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特表2023-515485限外濾過/透析濾過を用いたオリゴヌクレオチド組成物の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】限外濾過/透析濾過を用いたオリゴヌクレオチド組成物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20230406BHJP
   C08L 85/02 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/7105
C08L85/02
A61P21/00
A61K31/711
A61K9/19
A61K47/12
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549837
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 US2021018856
(87)【国際公開番号】W WO2021168306
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】62/979,687
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398050098
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】グロンケ,ロバート・エス
(72)【発明者】
【氏名】インメル-ブラウン,ジョナス・ピー
(72)【発明者】
【氏名】ゴビンダン,ギータ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4J002
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA30
4C076BB11
4C076CC01
4C076DD41Z
4C076FF36
4C076GG07
4C076GG47
4C086AA01
4C086AA10
4C086EA16
4C086MA44
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB21
4J002CQ011
4J002GB04
(57)【要約】
オリゴヌクレオチドを含む組成物を調製する方法が本明細書に開示される。本開示の方法は、オリゴヌクレオチドを含む保持液を形成するために、オリゴヌクレオチドの水溶液を限外濾過/透析濾過(UF/DF)に供することを含み、限外濾過/透析濾過(UF/DF)は、1つまたは複数の塩を含む水性緩衝液を使用して実行される。これらの方法によって得られるオリゴヌクレオチド含有組成物も本明細書に開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴヌクレオチドを含む組成物を調製する方法であって、前記方法は、前記オリゴヌクレオチドの水溶液を限外濾過/透析濾過(UF/DF)に供し、前記オリゴヌクレオチドを含む保持液を形成することを含み、前記限外濾過/透析濾過(UF/DF)は、1つまたは複数の塩を含む水性緩衝液を使用して実行される、前記方法。
【請求項2】
前記緩衝液中の前記1つまたは複数の塩の総濃度が、10mM~200mM、20mM~100mM、または30mM~60mMの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記緩衝液中の前記1つまたは複数の塩の前記総濃度が40mMである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、及び酢酸アンモニウムから選択される、少なくとも1つの塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムを含み、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムの総濃度が、10mM~200mM、または20mM~100mM、または30mM~60mMの範囲、もしくは40nMであるか、または、
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムを含み、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムの総濃度が、10mM~200mM、または20mM~100mM、または30mM~60mMの範囲、もしくは40nMである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記緩衝液中の酢酸アンモニウムに対する酢酸ナトリウムのモル比、または酢酸カリウムに対する酢酸ナトリウムのモル比が、1:20~20:1、または1:1~19:1、または5:1~19:1、または5:1~6:1、または5:1~6:1.8、または12:1~15:1の範囲にある、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムを含み、前記水性緩衝液中の酢酸アンモニウムに対する酢酸ナトリウムのモル比が17:3であるか、または、
前記水性緩衝液が、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムを含み、前記水性緩衝液中の酢酸カリウムに対する酢酸ナトリウムのモル比が17:3である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水性緩衝液が、34mMの酢酸ナトリウム及び6mMの酢酸アンモニウムを含むか、または前記水性緩衝液が、34mMの酢酸ナトリウム及び6mMの酢酸カリウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記限外濾過/透析濾過(UF/DF)が、少なくとも5L・m-2・hr-1の透過流束で実行される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記限外濾過/透析濾過(UF/DF)が、5L・m-2・hr-1~25L・m-2・hr-1、または8L・m-2・hr-1~16L・m-2・hr-1の範囲の透過流束で実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記限外濾過/透析濾過(UF/DF)が、少なくとも3、または少なくとも4、または少なくとも5、または3~10のダイア容量で実行される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記保持液中の前記オリゴヌクレオチドの濃度が、少なくとも50g/L、または70g/L~125g/L、または80g/L~90g/Lの範囲にある、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記限外濾過/透析濾過(UF/DF)が、1kDa~7kDa、または2kDa~4kDaの範囲、または3kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用して実行される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記限外濾過/透析濾過(UF/DF)が、タンジェンシャルフロー濾過で実行される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物を形成するために、前記保持液を凍結乾燥に供することをさらに含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記凍結乾燥組成物中のナトリウムの重量パーセントが、0%~100%、0%~50%、または2%~10%、または4.3%~6.1%、または4.8%~5.4%の範囲にある、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記凍結乾燥組成物中の前記ナトリウムの前記重量パーセントが、4.9%~5.0%の範囲にある、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記凍結乾燥組成物中の前記ナトリウムの前記重量パーセントが、5.2%±0.9%である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記凍結乾燥組成物中の酢酸塩の重量パーセントが、3%未満、2%未満、1%未満、または0.8%未満である、請求項4~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記オリゴヌクレオチドが、16~30ヌクレオチドを有する、または16~20ヌクレオチドを有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記オリゴヌクレオチドがヌシネルセンである、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
オリゴヌクレオチドを含む組成物であって、前記組成物は請求項1~23のいずれか一項に記載の方法によって得られる、前記組成物。
【請求項25】
前記オリゴヌクレオチドを含む水溶液の形態である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物の形態である、請求項25に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条の下、2020年2月21日に出願された米国仮出願第62/979,687号の出願日の利益を主張するものであり、この内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、一般にバイオ医薬品技術に関し、より具体的には、オリゴヌクレオチド組成物中の塩の含有量を制御できる濾過技術を使用して高純度のオリゴヌクレオチド組成物を調製する方法に関する。この開示の方法は、限外濾過/透析濾過(UF/DF)の使用を、凍結乾燥(固体)医薬品有効成分(API)の製造に一般的に使用される追加の処理ステップを実行する必要がない方法で、凍結乾燥に結び付けることができる。
【背景技術】
【0003】
オリゴヌクレオチドは、研究や医療目的で化学合成できる短鎖DNAまたはRNAオリゴマーである。オリゴヌクレオチドは、通常、ヌクレオチド残基を段階的に付加して特定の配列を生成することによって調製される。所望の配列におけるオリゴヌクレオチドの合成の完了に続いて、標的オリゴヌクレオチドは、典型的には、失敗した配列及び他のプロセス及び生成物関連の不純物と共に混合物として得られる。
【0004】
FDAによって使用が承認された市販のオリゴヌクレオチドなど、治療用途のオリゴヌクレオチドの調製は、厳格な商業仕様と製剤の検証要件によってさらに複雑になる。治療用オリゴヌクレオチドの適切な精製及び製剤化技術では、製品の化学組成と安定性、及び投与方法を考慮に入れる必要がある。
【0005】
治療用オリゴヌクレオチドは、通常、必要な製剤の形態に応じて、水性ベースのプラットフォームプロセスまたは凍結乾燥APIプラットフォームプロセスのいずれかを使用して調製される。凍結乾燥(固体)製剤は、安定性プロファイル、保存の容易さ、及び処理の容易さに基づいて、一部の製品では液体製剤よりも潜在的に好まれる。
【0006】
Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)は、まれな神経筋障害である脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療に使用されるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)薬である。市販のSpinraza(登録商標)製剤は、溶媒集約的なプロセスから得られた凍結乾燥APIである。水性ベースのプラットフォームプロセスを統合する必要があり、最終的には、液体原薬が、特定の塩(例えば、ナトリウム及び酢酸塩)含有量を有する凍結乾燥APIを使用した限外濾過/透析濾過(UF/DF)を介して生成される。このアプローチは、製剤の検証を最小限に抑え、プラットフォーム以外の液体の減量ステップ、及び/または装置を追加する必要なく、既存の商業仕様を満たすであろう。
【発明の概要】
【0007】
この開示は、追加の(介在する)処理ステップなしで凍結乾燥に適した水性オリゴヌクレオチド溶液を得るために、限外濾過/透析濾過(UF/DF)を使用してオリゴヌクレオチドを濃縮及び緩衝液交換する方法を記載する。図1は、本開示の方法が、一般的に凍結乾燥ステップに先行する溶媒ベースの沈殿を実行する必要がない方法で、凍結乾燥APIプラットフォームプロセスにてUF/DFを使用して、水性ベースのプラットフォームプロセスをどのように統合できるかを示す。
【0008】
特に、本明細書に開示される方法は、オリゴヌクレオチドAPI中の凍結乾燥前及び凍結乾燥後のナトリウム含有量並びに凍結乾燥後の酢酸塩含有量を制御して、所定のナトリウム及び酢酸塩の仕様を満たすことができる。これは、UF/DF水性緩衝液中の成分(例えば、塩)を制御することによって達成される。本明細書に記載の方法は、メーカーが推奨する膜貫通圧(TMP)の条件内でUF/DFステップを実行しながら、膜透過流束及びオリゴヌクレオチドの保持液濃度を制御することもできる。
【0009】
本開示の一態様は、オリゴヌクレオチドを含む組成物を調製する方法に関し、該方法は、オリゴヌクレオチドの水溶液を限外濾過/透析濾過(UF/DF)に供し、オリゴヌクレオチドを含む保持液を形成することを含み、限外濾過/透析濾過(UF/DF)は、1つまたは複数の塩を含む水性緩衝液を使用して実行される。
【0010】
本開示の別の態様は、オリゴヌクレオチドを含む組成物に関し、該組成物は、本明細書に記載の方法の1つによって得られる。
【0011】
いくつかの実施形態では、組成物は、オリゴヌクレオチドを含む水溶液の形態である。
【0012】
いくつかの実施形態では、組成物は、オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物の形態である。
【0013】
本開示の追加の目的、利点、及び他の特徴は、一部は以下の説明に記載され、一部は以下の検討により当業者に明らかになるか、または本開示の実践から学ぶことができる。本開示の利点は、添付の請求項に具体的に示されているように、実現及び取得することができる。理解されるように、本開示は、他の及び異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、すべてが本開示から逸脱することなく、種々の明らかな点において変更が可能である。この点に関して、本明細書における説明は、本質的に例示的であり、限定的ではないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の水性ベースのプロセスとの溶媒集約的プロセスの例示的な統合を描写する。
図2】UF/DFが異なる酢酸アンモニウム濃度で実行されたときの、緩衝液交換中の透過流束の低下を示すグラフである。
図3】DF緩衝液の導電率が増加するときの第2の定常状態透過流束に対するDF緩衝液効果を示すグラフである。
図4】UF/DF緩衝液中の酢酸塩の合計濃度に対する保持液中の最大ASO濃度を示すグラフである。
図5】ナトリウム及びアンモニウム含有量の凍結乾燥後(凍結後)の傾向を示すグラフである。
図6】異なる量の酢酸アンモニウム(NHOAc)を含有するUF緩衝液中の酢酸ナトリウム(NaOAc)の割合(%)に対するUF/DF後の保持液中のナトリウム(Na)含有量を示すグラフである。
図7】LyoGuardトレイを有する例示的な凍結乾燥室の写真である。
図8】トレイ及びバッグ内の例示的な凍結乾燥ASO材料の写真である。
図9】UF/DFが水中で実施された場合、保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度が増加するにつれて透過流束がどのように低下するかを示すグラフである。
図10】UF緩衝液中の酢酸(OAc)の総濃度に対する固体APIに残っている酢酸(OAc)の質量パーセント(%)を示すグラフである。
図11】例示的な水性ベースのプラットフォームプロセスと、エタノール沈殿ステップを含む例示的な凍結乾燥APIプラットフォームプロセスとの比較を示す。
図12】ナトリウム(Na)イオン及びアンモニウム(NH )イオンが、どのように負に帯電したホスホロチオエートオリゴヌクレオチド骨格に沿って異なる対イオン位置を占めている可能性があるかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示されるのは、限外濾過/透析濾過(UF/DF)の使用を、オリゴヌクレオチド活性医薬品成分(API)の固体形態を調製するために伝統的に使用されている凍結乾燥APIプラットフォームプロセスに統合する方法である。本開示の実施形態は、アンチセンスオリゴヌクレオチドSpinraza(登録商標)(ヌシネルセン)などの治療用途のオリゴヌクレオチドを調製する方法を含む。
【0016】
水性ベースのプラットフォームプロセスは、一般に、1つまたは2つのクロマトグラフィー分離ステップと脱保護ステップを含み、関心のオリゴヌクレオチドを濃縮し、髄腔内(IT)投与に適した液体製剤への緩衝液交換を実行する限外濾過/透析濾過(UF/DF)ステップに終わる。このプラットフォームは、UF/DF操作から得られた液体原薬を、最終的な希釈、濾過、及び充填のための非経口充填施設へ送達する。対照的に、凍結乾燥APIプラットフォームプロセスは、多くの場合、溶媒ベースの精製プロセスを活用する。図11は、Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)のすぐに充填できる液体形態を調製するために使用される水性ベースのプラットフォームプロセスと、この製品の凍結乾燥(固体)形態を調製するために使用される凍結乾燥APIプラットフォームプロセスとの間の違いを示す。図11に示すように、Spinraza(登録商標)の水性ベースのプラットフォームプロセスは、すぐに充填できる液体形態のSpinraza(登録商標)(ヌシネルセン)を得るための、イオン交換クロマトグラフィーステップとそれに続く限外濾過/透析濾過(UF/DF)ステップを含む。対照的に、凍結乾燥APIプラットフォームプロセスは、凍結乾燥(固体)形態の製剤を得るための、エタノール沈殿ステップと、それに続く凍結乾燥及び配合を含む。
【0017】
現在市販Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)を調製するために使用されている凍結乾燥APIプラットフォームプロセスを、エタノール沈殿ステップを水性ベースのプラットフォームプロセスで使用されるUF/DFステップと入れ替えることによって変更することは有益であろう。第1に、環境及び規制の両方の理由から、この市販製品の最終調製において有機溶媒の使用を排除することは有益であろう。第2に、UF/DFは通常、加工製品の塩分を正確に制御するために使用することができるため、より正確に制御された塩の含有量は、溶媒沈殿の代わりにUF/DFを使用することによって得ることが可能である。ただし、以下で説明するように、UF/DF及び大規模な凍結乾燥の実施上の制限により、追加のステップを含めずにこれらのプロセスをSpinraza(登録商標)の商業規模の調製にうまく統合することはこれまで不可能であった。
【0018】
UF/DFを大規模な凍結乾燥へ統合する難点は、主にUF/DFによる水性保持液中の塩含有量及び/またはオリゴヌクレオチド含有量が原因で発生する。Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)は、比較的低い塩含有量(凍結乾燥製品中に、約5重量%のナトリウム含有量を含む)を有することが必要であり、このような低い塩含有量(及び低い導電率)を有する水溶液でUF/DFを実行しようとすると、膜を通る透過流束を低くさせる。この低い透過流束は、部分的には、UF/DF膜の保持液面に形成される望ましくない「ケーキング」が原因で発生する。透過流束が低いことで、所望のオリゴヌクレオチドの生成速度及び保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度の両方を低下させる。UF/DFを正常に操作し、凍結乾燥に理想的なASO濃度に到達するには、UF/DF緩衝液中に最小限の導電率が必要である。一方で、UF/DF緩衝液の塩含有量を、適切に高い透過流速を可能にするのに必要なレベルまで増加させた場合(保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度が適切に高くなる)、結果として得られる保持液に含まれる塩が多すぎるため、不要な塩を除去する追加のステップ(複数可)が必要になる。
【0019】
本開示の方法は、緩衝液中の塩濃度及び塩含有量を制御することにより、これらの問題を克服することができる。この方法は、水性精製プロセスを凍結乾燥ステップと統合して、追加のステップ、及び/または装置を追加することなく、ナトリウムと酢酸塩の所定の仕様を備えた固体APIを作成する。UF/DFプロセスは、UF/DF操作(流束と濃度)の操作性、及びUF/DF後の製品が凍結乾燥処理された後の固体APIの組成物の両方によって決定することができる。標的のオリゴヌクレオチドだけでなく、精製過程に関与する様々な分子種を含む精製過程中間体は、凍結乾燥後に目標ナトリウム含有量が達成され、凍結乾燥後に酢酸塩仕様が満たされるように、UF/DFによって濃縮及び処理される、UF/DFプロセスが開発される。本開示のUF/DFプロセスは、負に荷電したホスホロチオエートまたはホスホロジエステルオリゴヌクレオチド骨格に沿った対イオン位置を占めるナトリウムカチオンの平均数を制御することによって総ナトリウム含有量の制御を達成する。新しい方法はまた、大規模な製造プロセスに必要な最小の膜透過流束及び最大の保持液濃度を満たすことにより、UF/DFプロセスの効率的な操作を容易にする。
【0020】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。対立する場合、定義を含め、本明細書が支配する。
【0021】
特に明記しない限り、すべてのパーセンテージ、部、比率等は、重量に基づく。
【0022】
量、濃度、または他の値もしくはパラメータが範囲、または上限値と下限値のリストで与えられる場合、これは、範囲が別々に開示されているかどうかにかかわらず、任意の上限範囲及び下限範囲の任意の対からなるすべての範囲を具体的に開示していると理解される。数値の範囲が本明細書に列挙されている場合、特に明記しない限り、該範囲は、その端点、並びに該範囲内のすべての整数及び分数を含むことが意図される。本開示の範囲は、範囲の定義の際、列挙された特定の値に限定されることを意図しない。
【0023】
本明細書で様々な要素及び成分を記載するための「a」または「an」の使用は、単に便宜のため及び本開示の一般的な意味を与えるためである。この記載は、1つまたは少なくとも1つを含むように読み取られるべきであり、また単数は、そうでないことが意味されていることが明白でない限り、複数を含む。
【0024】
特定の量または値が使用される場合、特定の量または値と同等または実質的に同じであると当業者が理解するであろう、特定の量または値からのわずかな偏差を包含することが理解されるべきである。いくつかの実施形態では、特定の量または値は、特定の量または値の±10%を包含する。いくつかの実施形態では、特定の量または値は、特定の量または値の±5%を包含する。
【0025】
本開示の一態様は、Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)などのオリゴヌクレオチドを含む組成物を調製する方法に関する。この方法は、オリゴヌクレオチドの水溶液を限外濾過/透析濾過(UF/DF)に供し、オリゴヌクレオチドを含む保持液を形成することを含み、限外濾過/透析濾過(UF/DF)は、1つまたは複数の塩を含む水性緩衝液を使用して実行される。
【0026】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液中の1つまたは複数の塩は、保持液の組成を最終的に制御する方法で製剤化され得る。例えば、いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、UF/DFにより生成された保持液のナトリウム含有量を制御するように製剤化され得、それによって、凍結乾燥製品のナトリウム含有量を間接的に制御する。そのような制御は、ナトリウム塩及びナトリウムとは異なるカチオンを有する拮抗塩を含む、水性緩衝液中の複数の塩の存在によって可能になる。拮抗塩には、例えば、アンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、銅、銀、または他の適切な一価カチオンなどの異なるカチオンを有する塩が挙げられる。拮抗塩は、揮発性塩、非揮発性塩、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0027】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの拮抗塩の使用は、本開示の方法が、オリゴヌクレオチド骨格の対イオン位置を占めるナトリウムカチオンの平均数を制御することを可能にする。図12は、ナトリウム(Na)イオン及びアンモニウム(NH )イオンが、どのように負に帯電したホスホロチオエートまたはホスホロジエステルオリゴヌクレオチド骨格に沿って異なる対イオン位置を占め得るかを示す。したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、1つまたは複数の拮抗塩を水性緩衝液中に導入することによって、UF/DFによって生成されたオリゴヌクレオチド保持液中の塩含有量を制御するための方法を提供する。換言すれば、本開示の方法は、オリゴヌクレオチドの水溶液を限外濾過/透析濾過(UF/DF)に供し、オリゴヌクレオチドを含む保持液を形成することを含み、限外濾過/透析濾過(UF/DF)は、ナトリウム塩及び拮抗塩を含む水性緩衝液を使用して実行される。いくつかの実施形態では、拮抗塩は、カリウム塩である。他の実施形態では、拮抗塩はアンモニウム塩である。
【0028】
ナトリウムカチオンと拮抗カチオンとの両方を含む水溶液の緩衝液交換が起こった後、ナトリウムカチオン及び拮抗カチオンはオリゴヌクレオチドの対イオン位置で平衡に達し、溶液中のオリゴヌクレオチドは完全にはナトリウム化されていない、すなわち、オリゴヌクレオチド対イオン位置は完全にはナトリウムカチオンで占領されていない結果をもたらす。図12を参照のこと。この平衡比率は、次のように表すことができ、
【数1】
かつ、UF/DFプロセス中に使用された水性緩衝液中の拮抗カチオン(複数可)対ナトリウムカチオンのモル比によって制御される。
【0029】
拮抗塩の特性は、UF/DFプロセス後の保持液の組成に影響を与えるだけでなく、凍結乾燥後の固体製品の最終組成にも影響を与える可能性がある。例えば、拮抗塩が揮発性塩である場合、ナトリウム含有量に影響を与えることなく、凍結乾燥生成物の総塩含有量を(保持液の総塩含有量に対して)下げることが可能である。
【0030】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液に含まれる1つまたは複数の塩は、少なくとも1つの揮発性塩を含み得る。本開示の揮発性塩を利用するUF/DFプロセスは、所望のナトリウム含有量で保持溶液中の最大ASO濃度を達成することができる。揮発性塩の酸塩基特性により、揮発性拮抗塩を使用して凍結乾燥生成物中の総塩含有量を(保持液の総塩含有量と比較して)下げることが可能である。揮発性拮抗塩では、塩の揮発性拮抗カチオンは、対応する揮発性共役塩基と平衡状態で存在する。拮抗するカチオン種(対応する共役塩基との中性形態)の揮発性により、凍結乾燥中の昇華による除去が可能になる。
【0031】
酢酸アンモニウム(NHOAc)は、本開示のいくつかの実施形態で使用される揮発性拮抗塩の例である。以下に示すように、アンモニウムカチオン(NH )はアンモニア(NH)と平衡状態で存在し、酢酸アニオン(AcO)は酢酸(AcOH)と平衡状態で存在する。
【化1】
【0032】
上に示した平衡状態では、プロトン化されたアンモニウムカチオンは、酢酸アニオンを酢酸に変換するためのプロトン源として機能し、酢酸は揮発性で、凍結乾燥によって除去することができる。アンモニウムから酢酸塩へのプロトン移動により、両方の種が中性及び揮発性になり、凍結乾燥中の両方の種の除去が容易になる。
【0033】
揮発性拮抗塩の他の例としては、例えば、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、及び炭酸のアンモニウム塩が挙げられる。
【0034】
上に示した酢酸アンモニウムなどの揮発性拮抗塩を使用することにより、UF/DF後の保持液を、次に、保持液中のナトリウム含有量を維持しながらもかなりの量の揮発性拮抗塩を除去する方法で、凍結乾燥することができる。したがって、UF/DF後の保持液中の総塩含有量よりも有意に少ない総塩含有量を有する一方で、水性緩衝液の組成に基づいて制御されるナトリウム含有量を有する凍結乾燥オリゴヌクレオチド組成物を生成することは、揮発性拮抗塩を使用することにより可能である。この特徴により、本開示の方法は、拮抗塩を微量まで除去しながら、所定のナトリウム含有量を有する固体のオリゴヌクレオチドAPIを生成することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、拮抗塩は、凍結乾燥によって除去されない不揮発性塩であり得る。例えば、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムまたはヨウ化ナトリウムなどのナトリウム塩、及び酢酸カリウム、塩化カリウム、臭化カリウムまたはヨウ化カリウムなどの非揮発性拮抗塩を含み得る。他の不揮発性拮抗塩には、例えば、カリウム塩、リチウム塩(例えば、酢酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウムまたはヨウ化リチウム)、ルビジウム塩(例えば、酢酸ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、またはヨウ化ルビジウム)、銅塩(例えば、酢酸銅、塩化銅、臭化銅またはヨウ化銅)及び銀塩(例、酢酸銀、塩化銀、臭化銀またはヨウ化銀)が挙げられる。
【0036】
本開示の方法において、水性緩衝液の組成は、UF/DF後の保持液中及び凍結乾燥後の製品中の広範囲のナトリウム含有量を、本質的にゼロのナトリウム含有量から、完全にナトリウム化されたASOの相当量よりもはるかに多いナトリウム含有量まで、目標とするように制御することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、及び酢酸カリウムから選択される少なくとも1つの塩を含む。いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムを含む。いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム、及び酢酸カリウムを含む。いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、及び酢酸カリウムを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチド含有保持液中のナトリウム含有量(例えば、ナトリウム濃度)は、水性緩衝液中の塩の総濃度に対する少なくとも1つのナトリウム塩の割合を調整することによって制御される。他の実施形態では、保持液中のオリゴヌクレオチドの対イオン位置を占めるナトリウムカチオンの割合は、水性緩衝液中の塩の総濃度に対する少なくとも1つのナトリウム塩の割合を調整することによって制御される。
【0039】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液に含まれる拮抗塩に対するナトリウム塩のモル比は、1:100~100:1、または1:20~20:1、または1:10~10:1、または1:1~19:1、または5:1~19:1、または12:1~15:1、または5:1~10:1、または5:1~6:1、または5:1~6:1.8の範囲にある。
【0040】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムを含み、水性緩衝液中の酢酸アンモニウムに対する酢酸ナトリウムのモル比は、1:100~100:1、または1:20~20:1、または1:10~10:1、または1:1~19:1、または5:1~19:1、または12:1~15:1、または5:1~10:1、または5:1~6:1、または5:1~6:1.8の範囲にある。いくつかの実施形態において、酢酸アンモニウムに対する酢酸ナトリウムのモル比は17:3である。いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、34mMの酢酸ナトリウム、及び6mMの酢酸アンモニウムを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムを含み、水性緩衝液中の酢酸カリウムに対する酢酸ナトリウムのモル比は、1:100~100:1、または1:20~20:1、または1:10~10:1、または1:1~19:1、または5:1~19:1、または12:1~15:1、または5:1~10:1、または5:1~6:1、または5:1~6:1.8の範囲にある。いくつかの実施形態において、酢酸カリウムに対する酢酸ナトリウムのモル比は17:3である。いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、34mMの酢酸ナトリウム、及び6mMの酢酸カリウムを含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液のpHは、4.0~10.0、または4.5~9.5、または5.0~9.0、または5.0~8.5、または5.0~8.0、または5.5~9.0、または5.5~8.5、または5.5~8.0、または5.5~7.5、または6.0~9.0、または6.0~8.5、または6.0~7.5、または6.0~7.0、または6.5~9.0、または6.5~8.5、または6.5~8.0、または6.5~7.5、または6.9~7.5の範囲にある。
【0043】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液はナトリウム塩を含まず、それによりUF/DF後の保持液はナトリウムを含まない。他の実施形態では、水性緩衝液は少しも拮抗塩を含まない。
【0044】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、標的オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物を生成するための、UF/DF保持液を凍結乾燥するステップを含み得る。凍結乾燥により揮発性UF/DF緩衝液成分(例えば、酢酸アンモニウム塩などの揮発性拮抗塩)を除去することができる。凍結乾燥ステップは、単一の凍結乾燥として実施され得るか、または単一の凍結乾燥装置または複数の凍結乾燥装置で行われる複数の凍結乾燥として実施され得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物に含まれる1つまたは複数の拮抗塩の割合は、UF/DF後の保持液に含まれる1つまたは複数の拮抗塩の割合よりも少ない。例えば、上で説明したように、水性緩衝液中の酢酸アンモニウムなどの揮発性拮抗塩は、その後、凍結乾燥中に(部分的または完全に)除去することができる。
【0046】
本開示の方法はまた、凍結乾燥を行う前に、UF/DF後の保持液のpHを調整するステップを含み得る。いくつかの実施形態では、保持液のpHは、5.0~9.0、または5.0~8.5、または5.0~8.0、または5.5~9.0、または5.5~8.5、または5.5~8.0、または5.5~7.5、または6.0~9.0、または6.0~8.5、または6.0~7.5、または6.0~7.0、または6.5~9.0、または6.5~8.5、または6.5~8.0、または6.5~7.5の範囲のpHに調整される。一実施形態では、保持液のpHは、6.9~7.5の範囲のpHに調整される。
【0047】
本開示の方法は、凍結乾燥組成物に含まれるナトリウムの割合を非常に正確に制御することができる。いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物中のナトリウムの重量パーセントは、凍結乾燥組成物の総重量に対して0%~100%、または0%~50%、または1%~25%、または1%~10%、または2%~10%、または1%~5%、または5%~10%、または4.3%~6.1%、または4.8%~5.4%、または4.9%~5.0%の範囲にある。いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物中のナトリウムの重量パーセントは、5.2%±0.9%である。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドはヌシネルセンであり、ヌシネルセンの凍結乾燥組成物中のナトリウムの重量パーセントは、5.2%±0.9%である。
【0048】
本開示の方法に関して、UF/DF後の保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度は、水性緩衝液中の塩の総濃度(及びその結果として導電率)を調整することによって間接的に制御することができる。脱イオン水を使用してUF/DFを実行すると、完全にナトリウム化されたASOのナトリウム含有量が保持されるが、直接凍結乾燥できる純水中のオリゴヌクレオチドのUF/DFを実行することは、透過流束と最大保持液濃度の制限によりできない。水中でのオリゴヌクレオチドのUF/DF処理は、膜表面のゲル化または濃度分極現象によって制限されることがわかり、これにより、膜透過流束が減少し、達成可能な最大保持液濃度がわずか30~40g/Lになる。
【0049】
UF/DFを正常に操作し、凍結乾燥に理想的なASO濃度(すなわち、少なくとも50g/L)に到達するには、UF/DF緩衝液に最小量の塩濃度(及び導電率)が必要であることを発見した。透過流束に対する塩濃度及び導電率の影響は、図2及び3に示している。図2の研究に示されるように、連続したUF/DFプロセスを、異なる濃度の酢酸アンモニウムを使用して実施した場合、より低い濃度の酢酸アンモニウムを使用した場合に透過流束が劇的に減少し、UF/DFのダイア容量(diavolume)が増加するにつれて、透過流束がさらに劇的に減少することが観察された。図3に示すように、総塩濃度は、所与のTMPでの膜透過流束に比例する。
【0050】
この観察に基づいて、UF/DFプロセスの透過流束、及びUF/DF後の保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度を制御するために、水性緩衝液中の総塩濃度を使用することができることを発見した。図4の研究に例示されるように、水性緩衝液中の酢酸塩の濃度を増加させることによって、最終保持液ASO濃度を増加させることができることを発見した。水性緩衝液中の総塩濃度の増加は、透過流束及び保持液中のオリゴヌクレオチドの最大濃度の両方の増加をもたらすため、追加の(すなわち、溶媒除去)ステップなしで大規模な凍結乾燥を可能にするための所望の透過流束及び好適に高い保持液濃度を達成するために、本開示の方法を使用することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液中の1つまたは複数の塩の総濃度は、1mM~500mM、または10mM~200mM、または20mM~100mM、または30mM~60mM、または35mM~45mMの範囲にある。いくつかの実施形態では、水性緩衝液中の1つまたは複数の塩の総濃度は、40mMである。
【0052】
水性緩衝液の成分として酢酸塩を使用する場合、凍結乾燥中にこれらの塩を微量レベルまで除去する必要が有り得る。図10の研究に例示されるように、固体API中の酢酸塩含有量は、水性緩衝液中の総塩濃度(したがって総酢酸塩濃度)に比例することも見出された。したがって、UF/DF緩衝液の総酢酸塩含有量は、固体API中の酢酸塩を微量レベルまで減らすために制御することができる。いくつかの実施形態では、酢酸アンモニウムなどの揮発性酢酸塩を使用すると、凍結乾燥中に揮発性酢酸塩が除去されるため、最終的な酢酸塩含有量をさらに減らすことができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムを含み、水性緩衝液中の酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムの総濃度は、1mM~500mM、または10mM~200mM、または20mM~100mM、または30mM~60mM、または35mM~45mMの範囲にある。いくつかの実施形態では、水性緩衝液中の酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムの総濃度は、40mMである。
【0054】
いくつかの実施形態では、水性緩衝液は、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムを含み、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムの総濃度は、1mM~500mM、または10mM~200mM、または20mM~100mM、または30mM~60mM、または35mM~45mMの範囲にある。いくつかの実施形態では、水性緩衝液中の酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムの総濃度は、40mMである。
【0055】
いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物中の酢酸塩の重量パーセントは、凍結乾燥組成物の総重量に対して5%未満、または4%未満、または3%未満、または2%未満、または1%未満、または0.8%未満、または0.5%未満、または0.2%未満である。例えば、いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物中の酢酸塩の重量パーセントは、凍結乾燥組成物の総重量に対して5%~0.1%、または5%~0.5%、または5%~1%、または3%~0.5%、または3%~0.2%、または2%~0.5%、または2%~1%、または1%~0.5%、または1%~0.1%、または0.8%~0.1%、または0.5%~0.1%、または0.2%~0.01%の範囲にある。
【0056】
水性緩衝液の組成と特性は、UF/DFプロセスの透過流束を最大化するために制御することができる(図2及び図3を参照)。したがって、本開示は、水性緩衝液中の1つ以上の塩の総濃度を調節するか、または水性緩衝液の導電率を調節することによる、UF/DFプロセスの透過流束を制御する方法を提供する。いくつかの実施形態では、UF/DFプロセスは、少なくとも1L・m-2・hr-1、または少なくとも5L・m-2・hr-1、または5L・m-2・hr-1~25L・m-2・hr-1、または5L・m-2・hr-1~20L・m-2・hr-1、または5L・m-2・hr-1~15L・m-2・hr-1、または10L・m-2・hr-1~25L・m-2・hr-1、または8L・m-2・hr-1~16L・m-2・hr-1の透過流束で実行される。
【0057】
本開示の方法はまた、UF/DFプロセスが高いダイア容量レベルを達成できるように実行することができる(図2を参照)。UF/DFプロセス中に膜を通過するダイア容量の数を増やす一方で、透過流束の許容レベルを依然として維持し、本開示の方法がプロセス全体の効率性及び生産性を最大化することを可能にする。いくつかの実施形態では、UF/DFプロセスは、少なくとも3、または少なくとも4、または少なくとも5、または3~10、または5~10、または5~8のダイア容量で実行される。
【0058】
本開示の方法は、UF/DF後の保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度を有意に増加させ、追加の水分除去(すなわち、濃縮)ステップを実行せずにUF/DF後の保持液の直接凍結乾燥を可能にする。いくつかの実施形態では、保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度は少なくとも20g/L、少なくとも30g/L、少なくとも40g/L、少なくとも50g/L、または30g/L~150g/Lの範囲、または50g/L~150g/Lの範囲、または60g/L~125g/Lの範囲、または70g/L~125g/Lの範囲、または70g/L~100g/Lの範囲、または80g/L~90g/Lである。
【0059】
本開示の方法は、当技術分野で知られている任意の適切なUF/DFフィルター膜を利用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、UF/DFプロセスは、1kDa~10kDa、または1kDa~7kDa、または1kDa~5kDa、または2kDa~4kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用して実施される。いくつかの実施形態では、膜は3kDaのMWCOを有する。
【0060】
いくつかの実施形態では、UF/DFステップは、タンジェンシャルフロー濾過を使用して実行される。
【0061】
本開示の方法は、10~50ヌクレオチド、10~30ヌクレオチド、10~25ヌクレオチド、10~20ヌクレオチド、16~30ヌクレオチド、16~25ヌクレオチド、または16~20ヌクレオチドを有する任意のオリゴヌクレオチド(アンチセンスオリゴヌクレオチドなど)に適用され得る。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、ヌシネルセンである。いくつかの実施形態では、凍結乾燥オリゴヌクレオチド組成物はSpinraza(登録商標)である。
【0062】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、特定のプロセスステップに限定されないか、または特定のプロセスステップを除外するように限定される。例えば、いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも1回の限外濾過/透析濾過(UF/DF)を実行し保持液を得、次いで、保持液の少なくとも1回の凍結乾燥を実行し、オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物を得ることを含む。他の実施形態では、方法は、単一の限外濾過/透析濾過(UF/DF)を実行し保持液を得、次いで、保持液の少なくとも1回の凍結乾燥を実行し、オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物を得ることからなる。さらに他の実施形態では、方法は、単一の限外濾過/透析濾過(UF/DF)を実行し保持液を得、次いで、保持液の1回の凍結乾燥を実行し、オリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物を得ることからなる。
【0063】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、保持液の凍結乾燥を行って凍結乾燥組成物を得る前に、保持液が(i)追加の濾過、(ii)追加の緩衝液交換、(iii)追加の濃縮、及び/または(iv)追加の精製に供されることが無いように実施され得る。他の実施形態では、本開示の方法は、保持液の凍結乾燥を行って凍結乾燥組成物を得る前に、保持液が(i)追加の濾過、(ii)追加の緩衝液交換、(iii)追加の濃縮、及び(iv)追加の精製のいずれにも供されることが無いように実施され得る。いくつかの実施形態では、UF/DFステップから産生された保持液は、追加のステップなしで直接凍結乾燥される。
【0064】
本開示の別の態様は、本明細書に記載の方法を使用して得られる組成物に関する。いくつかの実施形態では、組成物は、Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)などのオリゴヌクレオチドを含む。本開示の組成物は、オリゴヌクレオチドを含むUF/DF後の保持液などの水溶液の形態であってもよく、またはオリゴヌクレオチドを含む凍結乾燥組成物などの固体または半固体材料の形態であってもよい。
【実施例
【0065】
材料及び方法
KrosFlo KR2i TFF System(Spectrum Labs)及びPellicon 3(0.11m、3kDa)再生セルロース膜カセットを用いて、UF/DF実験を行った。実験室スケールの凍結乾燥はLyoStar 2を使用して実行し、製造スケールの凍結乾燥はLyoStar 3を使用して実行した。
【0066】
実施例1.水中でのUF/DF
図9は、本開示の水性緩衝液の代わりに純水を使用した典型的なUF/DFプロセスの透過流束が、保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度が増加するにつれて、どのように経時的に影響を受けるかを決定するために実施された研究の実験結果をまとめたものである。この研究では、10g/LのSpinraza(登録商標)(ヌシネルセン)を含む水溶液(図9で「Alpha Syn」とラベル付けされる)を、純水を使用したUF/DFプロセスに供し、膜を通過する透過流束、及び保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度の両方を経時的に測定する。オリゴヌクレオチドの濃度は、分光測定によって、操作前及び操作後に測定した。システム内のASOの総質量がわかっているため、保持量の変化に基づいて濃度を推定した。
【0067】
Alpha-Syn ASOを水に緩衝液交換した後、水のみを含む緩衝液を使用して保持液を濃縮することによって達成できる最大ASO濃度を決定する実験を実行した。UF/DF濃縮は、20psiの膜貫通圧(TMP)及び1.5LMM(リットル/分/メートル)のクロスフローを使用して実行した。濃縮ステップは、10g/Lの保持液濃度、及び7LMHの透過流束で開始し、保持液濃度がプロセス中に増加する(及び保持液体積が減少する)につれて、透過流束は急速に低下した(図9)。透過流束は、約32g/Lの保持液中のASO濃度で、1LMHに減少した。この実験は、水のみを含むUF/DF緩衝液を使用した、高濃度(≧50g/L)のASO濃度は実現不可能であることを実証する。
【0068】
図9の研究は、水中でオリゴヌクレオチドのUF/DFプロセスを行うことは、膜表面のゲル化または濃度分極現象によって制限されることを示し、これにより、膜透過流束が大幅に減少し、達成可能な最大保持液濃度が30~40g/Lとなる。30~40g/Lの濃度は、凍結乾燥中に望ましいケーキ構造を達成するのに十分な高さではないため、水中のUF/DF後のオリゴヌクレオチドは、通常、体積を減らす目的で追加の単位操作にかけられる。
【0069】
実施例2.透過流束に対する水性緩衝液中の塩濃度の影響
実施例1の結果は、理想的なAPI濃度での水への緩衝液交換は、膜透過流束の減少につながる膜表面のゲル化または濃度分極現象のために実現不可能であることを実証した。しかし、塩添加物を水性緩衝液に導入すると、緩衝液交換中の透過流束が増加する可能性があることを発見した。水への緩衝液交換を試みた実験では、高い導電率が高い透過流束と相関し、透析濾過緩衝液に塩含有量を追加することが透過流束を増加させる効果的な方法であることを示した。
【0070】
導電率を高める、したがって、透過流束を高めるための実験的添加剤として酢酸アンモニウムを選択した。アンモニウム種と酢酸塩種はどちらも凍結乾燥APIプラットフォームプロセスと互換性があり、したがって、製造プロセス全体に新しい物質を導入することはなく、どちらの種も中性状態で揮発性であることが知られている。さらに、酢酸アンモニウムのpHは、API製品の所望のpHに基づいて、望ましい範囲(6.9~7.7)にある。
【0071】
酢酸アンモニウム濃度と透過流束との関係をマッピングするために、3つの実験研究を実施した。3つの実験すべての出発物質には、105g/L ASO、710mM NaCl、及びpH7.2の25mM Trisが含まれ、3つの実験すべてで、35psiの膜貫通圧(TMP)、3LMMのクロスフロー(リットル/分/メートル)、及び120g/mの膜負荷を使用した。
【0072】
この研究では、酢酸アンモニウムの濃度を50mM、100mM、及び200mMに設定した3種類の酢酸アンモニウム水性緩衝液を調製し、Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)の水溶液で行った緩衝液交換について得られた透過流束を測定した。結果(図2)は、約3ダイア容量後の各条件の定常状態の透過流束、及び酢酸アンモニウム濃度と定常状態の透過流束との間の相関関係を示している。
【0073】
図2に示すように、UF/DFプロセス全体で発生する透過流束の低下は、水性緩衝液中の酢酸アンモニウムの濃度に正比例することが観察された。200mMの酢酸アンモニウム濃度を使用すると、5ダイア容量の緩衝液が膜を通過した後でも、10L・m-2・hr-1超の透過流束を維持するためのUF/DFプロセスが可能になる。図2の研究は、水性緩衝液中の塩の濃度を制御することで、保持液の直接凍結乾燥が実現可能である、UF/DF後の保持液中のオリゴヌクレオチドの十分に高い濃度を達成するための本開示のUF/DF方法を可能にすることを示す。
【0074】
図3は、水性緩衝液の導電率がUF/DFプロセスの透過流束にどのように影響するかを決定するために実施された関連研究の実験結果をまとめたものである。緩衝液の導電率と透過流束の関係を調べて、UF/DFプロセスに必要な最小塩含有量を決定した。この研究では、導電率が約5.1mS/cm、約9.8mS/cm、及び約18.9mS/cmに設定された、3つの水性緩衝液が調製され、Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)の水溶液で行った緩衝液交換について得られた透過流束を測定した。導電率は、Orion Versa Star Pro、Advanced Electrochemistry Meterを使用して測定した。
【0075】
図3に示すように、透過流束は水性緩衝液の導電率に正比例し、それにより透過流束の増加は緩衝液導電率の増加に直線的に関連することが見出された。この研究の結果は、酢酸アンモニウムが適切なASO濃度範囲での透過流束の効果的な促進剤であることを実証する。この研究における定常状態流束(図2)と緩衝液導電率(図3)の比較は、線形関係を示し、したがって、UF/DF操作の制御に重要な特定の流束(図3)を標的にする能力を示した。
【0076】
実施例3.水性緩衝液中の塩の総濃度と保持液中の最大オリゴヌクレオチド濃度との相関
図4は、水性緩衝液中の塩の総濃度が、UF/DF後の保持液中のオリゴヌクレオチドの最終濃度にどのように影響するかを決定するために実施された研究の実験結果をまとめたものである。この研究では、酢酸塩の総濃度を約4mM~約200mMに増加させた、多くの水性緩衝液(200mM酢酸アンモニウム;50mM酢酸アンモニウム及び50mM酢酸ナトリウム;75mM酢酸アンモニウム及び25mM酢酸ナトリウム;90mM酢酸アンモニウム及び10mM酢酸ナトリウム;7.5mM酢酸アンモニウム及び42.5mMの酢酸ナトリウム;4mM酢酸アンモニウム及び36mM酢酸ナトリウム)を調製し、Spinraza(登録商標)(ヌシネルセン)の水溶液で8ダイア容量まで行った緩衝液交換について得られたUF/DF後の保持液濃度を測定した。UF/DFを8ダイア容量まで実行した後、保持液容量を透過流束が<2LMHまで低下するまで、最終濃縮ステップを実施した。
【0077】
図4に示すように、UF/DF後の保持液中のリゴヌクレオチドの濃度が、水性緩衝液中の酢酸塩の総濃度に正比例することが観察された。増加するUF/DF緩衝液の導電率(総塩濃度)が、より高い透過流束を容易にする一方で、より高い達成可能な最大保持液濃度も容易にした。この関係も線形であり、UF/DF緩衝液塩濃度を操作することにより、達成可能な最大保持液濃度を標的にする能力を実証した。
【0078】
図4の研究は、驚くべきことに、水性緩衝液中の塩の濃度を制御することで保持液中のオリゴヌクレオチドの濃度も制御できることを示し、保持液濃度を大幅に増加させる方法でUF/DFプロセスを実行することを可能にし、それによって、保持液を(追加のステップなしで)直接凍結乾燥して固体APIを形成することができる。
【0079】
図2及び4に示される研究は、保持液中の達成可能な最大ASO濃度が、UF/DF緩衝液中及び透過流束中の両方の総酢酸塩濃度に正比例することを示している。固体ケーキの許容できる品質及び密度、並びに既存の凍結乾燥機(LyoStar3)に適合することを確実にする、80g/Lの最低濃度を目標とした。
【0080】
緩衝液の総塩濃度は、透過流束及び達成可能な保持液中の最大ASO濃度を制御し、これにより、総塩の増加は、流束と最大保持液濃度の再現可能な増加をもたらす。この制御方法により、所望の透過流束及び最大保持液濃度を目標とし、再現可能に達成することができる。
【0081】
実施例4.凍結乾燥後のオリゴヌクレオチド組成物中のナトリウム含有量を制御する方法
図5及び表1は、水性緩衝液中の酢酸ナトリウム塩及び酢酸アンモニウム塩のモル比が、凍結乾燥後の組成物中のナトリウム及びアンモニウムの量にどのように影響するかを決定するために実施された研究の実験結果をまとめたものである。この研究のUF/DF実験はすべて、次の条件を使用した:
・35psiのTMP
・3LMMのクロスフロー
・50~275g/mの膜負荷
UF/DFの凍結乾燥プールを、次の条件を使用して、LyoGuardトレイで実行した:
・-50℃の初期凍結温度
・23℃及び100mTorrでの一次乾燥
・30℃及び100mTorrでの二次乾燥。
【0082】
この研究では、酢酸ナトリウム(NaOAc)と酢酸アンモニウム(NHOAc)の含有量を、ナトリウムとアンモニウムのモル比が0%から100%に増加するように変化させて、凍結乾燥後の組成物中のナトリウム及びアンモニウムの質量パーセントを測定した、一連の水性緩衝液(表1を参照)を調製した。
【0083】
凍結乾燥後の固体APIの試料を、ナトリウム(誘導結合プラズマ発光スペクトル(ICP-OES)を使用)、アンモニア(Cedex Bio HT Analyzer用のNHBioTest Kitを使用)、及び酢酸塩含有量(LC-UV法(標準との比較)を使用)について分析した(図5)。ナトリウムの目標質量%は5.2±0.9%、及び酢酸塩の目標質量%は≦0.8質量%であった。存在するアンモニアに関する指定はないが、残留アンモニアの量を可能な限り減らすか、APIから完全に除去することが望まれた。0.5%の中間アンモニア目標が選択され、これは、試験された条件下で一貫して達成可能な最低レベルであると思われるためである。
【0084】
【表1】
【0085】
ナトリウムとアンモニアとの間のトレードオフは、試験した緩衝系におけるナトリウム対アンモニウム比の範囲全体で一貫しており(図5)、最終生成物(固体API)中のナトリウム及びアンモニウムの特定の濃度を標的とする能力を実証している。図5のすべての例において、UF/DF保持液は80~85g/Lの同様の濃度に濃縮された。UF/DFプール中の溶液中に存在するナトリウムが凍結乾燥によって除去されなかったため、最終APIナトリウム値には、凍結乾燥プロセスに持ち込まれた緩衝液に存在するナトリウムが含まれる。UF/DFプールがより低い濃度のASO(より大きい容量)である場合、ナトリウム値はより高くシフトし、逆に、UF/DFプールをより高い濃度(より小さい容量)に増やすことができれば、ナトリウム値はより低くシフトするであろう。特定のナトリウムとアンモニアの含有量を目標とする場合は、最終的なUF/DF保持液のASO濃度におけるあらゆる変化を考慮する必要がある。
【0086】
図5に示すように、UF/DF緩衝液中のナトリウムに対するアンモニウムの比率が、凍結乾燥後の組成物中のナトリウム及びアンモニウムの最終的な含有量を決定することを見出した。UF/DFプールの凍結乾燥を、23℃及び100mTorrの一次乾燥条件、並びに、30℃及び100mTorrの二次乾燥条件を使用して、LyoGuardトレイで実行した。この研究の凍結乾燥条件下で、ナトリウム及びアンモニウムの最終含有量が、酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムのそれぞれのモル比に直線的に関連することが観察された。
【0087】
図6に要約された関連研究に示されているように、UF/DF緩衝液成分の比率(例:アンモニウム対ナトリウムの比率)を微調整することで、凍結乾燥後のナトリウム含有量を制御でき、固体APIが5.2%±0.9%の重要なナトリウム含有量など、特定の仕様を満たすことができる。この研究のナトリウム含有量の結果は、目標の5.2±0.9質量%よりも低かったが、線形傾向により、目標範囲内のナトリウム含有量をもたらすであろう必要な(酢酸ナトリウム及び酢酸アンモニウムの)UF/DF緩衝組成物を予測することができる。図6に示すように、目標ナトリウム含有量範囲の中心にデータを外挿することで、85%の酢酸ナトリウム及び15%の酢酸アンモニウムからなる緩衝液によってUF/DFを操作することが、約5.2質量%のナトリウム含有量の製品をもたらすことを予測した。
【0088】
実施例5.凍結乾燥後のオリゴヌクレオチド組成物中の酢酸塩含有量と水性緩衝液中の総酢酸塩含有量との相関
図10は、水性緩衝液中の総酢酸塩含有量が凍結乾燥後の固体API中の酢酸塩の量にどのように影響するかを決定するために実施された研究の実験結果を要約している。この研究では、総酢酸塩濃度を40mM~100mMまで変化させた一連の水性緩衝液を調製し(表1の実施例2~8を参照)、凍結乾燥後の組成物中の酢酸塩の質量パーセントを測定した。図10に示すように、凍結乾燥後APIの残留酢酸含有量は、UF/DF緩衝液中の酢酸塩の総含有量に比例することがわかった。UF/DF緩衝液マトリックス中の総酢酸塩含有量及び固体API中の残留酢酸塩含有量の間で線形傾向が観察された。≦0.8質量%の酸塩仕様を満たした緩衝液条件のすべてに、40mMの総酢酸塩が含まれていた。
【0089】
残留酢酸塩含有量も、アンモニウム/ナトリウムのカチオン比に影響を受けないことを見出した。さらに、凍結乾燥条件下での酢酸アンモニウムの揮発性に基づいて、水性緩衝液中の総酢酸塩濃度の低下により、凍結乾燥後に微量レベルまで酢酸を除去することができた。
【0090】
上記の実験的研究に部分的に基づいて、全酢酸塩濃度の低下と共に、UF/DF緩衝液中の酢酸アンモニウムに対する酢酸ナトリウムの比率を最適化することが、UF/DFから凍結乾燥APIを含む水性下流プロセスをリンクさせることができることを発見した。
【0091】
実施例6.凍結乾燥APIの大規模調製
水性緩衝液中のナトリウム塩の固定モル比、及びUF/DF後の保持液(下記表2で「凍結乾燥前オリゴヌクレオチド濃度」と表示)中のオリゴヌクレオチドの濃度を使用して、大規模実験を行い、凍結乾燥後の組成物の含水量、ナトリウム含有量、酢酸塩含有量を測定した。これらの実験では、オリゴヌクレオチドSpinraza(登録商標)(ヌシネルセン)をナトリウム塩の固定モル比での本開示のUF/DF方法に供した。
【0092】
以前の実験に基づいて、6mM酢酸アンモニウム、34mM酢酸ナトリウム(85%酢酸ナトリウム対15%酢酸アンモニウム、総酢酸濃度40mM)を、保持液中の最大ASO濃度、ナトリウム含有量、及び酢酸塩含有量のエンドポイントを最適に標的とする緩衝液マトリックスとして選択した。条件をラボスケールで確認し、製造(MFG)スケール(18mmol)で繰り返した。製造プロセスからのUF/DFプールを分割し、一部をラボスケールで凍結乾燥し(表2で「ラボスケール凍結乾燥」と表示)、残りの部分を製造スケールで凍結乾燥した。
【0093】
表2に示されているように、凍結乾燥後のナトリウムと酢酸塩には有意差は観察されず、UF/DF緩衝液の操作によってカチオンを制御することはスケーラブルであることを実証した。達成可能な最大UF/DFプールの濃度は両方のスケールで同じであった。固体APIの水分含有量は、製造スケールでわずかに高く観察されたが、これは、機器の違いによるものであった。総じて、UF/DF緩衝液の操作によるカチオン及び酢酸塩制御のスケールアップ、及び塩組成による透過流束と保持液濃縮の促進が成功し、プロセスのスケーラビリティが実証された。
【0094】
【表2】
【0095】
バルク凍結乾燥を、6Lの総液体量の4つのLyoGuardトレイを使用した、製造スケールの実行(表2の実施例12)から得た材料に対して実行した。図7は、凍結乾燥材料を含む4つのLyoGuardトレイを示す。揮発性物質のUF/DF緩衝液成分の最大限の除去を促進するために、凍結乾燥プロセスを変更した。このバルク凍結乾燥プロセスは、-50℃の凍結、23℃の一次乾燥、続いて150mTorr圧力での30℃の二次乾燥を含んだ。含水量や揮発性緩衝成分を極微量まで除去することに成功し、API仕様を満たした。図8は、LyoGuardトレイ内の凍結乾燥材料を示し、その後貯蔵バッグに移された。
【0096】
選択された最終緩衝液は34mMNaOAc及び6mMNHOAcであり、操作実行の条件と結果(表2の実施例12)を以下に要約する。
・固体APINa含有量:4.9~5.0%(目標値5.2%±0.9%)
・UF/DF後の濃度:85g/L液体APIまで許容
・透過流束:維持>10LMH流束
・UF/DFプロセスの期間:1日で完了するユニット操作
・最終酢酸塩含有量:凍結乾燥後の最低残留酢酸塩
・凍結乾燥後の組成物の安定性:固体API25℃で31日間安定
【0097】
本開示の様々な実施形態を示し、本明細書に記載しているが、そのような実施形態が、例示としてのみ提供されていることは明らかであろう。本開示から逸脱せずに、数多くの変形、変更及び置換がされ得る。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲によってのみ限定されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】