris、137mM NaCl、2.7mM KCl、pH8)で洗浄した後、5mLの10×Western Blocking Reagent(Roche Applied Science)、TBS中2.5gスクロース、0.1%Tween20を用いて37℃で1時間ブロッキング工程を行った。洗浄(TBS+0.1%Tween20)後、スライドをTBS+0.1%Tween20中の抗体クローンの溶液(1μg/mL)と共に37℃で1時間インキュベートした。洗浄後、スライドを検出のために抗ウサギ二次HRP抗体(TBS-T中1:20000)とインキュベートし、続いてDAB基質とインキュベートした。陽性SPOTを対応するペプチド配列に割り当てた。
【表12】
【0494】
実施例13:サンドイッチアッセイのための抗体の選択
ビオチン化及びルテニウム化クローン2H8、3H8、8G5、9E7、11A5、11C10、14C8、13G6を、更なるElecsysイムノアッセイ開発のためのサンドイッチパートナーの同定のために複数のサンドイッチで試験した。0.01ng/mlでの組換えNT-proBMP10(22~312)の認識と、サンドイッチの組み合わせにわたるブランク値(表13)との関係は、ビオチン化側又はルテニウム化側のいずれかのクローン11A2及び11C2の組み合わせについて、1.16及び1.22のシグナル対ノイズ比を反映する。組み合わせ13G6及び11C10は、1.22及び1.23の比を反映しており、配向とは無関係に高い性能グレードを示している。同様の観察が、3H8と9E7との組み合わせについて、それぞれ1.22及び1.23の比であるが、11C10と13G6との組み合わせと比較してより高いブランク値で行われる。記載された他の組み合わせは、良好な比を達成するが、1つのサンドイッチ配向に対してのみである。
【表13】
【0495】
健常ドナーに由来する20個の天然試料の認識(表14)は、天然血清試料中のNT-proBMP10の検出範囲を示し、臨床試料測定のためのベースライン値を決定することを可能にする。これらは、11C10及び13G6のRu-及びBi-配向の両方について同等の範囲にある。両方位においても、11C10、11A5で同様の範囲が検出される。
【表14】
【0496】
実施例14:バイオマーカー測定(NT-proBMP10の検出のための方法の一例)
バイオマーカーNT-proBMP10の血清及び血漿濃度を、Roche Diagnostics(ドイツ国マンハイム)からの市販のElecsys(登録商標)試薬を用いて測定した。バイオマーカーNT-proBMP10を、Roche Diagnostics(ドイツ国マンハイム)からのプロトタイプElecsys(登録商標)試薬を用いて測定した。
【0497】
ビオチン化ウサギMAB<NT-proBMP10>F(ab’)2-Bi及びルテニウム化MAB<NT-proBMP10>-Ruを用いたNT-proBMP10アッセイ:
Elecsys(登録商標)cobas分析装置e601を使用して、特にヒト血清又は血漿試料中のNT-proBMP10の特異的測定のための電気化学発光免疫アッセイ(ECLIA)を開発した。ElecsysNT-proBMP10免疫アッセイは、サンドイッチ原理を介して機能する電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)である。アッセイに含まれる2つの抗体、すなわちビオチン化モノクローナル抗体F(ab’)2フラグメントMAB<BMP10>(MAB<BMP10_22-312>Bi;11C10等の捕捉抗体)及びルテニウム化モノクローナル抗BMP10抗体MAB<BMP10>(MAB<BMP10_22-312>-Ru;13G6等の検出抗体)があり、これらは試料中のNT-proBMP10とサンドイッチイムノアッセイ複合体を形成する。次いで、複合体を固相ストレプトアビジン被覆微粒子に結合させる。これらは、電極表面に磁気的に捕捉され、電極に電圧を印加すると化学発光をもたらし、これは光電子増倍管によって測定される。結果は、測定範囲にわたって異なる濃度のNT-proBMP10を有する一連の6つの較正器によって決定された機器特異的較正曲線を介して決定される。試料を、アッセイプロトコル2を適用して、20ulの試料、75ulの試薬1(R1)、75μlの試薬2(R2)及び30μlの磁気ビーズのピペッティング体積で測定する。R1はリン酸塩反応緩衝液中のMAB<BMP10>F(ab’)2-Biを含有し、試薬2(R2)は同じ反応緩衝液中のMAB<BMP10>-Ruを含有する。
【0498】
実施例15:循環BMP-10レベルに基づく無症候性脳梗塞(LNCCI及びSNCI)の予測
無症候性脳梗塞の評定におけるBMP-10は、
1.血清/血漿中の循環BMP-10レベル(SWISSAF試験、表15及び16)に基づく心房細動患者における無症候性脳梗塞のリスクを予測する方法
2.血清/血漿中の循環BMP-10レベル(例えば、CHA2DS2-VASc、CHADS2スコア)(SWISS AF研究、表17)に基づく無症候性脳梗塞の臨床的脳卒中リスクスコアの臨床的精度の予測を改善する方法を提供する。
【0499】
循環BMP-10が無症候性梗塞の発生のリスクを予測する能力を、SWISS AF研究(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862;Conen et al.,Swiss Med Wkly.2017;147)で評定した。SWISS AFコホートの患者は、年齢中央値74歳、以前の臨床脳卒中又はTIAの割合20%、血管疾患の割合34%及び糖尿病の病歴17%を有する。
【0500】
BMP-10を、市販前(pre-commercial)のアッセイを用いて完全SWISS AF研究で測定し、骨形成タンパク質10(BMP-10)(高スループットElecsys(登録商標)イムノアッセイ;Roche Diagnostics、ドイツ国マンハイム)に使用した。BMP-10の検出のために、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム用のサンドイッチ免疫アッセイを開発した。
【0501】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値にはバイアスがかかるため(症例と対照の比率が変化するため)、加重比例ハザードモデルを使用した。加重は、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づいている。二分されたベースラインBMP-10測定(≦中央値対>中央値)に基づいて2つのグループにおける絶対生存率についての推定を得るために、カプラン・マイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0502】
脳卒中の予後に関する既存のリスクスコアを改善するBMP-10の能力を評定するために、CHADS2、CHA2DS2-VASc及びABCスコアをBMP-10(log2変換)によって拡張した。拡張を、BMP-10及びそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む部分ハザードモデルを作成することによって行った。
【0503】
CHADS2、CHA2DS2-VASc及びABCスコアのc指標を、これらの拡張モデルのc指標と比較した。症例コホート設定におけるc指標の計算のために、Ganna(2011)において提案されているようにc指数の加重バージョンを使用した。
【0504】
【0505】
bMRI上のLNCCI又はSNCIを有する患者はより高齢であり(75.0対68.1歳、p<0.0001)、より頻繁に永続的AFを有し(28.4対17.8%、p=0.0002)、より高い収縮期BPレベル(136.7対131.3mmHg、p<0.0001)及びより高いCHA2DS2-VAScスコア(3.2対2.1点、p<0.0001)を有していたが、経口抗凝固療法の速度に差を示さなかった(90.3対88.5%、p=0.32)。表15に示されるように、BMP-10は、脳病変を有する患者において有意に高いレベルを有する。
【0506】
表15に示すように、心房細動患者における無症候性脳梗塞のリスクは、血清/血漿中の循環BMP-10レベルに基づいて評定することができる。
【表16】
【0507】
モデル1を年齢及び性別について調整した。
【0508】
モデル2を、収縮期血圧、以前の大出血、糖尿病、末梢血管疾患、BMI、喫煙状態、経口抗凝固薬及び抗血小板薬の使用について更に調整した。
【0509】
バイオマーカーを対数化した。
【0510】
表16に示すように、BMP-10は、年齢及び性別(モデル1)又は年齢、性別、収縮期血圧、以前の大出血、糖尿病、末梢血管疾患、BMI、喫煙状態、経口抗凝固薬の使用及び抗血小板薬の使用についての多変量調整後に、LNCCIと有意に関連していた。
【0511】
したがって、心房細動患者における無症候性脳梗塞のリスクは、血清/血漿中の循環BMP-10レベルに基づいて評定することができる。
【0512】
【0513】
本発明者らが個々のバイオマーカーをCHA2DS2-VAScスコアに追加した場合、表17に示すように、AUC(95%CI)はBMP-10 0.699(0.673~0.724)によって改善された。
【0514】
BMP-10とCHA2DS2-VASCスコアの臨床パラメータとの組み合わせは、臨床的に無症候性の脳梗塞を十分に予測し、CHA2DS2-VAScスコアを凌駕した。認知低下のリスクがある患者の早期の臨床的同定は、より良好な診断及び予防措置を可能にし得る。
【0515】
実施例16:循環BMP-10レベルに基づく白質病変の予測
SWISS-AFデータ中のデータは、BMP-10が患者における大きな非皮質及び皮質梗塞(LNCCI)の存在と相関することを示している。
【0516】
実質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアは0~3の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、3は重度WMLを示す。
【0517】
BMP-10と大きな非皮質及び皮質拘束(LNCCI)との関連を比較するため、Fazekasスコア<2(なし)対Fazekasスコア≧2(あり)の2つの群に分類した。
図14は、中等度又は重度のWMLを有する患者では、軽度又はWMLを有しない患者と比較してBMP-10が増加することを示す。
【0518】
WMLの程度は、臨床上の無症候性脳卒中(Wang Y,Liu G,Hong D,Chen F,Ji X,Cao G.White matter injury in ischemic stroke.Prog Neurobiol.2016;141:45-60.doi:10.1016/j.pneurobio.2016.04.005)によって引き起こされ得る。これは、臨床脳卒中のリスクを予測するためのBMP-10の有用性を更に主張する。
【0519】
Fazekasスコア<2(なし)対Fazekasスコア≧2(あり)の患者を識別する循環BMP-10の能力は、0.62のAUCによって示される。認知症患者の脳の白質変化。加齢及びWMLスコアの変化は、アルツハイマー病患者の認知症の重症度に関連すると記載されている(Kao et al.,2019)。
【0520】
年齢もまた、臨床的脳卒中の重要な予測因子である。したがって、循環中のBMP-10レベルの有意に増加したデータは、中等度又は重度の大きな非皮質及び皮質梗塞(LNCCI)を示すだけでなく、加齢性脳疾患、例えば血管性認知症も示すと考えられる。
【配列表】
【国際調査報告】