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特表2023-515481植物における熱ストレス耐性を誘導する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】植物における熱ストレス耐性を誘導する方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/06 20060101AFI20230406BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20230406BHJP
   A01G 22/20 20180101ALI20230406BHJP
   A01G 22/40 20180101ALI20230406BHJP
   A01G 22/60 20180101ALI20230406BHJP
   A01G 22/50 20180101ALI20230406BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20230406BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230406BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A01G7/06 A
A01G22/15
A01G22/20
A01G22/40
A01G22/60
A01G22/50
A01N37/44
A01P21/00
A01N25/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549831
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 US2021018782
(87)【国際公開番号】W WO2021168250
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】62/979,138
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509319074
【氏名又は名称】バレント・バイオサイエンシーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Valent BioSciences LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン,フランクリン ポール
(72)【発明者】
【氏名】レディ,シュリラマ クリシュナ
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B022AB15
2B022AB17
2B022AB20
2B022EA10
4H011AB03
4H011AB04
4H011BB15
4H011DA12
4H011DC05
4H011DD03
4H011DE16
(57)【要約】
本発明は、有効量の1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸を植物に適用することを特徴とする、植物における熱ストレス耐性を向上させる方法を対象とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸(ACC)を植物に適用することを特徴とする、植物における熱ストレス耐性を向上させる方法であって、前記植物が、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、トマト、セイヨウアブラナ、マメ、レタス、芝草および観賞植物からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記植物が、コムギである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物が、レタスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記植物が、ダイズである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記植物が、セイヨウアブラナである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有効量が、約1から約1000ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有効量が、約10から約300ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有効量が、約30から約300ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有効量が、約30から約100ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記有効量が、約10から約100ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記有効量が、約10から約30ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ACCが、スプレーとして前記植物に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ACCが、葉面散布剤として前記植物に適用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ACCが、前記植物の発育期で前記植物に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ACCが、Feekesステージ2からFeekesステージ11までの間、前記コムギに適用される、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記ACCが、Feekesステージ5で、前記コムギに適用される、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記ACCが、Feekesステージ10.4からFeekesステージ10.5までの間、前記コムギに適用される、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記ACCが、前記レタスのロゼット期に、前記レタスに適用される、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
前記ACCが、V1からV4期までの間、前記ダイズに適用される、請求項4に記載の方法。
【請求項20】
前記ACCが、前記セイヨウアブラナ植物体の開花期に、前記セイヨウアブラナ植物体に適用される、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効量の1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸を植物に適用することを特徴とする、植物における熱ストレス耐性を向上させる方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
気温が世界中で上昇しており、今世紀の残りの間を通して上昇し続けることが予想されている。この気温の上昇は、コムギなどの作物に熱ストレスを引き起こすであろう。Tack J., et al., Effect of warming temperatures on US wheat yields Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jun 2;112(22):6931-6を参照されたい。ストレスが生殖期および登熟期の間に生じる場合、熱ストレスは、コムギの生産にとって特に脅威となっている。Ababaei B. and Chenu K., Heat shocks increasingly impede grain filling but have little effect on grain setting across the Australian wheatbelt, Agr. For. Meterol., 2020 Jan; 284, 107889を参照されたい。
【0003】
熱ストレスは、植物の代謝速度を制限し、葉緑体に損傷を与えることで、植物が光合成する能力を減少させると考えられている。この光合成能力の減少は、穀物生産量の減少をもたらす。穀物生産量の減少は、農家および全人口のどちらにとっても損害が大きい。世界人口の増加に伴い、作物生産の増加が必要となる。それゆえ、コムギなどの作物における熱ストレス耐性の向上は、世界人口の生存にとって有益であり、なおかつ必要である。
【0004】
1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸(「ACC」)は、酵素ACCシンターゼの生成物であり、植物におけるエチレンの生合成前駆体として作用する。エチレンは、ストレス、着果、落葉、開花、および老化などの、いくつかの植物応答に関与することが示されている。そのエチレン前駆体としての役割のために、ACCは、エチレン応答現象を誘導するために農業で使用されている。しかしながら、ACCは、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、トマト、マメ、レタス、セイヨウアブラナ(例えばキャノーラ、ナタネなど)、芝草および観賞植物など、様々な植物において、熱ストレス耐性を誘導することが示されていない。実際に、コムギ粒の発育における、熱ストレスにより誘導されるエチレン産生は、稔実不良および収穫量の減少を引き起こす。Hays D.B. et al., Heat stress induced ethylene production in developing wheat grains induces kernel abortion and increased maturation in a susceptible cultivar,Plant Sci, 2007, 172, 1113-1123 および Valluru R., et al., Phenotypic and genome-wide association analysis of spike ethylene in diverse wheat genotypes under heat stress, New Phytologist, 2016, doi:10.1111/nph. 14367, 1-13を参照されたい。
【0005】
それゆえ、当技術分野において、作物における熱ストレス耐性を向上させる方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、有効量の1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸(「ACC」)を植物に適用することを特徴とする、植物における熱ストレス耐性を向上させる方法であって、前記植物が、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、トマト、セイヨウアブラナ、マメ、レタス、芝草および観賞植物からなる群から選択される方法を対象とする。
【発明を実施するための形態】
【0007】
出願人は、1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸(「ACC」)の植物への適用が、熱ストレス耐性を向上させ、穀物生産量の上昇をもたらすことを予期せず見出した。
【0008】
一度植えられた植物は、生長期、生殖期、成熟期および老化期などのライフステージを経る。植物は一般に、発育期、生長期および生殖期、特に開花期の間、熱ストレスを受ける。植物は、成熟期の間も熱ストレスを受けることがある。
【0009】
小麦は、特に、発芽から始まり、分げつ、出穂、開花、最後に成熟へと続く、いくつかの生活環ステージを経る。Miller T.D., Growth Stages of Wheat:Identification and Understanding Improve Crop Management, Texas A&M Agrilife Ext. SCS-1999-16を参照されたい。Feekesスケールは、コムギ植物体の生活環を体系的に記述するために開発された。Feekesステージ1は、コムギ植物体の土壌からの出芽を記述する。Feekesステージ2-3は、分げつ期を記述する。分げつ期は、植物が、蘖として知られる腋芽または側芽を出す時期である。コムギ植物体は、Feekesステージ2で蘖を出し始め、Feekesステージ3で蘖を出すのを止める。Feekesステージ4は、コムギ植物体の直立生長の開始を記述する。Feekesステージ5は、低温期間の後に生じ、一穂あたりの小穂の数が決まる。穂は、それぞれの蘖の先端から伸び、複数の小穂をつけ、そのそれぞれが稔実する。ステージ5の後に形成される蘖は、穀物の収穫につながらない。Feekesステージ6-9の間、節が生じ、葉が現れる。Feekesステージ10で出穂し、開花が始まる。Feekesステージ10は、複数のサブステージに分けられる。Feekesステージ10.1は、穂の先端が現れることを記述する。Feekesステージ10.3は、穂の半分が現れることを記述する。Feekesステージ10.4は、穂の4分の3が現れることを記述する。Feekesステージ10.5は、穂が完全に表れることを記述する。Feekesステージ10.5.1で、開花が始まる。この後、Feekesステージ10.5.3からFeekesステージ11.4にかけて、受粉および穀粒(すなわち穀物)の成熟が続く。
【0010】
出願人は、本出願全体を通して、ダイズ発育期を「V」ステージと呼んでいる。「V」ステージは、V1、V2、V3、などのように、数字で指定される。このV(n)の識別システムにおいて、(n)は、開いている三小葉の数を表す。それぞれの葉ステージは、完全に広がっている最上部の葉によって定義される。
【0011】
本明細書で使用されるとき、「熱ストレス」という用語は、24℃以上の気温に植物が晒されることと定義される。好ましい実施形態において、「熱ストレス」という用語は、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上または30℃以上の気温に植物が晒されることを含むことがある。熱ストレスは、日中、または夜のいずれかに生じることがある。同じ植物について、夜間の熱ストレスは、日中の熱ストレスよりも低い温度で生じることがある。
【0012】
本明細書で使用されるとき、「向上させる」という用語は、熱ストレスにさらされる植物の成長および/または収量の増加と定義される。成長および/または収量の測定には、これらに限らないが、バイオマスの新鮮重量、総繁殖分げつ数、繁殖分げつの割合、群落密度およびバイオマスの乾燥総重量といった、栄養成長期に行われる測定、ならびに、これらに限らないが、穂の総数、穂の重量、一穂あたりの収量、粒重および収穫指数といった、生殖期に行われる測定が挙げられるが、これらに限らない。
【0013】
本明細書で使用されるとき、量、比率、重量パーセントおよび同類のものに関する全ての数値は、「約」それぞれの特定の値、プラスまたはマイナス10%として定義される。例えば、「少なくとも重量5.0%」という言葉は、「少なくとも重量4.5%から5.5%」として理解されるべきである。したがって、請求項にある数値の10%以内の量が、特許請求の範囲に包含される。
【0014】
「有効量」という用語は、熱ストレス耐性を向上させるであろう製剤の量を意味する。「有効量」は、数ある因子の中でも、治療を受ける植物の種類、熱ストレスの重症度、望ましい結果、および治療中の植物のライフステージによって異なるであろう。それゆえ、正確な「有効量」を明示することが、常に可能なわけではない。
【0015】
「一つの(a)」、「一つの(an)」および「その(the)」という冠詞は、文脈上明白に別段の指示がない限り、複数形ならびに単数形を含むように意図される。例えば、本発明のいくつかの方法は、「コムギ」における熱ストレスを向上させることを対象とするが、これは複数のコムギ植物体(例えば2以上のコムギ植物体または2以上のコムギ種など)の制御を包含し得る。
【0016】
一つの実施形態において、本発明は、有効量のACCを植物に適用することを特徴とする、植物における熱ストレス耐性を向上させる方法であって、前記植物が、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、トマト、セイヨウアブラナ、マメ、レタス、芝草および観賞植物からなる群から選択される方法を対象とする。
【0017】
セイヨウアブラナ(Brassica napus)は、これらに限らないが、一年生のアブラナ(annual rape)、アルゼンチンキャノーラ(Argentine canola)、キャノーラ、コルザ、ハノーバーサラダ(Hanover-salad)、ナタネ(oilseed rape)、アブラナ(rape)、ナタネ(rapeseed)、rape kale、ルタバガ、シベリアンケール(Siberian kale)、夏型アブラナ(summer rape)、スウェード(swede)、スウェードレイプ(Swede rape)、スウェーデンカブ(Swedish turnip)および冬型アブラナ(winter rape)といった、その全ての品種、亜種および変種を包含する。好ましい実施形態において、前記セイヨウアブラナの変種は、キャノーラである。
【0018】
好ましい実施形態において、前記植物は、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、トマト、セイヨウアブラナ、マメ、レタス、および芝草からなる群から選択される。より好ましい実施形態において、前記植物は、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、トマト、セイヨウアブラナ、マメ、およびレタスからなる群から選択される。さらにより好ましい実施形態において、前記植物は、コムギ、レタス、ダイズ、またはセイヨウアブラナである。
【0019】
好ましい実施形態において、有効量のACCは、約1から約1,000百万分率(「ppm」)、より好ましくは約1から約500ppm、さらにより好ましくは約10から約300ppm、さらにより好ましくは約30から約300ppm、最も好ましくは約30から約100ppmである。
【0020】
別の好ましい実施形態において、ACCは、約0.001から約1,000グラム・パー・ヘクタール(「g/HA」)、より好ましくは約0.028から約281g/HA、さらにより好ましくは約0.28から約28g/HAの割合で、前記植物に適用される。
【0021】
本発明の方法は、前記植物の任意の成長段階で、ACCを前記植物に適用することを企図する。好ましい実施形態において、ACCは、開花期を含む、前記植物の発育期、生長期および/または生殖期で、前記植物に適用される。
【0022】
別の好ましい実施形態において、ACCは、Feekesステージ2からFeekesステージ11まで、さらにより好ましくはFeekesステージ2からFeekesステージ5まで、またはFeekesステージ10からFeekesステージ11まで、さらにより好ましくはFeekesステージ5で、またはFeekesステージ10.4から10.5まで、前記コムギ植物体に適用される。
【0023】
別の好ましい実施形態において、ACCは、生長期で、より好ましくはロゼット期としても知られる結球形成期で、前記レタス植物体に適用される。
【0024】
別の好ましい実施形態において、ACCは、生長期で、より好ましくはV1からV4期まで、前記ダイズ植物体に適用される。
【0025】
別の好ましい実施形態において、ACCは、生殖期で、より好ましくは開花期で、前記セイヨウアブラナ植物体に適用される。
【0026】
本発明のACCは、任意の簡便な手段によって適用され得る。当業者は、これらに限らないが、噴霧、ブラッシング、浸漬、インファロー処理、点滴灌漑、ドレンチング(drenching)、スプレンチング(sprenching)、散粉(dusting)、散粉(powdering)、散粒、種子処理、加圧液体(エアロゾル)、フォギング(fogging)または側条施肥といった適用方法を熟知している。好ましい実施形態において、ACCは、スプレーとして、さらにより好ましくは葉面散布剤として、前記植物に適用される。
【0027】
これらの代表的な実施形態は、決して制限的ではなく、本発明のいくつかの態様を説明するためだけに記述される。
【0028】
さらに、以下の実施例は、実例として提供されるにすぎず、制限を目的としない。
【実施例
【0029】
実施例1-開花期でのACC適用後のコムギにおける熱ストレス耐性
方法
24ポットのApogeeコムギを温室で、3連続の生育条件下で栽培した。初めに、コムギをProMix(登録商標)栽培培地に植え、約6週間、グロースキャビネット内で、24/18℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で栽培した。最初の一連の生育条件の後、植物体はFeekesステージ10.4-10.5(開花期)であった。次に、タンク噴霧器を用いて、0、30または100ppm ACC(n=8)のスプレー塗布を行った。次に、処理の2日後に、植物体を36/30℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で7日間、グロースチャンバーに移した。これらの条件は、著しい熱ストレスを成す。最後に、植物体をその後、24/18℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下でさらに約5週間、グロースチャンバーに戻した。植物体を次に破壊的に収穫し、穂の総数、穂の重量、粒重、一穂あたりの収量、Δ穂数および収穫指数を測定した。Δ穂数は、収穫時の繁殖分げつ数から処理時の繁殖分げつ数を差し引いて算出される。繁殖分げつの増加は、繁殖成功の増加を示す。収穫指数は、穀物のポンド数を地上バイオマスの総ポンド数で除することで算出される。結果は以下の表1に示される。
【表1】
【0030】
結果
上記の表1に示すように、熱ストレスに先立つACCの適用は、穂数、穂の重量、粒重、一穂あたりの収量、分げつ数および収穫指数の増加をもたらした。これらの増加は、用量依存的であった。具体的に言うと、30ppm ACCの適用は、穂数を6.3%、穂の重量を8.5%、粒重を15.7%、一穂あたりの収量を11.1%、分げつ数を16.7%、収穫指数を10.3%、コントロールと比較して増加させた。100ppm ACCの適用は、穂数を10.5%、穂の重量を14.5%、粒重を25.7%、一穂あたりの収量を17.8%、分げつ数を42.0%、収穫指数を17.2%、コントロールと比較して増加させた。それゆえ、コムギの開花期でのACCの適用は、コムギを後の熱ストレスから保護し、収量および繁殖成功を、ACCで処理していないコムギと比較して増加させた。
【0031】
実施例2-Feekesステージ5でのACC適用後のコムギにおける熱ストレス耐性
方法
ApogeeコムギをProMix BX(Premier Horticulture)中に播き、グロースキャビネットで、以下の条件で栽培した:24/18℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期。2019年11月15日の最初の一連の生育条件の後、植物体をFeekesステージ5で評価した。次に、トラック噴霧器(track sprayer)を用いて、0、0または100ppm ACC(n=8)のスプレー塗布を行った。次に、処理の2日後に、1組のコントロール植物体(「処理コントロール」)および100ppm ACC植物体を34/28℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で4日間、第2のグロースキャビネットに移した。これらの条件は、著しい熱ストレスを成す。もう1組のコントロール植物体(「ストレスコントロール」)は、第1のグロースキャビネットの中に放置した。最後に、植物体を次に第1のグロースキャビネットに約14日間戻し、植物体をFeekesステージ10.1(出穂)に到達させた。植物体を次に破壊的に収穫し、穂の総数、新鮮重量、総繁殖分げつ数、繁殖分げつの割合、Δ群落密度および乾燥総重量を測定した。繁殖分げつの割合は、繁殖分げつ数を収穫時の穂の総数で除することで算出される。Δ群落密度は、収穫時の群落密度から処理時の群落密度を差し引いて算出される。結果は以下の表2に示される。
【表2】
【0032】
結果
上記の表2に示すように、熱ストレスに先立つACCの適用は、新鮮重量、総分げつ数、%分げつ、Δ群落密度および乾燥総重量の増加を、熱ストレスにさらされたが、ACCで処理されていないコムギ植物体と比較してもたらした。%繁殖分げつは、理想的な条件(すなわちストレスコントロール)下で栽培されたコムギ植物体の1.1%以内に戻された。さらに、Δ群落密度は、ACCで処理したコムギ植物体において、理想的な条件下で栽培されたコムギ植物体と比較して、42.1%増加した。それゆえ、コムギの栄養成長期でのACCの適用は、コムギを後の熱ストレスから保護し、収量および繁殖成功を、ACCで処理していない、熱ストレスを受けたコムギと比較して増加させた。
【0033】
実施例3-Feekesステージ5でのACC適用後のコムギにおける熱ストレス耐性
方法
ApogeeコムギをProMix BX(Premier Horticulture)中に播き、グロースキャビネットで、以下の条件で栽培した:24/18℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期。最初の一連の生育条件の後、植物体はFeekesステージ5であった。次に、トラック噴霧器(track sprayer)を用いて、2019年10月4日に、0、0、100または300ppm ACC(n=8)のスプレー塗布を行った。次に、処理の2日後に、1組のコントロール植物体(「処理コントロール」)および100ppm ACC植物体を34/28℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で4日間、第2のグロースキャビネットに移した。これらの条件は、著しい熱ストレスを成す。もう1組のコントロール植物体(「ストレスコントロール」)は、第1のグロースキャビネットの中に放置した。最後に、植物体を次に第1のグロースキャビネットに約14日間戻し、植物体をFeekesステージ10.1(出穂)に到達させた。植物体を次に破壊的に収穫し、穂の総数、新鮮重量、総繁殖分げつ数、繁殖分げつの割合、Δ群落密度および乾燥総重量を測定した。繁殖分げつの割合は、繁殖分げつ数を収穫時の穂の総数で除することで算出される。Δ群落密度は、収穫時の群落密度から処理時の群落密度を差し引いて算出される。結果は以下の表3に示される。
【表3】
【0034】
結果
上記の表3に示すように、熱ストレスに先立つ100ppm ACCの適用は、穂数、新鮮重量、総分げつ数、Δ群落密度および乾燥総重量の増加を、熱ストレスにさらされたが、ACCで処理されていないコムギ植物体と比較してもたらした。熱ストレスに先立つ300ppm ACCの適用は、穂数および乾燥総重量の増加をもたらした。それゆえ、コムギの栄養成長期でのACCの適用は、コムギを後の熱ストレスから保護し、収量を、ACCで処理していない、熱ストレスを受けたコムギと比較して増加させた。
【0035】
実施例4-ロゼット期でのACC適用後のレタスにおける熱ストレス耐性
方法
バターヘッドレタスをProMix BX(Premier Horticulture)中に播き、温室で栽培した。播種後3週間で、レタスをグロースキャビネットに以下の条件下で移した:24/18℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期。最初の一連の生育条件の後、植物体は結球形成(ロゼット)期であった。移動の4日後に、群落密度を算出した。次に、トラック噴霧器(track sprayer)を用いて、2020年9月21日に、0、10、30または100ppm ACC(n=5)のスプレー塗布を行った。次に、処理の2日後に、植物体の半数を34/30℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で9日間、第2のグロースキャビネットに移した。これらの条件は、著しい熱ストレスを成す。植物体を次に破壊的に収穫し、新鮮重量、大きさ、群落密度およびΔ群落密度を測定した。Δ群落密度は、収穫時の群落密度から処理時の群落密度を差し引いて算出される。結果は以下の表4に示される。
【表4】
【0036】
結果
上記の表4に示すように、熱ストレスに先立つ10、30または100ppm ACCの適用は、新鮮重量、群落密度およびΔ群落密度の増加を、熱ストレスにさらされたが、ACCで処理されていないレタス植物体と比較してもたらした。それゆえ、レタスの栄養成長期でのACCの適用は、レタスを後の熱ストレスから保護し、収量を、ACCで処理していない、熱ストレスを受けたレタスと比較して増加させた。
【0037】
実施例5-ACC適用後のダイズにおける熱ストレス耐性
方法
Williams 82ダイズをProMix BX(Premier Horticulture)中に播き、温室で栽培した。ダイズ植物体が、完全に広がった第1三出葉(V1成長段階)を見せたとき、ダイズの群落密度を測定し、相対的な大きさに基づいて、処理および再現にグループ分けした。次に、トラック噴霧器(track sprayer)を用いて、2020年10月9日に、0、10、30または100 ACC(n=5)のスプレー塗布を行った。スプレー後、植物体をグロースキャビネットに、以下の条件下で移した:24/18℃の日中夜間温度、16/8時間の明暗周期。次に、処理の3日後に、植物体の半数を34/30℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で6日間、第2のグロースキャビネットに移した。これらの条件は、早期熱ストレスを成す。植物体を次に破壊的に収穫し、新鮮重量、群落密度、Δ群落密度、乾燥総重量および高さを測定した。結果は以下の表5に示される。
【表5】
【0038】
結果
上記の表5に示すように、熱ストレスに先立つ10および30ppm ACCの適用は、新鮮重量、群落密度、Δ群落密度、乾燥総重量および高さの増加を、熱ストレスにさらされたが、ACCで処理されていないダイズ植物体と比較してもたらした。熱ストレスに先立つ100ppm ACCの適用は、乾燥総重量の増加をもたらした。それゆえ、ダイズの栄養成長期でのACCの適用は、ダイズを後の熱ストレスから保護し、収量を、ACCで処理していない、熱ストレスを受けたダイズと比較して増加させた。
【0039】
実施例6-ACC適用後のセイヨウアブラナにおける熱ストレス耐性
方法
セイヨウアブラナのキャノーラ変種の実験モデルとして一般に使用されるセイヨウアブラナの矮性種をProMix BX(Premier Horticulture)中に播き、温室で栽培した。次に、トラック噴霧器(track sprayer)を用いて、セイヨウアブラナ植物体が開花し始めてから6日後に、0、10、100または300ppm ACC(n=10)のスプレー塗布を行った。スプレー後、植物体をグロースキャビネットに、以下の条件下で移した:24/18℃の日中夜間温度、16/8時間の明暗周期。次に、処理の2日後に、植物体の半数を36/30℃の日中/夜間温度、16/8時間の明/暗光周期下で7日間、第2のグロースキャビネットに移した。これらの条件は、早期熱ストレスを成す。常に花および鞘を剪定し、鞘の数を約10に保った。植物体を次に破壊的に収穫し、種子収量、種子数、1鞘あたりの種子収量、1鞘あたりの種子数および1粒種子重を測定した。結果は以下の表6に示される。
【表6】
【0040】
結果
上記の表6に示すように、熱ストレスに先立つ30、100または300ppm ACCの適用は、1鞘あたりの種子収量および1鞘あたりの種子数の増加を、熱ストレスにさらされたが、ACCで処理されていないセイヨウアブラナ植物体と比較してもたらした。熱ストレスに先立つ10ppm ACCの適用は、1鞘あたりの種子数の増加をもたらした。それゆえ、セイヨウアブラナ矮性種の生殖成長初期でのACCの適用は、植物体を後の熱ストレスから保護し、収量を、ACCで処理していない、熱ストレスを受けたセイヨウアブラナ矮性種と比較して増加させた。
【国際調査報告】